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重度骨折では術前血管造影を行うべき

 Gustilo IIIC外傷については、その定義のコンセンサスが求められており、また重度開放脛骨骨折のアウトカムに関する血行障害の影響について調査されている。英国 Frenchay HospitalのChummun S氏らは、約3,300人の形成および整形外科医から患者データを集め、血行障害とアウトカムとの関連について評価を行った。その結果、血行障害は肢機能に影響を与える独立した因子であることが示される一方で、医師の半数近くが血管損傷は無関係だと考えていることなどが明らかになった。著者は、「形成-整形外科医師間のコミュニケーション改善のために現行の分類法を修正すべきである。また、重度開放脛骨骨折の軟部組織再建の前には術前血管造影を活用することを提言する」と結論している。Plast Reconstr Surg誌オンライン版2012年10月16日号の掲載報告。 3,351人のさまざまな立場の形成および整形外科医に質問票を送付し、各自のGustilo IIIC外傷に対する解釈を調べた。一方で、Frenchay Hospitalの整形-形成外科治療センター(orthoplastic centre)で2006~2010年に行われた、軟部組織再建を伴う重度開放脛骨骨折治療の記録を検証した。 主な結果は以下のとおり。・形成外科医476人、整形外科医2,875人とコンタクトをとり、753人(22.5%)から回答を得た。・46.2%が、IIIC損傷は非血管性のものだと考えていた。続いて24.2%が、1または2枝の血管損傷だと考えていた。あらゆる血管損傷を意味すると考えていたのは6.9%であり、残りの22.7%は定義に関し未回答であった。・検証された患者データは、68例(男性50例、女性18例、平均年齢42.7歳)であった。・また、50例について標準血管造影が行われており、18例に血管損傷があった。・ATAが42%、PTAが37%、27%が腓骨動脈に血管損傷があった。・平均追跡期間11.2ヵ月の平均Ennekingスコアは、非血管損傷患者は29.8、血管損傷患者は24.4であった(p=0.004)。

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ステント血栓症、ゾタロリムスとシロリムスの溶出ステントで同等:PROTECT試験

 留置術後3年の時点におけるステント血栓症の発生状況は、ゾタロリムス溶出ステントとシロリムス溶出ステントで有意な差はないことが、スイス・ジュネーブ大学のEdoardo Camenzind氏らが行ったPROTECT試験で示された。複雑な冠動脈病変を含む広範な患者集団において薬剤溶出ステント(DES)の導入が急速に進んでいるが、近年、再狭窄の発生がより少ないDESによる医療コストの抑制効果に対する関心が高まっている。これまでに実施された両ステントの比較試験では、ステント血栓症の評価は行われていなかったという。Lancet誌2012年10月20日号(オンライン版2012年8月27日号)掲載の報告。3年後のステント血栓症の発生を比較 PROTECT(Patient Related OuTcomes with Endeavor versus Cypher stenting Trial)試験は、広範な患者集団と多彩な病変を対象に、異なる細胞増殖抑制薬を用いた2種類のステント・デバイス[エンデバー・ゾタロリムス溶出ステント(E-ZES)、サイファー・シロリムス溶出ステント(C-SES)]の長期的な安全性における優越性の評価を目的とする多施設共同非盲検無作為化対照比較試験。 2007年5月21日~2008年12月22日までに、36ヵ国から8,791例が登録された。自己冠動脈に対し待機的または緊急処置を施行された18歳以上の症例を適格例とした。これらの患者が、E-ZESまたはC-SESを留置する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。2剤併用抗血小板療法として、アスピリンとクロピドグレルあるいは他のチエノピリジン誘導体が投与された。 主要評価項目は、留置から3年の時点におけるステント血栓症(疑い例を含む)の発現とし、intention-to-treat解析を行った。治療割り付け情報は患者と担当医にも知らされた。3年ステント血栓症発生率:1.4 vs 1.8% 8,791例のうち8,709例が適格と判定され、E-ZES群に4,357例(平均年齢62.3、男性77%、糖尿病27%、高血圧65%、脂質異常症62%、心筋梗塞の既往20%、脳卒中の既往3%)が、C-SES群には4,352例(62.1歳、76%、28%、63%、63%、21%、3%)が割り付けられた。 3年後のステント血栓症の発生率は、E-ZES群が1.4%、C-SES群は1.8%であり、両群間に有意な差は認めなかった[ハザード比(HR):0.81、95%信頼区間(CI):0.58~1.14、p=0.22]。 2剤併用抗血小板療法は、退院時には8,402例(96%)が受けており、1年後の施行率は88%(7,456例)、2年後は37%(3,041例)、3年後は30%(2,364例)だった。 著者は、「疑い例を含めた3年後のステント血栓症の発生について、ゾタロリムス溶出ステントがシロリムス溶出ステントよりも優れるとのエビデンスは得られなかった」と結論し、「時間分析では、両群間のステント血栓症発生の差が経時的に顕在化する傾向がみられるため、ステント血栓症の臨床的関連性を明らかにするには長期的なフォローアップを要する」と指摘している。

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なぜ?第二世代抗精神病薬投与による“強迫症状”発現機序

 大部分の統合失調症患者は、第二世代抗精神病薬(SGA)による治療中に強迫症状が発現する。近年の研究により、このような二次的な強迫症状の遺伝的危険因子として、グルタミン酸エステル搬送体遺伝子(SLC1A1)が関連することが示唆されている。Schirmbeck氏らは欧州での試験により、この結果を検証した。Psychiatr Genet誌2012年10月号の報告。 対象は、SGAで治療中の統合失調症患者103例。SGAによる二次的な強迫症状に関連すると考えられるSLC1A1の3つの単一塩基多型(rs2228622、rs3780412、rs3780413)について調べた。単一マーカーとハプロタイプの解析には、ロジスティック回帰分析が用いられた(年齢、性別、薬剤の種類を共変量として調整)。主な結果は以下のとおり。・クロザピンなどの著しい抗セロトニン作動性SGAによる治療を受けた患者では、強迫症状を合併することがより多かった(p

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抗精神病薬と副作用―肥満、糖代謝異常、インスリン分泌に与える影響

統合失調症患者では一般と比べて平均寿命が15年短いことが報告されている。その死亡原因として最も多いのは自殺であるが、その他、統合失調症患者では陰性症状や不規則な生活習慣のために、肥満や脂質代謝異常などを有する割合が高く、それに起因した心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の合併率が高いことが知られている。さらに、抗精神病薬の副作用として脂質代謝異常や肥満を来すこともあり、欧米の研究から、抗精神病薬服用中の統合失調症患者ではメタボリックシンドローム(MetS)の合併率が高いことも報告されている(Newcomer JW. Am J Manag Care. 2007; 13: S170-177)。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会の「抗精神病薬と代謝異常」のセッションのなかから、統合失調症患者の入院が体重や糖代謝に及ぼす影響、抗精神病薬がインスリン分泌に及ぼす影響、統合失調症患者におけるBMIやウエスト径とGIP遺伝子多型の関連を検討した報告を紹介する。統合失調症患者の精神科病棟入院により肥満や糖脂質代謝が改善されたわが国における横断研究によると、入院加療中の統合失調症患者のMetS有病率は15.8%と健常者と同程度であるが、外来患者ではMetSの有病率は48.1%と高いことが報告されている(Sugawara N, et al. Ann Gen Psychiatry. 2011;10:21)。さらに、わが国では欧米に比べて精神科病床数が多く、慢性期のみならず急性期でも平均在院日数が長期に及ぶという精神科医療の特徴がある。そこで三上剛明氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)らは、精神科病棟入院により、統合失調症患者の体重や糖脂質代謝に関する検査値がどのように変化するのか検討を行った。研究の対象は、2008年1月~2011年8月に急性期治療のため、新潟大学医歯学総合病院精神科に2週間以上入院した統合失調症患者160例のうち、入院時のBody Mass Index(BMI)が25kg/m2以上の53例である。これらの患者のカルテから、身長、体重、空腹時血糖、総コレステロール、中性脂肪、HDLおよびLDLなどの血液生化学検査値を抽出し、入院時と退院時の値を比較した。患者背景は、平均年齢が34.0±8.4歳、男性が27例、平均BMIが28.7±3.2kg/m2、平均在院日数が114.4±90.0日、34例が措置入院であった。BMIの値は、退院時では26.9±3.3 kg/m2となり、入院時に比べ有意(p<0.001)に減少した。BMIの変化量と入院日数には負の相関が認められた(r=0.597、p<0.001)。空腹時血糖値も入院時99.9±27.3mg/dLから退院時89.1±14.2mg/dLと有意に(p=0.039)減少した。その他、HDL(52.5±14.9mg/dLから45.4±10.4mg/dL、p=0.003)、LDL(121.6±27.4mg/dLから107.9±25.7mg/dL、p=0.027)の値も有意に減少した。肥満(BMI≧30 kg/m2)の患者は入院時の16例から退院時には10例に、過体重(25kg/m2≦BMI<30kg/m2)の患者は37例から26例に減少し、一方、標準体重の患者は入院時0例から退院時には17例に増加した。これら肥満、過体重、標準体重の患者の割合の変化は有意(p<0.001)であった。総コレステロールおよびトリグリセライドの値には有意な変化はみられなかった。これらの結果より、外来で過体重や肥満を呈していた統合失調症患者は、精神科病棟へ入院することによって体重やBMI、空腹時血糖値が改善することが示された。入院で肥満や過体重が改善に向かう理由として、三上氏は、①入院により適切なカロリーとバランスのよい食事が提供されること、②入院により清涼飲料水や間食が制限されること、③精神状態の安定に伴い過食が減ることなどを挙げた。また三上氏は、外来の統合失調症患者の治療では、精神症状の治療だけでなく、積極的な栄養指導や生活習慣の改善が必要であると指摘した。さらに、わが国の医療独特の精神疾患における長期入院は、統合失調症患者の身体的健康を守るという観点からは評価されるべきであり、近年、わが国でも脱施設化が進み、統合失調症の治療は外来治療が主体となるため、外来での患者の健康管理がより重要であるとのコメントを述べた。抗精神病薬治療がインスリン分泌に与える影響統合失調症患者で、とくに第2世代抗精神病薬と糖代謝異常との関連を指摘した報告は多く、Perez-Iglesias氏らは未治療の患者を対象として、抗精神病薬治療開始から1年で糖脂質代謝パラメータが有意に悪化することを報告している(Perez-Iglesias R, et al. Schizophr Res. 2009;107:115-121)。さらに、抗精神病薬で治療されている患者のおよそ10.1%が治療開始後わずか6週間で、糖尿病(WHO基準)を発症することも報告されている(Saddichha S, et al. Acta Psychiatr Scand. 2008; 117: 342-347)。米国糖尿病学会では空腹時血糖異常(IFG:空腹時血糖100~125mg/dL)を前糖尿病段階とし、MetSの診断基準にも採用している。また、75g経口糖負荷試験(OGTT)後の2時間血糖値140~199mg/dLを耐糖能異常(IGT)として、心血管死亡のリスクとも相関する病態として重要視している。また、抗精神病薬服用中の統合失調症患者で空腹時血糖が正常域にあっても、75gOGTT後の2時間血糖値を測定すると、16.2%がIGTであり、3.5%が糖尿病であったとの報告もある(Ono S, et al.投稿中)。須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)らは、抗精神病薬を服用中の統合失調症患者に75gOGTTを実施し、血糖値および血中インスリン値の変化を健常者と比較検討した。研究方法は、新潟大学医歯学総合病院とその関連病院に入院中の統合失調症群(159例)と健常者(対照群、90例)に75gOGTTを実施した。統合失調症群では8週間以上同一の抗精神病薬単剤を服用し、少なくとも3週間は用量の変更がなかった。75gOGTTは空腹時および治療薬服用前に行い、血糖値および血中インスリン値の変化を対照群と比較した。また、IFGおよびIGTの患者を除外した集団においても同様の検討を行った。統合失調症群と対照群の患者背景は、平均年齢(34.6±9.2歳 vs. 32.8±7.1歳)、性別(男性の割合54.1% vs. 62.2%)、糖尿病の家族歴(31.4% vs. 28.9%)などに両群で差はなく、ウエスト径(82.2±11.1cm vs. 77.7±9.4cm)、総コレステロール(180.8±36.8mg/dL vs. 200.8±30.1mg/dL)、HDL(51.5±12.7mg/dL vs. 67.5±17.2mg/dL)に差が認められた。75gOGTT後120分までの血糖値と血中インスリン値の推移を比較したところ、血糖値はOGTT後1時間より統合失調症群の患者の方が有意(p=0.006)に高値を推移した。血中インスリン値でも同様にOGTT後30分より統合失調症群が有意(p<0.001)に高値となった。IFGおよびIGTを除外して検討を行っても同様の結果が保たれた。本研究の結果は、オランザピン服用群、リスペリドン服用群、および健常者群で糖負荷試験後の血糖値と血中インスリン値の推移を比較した研究(Yasui-Furukori N, et al. J Clin Psychiatry. 2009; 70: 95-100)における、オランザピンおよびリスペリドン服用群で、血糖値と血中インスリン値が健常群と比べ高値を推移したという結果とも一致していた。以上の結果から、須貝氏は「統合失調症に対する抗精神病薬治療は、インスリン抵抗性につながるインスリン分泌反応に影響している可能性が示唆された」と述べた。また、膵β細胞機能には人種差があり、抗精神病薬が耐糖能異常に及ぼす影響については、今後、同一個体を用い、プロスペクティブに検討する必要があると述べた。抗精神病薬服用中の統合失調症患者におけるBMI、ウエスト周囲径とGIP遺伝子多型との関連統合失調症の治療に用いる非定型抗精神病薬は体重増加や糖代謝異常を来し、とくにオランザピンやクロザピンはそのリスクが高いことが知られている。また、最近の大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)により、糖尿病や肥満と関連した遺伝子が同定され、福井直樹氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)らはこれらの遺伝子のなかからglucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)遺伝子多型に注目し、抗精神病薬誘発性の糖代謝異常や体重増加との関連について検討している。GIPは消化管ホルモンのひとつで、食物刺激により小腸より分泌され、膵β細胞のGIP受容体(GIPR)を介して血糖依存性にインスリン分泌を促進するほか、脂肪細胞の受容体にも作用し体重増加をもたらすとされている。福井氏らは、オランザピンを服用している統合失調症患者でGIP遺伝子多型があると、糖負荷試験後の血中インスリン値が有意に高くなること(Ono S, et al. Pharmacogenomics J. 2011 July 12 [Epub ahead of print])や、BMIの増加率が大きいことを報告している。こうした背景に基づいて、今回福井氏らは、抗精神病薬服用中の統合失調症患者群と健常者群において、BMIやウエスト径、糖代謝関連因子と、GIP遺伝子のプロモーター領域に位置する-1920G/A多型との関連について検討を行った。抗精神病薬で治療中の統合失調症患者147例と健常者152例を対象とし、GIP遺伝子-1920G/Aの多型を同定し、Gアリルを有するGG+GA群とAアリルを有するAA群の2群に分け、BMIやウエスト径、空腹時血糖値、HbA1c、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)を比較検討した。統合失調症患者群では、102例が単剤を服用しており、主な薬剤はオランザピン(52例)、リスペリドン(41例)、ペロスピロン(16例)、クエチアピン(11例)、アリピプラゾール(10例)であった。統合失調症群においてGG+GA群とAA群を比較したところ、AA群ではBMI(24.2±4.2 vs. 22.2±3.7、p=0.004)およびウエスト径(85.0±12.0 vs. 80.2±10.7、p=0.012)が有意に大きかったが、健常者群では2群間でBMIやウエスト径に有意差はみられなかった。ウエスト径は統合失調症のAA群で最も大きく、次いで統合失調症群のGG+GA群、健常者群であった。福井氏はこれらの結果から、「抗精神病薬を服用中の統合失調症患者において、GIP遺伝子-1920G/A多型のうち、AA遺伝子型を有する患者ではGアリルを有する患者に比べて体重増加を来しやすいことが示唆された」と結論を述べた。健常者ではこのような関連は認められず、肥満という表現型でみた場合、GIP遺伝子多型と抗精神病薬の内服または統合失調症の罹患との間に交互作用がある可能性を指摘した。関連リンク

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精神科薬物治療の身体リスクを考える

司会染矢俊幸氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)森隆夫氏(日本精神科病院協会 愛精会あいせい紀年病院)演者鈴木雄太郎氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)菅原典夫氏(弘前大学大学院神経精神医学講座)須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)稲村雪子氏(新潟医療福祉大学健康栄養学科)松田公子氏(静和会浅井病院薬剤部)古郡規雄氏(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座) 2011年より、日本臨床精神神経薬理学会と日本精神科病院協会との合同プロジェクト「精神科薬物治療の身体リスクを考える―統合失調症患者さんの命と健康を守るために」が開始され、日本における統合失調症患者の肥満やメタボリックシンドローム(MetS)の実態、患者や医療者の意識を調査する研究が行われている。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会のシンポジウム「精神科薬物治療の身体リスクを考える」において、本プロジェクトの意義や調査結果、今後の介入試験などについて紹介された。人種差や精神科医療の違い、第2世代薬の臨床導入の差を考慮した調査が必要鈴木雄太郎氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)はまず、抗精神病薬による糖脂質代謝関連の副作用について、これまでの知見をまとめ、本プロジェクトの意義を紹介した。一般人口の平均寿命76歳と比較して、統合失調症患者では61歳と15年も寿命が短く、その死亡原因は自殺(10%)のほか、虚血性心疾患が50~75%を占める(Hennekens CH, et al. Am Heart J. 2005; 150: 1115-1121)。また、ハロペリドールやチオリダジンなどの定型抗精神病薬服用により心臓突然死のリスクは1.99倍に、クロザピンやオランザピン、クエチアピンをはじめとする非定型抗精神病薬服用では2.26倍に高まることが報告されている(Ray WA, et al. N Engl J Med. 2009; 360: 225-235)。その理由として、とくにオランザピンやクエチアピン、リスペリドンなどの第2世代薬は体重増加をもたらし(Casey DE, et al. Am J Med. 2005; 118 Suppl 2: 15S-22S)、肥満やMetSの合併が心血管疾患による死亡リスクを上昇させている可能性がある。一方、Body Mass Index(BMI)と死亡リスクの関係は、欧米ではBMIが25以上ではBMIの増加とともに死亡リスクも上昇するが、日本や韓国、中国などのアジア諸国ではBMI 27.6の時に死亡リスクが最低となるU字型を呈する。また、日本人の膵β細胞機能は欧米人に比べて脆弱であり、糖尿病患者のBMIも日本人では欧米人よりも低い。こうした人種差を考慮した日本人患者の詳細なデータはまだない。鈴木氏は日本の精神科医療の特徴にも言及した。日本では統合失調症や妄想性障害患者の入院の平均在院日数が543.4日と、欧米に比べてはるかに長期にわたる。こうした精神科病棟入院患者と外来患者との身体リスクの比較も重要な課題である。さらに、日本と欧米の抗精神病薬の使い方にも差がある。日本では欧米に比べて単剤治療よりも多剤併用が多く、多剤併用が身体リスクに及ぼす影響の検証が必要である。また、日本では第2世代薬の臨床導入が遅れ、今後これらの薬剤の副作用が身体リスクや死亡リスクに及ぼす影響を検証することが課題となっている。そこで、統合失調症の日本人患者の身体リスクに関する詳細なデータを得て、これらの課題に回答を得ることを目的に本プロジェクトが開始された。患者の身体リスクに対して精神科医はどう認識しているのか抗精神病薬の身体リスクに及ぼす影響について、診療にあたる精神科医はどのように認識し治療しているのか、菅原典夫氏(弘前大学大学院神経精神医学講座)は、2012年3月~5月に実施した「統合失調症患者の抗精神病薬治療と身体リスクに関するモニタリング調査」の結果を報告した。本調査は、日本精神科病院協会の会員病院に勤務する精神科医師を対象とした無記名式のアンケート調査である。有効回答数は2,583名(男性2,039名、女性544名)であり、平均年齢48.8歳、平均病院勤続年数10.0年、平均精神科経験年数19.2年であった。どのくらいの医師が抗精神病薬のMetSリスクに不安を感じているのかを問う、「血糖値上昇リスクのある薬剤の処方に不安があるか」との質問に85.2%が「不安がある」と答えた。「不安がない」という14.8%の医師にその理由を尋ねたところ(複数回答可)、「体重管理や栄養指導を行っているから」が52.8%、「血糖値の異常を来した例を経験していない」が21.5%、「定期的なモニタリングを実施しているから」が13.1%などの回答であった。体重測定の実態を調べるため「どのような患者で体重を測定しているのか」との質問に対して、「血糖値上昇や体重増加リスクのある薬剤を服用している患者」が25.3%、「すべての患者」が24.4%、「定期的ではなく、気がついたときだけ測定している」が21.0%、「BMIの大きい患者」が16.8%、「糖尿病の合併や家族歴のある高リスクの患者」11.1%、「全く体重測定をしていない」は1.3%であった。体重測定をしている医師にその頻度を尋ねたところ、入院では月1回(76.3%)が最も多く、週1回(17.8%)、半年に1回(5.2%)、年に1回(0.7%)であった。外来では受診毎(29.1%)、最低3ヵ月に1回(24.6%)、最低半年に1回(24.4%)、最低年に1回(21.9%)の順であった。体重以外で定期的にモニタリングしている検査について調べたところ、空腹時血糖値77.9%、血清脂質70.0%、血圧61.5%、食生活(食事内容、食欲)58.2%、HbA1c 56.5%、清涼飲料水などの多飲40.5%、心電図37.6%、ウエスト径4.5%などであった。これらのモニタリングの頻度の根拠を聞いたところ、「自分自身の経験に基づいて」が47.6%、「とくに根拠はなく、何となく決めている」が18.9%、「ガイドラインを参考にして」が14.5%、「専門医の意見を参考として」が10.1%、「とくに決まりはない」が8.9%であった。「これらの体重測定や血液生化学検査のモニタリングは、身体リスクを減少させるために適切な頻度だと思うか」との質問に対しては、「適切だと思うが、あまり自信がない」が最も多く54.2%、「適切がどうか分からない」が25.2%、「適切であり、十分だと考える」が20.6%であった。患者へのインフォームド・コンセントの状況を調べるために、「血糖値上昇リスクのある薬剤を処方する際にそれについて説明を行いますか」との質問には、「口頭にて質問を行っている」が69.7%、「高リスクの患者には説明している」が24.1%、「説明していない」が4.9%、「書面にて説明している」が1.2%の回答だった。菅原氏はこれらの結果をまとめて、「血糖値上昇リスクのある抗精神病薬の処方に関して80%以上の医師が不安を認識している実態が浮かびあがった」と述べた。不安がないと回答した医師の過半数は、体重管理や栄養指導またはモニタリングを行っているからとしているが、多くの医師がそれらのモニタリング頻度について自信がないと回答しており、日本の医療実態に即した管理方法について検討する必要があると指摘した。外来の統合失調症患者が抱える身体リスクの現状須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)は、外来通院中の統合失調症患者を対象として、患者の意識と身体リスクの実態を調べるために行った無記名式アンケート調査の結果を報告した。日本精神科病院協会加盟の523施設より8,310件の回答が得られた。平均年齢は46.8±14.7歳であり、服用中の抗精神病薬は単剤が50.0%、2剤が25.4%、3剤以上が8.2%であった。主要な薬剤は、リスペリドン(2,455名)、オランザピン(1,515名)、アリピプラゾール(919名)、クエチアピン(739名)、ブロナンセリン(504名)、ペロスピロン(403名)、パリペリドン(273名)、そして定型抗精神病薬(2,907名)であった。MetS関連パラメータの分布状況は、BMI 25以上が48.0%、ウエスト径85cm以上(男性)が68.0%、中性脂肪150mg/dL以上が32.9%、HDLコレステロール40mg/dL未満が22.3%、LDLコレステロール140mg/dL以上が37.2%、収縮期血圧130mmHg以上が44.1%、拡張期血圧85mmHg以上が29.1%、空腹時血糖値110mg/dL以上が44.8%であった。これらの検査値を日本のMetS診断基準にあてはめると24.9%がMetSとなった。また、アジア人向けのNCEP-ATP III基準では29.8%がMetSと診断された。単剤と多剤併用でMetSの有病率を比較したところ差はみられなかった。薬剤毎のMetSの有病率においても有意な差はなかった。BMI毎のMetSの有病率の比較では、標準体重(18.5≦BMI<25.0)でもJASSO基準では9.7%、NCEP-ATP III基準では15.5%がMetSであった。アンケートによる患者意識調査では、43.7%の患者が「最近1年間で体重が増えたと思う」と回答した。現在通院している病院での体重測定の頻度は、受診毎が24.2%、3ヵ月に1回が16.0%、半年に1回が5.7%、1年に1回が8.9%、体重測定をしたことがないのは31.1%であった。血液検査の頻度は、受診毎が6.3%、3ヵ月に1回が23.6%、半年に1回が21.3%、1年に1回が21.4%、血液検査をしたことがないのは14.5%であった。「メタボ」という言葉を知っていると答えた患者は68.0%、BMIを知っていたのは20.7%であった。また、定期的な血液検査を希望すると答えた患者は55.5%、定期的に体重測定を希望するとした患者は57.3%であった。以上のアンケート調査の結果から、須貝氏は「日本人の外来通院統合失調症患者におけるMetS有病率は一般人口よりは高いが、これまでの欧米の疫学研究の結果に比べて低い値であった。単剤・併用療法、または薬剤によるMetSの有病率には差はなかった」と述べた。また、患者の意識調査から6割近い患者が定期的な体重測定や血液検査を希望していることを指摘した。今後は精神科病棟入院患者についても同様なアンケート調査を実施し、外来患者の結果と比較する予定である。栄養士と薬剤師の立場からみた統合失調症患者の健康問題稲村雪子氏(新潟医療福祉大学健康栄養学科)は栄養士の立場より、退院後および外来通院の統合失調症患者の食生活の実態調査を行い、「間食」が肥満をもたらす大きな要因であることを明らかにし、肥満防止には間食に焦点をあてた教育が必要であると述べた。また、稲村氏は2010年7月~12月に全国の統合失調症の入院患者15,171名を対象として、低体重(BMI<18.5)、標準体重(18.5≦BMI<25)、肥満(BMI≧25)の分布を調べる大規模調査を行った。その結果、各BMIの分布状況は、それぞれ20.2%、58.2%、21.6%であった。先行する研究と比べて、肥満の割合が低く、低体重が多いという結果であったと報告した。松田公子氏(静和会浅井病院薬剤部)は、抗精神病薬の薬理学的作用機序の違いによる副作用プロファイルの差について紹介し、体重増加や耐糖能異常からMetSをひき起こすのはH1受容体遮断が関与しているものと思われる。また松田氏は、こうした副作用に対してチーム医療で対応し、精神疾患に対して糖尿病療養指導士が介入することによりHbA1cの低下に効果があったことを紹介した。その他、精神科慢性期病棟における抗精神病薬の減量や単剤化への取り組みなどについても紹介した。統合失調症患者のMetSをいかに予防するか古郡規雄氏(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座)は、抗精神病薬治療の身体リスクに関する合同プロジェクト委員会にて取り組む介入試験について紹介した。本試験は、統合失調症患者のMetS予防に関する研究であり、来年4月頃より開始を予定している。BMI≧25以上の外来統合失調症患者を対象として、①無介入群(現状維持)、②低介入群(体重測定)、③高介入群(食事・運動療法)の3群にランダム化割り付けを行い、1年間追跡するものである。主要評価項目はMetS有病率および体重の変化であり、副次評価項目は血圧、血糖値、血清脂質の改善などである。日本の医療に則した介入を評価するうえで、その結果が期待される。関連リンク

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双極スペクトラムの現況:診断と治療

ここ数年来、双極スペクトラムという言葉が広まっているが、一方で過剰診断などの問題も指摘されている。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会では、双極スペクトラムの現況についてその最前線をレビューするシンポジウムが寺尾岳氏(大分大学医学部精神神経医学講座)の司会で開催された。双極スペクトラムの概念と診断井上猛氏(北海道大学大学院医学研究科精神医学分野)は双極スペクトラムの概念とその診断についてレビューを行った。単極性うつ病と双極性障害を区別するようになったのは、1980年のDMS-III以降である。しかし、①大うつ病エピソードを有する患者の約10%が双極性障害であること、②双極性障害の約2/3が大うつ病エピソードで発症すること、③双極性障害と大うつ病におけるうつ病症状はほぼ同じであり、症状から見分けることが困難であるなどの理由から、単極性うつ病と双極性障害の鑑別は難しい。GoodwinとGhaemiが2000年に提唱した感情スペクトラムは、大うつ病エピソードと双極Ⅰ型障害を両極に据えた概念であり、反復性うつ病と双極Ⅱ型障害の間の一群を「双極スペクトラム障害」としてカテゴリー化し、「従来の診断基準を満たす明確な躁病/軽躁病エピソードは認めないがbipolarityを有する気分障害」と定義した。さらに2007年に、GoodwinとJamisonは大うつ病と双極性障害の間のスペクトラムと、感情障害と気質の間の重症度スペクトラムの二次元で成り立っているとの概念を示した。双極スペクトラム障害(BSD)の診断に関しては、2001年にGhaemiらが診断基準を示している(Ghaemi SN, et al. J Psychiatr Pract. 2001; 7: 287-297)。それに対しKiejnaらが2006年に、単極性大うつ病とBSDでみられる症状について、BSDでオッズ比が高いものを検証した。2000年~2007年に北海道大学病院精神神経科を外来受診した気分障害患者について、最長7年まで経過を観察し最終診断を調査した。その結果、単極性うつ病の5.5%は双極性障害に、4.9%はBSDに変更となり、BSDの25%は双極性障害に変更となり、75%はBSDのままであった。井上氏は、BSDの一部は潜在性双極性障害であり、一部は単極性うつ病と双極性障害の中間型ではないかとの見解を示した。混合性うつ病(Benazzi F. Lancet. 2007; 369: 935-945)は、双極性障害に多く、また双極性障害の家族歴をもつ者が多い。双極性障害に移行する大うつ病でも多くみられ、抗うつ薬で躁転や悪化しやすいという特徴がある。気質の評価ではTEMPS-A気質評価質問紙が用いられているが、質問項目が110項目に及ぶため、井上氏らはTEMPS-Aの質問項目を39にしぼった短縮版を作成した。この短縮版について、北海道大学病院を初診したうつ病患者で気分障害に分類された患者を対象としてプロスペクティブな検証を行っている。井上氏は最後に講演をまとめて、双極スペクトラムの臨床的意義として、大うつ病の診断の際には常に双極性障害を疑い、閾値下の軽躁や躁症状について積極的に問診し診断すること。また、診断の際には、双極性障害の家族歴や反復性、若年発症、抗うつ薬による躁転やリチウムへの反応性、および難治性が手掛かりとなることを述べた。今後の研究の展望として、大うつ病と双極性障害の中間型あるいは移行型に対する診断と治療に対する研究の推進、双極性障害における気質の病因的意義や気質の要因を探ること、治療への応用などを挙げた。双極スペクトラムの生物学的基盤気質には生物学的基盤が存在し、双極性障害を誘発することが示唆されているが、循環気質や発揚気質について検討した報告は少ない。帆秋伸彦氏(大分大学医学部精神神経医学講座)らは、発揚気質と光照射との関連について検討を行った。まず、56名の健常者を対象としてアクチグラムを用いて光曝露量を測定し、気質との関連を検討したところ、高揚気質のスコアが高いほど光曝露量が多く、睡眠時間の変動が大きく、中枢セロトニン機能が低くなることが示された(Hoaki N, et al. Psychopharmacology(Berl). 2011; 213: 633-638)。一方、循環気質の健常者では光曝露量は少なく、光を浴びないと気分変動が大きくなる可能性が示唆された(Araki Y, et al. J Affect Disord. 2012; 136: 740-742)。すなわち、発揚気質者では光をよく浴びていることが示されたが、光を浴びていると発揚気質が増強されるのか、あるいは発揚気質者が光を求める向日性を有するのかは明らかではなかった。そこで帆秋氏らは、照度と気質に注目した北海道大学との共同研究で、緯度の異なる大分県と北海道の大学生を対象とし、年齢や性別をマッチさせて気象条件や日照時間の差を考慮した検討を行った。その結果、重回帰分析にて発揚気質のみが大分県と北海道の差を有意に反映し、日照時間が長く光を多く浴びることで発揚気質が増強される可能性が示唆された(Kohno K, et al. J Affect Disord. 2012 Jul 27. [Epub ahead of print])。さらに、発揚気質者では光を好み向日性があるのか検討するために、「発揚気質者では明暗の弁別閾が異なり暗さをよく感じるために光を求める」との仮説をたて、fMRI(functional MRI)で明暗課題の実験を行った。この実験は、健常者35名を対象とし、明るさを11段階に分けたスライドをランダムに提示し、明るいと感じるか(明課題)、逆に暗いと感じるか(暗課題)ボタンを押して答えさせるものである。その結果、発揚気質者と他の者では明暗の弁別閾に有意差はなく、本仮説は否定された。次いで帆秋氏らは嗜好性に着目し、「発揚気質者では明るさを好み暗さを嫌う」との仮説をたて、同様に明るさを11段階に分けたスライドを提示して、好課題と嫌課題の実験を行った。その結果、非発揚気質者では暗いスライドに好きと回答する割合が高く、発揚気質者では暗いスライドに嫌いと回答する割合が高くなり、嗜好性の差とする本仮説は指示された。また、fMRIの解析から発揚気質者では明るさの嗜好性に関連する脳の左楔前部の賦活が他の者より有意に大きいことが明らかにされた(Hoakiら投稿中)。以上の結果から、光を浴びることで発揚気質が増強され、また発揚気質者では明るさを好み暗さを嫌うためにより多くの光を浴びることが示唆された。さらに、発揚気質と左楔前部の賦活の関連が示された。左楔前部は双極性障害の認知課題でその活動性の低下が報告されており、今回の結果は発揚気質と双極性障害との関連を示すものでもあると帆秋氏は述べた。これまでTCI(Temperament and Character Inventory)で分類された気質とPET脳画像との関連についてはいくつかの報告があるが、TEMPS-Aの気質とPET画像との報告はまだない。帆秋氏らは33名の健常者(男性19名、女性14名、平均年齢31.0±8.7歳)を対象として、高照度光照射装置による光照射群と光照射を行わない対照群に無作為に割り付け、5日間の光照射の後にFDG-PET撮像を行い、気質と光照射が脳機能に及ぼす影響を検討した。対象者の気質は、抑うつ気質9名、循環気質10名、発揚気質15名、焦燥気質10名、不安気質2名(重複あり)であった。その結果、男性の照射・焦燥気質群と男性の照射・非焦燥気質群において糖代謝の高い脳部位が認められ、気質が光照射と関連して脳機能に影響する可能性が示された(Kohnoら投稿中)。帆秋氏は最後に、双極性障害から双極スペクトラム、単極性うつ病まで、診断では連続しているのにその治療が異なることに対して、「変曲点」が存在するのではないかという仮説を紹介して講演を終えた。関連リンク

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精神疾患の治療開発-今、見逃せない新たな取り組み

「精神疾患の治療開発」のスタディ・グループでは、従来のパラダイムにとらわれず新しい発想で効果的な精神疾患の治療開発を目指している。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会にて、橋本恵理氏(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)の司会のもと、4名が新しい精神疾患の治療の取り組みについて紹介した。PAK阻害薬によるグルタミン酸シグナルの阻害林(高木)朗子氏(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター構造生理学部門)は、グルタミン酸シグナルの阻害によるシナプス保護の観点から新薬開発の可能性を紹介した。大脳皮質の70%のシナプスが樹状突起棘(スパイン)であり、そのほとんどがグルタミン酸作動性シナプスである。死後脳の剖検から、統合失調症患者では背外側前頭前野や聴覚野、海馬台ではスパイン密度が減少しており、また多くの統合失調症関連遺伝子がグルタミン酸作動性シナプスに局在していることが報告されている。記憶や認知、適応をもたらす細胞基盤はシナプスの可塑性であり、シナプスの機能はその形態と著しく相関しているため、形態(サイズ)から機能を評価することができる。林氏らはDISC1遺伝子をノックアウトすることによりスパインサイズが減少し、NMDA受容体によるRac1/PAK1シグナル伝達経路が過剰に活性化されることを明らかにした(Hayashi-Takagi A, et al. Nat Neurosci. 2010; 13: 327-332)。次いで林氏らは、PAK阻害薬のスパインに対する効果を検討したところ、PAK阻害薬はDISCノックダウンによるスパイン消滅を予防し、スパインサイズを回復することが示された(Hayashi-Takagi A投稿中)。さらに、PAK阻害薬の他の機能に及ぼす影響についても検討を進めている。また、統合失調症患者では発症前後で前頭野皮質が強い収縮を示し(Sun D, et al. Schizophr Res. 2009; 108: 85-92)、疾患の進行過程でグルタミン酸レベルが低下することが知られている(Theberge J, et al. Br J Psychiatry. 2007;191:325-334)。林氏は最後に、マウスで脳のスパインの形態変化を顕微鏡下で直接観察するというin vivoスパインイメージングの動物モデルの開発について紹介した。精神疾患の炎症モデルからみたミノサイクリンの治療への応用統合失調症患者では炎症性サイトカインの亢進が認められ、神経炎症機序が関与していることが指摘されている(Meyer U. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2011 Nov 15, Epub)。また、中枢神経系の炎症の機序にはミクログリアが深く関わり、発症から5年以内の統合失調症患者ではミクログリア活性化が認められる(van Berckel BN, Biol Psychiatry. 2008;64:820-822)。橋本謙二氏(千葉大学社会精神保健教育研究センター病態解析研究部門)は、第二世代抗生物質製剤であるミノサイクリンが、ミクログリアの活性化を強力に抑制することに着目し、統合失調症治療への応用について紹介した。統合失調症のマウスモデルでミノサイクリンの効果を検討したところ、ジソシルピンにより惹起されるプレパルスインヒビション(PPI)の障害や、フェンサイクリジンによる統合失調症様の認知機能障害を抑制することが示された。さらに橋本氏は、ミノサイクリンが脳神経にアミロイドβ蛋白を蓄積させるγセクレターゼの活性をコントロールする5-リポキシゲナーゼを阻害し、アルツハイマー型認知症の発症を抑制する可能性にも言及した(Hashimoto K. Ann Neurol. 2011; 69: 739)。カルボニルストレスの代謝制御による統合失調症の治療酸化ストレスが加わるとカルボニル化合物であるメチルグリオキサール(MG)が生成し、このMGを消去するために、グリオキシラーゼ(GLO)解毒回路が働く。この解毒回路にもれたMGはメイラード反応によって終末糖化産物(AGEs)となる。AGEsはビタミンB6(カルボニル・スカベンジャー)により補足されて分解される。AGEsが体内に蓄積する状態をカルボニルストレスといい、動脈硬化の進展や糖尿病合併症との関連で着目されていたが、糸川昌成氏(東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野)らは、この病態を標的とした統合失調症の新しい治療の可能性を紹介した。糸川氏らは、統合失調症患者で解毒酵素のGOL1にフレームシフト変異を発見し、その患者ではAGEsの蓄積と、それに伴うビタミンB6の枯渇が認められたことから、統合失調症患者のなかで、AGEs蓄積と関連した「カルボニルストレス性統合失調症」の存在を明らかにした(Arai M, et al. Arch Gen Psychiatry. 2010; 67: 589-597)。AGEsの蓄積は統合失調症のリスクを25倍上昇させ、ビタミンB6欠乏は10倍リスクを上昇させることが示されている。さらに、AGEs蓄積は統合失調症の重症度とも相関していた。そこで糸川氏らは、治療により症状が改善した統合失調症患者ではAGEsも低下すると推測して検討したところ、外来患者では入院患者に比べてAGEsが有意に低く、AGEsの低下が退院につながることがわかった。さらに糸川氏らは、ビタミンB6欠乏のあるカルボニルストレス性統合失調症患者にビタミンB6を補充することにより症状の改善が得られないか検討を重ねている。ビタミンB6はピリドキサミン、ピリドキサール、ピリドキシンの3種類の化学物質の混合体であり、このうちAGEs解毒作用を有するのはピリドキサミンのみである。糸川氏らはまず、健常者24名を対象に第I相試験を行ったところ、ピリドキサミン1,800mg/日の投与量で有効血中濃度に達し、有害事象は認めなかった。この成績に基づいて、統合失調症患者を対象とした医師主導第II相試験が進行中である。GLO1遺伝子にフレームシフトをもつ患者では発症前からAGEsが高い可能性があり、糸川氏らはそのような患者には発症前からピリドキサミンを投与してAGEs蓄積を抑制するという、統合失調症の発症予防を視野にいれた治療法も検討中である。神経幹細胞移植を用いた再生医療的アプローチの可能性鵜飼渉氏(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)は、治療抵抗性または難治性の統合失調症やうつ病、胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)などの治療として、神経幹細胞を経静脈的に投与する再生医療的な取り組みを紹介した。実験方法は、妊娠期のマウスにPoly(I:C)(TLR3リガンド)を投与して生まれた統合失調症のモデルマウスを用い、生後1ヶ月時に神経幹細胞を経静脈的に投与し、6ヵ月時にその行動の評価および脳の剖検を行った。その結果、神経幹細胞移植群では、新奇オブジェクトの探索時間を有意に延長し、記憶学習や認知機能の障害が抑制された。また、社会性の評価において神経幹細胞移植群では能動的な社会的行動の減少が抑制されることも示された。一方、FASDモデルラットでは神経幹細胞移植により、強制水泳試験における無動時間の延長を抑制して、うつ状態の改善にも効果がみられた。札幌医科大学ではすでに、12名(男性9名、女性3名)の脳梗塞患者を対象として自己骨髄間葉系幹細胞を静脈内投与する治療が試みられており、移植をきっかけに脳卒中スコアが改善し回復スピードが加速することや、MRIで脳梗塞病変の縮小が確認されている(Honmou O, et al. Brain. 2011; 134: 1790-1807)。鵜飼氏らは、治療抵抗性難治性うつ病患者を対象とした本治療法の精神疾患への臨床応用を検討している。神経幹細胞移植のメカニズムとして、短期的にはサイトカインを介した神経栄養因子増強作用や抗炎症作用、血管新生作用が考えられ、また長期的には神経新生の増加がもたらされるとしている。鵜飼氏らは、細胞電気生理学的解析やシナプス機能・構造学的解析、オプトジェネティクス解析など最先端の手法を用いて、神経幹細胞移植の効果について解析を進めている。関連リンク

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乾癬患者の2型糖尿病リスク、有病率1.59倍、罹患率1.27倍

 乾癬は2型糖尿病リスクと関連しており、重症患者で最もそのリスクが強い可能性があることが明らかにされた。米国カリフォルニア大学デービス校Health SystemのArmstrong氏らが、システマティックレビューによるメタ解析の結果、報告した。Archives of dermatologyオンライン版2012年10月15日号の掲載報告。 乾癬を有する患者と有さない患者との、2型糖尿病の有病率および罹患率について比較した。 MEDLINE、EMBASE、CochraneDatabaseをデータソースに、1980年1月1日~2012年1月1日の間に英語で公表された観察試験(コホート研究、ケースコントロール試験、断面研究)で、乾癬患者と個人対照群の糖尿病有病率または罹患率を比較した試験を適格とした。データ抽出は2人の独立した研究者が行い、エビデンスの質は6点スケールで評価した。 主な結果は以下のとおり。・142試験が適格であり、27試験をメタ解析に組み込んだ。そのうち5試験は、乾癬患者の糖尿病罹患率を評価したものであった。これらは別途解析した。・有病率を評価していた試験を解析した結果、乾癬患者の糖尿病有病率は1.59倍高かった[オッズ比(OR):1.59、95%CI:1.38~1.83)]。・プール解析の結果、軽度の乾癬患者の糖尿病有病率は1.53倍(OR:1.53、95%CI:1.16~2.04)、重症の乾癬患者では1.97倍(同:1.97、1.48~2.62)高かった。・メタ回帰分析の結果、カルテで検討した試験(OR:1.52、95%CI:1.31~1.77)あるいは患者自身が糖尿病を報告した試験(同:2.79、1.42~5.48)と、支払請求データで検討した試験(同:1.46、1.01~2.09)との比較において、試験間で関連性の強さに有意な差はみられなかった(p=0.10)。・一方、罹患率を評価した試験を解析した結果、乾癬の糖尿病発症の相対リスクは1.27倍(95%CI:1.16~1.40)であった。

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抗結核薬耐性の最大リスク因子は「2次抗結核薬の投与歴」

 超多剤耐性結核(XDR-TB)を含む抗結核薬耐性の最大のリスク因子は、「2次抗結核薬の投与歴」であることが、米国疾病対策予防センター(CDC)のTracy Dalton氏らの調査(Global PETTS)で示された。多剤耐性結核(MDR-TB)は、Mycobacterium tuberculosisを原因菌とし、少なくともイソニアジドとリファンピシンに対する耐性を獲得した結核で、XDR-TBはこれら2つの1次抗結核薬に加え、2次抗結核薬であるフルオロキノロン系抗菌薬および注射薬の各1剤以上に耐性となった結核と定義される。XDR-TBの世界的発生は実質的に治療不能な結核の到来を告げるものとされ、MDR-TBに対する2次抗結核薬の使用拡大によりXDR-TBの有病率が増大しつつあるという。Lancet誌2012年10月20日号(オンライン版2012年8月30日号)掲載の報告。2次抗結核薬の耐性を前向きコホート試験で評価Global PETTS(Preserving Effective TB Treatment Study)の研究グループは、8ヵ国における2次抗結核薬に対する耐性の発現状況を評価するプロスペクティブなコホート試験を実施した。2005年1月1日~2008年12月31日までに、エストニア、ラトビア、ペルー、フィリピン、ロシア、南アフリカ、韓国、タイにおいて、MDR-TBが確認され、2次抗結核薬治療を開始した成人患者を登録した。CDCの中央検査室で、以下の11種の抗結核薬の薬剤感受性試験を行った。1次抗結核薬であるエタンブトール、ストレプトマイシン、イソニアジド、リファンピシン、2次抗結核薬としてのフルオロキノロン系経口薬(オフロキサシン、シプロフロキサシン)、注射薬(カナマイシン、カプレオマイシン、アミカシン)、その他の経口薬(アミノサリチル酸、エチオナミド)。2次抗結核薬に対する耐性のリスク因子およびXDR-TBを同定するために、得られた結果を臨床データや疫学データと比較した。2次抗結核薬耐性率43.7%、XDR-TB感染率6.7%解析の対象となった1,278例のうち、1つ以上の2次抗結核薬に耐性を示したのは43.7%(559例)であった。20.0%(255例)が1つ以上の注射薬に、12.9%(165例)は1つ以上のフルオロキノロン系経口抗結核薬に耐性を示した。XDR-TBの感染率は6.7%(86例)だった。これらの薬剤に対する耐性発現の最大のリスク因子は「2次抗結核薬の投与歴」で、XDR-TB感染のリスクが4倍以上に増大した(フルオロキノロン系経口薬:リスク比4.21、p<0.0001、注射薬:4.75、p<0.0001、その他の経口薬:4.05、p<0.0001)。フルオロキノロン系抗菌薬耐性(p<0.0072)およびXDR-TB感染(p<0.0002)は男性よりも女性で高頻度であった。2次抗結核注射薬に対する耐性は、失業、アルコール依存、喫煙との間に関連を認めた。その他のリスク因子については、各薬剤間、各国間でばらつきがみられた。著者は、「XDR-TBを含む抗結核薬耐性の一貫性のある最大のリスク因子は、2次抗結核薬の投与歴であった」と結論し、「今回の特定の国における調査結果は、検査体制に関する国内的な施策や、MDR-TBの効果的な治療に関する勧告の策定の参考として他国にも外挿が可能と考えられる」と考察している。

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だいじょうぶか安房医師会:無料低額診療に反対する理由がひどい (その1/2)

亀田総合病院副院長社会福祉法人太陽会顧問小松 秀樹2012年10月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。●原徹文書2012年10月9日、安房医師会理事会(会長、副会長以外に6名の理事が出席)において、原徹安房医師会副会長が「安房地域医療センター 無料低額診療施設としての位置付けに関して」と題する文書を配布した。原徹医師は、千葉県医師会副会長であり、日本医師会代議員でもある。医師会活動に長年取り組み、医師会内で地位を獲得してきた。理事会では、間宮聰会長と3名の理事が、原徹文書の論理に沿って、安房地域医療センターで計画されている無料低額診療に対する反対意見を述べた。文書には署名が入っていなかった。私の問い合わせに対し、原副会長は、自分が健康福祉指導課に懸念を伝え、文書を書いたと答えた。文書中には、「安房医師会としての下記懸念がある事を(千葉県庁健康福祉部・健康福祉指導課に)お伝えした」とあり、懸念の主体が安房医師会であることが示されている。安房地域医療センター 無料低額診療施設としての位置付けに関して安房地域医療センターが無料低額診療を開始するとの情報を得た為、10月3日所管となる千葉県庁健康福祉部・健康福祉指導課から御意見を求めた。また安房医師会としては下記の懸念がある事をお伝えした。1)地区医師会所属の会員施設の患者さんも生活に困窮されている方は少なくない状況下にあり、無償ないし低額での保険医療提供は患者誘導、集患行為に当たるのではないか?2)社会福祉法人 太陽会が運営する病院であることは承知しているが、社会福祉法人の理事、評議員の構成が医師会組織や行政の意見を充分に反映する内容となっているのか? また経営の実態は鉄蕉会が担っている様に見受けられますが、社会福祉法人の趣旨を徹底する事が可能なのか?3)本制度に該当する患者さんを選定する会議などが公正に機能するのか?4)生活保護者に対する医療行為等を勘案すると、保険医療費が増加する可能性が否めないのでは? 本制度を運用する施設は、これまで民医連系等が運営する施設など、受診者自身の選択がある程度伴う施設が主であったが安房地域医療センターの位置付け、役割を再度考えるべきではないか?等々の疑問が生じます。●無料低額診療を計画した理由なぜ、社会福祉法人太陽会が無料低額診療を計画するに至ったのか。『厚生福祉』2012年7月20日号掲載の「日本社会の変化と医療・介護」で、小松俊平(現太陽会理事長補佐、鉄蕉会経営企画室員)が理由を述べている。2010年度の国保被保険者3920万人の前年の平均所得は、1世帯当たり145万円、1人当たり83万7千円だった。これに対して、2008年度の国保被保険者の前年の平均所得は、1世帯当たり168万円、1人当たり95万6千円だった。2010年度と比較すれば、リーマン・ショックの影響の深刻さをみてとることができる。さらに遡って、1993年度の国保被保険者の前年の平均所得は、1世帯当たり239万円、1人当たり109万円だった。IMFの「World Economic Outlook Database」(2012年)によれば、2009年の日本の名目GDPは、1992年と比較して3.4%減少したにとどまる。これに対して、国保被保険者の平均所得は、1世帯当たり39%、1人当たり23%減少したことになる。」国保被保険者は、平均世帯所得145万円の中から、平均保険料14万4千円、さらに受診時に自己負担分を支払っている。これと生活保護の基準を比較すれば、我が国セーフティ・ネットの矛盾と破綻の状況が浮かび上がってくる。社会保障推進千葉県協議会が行った市町村への国民健康保険アンケートによれば、2010年の館山市の総世帯に占める国保加入世帯の割合は45.3%、国保加入世帯に占める前年度滞納世帯の割合は30.5%といずれも高率である。国民健康保険実態調査によれば、2010年の市町村国保被保険者1人当たりの課税標準額は、全国63万8094円に対し、館山市59万8316円である。館山市にある安房地域医療センターでは、医療・介護へのアクセスに困難を抱える患者をよく目にする。例えば、独居で移動手段がなく、交通費や医療費の自己負担分を嫌って病院に行かず、症状が顕著になってから救急搬送され、初診で入院となる患者がいる。あるいは、自宅に戻るのが困難であるにもかかわらず、資力の関係で療養病床、老人保健施設を利用できず、特別養護老人ホームの利用を待機している患者もいる。事態は極めて複雑かつ困難で、問題の統一的解決は不可能である。国や地方自治体は、法規範の権威的決定とその執行というスタイルで作動する。公権力という強い力を持つがゆえに、手足を厳密に拘束せざるを得ない。複雑かつ困難な状況を的確に認知し、迅速かつ臨機応変に対処することを期待するのは無理である。結局、現場にあるそれぞれの医療・介護の経営主体が、目を見開いて世界をよく認識し、認識した世界と自己を対照して、自らを変え続け、さらに社会を変え続けていくしかない。工夫に工夫を重ねた特殊な成功例を積み重ねることである。国や地方自治体の役割は、特殊な成功例が多く出るような環境を整えることである。現場に自由を与え、環境の公正さを保障しなければならない。亀田グループでは、医療・介護の供給増のネックとなっている看護師の養成に全力を挙げると同時に、安房地域医療センターにおいて、社会福祉事業として医療を公定価格より安く提供すること(無料・低額診療事業)、従来の居宅での生活が困難になった地域の高齢者へ、安房地域医療センターの近隣で集合住宅、在宅医療、居宅介護を一体的に提供すること(安房セーフティ住宅構想)などを検討している。無料低額診療は、経済的負担に病院が耐えられる範囲でしか実施できない。安房地域医療センターは破綻した医師会病院を、県と地元の自治体の依頼によって負債付きで引き受けたものである。未だに補助金なしでは赤字である。無料低額診療を実施するための資金は、寄付で集めたいと考えている。寄付集めの専門家とも相談を重ねている。無料低額診療を行うにあたって3つの原則が重要だと考えている。第一に病院の存続が脅かされてはならない。第二に安房地域医療センターが担っている急性期医療の機能が損なわれてはならない。第三に受療行動にモラル・ハザードをもたらすことのないようにしなければならない。モラル・ハザードは社会保障の根本に付きまとう問題である。アリストテレスの配分的正義「等しきものは等しく、不等なるものは不等に扱わるべし」が問われる。社会保障によって、負担する費用と受け取るサービス水準の逆転を許せば、働くことを忌避する風潮が生まれる。ごね得を許せば、ごね得が社会にはびこる。結果として市民の士気(morale)が損なわれ、あるいは社会の規律なり道徳なり(moral)が損なわれる。無料低額診療を開始する前に申請、審査、承認を行う。虚偽の申請に対しては、詐欺罪による刑事告発、および減免された費用の返還を求める民事訴訟などができるようにしたいと考えている。さらに、外来診療については、一定期間で終了とし、入院診療については、原則として、退院許可をもって終了とする方針を考えている。様々な制約の中で、ささやかな規模にしかならないかもしれないが、医療にアクセスできない生計困難者を救済したいというのが今回の試みである。●安房10万人計画実は、無料低額診療を推進すべきもう一つの理由がある。安房10万人計画である。首都圏の高齢者を招いて安房の人口を増やそうというものである。亀田グループでは、2012年3月以後、安房10万人計画について議論を重ねている。首都圏では、団塊の世代の高齢化によって、今後20年間で介護需要が約3倍に増加する。団塊ジュニア世代の高齢化がこれに続くため、高齢者の絶対数は長期間にわたって大きく減少することはない。介護需要の増加の規模が余りに大きいため、首都圏だけの対応では、介護需要に応じることが難しいと考えられている。一方で、安房3市1町(館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町)では、高齢化率が首都圏よりはるかに高くなり、人口が急速に減少する。2030年には館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町の高齢化率はそれぞれ41.1%、43.7%、51.2%、49.3%になると予想されている。高齢化率が50%を超える自治体は、限界自治体と呼ばれる。日本社会保障人口問題研究所の2008年の市町村別将来推計人口によれば、限界自治体数は、2010年10、2020年39、2030年105に達すると予想されている。限界自治体は、有効な対策がなければ自治体としての存続が難しくなる。安房には利点がある。温暖であり、亀田総合病院という日本を代表する病院の一つがある。医療と介護施設、介護施設同士の連携が極めて良好である。この利点を生かそうとするのが、安房10万人計画である。ミッションは以下の3点。1. 首都圏の高齢者、要介護者に、安房で、楽しく穏やかに人生の終末期を過ごし、死を迎えてもらう。2. 高齢者を介護する若者に、安房で、結婚し、子供を産み育ててもらう。3. 安房を活性化することで、住民に職を提供する。さまざまな経営主体に参加を呼び掛けたいと思っている。亀田グループで利益と手柄を独占しない。参加した施設には、医療提供で協力する。異なる立場の関係者が参加するNPOを設立し、これが全体のルールの設定や改定など調整業務を担うようにしたい。亀田グループにとっての最大のメリットは、この地域の人口を増やすことである。政府も似たようなアイデアを進めようとしている。2012年10月8日の日本経済新聞電子版によると、厚労省などが、高齢者の地方移住促進のための仕組みを検討しているという。送り出す自治体が費用を負担する。来年度、東京都杉並区と静岡県南伊豆町が協定を結ぶことになっている。安房10万人計画を推進するのに、地元の生計困難者が医療にアクセスできないのを放置していたのでは、地元の住民の共感が得られない。安房で医療、福祉が充実していることを示さないと、首都圏の高齢者に信頼されない。(その2/2へ続く)

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CKD患者の血圧管理:ARBで降圧不十分な場合、増量か?併用か?

 CKD患者の血圧管理においてARB単剤で降圧目標130/80mmHg未満に到達することは難しい。今回、熊本大学の光山氏らは、日本人対象の無作為化比較試験のサブ解析の結果、ARB単剤で降圧不十分時にARBを増量するより、Ca拮抗薬を併用したほうが心血管系イベントや死亡といったリスクを回避しやすいことを示唆した(Kidney International誌オンライン版10月10日号掲載報告)。 ARBを低用量から開始し、通常用量まで増量しても降圧目標に達しないケースでは次にどのような一手を打つべきか? さらに増量する方法のほか、Ca拮抗薬など他の降圧薬の追加も選択肢となる(『CKD治療ガイド2012』では尿蛋白を伴わず、糖尿病を合併していない場合は「降圧薬の種類を問わない」とされている)。 サブ解析は、無作為化オープン試験OlmeSartan and Calcium Antagonists Randomized(OSCAR)試験について行われた。OSCAR試験では心血管疾患もしくは2型糖尿病を1つ以上有する日本人の高齢者(65~85歳)高血圧患者1,164例を対象とし、ARB増量群(オルメサルタン40mg/日)あるいはARB+Ca拮抗薬併用群(オルメサルタン20mg/日+Ca拮抗薬)に無作為化された。今回のサブグループ解析の対象は、事前に設定されていたCKD患者(eGFR 60 mL/min/1.73 m2 未満)である。 主要評価項目は「心血管系イベント」および「非心血管疾患死」。心血管系イベントは「脳血管障害」「冠動脈疾患」「心不全」「その他動脈硬化性疾患」「糖尿病性合併症」「腎機能の悪化」と定義された。なお、本試験については、すでに2009年に小川氏(熊本大学)らによって主要結果が発表されている(Hypertens Res. 2009;32:575-580.)。 主な結果は下記のとおり。・血圧は併用群で増量群に比べ、有意に低下。・主要評価項目の発生率は併用群(16例)で増量群(30例)より少なかった(ハザード比 2.25)。・脳血管障害および心不全イベントが増量群でより多く発生した。

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ある製薬メーカーのケースからを考える「研究者の業務効率化」とは?

9月8日(土)東京大学・本郷キャンパスにおいて山本雄士氏(株式会社ミナケア 代表取締役)主催による第5回の「山本雄士ゼミ」が開催された。今回は、ケーススタディとして「ワイス・ファーマシューティカルズ」(Wyeth Pharmaceuticals: Spurring Scientific Creativity with Metrics)を取り上げ、製薬メーカーにおける経営マネジメントなどについてディスカッションした。山本雄士ゼミは、ハーバード・ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得した山本氏をファシリテーターに迎え、ケーススタディを題材に医療の問題点や今後の取組みをディスカッションによって学んでいく毎月1回開催のゼミである。イントロダクション冒頭、山本氏よりケーススタディ企業の概要が説明され、「研究部門長の改革で優れている点は何か?」と「研究開発の目標数を増やすメリット・デメリット」の2つのテーマの提起のあと、ディスカッションに入った。ワイス社は、1860年代にアメリカで創業された企業で何度かの合併・買収を繰り返しながら大きくなっていった製薬メーカ(現在ワイス社は買収されて存在しない)。2005年時点で売上高は約180億ドル、世界的な主力製品の関節リウマチ治療薬や乳幼児向け肺炎球菌ワクチンなど、バイオ医薬品とワクチンなどに強い会社である。企業の研究部門改革の成功例をみる同社が低迷する新開発商品の倍増を目指し、テコ入れを行った「新たな働き方(NWW)」の経緯が今回のケースの内容である。2001~2002年にかけて創薬の初期段階である新規化合物が伸びたこと、試験への進展率が上がったことなどケースから読み取れる事例の報告後、山本氏より「数字で管理するメリットは何か?」との問題提起をうけて、ディスカッションが始まった。参加者からは、「経営戦略がたてやすい」、「研究・開発の管理が容易になる」、「報酬増の目安が表示される」などの意見が出された。次に「NWWが成功したポイントは?」という問いに「モチベーションの見える化」や「報酬の連帯性=組織の強化」、「作業プロセスの効率化」、「スピード感の向上」などの意見が出された。製薬メーカーの本質とは何か山本氏より問題提起として「創薬研究はアートといえるかどうか?」という問題が投げかけられ参加者は、「アートである」と「研究の成果である」の2つに分かれ、ディスカッションが行われた。かたや「薬のターゲットを決めることが創造的作用である」から、かたや「偶然に左右される産物をどのように管理するのか」など双方からさまざまな意見が寄せられた。次に山本氏から「製薬企業の強みとは何か?」という質問に参加者からは、「needs(需要)とseeds(供給)の調整ができる」や「サポートの充実、安定供給ができる」、「患者への責任を持っている」など企業の本質に関わる話題まで多くの回答が寄せられた。これらの内容を踏まえて、企業のサプライチェーン(供給連鎖)の話題や最近の創薬研究の動き(研究の外注化やベンチャーの買収)などがミニレクチャーされた。研究が主体の企業の在り方ケーススタディに戻り、ワイス社がNWWでターゲットの開発目標数を12から15個に増やしたことの賛否について山本氏が質問。これに対し、参加者からは「高めの目標設定は理解できる」や「難しい目標設定ではない」などの賛成意見と「収益の改善に効果がない」や「質が低下する」などの反対意見が出され、ディスカッションが行われた。そして、同社がNWWのおかげで急激な開発速度で目標が達成された経緯を検討、研究者の働き方に関する議論へと進展した。ディスカッションでは、企業統治について本社主導の「統制型」か部門ごとの「分権型」かに分かれて行われた。統制型では、管理しやすく、遂行型業務には適しており、全体最適化がしやすい反面、調整が難しかったり、目標が高くなるきらいがあるなどの意見がでた。一方で、分権型では、部門の自律性が図れると同時に権限が強くなり、フレキシブルな対応ができる反面、目標が低くなり、責任の所在が曖昧になる、全体最適化が難しいなどの意見が出された。結論として、こうした分類は簡単に割り切れるわけではなく、規模や業務内容に応じて選択する必要があること、基準化された正解はないことを確認した。最後にまとめとして、山本氏が「研究・開発に関して、知識の部分というのは管理化・プロトコル化できるが、暗黙知の部分は手順化が難しい。しかし、社内や学内研修や知識の共有化を通じてツール化することは可能であり、今後、この暗黙知の部分も会社なり、大学なり研究組織は、ツール化して組織内にどんどん導入する時にきている」と示唆を述べ、今回のゼミを終えた。

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XDR結核患者へのリネゾリド追加投与、約9割が半年以内に喀痰培養陰性化

 超多剤耐性(XDR)の結核患者に対してリネゾリド(商品名:ザイボックス)を追加投与することで、6ヵ月時点までに87%で喀痰培養陰性化が認められたことが報告された。一方で、リネゾリドを投与した人の8割で、臨床的に明らかな有害事象が認められた。韓国・International Tuberculosis Research CenterのMyungsun Lee氏らが、40人弱について行った無作為化試験の結果で、NEJM誌2012年10月18日号で発表した。リネゾリド600mg/日を投与、4ヵ月以降は半数に300mg/日を投与研究グループは2008~2011年にかけて、喀痰培養陽性の広範囲薬剤耐性の結核患者で、過去6ヵ月間にいずれの化学療法にも反応しなかった41例を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方にはリネゾリド600mg/日の投与を即時開始し、もう一方の群には、2ヵ月後から追加投与を開始した。いずれも、それまでの服用レジメンは変更しなかった。主要エンドポイントは、試験登録後4ヵ月間の、喀痰培養の固体培地上での陰性化までの期間だった。陰性化または4ヵ月後のいずれか早い時点で、被験者を再び無作為に2群に分け、一方にはリネゾリド600mg/日を、もう一方の群には300mg/日を、18ヵ月以上投与した。なお、その間毒性に関する検査も行った。リネゾリド投与後6ヵ月以内の陰性化は87%、一方で有害事象82%その結果、投与開始4ヵ月までに喀痰培養が陰性化したのは、リネゾリド即時開始群の19例中15例(79%)に対し、リネゾリド待機開始群は20例中7例(35%)と、即時開始群が有意に高率だった(p=0.001)。38例中34例(87%)がリネゾリド投与後6ヵ月以内に喀痰培養が陰性化した。一方で、リネゾリドを投与した38例中31例(82%)で、リネゾリドに関連する可能性がある、臨床的に明らかな有害事象が認められ、うち3例は投与を中止した。2度目の無作為化でリネゾリド300mg/日を投与した群では、600mg/日投与群に比べ、有害作用発生率は少なかった。また、治療を完了したのは13例で、そのうち治療期間中に再発がみられなかったのは6例、追跡期間6ヵ月以内では4例、同12ヵ月以内では3例だった。リネゾリドへの耐性獲得が認められたのは4例だった。著者は、「リネゾリドは治療抵抗性XDR結核患者の培養陰性化達成に有効である。しかし一方で、有害事象について注意深くモニタリングしなければならない」と結論している。

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HPVワクチン接種を受けた少女、その後の性交渉に変化はみられるのか?

 HPVワクチン接種を受けた少女と受けなかった少女について、その後3年間の性交渉に関連した受診動向について後ろ向きに比較した結果、接種群の複合アウトカムリスク(妊娠/性感染症の検査または診断、避妊カウンセリング)の増大は、認められなかったことが報告された。米国のHMOカイザーパーマネント南東部ヘルスリサーチセンターのBednarczyk RA氏らによる報告で、これまでHPVワクチン接種後の性交渉の変化について自己申告に基づくサーベイ調査はあったが、臨床的指標を用いた調査はこれが初めてだという。Pediatrics誌オンライン版2012年10月15日号の掲載報告。 大規模なマネジドケア組織からの長期的電子データを用い、後ろ向きコホート研究の手法にて、思春期に接種が推奨されているワクチン接種後の性交渉関連臨床アウトカムを評価した。 2006年7月~2007年12月の間にマネジドケア組織に登録された11~12歳の少女を、思春期ワクチン(4価HPVワクチン)接種の有無で分類。2012年12月31日まで3年間追跡し、アウトカム(妊娠/性感染症の検査または診断、避妊カウンセリング)について評価した。受診行動や人口統計学的特性について補正後、多変量ポアソン回帰分析にて発生率比率を推定比較した。 主な結果は以下のとおり。・コホートには、1,398人の少女が組み込まれた(HPVワクチン接種者493人、非接種者905人)。・複合アウトカムリスク(すべての妊娠/性感染症の検査または診断、避妊カウンセリング)について、HPVワクチン接種群での有意な上昇はみられなかった。・補正後発生率比は1.29(95%CI:0.92~1.80)、発生率差は1.6/100人・年(95%CI:-0.03~3.24)であった。・クラミジア感染症に関する発生率差(0.06/100人・年、95%CI:-0.30~0.18)、妊娠診断に関する発生率差(0.07/100人・年、95%CI:-0.20~0.35)について、臨床的に意味ある絶対差はほとんど示されなかった。関連医療トピックス ・ロタウイルスの血清型と流行【動画】 ・睡眠時間の増減が子どもの情緒・落ち着きに与える影響 ・5価ロタウイルスワクチンの有効性、1回接種88%、2回接種で94%に

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うつ病に対するミルタザピンvs他の抗うつ薬【ポール・ヤンセン賞受賞】

 第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会(2012年10月18~20日、宇都宮市)にて2012年ポール・ヤンセン賞を受賞した名古屋市立大学 渡辺氏の「うつ病に対するミルタザピンと他の抗うつ薬の比較―コクランレビュー」を紹介する。 従来の抗うつ薬と異なる作用機序を有するミルタザピン。名古屋市立大学 渡辺氏らは成人のうつ病急性期治療に対するミルタザピンと他の抗うつ薬を比較したエビデンスを評価し、レビューを行った。その結果、著者らは「ミルタザピンはSSRIと比較し、とくに治療早期の有効性に優れる」としている。Cochrane Database Syst Rev誌2011年12月7日号の報告。 うつ病の急性期治療でミルタザピンと他の抗うつ薬を比較した無作為割り付け対照試験を対象とした。エビデンスはコクランうつ・不安神経症グループ研究データベース(CCDANCTR)にて検索を行った。関連研究報告書の参考文献リストをチェックし、専門家への問い合わせを行った。登録基準のチェックとデータの抽出は、2名の著者が各々独立して実施した。各データのランダム効果モデルはオッズ比(OR)と標準化平均差(SMD)に統合された。主要評価項目は治療反応とし、副次的評価として脱落率、忍容性を評価した。評価時期は、治療開始から2週間時点を治療早期、治療開始6~12週時点を急性期治療終了時とした。主な結果は以下のとおり。・最終的に29試験からうつ病患者4,974例のデータが得られた。対照薬として三環系抗うつ薬(10試験、1,553例)、SSRI(12試験、2,626例)、SNRI(2試験、415例)が用いられた。・主要評価項目では、ミルタザピンは三環系抗うつ薬と比較して、治療早期(OR 0.85、95%CI 0.64~1.13)および急性期治療終了時(OR:0.89、95%CI:0.72~1.10)のどちらも明確な差が示されなかった。・ミルタザピンはSSRIと比較して、治療早期(OR 1.57、95%CI 1.30~1.88)および急性期治療終了時(OR:1.19、95%CI:1.01~1.39)とも有意に優れていた。・ミルタザピンはSNRI(ベンラファキシンのみ)と比較して、治療早期(OR 2.29、95%CI 1.45~3.59)および急性期治療終了時(OR:1.53、95%CI:1.03~2.25)とも有意に優れていた。・忍容性は、明確な差を検出することができなかった。・有害事象では、ミルタザピンはSSRIと比較して、体重増加、食欲の増加、眠気を引き起こす可能性が高く、嘔気・嘔吐、性機能障害の可能性は低かった。関連医療ニュース ・【ポール・ヤンセン賞受賞】夜間における抗精神病薬関連のQT延長リスク ・【学会レポート】精神科薬物治療の身体リスクを考える ・【人気コンテンツ】うつ病治療におけるNaSSA+SNRIの薬理学的メリット

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小学生の日焼け止め塗布量、中央値0.48mg/cm2で大人と同程度

 オーストラリア・クイーンズランド工科大学公衆衛生校のDiaz A氏らは、小学生の日焼け止めの塗布量と年齢、および容器との関連についてクロスオーバー試験を行った。その結果、塗布量は製品推奨では2.00mg/cm2だが中央値0.48mg/cm2未満であり、ポンプ入りの日焼け止め利用者が最も厚塗りだったが、それでも1.00mg/cm2未満で大人と同程度であったことが明らかになった。Arch Dermatol誌2012年5月号の掲載報告。 小学生が朝、学校で塗布している日焼け止めの塗布量を測定し、その量と日焼け止めの製品推奨塗布量(2.00mg/cm2)との比較、および年齢(1~7年生)、容器の種類(500mL入りポンプ、125mL入りスクイーズボトル、50mL入りロールオン)による塗布量の違いについて調べた。 被験者は、クイーンズランドの公立小学校(1~7学年)の5~12歳で、7つの小学校の登録リストから無作為に集められた小児(87例)とその両親が対象となった。 小児は3週間(月~金曜日)にわたる介入を受け、毎週異なる容器を利用してその日最初の塗布を行った。 主な結果は以下のとおり。・各児から最高3つの観察データが得られた(計258件)。・小児の日焼け止めの塗布量は、中央値0.48mg/cm2であった。・塗布量は、ポンプ入り(0.75mg/cm2)とスクイーズボトル入り(0.57mg/cm2)の利用者が、ロールオンタイプ(塗布部がロール式になっているもの)(0.22mg/cm2)利用者よりも有意に多かった(両方の比較p<0.001)・しかし年齢に関係なく、小学生の日焼け止めの塗布量は1.00mg/cm2未満であり、これは成人で観察された塗布量と同程度であった。・日焼け止めは容器のタイプによって、厚塗りを容易にすることが判明した。

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抗うつ薬だけじゃない!うつ病寛解を目指す「共同ケア」の効果は?

 うつ病に対する共同ケア(collaborative care)の有効性について評価した結果、抑うつおよび不安アウトカムが、通常ケアと比べて改善することが、英国・マンチェスター大学のArcher氏らによるシステマティックレビューの結果より示された。著者は、「抑うつ・不安症状を呈する成人患者の臨床治療に有用であることが示された」と結論している。Cochrane Database Syst Rev2012年10月17日号の報告。英国では、よくあるメンタルヘルスの問題として人口の最大15%が抑うつや不安症状を有すると推定されており、世界的にもこれらの症状の影響や負荷を減らすための効果的な介入が求められている。共同ケアは、慢性疾患マネジメントモデルをベースとする複合的な介入で、メンタルヘルスのマネジメントにおいても有望視されている。 2012年2月までに、MEDLINEやEMBASEなどから関連する無作為化試験を登録しているCochrane Collaboration Depression, Anxiety and Neurosis Group(CCDAN)試験レジスターを検索した。適格試験は、抑うつまたは不安を呈するあらゆる年齢を対象とした共同ケアについての無作為化試験とした。2人の独立したレビュワーがデータ抽出を行い、バイアスリスクの検証とともに、標準化された平均差(SMD)およびリスク比(いずれも95%CIを伴う)を統合算出して検討した。結果の妥当性について感度解析も行った。主な結果は以下のとおり。・無作為化試験79件(関連性のある比較90件を含む)、参加者計2万4,308例を組み込んだ。・試験は、バイアスリスクにより差があった。・主要解析の結果、共同ケアモデルで治療されたうつ病成人患者は、介入が短期、中期、長期を問わず、抑うつ症状のアウトカムについて有意に顕著な改善を示した。短期介入のSMDは-0.34(95%CI:-0.41~-0.27)、RRは1.32(95%CI:1.22~1.43)、中期介入のSMDは-0.28(同:-0.41~-0.15)、RRは1.31(同:1.17~1.48)、長期介入のSMDは-0.35(同:-0.46~-0.24)、RRは1.29(同:1.18~1.41)であった。・しかしながら、これらの有意なベネフィットは、非常に長期にわたる介入においては示されなかった(RR:1.12、95%CI:0.98~1.27)。・不安症状のアウトカムについても同様の結果が示された。短期介入のSMDは-0.30(95%CI:-0.44~-0.17)、RRは1.50(95%CI:1.21~1.87)、中期介入のSMDは-0.33(同:-0.47~-0.19)、RRは1.41(同:1.18~1.69)、長期介入のSMDは-0.20(同:-0.34~-0.06)、RRは1.26(同:1.11~1.42)であった。・不安症状アウトカムについては、非常に長期にわたる介入の比較試験がなかった。・薬物療法、メンタルヘルスQOL、患者満足度を含んだ副次アウトカムでも、ベネフィットがあるとのエビデンスが認められた。しかし、身体的QOLに関するベネフィットについては、エビデンスが乏しかった。関連医療ニュース ・【学会レポート】抗うつ効果の予測と最適な薬剤選択 ・世界初!「WEB版」気分変動アンケート、その後の臨床に有益 ・うつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用

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抗てんかん薬の処方、小児神経科医はどう使っている?

 スウェーデン ウプサラ大学のMattsson氏らは、てんかん児の社会人口統計学的背景(居住地など)と抗てんかん薬処方との関連について調査した。その結果、年齢や居住地による専門医療アクセスの不平等さや、小児神経科医とその他の専門医とでは抗てんかん薬の処方に違いがあることが明らかとなった。著者は「広範な医療圏がてんかん児の医療機関へのアクセスを妨げていることを示す重要な報告となった。小児神経科医の充実が専門的医療サービスへのアクセスにとって重要であるかどうかについて、データの獲得はできなかったものの、傾向を把握することができた」と指摘している。Epilepsia誌オンライン版2012年10月12日号の報告。 スウェーデンのてんかん児において、社会人口統計学的な違いが専門医療サービスへのアクセスや抗てんかん薬処方と関連しているかを調べた。てんかんの罹患、抗てんかん薬の処方箋、社会人口統計学的因子について複数の全国レジスターからデータを入手し、小児神経科医へのアクセスや抗てんかん薬の処方について、性、年齢、親の教育レベル、居住地、出生地、世帯収入により異なるかを検討した。また、抗てんかん薬の処方が小児神経科医とその他の専門医で異なるかについても評価した。主な結果は以下のとおり。・2006年末時点でスウェーデンに住んでいた1~17歳(178万8,382人)において、てんかんの診断を受けたのは9,935例(0.56%)であった。・抗てんかん薬治療を受けていたのは、3,631例(スウェーデン全1~17歳児の0.24%)であった。・そのうち小児神経科医から処方を受けていたのは、2,301例(63.4%)であった。・1~5歳児は、より年長の小児と比べ、小児神経科医による治療を受けていた。また大都市に住んでいる小児および青年のほうが、小都市や農村地域に住んでいる小児と比べて、小児神経科医による治療を受けていた。・大都市に住んでいる小児は農村地域に住んでいる小児と比べて、より顕著に多くオキシカルバゼピン治療を受けていた。・レベチラセタムの処方を受けていた小児は、両親の収入が高い小児ほど、より多かった。・最も処方頻度が高かった5剤の抗てんかん薬の中で、ラモトリギン、オキシカルバゼピン、レベチラセタムの3剤の処方は、他の専門医よりも小児神経科医でより多かった。カルバマゼピンの処方はより少なかった。関連医療ニュース ・てんかん治療の術前評価/切除が標準化、一方で困難な患者が増大 ・てんかん発作には乳幼児早期からの積極的な症状コントロールが重要 ・小児におけるレベチラセタム静注の有効性と安全性を確認

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5価ロタウイルスワクチンの有効性、1回接種88%、2回接種で94%に

 5価ロタウイルスワクチン(RV5、商品名:ロタテック)について、3回接種を完了していなくても、ロタウイルス胃腸炎に対し有効性を示すことが報告された。米国・OptumInsight EpidemiologyのWang FT氏らが、3回接種を完了しなかった乳児を追跡した結果で、著者は「規定接種を完了しなかった場合のベネフィットを考えるうえで意義ある結果が得られた」と述べている。Pediatr Infect Dis J誌オンライン版2012年9月25日号の掲載報告。 大規模な国民健康保険金請求データベースを利用して、2コホートの乳児[RV5とジフテリア・破傷風・百日咳混合ワクチン(DTaP)との同時接種を受けた乳児、DTapのみ接種の乳児]を、2007~2008年のロタウイルス・シーズン(1月1日~5月31日)間に追跡し、ロタウイルス胃腸炎またはあらゆる原因による胃腸炎で医療機関を受診した症例を特定した。 RV5の初回接種児、2回接種児のワクチンの有効性について、入院、救急外来受診、外来受診の減少を推定評価した。 主な結果は以下のとおり。・RV5初回接種児は4万2,306例、比較群のDTaP初回接種児は2万8,417例であった。RV5の2回接種児は4万3,704例、DTaPの2回接種児は3万1,810例であった。・RV5の1回接種による、ロタウイルス胃腸炎入院と救急外来受診に対する有効性は88%であった。全原因による胃腸炎入院と救急外来受診については44%であった。・RV5の2回接種による、ロタウイルス胃腸炎入院と救急外来受診に対する有効性は94%であった。全原因による胃腸炎入院と救急外来受診については40%であった。関連医療トピックス ・ロタウイルスの血清型と流行【動画】 ・子どもの問題行動に対する行動予防モデルSWPBISの影響 ・学校でのワクチン接種プログラムに対し、多くの開業医が自院経営面への影響を懸念

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検証!デュロキセチンvs.他の抗うつ薬:システマティックレビュー

 大うつ病の急性治療について、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるデュロキセチンとその他の抗うつ薬との有効性、受容性、忍容性を比較するシステマティックレビューを、イタリア・ベロナ大学のCipriani氏らが行った。Cochrane Database Syst Rev2012年10月17日号の報告。 MEDLINE(1966~2012年)、EMBASE(1974~2012年)、CENTRAL(コクラン比較臨床試験登録)などをソースとして、2012年3月までに発表された試験論文および参照リストを検索した。デュロキセチンのメーカーのマーケティング部門、その他専門家からも補足データの提供を受けた。試験論文は言語を問わず、デュロキセチンとその他あらゆる抗うつ薬とについて検討した大うつ病患者を対象とする無作為化試験を適格とした。計16の無作為化試験(参加者合計5,735例)が、レビューに組み込まれた。主な結果は以下のとおり。・16試験中3試験は未発表のものであった。「デュロキセチンvs. 1つのSSRI」を検討したものが11試験(参加者計3,304例、対パロキセチン6試験、対エスシタロプラム3試験、対フルオキセチン2試験)、「デュロキセチンvs. 新規抗うつ薬」が4試験(同1,978例、対ベンラファキシン3試験、対デスベンラファキシン1試験)、「デュロキセチンvs.抗精神病薬」が1試験(同453例)で、三環系抗うつ薬と比較した試験はなかった。・プール解析の信頼区間(CI)は大きすぎて、デュロキセチンを他の抗うつ薬と比較した有効性についての統計学的有意差は認められなかった。・エスシタロプラムまたはベンラファキシンとの比較において、デュロキセチン群に無作為化された患者は何らかの原因によりドロップアウトした割合が高率であった[各群比較とのオッズ比(OR):1.62、95%CI:1.01~2.62、OR:1.56、95%CI:1.14~2.15]。・デュロキセチン服用患者がパロキセチン服用患者よりも有害イベントを経験したことが示されたが、エビデンスは弱かった(OR:1.24、95%CI: 0.99~1.55)。・比較試験はわずかで、臨床的に意義ある差を見いだすことは困難だった。また経済効果を報告するまでには至らなかった。関連医療ニュース ・うつ病補助療法に有効なのは?「EPA vs DHA」 ・他SSRI切替、どの程度の効果?北海道大学の報告 ・統合失調症患者の認知機能改善にフルボキサミンは有効か?

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