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高齢者の睡眠時間と認知症発症因子はどう関連するか?

 高齢者における生活習慣因子と皮質アミロイド負荷および脳グルコース代謝の関連を調べた研究において、総睡眠時間が軽度認知障害の高齢者の脳機能と関連することを示す結果が得られた。大分大学の木村 成志氏による報告で、JAMA Network Open誌2020年7月9日号に掲載された。 本研究は2015年に開始された前向きコホート研究であり、大分県臼杵市において、認知症既往のない65歳以上の成人を対象とした。データ収集は2015年8月~2017年12月、分析は2019年6月に行われた。被験者が装着したウエアラブルセンサーにより、歩数、会話時間、睡眠などのデータを収集し、PET検査によって皮質アミロイド負荷と脳グルコース代謝を調べることで、生活習慣因子とアルツハイマー型認知症発症因子との関連を調べた。 主な結果は以下のとおり。・基準に該当する855例(女性538例 [62.9%]、平均[SD]年齢73.8 [5.8]歳)のうち、軽度認知障害(MCI)と診断された118例(女性66例[55.9%]、平均[SD]年齢75.7[5.8]歳)に、carbon-11 labeled Pittsburgh compound B(PiB)-PET検査とfluorine-18 fluorodeoxyglucose(FDG)-PET検査を実施した。・変化点回帰分析において、総睡眠時間(TST)が325分(5.41時間)より長い場合、TSTと脳のグルコース代謝に逆相関がみられた(B=-0.0018、95%CI:-0.0031〜-0.0007)。・TSTとFDG取り込みも逆相関していた(β=-0.287、95%CI:-0.452〜-0.121、p<0.001)。・歩数、会話時間、睡眠効率とアミロイド取り込みの間には相関関係が認められなかった。 著者らは「本研究の最も興味深い結果は、TSTが脳のグルコース代謝と逆相関していたことだ」と述べ、長過ぎる睡眠時間が認知障害の危険因子になる可能性がある、と指摘した。また、さらに大規模研究を行うことによって、高齢者の認知機能障害を遅らせるためのエビデンスに基づく新しい介入の開発につながる可能性がある、としている。

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英国の新型コロナワクチン、第I/II相試験で有望な結果/Lancet

 英国で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白を発現する、チンパンジー・アデノウイルスベクター型ワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)の第I/II相臨床試験の結果が発表された。安全性プロファイルは許容可能で、ブースター投与後の抗体反応の増加も確認されたという。英国・オックスフォード大学のPedro M. Folegatti氏らによる検討で、著者は「今回の試験結果は液性免疫と細胞性免疫の両者の誘導を示すもので、この候補ワクチンの第III相試験における大規模評価の進行を支持するものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。被験者のうち10例に2回投与 研究グループは英国5ヵ所のセンターにて、検査でSARS-CoV-2感染歴がなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)様症状がみられない健康な18~55歳を対象に単盲検無作為化比較試験を行い、ChAdOx1 nCoV-19の安全性と有効性を検証した。 被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け、一方にはChAdOx1 nCoV-19(5×1010ウイルス粒子)を、もう一方には髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)を、それぞれ単回筋肉内投与した。 なお、5ヵ所のセンターのうち2ヵ所についてはプロトコールを修正し、予防的パラセタモールの事前投与を認めた。また、被験者の10例は、非無作為化非盲検下で割り付け、ChAdOx1 nCoV-19を初回投与28日後にブースター投与を行う2回投与群とした。 ベースラインと28日後の時点で、液性免疫応答について、標準総IgG酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)(三量体・SARS-CoV-2スパイク蛋白を測定)、マルチプレックスアッセイ、3つのSARS-CoV-2中和アッセイ(50%プラーク減少中和力価[PRNT50]、マイクロ中和力価[MNA50、MNA80、MNA90]、Marburg VN)、偽ウイルス中和アッセイを用いて評価した。また、細胞性免疫応答については、体外Enzyme-Linked ImmunoSpot(ELISpot)アッセイで測定した。 主要アウトカムは有効性と安全性の2つで、有効性はウイルス学的に確認された症候性COVID-19の症例数で評価し、安全性は重篤な有害イベントの発生数で評価した。安全性は、ワクチン投与後28日間にわたって評価した。中和抗体反応、2回投与後全員に 2020年4月23日~5月21日の間に、1,077例が登録され、ChAdOx1 nCoV-19群に543例、MenACWY群に534例が割り付けられた。このうち10例がブースター投与群に登録された。 ChAdOx1 nCoV-19に関連した重篤有害事象の発生はなかった。一方、疼痛、発熱感、悪寒、筋肉痛、頭痛、倦怠感といった局所・全身性反応は、ChAdOx1 nCoV-19群でより多く発生した(すべてのp<0.05)。また、それらの多くはパラセタモールの使用によって低下することが確認された。 ChAdOx1 nCoV-19群では、14日目にスパイク特異的T細胞反応がピークに達した(中央値:スポット形成細胞数856個/末梢血単核球100万個、IQR:493~1,802、43例)。抗スパイクIgG応答は28日目まで上昇し(中央値:157ELISA単位[EU]、96~317、127例)、その値はブースター投与後に上昇した(639EU、360~792、10例)。 SARS-CoV-2に対する中和抗体反応は、単回投与後にMNA80測定で32/35例(91%)、PRNT50測定では35例全員(100%)で検出された。ブースター投与後、全員に中和活性が認められた(42日目:MNA80測定で9/9例、56日目:Marburg VN測定で10/10例)。中和抗体反応は、ELISAで測定した抗体価と強い相関があることが確認された(Marburg VN測定でR2=0.67、p<0.001)。

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ACE阻害薬とARB、COVID-19死亡・感染リスクと関連せず/JAMA

 ACE阻害薬/ARBの使用と、高血圧症患者における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断率、またはCOVID-19と診断された患者における死亡率や重症化との間に、有意な関連は認められなかった。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のEmil L. Fosbol氏らが、デンマークの全国登録を用いた後ろ向きコホート研究の結果を報告した。ACE阻害薬/ARBは、新型コロナウイルスに対する感受性を高め、ウイルスの機能的受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の発現が亢進することによりCOVID-19の予後が悪化するという仮説があったが、今回の結果から著者は「COVID-19のパンデミック下で臨床的に示唆されているACE阻害薬/ARBの投与中止は、支持されない」とまとめている。JAMA誌2020年7月14日号掲載の報告。COVID-19患者の後ろ向きコホート研究と高血圧患者のコホート内症例対照研究で 研究グループは、COVID-19患者の予後を調査する目的で、2020年2月1日以降にCOVID-19と診断された患者(ICD-10の診断コードで確認)を特定し、診断日から2020年5月4日まで追跡した(後ろ向きコホート研究)。主要評価項目は死亡、副次評価項目は死亡または重症COVID-19の複合アウトカムで、ACE阻害薬/ARB使用群と非使用群を比較した。使用群は、診断日前6ヵ月間にACE阻害薬/ARBが1回以上処方された患者と定義した。 また、COVID-19の感受性を調査する目的で、デンマークのすべての高血圧症患者を2020年2月1日~5月4日まで追跡し、コホート内症例対照研究を行った。主要評価項目はCOVID-19の診断で、Cox回帰モデルによりCOVID-19との関連性のACE阻害薬/ARBと他の降圧薬で比較した。使用歴の有無で有意差なし 後ろ向きコホート研究には、COVID-19患者4,480例が組み込まれた(年齢中央値54.7歳、四分位範囲:40.9~72.0歳、男性47.9%)。1例目の診断日は2020年2月22日、最後の症例は2020年5月4日、ACE阻害薬/ARB使用群は895例(20.0%)、非使用群は3,585例(80.0%)であった。 30日死亡率は、ACE阻害薬/ARB群18.1%、非使用群7.3%であり、ACE阻害薬/ARB群で高かったものの有意な関連は認められなかった(年齢、性別、病歴で補正したハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.67~1.03)。死亡または重症COVID-19の30日発生率は、ACE阻害薬/ARB群31.9%、非使用群14.2%であった(補正後HR:1.04、95%CI:0.89~1.23)。 コホート内症例対照研究では、高血圧症の既往があるCOVID-19患者571例(年齢中央値73.9歳、男性54.3%)(COVID-19患者群)と、年齢と性別をマッチさせたCOVID-19を有していない高血圧症患者5,710例(対照群)を比較した。ACE阻害薬/ARBの使用率はCOVID-19患者群で86.5%、対照群は85.4%であった。 ACE阻害薬/ARBの使用は他の降圧薬使用と比較し、COVID-19罹患率との有意な関連は認められなかった(補正後HR:1.05、95%CI:0.80~1.36)。

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乳がん術後補助療法の非順守が血清検査で判明、再発リスクは2倍/JCO

 乳がん術後補助療法のタモキシフェン治療へのノンアドヒアランス(非順守)は、医師に認識されていないことが多い。今回、フランス・Institut Gustave RoussyのBarbara Pistilli氏らが、タモキシフェン治療の非順守率を血清検査で生化学的に調べたところ、自己申告では順守であっても順守していない患者が多いことがわかった。また、非順守患者では短期における遠隔無再発生存期間(DDFS)が順守患者より有意に短いことが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年6月22日号に掲載。 本研究の対象は、大規模前向き研究であるCancer Toxicities(CANTO)研究(NCT01993498)に登録された閉経前女性1,177例。生化学的非順守は処方1年後の血清タモキシフェン値が60ng/mL未満とした。同時に自己申告による非順守について半構造化面接で調査した。診断時の年齢、TNM病期分類、手術の種類、化学療法の有無、サイズに基づく傾向スコアを用いた逆確率加重モデルおよびCox比例ハザードモデルにより生存分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・血清タモキシフェン検査において、設定したアドヒアランスの閾値を下回った患者は16.0%(188例)で、患者申告による非順守率(12.3%)より高かった。・血清タモキシフェン検査で非順守であった188例のうち55%の患者は、自己申告では順守としていた。・血清タモキシフェン検査から中央値24.2ヵ月の追跡期間後、生化学的非順守であった患者のDDFSは有意に短く(調整ハザード比:2.31、95%CI:1.05〜5.06、p=0.036)、順守患者では95.4%の患者が3年間遠隔再発なく生存していたのに対し、非順守コホートでは89.5%だった。 著者らは、「薬剤モニタリングは、処方どおりにタモキシフェンを服用せず、転帰不良のリスクがある患者を迅速に特定するために有用かもしれない」と考察している。

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閉経後乳がん患者、術後AI+スタチンが再発リスク低下と関連

 スタチンの使用は、術後アロマターゼ阻害薬(AI)治療を受けている閉経後乳がん患者において、再発リスクの低下と関連していた。デンマーク・オーフス大学病院のSixten Harborg氏らが、集団ベースのコホート研究結果を、Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2020年6月22日号に報告した。 研究者らは、2007~2017年にI~III期のホルモン受容体陽性乳がんと診断された閉経後のすべての患者を登録。術後AI治療が実施された。デンマーク国立処方レジストリから、スタチンの処方(診断後1年以上の処方)を確認し、生物学的潜伏期間を考慮し6ヵ月後からの時変曝露としてモデル化した。 追跡調査は診断7ヵ月後に始まり、再発、死亡、移住、5年経過のいずれかの最初のイベント、または2018年9月25日まで継続された。5年後の再発発生率を推定し、Cox回帰モデルを使用して、調整ハザード比(HR)を算出し、スタチン曝露群と非曝露群を比較した。 主な結果は以下のとおり。・14,773例の適格患者が登録された。・5年間の追跡期間中に、スタチン曝露群では3,163人年当たり32件の再発があり、非曝露群では45,655人年あたり612件の再発があった(1,000人年当たりの発生率:10.12[95%CI:6.92~14.28] vs.13.40[95%CI:12.36~14.51])。・多変量モデルでは、スタチンへの曝露が5年間の乳がん再発率の低下と関連していた(調整HR:0.72[95%CI:0.50~1.04])。・脂溶性スタチンへの曝露のみを考慮した場合にも、結果は同様であった(調整HR:0.70 [95%CI:0.48~1.02])。 研究者らは、交絡因子としてBMIや術後AI治療のアドヒアランスの影響などを考慮できていない点を本研究の限界として挙げつつも、AI治療を受けた早期乳がん患者が、術後レジメンに脂溶性スタチンを追加することでさらにベネフィットを得る可能性があると結んでいる。

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高リスクHER2+乳がんの術後補助療法、T-DM1+ペルツズマブの効果(KAITLIN)/ASCO2020

 高リスクのHER2陽性早期乳がんの術後補助療法で、アントラサイクリン投与後、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)+ペルツズマブは、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンに比べて、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を延長しなかったことが、第III相無作為化非盲検試験であるKAITLIN試験で示された。ドイツ・ミュンヘン大学のNadia Harbeck氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で発表した。 HER2陽性早期乳がんの術後補助療法における標準治療である化学療法と1年間のHER2標的治療には、とくに高リスク患者における再発や化学療法関連有害事象などの課題がある。本試験では、タキサンとトラスツズマブをT-DM1に置き換えた場合の有効性と安全性を検討した。・対象:HER2陽性の早期乳がんで、リンパ節転移陽性またはリンパ節転移陰性かつホルモン感受性(HR)陰性かつ腫瘍径2cm超の患者・試験群:手術後9週間以内にアントラサイクリンを3~4サイクル投与後、T-DM1(3.6 mg/kg)+ペルツズマブ(420mg、初回840mg)を3週ごとに18サイクル(1年間)投与(AC-KP群)928例・対照群: 手術後9週間以内にアントラサイクリンを3~4サイクル投与後、タキサンを3~4サイクル投与と同時にトラスツズマブ(6mg/kg、初回8mg/kg)+ペルツズマブ(420mg、初回840mg)を3週ごとに18サイクル(1年)投与(AC-THP群)918例・評価項目:[主要評価項目]リンパ節転移陽性患者、ITT集団でのIDFS[副次評価項目]リンパ節転移陽性患者、ITT集団での全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・データカットオフは2019年11月27日で、観察期間中央値はAC-THP群で57.1ヵ月、AC-THP群で57.0ヵ月であった。両群とも白人が約60%、アジア人が約30%であった。・主要評価項目であるリンパ節転移陽性患者におけるIDFSは、ハザード比(HR)が0.97(95%CI:0.71~1.32、p=0.8270)で有意差が認められなかった。3年IDFSはAC-KP群92.8%、AC-THP群94.1%であった。・ITT集団におけるIDFSにおいても同様でHRが0.98(95%CI:0.72~1.32)で、3年IDFSはAC-KP群93.1%、AC-THP群94.2%であった。・Grade 3以上の有害事象(AE)は、AC-KP群(51.8%)、AC-THP群(55.4%)と差はなかった。AEのためにT-DM1またはトラスツズマブを中止した割合は、AC-KP群(26.8%)がAC-THP群(4.0%)より高かった。

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HFrEF患者の死亡率はこの20年で半分になった!(解説:絹川弘一郎氏)-1242

 HFrEFの治療薬は2000年くらいにはACE阻害薬とβ遮断薬が基礎治療薬で、数年のうちにARBとMRAが出そろった。エナラプリルとカルベジロールが第1世代のHFrEF治療薬であろうか。ARBはやや遅れてスタートしたので1.5世代薬くらいの印象である。ただACE阻害薬に優るエビデンスはなく多くは咳が出たときの代替薬なので、大きなインパクトではない。MRAについては古くからスピロノラクトンがあるもののunderuseが続き、2011年により忍容性の高いエプレレノンが登場したが、現在の実臨床でもファーストラインで投与される率はまだ低い。しかし、ARNIが2014年にPARADIGM-HF試験1)でHFrEFに対しACE阻害薬を上回る効果を示し、2019年にはSGLT2阻害薬が非糖尿病HFrEFでも有効と証明してみせた。対象は限定的であるが2010年にイバブラジンも予後改善効果を示した。このように2010年代はHFrEF治療の第2世代薬(ARNI、SGLT2阻害薬、イバブラジン)が登場したまさにパラダイムシフトのdecadeであった。それを総括する論文がこのLancet誌である。 この論文はEMPHASIS-HF2)のプラセボ群をコントロールにおいて、そこからEMPHASIS-HFとPARADIGM-HFとDAPA-HF3)の実薬群におけるイベント抑制の効果を、ある数学モデルを使用して計算推定したというものである。EMPHASIS-HFのプラセボ群は90%近くACE阻害薬とβ遮断薬で基礎治療されており、第1世代治療の代表例としてふさわしい。また3つの試験はそれぞれエプレレノンを追加、エナラプリルをsacubitril-バルサルタンに切り替え、ダパグリフロジンを追加、であるため、3つを統合解析するとβ遮断薬にMRAとSGLT2阻害薬を加え、かつACE阻害薬またはARBをARNIに切り替えた、4剤併用の効果が見られるというものである。その解析の詳細はまったく理解していないが、実は次の表を見てもらいたい。3つの試験の各エンドポイントに対する実薬ハザード比である。心血管死心血管死+心不全入院心不全入院全死亡EMPHASIS-HF0.760.630.580.76PARADIGM-HF0.820.740.700.83DAPA-HF0.800.800.790.843つを掛けたもの0.500.370.320.53 表に示したように、3つの試験のハザード比を掛けた数字はこの解析で出てきたものと寸分違わない。この20年で得られた予後改善効果がこの数値である。だいたい心不全入院が3分の1になって、死亡率が半分になっているのは大変喜ばしいことで、これにイバブラジンとvericiguatも加わるし、CRTやMitraClipもカウントされていない。全部合わせたら死亡率は1990年代の3分の1くらいになっているかもしれない。ただ、非常に難しい計算をした結果が、ただ掛け算したのと一緒とはこれいかに?

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漫然とした多剤併用に一石!(解説:桑島巖氏)-1239

 高齢者におけるpolypharmacy(多剤併用)が社会問題化している。確かに高齢者では複数の疾患が多くなり薬剤数が増えることはある程度やむを得ないかもしれない。しかし効果のない薬を漫然と処方することはぜひ避けなければならない。 英国から発表されたOPTIMISE研究は臨床に即した重要な論文である。 収縮期血圧が150mmHg未満で2種類以上の降圧薬を服用している80歳以上の症例(平均84.8歳)を、1種類降圧薬を減らす群(介入群)282例と従来どおりの治療群(対照群)に非盲検化にランダム化して12週後の血圧に差がないことを確認する非劣性試験である。 その結果、12週後の収縮期血圧が150mmHg未満を維持していた症例は、介入群86.4%、対照群87.7%で両群に有意差はなかった。 つまり1剤降圧薬を減らしても血圧は上がってこなかったということであり、無駄な降圧薬が処方されていたという訳である。 この結果はしばしば経験するところであり、当に我が意を得たりというところである 白衣高血圧は降圧薬の影響を受けにくいため、高齢者の研究では白衣高血圧の除外は必須である。その対策として、この研究ではBpTRUという自動血圧測定器を用いている。この機器は最初の1回だけ医療スタッフがボタンを押して血圧を測定するが、その後スタッフがいなくなっても1分おきに最低でも5分間自動的に血圧測定を行うことで“白衣効果”を除外する工夫をしている。 もう一つの可能性としては、両群とも降圧薬として、ACE阻害薬またはARBが84%に処方され、Ca拮抗薬も70%近く処方されているところから、ACE阻害薬/ARBとCa拮抗薬の併用が多かったことがわかる。 高齢者では、低レニンがほとんどでありACE阻害薬/ARBの降圧効果はCa拮抗薬に比べるとはるかに弱い。最強のARBと販売企業が宣伝するアジルサルタン(商品名アジルバ)とCa拮抗薬を1対1で比較したACS 1研究(Hypertension2015:65:729)の結果をみると一目瞭然である。 Ca拮抗薬とARBの併用はわが国でも非常に多いが、高齢者でもARBを除いてみても血圧は上昇してこない場合がほとんどであり、この研究はその臨床経験を裏付けるものである。 ただしこの研究に参加した高齢者は、英国のGP(総合医)が薬を減らしても問題がないと考えた症例のみが選ばれており、当然心不全、心筋梗塞、脳卒中既往などのリスクの高い症例は含まれていないことには注意が必要である。

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ロケルマ:45年ぶりに誕生した高カリウム血症改善薬

2020年5月20日、高カリウム血症改善薬ロケルマ懸濁用散分包5gおよび10g(一般名:ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)(以下、ロケルマ)がアストラゼネカ株式会社より発売された。ロケルマは、同疾患改善薬としては45年ぶりの新有効成分含有薬となる。アンメットニーズが高い高カリウム血症高カリウム血症は、CKD例や心不全例に高頻度に合併し、日本の300床超の病院にて治療中の患者では、全例、CKD例、心不全例、RA系抑制薬服用例のうち、6.8、22.8、13.4、14.2%に合併していると報告されている1)。そして、血清カリウムが異常高値になると致死性不整脈や心停止を引き起こしうる臨床上重大な疾患である。しかし、現在の主な治療法(食事制限、原因薬剤の減量・休止、利尿薬、陽イオン交換樹脂)では、効果発現までの時間や忍容性の問題から期待した効果が得られないこともある。ロケルマは速やかな血清カリウム値の低下を実現ロケルマは、非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤である。消化管内でカリウムイオンを選択的に捕捉し、初回投与開始後1時間から血清カリウム値の低下を示し、水分による膨潤をしないという特徴を有している。透析例および非透析例への試験結果から効果発現、持続性、安全性に期待ロケルマは、2つの国内試験(第II/III相試験、長期投与試験)および2つの国際共同試験(HARMONIZE Global試験、DIALIZE試験)の結果に基づき承認された。HARMONIZE Global試験は、高カリウム血症患者267例(うち日本人68例)を対象に、ロケルマ10gを48時間投与し、正常カリウム値に達した患者に同剤10g、同剤5gまたはプラセボのいずれかを1日1回28日間投与した試験である。補正期において、投与24および48時間後に正常カリウム値に達した患者の割合は、それぞれ63.3%および89.1%であった。主要評価項目である22日間の血清カリウム値の最小二乗幾何平均は、同剤10g群、5g群およびプラセボ群それぞれ4.4、4.8、5.3mmol/Lであり、プラセボ群と比較していずれも有意に低値となった(いずれもp<0.001)。DIALIZE試験は、血液透析患者196例(うち日本人56例)を対象に、最大透析間隔(血液透析日以外の2日間)後の血液透析前のカリウム値を4.0~5.0mmol/Lに維持するよう、ロケルマを4週間、適宜増減投与し、その後用量を変更せずさらに4週間投与した。ロケルマ群はプラセボ群と比較して奏効例(後半4週間における最大透析間隔後の4回中3回で透析前血清カリウム値が4.0~5.0mmol/Lで、レスキュー治療を受けなかった患者の割合)が有意に高かった(41.2% vs1.0%、p<0.001)。副作用としては、両試験ともに浮腫、便秘、低カリウム血症が認められている。高カリウム血症治療の指針策定を期待させる新薬高カリウム血症に45年ぶりに新有効成分含有薬が登場し、CKD例や心不全例の高カリウム血症の是正による不整脈や突然死の抑制はもちろん、ARB/ACEIの減量や厳しい食事制限の負担軽減が可能となるケースも考えられ、今後、高カリウム血症治療が変貌することは想像に難くない。一方、45年間新有効成分含有薬が出なかったということは、それだけ治療に大きな進歩がなかったことの裏返しでもある。はたして、高カリウム血症は治療開始カリウム値、目標値の明確な指針が示されておらず、医師個人個人の判断によって治療が行われている。学会から新たに高カリウム血症の治療指針が示されるかもしれない。そのような期待を抱かせる新薬が誕生した。1)Kashihara N, et al. Kidney Int Rep. 2019;4:1248-1260.

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EGFR陽性肺がん1次治療のオシメルチニブ・ゲフィチニブ併用は有望な可能性/ASCO2020

 EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対するオシメルチニブとゲフィチニブの併用療法は忍容性があり、奏効率も高く1次治療として有望な可能性があるという報告が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で米国・Dana-Farber Cancer InstituteのJulia K. Rotow氏から発表された。本試験は、用量漸増相と拡大相からなる第I/II相試験である。・対象:未治療のEGFR変異(L858Rまたはdel19)を有するStage IVのNSCLC症例(T790M変異症例とコントロールのできない脳転移症例は不適格)・介入:用量漸増相では、オシメルチニブ40mgまたは80mg/日とゲフィチニブ250mg/日を連日投与。拡大相では、オシメルチニブ80mg/日とゲフィチニブ250mg/日を連日投与・評価項目:[主要評価項目]忍容性(28日間を1サイクルとして6サイクル以上実施できること)[副次的評価項目]Grade 3~5の治療関連有害事象、奏効率、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、血漿中EGFR変異(cfDNAによる)の消失、病勢進行時における遺伝子変異 主な結果は以下の通り。・2017年3月~2019年7月までに36例が登録され、27例が主要評価項目の解析対象となった。また、cfDNAの解析対象は26例であった。・27例の患者背景は、年齢中央値60歳、白色人種81%、アジア人種15%、脳転移あり59%であった。・主要評価項目である6サイクル以上の併用投与が実施できた症例は22例/81.5% (95%CI:63.3~91.8)であった。有害事象のため投与が中止された症例はゲフィチニブで8例/29.6%、オシメルチニブで1例/3.7%であった。・Grade 3以上の有害事象は、下痢11.1%、ALT上昇7.4%、皮疹3.7%、LVEF値低下3.7%などであった。Grade 4以上の有害事象報告はなかった。・奏効率は88.9%で、CR例はなかった。病勢安定(SD)11.1%を含む病勢コントロール率は100%であった。・血漿中(cfDNA)のEGFR変異の変化をデジタルPCRで解析したところ、ベースラインで65%のEGFR変異が検出されたが、治療開始2週間後時点では12%の検出と低下した。・観察期間中央値15.3ヵ月時点でのPFS中央値(十分な追跡ではない推定P値)は22.5ヵ月(95%CI:16.5~NE)であった。 演者は最後に「今後出てくるであろうPFSとOSのデータが、1次治療としてのEGFR-TKIの併用投与の意義を明らかにするだろう」と述べている。

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ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬併用で、HFrEF患者の生存延長/Lancet

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者において、疾患修飾薬による早期からの包括的な薬物療法で得られるであろう総合的な治療効果は非常に大きく、新たな標準治療として、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)および選択的ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬の併用が支持されることが示された。米国・ハーバード大学のMuthiah Vaduganathan氏らが、慢性HFrEF患者を対象とした各クラスの薬剤の無作為化比較試験3件を比較した解析結果を報告した。3クラス(MRA、ARNI、SGLT2阻害薬)の薬剤は、ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬を併用する従来療法よりも、HFrEF患者の死亡リスクを低下させることが知られている。これまでの研究では、それぞれのクラスは異なる基礎療法と併用して検証されており、組み合わせにより予測される治療効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2020年5月21日号掲載の報告。MRA、ARNI、SGLT2阻害薬に関する3つの臨床試験をクロス解析 研究グループは、包括的疾患修飾薬物療法と従来療法の無イベント生存期間と全生存期間の増分を推定する目的で、従来療法へのMRA追加を検討したEMPHASIS-HF試験(2,737例)、ARNIと従来療法を比較したPARADIGM-HF試験(8,399例)および従来療法へのSGLT2阻害薬追加を検討したDAPA-HF試験(4,744例)の3つの臨床試験のクロス解析を行った。 慢性HFrEF患者における包括的疾患修飾薬物療法(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)および従来療法(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)の有効性を推算し、間接的に比較した。 主要評価項目は、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイントとし、それぞれのエンドポイントと全死因死亡率も同様に評価した。これらの相対的な治療の影響は長期にわたり一貫していると仮定し、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)に対する、包括的疾患修飾薬物療法による無イベント生存期間および全生存期間の長期的な増分を推算した。ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は全生存期間も延長 包括的疾患修飾薬物療法vs.従来療法の主要評価項目に関するハザード比(HR)は、0.38(95%信頼区間[CI]:0.30~0.47)であった。心血管死(HR:0.50、95%CI:0.37~0.67)、心不全による初回入院(0.32、0.24~0.43)および全死因死亡(0.53、0.40~0.70)も包括的疾患修飾薬物療法が好ましい結果であった。 ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は従来療法と比較し、心血管死または心不全による初回入院までの無イベント期間を推定2.7年(80歳時)~8.3年(55歳時)延長し、全生存期間は推定1.4年(80歳時)~6.3年(55歳時)延長した。

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COVID-19の入院リスク、RAAS阻害薬 vs.他の降圧薬/Lancet

 スペイン・University Hospital Principe de AsturiasのFrancisco J de Abajo氏らは、マドリード市内の7つの病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の調査「MED-ACE2-COVID19研究」を行い、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬は他の降圧薬に比べ、致死的な患者や集中治療室(ICU)入室を含む入院を要する患者を増加させていないことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月14日号に掲載された。RAAS阻害薬が、COVID-19を重症化する可能性が懸念されているが、疫学的なエビデンスは示されていなかった。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、そのスパイクタンパク質の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞内に侵入し、複製する。RAAS阻害薬はACE2の発現を増加させるとする動物実験の報告があり、COVID-19の重症化を招く可能性が示唆されている。一方で、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)は、アンジオテンシンIIによる肺損傷を抑制する可能性があるため、予防手段または治療薬としての使用を提唱する研究者もいる。また、RAAS阻害薬は、高血圧や心不全、糖尿病の腎合併症などに広く使用されており、中止すると有害な影響をもたらす可能性があるため、学会や医薬品規制当局は、確実なエビデンスが得られるまでは中止しないよう勧告している。他の降圧薬と入院リスクを比較する症例集団研究 研究グループは、COVID-19患者において、RAAS阻害薬と他の降圧薬による入院リスクを比較する目的で、薬剤疫学的な症例集団研究を実施した(スペイン・Instituto de Salud Carlos IIIの助成による)。 2020年3月1日~24日の期間に、マドリード市内の7つの病院から、PCR検査でCOVID-19と確定診断され、入院を要すると判定された18歳以上の患者を連続的に抽出し、症例群とした。対照群として、スペインの医療データベースであるBase de datos para la Investigacion Farmacoepidemiologica en Atencion Primaria(BIFAP)から、症例群と年齢、性別、地域(マドリード市)、インデックス入院の月日をマッチさせて、1例につき10例の患者を無作為に抽出した。 RAAS阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬が含まれた(単剤、他剤との併用)。他の降圧薬は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であった(単剤、RAAS阻害薬以外の他剤との併用)。 症例群と対照群の電子カルテから、インデックス入院日の前月までの併存疾患と処方薬に関する情報を収集した。主要アウトカムは、COVID-19患者の入院とした。重症度にかかわらず、入院リスクに影響はない 症例群1,139例と、マッチさせた対照群1万1,390例のデータを収集した。年齢(両群とも、平均年齢69.1[SD 15.4]歳)と性別(両群とも、女性39.0%)はマッチしていたが、心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、心不全、心房細動、血栓塞栓性疾患)の既往(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.62~2.41)と、心血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全)(1.46、1.23~1.73)を有する患者の割合が、対照群に比べ症例群で有意に高かった。 RAAS阻害薬の使用者では、他の降圧薬の使用者と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差は認められなかった(補正後OR:0.94、95%CI:0.77~1.15)。また、ACE阻害薬(0.80、0.64~1.00)およびARB(1.10、0.88~1.37)のいずれでも、他の降圧薬に比べ、入院を要するCOVID-19の有意な増加はみられなかった。これらの薬剤は、単剤および他剤との併用でも、入院リスクに有意な影響はなかった。 性別、年齢別(<70歳vs.≧70歳)、高血圧の有無、心血管疾患の既往、心血管リスク因子に関しては、他の降圧薬と比較して、RAAS阻害薬の使用による入院を要するCOVID-19のリスクに有意な交互作用は確認されなかった。一方、RAAS阻害薬を使用している糖尿病患者では、入院を要するCOVID-19患者が少なかった(補正後OR:0.53、95%CI:0.34~0.80、交互作用検定のp=0.004)。 COVID-19の重症度を最重症(死亡、ICU入室)と、低重症(最重症以外のすべての入院患者)に分けた。いずれの重症度でも、RAAS阻害薬、ACE阻害薬、ARBは、他の降圧薬と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差はなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「RAAS阻害薬は安全であり、COVID-19の重症化を予防する目的で投与を中止すべきではない」と指摘している。

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循環器領域のプレシジョン・メディシンを目指して(解説:香坂俊氏)-1232

Precision Medicine(プレシジョン・メディシン)という言葉がある。個別化医療と訳されることがあるが、こちらは実はPersonalized Medicineのことであり、日本語では「精密医療」と訳されることが多い。Precision Medicineという言葉が一躍脚光を浴びるようになったのは、バラク・オバマが大統領であった時期である(遠い昔のように思われるが、2015年のことだ)。彼がその年の一般教書演説で「今後米国はPrecision Medicineの徹底を目指す」と宣言し、そしてそのために巨額の研究費を支出することが表明され、欧米の学会で取り上げられることが多くなった。この一般教書演説のときのPrecision Medicineのイメージとしては「遺伝子の情報に応じたオーダーメイド治療の実現」という側面が強い。古典的なEBMが大規模RCTの結果を「極力すべての人たちにあてはめる」ということをゴールにするとしていたとすると、Precision Medicineはさらにその先、遺伝子のタイプに応じて医療を使い分けるということをゴールにしていた(完全な個別化ではなく、遺伝子の情報によって集団をさらに小分けにするという感じ)。この医療のPrecision化はがん領域において進捗が著しく、がん患者のがん遺伝子を調べ、選択的な治療薬の投与を行うという手法で、乳がん、肺がんなどの領域で実績を上げている。一方で循環器領域では、正直いまひとつパッとしていなかったが、今回取り上げる「Genotype-Guided Strategy for P2Y12 Inhibitors(POPular Genetics試験)」が初めて抗血小板領域におけるPrecision化に道筋をつけた。この試験では、遺伝子型に応じて抗血小板薬を選択するプレシジョン群と従来通りの治療を行う群にSTEMI症例(Primary PCI実施例)をランダム化した。プレシジョン群ではCYP2C19機能喪失型アレル保有者であればプラスグレルかチカグレロル(強めの抗血小板薬)を投与し、非保有者には従来通りのクロピドグレル(普通の抗血小板薬)を投与したが、その結果として2群で塞栓系のイベントの発症率には変化がなく、プレシジョン群で出血イベントの発症率が低かった(12ヵ月のハザード比:0.78、95%CI:0.61~0.98、p=0.04)。このことは日本人のACS患者さんにとっても意義が深い。なぜならば、日本人ではとくにCYP2C19機能喪失型アレル保有者は多いとされているからである(約6人に1人)。それならばすべてのACS患者さんにプラスグレルなどの「強めの抗血小板薬」を投与すればよいかというと、東アジア人においてはこうした薬剤で出血する割合も高いとされており、そういうわけにもいかない(日本では減量されたプラスグレルが市販されているが、それでも最近の解析結果をみてみると出血する割合はクロピドグレルよりも高くなるようである:Shoji S, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e202004. あるいは Akita K, et al. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother.2019 Oct 8. [Epub ahead of print])。このように、徐々にではあるが、循環器領域においてもプレシジョン化が進みつつある。抗血小板薬や抗凝固薬の使用に関してとくに有望であるとされているが、ほかに希望が持たれている分野としてはスタチンの使用(遺伝子型に応じて副作用の発症頻度が異なる)、あるいは心不全に対するACEやARBの使用(性差が存在し、それも遺伝子型によるものではないかと推測されている)などが挙げられ、引き続き注目していきたい分野である。

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降圧薬の処方内容はCOVID-19予後に影響するか?(解説:冨山博史氏)-1231

はじめに COVID-19発生から半年近くが過ぎようとしている。しかし、まだまだ収束そして終息にも時間を要する。COVID-19では肺炎に加え、脳心血管疾患、血栓症など生命に影響する重大な合併症を発生する。そうした合併症は、高齢者や脳心血管疾患・悪性疾患など基礎疾患を有する症例で多い。ゆえに、そうした症例における合併症発生予防に細心の注意を払う必要がある。中国では高血圧症例でCOVID-19症例の予後が不良であることが報告された1)。SARS-CoV-2ウイルスの細胞内侵入にはangiotensin converting enzyme 2(ACE2)が重要な役割を果たす。このため、renin-angiotensin系に影響する降圧薬ACE inhibitor(ACEi)やangiotensin II receptor blocker(ARB)がACE2発現に影響し、ウイルス侵入を増悪させることが懸念されていた。しかし、懸念はあくまで仮説であり、3月13日発表の欧州高血圧学会Position Statement of the ESC Council on Hypertension on ACE-Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockersでは、同危険性の十分な根拠がないため両降圧薬のむやみな中止・変更は控えるように推奨された。今回の知見 2019年12月から2020年3月の期間で、欧州、北米、アジアで計169の病院にCOVID-19で入院した8,910例を対象とした多施設共同登録研究が実施された2)。#COVID-19の診断:咽頭ぬぐい液のPCR検査で感染を診断#解析方法:入院後転帰の院内死亡例と生存例で降圧薬処方内容を含む臨床背景を比較#結果とコメント:生存例(8,395例、平均年齢49歳)、院内死亡例(515例、平均年齢56歳)であり、院内死亡例は高齢で男性が有意に多かった。また、これまでの報告と同様、院内死亡例で冠動脈疾患、心不全、不整脈(心疾患の院内死亡のODDS比は約2倍)、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患(院内死亡のODDS比は約3倍)、現在喫煙の合併比率が有意に高かった(脳卒中に関しては評価されていない)。本検討では、高血圧合併頻度は生存例(2,216/8,395例:26.4%)と院内死亡例(130/515例:25.2%)で有意な差を示さなかった。これは上述の中国の報告1)と異なる結果である。そしてACEiおよびARBの処方率は、生存例{ACEi(754/8,395例:9%)、ARB(518/8,395例:6.2%)}、院内死亡例{ACEi(16/515例:3.1%)、ARB(38/515例:7.4%)}であり、ARB処方頻度は両群に差はなく、ACEiはむしろ生存例での処方頻度が高かった。 本試験は、短期間の登録研究であり、すでにCOVID-19の症例である。ゆえに、COVID-19がすでに診断されている症例では、感染に関連する病態増悪を懸念してACEi・ARBの他の降圧薬への変更は必要ないことが支持される。同様の結果はイタリアからも報告されている3)。今回の研究では、ACEiおよびARBのCOVID-19の易感染性については検証されていない。しかし、同イタリアの研究では両降圧薬が易感染性にも影響しない可能性を報告している3)。 中国と欧米では蔓延するSARS-CoV-2ウイルスの亜型が異なる。この差異が高血圧合併の感染性への影響に関連した可能性は否定できない。ゆえに、今後、武漢株での感染例においても高血圧合併の有無および降圧薬の予後への影響について検証する必要がある。追記:ACE2について SARS-CoV-2ウイルスは細胞表面の受容体ACE2を介して細胞内に取り込まれる。ACE2は、膜内存在性蛋白で気管支、肺、心臓、腎臓、消化器等の多くの組織に発現している。ACE2はACE(angiotensin Iからangiotensin IIへ変換する酵素)と構造が類似しているが、別の作用を有し、angiotensin IIからangiotensin-(1-7)への変換を行う。このangiotensin 1-7は降圧や心血管保護作用を有すると考えられている。

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第20回 シンプルに考えよう! 高K血症のマネジメント【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)Hi-Phy-Vi(History,Physical,Vital signs)をcheck!2)心電図を速やかにcheck!3)カルシウム製剤、GI療法で速やかに介入を!【症例】75歳男性。来院当日の起床時から嘔気を自覚した。自宅で様子をみていたが症状は改善せず、食事を摂ることもできないため、救急外来を独歩受診した。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧98/75mmHg脈拍52回/分(整)呼吸22回/分SpO296%(RA)体温36.3℃瞳孔2.5/2.5mm +/+既往歴高血圧、慢性腎臓病高K血症の定義と重症度Kの値が5.5mEq/L以上の場合に高K血症と定義されます。重症度分類は表1の通りです。6.5mEq/L以上を中等症、7.5mEq/Lを重症とするものもありますが、迅速に対応する必要があるため、まずは表1のようにおさえておきましょう。駆血や溶血の影響で高くなることもありますが、再検しなければ真実はわかりませんので、K値が6mEq/Lを超えたらまずいと考え対応するとよいでしょう1,2,3)。表1 高K血症の重症度分類画像を拡大する高K血症の症状:いつ疑うのか?1)症状高K血症と聞いて、具体的な症状を思い浮かべることができるでしょうか? 筋力低下や麻痺、動悸などは典型的な症状といわれますが、救急搬送症例など比較的重症な症例では出会うものの、walk-in症例やクリニックなどでは、倦怠感や脱力、食思不振、感覚異常など、何ともいえない、不定愁訴的な症状を訴え、「え? この症状で?」という機会も多いものです4)。2)バイタルサイン高K血症に絶対的なバイタルサインの変化はありませんが、重篤なサインとして徐脈が挙げられます。徐脈である場合には鑑別に高K血症を挙げる癖をもっておくとよいでしょう。また、血圧が低めの場合にも脈拍に注目し、血圧が低いにもかかわらず脈まで遅い場合には積極的に疑うと良いでしょう。“ショック+徐脈”として表2は頭に入れ、そのようなバイタルサインであれば、特に(1)~(3)を意識して、まずは心電図を確認することが超重要です5)。表2 SHOCK+徐脈画像を拡大する3)基礎疾患腎機能が正常であれば、通常は余分なKは尿中に排泄されるため高K血症となることはまずありません。腎機能が悪い、もしくは悪い可能性のある患者さんをいかに見出すかがポイントとなり、そのような患者さんでは、常に高K血症の可能性を意識して対応することがポイントとなります。初診の患者さんに対して、既往症や治療中の病気を確認しても、なかなか「慢性腎臓病で治療中です」とは返答はありません。「腎臓が悪いと言われたことはありませんか?」と確認するとよいでしょう。4)内服薬ACE、ARB、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)など高K血症の原因となり得る薬剤を確認しましょう。前述の通り、原則として腎機能が正常であれば、Kを多く含むものを摂取しても高K血症にはなりませんが、腎機能障害さらには薬剤などの影響で、本来の機能に変化が認められる場合にはK値は上昇し得ます。表3の薬剤を内服していないか確認しましょう6,7)。表3 高K血症の原因となりうる薬剤画像を拡大する高K血症のアプローチ5)具体的には、上記のことを意識しながら以下のSTEPで対応します。STEP1バイタルサインをcheck!STEP2心電図をcheck!STEP3代謝性アシドーシスの有無をcheck!STEP4腎機能障害の有無をcheck!(急性or慢性、腎前性or腎性or腎後性)STEP5内服薬をcheckSTEP6偽性高K血症の可能性を忘れずに!詳細は割愛しますが、重要なことはまず疑うこと、そして重症度を見積もるためにも心電図は必ず早期に確認することです。再検結果がすぐに判明する状態であれば溶血の可能性も考慮し対応すればよいですが、再検が困難ないし時間がかかる場合には、患者背景と心電図結果から治療を介入しマネジメントするしかありません。治療高K血症に対する治療はいくつかありますが、どこでも施行可能で、まずやるべき治療は(1)カルシウム製剤(グルコン酸カルシウム)の投与、(2)グルコース・インスリン療法(GI療法)です。この2つは自身で必ずできるようになっておかなければなりません。(1)グルコン酸カルシウムKの数値は下げませんが、高K血症によって引き起こされかねない不整脈など心臓への影響に対して用います。緩徐に静注し、その後の心電図の変化をフォローします。(2)GI療法Kの大半は細胞内に存在します。ブドウ糖とセットでKは細胞内へ移行するため、GI療法を施行し、Kを一時的に細胞内へ押し込み時間を稼ぐのです。クリニックや救急外来においてある50%ブドウ糖は主に20mLのシリンジタイプだと思いますので、私は以下の通りに使用することが多いです。低血糖は避ける必要があるため、血糖値のフォローも忘れないようにしましょう。投与方法:50%ブドウ糖40mL+速効型インスリン8U(リスクが高い場合には4U)※リスクが高い場合:腎機能障害なし、糖尿病の既往なし、治療前の血糖値≦150mg/dL高K血症は早期に治療介入する必要がありますが、そのためには早期に疑う必要があります。また、数値とともに心電図変化が非常に大切です。症状やバイタルサイン、さらには基礎疾患や内服薬から疑い、速やかに初療を行えるようになりましょう。グルコン酸カルシウム、GI療法施行後は、患者背景(腎機能や内服薬)や利尿の有無によって、対応は異なります。以前から腎機能障害を指摘されている場合で尿が出ない、または代謝性アシドーシスを認める場合には、透析が必要になるでしょう。腎後性腎障害の影響であれば、尿道バルーンなどで閉塞を解除すれば、その後速やかに改善することが多いでしょう。初療を行いつつ、原因検索を行い対応する訳ですが、考えながら動かなければ対応が遅れてしまうのが高K血症です。どこでも出会う可能性があり、対応を整理しておきましょう。1)Clinical Practice Guidelines for management of acute hyperkalemia in adults. UK Renal association:2014.2)Long B, et al. J Emerg Med. 2018;55:192-205. 3)Pepin J, et al. Emerg Med Pract. 2012;14:1-17.4)Montford JR, et al. J Am Soc Nephrol. 2017; 28:3155-3165.5)坂本壮. 救急外来ただいま診断中. 中外医学社:2015.6)Ben Salem C,et al. Drug Saf. 2014;37:677-692.7)坂本壮、安藤裕貴. あなたも名医! 意識障害. 日本医事新報社. 2019.p.85-101.

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脳内大血管閉塞に対するtenecteplaseの至適用量は?(解説:内山真一郎氏)-1227

 tenecteplaseはアルテプラーゼから遺伝子改変により作成された血栓溶解薬であり、アルテプラーゼより半減期が長く、フィブリン特異性も高い。海外のガイドラインではアルテプラーゼの代用薬として記載されているが、日本では開発も承認もされていない。 オリジナルのEXTEND-IA TNK試験では、0.25mg/kgのtenecteplaseはアルテプラーゼと比べて再灌流と臨床転帰が優れていたという結果が示されている。そこで、このPart 2試験では、脳内大血管閉塞例において血栓回収療法前に投与された0.40mg/kgのtenecteplaseが0.25mg/kgのtenecteplaseより優れているかどうかをPROBE試験により検討したが、0.40mg/kgが0.25mg/kgより有効であるという結果は示されなかったので、tenecteplaseの至適用量は0.25mg/kgであるというのが本試験の結論である。 いずれにせよ、海外では今後アルテプラーゼよりtenecteplaseが主体になると思われ、このままだとまた日本だけが取り残される危惧があるので、何らかの同等性を示す試験を行い、日本でも使用可能になることを期待したい。

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心血管疾患を持つCOVID-19患者、院内死亡リスク高い/NEJM

※本論文は6月4日に撤回されました。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、心血管疾患を有する集団で過度に大きな影響を及ぼす可能性が示唆され、この臨床状況におけるACE阻害薬やARBによる潜在的な有害作用の懸念が高まっている。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らは、国際的なレジストリに登録された入院患者8,910例(日本の1施設24例を含む)のデータを解析し、基礎疾患として心血管疾患を有するCOVID-19患者は院内死亡のリスクが高いことを示した。また、院内死亡へのACE阻害薬およびARBの有害な影響は確認できなかったとしている。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。11ヵ国169病院のデータを用いた観察研究 研究グループは、Surgical Outcomes Collaborative(Surgisphere)に登録されたアジア、欧州、北米の11ヵ国169病院のデータを用いた観察研究を行った(ブリガム&ウィメンズ病院の助成による)。 対象は、2019年12月20日~2020年3月15日の期間に、COVID-19で入院し、2020年3月28日の時点で院内で死亡または生存退院した患者であった。 解析時に退院状況が確認できたCOVID-19患者8,910例(北米1,536例、欧州5,755例、アジア1,619例)のうち、515例(5.8%)が院内で死亡し、8,395例は生存退院した。ベースライン時に有意差がみられた背景因子 院内死亡例は生存例に比べ、高齢(平均年齢55.8±15.1歳vs.48.7±16.6歳、群間差:-7.1、95%信頼区間[CI]:-8.4~-5.7)で、白人(68.2% vs.63.2%、-5.0、-9.1~-0.8)および男性(女性34.8% vs.40.4%、5.6、1.3~10.0)が多く、糖尿病(18.8% vs.14.0%、-4.8、-8.3~-1.3)、脂質異常症(35.0% vs.30.2%、-4.8、-9.0~-0.5)、冠動脈疾患(20.0% vs.10.8%、-9.2、-12.8~-5.7)、心不全(5.6% vs.1.9%、-3.7、-5.8~-1.8)、心臓不整脈(6.8% vs.3.2%、-3.6、-5.8~-1.4)の有病率が高く、COPD(6.2% vs.2.3%、-3.9、-6.1~-1.8)や現喫煙者(8.9% vs.5.3%、-3.6、-6.2~-1.1)の割合が高かった。 入院時の薬物療法は、院内死亡例に比べ生存例でACE阻害薬(3.1% vs.9.0%、5.9、4.3~7.5)とスタチン(7.0% vs.9.8%、2.8、0.5~5.1)の使用が多かった。独立のリスク因子は高齢、冠動脈疾患、心不全、喫煙など 院内死亡リスクの増加と独立の関連が認められた因子は以下のとおり。 年齢65歳超(院内死亡率:65歳超10.0% vs.65歳以下4.9%、オッズ比[OR]:1.93、95%CI:1.60~2.41)、冠動脈疾患(10.2% vs.冠動脈疾患のない患者5.2%、2.70、2.08~3.51)、心不全(15.3% vs.心不全のない患者5.6%、2.48、1.62~3.79)、心臓不整脈(11.5% vs.心臓不整脈のない患者5.6%、1.95、1.33~2.86)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(14.2% vs.COPDのない患者5.6%、2.96、2.00~4.40)、現喫煙者(9.4% vs.元喫煙/非喫煙者5.6%、1.79、1.29~2.47)。 院内死亡の増加には、ACE阻害薬(院内死亡率:2.1% vs.ACE阻害薬非投与例6.1%、OR:0.33、95%CI:0.20~0.54)およびARB(6.8% vs.ARB非投与例5.7%、1.23、0.87~1.74)の使用との関連はみられなかった。スタチンの使用(4.2% vs.スタチン非投与例6.0%、0.35、0.24~0.52)は、ACE阻害薬と同様に、院内死亡のリスクが低かった。 また、女性は男性に比べ、院内死亡リスクが低かった(5.0% vs.6.3%、OR:0.79、95%CI:0.65~0.95)。 著者は、「これらの知見は、COVID-19で入院した患者では、基礎疾患としての心血管疾患は院内死亡リスクの増加と独立の関連を示したとする既報の観察研究の結果を裏付けるものである」としている。

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COVID-19、主要5種の降圧薬との関連認められず/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化するリスク、あるいはCOVID-19陽性となるリスクの増加と、降圧薬の一般的な5クラスの薬剤との関連は確認されなかった。米国・ニューヨーク大学のHarmony R. Reynolds氏らが、ニューヨーク市の大規模コホートにおいて、降圧薬の使用とCOVID-19陽性の可能性ならびにCOVID-19重症化の可能性との関連性を評価した観察研究の結果を報告した。COVID-19患者では、このウイルス受容体がアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)であることから、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)に作用する薬剤の使用に関連するリスク増加の可能性が懸念されていた。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。患者1万2,594例について、降圧薬とCOVID-19陽性および重症化との関連を解析 研究グループは、ニューヨーク大学の電子カルテを用い、2020年3月1日~4月15日にCOVID-19の検査結果が記録された全患者1万2,594例を特定し検討を行った。 ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、Ca拮抗薬およびサイアザイド系利尿薬の治療歴と、COVID-19検査の陽性/陰性の可能性、ならびに陽性と判定された患者における重症化(集中治療室への入室、非侵襲的/侵襲的人工呼吸器の使用または死亡と定義)の可能性との関連を評価した。 解析はベイズ法を用い、上記降圧薬による治療歴がある患者と未治療患者のアウトカムを、投与された薬剤クラスについて傾向スコアマッチング後に、全体および高血圧症患者とで比較した。事前に、10ポイント以上の差を重要な差と定義した。陽性率は全体46.8%/高血圧患者34.6%、重症化率17.0%/24.6% COVID-19の検査を受けた1万2,594例中5,894例(46.8%)が陽性で、このうち重症化したのは1,002例(17.0%)であった。高血圧症の既往歴を有する患者は4,357例(34.6%)で、うち2,573例(59.1%)が陽性、さらにこのうち634例(24.6%)が重症化した。 薬剤のクラスとCOVID-19陽性率増加との間に、関連性は確認されなかった。また、検討した薬剤のいずれも、陽性患者における重症化リスクの重要な増加と関連がなかった。 なお著者は、COVID-19検査の診断特性の多様性、検査の真の感度が不明なままであること、COVID-19の重症例の割合が過大評価されている可能性などを挙げ、本研究の結果は限定的であるとしている。

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ARBとACE阻害薬、COVID-19への影響みられず/NEJM

 ARBおよびACE阻害薬が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクに影響を及ぼすとのエビデンスは示されなかったことが、イタリア・University of Milano-BicoccaのGiuseppe Mancia氏らが同国ロンバルディア地方で行った、住民ベースの症例対照試験で示された。症例群の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染確認群は対照群と比べて、心血管疾患の有病率が30.1%と高く、ARB(22.2% vs.19.2%)やACE阻害薬(23.9% vs.21.4%)の使用率も高かったが、両薬とCOVID-19にいかなる関連性も認められず、重症化や死亡との関連性もみられなかった。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。イタリア・ロンバルディア地方で住民ベースの症例対照試験 イタリア・ロンバルディア地方で行われた住民ベースの症例対照試験は、2020年2月21日~3月11日の間に、SARS-CoV-2感染患者6,272例と、性別・年齢・居住市町村でマッチングしたRegional Health Service加入者3万759例を対象に行われた。 被験者の選択的薬物の使用情報と臨床プロファイルを、地域の医療サービス利用データベースから入手し、薬物と感染症の関連についてオッズ比(OR)とその95%信頼区間(CI)を、交絡因子を補正し、ロジスティック回帰分析により求めて評価した。性差による違いもなし 被験者の平均年齢は68±13歳、女性は約37%であった。心血管疾患の有病率は、症例群30.1%、対照群21.7%(相対差:28.0%)で症例群が高く、ARB(22.2% vs.19.2%、相対差:13.3%)およびACE阻害薬(23.9% vs.21.4%、10.5%)の使用率も症例群が高かった。 症例群全体において、ARBおよびACE阻害薬の使用とCOVID-19にいかなる関連性も認められなかった(ARBの補正後OR:0.95[95%CI:0.86~1.05]、ACE阻害薬の補正後OR:0.96[0.87~1.07])。重症患者や致死的経過をたどった患者においても同様であった(ARBの補正後OR:0.83[95%CI:0.63~1.10]、ACE阻害薬の補正後OR:0.91[0.69~1.21])。また、これらの変数の関連性について、性差はみられなかった。

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