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英語で「検査を行います」は?【1分★医療英語】第58回

第58回 英語で「検査を行います」は?So, what is the next step?(それで、次はどうしたらよいでしょうか?)We would like to run some tests to confirm the diagnosis.(診断を確定するために、いくつかの検査を行いたいと思います)《例文1》I need to run a test to rule out a heart attack.(心臓発作を除外するために検査が必要です)《例文2》I’m going to run a blood test to check your diabetes.(糖尿病を調べるために血液検査をします)《解説》“run”という動詞は「走る」以外にも、「(会社などを)経営する」、「(機械などを)動かす」といったさまざまな意味があります。“Run a test”で「検査を行う」という意味になり、検査について英語で説明する時によく使うフレーズです。また、“run”に関連したフレーズとしては、“I have a runny nose.”(鼻水が出ています)や、“I’m running late.”(少し遅れます)といった表現も、日常会話によく出てきます。講師紹介

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心不全患者の緩和ケアの特徴は?【非専門医のための緩和ケアTips】第41回

第41回 心不全患者の緩和ケアの特徴は?非がん疾患の緩和ケアが注目されるようになり、いち早く保険収載された心不全患者の緩和ケア。がん患者に対する緩和ケアの経験をもとに、心不全の緩和ケアにもぜひ取り組んでいただきたいのですが、そこには疾患特性を意識した工夫も必要になります。今回は心不全の緩和ケアに関する特徴について考えていきます。今日の質問訪問診療をしていると、がんよりもむしろ、非がん疾患の患者さんの終末期に対応する機会が多くあります。中でも終末期心不全患者が今後増えていくと聞きました。心不全患者の緩和ケアについて、注意すべき点は何でしょうか?今回の質問にあるように、在宅医療の緩和ケアでは非がん疾患への対応が非常に多くなります。繰り返す誤嚥性肺炎や進行した認知症、神経難病などさまざまな疾患がある中でも、近年は心不全の緩和ケアが注目されています。「心不全パンデミック」って聞いたことがあるでしょうか? これは高齢化に伴い、心不全患者が非常に多くなることを意味しています(かつては私も講演などでよく使っていた用語ですが、新型コロナウイルスのパンデミックと誤解されそうなため最近はあまり使っていません)。高齢化に直面する地域の多くで心不全患者の増加が予想されます。都市部や地方などそれぞれの状況によっても変わりますが、ご自身の地域の医療計画などを参考に、心構えをしましょう。さて、心不全の緩和ケアにおいて意識するべきことは何でしょうか? 私が最も特徴的だと感じるのは、「増悪寛解を繰り返し、可逆性の判断が難しい」という点です。つまり、「治療の効果がどの程度見込まれるか、事前に判断しにくい」のです。心不全患者はしばしば急性増悪が生じますが、そうしたタイミングでは呼吸困難を中心とした症状も強く、静脈薬の投与も要するために入院が必要になります。軽症であれば在宅での治療もある程度まで可能ですが、血行動態に作用する薬剤を使ったり経過が時間単位で推移したりするため、入院を勧めることが多いでしょう。ここがポイントです。心不全患者の終末期は、在宅医療といった特定の療養の場で完結せず、地域の入院医療機関との連携が重要になるのです。皆さん、急性期病院で急性心不全患者の入院を担当する部門と連携体制をつくっているでしょうか?こうした連携では「顔の見える関係」の重要性が言われます。在宅医療だけでは完結しない特性を持つ慢性疾患、とくに増悪時には急性期医療機関でないと対応しにくいのが心不全の終末期であり、心不全の緩和ケアは地域レベルでの連携構築が大切な分野です。そこを意識した行動をぜひ考えてみてください。具体的にお勧めしたいのが、患者さんを紹介する際などに電話で直接やり取りすることです。新型コロナウイルスの流行前であれば、地域連携を意識した勉強会などもよく開催されていましたが、今は少し自発的な行動が必要でしょう。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips心不全の緩和ケアでは、増悪寛解を繰り返す疾患特性があり、急性期病院との連携が必要となることを知りましょう。

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ドイツで医療活動を行うためにまずはドイツ語から【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第20回

医療活動がどうこう言う前に、ドイツで就労ビザを手に入れるためにはドイツ語の試験に合格する必要があります。英語だとTOEIC、TOEFL、IELTSなど沢山の試験がありますが、ドイツ語の試験は語学学校である“Goethe Institute”(ゲーテ・インスティトゥートと読みます)が主催する試験が公のドイツ語の資格として用いられています。これは以前第16回でも触れました。ドイツ語のレベルはどうはかるドイツ語だけでなく、ヨーロッパの言語はヨーロッパ言語共通参考枠(CEFR)という基準でレベル付けされています。それぞれの言語が「A1・A2・B1・B2・C1・C2」とレベル分けされます。そして、ドイツではEU外から来た人が就労ビザを得るためにはドイツ語のB2レベルの試験に受かる必要があります(EU内からの移民の場合はB1で良いそうです)。医療活動を行うための資格を取る前提として、まずはこのB2の取得が必要となります。このゲーテのテストは日本だと東京・大阪で受けることができます。試験の内容は“Lesen、Schreiben、Hoeren、Sprechen”で構成されています。それぞれ「読む、書く、聴く、話す」という意味です。この試験に合格するには大体1〜2年ほどドイツ語を勉強する必要があると言われています。しかしですね…あくまで試験である以上、対策はちゃんと練れます。過去問とか模擬試験を片っ端から解いて、頑張って対策を練って合格を掴み取ったときの合格証書が写真です。「Schreiben(書く)」試験は結構きつい合格ラインは60%なんでギリッギリですが、まあ受かれば良しです。この「Schreiben(書く)」という項目ですが、普通にドイツ語をペラペラ話す語学学校時代のクラスメートですら「Schreibenだけどうにもならん」って言う曲者の単元です。試験内容は提示された新聞記事に対して賛成なり反対なりの意見を180単語で書くものですが、分量が多くて結構大変です。そこで試験前に「どんな内容を問われても『それっぽい言い回し』で賛成を伝える文章」を作りました。単語をすり替えるだけで120単語くらいの文章ができちゃうようなやつを。あとはちょこちょこ肉付けすれば180単語埋まる訳です。試験全体を通して、問題の形式はしっかり決まっているので、上記のような対策が練れるテストになっています。他の単元に関しても、あれこれ対策を練って挑みました。最近はネットを使えば模擬試験も購入できるようになりましたので、独学でもどんどん勉強できるようになっています。

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英語で「それでいいですか?」は?【1分★医療英語】第57回

第57回 英語で「それでいいですか?」は?I’d like to meet you in 2 weeks’ time.Would that be OK with you?(2週間後に再診します。それでいいですか?)Sure, thanks!(もちろんです。ありがとうございます!)《例文1》Would that be OK with you if I take the blood sample again?(再度、採血を行うことになってもよいですか?)《例文2》Are you comfortable for me to start the procedure?(検査を始めても大丈夫ですか?)《解説》許可を得る際の質問方法はいろいろな表現がありますが、もっとも簡単な聞き方は“OK”を使って、“Are you OK with〜?”または“Is that OK with you?”と聞く方法です。また、「上手くいく」という意味の“work”を使って、“Does that work for you?”と聞くこともできます。もう少し丁寧に聞く場合には、“Are you comfortable with〜?”(〜で大丈夫ですか?)、“May I do〜?”(〜してもよいですか?)などの表現があります。そのほか、“Do you mind if I do〜?”という言い方もよく使われます。直訳すると、「私が〜をしたら嫌ですか?」という意味になり、“No”という返事が来た場合には「嫌ではないです(OKです)」という意味になることに注意しましょう。講師紹介

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第141回 退院COVID-19患者に抗凝固薬アピキサバン無効

抗凝固薬は重度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の回復を助けると広く考えられてきましたが、英国での無作為化試験結果によるとどうやらそうとはいえず、むしろ有害かもしれません。英国全域で実施されている無作為化試験HEAL-COVIDの結果、退院COVID-19患者に経口の抗凝固薬・アピキサバン(apixaban)を投与しても死亡や再入院のリスクは残念ながら低下しませんでした1)。COVID-19患者のその病気との戦いは退院して一件落着というわけにはいかず、心臓、肺、循環器がしばしば絡む症状の新たな発生や悪化、俗に言うlong COVIDをおよそ5人に1人が退院後に被ります。命を落とす人も少なくなく、退院したCOVID-19患者の10人に1人を超える12%は半年以内に死亡しています2)。HEAL-COVID試験はCOVID-19患者のそういった長引く症状や死亡を予防するか減らしうる治療に目星をつけ、それらの治療がCOVID-19患者の長期の経過を改善しうるかどうかを調べることを目当てに実施されています。被験者はCOVID-19で入院した患者から募り、自宅へと退院する少し前にアピキサバン投与群か病院それぞれのいつもの退院後治療群(標準治療群)にそれら患者を割り振りました。アピキサバン投与群の患者は同剤を1日2回2週間経口服用しました3)。1年間の追跡の結果、アピキサバン投与群と標準治療群の死亡か再入院の発生率はほとんど同じでそれぞれ29.1%と30.8%であり、アピキサバンの死亡や再入院の予防効果は残念ながら認められませんでした。アピキサバンは抗凝固薬なだけにHEAL-COVID試験でも出血と無縁ではなく、同剤投与群402人のうち数名は大出血により同剤服用を中止しています。COVID-19患者の退院後の手当として有用と広くみなされていた抗凝固薬は実際のところ死亡や再入院を減らす効果はなく、むしろ危険らしいことを示した今回の試験結果をうけてCOVID-19患者への本来不要な同剤投与がなくなることを望むと試験主導医師Mark Toshner氏は言っています。今回の結果は無益な治療で患者に害が及ぶのを断ち切る重要な役割を担うことに加え、COVID-19患者の長い目でみた回復、すなわちlong COVIDの解消を助ける治療を引き続き探していかねばならないことも意味します1)。HEAL-COVID試験でもその取り組みは続いており、コレステロール低下薬アトルバスタチン(atorvastatin)1年間投与の検討が進行中です。同剤は抗炎症作用があり、COVID-19患者にみられる炎症反応を緩和しうると目されています4)。long COVIDは本連載第140回で紹介したとおり英国では230万人、米国ではその10倍の2,300万人に達すると推定されており、その影響は医療に限らず雇用、障害年金、生命保険、家のローン、老後の備え、家計に波及します5)。それらをひっくるめてlong COVID が米国に強いる負担は4兆ドル近い(3.7兆ドル)とハーバード大学の経済学者David Cutler氏は予想しており6)、その額は実にサブプライムローン絡みの2000年代後半の大不況(Great Recession)の負担に匹敵します。目下のところCOVID-19といえば感染してすぐの時期に目が行きがちですが、感染がひとまずおさまった後の長患いの最適な治療をいまや急いで確立する必要があります1)。参考1)Blood thinning drug does not help patients recover from Covid / Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust2)About HEAL-COVID3)HEAL-COVID試験(Clinical Trials.gov)4)Blood Thinner Ineffective for COVID-19 Patients: Study / TheScientist5)Long Covid may be ‘the next public health disaster’ - with a $3.7 trillion economic impact rivaling the Great Recession / CNBC6)Cutler DM.The Economic Cost of Long COVID: An Update

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英語で「その方針に賛成です」は?【1分★医療英語】第56回

第56回 英語で「その方針に賛成です」は?I will review the CT images today and let you know the treatment plan.(CT画像を確認してから、治療方針をお伝えしますね)Okay. That sounds like a plan.(わかりました。その方針に賛成です)《例文1》医師How about staying one more night and going home tomorrow?(もう一晩泊まって明日退院はどうでしょう?)患者That sounds like a plan!(いいですね!)《例文2》医師Let me check your incisions when you get here.(来院したときに、傷のチェックをしましょう)患者That sounds like a plan.(わかりました)《解説》この表現は、医療現場では主に患者さんが使うことが多いです。治療方針であったり、今後の流れを説明したりした際、患者さんが同意した場合に“That sounds like a plan”という答えが返ってきます。直訳すると「良い計画のように聞こえる」なのですが、ニュアンス的にはカジュアルな「その方針に賛成です」という意味になります。医療現場に限らず、友人と旅行の計画を立てているときなどにもまとめとして“That sounds like a plan!”といったように使うことができます。非常に便利な表現なので、ぜひ覚えて実際に使ってみてください。講師紹介

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脳のエイジングはブラックボックス、画像で認知症予防を実現『MVision』

 脳画像のAI分析によるデータ解析ソフトの開発や医療機関向けの導入・運用サービス提供を行う株式会社エム(以下、エム社)は、第4回ヘルスケアベンチャー大賞において、「脳MRI画像解析に基づく全脳の構造別体積・健康状態の可視化、認知症予防」と題し、それらを実現できる技術を紹介して、見事に大賞を受賞した。本大賞は今年、5つの企業・団体と個人1名が最終審査会まで勝ち抜き、接戦を繰り広げた。 今回、エム社の創業者である森 進氏(ジョンズ・ホプキンズ大学医学部放射線科教授)に、開発経緯から技術提供の将来展望について話を聞いた。画像解析から認知症医療をアップデート 2025年、日本は超高齢化社会を迎える。これは軽度認知障害(MCI)の発症者が約5人に1人(約700万人)と過去最大にまで増加することを意味し、国も認知症対策として新オレンジプランを掲げている。また、先日にはエーザイ・バイオジェンがMCIとアルツハイマー病を対象とした第III相CLARITY AD検証試験で主要評価項目を達成するなど、症状抑制に対する動きは活発である。 しかし、海外で研究活動を行っている森氏は、認知症が生活習慣病の一種として認識が変わりつつあるにもかかわらず、高血圧症や肥満症のように予防対策が講じられておらず、認知症の予防は疎漏である点、日本だけが実施している脳ドックの画像データ、いわば健常者のデータが検査後にお蔵入りして画像価値を最大限に利活用できていない点から着想を得て、認知症の一次予防のために「脳の健康状態を可視化」させることに注目した。これについて同氏は「脳の萎縮状況というのは健康診断でも観察されず、医療において可視化されてこなかった」と述べ、「予防のための管理指標を存在させるべき」と認知症の一次予防がアンメット・メディカル・ニーズであることを強調した。 そこで、同氏らが開発したのが脳画像の自動解析技術である『MVision』だ。彼らは“日本のみに存在する健常者の巨大データ”を活用し、米国・ジョンズ・ホプキンズ大学の脳画像の自動解析技術を用いて、全脳をAI解析する世界初の認知症関連ソフトウェアの開発に成功した。このソフトウェアにより、画像分析を自動化させ、脳全体の構造物を505にセグメントすることで脳の体積や形状を数値化する。また、数値による客観評価により同年代との比較や経年評価できるため、患者の予防に対するやる気に繋がるという。現在、日本の5施設10万件以上の脳ドックから得られた健常者画像データを解析中で、年齢別の平均と分布から脳萎縮リスクの算出が可能だ。実際に若年層のデータを見ると、すでに萎縮が進行していた症例も見られたという。 また、同氏は今回の取材に対し、「認知症の解明には長期で良質のデータが必要。そして、それをいかに早く集め始めるかが大切。これらがスタートアップとして急速に事業を立ち上げた理由かもしれない」と開発および創業の経緯を吐露。導入した際に直面した問題点として、「実際の医療現場では、“脳の萎縮では認知症は診断できない”ことから、萎縮を見てもしょうがない、となってしまう。萎縮があれば認知症になるという個人レベルのエビデンスがないという意見は正しいが、これは目の前の患者に対し診断や治療を考えるときの概念」と、医療の壁を指摘した。その一方で、「萎縮は認知症患者に統計学的に非常に強く見られる特徴なのは確固たる事実であり、萎縮の強い人は認知症患者に多く見られるというのも統計学的事実である」とし「40~70歳の健康診断は、未病段階でのリスク検出と早期生活改善が主要な目的である。その観点から、自分の脳の萎縮を知るということは認知症の大切なリスクマネジメントと考える」と説明した。体重計で体重管理をするように、脳の管理を 将来のリスクの話より現在の病気が優先される時代がゆえに、せっかく脳MRIを撮っても既病の早期検出といった二次予防にしか使われていないことになる。「だが、健康管理のために体重計に乗り、体重を測っている。これと同じように考えたら、30代までに自分の“基礎値”を知り、脳の経時変化を追うこと、脳の健康管理をしないのは不条理なのではないだろうか。われわれが開発した『MVision』は1回だけ撮影するだけでも意味はあるが、脳萎縮は3年でも大きく変化が見られることから継続することで真価を発揮する。若いうちのベストの状態をログに残せるのは今のうちだけなので、若年層こそ一度は受けて欲しい」と強調した。そんな背景もあり、企業や病院施設だけではなく、若年層へのアプローチも大切にしていきたいと話した。その一方で、65歳を超える層にとっても、認知症発症の3~5年前から萎縮が急速に進む傾向が多くの研究で報告されていることから、1~2年に一度の測定を推奨している。 今後の展望として、主に医療機関に本システムを提供し、健診受診者のオプションを想定している。この一次予防のための撮影は通常の脳ドックに組み込まれているものを使用するため、受診者にも医療者にも負担が少ない。検査実績の目標受診者数は「23年5月までに月間3,000~4,000人、年間4万~5万人」を目指し、全国への普及のために「1~2年でまずは首都圏から地方中核都市を中心に全国で受診できる基盤づくりを達成したい」と同氏は意気込みを語った。

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Pharmacoequity―SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬は公正に処方されているか?-(解説:住谷哲氏)

 筆者は本論文で初めてpharmacoequityという用語を知った。「処方の公正性」とでも訳せばよいのだろうか。平等equalityと公正equityとの違いもなかなか難しいが、この用語の生みの親であるDr. Utibe R. Essienは、Ensuring that all individuals, regardless of race, ethnicity, socioeconomic status, or availability of resources, have access to the highest quality medications required to manage their health is “pharmacoequity”. と述べている1)。その意味するところを簡単に言えば、エビデンスに基づいた治療薬を必要とするすべての患者に公正に処方することを担保するのがpharmacoequityである、となる。 Essienが最初に報告したのは、心房細動患者に対するDOACをはじめとする抗凝固薬の処方率が人種race/民族ethnicityで異なり、白人に比較してアジア人と黒人で有意に低かった、とするものである2)。この研究も本論文と同じく対象患者は退役軍人保健局(Veterans Health Administration)の加入者であり、これが両論文のポイントであるが、すべての加入者に薬剤が無料または低価格で提供されるため、薬価によるバイアスがほとんどない。本論文は同様のアプローチで、心房細動患者に対する抗凝固薬の代わりに、2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率を検討した研究である。その結果は、抗凝固薬の場合と同様に、SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率は白人に比較して黒人で有意に低率であった。 人種/民族が、なぜ抗凝固薬またはSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率と関連していたのかは、両研究では明らかになっていない。しかし心房細動患者に対する抗凝固薬の処方だけではなく、本論文によって2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方にも人種/民族が影響していることが明らかとなった。したがって、他のエビデンスに基づいた治療薬の処方においても同様の状況にある可能性は十分にある。EBMの実践が人種/民族によって影響される状況は公正とは言えないだろう。多民族国家ではないわが国ではこのあたりの状況に敏感ではないが、医療における公正性equity in medicine をいま一度よく考える契機となる報告である。

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William Osler先生とJ-OSLER、内科専門研修を考えてみた【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第54回

第54回 William Osler先生とJ-OSLER、内科専門研修を考えてみたオスラー先生の格言ウイリアム・オスラー(William Osler)の名前を耳にしたことはあると思います。カナダ生まれの医学者・内科医・教育者です(1849~1919)。ペンシルベニア大学、ジョンズ・ホプキンス大学、オックスフォード大学などで教授を務め、カナダ、米国、英国の医学の発展に多大な貢献をしました。遺伝性出血性末梢血管拡張症であるオスラー病や、感染性心内膜炎でみられる指趾掌蹠の有痛性結節であるオスラー結節などに名前を残しているように研究者としても一流でした。何よりも医学教育に情熱をそそぎ、彼の思想は今も医療の現場で受け継がれています。日本の名医・日野原 重明も感銘を受け、「医学の中にヒューマニズムを取り戻し、人間を全人的に診る」というオスラー先生の姿勢を世に広めるため「日本オスラー協会」を発足させています。『The Principles and Practice of Medicine』(医学の原理と実際)など名著だけでなく、100年後の今も受け継がれる数々の格言も有名です。Listen to your patient, he is telling you the diagnosis.患者の言葉に耳を傾けよ、患者はあなたに診断を告げている。これは、オスラー先生の言葉のなかでも小生が最も感銘を受けた一文です。循環器内科医として狭心症・心筋梗塞を診断するにあたり、心電図や採血でのトロポニン上昇も大切ですが、なによりも病歴聴取が一番重要と日々感じているからです。今日の医学教育の父として世界にその名を馳せたオスラー先生ですが、日本中の大学病院や研修指定病院で毎日のように彼の名前が叫ばれていることをご存じでしょうか。それは、ウイリアム・オスラーではなくジェイ・オスラー(J-OSLER)です。J-OSLERをめぐる専攻医と指導医のリアルJ-OSLERについて説明しましょう。2013年に厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」から、専門医制度改革が必要であると報告されました。日本専門医機構が中心となり、各領域の専門医制度は再整備されることとなりました。日本内科学会でも「新・内科専門医制度」を整備することとなり、具現化するために導入されたシステムがJ-OSLERです。正式には以下の文言による造語です。「Online system for Standardized Log of Evaluation and Registration of specialty training System」を直訳すれば「専門研修の標準化を図るためオンラインで研修実績の登録と評価ができるシステム」で、この頭文字がOSLERです。そこに日本を意味するJが冠されてJ-OSLERとなっています。高名なオスラー先生を意識した素晴らしいネーミングです。このJ-OSLERをめぐる現場での苦労を紹介させていただきます。J-OSLERを実際に使用するのは、初期研修を修了して内科専門研修プログラムを選択した卒後3年次から5年次の医師が中心です。彼らを専攻医と呼称します。新内科専門医制度において研修履歴や実績を登録し審査を受ける仕組みが導入されました。具体的には専攻医はJ-OSLERを用いて症例登録と病歴要約が義務付けられています。症例登録は、一言でいうと症例の概要と省察を含むサマリーで56分野から160症例以上を登録します。指導医の評価を受け、修正に応じて承認を得る必要があります。これは、1例を入力するのに数十分ほど要します。症例登録した中から29症例について病歴要約を作成します。これは症例の詳細なサマリーで、学会発表での症例報告のような丁寧さと緻密さが要求され、A4判2ページほどの分量となります。病歴要約は、まず指導医と研修プログラム統括責任者が1次評価を行います。さらに専攻医の所属外の施設の査読委員が2次評価を行います。1次・2次評価ともに29症例ごとに、Accept(受理)、Revision(要修正)、Reject(要差し替え)の3段階で評価されます。全症例がAccept(受理)となるまで修正を繰り返します。1例の入力には短くても半日ほどの作業への集中が必要となります。症例登録は全分野をカバーしての量の面で、病歴要約は緻密な記載を求められる質の面で、それぞれ大変な作業となります。えらいこっちゃ!?事務作業に注力する余りベッドサイド診療が…新専門医制度にあわせて導入されたJ-OSLERの評判は、専攻医と指導医の双方から必ずしもいいわけではありません。たしかに、質の高い内科専門医を育成することは、社会がより高い水準で医療の恩恵を受けるために重要なことです。J-OSLERによる症例登録と病歴要約は、専攻医が個々の症例の理解を深め、さらには研修制度の標準化にも寄与することに異論はありません。一方で、J-OSLERの登録と評価における専攻医の負担も軽視できないレベルと感じます。専攻医は日常臨床業務だけでも大変です。この専門研修期間中に複数の施設での勤務が求められるために、勤務先の入職・退職と住居の転入・転出を繰り返して行うこととなり、手続きだけも多くの時間を要します。女性医師においては出産や育児などのライフイベントとも重複する時期となります。昨今、働き方改革が声高に論じられる中、専攻医だけでなく指導医にとっても、システム入力が困難と感じる場面があることは事実です。オスラー先生の格言を紹介します。Fifteen minutes at the bedside is better than three hours at the desk.3時間机で勉強するよりもベッドサイドの15分が勝る。J-OSLERの症例登録・病歴要約により机でレポートを書く時間が増えたことは皮肉といえます。机上の事務作業に注力する余りベッドサイド診療が疎かになりかねない現状はJ-OSLER本来の意義からも望ましいことでは無いように思います。高邁な理念のもとに導入されたJ-OSLERを揶揄するつもりはありません。しかしウィリアム・オスラーは「えらい」先生なのですが、ジェイ・オスラーは「えらいこっちゃ」というのが本音です。新専門医制度による研修が開始され数年しか経過していません。課題もこれから明らかになってくるのでしょう。よりよい新専門医制度となるよう制度が洗練されていくことを期待しております。今回は、日本内科学会に直訴状を提出する気構えで気合をいれて書かせていただきました。

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SOAPの未来【知って得する!?医療略語】第24回

第24回 SOAPの未来最近、SOAPの入力に変化が出てきたと聞きました!そうなんです。SOAPデータを活用する研究が盛んになっています。2017年の話です。病院の外来勤務を終えて、院内の図書室で気になった医学雑誌をコピーして電車に乗り込みました。そこには電子カルテのSOAPに関する記事が載っており、「データの構造化」や「自然言語処理」といったSOAPをAI技術で処理することなどが書かれていました。SOAPとは皆さんがご存じの通り「S(subjective):主観的情報」「O(objective):客観的情報」「A(assessment):評価」「P(plan):計画(治療)」、それぞれの頭文字を取ったもので、カルテ記録の記入方法の一つです。その記事によれば、このSOAP記事の内容をプログラム処理できれば、退院サマリーが半自動で作成されたり、患者や家族への病状説明書、各種書類作成が可能となったり、医師の業務が大幅に削減されることが記載されていました。ITの素人である筆者でしたが、カルテのSOAPデータの自然言語処理が出来たら、その先にいろいろな可能性があることを感じたのを今でも覚えています。ただ、その雑誌記事の中で今後の課題として、カルテが標準化されたフォーム、いわゆる構造化された記載である必要性や、書かれた略語や英語表記の統一化のほか、表記の揺れの適正化などが挙げられていました。医療略語の未来その記事を読んだのをきっかけに、目的ははっきりしていませんでしたが、なんとなくカルテで使用される略語を手帳に書き留めるようになりました。そしてエクセルに記録するようになりました。しかし、略語を手帳に記載しただけでは、エクセル入力の際に何の意味の略語か分かりませんでした。どの診療科で使用され、どの文脈でその略語が使用されたかまでのメモを取らないと、その略語の日本語訳や基になった英語表記を調べることができないのです。また、同じ略語でも診療科が異なると、略語の日本語の意味が異なるのです。そこで、この診療科で使用される場合には、この意味を持っているというように、診療科と略語の意味の情報をタグ付けし、略語自体もカテゴリー分けして属性情報を載せるようにしました。そんな試行錯誤をしていくうちに略語数が3,000語を超えると、より網羅的に収集したい気持ちになり、各種ガイドライン、論文からも収集を開始し、少しずつデータベースは大きくなっていきました。これが医療略語アプリ『ポケットブレイン』の始まりでした。しかし、悩ましいのは略語が使用されていても、その和訳が存在しない用語を時々見かけては悩まされることもありました。さらに悩ましかったのは、ガイドラインごとに和訳が異なることもあり、どのガイドラインの和訳が正しいのか、判断に迷うことも多々ありました。また、和訳を表示する時に、くびを「頚」「頸」のどちらで記載するのが適切か、あるいはユーザーが検索するとき、どちらで検索されるだろうかなど、言語的な課題にもぶつかりました。本連載の中で、筆者は英字略語の頻用や多用を避けるように訴えてきましたが、その必要がなくなるかもしれません。それは英字略語で入力すると、日本語和訳の変換候補が表示され、適切な略語を選ぶとSOAP記事が作成されることも可能になってきたからです。これならば、入力の際に略語を使用していても、記事はしっかり日本語で表記されます。ただし、そこで重要なのは日本語の病名を統一しておくことです。いわゆる病名の標準化です。SOAPの記録をコンピュータが背後でリアルタイムに分析できる未来には、診断のリコメンド、鑑別すべき疾患の提示、実施すべき検査のリコメンドなど、より臨床に踏み込んだサポートが実現されるかもしれません。筆者は医療者の負担軽減になるシステムは、医療者に余裕を与え、患者により安全で正確な医療の提供につながると考えます。そして、医療者が必要なものは、現場で働いている医療者こそが知っています。医療者に必要なものは医療者が創るのが一番だと思います。コンピュータなどのハードの性能は、大きな進化を遂げています。今後、医療者のワークフローに馴染む形でシステムが開発されることを願います。

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第135回 もはや “ワクチンガチャ”、追加接種はBA.1かBA.4/BA.5の明示必要なし

徐々に新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の第8波の足音が忍び寄っている。現在に至ってもその感染対策の基本は、手洗い、マスク、三密回避、ワクチンであることは不変だ。しかし、新型コロナパンデミックからもう丸3年が経過しようとしている中で、いくつかの変化はある。まず、流行の主流ウイルス株がBA.4/BA.5と5世代目になり、多くの国民が2回はワクチンを接種していることもあってか、見かけ上の重症化率は低下している。一方で当初から使われてきたワクチンの効果が以前よりも低下し、新たな2価ワクチンが登場したものの、国民の側も頻回なワクチン接種にややうんざりしている。実際、首相官邸のホームページで公表されているワクチン接種実績も2価ワクチンに関しては、11月14日時点で10.4%と低調である。これについては、(1)第7波時の感染者の接種待機、(2)4回目接種からの接種待機、(3)BA.4/BA.5対応の接種待ち、という要素もあるだろうが、それにしても接種率の低さは否めない。そうした中でやや気になるのが現在のワクチン接種体制である。日本では9月12日にオミクロン株BA.1対応2価ワクチン(以下、BA.1対応ワクチン)を承認したが、米国食品医薬品局(FDA)はそれより一足早く8月31日にオミクロン株BA.4/BA.5対応2価ワクチン(以下、BA.4/BA.5対応ワクチン)の緊急使用許可を下した。そして日本では10月5日にファイザー製、10月31日にモデルナ製のBA.4/BA.5対応ワクチンをそれぞれ承認した。前者については私が見る限り、すでにほとんどの自治体に行き渡っていると見られ、後者については厚生労働省(以下、厚労省)の発表によると11月28日から各自治体への配送が始まるという。さてここで問題。2杯のラーメンがあり、うち一杯はチャーシューが3枚、もう一杯はチャーシューが5枚、ただし料金は同一。あなたはどちらを選びますか? チャーシューの好き嫌いやカロリーを気にする人を除けば、多くは5枚のほうを選ぶのではないだろうか?なぜこのような話をしたのかというと、現在、市中に流通しているファイザー製2価ワクチンはBA.1対応ワクチンとBA.4/BA.5対応ワクチンが混在している。そして現在の流行の主流はBA.4/BA.5である。最低限の知識があり、新型コロナワクチンの接種を希望する人がどちらを選びたがるかは自明ではないだろうか?もちろんBA.1対応ワクチンでもBA.4/BA.5に一定の効果はあるのは確かだ。しかし、限定的とはいえ、公表されているデータを見れば、ファイザー製ワクチンのBA.4/BA.5に対する中和抗体価は、明らかにBA.4/BA.5対応ワクチンのほうが高い。にもかかわらず「どちらでも良いから接種してください」は国民感情の観点からは無理があり過ぎると思うのだ。百歩譲って、感染拡大が急速に進行し、供給量がBA.1対応ワクチンのほうが潤沢な一方、BA.4/BA.5対応ワクチンがかなり心もとない状況ならば、私も「どちらでも良い」とは言うだろう。しかし、現在はBA.4/BA.5主流の第8波に入り始めている中、少なくともファイザー製ワクチンに関しては、大都市圏では予約システムで問題なくBA.4/BA.5対応ワクチンが選択でき、一部の地方自治体ではBA.4/BA.5対応ワクチンに切り替えて一本化する方針を打ち出している事例もある。それでもなお「どちらでも良い」で国民の納得が得られるとは到底思えない。これに対して厚労省は何と言っているのか? 10月20日付事務連絡「オミクロン株に対応した新型コロナワクチンの接種体制確保について(その6)」から気になった以下の2点を原文のまま抜粋する。「BA.4-5対応型ワクチンの使用開始後においても、有効期限内のBA.1対応型ワクチンを廃棄してBA.4-5対応型ワクチンに切り替えるといった対応は行わず、BA.1対応型ワクチンを含め、接種可能なワクチンを使用して、速やかにオミクロン株対応ワクチン接種を進めること」「なお、予約枠の提供に際しては、使用するワクチンがBA.1対応型ワクチンであるかBA.4-5対応型ワクチンであるかを明示する必要はない」貴重な血税を投入して確保したワクチンであることを考えれば、BA.1対応ワクチンをなるべく使い切って無駄を防ぎたいのは、別に官僚でなくともわかる。こうした国の方針を忖度したのかどうかはわからないが、大阪府知事の吉村 洋文氏や千葉県知事の熊谷 俊人氏のように自身のBA.1対応ワクチンの接種を公開してアピールする御仁もいる(吉村氏のほうは記事内でBA.1対応ワクチンであることを本人が公言しているわけではないが、記事中にあるように府の接種センターがモデルナ製を使用している以上、現下ではBA.1対応であることは明白)。さらに言えば、事務連絡の後段は、さすがに言い過ぎではないだろうか? 前述のラーメン話に例えれば、目隠しした客にチャーシューが3枚になるか、5枚になるかは運次第と言っているようなもの。ラーメンなら多少の遊び心でそれも良いかもしれないが、ことは公衆衛生に関わることであり、国民にとっては自分個人の健康にかかわることである。こんなところで“無作為化”の必要はないはずだ。もっとも多くの自治体では事務連絡は事実上見て見ぬ振りをして、どのワクチンを使用するかは明示している。しかし、中には国に忖度したのか巧みな戦略を導入している自治体もある。これを知ったのは、時々本連載に登場させている(本人たちは知らない 笑)私の両親を通じてである。先日、母親からLINEが来た。敢えてそのやり取りを一部伏字にしながら抜粋する。母5回目のコロナ接種(オミクロン対応)二人共終了。私BA.5用?母BA.1モデルナ。私なんでよ。BA.5待てばよかったのに。それ在庫処分セールみたいなものだよ。事前に相談してほしかった。母お父さん(注:すでに軽度認知障害あり)を連れて行く事で頭一杯で、気が回らない!!事前に教えてくれる事(注:新たなワクチン接種などがある時は母から尋ねられなくとも自発的に私から情報提供せよという意味)を今後考えてくれると、ありがたい。私わかったよ。だから事前に相談して。効果がないわけじゃないけど、BA.5に対してはどうしてもBA.1用では効果が劣るので感染対策を入念にしてください。母いや、情報はそちらからお願いします。年寄りは××(注:現在受験生のわが娘)の事で忙しいと思ってかなり遠慮しています。私いつ打つかもわからないのに事前に情報出せないでしょ。自治体によって接種スケジュールも違うし、そもそも△△町(注:わが故郷)がBA.1用をまだ使っているなんて思いもしなかったよ。ここでドタバタの親子のやり取りは終わりのはずだった。ところが日付が変わった深夜に再び母親からLINEが到着した。午前3時過ぎだ。通常なら母親は完全に寝入っている時間だ。母反省している。必死の思いで受けたのに残念で眠れない。私どうしたのよ急に。まあ、無効なわけじゃないのであまり気にしないで。ちょっと私も言い方がきつかった。まさか△△町がまだBA.1用を使っていると思わなかったのよ。ほとんどの自治体で切り替えているからさ。幸いだったのはモデルナだったこと。母わかった。私モデルナのほうが抗体がより高く上がる。ファイザーよりね。中途半端に医療知識がある息子の心ない言動だと、多くの医療従事者からはお叱りを受けるかもしれない。しかし、基礎疾患がある80代半ば過ぎの老老介護の両親を遠く離れた故郷に残している自分としては、少しでも感染・発症リスクは避けたいと願うのだ。さて「巧みな戦略」と言ったのは、わが故郷の自治体のことである。母親から話を聞いた後、自治体のホームページをのぞいて溜息が出た。なんとわが故郷の自治体は、11月と12月に個別接種医療機関で使用するワクチンを週ごとにBA.1対応ワクチンとBA.4/BA.5対応ワクチンに交互に切替をしていたのだ。国からすれば模範的な対応と言えるかもしれない。そして両親は“BA.1対応ワクチン在庫一掃処分セール(嵐のように批判されようとも、敢えてこの言葉を使う)”の週にたまたま当たっていたのである。ここでちょっと原点に戻りたい。そもそもこのようなドタバタが存在するのはワクチンの承認審査過程に起因する。前述のように日本では米・FDAがBA.4/BA.5対応ワクチンの緊急使用許可後にBA.1対応ワクチンを承認するというタイムラグがあった。これについては、米・FDAが早くも6月段階で追加接種用ワクチンの申請に当たっては、BA.4/BA.5対応ワクチンを推奨したからである。この推奨がなかった日本とヨーロッパでは、ファイザー、モデルナともにBA.1対応ワクチンを承認申請し、そのまま承認された。当初、この日本の対応を私はかなり批判的に捉えていたが、今はその見解を撤回している。ご存じのようにFDAのBA.4/BA.5対応ワクチンの承認は、ほぼ前例のない動物実験データのみでの承認だったことを日本でのBA.1対応ワクチン承認後に知ったからである(言い訳をすると当時はかなり多忙を極め、FDAの緊急使用許可の中身までは吟味できていなかった)。少なくとも日本の承認審査制度の細かさ(保守性?)を考えれば、たとえ製造方法や原料の同等性はあったとしても、申請時にヒトの中和抗体価データのみしかないBA.1対応ワクチンの承認もなく、一足飛びに動物実験データのみでBA.4/BA.5対応ワクチンを承認することを素直に肯定はできなかっただろう。これは私個人の見解(感情)もそうだ。さらに言えば、感情的には「もにょる」ものの、「まあ製法や原料は同じだしな」となんとか納得させている部分はある。ただし、BA.4/BA.5対応ワクチンのヒトでの中和抗体価データが明らかになりつつある今は、この「もにょる」感情も薄れつつある。さて、そのうえで私はもう思い切って新型コロナワクチンの公的接種はBA.4/BA.5対応ワクチンに一本化しても良いのではないかと思っている。岸田 文雄首相自らが国民にいくらワクチン接種を呼びかけようとも、周回遅れワクチンを接種したいと思う人は多くないはずである。もちろんこのことはBA.1対応ワクチンにかかった税金を事実上ドブに捨てることになる可能性は大である。強いて取れる戦略があるとするならば、一本化後もBA.1対応ワクチンを有効期限内は保持して、BA.4/BA.5対応ワクチンの供給不安と感染拡大が重なった時に利用するという形である。徐々に市中の様相はかつての日常に戻りつつあるとはいえ、今も準緊急事態であることは多くの国民が認識しているはずである。そして今回のワクチンの費用負担は強大な国が負っている。いくら血税とはいえ、いまBA.1対応ワクチンが無駄になったとしても国民が直接損害を被ることはない。ならば公衆衛生という観点からは大胆な「損切り」も必要なのではないだろうか?

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英語で「あなたの趣味は何ですか」は?【1分★医療英語】第54回

第54回 英語で「あなたの趣味は何ですか」は?What do you do for fun?(あなたの趣味は何ですか?)I like watching Anime.(アニメを見るのが好きです)《例文》医師What do you do like to do for fun?(何か好きなことはありますか?)患者I enjoy biking.(自転車に乗ることです)《解説》今回は、「社会生活歴」にフォーカスを当てます。「社会生活歴」は英語でもそのまま“Social History”です。“What do you do for fun / What do you like to do for fun?”という表現で、ざっくりと日本語でいう「好きなことはなんですか」という意味になります。「趣味は何ですか?」というと真っ先に浮かぶのは中学で習った“What is your hobby?”ではないでしょうか。これも直訳した意味は同じになりますが、「“passionate”(熱烈)に打ち込んでいるもの」(楽器やスポーツのような)に限定して聞いている印象があるので、あまり一般的に使われる表現ではありません。今回紹介した“What do you do for fun?”のほうが自然で、日常会話でも頻繁に使われます。答え方としては、“I like〜”または“I enjoy〜”で始めれば無難です。小児科領域でいえば、米国では「HEADSS assessment」という独特の診察項目があり、思春期(11-13歳)になると親を部屋の外に出して子どもと医師が1対1になってHome、Education、Activities、Drugs、Sex、Suicideについて一通り聞くことが推奨されています。そのActivitiesを聞く際に“What do you do for fun?”は必ず使われる表現の一つです。ちなみに、職業を聞く際に使われる一般表現は、“What do you do for living?”(お仕事は何をされていらっしゃるのですか?)です。こちらも学校で習ったであろう“What is your job/occupation?”はかなり直接的な表現で失礼に当たる可能性もあるので、実際に使われる場面はほとんどありません。日本の診察場面では、患者さんが質問に答えた後に医師が反応することはあまりないでしょうが、米国では患者さんが、“I am an accountant.”(会計士です)と答えたら、医師側も“That is amazing!” “Wow, what a nice job!”などと大胆にリアクションをとることも多く、こうした“Social History”のやりとりを通して患者さんとラポートを形成しています。講師紹介

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医療者も実は…?糖尿病のスティグマを見直す/日糖協の活動

 近い将来、「糖尿病」という病名は使用されなくなるかもしれない。 日本糖尿病協会(以下、日糖協)は、都内開催のセミナーにて、「『糖尿病』という言葉を変える必要がある」と問題意識を明らかにした。現在、日糖協では「糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト」を推進しており、病名変更もその一環だ。 日糖協理事の山田 祐一郎氏(関西電力病院 副院長)は、「言葉を変える目的は、糖尿病に関するスティグマ(偏見)を減らすことにある。単なる言葉の入れ替えでは意味がない。医療従事者と糖尿病のある方とのコミュニケーションを変えることが重要だ」と述べた。 以下、セミナーの内容を記載する。医療従事者も実は…? スティグマの発生源 世間的に「食べ過ぎ」「長生きできない」などのイメージが先行しやすい糖尿病だが、糖尿病のある人とない人で、総エネルギー消費量や摂取量は、実は変わらない1)。また、治療を受けていれば、平均余命にも有意差はない2,3)。 しかし、高度経済成長期に糖尿病患者数100万人を突破した本邦では、先述のようなスティグマが世間に定着し、今なお存在し続けている。実際、2022年に発表されたデータでも、糖尿病のある人はスティグマを受けている4)ことが明らかになっている。 注目すべきは、スティグマの主な発生源として、家族、友人以外に、本来患者の支援者である医療従事者も含まれる5)ことだ。 日糖協理事長の清野裕氏(関西電力病院 総長)は、「医療従事者は“そんなつもりはないのに”、無意識にスティグマを付与している可能性がある」と述べる。 「今回のHbA1cが上昇している。何か食べ過ぎましたか?」 「あの人は糖尿病だから、全然言うことを聞かない」 といった発言が代表的だ。しかし、糖尿病のある人の生活状況はそれぞれ異なる。実行不可能な治療法を示していないか、悩みを正しく理解しているか、医療従事者も省みる必要があるという。さらに「糖尿病」という病名自体がスティグマとなる可能性もある。病名「糖尿病」への抵抗感や不快感 日糖協が糖尿病のある人に実施した「糖尿病の病名に関するアンケート」の調査結果によると、回答者1,087人のうち、9割が「糖尿病」という病名に何らかの抵抗感や不快感を抱いており、7割が治療を受ける際に病名に対する抵抗を感じている、という。さらに回答者の8割が「糖尿病」の病名変更を希望した。病名変更を希望した人の38.6%が「だらしない」など負のイメージや誤解を受けることを懸念しており、31.8%は「尿」という表記に違和感や羞恥心を抱いていた。さらに、6割が何らかの形で糖尿病を隠して生きていることも明らかになった。日糖協理事の津村 和大氏(川崎市立川崎病院 病態栄養治療部長)は、「糖尿病の治療や予後が大きく改善した現代では、病名の持つ負のイメージを払拭することも必要だ」と述べた。糖尿病にまつわる“ことば”の見直し すでに現在、日糖協では「糖尿病」の病名変更に関する議論が進んでいる。加えて「糖尿病患者→糖尿病のある人」「血糖コントロール→血糖マネジメント(管理)」など、使用すべき医療用語の再考も検討されている。背景として、「糖尿病のある人」には、海外ではpatientを使用せず、person with diabetesという表現を用いること、「血糖マネジメント(管理)」は、コントロールが「こちら(=医療従事者)の意思通りに動かす」意味合いが強いのに対し、英語圏ではcontrolからmanagementへと表現が変わっており、世界的にも主体的表現へ変化しつつあることが挙げられる。ただし、“ことば”を入れ替えるだけでは不十分で、より主体的に糖尿病に関わる意識が重要とされる。関連企業やメディアの参画で医療現場にもインパクトを 日糖協の活動は企業にも広がっており、賛同企業が間接的支援を行う「企業委員会」も立ち上げられた。製薬・医療機器製造・食品関連企業33社が参画中だ。企業の提供する情報量は膨大で、医療現場へのインパクトも大きいと推察される。代表幹事の小山 由起氏(住友ファーマ)、郷田 秀樹氏(ノボ ノルディスク ファーマ)からも、スティグマを理解するための企業研修や日本糖尿病協会年次学術集会での啓発活動などの取り組みが紹介された。今後は、企業作成物の改訂、とくに糖尿病のある人に向けた資料の表現に配慮していくという。言葉の見直しは、今後「日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動」の中で協議され、数年以内の提言実現を目指すという。 われわれメディアも“ことば”を多く扱う。病名に対する関心の喚起は「社会を動かす力」になる。最後に、スティグマの存在を正しく理解し、適切な情報発信に努めることを自戒として記載したい。 糖尿病のある人にスティグマを負わせないために、病名も、私たち自身の意識も変えなければいけない。

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乳がんの再発恐怖を認知行動療法アプリが軽減/名古屋市⽴⼤学ほか

 患者⾃⾝で認知⾏動療法を実施できるスマートフォンアプリを⽤いることで、乳がん患者の再発に対する恐怖が軽減したことを、名古屋市⽴⼤学⼤学院精神・認知・⾏動医学分野の明智 ⿓男氏らの共同研究グループが発表した。スマートフォンのアプリを用いることで通院などの負担を⼤きく軽減でき、場所や時間を選ばずに苦痛を和らげるための医療を受けられるようになることが期待される。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版11月2日掲載の報告。 先⾏研究において、問題解決療法アプリ「解決アプリ」と⾏動活性化療法アプリ「元気アプリ」(下欄参照)を京都⼤学、国立精神・神経医療研究センターが共同で開発し、乳がん患者の再発に対する恐怖を和らげる可能性があることが⼩規模の臨床試験で⽰されていた。本研究では、乳がん患者を、通常の治療に加えて上記2つのアプリを使⽤する群と使⽤しない群に無作為に割り付け、8週後に再発に対する恐怖が和らぐかどうかを検討した。 参加対象は20~49歳の女性で、⼿術後1年以上再発のない乳がん患者。主要評価項目は8週までの再発恐怖で、副次的評価項目は24週までの抑うつと心理的ニード(⼼理的側⾯に関するケアの必要性)、外傷後成長などであった。 主な結果は以下のとおり。・447例が研究に参加し、アプリ使⽤群223例とアプリを使⽤しない群224例に割り付けられた。年齢の中央値は45歳で、約半数はフルタイムで就労していた。・アプリを使用しない群に比べ、アプリ使⽤群では、開始から4週時点で再発に対する恐怖が統計学的に有意に下がり、その効果は8週時点においても継続した(p<0.001)。8週と24週における再発恐怖に差はみられなかったことから、その効果は24週時点も継続している可能性がある。・抑うつと⼼理的ニードもアプリ使用群では有意に改善し、24週まで継続した(それぞれp<0.05)。外傷後成長では有意差はみられなかった。・⼀部の参加者に聞き取り調査を⾏った結果、副作⽤はみられなかった。 研究グループは、「分散型臨床試験という新たな研究基盤を開発して研究を行った結果、多くのフルタイムで就労されている方に参加いただくことができた。これは、がんの治療のみならず、患者さんの生活の質の向上に必要な支持療法を受けながら、仕事も両立させることを可能とすることを意味する。今後、分散型臨床試験の基盤を広く社会に実装していくことで、患者さんの負担を、体力的な側面のみならず、時間的にも経済的にも軽減しながら、支持療法の開発を加速することが可能である」とコメントした。―――――――――――――――――――<解決アプリ>7つのセッション(1つの導入セッション、4つの問題解決療法の5段階を学習するセッション、1つのトレーニングセッション、1つのエピローグセッション)から構成される。最短で4週間で完了でき、各セッションに要する時間は30分程度。患者の日常生活上の問題を分類し、具体的に達成可能な目標を定め、解決策をブレインストーミングし、解決策のメリットとデメリットを比較して、最終的に実際にやってみたい解決策を選ぶ方法を習得していく。<元気アプリ>2セッション(行わなくなった行動に気づき再挑戦するセッションと新たな行動に挑戦するセッション)から構成される。終了までに最短で2週間、標準で8週間を要する。各セッションに要する時間は週30分程度。「行動が変われば気分も変わる」という原理に基づき、喜びや達成感のある活動をすることの重要性についての学習を行い、やめてしまった楽しい活動や今までやったことのない楽しそう/新しそうな活動を実際にやってみて、その結果を評価するということを繰り返す。―――――――――――――――――――

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英語で「経口摂取ができている」は?【1分★医療英語】第53回

第53回 英語で「経口摂取ができている」は?The patient is tolerating oral intake very well. (患者さんは、経口摂取がしっかりできています)Okay, then let’s plan to discharge him next week.(良いですね。それでは、来週退院の予定としましょう)《例文1》I will advance his diet because he is tolerating puree diet.(ペースト食が摂取できているので、食上げします)《例文2》Let’s make her NPO(nothing per os)for now as she is not tolerating PO.(経口摂取ができていないので、いったん絶食にしておきましょう)《解説》「経口摂取ができている」を直訳しようとすると、“The patient can eat~”というようなフレーズが思い浮かぶかもしれません。確かにそれでも意味は通じるでしょうが、医療現場では今回紹介した“tolerate”という動詞をよく用います。この“tolerate”を使うことで、「これまで食事が摂れていなかった人」、あるいは「食事摂取が十分できるかどうかわからなかった人」が、「十分耐性がある」「十分にその力がある」ことを確認した、というニュアンスを出すことができます。“tolerate”という動詞は「耐える」という訳が充てられることが多く、知らないと咄嗟に使うのは難しいかもしれませんが、実はよく医療現場で用いられる言葉で、患者さんの回復過程に相性の良い動詞です。他にも、「可能な範囲で食上げをしてください」という場合に、“Please advance his diet as tolerated.”というフレーズを使うことがあります。“tolerate”を“as”と一緒に用いて“as tolerated”とすると「できる範囲で」「可能な範囲で」といった意味合いを持たせることができます。医師が看護師さんへの指示を出す場合などによく用いる表現ですので、これもあわせて覚えてしまいましょう。講師紹介

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第133回 『かかりつけ医』制度化は骨太ならぬ“骨抜き”方針か!?

『かかりつけ医』は、たぶん一般にはある程度聞き慣れた言葉になっているだろうが、その定義はかなり曖昧と言って良いかもしれない。慢性疾患を有する患者の場合は、その主治医がいわゆる『かかりつけ医』だと思っているはずだ。しかし、ここでは釈迦に説法だが、厚生労働省や日本医師会が考える「かかりつけ医」の定義は異なる。厚生労働省(以下、厚労省)では「健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」となる。ちなみに日本医師会の考える『かかりつけ医』は、同会ホームページで、この厚労省の定義をさらに詳しく説明したような内容になっている。というか、そもそも厚労省のホームページの説明の下にわざわざ「参考」として日医へのリンクが張られているのは、今風に言うと、なんとも「もにょって」しまう。さて、この定義に厳密に沿えば、前述の慢性疾患の主治医は実は多くの場合、かかりつけ医とは言えない。ちなみに日本医師会総合政策研究機構の「日本の医療に関する意識調査 2022 年臨時中間調査」によると、一般生活者1,152人に聴取した結果では「かかりつけ医がいる」との回答は55.7%で50代以降になると50%を超えるものの、20代では30%弱だ。前述の厚労省、日医の『かかりつけ医』の定義を見て「もにょる」を通り越して、やや言葉は悪いが「ウソつけ」と言いたくなる部分がある。それは厚労省のホームページの「『かかりつけ医』はご自身で選択できます」と日医の「『かかりつけ医』とは、患者さんが医師を表現する言葉です」である。文字上で言えばそうだろう。だが、現実にはそうなっていない。この問題を顕在化させたのは、今般の新型コロナウイルス感染症のワクチン接種開始時である。同ワクチンは超低温冷凍による保管が必要だったことから、当初は自治体主導の大規模接種会場での接種がモデルとして考えられたが、それが突如として多くの自治体で地域医師会の協力を得て個別医療機関での接種が中心となった。その先鞭が東京都練馬区の作成した「練馬区モデル」である。先日、ある自治体のワクチン接種担当の職員が、「練馬区モデルが出る前の自治体向けマニュアルを見ると、どう考えても大規模接種を前提としているようにしか読めないので、その路線での接種計画を組んでいたが、突如練馬区モデルの話が厚労省から出てきて驚いた」と聞かされた。これが全国での接種計画を一変させたのは間違いないようだ。かく言う私は練馬区民。この話を聞いた時は、「いやいや練馬区住民でよかった」と思っていたのだが、以前の本連載でも書いたように、いざ接種開始となって送付されてきた案内を見てややのけぞった。接種医療機関リストは白とオレンジの2色刷りで、色付きの医療機関は「かかりつけの患者のみ」という区分だったのである。しかも、誰でもが接種できる白色の医療機関は全体の3分の1程度。あの当時は「これは絵に描いた餅?」と思いもしたが、mRNAワクチンの接種自体が初の試みだったので、まあやむを得ないのだろうとくらいに捉えていた。後に区内在住の知人から「過去に急に体調が悪くなった時に2、3回受診した医療機関にワクチン接種の申し込み連絡をしたら、“申し訳ないですが、かかりつけは一定頻度で定期的に受診している方を指しています”と断られた」と聞かされた。ワクチンマニアを自認する私にも、先日ようやくオミクロン株対応ワクチンの4回目接種の接種券が届いた。だが、まだ接種はしていない。というのも「マニア心」で、より抗体価が上がりやすいモデルナの2価ワクチンの承認を待っていたからである。今月半ば過ぎには、たぶん安定的な供給も開始されるだろう。そして再び個別接種医療機関リストを見て、ため息が出てしまった。相変わらずオレンジ色の「かかりつけの患者のみ」が多いばかりではなく、逆にかつては誰でも受けられるはずだった白色のリスト分類だった医療機関の一部がオレンジ色に変更されていたからである。アナフィラキシーに対する懸念が今よりも強かった初期ならまだしも、もう最多では5回接種者がいる状態である。にもかかわらず、逆にかかりつけ患者のみに新たに限定してしまう理由とは何だろう? まったく意味不明である。前述の知人の体験である「医師から選ばれたかかりつけ患者」という現状も併せると、まったく納得できない。さてそんな昨今、話題になっているのは「『かかりつけ医』を制度上、どのように位置付けるか?」である。これは政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022 について(骨太方針2022)」で、「かかりつけ医機能の制度整備」が謳われたからである。該当部分を抜粋する。また、医療・介護提供体制などの社会保障制度基盤の強化については、今後の医療ニーズや人口動態の変化、コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。敢えて太字にしたが、かかりつけ医機能にかかっているのが上の太字部分である。もっと言えば、「コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ」の意味するところが大である。端的に言ってしまえば、前述のワクチン接種問題や、政府の呼びかけにもかかわらず発熱外来が思ったように増えなかった経験を踏まえ、「もう制度的に縛っちゃいますよ」と言っているのだ。そもそも岸田 文雄首相は就任当初からコロナ対策として、非常時の診療体制整備に国が関与を明言していたので、特段驚きはない。国が考える「かかりつけ医機能の制度整備」には、ヨーロッパやオーストラリアやカナダの家庭医登録制度に近いものが念頭にあると思われる。これまでフリーアクセスを維持しつつ、患者の受診行動を変えるために選定療養費制度などの政策誘導を行ったものの、ほぼ目的を達成できていない現実を考えればさもありなんだろう。そしてこうした家庭医制度を念頭に置くなら、当然ながら最終的な診療報酬は人頭払いと疾患別包括払いが視野に入る。もちろん開業医中心の日医は経営環境が激変するため、議論の入口から反対姿勢を示している。もっともヨーロッパの家庭医制度をモデルとした場合、日本への制度導入には大きなハードルが2つある。1つは今さっき触れた診療報酬の抜本的な改定である。これはかなり難儀な話であるのだが、DPC制度の前例を踏まえれば完全に不可能なことではない。現にこれを匂わす診療所向けの診療報酬点数は現時点でも存在する。その意味では家庭医への登録に基づく人頭払いをどのように導入していくかだが、そこは行政お得意の最初は日医などが受け入れしやすい軽い縛りを設け、徐々に真綿で首を締めるが如く浸透させていくのではないだろうか?むしろ最大の問題は家庭医の質の担保だろう。日医には会員の『かかりつけ医』機能の強化に向けて生涯教育制度はあるが、これは連続した3年間の単位数とカリキュラムコード数(同一コードは加算不可)の合計数が60以上の者に「日医生涯教育認定証」を発行するというもので、一部の人にはお叱りを受けるかもしれないが、はっきり言えば形式だけ整えたようなものだ。これに対してヨーロッパの家庭医制度は、世界家庭医機構(WONCA)が認証した研修プログラムがあり、日医の生涯教育制度よりもはるかに上位レベルの研修内容である。とくにWONCAの家庭医プログラムは医師と患者・家族、地域との関係性についてはかなり重点的なプログラムがあり、この点は日医の生涯教育制度はかなり薄め。かつ、そもそも海外の家庭医とは、日本でかかりつけ医と見なされる診療所の多くを占める一般内科とは異なり、軽度の外科や産科、手術以外の耳鼻咽喉科、眼科領域までも網羅的に最新のエビデンスに基づく診療に対応できることが原則である。このWONCAの国際認証を受けた日本プライマリ・ケア連合学会の研修プログラムを終了し、家庭医療専門医として認定された医師は現時点で1,000人を超えたぐらいである。日医が生涯教育制度に変えて、こうした制度を利用してかかりつけ医機能を強化するが、その代わりに国による“過度な”介入はご免こうむりたいと言うならばまだしも、そうした妥協はこれまでの日医の姿勢からは期待できないだろう。もちろん一部の日医会員の中には日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医研修を受けたいという人もいるだろうが、すでにかかりつけ医を自認している市中の開業医の多くはむしろ敬遠するだろう。国、日医、日本プライマリ・ケア連合学会という3者を当事者として、落しどころを探ろうにしても、たぶんWONCAの国際認証を受けている日本プライマリ・ケア連合学会は過度な妥協はしないだろうし、それは国民のためにしてはならない。もし国がかかりつけ医を海外の家庭医制度に寄せていくなら、それこそ大きな政治的な決断が必要になる。しかし、日医による後ろ盾が選挙を勝ち抜く大きな武器になっている与党・自民党にとってそれは無理だろうし、それ以前にかかりつけ医の定義ですら日医への忖度丸出しの厚労省が政治へのけん制に入ってしまうのは目に見えている。とくに今、支持率低迷にあえぐ岸田首相にとってはそんな危険な決断は無理と断言しても良い。その意味では一瞬威勢が良いように読める「骨太方針2022」も間もなく「骨抜き方針2022」になるという構図が見えてくる。私たちは不幸な歴史の証人になるだけなのだろうかと暗澹たる気持ちになってしまう。

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直近1年のオンライン診療利用患者は2%未満、利用意向も低い

 9,000人超を対象としたアンケート調査で、直近1年のオンライン診療利用者は2%未満であり、利用経験者における今後の利用意向は高いものの、全体の利用意向は非利用意向よりも低いことが明らかになった。マイボイスコム株式会社は、「オンラインでの医療相談・診察」に関するインターネット調査を行い、その結果を2022年10月28日に公表した。結果概要・直近1年間のオンライン診療利用経験は1.8%であった。10代・20代では約6%、30代では約3%であった。・オンライン診療を知っているが利用したことはない人は75.3%で、オンライン診療を知らない人は20.7%であった。・オンライン診療を受けたきっかけや理由は、「かかりつけ医がオンラインでの診療や相談を実施していた」が41.0%で最も多く、「発熱・咳など新型コロナ感染の疑いがあった」21.3%、「待ち時間・通院時間をかけたくない」20.2%、「遠方の医師の診察を受けるため」18.0%、「新型コロナ予防のため医療機関へ行くのを控えたい」16.3%と続いた。・オンライン診療を受けた医療機関の探し方は、「かかりつけの医療機関がオンライン診療をしていた」が57.3%で最も多く、「インターネットでの検索」22.%、「保健所や自治体などの紹介」10.7%、「インターネット広告」8.4%、「自治体のHP、広報誌など」6.7%と続いた。・オンライン診療の利用意向は31.0%(利用したいと思う:9.0%、まあ利用したいと思う:22.0%)であった。男性の10~20代、女性の10~30代の利用意向それぞれ40%台であった。直近1年間のオンライン診療利用者の利用意向は80%弱であった。・一方、非利用意向は33.5%(あまり利用したいと思わない:17.6%、利用したいと思わない:15.9%)であった。男性の30~70代、女性の60~70代では、利用したくない人が、利用したい人より多かった。利用したいと思う理由(抜粋、一部改変)・待合室は人数制限で5人程度しか入れず、窓全開の外廊下で待たされる時間が長くなった。どの年代であっても、違う意味で受診がリスクとなっている。・軽症で病院に行くことによって他の病気をうつされる心配の方が大きい場合はオンラインで診察してもらった方が安全だから。・診察の往復にかかる時間、交通費を考えると、オンラインは効率的な方法であると思う。利用したいと思わない理由(抜粋、一部改変)・オンラインでは細かく患者の状態を確認できないのでは。見逃すことが多くありそう。・実際に診て確認してもらいたい。緊急性があるかもしれないから。・オンライン診療は好まない。診療は対面でこそ医師を信頼できる。・すべてがオンライン診察でできるわけではない。病院に行くことになるから、手間は一度で済ませたい。―――――――――――――――――――調査概要調査方法:インターネット調査調査時期:2022年10月1~5日回答者数:9,822人(男性5,602人[57%]、女性4,220人[43%])回答者年代:10代12人(0%)、20代192人(2%)、30代774人(8%)、40代1,874人(19%)、50代2,909人(30%)、60代2,542人(26%)、70代1,519人(15%)調査機関:マイボイスコム株式会社(東京都千代田区、 代表取締役社長:高井和久)―――――――――――――――――――

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従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付け【心不全診療Up to Date】第2回

第2回 従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付けKey Pointsエビデンスが確立している心不全薬物治療をしっかり理解しよう!1)生命予後改善薬を導入、増量する努力が十分にされているか?2)うっ血が十分に解除されているか?3)服薬アドヒアランスの良好な維持のための努力が十分にされているか?はじめに心不全はあらゆる疾患の中で最も再入院率が高く1)、入院回数が多いほど予後不良といわれている2)。また5年生存率はがんと同等との報告もあり3)、それらをできる限り抑制するためには、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の実施が極めて重要となる4)。なぜこれから紹介する薬剤がGDMTの一員になることができたのか、その根拠までさかのぼり、現時点での慢性心不全の至適薬物療法についてまとめていきたい。なお、現在あるGDMTに対するエビデンスはすべて収縮能が低下した心不全Heart Failure with reduced Ejection Fraction(HFrEF:LVEF<40%)に対するものであり、本稿では基本的にはHFrEFについてのエビデンスをまとめる。 従来の薬剤治療のエビデンスを整理!第1回で記載したとおり、慢性心不全に対する投薬は大きく2つに分類される。1)生命予後改善のための治療レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)、β遮断薬、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、ベルイシグアト、イバブラジン2)症状改善のための治療利尿薬、利水剤(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)その他、併存疾患(高血圧、冠動脈疾患、心房細動など)に対する治療やリスクファクター管理なども重要であるが、今回は上記の2つについて詳しく解説していく。1. RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)1)ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬≧ARB)【適応】ACE阻害薬のHFrEF患者に対する生命予後および心血管イベント改善効果は、1980年代後半に報告されたCONSENSUSをはじめ、SOLVDなどの大規模臨床試験の結果により、証明されている5,6)。無症候性のHFrEF患者に対しても心不全入院を抑制し、生命予後改善効果があることが証明されており7)、症状の有無に関わらず、すべてのHFrEF患者に投与されるべき薬剤である。ARBについては、ACE阻害薬に対する優位性はない8–11)。ブラジキニンを増加させないため、空咳がなく、ACE阻害薬に忍容性のない症例では、プラセボに対して予後改善効果があることが報告されており12)、そのような症例には適応となる。【目標用量】ATLAS試験で高用量のACE阻害薬の方が低用量より心不全再入院を有意に減らすということが報告され(死亡率は改善しない)13)、ARBについても、HEAAL試験で同様のことが示された14)。では、腎機能障害などの副作用で最大用量にしたくてもできない症例の予後は、最大用量にできた群と比較してどうなのか。高齢化が進み続けている実臨床ではそのような状況に遭遇することが多い。ACE阻害薬についてはそれに対する答えを示した論文があり、その2群間において、死亡率に有意差は認めず、心不全再入院等も有意差を認めなかった15)。つまり、最大”許容”用量を投与すれば、その用量に関係なく心血管イベントに差はないということである。【注意点】ACE阻害薬には腎排泄性のものが多く、慢性腎臓病患者では注意が必要である。ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン値の上昇率が大きければ大きいほど、段階的に末期腎不全・心筋梗塞・心不全といった心腎イベントや死亡のリスクが増加する傾向が認められるという報告もあり、腎機能を意識してフォローすることが重要である16)。なお、ACE阻害薬とARBの併用については、心不全入院抑制効果を報告した研究もあるが9,17)、生存率を改善することなく、腎機能障害などを増加させることが報告されており11,18)、お勧めしない。2)MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)【適応】スピロノラクトンは、RALES試験にて重症心不全に対する予後改善効果(死亡・心不全入院減少)が示された19)。エプレレノンは、心筋梗塞後の重症心不全に対する予後改善効果が示され20)、またACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が85%以上に投与されている比較的軽症の慢性心不全に対しても予後改善効果が認められた21)。以上より、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬を最大許容用量投与するも心不全症状が残るすべてのHFrEF患者に対して投与が推奨されている。【目標用量】上記の結果より、スピロノラクトンは50mg、エプレレノンも50mgが目標用量とされているが、用量依存的な効果があるかについては証明されていない。なお、EMPHASIS-HF試験のプロトコールに、具体的なエプレレノンの投与方法が記載されているので、参照されたい21)。【注意点】高カリウム血症には最大限の注意が必要であり、RALES試験の結果発表後、スピロノラクトンの処方率が急激に増加し、高カリウム血症による合併症および死亡も増加したという報告もあるくらいである22)。血清K値と腎機能は定期的に確認すべきである。ただ近年新たな高カリウム血症改善薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたこともあり、過度に高カリウム血症を恐れる必要はなく、できる限り予後改善薬を継続する姿勢が重要と考えられる。またRALES試験でスピロノラクトンは女性化乳房あるいは乳房痛が10%の男性に認められ19)、実臨床でも経験されている先生は多いかと思う。その場合は、エプレレノンへ変更するとよい(鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いのでそのような副作用はない)。2. β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール)【適応】β遮断薬はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来(その時は誰も信用しなかった)、20年の時を経て、U.S. Carvedilol、MERIT−HF、CIBIS II、COPERNICUSなどの大規模臨床試験の結果が次々と報告され、30~40%の死亡リスク減少率を示し、重症度や症状の有無によらずすべての慢性心不全での有効性が確立された薬剤である23–26)。日本で処方できるエビデンスのある薬剤は、カルベジロールとビソプロロールだけである。カルベジロールとビソプロロールを比較した研究もあるが、死亡率に有意差は認めなかった27)。なお、慢性心不全治療時のACE阻害薬とβ遮断薬どちらの先行投与でも差はないとされている28)。【目標用量】用量依存的に予後改善効果があると考えられており、日本人ではカルベジロールであれば20mg29)、ビソプロロールであれば5mgが目標用量とされているが、海外ではカルベジロールであれば、1mg/kgまで増量することが推奨されている。【注意点】うっ血が十分に解除されていない状況で通常量を投与すると心不全の状態がかえって悪化することがあるため、少量から開始すべきである。そして、心不全の増悪や徐脈の出現等に注意しつつ、1~2週間ごとに漸増していく。心不全が悪化すれば、まずは利尿薬で対応する。反応乏しければβ遮断薬を減量し、状態を立て直す。また徐脈などの副作用を認めても、中止するのではなく、少量でも可能な限り投与を継続することが重要である。3. 利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、トルバプタン)、利水剤(五苓散など)【適応】心不全で最も多い症状は臓器うっ血によるものであり、浮腫・呼吸困難などのうっ血症状がある患者が利尿薬投与の適応である。ただ、ループ利尿薬は交感神経やRAS系の活性化を起こすことが分かっており、できる限りループ利尿薬を減らした状態でいかにうっ血コントロールをできるかが重要である。そのような状況で、新たなうっ血改善薬として開発されたのがトルバプタンであり、また近年利水剤と呼ばれる漢方薬(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)もループ利尿薬を減らすための選択肢の1つとして着目されており、心不全への五苓散のうっ血管理に対する有効性を検証する大規模RCTであるGOREISAN-HF試験も現在進行中である。この利水剤については、また別の回で詳しく説明する。【注意点】あくまで予後改善薬を投与した上で使用することが原則。低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能増悪、脱水には注意が必要である。新規治療薬の位置付け上記の従来治療薬に加えて、近年新たに保険適応となったHFrEF治療薬として、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2阻害薬(ダバグリフロジン、エンパグリフロジン)、ベルイシグアト、イバブラジンがある。上記で示した薬物療法をHFrEF基本治療薬とするが、効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える。さらに、心不全悪化および心血管死のリスク軽減を考慮してSGLT2阻害薬を投与する。第1回でも記載した通り、これら4剤を診断後できるだけ早期から忍容性が得られる範囲でしっかり投与する重要性が叫ばれている。服薬アドヒアランスへの介入は極めて重要!最後に、施設全体のガイドライン遵守率を改めて意識する重要性を強調しておきたい。実際、ガイドライン遵守率が患者の予後と関連していることが指摘されている28)。そして何より、処方しても患者がしっかり内服できていないと意味がない。つまり、内服アドヒアランスが良好に維持されるよう、医療従事者がしっかり説明し(この薬がなぜ必要かなど)、サポートをすることが極めて重要である。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは欧米のガイドラインでもクラスIに位置づけられており、ぜひ皆様には、このGDMTに関する知識をまわりの看護師などに還元し、チーム医療という形でそれが患者へしっかりフィードバックされることを切に願う。1)Jencks SF, et al. N Engl J Med.2009;360:1418-1428.2)Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007;154:260-266. 3)Stewart S, et al. Circ Cardiovasc Qual Outcomes.2010;3:573-580.4)McDonagh TA, et al.Eur Heart J. 2022;24:4-131.5)CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987;316:1429-1435.6)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1991;325:293-302.7)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1992;327:685-691.8)Pitt B, et al.Lancet.2000;355:1582-1587.9)Cohn JN, et al.N Engl J Med.2001;345:1667-1675.10)Dickstein K, et al. Lancet.2002;360:752-760.11)Pfeffer MA, et al.N Engl J Med. 2003;349:1893-1906.12)Granger CB, et al. Lancet.2003;362:772-776.13)Packer M, et al.Circulation.1999;100:2312-2318.14)Konstam MA, et al. Lancet.2009;374:1840-1848.15)Lam PH, et al.Eur J Heart Fail.. 2018;20:359-369.16)Schmidt M, et al. BMJ.2017;356:j791.17)McMurray JJ, et al.Lancet.2003;362:767-771.18)ONTARGET Investigators. N Engl J Med.2008;358:1547-1559.19)Pitt B, et al. N Engl J Med.1999;341:709-717.20)Pitt B, et al. N Engl J Med.2003;348:1309-1321.21)Zannad F, et al. N Engl J Med.2011;364:11-21.22)Juurlink DN, et al. N Engl J Med.2004;351:543-551.23)Packer M, et al.N Engl J Med.1996;334:1349-1355.24)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.25)Dargie HJ, et al. Lancet.1999;353:9-13.26)Packer M, et al.N Engl J Med.2001;344:1651-1658.27)Düngen HD, et al.Eur J Heart Fail.2011;13:670-680.28)Fonarow GC, et al.Circulation.2011;123:1601-10.29)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?【非専門医のための緩和ケアTips】第38回

第38回 オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?オピオイドの副作用といえば「便秘」と「嘔気」ですね。内服を開始した当初は眠気が強い方もいます。今回は副作用のうち、嘔気について考えていきましょう。今日の質問高齢の肺がん患者さんが通院していて、骨転移の痛みに対して医療用麻薬を使用しています。医療用麻薬は1ヵ月前から内服を始め、痛みは和らいでいるようです。制吐薬を飲み続けているのですが、いつまで続ければいいのでしょうか?「オピオイドを内服開始する時には、必ず制吐薬を処方しましょう!」これは私が緩和ケアの仕事を始めた10年以上前によく言われていたことです。医療用麻薬という名前だけで不安を感じる方がいるのに、飲んでみたら痛みは和らいだけど吐き気がする…。こんなことがあると、「もうこんな怖い薬は飲みたくないです」と言われてしまいます。また吐き気ってつらいのですよね。そういった意味でも、制吐薬は重要な併用薬として見なされていました。しかし近年、この「オピオイド開始の際に予防的に制吐薬を内服する」というプラクティスは見直されつつあります。その背景には、高齢患者が増え、制吐薬による副作用への懸念が高まったことがあります。制吐薬の多くが抗ドパミン作用を持ち、代表的な副作用は錐体外路症状です。錐体外路症状としてはアカシジア(静座不能症)などが有名です。一方、オピオイド服用に伴う嘔気は、便秘と異なり、すべての患者さんに生じるわけではありません。またオピオイドの投与開始後1~2週間で軽減することも知られています。このような嘔気に対し、錐体外路症状の懸念のある制吐薬を全員に投与するのか? という議論が生じてきたのです。今回の質問のように、医師が気付いて「もうこの制吐薬はやめてもいいのでは?」と考えられればよいのですが、気付くと何ヵ月も不要と思われる制吐薬を内服し続けていたといったケースも見聞きします。今回の質問のケースでも、嘔気がないのであれば制吐薬は中止して問題ありません。医療用麻薬を処方する際、すべての患者さんにルーチンで制吐薬を処方するのではなく、「個別に必要性を判断すること」「長期投与にならないように注意すること」が重要になっているのです。では、どんな患者さんには制吐薬を処方すべきなのでしょうか。私のやり方としては、医療用麻薬に対する心配が強いこうした方には「吐き気が出てもクスリが手元にあると安心ですよね」と言葉を添えて処方するケースが多いです。嘔気が生じやすい病態腸閉塞を繰り返している患者さんなどは、「最初の1週間だけ内服しましょう」といって制吐薬を処方することがあります。一方、入院患者さんの場合は、嘔気が出ても迅速に対応できるので、制吐薬の処方は控えるケースが多くなります。「個別性に配慮した緩和ケア」としては、各医師の腕の見せどころかもしれません。皆さんはどうされているでしょうか?今回のTips今回のTipsオピオイドと併用する制吐薬の処方は、適応を考えて個別に判断しましょう。

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紹介状、多くの医師が最もイライラしている事は…【紹介状の傾向と対策】第2回

<あるある傾向>手書きで読めない紹介状英字略語が多くて読めない紹介状<対策>紹介状はできるだけパソコンで作成略語の多用は避ける多忙な臨床業務の中で紹介状(診療情報提供書)の作成は負担が大きい業務の1つです。しかし、紹介状に不備があると、依頼先(紹介先)の医師やスタッフに迷惑をかけるだけではなく、患者の不利益やトラブルにつながりかねません。このため、できる限り依頼先が困らない紹介状の作成を心がけたいものです。紹介状は依頼先の施設の種類や紹介目的によって記載内容に若干の違いがありますが、どの紹介状にも同じように留意したい点もあります。以下に紹介状全般に共通する留意点を列挙します。【紹介状全般に共通する留意点】(1)相手の読みやすさが基本(2)冒頭に紹介する目的を明示する(3)プロブレムと既往歴は漏れなく記載(4)入院経過は過不足なく、かつ簡潔に記載(5)診断根拠・診断経緯は適宜詳述(6)処方薬は継続の要否、中止の可否を明記(7)検査データ、画像データもきちんと引き継ぐ今回は上記のうち(1)の「相手の読みやすさが基本」について解説します。開業医の3割は手書きしている!?ケアネットが2021年12月に実施した紹介状についてのアンケートでは、勤務医の不満の第1位は「手書きで読めない紹介状」でした。電子カルテの普及に伴い、手書きの紹介状は減少傾向にありますが、現状は今でも手書きの紹介状に遭遇する機会は多々あります。手書きで記載された紹介状はどうしても文字に個人の癖が出てしまい、その文字を第三者が読めないこともあります。結果、手書きの紹介状で病名や処方情報など重要度の高い情報が読めない時に、読み手は強烈なストレスを感じます。この文字の意味は何だろうと類推しているだけで時間をロスします。また、紹介状を記載する立場でも、パソコンで記載したほうが手書きの紹介状作成より修正が容易です。施設によっては電子カルテが未導入であるために対応が難しいかもしれませんが、パソコンで記載された紹介状が互いのストレス軽減につながることを考えると、パソコンやワープロで代用することが望まれます。さらに、読みやすさの観点でもう1つ留意したいのは、英字略語や英語表記の多用です。自身が当たり前に使用している略語も、紹介先では馴染みのない略語の場合もあります。普及率の高い略語以外は使用せず、日本語表記とするのが親切です。また、紹介状を読むのは医師だけではなく、看護師などの医療者や病診連携室をはじめとする事務系職員のこともあります。自身が記載した紹介状が多職種に読まれる可能性があることも踏まえ、普及率の低い英字略語は避けたほうがいいでしょう。紹介状は正確な情報を伝えることが出来てはじめて、その役割を果たします。その観点からも、常に相手を思いやり、読み手がストレスなく情報収集できるよう配慮して、より「読みやすい紹介状」の作成を目指しましょう。

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