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浸潤性乳がん患者へのタキサン系+アントラサイクリン系ベース化学療法後の生存率の予測モデルを開発

米国Nuvera Biosciences社のChristos Hatzis氏らは、浸潤性乳がん患者へのタキサン系+アントラサイクリン系ベース化学療法に対する反応性を、遺伝子発現様式で予測するモデルを開発した。同モデルとエストロゲン受容体(ER)の陽性・陰性を組み合わせることで、生存率について8~9割の確率で予測することができたという。JAMA誌2011年5月11日号で発表した。浸潤性乳がん310人を基にモデル開発、198人を対象に検証研究グループは、2000年6月~2010年3月にかけて、多施設共同前向き試験を行った。被験者は、新たに浸潤性乳がんの診断を受けたERBB2(HER2またはHER2/neu)陰性の患者で、タキサン系+アントラサイクリン系ベースの化学療法の治療を受けた310人だった。ER陽性の場合には、化学療法と併せて内分泌療法を行った。被験者グループを基に、遺伝子発現様式によるタキサン系+アントラサイクリン系ベース化学療法感受性の予測モデルを作り、独立評価群(198人)で生存率や病理学的反応などについての予測能を検証した。なお、独立評価群の99%が臨床ステージ2または3だった。治療感受性群の遠隔無再発生存率は92%結果、独立評価群のうち、同モデルで治療感受性と予測された人は28%で、そのうち病理学的反応が非常に良好である確率は56%(95%信頼区間:31~78)、遠隔無再発生存率は92%(同:85~100)、絶対リスク減少は18%(同:6~28)だった。被験者でER陽性のうち同モデルで治療感受性と予測されたのは30%で、遠隔無再発生存率は97%(同:91~100)、絶対リスク減少は11%(同:0.1~21)だった。一方ER陰性のうち治療感受性と予測されたのは26%で、遠隔無再発生存率は83%(同:68~100)、絶対リスク減少は26%(同:4~48)だった。また、化学療法への反応性が予測された患者は、その他の遺伝子予測因子によって逆説的に生存率が悪いことが示された。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

10902.

安定狭心症患者へのPCI前と退院時の至適薬物治療実施率、COURAGE試験発表後も微増にとどまる

COURAGE試験では、安定狭心症患者に対する、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)実施前の至適薬物治療(OMT)の妥当性を示したが、同試験発表前後のPCI前・退院時のOMT実施率を比べた結果、微増にとどまっていたことが明らかになった。米国・コーネル大学Weill Cornell医学校のWilliam B. Borden氏らが、47万人弱の安定冠動脈疾患患者を対象に行った観察研究の結果明らかにしたもので、JAMA誌2011年5月11日号で発表した。被験者全体のPCI前OMT実施率は44.2%、退院時実施率は65.0%同研究グループは、2005年9月から2009年6月にかけて、PCIを実施した安定冠動脈疾患患者、46万7,211人について観察研究を行った。主要評価項目は、COURAGE(Clinical Outcomes Utilizing Revascularization and Aggressive Drug Evaluation)試験発表前後の、PCI前と退院時のOMT実施率だった。なおCOURAGE試験は、安定冠動脈疾患患者を対象に、OMTのみと、OMTとPCIの併用について、その臨床アウトカムを比較した無作為化試験。同試験の結果から、生存率や心筋梗塞発症率に両群で有意差が認められず、すなわちPCI前の積極的なOMTの妥当性が示されていた。今回のBorden氏らによる試験の結果、被験者全体でPCI前のOMT実施率は44.2%(95%信頼区間:44.1~44.4)、退院時のOMT実施率は65.0%(同:64.9~65.2)だった(p<0.001)。PCI前OMT実施率は1.2ポイント増、退院時実施率は2.5ポイント増COURAGE試験の前後で比較してみると、同試験発表前の被験者17万3,416人のうち、PCI前にOMTを実施していたのは7万5,381人(43.5%、同:43.2~43.7)だったのに対し、同試験発表後の被験者29万3,795人中では13万1,188人(44.7%、同:44.5~44.8)であり、1.2ポイント増だった(p<0.001)。またPCI後の退院時OMT実施率も、COURAGE試験前63.5%(同:63.3~63.7)に対し、同試験後は66.0%(同:65.8~66.1)で、2.5ポイント増(p<0.001)と変化は微増だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

10903.

急性虫垂炎に対する抗生物質治療 vs. 切除術

単純性急性虫垂炎の治療におけるアモキシシリン+クラブラン酸による抗生物質治療の効果は、緊急虫垂切除術よりも劣っており、現在でもgold standardは虫垂切除術であることが、フランス・アントワーヌ・ベクレール病院のCorinne Vons氏らの検討で明らかとなった。急性虫垂炎は、急性の腹痛で入院した患者の中で手術を要する頻度が最も高い疾患だという。4つの無作為化試験をはじめいくつかの検討で、単純性急性虫垂炎は抗生物質治療で治癒が可能であり、1次治療となる可能性もあることが示唆されている。Lancet誌2011年5月7日号掲載の報告。抗生物質治療の虫垂切除術に対する非劣性試験研究グループは、単純性急性虫垂炎の治療における抗生物質治療(アモキシシリン+クラブラン酸)の緊急虫垂切除術に対する非劣性を検証する非盲検無作為化試験を実施した。2004年3月11日~2007年1月16日までに、フランスの6つの大学病院からCT検査で診断された18~68歳の単純性急性虫垂炎患者が登録された。これらの患者が、アモキシシリン+クラブラン酸(体重90kg未満:3g/日、90kg以上:4g/日)を8~15日間投与する群あるいは緊急虫垂切除術を施行する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、介入後30日以内の腹膜炎の発生率とした。主要評価項目:8% vs. 2%243例が登録され、123例が抗生物質治療群に、120例は虫垂切除術群に割り付けられた。介入前に早期脱落した4例を除外した239例(抗生物質治療群120例、虫垂切除術群119例)がintention-to-treat解析の対象となった。30日以内の腹膜炎の発生率は、抗生物質治療群が8%(9/120例)と、虫垂切除術群の2%(2/119例)に比べ有意に高かった(治療群間差:5.8例、95%信頼区間:0.3~12.1)。虫垂切除術群では、事前にCT検査による評価を行ったにもかかわらず、予想外にも手術時に119例中21例(18%)が腹膜炎を伴う複雑性虫垂炎であることが判明した。抗生物質治療群120例のうち14例(12%、95%信頼区間:7.1~18.6)が30日以内に虫垂切除術を施行され、この14例と30日以内に追跡を中止した4例を除く102例のうち30例(29%、同:21.4~38.9)が30日~1年までの間に虫垂切除術を受けた。前者のうち急性虫垂炎であったのは13例(再発率:11%、同:6.4~17.7)、後者では26例であった(同:25%、18.0~34.7)。著者は、「急性虫垂炎の治療におけるアモキシシリン+クラブラン酸による抗生物質治療の緊急虫垂切除術に対する非劣性は確認されなかった。現在でも、緊急虫垂切除術は単純性急性虫垂炎の治療のgold standardである」と結論し、「CT検査に関する予測マーカーが同定されれば、抗生物質治療が有効な患者の選出が可能になるかもしれない」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

10904.

非保護左冠動脈主幹部狭窄症患者に対するPCI vs. CABG

 韓国・峨山病院心臓研究所のSeung-Jung Park氏らによる、非保護左冠動脈主幹部狭窄症患者を対象とした無作為化試験の結果、シロリムス溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の重大心臓・脳血管イベント発生に関して、冠動脈バイパス術(CABG)に対する非劣性が証明されたとの報告が発表された。ただし「設定した非劣性マージンが広く、臨床への指示的な結果とみなすことはできないものである」と補足している。本試験「PRECOMBAT」は、非保護左冠動脈主幹部狭窄症へのPCIが徐々に増えているが、CABGも治療の選択肢とみなされるのではないかとして行われた。NEJM誌2011年5月5日号(オンライン版2011年4月4日)掲載より。600例の被験者を無作為化、PCIの非劣性マージンは絶対差7ポイントと設定 PRECOMBAT試験は、韓国厚生省委託のもと13施設で行われた前向き非盲検無作為化試験。18歳以上の安定狭心症、不安定狭心症、無症候性心筋虚血または非ST上昇型心筋梗塞の診断を受け、新規に50%以上の非保護左冠動脈主幹部狭窄症が認められた患者が適格とされた。 2004年4月~2009年8月の間に登録された1,454例のうち600例の被験者が無作為に、シロリムス溶出ステントを用いたPCI群(300例)かCABG群(300例)に割り付けられた。 主要エンドポイントは、1年時点の重大有害心臓・脳血管イベントの複合(全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中と虚血性標的血管血行再建)とし、副次エンドポイントは、主要エンドポイント項目(死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合)とステント血栓症とした。 非劣性マージンは、1年時点の重大有害心臓・脳血管イベントのCABG群発生は13%とみなし絶対差7ポイントまでとした。 解析は、1年時点のイベント発生率が予想を下回ったので2年時点の比較も行われた。1年時点絶対差2.0ポイント、2年時点でもPCIの非劣性が認められたが…… 結果、主要エンドポイントは、PCI群26例(累積発生率8.7%)、CABG群(6.7%)でリスクの絶対差は2.0ポイント(95%信頼区間:-1.6~5.6、非劣性P=0.01)だった。 2年時点の主要エンドポイント発生は、PCI群36例(12.2%)、CABG群24例(8.1%)で、PCI群のハザード比は1.50(95%信頼区間:0.90~2.52、P=0.12)だった。また、2年時点の死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合発生は、PCI群13例(4.4%)、CABG群14例(4.7%)、PCI群のハザード比は0.92(95%信頼区間:0.43~1.96、P=0.83)であり、虚血性標的血管血行再建は、PCI群26例(9.0%)、CABG群12例(4.2%)、PCI群のハザード比2.18(95%信頼区間:1.10~4.32、P=0.02)だった。 Park氏は「PCIのCABGに対する非劣性が示された。しかし非劣性マージンが広く、臨床への指示的な結果とみなすことはできない」と結論している。

10905.

STEMI患者、エビデンス治療の導入率増加に伴い死亡率低下

1996~2007年にかけて、ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者に対するエビデンスに基づく治療の導入率が上がるに従い、院内死亡率や30日・1年死亡率が低下していたことが明らかにされた。スウェーデン・カロリンスカ大学病院循環器部門のTomas Jernberg氏らが、同期間にSTEMIの診断を受け治療・転帰などを追跡された「RIKS-HIA」研究登録患者6万人超について調査し明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月27日号で発表した。エビデンスベースやガイドライン推奨の新しい治療の実施状況や実生活レベルへの回復生存との関連についての情報は限られている。再灌流、PCI、血行再建術の実施率、いずれも増大研究グループは、1つの国で12年間以上追跡された連続患者の新しい治療導入率と短期・長期生存との関連を明らかにすることを目的に、1996~2007年にかけて、スウェーデンの病院で初めてSTEMIの診断を受け、基線特徴、治療、アウトカムについて記録された「RIKS-HIA(Register of Information and Knowledge about Swedish Heart Intensive Care Admission)」の参加者6万1,238人について、薬物療法、侵襲性処置、死亡の割合を推定し評価した。被験者の年齢中央値は、1996~1997年の71歳から、2006~2007年の69歳へと徐々に若年化していた。男女比は試験期間中を通じて有意な変化はなく、女性が34~35%であった。エビデンスベースの治療導入率は、再灌流が66%から79%へ、プライマリ経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が12%から61%へ、血行再建術は10%から84%へと、いずれも有意に増加した(いずれもp<0.001)。スタチンやACEなどの薬剤投与率も増大、死亡率は院内・30日・1年ともに低下薬剤投与についても、アスピリン、クロピドグレル、β遮断薬、スタチン、ACE阻害薬の投与率がいずれも増加していた。具体的には、クロピドグレルは0%から82%へ、スタチンは23%から83%へ、ACE阻害薬もしくはARBは39%から69%へと、それぞれ投与率が増加した(いずれもp<0.001)。同期間の推定死亡率についてみてみると、院内死亡率は12.5%から7.2%へ、30日死亡率は15.0%から8.6%へ、1年死亡率は21.0%から13.3%へと、それぞれ有意な低下が認められた(いずれもp<0.001)。補正後、長期にわたる標準死亡率の一貫した低下傾向も認められ、12年生存解析の結果、死亡率は経年的に低下していることが確認された。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

10906.

3年ごとの前立腺がん検診、前立腺がん死を抑制せず:スウェーデンの20年追跡調査

3年ごとに4回の前立腺がん検診を行い、20年に及ぶ長期のフォローアップを実施した結果、検診群の前立腺がん死亡率は対照群と差がないことが、スウェーデンKarolinska研究所のGabriel Sandblom氏らの調査で明らかとなった。北欧では、最近、前立腺がん治療においては待機療法(watchful waiting)よりも根治的前立腺全摘除術の予後が良好なことが示され、特に前立腺特異抗原(PSA)検査による早期発見に関する議論が活発化している。早期発見を目的とする検診の短期的なベネフィットについては、前立腺がん死の抑制効果が示唆される一方で、過剰診断や過剰治療のリスクが増大するなど、これを疑問視する知見が得られているが、長期的なフォローアップを行った試験はないという。BMJ誌2011年4月23日号(オンライン版2011年3月31日号)掲載の報告。1987年に50~69歳の約1,500人を3年ごとに4回スクリーニング、2008年まで追跡研究グループは、前立腺がんの対策型検診(population-based screening)による前立腺がん死の抑制効果を検討する地域住民ベースの無作為化対照比較試験を実施した。対象は、1987年にスウェーデンのノーショーピング市に居住していた50~69歳の男性9,026人。このうち生年月日リストから6人ごとに選ばれた1,494人が検診群に割り付けられ、1987~1996年まで3年ごとに前立腺がん検診を受けるよう勧められた。残りの7,532人は非検診群(対照群)としてフォローアップが行われた。試験開始時はPSA検査導入前であったため、2回目の検診までは直腸指診のみが行われ、1993年以降はPSA検査が併用された(カットオフ値:4μg/L)。4回目の検診(1996年)は、この時点で69歳以下の男性(1927~37年生まれ)のみが受診を勧められた。スウェーデン南東地域の前立腺がん登録から腫瘍の病期、悪性度、治療のデータを収集し、2008年12月31日までの前立腺がんによる死亡率を算出した。前立腺がん診断率:5.7% vs. 3.9%、前立腺がん特異的死亡率:35% vs. 45%1987~1996年の4回の検診受診率は、第1回(1987年)が78%(1,161/1,492人)、第2回(1990年)が70%(957/1,363人)、第3回(1993年)が74%(895/1,210人)、第4回(1996年)は74%(446/606人)であった。前立腺がんと診断されたのは、検診群が5.7%(85/1,494人)、対照群は3.9%(292/7,532人)であった。検診群の前立腺がん患者のうち、検診で発見されたのは43人(2.9%)、検診と検診の間にみつかった中間期がん(interval cancer)は42人(2.58%)であった。前立腺がん診断例の前立腺がん特異的死亡率は検診群が35%(30/85人)、対照群は45%(130/292人)であり、前立腺がん死以外の死亡も含む全体の死亡率はそれぞれ81%(69/85人)、86%(252/292人)であった。前立腺がん特異的生存期間は、検診群201ヵ月、対照群133ヵ月であった。前立腺がん死のリスク比は1.16(95%信頼区間:0.78~1.73)であり、有意な差は認めなかった。Kaplan-Meier法による解析では、前立腺がん診断例の前立腺がん特異的死亡率および全体の死亡率は、検診群と対照群で同等であった(log-rank検定:それぞれ、p=0.065、p=0.14)。Cox比例ハザード解析によるハザード比は1.23(同:0.94~1.62、p=0.13)であり有意差はみられなかったが、試験開始時年齢で調整したハザード比は1.58(同:1.06~2.36、p=0.024)と有意な差が認められた。著者は、「フォローアップ期間20年における検診群と対照群の男性の前立腺がんによる死亡率に有意な差は認めなかった」と結論し、「任意型検診(opportunistic screening)がほとんど行われていない集団を対象とした無作為化対照比較試験において、検診群で前立腺がんが多くみつかり、患者は両群とも同じ施設で管理されたにもかかわらず、前立腺がん死亡率に差を認めなかったことは、検診によって、死亡率に影響を及ぼさない進行の遅い腫瘍が多く発見されたと考えられ、過剰診断や過剰治療の可能性が示唆される」「本試験は、明確な結論を提示するには集団の規模が十分とはいえないが、前立腺がん特異的死亡率の差を示すには十分な検出能を持つと考えられる」と考察している。(菅野守:医学ライター)

10907.

妊婦へのベタメタゾン投与、早産児の呼吸器障害を低減せず:ブラジルの調査

妊娠期間34~36週の妊婦に対する出産前のコルチコステロイド投与は、新生児の呼吸器障害の発生を抑制しないことが、ブラジルInstituto de Medicina Integral Professor Fernando FigueiraのAna Maria Feitosa Porto氏らの調査で示された。妊娠後期の早産児は呼吸器障害の頻度が満期出産児に比べて高く、酸素吸入や換気補助、集中治療のための入院を要するリスクが高い。そこで、特に妊娠期間34週以前の新生児肺の成熟促進を目的に、妊婦に対する出産前コルチコステロイド投与が行われてきたが、妊娠期間34~36週の早産児でも、特に一過性多呼吸の発生リスクが高いという。BMJ誌2011年4月16日号(オンライン版2011年4月12日号)掲載の報告。早産児呼吸器障害の予防効果を無作為化試験で評価研究グループは、妊娠期間34~36週で出生した早産児の呼吸器障害の予防における、出産前の妊婦に対するコルチコステロイド投与の有効性を検討する三重盲検無作為化試験を実施した。2008年4月~2010年6月までに、ブラジル北東部の大規模3次教育病院(Instituto de Medicina Integral Professor Fernando Figueira)を受診した切迫早産のリスクを有する妊娠34~36週の女性が登録された。これらの妊婦が、プラセボ群あるいはベタメタゾン(商品名:リンデロン)12mgを2日連続で筋注する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は新生児の呼吸器障害(呼吸窮迫症候群、一過性多呼吸)の発生率とし、副次的評価項目は換気補助、新生児罹病率、在院期間とした。いずれの評価項目も両群で同等320人の妊婦が登録され、ベタメタゾン群に163人が、プラセボ群には157例が無作為に割り付けられた。最終解析の対象となった新生児は、それぞれ143人、130人であった。呼吸窮迫症候群の頻度は両群ともに低く[ベタメタゾン群:1.4%(2/143人) vs. プラセボ群:0.8%(1/130人)、p=0.54]、一過性多呼吸は両群ともに高頻度であった[24%(34/143人) vs. 22%(29/130人)、p=0.77]が、いずれも有意差は認めなかった。妊娠期間の長さのサブグループで調整後も、ベタメタゾンの使用は呼吸器障害罹病率のリスクを低減しなかった(調整後リスク:1.12、95%信頼区間:0.74~1.70)。換気補助の施行率はベタメタゾン群が20%(28/143人)、プラセボ群は19%(24/130人)であり、両群で同等であった(p=0.81)。新生児罹病率はそれぞれ62%(88/143人)、72%(93/130人)であり(p=0.08)、在院期間は5.12日、5.22日(p=0.87)と、いずれも両群間に有意な差はみられなかった。光線療法を要する新生児黄疸の頻度は、ベタメタゾンの投与を受けた妊婦の子どものほうが有意に低かった(リスク比:0.63、95%信頼区間:0.44~0.91、p=0.01)。著者は、「妊娠期間34~36週の妊婦に対する出産前コルチコステロイド投与は、早産児の呼吸器障害の発生率を低減しない」と結論し、「現在、US National Institute of Child Health and Human Development (NICHD)により、2,800人の早産リスクのある妊婦を対象に出産前ステロイド投与の臨床試験が進行中で、2013年に最終解析が予定されており、この結果が報告されるまでは、早産児の呼吸器障害の予防を目的としたコルチコステロイドのルーチンな使用は正当化されない」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

10908.

食塩摂取や肥満などの環境因子が遺伝子を変え、塩分感受性高血圧を発症する ―東大 藤田氏らが世界に先駆けて解明―

食塩や肥満などの環境因子が食塩排泄性遺伝子WNK4遺伝子の転写活性を抑制し、高血圧を生じることを藤田敏郎氏らの研究チームが世界で初めて明らかにした。この研究結果は4月17日、米国の科学雑誌「Nature Medicine」のオンライン版に掲載された。本研究は「エピジェネティクス」と呼ばれる新しい研究分野で、「遺伝子配列は変えずに後天的な作用により遺伝子の形質変異によって疾病がもたらされる」という研究結果を、環境因子の影響が強い生活習慣病の発症においてエピジェネティクスとの関与を解明したのは世界で初めて。以下、藤田氏とディスカッションした内容より、今回の研究結果の科学的な意義をまとめる。ゲノムを解き明かせばすべてがわかる?2003年4月にヒトゲノムプロジェクトの終了が宣言された。ヒトゲノムプロジェクトは、DNAの台本をすべて読み解くという画期的な情報をもたらしたが、いざそれを疾病の遺伝的要因に関連づけようとすると、DNAの書き損じによって説明できる疾病はほんの一握りであった。「ゲノムを解き明かせばすべてがわかる」と思いきや、ヒトゲノムの解読はエピジェネティクスの入り口でしかなかった。環境因子による遺伝子の形質変化が疾病をもたらす! ―エピジェネティクス―米国ではヒトゲノムプロジェクト終了後、「エピジェネティクス」という遺伝学に研究費の使途がいち早くシフトした。エピジェネティクスとは、後天的な修飾により遺伝子発現が制御されることに起因する遺伝学あるいは分子生物学の研究分野である。すなわち、エピジェネティクスは「食塩摂取、肥満、ストレスなどの環境因子が、遺伝子の配列ではなく、形質変異をもたらすことで、疾病を発症する」という概念を基盤としている。現在、形質変異には次の2種が知られている。 1.DNA塩基のメチル化による遺伝子発現の変化2.ヒストンの化学修飾による遺伝子発現の変化(ヒストンのメチル化、アセチル化、リン酸化など)エピジェネティクスはがん研究分野で花盛り「エピジェネティクス」は、これまでがん治療においてさかんに研究され、すでに治療に応用されている疾患もある。骨髄異形性症候群は、がん抑制遺伝子がメチル化されその働きを失うというエピジェネテイックな異常によって生じる。5-アザシチジンはDNAメチルトランスフェラーゼの阻害因子であり、2011年3月にわが国でも発売された。また、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤ボリノスタットは2006年にFDAに認可され、皮膚T細胞性リンパ腫や他のがんの治療薬として使われている(本邦承認申請中)。塩分の過剰摂取によって発症する高血圧では、遺伝子レベルで何が起こっているのか?話は高血圧に戻る。塩分の過剰摂取が高血圧をきたすことは古くから知られている。しかし、塩分に対する血圧の反応性は個人差があり、塩分摂取によって血圧が鋭敏に上昇する塩分感受性者と、そうでない者が存在する。血圧の塩分感受性は遺伝的素因によって規定されるが、環境因子の影響も受ける。たとえば、肥満やメタボリックシンドロームを有する者は、塩分感受性者であることが多いと報告されている。これらの塩分感受性高血圧患者では食塩摂取によって交感神経活性が亢進し、ナトリウム排泄が低下し、ナトリウムが体内に貯留することで血圧が上昇すると考えられている。一方、治療抵抗性高血圧患者の腎交感神経アブレーションによって30mmHg以上の有意な降圧効果が認められた無作為化試験の結果が2010年12月にLancet誌に発表された。腎交感神経の活性化は本態性高血圧の重要な病因であり、その除神経によって治療効果が認められている。しかし、なぜ、腎臓における交感神経活性の亢進が、ナトリウム排泄を低下させ、血圧を上昇させるのかについての詳細は解き明かされていなかった。今回、藤田氏らの研究グループは、交感神経活性の亢進によって活性化されるβ2アドレナリン作動性受容体による刺激が、ヒストンのアセチル化を引き起こし、塩分排泄関連遺伝子「WNK4遺伝子」の発現を抑制することを発見した。WNK4遺伝子は腎臓の遠位尿細管のNa-Cl共輸送体(NCC)活性を抑制し、ナトリウム排泄を促すことは知られているため、WNK4遺伝子が抑制されることでナトリウムは体内に貯留する。藤田氏らの研究によると、下記のメカニズムによって、交感神経活性の亢進がWNK4遺伝子の発現を抑制すると説明できる。 1.食塩摂取によって交感神経活性が亢進すると、ノルアドレナリンが放出され、β2アドレナリン作動性受容体が活性化される。2.この刺激によってヒストン脱アセチル化酵素(HDAC8)がリン酸化し、ヒストンの脱アセチル化が阻害され、ヒストンアセチル化がもたらされる。3.ヒストンアセチル化によってネガティブ糖質コルチコイド認識配列(nGRE)が刺激されると、nGREに遺伝子調節蛋白が作用しやすくなり、WNK4遺伝子の転写を抑制する。通常、ヒストンアセチル化は遺伝子の転写活性を促進させるが、WNK4遺伝子の場合は抑制されていた。この謎を解明するのに研究グループは1.5年の歳月を費やしたという。研究グループはWNK4遺伝子の上流にあるプロモーター領域に、nGREが発現していることを発見した。nGREがヒストンアセチル化によって刺激されることで、nGREに遺伝子調節蛋白が作用しやすくなり、転写を抑制し、結果としてWNK4遺伝子を抑制することを見出した。この研究結果は、腎臓学の側面から塩分過剰摂取による高血圧発症の新たな分子機構を解明したことに新規性があるだけでなく、遺伝学的な側面において、生活習慣病において食塩や肥満などの環境因子が塩分排泄性遺伝子WNK4遺伝子の転写活性を変えるという「エピジェネティクス」が関与しているということを世界で初めて発見したことに大きな成果があるといえる。ヒストン修飾薬によって塩分感受性高血圧症の治癒も夢ではない「基礎と臨床を繋ぐことが私たちの役目の一つでもある」と藤田氏は言う。塩分感受性の高血圧症では遺伝子レベルでヒストンのアセチル化が起こり、それがナトリウム排泄を促進させるWNK4遺伝子を抑制するのであれば、ヒストンのアセチル化を阻害する「ヒストン修飾薬」を創薬のターゲットとすれば良い。既に藤田氏らは、ラットに同薬を投与したところ、WNK4遺伝子の発現が抑制され、動脈圧が有意に低下した結果を得ている。「このヒストン修飾が塩分貯留に特異的であるかはさらなる研究が必要であるが、ヒストン修飾薬によって塩分感受性高血圧症の治癒も夢ではない」と、藤田氏はヒストン修飾薬の開発によって高血圧治療を一変させることに大いなる期待を抱く。(ケアネット 藤原 健次)

10909.

高所得国の死産予防で優先すべきリスク因子が明らかに

高所得国の死産予防では、効果的な介入を優先すべき修正可能なリスク因子として妊婦の過体重/肥満、高齢出産、妊娠時の喫煙などが重要なことが、オーストラリアMater Medical Research InstituteのVicki Flenady氏らの調査で明らかにされた。高所得国では、1940年代以降、死産数が著明に減少したが、最近20年間はほとんど改善されていないことが示されている。死産のリスク因子の研究は増加しているものの、予防において優先すべき因子の同定には困難な問題も残るという。Lancet誌2011年4月16日号(オンライン版2011年4月14日号)掲載の報告。5つの高所得国のデータを解析研究グループは、高所得国の死産の予防において、有効な介入を優先的に進めるべき項目を同定するために系統的なレビューを行い、メタ解析を実施した。データベースを検索して、死産のリスク因子を検討した地域住民ベースの試験を選出した。ライフスタイルへの介入や医学的介入による改善の可能性を基準に、報告頻度の高い因子を同定した。高所得国の中でも死産数が多く、解析に要するデータをすべて備えた5ヵ国のデータを用いて、修正可能なリスク因子に起因する死産の数を算定し、人口寄与リスク(PAR)を算出した。効果的な介入法を認識してその実践を促進することが重要6,963試験中、13の高所得国から報告された96の地域住民ベースの試験(アメリカ29件、スウェーデン16件、カナダ9件、オーストラリア12件、イギリス9件、デンマーク6件、ベルギー5件、ノルウェー3件、イタリア2件、ドイツ2件、スコットランド1件、ニュージーランド1件、スペイン1件)が選出された。そのうち76試験がコホート試験(前向き試験6件、後ろ向き試験70件)、20試験が症例対照試験であった。文献のレビューにより、死産の修正可能なリスク因子として、妊婦の体重、喫煙、年齢、初産、胎内発育遅延、胎盤早期剥離、糖尿病、高血圧が示された。死産の修正可能リスク因子の最上位は妊婦の過体重/肥満(BMI>25kg/m2)であり、5ヵ国(オーストラリア、カナダ、アメリカ、イギリス、オランダ)のPARは7.7~17.6%、高所得国全体の妊娠期間≧22週の予防可能な年間死産数は8,064件であった。次いで、出産年齢≧35歳の高齢出産(5ヵ国のPAR:7.5~11.1%、全体の年間死産数:4,226件)、妊娠時の喫煙(同:3.9~7.1、2,852件)の順であった。5ヵ国の高所得国の中でも、先住民など恵まれない状況に置かれた集団では、死産した妊婦における喫煙のPARは約20%と高い値であった。また、5ヵ国の死産のPARの約15%を初産婦が占めた。胎内発育遅延のPARは23%、胎盤早期剥離のPARも15%と高値を示し、死産において胎盤の病理が重要な役割を担っていることが浮き彫りとなった。糖尿病と高血圧も死産の重要な原因であった。著者は、「高所得国における死産の予防では、過体重、肥満、出産年齢、喫煙などの修正可能なリスク因子に対する効果的な介入法を認識し、その実践を促進することが優先事項である」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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プライマリ・ケアにおける肥満に有効な薬物療法のエビデンス:CONQUER試験

診察室ベースのライフスタイル介入にphentermine+トピラマート療法を併用するアプローチは、プライマリ・ケア医が施行し得る肥満に有用な治療法となる可能性があることが、アメリカ・デューク大学医療センターのKishore M Gadde氏らの検討で示された。肥満は寿命を短縮し、心血管疾患やがんなどによる死亡率を上昇させるとともに、2型糖尿病の約90%が過体重に起因し、肥満者における高血圧の頻度は正常体重者の5~6倍に達するとされる。中枢性ノルエピネフリン放出薬であるphentermineはアメリカでは抗肥満薬として広く用いられ、抗てんかん薬トピラマートは単剤で2型糖尿病や高血圧を有する肥満者に対する体重減少効果が確認されているが、用量依存性に神経精神関連の有害事象がみられるという。Lancet誌2011年4月16日号(オンライン版2011年4月11日号)掲載の報告。2つの用量とプラセボを比較する第III相試験CONQUER試験の研究グループは、2つ以上のリスク因子を有する過体重あるいは肥満者を対象に、体重減少や代謝リスクの低減を目的とした食事療法やライフスタイル変容の補助療法としてのphentermine+トピラマート療法の有効性と安全性を評価するプラセボ対照無作為化第III相試験を実施した。2007年11月1日~2009年6月30日までにアメリカの93施設から、18~70歳の過体重あるいは肥満者(BMI 27~45kg/m2)で、高血圧、脂質異常、糖尿病/糖尿病前症、腹部肥満のうち2つ以上の併存症がみられる者が登録された。これらの患者が、プラセボ群、phentermine 7.5mg+トピラマート 46.0mgを1日1回経口投与する群(低用量群)、あるいはphentermine 15.0mg+トピラマート92.0mgを1日1回経口投与する群(高用量群)に、2:1:2の割合で無作為化に割り付けられ、56週の治療が行われた。主治医、患者、試験資金の出資者には治療割り付け情報はマスクされた。主要評価項目は、体重の変化率および5%以上の体重減少の達成者率とし、intention-to-treat解析を行った。体重減少:1.4 vs. 8.1 vs. 10.2kg、5%体重減少率:21 vs. 62 vs. 70%2007年11月1日~2009年6月30日までに2,487例が登録され、プラセボ群に994例、低用量群に498例、高用量群には995例が割り付けられた。解析の対象となったのは、それぞれ979例、488例、981例であった。治療56週の時点で、ベースラインからの体重の変化は、プラセボ群が-1.4kg(最小2乗平均:-1.2%、95%信頼区間:-1.8~-0.7)、低用量群が-8.1kg(同:-7.8、-8.5~-7.1、p<0.0001)、高用量群は-10.2kg(同:-9.8%、-10.4~-9.3、p<0.0001)であり、プラセボ群に比べ実薬群で有意な体重減少効果が認められた。5%以上の体重減少が得られた患者の割合は、プラセボ群が21%(204/994例)、低用量群が62%(303/498例)(オッズ比:6.3、95%信頼区間:4.9~8.0、p<0.0001)、高用量群は70%(687/995例)(同:9.0、7.3~11.1、p<0.0001)であり、プラセボ群に比し実薬群で有意に高かった。10%以上の体重減少は、それぞれ7%(72/994例)、37%(182/498例)(同:7.6、5.6~10.2、p<0.0001)、48%(467/995例)(同:11.7、8.9~15.4、p<0.0001)と、実薬群で有意に優れた。高頻度にみられた有害事象は、口渇(ドライマウス)[プラセボ群2%(24/994例)、低用量群13%(67/498例)、高用量群21%(207/995例)]、知覚異常[同:2%(20/994例)、14%(68/498例)、21%(204/995例)]、便秘[同:6%(59/994例)、15%(75/498例)、17%(173/995例)]、不眠[5%(47/994例)、6%(29/498例)、10%(102/995例)]、眩暈[3%(31/994例)、7%(36/498例)、10%(99/995例)]、味覚障害[1%(11/994例)、7%(37/498例)、10%(103/995例)]であった。うつ病関連の有害事象がそれぞれ4%(38/994例)、4%(19/498例)、7%(73/995例)に、不安関連有害事象は3%(28/994例)、5%(24/498例)、8%(77/995例)に認められた。著者は、「診察室ベースのライフスタイル介入にphentermine+トピラマート療法を併用するアプローチは、プライマリ・ケア医が施行し得る肥満に有用な治療法となる可能性がある」と結論し、本試験の利点として、1)51%が3つ以上の体重関連の併存症を有し、多くが複数の治療法を受けている患者集団で体重減少の効果を確認できたこと、2)軽度のうつ症状がみられ、多くが広範な抗うつ薬の使用で安定を維持している患者や、大うつ病発作の既往歴(1回のみ)のある患者も含まれること、3)自殺傾向のある患者もその企図がない場合は除外しなかったことを挙げている。(菅野守:医学ライター)

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ICUにおける耐性菌伝播を減らすには?

 MRSAとバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は、医療施設における感染症の主要な要因であり、これら細菌に起因する感染症は通常、患者の粘膜や皮膚などへの保菌(colonization)後に発症がみられ、保菌は医療従事者の手指や汚染媒介物などを介した患者から患者への間接的な伝播や、保菌医療従事者からのダイレクトな伝播によって発生することが知られる。米国・メイヨークリニックのW. Charles Huskins氏らICUにおける耐性菌伝播を減らす戦略研究グループは、MRSA、VREの伝播リスクが最も大きいICUにおいては、積極的監視培養やバリア・プリコーション(ガウン、手袋着用による)の徹底により、ICUにおけるMRSA、VREの保菌・感染発生率を低下すると仮定し、それら介入効果を検討する無作為化試験を実施した。NEJM誌2011年4月14日号掲載より。MRSA、VREの保菌および感染発生率を介入群と対照群で比較 研究グループは、MRSAやVREの保菌に対する監視培養とバリア・プリコーション徹底(介入)の効果について、ICU成人患者におけるMRSA、VREの保菌・感染発生率を通常実践(対照)との比較で検討することで評価するクラスター無作為化試験を行った。 介入群に割り付けられたのは10ヵ所のICUで、対照群には8ヵ所のICUが割り付けられた。 監視培養(MRSAは鼻腔内検査、VREは便・肛囲スワブ)は、被験者全員に行った。ただしその結果報告は、介入ICU群にのみ行われた。 また介入ICU群で、MRSAやVREの保菌または感染が認められた患者は、コンタクト・プリコーション(接触感染に注意する)・ケア群に割り付け、その他すべての患者は、退院もしくは入院時に獲得した監視培養の結果が陰性と報告されるまで、ユニバーサル・グロービング(手袋着用の徹底)群に割り付けた。 介入による伝播減少の効果は認められず、医療従事者のプリコーション実行が低い 介入は6ヵ月間行われた。その間に、介入ICU群には5,434例が、対照ICU群には3,705例が入院した。 ICU入室患者にMRSA、VREの保菌または感染を認めバリア・プリコーションに割り付けた頻度は、対照ICU群(中央値38%)よりも介入ICU群(中央値92%)のほうが高かった(P<0.001)。しかし、介入ICU群の保菌または感染患者が、コンタクト・プリコーションに割り付けられた頻度は51%、ユニバーサル・グロービングに割り付けられた頻度は43%だった。 また介入ICU群における医療従事者の、滅菌手袋・ガウンテクニック・手指衛生の実行頻度は、要求レベルよりも低いものだった。コンタクト・プリコーション群に割り付けられた患者への滅菌手袋の実行頻度は中央値82%、ガウンテクニックは同77%、手指衛生は同69%で、またユニバーサル・グロービング群患者への滅菌手袋実行は同72%、手指衛生は同62%だった。 介入ICU群と対照ICU群で、MRSAまたはVREの保菌または感染イベント発生リスクに有意差は認められなかった。基線補正後の、MRSAまたはVREの保菌・感染イベントの平均(±SE)発生率は、1,000患者・日当たり、介入ICU群40.4±3.3、対照ICU群35.6±3.7だった(P=0.35)。 Huskins氏は、「介入による伝播減少の効果は認められなかった。そもそも医療従事者によるバリア・プリコーションの実行が要求されたものよりも低かった」と結論。医療施設における伝播減少を確実のものとするには、隔離プリコーションの徹底が重要であり、身体部位の保菌密度を減らしたり環境汚染を減らす追加介入が必要かもしれないとまとめている。

10912.

HPVワクチン接種スケジュール、0・3・9ヵ月または0・6・12ヵ月でも

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチン接種について、3回の接種を標準スケジュールの初回接種0・2・6ヵ月ばかりでなく、0・3・9ヵ月や0・6・12ヵ月で行っても、効果は非劣性であることが確認された。米国・ワシントン州シアトルのPATHに所属するKathleen M. Neuzil氏らが行った無作為化非劣性試験によるもので、JAMA誌2011年4月13日号で発表した。ベトナム21ヵ所の学校に通う11~13歳903人を対象に試験研究グループは、2007年10月~2010年1月にかけて、ベトナム21ヵ所の学校に通う11~13歳の女生徒903人について、オープンラベルクラスター無作為化試験を行った。研究グループは被験者を無作為に、HPVワクチンを「標準接種(0・2・6ヵ月)」「0・3・9ヵ月」「0・6・12ヵ月」「0・12・24ヵ月」のスケジュールで接種する4群に割り付けた。3回目接種後1ヵ月に血清抗HPVの幾何平均抗体価(GMT)を調べ、標準接種に対する非劣性試験を行った。各接種群GMT値の標準接種群GMT値に対する割合を調べ、95%信頼区間の下限値が0.5以上であれば非劣性が認められると定義した。被験者のうち、HPVワクチン接種を1回以上受け、3回接種後1ヵ月の時点で血清検査を行ったのは809人だった。0・12・24ヵ月の接種スケジュールでは非劣性は認められず結果、標準接種群の3回接種後のGMT値は、HPV-16が5808.0(95%信頼区間:4961.4~6799.0)、HPV-18が1729.9(同:1504.0~1989.7)だった。それに対し、9ヵ月スケジュール群のGMT値はそれぞれ5368.5(同:4632.4~6221.5)と1502.3(同:1302.1~1733.2)、12ヵ月スケジュール群はそれぞれ5716.4(同:4876.7~6700.6)と1581.5(同:1363.4~1834.6)と、いずれも標準スケジュール群に対する非劣性が認められた。一方で、24ヵ月スケジュール群については、3692.5(同:3145.3~4334.9)と1335.7(同:1191.6~1497.3)で、標準スケジュール群に対する非劣性は認められなかった。Neuzil氏は「このベトナムの青年期女児において、HPVワクチン投与は標準または選択スケジュールにおいても、免疫原性、忍容性ともに良好であった。標準接種法(0・2・6ヵ月)と比較して、2つのスケジュール法(0・3・9ヵ月、0・6・12ヵ月)は、抗体濃度について非劣性であった」と結論している。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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乳幼児の急性細気管支炎、アドレナリン単剤の有効性示すエビデンス

2歳以下の乳幼児の急性細気管支炎に救急部外来で対処する場合、第1日の入院リスクを最も低減する治療法はアドレナリン(エピネフリン)単剤であることが、カナダAlberta大学小児科のLisa Hartling氏らの検討で示された。急性細気管支炎の治療法は世界中で大きなばらつきがみられ、それぞれの事情に基づいて異なる気管支拡張薬やステロイド薬が使用されている。系統的なレビューがいくつか実施されているが、個々の治療選択肢に関する信頼性の高いエビデンスはいまだに確立されていないという。BMJ誌2011年4月9日号(オンライン版2011年4月6日号)掲載の報告。乳幼児の急性細気管支炎の至適治療法に関するメタ解析研究グループは、2歳以下の乳幼児の細気管支炎の急性期管理における気管支拡張薬とステロイド薬の単剤あるいは併用療法の有効性と安全性について系統的にレビューし、メタ解析を行った。データベース(Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Scopus、PubMed、LILACS、IranMedEx)、関連学会プロシーディング、臨床試験登録を検索して、喘鳴を伴う細気管支炎を初めて発症した生後24ヵ月以下の乳幼児を対象に、気管支拡張薬とステロイド薬の単剤あるいは併用療法を、プラセボあるいは他の介入法(別の気管支拡張薬やステロイド薬、標準治療)と比較した無作為化対照比較試験を抽出した。2名のレビューワーが、患者選択基準やバイアスのリスクなどに関して各試験の評価を行った。主要評価項目は、外来患者の入院(第1日、第7日まで)および入院患者の入院期間であった。メタ解析には変量効果モデル(random effects model)を用い、全介入法を同時に比較するためにベイジアン・ネットワーク・モデル(Bayesian network model)による混合治療比較法(mixed treatment comparison)を使用した。1週間までの入院リスクの低減にはアドレナリン+デキサメタゾン併用療法が有用48試験(4,897例)が解析の対象となった。バイアスのリスクは、「低い」が17%(8試験)、「高い」が31%(15試験)、「不明」が52%(25試験)であった。プラセボとの比較において第1日の入院を有意に低減したのはアドレナリン単剤のみであった[920例のプール解析によるリスク比:0.67、95%信頼区間(CI):0.50~0.89、ベースラインの入院リスクが20%の場合に1例の入院を回避するのに要する治療例数(NNT):15、95%CI:10~45]。第7日までの入院の有意な低減効果を認めたのは、バイアスのリスクが低いと判定された1つの大規模試験(400例)で示されたアドレナリン+デキサメタゾン併用療法であった(リスク比:0.65、95%CI:0.44~0.95、ベースラインの入院リスクが26%の場合のNNT:11、95%CI:7~76)。混合治療比較法による解析では、外来患者に対する好ましい治療法としてアドレナリン単剤(第1日の入院を基準とした場合に最良の治療法である確率:45%)およびアドレナリン+ステロイド薬併用療法(同:39%)が示された。有害事象の報告に治療法による差は認めなかった。入院患者の入院期間については、明確な効果を示した介入法は確認されなかった。著者は、「急性細気管支炎の乳幼児に救急部外来で対処する場合、第1日の入院リスクを最も低減する治療法はアドレナリン単剤であり、アドレナリン+デキサメタゾン併用療法は第7日までの入院リスク低減に有用であることを示すエビデンスが得られた」と結論している。(菅野守:医学ライター)

10914.

2つの新世代薬剤溶出性ステントの臨床転帰は2年後も同等:RESOLUTE All Comers試験

新世代の薬剤溶出性ステントであるzotarolimus溶出ステント(Resolute)とエベロリムス溶出ステント(Xience V)の安全性と有効性は、2年後もその同等性が維持されていることが、ドイツ・Isar心臓センターのSigmund Silber氏らが進めているRESOLUTE All Comers試験で明らかとなった。本試験は、冠動脈病変を有する患者におけるzotarolimus溶出ステントのエベロリムス溶出ステントに対する非劣性を検証するプロスペクティブな無作為化試験。すでに、フォローアップ期間1年におけるステント関連の標的病変不全発生の同等性が確かめられている。Lancet誌2011年4月9日号(オンライン版2011年4月3日号)掲載の報告。2年間の臨床転帰の報告RESOLUTE All Comers試験の研究グループは、今回、事前に規定された2年間のフォローアップの臨床転帰について報告を行った。2008年4月30日~10月28日までに、ヨーロッパとイスラエルの17施設から、1つ以上の冠動脈病変(直径2.25~4.0mm)を有し、50%以上の狭窄がみられる患者が登録され、zotarolimus溶出ステントを留置する群あるいはエベロリムス溶出ステントを留置する群に無作為に割り付けられた。主治医には治療割り付け情報が知らされたが、データの管理や解析を行うスタッフ、および患者にはマスクされた。治療病変数や血管数、および留置するステント数には制限を設けなかった。2年後のステント関連の複合アウトカム(心臓死、標的血管に起因する心筋梗塞、虚血に基づく標的病変の血行再建術)および患者関連の複合アウトカム(全死亡、全心筋梗塞、全血行再建術)について評価した。ステント関連複合アウトカム:11.2% vs. 10.7%、患者関連複合アウトカム:20.6% vs. 20.5%2,292例が登録され、zotarolimus溶出ステント群に1,140例が、エベロリムス溶出ステント群には1,152例が割り付けられ、2年間のフォローアップを完遂したのはそれぞれ1,121例、1,128例であった。ステント関連および患者関連の複合アウトカムの発生率はいずれも両群間に有意な差を認めなかったが、ステント関連複合アウトカムは患者関連複合アウトカムよりも実質的に発生率が低かった。すなわち、ステント関連複合アウトカムはzotarolimus溶出ステント群が11.2%(126/1,121例)、エベロリムス溶出ステント群は10.7%(121/1,128例)であり(群間差:0.5%、95%信頼区間:-2.1~3.1、p=0.736)、患者関連複合アウトカムはそれぞれ20.6%(231/1,121例)、20.5%(231/1,128例)であった(群間差:0.1%、95%信頼区間:-3.2~3.5、p=0.958)。1年以上が経過した後に発現した超遅発性(very late)のステント血栓症は、両群とも3例ずつに認められた。著者は、「2つの新世代の薬剤溶出性ステントの安全性と有効性の同等性は2年後も維持されていた」と結論し、「病変の臨床的背景が複雑な患者において、ステント関連イベントよりも患者関連イベントが高率に発生したことは、長期のフォローアップ期間中には、特定の病変に対していずれのステントを選択するかという問題と少なくとも同程度に、より強力な2次予防や総合的な治療の最適化が重要であることを強く示唆する」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

10915.

移植患者へのサイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチン接種でウイルス血症が減少

腎/肝移植患者では、サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンの接種で誘導された液性免疫によってウイルス血症が減少することが、イギリス・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのPaul D Griffiths氏らの検討で示された。サイトメガロウイルスによるウイルス血症がみられる同種移植患者では、ガンシクロビル(商品名:デノシン)あるいはそのプロドラッグであるバルガンシクロビル(同:バリキサ)の投与によりウイルスに起因する肝炎、肺炎、胃腸炎、網膜炎などの末梢臓器障害の予防が可能である。末梢臓器障害の発現はウイルス量と関連し、ウイルス量は既存の自然免疫の影響を受けるが、ワクチンで誘導された免疫にも同様の作用を認めるかは不明だという。Lancet誌2011年4月9日号掲載の報告。糖蛋白Bワクチンの免疫原性を評価する無作為化第II相試験研究グループは、イギリス・ロンドンのRoyal Free Hospitalの腎臓あるいは肝臓の移植術待機患者を対象に、MF59アジュバント添加サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンの、安全性と免疫原性を評価する無作為化プラセボ対照第II相試験を実施した。妊婦、直近3ヵ月以内に血液製剤(アルブミンを除く)の投与を受けた患者、多臓器の同時移植患者は除外した。サイトメガロウイルス血清反応陰性の70例と陽性の70例が、MF59アジュバント添加サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンあるいはプラセボを接種する群に無作為に割り付けられた。接種はベースライン、1ヵ月後、6ヵ月後に行い、移植が実施された場合はそれ以上の接種は行わないこととし、定量的real-time PCR法で血液サンプル中のウイルスDNAを解析した。サイトメガロウイルスのゲノムが200/mL以上(全血)の場合にウイルス血症と定義し、3,000/mL以上に達した患者にガンシクロビル5mg/kgの1日2回静注投与(あるいはバルガンシクロビル900mg 1日2回経口投与)を行い、2回の血液サンプルの検査でウイルスDNAが測定限界以下になるまで継続することとした。安全性と免疫原性の2つを主要エンドポイント(coprimary endpoints)とし、両群とも1回以上の接種を受けた患者についてintention-to-treat解析を行った。ワクチン群で、糖蛋白B抗体価が有意に上昇ワクチン群に67例(血清反応陽性例32例、陰性例35例)が、プラセボ群には73例(38例、35例)が割り付けられ、全例が評価可能であった。実際に移植を受けたのはワクチン群が41例(18例、23例)、プラセボ群は37例(22例、15例)であった。ワクチン群では、血清反応陰性例、陽性例ともに糖蛋白B抗体価がプラセボ群に比べ有意に上昇した。すなわち、血清反応陰性例の幾何平均抗体価(GMT)は、ワクチン群12,537(95%信頼区間:6,593~23,840)、プラセボ群86(同:63~118)、陽性例のGMTはそれぞれ118,395(同:64,503~217,272)、24,682(同:17,909~34,017)であり、いずれも有意差を認めた(いずれもp<0.0001)。移植後にウイルス血症を発症した患者では、糖蛋白B抗体価がウイルス血症の期間と逆相関を示した(p=0.0022)。血清反応陽性ドナーから移植を受けた血清反応陰性の移植患者では、ワクチン群がプラセボ群よりも、ウイルス血症の期間(p=0.0480)、ガンシクロビル治療日数(p=0.0287)が有意に短かった。著者は、「移植後の細胞性免疫の抑制を背景にサイトメガロウイルス症が起きるが、サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンで誘導された液性免疫によってウイルス血症が減少することが示された」と結論し、「ワクチン群で有意に増加した有害事象は、事前に健常ボランティアで確認したとおり、注射部位の疼痛のみであった。それゆえ、本ワクチンは移植患者においてさらなる検討を進める価値がある」としている。(菅野守:医学ライター)

10916.

子宮摘出歴のある閉経後女性、エストロゲン投与中止後のアウトカム

子宮摘出歴のある閉経後女性で、エストロゲンを服用(5.9年)し、その後服用を中止した人の追跡10.7年時点における冠動脈心疾患や深部静脈血栓症(DVT)、股関節骨折の年間発生リスク増大との関連は、いずれも認められないことが明らかにされた。米国・Fred Hutchinsonがん研究センターのAndrea Z. LaCroix氏らが、被験者1万人超を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験で、予定より早期にエストロゲン投与を中止した人についての、その後のアウトカムを追跡した結果による。JAMA誌2011年4月6日号で発表した。エストロゲン投与中止後、約7,600人について3年超追跡LaCroix氏らは、1993~2004年にかけて、1万739人の子宮摘出歴のある、50~79歳の閉経後女性を無作為に2群に分け、一方には結合型ウマエストロゲン0.625mg/日を、もう一方にはプラセボを投与するWHIエストロゲン単独療法試験(Women's Health Initiative Estrogen-Alone Trial)を開始した。追跡期間中、エストロゲン群の脳卒中リスク増加が認められたため、試験開始後平均7.1年の時点で投与は中止となった。エストロゲン服用期間の中央値は、5.9年だった。その後、被験者のうち7,645人について、2009年8月まで試験開始から平均10.7年追跡した。試験期間全体の乳がんリスク、エストロゲン群はプラセボ群の0.77倍結果、エストロゲン投与中止後の冠動脈心疾患の年間発症リスクは、エストロゲン群が0.64%に対し、プラセボ群が0.67%と、両群で有意差はなかった(ハザード比:0.97、95%信頼区間:0.75~1.25)。乳がんの年間発症リスクも、エストロゲン群が0.26%、プラセボ群が0.34%(同:0.75、同:0.51~1.09)と有意差はなく、年間総死亡リスクも各群1.47%、1.48%(同:1.00、同:0.84~1.18)と有意差は認められなかった。服用中止後の脳卒中リスクについても、エストロゲン群0.36%に対しプラセボ群0.41%、DVTリスクも各群0.17%と0.27%、股関節骨折リスクも0.36%と0.28%と、いずれも両群で有意差はみられなかった。試験期間全体では、乳がんリスクはプラセボ群が0.35%に対しエストロゲン群が0.27%と、有意に低率だった(ハザード比:0.77、同:0.62~0.95)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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1日100mg以上のオピオイド処方、過剰摂取による死亡リスクを4.5~12倍に増大

オピオイドの処方量と過剰摂取による死亡リスクとには関連があり、1日100mg以上処方した場合は、1日1~20mg未満処方した場合と比べて、過剰摂取による死亡リスクが4.5~12倍に増大することが明らかになった。投与の指示(「定期的に服用」と「必要に応じて服用」)と死亡リスクに関しては、差は認められなかったという。米国・ミシガン大学のAmy S. B. Bohnert氏らが明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月6日号で発表した。米国ではここ10年ほどの処方オピオイドの過剰摂取による死亡が増大しており(1999~2007年で124%)、処方パターンと死亡リスクとの関連の可能性が指摘されていた。オピオイド過剰摂取による死亡率、0.04%と推定Bohnert氏らは、がん、慢性疼痛、急性疼痛、物質使用障害(substance use disorders)でオピオイドを使用していた患者において、1日の処方量や服薬スケジュール(必要に応じて服用、定期的に服用、両者)と過剰摂取による死亡リスクとの関連を評価することを目的に試験を行った。退役軍人健康庁(Veterans Health Administration;VHA)のデータを基に、2004~2008年までに故意ではなく過剰摂取により死亡した750人と、2004~2005年に診察を受けたオピオイド服用者から無作為に抽出した15万4,684人について検討した。主要評価項目は、年齢、性、人種、共存症で補正後の、処方量・スケジュールと死亡との関連とした。結果、オピオイド過剰摂取による死亡率は0.04%と推定された。がん患者への1日100mg以上投与、過剰摂取による死亡リスクは12倍故意ではないオピオイド過剰摂取による死亡リスクは、1日の最大処方量と直接的な関連が認められた。1日1~20mg未満投与に比べ、1日100mg以上投与のオピオイド過剰摂取による死亡に関する補正後ハザード比は、物質使用障害患者で4.54(95%信頼区間:2.46~8.37、絶対リスク差:0.14%)、慢性疼痛患者で7.18(同:4.85~10.65、同:0.25%)、急性疼痛患者で6.64(同:3.31~13.31、同:0.23%)、がん患者で11.99(同:4.42~32.56、同:0.45%)だった。服用に関する指示については、「定期的服用」と「必要に応じて服用」との補正後リスクに有意差はなかった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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准教授 長谷部光泉 先生「すべては病気という敵と闘うために 医師としての強い気持ちを育みたい」

1969年9月14日生まれ。博士(医学)、博士(工学)。1994年3月慶應義塾大学医学部医学科卒業後、同大学病院にて研修94年4月同大学大学院医学研究科博士課程。96年11月ハーバード大学医学部放射線科心臓血管造影およびIVR部門留学(~99年)。98年4月同大学医学部助手。04年4月同大学理工学部機械工学科・鈴木哲也研究室共同研究員および医療班チームリーダー。05年4月国家公務員共済組合連合会立川病院放射線科医長。08年4月東邦大学医療センター佐倉病院放射線科講師。09年8月同病院放射線科准教授。日本血管内治療学会評議員。日本IVR学会代議員、他。10年日本学術振興会 榊奨励賞受賞、第96回北米放射線学会Certificate of Merit受賞、他多数。低侵襲治療としてIVRカテーテル治療に大きな魅力を感じた放射線科領域を大別すると、X線検査、CT、MRI、核医学検査などに代表される放射線診断学とがん治療に代表される放射線治療学があります。CT、MRIなどが登場する前から存在した「血管造影法」は、私が専門とする放射線診断学の根幹です。血管のない臓器は存在しないため、古くから重要な診断法として発展してきました。しかしながら、CT、MRIなどの医療機器の技術革新によって血管造影の役割も変わってきました。皮膚に局所麻酔をしてほんの2㎜だけの傷をつけるだけで血管内に「カテーテル」と呼ばれる管を挿入し、臓器に直接アプローチできるので、たとえば循環器領域であれば心臓にアプローチして狭心症や心筋梗塞を治す。消化器領域では、肝臓がんであれば肝動脈塞栓術のように大腿動脈から患部のすぐそばまで細いカテーテルを挿入して抗がん剤を流して腫瘍を兵糧攻めにする。脳神経領域では、急性期の脳梗塞の血栓溶解療法や動脈瘤を詰めることもできます。また、下肢の動脈硬化の場合、風船付きカテーテルを挿入し直接狭くなった血管を広げ、歩けなかった患者さんが歩いて帰えれるようになる。CTやエコー、MRIなどの画像支援の下に血管内だけでなく臓器を直接穿刺して治療する。画像を使った血管内治療および血管以外の臓器などに対する、画像支援下の低侵襲治療、これが私の専門領域です。医学の世界に入った当初から、IVR(インターベンショナルラジオロジー)に興味があり魅力を感じていました。これからの治療は、身体に大きくメスを入れて手術するだけではなく、患者さんに優しい治療でありながら効果的な治療が求められています。カテーテルの技術にせよ、医療器具にせよ、どんどん進歩してくるであろうと考えました。その進歩と共に、カテーテル治療が今後の医療現場において主流になってくるのではないかとも考えていました。それは現実になってきていると確信しています。IVR治療で劇的に変わる患者さんのQOLIVRでできることは血管を開く、詰める、溶かす、生検のための組織を切除して取り出す、直接腫瘍を穿刺して治療する、簡単にいうとこれらが主な分野です。具体的には、動脈硬化で詰まった血管を開き、血栓で詰まった血管を溶かすことができる。体を大きく切開することなく組織を取り出し診断を確定する、ドレナージといって体内の深い部分の膿をCT・エコー・MRIで見ながら吸い取る。詰めるは塞栓術といって、肝臓がん治療の他、体の中で緊急出血した場合、血圧が低下し、身体を大きく開くことはできないので、救急治療として金属のコイルを詰めて止血し、一命を救うこともできます。今までは大きく開腹、開胸しなくてはならなかった手術が、IVR治療によって足の付け根や腕の部分を局所麻酔で2から3mm切開し、動脈や静脈にカテーテルを挿入して治すことができるようになっています。これにより患者さんの入院日数は劇的に短縮されました。局所麻酔のため危険性も減りますし、入院期間も短くなり、痛みが少ないなど多くのメリットがあります。心臓疾患の場合、以前ならば最低でも1から3ヵ月の入院を余儀なくされましたが、IVR治療では、長くて10日、われわれは3日から1週間入院を目安にしています。ただし、入院期間が短縮されたからといって、簡単な病気だったと勘違いはしないでほしい。血管内で手術は行われていますから、それなりのリスクがあることも十分知っておいてほしいと思います。患者さんにとって簡単そうに思えるIVR治療ですが、医師としては熟練した手技と全身疾患に対して知識や経験がないとできない分野です。実際に治療を行えるようになるまでには、綿密なトレーニングが必要です。東邦大学では後期研修医あるいは大学院生の1年目から血管内治療のトレーニングを本格的に重ねてもらいます。われわれの科では、画像診断もやりながら低侵襲の治療をする、研究にも取り組み積極的に国内外の学会で発表するという3本の柱を忘れることなく、必死で若手の医師が毎日を過ごしています。臨床医としての経験を活かした研究開発私がこの世界に入った時にはすでに、血管内治療のデバイスであるステントやバルーンの8割が輸入品でした。許認可の問題もあって、欧米の製品を平均2年遅れで買わなければいけない現状があります。その上、必ずしも日本人に適しているデバイスではありません。日本人にとって使いにくくて直してもらうにしても、製品ができあがってくるまでに1年、2年、3年かかる場合もあります。目の前の患者さんを治せるツールがあるのに、サイズが合わないだけで使えないという現実にジレンマを感じていました。私が慶應の研修医だった当時、恩師で、放射線医の第一人者であり、日本のIVRの父ともいえる平松京一教授(当時)の計らいで、医師になってから2年半後にハーバード大学で研鑚(けんさん)を積むようにと言われました。そこで約3年半、留学することになってしまいました。研修医が終わったばかりで、何の実力もないし、研究歴もなかった。渡米前には、多くの上司にも心配されました。ハーバード大学で最初の数ヵ月はお客さん扱いでしたし、もう帰国しようかとどまろうかと考えながら細々と実験を始めました。その実験データを基に数ヵ月後に書きあげたプロトコールが運良く認められて潤沢な公的研究費が与えられて、それをきっかけに状況が変わりました。そこのチームのチーフに任命され、血管の中の遺伝子治療研究が始まりました。詰まった心臓血管の中にステント(金属のメッシュ状の筒)を入れると、再狭窄が起こります。ステントは血流を劇的に改善しますが、血管を無理に開くため血管の内皮細胞や血管平滑筋細胞に傷がつきます。血管には破れると修復する作用があって、傷を修復する過程で、金属の周囲に血栓が付き、その刺激が過剰平滑筋細胞の増殖を促し、血管がまた詰まってしまうのです。それを治すために特殊なバルーンカテーテルというのを用いてそこから薬剤を出す。当時は、ステント留置後、20%から40%は半年後には詰まるといわれていました。確かに、血管内の遺伝子治療は実験的に成功し、米国IVR学会やNIHなどで受賞しました。けれども、やはり金属ステントそのものの留置が「諸刃の剣」だということに気づき、帰国後、材料工学の研究を独学で始めました。体になじみにくい金属が、長期的によい成績をだせるわけがないと考えたからです。しかしながら、金属の特性としてしなやかさや耐腐食性などを上回る素材はなかなかありません。それならば、既存のものにコーティングを施したらどうか、と考えました。ただし、コーティングするにしても体に害を及ぼすものでは当然使えません。行き着いたのがダイヤモンド系のコーティングでした。ダイヤモンドは、「物質の王様」といわれるだけあって、非常につるつるしているばかりではなく、耐摩耗性という特性があり、さらに炭素は身体を構成する成分の一つなので、人体に悪影響を及ぼしません。現在、主流となっている薬剤溶出性ステントから出てくる薬剤は薬効が強く正常の血管内皮細胞にダメージを与えるものが主流ですが、ダイヤモンドというのは化学的に安定しているばかりでなく、細胞に毒性を与えない特性を持っています。われわれは、さらにダイヤモンド系コーティングにフッ素を混在させることによって、血液の付着も防げることを初めて発見しました。つまり、フッ素を添加したDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)というコーティングは、血液をはじき付着を防ぐので、血栓ができにくい。さらに、血管内に残るのは炭素を主流とするダイヤモンド系素材なので、身体に悪いものではありません。これらの研究開発には、医学の知識だけではなく工学知識の力が不可欠でした。そこで、臨床医の立場で工学との通訳をしなければいけないと痛感しました。なぜならば、工学の思考と医学の研究者の思考回路はまったく違うからです。ですが、工学者も研究の応用の幅を広げたいと考えているし、医学者もテクノロジーを利用する考えが必要です。互いの歩み寄りを円滑にするために、私は医学部の栗林幸夫教授のご指導の下、医学博士を取得し、その後、工学部の鈴木哲也教授の下で工学博士を取得しました。これからも研究開発において、医工連携のための通訳になれたらと思いますし、私に続く若い医師や研究者を育成することに力を注いでいます。ゼロからのスタートに惹かれ挑戦慶應からこちらへ来たのは、ここはほぼゼロからということに興味を持ちました。現在の教室の寺田一志教授の誘いもあり、今までやってきたことをここで一度リセットして挑戦してみるのもいいだろうと考えました。慶應もいい環境ではありましたが、東邦大学の伝統と自由な気風、研究に対しても「自由にやれ」というムードがありました。特に、東邦佐倉病院では、他の臨床医の方々も、慶應から来た新参者にすごく親切にしてくれて、雰囲気もよかったし、全体的にやる気の気運が高まっている瞬間でした。今では県内でもトップクラスのIVR症例数を誇る施設になりつつありますが、こちらに来た当時はIVR治療もあまり積極的に行われていませんでした。それでも、循環器センターや消化器センターなど各診療科の多くの先生のご協力があって、現在にいたっています。これは、東邦大学の気風とセンター単位で行われるチーム医療にうまく融合した結果だと思います。前病院長の白井教授が臨床・研究に対する基礎を構築し、現在の田上病院長を中心にした執行部の積極的な支援の賜物だと思います。当院循環器センターの専門外来である「血管内治療・IVR外来」は、循環器内科医、心臓血管外科医、臨床検査医、放射線科医、心臓リハビリ医、形成外科医、糖尿病代謝内科医など本当の意味でのチーム医療ができるように構築してきました。カンファレンスの意思が医師同士の間で一貫しているというのは、患者さんにとっても安心できることだと思います。臨床としては主に肝臓がんや救急出血や動脈瘤などの塞栓術と下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO: arteriosclerosis obliterans)に伴い、詰まってしまった血管の血管形成術がメインです。糖尿病や動脈硬化で足が壊死してしまうのを治療するのがメインです。私にとって医療器具の研究はライフワークですが、実は臨床が9割。この臨床の経験があるからこそ研究のテーマが明確に打ち出せるのだと思います。これからは教育にも力を注ぐ私がこれから望むものは、若い人の教育です。まだ私も若いですけど……(笑)。若い人を教育するということは、自分が教育されることでもあります。教えるというのは、教えられることでもあります。先入観のない眼で若い人と日本から何かを発信したい。座右の銘は「感謝して今日もニコニコ働きましょう」。決して一人で仕事をしているのではなく、周りのスタッフ、上司、親、自分の周りの人すべてが笑顔でいられる医療をやりたい。そのために臨床はもちろん、研究や医療器具の開発もしたい。若い医師には、どんどん広い世界を見て、自分のアイデンティティ、日本人であるとか医師になるという明確な自覚を持ってほしい。勇気を持って新しいことにもチャレンジしてほしい。それらを一緒にやっていきたい。だからうちの科では工学部との交流や留学なども積極的にプログラミングしています。若いうちから何でも経験させ、国際学会発表も全員が入局2年以内に経験するように指導しています。敵は病気なので、最高の技術、最高の人間性、患者さんを治したいという気持ちを強く身につけてほしいと考えています。是非、そんなピュアな高い志を持った若い先生と学閥や分野を越えて一緒に働きたいという希望を持っています。質問と回答を公開中!

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患者さんのため、被災地の精神科医療施設の診療状況の情報入力を

3月11日(金)に発生した東日本大震災。被災地において、精神障害を持つ方は持たない方に比べ、より過酷な状況におかれている可能性があるという。その中で、NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ(COmmunity Mental Health & Welfare Bonding Organization)は、他団体とともに、いち早く被災地域の精神科病院および地域精神保健活動の状況を把握し共有するためのWebサイトを立ち上げ、情報を提供し始めた。Webサイトを運営する団体の一つであるNPO法人コンボ 丹羽大輔氏に、サイト立ち上げ当時と現在の状況について聞いた。-どのようにして、このWebサイト立ち上げに至ったのでしょうか?震災発生当初は、現地の情報が入りにくく、また被害が広域で何から手をつけてよいのかわからない状態でした。そこで地震の翌日3月12日に関係者が集まり、被災地の精神障害を持った方々に対し、迅速に支援できることは何か検討しました。その結果、彼らが一番必要としているのは、やはり精神科病院の状況についての最新情報だろうという結論にいたりました。ただし現地に入って調べることはできないので、現地にいる精神科病院関係者が書き込めるようなWebサイトを立ち上げ、そのサイトにアクセスすれば被災地域の精神科病院の状況が把握でき、また精神科医療機関同士で情報を共有できる仕組みを作ろうということになりました。Webサイト作成は、ACT全国ネットワーク(http://assertivecommunitytreatment.jp/)、国立精神保健研究所社会復帰研究部(http://www.ncnp.go.jp/nimh/fukki/index.html)と私たちNPO法人コンボで行い、打ち合わせの翌日3月13日には完成させました。そして、その日から現地の関係者に書き込んでもらうため、私たちのメーリングリストやTwitterを使って情報を流しました。そうしたところ、翌14日からすぐに書き込みが始まりました。現地の病院院関係者に情報が届き書き込みが始まる、という一連の流れが非常に短期間に行われたことに驚きました。 全文はこちらhttp://www.carenet.com/psychiatry/original/comhbo/ 《関連リンク》 NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボhttp://www.comhbo.net/ 被災地の精神科病院状況リストhttp://assertivecommunitytreatment.jp/ph/編集ページhttp://j.mp/egqdru 被災地における地域精神保健福祉活動の情報http://www.comhbo.net/cr/編集ページhttp://bit.ly/dKZVMB (ケアネット 細田 雅之)

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教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

1956年3月21日東京都生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業。84年同大学第1解剖学専攻博士課程修了、自治医科大学第1解剖学講座国内留学。85年東京慈恵会医科大学第1解剖学講座講師。87年ペンシルバニア州立大学分子細胞生物学講座留学。95年東京慈恵会医科大学カリキュラム委員。97年Harvard-Macy Program:Physician Educators修了。99年同大学医学教育研究室助教授。01年同大学同教授。07年同大学教育センター長。(社)日本医学教育学会副理事長、(財)日本医学教育振興財団運営委員・編集委員長、(財)柔道整復試験研修財団理事長。繰り返される医師不足と地域偏在第二次世界大戦後、日本の医学部定員は1万人を超えていました。GHQは医師養成のあり方をみて「医師粗製乱造だ」と、発言しました。当時は戦時下の軍医養成のため教育年限が短く、臨床のトレーニングが十分なされないまま、医師となって巣立っていきました。医師のレベルが下がるということは、日本の医療レベルが下がるとして、定員の削減を断行しました。3 千数名の入学定員とすれば、需要と供給が保たれるうえに医学教育の質も保てるとし、このときにシステムを確立してしまったのです。ですが、昭和36年に国民皆保険が実施されたことによって、安定供給のバランスが崩れます。すべての国民が医療へのアクセスが楽になり、徐々に医師不足が騒がれ始めます。そこで行われたのが、昭和45年3校の私立医科大学、秋田大学医学部設立と1県1医大政策です。なぜ秋田に医大をつくったかというと、今でもそうですが東北地方は慢性的に医師不足だったからです。つまり、診療科の偏在、地域偏在、研究医が少ない、基礎医学に進む医学部出身者がいないという現在と同じことが、昭和30年代にも起きていたのです。問題は、いきなり医大を増やしたので、教員が足りなくなってしまったことです。特に基礎医学を教えられる人材が不足してしまった。当然ですが、十分な教育なくして医師は育ちません。医学生の教育体制を考慮せずに、不十分なままに、定員を増やしてしまったことを反省すべきでしょう。結局のところ、地域偏在だ、診療科偏在だ、医師不足だといって医大をつくってはみたものの、実際に問題の解消にはなりませんでした。 医療現場の変化を捉えシステムを構築する医師不足問題を解決するためには、医療現場がどのように変化しているかを適格に捉えることです。現在医師不足といわれる最大の理由は、専門分化しすぎたからです。昔は内科医だったら、呼吸器、腎臓、心臓の悪い患者さんを分け隔てなく診ていました。一人の患者さんが複数の疾患に罹患していた場合でも、昔は一人の医師でカバーしていました。ですが今は、疾患ごとに専門医が必要になっています。つまり、一人当たりに必要な医師の数が増えているのです。高齢化社会が進めば、多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えて、医師の数はもっと必要になるでしょう。すると医師の数は青天井に必要となるのです。これは高度医療の現場で増えているわけです。国民皆保険というフリーアクセスの現状では、どんなささいな病気でも専門家に診てもらいたくなる。それを許してきた。医療に対してフリーアクセスを許してきた日本、患者さんに対して医療レベルの振り分けをしませんでした。高度医療においては、疾患ごとに専門医が細分化されています。多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えれば、一人の患者さんに対して必要な医師はますます増えることになります。これから高齢化社会が進むにつれ、医師の数がどれほど必要になるのかを算出するのは難しいことです。医学先進国のほとんどが、高度医療が必要な患者さんとそうでない患者さんを一次医療で振り分けているのは、本当に必要な医療を必要な患者さんが速やかに受けられるようにするためです。ですが、国民皆保険の日本では、極端にいえば単なる風邪であっても、高度医療の現場にいる専門医への受診もフリーアクセスを許してきました。では、何が必要かというと一次医療、二次医療、三次医療のシステム化を体制としても供給する側としても、階層性を構築することが求められています。たとえばイギリスのジェネラルプラテクショナー[General Practitioner (GP)]のようにかかりつけ医がいて、すべての患者さんはそこで診察を受けなければ、二次医療、三次医療には進めない。GPがゲートコントローラーの役割を果たせれば、患者さんは高度医療が本当に必要な人のみが受診し、非常に高度な医療に携わる医師は、その医師にしかできない治療に専念できるのです。大学の存在意義は社会への貢献である大学の存在意義とは、高度な学術や技能を持った人を社会に供給することによって、国民のために存在するものであると考えます。つまり地域に貢献するために存在しているのです。東京慈恵会医科大学の理念は明確で『国民のための医者をつくること』です。ところが各々の大学が社会に対する責任を考えてきたかというと疑問があります。日本はドイツから大学制度を持ってくるのですが、学問の自由とか大学の自治は受け入れたが、なぜそれらが大学にとって必要なのかは忘れてきてしまった。大学とは社会的存在であるという理念を置き忘れてきてしまいました。医師不足についても、ただ増やせばよいのではなく、医療システムそのものを見直さなければ、医療は社会的共通資本であり、つまり国民が守るものだという意識をつくっていかない限り、また同じ過ちを繰り返すだけです。医療はこれからも変化していくでしょう。10年前のデータを基に医師数を算出できても、明日では無理。なぜならば、医学生が独り立ちするまでに11年かかります。つまり、11年後の需要供給計画など立つわけがないのです。地域の教育力を活かす医療者教育私は1年生を地域医療実習へ送り出す前に「君たちは医者になる。医者になったら診る患者の半数は女性で、1.2%は統合失調症で2~3%は知的障害者だ。そして診る患者の10%には人格に偏りがある」と言います。まず1年生には授産・厚生施設へ1週間行かせます。2年生は、重症心身障害児療育体験を1週間実施した次の週に、児童館や幼稚園、保育園などで地域子育て支援体験実習に行かせます。これには理由があって、重度の病気を持つ子どもと元気な子どもをみることによって、病気とは何かを考えてほしいからです。病気であるがゆえに、人間としての活動を障害するとはどのようなことなのかを知ってほしい。医療とは患者さんがその人らしい人生を送れるように、すべてをサポートすることです。病気だけ診ればいいのか……そこで我が校の理念「病気を診ずして病人を診よ」につながるわけです。3年生には医学部なのに訪問看護ステーションで実習してもらいます。ある学生が言いました。「同じ認知症でも、家庭によって違う」。たとえ同じレベルの認知症であっても、その家庭環境が違えば、治療の方法もサポートも変わります。つまり、患者さんを取り巻く環境によって求められる医療のニーズは違うことを学んでほしいのです。それぞれの患者さんのバックグラウンドまでを知り、日常生活を想像した上で治療のできる医師を育成したいのです。4年生では院内の看護部や栄養部、薬剤部などの他職種に配属されます。5年生になると学内の臨床実習だけでなく、家庭医実習というのがあります。これは地域の開業医の下に1週間実習に行かせ、大学病院とは違った医療の現場を見てもらいます。これは、3年次の訪問看護による在宅ケア実習につながるわけです。また、医大の付属病院は高度医療を求めた患者さんが来院するところです。高度医療を必要としている患者さんは1,000分の1に過ぎません。まして、この中に予防医学は入っていないのです。では、あとの999をどこで学ぶか。それは学外で学ぶしかないのです。この実習の実現のために大変だったのは、よい開業医を探すことでした。よい医師でなければ、良い教育はできないからです。そのためは、学閥も何ものにも縛られることなく、高い理想を持った師となっていただく方を探し、お会いし、お願いしました。今では65名の先生にご賛同いただきご協力いただいています。医師は患者さんに貢献して幸せになれる職業臨床の場でわれわれが直接教えることはできません。けれども、学ぶ環境を提供することはできます。その環境をどう活かすかは学生次第です。1年生をいきなり外に出すのは、学びは現場にこそあるからです。現場にいて、自分に何ができて何ができないかを自覚させるためです。また、学生の学びのために臨床実習をさせているのではなく、患者さんへの貢献をするためなのだと教えています。病棟に学生がいたら「まずは、患者さんのベッド下の掃除でもやってなさい」と言う。これは、感染防御の第一です。 学生が臨床実習で何をするか? それはできることの最大限の力で、患者さんに貢献することです。採血ができなくても、ベッドの下の掃除はできる。看護師が荷物運びに難儀していたら、率先して手伝えばいい。このように職場の中でできる責任を果たしていきながら、できることが増えていく。すなわち、患者貢献が拡大していくのです。 医師育成のために国が税金を使うのは、医師がいなくては国民が困るからです。解剖の献体にしても、臨床実習にしても、医師を育てているのは国民なのです。あらゆる助成を国民から受けているのだから、医学を学ぶ者に自由はない。学ぶ義務があるだけなのです。質問と回答を公開中!

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