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1981.

尿が黄色くなるメカニズムが明らかに

 尿中の黄色色素としてウロビリンが同定されているが、この発見から125年以上の間、ウロビリンの産生に関与する酵素は不明とされていた。しかし、米国・メリーランド大学のBrantley Hall氏らの研究グループが腸内細菌叢由来のビリルビン還元酵素(BilR)を同定し、この分子がビリルビンをウロビリノーゲンに還元し、ウロビリノーゲンが自然に分解されることで尿中の黄色色素ウロビリンが産生されることを明らかにした。また、BilRは健康成人ではほぼ全員に存在していたが、新生児・乳児や炎症性腸疾患(IBD)患者で欠損が多く認められた。本研究結果は、Nature Microbiology誌2024年1月3日号で報告された。 研究グループは、ビリルビンをウロビリノーゲンへ還元する酵素を同定し、微生物によるビリルビンの還元と健康との関係を検討することを目的として本研究を実施した。腸内細菌のスクリーニングと比較ゲノム解析により、ビリルビンを還元する候補分子を探索した。また、黄疸を発症しやすい生後1年未満の新生児・乳児(4,296例)、血清ビリルビン濃度が変化していることの多いIBD患者(1,863例)、健康成人(1,801例)を対象としてメタゲノム解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・ビリルビンをウロビリノーゲンに還元する酵素としてBilRが同定され、Firmicutes門に属する腸内細菌が多くコードしていた。・BilRが検出されない割合は、健康成人(1,801例)では0.1%であったが、生後1ヵ月未満の新生児(1,341例)は約70%(p<2.2×10-16)、クローン病患者(1,224例)および潰瘍性大腸炎患者(639例)はいずれも30%以上(いずれもp<2.2×10-16)であった。・1歳までに、ほとんどの乳児でBilRが検出された。 本研究結果について、著者らは「新生児では、ビリルビンを還元する微生物が腸内に存在しないか少ないために、新生児黄疸が発生・悪化するという仮説を支持するものであった。IBD患者では、ビリルビンを還元する微生物が存在する割合が低いことから、ビリルビン代謝の破綻と非抱合型胆汁酸の増加が組み合わさることで、ビリルビンカルシウム胆石の発生率が上昇している可能性があると考えられる」と考察している。ただし、「結論を出すにはさらなる研究が必要である」とも述べている。

1982.

コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者において、高用量フルボキサミン(100mgを1日2回投与)を12日間投与しても、プラセボと比較してCOVID-19症状期間を短縮しなかった。米国・バージニア大学のThomas G. Stewart氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV(Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines)-6試験」の結果を報告した。JAMA誌2023年12月26日号掲載の報告。発症から7日以内の軽症~中等症患者を対象に、高用量フルボキサミンvs.プラセボ ACTIV-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた分散型臨床試験である。 研究グループは、2022年8月25日~2023年1月20日に米国103施設において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染確認後10日以内で、COVID-19の症状(疲労、呼吸困難、発熱、咳、悪心、嘔吐、下痢、体の痛み、悪寒、頭痛、喉の痛み、鼻の症状、味覚・嗅覚の異常)のうち2つ以上の症状発現後7日以内の、30歳以上の外来患者を、フルボキサミン群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 フルボキサミン群では、1日目にフルボキサミン50mg錠1錠を2回投与し、その後50mg錠2錠(100mg)を1日2回12日間投与した。 主要アウトカムは持続的回復までの期間(少なくとも3日間連続して症状がないことと定義)、副次アウトカムは28日以内の死亡、入院または死亡、あるいは入院・救急外来(urgent care)/救急診療部(emergency department)受診・死亡の複合などであった。持続的回復までの期間中央値、両群とも10日 無作為化されて治験薬の投与を受けた1,208例は、年齢中央値50歳(四分位範囲[IQR]:40~60)、女性65.8%、ヒスパニック系/ラテン系45.5%、SARS-CoV-2ワクチンの2回以上接種者76.8%であった。 有効性解析対象集団のフルボキサミン群589例およびプラセボ群586例において、持続的回復までの期間の中央値は両群とも10日(IQR:10~11)であり、持続的回復までの期間に差は確認されなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信用区間[CrI]:0.89~1.09、有効性の事後確率p=0.40)。 副次アウトカムついては、死亡例の報告はなく、入院はフルボキサミン群1例およびプラセボ群2例、入院・救急外来/救急診療部受診はそれぞれ14例および21例(HR:0.69、95%CrI:0.27~1.21、有効性の事後確率p=0.86)であった。 重篤な有害事象は、6例(フルボキサミン群2例、プラセボ群4例)で7件報告された。

1983.

teplizumabの登場で1型糖尿病治療は新たなステージへ(解説:住谷哲氏)

 膵島関連自己抗体が陽性の1型糖尿病は正常耐糖能であるステージ1、耐糖能異常はあるが糖尿病を発症していないステージ2、そして糖尿病を発症してインスリン投与が必要となるステージ3に進行する1)。抗CD3抗体であるteplizumabはステージ2からステージ3への進行を抑制することから、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者への投与が2022年FDAで承認された。しかし、現実にはステージ2の1型糖尿病患者がすべて診断・管理されているわけではなく、臨床的に1型糖尿病を発症したステージ3の患者が多数を占めている。 teplizumabがステージ2と同様にステージ3の患者でも有効か否かについては、これまでに実施された複数の第I、II相臨床試験のメタ解析で、その有効性が示唆されていた2)。そこで実施されたのが第III相となる本試験PROTECT (Provention Bio’s Type 1 Diabetes Trial Evaluating C-Peptide with Teplizumab)である。 teplizumabは1コース12日間投与で26週後に2コース目が実施された。主要評価項目は、78週後に実施された食事負荷試験後のC-ペプチドAUCのベースラインからの変化量とされた。結果はプラセボ群に比較して、teplizumab投与群ではC-ペプチド値が有意に高値であった。副次評価項目であるインスリン投与量、HbA1cの変化量などには有意差を認めなかったが、主要評価項目が達成されたので本試験の結果はpositiveである。つまり、teplizumabは発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能を維持する可能性があると考えられる。 わが国の1型糖尿病の発症率は欧米に比べると低い。欧米では2015年に1型糖尿病発症の自然史(ステージング)の概念が導入されたが、わが国では、ほとんど認知されていないのではないだろうか。1型糖尿病は発症予防可能な疾患になりつつある。わが国での発症率から考えて、ステージ2からステージ3への進行を抑制する薬剤としてのteplizumabが承認されなくても大きな問題はないだろう。しかし、teplizumabが発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能保持薬として欧米で承認されれば、わが国でも早急に承認されることが期待される。

1984.

知らなかった、代理寄付!【Dr. 中島の 新・徒然草】(511)

五百十一の段 知らなかった、代理寄付!2024年は1月1日に令和6年能登半島地震、1月2日に羽田空港での衝突事故と立て続けに大変なことが起こりました。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。さて、能登半島地震に対しては大阪医療センターからもDMATと災害医療班が出発しました。災害医療班については、あらかじめ日によって決められた当番医師のリストがあります。そのリストに従って、出発日の当番医師が看護師・薬剤師・事務職とともに派遣されるわけです。私も当番リストに名前がありましたが、今回は出発日から4日ずれていたので派遣されませんでした。別の形で被災地にできることはないかと考え「こんな時こそ被災地にふるさと納税だ!」と思い付きました。で、いつも愛用しているサイトから、ふるさと納税をしようと被災自治体を調べてみたら、受け付けが一時中止になっています。被害が甚大過ぎて返礼品どころではない、ということなのでしょう。しかし、返礼品なしであれば寄付することができるようなので、早速、震源地に近い数ヵ所の自治体にふるさと納税を行いました。ついでにいろいろ調べてみると、代理寄付という制度があるようです。その制度を詳しく述べたページを読んでみると、そこには衝撃の記載が……「被災自治体って本当に大変なんです。それはもう、寄付金を受け取ることもできないほどに」以下、代理寄付の制度についての説明が続いていました。ふるさと納税の寄付金を自治体が受け取ると、納税証明書を発行して支援者に郵送するわけですが、被災直後にはこの事務作業自体が被災自治体の負担になってしまうとのこと。しかもこの納税証明書の発行は自治体にしかできない業務なので業者に委託できません。そこで立ち上がったのが「代理寄付自治体」の制度で、代理寄付自治体が代わりに納税証明書発行の業務を行い、寄付金を被災自治体に届けるという自治体同士の助け合いシステムなのだそうです。まったく知りませんでした。良かれと思った寄付金が、かえって被災自治体の職員の負担になるのでは本末転倒。そこで、私も代理寄付の制度を利用することにしました。ふるさと納税サイトの中でも、この制度を使えるところと使えないところがあるので、まずは代理寄付を扱っているサイトを選ぶ必要があります。その上で、金額を記入してボタンを押す、ただそれだけ。手続き自体は何ら難しいことはありません。ただし、被災地の自治体1つに対し、日本全国にある数ヵ所の自治体が代理寄付を受け付けているので、どこにするかを迷います。結局、私は自宅近くの馴染みのある名前の自治体に送りました。後で知ったのですが、この制度は2016年4月16日に発生した熊本地震に対して茨城県境町が代理寄付を申し出たのが最初だということです。当時の橋本 正裕町長の発案で、熊本に対するふるさと納税の受け付けと納税証明書の発行を代理で行い、わずか15日間で1億円以上の寄付金を集め、被災地に届けることができたとのこと。その後、多くの自治体が賛同し、今ではすっかり定着しています。いつも私は返礼品目当てのふるさと納税ばかりですが、こういった形の寄付もいいですね。被災地の一刻も早い復興をお祈りいたします。最後に1句新春に 頭をひねって 寄付をする

1985.

効果的なFreeStyleリブレのスキャン回数が明らかに/京都医療センターほか

 糖尿病の血糖管理において、先進糖尿病デバイスとして持続血糖モニター(CGM)が活用されている。CGMには間歇スキャン式(isCGM)とリアルタイムCGMの2方式がある。間歇スキャン式では、上腕の後ろに装着されたセンサーをワイヤレスでスキャンすることでグルコース値が測定でき、リーダーやスマートフォンを使用する手軽さが魅力的だ。海外の先行研究では、スキャンの頻度が増すほど、HbA1cやTIR(time in range)などの血糖管理指標が改善すると報告されている。そのエビデンスに基づいて、これまでは「できるだけ多くスキャンするように」という指導がされてきたが、70~180mg/dLのTIR70%超を達成する最適なスキャン回数は明らかではなかった。 坂根 直樹氏(京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長)らのFGM-Japan研究グループ(全9施設)は日本人1型糖尿病211例(平均年齢50.9±15.2歳、男性40.8%、糖尿病期間16.4±11.9年、CGM使用期間2.1±1.0年、平均HbA1c7.6±0.9%)を対象に、過去90日間のグルコース値データから、TIRを算出し、ROC曲線から最適なスキャン回数を明らかにするとともに、そのスキャン回数に与える要因も明らかにした。Diabetology International誌2023年9月12日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・平均スキャン回数は10.5±3.3回/日。・スキャン回数はTIRと正の相関、TAR(time above range)と負の相関があったが、TBR(time below range)とは有意な相関は認められなかった。・スキャン回数は低血糖不安-行動スコアと正の相関があり、一部の血糖変動指標(ADRR[average daily risk range]、%CV[coefficient of variation]など)と負の相関があった。・運動習慣のある者は、ない者に比べてスキャン回数が有意に多かった。・TIRが70%超に対するスキャン回数のAUCは0.653で、最適なカットオフ値は1日に11.1回のスキャンだった。 坂根氏は、「今までは『できるだけスキャンしなさい』と患者に指導することが多かったが、本研究から目標血糖を達成するために3食前後、起床と就寝時、間食や運動前後など、12回のスキャンを推奨するエビデンスが得られた。また、運動習慣がある人はスキャン回数が多いことや、スキャン回数が多い人ほど低血糖に対する対処行動が多いという結果はリブレを用いた糖尿病療養指導に大いに役立つと考えられる」と述べている。

1986.

脳転移のある乳がんの予後、HER2低発現vs.HER2ゼロ

 脳転移した乳がん患者において、HER2低発現の患者はHER2ゼロの患者よりも良好な予後を示し、とくにホルモン受容体(HR)陰性の患者で顕著であることが、中国・National Cancer CenterのHangcheng Xu氏らの後ろ向き研究で示された。Breast誌オンライン版2024年1月1日号に掲載。 この後ろ向き研究は、2010年1月~2021年7月にHER2発現状況が確認できた乳がん脳転移患者について、HER2低発現(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)患者71例とHER2ゼロ患者64例を比較したもの。主要評価項目は脳転移診断後の全生存期間(OS)で、log-rank検定を用いたKaplan-Meier曲線とCox比例ハザードモデルで評価した。 主な結果は以下のとおり。・限られたサンプル数にもかかわらず、HER2低発現患者のOSはHER2ゼロ患者と比較して有意に良好だった(26ヵ月vs.20ヵ月、p=0.0017)。この傾向はHR陰性群で顕著(26ヵ月vs.13ヵ月、p=0.0078)だったが、HR陽性群では有意差は認められなかった。・Cox回帰分析により、HER2低発現がHR陰性患者のOSを延長する独立した予後因子であることが明らかになった(多変量解析においてp=0.046)。 本研究の結果、HER2低発現が脳転移のある乳がん患者の生存期間延長に関連することが示唆された。

1987.

重症小児の全身酸素化、SpO2目標低めがアウトカム良好/Lancet

 小児集中治療室(PICU)に緊急入室し侵襲的換気療法を受ける小児において、制限的目標酸素投与(conservative oxygenation target)は、非制限的目標酸素投与(liberal oxygenation target)と比較して、30日時点の臓器支持期間または死亡について、良好なアウトカムを得られる可能性が、わずかではあるが有意に高いことが示された。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMark J. Peters氏らが、2,040例の小児を対象に行った多施設共同非盲検並行群間比較無作為化試験「Oxy-PICU試験」の結果を報告した。重症小児患者における最適な目標酸素投与量は明らかになっていない。非制限的酸素投与は広く行われているが、小児患者では害を与えるとされていた。結果を踏まえて著者は、「制限的な酸素飽和度目標値(SpO2:88~92%)を広く取り入れることは、PICUに入室する重症小児患者のアウトカム改善およびコスト削減に役立つだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年12月1日号掲載の報告。30日までの臓器支持期間または死亡を比較 研究グループは英国15ヵ所のPICUで試験を行い、制限的酸素療法が標準療法と比較して、臓器支持期間または死亡の発生を減少させるかどうかを評価した。 緊急入院し、侵襲的換気療法を受けている修正在胎期間38週超~16歳未満の小児を、ウェブベースシステムを用いて、制限的酸素投与群(目標SpO2値:88~92%)および非制限的酸素投与群(目標SpO2値:>94%)に1対1の割合で無作為に2群に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化後30日時点の臓器支持期間で、30日目またはそれ以前の死亡を最悪のアウトカム(臓器支持31日間と同等のスコア)とするランクベースのエンドポイントであり、それ以外の被験者(生存者)には、臓器支持を受けた暦日に応じ1~30のスコアで評価した。 主要な効果推定値は確率指数(PRI)で、0.5超は無作為に選ばれた患者について、制限的酸素投与のほうが、非制限的酸素投与に比べて優れている確率が50%超であることを示すものとした。 同意が得られたすべての被験者を対象にITT解析を行った。制限的酸素投与が良好なアウトカムを示す 2020年9月1日~2022年5月15日に、2,040例の小児が制限的酸素投与群または非制限的酸素投与群に無作為化された。そのうち1,872例(92%)から同意を得た。 制限的酸素投与群は939例(927例中528例[57%]が女子、399例[43%]が男子)、非制限的酸素投与群は933例(920例中511例[56%]が女子、409例[45%]が男子)だった。 最初の30日間の臓器支持期間または死亡の発生は、制限的酸素投与群で有意に低かった(PRI:0.53、95%信頼区間[CI]:0.50~0.55、ウィルコクソン順位和検定(Wilcoxon rank-sum test)のp=0.04、補正後オッズ比:0.84[95%CI:0.72~0.99])。 事前に規定した有害事象は、制限的酸素投与群939例中24例(3%)、非制限的酸素投与群933例中36例(4%)で報告された。

1988.

夫が高血圧だと妻も高血圧になりやすい?

 夫婦のどちらかが高血圧だとその配偶者も高血圧である可能性の高いことが、新たな国際的な研究により明らかにされた。論文の上席著者である、米ミシガン大学のChihua Li氏は、「中高年に高血圧が多いことはよく知られているが、米国、英国、中国、インドの中高年の夫婦の多くで夫婦がそろって高血圧であることが分かり、われわれは驚いた。例えば、米国では50歳以上の夫婦の35%以上が夫婦そろって高血圧であった」と話している。この研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に12月6日掲載された。 この研究では、米国(2016〜2017年)、英国(2016〜2017年)、中国(2015〜2016年)、インド(2017〜2019年)でそれぞれ実施された研究から、異性カップルのデータを用いて(米国3,989組、英国1,086組、中国6,514組、インド2万2,389組)、夫と妻がともに高血圧である夫婦がどの程度いるのかが調査された。夫婦の平均年齢は、妻の場合では51.1歳(インド)から72.5歳(英国)、夫の場合では57.2歳(インド)から74.2歳(英国)の幅があった。高血圧は、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上、または高血圧の診断歴を有する、のいずれかが該当する場合と定義された。 その結果、夫婦がともに高血圧である割合は、米国で37.9%(95%信頼区間35.8〜40.0%)、英国で47.1%(同43.2〜50.9%)、中国で20.8%(同19.6〜21.9)、インドで19.8%(同19.0〜20.5)であることが明らかになった。また、いずれの国でも、高血圧ではない夫を持つ妻に比べて、高血圧の夫を持つ妻では本人も高血圧である確率が高く、有病率比は米国で1.09(95%信頼区間1.01〜1.17)、英国で1.09(同0.98〜1.21)、中国で1.26(同1.17〜1.35)、インドで1.19(同1.15〜1.24)であった。同様の結果は、高血圧の妻を持つ夫についても認められた。 論文の筆頭著者である、米エモリー大学ロリンス公衆衛生大学院グローバルヘルス分野のJithin Sam Varghese氏は、「夫婦は同じ趣味、生活環境、生活習慣、健康アウトカムを持つことが多いが、われわれは、高血圧についてもそれが該当するのかどうかを知りたかった」と説明。また同氏は、「われわれの研究は、高所得国と中所得国において、夫と妻の両方が高血圧である夫婦の割合について調べた最初の研究だ」と述べている。 今回の研究には関与していない、米ウェストバージニア大学公衆衛生大学院疫学・生物統計学分野のBethany Barone Gibbs氏は、「幸いなことに、高血圧を予防するためにできることは、個人レベルでも夫婦レベルでもたくさんある」と言う。同氏は、「活動的になる、ストレスを減らす、食生活を健康的にするなどの生活習慣の改善は、血圧を下げるのに有効であり、その改善を維持することはさらに重要だ。しかし、配偶者やパートナーが一緒に取り組まない限り、その達成は難しいだろう」と話している。

1989.

第194回 能登半島地震、被災地の医療現場でこれから起こること、求められることとは~東日本大震災の取材経験から~

木造家屋の倒壊の多く死因は圧死や窒息死こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。元日に起きた、最大震度7を観測した能登半島地震から9日が経過しました。最も被害が大きかった石川県では、1月9日現在、死者202人、負傷者565人、安否不明者102人と発表されています。1月8日現在の避難者数は2万8,160人とのことです。テレビや新聞などの報道をみていると、木造家屋の倒壊の多いことがわかります。その結果、死因は圧死や窒息死が大半を占めているようです。道路の寸断などによって孤立している集落がまだ数多く、避難所の中にも停電や断水が続いているところもあります。さらには、避難所が満員で入所できない人も多いようです(NHKニュースではビニールハウスに避難している人の姿を伝えていました)。本格的な冬が訪れる前に、被災した方々が、まずは一刻でも早く、ライフラインや食料が整った避難所やみなし避難所(宿泊施設等)への避難できることを願っています。東日本大震災との大きな違い1995年に起きた阪神・淡路大震災では、約80%が建物倒壊による圧死や窒息死でした。このときの教訓をもとに組織されたのがDMATです。しかし、2011年に起きた東日本大震災では津波の被害が甚大で、死亡者の8〜9割が溺死でした。震災直後、私は被災地の医療提供体制を取材するため宮城県の気仙沼市や石巻市に入りましたが、阪神・淡路と同じような状況を想定して現地入りしたDMATの医師たちが、「数多くの溺死者の前でなすすべもなかった」と話していたのを覚えています。今回の地震は、津波の被害より建物倒壊の被害が圧倒的に多く、その意味で震災直後のDMATなどの医療支援チームのニーズは大きいと考えられます。ただ、道路の寸断などで、物資や医療の支援が行き届くまでに相当な時間が掛かりそうなのが気掛かりです。これから重要となってくるのは“急性期”後、“慢性期”の医療支援震災医療は、ともすれば被災直後のDMATなどによる“急性期”の医療支援に注目が集まりますが、むしろ重要となってくるのは、その後に続く、“慢性期”の医療支援だということは、今では日本における震災医療の常識となっています。外傷や低体温症といった直接被害に対する医療提供に加え、避難所等での感染症(呼吸器、消化器)や血栓塞栓症などにも気を付けていかなければなりません。その後、数週間、数ヵ月と経過するにつれて、ストレスによる不眠や交感神経の緊張等が高血圧や血栓傾向の亢進につながり、高血圧関連の循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞、大動脈解離、心不全など)が増えてくるとされています。そのほか、消化性潰瘍や消化管穿孔、肺炎も震災直後に増えるとのデータもあります。DMAT後の医療支援は、東日本大震災の時のように、日本医師会(JMAT)、各病院団体や、日本プライマリ・ケア連合学会などの学会関連団体が組織する医療支援チームなどが担っていくことになると思われますが、過去の大震災時と同様、単発的ではなく、長く継続的な医療支援が必要となるでしょう。ちなみに厚生労働省調べでは、1月8日現在、石川県で活動する主な医療支援チームはDMAT195隊、JMAT8隊、AMAT(全日本病院医療支援班)9隊、DPAT(災害派遣精神医療チーム)14隊とのことです。避難所や自宅で暮らす高齢者に対する在宅医療のニーズが高まる医療・保健面では、高血圧や糖尿病、その他のさまざまな慢性疾患を抱えて避難所や地域で暮らす多くの高齢者の医療や健康管理を今後どう行っていくかが大きな課題となります。そして、避難所や自宅で暮らす住民に対する在宅医療の提供も必要になってきます。東日本大震災では、病院や介護施設への入院・入所を中心としてきたそれまでの医療提供体制の問題点が浮き彫りになりました。震災被害によって被災者が病院・診療所に通えなくなり、在宅医療のニーズが急拡大したのです。この時、気仙沼市では、JMATの医療支援チームとして入っていた医師を中心に気仙沼巡回療養支援隊が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応。その支援は約半年間続き、その時にできた在宅医療の体制が地域に普及・定着していきました。奥能登はそもそも医療機関のリソースが少なかった上に、道路が寸断されてしまったこと、地域の高齢化率が50%近いという状況から、地域住民の医療機関への「通院」は東日本大震災の時と同様、相当困難になるのではないでしょうか。東日本大震災が起こった時、気仙沼市の高齢化率は30%でした。今回、被害が大きかった奥能登の市町村の高齢化率は45%を超えています(珠洲市50%、輪島市46% 、いずれも2020年)。「気仙沼は日本の10年先の姿だ」と当時は思ったのですが、奥能登は20年、30年先の日本の姿と言えるかもしれません。テレビ報道を見ていても、本当に高齢者ばかりなのが気になります。東日本大震災では、被災直後からさまざまな活動に取り組み始めた若者たちがいたのが印象的でした。しかし、これまでの報道を見る限り、被災者たちは多くが高齢で“受け身”です。東日本大震災や熊本地震のときよりも、個々の被災者に対する支援の度合いは大きなものにならざるを得ないでしょう。プライマリ・ケア、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、多職種による医療・介護の連携これからの医療提供で求められるのは、プライマリ・ケアの診療技術であり、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、そしてさまざまな多職種による医療・介護の連携ということになるでしょう。東日本大震災、熊本地震、そして新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで日本の医療関係者たちは多くのことを学んできたはずです。日本医師会をはじめとする医療関係団体の真の“力”が試される時だと言えます。ところで、被災した市町村の一つである七尾市には、私も幾度か取材したことがある、社会医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(426床)があります。同病院は関連法人が運営する約30の施設と共に医療・介護・福祉の複合体、けいじゅヘルスケアシステムを構築し、シームレスなサービスを展開してきました。同病院も大きな被害を被ったとの報道がありますが、これまで構築してきたけいじゅヘルスケアシステムという社会インフラは、これからの被災地医療の“核”ともなり得るでしょう。頑張ってほしいと思います。耐震化率の低さは政治家や行政による不作為にも責任それにしても、なぜあれほど多くの木造住宅が倒壊してしまったのでしょうか。1月6日付の日本経済新聞は、その原因は奥能登地方の住宅の低い耐震化率にある、と書いています。全国では9割近くの住宅が耐震化しているのに対して、たとえば珠洲市では2018年末時点で基準をクリアしたのは51%に留まっていたそうです。ちなみに輪島市は2022年度末時点で46%でした。耐震化は都市部で進んでいる一方、過疎地では大きく遅れているのです。その耐震基準ですが、建築基準法改正で「震度5強程度で損壊しない」から「震度6強〜7でも倒壊しない」に引き上げられたのは1981年、実に40年以上も前のことです。きっかけは1978年の宮城県沖地震(当時の基準で震度は5、約7,500棟の建物が全半壊)でした。仙台で学生生活を送っていた私は、市内で地震に遭遇、ブロック塀があちこち倒れまくった住宅街の道路を自転車で下宿まで帰ってきた記憶があります。各地域(家の建て替えがないなど)や個人の事情はあるとは思いますが、法改正後40年経っても耐震化が進んでおらず、被害が大きくなってしまった理由として、政治家(石川県選出の国会議員)や行政による不作為もあるのではないでしょうか。もう引退しましたが、あの大物政治家は石川県にいったい何の貢献をしてきたのでしょうか。お金をかけてオリンピックを開催しても、過疎地の住民の命は守れません。いずれにせよ、全国各地の過疎地の住宅の耐震化をしっかり進めておかないと、また同じような震災被害が起こります。政府にはそのあたりの検証もしっかりと行ってもらいたいと思います。

1990.

乾癬への生物学的製剤、逆説的反応リスクは?

 生物学的製剤による治療を受けた乾癬患者が湿疹を発症する逆説的反応のリスクは、IL-23阻害薬を投与された患者で最も低かった。リスク上昇と関連する因子は、年齢上昇、女性、アトピー性皮膚炎の既往、花粉症の既往であった。全体的には逆説的反応の発生率は低かった。英国・マンチェスター大学のAli Al-Janabi氏らが前向きコホート試験の結果を報告した。生物学的製剤を用いた尋常性乾癬患者の一部で、アトピー性皮膚炎の表現型の1つである湿疹を発症することが報告されている。しかし、そのリスク因子は不明であった。今回の検討結果を踏まえて著者は、「さらなる試験を行い、今回得られた結果を再現する必要がある」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年12月6日号掲載の報告。 研究グループは、生物学的製剤のクラス別の逆説的反応のリスク、リスク上昇と関連する因子を検討する前向きコホート研究を行った。 対象患者は、英国およびアイルランドの皮膚科を受診し、生物学的製剤による治療を受けた18歳以上の成人の尋常性乾癬患者で、データはBritish Association of Dermatologists Biologics and Immunomodulators Registerから入手した。2007年9月~2022年12月に少なくとも1回以上のフォローアップ受診のある患者を適格とした。 逆説的反応による湿疹の発症、治療中断、最終フォローアップまたは死亡までの生物学的製剤への曝露期間を調査。生物学的製剤はTNF阻害薬(アダリムマブ、セルトリズマブ ペゴル、エタネルセプト、インフリキシマブ)、IL-17阻害薬(ビメキズマブ、ブロダルマブ、イキセキズマブ、セクキヌマブ)、IL-12/23阻害薬(ウステキヌマブ)、IL-23阻害薬(グセルクマブ、リサンキズマブ、チルドラキズマブ)を対象とした。逆説的反応の発生率、生物学的製剤のクラス別にみた逆説的反応のリスク、逆説的反応のリスク因子を、傾向スコア加重Cox比例ハザード回帰モデルを用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・1万3,699例が2万4,997件の生物学的製剤による治療を受けた。・2万4,997件の解析対象の年齢中央値は46歳(四分位範囲:36~55)、男性が57%、総曝露期間は8万1,441患者年であった。・逆説的反応の発生は、273件(1%)であった。・10万人年当たりの補正後発生率は、IL-17阻害薬1.22、TNF阻害薬0.94、IL-12/23阻害薬0.80、IL-23阻害薬0.56であった。・TNF阻害薬との比較において、IL-23阻害薬は逆説的反応のリスクが低かった(ハザード比[HR]:0.39、95%信頼区間[CI]:0.19~0.81)。一方、IL-17阻害薬(同:1.03、0.74~1.42)、IL-12/23阻害薬(同:0.87、0.66~1.16)では逆説的反応との関連はみられなかった。・年齢上昇(HR:1.02、95%CI:1.01~1.03)、アトピー性皮膚炎の既往(同:12.40、6.97~22.06)花粉症の既往(同:3.78、1.49~9.53)は、逆説的反応のリスクを上昇させた。男性はリスクが低かった(同:0.60、0.45~0.78)。

1991.

境界性パーソナリティ障害に合併する精神および身体疾患

 境界性パーソナリティ障害(BPD)とその併存疾患に関する情報は、BPDの診断数が少ないため、限られている。南デンマーク大学のL. H. Hastrup氏らは、初めてBPDと診断された患者における診断前後3年間の精神的および身体的併存疾患を調査し、対照群との比較を行った。その結果、BPD患者は、さまざまな身体的および精神的疾患を併発する可能性が高いことを報告した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2023年12月10日号の報告。 2002~16年にBPDを発症した患者2,756例とマッチさせた対照群1万1,024例を対象に、登録ベースのコホート研究を実施した。併存疾患に関するデータは、世界保健機構(WHO)のICD-10基準に従い、主要な疾患グループに分類した。 主な結果は以下のとおり。・BPD患者の約半数は、診断前に精神疾患および行動障害と診断されていたが、対照群では3%のみであった。・負傷、自傷行為、中毒などの外的要因による疾患併発は、対照群と比較し、診断前のBPD患者でより多く認められた。・BPD患者では、循環器系、呼吸器系、消化器系、筋骨格系、泌尿生殖器系の疾患を合併する割合が高かった。・診断後では、BPD患者のすべての疾患グループにおいて、併存疾患を有する患者の割合の有意な増加が認められた。・精神的および行動的疾患は、BPD患者87%、対照群3%で認められ、神経疾患は、BPD患者15%、対照群4%に認められた。・BPD患者は、体細胞性疾患、とくに消化器系、呼吸器系、循環器系、内分泌系の疾患を併発する可能性が高かった。・12年間の死亡率は、対照群よりもBPD患者で統計学的に有意に高かった。

1992.

顎関節症による慢性疼痛に有効な介入とは/BMJ

 顎関節症(TMD)に伴う慢性疼痛の管理では、エビデンスの確実性が「中」または「高」の臨床試験に限定すると、バイオフィードバック療法またはリラクゼーション療法で補強した認知行動療法(CBT)や、顎関節のモビライゼーションなどの、対処を促す介入や、顎関節の可動を促進する介入が最も効果的であることが、中国・蘭州大学のLiang Yao氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年12月15日号に掲載された。介入的RCT論文のネットワークメタ解析 研究グループは、顎関節症に伴う慢性疼痛に対する種々の治療法の有効性を比較検討する目的で、無作為化臨床試験(RCT)の系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(Chronic Pain Centre of Excellence for Canadian Veteransの助成を受けた)。 2021年5月までに医学関連データベース(MEDLINE、EMBASE、CINAHL、CENTRAL、SCOPUS)に登録された文献を検索し、2023年1月にも再検索を行った。対象は、顎関節症に伴う慢性疼痛を呈する患者を登録した介入的RCTの論文とした。 レビューでは、疼痛緩和、身体機能、情緒機能、役割機能、社会的機能、睡眠の質、有害事象など、患者にとって重要なアウトカムをすべて把握した。GRADEアプローチを用いて、エビデンスの確実性を評価し、有益性が最も高い介入から最も低い介入に分類した。疼痛緩和には8つの介入が有効 233件のRCTをレビューの対象とし、このうち153件(8,713例、59の介入または介入の組み合わせ)をネットワークメタ解析に含めた。以下は、プラセボまたはシャム(偽治療)との比較で有効性を評価したRCTに関する解析結果である。 疼痛に対しては、8つの介入が、「中」または「高」の確実性のエビデンスに基づきその有効性が支持された。 疼痛緩和に関して、最も有効な治療は次の3つと考えられた。(1)バイオフィードバック療法またはリラクゼーション療法で補強したCBT(1~10cmの視覚アナログ尺度で、疼痛緩和における意義のある最小差[MID]を達成するためのリスク差[RD]:36%[95%信頼区間[CI]:33~39])、(2)セラピストの支援による顎関節のモビライゼーション(RD:36%[31~40])、(3)徒手的トリガーポイント療法(RD:32%[29~34])。 次の5つの介入はRDが23~30%の範囲であり、上記の治療法に比べ有効性は劣るが、プラセボと比較して高い効果を示した。(1)CBT、(2)監視下姿勢訓練、(3)監視下開口訓練とストレッチング、(4)監視下開口訓練とストレッチングと徒手的トリガーポイント療法、(5)通常ケア(自宅での訓練、自己ストレッチング、恐怖/不安の緩和[reassurance]など)。身体機能の改善には4つの介入が有効 身体機能については、確実性が「中」のエビデンスに基づき、次の4つの介入の改善効果を確認した。(1)監視下開口訓練とストレッチング(SF-36の身体機能の要約スコアにおけるMIDの5点達成のRD:43%[95%CI:33~51])、(2)マニピュレーション(RD:43%[25~56])、(3)鍼治療(RD:42%[33~50])、(4)監視下開口訓練と顎関節のモビライゼーション(RD:36%[19~51])。 これら以外の介入による疼痛緩和、身体機能の改善に関するエビデンス、および有害事象に関するエビデンスはすべて、確実性が「低」または「非常に低」であった。 著者は、「BMJ Rapid Recommendationでは、エビデンスに基づくガイダンスが示されている」としている。

1993.

若年期のテレビ視聴時間が45歳時のメタボリックシンドロームと関連

 小児期から青年期にかけてテレビの平均視聴時間が長い人は、45歳時点でメタボリックシンドローム(MS)を有している確率が高まるという研究結果が、「Pediatrics」8月1日号に掲載された。 オタゴ大学ダニーデン校医学部(ニュージーランド)のNathan MacDonell氏とRobert J. Hancox氏は、1972年および1973年に、ニュージーランドのダニーデンで生まれた住民ベースの出生コホートデータを用い、小児期から青年期のテレビ視聴時間と45歳時点のMSとの関連を調べた。対象者が5歳、7歳、9歳、11歳、13歳、15歳および32歳になった時点で、対象者の親または対象者自身から平日のテレビ視聴時間を尋ねた。 45歳の時点で、MSの有無を調べ、また、心肺機能を評価するため、運動をさせて心拍数を計測し、VO2max(最大運動時の酸素消費量)を推定した。MSは、HbA1cが5.7%以上、腹囲が男性102cm以上、女性88cm以上、中性脂肪が200mg/dL以上、HDL-コレステロールが男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満、血圧が130/85mmHg以上または降圧薬を服用、のうち3つ以上を満たすものと定義した。生存していた参加者997人のうち870人(87%)からテレビ視聴時間とMSに関するデータを収集した。分析にはロジスティック回帰モデルとt検定を用いた。 5歳から15歳までの平均テレビ視聴時間と45歳時点でのMSの関連を調べるため、まず、対象者を視聴時間で0~1時間、1~2時間、2~3時間、3時間以上の4つの群に分けたところ、視聴時間が長いほど、男女ともMSの割合が増加した。また、平均テレビ視聴時間が1時間増加した場合のオッズ比(OR)は、性別のみを調整すると1.33(95%信頼区間1.11~1.58、P=0.002)と有意な関連が見られ、次に、性別と社会経済的地位、5歳時点のBMIで調整しても1.30(同1.08~1.58、P=0.006)と有意であり続けた。 さらに、32歳時点のテレビ視聴時間を調整因子に加えたところ、ORは1.26(同1.03~1.54、P=0.026)と有意であった上に、VO2maxの低下(係数-0.70、95%信頼区間-1.20~-0.19、P=0.007)とBMIの上昇(同0.59、0.11~1.06、P=0.016)のいずれとも有意に関連していた。 以上から著者らは、「今回の研究結果から、小児期から青年期のテレビ視聴時間が長いと、中年期のMSリスクが上昇する可能性が示唆され、若年期のテレビ視聴は健康に長期的な悪影響を与えるという仮説が裏付けられた」とし、「小児期から青年期のスクリーンタイムを減らすための介入は、健康に対して長期にわたり良い影響を与えるだろう」と述べている。

1994.

65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸博氏)

 65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性を鶏卵由来の従来ワクチンと比較したクラスターランダム化比較試験の結果が、NEJM誌2023年12月14日号に報告された。研究対象集団には18歳から64歳までのワクチン接種者163万328例が含まれた(組み換えワクチン群63万2,962例、従来ワクチン群99万7,366例)。研究期間中に組み換えワクチン群で1,386例、従来ワクチン群で2,435例のインフルエンザがPCR検査で診断された。50~64歳の参加者では、従来ワクチン群では925例(1,000例当たり2.34例)がインフルエンザと診断されたのに対し、組み換えワクチン群では559例(1,000例当たり2.00例)がインフルエンザと診断された(相対的なワクチン有効性15.3%、95%信頼区間:5.9~23.8、p=0.002)。組み換えワクチンは従来ワクチンと比べて、インフルエンザ関連の入院に対する予防効果は有意に高くはなかった。 50~64歳の成人において、遺伝子組み換えインフルエンザワクチンは鶏卵由来の従来ワクチンと比較して感染予防効果が有意に高いことが示された。従来ワクチンと比べて相対リスクで15.3%低下させたという結果は、従来ワクチンの感染予防効果がおおむね40~60%程度ということを考えると、上乗せ効果として決して低い数字ではないと考える。インフルエンザ関連の入院や市中肺炎による入院を有意に減少させる効果は示されなかったが、どちらも16%程度の相対的な有効性を認めた。試験対象者の入院率が決して高くない年齢層であることを考えると、一定の効果を示したと思われる。 遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの特徴として、従来の鶏卵由来のインフルエンザワクチンの3倍量のヘマグルチニン蛋白を含んでいることが挙げられる。過去の研究では、高齢者において高用量のインフルエンザワクチンのほうが標準用量のワクチンと比べて感染予防効果が高いことが示されており、今回、65歳未満の成人を対象とした本研究でも有効性が示された。ワクチンに含まれる抗原量が増えることで、免疫原性が高まると考えられている。 また、遺伝子組み換えワクチンでは鶏卵由来のワクチンの製造中に生じる抗原変異(antigenic drift)の影響を受けないことも特徴の1つである。本研究で遺伝子組み換えワクチンの有効性が鶏卵由来のワクチンより改善した理由についてはよくわからないが、この点も寄与した可能性は考えられる。 本研究のLimitationとして、2シーズンに限定された試験であること、インフルエンザの診断にPCR検査のみを用いたこと、入院や死亡など65歳未満の成人では頻度の低い転帰を検討するには検出パワーが限られていたことなどが挙げられる。これらの点が本研究結果の一般化を制限する可能性がある。 遺伝子組み換えインフルエンザワクチンは本邦ではまだ認可されていないタイプのワクチンであり、今後の国内導入に向けて話が進むかどうか注目したい。

1995.

英語で「そうは言いましたが」は?【1分★医療英語】第112回

第112回 英語で「そうは言いましたが」は?《例文1》That said, …(そうは言いましたが…)《例文2》Having said that, …(そうは言いましたが…)《解説》“with that being said”は超頻用の口語的な接続語です。何かを述べた直後に反対のことを言う際に、前置きとして使用します。直訳すると「そうは言いましたが…」となり、そのとおりの意味で和文でも意味が通じるので、比較的覚えやすい表現かと思います。類語としては、“however”や“nonetheless”があり、論文などのフォーマルな文章では、これらのほうが好ましいでしょう。ただし、口語表現においては、学会発表などのフォーマルな場であっても、“with that being said”は問題なく使用できます。また、一言だけの“however”と比べて少し間を取るため、話しやすく、また聞きやすくなることが多い印象です。少し省略して、“that being said”もしくは単に“that said”という表現もよく使われており、これもまったく同じ意味になります。“having said that~”も同じ意味になりますがこちらは能動態で使用します。講師紹介

1996.

第196回 コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定

コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つである疲労の根本原因と思しきミトコンドリア機能低下が被験者46例の試験で示唆されました1)。試験にはlong COVID患者25例と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したものの完全に回復した21例(回復例)が参加しました。心身を急に働かせた後の疲労や痛みの悪化はlong COVIDを特徴づける症状の1つである労作後倦怠感(post-exertional malaise:PEM)と関連します。試験ではPEMを誘発する15分間の自転車こぎ運動を被験者にあえて課しました。long COVID患者は自転車こぎの後に症状の悪化を呈し、筋肉組織を調べたところミトコンドリア異常が認められました。long COVID患者のミトコンドリアは回復例に比べて働きが悪く、エネルギー生成が劣りました。一方、long COVID患者の心臓や肺の機能に異常はなく、それらの異常によって長患いが生じているわけではなさそうです。また、SARS-CoV-2が居続けることがlong COVIDの原因の1つと想定されていますが、今回の研究で調べた筋肉組織にSARS-CoV-2のはびこりは見られませんでした。SARS-CoV-2に特有のヌクレオカプシドタンパク質の筋肉組織での検出はlong COVID患者と回復例で似たり寄ったりで、SARS-CoV-2残存もlong COVIDのPEMの発現や運動能力の原因ではなさそうです。ということはSARS-CoV-2残存以外の何かがlong COVID患者のミトコンドリア異常に寄与しているようであり、そのような異常をもたらす分子経路を今後調べる必要があります。long COVID患者のミトコンドリア異常はほかの研究でも示されています。昨年9月に報告されたlong COVID患者11例の検討結果では今回の報告と同様にミトコンドリア機能の指標の低下が認められました2)。また、ミトコンドリアの量や新生の指標の低下も観察されています。今回の試験の被験者は少なく、別の集団でも同じ結果になるかどうかを調べる必要があります。とはいえlong COVID患者の疲労はれっきとした生理的要因に基づくことはどうやら確からしく、生理作用に基づく適切な治療の研究がいまや可能になったと今回の研究の著者は言っています3)。long COVID患者の運動は許容範囲に抑えるべき自転車こぎ運動をしたlong COVID被験者が疲労の悪化や認知症状などのPEM症状を被ったことが示すように、long COVID患者の運動は有益とは限りません。ウォーキングなどで体調を維持することは好ましいですが、運動のしすぎで病状の悪化を招いては元も子もありません。そうならないように患者は許容範囲の運動量を各自あらかじめ設定し、病状を悪化させない程度の軽い運動を心がけるとよいようです3)。参考1)Appelman B, et al. Nat Commun. 2024;15:17. [Epub ahead of print]2)Colosio M, et al. J Appl Physiol(1985). 2023;135:902-917. 3)Tiredness experienced by Long-COVID patients has a physical cause / Eurekalert

1997.

サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症、最初の数ヵ月間の発症リスクが高い

 デンマーク国立血清研究所のNiklas Worm Andersson氏らが、サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症の累積発生率について、その他薬効クラスの降圧薬と比較・推定を行った。その結果、治療開始から最初の数ヵ月間において、サイアザイド系利尿薬では添付文書等で示されている1)よりも低ナトリウム血症のリスクが高かったことが明らかになった。Annals of Internal Medicine誌オンライン版2023年12月19日号掲載の報告。1.頻度不明/まれ/非常にまれ(10,000分の1~100分の1未満と定義)と記載されている。サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症の2年累積発生率、BFZで3.83% 本研究は2014年1月1日~2018年10月31日にデンマークで実施された人口登録ベースの観察研究を用いて、2つのtarget trial emulation2)を行った。主要評価項目は治療開始から2年以内の血中Na値130mmol/L未満の累積発生率。2.標的試験の模倣。観察研究データを用いて、仮想的なランダム化臨床試験を模倣すること。 対象者は直近で降圧薬が処方されておらず、低ナトリウム血症の既往歴のない40歳以上。1つ目のtarget trial emulationでは、bendroflumethiazide(BFZ、国内未承認)とカルシウム拮抗薬(CCB)の新規使用について比較し、2つ目のtarget trial emulationでは、ヒドロクロロチアジド・RA系阻害剤の配合剤とRA系阻害薬の新規使用について比較した。 サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症の累積発生率について他の降圧薬と比較した主な結果は以下のとおり。・1つ目のtarget trial emulationではBFZ3万7,786例、CCB4万4,963例の新規処方患者を比較し、2つ目では配合剤1万1,943例とRA系阻害薬8万5,784例の新規処方患者を比較した。・2年間における低ナトリウム血症の累積発生率は、BFZで3.83%、配合剤で3.51%だった。リスク差は、BFZvs.CCBで1.35%(95%信頼区間:1.04~1.66)、配合剤vs.RA系阻害薬では1.38%(同:1.01~1.75)だった。・リスク差は、高齢、併存疾患の負荷が高いほど大きくなり、各ハザード比は、治療開始最初の30日間では3.56(同:2.76~4.60)および4.25(同:3.23~5.59)で、治療開始1年後のHRは1.26(同:1.09~1.46)および1.29(同:1.05~1.58)だった。 ただし、本研究の制限として、研究者らは「処方箋の記載と実際に使用された薬剤が同等という仮定に基づく交絡が残存する可能性が高い」としている。

1998.

新規アルドステロン合成酵素阻害薬、CKDでアルブミン尿を減少/Lancet

 過剰なアルドステロンは慢性腎臓病(CKD)の進行を加速するとされる。米国・ワシントン大学のKatherine R. Tuttle氏らASi in CKD groupは、基礎治療としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与を受けているCKD患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンとの併用でアルドステロン合成酵素阻害薬BI 690517を使用すると、用量依存性にアルブミン尿を減少させ、予期せぬ安全性シグナルを発現せずにCKD治療に相加的な効果をもたらす可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年12月15日号で報告された。2回の無作為化を行う29ヵ国の第II相試験 本研究は、日本を含む29ヵ国で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第II相試験であり、2022年2月~12月に、run-in期を終了した参加者の無作為割り付けを行った(Boehringer Ingelheimの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、CKDの診断を受け、2型糖尿病の有無は問わず、推算糸球体濾過量(eGFR)が30~<90mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が200~5,000mg/g、血清カリウム値が4.8mmol/L以下で、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与を受けている患者であった。 714例をrun-in期に登録し、エンパグリフロジン(10mg)群に356例、プラセボ群に358例を無作為に割り付け、8週間の経口投与を行った。引き続き、このうち586例(エンパグリフロジン群298例、プラセボ群288例)を、それぞれ3つの用量(3mg、10mg、20mg)のBI 690517またはプラセボを追加で経口投与(1日1回、14週間)する4つの群に無作為に割り付けた(全8群)。アルドステロン値も大きく低下 ベースライン(2回目の無作為化時)の全体の平均年齢は63.8(SD 11.3)歳、女性196例(33%)、非白人244例(42%)であり、平均eGFR値は51.9(SD 17.7)mL/分/1.73m2、UACR中央値は426mg/g(四分位範囲[IQR]:205~889)であった。 朝の起床時第一尿で測定した、UACRのベースラインから14週時の治療終了までの変化率(主要エンドポイント)は、プラセボ群が-3%(95%信頼区間[CI]:-19~17)であったのに対し、BI 690517単剤の3mg群は-22%(-36~-7)、同10mg群は-39%(-50~-26)、同20mg群は-37%(-49~-22)であった。 また、エンパグリフロジンにBI 690517を追加した場合のUACRの変化率も、BI 690517単剤と同程度の低下を示した(プラセボ群:-11%[95%CI:-23~4]、3mg群:-19%[-31~-5]、10mg群:-46%[-54~-36]、20mg群:-40%[-49~-30])。 血漿アルドステロン値(曲線下面積)は、14週時までにBI 690517の用量依存性に低下し、最大用量(20mg)では、プラセボ群と比較して単剤群で-62%(95%CI:-76~-41)、エンパグリフロジン併用群で-66%(-75~-53)となった。高カリウム血症の多くは介入を要さず BI 690517の安全性プロファイルは、エンパグリフロジン併用の有無にかかわらず許容できるものであった。投与期間中に4例が死亡したが、試験薬関連と判定されたものはなかった。また、重度の薬物性肝障害やケトアシドーシスは認めなかった。 高カリウム血症は、エンパグリフロジンの有無にかかわらず、プラセボ群では6%(9/147例)に発生したのに対し、BI 690517 3mg群で10%(14/146例)、同10mg群で15%(22/144例)、同20mg群では18%(26/146例)に認めた。また、高カリウム血症の多くは介入を要さず(86%[72/84例])、致死性のものはなかった。 とくに注目すべき有害事象としての副腎機能低下症は、BI 690517群で436例中7例(2%)、プラセボ群では147例中1例(1%)にみられた。 著者は、「アルドステロン合成酵素阻害薬とSGLT2阻害薬の併用により、臨床的に意義のあるアルブミン尿の改善が得られた。このアプローチは、今後、CKDの大規模な臨床試験で検討すべき有望な併用療法となる可能性がある」としている。

1999.

前糖尿病と喫煙の組み合わせは若者にとって致命的

 年齢中央値が30歳代という比較的若い集団においても、前糖尿病と喫煙習慣が組み合わさると、深刻な疾患のリスクが上昇し、特に脳卒中のリスク上昇が顕著であることを示唆するデータが報告された。米ネブラスカ大学医療センターのAdvait Vasavada氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)学術集会(AHA Scientific Sessions 2023、11月11~13日、フィラデルフィア)で発表された。Vasavada氏は、「若い喫煙者の脳卒中リスクを抑制するために、前糖尿病の早期スクリーニング体制と予防戦略を確立する必要があるのではないか」と述べている。 この研究には、米国の入院医療に関する大規模データベース(National Inpatient Sample)が用いられた。2019年の米国全土の入院患者のうち年齢が18~44歳で喫煙習慣があり、高血圧や2型糖尿病、高コレステロール血症、肥満などの心血管疾患危険因子のない101万7,540人が解析対象とされた。全員が、ニコチン依存状態または習慣的な喫煙者であって、禁煙が困難であることがカルテに記録されていた。 この集団の0.2%に当たる2,390人は前糖尿病だった。前糖尿病の入院患者は、年齢中央値36歳であり、前糖尿病でない(血糖値が正常範囲)の入院患者の31歳よりも高齢であり、また男性の割合が高かった。前糖尿病の患者は血糖値が正常範囲の患者に比べて、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の割合(19.2対11.7%)、心臓発作の既往(1.5対0.4%)、慢性腎臓病の割合(2.5対0.9%)が高く、また入院の目的が心臓発作や脳卒中または心不全の治療である割合(2.9対1.4%)が高かった。 特に脳卒中による入院の割合(1.9対0.5%)に顕著な差が認められた。年齢や性別、人種、世帯収入、飲酒習慣、薬物乱用歴、併発疾患などの影響を調整後にも、脳卒中による入院リスクが3.31倍高いことが分かった。 この結果に関連してVasavada氏はAHA発のリリースの中で、「たとえ代謝的に健康な若者であっても、喫煙者は喫煙本数を減らすことが賢明であり、できれば完全に禁煙することが理想的だ」とアドバイスしている。また、「タバコを吸わない人であっても前糖尿病に該当する場合、若いうちに脳卒中を発症するリスクが高まる可能性があることにも注意すべきだ」と付け加えている。 一方、AHAの薬物・アルコール・タバコ委員会の一員であるEsa Davis氏は、「この研究結果は、なぜタバコが若者にとっても危険であるのかを示している」と話す。加えて、「若い人は一般的に脳卒中のことを、自分たちの祖父母のような年齢の高齢者に起こる病気だという印象を持っている。しかし、そうではなく、今回の報告に見られるように、脳卒中はより若い年齢でも発生し得るということだ。さらにこの研究によって、前糖尿病に該当する場合、脳卒中や心臓病のリスクがはるかに高くなり、若いうちに発症する可能性があることが示され、できるだけ早い段階で禁煙することがより重要であることが分かった」と解説。Davis氏は、「心臓の健康を守り、そして脳卒中リスクを減らすためにできることの中で最も重要なことは、禁煙することだ」とも述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

2000.

臓器によって老化速度に差

 特定の臓器だけ他の臓器よりも老化速度が速い場合があり、そのような臓器があると病気や死亡のリスクが高まる可能性のあることが、米スタンフォード大学神経学教授のTony Wyss-Coray氏らの研究で示された。同氏らによると、50歳以上の健康な人の約5人に1人で、少なくとも一つの臓器の老化速度が速まっていることが明らかになったという。研究の詳細は、「Nature」に12月6日掲載された。 Wyss-Coray氏らは、「これは悪いことのように聞こえるが、健康増進のチャンスでもある」と主張する。なぜなら、簡単な血液検査で急速に老化している臓器を特定することで、医師は、症状が現れる前にその臓器に関連する潜在的な病気の治療を開始できる可能性があるからだ。 今回の研究でWyss-Coray氏らは、まず、5,676人分の血漿からSomaScan assayにより4,979種類のタンパク質の相対濃度を定量した。また、ヒト臓器のRNAシーケンシングデータを用いて、11種類の臓器(心臓、脂肪、肺、免疫系、腎臓、肝臓、筋肉、膵臓、脳、血管、腸)で発現している遺伝子のうち、発現量が他の臓器の4倍以上の遺伝子を臓器特異的遺伝子としてピックアップ。これらの遺伝子情報を4,979種類のタンパク質に注釈付けし、最終的に、臓器特異的なタンパク質として856種類(17.9%)を得た。次に、これらの情報を用いて機械学習モデルを構築し、11種類の臓器の一つ一つに焦点を当てて臓器特異的タンパク質のレベルを測定し、その人の年齢(暦年齢)とその臓器の生物学的年齢の差を導き出した。 その結果、研究の対象となった50歳以上の人のうち、平均よりも有意に老化速度の速い臓器が一つ以上ある人の割合は18.4%に上ることが明らかになった。老化速度の速い臓器が複数ある人の割合は60人中1人程度(1.7%)であった。また、11種類の臓器のうち腸を除いた10種類の臓器において、暦年齢と臓器の生物学的年齢の差はその後15年間の追跡期間の全死亡リスクと関連を示し、老化速度の速い臓器がある人では、臓器によって差はあるものの、その後15年間の全死亡リスクが15~50%高いことが示された。また、老化速度の速い臓器は、その臓器特異的な疾患との関連も示した。例えば、心臓の加齢が進んでいる人では心不全リスクが250%増加しており、また、脳と血管の加齢から、タウタンパク質とは無関係にアルツハイマー病の進行を予測できる可能性も示された。このほか、腎臓の急速な老化は高血圧と糖尿病のリスクに関連していたほか、心臓の極度の老化は心房細動や心筋梗塞のリスクに関連していることなども示された。 Wyss-Coray氏らは、より多くの人を対象とした大規模な研究を行い、今回の研究で得た結果の信頼性を高める予定だとしている。同氏は、「もし5万人、あるいは10万人を対象とした研究で今回の結果が再現されれば、一見、健康に見える人の個々の臓器の状態をモニタリングして体内で老化が急速に進んでいる臓器を見つけ出し、病気になる前に治療を開始できるようになる可能性がある」と語っている。

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