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妊娠中のコロナワクチン2回接種、生後6ヵ月未満児の入院を半減/NEJM

 妊娠中に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチンを2回接種することにより、生後6ヵ月未満の乳児におけるCOVID-19による入院および重症化のリスクが低減することが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのNatasha B. Halasa氏らが実施した検査陰性デザインによる症例対照研究の結果、示された。生後6ヵ月未満児はCOVID-19の合併症のリスクが高いが、ワクチン接種の対象とはならない。妊娠中の母親がCOVID-19ワクチンを接種することで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体が経胎盤移行し、乳児にCOVID-19に対する防御を与える可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2022年6月22日号掲載の報告。COVID-19で入院した乳児とCOVID-19以外で入院した乳児を比較 研究グループは、Overcoming COVID-19ネットワークに登録されている米国22州30の小児病院において、2021年7月1日~2022年3月8日の期間に、SARS-CoV-2のPCR検査陽性または抗原検査陽性でCOVID-19により入院した生後6ヵ月未満の乳児(症例群)、ならびに症例群とマッチさせた(入院日が症例児の入院日の前後4週以内)SARS-CoV-2陰性でCOVID-19以外により入院した乳児(対照群)を特定し、母親のワクチン接種の有効性を解析した。 母親のワクチン接種は、妊娠中にBNT162b2(ファイザー製)またはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンを2回接種していることとした(妊娠前に1回目を接種し妊娠中に2回目を接種した母親は解析対象に含む)。 試験期間全体、B.1.617.2(デルタ)変異株の流行期(2021年7月1日~12月18日)およびB.1.1.259(オミクロン)変異株の流行期(2021年12月19日~2022年3月8日)に分け、乳児のCOVID-19による入院に対する母親のワクチン接種の有効性について、母親のワクチン接種のオッズ比を症例群と対照群とで比較することにより推定した。妊娠中のワクチン2回接種完了、乳児のCOVID-19入院に対する有効率は試験期間全体で52% 解析対象は、症例群537例(デルタ期181例、オミクロン期356例)、対照群512例(両群とも月齢中央値は2ヵ月)。妊娠中にワクチン2回接種を完了した母親から生まれた乳児は、症例群で16%(87/537例)、対照群で29%(147/512例)であった。 症例群では、113例(21%)がICUで治療を受け、そのうち64例(12%)は人工呼吸器装着または血管作動薬の投与を受けた。2例がCOVID-19により死亡したが、2例とも母親は妊娠中にワクチン接種を受けていなかった。 乳児のCOVID-19による入院に対する母親のワクチン接種の有効性は、試験期間全体で52%(95%信頼区間[CI]:33~65)、デルタ期で80%(95%CI:60~90)、オミクロン期で38%(95%CI:8~58)であった。母親のワクチン接種が妊娠20週以降に行われた場合の有効性は69%(95%CI:50~80)、妊娠初期(20週以前)の場合は38%(95%CI:3~60)であった。

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「エアコン28℃設定」にこだわらないで!医師が患者に伝えたい熱中症対策

 日本救急医学会は熱中症予防の注意喚起を行うべく6月28日に緊急記者会見を実施した。今回、熱中症および低体温症に関する委員会の委員長を務める横堀 將司氏(日本医科大学大学院医学研究科 救急医学分野教授)らが2020年に発刊された「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」に記された5つの提言を踏まえ、適切なエアコンの温度設定の考え方などについて情報提供した。クールビズと節電が苦しめる“エアコンの温度調節” 人間の身体が暑さに慣れるのには数日から約2週間を要する。これを暑熱順化と言うが、身体が暑さに慣れる前に猛暑日が到来すると暑熱順化できていない人々の熱中症リスクが高まる。今年は6月27日に関東甲信・東海・九州南部で梅雨明けが宣言され、しばらく猛暑日が続くと言われ、横堀氏は「身体が暑さに慣れていない今が一番危険」だと話した。 そんな日本にさらなる追い打ちをかけるのが電力不足であり、“エアコンの温度設定は〇〇℃にしないといけない”“エアコンではなく扇風機を使う”といった話題がワイドショーでもちきりだ。これに同氏は「『エアコンを28℃に設定しましょう』と言うけれど、それはクールビズの視点であり、室温を28℃設定にしても快適に過ごせるような軽装や取り組みを促すためのもの。エアコンを28℃に設定することを推奨するものではない」と指摘。また、全国の熱中症の48%が屋内で発症していること、発症者の半数以上が体温調節機能の低下している高齢者であることから、「エアコンの節電は後回しに」するよう訴えた。 また、近年では、環境省が発表している暑さ指数(WBGT)*や熱中症警戒アラート**が熱中症対策にも有用で、テレビの情報番組でも紹介されるようになっているので、「それに基づいて外出の判断をしたり、暑熱順化の期間は無理をしないように体調管理をしたりして欲しい」と話した。*暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標。日常生活に関する指針の場合、31以上は危険、28~31未満は厳重警戒で「すべての生活活動でおこる危険性」に該当。**熱中症の危険性が極めて高くなると予測された際に、危険な暑さへの注意を呼びかけ、熱中症予防行動をとるよう促すための情報で、環境省と気象庁が発信。 さらに、コロナ禍ではこれまでの熱中症対策以外の問題も生じるため、2020年に「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」を日本救急医学会ほか3学会合同で発表している。これには予防のための5つの提言(1:換気と室内温度、2:マスクと水分摂取、3:暑熱順化、4:熱中症弱者への対応、5:日頃の体調管理)が記載されており、同氏はこれを踏まえ「家庭用エアコンには換気機能がないものが多いため、部屋の窓を風の流れができるようにし、毎時2回以上は開放(数分程度/回)して換気を確保1)すること。ただし、頻回に窓を開けることで室温が上昇するため、すだれやレースカーテンなどで直射日光の照射を避け、部屋の温度をこまめに確認して欲しい」とコメントした。マスク着用習慣、熱中症への影響は? 厚生労働省でもマスク着脱のタイミングを公表しているが、日本では屋外でのマスク不要論がなかなか浸透しないのが現状である。しかし、マスクをしていると熱中症リスクも上がるのではという問題もある。これについてガイドライン編集委員長の神田 潤氏(帝京大学医学部附属病院 高度救命救急センター)は、「多数の論文をレビューして検討しているが、マスク着用により熱中症の発症が増えたという報告は現時点ではない。しかし、マスク着用が熱中症リスクになる可能性はあるため、人混みの中ではマスクを着用し、屋外で運動を行う際はマスクを外すなどのメリハリのある行動が良い」と説明した。熱中症という災害の再来か 今年5月時点ですでに全国の熱中症による救急搬送患者は前年を約1,000人も上回る2,668人に上り、東京・大阪・福岡などの都心部では前年の約2倍もの人が発症している。コロナ流行前の2018年にも同様の気候条件で、日本救急医学会が緊急宣言を発令するほどの災害レベルの酷暑が続き全国の熱中症による死者数が1,288人に上った。今夏はそれに匹敵もしくは上回る可能性も指摘されており、「医療者から患者への啓発も重要」と横堀氏らは訴える。熱中症リスクの高い熱中症弱者には高齢者はもちろんのこと、「既往歴や経済状況なども視野に入れて注意すべきなので見逃さないで欲しい」と同氏は強調した。<熱中症弱者>・既往歴:高血圧症(利尿薬を服用者[脱水を招く]、降圧薬[心機能抑制]、糖尿病[尿糖による多尿])、脳卒中後遺症を有する者、認知症患者[対応しない/できない]・日常生活にハンディキャップを有する者(活動性が低く暑熱順化が不十分)、独居・経済的弱者(エアコン設置なし、電気代の支払い、悪い住居環境、低栄養状態) 日本救急医学会では医療者向けに、判定が難しかった熱中症の重症度を正確化する重症度予測スコアを救急搬送トリアージアプリ『Join Triage』に組み込んだ熱中症応急処置・診断支援アプリを開発しHP上に公開しているほか、前述で紹介した「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き」の作成や熱中症の実態調査を2005年より報告しているので、それらが診療時の一助になるのではないだろうか。

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高齢または中等度リスクAS患者のTAVIとSAVRの比較(解説:上妻謙氏)

 重症大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は、低侵襲かつ有効な治療のため世界中で外科手術(Surgical AVR=SAVR)との無作為試験が行われ、手術高リスクのみならず低リスクの患者においても明確な安全性を示し、ほとんどすべてのAS単独手術患者に関して標準的な医療となってきた。そういった無作為試験はメーカー主導で行われたものと医師主導で行われたものがあるが、本論文は英国の34施設で行われたNYHA class II 以上の重症大動脈弁狭窄症を登録して行われた医師主導の試験である1)。 重症ASの基準は一般的なもので、80歳以上またはハートチームディスカッションで外科手術が中等度以上のリスクと考えられる70歳以上の患者を対象としている。人工弁はCEマークを取得しているものは何でもよく、SAPIEN 、SAPIEN XT、3とバルーン拡張型デバイスが半数強で、残りが自己拡張型デバイスであるCore Valve、Evolut-RまたはEvolut-Pro、Lotus、Symetis Accurate (Neo)、わずかではあるがDirect Flow MedicalやPorticoなども使用された。外科弁も標準的なエドワーズ、セントジュードメディカルの生体弁がほとんどの症例で使用された。プライマリーエンドポイントは1年の全死因死亡率で、非劣性検定のデザインで、1年のSAVRの死亡率が15%という2004~08年の英国データベースのデータに基づき、非劣性マージンが7.5%、検出力は80%で計算された。当初は808例と計算されていたが、中間解析で死亡率が7.5%と低下しており、890例と再計算された。 2014年4月から5年間かけて1,357例が対象となったうちの913例が登録され、ランダマイズされた。さらに無作為化されてからSAVR群のうち17例がTAVIへクロスオーバーし、19例が治療を受けず、それぞれ5例と3例であったTAVI群とくらべて治療を全うできた症例がだいぶ少なくなり、侵襲の大きく異なる治療のランダマイズのためエントリーとSAVR群においてその治療法の遂行に苦労したことが伺える。ITT解析だとTAVI群458例、SAVR群455例と均等だが、per-protocol解析では450例と416例とだいぶ差がついた。患者の年齢の中央値は81歳と高齢であったが、STSスコアの中央値は2.6~2.7と低く、低リスク患者が多かったことが伺える。フォローアップは99.9%で行われ、1年の死亡率はTAVI群4.6%、SAVR群6.6%と非劣性をp<0.001で達成した。優越性検定をするデザインとはなっていないが、数値的にはTAVIの方がSAVRに比べ死亡率が低い傾向がある。他のイベントの頻度をみると1年のイベント発生率はstrokeがTAVI群で5.2%とSAVR群2.6%に比べ高い傾向となり、ペースメーカー植え込みが14.2%と7.3%、血管合併症が10.3%と2.4%とTAVI群で有意に多かった。しかし大出血は20.2% vs.7.2%でSAVRが多くなった。 このスタディ結果は、他のTAVIに関する臨床試験と同様にSAVRに比べて安全性が劣ることがないことを証明しており、低リスク~中等度リスクの患者においてTAVIに対する安全性のエビデンスがより盤石となったといえる。すでに低リスク患者に対するTAVIとSAVRの無作為試験は本試験以外に4つpublishされており、メタ解析を行うと全死因死亡、心臓死ともに有意にTAVIの方が低いことが示されている2)。すべての手術リスクを含めた無作為試験のメタ解析でも、どの手術リスクにおいてもTAVIの方がSAVRよりも死亡率が低いことが示された3)。ASに対する生体弁を使用する単独手術であれば、TAVIが可能な患者については第1選択をTAVIとすべき時代になったといえる。今後はこのような無作為試験は倫理的に許されなくなったと考えられる。

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認知症と犯罪【コロナ時代の認知症診療】第16回

老年医学の名著「最不適者の生き残り」「よもぎ」は雑草と思われがちだが、実はハーブの女王とも呼ばれる。国内のいたるところで見られ、若芽は食用として餅に入れられることから、餅草とも呼ばれる。筆者にとってよもぎが、馴染みの深いのも実はこの餅にある。子供の頃、祖母に言われて道端のよもぎを摘んできて、よもぎ餅を一緒に作った記憶がある。この話を生物学に造詣の深いシステムエンジニアにした。にんまりと笑って言うには、子供の頃に私が摘んだものは道端の犬の小水がかかった汚いものだった可能性が高いと言う。「どうしてか? を観察すると散歩が楽しくなるかも」といった。そして分布ぶりから植物の生存競争の一端がわかるからと加えた。確かに色々な観察をした。最も記憶に残ったのは、背丈はたかだか1m以内とされるのに2mを超えるよもぎがあることだ。それらには共通性がある。ネット状フェンスや金属の柵にぴったり沿って生えていることだ。高い丈は子孫を伝えていく上で花粉が広く飛散しやすく有利だ。生物の生存競争では、最も環境に適した形質をもつ個体が生き残るとしたダーウィンの「適者生存」の法則が有名だ。よもぎの成長にとって重要な日光だが、フェンスや柵に寄り添ったよもぎは日陰に覆われる時なく十二分に太陽の光を浴びられる。もっと大切なのは風雨でも支えてもらえることだろう。さて「適者生存」と聞くと思い出すのが、“Survival of the unfittest”(最不適者生存の生き残り)1)という書である。これはイギリス老年医学の黎明期1972年にアイザック医師によってなされた著作である。私はこの書が出てから、10余年の後に留学先の図書館で読んだ。隅々まで頭にしみて、老年医学・医療が生まれた背景を理解できた気になれた。さまざまな背景により、高齢に至って多くのハンディキャップを背負った人がいかに生きていくか?そこで医者は何ができるかを問うた名著として読んだ。「生老病死」の「老」についての宗教観さえ感じた。初版時から50年以上が経過したが、その内容は日本における現状との違和感がない。それも残念だが…。ピック病とは限らない? 高齢者犯罪と疾患先頃、ある区役所の職員に連れ添われて60代初めの身寄りのない女性が来院した。記憶力はそう悪くないし、若い頃には窃盗歴などなかったのに、数ヵ月の間に万引きを重ね反省の色もなくおかしい。認知症があるのではないか調べて欲しいという。すぐにピック病を疑い、精査の結果でもピック病と確認した。1年に数人はこうした犯罪絡みの受診がある。認知症の犯罪となるとピック病と誰もが連想する。けれども、当院での経験では、意外なほどレビー小体型認知症が多い。この病気における意識・注意の変動や、てんかんの合併しやすさ、また認知機能の統合能低下などもあるのではないかと考えている。また認知症と並んで複雑部分発作などてんかん性の疾患が多い。裁判官にわかってもらう難しさ中には複数の犯罪を重ねて刑事裁判に至るケースもある。そこで意見書を求められると、「かくかくの認知症疾患があり、犯行当時の責任能力に影響を及ぼしたと推測される症状があったと考える」と書くことが多い。重度の認知症であれば、裁判官も本人と面接して、「ああこれでは」と思ってくれる。しかし軽度認知障害から軽度の認知症、それも前頭側頭型認知症だと難しい。というのは裁判官の世界では、精神神経疾患の犯罪とくると、統合失調症における放火や殺人事件に対する責任能力という古典的な命題が今も中核になっているのではと思えるからである。当方のケースは、統合失調症による幻覚や妄想に支配されてやってしまったかと分かるというレベルではない。長谷川式やMMSEは20点以上が多いから、裁判所における質問への理解力や発言、態度には不自然さがない。だから裁判官が私に向ける視線には、「これでも責任能力がないのですか?」と言いたげな気持ちがこもっている。8.5%で認知症性疾患罹患中に犯罪歴認知症患者における犯罪実態の系統的報告がある2)。研究対象は1999~2012年の間に認知症と診断され、米国の記憶・加齢センターで診察された2,397人の認知症患者である。米国、オーストラリア、スウェーデンの専門家により認知症性疾患と犯罪の関係が回顧的に調査された。全対象のうちの8.5%に認知症性疾患罹患中に犯罪歴があった。2,397人中の545人を占めたアルツハイマー病では犯罪率は7.4%であったのに対し、171人と総数では少ない前頭側頭型認知症における犯罪率は37.4%であった。この数字は本研究で調査対象となった5つの認知症性疾患の中で最多であった。この本報告は従来の小報告の結果を確認したと言える。さて米国における認知症の人の裁判状況は、私の経験とあまり違わないもののように思われる。と言うのは、本研究の結論として、「中年期以降に変性性の疾患と診断され、従来のその人らしさを失ってしまった患者に遭遇した医師は、その人が法的処罰の対象にならないように擁護に尽力すべきだ」と強調しているからである。終わりに。最近の生物界では、「適者生存」でなく「運者生存」が正しいとされるそうだ。フェンスの横におちたよもぎの種子は、まさにそれだろう。件の連続万引きの独居女性は、この事件のおかげで認知症がわかり、役所から手厚い支援が差し伸べられるようになったばかりか、不起訴にもなった。ある意味、幸運であった彼女は、“Survival of the unfittest”を実現したかなと考える。参考1)B. Isaacs, et al. Survival of the Unfittest: A Study of Geriatric Patients in Glasgow. Routledge and K. Paul;1972.2)Liljegren M, et al. JAMA Neurol. 2015 Mar;72:295-300.

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感染2年後も55%がlong COVID~武漢の縦断コホート研究

 COVID-19の流行が続く中、COVID-19から回復した人のかなりの割合が、複数の臓器やシステムに長期的な影響を受けていることを示すエビデンスが増えている。初期にCOVID-19が流行した中国において、2年にわたって既感染者の健康状態を調べた研究結果がLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2022年5月11日号に掲載された。 2020年1月7日~5月29日にCOVID-19によってJin Yin-tan Hospital(中国・武漢)に入退院した人を対象に縦断コホート研究を実施。症状発現後6ヵ月(2020年6月16日~9月3日)、12ヵ月(2020年12月16日~2021年2月7日)、2年(2021年11月16日~2022年1月10日)時点の健康状態を、6分間歩行距離(6MWD)検査、臨床検査、退院後の症状、メンタルヘルス、健康関連QOL、職場復帰、医療利用に関する一連の質問票を使用して測定した。各インタビュー時には肺機能検査と胸部画像診断を行った。 年齢、性別、合併症をマッチさせたCOVID-19非感染者(対照群)と比較し、試験群の2年後の回復状態を調べた。主要評価項目は、症状、mMRC呼吸困難尺度、健康関連QOL(HRQoL)、6MWD、職場復帰状況で、3回のフォローアップすべてに参加した人を対象に評価した。症状、mMRC呼吸困難尺度、HRQoLは対照群でも評価した。 主な結果は以下のとおり。・1,192例が3回のフォローアップを完了し、最終解析に含まれた。うち1,119例(94%)が2年後の対面インタビューに参加した。・退院時の年齢中央値は57.0(48.0~65.0)歳、551例(46%)が女性だった。症状発現後の追跡期間の中央値は、6ヵ月目が185(IQR:175~197)日、12ヵ月目が349(337~360)日、2年目が685(675~698)日だった。・少なくとも1つのlong COVID症状を持っていたのは、6ヵ月時点で777/1,149例(68%)から、2年時点で650/1,190例(55%)へと有意に減少した(p<0.0001)。疲労または筋力低下が最も多くみられた。・mMRCスコアが1以上だった人の割合は、6ヵ月時点で288/1,104例(26%)から、2年時点で168/1,191例(14%)へと有意に減少した(p<0.0001)。・HRQoLはほぼ全領域で改善を続け、とくに不安やうつ病の症状を持つ人の割合は、6ヵ月時点の256/1,105例(23%)から、2年時点で143/1,191例(12%)へと大きく減少した(p<0.0001)。・感染前に仕事に就いていた人のうち、2年後に元の仕事に復帰していたのは438/494例(89%)だった。・2年時点でlong COVID の症状が見られた参加者は、そうでない参加者に比べ、退院後のHRQoL低下、運動能力低下、メンタルヘルス異常の増加、医療利用の増加がみられた。・試験群は対照群に比べ、2年後においても、より多くの有病率、疼痛または不快感、不安またはうつ病の問題を有していた。・試験群のうち、入院中に高次の呼吸補助を受けていた人は対照群に比べ、肺拡散障害(65%対36%、p=0.0009)、残気量減少(62%対20%、p<0.0001)、総肺気量減少(39%対6%、p<0.0001)などが有意に多くみられた。 著者らは「初期の重症度にかかわらず、HRQoL、運動能力、精神衛生状態は2年間を通して改善し続けたが、約半数は2年後もlong COVIDが残っていた。long COVIDの要因をさらに研究し、症状を管理または緩和する治療の研究が必要だ」としている。

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熱ショックタンパク90阻害薬pimitespib 、GISTに承認/大鵬

 大鵬薬品は 2022年6月20日、経口HSP(Heat Shock Protein)90阻害薬pimitespib(製品名:ジェセリ)について、「がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍」の効能・効果での製造販売承認取得を発表した。  同剤は、大鵬薬品が創製した化合物で、HSP90を阻害することによりがんの増殖や生存などに関与するKIT、PDGFRA、HER2やEGFRなどのタンパクを不安定化し、減少させることで抗腫瘍効果を示す。 今回の承認は、標準治療薬に不応または不耐と判断されたGIST患者を対象に、同剤とプラセボの有効性および安全性を比較した第III相臨床試験(CHAPTER-GIST-301試験)の結果に基づいたものである。同試験においてpimitespibは主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、有害事象は管理可能であった。試験の結果は、Annals of Oncologyに掲載された。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1【「実践的」臨床研究入門】第21回

これまで、関連研究レビューのための情報ソースとして、1次情報ではなく、まずは、2次情報(診療ガイドラインやUpToDate®、コクラン・ライブラリー、など)の活用をお勧めし(連載第3回参照)、それらの実践的な使用方法について解説してきました。今回からは、医学研究における1次情報の最も代表的な検索インターフェースである、PubMedの活用方法について解説します。PubMedは米国国立医学図書館(United States National Library of Medicine:NLM)が作成している、生物医学系論文の書誌情報と抄録の電子データベースであるMEDLINEの検索プラットフォームです。PubMedの運営もNLMが行っており、無料で提供されています。その他の検索プラットフォームとデータベースについても、連載第17回で解説しましたので、ご参照ください。ここでは、まず、PubMed検索の際に有用なツールであるMeSH(Medical Subject Headings)について紹介します。PubMedの統制語辞書MeSHはじめに、統制語について説明します。統制語とは、いろいろな類語で表現されるひとつの概念を表す、代表的な単語です。MeSHは、NLMが作成した、さまざまな医学用語を統一し、上位語・下位語や同義語・類義語を整理した統制語辞書です。PubMedではMeSHを利用することで、より網羅的な検索ができるようになります。それでは、実際にMeSHを使ってみましょう。下記は、これまでブラッシュアップしてきた、われわれのClinical Question (CQ)とResearch Question(RQ)、 PECOです(連載第14回参照)。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかP:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:1)末期腎不全(透析導入)、 2)eGFR低下速度の変化このCQのキーワードである、「低たんぱく食(low protein diet)」(連載第3回参照)で、MeSHを調べてみます。まず、PubMedのトップページを開きます。トップページの右下にMeSH Databaseというリンクがありますので、クリックします。MeSH Databaseの検索窓が出てきますので、"low protein diet"と入力してみましょう。すると、PubMedのリンクのように"Diet, Protein-restricted"が低たんぱく食のMeSH term(統制語)であることがわかります。下にスクロールしていくと、"Entry Terms"という小見出しの後に、下記のような類語が列記(一部略)されており、これらは上記のMeSH Term, "Diet, Protein-restricted"ひとつで統制されます。Low Protein DietProtein Restricted DietProtein-Restricted Diets…一方、個々の文献にはMeSH Termが10語程度付与されています。その論文のMajor TopicとなるMeSH Termにはアスタリスク(*)がついています。実際に、これまで何度か取り上げた、われわれのCQの「Key論文」1)で見てみましょう。この論文のPubMedのリンクを下にスクロールすると、"MeSH terms"の小見出しがあり、この論文に下記の通り(一部略)のMeSH Termが登録されていることがわかります。Diet, Protein-restricted*Disease Progression*Glomerular Filtration Rate…PubMedではMeSH Termを利用することで、より網羅的な検索ができるようになります。今回、お示ししたように、自身のRQの「Key論文」(連載第8回参照)で登録されているMeSH Termを「逆引き」してみるのも良いと思います。1)Hahn D, et al. Cochrane Database Syst Rev 2020:CD001892.doi:10.1002/14651858.CD001892.pub4.

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ないがしろにできない高齢者の関節痛、その注意点は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第15回

第15回 ないがしろにできない高齢者の関節痛、その注意点は?―Key Point―急性の単関節炎では、化膿性関節炎、結晶性関節炎(痛風/偽痛風)、関節内出血(外傷、血友病)を考える結晶性関節炎と化膿性関節炎は合併することがある関節液の白血球が5万/μL以上なら化膿性を示唆するが、それ以下でも否定はできない症例:81歳 男性主訴)左膝関節痛現病歴)2週間前に左肘関節痛あり。整形外科でシャント感染を疑われたが、治療ですぐに軽快。昨日深夜の転倒後から左膝関節腫脹を伴う関節痛あり。夕方からは発熱もあった。本日近医の検査でCRP 22だったため、救急室に紹介受診となった。既往歴)アルツハイマー型認知症、糖尿病腎症:3年前に血液透析を開始身体所見)意識清明、体温38.6℃、血圧149/61mmHg、脈拍108回/分、呼吸回数20回/分、SpO2 100%(室内気)眼瞼結膜は軽度の蒼白あり、胸腹部に異常所見なし、左膝関節に腫脹/熱感/圧痛あり経過)血液検査でWBC 12,000/μL、Hb 10.8 g/dL、Cr 6.15 mg/dL、CRP 23.9 mg/dLであった左膝関節のレントゲン写真では半月板に線状の石灰化を認めた関節穿刺を施行し、やや混濁した黄色の関節液を採取した(図1)。関節液のWBCは 9,000/μL(好中球86%)であった。白血球に貪食された菱形および長方形の結晶を認めた(図2)グラム染色および関節液培養では細菌を検出しなかった偽痛風と診断しNSAIDsにて軽快した画像を拡大する◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!高齢者における関節痛の訴えは多い化膿性関節炎を見逃すと関節の機能障害が起こる急性vs.慢性、単関節vs.多関節、炎症性vs.非炎症性を区別することで、鑑別診断を絞り込むことができる【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】症状を確認する急性発症か慢性発症か。急性は2週間以内、慢性は6週間以上の症状持続である単関節炎か多関節炎か。単関節炎は1つの関節、多関節炎は5関節以上の関節に炎症がある【STEP2-2】炎症性か非炎症性か炎症性では30分以上続く朝のこわばり(多くは1時間以上)、安静後に増悪、体を動かしていると次第に改善する関節に熱感、発赤、腫脹があれば炎症性である炎症性は血沈やCRP上昇を認める【STEP3】鑑別診断を絞り込む2)3)脊椎関節炎には反応性関節炎、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、強直性脊椎炎、分類不能脊椎関節炎が含まれる(表1)画像を拡大する<参考文献・資料>1)MKSAP19. Rheumatology. 2022. p1-17.2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21th edition. 2022 p2844-2880.3)山中 克郎ほか. UCSFに学ぶできる内科医への近道. 南山堂. 2012. p211-221.

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第118回 サル痘はなぜ同性愛男性に多いのか? / デルタ株に比べてオミクロン株のlong COVIDは生じ難い

サル痘の流行はいまのところ世界の緊急事態ではないと世界保健機関(WHO)は先週土曜日に判断しましたが1,2)、今春5月6日に最初の感染が確認された英国では増え続けています。同国では今月23日までの数日で117人の感染が新たに見つかって5月6日以降これまでに千人に迫る910人にサル痘が認められています3)。性別が判明している861人のほぼ全員(99%)は男性で、女性は5例のみです。男性の中でもサル痘をとくに被っているのはすでに報じられているとおりゲイ、バイセクシャル、男性とセックスする男性であり、詳しく調査されたイングランドのサル痘患者321人中308人(96%)がそういった同性愛男性でした4)。それら321人の半数を超える174人(54%)は先立つ1年間に性感染症(STI)を生じており、およそ3人に1人(32%;102/308人)は性交渉相手が先立つ3ヵ月間に10人以上いました。すなわちSTI伝播持続の後ろ盾である行ったり来たりの性交渉の循環(interconnected sexual network)がサル痘伝播の温床ともなっているようです。最近medRxivに掲載された解析でも過度に多数との交わりがある一握りが存在する性交渉事情が同性愛男性界隈でのサル痘流行持続を招いているらしいと示唆されています5,6)。その解析によると同性愛男性以外でサル痘が続くことはまずなさそうですが、有効な手立てや振る舞いの変化がなければ世界の同性愛男性の1万人超に及ぶ大規模なサル痘流行が続く恐れがあります。そうならないようにするには患者との接触者を同定してワクチンを接種するなどの対策が必要です。また、性交渉相手が多い同性愛男性に向けて説明し、支援を提供することがそういった感染予防対策を補完するでしょう5)。デルタ株に比べてオミクロン株感染のCOVID-19罹患後症状は生じ難い新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株が優勢の頃の感染者の方がその前のデルタ株優勢の頃の感染者に比べて疲労感、息切れ、集中困難、関節痛などの感染後長患い(COVID-19罹患後症状)の発生率が低くて済んでいました7-9)。Zoe社が開発した携帯通信端末(スマートフォン)アプリ・COVID Symptom Studyの使用者から集めた情報を使った観察試験の結果です。試験にはまずは健康な人が参加し、その後の症状やCOVID-19検査結果がスマートフォンアプリを使って記録されました。Lancet誌に掲載された今回の解析はワクチン接種後のPCR検査か抗原検査で感染が判明し、その感染判明から少なくとも28日間にアプリに少なくとも週1回の入力があった英国の被験者を対象としました。感染開始(start of acute COVID-19)から4週間以上続く症状が同国のガイドラインに基づいてCOVID-19罹患後症状(long COVID)と判断され、去年暮れから今春のオミクロン株優勢の頃(2021年12月20日~2022年3月9日)に感染した5万6,003人のCOVID-19罹患後症状の割合はおよそ20人に1人の4.5%(2,501/5万6,003人)でした。一方、デルタ株優勢の頃(2021年6月1日~2021年11月27日)に感染した4万1,361人のCOVID-19罹患後症状の割合はオミクロン株感染者のおよそ2倍の10.8%(4,469/4万1,361人)であり、年齢やワクチン接種からの期間に応じたCOVID-19罹患後症状発現率はオミクロン株感染者の方がデルタ株感染者より24~50%低いという結果となりました。しかしだからといってオミクロン株感染罹患後症状の患者数は少なくて済むというわけにはいきません。というのもオミクロン株感染者は多いからです。周知のとおりオミクロン株感染はより伝播しやすく、オミクロン株感染が英国で恐らく最多になった今春3月26日の新規COVID-19発症数は実に35万人を超えると推定されており、COVID-19罹患後症状患者は必然的に今後増えると著者は言っています7)。参考1)WHO says monkeypox is not yet a health emergency / Reuters2)Meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the multi-country monkeypox outbreak / WHO3)Monkeypox outbreak: epidemiological overview, 24 June 2022. gov.uk4)Investigation into monkeypox outbreak in England: technical briefing 2. gov.uk5)Heavy-tailed sexual contact networks and the epidemiology of monkeypox outbreak in non-endemic regions, May 2022. medRxiv. June 13, 20226)Why the monkeypox outbreak is mostly affecting men who have sex with men / Science7)Antonelli M, et al. Lancet. 2022 Jun 18;399:2263-2264.8)Long COVID risk less during Omicron compared to Delta / King’s College London9)Long Covid grows less likely / Science

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多発性骨髄腫患者におけるCOVID-19重症化のリスク因子の検討/ASCO2022

 米国立衛生研究所(NIH)のNational COVID Cohort Collaborative(N3C)データベースを用いた解析により、肺疾患および腎疾患の既往、がん治療などが多発性骨髄腫患者のCOVID-19重症化リスクを高めることが示された。米国・Auburn大学のAmit Kumar Mitra氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2022)で報告した。 高齢者に発症頻度が高い形質細胞腫瘍である多発性骨髄腫は、しばしば免疫不全を呈することから、COVID-19の重症化リスクを高める可能性がある。同研究では、NIHのNational Center for Advancing Translational Sciences(NCATS)が主導する全国一元公開データベースであるN3Cのデータセットを使用し、多発性骨髄腫患者のCOVID-19の重要化や死亡に関連するリスク因子について解析を行った。・対象:N3Cデータセットに登録された多発性骨髄腫患者26,064例の中で、COVID-19陽性が確認された8,588例・方法:多変量解析により多発性骨髄腫患者のCOVID-19重症化および死亡のリスク因子を検討・評価項目:COVID-19重症化、死亡に関するリスク因子 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢(中央値)は65.9歳、46.8%が女性であり、喫煙歴は25.0%にみられ、腎疾患、肺疾患、糖尿病の既往歴はそれぞれ26.7%、19.8%、27.0%であった。・対象患者の55.8%は入院または救急搬送を要し、12.2%は入院中に急性腎障害を発症、3.2%は人工呼吸器を装着した。また、COVID-19の重症度については、17.8%が軽症(うち3.7%が救急搬送)、18.3%が中等度、0.9%が重症であり、6.7%がCOVID-19により死亡した。・ロジスティック回帰分析からは、肺疾患や腎疾患の既往、多発性骨髄腫のStage(中等度~重度)などがCOVID-19の重症化リスクを高め、ワクチン接種が重症化リスクを低下させていた。また、糖尿病の既往や多発性骨髄腫のStage(中等度~重度)などが死亡リスクを高め、ワクチン接種は死亡リスクも減少させていた。なお、喫煙歴はいずれのリスクとも相関していなかった。・多発性骨髄腫の治療との関連については、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、デキサメタゾンがCOVID-19の重症化リスクを高め、プロテアソーム阻害薬は死亡のリスクも高めていた。一方で、骨髄移植はCOVID-19の重症化および死亡のリスクを低下させていた。

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精神疾患患者の認知症リスク

 統合失調症、双極性障害、うつ病などの重度の精神疾患は認知症と関連しているといわれているが、これらの関連を直接比較した研究はあまり行われていない。台湾・台北栄民総医院のYing-Jay Liou氏らは、重度の精神疾患と認知症リスクとの関連を明らかにするため、台湾全民健康保険データベースを用いてレトロスペクティブに分析を行った。その結果、重度の精神疾患患者は対照群と比較し、アルツハイマー病および血管性認知症リスクが高いことが示唆されたとし、中年および高齢の精神疾患患者では、認知機能の変化を綿密にモニタリングする必要があることを報告した。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2022年4月26日号の報告。 対象は、2001~09年に統合失調症(1万4,137例)、双極性障害(1万4,138例)、うつ病(1万4,137例)のいずれかに診断された45~69歳の患者およびマッチさせた対照群(4万2,412例)。診断時年齢に基づき4群をマッチさせた。アルツハイマー病および血管性認知症を含むすべての認知症の発症は、2011年末までの診断データより特定した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中のアルツハイマー病リスクは、統合失調症患者および対照群と比較し、双極性障害患者およびうつ病患者でより高かった。 【統合失調症】ハザード比[HR]:4.50、95%信頼区間[CI]:2.84~7.13 【双極性障害】HR:10.37、95%CI:6.93~15.52 【うつ病】HR:8.92、95%CI:5.93~13.41・フォローアップ期間中の血管性認知症リスクは、うつ病患者および対照群と比較し、統合失調症患者および双極性障害患者でより高かった。 【統合失調症】HR:4.55、95%CI:3.14~6.59 【双極性障害】HR:4.45、95%CI:3.13~6.31 【うつ病】HR:3.18、95%CI:2.21~4.58・信頼区間に重なりが認められることから、各群間における統計学的な有意差は認められなかった。

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がんやコロナで使用されるマスタープロトコル試験、適切な報告の方法は/BMJ

 マスタープロトコル研究計画(master protocol research programs:MPRPs)は、複数の問いに答えるために1つの包括的な研究プロトコルに基づき複数のサブ試験を行う方法で、対象の特性(疾患、組織型、分子マーカーなど)や治療の種類・数に基づきバスケット試験、アンブレラ試験、プラットフォーム試験に分けられ、現在、主にがん(ALCHEMIST試験、NCI-MATCH試験など)や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(RECOVERY試験など)の研究に使用されている。MPRPは、さまざまな利点を有する一方で、複数のサブ試験についてプロトコルで詳細に指定された試験デザイン情報を1つの登録記録にまとめると、各サブ試験の解析集団や主要評価項目、試験終了日などの重要な記述の詳細が不明瞭化し、その全体像の迅速な把握が困難になるという問題が指摘されている。そこで、米国国立衛生研究所(NIH)のRebecca J. Williams氏らは、既存の優れた試験報告とは矛盾せずに、構造化された情報を用いてマスタープロトコル全体と各サブ試験のデザインを伝達するための、MPRPの適切な報告の仕方について検討した。研究の詳細は、BMJ誌2022年6月10日号に掲載された。ClinicalTrials.govの登録データを定性的に解析 本研究は、ClinicalTrials.govの試験登録のデータを用いた定性的な解析であり、マスタープロトコルの登録と結果の報告に特有の新たな問題点を記述し、ClinicalTrials.govを含む臨床試験データベースに、透明性や完全性が高く、時宜を得た報告を行うための支援の方法を提案する目的で行われた(米国国立生物工学情報センター[NCBI]などの助成を受けた)。 主要評価項目として、試験報告システムの確立された目標と、それに関連する実践の概要が記述され、MPRPの例と主な特徴について再検討された。また、1つのプロトコルにつき1つの試験というモデルに立脚する従来の臨床試験デザイン用に設計されたデータベースにMPRPを登録し、要約された結果を報告する際の課題が明らかにされた。サブ試験ごとの個別の登録記録を提案 報告の方法として、1つのMPRP全体を単一の記録に統合するのではなく、各サブ試験の意義を説明し、透明性と説明責任のよりよい支援を行うために、1つのMPRP内のサブ試験ごとに、個別の登録記録を使用することが提案された(例外の可能性も示すこと)。 論文では、サブ試験ごとに個別の登録記録を使用する方法により、各サブ試験の事前に規定されたデザインに関する明確かつ記述的で構造化された情報が得られ、各サブ試験終了後に結果を適宜報告できることを説明するために、複数の登録記録を用いた架空のMPRPの1例が図解されている。また、複数のサブ試験記録を用いて、MPRPをClinicalTrials.govに報告する際の主な検討事項が表にまとめられている。 残された課題としては、MPRPの登録と結果報告の調整法や、MPRP関連記録を特定するための支援の方法、世界各国の試験登録の統一の問題などが挙げられている。 著者は、「この研究では、ClinicalTrials.govへの報告に焦点が当てられているが、この方法は臨床試験の登録・結果報告データベース全般に応用が可能である。また、本論文は、関係者間において、この方法に関するさらなる議論を喚起することを意図し、MPRPの報告を改善する必要性への認識を高め、世界各地の臨床試験登録における協調の促進をも目的とする」としている。

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第106回 コロナ受け入れ病院、専用病棟の開設は不要に/厚労省

<先週の動き>1.コロナ受け入れ病院、専用病棟の開設は不要に/厚労省2.アジアにも広がるサル痘、現時点では緊急事態に当たらず/WHO3.日本医師会長選、新会長は常任理事の松本 吉郎氏に4.相次ぐサイバー攻撃、今年3月に続きガイドライン再改定へ/厚労省5.医師不足の地域、新研修医制度の特別枠で対応を/厚労省6.手術動画提供で現金受け取り、さらに4病院で判明1.コロナ受け入れ病院、専用病棟の開設は不要に/厚労省厚生労働省は20日、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの提言をもとに、都道府県に対して事務連絡を発出した。これまで医療機関において、新型コロナウイルス感染患者を受け入れる場合は専用病棟の開設を求めていたが、今回の通知では、個室での療養を行えば、病棟全体のゾーニングは行わずともコロナ患者の受け入れが可能とした。(参考)コロナ患者の入院「専用病棟設けなくても可能」…厚労省、受け入れ拡大狙う(読売新聞)効果的かつ負担の少ない医療現場における感染対策について(厚労省)2.アジアにも広がるサル痘、現時点では緊急事態に当たらず/WHO世界保健機関(WHO)は23日、アフリカから欧州・北米と世界に広がっている動物由来のウイルス感染症「サル痘」について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当するかを検討する緊急委員会を開催した。PHEIC(Public Health Emergency of International Concern)とは「他の国々に公衆衛生上の危険をもたらすと認められ、緊急に国際的な調整が必要な事態が発生したとき」に宣言が出される。WHOのテドロス事務局長は25日、現時点では「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態には当たらない」と表明した。アジアにおいても韓国・台湾などで確認されているが、木原官房副長官は23日の記者会見で「注視する」とコメントしている。(参考)WHO 「サル痘」は緊急事態にはあたらずと発表(NHK)サル痘、緊急事態宣言せず=抑止へ集中対応を―WHO(時事通信)サル痘の流行について 現時点で分かっていること(忽那 賢志)(Yahoo!)3.日本医師会長選、新会長は常任理事の松本 吉郎氏に25日、中川 俊男氏の任期満了により、日本医師会の会長選が日医会館にて行われ、常任理事の松本 吉郎氏が副会長の松原 謙二氏を破り、新会長として選出された。任期は2年。副会長には大阪の茂松 茂人氏、東京の猪口 雄二氏、角田 徹氏がそれぞれ副会長として選出された。これまで新型コロナ対策やオンライン診療に対する規制緩和に批判的な意見もあり、医師会に対する信頼回復が求められる。(参考)第151回日本医師会定例代議員会 選挙結果報告(日本医師会)日本医師会の新会長に松本吉郎氏、埼玉の皮膚科形成外科医院の院長…中川会長は出馬見送る(読売新聞)日医会長選 新会長に松本吉郎氏 副会長に茂松氏、猪口氏、角田氏の3氏 副会長候補の今村氏は及ばず(ミクスonline)4.相次ぐサイバー攻撃、今年3月に続きガイドライン再改定へ/厚労省19日、徳島県鳴門市の「鳴門山上病院」がランサムウェア(身代金ウイルス)によるサイバー攻撃を受け、電子カルテへのアクセスが困難となり、20日から新規患者の受け入れを停止していた。幸いにもサイバー攻撃以前に行っていたバックアップから復旧したが、厚労省は、今回のような事件が相次ぐため、今年3月に改定した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版」を今年度内に再改定することとなった。また、日本医師会や関係団体が厚労省と協力して、サイバー攻撃に関する情報を収集・分析する新組織を年内に発足させることも明らかとなった。(参考)サイバー攻撃受けた徳島の病院、22日から通常診療 電子カルテ復旧(朝日新聞)医療界がサイバー攻撃対策で新組織 厚労省と協力、年内にも(産経新聞)医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5.2版(厚労省)5.医師不足の地域、新研修医制度の特別枠で対応を/厚労省医道審議会・医師分科会の「医師専門研修部会」が22日に開催され、医師がきわめて不足している東北地域において、新専門医制度のシーリング枠外として「特別連携プログラム」という新たな仕組みの創設が検討された。具体的には、3年の研修期間のうち1年以上を「医師の不足度合がきわめて顕著な地域(医師充足率が70%未満)」で研修することを義務付けるほか、特別連携プログラムの専攻医には「地域医療講習の受講を免除する」などのインセンティブ付与などが提案されたが、参加した委員からは懸念が表明された。厚労省はあらためて部会で議論を行う見込み。(参考)「医師不足が極めて顕著な地域」(主に東北)で1年以上研修する新専門医研修の新たな仕組み検討―医師専門研修部会(Gem Med)令和4年度 第1回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会 資料(厚労省)6.手術動画提供で現金受け取り、さらに4病院で判明医療機器メーカー「スター・ジャパン」が、全国の眼科医から学術目的として自社のレンズを使った手術動画の提供を受け、提供者に現金を支払っていた問題について、さらに4病院で新たに発覚した。今回明らかになったいずれの病院においても、医師側はあくまでも学術・教育目的として動画を提供していたが、メーカー側はレンズの売り上げを確保する目的で謝礼金を渡していたと見られる。(参考)“手術動画提供で現金”新たに4病院の医師が無断提供(NHK)眼科医の動画提供新たに4病院判明 メーカーから謝礼(産経新聞)

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ASCO2022 レポート 消化器がん(上部・下部消化管)

レポーター紹介はじめに2022年6月3日~7日に、2022 ASCO Annual Meetingが開催された。世の中は徐々に渡航を緩和しつつあるが、残念ながら今年も日本からvirtualでの参加になってしまった。今年も消化管がん分野において標準治療を変える発表が複数報告されたが、その中でもとくに重要と考える発表をここで報告する。食道がん・胃がん昨年の2021 ASCO Annual Meetingでは、食道がん・胃がんにおいて免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性を検証する大規模臨床試験の結果が複数報告されたが、今年は大きな結果の報告は乏しかった。一方でClaudin18.2(CLDN18.2)に対するchimeric antigen receptor(CAR)T細胞の安全性・有効性の報告など、今後の治療開発につながる報告が行われており、これらを中心に報告を行う。CLDN18.2-redirected CAR T-cell therapy(CT041)Claudinは4つの膜貫通ドメインと2つの細胞外ループを持つ分子量23kDの小さな4回膜貫通タンパク質であり、隣り合う細胞の両側から細胞接着部位に集積し、タイトジャンクションの細胞膜密着構造と膜内のストランド構造を形成している。Claudin18.2は、胃腸腺がんの80%、膵臓がん、胆管がん、卵巣がん、肺がんでは60%と複数のがんで高発現しているとされている。抗Claudin18.2抗体薬であるzolbetuximab(IMAB362)が無作為化第II相試験(FAST試験)で無増悪生存期間(PFS)の有意な改善を認めており、現在国際共同第III相試験であるSPOTLITE試験が進行中である。CAR T細胞療法では、患者からT細胞を採取し、遺伝子医療の技術を用いてCAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出すことができるようT細胞を改変する。そして厳重な品質管理の下で増幅し、リンパ球除去化学療法の後に患者に投与を行う。CT041(CLDN18.2-redirected CAR T-cell therapy)は免疫染色でCLDN18.2陽性(2+/3+を≧40%の腫瘍細胞で認める)の前治療歴のある進行胃がん症例に対して行われた第Ib/II相試験である。報告の時点で14例の症例が登録され、最も多いGrade3以上の有害事象はlymphodepletionに伴うリンパ球減少であったが、Dose limited toxicities(DLTs)となるものは存在しなかった。Cytokine release syndromeも認められたが、多くの症例はGrade1~2であり、許容されるものであった。有効性では奏効率(ORR)が57.1%、病勢制御率(DCR)が78.6%、PFS中央値が5.6ヵ月、全生存期間(OS)中央値が10.8ヵ月と、全例2つ以上の前治療を受けていることを考えると非常に有望な結果であり、現在第II相パートが進行中である。大腸がん今年のASCOにおける大腸がん分野の最大のトピックは、本邦から報告された切除不能・転移性大腸がんに対して、最適な1次治療を前向きに検証する第III相試験である、PARADIGM試験である。そのほか、StageII結腸がんの術後補助化学療法実施の要否を、血漿循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いて前向きに検証する無作為化第II相試験であるDYNAMIC試験と、米国のMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)が行ったミスマッチ修復異常を認める(dMMR/MSI-H)直腸がんに対する抗PD-1抗体の有効性の報告が、発表と同時にNew England Journal of Medicineにpublicationされた。今回はこれらの結果を報告する。PARADIGM試験切除不能転移再発大腸がんに対する1次治療の標準はFOLFOX/FOLFIRI等の化学療法と、抗EGFR抗体もしくはVEGF抗体であるベバシズマブの併用であり、生存期間中央値がおおよそ30ヵ月と報告されている。過去に行われた6つの無作為化試験の統合解析では、RAS野生型かつ左側大腸がん(下行結腸・S状結腸・直腸)症例には抗EGFR抗体薬の併用が、RAS変異型もしくはRAS野生型かつ右側大腸がん(盲腸・上行結腸・横行結腸)症例にはベバシズマブの併用が有意に優れていることが示されていたが1)、前向きの検証試験の報告は行われていなかった。PARADIGM試験は、周術期のオキサリプラチン(フッ化ピリミジン単剤は許容)を含む前治療のない切除不能転移再発大腸がんを対象に、mFOLFOX6+パニツムマブ(Pmab群)とmFOLFOX6+ベバシズマブ(Bmab群)を1対1に無作為化割り付けした第III相試験である。主要評価項目は左側大腸がん症例における全生存期間(OS)であり、それが有意であれば全症例で全生存期間を解析する計画であった。合計802例(Pmab群400例、Bmab群402例)が有効性の解析対象であり、そのうち左側大腸がん症例が312例、292例であった。左側大腸がん症例における、OS中央値はPmab群で37.9ヵ月、Bmab群で34.3ヵ月(ハザード比[HR]:0.82、p=0.03)と有意にPmab群が優れていたが、生存曲線は24ヵ月あたりまでほぼ重なっており、それ以降Pmab群が上回る結果であった。全症例におけるOS中央値はPmab群36.2ヵ月、Bmab群31.3ヵ月(HR:0.84、p=0.03)とPmab群が有意に優れた結果であった。また右側大腸がん症例の解析では、OS中央値がPmab群で20.2ヵ月、Bmab群で23.2ヵ月(HR:1.09)と治療成績に大きな差はないが、Pmab群のメリットが乏しく、過去の無作為化試験の統合解析と同様の結果であった。PFSは、左側大腸がん症例においてPmab群が中央値で13.7ヵ月、Bmab群が13.2ヵ月(HR:0.98)、全症例において中央値で12.9ヵ月、12.0ヵ月(1.01)と両群で差を認めない結果であった。一方、ORRは左側大腸がん症例においてPmab群が80.2%、Bmab群が68.6%、全症例において74.9%、67.3%であり、Depth of Response(DoR)もPmab群で優れていた。FIRE-3試験2)などと同様にORR、DoRの改善が結果的にOSの改善につながった可能性が考察できる。2次治療以降の化学療法実施割合も両群で差を認めなかった。これまでESMOガイドラインや本邦のガイドラインは、RAS野生型左側大腸がん症例は化学療法+抗EGFR抗体薬を推奨し、NCCNのガイドラインは前向き試験のデータがないことから化学療法+抗EGFR抗体薬、化学療法+ベバシズマブを併記していた。PARADIGM試験の結果でRAS野生型左側大腸がん症例には化学療法+抗EGFR抗体薬が第1選択であることが前向きに検証されたことで、切除不能転移再発大腸がんの1次治療における標準治療がようやく整理されたことになる。DYNAMIC試験StageII結腸がんは手術のみで80%治癒する対象であり、現在の臨床では臨床病理学的にhigh risk(T4、低分化がん、脈管侵襲など)とされる症例のみに術後補助化学療法が行われている。一方、治癒切除後のctDNA陽性症例はその後80%以上再発するとされており、この対象に対する術後補助化学療法の意義も臨床試験では証明されていない。DYNAMIC試験は治癒切除が行われたStageII症例を対象に、術後4週と7週にctDNAの検査を行い、ctDNA陽性であれば術後補助化学療法をctDNA陰性であれば経過観察を行う試験治療群と、臨床病理学的特徴によって術後補助化学療法の実施を決める標準治療群に2対1に無作為化割り付けを行う第II相試験である3)。主要評価項目は2年無再発生存(RFS)率である。合計455例が無作為化され、解析対象は試験治療群で294例、標準治療群で153例であった。両群ともにhigh riskの症例が40%であったが、実際に術後補助化学療法が行われた症例が試験治療群で15%、標準治療群で28%(p=0.0017)と試験治療群で有意に少なく、オキサリプラチンbasedの術後補助化学療法を行った症例の割合が試験治療群で62%、標準治療群で10%(p<0.0001)と試験治療群で有意に高い結果であった。これは、試験治療群で術後再発のリスクがより高い症例に、より強力な化学療法が実施されたことを意味している。最も再発リスクが高いとされるT4症例でも試験治療群で術後補助化学療法の実施が少なく、ctDNA陽性が従来の臨床病理学的な再発リスクとは独立している可能性が示唆された。主要評価項目である2年RFS率は、試験治療群で93.5%、標準治療群で92.4%と両群の差は+1.1%(95%CI:-4.1~6.2%)と信頼区間の下限が事前に設定した-8.5%を下回っており、試験治療群の非劣性が確認された。サブグループ解析では、T4症例における試験治療群の再発が少ない(HR:1.88)結果であった。試験治療群におけるctDNA陽性・陰性症例の比較では、2年RFS率がctDNA陽性群で86.4%、陰性群で94.7%(HR:1.83)と差が認められた一方で、ctDNAと臨床病理学的なhigh risk/low riskを組み合わせると、ctDNA陰性かつlow riskとctDNA陽性でHRが3.69、ctDNAとT stageを組み合わせると、ctDNA陰性かつT3とctDNA陽性でHRが2.62と、ctDNAと従来の臨床病理学的なriskを組み合わせることでさらに精度の高い再発予測が可能である可能性が示された。本試験により、StageII症例においてctDNA陽性・陰性によって術後補助化学療法の実施を決めることにより、術後補助化学療法の対象を減らしても治療成績が劣らないことが示された。一方でctDNA陽性症例に術後補助化学療法を行う意義、ctDNA陰性に術後補助化学療法を行わない意義はまだ検証されておらず、今後の前向き試験による検証結果が待たれる。ミスマッチ修復異常を認める(dMMR/MSI-H)直腸がんに対する抗PD-1抗体薬の有効性切除不能転移再発のdMMR/MSI-H大腸がんに対して抗PD-1抗体薬のペムブロリズマブがすでに1次治療の第1選択として確立しており4)、いくつかの少数例の検討では切除可能なdMMR/MSI-H大腸がんにも抗PD-1抗体薬の有効性が報告されている5)。局所進行直腸がんに対する標準治療は化学療法、放射線療法、手術の併用であるが、術後の直腸機能の低下が大きな問題であり、化学療法、放射線療法で完全奏効(cCR)に至った症例には、手術を行わず経過を見ていくWatch and Wait(W&W)が普及しつつある。dMMR/MSI-H直腸がんは直腸がんの5~10%(本邦の報告では2%程度)に認められる、まれな対象であるが、今回MSKCCが行っているStageII/IIIのdMMR/MSI-H直腸がんに対する抗PD-1抗体薬の有効性を見る第II相試験の結果が、試験の途中で報告された。試験治療として抗PD-1抗体薬であるdostarlimabを6ヵ月行った後に、画像と内視鏡でcCRと判定された症例にはW&Wを行い、遺残が認められた症例には化学放射線療法を実施し、それでも遺残がある症例には救済手術を行う計画であった。目標症例数は30例であったが、14例まで登録が行われ、全例が6ヵ月のdostarlimabでcCRと判定された。観察期間中央値は6.8ヵ月と短いが、現時点で再増大を認める症例は認めなかった6)。長期的な観察を行わなければPD-1抗体薬のみで治癒に至るかの結論は出ないが、臓器横断的にdMMR/MSI-H固形がんに検討すべき画期的な結果であり、発表と同時にNew England Journal of Medicineにpublicationされた。おわりに食道がん、胃がん、dMMR/MSI-H大腸がんの1次治療におけるICIの有効性が大規模臨床試験で検証され、標準治療としてすでに実臨床に組み込まれている。今後は、周術期治療における有効性の検証結果が報告されてくるものと思われ、またDYNAMIC試験のようなctDNAを用いた術後再発モニタリングは、大腸がんのみならず固形がん全般で主流になってくるものと考える。また、胃がんのような固形がんに対してCAR T細胞療法の有効性が示されるなど次の治療開発が進捗する兆しが認められ、今後の報告に期待したい。1)Arnold D, et al. Ann Oncol. 2017;28:1713-1729.2)Heinemann V, et al. Lancet Oncol. 2014;15:1065-1075.3)Tie J, et al. N Engl J Med. 2022 Jun 4. [Epub ahead of print]4)Andre T, et al. N Engl J Med. 2020;383:2207-2218.5)Chalabi M, et al. Nat Med. 2020;26:566-576.6)Cercek A, et al. N Engl J Med. 2022 Jun 5. [Epub ahead of print]

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日本人双極性障害外来患者の3年間の臨床アウトカムに影響を及ぼす要因~MUSUBI研究

 双極性障害患者の長期的な臨床アウトカムの予測因子に関するエビデンスは限られている。獨協医科大学の菅原 典夫氏らは、日本の精神科クリニックにおける双極性障害の多施設治療調査「MUSUBI研究」に参加した双極性障害患者を対象に、3年間の臨床アウトカムに影響を及ぼす予測因子を特定しようと試みた。その結果、フォローアップ期間中に持続的な寛解が得られる患者は少なく、臨床アウトカムに個々の人口統計学的および臨床的特徴が影響を及ぼしていることが示唆された。Journal of Psychiatric Research誌2022年7月号の報告。双極性障害の外来患者1,647例を対象にした研究 MUSUBI研究は、実臨床における双極性障害患者を調査するための自然主義的な多施設共同研究である。本研究では、2016年、2017年、2019年に登録された双極性障害の外来患者1,647例を対象に、ベースライン時、1年後および3年後のデータを抽出し評価を行った。臨床アウトカムとして、フォローアップ期間中における1年間のうつおよび躁症状の存在、53週以上の持続的な寛解を評価した。 MUSUBI研究に参加した双極性障害患者を対象に3年間の臨床アウトカムに影響を及ぼす予測因子を特定しようと試みた主な結果は以下のとおり。・3年間の評価期間中に持続的な寛解が得られた患者では、ベースライン時のパーソナリティ障害の診断および持続的な寛解期間と有意な関連が認められた。・フォローアップ期間中における1年間にうつ症状が認められた患者では、ベースライン時の仕事の状態、機能の全体的評定(GAF)尺度、自殺念慮、持続的な寛解期間と有意な関連が認められた。・3年間の評価期間中、持続的な寛解が得られた患者は318例(19.3%)、寛解に到達しなかった患者は782例(47.5%)であった。

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中等症~重症クローン病、ウステキヌマブvs.アダリムマブ/Lancet

 生物学的製剤未使用の中等症~重症活動期クローン病患者に対する導入療法および維持療法として、ウステキヌマブ単剤療法とアダリムマブ単剤療法はいずれも高い有効性を示し、主要評価項目に両群で有意差はなかった。米国・マウントサイナイ医科大学のBruce E. Sands氏らが、18ヵ国121施設で実施した無作為化二重盲検並行群間比較第IIIb相試験「SEAVUE試験」の結果を報告した。ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体ウステキヌマブと、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体アダリムマブは、いずれもクローン病の治療薬として承認されているが、どちらもプラセボ対照比較試験の結果に基づいており、患者への説明や医師の治療選択にとっては直接比較する実薬対照試験が必要であった。Lancet誌オンライン版2022年6月11日号掲載の報告。386例をウステキヌマブ群とアダリムマブ群に無作為化 研究グループは、生物学的製剤による治療歴のない18歳以上の中等症~重症活動期クローン病患者を、ウステキヌマブ群またはアダリムマブ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。適格基準は、クローン病活動指数(CDAI)スコアが220~450点、生物学的製剤未使用で従来の治療が無効または不耐容(あるいは副腎皮質ステロイド依存性)、ベースラインの内視鏡評価で1つ以上の潰瘍を有する患者とした。 ウステキヌマブ群は、約6mg/kgを初日(Day 0)に静脈内投与し、その後56週まで8週に1回90mgを皮下投与した。また、アダリムマブ群は、初日に160mg、2週目に80mg、その後56週まで2週に1回40mgを皮下投与した。いずれも単剤投与とし、投与量は変更しないこととした。 主要評価項目は、無作為割り付けされた全患者(intention-to-treat集団)における52週時の臨床的寛解率(CDAIスコア<150を達成した患者の割合)であった。 2018年6月28日~2019年12月12日の間に、633例が適格性を評価され、386例がウステキヌマブ群(191例)またはアダリムマブ群(195例)に割り付けられた。52週時の臨床的寛解率はウステキヌマブ群65%、アダリムマブ群61% ウステキヌマブ群では191例中29例(15%)、アダリムマブ群では195例中46例(24%)が52週時までに治療を中止した。 52週時の臨床的寛解率は、ウステキヌマブ群65%(124/191例)、アダリムマブ群61%(119/195例)であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差4%、95%信頼区間[CI]:-6~14、p=0.42)。 安全性については、両群ともこれまでの報告と一致していた。重篤な感染症は、ウステキヌマブ群で191例中4例(2%)、アダリムマブ群で195例中5例(3%)が報告された。試験開始後52週時までの死亡例はなかった。

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NSCLCに対するペムブロリズマブ術後補助療法の第III相試験サブグループ解析(KEYNOTE-091/PEARLS)/ASCO2022

 KEYNOTE-091試験(EORTC-1416-LCG/ETOP-8-15-PEARLS)のサブグループ解析から、ペムブロリズマブの非小細胞肺がん(NSCLC)の術後補助療法は、術式や腫瘍サイズ、リンパ節転移や術前補助療法などを問わずに有用であることが示された。英国・The Royal Marsden NHS Foundation TrustのMary E.R. O'Brien氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2022)で報告した。 KEYNOTE-091試験は、Stage IB~IIIAの切除後NSCLCに対する術後補助療法としてのペムブロリズマブの有用性を評価した無作為化第III相試験である。中間解析においてPD-L1の発現状態に関わらず無病生存期間(DFS)を有意に延長した一方、TPS≧50%集団では有意な差を認めなかったことがプレスリリースで発表されている。今回は、術式、がんの状態、術前補助療法の有無などのサブグループ解析とともに具体的な結果も示されている。・対象:(TMN第7班による)Stage IB(≧4cm)からStage IIIAの完全切除NSCLC(1,117例)・試験群:外科的切除後にペムブロリズマブ200mg 3週ごと18回まで投与(590例)・対照群:治療薬と同様のスケジュールでプラセボを投与(587例)[主要評価項目]全集団のDFS、PD-L1 TPS≧50%のDFS[副次評価項目]PD-L1 TPS≧1%のDFS、全集団、PD-L1 TPS≧50%、≧1%の全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体集団DFS中央値は、ペムブロリズマブ群53.6ヵ月、プラセボ群42.0ヵ月、18ヵ月DFSはそれぞれ73.4%と64.3%であった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.63~0.91、p=0.0014)。・PD-L1 TPS≧50%のDFS中央値はペムブロリズマブ群、プラセボ群とも未到達、18ヵ月DFSはそれぞれ71.7%と70.2%であった(HR:0.82、95%CI:0.57~01.18、p=0.14)。・全集団のOS中央値はペムブロリズマブ群、プラセボ群とも未到達、18ヵ月OSはそれぞれ91.7%と91.3%であった(HR:0.87 、95%CI:0.67~1.15、p=0.17)。・DFSのサブグループ解析では、術後補助療法なし、術後補助療法がカルボプラチン+パクリタキセルの集団を除き、術式タイプ、pNステータス、腫瘍サイズなど一貫してペムブロリズマブ群で良好な傾向が認められていた。 著者のO'Brien氏はポスター発表の中で、全集団の有効性と安全性の結果は、Stage IB(≧4cm)からStage IIIAに対するペムブロリズマブの術後補助療法のベネフィットを支持するものだと結んでいる。

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統合失調症患者の第一度近親者の神経認知機能障害

 統合失調症患者だけでなく、その第一度近親者(FDR)も神経認知機能障害を有している可能性が示唆されているものの、これまで十分に評価されていなかった。インド・Topiwala National Medical CollegeのSachin P. Baliga氏らは、統合失調症患者のFDRにおける認知的洞察と客観的認知機能、精神病的体験歴、社会的機能との関連について評価を行った。その結果、統合失調症患者のFDRは、統合失調症患者と同様に認知的洞察が不良であることが確認された。Indian Journal of Psychological Medicine誌2022年3月号の報告。 3次医療教育病院の外来部門で横断的研究を実施した。対象は、統合失調症患者のFDR 100人。評価項目は、精神病的体験歴、Subjective Scale to Investigate Cognition in Schizophrenia(SSTICS)を用いた主観的な認知機能障害(SCC)、National Institute of Mental Health and Neurosciences評価バッテリーの神経認知機能テストを用いた客観的認知機能、SCARF Social Functioning Indexを用いた社会的機能とした。 主な結果は以下のとおり。・規範的データと比較し、最も多く認められた認知機能障害はエピソード記憶(FDRの最大72%)であり、次いで作業記憶、注意、実行機能であった。・対応する認知領域におけるSCCと神経心理学的検査スコアとの間に相関は認められず、認知的洞察が不良であることが示唆された。・FDRの15%に精神病的体験歴が認められた。・精神病的体験歴を有するFDRでは、有さないFDRと比較し、SCCが有意に高かった(U=0.366、p=0.009、r=0.26)。・回帰分析では、SCCが1単位増えるごとに社会的機能が0.178単位減少することが確認された(F[1,98]=5.198、p=0.025)。・SCCの重症度および進行は、FDRの精神疾患リスクのスクリーニングおよびモニタリングに役立つ可能性が示唆された。・現在影響を受けていないと考えられるFDRであっても、SCCは社会職業的機能に影響を及ぼす可能性がある。

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オミクロン株症候性感染の予防、既感染+3回接種が高い効果/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン(BNT162b2[ファイザー製]、mRNA-1273[モデルナ製])接種やオミクロン変異株(B.1.1.529)以外への既感染、およびその両者(ハイブリッド免疫)を有する場合、オミクロン変異株亜種のBA.1/BA.2感染による重症化の予防効果について、識別可能な違いはないことが示された。症候性感染に対する予防効果は、既感染+最近のブースター接種からなるハイブリッド免疫が最も強力だったという。Weill Cornell Medicine-QatarのHeba N. Altarawneh氏らが、カタール国内で行った診断陰性ケースコントロール試験の結果で、NEJM誌オンライン版2022年6月15日号で発表された。2021年12月~2022年2月、カタール国内で試験 研究グループは、2021年12月23日~2022年2月21日にカタール国内でマッチド診断陰性ケースコントロール試験を行い、COVID-19ワクチン(BNT162b2またはmRNA-1273)接種や、オミクロン変異株以前の変異株への感染による自然免疫、およびハイブリッド免疫(既感染+ワクチン接種)による、症候性オミクロン変異株感染および重症・重篤・致死的COVID-19に対する有効性を検証した。既感染+3回接種のハイブリッド免疫、有効性77.3% カタール国内でワクチン接種が開始された2020年12月23日から試験終了の2022年2月21日までに、BNT162b2ワクチンの2回以上接種者は130万6,862人、3回接種者は34万1,438人で、3回目接種日の中央値は2021年12月25日、2回目と3回目の接種間隔の中央値は251日(四分位範囲:233~274)だった。また、同mRNA-1273の2回接種者は89万3,671人、3回接種者は13万5,050人で、3回目接種日の中央値は2022年1月12日、2回目と3回目の接種間隔の中央値は236日(四分位範囲:213~260)だった。 既感染のみの、オミクロン変異株亜種BA.2系統への症候性感染に対する有効性は、46.1%(95%信頼区間[CI]:39.5~51.9)だった。一方で非感染・BNT162b2ワクチン2回接種の同有効性はほとんど認められなかった(-1.1%、95%CI:-7.1~4.6)。ただし、その多くが2回目接種後6ヵ月超を経過した被験者だった。 非感染・BNT162b2ワクチン3回接種の同有効性は52.2%(95%CI:48.1~55.9)だったが、既感染+BNT162b2ワクチン2回接種の有効性は55.1%(50.9~58.9)、既感染+BNT162b2ワクチン3回接種では77.3%(72.4~81.4)だった。 既感染のみ、BNT162b2ワクチンのみ、ハイブリッド免疫のいずれも、重症・重篤・致死的オミクロン変異株BA.2系統への感染に対して、70%超の高い予防効果を示した。同様の結果は、対オミクロン変異株BA.1系統への感染や、mRNA-1273ワクチンについても認められた。

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知っていますか? 医師法改正、OSCE、共用試験、公的化…【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第49回

第49回 知っていますか? 医師法改正、OSCE、共用試験、公的化…皆さんも自動車の運転免許証をお持ちと思います。自動車学校で、実技教習と学科を受講した頃を思い出してください。正式の運転免許証を取得する前に仮免というステップがあったはずです。仮免は、正式には「仮運転免許」と言います。仮免を取得すると、公道で実際に路上練習ができるようになります。仮免試験には、交通ルールや法律に関する知識の習得の有無を調べる「学科試験」と、路上に出るだけの運転技術を持っているかどうかを確認する「技能検定」があります。仮免を取得するには、学科試験と技能検定の両方に合格する必要があります。仮免があれば正式の運転免許を持たない者が、一般車両や歩行者が交通する公道上で運転できることがポイントです。医師免許証を取得するための過程は大きな変革期を迎えています。過去においては、座学中心の教育課程で医師が育成され、技術面は実際に医師になってから現場で習得し、医師としてあるべき態度についての教育はまったく行われていない時代もありました。現在は、知識だけでなく、技能や態度などについても教育し、身につけた者に医師免許証を与えるべきであるという考えになっています。そのため知識だけでなく、技能、態度などが十分であるかを評価するシステムとして導入されたのが共用試験です。医学部の学生が臨床実習を開始する前に、共用試験を受験し合格することが実習に進むための必須要件となっています。この共用試験はCBT(Computer Based Testing)とOSCE (Objective Structured Clinical Examination)の2つの試験から構成されています。CBTは、コンピュータを用いて多肢選択式試験を受験し、知識を評価するための試験です。OSCEは、「オスキー」と発音され直訳すれば「客観的臨床能力試験」ですが、技能と態度を評価するための実技試験です。試験官の見ている前で、実際に患者(模擬患者)を診察します。たとえば患者の脈拍を診察する場合では以下などがチェックのポイントになります。脈拍の測定椅子に座ってもらい、リラックスするように声をかける両腕の橈骨動脈に検者の3本の指(第2・3・4指尖)をあてる左右差の有無を確認する不整の有無を確認する3本の指を使って緊張度を診る左右差がなければ片方の腕で脈拍数を数える(15秒数えて4倍する)結果を患者に説明する上記の手順が正しく施行できるかだけでなく、最初に患者に自己紹介をして挨拶をしたかどうかなども評価の対象となります。胸部の聴診であれば、患者の羞恥心への配慮ができているかも評価対象です。この共用試験を自動車運転免許の仮免に例えれば、CBTが学科試験に、OSCEが技能検定に相当します。仮運転免許に相当するものとして、CBTとOSCEの両方に合格した学生には、「student doctor」の称号が付与されます。ここから最近のホットな話題を提供します。日本の医師法では、医業は医師免許証を持つ医師のみが可能でした。2021年5月28日、医師法が改正され、共用試験に合格した者は当該大学の臨床実習において指導医の指導監督の下に、知識および技能の修得のために医業が行えることになりました。実際は、医師については2023年4月から可能です。医学生の臨床実習は古典的には見学中心で、実際に患者に触れたり処置を手伝ったり、検査手技を行うことはありませんでした。世界的には、医学部学生の臨床実習は積極的に診療参加型で行う流れにもあります。実習とはいえ、「医学生が実診療に参加し医行為を行うことは医師法に抵触するのではないか」という疑問があったことも事実です。自動車の免許証でいえば、仮免といえども正式の運転免許証を持たない者が公道で運転すれば、無免許運転ではないかという疑問に明確な答えがないという状況であったのです。正式の医師免許証を持たない者が、制限下とはいえ医業を行うことができるという法改正は画期的なものです。「student doctor」は、医業を行うことを法的に認めるという意味で、虚から実へ変化した称号となったのです。難しく言えば、医学生の臨床実習の違法性が阻却されたのです。日本の医師法が、医学教育における臨床実習の世界的な流れに応じたとも解釈できます。さらには、医師法では2025年4月から、医師国家試験の受験資格が共用試験合格者であることが必須となります。この一連の流れを共用試験の「公的化」と称し、昨今の医学教育領域でのキーワードなので紹介させていただきました。医師免許と医業の関係について、僻地医療を題材に描いたヒューマンドラマが、映画『ディア・ドクター』(英題:Dear Doctor)です。2009年に公開された、西川美和監督の日本映画です。笑福亭鶴瓶師匠が演じる主人公が無医村で雇用され、唯一の医者として働き、患者と丁寧に向き合う姿勢が喜ばれ、村人から大きな信頼を得ます。しかし彼は突然に失踪します。この映画のキャッチコピーは「その嘘は、罪ですか」です。すでにネタバレ感のある文章で申し訳ありませんが、軽いコメディではなく深く考えさせられる良い映画です。このコラムの読者の方々には医師という資格を持つ人も多いのでしょう。小生も、医師として、教授としての地位や肩書き、年齢や立場などを背景として活動していることは事実です。そのフィルターを外した本来の自分が皆から向き合ってもらうに値する人間なのかどうか…。考えさせられます。一見の価値ありです。微笑み合う2人で描かれるラストシ-ンは秀逸です。

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