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暴力的なゲームが子供の心に与える影響は

 米国・UTHealth公衆衛生院のTortoleroSusan R氏らは、前思春期において、暴力的なビデオゲームを毎日することと、うつ病との関連を調べた。結果、両者間には有意な相関性があることが判明した。著者は、「さらなる検討で、この関連における因果関係を調査し、症状がどれほどの期間持続するのか、また根底にあるメカニズムと臨床的な関連性を調べる必要がある」と報告している。Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking誌オンライン版2014年7月9日号の掲載報告。 検討では前思春期において、ここ1年間に毎日、暴力的なビデオゲームを行っていたことと、うつ症状例増大との関連が認められるかを調べた。5,147人の小学5年生とその保護者から断面調査にて集めたデータを分析した。被験者は、米国3都市で行われたコミュニティベースの縦断調査Healthy PassagesのWave I(2004-2006)の参加者だった。 主な結果は以下のとおり。・線形回帰分析の結果、暴力的なビデオゲームの接触と抑うつ症状が関連していることが認められた。性別、人種/民族、仲間いじめ(peer victimization)、暴力を目撃すること、暴力で脅されていること、攻撃性、家族構成、世帯所得で補正後も変わらなかった。・「非常に暴力的(high-violence)なテレビゲームを1日2時間超する」と回答した児童では、「それほど暴力的ではない(low-violence)テレビゲームを1日2時間未満する」と回答した児童と比べて、抑うつ症状が有意に強いことが判明した(p<0.001)。・この関連性の強さは小さかったが(Cohen's d=0.16)、人種/民族の全サブグループ、および男児で認められた(Cohen's d:0.12~0.25)。関連医療ニュース ゲームのやり過ぎは「うつ病」発症の原因か 大うつ病性障害の若者へのSSRI、本当に投与すべきでないのか 小児および思春期うつ病に対し三環系抗うつ薬の有用性は示されるか  担当者へのご意見箱はこちら

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不眠症がもたらすリスク

不眠症は放っておいていい?睡眠が不足すると、糖尿病、高血圧、心筋梗塞などの生活習慣病の発症リスクが高くなるといわれています。Vgontzas AN, et al. Diabetes Care. 2009; 32: 1980-1985.Fernandez-Mendoza J, et al. Hypertension. 2012; 60: 929-935.Laugsand LE, et al. Circulation. 2011; 124: 2073-2081.Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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PSA検診は有用か:13年後の比較/Lancet

 前立腺がん(PSA)検診の有効性に関して評価するヨーロッパ前立腺がん検診の無作為化試験(ERSPC)のフォローアップ13年時点の成績が発表された。これまで検診9年後、11年後において、前立腺がん死亡の有意な減少が報告されていたが、今回もさらなる減少が確認され、大幅な有効性の増大が認められたという。オランダ・エラスムス大学医療センターのFritz H Schroder氏らERSPC研究チームが報告した。しかしながら著者は、「今回の結果にかかわらず、住民ベースのスクリーニング導入の前提条件として、さらなる検診の有害性の定量化と減少が検討されなければならない」とまとめている。9年、11年時に有効性が示された時も、過剰診断といった有害イベントを理由にスクリーニングの実施については論争の的となっていた。Lancet誌オンライン版2014年8月7日号掲載の報告より。ヨーロッパ8ヵ国で55~69歳のスクリーニング群vs. 非介入群を評価 ERSPCは、ヨーロッパ8ヵ国で事前規定に基づき収集されたデータベースを分析し行われた多施設共同無作為化試験。50~74歳の男性を試験適格として集団レジストリから特定し、コア年齢層(55~69歳)について評価を行った。 被験者は、コンピュータを用いて無作為にスクリーニング群と非介入(対照)群に割り付けられフォローアップを受けた。 主要アウトカムは、コア年齢層における前立腺がん死亡率であった。解析はintention to treatにて行い、非参加の選択バイアスに関して修正した副次解析も行った。前立腺がん死亡回避、検診受診781人につき1人 フォローアップ13年時点で、スクリーニング群では7,408例、対照群で6,107例の前立腺がんが診断された。 前立腺がんの両群の発生率比は、9年時点1.91(95%信頼区間[CI]:1.83~1.99)、11年時点1.66(同:1.60~1.73、13年時点1.57(同:1.51~1.62)だった(9年時点について、発生率データのみが報告されていたフランスを含むと1.64)。 前立腺がん死亡率比は、それぞれ0.85(同:0.70~1.03)、0.78(同:0.66~0.91)、0.79(同:0.69~0.91)だった。 13年時点の前立腺がん死亡の絶対的リスクの減少は1,000人年当たり0.11(無作為化男性1,000人当たり1.28)で、スクリーニングを受けた男性781人(95%CI:490~1,929)につき1人の割合で、または前立腺がんの検出27例(同:17~66)につき1例の割合での前立腺がん死亡の回避に相当するものであった。 なお非参加について補正後、スクリーニング群の前立腺がん死亡率は0.73(95%CI:0.61~0.88)だった。

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スマホで挿管するのは難しい【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第25回

スマホで挿管するのは難しい最近、スマートフォン(スマホ)関連の論文が増えてきました。医療分野でデジタルデバイスがどんどん発達すれば、もっと論文が増えてくるのではないかと予想しています。Langley A, et al.Comparison of the glidescope®, flexible fibreoptic intubating bronchoscope, iPhone modified bronchoscope, and the Macintosh laryngoscope in normal and difficult airways: a manikin study.BMC Anesthesiol. 2014;14:10.

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アトピー患児における化学物質曝露と健康被害の関連

 アトピー性皮膚炎(AD)患児へのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の影響は、曝露レベルや年齢によって異なる可能性があることが明らかにされた。韓国・嘉泉大学校キル病院のW.J. Choi氏らが3~6歳児を対象としたケースコントロール試験の結果、報告した。結果を踏まえて著者は、「関連性について、さらなる長期的調査を適切な調査デザインの下で行うことを促進する必要がある」とまとめている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2014年8月4日号の掲載報告。 DEHPについては、ヒトへの健康被害が懸念されており、研究グループは、韓国のAD患児におけるDEHP曝露との関連を調べた。2012年5~10月に、ソウル市の幼稚園および保育所から集めた3~6歳児を対象に、適合ケースコントロール試験を行った。 皮膚科医がADの臨床診断を行い、症例群224例と年齢・性別に適合した224例の対照群を組み込み、尿サンプルを集めて、DEHPの2つのフタル酸塩代謝物(MEHHP、MEOHP)値を測定し評価した。 主な結果は以下のとおり。・DEHPの影響は、年齢によって異なることが認められた。ADリスク増大との関連は3歳時で認められた(オッズ比:2.51、95%信頼区間[CI]:1.02~6.20)。・その他の年齢では、関連性は反転してみられたが統計的有意差はなかった。・ADへのDEHPの影響は、身体負荷レベルによって異なることがみられた。・ADに対する予測リスクは、多変量ロジスティック回帰分析の結果、DEHP値とADリスクのU曲線の関連であることが示された。

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過度な減塩は死亡率を増やすか? ガイドライン推奨1日6g未満に一石を投じる研究(解説:桑島 巌 氏)-232

PURE研究は、世界17ヵ国からの30~70歳までの成人約10万人を対象としてナトリウム、カリウム排泄量と血圧の関係、および心血管死の関係について詳細に調査した貴重な研究である。今回同一号に2報発表しているがその1つがO’Donnellらの論文である。 彼らの調査では平均3.7年の追跡期間中における全死亡率および心血管死亡率が、ナトリウム排泄量3~6g/日(塩分換算7.5~15g)より多くても少なくても上昇した。つまり塩分摂取と死亡との間にJ曲線関係がみられたという結果である。過度な塩分制限も死亡リスクを増やす可能性を示唆している点で、厳しい減塩食を推奨している国の内外のガイドラインに一石を投じる論文である。また本研究では高カリウム摂取者でイベント発症が少ないことも明らかにした。 高血圧ガイドラインでは食塩摂取量を1日6g未満としているが、確かなエビデンスがあるわけではなかったのも事実である。Intersalt研究などの疫学研究では、確かに塩分摂取量と血圧は相関することは報告されてはいたが、6gまでの減塩が心血管イベントを減らすという確かな報告はほとんどなかった。その意味では本研究は貴重である。 本研究の特徴は以下のように列挙できる。1)経済状況の異なる世界17ヵ国からの地球規模の研究である点。2)日本は含まれていないが、中国からの参加が比較的多く米を主食とするアジア人の特性も評価できる点。3)70歳までの比較的高齢者も含まれている点(Intersalt研究は59歳まで)。4)対象から悪性腫瘍や心血管合併症症例を除外し、かつ追跡2年目までのこれらの合併症発症例も除外することで、疫学追跡研究の解釈につきものの因果の逆転を回避しようとしている点、の4点である。 ただ、最大のlimitationとして、塩分排泄量はスポット尿採取によるKawasaki法からの24時間排泄量の推定値である点において24時間蓄尿法に比べると信頼性は大きく後退する。 結果において注目すべきは、7g以上の高ナトリウム排泄量(塩分17.5g以上)では、ナトリウム排泄量と心血管死/脳卒中との関係は血圧値で補正すると有意でなくなるが、1日ナトリウム排泄量3g未満(塩分換算7.5g未満)の低減塩摂取例では、血圧値で補正してもなおかつ全死亡、心血管死、脳卒中発症とのオッズ比が有意なことである。これらの結果は、高塩分摂取によるイベント発症は高血圧の関与が大きいが、過度な減塩による死亡率上昇には血圧以外の要因が関与している可能性が示されている点である。 本研究はあくまでもリスクのない一般住民での追跡研究の結果であることから、多数の交絡因子の存在は避けられず、この結果からただちに高血圧の患者に対する厳格な減塩は危険であるという解釈は早計かもしれない。 NEJMの同一号には、同じくPURE研究から、ナトリウム排泄量と血圧は直線的に相関するが、高塩分摂取者、高血圧患者、高齢者で勾配が急峻であるというMenteらの断面調査結果や、107のランダム化試験からの塩分と死亡の関係をメタ解析したNUTRICODE研究による、ナトリウム摂取1日2.0g(塩分5g)以上が年間165万人の心血管死に関係するという報告も掲載されており、併せて参考にすることが望ましい。

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脳転移乳がんのタイプ別予後~国内24施設

 東海大学の新倉 直樹氏らは、脳転移した乳がん患者の予後因子を調べるために、国内24施設で脳転移と診断された乳がん患者において、乳がんのサブタイプごとに臨床経過と予後を比較し、死亡原因を分析した。その結果、脳転移した乳がん患者における転移前・後の臨床経過および予後は、サブタイプにより異なることが示唆された。著者らは、乳がんのサブタイプに着目することにより、脳転移の予防や早期発見、治療の改善を最大限に行えるとしている。Breast cancer research and treatment誌オンライン版2014年8月9日号に掲載。 著者らは、日本臨床腫瘍グループ(JCOG)の24施設で、2001年4月1日~2012年12月31日に脳転移と診断された乳がん患者1,466例を後ろ向きに検討した。 主な結果は以下のとおり。・全部で1,256例の脳転移乳がん患者が対象となり、全生存期間(OS)中央値は8.7ヵ月(95%CI:7.8~9.6)であった。・単変量および多変量解析から、乳がんの転移の診断から6ヵ月以内に脳転移と診断された患者、無症候性脳疾患の患者、HER2+/ER+の患者でOSが延長したことが明らかになった。・サブタイプ別の脳転移後のOS中央値(95%CI)は、以下のとおりであった。- Luminalタイプ:9.3ヵ月(7.2~11.3)- Luminal-HER2 タイプ:16.5ヵ月(11.9~21.1)- HER2タイプ:11.5ヵ月(9.1~13.8)- トリプルネガティブタイプ:4.9ヵ月(3.9~5.9)・Luminal-HER2タイプでのOSは、Luminalタイプ(HR:1.50、p<0.0001)、トリプルネガティブタイプ(HR:1.97、p<0.0001)に比べ有意に延長した。一方、HER2タイプとは有意差は認められなかった(HR:1.19、p=0.117)。

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違法薬物使用への簡易介入は効果なし/JAMA

 プライマリ・ケアのスクリーニングで特定した不健全な薬物使用について、簡易介入(brief intervention)では効果がないことが明らかにされた。米国・ボストン大学公衆衛生大学院のRichard Saitz氏らが無作為化試験の結果、報告した。米国では、不健康なアルコール摂取への介入効果をエビデンスの1つとして、違法薬物使用および処方薬誤用についての大がかりなスクリーニングと簡易介入が行われているという。しかし有効性のエビデンスはなく、プライマリ・ケアでは一般的な予防サービスとしてそうした介入を推奨していなかった。JAMA誌2014年8月6日号掲載の報告。専門性に基づく簡易介入群vs. 簡易介入なし群で効果を比較 研究グループは、不健康な薬物使用(違法薬物使用または処方薬誤用)への効果的な介入とされる2つのカウンセリング方法、すなわち簡易ネゴシエート面接(brief negotiated interview:BNI)と動機付け面接(motivational interviewing:MOTIV)と、それら簡易介入を行わない対照群の3群を比較し、有効性について検討した。 試験は、ボストン都市部の病院をベースとしたプライマリ・ケアの内科で行われた。2009年6月~2012年1月にスクリーニングにより特定された(飲酒、喫煙、薬物関与のスクリーニング検査[ASSIST]で薬物特異的スコアが4以上)528例の薬物使用患者を対象とした。 BNI群では構造化面接法を用いた健康教育が10~15分行われ、MOTIV群では動機付け面接に基づく30~45分の介入と20~30分のブースター介入が、修士号取得者レベルのカウンセラーによって行われた。また試験参加者全員に、薬物依存症の治療および互助リソースが示されたリストが渡された。 主要アウトカムは、各被験者が特定した過去30日間に使用した主な薬物について、追跡6ヵ月時点で使用していた日数であった。副次アウトカムには、自己申告の使用薬物量、毛髪検査による薬物使用、ASSISTスコア(重症度)、薬物使用の影響、安全でない性交、互助ミーティングへの出席、ヘルスケアサービスの利用などを含んだ。介入3群間に有意差なし 試験開始時に、被験者が報告した主な使用薬物は、マリファナ63%、コカイン19%、オピオイド17%であった。 6ヵ月時点で98%が追跡調査を完了した。同時点での主な薬物使用の平均補正後日数は、簡易介入なし群で12日に対し、BNI介入群は11日(発生率比[IRR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.77~1.22)、MOTIV群は12日(同:1.05、0.84~1.32)であった(両比較群vs. 簡易介入群のp=0.81)。 また、その他アウトカムへの効果に関してもBNIまたはMOTIVの有意差はみられず、さらに薬物別や薬物使用重症度で分析した場合も有意な効果はみられなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「簡易介入は、スクリーニングで特定したプライマリ・ケア患者の、不健全な薬物使用を減らす効果はなかった。これらの結果は、違法薬物使用および処方薬誤用のスクリーニングと簡易介入の大がかりな実施を支持しないものであった」とまとめている。

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腰椎椎間板ヘルニア、手術 vs 非手術は同程度?

 米国・The Dartmouth Institute for Health Policy and Clinical PracticeのDana Kerr氏らは、多施設前向き無作為化研究のSpine Patient Outcomes Research Trial(SPORT)から、腰椎椎間板ヘルニアに対する手術的治療と保存的治療を比較した解析結果を報告した。追跡期間8年において、intent-to-treat解析ではすべての主要評価項目で差がみられなかったという。ただし、坐骨神経痛症状、患者の自己評価による改善などの副次評価項目については手術的治療の有効性が示唆された。Clinical Orthopaedics and Related Research誌オンライン版2014年7月24日号の掲載報告。 6週以上続く症候性腰椎神経根障害があり、画像診断で椎間板ヘルニアと確認された患者を、米国の13施設にて無作為化コホート(501例)と観察コホート(743例)のいずれかに登録した。 無作為化コホートの患者は手術群か非手術群に無作為に割り付け、椎間板切除術または通常の保存的治療を行った。 主要評価項目は、6週、3ヵ月、6ヵ月、1年、以後1年ごとのSF-36身体的疼痛スコアおよび身体機能スコア、ならびにオスウェストリー障害指数(ODI)であった。 主な結果は以下のとおり。・8年間で、手術群245例中148例(60%)、非手術群256例中122例(48%)が実際に手術を受けていた。・無作為化コホートの intent-to-treat解析では、手術群と非手術群とで主要評価項目に差はなかった。・副次評価項目(坐骨神経痛症状、下肢痛、症状についての満足感、自己評価による改善)は、クロスオーバーが多かったにもかかわらず手術群のほうが改善を認めた。・無作為化コホートと観察コホートを合わせたas-treated解析(実際行われた治療に基づいた解析)では、潜在的交絡因子で補正後、すべての主要評価項目について手術的治療群のほうが優れていることが示された。・喫煙者および、うつ病または関節症を合併している患者は、手術的治療でも保存的治療でも、機能に関する評価項目がすべて悪化していた。・遊離型ヘルニアの患者、ベースラインの腰痛が高度で症状が6ヵ月以上持続していた患者、およびベースラインにおいて障害もなく仕事もしていない患者では、手術的治療の効果が大きかった。

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸と心血管イベント 臨床的側面からその意義を考える

木島 康文 氏岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学はじめに動脈硬化プラークに蓄積しているのはコレステロールである。コレステロールの中でも特に低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)と心血管疾患との関連性については広く認知されており、それに対して、スタチンの投与は、心血管イベントの1次予防、2次予防、ハイリスク群に対する投与のいずれにおいても20~30%の相対リスク減少をもたらす1)。では、これで十分かといえば、残りの70%を超える症例がスタチンを投与されているにもかかわらず、心血管イベントを起こしていることになる。すなわち、スタチン単独療法には限界があることを示しており、近年“残余リスク”として注目されている。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』では心血管リスク因子がない患者群に対して、リスクの高い患者群ではより低いLDL-Cの目標値が設定されている。これはLDL-Cの“質”がリスク因子の影響を受けることを意味している。つまり、これからは心血管リスク因子としての脂質においてはLDL-Cの量とともにリポ蛋白の“質”により注目すべきといえる。リポ蛋白の“質”に影響を及ぼす残余リスクに、多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)のバランス異常がある。具体的には、アラキドン酸(arachidonic acid:AA)に対するエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)の相対的低下に代表される、オメガ6系PUFAとオメガ3系PUFAのバランス異常である。オメガ3系PUFAの代表的なものとして魚介由来のEPAやドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)と植物由来のα-リノレン酸(alpha-linolenic acid:ALA)がある。これらオメガ3系PUFAには中性脂肪低下作用だけでなく、血小板凝集抑制作用、抗炎症作用、プラーク安定化作用、抗不整脈作用、自律神経調節作用などの多面的効果を有し、これらの効果を介し心血管系に保護的に働くと考えられる。本稿ではオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関係について臨床的側面を中心に述べる。オメガ3系PUFAと心血管イベントの関係:その根拠は?オメガ3系脂肪酸の最初のエビデンスは疫学調査によるものである。1970年代に、デンマーク領グリーンランドのイヌイットでは、デンマークの白人に比し、心筋梗塞・狭心症による死亡率が有意に低いことが報告された(白人34.7% vs. イヌイット5.3%)2)。食事内容を比較すると、総摂取エネルギーに対する脂肪の割合はいずれも約40%であったが、白人は主に牛や豚から、イヌイットは主に魚や(魚を大量に摂取する)アザラシから脂肪を摂取していた3)。また、血清コレステロールエステル中にイヌイットではEPAが15.4%存在し、AAが0%であったのに対し、白人ではそれぞれ0%、4.4%と著しい差を認めた。これにより、虚血性心疾患による死亡には脂肪の“質”が関与していることが示唆され、オメガ3系PUFAの心血管イベント抑制効果が注目されることとなった。1985年に、オランダの50~69歳男性852人を20年間追跡し、30g/日以上の魚介を食べる人はまったく食べない人と比べて虚血性心疾患による死亡が約半分であったことが報告された4)。その後、アメリカの40~55歳の健常男性を追跡調査した結果では、35g/日以上の魚介類摂取を行っている場合には心筋梗塞による死亡の相対危険率は0.56で、冠動脈疾患全体では0.62と、魚介類摂取による死亡抑制効果が認められた5)。また、アメリカのPhysicians' Health Studyにおいて、40~80歳までの医師20,551人を対象として最長17年間追跡調査した報告では、週1回以上の魚介類摂取習慣と心臓突然死との関連性が認められた。そして、実際の血清サンプル脂肪酸解析から突然死群のオメガ3系PUFAが対照群と比べて有意に低値であることも報告された6)。そのほかにも、イギリスにおける心筋梗塞後患者の追跡比較試験では、魚介類摂取指導がある群ではない群と比較して総死亡、虚血性心疾患死が有意に少なくなっていたことも報告されている7)。一方、日本人の冠動脈疾患の発症率は欧米に比し低いものの、近年その増加が指摘されている。国民1人当たりの魚介類消費量と男性における冠動脈疾患による死亡率を国別に比較すると、魚介類消費量と冠動脈疾患死の間には明らかな負の相関が認められる。欧米に比べて日本人の魚介類の摂取量は多く、冠動脈疾患の死亡率は低い。このことより、魚介類の摂取量が多いから日本人は冠動脈疾患が少ないものと考えられてきた。近年、日本人が摂取する脂肪の割合は増加しており、増加した脂肪の多くがオメガ6系PUFAに属する動物性油や植物性油である。それに対し、魚介由来のオメガ3系PUFAの摂取量は低下してきている。つまり、本邦における脂肪酸摂取の“質”は近年変わりつつあるといえる。本邦における総脂肪に対するEPAの推定比と脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡率の経年的変化をみると、1950年代から総脂肪に対するEPAの推定比が低下するとともに、脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡が増加している8)。これは、オメガ3系PUFAの摂取の減少が動脈硬化性疾患の増加に関与していることを示唆する所見と考えられる。実際に本邦のJapan Public Health Center-Based(JPHC)Study CohortⅠでは、40~59歳までの一般人41,578人を対象として約11年間の追跡調査を行っているが、魚介摂取量に準じて分割された5つの集団において、最も摂取量の多い群では最も少ない群に比べて冠動脈疾患のリスクが37%、心筋梗塞のリスクが56%低値であったと報告された(本誌p.10図を参照)9)。オメガ3系PUFAによる心血管イベントの抑制効果:その効果は?オメガ3系PUFAによる大規模な介入研究としては、これまで2つの報告がなされている。イタリアのGISSI-Prevenzione Trialでは、3か月以内に心筋梗塞に罹患した男性11,324人を対象とし、1g/日のオメガ3系PUFA(EPA+DHA)摂取群、ビタミンE摂取群、両者の摂取群、対照群の4群に分けて約3.5年間追跡調査したところ、オメガ3系PUFA摂取群では対照群に比べ、心血管死亡が30%、総死亡が20%の相対的低下を認め、併用群でも同様であったことが報告された10)。その後の再解析で、オメガ3系PUFAの総死亡や突然死、心血管死の抑制効果が比較的早期から認められる可能性が報告された(本誌p.11図aを参照)11)。一方本邦では、1996年から日本人の高脂血症患者における高純度EPA製剤による冠動脈イベントの発生抑制効果を検討するため、世界初の大規模無作為比較試験JELIS (Japan EPA Lipid Intervention Study)が実施された。JELISでは、高コレステロール患者18,654例(総コレステロール≧250mg/dL、男性:40~75歳、女性:閉経後~75歳)を対象に、スタチン単独投与群(対照群)とスタチンに高純度EPA製剤1.8g/日を追加投与した群(EPA群)で、約5年間、主要冠動脈イベントの発症を比較検討した。その結果、EPA群では対照群と比較して、主要冠動脈イベントが19%抑制され、特に2次予防における抑制効果が認められた(本誌p.11図bを参照)12)。次に、JELISの1次予防サブ解析の結果によると、中性脂肪(triglyceride:TG)≧150mg/dLかつ高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)<40mg/dLの高リスク群では、正常群に比し主要冠動脈イベント発症は有意に高く、この患者群では、EPAの追加投与により主要冠動脈イベント発症が53%抑制された(本誌p.12図aを参照)13)。2次予防のサブ解析では、心筋梗塞の既往かつ冠動脈インターベンション施行例では、EPA群において主要冠動脈イベント発症が41%抑制されることが報告され14)、この患者群における高純度EPA製剤の積極的投与を支持する結果であった。ほかにも、サブ解析の結果、脳梗塞再発予防や末梢動脈疾患の冠動脈イベント予防に有効であることが示されている15, 16)。オメガ3系PUFAを臨床に生かす:その対象は?オメガ3系PUFAが心血管イベントに対する抑制効果を有することはわかってきたといえるが、それではどのような患者群で強い抑制効果が見込めるのだろうか?EPA/AA比を指標として、オメガ3系PUFAが不足している患者に投与しようと考えるのは妥当なことといえる。JELIS脂肪酸サブ解析で、EPA/AA比をもとに冠動脈イベント発生リスクを検討した結果では、EPA/AA比が0.5以上の高値群では低値群に比べて冠動脈イベントリスクに有意差を認めなかった。これに対して、0.75以上の高値群では低値群に比べ冠動脈イベントリスクに有意差が認められた17)。このことから、EPA/AA比0.75以上の維持が心血管イベント抑制につながる可能性が示唆されたといえる。また、JELISの1次予防サブ解析では、高TGおよび低HDL-C群でその他の群に比べイベント発生率が高いことが明らかとなった。そして、この群においてEPAの冠動脈イベントの抑制効果が強く現れていた(本誌p.12図aを参照)。また、このJELISの糖代謝異常に注目したサブ解析でも、糖代謝異常を有する患者群では血糖の正常患者群に比べて冠動脈イベント発生率が高かった。また、この糖代謝異常群においては、HbA1c値やLDL-C値によらず、EPA群のイベント発生リスクが対照群に比べて22%抑制されたことも報告された(本誌p.12図bを参照)18)。つまり、これらはdiabetic dyslipidemiaとも称されるインスリン抵抗性を基盤とした脂質異常をきたしている患者群が、EPA投与のよい適応となる可能性を示しているともいえる。オメガ3系PUFAは各ガイドラインに記載もあるが、高リスク症例の心血管イベントの抑制に有用であるとされている。つまりは、LDL-Cの量を十分に低下させてもイベントを抑制できないような残余リスクが問題となる高リスク症例に対して、リポ蛋白の“質”を改善することでイベント抑制効果がより顕著に発揮されるといえるのではないだろうか。おわりに魚介類摂取およびオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関連性についてはほぼ確立されているものの、日本人が伝統的に欧米人と比べ魚介摂取量が多いことを考慮すると、欧米の研究結果をそのまま日本人にあてはめることには抵抗を感じる方も少なくないだろう。JELISは、欧米人よりも一般的にEPA/AA比が高い日本人においてもオメガ3系PUFAが心血管イベントをさらに抑制する可能性を示したといえる。メタボリックシンドロームの増加などが進む本邦において、diabetic dyslipidemiaの増加は今後も予想されている。若者の魚離れが重なることで、脂肪酸の“質”の根幹をなす魚介由来のオメガ3系PUFAの重要性は日本人においてもさらに増し、循環器領域の臨床に携わる医師にとってこの領域の知識は必須となるものと考えられる。不整脈や心不全などオメガ3系PUFAとの関連性が議論されている循環器領域も含めて、今後さらなるエビデンスの確立が期待される。文献1)Alagona P. Beyond LDL cholesterol: the role of elevated triglycerides and low HDL cholesterol in residual CVD risk remaining after statin therapy. Am J Manag Care 2009; 15: S65-73.2)Dyerberg J et al. A hypothesis on the development of acute myocardial infarction in Greenlanders. Scand J Clin Lab Invest Suppl 1982; 161: 7–13.3)Bang HO et al. The composition of the Eskimo food in north western Greenland. Am J Clin Nutr 1980; 33: 785-807.4)Kromhout D et al. The inverse relation between fish consumption and 20-year mortality from coronary heart disease. N Engl J Med 1985; 312:1205-1209.5)Daviglus ML et al. Fish consumption and the 30 year risk of fatal myocardial infarction. N Engl J Med 1997; 336: 1046-1053.6)Albert CM et al. Blood levels of long-chain n-3 fatty acids and the risk of sudden death. N Engl J Med 2002; 346: 1113-1118.7)Burr ML et al. Effects of changes in fat, fish, and fibre intakes on death and myocardial reinfarction: diet and reinfarction trial (DART). Lancet 1989; 2: 757-761.8)厚生統計協会: 国民衛生の動向, 厚生の指標. 1989; 36: 48.9)Iso H et al. Intake of fish and n3 fatty acids and risk of coronary heart disease among Japanese:the Japan Public Health Center-Based (JPHC)Study CohortⅠ. Circulation 2006; 113: 195-202.10)GISSI-Prevenzione Investigators. Dietary supplementation with n-3 polyunsaturated fatty acids and vitamin E after myocardial infarction:results of the GISSI-Prevenzione trial. Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto miocardico. Lancet 1999; 354: 447-455.11)Marchioli R et al. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction: time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per Io Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico (GISSI) -Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-1903.12)Yokoyama M et al. 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乾癬治療へのセチリジン追加投与は有効か

 フマル酸エステル(FAE)治療を受ける乾癬患者への、経口抗ヒスタミン薬セチリジン(同:ジルテックほか)10mgの1日1回投与の追加は、治療開始12週間の有害事象を減少しなかったことが報告された。オランダ・エラスムス大学医療センターのD.M.W. Balak氏らが無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告した。FAEは乾癬の有効かつ安全な長期治療薬とみなされているが、30~40%の患者が耐え難い胃腸障害や潮紅などの有害事象のために服用を中断している。今回の結果を踏まえて著者は、「FAEが引き起こす胃腸障害や潮紅の発症機序には、ヒスタミン以外のメディエーターが関与していると思われる」とまとめている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2014年7月17日号の掲載報告。 試験は、PASI 10以上の乾癬患者でFAE 720mg/日の治療を開始した患者を、無作為に、セチリジン1日1回10mg群とプラセボ群に割り付け、12週間投与した。無作為化と治療割付は試験病院の院内薬局で行われた。 主要アウトカムは、有害事象の発生と治療を中断した患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・50例の患者(男性33例、女性17例、年齢中央値44歳)が登録され、1対1の割合で各群に割り付けられた。・セチリジンの追加投与は、プラセボと比較して、有害事象を減少しなかった(84%vs. 84%、p=1.00)。・有害事象のタイプは、両群で異ならなかった。また、最も共通してみられたのは、胃腸障害(68%vs. 64%)、潮紅(60%vs. 48%)であった。・治療を中止した患者の割合も統計的有意差はみられなかった(24%vs. 32%、p=0.529)。

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【寄稿】難治性GERDの治療

はじめに胃食道逆流症(GERD)は、食道裂孔ヘルニアや食道胃運動機能障害により、胃酸を含んだ胃内容物が食道内に逆流停滞するために発症する疾患であり、定型症状は胸やけ、呑酸である。食道にびらん・粘膜障害があれば、びらん性GERD(逆流性食道炎)、食道にびらんが認められない場合は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)と定義される。GERDに対する治療の中心は薬物療法であり、強力な酸分泌抑制力を持つプロトンポンプ阻害薬(PPI)が、GERDの第一選択薬としてGERD診療ガイドラインで推奨されている。PPIの治療効果は非常に高く、PPI投与後8週間の時点での逆流性食道炎の治癒率は、80~90%と報告されている。しかし8週間のPPI投与でも治癒が得られない逆流性食道炎も存在し、このような難治性の逆流性食道炎が臨床上問題となっている。また、NERD患者においても、PPI投与にてGERD症状のコントロールが困難なケースが多く存在する。本稿では、難治性GERDの要因について考察を加え、治療法を含めて概説する。CYP2C19遺伝子多型GERDの難治化の要因の1つとしてまず考慮しなければならないのは、CYP2C19遺伝子多型の問題である。PPIは主に肝の代謝酵素CYP2C19で代謝を受ける。このCYP2C19には遺伝子多型が存在することが報告されており、その酵素活性が遺伝子型により異なり、代謝活性の高い順にhomo extensive metabolizer(EM)、hetero EM、poor metabolizer(PM)の3群に分類されている。すなわち、PPIの酸分泌抑制効果は、代謝の遅いPMでは強く、代謝の早いhomo EMでは弱くなることが推察され、実際に24時間胃内pHモニタリングの結果から、このことが証明されている。このCYP2C19遺伝子多型のばらつきは、欧米白人に比較して日本人で大きいことが明らかになっており、実際の逆流性食道炎患者の検討で、homo EMではPMに比較して初期治療における治癒率が有意に低く(図1)、維持療法においてもhomo EMのほうが有意に再発しやすいこと(図2)が報告されている。すなわち、逆流性食道炎の難治化の要因の1つとしてPPI投与時のCYP2C19遺伝子多型の影響が挙げられる。しかしながら、CYP2C19遺伝子多型の判定が保険診療で認められているわけではないので、日常臨床においては逆流性食道炎が難治の場合に、CYP2C19遺伝子多型の影響を受けにくいPPI(ラベプラゾールやエソメプラゾール)への変更を考慮するといった対応を行うのが現実的である。図を拡大する図を拡大するPPI製剤の特徴GERDの難治化のもう1つの要因としてPPI製剤の特徴が挙げられる。PPIは酸と接触すると失活してしまう特性があり、PPIはすべて腸溶製剤となっている。よって、PPIの作用発現には、薬剤が速やかに胃を通過して小腸に達する必要がある。逆に言うと、潰瘍瘢痕などによる胃の変形や幽門部狭窄などのために胃排出遅延がある症例では、PPIが胃内に長時間停滞するために失活してしまい、その酸分泌抑制効果が減弱する可能性が容易に想像される。このような症例の場合、逆流性食道炎が難治となることをしばしば経験する。この場合は、PPI注射剤の投与のほか、PPIをH2受容体拮抗薬(H2RA)に変更、もしくはPPIの剤形を錠剤から顆粒や細粒製剤に変更してみるのも1つの方法である。GERD診療ガイドラインでは、常用量のPPIの1日1回投与にもかかわらず食道炎が治癒しない、もしくは強い症状を訴える場合には、PPIの倍量投与など、投与量・投与方法の変更により、食道炎治癒および症状消失が得られる場合があると記載されている。すなわち、標準量のPPI治療に反応しない患者でも、PPI倍量投与により食道炎治癒および症状消失が得られるとする報告がみられ、常用量のPPIの1日1回投与でGERDに対する十分なコントロールが得られない場合の対応として推奨されている。また、倍量投与の際に、朝・夕と分割投与したほうが、酸分泌抑制効果が高いとの報告があり、分割投与を考慮するのも1つの方法である。さらに、PPIは、食事により活性化するプロトンポンプを阻害するという作用機序、酸性環境のほうが酸分泌抑制効果が強いこと、錠剤の場合は空腹時強収縮により胃より小腸に速やかに薬剤が移行し効果が出現することから、PPIは食前投与のほうが、その酸分泌抑制効果が速やかに発現する。わが国の場合、ほかの薬剤と一緒にPPIを内服することを考慮し、食後にPPIを投与することも多いが、難治性GERDの場合は、食前投与にて症状が良好にコントロールされることをしばしば経験する。nocturnal gastric acid breakthroughさらに、GERDの難治化の要因の1つとして、PPI投与中にもかかわらず夜間の酸分泌が抑制されない例の存在が指摘されている。これはnocturnal gastric acid breakthrough(NAB)と呼ばれるもので、PPI投与中にもかかわらず夜間の胃内pHが4.0以下になる時間が1時間以上連続して認められる現象である。このNABに対して就寝前にH2RAを追加投与することにより、夜間の酸分泌が抑制されることが報告されており、PPIで効果不十分な難治性GERD患者の治療として選択されることがある。NERD、機能性胸やけびらん性GERDよりNERDにおいて、PPIの症状改善率が低い傾向にあることが報告されている。このことは、NERD患者では酸以外の逆流要因がある症例が多く含まれている可能性を示唆している。このような場合、消化管運動賦活薬投与が有効な場合がある。また、逆流と関連のない胸やけ症状は、機能性胸やけ(functional heartburn:FH)とされ、精神的な要因と判断されれば、抗うつ薬の投与などを検討することもある。機能性消化管粘膜障害(functional gastrointestinal disorders:FGID)の研究グループであるRome委員会が提唱するRome IIIによる定義では、FHは、食道内酸逆流が証明できず、病理組織学的に確認しうる食道粘膜障害がないこと、そしていわゆる「胸やけ」症状のあること、なおかつ、この症状が6ヵ月以上前から慢性的に出現していること、とされている。FHの診断にあたっては、除外診断を行う必要がある。すなわち、(1)食道内pHモニタリング検査で食道内への明らかな酸逆流のあるもの、(2)pHモニタリング検査で酸逆流と自覚症状の発現との間に関連がみられるもの、(3)PPI投与で症状改善があるもの―は、NERDと診断されるので、それ以外をFHと診断することができる。日常臨床では、PPI投与で症状が改善するものをNERD、PPI投与による症状改善がないものをFHと診断することも多いが、PPI投与により症状が改善しないNERDはPPI抵抗性NERDとしても扱われており、PPI抵抗性NERDのなかにFHと診断するべき病態が含まれていることを認識する必要がある。近年、pH測定に加えて多チャンネルの食道内インピーダンスを測定することにより、胃酸以外の逆流を評価することが可能となってきた。とくにPPI抵抗性NERDの診断には、pHモニタリング検査による胃酸逆流の評価のみでは不十分である。すなわち、現在は保険適用にはなっていないものの、多チャンネルインピーダンス・pHモニタリング検査を施行し、逆流と胸やけ症状の関連性を検討することにより、PPI抵抗性NERDとFHを鑑別することが可能となる。難治性NERDの場合は、病態をきちんと診断し、適切な治療法を選択する必要がある。外科的治療難治性GERDの場合、外科手術の選択も積極的に考慮してよいと思われる。外科的治療が有効だった症例を提示する(図3)。PPI投与にて逆流性食道炎は治癒するも、著明な食道裂孔ヘルニアのために、前かがみになると食物が口まで逆流してきてしまうという症例であるが、腹腔鏡下噴門形成術を施行し、食道裂孔ヘルニアが改善しGERD症状が消失した。図を拡大する内視鏡的バルーン拡張重度の逆流性食道炎の場合、食道狭窄を来すことがあるが、内視鏡的バルーン拡張術が有効なこともある。図4に症例を提示する。図を拡大する難治性GERDと鑑別すべき疾患難治性GERDと診断されている症例のなかで、実際はGERDではないにもかかわらず、漫然とPPI投与が継続されている症例にしばしば遭遇する。難治性GERDと鑑別すべき疾患をきちんと認識しておくことは、臨床上きわめて重要である。1)食道運動異常食道には、食道アカラシア、びまん性食道痙攣(diffuse esophageal spasm:DES)、ナッツクラッカー食道(nutcracker esophagus)などの機能性疾患が存在し、GERDとの鑑別が必要となる。これらの疾患のいずれも、その治療に亜硝酸薬やカルシウム拮抗薬が有効とされているが、GERD患者では下部食道括約筋圧を低下させ、逆流を増悪させることがあるため注意が必要である。2)好酸球性食道炎好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)は、嚥下困難、food impaction(食物塊の食道嵌頓)などを主訴とし、食道上皮の好酸球浸潤を特徴とする原因不明の疾患である。EoEの診断で最も重要なものは、内視鏡検査および生検による病理診断である。縦走溝、輪状溝、カンジダ様の白斑、白濁肥厚した粗造粘膜が、特徴的な内視鏡所見である(図5)。病理診断では、一般に400倍の強拡大で15ないし20個以上の好酸球浸潤を少なくとも1視野に認める場合、EoEと診断される。EoEの治療に関しては、プレドニゾロンの内服や、吸入用ステロイド薬であるプロピオン酸フルチカゾン(商品名:フルタイド)の咽頭噴霧後の嚥下による食道内局所投与の有効性などが報告されている(いずれも保険適用外)。なお、PPIが有効な症例が存在し、PPIを投与しても症状が持続する場合に難治性GERDとの鑑別が必要となることがある。EoEに対する認識がないと診断に苦慮することとなる。図を拡大する機能性ディスぺプシア上腹部痛や胃もたれなどの症状が、主に胃や十二指腸に由来していると考えられる患者のうち、各種検査を行っても症状を説明しうる器質的疾患がない場合は、機能性ディスぺプシア(functional dyspepsia:FD)と診断される。Rome III基準ではFDは「つらいと感じる食後のもたれ感、早期飽満感、心窩部痛、心窩部灼熱感の4項目のうち1つ以上の症状が、6ヵ月以上前からあり、最近の3ヵ月間は症状が続いている」と定義されているが、GERD症状とFD症状はオーバーラップすることが多いとされている。すなわちGERD患者では、胸やけや呑酸症状以外に、胃もたれ、胃の痛み、胃の張りなどの症状がみられ、げっぷ、吐き気、食欲不振といった症状も高い頻度で認められる。なお、PPI投与でGERD症状は軽快したものの上腹部のさまざまなFD症状が軽快しない場合、PPI抵抗性NERDとして診療されていることもあるが、症状をきちんと聴取しFDと診断したほうがよいと思われる。しかし、実際にはGERDの定型的症状である「胸やけ」と「心窩部痛」、「心窩部灼熱感」を厳密に区別することは難しい。一般的には、GERD症状は剣状突起より頭側の胸骨下部で、FDでは剣状突起より肛門側の心窩部領域で認めることで鑑別を行っている。おわりに難治性GERDの原因およびその治療法、難治性GERDの鑑別疾患について概説した。難治性GERDの治療には、適切な診断と薬剤の特性を認識した薬物療法および適切なタイミングでの薬物以外の治療法の選択が必要である。参考文献1)日本消化器病学会編.胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン. 南江堂;2009.2)Kawamura M, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2003;17:965-973. 3)Kawamura M, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2007;22:222-226.4)Ariizumi K, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2006;21:1428-1434.5)小池智幸ほか.医学と薬学. 2014;71:519-525.6)Galmiche JP, et al. Gastroenterology. 2006;130:1459-1465.7)Abe Y, et al. J Gastroenterol. 2011;46:25-30.

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大腸がん診断後のスタチンで生存延長

 英国・クイーンズ大学ベルファストのChris R Cardwell氏らは、大規模な大腸がん患者のコホートにおいて、大腸がん診断後のスタチン使用が大腸がん特異的死亡リスクを低下させるかどうかを調査した。その結果、大腸がん診断後のスタチン使用が生存期間延長に関連することが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2014年8月4日号に掲載。 著者らは、National Cancer Data Repository(英国のがん登録データ)から、1998年~2009年に新たにステージI~III大腸がんと診断された患者7,657例を同定した。さらにこのコホートを、処方箋記録を提供する臨床試験研究データベースと国家統計局の死亡データ(2012年まで)に結合し、大腸がん特異的死亡1,647例を同定した。なお、診断後のスタチン使用によるがん特異的死亡のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)の算出、および潜在的交絡因子に対するHRの調整のために、時間依存Cox回帰モデルを使用した。 主な結果は以下のとおり。・大腸がん診断後のスタチン使用は、大腸がん特異的死亡率減少と関連していた(完全調整HR:0.71、95%CI:0.61~0.84)。・スタチン使用量と大腸がん特異的死亡率に関連が認められ、1年以上のスタチンを使用している大腸がん患者では、より顕著な減少が認められた(調整HR:0.64、95%CI:0.53~0.79)。・大腸がん診断後のスタチン使用患者において、全死因死亡率の減少が認められた(完全調整HR:0.75、95%CI:0.66~0.84)。

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PALB2変異で乳がんリスクが5~9倍/NEJM

 PALB2遺伝子の機能喪失型変異は遺伝性乳がんの重要な原因であることが、英国・ケンブリッジ大学のAntonis C Antoniou氏らの検討で示された。生殖細胞系におけるPALB2遺伝子の機能喪失型変異は、乳がん発症の素因となることが知られているが、この変異がもたらす乳がんの生涯リスクは明らかにされていないという。NEJM誌2014年8月7日号掲載の報告。変異保因女性の乳がんリスクを年齢別に解析 研究グループは、PALB2遺伝子に有害性の短縮変異やスプライス変異、欠失変異を有する154家族362人の乳がんリスクを分析した。 PALB2遺伝子の遺伝型と家族集積性の影響を考慮した複合分離比分析変法(modified complex-segregation-analysis methods)を用いて、変異保因者の乳がんリスクを年齢層別に推定した。 適格基準を満たした154家族311例のうち229例が乳がんを発症した。年齢層別の乳がん患者数は、20歳台が7例、30歳台が50例、40歳台が84例、50歳台が55例、60歳台が24例、70歳台が7例、80歳以上が2例であった。機能喪失型変異はPALB2遺伝子の48部位でみつかった。乳がんリスクは一般集団の5~9倍 PALB2遺伝子変異保因女性の年間乳がん発症率は、20~24歳の0.01%から50~54歳の1.60%まで加齢とともに上昇し、55歳以降は年間約1.4%で横ばいとなった。 変異保因女性の乳がんリスクは一般集団に比べ、40歳未満で8~9倍、40~60歳で6~8倍、60歳以上では約5倍の上昇であった。また、変異保因女性における乳がんの推定累積リスクは、50歳までは14%(95%信頼区間[CI]:9~20%)、70歳までは35%(同:26~46%)と推算された。 変異保因女性の出生年別の乳がんリスクは、1940年以前に出生した女性に比べ、1940~59年に生まれた女性は2.84倍、1960年以降生まれの女性は6.29倍であり、有意な差が認められた(p<0.001)。さらに、遺伝、環境、生活様式などの家族因子も有意な影響を及ぼしていた(p=0.04)。一方、居住国別の乳がんリスクには差はみられなかった(p=0.11)。 変異保因女性が70歳までに乳がんを発症する絶対リスクは、乳がんの家族歴がない場合の33%(95%CI:25~44%)から、50歳の時点で乳がんに罹患していた第一度近親者(母親、姉妹)が2人以上いる場合の58%(95%CI:50~66%)までの幅があった。 著者は、「PALB2遺伝子の機能喪失型変異は、乳がんの素因となる変異の頻度およびそれらに関連するリスクの双方の点で、遺伝性乳がんの重要な原因である」と結論し、「今回のデータにより、PALB2遺伝子変異の保因者の乳がんリスクはBRCA2遺伝子変異の保因者と部分的に重複する可能性が示唆された」と指摘している。

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4.5時間以内のrt-PAが脳卒中転帰を改善/Lancet

 脳卒中発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ(商品名:アクチバシンほか)投与は、早期の致死的頭蓋内出血リスクを増大させるが、脳卒中アウトカムの全般的な改善をもたらすことが、英国・オックスフォード大学のJonathan Emberson氏らStroke Thrombolysis Trialists’ Collaborative Groupの検討で示された。4.5時間以内であれば治療開始が早いほどベネフィットが大きいこともわかった。遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA)であるアルテプラーゼは、急性虚血性脳卒中の治療に有効であるが、高齢者や脳卒中の重症度が高い患者への、発症から長時間経過後の使用については議論が続いている。Lancet誌オンライン版2014年8月6日号掲載の報告。予後予測因子をメタ解析で評価 研究グループは、アルテプラーゼ投与患者の良好な脳卒中アウトカムに影響を及ぼす因子(年齢、脳卒中重症度)を検討するために、急性虚血性脳卒中に対するアルテプラーゼとプラセボまたは非盲検対照薬を比較した9つの無作為化第III相試験のメタ解析を実施した。 良好な脳卒中アウトカムは、3~6ヵ月時に機能障害がみられない場合(modified Rankin Score:0~1)と定義した。そのほか、症候性頭蓋内出血(7日以内の2型実質性出血およびSITS-MOST基準による36時間以内の2型実質性出血と定義)、7日以内の致死的頭蓋内出血、90日死亡の評価を行った。年齢、重症度はアウトカムに影響しない 9試験に登録された6,756例(アルテプラーゼ群3,391例、対照群3,365例)が解析の対象となった。全体の平均年齢は71歳、80歳超が26%、女性が45%であった。 アルテプラーゼ投与により良好な脳卒中アウトカムの達成率が改善し、投与時期が早いほど、これに比例してベネフィットが大きくなった。 すなわち、発症後3.0時間以内に投与した場合の良好なアウトカムの達成率は、アルテプラーゼ群が32.9%(259/787例)で、対照群の23.1%(176/762例)に比べ有意に高かった(オッズ比[OR]:1.75、95%信頼区間[CI]:1.35~2.27)。また、投与時期3.0~4.5時間での達成率は、アルテプラーゼ群が35.3%(485/1,375例)、対照群は30.1%(432/1,437例)と、両群とも3.0時間以内よりも改善する傾向がみられたが、有意差は保持しつつもORは小さくなった(OR:1.26、95%CI:1.05~1.51)。 これに対し、4.5時間以降はそれぞれ32.6%(401/1,229例)、30.6%(357/1,166例)であり、有意な差はなかった(OR:1.15、95%CI:0.95~1.40)。このような投与時期が早いほどベネフィットが大きい傾向は、どの年齢や脳卒中重症度でも認められた。 一方、アルテプラーゼ投与により症候性頭蓋内出血および致死的頭蓋内出血が有意に増加した。すなわち、2型実質性出血の発生率はアルテプラーゼ群が6.8%(231/3,391例)、対照群は1.3%(44/3,365例)(OR:5.55、95%CI:4.01~7.70、p<0.0001)、SITS-MOST基準の2型実質性出血はそれぞれ3.7%(124例)、0.6%(19例)(OR:6.67、95%CI:4.11~10.84、p<0.0001)、7日以内の致死的頭蓋内出血は2.7%(91例)、0.4%(13例)(OR:7.14、95%CI:3.98~12.79、p<0.0001)であった。 90日死亡率は、アルテプラーゼ群が17.9%(608/3,391例)、対照群は16.5%(556/3,365例)であり、両群間に差は認めなかった(ハザード比:1.11、95%CI:0.99~1.25、p=0.07)。 したがって、アルテプラーゼ投与により頭蓋内出血による早期死亡の絶対リスクが約2%増加したが、これは3~6ヵ月間に機能障害のない生存率が3.0時間以内投与で約10%増加し、3.0~4.5時間での投与で約5%増加したことで相殺された。 著者は、「脳卒中発症4.5時間以内のアルテプラーゼ投与により、治療後数日内の致死的頭蓋内出血のリスクは増大したものの、年齢や脳卒中の重症度にかかわらず良好な脳卒中アウトカムの全般的な改善をもたらし、4.5時間以内であれば治療開始がより早いほどベネフィットが大きかった」とまとめ、「アルテプラーゼの投与開始の遅延による効果の減弱の程度に関する新たなエビデンスがもたらされた」と指摘している。

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QOLに焦点をあてる糖尿病診療

 2014年8月6日(水)、アストラゼネカ株式会社は「Patient Centered Care-患者さんの生活の質(QOL)を中心とした治療アプローチについて」をテーマに都内でプレスセミナーを開催した。 糖尿病の診療では、診療を中断する患者が問題となっている。こうした背景の下、今回の講師である石井 均氏(奈良県立医科大学糖尿病学講座 教授)は、患者中心の治療アプローチに取り組み、治療継続について研究、成果を上げている。本セミナーでは、石井氏がその取り組みについて詳しく語った。■糖尿病の今 糖尿病を治療する意味は、病状進展による網膜症や腎症などの合併症を防ぐこと、そして健康な人と変わらない生活の質(QOL)を保つことである。そのためには、わが国の学会が定める、合併症予防のための血糖コントロール目標値HbA1c 7%未満に保つことが重要、と石井氏は説明した。 また、2型糖尿病患者のうち、早い人は診断後5年くらいで合併症を併発する。石井氏は、最近の研究を基に合併症の傾向について述べた。いわく、糖尿病特有の細小血管障害、肥満や脂質異常と関係する動脈硬化性疾患のほか、認知症、脂肪肝、がん、骨折などの疾患もみられること。とくに2型糖尿病の半数は脂肪肝が疑われるという。そのうえで、糖尿病の現実的な目標は、「cure(治療)」ではなく「care(管理)」であり、このケアが続くことが患者に中断をもたらす一因ともなっているのではないか、と指摘した。■なぜ患者は医師の話を聞かないか 石井氏が、日々の診療を通じて気付いたことは、「患者さんの耳には、正しいことは入っていかない」ということだ。主に2型糖尿病では、顕著な症状は病初期では現れない。患者は、血糖値測定や治療薬の服用を通じてでしか、糖尿病を実感することができない。そのため今まで通りの生活をしたり、治療の自己中断をしたりするという。医師が患者の将来のためを思い、糖尿病合併症予防のため食事制限やタバコ、飲酒など嗜好品の制限を説いても、患者がなかなか守ってくれないのは、このためである。 また、現在の医師と患者の関係が、「コンプライアンスモデル(医師からの伝達型で患者の自主性がない)」であることも関係している、と石井氏は指摘した。 欧米では、すでにこのモデルから脱却しつつあり、患者の自主性を引き出しながら治療につなげていこうという「アドヒアランスモデル」が志向されている。わが国でも、最近になって多くの医療者が取り入れるようになり、臨床現場で実践されている。 アドヒアランスモデルが上手くいくには、患者の自発性を促すために医療者が患者に深く関わることが必要である。たとえば、医師の診療前に看護師など別のスタッフが患者の具合や悩みなどを聞くといった対応が重要となる。これからは、患者が理解し、行動するように寄り添っていく医療にしなくてはいけないと説明を行った。■患者のQOLを重視し、一緒に治療戦略を立てる 一度、糖尿病と診断されると、患者は人生の多くの時間を、病と過ごすことになる。だからこそ医療者は、患者の価値観を尊重し、診療にあたらなければならない。患者の長寿だけが最大目標ではなく、「いかにQOLを保ちつつ、健常人と同じように過ごすことができるかが重要」と石井氏は指摘する。そのため、多彩な血糖降下治療薬がある中で、その選択基準に患者のQOLも考慮に入れることが大切であるという。 たとえば、GLP-1受容体作動薬は、アナログ製剤であるために経口薬と比べ処方が進んでいない。しかし、持続性エキセナチドは、週1回の注射で済むために、働き盛りや高齢者の患者には、QOLを落とすことなく継続使用できる。また、血糖値を-1.1%(26週投与データ)程度降下させるとともに、体重増加を来さないという特徴を持つ。 こうした患者の生活サイクルや事情に合った治療薬を用いることで、治療継続できるように医療者がアプローチすることが大切だと講演をまとめた。

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献血ドナーのHEV感染率は予想以上/Lancet

 英国の献血ドナー中の遺伝子3型E型肝炎ウイルス(HEV)感染者の割合は0.04%と、予想以上に高率で存在することが明らかになった。また、そうした感染者の献血を受けたレシピエントのうち、同ウイルスへの感染は4割以上で検出されたという。英国National Health Service Blood and TransplantのPatricia E Hewitt氏らが、同国で行われた献血後ろ向きに調査を行い報告した。Lancet誌オンライン版2014年7月28日号掲載の報告より。HEV RNAについてスクリーニング、レシピエントも追跡調査 研究グループは、2012年10月~2013年9月に、英国南東部で行われた22万5,000件の献血について、後ろ向きにHEV RNAのスクリーニングを行った。 HEV RNAの検出については、血清学的、ゲノムによる系統学的な分析を行った。同献血のレシピエントも特定し、献血による同ウイルス感染のアウトカムについて調査した。HEV感染ドナー、71%が献血時に血清学的陰性 その結果、79例のドナーで遺伝子3型HEVのウイルス血症が検出され、HEV RNAの有病率は、2,848件中1件(0.04%)相当であることが示された。なお、同ウイルス血症を持つドナーのうち56例(71%)が、献血時には血清学的陰性だった。 79例のドナーから129個の血液製剤がつくられ、そのうち62個が60例への輸血に使われていた。同輸血のレシピエント43例について調べたところ、18例(42%)で同感染が認められた。 研究グループは、献血ドナーのHEV RNA罹患率は予想より高かったとまとめている。また、2,848件中1件という有病率から推定すると、試験を行った年に英国内で発生した急性HEV感染の発生件数は8~10万件に上るとしている。

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フリーラジカル脳損傷 増加要因は?

 フリーラジカルによる脳損傷と、ライフスタイル要因との関連性を調査したところ、人の脳におけるフリーラジカル損傷は年齢やBMI、喫煙に大きく関連していることが示唆された。ワシントン大学Elaine R Peskind氏らの報告。脳の健康のためのロードマップHealthy Brain Initiative(2013-2018)では、より良い脳の健康が模索されている。本研究では、どのようなライフスタイルがフリーラジカルによる脳損傷と関連するか調査した。JAMA neurology誌オンライン版2014年7月21日号掲載の報告。 本研究は多施設断面調査。被験者は、医学的に健康かつ認知的に正常であった21~100歳、320人(うち172人が女性)であった。脳へのフリーラジカル損傷は、年齢、人種、性別、喫煙、BMI、アポリポ蛋白E(APOE)遺伝子のε4対立遺伝子の存在、アルツハイマー病の脳脊髄液バイオマーカーを関連因子として、脳脊髄液中のF2-イソプロスタン※(CSF F2-IsoP)濃度を基に評価した。※F2-イソプロスタン:プロスタグランジンF2α誘導体であり酸化ストレスマーカーとなる。 主な結果は以下のとおり。・CSF F2-IsoPの濃度は、45~71歳の年齢層において年齢が上がるごとに約3pg/mL(約10%)増加した(p<0.001)。・CSF F2-IsoP濃度は、BMIが5上昇するごとに約10%以上増加した(p<0.001)。・CSF F2-IsoP濃度と相関する因子を比較したところ、現在の喫煙は年齢に比べ約3倍の強い相関が認められた(p<0.001)。・他の因子で調整後、女性はすべての年齢層で男性よりも平均CSF F2-IsoP濃度が高かった(p=0.02)。・アポリポ蛋白E遺伝子のε4対立遺伝子、およびアルツハイマー病バイオマーカーは、共にCSF F2-IsoP濃度との関連性が示されなかった(p>0.05)。・CSF F2-IsoP濃度と人種について、喫煙状況の影響を調整したところ有意な関連性は認められなかった(p=0.45)。 今回の結果より、人の脳におけるフリーラジカル損傷は年齢依存的に増加し、損傷の程度は男性より女性で大きいことが明らかとなった。また、BMI・喫煙といった2つのライフスタイルがフリーラジカル損傷に与える影響力は、加齢よりも強いことがわかった。これらライフスタイル要因の改善は、老化プロセスの抑制よりも脳のフリーラジカル損傷を抑制するうえで、より大きな効果があると研究グループは報告した。

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パッチテスト反応の違い、アトピー vs 接触皮膚炎

 接触感作性のパターンについて、アトピー性皮膚炎を有する患者と有さない患者の違いをパッチテスト反応で検討した結果、陽性反応の頻度は同程度であることが明らかにされた。ただし、複数の陽性反応を示した割合は、重度のアトピー性皮膚炎患者が軽度/中等度の同患者と比べて有意に高かったという。デンマーク・コペンハーゲン大学のKim Katrine Bjerring Clemmensen氏らが記述研究を行い報告した。アトピー性皮膚炎と接触皮膚炎は病態が共通しているが、両者間の関連性の理解は明確になっていない。Contact Dermatitis誌2014年8月号(オンライン版2014年4月4日号)の掲載報告。 検討は2009年1月~2013年1月に、Bispebjerg and Roskilde病院でパッチテストを受けた全患者の臨床データベースを用いて行われた。その中から、パッチテストの結果、アトピー性皮膚炎の情報および人口統計学的データを入手し評価した。 重度のアトピー性皮膚炎の定義は、全身性の治療を受けている、または入院と定義した。その他のアトピー性皮膚炎を有する患者についても、軽度/中等度であるかの疾患定義を行った。 主な結果は以下のとおり。・検討には、2,221例の患者が組み込まれ。そのうちアトピー性皮膚炎患者は293例で、アトピー性皮膚炎を有さない患者は1,928例であった。・1つ以上のパッチテスト陽性反応を示したのは、アトピー性皮膚炎患者は41%、非アトピー性皮膚炎患者は46.2%であった(p=0.092)。・重度のアトピー性皮膚炎患者のほうが、それ以外のアトピー性皮膚炎患者と比べて、複数のパッチテスト陽性反応を示した(19.4%vs. 10.0%、p=0.046)。

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軽度認知障害のPET検出、実用化への課題は

 アルツハイマー型認知症に起因するMCIの診断能は、アルツハイマー型認知症の診断基準として知られるNINCDS-ADRDA最新版に従い、画像バイオマーカーを使用することで上昇している。しかし、バイオマーカーの精度に関する系統的な評価は行われていなかった。中国医科大学のShuo Zhang氏らは、軽度認知障害(MCI)を検出する手段として11C-labelled Pittsburgh Compound-B(11C-PIB)リガンドを用いたPET検査の有用性をメタ解析により検討した。その結果、いくつかの試験で良好な感度が示されたが、方法やデータの解釈が標準化されていないことも明らかになった。解析結果を踏まえて著者は、「現段階では、実臨床において日常的に使用することは推奨できない」と述べ、「11C-PIB-PETバイオマーカーは高価な検査である。その普及に際しては精度ならびに11C-PIB診断方法のプロセスを明確かつ標準化することが重要である」とまとめている。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2014年7月23日号の掲載報告。 研究グループは、バイオマーカーの1つである11C-PIBリガンドを用いたPET検査の感度、特異度およびその他の特徴に関する系統的な評価を行い、一定期間中にアルツハイマー型認知症またはその他のタイプの認知症に移行すると思われるMCI患者を検出するうえでの、11C- PIB-PETスキャンの診断精度を明らかにした。 2013年1月12日時点でMedline、Embase、Biosis Previewsなどをソースとして論文を検索。言語や試験時期、方法論についても限定せず、ベースライン時の11C-PIB-PETスキャンでMCIとの診断を受けた患者が参加していた前向きコホート試験(NINCDS-ADRDAまたはDSM-IVなどの参照基準を用いていた試験のみ)を適格とした。データの抽出、評価は2名のレビュワーが独立して行った。 主な結果は以下のとおり。・MCIからアルツハイマー型認知症への移行を評価した試験は9件あったが、エビデンスの質は限定的であった。メタ解析には274例を組み込み、そのうちアルツハイマー型認知症を発症していたのは112例であった。・9件の試験から、アルツハイマー型認知症への移行率は中央値で34%であった。・PIBスキャンの方法および解釈については、試験間で著明な違いがみられた。・感度は83~100%、特異度は46%~88%であった。・11C-PIB によるアミロイド沈着の測定法や判定基準が試験間で異なっていたため、感度と特異度について一定の結果を導くことができなかった。・11C-PIB-PETスキャンの強弱を正確に描出できなかったが、ROC曲線に基づき感度96%(95%信頼区間[CI]:87~99)、特異度58%であると推測した。陽性尤度比2.3、陰性尤度比0.07に相当するものであった。・MCIからアルツハイマー型認知症への移行率が 34%と仮定した場合、PIBスキャン100件につき、陰性例1例がアルツハイマー型認知症に移行、陽性例28例が実際にはアルツハイマー型認知症に移行しないと推定された(試験の不均一性のためデータは限定的なものである)。・2件の感度解析を行い、参照基準の種類ならびに事前に規定された閾値による影響を評価したが、影響は認められなかった。関連医療ニュース たった2つの質問で認知症ルールアウトが可能 日本人若年性認知症で最も多い原因疾患は:筑波大学 軽度認知障害に有効な介入法はあるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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