サイト内検索|page:98

検索結果 合計:11806件 表示位置:1941 - 1960

1941.

ソーシャルメディアの使用時間削減で仕事もメンタルヘルスも上向きに?

 仕事の合間にInstagramやTikTokを見ることはちょっとした気晴らしになるように思われるが、この行為は、実際には仕事の満足度を低下させている要因なのかもしれない。ソーシャルメディアの使用時間を1日わずか30分減らすだけで、その人のメンタルヘルス、仕事の満足度、仕事へのコミットメント(責任を持って仕事に積極的に関わっていくこと)が向上したとする研究結果が報告された。ルール大学ボーフム(ドイツ)メンタルヘルス研究・治療センターのJulia Brailovskaia氏らによるこの研究の詳細は、「Behavior and Information Technology」に12月8日掲載された。 ソーシャルメディアは、今や多くの人の生活の重要な一部となっている。しかし、ソーシャルメディアにはFOMO(fear of missing out)を助長する可能性のあることが研究で示唆されている。FOMOとは、ソーシャルメディアを常にチェックしていないと、何らかの情報やイベントを見逃して自分だけ取り残されてしまうのではないかという不安や恐怖を感じる状態を指す。 Brailovskaia氏らは、ソーシャルメディアによる現実逃避は、短期的には気分を向上させる効果があるが、人の集中力などを奪う中毒性のある行動を促進することによって、長期的には悪影響を及ぼすのではないかとの考えのもと、ソーシャルメディアの1日の使用時間を減らすことで、労働者の仕事に対する満足度やメンタルヘルスなどがどう変わるのかを検討した。試験に参加したのは、166人のフルタイムまたはパートタイム労働者で、いずれも仕事には関係のないソーシャルメディアを1日35分以上使用していた。参加者は、7日間にわたり1日当たりのソーシャルメディアの使用時間を30分減らす群(84人、平均年齢29.38歳、介入群)と、普段通りに使用する群(82人、平均年齢30.06歳、対照群)にランダムに割り付けられた。試験開始時と介入後、介入から1週間後の3つの時点でオンライン調査を行い、仕事に関連する要素やメンタルヘルスについての評価を行った。 その結果、介入群では仕事に関連する過負荷、ストレス、FOMO、ソーシャルメディア使用への依存が有意に低下した一方で、仕事の満足度、仕事への関与、およびメンタルヘルスは有意に向上したことが明らかになった。ソーシャルメディアの使用時間を減らすことでもたらされるこのような効果は、介入終了から少なくとも1週間は持続し、中にはさらなる改善を示したものもあった。また、介入群の中には、試験終了後も自主的にソーシャルメディアの使用を減らしている人もいた。 研究グループは、ソーシャルメディアの使用時間を減らすことで、試験参加者は自分の仕事をする時間が増え、仕事の負荷が軽減され、注意力が散漫になることも減ったのではないかと推測している。Brailovskaia氏は、「われわれの脳は、タスクから絶えず注意を逸らされるとうまく対処できない。ソーシャルメディアのフィードに追いつくために、仕事を頻繁に中断する人は、集中するのが難しくなり、それが悪い結果をもたらす。さらに、ソーシャルメディアに費やす時間が実生活での同僚との交流を妨げ、それが孤立感を増大させる可能性もある。ソーシャルメディアに費やす時間を減らせば、このような影響を軽減できるかもしれない」と話している。 研究グループはまた、今回の結果は、1日のソーシャルメディアの使用時間を20~30分減らすことで、抑うつ症状が軽減し、メンタルヘルスが改善することを示した先行研究の結果とも一致することを指摘している。Brailovskaia氏は、「ソーシャルメディアに費やす1日当たりの時間の削減は、ビジネスコーチング・トレーニング、メンタルヘルスプログラム、心理療法的介入にも役立つ可能性がある」と述べている。

1942.

ChatGPT、ワクチン忌避に関する質問を正確に処理

 ChatGPTは、ワクチン接種のためらいや安全性に関する質問に対して正確な回答を提供するが、時には不完全な場合もあるとの研究結果が、「Human Vaccines & Immunotherapeutics」に9月3日掲載された。 サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学(スペイン)のAntonio Salas氏らは、ワクチンの安全性に関してインターネット上で流布している50の最も一般的な偽情報、真偽両方の禁忌、俗説についてチャットボットに質問することで、ワクチン接種のためらいに関する意見を生成するChatGPTの能力を検討した。 解析の結果、ほとんどの質問に対して正確な回答が得られ、ほとんどの回答が「優秀(excellent)」または「良い(good)」と評価され、平均スコアは10点満点中9点であった。専門家の総合的な評価では、回答の85.5%は「正確」、14.5%は「正確だが不完全」と判定された。 著者らは、「全体として、ChatGPTはワクチンや予防接種に関する偽情報を検出することができる。現在の形態では、この人工知能が使用する言語は過度に専門的ではなく、一般の人々にも理解しやすいが、科学的な厳密さを犠牲にしないものだ。現在のバージョンのChatGPTは、専門家や科学的エビデンスに取って代わることはできない。しかし、今回の結果は、ChatGPTが一般の人々にとって信頼できる情報源となり得ることを示唆している」と述べている。 なお複数人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

1943.

開発中の外用PDE4阻害薬、アトピー性皮膚炎・尋常性乾癬に有望

 軽症~中等症アトピー性皮膚炎または尋常性乾癬患者において、開発中の外用PDE4阻害薬PF-07038124は、忍容性が良好で有効性に優れることが示された。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のLawrence F. Eichenfield氏らが海外第IIa相無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。アトピー性皮膚炎および尋常性乾癬は、外用治療薬についてアンメットニーズが存在する。外用PF-07038124は、オキサボロール骨格を有するPDE4阻害薬で、T細胞ベースアッセイにおいて免疫調節活性が確認されており、IL-4およびIL-13に対する阻害活性を有している。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年12月20日号掲載の報告。 試験は2020年12月21日~2021年8月18日に、4ヵ国の34施設で行われた(データ解析は2021年12月15日まで)。対象は、軽症~中等症アトピー性皮膚炎(病変が体表面積の5~20%)または尋常性乾癬(体表面積の5~15%)を有する18~70歳の患者とした。対象患者を1対1の割合で、PF-07038124(0.01%外用軟膏)群または溶媒群に無作為に割り付け、1日1回6週間塗布した。 主要エンドポイントは、アトピー性皮膚炎患者についてはEczema Area and Severity Index(EASI)総スコアのベースラインからの変化率、尋常性乾癬患者についてはPsoriasis Area and Severity Index(PASI)スコアのベースラインからの変化で、いずれも6週時点で評価した。安全性は、治療中に発現した有害事象や塗布部位の反応などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・全体で104例が無作為化された(年齢[平均値±標準偏差]:43.0±15.4歳、女性:55例[52.9%]、アジア人:4例[3.8%]、黒人:13例[12.5%]、白人:87例[83.7%])。・内訳は、アトピー性皮膚炎患者70例、尋常性乾癬患者34例であった。・ベースラインの患者背景は、概してバランスが取れていた。・6週時点において、PF-07038124群は溶媒群と比較して、EASI総スコアのベースラインからの変化率(最小二乗平均値:-74.9% vs.-35.5%、群間差:-39.4%[90%信頼区間[CI]:-58.8~-20.1]、p<0.001)が有意に改善した。・同様に、PASIスコアのベースラインからの変化(-4.8 vs.0.1、群間差:-4.9[90%CI:-7.0~-2.8]、p<0.001)もPF-07038124群が有意に改善した。・治療中に有害事象が発現した患者数は、アトピー性皮膚炎患者の治療群間(PF-07038124群9例[25.0%]vs.溶媒群9例[26.5%])、尋常性乾癬患者の治療群間(3例[17.6%]vs.6例[35.3%])のいずれも同等であった。・PF-07038124の塗布部位反応は報告されなかった。

1944.

ガイダンスに基づくオピオイド処方で死亡率が低減/BMJ

 オピオイド使用障害の患者では、「リスク軽減ガイダンス(Risk Mitigation Guidance; RMG)」に基づくオピオイド処方により、過剰摂取による死亡および全死因死亡の発生率が有意に低下し、違法薬物に代わる医薬品の提供は有望な介入策となる可能性があることが、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAmanda Slaunwhite氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年1月10日号で報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビア州の後ろ向きコホート研究 研究グループは、RMGに基づくオピオイド(モルヒネ)および精神刺激薬(デキストロアンフェタミン、メチルフェニデート)の処方が、薬物の過剰摂取と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という公衆衛生上の二重の緊急事態下に、死亡と急性期治療のための受診に及ぼした影響を明らかにする目的で、住民ベースの後ろ向きコホート研究を行った(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成を受けた)。 2020年3月27日~2021年8月31日に、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で、RMG処方としてオピオイド(5,356例、年齢中央値38歳、女性36.4%)または精神刺激薬(1,061例、39歳、38.5%)の処方を受けたオピオイド使用障害または精神刺激薬使用障害の患者5,882例(535例が両方の処方を受けた)を解析に含めた。RMG精神刺激薬処方では予防効果はない 高次元傾向スコアマッチング法による解析では、RMGに基づく1日分以上のオピオイド処方を受けた患者(5,356例)は、同処方を受けていない対照群の患者(5,356例)と比較して、処方日から1週間以内の全死因死亡率(補正後ハザード比[HR]:0.39、95%信頼区間[CI]:0.25~0.60)および過剰摂取関連死亡率(0.45、0.27~0.75)が有意に低かった。 一方、RMGに基づく1日分以上の精神刺激薬処方を受けた患者(1,061例)と、同処方を受けていない対照群の患者(1,061例)の比較では、1週間以内の全死因死亡率(補正後HR:0.50、95%CI:0.20~1.23)および過剰摂取関連死亡率(0.53、0.18~1.56)の低下について、いずれも有意差を認めなかった。 また、RMGオピオイド処方による1週間以内の死亡の予防効果は、特定の週に処方された薬剤の日数が多いほど高くなった。RMGオピオイド処方を4日分以上受けた患者は、対照群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.09、95%CI:0.04~0.21)および過剰摂取関連死亡率(0.11、0.04~0.32)が有意に低下し、いずれも1日分以上の処方よりも優れた。RMG精神刺激薬処方は全原因による急性期受診を抑制 RMGオピオイド処方は、あらゆる要因による急性期治療のための受診(オッズ比[OR]:1.02、95%CI:0.95~1.09)および過剰摂取による急性期治療のための受診(1.09、0.93~1.27)のいずれにも有意な変化をもたらさなかった。 また、RMG精神刺激薬処方は、あらゆる要因による急性期受診(OR:0.82、95%CI:0.72~0.95)を有意に低下させたが、過剰摂取による急性期受診(0.88、0.63~1.23)には影響しなかった。 著者は、「RMG処方を受けた人々の多くは、不安定な住宅事情と貧困の割合が不釣り合いに高いことから、劣悪な健康状態への寄与が示されている重層的で複雑な社会的・経済的な不平等を経験していることが示唆される」としている。

1945.

英語で「(計画は)バッチリだね」は?【1分★医療英語】第114回

第114回 英語で「(計画は)バッチリだね」は?《例文1》That sounds like a plan to me!(私は良いと思います!)《例文2》We’ll meet here at 8 am tomorrow?(明日はここで午前8時に集合でしたっけ?)It sounds like a plan!(そうです!)《解説》今回紹介した“sounds like a plan”を、単語を追いかけて日本語に直訳してしまうと「計画のように聞こえる」となり、意味がよくわからなくなってしまいます。実際には、「その計画は良さそう!」「賛成!」と同意を示す表現です。“plan”の前に“good”や“great”を補うと、意味が見えやすくなるかもしれません。英語の口語表現の中で自然発生的に生まれてきたフレーズといわれており、聞いたことがないとわかりにくいかもしれませんが、米国にいると本当によく耳にするフレーズです。“Sounds good to me.”、“That works for me.”などと言ってもいいところですが、英語は繰り返しを好まない言語なので、同じ意味のフレーズを何通りも覚えておいて損はないでしょう。なお、例文のように、冒頭に“That”や“It”を付けて前に言われた内容を受けたり、最後に“to me”と付けて用いたりすることもできます。“Sounds good.”(いいですね)という表現は皆さんご存じだと思いますが、併せて“Sounds like a plan.”も使えれば、より「こなれた」英語になると思います。ぜひ、マスターしてください。講師紹介

1946.

第198回 吸引して尿を調べるだけの手間いらずな肺がん診断法を開発

吸引して尿を調べるだけの手間いらずな肺がん診断法を開発初期肺がんの検診といえば低線量CT(LDCT)が標準となりつつあり、LDCT検診と肺がん患者の生存改善の関連が臨床試験で裏付けられています。しかしLDCTが普及している低~中所得国は少なく、普及している国であっても誰もが容易にLDCTを受けることができるというわけではありません。それに、本来不要な侵襲的検査を招く偽陽性も少なくはありません。そこで米国・マサチューセッツ工科大学(MIT)のSangeeta N. Bhatia氏らが率いるチームは、LDCTのような大掛かりな装置がなくとも初期肺がんを検出しうる簡便な検査法を開発し、その検査法で初期肺がんを正確に検出しうることをマウスでの検討で裏付けました1)。開発された検査は大きく分けて吸入と尿検査の2つの手順で構成されます。まず微粒子を吸入し、試験紙による尿検査でその微粒子由来の成分を検出します。吸い込む微粒子はポリマーの粒とそれを覆うDNAでできています。肺がんと関連するプロテアーゼによって切り離されたDNAは血中をめぐり、やがては尿中に排泄されて試験紙で検出することができます。初期肺がん(stageIの肺腺がん)と関連するプロテアーゼに対応する20種類の微粒子をヒトのような肺がんを発現するマウスに投与し、得られた測定結果を人工知能技術(機械学習)で解析したところ、最も正確な4種類が同定されました。その4種類の組み合わせの検出感度は84.6%、特異度は100%でした。開発された手段は非侵襲的で体を傷つける必要がなく、まず吸ってもらってしばらくしてから尿を採取するだけで事足ります。センサー役の微粒子は肺全体にくまなく行き届き、吸ってから尿検査までの時間もそれほどかかりません。マウスの検討では投与から2時間後に尿が採取されています。Bhatia氏らのチームはマウスの検討で見つかった4種類の組み合わせがヒトのがんも同様に検出しうるかどうかを、まずはヒトの生検検体を使って調べることを予定しています2)。がんの検出以外の使い道も検討されており、Bhatia氏らは肺炎の原因がウイルス、細菌、真菌のいずれなのかを同技術を利用して識別する取り組みを始めています3)。また、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などのほかの肺疾患の診断にも使えるかもしれません。Bhatia氏らは同技術の臨床試験をやがては実施することを目指していますが、同氏らが開発した似た技術による肝疾患2種・肝がんと非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の診断の検討はすでに臨床試験段階に至っています。ほかでもないBhatia氏を設立者の1人とするSunbird Bio社が第I相試験を実施しています2)。参考1)Zhong Q, et al. Sci Adv. 2024;10:eadj9591.2)Inhalable sensors could enable early lung cancer detection / Eurekalert3)How a Simple Urine Test Could Reveal Early-Stage Lung Cancer / MDedge

1947.

猫はペストを駆逐し、文豪の心を掴んだ、2024年は猫祭りの年だ!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第68回

第68回 猫はペストを駆逐し、文豪の心を掴んだ、2024年は猫祭りの年だ!2024年を迎えました。明けましておめでとうございます。猛威を振るった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も、徐々に制圧されてきました。今年は正常な社会活動を取り戻すことを願っております。2024年に開催される大きなイベントをご存じでしょうか。私が思い浮かべるのは、パリで開催されるオリンピックではなく、「イーペルの猫祭り」です。これは、ベルギーのフランドル地方の街イーペルで3年に1度、5月に開催される祭りです。世界中の猫好きが街を埋め尽くします。猫耳を付けて仮装した子供から大人、世界各地で人気の猫のキャラクターがパレードする様子は楽しげです。私は残念ながら参加したことはなく、近い将来に行進の先頭に立つ日を夢見ております。祭りのクライマックスは、街にそびえる高さ70mの鐘楼から蒔くように投げられる猫のぬいぐるみをゲットすることです。幸福のぬいぐるみといわれています。イーペルの猫祭りのパレードcirdub:CC BY-SA猫の愛好家の方々に正直にお伝えしますが、この祭りは必ずしも猫に対する愛情を表現する場ではなかったのです。鐘楼から猫を投げた行事が祭りの起源とのことです。このような動物虐待に当たる行為が現在は禁止されていることは当然ですが、1817年までは本物の猫が投げられていたとする資料もあるそうです。この祭りの背景には、猫と魔女や魔術との関係があります。中世ヨーロッパでは、魔女狩りと称し無実の人々が死刑に処されました。猫が魔女の手先とみなされ、猫を殺害することで悪霊を祓うという儀式が存在したのです。中世末からルネサンス期のヨーロッパでは、ペスト(黒死病)が大流行し、人口の3分の1が死亡したといわれます。ペストの蔓延は、猫を殺し過ぎたために鼠が大繁殖したことも一因とされています。人々が猫を飼うようになり、ペストの流行も収まったといわれています。鼠を捕まえる猫は、都市の人々を感染症の危機から救ってくれる価値ある存在へと変化しました。このような猫に対する陰と陽の複雑な気持ちが凝縮された祭りが「イーペルの猫祭り」です。ペストのパンデミックから人々を解放した猫をリスペクトして、猫を題材にした文学作品を紹介し、「ケアネットの猫祭り」を開催したいと思います。すべては私の主観によるものです。『源氏物語』紫式部光源氏が41歳のときに、15歳ほど年下の女三の宮を正妻として迎えます。女三の宮のもとで飼われていた猫がじゃれ合って、つないでいた紐が絡まり、外と室内を隔てていた御簾が引き上げられます。当時の貴族の女性には、不用意に男性に顔を見られるということは禁忌ですが、女三の宮は柏木という男性に姿を見られてしまいます。柏木は、女三の宮の美しい姿に恋心を募らせ密通に及びます。ありがちな源氏物語のドロドロです。その後、女三の宮は柏木の子を出産し、光源氏は他人の子を我が子として抱くのです。このような大事件を引き起こす大役を猫に与える紫式部のセンスの良さが光ります。このように、最古の恋愛長編小説にも猫は登場します。現代の文豪にも愛される理由ですね。『吾輩は猫である』夏目 漱石誰もが最初に思い浮かべる猫の文学はこれです。漱石自身がモデルである英語教師の主人が飼うのが「吾輩」です。猫による人間観察の視点で書かれた本書は、時を経ても常に新鮮です。一番有名なのは、新潮文庫から出版されている文庫本です。昭和36年刊行で、123刷、200万部超の金字塔です。『吾輩も猫である』赤川 次郎・新井 素子・石田 衣良・荻原 浩・恩田 陸・原田 マハ・村山 由佳・山内 マリコ先に『吾輩は猫である』を紹介したのは、この『吾輩も猫である』を紹介したかったからです。夏目 漱石没後100年&生誕150年記念で企画された新潮文庫です。8人の超人気作家による猫アンソロジーです。アンソロジーとは、同一の主題の下にまとめられた諸作家の選集を意味します。猫好き作家陣が『吾輩は猫である』を模しながらも超越しようと挑む作品集です。「ねね、ちょっと、私だって猫なんですけどぉ~。名前はまだ無いんですけどぉ~」といった感じです。各々が短編で読みやすいです。電車に乗ると、乗客全員がスマホの画面を凝視している様子に不気味さを感じることはありませんか? その車内で文庫本のページをめくる貴方は素敵です。その場面で手にするのに相応しい一冊です。『100万回生きたねこ』佐野 洋子100万回死んで、生き返って、いろんな飼い主に愛された猫の話の絵本です。「死ぬのなんか平気だった」がキーフレーズです。野良猫となり自由を得て、自分が愛したシロ猫に愛された猫は、再び生き返ることはなかったのです。さまざまな人生の苦労を体験した大人には意味深いストーリーですが、この内容をしみじみと語り感動する子供は少し怖いかもしれません。この本を幼少期に読むことよりも、この本の良さを理解できる大人に成長することを願います。この本のタイトルを、『100万回死んだねこ』と間違って記憶している人が多いので注意しましょう。本書をモチーフとして、13名の著名な作家により執筆された『100万分の1回のねこ』が、講談社文庫から出版されています。これも一読に値します。『What's Michael?』小林 まこと踊る猫・マイケルを主人公にした漫画です。この本を読んでいない猫好きは、バイブルを手にしたことのないキリスト教徒のごときです。「ワッツ マイケル?」ではなく、「ホワッツ マイケル?」と発声することによって通を装うことが可能となります。何巻も続くのですが、第1巻の第1話で、マイケルがマンションの高層階から転落死するのは驚きです。ゾンビの如く復活することは当然です。マイケルが、何かを失敗した時に誤魔化すように踊る姿は秀逸です。『猫と庄造と二人のをんな』谷崎 潤一郎猫を溺愛している愚かな男である庄造、猫に嫉妬し追い出そうとする庄造の妻の福子、男への未練から猫を引き取って男の心をつなぎとめようとする庄造の元妻の品子、この3人の複雑な人間関係を描いた作品です。三者三様の痴態を通じて、猫の小悪魔的な魅力が伝わります。晩年に、溺愛していたペルシャ猫「ペル」を亡くし、剥製にして残し書斎に置いていた話は有名です。兵庫県芦屋市にある谷崎潤一郎記念館に、私もこの剥製を見学にいきました。自分には真似できない世界だと感じました。谷崎 潤一郎が雌猫しか飼わず、猫よりも魅力的な女性に出会ったことがないと語る領域は一線を越えていると感じます。文化勲章受章者たりうるには常識を超越することが必要なのでしょう。この原稿を書いた後の、2024年1月1日に能登半島地震が発生しました。地震とその関連の事故によって犠牲になられたすべての方々にお悔やみを申し上げます。私の実家は石川県金沢市ですが、幸いにも被害はありませんでした。私にも能登地域に多くの知人がおります。被災者の方々に心よりお見舞い申し上げ、皆さまの安全と1日も早い復興をお祈りしております。

1948.

妊娠高血圧腎症予防のCa補充、低用量vs.高用量/NEJM

 妊娠中のカルシウム補充について、低用量(500mg/日)は高用量(1,500mg/日)に対し、妊娠高血圧腎症のリスクに関して非劣性を示したことが、インドとタンザニアでそれぞれ行われた無作為化試験の結果で示された。また、早産のリスクに関して、インドの試験では非劣性であったが、タンザニアの試験では同様の所見は示されなかったという。インド・St. John's Research InstituteのPratibha Dwarkanath氏らが報告した。世界保健機関(WHO)は、妊娠高血圧腎症のリスク軽減のため、食事からのカルシウム摂取量が少ない住民集団の妊婦に対して、1日1,500~2,000mgのカルシウムを3回に分けて補充するよう推奨している。しかし、服薬アドヒアランスへの懸念と複雑な投与計画に伴う高コストのプログラムのために、現状では高用量カルシウム補充を実施している国は数ヵ国にとどまるという。NEJM誌2024年1月11日号掲載の報告。インド、タンザニアで各1.1万例を対象に無作為化試験 研究グループは、妊娠中の低用量カルシウム補充の有効性と安全性に関する先行研究(対高用量、対プラセボ)の結果を踏まえ、妊娠高血圧腎症と早産の発生率に関して、低用量補充と高用量補充の有効性は同等であるとの仮説を立て検証試験を行った。インドとタンザニアでそれぞれ独立した無作為化試験を行い、カルシウム補充500mg/日群の同1,500mg/日群に対する非劣性を評価した。 各試験の主要アウトカムは、妊娠高血圧腎症と早産で、相対リスクに関する非劣性マージンを妊娠高血圧腎症は1.54、早産は1.16とした。 インドの試験では、2018年11月~2022年2月に女性3万3,449例がスクリーニングを受け、妊婦1万1,000例(500mg/日群5,497例、1,500mg/日群5,503例)が登録された。タンザニアの試験では、2019年3月~2022年3月に女性4万5,186例がスクリーニングを受け、妊婦1万1,000例(5,503例、5,497例)が登録された。妊娠高血圧腎症について低用量群の非劣性を確認 妊娠高血圧腎症の累積発生率は、インドの試験では500mg/日群3.0%、1,500mg/日群3.6%(相対リスク:0.84、95%信頼区間[CI]:0.68~1.03)、タンザニアの試験では500mg/日群3.0%、1,500mg/日群2.7%(相対リスク:1.10、95%CI:0.88~1.36)であり、両試験で低用量群の非劣性が確認された。 早産の割合は、インドの試験では500mg/日群11.4%、1,500mg/日群12.8%(相対リスク:0.89、95%CI:0.80~0.98)で、非劣性のマージン(1.16)以内であったが、タンザニアの試験では500mg/日群10.4%、1,500mg/日群9.7%(相対リスク:1.07、95%CI:0.95~1.21)で、非劣性マージンを超えていた。

1949.

周産期うつ病、家族要因を問わず死亡リスク増大/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のNaela Hagatulah氏らは、同国の全国規模の住民ベース適合コホート試験の結果、周産期うつ病と診断された女性では、家族的要因を考慮してもとくに診断直後の1年間の自殺による死亡リスクが増加していたことを報告した。周産期うつ病は、妊娠に伴い最もよくみられる合併症の1つで、出産前後の女性の罹患率は最大で20%と報告されている。産後精神障害(精神病性障害、感情障害、不安障害など)を有する女性は、それらの影響を受けなかった女性や一般の女性集団と比べて死亡リスクが高いことが報告されているが、産前を含む周産期うつ病との関連についてエビデンスは限定的であった。また、家族内で共有する要因が周産期うつ病や自殺による死亡リスクの増加に寄与する可能性も指摘されているが、検討された試験データはなかった。著者は今回の結果を踏まえて、「周産期うつの影響を受けた女性、その家族、医療従事者は、これら周産期うつ病後の重大な健康リスクを認識する必要がある」と提言している。BMJ誌2024年1月10日号掲載の報告。スウェーデンで行われた追跡期間18年間のコホート試験 研究グループは、周産期うつ病を発症した女性は、発症していない女性、および実の姉妹と比較して、死亡リスクの上昇が認められるかを調べるため、スウェーデンの全国規模の健康レジスターを活用して、国民ベースの適合コホート試験を行った。姉妹の比較のために共有する家族の交絡因子の調節も行った。 レジスターの対象期間は2001年1月1日~2018年12月31日。対象被験者は、出産時の年齢と暦年で適合し特定した初めて周産期うつ病と診断され、専門的ケアと抗うつ薬の投与を受けた女性8万6,551人と、周産期うつ病に罹患しなかった女性86万5,510人であった。家族の交絡因子を調節するため、対象期間中に1人以上の単児出産をした実の姉妹27万586人(周産期うつ病罹患女性2万4,473人、非罹患の実姉妹24万6,113人)との比較も行われた。 主要アウトカムは、あらゆる要因による死亡。副次アウトカムは、死因別の死亡(すなわち、不自然および自然な死因)とした。 多変量Cox回帰法を用いて、交絡因子を考慮し、周産期うつ病の罹患女性と非罹患女性および姉妹を比較した死亡ハザード比を推算。周産期うつ病の経時的パターン、周産期うつ病発症の産前と産後の違いも検討した。死亡リスクは2.11倍、産後うつ発症者でリスクが高い 最長18年間の追跡調査において、周産期うつ病と診断された女性522人の死亡(1,000人年当たり0.82人)が報告された(年齢中央値31.0歳[四分位範囲[IQR]:27.0~35.0])。 周産期うつ病を罹患した女性は、非罹患女性と比較して死亡リスクの増大と関連していた(補正後ハザード比[HR]:2.11(95%信頼区間[CI]:1.86~2.40)。同様の関連は、精神障害の既往ありの女性となしの女性の間でも報告された。また、死亡リスクは、うつ病発症が産後の場合のほうが、産前の場合よりも高かった(HR:2.71[95%CI:2.26~3.26] vs.1.62[1.34~1.94])。姉妹間の比較においても、周産期うつ病について同様の関連性が認められた(2.12[1.16~3.88])。 関連性は、周産期うつ病発症後1年以内に最も顕著であり、追跡調査開始後18年間にわたり継続していた。 周産期うつ病の女性において、死亡リスクの増加は、死因を問わず関連が認められ(不自然な死因のHR:4.28[95%CI:3.44~5.32] vs.自然な死因のHR:1.38[95%CI:1.16~1.64])、その中で自殺の件数は少なかったが(1,000人年当たり0.23)、関連性は最も強かった(6.34[4.62~8.71])。

1950.

不規則な入眠覚醒サイクルは認知症リスクを上昇させる?

 入眠と覚醒のサイクルがひどく不規則な人では、より規則的な人に比べて認知症の発症リスクが高い可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。モナシュ大学(オーストラリア)のMatthew Pase氏らによるこの研究結果は、「Neurology」1月23日号に発表された。 Pase氏は、「健康的な睡眠に関する推奨では、1日7~9時間の睡眠時間を確保することばかりに重点が置かれ、規則正しい睡眠スケジュールを維持することはあまり重視されていない」と指摘。「われわれの研究結果は、認知症リスクを回避するために規則正しい睡眠が重要な要素となることを示唆するものだ」と同大学のニュースリリースで述べている。 この研究では、UKバイオバンク参加者8万8,094人(平均年齢62歳、女性56%)を対象に、睡眠の規則性(毎日の入眠覚醒サイクルの一貫性)と認知症発症との関連が検討された。Pase氏らは、参加者が手首に装着するタイプのデバイスで7日にわたって測定した睡眠サイクルの測定値から睡眠規則性指数(sleep regularity index;SRI)を算出した。SRIは毎日の入眠覚醒サイクルの一貫性を示すもので、100であれば毎日の入眠と覚醒が同じ時間であることを、逆に0であれば入眠と覚醒の時間が常に異なることを意味する。睡眠の規則性が最も乱れている人(SRIスコアの5パーセンタイルに位置する人)の平均スコアは41点、最も規則正しい人(SRIスコアの95パーセンタイルに位置する人)の平均スコアは71点、スコアの中央値は60点であった。 中央値7.2年におよぶ追跡期間中に480人が認知症を発症した。解析の結果、SRIが5パーセンタイルの人では、SRIが中央値の人に比べて認知症発症のハザード比が1.53(95%信頼区間1.24〜1.89)であり、認知症リスクの増加が認められた。一方、SRIが95パーセンタイルの人でもハザード比が1.16(同0.89〜1.50)であり、認知症リスクは低下していなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、「この結果は、規則正しい入眠覚醒サイクルの便益を得るために、機械のような規則正しさは必要ではないことを意味するものだ」との見方を示している。ただし、この研究では、不規則な睡眠スケジュールと認知症のリスク増大との関連が示されたに過ぎない点に注意が必要だ。 Pase氏は、「不規則な入眠覚醒サイクルは、効果的な睡眠健康の教育に行動療法を組み合わせることで改善できる。今回の知見に基づけば、睡眠スケジュールが乱れている人は、睡眠の規則性を、非常に高いレベルではなく平均的なレベルにまで改善することで、認知症予防の効果を得られる可能性がある。この結果を今後の研究で確認する必要がある」と話している。

1951.

母親と子どもの誕生月が同じことが多いのはなぜ?

 フランスとスペインの1000万件以上の分娩データを解析した結果、親と子などの肉親の誕生月は特定の月に集中し、また、親と子の間だけでなくきょうだい間でも誕生月が同じケースは、想定されるよりも多いことが明らかになった。アルカラ大学(スペイン)の疫学者であるAdela Recio Alcaide氏らによるこの研究の詳細は、「Population Studies」に12月13日掲載された。 Alcaide氏らは、スペインの1980〜1983年(210万1,497件)と2016〜2019年(151万817件)の全出生データと、フランスの2000〜2003年(322万1,741件)と2010〜2013年(319万9,344件)の全出生データを収集して分析した。出生データには、親や最も年齢が近いきょうだいのデータも含まれていた。 どこの国にも、1年のうちの特定の時期に出生数が増える傾向がある。これは「出生の季節性」と呼ばれる。しかし、Alcaide氏らが母親の誕生月に基づいてデータをグループ化したところ、予想されたパターンとは異なるパターンが示された。例えば、1月生まれの母親の子どもは1月生まれが多く、2月生まれの母親の子どもは2月生まれが多いという具合に、母親と子どもの誕生月が同じである傾向が認められたのだ。スペインとフランスの両国において、母親と子どもの誕生月が同じケースは、母親の誕生月ごとの総出生数に基づいて予想される出生数よりも4.6%多かった。また、父親と子どもの誕生月が同じケースは2.0%、きょうだい間で誕生月が同じケースは12.1%、父親と母親の誕生月が同じケースは4.4%、それぞれ予想よりも多いことも示された。 Alcaide氏は、「なぜ、家族は同じ季節に生まれる確率が高いのだろうか。その答えとして、社会的な理由と生物学的な理由の両方が考えられると思われる」と話す。例えば、経歴が似ている人たちはカップルになりやすく、また、同じ時期に子どもを持つ傾向があるのだという。実際に、スペインでは、高学歴の女性は、高い学歴を持たない女性に比べて春に出産する確率が高いと研究グループは説明する。そして、その女性の子どもが女の子である場合、その子も春生まれで、母親と同じように高いレベルの教育を受け、将来的には春に出産する可能性が高いのだという。研究グループはさらに、母親と娘は、生殖能力に影響を与え得る環境要因への曝露も共有していると指摘する。例えば、食料の供給量、日光曝露、気温や湿度などがそうした要因に該当する。 こうしたことを踏まえ、論文の共著者である米ニューヨーク市立大学の社会疫学者Luisa Borrell氏は、「生物学的要因への曝露レベルは社会集団によりさまざまであることを考慮すると、出産の季節性に影響することが知られている生物学的要因は、社会人口統計学的特性にも左右されていると言えるだろう」と話している。

1952.

耳かきによる外耳道がん、利き手側に多い【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第249回

耳かきによる外耳道がん、利き手側に多いUnsplashより使用耳かきをし過ぎると、外耳道がんのリスクが上昇するということが知られています。右利きの人は、右耳を重点的に掃除しやすく、左利きの人は左耳を重点的に掃除しやすいそうです。確かに、利き腕側の穴のほうがきれいに掃除できる気がする…。ホジホジ。ということは、利き腕側に外耳道がんが発生しやすいということでしょうか。それを調べた研究を紹介しましょう。Tsunoda A, et al. Right dominance in the incidence of external auditory canal squamous cell carcinoma in the Japanese population: Does handedness affect carcinogenesis?Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2017 Feb;2(1):19-22.この後ろ向き観察研究は、68例の外耳道がん(扁平上皮がん)を登録し、左右どちらの耳に発がんしたのかを観察した後ろ向き研究です。全体としては、52例が右側、16例が左側の外耳道がんだったのですが、利き腕と耳かきの習慣については、34例のみで情報収集可能でした。34例の利き手に関しては、29例が右利き、4例が左利き、1例が両利きという結果でした。右利き29例中27例および両利き1例では右側にがんが発生し、左利き3例では左側にがんが発生しました(表)。表. 外耳道がん発生の詳細(文献より引用)すなわち、ほとんどの症例が自分の利き手と同じ側に外耳道がんを発症しており、統計学的に有意差があったと記載されています。耳かきは、とくに日本でポピュラーな習慣ですが、実は今から3千年以上前の、河南省安陽の殷墟婦好墓から、耳かきが2本出土していることが耳かき界ではよく知られていることです。クセになって外耳道がんのリスクが上がるというのは困ったものですね。個人的には毎日やらないよう、注意しています。

1953.

第194回 医師の善意が被災者の誤解に?~災害処方箋のケース

令和6年能登半島地震の発生からすでに2週間以上が経過した。しかし、現地は今も混乱が続いていることは、多くの人がニュースで知っていることだろう。実は私はこの1週間、金沢市に滞在していた。被災地である能登半島での取材を考えて現地入りしたのだが、これほど苦労する現場はほかになかったと言ってもよい。結論から言うと、能登半島そのものに入ることはあたわずだった。とにかく足場が悪すぎたのである。金沢にいてもそれなりに情報が入る。それによると主要幹線道路である国道249号線は今も道路状況が悪い。いわんや、その周辺道路となるとさらに不安定だ。「余震の時に急停止したら脇の丘から軽い土砂崩れが起きた」とか「一夜明けたら昨日にはなかった倒木が道路を遮っていた」などの話はよく耳にした。この状況下でペーパードライバーである私が運転をするのはリスクが高過ぎる。たまたま県外から現地入りしていた友人が、レンタカーを調達できれば、代わりに運転して輪島市や珠洲市まで連れて行くと申し出てくれたが、そもそも彼の予定が取れる日に金沢市内はおろか石川県内全域、富山県高岡市まで含め、調達できるレンタカーは皆無だった。また、この間に現地支援に入っている知人がいる志賀町の拠点に入れれば、そこからは車で随行できる可能性も生まれた。ただ、公共交通機関が使えるのはその20km手前まで。友人が出発する早朝に間に合わせるためには公共交通機関の最終便で向かい、そこから夜通し歩くしかなかった。ちなみに「徒歩20kmは無理だろう」という人がいるかもしれないが、私の普段の万歩計の歩数は、ジムでのトレッドミルの利用も含め2万歩強(14km強)である。東日本大震災時は1日合計で徒歩15kmなどは日常的だった。さらに言えば、将来起こるとされている東海地震(いわば南海トラフ地震)発生を念頭に、2003年に都内から徒歩で取材に向かう想定で静岡駅まで歩いたことがある(当時は30代)。都内の自宅を朝6時に出て、朝と昼はカロリーメイトを歩いて食べながら、3日後の午後7時過ぎに静岡駅に着いた(今はこれよりは明らかに時間がかかるだろう)。しかし、今回は天候も悪過ぎた。ここ1週間の石川県内が晴れたのはたった2日間のみ。それ以外は冷たい雨か吹雪に見舞われた。普段は真冬でも都内では素肌の上にTシャツ、スリーシーズン用ジャケットの私でも耐え難い寒さだった(ちなみに冬期の札幌への短期出張程度なら同じ格好で赴く)。もちろんこれに備えてダウンジャケットは持参(着用はしていない)していたが、それでも悪天候、低気温、悪路、街灯も少ないところを不眠不休で徒歩移動した後の取材はリスクが高い。これも断念せざるを得なかった。その意味で今回の取材は能登半島入りという点では完敗だった。ただ、一見しただけならばいつもの金沢市内も、よく見ていると、さまざまなところで地震の影響が見て取れた。まず、当初は2泊3日のホテル予約で現地入りしたが、その後は空室の確保に苦労した。石川県による2次避難者向けのホテル・旅館の確保が始まったうえに、復興作業関係者の金沢入りも本格化し、急激に空室が減っていったからである。金沢駅を中心に明らかに復興・支援関係者と思われる装備をした人をよく見かけた。そんな彼らに何気なくかつさりげなく(相手がそう思っているかはわからない)話しかけたり、閉庁直前に行政にコンタクトを取ったりすると、多様な情報が一定程度は入ってくる。それらの情報は医療関連以外のものもかなり多いのだが、医療に関する情報で「ああ、その点はね」と思うものがあった。何かというと、「災害処方箋」のことだ。ほとんどの医療従事者は知識として災害処方箋のことは知っていると思う。災害救助法に基づくもので、DMATなど医療チームが避難所の救護所や巡回診療など、保険医療機関以外で薬剤を処方する際に交付される処方箋である。これに基づく調剤は救護所、近隣で機能している保険薬局、あるいは日本薬剤師会が今回現地へ派遣したモバイルファーマシーなどで行われる。災害処方箋に伴う調剤・薬剤費用は全額自治体が負担する。あくまで災害時の一時避難的措置のため、保険診療による通常の処方箋発行が全面的に機能するまでの繋ぎである。ちょうど今の能登半島の被災地は、まさに災害処方箋から保険診療の処方箋への移行時期、端的に言って両者が混在する時期である。こうなるとややドタバタが起こる。たとえば、今回の被災地域は高齢者が多い。国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の地域別将来推計人口」(2023年推計)によると、能登半島の4市5町の2020年の高齢化率(65歳以上人口率)は、最低の中能登町ですら37.2%。最大は災害関連死も含め死者が最も多い珠洲市の51.4%である。しかも、避難所の環境はあまり良いとは言えない。現地入りした支援関係者によると、日中に暖房を使用していても、一部の被災者が寒さを感じ、常に毛布をまとっている避難所もあるという。そうなると危惧されるのが、災害関連死である。2016年の熊本地震では、地震による直接死の4倍超の災害関連死が発生したこともあり、この点は報道も含め盛んに警鐘が鳴らされている。石川県の発表によると、1月17日午後2時現在までに確認された死者232人のうち、自治体が災害関連死と判断した事例は14人。当然、医療者も警戒レベルを上げる。このため災害関連死リスクが高い基礎疾患を有する高齢者に対しては、なるべく基礎疾患のコントロールを安定化させようと、原則は1週間処方とされる災害処方箋で、医師が慢性疾患治療薬を30日を超えて処方するケースも散見されるという。これは何とも言い難い事例と言える。しかも、現在の石川県の場合、災害関連死を防ごうと、県が能登半島内の1次避難所にいる被災者を半島外の金沢市などにある1.5次避難所や2次避難所への移送を進めている。1次避難所で診察する医師は、移送先の避難所の状況が必ずしもわからないため、善意でこうした処方が増えがちになる。しかしながら、災害処方箋の本来の目的や医療の正常化の面から考えると、こうした処方はやや逸脱したものだ。しかも、災害処方箋による処方・調剤料金を全額負担する自治体側は、なるべく災害処方箋での処方そのものを最小化したいはずである。薬局側も現在も続く医薬品不足下では、保険診療の処方箋でも30日超の処方は、時に在庫の取り揃えに悩まされる。さらにいえば災害処方箋による調剤の場合、薬局は通常の技術料は請求できず、県市町村との取り決めによる手数料が支払われるが、これは平時の平均的な技術料と比べると安価。経営的にも悩ましい。一方、災害処方箋に基づく処方の場合、被災者は一切の自己負担が要らない。このため、過去の自然災害では被災者の一部が「病院が復旧していても、避難所で薬をもらえばタダになる」と誤解し、避難所にいる医師に長期処方をお願いするケースもあったことを私は耳にしている。誤解と書いたのは、ここでは釈迦に説法だが、災害救助法適用地域では時限的に保険診療も自己負担が生じないからである。そしてこうした誤解は、今回の能登地域でもごく一部であるらしい。避難所内は口コミ情報の浸透度が早く、たとえ公的通知が掲示されていたとしても、一度広がった誤解を解くには時間を要する。このように災害処方箋1つとっても、県、市町村、現地医療機関・薬局、支援医療チーム、被災者の思惑と法制度、さらに現状が複雑に絡み合い、悩ましい事態が起こり得る。そもそも災害による被災状況に定型があるとは言えない以上、こうしたことが発生してしまうのはやむを得ない。これをすっきり解決する公式もない。能登半島入りを果たせなかった以上に、こうした何とも言えない状況によるモヤモヤに支配されたまま、私は金沢を後にしたのである。

1954.

日本人双極性障害外来患者における離婚の予測因子

 双極性障害は、躁状態とうつ状態を繰り返すことを特徴とする精神疾患であり、社会的障害を引き起こすことが知られている。さらに、双極性障害は、離婚や家族のサポートを失うリスクを高め、予後を悪化させる可能性が明らかとなっている。しかし、リアルワールドにおける双極性障害患者の離婚の予測因子に関するエビデンスは限られている。獨協医科大学の徳満 敬大氏らは、日本人双極性障害患者における離婚の予測因子を特定するため、調査を行った。その結果から、日本人双極性障害患者における離婚の予測因子として、ベースライン時の年齢が若い、BMIが低いことが特定された。Annals of General Psychiatry誌2023年12月12日号の報告。 日本精神神経科診療所協会の会員クリニック176施設の精神科医を対象に、観察アプローチ研究を実施した。医療記録のレトロスペクティブレビューを実施し、双極性障害と診断された患者に焦点を当てたアンケート調査を行った。2017年9月~10月に、ベースライン時の患者の特徴に関するデータを収集した。さらに、ベースラインから2019年9月~10月までの2年間の離婚率を調査した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、双極性障害外来患者1,071例。・2年間の離婚率は、2.8%(1,071例中30例)であった。・双極性障害患者の離婚率は、一般的な日本人の離婚率よりも非常に高かった。・二項ロジスティック回帰分析では、すべての対象患者における離婚の予測因子は、ベースライン時の年齢が若い、BMIが低いことが統計学的に有意であると確認された。・離婚の予測因子について性別ごとに評価したところ、男性患者における統計学的に有意な離婚の予測因子は、ベースライン時の年齢が若い、双極II型障害よりも双極I型障害である点であった。・女性患者における有意な離婚の予測因子は、BMIが低い、抗不安薬の使用であった。 著者らは「双極性障害患者における離婚の予測因子は、男女間で大きく異なることが明らかとなった。本発見は、実臨床現場における双極性障害患者に対する社会的サポートを検討する際、家族の観点から重要なポイントを提供するものである」とまとめている。

1955.

外科手技に着想を得たレシピ集公開/ゲティンゲ

 ゲティンゲは1月11日付のプレスリリースにて、外科手技に着想を得た「The Heart Surgeon's Cookbook―心臓血管外科医のレシピ集―」の公開を発表した。この料理本は心臓血管外科・胸部外科医のNirav Patel氏とニューヨークのミシュラン二つ星レストランAskaの創設オーナーFredrik Berselius氏のコラボレーションによるもので、本書を通じ、心臓血管外科医のスキルの高さに焦点を当て、心臓血管外科における人材育成の課題を啓発することを目的としている。 料理本に含まれる9つのレシピでは、外科医の手技やメンタルコントロールの向上効果を狙った手術室外で取り組める意外性と遊び心のある訓練法が提案されている。各レシピは、精緻な切開、狭い箇所への注入、縫合、解剖、反復など、繊細な手先の動きと集中力を試す内容となっている。

1956.

口腔健康状態が誤嚥性肺炎の入院期間に影響/東京医科歯科大

 誤嚥性肺炎などでは、転帰に患者の口腔健康状態が関係することがよく知られている。それでは、その影響がさらにどのように作用するのであろうか。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の山口 浩平氏らの研究グループは、誤嚥性肺炎高齢患者の入院時口腔健康状態が院内転帰に及ぼす影響を前向きコホート研究で実施し、結果を報告した。口腔健康状態の悪い患者の入院期間は長くなる可能性があるというものだった。European Geriatric Medicine誌オンライン版2024年1月12日号の報告。誤嚥性肺炎では口腔内の健康状態も重要 高齢の誤嚥性肺炎患者で、入院時の口腔衛生状態が入院中の転帰に及ぼす影響と、入院中に口腔衛生状態がどのように変化するかを調査した。 対象は、誤嚥性肺炎と診断され急性期病院に入院した65歳以上の患者であった。患者の基本的健康情報、入院期間(LOS)、口腔健康評価ツール(OHAT)、機能的口腔摂取尺度(FOIS)、肺炎重症度指数および臨床的虚弱度尺度スコアを記録した。患者をOHATスコアの中央値に基づいて2群に分け、群間変化を時間関数として解析し、LOS、退院時のFOISスコア、入院時のOHATスコアの関係を重回帰分析にて検討した。 主な結果は以下のとおり。・89例(52例が男性、平均年齢84.8±7.9歳)のうち75例が退院した。・口腔衛生状態はOHATによる初回評価後3週間にわたり毎週測定され、スコアの中央値は7点で、有意な群間差が認められた。・OHATスコアは両群とも入院期間を通じて改善した。・入院時のOHATスコアは、LOSと独立して関連していた(B=5.51、p=0.009)。 山口氏は「入院時の口腔衛生状態の不良は入院期間の延長と関連していた。高OHAT群と低OHAT群の両方でOHATスコアの改善が認められた。口腔健康状態は、誤嚥性肺炎の発症予防および治療において重要」と結論付けている。

1957.

ATTR心アミロイドーシス、acoramidisが予後を改善/NEJM

 トランスサイレチン型(ATTR)心アミロイドーシス患者において、acoramidisの投与により、全死因死亡、心血管関連入院および心機能と身体機能の要素を含む4段階の階層的主要アウトカムがプラセボより有意に改善し、有害事象は両群で類似していた。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJulian D. Gillmore氏らが、第III相無作為化二重盲検比較試験「Efficacy and Safety of AG10 in Subjects with Transthyretin Amyloid Cardiomyopathy:ATTRibute-CM試験」の結果を報告した。ATTR心アミロイドーシスは、単量体がミスフォールドされたトランスサイレチン(TTR)の心臓への蓄積が特徴である。acoramidisは四量体TTRの解離を阻害する高親和性TTR安定化薬で、ex vivoでは異なる投与間隔の全体で90%以上の安定化をもたらし、第II相試験で有効性が確認されていた。NEJM誌2024年1月11日号掲載の報告。4つのアウトカムを階層的に解析しacoramidisとプラセボを比較 研究グループは、ATTR心アミロイドーシスと確定され臨床的心不全を有する18歳以上90歳未満の患者を、acoramidis群(acoramidis hydrochloride 800mgを1日2回投与)またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、30ヵ月間投与した。 主要有効性解析対象集団は、推定糸球体濾過量(eGFR)30mL/分/1.73m2以上の患者。4段階の階層的主要アウトカムは、全死因死亡、心血管関連入院、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)値のベースラインからの変化量、6分間歩行距離のベースラインからの変化量とし、Finkelstein-Schoenfeld法を用いて階層的に解析を行い、各層内のすべての患者をペアワイズ法により比較した。重要な副次アウトカムは、全死因死亡、6分間歩行距離、カンザスシティ心筋症質問票の全体サマリーのスコア、血清TTR値とした。acoramidis群で、全死亡、心血管関連入院、NT-proBNP、6分間歩行距離が有意に改善 2019年4月~2020年10月に、計632例が無作為化され(acoramidis群421例、プラセボ群211例)、主要有効性解析対象集団は611例(それぞれ409例、202例)であった。 主要アウトカムは、4段階の階層的解析においてacoramidis群がプラセボ群よりも有意に良好であることが示された(p<0.001、Finkelstein-Schoenfeld検定)。ペアワイズ比較の63.7%がacoramidisを支持、35.9%がプラセボを支持し、win比は1.8(95%信頼区間[CI]:1.4~2.2)であった。 全死因死亡と心血管関連入院を合わせると、勝ち負けの半分以上(全ペアワイズ比較の58.0%)が勝率に寄与し、4つの項目のうちNT-proBNPのペアワイズ比較でwin/loss比が最も高かった(23.3% vs.7.0%)。 すべての有害事象の発現率はacoramidis群98.1%、プラセボ群97.6%で類似しており、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ54.6%および64.9%であった。

1958.

公平な再入院を達成している病院の特徴は?/JAMA

 公平性は医療の質の本質的な領域である。米国・コロンビア大学のKatherine A. Nash氏らは、米国のメディケア・メディケイドの運営主体Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS)が開発した臨床アウトカムの公平性を評価する2つのDisparity Methodsを用いた研究を行い、公平な再入院を達成している病院は少数派であり、公平な再入院が行われていない病院とは明らかに異なる特徴が認められることを明らかにした。具体的には、公平な再入院が行われている病院では黒人患者の数が少なかったという。著者は、「従来型のアウトカム評価では、黒人患者の受け入れが少ない病院に報酬を与える可能性があり、病院レベルでの不公平さが構造的人種差別の役割を強化する可能性がある」とし、「公平な再入院を実現するには、リスクのある患者の病院間の分布に、ばらつきがあることを考慮しなければならない」と述べ、不公平を助長しない慎重な政策設計の必要性を提言している。JAMA誌2024年1月9日号掲載の報告。CMS Disparity Methodsを使用し再入院の公平性を保険および人種に関して評価 研究グループは2018年7月~2019年6月に、メディケアデータを用いて、CMS Hospital-Wide Readmission指標が適格な米国の病院を対象に横断研究を実施した。 まず、CMS Disparity Methodsを用い、公平な再入院を実施している病院を特定した。CMS Disparity Methodsは、格差リスクのある集団のアウトカムを病院間で比較する全病院法と、病院の患者集団内でのケアの格差を比較する単一病院内法の2つの方法で病院を評価するもの。本研究では保険(メディケイドとメディケアの二重適格受給者vs.非二重適格受給者)、ならびに人種(黒人vs.白人)に関する再入院率を比較し、それぞれの方法で閾値を満たした病院を公平な再入院を実施している病院とした。 次に、公平な再入院を実施している病院と実施していない病院について、病院の特徴ならびに病院の実績に関する3つの外部指標である質、コスト、価値を比較した。Hospital Care Compareの評価が4または5を「質が高い」、受給者1人当たりのCMSメディケア支出スコアが全病院中下位5分の1である場合を「低コスト」、高品質と低コストの両方の基準を満たした場合に「高価値」と定義した。公平な再入院が実施されている施設は黒人患者の割合が低い CMS Disparity Methodsの評価対象病院4,638施設のうち、保険に関するDisparity Methodsの対象(十分な数の二重適格受給者を診療している)は3,414施設(74%)、人種に関するDisparity Methodsの対象(十分な数の黒人患者を診療している)は1,962施設(42%)であった。 公平な再入院を実施している病院に分類されたのは、3,414施設中592施設(17%)、および1,962施設中596施設(30%)であった。 保険または人種に関して公平な再入院を実施している病院は、公平でない病院と比較し、黒人患者の割合が低く(保険別:中央値1.9%[四分位範囲[IQR]:0.2~8.8]vs.3.3%[0.7~10.8]、p<0.01、人種別:7.6%[3.2~16.6]vs.9.3%[4.0~19.0]、p=0.01)、そのほか複数の領域で差がみられた(非教育施設の割合が高く、都会の病院が多く、病床数が0~99床の割合が高い、いずれもp<0.01)。 また、低コストの病院は、二重適格受給者に対して公平な再入院を提供する可能性が高く(オッズ比[OR]:1.57、95%信頼区間[CI]:1.38~1.77)、質が高い病院は黒人に対して公平な再入院を提供する可能性が高かった(OR:1.14、95%CI:1.03~1.26)。

1959.

スマートウォッチが子どもの隠れた不整脈を検出

 Connor Heinzさんは12歳のときから動悸を感じるようになったが、医師はその原因究明に苦慮していた。Connorさんが装着していた心臓のモニタリングデバイスは使い心地が悪く、また、不整脈が起こる頻度は数カ月間に1回程度だったため、問題を特定することが難しかったのだ。Connorさんの心臓の問題が何なのか、主治医には見当がついていたが、それを確かめたいと考えていた。そこで主治医は、Connorさんに母親のスマートウォッチを付けてもらうことにした。研究グループによると、小児の心疾患の診断に役立てることを目的としたスマートウォッチの使用は、心臓専門医の間で急速に普及しつつあるという。 研究グループが、米スタンフォード・メディシン・チルドレンズ・ヘルスの2018~2022年の医療記録データを分析したところ、スマートウォッチ(Apple Watch)を使用した18歳以下の小児145人中41人(平均年齢13.8±3.2歳)で不整脈が検出されていた。このうち18人についてはスマートウォッチを使用して心電図データが収集され、また23人が心拍数の上昇を知らせるスマートウォッチの通知を受け取っていた。スマートウォッチからの情報を受け取った医師が行った精密検査により、29人(71%)で不整脈の新規診断に至っていた。そのうち10人(29%)については、従来の方法では検出できなかった不整脈がスマートウォッチにより診断できていた。この分析結果は、「Communications Medicine」に12月13日掲載された。 論文の上席著者である、スタンフォード・メディシンのScott Ceresnak氏は、「標準的なモニタリングでは検出されなかったがスマートウォッチで検出された不整脈の多さに驚いた。新しい技術によって患者のためにできるケアに違いが生まれていることを目の当たりにするのは、素晴らしいことだ」と言う。 Ceresnak氏はConnorさんの主治医で、Connorさんもこの研究の対象となった小児患者の一人だった。Connorさんの母親であるAmy Heinzさんは、「バスケットボールのトライアウトで彼はまた発作を起こしました。私は息子の腕にスマートウォッチを装着し、心拍データのキャプチャをCeresnak先生にメールで送信しました」と振り返る。 Ceresnak氏はConnorさんの心臓の問題は上室性頻拍ではないかと疑っていたが、スマートウォッチから得られた情報によって、それが確認された。上室性頻拍とは心臓に異常な電気回路が存在するために心臓のリズムが異常に速くなる不整脈の一種である。Ceresnak氏によると、研究の対象となった小児のほとんどがConnorさんと同じタイプの不整脈だったという。 Ceresnak氏は、「こうした不整脈は生命を脅かすものではないが、問題となることはあるし、子どもに恐い思いをさせる。そのため、ウェアラブルデバイスによって不整脈の正体を突き止めることができるのは大きな支援となる」話している。 不整脈は、心臓の異常な電気信号の発生部位を破壊するカテーテルアブレーションと呼ばれる治療法で治癒に導くことができる。Connorさんもカテーテルアブレーションを受け、15歳になった現在、カリフォルニア州メンローパークの高校のバスケットボールチームで活躍している。 ただ、既存のスマートウォッチのアルゴリズムは成人の心臓パターンに基づいており、成人よりも心拍が速く、成人とは異なるタイプの異常なリズムを経験する小児に最適化されたものではない。Ceresnak氏らは、「今回の研究結果は、小児の不整脈の検出における既存のスマートウォッチ技術の有用性とともに、小児向けの心臓モニタリングのアルゴリズムを開発することの価値を示したものでもある」と説明している。

1960.

医療安全講習会「護身術/危機管理」【Dr. 中島の 新・徒然草】(512)

五百十二の段 医療安全講習会「護身術/危機管理」1月といえば徐々に日が長くなる一方、寒さがますます厳しくなる時期です。私は毎朝のように車のフロントガラスの凍結に苦しめられていますが、全国的にみれば大阪はまだマシなほうなんでしょうね。さて、先日の大阪医療センターでの医療安全講習会は「護身術/危機管理」というものでした。なんと、私がときどき見ているYouTubeチャンネル「ガチタマTV」の田村 忠嗣氏(元 警察機動戦術部隊RATS)と長田 賢治氏(元 陸上自衛隊特殊作戦群)のお2人が講師でした。任意研修でありながら、有名なユーチューバーを生で見れるチャンスということで、大勢の職員が集まりました。さて、講習会での講師からのメッセージはたった1つ。「危ない奴がいたらとにかく逃げろ、隠れろ、戦うな!」あらゆる格闘技に通じているお2人ですが、知らないオッサンが道で誰かに殴られていても介入しないそうです。「相手が何人いてどんな凶器を持っているかわからないですから」というのがその理由。確かに刃物を持っている相手に素手で立ち向かうのは無謀というものです。素知らぬ顔で警察に通報するのが一番得策なのでしょう。が、時にはどうしても戦わざるを得ない状況になることもありえます。そんな場合にはどうしたら良いのか。数えきれないほどいろいろな手段が紹介されていましたが、これは実用的だと記憶に残っているのが2つありました。1つはフラッシュライトです。普段は通常のライトとして使えるのですが、ボタンの押し方によっては強力な光が点滅して一時的に相手の視力を奪うことができるというもの。そもそも単なるライトなので、ポケットに入れていても診察室の机の上に置いてあっても、何の違和感もありません。もう1つはベルト。単なる衣服の一部ですが、うまく使うと強力な武器になるそうです。講習会ではムチのように振ってキックミットを打つところが実演されましたが、恐ろしい音がしました。まともに食らうと骨が折れることもあるのだとか。危ないですね。ということで、誰がどういう経緯で招いたのか、ユーチューバーを囲んでの医療安全講習会。思いがけず盛況の1時間半でした。最後に1句新春や ライトとベルトで 盛り上がり

検索結果 合計:11806件 表示位置:1941 - 1960