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保険薬局は非営利法人にすべきか?【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第1回 

最近、保険薬局が国民の保険料や税金を株主に還元することは問題であり、保険薬局は非営利法人に限定すべきとの主張を聞くことがあります。皆さん知ってのとおり、現在、薬局の多くは株式会社です。この指摘は、株式会社が保険薬局を運営していることに対してのものと考えてよいでしょう。よく、株式会社は誰のものかという議論がありますが、法的な「所有と経営の分離」という考えをもとにすれば、株式会社は株主のものと考えるのが一般的でしょう。だからと言って、株主が株式会社を全面的に自由にできるのではなく、取締役の選任ができたり、利益の分配が受けられたりするという意味です。だからこそ、株式会社は誰のものかという議論になるわけですが。株式会社と薬局法人の併存ならアリ?さて、今回は保険薬局が株主に、国民の保険料や税金を還元することについて指摘がありましたが、これは利益の配当が問題にされています。また、会社を清算した場合、残余財産分配の問題もあるかもしれません。ご存じのとおり、病院などを開設する医療法人は非営利とされ、配当は禁止されています。そのため、薬局も同様に非営利法人とすべきとの主張は以前からありました。取締役への報酬支払いであれば、働くことへの対価と見ることができますが、株主への配当に関して、保険料などが使われるのは適切ではないということなのかもしれません。これまでも、非営利で薬局を行う法人を薬局法人などと呼び話題になったことがありました。保険調剤だけに限るのであればそのような考えもわかりやすいですが、一般的な薬局では保険調剤と別に一般用医薬品の販売なども行っていますし、株式会社であるため、その他の事業を行っている場合も多くあります。薬局は、以前から小売りの一面があり、昨今言われる「健康サポート薬局」などの考えが進んでいけば、保険調剤だけでは完結しないでしょう。そう考えると、保険薬局を原則非営利として、医療事業などだけを行う医療法人のように、業務を限定するのは難しいかもしれません。そういう意味では、現在の保険薬局が保険調剤のみを行っているように見られているからこその指摘とも言えそうです。また、実際に、すでにこれだけ多くの株式会社が経営している保険薬局を、すべて非営利にするのはなかなか難しいように思いますし、思い切った規制をすると法的にも問題がありそうので、実現するのは容易ではありません。そのため、すぐに薬局法人などの議論が具体的に開始するとは思えませんが、既存の株式会社は据え置きと認めた上で、今後、法人の一形態として薬局法人なるものが認められる可能性はあるかもしれません。調剤報酬改定では、大手チェーン全体の収益を下げるような動きもあるようですが、営利がだめと言うなら、中小も大手も本来は関係がなく、全保険薬局の問題とも思えます。今後、どれだけ大きな議論になるかはわかりませんが、動きに注目しておいてもよいかもしれません。

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第2回 医業は書く仕事【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第2回 医業は書く仕事医師は、相手に何かを伝える職業です。医学知識を駆使して言葉を発し、必要な文章を書き、身体表現を含めて周囲へ伝えながら、臨床や研究に従事しています。とくに臨床医の場合、診療中は患者や家族へ伝える作業がひたすら続きます。病状を聞き取り、治療経過を思考回路に載せながら伝え直す。日々の猛烈な作業量のうち、相手に医療を理解してもらうために伝達のウェイトが高くなります。ともに働く看護師や薬剤師などに対しても、適切な判断や行うべき処置を伝え続けなければいけません。口数が少ない医師でも、責任をもって指示した事実がないと、周囲のスタッフが動き出せない事態が多くあるのではないでしょうか。人に何かを伝えようとした時、聞き手や読み手が何をもって理解するかを、十分に想定しておく必要があります。とくに口頭では、同じ用語やシチュエーションだとしても、伝えるニュアンスや状況が異なれば、違う意味に解釈される可能性が高くなります。けれども、カルテや検査伝票に文字として記す行為は、相手への伝わりやすさを文字によって証明でき、治療経過を通じて、誰からもわかりやすい要素です。書く努力を地道に続けていけば、個性を活かしながら自分の揺るぎないスキルとして磨き上げることができます。私は研修医のとき、受け持ち患者の紙カルテを、A4用紙で毎日1ページほど手書きしていました。細かい文字であらゆる事を順番に書きこみ、SOAPがどんどん膨らんでいきました。今日の事実をちゃんと書き残したいという想いが強かったのです。ところが、私のカルテを読んだ指導医は一言、「これは書き過ぎ・・・」と素っ気ない。入院サマリーでは字数を大きく削るわけですから、日々の経過をただ書きとめているだけでは、病状の重要点がわからないというわけです。「カルテは日記みたいに書くな」というシンプルな指摘は、時間が経ってみると納得できる重要な教訓でした。その後も主治医や当直医として、数え切れないカルテを書きました。余計なことを書かず、でも大切なことは書き漏らさない。記載が簡潔で、治療方針もまとまっている上司のカルテを空き時間に読んでは、そのエッセンスをこっそり学んできました。伝えるという意味で、手書きの場合は、とにかく誰からも判読できる字で書くことも重要です。「読めないカルテは、書いていないのと同じ」という指摘は、1学年上の研修医から教えてもらいました。臨床現場にいると、忙しさを理由に手を抜きたくなりがちですが、きちんとした文字で書くことは判断の正しさを証明する理由にもなります。「あの先生の指示書、字が汚くて読めない」という場合、解読するスタッフや部下のモチベーションも下がります。カルテの翻訳担当者が必要という場合、何も書いていないのと同じです。もちろん喋る場合でも色々な注意が必要ですが、口頭で聞いた内容は部分的な記憶になりがちで、雰囲気や意図は残りにくい。口頭では脳内で要点だけが記憶に収納され、完全には再現されません。若手時代のカルテを読み直すと、自分自身の変化を実感するだけでなく、当時の喋り方や職場の雰囲気も思い出すでしょう。医師は医業を行うために相手へ情報を伝えていく中で、「過去の自分自身に対しても何かを伝えようとしている」と、私は考えています。こうしてケアネットに加わり、メディア側の仕事をしていると、医師として独自に培った知見が役立つ場合が多い。臨床医としての雑多な経験が、ビジネスでもおおいに役立っています。苦労してきた過去の自分にも、先輩として言い聞かせているような感覚があるのです。昔の自分が書き残した文章が残っているのであれば、再読してみることをお勧めします。気が付かなかった“何か”を、今の自分であれば理解することができるはずです。迷いや不安を乗り越えた経験を思い出し、現在までのキャリアに至った道を再認識できることでしょう。若手医師であれば、これからの仕事において、書き残すことの重要性をとくに意識しましょう。電子カルテが普及してコピペが容易な労働環境になりましたが、本質的に伝える仕事であるのを軽視しないようにしてほしいと思います。コピペを多用して自らの意見で書き残さないことを繰り返していると、後になって院内での個人的評判に影響することも考えられます。短い時間内で一気に情報をアウトプットできるのは、厳しい鍛錬を経た医師の素晴らしい特性です。そして自然と身に付くより、努力して獲得するほうが後日の成長に繋がるはず。こうしてメディアの世界から医業を振り返ると、書くことを含めた医師の総合スキルは、ビジネスの世界と比較しても高度です。皆で見直すことで、自分の確かな足跡を納得できる良いきっかけになるのではないでしょうか。今日のカルテ、どのように記載しましたか?

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循環器内科 米国臨床留学記 第28回

第28回 米国でのトレーニング後の進路米国で臨床留学をした人たちにとって悩ましいのはその後の進路です。ほとんどの日本人医師は米国臨床留学をJ1 clinical visa(臨床用のJ1 clinical visa)で行っています。J visaはいわゆるトレーニング用のビザでレジデンシーやフェローの間、延長することができ、基本7年間まで延長して使用することができます。私の専門の循環器・不整脈は内科の中でも最もトレーニングが長く、3年の内科、3年の循環器に加えて2年の不整脈(EP)で合計8年となりますが、ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates:外国医学部卒業生のための教育委員会)という団体に申請をすれば8年目まで延長が可能となりました。レジデンシーやフェローシップトレーニングを終えた日本人の選択肢は日本への帰国かattending doctor(指導医)として米国に残るかの二択となります。2 years rule外国人医師がJ visaでトレーニングを終えた後は基本的に2年間の本国への帰国が義務付けられています。これを終えない限り、グリーンカード(永住権)の申請もできません。これはJ visaの保持者は米国にトレーニング目的で来ているため、米国で学んだことを出身国へ還元する必要があるという解釈に基づいています。多くのインド人やパキスタン人は、端から移住目的で来ており、自国へ帰るつもりなどはありませんので、最初から帰国する必要がないH visaというものを使うか、J waiver(後述)を用いて米国に残っています。本国に2年帰った後、再渡米することも可能ですが、物理的に本国へ帰れない医師もたくさんいます。シリアやイラク出身の友人たちは治安が問題で帰国が困難です。また、米国で結婚してしまい、宗教、治安上の理由などで配偶者を自国に連れて帰ることができないこともあります。治安には問題のない日本人ですが、一度米国を出ると就職活動が難しく、再度ビザの取得が必要となり、就職で大変不利となります。ですから、日本人でもトレーニング後、そのまま米国に残る医師が結構います。その場合、J waiverを行う必要があります。J waiverとはwaiverとは権利を放棄するという意味ですが、この場合2年間の帰国義務を免除してもらうという意味になります。その代わりにunderserved area と言われる米国でも医師が少ない地域やVA(退役軍人病院)などで働くことが義務付けられます。Conrad 30 Waiver Programという法律があり、各州のState Medical Board(医療を管轄する公的部門、厚労省に値する)にwaiverが必要な外国人30人ずつをスポンサーする権利が与えられています。医師が足りない地域で主に必要なのは、プライマリケアやホスピタリスト、小児科医などですので、30のポジションは優先的にこれらの分野の医師に割り当てられます。たとえば、人気の高いカリフォルニアやニューヨークでは循環器などの専門医にConrad 30の余りが回ってくる可能性は非常に低いため、専門性の高い分野の医師がカリフォルニアでwaiverを行うことはほぼ不可能です。J waiverで3年過ごした後はグリーンカードの申請が可能となります。waiver以外の手段O visaというものを用いて、一時的にwaiverを免れることは可能です。O visaは、大学などの機関では、科学、芸術、教育、ビジネス、またはスポーツの分野で「卓越した能力を有する者」に発給されるビザで、医師の場合は、論文などを発表していることが必要となります。実際のところは、研究や論文の実績がそれほどなくても、その分野で有名な 医師からの推薦状などがあれば残れるようです。O visaは1年ごとに何度も更新できますが、waiverを免れることはできないので、グリーンカードの取得前には結局O visaからJ waiverに戻る必要があります。トレーニング後の日本人医師日本以外の諸外国から来ている医師のほとんどはアメリカに残ります。その大きな理由が収入だと思われます。正確なデータがないので詳細はわかりませんが、日本人医師の1/3から1/2ほどはトレーニング後、すぐに帰国していると思われます。元々、日本の教育に還元しようという思いで来ている先生方は、指導医とならずに研修終了後にすぐに帰っているようです。一方で、研究のやりやすさ、生活と仕事のバランスの良さ、そして給料の高さ(どの分野でも米国の医師の給料は日本の医師より高いと思われます)などが理由で米国に残る先生もたくさんいます。また、米国でのトレーニングの経験が必ずしも日本で評価されないという点も帰国をためらう理由として挙げられます。医局に所属せずに留学している先生がほとんどであり、その場合、新たに医局に入るか、市中病院に戻るしかありません。臨床留学経験者を好んで採用する病院は少数であり、留学経験を評価してくれる受け入れ先を見つけるのは容易ではありません。とは言っても、米国臨床留学後、日本より高い割合で自分の国に戻るという国はないと思います。これは、医療の面に限らず、日本が素晴らしい国であることの証明だと思います。日本に帰るたびに、公私を問わず、日本の優れたサービスに感銘を受けます。私も8年米国に住みましたが、生活全般における米国のいい加減なシステムや医療費の高さなど不満は尽きません。高過ぎる医療費が主な原因ですが、アメリカで臨床を行っている医師ですら、アメリカでは病院に行きたくないと異口同音に言います。また、家庭の事情(家族が帰国を希望、子供を日本で育てたいなど)も大きいと思われます。文化の違いですからやむを得ませんが、ガムを噛みながらラウンドをするレジデントなどを見るたびに、米国で自分の子供を育て続けることに不安を覚えます。家族の希望、収入面、日本での就職先など、さまざまなことを考慮しなければならず、 トレーニング修了後、いつ帰国するかというのはどの家庭にとっても非常に難しい問題です。

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患者安全「東京宣言」【Dr. 中島の 新・徒然草】(217)

二百十七の段 患者安全「東京宣言」先日、4月13日、14日と東京で行われた第3回閣僚級世界患者安全サミットに出席してきました。とはいえ、自分が何かしゃべったわけではなく、女房が発表するので、その応援兼カバン持ちとしての参加です。このサミットは患者安全を推進しようという世界中の国が一堂に会して議論を行うもので、第1回と第2回はそれぞれ言いだしっぺのイギリスとドイツで行われ、第3回となる今年は東京が開催地となりました。参加したのは40ヵ国以上からの閣僚や医療安全の専門家と、10いくつかの国際機関、国際組織の代表です。初日の4月13日は専門家の会合で、高齢者医療やICT(information and communication technology)など、いくつかのテーマに沿って各国からの発表と討議が行われました。キーワードとしては、UHCとLMICがしきりに使われていました。UHCというのは Universal Health Coverage、つまり皆保険のことです。日本は1961年にこれを達成しており、われわれは当然のことと感じていますが、世界のほとんどの国が皆保険にはほど遠いのが現状です。もう1つのLMICというのは Low and Middle Income Countries の略で、低中所得国家の意味です。国民皆保険の実現には、そもそも国自体の経済的余裕が必要ですが、低中所得国家だからといって達成の努力を怠ってはならないのは当然です。討論は5つのセッションに分かれて行われましたが、結論としては、(1)国民皆保険を達成しようとする最初の段階から患者安全をシステムに組み込むべし(2)プライマリ・ケアから高度先進医療に至るまで、いかなる場においても患者安全を目指すべし(3)患者自身も患者安全達成に参加すべし(4)ICTを患者安全の実現に活用すべしといった所です。興味深く感じたのは、先進国であるか否か、資本主義か共産主義かにかかわらず、そしておそらくは宗教の違いにも関係なく、患者安全というのは世界中の国がなかなか達成できない巨大な問題だということです。医療従事者の汗と涙はどこでも同じだな、と思わされました。2日目の4月14日は会場のセッティングが一変し、前方のテーブルの上に各国の国旗が飾られて華やかな雰囲気でした。各国代表の後ろ側に国際機関の代表の席が用意され、われわれ観客はそのまた後ろでした。会場の前方では各国の閣僚や高官などが親しげに談笑しており、「この人たちが世の中を動かしているのか!」と圧倒される思いでした。まずは専門家たちからの各国閣僚への報告です。ところが、ここで大きく時間がとられてしまい、その後の進行に影響してしまったのです。「厳密に3分以内にお願いします」と司会が念を押したにもかかわらず、後に続く各国閣僚からの挨拶やメッセージの出来はさまざまでした。7分以上もしゃべっている人もいれば、きれいに3分で終えて「これこそ医療安全の原点です!」と司会を感激させた人もいました。大臣や高官とはいえ、スピーチの上手い下手はそれぞれです。必ずしも英語の能力だけの問題ではなく、言いたいことが明瞭か、観客に分かりやすくシンプルに話しているか、などで大きく差がついていました。「さすが!」と思わされたのは写真撮影です。50人ほどの要人たちがビシッと笑顔で整列し、数分間微動だにしませんでした。にもかかわらず観客たちが前に詰めかけてそれぞれに素人写真を撮ろうとするものだから大混乱。マイクが「前の人は場所をあけて下さい。公式写真が撮れません!」と繰り返してアナウンスしていたのは笑いました。という私もスマホで撮影していた1人です。どうもすみません。途中休憩を挟んで、後半は国際機関や国際組織の代表からのメッセージで、今度は1人2分に制限されてしまいました。こちらは普段から医療の分野に携わっているだけあってしゃべりが上手い! なかにはものすごくシャープな英語で1分59秒にまとめた人もいて、しかも日本人だったので仰天しました。世の中には名人達人がいるものです。最後に加藤勝信厚生労働大臣が2日間の討論をまとめた「東京宣言」のドラフトを発表しました。中身は先に述べた(1)~(4)に相当するものでしたが、それに加えて「9月17日を『世界患者安全の日』としたい」ということと、「現場の医療従事者の労働環境の改善も宣言の中に盛り込みたい」といった意味のことを述べられ、会場全体が感動に包まれつつ閉幕を迎えました。私にとっては「〇〇宣言というのはこうやって作られるのか」と、これまで知らなかった世界をカイマ見ることのできた2日間でした。読者の皆さまも、これからこの「東京宣言」を目にする機会があるかと思いますが、「へえ、このような事があったのか!」と感じていただければ幸いです。最後に1句安全は みんなの願い いつの日も

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第1回 医師たちの転職事情【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第1回 医師たちの転職事情「転職エージェントって、どんな感じ?」私自身も利用してみて、初めてその実態を知りました。あくまでも過去の経験談ですが、普段の診療では出会う機会もなかったですし、エージェントたちの詳しい素性は今でもよく分からないままです。「そんな赤の他人に、貴重な医師人生を預けて大丈夫なの?」というのが、一般的な感覚ではないでしょうか。これまで、私は10社前後の医師転職エージェントと面会しました。実際の転職に至ったのは、1社のみです。そして転職後に、もっと実態を知っておくべきであった・・・、という少しの後悔も抱きました。Aという医療機関からBという医療機関へ転職する際、転職者の希望とBの雇用条件を調整するのが、エージェントの仕事。入職後までのフォローを含めて、年収の一定割合を紹介料として受け取るのが普通です。高年収の医師を成約させれば、結構な金額の紹介料になると言われています。エージェントはあくまでも、次のBという医療機関への道案内役です。勤務中の医療機関Aとの退職交渉は、転職者自身が行う必要があります。 被雇用者なのですから当然とも言えますが、医師の場合は気軽に「辞めます」と決断できない事情が多いものです。「専門医が院内に自分しかいない」「辞めた後の交代医が見つからないかも」「患者さんやスタッフには何と説明しよう」等々…。考え出したら、それこそキリがありません。つまり、転職というのは勤務医にとって、(1)現勤務先Aとの退職交渉(2)医局派遣の場合は、医局との交渉(退局を含む)(3)初めて出会う、転職エージェントとの事前相談(4)複数依頼の場合は、エージェントたちの能力や条件の見極め(5)転職先候補B〜B’との、エージェントを介した事前交渉(6)家族を含むプライベート要因の整理、合意形成(7)転職先Bとの面談交渉(8)エージェントを介した、最終的なB雇用条件の合意(9)現勤務先Aへの退職届(10)転職先Bへの入職関係書類の提出と、ざっくり言っても、これくらいの手間がかかります。場合によっては、現勤務先Aと決裂して「もう辞める!」となってから、転職活動を開始することもあるでしょう。幸い、医師求人は常勤だけで1万人以上あると言われますから、選り好みしなければ、どこかには転職可能です。では、このような転職活動は、医師に幸せをもたらすのでしょうか? AからBに移籍したら、目指した通りの年収や待遇を得て、充実した医師キャリアを送れるのでしょうか?大学関連以外に、民間医療機関を3ヵ所経験してみて、「転職が最終ゴールではない」というのが私なりの結論です。そもそも、入職前に転職先Bが提示してきた雇用条件こそ、当該年において転職先Bの経営上で有利な内容だと、ほとんどの医師は知りません。もっと簡単に言えば、転職先は経営上に損が出ないような条件を、転職希望の医師に提示します。私も想像しきれていなかったのですが、「人買い」に近い発想が、医師転職の世界にはまだまだ存在します。年収条件に幅がある場合、「先生の専門性や能力によって高い年収を提示できます」という釈明をしていますが、この幅は何か? これは、転職先の医療機関側が譲歩する余地というよりも、「どれだけもっと安く、ちゃんと働く医師を採用できるか」という意味です。経営上の都合ですから、翌年以降の年俸交渉で急に態度が厳しくなることも十分にありえます。エージェントも初対面、転職先Bに行っても初対面の経営者たち。転職前に社交辞令が織り交ぜられるのは当然であって、いろいろな事実を新しい勤務先Bの中で、後から知ることになります。何かが一方的に悪いとか、騙されたとかいう訳ではなく、転職市場にはメリットもデメリットも混在しているということです。しかし医療現場で忙しいと、こうした実際の転職事情を学ぶチャンスがなく、先輩や後輩の成功談を耳にして、「上手くいくはずバイアス」がかかっていたりします。 最終責任は転職を決意した自分自身にあるのですが、意外とこの単純な事実関係を、認識できていない場合も多いのではないでしょうか。当連載では、臨床とビジネスの世界を並走しているチーフ・メディカル・オフィサーの視点から、色々なお話をしていきます。医師であれば、こっそり知っておいても損はないと思います。

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汗だく対応、再び【Dr. 中島の 新・徒然草】(216)

二百十六の段 汗だく対応、再び前回は中国人相手に筆談で頑張った話でした。今回は英語をしゃべる人たち相手の苦労話。とにかく外国人が続きます。看護師「発熱の外国人ですけど通訳も一緒なんで大丈夫ですよね」中島「今日は研修医も一緒やし、ちょうどええがな(えらいことになってもた! )」ということで、日本人の通訳を含む女性4人組が診察室にやってきました。通訳「あの、私は専門用語とか全然分からないですから(泣)」中島「とにかく力を合わせて頑張りましょう」通訳「よ、よろしくお願いします」患者さんは50歳代の黒人女性です。日本を旅行している途中に熱が出たとか。中島「私はドクター・ナカジーマです」患者「ハ~イ」中島「こちらは研修医で、私はそのメンターです」一同「おおーっ」私は研修医が一緒の時は必ず患者さんに紹介するようにしています。でも、メンターってのは「師匠」とかそんな意味なので、言い過ぎだったかも。中島「おっとメンターじゃなくてトレーナーです」一同「おおーっ」中島「・・・(ほんまに通じているのかな? )」患者さんの友人らしき白人女性が説明を始めます。友人「熱が出たから薬を飲んだのよ」中島「ほう、何という名前の薬ですか? 」友人「ただの over-the-counter よ。タイレノールみたいな」中島「なるほど」後で聞いたところによると、この人はナースだそうです。患者「ちょっと待って。この薬よ、お見せするわ」そう言いながら彼女がバッグから探り出したのは薬ではなくチョコバーでした。中島「何だこれは! 」患者「ああーっ! 間違えた」中島「こんなモンが出てくるとは、さてはアメリカ人だな」患者「ギャハハ、当たりっ! 」中島「アメリカのどこ? 」患者「テキサスよ」友人「私はカリフォルニア」こんな賑やかな人たちは英語圏の中でもアメリカ人しかあり得ません。中島「まあアメリカ人にとってはチョコバーこそ薬だな」一同「アハハ、そりゃそうだ! 」いろいろ病歴を尋ねると、どうやら尿路感染のようでした。CVA叩打痛もあるので甘く見るわけにはいきません。中島「ともかく、培養検体をとってから」通訳「culture? 何ですか、それ」彼女は慌ててスマホで調べ始めます。中島「抗菌薬を使います」友人 「何使うの? 」中島「ペニシリンかな」友人 「合格よ! 」何とか落第せずに済んだみたいです。患者「何でペニシリン? 」中島「尿路感染の原因で多いのは大腸菌と腸球菌だからね。両方に効かせようとするとペニシリンが無難なわけ」患者「大腸菌? 腸球菌? 」さすがに医学用語は分からないみたいなので、紙に書いてあげました。中島「入院してもらうのが1番いいのだけど」一同 「ダメダメ、これから東京に行くし、その後は帰国するから」中島「あらら」患者 「ねっ、一緒に写真撮っていい? 」中島「いいけど」患者 「先生も入ってよ」研修医「私もですか」患者 「そうそう」病院に来るというのも観光の一環なのでしょうか。通訳「皆さん、仏教徒なんです」中島「そうだったんですか! 」彼女は日本を本拠地とする宗教団体の名前をあげました。年齢も人種もバラバラな人達だけど、宗教が結びつけていたというわけです。そう言われれば、あまりスレていない気もします。そんなこんなで、外来で抗菌薬を点滴してから経口薬を処方しました。中島「普通は処方箋を出して調剤薬局に行ってもらうのですけど、大変そうだから院内で薬を受け取れるようにしときましょうか? 」通訳「ぜひお願いします! 」患者「アメリカも日本みたいに洗練されたシステムだったらいいのになあ。職員は皆さん親切だし」苦労はしたものの何とか日本に好印象を持ってもらうことに成功しました。でも、外国人相手だとすべての医療行為に説明を求められるし、言葉の壁はあるし、汗だくです。いつの間にか研修医を放置してしまっていました。ここはなんとか指導らしいことをしなくてはなりません。中島「英語がうまくなる方法を伝授しようか? 」研修医「ぜひ教えてください」中島「まず、外国人相手に苦労する」研修医「は? 」中島「こんなことではだめだ! と思って必死に努力する」研修医「なるほど」中島「2ヵ月もしたらモチベーションが落ちる」研修医「はい」中島「再び外国人相手に恥をかいてモチベーションをあげる」研修医「はあ」中島「要するに2ヵ月ごとに恥をかくのが大切なんや」できもせんのに何を偉そうに、と自分でもあきれてしまいます。ま、指導なんてものは自分のことを棚に上げるところから始まるものなんでしょうね。ということで最後に1句恥かけば 英語上達 待ったなし

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不動産は資産の王様【医師のためのお金の話】第6回

不動産は資産の王様こんにちは、自由気ままな整形外科医です。前回までは、忙しい医師であっても実践できる株式投資方法についてお話ししました。「投資=株式などの金融資産投資」と思っている方が多いと思います。しかし、経済的に自由な状況に到達するためには、避けて通れないものがあります。そう、それは「不動産」です。不動産は資産の王様昔から不動産は、資産の「王様」として君臨しています。世界的に有名な不動産投資家であるドルフ・デ・ルース氏の著書に、『世界の不動産投資王が明かす お金持ちになれる「超」不動産投資のすすめ』( 東洋経済新報社)があります。ドルフ・デ・ルース氏はこの書籍の中で、「日本を含めた世界中の富裕層で、不動産と関わりのない人はほとんどいない」と述べています。彼自身が独学で富裕層研究を行った結果、次のような結論に達しました。何らかの方法で富裕層に到達した後、資産の保全のために不動産を活用している不動産経営(投資)を行い、財を築いて富裕層に到達したこのことに関しては、洋の東西や時代を問わず普遍の事実のようです。まさに、不動産は資産の「王様」なのです。不動産投資のメリット不動産を所有することで得られる賃料収入は安定的です。毎月決まった賃料が入ってくるので、継続的に収入を得ることができます。このように、一度顧客が付くと継続的に収入を確保できる形態を、「ストック型ビジネス」といいます。その代表例として、電力・ガス事業、鉄道事業、通信事業、医療事業が挙げられます。そして、不動産賃貸業も典型的なストック型ビジネスです。一方、その都度の取引で収入を得ている形態を、「フロー型ビジネス」といいます。フロー型ビジネスのフロー(flow)は流れという意味です。フロー型ビジネスの代表例としては、居酒屋やレストランなどの飲食店、コンビニエンスストアなどの小売店が挙げられます。フロー型ビジネスは各顧客との取引が一度きりであるため、顧客から継続的な収益を得ることができません。収入が安定しにくいのがフロー型ビジネスの特徴です。ビジネスモデルとしての安定度は、ストック型ビジネス>フロー型ビジネスとなります。不動産投資のメリットはたくさんありますが、一度賃借人を確保してしまえば、何もしなくても毎月のように賃料収入があることが最大のメリットです。また、不動産は時価で売却することも可能です。そういう意味では、不動産はお金が実物資産に変化したものと考えることも可能です。さらに、不動産を売却しなくても、不動産を担保にして銀行から融資を受けることもできます。まるで不動産は銀行のATMのようですね。このような理由から、不動産は資産形成を行ううえで必要不可欠な存在といえます。不動産投資の注意点一般的に不動産は高額な商品です。株式や仮想通貨のように、数万円ほどのお小遣いを使って投資する、といった芸当はできません。このため、「投資」といえども物件の目利き能力や不動産の運営能力を習得する必要があります。医師の場合は高属性を利用できるため、その気になればいきなり1億円を超えるような収益1棟マンションを購入できることもあります。しかし、ほぼ満額に近い金額を銀行融資で賄う場合には、うまく運営しないと破綻してしまう危険性が高まります。このため、事前に不動産投資手法を勉強することが必須といえるでしょう。

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意外にも中高齢層にフィット、糖尿病診療でのスマホアプリ活用

 糖尿病患者の“自己管理ノート”としてのスマホアプリの活用は、医療者・患者双方にとってどのようなメリットがあるのか。2018年3月3日、「第52回 糖尿病学の進歩」において「リアルワールドデータによる糖尿病治療の最前線~PHR(パーソナルヘルスレコード)や検査データを活用した新しい診療の実際と展望~」と題したランチョンセミナーが開催された(共催:株式会社ウェルビー/株式会社エスアールエル)。セミナーでは木村 那智氏(医療法人純正会ソレイユ千種クリニック 院長)が登壇。アプリ「Welbyマイカルテ」を主に2型糖尿病患者の診療に取り入れ約3年が経過した中での、使用感やメリットについて紹介した。スタンプ機能で、負担感なく密にコミュニケーション 「Welbyマイカルテ」は、生活習慣病患者を対象とした、血糖値や血圧などの自己管理を支援するスマートフォン向けアプリ。データは手入力のほか、カメラを使った撮影や、血圧計、血糖測定器、体組成計など主要メーカーの機器からの自動取得が可能だ。これらのデータは患者、患者家族、医療者の間で共有でき、コメント機能やスタンプによるコミュニケーションが可能となっている。 2015年の提供開始以来、約22万人が登録しており、木村氏は「患者さんは無料でダウンロード・利用開始でき、使い方も薄いパンフレットで理解できる簡単なもの」と語る。木村氏のクリニックでは、患者が記録した内容を見た医師や看護師がコメントを返すほか、「がんばったね!」という意味でスタンプを送信することも多いという。「LINEのスタンプ機能と同じで、医療者側は一つひとつコメントを入力しなくても簡単に声掛けができ、患者さんにとってはちゃんと見守ってもらえているという安心感につながる」と話した。 同アプリは医療機関との連携を行わず、患者個人として利用することもできるが、ウェルビー社が行った調査によると、医療機関と連携している場合、3ヵ月後の継続率が約5倍となったという。木村氏は「もちろん、“監視されているようでいや”という人もいるので、全員にフィットするわけではない。しかし、患者さんのモチベーションが治療に大きな影響を及ぼす糖尿病診療において、モチベーション維持や行動変容を促す有効なツールの1つであることは間違いない」と語り、食事内容を毎回撮影するなどアプリの使用に“ハマり”、生活習慣が改善されて結果的に体重減少、血糖値低下につながった40代男性の症例を紹介した。継続率が高いのは中高齢層 スマホアプリというと、どうしても若い人向けという印象を持たれがちだが、木村氏は「逆に若い人のほうが続かない傾向がある。“これを機にスマホに変えた”という中高齢層は、孫や子供たちとの会話のきっかけにもなり、嬉々として使ってもらえることが多い」と話す。実際に同社が行った調査では、年齢が上がるほど継続率が高まり、50代以上のユーザーの利用率が高かった。聴取時間は圧倒的に短縮、思いがけない問題点がみつかることも もう1つ、アプリを診療へ取り入れることへの懸念としてよく聞かれるのは、「使い方を教える手間や時間が掛かるし、病院側のメリットがないのでは」というものだが、木村氏は「あらかじめ生活習慣や食事内容がわかるため、聴取時間は短縮し、栄養指導や診察が効率化する」と話す。また、本人はよかれと思ってやっていることが、実は間違った知識だったということも多く、「診察室での聴取だけでは見えてこない改善点がみつかる場合もある」と話した。 同社は今回、株式会社エスアールエルが提供する医師向け検査結果参照システム「PLANET NEXT」と同アプリの連携をスタートさせ、医師は検査結果とPHRを参照できるようになった。また今後、患者もスマートフォンのアプリで検査結果を参照できるようになることから、木村氏は「患者さんがほかの病院や薬局で自分の検査値と自己管理データを見せられるようになると、より効率的な治療が可能になり、患者さん自身の行動変容にもつながるだろう」と述べ、期待感を示した。「通常、次は数週間、数ヵ月後の診察予約となるところを、こういったツールの活用で頻繁に状況をモニタリングできる。対面診療にオンラインツールを加えることは難しいことではなく、いまや普通の道具を、普通に活用することに過ぎない。正確な情報と適切なフォローアップで患者さんはどんどん進化していくので、積極的に活用していってほしい」とまとめた。■参考株式会社ウェルビー「Welbyマイカルテ」

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志水太郎の診断戦略エッセンス

第1回 なぜ今、診断戦略か? 第2回 2つの思考プロセス 第3回 診断力をどう鍛えるか? 第4回 診断の型のイノベーション 第5回 病歴の技法 第6回 注意すべきいくつかの戦術的要所 第7回 難症例に打ち勝つ戦術 すべての医師が診断の力を伸ばすために、診断に至るまでの医師の思考プロセスを見える化できないか?総合診療医 志水太郎氏は医師が無意識下で行っている診断の思考過程を言語化することで、それを「型」として、意識的に使えるもの、訓練できるものにしました。この番組では質の高い診断を効率的に行うためのアイデアや、診断エラーを減らす方策、病歴の技法、そして診断力を鍛えるための訓練方法を紹介します。志水氏のこの診断学イノベーションに触れることで、明日からの診断の精度が確実に向上することをお約束します!第1回 なぜ今、診断戦略か? 若手Dr.の支持を集める診断学の「ニューバイブル」を映像化!「診断」というものを独自のアプローチで捉え直した書として注目された「診断戦略」(医学書院)。医師が無意識的に行っていた診断に至るプロセスを言語化することで、意識的に、効率的にその精度を向上させることができる、まさに診断学イノベーション!本番組では著者である志水太郎先生がその本質と、診断力をアップする具体的な方法について解説します!第2回 2つの思考プロセス 診断戦略の世界へようこそ。医師が操る直観的思考と分析的思考。この思考パターンの見える化こそが、診断の精度をアップするための第1歩。診断プロセスを意識することで、自身の診断能力を鍛えることができるんです。今回は実際の症例のなかで、ひらめきである直観的思考と分析的思考による推論に挑戦。診断戦略の凄みを体験してください!第3回 診断力をどう鍛えるか? 診断力は、直観的思考の洗練に加え、活用できる分析的思考の種類がどれだけあるかがカギ。分析的思考のための具体的なツールであるアルゴリズム、ベイズの定理、スコアリングシステム、フレームワーク。このなかで自分なりの手堅い戦略の型を持っておくことが鑑別診断を進める際の高い機動力に繋がります。番組内では志水先生が日常的に使うフレームワーク“MEDICINE”を紹介!第4回 診断の型のイノベーション 知れば使いたくなる新しい診断戦略を伝授します。鑑別診断という答えをどう追い詰めて明らかにするか。診断力をアップする鍵は、これまでとはまったく異なるアプローチかもしれません。今回は、直観と分析の合わせ技「Pivot&Cluster」や、疾患群の網を重ねていく「Mesh Layers」など、今日からの診断の質が変わる、具体的な方法をご紹介します!第5回 病歴の技法 検査値、画像、身体所見―医師は様々な情報から診断を導き出す。その中でもとくに重要な意味を持つのは病歴聴取。志水太郎先生が日々の問診で大切にしているのは”4つのC”と"BEOアプローチ”。診断戦略の前提となる質の高い病歴の技法を伝授します。第6回 注意すべきいくつかの戦術的要所 日常臨床では診断のプロセスの原則では対応できない場面に出くわすことが多々あります。疾患が患者の別の病態の下に隠れている、薬剤など別の要因が本来のバイタルサインを見えにくくしてしまっているといった場合です。今回はそうした医師の診断を誤らせる“霧”や“オッカムヒッカムの破れ”について解説します。知ることで盾になり、使えれば武器になる!志水太郎の診断戦略をお見逃しなく!第7回 難症例に打ち勝つ戦術 一筋縄ではいかない困難な症例には戦術が必須!例えば、患者の痛がる箇所をあえて解剖学的構造の外側から考えるというのも、鑑別の幅を広げる戦術の1つ。また、突発性や反復性という発症様式から病態的カテゴリーを一気に絞りこむというのも、1つの戦術です。あらゆる方向からのアプローチ法を事前に用意しておくということが重要です。すべての医療者へ届けたい志水先生のラストメッセージをお見逃しなく!

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アイザックス症候群〔Isaacs syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義アイザックス症候群は、1961年にIsaacsが、後天性に全身の筋硬直と筋電図で持続する運動単位電位の自発放電を特徴とする2例を報告したのが最初である1)。その病態機序は末梢神経の過剰興奮であり、その病態は自己抗体による自己免疫性疾患である。症状が筋疾患であるミオトニア症候群に似ているが、病変部位が末梢神経であるため、後天性ニューロミオトニア(acquired neuromyotonia)とも呼ばれている2)。■ 疫学詳細な疫学の報告はない。海外では発症年齢の多くが40歳半ば、男女比は2:1で男性に多く、診断までに3~4年を要している2)。わが国での1次調査では、全国に100例前後の患者がいると思われる。■ 病因病態である末梢神経の過剰興奮を引き起こす病因は、末梢神経の電位依存性Kチャネル(VGKC)および、VGKCに関連する蛋白に対する自己抗体であることが明らかになっている1,3)。VGKCは、末梢神経の脱分極後に再分極を起こし、膜の興奮性を安定させるイオンチャネルであり、その障害で興奮性が増加して症状を引き起こす。末梢神経には血液神経関門があり、通常血中の自己抗体は軸索のVGKCにはアクセスできないが、末梢神経の神経根および最末梢の神経終末では血液神経関門が脆弱であり、このような部位が標的となっていると考えられる4,5)。以上のように、概念的にはランバート・イートン症候群などのように免疫介在性チャネロパチーの1つといえる。■ 症状臨床的には全身の末梢運動神経の過剰興奮により、広汎に有痛性筋けいれん・筋硬直と筋のぴくつき(fasciculation)や筋の波打つような不随意運動(myokymia)などを主徴とし、全例で認められる。また、ニューロミオトニア(繰り返す把握運動後の弛緩障害[grip myotonia]はあるが、叩打ミオトニア[percussion myotonia]がない)は、本症に比較的特異な症状で約1/3に認められる2,4)。筋けいれん、筋硬直は睡眠時も起こり、運動負荷、寒冷、虚血で増強する。持続性の筋けいれんは筋肥大を来すことがある。そのほか、発汗過多、下痢、皮膚色調の変化、原因不明の高体温などの自律神経症状を30~50%の症例で伴う4)。約半数の症例で異常感覚や複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome)に類似の疼痛などの感覚障害を伴うことがまれではなく、当初は筋けいれんに伴うものと考えられていたが、筋けいれんの発症前に感覚異常で発症する症例の報告もあり、現在は感覚異常とくに疼痛も重要な症状の1つと考えられている6)。そのほか、Hartら2)によると約1/4の症例で何らかの中枢神経症状を有している。末梢運動神経の症状である筋けいれん・筋硬直やニューロミオトニアと記銘力障害、不眠、睡眠障害、幻覚などの大脳辺縁系症状や多彩な自律神経症状を伴うMorvan症候群が知られていたが、この疾患でアイザックス症候群と共通の抗VGKC抗体がその原因であることが明らかになっている3)。■ 分類臨床的にニューロミオトニアを呈する疾患には、先天性と後天性があり、さらに後天性の原因にもさまざまなものがある7)。この中で自己抗体が関与する後天性かつ免疫介在性のニューロミオトニアには、全身性にみられるアイザックス症候群のほかに、主に下肢に限局するcramp-fasciculation syndrome、中枢神経症状を伴うMorvan症候群などがある。■ 予後自然寛解はまれであり、多くは症状が緩徐に進行し、全身の筋硬直、歩行困難などでADLが障害される。注意すべきは、本症は傍腫瘍性症候群の一面も持っており、胸腺腫や肺がんの合併が報告されている8)。しかし、これらの腫瘍の外科的切除による症状の改善は一定ではない。通常は後療法として、免疫療法や対症療法が必要な場合がある。一方、このような悪性腫瘍の合併が明らかではない場合も、4年後にがん病変が発見された症例の報告もあり、十分な経過観察が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は上記の特徴的な症状と、以下の検査所見でなされる。末梢神経の過剰興奮性の有無を診断するには、神経生理学的検査が必要である。針筋電図でmyokymic dischargesが特徴的であり、安静時や弱収縮時に同じ運動単位電位の反復発火(doublet、multiplet)としてみられる。発火頻度が高くなるとneuromyotonic dischargesがみられることもある1,4,7)。体幹などの深部筋では筋電図によるこれらの異常放電を捉えることは困難であるが、そのような場合には超音波検査で筋の不随意運動を観察して診断する。特異度の高い検査は血清中の抗VGKC関連抗体であり、臨床症状と本抗体が陽性であれば診断はほぼ確定する。当初VGKC自体に対する抗体そのものがアイザックス症候群の病因と考えられていたが、その陽性率は50%以下であった。その後の研究でVGKCはいくつかの分子と複合体を形成し、抗体が認識しているのはVGKC以外の分子が主であることが明らかとなった2)。これらの分子の中で最も頻度の高いものは、contactin-associated protein2(Caspr2)とleucine-rich glioma-inactivated protein1(Lgi1)である2,9)。Lgi1の発現は末梢では少ないので、アイザックス症候群ではCaspr2に対する抗体が主となる。しかし、これらの自己抗体の陽性率も必ずしも高くない。なお、抗VGKC抗体は低力価の場合は臨床症状との関連でその意味を考える必要がある。また、抗VGKC抗体は鹿児島大学神経病講座で測定しているが、Caspr2に対する抗体は、わが国ではルーチンに測定しているところはなく、診断には臨床症状と筋電図を用いることが多い。そのほかに自己免疫疾患としての側面から、重症筋無力症、胸腺腫、橋本病などさまざまな自己免疫疾患を合併する。とくに重症筋無力症との合併が多い。抗VGKC抗体以外の自己抗体として抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)、抗核抗体、抗GAD抗体の陽性率が高い。また、自己免疫疾患であるからには免疫療法で症状の改善をみることも重要であり、これらの点を考慮して次表のような診断基準が出されている。表 アイザックス症候群の診断基準A.主要症状・所見1.ニューロミオトニア(末梢神経由来のミオトニア現象で、臨床的には把握ミオトニアはあるが、叩打ミオトニアを認めないもの)、睡眠時も持続する四肢・躯幹の持続性筋けいれんまたは筋硬直(必須)2.myokymic discharges、neuromyotonic dischargesなど筋電図で末梢神経の過剰興奮を示す所見3.抗VGKC複合体抗体が陽性(72pM以上)4.ステロイド療法やそのほかの免疫療法、血漿交換などで症状の軽減が認められるB.支持症状・所見1.発汗過多2.四肢の痛み・異常感覚3.胸腺腫の存在4.皮膚色調の変化5.そのほかの自己抗体の存在(抗アセチルコリン受容体抗体、抗核抗体、抗甲状腺抗体)C.鑑別診断以下の疾患を鑑別するスティッフパーソン症候群や筋原性のミオトニア症候群、糖原病V型(McArdle病)などを筋電図で除外する<診断のカテゴリー>Definite:Aのうちすべてを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものProbable:Aのうち1に加えて、そのほか2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものPossible:Aのうち1を満たし、Bのうち1項目以上<診断のポイント>自己免疫的機序で、末梢神経の過剰興奮による運動単位電位(MUP)の自動反復発火が起こり、持続性筋収縮に起因する筋けいれんや筋硬直が起こる。末梢神経起源なので叩打ミオトニアは生じないが、把握ミオトニア様にみえる手指の開排制限は起こりうる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)アイザックス症候群の治療の主体は、日常生活にさほど影響がないほどの軽症であれば、末梢神経の過剰興奮性を抑制する薬剤(カルバマゼピン[商品名:テグレトール]、フェニトイン[同:アレビアチン、ヒダントール]、ラモトリギン[同:ラミクタール]、バルプロ酸ナトリウム[同:デパケン]、ガバペンチン[同:ガバペン]など)による対症療法が原則である。この中でAhmedら7)はカルバマゼピンを第1選択としている。症状が強くなるに従い、1種類の薬剤でのコントロールが困難なことが多く、血中濃度や副作用に注意しつつ、数種類の抗てんかん薬を用いることが多い。さらに症状が重篤であり、これらの対症療法が無効な症例、激しい有痛性筋けいれんなどにより日常生活に重大な支障が起こる症例では、血漿浄化療法、免疫グロブリン療法、プレドニゾロン(同:プレドニゾロン、プレドニン)などの免疫療法が試みられる。とくに抗体強陽性例では、免疫吸着療法を含む血漿浄化療法が有効であるとの報告が多く、治療で臨床症状の改善とともに筋電図上の異常放電の減少や抗VGKC抗体の抗体価の低下がみられる7)。経験的には血漿浄化療法の効果は重症筋無力症ほど急速にはみられず、1~2週間程経って徐々に効果がみられることが多く、十分な経過観察が必要である。免疫グロブリン大量療法には有効・無効の両者の報告がある。また、プレドニゾロン単独での効果は明らかではないが、メチルプレドニゾロン(同:メドロール)によるパルス療法が有効な場合もある。しかし、いずれの免疫療法を行った場合も、抗てんかん薬などの併用が必要である。4 今後の展望まずは、簡便で高感度な抗VGKC抗体およびその関連分子(Caspr2)に対する抗体の測定法の確立である。また、VGKC、Caspr2以外のVGKC関連蛋白などの抗原検索も必要である。治療としては、より簡便で副作用の少ない免疫療法の開発が必要であるが、症例数が少ないために有効な治療法の評価ができにくいことが問題である。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が2015年1月1日に施行された。これにより指定難病が一気に拡大され、アイザックス症候群も同年7月に指定された。現在では、重症例は医療費補助の対象となっている。診療、研究に関する情報難病情報センター アイザックス症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)鹿児島大学神経病講座 抗VGKC複合体抗体の測定(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報りんごの会(アイザックス症候群患者とその家族の会)1)Arimura K, et al. Muscle Nerve.2002;11:S55-58.2)Hart IK, et al. Brain.2002;125:1887-1895.3)Irani SR, et al. Brain.2010;133:2734-2748.4)Arimura K, et al. Brain Nerve.2010;62:401-410.5)Arimura K, et al. Clin Neurophysiol.2005;116:1835-1839.6)Klein CJ, et al. JAMA Neurol.2013;70:229-234.7)Ahmed A, et al. Muscle Nerve.2015;52:5-12.8)Tan KM, et al. Neurology.2008;70:1883-1890.9)Watanabe O. Brain Nerve.2013;65:401-411.公開履歴初回2018年02月27日

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循環器内科 米国臨床留学記 第27回

第27回 米国における専門医 Boardの問題点日本で新しい専門医制度が始まり、物議を醸しています。私は米国で内科のレジデンシーと循環器のフェローシップ、不整脈(電気生理学:EP)のフェローシップを修了し、今年は不整脈の専門医試験を受けます。すでに内科、循環器の専門医を持っていますので、3つ目の専門医を持つことになりますが、3つすべてを維持していくのは大変です。しかし米国では、専門医を持たなければその科の専門医として働くことはほとんど不可能です。今回は、米国における専門医の持つ意味や、それにまつわる問題点に触れてみたいと思います。専門医がなければ、就職活動もできないフェローやレジデンシーは、最終年になると就職活動が始まります。内科のレジデンシー修了後に指導医(attending doctor)になる場合は、多くの場合hospitalistとなります。cardiologyやcritical care(集中治療)のフェローを修了した後であれば、cardiology やcritical careの指導医としてのポジションを探します。医師の募集広告には、よく「A hospital is seeking a BC/BE cardiology physician」 など書かれています。レジデンシーやフェローシップ、それらを修了後、専門医試験に合格するまでは、board eligible(BE)などと呼ばれますが、これはboardを受ける資格があるという意味です。フェローシップ終了後、数ヵ月以内に各科の専門医試験があり、それに合格することが前提で病院に雇われます。仮に1回目で落ちてもすぐにクビにはなりませんが、「就職後2年以内」などのルールが採用時に決められているため、その期限内に合格する必要があります。boardに合格すると、晴れてboard certified(BC)となります。医師の名前をインターネットで検索すると、すぐにどの専門医資格を持っているかがわかります。紹介患者以外でも、多くの患者がインターネットの情報を基に医師を選ぶので、専門医資格の有無は重要です。また、医療訴訟が起きた際に、専門医資格がないとかなり不利になってしまうようです。専門医資格の維持私の専門領域である不整脈(EP)の場合、専門医になるためには、まず内科の専門医になる必要があります。その上で循環器の専門医を取得し、最後にEPの専門医を取得します。一度専門医試験に合格すると、10年間は専門医資格が維持されます。その10年の間に医学知識、患者の調査や患者の安全に関するモジュールを行い、筆記試験(MOC試験:Maintenance of Certification)を受ける必要があります。また、内科、循環器、不整脈のすべての専門医資格を維持するとなると、10年間に3つの試験を受けなければなりません。こういった内科系の専門医資格に関しては、アメリカ内科学会(American Board of Internal Medicine: ABIM)が試験や資格維持に関するルールを決めていました。ところが、10年ごとの高額な専門医試験や、そのために重箱の隅をつつくような知識を学ぶことは不必要であり、高額な試験を課すことはABIMによる制度の悪用ではないか(お金を集めるために試験を義務付けている、MOC試験も1,000ドル以上かかる)といった批判の声が上がり、多くのサブスペシャルティがABIMの定めた専門医更新のルールに反対する意向を示しました。多くの医師が、更新直前まで試験勉強や点数集めをしないこともわかっており(この辺りは日本も米国も同じですね)、逆に言うと期限ギリギリまで知識のupdateをしないということになります。こうした点を踏まえ、10年目に慌てて知識を詰め込むよりも、継続した学習が評価されるように専門医維持の方法も変更されました。先述のように、サブスペシャルティの反対もあり、自分の専門領域の資格のみを維持することも認められました。例えば不整脈の場合、内科もしくは循環器の専門医を維持しなくても、不整脈の専門医だけを維持することができます。実際、分業が進む米国で、レジデンシー卒業後10年目に再び内科(とくに他科)の勉強をすることは非常に大変です。このように、米国における専門医維持の方法はここ数年で大きく変わり、今後も変更が予想されます。専門医を維持するために勉強するのは、医師として当たり前のことなので、定期的に知識をupdateするために試験を行うのは個人的には賛成です。しかしながら、普段の臨床からあまりにも逸脱した内容を学ぶことや高額な試験費用には疑問を感じます。とはいえ、試験費用はABIMにとって大きな収入源であり、その上、各専門医団体との利権も絡み合っており、すべての人が納得する制度を作るのは難しいのかもしれません。

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新薬が出ない世界で(1)(解説:岡村毅氏)-808

 現在アルツハイマー型認知症に使用される対症療法薬(アミロイドという疾患の本質には作用しないが臨床症状は改善する薬剤)であるコリンエステラーゼ阻害薬に対して、新薬idalopirdineを追加投与したものの、残念ながら効果はなかった。 20世紀末に文句なしのブロックバスターであったアリセプトが市場に出てから、21世紀も20年の節目が近づきつつあるが、いまだに新しいブロックバスターは出ない(2011年にメマリーというささやかな福音はあったが)。 最高の頭脳を持った神経病理・薬理学者が挑み続けているにもかかわらず、結果が出ないという事実を正面から見据えなければならない。 では、われわれ医療者は呆然と立ち尽くすしかないのだろうか? そんなことはないのである。東京都健康長寿医療センター研究所の粟田 主一研究部長によると、地域在住高齢者の悉皆調査(n=7,614)においては、専門家による認知機能検査、さらに専門医等による臨床診断を経て認知症と判断された方の3割しか、認知症の診断を受けていなかったという(日本公衆衛生学会総会 2017年)。診断すればすべてが解決というものではないが、正しい診断は正しい支援に至る必要条件ともいえる。地域には、新薬どころか、診断されることなく不安にさいなまれている高齢者や、周囲から変な人とされている若年者がいるはずである。地道にこういう方々のために汗をかくことも、われわれの使命ではないだろうか? 最後に、余計な一言。 本研究はSTARSHINE、STARBEAM、STARBRIGHT(いずれも「星の輝き」の意味を持つ)という3つの研究からなるが、なんともかっこいい名前だ、一体どうやって略されたのだろう? ジャーナル四天王をみても、COURAGE試験(勇気)やCALM試験(落ち着き)といったセンスの良いスタディ名が紹介されている。英語圏の「文学」ともいえ、米国東海岸ヒップホップの雄であるWu-Tang ClanにはC.R.E.A.M.というヒット曲があるが“Cash, Rules, Everything, Around, Me”の略である。英語を母語としないわれわれには、なかなか同じ土俵では戦えまい。 ちなみに私の同僚である東京都健康長寿医療センター研究所の宇良 千秋氏は、認知症を持つ人が稲作をすることで健康を回復するというRICE研究(Rice-farming Care for the Elderly people with dementia)をされている。スタディ名文学に明るい人(桑島 巖理事長?)がいたら、ぜひいろいろとご教示願いたいところである。

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もっとねころんで読める呼吸のすべて ナース・研修医のためのやさしい呼吸器診療とケア2

医療界が息をのんだ衝撃のベストセラー、あうんの呼吸で続編刊行!「SpO2をモニタリングする意味って何?」「冬に呼吸器疾患が多い理由は?」。これらの質問に、皆さんは自信と根拠をもって即答できるでしょうか? 本書では、そんな新人指導に使えるキソ知識から、「喘息と咳喘息の違い」といった非専門医でも悩むことがあるポイントまで、毎日膨大な海外文献を読みこんでいるDr.倉原流エッセンスがてんこ盛り!前作で好評だったマンガもさらにパワーアップした形で収録。ねころぶぐらいリラックスして読んでいるうちに、現場で役に立つ知識がすっと身についている……そんな1冊です。おまけとして、臨床で役に立たない(かもしれない)けど、ついつい誰かに話したくなる「くしゃみの時速は何kmか」「寝るときにブラジャーをつけると呼吸器によくないか否か」といった、トリビア的なコラムも満載!!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    もっとねころんで読める呼吸のすべてナース・研修医のためのやさしい呼吸器診療とケア2定価2,000円 + 税判型A5判頁数152頁発行2016年7月著者倉原 優(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター 内科)Amazonでご購入の場合はこちら

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再生不良性貧血〔AA : aplastic anemia〕

再生不良性貧血のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義再生不良性貧血は、末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする症候群である。同じ徴候を示す疾患群から、概念のより明確なほかの疾患を除外することによって診断することができる。病気の本態は「骨髄毒性を示す薬剤の影響がないにもかかわらず、造血幹細胞が持続的に減少した状態」である。再生不良性貧血という病名は、鉄欠乏性貧血や悪性貧血などのように、不足している栄養素を補充すれば改善する貧血とは異なり、血液細胞が再生しにくいという意味で付けられたが、治療方法が進歩した現在では、再生不良性貧血の骨髄は必ずしも「再生不良」とはいえないので、この病名は現実に即さなくなってきている。■ 疫学臨床調査個人票による調査では、2004~2012年の9年間の罹患数は約9,500(年間約1,000人)、罹患率は8.2(/100万人年)と推計された。罹患率の性比(女/男)は1.16であり、男女とも10~20歳代と70~80歳代でピークが認められ、高齢のピークの方が大きかった1)。これは欧米諸国の約3倍の発生率である。■ 病因成因によってFanconi貧血、dyskeratosis congenitaなどの先天性と後天性に分けられる。後天性の再生不良性貧血には原因不明の一次性と、クロラムフェニコールをはじめとするさまざまな薬剤や放射線被曝・ベンゼンなど化学物質による二次性がある。一次性(特発性)再生不良性貧血は、何らかのウイルスや環境因子が引き金になって起こると考えられているが詳細は不明である。わが国では特発性が大部分(90%)を占める。また、そのほかに特殊型として肝炎後再生不良性貧血は、A型、B型、C型などの既知のウイルス以外の原因による急性肝炎発症後1~3ヵ月で発症する。若年の男性に比較的多く重症化しやすいが、免疫抑制療法に対する反応性は特発性再生不良性貧血と変わらない。再生不良性貧血-発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)症候群は、臨床的には再生不良性貧血でありながら、末梢血中にglycosylphosphadidylinositol(GPI)アンカー膜蛋白の欠失した血球が増加しており、溶血を伴う状態を指す。そのなかには、発症時から再生不良性貧血‐PNH症候群状態のもの(骨髄不全型のPNH)と、再生不良性貧血と診断されたのち長期間を経てPNHに移行するもの(二次性PNH)の2種類がある。再生不良性貧血の重症度は、血球減少の程度によって表1のように5段階に分けられている1)。画像を拡大する特発性再生不良性貧血の約70%は抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG、商品名:サイモグロブリン)やシクロスポリン(CsA〔同:ネオーラル〕)などの免疫抑制療法によって改善することから、免疫学的機序による造血幹細胞の破壊・抑制が多くの例で関与していると考えられている。しかし、免疫反応の標的となる自己抗原は同定されていない。再生不良性貧血の約60%に、GPIアンカー膜蛋白の欠失したPNH形質の血球(PNH型血球)が検出されることや、第6染色体短腕の片親性二倍体により細胞傷害性T細胞からの攻撃を免れて造血を支持するようになった造血幹細胞由来の血球が約25%の例で検出されること2,3)などが、免疫病態の関与を裏付けている。一方、Fanconi貧血のように、特定の遺伝子異常によって発症する先天性再生不良性貧血が存在することや、特発性再生不良性貧血と診断されていた例のなかにテロメラーゼ関連の遺伝子異常を持つ例があることなどから、一部の例では造血幹細胞自身に異常があると考えられている。ただし、これらの遺伝子異常が検出される頻度は非常に低い。免疫抑制療法が効かない再生不良性貧血例のなかには、骨髄が脂肪髄であったために再生不良性貧血として治療されたが、その後短期間で異常細胞が顕在化し、診断が造血器悪性腫瘍に変更される例も含まれている。さらに、免疫抑制療法が効かないからといって、必ずしも免疫病態が関与していないという訳ではない。そのなかには、(1)免疫異常による発病から治療までの時間が経ち過ぎているために効果が出にくい、(2)免疫抑制療法の強さが不十分である、(3)免疫学的攻撃による造血幹細胞の枯渇が激しいために造血が回復しえない、などの理由で免疫抑制療法に反応しない例もある。このため、発病して間もない再生不良性貧血のほとんどは、造血幹細胞に対する何らかの免疫学的攻撃によって起こっていると考えたほうがよい。■ 症状息切れ・動悸・めまいなどの貧血症状と、皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向がみられる。好中球減少の強い例では発熱がみられる。軽症・中等症例や、貧血の進行が遅い重症例では無症状のこともある。他覚症状として顔面蒼白、貧血様の眼瞼結膜、皮下出血、歯肉出血などがみられる。■ 予後かつては重症例の50%が半年以内に死亡するとされていた。最近では血小板輸血、抗菌薬、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの支持療法が進歩し、免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため、約7割の患者が輸血不要となるまで改善し、9割が長期生存するようになっている。一部の重症例や、発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血を必要とする。赤血球輸血が40単位を超えると糖尿病・心不全・肝障害などの鉄過剰症による症状が現れる。最近では、デフェラシロクス(商品名:エクジェイド)による鉄キレート療法が行われるようになったため、輸血依存例の予後の改善が期待されている。一方、免疫抑制療法により改善した長期生存例の約5%が骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)、5~10%がPNHに移行する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 末梢血所見通常は赤血球、白血球、血小板のすべてが減少する。重症度の低い例では貧血と血小板減少だけしか認めないこともある。急性型では正球性正色素性、慢性型では通常大球性を示し、すべての例で網赤血球の増加を伴わない。重症例では好中球だけではなくリンパ球も減少する。■ 血液生化学検査血液生化学検査では血清鉄、鉄飽和率、血中エリスロポエチン値、トロンボポエチン値などの増加がみられる。とくにトロンボポエチンの増加は、前白血病状態との鑑別に重要である。トロンボポエチンが300pg/mL未満であれば再生不良性貧血は否定的である4)。■ 骨髄穿刺・生検所見再生不良性貧血と診断するためには両者を行うことが必須である。骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少している。なかでも巨核球・幼若顆粒球・赤芽球の著しい減少が特徴的である。骨髄細胞が残存している場合には多くの例で赤芽球に異形成が認められる。好中球にも異形成を認めることがあるが、その割合が全好中球の10%を超えることはない。巨核球は減少しているため、異形成の有無は評価できないことが多い。ステージ4までの再生不良性貧血では、穿刺する場所によって骨髄が正形成または過形成を示すことがあるが、そのような場合でも巨核球は通常減少している。染色体は原則として正常であるが、病的意義の明らかでない染色体異常を少数認めることがある。■ 病理腸骨からの骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少し、重症例では完全に脂肪髄化する(図1)。ただし、ステージ 1~3の患者では、細胞成分の多い部分が残存していることが多い。画像を拡大する■ 骨髄MRI骨髄穿刺・生検で評価できる骨髄は一部に限られるため、骨髄細胞密度を評価するためには胸腰椎を脂肪抑制画像で評価することが望ましい。重症再生不良性貧血例の胸腰椎をMRIで検索するとSTIR法では均一な低信号となり、T1強調画像では高信号を示す。ステージ3より重症度の低い例の胸腰椎画像は、残存する造血巣のため不均一なパターンを示す。■ フローサイトメトリーによるCD55・CD59陰性血球の検出Decay accelerating factor(DAF、CD55)、homologous restriction factor(HRF、CD59)などのGPIアンカー膜蛋白の欠失した血球の有無を、感度の高いフローサイトメトリーを用いて検索すると、明らかな溶血を伴わない再生不良性貧血患者の約半数に少数のCD55・CD59陰性血球が検出される。このようなPNH形質の血球陽性例は陰性例に比べて免疫抑制療法が効きやすく、また予後もよいことが知られている5)。■ 診断基準・鑑別診断わが国で使用されている診断基準を表2に示す1)。画像を拡大する再生不良性貧血との鑑別がとくに問題となるのは、MDS(2008年分類)のなかでも芽球の割合が少ないrefractory cytopenia with unilineage dysplasia(RCUD)、refractory cytopenia with multilineage dysplasia(RCMD)、idiopathic cytopenia of undetermined significance(ICUS)、骨髄不全の程度が強いPNH、欧米型の有毛細胞白血病などである。RCUD、RCMDまたはICUSが疑われる症例において、巨核球増加を伴わない血小板減少や血漿トロンボポエチンの上昇がみられる場合には、再生不良性貧血と同様の免疫病態による骨髄不全を考えたほうがよい。PNH形質血球の増加がみられる骨髄不全のうち、網赤血球の増加(>10万/μL)、正常上限の1.5倍を超えるLDH値の上昇、間接ビリルビンの上昇、ヘモグロビン尿などの溶血所見がみられる場合には、骨髄不全型PNHと診断する。骨髄生検上細網線維の増加や、血清可溶性インターロイキン2レセプター値の著増などがみられる場合は、有毛細胞白血病を疑う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステージ1、2に対する治療輸血を必要としないこの重症度で、血球減少の進行がみられない場合には、血球減少が自然に回復する可能性があるため、無治療で経過をみることが勧められてきた。しかし、再生不良性貧血では診断から治療までの期間が長くなるほど免疫抑制療法の奏効率が低くなるため、診断後はできるだけ早期にCsAを投与して効果の有無をみたほうがよい。とくに血小板減少が先行する例は、免疫抑制療法に反応して改善することが多いので、血小板減少が軽度であっても、少量のCsAを短期間投与し反応性をみることが望ましい。図2は筆者の私案を示している。画像を拡大する■ 重症例(ステージ3以上など)に対する治療この重症度の患者に対する治療方針(筆者私案)を図3に示す。画像を拡大する患者が40歳以下でHLAの一致する同胞ドナーが得られる場合には、同種骨髄移植が第一選択の治療方法である。とくに20歳未満の患者では治療関連死亡の確率が低く、長期生存率も90%前後が期待できるため、最初から骨髄移植を行うことが勧められる。40歳以上の高齢患者に対してはATG・CsAか、ATG・CsA・エルトロンボパグ(ELT〔商品名:レボレード〕)併用療法を行う。サイモグロブリンの市販後調査によると、ステージ4・5例およびステージ2・3例におけるATG+CsAの有効率はそれぞれ44%(219/502)、64%(171/268)とされている。ELTは、ATG+CsAと同時またはATG+CsAの2週間後から併用することにより、ウマATG+CsAの有効率が90%まで向上することが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の臨床研究により示された6)。日本でも2017年8月より保険適用が認められ、初回のATG+CsA療法後に併用することが可能になっている。これにより、日本で唯一使用できるサイモグロブリンの有効率が高まる可能性がある。ただし、NIHの臨床試験では、2年間で約12%の症例に、第7染色体異常を中心とする新たな染色体異常が出現していることから、ELT併用によって異常造血幹細胞の増殖が誘発される可能性は否定できない。このため、若年患者に対する初回治療にELTを併用するかどうかは、患者の重症度、罹病期間、免疫病態マーカーの有無などを考慮して判断することが勧められる。とくに、治療前に骨髄FISH検査で第7染色体欠失細胞がないかどうかを確認する必要がある。保険で認められているサイモグロブリンの投与量は2.5~3.75mg/kgと幅が広く、至適投与量についてはよく分かっていない。サイモグロブリンは、リンフォグロブリンに比べて免疫抑制作用が強いため、サイトメガロウイルスやEBウイルスの再活性化のリスクが高いとされている。このため、治療後2~3週以降はできる限り頻回にEBウイルスコピー数をモニタリングする必要がある。重症例のうち初診時から好中球がほとんどなく、G-CSF投与後も好中球がまったく増えない劇症型の場合には、緊急的な臍帯血移植やHLA部分一致血縁ドナーからの移植適応がある。■ 難治例に対する治療免疫抑制療法が無効であった場合、初回治療としてELTが使用されなかった例に対しては約40%にELTの効果が期待できる7)。メテノロンやダナゾール(保険適用外)も重症度の低い一部の例には有効である。これらの薬物療法にすべて抵抗性であった場合には、非血縁ドナーからの骨髄移植の適応がある。支持療法としては、貧血症状の強さに応じて、ヘモグロビンで7g/dL以上を目安に1回あたり400mLの赤血球濃厚液‐LRを輸血する。輸血によって血清フェリチン値が1,000ng/mL以上となった場合には経口鉄キレート剤のデフェラシロクスを投与し、輸血後鉄過剰症による臓器障害を防ぐ。血小板数が1万/μL以下となっても、明らかな出血傾向がなければ予防的血小板輸血は通常行わないが、感染症を併発している場合や出血傾向が強いときには、血小板数が2万/μL以上となるように輸血を行う。4 今後の展望再生不良性貧血の発症の引き金となる自己抗原が同定されれば、その抗原に対する抗体や抗原特異的なT細胞を検出することによって、造血幹細胞に対する免疫的な攻撃によって起こった骨髄不全、すなわち再生不良性貧血であることが積極的に診断できるようになる。自己抗原やそれに対する特異的なT細胞が同定されれば、現在用いられているATGやCsAのような非特異的な免疫抑制剤ではなく、より選択的な治療法が開発される可能性がある。また、近年使用できるようになったELTは、治療抵抗性の再生不良性貧血に対しても約40%に奏効する画期的な薬剤であるが、どのような症例に奏効し、またどのような症例に染色体異常が誘発されるのか(ELTを使用すべきではないのか)は不明である。これらを明らかにするために前向きの臨床試験と定期的なゲノム解析が必要である。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)特発性造血障害に関する調査研究班(資料)(再生不良性貧血診療の参照ガイドがダウンロードできる)公的助成情報難病情報センター 再生不良性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報再生つばさの会(再生不良性貧血の患者と家族の会の情報)1)再生不良性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ. 再生不良性貧血診療の参照ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特発性造血障害に関する調査研究班:特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド(平成22年度改訂版); 2011. p3-32.2)Katagiri T, et al. Blood. 2011; 118: 6601-6609.3)Maruyama H, et al. Exp Hematol. 2016; 44: 931-939 e933.4)Seiki Y, et al. Haematologica. 2013; 98: 901-907.5)Sugimori C, et al. Blood. 2006; 107: 1308-1314.6)Townsley DM, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1540-1550.7)Olnes MJ, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 11-19.公開履歴初回2013年09月26日更新2018年01月23日

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経済的インセンティブで、医療の質は改善しない/BMJ

 OECD加盟国では医療の質改善に経済的インセンティブを用いており、低・中所得国でその傾向が増大している。ただ、先頭を走っているのは米国と英国であり、他国は両国の施策をモニタリングし導入を決定している状況にある。米国ではここ10年で、病院医療の質改善にインセンティブを与えることは一般的になっているが、先行研究で「P4P(Pay for Performance)プログラムは、臨床的プロセスへの影響は限定的で、患者アウトカム改善や医療費削減に影響を及ぼさない」ことが示されている。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のIgna Bonfrer氏らは、これまで行われていなかった、米国における時期の異なる2つのプログラム(HQID[2003~09年]、HVBP[2011年~])参加病院の、インセンティブの影響について比較する検討を行った。その結果、HQIDから参加し10年以上インセンティブを受けている病院が、HVBPからの参加病院と比べて、医療の質が優れているというエビデンスは認められなかったという。BMJ誌2018年1月3日号掲載の報告。P4P初期採択病院と後期採択病院の臨床的プロセススコアと30日死亡率を比較  HQID(Premier Hospital Quality Incentive Demonstration)は、2003~09年にメディケア・メディケイドサービスセンターによって実行された任意参加のプログラムで、それをモデルに開発され、Affordable Care Act(ACA、通称オバマケア)でナショナルプログラムとして採択されたのがHVBP(Hospital Value- Based Purchasing)である。 研究グループは、HQIDに任意参加した病院(初期採択病院)と、HVBPの施策導入によってインセンティブを受けるようになった病院(後期採択病院、規模・地域などで適合)について、臨床的プロセススコアと30日死亡率を比較する観察研究を行った。30日死亡率については、3つの疾患(急性心筋梗塞・うっ血性心不全・肺炎:標的疾患)とそれ以外の疾患(非標的疾患)について評価した。 対象は、1,189病院(初期採択病院214、適合後期採択病院975)で、2003~13年のHospital Compare(米国政府下で消費者のために開設されている病院比較サイト)のデータを用いた。解析に含まれた患者は65歳以上の137万1,364例。全例がメディケア被保険者であった。インセンティブがあってもなくても10年経ったら同レベルに ベースライン(2004年)時の臨床的プロセススコア(平均値)は、初期採択病院91.5点、後期採択病院89.9点で、初期採択病院のほうがわずかだが高かった(スコア差:-1.59、95%信頼区間[CI]:-1.98~-1.20)。しかし、初期採択病院のHQID期間中の改善は小さく(年間変化:2.44点 vs.2.65点、スコア差:-0.21、95%信頼区間[CI]:-0.31~-0.11)、それでもHVBP導入前は後期採択病院よりもわずかだが高いスコアを維持していたが(スコア差:-0.55、95%CI:-1.01~-0.10)、ベースラインから10年後(2014年)のHVBP導入後では、両群とも同レベルの上限値(98.5点 vs.98.2点)に達しており、差は認められなくなっていた。 30日死亡率についても、ベースライン時の標的疾患の同値は12.2% vs.12.5%で、HQID期間中は両群ともに同様に低下し、HVBP期間中の同値は9.4% vs.9.7%で差はみられなかった(HVBP導入前 vs.導入後の傾向の%差:0.05%、95%CI:-0.03~0.13、p=0.25)。非標的疾患の30日死亡率についても同様に差は認められなかった(同%差:-0.02%、95%CI:-0.07~0.03)、p=0.48)。 結果を踏まえて著者は、「P4Pプログラムと、米国の不明瞭な医療政策アジェンダに世界中の関心が高まっている中で、政策立案者は意味のある効果を得ようと時間を費やすのならば、プログラムはインセンティブを増大するが、医業を変える手段としては不十分なこと、患者にとって最も重要な測定値(死亡率、患者の経験、機能状態)を絞り込むことを、考えるべきである」と提言している。

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第6回HBOCコンソーシアム学術総会 会長インタビュー

第6回HBOCコンソーシアム学術総会が本年(2018年)1月20日~21日に開催される。今大会の開催への思いと見どころについて、会長である聖路加国際病院 副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長の山内 英子氏に聞いた。 今回の学術総会はHBOC(遺伝性乳癌卵巣癌症候群、Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome)診療について、多方面から取り上げています。私がアメリカに留学中の1994年、三木 義男先生(現:がん研究所遺伝子診断研究部部長)によるBRCA遺伝子発見のニュースを知り、「がんの原因遺伝子が発見された。これでがんが無くなるかもしれない」と大きな話題となりました。その後、BRCA2遺伝子も発見され、アメリカで臨床を始めた時期には、遺伝子検査が導入され始めていました。片側の乳がん患者さんでも、両側乳房全摘術を行っている場合があるのに、カルテに理由が書かれていない。疑問に思っていると、実は「BRCA遺伝子検査が陽性であったので予防的切除を受けた」という時代でした。その後、遺伝子検査の実施に関係なく、両側乳房全摘術を受けた患者さんすら見るようになりました。2009年に日本へ帰国後、中村 清吾先生(HBOCコンソーシアム理事長、現:昭和大学病院乳腺外科教授)と遺伝性腫瘍について、臨床と研究の両面で取り組みを継続しました。「日本ではHBOC患者は少ないのではないか?」という意見もまだ多かった時期でした。アメリカではすでに予防的切除も含めて選択できる時代でしたから、「女性が平等に選択肢を得られる」診療体制を整えることに注力しました。こうした中で2013年、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが将来の乳がんを予防するために両側切除術を受けたというニュースが、日本で大きな注目を集めました。色々なメディアで、予防的乳房・卵巣卵管切除術や遺伝子検査について取り上げられたのです。私は社会に正しい知識を広めることが必要と考え、同年8月には書籍を執筆しました。(「乳癌って遺伝するの?」主婦の友社刊)。1日目の市民公開講座には、「話そう、シェアしよう」というタイトルが付いています。この本には、HBOC患者さんの一人が当事者として、手記を寄せてくださいました。もちろん、患者さん自身も大変悩んでいらっしゃるのですが、葛藤を含めて客観的に表現していただきました。きっと彼女のストーリーを知り、勇気をもらう方も多いのではないでしょうか? 市民公開講座でも、ご本人からお話しいただける予定です。また、私がHBOCの最新知識について講演を行います。その後にGirl’s Talkとして、実際にBRCA遺伝子検査を受けて陰性であった方、検査を受けるべきか現在も悩んでいる方、未発症だけれども検査陽性で予防的切除を行った方に、登壇いただきます。それぞれ、ご自身の思いを率直に語っていただき、シェアしてもらうための市民公開講座です。2日目は、各科が連携して関わるべきHBOC診療を第一線の医師が議論する、意欲的なプログラムですね。かつて「日本人のHBOCは、アメリカ人ほど多くない」と言われていた時代から、知見も大きく変化し、エビデンスもたくさん出てきて、実臨床に入ってきています。このため、2日目はプラクティカルなHBOC診療を、幅広く取り上げることにしました。それを表すために「実戦!THE NEXT STEP」という大きなテーマを掲げています。シンポジウム1では、実践的に何ができるかを、チーム医療の観点で取り上げます。HBOC診療を日々行っていると、看護師や遺伝カウンセラーなどと素晴らしいチームを作ることが、非常に重要だと感じます。けれども多くの乳腺外科医にとって、遺伝カウンセラーと協力していくことは、これからの新しいチーム医療です。そこで、発表いただくチームはさまざまな規模の病院からの公募制にして、他のチームと実践的な内容を当日から共有できるように工夫しました。チーム同士が今後もお互いに繋がりを持てるよう、抄録集の構成も工夫しています。医療現場での課題や実践方法は、会場の聴講者にもアナライザーのアプリを使って質問します。「家族歴を誰が聴取しているのか?」といった具体的な方法も含めて、会場全体で本当の意味でのプラクティカルな実践をわかっていただく内容です。ランチョンセミナーでは、当事者の声としてHBOCの方に話していただく演題もあります。午後のプログラムでは、より実臨床に踏み込んだ発表が続きますね?シンポジウム2では、当科に対して全国の病院から寄せられるご質問、たとえば「リスク低減手術はどうしているのか?」「患者さんにどのように説明している?」「同意書はどういった内容か?」「手術手技のコツは?」などを、皆で共有できるようにしています。抄録集には、各病院でHBOC診療を担っている先生たちの、熱い意気込みも書かれています。シンポジウム3は、サーベイランスがテーマです。乳房MRIでのフォローや、他の遺伝性腫瘍についてもご発表いただきます。とくにリ・フラウメニ(Li-Fraumeni)症候群は、TP53遺伝子の変異のため、小児から全身どこにでも腫瘍が発症する可能性がある。こうした遺伝性腫瘍についても、HBOCだけでなく広く知っていただく必要があると思います。シンポジウム4では、HBOCの前立腺がんをテーマとしました。乳がんや卵巣がんから、女性の疾患とつい考えがちですが、HBOCは若い男性のアグレッシブな前立腺がんにも関わっています。泌尿器科と密に連携すべきステップまで、実は考えなければいけないのです。泌尿器科では前立腺がんの全員に家族歴を聞いていないかもしれないので、開業医を含めて知っていただく必要があります。膵がんも含めて、男性のがんにもHBOCが関わっているという認識を医師に広げていく必要があります。日常診療とHBOCは、実は深く関わっているわけですね?今回の学術総会は、HBOC診療に対してプラクティカルなものにしたいと願っています。実際、どの医師の目の前にも、HBOCで困っている患者さんが現れる可能性があります。遺伝性腫瘍の特徴は、その患者さんだけで治療は終わらないことです。たとえば、親族の男性がBRCA遺伝子検査陽性であれば、前立腺がんのサーベイランスを医師が考慮すべきなのです。これからのHBOC診療は今にも増して、「多診療科・チーム医療」でサポートしなければいけません。家族を含めてHBOCを診ていかなければいけないのです。日本でも、開業医が担うべきHBOC診療ということですね?そうです。アメリカではプライマリケアの先生が、患者さんの家族歴をすべて把握していて、遺伝子検査を積極的に勧めたり、その遺伝的背景に基づいて検診を組んでいくことが多いです。日本でも、開業医の先生方の協力なしに、遺伝性腫瘍を見つけ、がんの発症を防いでいくことは難しいと思います。これまでのような疾患ごとの治療ではなく、高齢化社会の中で、日本のプライマリケアの先生たちが「病気を発症しないように」大きな役割を果たしていくのです。むしろ、開業医こそ、積極的に関与していく。HBOCを含む遺伝性腫瘍をプライマリケアの中で発見していただき、私たちのような専門医へ紹介する舵取りを、広く担っていただくべきでしょう。発症予防を担い、1次予防すら遺伝子検査でできる時代です。もし、体調不良の患者さんの家族歴を聴取したときに、HBOCのような遺伝性腫瘍について知識があれば、専門医へ速やかに紹介することができます。日本には潜在的なHBOC患者さんがまだいるはずですから、リスク低減手術よりもさらに前に、本当の意味での発症予防を目指すべきです。今回の学術総会では、こうした多岐にわたるテーマを活発な議論によって掘り下げていきたいと考えています。第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会会期:2018年1月20日(土)13:30~15:30 市民公開講座2018年1月21日(日)9:00~17:00 学術総会場所:聖路加国際大学アリスホール〒104-0044 東京都中央区明石町10番1号学術総会ホームページ :http://hboc.jp/meeting/山内 英子氏の編著書実践! 遺伝性乳がん・卵巣がん診療ハンドブックメディカ出版乳がんって遺伝するの?主婦の友社マンガでわかる乳がん主婦の友社

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第51回

第51回:予後を正確に知るとQOLが下がる? …コミュニケーションの話キーワード肺がんメラノーマ動画書き起こしはこちらこんにちは。ダートマス大学腫瘍内科の白井敬祐です。最近うちの科の抄読会で話題になったのはJournal of Clinical Oncology…JCOですね。あのTemelさん、2010年に、New England Journal of Medicineに、Massachusetts General Hospitalで行われたRandomized Trialで、早期から緩和ケアが介入したほうが、QOLが上がるだけではなく予後も2~3ヵ月、StageIVの肺がん患者で伸びたといって、ずいぶん話題になったんですけど…その筆頭著者のJennifer Temel先生が書いた「予後を正確に知った患者さんのほうが、QOLが下がる」という、少し衝撃的な論文がJCOに出ていました。たとえばStageIVの患者さんに僕らはよく、「残念ながら、がんの状況はNon Curable…治癒をゴールした状況ではありません。ただ、がんはコントロールできるかもしれないし、抗がん剤を使うことで症状を防いだり(症状が)出てくるのを遅らせ、QOLを維持することができる可能性が高いので治療しましょう」という説明をするんですけども。そのNon Curable Cancer、「自分のがんが治るわけではない」ということがわかった患者さんのほうが、QOLのスコアは下がると(いうことです)。今まで多くの緩和医療のStudyでは、予後を告知したり、そういう話題に対してしっかりと向き合うことは必ずしもQOLには影響しない、むしろ準備ができて悪いことはない、という感じの論調が多かったんですけども。今回のStudyでは、QOLのスコアが少し低く出たと報告されていました。正確に自分のがんの状態を理解するというのは…「正確に」とは何を意味するのか…本当に難しいですよね。肺がんについて、統計学的な数値をわかることが正確に理解したことになるのか? そうではないですよね。1人の患者さんはそれぞれ違うので、統計学的なことを知っても、ご本人がそれに当てはまるかどうかというのは、まったく別の話なので。そういう意味では問題提起というか、議論のネタになる良い論文だったと思います。興味があれば、読んでいただくと非常に参考になると思います。あと、フェローに「これは絶対必読だからベッドタイムリーディングで読みなさい」ってみんなに勝手に送りつけたんですけれども、ASCOのコミュニケーションガイドラインが出ました。「こういう家族がいたらどのように説明するか」「こういう患者さんがいたら、家族がいたら、どうサポートするのが良いのか」、本当によく書かれています。細かいところまで配慮してrecommendationを入れているのだなと、編集委員の方の苦労が伝わってくるような、非常に良いガイドラインだと個人的には思います。これもチャンスがあれば読んでいただけると非常に良いと思います。僕はフェローに「絶対読め」と言いましたけど。コミュニケーション能力については僕も興味があり、今度ワークショップに参加することになりました。Atul Gawandeというハーバード大学の外科医がいるのですが…皆さんも本を読まれたことあるかもしれないですが、『Being Mortal』という本を出されていて日本語訳にもなっているんですけども…彼は医療の質を上げるようなシンクタンク(?)そういう組織のトップになっていて、コミュニケーションだけではなく、チェックリストを作ることで、いかにComplicationを減らす…『Complications』という題の本を出しているんですね…手術のエラーとか、あるいは医療のミスをどうやったらコントロールできるのか、ということに興味を持たれている外科医です。非常に暖かい人で、何年か前の緩和ケアの学会で、『Being Mortal』が出たときに、本にサインしてもらうために並んだ記憶があります。彼が今やっているプロジェクトの1つ、SICG(Serious Illness Conversation Guide)では、重篤な病状の患者さんあるいは家族と、どのようにコミュニケーションを取るのが良いのかということについて、いろいろと模索をしています。そのSerious Illness Conversation Guideのワークショップに、科を代表して数人の同僚と一緒に参加します。そこでは、どういうシナリオを使って、フェローにあるいはレジデントにコミュニケーションの大切さを伝えるか、ということについて研修を積んでくる予定です。この話もぜひ(次回以降お話し)できたらと思うので、がんばって吸収してきます。Jennifer S. Temel JS, et al.Early Palliative Care for Patients with Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer.N Engl J Med. 2010;363:733-742.Nipp RD, et al. Coping and Prognostic Awareness in Patients With Advanced Cancer.J Clin Oncol.2017 ;35:2551-2557. Gilligan T, et al.Patient-Clinician Communication: American Society of Clinical Oncology Consensus Guideline.J Clin Oncol.2017;35:3618-3632. Atul Gawande著 Being MortalAtul Gawande著 ComplicationAtul Gawande著 The Checklist Manifesto: How To Get Things RightThe Conversation Project

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航空券予約時、Dr にチェックをすべきか?【Dr. 中島の 新・徒然草】(199)

百九十九の段 航空券予約時、Dr にチェックをすべきか?2017年9月7日の「機長からの手紙」では、国際線の航空機の中でのドクター・コールに名乗り出た経験を述べました。後日、この経験についての同僚との会話で、名前の敬称欄のチェックに話が及びました。同僚「航空券を予約するときに名前の入力でな、Mr か Ms か Dr か、選んでチェックする欄があるやろ」中島「確かにありますね」同僚「あそこの Dr の欄にチェックした場合はな、ドクター・コールに応じます、という意味なんや」中島「ええーっ! 今まで何も考えずに Dr にチェックしていました」同僚「僕なんか、あまり呼ばれたくない時には Mr の所にチェックしとるんや」中島「そうですか、知らんかった!」同僚「そやから文学博士や工学博士がうっかり Dr の欄にチェックしたら、緊急事態の時にえらい事になるで」中島「ひえーっ!」とはいえ、これは本当の事なのでしょうか? たまたま何かの会合で日本の航空会社の方と一緒になったので、尋ねてみました。そうするとキチンと調べた上で回答してくれたので、皆さんにも紹介しておきたいと思います。まずは結論から。Dr の欄は単なる敬称で、ドクター・コールとは何の関係もない良かったですね。Dr 欄にチェックしたからといって呼ばれるわけではないそうです。そもそも世界の航空会社の中には予約時に Dr 欄のないところがたくさんある一方、Mr、Ms、Dr のほかに Prof とか Prof Dr とか、ありったけの選択肢を並べているところもあるそうです。ということで、以下は私が尋ねた航空会社の方による要約 1.Academic Title は、医学に限定するものではありませんので、医学博士に限らずほかの分野でも Dr で登録することが可能です。2.機内での緊急医療が必要な際は、予約時の Title から個別にお声かけするものではありません。あくまでも客室全体にお声かけし、医師であるお客様ご自身からの申し出を待つことになります。ただし、Doctor on Board のようなドクター登録制度がある場合には、登録済で搭乗されている医師に直接お声かけすることになります。 それと、この会社では米国アリゾナ州にある MedAire社と契約して、無線通信による地上からの医学的アドバイスを受けることができるシステムを持っているそうです。「契約の範囲は自社機材運航便のみ」とか「アドバイス要請は当社乗務員の判断による」など、ちょっとした制約はあるものの、このような裏ワザがあるということも知っておくと心強いですね。実際、医学生時代にドクター・コールに応じ、地上からのアドバイスを受けながら患者さんを診察した、とある英国人医師が私に語ってくれました。「勇気ありますねえ!」と言ったら、"Why not?" と返されました。このような情報が読者の皆様のお役に立つことがあれば幸いです。最後に1句呼ばれたら つべこべ言わず 名乗り出ろ!もう1句、本音ベースで呼ばれても まだまだ僕は 修業の身!

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リバーロキサバン、下肢末梢動脈疾患に効果/Lancet

 安定末梢動脈/頸動脈疾患患者に対する1日2回投与の低用量リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)+アスピリン1日1回の併用投与は、アスピリン単独投与に比べ、主要有害心血管・下肢イベントリスクを有意に低減することが、カナダ・マックマスター大学のSonia S. Anand氏らによる無作為化プラセボ対照二重盲検試験で示された。大出血は増大したが、致死的出血や重大臓器の出血は増大せず、著者は、「この併用療法は、末梢動脈疾患患者の治療において重大な進化を意味するものだ」と述べている。なお、リバーロキサバン単独(5mg)ではアスピリン単独と比べて、主要有害心血管イベントは有意に低減せず、主要有害下肢イベントは低減したが大出血の増大が認められたという。Lancet誌オンライン版2017年11月10日号掲載の報告。7,470例を3群に分けアウトカムを比較 研究グループは2013年3月12日~2016年5月10日に、6大陸33ヵ国602ヵ所の医療機関(病院、クリニック、コミュニティ診療所[community practices])を通じて試験を行った。下肢末梢動脈疾患歴(末梢動脈バイパス術または血管形成術、手足切断術、末梢動脈疾患の客観的エビデンスを伴う間欠性跛行のいずれかを既往)、頸動脈疾患歴(頸動脈血行再建術または50%以上の無症候性頸動脈狭窄がある患者)、または足関節上腕血圧比(ABI)0.90未満の冠動脈疾患歴がある患者を対象とした。 30日間のrun-in期間の後、558施設からの登録被験者7,470例を無作為に3群に分け、リバーロキサバン(2.5mg)1日2回とアスピリン(100mg)1日1回(併用群)、リバーロキサバン(5mg)1日2回とプラセボ1日1回(リバーロキサバン単独群)、アスピリン(100mg)1日1回とプラセボ1日2回(アスピリン単独群)を、それぞれ経口投与した。 主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の発生だった。また、主要末梢動脈疾患アウトカムは、大切断術を含む主要有害下肢イベントとした。低用量+アスピリン投与にベネフィット 治療期間中央値は、21ヵ月だった。主要複合エンドポイント発生率は、アスピリン単独群が7%(174/2,504例)だったのに対し、併用群は5%(126/2,492例)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.57~0.90、p=0.0047)。また、大切断術を含む主要有害下肢イベントも、各群2%、1%で、併用群が有意に低かった(HR:0.54、95%CI:0.35~0.82、p=0.0037)。 一方、リバーロキサバン単独群の主要複合エンドポイント発生率は6%(149/2,474例)で、アスピリン単独群に比べ有意な低下は認められなかった(HR:0.86、95%CI:0.69~1.08、p=0.19)。しかし、大切断術を含む主要有害下肢イベント発生率は2%(40例)で、アスピリン単独群2%(60例)に比べ有意に低かった(HR:0.67、95%CI:0.45~1.00、p=0.05)。 大出血イベントの発生率は、アスピリン単独群2%(48例)に対し、併用群は3%(77例)と有意に高率だった(HR:1.61、95%CI:1.12~2.31、p=0.0089)。同様に、リバーロキサバン単独群の同発生率は3%(79例)で、アスピリン単独群に比べて有意に高率だった(HR:1.68、95%CI:1.17~2.40、p=0.0043)。ただし、治療群間のいずれの比較においても、致死的出血・非致死的頭蓋内出血・重大臓器出血について差はみられなかった。

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第1回 開業は最初が肝心!【開業入門】

第1回 開業は最初が肝心!多くの先生方は、医療機関で日々臨床経験を積み、技術を磨かれています。そして、ある程度の年齢になると、「そのまま勤務医を続けるか」、「開業するか」という選択肢が頭をよぎり始めます。「開業」とは、医師が診療所を開設することを意味し、それは一国一城の主になることを意味します。開業するということは、勤務医とは違い、臨床家としてだけではなく、経営者になることも意味します。資金調達や官公庁とのやり取り、職員採用や労務管理といった人材マネジメント、患者集めといったマーケティングなど、多様な経営知識も必要となります。実際、開業された先生方と接していると、開業してから「あの時こうしておけば良かった」とか、「あの人はこう言ったのに全然違った」といった声をよく耳にします。この連載では、これから開業をしようと考えている先生方が、できるだけ残念な経験をされないよう、開業に至るまでのリアルをわかりやすくお伝えすることを目的とします。 まず、初回は、テクニカルな経営知識の前に、図のように診療所の開業に必要な「決めるべきこと」について一緒に学んでいきましょう。図 開業の前段階の思考フロー画像を拡大する理念策定~なぜ開業したいのか?~開業を考える際に、最も重要なことは「診療所の理念」です。これは自分が「どんな診療所を作りたいか」、「どうやって患者さんの役に立ちたいか」、「どういったスタッフと一緒に働きたいか」など、診療所経営の軸や根っことなるべきものです。具体的な戦術である資金調達やスタッフ採用などは、他のスタッフに任せることもできますが、それはすべて理念に基づいて決まってくるものであり、理念は診療所の経営者である「院長」にしか決めることができないものです。開業を考える際は、まずは自身の「思い」や「理想」にしっかりと向き合い、何があっても揺らがない理念を策定する必要があります。覚悟~すべてを背負う気持ちがあるか?~理念を策定した後に決めるべきことは、「診療所を経営する」ということへの覚悟です。覚悟とは単なる心意気といった類のものではなく、すべてを自らで決め、責任を取り、場合によっては、ご自身の家族にも同等の覚悟を決めてもらう必要があります。開業にあたり多くの場合、土地や建物の取得、医療機器の購入などで多額の負債を背負い、スタッフとその家族の生活までも背負うことになります。借入の保証人は家族となる可能性が高く、開業に伴う生活環境の変化などもあると思います。自分自身が重責を背負い、大切な家族にまで覚悟を持つことを強いてでも開業し、理念の達成を目指すと腹をくくる必要があるのです。冒頭でもお伝えしたとおり、勤務医だったときと違い、患者さんと向き合うこと以外にも先生方自身がやらなければならないことが多くなります。院長の覚悟がブレると職員もブレます。開業前にしっかりと覚悟を決めて走り始めなければ、多くの人の人生に影響を与える可能性があることは、肝に銘じておくべきです。今回は開業前に決めておくべき「柱」の部分についてお話しました。次回以降は、先生方が気になる開業準備の実際を具体的かつ詳細に見ていきましょう。

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