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英語で「食上げ」は?【1分★医療英語】第29回

第29回 英語で「食上げ」は?Mr. Smith is tolerating well with clear liquid diet.(スミスさんは水分を問題なく飲めているようです)Great. Let’s advance his diet from clear to full liquid diet.(いいですね。水分からペースト食に食上げしましょう)《例文1》Please advance diet as tolerated.(問題ない範囲で食上げしてください)《例文2》Let’s hold off on advancing his diet until we get the barium swallow results.(バリウム造影検査の結果が返ってくるまで、食上げはやめておきましょう)《解説》「食上げ」は、病院の中ではよく用いるものの、英会話スクールなどではなかなか出合うことのない表現だと思います。「食上げを行う」は“advance diet”と言いますので、丸ごと覚えてしまいましょう。また、流動食は“liquid diet”、軟菜食は“soft diet”、常食は“regular diet”と言います。“clear liquid”と“full liquid”の違いは、前者が水やスープ、後者がペースト食のようなものです。米国の病院では、三分粥、五分粥、全粥のような段階的に水分が減るお粥はありませんので、これに対応する英語はありません。ただし、普通のお粥は出す病院もあり、これは“congee”と呼ばれます。日本語の「漢字」に発音が近いので、渡米して間もないころ、「漢字?」と思わず聞き返してしまったことがありました。ちなみに「漢字」の英単語は“chinese character”です。また、“advance diet”という表現と一緒に“as tolerated”という表現もよく用います。「耐えられる範囲で」という意味で、食上げだけでなく、安静度やリハビリテーションのオーダーの際にも用いられる表現ですので、併せて覚えておくとよいでしょう。講師紹介

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第109回 医師も覚悟が必要!?ジェネリック会社の事業再生ADRで医薬品恐慌が勃発か

先週、本連載の原稿を提出し終わってほっと一息ついていた時に思わず目が点になるニュースが飛び込んできた。そのニュースとは、ジェネリック医薬品(以下、ジェネリック)の国内最大手(念のために言うと、今年は売上高で沢井製薬と首位が逆転)・日医工が事業再生ADRを検討中というもの。第一報は読売新聞で、その後、報道各社が後追いし13日夕方、同社は事業再生ADRを申請したことを発表した。事業再生ADRとは、私的整理の一種で債務超過などにより経営困難に陥った企業が、民事再生法や会社更生法のような法的整理ではなく、取引金融機関の協力を得て事業再建を目指す仕組み。すでに日医工の申請は国が認定する認証紛争解決事業者に受理され、事業再生計画案を作成して取引金融機関との第1回債権者会議が5月26日に開催予定だ。日医工のメインバンクは三井住友銀行で、同行を含み主要な取引金融機関は8行ほど。同社が債権者会議に提示する事業再生計画案に1行でも反対すれば、事業再生ADRによる経営再建は不可能になり、法的整理(いわば倒産)へと移行する。もっともすでにメインバンクの三井住友銀行が支援を表明。そのほかの主要行も何らかの形で支援することを明らかにしていることから、法的整理に移行する可能性はほぼないと言ってよい。今回、日医工がこのような事態に至った理由は主に2つある。1つはすでに明らかになっている同社富山第一工場の製造工程・品質管理での不正発覚だ。この件で昨年3月に業務停止命令の行政処分を受け、一部製品の出荷を停止したことが業績悪化につながった。もう1つの理由は海外展開の苦境だ。ご存じのように日本では国の方針でジェネリックがある成分でのジェネリック数量ベースシェア80%という目標達成に向け、ジェネリックに対してはここ数年追い風が吹いていた。もっとも医療用医薬品市場の稼ぎ頭の中核が生物学的製剤に移行している現在、低分子化合物の経口薬が中心である国内ジェネリック市場では80%目標達成後は市場成長が頭打ちになることがかなり前から指摘されていた。このため国内の主要ジェネリック企業は2010年代半ばから海外展開を開始。日医工も2016年にアメリカのジェネリック企業を買収し、海外事業に本格的に乗り出した。しかし、近年のアメリカ市場はインドのジェネリック企業が台頭し、激しい価格競争が繰り広げられている。海外では日本以上にジェネリックは価格1点勝負とも言われ、日本ほど品質に過敏ではない。大げさなことを言えば、錠剤に髪の毛が混じっていることぐらいはあまり問題にならない。その意味で日本のジェネリック企業にとってウリとなる「高品質」はむしろ価格競争力を削いでしまう。そのため日医工は利幅の高いバイオシミラー事業の展開を狙い、すでに国内では発売済みの抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤インフリキシマブ(商品名:レミケード)のバイオシミラーのアメリカ市場投入を狙い、臨床試験も終了させていた。しかし、新型コロナウイルス感染症パンデミックにより、米国食品医薬品局(FDA)による米子会社や原薬提供会社の査察が停滞。この件に関連して大幅な減損計上にまで追い込まれた。これらの結果が、今回の事業再生ADRの申請というわけだ。今回の再建策は、あくまで日医工と取引金融機関が中心のため、ごく短期的に見れば同社製品の製造・供給に影響は出ない見通しだ。しかし、実際の再建策が動き出せばそうはいかないだろう。同社は国内ジェネリック企業としては最多の1,200品目以上を販売している。これに次ぐ沢井製薬は約800品目。ある意味、桁が違う。背景には「医療現場での必要性があれば不採算品目でも供給する」という同社の経営方針がある。これまではこうした不採算品目の損失も同社の基幹工場である富山第一工場で製造していた主要な約400品目の利益でカバーしてきた。だが、前述のように行政処分を受けた影響で同工場では約170品目の製造が停止したままである。今回の事業再生ADRで完全に尻に火が付いた状況では、今後の再建計画において不採算品目の整理に手が付けられるのは避けられないだろう。これまた、医療業界関係者はすでにご存じのように、同社以外でも複数のジェネリック企業で製造過程などの不正が発覚し、現状のジェネリックの供給体制は不安定なまま。ここで日医工が不採算品目を整理すれば、医療現場での供給不安に拍車がかかる可能性がある。そしてこのことはその穴埋めをしなければならない同社の競合他社や新薬メーカーも含めた製薬業界全体の「恐慌」に発展する可能性がある。一方、日医工は国内ナンバーワンジェネリック企業を目指し、過去20年間に6社の買収を行っている。その中には製薬大手エーザイが手放したジェネリック事業のエルメッドエーザイ社(現エルメッド)もある。今回の事業再生ADRにより先行き不安を感じ離職するとしたらこうした「外様組」だろう。そもそも製薬業界はここ数年リストラの嵐が吹き荒れ、人材あっせん業者が開くセミナーなどでは周囲が製薬企業出身者だらけということも稀ではないと言われている。もともとジェネリック企業の社内オペレーションは、新薬メーカーなどに比べれば、少人数体制と言われる。そうした現状でもし日医工での人材流出懸念が現実化すれば、日医工の生産、流通、販促活動での「自転車操業」化はもちろんのこと、そのあおりで代替品の供給を求められる同業他社にも自転車操業が波及する。もっともここで指摘しておきたいのは、こうした状況下で現在の国の制度がジェネリック企業をさらに苦境に追い込む可能性がある。それはすでに始まった「毎年薬価改定」である。これが突き詰められれば、ジェネリック企業は薬価改定のたびに不採算品目が増える。その意味では日本国内でのジェネリックの在り方は行政も含め、今一度抜本的な見直しが必要な時期に来ていると言えるかもしれない。

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ニコニコ仮面は15枚限定【Dr. 中島の 新・徒然草】(426)

四百二十六の段 ニコニコ仮面は15枚限定連休は過ぎましたが、暑からず寒からずいい季節ですね。心なしか、花粉もちょっと減っているような気がします。さて、私はいつも研修医やレジデントに「病院にいる間はニコニコ仮面をつけておけ」と言ってます。もちろんそんな仮面が本当にあるわけではなく、あくまでも想像上の物。心の中では泣いたり怒ったりしていても、意識してニコニコした表情を保ち、患者さんや同僚から上機嫌に見えるよう努力しろ、という意味で言っているわけです。家で何があろうが、体調が悪かろうが、職場ではプロとして振る舞わなくてはなりません。そしてプロたるもの、患者さんの前では常にニコニコしておく必要があります。たとえ心の中で何を考えていたとしても、ですね。だから、出勤して1歩病院に入ったら、ニコニコ仮面の装着です。ところが、私のニコニコ仮面はディスポーザブル。とくに外来中は、仮面の消耗が激しいのが現実です。だから1人の患者さんあたり、1枚の仮面を使ってしまいます。今日の外来予約が15人とすれば、15枚分を準備しておかなくてはなりません。しか~し。医療現場では、常に予定外の事が起こります。予約外の新患の来院。他科からの想定外のコンサル。突然の急患。ドカン!とドアが開いたと思ったら、いきなりのストレッチャーの搬入。「僕、聞いてないんですけど」と言いかけた途端、患者さんの全身痙攣が始まったりします。それでもニコニコしながら「大丈夫ですよ、心配要りませんからね」などと言いながら、処置しなければなりません。予定外の仮面1枚を消費する瞬間です。ようやく嵐の外来が終了。そんなときに限って、別の患者さんの診察を頼まれたりするわけです。本来の担当医は病棟で急変があって、隣の診察室を飛び出していった後。もう仮面の予備は1枚も残っていません。仕方なしに、床に落ちていた仮面を拾って装着します。でも、あちこち破れていて……そもそも使い物になるのか?患者「会社の上司が一度ちゃんと調べてもらって来いって」えっ?カルテを見る限り、担当医は真面目に診ているようですが。中島「ちゃんと診るというのは、具体的にどのような事を仰っているのでしょうか?」患者「何だかこの先生、怖い!」ぬぬぬ。ついイラッとしたのがバレてしまったか?中島「怖がらせるような事は何も言ってませんけど!」患者「でも、目が怒ってる」ボロボロの仮面の裂け目から、素の表情が見えていたのかもしれません。すみません。そもそも私は、予定外の事に弱いです。にもかかわらず、予定外が多すぎます。1日に何度も予定外が降ってきます。下手したら休日まで。また、私はマルチタスクができません。にもかかわらず、右からも左からも話しかけられます。追い込まれた時に怒った表情を見せないために、ニコニコ仮面を準備しているというのに。全部使い切った私はどうしたらいいんでしょうか……嗚呼最後に1句初夏の午後 捨てた仮面を また使う

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英語で「波がある痛み」は?【1分★医療英語】第28回

第28回 英語で「波がある痛み」は?Is the pain constant?(持続する痛みですか?)No, it comes and goes.(いいえ、痛みには波があります)《例文1》Does the pain come and go?(痛みには波がありますか?)《例文2》Hives can come and go.(蕁麻疹は、出たり消えたりします)《解説》“come and go”は文字通り、「行ったり来たりする」を意味し、症状に波があることを指します。医学用語では、持続痛は“constant pain”、間欠痛は“intermittent pain”と言いますが、患者さんに“intermittent”という単語は伝わりにくいため、どちらの痛みなのか確認したいときには、“Does it come and go?”と聞くとよいでしょう。その他の「痛みには波がある」という言い方として、“The pain gets better and worse.”や“The pain waxes and wanes.”などがあり、併せて覚えておくと役立ちます。“wax and wane”は、もともとは「月の満ち欠け」という意味で、“wax”が「満ちる」、“wane”が「欠ける」を意味します。“wax and wane”は月の満ち欠け以外にも、症状が良くなったり悪くなったりすることを表すことができ、医療者同士の会話では“His mental status waxed and waned, so we couldn’t extubate him.”(彼の意識レベルは波があり、抜管できませんでした)といった表現が頻繁に登場します。講師紹介

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医療訴訟を回避するカルテ術【Dr.倉原の“俺の本棚”】第54回

【第54回】医療訴訟を回避するカルテ術医療トラブルになったとき、証拠としてのカルテが非常に重要になります。この理由は、医療訴訟での事実認定がカルテに依存していることが挙げられるようです。医師と弁護士のダブル免許を持っている山崎 祥光氏が、北野病院で講演してきた「カルテの書き方」のスライドを、北野病院院長の吉村 長久氏が中心となって編さんされた本で、非常に完成度が高いです。『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』吉村 長久, 山崎 祥光/編. 医学書院. 2022年2月発売私は臨床医を約15年続けていますが、幸運なことにこれまで医療訴訟を起こされたことはありません。しかし、医療トラブルの経験はあります。進行期の悪性疾患で助かる見込みがない患者が急変して亡くなったときに、遠方から初めて会う家族がやってきて激怒したのです。私は怒りに対して申し訳ないという謝罪の意を示しましたが、これは当初「非を認めた」ととられてしまいました。終末期がんがどのようなものかを後日しっかりと説明することで納得されたのですが、「場合によっては訴訟」と言われたことは、今でも記憶に残っています。「遠方の家族も含めて、みんなで情報を共有すべきであったし、死が近づいていることを本人が家族に話しやすい方向にもっていくべきだった。あなたの怒りももっともだ」という意味での謝罪だったのですが、医療内容に関して非を認めてしまうような印象を与えてしまったようです。一番ベストな方法は、「医療責任ではなく、患者家族のつらいお気持ちに対して謝罪の意を表明した」などというカルテ記載を心掛けて、決して責任に対して謝罪したわけではないことがわかればよいそうです。その時に罵倒されることを回避できるわけではありませんが、後日医療訴訟に発展した場合の防衛策になります。この本は病状説明、同意書、処置などに関する医療トラブルの例を挙げつつ、プロによる「カルテにはこう書こう」という具体案が提示されています。医療訴訟の医学書なんて、これまでになかったので、かなり新鮮でした。「患者の病状理解が悪い」「進言するが聞き入れられず」みたいな感じで、感情を入れてカルテを書いてしまいがちな人は必読です。当院は外国人結核の患者さんがよく入院してくるんですが、片言で日本語を話す外国人のカルテに「S)大丈夫デス!」のように書いてしまう自分がいます。悪意があるわけではないのですが…。『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』編集吉村 長久, 山崎 祥光出版社名医学書院定価3,960円(税込)刊行年2022年

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第108回 医療施設はウクライナ軍の逃げ場!?だからロシアは狙うのか

現在、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の1日の新規陽性報告数は、ゴールデン・ウイークで人同士の接触が増えたことから、一時的に増加傾向にあるようだ。しかし、今年に入って始まった第6波のピーク時から考えれば、全体としてはすでに減少傾向にある。そして2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻により、一般向けニュースの様相は変わってきた。実際、私が記事を提供するインターネットの情報サイトの編集者からは「もうコロナは読まれなくなってきているので、書くなら短めで。それより、ぜひウクライナのほうで何かあれば」とまで言われるようになっている。とくに自分の場合は医療と国際紛争をメインテーマにしているというやや特殊な立ち位置だけに、そうした依頼が来る。そんなこんなことも踏まえ、今回は世界保健機関(WHO)のレポートを中核に据えて、現在のウクライナの医療事情を個人的な経験や感想も交えながら簡単にご紹介しようと思う。世界保健機関(WHO)の報告によると、開戦から5月4日までの時点で医療施設や医療関連の輸送、医療従事者や患者、医療関連物資の倉庫などに対して確認された攻撃が186件。これにより発生した死者は73人、負傷者は52人となっている。日本国内でもこうした事例はたびたび報道されており、「なぜ医療機関が攻撃対象に?」と思う人も少なくないだろう。これは誤爆など意図しない攻撃と意図した攻撃の2つが考えられる。現代では軍事作戦と無関係の施設や人間を攻撃することは、戦時国際法では違法行為とされる。こうした違法行為を防ぐために発展してきたのが戦闘機による空爆や地上からのミサイル攻撃などで使われる精密誘導弾である。これらは主にレーザーなどで目標位置を確認しながら軌道修正を行って着弾する。その命中精度だが、攻撃目標に対して半数以上が命中する半数必中界(CEP:Circular Error Probability)は20~30m程度である。逆に言えば医療機関から20~30m以内に軍事施設などがあれば、結果として誤爆は起こりえるということだ。これが非精密誘導兵器ならば、CEPはおおむね0が1個多くなる。ロシアの場合、精密誘導兵器の保有割合が先進国などと比べて低いと言われているため、必然的に誤爆の確率は高くなる。そして先進国による経済制裁により、現在、ロシアではこうした精密誘導兵器に使う電子部品などが枯渇しつつあると報じられている。やや嫌な見通しになるが、今後はさらにこうした誤爆による医療機関も含む民間施設への攻撃は増加してくると考えられる。一方、意図した攻撃とは、敢えて民間施設を狙うことで一般人の厭戦(えんせん)気分を煽り、「反撃能力を低下させる」あるいは究極のケースでは「その結果、戦争を主導する首脳部を下から突き上げ崩壊させる」ことを意図したものだ。今回のロシアの攻撃についてはむしろこの可能性が強く疑われている。というのもロシアに関しては、近年明らかに“そうしたい”としか感じられない攻撃を中東のシリアで何度も行っているからである。シリアは現在、バッシャール・アル・アサド大統領による独裁政権に抵抗する反政府勢力との間で内戦状態となっているが、ロシアはアサド大統領側に肩入れして軍事介入を行っている。ここでは何度も医療機関を含む民間施設への執拗な空爆をロシア軍が行っている。また、現在ウクライナ入りして取材している私の友人によると、先日までロシアが支配下に置いていた首都キーウ(キエフ)北方のボロディアンカの市街地は見事なまでに一般市民の高層アパートのみが攻撃を受けているという。実はこの2つ以外に医療機関が攻撃を受けるグレーな状況というものが存在する。先日、日本記者クラブで、フランスに本部を置く国際協力組織(NGO)の「国境なき医師団」のメンバーとして3月下旬から4月上旬まで現地に派遣されていた医師の門馬 秀介氏が記者会見したが、会見の中で門馬氏は次のように語った。「これは聞いた話でしかないんですけれど、マリウポリから避難してきたウクライナ人に話を聞くと、医療機関に逃げてくる兵士もいるので、 そこを狙って攻撃をしていると言っている方もいらっしゃいました」 これは「やっぱり」と思った。私もイラクで経験があるのだが、医療機関の周辺で戦闘が起こると、付近の住民はもちろんのこと一部の戦闘員が武装したまま逃げ込んでくることがあるのだ。少なくともそこを拠点に攻撃を開始でもしなければ、医療機関側も避難者として兵士を受け入れるしかない。自分もこの経験をした時は「勘弁してほしい」と内心では思っていたものの、兵士に面と向かってそうは言えなかった。ちなみに自分以外にもこうした経験を持つ取材者はいて、皆で意見が共通しているのが、逃げ込んでくるのは、多くは若年の徴集兵だということ。まあ経験値も少ない彼らは恐れが先に立つので、ある意味やむを得ないとも思う。もっともこうした事実があったとしても、医療機関への攻撃が正当化されるものではない。さて、WHOのレポートでは、ウクライナに展開しているWHOの救急医療チームが3月12日~4月30日までに提供したケア件数は3,472件で、その内訳は感染症が17%、外傷が12%、その他が62%。意外に外傷は少ないと思われるかもしれないが、あくまでWHOが把握している範囲である。そもそもWHOが活動する地域は最前線からある程度後方になることを考えれば、そこまでアクセスできないケースや前線近傍で対応しているケースも考えられるため、そもそもが過少報告になっている可能性が高いと言える。もっとも感染症の蔓延についてはWHOもかなり懸念しているようだ。日本国内でも多くの人が報道で目にしているように、一般市民の中には地下の避難所などで長らく避難生活を強いられている人も少なくない。そしてこれもまた報道で目にしているようにその環境はお世辞にも衛生的とは言えない。実際、WHOもレポートで「コレラ、はしか、ジフテリア、新型コロナなどのような病気の発生リスクは、水、下水設備、衛生状態へのアクセスの欠如、空爆シェルターと集合避難センターの混雑状態、通常および小児期の免疫獲得が最適ではないなどの事情から悪化している」と指摘している。WHOによると、4月28日~5月4日までの間に報告されたウクライナでの新型コロナ新規陽性者は2,886人、死亡者は52人。この前の1週間と比べ、それぞれ37%と29%減少しているが、 WHOは「新型コロナの症例と死亡は過少報告されているため、これらの数値は慎重に解釈する必要がある」と指摘している。むろんこの状況でウクライナ全土での公的サーベイランスが平時同様に機能している可能性は極めて低いため当然の指摘だろう。一方、WHOレポート内ではメンタルサポートへのアクセスが制限されている結果として、虐待や自傷行為も含むメンタル問題が増加することへの懸念も簡潔ながら言及されている。前述の門馬氏も移動診療所での診療経験からこの点の重要性を指摘していた。門馬氏の通訳を担当した現地の英語教師が、問診の通訳最中、患者が避難に至る訴えなどを聞いているうちにショックを受けて泣き出してしまうのだという。門馬氏は「(ウクライナの人たちは)戦争が扉1 枚隔ててすぐ横にある状態で心理状況が不安定。そのギリギリの中でやっているので、何か1つのことで急に泣き出してしまうことを実感した」と語っている。そして私個人の経験では、紛争地でのメンタルの問題は戦闘状態が長期化するほど複合的にさまざまな問題をもたらすと感じている。おおむね戦闘が長期化している地域では、メンタル面でどん底に落ち込んでしまう人とその状態に慣れてしまう人がいる。どん底に落ちた人の一部は薬物中毒などに走る。実際、私が過去に取材した紛争地では違法薬物が半ば堂々と売買されているシーンを目にすることは稀ではなかった。しかも医療アクセスが限定的となっているため、こうした人たちが医療的ケアにアクセスできる機会は限られているため、どんどん泥沼に落ち込んでしまう。一方で、打ち続く戦闘状態の中で半ば正常性バイアスらしきものが働き、その状態にメンタル的に慣れてしまう人もある種の問題を引き起こす。どういうことかというと、慣れっこゆえの不注意さで戦闘に巻き込まれて負傷したり、命を落としたりということが少なくないのだ。自分が以前、内戦中の旧ユーゴのボスニア・ヘルツェゴビナを取材した時のことだ。私の通訳をしてくれたのはサラエボ在住の男子大学生。その彼が市街地のある場所を通り過ぎる時、いつもなぜか寡黙になった。彼と仕事をするようになって3回目の時、私は彼に思い切ってそのことを尋ねてみた。すると彼はため息と苦笑い交じりで次のように話してくれた。「ここさ、高校時代の同級生が撃たれて死んだところなんだ。敵側のスナイパーの射程に直接入るところでね。うちらは毎日ここを走り抜けて高校に行っていたんだけど、ある時、自分と友人も含め5人で集まって『いつもよりやや遅めの走りで肝試ししよう』となってね。自分は4人目で何ともなかったんだけど、5人目の彼がやられてしまった。今考えると何でそんな遊びしちゃったんだろうって」戦闘に慣れるということはそういう負の側面もあるのかと何とも言えない気持ちになったことを今でもはっきり覚えている。ロシアによるウクライナ侵攻はまだ当面終わりそうにない。この状態が長く続くほど、私もまたこのエピソードを何度も思い返すことになるだろう。何とも気が重くて仕方がない。

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英語で「~をお勧めします」は?【1分★医療英語】第27回

第27回 英語で「~をお勧めします」は?I’d like to lose weight.(体重を減らしたいと思っています)It’s advisable to take regular exercise.(規則的に運動することをお勧めします)《例文1》It’s recommended to go to bed at the same time every night.(毎晩同じ時間に就寝することが推奨されています)《例文2》It’s advisable to quit smoking.(禁煙することが望ましいです)《解説》治療方針や生活指導をするに当たり、何かを提案したり、医学的に推奨されていることを説明したりする場合には、「〜することが良いとされている」「何かをしたほうがいい」という意味の“It’s advisable to do〜”または“I recommend you to do〜”や“It’s recommended to do〜”がよく使われます。「すべき」と言いたいときにまず出てくる“should”や“had better”の場合、かなりきつい言い方に聞こえてしまうので、禁忌事項の説明など、使う場面を限定したほうがよいでしょう。たとえば、“You should avoid binge drinking.”(アルコールの過量摂取は避けるべきです)のように使います。また、“suggest”(提案する)を用いる場合には、“I suggest that you stop smoking.”のようにthat節をとり、“suggest to do〜”という構文はとらないのでこちらも気を付けてください。少し違った言い方では、“It would be great if you do〜”(〜できれば素晴らしいですね)、“The best thing to do is〜”(一番いい方法は〜することです)といった言い方で、何かを提案することもできます。“It would be great if you could cut down on your sugar consumption.”(砂糖の摂取量を控えられるといいですね)といった具合です。患者さんとのやりとりの中で、「こうしたほうがいい」「これは避けたほうがいい」という提案をする場面は多いと思いますので、定型表現として覚えておくと便利ですよ!講師紹介

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第107回 医療者の成功事例求む!ワクチン接種をやる気に導く方法

わが家は18歳の娘も含め家族全員が2月中に新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の3回目のワクチン接種を終えているが、2ヵ月ぶりに娘にワクチンを接種することになった。何かというと日本脳炎のワクチンである。私の娘の場合、2005年の日本脳炎ワクチン接種後に認められた「因果関係が否定できない急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の確認による接種勧奨中止」が本人の定期接種時期に当たったため、接種機会を逃していたのである。というか、接種勧奨再開時に本来通知が来ていたはずだが、私も妻もまったくに近いくらい記憶がない。私自身はちょうど勧奨再開時期に多忙を極めていたため、その点は妻に任せきりだったことも影響している。ちょうど昨年、ヒトパピロ―マウイルス(HPV)ワクチンの接種勧奨再開方針が決まった際に、改めて母子手帳を確認したところ、ワクチン接種のページに妙な空白を見つけ、未接種が発覚したというお粗末な顛末である。もっとも私が気付いた時期は、企業の製造工程不備により日本脳炎ワクチンの供給量が不安定な状態が続いていた。そんな最中にキャッチアップ対象に過ぎない娘の接種を医療機関にお願いすることもできない。昨年末に製造体制が復活したのは知っていたが供給が安定するのには時間がかかるだろうと思い、これまではずっとスタンバイ状態にしていた。最近になって流通もかなり改善しているだろうと思い、区役所に連絡を取って、支所に出向き予診票を発行してもらった次第だ。しかし、娘は大の注射嫌いで新型コロナワクチンの接種時でさえ、腕をまくって接種を待つ間、「あああ、あああ」と声を上げながらしかめっ面をし、看護師の皆さんが飛んできてなだめたほどの困ったちゃんである。とは言え、好き嫌いとは別に新型コロナに関しては、高校の大切な思い出作りの修学旅行の中止という状況まで経験しているので、本人もその必要性は認識していた。しかし、普段は病名としてすら馴染みのない日本脳炎のワクチンを改めて接種するとなるとそうもいかない。しかもすでに民法改正で成人となった18歳という年齢を考えると、幼少期のように親の一存で何も説明せずに済むとは思えない。そこで娘には率直に状況を説明した。まずは感染者のうち100~1,000人に1人が発症し、日本でも今も年間10例以内の発症者がいると話すと、「年10例? そんなんだったら必要ないじゃん」との第一声。これは予想された反応だったので、未だ首都圏周辺ですら養豚場のブタの抗体陽性率は高く、発症した場合は20~40%の人が命を落とすこと、さらに無事救命できたとしても半数前後に後遺症が出ると説明し、本人をなだめた。結局、接種当日にクリニックへ到着すると、すでに眉間にしわが寄っている。本人から「コロナのワクチンと比べて痛い?」との問い。いやー、これは答えにくい。本音を言えば、筋肉注射の新型コロナワクチンと皮下注射の日本脳炎ワクチンを比べれば、皮下注射のほうが痛みはあるに決まっている。私はそれに直接答えずに「まあ、チクっとするくらいだよ」と返した。接種を待つ間、もう18歳にもなったというのに父親の私の手を握っている。ようやく呼ばれて、私も同席して針が刺された瞬間の娘の顔は般若の形相。私は内心「あー、やっぱり痛いんだな」と思うしかない。終わって待合室に戻ってきてからは、「今までで一番痛かったよ」と半べそである。私は「まあその時々によっても差があったりするからね」と誤魔化しておいた。なんせ1週間後には2回目の接種を控えているので。ちなみに、その娘が思いもかけずワクチン接種後にニコニコしていたことがある。それは新型コロナの3回目接種の時である。この時、娘の接種が終わるまで私はクリニックの外で待っていたのだが、本人が「今日は何ともなかったわ」と言いながら、接種時の様子を頼みもしないのに話してくれた。本人によると接種をしたのは女医さんで、予診票を目を見開いて凝視しながら「あら、もしかして医療従事者?」と言われたとか。非医療従事者で娘の年齢だと、2月時点は2回接種完了から半年が経過していない例がほとんどだが、わが家の場合は自称「ワクチンマニア」の私が駆けずり回って、キャンセル待ちで緊急に受けられるところを探して登録したため、娘は同年代と比べて格段に接種時期が早い。実際、当時娘のクラスでは誰一人まだワクチンを接種しておらず、娘自身は「ズルしたかのように誤解されるのは嫌だ」ということでワクチン接種完了を担任教師にも友達にも隠していたほどだ。この女医さんが驚いたのも無理はなかろうと思う。本人も「違います」と答えたが、女医さんからは「でも、きちんとその年齢でワクチン接種に来ることはとても良いことですよ」とお褒めにあずかったらしい。筋肉注射という痛みが少ない方式だったことに加え、この褒められ効果が本人の心理に影響を与えたことは確かだったようだ。まあ、もっともこうしたことは接種というところまで辿り着いたから言えることで、問題は接種をためらう層へのアプローチである。その意味で私自身は今の状況をある種の懸念を持って眺めている。新型コロナワクチンに関しては、医学的知見を踏まえて2回接種が3回接種になり、今後は一部対象者に4回目の接種が行われようとしている。まだ未解明のことも少なくない新型コロナウイルスに対してはやむを得ないことではあるが、一般人の理解、以前も触れたが臨機応変な政策変更という状況に慣れていない日本人では、こうしたアジャイルさは必ずしも素直に受け止めてもらえるわけではない。そのことは3回目接種率の上昇の鈍さにも表れていると思う。これが新型コロナワクチンという限定的なものではなく、ワクチン全体への不安や疑念に広がってしまうと非常に厄介である。私が懸念するのはこの点だ。そしてもしこの危惧が現実になった際には、日本脳炎ワクチンのように対象の感染症自体の報告数が少ないものでは余計に「不必要論」が浸透してしまいやすいように思える。もちろん前述のように首都圏ですら養豚場の豚の抗体陽性率の高いという疫学的データから見れば、定期接種という形でややdo接種されているからこそ年間10例未満で収まっているのだと理解はできるはず。だが、一般向けの情報発信を常に行っているものとしては、そう簡単とは思えない。念のため、日本脳炎ワクチンについてTwitterなどで検索してみると、比較的接種に肯定的な親御さんは多いようだ。しかし、4月に岐阜県で日本脳炎ワクチン希望の5歳児への新型コロナワクチンの誤接種を巡って新型コロナワクチン否定派の人たちがあれやこれやと騒いでいるツイートも目にする。SNS上ではこうしたちょっとした事件が思いもかけないほど負の影響を拡大再生産することはよくあることだ。そうした中で日本脳炎ワクチンの供給量が改善してきた今、一般向けの啓発記事を書こうかとも思っているが、こうした「空気のようなワクチン」についてどのように情報発信すべきかとやや悩み始めている。その意味では接種を躊躇する方に対する医療従事者の成功事例があれば知りたいところだが、あちこち情報を検索していてもなかなかこれというものが見つからないというジレンマに陥っている(もし「こんな事例がありました」というのがあれば、ぜひ教えていただきたいとも思っている)。

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英語で「薬の変更」は?【1分★医療英語】第26回

第26回 英語で「薬の変更」は?Am I still supposed to take this medication?(まだこの薬を飲み続けるのですか?)No. Actually, I will switch you over to another one.(いいえ、別のお薬に変更します)《例文1》医師Your liver enzymes are getting better. I will switch over you to this medication.(肝酵素の値が良くなっていますね。こちらの薬に変更しましょう)患者I see, Doc.(わかりました、先生)《例文2》I will have to switch you over to PO meds before discharge.(退院前に経口薬に変更しないといけません)《解説》この表現は知らないとまず出てこないと思います。「薬を変更する」という意味ではさまざまな表現がありますが、この“switch you over to~”は「具体的にどのような変更をするのか」を言いたいときによく使われる言い回しです。《例文2》のように静脈注射薬から経口内服薬に変更したり、薬Aから薬Bに変更したりする場合に便利な表現です。臨床現場で薬を変更するときには理由があることがほとんどですので、理由も含めて患者さんに説明ができるとさらに良いでしょう。多数の薬を見直すときや、具体的な内容に触れずに薬の変更を伝えるときは、“adjust”を使うと便利です。薬について患者さんと話す機会は多いので、ぜひ身に付けて実際の会話で使ってみてください。講師紹介

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第106回 お薦めしません!医療素人とのTwitter応酬合戦、その全貌がコレ

先日、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するドラッグ・リポジショニングで注目された抗インフルエンザ薬ファビピラビルの「内情」について書いたが、その直後、私がTwitterであるツイートをしたことがきっかけで自ら「素人」と言ってはばからない人と応酬となった。Twitterをやっている人は分かると思うが、何も知らない、あるいはやや狂信的とも言っていい人とやり取りをするのは疲れるもの。私も大概は無視するのだが、あまりに誤った情報だと何かは返したくなる。その結果が今回の事態だが、医療知識のない人とやり取りをするというのは、こういうものなのだという参考事例として今回紹介したい。さて、きっかけとなった私のツイートは、本連載第104回でも触れた塩野義製薬が開発中の新型コロナの3CLプロテアーゼ阻害薬の催奇形性に関するもの。この薬に期待を寄せる人は未だ十分に有効性を示せていないイベルメクチンとファビピラビルに期待を寄せる人たちと一部と重なる。しかし、以前も触れたように動物実験でイベルメクチンは最高推奨用量の0.2倍、アビガンは臨床曝露量同程度以下で催奇形性が認められている。そうしたことをこの人たちは知らないのだろうか? という疑問を投げかけるツイートだった。ツイートした当初はほとんど反応はなかったが、それから1週間後にある人からリプライ(返信)が付いた。匿名アカウントで年齢・性別も分からないので、この人をAさんとしておこう。端的に言えばファビピラビル推しの人である。リプライの大意は「ファビピラビルの投与期間中避妊すれば問題ないし、やはり新型コロナの適応を持つバリシチニブだって催奇形性はある。またファビピラビルは米軍、台湾、日本では備蓄もされているし、海外では承認製造されている」。まあ、よくありがちな反応である。ちなみにバリシチニブに催奇形性があることは承知しているし、Aさんが言う米軍、台湾、日本での備蓄は抗インフルエンザ薬での適応であり、情報を混同している。そこでバリシチニブは催奇形性があるとはいえ、ラットで臨床用量の2.3倍、ウサギで6.3倍と、ファビピラビルはそれと比べてかなり低用量で認められ、この点で安全性は低いこと、新型コロナに対するファビピラビルはカナダ、クウェートでの二重盲検試験で有効性は確認されていないと指摘する引用ツイートを送った。過去の経験上、こうした1回目の反応後に相手が沈黙して終わりなのだが、返信があった。曰く「ファビピラビルの製造国は増えてますよ」という。この話はごく一部の国のジェネリック企業が臨床研究用などで製造していることなのだが、事細かに説明するのも面倒だったので「そうした国はいずれも日米欧3極と比べて医薬品の承認審査の厳格さを欠く国々。代表例がタイで、タイは保健省の一存で重症患者にアビガンを用いようとしているものの、エビデンスはなく、日本が真似すべきではない」という趣旨で引用リツイートをした。なお、私はAさんとのやり取りをほぼ引用リツイートで行っている。これはTwitterの性格上、単純なリプライ(返信)にすると、当事者以外のフォロワーなどに可視化されにくいからである。しかし、また返信があった。「海外では、主要国でもアビガン暫定承認と治験、備蓄が進められてます。アメリカでも製造されています」(ツイート内にカナダなどいくつかの事例のツイートを引用)引用ツイートのうち、カナダの出典を辿って思わず笑ってしまった。これはカナダで新型コロナの効能を謳ったファビピラビルの違反広告事例を紹介しているもの。どんな薬がどんな違反広告をしたかが表になっているのだが、「保存などが簡便で、新型コロナへの効果が期待されている」と謳った違反広告内容の紹介をカナダが公式にファビピラビルを評価したと勘違いしているらしい。私は大声を上げて爆笑してしまった。さらに引用ではイギリス、ドイツなども挙げているのだが、前者は単純に医師主導治験の話。後者は新型コロナの治療薬に関して「承認済み」「承認審査中」「臨床研究中」の区分で列挙し、ファビピラビルは単に臨床研究が行われている分類。ところが、Aさんは現地当局が承認審査プロセスに入っていると誤読している。いやはや、何とも言えない反応である。なので私はそうした内容やAさんが製造国が増えていると言っているものは、ファビピラビルの特許失効を受け、第三世界の一部ジェネリック企業が抗インフルエンザ薬としてや臨床研究用に供給するため細々と製造しているだけで、新型コロナ治療薬としての承認国は増加しておらず、承認に足るだけの十分なデータは未だ存在しない旨を返信した。これでやり取りも終わるだろうと思った。というのもこうしたやや長めのやり取りは過去にも経験があるが、それも3~4往復で終わることがほとんど。しかしAさんはめげずに「日本でアビガンは、利権で抑えられたと思いますよ」と、あるツイートを引用しながら返信を寄せてきた。でました、利権という名の陰謀論。ちなみにAさんが引用してきたツイートは、ワクチン否定派の中ではそれなりに有名な在米日本人のツイートで、先日、本連載でも触れたノババックスの組み換えタンパクワクチンの承認について「みんなアメリカでは承認されていないのは知っているかな?」という内容。アメリカで未承認は事実だが、それはアメリカでの申請が日本から2ヵ月遅れの今年2月であるからと考えれば説明がつく。また、すでに欧州連合(EU)では承認済みだ。この辺で止めておこうとも思ったのだが、引用先のツイートが申請時期のことやEUでの承認に触れずに、さも日本だけが暴走しているとの誤解を意図的に誘発しているかのような悪質さを感じたので、あえてAさん宛にその旨を返した。するとさらに返信(またかよ)。「未接種以外の治験してますか?」という。要は日本国内でノババックス製ワクチンを3回目のブースター接種に使おうとする動きがあることへの疑念らしい。もっともここで明確にファビピラビルから「ゴールポスト」が動いてきた。というか、ずっと「ゴールポスト」ずらしが続いてきているとも言えるが。確かにmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンを接種済みの人へのブースター接種に関する企業治験データはない。しかし、イギリスからはすでにファイザー製ワクチンやアストラゼネカ製ワクチンの接種者に対するブースター接種の臨床研究が報告されており、数字だけを見ると同一種のブースター接種よりも抗体価はやや低いものの、明らかにブースター効果は見て取れる。というか、ノババックス製ワクチンに一定の有効性と安全性が認められているならば、原理的に考えてもブースターとしての使用がそれほど大きな問題になるとは思われない。イギリスの臨床研究内容をツイートの140字という文字数制限内で説明するのは無理なので、後者の原理的には問題なしの話で引用リツイートを返した。ややうんざりしていたので、ついでに「そろそろつぎはぎであれこれ指摘するの止めたほうが良いですよ。どれも根拠薄弱なものばかりです」と付け加えた。本当はもっと過激な言葉が出そうだったのだが、最近、ある真面目な医師の実名アカウントが過激な物言いでアカウント凍結にあったのを目にしていたので極力丁寧な言い回しに止めた。しかし、返信は止まない(笑)。またもや別のツイートを引用しながら、新型コロナへのファビピラビル投与事例のメタアナリシスで有意な効果が認められた、との返信である。しかし、その中身は観察研究もどきやかなり設定の違うRCTを無理やりプールしているもの。溜息しか出ない。ということで指摘のメタアナリシスは「なんちゃってメタアナリシス」だとの指摘で返した。また、返信が返ってきた。曰く「二重盲検しか認めないんですね」と。加えてAさんはファイザー製ワクチンの治験で、一部の治験受託機関の管理が甘く、盲検が被験者にばれていた可能性がある事案が明らかになったことを付記してきた。これはBMJ誌でも紹介された話だ。この事案は記事を読んだ人もいるだろうが、問題となった受託機関が担当したのは4万例を超える同ワクチン被験者のうち1,000人程度で、かつ盲検がケースによって見れていた可能性があるに過ぎないというもの。このこと自体がワクチンの有効性や安全性に影響を与える可能性は低い。私は引用ツイートでさらに以下のような趣旨を返した。「二重盲検しか認めないのは原則として当然です。それが現時点で最も科学的に信頼度の高い試験方法です。それを否定するなら、抗インフルエンザ薬としてのアビガンも存在意義を失いますが、それで良いんですか? 二重盲検の結果として科学的に疑義が生じた場合は都度検討すれば良い話です」とにかく相手は止めない。もっとも徐々に返信までの時間は空いてきている。これも過去の経験からだが、こちらの返信に対する相手の反応までの時間が徐々に長くなるというのは、その間にネットサーフィンで反論材料を探し回っている時だ。しばらくして「レムデシビルは、二重盲検結果で承認されてましたか?」との返信。おいおい。レムデシビルの特例承認の根拠となったACCT-1試験は明確に二重盲検試験だ。その旨を指摘するついでに「これは添付文書にですら書いてある情報ですよ。ちゃんと調べてますか?」と追加して引用リツイートした。というか、調べていないことは明らかだろう。まあ、これでそろそろ止むだろうと思った私が甘かった。さらにAさんから返信。「WHOから、指摘ありましたよね」と。ああ、でました。それね。要は一時期、WHOが非常に粗い設定だった「SOLIDARITY試験」に基づき推奨しない見解を出した件だ。この見解は専門家からも批判され、当事者のギリアド社ですら公式に反論をリリースしたほど。後にデータが蓄積されたことでWHOも見解を修正している。私はさらに返信した。「また、きちんと調べずにモノを言うんですか? 承認後にWHOはよりレベルの低い『SOLIDARITY試験』に基づき推奨しない見解を出し、専門家からも批判されました。しかし、後のデータ蓄積などで、この見解は修正されています。あれこれ言う前に勉強すべきです」もうこれで何か返信があっても反応しないと一旦は決めた。しかし、このツイートにある方から「いいね」が付いた。相互フォローとなっていて面識もあるS先生からだ。医師の世界で知らない者はいないと言ってもいいパワフルな人だ。いや、ご多忙中なのに見ていたんだ。恥ずかしい。となると、もはや相手が黙るまで止めるわけにはいかない(笑)。そしてやはり返信があった。「そのようですね」とWHOの見解修正に関する別の人のツイートを引用。珍しくおとなしくなったと思いながらも、「ワクチンに関してどう思われますか?」と、どこかのTVが報じた国内での新型コロナワクチン接種後の死亡者数について触れた動画を引用してきた。次なる「ゴールポスト」変更の地雷付きだ。これにまともに付き合っていたら持たない。なんせ多くの方がご存じのようにアビガン問題と違って、ワクチン否定派の陰謀論は、まるで底なしのガラクタ箱のように、意味のない重箱の隅つつきの事案が次々と登場するだけだから。私もAさんのツイートにイライラしていたので、次のような趣旨で返した。「いい加減、ヒトに聞いたり、誰かのツイートを都合よく切り貼りするのではなく、自分で英語論文などの原典を調べたりすればいいんじゃないですか? どうやらこれまでのやり取りを見ていると英語論文などの原典に当たっていませんよね? 英語も十分に読めているようではない感じですが」腹立ちまぎれにこの辺で勉強したほうが良いですよ、と大学受験生向け英単語参考書のリンクでも貼ろうと思ったがさすがにやめておいた。するとまた返信。もういい加減にしてくれ!アメリカで裁判所の求めに応じてファイザー社が新型コロナワクチンに関する一部の文書を公開した一件を送ってきた。私もこの情報はすでにちらちら眺めていたが、はっきり言って目新しい情報はほとんどない。一部のワクチン否定派がまさに重箱の隅を突いてフレームアップしているだけである。そして私がきちんと勉強せよと言ったことに対するネット民にありがちな反応、「素人ですが、何か?」と付け加えてあった。これに対して以下のような趣旨の引用ツイートをした。「素人だから誤った情報を流布することが倫理的に許されるわけではありません。公開アカウントで発信するなら物事の事実関係は確認すべきです。カナダのアビガン違反広告の件を公的にアビガンの効能を認めたかのように発信したことをはじめ誤った情報をツイートしてますよね」なぜかこの時は一連のやり取りの中で最も多い「いいね」が付く。また、S先生も。あー、やっぱりまだ止められないんだなと思ってしまった。しかし、これでAさんからの返信は打ち止め。ここでほぼ丸2日間の応酬が終わった。しかし、このことを通じて改めて思ったのは、何かを固く信じている人ほど、さまざまな情報をあれこれ都合よく引用するという現実。コロナ禍が続く限り、こうしたことも永久機関のように続くのかと思うとうんざりである。

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研修医が辞めない医局の仕組み【今日から始める「医師の働き方改革」】第10回

第10回 研修医が辞めない医局の仕組み春になると新人がやってきます。「最近の若者はよくわからない」という声はいつの時代も聞かれるものですが、育った環境が違えば価値観も変わります。長崎大学の医療教育開発センター 医師育成キャリア支援室室長の松島 加代子氏に、長崎大学の「メンター・メンティー制度」を紹介してもらいながら、ジェネレーションギャップを乗り越える育成のコツをお伝えします。―長崎大学のメンター・メンティー制度について教えてください私は長崎大学病院で研修医と医局をマッチングする役割を担っていますが、すでに10年以上運用している取り組みに「メンター・メンティー制度」があります。研修医一人ひとりにメンターを付け、研修中の相談に幅広く応じてもらっています。メンターは、医局全体から毎年公募しており、毎年多数の応募があります。年齢は20代から50代まで、診療科も幅広く、育児中の医師もいます。事務局が相手を決めるのではなく、研修医から希望を聞いたうえで、なるべくそれに沿うように決めます。研修医にはメンターから提出してもらった「プロフィールシート」を渡します。これには顔写真、年代、診療科、専門、卒業高校・大学、趣味、メッセージが書かれており、研修医はそれを見て指名する、という仕組みです。メンターのプロフィールシートの例同郷の先輩という理由や、選択する診療科を見据えてという視点でメンターを選ぶ研修医もいます。しっかりサポートを行えるよう、1人のメンターが担当する研修医は1人です。メンターに対しても「メンター研修」を実施し、コーチングの手法などを伝えています。研修医には、各科で指導医も付きますが、短い期間ではどうしても技術指導と医局紹介程度しかできません。初期研修はその後の専門を決める大事な期間でもあるので、メンターが研修期間を通してキャリア形成をサポートするようにしています。―研修医からの評判はどうですか良好です。若手のメンターに経験談を聞いたり、育児中のメンターに時間の使い方を聞いたり、将来自分がどのように働きたいかを意識した相談をしているようです。指導医には言いにくいことを相談しているケースもあると聞きます。全メンターから月に1度、メールで状況を共有してもらっています。私も積極的に返信し、時間を割いてメンターを引き受けてくれている方をサポートしています。おかげでこの取り組みは、ほかの大学病院から紹介してほしいとリクエストが来るようになりました。何でも相談できる身近な先輩の存在は、診療科に配属された後も力になっていると思います。毎年マッチングの苦労はありますが、これからも続けたいと思います。〈解説〉医師のキャリアが多様化し、研修医のキャリアの悩みも多様化しています。医局配属後も、専門医資格を取るか、結婚や子育てとキャリアをどう両立するのかなどの折に、メンター制度でできた先輩との絆が役立つことでしょう。上司・部下のような「タテ」の関係や、同期などの「ヨコ」の関係以外に、他科の先輩という「ナナメ」の関係が、固定化しやすい人間関係を打破します。コーチングの用語に「オートクライン」というものがあり、自分が話した言葉を自分で聞くことによって、自分が考えていたことに気付く、といった意味です。意見が否定されたり、笑われたりしない心理的安全性の高い場で話すことで自己理解が深まり、孤独にならずに働き続けることができます。長崎大学のメンター制度を参考に、若手をサポートする仕組みを検討してはいかがでしょうか。

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プレゼンテーションでばれる医師の能力!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第47回

第47回 プレゼンテーションでばれる医師の能力!4月になりました。新人が社会人としての第一歩を踏み出す時期です。病院でも初々しい新卒の医師が、期待と不安でドキドキしながら仲間に加わりました。彼らの姿は何かぎこちなく、白衣を「着ている」というよりは「着させられている」といった様子です。不思議なことに、これが一年も経つと白衣姿も板についてくるのです。「板につく」は、初々しかった新人が必要なスキルを習得し経験を経て、一人前になった姿を評価するときに使う慣用句です。けっして蒲鉾のように板にくっついていること意味する言葉ではありません。料理人の、板前さんにも関係ありません。語源は舞台用語です。歌舞伎などでは、幕が開いた時にすでに人気役者が舞台上にいる場合があります。これを「板付き」というそうです。熟達した役者の調和した存在感と圧巻の演技に観客は引き込まれます。そこから、経験を積んで動作や態度が地位や職業などにしっくり合う様を「板につく」というそうです。研修医も仕事に慣れてくると、不思議と白衣姿も馴染み違和感がなくなってきます。白衣をひるがえしながら階段を駆け上がる姿も様になってきます。上司や先輩から「板についてきたな」と言われたら、やっと認めてもらえたのだと思ってよいでしょう。この言葉の注意点は、「板につく」は褒め言葉ですが、年下に使うべき慣用句で目上の人に使ってはいけないことです。皆さんも、「板につく」を使う場合は、年下限定の褒め言葉としてください。新人の医師が習得すべき課題は、診察の仕方・処方箋の出し方・カルテ記載の仕方・患者対応の仕方に始まり、数多くあります。これらのスキルを身に着けるなかで、外見だけでなく振る舞いも板についてくるのです。この初期研修の過程では上級医からインプットされ、教え込まれることが多いと思います。しかしながら、インプットされるだけでは不十分で、アウトプットを意識していくことが成長の鍵となります。研修医にとって最も重要なアウトプットはプレゼンテーション(プレゼン)です。プレゼンとは、患者の情報を医療従事者の間で確立された医療言語を用いて、あたかも目の前にその患者さんがいるかのように他の医療従事者に伝える技術です。「医師の力量は、プレゼンテーションでわかる」といわれます。その通りです。プレゼンは、診療のあらゆる場面で必要とされます。カンファレンスの場だけではありません。研修医にとっては、回診・コンサルテーション・申し送りなどプレゼンをする場面が多々あります。病院での日常診療だけでなく、学会発表でのプレゼンも重要です。指導者側も、場に即したプレゼンテーションができるようになることは臨床能力アップの早道だと考えますので、研修医にできるだけプレゼンテーションの機会を設けるようにします。毎日の繰り返してのプレゼンは苦痛に感じるかもしれません。研修医の諸君はプレゼンを「させられる」とか「しなければならない」という感覚ではなく、自分の能力を試しながら臨床力が上がるチャンスだと捉えていただきたいです。プレゼンテーションの語源は、ご存じのようにプレゼントつまり贈り物です。聴き手に必要な患者情報を贈り届けることがプレゼンの基本です。しかし、プレゼンの機会それ自体が、成長への糧を、聴き手からプレゼントしてもらっていると考えてほしいものです。プレゼンテーションを行う側が、実は贈り物の受け手であるという状況に似ているのが猫を飼うことです。「猫に小判」とは、猫に小判を与えてもその価値を知らない猫にとっては何の意味もないことから、どんな立派なものでも、価値がわからない者にとっては、値打ちもないものであるという意味のことわざです。自分にとって、「猫に小判」の解釈は少し異なります。猫を飼うことによって、猫は人に言いようのない幸福を与え届けてくれます。猫を飼うことは小判を与えられるかのような価値が付随することを意味します。まさに、「猫に小判」です。それは、招き猫の置物が小判を持っていることからも理解していただけると思います。招き猫が抱える小判の金額は、「千両」「万両」だったものがいつの間にか「百万両」「千万両」となり、ついには「億万両」にまで跳ね上がっているそうです。猫ブームと共に小判もインフレ傾向のようです。またもや、猫自慢の意味不明の話に展開してしまいました。医師として第一歩を踏み出した研修医諸君が、その初心を忘れずに立派な医師に成長してくださることを願っております。

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第106回 新しい公立病院の経営ガイドライン、「リストラ色」薄まるも総務省の本音は再編・統合推進か

市立大津市民病院、京大医局派遣の医師27人全員が年度内に退職へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、「第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚」「第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、「パワハラなし」、理事長引責辞任でひとまず幕引き」「第104回 パワハラ事件に大甘の医療界、旭川医大、大津市民の幕引きの背後に感じた“バーター”の存在」で伝えてきた市立大津市民病院(30診療科、401床)の大量退職事件に再び動きがありました。4月18日、済生会滋賀県病院(栗東市)の院長補佐だった日野 明彦氏(京都府立医大 脳神経外科学教室出身)が新院長に就任したのですが、その翌日、新たに脳神経内科4人、麻酔科2人、放射線科の非常勤医師1人の計7人が年度内に退職する意向を持っていることが明らかになったのです。これで同病院在籍の京大医局派遣の医師27人全員が年度内に退職見込みとなりました(6人はすでに退職)。病院の診療体制としてはボロボロと言えます。4月25日のびわこ放送等の報道によれば、同日、大津市の佐藤 健司市長は定例会見で病院の設置者として改めて謝罪し、「今後も医師確保を含めた法人運営の後押しを全力で進めていく」と説明したとのことです。また、佐藤市長は、4月15日に滋賀医科大学を訪れて市立大津市民病院の運営立て直しへの協力を求めたことも明らかにしています。大津市には市立大津市民病院のほかに、日本赤十字社・大津赤十字病院(37診療科、684床)という京都大学系の巨大公的病院があり、患者獲得競争を繰り広げてきました。仮に今回の事件をきっかけに、市立大津市民病院の人気が落ち、ジリ貧になっていくとしたら、2病院の再編・統合話が出てくる可能性もゼロではないと思います。総務省が「公立病院経営強化ガイドライン」公表ということで、今回は総務省が3月29日に公表した「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(令和4年3月29日 総財準第72号 総務省自治財政局長通知)について書いてみたいと思います。公立病院、公的病院を巡っては、新型コロナ感染症流行拡大前に、厚生労働省から436病院の“リストラ”リストが公表され、全国の公立・公的病院関係者を青ざめさせました(「第23回 実は病院経営に詳しい菅氏。総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(前編)」参照)。コロナの感染拡大もあって、このリストラ計画は中断したままでした。しかし、今回の新ガイドライン公表と合わせる形で、厚労省も第8次医療計画(2024年度から実施)の策定作業と並行して、公立・公的病院だけでなく民間病院も含めた機能の再検証を行うことを都道府県に求めています。再び各地で再編・統合の議論が活発化するのは必至でしょう。3回目のガイドライン、「改革」の文言がなくなり「経営強化」に公立病院を管轄する総務省が、その経営改革に関するガイドラインを公表するのは2007年12月、2015年3月に続いて3回目です。ガイドライン作成の背景には、全国の公立病院の多くは経営状況が非常に悪く、医療提供体制の維持が極めて厳しい状況にあったことがありました。これまでの2回は「公立病院改革ガイドライン」でしたが、今回は「改革」の文言がなくなり、「公立病院経営強化」とタイトルが微妙に変わっています。新型コロナ感染症対応で、地域の公立病院の必要性が再認識されたことも影響したと考えられます。旧ガイドラインで強調されていた「再編(リストラ)」色は薄まる旧ガイドライン(2015年版)は「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」と「再編・ネットワーク化」に力点が置かれていました。それに対し、新ガイドラインは個々の病院の「経営力強化」「機能強化」に力点が置かれています。新ガイドラインは「公立病院経営強化の基本的な考え方」として、「公立病院が直面する様々な課題のほとんどは、医師・看護師等の不足・偏在や人口減少・少子高齢化に伴う医療需要の変化に起因するものである。これらの課題に対応し、持続可能な地域医療提供体制を確保するためには、医師確保等を進めつつ、限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最大限効率的に活用するという視点を最も重視し、新興感染症の感染拡大時等の対応という視点も持って、公立病院の経営を強化していくことが重要」と述べています。そして、その経営強化のためには、「地域の中で各公立病院が担うべき役割・機能を改めて見直し、明確化・最適化した上で、病院間の連携を強化する『機能分化・連携強化』を進めていくことが必要である。特に、機能分化・連携強化を通じて、中核的医療を行う基幹病院に急性期機能を集約し医師・看護師等を確保するとともに、基幹病院から不採算地区病院をはじめとする基幹病院以外の病院への医師・看護師等の派遣等の連携を強化していくことが重要である。その際、公立病院間の連携のみならず、公的病院、民間病院との連携のほか、かかりつけ医機能を担っている診療所等との連携強化も重要である」と、公民の区別なく地域において「機能分化・連携強化」を進める必要性を説いています。内容的にも新型コロナウイルス感染症対策において地域の公立病院が果たした役割などを勘案し、旧ガイドラインで強調されていた「再編(リストラ)」色が薄まった印象です。「都道府県の役割・責任強化」もより強調こうした前提のもと、新ガイドラインは2022~23年度中に「経営強化プラン」を策定することを求めています。すでに「自主的に改革プランを策定している病院」などでも、新ガイドラインで要請されている部分と比べて「不足」があれば、その分を追加策定する必要があるとし、また、すでに「従前の改革プランに基づいて再編やネットワーク化、経営形態見直しに取り組んでいる病院」でも、現在の取り組み状況や成果を検証し、さらなる経営力強化のために新ガイドラインに沿った経営強化プランを策定するよう求めています。旧ガイドラインで初めて盛り込まれた、病院の再編・統合に当たっての「都道府県の役割・責任強化」についても、より強調される内容となりました。「都道府県が、市町村のプラン策定や公立病院の施設の新設・建替等にあたり、地域医療構想との整合性等について積極的に助言すること」や「医療資源が比較的充実した都道府県立病院等が、中小規模の公立病院等との連携・支援を強化していくことが重要」としています。ドラスティックな再編・ネットワーク化の事例も紹介総務省は4月20日、この新ガイドラインの説明会をオンラインで開催、その中で最新の「公立病院の経営状況」を明らかにしています。それによると、853病院全体での2020年度の経常収支は1,251億円の黒字でした。コロナ関連補助金により980億円の赤字だった前年度(857病院)から大きく改善したものの、本業に当たる医業収支ベースでは6,010億円と大幅な赤字でした。また、病床規模別の経常収支は「500床以上」(95病院)が584億円の黒字だったのに対し、「100床未満」(255病院)では1億円の黒字に留まったそうです。コロナ対応をしていた病院でも1億円程度の黒字でしかないということは、コロナ後は再び大きな赤字転落になることを意味します。新ガイドラインの最後には、資料として「平成27年度から令和2年度までの間に実施済み又は実施中の再編・ネットワーク化の事例」が多数掲載されています。公立、公的、民間併せたさまざまな再編(統合、病床削減、病院の診療所化等)のケースは、どれもドラスティックです。地方の病院で働く方は、この資料だけも目を通しておくといいと思います。こうした事例を最後に掲載していることからも、「再編(リストラ)」色が薄まった新ガイドラインですが、「地域の病院の再編・統合に向けて、都道府県は今まで以上に積極介入をして欲しい」というのが総務省の本音と言えるでしょう。参考1)公立病院経営強化ガイドライン/総務省

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英語で「頓服」は?【1分★医療英語】第25回

第25回 英語で「頓服」は?I still have pain in my left arm.(まだ左腕に痛みがあります)Take this medication as needed.(この薬を頓服してください)《例文1》Take this painkiller as needed for breakthrough pain.(突発的な痛みがあるときに、この痛み止めを服用してください)《例文2》Please contact us as needed basis.(必要に応じてご連絡ください)《解説》日本語の「頓服」とは「必要に応じて」という意味であり、英語では“as needed”と表現します。処方箋の表記は“PRN”(ラテン語のpro re nataの略)です。患者さんに説明するときは、具体的にどのような場合に服用が必要なのか、という情報が必要です。《例文1》のように“breakthrough pain”と説明したり、“Take it ‘only’ when you start feeling pain.”とonlyを強調して伝えたりすることで、飲み間違いが起こらないようにします。また、“short acting”(短期即効性のある薬)の頓服薬を“rescue medication”と呼び、服用状況の確認のため“Keep a record when you take your rescue medication.”(頓服薬をどれくらい飲んだか記録してください)と患者さんに伝えることが多いです。“Call me as needed!”(必要なときに電話して)とスタッフ同士のやりとりでも“as needed”はよく用いられる表現なので、“必要に応じて”使ってみてください!講師紹介

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英語で「熱が下がる」は?【1分★医療英語】第24回

第24回 英語で「熱が下がる」は?Fortunately, my fever broke this morning.(ありがたいことに、今朝熱が下がりました)It is great! Do you still have other symptoms?(よかったですね! ほかの症状はまだありますか?)《例文1》患者What should I do to break a fever?(熱を下げるために、何をすべきですか?)医師You can take Tylenol or Motrin※.([市販の]アセトアミノフェンまたはイブプロフェンを使うとよいですよ)※海外の市販薬《解説》今回の「熱が下がる」という表現は、“My fever broke/has not broken yet”(熱が下がった/まだ下がっていない)と伝えることができます。われわれ日本人の感覚からすると、あまりなじみがない表現ではないでしょうか。“fever”を主語にした「熱が下がる」(自動詞)という上記表現のほか、“The medicine should break his fever”と、“fever”を目的語にした「その薬が熱を下げる」(他動詞)と表現することも可能です。これらは口語的な表現で、主に患者から熱の症状を訴える際に使われます。医療者同士の会話では、“afebrile”(無熱の)もしくは“non-febrile”(発熱なし)という表現を用い、“He had a fever yesterday, but afebrile/non-febrile today”(彼は昨日熱がありましたが、今日は平熱です) というように使われることが多いです。「熱が下がる」には、ほかにも簡単な単語を使ったさまざまな表現があります。たとえば、“Fever goes down/comes down”でも「熱が下がる」という意味になりますし、さらにシンプルに“I had a fever, but I am fine today”で、「もう熱はないですよ」というニュアンスを伝えることもできます。診療に発熱は付き物で、患者さんは多様な表現をします。ぜひ、熱に関する多くの表現を覚え、慣れていきましょう。講師紹介

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カムラティ・エンゲルマン病〔CED:Camurati-Engelmann Disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義カムラティ・エンゲルマン病は、進行性骨幹異形成症(progressive diaphyseal dysplasia)とも記載される常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる骨系統疾患である。本症は、1920年Cockayneによって初めて記載され、1922年Camuratiにより遺伝性であることが示唆された。1929年Engelmannにより、筋力低下と著明な骨幹異形成症を示す一例が報告され、本症の名前の由来となっている。現在では、過剰な膜内骨化による骨皮質の肥厚と長管骨骨幹部の紡錘形肥大、近位筋の筋力低下、四肢痛を特徴とする疾患としてカムラティ・エンゲルマン病(Camurati-Engelmann病:CED)の表記が広く用いられている。現在までに150例を超える症例報告がある。家系内解析では、表現型に大きな幅があることが知られている。■ 疫学筆者らが、2014年に行ったアンケート調査(国内医療機関[計2,531施設]に送付し、1,470施設から回答を得ることができた)では、16症例が報告された。このうち、13症例が新規だと考えられた。アンケートから推定された新規患者は30症例程度であり、既知の患者と合わせて60名程度のCED患者がいると考えられる。このアンケートでの患者の定義は、発症年齢は大半が幼児期であるが、その症状は幼児期と青年成人期で異なり、幼児期は、筋力低下、易疲労性を主徴とし、青年成人期は、骨幹の疼痛、めまい、難聴を主徴とするものを対象にし、2診断の項目で示すX線画像所見もしくは検査所見を持つものとしている。■ 病因筆者らは、このCEDの3世代にわたる大家系(21名)を見出し、その臨床表現型についての検討を行った。罹患者、非罹患者をX線学的に同定し、家系内連鎖解析を行った。これにより、疾患遺伝子が19番染色体長腕に位置するTGFB1遺伝子であることを突き止めた。しかしながら、この遺伝子にみられる変化は、TGFB1の構造遺伝子部分ではなく、関連蛋白(Latency associated protein:LAP)に存在する。当初の解析では、LAPドメインを不安定化する変異がTGFB1の遊離を促進することで成熟型TGFB1を増加させるものであると考えられていた。その後のシグナルペプチドでの変異やヒンジ以外の部分の変異での解析から、必ずしも成熟型TGFB1の増加必須なのではなく、情報伝達系として亢進する変異であれば、カムラティ・エンゲルマン病の表現型をとることが明らかになっている。■ 症状3主徴は、四肢の骨痛、筋力低下、易疲労感である。これらの3主徴の出現時期には、年齢依存性があることに注意が必要である。1)幼児期この時期の症状は、筋肉痛、筋力低下、歩行異常であり、骨痛を訴えることは少ない。2)思春期思春期前後から、運動後の骨痛や骨の自発痛が始まる。痛みの出現部位は、病変部である長幹骨の骨幹であることが多い。3主徴が整うのは思春期以後であることが多い。3主徴が整うころの体型としては、手足が長く筋肉の付きの悪い痩せ型であることが多く「マルファン様」と記載されることが多い。性別を問わず、思春期が遅れることも比較的よくみられる症状である。妊孕性に異常はみられない。3)成人期成人期以後は、上記の症状に加えて、頭蓋底の骨肥厚、骨硬化による症状が加わっていく。これには、神経孔の狭窄による神経麻痺などがあり、骨肥厚、骨硬化の進行により生じると考えられている。同様の病態生理から顔面神経マヒ、頭痛、うっ血乳頭、めまい、耳鳴、感音性難聴などの症状が生じうる。理由は不明であるが、女性患者の場合、妊娠によって四肢の疼痛が劇的に改善することが知られている。■ 予後妊孕性に問題はなく、生命予後が悪いという報告もない。しかしながら、頑固な耳鳴や日常生活に支障を来すほどの骨の自発痛は、患者を不安に陥れ精神的な不安定さを生じ、予期しない不幸な転帰をむかえることがあるので精神状態のフォローが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)疾患の診断には、上記の症状に加えて、X線画像所見が依然として最も価値があると考えられる。2014年の全国調査では、頭蓋骨側面、四肢長管骨X線画像所見もしくは骨シンチグラム画像所見で診断基準を設定して集計した。1)X線画像所見長幹骨骨幹の骨皮質の左右対称性の骨硬化像(*X線画像所見における頭蓋底の骨硬化像の有無は問わない)2)検査所見骨シンチグラムでの長幹骨骨幹の骨皮質の左右対称性とりこみ3)判定上記2項目のうち1項目を満たすもの図1 典型例頭蓋底の硬化像、頭蓋骨のびまん性の肥厚、長幹骨骨幹を中心とした硬化像。画像を拡大する図2 軽症例頭蓋底の硬化性変化はほとんどみられない。右尺骨近位部大腿骨遠位部の骨硬化、下腿の骨変化。画像を拡大する図3 典型例での99mTc-HMDP骨シンチグラフィー頭蓋底と長幹骨骨幹に左右対称的な取り込みを認める。画像を拡大する図1に典型例、図2に軽症例、図3には骨シンチグラフィーの所見を示す。X線画像所見では、軽症例で内骨膜中心の膜性骨化を示し、骨全体の変形は少ない。重症になるにつれ頭蓋底の骨硬化が進行し、外骨膜性の骨化が加わり骨の変形を来すのが観察できる。古典的には、赤沈の亢進、ALPの上昇の記載があるが、鑑別に用いることが可能なほどの診断的な意味はないと思われる。筆者らが経験した大家系においても、ALP、骨ALP、オステオカルシン、尿中デオキシピリジノリンなど汎用性の高い骨関連マーカーは、病気の存在、病勢と一致しない。また、この疾患の原因遺伝子であるTGFB1の血中濃度も病勢を反映するものではない。現在では、保険診療外ではあるがTGFB1遺伝子解析が可能となっており、機能亢進型の変異を検出することができれば診断を確定できるものと考えられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在までの報告からは、ステロイドの有効性を指摘するものが多い。プレドニンとして平均0.6mg/kg/日から開始し漸減する方法が一般的である。筆者らは、初期の投与期間を限定して、低容量で長期間服用する方法をとっている。しかしながら、投与方法については、一定の見解が得られていない。疼痛に対する効果はみられるものの、一過性であり周期的に繰り返し投与が必要である。最近、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のステロイド治療で使用されるDeflazacortでの治療経験が報告されるようになっており、経過が注目される1999年ビスフォスファネート製剤の有効性が報告されたが、筆者らの症例では効果はなく、2005年には第1世代、第2世代ビスフォスファネート製剤の否定的な追試が発表された。最近、第3世代のビスフォスファネートであるゾレドロンでの治療経験の報告がみられるようになっており経過を注視する必要がある。また、原因遺伝子がTGFB1の機能亢進にあることから、マルファン症候群と同じくロサルタンの応用が報告されるようになった。低血圧を惹起しない小児領域での実用的な量は、0.6~1.4mg/kg/日とされている。これまでの報告では、病態が完成していない思春期前の小児での成績がよく、成人後では改善が認められないとするものが多い。4 今後の展望現在、本疾患は、小児慢性特定疾病ではあるものの、指定難病には指定されていない。また、治療については、新規開発薬剤の適応拡大などが必要である。そのためにも難病政策として小児慢性特定疾病指定と指定難病指定の一元化が望まれるところである。5 主たる診療科整形外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カムラティ・エンゲルマン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2022年4月12日

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英語で「治療方針が一致している」は?【1分★医療英語】第23回

第23回 英語で「治療方針が一致している」は?Do you have a minute to discuss our mutual patients?(お互いに関わる患者たちについて話し合う時間はありますか?)Yes, let’s talk to make sure that we are on the same page.(はい、同じ方針であることを確認するために話しましょう)《例文1》Everyone should be on the same page before we move on.(先に進む前に、皆が共通認識を持っておく必要があります)《例文2》Am I on the same page with you?(私は、あなたと考えが一致していますか?)《例文3》Let’s run the list to be on the same page.(方針を統一するために、[患者の]リストを順番に確認しましょう)《解説》今回覚えていただきたいのは、この“We are on the same page.”(われわれは同じ方針で考えている)という表現です。“be on the same page”というのは、本の「同じページを見ている」という表現に由来しています。「友人と、同じ本の同じページを見ながら話をしている」というシーンを想像してみてください。本の同じページを見て話をしているのであれば、同じ物事について考えている=同じ方向を見ている、といえそうです。反対に、違うページを見ていれば、きっと自分とは異なることを考えるでしょう。このことから派生して、“be on the same page”は「共通認識を持っている」「同じ方針で考えている」という意味になります。今回の会話例は、主治医とコンサルタントが「治療方針にずれがないか」「同じ見解で考えているか」を確認するために話し合おうという場面です。別の表現としては、“think in a similar way”“have the same understanding”というような言い方もできますが、“be on the same page”をさらりと使えれば、より「こなれた英語」になるでしょう。医療者として、現場のコミュニケーションを円滑に進めるために大切な表現ですので、ぜひ身に付けてください。きっと、英語表現の新たな1ページが開けると思います。講師紹介

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子宮頸がん撲滅に向けて:HPVワクチン接種の意義とは

 2022年3月29日、MSD株式会社は子宮頸がん予防に関するメディアセミナーを開催した。 今回のセミナーでは、「子宮頸がん予防の重要性ついて」を近藤 一成氏が、「ワクチン接種を検討する方へ伝えるべきポイント」について勝田 友博氏が説明した。若年女性で多い子宮頸がん 主要先進7ヵ国、G7の中で日本は子宮頸がん罹患率が最も高く、年間約1万人が子宮頸がんに罹患し、約3,000人が死亡している。2019年の1年間であれば、死亡者のうち571人が25~49歳と若年の女性であった。つまり、子宮頸がん予防の遅れが課題となっている。 「子宮頸がんは人生を変えてしまう疾患である」。子宮頸がんが原因で離婚することになった患者、幼い子供がいながら余命宣告をされた患者など多くの患者を診てきた近藤氏は、子宮頸がんをそう評価する。子宮頸がん撲滅のために 子宮頸がんの原因はヒトパピローマウイルス(HPV)感染によるものであり、HPVは性交経験のある女性のうち約80%が感染しているとされ、誰にでも起こりえるといえる。実際に、HPVに感染していない子宮頸がんはほとんどないといわれている。 子宮頸がんはHPVに感染した後、軽度異形成から中等度、高度異形成、そして上皮内がんへと進行する。がん検診で早期発見できるのは、高度異形成以上であるため、検診率が80%台になっても罹患率の減少は35%程度しか見込めないと近藤氏は指摘する。さらに、細胞診の感度は53~78%であり、一定の割合で偽陰性が生じることや、最近増加傾向にある子宮頚部腺がんは検出が難しい。そのため、子宮頸がんの予防戦略としては1次予防でHPVワクチン、検診は2次予防である、と近藤氏は訴えた。 実際にHPVワクチンの接種率向上によって、スコットランドでは子宮頸がんやその前段階である異形成が減少したと報告されており、スウェーデンやイングランドにおいても同様の報告がなされている。 「このままでは子宮頸がんは日本の風土病になってしまう」、諸外国の状況と日本の現状を比べて近藤氏はそう語った。HPVワクチンの積極的勧奨が再開された今、早期のHPVワクチン接種が望まれる、と述べて近藤氏は講演を終えた。正確な情報をもとに判断する 続いて、「ワクチン接種を検討する方に伝えたい留意点」と題して勝田 友博氏が講演を行った。 HPVワクチンと聞くと真っ先に思い浮かぶのが、接種後の痛みや手足の動かしにくさ、不随意運動などの身体機能症状である。これらの身体機能症状がHPVワクチンによるものなのではないか、という点を気にしてHPVワクチンを接種しない選択をした方も多くいることが想像できる。 しかし、HPVワクチンと多様な身体機能症状の関連について調査した名古屋Studyでは、月経量の異常だけが接種群において非接種群よりも頻度が増加していた。また、『青少年における疼痛または運動障害を中心とする多様な症状の受領状況に関する全国疫学調査』によると、HPVワクチンの接種歴がなくても接種後に報告されている症状と同様の多様な症状を呈するものが一定数存在することが報告されている。 HPVワクチンに関する情報が溢れている昨今、その中から正確な情報をもとに接種希望者には判断をしてもらう必要がある。とくに医療従事者は正確で透明性の高い情報をわかりやすく提供し、判断の助けをする必要がある、と勝田氏は語った。今後のHPVワクチン接種体制 現在、日本国内で2000年度以降に生まれた女性におけるHPVワクチン接種率がかなり低い状況にある。そのため、キャッチアップ接種の必要性があるとされており、対象は1997~2005年生まれの女性となる。 HPVワクチンは接種年齢が遅れるとワクチンの効果が低下するため、接種機会を得たら速やかに接種することを勝田氏は推奨している。 ワクチン接種の重要性も接種する本人、または保護者に伝わらないと意味がない。将来「知らなかった」で後悔しないよう、ワクチン接種するかどうかを、本人や保護者に正確な情報をもとに判断してもらうためにも、国や医療従事者が正確かつ透明性の高い情報をわかりやすく提供することが重要だ、と勝田氏は述べ、講演を締めくくった。

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回復期患者血漿、ワクチン未接種のコロナ外来患者に有効か?/NEJM

 多くがワクチン未接種の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の外来患者において、症状発現から9日以内の回復期患者血漿の輸血は対照血漿と比較して、入院に至る病態悪化のリスクを有意に低減し、安全性は劣らないことが、米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のDavid J. Sullivan氏らが実施した「CSSC-004試験」で確認された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年3月30日号に掲載された。米国23施設の無作為化対照比較試験 本研究は、COVID-19外来患者の重篤な合併症の予防における回復期患者血漿の有効性の評価を目的とする二重盲検無作為化対照比較試験であり、2020年6月3日~2021年10月1日の期間に、米国の23施設で参加者の登録が行われた(米国国防総省などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性で、COVID-19の症状発現から8日以内の外来患者であり、病態悪化のリスクやワクチン接種の有無は問われなかった。 被験者は、回復期患者血漿または対照血漿の輸血を受ける群(両群とも約250mLを単回投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、登録後24時間以内に約1時間をかけて輸血された後、30分間の経過観察が行われた。 対照血漿には、2019年に献血で得られたか、2019年12月以降にSARS-CoV-2陰性と判定された集団から得られた血漿が用いられた。 主要アウトカムは、輸血から28日以内のCOVID-19関連入院とされた。相対リスクが54%低下 1,225例(SARS-CoV-2陽性の判定はRNA検出が87%、抗原検出が13%)が無作為化の対象となり、このうち実際に輸血を受けた1,181例(年齢中央値43歳、65歳以上7%、50歳以上35%、女性57%[3例の妊婦を含む]、症状発現から輸血までの期間中央値6日)が修正intention-to-treat解析に含まれた(回復期患者血漿群592例、対照血漿群589例)。 ワクチンは、未接種が回復期患者血漿群83.3%、対照血漿群81.7%、部分接種がそれぞれ4.6%および5.3%、完全接種は12.2%および13.1%であった。 28日以内のCOVID-19関連入院は、回復期患者血漿群が592例中17例(2.9%)で認められ、対照血漿群の589例中37例(6.3%)と比較して有意に良好で(絶対リスク低下率:3.4ポイント、95%信頼区間[CI]:1.0~5.8、p=0.005)、相対リスクが54%低下した。1回の入院を回避するのに要する治療必要数は29.4例だった。 回復期患者血漿群の12例と対照血漿群の26例で、病態の悪化により酸素補給が行われた。対照血漿群の3例が、入院後に死亡した。 両群を合わせた入院患者54例のうち53例はワクチン未接種で、残りの1例は部分接種であり、完全接種はなかったため、ワクチン接種者における有効性の評価はできなかった。 Grade3/4の有害事象は89件発現し、回復期患者血漿群が34件、対照血漿群は55件であった。非入院患者では、16件のGrade3/4の有害事象が認められ、それぞれ7件および9件だった。 著者は、「これらの結果は、とくにワクチン配布に不均衡がみられる医療資源が乏しい地域において、公衆衛生上の重要な意味を持つ」とし、「将来のCOVID-19の世界的流行を想定すると、回復期患者血漿を迅速に投与できる輸血センターの設立が考慮すべき課題となるだろう。また、現在の世界的流行においても、モノクローナル抗体に対する耐性を持つSARS-CoV-2変異株が伝播し続けていることから、とくに地域で得られた最近の血漿には、循環する株に対する抗体が含まれるため、COVID-19回復期患者血漿の入手と配布の能力の開発が、有益性をもたらす可能性がある」と指摘している。

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第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、「パワハラなし」、理事長引責辞任でひとまず幕引き

大量退職の責任を取って理事長は3月末で辞任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。東京都心では、週末の雨のせいもあって、あっという間に桜が散ってしまいました。私は先週末、少々用事があって京都と東京・浅草を訪れました。どちらの街も、コロナ禍前のように観光客でごった返していました。ひとつ気になったのは、京都、浅草ともに、どう見ても似合っていない着物を纏った多くの若い女性が、慣れない草履を履いてよろよろと街を歩いていたことです。昔は見なかった光景です。どうやら、春休み、レンタル着物で観光するのが流行っているようです。それはそれで風情のあることですが、春とは言ってもまだ風が冷たい中、浴衣に毛が生えたような薄手の着物で歩く女性たちはとても寒そうで、風邪をひくのではないかと心配になってしまいました。さて、今回は、「第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚」で書いた、地方独立行政法人・市立大津市民病院(401床)の医師大量退職に関する続報です。京都大学からの派遣医師の大量退職の原因をつくったとされる北脇 城理事長は混乱の責任を取って3月末で辞任しました。北脇理事長の医師に対するパワハラの有無について調べていた第三者委員会も3月末に報告書をとりまとめ、公表しました。ただ、その報告書は北脇理事長がかなり強引な診療科再編を行おうとしたにもかかわらず、「パワハラはなかった」とするもので、事件の早期の幕引きを狙ったとしか見えない内容でした。外科・消化器外科・乳腺外科、脳神経外科、泌尿器科、計19人が退職意向経緯を簡単におさらいしておきます。大津市民病院では今年2月初旬に外科・消化器外科・乳腺外科の医師9人が3月末~6月末に退職する意向であることが発覚。その後、脳神経外科の全医師5人が4月以降に、さらには泌尿器科の5人も9月末までに退職することが明らかになりました。退職の意向を示したのはいずれも京大医学部から派遣されていた医師です。京都府立医科大学出身の北脇理事長(当時)が各診療科に対して行った再編提案などに納得できなかった京大側の関係医局が医師派遣取り止めを決断した、という構図です。19人もの医師の大量退職は全国メディアでも大きく報道され、大津市議会や滋賀県議会でも診療への影響が問題視されました。その後、代わりの医師確保も難航し、混乱は一向に収束しませんでした。年度末が近づいた3月24日、佐藤 健司・大津市長は記者会見において、北脇理事長が「大きな混乱を招いた責任は大きい」として31日付で辞任すると明らかにしました。同理事長は辞任、4月1日以降、理事長職は空席となっています。なお、退職意向を示した医師のうち4人が北脇理事長らからパワハラがあったと訴えており、事が表沙汰になった後、病院が弁護士2人で構成された第三者委員会を設置し、関係者へのヒアリングなどを進めてきました。その検証結果の報告書が理事長辞任報道の4日後の3月28日に公表された、というわけです。報告書の要旨については、大津市民病院のホームページにも掲載されました。「『パワーハラスメント』に該当するような言動は認められない」報告書は、外科医師からのハラスメントと脳外科医師からのハラスメントを分けて、別々に検証しています。外科医師からのハラスメント申告について報告書は、2021年9月に「理事長が副院長(外科系医師)に対し、外科の業績不振を理由に挙げて、京都府立医科大学から消化管チームを招聘することを決断したとして、副院長ほか複数名の医師が退職することを求めたことが認められる」としています。そしてこの際、「『業績不振』の原因が現外科チームにあることや、現外科チームでは今後改善の見込みがないことについて合理的根拠が示されず、また現外科チームに問題があると考えるのであれば、先に派遣元である京都大学から別のチームに交替してもらうよう打診するという選択肢があったにもかかわらず、先に京都府立医科大学から消化管チームを招聘する話を持ち出した」とし、このことが「外科チームや京都大学側の不信感を招いた。このような話の進め方が、後の混乱につながったものと考えられる」と、北脇理事長の話の進め方の不合理さを指摘しています。一方の脳神経外科医師からのハラスメント申告については、「理事長が脳神経外科の診療部長に対し、脳血管障害の科を新設して外部から医師を招聘することを提案し、それに併せて現脳神経外科チームの人員削減を求めたことが認められる」「理事長から、脳神経外科の『業績不振』について診療部長の責任を問う発言があった」としています。その上で、「新設する科への医師の招聘は、理事長らからまず現脳神経外科チームの派遣元である京都大学に対し人員派遣を要請したものの、断られたため京都府立医科大学からの招聘を念頭に話を進めており、話の進め方に特段問題となる点は見当たらない。ただ、外科の事案で醸成された不信感が、脳神経外科にも派生したと考えられる」としています。報告書は、全体として北脇前理事長の、各診療科の運営等に関する言動がさまざまな混乱をもたらしたこことを認めつつも、「退職を求めるにあたって人格を否定するような言動や、過度に威圧的な言動がなされたとは認められず、『パワーハラスメント』に該当するような言動は認められない」(外科)、「時に表現がきつくなった場面もあったが、人格を否定するような内容はなく、面談全体を通して診療部長の医師としての技量への敬意も表されていることからすると、『パワーハラスメント』とまでは認められない」(脳神経外科)とし、それぞれ、パワーハラスメントの存在がなかったと結論付けています。「内部検証手続きの進め方に不備も規定違反はなし」なお、ハラスメント申告の内部検証手続きの進め方についても、「申告者である副院長からヒアリングを行わなかったことは、音声記録の検証によって足りるとの判断に基づくものではあったが、内部統制推進室が作成して法人内に周知している手続フロー図に反しており、少なくとも当該フロー図と異なる手順で進めることについて副院長に丁寧に説明すべきであった」「申告者においてハラスメントの当事者と認識していた院長を、検証者の人として選んだことは、検証の公平性に疑問を抱かせる点で不適切であった。また、申告者に調査結果を伝える際、ハラスメントに該当しないという結論のみ伝え、理由の説明が一切なかったことも、申告者の納得性の点にもう少し配慮が必要であった」と、全体の手続きの問題点を指摘はしています。しかし、こちらも「内部検証手続において、法令および内部規程の違反は認められない」と結論付けています。なお、同報告書を受けて、大津市民病院は同日、「調査報告においては、第三者委員会から、公平かつ中立な視点に立って、『ハラスメントか否か』ということだけではなく、当院の再建およびより良い地域医療構築のための具体的な提言をいただいております。第三者委員会からのご提言につきましては、重く受けとめ、今後の法人運営に活かしてまいります」「4月1日から外科医師4名が着任することが決まっております。外科以外の診療科におきましても、患者の皆様をはじめ市民の皆様が安心していただける診療体制の確保に引き続き努めてまいります」とのコメントを発表しています。また、佐藤市長は、「市民や患者に不安を招いた法人の責任は極めて重いとの認識に変わりはない。法人と診療科の双方責任者との間で意思疎通を図り、互いが信頼できる関係づくりに注力することを求める」とコメントしています。府立医大のジッツを広げたいという強い意向が働いていた可能性混乱の張本人だった北脇元理事長が辞任し、第三者委員会も「パワハラなし」の調査結果を出したことで、世間的には早期に幕引きを図ったように見えます。できるだけ早く事態を収め、新体制での医師確保を急ぎたかった独立行政法人の出資者である大津市の意向も強く働いたに違いありません。仮にパワハラが存在せず、純粋に経営的な観点からの派遣医局変更だったとすれば、北脇元理事長が辞任する必要はないわけで、そこには「業績不振」を理由にしてまで自身の出身母体である府立医大のジッツを広げたい、という強い意向が働いていた可能性は否定できません。実際、北脇元理事長が就任した2021年春の時点で、府立医大の脳神経外科が大津市民病院をジッツにしようとしていたとの証言もあります。ただ、今回、北脇元理事長を“パワハラ有罪”としてしまっては、府立医大と大津市民病院との関係が悪化し、京大のみならず府立医大からの医師派遣にも支障を来しかねません。その意味で、「パワハラなし」の認定は大津市民病院の医療体制を安定化させるためには不可欠だったと言えるでしょう。新理事長にどこの大学出身者を選ぶか?とは言え、産経新聞等の報道によれば、報告書本体ではジッツ争いに対する苦言ともとれる指摘もなされています。「現外科チームでは今後改善の見込みがないことについて合理的根拠が示されず、先に京都府立医科大学から消化管チームを招聘する話を持ち出した」ことに対して、「理事長、院長が京都府立医大の『医局』の出身者であることと相まって、病院における京都府立医大の勢力を高めるため理不尽に退職を迫っているとの不信感を抱かせた」とし、「理事長の話の進め方は、病院、地域医療の発展のため努力・貢献してきた外科医師の心情に対する配慮が不十分で、京都大学側の不信感を醸成して今日の混乱につながった」と、強く非難しているのです。こうした問題点の指摘を踏まえ、大津市と地方独立行政法人・大津市民病院が次の新理事長にどこの大学出身者を選ぶかが注目されます。再度、府立医大出身者を理事長に招けば、同じような事態が起こる可能性もあります。そうした意味では、歴史的な背景から、京阪神では圧倒的なジッツの多さを誇るとされる府立医大の今後の動きも、気になるところです。

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