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症例解説整形外科医がオピオイドを使用する場合においては、やはり最もオピオイドが効果的であることが知られている「侵害受容性疼痛」に対して治療を行うことが優先される。「侵害受容性疼痛」にはNSAIDsが効果を奏し、その効果が十分ではないときにオピオイドを使用することで治療効果が最大となる。しかし、難治性疼痛ではこのように単純な「侵害受容性疼痛」は少なく、「神経障害性疼痛」「中枢機能障害性疼痛(機能性疼痛症候群)」や「心因性疼痛」が存在することが知られている。心因性疼痛にはオピオイドを使用すると依存や耽溺、乱用となることが知られている。整形外科医が心因性疼痛の存在を診断することは、多科目連携治療アプローチとして精神科医が加わらない限りは難しい。がん性疼痛ならオピオイド治療には死亡という投与終了が規定されているが、非がん性疼痛の場合は、投与終了できない事もある。そのため、その適応には乱用や依存などを十分考慮することが必要である。この症例の場合、術後の難治性疼痛ということで、痛みの原因が不明であったのにもかかわらず、オピオイド治療を開始したところに問題がある。オピオイド治療はNSAIDsが効果的であり、かつその効果が不十分である症例で、つまり侵害受容性疼痛(XPなどで容易に医師が患者の痛みの程度を理解できるもの)が適切と考えられる1)、2)(表1)。画像を拡大するまたオピオイド治療は精神疾患罹患では依存、乱用の頻度が高くなること3)が知られており、その点でも不適切と考えられる。また37歳という若年では、オピオイドの依存が発生しやすいこと、60歳以上の高齢者の方がオピオイドの鎮痛効果が高いこと4)からも、オピオイドを若年に使用する時はとくに注意が必要であり、長期投与した場合のリビドーの低下や性ホルモンの低下5)なども考慮する必要がある。痛みは患者本人にしかわからないものであり、疼痛(顕示)行動から推察するしか無い。術後難治性疼痛は、その原因を明確にする事が困難である。この症例では、不動時に必ず認められる筋萎縮や骨萎縮が無いことからも精神科疾患も含めた心因性疼痛、機能性疼痛、中枢機能性障害性疼痛の範疇と考えられ、オピオイド治療については慎重であるべきである。参考文献1)三木健司.新薬と臨床.2011;60:1212-1218.2)三木健司ほか.運動器慢性疼痛とオピオイド.In:七川 歓次 監修. 前田 晃 ほか編.リウマチ病セミナーXXIII.永井書店;2012.p.155-161. 3)Edlund MJ, et al.Pain.2007; 129: 355-362.4)Buntin-Mushock C ,et al. Anesth Analg.2005; 100:1740-1745.5)Lin TC,et al.J Anesth. 2010;24:882-887. Epub 2010 Oct 1. << 症例経過へ