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第1回 FDAが承認した革新的「非オピオイド鎮痛薬」の衝撃、疼痛管理に新たな選択肢

米国食品医薬品局(FDA)は先日、バイオ医薬品企業バーテックス・ファーマシューティカルズが開発した新しい非オピオイド鎮痛薬suzetrigine(商品名:Journavx)を承認しました1,2)。これは中等度から重度の急性疼痛を対象とした経口剤で、約20年ぶりに承認された新しい作用機序を持つ鎮痛薬です。オピオイド乱用の背景承認の背景には、米国で深刻化するオピオイド系鎮痛薬乱用の問題があります。オピオイド系鎮痛薬は本来、強い痛みを効果的に抑える薬剤として処方されてきましたが、その強力な鎮痛作用ゆえに依存や乱用が社会問題化し、過去20年余りで約50万人が過剰摂取によって死亡したと報告されています3)。このため、たとえば著者の私が仕事をするニューヨーク州では、オピオイドの処方はすべて厳格に監視されており、処方制限が本当に必要な患者さんの入手を難しくするなど、近年はむしろ過度とも言えるほどの規制強化が行われています。しかし、その代替として違法薬物に手を染める人も少なくありません。その解決策になると安易には言えませんが、このような状況も相まって、非オピオイド系の新たな鎮痛薬の選択肢を求める声が医療従事者や保険当局の間でありました。suzetrigine(Journavx)の特徴と今後の課題発売元の2024年1月30日付のリリースによると、今回承認されたsuzetrigineは、痛みを伝える神経のナトリウムチャネルを選択的に阻害する新しいメカニズムを持った鎮痛薬で、依存症リスクや中毒性を大幅に低減できる点が期待されています。先に行われた第III相試験では、外反母趾などの術後の疼痛をプラセボと比較して有意に改善することが示されています。12時間ごとに服用する経口剤で、副作用として、かゆみ、筋痙攣、CPK上昇、皮疹などが報告されています2)。発売元によると、米国内での卸売価格は1錠当たり15.50ドル(約2,400円)と設定されました4)。新薬として画期的ではあるものの、既存のジェネリック医薬品や低価格のオピオイド鎮痛薬と比較するとコスト面に不安が残るため、保険会社、医療機関がどの程度この新薬を採用するかが今後の課題となります。一方、賞賛の声が聞かれているのも事実です。非オピオイド系鎮痛薬の選択肢が増えることで、依存症リスクを避けつつ適切な痛みのコントロールを図れるようになる可能性があります。今後は実臨床での効果と安全性がより詳しく検証され、薬価や保険適用の状況次第では、オピオイドクライシスの克服に向けても大きな一歩となることが期待されます。また、日本においても、新たな鎮痛薬の選択肢として期待されるものになるでしょう。このように今回のFDA承認は、痛みの治療における選択肢を広げ、オピオイド乱用が深刻化する米国で新たな光となるかもしれません。今後は医療経済面の検討、慢性疼痛への効果の有無や長期使用時の安全性データの蓄積を踏まえながら、どのように実際の患者ケアに組み込まれていくのかが大きな注目点となるでしょう。参考文献・参考サイト1)Smith G. New Pain Drug Gets FDA Nod as Safer Alternative to Addictive Opioids. Bloomberg. 2025 Jan 31.日本語版:米FDA、オピオイドに代わる鎮痛剤を承認-依存症リスク抑制2)FDA Approves Novel Non-Opioid Treatment for Moderate to Severe Acute Pain. 2025 Jan 30.3)CDC. Drug overdose deaths - Health, United States. 2024 Aug 2.4)Harrison C. Vertex’s opioid-free drug for acute pain wins FDA approval. Nat Biotechnol. 2025 Feb 17.

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クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─【とことん極める!腎盂腎炎】第13回

クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─Teaching point(1)クランベリーが尿路感染症を予防するという研究結果はたしかに存在するが、確固たるものではない(2)本人の嗜好と経済的事情が許すならクランベリージュースを飲用してもらってもよい(3)クランベリージュース以外の尿路感染症の予防方法を知っておく《症例》28歳女性、独身、百貨店の販売員。これまでに何度も排尿時痛や頻尿などの症状で近医受診歴があり、「膀胱炎」と診断され、その都度、経口抗菌薬の処方を受け治療されている。昼前から排尿時痛があり、「いつもと同じ」膀胱炎だろうと思って経過をみていたところ、夕方にかけて倦怠感とともに37.5℃の発熱を認めるようになったため当院の時間外外来を受診した。来院時38.0℃の発熱あり。左肋骨脊柱角に圧痛(CVA叩打痛)を認める。血液検査:WBC 12,000/μL(Neu 85%)、CRP 3.5mg/dLと炎症反応上昇あり。尿検査:WBC(+++)、亜硝酸塩(+)。一般的身体所見、血算・生化学検査では、それ以外の特記所見に乏しい。1.クランベリーとは?クランベリーとはツツジ科スノキ属ツルコケモモ亜属(Oxycoccos)に属する常緑低木の総称であり、Vaccinium oxycoccus(ツルコケモモ)、V. macrocarpon(オオミツルコケモモ)、V. microcarpum(ヒメツルコケモモ)、V. erythrocarpum(アクシバ)の4種類がある。北米原産三大フルーツの1つである酸味の強い果実は、菓子やジャム、そしてジュースによく加工され食用される。古くから尿路感染症予防の民間療法として使用されており、1920年代にはその効果は尿路の酸性化による結果と考えられていたが、クランベリーに含まれるA型プロアントシアニジンという物質がどうやら尿路上皮への細菌の付着を阻害しているらしいということが1980年代に明らかにされた1)。またクランベリーに含まれるD-マンノースもまた、細菌と結合することで尿路上皮への菌の付着を抑制することが知られている。2.クランベリーは尿路感染を予防するのか?クランベリーが尿路感染やその再発を予防するのかというテーマについては、これまで数多くの研究がなされてきた。まず、有効成分の1つである先述のD-マンノースを内服することが再発性尿路感染症の発生率が低下させると、ランダム化比較試験で証明されている2)。クランベリーそのものに関しては、プラセボに比して予防に効果的という結果が得られた研究もあれば、影響を与えないとする研究結果もあり、議論が分かれているところである。系統的レビューによるメタアナリシスでも報告によって異なった結論が得られており、たとえば2012年に合計1,616例の研究結果をまとめたメタアナリシスではクランベリー製品は有意に尿路感染の再発を減らすと報告している3)。半年間の飲用によるリスク比0.6、治療必要数(NNT)は11と推算されている。一方で、同じ2012年にアップデートされたコクランレビューでは4,473例が対象になっているが、プラセボや無治療に比してクランベリー製品は尿路感染症を減らすことはしないとし、尿路感染症予防としてのクランベリージュース飲用は推奨しないと結論づけられた4)。しかし2023年にアップデートされたバージョンでは、50件の研究から合計8,857例がレビューの対象となり、メタ解析の結果、クランベリー製品の摂取によって尿路感染リスクが有意に低減する(相対リスク:0.70、95%信頼区間:0.58~0.84)ことが明らかにされた。とくに、再発性尿路感染症の女性、小児、尿路カテーテル留置状態など尿路感染リスクを有する患者において低減するとされ、逆に、施設入所の高齢者、妊婦などでは有意差は得られなかった5)。わが国で行われたクランベリージュースもしくはプラセボ飲料125mLを毎日眠前に24週間内服して比較した多施設共同・ランダム化二重盲検試験の結果では、50歳以上の集団を対象としたサブ解析では有意な再発抑制効果がクランベリージュースに認められた(ただし、若年層の組み入れが少なかったためか全体解析では有意差が出なかった)6)。尿路感染症の再発歴がある患者が比較的多く含まれたことも有意差がついた要因の1つと考えられ、そうしたことを踏まえると、再発リスクが高い集団においてはクランベリージュースの感染予防の効果がある可能性があると思われる。米国・FDAも、尿路感染既往がある女性が摂取した際に感染症の再発リスクが低下する可能性があるとクランベリーサプリの製品ラベルへ掲載することを2020年に許可しており、日本の厚生労働省公式の情報発信サイトにもそのことが掲載されている7)。再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことは、プライマリ・ケア医の重要な役割である。3.クランベリー摂取の副作用大量に摂取した場合、とくに低年齢児では嘔気や下痢を招く可能性がある。また、シュウ酸結石を生じるリスクになるともいわれている。しかし一般的には安全と考えられており7)、日本の研究でもクランベリー飲用の有害事象としては107人中1人のみ、初回飲用後の強いやけど感を自覚しただけであった6)。先に紹介したレビューでも、最頻の副作用は胃もたれなどの消化器症状であったが、対照群に比較して有意に増加はしなかった5)。クランベリー摂取により問題となる副作用はあまりないと思われ、そうすると、クランベリーを尿路感染再発予防目的で飲用するべきかどうかは、本人の嗜好や経済的余裕などによって決まると思われる。4.クランベリー以外での再発予防とくに女性では尿路感染症を繰り返す症例があるが、そうした再発例に対しては、飲水励行の推奨や排便後の清拭方法の指導(肛門部に付着する細菌の尿路への移行を防ぐために尿道口から肛門に向けて拭く)に代表される行動療法が推奨される(第11回参照)。それでも無効な場合は予防的抗菌薬投与の適応になりえ、数ヵ月から年単位で継続する方法と、性交渉後にのみ服薬する方法が一般的である。性交渉後に急性単純性膀胱炎を起こすことはよく知られており、抗菌薬の連日投与でなくても、セファレキシン、ST合剤、フルオロキノロンなどを性交渉後の単回内服するだけでも尿路感染症の予防に有効であることが示されている8)。再発性尿路感染症を呈する高齢者においても、予防的抗菌薬の内服が尿路感染症の発症予防に効果があるとされている9)。また、閉経後の女性では局所エストロゲン療法が尿路感染の再発予防に有効であるといわれている10)。《症例(その後)》腎盂腎炎と診断し、血液・尿培養採取のうえで、点滴抗菌薬加療を開始して入院とした。翌日には解熱、入院5日後に血液検査での炎症反応のpeak outと血液培養からの菌発育がないことを確認でき、尿培養から感受性良好な大腸菌(Escherichia coli)が同定されたため、内服抗菌薬にスイッチして退院とする方針とした。これまでに何度も膀胱炎になっているとのことで、再発性の尿路感染症と考えてリスク因子がないか確認したところ、販売員をしているため日中の尿回数を減らすべく、出勤日は飲水量を減らすように心がけているということであった。尿量・尿回数の減少が尿路感染症のリスクになるため飲水励行が勧められること、度重なる抗菌薬加療が将来的な耐性菌の出現を招くことによる弊害、会陰部を清潔に保つことが重要であることの説明に加え、排便後の清拭方法の一般的な指導を退院時に行った。クランベリージュースは話題には出してみたものの、ベリー系果実はあまりお好きではないとのだったので強くお勧めはしなかった。それでもなお尿路感染を繰り返すようであれば、さらなる予防策を講じる必要があると判断して、3ヵ月後に確認したところ、その後、膀胱炎症状はなく経過しているということであり終診とした。1)Howell AB, et al. Phytochemistry. 2005;66:2281-2291.2)Kranjcec B, et al. World J Urol. 2014;32:79-84.3)Wang CH, et al. Arch Intern Med. 2012;172:988-996.4)Jepson RG, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;10:CD001321.5)Williams G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2023;4:CD001321.6)Takahashi S, et al. J Infect Chemother. 2013;19:112-117.7)厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト):「クランベリー」8)日本排尿機能学会, 日本泌尿器科学会 編. 女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]. リッチヒルメディカル;2019.9)Ahmed H, et al. Age Ageing. 2019;48:228-234.10)Chen YY, et al. Int Urogynecol J. 2021;32:17-25.

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第4世代統合失調症治療薬KarXT、その安全性は〜メタ解析

 既存の薬剤とは異なる作用機序、より高い有効性および忍容性を有する新しい抗精神病薬に対するニーズは大きい。2024年9月、米国FDAは、急性期精神症状を伴う成人統合失調症患者を対象とした3つの二重盲検ランダム化プラセボ対照試験に基づきxanomelineとtrospiumを配合したKarXTを、新たな統合失調症治療薬として承認した。xanomelineは、直接的なドーパミンD2受容体阻害作用を持たない、M1/M4ムスカリン受容体二重作動薬である。このxanomelineと末梢ムスカリン受容体拮抗薬であるtrospiumを組み合わせたKarXTは、xanomeline関連の末梢ムスカリン受容体活性化による有害事象を軽減することが示唆されている。藤田医科大学の岸 太郎氏らは、統合失調症患者に対するKarXTの安全性および忍容性アウトカムを明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2025年1月29日号の報告。 急性期精神症状を伴う成人統合失調症患者を対象とした3つの二重盲検ランダム化プラセボ対照試験のランダム効果モデルペアワイズメタ解析を実施した。 主な内容は以下のとおり。・KarXTは、プラセボと比較し、すべての原因による治療中止、有害事象による治療中止、シンプソンアンガス評価尺度(SAS)スコアの変化、薬原性アカシジア評価尺度(BAS)スコアの変化、体重の変化、BMI変化、血圧変化、血清総コレステロール変化、血糖値変化、QTc間隔の変化および頭痛、傾眠、不眠、めまい、アカシジア、興奮、頻脈、胃食道逆流症、下痢、体重増加、食欲減退の発生率が同等であった。・KarXTは、プラセボと比較し、1つ以上の有害事象、口渇、高血圧、嘔気・嘔吐、消化不良、便秘、血清トリグリセライド上昇の発生率が高かった。・とくにKarXTは有効性に関して、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)総スコア、PANSS陽性症状サブスケールスコア、PANSS陰性症状サブスケールスコアの改善において、プラセボよりも優れた有用性が認められた。

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多発性骨髄腫、ASCT後維持療法の中止から3年後のMRD陽性転換率/Blood

 多発性骨髄腫患者に自家造血幹細胞移植(ASCT)後、レナリドミド維持療法を実施し、微小残存病変(MRD)陰性を3年間維持した後、レナリドミド療法を中止したときのMRD陽性への転換、無治療生存期間(TFS)、無増悪生存期間(PFS)を、ギリシャ・National and Kapodistrian University of AthensのEvangelos Terpos氏らが評価した。その結果、レナリドミド維持療法中止後3年時点のTFS率は75.8%であった。また、MRD陽性に転換し維持療法を再開した12例のうち4人が進行したが全員生存しているという。Blood誌オンライン版2025年2月26日号に掲載。 この前向き研究では、骨髄および画像MRD陰性を3年間維持した後、レナリドミド維持療法を中止した多発性骨髄腫患者52例について追跡した。レナリドミド投与中止後にMRD陽性となった患者は、同用量でレナリドミド維持療法を再開した。 主な結果は以下のとおり。・レナリドミド維持療法中止時点からの追跡調査期間中央値は3年であった。・12例(23%)がMRD陽性に転換し、レナリドミド維持療法を再開した。4例(7.6%)が進行し、3 例は生化学的進行、1 例は臨床的進行であった。・PFS中央値は未到達であったが、診断時からの7年PFS率は90.2%であった。・TFS率は1年、2年、3年の順に93.9%、91.6%、75.8%であり、維持療法中止(試験開始)からのランドマークPFS率は順に96.0%、96.0%、92.9%であった。・年齢、性別、R2-ISS、導入療法の種類、強化療法使用と、PFS、TFSとの間に統計学的に有意な関連は認められなかった。 著者らは「骨髄および画像MRD陰性を3年間維持した後の維持療法の中止は、MRD転換および進行の割合が低いことと関連した。現代の多発性骨髄腫治療においては、一部の患者は奏効を台無しにすることなく、完全寛解のまま治療を受けずにいられる可能性がある」とした。

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非がん性慢性脊椎痛、効果的な治療はない?/BMJ

 非がん性(軸性または神経根性)慢性脊椎痛に対し、一般的に行われている関節注射、硬膜外注射、高周波治療などの介入手技は偽手技と比較して、ほとんどまたはまったく疼痛緩和をもたらさない可能性があることが、低~中のエビデンスの確実性をもって示された。カナダ・マクマスター大学のXiaoqin Wang氏らが無作為化比較試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果を報告した。非がん性慢性脊椎痛は、世界的に大きな健康問題であり、社会経済的に大きな負担を伴う。ステロイドの硬膜外注射、神経ブロック、高周波神経焼灼術などの介入が行われるようになってきているが、現行ガイドラインではそれらの使用に関して相反する推奨事項が示されていた。BMJ誌2025年2月19日号掲載の報告。介入手技と、偽手技等を比較した無作為化試験についてネットワークメタ解析 研究グループは2023年1月24日までにMedline、Embase、CINAHL、CENTRAL、Web of Scienceに登録された文献を検索し、対象研究を特定した。選択基準は、軸性または神経根性の非がん性慢性脊椎痛(持続期間12週以上)を有する患者(18歳以上の成人患者を80%以上含む)を対象とし、10例以上の患者を介入群(関節注射、硬膜外注射、後根神経節への高周波治療、高周波除神経術、傍脊椎筋肉内注射)と対照群(代替手技、偽手技、または理学療法・運動療法・非ステロイド性抗炎症薬投与などの通常ケア)に無作為に割り付け、1ヵ月以上追跡した研究とした。がん関連痛を伴う患者や、感染症または炎症性脊椎関節炎の患者を登録した研究は除外した。 評価者2人がそれぞれ適格研究の特定、データ抽出、バイアスリスクの評価を行った。ネットワークメタ解析は頻度論的ランダム効果モデルを用いて行い、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。ほとんどの介入手技は偽手技と比べて疼痛緩和に差はない 適格研究132件が特定され、このうち13の介入手技または手技の組み合わせを検討した81件、患者計7,977例がメタ解析に組み入れられた。 慢性軸性脊椎痛の疼痛緩和に関して、局所麻酔薬の硬膜外注射(10cmの視覚的アナログスケールにおける加重平均差[WMD]:0.28cm、95%信頼区間[CI]:-1.18~1.75)、局所麻酔薬とステロイドの硬膜外注射(0.20cm、-1.11~1.51)、ステロイドの関節注射(0.83cm、-0.26~1.93)は、偽手技と比較してほとんどまたはまったく差がないと考えられることが示された(エビデンスの確実性:中)。 また、局所麻酔薬の筋肉内注射(WMD:-0.53cm、95%CI:-1.97~0.92)、ステロイドの硬膜外注射(0.39cm、-0.94~1.71)、局所麻酔薬の関節注射(0.63cm、-0.57~1.83)、局所麻酔薬とステロイドの関節注射(0.22cm、-0.42~0.87)も、慢性軸性脊椎痛の疼痛緩和に関して偽手技と比較して、ほとんどまたはまったく差はない可能性が示された(エビデンスの確実性:低)。 局所麻酔薬とステロイドの筋肉内注射は、慢性軸性脊椎痛の疼痛を増大する可能性が示された(WMD:1.82cm、95%CI:-0.29~3.93)(エビデンスの確実性:低)。 慢性軸性脊椎痛に対する関節高周波焼灼術の有効性は、エビデンスの確実性が非常に低いことが示された。 慢性神経根性脊椎痛の疼痛緩和に関して、局所麻酔薬とステロイドの硬膜外注射(WMD:-0.49cm、95%CI:-1.54~0.55)、ならびに後根神経節の高周波焼灼術(0.15cm、-0.98~1.28)は、偽手技と比較してほとんどまたはまったく差はない可能性が示された(エビデンスの確実性:中)。 また、局所麻酔薬の硬膜外注射(WMD:-0.26cm、95%CI:-1.37~0.84)およびステロイドの硬膜外注射(-0.56cm、-1.30~0.17)も、慢性神経根性脊椎痛の疼痛緩和に関して偽手技と比較して、ほとんどまたはまったく差はない可能性が示された(エビデンスの確実性:低)。

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ダイエットの繰り返しは1型糖尿病患者の腎臓にも悪影響

 減量とリバウンドを繰り返すことは、1型糖尿病患者の腎臓にも悪影響を及ぼすことが明らかになった。ボルドー大学病院(フランス)のMarion Camoin氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に2月4日掲載された。 減量とその後のリバウンドを繰り返す“ヨーヨーダイエット”と呼ばれるような体重の増減は、2型糖尿病患者や一般人口においてよく見られる。Camoin氏らの論文の研究背景には、一般人口におけるヨーヨーダイエットをしたことのある人の割合は、男性は35%、女性では55%に上ると記されている。一方、1型糖尿病患者は従来、やせた人に多い病気であって肥満やダイエットはあまり関係ないと考えられていた。しかし著者らは、1型糖尿病患者の間でも肥満が増えているとしている。 一般人口においては、体重の増減を繰り返すことが慢性腎臓病(CKD)リスクの上昇と関連していることが知られている。しかし、1型糖尿病患者ではその関連の有無が明らかにされていないことから著者らは、1型糖尿病患者対象の大規模臨床研究であるDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)と、DCCT終了後の追跡観察研究であるEDIC(Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications)のデータを用いた検討を行った。 DCCT/EDICの参加者1,432人を、DCCTの追跡期間(6±2年)に生じていた体重変動の激しさの指標であるVIM(variability independent of the mean)で分類し、EDICを含めた追跡期間(21±4年)に生じていた、6種類のCKD関連指標の変化との関係を検討。その結果、他のCKDリスク因子や腎保護薬の使用の影響を統計学的に調整した後、VIMが高く体重変動が激しかった群で、CKD関連指標がより悪化していた。具体的には、高VIM群は、eGFRがベースラインから40%低下するリスクが25%高く(ハザード比〔HR〕1.25〔95%信頼区間1.09~1.41〕)、血清クレアチニンの倍化(HR1.34〔同1.13~1.57〕)、CKDステージ3への進行(HR1.36〔1.12~1.63〕)などのリスクも有意に高かった。 Camoin氏によると、1型糖尿病患者の体重変動の大きさとCKDリスクとの関連を明らかにした研究は、本研究が初めてだという。得られた結果に基づき同氏は、「1型糖尿病患者の体重変動は、既知のCKDリスク因子とは独立して腎臓に悪影響を及ぼすようだ」と述べている。 1型糖尿病患者の減量とリバウンドの繰り返しが、なぜ腎臓に悪影響を及ぼすのかというメカニズムの詳細は、まだ明らかになっていない。一つの可能性として研究者らは、血糖管理に用いるインスリンが体重変動を大きくすることがあり、そのことが腎機能の悪化に関係しているのではないかと指摘している。また、ヨーヨーダイエットは心臓に負担をかけ、それが腎臓や血管のダメージにつながるのではないかとする研究者もいる。一方で著者らは、「1型糖尿病患者の減量そのものは、体重の安定を通じて健康状態に良い影響を与える可能性がある」とし、「体重を長期間にわたって維持することに重点を置くべきだ」と総括している。

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病院向けマーケティングサービス

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アトピー、乾癬、円形脱毛症、白斑の日本人患者で多い併存疾患

 アトピー性皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、白斑の日本人患者において、アレルギー性またはアトピー性疾患(アレルギー性鼻炎、結膜炎、喘息を含む)、皮膚疾患、感染症が最も頻繁にみられる併存疾患であり、とくにアトピー性皮膚炎および乾癬患者では、静脈血栓塞栓症、リンパ腫、帯状疱疹、結核の発生率が高いことが明らかになった。福岡大学の今福 信一氏らは、日本のJMDCレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究を実施、日本人皮膚疾患患者における併存疾患の有病率および発生率を評価した。The Journal of Dermatology誌オンライン版2025年2月7日号への報告より。 本研究では、2013年6月~2020年12月にJMDC請求データベースから収集されたデータが使用された。アトピー性皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、または白斑と診断された患者は、年齢、性別、およびインデックス月(診断または治療の最初の記録があった月)によって、それらの疾患の診断による請求記録がない個人と1:1でマッチングされた。 主な結果は以下のとおり。・データには、アトピー性皮膚炎69万1,338例、乾癬5万1,988例、円形脱毛症4万3,692 例、白斑8,912例が含まれ、それぞれに対応するマッチング対照群が設定された。・それぞれの皮膚疾患患者において有病率の高かった併存疾患とマッチング対照群での有病率は、以下のとおりであった。アトピー性皮膚炎:アレルギー性鼻炎(47%vs.37%)、結膜炎(33%vs.23%)、喘息(27%vs.20%)、ウイルス感染症(22%vs.15%)、ざ瘡(11%vs.3%)乾癬:アレルギー性鼻炎(35%vs.28%)、結膜炎(21%vs.17%)、真菌感染症(17%vs.5%)、高血圧(16%vs.13%)、ウイルス感染症(16%vs.7%)円形脱毛症:アレルギー性鼻炎(40%vs.31%)、結膜炎(26%vs.19%)、ウイルス感染症(17%vs.8%)、喘息(14%vs.11%)、アトピー性皮膚炎(12%vs.3%)白斑:アレルギー性鼻炎(45%vs.36%)、結膜炎(30%vs.23%)、ウイルス感染症(21%vs.12%)、喘息(19%vs.16%)、アトピー性皮膚炎(16%vs.4%)・アトピー性皮膚炎コホートにおける併存疾患の発生率(10万人年当たり)は、マッチング対照群と比較して以下のとおりであった:静脈血栓塞栓症:51.4(95%信頼区間[CI]:48.3~54.7)vs.31.7(29.2~34.2)リンパ腫:13.8(12.2~15.6)vs.5.7(4.7~6.8)皮膚T細胞性リンパ腫:1.6(1.1~2.2)vs.0.1(0.0~0.4)帯状疱疹:740.9(728.8~753.1)vs.397.6(388.9~406.6)結核:8.4(7.1~9.7)vs.5.8(4.8~6.9)・乾癬コホートでのマッチング対照群との比較においても、同様の傾向が認められた。円形脱毛症および白斑のコホートでは、対照群と95%CIがほぼ重なっていた。

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術前補助療法+ニボルマブが乳がん患者の病理学的完全奏効を改善

 乳がんのタイプとして最も多いのは、エストロゲン受容体陽性(ER+)/ヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2−)乳がんであり、乳がん全体の70%を占める。このタイプの乳がん患者では、補助化学療法に対する病理学的完全奏効(pCR)の達成率が低いことが知られている。しかし、術前補助療法に免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名オプジーボ)を追加することで、ER+/HER2−乳がん患者のpCR達成率が向上したとする第3相臨床試験の結果が発表された。オプジーボの製造元であるブリストル・マイヤーズ スクイブ社の資金提供を受けて米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのHeather McArthur氏らが実施したこの臨床試験の詳細は、「Nature Medicine」に1月21日掲載された。 多くのがん細胞は、PD-L1という分子を発現してT細胞表面のPD-1と結合することで、T細胞の攻撃から逃れることが知られている。抗PD-1抗体であるニボルマブは、T細胞のPD-1に結合してがん細胞との相互作用を阻害することで、免疫にかけられたブレーキを解除し、T細胞の免疫機能を活性化させる。 この試験では、新たに乳がんと診断された、腫瘍グレードが2または3でER発現率が1〜10%のER+/HER2−の原発性乳がん患者521人を対象に、術前補助療法にニボルマブを追加することで、患者のpCR達成率が向上するかどうかが評価された。対象者は、アントラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬をベースにした術前補助療法にニボルマブを追加する群(ニボルマブ群)とプラセボを追加する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。 ニボルマブ群では、最初の12週間は、ニボルマブ360mgを3週間ごとに、タキサン系抗がん薬のパクリタキセルを毎週投与した。その後、ニボルマブ(360mgを3週間ごと、または240mgを2週間ごと)を、アントラサイクリン系抗がん薬とシクロホスファミドと併用した。プラセボ群では、同様のプロトコルでニボルマブの代わりにプラセボを投与した。最終的に、有効性に関してはニボルマブ群257人とプラセボ群253人を対象に、安全性に関してはそれぞれ262人と255人を対象に評価された。 その結果、pCR達成率は、ニボルマブ群で24.5%であったのに対しプラセボ群では13.8%にとどまっており、前者のpCR達成率の方が有意に高いことが明らかになった(P=0.0021)。特に、PD-L1の発現率が1%以上と判定された患者でのpCR達成率は、ニボルマブ群44.3%、プラセボ群20.2%であり、ニボルマブ群で大きな効果が得られた。安全性に関しては、これまでに報告されていない有害事象は認められなかったが、ニボルマブ群では5人が死亡し、うち2人の死因はニボルマブの毒性であることが確認された。プラセボ群では死亡例は認められなかった。 McArthur氏は、「これらの結果が治療を決定する際の情報として役立ち、それにより乳がん患者の転帰が改善し、最終的には治癒率の向上につながることを期待している」と述べている。

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高カロリーの朝食はCVD患者のうつ病リスクを低減する

 心血管疾患(CVD)を持つ成人は、朝食を高カロリーにすることでうつ病の発症リスクを低下させられる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。ハルビン医科大学(中国)のHongquan Xie氏らによるこの研究結果は、「BMC Psychiatry」に1月31日掲載された。 研究グループによると、CVDを持つ人は一般集団と比べてうつ病を発症しやすいことに関するエビデンスは増えつつあるという。また、食事を摂取するタイミングは概日リズムに大きく影響し、概日リズムの乱れはうつ病の一因となる可能性も指摘されている。しかしながら、カロリーや主要栄養素の摂取タイミングとCVDを持つ人のうつ病発症との関連については明らかになっていない。 本研究では、2003年から2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)参加者から抽出した、CVDを持つ米国の成人3,490人を対象に、食事由来のカロリーまたは主要栄養素の摂取とうつ病発症との関連が検討された。3,490人中554人がうつ病の診断を受けていた。対象者は、24時間思い出し法を通じて測定された3食の摂取カロリーと主要栄養素のレベルに応じて、レベルが最も低い群(Q1群)から最も高い群(Q5群)までの5群に分類された。 ロジスティック回帰分析により、年齢や性別、教育レベル、喫煙状況などの交絡因子を調整して解析した結果、朝食の摂取カロリーのQ5群(565.1kcal以上)ではQ1群(197.0kcal未満)と比較してうつ病のリスクが低く、オッズ比(OR)は0.71(95%信頼区間0.51〜0.91)と推定された。これに対し、昼食や夕食の摂取カロリーについてのQ1群とQ5群の比較では、うつ病リスクについて両群で有意な差は認められなかった。さらに、夕食や昼食での摂取カロリーの5%を朝食に移すことで、うつ病リスクが5%低下することも示された(昼食から朝食:OR 0.95、95%信頼区間0.93〜0.97、夕食から朝食:同0.95、0.93〜0.96)。一方、タンパク質や炭水化物などの主要栄養素の摂取とうつ病リスクとの間には、統計学的に有意な関連は認められなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、「本研究結果から言えることは、CVDを持つ人では、何を食べるかと同じくらい、いつ食べるかが重要だということだ。うつ病のリスクを低下させるには、食事によるカロリー摂取のタイミングを、体内時計のリズムに合わせて調整する必要がある」と述べている。

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認知症患者に対する緩和ケアは、患者自身の症状を改善するとはいえないが、救急受診と入院を減らすかもしれない(解説:名郷直樹氏)

 中等度~重度の認知症患者とそのケア提供者を対象として、患者の症状やケア提供者のウェルビーイングに対するマネジメント、とくにアドバンス・ケア・プランニング、ケアのゴール、緩和ケア、ホスピスによる新しい手法を加えた非薬物治療によるアプローチの効果を、通常の治療と比較し、1次アウトカムとして患者の神経精神症状の変化を検討したランダム化比較試験である。 結果は、24ヵ月後の神経精神症状評価質問票(Neuropsychiatric Inventory Questionnaire:NPI-Q、36点満点、高得点ほど症状が重い)で介入群のベースラインからの変化が9.92から9.15、対照群で9.41から9.39、変化の差が-0.24、95%信頼区間が-2.33~1.84と報告されている。統計学的な効果は示されなかったという結果である。信頼区間の上限で見ても1.84で、36点満点のスコアで2点弱の差でしかない。 この論文では2次アウトカムとして、認知症終末期の症状スコア、ケア提供者のストレススケールとうつスコア、患者の救急受診と入院を設定している。そのうち救急受診と入院については、介入群で平均1.06に対し、対照群では2.37、相対危険と95%信頼区間は0.45(0.31~0.64)という結果である。4つ並列のアウトカムのうちの1つであるという問題はあるが、点推定値で0.5を下回り、p値が0.001未満というのは臨床時にも意味のある結果かもしれない。ただこの試験はオープン試験で、アウトカムをマスキングしたPROBE(Prospective Randomized Open Blinded Endpoint)を採用しているので、入院をアウトカムとして検討するには問題がある。介入手法の性質からして二重盲検が困難であることを考慮すれば、PROBEで行うしかない状況であり、これは臨床試験の限界でもある。 次なる研究としては、多施設共同のクラスターランダム化比較試験で、救急受診や入院につながるアウトカムを評価する試験や、ビッグデータを用いたTarget trial emulationによる検討が期待される。

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第256回 安全な男性用避妊薬候補がマウス検討を通過して霊長類試験に進む

安全な男性用避妊薬候補がマウス検討を通過して霊長類試験に進む避妊手段は数あれど、世界のすべての妊娠の半数近くは不慮のものです。それゆえ毎年7千件を超える中絶があり、多大な精神的、肉体的、金銭的負担を強いています。男性が都度必要に応じて避妊をするなら基本的にコンドームに頼るほかありません。男性のホルモン成分の避妊薬の臨床試験がいくつか進行中ですが、承認には至っていません。ホルモンとは別の標的に目を向けることで副作用の心配が少ない避妊薬の道が開けるかもしれません。精巣に豊富な遺伝子800種超を省いた検討結果があり、それらのうち約250の遺伝子を省くと不妊を呈することが確認されています。キナーゼの類いのSTK33(serine/threonine kinase 33)遺伝子はその1つで、雄マウスのSTK33を省くと尾が動かない異常な精子が形成され、不妊となることが先立つ研究で示されています1)。パキスタンの一家系の調査で不妊男性にSTK33遺伝子変異が見つかっており2)、ヒトでもSTK33は男性の生殖能に必要なようです。STK33遺伝子一対のどちらにも変異を有する男性の精子には複数の異常が認められました。STK33遺伝子が損なわれたマウスもヒト男性も精子に異常があることを除いておおむね正常で、精巣の大きさにも異常はありませんでした。よってSTK33狙いの避妊薬なら安全に使えそうです。そこで米国・ベイラー医科大学のAngela Ku氏らは数十億の化合物ライブラリーからSTK33に結合する低分子化合物を探し出し、CDD-2807という名称のSTK33阻害薬を生み出しました3)。CDD-2807を雄マウスの腹腔内に21日間注射したところ精子の数や運動が低下して不妊となりました。注目すべきことにその効果は永続的ではなく可逆的であり、投与を止めると21日以内に生殖能が復活しました。毒性の所見は認められず、STK33欠損マウスやSTK33変異男性と同様に精巣の大きさも変化しませんでした。CDD-2807の効果はSTK33が雄の生殖能に不可欠なことを一層明確にし、必要に応じた可逆的な男性用避妊薬の標的となりうることを示しています。CDD-2807は経口投与時の体内の巡りが今ひとつだったので、効果の検討では腹腔内に注射されました。とはいえ経口薬を誂えるためのヒントとなりうるSTK33とCDD-2807の結合構造が把握されています。その構造は別のSTK33阻害薬の発見や経口投与で事足りるようにする取り組みを後押しするでしょう4)。CDD-2807の成果の実用化には多分に漏れずまだまだやるべきことがたくさんあります。広く使われる避妊薬となるためにはホルモン濃度、生殖機能全般、子孫への影響などのさまざまな安全性の検討を無事通過しなければなりません。また、長期使用で生じうる害を検討する長丁場の試験も欠かせません。まずは今後数年のうちにCDD-2807やその後続品の可逆的男性用避妊薬としての効果を霊長類で検討することを目指す、と今回の研究を率いたMartin Matzuk氏は言っています5,6)。参考1)Martins LR, et al. Dev Biol. 2018;433:84-93.2)Ma H, et al. Hum Mol Genet. 2021;30:1977-1984. 3)Ku AF, et al. Science. 2024;384:885-890.4)Holdaway J, et al. Science. 2024;384:849-850.5)A promising approach to develop a birth control pill for men / Eurekalert6)Towards a Male Contraceptive That Doesn’t Target Hormones / TheScientist

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米国の医療支出に大きな地域差、その要因は?/JAMA

 米国では、3,110の郡の間で医療支出に顕著なばらつきがみられ、支出が最も多い健康状態は2型糖尿病であり、郡全体では支出のばらつきには治療の価格や強度よりも利用率のばらつきの影響が大きいことが、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのJoseph L. Dieleman氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月14日号に掲載された。2010~19年の米国の郡別の観察研究 研究グループは2010~19年の期間に、米国の3,110の郡のそれぞれにおいて、4つの医療費支払元(メディケア、メディケイド、民間保険、自己負担)で、148の健康状態につき38の年齢/性別グループ別に7種の治療の医療支出を推定する目的で、400億件以上の保険請求と約10億件の施設記録を用いて観察研究を行った(Peterson Center on HealthcareとGates Venturesの助成を受けた)。 38の年齢/性別グループは、男女別の19の年齢層(0~<1歳から≧85歳)で、7種の治療とは、外来治療、歯科治療、救急治療、在宅治療、入院治療、介護施設での治療、処方された医薬品の購入であった。主要アウトカムは、2010~19年の医療支出および医療利用状況(たとえば、受診・入院・処方の回数)とした。1人当たりの支出、郡間で最大約1万ドルの差 本研究では、2010~19年における個人医療支出のうち76.6%を捕捉した。これは、人口の97.3%の支出を反映している。医療支出は、2010年の1兆7,000億ドルから2019年には2兆4,000億ドルに増加した。この支出に占める割合は、20歳未満が11.5%で、65歳以上は40.5%であった。 健康状態別の支出は、2型糖尿病が最も高額で、1,439億ドル(95%信頼区間[CI]:1,400億~1,472億)であった。次いで、関節痛や骨粗鬆症を含むその他の筋骨格系疾患が1,086億ドル(1,064億~1,103億)、口腔疾患が930億ドル(927億~933億)、虚血性心疾患が807億ドル(790億~824億)だった。 総支出のうち、外来医療費が42.2%(95%CI:42.2~42.2)、入院医療費が23.8%(23.8~23.8)、処方医薬品購入費が13.7%(13.7~13.7)を占めた。郡レベルの1人当たりの年齢標準化支出は、最も低かったアイダホ州クラーク郡の3,410ドル(95%CI:3,281~3,529)から、最も高かったニューヨーク州ナッソー郡の1万3,332ドル(1万3,177~1万3,489)の範囲にわたっていた。説明のつかない支出ばらつきの調査が、医療施策の立案に役立つ可能性 郡間で最もばらつきが大きかったのは、年齢標準化自己負担額で、次いで民間保険による支出であった。また、郡全体でのばらつきは、治療の価格や強度よりも医療利用率のばらつきによって大きく影響を受けた。 著者は、「このようなばらつきを、健康状態、性別、年齢、治療の種類、支払い元の違いで地域別に理解することが、異常値の特定、成長パターンの追跡、不平等の顕在化、医療能力の評価において重要な考察をもたらす」「最も支出の多い健康状態に焦点を当てて説明のつかない支出のばらつきをさらに調査することが、コストの削減と治療へのアクセスの改善を目的とした保健医療施策の立案に役立つ可能性がある」としている。

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GLP-1RAの腎保護効果はDPP-4iを上回る

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は慢性腎臓病(CKD)進行抑制という点で、DPP-4阻害薬(DPP-4i)より優れていることを示唆するデータが報告された。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのShuyao Zhang氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に12月5日掲載され、2月10日には同大学からニュースリリースが発行された。Zhang氏は、「血糖管理におけるGLP-1RAの有用性は既によく知られていた。一方、われわれの研究によって新たに、CKDハイリスク患者におけるGLP-1RAの腎保護効果を裏付ける、待望のエビデンスが得られた」と述べている。 この研究は、米退役軍人保健局の医療データを用い、臨床試験を模倣した研究として実施された。腎機能低下が中等度(eGFR45mL/分/1.73m2未満)以上に進行したCKDを有する35歳以上の2型糖尿病患者のうち、GLP-1RAまたはDPP-4iで治療されていた9万1,132人から、傾向スコアマッチングにより背景因子の一致する各群1万6,076人から成る2群を設定。この2群はベースライン時点で、平均年齢(GLP-1RA群71.9歳、DPP-4i群71.8歳)、男性の割合(両群とも95%)、BMI(同33.5)、HbA1c(8.0%)、および併発症や治療薬なども含めて、背景因子がよく一致していた。 事前に設定されていた主要評価項目は急性期医療(救急外来の受診・入院など)の利用率であり、副次評価項目は全死亡および心血管イベントの発生率だった。このほか、事後解析として、CKD進行リスク(血清クレアチニンの倍化、CKDステージ5への進行で構成される複合アウトカム)も評価した。 2.2±1.9年の追跡で、1人1年当たりの急性期医療利用率は、GLP-1RA群が1.52±4.8%、DPP-4i群は1.67±4.4%で、前者の方が有意に低かった(P=0.004)。また、全死亡は同順に17.7%、20.5%に発生していて、やはりGLP-1RA群の方が少なかった(オッズ比〔OR〕0.84〔95%信頼区間0.79~0.89〕、P<0.001)。CKD進行についても2.23%、3.46%で、GLP-1RA群の方が少なかった(OR0.64〔同0.56~0.73〕、P<0.001)。心血管イベントに関しては有意差がなかった(OR0.98〔0.92~1.06〕、P=0.66)。 著者らは、本研究結果が糖尿病の臨床を変化させるのではないかと考えている。論文の共著者の1人である同医療センターのIldiko Lingvay氏は、「糖尿病でCKDを有する患者は、低血糖、感染症、心血管疾患などの合併症のリスクが非常に高いにもかかわらず、有効な薬剤が非常に少なく、かつ、そのような患者は臨床試験に参加する機会が限られている。われわれの研究結果は、GLP-1RAがCKDの進行の抑制や医療費の削減につながることを示している」と話す。 Zhang氏もLingvay氏と同様に、今回の研究結果が糖尿病臨床を変え得るとしている。同氏は、「歴史的に見て、糖尿病によるCKDの治療は困難なものであった」と解説。そして、「今後の研究次第では、糖尿病に伴うCKDの包括的治療アプローチの一部として、GLP-1RAを組み込んだ新しいガイドラインが策定される可能性がある。そのガイドラインに基づく治療によって、患者の長期的な転帰が改善し、生活の質の向上につながっていくのではないか」と付け加えている。

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多量飲酒と3個以上の心代謝リスク因子は肝疾患リスクを上昇させる

 腹部肥満や糖尿病、高血圧などを有する人の飲酒は肝疾患リスクを高める可能性があるようだ。飲酒量の多い人では、3個以上の心血管代謝疾患のリスク因子(cardiometabolic risk factor;CMRF)が肝線維化の進行リスクを顕著に高めることが、新たな研究で示唆された。米南カリフォルニア大学ケック医学校のBrian Lee氏らによるこの研究結果は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に2月3日掲載された。 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、脂肪肝に加え、肥満や高血圧、高コレステロールなどのCMRFを1つ以上併発している状態を指す。MASLDがあり、かつアルコール摂取量が多い場合には、代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)として分類される。しかし、飲酒自体がCMRFを引き起こす可能性があることから、この定義は議論を呼んでいる。 今回Lee氏らは、米国国民健康栄養調査(NHANES)参加者から抽出した、飲酒量とCMRFの状態が判明している20歳以上の参加者4万898人を対象に、飲酒者におけるCMRFの数と肝疾患関連アウトカムとの関連を調べた。CMRFはNCEP-ATP IIIの基準に基づき、腹部肥満、中性脂肪高値、HDL-C低値、高血圧、空腹時血糖高値と定義した。対象者の飲酒量は、純アルコール量換算で男性は210g/週、女性は140g/週を基準とし、これを超える場合は「飲酒量が多い」と判断された。主要評価項目は、FIB-4インデックス>2.67とした。FIB-4インデックスは、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、血小板数、年齢の4つの指標からスコアを算出して肝線維化を予測するもので、>2.67は「肝硬変、もしくはそれに近い状態で線維化が進んでいる可能性」があることを意味する。 対象者のうち、2,282人が飲酒量の多い「多量飲酒群」、残る3万8,616人は「非多量飲酒群」とされた。多量飲酒群および非多量飲酒群において、FIB-4>2.67に該当する対象者の割合はCMRFの数が増えるにつれ増加し、常に多量飲酒群の方が高かった。具体的には、CMRFが0個の場合では多量飲酒群2.3%、非多量飲酒群0.7%、1個では3.0%と1.7%、2個では3.3%と2.1%、3個では5.9%と2.5%、4または5個では6.1%と4.0%であった。多量飲酒群においてFIB-4>2.67になる調整オッズ比(0個の場合との比較)は、1個で1.24(95%信頼区間0.41〜3.69)、2個で1.39(同0.56〜3.50)、3個で2.57(同0.93〜7.08)、4または5個では2.64(同1.05〜6.67)であり、CMRFが3個以上になるとリスクが2倍以上高くなり、特に4〜5個では統計学的に有意なリスク上昇が認められた。 Lee氏は、「この研究結果は、肝疾患リスクが高い集団を特定するとともに、既存の健康問題が、飲酒が肝臓に与える影響に大きく関与する可能性があることを示唆している」と述べている。 本研究には関与していない、南カリフォルニア大学ケック医学校のAndrew Freeman氏は、人々は自分の飲酒量を過小評価していると指摘する。同氏は、「レストランで、5オンス(150mL)に相当するワイン(米国での1杯あたりの純アルコール量〔14gm〕に相当)を注いでもらったら、量が少ないと不満に思うはずだ。人々は自分が思っているよりもずっと多くのアルコールを摂取している可能性がある」と話す。 また、Freeman氏は、高度に加工された高脂肪、高糖質の食品の摂取によりインスリンが過剰に分泌され、インスリン抵抗性が生じて血糖値が過剰になり、脂肪肝になると説明する。そこにアルコールが加わると、「リスクはさらに増大するだけだ」と語る。さらに、アルコールは単独でも肝細胞にダメージを与え、炎症や瘢痕化を引き起こし、長期的には肝硬変や肝臓がんに進行する可能性があるという。 なお、今年の1月、当時、米国公衆衛生局長官であったVivek Murthy氏は、飲酒によるがんリスクについて強い警告を発している。同氏は、「アルコールは、がんの予防可能な原因として確立されており、米国では年間約10万人のがん患者と2万人のがんによる死亡の原因となっている。これは、米国における年間1万3,500人のアルコールに関連する交通事故による死者数よりも多い。それにもかかわらず、米国人の大半はこのリスクを認識していない」と述べている。

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構造的心疾患の手技と研究ができる最高の環境へ【臨床留学通信 from Boston】第9回

構造的心疾患の手技と研究ができる最高の環境へボストンの冬は-15度を記録する日が続き、雪も週に1、2回降るため、屋外での運動は難しい状況です。幸い、借りているアパートには各住戸専用の地下物置があり、そこに運動用のバイクを置いて運動不足を解消しようとしています。さて、私の2025年7月からの進路が決まりましたので、ご報告いたします(アメリカの病院は7月始まり、6月終わりの1年をAcademic Yearと呼びます)。2025年7月からは、同じボストンのBeth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)/Harvard Medical Schoolに移り、Structural Heart Disease(構造的心疾患)のフェローをすることになりました。実はこの決定には相当な葛藤がありました。そもそも、私が渡米した理由の1つはStructural Heart Disease Interventionを学ぶことでした。日本でもこの分野の技術は確立されつつありますが、私が渡米を決意した2010年前後は欧米に遅れをとっている状況でした。現在でも、新しいデバイス、とくに三尖弁閉鎖不全症のカテーテル治療は米国では認可されているものの、日本では未認可の状況です。そのため、米国で学ぶメリットがあると考えました。また、冠動脈の治療はすでに成熟しており、新たな伸びしろが少ないとも思いました。ただ、フェローとしての安月給のまま、さらに1年を費やすことへの迷いもありました。実際、MGH(Massachusetts General Hospital)のカテーテル治療部門ではフェローより上位のアテンディングポジションに空きがあり、採用される可能性がありました。そのため、MGHのStructural Heart Diseaseのフェローの応募締め切りが8月下旬だったこともあり、フェローには応募せずに、他の場所も含めてアテンディングポジションにアプライしていました。ただし、以前BIDMCのStructural Heart Diseaseフェローの担当者と6月にやりとりしていた際、私は応募を考えており、その時は12月の締め切りに間に合えばよいと認識していました。ところが、締め切りが実際には10月であったことを後から知り、再び迷いが生じました。締め切りは過ぎていましたが、「12月が締め切りと聞いていました」と主張し、急遽面接を受けることになりました。幸い、BIDMCには25名ほどの応募者がいたものの、同じハーバード関連病院ということもあり、応募さえすれば私を採用する意向だったようです。平日にMGHを抜け出して車で20分ほどの距離にあるBIDMCへ面接に行くと、病院の概要説明と簡単な質疑応答がありました。その際、MGHのアテンディングポジションと迷ってることも正直に伝え、理解を得ました。決定まで5日の猶予をいただき、家族と相談した結果、最終的に2025年7月からの1年間、さらなる研修を受けることに決めました。BIDMCでは、TAVR 450件以上、MitraClip 120件以上、左心耳閉鎖や三尖弁閉鎖不全症に対するクリップ術・弁置換術、ASDやPFOといった先天性心疾患の治療を学ぶ予定です。また、研究面でもBIDMCは非常に活発で、NCDR(National Cardiovascular Data Registry)の統計解析施設の1つとなっています。一方、MGHのインターベンション部門の研究はそれほど活発ではなく、一部の医師がBIDMCと共同研究をしている程度です。そのため、フェローとしての最終年を迎えるに当たり、最適な場所を見つけたと感じています。

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第232回 高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府石破 茂首相は2月28日、衆院予算委員会で高額療養費制度の負担上限額引き上げを8月から実施すると明言した。一方で、2026年8月以降のさらなる引き上げについては患者団体の意見を聞いた上で再検討し、今秋までに結論を出す方針を示した。この発表に対し、立憲民主党の野田 佳彦代表は「1年間凍結し、患者と対話をするべきだ」と主張。患者団体からも「治療を諦めざるを得ない人が出る」「命に関わる問題」と強い反発の声が上がっている。政府の方針では、年収370~770万円の患者は月額負担上限が約8,000円増の8万8,200円に、年収770~1,160万円では2万円増の18万8,400円、年収1,160万円以上は約4万円増の29万400円となる。さらに2026年以降は区分を細分化し、年収650~770万円では最終的に13万8,600円、年収1,650万円以上は44万4,300円に引き上げる予定だったが、見直しの可能性が示された。負担増の背景には高齢化と高額薬剤の普及による医療費の増加がある。政府は「制度を持続可能にするため」と説明するが、患者団体や専門学会は「がん患者の治療継続が困難になる」「経済的理由で適切な治療を受けられなくなる」と強く批判。日本臨床腫瘍学会などは「上限額の引き上げ幅が大きすぎる」と慎重な検討を求める声明を発表した。高額療養費の見直しは、子育て支援や医療財源確保の観点から避けられないとする意見もあるが、患者の命に関わる制度であるため、慎重な議論が求められている。参考1)石破首相、医療費の負担アップ「実施したい」と表明 非難集まる「高額療養費の負担上限引き上げ」8月から(東京新聞)2)高額療養費制度 負担上限額引き上げ方針で自己負担はどうなる?年収別に詳しく2025年8月から開始 2026年8月以降は再検討へ(NHK)3)高額療養費の負担増、一部凍結を首相表明 今夏は実施して「再検討」(朝日新聞)4)高額療養費引き上げ凍結に応じぬ石破首相、立民「不十分」と反発 予算案採決へ溝埋まらず(産経新聞)5)高額療養費制度における自己負担上限額引き上げに関する声明(日本臨床腫瘍学会・日本癌学会・日本癌治療学会)6)高額療養費制度上限額引き上げに関する緊急声明(日本乳癌学会)7)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する声明(日本胃癌学会)8)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する緊急声明(日本緩和医療学会)2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁総務省消防庁は2025年度より、全国の全消防本部で「マイナ救急」を本格導入する。「マイナ救急」とは、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急搬送時に患者の通院歴や服用薬などの医療情報を確認するシステム。昨年実施された実証事業では約1万1,000件の情報閲覧が行われ、迅速な病院選定や適切な処置に貢献した。救急隊員からは「搬送先決定の迅速化」「意識不明者の病歴把握の容易化」といったメリットが報告され、病院側からも「診療開始の時間短縮」「独居高齢者の正確な医療情報の把握ができた」との評価が寄せられた。具体的な事例として、持病の糖尿病がマイナ保険証で判明し、搬送中に適切な処置が行われたケースや、意識のない患者の服薬状況が即座に確認できた事例などがあった。一方で課題も残り、救急隊員には患者の所持品を確認する法的根拠がなく、意識を失った傷病者がマイナ保険証を提示できない場合、情報閲覧が困難となる。また、従来の医療機関専用システムでは情報閲覧に時間を要する問題があり、消防庁はタブレット端末を活用した新システムを開発し、3月に実装する予定という。消防庁は将来的に、マイナ保険証をスマートフォンに搭載し、救急隊がロック解除なしで必要な医療情報を閲覧できる仕組みの検討も進める方針。救急医療の効率化を図る一方、個人情報保護や法整備の必要性が問われており、今後の運用方法に注目が集まる。参考1)マイナンバーカードを活用した救急業務(マイナ救急)の全国展開に係る検討(消防庁)2)マイナ保険証を活用する「マイナ救急」とは 全国の消防本部に導入へ(NHK)3)マイナ救急の実証事業、全720消防本部で来年度実施へ 情報閲覧の新システムを構築 総務省消防庁(CB news)4)マイナ救急、意識障害の急病人の早期回復などにつながる-4月から全国で実施(ケータイWatch)3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省厚生労働省は2月26日、高度な医療を提供する「特定機能病院」の基準を見直し、大学病院には「医師を派遣する機能」を追加する方針案を公表した。大学病院は、これまで高度な医療の提供、研究、教育といった役割を担ってきた。しかし、医療の高度化に伴い、大学病院以外の病院も高度な医療を提供できるようになり、大学病院の役割が見直されている。そこで、厚労省は、大学病院にしか担えない役割を明確にすると同時に、特定機能病院の基準を見直すこととした。新基準案では、大学病院に対し、地域医療を守るための医師派遣機能を強化することを求めている。具体的には、大学病院が地域に一定数の医師を派遣することを求めるほか、移植医療やゲノム医療、充実した研究や教育体制、都道府県と連携した医師派遣の取り組みなどを評価する。将来的には、積極的に取り組む大学病院には、経済的な報酬などのメリットも検討している。参考1)第23回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会資料(厚労省)2)大学本院「基礎的」と「上乗せ」の基準設定へ 特定機能病院の承認要件、厚労省が見直し案(CB news)3)大学病院に「医師派遣機能」追加へ 厚労省、特定機能病院の新基準案(朝日新聞)4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省厚生労働省が、2月27日に発表した2024年の人口動態統計速報によると、わが国の出生数は72万988人と過去最少を更新し、9年連続で減少した。死亡数は161万8,684人と過去最多となり、出生数を上回る「自然減」は過去最大の89万7,696人に達した。人口減少はさらに加速し、少子化の進行が政府の想定よりも15年早まった結果となった。少子化の主な要因として、未婚化・晩婚化の進行、経済的な不安、子育てと仕事の両立の困難さなどが挙げられる。とくに、出産・育児による女性の賃金低下が顕著で、男女間の格差が拡大している。社会全体に根付いた「子育ては女性の役割」といった価値観や長時間労働の慣行も影響しており、単なる経済支援策だけでは効果が限定的である。政府は2024年度から3年間で「異次元の少子化対策」を進め、児童手当の拡充や育児休業給付の改善を行っている。しかし、今回の統計はこうした施策の初年度に当たりながらも、出生数の増加にはつながらなかった。加えて、婚姻数は49万9,999組と戦後2番目に低い水準にあり、少子化対策の根本となる婚姻の増加も実現できていない。こうした状況に対し、石破 茂首相は「出生数の減少に歯止めがかかっていない。地方の出生率の高さに注目し、若者や女性の定着を進める」と述べた。また、政府は社会保障制度の維持のために、高齢者中心だった給付と負担の構造を転換し、現役世代の負担を軽減する方針を示した。しかし、現役世代の減少は避けられず、今後の社会保障制度の安定性にも懸念が広がる。専門家は「少子化を前提とした社会の仕組みを構築し、男女ともに働きやすく、安心して子育てができる環境を整備することが急務」と指摘している。少子化対策には時間がかかるため、政府は短期的な経済支援だけでなく、社会全体の意識改革や労働環境の抜本的な見直しを進める必要がある。参考1)人口動態統計速報[令和6年12月分](厚労省)2)24年の死亡数・人口減が過去最多 厚労省、約90万人の自然減(CB news)3)少子化の進行、想定より15年早く…昨年の出生数は過去最少72万988人で9年連続最少(読売新聞)4)24年出生数は最少72万人 10年で3割減、現役世代に負担(日経新聞)5)「異次元の少子化対策」初年度は不発 婚姻数も最低水準(同)5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省東証プライム上場企業「サンウェルズ」が、入所者紹介業者に対し1人当たり100万円の高額な紹介料を支払っていたことが発覚した。同社は現在、こうした高額紹介を受けない方針に転換するとしているが、老人ホーム業界では要介護度に応じた紹介料の設定が横行しており、公平性が問題視されている。この問題を受け、日本医療ソーシャルワーカー協会は、全国の医療ソーシャルワーカーを対象に紹介業者との関係実態を調査開始。元紹介業者の証言によれば、MSW(医療ソーシャルワーカー)への接待を通じて、入所者を紹介させるケースもあったという。また、厚生労働省は要介護度に応じた紹介料を「不適切」と認定し、昨年12月に有料老人ホームの設置運営標準指導指針の改正を行い、有料老人ホームに対し、入居希望者の介護度や医療の必要度に応じて手数料を設定しないよう求めているが、さらなる規制を検討している。さらに厚労省は自治体に対しては、施設側の指導を強化するよう求めている。高齢者施設の紹介ビジネスが、医療・介護保険を利用した営利目的の手段と化している実態が浮き彫りとなり、制度の見直しが急務となっている。参考1)老人ホーム会社、診療報酬28億円不正請求疑い 高額紹介料支払いも(朝日新聞)2)医療ソーシャルワーカー協会、紹介業者との関係を調査 高額紹介料で(同)3)要介護度に応じた高額紹介料「不適切」 老人ホームビジネスで厚労相(同)4)高額な紹介料は不適切 厚労省 有料老人ホーム指導指針を改正(シルバー新報)5)有料老人ホームの設置運営標準指導指針について(厚労省)6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県岐阜県海津市の精神科病院「養南病院」で、2024年10月に男性看護師が女性入院患者に暴行を加えたにもかかわらず、病院が義務付けられている通報を怠っていたことが明らかになった。暴行の内容は、患者が指示に従わなかったことに腹を立て、押し倒して首をつかむなどの行為であり、院内カメラにも映像が残されていた。病院側は患者からの訴えを受け、事態を把握していたが、加害者である看護師は自主退職したため、懲戒処分も行われなかった。病院の関谷 道晴理事長は「通報義務が頭から抜け落ちていた」と釈明している。2024年4月の精神保健福祉法改正により、精神科病院で虐待が疑われる事案を発見した場合、都道府県への通報が義務化されている。しかし、病院は「職員がすぐに退職したため、判断に迷い通報をためらった」と説明。匿名通報を受けた岐阜県が11月に立ち入り調査を実施し、今回発覚に至った。病院側も「隠蔽と受け取られてもやむを得ない」と認めている。また、昨年12月には別の女性看護師が患者に対し乱暴な対応をしたことも判明。この件については県に通報され、現在調査が進められている。同病院では、過去にも看護師による不適切な言動が複数報告されており、県が継続的に監視を行う方針だ。この問題を受け、病院は「再発防止と信頼回復に努める」としているが、精神科病院の通報体制の不備や虐待の隠蔽体質が浮き彫りになった。厚生労働省の指導の下、精神医療の透明性向上と、虐待防止策の徹底が求められている。参考1)精神科病院で虐待、隠蔽 改正法で義務化の通報せず(共同通信)2)義務付けられた県への通報せず…精神科病院で男性看護師が女性患者に暴行 言うことを聞かず立腹し押し倒す(東海テレビ)3)海津市の精神科病院 虐待疑われる事案を県に通報せず(NHK)

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コーヒーに入れても糖尿病リスクが上がらないものは?

 コーヒー摂取は、一貫して2型糖尿病のリスク低下と関連しているが、砂糖やクリームを添加することによってこの関連が変化するかどうかは不明である。今回、スペイン・ナバーラ大学のMatthias Henn氏らが、コーヒーに砂糖や人工甘味料を加えるとコーヒーの摂取量増加と2型糖尿病リスクとの逆相関が大幅に弱まるものの、クリームを使用しても逆相関は変わらないことを示唆した。American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2025年1月18日号掲載の報告。 研究者らは、コーヒー摂取と2型糖尿病のリスクとの関連について、砂糖、人工甘味料、クリーム、または非乳製品のクリーム(コーヒーホワイトナー)の添加を考慮して分析を行った。調査には看護師健康調査(Nurses' Health Study:NHS、1986~2020年)、NHS II(1991~2020年)、医療者追跡調査(HPFS、1991~2020年)の3つの大規模前向きコホートを用い、質問表でコーヒーの消費量、添加の有無、2型糖尿病の発症状況などを確認。時間依存Cox比例ハザード回帰モデルを使用し、多変量調整してハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・366万5,408人年の追跡期間中に、1万3,281例が2型糖尿病を発症していた。・多変量調整後の3コホートの統合解析では、無添加のコーヒーを1杯追加するごとに2型糖尿病のリスクが10%低下した(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.89~0.92)。・クリームを加えたコホートでは逆相関の変化はみられなかった。・コーヒーに砂糖を加えたコホート(コーヒー1杯あたり平均で小さじ1杯)では、相関は有意に弱まった(HR:0.95[95%CI:0.93~0.97]、交互作用項のHR:1.17[95%CI:1.07~1.27])。・人工甘味料を使用していたコホートでも同様のパターンがみられた(HR:0.93[95%CI:0.90~0.96]、交互作用項のHR:1.13[95%CI:1.00~1.28])。・コーヒーホワイトナーを使用したコホートでは、コーヒー摂取と2型糖尿病リスクとの関連性が弱まったものの、交互作用は有意ではなかった(HR:0.95、95%CI:0.91~1.00、交互作用項のHR:1.16、95%CI:0.66~2.06)。

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ALSへのσ1受容体作動薬pridopidineは有効か?/JAMA

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療標的として、運動ニューロンに発現しているσ1(シグマ1)受容体(S1R)が注目を集めている。米国・Barrow Neurological InstituteのJeremy M. Shefner氏らは、「HEALEY ALS Platform試験」において、ALSの治療ではプラセボと比較してS1R作動薬pridopidineは疾患の進行に有意な影響を及ぼさず、有害事象や重篤な有害事象の頻度に臨床的に意義のある差はないことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年2月17日号で報告された。米国の無作為化第II/III相試験 HEALEY ALS Platform試験は、第III相試験に進む有望な新規ALS治療薬を迅速かつ効率的に特定することを目的とする二重盲検無作為化第II/III相試験であり、プラセボ群の共有と継続的な参加者登録が可能な方法を用いて複数の試験薬を同時に評価可能である。pridopidineは4つ目の試験薬として選択され、2021年1月~2022年7月に米国の54施設で参加者を登録した(AMG Charitable Foundationなどの助成を受けた)。 ALS患者162例(平均年齢57.5歳、女性35%)を登録し、pridopidine 45mg(1日2回)を経口投与する群に120例、プラセボ群に42例を無作為に割り付け、24週の投与を行った。また、プラセボ群に他の3つのレジメンの試験でプラセボの投与を受けた122例を加えた合計164例を共有プラセボ群とした。 有効性の主要アウトカムは、ALSの疾患重症度のベースラインから24週目までの変化とした。疾患重症度は、機能(ALS機能評価スケール改訂版[ALSFRS-R]の総スコア[0~48点、点数が低いほど機能が低下])と生存の2つの要素で評価し、これらを統合して疾患進行率比(DRR、生存期間を考慮した疾患進行の評価指標)を算出した。DRRが1未満の場合に、プラセボ群に比べpridopidine群で疾患の進行が遅いことを示す。解析には、ベイズ流のアプローチによる共有パラメータモデルを用いた。 有効性の主要アウトカムの解析の対象となった162例のうち136例(84%)が試験を完了した。5つの主な副次アウトカムにも有意差なし 主要アウトカムは、pridopidine群とプラセボ群に有意な差を認めなかった(DRR:0.99[95%信用区間[CrI]:0.80~1.21]、DRR<1の確率0.55)。ALSFRS-Rスコアの1ヵ月当たりの変化率は、pridopidine群で-0.99ポイント(95%CrI:-1.14~-0.84)、共有プラセボ群で-1.00ポイント(-1.14~-0.87)であった。また、死亡イベントの1ヵ月当たりの発生率は、pridopidine群、共有プラセボ群とも0.012件だった。 以下の5つの主な副次アウトカムにも、pridopidine群とプラセボ群で有意な差はなかった。(1)ベースラインで球麻痺を有する患者におけるALSFRS-R総合スコアが2点以上低下するまでの期間、(2)ベースラインで球麻痺を有する患者における静的肺活量(SVC)の低下率、(3)ALSFRS-Rの球麻痺スコアが悪化しなかった患者の割合、(4)ALSFRS-Rの球麻痺スコアが1点以上変化するまでの期間、(5)死亡または永続的な換気補助(PAV)までの期間。忍容性は良好、転倒と筋力低下が多い pridopidineの忍容性は良好であった。有害事象および重篤な有害事象の頻度に、両群間で臨床的に意義のある差はみられなかった。最も頻度の高い有害事象は、転倒(pridopidine群28.1%、共有プラセボ群29.3%)と筋力低下(24.0%、31.7%)だった。pridopidine群では、Fridericia式による心拍数補正QT(QTcF)間隔が臨床的に意義のある変化を示した患者はいなかった。 著者は、「最大の解析対象集団(FAS)の探索的解析では、pridopidine群で発話速度の障害と構音障害に関して名目上有意な進行の抑制がみられ、このpridopidine群における発話の改善は、関連する脳幹領域にS1Rが高密度に分布することを反映している可能性がある」「本研究で実現されたプラセボ群の参加者の共有は、より効率的な試験の実施につながると考えられる」としている。

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米国、オピオイド使用障害への救急医によるブプレノルフィン処方増加/JAMA

 米国では、オピオイド使用障害(OUD)とOUD関連死亡率が依然として高く、その抑止対策の1つとして、有効性が確認されているオピオイド受容体の部分作動薬であるブプレノルフィンの投与を救急診療科にも拡大しようという取り組みが全国的に進められている。米国・カリフォルニア大学のAnnette M. Dekker氏らはこの取り組みの現況を調査し、2017~22年にカリフォルニア州の救急医によるOUDに対するブプレノルフィン処方が大幅に増加しており、患者の約9人に1人は1年以内に継続処方を開始していることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月19日号に掲載された。カリフォルニア州の後ろ向きコホート研究 研究グループは、米国・カリフォルニア州における、OUDに対する救急医(emergency physician)によるブプレノルフィン処方状況の経時的変化を明らかにする目的で、後ろ向きコホート研究を行った(Korein Foundationなどの助成を受けた)。 California Controlled Substance Utilization Review and Evaluation System(CURES)データベースを用いて、2017年1月1日~2022年12月31日にブプレノルフィンの初回の処方を受けたカリフォルニア州の郵便番号を持つ年齢18~79歳のすべて患者のデータを抽出し、その同州の処方医のうち救急医を同定した。救急医による処方、2%から16%に増加 2017~22年に、カリフォルニア州では2万1,099人の臨床医から、34万5,024人のOUD患者が378万765件のブプレノルフィンの処方を受け、処方件数は2017年の50万499件から2022年には73万1,881件に増加した。ブプレノルフィン初回処方時の患者の平均年齢は37(SD 12)歳で、8,187人(67%)が男性であった。 ブプレノルフィン処方医のうち救急医は、2017年の2%(78人)から2022年には16%(1,789人)に増加しており、有意差を認めた(p<0.001)。また、すべてのブプレノルフィン初回処方のうち救急医による処方は、2017年の0.1%(53件)から2022年には5%(4,493件)へと有意に増加した(p=0.001)。この間の救急医によるブプレノルフィン処方件数は1万5,908件で、このうち初回処方は1万823件、非初回処方は5,085件であった。OUD患者の約3人に1人は40日以内に2回目の処方 2017~22年に、3,916人のOUD患者が、救急医によるブプレノルフィンの初回処方から40日以内に2回目の処方を受け、継続率(continuation ratio)は2.8(1万823人/3,916人、約3人に1人)であった。また、救急医によるブプレノルフィン初回処方から40日以内に、180日以上の継続処方を開始した患者の継続率は18.3(1万823人/593人)、1年以内に同様の継続処方を開始した患者の継続率は9.1(5,989人/655人[2017~21年のデータ]、約9人に1人)であった。 著者は、「これらの結果は、依存症の治療システムにおける救急診療科の役割を強く訴えるものであり、救急診療科を確実に利用できるようにし、維持期の外来治療に円滑に移行できるよう、さらなる努力が求められる」としている。

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