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高齢者の便秘症放置は予後不良のリスクに/ヴィアトリス

 ヴィアトリス製薬は、「『便通異常症診療ガイドライン』改訂1年を踏まえた慢性便秘症治療の新しい当たり前」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、とくに高齢者に多い慢性便秘症についてガイドラインの作成に携わった専門医が便秘症の概要と高齢者に多い便秘症とその介護についてレクチャーを行った。便秘は循環器疾患や脳血管疾患のリスク 「慢性便秘症」をテーマに伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院病態制御内科学 准教授)が、便秘症の疾患概要、排便の仕組み、診療ガイドラインの内容、最新の慢性便秘症の治療について説明した。 最新の研究では、便秘は循環器や脳血管疾患などの重篤な疾患とも関連があり、排便回数が4日に1回以下の場合、そのリスクが上昇することが報告されている1)。便秘の有訴率は、60歳以下の女性に多いが、高齢者ではその性差はなくなり、高齢者の25%は便秘に悩んでいる。 排便は、消化管の蠕動運動と腸の水分調節が大きな因子となり、この両方に胆汁酸が関連することが知られている。そして、結腸からの通過時間と直腸の排便機能のどちらかに問題があると便秘となる。便の形状も重要であり、ブリストル便形状スケールの4(表面なめらか、やわらかいソーセージ様)が理想的な形状であり、これ以外の形状では排便で弊害をもたらす。こうした仕組みで、高齢者では先述の水の調整機能の低下や結腸蠕動の低下、直腸・肛門排便機能の低下により便秘になりやすいことが知られている2)。新しい診療ガイドラインのポイント 次に診療ガイドラインの改訂ポイントについて触れ、「便秘症と慢性便秘症の定義の改訂」、「新しい慢性便秘症治療薬を含めた診療フローチャートの作成」、「オピオイド誘発性便秘症の治療方針の提示」の3項目が大きく改訂、追加されたことを述べた。 とくに慢性便秘症では「長期生命予後に関連する」ことが追加記載されたほか、慢性便秘症診療のフローチャートが作成され、機能性便秘症とオピオイド誘発性便秘などの診療が区別された。 慢性便秘症の治療目的は、排便回数や症状改善、QOLの向上から「残便感のないスッキリ便」と「便形状の正常化」へシフトしている。また、診療では、まず大腸がんが隠れていないか鑑別診断を行い、「便が出ないか、出せないのか」の診断へと進んでいく。 通常の原因は結腸の運動が弱くなることで排便に問題があるケースが多く、治療では食事療法(3食摂取/適度な水分/食物繊維を多く、脂肪分を少なくなど)と生活習慣改善(生活のリズム/十分な睡眠/便意を我慢しない/適度な運動と休息など)がまず指導される。 これらで改善しない場合に内服薬治療として、酸化マグネシウム薬(腎臓機能低下者には使用しない)などの腸に水を引く治療薬が第1選択薬として使用される。  さらに改善しない場合には、新しい便秘薬として、上皮機能変容薬と胆汁酸トランスポーター阻害薬の使用が考慮され、ケースによっては短期間頓用として刺激性下剤の追加も考慮される。とくに刺激性下剤は、「頻用することで大腸などの蠕動運動を低下させ、さらなる便秘を誘発するリスクがあるため短期間で止めるべき」と伊原氏は注意を促す。 最後に伊原氏は「生活習慣改善・食事療法に非刺激性下剤で改善せず、刺激性下剤を使用しないと排便できないケースでは、医療機関を受診することを勧める。消化管を中心に体のバランスは維持されるので、便秘治療は重要」と述べ、講演を終えた。高齢者の便秘は、時に死亡のリスクへつながる 「たかが便秘? 高齢者便秘とその介護者の“便秘介護”」をテーマに、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)が高齢者の便秘診療について講演を行った。 高齢者は加齢による排便機能の低下などにより70歳以上で男女ともに便秘症の患者が増加する。とくに高齢者では、基礎疾患の治療に伴う「薬剤性の便秘」が問題となっており、糖尿病や消化器疾患の治療薬での便秘症状が多いという。また、高齢者では便の形状も重要で、ブリストル便形状スケール(4の正常便が理想)の1~3の硬い便だと排便時のいきみなどで血圧上昇が起こり心血管系疾患を誘発するリスクとなる。一方、便スケール5~6の軟便だと本人も不快であるばかりでなく、介護状態では介護者にも負担をかけると指摘する3)。そのほか、高齢者はトイレで心停止などを起こすリスクがあり、その際家人などに発見される確率も低いという4)。また、排便頻度と循環器系疾患の死亡リスクも相関するとされ、排便のいきみが血圧の変動に影響することも指摘されているほか、近年の研究から便秘がパーキンソン病の発症前駆期にみられる症状であることや、慢性腎臓病の累積発症では便秘がリスクの1つになっている可能性が示唆されていることから、高齢者の便秘(慢性便秘症)はきちんと治療する必要があると指摘する。在宅患者の便秘ケアでは介護者のQOLも視野に 2017年時点で在宅医療を受けている患者は約18万人に上り、年々増加しており、在宅医療を受診している56.9%に便秘がみられるというレポートがある5)。在宅患者が慢性便秘症になる要因としては、先述の加齢に伴う身体変化に加え、四肢機能障害や自室からトイレまでの距離、自力での排便の困難さなど複合的な要因で起こることが知られている。 そして、緩和ケア領域でのマネジメント目標として「快適かつ満足のいく排便習慣の確保」、「排便習慣の自立維持」、「腹痛などの便秘関連症状の予防」の3項目が掲げられている。また、便秘の予防として「プライバシーが保たれ排便が行えるように配慮すること」、「水分や食物繊維を無理のない範囲で摂取すること」、「運動を無理のない範囲で行うこと」、「(禁忌などでない場合)腹部マッサージを行うこと」の4つが提案されている6)。 そのほか、排便管理は、患者家族などの介護する側にも身体的、心理的、社会・経済的負担をかけることにもつながるので、介護者のQOLも視野に入れた排便管理が望まれるという。 慢性便秘症の治療薬としては、浸透圧性下剤が推奨されているが、マグネシウムを含む塩類下剤の使用では定期的なマグネシウム測定が推奨されている。2020年に厚生労働省からもマグネシウム血症へのリスクを考慮した適正使用の文書も発出され、注意喚起がされている。また、中島氏は「刺激性下剤については、有効ではあるものの、日常的に使うと依存性になり、効果減弱となるため、できるだけ必要最小限の使用に止め、頓用か短期間の使用が望ましい」と提唱した。 最後に中島氏は「高齢者の便秘対策は生活指導・食事療法が基本であり、薬物療法では、用量調節が可能な薬剤の考慮が必要。患者の特性に応じた薬剤選択を行い、患者だけでなく、介護者のQOLも視野に便秘治療を行うことが重要」と語り、レクチャーを終えた。■参考文献1)Chang JY, et al. Am J Gastroenterol. 2010;105:822-832.2)伊原栄吉. 日本臨床. 2023;81:242-249.3)Ohkubo H, et al. Digestion. 2021;102:147-154. 4)Inamasu J, et al. Environ Health Prev Med. 2013;18:130-135. 5)Komiya H, et al. Geriatr Gerontol Int. 2019;19:277-281. 6)馬見塚勝郎. 診断と治療. 2018;106:833-838.

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第230回 Amazonファーマシー 、配送料660円の返金まで6日もかかった利用経験から考えたこと

薬局もAmazonファーマシーのカスタマーサービス窓口もグダグダこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は栃木県と群馬県の県境にある白根山に登ってきました。群馬県側の日光白根山ロープウェイで標高2,000mまで行き、標高 2,578mの白根山に登り、前白根山を経て栃木県側の湯元温泉に下りるルート。天候はまずまずでよかったのですが、白根山から湯元までの下山ルートが超急坂な上に、崩壊箇所も多く難儀しました。群馬県に比べ、栃木県が登山道の整備にお金をまったくかけていないことを実感しました(2年前の皇海山の道も悪かったです)。このままだと、5年先には廃道になるかもしれません。湯元〜白根山間を行かれる予定の方はご注意を。あわせて、東武日光駅前の夜の店じまいの早さにも驚きました。まだ浅草行の特急があるのに、18時半で駅前の土産物屋はおろか駅構内の売店すら閉まっていました。真っ暗な駅前通りを外国人観光客が右往左往していました。世界遺産の最寄り駅でのこの”やる気”のなさ。「地方創生」を声高に叫ぶ政治家の皆さんに、ぜひ視察していただきたいと思いました(とくに栃木県立足利高校出身の茂木 敏充氏)。さて、今回は7月に鳴り物入りで事業をスタートした「Amazonファーマシー」について書いてみたいと思います。8月にある病気で医療機関を受診し、せっかくだからとAmazonファーマシーを利用してみました。開始からまだ1ヵ月弱だったためか、現場の薬局もAmazonのカスタマーサービスの窓口もグダグダで、今後の事業展開に少なからぬ不安を感じました。薬剤師によるオンライン服薬指導を受けた後で自宅などで処方薬を受け取るシステムAmazonがAmazonファーマシーの事業開始を発表したのは7月23日です。Amazonショッピングアプリをプラットホームにして、日本国内でオンライン服薬指導から処方薬の配送までのサービスが利用できるというものです。具体的には、スマートフォンのAmazonショッピングアプリ上で、電子処方箋の「処方内容(控え)」の用紙、または「引換番号」の写真を撮りアップロード。その後、ビデオ通話で薬剤師によるオンライン服薬指導を受けた後に自宅などで処方薬を受け取る、という流れです。配送方法は通常のAmazonによる配送ではなく、薬局側が独自に手配する仕組み。温度管理や麻薬・向精神薬など、流通上の管理が必要な薬剤は、薬局側が店舗での受け取りを判断する場合があるとのことです。利用できる薬局は7月23日のサービス開始時点で、アインホールディングス、ウエルシアホールディングス、クオールホールディングス、新星堂薬局、中部薬品、トモズ、ファーマみらい、薬樹、ユニスマイルの各グループ薬局としています。Amazonは薬局側から初期費用や月額費用などは徴収せず、患者側の手数料で事業を賄うとのことです。また、メドレーが提供している患者向け総合医療アプリ「CLINICS」と連携し、診療から薬の配送までをオンライン上で一気通貫で利用できるとのことです。Amazonファーマシーはパソコンでは利用できずスマートフォンのみ8月某日、とある医療機関で電子処方箋を発行してもらった私は、帰宅してからパソコンで近隣のウエルシア薬局を探し出し、そこを利用しようと考えました。パソコンを立ち上げていたので、そのままAmazonサイトに行き、電子処方箋の「処方内容(控え)」をアップロードしようとしたのですが、まずそこでスタック。Amazonファーマシーのシステムはパソコンでは利用できず、スマートフォンのAmazonショッピングアプリ上でしか使えないからです。気を取り直して、スマートフォンのアプリから近隣のウエルシア薬局の店舗を選ぼうと思ったのですが、なんとそこの店舗が出てきません。まだ全店舗対応というわけではないようです。ということで、少々遠い店舗を選択、電子処方箋の「処方内容(控え)」をアップロードしてオンライン服薬指導の時間を予約しました。薬は今日中に欲しいので、1時間後にしました。オンライン服薬指導のシステムが立ち上がらず電話で服薬指導オンライン服薬指導の予約時間になり、スマートフォンを持って待機しましたが、5分経っても服薬指導が始まりません。これは困ったなと思っていたところに、予約したウエルシア薬局の薬剤師から私のスマートフォンに電話がかかってきました。「オンライン服薬指導のシステムが立ち上がらないので、電話で服薬指導をしたい」ということで、会話による簡単な服薬指導を受けました。その後で私の方から「薬は今日欲しいので店舗に取りに行きます。配送でなくてもいいです」と伝えました。すると薬剤師は「システム上、配送料はもう課金されています」と言われました。「それはないんじゃないですか?」と言ったのですが、「Amazonのシステムで決済されてしまっているので現状、取り消せません」と繰り返されるだけ。仕方がないので、「配送料はいいですからとりあえず取りに行きます」と行って電話を切り、店舗に向かいました。「代金はショッピングアプリ上で決済されてしまっているので、店舗ではどうしようしようもない」本来なら、服薬指導後に配送か店舗受け取りかを決められるようになっているはずです。店舗に行って聞いてみると、「通常、オンライン服薬指導の画面でその選択ができるはずだが、今回はそのシステムが稼働せず、電話による指導が終わると、配送料660円も課金されていた」とのこと。「代金はAmazonショッピングアプリ上で決済してしまっているので、店舗ではどうしようしようもない」と言われてしまいました。また、「オンライン服薬指導ができなかったのは店舗のせいか、Amazonのせいかもわからない」とも。とりあえず660円は諦めて、薬を持ってとぼとぼと家路につきました。660円返金されるも「薬局のミスだったのか、Amazonの問題だったのかわからない」660円(吉野家の牛丼並盛とお新香が買えます)をどうしても取り返したい考えた私は、家に着いてからパソコンでAmazonファーマシーのカスタマーサービスの電話番号(通常のショッピングとは別の窓口でした)を探し出し、電話をかけて担当者に起こった事柄を説明しました。しかし、おそらくバイトであろう担当者にいくら説明しても明快な答えが返ってきません。挙句の果て、「上の者と協議して来週、またかけ直す」と言われました。金曜だったので月曜まで待て、ということのようでした。翌週月曜、その担当者から電話がかかってきましたが、再度起こった事柄や店舗名をヒアリングするだけで、660円返金されるかどうかの答えは得られず、またまた「再度連絡する」と伝えられたのみでした。事態が動いたのはその3日後です。今度は薬を受け取ったウエルシア薬局の店舗から電話がかかって来ました。「660円を店舗で返金するので来て欲しい」とのことでした。というわけで、Amazonファーマシーにぼられそうになった660円は無事返ってきました。ウエルシア薬局の薬剤師に聞くと、相変わらず原因は不明で、「薬局のミスだったのかAmazonのシステムの問題だったのかまだわからない」とのことでした。660円の返金はAmazonとウエルシア本部のやり取りで決まったようです。当日に薬を受け取れない点は大きなネックというわけで、カスタマーハラスメントを起こしそうになるくらいイラついたAmazonファーマシーの「660円返金問題」ですが、システムの未完成ぶりと、カスタマーサービスの脆弱ぶり(電話対応にあたる人が事業内容を十分理解していない)を実感した次第です。メディアなどは、Amazon自体は医薬品在庫や店舗、薬剤師を持たないこのシステムをほめそやしますが、実際に利用してみると、利用者が当日に薬を受け取れない点は大きなネックだと感じます。風邪などで今すぐ熱を下げたいときなどは、翌日の薬剤到着まで待つのはつらいでしょう。一方、いつも飲んでいる生活習慣病の薬剤を配送してもらったり、リフィル処方で活用したりする分にはいいかもしれません。8月21日付日本経済新聞は「『Amazon処方薬」が問う医療DXの遅れ』と題する社説を掲載、「サービスの利用に必要な電子処方箋の発行に応じる病院や診療所はまだわずか」だとして、調剤業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)化のためにも「電子処方箋が医療のデジタル対応の基幹機能の一つであることを考えれば、期限を区切って処方箋を紙から電子に全面移行することも検討すべきだ」と書いていますが、並行してデリバリーの部分、薬の配送の効率化・迅速化も進めるべきでしょう。「医療機関から自宅に帰ったら薬がすぐ届く」というのが一つの理想像Uberのように薬も即時配送が実現すれば、電子処方箋やAmazonファーマシーの業態もそこそこ普及していくのではないでしょうか。「医療機関から自宅に帰ったら薬がすぐ届く」というのが一つの理想像だと思います。そのためには、服薬指導の効率化も検討する必要がありそうです。「服薬指導なんて、薬剤情報提供書を渡すだけで実質何もしていないのだから、本当に必要な時以外は“なし”にしてもいいのに」という意見を述べる人もいます(「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」参照)。その部分にも思い切ってメスを入れてこそ、真の調剤業務のDXが実現するのはないかと思います。

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がん疼痛に対するNSAIDsとアセトアミノフェン【非専門医のための緩和ケアTips】第83回

がん疼痛に対するNSAIDsとアセトアミノフェンがん疼痛の薬剤といえばオピオイドが真っ先に浮かびますが、NSAIDsとアセトアミノフェンも重要な鎮痛薬です。ではこの2つの鎮痛薬、どのように使い分けると良いのでしょうか? 似ているようで異なる2剤の使い分けについて考えてみます。今回の質問がん疼痛に対する非オピオイド薬鎮痛薬として重宝するNSAIDsとアセトアミノフェンですが、どのように使い分ければいいのでしょうか? 鎮痛効果はNSAIDsのほうが強いイメージがありますが、消化管出血などの副作用が心配です…。軽度~中等度のがん疼痛に対して推奨されるこの2剤ですが、根拠に基づいた使い分けをしていない方も多いようです。まずは、それぞれの薬理作用を復習してみましょう。NSAIDsは、炎症や疼痛に関与するプロスタグランジンの合成酵素であるCOXを阻害する薬剤です。鎮痛作用だけでなく、抗炎症作用も期待できます。一方で、腎障害、心血管、胃粘膜障害などの副作用があります。COXにはいくつかの種類があり、その選択性によって副作用の頻度が異なります。緩和ケア領域では症状緩和のために処方した薬剤で副作用が出ることは避けたいので、胃腸障害などの副作用がNSAIDsに比べて少ないCOX-2阻害薬を使用することが多い印象です。アセトアミノフェンは抗炎症効果がほとんど期待できない一方で、中枢性のCOX阻害により鎮痛効果を発揮します。また、下行性疼痛抑制系の活性化作用もあるとする報告も見られるようになりました1)。解熱薬としてもよく処方されるアセトアミノフェンですが、鎮痛薬として使用する際は投与量を注意しましょう。1日600〜800mg程度で解熱作用が期待されるのですが、鎮痛作用を期待する際はさらに投与量を増やす必要があります。1回500〜1,000mg、1日最大で4,000mgまで増量が認められています。主だった副作用に肝障害があり、肝機能に合わせた投与量調整が必要です。アセトアミノフェンで鎮痛を試みる際は、安全な範囲で十分量を使用することが大切です。さて、この2剤の使い分けですが、私自身は高齢のがん患者さんを診療することが多いため、アセトアミノフェンを優先して処方するケースが多いです。元々腎機能が悪い場合や心不全を懸念する患者に対しては、NSAIDsは避けることが多いです。一方、がん性腹膜炎や骨転移の痛みに対してはNSAIDsの有効性が知られているため、副作用が許容できる場合は積極的に使います。また、NSAIDsが使用しにくい状況であれば、ステロイドも選択肢となります。というわけで、アセトアミノフェンを処方することの多い私ですが、ここで注意すべき「落とし穴」があります。それは患者さんが知らないあいだにアセトアミノフェンが含まれる総合感冒薬などを服用し、過量投与になることがある点です。広く使いやすい薬剤だからこそ、知らないうちに過剰に内服していないかを確認する必要があるのです。今回のTips今回のTipsNSAIDsとアセトアミノフェンのそれぞれの特徴を理解し使い分けよう。1)Ayoub SS. Temperature(Austin). 2021;8:351-371.

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ナロキソン併用で、オピオイド使用障害妊婦と新生児の転帰改善の可能性/JAMA

 米国では過去20年間に、一般市民におけるオピオイド使用障害の増加に伴い、妊婦での本疾患の発生も著明に増えているが、併用薬の周産期の安全性データが不十分であるためブプレノルフィンの単独投与が推奨されている。米国・ハーバード大学医学大学院のLoreen Straub氏らは、妊娠初期のブプレノルフィン単剤投与と比較してブプレノルフィンとナロキソンの併用投与は、新生児および母体の転帰が同程度か、場合によってはより良好であり、オピオイド使用障害の安全な治療選択肢であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月12日号に掲載された。米国のコホート研究 研究グループは、出産前のブプレノルフィンとナロキソン併用投与による周産期の転帰の評価を目的に、人口ベースのコホート研究を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。 解析には、2000~18年の米国のメディケイド受給者の医療利用データを用いた。妊娠第1三半期に、ブプレノルフィン+ナロキソンの併用投与を受けた妊婦3,369例(平均年齢28.8[SD 4.6]歳)と、ブプレノルフィン単剤または併用からブプレノルフィン単剤投与に切り替えた妊婦5,326例(28.3[4.5]歳)を対象とした。 新生児では、13の主な臓器特異的先天奇形(腹壁、中枢神経系、眼、耳、消化器、生殖器、四肢など)と心奇形のほか、低出生体重、新生児薬物離脱症候群、新生児集中治療室入室、早産、呼吸器症状、在胎不当過小について評価し、母体の転帰として帝王切開による分娩と重度の疾患(分娩後30日以内の急性心不全、急性腎不全、急性肝疾患、急性心筋梗塞、急性呼吸窮迫症候群/呼吸不全、播種性血管内凝固/凝固障害、昏睡、せん妄、産褥期脳血管障害など)への罹患を検討した。新生児薬物離脱症候群のリスクが低い、母体の重度疾患は同程度 ブプレノルフィン+ナロキソン併用群はブプレノルフィン単剤群に比べ、新生児薬物離脱症候群(絶対リスク:37.4% vs.55.8%、重み付け相対リスク:0.77[95%信頼区間[CI]:0.70~0.84])のリスクが低く、新生児集中治療室入室(30.6% vs.34.9%、0.91[0.85~0.98])および在胎不当過小(10.0% vs.12.4%、0.86[0.75~0.98])のリスクはわずかだが低かった。 母体の重度疾患の発生率は両群で同程度だった(絶対リスク:2.6% vs.2.9%、重み付け相対リスク:0.90[95%CI:0.68~1.19])。主な先天奇形や心奇形、帝王切開のリスクには差はない 主な先天奇形(絶対リスク:5.2% vs.5.1%、重み付け相対リスク:0.95[95%CI:0.73~1.25])、心奇形(1.4% vs.1.3%、1.06[0.62~1.82])、低出生体重(8.5% vs.7.6%、1.07[0.91~1.25])、早産(14.9% vs.13.1%、1.06[0.94~1.19])、呼吸器症状(12.7% vs.11.4%、1.04[0.91~1.18])、および帝王切開(35.0% vs.32.7%、1.05[0.98~1.12])のリスクには両群間に差を認めなかった。 著者は、「これらの知見は、両薬剤とも妊娠中のオピオイド使用障害治療の妥当な選択肢であるとの見解を支持し、併用治療における意思決定の柔軟性を肯定するものである」としている。

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フェンタニルは呼吸困難に使えるか?【非専門医のための緩和ケアTips】第82回

第82回 フェンタニルは呼吸困難に使えるか?呼吸困難に対するオピオイドといえば、最もメジャーなものはモルヒネでしょう。最近は、呼吸困難時にヒドロモルフォンやオキシコドンも使われることが増えてきました。では、貼付剤もあって利便性の高いフェンタニルはどうでしょうか?今回の質問訪問診療で診ている肺がん患者さん。嚥下機能が低下し、内服が難しい状況です。がん疼痛と労作時呼吸困難に対してオピオイドが必要と判断し、モルヒネの坐剤とフェンタニル貼付剤を処方しました。痛みが強い時はモルヒネを使うのですが、フェンタニル貼付剤を開始したところ呼吸困難がラクになったと言います。フェンタニルは呼吸困難にはあまり有効でないと考えていましたが、実際には効くのでしょうか?「呼吸困難に対するオピオイドの使い方」は、緩和ケアでしばしば話題になるテーマです。とくにフェンタニルは腎機能が悪い場合も使いやすく、貼付剤もあることから在宅緩和ケアで重宝する薬剤ですが、呼吸困難に対する効果はどうなのでしょうか?エビデンスについて詳細に述べることはしませんが、私の理解としては、ざっくり以下の通りです。がん患者の呼吸困難に対しフェンタニルが症状緩和に有効であったという報告はあるものの、モルヒネやプラセボを上回る有効性を示した研究はない。慢性心不全や呼吸器疾患のような非がん疾患による呼吸困難に対するフェンタニルの有効性を示した質の高い研究はない。これらを踏まえ、『進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン』(2023年版)でも、がん患者の呼吸困難に対するフェンタニルの全身投与は推奨されていません。以上がエビデンスベースの話ですが、臨床的な実感はどうでしょうか?私が急性期病院や集中治療に携わっていたとき、鎮痛のためフェンタニルを静注している患者さんを受け持つことが多くありました。その中には「呼吸困難にもフェンタニルが有効なのかな」と感じる例もありました。ただ、強い呼吸困難はフェンタニルだけでは対応が難しく、モルヒネによる鎮静が必要になることが大半でした。こうした経験を振り返ると、「フェンタニル自体の薬理作用よりも、薬剤を投与した安心感によって呼吸困難が和らいだ可能性もある」と感じます。呼吸困難は不安感などの心理的要素も症状を悪化させることが知られており、薬理効果以外の症状緩和に対する効果も考慮する必要があるでしょう。私自身は、呼吸困難に対して積極的にフェンタニルを使用することはありませんが、さまざまな経緯からフェンタニルを投与され、患者さんが効果を実感している際には「まあ、よしとするか」と判断しています。このあたりは専門家でもスタンスが異なることが多いでしょう。ぜひ皆さんの意見も教えてください。今回のTips今回のTips現状のエビデンスでは「呼吸困難にフェンタニルは積極的に使わない」。しかし、状況に応じた使い分けを検討する場合も。

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緩和ケアのポリドクター問題【非専門医のための緩和ケアTips】第81回

第81回 緩和ケアのポリドクター問題「ポリドクター」をご存じでしょうか? 「初めて聞いた」という方も多いかもしれません。患者さんが必要以上に多くの医師にかかってしまう状況を指した言葉で、一般的になってきた「ポリファーマシー(多剤併用問題)」とも密接な関係があります。患者さんと家族を支えるため、複数の医師が関わることはしばしばありますが、関係者が増えるが故の難しさもあります。今回の質問基幹病院の通院を続けながら、私のクリニックを外来受診する患者さん。オピオイドなどの薬剤調整や治療方針の確認のたびに、病院の主治医とのやりとりが発生します。主治医との連絡がつきにくいうえ、複数の診療科を受診しており、やりとりが煩雑です。自分の裁量でどこまでしてよいのか、悩むことも多いです。肺がん治療のために大学病院の呼吸器内科に定期通院しながら、併存疾患の糖尿病のために近隣のクリニックにも通院する……。皆さんもよく見る、ありふれた光景ではないでしょうか。1人の患者さんに複数の医師が関わることで、手厚い医療が受けられるメリットがある一方、「誰が主治医機能を提供するか」という問題が生じます。現実には、「どの医師も自分が主治医だと思っていなかった」という笑えないオチもあります。診療所でかかりつけ医として関わる立場であれば、基幹病院との連携でこうしたことは生じやすいでしょう。「連携」と簡単に言っても、その実務はとても手間がかかります。なかなか連絡が取れなかったり、確認事項が出るたびに診療情報提供書を作成したりするのも大変です。私は基幹病院と診療所勤務の両方の立場を経験しましたが、この状況は構造的な問題が生み出しているので、すぐに解決するのは難しいと感じます。とくに運営母体が別の医療機関で共通のシステム基盤がなく、電話やFAXなどで対応せざるを得ない場合、状況を大きく変えることは難しいでしょう。とはいえ、嘆いてばかりいても仕方ないので、実臨床家としてできることをやっていくしかありません。私の工夫は「定期的に診療情報提供書をやり取りする」「退院時共同指導などで直接あいさつする機会をつくる」ことです。基幹病院の医師は数年で入れ替わることが多く、すぐに効果が出るわけでもありませんが、こうした小さな積み重ねが重要だと考えています。医療が高度化し、高齢化する社会にあって、患者さんに必要な医療と生活を支える機能を単一の医療機関で提供することは難しくなっています。病診連携の難しさを述べてきましたが、地域で患者さんを支えるため、複数の医師で連携して診療に当たることは今後さらに重要になるでしょう。今回のTips今回のTips「ポリドクター」のデメリットを理解し、地域の医師と上手に連携しよう!

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オピオイド拮抗薬ナロキソン、患者自己負担と処方の関連~米国/JAMA

 オピオイド使用障害の治療薬ナロキソンについて、患者の一部自己負担(cost sharing、費用分担)の廃止で、民間保険加入患者およびメディケア患者への処方調剤は増加可能であることが、米国・ミシガン大学のKao-Ping Chua氏らによる検討で示された。オピオイド使用障害による死亡が深刻な米国では、オピオイド死の抑止のために、ナロキソンへのアクセスの障壁を取り除くことが重要なステップとされている。先行研究で、費用分担がナロキソン処方調剤の障壁になっている可能性が示唆されていたが、横断研究のデザインや使用したデータベースが調剤されなかった処方箋を捕捉していないという限界があった。JAMA誌2024年7月9日号掲載の報告。費用分担とナロキソン処方箋の放棄の関連を評価 研究グループは、民間保険とメディケア保険では税控除が通常年初にリセットされることを利用して、横断的な回帰不連続分析により、費用分担とナロキソン処方箋の放棄(ナロキソン処方の非調剤)の関連を評価した。 2020~21年のIQVIA Formulary Impact Analyzer(米国の薬局の処方箋の63%を占める薬局取引データベース)のデータを用い、2021年1月1日より前の60日間および2021年1月1日以後の59日間に発生した民間保険加入患者とメディケア患者のナロキソン点鼻薬の請求情報を解析に組み込んだ。 費用分担は、処方を完遂するために患者が支払った金額と定義。局所線形回帰モデルを用いて、2021年1月1日の費用分担の急な変更と処方箋の放棄の可能性を評価した。また、ファジー回帰不連続分析を行い、費用分担と処方箋放棄との関連を推定した。費用負担の増加は処方箋放棄の確率上昇と関連 解析には、民間保険加入患者7万1,306例(女性4万19例[56.1%])およびメディケア患者10万1,706例(女性6万1,410例[60.4%])のナロキソン請求データ(民間保険加入患者7万3,311件、メディケア患者10万6,076件)が含まれた。 2021年1月1日に、請求1件当たりの平均費用負担は、民間保険加入患者では15.0ドル(95%信頼区間[CI]:13.8~16.2)増加し、メディケア患者では12.3ドル(10.9~13.6ドル)増加した。放棄の確率はそれぞれ4.7ポイント(95%CI:3.2~6.2)、2.8ポイント(1.6~4.1)上昇した。 ファジー回帰不連続分析の結果では、民間保険とメディケアのプランがナロキソンの費用負担を10ドル引き上げる決定が、放棄の確率をそれぞれ3.1ポイント(95%CI:2.2~4.1)、2.3ポイント(1.4~3.2)上昇させることが示唆された。

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オピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用【日常診療アップグレード】第7回

オピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用問題87歳女性。3ヵ月前に進行膵がんと診断され、2ヵ月前からモルヒネを定期的に内服している。3週間前から夜間の腹痛がひどくなり、モルヒネを増量した。不眠の訴えもあったため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を処方した。

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フェンタニル貼付薬はハサミで切らないで!【非専門医のための緩和ケアTips】第78回

第78回 フェンタニル貼付薬はハサミで切らないで!「フェンタニル」は、貼付薬として処方できる唯一のオピオイドですが、そのユニークな投与経路ゆえの注意点もあります。われわれ医療者にとっては当たり前でも、患者さんや家族は知らずに危険な行動をとっているかもしれません。今回の質問先日、高齢のがん患者さんにフェンタニル貼付薬を処方しました。嚥下機能が低下して内服が負担になっていたため、切り替え自体は喜んでもらえました。ところが、次の外来で診察したところ、薬剤を半分に切って貼付していました。聞くと「痛みがなくなってきたし、もったいないから湿布のように半分に切って使いました」とのことでした…。嚥下機能が低下した患者さんで疼痛コントロールが安定している場合、フェンタニル貼付薬は良い適応です。ただ、今回の質問のように「切って使ってはいけない」といった注意点があります。フェンタニルは、脂溶性のオピオイドであることが特徴です。経皮吸収されるため、貼付薬があるのですね。貼付薬としては、腰痛や膝痛などに用いられる湿布薬が最も一般的でしょう。そして、湿布薬に慣れ親しんだ高齢者にとって、貼付薬は錠剤よりも親しみやすいかもしれませんが、その分、湿布薬とは異なる点が見落とされがちです。フェンタニル貼付薬は、貼付薬といえどもれっきとしたオピオイドであり、過量投与にならないよう、薬剤の放出・吸収量が厳密に設計されています。正しく使わないと理論上の投与量が狂ってしまい、過量投与と重篤な有害事象につながります。そして、添付文書の「適用上の注意」には、「本剤をハサミ等で切って使用しないこと」と明記されています。ハサミで切ると、切断面から薬剤が漏出し、予想外に多くの薬剤が経皮吸収される可能性があります。今回の患者さんの「もったいないから半分に切った」というのは、湿布薬でよく見かける状況ですが、おそらく湿布薬であっても望ましくはないでしょう。ましてや今回のフェンタニル貼付薬の場合、過量投与のリスクにつながるのは言うまでもありません。フェンタニル貼付薬の使用上の注意点としては、「貼付後に身体を温めない」というものもあります。添付文書には「警告」扱いで「本剤貼付部位の温度が上昇するとフェンタニルの吸収量が増加し、過量投与になり、死に至る恐れがある。本剤貼付中は、外部熱源への接触、熱い温度での入浴等を避けること。発熱時には患者の状態を十分に観察し、副作用の発現に注意すること」としています。貼ったまま長時間の熱いお湯に入浴したり、こたつに入ったりすることは厳禁です。「貼付薬」というと気軽に使えるように思われがちですが、フェンタニル貼付薬はその特性上、患者さんが安全に使用できるよう、薬剤師と協力してしっかり指導する必要があります。皆さんの施設でも適切な指導ができているか、振り返ってみましょう。今回のTips今回のTipsフェンタニル貼付薬の注意点を理解し、処方の際はきちんと指導しよう。

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医療用麻薬って、一生飲み続けるのですか?【非専門医のための緩和ケアTips】第77回

第77回 医療用麻薬って、一生飲み続けるのですか?患者さんから、そして医療者向けのレクチャーにもしばしば聞かれる質問の1つに、「医療用麻薬って一生飲むのですか?」というものがあります。そんな時、どう答えるのがよいでしょう? 一緒に考えてみたいと思います。今回の質問先日、がん疼痛が強くなってきた患者さんにオピオイドを処方しようとした際のこと。不安にならないよう丁寧に説明して、必要性は理解してもらいました。その際、「この薬って一生飲み続けるのでしょうか?」と尋ねられました。比較的全身状態の保たれた患者さんでしたが、病状は進行すると考え、「そうです」とは答えたのですが、これでよかったのでしょうか?終末期に近い病状の患者さんを診ている場合、オピオイドの減量や中止を経験することは、あまりないかもしれません。この中であり得るパターンとしては、「内服で継続していたオピオイドが身体状況の悪化で飲めなくなり、痛みも訴えていないことや投与量自体があまり多くないことから、そのまま中止」というものがあります。このような場合、多くは1週間程度で亡くなる経過をたどります。こうした場合以外は、それなりの投与量のオピオイドを急に中止してしまうと、退薬症状が生じる懸念があります。そのため、「内服できない」といった状況が生じれば、皮下投与や静脈投与に投与経路を変更して投与を継続することが一般的です。では、「がん疼痛自体が軽減したので、オピオイドを減量・中止する」という機会はあるのでしょうか? 悪性疾患の特性上、病状の進行に伴い症状も強くなる場合が大半ですが、少ないながらもオピオイドが不要になるケースは存在します。具体的な例としては、「がん疼痛が強く、大量のオピオイドが必要だったが、オピオイド“以外”の介入によって、症状が改善した」というケースです。たとえば、「放射線治療や化学療法が奏効し、痛みの主要因であった病変が縮小・消失した」場合には、オピオイドの中止の可能性が出てきます。この場合、オピオイドは「鎮痛薬以外の治療を行うために一時的に使用した」という役割になります。さらに、痛みは改善しているのにそのままの量を処方し続ければ、過量投与になる恐れがあります。「放射線治療をしていたら、傾眠傾向になってきた…」といった時には、オピオイドが過量になってないかを検討しましょう。さて、最初の質問に対して、私はどのように答えているでしょうか?私自身は上記のような医学的な説明をする前に、「どういった気掛かりからの質問なのか」を確認しています。こうした質問が出る場合、相手には何らかの懸念があることが一般的です。たとえば、「長期間使用すると依存症になってしまうのではないか?」「医療費がずっとかかるのではないか?」といったことです。相手の気掛かりを確認したうえで、「病状や症状によっては、オピオイドの減量や中止に至るケースもあります」と説明することもあります。ただ、こうした場合でも「あまり多くはないですが…」といった枕詞を置くなど、過度に期待させないよう配慮します。そのうえで、「できるだけ症状が和らぐように、ベストだと思われる調整を提案します」とお伝えします。今回のTips今回のTipsオピオイドの減量・中止が必要となるケースを知り、患者さんの気掛かりに対応しよう。

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この錠剤、飲みにくいのでつぶしてください【非専門医のための緩和ケアTips】第76回

第76回 この錠剤、飲みにくいのでつぶしてください私自身、クスリを飲むたび体感するのですが、錠剤って、大きさによっては飲みにくいですよね…。錠剤と水を口に含み、ごっくんとしたけれど、きれいに水だけを飲み込んでいたことが何度もあります。そんな体験が続くと、精神的にも負担です。緩和ケアではとくに嚥下機能の落ちている患者さんが多いので、クスリの飲みやすさは重要です。今回の質問患者さんから「先生に出してもらった痛み止め、よく効いたのですが錠剤は苦手です。つぶして出してもらえますか?」と相談されました。私としては希望に応えようと思って、粉砕で処方したところ、薬局から「この医療用麻薬はつぶせません」と連絡がありました。その時は忙しかったので、粉砕できないことだけ患者さんに説明し、納得してもらったのですが…。ご質問ありがとうございます。医療用麻薬の処方でたまに経験する「ピットフォール」(落とし穴)ですね。がんの鎮痛で処方するオキシコドンの錠剤でよく経験するケースです。オキシコドン錠は、ゆっくりと吸収されることで鎮痛効果が12時間程度持続するようにつくられています。粉砕すると想定以上のスピードで吸収されてしまうため、粉砕した処方はできません。さらに、最近では、オキシコドン錠は乱用防止のための加工がされています。錠剤の強度を上げ、粉砕することが困難な錠剤になっています。また、水に溶かそうとするとゲル状になるよう加工されています。加工の理由は、オピオイド乱用への対策です。米国を中心にオピオイド錠を粉末にして鼻腔から吸う、水に溶かして注射をするといったオピオイドによる薬物中毒問題は深刻化しており、製薬メーカーも対策をせざるを得ない状況になっています。日本では、あまりオピオイドが処方されてこなかったことや、処方や薬局での管理上の厳密さが求められるため、米国ほど大きな問題にはなっていませんが、注意は必要です。処方する側の私たちは、こうした知識を持ったうえで、患者さんの服薬問題にどのように取り組むべきでしょうか? まずは、患者さんへの指導と内服状況の確認に取り組むことが大切です。「飲みにくいクスリ」は飲まなくなります。「最近、痛みが強くなって…」といった訴えがあれば、きちんと服薬できているか、剤形の問題で服薬できないことがないかをチェックしましょう。オキシコドン錠に乱用防止加工がされる前のエピソードです。知り合いの医師が診ていた患者さんで、「オキシコドン錠をかみ砕いて飲んでいる」という方がいたそうです。その患者さんはもともと錠剤の服薬困難があり、ほかの薬剤はすべて散剤で処方されていました。オキシコドンだけが錠剤で処方されていたため、かみ砕いていたのですが、服薬後には非常に眠くなっていたそうです。本来は12時間程かけてゆっくり吸収されるはずの成分が一気に吸収されるのですから、非常に危険な状態です。処方時には、錠剤で処方することについて何らかの説明はあったのでしょうが、問題なく内服できるかといったフォローが十分でなかった可能性があります。患者さんも、あまり気に留めていなかったのかもしれません。オピオイドも散剤、貼付薬、坐薬、注射薬など、さまざまな剤形があります。患者さんごとに使い分け、正しく服薬できるように本人をはじめ、薬剤師さんにも確認するとよいでしょう。今回はオピオイド処方の隠れたピットフォールについてお伝えしました。今回のTips今回のTips粉砕できないオピオイドがあることを理解し、飲みやすさを確認しよう。

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医師の共感スキルが高いほど患者の腰痛が改善

 医師の共感と慢性腰痛患者の長期的アウトカムとの関連を調査したコホート研究の結果、患者評価による医師の共感度が高いほど12ヵ月にわたる患者の痛み、機能、健康関連QOL(HRQOL)が良好であったことを、米国・University of North Texas Health Science CenterのJohn C. Licciardone氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年4月11日号掲載の報告。 対象は、2016年4月1日~2023年7月25日にThe Pain Registry for Epidemiological, Clinical, and Interventional Studies and Innovation(PRECISION)に登録された21~79歳の慢性腰痛(3ヵ月以上継続)患者で、12ヵ月間追跡された。医師の共感度は、CARE Measure(患者の視点で医師の共感度を評価するツール)を用いて評価された。10項目を1(poor)~5(excellent)点で評価し、合計スコアが30点以上の場合は「非常に共感的」、29点以下の場合は「わずかに共感的」な医師に分類された。主要アウトカムは、患者報告による痛み、機能、HRQOLで、データは登録時および3ヵ月ごとの診察で収集した。時間的傾向を測定し、ベースラインおよび長期的な共変量を調整するための多変量モデルを含む一般化推定方程式を用いて解析された。 主な結果は以下のとおり。●解析には、1,470例が組み込まれた。平均年齢は53.1(SD 13.2)歳、女性は1,093例(74.4%)であった。医師を「非常に共感的」と評価した患者群と「わずかに共感的」と評価した患者群のベースライン特性はおおむね同等であった。●医師の共感度が高いほど、患者の12ヵ月後のアウトカムが良好であった。 ・痛みの強さ β=-0.014、95%信頼区間[CI]:-0.022~-0.006、p<0.001 ・腰痛関連障害 β=-0.062、95%CI:-0.085~-0.040、p<0.001 ・HRQOL障害(例:痛みによる生活障害) β=-0.080、95%CI:-0.111~-0.049、p<0.001)●わずかに共感的と評価した群と比較して、非常に共感的と評価した群の患者では、痛みの強さや腰痛関連障害、HRQOL障害の平均スコアが有意に低かった。●医師の共感は、非薬物療法やオピオイド療法、腰椎手術よりも良好なアウトカムと関連していた。

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第191回 医師の地域偏在解消へ、財務省の提案に日医が反発/財政制度分科会

<先週の動き>1.医師の地域偏在解消へ、財務省の提案に日医が反発/財政制度分科会2.急増する医療機関の倒産・休廃業、背景に後継者問題/帝国データバンク3.退院前の指導不足で市民病院が逆転敗訴、約7,500万円の賠償命令/名古屋高裁4.患者受診せずがん告知が1年以上遅れ、大腸がんステージ進行/神戸市立医療センター5.医療機器メーカーとの癒着疑惑、整形外科医逮捕/東京労災病院6.元理事長への不正な麻薬処方、元副学長が医師法違反の疑い/日本大学1.医師の地域偏在解消へ、財務省の提案に日医が反発/財政制度分科会財務省は、4月16日に財政制度分科会を開き、この中で少子化対策のほか医師の偏在問題について議論を行った。2020年の医学部定員を前提とした厚生労働省の将来推計では、2029年ごろにマクロでは医師需給が均衡し、医師の供給過剰が見込まれ、今後は医学部の定員の適正化が必要と指摘された。現状のままでは大都市部において、医師や診療所数が過剰となり、地方はそれらが過小のまま続くとして、診療所の偏在是正のために都市部での新規開業を規制し、診療所が不足している地域での診療報酬の単価を引き上げることを提案した。これは地域や診療科ごとに医師の定員があるヨーロッパのシステムを参考にしている。武見 敬三厚労大臣は、今後の医師の偏在対策を「骨太の方針」に組み込み、具体的な方向性を年末までに示すと述べた。日本医師会は財務省提案に強く反対しており、医師の偏在は人口分布に起因する問題であり、診療報酬での調整は不適切であると主張している。さらに医師会は、地域枠など既存の対策を強化することが先決であるとしている。また、厚労省も地域医療の将来の姿や偏りの見直しを議論するために「新たな地域医療構想等に関する検討会」(座長:遠藤 久夫氏[学習院大学長])を立ち上げて議論を開始している。文部科学省も、医学部の特別枠を通じて医師を地方に派遣する新たなプログラムを提案し、これにより地域医療に貢献する医師の養成を目指している。これにより大学病院から地域への医師派遣を容易にし、地域医療の充実を図りたいとしている。これらの提案と議論は、わが国の医療システムの将来に重大な影響を与える可能性があり、医師の偏在解消を目指す一連の施策が、どのように進展するかが注目されている。参考1)こども・高齢化 財政制度分科会(財務省)2)第2回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料(厚労省)3)医師の都市集中、解消探る 過剰地域の報酬下げ/開業規制 財制審提言(日経新聞)4)過剰地域の診療報酬下げ「受け入れられない」 医師会長(同)5)医師偏在問題、「都市部で開業規制を」と財務省提言 医師会は反発(朝日新聞)6)医師の偏在解消で「大学特別枠」、文科省が試案 大学病院から地域への派遣強化(CB news)2.急増する医療機関の倒産・休廃業、背景に後継者問題/帝国データバンクわが国の医療機関の休廃業・解散件数が2023年度(2023年4月~2024年3月)に過去最多の709件に達し、過去10年で2.3倍となった。そのうち診療所が23年度は580件と全体の8割超を占めていることが帝国データバンクの調査で明らかになった。医療機関の倒産・休廃業数は前年の517件から大幅に増加していた。同様に、歯科医院も110件と過去最多を記録。同社によれば、経営者の高齢化と後継者不在が主な原因であり、今後もこの傾向は続くと予測されている。また、2023年度には医療機関の倒産件数も過去最多を更新し、55件が報告された。これは2009年度の45件を上回る数であり、診療所と歯科医院がそれぞれ28件と24件で過去最多を更新している。これらの倒産は法的な手続きを経て確認されたもので、高齢経営者の健康問題などが倒産につながるケースもみられている。日本医師会の「医業承継実態調査」では、診療所の約半数が後継者不在と答えており、帝国データバンクの企業概要ファイルによると、2024年には診療所経営者のボリュームゾーンが65~77歳となっている。この高齢化が顕著な中で、診療所はコンビニの約2倍の数が存在し、狭い市場での競争が熾烈を極めている。こうした状況は、医療機関の持続可能性に深刻な影響を及ぼしており、とくに地域医療にも影響が出ている可能性がある。今後、後継者問題の解決や高齢経営者の支援策を強化することが急務となる。参考1)医療機関の「休廃業・解散」 動向調査(2023年度)(帝国データバンク)2)医療機関の休廃業・解散が過去最多、昨年度 計709件、診療所が8割超(CB news)3.退院前の指導不足で市民病院が逆転敗訴、約7,500万円の賠償命令/名古屋高裁気道確保のため「カニューレ」を装着していた6ヵ月の女児が、退院後に低酸素脳症を発症し、3歳で亡くなった事件について、名古屋高等裁判所は1審の判決を覆し、一宮市に約7,500万円の賠償支払いを命じた。裁判では、一宮市立市民病院が退院時の必要な救命処置の指導を怠ったことが問題視された。女児は、喉頭の組織が軟弱で、気管が塞がりやすく呼吸がしづらい「喉頭軟化症」であり、気管カニューレを必要としていた。入院中には装着器具が外れる事故が3回発生していたが、これについて病院側から十分な説明や指導が行われていなかったとされている。両親は当初、原因を自分たちに求めていたが、裁判を通じて同病院の責任が明らかになり、「娘の無念を晴らせた」と安堵の声を上げた。同病院は「判決文が届いていないので、現時点ではコメントを差し控える」と述べている。この判決は、医師の指導義務違反を問題視した点で重要な意義を持つ。代理人弁護士の森下 泰幸氏は、「気管カニューレが外れる事故は全国で相次いでおり、今回の判決を受け、退院時には必ず救命方法などの指導を全国の病院で徹底してもらいたい」と訴えている。この判決により、今後の医療機関における指導・教育のあり方に影響を与えると考えられる。参考1)“医師は指導義務怠る” 1審と逆 市に賠償命令 名古屋高裁(NHK)2)愛知・一宮市に7,400万円賠償命令 呼吸用器具の事故後に女児死亡(朝日新聞)3)気道確保の重要性など説明せず、3歳女児死亡 遺族が逆転勝訴(毎日新聞)4.患者受診せずがん告知が1年以上遅れ、大腸がんステージ進行/神戸市立医療センター神戸市立医療センター中央市民病院は、60代の男性患者が大腸がんと診断されたにもかかわらず、診断結果の告知が1年2ヵ月遅れるという重大なミスを病院側が公表した。2022年8月に内視鏡検査を受けた男性は、翌月に大腸がんと診断されたが、結果を説明するために予定していた受診日に来院しなかったため告知が行われなかった。その後も男性は、別の科で定期的に通院していたが、告知されなかったため治療開始が遅れ、男性のがんはステージ1からステージ3bまで進行していた。この事実が明らかになったのは、男性が2023年11月に別の疾患で入院し、脳神経内科の医師がカルテを確認したときであった。同病院では、未受診患者を管理するリストがあり、通常は診療終了後にリストから外されるが、今回の重大案件では、男性がリストから誤って外されていた可能性が指摘されている。この案件を受け、同病院では未受診の患者の管理方法を見直し、ルールの明文化を進めている。この重大案件は、病院内の情報管理システムの改善の必要性を浮き彫りにした。同病院は男性と補償についての協議を行っており、病院側は公式に謝罪している。参考1)大腸がんと診断された患者に1年2ヵ月告知忘れる…その間にステージ「1」から「3b」に進行(読売新聞)2)がん告知日に患者来院せず…そのまま1年超、ステージ3に 病院謝罪(朝日新聞)5.医療機器メーカーとの癒着疑惑、整形外科医逮捕/東京労災病院東京労災病院の整形外科副部長の医師(41歳)が、特定の医療機器メーカーの製品を使用することで現金約50万円の賄賂を受け取ったとして逮捕された。この事件では、逮捕された医師が同僚にも同じメーカーの製品の使用を勧め、それにより得たポイントを自身の利益に変換していたことが判明している。また、医師は医療機器の選定に影響を与えたとされ、医師が受け取ったポイントは現金に交換可能で、飲食代などの領収書を提出することで換金されていたと報じられている。警視庁は、このほかにも余罪があるか捜査を進めており、このスキームがどれほど広範に及んでいたのか、また、その影響についても調べている。贈収賄に関与したHOYA Technosurgical社および親会社HOYA社は、捜査に協力する姿勢を示している。同病院は再発防止策を講じ、職員の倫理教育を強化すると公表している。参考1)東京労災病院 医師を収賄容疑で逮捕 製品巡り50万円受け取りか(NHK)2)他の医師使用分も見返り収受 部下に贈賄側企業製品を推奨か 東京労災病院の汚職事件・警視庁(時事通信)3)東京労災病院副部長を収賄容疑で逮捕 「ポイント制」で業者から現金(朝日新聞)4)当院職員の逮捕について(東京労災病院)6.元理事長への不正な麻薬処方、元副学長が医師法違反の疑い/日本大学日本大学の「不正事案洗い出しのための特別調査委員会」は、元理事長の田中 英寿氏(故人)への医療用麻薬モルヒネを含む痛み止めの不正処方について報告した。田中氏は2021年8月~2022年4月にかけて、元副学長だった主治医により、医師3人を介して7回にわたり痛み止めが処方された。しかし、これらの処方はいずれも診療記録がなく、実際の診察は行われていなかった。調査委員会によれば、田中氏に処方された薬の診療記録は電子カルテシステムに一切残されておらず、元副学長は診療の有無について守秘義務を理由に説明を拒否。また、元副学長や関連医師は、田中氏の自宅で診療行為を行っていたが、これに関する記録も存在しなかった。医師法では、診療行為を行った場合、病名や治療内容をカルテに記載することが義務付けられており、違反した場合には罰則が科されている。調査委は元副学長の医師法違反の可能性が高いと結論付け、「厳格に管理すべき医療用麻薬が不適切に処方されていた悪質性は高い」と指摘している。同大学は監督官庁との協議を待っている状態で、元副学長からの回答は得られていない。参考1)日大の田中英寿・元理事長にモルヒネ処方、診察記録なし…主治医の元副学長は守秘義務理由に説明せず(読売新聞)

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第189回 紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省

<先週の動き>1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省厚生労働省は、小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品に関連する健康被害について、入院者数が延べ196人、受診者数が1,120人を超えたと発表した。この問題は国内で広がりをみせており、相談件数は約4万5,000件に上っている。厚労省は、無症状の人でも医師が必要と判断すれば、保険診療での診察や検査を許可する措置を講じた。立憲民主党は、このような健康被害があった場合に迅速な報告義務を課す制度改正を政府に要請する方針を明らかにした。また、小林製薬は、製品が安全に摂取できると言えないとの見解を示し、紅麹原料の製造過程で温水が混入するトラブルがあったことも公表したが、健康被害との直接的な関連は不明としている。この一連の問題に対し、消費者庁や厚労省は、紅麹を含む製品による健康被害の原因究明と、被害拡大防止のための対策を強化している。参考1)健康被害の状況等について[令和6年4月4日時点](厚労省)2)疑義解釈資料の送付について[その65](同)3)「紅麹を含む健康食品等を喫食した者」、無症状でも、医師が喫食歴等から必要と判断した場合には、保険診療で検査等実施可-厚労省(Gem Med)4)小林製薬「紅麹」、受診1,100人超 健康被害どこまで(日経新聞)5)健康被害で報告義務を=機能性食品、政府に要請へ-立民(時事通信)6)報告義務の法制化「必要あれば迅速に」 紅麹サプリ問題で武見厚労相(朝日新聞)7)紅麹製造タンクで温水混入トラブル、小林製薬「健康被害との関係不明」…公表2週間で受診1,100人超(読売新聞)2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省厚生労働省は、オンライン診療の適切な実施に関する新たな指針を公表し、特定の医薬品の処方に関する制限を明確にした。これにより、オンライン診療の初診では麻薬・向精神薬、抗がん剤、糖尿病治療薬などの特定薬剤の処方が禁止され、これらの情報を過去の診療情報として扱うこともできなくなる。この措置は、患者の基礎疾患や医薬品の適切な管理を確保するため、および不適切な処方を防ぐために導入された。オンライン診療では、患者から十分な情報を得ることが困難であり、医師と患者の本人確認が難しいため、安全性や有効性を保証するための規制が設けられている。厚労省は、新たな課題や医療・情報通信技術の進展に伴い、オンライン診療指針およびその解釈のQ&Aを更新し続けている。また、オンライン診療で糖尿病治療薬をダイエット薬として処方するなどの不適切な事例にも対処。これにより、医療機関はオンライン診療の際に、医師法や刑事訴訟法に基づく適切な手続きを踏むことが強く求められる。とくに、医師のなりすましや患者情報の誤りが疑われる場合は、警察との連携を含む厳格な対応が促されている。さらにオンライン診療では、基礎疾患の情報が不明な患者に対しては、薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤の処方を避け、8日分以上の薬剤処方を行わないことで、一定の診察頻度を確保し、患者観察を徹底することを求めている。参考1)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A[令和6年4月改訂](厚労省)2)オンライン初診では麻薬や抗がん剤、糖尿病薬などの処方不可、オンライン診療の情報を「過去の診療情報」と扱うことも不可-厚労省(Gem Med)3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省厚生労働省は、医療広告に関する規制をさらに強化を図るため、事例解説書の第4版を公表した。今回の改定では、誤解を招く誇大広告や、いかなる場合でも特定の処方箋医薬品を必ず受け取れるとする広告など、不適切な医療広告に対処する内容の改定となった。新たに追加された内容では、GLP-1受容体作動薬の美容・ダイエットを目的とした適応外使用に関する違反事例が散見されることに対応し、特定の処方箋医薬品を必ず受け取れる旨を広告することを禁止するほか、SNSや動画を含むデジタルメディア上での広告事例が含まれ、ビフォーアフター写真の説明が一切ないままの使用、治療内容やリスクに関する不十分な説明が禁止される事例が明確にされた。また、自院を最適または最先端の医療提供者と宣伝することも禁じられている。これらの更新は、患者が正確な情報に基づいて医療サービスを選択できるようにすることを目的とし、今後ガイドラインの遵守を求めていく。参考1)医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第4版](厚労省)2)医療広告「自院が最適な医療提供」はNG 厚労省が事例解説書・第4版(CB news)3)「必ず処方薬が受け取れる」はNG、オンライン診療広告 厚労省、解説書に事例追加(PNB)4)2024年3月 医療広告ガイドラインの変更点まとめ(ITreat)4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会日本消化器外科学会が、昨年学会員に対して行った調査で、消化器外科医が直面している厳しい労働環境が明らかになった。2023年8月~9月にかけて65歳以下で、メールアドレスの登録がある会員1万5,723名(男性1万4,267名[90.7%]、女性1,456名[9.3%])を対象にアンケート調査を行ったところ、2,923人(18.6%)から回答を得た。その結果、月に80時間以上の時間外労働を報告した医師が全体の16.7%に上り、さらに100時間以上と回答する医師が7.6%と、「医師の働き方改革」で定められた年間960時間の上限を超える勤務をしていることがわかった。また、当直明けに手術を行う医師が7割以上を占め、「まれに手術の質が低下する」と回答した医師が63.3%に達した。この結果は、過酷な勤務条件が医療の質に潜在的なリスクをもたらしていることを示唆している。さらに、医師の働き方改革が導入される直前の調査では、労働環境の改善がみられるものの、賃金の改善が最も求められていることが明らかになった。医師は、兼業が収入の大きな部分を占め、とくに手術技術料としてのインセンティブの導入を望んでいる。また、次世代の医師に消化器外科を勧める会員は少数で、これは消化器外科医を取り巻く環境に対する懸念を反映したものとなった。同学会では、労働環境の改善、とくに賃金体系の見直しは、消化器外科医の減少に歯止めをかけ、消化器外科の将来を守るために積極的に取り組む必要があり、今後も高い品質の外科医療を提供し続けるために不可欠であると結論付けている。参考1)医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状(日本消化器外科学会)2)消化器外科医の当直明け手術、「いつも」「しばしば」7割超…「まれに手術の質低下」は63%(読売新聞)5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会2022年度の看護職員の離職率が11.8%と高い水準で推移していることが、日本看護協会による病院看護実態調査で明らかになった。正規雇用の離職率は11.8%、新卒は10.2%、既卒は16.6%と報告されている。医療・介護ニーズの増加と現役世代数の減少が見込まれる中、医療機関における看護職員の離職防止が一層重要な課題となっている。また、看護職員の給与に関しては、勤続10年での税込平均給与が32万6,675円となっており、処遇改善評価料を取得した病院では、看護職員の給与アップ幅が大きくなっている。この調査結果は、看護職員の離職率が高い状況を背景に、看護職員のサポートと業務効率化が急務であることを示しており、看護職員から他職種へのタスク・シフトを進めることの重要性を強調している。これにより、医療現場での働きやすさの向上と医療提供体制の確保が求められている。同協会は、看護師の離職防止のために看護業務効率化ガイドを公表し、医療現場での業務効率化の事例を紹介している。この中で、業務効率化のプロセスやノウハウを示し、医師の働き方改革を支える看護職員の業務効率化に焦点を当てている。具体的な業務効率化の取り組みとしては、記録業務のセット化や音声入力機器の導入などが示されている。参考1)「2023年 病院看護実態調査」結果 新卒看護職員の離職率が10.2%と高止まり(日本看護協会)2)「看護業務効率化先進事例収集・周知事業」報告書(同)3)新卒の看護職員10人に1人が離職 23年病院看護実態調査 日看協(CB news)4)看護業務を効率化するガイドを公表、日看協 ホームページなどに掲載(同)5)コロナ感染症の影響もあり、2021年度・22年度の看護職員離職率は、正規雇用11.8%、新卒10.2%、既卒16.6%と高い水準-日看協(Gem Med)6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会日本児童青年精神医学会は、18歳未満の子供や若年層への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)の使用に対し、「非倫理的で危険性を伴う」との声明を発表し、この治療法の適用に強い倫理的懸念を示した。とくに発達障害を扱う精神科クリニックが、適応外でありながら、専門家の適正使用指針に反して、未成年者への施術を勧めるケースが問題視されている。TMSは、頭痛やけいれん発作などの副作用が報告されており、子供への有効性と安全性については現時点でエビデンスが不十分とされている。日本国内では2017年9月に厚生労働省が医療機器として薬事承認し、治療抵抗性うつ病への対応として帝人のNeuroStarによるrTMSを承認したが、日本精神神経学会は、とくに未成年者への施術にはさらなる臨床研究が必要としている。今回、同学会が指摘した倫理的な問題としては、一部のクリニックが患者の不安を利用し、高額な治療費用のためにローンを組ませる事例がある。今回の声明は、未成年者へのTMS治療の実施に当たっては慎重な検討を求めている。参考1)子どもに対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法に関する声明(日本児童青年精神医学会)2)反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(改訂版)(日本精神神経学会)3)「非倫理的で危険」と学会声明 子どもへの頭部磁気治療で(東京新聞)

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電子カルテを通じた医師への警告で不要な検査が減少

 80歳の男性に定期的な前立腺がんの検査(PSA検査)を指示するために医師がコンピューターを操作していると、患者の電子カルテに派手な黄色の警告が表示された。そこには、「ガイドラインで推奨されていない検査をオーダーしています。PSA検査の結果に基づき行われる診断や治療が患者に有害となる可能性があります。正当な理由なく検査を行うと、不要な検査であることがカルテに記載されます」との警告文が表示されていた。 この警告文は、医師による高齢患者への不要な検査を減らすための戦略の一環として米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のStephen Persell氏らが作成し、試験的に導入したものである。同氏らの研究では、この戦略により18カ月後には不要なPSA検査が9%、女性での尿路感染症診断のための尿検査が約6%減少したという。Persell氏は、「われわれの知る限り、これはポイント・オブ・ケア(ケアが行われている場)での警告が全ての不要な検査や治療を有意に減少させることを示した初めての研究である」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に2月6日掲載された。 この研究では、ノースウェスタン・メディスンに属する60施設のプライマリケア診療所の医師とその患者を対象に、医師の注意を患者が被る害に向けさせ、また、医師に過剰医療に対する社会的懸念や風評に対する懸念を考えさせることで、医師の意思決定がどのように変わるかが評価された。対象とされた医師は、行動科学に基づいた臨床意思決定支援ツールによる介入と症例ベースの教育を受ける群(30クリニックの医師187人、介入群)と、症例ベースの教育のみを受ける群(30クリニックの医師187人、教育群)に割り付けられた。意思決定支援ツールは、患者にもたらされる潜在的な害や結果に対する医師の責任を強調し、社会的規範を伝えるようにデザインされたものだった。 介入効果は、前立腺がんの既往歴がない76歳以上の男性に対するPSA検査、65歳以上の女性に対する非特異的な理由での尿検査、HbA1cが7%未満の75歳以上の糖尿病患者に対する血糖降下薬による過剰治療の3点について検討した。先行研究では、75歳以上の男性でのPSA検査は延命治療につながらないばかりか、不要な治療を受けることで尿失禁や性機能障害、直腸出血などが生じる可能性もあることが示されている。同様に、65歳以上の無症状の尿路感染症に対する抗菌薬による治療が健康を改善することを示したエビデンスもない。さらに、インスリンやスルホニル尿素のような糖尿病治療薬を使用している75歳以上の糖尿病患者の血糖値を低下させる治療も低血糖のリスクを高めるので危険である。 その結果、介入から18カ月後には、介入群では教育群に比べてPSA検査が8.7%、非特異的な尿検査が5.5%、糖尿病に対する過剰治療が1.4%少なく、介入が有効であることが明らかになった。 先行研究では、電子カルテを通じて医師にメッセージを配信することで不要な検査を減らすことが試みられているが、Persell氏らは今回の研究で、医師に影響を与え得る言葉の組み合わせを考え出すことができたと話している。同氏は、「患者にもたらされる潜在的な害に焦点を当て、社会的規範を共有し、社会的責任や風評への懸念を促進する要素を取り入れることが、これらのメッセージの効果につながったと考えている」と大学のニュースリリースで説明している。その上で、「臨床医にとって説得力のあるメッセージを、臨床医がオーダーを出す際に電子カルテを通じて配信することができるのなら、これはケアを改善する簡単な方法となるし、大規模な医療システム全体への適用も可能だ」と付け加えている。 研究グループは、このようなメッセージ配信による介入が、オピオイドや睡眠薬の処方、潜在的に危険な薬剤の組み合わせなど、他のタイプの過剰治療を減らす上でも有効であるのかを検討する予定だと話している。

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がん治療中のその輸液、本当に必要ですか?/日本臨床腫瘍学会

 がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに 猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。 このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは 近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている2)。「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:・浮腫→疼痛、倦怠感・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛 これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった4)。 実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。

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