サイト内検索|page:101

検索結果 合計:10293件 表示位置:2001 - 2020

2001.

放射線療法を受けたがん患者、精神疾患があると生存率が有意に低下

 がん患者に対する放射線療法の実施方法が患者の精神疾患(PD)の有無に影響されることはないが、PDがある患者の全生存率は、PDがない患者に比べて有意に低いとする研究結果が、「Clinical and Translational Radiation Oncology」5月号に掲載された。 ユトレヒト大学医療センター(オランダ)のMax Peters氏らは、matched-pair解析により、PDのあるがん患者とない患者での放射線療法のレジメンと全生存率の違いについて検討した。対象者は、電子患者データベース(EPD)より2015年から2019年の間に一カ所の三次医療機関で放射線療法を受けた患者の中から選出した、PDのあるがん患者88人(PD群)と、がんの種類とステージ、WHO-PS(World Health Organization Performance Status)またはKPS(Karnofsky Performance Status)で評価したパフォーマンスステータス、年齢、性別、放射線療法の前後に受けたがん治療を一致させたPDのない患者88人(対照群)。PD群には、統合失調症スペクトラム障害患者が44人、双極性障害患者が34人、境界性パーソナリティ障害患者が10人含まれていた。対象者の平均年齢(標準偏差)はPD群が61.0(10.6)歳、対照群が63.6(11.3)歳で、がん種は乳がん(27人、30.7%)、肺がん(16人、18.2%)、消化器がん(14人、15.9%)、頭頸部がん(10人、11.4%)、婦人科がん(6人、6.8%)、泌尿器がん(5人、5.7%)、脳腫瘍(4人、4.5%)、その他のがん(6人、6.8%)であった。 主要評価項目を、分割照射の回数と、1回2Gyの照射として換算した場合の生物学的等価線量(EQD2)とし、Wilcoxonの符号順位検定により両群間での放射線療法のレジメンの類似性を評価した。副次評価項目はKaplan-Meier曲線により推定した全生存率とし、Cox比例ハザードモデルを用いて死亡のハザード比(HR)を計算した。 放射線療法を終えてからの追跡期間中央値は、PD群で32.3〔四分位範囲(IQR)9.2〜53.8〕カ月、対照群で41.3(同12.7〜65.1)カ月であった。放射線分割の回数中央値はPD群で16(同3〜23)回、対照群で16(同3〜25)回であり、両群で有意な差は認められなかった(P=0.47)。EQD2についても両群間で有意差は認められず、晩期毒性に対するEQD2はともに48(同35〜63)Gy(P=0.18)、腫瘍のコントロール/急性毒性に対するEQD2はともに45(同24〜60)Gy(P=0.77)であった。 全生存率については、PD群、対照群の順に、1年生存率が68%〔95%信頼区間(CI)59〜79%〕、77%(同69〜87%)、3年生存率が47%(同37〜58%)、61%(同52〜72%)、5年生存率が37%(27〜50%)、56%(46〜67%)であり、有意な差があった(P=0.03)。Coxモデルによる単変量解析での対照群と比べたPD群の死亡のHRは1.57(95%CI 1.05〜2.35、P=0.03)であった。死因については、大部分が原疾患の進行によるもので、両群間に明確な差は認められなかった。 著者らは、「PDを有するがん患者は全生存率が有意に低かった。このような脆弱性を抱える患者に対して放射線治療を行う場合には、特に注意が必要であり、また、がんの治療を行っている間に改善できる要因がないかを探るため、さらなる研究が必要であろう」と述べている。

2002.

フルチカゾン、コロナ軽~中等度の症状回復に効果なし/NEJM

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者をフルチカゾンフランカルボン酸エステル吸入薬で14日間治療しても、プラセボと比較して回復までの期間は短縮しないことが、無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV-6試験」の結果で示された。米国・ミネソタ大学のDavid R. Boulware氏らが報告した。軽症~中等症のCOVID-19外来患者において、症状消失までの期間短縮あるいは入院または死亡回避への吸入グルココルチコイドの有効性は不明であった。NEJM誌2023年9月21日号掲載の報告。持続的回復までの期間をフルチカゾンフランカルボン酸エステルvs.プラセボで評価 ACTIV(Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines)-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた分散型臨床試験で、2021年6月11日に参加者の募集を開始し現在も継続中である。 研究グループは、2021年8月6日~2022年2月9日に米国の91施設において、登録前10日以内に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が確認され、7日以内にCOVID-19の症状を2つ以上認めた30歳以上の外来患者を登録し、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群(1日1回200μg 14日間吸入)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、持続的回復までの期間とし、3日連続で症状がない場合の3日目と定義された。副次アウトカムは、28日目までの入院または死亡、28日目までの入院・救急外来(urgent care)受診・救急診療部(emergency department)受診・死亡の複合などであった。持続的回復までの期間に有意差なし 登録患者1,407例がフルチカゾンフランカルボン酸エステル群(715例)とプラセボ群(692例)に無作為化され、それぞれ656例および621例が解析対象集団となった。平均(±SD)年齢は47±12歳、39%が50歳以上で、女性63%、ワクチン2回以上接種65%、症状発現から試験薬投与までの期間の中央値は5日(四分位範囲[IQR]:4~7)であった。 持続的回復までの期間に、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群とプラセボ群の有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.01、95%信用区間[CrI]:0.91~1.12、有効性[HRが>1と定義]の事後確率0.56)。 入院・救急外来受診・救急診療部受診・死亡の複合イベントは、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群で24例(3.7%)、プラセボ群で13例(2.1%)に認められた(HR:1.9、95%CrI:0.8~3.5)。各群で3例入院したが、死亡例はなかった。 有害事象の発現率は、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群2.0%(13/640例)、プラセボ群2.5%(16/605例)であり、両群とも低率であった。

2003.

10代前半男子の喫煙、将来の子どものDNAに悪影響

 10代前半での男児の喫煙は、将来の子どものDNAに悪影響を与え、子どもの喘息、肥満、肺機能低下のリスクを高めることが、新たな研究で明らかにされた。英サウサンプトン大学のNegusse Kitaba氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Epigenetics」に8月31日掲載された。 この研究では、RHINESSA試験参加者875人(7〜50歳、男性457人、女性418人)を対象にエピゲノムワイド関連研究(EWAS)を実施してDNAメチル化パターンを調べ、参加者の母親が妊娠する前の父親の喫煙との関連を検討した。参加者のうちの328人では、父親が母親の妊娠前(参加者の出生年より2年以上前)に喫煙を開始しており、うち64人では、父親の喫煙開始年齢が15歳未満だった。なお、DNA分子にメチル基が付加されるDNAメチル化は、DNAの配列を変更せずに遺伝子の機能を制御するプロセス(エピジェネティクス)の主要素であり、主に遺伝子の発現を抑制する役割を果たす。 その結果、15歳未満で喫煙を開始した父親の子どもでは、14種類の遺伝子にマッピングされた19カ所のCpGサイトでのメチル化が確認された。また、これらのメチル化は、喘息、肥満、および喘鳴と関連していることも示された。さらに、19種類のメチル化のうちの16種類は、過去の研究では母親や当人の喫煙歴とは関連付けられていないものであった。この結果について、論文の共著者であるベルゲン大学(ノルウェー)のGerd Toril Morkve Knudsen氏は、「このことは、これらの新しいメチル化バイオマーカーが、思春期初期に喫煙を開始した父親の子どもに特有のものである可能性を示唆している」と語る。 Kitaba氏は、「このエピジェネティックなマーカーの変化は、思春期初期に喫煙を開始した父親の子どもでは、時期を問わず母親が妊娠する前に喫煙を開始した父親の子どもよりもはるかに顕著だった」と話す。そして、「思春期初期は、男児の生理的変化の重要な時期なのかもしれない。なぜなら、幹細胞が生涯にわたり精子を作り続けるための基盤を築くのがこの時期にあたるからだ」と同大学のニュースリリースで説明している。 一方、論文の共同上席著者であるベルゲン大学のCecilie Svanes氏は、「子どもの健康は、若者の今の行動にかかっている。特に重要なのは、思春期初期の男児(将来の父親)と、妊娠前および妊娠中の母親と祖母の行動だ」と話す。 英国での若年喫煙者の数は減少傾向にあるが、論文の共同上席著者であるサウサンプトン大学のJohn Holloway氏は、電子タバコの人気の高まりに懸念を示している。Holloway氏は、「動物実験の中には、紙巻きタバコの煙に含まれているニコチンが、喫煙者の子どもにエピジェネティックな変化を引き起こす可能性を示唆するものもある。そのため、今のティーンエイジャー、特に男児が、電子タバコを通じて非常に高レベルのニコチンにさらされているのは、深く憂慮すべきことだ」と述べている。 Holloway氏は、今回の研究は、タバコの使用が今よりはるかに一般的であった1960〜1970年代に10代であった父親の子どもを対象にしたものであることを指摘する。その上で、「電子タバコが世代を超えて同様の影響を及ぼすと断言することはできない。しかし、ティーンエイジャーの電子タバコ使用がもたらす影響を明らかにするのに数世代を待つべきではない。われわれは、今行動する必要がある」と強調している。

2004.

NHK「やさしい日本語」【英語が話せないのは日本語が難しいから???実は「語学障害」だったの!?(文化結合症候群)】Part 1

今回のキーワードモノリンガル言語能力の予備能生活言語能力(BICS)学習言語能力(CALP)語学障害言語の距離モノリテラルモノカルチュラル言語の淘汰圧NHKワールドジャパンのコンテンツの1つに「やさしい日本語」という日本語の学習のための講座があります。日本語のやりとりの動画から、ひらがな・カタカナ・漢字の表記や例文がわかりやすく書かれています。「やさしい」というタイトルとは裏腹に、日本語自体は世界で最も難しい言語の1つとして、日本語を学ぼうとする外国の人たちを悩ませています。一方で、英語は比較的に簡単な言語です。しかし、日本人で英語を流暢に話せる人は決して多くはありません。日本人は、難しい日本語を話せるわけなので、英語を話すのだって難しくはないはずなのにです。それどころか、実は、世界的にはバイリンガルが多数派で、日本人のように1つの言語しか話さないモノリンガルは少数派なのです1)。なぜ日本人はなかなかバイリンガルになれないのでしょうか? 逆に、どうやってバイリンガルになっているのでしょうか? そもそも歴史上、バイリンガルはいつ生まれたのでしょうか?今回は、進化心理学の視点で、バイリンガルの起源とそのメカニズムに迫ります。そこから、日本語そのものにフォーカスして、実は日本人は難しい日本語を話すからこそ英語を話せなくなっている原因を解き明かします。そして、日本人がもともと外国語の習得に困難がある状態を「語学障害」と名付け、日本人ならではの国民病(文化結合症候群)として捉え直します。そもそもバイリンガルはいつ生まれたの?前回、言葉の学習の敏感期(グラフ1)の観点から、英語教育は中学校からでは遅すぎて、幼児期では早すぎることがわかりました。この詳細については、関連記事1をご覧ください。グラフ1が示すように、言葉の学習の敏感期に外国語を学習すれば、私たちは当たり前のようにバイリンガルになれるとして話を進めてきました。しかし、実は日本人は必ずしもそうではないようです。この訳を探るために、ここからまず、進化心理学の視点で、バイリンガルの起源に迫ってみましょう。人類が言葉を話すようになったのは、ホモ・サピエンス(現生人類)が東アフリカで生まれた約20万年前と考えられています。この詳細については、関連記事2をご覧ください。当時に生まれたホモ・サピエンスが1種類であるのと同じように、最初に発せられた言語も1種類だったでしょう。その後に、彼らはアフリカ内で拡散していき、約7.5万年前にはアフリカを出て、世界中に拡散していきました。そして、その地域や時代によって発音、語彙、文法が徐々に変化していき、人種と同じように、言語もどんどん枝分かれしていきました。このように、言語が多様化したことから、当時の部族社会では、他の部族と交流することは基本的になく、話す言葉はその部族の言葉に限られていたことが推測できます。つまり、そもそも私たちは、1つの言語しか話さないモノリンガルであることがわかります。約1万数千年前に、農耕牧畜による定住革命によって、食料の貯蔵が可能になりました。そして、約1万年前頃には、その富から、さまざまな人たちが交流する文明社会が生まれていきました。すると、必然的に、言語が違う人とも話をする必要に迫られます。これが、バイリンガルを含むマルチリンガルの起源です。約20万年間の言葉の進化の歴史のうち、そのほとんどがモノリンガルであるに対して、バイリンガル(マルチリンガル)が生まれたのはたかだか1万年前です。私たちが当たり前のようにバイリンガルになるためには、進化の歳月があまりにも短すぎます。つまり、私たちの脳は、もともとモノリンガル仕様であることがわかります。これは、前回でも説明した、言葉の学習には許容量があることを説明することができます。次のページへ >>

2005.

NHK「やさしい日本語」【英語が話せないのは日本語が難しいから???実は「語学障害」だったの!?(文化結合症候群)】Part 2

じゃあどうやってバイリンガルになっているの?私たちの脳は、もともとモノリンガル仕様であることがわかりました。それなのに、そもそもどうやってバイリンガルになっているのでしょうか? 実は、ある脳の機能を流用していることが考えられます。ここから、その機能を2つ説明しましょう。(1)言語能力の予備能1つ目は、言語能力の予備能です。予備能とは、とくに臓器における予備の能力を指します。たとえば、肺や腎臓は2つあり、片肺や片腎になっても生きてはいけるようにできています。よって、日常的には50%程度しか使っていないことになります。原始の時代には、猛獣に追いかけられたり獲物を仕留めたりして激しい運動をすることが日常的であったため、もっと使っていたでしょう。そのための予備が現代人にも50%あると言えます。肝臓については、実際には30~40%しか使っていないと言われており、60、70%の予備があることがわかります。おそらく、原始の時代は、当然ながら冷蔵庫はなく、常に食中毒のリスクがあるため、それでも解毒して生存するために肝臓は進化したのでしょう。臓器と同じように、言語能力(脳)もある程度の予備能があることが想定されます。その理由として、音声言語が使われるようになったのは約20万年前で、機能としては新しくて予備能がなさそうですが、サイン言語はチンパンジーも使っており、機能としては実はかなり古いからです。さらに人類は歌によるサイン言語も使っていたことを想定すると、日常的に歌わなくなった私たちはその分の予備能があると考えることができます。なお、歌によるサイン言語の起源の詳細については、関連記事3をご覧ください。この予備能を流用して、外国語の学習を可能にしているのです。ただし、この言語の予備能は、体の臓器ほどはなさそうです。実際に、スペイン語を母語としてスウェーデン語を第2言語とするスウェーデン在住10年以上のバイリンガルの調査1)で、8歳までに学習を開始した24人(性別や学歴などの要因の統制後)について、バイリンガルテスト10項目のうち満点だったのは平均6.3項目でした。単純に考えると、スペイン語の理解度を10(母語なのですべて満点と想定)としてスウェーデン語を6.3とすれば、言語の予備能は6.3÷(10+6.3)=約40%であると推定できます。また、この24人のうち、10項目とも満点という完全なバイリンガルはわずか3人であり、逆に2項目しか満点がとれなかった人が2人いることから、言語の予備能は、臓器と同じようにかなりの個人差があることが推定できます。前回、言語能力を消化酵素にたとえたように、母語だけでなく外国語も含んで2言語、3言語とどんどん消化吸収できる人もいれば、母語でだけお腹いっぱいという人もいるというわけです。(2)学習言語能力2つ目は、学習言語能力(CALP)です。前回にも登場しましたが、これは、読み書きを通した抽象的で応用的な語彙力です。一方、具体的で基礎的な語彙力は生活言語能力(BICS)と呼ばれています。先ほどの予備能においての言語能力は、厳密には、この生活言語能力を指しています。生活言語能力が言葉を丸ごと捉えて感覚的(暗示的)に理解する機能であるのに対して、学習言語能力は、言葉を細かく分けて認知的(明示的)に理解するための機能と言い換えられます。つまり、言語の量と質の違いです。8歳以降に発達していくこの学習言語能力によって、国語の読解力(読字)や作文(書字)、より複雑な計算(算数)が可能になるのです。そして、この学習言語能力は英語の学習にも流用することができます。たとえば、アルファベットの文字を使って視覚的に覚えること、類似性や語源から語彙を類推して増やすこと、基本構文のパターンを覚えることなどです。ただし、この学習言語能力は読み書きとの相性(互換性)は良いですが、聞く話すとの相性は良くないです。たとえば、丸ごと英語を理解するのではなく、日本語にいちいち翻訳して理解しようとするので、会話にはなかなかついていけなくなります。また、この学習言語能力による学習は、生活言語能力と違って忘れやすいです。使い続けないと、使えなくなってしまいます。ちょうど、試験勉強で覚えたことが、日常生活や仕事で使うことがなければ、すっかり忘れてしまうのと同じです。私たち親世代(1990年生まれ以前)のほとんどが中学校(12歳)から英語教育を受け始めました。すでに生活言語能力の敏感期を過ぎているために、仕方なくこの学習言語能力だけを使って何とか英語を学習したわけですが、大人になって使うことがなければ、悲しいことに英語の読み書きさえ、ほとんどできなくなってしまうというわけです。なお、生活言語能力は12歳までに敏感期が終わり、忘れにくいので脆弱性がないのに対して、学習言語能力は8歳以降に敏感期が始まり、忘れやすいので脆弱性があるという違いがあります。この点で、生活言語能力は意味記憶、学習言語能力はエピソード記憶とそれぞれ重なります。生活言語とは、まさに日常生活で生きていくための意味記憶そのものです。一方、学習言語能力は、その意味記憶をもとに、一連のストーリーをつなぎ合わせるエピソード記憶を使って、その経験(学習)からものごとの仕組みやルールをつなぎ合わせて体系化することであると言えます。意味記憶とエピソード記憶の詳細については、関連記事4をご覧ください。ちなみに、生活言語能力は、人類が部族社会をつくり始めた約300万年からサイン言語によって急速に進化し、約20万年前から音声言語によって現在の形になったと考えられます。一方、学習言語能力は人類が貝の首飾りを信頼の証とするようになった約10万年前から、認知能力として発達していったと考えられます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

2006.

神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症〔HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid)は、大脳白質を病変の主座とする神経変性疾患である。ALSP(adult-onset leukoencephalopathy with spheroid and pigmented glia)やCSF1R関連脳症(CSF1R-related leukoencephalopathy)と呼ばれることもある。本稿では、HDLS/ALSPと表記する。常染色体顕性(優性)遺伝形式をとるが、約半数は家族歴を欠く孤発である。脳生検もしくは剖検による神経病理学的検査により、HDLSは従来診断されていたが、2012年にHDLS/ALSPの原因遺伝子が同定されて以降は、遺伝学的検査により確定診断が可能になっている。■ 疫学HDLS/ALSPは世界各地から報告されているが、日本人を含めたアジア人からの報告が多い。HDLS/ALSPの正確な有病率は不明である。特定疾患受給者証の保持者は、2015年13人、2016年25人、2017年35人、2018年43人、2019年54人、2020年65人と年々増加傾向にある。HDLS/ALSPの有病率が増加している可能性は否定できないが、診断基準の策定など疾患についての認知度が高まり、確定診断に至る症例が増えたことが、患者数増加の要因だと思われる。しかしながら、確定診断にまで至らないHDLS/ALSP患者が依然として少なからず存在すると推察される。■ 病因HDLS/ALSPは colony stimulating factor-1 receptor(CSF1R)の遺伝子変異を原因とする。既報のCSF1R遺伝子変異の多くは、チロシンキナーゼ領域に位置している。ミスセンス変異、スプライスサイト変異、微小欠失、ナンセンス変異、フレームシフト変異、部分欠失など、さまざまなCSF1R遺伝子変異が報告されている。ナンセンス変異、フレームシフト変異例では、片側アレルのCSF1Rが発現しないハプロ不全が病態となる。中枢神経においてCSF1Rはミクログリアに強く発現しており、HDLS/ALSPの病態にミクログリアの機能不全が関与していることが想定されている。そのためHDLS/ALSPは一次性ミクログリア病と呼ばれる。■ 症状発症年齢は平均45歳(18~78歳に分布)であり、40~50歳台の発症が多い。発症前の社会生活は支障がないことが多い。初発症状は認知機能障害が最も多いが、うつ、性格変化や歩行障害、失語と思われる言語障害で発症するなど多彩である(図1)。主症状である認知機能障害は、前頭葉機能を反映した意思発動性の低下、注意障害、無関心、遂行機能障害などの性格変化や行動異常を特徴とする。動作緩慢や姿勢反射障害を主体とするパーキンソン症状、錐体路徴候などの運動徴候も頻度が高い。けいれん発作は約半数の症例で認める。図1 HDLS/ALSPで認められる初発症状画像を拡大する■ 予後進行性の経過をとり、発症後の進行は比較的速い。発症後5年以内に臥床状態となることが多い。発症から死亡までの年数は平均6年(2~29年に分布)、死亡時年齢は平均52 歳(36~84歳に分布)である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)脳MRI検査により大脳白質病変を認めることが、診断の契機となることが多い。頭部MRI所見は、初期には散在性の大脳白質病変を呈することがあるが、病勢の進行に伴い対称性、融合性、びまん性となる。白質病変は前頭葉・頭頂葉優位で、脳室周囲の深部白質に目立つ(図2A、B)。病初期から脳梁の菲薄化と信号異常を認めることが多く、矢状断面・FLAIRの撮像が有用である(図2C)。ただし、脳梁の変化はHDLS/ALSP以外の大脳白質変性症でも認めることがある。内包などの投射線維に信号異常を呈することもある。拡散強調画像で白質病変の一部に、持続する高信号病変を呈する例がある(図2D)。ガドリニウム造影効果は認めない。CT撮像により、側脳室前角近傍や頭頂葉皮質下白質に石灰化病変を認めることがある(図2E)。この所見は“stepping stone appearance”と呼ばれ(図2F)、HDLS/ALSPに特異性が高い。石灰化は微小なものが多いため、1mm厚など薄いスライスCT撮像が推奨される。HDLS/ALSPの診断基準としてKonno基準が国内外で広く用いられている。Konno基準に基づき、厚生労働省「成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班」において策定された診断基準が難病情報ホームページに掲載されている(表)。図2 HDLS/ALSPの特徴的な画像所見画像を拡大する両側性の大脳白質病変を認める(A、B:FLAIR画像)。脳梁は菲薄化している(C:FLAIR画像)。拡散強調画像で高信号領域を認める(D)。CTでは微小石灰化を認める(E、F)。表 HDLS/ALSPの診断基準主要項目1.60歳以下の発症(大脳白質病変もしくは2の臨床症状)2.下記のうち2つ以上の臨床症候a.進行性認知機能障害または性格変化・行動異常b.錐体路徴候c.パーキンソン症状d.けいれん発作3.常染色体顕性(優性)遺伝形式4.頭部MRIあるいはCTで以下の所見を認めるa.両側性の大脳白質病変b.脳梁の菲薄化5.血管性認知症、多発性硬化症、白質ジストロフィー(ADL、MNDなど)など他疾患を除外できる支持項目1.臨床徴候やfrontal assessment battery(FAB)検査などで前頭葉機能障害を示唆する所見を認める2.進行が速く、発症後5年以内に臥床状態になることが多い3.頭部CTで大脳白質に点状の石灰化病変を認める除外項目1.10歳未満の発症2.高度な末梢神経障害3.2回以上のstroke-like episode(脳血管障害様エピソード)。ただし、けいれん発作は除く。診断カテゴリーDefinite主要項目2、3、4aを満たし、CSF1R変異またはASLPに特徴的な神経病理学的所見を認めるProbable主要項目5項目をすべてを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていないPossible主要項目2a、3および4aを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていない鑑別診断としては、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性(優性)脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarct and leukoencephalopathy:CADASIL)など多彩な疾患が挙げられる。HDLS/ALSPと診断された症例で、病初期に多発性硬化症が疑われ、ステロイド治療を受けた例が複数報告されている。HDLS/ALSPはステロイド治療に効果を示さないため、大脳白質病変と運動症状を呈する若年女性を診察した場合には、HDLS/ALSPを鑑別する必要がある。HDLS/ALSPのための診断フローチャートを図3に示した。臨床的な鑑別診断は必ずしも容易ではなく、遺伝学的検査により確定診断を行う。2022年4月にCSF1R遺伝学的検査が保険収載され、かずさ遺伝子検査室に検査委託が可能である。図3 HDLS/ALSP診断のフローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)系統的な治療法は確立していない。HDLS/ALSPの経過中に出現する症状に応じた対症療法が行われる。痙性に対しては抗痙縮薬、パーキンソニズムに対して抗パーキンソン薬の使用を考慮する。症候性てんかんには抗てんかん薬を単剤で開始し、発作が抑制されなければ、作用機序が異なる抗てんかん薬を併用する。4 今後の展望HDLS/ALSPに対する造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)が海外で行われている。現在までに15例のHDLS/ALSP患者がHSCTを受けている。HSCTを受けた約4割の症例で臨床的効果を認めている。ドナー由来の細胞がHDLS/ALSP患者脳に到達し、衰弱したミクログリアの機能を補完している可能性が考えられる。ミクログリア機能を回復される治験としてアゴニスト効果を有する抗TREM2抗体薬を用いた治験が海外で行われている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)かずさ遺伝子検査室(本症の遺伝学的検査を受託している)患者会情報Sister’s Hope Foundation(米国のHDLS/ALSPの患者会の英語ホームページ)(米国の患者とその家族および支援者の会/ホームページは英語)1)Konno T, et al. Neurology. 2018;91:1092-1104. 2)下畑享良 編著. 脳神経内科診断ハンドブック. 中外医学社;2021.3)池内 健ほか. 日本薬理学雑誌. 2021;156:225-229.4)池内 健ほか. 実験医学. 2019;37:118-122.5)池内 健. CLINICAL NEUROSCIENCE. 2017;35:1354-1355.公開履歴初回2023年9月28日

2007.

日本人NSCLCのオシメルチニブ早期減量は脳転移の発生/進行リスク

 肺がんは初診時に脳転移が発生していることも多く、非小細胞肺がん(NSCLC)患者のうち20~40%は治療経過中に脳転移が発生するとされている1,2)。NSCLC患者はEGFR変異があると脳転移のリスクが上昇するとされており、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の脳転移制御に対する役割が注目されている。そこで、日本医科大学付属病院の戸塚 猛大氏らの研究グループは、オシメルチニブの早期減量が脳転移に及ぼす影響を検討した。その結果、オシメルチニブの早期減量は脳転移の発生または進行のリスクであり、治療開始前に脳転移がある患者、75歳以下の患者でリスクが高かった。本研究結果は、Cancer Medicine誌オンライン版2023年9月11日号に掲載された。 2018年8月~2021年10月の期間に1次治療としてオシメルチニブを投与されたEGFR変異(ex19del/L858R)を有するNSCLC患者79例を後ろ向きに追跡した。オシメルチニブ早期減量の影響を評価するため、治療開始4ヵ月時点においてオシメルチニブによる治療を継続し、病勢コントロールが達成されている患者62例を解析対象とした。対象患者を治療開始後4ヵ月以内のオシメルチニブ減量の有無によって2群に分類し(通常用量群、減量群)、脳転移の発生または進行までの期間、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者62例中13例が治療開始4ヵ月以内のオシメルチニブ減量を経験した。減量群13例の内訳は、オシメルチニブ40mgを1日1回投与が7例、オシメルチニブ80mgを隔日投与が6例であった。・早期減量の主な理由は、消化器毒性(4例)、皮疹(3例)であった。・脳転移の発生または進行までの期間は、減量群が通常群と比べて短かった(ハザード比[HR]:4.47、95%信頼区間[CI]:1.52~13.11)。・治療開始1年間における脳転移の発生または進行の累積発生率は、減量群23.1%、通常用量群5.0%であった。・治療開始前に脳転移ありのサブグループ(HR:6.23、95%CI:1.12~34.64)、75歳未満のサブグループ(同:4.84、1.40~16.76)において、減量群が通常用量群と比べて脳転移の発生または進行のリスクが高かった・PFS中央値は減量群が22.3ヵ月であったのに対して、通常用量群は24.6ヵ月であり、有意差は認められなかった(HR:1.49、95%CI:0.67~3.32)。・OSについても有意差は認められなかった(HR:1.06、0.22~4.99)。

2008.

がんに関する質問へのAIの回答は信頼できるのか

 人工知能(AI)は、特にがん治療に関しては、必ずしも正確な健康情報を提供するわけではない可能性が、2件の研究で示唆された。これらの研究は、がん治療に関するさまざまな質問に対してAIチャットボットが提供する回答の質を検討したもので、両研究とも「JAMA Oncology」に8月24日掲載された。 1件目の研究は、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院および米ハーバード大学ダナファーバーがん研究所のDanielle Bitterman氏らが実施したもので、2022年11月に発表されたChatGPTに焦点を当てたもの。研究グループは、ゼロショットプロンプティング(あらかじめ情報を伝えずに直接質問を提示すること)のテンプレートを4種類作成し、これを用いて、がん(乳がん、前立腺がん、肺がん)の診断に関する26種類の記述(がん種、がんの進展度などの情報を伴う場合と伴わない場合あり)に対して、計104個の質問を作成した。ChatGPTは2021年9月までの情報に基づくものであるため、ChatGPTの出した回答は、2021年の全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)ガイドラインと照合して、「治療法はいくつ提示されたか」などの5つの基準で評価し、4人のがん専門医のうちの3人の評価が一致した場合を、ガイドラインとChatGPTによる評価が一致したと見なした。 その結果、104個の質問に対するスコア(520点満点)のうちの61.9%(322点)で、3人のがん専門医の評価が一致していたが、残りは一致していないことが示された。Bitterman氏は、「いくつかの推奨内容は、明らかに間違っていた。例えば、不治の病であるにもかかわらず、根治的治療を勧めているようなケースが認められた」と述べている。また、標準治療の中には放射線療法や化学療法も含まれるのに、ChatGPTは手術だけを勧めているなど、より微妙な回答例も確認された。Bitterman氏は、「正しい情報の中に誤った情報が混じっている確率が高いため、特に専門家でも誤りを見つけるのは非常に難しかった」と述べている。 2件目の研究は、米ニューヨーク州立ダウンステートヘルスサイエンス大学のAbdo Kabarriti氏らが実施したもので、ChatGPT、Perplexity、Chatsonic、Bing(Microsoft Bing)の精度について評価が行われた。これらのAIチャットボットに、皮膚がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、大腸がんに関して最も頻繁に検索エンジンにかけられている質問を尋ねた。回答内容は、検証された評価ツールであるDISCERNを用い、消費者向けの健康情報の質を1(低い)〜5(高い)で評価した。また、Patient Education Materials Assessment Tool(PEMAT)を使用して、情報の理解可能性と実行可能性(0〜100%、高いほど理解のしやすさと実施できる可能性が高い)の評価を行った。 その結果、4つのチャットボットが生成した100個の回答の質は「良い」と評価され〔DISCERNスコア中央値5(範囲2〜5)点〕、誤情報は含まれていないことが確認された。理解可能性は66.7%と中程度であったが、実行可能性は20.0%と低かった。また、どの回答も、「患者は、医師に相談することなく、提供されたデータに基づいて医療上の決定を下すべきではない」という包括的な警告を伴っていた。 Kabarriti氏は、「われわれが最も心配していた誤情報がほぼ含まれていなかった点は心強い。しかし、AIチャットボットが提供した情報は、正確ではあったが、一般の人が読んで理解できる内容ではなかった」と話している。同氏は、AIチャットボットは大学生の読解レベルの情報を提供するのに対して、平均的な消費者の読解レベルは小学6年生程度だと説明する。 Kabarriti氏はさらに、AIチャットボットが多くのがん患者をいら立たせ得る別の要因は、がんの症状に対して何をすべきかを教えてくれない点だと指摘する。「AIはただ、『医師に相談するように』と言うだけだ。おそらく責任問題があるのだろうが、AIが医師に代わって患者と対話する役目を担うことはできないという点は重要だ」と話す。 この研究論文の付随論評を執筆した米カリフォルニア大学ヘルスシステムのAtul Butte氏は、両研究が提起した懸念にもかかわらず、AIが患者や医療界全体にとって「大きなプラスになる」と見ている。同氏は、「AIチャットボットが提供する情報は、時間の経過とともに、より正確で利用しやすいものになることは間違いない」との見方を示し、今後、AIチャットボットは、医療情報やケアの提供において、これまで以上に重要な役割を果たすようになり、多くの患者にとって、その恩恵は目に見えるものになると予測している。

2009.

HR+乳がんで免疫チェックポイント阻害薬が期待できる可能性?/昭和大ほか

 HR+/HER2-の転移を有する乳がん患者を対象に、CDK4/6阻害薬アベマシクリブが免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブの効果を増強するメカニズムを調べた医師主導治験の結果、血清サイトカイン解析でTNF関連因子やIL-11の増加、末梢血単核細胞解析で制御性T細胞の低下、肝組織でCD8+リンパ球の浸潤が認められ、CDK4/6阻害薬が免疫チェックポイント阻害薬の免疫活性化と相乗的に働くことを、昭和大学の鶴谷 純司氏や吉村 清氏らの研究グループが明らかにした。Journal for ImmunoTherapy of Cancer誌2023年9月13日号掲載の報告。 HR+の乳がんでは免疫チェックポイント阻害薬の有効性は乏しいと考えられているが、動物実験ではCDK4/6阻害薬が抗PD-1/PD-L1抗体の効果を相乗的に増加させたことが報告されている。そこで研究グループは、CDK4/6阻害薬で免疫チェックポイント阻害薬の作用を増強することができれば、これまで効果が乏しいとされてきた患者でも有用になり得ると考え、非無作為化多施設共同第II相NEWFLAME試験を行った。 HR+/HER2-の転移乳がん患者17例を対象に、1次治療または2次治療として、ニボルマブ240mg(2週間ごと)+アベマシクリブ150mg(1日2回)+フルベストラントまたはレトロゾールを投与し、有効性と安全性を評価した。主要評価項目は奏効率(ORR)で、副次的評価項目は安全性、無増悪生存期間、全生存期間であった。 主な結果は以下のとおり。・安全性の懸念による試験早期終了までの2019年6月~2020年7月に17例が登録された(フルベストラント群12例[1例除外]、レトロゾール群5例)。・ORRはフルベストラント群で54.5%(6/11例)、レトロゾール群で40.0%(2/5例)であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は、フルベストラント群で11例(92%)、レトロゾール群で5例(100%)に発現した。最も一般的なGrade3以上のTRAEは好中球減少症(7例[58.3%]、3例[60.0%])で、次いでALT値上昇(5例[41.6%]、2例[40.0%])であった。レトロゾール群では間質性肺疾患による治療関連死が1例発生した。肝臓に関連したGrade3以上の有害事象は7例(58.3%)、3例(60.0%)に発現した。・血清サイトカイン解析でリンパ球を活性化するTNF関連因子やIL-11の増加、末梢血単核細胞解析で免疫を制御する制御性T細胞の低下、さらに肝障害を起こした肝組織でCD8+リンパ球の浸潤が認められ、CDK4/6阻害薬が免疫チェックポイント阻害薬の免疫活性化と相乗的に働くことが確認された。 これらの結果より、研究グループは「ニボルマブとアベマシクリブの併用療法は有効であったが、重篤で長引く免疫関連の有害事象が認められた」としたうえで、プレスリリースで「免疫チェックポイント阻害薬の効果を上げる併用薬は重要。免疫活性化のメカニズム解明により、新たな治療法の開発や副作用の低減が期待される」とコメントした。

2010.

精神的苦痛の大きい白斑患者の特徴

 米国・Incyte CorporationのKristen Bibeau氏らが17ヵ国の白斑患者を対象に、白斑とQOL、メンタルヘルスとの関連性を調べる定性的研究を行った。その結果、世界的に白斑患者は、感情的幸福感(emotional well-being)、日常生活、心理社会的健康に大きな影響を受けていることが示された。その負荷は体表面積(BSA)5%超の病変を有する患者、肌の色が濃い患者、顔や手に病変がある患者で最も大きかった。また、本研究から、患者が振る舞いを変えたこと、明らかな不満を表出していたこと、うつ病と一致する症状を有していたことが示唆され、著者らは、これらが過小診断されている可能性があるとしている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年8月30日号掲載の報告。 2021年5月6日~6月21日の期間において、17ヵ国のオンラインパネルから白斑患者を募集した住民ベースの定性的研究「Vitiligo and Life Impact Among International Communities(VALIANT)試験」が実施された。 白斑の診断を受けた18歳以上の成人5,859例のうち、3,919例(66.9%)が調査を完了し、3,541例(60.4%)が解析に組み入れられた。対象患者は、Vitiligo Impact Patient scale(VIPs)を用いて、QOLやメンタルヘルスなどの感情的幸福感について質問を受けた。また、Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)を用いてうつ症状が評価された。なお、本試験で用いられたVIPsスコアの範囲は0~60で、スコアが高いほど心理社会的負担が大きいことを示した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者3,541例の年齢中央値は38歳(範囲:18~95)、男性は1,933例(54.6%)、BSA 5%超の病変を有する患者は1,602例(45.2%)、FitzpatrickスキンタイプIV~VI(肌の色が濃い)は1,445例(40.8%)であった。・VIPsスコアの合計点(平均値±標準偏差[SD])は、全体では27.3±15.6点であり、インドの患者が40.2±14.1点と最も高スコアであった(すなわち最も負荷が大きかった)。・VIPsスコアに基づくQOL負荷は、BSA 5%超の病変を有する患者(平均32.6点[SD 14.2])、肌の色が濃い患者(31.2点[15.6])、病変が顔にある患者(30.0点[14.9])または手にある患者(29.2点[15.2])で大きかった。・白斑が日々の生活に大きな影響を及ぼしていると報告したのは、少なくとも全体の40%を占めた(衣服の選択に影響がある:55.2%[1,956/3,541例]など)。・白斑をメイクや衣服でよく隠すと報告した割合は59.4%であった。・精神科疾患の診断を受けていた割合は58.7%であった(不安症[28.8%]、うつ病[24.5%]など)。・PHQ-9に基づく中等度~重度のうつ症状は、55.0%に認められた。インドの患者(89.4%[271/303例])、BSA 5%超の病変を有する患者(72.0%[1,154/1,602例])、肌の色が濃い患者(68.3%[987/1,445例])、顔や手に病変がある患者(59.3%[1,607/2,712例])で高率に認められた。

2011.

強迫症併発双極性障害に対する補助療法、アリピプラゾールvs.リスペリドン

 強迫症は、慢性的な強迫症状の増減を伴う精神疾患であり、双極性障害に併発した強迫症の治療については、依然として困難である。イラン・Babol University of Medical SciencesのFaezeh Khorshidian氏らは、強迫症を併発する双極性障害患者の躁、うつ、強迫症の治療において、バルプロ酸ナトリウムの補助療法としてのリスペリドンおよびアリピプラゾールの安全性および有効性を比較するため、本研究を実施した。その結果、強迫症併発双極性障害に対するアリピプラゾールまたはリスペリドン補助療法は、どちらも効果的であり、生命を脅かす重篤な副作用は認められず、とくにアリピプラゾールは、リスペリドンよりも効果的な薬剤である可能性が示唆された。Health Science Reports誌2023年8月27日号の報告。 強迫症併発双極性障害患者64例を対象に、第III相二重盲検ランダム化比較試験を実施した。精神科医による診断面接は、精神疾患の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)の基準に基づき行われた。強迫症、躁病、うつ病の重症度の評価には、Yale-Brown強迫尺度(Y-BOCS)、ヤング躁病評価尺度(YMRS)、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)をそれぞれ用いた。患者は、2つの並行群にランダムに割り付けられた。両群ともにバルプロ酸ナトリウムを投与し、補助療法としてアリピプラゾールまたはリスペリドンのいずれかを投与した。データ分析には、SPSSソフトウェア(ver.22)、χ2検定、t検定、反復測定による分散分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・両群(投与量、投与期間)ともに、各評価尺度の平均スコアの有意な低下が確認された。・両群間の比較では、HAM-D、YMRSスコアに有意な差は認められなかったが、Y-BOCS平均スコアは、アリピプラゾール群で有意に低かった(p<0.001)。・副作用に関しては、リスペリドン群で有意な体重増加(p<0.001)、アリピプラゾール群で有意な睡眠障害(p<0.05)が認められた。

2012.

通院時間増で遺伝子異常にマッチした治験参加率が低下/国立がん研究センター

 病院までの移動時間によって、包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)検査後の遺伝子異常にマッチした治験参加率に差が出るという。国立がん研究センター中央病院 先端医療科の上原 悠治氏、小山 隆文氏らによる研究結果が、JAMA Network Open誌2023年9月15日号に掲載された。 研究者らは、病院(国立がん研究センター中央病院)までの移動時間または距離が、CGP検査後の遺伝子異常にマッチした治験参加率と相関するかを評価する、後ろ向きコホート研究を行った。対象となったのは、CGP検査後に遺伝子異常にマッチした治験に参加するため国立がん研究センター中央病院に日本全国の病院から紹介された進行性または転移性固形腫瘍患者。患者登録は2020年6月~2022年6月、データ解析は2022年6月~10月に行われた。主要アウトカムは遺伝子異常にマッチした治験への登録、副次アウトカムは全がん治験(遺伝子異常にマッチした治験と遺伝子異常にマッチしていない治験の合計)への登録とした。 主な結果は以下のとおり。・患者1,127例(平均年齢62[範囲:16~85]歳、女性584[52%]例、全員日本在住)のうち、127例(11%)が遺伝子異常にマッチした治験、241例(21%)が全がん治験に参加した。全体集団における移動距離の中央値は38(四分位範囲[IQR]:21~107)km、移動時間の中央値は55(IQR:35~110)分であった。・多変量ロジスティック回帰分析後、移動距離(100km以上 vs.100km未満)は遺伝子異常にマッチした治験の登録とは関連していなかった(26/310例[8%] vs.101/807例[12%]、オッズ比[OR]:0.64、95%信頼区間[CI]:0.40~1.02)。一方、移動時間が120分以上の患者は120分未満より遺伝子異常にマッチした治験の参加率が有意に低かった(19/276例[7%] vs.108/851例[13%]、OR:0.51、95%CI:0.29~0.84) 。・移動時間が40分未満(38/283例[13%])、40~120分(70/568例[12%])、120分以上(19/276例[7%])と長くなるにつれ、遺伝子異常にマッチした治験の参加率は低下した。・全がん治験への参加率と、移動距離・時間の間には有意な相関関係はみられなかった。 筆頭著者の上原氏は「移動時間が増加すると遺伝子異常にマッチした治験の参加率が減少する可能性が示された。近年、世界的に治験に関する地域格差や多様性の確保が注目されている。本試験は、日本のがんゲノム医療とプレシジョン・オンコロジーにおける地域格差をデータとして示し、デジタルプラットフォームなどを用いて自宅や近隣の医療機関で行う分散型治験(Decentralized Clinical Trials[DCT])を進めるうえでのエビデンスとして重要になるものだ」と述べた。

2013.

脂肪が効率よく燃焼される運動強度は個人差が大きい

 減量や疾患予防などの目的で脂肪を効率的に燃焼させる運動をしようとするなら、個別化されたアプローチに基づいて運動強度を設定する必要があるかもしれない。運動強度と脂肪燃焼との関係は個人差が大きいために、心拍数などから推計した“脂肪燃焼ゾーン”は、あまりあてにならない可能性があるという。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のHannah Kittrell氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases」に7月14日掲載された。 脂肪組織以外への脂肪蓄積(異所性脂肪)は2型糖尿病の発症に関係している。代謝を正常に戻すためには異所性脂肪を減らす必要があり、それには運動が有効であって、特に脂肪の酸化速度が最大化する(maximal rate of lipid oxidation;MLO)強度での運動が最適と考えられる。Kittrell氏も、「減量を試みる人の多くがMLOに興味を持つようだ」と述べ、「大半の市販のエクササイズマシンには、年齢と性別、心拍数からMLOを推計してそれを“脂肪燃焼ゾーン”として表示するオプション設定がある」と解説する。ただし同氏によると、そのような“脂肪燃焼ゾーン”は精度検証が行われておらず、「多くの人が、その人のMLOとは異なる強度でエクササイズを行っている可能性がある」とのことだ。 Kittrell氏らの研究は、26人(女性11人)を対象として、運動強度を徐々に高めていきながら酸素摂取量と二酸化炭素排出量を測定するという運動負荷試験によって、正確なMLOを計測。その結果と、心拍数などから推計されるMLOとの比較を行った。解析の結果、両者はあまり一致しておらず、心拍数については平均23拍/分の乖離が認められた。 Kittrell氏は、「近年、MLOに該当する運動強度を『FATmax』と呼び、それを心拍数などから推計することがあるが、われわれの研究は、そのような推計に基づく心拍数は、MLOを引き出すための運動処方の目安としては不適切であることを示している。MLOは個人差が大きいため、正確な評価には個々に運動負荷試験を行い、脂肪の酸化速度を測定することが望ましい」と話している。 また、論文の上席著者であり同大学教授および米チャールズ・ブロンフマン個別化医療研究所所長であるGirish Nadkarni氏は、「本研究を契機に、今よりも多くの人々およびトレーナーが運動負荷試験を用いて、脂肪燃焼に最適な個別化された運動処方が行われるようになることを期待している。また、この研究は、データ駆動型アプローチ(データ収集とその分析に基づく意思決定)が、正確な運動処方に果たす役割を強調するものでもある」と述べている。 なお、研究グループでは現在、このような手法で個別化した運動処方が減量や異所性脂肪減少という点でより優れた効果を発揮し得るか、および、肥満や2型糖尿病、心臓病などに関連する検査指標に対して、従来の手法による運動介入よりも有意な改善をもたらすかを調べる研究を予定している。

2014.

機械的血栓回収療法後の脳卒中急性期の血圧管理目標レベル(解説:冨山博史氏)

背景: 現在、脳卒中急性期の治療法として血栓溶解療法に加え機械的血栓回収療法が施行されている。そして、日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021(2023改訂版)』では、脳卒中急性期の血圧治療に関して以下を記載している。“機械的血栓回収療法を施行する場合は、血栓回収前の降圧は必ずしも必要ないが、血栓回収後には速やかな降圧を行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)。一方、血栓回収中および回収後の過度な血圧低下は、避けるように勧める(推奨度E エビデンスレベル低)” 前半の“血栓回収後には速やかな降圧を行うことは妥当”とする根拠はWaltimo T.らの報告で血栓溶解療法後での血圧高値は脳出血のリスクが高まるとの報告などを参考にしている1)。一方、脳は脳血流自動調節能を有するが、脳血管障害急性期は、この調節能が消失し、わずかな血圧の下降によって脳血流も低下することが知られている。すなわち、過度の降圧は脳障害を増悪させる可能性がある。 そして、ENCHANTED2/MT試験は、頭蓋内大血管閉塞による急性虚血性脳卒中に対して機械的血栓回収療法で再灌流に成功した症例が対象であり、非積極的降圧治療群(収縮期血圧140~180mmHg:404例)と比較して、積極的降圧治療群(収縮期血圧120mmHg:406例)では早期の神経学的悪化および90日後の主要機能障害が多かったことを報告した2)。すなわち、過度の降圧の有害性を示唆する結果であった。故に、“血栓回収中および回収後の過度な血圧低下は、避けるように勧める”と記載した。しかし、この試験以外、機械的血栓回収療法施行後の過度の降圧の有害性の検証はなく(故にエビデンスレベル低と記載された)、さらなる根拠が必要であった。知見: 今回コメントするOPTIMAL-BP試験は、こうした必要性に合致する研究である。同試験は、多施設共同無作為化非盲検評価者盲検比較試験で、韓国の19の脳卒中センターで実施された。機械的血栓回収治療を受けた大血管閉塞急性虚血性脳卒中患者306例を対象とした。介入は登録後24時間、積極的血圧管理(収縮期血圧目標140mmHg未満、n=155)または従来の血圧管理(収縮期血圧目標140~180mmHg、n=150)を受ける群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは3ヵ月後の機能的自立(modified Rankin Scaleスコア0~2)であった。そして、血栓回収療法で再灌流に成功した患者において、24時間の積極的な血圧管理は、従来の血圧管理と比較して3ヵ月後の機能的自立を低下させた。なお、本試験は、安全性に関する懸念を指摘したデータ・安全性モニタリング委員会の勧告に基づき早期に中止された。まとめ: 今回の結果は、脳卒中急性期の適切な血圧コントロールの重要性を確認する結果である。さらに、脳卒中急性期の脳血流自動能破綻の有害性を支持し、積極的な再灌流療法でも急性期には自動能が改善しないことを示唆している。

2015.

英語で「付き添い人」は?【1分★医療英語】第99回

第99回 英語で「付き添い人」は?I require a chaperon for the physical examination. Could you please accompany me to the examination room?(身体検査の際に付き添い人が必要です。診察室に同席してもらえませんか?)Sure!(もちろんです!)《例文1》医師We will obtain consent for the surgery, and will have a chaperon present. Is that okay?(手術の同意を取るので付き添い人に同席してもらいます。よろしいですか?)患者OK.(わかりました)《解説》今回は英単語の紹介です。“chaperon”(シャペロン)は、英語で「付き添い人」という意味を持つ単語です。医療現場において、患者と医師の間で行われる診察や手続きの際に第三者として同席する役割を指します。これによって医療行為の透明性を保ち、誤解や不適切な行為を防ぐ目的があります。とくに“chaperon”を必要とする場面としては、医師が異性の患者の身体診察をする場合や、手術や延命処置などの重要な意思決定の際に自分や相手を守るための証人として第三者の目を必要とする場合があります。日本の医療現場でも、身体診察の際に看護師などに同席をお願いすることがありますよね。多くの病院では“chaperon”という特定の職業があるわけではなく、単に「付き添い人」という意味合いなので、私もよく看護師やほかの医療スタッフに“Could you stay here as a chaperon?”(chaperonとして同席してくれませんか?)と依頼しています。講師紹介

2016.

対側乳がん発症後の死亡リスク上昇、サブタイプで違い

 対側乳がん発症後の生存に関する報告は一貫していない。今回、韓国・Dongguk University Ilsan HospitalのHakyoung Kim氏らが、Stage0~III期の原発性乳がん患者における対側乳がん発症と生存の関連を調査した。その結果、対側乳がん発症と全生存期間との関連はみられなかったが、乳がん診断後早期の発症、HR陽性HER2陰性乳がん患者での発症は生存期間との関連が示された。JAMA Network Open誌2023年9月5日号に掲載。 本コホート研究は、韓国・Asan Medical Centerにおいて、1999~2013年にStage0~IIIの転移のない片側性乳がんと診断され、2018年まで追跡された患者を対象とした。追跡期間中央値は107(四分位範囲:75~143)ヵ月であった。追跡期間中の対側乳がん発症の有無により対側乳がん群となし群に分け、それぞれの生存率を、研究集団全体および対側乳がん発症までの期間と原発乳がんのサブタイプによるサブグループで解析し、時間依存性Cox比例ハザードモデルを用いて比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象となった乳がん患者1万6,251例は、すべてアジア人(主に韓国人)で平均年齢は48.61(標準偏差:10.06)歳、418例で対側乳がんを発症した。・全生存率は、対側乳がん群となし群で有意差はなかった(ハザード比[HR]:1.166、95%信頼区間[CI]:0.820~1.657)。・原発乳がんに対する手術後1.5年以内に対側乳がんを発症した患者では、試験期間中の全死亡リスクが高く(HR:2.014、95%CI:1.044~3.886)、手術後1.5年以降に発症した患者では生存に有意差は認められなかった。・HR陽性HER2陰性乳がん患者では、対側乳がん群で全死亡リスクが高かった(HR:1.882、95%CI:1.143~3.098)。 著者らは「これらの結果は、予防的対側乳房切除術の選択肢を検討している患者のカウンセリングに貴重な情報を提供する可能性がある」としている。

2017.

「爪白癬は外用薬で治す」は誤解?

 昨年6月にイムノクロマト法を用いた白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」が発売されたことを契機に、以前に比べ、内科医でも爪白癬の診断に対応できるようになったのをご存じだろうか。今回、常深 祐一郎氏(埼玉医科大学医学部皮膚科 教授)が『本邦初の白癬菌抗原検査キットによる爪水虫診断と正しい治療法~爪水虫診療は新たなステージへ~』と題し、今年4月に発表された爪白癬の治療実態調査の結果、新たな抗原キットなどについて説明した(佐藤製薬・マルホ共催メディアセミナー)。爪白癬は外用薬で治せる、という誤解 日本人の10人に1人は爪白癬に罹患しており、その多くが高齢者である。高齢者では足の爪白癬が転倒リスク1)やロコモティブシンドローム、フレイルの原因になるほか、糖尿病などの合併症を有する患者においては白癬病変から細菌感染症を発症し、蜂窩織炎や時には壊死性筋膜炎を発症するなど命を脅かす存在になる場合もあるため、完全治癒=臨床的治癒(爪甲混濁部の消失)+真菌学的治癒(直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性)を目指す必要がある。 爪白癬の治療は診断さえついてしまえば、外用薬を処方して継続を促せば…と思われることが多いのだが、その安易な判断が「治療の長期化につながり、結局治癒に至らない」と常深氏は指摘した。外用薬は白癬菌が爪の表面に存在する表在性白色爪真菌症(SWO)には効果が高いが、その他の病型では経口抗真菌薬が優れているという。また、「遠位側縁爪甲下爪真菌症(DLSO)の軽症であれば外用薬でも治せると考えられているが、治癒まで時間を要し、その間に次に述べるように脱落が多くなってしまうことから、軽症の間に経口薬で治癒させることが望ましい。もちろんDLSOの中等症以上では経口薬が必要であるし、近位爪甲下爪真菌症(PSO)、全異栄養性爪真菌症(TDO)では経口薬による治療が推奨される」と、病態ごとの剤型の使い分けが重要であることに触れた。皮膚科専門医でも、経口薬を避ける傾向に そうはいっても、とくに高齢者への経口薬処方は、ポリファーマシーの観点や肝機能への影響から敬遠される傾向にある。これに対し、同氏は治療継続率のデータを引用2)し、「経口薬のほうが外用薬より治療継続率が高く、脱落しにくいことが明らかになっている。外用薬の場合は投与開始から1ヵ月時点ですでに4割強が脱落してしまう。一方で、経口薬は投与開始3ヵ月時点でも6割の人が継続している。爪白癬治療に年齢は関係ない」と説明した。 上述のように、治癒率や患者の治療継続率からも爪白癬への経口薬処方が有効であることは明確だが、診断に自信がないと、外用薬で様子を見てしまうということが多そうだ。また、皮膚科専門医は顕微鏡を用いたKOH直接鏡検法で診断することができるが、他科の医師においては視診で判断していることが多いのが実情である。この点について、「皮膚科医であっても視診のみで診断を行うと30%程度は誤った判断をするため3)、やはり検査は必要。爪甲鉤弯症などが爪白癬と誤診されることもある4)」と述べたうえで、「経口薬は外用薬と比較して検査で確定診断がつかないと処方しづらく、“本当に薬を処方していいのか”という不安が処方医に生じる」と医療者側の問題点を挙げた。<爪白癬と誤診されやすい疾患>・掌蹠膿疱症の爪病変・緑色爪(green nail)・黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・爪甲鉤弯症・厚硬爪甲 昨年に上市された検査法『イムノクロマト法』は迅速および簡便で感度が高く、皮膚科専門医が行うKOH直接鏡検法や真菌培養法に比べ、技術や検査時間も不問であることから視診による誤診も防ぐことが可能である。同氏は「鏡検できる医師がいない場合、顕微鏡がない施設や往診先での検査に適しており、また、鏡検での見落としを防ぐために検査を併用するのも有用」と述べ、皮膚科専門医ならびに一般内科医に向けて、「精度の高い検査を患者に提供して確定診断が得られた後に適切な薬剤を処方する、という正しい診断フローに沿った治療にもつながる」とコメントした。 最後に同氏はクリニカル・イナーシャ(clinical inertia)5)という言葉に触れ、「これは直訳すると“臨床的な惰性or慣性”。患者が治療目標に達していないにも関わらず治療が適切に強化されていない状態を意味する」と定義を説明し、「患者側がクリニカル・イナーシャに陥る要因は、治療効果の正しい知識不足や経口薬による副作用への懸念、飲み合わせへの懸念などが漠然とある。一方、医師側の要因には完治が必要であるとの認識不足、治癒への熱意や責任感不足などがあり、両者のクリニカル・イナーシャが相乗的に負の方向に働き、外用薬が漫然と使用されてしまう。しかし、爪白癬の治療意義、新たな検査法や経口薬の有用性を理解していけば解決できる」と締めくくった。

2018.

うつ病の既往歴がある人はネガティブ情報にとらわれがち

 寛解しても再発することが多い大うつ病性障害(以下、うつ病)の既往歴を持つ人では、うつ病の既往歴のない人に比べて、ネガティブな情報を処理する時間が長い一方で、ポジティブな情報を処理する時間が短い傾向があり、それがうつ病の再発リスクにつながっている可能性のあることが示唆された。米メリーランド大学ボルチモアカウンティ校心理学分野のLira Yoon氏らによるこの研究結果は、「Journal of Psychopathology and Clinical Science」に8月21日掲載された。 Yoon氏は、「われわれは、うつ病患者がネガティブな情報をどう処理するかだけでなく、ポジティブな情報をどう処理するかも検討すべきではないかということに気が付いた。ネガティブな感情や気分の落ち込みの持続との関わりにおいては、もしかするとポジティブな情報の方が重要なのかもしれない」と述べている。 今回の研究でYoon氏らは、44件の研究を対象にメタアナリシスを実施し、うつ病の既往歴のある人がネガティブ情報とポジティブ情報の処理にどれだけの時間を費やすのかを、健常者との比較で検討した。これらの研究では、例えば、幸福や悲嘆、または無感情の表情を浮かべた人の顔や、ポジティブ、ネガティブ、または中立的な単語を刺激として参加者に提示し、それに対する応答時間が調査されていた。解析対象者の総計は、うつ病の既往歴のある2,081人と、既往歴のない健常者2,285人であった。 その結果、健常者はうつ病の既往歴がある人よりも、提示された刺激に対して、その内容がポジティブかネガティブか、あるいは中立的かに関わらず、より迅速に反応する傾向のあることが明らかになった。これに対して、うつ病の既往歴がある人は健常者に比べて、ポジティブな刺激よりもネガティブな刺激の処理に費やす時間の方が長いことが確認された。さらに、両群間で、ネガティブな刺激と中立的な刺激、およびポジティブな刺激と中立的な刺激の処理に費やされる時間に有意な差は認められなかった。 Yoon氏は、「ストレスになることが生じ、それに動揺するのは人間の自然な反応だ。しかし、何か作業をしている間はその問題を脇に置いてその作業に集中できる人がいる一方で、その問題が気に掛かって作業に集中できなくなる人もいる。われわれの研究が示しているのは、うつ病の既往歴がある人は、たとえうつ病が寛解していても、現在取り組んでいることとは無関係なネガティブ情報から距離を置くことが、無関係なポジティブ情報から距離を置くよりも困難だということだ」と述べる。そして、「うつ病の既往がある人では、そのようなネガティブ思考に支配されて、今やるべきことができなくなっている可能性がある。その状態がさらにネガティブな感情を増幅させ、再びストレスのかかるような出来事が生じると、うつ病を再発させてしまうのかもしれない」との見方を示す。 うつ病とは、2週間以上続く抑うつと日常生活における興味や喜びの喪失と定義される。米国国立精神衛生研究所によると、2021年には、米国人口の約8%に当たる約2100万人の成人が、この定義を満たすうつ病を1回以上発症したという。 では、うつ病の再発はどうすれば防げるのだろうか。うつ病の最も効果的な治療法は、認知行動療法(CBT)に代表される心理療法と薬物療法である。米ノースウェル・ヘルスの精神科医であるGeorge Alvarado氏によると、主なCBTの一つは、認知再構成法だという。これは、否定的な思考パターンや信念を特定し、それをより健全で現実的なものに変容させることを目指すものだ。同氏はさらに、抑うつの改善には、仕事、人間関係、ライフスタイルを変えることも有益だと話し、質の良い睡眠、運動、健康的な食事の重要性を強調している。 Yoon氏は、「CBTのような既存の治療法に加えて、うつ病の既往歴のある人が、無関係な情報から距離を置くのを助けるトレーニングプログラムを開発することも可能かもしれない」と話す。同氏は、「人によって反応する治療アプローチは異なるため、ツールの選択肢が増えるのは良いことだ」と述べる。そして、「まだ道半ばだが、CBTやマインドフルネスのような既存のツールは、無関係な情報、特にネガティブな情報を自分の中で切り離すのに役立つ可能性がある」との考えを示している。

2019.

ブタの体内でヒトの発生初期の腎臓を作ることに成功

 さまざまな遺伝子工学の技術を用いて、ブタの体内で部分的にヒトの細胞を持つ発生初期の腎臓を作ることに初めて成功したと、中国の研究グループが「Cell Stem Cell」9月7日号に発表した。これは、臓器不足の問題を解決し、多くの人の命を救おうとするプロセスの第一歩となる研究成果といえよう。論文の上席著者で、中国科学院広州生物医薬・健康研究院のLiangxue Lai氏は、「ブタの体内でヒトの臓器を生成することの原理を実証したこの研究により、われわれの目の前には素晴らしい可能性が広がった」と話す。 これまでの研究でも、ブタの体内で血液や筋肉などのヒトの組織を生成するために同様の手法が用いられていたが、部分的にヒトの細胞で構成された臓器を実際に成長させることができたのは、今回の研究が初めてだ。研究の背景情報によると、研究グループが今回腎臓に着目した理由は、腎臓が最初に発生する臓器の一つであることに加え、人間の臓器移植で最も多いのが腎臓移植であるからだった。 研究グループはまず、CRISPR-Cas9を用いた遺伝子操作によって、腎臓の発生に関与する2種類の遺伝子をノックアウトしたブタの胚を作成。これにより、ヒトの人工多能性幹細胞(iPSC)導入後に、ブタの細胞と競合しにくい状態でiPSCが発育できる環境を作り出した。次に、ヒトのiPSCを遺伝子操作によりブタの胚に組み込みやすくし、また自己崩壊しにくくなるようにした上で、特別な培地で培養し、初期のヒトの胚に似た「ナイーブ細胞」に変化させた。この細胞をブタの胚に組み込んでキメラ胚を作成し、ヒトとブタの両方の細胞に最適な条件下で発育させ、代理母となる雌ブタに移植した。計1,820個の胚が13匹の代理母に移植された。 移植から25日後と28日後にブタの妊娠を中絶し、発達段階から見て構造的に正常と判断された胚を5つ(25日後から2つ、28日後から3つ)摘出した。これらの発生初期段階の腎臓を調べたところ、キメラ胚全体においてヒトの細胞が占める割合は低かったものの、中腎においてはヒトの細胞が50〜65%を占めていることが確認された。Lai氏は、「もし在胎期間がもっと長ければ、ヒトの細胞の割合はさらに増える可能性がある。ただし、他の技術的な障壁が存在する可能性もある。われわれはその問題に取り組んでいるところだ」と説明している。 論文の責任著者で同研究院のZhen Dai氏は、「ブタの胚内にヒトのiPSCが機能するための特定の環境(ニッチ)を作ると、ヒトの細胞が自然にそのスペースに入り込むことが分かった。脳や脊髄にはごくわずかなヒトの神経細胞が見られたが、生殖隆起にはヒトの細胞は全く確認されなかった。このことは、ヒトiPSCは生殖細胞には分化しなかったことを示している」と説明している。 この研究には関与していない、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン移植研究所の免疫遺伝学研究室長のMassimo Mangiola氏は、これらを「primordial organs(初期段階の臓器)」と呼び、「彼らは、これまで成し遂げられていない、ヒトiPSCをprimordial organsへと成長させることが可能であることを明確に示した。実際にこの臓器が完全な状態のヒトの腎臓へと成長するかどうかを判断するには時期尚早だが、その目標を達成するために必要な最初のステップとなった」と述べている。 次のステップは、腎臓をさらに発育させ、その過程でヒトの細胞がブタの細胞を凌駕し続けるかどうかを確認することだ。また研究グループは、心臓や膵臓などの腎臓以外のヒトの臓器をブタの体内で生成することにも取り組んでいる。長期的な目標は、臓器移植に使用できるヒトの臓器をブタの体内で作ることだが、その取り組みはより複雑で、目的達成までには多くの年月がかかることを研究グループも認識している。

2020.

適切な運動でがん患者の死亡リスク25%減、がん種別にみると?/JCO

 がんと運動の関係について、さまざまな研究がなされているが、大規模な集団において、がん種横断的に長期間観察した研究結果は報告されていない。そこで、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのJessica A. Lavery氏らの研究グループは、がん種横断的に1万1,480例のがん患者を対象として、がんと診断された後の運動習慣と死亡リスクの関係を調べた。その結果、適切な運動を行っていた患者は非運動患者と比べて、全生存期間中央値が5年延長し、全死亡リスクが25%低下した。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年8月31日号に掲載された。 前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がんのスクリーニング研究(Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian [PLCO] Cancer Screening Trial)に参加したがん患者1万1,480例(11がん種)を対象とした。対象患者のがんと診断された後の運動の頻度と死亡の関係を検討した。運動について、米国のガイドラインの基準(中強度以上の運動を週4日以上×平均30分以上および/または高強度の運動を週2回以上×平均20分以上)を満たす患者(適切な運動群)と基準未満の患者(非運動群)の2群に分類し、比較した。主要評価項目は全死亡、副次評価項目はがん死亡、非がん死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値16年時点において、死亡が認められたのは4,665例であった。内訳は、がん死亡が1,940例、非がん死亡が2,725例であった。・全生存期間中央値は、適切な運動群が19年であったのに対し、非運動群は14年であった。・多変量解析の結果、適切な運動群は非運動群と比べて、全死亡リスクが有意に25%低下した(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.70~0.80)。・また、適切な運動群は非運動群と比べて、がん死亡リスク(HR:0.79、95%CI:0.72~0.88)と非がん死亡リスク(HR:0.72、95%CI:0.66~0.78)が有意に低下した。・がん種別のサブグループ解析において、全死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、以下のとおりであった。 -子宮体がん(HR:0.41、95%CI:0.24~0.72) -腎がん(同:0.50、0.31~0.81) -頭頸部がん(同:0.62、0.40~0.96) -血液がん(同:0.72、0.59~0.89) -乳がん(同:0.76、0.63~0.91) -前立腺がん(同:0.78、0.70~0.86)・一方、適切な運動群でがん死亡リスクの有意な低下が認められたがん種は、腎がん(HR:0.34、95%CI:0.15~0.75)、頭頸部がん(HR:0.49、95%CI:0.25~0.96)のみであった。

検索結果 合計:10293件 表示位置:2001 - 2020