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女性での長寿の鍵は60歳以降の体重の維持?

 女性では、60歳以降に体重を一定に保つことで、90歳、95歳、あるいは100歳という長寿を望める可能性の高まることが、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)Herbert Wertheim School of Public Health and Human Longevity ScienceのAladdin Shadyab氏らによる研究で明らかにされた。体重が安定している年配女性は、体重が5%以上減少した女性よりも1.2倍から2倍の確率で90〜100歳という長寿を得ていることが示されたという。この研究の詳細は、「Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences」に8月29日掲載された。 この研究では、Women’s Health Initiativeのデータを用いて、女性での60歳以降の体重変動と、90・95・100歳までの生存との関連が検討された。対象者は、1932年2月19日以前に生まれ、試験登録時(ベースライン)とその3年後、および10年後に測定した体重データがそろう61〜81歳の5万4,783人で、2022年2月19日まで追跡された。対象者は体重の増減に基づき、体重減少群(ベースラインから5%以上の減少)、体重増加群(ベースラインから5%以上の増加)、体重維持群(ベースラインからの体重の増減が5%未満)の3群に分類された。体重減少については、それが意図的なものであるかどうかが、ベースラインから3年後の調査時に確認されていた。この3年後の調査から1年以内に死亡した346人を除外した5万4,437人が最終的な解析対象とされた。 解析の結果、ベースラインから3年後では、体重減少群では体重維持群に比べて、90歳まで生きる可能性が33%(オッズ比0.67、95%信頼区間0.64〜0.71)、95歳まで生きる可能性が35%(同0.65、0.60〜0.71)、100歳まで生きる可能性が38%(同0.62、0.49〜0.78)、有意に低いことが明らかになった。同様に、ベースラインから10年後では、体重減少群では体重維持群に比べて、90歳まで生きる可能性が40%(同0.60、0.52〜0.69)、95歳まで生きる可能性が49%(0.51、0.41〜0.63)、有意に低かった。これらのオッズ比に基づくと、体重維持群が90〜100歳まで生きる可能性は体重減少群の1.2〜2倍であると計算された。 体重減少と長寿との関連は、体重減少が意図的でなかった場合に、より顕著であった。例えば、ベースラインから3年後では、体重減少群のうち、減量が意図的であった人では90歳まで生きる可能性が体重維持群よりも17%低かったのに対し、減量が意図的でなかった人では51%も低いことが示された。 一方、体重の増加に関しては、3年後の時点では、90歳、95歳、100歳までの生存に関して、体重増加群と体重維持群との間に有意な差は認められなかった。また、10年後の時点でも、90歳、95歳までの生存に関して、両群間で有意な差は認められなかった。 Shadyab氏は、「米国では、加齢に伴いBMIが25〜35の過体重や肥満に該当するようになる女性が非常に多い。しかし、この研究結果は、年配の女性が長寿を望むのであれば、体重の維持を目標とするべきことを裏付けるものだ」と話す。同氏はさらに、「年配の女性での意図しない体重減少は、健康に問題が生じていることを知らせるサインであり、寿命短縮の予測因子と見なせる可能性がある」と同大学のニュースリリースで語っている。 研究グループは、「この結果から判断すると、年配の女性に対して一般的に推奨されている減量は、長寿には役立たない可能性がある。ただし、健康や生活の質を改善するために適度な減量が推奨されている場合には、その医学的助言に耳を傾けるべきだ」と述べている。 なお、本研究は、米国立衛生研究所(NIH)、米国立心肺血液研究所(NHLBI)、米国保健社会福祉省から一部資金提供を受けて実施された。

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コロナ2価ワクチンの有効性持続期間

オミクロン株対応2価ワクチン、有効性の持続期間は感染に対する予防効果:接種2週間後で28.9%、15週間後で3.8%入院または死亡に対する予防効果:接種2週間後で67.4%、20週間後で38.4%100%90%感染に対する予防効果80%70%67.4%58.6%60%50%入院または死亡に対する予防効果47.5% 46.5%42.9%45.4%44.3%43.1%42.0%40.8%39.6%38.4%40%30%20%10%0%28.9% 28.8%26.8%22.7%18.3%13.7%15.7%0.0%0128.9%3.8%34567891011121314151617181920接種後の週数対象:米国の12歳以上の約630万人方法:2022年9月1日~2023年2月10日、オミクロン株対応2価ワクチンの接種者と非接種者※で、感染、入院または死亡に対する予防効果を評価※接種回数が1回少ない接種者(例:追加接種1回vs.初回シリーズのみ接種、追加接種2回vs.追加接種1回)出典:Lin DY, N Engl J Med. 2023;388:1818-1820.Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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食事の質は片頭痛にも影響

 イラン・Isfahan University of Medical SciencesのArghavan Balali氏らは、食事の質と片頭痛との関連性について、評価を行った。その結果、食事の質の改善は、片頭痛の頻度、重症度、関連する問題などの片頭痛アウトカムの改善と関連している可能性が示唆された。Nutritional Neuroscience誌オンライン版2023年8月5日号の報告。 20~50歳の片頭痛患者262例を対象に、横断的研究を実施した。食事の質の評価には、Healthy Eating Index 2015(HEI-2015)およびAlternative Healthy Eating Index 2010(AHEI-2010)を用いた。食事の摂取量の評価には、168項目の食事摂取頻度調査票(FFQ)を用いた。片頭痛のアウトカムには、臨床因子(重症度、期間、頻度、片頭痛に関連する問題)および血中一酸化窒素(NO)を含めた。食事の質と片頭痛アウトカムとの関連性は、線形回帰を用いて評価し、βおよび95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・HEI-2015では、関連する交絡因子で調整した後、HEIスコアが最も高い群(第3三分位)と最も低い群(第1三分位)との間において、片頭痛頻度の逆相関が認められた(β:-4.75、95%CI:-6.73~-2.76)。・AHEI-2010では、調整済みモデルにおいて、片頭痛頻度(β:-3.67、95%CI:-5.65~-1.69)および片頭痛に関連する問題(β:-2.74、95%CI:-4.79~-0.68)と逆相関が認められた。・AHEI-2010では、第2三分位と第1三分位との間において、片頭痛重症度の逆相関が認められた(β:-0.56、95%CI:-1.08~-0.05)。・食事の質とNOレベルとの関連は認められなかった(p>0.14)。・本メカニズムの解明には、今後の研究が求められる。

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心筋梗塞後の痛みで死亡リスクが上昇か

 心筋梗塞後の痛みは、胸痛に限らず、長期生存の予測因子となるようだ。新たな研究によると、心筋梗塞から1年後に痛みがある人では、その後の死亡リスクが上昇する可能性のあることが示唆された。ダーラナ大学(スウェーデン)保健福祉学分野のLinda Vixner氏らによるこの研究の詳細は、米国心臓協会(AHA)が発行する「Journal of the American Heart Association」に8月16日掲載された。 Vixner氏は、「痛みは重大な機能喪失を引き起こし、身体障害をもたらす可能性がある。これらの問題は、いずれも世界的な公衆衛生問題につながっている。しかし、心筋梗塞後に生じる痛みが死亡リスクに与える影響について、これまで大規模な研究で検討されたことはない」と述べる。 この研究でVixner氏らは、スウェーデンの心疾患のデータベース(SWEDEHEART)から、2004年から2013年の間に心筋梗塞を起こした75歳未満の患者1万8,376人(平均年齢62.0歳、男性75%)のデータを分析した。患者は、退院から12カ月後の時点の追跡調査において、痛みも含めた健康に関する質問票に回答していた。痛みについては、「痛みや不快感はない」「中等度の痛みや不快感がある」「非常に強い痛みや不快感がある」の3つの選択肢が用意されていた。この追跡調査から最長8.5年間(中央値3.4年間)のあらゆる原因による死亡(全死亡)に関するデータを集めて、心筋梗塞から1年後の痛みの重症度と全死亡との関連について検討した。 対象者の4割以上が、退院から12カ月後の追跡調査時に中等度または非常に強い痛みのあることを報告していた(中等度の痛み:7,025人、非常に強い痛み:834人)。年齢や性別、胸痛、BMIなどの関連因子を調整して解析した結果、中等度の痛みがあった患者では、その後、最長8.5年間における全死亡リスクが、痛みのない患者よりも35%高いことが明らかになった(ハザード比1.35、95%信頼区間1.18〜1.55)。また、非常に強い痛みのある患者での同リスクは、痛みのなかった患者の2倍以上だった(同2.06、1.63〜2.60)。心筋梗塞後の痛みについては、退院から2カ月後にも調査が行われたが、この際に痛みを経験していた患者の65%は12カ月後の追跡調査時にも痛みを訴えており、痛みが慢性的なものであることが示唆された。 Vixner氏は、「心筋梗塞後には、将来の死亡の重要なリスク因子として痛みの有無を評価し、認識することが重要だ。また、激しい痛みは、リハビリテーションや定期的な運動などの心臓を保護する重要な活動への参加を妨げる可能性がある」と指摘。「痛みのある患者においては、喫煙、高血圧、高コレステロール値など、他のリスク因子を減らすことが特に重要だ」と話している。さらに研究グループは、「医師は、治療を勧めたり予後を判断したりする際に、患者が中等度または非常に強い痛みを経験しているかどうかを考慮すべきだ」と述べている。ただし、この研究はスウェーデンに住んでいる人だけを対象としているため、他の国に住んでいる人には当てはまらない可能性がある。 なお、AHAによると、米国では40秒に1件の割合で心筋梗塞が生じているという。

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糖分を多く含む食品は腎臓結石をできやすくする可能性

 糖分の多い食品を避けるべき理由は多々あるが、腎臓結石のリスクを避けることも、そうすべき理由の一つかもしれない。3万人近い米国成人を対象とした研究から、添加糖の摂取量の多寡で腎臓結石のリスクに39%の差が生じる可能性が明らかになった。川北医学院付属病院(中国)のShan Yin氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に8月4日掲載された。 食品への砂糖の添加はさまざまな健康リスクと関連しているが、腎臓結石との関連はこれまでのところ明らかにされていない。Yin氏らは、2007~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを解析してこの点を検討した。 解析対象は合計2万8,303人の成人で、加重平均年齢は48.03歳、男性が47.74%。添加糖からの摂取エネルギー量は平均272.10kcal、腎臓結石の既往者率は10.13%だった。交絡因子を調整後、添加糖からの摂取エネルギーの割合が低い第1四分位群(下位4分の1)と比較して、第4四分位群(上位4分の1)の腎臓結石のオッズ比は1.39(95%信頼区間1.17~1.65)と有意に高かった。また、総摂取エネルギー量に占める添加糖からのエネルギー量の割合が5%未満の群に比較して、25%以上の群の腎臓結石のオッズ比は1.88(同1.52~2.32)だった。 本研究には関与していない米マウントサイナイ・ヘルスシステムのJohnathan Khusid氏は、「腎臓結石の再発予防には、尿中の結石形成に関与する物質に焦点を当てた、より精緻な食事療法が最善ではあるが、添加糖の制限も確かに健康全般に良いことだ。糖分の過剰摂取が関連している肥満や2型糖尿病なども腎臓結石のリスクを高める可能性がある」と解説している。 米国腎臓財団によると、約10%の人が生涯で一度は腎臓結石に罹患し、小さな結石の多くは尿中に排出されるが、結石が大きい場合は尿閉や耐え難い痛みを引き起こすとのことだ。またKhusid氏によると、結石の多くにカルシウムが含まれているものの、食事中のカルシウム量は結石形成にほとんど関係がないという。とは言え、腎臓結石の予防に食習慣の改善は重要であり、尿量を増やすために水分を多く摂取すること、尿中に排泄されるカルシウムを減らすためにナトリウムの摂取を控えること、結石をできやすくする動物性タンパク質を摂り過ぎないことが推奨される。 Yin氏らの研究は横断研究であるため因果関係を証明するものではないが、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのDavid Goldfarb氏は、「腎臓結石ができやすい人が添加糖の摂取を控えるべき理由は複数ある」と話す。その理由の一つは、「糖が尿中のカルシウムを増加させるという報告が古くから存在している」ためだという。また、Khusid氏と同じくGoldfarb氏も、糖を多く含む食事は体重増加につながり、肥満、高血圧、糖尿病などを引き起こして、間接的に腎臓結石リスクを押し上げる可能性があることを指摘している。「一般的に、腎臓の健康に良い食生活は、腎臓結石のリスクを押し下げるように働く」と同氏は述べている。 ただ、Khusid氏は、「腎臓結石の既往があり、再発予防の必要がある場合は、よりカスタマイズされた食生活の方が適切かもしれない」と語る。カスタマイズされた食生活のためには、24時間蓄尿により尿に含まれている物質を詳細に分析し、その結果に基づく食事指導を受けることが考慮されるとのことだ。しかしながら、どのような場合にも、水分補給の励行は役立ち、特に夏季の脱水症リスクが高い状況では、この点がより強調されるという。

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シンデレラ体重の若年日本人女性の栄養不良の実態が明らかに

 国内で増加している低体重若年女性の栄養状態を、詳細に検討した結果が報告された。栄養不良リスクの高さや、朝食欠食の多さ、食事の多様性スコア低下などの実態が明らかにされている。藤田医科大学医学部臨床栄養学講座の飯塚勝美氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月7日掲載された。 日本人若年女性に低体重者が多いことが、近年しばしば指摘される。「国民健康・栄養調査」からは、20歳代の女性の約20%は低体重(BMI18.5未満)に該当することが示されており、この割合は米国の約2%に比べて極めて高い。BMI18未満を「シンデレラ体重」と呼び「美容的な理想体重」だとする、この傾向に拍車をかけるような主張もソーシャルメディアなどで見られる。実際には、女性の低体重は月経異常や不妊、将来の骨粗鬆症のリスクを高め、さらに生まれた子どもの認知機能や成人後の心血管代謝疾患リスクに影響が生じる可能性も指摘されている。とはいえ、肥満が健康に及ぼす影響は多くの研究がなされているのに比べて、低体重による健康リスクに関するデータは不足している。 飯塚氏らの研究は、2022年8~9月に同大学職員を対象に行われた職場健診受診者のうち、年齢が20~39歳の2,100人(女性69.4%)のデータを用いた横断研究として実施された。まず、低体重(BMI18.5未満)の割合を性別に見ると、男性の4.5%に比べて女性は16.8%と高く、さらに極端な低体重(BMI17.5未満)の割合は同順に1.4%、5.9%だった。 次に、女性のみ(1,457人、平均年齢28.25±4.90歳)を低体重(BMI18.5未満)245人、普通体重(同18.5~25.0未満)1,096人、肥満(25.0以上)116人の3群に分類して比較すると、低体重群は他の2群より有意に若年で、握力が弱かった。栄養状態のマーカーである総コレステロールは同順に、177.8±25.2、184.1±29.2、194.7±31.2mg/dL、リンパ球は1,883±503、1,981±524、2,148±765/μLであり、いずれも低体重群は他の2群より有意に低値だった。一方、HbA1cは肥満群で高値だったものの、低体重群と普通体重群は有意差がなかった。 続いて、極端な低体重のため二次健診を受診した女性56人を対象として、より詳細な分析を施行。この集団は平均年齢32.41±10.63歳、BMI17.02±0.69であり、総コレステロール180mg/dL未満が57.1%、リンパ球1,600/μL未満が42.9%、アルブミン4mg/dL未満が5.3%を占めていた。その一方で39%の人がHbA1c5.6%以上であり、糖代謝異常を有していた。なお、バセドウ病と新規診断された患者が4人含まれていた。 20~39歳の44人と40歳以上の12人に二分すると、BMIや握力、コレステロールは有意差がなかったが、リンパ球数は1,908±486、1,382±419/μLの順で、後者が有意に低かった。また、アルブミン、コレステロール、リンパ球を基にCONUTという栄養不良のスクリーニング指標のスコアを計算すると、軽度の栄養不良に該当するスコア2~3の割合が、前者は25.0%、後者は58.3%で、後者で有意に多かった。 極端な低体重者の摂取エネルギー量は1,631±431kcal/日であり、炭水化物と食物繊維が不足と判定された人の割合が高く(同順に82.1%、96.4%)、一方でコレステロールの摂取量は277.7±95.9mgと比較的高値だった。また、28.6%は朝食を抜いていて、食事の多様性スコア(DDS)は、朝食を食べている人の4.18±0.83に比べて朝食欠食者は2.44±1.87と有意に低いことが明らかになった。 極端な低体重者は微量栄養素が不足している実態も明らかになった。例えば鉄の摂取量が10.5g/日未満やカルシウム摂取量650mg/日未満の割合が、いずれも96.4%を占めていた。血液検査からはビタミンD欠乏症の割合が94.6%に上り、ビタミンB1やB12の欠乏も、それぞれ8.9%、25.0%存在していることが分かった。さらに、40歳未満の13.6%に葉酸欠乏症が認められ、その状態のまま妊娠が成立した場合の胎児への影響が懸念された。 これらの結果に基づき著者らは、「日本人若年低体重女性は潜在的にビタミン欠乏症になりやすいことが判明した。将来の疾患リスクや低出生体重児のリスクを考えると、低体重者への食事・栄養指導が重要と考えられる」と総括している。

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分岐部病変のPCI、OCTガイドvs.血管造影ガイド/NEJM

 複雑な冠動脈分岐部病変を有する患者では、光干渉断層撮影(OCT)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は血管造影ガイド下PCIと比較して、2年時点の主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が低いことを、デンマーク・オーフス大学病院のNiels R. Holm氏らが、欧州の38施設で実施された多施設共同無作為化非盲検試験「European Trial on Optical Coherence Tomography Optimized Bifurcation Event Reduction(OCTOBER)試験」の結果、報告した。OCTガイド下PCIは、血管造影ガイド下PCIと比較してより良好な臨床アウトカムに関連することが知られているが、冠動脈分岐部を含む病変に対するPCIにおいても同様の結果が得られるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2023年8月27日号掲載の報告。主要エンドポイントは、2年時の主要有害心血管イベント(MACE) 研究グループは、18歳以上で、安定狭心症、不安定狭心症または非ST上昇型心筋梗塞を有し、PCIの臨床適応があり、冠動脈造影で複雑な分岐部病変(主幹:対照血管径2.75mm以上で狭窄率50%以上、側枝:対照血管径2.5mm以上、側枝入口部から5mm以内の狭窄が50%以上)が特定された患者を、OCTガイド下PCI群または血管造影ガイド下PCI群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、追跡期間中央値2年時点のMACE(心臓死、標的病変の心筋梗塞、または虚血による標的病変の血行再建術の複合)とした。MACE発生率は、OCTガイド下PCIで10.1%、血管造影ガイド下PCIで14.1% 2017年7月~2022年3月に計1,201例(平均±SD年齢66.3±10.2歳、女性21.1%)が登録され、OCTガイド下PCI群に600例、血管造影ガイド下PCI群に601例が割り付けられた。227例(OCTガイド下PCI群111例18.5%、血管造影ガイド下PCI群116例19.3%)が左冠動脈主幹部に病変を有し、231例が他の標的病変も治療された多枝病変であった。 主要エンドポイントの2年時点のMACEイベントは、OCTガイド下PCI群で59例(10.1%)、血管造影ガイド下PCI群で83例(14.1%)が確認され、ハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.50~0.98、p=0.035)であった。 手技関連合併症は、OCTガイド下PCI群41例(6.8%)、血管造影ガイド下PCI群34例(5.7%)に発現した。

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健康な人でも少量の習慣的な飲酒で血圧上昇

 高血圧でない人が少量のアルコールを習慣的に飲み続けていると、血圧が上昇する可能性のあることが明らかになった。モデナ・レッジョ・エミリア大学(イタリア)のMarco Vinceti氏らの研究によるもので、詳細は「Hypertension」に7月31日掲載された。 アルコール摂取が血圧を高めることが知られているが、摂取量がわずかな場合にもそのような影響が生じるのか否かは明確になっていない。そこでVinceti氏らは、飲酒量と血圧との関連を縦断的に調査した過去の研究のデータを用いた用量反応メタ解析によって、この点を検討した。PubMedまたはEmbaseに、2023年5月9日までに収載された論文から、研究参加者が健康な成人であることなどの包括基準を満たす、日本、米国から各3件、韓国から1件、計7件の研究報告を抽出。研究参加者数は合計1万9,548人、追跡期間は中央値5.3年(範囲4~12)だった。 アルコールを全く飲まない場合を基準として、1日の摂取量が12gの場合は追跡期間中に、収縮期血圧(SBP)に1.25mmHg、拡張期血圧(DBP)には1.14mmHgの差が生じていた。アルコール12gとは、12オンス(約350mL)の缶ビールに含まれる量よりもやや少ない量に過ぎない。また、1日のアルコール摂取量が48gの場合は、SBPに4.90mmHg、DBPに3.10mmHgの差が生じていた。Vinceti氏は「結論として、飲酒と血圧管理は両立しない。つまり、習慣的な飲酒によって高血圧のリスクが上昇し、心臓病や脳卒中のリスクが増加する」と総括している。 では、リスクを高めない飲酒量とはどのくらいだろうか?Vinceti氏は、「少なければ少ないほうが良いことは間違いなく、さらに良いのは飲まないことだ。われわれの研究結果は、たとえわずかであってもアルコールを摂取していれば、時間の経過とともに血圧が高くなるという直線的な正の関連を示している」と解説。ただし同氏は、「飲酒が高血圧の唯一の原因というわけではない。また、少量の飲酒と血圧上昇リスクとの関連は、大量飲酒ほどには明確でないことも確かなことだ」と付け加えている。なお、飲酒以外の高血圧の原因として、米疾病対策センター(CDC)は、非健康的な食事、肥満、運動不足、喫煙などを挙げている。 論文共著者の1人で世界高血圧連盟の会長でもある米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のPaul Whelton氏は、飲酒によって血圧が上昇する理由について、「完全に明らかにされているわけではないが、最も可能性の高い理由は、アルコールによって交感神経が活性化することではないか」と解説。また同氏は飲酒に関してシンプルなアドバイスも述べている。それは、「現在、習慣的に飲酒していない場合は、飲み始めないことだ。飲酒の習慣がある場合は、断酒または節酒すべきた」というもの。同氏はこのアドバイスを、「高血圧患者ばかりでなく、血圧が正常範囲内ながらも高いという人に対して、特に強く伝えたい。なぜなら、そのような人が飲酒習慣を続けた場合、血圧上昇の経時的変化がより強く現れるからだ」と話している。 また、本研究には関与していない、米国心臓協会(AHA)のボランティアスタッフで米ニューヨーク大学グロスマン医学部のNieca Goldberg氏は、「重要なメッセージは、飲酒は高血圧や心臓病の予防にはならないという点だ」と述べ、地中海食などの健康的な食事と減塩、運動の励行、睡眠時間の確保を勧めている。

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なぜ日本は遅れをとっているのか?小児抗がん剤ドラッグラグの現状

 2023年3月に閣議決定・取り組みが開始された「第4期がん対策推進基本計画」では、新規治療薬などへのアクセス改善に向け既存制度の見直しを含めた対応策の検討を行うことが明記され、厚生労働省は関連の研究班の発足やPMDAへの「小児・希少疾病用医薬品等薬事相談センター」の設置などに動き出している。背景には、ドラッグラグにとどまらずドラッグ“ロス”にも陥りかねない小児がん治療における現状があるという。国立成育医療研究センターの富澤 大輔氏に話を聞いた。2017年以降、米国承認済・日本未承認の医薬品が増加 成人と同様に小児がん領域においても分子標的薬の時代となり、開発が進んでいる。「有効性の高さに加え、がん治療終了後の長い人生を健康に過ごすことが目標となる小児がん治療において副作用が少ないことは大きなメリット」と富澤氏は話す。しかし一方で、標的が細分化され対象患者数が少なく、臓器横断的に有効性を発揮しうる分子標的薬では従来制度のみに基づく開発には限界がある。 米国では2017年、成人を対象とした新しい分子標的化合物について、腫瘍の種類または適応症によらず、医薬品の分子標的または作用機序が小児がんの増殖または進行に関連している場合、すべての成人用がん治療薬の新薬を小児でも試験することを義務付ける法律(RACE法)が新たに制定された。これを機に小児分野での開発が飛躍的に進み、FDA承認済で日本未承認の医薬品が増加している。さらに、新規の分子標的薬は日本に支社のないベンチャー企業が開発していることも多く、日本国内では開発すら行われない(=ドラッグロス)ことも懸念される。中国やオーストラリアと比較しても少ない日本の臨床試験数 国別の小児がん対象の臨床試験数をみたデータによると、2022年3月時点で米国は321、EUは168、中国は151、オーストラリアは76だったのに対し、日本は38と圧倒的に少ない。小児での臨床試験実施の難しさは世界共通であるものの、とくに日本の場合は臨床試験実施の要件が厳しいことが障壁となっていると富澤氏は指摘。たとえば小児では剤形の変更が必要になる場合も多いが、その際の添加物が日本で承認されていないと実施が難しくなる、併用薬が適応外の場合に海外では使用実績のデータなどを活用して新規薬のみを治験薬として試験が行われることが多いが、日本では併用薬も含めての試験実施となるためハードルが高くなるといったケースがある。 一方でこれらは、承認する薬剤については国が責任をもって安全性を確かめなければいけないという姿勢の現れでもあると富澤氏は話し、薬価制度含め日本の状況に合う形で、企業への適切なインセンティブの付与や試験実施のための環境整備・人材育成などが進むことが必要とした。小児領域での遺伝子パネル検査の普及にも課題 がん遺伝子パネル検査の適応には小児も含まれ、実施されているが、がんゲノム医療中核拠点病院およびがんゲノム医療拠点病院に指定されている小児専門病院は現時点で国立成育医療研究センターのみで、十分とはいえない。さらに、現状ではこの検査が外来の患者にしか使えず、入院患者の多い小児がん治療の現場では、一度退院してもらって検査を実施後再入院という形をとらなければならないことも課題と富澤氏。「使える分子標的薬を見つけることはもちろん大きな目的だが、小児の場合は診断に困るようなケースで遺伝子検査によって正確な診断につながることもあるし、予後予測のためのツールとすることも期待される」とし、小児がん治療の現場でも遺伝子検査は欠かせないものになっており、よりアクセスしやすい状況にしていくことが重要と話した。 がん対策推進基本計画への明記を含めようやく動き出しつつある現状だが、富澤氏は「現在も小児がんは子どもの病死原因の第1位であり、いま治療中の患者さんにとっては、5年後・10年後では間に合わない」と話し、広くこの問題が認知され、状況が改善されていくことに期待を寄せた。―――――――――――――――――――オンラインLIVEイベント「ケアネットまつり」で講義を配信予定!9月23日(土・祝)14:25~14:55「知っていますか?小児がんのドラッグラグ問題」日々小児がんの患者さんの診療に力を注いでいる国立成育医療研究センター小児がんセンターの富澤 大輔氏が、ドラッグラグが及ぼしている小児がん診療の実態と、これからその問題にどう立ち向かっていくのかを講義します。詳細ページはこちら(無料・予約不要)https://carenetv.carenet.com/mailimages/lp/fes/2023/info.html―――――――――――――――――――

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健康維持に必要な1日の最小歩数は?~メタ解析

 1日の歩数と全死因死亡および心血管疾患(CVD)の発症との関連を調べた結果、3,000歩弱という少ない歩数であっても有意にそれらのリスクが低減していたことを、オランダ・ラドバウド大学医療センターのNiels A. Stens氏らが明らかにした。Journal of the American College of Cardiology誌オンライン版2023年9月6日号の報告。 健康の維持・改善のためにウオーキングなどの有酸素運動が勧められることが多いが、最小および至適な1日の歩数は依然として不明である。そこで、研究グループは一般集団における歩数と健康アウトカムとの関連を評価するためにメタ解析を行った。MEDLINEとEMBASEを用いてデータベース開設から2022年10月まで検索し、歩数計や加速度計などで客観的に測定した1日の歩数と、全死因死亡またはCVDの発症を評価した縦断研究を特定した。解析には一般化最小二乗法とランダム効果モデルが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には12件の研究から11万1,309人を含めた。・2,000歩/日(参考:約20分の歩行)の集団と比べて、有意なリスク減少が認められたのは、全死因死亡では2,517歩/日(調整後ハザード比[aHR]:0.92、95%信頼区間[CI]:0.84~0.999)、CVD発症では2,735歩/日(aHR:0.89、95%CI:0.79~0.999)であった。・歩数が増えるほど全死因死亡およびCVDリスクは非線形に低下し、至適歩数はそれぞれ8,763歩/日(aHR:0.40、95%CI:0.38~0.43)および7,126歩/日(aHR:0.49、95%CI:0.45~0.55)であった。・総歩数に関係なく、歩数速度が速いほど全死因死亡のリスクが低下した。 これらの結果より、研究グループは「1日当たり約2,600歩および約2,800歩という少ない歩数でも全死因死亡とCVD発症に大きなメリットが得られ、それぞれ約8,800歩および約7,200歩まで段階的にリスクが低減した。歩数というわかりやすい指標を身体活動の基準に応用することができる可能性がある」とまとめた。

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新たなウェアラブル超音波デバイス、早期乳がん検出に有望な結果

 早期段階の乳がんを検出するためのウェアラブル超音波デバイスの開発に関する成果を、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のCanan Dagdeviren氏らが、「Science Advances」に7月28日報告した。将来的には、このデバイスにより、自宅にいながら乳がんの初期兆候をモニタリングできるようになる可能性があるという。 現在、乳房超音波検査は、一部の女性での乳がん検出に使われている。例えば、マンモグラフィ検診で疑わしい所見が見つかった場合、それが腫瘍なのか嚢胞なのかを確認するために超音波検査が行われることがある。また、乳腺組織が非常に密で(デンスブレスト)、マンモグラフィだけでは腫瘍を確認しにくい女性では、超音波検査が追加されることもある。しかし、いずれの場合でも、女性は検査を受けるために医療機関に赴く必要がある上に、検査の質も検査者の経験と技量に左右されるのが実情だとDagdeviren氏は指摘する。 さらに、乳がん検診はすでに40代から定期的に行われているものの、検診後から次の検診までの間に「インターバルがん」が発生することもある。このような状況を踏まえて同氏らは、「ブラジャーの上から装着できる、可塑性と柔軟性を兼ね備えた超音波デバイスを作れないかと考えた」と言う。 Dagdeviren氏らが考案したウェアラブル超音波デバイスは、ハニカム(蜂の巣)状の六角形の開口部を設けて柔軟性を持たせることで、乳房にフィットするように設計されており、3Dプリンターで作られる。デバイスは、超音波スキャナーを皮膚に接触させるための開口部が設けられたブラジャーに磁石で取り付けられる。超音波スキャナーは小さなトラッカーに内蔵されており、その中で6つの異なる位置に移動できるため、乳房全体をスキャンすることができる。スキャナーは回転させることもできるため、さまざまな角度から超音波画像を撮影することも可能だ。操作に特別な専門知識も必要ないという。 Dagdeviren氏らが、乳腺嚢胞の既往歴がある71歳の女性の協力を得て、このデバイスの性能をテストした結果、わずか3mmの嚢胞を検出できることが確認された。また、このデバイスから、従来の超音波検査で得られる画像と同程度の解像度で、深さ8cmまでの組織を描出できることも示された。 今回の研究報告について、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のSheng Xu氏は、「素晴らしい研究だ」と評価する。Xu氏の研究室でも、以前よりウェアラブル超音波デバイスの開発に取り組んでいるという。同氏は、「このデバイスは、超音波画像診断の手順を標準化し、従来の超音波診断の悩みであった検査者への依存をできる限り減らすのに役立つ可能性がある」との見方を示す。 Dagdeviren氏は、この乳房超音波デバイスが、乳がんリスクの高い女性に使用できる可能性があるほか、従来の乳がんの画像診断へのアクセスが限られている低所得国の女性に新たな選択肢を提供することにもなるとの見通しを示す。 ただし、米食品医薬品局(FDA)からこのウェアラブルデバイスに対する承認を得るためには、少なくとも1,000人の女性を対象にデバイスの性能を検証する研究を実施するなど、まだやるべきことは山積みだ。また、今回の試験では、超音波画像を見るために、スキャナーを画像処理センターの超音波装置に接続する必要があった。Dagdeviren氏は、「これは、明らかに家庭での使用に向かない」と話す。研究グループは、デバイスをスマートフォンのようなデバイスと組み合わせ、データをクラウド経由で医療提供者に送信することを考えているという。

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2型糖尿病治療薬としてのGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutide(解説:住谷哲氏)

 筆者はこれまで、血糖降下薬多剤併用でも血糖管理目標が達成できない患者を少なからず経験したが、その多くは食欲がコントロールできない肥満合併患者であった。しかしGLP-1受容体作動薬の登場で、食欲抑制を介して体重を減少させることが可能となり、2型糖尿病治療は大きく前進した。最新のADA/EASDの血糖降下薬使用アルゴリズムにおいて、GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬と同様に臓器保護薬として位置付けられている1)。しかし、GLP-1受容体作動薬はcardiovascular disease dominoのより上流に位置する肥満を制御することが可能な薬剤であり、この点がSGLT2阻害薬とは異なっている。 本試験は、GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの血糖降下薬としての有効性を検証した第II相臨床試験であるが、肥満症治療薬としての有効性を検証した試験の結果がほぼ同時に報告されている2)。そこでは約1年(48週)投与後の体重減少率が24%と、驚くべき効果が示されている。これはセマグルチド、チルゼパチドの体重減少作用を凌駕している。GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)が登場するまでは、最強のGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:オゼンピック)であった。しかしretatrutideが投与可能となれば、チルゼパチドは最強のGLP-1受容体作動薬の座をretatrutideに明け渡すことになるだろう。 開発企業のEli Lillyは、すでにretatrutideの臨床開発プログラムであるTRIUMPH programを開始しており、対象には肥満を合併した2型糖尿病だけではなく、睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症の患者も含まれている。つまり、肥満を基礎とする広範な疾患に対する治療薬としての位置付けを目指しているようだ。 わが国で肥満症治療薬として認可されているGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:ウゴービ)だけであるが、近い将来にチルゼパチドもretatrutideも認可されるだろう。わが国でも増加し続けている肥満症患者のすべてに、これらの薬剤を投与することが医療経済的に正当化されるか否かは議論が必要だろう。英国のNICEのガイダンスのように3)、対象患者、投薬期間を明確にして無制限な使用に歯止めをかけることも必要かもしれない。

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カテコラミン誘発多形性心室頻拍〔CPVT:Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia〕

1 疾患概要カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia:CPVT)は比較的まれな疾患で、その頻度は10,000人に1人程度と言われているが正確な数は不明である1-3)。通常10歳前後で運動や興奮時、カテコラミン投与などにより心室頻拍(VT)や心室細動(VF)を発症し、若年者の失神発作や突然死の原因として重要である4)。無治療では10年生存率が60%程度と推定され2)、きわめて予後不良な疾患である。CPVT患者の安静時心電図は明らかな異常所見はなく、心臓超音波検査、CT、MRIなども正常であり、無症状のCPVT患者を通常の臨床検査から診断することは非常に難しい。一方、器質的心疾患を認めず安静時心電図では異常所見のない40歳未満で、運動もしくはカテコラミン投与により他に原因が考えられない2方向性VT(図1)、多形性VT・期外収縮(PVC)が誘発される場合には、CPVTと比較的容易に診断可能である。また、CPVT患者の60~70%に遺伝子異常がみつかり、CPVTは遺伝学的検査によっても診断可能である。図1 CPVTに特徴的な2方向性心室頻拍(矢印)と心室細動の発生2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断CPVT患者の初発症状は失神発作であり、運動あるいは感情ストレスが誘因となる1、2)。学童期の運動やストレス時の意識消失発作の場合、CPVTを疑う必要がある。最初の失神は主に7~12歳ごろで少なくとも20歳までに発生することが多い5)。初発が心停止の場合もあり、乳幼児突然死症候群や特発性心室細動の原因がCPVTであることもある。トレッドミルなどの運動負荷心電図は、CPVTを診断するうえで最も有力な検査法である(図2)3)。運動により多形性VT、2方向性VT(1拍ごとにQRSの極性が180度変わり、VT波形間の連結期がほぼ一定の頻拍)が出現し、きわめて速いVT/VFが誘発されると失神や突然死を惹起する2)。図2 CPVT1患者のトレッドミル運動負荷検査画像を拡大するA:治療前、B:β遮断薬とフレカイニド治療後、C:検査中の心拍数の変化、D:検査中のPVC数の変化。CPVTの特徴として運動負荷のピーク(心拍数>120bpm)で多形性PVCや二方向性PVC(VT)が出現する。VPB: ventricular premature beat.(島本恵子ほか. 循環器病研究の進歩. 2022;Vol.XLIII No.1:67-75.)一方、未発症(無症状)CPVTに対する臨床診断は容易ではない。2方向性VTはCPVTに特徴的で特異度は高いが、その出現率は必ずしも高くなく感度は50%程度とも言われる。さらに軽症例ではPVCの単発あるいは2段脈しか認められないことがある3)。アドレナリン(エピネフリン)負荷試験は、運動負荷試験を実施できない症例の診断のために有用と考えられるが、やはり特徴的な2方向性PVCやVTが誘発されれば診断的な特異度は高いものの、感度(誘発率)は運動負荷よりさらに低い(28%)。ホルター心電図も日常生活や学校生活上での不整脈検出に有用であるが、実際の不整脈検出率は運動負荷検査よりも低い。なお、心臓電気生理学的検査(EPS)は、CPVTの診断的価値は低く、心臓突然死のリスク評価としてEPSによるVT/VF誘発は禁忌である。鑑別診断としては、失神発作の原因である「てんかん」、パニック発作なども臨床的に鑑別が必要である。とくに「てんかん」と診断されていたが、実際には失神の原因はCPVTによる不整脈が原因であった例は多い。また、同じ遺伝性不整脈の中で先天性QT延長症候群(とくにLQT1型)、Andersen-Tawil症候群(ATS)などは、運動中の失神発作や多形性PVC、2方向性VT/PVCなどCPVTと共通点が多く遺伝子検査による鑑別が重要である。■ 遺伝学的検査CPVTの60~70%に原因遺伝子が同定され、そのほとんどが心筋リアノジン受容体(RyR)の遺伝子RYR2であり常染色体顕性遺伝形式である(表)6)。患者の病歴、家族歴、心電図所見などから臨床的にCPVTと診断あるいは疑われた患者に対して、診断確定のため遺伝学的検査が推奨(クラスI)される(ただし保険適用外)。また、家族に対しては、当該患者(発端者)においてみつかった遺伝子異常の有無を検査することが推奨される。しかし、RYR2遺伝子はエクソンが105個の巨大な遺伝子であり、健常者にも多くのバリアントが報告されている。そのほとんどはCPVTとは無関係または関係性が不明なVUS(Variant of unknown significance)である。したがってRYR2にVUSのバリアントがみつかった場合、表現型あるいは家族整合性が不明瞭な場合には安易にCPVTと診断すべきではない。RYR2の他にはCASQ2を始めCALM1、TECRL、TRDNなど複数の遺伝子が報告されているが、いずれもきわめてまれで、通常CPVTの遺伝子検査としてはRYR2(CPVT1)とCASQ2(CPVT2)が推奨される。なお、若年者の運動・ストレス時の失神発作の場合、LQT1やATSとの鑑別も重要である。臨床的にLQTSと診断または疑われたが遺伝子検査ではLQT関連遺伝子には疾患原因遺伝子を同定できない場合は、RYR2遺伝子も検査を考慮する。以上からCPVTは運動誘発性の失神発作や2方向性VTなど典型的な臨床像を呈する場合は比較的容易に診断可能であるが、逆にそうでない患者・家族などの場合には積極的に疑って負荷心電図検査などを行わないと診断は容易とは言えない。さらに遺伝学的検査も診断確定や鑑別診断に非常に有用である。表 CPVTとその類縁疾患の遺伝子画像を拡大する(日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン. 2022;62.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 生活指導CPVTと診断された場合、原則として運動(とくに競技スポーツ)は禁止すべきである。また、日常生活でも、可能な範囲で精神的・肉体的ストレスは避けることが望ましい。ただし、CPVTは運動のピーク時(心拍数≧110bpm)で心室不整脈が出現する場合が多く(図2)、逆に言えば薬物治療により心拍数が110~120まで増加しない程度にコントロールされていれば、通常の日常生活程度で不整脈による失神発作や突然死を来す可能性は低い。■ 薬物治療CPVTと診断された場合、薬物治療としてはβ遮断薬(クラスI適応)、フレカイニド(クラスIIa)の2つが有用である。一般的にはβ遮断薬が第1選択とされ、β遮断薬の中でもナドロール(商品名:ナディック)が推奨される。β遮断薬内服下でも不整脈抑制の効果不十分な場合にフレカイニド(同:タンボコール)を追加投与する。しかし、実際には多くの患者で両方の薬が必要となり、また、β遮断薬は徐脈や血圧低下、倦怠感など副作用のため十分な量を内服できない例も多く、フレカイニドの役割が重要となっている。■ 植込み型除細動器(ICD)ICDは不整脈疾患における心臓突然死を予防するもっとも優れた機器であるが、ICDによる電気的除細動によって交感神経がさらに緊張状態となり、CPVTを惹起しVFストーム化が懸念され、CPVT患者におけるICDの予後改善の効果は疑問視されている。では、薬物治療のみで絶対に安全か? との不安も完全には解消されない。現実的にはVF蘇生後患者では突然死の2次予防目的としてICD植込みが絶対適応(クラスI)とされる。問題は薬物治療下で失神発作を繰り返す場合であるが、最近発表された国際研究の結果からも、薬剤抵抗性のCPVTに対するICD植込みに肯定的な結果7)と否定的な結果8)が報告され結論は出ていない。若年者の場合、突然死予防効果とICD長期留置が及ぼすさまざまなデメリット(感染、リード断線、静脈閉塞、精神的問題など)を検討し、総合的に判断すべきと考える。4 今後の展望CPVTの家系内でRYR2遺伝子変異をもつ同胞(兄弟姉妹)の心イベント発生率は高く、両親、同胞への遺伝学的検査は患者本人のみならず、家族の心臓突然死を防ぐ早期診断、予防的治療介入に非常に有用である。遺伝学的検査の保険診療化が期待される。薬物治療として近年フレカイニドの有効性が報告されたが、β遮断薬とどちらを第1選択とすべきかについては結論が出ていない。また、今後はCPVTに対する新たな薬剤の開発が期待されている。非薬物治療としては、わが国ではあまり実施されていないが、星状神経節ブロックも有効である。今後は薬剤抵抗性患者でICD作動を回避したい患者への効果が期待される。5 主たる診療科循環器内科(できれば遺伝性不整脈専門外来)小児循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立循環器病研究センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Leenhardt A, et al. Circulation. 1995;91:1512-1519.2)Sumitomo N, et al. Heart. 2003;89:66-70.3)Lieve KV, et al. Circ J. 2016;80:1285-1291.4)Roston TM, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2015;8:633-6425)Shimamoto K, et al. Heart. 2022;108:840-847.6)Priori SG, et al. Circulation. 2001;103:196-200.7)Mazzanti A, et al. JAMA Cardiol. 2022;7:504-512.8)van der Werf C, et al. Eur Heart J. 2019;40:2953-2961.公開履歴初回2023年9月12日

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第180回 エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする/GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい

エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする食物繊維の摂取は代謝を好調にし、肥満などの代謝疾患が生じ難くなることと関連します。とはいうものの食物繊維の代謝への恩恵をわれわれの体が引き出す仕組みはあまりわかっていません。不溶性の多糖繊維のほとんどは哺乳類の酵素で消化されず、腸の微生物による分解もごく限られています。しかしエビやカニなどの甲殻類、昆虫、真菌(キノコ)などの外骨格や細胞壁の主成分であるキチンは例外的で、ほかの食物繊維と一線を画します。マウスやヒトはキチンを作れませんが、キトトリオシダーゼ(Chit1)と酸性哺乳類キチナーゼ(AMCase)と呼ばれるキチン分解酵素2つを作ることができます。摂取したキチンがその消化を促す胃でのAMCase発現亢進を導くまでの免疫反応絡みの回路が新たな研究で同定され、AMCase欠如マウスにキチンを与え続けると高脂肪食にもかかわらずあまり太らずに済むことが示されました1)。キチンとともに高脂肪食が与えられたAMCase欠如マウスは、キチンを与えなかったマウスやキチンを与えたけれどもそれを分解できるマウスに比べて体重増加や脂肪量が少なくて済み、肥満になりにくいという結果が得られています。今後の課題として研究チームはヒトではどうかを検討する予定です2)。食事にキチンを含めることで肥満を予防できるかどうかを調べることを目標としています。また、胃のキチン分解酵素の阻害とキチン補給を組み合わせることでAMCase欠如マウスのキチン摂取と同様の最大の効果を引き出せそうと研究チームは考えています。チームのリーダーSteven Van Dyken氏によると胃のキチン分解酵素を阻害する手段はいくつか存在するとのことです。GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい肥満治療といえば2型糖尿病(T2D)治療薬として出発したノボ ノルディスク ファーマのGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)セマグルチドが大人気ですが、同剤がT2Dのみならず1型糖尿病(T1D)にも有効らしいことを示す米国・バッファロー大学のチームによる症例解析がNEJM誌に先週掲載されました3)。T1Dになったばかりの患者のほとんどはまっとうなβ細胞を有しています。そういう初期段階であればインスリン分泌を促すセマグルチドが効くかもしれず、バッファロー大学の研究者はT1D診断後3ヵ月後以内に同剤投与が始まった患者10例の1年間の経過を調べました。10例とも食事の際のインスリンと基礎インスリンを使っていましたが、セマグルチド開始から3ヵ月以内に全員が食事時のインスリンを使わずに済むようになりました。また、10例中7例は6ヵ月以内に基礎インスリンも不要となってその後もそうして過ごせました。血糖値も落ち着き、もとは12%ほどもあった糖化ヘモグロビン値はセマグルチド使用開始後半年時点では5.9%、1年時点では5.7%に落ち着きました。セマグルチドの用量を増やしている期間に軽い低血糖が生じましたが、投与量が一定になって以降の発生は認められませんでした。T1D診断後すぐからのセマグルチド投与をより大人数の無作為化試験で検討する価値があると著者は言っています。T1Dへの有効性が示唆されたことが示すようにセマグルチドなどのGLP-1薬は代謝疾患の領域で手広い用途がありそうです。もっと言うと、その域を超えて依存症分野でも活躍できる可能性を秘めています。そういう可能性の臨床検討はすでに始まっており、たとえばセマグルチドと飲酒や喫煙量の変化の関連がノースカロライナ大学主催の試験で調べられています4,5)。参考1)Kim DH, et al. Science. 2023;381:1092-1098.2)Fiber from crustaceans, insects, mushrooms promotes digestion / Eurekalert3)Dandona P, et al. N Engl J Med. 2023;389:958-959.4)ClinicalTrials.gov(NCT05520775)5)ClinicalTrials.gov(NCT05530577)

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がんサバイバーの心不全発症、医療者の知識不足も原因か/日本腫瘍循環器学会

 9月30日(土)~10月1日(日)の2日間、神戸にて第6回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催される(大会長:平田 健一氏[神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野])。それに先立ち、大会長による学会の見どころ紹介のほか、実際にがんサバイバーで心不全を発症した女性がつらい胸の内を語った。がん治療を始める前に、病歴にもっと目を向けてほしかった 今回のメディアセミナーに患者代表として参加した女性は、10代で悪性リンパ腫の治療のために抗がん剤を使用。それから十数年以上経過した後に健康診断で乳がんを指摘されて乳房温存手術を受けたが、その後にリンパ節転移を認めたため、抗がん剤(計8コース)を行うことになったという。しかし、あと2コースを残し重症心不全を発症した。幸いにも植込み型補助人工心臓(VAD)の臨床試験に参加し、現在に至る。 この女性は医療機関にかかる際には必ず病歴を申告していたそうだが、治療の際に医療者から“抗がん剤の種類によっては生涯使用できる薬剤量の上限があること”を知らされず、「後になって知った」と話した。今回、過去の治療量が反映されなかったことが原因で心不全を発症したそうだが「乳がん治療のための抗がん剤を始める際は、むくみや動悸については説明があったものの、抗がん剤が心臓に与える影響や病歴について何も触れられなかったことはとても残念だった。5コース目の際に看護師に頻脈を指摘されたがそれ以上のことはなかった。VADは命を救ってくれたが私の人生の救いにはまったくなっていない。日常生活では制約だらけでやりたいことは何もできない」と悔しさをにじませた。「生きるために選択した治療が生きる希望を失う状況を作り出してしまったことは悔しく、残念でならない」とする一方で、「医療者や医療が進歩することを期待している」と医療現場の発展を切に願った。 これに対し小室氏は、医療界における腫瘍循環器の認知度の低さ、がん治療医と循環器医の連携不足が根本原因とし「彼女の訴えは、治療歴の影響を鑑みて別の抗がん剤治療の選択はなかったのか、心保護薬投与の要否を検討したのかなど、われわれにさまざまな問題を提起してくださった。患者さんががん治療を完遂できるよう研究を進めていきたい」とコメントした。 前述の女性のような苦しみを抱える患者を産み出さないために、がん治療医にも循環器医にも治療歴の聴取もさることながら、心毒性に注意が必要な薬剤やその対処法を患者と共有しておくことも求められる。そのような情報のアップデートのためにも4年ぶりの現地開催となる本学術集会が診療科の垣根を越え、多くの医療者の意見交換の場となることを期待する。さまざまな学会と協働し、問題解決に立ち向かう 大会長の平田氏は「今年3月に発刊されたOnco-cardiologyガイドラインについて、今回のガイドラインセッションにて現状のエビデンスや今後の課題について各執筆者による解説が行われる。これに関し、2022年に発表されたESCのCardio-Oncology Guidelineの筆頭著者であるAlexander Lyon氏(英国・Royal Brompton Hospital)にもお越しいただき、循環器のさまざまなお話を伺う予定」と説明した。また、代表理事の小室 一成氏が本学会の注力している活動内容やその将来展望について代表理事講演で触れることについても説明した。 主な見どころは以下のとおり。<代表理事講演>10月1日(日)13:00~13:30「日本腫瘍循環器学会の課題と将来展望」座長:南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)演者:小室 一成氏(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)<ガイドラインセッション>9月30日(土)14:00~15:30座長:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター)   南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)演者:矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)   山田 博胤氏(徳島大学 循環器内科)   郡司 匡弘氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)   澤木 正孝氏(愛知県がんセンター 乳腺科)   赤澤 宏氏(東京大学 循環器内科)   朝井 洋晶氏   (邑楽館林医療企業団 公立館林厚生病院 医療部 内科兼血液・腫瘍内科)   庄司 正昭氏   (国立がん研究センター中央病院 総合内科・がん救急科・循環器内科)15:40~17:10座長:泉 知里氏(国立循環器病研究センター)   佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院医学研究科 臨床薬理学)演者:窓岩 清治氏(東京都済生会中央病院 臨床検査科)   山内 寛彦氏(がん研有明病院 血液腫瘍科)   田村 祐大氏(国際医療福祉大学 循環器内科)   坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科 基礎系講座分子生理学分野)   下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科)<シンポジウム>9月30日(土)9:00~10:30「腫瘍と循環器疾患を繋ぐ鍵:clonal hematopoiesis」10月1日(日)9:00~10:30「がん患者に起こる心血管イベントの予防と早期発見-チーム医療の役割-」/日本がんサポーティブケア学会共同企画10:40~11:50「腫瘍循環器をメジャーにするために」/広報委員会企画13:40~15:10「免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応」15:20~16:50「小児・AYAがんサバイバーにおいてがん治療後出現する晩期心毒性への対応」/AYAがんの医療と支援のあり方研究会共同企画15:20~16:50「第4期がんプロにおける腫瘍循環器学教育」/学術委員会企画<Keynote Lecture>9月30日(土)11:20~12:10「Onco-cardiology and echocardiography (GLS)」Speaker:Eun Kyoung Kim氏(Samsung Medical Center)<ストロークオンコロジー特別企画シンポジウム>10月1日(日)10:50~11:50「がん合併脳卒中の治療をどうするか」 このほか、教育セッションでは双方が学び合い、コミュニケーションをとっていくために必要な知識として、「腫瘍循環器学の基本(1)~循環器専門医からがん専門医へ~」「腫瘍循環器学の基本(2)~がん専門医から循環器専門医へ~」「肺がん治療の現状」「放射線治療と心血管障害」などの講演が行われる。

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プロスポーツチームを誘致した都市でインフルエンザによる死亡者数が増加

 プロスポーツチームを新たに誘致した都市では、インフルエンザによる死亡者数が急増するという研究結果が報告された。米ウェストバージニア大学ジョン・チェンバース・カレッジ・オブ・ビジネス&エコノミクスのBrad Humphreys氏らによる研究で、詳細は「Sports Economics Review」に6月8日掲載された。 新しい都市にプロスポーツチームを誘致する際には、多額の税金が投入されることが多い。研究グループによると、2000年以降、米国の州政府や地方自治体は、新しいスタジアムの建設に200億ドル(1ドル143円換算で約2兆8600億円)近く、年間にするとおよそ10億ドル(同約1430億円)を投じてきた。これらの投資は、主に政府が債券を発行して調達した補助金で賄われている。 Humphreys氏らは、米疾病対策センター(CDC)の54年間にわたる122都市でのインフルエンザによる死亡データと、NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)、NHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)、MLB(メジャー・リーグ・ベースボール)のプロスポーツチームが都市に到着した日付およびこれらのリーグの試合開催期間のデータを収集。都市の人口、気温、降雨量、毎年流行するインフルエンザ株など、ウイルスの拡散に関連する要因を考慮して、両者の関連を検討した。 その結果、1962年から2016年の間にプロチームを誘致した米国の都市では、チーム到着後にインフルエンザによる10万人当たりの死亡者数が4〜24%増加していたことが明らかになった。具体的には、NFLのチームがこれまでプロスポーツチームを抱えたことのない都市に移動してきたときには、インフルエンザによる死亡者数が平均で17%増加していた。これはインフルエンザにより年に約13人の超過死亡が生じたことを意味する。また、NBAのチームを新たに迎え入れた場合には、その都市のインフルエンザの死亡者数が平均して4.7%増加していた。影響が最も小さかったのはMLBチームを迎え入れた場合で、年に3人のインフルエンザによる超過死亡をもたらしていた。これとは反対に影響が最も大きかったのはNHLのチームを迎え入れた場合で、インフルエンザによる10万人当たりの死亡者数が24.6%増加していた。これは年に約20人の超過死亡に相当するという。 論文の共著者である、ウェストバージニア大学のJane Ruseski氏は、「ホッケーチームを迎え入れることでインフルエンザによる死亡者がこれほど増える理由には、NHLのシーズンとチームが本拠を置く場所の両方が関係していると考えられる。NHLのシーズンは、インフルエンザのシーズンとほぼ完全に重なっている上に、NHLチームは寒冷地に本拠を構える可能性が高いからだ」と説明している。ただし、インフルエンザとスポーツリーグのシーズンの重なりが、インフルエンザによる死亡者数増加の主な要因であると断定することはできないと同氏は言う。 一方Humphreys氏は、「スポーツチームがある都市の人々は、チームがない都市の人々よりも病気になる可能性が高いことが、この研究で示された。この結果は、プロスポーツイベントの開催に関するわれわれの考え方を変える可能性がある」と指摘する。そして、「納税者が、プロスポーツチームのせいで病気になり、医療制度に負担をかけ、仕事を休むことで企業の収益に悪影響を与え得ることを理解すれば、プロスポーツ施設に補助金を出すことに消極的な姿勢を示すようになるだろう」と話している。 論文の筆頭著者である米オールド・ドミニオン大学のAlexander Cardazzi氏は、「同様の傾向が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも当てはまる可能性が高い」との見方を示す。同氏は、「スタジアムやアリーナで開催されるスポーツイベントでは、大勢の人々が至近距離に集まる。これらの観客は、手であちこちの環境表面に触れ、話したり大声を出したり、ハイタッチなどで人と接触をする」と述べ、このような行動がインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの拡散につながると話している。

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中国のゼロコロナ政策終了直後、超過死亡が急増か

 中国では、コロナパンデミックの開始から厳格なゼロコロナ政策によって罹患率と死亡率は低く抑えられていた。しかし、2022年12月のゼロコロナ政策の解除により、以降2ヵ月間、中国全土の30歳以上において推定187万人の超過死亡が発生したことが、米国・シアトルのFred Hutchinson Cancer Research CenterのHong Xiao氏らの研究チームによる調査で確認された。JAMA Network Open誌2023年8月25日号掲載の報告。 本調査では、北京市の北京大学と精華大学、黒竜江省のハルビン工業大学の2016年1月1日~2023年1月31日までの職員の公開された訃報記事データが用いられた。訃報記事は、年齢、性別、役職、雇用形態(現職、退職)に関係なく、死亡したすべての職員が含まれ、掲載のプロセスはCOVID-19の流行前も流行中も一貫して行われていた。本データから30歳以上の死亡率の相対的変化を推定した。前COVID-19期(2016年1月~2019年12月)、ゼロコロナ政策期(2020年1月~2022年11月)、ポスト・ゼロコロナ政策期(2022年12月~2023年1月)の3つの期間に分け、負の二項回帰モデルを使用した。また、中国のインターネット検索エンジンBaiduにて、総検索量に対する死に関連するワード(葬儀社、火葬、埋葬など)の検索の頻度(Baidu指数:BI)の相対的変化も推計し、大学における30歳以上の死亡率との相関関係も分析した。さらに、これらの数値を基に、中国のその他の地域における超過死亡率を算出した。 主な結果は以下のとおり。・北京市と黒竜江省ともに、死亡数は2022年12月第4週にピークに達した。それと同時期の12月25日に、中国のほとんどの省で、死に関連するワードのネット検索のBIが最も高くなった。・ゼロコロナ政策の終了後、北京の2つの大学における死亡数は、予想死亡数に比べて大幅な増加を示し、2022年12月と2023年1月にそれぞれ403%(95%CI:351~461)と56%(95%CI:41~73)の増加を示した。ハルビン工業大学における死亡数は、2022年12月(12 vs.3、p<0.001)と2023年1月(19 vs.3、p<0.001)の両方で、予想された死亡数よりも統計的に有意に高かった。・ポスト・ゼロコロナ政策期の北京の大学での死亡のうち、男性は75.6%(95%信頼区間[CI]:65~84)、85歳以上は80.0%(95%CI:70~87)だった。85歳以上の死亡の割合は、前COVID-19期(51.9%)およびゼロコロナ政策期(62.3%)よりも高かった(p<0.001)。ハルビン工業大学でも同様のパターンがみられ、ポスト・ゼロコロナ政策期の死亡は、男性82.1%、85歳以上69.0%だった。・ポスト・ゼロコロナ政策期(2022年12月~2023年1月)では、中国全土で30歳以上の推定187万人(95%CI:71万~443万、1,000人当たり1.33人)の超過死亡が発生した。・チベットを除くすべての省で統計学的に有意な死亡率の増加が推計され、増加範囲は広西チワン族自治区の77%増(95%CI:24~197)から寧夏回族自治区の279%増(95%CI:109~658)であった。・超過死亡数は中国政府の公式推計値である6万人をはるかに上回ったが、超過死亡のパターンは、COVID-19に関連した病院での入院と死亡が2022年12月末にピークに達したという中国政府の報告と一致していた。 中国には包括的で一般に入手可能なデータが存在しないために、超過死亡数を推定するために行われた本研究において、中国のゼロコロナ政策の突然の解除が、全死因死亡率の有意な上昇と関連していることが明らかになった。著者は本結果について、COVID-19の集団への突然の伝播が集団死亡率に与える影響を理解するうえで重要だとまとめている。

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筋肉痛はタンパク質摂取で抑えられない

 レジスタンス運動(筋肉に繰り返し負荷をかける運動)の前後にタンパク質を摂取することは、運動後の回復とトレーニング効果を高める一般的な戦略である。一方、タンパク質摂取が運動誘発性筋損傷(EIMD:いわゆる筋肉痛)を抑制できるのかについて調査した、英国・ダーラム大学のAlice G. Pearson氏らによるシステマティックレビューの結果が、European Journal of Clinical Nutrition誌2023年8月号に掲載された。筋肉痛はタンパク質摂取群と対照群で有意差はなかった 研究者らはPubMed、SPORTDiscus、Web of Scienceで2021年3月までの関連論文を検索し、運動後の各時点(24時間未満、24時間、48時間、72時間、96時間)におけるタンパク質摂取の効果と、EIMDを計る間接的マーカーのヘッジズ効果量(ES)を算出した。 タンパク質摂取が筋肉痛を抑制できるのかについて調査した主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューに含まれた29の研究は45の試験からなり、うち26の研究と40の試験が1つ以上のメタアナリシスに含まれた。計763例が対象となり、うち94%が若年男性であった。・等尺性随意最大筋力は96時間後(ES:0.563、95%信頼区間[CI]:0.232~0.894)および、等速性随意最大筋力は24時間後(0.639、95%CI:0.116~1.162)、48時間後(0.447、95%CI:0.104~0.790)、72時間後(0.569、95%CI:0.136~1.002)の各時点において、タンパク質摂取による筋力低下の抑制効果が認められた。・クレアチンキナーゼ濃度は、48時間(0.836、95%CI:-0.001~1.673)および72時間(1.335、95%CI:0.294~2.376)時点において、タンパク質摂取群は対照群よりも低下していた。・一方、筋肉痛については、タンパク質摂取群と対照群に有意差はなかった。 著者らは「運動前後のタンパク質摂取は、最大筋力の維持とクレアチンキナーゼ濃度の低下に役立つが、筋肉痛を軽減することはできなかった」としている。

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多枝病変の高齢心筋梗塞、完全血行再建術vs.責任病変のみ/NEJM

 心筋梗塞と多枝病変を有する75歳以上の患者の治療において、生理学的評価ガイド下(physiology-guided)完全血行再建術は、責任病変のみへの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と比較して、1年後の時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、血行再建術の複合アウトカムのリスクが低下し、安全性アウトカムの指標の発生は同程度であったことが、イタリア・フェラーラ大学病院のSimone Biscaglia氏らが実施した「FIRE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年9月7日号で報告された。欧州3ヵ国の医師主導無作為化臨床試験 FIRE試験は、欧州3ヵ国(イタリア、スペイン、ポーランド)の34施設が参加した医師主導の無作為化臨床試験であり、2019年7月~2021年10月に患者のスクリーニングを行った(イタリア・Consorzio Futuro in Ricercaの助成を受けた)。 対象は、年齢75歳以上、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)で入院し、責任病変へのPCIが成功し、冠動脈に1つ以上の非責任病変が存在する多枝病変を有する患者であった。 被験者を、責任病変のPCIに加えて生理学的評価ガイド下完全血行再建術を行う(完全血行再建術)群、または責任病変以外への血行再建術は行わない(責任病変のみ血行再建術)群に無作為に割り付けた。完全血行再建術群では、プレッシャーワイヤーまたは血管造影で機能的に重要な非責任病変を特定し、そのすべてにPCIを施行した。 主要アウトカムは、1年時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、虚血による血行再建術の複合とした。完全血行再建術群で予後改善、心血管死と心筋梗塞の複合も良好 1,445例を登録し、完全血行再建術群に720例、責任病変のみ血行再建術群に725例を割り付けた。全体の年齢中央値は80歳(四分位範囲[IQR]:77~84)、528例(36.5%)が女性、509例(35.2%)がSTEMIによる入院患者であった。入院期間中央値は5日(IQR:4~8)で、責任病変のみ血行再建術群(5日[IQR:3~7])に比べ完全血行再建術群(6日[4~8])で長かった。 主要アウトカムのイベントは、責任病変のみ血行再建術群が152例(21.0%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は113例(15.7%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.01)。この有益性は、4つの項目のうち脳卒中を除く3項目の減少によってもたらされた。1つのイベントを防止するための治療必要数(NNT)は19例であった。 主な副次アウトカムである心血管死と心筋梗塞の複合は、責任病変のみ血行再建術群では98例(13.5%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は64例(8.9%)と低い値を示した(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。NNTは22例だった。 安全性のアウトカム(造影剤関連の急性腎障害、脳卒中、出血[BARCタイプ3、4、5]の複合)の発現は、完全血行再建術群では162例(22.5%)、責任病変のみ血行再建術群では148例(20.4%)で認め、両群間に有意な差はなかった(HR:1.11、95%CI:0.89~1.37、p=0.37)。 著者は、「待機的な侵襲性の冠動脈手術は、若年患者に比べ高齢患者では施行される可能性が低いが、今回の試験では、先行試験と一致して、高齢患者における生理学的評価ガイド下完全血行再建術によるリスクの低減を認めた。最初の1年間のKaplan-Meier曲線では経時的に2群間の乖離が進み、完全血行再建術の有益性の増加が観察された」としている。

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日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第241回

日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知Unsplashより使用2022年に米国精神医学会が発行した『DSM-5-TR』に「Hikikomori」が掲載されました。日本語の「ひきこもり」が国際的に認知されつつあるということを意味しています1)。私は一介の呼吸器内科医なので、これを知らず、結構衝撃的でした。さて、九州大学病院における「ひきこもり」に関する研究を紹介したいと思います。Kyuragi S, et al.High-sensitivity C-reactive protein and bilirubin as possible biomarkers for hikikomori in depression: A case-control study.Psychiatry Clin Neurosci. 2023 Aug;77(8):458-460.九州大学における気分障害ひきこもり外来、および関連精神科医療機関を通じて行われたパイロット研究です。被験者は、現在大うつ病エピソードを有する患者121例で、ひきこもり群である「6ヵ月以上」「ほとんど自宅で過ごす」患者45例、非ひきこもり群である「週に4日以上外出する」患者76例で構成されています。血中バイオマーカーとして、過去に精神症状と関連が示されている血清FDP、フィブリノゲン、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、ビリルビン、尿酸、高感度CRPを測定しました。結果、高感度CRP値はひきこもり群で有意に高く、ビリルビン値は有意に低いことが示されました。ただし、高感度CRPの平均(±標準偏差)は、非ひきこもり群2.4±0.5μg/mL、ひきこもり群2.6±0.6μg/mLと、一見それほどの差はないように思われます(統計学的には有意差あり、p<0.05)。とはいえ、高感度CRPは、複数の研究グループによって、自殺企図のバイオマーカーである可能性が示唆されています2,3)。とくに直近で自殺企図を持っている人においてCRPが高くなるとされており、厳密な機序は不明ですが、何らかの炎症性機序が作用している可能性が考えられています。1)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5-TR. American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, 2022.2)Courtet P, et al. Increased CRP levels may be a trait marker of suicidal attempt. Eur Neuropsychopharmacol. 2015 Oct;25(10):1824-1831.3)Loas G, et al. Relationships between anhedonia, alexithymia, impulsivity, suicidal ideation, recent suicide attempt, C-reactive protein and serum lipid levels among 122 inpatients with mood or anxious disorders. Psychiatry Res. 2016 Dec 30;246:296-302.

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