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第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、「懸念」発言続く日医は「医療情報プラットフォーム」が怖い?

現行の健康保険証を2024年秋に廃止こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末の土曜日、日本シリーズの第1戦を神宮球場で観戦してきました。今年は投手層が厚いオリックス・バッファローズが優位だろうと踏んでいたのですが、初戦は東京ヤクルトスワローズの老練、小川 泰弘投手がオリックスの山本 由伸投手に投げ勝つ展開。終盤では村上 宗隆選手のホームランも飛び出して、ヤクルトの強さを印象付ける試合となりました。第2戦も、オリックス優位の展開で進むも、土壇場でヤクルトが追い付き結局12回引き分けに。今年の日本シリーズも最後までもつれそうな予感がします。それにしても連日4〜5時間もかかっている試合時間は、観る側も疲弊します。野球ファンを減らさないためにも、試合時間はいろいろな意味で要検討項目だと感じました。さて、今回は再びマイナンバーカード保険証について書いてみたいと思います。政府は10月13日、現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」に切り替える方針を正式に発表しました。ほぼほぼ既定路線だったスケジュールとカード取得の“義務化”が正式決定したわけですが、その直後から、カードの手続きができない高齢者はどうする、情報漏えいは大丈夫か、保険証読み取り装置(カードリーダー)が間に合わない……、など医療界のみならず各方面から“反対”や“懸念”の声が沸き起こっています。日頃DX、DXと喧伝するマスコミですら、マイナ保険証に否定的な報道をするところも出てくる始末です。マイナカード申請枚数は全国民の56.2%岸田 文雄総理大臣は13日、河野 太郎デジタル大臣や加藤 勝信厚生労働大臣、寺田 稔総務大臣とマイナンバーカードについて協議。その後、河野デジタル大臣が記者会見を開き「デジタル社会を新しく作っていくための、マイナンバーカードはいわばパスポートのような役割を果たす」と述べ、2024年の秋に現在使われている健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化した形に切り替えると発表しました。廃止の時期が来てもマイナンバーカードを取得していない人などに対しては、取得の働きかけを進めていくと同時に、何らかの対応を検討するとしました。マイナンバーカードについて政府は、来年3月末までにほぼすべての国民に行き渡ることを目標としています。ただ、10月11日時点の申請枚数は、全国民の56.2%に留まっており、普及率を一層高めていく方針とのことです。河野デジタル大臣の記者会見の後、加藤厚労大臣も会見を開き、「システム改修などの対応に必要な予算は経済対策に盛り込んでいく。岸田総理大臣からは国民や医療関係者から理解が得られるよう丁寧に取り組んでいく必要があると指示があった。医療関係者や関係省庁などと連携して取り組みを進めていきたい」と述べました。切り替えまでにマイナンバーカードを取得できなかった人への対応については、「保険料を納めている方々は保険診療を受ける当然の権利を持っている。いろいろな事情で手元にカードを持っていない人が必要な保険診療を受ける際に、どういう手続きをしていくのか、今後しっかりと検討していく」と述べたとのことです。医療関係団体が全面協力する姿勢を示していたことは“とても不思議”マイナンバーカード保険証については、本連載でも、「第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも」と、「第125回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」で詳しく書きました。連載では、厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」の内容を紹介し、マイナ保険証のシステムは将来的に、レセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようになり、「全国医療情報プラットフォーム」の構築につながる、と書きました。このプラットフォームが稼働すれば、患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸になります。そうなると、それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みが国によってデザインされ、医療機関にも求められるようになるでしょう。さらには、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが他医にもバレてしまいます。そう考えると、日本医師会など、医療関係団体が概ね協力する姿勢を示していることが“とても不思議”であると書きました。日本医師会はこれまで、かかりつけ医制度やリフィル処方など、効率的な医療提供体制構築や医療費削減に資するような政策には頑なに反対してきたからです。というわけで、125回では、「かかりつけ医制度の議論などを目くらましにして、医療DXの推進を一気に進めようとしているとしたら、岸田首相や財務省もなかなかの策士と言える」、「加藤厚労相は、親日医の姿勢を見せつつ、マイナ保険証を突破口として医療DXを強力に推進するために岸田首相から医療界に送り込まれた“刺客”という見方もできるかもしれない」と、少々うがった見方をしたのですが、流石に日本医師会もここに来て、「これはまずいかも」と気がついたのか、10月13日前後から、マイナ保険証を牽制するような発言が目立って来ました。日本医師会の松本吉郎会長が「懸念」発言各紙報道等によれば、日本医師会の松本 吉郎会長は、「保険証廃止、マイナ保険証に一本化」が正式決定する前日、10月12日に開かれた定例会見で、「健康保険証の廃止を決定するのであれば、まずは国民に理解をしていただく、その時点(2024年秋)で、マイナンバーカードを取得していない人がいるのであれば、その対応が、非常に大きな問題だ。医療現場でも、負荷がかかったり、混乱が生じたりする可能性もある。それを含めて、しっかりと手当てをして頂きたい」などと発言しました。さらに1週間後の10月19日の定例記者会見で松本会長は、「反対はしていないが、カードがまだあまり普及していない状況を考えると、2年後の原則廃止は可能かどうか、非常に懸念をしている。保険証の廃止によって、医療機関に適切な時期に適切な状態で受診できないことがもし起こるとすると、国民は非常に困る。医療現場の混乱も招く」と話し、政府による国民への説明や、関係者との議論の必要性を訴えたとのことです。また、オンライン資格確認が療養担当規則で2023年度から原則義務化されることについても、各地域の医療機関や医師会から様々な懸念が寄せられているとして、「原則義務化の例外対象の再検討を厚労省に求めている」とも話しました。「全国医療情報プラットフォーム」の“恐ろしさ”8月に開かれた厚労省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」説明会では、三師会の担当理事たちは「早く導入しましょう。役立ちます」と訴えていました。なのにこの腰砕け振りはなんでしょう。国が構築しようとしている「全国医療情報プラットフォーム」の“恐ろしさ”が今になってやっとわかってきたということでしょうか。ちなみに、「マイナ保険証に一本化」が正式決定する前日の12日、政府は首相官邸で医療分野のデジタル化の推進をめざす「医療DX推進本部」(本部長・岸田首相)の初会合を開いています。「全国医療情報プラットフォーム」の創設、電子カルテの表記を統一して正確な情報共有につなげる「電子カルテ情報の標準化」、診療報酬の算定にかかる計算様式を共通化する「診療報酬改定DX」の3つを重点項目と定め、これらを省庁横断で進めるよう岸田首相は関係閣僚に指示したとのことです。2023年春にも具体的な工程表がまとまる予定です。ここで一気に進めないと医療・介護の効率化は永遠に進まない世の中こぞってDX、DXと言う割に、まったく進んでいない日本のDX。そんな中で行政面ではマイナンバーカードの普及の遅れが、DX推進を妨げていると指摘されてきました。カードを義務化し、保険証をマイナ保険証に一本化する背景には、マイナンバーカードをとにかく普及させたいという国の思惑があります。実は、今年6月に示した経済財政運営の指針「骨太の方針」には、「保険証の原則廃止を目指す」と書かれていました。例年「骨太の方針」には大胆な改革案が書かれるのが常ですが、そこに書かれていた「原則」の文字を敢えてなくし、期限を2024年秋と明示、事実上のカード義務化を決定した点に政府の本気度が見て取れます。医療界も含め、反対派は多いですが、流石にここで一気に進めないと、日本のDX、そして医療・介護の本当の効率化は永遠に進まない予感もします。マイナ保険証のカードリーダーなどインフラ整備の問題や、現行の保険証の取り扱い、高齢者にどうマイナンバーカードを取得させマイナ保険証に移行させるか、高齢医師の医療機関がマイナ保険証に対応できるか、など課題は多いと思いますが、新しい制度には、課題があるのが当たり前です。岸田首相がまたまた世の中の声を聞き過ぎて、マイナ保険証の普及・定着が腰砕けにならないことを願うばかりです。

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超加工食品の利便性と有害性はもろ刃の剣であり、摂取過剰は男性の遠位大腸がん発生の危険性を高めるため超加工食品の摂取には注意!―(解説:島田俊夫氏)

 大腸がんの発生は国により多少の差はあるが世界中で日増しに大きな問題となっており、その原因として超加工食品を大きく取り上げている。 超加工食品の分類には、ブラジル・サンパウロ大学の公衆衛生メンバーが提唱したNOVA分類(1~4)が通常用いられている。食品加工に伴う加熱処理、保存性の向上のための塩、砂糖やその他食品添加物、加工処理に伴う有害生成物、自然食品に含まれる抗酸化物質等の喪失等が発がん機序に深く関与していると推測されているが、十分に解明されているとはいえない。 それでも、加工食品の普及につれてその利便性とは逆に有害性の側面がクローズアップされている。2018年にフランス国立衛生医学研究所(INSERM)の研究者が、加工食品の摂取過剰が閉経後女性の乳がん発生増加につながったと報告した1)。その後、超加工食品による発がんへの関心が急速に高まっている。 大腸がんの発生に密接に関係する超加工食品に対する前向き大規模コホート研究が、タイムリーに米国の医療従事者を対象とした3つのコホート研究の成果として、2022年8月31日号のBMJ誌にタフト大学のWang氏らによって報告された。 男女別の3つの医療従事者コホート(男性コホート:Health Professionals Follow-up Study、女性コホート:Nurses’ Health Study I and II)を対象とした5年間にわたる前向きコホート追跡研究から、食事摂取量の記録があり、ベースライン時点でがんフリーの参加者を対象として、超加工食品摂取と大腸がんリスクとの関連を調査した研究成果を発表した。参加者数も多く、観察期間も長く、信頼性の高いデータに基づく論文として紹介する。 男性では超加工食品の摂取量と大腸がんリスクの間に正相関を見いだしたが、この関連は遠位大腸がんに限られていた。サブグループの男性では超加工食品(レトルト肉、家禽、海産物/砂糖添加飲料)と正の関連が観察された。一方で、女性では明らかな関連はなかったが、ヨーグルト、乳製品ベースのデザートが遠位大腸がんを抑制することが観察された。 本研究は、男性で超加工食品摂取と遠位大腸がんリスクの間に正の関連を初めて見いだした研究であった。確立された大腸がんの危険因子である肥満が、超加工食品と遠位大腸がんのがん化に関連性がなかったことから、超加工食品の追加属性が遠位大腸がんのがん化に深く関与する可能性を示すと理解された。 大腸がんの発生が性差で異なる理由は目下不明であるが、事実をまず受け止め、超加工食品の利便性と有害性を理解することで、現代社会を健康的かつ安全に生き抜くために食の在り方を見直す必要がある。本論文は、超加工食品の利便性優先に警鐘を鳴らす意味からも大きな意義がある。 超加工食品の利便性の魅力に惑わされることなく、超加工食品の問題点を正しく認識のうえで賢く利用することを考えるべきではないか。

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サル痘ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第14回

新型コロナに次いで緊急事態が宣言されたサル痘周知の通り、サル痘感染が世界的に拡大している。アフリカ熱帯地方に限局した風土病であったサル痘が、ナイジェリアからの輸入例として英国から世界保健機関(以下、WHO)に報告されたのは2022年5月7日であった(発端症例はナイジェリア滞在中の同年4月29日に発症、5月4日に英国に到着)1)。以後、非常在国への輸入例およびそれらを発端とした国内感染例が続々と発見・報告されてきた。急激な世界的拡大を踏まえ、WHO事務局長は2022年7月23日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC[フェイク]と発音)」を宣言した2)。PHEICとは、「緊急かつ世界的な健康問題に対して、WHO加盟各国が集中的に資源投下して早期の封じ込めまたは安定化を目指すよう」にとWHO事務局長が発する宣言である。2020年の新型コロナウイルスパンデミックへの宣言に続いて、史上7件目のPHEICとなった。PHEIC宣言後も加盟各国での発見が相次ぎ、2022年9月21現在では105ヵ国から累計6万1,753例の確定患者と23例の死亡がWHOに報告されている3)。わが国でも同9月21日までに、計5例の確定患者が厚生労働省に報告されている4)。うち3例は直近の海外渡航歴があったが、残る2例に渡航歴はない。渡航歴のない2例とも発症直前に海外渡航者との接触があり、輸入例を発端とした国内感染と推定される。ただし、諸外国のように輸入発端例を追跡できないような国内感染拡大には現時点で至っていない。サル痘とはサル痘は人獣共通感染症である。1958年にデンマークの研究所が実験用にアジアから輸入したサルが発疹性疾患を発症し、病変からサル痘ウイルスが分離発見された。これがサル痘 monkeypox の命名由来であるが、後の研究により本来の自然宿主はアフリカ熱帯地域のリス、その他の齧歯類と推定された。実験的感染も含めると、サル痘ウイルスはヒトをはじめとする40種以上の動物種に感染することがわかっている5)。アフリカ熱帯地域の野生動物間で循環しているサル痘ウイルスが、感染動物と接触したヒトにも感染する例が、1970年以降コンゴ盆地(アフリカ中央部)および西アフリカの諸国で散発的に報告されてきた。ヒト発端例から数100例に拡大したアウトブレイクも同地域で何度か発生している。サル痘ウイルスは天然痘(痘瘡)ウイルスと同じオルソポックスウイルス属に属し、クレードI(旧称:コンゴ盆地型)とクレードII(旧称:西アフリカ型)の2系統に分類される6)。クレードIによる致死率は10%前後だが、クレードIIのそれは1~数%と比較的軽症である。現在世界で拡大しているサル痘ウイルスは主としてクレードIIとされており7)、確定症例中の死亡数が少ないのはそのためと考えられる。サル痘ウイルスは主として接触感染する。ごく近距離かつ長時間の対面による飛沫感染もありうるが、大半は皮膚と皮膚、またはウイルスの付着した衣類などと皮膚の濃厚接触による感染とされる。性的接触後の感染も多く報告されているが、性的接触に伴う皮膚同士の濃厚接触が感染経路と考えられ、一般的な性行為感染とは異なる。現時点では圧倒的に男性の報告が多く、女性や小児の報告は一部である。サル痘の症状は、根絶された天然痘(痘瘡)のそれにかなり似通っている。ウイルス感染後1~2週間(最大21日間)の潜伏期を経て、発熱、リンパ節腫脹等の非特異的な前駆症状で発症する。前駆症状の1~3日後に全身に発疹が出現するが、天然痘と同じくすべての発疹が同期して丘疹→水疱→膿胞→痂皮へと進行する。類似の水疱性疾患である水痘の発疹が互いに同期せずバラバラに進行するのとは異なるが、多数のサル痘報告の中には発疹が同期しないケースも散見されるため、鑑別に注意を要する。発疹は痂皮が脱落するまでの2~4週間は感染性を保ち、その間の濃厚接触によって感染が拡がる。ほとんどが自然治癒するが、まれに発疹部への細菌2次感染、肺炎、脳炎、角膜炎などの合併症を生ずる。妊婦や小児が特に合併症を生じやすいとされる。診断は発疹病変検体からのウイルス遺伝子検出(PCR法)が有用であり、厚生労働省による届出基準でも採用されている8)。特異的治療薬として、欧州では tecovirimat が承認されている。わが国には承認済みの特異的治療薬はないが、「tecovirimat のサル痘への効果と安全性を検証する特定臨床研究」が国立国際医療研究センターにて進行中である。サル痘のより詳しい臨床情報については、他の総説記事などをご参照いただきたい。 日本の法令上の扱いサル痘はわが国では感染症法で4類感染症に指定されており、全数届出疾患である。1・2類感染症とは異なりまん延防止のための公費入院制度がないため、入院および治療の費用は患者負担となる(前述の tecovirimat の特定臨床研究の対象となれば研究費が適用される)。検疫法にはサル痘の指定がないため、海外から到着した疑い症例を検疫所が発見しても検疫法に基づく行政検査ができない。近隣自治体に知らせて感染症法に基づく検査につなげる(自治体が指定する医療機関へ移送を検討する)必要があり、患者自身のためにもまん延防止のためにも検疫所と自治体との連携が重要である。オルソポックスウイルス属と天然痘ワクチン(種痘)本稿の本題はサル痘に対するワクチンであるが、サル痘ワクチンを知るにはまず天然痘とそのワクチンを知らねばならない。1)天然痘ワクチンサル痘ウイルスは天然痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属に属する。天然痘は数千年にわたり人類を脅かしてきたウイルス性発疹性疾患である。WHO主導の世界的な天然痘ワクチン接種(種痘)キャンペーンにより、1980年についに世界からの根絶が宣言された。有効なワクチンがあった以外に、動物宿主がなくヒトにしか感染しない、持続感染例がないなどの好条件が重なり、人類初の根絶病原体となった。サル痘の臨床症状は天然痘と似通っている。天然痘という病名は英語で smallpox だが、病原体である天然痘ウイルスは variola virus と呼ばれる。天然痘ウイルスには variola major および variola minor の2種があった。Variola major は19世紀末まで猛威を奮い、致死率は30%前後に及んだ。Variola minor は19世紀末に登場し、majorに取って代わって世界に拡大した。Variola minor の致死率は1%前後とmajorよりは軽症であったが、それでも1%の致死率は重大であり根絶の努力がなされた。死亡は感染の1~2週後に生じたが、死に至る詳細な病態生理はわかっていない。重度のウイルス血症やそれに伴うサイトカインストームが主因だったのではと推測されている9)。2)天然痘ワクチンの歴史とワクシニア vaccinia ウイルスオルソポックスウイルス属には牛痘ウイルスも含まれる。牛痘ウイルスはその名の通り牛に感染して水疱性疾患を生ずる病原体だが、牛を扱う農夫など濃厚接触するヒトにも感染することが古くから知られていた。ヒトに限局される天然痘とは異なり、牛痘は人獣共通感染症である。そして、牛痘感染歴のある者は天然痘に感染しないことも経験的に知られており、西暦1000年ごろにはすでにインドや中国で天然痘予防目的にヒトに牛痘を感染させる手法が行われていたとされる。これを世界で初めて科学的に確立し19世紀初頭に論文として世に報告したのが、英国のエドワード・ジェンナーであった10)。ラテン語で牛を意味する vacca を語源として、接種に用いる牛痘製剤を vaccine、牛痘接種(種痘)を vaccination とジェンナーが名付けたことは広く知られている。後に種痘に限らず、病原体予防薬全般について vaccine/vaccination の語が使われるようになった。そして、ジェンナーによる論文出版後の19世紀に種痘は世界へ急速に拡大した。種痘製剤を量産するために、牛の皮膚に人為的に牛痘ウイルスを植え付けて感染させ、病変から次の原料を採取するという手法が広く行われた。驚くことに、牛以外にも羊、水牛、兎、馬なども利用され、時には牛痘ではなく馬痘ウイルスすら使われた。20世紀に近代的なワクチン製法が確立される過程で、種痘製剤に含まれるウイルスはワクシニア vaccinia と名付けられた。その時点でワクシニアウイルスは、自然界の牛痘ウイルスからは遺伝的に大きく異なっていた。ジェンナー当時の牛痘ウイルスが100年以上にわたり生体動物を用いて継代培養される過程で、変異を繰り返した上に、他のオルソポックスウイルス属との交雑も起きたと推測されている。したがって現代の種痘製剤(天然痘ワクチン)の原料は、自然界の牛痘ウイルスではなく、実験室にのみ存在するワクシニアウイルスである。3)天然痘ワクチンの世代と種類これまで実用化されてきた天然痘ワクチンは表1のように3世代に分類される。表1 天然痘ワクチンの世代と特徴画像を拡大する天然痘の根絶に向けて接種キャンペーンが実施されていた当時の天然痘ワクチンを第1世代と呼ぶ。19世紀のままの生体動物による製法で生産され、無菌処理を施して凍結乾燥されていた。この間に免疫原性が高い優良株がいくつか確立された。しかし、キャンペーン進行による自然罹患者の減少と引き換えに、ワクチンの重篤な副反応が目立つようになった。種痘性湿疹 eczema vaccinatum、進行性ワクシニア progressive vaccinia、全身性ワクシニア generalized vaccinia といった致死性の極めて高い重篤皮膚病変や、高い致死率と神経学的後遺症に至る種痘後脳炎・脳症などが報告された。いずれも数10万接種~100万接種に1件程度と低頻度ではあったが、わが国を含む各国で問題視された11)。やがて1980年に根絶が宣言されると種痘は中止され、生産済みの第1世代ワクチンは凍結保存された。その後の1987年旧ソ連崩壊に伴う天然痘ウイルス拡散懸念や、2001年の米国同時多発テロ後の炭疽菌テロなどがきっかけで、天然痘ウイルスを利用した生物テロを想定してワクチンを常備する気運が米国を中心に高まった。この時期に生産された製剤を第2世代と呼ぶ。第2世代は、第1世代で確立されたワクチン株を生体動物ではなく細胞培養やニワトリ胚培養など現代的製法で生産したものである。天然痘はすでに根絶されていたため、ワクチンの効果は被験者の免疫応答(すなわち代理エンドポイント)を第1世代ワクチン当時と比較する形で測定された。しかし、第1世代と同じウイルス株を使っていたため、安全性の懸念は払拭されなかった。米国軍人などに第2世代製剤を接種した際の複数の2000年代の研究で、接種後心筋炎が背景リスクよりも有意に高いことが示されている12-15)。第1世代で問題視された安全性問題をクリアするために、免疫原性を保ったまま副反応を減らすよう、弱毒化ワクシニアウイルス株も順次開発された(第2世代までは非弱毒株)。弱毒化ワクシニアウイルス株由来の製剤を、第3世代と呼んでいる。遡ること1950~60年代にはアンカラ株(modified vaccinia Ankara:MVA)と呼ばれる弱毒株が開発されている。トルコのアンカラで数100世代継代培養されて遺伝子の15%が変異したこの株は、既存製剤よりも免疫原性は劣るが副反応も避けられるため、根絶前のキャンペーンでは既存製剤接種に先立つ接種に用いられた。また、1970年代には、わが国の橋爪 壮氏がヒト体内での増殖能を不活性化した LC16m8株を開発している16)。現在わが国でテロ対策に備蓄されている天然痘ワクチン(痘そうワクチン LC16「KMB」)は LC16m8株由来であり、自衛隊での小規模な研究であるが免疫原性と安全性は確認されている17)。一方、欧米ではMVA由来の新たな製剤が2010年代に開発されて同じく備蓄されている(Bavarian Nordic社による開発で通称 MVA-BN、商品名は国・地域ごとに異なる)18)。ワクシニアウイルスによるワクチンとオルソポックスウイルス属の交叉抗原性上記の歴史からわかる通り、天然痘ワクチンは天然痘ウイルス自体が原料ではなく、同じオルソポックスウイルス属である牛痘ウイルス(誕生当時)またはワクシニアウイルス(現代)が原料である。同じウイルス属とはいえ異なる種のウイルスを用いたにもかかわらず、このワクチンは天然痘ウイルスを根絶するほどの効果を示した。他のワクチン予防可能疾患において、異なる種の病原体を原料としたワクチンが充分な効果を示した例はない。すなわち、オルソポックスウイルス属は種同士の交叉抗原性が非常に強いと言える。属内での交叉抗原性の強さから、天然痘ワクチンを同じくオルソポックスウイルス属であるサル痘ウイルスの予防にも応用する発想につながる。サル痘予防としての天然痘ワクチン今回の世界的流行以前にも、サル痘はアフリカでアウトブレイクを繰り返し、時に非常在国での小規模アウトブレイクも起こしてきた19)。繰り返すが、サル痘ウイルスは天然痘ウイルスや牛痘ウイルス/ワクシニアウイルスと同じオルソポックスウイルス属である。属内の交叉抗原性が強いことの証左として、アフリカでのサル痘アウトブレイクで天然痘ワクチン(種痘)が結果的に奏効した実績がある。1980年代の古い観察研究ではあるが、当時のザイール(現コンゴ民主共和国)でのサル痘アウトブレイク時に、濃厚接触者の種痘歴の有無と発症の関連を調査したものがある。これによると、種痘歴がある場合の濃厚接触後発症は、種痘歴なしでの濃厚接触後発症に比べて、相対リスク減少が85.9~87.1%であった(※データから著者算出)20)。すなわち、種痘歴があることでサル痘発症リスクが80%以上低減された可能性がある。こうした知見からサル痘コントロール目的に天然痘ワクチンの接種が検討され、各国でのアウトブレイク時には適応外使用として接触者に曝露後接種されることもあった19)。しかし、天然痘ワクチンによるサル痘ヒト感染の予防効果を直接検証した質の高い介入研究はいまだ発表されてない。また、天然痘根絶後の天然痘ワクチンに関する研究のほとんどは、接種後(種痘後)の中和抗体上昇などの免疫学的指標および安全性評価に留まる。根絶前のかなり限定的な観察から、中和抗体価と天然痘の感染阻止にはある程度の相関があることが示唆されてはいるが21)、絶対的な感染阻止指標と証明されたわけではない。ましてや、種痘後の中和抗体価がサル痘の感染阻止とどの程度関連するかも不明である。天然痘ワクチンのサル痘予防効果は、真のエンドポイントでの評価がなされていない点に留意が必要である。こうした状況ではあるが、急激な世界的拡大を踏まえてWHOをはじめ世界の各機関は複数の間接的研究結果を根拠に天然痘ワクチンをサル痘予防に用いるよう承認し、推奨接種対象者を公表している。WHOは2022年8月発表の暫定ガイダンスにおいて、第2世代および第3世代ワクチン双方を表2の対象者に、十分な意思決定の共有(shared decision-making)の下に接種するよう推奨している22)。安全性の観点では第3世代が有利といえるが、第3世代はいまだ生産量および備蓄量が少ないため、世界全体のバランスを重視するWHOの立場としては第2世代も同程度に推奨していると考えられる。表2  WHOによる天然痘ワクチンのサル痘予防使用の推奨対象者画像を拡大する米国は天然痘予防に承認済みの第2世代 ACAM2000 および第3世代 MVA-BN(商品名:JYNNEOS)の計2種をサル痘予防に緊急承認し、欧州も同じく第3世代 MVA-BN(同:IMVANEX)をサル痘予防に承認し、それぞれにWHOと類似の対象者向けに接種を推奨している23)。なお米国では第2世代 ACAM2000 は第3世代 MVA-BN(JYNNEOS)の代替品substituteの位置付けである。わが国でも2022年8月に、天然痘に承認済みの第3世代 LC16m8株「痘そうワクチンLC16『KMB』」の適応にサル痘予防が追加された24)。接種対象者の選定について同9月現在で厚生労働省からは公式な発表はないが、厚生科学審議会で議論が行われている。また、治療薬 tecovirimat の特定臨床研究と並んで、国立国際医療研究センターにおいて同ワクチンの曝露前接種および曝露後接種が共に特定臨床研究として実施されている(同ワクチンの適応追加前に計画されたため、通常の臨床研究ではなく特定臨床研究が選択された)。わが国もサル痘侵入に対して迅速に対応していると言えよう。おわりに2022年9月時点ではわが国へのサル痘侵入例は数えるほどであり、諸外国のような国内感染拡大には至っていない。一般医療機関でサル痘患者に対応したり、天然痘ワクチンを接種する状況からは、現時点では程遠い。よって現状ではワクチンの接種手技や副反応などに通暁する必要は乏しく、本稿では天然痘ワクチンの歴史とサル痘流行における現状を整理するに留めた。しかし、新型コロナウイルス同様、国内感染例がある閾値を超えれば急速に拡大する可能性が常にある。読者には最新情報を収集していただくと共に、天然痘ワクチン接種が広範囲の医療機関で実施される状況が訪れるならば筆者も情報更新に努めたい。参考となるサイト厚生労働省 サル痘について1)WHO Disease Outbreak News. Monkeypox-United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland.; 2022.(2022年8月8日閲覧)2)WHO. Second Meeting of the International Health Regulations (2005) (IHR) Emergency Committee Regarding the Multi-Country Outbreak of Monkeypox.; 2022.(2022年8月8日閲覧)3)WHO. Multi-Country Outbreak of Monkeypox --- External Situation Report 6, Published 21 September 2022.2022.(2022年9月22日閲覧)4)厚生労働省. サル痘について. Published 2022.(2022年9月21日閲覧)5)Parker S, et al. Future Virol. 2013;8:129-157.6)WHO. Monkeypox: Experts Give Virus Variants New Names.2022.(2022年8月21日閲覧)7)Benites-Zapata VA, et l. Ann Clin Microbiol Antimicrob. 2022;21:36.8)厚生労働省. サル痘 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について.(2022年9月9日閲覧)9)Martin DB. Mil Med. 2002;167:546-551.10)Jenner E. An Inquiry into the Causes and Effects of the Variolae Vaccinae.; 1802.(2022年9月9日閲覧)11)平山宗宏. 小児感染免疫. 2008;20:65-71.12)Arness MK, et al. Am J Epidemiol. 2004;160:642-651.13)Eckart RE, et al. J Am Coll Cardiol. 2004;44:201-205. 14)Lin AH, et al. Mil Med. 2013;178:18-20.15)Engler RJM, et al. PLoS One. 2015;10:e0118283.16)橋爪 壮. 小児感染免疫. 2011;23:181-186.17)Saito T, et al. JAMA. 2009;301:1025-1033.18)Volz A, et al. Adv Virus Res. 2017;97:187-243.19)Simpson K, et al. Vaccine. 2020;38:5077-5081.20)Jezek Z, et al. Bull World Health Organ. 1988;66:465-470.21)Sarkar JK, et al. Bull World Heal Organ. 1975;52:307-311.22)WHO. Vaccines and Immunization for Monkeypox - Interim Guidance 24 August 2022.2022.(2022年9月9日閲覧)23)UKHSA. Recommendations for the Use of Pre-and Post-Exposure Vaccination during a Monkeypox Incident - Updated 26 August 2022.2022.(2022年8月26日閲覧)24)医薬・生活衛生局医薬品審査管理課. 審議結果報告書 乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」.2022.(2022年10月6日閲覧)講師紹介

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英語で「代わりに診てくれませんか?」は?【1分★医療英語】第51回

第51回 英語で「代わりに診てくれませんか?」は?Could you please cover my patients this weekend?(今週末、私の患者さんを代わりに診てくれませんか?)Sure, I can deal with it.(もちろん、引き受けますよ)《例文1》I’m going to explain the test result on behalf of Dr. Green.(グリーン先生の代わりに検査結果を説明します)《例文2》You can take paracetamol instead of ibuprofen.(イブプロフェンの代わりにパラセタモールを内服しても構いません)《解説》日本語の「代わりに~する」に当たる表現は英語では複数あり、それぞれ少しずつニュアンスが異なります。日本語でも仕事などを「カバーする」という言い方はよく使われますが、英語でも同様に、“cover”は「代わりに」引き受けるといった意味があります。「何かの代わりに」もしくは「自分の代わりに」という意味をより強めたい場合には、“instead of〜”または“on behalf of”や“on one’s behalf”といった表現が使われます。また、“instead of〜”では、痛み止めとしてのパラセタモールかイブプロフェンかといった「代わったものも同等である」という印象をもたらすのに対し、“on behalf of”または“on one’s behalf”では、「元の何かに代わって“代表して”対応する」といったニュアンスが加わります。たとえば、“I cannot attend the conference, so my colleague will give a presentation on my behalf”(私は学会に参加できないので、私の同僚が代わりにプレゼンを行います)といった使い方をします。講師紹介

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後見人制度~外部資料の活用例【コロナ時代の認知症診療】第20回

前回述べたように、後見人制度を使うと、自分の財産の額によって後見人に対して月々の支払いが生じる。このひと月の間に、後見制度を取り消しにしたいという2つの相談が私にクリニックにあった。いずれも資産家のご家族であり、「年間200万円以上のお金が出て行く。しかも自分が勝手に使えないから、好きな旅行にもいけない。どうにかしたい」と実に切実である。弁護士に、解消は可能なのかと尋ねてみたが、法制上かなり難しそうだ。このように後見制度に関わる問題には根深いものが多い。実際、認知症の専門学会も本制度に注目している。2022年11月の老年精神学会/認知症学会の合同大会において、後見人制度への医師の関わりとして「鑑定書作成の実際」が1つのシンポジウムのテーマになっている。介護保険認定調査結果など、外部資料はどう活用するかさて前回では、診断書作成、ランク(3類型)決定で用いることができる資料として診療録など手持ちの内部資料の意味を説明した。そこで今回は、外部資料として介護保険認定調査の結果などを説明する。まず介護保険認定調査(訪問調査)の結果である。1つのポイントは、これが医師の診療録と同様に公文書の扱いになっていることだ。周知のように介護保険の認定は、主に医師の主治医意見書と、この調査結果にもとづいて決定される。ご覧になった方も多いだろうが、この調査の内容は、第1群(身体機能・起居動作)、第2群(生活機能)、第3群(認知機能)、第4群(精神・行動障害)、第5群(社会生活への適応)、特別な医療とある。とくに第5群では、金銭管理や日常の意思決定という項目もある。それだけにこの評価結果を見れば、概要を簡潔に把握できる。ところでこの介護保険調査票の結果は見せてもらえるか? が重要である。都内のある区の介護保険課介護認定係へ確認してみた。調査対象者本人はもちろん、要介護認定の申請者でも開示請求ができる。さらに本人が亡くなった場合は法定相続人でもできるそうだ。もっとも自治体によって取扱いが異なる可能性があることには、ご留意いただきたい。なお公文書扱いではないだろうが、介護保険サービスとしてのデイサービス、デイケア等での看護・介護記録、あるいは家庭への連絡帳などが参考になるかもしれない。というのは、診断書や鑑定書の作成に役立つ他者との関係(ある意味、社会的な振る舞い)や集団の中での行動ぶりや発言内容などがときに記されているからである。また自治体によっては、介護保険主治医意見書の作成のために、当事者の実生活の状況を介護者が主治医に報告するためのシートも用意している。ここにも限られた診療時間内ではうかがい知れない情報が記載されていることがある。親が急死、財産調査の実際とは…さて、このような後見制度を使うべきタイミングを逸することも少なくない。以下は、50歳代女性の質問として聞いたものである。「7年前に母が亡くなった時に今後の遺産相続を考え、父に遺産の詳細を尋ねた。“まだ早い大丈夫”ということで教えてもらえなかった。ところがその父が最近急死した。葬儀の後、遺産の詳細を調べようとしたが、皆目、見当がつかない。どうしたらよいか?」という質問である。今さら、7年前に任意後見制度(前回紹介)など使えばよかったのに、などとは言えない。そこでこうしたことに詳しい知人に、死亡した親の財産調査についての実際を尋ねてみた。まず現金については、取引があったと思われる銀行に以下を持参して出向き、口座の有無を確認することだそうだ。1)口座名義人が亡くなったことが分かる戸籍謄本、2)手続きをする人が相続人だと分かる書類(戸籍謄本など)、3)手続きをする人の実印と印鑑登録証明書(発行より6ヵ月以内の物)。こうして口座が確認できたら、金融機関ごとに相続手続きに入る。次に証券類は? と質問したら、銀行と同様、目星をつけて問い合わせるしかないとのことであった。そのうえで、彼は「とにもかくにも1日も早く」と強調した。加えて、とくに兄弟姉妹がいる場合はかなりの時間と手間を覚悟する必要があると加えた。さて現金や証券と少し性格が異なるのが、不動産である。まず故人となった人宛てに毎年送付される固定資産税納税通知書を探し出すことだという。この通知書が見当たらない場合は、故人ゆかりの地の自治体で名寄帳を照会することになる。もっとも高齢の人なら、登記資料(権利証)を自宅の金庫や貸金庫に保管している場合もあるそうだ。しかし法務局によるこの権利証は、平成20年以降発行されていない。そして12桁のパスワードからなる『登記識別情報』の提供に変更となっている。この登記識別情報は、不動産の権利を表すのではなく、登記の申請人が登記名義人本人だと確かめる確認手段である。また権利証とは異なり、単に新規の不動産の所有者が、登記所に対し申請を行った際通知される情報にすぎない。しかし探し出すための端緒には成り得るかもしれない。いずれにせよ、遺族側は大変面倒なことだがやらねばなるまい。

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不整脈チームで試練の1ヵ月!【臨床留学通信 from NY】第39回

第39回:不整脈チームで試練の1ヵ月!先月は主に不整脈チームに配属されて、病棟のコンサルテーションを担当しました。米国では、心房細動にアミオダロンが使えるところが日本と大きく異なり、それ以外に、dronedarone、dofetilideといった聞きなれない薬も使用したりします。私は大学病院にいた期間が実は短かったため、不整脈研修も短く、大学関連病院にいた際にはアブレーションが可能な施設ではなかったこともあり、心血管インターベンションの素地はあっても、不整脈の専門的な薬剤、植込み型除細動器(ICD)などのデバイスチェックなどは非常に苦手な分野のため、ある意味、試練の1ヵ月でした。たとえば術後の心房細動などは、過去の研究からはリズムコントロールとレートコントロールに差がないこと1)は知ってはいましたが、それでもリズムコントロールを推し進めるのを好む不整脈医もいます。そして日本と比べると、すぐに除細動をするのも多い印象で、とりあえず1回依頼があったら心房細動罹患期間が長くてもトライしたり、逆に、抗不整脈薬を導入する時は、訴訟対策なのか、経食道心エコーなどで左心耳の血栓をかなり慎重に確認したりすることも多いです。米国の医療システム、とくに外来は、日本に比べてはるかに貧弱です。心房細動の頻脈で心不全を来していないような比較的軽症例でも、外来では治療できず、救急外来からほぼ入院となってしまう背景があるため、早めのリズムコントロールをより好むのかもしれません(ただし、早めのリズムコントロールが好ましい、というデータは昨今出てきてはいます2))。私は今、一般循環器内科(general cardiology)フェローの身分ですので、電気生理学(electrophysiology)を選べば、米国で華麗に不整脈医に転身することもできますが、やはり苦手なのでやめておこうと思います。しかし、改めて不整脈を少しかじると、薬物治療ではほかの循環器医がタッチしにくい治療をしたり、増え続ける心房細動のアブレーション、重症心不全のCRT(心室再同期療法)、致死的な心室性不整脈のアブレーション、リードレスペースメーカー、突然死の1次・2次予防のICD、皮下植込み型除細動器(S-ICD)など多彩な仕事があったり、かつカテーテル治療医に比べて夜間に働く必要性が低いことから、本当に魅力的な領域だと思います。参考1)Gillinov AM, et al. Rate Control versus Rhythm Control for Atrial Fibrillation after Cardiac Surgery. N Engl J Med. 2016;374:1911-1921.2)Kirchhof P, et al. Early Rhythm-Control Therapy in Patients with Atrial Fibrillation. N Engl J Med. 2020;383:1305-1316.Column最近私のグループから、妊娠中のコロナワクチン接種に関するメタ解析がJAMA Pediatrics誌に掲載されましたのでご覧ください。筆頭著者の先生から、1年前に直接私のメールアドレスをたどって連絡をいただきました。米国の集中治療(critical care)志望ということで、コロナ関連なら何か指導ができると考えました。そして指導してから3つ目でJAMA系とは、素晴らしいです。私は主にコンセプトと方法論を担当しました。共同筆頭著者の先生は、大学時代のテニス部のダブルスパートナーで小児科医のため、内容のサポートを頼みました。まさにダブルスペーパーと言えると思います。Watanabe A, Yasuhara J, Kuno T, et al. Peripartum Outcomes Associated With COVID-19 Vaccination During Pregnancy: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatr. 2022 Oct 3. [Epub ahead of print]

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英語で「~する気分です」は?【1分★医療英語】第50回

第50回 英語で「~する気分です」は?Do you want to walk in the hallway?(廊下を歩いてみますか?)No, I don’t feel up to it today.(いいえ、今日はそんな気分ではありません)《例文1》医師I think you can go home today if you feel up to it.(もし良ければ、今日退院でも良いと思います)患者Sure I do! (はい、そうします!)《例文2》医師What is bothering you?(何が気になりますか?)患者Breathing feels heavy. I do not feel up to going out today.(息苦しい感じがします。今日は外に出たくないです)《解説》“feel up to it”は「~をやれそうに思う」といった意味の表現で、一般的には否定形やifを伴う条件文の中で使われます。“want to”(~したい)に似ていますが、「~をする気分だ」という、より感情に寄り添った希望を表す表現です。臨床の場面では、医学的にはどちらでもよい選択肢を提示する時や、何かを提案する時に“if you feel up to it”(~したければ)と付けることで患者さん側に決めてもらうことができます。強制力が弱いので、さまざまな場面で使いやすい表現です。友人同士の会話でも、何かを控えめに誘うときなどにも使えますので、ぜひ使ってみてください。講師紹介

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第130回 手放しに喜べない?新たな認知症治療薬の良好な臨床成績

長らく続くコロナ禍で医療系学会の取材はこの間ご無沙汰していたが、先日久しぶりに学会に参加した。たまたま開催地が実家から近いこともあり、両親と昼食をとる機会に恵まれた。以下、今回はかなり私事を交えることになるが、お付き合いいただきたい。私の場合、地元で開催された学会の取材に赴く際でも実家に宿泊することはほとんどない。あくまで仕事で来ているという線引きが必要だというのが表向きの理由だが、実のところはある種、鬱陶しいからという事情もある。すでに私が50代になっているとはいえ、80代半ばの両親にとっては子供なので、実家でパソコンを開いて仕事をしていても何かと話しかけられるし、食事の時間になると「○○があるから食え」だの、とくに食べたいものでもないのに勧められるのは正直言うならば厄介なことこの上ない。それでも両親を食事に誘ったのは、近年急速に弱ってきている父親が賑やかなところが好きな人だからだ。実家は地元の繁華街から離れた田園地帯にある。父親本人は常に外出したくて仕方ないのだが、すでに足腰も弱り、その牛歩に毎回付き添うのは母親がくたびれるため、週末ぐらいしか外出できない。加えて父親は軽度認知障害(MCI)の診断を受けている。それでも元が几帳面な性格だったことも手伝ってか、現時点でも買い物では小銭から計算して使いたがるので、まだましなほうかもしれない。とはいえ、緩やかに症状は進行しており、先日は銀行に出かけた際にATM前から母親に「使い方がわからなくなった」と連絡があったという。昼時、待ち合わせ場所の寿司屋近くの路上にいると、人混みの向こうから両親がゆっくりと歩いてきた。視界に入ってきた両親はなかなか近づいてこない。父親のゆっくりとした歩みに母親が合わせざるを得ないからである。それでも数年前から介護保険を使って理学療法士のお世話になってからはかなり改善している。一時は「カタツムリか?」と思うほどの歩みだったのだから。私は路上に立ったまま両親が近くに来るのを待った。ようやく顔が良く見える距離になって私を見つけた父親は、「破顔一笑」とも言える表情を見せた。私も微笑んで見せたが、内心はこの上なく複雑だった。幼少期の記憶の中の父親は口下手で喜怒哀楽に乏しく、私に笑顔を向けてきた記憶がほとんどない。常にむすっとしていて、時に激しく叱られることが私の記憶のデフォルトである。母親がよく話題に出すのは、私が2歳ぐらいの時の父親と私のやり取りだ。父親が私を大声で呼びつけた際に登場した私は頭に座布団を乗せていたという。叱られて叩かれると勘違いしたらしい。やや長くなってしまったが、なぜこうつらつらと書いてしまったかというと、今話題のエーザイ・バイオジェン共同開発のアルツハイマー病(AD)治療薬候補lecanemab(以下、レカネマブ)について、こうしたMCI患者を持つ家族と医療ジャーナリストという職業の狭間で揺れ動く自分がいるからだ。ご存じのようにADに関しては、脳内に蓄積するタンパク質「アミロイドβ(Aβ)」が神経細胞を死滅させるというAβ仮説に基づき、過去20年近く新薬開発が進められてきた。Aβ仮説は、Aβ前駆タンパク質から酵素のβセクレターゼ(BACE)の働きで、Aβの一量体(モノマー)が作り出され、そこからモノマーが重合した重合体(オリゴマー)、高分子オリゴマーである可溶性プロトフィブリル、そこから形成されたアミロイド線維である不溶性フィブリルへと進行し、最終的にアミロイド線維から形成されるアミロイドプラークが神経細胞を死滅させADに至るというのが大まかな理論だ。これまでのAβ仮説に基づく新薬開発では、BACE阻害薬と脳内の神経細胞に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体が2つの大きな流れだったが、ほとんどが事実上失敗している。唯一飛び抜けていたとも言えるのが、同じエーザイとバイオジェンが共同開発していた抗Aβ抗体のアデュカヌマブ。Aβの生成過程の中でもフィブリルに結合する抗体で第II相試験での成績が良好だったことから期待されたが、2019年3月に独立データモニタリング委員会が主要評価項目を達成できる見通しがないと勧告した結果、進行中の2件の第III相試験が中止された。しかし、勧告後に入手できた症例データを加えて再解析した結果、うち1件では、高用量群でプラセボ群との比較で、臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB:Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の有意な低下が認められた。このためバイオジェンは一転して米食品医薬品局(FDA)に承認を申請。FDA諮問委員会の評決では、ほぼ否定的な評価を下されていたものの、社会的要請の高さなどを理由に新たな無作為化比較試験の追加実施とそのデータ提出を求める条件付き承認となった。もっともこの承認には専門家の中でも批判が多く、米国ではメディケア・メディケイド サービスセンター(CMS)がアデュカヌマブの保険償還対象を特定の臨床試験参加者のみに限定。さらにヨーロッパと日本では現状の臨床試験結果では効果が十分確認されていないとして承認見送りとなった。まさにジェットコースターのようなアップダウンを繰り返して、ほぼ振出しに戻ったのがAD治療薬開発の現状である。もちろんレカネマブの開発が続いていたことは承知していた。しかし、前述のような開発を巡るドタバタを知っている身としては、必死に開発を行っていた人たちには申し訳ないが、期待はせずに横目で見ていたというのが実状である。そんな最中、エーザイがレカネマブの第III相試験「Clarity AD」の主要評価項目で有意差を認め、記者発表するとのニュースリリースを9月28日早朝に発表した。今回はあの抗寄生虫薬イベルメクチンの時と違って、すでに結果がポジティブだったことはわかっている。要はどの程度のポジティブだったかがカギだ。当日、オンラインで記者会見に参加した私はディスプレイに釘付けになった。ちなみにClarity AD の登録症例は1,795例。脳内Aβ病理が確認され、スクリーニングおよびベースラインの認知症ミニメンタルステート検査(MMSE)が 22~30点、論理的記憶検査(WMS-IV LM II:Wechsler Memory Scale-IV logical memory II)の点数が年齢調整済み平均値を少なくとも1標準偏差を下回り、エピソード記憶障害が客観的に示されることが認められるADによるMCIと軽度ADが対象だ。これを2群に分け、レカネマブ10mg/kgの点滴静注を2週に1回とプラセボ点滴静注を2週に1回行い、主要評価項目は、ベースラインから投与18ヵ月時点でのCDR-SBの変化を比較したものだ。アデュカヌマブとレカネマブの最大の違いは、レカネマブはフィブリル形成直前の可溶性プロトフィブリルが標的となっていることに加え、アデュカヌマブでは漸増投与が必要だったのに対し、レカネマブは初回から有効用量の投与が可能なことである。公表された結果ではプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は27%、詳細は発表されなかったが副次評価項目すべてでプラセボに対して統計学的有意差が認められたという。また、抗Aβ抗体では付き物の副作用がアミロイド関連画像異常(ARIA)だが、その発現率はARIAのうち脳浮腫をさすARIA-Eが12.5%(症候性2.8%)、脳微小出血をさすARIA-Hが17.0%(同0.7%)。アデュカヌマブが高用量群でプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は23%(低用量群では14%)で、ARIA発現率がレカネマブの約3倍であることを考えれば、確かに成績は良いと言える。しかも、あくまでエーザイ側の説明に依拠するが、プラセボと比較したCDR-SB変化量の差は治験開始6ヵ月後に発現しているというのだ。私が驚いたのはむしろこの効果発現の早さだ。さてエーザイではこの結果をもって日米欧で2022年度中のフル申請、2023年度中のフル承認を目指すという。「フル」というのはアデュカヌマブの時のような条件付き承認ではないということである。ちなみに米国では、すでにClarity AD以外の試験結果で迅速承認制度の指定を受け、その結果は来年1月上旬までに明らかになる予定だが、この試験結果を追加提出することで、アデュカヌマブのような「失敗」はしないという意味である。CMSはアデュカヌマブの保険償還制限に当たって、同薬のような“条件付きの迅速承認の場合”とこちらも条件を付けている。では、このまま承認に至った際の課題は…やはり投与対象と薬価の問題である。米国でアデュカヌマブが承認された際の年間薬剤費は約600万円となった。前述のCMSの付けた条件が制限となったため、現実にはほとんど売上と言えるほどの数字にはなっていない。抗体医薬品である以上、どんなに頑張ってもレカネマブの年間薬剤費が100万円以下というのは世界のどの国でも考えにくい。たとえば仮に年間100万円としても、現在日本には推定約700万人の認知症患者がいる。日本国内でこのうちの1%強に当たる10万人が処方を受けたとすると、年間薬剤費は1,000億円となる。世界最速とも言える少子高齢化が進み、社会保障費の増大に危機感が募るばかりの昨今の状況を考えれば、簡単に容認できる話ではない。これまでの経緯を考えれば、承認されたあかつきに厚生労働省は最適使用推進ガイドラインなどでかなり投与対象を絞り込んでくるだろう。それに仮に成功しても、その先が相当厄介である。まず、投与開始後にどのような状態を有効・無効と判定するのか。かつて話題になった免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名:オプジーボ)の場合ならば、画像診断での腫瘍縮小効果という指標もあった。では、レカネマブでは1回数十万円もするアミロイドPETでAβ量を定量化するのか? それともある程度ばらつきもあるMMSEで判定するのか?有効基準が決まったとして、投与はいつまで続けるのか? そもそもADは高齢者の病気である。期待余命は長くはなく、悪化抑制効果が最大限得られたとしても患者本人の社会的・経済的生産性の向上が見込めるかと言えば、そこには「?」がつく。とはいえ、MCIの父親を持つ自分にとってみれば、たとえ3割弱の遅延抑制効果とはいえ、老老介護となっている母親の肉体的・精神的負担を考えれば、使える物なら使ってみたいという気持ちもある。約束した寿司屋でうまそうに漬け丼をほおばる父親を見ながら、そんなことばかりを考えていた。寿司屋を出て両親と一緒に牛歩で駅に向かった。とくに何時の新幹線に乗るかは決めていなかった。アーケード街を歩きながら、途中でベンチが見えると父親はそこに腰を掛けて休むと言い出した。母親は私に気を遣って、「私たちはゆっくり行くから、あなたは先に帰りなさい」と促した。私は父親に「またね?」と言ってその場を後にした。父親はまた破顔一笑。そのまま後ろを振り返らずにまっすぐ駅へと向かった。医療経済性、社会保障費の増大、患者家族としての思いがぐるぐる頭を巡りながら、今日この時点でも結論は出ていない。たぶんこの先も容易に結論は出ないだろう。正直、メディアの側にいるというだけで私たちは他人から忌み嫌われることは少なくない。とはいえ、それでも自分で自分の仕事を嫌だと思ったことは、こと私自身に関しては数えられるほど少ない。ただ、この日ばかりは「何も知ならきゃ良かった。本当に因果な商売だな」と自分の仕事が嫌になった数少ない日として、生涯忘れられない日になりそうである。

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せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです【非専門医のための緩和ケアTips】第37回

第37回 せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです「せん妄」って緩和ケアに限らず、どの分野でも遭遇しますよね。でも、緩和ケアではとくにせん妄の対応って大切なのです。今回は緩和ケアで必ず対応が必要になる、せん妄のお話です。今日の質問看取りにも対応する在宅医療を行っています。先日、終末期の患者さんが興奮した様子となり、家族が驚いてしまいました。「在宅療養の継続は難しい」と判断して緊急入院となりました。もともと家族は「自宅で最後まで過ごさせてあげたい」と言っており、「本当に入院してよかったのか」と感じます。こういった場合、どのように対応しますか?在宅緩和ケアでは、しばしばこういった難しい状況に直面します。ご質問からの推測になりますが、終末期せん妄の状態だったのでは、と感じます。入院や在宅で緩和ケアを実践していると、よく遭遇する徴候です。皆さんは終末期患者さんがどの程度、せん妄を発症するかご存じでしょうか? データにもよるのですが、「がん患者が亡くなる数日前には88%に発症する」と言われています。これ、すごく高頻度ですよね。なので、日単位の予後のがん患者さんに意識の変容が生じた場合は、せん妄である可能性が非常に高いのです。せん妄に対しては重要な点がたくさんあるのですが、その一つが「気付く」ことです。今回のように興奮が強いタイプのせん妄は気付きやすいのですが、活気がないように見えるタイプのせん妄については、気付きにくいことが知られています。せん妄に対しての介入は、まずは「原因となっている身体疾患の中で改善できるものがないか」を考えます。たとえば、高カルシウム血症のような電解質異常がせん妄を助長しているのであれば、補正を検討します。ただ、予後日単位の状況だと、現実的になかなか改善が難しいことが多いですね。薬物療法としては、ハロペリドール(商品名:セレネース)などの抗精神病薬を用います。それでも興奮が強い時には、より鎮静作用の強い薬剤を用いることもあります。さらに、せん妄は家族のつらさも助長します。「大切な家族が、人が変わったようになってしまった…」というのは、せん妄患者の家族からよく聞かれる嘆きです。死別が近いことによる悲嘆の中にある家族にとって、さらにつらさを増す状況であることは想像するに難くありません。そうした意味では、せん妄は在宅療養の継続が難しくなる徴候の一つです。興奮の強いせん妄の場合、私自身も薬物療法をしながら、入院の相談をすることがよくあります。近年、せん妄に対しては書籍やガイドラインが増えました。それだけ医療現場では切実な問題なのでしょう。どれもお薦めなのですが、日本サイコオンコロジー学会の「がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版」(金原出版)が2022年6月に改訂されていますので、まずはこれから読んでみてはいかがでしょうか?今回のTips今回のTipsせん妄への対応は、緩和ケアの分野でも重要なスキルです。

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下肢PADへのテルミサルタン、6分間歩行距離の改善なし/JAMA

 下肢末梢動脈疾患(PAD)の患者において、テルミサルタンはプラセボと比較してフォローアップ6ヵ月時点の6分間歩行距離を改善しなかった。トレッドミル上の最大歩行距離やSF-36身体機能スコアなども改善はみられなかった。米国・ノースウェスタン大学のMary M. McDermott氏らが、114例の患者を対象に行った2×2要因デザインによるプラセボ対象無作為化二重盲検試験の結果で、著者は、「今回示された結果は、PAD患者の6分間歩行距離改善についてテルミサルタンを支持しないものであった」と述べている。PAD患者は下肢の血流が減少し下肢骨格機能が障害されて、歩行能力が低下する。ARBのテルミサルタンは、これら一連の症状を改善する特性を有していた。JAMA誌2022年10月4日号掲載の報告。6ヵ月後の6分間歩行距離を評価 研究グループは米国2ヵ所の医療機関で114例のPAD患者を対象に試験を行った。登録は2015年12月28日~2021年11月9日に行われ、最終フォローアップは2022年5月6日だった。 被験者を無作為に4群に分け、2×2要因デザイン法を用いて、(1)テルミサルタン+管理下での運動(30例)、(2)テルミサルタン+週1回1時間の教育セッション(がん検診や高血圧症など)(29例)、(3)プラセボ+管理下での運動(28例)、(4)プラセボ+教育セッション(27例)をそれぞれ6ヵ月間実施しアウトカムを比較した。 なお本試験は当初、サンプルサイズは240例と計画されたが登録が進まず、主要比較は、テルミサルタンが投与された2群とプラセボが投与された2群に変更され、目標サンプルサイズは112例に変更された。 主要アウトカムは、6ヵ月後の6分間歩行距離の変化で、臨床的に意味のある最小差は8~20mとした。副次アウトカムは、トレッドミル上の最大歩行距離、歩行障害質問表(Walking Impairment Questionnaire)のスコア(距離、速度、階段昇段について)、SF-36身体機能スコアだった。結果は、実施医療機関やベースライン6分間歩行距離、管理下での運動または教育セッションの実施、性別、ベースライン心不全歴で補正し評価した。半年後の6分間歩行距離の変化、テルミサルタン群1.32m、プラセボ群12.5m改善 無作為化された114例の平均年齢は67.3歳、女性は46例(40.4%)、黒人が81例(71.1%)で、6ヵ月のフォローアップを完了したのは105例(92%)だった。 6ヵ月後の6分間歩行距離の変化の平均値は、テルミサルタン群が1.32mの改善(341.6m→343.0m)、プラセボ群は12.5mの改善(352.3m→364.8m)で、補正後群間差は-16.8m(95%信頼区間[CI]:-35.9~2.2、p=0.08)で、テルミサルタンによる有意な改善は認められなかった。副次アウトカムの5項目についても、いずれも両群で有意差はなかった。 最も頻度の高かった重篤な有害イベントは、PADによる入院(下肢の血行再建術、切断または壊疽などによる)で、テルミサルタン群3例(5.1%)、プラセボ群2例(3.6%)で報告された。

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英語で「吸入」は?【1分★医療英語】第49回

第49回 英語で「吸入」は?How often do I take this inhaler?(この吸入器はどれくらいの頻度で使うのですか?)Inhale 2 puffs once a day.(1日に1回、2吸入してください)《例文1》One bottle of inhaler contains 200 puffs.(吸入器1ボトルで200回分の吸入ができます)《例文2》Repeat these steps for each puff.(一度吸入するたびに、これらの方法を繰り返してください)《解説》「吸入する」という動詞は“inhale”を使い、「吸入器」は動詞を活用した“inhaler”です。そして名詞の「吸入」を表現したいときには“puff”を使います。“puff”は、「ひと吹きする」「吹き出す」「噴射する」といった動詞としても使われ、“take a puff of a cigarette”は「タバコを吹かす(一服する)」という意味になります。また、“puff”には「プッと膨らむ」という意味もあり、お菓子のシュークリームは“cream puff”です。吸入器の使い方は、患者さんがわかるまで丁寧に“step by step”で実演しながら説明します。米国ではHealth literacy があまり高くない患者さんも多いので、理解度を確認することが大切です。吸入器の説明の際によく使われる“breathe”と“breath”の発音の違いも練習しておくとよいでしょう。“Breathe out all the way.”(息を吐き出します)“As you start to slowly breathe in, press down the inhaler one time.”(息をゆっくり吸い込みながら、吸入器を一度押します)“Hold your breath as you slowly count to 10.”(息を止め、ゆっくり10数えます)といった感じです。講師紹介

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第129回 国のコロナ治療薬支援は適正価格?現況を列挙してみると…

前回、興和が実施していた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する抗寄生虫薬のイベルメクチンの第III相臨床試験で有効性を示せなかったことについて触れた。その際に、私は厚生労働省が開発支援として同社に約61億円を拠出したことについては、日本にとってやむなしという見解を示している。ところで国の新型コロナ治療薬の開発支援にはどの程度のお金がこれまで使われたのか? 実はこれを正確に計算することはなかなか困難である。というのも、まず財布(支出元)が厚生労働省、国立感染症研究所、日本医療研究開発機構(AMED)、内閣府、経済産業省、文部科学省など多岐にわたるからだ。また、この中には正規の当初予算の中の予備費などを活用したものや補正予算で対応したものなどさまざま。支出先も製薬企業だけでなく、大学その他の研究機関なども少なくない。こうした中で最も分かりやすい厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化のための支援事業」で製薬企業に直接支出されたものは以下のようになる(金額は百万円単位を四捨五入)。エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ):82億2,000万円[?]イベルメクチン(商品名:ストロメクトール):61億6,000万円[試験未達]ファビピラビル(商品名:アビガン):14億8,000万円[試験終了、申請意向は不明]カモスタット(商品名:フオイパン):6億円[コロナ対象の開発中止]AT-527:4億6000万円[国内開発終了]カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ):3億2,000万円チキサゲビマブ/シルガビマブ(商品名:エバシェルド):2億8,000万円ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ):2億6,000万円オチリマブ:1億9,000万円[開発中止]総額では約179億円になる。ちなみに各種報道によると、大学などへも含めた治療薬開発支援の総額は1,000億円超に上るという。現在までにこれらの中で上市に至ったものへの支援総額は8億6,000万円、支出総額の5%程度に過ぎない。開発が進行中で最多金額が支出されたエンシトレルビルは先日、第III相臨床試験でポジティブな結果が報告されたため、このままで行けば上市される可能性が高い。この分を含めると支援総額の半分はなんとか上市にこぎつけることになる。さて、この予算投入に対する評価は個人によってかなり変わるかもしれない。私はまずまずの結果と見ている。ただ、敢えて本音を言えば「ふーん、これが先進国である日本の有様?」とも考えてしまう。率直に言えば、支援額は「0が2つ足りない」とさえ思う。ご存じのように今や1つの新規成分を治療薬として上市するまでには、期間にして20年、費用にして200億円を要すると言われる。その中で抗ウイルス薬はかなり開発が難航する領域である。世界で初めて製品化された抗ウイルス薬といえば、ヘルペスウイルスに対するアシクロビルである。現在のグラクソ・スミスクラインの前身であるバローズ・ウエルカム社の研究所で1974年に開発され、開発者であるジョージ・H・ヒッチングスとガートルード・B・エリオンはその功績が評価され1988年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。念のため言うと、世界で初めて合成に成功した抗ウイルス薬はリバビリンだが、当初の開発目的であったインフルエンザ治療薬としての上市は成功せず、C型慢性肝炎治療薬として世に出るには1990年代まで待たなければならなかった。このように抗ウイルス薬は数ある疾患治療薬の中で、まだ半世紀にも満たない歴史しかなく、合成には数多くのペプチド結合などが必要となるため、開発は容易ではない。ヒト免疫不全ウイルスの登場とその戦いにより抗ウイルス薬の開発に弾みはついたものの、現在ある何らかの抗ウイルス薬のうち国産(国内開発)はインフルエンザに対するバロキサビル(商品名:ゾフルーザ)とラニナミビル(商品名:イナビル)、ファビピラビル(商品名:アビガン)ぐらいである。また、今回の新型コロナでは感染症に抗体医薬品を用いるという新たな戦略が登場したが、抗体医薬品開発能力がある国内の製薬企業は限られている。さらにこの間、新型コロナに対する抗ウイルス薬や抗体医薬品の上市に成功した外資系製薬企業のほとんどが日本円換算で年間の研究開発費が1兆円超。かつ上市に成功した治療薬のほとんどは完全な自社創製ではなく導入品である。悪く言えば、札びらで横っ面をひっぱたきながら時間を買ったとも言えるが、もはやこれは製薬業界ではごく当たり前の開発プロセスの一つになっている。いずれにせよ、新型コロナ治療薬開発競争での日本のディスアドバンテージは大きく、実際、現在までに登場した国産治療薬はない。第8波を迎える前に、そろそろこの辺の総括に入っても良いのではないかと思っている。もっとも今後のパンデミックを見越してやらなければならないことは国と企業ではかなり違う。国がやるべきは、公的研究機関での創薬そのものと言うよりは創薬の基盤技術への大規模・持続的な投資である。もっとも創薬技術が長足の進歩で高度化している以上、すべての基盤技術を国内の公的研究機関で獲得することは困難である。私自身は以前の本連載でも触れたとおり、新薬開発の極端な国粋主義には批判的な立場である。その意味では海外の研究機関との人事交流も含めた提携も欠かせない。これらをいかに「年度主義」から脱して持続的に行えるかがカギである。そして公的研究機関もそれぞれの組織や個人によって特徴がある。その各機関の研究情報の集約と岸田首相が創設を打ち出した日本版CDCとの間のネットワーク化も整備しなければならない。一方、民間企業、すなわち製薬企業側に求められることの一つは日本を軸としたアジア圏での臨床試験実施体制の確立である。メガファーマと呼ばれる国際製薬大手の新型コロナ関連治療薬の臨床試験の多くは、被験者を集めやすいアメリカを中心にその地続きである近傍の北米のカナダや南米を中心に行われることが多い。製薬業界にとって巨大市場であるアメリカに対しては国内の製薬企業もある程度は進出しているが、ここで臨床試験実施競争に勝てる環境はない。その意味ではやはり距離的にも近いアジア圏内にネットワークを確立するほうが早道である。これは抗ウイルス薬の開発に限らないことである。そしてもちろん今回、新型コロナ関連治療薬の上市に成功した外資系の製薬企業各社のように社外のシーズを迅速に目利きすることは重要だが、何より先立つものは金である。有望なシーズを見つけてもそれを獲得する資金がなければ事は動かない。では、どうするのか? 言い古されたことになるが、規模の拡大、すなわち国内外を含めた業界再編が必要になる。ここは最も大きなハードルである。「何を理念的なことばかり言っているんだ」と各方面に叱責されるかもしれないが、次なる新興感染症、あるいは現在の新型コロナの新たな変異株の登場による状況の悪化を想定すれば、いずれも今から少しずつでも始めなければ「後の祭り」になりかねないのである。

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第129回 大地震から丸山ワクチンまで、幅広いテーマを深く掘り下げた中井 久夫氏の作品

イベルメクチン臨床試験「主要な評価項目で統計学的有意差は認められず」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。久しぶりに好天となった週末は、少々足を伸ばして、新潟県と長野県の県境に位置する苗場山に行って来ました。土曜に赤湯温泉まで入り、翌日、赤倉山経由で苗場山に登り、和田小屋に下山する長めのコース。苗場山頂上部の池塘が点在する草紅葉の絶景を堪能できたのはよかったのですが、行動時間は11時間近くになってしまい、和田小屋下の駐車場に着く頃には真っ暗になっていました。今の時期、山の日没はとても早いです。皆さんも気をつけてください。ところで、一部医師から熱狂的な支持を受けていた抗寄生虫薬イベルメクチンについて、第III相臨床試験を行っていた興和が9月26日記者会見を開き、「主要な評価項目で統計的な有意差が認められなかった」とする結果を発表しました。この試験は2021年11月~2022年8月、日本とタイの軽症の新型コロナウイルス感染症患者1,030人を対象に、国際共同、多施設共同、プラセボ対照、無作為化、二重盲検、並行群間比較試験で行われました。結果、より早く症状が治まることの有効性を見出すことができなかった、とのことです。なお、死亡例はないことなどから「安全性は確認された」としています。さらに9月30日には、イベルメクチンの開発者、大村 智博士が所属していた北里大学も2020年8月〜2021年10月まで実施した新型コロナウイルス感染症患者に対するイベルメクチンの多施設共同、プラセボ対象、無作為化二重盲検、医師主導治験の結果を公表、「プラセボ投与群との間に統計学的有意差を認めなかった」としています。イベルメクチンについては、新型コロナの感染拡大が始まったころから、一部の熱狂的な医師が「よく効く」「治った」とテレビ等、さまざまなメディアで喧伝、そうした流れに乗り、東京都医師会の尾崎 治夫会長も、「予防にも治療にも効果が出ているのだから、積極的に使うべき」と主張していました。そもそも、イベルメクチンについては、WHOも米国NIHも臨床試験に限定して使用するよう勧告してきました。2021年3月にはJAMA誌に、今年3月にはNEJM誌に、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効果がないことを結論付けた論文も発表されています。今回、興和と北里大学から改めて二重盲検で有効性が認められなかった、と発表されたことは、イベルメクチン信奉者に対する最後通牒になったと思われます。しかし、彼らから「科学的に嘘を言っていました」といった反省の声は聞こえてきません。何らかの弁明や反論をぜひ聞いてみたいところなのですが……。統合失調症の研究者としてだけでなく詩の翻訳やエッセイなどでも有名な中井氏さて、秋も深まって来ましたので、今回は“読書特集”として、ある著者の本を数冊紹介します。少々時間が経ってしまいましたが、今年8月に1人の高名な医師が亡くなりました。新聞でもその逝去は取り上げられ、全国紙の中には追悼記事を掲載するところもありました。その医師とは、『患者よ、がんと闘うな』の近藤 誠氏、ではなく、精神科医の中井 久夫氏です。神戸大学医学部精神神経科主任教授などを歴任した中井氏は、精神科の領域では統合失調症やPTSDの研究者として知られています。また、ラテン語や現代ギリシャ語、オランダ語も堪能で、詩の翻訳やエッセイなど文筆家としても有名でした。amazonで中井氏の著作を検索すると、膨大な数の著作があることに驚かされます。難解な著作も多い中、精神科に限らず、臨床医ならばぜひ読んでおきたい作品も少なくありません。災害医療に携わる医療人の必読書、『災害がほんとうに襲った時 阪神淡路大震災50日間の記録』精神科領域から少々外れたところでは、中井氏が1995年に起きた阪神・淡路大震災の時の記録を綴った『災害がほんとうに襲った時 阪神淡路大震災50日間の記録』(みすず書房、2011年)は災害医療に携わるすべての医療人の必読の書だと言えます。本書は、もともとは中井氏が神戸大学の精神神経科主任教授として経験した阪神淡路大震災の50日をまとめた『1995年1月・神戸より』(みすず書房、1995年)が原本です。東日本大震災直後の2011年4月、同書を読みたいという人が増えたことから、再編集して急遽刊行されました。『災害がほんとうに襲った時』には「東日本巨大災害のテレビをみつつ」と題した章が加えられており、16年前の大震災を経験した精神科医だからこそ書ける、さまざまな視点やアドバイスが盛り込まれています。東日本大震災ではその直後から、被災者の心のケアが重視されましたが、そうした動きには、阪神淡路大震災での中井氏らの活動やそこで得られた教訓が克明に記された本書の存在が大きく影響していたに違いありません。本書には、「孤独なうちに自分しかいないと判断してリーダーシップを発揮した人たちがいた。(中略)。いずれも早く世を去った」という一文があります。そして、PTSD含め、大災害での医療活動が現場の医療者に与えるダメージについても、中井氏自身の心身の状態の変化も含め、詳しく書かれています。その内容は、コロナ禍で疲弊した医療者に対するケアを考える上でも役立ちそうです。気軽に読める『臨床瑣談』、『臨床瑣談 続』中井氏の著作の中で気楽に読めるエッセイとしては、『臨床瑣談』(みすず書房、2008年)、『臨床瑣談 続』(みすず書房、2009年)がとくにお薦めです。月刊誌『みすず』に2007年から不定期連載してきたエッセイをまとめたもので、「『臨床瑣談』とは、臨床経験で味わったちょっとした物語」といった意味だそうです。目次の主な内容は、「院内感染に対する患者自衛策私案」「昏睡からのサルベージ作業」「がんを持つ友人知人への私的助言」(以上『臨床瑣談』)、「血液型性格学を問われて性格というものを考える」「煙草との別れ、酒との別れ」「インフルエンザ雑感」(以上『臨床瑣談 続』)と雑多で、中井氏の専門である精神科以外のテーマが多く、基本的に医師向けに書かれたものではありません。しかし、内容は十分に専門的で、臨床医が普通に読んでも参考になるトリビアが散りばめられています。丸山ワクチンを自ら試した中井氏この中でとくに面白く読めるのは、『臨床瑣談』に収められている「SSM 通称丸山ワクチンについての私見」です。当時、この回が『みすず』に掲載されると、全国紙の書評欄で取り上げられ、出版社への問い合わせが殺到、それが『臨床瑣談』の出版につながったのだそうです。「(丸山)先生を直接知る人が世を去りつつ今、少しくわしく、先生のことを記しておくのがよいだろう。私は丸山先生に直接お会いしてお話をうかがった最後の世代になりつつある。書き残しておく責任のようなものもある」として書かれたこのエッセイには、日本医科大の丸山 千里博士との面会の様子から、中井氏自身の使用経験、はては丸山ワクチンを使いたいという友人を日本医大に紹介する話まで、数々の興味深いエピソードが赤裸々に語られるとともに、丸山ワクチンに対する中井氏の私見が展開されています。「私は精神科医でありガン学会とはまあ無縁である」という中井氏は、総じて丸山ワクチンに好意的な立場を取りながら、その作用機序について、かつてウイルスの研究者だった頃の知見を生かして、論理的に考察していく経緯は読み応えがあります。イベルメクチンの信奉者たちも、「効くんだ」「承認しろ」とただただ騒ぐだけではなく、中井氏のように論理的な考察とともに、自分が「なぜ使うか」を冷静に訴えるべきだったと思いますが、どうでしょうか。ちなみに丸山ワクチンは今でも有償治験薬という特別な扱いが続いており、日本医科大学付属病院ワクチン療法研究施設を受診すれば、治療を受けることができます。余談ですが、日本経済新聞の今年7月の「私の履歴書」は、ソニー・ミュージックエンタテインメント元社長の丸山 茂雄氏でした。丸山博士の長男である茂雄氏も同連載の中で、がんに罹患した後、主治医に内緒で丸山ワクチンを投与したと書いていました。さまざまな治療法も組み合わせ、最終的にがんは消えたとのことですが、「もちろんいまも丸山ワクチンを打ち続けている」と締めくくっています。60年前に日本の医療を痛烈批判した『日本の医者』さて、中井氏の著作の中には、約半世紀の時を経て復刊されたものもあります。『日本の医者』(日本評論社、2010年)です。原本は、中井氏が東大伝染病研究所(現在の東大医科研)の研究員として働いている時に、ペンネームを使って共著で書いた『日本の医者』(三一書房、1963年)です。医学部講座制や全国の病院の系列化などを批判的に論じた内容で、3年後に今度は『病気と人間』(三一書房、1966年)という本を再び共著で出版、「医局制はそのうち崩壊する」との過激な予言が当時は話題になったそうです。2010年に復刊された『日本の医者』には、若き中井氏の原点ということで、三一書房から出版された『日本の医者』『病気と人間』に加え、「抵抗的医師とは何か」(岡山大学医学部自治会刊)という文章も収められています。60年前の日本の医学部、医師、医療機関の実態とその問題点を指摘した本書は、読んでみると半世紀以上たった今でもそんなに古びていないと感じます。技術はともかく、「日本の医者」の本質がほとんど進歩していないためかもしれません。事実、医局制度(教授の権限)はしぶとく生き残り続けています。今でも医局や大学教授に縛られ続ける、若い医者たちに読んでもらいたい1冊です。

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4種類の血糖降下薬、メトホルミン併用時のHbA1c値への効果に差は?/NEJM

 2型糖尿病患者では、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の目標値を維持するために、メトホルミンに加えいくつかの種類の血糖降下薬が投与されるが、その相対的有効性は明らかにされていない。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid M. Nathan氏らGRADE Study Research Groupは、「GRADE研究」において、4種類の血糖降下薬の効果を比較し、これらの薬剤はいずれもメトホルミンとの併用でHbA1c値を低下させたが、その目標値の達成と維持においては、グラルギンとリラグルチドが他の2剤よりもわずかながら有意に有効性が高いことを確認した。研究の成果は、NEJM誌2022年9月22日号で報告された。米国の無作為化並行群間比較試験 GRADE研究は、2型糖尿病患者の治療における4種類の血糖降下薬の相対的有効性の評価を目的とする無作為化並行群間比較試験であり、2013年7月~2017年8月の期間に、米国の36施設で参加者の登録が行われた(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病の診断時の年齢が30歳以上(アメリカインディアンとアラスカ先住民は20歳以上)、糖尿病の罹病期間が10年以内で、500mg/日以上のメトホルミンによる治療を受けており、過去6ヵ月間に他の血糖降下薬を使用しておらず、HbA1c値が6.8~8.5%の患者であった。 被験者は、インスリン グラルギンU-100(以下、グラルギン)、スルホニル尿素薬グリメピリド、GLP-1受容体作動薬リラグルチド、DPP-4阻害薬シタグリプチンを投与する群に無作為に割り付けられた。全例がメトホルミンの投与を継続した。 代謝に関する主要アウトカムは、HbA1c値≧7.0%とされ、年4回の測定が行われた。代謝に関する副次アウトカムは、HbA1c値>7.5%であった。体重減少はリラグルチドで最も大きい 5,047例が登録され、グラルギン群に1,263例、グリメピリド群に1,254例、リラグルチド群に1,262例、シタグリプチン群に1,268例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は57.2±10.0歳、41.5%が60歳以上で、10ヵ所の退役軍人省医療センターの参加を反映して63.6%が男性であり、白人が65.7%、黒人が19.8%、ヒスパニック/ラテン系が18.6%含まれた。 それぞれの平均値は、糖尿病の罹病期間4.2±2.7年、メトホルミンの1日投与量1,994±205mg、BMI 34.3±6.8、HbA1c値7.5±0.5%であった。平均追跡期間は5.0年であり、85.8%が4年以上の追跡を受けた。 HbA1c値≧7.0%の累積発生割合には、4つの治療群で有意な差が認められた(全体的な群間差の検定のp<0.001)。すなわち、100人年当たりグラルギン群が26.5、リラグルチド群は26.1とほぼ同様であり、これらはグリメピリド群の30.4、シタグリプチン群の38.1に比べて低かった。これは、HbA1c値<7.0%の期間が、シタグリプチンに比べグラルギンとリラグルチドで約半年間長くなることを意味する。 また、HbA1c値>7.5%の発生割合に関しては、群間差に主要アウトカムと同様の傾向がみられ、100人年当たりグラルギン群が10.7、リラグルチド群は13.0であり、グリメピリド群の14.8、シタグリプチン群の17.5よりも低かった。 事前に規定された性別、年齢、人種/民族別のサブグループでは、主要アウトカムに関して4つの治療群で実質的な差はみられなかった。一方、ベースラインのHbA1c値が高かった(7.8~8.5%)患者では、HbA1c値<7.0%の維持または達成において、シタグリプチン群は他の3剤と比較して効果が低かった。 重症低血糖はまれだったが、グリメピリド群(2.2%)は、グラルギン群(1.3%、p=0.02)、リラグルチド群(1.0%、p≦0.001)、シタグリプチン群(0.7%、p≦0.001)に比べ有意に高頻度であった。消化器系の副作用の頻度は、リラグルチド群(43.7%)が他の治療群(グラルギン群35.7%、グリメピリド群33.7%、シタグリプチン群34.3%)に比べて高かった。また、4年間の平均体重減少はリラグルチド群(3.5kg減)とシタグリプチン群(2.0kg減)が、グラルギン群(0.61kg減)とグリメピリド群(0.73kg減)よりも大きかった。 著者は、「本試験で得られた重要な示唆は、たとえすべての治療が無料で提供される臨床試験であっても、HbA1cの目標値の維持は困難なことである。このデータは、2型糖尿病患者における長期的な血糖コントロールの、より効果的な介入の必要性を強調するものである」と指摘し、「これらの知見は、メトホルミンへの追加の薬剤を選択する際に、医療者と患者の共有意思決定の基礎となるだろう」としている。

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第128回 厚労省有識者検討会で珍事、会の名称変更と第1回やり直しの背景に「薬価差益」

医薬品に関する有職者検討会が突如廃止こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末も、前半は台風が首都圏を直撃、屋外の遊びが難しい天候となりました。することもないので、再び映画館に「トップガン」を観に出かけました。「トップガン マーヴェリック」については、「第112回 規制改革推進会議答申で気になったこと(前編)タスクシフトへの踏み込みが甘かった背景」でも少し書きましたが、今回は、36年前の1986年に公開された「トップガン」第1作と、今年公開の「トップガン マーヴェリック」の連続上映です。大ヒットの「マーヴェリック」に気を良くしたパラマウント・ピクチャーズが、9月中旬から全国の主要映画館で上映しています。2作続けて観ると、最新作がいかに第1作をリスペクトして作られ、さまざまな伏線を見事に回収しているかがわかります。トム・クルーズの絶妙の老け具合や、前作では主役機だったF-14トムキャットの描かれ方。さらには、かつてマーヴェリックのライバルだった、ヴァル・キルマー演ずるアイスマンとのやり取りの意味などは、連続上映だからこそより深く伝わってくると言えるでしょう。ただ、続けて観ると上映時間は4時間を超えます(2本の間に休憩あり)ので、鑑賞前にビールはあまり飲まないほうがいいかもしれません。さて、今回は厚生労働省が開いた有識者検討会での珍事について書いてみたいと思います。8月31日に第1回が開かれたばかりの「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有職者検討会」が突如廃止に追い込まれ、9月22日には「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」と名称が改められ、構成員も増員して再度仕切り直しの第1回が開催されたのです。会の名称自体は大して変わっていないのに、一体何が起こったのでしょう。この珍事の背景には、薬価差の議論のあり方を巡って、厚労省と日本医師会との間で激しいやりとりがあったようです。利害関係者を入れずに学識経験者のみで構成8月31日に開かれた第1回の「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」では、冒頭、厚労省が国内市場の動向、国内未承認薬の状況、新薬創出等加算の状況、薬価改定の概要、後発医薬品の使用促進施策、後発品企業の不祥事やそれに伴う供給不足、流通改善に向けた課題などについて説明し、その後8人の構成員がそれぞれの問題意識を発表しました。この有識者検討会は利害関係者を入れずに大学教授など学識経験者のみで構成したのがポイントで、利害から離れた自由な議論の中から薬価制度の今後の方向性を導きたい、というのが厚労省の狙いでもありました。日医が「『診療側抜き』での薬価差論議に反発」と報道しかし、この動きに敏感に反応したのが日本医師会でした。そのあたりの裏事情を9月21日付のRISFAXは、「業界期待の有識者検討会、たった1回で廃止 厚労省『診療側抜き』での薬価差論議に反発、“あるべき論”の理想崩れる」というタイトルで詳報しています。同記事は、有識者検討会は「初会合終了後にはさっそく、日本医師会周辺から厚生労働省に対して強烈な“横やり”が入り、病院経営に不可欠な薬価差のあり方にも踏み込んだ議論を『診療側抜きで進めようとしているのはけしからん』との圧力がかか」って、「異例の『廃止』に追い込まれた」と報じています。有識者検討会は9月8日に第2回が開催予定でしたが、開催案内が一向に公表されず、20日になってようやく、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」と名称を変えて、22日に改めて初会合が開かれることが公表されました。RISFAXは、「8月の内閣改造で、日医の組織内候補である羽生田 俊参院議員が副大臣に就くといった状況もあり、独立した議論を行うという厚労省の理想が崩れてしまった」と書いています。“外野”では製薬団体も市場実勢価格に基づく薬価改定方式の見直しを主張実はこの有識者会議と並行する形で、“外野”ではこんな議論も行われていました。ミクスOnlineなどの報道によれば、日本製薬工業協会の岡田 安史会長(エーザイ代表執行役COO)は8月30日の記者会見で、「医療機関や薬局にとっては薬価差から得られる収益が経営の極めて重要な要素となっている現状だ。一方で、その薬価差に関する“透明性・妥当性には課題がある”」との問題意識を示したうえで、「薬価差は国民負担となっている」とし、「現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式の抜本的見直しを検討する時期にまさしく来ている」と強調、8月31日から開かれる「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」での議論への期待を語っていました。また、日本製薬団体連合会の眞鍋 淳会長(第一三共代表取締役社長兼CEO)も有識者検討会が開かれた後の9月1日、日刊薬業の取材に対し、市場実勢価に基づく薬価改定方式の抜本的見直しについて、「製薬企業や卸、薬局・医療機関がそれぞれ適切なマージンを取った上で余った薬価差を国民に還元する」という具体案を示しています(9月2日付日刊薬業)。このような、製薬企業側から薬価制度見直しに向けた発言が活発化している背景には、市場実勢価格に基づく薬価引き下げが長年行われてきたことで、薬価が限界近くまで下がりきってしまい、製薬企業の経営や新薬開発などにも影響が及んでいることや、日本市場の魅力低下や、ドラッグラグの発生をも招いていることが挙げられます。薬価差を手放したくない医療機関ただ一方で、公定価格である薬価と、医療機関が薬を実際に購入する価格の差である薬価差は、医療機関にとっても経営的に手放したくない部分であるのは確かです。こうした“外野”からの発言に対し、就任後はあまり表に出てこなかった日医の松本 吉郎会長が動きました。9月7日の定例会見で、「薬価差は、あくまで市場が決めるということが基本的な考えだ」と語るとともに、現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式について、「ある程度の薬価差益はやむを得ないものと考える。これを急に変えることは、かえって混乱を起こす」と見直しに慎重な姿勢を表明したのです。4人の構成員を追加して再スタートといった流れの後、9月22日に初会合が開かれた第1回「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」では、INCJ(旧:産業革新機構)役員や医療コンサルタント会社社長など、4人が構成員に加わりました。また、開催要項の中の検討事項には、それまでの「医療用医薬品の流通・薬価に関する現状の課題」「現状の課題を踏まえた医療用医薬品の目指すべき流通や薬価制度の在り方」に加えて、「産業構造の検証」も入ることになりました。この日は、最初の第1回にあったような厚労省からの状況説明はなく、日本製薬団体連合会、日本製薬工業協会、米国研究製薬工業協会等からのヒアリングが行われました。「薬価差」が議論の焦点となり、日刊薬業などの報道によれば、日本製薬団体連合会の眞鍋会長は薬価差について「医療機関や薬局の経営原資の一部となっており、薬価が引き下げられても同程度の薬価差は再び発生する」として、「現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式の継続は新薬アクセスや医薬品の安定供給に影響を及ぼす」と主張、薬価改定方式のあり方を検討する際は「薬価差について関係者が共通の認識を持つ必要がある」と述べたとのことです。そして、共通認識の論点として「薬価差を是とするか非とするか」「医療機関や薬局の経営原資の一部になっているということでよいか」などを挙げたとのことです。全体、内容的には第1回というより、第2回の体裁と言えそうです1)。検討会の名称を変え、メンバーを追加し、「産業構造の検証」を検討事項に追加した以外に、厚労省が日本医師会と裏でどういった“手打ち”を行ったのかは不明です。薬価差益をひたすら追い求める経営姿勢は改められるべきこの20年ほどで医薬分業が急速に進みました。医療機関にとって薬価差益はあまり関係ない(むしろ薬局の問題だ)と見る向きもありますが、2021年社会医療診療行為別統計の概況によれば、院外処方を採用している病院は病院81.1%、診療所は77.6%で、以前2割近くの病院・診療所が院内処方のままで、薬価差の収入をあてにした経営を行っています。しかし、製薬協の岡田会長も述べたように、最終的に「薬価差は国民負担となっている」のです。後発品使用が推進される中でも、薬価差が大きい先発品を使い続ける医療機関、同じく薬価差目当てでバイオシミラーではなく、先行バイオ医薬品だけを使い続ける医療機関など、国の医療費増大は他人事として、経営のため薬価差益をひたすら追い求める姿勢はやはり改められるべきでしょう。新しい有識者検討会では、医療機関への影響が最低限となるような制度改革の提言に落ち着きそうな予感もしますが、せめて、薬価差が医療機関や薬局を必要以上に潤す構造にはメスを入れてほしいと思います。参考1)医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会/厚生労働省

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英語で「慎重に観察します」は?【1分★医療英語】第47回

第47回 英語で「慎重に観察します」は?His hemoglobin is trending down. Could you monitor his blood pressure?(ヘモグロビンが低下傾向です。血圧を見ておいてもらえますか?)Sure, I will keep a close eye on his vital signs.(わかりました。バイタルサインを慎重に観察しておきますね)《例文1》We must keep a careful eye on that patient.(あの患者さんは慎重に観察しないといけないですね)《例文2》You’ve put on a lot of weight. You need to keep an eye on what you eat.(体重がかなり増えていますね。食べているものに気を配るようにしましょう)《解説》今回ご紹介する“keep an eye on”は「〜を注意して見ておく」「〜から目を離さないようにする」といった意味合いのある表現で、医療機関でもよく用いられる表現の一つです。たとえば、バイタルサインや病状の不安定な患者さんがいるときには、医療チーム内で「慎重に観察しましょう」というコミュニケーションが取られるでしょうが、そんな時にピッタリの表現です。“monitor”や“watch”などの単語にも置き換えは可能ですが、より「注意深く」というニュアンスが含まれるので、好まれて用いられます。さらに、その注意深さを重ねて強調したい時には、“eye”の前に“close”(慎重な)を付けて“keep a close eye”としたり、“careful”(注意深い)を付けて“keep a careful eye”としたりします。こうすることで、さらに念入りに観察しなければならない、というニュアンスが出ます。これらの場合、冠詞の“an”が“a”に変わることにも注意してください。講師紹介

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第127回 未報道コメントに真意が!?WHOテドロス事務局長が発した「終わりが視野に…」

9月14日から15日にかけて、ちょっと驚くニュースが全世界に向けて発信された。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)との戦いについて「終わりが視野に入ってきた」と発言したというのだ。個人的な雑感を言えば、終わりが見えなくもないが、「もう一段先かな」と思っていただけに、この一報にはやや驚いた。ちなみに「もう一段先」とは、現在流行しているオミクロン株BA.5の次に流行をもたらすウイルス株が、このままオミクロン株の亜系統になるのか、それとは別の新たな変異株になるのか、そしてそれらの感染力や重症化率を見極められればということである。とりわけ現在のオミクロン株は約10ヵ月と、武漢株を除けば最も長く流行の主流を維持し続けている変異株。次なる流行の主流がこの亜系統となれば、私としてもテドロス事務局長とほぼ似た認識になるだろう。もっとも今回の新型コロナは世間の希望的観測を何度も裏切ってきているので油断はできないというのも本音。その意味でテドロス事務局長よりも“慎重派”の私はまだ「終わりが視野に入ってきた」とは言えないのである。とはいえ比較として適切ではないかもしれないが、通称“スペインかぜ”と呼ばれる1918~19年のインフルエンザ大流行以降のインフルエンザvs.人類の戦いと比べれば、新型コロナの事実上の制圧はこれより大幅に短縮されるのではないかと希望的観測は抱いている。ところでテドロス事務局長はより正確に何と言ったのか? WHOが発表しているブリーフィングの全文を読むと、実は報じられたようなシンプルなものではないことが分かる。実は「終わりが視野に入ってきた」と報じられたフレーズには、「私たちはまだそこに至っていないが(We are not there yet)」という枕詞がついていた。また、現在の新型コロナと人類との戦いをマラソンに例え「マラソンランナーはゴールラインが見えるまで立ち止まらない」として、「今は走るのを止めるには最悪の時期である(But now is the worst time to stop running)」と言い切っている。そのうえで各国が取り組まなければならないことを6つ提言している。(1)医療従事者や高齢者などを含むリスクにさらされやすい人では100%、人口全体では70%のワクチン接種率実現に向けた注力(2)新型コロナの陽性判定検査や遺伝子検査の体制維持し、それらをインフルエンザを含むその他呼吸器感染症のサーベイランス・検査体制へと統合(3)患者に対する正しいケアシステムの確立とそれをプライマリ・ケア体制への統合(4)感染者急増に備えた計画立案と必要な物資、機器、医療従事者の確保(5)医療施設での医療従事者と非コロナ感染者を保護するための感染予防・制御措置の維持(6)新型コロナ関連政策の変更時の明確なコミュニケーションいずれの提言も至極まっとうなものと言える。敢えてこの時期にこの発言をしたのは、約3年におよぶコロナ禍で各国では政府や一般大衆に「疲れ」が見え始めているからだろうと邪推する。さて、この6つの提言を日本に当てはめるとどうなるだろう。個人的な雑感だが、(4)(5)はほぼ実現できているのではないだろうか。(2)についてはまあ達成できていると言えるだろうが、昨今の全数把握の中止方針が今後どのような影響をもたらすかは、未知数だ。(1)についても日本はそこそこに良い線を行っている。9月16日現在の国内総人口に占める3回接種完了率は65.1%。基礎免疫の2回接種完了だけでみれば80.4%で、先進7ヵ国首脳会議(G7)参加国の中ではトップである。もっとも課題はある。すでに2回接種完了率は20代以降では80%超となっているが、5~11歳の小児では2回接種完了者はわずか18.6%に留まっている。比較的、自覚する副反応が多いワクチンであることもあって、親自身が接種しても子供への接種には躊躇してしまうというケースが少なくない。この点ではまだ行政や医療従事者からの情報提供がリーチできていない部分もあるだろう。また、2回目接種完了率と3回目接種完了率には10%以上の開きがある。まさに今週、オミクロン株BA.1対応ワクチンの接種が開始されたが、頻回なワクチン接種にうんざりしている層もいるため、どこまで接種率が上昇するかは、これまた不透明である。(3)も「プライマリ・ケア体制への統合」となると、まだ一般内科の医療機関ならどこでも受診できるという状況には至っていない。(6)については、日本の最大の問題とも言える。過去に何度も指摘しているが、岸田 文雄首相の新型コロナ関連のリスク対応、リスク・コミュニケーション能力はあまりにも欠陥だらけである。オミクロン株BA.1対応ワクチンの承認と接種の前倒しも、アメリカのFDAが最新のオミクロン株BA.5の緊急使用許可の後という間の悪さである。現状の厚生労働省の新型コロナワクチンQ&Aもまだオミクロン株対応ワクチンについての情報は薄く、政治だけが先走っている感は否めない。このように考えると、テドロス事務局長が言うごく正論過ぎる6つの提言を満たすのは実は容易ではないことがわかる。これは実際のところ日本だけの問題ではないはずだ。そして世界的な状況を俯瞰した場合、やはり大きなカギを握る(1)のワクチン接種は地域格差がある。「Our World in Data」によると、全世界の2回接種完了率は62.45%と、テドロス事務局長が掲げる70%(そもそも何を根拠に70%としているのかはわからないが)に近づいている。しかし、地域別で見るとEUが73.31%、アジアが72.07%、北米が64.55%、オセアニアが62.29%に対して、まさにテドロス事務局長の出身地域(本人はエチオピア出身)であるアフリカは22.56%である。今のオミクロン株がアフリカ南部で最初に確認されたことを考えれば、先進国で何回もワクチン接種を推進してもここから蟻の一穴のごとく崩される懸念は消えない。結局、考えれば考えるほど不透明感は増すばかり。逆に「終わりが視野に入る」とはとても思えなくなるという皮肉な様相だと感じている。

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第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)

コロナ終息とエリザベス女王国葬こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。WHOのテドロス事務局長は9月14日の記者会見で、新型コロナウイルスの世界全体の死者数が、先週、2020年3月以来の低い水準になったと指摘、「世界的な感染拡大を終わらせるのにこれほど有利な状況になったことはない。まだ到達していないが、終わりが視野に入ってきた」と述べたそうです。同日、厚生労働省の新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」も、全国的に新規感染者数の減少が続いている、との分析を公表しました。世界的に流行が終息に向かっていることは、米国MLBの中継や、英国エリザベス女王の国葬の様子を見ても実感することができます。国葬もそうでしたし、女王の国葬に先立つウエストミンスター宮殿での公開安置の行列でも、マスクをしている人はほとんどいませんでした(デビット・ベッカム氏も!)。その点、日本人は真面目というか、融通が効かないというか、街中の屋外では、皆、まだマスクをしています。こうした、お上の言うことに真面目に従い、世間体(周囲)を気にする他人任せな点が、日本でセルフメディケーションがなかなか進まない一因なのかもしれません。アマゾンの処方薬ネット販売の背景さて前回は、米アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が日本で処方薬のネット販売に乗り出すことになった、というニュースについて書きました(「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」参照)。アマゾンの処方薬ネット販売進出の背景にあるのは、オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着と、来年から始まる予定の電子処方箋の運用です。電子処方箋が運用されれば、処方箋のやりとりだけでなく、処方薬の流通についても徹底した効率化が求められるようになります。近い将来やってくるであろう調剤・配送集中化の時代を見据え、アマゾンとしてはまずは同社の服薬指導のシステムを普及させることで、地域の薬局をネットワーク化しておきたいというのが、その大きな狙いとみられます。こうした動きに対し、日本保険薬局協会の首藤 正一会長(アインホールディングス代表取締役専務)は記者会見で、「リアル店舗やかかりつけ薬剤師の存在感を高めることで、アマゾンに対抗する」といった趣旨のコメントをしたそうです。その記事を読んで、私は首をかしげてしまいました。世の中で「かかりつけ薬剤師」は「かかりつけ医師」よりももっと曖昧な存在です。そんなものに力を入れることで、果たして巨大アマゾンに対抗できるのでしょうか。そんなことを考えていたら、アマゾン報道の1週間ほど前に利用した都内の零売(れいばい)薬局のことを思い出しました。大都市圏で増える零売薬局零売薬局はコロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ、大都市圏で急増しています。「処方箋なしで病院の薬が買える」などのキャッチフレーズで、新宿、渋谷、池袋など、特に若者が多く集まる街で増えている印象です。その動きは地方にも及んでいます。東海テレビ(愛知県)は7月29日の放送で、名古屋で初めての零売薬局、「セルフケア薬局」が繁華街である地下鉄名城線栄駅・南改札すぐのところにオープンした、と報じています。「セルフケア薬局」は、東京に本拠を構える零売薬局チェーンで、東京、神奈川のほか、大阪、京都などでも店舗を展開しています。厚労省が零売を公式に認めたのは2005年そもそも零売とは、医療用医薬品を、処方箋なしに容器から取り出して顧客の必要量だけ販売することをいいます。「零」は「ゼロ」を意味する漢字ですが、「少ない」「わずか」と言う意味もあります。つまり零売とは「少数や少量に小分けして売ること」という意味なのです。厚生労働省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売が行われていました。厚労省が零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚生労働省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。なお、零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました(本通知の内容は現在、2014年3月18日付薬食発0318第4号厚生労働省医薬食品局長通知「薬局医薬品の取扱いについて」に引き継がれています)。医療用医薬品約1万5,000 種類のうち半数は処方箋なしでの零売可能2005年4月施行の改正薬事法は、処方箋医薬品の零売を防ごうとしたのも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500 種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまうさて、9月初旬に私が利用したのは、都内のとある零売薬局です。いつも通っている整形外科の診療所でいつもの鎮痛剤と湿布薬を処方してもらうつもりだったのですが、外来で2時間近く待つ時間的余裕がなく、仕方なしに山手線の某駅近くにある零売薬局を利用することにしたのです。店内に入ると女性の薬剤師がカウンターに座るよう促しました。こちらの症状や、欲しい薬剤をヒアリングし、パソコンの画面を見せながら推奨する薬剤を勧めるという流れです。私は整形外科で処方してくれている鎮痛剤のエトドラク錠200mgと、ジクロフェナクテープ30mgを希望しました。しかし、「いずれも処方箋医薬品以外の医薬品ですが、当店では扱っていません」とのことで、同種のロキソプロフェンNa錠60mgとロコアテープを勧められ、それらを購入することにしました。また、雑談(!)の中で、二日酔いの薬やビタミン剤、虫刺されの薬などの話も出たので、ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまいました。リンデロンVGは、山登りや沢登りでの虫刺されにてきめんに効く薬ですが、ステロイドの含有量が多いこともあって普通の薬局・薬店では買えません。「前は調剤薬局にいたが、今の仕事のほうが面白い」と、なんだかんだで薬剤師と20分近く会話をして、約4,000円の買い物をしてしまいました。薬局を出てから、今までかかってきた整形外科でも、その門前にある調剤薬局でも、鎮痛剤や湿布薬についてここまで詳しく説明を聞いたことがなかったことに気付きました。エトドラク錠と、ジクロフェナクテープがなかったのは、単にこの薬局が仕入れる薬剤リストに入っていないためか、あるいは薬効や副作用などから自主的に販売していなためかはわかりませんが、少なくとも代替薬を勧める薬剤師の説明は理には適っていました。症状を自分で聞いて、薬を選択するアドバイスをし、客の人となりを見て他の薬剤も勧めるには、それなりの知識とコミュニケーション力が要るでしょう。私を担当した薬剤師は最後に、「前は調剤薬局で働いていたが、今の仕事のほうが面白い」と話していました。零売薬局の不適切事例に厚労相が注意喚起の通知というのが私の零売薬局体験なのですが、調べてみるとコロナ禍で急増した零売薬局の中には、不適切事例も相次いでいるようです。厚労省は2022年8月5日、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の薬局での販売の不適切な販売事例について、都道府県などに再周知を促す通知「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)を発出、不適切な事例について指導を徹底するよう求めています1)。前述したように2005年の通知、それを引き継いだ2014年の通知で、零売は「一般用医薬品の販売等による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売等を行わざるを得ない場合」に例外的な販売が認められていますが、そうした“考慮”をすることなく販売されている事例を、「不適切」として注意喚起したわけです。私自身のケースも考えてみればそうでした。今回の通知ではまた、「同様の効能・効果を有する一般用医薬品等がある場合は、まずはそれらを販売すること」、「在庫がない場合は他店舗の紹介などによる対応を優先すること」され、さらに販売に当たっての遵守事項として「反復継続的に医薬品を漫然と販売等することは、医薬品を不必要に使用する恐れがあり不適切」とも改めて明示されました。さらに、広告やホームページなどで次のような表現を用いて処方箋医薬品以外の医療用医薬品の購入を消費者等に促すことは不適切ともされました。「処方箋がなくても買える」「病院や診療所に行かなくても買える」 「忙しくて時間がないため病院に行けない人へ」 「時間の節約になる」 「医療用医薬品をいつでも購入できる」 「病院にかかるより値段が安くて済む」…。コモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれるこの通知は増える零売薬局への強烈な牽制と考えられます。実は厚労省は同様の指摘を2021年に一般社団法人日本零売薬局協会に対して行っており、同協会は12月、「厚生労働省からのご指摘について」という文書を会員に対して配布、広告表現等について注意するよう促しています2)。私自身は、ここまで零売に足かせをはめる必要はないと思います。医療保険が使えず、現状極めてアナログなシステムと言えますが、少なくともコモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれます。患者は勝手知ったる薬を手早く入手できますし、国の医療費削減にも寄与します。一方、薬剤師も医師の処方にただ従って調剤するのではなく、自らの判断で薬剤を選ばなければならないので、説明も責任をもって行うようになるかもしれません。プリントされた薬剤情報提供書を機械的に渡すだけの調剤薬局の薬剤師とは異なる職能も求められ、仕事としての面白味も増しそうです。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”DXの最先端であるアマゾンとアナログの極みとも言える零売薬局。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”に対するアンチテーゼという意味でも共通点があります。その“欠点”とは服薬指導です。処方薬の場合、現状、すべてのケースで服薬指導を行わないと、処方薬を患者に渡すことはできません。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスをはしょることができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズなものになるはずです。患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くことになるからです。一方、リアルでアナログな薬局である零売薬局ですが、そこで行われている服薬指導のほうが薬剤師は熱心だし、責任をもってやっている、というのも皮肉な話です。OTC販売では構築できなかった新しい「患者-薬剤師関係」が生まれる可能性もあります。何より、零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は「規制」よりも「推進」があるべき形だと考えられます。10月にも岸田 文雄首相を本部長とする「医療DX推進本部」がいよいよ発足します。現状の仕組みをすべてシステムの中に落とし込もうとするのではなく、服薬指導や医療機関受診といった現在のプロセスの中のはしょれる部分を大胆にはしょった上で、新たにシステムを組み直すほうが真のDXになると思いますが、皆さんいかがでしょう。ドラゴンクエストの世界のような、エリザベス女王の国葬をテレビ中継で観ながら、そんなことを考えていた雨の週末でした。参考1)処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について/厚生労働省2)厚生労働省からのご指摘について/一般社団法人日本零売薬局協会

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英語で「問題ありません」は?【1分★医療英語】第46回

第46回 英語で「問題ありません」は?How was the test result?(検査の結果はどうでしたか?)Your diabetes is under control.(あなたの糖尿病は問題ありません)《例文1》Don’t worry. Everything is under control.(心配ありません、すべて順調です)《例文2》His drinking problem is not under control.(彼の飲酒癖は手に負えない状態です)《解説》“under control”の直訳は「支配下にある、コントロール下に置かれている」となりますが、「適切に管理されている」ということから派生して、日常会話では「うまくいっている、問題ない」という意味で使われます。医療現場では、糖尿病や脂質異常症などの慢性疾患が順調に管理されていることを“under control”と表すことができます。また、“get”を使うことで“I would like to get you diabetes under control.”(あなたの糖尿病をコントロールしたいのです)といった表現もできます。“under”は「下に」を表す前置詞ですが、“under construction”(建設中)、“under repair”(修理中)といったように、「~している最中である」という意味合いでも使われることも覚えておきましょう。講師紹介

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JAK阻害薬とSteroid併用の重要性(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 今回取り上げた論文は、英国のRECOVERY試験の一環としてJanus kinase(JAK)阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)のコロナ感染症における死亡を中心とした重症化阻止効果を検証した多施設ランダム化非盲検対照試験(Multicenter, randomized, controlled, open-label, platform trial)の結果を報告している。本論評では、非盲検化試験(Open label)の利点・欠点を考慮しながら、重症コロナ感染症治療におけるJAK阻害薬とSteroid併用の意義について考察する。非盲検化試験の意義―利点と欠点 ランダム化非盲検対照試験では、試験の標的薬物の内容を被験者ならびに検者(医療側)が認知している状態でランダム化される。従来の臨床治験では非盲検法はバイアスの原因となり質的に問題があるものとして高い評価を受けてこなかった。しかしながら、コロナ感染症が発生したこの数年間では、その時点で効果を見込める基礎治療を標準治療として導入しながら標的の薬物/治療を加えた群(治験群)と加えなかった群(対照群)にランダムに振り分け、標的薬物/治療の有効性を判定する非盲検化試験が施行されるようになった。 非盲検化試験では:(1)基礎的標準治療を導入しながら経過を観察するため安全な形で治験遂行が可能、(2)二重盲検化試験に比べ最終結果が出るまでの時間が短縮、(3)同一症例を別の薬物/治療に関する治験に簡単に組み入れ可能であり複数個の臨床治験をほぼ同時並行的に施行可能、(4)症例の選択が比較的容易で各臨床試験にエントリーされる人数が多くなるという利点を有する。しかしながら、非盲検化試験では:(1)被験者側、医療側の両者に発生するバイアスを完全には取り除けない、(2)標準治療に治験標的の薬物/治療と相互作用を有するものが含まれる可能性があり、標的の薬物/治療の純粋な効果を把握できない場合があることを念頭に置く必要がある。 RECOVERY試験では非盲検化試験の利点を生かし、現在までに10個の治験結果が報告されている。それらの中には、低用量Steroid(デキサメタゾン)、IL-6受容体拮抗薬、回復期血漿、本論評で取り上げたJAK阻害薬などに関する報告が含まれ、コロナ感染症に対する多角的治療法について重要な知見を提供してきた。しかしながら、これらの報告では非盲検化試験に必須の欠点を有することを念頭に置きながら結果を解釈する必要がある。RECOVRY試験の結果からみたJAK阻害薬の効果 JAK阻害薬に関する臨床治験にあってRECOVRY試験は過去最大規模のものであり(8,156例)、入院治療が必要であった中等症以上のコロナ感染症患者におけるJAK阻害薬(バリシチニブ、4mg/日、10日間経口投与)の効果を、28日以内の死亡率をPrimary outcomeとして検証したものである。 本治験にあって注意すべき点は:(1)治験はオミクロン株感染者を対象としたものではない(2021年2月2日~12月29日に施行)、(2)標準治療としてSteroidがJAK群の96%、対照群の95%に、IL-6受容体拮抗薬が両群で31%、抗ウイルス薬レムデシビルがJAK群の21%、対照群の20%に投与されていた事実である。Steroidがほぼ全例に投与されているので、本治験の結果は厳密には、Steroid同時投与下でのJAK阻害薬の効果を検証したものと考えなければならない。全症例解析では、28日間の死亡率がJAK群で13%低下、非機械呼吸管理症例の機械呼吸管理への移行率も11%低下した。しかしながら、少数例の解析ではあるが、Steroid非投与者(約400例)のみの解析ではJAK群と対照群で死亡率に有意差を認めなかった。レムデシビル、IL-6受容体拮抗薬の同時投与の死亡率への影響は解析されていない。Steroidが89%の対象に同時投与された状況下で他のJAK阻害薬であるトファシチニブの効果を観察したSTOP-COVID Trialでも同様の結果が報告されている(Guimaraes PO, et al. N Engl J Med. 2021;385:406-415.)。 一方、Steroidの同時投与を禁止しレムデシビル投与下でJAK阻害薬の効果を検証したACTT-2試験では、対照群に比べレムデシビルとJAK阻害薬の同時投与群で回復までの時間が有意に短縮されたものの死亡率には有意差を認めなかった(Kalil AC, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807.)。レムデシビル投与下でデキサメタゾンとJAK阻害薬の効果を比較したACTT-4試験では機械呼吸管理なしの生存率に両薬物群間で有意差を認めなかった(Wolfe CR, et al. Lancet Respir Med. 2022;10:888-899.)。 以上より、JAK阻害薬の死亡を含む重症化阻止効果はSteroidの同時投与下で発現するものと考えなければならない。米国、本邦におけるJAK阻害薬の使用はACTT-2試験の結果を基に回復までの時間を短縮するレムデシビルの同時投与下において承認されている。この投与指針はコロナ感染後の回復までの時間を短縮するという観点からは正しい。しかしながら、重症化したコロナ感染者の死亡を抑制するという、さらに重要な観点からは問題がある。現在までの治験結果を総括すると、JAK阻害薬に関してはレムデシビル(抗ウイルス薬)との併用以上にデキサメタゾン(免疫抑制薬)との併用がコロナ重症例に対する治療法としてより重要な位置を占めるものと考えるべきであろう。JAK阻害薬に対するSteroid併用の分子生物学的意義 ウイルス感染をトリガーとするCytokine storm(過剰免疫反応)の発生は肺を中心とする全身臓器/組織の過剰炎症を惹起し、コロナ感染患者の生命予後を悪化させる。多様な炎症性Cytokine産生の分子生物学的機序は複雑であるが、最も重要な機序は免疫細胞、非免疫細胞における炎症性転写因子NF-κBとSTAT3(Signal transducers and activators of transcription)の持続的活性化である。JAK阻害薬は4つのtransmembrane protein kinase(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)の抑制を介して転写因子STAT3を抑制する。その結果として、数多くのCytokine産生が抑制される。同時に、STAT3の抑制はそれと相互作用(Cross talk)を有するNF-κBの活性を抑制し、Cytokineの産生はさらに抑制される。その意味で、NF-κBに対する抑制能力が高いSteroidの同時投与はJAK阻害薬のCytokine産生抑制効果をさらに増強することになる。 JAK阻害薬と同様に、Steroid併用の重要性が議論された免疫抑制薬にIL-6受容体拮抗薬(トシリズマブ、商品名:アクテムラ)がある。IL-6受容体拮抗薬はJAK阻害薬と異なる作用点を介してSTAT3、NF-κB経路を抑制する(山口. CLEAR!ジャーナル四天王-1383)。すなわち、JAK阻害薬、IL-6受容体拮抗薬は作用点が異なるものの本質的機序は同じで最終的にSTAT3とNF-κB経路の抑制を介して抗炎症作用を発現する。それにもかかわらず、現時点の投与基準では、IL-6受容体拮抗薬がSteroidの同時投与下で承認されているのに対し、JAK阻害薬はレムデシビルとの同時投与下で承認されておりSteroid併用の重要性が強調されていない。両薬物の治験結果が出そろいつつある現在、JAK阻害薬の投与基準もSteroidの併用を強調したものに変更していくべきではないだろうか?

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