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新型コロナ感染、1年間の精神疾患リスクは?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者は、同時期のSARS-CoV-2非感染者および歴史的対照者と比較して、さまざまな精神疾患(不安障害、うつ病性障害、ストレスおよび適応障害、オピオイド使用障害、オピオイド以外の物質使用障害、神経認知機能低下、睡眠障害など)のリスクが高いことが、米国・VAセントルイス・ヘルスケアシステムのYan Xie氏らによるコホート研究で明らかとなった。著者は、「COVID-19生存者のメンタルヘルス障害に対する取り組みは優先課題である」とまとめている。BMJ誌2022年2月16日号掲載の報告。SARS-CoV-2感染者と、同時期の非感染者ならびにCOVID-19流行以前の対照者を比較 研究グループは、米国退役軍人省のデータを用い、2020年3月1日~2021年1月15日の間に少なくとも1回、SARS-CoV-2のPCR検査が陽性であった人(16万9,240例)を特定し、このうち陽性確認から30日後に生存していた人(COVID-19群15万3,848例)の転帰を調べ(追跡期間終了日:2021年11月30日)、精神疾患の発症リスクを2つの対照群と比較した。対照群は、COVID-19群と同時期にSARS-CoV-2の感染が確認されていない同時期対照群(563万7,840例)と、COVID-19流行以前の歴史的対照群(585万9,251例)である。 COVID-19と精神疾患発症との関連は、事前に定義した共変量およびアルゴリズムで選択された高次の共変量の両方に関して調整した逆確率重み付け法により、追跡期間中のハザード比(HR)と、各群における1年推定発生率の差に基づく1,000人当たりの1年間の補正後リスク差ならびにその95%信頼区間(CI)を算出した。同時期非感染者と比べ、何らかの精神疾患の診断・処方を受けるリスクが60%増加 COVID-19群では同時期対照群と比較して、不安障害(HR:1.35[95%CI:1.30~1.39]、群間リスク差11.06[95%CI:9.64~12.53])、うつ病性障害(1.39[1.34~1.43]、15.12[13.38~16.91])、ストレスおよび適応障害(1.38[1.34~1.43]、13.29[11.71~14.92])、抗うつ薬使用(1.55[1.50~1.60]、21.59[19.63~23.60])、ベンゾジアゼピン系薬剤使用(1.65[1.58~1.72]、10.46[9.37~11.61])の発生リスクが増加した。また、オピオイド処方(1.76[1.71~1.81]、35.90[33.61~38.25])、オピオイド使用障害(1.34[1.21~1.48]、0.96[0.59~1.37])、その他(オピオイド以外)の物質使用障害(1.20[1.15~1.26]、4.34[3.22~5.51])の発生リスクも増加した。 さらに、COVID-19群では同時期対照群と比較して、神経認知機能低下(HR:1.80[95%CI:1.72~1.89]、群間リスク差:10.75[95%CI:9.65~11.91])、睡眠障害(1.41[1.38~1.45]、23.80[21.65~26.00])の発症リスクも増加し、精神疾患の診断や薬の処方を受けるリスクも増加が認められた(1.60[1.55~1.66]、64.38[58.90~70.01])。 評価したアウトカムのリスクは、入院していない人でも増加していたが、COVID-19急性期に入院した人で最も高かった。 これらの結果は、歴史的対照群との比較においても一致しており、COVID-19で入院していない人vs.季節性インフルエンザで入院していない人、COVID-19で入院した人vs.季節性インフルエンザで入院した人、COVID-19で入院した人vs.その他の原因で入院した人、いずれの比較においても一貫してCOVID-19群で精神疾患の発症リスクが高かった。

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急性ポルフィリン症〔acute porphyria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ポルフィリン症とはヘム合成経路に関与する8つの酵素いずれかの先天異常が病因でヘム合成経路(すなわち、律速酵素である第1番目のデルタアミノレブリン酸(ALA)合成酵素(ALAS))が亢進し生じる疾患の総称。ポルフィリン代謝異常に基づく症候を呈し、ポルフィリンやその前駆物質が大量に生産され、体内に蓄積し、尿や糞便に多量に排泄される。ポルフィリン症は、病因論的には本経路の異常が生じる主たる臓器の違いにより肝型と骨髄型の2型に大別される(図1)。臨床的には急性腹症、神経症状、精神症状などの急性発作を起こす急性ポルフィリン症(ALA脱水酵素欠損ポルフィリン症〔ADP〕、急性間欠性ポルフィリン症〔AIP〕、遺伝性コプロポルフィリン症〔HCP〕、多様性ポルフィリン症〔VP〕)および、光線過敏症を呈する皮膚ポルフィリン症(先天性骨髄性ポルフィリン症〔CEP〕、晩発性皮膚ポルフィリン症〔PCT〕、肝性骨髄性ポルフィリン症〔HEP〕、骨髄性プロトポルフィリン症〔EPP〕および、間欠期のHCPとVP)とに分けられる。AIP以外の急性ポルフィリン症は皮膚症状も呈し、皮膚ポルフィリン症でもある。また、EPPの症例で病因遺伝子がフェロキラターゼでは無く、ALAS2遺伝子の機能獲得型変異やALAS2の安定性を制御する蛋白ClpXの遺伝子異常が病因となった症例も近年報告されており、病因遺伝子異常は2種類増えた。図1 ヘム合成経路と異常症画像を拡大する■ 疫学報告は、本症の知見が高まった1966~1985年の間になされたものが大半であり、ここ10年間の報告はむしろ減少している。次第にありふれた疾患として認識されるようになり、報告が減ったと考えられ、実際はこれよりはるかに多い症例があるものと思われる。急性ポルフィリン症の半数以上がAIPで、ついでHCP、VPと続く。ADPはきわめてまれである。1980~1984年の全国調査ではポルフィリン症の有病率は、人口10万人対0.38人とされているが、その10倍との報告もある。厚生労働省遺伝性ポルフィリン症研究班による2009年の調査では、1年間の受療者は35.5人と推定されているが、欧州の発症率(5.2人/100万人)と同等として計算すると648人となることにより、わが国では多くの未診断症例が埋もれている可能性が高いと思われる。■ 病因ヘムは、生体内においては、主に骨髄と肝臓で合成されている。約70~80%のヘムは、骨髄の赤血球系細胞で合成され、グロビンに供給されヘモグロビンを形成する。残りは主に肝臓で合成され、シトクロムP450などのヘム蛋白の配合族として利用されている。ヘム合成経路の律速酵素は、第1番目の酵素であるALASであり、本酵素活性の増減が細胞内ヘム蛋白量を調整している。ALAS酵素活性は、最終産物であるヘムにより、肝臓ではネガティブフィードバックを受けており、ヘムの量は一定に保たれる。ALASの酵素活性は、ヘム合成経路で最も低い(したがって律速酵素たりうる)。ポルフィリン症の病因は、それ以外のヘム合成系酵素の活性が遺伝子異常により低下し、ALAS活性より低くなることで、本経路の異常が生じることである。ウロポルフィリン(UP)、コプロポルフィリン(CP)、プロトポルフィリン(PP)などのポルフィリンの蓄積が光線過敏性皮膚炎の病因であることは確定しているが、後に述べる急性発作(神経系の機能異常が病因)を引き起こす機序は未確定である。上流の基質であるポルフォビリノーゲン(PBG)、およびALAの増加を病因とする神経毒性前駆物質説、ならびに、ヘム蛋白やヘム酵素の機能低下を病因とするヘム欠乏説があり、どちらが主であるかの決定的なデータはいまだみられない。なお、最終産物であるヘムの低下は、ネガティブフィードバック機序を介してALASの酵素活性を増加させ、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況をさらに助長させる。したがって、この酵素活性のバランスに影響を与える何らかの誘因(薬物など)により、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況がわずかに増強されただけで、悪循環の過程を経て、急性に病状の悪化(急性発作)を生じる。誘因としては、外傷、感染症、ストレス、甲状腺ホルモン、妊娠、あるいは飢餓など(狭義の誘因)、バルビタール、サルファ薬などの誘発薬剤、ヘム合成系酵素を直接障害し、ヘム合成能力をヘムの需要量以下に低下させる(発症剤)、セドルミッド、グリセオフルビンなどが挙げられる。薬剤については、下記のウェブサイトに記載されているので参照していただきたい。The American Porphyria Foundation(APF)European Porphyria Network(EPNET)■ 症状1)急性ポルフィリン発作腹部症状、精神症状、神経症状(三徴)。急性腹症を思わせる腹部症状が初期にみられ、後にヒステリーを思わせるような精神症状を呈し、最後には四肢麻痺、球麻痺などの神経症状を呈し、死に至ることもある急性発作がみられる。このときみられる腹部症状に対応する器質的な異常は認められず、機能的異常によるものと考えられている。このように、病状の進行に応じて多彩な症候を呈するので、種々の間違った診断の下に治療されるケースが多い。(1)腹部症状:腹痛、嘔気、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満など(2)精神症状:不眠、不安、ヒステリー、恐怖感、興奮、傾眠、昏睡など(3)神経症状:四肢脱力、知覚異常、言語障害、嚥下(飲み込み)障害、呼吸障害など2)光線過敏性皮膚炎HCPおよびVPでは、光線過敏性皮膚炎がみられることもある。3)非発作時(間欠期)無症状■ 予後いったん発症すれば、死亡率は20%を超え、予後不良と考えられていた。これは、診断がつかないまま、バルビタールなどの使用禁忌薬やほかの誘因が重なって、病状が悪化した症例が多いことも原因であり、診断がつき、適切な治療が行われた場合、大半は完全に回復する。繰り返し発症する症例では、発症に対する不安神経症を呈することもあり、発症早期から適切な治療をすることが望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ヘム合成経路の酵素活性の低下は、その酵素による反応部位より上流の基質の増加と最終産物であるヘムの低下を引き起こす。したがって、増加した基質(ALAおよびPBG)や基質の代謝産物であるUPおよびCPなどを測定することにより、酵素異常の部位がわかる。臨床症状、検査値などを含め総合的に診断することが必要だが、検査値で考えると下に示した図2のフローチャートに従って検査を進めることになる。本症では、病因となる遺伝子異常を持っているが、いまだ発症していない人(潜在者)が少なからずみられる。その発症前診断には、上記のような代謝産物の測定および酵素活性の測定では不十分なことがあり、遺伝子診断が必要となることが多い。図2 急性ポルフィリン症診断のフローチャート画像を拡大する■ 検査成績(ポルフィリン関連)血中および尿中のPBG、ALA、ポルフィリンなどの値は、各種ポルフィリン症の病型に応じて異なるが、急性ポルフィリン症に共通する(まれな病型であるADPを除く)所見として尿中PBGの増加がある(定性的に調べる検査であるWatson-Schwartz法で陽性)。また、尿中ポルフィリンも増加し、肉眼的には特有のぶどう酒色(ポルフィリン尿)を呈する(10~30%の症例でみられる)。しかし、ADPやAIPでは、尿中ポルフィリンはあまり増加せず褐色調に留まることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性発作の予防誘因を避けるように指導することが大切である。飢餓が誘因となるので、十分な摂食をさせる(ダイエットは禁)。また、医療機関での薬剤投与に注意が必要となる。患者には使用可能薬剤の一覧などの携帯を勧める。月経に伴い急性発作を起こす症例では、LH-RHアナログを用いて、月経を止めることも効果がある。■ 発症時の治療1)グルコースを中心とした補液詳細な機序は不明だが、ALASの酵素活性を抑制し、急性発作を改善させるといわれている。わが国で、最も一般的に行われている治療法。インスリンを併用するとさらに効果が増す。2)ヘム製剤本薬剤はヘム製剤で、細胞内ヘムの上昇を引き起こし、ALASの酵素活性を抑え(ネガティブフィードバックにて)、ヘム合成系の相対的亢進を緩和させる。ポルフィリン症の治療としては、病態に則した治療法であり、欧米では40年来使用されており第一選択療法と位置づけられている。わが国では、2013(平成25)年8月、ヘミン(商品名:ノーモサング)が発売され、使用できるようになった。3)シメチジン作用機序は不明だが、ALAおよびPBGを減少させる効果がある。4)対症療法ポルフィリン症にみられる各種症候に対しては、下記のような対症療法が行われる。ここで大切なことは、使用禁止薬剤(誘因となる薬剤)を絶対に使用しないことである。(1)疼痛、腹痛には、クロルプロマジンおよび麻薬(2)不安、神経症には、クロナゼパム、クロルプロマジン(3)高血圧、頻脈には、ベータ遮断薬(4)抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)には、補液による電解質の補充■ 発作が頻回に起こるときの発作予防薬ギボシラン(商品名:ギブラーリ):ALAS1を標的としたsiRNA。ALAs1の発現を抑制し、急性発作の発症を予防することを目的とした薬剤。2019年に米国で承認され、わが国でも2021年に承認された。4 今後の展望ヘム製剤やギボシランが治療に使えることとなり、国際標準に追いついたと言える。また、これら治療薬は高額だが、難病指定もなされ医療費補助もあり、治療は円滑に行える。しかし、確定診断の補助となる遺伝子解析が保険収載されておらず、これが認められると診断の精度が高まるので、現在、保険収載を要望中である。5 主たる診療科内科では代謝内科、消化器内科、神経内科。皮膚症状に対しては皮膚科。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ポルフィリン症相談(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国ポルフィリン代謝障害友の会「さくら友の会」(患者と患者家族の会)1)大門 真.ポルフィリン症.In:矢崎義雄編.内科学.第11版.朝倉書店;2017. p.1815-1820.2)大門 真. ポルフィリン症の診断と分類. In: 岡庭 豊ほか編. year note 内科・外科等編 2010年版. 第19版. メディックメディア; 2009. p.719-729.3)難病情報センター ポルフィリン症(2022年1月17日アクセス)公開履歴初回2013年09月05日更新2022年01月20日

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継続の必要性を評価してトラマドールカスケードを解決【うまくいく!処方提案プラクティス】第44回

 今回は、トラマドールの漫然服用に疑問を持ち、情報収集やモニタリングを行い、減薬につなげた事例を紹介します。トラマドールは弱オピオイドとしてオピオイド受容体に作用するものの、医療用麻薬としての規制を受けないことから、強い鎮痛効果を期待して整形外科や歯科領域で汎用されています。長期継続されている場合もあるため、処方目的や治療効果などから薬剤師の視点でも継続の必要性を評価する必要があります。患者情報70歳、女性(施設入居)基礎疾患高血圧症、認知症、過活動膀胱介護度要介護2服薬管理施設職員処方内容1.トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 3錠 分3 毎食後2.ドンペリドン錠10mg 3錠 分3 毎食後3.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後4.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1C 分1 朝食後5.ソリフェナシン錠5mg 1錠 分1 朝食後6.ドネペジル錠5mg 1錠 分1 朝食後7.ゾルピデム錠5mg 1錠 分1 就寝前本症例のポイントこの患者さんは、施設入居前からトラマドール・アセトアミノフェン配合錠を服用していました。初回の訪問診療に同行した際、鎮痛効果の評価のため、どこが痛むのか確認しました。しかし、とくに痛みの訴えはなく、体動時や就寝中の痛みもないことから、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の継続の必要性に疑問が湧きました。施設看護師に確認しても、入居時の申し送りでは触れられなかったそうでわかりませんでした。一方で、患者さんも施設スタッフも服薬する錠数が多くて負担になっていることを聞き取ることができました。さらに気になったことは、制吐薬のドンペリドンも同様に継続されていることでした。トラマドール導入時に嘔気対策として追加されたと推測できますが、お薬手帳を見ると半年以上も処方されていました。トラマドールの副作用である嘔気は数日程度で耐性ができて軽減するため、多くの場合は1~2週間で減量・中止に至ります。また、このまま継続した場合、ドパミン受容体遮断作用の弊害である錐体外路症状(薬剤性パーキンソニズム)や内分泌調節異常などのリスクも懸念されます。そこで、処方契機を調べるため、施設で保管されている診療情報提供書や退院時サマリー、多職種情報共有シート(フェイスシート)などを調査しました。過去の診療情報提供書によれば、約1年前に腰椎圧迫骨折の既往があり、手術後の疼痛コントロールを目的としてトラマドール・アセトアミノフェン配合錠が開始され、退院後は近医でそのまま継続されていたことがわかりました。処方提案と経過手術は1年以上前で経過もよく、現時点では痛みの訴えもないことから、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の中止は可能ではないかと考え、後日の訪問診療後に、医師にトラマドール・アセトアミノフェン配合錠からアセトアミノフェン単剤(900mg/日)への切り替えを提案しました。それに合わせてドンペリドンの中止も相談したところ、両方とも承認を得ることができました。その後、処方変更後の疼痛悪化や嘔気はなく、不安や不眠などの退薬症候の出現などもありませんでした。そのため、アセトアミノフェンを600mg/日(分2、朝夕食後)→300mg/日(分1、朝食後)と徐々に減らし、最終的に中止することを提案して、そのように処方調整していくことになりました。疼痛の出現などの評価は施設看護師にお願いしましたが、とくに問題はなく、患者さんは鎮痛薬から卒業することができました。今回の事例ではうまく減薬ができましたが、長期継続薬を減薬する際は、治療効果や中止の可否を評価するために、薬剤師から医師および多職種への積極的な介入が必要だと感じました。

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患者さんへの経過説明に、使えるこのグラフ【非専門医のための緩和ケアTips】第19回

第19回 患者さんへの経過説明に、使えるこのグラフ今日の質問外来の進行がん患者さん。今のところ、内服オピオイドで疼痛を調整できていますが、徐々にADLが低下しています。いずれは在宅での緩和ケアも提供したいのですが、本人はもちろん、家族も今後の経過をイメージできていないようです。先行きを心配されているので、話し合いのよいタイミングだと思うのですが、どうすればうまく伝えられるでしょうか?今回頂いたご質問ですが、質問者の方が非常に丁寧に診療されていることが伝わりますね。おそらく、患者さんはもちろん、ご家族とも信頼関係を築けているからこそ、今が話し合いのタイミングだと判断されたのでしょう。緩和ケアの実践において、先行き予測と関係者との共有は大切です。将来の病状の変化に備えて、早めに準備することは大切ですからね。そのために必要な緩和ケア知識として、「病みの軌跡」を紹介しましょう。「病みの軌跡」は患者さんの疾患の進行に伴い、どのような時間経過で身体機能が低下するかを示したグラフです。2005年にBritish Medical Journal誌で発表された論文1)が基になっています。疾患ごとに経過は大きく異なりますが、今回の患者さんはがんの「病みの軌跡」が当てはまります。図:がんの「病みの軌跡」原著論文を基に筆者作成これを見ると、がん(悪性疾患)は初期から中期は比較的身体機能が保たれていますが、亡くなるタイミングが近づくにつれ、急激に身体機能が低下することがわかります。急な容態変化を経て寝たきりとなり、亡くなるがん患者さんを診た経験のある方も多いのではないでしょうか?私自身、診療の中で、患者さんやご家族にこのグラフを見せることがあります。もちろん、しっかり受け止められるコンディションと評価した相手に対し、伝え方にも配慮したうえでです。本人もご家族もゆっくり身体機能が低下する時期を経験しているので、そうした経過がずっと続くように感じています。そのため、私はよく「テレビで有名な方ががんで亡くなったとき、1ヵ月前くらいにテレビに出たりしているので突然亡くなったように感じますよね。でも、このグラフにあるように、がんは体力が落ちてから亡くなるまでの経過が早い病気なんです。だから、少し早めに感じるくらいのタイミングで先々の準備や心構えができるよう、お声掛けをさせてくださいね」といったように説明しています。イメージを共有する際、ビジュアルは非常に有効です。「病みの軌跡」を使って丁寧なコミュニケーションを図っていただければと思います。今回のTips今回のTips「病みの軌跡」のグラフを使うと、患者さんへの説明がラクになる。1)Murray SA, et al. BMJ. 2005;330:1007-1011.

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新型コロナの後遺症、入院患者と自宅療養者で違い/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症での一般診療医(GP)受診率について、COVID-19で入院を要した患者(入院患者)と入院を必要とせずコミュニティで療養した患者(コミュニティ療養者)で差があることを、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのHannah R. Whittaker氏らがイングランド住民を対象としたコホート研究で明らかにした。コミュニティ療養者では、時間の経過とともに受診率が低下する後遺症もあったが、不安や抑うつなど受診が継続している後遺症があり、ワクチン接種後に受診率の低下が認められる後遺症があることも明らかにされた。これまでいくつかの観察研究で、COVID-19回復後の持続的な症状および新たな臓器機能障害は報告されているが、それらは主に重篤症状の入院患者でみられたもので、コミュニティ療養者の長期アウトカムを比較した研究はごくわずかで、いずれも小規模で選択バイアスの掛かったものであった。また、大規模な住民ベースのコホート研究での経時的評価やCOVID-19ワクチン接種後のアウトカムの評価も行われていなかった。BMJ誌2021年12月29日号掲載の報告。イングランドのCOVID-19後遺症によるGP受診率を調査 研究グループは、COVID-19入院患者とコミュニティ療養者の急性期症状回復後の後遺症でのGP受診率を調べるとともに、コミュニティ療養者の受診率の経時的変化およびワクチン接種後の受診率の変化を調べた。データソースとして、イングランドのGP 1,392人が寄与する臨床診療研究データリンク(Clinical Practice Research Datalink Aurum[CPRD Aurum])を用いた。 対象者は、2020年8月1日~2021年2月14日にCOVID-19と診断された45万6,002例(男性44.7%、年齢中央値61歳)。診断後、2週間以内に入院した患者(1万8,059例)もしくはコミュニティ療養を受けた患者(43万7,943例)で、フォローアップ期間は最長9.2ヵ月であった。解析では、非COVID-19患者からなるネガティブ対照群(3万8,511例)と、パンデミック前のインフルエンザ患者のコホート群(2万1,803例)も設定し評価が行われた。 主要アウトカムは、新規の症状、疾患、処方および医療サービス利用を目的としたGP受診率で、入院患者vs.コミュニティ療養者、感染前vs.感染後とそれぞれ比較した。医療サービス利用についてはCox回帰法および負の二項回帰法を用いた。 解析は、ネガティブ対照群とインフルエンザ患者群と順次実施。コミュニティ療養者については、COVD-19診断後のアウトカムを経時的に記録し、さらに、負の二項回帰法を用いて、COVID-19後の症状を有した療養者についてワクチン接種前後の比較も行った。コミュニティ療養者は嗅覚・味覚障害が、入院患者は静脈血栓塞栓症が最も高頻度 ネガティブ対照群およびインフルエンザ患者群と比較して、コミュニティ療養者群、入院患者群ともに、複数の後遺症でのGP受診率が有意に高率であった。 コミュニティ療養者群のGP受診で、感染前の12ヵ月間と比べて最も頻度が高かったのは、嗅覚または味覚もしくは両方の障害(補正後ハザード比[HR]:5.28、95%信頼区間[CI]:3.89~7.17、p<0.001)、静脈血栓塞栓症(3.35、2.87~3.91、p<0.001)、肺線維症(2.41、1.37~4.25、p=0.002)、筋肉痛(1.89、1.63~2.20、p<0.001)。また、COVID-19診断後の医療サービス利用の増大も認められた(1.15、1.14~1.15、p<0.001)。COVID-19診断後4週以上で最も頻度の高かったアウトカム(絶対発生率)は、関節痛(2.5%)、不安症(1.2%)、そしてNSAIDの処方(1.2%)であった。 入院患者群のGP受診で、感染前の12ヵ月間と比べて最も頻度が高かったのは、静脈血栓塞栓症(補正後HR:16.21、95%CI:11.28~23.31、p<0.001)、悪心(4.64、2.24~9.21、p<0.001)、パラセタモールの処方(3.68、2.86~4.74、p<0.001)、腎不全(3.42、2.67~4.38、p<0.001)。また、COVID-19診断後の医療サービス利用の増大も認められた(発生率比:1.68、95%CI:1.64~1.73、p<0.001)。COVID-19診断後4週以上で最も頻度の高かったアウトカム(絶対発生率)は、静脈血栓塞栓症(3.5%)、関節痛(2.7%)、および息切れ(2.8%)であった。 コミュニティ療養者群では、不安や抑うつ、腹痛、下痢、全身疼痛、悪心、胸部圧迫感、耳鳴での受診が、フォローアップ期間中継続して認められた。また、コミュニティ療養者群ではワクチン接種前と比べて1回目のワクチン接種後に、神経障害性疼痛、認知障害、強オピオイドおよびパラセタモール使用を除き、すべての症状、処方、医療サービス利用についてGP受診率の低下が認められた。虚血性心疾患、喘息、胃・食道疾患についてもGP受診率の低下がみられた。

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英語で「痛みに強い」は?【1分★医療英語】第10回

第10回 英語で「痛みに強い」は?I see you are in pain.(痛みがありそうですね)Yes, it’s really bad. I have a high pain threshold.(はい、とてもひどい痛みです。痛みに強いほうなのですが)《例文1》He has a really high pain threshold.(彼は非常に痛みに強いです)《例文2》She said her pain was 20 out of 10. She may have a low pain threshold.(痛みは10点満点中20点だそうです。彼女は痛みに弱いのかもしれません)《解説》“threshold”は「閾値」を意味する単語で、“pain threshold”は「痛みの閾値」という意味になります。“high pain threshold”は「痛みの閾値が高い」、つまり「痛みに強い」という意味です。似た表現に“tolerance”というものもあり、同じく「閾値」を意味します。厳密には“threshold”は「痛みを感じ始める境界」を指し、“tolerance”は「何とか我慢できる痛みの境界」を指しますが、いずれも同じような文脈で使われます。「痛みの閾値」は人それぞれですが、米国では患者の人種的・文化的な背景がさまざまで、日本よりもさらに個人差が大きい印象です。日本では麻酔なしで行われる手技が全身麻酔で行われたり、オピオイドの処方のハードルが低かったりと、臨床現場では痛みに対するアプローチの違いが見受けられます。講師紹介

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第93回 サイケデリック薬による精神疾患治療の開発が去年大いに前進

いわゆる麻薬の類・サイケデリック薬のものの見方を変えさせる作用が精神疾患の治療に役立つのではないかと期待されてきましたが、その効果を示した説得力のある試験はここ最近までほとんどありませんでした1)。しかし昨春2021年5月に発表された第III相試験でエクスタシーとして知られるMDMAの心的外傷後ストレス障害(PTSD)治療効果が示され、サイケデリック薬による精神疾患治療の開発は昨年大いに前進しました。俳優の沢尻エリカ氏や押尾学氏の事件で広く報じられたMDMAは主に神経のシナプス前セロトニン輸送体への結合を介してセロトニン放出を誘発します2)。MDMAは恐怖記憶の解消を促して社交的な振る舞いを支えること等が動物実験で示されています。また、合計105人が参加した6つのプラセボ対照第II相試験をまとめて解析したところMDMAを利用した治療を受けた患者の半数超(54.2%)がPTSD診断基準を脱していました3)。そして去年発表された第III相試験では42人のうち7割近い28人(67%)がMDMA投与込みの治療でPTSD診断基準を脱していました2)。プラセボ投与群37人でのその割合はMDMA使用群の半分以下の32%(12人)でした。非常に有望な結果ですがその効果の判定には注意が必要なようです。MDMAの明確な向精神作用は患者の期待感に影響を及ぼすかもしれず、そういう期待感を治療の一部として受け入れるとするなら効果の評価を根本的に見直す必要があるだろうとの見解をトロント大学の精神/神経専門家は最近のNature Medicine誌に寄稿しています1,4)。ともあれMDMAやその他のサイケデリック薬によるうつ病、不安症、依存などの精神疾患治療の検討は企業でも研究機関でも盛んになっています。2ヵ月ほど前の昨年11月初めには、マジックマッシュルームの成分として有名なサイロシビン(シロシビン;psilocybin)のうつ病治療効果が被験者数233人の無作為化試験で示されたことを英国ロンドンの企業COMPASS Pathwaysが発表しています5)。同社はさらに大規模な試験を計画しています。また、PTSDへのMDMAのもう1つの第III相試験が進行中であり、開発を担う非営利組織Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies(MAPS)は来年2023年にその治療が米国FDA承認に漕ぎ着けることを目指しています6)。参考1)A psychedelic PTSD remedy / Science2)Mitchell JM, et al. Nat Med. 2021 Jun;27:1025-1033.3)Mithoefer MC,et al.. Psychopharmacology.2019 Sep;236:2735-2745.4)Burke MJ, et al. Nat Med. 2021 Oct;27:1687-1688.5)COMPASS Pathways announces positive topline results from groundbreaking phase IIb trial of investigational COMP360 psilocybin therapy for treatment-resistant depression / globenewswire6)MAPS’ Phase 3 Trial of MDMA-Assisted Therapy for PTSD Achieves Successful Results for Patients with Severe, Chronic PTSD / MAP

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多くの医師が必要な「緩和ケア」、効率的に学ぶならこの動画!【非専門医のための緩和ケアTips】第17回

第17回 多くの医師が必要な「緩和ケア」、効率的に学ぶならこの動画!今日の質問私のクリニックでは高齢者が多く、自宅や施設への訪問診療も増えてきました。オピオイドなどの薬の使い方だけでなく、コミュニケーションや多職種アプローチなど、幅広く勉強する必要性を感じます。本などで勉強するべきなのでしょうが、忙しさが言い訳になってなかなか進みません。何か良い方法はないでしょうか?忙しい臨床業務の合間で勉強するのって、本当に大変ですよね。学生時代の「勉強し放題」の環境は二度と戻ってきません。失ってから気付く時間の大切さ…。でも打ちひしがれている時間はありません。過去を悔やまず、今を生きましょう(大げさ)。新しい医学領域である「緩和ケア」。多くの医師が関わる分野であるにもかかわらず、体系立てて学んだことのある方は限られています。若手や開業医の方にお勧めしたい、コスパの良い学習方法を紹介します。さまざまな学び方がある中で、近年はオンデマンド動画や音声でのインプット手段が増えています。とくに他のことをしながらでも活用できる「オーディオブック」は私も重宝しています。緩和ケア分野で最も会員数の多い学術団体に日本緩和医療学会があります。2021年11月1日時点で、1万2,177名の会員がいます。日本緩和医療学会では緩和ケアの教育機会の提供を目的としたセミナーが定期的に開催されています。その中の「教育セミナー」は緩和医療に関する能力の向上と生涯学習を目的に年2回開催され、学会員でなくても受講することができます。以前は各地で開催されていましたが、現在はオンライン開催となっており、費用は1回6,000円(非会員の場合)です。1回のセミナーで45分程度の講演が7本公開されます。執筆時点で直近となる「第31回教育セミナー」の内容は以下の通りでした。1)がん患者の不安・抑うつ・不眠2)緩和ケア病棟における臨床宗教師の活動3)がんゲノム医療における遺伝カウンセリング4)緩和医療における法的・倫理的問題へのアプロー5)ポリファーマシーとの上手な付き合い方6)難渋する痛み―私たちは評価者たりうるのか7)慢性呼吸器疾患の緩和ケアこうしてみると緩和ケアに関してかなり幅広い話題を取り扱っていることがおわかりいただけると思います。緩和ケアを深く学びたい方は、ぜひ学会員になりましょう。その理由は、会員は教育セミナーのアーカイブ動画を見ることができるからです! 私はお昼休憩に、食事をしながらこのアーカイブを見ています。時間的にも45分なのでちょうどいいんですよね。勉強のために新たな時間を捻出するのが難しい方も多いはずですが、こうした「ながら勉強」をうまく活用するのは、1つの方法だと思います。学会員になると年会費が必要ですが、緩和ケアの本を3、4冊買って自分で勉強することを思えば、意外とお得という考え方もできるかと思います。次回の教育セミナーは2022年1月30日(日)に開催予定です。オンラインで開催されますので、まだ参加したことのない方はぜひお試しください。今回のTips今回のTips非専門医が効率的に緩和ケアを学ぶには、日本緩和医療学会の「教育セミナー」がお勧め!

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非がん性疼痛に対するオピオイド処方、注射薬物使用との関連は?/BMJ

 非がん性疼痛に対し慢性的にオピオイド薬の処方を受けている人において、注射薬物の使用(injection drug use:IDU)を始める割合は全体ではまれであるが(5年以内で3~4%)、オピオイド未使用者と比較すると約8倍であった。カナダ・ブリティッシュコロンビア疾病管理センターのJames Wilton氏らが、カナダの行政データを用いた大規模後ろ向きコホート研究の解析結果を報告した。オピオイド処方と違法薬物または注射薬物の使用開始との関連性については、これまで観察研究などが数件あるが、大規模な追跡研究はほとんどなかった。著者は、「今回の研究で得られた知見は、IDUの開始やそれに伴う2次的な害を防止する戦略や政策に役立つと考えられるが、長期処方オピオイド治療の不適切な減量や中止の理由にしてはならない」とまとめている。BMJ誌2021年11月18日号掲載の報告。約170万人のデータから、オピオイド使用者を特定、注射薬物開始との関連を解析 研究グループは、British Columbia Hepatitis Testers Cohortとして知られている大規模な行政データ、Integrated Data and Evaluative Analytics(IDEAs)を用いてデータを解析した。IDEAsのコホートには、1992~2015年にブリティッシュコロンビア州でC型肝炎ウイルスまたはHIVの検査を受けた約170万人が含まれ、これらのデータは、医療機関の受診、入院、救急受診、がんの診断、死亡、および薬局での調剤のデータと連携している。 解析対象は、ベースライン時に物質使用歴(アルコールを除く)のない11~65歳の人で、2000~15年における非がん性疼痛に対する処方オピオイド使用の全エピソードを特定した。エピソードは、オピオイド処方の開始から終了までを、薬剤が提供されない期間が前後6ヵ月間ある場合と定義し、エピソード内の処方日数やその日数の割合によってエピソードを分類した(急性:エピソード期間<90日、一過性:エピソード期間が≧90日で処方日数が90日未満および/または処方日数の割合が50%未満、慢性:エピソード期間が≧90日で処方日数が90日以上および/または処方日数の割合が50%以上)。社会経済的変数に基づき、慢性、一過性、急性、およびオピオイド未使用者を1対1対1対1の割合でマッチングした。 IDU開始は、1年以内に、(1)注射薬物の使用に関連する問題(オピオイド、コカイン、アンフェタミンまたはベンゾジアゼピンに対する依存に関する診断コードなど)のエビデンスがある、(2)注射関連感染症の可能性の診断、の2つが認められた場合と定義し、特異性が高く妥当性のある管理アルゴリズムによって特定した。 オピオイド使用分類(慢性、一過性、急性、未使用)とIDU開始との関連性は、逆確率治療重み付け(IPTW)法によるCoxモデルを用いて評価した。解析対象は約6万人、慢性的なオピオイド処方は注射薬物使用のリスクが高い マッチングコホートには計5万9,804例(オピオイド使用分類それぞれ1万4,951例)が組み込まれた。追跡調査期間中央値5.8年において、1,149例でIDU開始が認められた。IDU開始の5年累積確率は、オピオイド使用分類が慢性(4.0%)で最も高く、次いで一過性(1.3%)、急性(0.7%)、オピオイド未使用(0.4%)の順であった。IDU開始リスクは、オピオイド使用分類が未使用に対して、慢性の場合、8.4倍上昇した(95%信頼区間[CI]:6.4~10.9)。 慢性疼痛歴のある人に限定した感度分析では、オピオイド使用分類が慢性の場合、IDU開始のリスクは主解析結果より低下したが(5年以内で3.4%)、相対リスクは低下しなかった(ハザード比:9.7、95%CI:6.5~14.5)。 IDU開始は、オピオイド投与量が多いほど、また、年齢が若いほど、高頻度であった。

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非がん性疼痛へのトラマドール、コデインより死亡リスク高い?/JAMA

 欧米では、非がん性慢性疼痛の治療にトラマドールが使用される機会が増えているが、安全性を他のオピオイドと比較した研究はほとんどないという。英国・オックスフォード大学のJunqing Xie氏らは、トラマドールの新規処方調剤はコデインと比較して、全死因死亡や心血管イベント、骨折のリスクを上昇させることを示した。便秘やせん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害には両薬で差はなかった。研究の成果は、JAMA誌2021年10月19日号に掲載された。スペインの後ろ向きコホート研究 研究グループは、外来で使用されるトラマドールとコデインについて、死亡および他の有害なアウトカムの発生状況を比較する目的で、人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した(IDIAP Jordi Gol Foundationの助成を受けた)。 解析には、System for the Development of Research in Primary Care(SIDIAP)のデータが用いられた。SIDIAPは、スペイン・カタルーニャ地方(人口約600万人)の人口の80%以上を対象とし、匿名化したうえで日常的に収集される医療・調剤の記録が登録されたプライマリケアのデータベースである。 対象は、年齢18歳以上で、1年以上のデータがあり、2007~17年の期間にトラマドールまたはコデインが新規に調剤された患者であった。両薬が同じ日に調剤された患者は除外された。 評価項目は、初回調剤から1年以内の全死因死亡、心血管イベント(脳卒中、不整脈、心筋梗塞、心不全)、骨折(大腿骨近位部、脊椎、その他)、便秘、せん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害とされた。解析の対象は、傾向スコアマッチング法で選出された。また、原因別Cox比例ハザード回帰モデルで、絶対発生率差(ARD)とハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)が算出された。若年患者で死亡の、女性で心血管イベントのリスクが高い 109万3,064例が登録され、このうち32万6,921例がトラマドール群、76万2,492例がコデイン群であり、3,651例は両方の薬剤が調剤されていた。傾向スコアマッチング法で選出された36万8,960例(両群18万4,480例ずつ、平均年齢53.1歳、女性57.3%)が解析に含まれた。 トラマドール群はコデイン群に比べ、1年後の全死因死亡(発生率:13.00 vs.5.61/1,000人年、HR:2.31[95%CI:2.08~2.56]、ARD:7.37[95%CI:6.09~8.78]/1,000人年)、心血管イベント(10.03 vs.8.67/1,000人年、1.15[1.05~1.27]、1.36[0.45~2.36]/1,000人年)、骨折(12.26 vs.8.13/1,000人年、1.50[1.37~1.65]、4.10[3.02~5.29]/1,000人年)のリスクが有意に高かった。 便秘(発生率:6.98 vs.6.41/1,000人年)、せん妄(0.21 vs.0.20/1,000人年)、転倒(2.75 vs.2.32/1,000人年)、オピオイド乱用/依存(0.12 vs.0.06/1,000人年)、睡眠障害(2.22 vs.2.08/1,000人年)には両群に差はみられなかった。 トラマドールによる死亡リスクの上昇は、若年患者(18~39歳)が高齢患者(60歳以上)に比べて大きかった(HR:3.14[95%CI:1.82~5.41]vs.2.39[2.20~2.60]、pinteraction<0.001)。心血管イベントのリスク上昇は、女性が男性よりも大きかった(1.32[1.19~1.46]vs.1.03[0.93~1.13]、pinteraction<0.001)。また、併存疾患が最も多い患者(チャールソン併存疾患指数[CCI]≧3点)は最も少ない患者(CCI=0点)に比べ、骨折のリスクの上昇が大きかった(HR:2.20[95%CI:1.57~3.09]vs.1.47[1.35~1.59]、pinteraction=0.004)。 著者は、「未評価の交絡因子が残存している可能性があるため、これらの知見の解釈には注意を要する」としている。

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副作用の説明にこんな工夫【非専門医のための緩和ケアTips】第14回

第14回 副作用の説明にこんな工夫患者さんに新しい薬を処方するとき、いつも以上に慎重な説明が求められますよね。とくに副作用についてはしっかりと説明しておかないと、後から「聞いてなかった!」なんてクレームにもなりかねません。今回はそんな副作用の説明についてです。今日の質問外来でフォロー中の進行がん患者さん。腫瘍が増大傾向で現在の鎮痛薬では効果不十分と判断してオピオイドを勧めました。眠気、吐き気、便秘といった副作用を説明したところ顔を曇らせ、「そんなに副作用がある薬は飲みたくないです」と拒否されてしまいました。副作用を伝えないわけにはいかないと思いますが、どうすればよかったのでしょうか?今回のご質問も緩和ケアの実践ではよくあるテーマですね。まずはこういった病状の方の外来診療をしっかりされていることや、地域の診療所で緩和ケアが届けられるようご尽力いただいていることに感謝を申し上げたいと思います。さて、この「しっかり説明すると不安にさせてしまう」という問題、なかなか難しいのですが、工夫の余地はありそうです。人にはそれぞれ「バイアス」が存在します。何かをやった結果としての「良いこと」と「悪いこと」を比較すると、悪いことの影響のほうを大きく感じることが知られています。行動経済学ではこういった特性を「損失回避」という言葉で説明しています。「人は何かしたせいで良くないことが起きることを嫌う傾向が強い」というわけです。処方の時点で、医師としては使用するメリットが副作用のデメリットよりも大きいと判断しているわけです。医師側は自明と思いがちですが、その点をあらためて患者さんに伝えましょう。「メリット」と「デメリット」の説明量を同じにすると患者さんはデメリットのほうを強く感じます。まして、「後々にトラブルにならないよう、副作用についてしっかり説明した」といった説明量のバランスであれば、おそらく患者さんを「めちゃくちゃビビらせる」説明になっていることでしょう。ではどうすればよいか、具体例を少し考えてみましょう。「今の症状に対して、オピオイドを使用したほうがいいと思います(=明確に言い切る)。症状に悩まされる時間が少なくなるはずです(=メリットを先に)。人によっては眠気や吐き気といった症状が出ることがありますが(=デメリットを事実ベースで)、予防薬もあるので安心してください。便秘が続く場合も便秘薬を調整しながら経過を見ます(=デメリットにも対処できる)。今の症状を減らすことで、ご自宅でより過ごしやすく、夜も眠りやすくなると思うので、試してみませんか?(=再びメリットを伝えたうえで、最終判断は委ねるというトーン)」いかがでしょう? 私もまだまだ試行錯誤中なので、皆さんの工夫もぜひ教えていただければと思います。今回のTips今回のTips薬剤の説明はメリットを先に。副作用などのデメリットも共有しつつ、安心感が伝わるコミュニケーションを工夫しよう。

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提案した治療を拒否された…【非専門医のための緩和ケアTips】第13回

第13回 提案した治療を拒否された…入院と違って短時間でさまざまな患者さんの健康問題への対応が求められる外来診療。時折、医療者が勧める治療法を受け入れない患者さんがいますよね。医師としてはちょっと「イラッ」としてしまうこんな場面に役立つ、緩和ケア的なアプローチはあるのでしょうか?今日の質問乳がんの患者さん。地域の基幹病院と私の診療所に通院し、私は主に支持療法を提供しています。ご本人から「痛み(がん疼痛)が強くなってきて、もう少し和らげたい」とあったので少量の経口オピオイドを勧めたのですが、説明後には「痛み止めはまだ飲みたくありません」と言います。丁寧に説明した後にそう言われると、ちょっとがっくりしてしまいます…。今回のご質問、心中穏やかでないようですね。私も以前はよくこの方と同じ気持ちになっていました。患者さんの困り事に対し、しっかり検討したうえで提案したにもかかわらず、受け入れてもらえないという状況は緩和ケアの場でもしばしば経験します。先日、医療コミュニケーションの復習をしていて、米国の緩和ケアに関する情報サイトを見たところ、まったく同じトピックを扱っていました。われわれを悩ませるこの問題は万国共通のようです。ここでは、ともすると忘れがちな「大前提」があります。それは「判断能力のある成人は、医学的には妥当で有益であっても、その治療を拒否する権利がある」ということです。言われてみれば当たり前ですが、私たち医療者は無意識下に「患者さんは指導には従うべき!」といった認識を抱いています。そんな気持ちに駆られると、医師の言うことを聞くのが「良い患者」、聞かないのは「悪い患者」といった感覚に陥りがちです。ここはその時々で振り返りたいところです。さて、推奨する治療を拒否する患者さんに遭遇したとき、相手が「状況や内容を理解できていない」ために拒否的な態度なのか、「理解したうえで、あえて選択しない」のかを見極めることが大切です。「状況や内容を理解できていない」のであれば、より伝わる方法を考え、意思決定を支援するご家族とやり取りすることが重要です。私たちが多く接する高齢の患者さんも、こうした配慮が必要なことがよくあります。具体的な工夫としては、「説明する情報を最小限にする」「ポイントを書きながら伝える」「時間を置いて看護師から理解を確認する」などが挙げられます。一方、「理解したうえで、あえて選択しない」のであれば、そこに何か理由があるはずです。そして、その理由に合わせた代替案を提案するアプローチが大切です。ここでは、「ああ、そんなふうに思われているんですね。それはどうしてですか?」と共感を示しつつ、探索的なコミュニケーションを取ることが効果を発揮します。たとえばこんな感じです。医師「『薬を使いたくない』とのことですが、気になっていることを教えてもらえませんか?」患者「薬に頼ると、病気に負けてしまう気がするのですよね…」医師「そんなふうに感じるのですね。そんなふうに感じるようになった経験があったのでしょうか? よかったら、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」相手の懸念を深堀りしたうえで、頭ごなしに否定や説得するような態度にならないよう、留意して対話します。いかがでしょう? 探索的なコミュニケーションや相手の理解をアセスメントするといった緩和ケア的アプローチを、ぜひ臨床の場で活用してください。今回のTips今回のTips治療を拒否されたら、「状況や内容を理解できていない」のか、「理解したうえで、あえて選択しない」のかを見極め、次のアクションにつなげましょう。

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従業員であっても「処方箋なしで処方箋医薬品を販売」で業務停止【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第77回

先月、従業員に対して処方箋なしで処方箋医薬品を販売したことで、富山県の薬局が行政処分を受けました。この2年くらいで同様の違反に対する処分が立て続けに起こっていますので紹介したいと思います。富山県は9月21日、医薬品医療機器等法に基づき、調剤薬局を手掛けるビッグライム(富山市)に対し、同社が運営する「ハート薬局滑川店」(富山県滑川市)の業務停止を命じたと発表した。業務停止は24日から10月7日までの14日間となる。県によると、同店では処方箋の交付を受けていない従業員に処方箋医薬品を販売するなどしていたという。ビッグライムは県内で10店の調剤薬局を運営している。(日本経済新聞 2021年9月22日付)富山県のホームページにおいて、行政処分の理由が掲載されています。1.上記薬局において、医師などから処方箋の交付を受けていない従業員に対して、正当な理由なく、処方箋医薬品を販売した。(薬機法第49条第1項違反)2.上記薬局において、薬局医薬品の販売にあたり、必要事項の書面への記載を怠った。(薬機法第9条第1項の規定に基づく法施行規則第14条第3項違反)3.上記薬局において、向精神薬処方箋を所持する者以外の者に対して、向精神薬を譲り渡した。(麻薬及び向精神薬取締法第50条の16第4項違反)4.上記薬局の管理薬剤師は、処方箋の交付を受けていない者に対して処方箋医薬品を販売するなど管理者の義務を怠った。(薬機法第8条第1項違反)富山県では2020年9月にも別の薬局チェーンで同じような不正販売が明らかになり、複数の薬局の行政処分が行われました。これを踏まえて調査を強化したのだと思われますが、2020年10月に中部厚生センターの薬事監視員がハート薬局に定期立ち入り調査を実施したところ、従業員に対して処方箋なしで処方箋医薬品を販売していたことが明らかになりました。その後の県と警察の合同調査で、薬局の事務員に対して抗菌薬や抗アレルギー薬を、薬剤師に対して向精神薬を販売していたことが判明しました。なお、これらの薬剤はすべて自らが使用する目的だったとのことで、一般の方への譲渡はなく、健康被害も確認されていないとのことです。実は、富山県だけではなく、今年の3月には三重県の薬剤師会が運営する薬局でも同様の違反で行政処分が行われています。従業員への処方箋医薬品の販売はしばしば聞くため、おそらく悪気なくやっているのだと思います。依頼が断りにくい、使用方法や副作用をよく知っている、廃棄するよりはまし…などの理由があるのかもしれませんが、だめなものはだめです。開設者だけでなく、開設者に意見を申し立てる義務のある管理薬剤師が責務を果たしていないことも行政処分の理由になっています。薬局や従業員が違法であるという認識が低く、行政側は簡単に調査できる内容であるため、今後も調査が強化されるのだろうと推察します。「薬局で働いたら処方箋医薬品が入手できる」などのうわさが立たぬよう、薬局内であっても処方箋医薬品を処方箋なしで販売しては違法だということをいま一度確認してほしいと思います。もしこのような慣例があるとすれば、この行政処分の事例を共有して断ち切りましょう。参考1)富山県|薬局開設者に対する行政処分(業務停止)について(pref.toyama.jp)2)三重県|薬局開設者に対する行政処分について(pref.mie.lg.jp)

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うつ病患者の自殺リスク予測因子

 自殺の原因はさまざまであり、自殺リスクのある人を正確に特定することは困難である。米国・ボストン大学のTammy Jiang氏らは、機械学習を用いて、うつ病患者の自殺予測を試みた。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2021年8月11日号の報告。 本研究は、1995~2015年にデンマークにおいて実施されたケースコホート研究である。対象は、デンマークで自殺により死亡したすべてのうつ病患者2,774例。比較サブコホートは、ベースライン時のデンマーク人の5%ランダムサンプルであり、研究期間中にうつ病と診断された患者1万1,963例。自殺予測には、決定木およびランダムフォレストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・うつ病男性では、他の解熱鎮痛薬の使用(アセトアミノフェンなどの非オピオイド鎮痛薬)、催眠鎮静薬の使用、中毒症と診断された患者において自殺リスクが高かった(96例、リスク:81%)。・うつ病女性では、他の解熱鎮痛薬、抗不安薬、催眠鎮静薬が使用された患者で自殺リスクが高かったが、中毒症や脳血管疾患と診断された患者では関連が認められなかった(338例、リスク:58%)。 著者らは「精神障害とそれに関連する薬物療法は、自殺リスクとの関連が示唆された。とくに、慢性疼痛や疾患治療に用いられる抗炎症薬(アセトアミノフェンなど)の使用は、うつ病患者の自殺リスクとの関連が認められた」とし「機械学習は、自殺による死亡を予測する精度を向上させる可能性がある」としている。

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便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る【Dr.山中の攻める!問診3step】第6回

第6回 便秘からがんを疑うアラームサインを読み取る―Key Point―大腸がんを疑うアラームサインに注意しよう薬剤が便秘の原因となっていることは多い下剤を処方する際、「酸化マグネシウム」は腎機能低下時に高マグネシウム血症を起こすので要注意!症例:76歳男性主訴)排便困難現病歴)12日前から便が突然出なくなった。4日前に近医で浣腸をしてもらったが排便なし。酸化マグネシウムと大腸刺激性下剤の処方を受けたが、やはり排便がないため当院を受診した。嘔吐はあるが腹痛はない。既往歴)老人性難聴薬剤歴)定期内服薬なし生活歴)たばこ:10本/日 x 55年間、酒:1合/日身体所見)意識清明、体温36.7℃、血圧120/50mmHg、心拍数92/分、SpO2:95%[室内気]直腸診を施行したところ、肛門から8cm、12時方向にカリフラワー様の約4×4cmの腫瘤を触知し易出血性であった。結局、直腸癌と診断され人工肛門増設のため緊急手術となった。大腸イレウスは珍しいが、穿孔すれば腹膜炎となるので緊急処置が必要となることも念頭に入れておくべき。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!大腸がんを疑うアラームサイン1) ―大腸がんの可能性はないのか鉄欠乏性貧血体重減少便潜血陽性血便便の狭小化高齢者の急性便秘大腸がんの家族歴50歳以上で大腸内視鏡検査を受けたことがない【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】二次性の便秘を考える薬剤は二次性便秘の最大の原因である。薬剤歴の正確な聴取が大切である便秘を起こす薬剤2)3)はこちら降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬)、麻薬抗コリン薬(ブチルスコポラミン、抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬)抗ヒスタミン薬、NSAIDs、鉄剤高齢者の鉄欠乏性貧血は消化管の悪性腫瘍をまず考える便の狭小化+腹痛+液状便はS状結腸から直腸にかけての高度狭窄が示唆される症状である。大腸内視鏡の前処置で腸閉塞や腸管穿孔をきたす可能性があるため、腹部レントゲン検査と腹部CT検査を検査前にオーダーする甲状腺機能低下症、自律神経障害を起こす糖尿病やパーキンソン症候群、低カリウム血症、高カルシウム血症、うつ病、妊娠は便秘の原因となる【STEP3】治療1)を検討しよう毎日排便がないのは異常であるというイメージが TVコマーシャルなどによって作られているが、週に3回または1日3回の排便は正常である週3回以上排便があれば、病的ではないことを伝える。水分と食物繊維を十分にとる。朝食後15分間はトイレに座り、力まずに排便するよう指導する。改善がなければ、ポリエチレングリコール(商品名:モビコール)または酸化マグネシウムを処方する。酸化マグネシウムは腎機能低下時に高マグネシウム血症(嘔気・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、意識障害)を起こす。効果が不十分ならルビプロストン(商品名:アミティーザ)を少量から検討する。大腸刺激性薬剤(センノシド、ピコスルファート)は習慣性や依存性が強いので頓用で用いる<参考文献・資料>1)山中 克郎企画. 総合診療 ヤブ化を防ぐ!総合診療基本のき. 医学書院.2019. p.1089-1091.(中野弘康 便秘)2)John P, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018 .p.35-38.3)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編. 慢性便秘症診療ガイドライン. 2017.

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在宅療養COVID-19患者の呼吸困難への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第10回

第10回 在宅療養COVID-19患者の呼吸困難への対応まだまだ収束の兆しが見えない、COVID-19のパンデミック。流行の状況によっては開業医も外来や在宅医療で感染患者の診療が求められます。今回は緩和ケア分野の経験を通じてCOVID-19感染症の診療に活用できる知見を共有したいと思います。今日の質問私の診療エリアでもCOVID-19感染患者が増えた際には、在宅療養者の対応が求められそうです。原疾患の改善を待つ期間、呼吸困難に対してどのような介入ができますか? 自宅療養を支えるための緩和手段があれば教えてもらいたいです。感染者の急増を受け、病院以外の現場でCOVID-19診療に関わる方も増えているのではないでしょうか。地域によっては有症状であっても、在宅療養で経過を見る必要も出ています。適切かつ可能な範囲の治療を在宅で行いながら、重症化した際に基幹病院と連携することが重要であることは言うまでもありません。加えて、不安を抱えながら在宅療養をする患者さんを支えるためには呼吸困難といった身体症状を和らげることが大切です。日本緩和医療学会では今回のパンデミックを受け、「COVID-19患者の呼吸困難への対応に関する手引き(在宅版)」を公開しています。この手引きでは、COVID-19患者の呼吸困難に関して、STEP1酸素投与・その他の対応STEP2オピオイド経口投与(内服できる患者)STEP3オピオイド非経口投与(内服できない患者)STEP4苦痛緩和のための鎮静の4つのステップに分けて対応を記載しています。薬物療法の中心となるのは、モルヒネなどの医療用麻薬です。ご存じのように、医療用麻薬の多くは保険適用外使用となりますので、処方の際は患者・家族への説明が必要です。また、在宅療養という環境下で安全に使用できる体制構築が重要なのは言うまでもありません。在宅医療下では常時のモニタリングはできません。そのような環境下で急性期医療に近い医療を提供することは非常に困難ですが、この手引きは現状の多くの在宅医療環境で運用可能な内容となっています。COVID-19患者の呼吸困難への対応に関するエビデンスはまだ確立されていない状況であり、この手引きはその他の疾患領域での対応を踏まえたエキスパート・オピニオンに基づいたものです。実際にどこまでの対応を在宅で取り組む必要があるかは、地域の感染者数や基幹病院の状況にもよるので、地域の実情に合わせてご活用ください。日本緩和医療学会はCOVID-19に関連した情報発信をする特設サイトを開設しています。皆さまの診療に役立つ内容が多く掲載されているので、ぜひ御覧ください。早く日常が戻ってくることを祈りつつ、今回のコラムを終えたいと思います。今回のTips今回のTipsCOVID-19患者の療養を支えるためにも、緩和ケアの症状緩和スキルを活用しよう!

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高用量オピオイドの長期投与、用量漸減のリスクは?/JAMA

 高用量オピオイドを長期にわたり安定的に処方されている患者において、用量漸減は、過剰摂取およびメンタルヘルス危機のリスク増加と有意に関連することが、米国・カリフォルニア大学のAlicia Agnoli氏らによる後ろ向き観察研究の結果、示された。オピオイド関連死亡率の増加や処方ガイドラインにより、慢性疼痛に対してオピオイドを長期間処方された患者における用量漸減が行われている。しかし、過剰摂取やメンタルヘルス危機など、用量漸減に伴うリスクに関する情報は限られていた。JAMA誌2021年8月3日号掲載の報告。高用量オピオイドの長期投与患者約11万4千例を後ろ向きに解析 研究グループは2008~19年のOptumLabs Data Warehouseデータベースから、匿名化された医療費・薬剤費および登録者のデータを用いて後ろ向き観察研究を実施した。解析対象は、ベースラインの12ヵ月間に高用量オピオイド(モルヒネ換算平均50mg以上)を処方され、2ヵ月以上追跡された米国の成人患者11万3,618例。 オピオイドの用量漸減については、7ヵ月の追跡期間中の6つの期間(1期間60日、一部期間は重複)のいずれかにおいて、1日平均投与量が少なくとも15%相対的に減量された場合と定義し、同期間中の最大月間用量減量速度を算出した。 主要アウトカムは、最長12ヵ月の追跡期間中の(1)薬剤の過剰摂取または離脱、(2)メンタルヘルス危機(うつ、不安、自殺企図)による救急受診。統計には、離散時間型の負の二項回帰モデルを用い、用量漸減(vs.用量漸減なし)および用量減量速度に応じた2つのアウトカムの補正後発生率比(aIRR)を推算して評価した。用量漸減で過剰摂取やメンタルヘルス危機が約2倍増加 解析対象11万3,618例のうち、用量漸減が行われた患者は2万9,101例(25.6%)、行われなかった患者は8万4,517例(74.4%)で、患者背景は、女性がそれぞれ54.3% vs.53.2%、平均年齢57.7歳 vs.58.3歳、民間保険加入38.8% vs.41.9%であった。 用量漸減後の期間(補正後発生率は9.3件/100人年)は、非漸減期間(5.5件/100人年)と比べて過剰摂取イベントの発生との関連がみられた(補正後発生率の差:3.8/100人年[95%信頼区間[CI]:3.0~4.6]、aIRR:1.68[95%CI:1.53~1.85])。 用量漸減は、メンタルヘルス危機イベントの発生とも関連していた。補正後発生率は同期間7.6件/100人年に対して、非漸減期間3.3件/100人年であった(補正後発生率の差:4.3/100人年[95%CI:3.2~5.3]、aIRR:2.28[95%CI:1.96~2.65])。 また、最大月間用量減量速度が10%増加することで、過剰摂取のaIRRは1.09(95%CI:1.07~1.11)、またメンタルヘルス危機のaIRRは1.18(95%CI:1.14~1.21)増加することが認められた。 これらの結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、用量漸減の潜在的な有害性に関する問題を提起するものであるが、観察研究のため解釈は限定的なものである」との見解を述べている。

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オピオイドから認知症在宅診療まで、「緩和ケア」の旬のトピックを学ぶ【非専門医のための緩和ケアTips】第8回

第8回 オピオイドから認知症在宅診療まで、「緩和ケア」の旬のトピックを学ぶ今日の質問開業してからは多忙で学術大会から足が遠ざかっています。参加するメリットはありますか?今回は2021年6月に開催された第26回日本緩和医療学会学術大会について、開催レポートを兼ねて紹介したいと思います。新型コロナウイルス流行下ということで、現地とオンライン参加のハイブリッド開催で行われました。緩和ケア学会、というとどんな内容をイメージするでしょうか? 医学系学会といえば、改定ガイドラインの解説や最新の研究分野の発表とシンポジウム、みたいなところがメジャーですよね。緩和ケア学会もそうした内容はあるのですが、他学会では見られないユニークな内容もあります。今回の学術大会のテーマは「初心忘るべからず(初心不可忘)」。私は知らなかったのですが、これは世阿弥が生み出した能の有名な言葉だそうです。大会ポスターも能のシーンを基に作られ、特別講演は能楽師をお招きしての「能楽の時代を超えた役割」。医学の学術大会になぜ能?と思った方も多いでしょう。ですが、緩和ケア系の学会でこうした文化的なトピックと緩和ケアの接点を探るセッションが開催されることは珍しくありません。これまでも音楽や地域づくりなど、文化人類学的な演題が行われてきました。緩和ケアという領域の特性として、文化・教育と医療の融合に関する議論は欠かすことができず、「死生観の醸成」といった議論を大切にされている方も多くいます。とはいえ、私たち臨床医がこうした分野を勉強する機会はあまりありませんから、学術大会だからこその学びでもあります。もちろん、緩和ケアの実践的な演題も多くあります。印象的だったのは「オピオイド」に関する発表です。がん治療の成績向上に伴い、オピオイドの使用が長期化する患者さんが増えてきました。読者の中にも、オピオイドを長期使用しているがん患者を外来でフォローされている方がいるのではないでしょうか。海外ではオピオイド依存症が大きな社会問題になっており、不適切使用を防ぐための指導がこれまで以上に重要になっています。発表でも慢性疼痛のマネジメントや長期使用のアセスメント、留意点の議論が活発に行われました。私が運営を手伝った「認知症BPSDの在宅緩和ケア成功の秘訣」のセッションも興味深いものでした。介護者の負担が大きい状況下にあって、医師は緩和ケアをどのように実践すべきか、薬物療法や各職種への働き掛けについて議論が交わされました。質問も活発で、がん以外の疾患に対する緩和ケアの重要性とその実践の難しさに多くの人が直面していると感じました。私は今回の学術大会の実行委員であり、現地で参加しました。オンラインは自宅でリラックスして参加できるメリットがありますが、各分野の第一人者や懐かしい仲間と直接会うことができる現地参加のメリットも再確認できました。コロナの影響で1年以上会えなかった先生方と言葉を交わすこともできました。こうした機会はバーンアウトを防ぐためにも有効だといわれています。開業されて1人で診療している先生も多いことでしょう。知識のアップデートのほか、ネットワーキングの機会としてもぜひ学術大会を有効活用していただければと思います。次の第27回日本緩和医療学会学術大会は2022年7月1日(金)~2日(土)、神戸で開催予定です!今回のTips今回のTips他分野とは一線を画したユニークなトピックに触れられる、緩和ケアの学術大会にぜひご参加ください!

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第22回 痛み診療のコツ・治療編(2)光線療法(1)【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第22回 痛み診療のコツ・治療編(2)光線療法(1)前回は、知覚神経と交感神経を同時にブロックする代表的な応用範囲の広い硬膜外ブロックについてお話しました。今回は、理学療法の中でもとくに高齢患者さんに好まれている光線療法ついて述べたいと思います。高齢社会を反映して、帯状疱疹後神経痛や脊椎術後疼痛症候群など本来の疾病が治癒した後に、強い痛みだけが取り残されることも稀ではありません。いわゆる難治性慢性疼痛患者さんの数が、高齢者の人口の増加に比例して急激に増加しています。痛みを訴える患者さんにおいては、病態は類似していても、痛みの性質や程度は個々の患者さんによって実に多様です。そのために、疼痛緩和療法も神経ブロック療法、薬物療法、各種理学療法、インターベンショナル治療など患者さんに合った有効な治療法に苦慮する機会も少なくありません。とくに最近では、高齢者を含めて血液抗凝固薬を服用する患者さんが増加しており、神経ブロックを回避しなくてはならない状況も少なくありません。しかも、痛みで悩まされている患者さんにとっては、より痛みの少ない治療法を望む声も多く見られます。このような背景を考慮すると、疼痛を訴えられている患者さんにとって光線療法は非常に有用な治療法であり、痛みの緩和を得られる機会も想像以上に多くみられます。今回はこの光線療法について解説いたします。光線療法機器の分類(1)低出力半導体レーザーGa-Al-As半導体をレーザー光源とした低出力半導体レーザーには、ソフトレーザリーJQ310、マルチレーザー5 MLF-601、メディアレーザーソフトパルス10などが市販されています。(2)ハロゲンランプ治療器自然灯の一種、ハロゲンランプを光源として、フィルターによって近赤外線のみを出力する装置です。アルファビームALB-200H、スーパーライザーHA-2200LEシリーズ、スーパーライザーPXシリーズのほか、家庭用としても使用できるスーパーライザーminiシリーズなどが使用されています。また、最近では、スーパーライザーPXシリーズも市販され、さらに性能を上げています。(3)キセノンライト治療器ストロボライト光源のキセノン励起光を利用したキセノンライトは、可視光よりも近赤外光を多く発光するので、近赤外線光源として利用されています。ベータエクセルXe10は、パルスモードを有する上、低周波通電機能もあり、光線療法と低周波治療を同時に施行できる特徴があります。光線療法の鎮痛作用機序レーザーの生体への影響は熱作用、光作用が基本になっています。その作用により、以下の効果が期待されています。(1)血流改善作用レーザー光による血管への直接作用、交感神経反射の減弱化、軸索反射による血管拡張などが考えられています。(2)神経伝達抑制作用脊髄後根線維の自発放電発射増加の減少作用、C線維の脱分極の抑制作用などが報告されています。(3)抗炎症作用関節リウマチ患者さんの膝関節滑膜炎症所見が、レーザー照射によって軽減されることが報告されています。(4)創傷治癒作用創傷治癒の促進が実験的、臨床的に認められています。(5)下行性疼痛抑制系の賦活ナロキソンによりレーザー鎮痛効果が抑制されることから、内因性オピオイドや、下行性疼痛抑制系の関与が考えられています。(6)その他神経細胞膜の安定化作用、免疫機能の賦活、筋緊張の緩和などが認められており、鎮痛作用の補助になりそうです。レーザー治療の対象疾患レーザー治療の鎮痛作用機序から考えて、以下のような疾患に有効性が認められています。 帯状疱疹痛、帯状疱疹後神経痛、筋・筋膜性疼痛、頭痛、外傷性頸部疼痛症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、腰痛症、術後疼痛症候群、非定形顔面痛、関節リウマチ、肩関節周囲炎、膝関節症などで、実に多岐にわたっています。初期の疼痛緩和療法を怠ると、一生痛みが持続することも稀ではありません。できるだけ早期に鎮痛対策をとることが、その後の痛みの遷延を和らげるという認識が大切です。光線療法が疼痛治療の一環として取り入れられ、多少なりとも痛みに苦しむ患者さんの疼痛緩和療法に役立てられれば幸いです。次回は、痛みとリハビリテーション療法について説明したいと思います。1)花岡一雄他. 日本医師会雑誌.2012:140;2352-23532)花岡一雄他監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S177-178

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新型コロナワクチン後、乳房インプラント施行例でみられた免疫反応

 COVID-19ワクチン接種後、ヒアルロン酸注入歴などを有する症例で、まれに痛みや腫脹などの反応が報告されている。皮膚充填剤のような異物は、免疫系が刺激されることで何らかの反応を引き起こす可能性があるという。ドイツ・Marienhospital StuttgartのLaurenzWeitgasser氏らは、COVID-19ワクチン接種後1~3日の間に乳房インプラント施行歴のある4例で注目すべき反応がみられたとし、その臨床的特徴や経過をThe Breast誌オンライン版2021年6月18日号に報告した。ワクチン接種後、ヒアルロン酸注入部位に腫脹 これまでに、モデルナ製ワクチンの1回目および/または2回目の投与直後に、美容目的でのヒアルロン酸注入の経験がある症例で、軟部組織の腫脹や顔面浮腫が報告されている1)。これらはモデルナ製ワクチンの第III相試験中に観察された。ワクチン接種後1~2日の間に報告され、ヒアルロン酸注入の時期はワクチン接種の2週間前から2年前までの範囲であった。また、過去にはインフルエンザワクチン接種後にも、同様の反応が報告されている2)。乳房インプラントや人工関節などについても、さまざまな種類のワクチン接種後に炎症反応を起こす可能性があるという。 ワクチン接種後にヒアルロン酸注入歴などを有する症例で、注目すべき反応がみられた4例についての詳細は以下のとおり。[症例1(76歳)]手術歴:美容的豊胸手術(64ヵ月前)症状:痛み、腫脹(両側)ワクチンの種類と症状発現時期:Pfizer/Biontec製ワクチン、初回接種2日後診断:被膜線維化治療経過:保存的治療(NSAIDs経口投与、凍結療法)→発症後2日で解消[症例2(52歳)]手術歴:美容的豊胸手術(17ヵ月前)症状:痛み、発赤(両側)ワクチンの種類と症状発現時期:Pfizer/Biontec製、初回接種2日後診断:被膜線維化治療経過:保存的治療(抗菌薬・NSAIDs経口投与、凍結療法)→発症後まもなく解消[症例3(52歳)]手術歴:インプラントベースの再建のためのエキスパンダー挿入(9ヵ月前~、最後の挿入は4週間前)症状:痛み(片側)ワクチンの種類と症状発現時期:Johnson & Johnson製、接種3日後治療経過:保存的治療(オピオイド・メタミゾール経口投与)→数日中に解消[症例4(53歳)]手術歴:インプラントベースの再建(2ヵ月前)症状:痛み、炎症、血清腫(片側)ワクチンの種類と症状発現時期:AstraZeneca製、初回接種1日後治療経過:外科的治療(インプラント除去と自家乳房再建、抗生物質静脈投与)→術後の経過は順調、数日後に退院 著者らは、世界中で数百万回の新型コロナワクチン接種が行われた後、インプラント施行歴のあるごく少数で観察されたものであり、大きな懸念はないだろうとしたうえで、ワクチン接種後のインプラントに関連する免疫反応を注意深く観察するよう患者に助言する必要があるのではないかと指摘。同時に、インプラントに対するワクチン接種後の反応は治療により管理可能で、COVID-19感染に伴うリスクがこれらの非常にまれにしか観察されない反応によってもたらされるリスクをはるかに上回っていると伝えるべきだと結んでいる。

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