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英語で「痰が出る」は?【1分★医療英語】第22回

第22回 英語で「痰が出る」は?Do you cough up any phlegm?(痰は出ますか?)Yes, I cough up bloody phlegm from time to time.(はい、時々血の混じった痰が出ます)《例文1》His phlegm was green.(彼の痰は緑色でした)《例文2》I do not have any phlegm. I just have dry cough.(痰は絡まないです。乾いた咳が出るだけです)《解説》「喀痰の有無」は発熱や上気道症状で受診した患者の問診で重要で、聞く頻度も高いと思いますが、とっさに英語で表現するのは意外と難しいのではないでしょうか。喀痰は、医学用語では“sputum”(スピュータム)ですが、患者さんには伝わりにくく、一般的には“phlegm”(フレム)を使います。“g”は発音しません。“cough up”は「咳をして何かが上にあがってくること」を意味し、“cough up phlegm”は「咳をして痰を出す」ことになります。よって、喀痰の有無は“Do you cough up any phlegm?”で聞くことができます。なお、医学用語としてカルテや論文に書いたり、プレゼンしたりする場合には、「喀痰を伴う湿性咳嗽」は“productive cough”、「喀痰を伴わない乾性咳嗽」は“nonproductive cough”と表現することも、覚えておくと役に立つでしょう。講師紹介

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第102回 オミクロン再増加を救う手立ては…某ワクチン承認をFDAより先行すること!?

年初から始まったオミクロン株による新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者急増、通称・第6波。全国各地に発出されていた新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」は、3月21日をもって最後まで残っていた18都道府県でも解除された。しかし、何とも嫌なことに翌日の22日から新規陽性者数はジリジリと増加傾向となって約10日が経過している。また、日ごとに報告されている死者数は二桁後半で、感染時に重症化しやすいと言われたデルタ株による第5波時よりも多いという現実も重なっている。オミクロン株に対するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの効果は、重症化予防効果も含め対デルタ株に比べて低下傾向にあるとはいえ、今でも主要な対抗手段の一つであることには変わりはない。最新の3回目接種完了率は3月29日現在、全人口の39.8%、65歳以上の高齢者では80.7%となっている。高齢者ではかなり進展してきたものの、全人口で見るとやや心もとない。ほかのワクチンに比べ、発熱など患者が自覚できる副反応の頻度が高いことが3回目接種完了率の伸びに影響している可能性は少なくなさそうだ。また、この副反応問題とmRNAワクチンがまったくの新規技術ワクチンであることが相まって、小児対象の接種開始とともにワクチンに否定的な運動も活発化している。各地の医療機関には無差別に小児への接種を止めるよう求める文書が届いているという。そしてSNS上などを眺めていると、3回目接種もまだ進展中の環境で、4回目接種の議論が出てきたことで、これまでそれほど新型コロナワクチンに否定的ではなかった層からも懐疑的な意見が目立つようになった。この件はとくにイスラエルから発表された4回目接種の結果から、こと感染予防効果に関して言えば、ほとんど期待できないことが明らかになったことが拍車をかけているようにも見える。その意味では今のmRNAワクチンを軸とした対策もターニングポイントに差し掛かっているともいえそうだ。そうした中で私個人が気になっているのは、国内では昨年12月に製造承認申請が行われた米・ノババックス社の組み換えタンパクワクチンの導入だ。米を中心に約3万人を対象に行った臨床試験では、発症予防効果が90.4%、重症化予防効果が100%と良好な成績が示されている。また、最近では英国で約1万5,000人を対象に実施した第III相試験の長期データから、2回接種完了から6ヵ月後の無症候も含む感染予防効果が82.5%であることも示されている。ちなみにこの半年後の長期効果は評価期間が2020年11月~2021年5月で、現在主流のオミクロン株での効果は不明であるため、同社はすでにオミクロン株用ワクチンの開発にも着手している。そして何よりもこのワクチンの注目点は現在判明している有害事象が、mRNAワクチンよりは軽度と言えそうなことだ。主な副反応は頭痛、接種部位(筋肉)疼痛、倦怠感など。2回目接種の同ワクチンは、やはり2回目のほうが副反応頻度は高くなるが、その場合でも前述の主要な有害事象の発現率は40%前後。発熱に至っては数%である。また、このワクチンは冷蔵保存が可能である。超低温冷凍庫による保管が必要で、温度変化に弱いmRNAワクチンと比べれば扱いやすさは比較にならないだろう。また、ノババックス社は日本国内で武田薬品と提携し、同社の山口県光市の工場で生産されるため、安定供給に対する不安もかなり解消される。さらにmRNAワクチンを嫌う人たちが組み換えタンパクワクチンだから受け入れるという単純なことにはならないだろうが、それでもmRNAワクチンの接種を迷っている動揺層や自分自身は接種しながら子供に関しては様子見という大人には、ある程度考慮しうる選択肢になるだろうと個人的には想像している。少なくともすでに使われている技術を応用したワクチンという点でも安心感を提供できる側面もある。これまでの経緯からすると、ノババックス社ワクチンに関して厚生労働省はアメリカでの緊急使用許可の承認を待ってからの承認を狙っているのかもしれない。もっともすでに日本と医薬品承認のレギュレーションレベルにほとんど差がないEUや韓国で承認されていることを考えれば、日本はこの点ではそろそろ一歩前進しても良いのではないか。前回言及した塩野義製薬の3CLプロテアーゼ阻害薬に対して条件付き早期承認を与えることと比べれば、ノババックス社ワクチンを承認することは科学的合理性も含め、ほとんど問題ないだろうと、個人的には考えている。

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第102回 私が見聞きした”アカン”医療機関(後編)日大板橋の外来の和式便所に驚く、私学助成金全額不交付で新病院はどうなる?

十数年ぶりに訪れた日大板橋病院こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、「まん延防止等重点措置」も解除されたということで、茨城県桜川市で有機農業を営む大学の先輩宅へ農作業の支援に行ってきました。一昨年末、食道がんの手術をした先輩は、術後しばらくは激ヤセし、体力も落ちて、農業も開店休業の状態でした。しかし、約1年かけてリハビリに励んだ結果、農業再開の目処が立ち、「レタスやネギの定植を行うので手伝いに来てほしい」という応援依頼が来たのです。というわけで、仲間と馳せ参じたのですが、働いたのは土曜午前のみ。午後から雨が降って来たので、納屋で仲間とお酒を飲みながら、麻雀をしてその日は終わりました。手積みの麻雀は久しぶりで、皆ミスを連発。こちらも相応のリハビリが必要と感じた次第です。さて、今回は、「第100回 私が見聞きした“アカン”医療機関(前編)時間外接種費用の上乗せ不正請求、処方箋の応需義務違反」「第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関(中編) オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感」と続けてきた、最近私や知人が体験した“アカン”医療機関の最終回です。最後は私の体験です。2ヵ月ほど前にある取材で、日本大学医学部附属板橋病院(東京都板橋区)を訪れました。日大板橋病院を訪れるのは実に十数年振りでしたが、病院に加え、隣の医学部の建物もボロボロなのに驚きました。昨年から今年にかけて同病院の建て替え計画を巡る背任事件や、同大学の前理事長の脱税事件が大きな社会問題となって世間を騒がせました。訪れた同病院は外観を見るだけでも、さすがにこれは全面建て替えが必要だ…と実感できるほどでした。【その4】全国有数の大学病院で和式便器とはさて、取材時間よりも早く病院に着いたため、周囲をウロウロ見学しているうちに便意を催してしまった私は、病院本館1階の外来診療フロアに入って、トイレを探しました。やっと見つけた男子トイレで「大」の扉を開くと、そこにあったのは和式便器でした。今どき、都内有数の大学病院の外来が和式便器とは、正直驚きました。「トイレは和式じゃないと」という患者に配慮した結果なのでしょうか? 仮にそうだとしても、この和式便器では虚弱な高齢者は用を足せません。足せたとしても立ち上がれないでしょう。病院がボロボロであること以前に、この時代、高齢者が多数訪れる外来のトイレが和式便器というのは“アカン”ですね。相撲部OBだという前理事長であっても、75歳の身体でこのトイレを使ったら、用を足した後はもう立ち上がれなかったのではないでしょうか。ということで、私自身も立ち上がれない恐怖もあったため、フロアの他のトイレを探し、なんとか洋式便器を見つけて事なきを得ました。震度6強~7の地震で倒壊・崩壊の危険性が「高い」と診断調べてみるとこの日大板橋病院は、いわくつきの建物でした。2018年3月、東京都は、1981年の法改正前の旧耐震基準で建てられた東京都内の大規模な商業ビルやマンションなどについて耐震診断を行い、その結果を公表しています。それによれば、地上8階、地下2階の日大板橋病院は、震度6強~7の地震で倒壊・崩壊の危険性が「高い」と診断されていたのです。同病院が現在の地に新築移転したのは、万国博覧会が大阪で開かれた1970年と今から半世紀も前です。その後、板橋キャンパスにはさまざまな建物が建てられましたが、病院本体はその時のままです。病院の隣に建っている医学部の臨床教育棟などはひょっとしたらそれよりも古いかもしれません。日大への2021年度私学助成金は全額不交付に一方、今回の前理事長の脱税事件や元理事らによる背任事件を受け、文部科学省と日本私立学校振興・共済事業団は、日大への2021年度の経常費補助金(私学助成金)を全額不交付とする決定を1月26日に下しています。前理事長の所得税法違反事件や元理事らによる背任事件といった不祥事が相次ぎましたが、大学が説明責任などを十分に果たしていないことから、とくに厳しい処分が下された模様です。日大には、2020年度は全国の私大で2番目(一番は早稲田大学)に多い約90億円が交付されていました。不交付の場合は原則として翌年度も不交付になり、その後も当面減額されるのが通例です。不交付や減額が複数年続くとすると、その金額は300〜400億円近くに上るとみられます。ちなみに日大は2018年度もアメリカンフットボール部の反則タックル問題や医学部の不適切入試を受け、私学助成金が35%減額されています。「都内トップクラスの患者数を受け入れ」た意味私学助成金の不交付や減額によるマイナスは、新病院の建て替え費用と匹敵するほどの額とも言われています。そうなると、私学助成金の不交付の穴を、これまで積み立てて来た新病院の建設費用を取り崩して埋めることになるかもしれません。そう考えると、日大板橋病院が、コロナ対応で「都内の患者数受け入れトップクラス」(NHKニュースなど)と頑張った意味も見えてきます。ちなみに同病院は2022年2月時点で、新型コロナの中等症や重症患者向けに60床を確保していました。こうしたコロナへの積極対応は、一連の事件による、日大のイメージダウンを挽回するだけでなく、コロナ病床に対する補助金で金銭的ダメージもカバーしようという経営的な意図もあったと考えられます。大学病院クラスでコロナに積極的に取り組めば、数十億円規模の利益が出ているはずです。これで私学助成金90億円のマイナスの幾ばくかは埋め合わせることができるでしょう。いずれにせよ、大地震で災害医療の拠点となるはずの大学病院が倒壊しまっては、それこそ洒落にもなりません。倒壊の恐れのない、洗浄機付き洋式便器がしっかり設置された新しい病院が早くできることを願っています。

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英語で「~だとわかった」は?【1分★医療英語】第21回

第21回 英語で「~だとわかった」は?I’d like to hear about the result of the blood test...(血液検査の結果を聞きたいのですが…)It turned out that you have diabetes.(検査の結果、あなたは糖尿病だとわかりました)《例文1》It turned out that the patient has lung cancer.(その患者は肺がんに罹患しているとわかった)《例文2》The blood test has turned out/come out to be negative.(血液検査の結果は陰性でした)《解説》“turn”という動詞には、単独では「向きを変える」などの意味がありますが、“I’m turning 40 next month.”(私は来月40歳になる)の使い方のように、「ある状態になる」といった意味もあります。“turn out”で、「〜だとわかる」「〜という結果になる」という意味になりますが、ここには「予想していた結果と異なる」というニュアンスが含まれます。同様に、“The patient turned out to be allergic to dye.”(その患者は造影剤にアレルギーがあることがわかった)などのように、対象を主語にして用いることもできます。用例としては、“The chemotherapy turned out to be effective for the patient.”([予測に反して]化学療法はその患者には有効であることがわかった)、“The patient, as it turned out, hadn’t taken his insulin for the last couple of days.”(その患者は[期待に反して]、この数日間インスリンを打っていなかったことがわかった)などもあります。一方、“come out”も「何かが明らかになる」という意味があり、こちらは予測と結果の関係によらずに使うことができます。“The result has just come out.”(ちょうど結果が出たところだ)のように使われます。講師紹介

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第101回 条件付き早期承認は非現実的か?症状スコア有意差なしの国産コロナ治療薬

3年目に入った新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)時代の中で、治療薬としては重症化リスクを有する軽症・中等症者に対するファイザーのニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビット)、MSDのモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、重症者向けには中外製薬のトシリズマブ(商品名:アクテムラ)などが承認され、かなり出そろってきた感はある。これで重症化リスクのない軽症・中等症者に使える安価で有効性・安全性の高い経口薬が登場すれば、ほぼラインナップは整う。その意味でこの重症化リスク因子の有無を問わず汎用できる治療薬を目指して開発されているのが塩野義製薬の3CLプロテアーゼ阻害薬であるS-217622の件だ。以前の本連載でも甘利 明元経産相のTwitterでのツイートの件で取り上げたが、今でもSNS上では地味に「早く承認しろ」の声を見かける。塩野義製薬は2月25日付で条件付き早期承認制度の適用を希望する製造販売承認申請を行ったが、直近の3月23日に開催された厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会の議題とはならなかった。だが、多くの医療従事者も思っているだろうが、現状を鑑みると、S-217622の条件付き早期承認は難しいだろうと個人的には想像している。ここで改めて整理してみたい。S-217622の条件付き早期承認を目指し、塩野義製薬は第II/III相臨床試験の第IIa相部分のデータを公開している。同試験は新型コロナ発症から120時間以内の軽症・中等症の患者(重症化リスクは問わない)を対象とした無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験。薬は1日1回、5日間の経口投与で、症例数は69例、主要評価項目はウイルス力価のベースラインからの変化量である。試験では実薬群は低用量群と高用量群に分かれ、プラセボ群も含めた3群比較となっている。発表された結果では、プラセボ群に対してS-217622の低用量群、高用量群は投与開始4日目(3回投与後)で、有意なウイルス力価とウイルスRNA量の減少を確認。4日目時点のウイルス力価陽性患者割合は、プラセボ群と比較して低用量群で63%、高用量群で80%減少していた。また、ウイルス力価陰性化までの時間(中央値)はプラセボ群に対して低用量群、高用量群とも2日短縮している。一方で臨床症状に関しては、症状スコア(12症状トータル)のベースラインからの変化量の減少傾向は認められるものの、投与開始から6日目(5回投与後)で低用量群、高用量群ともプラセボ群に比べて有意差は認められなかった。有害事象の発現率は低用量群が52.4%、高用量群が69.6%、プラセボ群が37.5%で、主な有害事象はHDL減少と血中TGの増加で、ほぼすべての有害事象は軽度だったという。確かに公開されたデータからは一定の期待は持てる。しかし、ウイルス量の減少と症状の改善がリンクはしていない。症例数が少なすぎるために症状改善で有意差を出しにくいと言えばそれまでだ。しかしながら、新型コロナではウイルス量の減少が認められていても、感染で生じた炎症が自立的に暴走して重症化、死亡に至るという経過がとりわけ顕著であるのはもはや周知のこと。その中で現時点のデータ上、臨床症状の改善が確認できていないのはかなり「致命的」だ。しかも、当初と違って現在ではすでに新型コロナ治療薬として承認されている治療薬は8種類もある。この中で何らかの形で軽症・中等症を対象としている薬剤は5種類で、うち4種類は患者の服用後1ヵ月弱時点までの入院・死亡率の減少というハードルの高い主要評価項目をクリアしている。唯一例外だったレムデシビル(商品名:ベクルリー)も、すでに第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の「PINETREE試験」を行い、プラセボと比較して有意な入院・死亡率の減少が確認されている。本音で言ってしまえば、私自身も「日の丸コロナ治療薬」にはノスタルジックな期待はある。しかし、この状況で塩野義製薬のみが条件付きであるとはいえウイルス量減少で承認された場合、日本における医療用医薬品の承認審査制度の信用低下につながる恐れがある。少なくとも現時点でS-217622を早期承認してしまえば、その理由説明に「日本の企業だから」以外のロジックを該当させるのはほぼ無理だからだ。奇しくも塩野義製薬は3月16日にアメリカ国立衛生研究所(NIH)の支援を受けたS-217622のグローバル第III相試験(対象患者は重症化リスクあり)の実施を発表している。やはり「急がば回れ」でこの試験で良好な成績が認められてからの承認という手順が望ましいと思う。

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英語で「快方に向かう」は?【1分★医療英語】第20回

第20回 英語で「快方に向かう」は?I am still feeling exhausted, Doctor...(先生、まだ倦怠感があるのですが…)I understand your concern, but you are making it.(ご心配はわかります。でも快方に向かっていますよ)《例文1》医師The blood test this morning looks good, and you are already sitting on the chair. You are making it.(血液検査の結果も良いですし、もう椅子に座っていますね。快方に向かっていますよ)患者Thank you so much!(ありがとうございます!)《例文2》Look at you! You are making it.(すごいですね!良くなっていますよ)《解説》“make it”は、ぱっと見だと意味が取りにくい表現ですが、病状が良くなっているのかどうか不安な患者さんに対し、「快方に向かっている」ということを伝えて励ますときに使える表現です。非常に簡潔で発音も簡単なので、使いやすいでしょう。似た意味の“You are getting better”という表現との違いとしては、“You are making it”のほうが「励ますニュアンス」が含まれることです。“make it”はいろいろな場面で使われますが、基本的な概念は「困難な状況を乗り越える」というもので、「ビジネスを成功させる」「時間に間に合う」などの意味でも使われます。アクション映画では、銃で撃たれた人物の“I’m not gonna make it”(俺はもう助からない)というセリフがよく出てきます。そして、病院においては、「病気/手術を乗り越える/克服する」という意味になります。ちなみにこの表現に、「両手の親指を立てるジェスチャー=“Thumbs up”」を付けるとさらに励ますトーンが高まります。医療者である皆さんからの励ましは、想像以上にポジティブな力を患者さんに与えますよ。講師紹介

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第100回 国民の1/4がダウンロードしたCOCOA、ついに勇退の時が来た!?

政府は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のオミクロン株蔓延に伴って現在も18都道府県に発出されている新型インフルエンザ等特別措置法に基づくまん延防止等重点措置(まん防)を21日付で解除する方針を決定した。これにより1月上旬から各地に発出されていたまん防は全面解除となる。もっとも首相官邸で会見した岸田 文雄首相は当面は「平時への移行期間」と定義し、今後の感染拡大に備えた医療体制の維持や検査キット、ワクチン、治療薬の確保も進めるとした。一方で、濃厚接触者の追跡に関しては医療機関、高齢者施設、家族内に限定するという大きな方針転換を発表した。濃厚接触者追跡については私自身もこの政府方針には基本的に賛成だが、それだったら「もう止めたら?」と思うものがある。新型コロナウイルス接触確認アプリ、通称COCOAのことだ。ご存じのように当初、濃厚接触者の炙り出しに使われたCOCOAだが、私自身インストールしていても今やほとんど気にしていない。厚生労働省のホームページによると、2022年3月11日時点でダウンロード件数は3,418万件、実際の陽性登録者は62万245件。ダウンロード数では国民の約4人に1人、陽性者では約10人に1人が利用していることになる。この登録の数字だけを見れば、「ないよりまし」とも言えるが、オミクロン株のような感染力が強い反面、重症化率が低い変異株の流行の際は、中途半端に警報が増加し、それが医療現場や行政などの業務を圧迫するという「害」のほうがクリアになってしまう。このCOCOAの仕組みは、陽性通知がくると「検査等の相談先を探す」というボタンが表示され、それを押すと都道府県の受診・相談センターの連絡先が表示される。COCOAの陽性通知者のみの専用窓口があるのではなく、COCOAで通知はするが、「あとは自治体でよきにはからえ」という、ある種の外部丸投げなのだ。この結果、今回のオミクロン株での陽性者激増ターンでは、都道府県のコールセンターも保健所も発熱外来もすでにパンク状態にある中で、COCOAで通知を受けた濃厚接触疑いの人の電話も殺到する。当然ながら電話はなかなかつながらず、通知を受けた人も苛立ち、最終的にその一部がようやく電話がつながった先で「何なんだ!」と怒りを爆発させる。たとえが悪いと言われるかもしれないが、電話がたまたまつながった先は「突然ロシアの侵略を受けたウクライナ」のごとく訳がわからない状態になってしまう。実はこの問題に拍車をかけたものがある。IT時代の「負」ともいえるのだが、個人で「COCOAログチェッカー」なるサイトを立ち上げてしまった人がいる。COCOAはスマートフォンのBluetoothを利用し、陽性登録者に1m以内で15分以上の接触があったユーザーに通知が届くことになっているのだが、実はBluetoothは周囲10~30mの接触を検知するため、その点をこのサイトは利用している。しかもCOCOAアプリ内には2週間分の接触検知ログが蓄積されているので、このチェッカーを使うと、自分から広範囲にいたかなり前の登録陽性者までも検知できてしまうのだ。私自身も何度も使ってみたが、1月下旬の段階でCOCOAではとくに通知が来ないにもかかわらず、Bluetooth範囲内では過去2週間に1件の「接触」があったと判定された。何度か調べてみた中では最高は7件。もっともパンデミック当初に登録し、今では何ともない過去の陽性者も検出できてしまうのだから、それほど意味のあるものではない。個人的には「まあ、そんなものね」と思ってとくに何かをするわけではないし、医療従事者ならばこれを使ってもほぼ似たような反応になるだろう。ところが世の中全体で考えればそうはおさまらない。内科クリニックを経営する知り合いの医師のところには、実際に「COCOAログチェッカーで『陽性』と出たんですが…」と連絡があったという。COCOAならまだしも非正規の仕組みで問い合わせをされても困るだろう。実際、その医師は「保健所に問い合わせてください」と回答したそうだ。保健所に迷惑がかかるのでけしからん対応と思う人もいるかもしれないが、個人的にはやむを得ないと考えている。今回の濃厚接触者の追跡範囲縮小については、さまざまな意見があるとは思うが、いずれにせよこの政策が実行される以上、COCOAというもはや無用の長物を放置したままにするのはいかがなものかと思ってしまうのだが…。

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人口減少に財政危機…、医師もついに試練の時代?【医師のためのお金の話】第54回

「医師でさえ受難の時代が到来」「資格系最後の砦、医師にもついに試練の時代がやって来た」…。多くの医師がこのような認識を共有しているのではないでしょうか。しかし、へそ曲がりな私は思います。「それはちょっと違うのではないか」と。医師の間で、将来に対する悲観論が蔓延するのは、誰もが納得する理由が3つもあるからです。人口減少財政危機AIによる医師の職域浸食確かにいずれも医師という職業に対する強烈な逆風に見えます。しかし実際はどうなのでしょうか? よく調べてみると、必ずしも私たちに不利な状況とは言えない事実が浮かび上がってきました。それでは順番に検証していきましょう!1)人口減少……総人口減少でも高齢者人口は増加中いきなりアタマを抱えてしまいそうな問題ですね。人口減少を語るうえで、人口動態の理解は欠かせません。人口動態は、国勢調査のデータから算出されます。膨大な国家予算を投入して調査した数字だけに、その正確さは折り紙付きです。ある意味、これほど正確な未来予測はないと言えます。残念ながら、日本の未来はきわめて暗いと言わざるを得ません。日本の総人口は2008年にピークを迎えました。それからすでに14年が経過しています。しかし、意外なことに、日本の人口は2008年当時から300万人しか減少していません。「な~んだ、人口減少は大問題といわれているけど、ぜんぜん大した問題ではなさそう」、と思ったでしょうか。しかし、これは完全に誤った認識です。人口減少は今から本格化するからです。さながらナイアガラの滝のような勢いで。ですが、一方で医師の収入に直結する高齢者人口を見ると、まったく様相が異なります。内閣府の資料1)によると、65歳以上の人口がピークを迎えるのは2041年ごろと予想されています。医療業界は、あと20年も人口減少の影響を受けにくい期間を享受できるのです。そして、現在はむしろ高齢者人口がどんどん増加しているステージです。あれっ、医師にとってはむしろ追い風が吹いているのではないでしょうか? 少し不謹慎にもなりますが、高齢化が進む今の状況は、医師にとってプラス面が大きいのです。2)財政危機……それでも医療業界は成長する!?今度こそ、ヤバそうな問題ですね。一個人が国家の財政危機を論じるのはおこがましいのですが、意外なことに、医療費は今後も順調に(?)伸びる見通しです。この意味するところは、私たちの医療業界に流れ込むお金の量が増える、ということです。2020年の財務省の資料2)をひもといていきましょう。医療費は、2018年比で2025年は1.2倍、2040年には1.4倍と伸びています。医師にとって心地良い状況はまだ続きそうですし、どう考えても悲観する状況には程遠いと言えるでしょう。もちろん、日本の経済成長が止まっているため、楽観視はできません。国が本気で医療費抑制に動く可能性も否定できないからです。しかし、過度の医療費抑制は政治的に厳しい決断となるために実行は難しいでしょう。つまり、私たちは20年間も成長が約束された業界にいるわけです。3)AIによる医師の職域浸食……AIを乗りこなそうAIを活用した技術は、医療業界でも確実に拡大するでしょう。世界中の投資マネーがこの領域に集中しており、このトレンドには抗えません。しかし、AIに職を奪われる危険性は個人の戦略次第で十分に回避できます。むしろAIの利用で医師としての活動幅が広がる可能性もあるでしょう。AIに淘汰される可能性が高いのは、いわゆる「町のお医者さん」です。一般的な疾患の診断や処方、予防医療などの活動領域がAIとかぶるため、多大な影響を受ける可能性があります。一方、高度な専門知識と技術を必要とする医療は、依然として医師の独壇場にあります。むしろ、AIを使いこなして医療の肝となる部分に集中することで、さらなる高みに到達できる気配さえあります。AI(デジタル)を基盤とし、専門性の高い人間の頭脳の部分で稼ぐという、いわゆる「デジタル・ケンタウロス」型の人材です。実臨床の職人的能力を高めてAIをうまく活用する医師は、テクノロジー進化の恩恵を最大限に受けることができるでしょう。そしてここで言う「職人的能力」には、医療技術だけではなく、患者さんに寄り添うコミュニケーション能力も含まれます。フツーに考えたら医師の未来は明るいここまで、一般的に喧伝されている医師の悲観論を検証してみました。あれっ? 医師の未来って結構明るいじゃないですか。まあ、悲観論は話題性があるので流布しやすい面があるのも事実ですが、過度に影響されるのは考えものです。せっかくの未来を棒に振りかねません。これからの時代、私たち医師がやるべきことは、きわめてオーソドックスです。医療業界の成長に身をゆだねて、医師としての自己研さんに励む。たったこれだけで成長の果実を得ることができるでしょう。もちろん本当に日本が財政破綻をすれば話は別ですが、その可能性は現時点では低いと思われます。悲観論に惑わされることなく前向きに生きていきましょう。私たちの未来は明るい! 医師として堅実に学び、さらなる高みを目指そうではないですか!<参考>1)平成29年版高齢社会白書(全体版)/内閣府2)社会保障について(1)(参考資料)/財務省

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学問的に新しい知見はあるのか?(解説:野間重孝氏)

 WellsスコアはWells PSにより2007年にまとめられた深部静脈血栓症のスクリーニングスコアで(Wells PS, et al. JAMA. 2006;295:199-207.)、これと血中D-ダイマー値を組み合わせることにより相当程度確実に深部静脈血栓症のスクリーニングを行うことができる。この有用性は2014年にオランダのGreersing GJらのメタ解析により確かめられた。これは以前ジャーナル四天王でも取り上げられたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う(「深部静脈血栓症の除外診断で注意すべきこと/BMJ」)。少し注意を要するとするのは、Wellsスコアの項目については施設により一部改変されている場合があること、判定法には2段階法と3段階法があることであるが、本論文ではWellsスコア原法の3段階解釈+D-ダイマー値という最もオーソドックスな方法を採用している。今回の研究は、その方法により安全に深部静脈血栓症のスクリーニングが可能であること、かつそれにより下肢静脈エコー検査の施行率を47%減らすことができることを前向き試験で示したものである。 下肢静脈血栓症の頻度はアジアでは、台湾で行われた調査で人口10万人当たり16.5人であったのに対し、欧米では多くの地域で100人を超え、200人に迫る地域も珍しくない。わが国の発生頻度については正確な数字が提出されていないが、担がん患者や寝たきり老人、長期臥床者、ある種の術後患者などを除く、危険因子を持たない者での発生ということになると、いわゆるエコノミー症候群が問題にされる程度でしかない。わが国ではWellsスコアといってもあまり利用したことがない医師が多いのではないかと思われるが、これだけ発生頻度が異なれば、それは当たり前といえるかもしれない。本論文では入院患者、抗凝固療法中の患者、妊婦、肺塞栓症疑いの患者が除外されていることを限界としているが、深部静脈血栓症のスクリーニング法研究でこうした危険因子・修飾因子を持った患者を除外するのは当然だと考えられる。ここで妊婦が問題にされていることを意外に思われた方もいらっしゃると思うが、欧米では妊婦の死因の第1位が肺塞栓症なのである。これに対して、わが国では命に関わらない程度のものまで含めても、塞栓症は1,000例に1例程度の頻度にとどまっている。 同時に、わが国と欧米における臨床検査に対する考え方の違いやその理由も考えられなければならないだろう。わが国ではスクリーニングの段階でスコアリングを用いている医師そのものが少ないのではないかと思うが、それとは別に、多くの現場医師たちは下肢静脈エコーの簡易チェックや、場合によって(造影まで含めて)CT検査などを行うことをためらわないのではないかと思う。これは医療に対する考え方、疾病の頻度によるものだろうが、医師が自分の身を守るという側面もあることは忘れられてはならない。そう考えれば発生頻度の高い欧米において、有名誌にこうした論文が掲載されることは、現場の医師たちを守る意味も持っているとも考えられよう。ただし、こうした際に必ず付け加えているのだが、現場の医師たちの行動パターンの決定因子として医療保険制度の問題を無視することができない。わが国のように医療保険制度の充実した国においてはある程度over-examinationになったとしても、経済的に許容されるのに対し、そうでない国では時として社会的指弾の対象になりかねないからである。 この研究はあらためてWellsスコア+血中D-ダイマー値の組み合わせによるスクリーニングの確実性・安全性を示したものではあるが、上述したGreersing GJらのメタ解に、とくに新しい知見を加えたものとは思われない。確かに大規模な前向き研究をすることには常に一定の意義があるが、すでにある程度の確度をもって結論の出ている問題について実施することの意義はどれだけあるのだろうか。この研究が積極的に付け加えた知見は、47%の下肢静脈エコー検査を安全に省略できるという一点だったといえる。多忙をきわめる医療現場において診察効率、経済効率が上がることは重要なことではあるが、(上述した議論とはやや矛盾するが)こうした有名誌に掲載されるだけの価値のある研究であるかには疑問がある。 このところの傾向として、純粋学問的に新しい知見を付け加えるというよりも、診断効率や経済効率を主題にした論文が有名誌に採用されるケースが目立つ。評者などはこうした傾向に首をかしげるものなのであるが、これは決して以前基礎研究者であった者の偏見というわけではないと思うのだが、いかがだろうか。

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高齢患者さんの意思決定能力、どう評価する?【非専門医のための緩和ケアTips】第23回

第23回 高齢患者さんの意思決定能力、どう評価する?緩和ケア領域では、治療方針や療養の場の話し合いなどで、意思決定支援をすることが求められます。しかし、高齢で、意思決定能力が低下している方も多いのが実情です。今日の質問開業の内科医です。外来は高齢患者さんが多く、治療方針を話し合う難しさを感じます。明らかに認知症が進行していれば意思決定能力がないと判断できますが、微妙なことが多くて…。治療に関する込み入った話を理解できていなさそうなとき、家族に相談すべきか、本人の意向をどう反映させるか迷います。意思決定能力は、どう評価すればよいのでしょうか?「同じ状況で悩んでいる」という方も多いのではないでしょうか? 私も緩和ケアを専門としてから仲間と議論する機会を持つようになり、「こんな分野もあるんだ!」と感じました。患者さんの意思決定能力を評価するためには、「意思決定能力を構成する要素」を理解する必要があります。3つの構成要素を順に見ていきましょう。1)情報を「受け取れ」るか?意思決定には、その判断のもとになる情報が必要です。たとえば、心不全の患者さんに対し、病名や予後予測などを説明しますよね。こうした情報を受け取り、理解して、はじめて患者さんは自分で意思決定ができます。ここでは、わかりやすい言葉で伝えることや、情報量に配慮することが大切です。2)情報を「検討」できるか?必要な情報が伝わったら、次はその情報をしっかり検討できるかを評価します。たとえば、精神疾患で論理性が障害されていないか、意向が合理的であるか、といった点が評価の対象です。このあたりは患者さんの価値観や人生経験も影響してくるので、評価が難しいところです。私自身の診療の工夫としては、構成要素の1)と2)を確認する意味で、説明後に、「お話ししたことについて、どのように理解したか、教えてもらえますか?」といったように、患者さん自身の言葉で説明し直してもらっています。3)「治療に対する選好を伝え」ることができるか最後は、「自身が考えや意見を伝えられるか?」という点です。自分の考えを他者に伝えるのは、私たちにとっても難しいことです。まして、医師に対し自分の選好を含んだ意見を伝えることに負担を感じる患者さんが多い、というのは想像できるでしょう。私の診療では、まずは患者さんに語ってもらいますが、併せて「言語化のサポート」をしています。具体的には、「先ほどのお話からは、『負担の多い治療はできるだけ避けたい』というお気持ちを感じましたが、いかがでしょうか?」といったように、意向を推測し、言語化したうえで確認するのです。いかがでしょうか?患者さんにベストな医療を提供するうえで、意思決定能力を評価する重要性はますます高まるでしょう。皆さんの取り組みについても、ぜひ教えてください。今回のTips今回のTips「意思決定能力の評価」は緩和ケアだけでなく、全医療者にとって大切なスキル。3つの構成要素を理解して、スキルを高めよう。

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第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚

「飲食店の規制を続ける効果が小さい」と「まん防」延期に反対の委員もこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルスの「まん延防止等重点措置」の適用期間が18都道府県で3月21日まで延長されました。延長地域のうち東京や大阪、神奈川など9都府県は病床使用率が5割以上で、重点措置の効果に改めて疑問符が投げかけられています。政府の基本的対処方針分科会では今回の重点措置延長に対し、行動経済学を専門とする大阪大学特任教授の大竹 文雄氏ら委員2人が反対したとの報道がありました。大竹氏はオミクロン型の重症化リスクの低さに加え、クラスターは高齢者施設や保育所で多発していると指摘し、飲食店の規制を続ける効果が小さいことなどを反対理由としたそうです。「まん防」はもはや行政が”やってる感”を出すための道具に過ぎないようです。感染拡大を抑え込み、収束に向かわせるには、ワクチンの3回目接種が必須と思われますが、3月7日に首相官邸ホームページで公表された3回目接種の完了率は全体で24.9%、65歳以上高齢者で61.0%と依然低いままです。国(と各自治体)はこの接種遅れをどう挽回するのか、これからの施策に注目したいと思います。さて今回は滋賀県大津市にある基幹病院、地方独立行政法人・市立大津市民病院(401床)で起きている外科系医師の大量退職事件について書いてみたいと思います。外科・消化器外科・乳腺外科の9人が退職へ同病院の大量退職が発覚したのは2月初旬でした。各紙報道によれば、今年2月、病院内で突然「大津市民病院 外科・消化器外科・乳腺外科で治療中の患者様へ」と題した文書が配布されました。3科の医師9人(常勤医8人、非常勤医1人)連名の文書には「退職しなければいけないこととなりました。当院院長・理事長・事務局長により決定された病院運営上の判断とのことです」と記されていました。9人はいずれも京都大学医学部の外科学教室から派遣されている医師でした。医師側はパワーハラスメントだと主張問題が表沙汰になったことを受け、病院側は2月15日に記者会見を開き、医師9人が3月末以降退職する意向を示している事実を認めるとともに、京大側から14日に「今後は医師を派遣しない」との連絡があったと説明しました。記者会見を受け、各紙が一斉にこの事実を報じました。毎日新聞等の報道によれは、昨年9月、経営陣が外科医側に外科の経営状況に関する相談をした際、経営改善の意思がみられなかったため、市立大津市民病院のトップである北脇 城理事長が「消化器外科は府立医大(京都府立医科大学)と交代するように」と発言。消化器外科と乳腺外科を兼任している医師もおり、医師らは「全員交代」と認識したとのことです。医師側はパワーハラスメントだと主張したものの、病院内部の検証ではパワハラとは認定されなかったとのことです。医師側は冒頭の文書を病院内で患者向けに配布し、2月7日には大津市医師会に対し、「2月2日から新規手術の紹介患者の受け入れを基本的に中止している」と連絡したとのことです。「収入実績が悪いことが問題の背景にある」と理事長15日の記者会見で北脇理事長は、「外科・消化器外科・乳腺外科の収入実績が悪いことが問題の背景にある」と説明したものの、「(府立医大の医師と)交代する事実もなく、パワハラではない」と弁明、「近隣の病院から医師を派遣してもらうよう依頼するとともに、京大側にも引き続き派遣を求めている。診療体制への影響を最小限に食い止めたい」と話したそうです。また、外部の弁護士による第三者委員会を立ち上げ、パワハラの有無の検証を始めていることも明らかにしました。京大派遣の脳神経外科5人も退職へ新規の外科手術の停止など、日常診療に大きな障害が生じている中、事態は好転どころか悪化に向かいました。2月18日付の各紙は脳神経外科の全医師5人が、4月以降に退職する意向を示していると報じました。朝日新聞等の報道では、この5人も京大から派遣されている医師で、取材を受けた医師の1人は北脇理事長から同科の業績が悪いとして「府立医大から来春、3人の医師を派遣してもらい、脳卒中科を設ける。今いる2人は退任してほしい」と告げられた、と語ったとのことです。京大側はこの件についても人事に関するパワハラが生じたと判断、医師の引き上げを決定したとのことです。この事態に対し病院側は、2月18日に北脇理事長と若林 直樹院長の連名で、「脳神経外科とは、計画を踏まえた対応強化について協議を行ってきており、人事を巡って病院幹部によるパワーハラスメント的な行為があったと主張されていることは遺憾」とのコメントを発表しています。なお、3月5日付の毎日新聞は、同病院の脳神経外科医が3日、病院職員に対し「やむなく退職する予定」とメールで伝え、今夏に退職する旨を明らかにしたと報じています。同紙によれば、脳神経外科医らは「実績が良好にもかかわらず、経営陣からスタッフ減員や任用拒否を迫られるなどのハラスメント的行為を受け、信頼関係が崩壊したことが原因」と伝えたそうです。これで、大津市民病院を辞めようとしている医師は、合計14人となります。大津市、滋賀県も困惑、今後の対応を検討へこの事件、地域の医療提供体制に混乱をもたらしていることから、独立行政法人の出資者である大津市のみならず、滋賀県も病院の今後の対応を注視しています。大津市の佐藤 健司市長は2月21日に開かれた通常会議の本会議冒頭で、「設置者として遺憾。こうした事態を招いた法人の責任は極めて重い。県に協力を要請するなど、設置者として対応に努める」と述べました。さらに、3月2日の市議会での代表質問では、設置者としての市の対応や姿勢をただす質問が相次ぎ、佐藤市長は診療への影響などに関する病院側からの報告を精査している段階とし「必要に応じ、さらなる対応を検討する」と答弁したとのことです。また、三日月 大造・滋賀県知事は2月25日の県議会一般質問で「病院や大津市、派遣元の大学と課題を共有し、対応を検討したい」と答弁しています。理事長は府立医大病院の病院長経験者人事に関してパワハラがあったのか、なかったのか。純粋に経営改善のために派遣元の医局を変えようとしたのか、別の理由があったのかは現時点では判然とせず、第三者委員会の判断待ちとなっています。そんな中、一つ気になったのは、医師派遣を止めると言っているのが京大の外科、脳神経外科であるのに対し、パワハラを告発された経営者側の北脇理事長、そしてナンバー2の若林院長がともに京都府立医科大学の出身者だという点です。北脇理事長は京都府立医大の産婦人科学教室の教授を2021年3月まで努め、2017〜2019年は京都府立医科大学附属病院の病院長も務めていました。現在は京都府立医科大学名誉教授でもあります。公表されている最近の事業報告などを見ると、大津市民病院自体の経営状況は決して良好とは言えませんが、2020年度については、「財務状況としては、医業収支はマイナス14億8,600万円と医業収益の落ち込みに より多額の損失となったが、国等の補助金等により、経常収支において20億5,800万円の経常利益を確保することができた」としています。コロナ対応もあり、2021年度も補助金等でおそらく相当の黒字計上になっていると思われます。外科や脳神経外科で喫緊の経営改善が必要だったかはわかりませんが、だからといって「派遣医局を京大から府立医大に単純に替えればいい」という考え方は相当強引に見えます。調べてみると、同病院では、2019年にも産婦人科医の大量退職が起こっており、同年6月以降、分娩の取り扱いは休止したままです。北脇理事長の専門は産婦人科ですが、理事長に赴任した2021年4月以降も分娩は再開されていません。「ジッツを経営状況のいい大規模病院に集約する」ことが大学医局のこれからの役割関西の医療界では、府立医大と京大医学部との仲の悪さは昔から有名です。お互いに「川向こう(鴨川の向こう岸)」と呼び合うと聞いたこともあります。歴史的には府立医大の前身(京都府立医学専門学校)のそのまた前身である京都府医学校の方が古く、京都帝国大学医科大学が設立された時には京都府医学校から医師を大量に引き抜いたという逸話もあるようです。そういった歴史的な背景もあり、京阪神では京大医学部よりも、府立医大のジッツ(関連病院)の方が圧倒的に多いと言われています。一般の人から見れば、京大は全国区、府立医大は地方区の医学部ですが、京阪神地域においては、府立医大はジッツなどの勢力において一目置かれる存在なのです。とは言うものの、今回の事件が、「母校である府立医大のジッツを増やしたかった」という、極めて昭和的な理由が背景にあるのだとしたら、それこそ税金を払っている大津市民はたまりません。そもそも人口減少が急速に進み、各地の病院の統廃合が喫緊の課題となっている中、ジッツを闇雲に増やすことは時代に逆行する行為だと言えます。医師の働き方改革も本格化する中、大学医局のこれからの役割は、「ジッツを経営状況のいい大規模病院に集約し、大人数のスタッフで大量の症例や手術を効率的にこなす体制を作ること」だからです。症例数も少なく若手医師のトレーニングにもならない病院からは医師を引き上げる、というのが、これからのトレンドなのです。そうした意味でも、大学医学部の教授が天下って、地方の公立・公的病院等の院長を名誉職的に務める、という時代は昭和・平成で終わったと言えるでしょう。もはや病院経営は、天下った元教授が片手間にできるような甘い仕事ではないのです。

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英語で「吐き戻す」は?【1分★医療英語】第18回

第18回 英語で「吐き戻す」は?I am worried about my daughter because she spit up milk a lot yesterday.(娘が昨日何度もミルクを吐き戻したので心配です)Okay, what is her baseline?(なるほど、通常はどの程度[吐き戻すの]ですか?)《例文》医師Helping her burp during and after feeding will prevent from spitting up.(授乳中や授乳後にげっぷをさせてあげると、吐き戻しを防げますよ)患者Oh, that is good to know!(そうなのですね、良いことを伺いました!)《解説》今回は小児医療でよく使われる「吐き戻す」という表現をお伝えします。AAP(米国小児科学会)のサイトでは、“vomiting”は胃の内容物が口から体外に強制的に吐き戻されること、“spitting up”は強制的な筋収縮は関与せず、しばしばげっぷに伴い胃の内容物が口から出てくること、と説明されています。母乳や人工乳を飲んだ赤ちゃんが、食後にミルクを口から吐き出してしまうことがあるのですが、これがまさに“spitting up”(吐き戻す)に当たります。大人が悪心を伴って嘔吐するときのニュアンスとは大きく異なります。“spit”を単体で使う際には、「唾を吐く」もしくは「口に入れたものを飲み込まずに出す」という意味合いとなり、こちらもまた上記とはニュアンスが異なります。小児領域で言えば、子供が食べようとしたものが口に合わず、すぐに「ぺっ」と外に出すような状況です。米国で小児医療に携わっていると、赤ちゃんの“spit up”を心配して救急やクリニックを訪れる家族が非常に多く、たびたび耳にする言葉です。英語圏の方は“spit up”“vomit”“spit”といった表現を自然に使い分けていますので、ニュアンスの違いを理解して、患者の年齢や症状に応じて使い分けてみてください。講師紹介

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英語で「うまくいくよう祈りましょう」は?【1分★医療英語】第17回

第17回 英語で「うまくいくよう祈りましょう」は?I’m worried that something bad will happen to my husband.(夫に何か悪いことが起こるのではないかと心配です)He is a strong man. Let’s keep our fingers crossed.(彼は強い人です。うまくいくよう祈りましょう)《例文1》Let’s keep our fingers crossed and hope for a good outcome.(良いアウトカムが出るように祈りましょう)《例文2》I’m keeping my fingers crossed that the treatment will go well.(治療がうまくいくよう願っています)《解説》“Fingers crossed”は、直訳すれば「指を交差させる」という意味です。“Let’s keep our fingers crossed”も、直訳すれば「私たちの指を交差させ続けましょう」となりますが、これではよく意味がわかりませんね。「指(人差し指と中指)を交差させる」という仕草は、日本ではあまりなじみのないものですが、西洋文化では十字架を象徴するもので、「悪運から守る」という意味を持ちます。“Keep one’s fingers crossed”という表現は、それがそのままイディオムとして定着したもので、「うまくいくように祈る」という意味になります。医療現場では、手術前や大切な治療の前に、医師や家族から患者への声掛けとしてよく使われるフレーズです。また、日常生活やメールの中などでもよく用いられる表現で、大切な試験や大仕事を控えている相手に対して「うまくいきますように」という気持ちを込めて使われます。他の表現としては、“Wish one luck”や“hope for the best”などとも言い換えることができますので、併せて覚えておきましょう。講師紹介

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第101回 COVID-19入院患者の新たな糖尿病はたいてい一過性らしい

米国のマサチューセッツ総合病院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者およそ2千人(1,902人)の電子カルテ情報を遡って調べたレトロスペクティブ試験結果によると、その入院時に新たに診断された糖尿病(NDDM;newly diagnosed diabetes mellitus)はたいてい一過性らしく、退院後間もなくおよそ正常な血糖値に多くの場合回復するようです1,2)。1,902人のうち約3人に1人(594人)に糖尿病が認められ、それらのうち77人(全被験者1,902人の4%、糖尿病患者594人の13%)の糖尿病は入院前には認められなかったもの、すなわちNDDMでした。NDDMのそれら77人のうち入院中に死亡した10人と消息が絶えた3人を除く64人のその後を調べたところ約1年時点(中央値323日)で半分に近い26人(41%)の血糖値は糖尿病の水準未満(正常か前糖尿病レベル)に落ち着いていました。追跡された64人のうち39%(25/64人)はインスリン投与頼りで退院しましたが約1年後のインスリン投与患者は僅か5人(7.8%)に減っていました。それに8割方のHbA1cは7%以下になっていました(HbA1c測定患者41人中33人)。NDDMの77人の半数近い33人(43%)は入院前の記録で前糖尿病が見つかっており、そのような前糖尿病患者の高血糖は比較的軽度でした。一方、入院前に医療と縁遠かったNDDM患者はより重度の高血糖を呈しました。それら所見によると、COVID-19入院患者の新たな糖尿病は新たに発症したものか単に新たに把握されたものか多くの場合不明瞭かもしれず、新たに発症した糖尿病というより新たに診断に至った糖尿病と捉えるほうがより適切なようです。実際今回の研究ではそう位置づけられています。NDDMに至った経緯はどうあれNDDM患者は入院前からの糖尿病患者に比べてC反応性タンパク質(CRP)等の炎症マーカーの値が高く、集中治療室(ICU)をより必要としました。それらに加えてNDDM患者の血糖値は退院後に改善していることも踏まえるとNDDMの後ろ盾はどうやら炎症反応であり、インスリンを分泌するβ細胞の破壊ではなくインスリンに細胞が反応し難くなるインスリン抵抗性がCOVID-19入院に伴うNDDMの主因らしきことを物語っています。ただし、インスリン不足を意味する糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)が糖尿病を新たに生じた患者と以前からの糖尿病患者の両方で多いことが複数の試験で示されており、インスリン抵抗性のみならず急なインスリン欠乏もまたNDDMの片棒を担いでいるかもしれません。今回の報告でのDKA発現率はNDDM患者では6.5%、以前からの糖尿病患者では11%であり、著者によると同等(comparable)でした。今回の報告はCOVID-19入院時のNDDMを長く追跡した研究のさきがけの一つであり、更なる試験で検証が必要です。また、COVID-19で急な高血糖が生じる仕組みを掘り下げていかねばなりません。参考1)Cromer SJ,et al. J Diabetes Complications. 2022 Feb 4:108145. [Epub ahead of print]2)Newly diagnosed diabetes in patients with COVID-19 may simply be a transitory form of the blood sugar disorder / Eurekalert

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第97回 “アジャイル思考”を得ない限り、日本は今のコロナ対策から抜けられない!?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行の主流がオミクロン株になって以降、よく耳にするようになったのが「オミクロン株による感染はただの風邪」という理屈だ。これはある意味では正しいかもしれない。少なくとも基礎疾患のない若年者にとっては、風邪に近いと言っても差し支えはないだろう。もっともこの一部の人にとっての「風邪」もワクチンの2回接種完了者が国内総人口の約8割を占めるワクチン効果が加味されている可能性が高いことも念頭に置かねばならない。この昨今、声高に語られる「オミクロン株感染風邪論」の背後には、過去2年以上の度重なる行動規制に対する恨み節が籠っていることは否定できない。なんせ、今回のコロナ禍によって発出された緊急事態宣言やまん延防止等重点措置(以下、まん防)に伴う経済損失総額は、野村総合研究所による試算で20兆円超。これは先日、衆議院予算委員会を通過した過去最大の2022年度予算の歳出総額107兆5,964億円の約20%に相当する。これ以外に数字に表れない損失もあることは周知のことで、いずれにせよ国民に大きな犠牲を強いていることは明確である。それ故に若年層を中心に「風邪ごときのとばっちりを食らうのはまっぴらごめん」との理屈が支持を受けるのも分からないわけではない。とはいえ、医学的に見れば、高齢者での新型コロナはただの風邪ではなく、その一撃で命を奪われる危険性は明らかにほかの感染症よりも高い。このように言うと、「残りの人生が少ない高齢者のために、なぜ前途ある若者が苦渋を強いられなければならない」という反論が常に飛び出してくる。実際、私の身近でもそうした声はよく聞く。こうした時に私は「重症化した高齢者にかかる莫大な医療費を負担するのは、結局若年層なので高齢者を感染から守ることは若年者を守ること」と伝えている。もっとも目に見えにくい負担を実感してもらうのはなかなか難しいのが現実だ。そうした中で「オミクロン株感染風邪論者」が最近引き合いに出すのが、欧州連合内で初めて新型コロナの感染拡大阻止関連規制のほぼすべてを撤廃したデンマークの事例だ。この措置は2月1日からスタートし、公共交通機関利用時のマスク着用義務、飲食店利用時などでのデジタル証明「コロナパス(ワクチン接種証明・PCR or抗原検査陰性証明)」の提示義務などが撤廃された。規制撤廃発表の記者会見では、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相が「さよなら規制、ようこそコロナ前の生活」と宣言したほど。ところが今のデンマークでは毎日3万人程度の新規感染者と30~40人の死者が報告されている。総人口約580万人のデンマークのこの状況を日本に当てはめると、毎日約65万人の感染者と700人前後の死者が発生している計算だ。現在1日の新規感染者8万人前後で、31都道府県に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくまん防を発令中の日本から考えれば驚くような決断である。デンマークの決定は感染者が増加していながら、重症者が増加していない同国内の感染状況データを根拠としている。ちなみに現在、デンマークでの感染の主流は、日本の報道では「ステルス・オミクロン」と称されるオミクロン株の亜種BA.2である。確かにオミクロン株はデルタ株と比較して重症化しにくいとは言われているが、感染者が増えれば、当然ながら重症者も増える。にもかかわらず、今回の決定に至った背景には、デンマーク国内の総人口に占める新型コロナワクチンの2回接種完了率が81.0%と日本と大差ないにもかかわらず、ブースター接種完了率が61.7%(2月22日付)と日本とは比較にならないほど高い現状を加味していると言われている(2月22日付の日本国内での2回接種完了率は79.1%、ブースター接種完了率は15.3%)。さらにデンマークの場合、現時点で65歳以上の高齢者のブースター接種完了率は約95%。重症化のハイリスク者に対しては4回目接種を計画し、新たな変異株の登場次第では4回目接種の対象を全人口に拡大することを視野に入れている。要は現状と将来の備えは日本とは比較にならず、デンマークを事例に挙げながら日本国内の対応を単純批判する「オミクロン株風邪論者」は自分の主張に合わせてファクトを都合良く切り貼りしているに過ぎない。だが、それ以上にデンマークと日本には根本的に大きな差があると個人的には考えている。というのもデンマークはすでに昨年9月に今回のような規制の大幅な解除を行いながら、その後の感染者増加に伴って規制を復活。そして再び今回の規制撤廃に至っている。要は状況に応じてアジャイルな対策を行っているのだ。「アジャイル」は、英語で「機敏な」という意味。最近ではソフトウェア開発などに関連してよく耳にするようになった言葉で、要は基本機能を実装したソフトウェアはすぐに実用を開始し、必要に応じて徐々にアップデートしていくということ。スマートフォン用アプリなどが代表例だ。ところが最初に何らかの商品やサービスを市場に出す際に完璧さを求めがちな日本ではこうした手法はあまり馴染みがない。私はもう一つの取材領域である国際紛争関係でこうした違いを実感したことがある。海外の紛争地域では、旧西側を中心とする欧米各国の軍が停戦監視などの平和維持活動(PKO)のために派遣されることが少なくない。そこで見かける各国の軍用車両は、基本型を軸にさまざまな派生型がある。派遣地域の地勢や気候の違い、技術革新に応じて基本型への追加改修キットがあり、結果として派生型の軍用車両が数多く存在するのである。何とも合理的だと思っていたが、日本の自衛隊ではこうしたケースは見かけない。ある時にこの点を防衛省関係者に尋ねたところ次のような答えが返ってきた。「新装備の予算要求の際、国会をはじめとする関係各方面からは考えられうる最上スペックを求められます。それが数年後に状況に合わなくなり、また新装備を導入しようとすると、『あの時、君たちは最上のものだと言ったじゃないか。じゃあ、あの時の提案は不備や間違いだったのか』と言われてしまうのです。ベストのものはその時々で変わるものなのですが…」新興感染症では、時間の経過とともに不明点が明らかになり、それに伴い対応策も大きく変更を迫られることが多い。しかし、前述のように日本ではもともとこうした変更に対する国民的許容幅は広くはない。アジャイルに過ぎないことが時に「場当たり」「なし崩し」と表現される。もっと端的に言えば、オール・オア・ナッシングな傾向とも言えるかもしれない。そしてこうした傾向は、オミクロン株登場後の新型コロナワクチンに対する世間の評価でも垣間見られる。オミクロン株に対する既存の新型コロナワクチンの感染予防と発症予防の効果がかなり低下したことは事実である。だが、2回目接種完了直後あるいは3回目接種終了後ならば、それでも6割程度の感染予防・発症予防効果はあることが分かっている。しかし、これを機にもともとワクチンに否定的ではなかった人からも「ワクチンに意味はない」「いまやワクチンは無効だ」という言説が目につくようになった。そして、国などが新型コロナ対策でマイナーチェンジをする時なども、「完璧さ」を目指す社会的雰囲気を受けたばつの悪さなのか、歯切れの悪い説明が目立つ。結局のところ、現在の「オミクロン株風邪論」や「感染症法での新型コロナの扱いは2類か5類か論争」も日本人のアジャイル感のなさゆえの結果とも思えてきて仕方がない昨今だ。

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指導医からみた良いレジデント、惜しいレジデント【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第45回

第45回 指導医からみた良いレジデント、惜しいレジデント医師になったばかりの初期研修医や、卒後3~5年目の専攻医によって構成されるレジデントと称される若手医師に接する機会が多くあります。住宅のことをレジデンスといいますが、レジデントは住人という意味です。あまりに忙しいので帰宅する暇がなく、病院に住み込むように仕事をしていることから、洋の東西を問わず使用されている若手医師への呼称がレジデントです。レジデントと話す際には先入観を持たず、彼らへの評価意識を抱くことなく接するように意識しています。しかし、その中で「良いレジデント」や「惜しいレジデント」といった気持ちを持つことがないといえばウソになります。では、どのようなレジデントを「良いレジデント」と感じるのか紹介しましょう。秘密の評価基準の開示です。医師である前に社会人であれレジデントは、もはや学生ではありません。医師免許証を持つ医師であり、仕事への対価として給与をもらっています。給与をもらうということは、自分以外の人に対して価値を生み出し、それに見合った対価として金銭を得るわけです。楽しいことばかりではありません。病院には誰にとっても積極的に楽しい事柄ではないが、誰かがしなければならない仕事が山ほどあります。その作業を命じられたときに“口をとがらせる”のは子供の振る舞いです。不平・不満を口にする前に、まず仕事上の責任を果たすことが大切です。そのうえで改善できる点や問題点を上司に伝えても良いでしょう。そこにおいても思慮深く言葉を選ぶことをお薦めします。患者さんと上手く接することができる「あいさつ」、「身だしなみ」、「言葉遣い」に十分に注意することも大切です。約束や時間を守ることは基本中の基本です。多くの患者さんは、レジデント諸君よりも年長者です。人生の先達への尊敬の念を持ち接することが大切です。言葉を口にする際に、医師が患者さんに対して抱く感情が透けて見えます。年長の患者さんを、リスペクトして話をすることが望まれます。他の医療スタッフと上手く接することができる病院は多くの職種によって構成されている組織です。医師は、医師以外の医療スタッフと、それぞれ異なる専門的意識と技術を持ち、補完的に協力して医療を行う対等の関係にあります。お互いに敬意をはらってチームの一員として接することが基本です。他職種の医療スタッフのほうがレジデント諸君よりも年齢が上のことも多いと思われます。患者さんへと同様に、年長の医療スタッフに対してもリスペクトして接すること。一方で、レジデントといえども医師は医療チームにおいてはリーダーとしての役割を求められます。そこでも思慮深い発言や振る舞いが大切です。プロフェッショナリズム医師はプロフェッショナリズムを意識すべき職業です。プロフェッショナリズムを定義することは難しいのですが、神官・法律家・医師の三つの職業が元来プロフェッショナリズムを求められる職業であるといいます。扱う内容が高度に専門的であり、普通の人には理解しにくい内容を扱う職業であるからとされます。レジデント諸君は、プロフェッショナリズムについて意識してもらいたいです。このような事柄がすべてできる完璧なレジデントは存在しません。指導医にとっても達成困難な目標を述べたかもしれません。「ギャー」この原稿をPCで打ち込んでいたのですが、ネコに思い切り引っかかれました。説教くさい文章を書いているお前は何者なのだ、そんな偉そうなことを言える資格をもつ人間ではないだろうとネコの眼が語りかけます。ネコの目線の先には、用を足した跡のあるネコ様トイレがあります。俺様の世話をしろというのです。ハイハイ、喜んで掃除させていただきます。何しろ、ネコ様の前では下僕を自認する私ですから。とにもかくにも、一生懸命なレジデント諸君の、明るく楽しい研修生活を応援しております。

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第97回 2022年診療報酬改定の内容決まる(後編)かかりつけ医、報酬は従来路線踏襲も制度化に向けた議論本格化へ

かかりつけ医関連の診療報酬に若干のテコ入れこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。NFLのスーパーボウル(ロサンゼルス・ラムズが第4クオーター残り6分から逆転のタッチダウンを決め、シンシナティ・ベンガルズを23対20で破って優勝)も北京オリンピック(女子スピードスケートだけ観戦していました)も終わっていよいよ球春到来、MLBと日本のプロ野球の開幕を待つばかりとなりました。が、心配なこともあります。米国のMLBの労使交渉が泥沼化し、まだ終わっていないのです。選手の年俸総額や最低保証額で溝が埋まっていないようです。労使間の新協定が締結できないため、広島からポスティング制度でメジャー移籍を目指す鈴木 誠也選手も、シアトル・マリナーズをフリーエージェントとなった菊池 雄星投手も入団交渉が進まず、所属チームが決まっていません。キャンプインも延期状態で、3月末の開幕に黄信号が灯っています。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手の調整が今年もうまく進んでいるといいのですが…。さて、前回に引き続き、2月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で答申が行われた2022年度診療報酬改定の内容のうち、このコラムでも触れてきた政策的な意味合いが大きい項目について、その内容を見てみたいと思います。今回は、若干のテコ入れが行われた「かかりつけ医関連の診療報酬」と、財務省が強く求めたものの実現が見送られた「かかりつけ医制度化」について考えてみます。財務省が提案する「かかりつけ医の制度化」このコラムでは、「第85回 診療報酬改定シリーズ本格化、「躊躇なくマイナス改定すべき」と財務省、「躊躇なくプラス改定だ」と日医・中川会長」で、財務省が強く導入を求めてきた「かかりつけ医の制度化」について書きました。今回の診療報酬の改定議論が本格化する直前の2021年11月8日、財務省主計局は、財政制度等審議会・財政制度分科会において2014年度診療報酬改定での地域包括診療料、地域包括診療加算の創設以降、かかりつけ医については診療報酬上の評価が先行して実体が伴っておらず、「算定要件が相次いで緩和され、かかりつけ医機能の強化という政策目的と診療報酬上の評価がますますかけ離れることになった」と現行制度の問題点を指摘しました。加えてコロナ禍の中、「我が国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった可能性が高い」と“有事”での診療所の診療機能を強く批判しました。その上で、「受診回数や医療行為の数で評価されがちであった『量重視』のフリーアクセスを、『必要な時に必要な医療にアクセスできる』という『質重視』のものに切り替えていく必要がある」として、「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化したうえで、これらの機能を担う医療機関を『かかりつけ医』として認定するなどの制度を設けること、こうした『かかりつけ医』に対して利用希望の者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入していくことを段階を踏んで検討していくべきである」と提言しました。第85回で私も、「もし、首相がかかりつけ医の制度化含め、医療提供体制の改革を真剣に行おうとするならば、ある程度プラスの改定率にして中川会長の面目を保ちつつ、かかりつけ医の制度化を一部飲ませる、というシナリオが一つの落とし所として考えられます」と書いたのですが、今回はかかりつけ医の制度化の議論は行われず、その予想は外れました。もっとも、財務省(と岸田政権)はもう一つの懸案事項でもあったリフィル処方導入を日本医師会にしっかり飲ませることができました。長年日本医師会が反対してきた政策がすんなり実現したという事実は、政府・財務省・厚労省・日医の関係性が微妙に変化していることを感じさせます。リフィル処方導入はひょっとしたら「かかりつけ医の制度化」という大きな改革に向けての楔となるかもしれません。機能強化加算の算定要件にかかりつけ医機能を明記というわけで、今回の診療改定では、かかりつけ医関連の診療報酬は、財務省が批判していた地域包括診療料、地域包括診療加算や機能強化加算など、従来路線の見直しに留まりました。ただ、「かかりつけ医関連の報酬が機能を評価したものであることが患者等に認識されていない」といった批判もあり、いくつかの要件や基準は厳格化されることになりました。まず、機能強化加算ですが、地域におけるかかりつけ医機能をより明確化するため、算定要件と施設基準が見直されます。算定要件では、かかりつけ医機能に関する対応として以下の5項目が明記されました。1)患者が受診する他の医療機関および処方薬を把握し、必要な管理を行い診療録に記載する2)専門医または専門医療機関への紹介を行う3)健康診断の結果等の健康管理に係る相談に応じる4)保健・福祉サービスに係る相談に応じる5)診療時間外を含む緊急時の対応方法等に係る情報提供を行うそして、施設基準では上記の対応について院内や医院のウェブサイト等に掲示することが要件に加わります。また、現行では地域包括診療料・地域包括診療加算や在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院に限る)等の届け出があれば算定できましたが、今改定では訪問診療や往診を行った患者数等の実績要件が盛り込まれます。在宅医療のニーズが今後さらに増えることを想定し、外来中心の医療機関であっても訪問診療等に関わってもらおう、という狙いからです。そもそも、かかりつけ医機能を評価する報酬と言いながら、地域包括診療料、地域包括診療加算等の届け出を行っていれば、自動的に初診患者に加算できること自体に無理がありました。今改定での機能強化加算への5項目の算定要件新設や、訪問診療や往診等の実績要件の導入は、かかりつけ医というものの機能が患者にもある程度見えるようになるという意味で、理に適ったことだと言えるでしょう。なお、地域包括診療料・地域包括診療加算については、慢性疾患を抱える患者に対するかかりつけ医機能の評価を推進する観点から、対象疾患に慢性心不全、慢性腎臓病(慢性維持透析を行っていない者に限る)が追加されます。外来機能報告制度にあわせ定額負担を徴収する病院の対象を拡大今改定では、外来の診療報酬として、2022年4月からスタートする「外来機能報告制度」にあわせた地域における外来機能の分化と連携を促す見直しも行われました。具体的には、紹介状なしで受診した患者から定額負担を徴収する責務のある医療機関の対象範囲を、従来の「特定機能病院」と「一般病床200床以上の地域医療支援病院」に加えて、「外来機能報告制度における紹介受診重点医療機関のうち一般病床200床以上の病院」にも広げるとともに、該当医療機関の入院機能を評価する紹介受診重点医療機関入院診療加算(800点、入院初日)が新設されます。なお、紹介状なしで受診した患者から追加徴収する定額負担は初診7,000円、再診3,000円とし、現行から初診2,000円、再診500円引き上げられます。外来医療の実施状況を都道府県へ報告する外来機能報告制度外来機能報告制度とは、外来医療の実施状況を都道府県へ報告するよう病院などに義務づける制度です。従来からある病床機能報告制度の外来版という位置づけで、2021年5月の医療法改正で創設され、この4月からスタートします。同制度では、各病院に「医療資源を重点的に活用する外来」をどの程度実施しているかの報告を求めます。集めるデータは抗がん剤を使う外来の化学療法、日帰り手術、CTやMRI撮影の実施件数など。紹介・逆紹介率、外来における人材の配置状況、高額な医療機器・設備の保有状況などに関する報告も含まれます。これらのデータを基に、都道府県は「地域における協議の場」を通じて、各地域で高度な外来を担う基幹病院を明確化します。初診と再診の「医療資源を重点的に活用する外来」が占める割合が初診40%以上、再診25%以上という基準を満たす場合、その病院の意向を踏まえた上で「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関:紹介受診重点医療機関」と見なされることになります。今改定では、この紹介受診重点医療機関のうち一般病床200床以上の病院も、定額負担を徴収する責務のある医療機関に加わったわけです。「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造深まるか、追い込まれる日医はどうする外来機能報告制度は、外来医療においても入院同様に機能分化を進め、「かかりつけ医をまず受診し、そこから高機能の病院外来を紹介してもらう」という患者の流れを作るために創設されました。2022年度から外来機能報告制度がスタートすることで病院の外来機能の分化はある程度進みそうですが、その前の段階の「かかりつけ医」の制度化は今回の改定では手つかずで、議論もペンディングとなってしまいました。もっとも、財務省も手をこまぬいているわけではないようです。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会は2月16日、2021年12月にまとめた提言の22年度予算案への反映状況を確認、議論を交わしました。この中で、「かかりつけ医」の制度化について、引き続き推進を求める意見が出たとのことです。財政審は2021年11月の財政制度等審議会・財政制度分科会での提言に続き、12月3日にまとめた「令和4年度予算の編成等に関する建議」の中でも「かかりつけ医」の制度化を挙げていました。今改定では制度化は見送られたものの、政府の経済財政諮問会議が12月23日に取りまとめた新経済・財政再生計画(財政健全化計画)の「改革工程表2021」には、「かかりつけ医機能」を明確化し、それを有効に発揮するための具体策を2022〜2023年度に検討する、という方針が示されています。機能強化加算の算定要件として明示された5項目をベースとして、「かかりつけ医」の制度化に向けての議論がいよいよ本格化することになりそうです。「第80回 「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」でも書いた対立構造は、今後一層溝が深まっていくかもしれません。日医がそうした事態を避けるためには、自民党の安倍 晋三元首相や麻生 太郎自民党副総裁ら有力議員から自民党の政策に非協力的と見られている中川 俊男会長が次期会長選には出ず退陣、自民党とのパイプ作りに長けた人材を投入する、という手も考えられますが、さてどうなることか。参院選前、6月末に行われる予定の日医会長選の動きも気になります。

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英語で「ズキズキする痛み」は?【1分★医療英語】第16回

第16回 英語で「ズキズキする痛み」は?Could you describe your pain?(どのような痛みか教えてもらえますか?)I have a cramping pain in my lower belly.(下腹部にズキズキするような痛みがあります)《例文1》My left leg is cramping right now.(今ちょうど、左足がつっています)《例文2》Do you have menstrual cramps?(月経痛はありますか?)《解説》筋肉が激しく収縮することによって生じるズキズキとした痛みを“cramp”といいます。“menstrual cramp”は月経痛、“muscle cramp”は筋痙攣(筋肉がつること)を意味します。“cramp”は名詞としても動詞としても使える単語で、“cramping pain”は筋肉がつるような痛み、ズキズキするような痛みを意味します。また、“throbbing pain”という表現もあり、これも同様に「ズキズキする痛み」を意味します。その他の痛みを描写する表現としては“sharp”(鋭い)、“dull”(鈍い)、“shooting”(電撃が走るような)、“pounding”(拍動するような)、“burning”(焼けるような)、“pressure-like”(圧迫されるような)といった表現があり、覚えておくと問診に役立ちます。なお、腹部は医学用語では“abdomen”ですが、一般用語としては“belly”や“stomach”を使います。「おなかに痛みはありますか?」は、“Do you have any pain in your belly?”と言うと患者に理解されやすいでしょう。講師紹介

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第96回 行政や官公庁はなぜ気づかない!?国民がワクチン3回目接種したくなるひと手間

オミクロン株による新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大は新規感染者報告数だけを見ればややピークを過ぎつつあるようだ。もっともまだ気を緩められる状況ではないだろう。たとえば、東京都は過去1週間の各曜日の新規感染者報告数が前週同一曜日と比べて減少しているものの、後続指標である重症者数は一貫して増加している。国基準での重症病床使用率は2月16日現在、46.5%である。その中で数少ない切り札になりそうなのがワクチンの3回目接種だが、国内の3回目接種率は2月16日現在11.1%に止まり、先進国の中ではほぼ最低クラスと言ってよい。そんな最中、これを執筆中の私自身も3回目接種を終え丸1日が経過した。私の場合は過去2回の接種はファイザー製を選択したが、今回は交互接種でモデルナ製を選択した。私の住む自治体の場合、区の集団接種会場はモデルナ、個別接種医療機関はおおむねファイザーという住み分けがされており、接種券が届いた際はどちらも相当の余裕があった。たぶん、細かいことにこだわらなければ2週間前には接種は完了していただろう。しかし、自称『ワクチンマニア』のこだわりのため遅れてしまった。そのこだわりとは、ワクチンの種類としては「交互接種になるようモデルナを選択したい」というのが第一。次いで私自身は接種歴が記録されたイエローカードを2種類(米・CDC版とWHO版)保有しており、「接種後にカードへの英語記入をお願いしたい」。さらに欲を言えば「自分の接種風景を写真に収めておきたい」、この3つだ。イエローカードの記入を考えると、区の集団接種会場でお願いされても、接種実施者の項目に「○○区」と記入するのかどうかという問題もあるし、それ以上に集団接種会場のオペレーションは個別医療機関と違って現場に裁量がないはずなのでカード記入や写真撮影をお願いされても困るだろう。予約システムを見ると、区内のあるクリニックならばモデルナ製の接種が可能だったが、最寄り駅が7つも離れていることと、一見さんが写真撮影をお願いしてOKしてもらえるかどうかわからないので予約を躊躇してしまった。どうしようかと思いながら、1、2回目を接種したクリニックのホームページを念のため覗いてみたところ、ワクチン在庫の関係で特定週だけモデルナ製を接種すると記述がある。ここでは前回、イエローカード記入も写真撮影も了承してもらえたので、早速予約を入れた。接種当日、クリニックに到着すると、前回の接種時の補助をしていた看護師さんと目が合い「ああ、村上さん。今回もイエローカードと写真?」と先回りで言われてしまう始末。接種担当医師も前回と同じで「前回は副反応どうでした?」と聞かれたので、「まったくと言っていいくらい何もなく、仕込んだネタを外して笑ってもらえない芸人の気分でした」と答えると大笑いされた。ちなみに丸1日経っているが、今のところ注射部位を指で押せば軽い痛みがある程度で発熱もない。今回も「ネタを外した」ようだ。さて前置きが長くなってしまったが、3回目接種が進展していないことへの批判を受けて岸田 文雄首相は、菅 義偉前首相時代と同じく「1日100万回接種」の目標を掲げた。しかし、この実現に当たって目下障害になるものがある。それは当初定めた3回目接種の目標時期である「2回目接種から8ヵ月以上経過」という条件である。この件は本連載の第84回でも触れたが、あくまで行政的な判断である。医学的には各ワクチンで承認された追加接種適応にあるように「6ヵ月以上」である。第84回の執筆時に私は行政的判断としては妥当ではないかとの見解だったが、それはあくまで執筆時点での推定在庫を念頭に置いたもので、すでに状況は変わっている。地域差はあるものの当時と比べれば在庫はある。その意味ではもはや8ヵ月以上の条件はほぼ不要と言っていい。厚生労働省もホームページでも「追加接種の予約枠に空きがあれば、一般の方も順次前倒しで3回目のワクチン接種を受けられるようになりました」と但し書きをしているが、その下にまるで残骸のように過去の接種基準を付記したままである以上混乱を招きやすい。もちろん最近の目まぐるしい情勢変化があるため、ある種の「アリバイ」表記は必要だろうが、こうした表記は紛らわしく、誤解を生むことが多いもの。ならば、国から今まで以上に積極的に“予約枠次第で前倒しは可能”と情報発信すべきだ。結局、今はヒトも予算も国よりも限られる自治体がその負荷を追う形となり、あちこちの自治体で接種券に表記された接種可能時期と国の方針変更に応じた最新の接種時期を反映した各自治体ホームページでの情報の不一致が散見される。接種券を印刷し直している余裕がないため致し方ない措置だが、これではインターネット弱者は置き去りにされてしまう。一方で自治体も改善可能な点はある。一部では2回目接種から6ヵ月以上が経過したことで接種券が送付されているが、目下の予約状況に空きがあるにもかかわらず、予約開始日がかなり先の日時に固定されているという自治体もあるのだ。こうした自治体に居住している人によると、この件を区に問いただしても「あくまで区の方針なので」で押し切られ、予約開始日前の空き枠を指を咥えて見ているしかないそうだ。自治体も柔軟な対応が必要だろう。3回目接種になってから今回私が選択したモデルナ製は不人気で、そのことが3回目接種推進のハードルになっているかのようなことが書かれた記事がやけに目立つ。確かにファイザー製と比べ、心筋炎なども含めやや副反応の頻度が高いという報告もあり、避けられている側面はあるだろう。その意味では確かに足かせの一つかもしれないが、ここに挙げたもの以外にも、あちこちに目詰まりの要素は散見されるはずだ。その一つ一つを丁寧に解きほぐしていかない限り、3回目の接種率は思ったように上昇しないのではないかと内心危惧している。

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第96回 2022年診療報酬改定の内容決まる(前編)オンライン診療初診から恒久化、リフィル処方導入に日医が苦々しいコメント

中医協総会で診療報酬改定の答申行われるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は気心が知れた山仲間数人で、八ヶ岳の東天狗岳に渋の湯、黒百合ヒュッテ経由で登ってきました。前日までの降雪でいい具合の積雪となった八ヶ岳は、待ってました!とばかりに登山者も多く、頂上直下は行列もできるほどでした。とはいえ厳冬期の八ヶ岳、1月には遭難も起こったルートです。極寒の中、程よいスリルと緊張感を味わって無事下山しました。さて、2月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、2022年度診療報酬改定の答申1)が行われ、項目の詳細と点数が明らかになりました。今回の診療報酬改定、ニュースなどでは不妊治療(体外受精、顕微授精など)の保険適応が着目されていますが、ここではこのコラムでも触れてきた政策的な意味合いが大きいいくつかの項目について、その内容を見てみたいと思います。看護職員の処遇改善でプラス0.2%、不妊治療の保険適用でプラス0.2%今回の診療報酬改定率は、「第92回 改定率で面目保つも「リフィル処方」導入で財務省に“負け”た日医・中川会長」でも書いたように、医師らの人件費などにあたる「本体」部分を0.43%(国費で3,000億円相当)引き上げる内容となりました。このうち、看護職員の処遇改善でプラス0.2%、不妊治療の保険適用でプラス0.2%相当分の財源を使うことになります。一方で、リフィル処方箋の導入・活用促進でマイナス0.1%、小児の感染防止対策に係る加算措置(医科分)の期限到来でマイナス0.1%の医療費低減を見込みます。結果、実質的な本体の増分はプラス0.23%とされています。なお看護職員の処遇改善は、2022年2~9月までは2021年12月20日に成立した2021年度補正予算で賄い、2022年10月以降に診療報酬で対応することになっています。財源的には0.2%分が不妊治療の適用に充てられ、今改定の岸田政権の目玉的存在として報道されています。現在は一部を除き公的保険外の不妊治療について、「人工授精」「体外受精」「顕微授精」などが新たに保険適用となりました。一般マスコミではこのほか、オンライン診療の見直しやリフィル処方箋の導入などを取り上げるところが目立ちました。時限的・特例的措置終了でオンライン診療初診から恒久化へコロナ禍となって普及・定着が求められてきたオンライン診療。本コラムでは、「第24回 オンライン診療めぐり日医と全面対決か?菅総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと」や「第29回 オンライン診療恒久化の流れに「かかりつけ医」しか打ち出せない日医の限界」などで取り上げて来ました。オンライン診療の初診は、コロナ流行期の時限的・特例的措置として2020年4月から認められています。菅政権では「オンライン診療の恒久化」が掲げられ、岸田政権でもそれを受け継ぐ形で議論が進められて来ました。2021年11月29日、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」が、「かかりつけ医による診察を原則として、コロナの流行期に限らず初診からオンライン診療が行える」新指針案を了承、今年1月28日に、その新指針2)を公表しました。新指針は時限的・特例的措置が終了(新しい診療報酬が適用される4月1日)次第、適用される予定です。推進派と慎重派が対立、公益裁定で決定今改定に向けての中医協の議論でも、オンライン診療と推進派(経済界、保険者、オンライン診療システム事業者など)と、慎重派(日本医師会など)の間では激しい対立がありました。推進派は「規制は可能な限り緩めるべき」「点数は対面診療と同一にすることも含め、大幅引き上げを行うべき」などと主張、一方、慎重派は「安全性・有効性を確認しながら徐々に規制を緩めていくべき」「サービスの質が劣るため、対面診療よりも低い点数を維持すべき」などと反論してきました。対立は中医協論議の最終局面になっても収まらず、最終的に公益裁定(中医協委員の支払側と診療側で議論がまとまらないときに、公益側委員が中立・公正な立場で裁定すること)で点数等が決定しました。初診は251点で対面の初診料の約87%具体的な改定内容は、現行のオンライン診療料(71点)を廃止した上で、初診料、再診料(外来診療料)の中で「情報通信機器を用いた場合」として新たに点数を設定するというものです。オンライン診療による初診は251点で対面の初診料(288点)の約87%となり、現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下で時限的・特例的に認められている電話・オンライン診療による初診料(214点)から大幅に引き上げられます。オンライン診療を行った場合に評価する14種類の医学管理料についても対面での評価の約87%に設定されます。再診料は73点で、対面診療と同じ点数になります。さらに、現行のオンライン診療料では、「日常的に通院または訪問による対面診療が可能な患者を対象」という距離要件、「オンライン診療の実施割合が1割以下」という実施割合要件が設けられていますが、今改定でこれらが撤廃されます。対面診療を提供できる体制を有することは求めた上で、オンライン診療で対応できない場合に、他の医療機関と連携して対応できる体制を有することなどが算定要件となります。「患者の安心・安全が損なわれたり、地域医療の秩序を混乱させるような事象が生じたりした場合には見直しを要請」と日医・中川会長日本医師会の中川俊男会長は2月9日、診療報酬改定の答申を受けた会見で、「公益委員の裁定による決着となったが、オンライン診療では対面診療との比較において、触診・打診・聴診等が実施できないことが明示されたことを受けて、対面診療とオンライン診療とでは診療の対価に差を設けることは適当であるとされた」と総括、その上で、「患者の安心・安全が損なわれたり、地域医療の秩序を混乱させるような事象が生じたりした場合には、期中であっても速やかに診療報酬要件の見直しを要請する」と述べたとのことです。オンライン診療は、コロナ禍でそのニーズが高まっているにも関わらず、点数設定や各種規制などによって普及が今ひとつであるのが問題視されています。対応できるのは2021年6月時点で全医療機関の約6%でした。大幅な点数増もあり、今回改定でオンライン診療はこれまで以上に普及しそうですが、推進派の掲げた要望はその一部が実現したに過ぎません。次期改定に向けて規制緩和の議論がまだ続きそうです。リフィル処方は1回29日以内で処方箋料の減算なしこのコラムの第92回で書いたリフィル処方ですが、4月から処方箋様式が下図のように変更され、「リフィル可」「調剤実施回数」の項目が追加、一定期間内、処方箋を反復利用できるようになります。新たな処方箋様式画像を拡大するリフィル処方の対象となるのは、「医師の処方により、薬剤師による服薬管理の下、一定期間内に処方箋の反復利用が可能である患者」で、留意事項として「総使用回数の上限は3回まで」、「1回当たり投薬期間及び総投薬期間については、医師が、患者の病状等を踏まえ、個別に医学的に適切と判断した期間」、「投薬量に限度が定められている医薬品及び湿布薬については、リフィル処方箋による投薬を行うことはできない」などの要件が定められています。リフィル処方箋導入に合わせ、その普及を後押しするため処方箋料も見直されます。現在の処方箋料は、「1処方につき投与期間が30日以上の投薬を行った場合は、所定点数の100分の40の点数」になりますが、この一部が対象外になります。具体的には、「処方箋の複数回(3回までに限る)の使用を可能とする場合で、処方箋の1回の使用による投与期間が29 日以内」の投薬が対象から外れます。日本医師会を刺激しないよう大人しめのコメントの日薬・山本信夫会長日本薬剤師会にとって“悲願”とも言われたリフィル処方の導入。1月18日の都道府県会長協議会で日本薬剤師会の山本 信夫会長は、「薬剤師が担う役割は大きいものがあり、その判断や決断は重たくなる。覚悟を持って取り組まなければならない一大事業になる」と熱く語っていました。ただ、2月10日に開かれた三師会の会見では山本会長は、「どんな形の処方箋かによって職能が変わることはない。これまで同様に、きちんとした対応していくことに変わらない。これまでも薬剤師の職能が発揮されてきたからこそ、医師にも信頼され、地域の方々からの信頼を受けいまの状態がある。これをさらに進めていく」と、薬剤師と医師の関係の重要性を改めて強調するに留めました。リフィル処方導入に一貫して反対してきた日本医師会を刺激しないよう、大人しめのコメントにしたようです。日医・中川会長「リフィル処方箋を出すかどうかは医師が決める」と強調一方、日本医師会の中川 俊男会長は2月9日の答申を受けた会見で、過去10年近くにわたって「骨太の方針」等でその導入を求められてきたことや、今回の診療報酬改定の議論に先立って、2021年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2021」でも、改めてリフィル処方の導入が明記されたことに触れた上で、「日本医師会は症状が安定している慢性疾患の患者さんであっても、定期的に診察を行い疾病管理の質を保つことが重要であると主張してきた。日本では医師法により医師に処方権がある。今回の診療報酬改定では、厚生労働大臣・財務大臣両大臣合意でリフィル処方箋の導入が決まったが、両大臣合意でも『医師の処方により』行うものであることが明示されている」と語り、「リフィル処方箋を出すかどうかは医師が決める」と強調しました。そして、「今回、両大臣合意を踏まえたリフィル処方箋の導入ということになったが、患者さんにとって、適切な治療が行われることについて、十分配慮した運用が現場でなされることを期待している。現行制度において、投薬日数は医師の裁量とされている。ただ、これまでも繰り返し主張しているとおり、長期処方にはリスクがあり、不適切な長期処方には是正が必要と考えている」と長期処方のリスクに言及。「新しい仕組みを導入する際には、患者さんの健康に大いに関わるため、慎重の上にも慎重に、そして丁寧に始めることが望ましい」と語ったとのことです。「先生、私もリフィルで」と言い始めたら医師は抵抗できるか?中川会長のコメントからは、改定率と引き換えに受け入れてしまったリフィル処方に対する苦々しさが伝わって来ます。「処方するのは医師だ」という当たり前のことをあえて強調しなければならないほど、リフィル処方の導入を恐れているのでしょう。今回の診療報酬改定でのリフィル処方の影響は、再診料、処方箋料の減少などで改定率にしてマイナス0.1%と言われています。しかし、以前のコラムでも書いたように、もし国民がその割安感と利便性に気づいたら、それ以上の影響が出てくるかもしれません。日医が今恐れるのは、リフィル処方の仕組みや利用の仕方をテレビや一般マスコミが大々的に取り上げることではないでしょうか。患者がその割安感や利便性に気づき、「先生、私もリフィルで」と言い始めたら、医師は果たして立派な根拠を持って抵抗できるでしょうか。リフィル処方の今後の広がりが気になります。次回は、「かかりつけ医機能」について考えてみたいと思います。(この項続く)参考1)中央社会保険医療協議会 総会/厚生労働省2)オンライン診療の適切な実施に関する指針

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