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第27回 なぜ経済界トップは辞任したのか?新浪氏報道から考える、日本と世界「大麻をめぐる断絶」

経済同友会代表幹事という日本経済の中枢を担う一人、サントリーホールディングスの新浪 剛史氏が会長職を辞任したというニュースは、多くの人に衝撃を与えました1)。警察の捜査を受けたと報じられる一方、本人は記者会見で「法を犯しておらず潔白だ」と強く主張しています。ではなぜ、潔白を訴えながらも、日本を代表する企業のトップは辞任という道を選ばざるを得なかったのでしょうか。この一件は、単なる個人のスキャンダルでは片付けられません。日本の厳格な法律と、大麻に対する世界の常識との間に生じた「巨大なズレ」を浮き彫りにしているかもしれません。また、私たち日本人が「大麻」という言葉に抱く漠然としたイメージと、科学的な実像がいかにかけ離れているかをも示唆しているようにも感じます。本記事では、この騒動の深層を探るとともに、科学の光を当て、医療、社会、法律の各側面から、この複雑な問題の核心に迫ります。事件の深層 ― 「知らなかった」では済まされない世界の現実今回の騒動の発端は、新浪氏が今年4月にアメリカで購入したサプリメントにあります。氏が訪れたニューヨーク州では2021年に嗜好用大麻が合法化され、今や街の至る所で大麻製品を販売する店を目にします。アルコールやタバコのように、大麻成分を含むクッキーやオイル、チョコレートやサプリメントなどが合法的に、そしてごく普通に流通しています。新浪氏は「時差ボケが多い」ため、健康管理の相談をしていた知人から強く勧められ、現地では合法であるという認識のもと、このサプリメントを購入したと説明しています。ここで重要になるのが、大麻に含まれる2つの主要な成分、「THC」と「CBD」の違いです。THC(テトラヒドロカンナビノール)いわゆる「ハイ」になる精神活性作用を持つ主要成分です。日本では麻薬及び向精神薬取締法で厳しく規制されており、これを含む製品の所持や使用は違法となります。THCには多幸感をもたらす作用がある一方、不安や恐怖感、短期的な記憶障害や幻覚作用などを引き起こすこともあります。CBD(カンナビジオール)THCのような精神作用はなく、リラックス効果や抗炎症作用、不安や緊張感を和らげる作用などが注目されています。ただし、臨床的に確立されたエビデンスはなく、愛好家にはエビデンスを過大解釈されている側面は否めません。「時差ボケ」を改善するというエビデンスも確立していません。日本では、大麻草の成熟した茎や種子から抽出され、THCを含まないCBD製品は合法的に販売・使用が可能です。新浪氏自身は「CBDサプリメントを購入した」という認識だったと述べていますが、問題はここに潜んでいます。アメリカで合法的に販売されているCBD製品の中には、日本の法律では違法となるTHCが含まれているケースが少なくありません。厚生労働省も、海外製のCBD製品に規制対象のTHCが混入している例があるとして注意を呼びかけています2)。まさにこの「合法」と「違法」の境界線こそが、今回の問題の核心です。潔白を訴えても辞任、なぜ? 日本社会の厳しい目記者会見での新浪氏の説明や報道によると、警察が氏の自宅を家宅捜索したものの違法な製品は見つからず、尿検査でも薬物成分は検出されなかったとされています。また、福岡で逮捕された知人の弟から自身にサプリメントが送られようとしていた事実も知らなかったと主張しています。法的には有罪が確定したわけでもなく、本人は潔白を強く訴えている。にもかかわらず、なぜ辞任に至ったのでしょうか。その理由は、サントリーホールディングス側の判断にありました。会社側は「国内での合法性に疑いを持たれるようなサプリメントを購入したことは不注意であり、役職に堪えない」と判断し、新浪氏も会社の判断に従った、と説明されています。これは、法的な有罪・無罪とは別の次元にある、日本社会や企業における「コンプライアンス」と「社会的信用」の厳しさを物語っているのかもしれません。とくにサントリーは人々の生活に密着した商品を扱う大企業です。そのトップが、たとえ海外で合法であったとしても、日本で違法と見なされかねない製品に関わったという「疑惑」が生じたこと自体が、企業のブランドイメージを著しく損なうリスクとなります。結果的に違法でなかったとしても、「違法薬物の疑いで警察の捜査を受けた」という事実だけで、社会的・経済的な制裁が下されてしまう。これが、日本社会の現実です。科学は「大麻」をどう見ているのか?この一件を機に、私たちは「大麻」そのものについて、科学的な視点からも冷静に見つめ直す必要があるでしょう。世界中で医療大麻が注目される理由は、THCやCBDといった「カンナビノイド」が、私たちの体内にもともと存在する「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」に作用するためです3)。ECSは、痛み、食欲、免疫、感情、記憶など、体の恒常性を維持する重要な役割を担っています。この作用を利用し、既存の薬では効果が不十分なさまざまな疾患への応用が進んでいます4)。がん治療の副作用緩和抗がん剤による悪心や嘔吐、食欲不振を和らげる効果。アメリカではTHCを主成分とする医薬品(ドロナビノールなど)がFDAに承認されています。難治性てんかんとくに小児の難治性てんかんにCBDが効果を示し、多くの国で医薬品として承認されています。その他多発性硬化症の痙縮、神経性の痛み、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、幅広い疾患への有効性が研究・報告されています。このように、科学の視点で見れば、大麻はさまざまな病気の患者を救う可能性を秘めた「薬」としての側面を持っています。「酒・タバコより安全」は本当か? リスクの科学的比較「大麻は酒やタバコより安全」という言説を耳にすることもあります。リスクという側面から、これは本当なのでしょうか。単純な比較はできませんが、科学的なデータはいくつかの客観的な視点を提供してくれます。依存性生涯使用者のうち依存症に至る割合は、タバコ(ニコチン)が約68%、アルコールが約23%に対し、大麻は約9%と報告されており、比較的低いとされます5)。しかし、ゼロではなく、使用頻度や期間が長くなるほど「大麻使用障害」のリスクは高まります。致死量アルコールのように急性中毒で直接死亡するリスクは、大麻には報告されていません6)。長期的な健康への影響精神への影響大麻の長期使用、とくに若年層からの使用は、統合失調症などの精神疾患のリスクを高める可能性が複数の研究で示されています。とくに高THC濃度の製品を頻繁に使用する場合、そのリスクは増大すると考えられています7)。また、うつ病や双極性障害との関連も指摘されていますが、研究結果は一貫していません。身体への影響煙を吸う方法は、タバコと同様に咳や痰などの呼吸器症状と関連します。心血管系への影響(心筋梗塞や脳卒中など)も議論されていますが、結論は出ていません8)。一方で、運転能力への影響は明確で、使用後の数時間は自動車事故のリスクが有意に高まることが示されています6)。国際的な専門家の中には、依存性や社会への害を総合的に評価すると、アルコールやタバコの有害性は、大麻よりも大きいと結論付けている人もいます。しかし、これは大麻が「安全」だという意味ではなく、それぞれ異なる種類のリスクを持っていると理解するべきでしょう。世界の潮流と日本のこれからかつて大麻は、より危険な薬物への「入り口」になるという「ゲートウェイ・ドラッグ理論」が主流でした。しかし近年の研究では、もともと薬物全般に手を出しやすい遺伝的・環境的な素因がある人が複数の薬物を使用する傾向がある、という「共通脆弱性モデル」のほうが有力だと考えられています9)。アメリカでは多くの州で合法化が進みましたが、社会的なコンセンサスは得られていません。賛成派は莫大な税収や犯罪組織の弱体化を主張する一方、反対派は若者の使用増加や公衆衛生への悪影響を懸念しています。合法化による長期的な影響はまだ評価の途上にあり、世界もまた「答え」を探している最中です。ただし、新浪氏の問題は、決して他人事ではないと思います。今後、海外で生活したり、旅行したりする日本人が、意図せず同様の事態に陥る可能性は誰にでもあります。また、この一件は、私たちに大きな問いを投げかけています。世界が大きく変わる中で、日本は「違法だからダメ」という思考停止に陥ってはいないでしょうか。もちろん、法律を遵守することは大前提。しかし同時に、大麻が持つ医療的な可能性、アルコールやタバコと比較した際のリスクの性質、そして世界の潮流といった科学的・社会的な事実から目を背けるべきではありません。今回の騒動をきっかけに、私たち一人ひとりが固定観念を一度リセットし、科学に基づいた冷静な知識を持つこと。そして社会全体で、この複雑な問題について、感情論ではなく建設的な議論を始めていくこと。それこそが、日本が世界の「ズレ」から取り残されないために、今まさに求められていることなのかもしれません。 1) NHK. サントリーHD 新浪会長が辞任 サプリメント購入めぐる捜査受け. 2025年9月2日 2) 厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部. CBDオイル等のCBD関連製品の輸入について. 3) Testai FD, et al. Use of Marijuana: Effect on Brain Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2022;53:e176-e187. 4) Page RL 2nd, et al. Medical Marijuana, Recreational Cannabis, and Cardiovascular Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2020;142:e131-e152. 5) Lopez-Quintero C, et al. Probability and predictors of transition from first use to dependence on nicotine, alcohol, cannabis, and cocaine: results of the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug Alcohol Depend. 2011;115:120-130. 6) Gorelick DA. Cannabis-Related Disorders and Toxic Effects. N Engl J Med. 2023;389:2267-2275. 7) Hines LA, et al. Association of High-Potency Cannabis Use With Mental Health and Substance Use in Adolescence. JAMA Psychiatry. 2020;77:1044-1051. 8) Rezkalla SH, et al. A Review of Cardiovascular Effects of Marijuana Use. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2025;45:2-7. 9) Vanyukov MM, et al. Common liability to addiction and “gateway hypothesis”: theoretical, empirical and evolutionary perspective. Drug Alcohol Depend. 2012;123 Suppl 1:S3-17.

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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中等度~重度のCKD関連そう痒症、anrikefon vs.プラセボ/BMJ

 血液透析を受けている中等度~重度のそう痒症を有する患者において、新規末梢性κオピオイド受容体作動薬anrikefon(旧称HSK21542)は安全であることが確認され、かゆみの強度を顕著に軽減し、かゆみに関連する生活の質(QOL)を改善させたことが、中国・Southeast University School of MedicineのBi-Cheng Liu氏らAnrikefon-302 study collaborator groupによる、第III相の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で示された。κオピオイド受容体作動薬は、中等度~重度の慢性腎臓病(CKD)関連そう痒症の有望な治療戦略とみなされている。anrikefonは、κオピオイド受容体への結合親和性を高める親水性の小ペプチドおよびスピロ環構造を有し、血液脳関門の通過は最小限となる。持続的な治療効果と中枢性のオピオイド副作用発現頻度の低さから、CKD関連そう痒症を有する患者の新たな治療選択肢として期待されていた。BMJ誌2025年8月19日号掲載の報告。中国の50施設で試験、有効性と安全性を評価 研究グループは、2022年6月~2024年6月に、中国の50施設でCKD関連そう痒症を有する患者におけるanrikefonの有効性と安全性を評価する試験を行った。 被験者は、週3回の血液透析を3ヵ月以上受けている成人(18歳以上)で、乾燥体重40~135kg、中等度~重度のそう痒症を有する患者とした。中等度~重度そう痒症の定義は、週平均の24時間Worst Itch Numeric Rating Scale(WI-NRS)スコアが5超の場合とした。 適格患者を無作為に1対1の割合で、anrikefon 0.3μg/kgを週3回静脈内投与する群またはプラセボを投与する群に割り付け、12週間投与し、その後に任意の非盲検延長試験に組み入れanrikefon治療を40週間行った。 主要エンドポイントは、12週時の週平均24時間WI-NRSスコアがベースラインから4ポイント以上低下した患者の割合であった。副次エンドポイントは、12週時の週平均24時間WI-NRSスコアがベースラインから3ポイント以上低下した患者の割合、およびSkindex-10と5-Dかゆみスケールを用いたベースラインからのかゆみ関連QOLの変化とした。また、ベースラインから非盲検延長治療40週目の、かゆみ関連QOLの変化も、5-Dかゆみスケールを用いて報告された。anrikefonの安全性は試験期間を通じて評価された。anrikefon群のかゆみ関連QOLが有意に改善 血液透析を受けている中等度~重度のCKD関連そう痒症を有する患者652例がスクリーニングを受け、545例がanrikefon群(275例)またはプラセボ群(270例)に無作為化された。 12週間の二重盲検試験を完了したのは、anrikefon群243/275例(88%)、プラセボ群254/270例(94%)であった。その後の40週間の非盲検延長試験には443例が組み入れられた。試験集団は、大部分が男性(70%)で平均年齢は52.7歳。ベースラインの週平均WI-NRSスコアは7.0(SD 1.1)で、両群のベースライン特性は類似していた。また、鎮痒薬の併用割合は両群間で同等であった。 12週時のWI-NRSスコアがベースラインから4ポイント以上低下した患者の割合は、anrikefon群37%であったのに対しプラセボ群は15%であった(p<0.001)。 12週時のWI-NRSスコアがベースラインから3ポイント以上低下した患者の割合は、anrikefon群51%であったのに対しプラセボ群は24%であった(p<0.001)。 anrikefon群はプラセボ群と比べて、かゆみ関連QOLが有意に改善したことが示された(5-Dかゆみスケールのベースラインからの平均変化スコア:-5.3 vs.-3.1[p<0.001]、Skindex-10スケールの同平均変化スコア:-15.2 vs.-9.3[p<0.001])。 anrikefon群は、非盲検延長治療40週の間も、5-DかゆみスケールにおけるQOLスコアの持続的な改善が示され、持続的な長期有効性が確認された。 軽症~中等症のめまいが、anrikefon群でプラセボ群よりも多くみられたが、明らかな臨床的影響は認められなかった。

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日本における統合失調症患者に対する終末期ケアの実態

 東北大学のFumiya Ito氏らは、日本全国のレセプトデータベース(NDB)を用いて、統合失調症入院患者の終末期ケアの実態を調査した。BMJ Supportive & Palliative Care誌オンライン版2025年7月15日号の報告。 2012~15年に死亡した20歳以上の入院患者を対象に、NDBのサンプリングデータセットを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。アウトカムは、最期の14日間に終末期ケアを受けた患者の割合とした。 主な結果は以下のとおり。・終末期患者4万9,932例のデータを分析し、そのうち統合失調症患者は530例であった。・死亡場所については、統合失調症患者は精神科病棟で死亡していた(44.8%、95%信頼区間[CI]:41.7~48.9)。・統合失調症患者は非統合失調症患者と比較し、心肺蘇生(16.6%vs.20.5%、p<0.001)、人工呼吸器(13.4%vs.20.9%、p<0.001)を行った割合が低かったが、オピオイド投与の割合は高かった(20.8%vs.19.0%、p=0.30)。・多変量ロジスティック回帰分析では、統合失調症患者は心肺蘇生(調整オッズ比[aOR]:0.50、95%CI:0.38~0.65、p<0.001)、人工呼吸器(aOR:0.48、95%CI:0.36~0.63、p<0.001)の実施と負の相関を示し、オピオイドの投与とは正の相関を示した(aOR:1.57、95%CI:1.18~2.09、p=0.002)。

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第24回 「先生、死にたいです」その声にどう向き合うか。NY州、「尊厳ある死」へ歴史的転換点

米国・ニューヨーク州において、終末期の患者が自らの意思で死を選択することを認める「医療的死亡援助(Medical Aid in Dying:MAID)」の合法化に向けた法案が、州議会を通過しました1)。アメリカ国内でこの制度を導入する州が広がりを見せる中、国内有数の大都市を抱えるニューヨーク州でのこの動きは、個人の尊厳や自己決定権を巡る議論に大きな影響を与える可能性があります。法案は現在、知事の署名を待つ段階にあり、その判断に全米から注目が集まっています。この法案が成立すれば、ニューヨーク州はオレゴン州やカリフォルニア州などに続き、この制度を認める11番目の州となります。著者の所属する医療機関でも、法案成立に備えて倫理委員会での院内方針の策定を準備する動きが見られる一方、「知事が署名するまでは現行法上、違法行為である」として、職員に慎重な対応を求める通達を出すなど、各医療現場は重要な転換点を前に緊張感を漂わせています。長年にわたり議論が続けられてきたこの法案の議会通過は、終末期医療における患者の権利を重視する声が、社会的に一定の支持を得たことを示しているのかもしれません。しかし、生命の尊厳を巡る倫理的・宗教的な対立も根強く、法案の成立がゴールではなく、新たな議論の始まりとなることも間違いないでしょう。「安楽死」との違いは「自己決定」の最終段階このニュースを理解するうえで、しばしば混同されがちな「安楽死」との違いを明確にすることが不可欠です。「医療的死亡援助(MAID)」と、一般的に「積極的安楽死」と呼ばれる行為との間には、法制度上、そして倫理上、決定的な違いが存在しています2)。医療的死亡援助(MAID)で対象となるのは、回復の見込みがない末期疾患と診断され、精神的に正常な判断能力を持つ成人の患者です。複数の医師による診断を経て、患者が自発的に繰り返し要請した場合に、医師は致死量の薬剤を「処方」します。しかし、その最終的な服用は、患者自身の意思と行為によって行われます。ここが安楽死との大きな違いです。医師の役割はあくまで処方までであり、直接的な生命の終結には関与しません。「自己決定権」を最大限に尊重した形とされる所以です。一方、積極的安楽死は、患者本人の同意に基づき、医師が注射などの手段を用いて直接的に患者の生命を終結させる行為を指します。最終的な行為の主体が医師である点が、MAIDとの最も大きな違いです。ベルギーやオランダなど一部の国では合法化されていますが、アメリカの多くの州では殺人罪に問われる違法行為です。今回ニューヨーク州で議論されているのは、あくまでも前者、つまり患者自身の最終的な選択を核とする「医療的死亡援助」です。この推進派が「医師による自殺ほう助(Physician-Assisted Suicide)」という言葉を避け、「医療的死亡援助」という呼称を好む背景には、この「自己決定」の側面を強調し、ネガティブなイメージを払拭したいという意図もあるようです。倫理的ジレンマ――賛成論と反対論の狭間で「医療的死亡援助」の合法化を巡る議論は、米国社会が抱える複雑な価値観の対立を映し出しているともいえます1)。賛成論の根拠となっているのは、主に「個人の尊厳」と「自己決定権」です。背景に、「耐えがたい苦痛を伴う延命治療を続けるよりも、自らが選んだタイミングで尊厳を保ったまま人生の幕を下ろす権利は保障されるべきだ」という考え方があります。現代医療でもなかなか緩和できない苦痛からの解放は、人道的な選択肢の一つとして認められるべきだという声が強いのです。すでに制度を導入しているオレゴン州では、25年以上にわたる運用実績があり、厳格な条件下で適切に機能していると評価されています。一方で、反対論も根強く存在します。まず、宗教的な観点から「生命の神聖さ」を侵す行為であるという批判があります。また、「滑り坂(スリッパリー・スロープ)理論」への懸念もあります。これは、一度合法化を認めると、当初は終末期の成人に限定されていた対象が、次第に障害や精神疾患の苦痛に悩む人たち、認知症の高齢者などへと安易に拡大解釈されてしまうのではないか、という危惧です。さらに、高額な治療費の負担に苦しむ患者やその家族が、経済的な理由から死を選んでしまうという「誘導」になりかねないという指摘もあります。命を救うことを使命とする医師が、人の死に関与することへの倫理的なジレンマもまた、医療界内部で議論が分かれる理由です。ニューヨーク州知事がどのような決断を下すのか、その行方はまだ不透明です。しかし、今回の法案通過が、終末期医療のあり方、そして「いかに生き、いかに死ぬか」という根源的な問いを、社会全体で改めて考える大きなきっかけとなっていることは間違いありません。その結論は、州を越えてアメリカ全土の、そして世界の国々の議論にも影響を与えていく可能性があると思います。では、どう向き合うか。「死にたい」という言葉の裏にあるものでは、「医療的死亡援助」が法的に認められていない現状で、患者から「先生、死にたいです。手伝ってもらえますか?」と問われたら、医療者はどう向き合うべきでしょうか。この問いに対し、ティモシー・E・クイル氏の論文3)は、安易な肯定や否定ではなく、まず患者の苦しみを深く理解しようと努める対話の重要性を説いています。とても古い論文ですが、その内容は現在でも参考になります。この論文によれば、患者の「死にたい」という言葉の裏側には、必ずしも死そのものへの望みがあるというわけではなく、多くの場合、対処可能な別の問題が隠されています。したがって、医師の最初の応答は「あなたを助けたいと思っています。そのために、まずはあなたの苦しみと願いを理解させてください」といった、対話を開く姿勢がきわめて重要です。患者の願いの背景には、主に以下のような要因が考えられます。1.治療への疲弊繰り返される辛い治療に疲れ果て、これ以上の延命ではなく、残された時間を穏やかに過ごしたいという願いの表れである場合があります。この場合、治療の目標を「治癒」から「快適さ(コンフォート)」へと切り替えることで、患者は安堵を取り戻し、死にたいという思いが解消される可能性があります。2.身体的苦痛痛みを我慢しているケースも少なくありません。たとえば、麻薬性鎮痛薬への「依存」を恐れるあまり、激しい痛みを誰にも打ち明けられないでいることがあります。適切な知識に基づき、痛みを積極的にコントロールすることで、死にたいという思いが解消されることも多いのです。3.心理社会的・精神的な苦痛家族への負担を思い悩んだり、信仰上の葛藤を抱えたり、あるいは臨床的な「うつ病」が原因である可能性も考慮すべきでしょう。家族会議の実施、ソーシャルワーカー、聖職者、精神科医、心理療法士といった専門家との連携によって、解決の糸口が見つかることもあります。そして、最も主治医に求められるのは、患者を見捨てないという約束です。「どんなに辛い状況になっても、決してあなたを見捨てず、最後まで痛みを和らげ、尊厳を保てるよう最善を尽くします」と約束し、寄り添い続けることが、患者にとって大きな支えとなります。また、患者の言葉の裏にある真意を探り、その苦しみに共感し、解決策を共に創造していくプロセスそのものが、治療的な意味も持ちます。死を直接手伝うという選択肢がなくても、医療者は患者の苦しみに最後まで向き合い、尊厳ある最期を支えるという本来の役割を全うすることができるのです。「医療的死亡援助」を認めるべきかどうかという議論は、時に患者の視点を置き去りにし、「そもそもなぜ」という大切な視点を忘れ去らせてしまうことがあります。私たち医療者は今こそ原点に立ち返り、このような視点を大切にしていきたいものです。 1) Ashford G. New York Moves to Allow Terminally Ill People to Die on Their Own Terms. The New York Times. 2025 Jun 9. 2) Quill TE, et al. Palliative options of last resort: a comparison of voluntarily stopping eating and drinking, terminal sedation, physician-assisted suicide, and voluntary active euthanasia. JAMA. 1997;278:2099-2104. 3) Quill TE. Doctor, I want to die. Will you help me? JAMA. 1993;270:870-873.

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第256回 新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研ほか 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省新型コロナウイルスの感染が全国で再び拡大している。厚生労働省によると、8月4日~10日の1週間に全国約3,000の定点医療機関から報告された新規感染者数は2万3,126人で、1医療機関当たりの平均患者数は6.13人となり、8週連続の増加となった。前週比は1.11倍で、40都道府県で増加。宮崎県(14.71人)、鹿児島県(13.46人)、佐賀県(11.83人)と、九州地方を中心に患者数が多く、関東では埼玉、千葉、茨城などで上昇が顕著だった。増加の背景には、猛暑による換気不足、夏季の人流拡大に加え、オミクロン株派生の変異株「ニンバス」の流行がある。国内の感染者の約4割がこの株とされ、症状として「喉にカミソリを飲み込んだような強い痛みを訴える」のが特徴。発熱や咳といった従来の症状もみられるが、強烈な喉の痛みで受診するケースが多い。医療機関では、エアコン使用で喉の乾燥と勘違いし、感染に気付かず行動する患者もみられる。川崎市の新百合ヶ丘総合病院では、8月14日までに陽性者70人を確認し、7月の100人を上回るペース。高齢者の入院も増加しており、熱中症と区別が付きにくいケースもある。都内の感染者数も8週連続で増加し、1医療機関当たり4.7人。東京都は、換気の徹底や場面に応じたマスク着用などの感染対策を呼びかけている。厚労省は「例年、夏と冬に感染者が増える傾向がある」として、基本的な感染対策の継続を求めている。とくに高齢者や持病のある人は重症化リスクが高いため、早期の受診や感染予防の徹底が重要とされる。 参考 1) 2025年8月15日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) 新型コロナ 東京は8週連続で患者増加 医師「お盆に帰省した人が発熱し感染広がるおそれも」(NHK) 4) 新型コロナウイルス 1医療機関当たり平均患者数 8週連続で増加(同) 5) 新型コロナ「ニンバス」流行 カミソリを飲んだような強烈な喉の痛み(日経新聞) 6) 新型コロナ変異株「ニンバス」が流行の主流、喉の強い痛みが特徴…感染者8週連続増(読売新聞) 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省マダニ媒介感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の国内感染者数は、2025年8月3日時点で速報値で124人に達し、すでに昨年の年間120人を超え、過去最多の2023年(134人)を上回るペースで増加している。感染報告は28府県に及び、高知県14人、長崎県9人など西日本が中心だが、北海道、茨城、栃木、神奈川、岐阜など従来未確認だった地域でも初感染が報告された。SFTSはマダニのほか、発症したイヌやネコや患者の血液・唾液からも感染する。潜伏期間は6~14日で、発熱、嘔吐、下痢を経て重症化すると血小板減少や意識障害を起こし、致死率は10~30%。2024年には抗ウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)が承認されたが、治療は主に対症療法である。高齢者の重症例が多く、茨城県では70代男性が重体となった事例もあった。感染拡大の背景には、里山の消失による野生動物の市街地進出でマダニが人の生活圏に侵入していること、ペットから人への感染リスク増大がある。とくにネコ科は致死率が約60%とされる。富山県では長袖・長ズボン着用でも服の隙間から侵入した事例が報告された。専門家や自治体は、草むらや畑作業・登山時の肌の露出防止、虫よけ剤の使用、ペットの散歩後のブラッシングやシャンプー、マダニ発見時の医療機関受診を呼びかけている。SFTSは全国的な脅威となりつつあり、従来非流行地域でも警戒が必要。 参考 1) マダニ対策、今できること(国立健康危機管理研究機構) 2) マダニ媒介の感染症 SFTS 全国の患者数 去年1年間の累計上回る(NHK) 3) 感染症SFTS 専門医“マダニはわずかな隙間も入ってくる”(同) 4) 致死率最大3割--“マダニ感染症”全国で拡大 「ダニ学者」に聞く2つの原因 ペットから人間に感染する危険も…対策は?(日本テレビ) 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研などポーランドなどの国際チームは、大腸内視鏡検査でAI支援システムを常用する医師が、AI非使用時に前がん病変(腺腫)の発見率を平均約20%低下させることを明らかにした。8~39年の経験を持つ医師19人を対象に、計約2,200件の検査結果の調査によって、AI導入前の腺腫発見率は28.4%だったが、導入後にAI非使用で検査した群では22.4%に低下し、15人中11人で発見率が下がったことが明らかになった。AI支援システムへの依存による注意力・責任感低下など「デスキリング」現象が短期間で起きたとされ、とくにベテラン医師でも回避ができなかった。研究者はAIと医師の協働モデル構築、AIなしでの定期的診断訓練、技能評価の重要性を強調している。一方、国立がん研究センターは、新たな画像強調技術「TXI観察法」がポリープや平坦型病変、SSL(右側結腸に好発する鋸歯状病変)の発見率を向上させると発表した。全国8施設・956例の比較試験では、主解析項目の腫瘍性病変発見数で有意差はなかったが、副次解析で発見率向上が確認された。TXIは明るさ補正・テクスチャー強調・色調強調により微細な変化を視認しやすくする技術で、見逃しがんリスク低減と死亡率減少が期待される。ただし、恩恵を受けるには検診受診が前提で、同センターは便潜血検査と精密内視鏡検査の受診率向上を強く訴えている。両研究は、大腸内視鏡の質向上におけるAI・新技術の有用性とリスクを示すものであり、機器性能の進化と医師技能の維持を両立させる体制構築が今後の課題となる。 参考 1) AI利用、 医師の技量低下 大腸内視鏡の質検証(共同通信) 2) AI医療診断の落とし穴:医師のがん発見能力が数ヶ月で低下(Bignite) 3) Study suggests routine AI use in colonoscopies could erode clinicians’ skills, warns/The Lancet Gastroenterology & Hepatology(Bioengineer) 4) 大腸内視鏡検査における「TXI観察法」で、ポリープや「見逃しがん」リスクとなる平坦型病変の発見率が向上、死亡率減少に期待-国がん(Gem Med) 5) 大腸内視鏡検査の新規観察法の有効性を前向き多施設共同ランダム化比較試験で検証「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変の発見率改善に期待(国立がん研) 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省厚生労働省は8月7日付で、2024年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」について、2025年10月と2026年3月の2段階でマイナ保険証利用率の実績要件を引き上げる通知を発出した。小児患者が多い医療機関向けの特例や、電子カルテ情報共有サービス参加要件に関する経過措置も2026年5月末まで延長する。改正後の施設基準では、マイナ保険証利用率の基準値は上位区分で現行45%から10月に60%、来年3月に70%へ、中位区分で30%から40%・50%へ、低位区分で15%から25%・30%へ段階的に引き上げる。小児科特例は一般基準より3ポイント低く設定され、10月以降22%・27%となる。いずれも算定月の3ヵ月前の利用率を用いるが、前月または前々月の値でも可とする。加算はマイナ保険証利用率と電子処方箋導入の有無で6区分に分かれ、電子処方箋導入施設には発行体制や調剤結果の電子登録体制の整備を新たに求める。未導入施設は電子処方箋要件を課さないが、加算区分によっては算定不可となる場合がある。電子カルテ情報共有サービスは本格稼働前のため、「活用できる体制」や「参加掲示」を有しているとみなす経過措置を来年5月末まで延長。在宅医療DX情報活用加算についても同様の延長措置が適用される。通知では、これらの要件は地方厚生局長への届出不要で、基準を満たせば算定可能と明記。厚労省は、マイナ保険証利用率向上に向けた患者への積極的な呼びかけや掲示の強化を医療機関・薬局に促している。 参考 1) 「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」及び「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の一部改正について(医療 DX 推進体制整備加算等の取扱い関係)(厚労省) 2) 医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率基準を「2025年10月」「2026年3月」の2段階でさらに引き上げ-厚労省(Gem Med) 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省厚生労働省は8月6日、医道審議会医道分科会の答申を受け、医師12人、歯科医師8人の計20人に行政処分を決定した。発効は8月20日。別途、医師8人には行政指導(厳重注意)が行われた。処分理由は刑事事件での有罪確定や重大な法令違反が中心で、医療倫理や信頼を揺るがす事案が目立った。免許取り消しは三重県松阪市の58歳医師。2015年、診察室で製薬会社MRの女性に対し胸を触る、額にキスをする、顔に股間を押し付けようとするなどの強制わいせつ行為を行い、逃れようとした被害者が転落して視神経損傷の重傷を負った。2020年に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決が確定していた。医師の業務停止は最長2年(麻薬取締法違反)から2ヵ月(医師法違反)まで幅広く、過失運転致傷・救護義務違反、児童買春、盗撮、迷惑行為防止条例違反、不正処方などが含まれた。戒告は4人に対して行われた。歯科医師では、最長1年10ヵ月(大麻取締法・麻薬取締法・道交法違反)から2ヵ月(詐欺幇助)までの業務停止が科され、診療報酬不正請求や傷害、廃棄物処理法違反も含まれた。戒告は2人だった。厚労省は、これら不正行為は国民の医療への信頼を損なうとし、再発防止と医療倫理向上を求めている。 参考 1) 2025年8月6日医道審議会医道分科会議事要旨(厚労省) 2) 医師と歯科医20人処分 免許取り消し、業務停止など-厚労省(時事通信) 3) 医師、歯科医師20人処分 厚労省、免許取り消しは1人(MEDIFAX) 4) 医師12名に行政処分、MRに対する強制わいせつ致傷で有罪の医師は免許取消(日本医事新報) 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省厚生労働省は8月8日、第2回「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開催し、2026年度からの新たな地域医療構想の柱として「医療機関機能報告」制度の導入を提案した。各医療機関は、自院が地域で担うべき4つの機能(急性期拠点、高齢者救急・地域急性期、在宅医療連携、専門など)について、救急受入件数や手術件数、病床稼働率、医師・看護師数、施設の築年数といった指標をもとに、役割の適合性を都道府県へ報告する。中でも議論を呼んだのが、救急・手術を担う「急性期拠点機能」の整備基準である。厚労省は人口規模に応じた整備方針を示し、人口100万人超の「大都市型」では複数の医療機関の確保、50万人規模の「地方都市型」では1~複数、30万人以下の「小規模地域」では原則1ヵ所への集約化を目指すとした。しかし、専門病院や大学病院がすでに存在する中核都市などでは、1拠点に絞るのは非現実的との声も上がっている。また、医療機関の築年数も協議指標として活用する案に対しては、公的病院と民間病院の間で資金力に格差がある中、基準化すれば民間病院の淘汰を招く恐れがあるとして、慎重な検討を求める意見も出た。実際、病院建築費は1平米当たり2011年の21.5万円から2024年には46.5万円と倍増し、全国には築40年以上の病棟が約1,600棟(16万床分)存在する。このほか、在宅医療連携機能には訪問診療・看護の実績や高齢者施設との協力体制、高齢者救急機能には診療所不足地域での外来1次救急や施設搬送の体制が求められる。人材面では、医師の地域偏在や診療科偏在だけでなく、今後10年で最大4割減少も予測される看護師不足が最大の制約要因として指摘された。 参考 1) 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(厚労省) 2) 急性期拠点機能の指標に「築年数」厚労省案 救急・手術件数や医療従事者数も(CB news) 3) 人口規模に応じた医療機関機能の整備を提示(日経ヘルスケア)

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救急診療所では不適切な処方が珍しくない

 救急診療所では、抗菌薬、ステロイド薬、オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)が効かない症状に対してこれらの薬を大量に処方している実態が、新たな研究で示された。研究論文の筆頭著者である米ミシガン大学医学部のShirley Cohen-Mekelburg氏は、「過去の研究では、ウイルス性呼吸器感染症など抗菌薬が適応とならない疾患に対しても抗菌薬が処方され続けており、特に、救急診療所でその傾向が顕著なことが示されている」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 この研究では、2018年から2022年の間に行われた2242万6,546件の救急診療に関する医療データが分析された。これらの診療において、抗菌薬が278万3,924件(12.4%)、ステロイド薬のグルココルチコイドが203万8,506件(9.1%)、オピオイドが29万9,210件(1.3%)処方されていた。 これらの処方を検討した結果、相当数が、患者の診断を考慮すると「常に不適切」または「通常は不適切」な処方であることが判明した。抗菌薬の処方が「常に不適切」とされる診断のうち、中耳炎の30.7%、泌尿生殖器症状の45.7%、急性気管支炎の15.0%において同薬剤が処方されていた。また、グルココルチコイドの処方が「通常は不適切」とされる診断のうち、副鼻腔炎の23.9%、急性気管支炎の40.8%、中耳炎の7.9%において同薬剤が処方されていた。一方、オピオイドについては、処方が「通常は不適切」とされる背部以外の筋骨格系の痛みの4.6%、腹痛・消化器症状の6.3%、捻挫・筋挫傷などの4.0%において処方されていた。 Cohen-Mekelburg氏らは、「これらの結果は、ウイルス性呼吸器感染症の治療としての不適切な抗菌薬処方が最も多いのは救急医療であることを示した最近の研究結果と一致している」と述べている。同氏らによると、これらの薬が不適切に処方されるのは、救急医療スタッフの知識不足、患者による特定の薬剤の要求、処方を決める際のバックアップサポート体制の欠如などが原因になっている可能性が高いという。 これらの処方がもたらす影響は広範囲に及ぶ可能性がある。例えば、抗菌薬の過剰使用により、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が大きな脅威となりつつある。また、米国でのオピオイド危機は、あいまいな理由で大量の鎮痛薬が処方されてきたことによって悪化してきた。 こうしたことからCohen-Mekelburg氏らは、救急診療所が適切な病状に適切な薬を処方していることを確認するために、薬剤管理プログラムが必要であると結論付けている。「抗菌薬、グルココルチコイド、オピオイドの不適切な処方を減らすには、多角的なアプローチが必要だ。救急医療センターの医療従事者がこうした薬剤の処方について判断を下す際には、より多くの支援とフィードバックが役立つだろう」と述べている。

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ガバペンチンは認知症の発症リスクを高める?

 発作、神経痛、むずむず脚症候群の治療に使用される薬剤のガバペンチンが、認知症の発症リスク増加と関連している可能性があるとする研究結果が発表された。ガバペンチンを6回以上処方された場合、認知症リスクが29%、軽度認知障害(MCI)リスクが85%増加する可能性が示されたという。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のNafis Eghrari氏らによるこの研究の詳細は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に7月10日掲載された。 研究グループによると、ガバペンチンはオピオイドほど中毒性がないため、慢性疼痛の治療薬としての人気が上昇の一途をたどっている。しかしその一方で、ガバペンチンには神経細胞間のコミュニケーションを抑制する作用があることから、ガバペンチンの使用が認知機能の低下を招く可能性があることに対する懸念も高まりつつあるという。 今回の研究では、大規模医療データベースTriNetXの2004年から2024年までの匿名化した腰痛患者のデータを用いて、ガバペンチンの処方歴と認知症およびMCIリスクとの関連を検討した。年齢や性別などの社会人口学的属性、併存疾患、疼痛関連薬剤などで傾向スコアマッチングを行った結果、解析対象は2万6,416人となった。ガバペンチンは、6回以上の処方歴がある場合を「ガバペンチンの処方歴あり」と見なした。 解析の結果、ガバペンチン処方群では非処方群と比べて、認知症リスクが1.29倍(リスク比1.29、95%信頼区間1.18〜1.40)、MCIリスクが1.85倍(同1.85、1.63〜2.10)であることが示された。対象者を65歳以上の高齢者と18〜64歳の非高齢者に分けて解析すると、高齢者のガバペンチン処方群では非処方群と比べて、認知症リスクが1.28倍、MCIリスクが1.53倍であり、非高齢者でのリスクはそれぞれ2.10倍、2.50倍とより顕著だった。さらに、これらのリスクはガバペンチンの処方頻度の増加に伴い上昇し、処方頻度が12回以上の患者では3〜11回の患者に比べて、認知症リスクが1.4倍、MCIリスクが1.65倍であった。 ただし、本研究は観察研究であるため、ガバペンチンと脳機能低下との直接的な因果関係を証明することはできないと研究グループは指摘している。 研究グループは、「この研究結果は、ガバペンチンを処方された成人患者を綿密に監視し、認知機能低下の可能性を評価する必要があることを裏付けている」と述べている。また研究グループは、「今回の研究が、ガバペンチンと認知症発症との因果関係や、この関係の根底にあるメカニズムの解明を目指すさらなる研究につながることを期待している」と述べている。

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オピオイド使用がん患者へのナルデメジン、便秘予防にも有用~日本のRCTで評価/JCO

 オピオイドは、がん患者の疼痛管理に重要な役割を果たしているが、オピオイド誘発性便秘症を引き起こすことが多い。オピオイド誘発性便秘症に対し、ナルデメジンが有効であることが示されているが、オピオイド誘発性便秘症の予防方法は確立されていない。そこで、濵野 淳氏(筑波大学医学医療系 緩和医療学・総合診療医学 講師)らの研究グループは、ナルデメジンのオピオイド誘発性便秘症の予防効果を検討した。その結果、ナルデメジンはオピオイド誘発性便秘症に対する予防効果を示し、QOLの向上や悪心・嘔吐の予防効果もみられた。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌2024年12月号に掲載された。試験デザイン:国内多施設共同二重盲検無作為化比較試験対象:初めて強オピオイドを使用するがん患者99例試験群:ナルデメジン(0.2mg、1日1回)を朝食後14日間内服(ナルデメジン群、49例)対照群:プラセボを朝食後14日間内服(プラセボ群、50例)評価項目:[主要評価項目]14日目におけるBowel Function Index(BFI)※28.8未満の患者割合[副次評価項目]自発排便(SBM)の頻度、QOL(EORTC QLQ-C15-PAL、PAC-QOL、PAC-SYM)、オピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)の頻度など※:排便の困難さ、残便感、便秘の個人的評価について、VAS(0~100)で評価。28.8未満を便秘なしとする。 主な結果は以下のとおり。・ナルデメジン群、プラセボ群の年齢中央値はそれぞれ67.8歳、66.4歳であり、女性の割合はそれぞれ51.0%、68.0%であった。・がん種の内訳は、肝がん・胆道がん・膵がん(35例)、消化管がん(18例)、婦人科がん(10例)、乳がん(8例)、泌尿器がん(8例)、肺がん(7例)などであった。・主要評価項目の14日目におけるBFI 28.8未満の患者割合は、ナルデメジン群64.6%、プラセボ群17.0%であり、ナルデメジン群が有意に良好であった(p<0.0001)。・14日目における1週間当たりのSBM回数が3回以上の割合は、ナルデメジン群87.5%、プラセボ群53.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0002)。14日目における1週間当たりの完全自発排便回数が3回以上の割合は、それぞれ70.8%、36.2%であり、ナルデメジン群が有意に多かった(p=0.0007)。・14日目におけるQOLは、いずれの指標もナルデメジン群が有意に良好であった。・3日目までの制吐薬の使用割合は、ナルデメジン群10.6%、プラセボ群51.1%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p<0.0001)。・1~3日目の悪心・嘔吐の発現は、いずれの日においてもナルデメジン群が有意に少なかった(いずれの日もp<0.0001)。・有害事象の発現割合はナルデメジン群29.2%、プラセボ群61.7%であった。嘔吐の発現割合はナルデメジン群12.5%、プラセボ群40.4%であり、ナルデメジン群が有意に少なかった(p=0.0072)。

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国を滅ぼしかねない(?)ベンゾジアゼピン系、その減らし方(解説:岡村毅氏)

 ビリー・アイリッシュにXannyという曲があるが、これはベンゾジアゼピン系抗不安薬(米国での商品名はXanaxなど)の怖さを歌っている。プリンスやジュース・ワールドといった世界的アーティストの命をも奪ってしまったオピオイドの蔓延は、米国人の平均寿命さえも低下させており、トランプ現象を生み出したともいわれている。オピオイドほどではないにせよ、同時に使用されることも多いベンゾジアゼピン系の蔓延もまた米国の薬物依存の深刻さを表していると言えよう。古くからあるが、いまだに最先端の話題である。 本論文は、睡眠薬として使われているベンゾジアゼピン系薬剤をやめるためのさまざまな方法の効果を比較し、メタ解析したものだ。要するに「ベンゾジアゼピン系薬剤の処方はなるべく避けるべきなのに処方されている。じゃあ、やめるための方法の優劣をここらでまとめておこうじゃないか」ということだ。詳しくない人には、「なんでダメなものを処方するのだ?」という疑問があると思うので説明しよう。 まず、ベンゾジアゼピン系薬剤とはかつては俗にマイナートランキライザーと呼ばれ、睡眠薬の定番であった。ただ、ベンゾジアゼピン系は薬効が複数あり、ややこしいのだ。薬効は、(1)眠らせる(2)不安をとる(3)痙攣を止める(4)筋弛緩を起こす、という複数の効果を持つ。このうち(1)が強いものが睡眠薬として使われる。(2)の不安をとるものとしてはエチゾラム(商品名:デパスなど)が代表的であり、(3)の痙攣を止めるものとしてはジアゼパム(商品名:セルシンなど)が代表的である。ただし(4)が起きてしまうので、肩こりや腰痛にも効いてしまう。過剰に投与すると、あるいは高齢者では、昼間に薬効が残ってふらつくこともある。夜間にトイレに行き、階段から落ちるなんてことも起きる。ややこしいうえに危ないのである。 さらに耐性が生じるので、基本的にはだんだん効かなくなる。効かなくなると増やすしかない。そうするとやはりふらついたり、日中もぼんやりしたりする。 また闇で売られている、いわゆるレイプドラッグといわれるものは、だいたいベンゾジアゼピン系である。処方する側としては、恐ろしや、である。 現代では新たに処方されることはあまりないし、1剤にとどめるべきである。ベンゾジアゼピン系を2剤出していたら、よほどの理由があるか、ダメな医者かのどちらかである。 じゃあ何で処方するのだ、と思うかもしれないが、2つの理由がある。 第1の理由は、患者さんにとっては良い薬と認識されていることがある。切れ味がよいのである。長年ベンゾジアゼピン系てんこ盛りでよく寝ている(と自覚している)患者さんに、「危ないので減薬しましょう」などと言っても、「なんだ、全然眠れなくなったぞ。四の五の言わずにさっさと出せよ!」などとすごまれる、なんてことも起きる。 第2の理由は、かつては精神科の敷居が高く、不眠症程度では専門家が関与することがなかった。精神科にはベンゾジアゼピン系の依存症になってしまった人も来るので、精神科医は自分から処方することは実はあまりない。怖さを知っているからだ。ただ、忙しいかかりつけ医が、「よく効くなあ、患者さんも喜んでいるし」と綿々と処方していることも多かった。 というわけで、今ではさすがに新たに処方されることはあまりないが、ずっとのんでいる人や高齢者に対して、どうやって減らすかというのは臨床的には大問題である。 本論文の結果であるが、徐々に減らす、医師に対する教育、医師と患者双方への教育、認知行動療法、マインドフルネスは残念ながら効果はなさそうである。患者さんへの教育、薬剤師主導の減薬(薬局でパンフレットを見せるなど)、処方検討会議(医師と薬剤師など)は低いながら効果があるようだ。 注意しないといけないのは、この論文が扱っているのは「睡眠薬としての」ベンゾジアゼピン系だということだ。現代では、睡眠薬の第1選択はもはやレンボレキサントなどのオレキシン受容体拮抗薬に移っている。睡眠薬の世界では、もう勝負あった感がある。 ただし問題は抗不安薬としての使用である。生きづらさへの短絡的な解決になっているような場合はなかなかやめられず、依存症になっている事例も多い。このようなケースは単なる睡眠薬のように一筋縄ではいかないことは最後に強調しておこう。

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便利な持続皮下注射【非専門医のための緩和ケアTips】第102回

便利な持続皮下注射内服薬を継続しているがん患者さんが病状進行とともに内服が難しくなった際、強い味方になるのが持続皮下注射です。緩和ケア分野では広く活用されている投与法ですが、注意点もあります。一緒に学んでみましょう。今回の質問在宅で診ている患者さんにオピオイドの持続皮下投与をしていますが、刺入部に発赤が出てきました。このような場合、感染を疑うべきでしょうか?オピオイドの注射薬の投与経路として、持続皮下投与は非常に便利な方法です。とくに在宅領域ではその簡便さから広く活用されています。しかし、注意点もいくつかあります。最も注意すべきなのが、今回の質問にもある「感染」です。刺入部位の発赤や疼痛、腫脹は感染を疑う所見として、適切に対応する必要があります。皮下注射自体は清潔操作で刺入されていれば毎日刺し替える必要はありませんが、感染を疑う所見がないかは毎回観察する必要があります。患者さんや家族に「ここが赤く、痛く腫れた場合は教えてくださいね」と伝えておくのもよい工夫です。もう1つは、持続皮下投与で鎮痛効果が不十分であった際の対応です。一般的に、持続皮下投与は1時間当たり1mL程度の投与量を超えると吸収が不十分になるといわれています。そのためフェンタニルのように製剤として濃度が低いオピオイドの場合、あまり多くの投与量を確保できません。必要なオピオイド量が多い場合は、別のオピオイドに変更するか、静脈注射に変更する必要が生じます。最後に、在宅で持続皮下投与を行う際に注意すべきなのが、ルートの折れ曲がりによる閉塞などの物理的なトラブルです。当たり前ですが、在宅療養は医療者の目が届きにくい環境であり、ルートの管理が行き届かないことがあります。ルートにトラブルが生じると薬液が適切に投与されないだけでなく、アラームが鳴って患者さんや家族に不安が生じ、在宅療養が困難となることもあります。ルート内の気泡などにも要注意です。入院環境であれば巡回する看護師が気付きますし、ナースコールにもすぐに対応できるのであまり問題になりませんが、在宅はすぐに駆け付けられない環境なので、いつも以上に注意する必要があります。以上、持続皮下注射の注意点をお話ししました。簡便で広く用いられている手法だからこそ、当たり前のレベルを上げていくことが重要な分野だと思います。今回のTips今回のTips持続皮下注射の注意点「感染、投与量、ルート確保」を理解して実践しましょう。

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第247回 骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣

<先週の動き> 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、医療者の感染リスクも顕在化/三重県 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定し、来年度以降の予算編成や制度改革の方向性を示した。今回の方針では、医療・介護・福祉分野における構造改革と現場の処遇改善が柱となり、「成長と分配の好循環」に向けた具体策が明示された。政府は初めて、2029年度までに実質賃金を年1%引き上げる数値目標を掲げ、医療・介護・保育・福祉分野の処遇改善を「成長戦略の要」と位置付けた。これに伴い、公的価格である診療報酬や介護報酬の引き上げを示唆し、2026年度の報酬改定に大きな影響を与える可能性がある。また、これまで「高齢化による自然増」に限定していた社会保障費の算定に、今後は物価・賃金動向を加味する方針を打ち出した。これにより、物価高や人材確保に悩む医療・介護機関にとっては、経営基盤の安定化につながるとみられる。その一方で、保険料負担とのバランスが課題となる。地域医療体制の再編も加速され、地域実情を踏まえつつ、2027年度施行の新地域医療構想に合わせて、一般・療養・精神病床の削減が明記された。とくに中小病院や療養型施設に対し、再編や役割分担が求められる。負担の公平性を重視し、医療・介護の応能負担の強化も盛り込まれた。金融所得を含めた新たな負担制度の検討が進められており、今後の制度設計に注目が集まっている。また、2026年度以降、市販薬と類似する医師処方薬(OTC類似薬)を保険給付から除外する見直しが進められ、診療所経営にも影響が及ぶ可能性がある。さらに、医療の効率化を図るため、医療DXやデータ活用が推進され、電子カルテの標準化やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が進展される見込みとなった。地域単位で薬剤選定を標準化する「地域フォーミュラリ」の全国展開も盛り込まれた。今回の方針は、賃上げによる持続可能な成長と、医療・福祉分野の構造改革を同時に進めるものであり、制度改革の実行力が問われる局面となる。 参考 1)経済財政運営と改革の基本方針 2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~[全文](内閣府) 2)ことしの「骨太の方針」決定 経済リスク対応やコメ政策見直し(NHK) 3)不要な病床の削減を明記、骨太方針決定 社会保障費「経済・物価動向等」反映へ(CB news) 4)骨太の方針、社保に物価・賃上げ反映 家計負担増す可能性(日経新聞) 5)実質賃金年1%上昇、初の数値目標 骨太の方針を閣議決定(毎日新聞) 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、人獣共通感染症への警戒強まる/三重県マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染拡大が続いており、医療従事者にも重大な影響を及ぼしている。6月、三重県内でSFTS感染の猫を治療していた高齢の獣医師が感染・死亡する事例が確認された。ダニ刺咬痕は確認されておらず、唾液や血液を介したペット由来の感染が疑われている。これは、2024年の医師への感染に続く人獣間感染の深刻な事例であり、日本獣医師会は防護対策の徹底を求めている。SFTSは6~14日程度の潜伏期を経て発熱、嘔吐、下痢、意識障害、皮下出血など多彩な症状を呈し、致死率は最大30%に達する。とくに高齢者では重症化リスクが高い。現在、有効な抗ウイルス薬としてファビピラビル(商品名:アビガン)が使用できるが、ワクチンは存在しない。マダニ感染症はSFTSのほかにも日本紅斑熱やツツガ虫病があり、いずれも西日本を中心に発生が集中している。2025年も岡山・鳥取・香川・静岡・愛媛など複数県で感染例が報告されており、死亡例も出ている。春から秋にかけてマダニの活動が活発化し、農作業やアウトドア活動での感染リスクが高まる。また、SFTSは犬・猫などのペットがウイルス保有宿主になり得ることが明らかになっており、医療者・獣医師・飼い主ともに十分な感染予防対策が求められる。ペットの室内飼育、防虫剤使用、皮膚・粘膜の保護に加え、咬傷・体液接触時の手指衛生とPPE(個人防護具)の着用が推奨される。今後、診療現場でもマダニ媒介疾患への警戒を強化し、野外活動歴や動物との接触歴を含めた問診と初期対応の徹底が重要である。 参考 1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚労省) 2)ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重(NHK) 3)マダニ感染症で死亡の獣医師「胸が苦しい、息苦しい」訴え緊急搬送 発症前に感染ネコ治療(産経新聞) 4)マダニにかまれ「日本紅斑熱」60代男性感染 2025年8人目 屋外でのマダニ対策呼びかけ(静岡放送) 5)マダニにかまれ、感染症悪化で死亡事例も 今が活動期 アウトドアレジャーでの警戒を(産経新聞) 6)ダニ媒介による感染症「日本紅斑熱」「SFTS」の患者が多発 県が注意喚起(山陽放送) 7)西日本中心に“マダニ”に注意 住宅街の茂みでパンパンに膨らんだマダニも…マダニが媒介する致死率10%超えの感染症SFTSとは?50歳以上は特に重症化しやすいか(あいテレビ) 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省厚生労働省は、緩和ケアの対象を腎不全患者にまで拡大する方針で検討を開始した。これまで緩和ケアは、がん・エイズ・末期心不全の患者を対象としてきたが、透析継続が困難になった腎不全患者においても激しい身体的・精神的苦痛が生じるケースが多く、医療現場から対応拡充を求める声が高まっていた。背景には、慢性透析患者が年々増加し、2023年には全国で約34.4万人に達し、年間3.8万人が死亡している現状がある。透析中止に際しては「人生で最も激しい痛み」と表現されるほどの苦痛を伴うこともありながら、現在の診療報酬制度では緩和ケアの加算対象から除外されており、患者は十分な医療的支援を受けられていない。こうした事態を受け、自民党の有志議員らは5月に提言を厚労省に提出。患者の尊厳を守る終末期医療の実現に向け、在宅医療体制の整備、医療用麻薬の使用拡大、関連学会によるガイドラインの整備、モデル地域の創設などを提案した。これを受け厚労省は、2025年の「骨太の方針」に腎臓病対策として盛り込み、次期診療報酬改定を視野に対応を進める見通しだ。日本透析医学会も2020年以降、緩和ケアの必要性を強調しており、透析の見合わせ段階だけでなく、意思決定前の段階でも継続的なケアの必要性を提唱。今後は腎不全患者への緩和ケア提供を制度的に後押しする議論が本格化する。 参考 1)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減(東京新聞) 2)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減 厚労省検討、骨太反映へ(産経新聞) 3)がん以外にも緩和ケアを 透析医療へ拡大訴え 学会や国で議論始まる(共同通信) 4)わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会) 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ2025年に入って、わが国の医療機関が前例のないペースで倒産または廃業している。帝国データバンクの調査によれば、1~5月だけですでに倒産が30件、廃業・解散などが373件に達し、年間では合計1,000件に迫る勢いだ。これは2024年の過去最多記録(723件)を大幅に上回る見通しであり、医療提供体制の根幹が揺らぎ始めている。背景には、医療機器や光熱費などの物価上昇に対して、2024年度の診療報酬改定(+0.88%)が極めて抑制的だったことがある。また、医師の働き方改革により、大規模病院を中心に残業代負担が急増し、経営を圧迫している。さらに、病院の老朽化も深刻で、法定耐用年数(39年)を迎える施設が全国の約8割に及ぶ中、建設費の高騰により建て替えを断念せざるを得ない事例が増えている。中小診療所や歯科医院では、経営者の高齢化や後継者不在が廃業の主因となっている。とくに同族経営が多い歯科では、承継が進まず「法人の限界」が露呈している。M&Aのニーズは高まっているが、財務状態の良い法人に買い手が集中し、赤字法人は買い手がつかず「廃業すらできない」という二極化が進行中だ。このような事業者の「自然消滅」は、厚生労働省が推進する地域医療構想の想定を超える速さで進行しており、病床再編の制度設計と現場の実態が乖離している。現状では、老朽施設への再生支援策も不十分で、制度疲労が顕在化している。今後の政策には、(1)診療報酬や補助金の実態に即した見直し、(2)施設再建支援、(3)M&Aによる出口戦略の明確化、(4)中山間地や離島での公的医療体制の再構築が求められる。医療機関の消滅は、単なる経営問題に止まらず、地域住民の医療アクセス権や医療安全保障そのものに関わる緊急課題である。 参考 1)病院と診療所の倒産件数、5カ月で前年上半期に並ぶ 計18件 東京商工リサーチ(CB news) 2)入金基本料「大幅引き上げを」公私病連が決議 病院経営の厳しさ訴える(同) 3)医療機関で倒産急増の深刻事態!今年は約1,000事業者が“消滅”か(ダイヤモンドオンライン) 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協厚生労働省は、6月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)・調査評価分科会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、地域包括医療病棟および回復期リハビリ病棟に関する実態調査結果の報告をもとに討議を行なった。2024年度診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届け出病院の約4割が急性期一般入院料1からの転換で、制度設計通りの導入が進んだとされた。一方、届け出検討病院は全体の5%程度に止まり、とくに「毎日リハビリ提供体制の整備」が障壁との回答が多数を占めた。また、入院患者の診療実態にはばらつきがあり、輸血や手術を多数算定する病院と、誤嚥性肺炎など内科系疾患中心の病院とで医療内容に差がみられた。急性期病棟を手放した病院も多く、地域医療構造の再編に影響が及ぶ可能性もある。一方、回復期リハビリ病棟では、FIM(機能的自立度評価)利得がゼロまたはマイナスの患者が突出して多い施設が散見され、委員からは「異常」「詳細な分析を行うべき」との指摘が相次いだ。新設されたリハ・栄養・口腔連携体制加算の基準(ADL低下3%未満)に満たない施設が多いことも判明した。今後、診療報酬制度の実効性や適正な施設基準運用のあり方が問われる。 参考 1)令和7年度第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省) 2)地域包括医療病棟、急性期一般1から移行が最多 全体の4割占める(CB news) 3)回復期リハ、FIM利得マイナスの患者が多くの病院に 「詳細な分析を」中医協・分科会(同) 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府政府は6月13日、「デジタル行財政改革取りまとめ2025」を決定し、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を中核に据えた改革方針を示した。背景には、急速な少子高齢化による医療資源の逼迫と、地域医療の持続可能性確保という喫緊の課題がある。今回の取りまとめでは、電子処方箋の導入促進とあわせて、医療データの二次利用(研究、医療資源の最適化など)に向けた制度整備が明記された。電子処方箋は2025年夏に新たな導入目標を設定し、病院・診療所での導入拡大を急ぐ。8月にはダミーコード問題への対応としてシステム改修が完了する予定であり、今後は診療報酬・補助金による導入促進も強化される。また、救急搬送時の医療情報共有を可能とする広島県発の連携PF(プラットフォーム)を全国展開する構想も示された。これにより、搬送の調整が迅速となり、災害時のEMIS連携やマイナンバーカードの活用による「マイナ救急」との統合も視野に入る。さらに、医療データの二次利用の円滑化に向けた法整備を進めるほか、AI活用のための透明性ある学習データの収集・連携環境の整備も進行中である。電子処方箋やリフィル処方の活用拡大も引き続き重要課題とされ、KPIの早期設定と次期診療報酬改定での反映が示唆された。これら一連の取り組みは、医療現場の業務効率化と質の高い医療の提供、さらには地域医療構想との接続にも大きな影響を及ぼす。医師にとっては、現場実装の速度と制度設計の動向に注視することが求められる。 参考 1)デジタル行財政改革 取りまとめ2025(デジタル行財政改革会議) 2)AIの学習データ、収集や連携促進 デジタル改革取りまとめ(日経新聞) 3)社会課題解決に医療データ活用 方針決定 法整備検討へ 政府(NHK) 4)電子処方箋、今夏に新たな目標設定 デジタル行革 取りまとめ、8月にシステム改修終了へ(PNB) 5)デジタル行財政改革会議(首相官邸)

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オピオイド・スイッチングをするときに注意してほしいこと【非専門医のための緩和ケアTips】第101回

オピオイド・スイッチングをするときに注意してほしいことオピオイドを使用している患者さんで、何らかの理由で別の種類のオピオイドに変更する場合があります。別のオピオイドに変更することを「オピオイド・スイッチング」と言いますが、これを実践するうえで知っておくべき注意点があります。今回の質問オキシコドンを使用している患者さん。最初は効果があったのですが、最近は増量してもあまり鎮痛効果を実感できないようです。こういった場合、オピオイドを変更することがあると聞きました。この場合、新たな投与量は換算表を基に計算して決めたらよいのでしょうか?オピオイド・スイッチングを考慮する最も多いケースは、今回のご質問のように「オピオイドを増量しても、鎮痛効果が不十分な場合」です。とくに増量に伴い嘔気や眠気が強くなっている場合は、オピオイド・スイッチングの適応になることが多いでしょう。以前は「オピオイド・ローテーション」と表現されていたので、そちらで覚えている方も多いかもしれません。では、どのような点に注意すればよいのでしょうか?まず、現在の薬剤による鎮痛効果が不十分な際は、その原因を考えることが重要です。とくに神経障害性疼痛や骨転移のように、痛みのコントロールにオピオイド以外のアプローチが必要な原因がある場合には、オピオイドを変更しても効果がない可能性があります。その場合、神経障害性疼痛なら鎮痛補助薬、骨転移であればNSAIDsの処方が必要です。もう1つの注意点は、オピオイド・スイッチング後の投与量です。質問にあるように、「現在のオピオイドの投与量から、換算表を用いて変更後のオピオイドの等価量を求める」ことは可能です。ただし、この際には換算量よりも少なめの投与量で開始することをお勧めします。オピオイドの効果や代謝は個人差が大きく、換算表と言いつつも、その投与量で必ず同じ鎮痛効果が出るわけではありません。過剰投与のリスクを避けるため、最初は半量~7割程度の投与量でスタートするほうが安全です。最後に、患者さんへの説明も一工夫しましょう。先述のように、オピオイドの投与量は個人差が大きく、「やってみないとわからない」面があります。また、安全性の観点から当初は少なめの投与量でスタートすることも患者さんに共有しましょう。そのうえで「痛みが出るようなら適切なレスキュー薬を使用する」ということも伝えます。安全にオピオイド・スイッチングを実施する自信がない場合や、もともとのオピオイド投与量が多い場合などは、一度入院して注射薬による投与で調整し、その後内服薬に切り替える、といった手段も検討しましょう。外来や在宅でなく、あえて入院で調整することで安全かつスピーディにオピオイド・スイッチングができることも知っておけば安心です。今回のTips今回のTipsオピオイド・スイッチングの注意点を理解し、安全にオピオイドを変更しましょう。

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ICU入室患者の鎮静、α2作動薬vs.プロポフォール/JAMA

 機械換気を受ける集中治療室(ICU)入室患者において、デクスメデトミジンまたはクロニジンをベースとした鎮静はプロポフォールをベースとした鎮静と比較して、抜管までの時間の短縮に関して優越性は示されなかった。英国・エディンバラ大学のTimothy S. Walsh氏らA2B Trial Investigatorsが行った無作為化試験の結果で報告された。α2アドレナリン受容体作動薬をベースとした鎮静が、プロポフォールをベースとした鎮静(通常ケア)と比較して、抜管までの時間を短縮するかどうかは不明であった。JAMA誌オンライン版2025年5月19日号掲載の報告。デクスメデトミジンまたはクロニジンvs.プロポフォールを評価 研究グループは、英国41のICUにて、デクスメデトミジンまたはクロニジンをベースとした鎮静が通常ケアと比較して、機械換気の時間を短縮するかについて検証するプラグマティックな非盲検無作為化試験を行った。 適格とした患者は、機械換気の開始(挿管)から48時間以内で、鎮静および鎮痛のためにプロポフォール+オピオイドの投与を受けており、48時間以上の機械換気が必要と予想されている18歳以上の成人。被験者の募集は2018年12月~2023年10月に行われ、自動ウェブベースシステムにより、デクスメデトミジンベース鎮静群、クロニジンベース鎮静群、プロポフォール鎮静群の3群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 臨床医がより深い鎮静を要求しない限り、ベッドサイドアルゴリズムの目標は、リッチモンド興奮鎮静スケール(RASS)スコア(範囲:-5~4)-2~1として鎮静介入が行われ、デクスメデトミジン/クロニジンベース鎮静群では漸増投与が、プロポフォール鎮静群では漸減投与が支持された。その他の鎮静薬の使用は推奨されず、必要に応じてプロポフォールの補助的使用は認められたが、主として割り付けられた鎮静薬による介入が、「抜管成功」「死亡」「転院(抜管前に試験非参加のICU施設に)」「機械換気期間が28日」のいずれかに到達するまで継続された。 主要アウトカムは、無作為から抜管成功までの時間であった。副次アウトカムは、死亡率、鎮静の質、せん妄発生率および心血管系の有害事象などであった。 挿管から無作為化までの時間中央値は21.0(四分位範囲:13.2~31.3)時間。また、最終フォローアップは2023年12月10日であった。無作為化から抜管成功までの時間に関して有意差は示されず 解析集団に組み入れられた1,404例(デクスメデトミジン群457例、クロニジン群476例、プロポフォール群471例)(平均年齢59.2[SD 14.9]歳、男性901例[64%]、平均Acute Physiology and Chronic Health Evaluation[APACHE]IIスコア20.3[SD 8.2])において、抜管成功までの時間に関する部分分布ハザード比(HR)は、デクスメデトミジン群vs.プロポフォール群では1.09(95%信頼区間[CI]:0.96~1.25、p=0.20)、クロニジン群vs.プロポフォール群では1.05(0.95~1.17、p=0.34)であった。 無作為化から抜管成功までの時間中央値は、デクスメデトミジン群136時間(95%CI:117~150)、クロニジン群146時間(124~168)、プロポフォール群162時間(136~170)であった。 事前に規定されたサブグループ解析において、年齢、敗血症の有無、Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア、せん妄リスクスコアとの相互作用は認められなかった。 副次アウトカムでは、興奮の発生率がプロポフォール群と比べて、デクスメデトミジン群(リスク比[RR]:1.54、95%CI:1.21~1.97)、クロニジン群(1.55、1.22~1.97)ともに高率であった。また、重度徐脈(心拍<50/分)の発生率が、プロポフォール群と比べて、デクスメデトミジン群(RR:1.62、95%CI:1.36~1.93)、クロニジン群(1.58、1.33~1.88)ともに高率であった。死亡率は、プロポフォール群と比べて、デクスメデトミジン群(HR:0.98、95%CI:0.77~1.24)、クロニジン群(1.04、0.82~1.31)ともに同程度であった。

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咳嗽・喀痰の診療GL改訂、新規治療薬の位置付けは?/日本呼吸器学会

 咳嗽・喀痰の診療ガイドラインが2019年版以来、約6年ぶりに全面改訂された。2025年4月に発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』1)では、9つのクリニカル・クエスチョン(CQ)が設定され、初めてMindsに準拠したシステマティックレビューが実施された。今回設定されたCQには、難治性慢性咳嗽に対する新規治療薬ゲーファピキサントを含むP2X3受容体拮抗薬に関するCQも含まれている。また、本ガイドラインは、治療可能な特性を個々の患者ごとに見出して治療介入するという考え方である「treatable traits」がふんだんに盛り込まれていることも特徴である。第65回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドラインに関するセッションが開催され、咳嗽セクションのポイントについては新実 彰男氏(大阪府済生会茨木病院/名古屋市立大学)が、喀痰セクションのポイントについては金子 猛氏(横浜市立大学大学院)が解説した。喘息の3病型を「喘息性咳嗽」に統一、GERDの治療にP-CABとアルギン酸追加 咳嗽の治療薬について、「咳嗽治療薬の分類」の表(p.38、表2)が追加され、末梢性鎮咳薬としてP2X3受容体拮抗薬が一番上に記載された。また、中枢性と末梢性をまたぐ形で、ニューロモデュレーター(オピオイド、ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリンが含まれるが、保険適用はモルヒネのみ)が記載された。さらに、今回からは疾患特異的治療薬に関する表も追加された(p.38、表3)。咳喘息について、前版では気管支拡張薬を用いることが記載されていたが、改訂版の疾患特異的治療薬に関する表では、β2刺激薬とロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が記載された。なお、抗コリン薬が含まれていない理由について、新実氏は「抗コリン薬は急性ウイルス感染や感染後の咳症状などに効果があるというエビデンスもあり、咳喘息に特異的ではないためここには記載していない」と述べた。 咳症状の観点による喘息の3病型として、典型的喘息、咳優位型喘息、咳喘息という分類がなされてきた。しかし、この3病型には共通点や連続性が存在し、基本的な治療方針も変わらないことから、1つにまとめ「喘息性咳嗽」という名称を用いることとなった。ただし、狭義の慢性咳嗽には典型的喘息、咳優位型喘息を含まないという歴史的背景があり、咳だけを呈する喘息患者の存在が非専門医に認識されるためには「咳喘息」という名称が有用であるため、フローチャートでの記載や診断基準は残している。 咳喘息の診断基準について、今回の改訂では3週間未満の急性咳嗽では安易な診断により過剰治療にならないように注意することや、β2刺激薬は咳喘息でも無効の場合があるため留意すべきことが記されている。後者について新実氏は「β2刺激薬に効果がみられない場合は咳喘息を否定するという考えが見受けられるため、注意喚起として記載している」と指摘した。 喘息性咳嗽について、前版では軽症例には中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単剤で治療することが記載されていたが、喘息治療においてはICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)が基本となるため、本ガイドラインでも中用量ICS/LABAを基本とすることが記載された。ただし、ICS+長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やICS+LTRA、中用量ICS単剤も選択可能であることが記載された。また、本ガイドラインの特徴であるtreatable traitsを考慮しながら治療を行うことも明記されている。 胃食道逆流症(GERD)については、GERDを疑うポイントとしてFSSG(Fスケール)スコア7点以上、HARQ(ハル気道逆流質問票)スコア13点以上が追加された。また、治療についてはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とアルギン酸が追加されたほか、treatable traitsへの対応を十分に行わないと改善しにくいことも記載されている。難治性慢性咳嗽に対する唯一の治療薬ゲーファピキサント 難治性慢性咳嗽は、治療抵抗性慢性咳嗽(Refractory Chronic Cough:RCC)、原因不明慢性咳嗽(Unexplained Chronic Cough:UCC)からなることが記されている。本邦では、RCC/UCCに適応のある唯一の治療薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬のゲーファピキサントである。本ガイドラインでは、RCC/UCCに対するP2X3受容体拮抗薬に関するCQが設定され、システマティックレビューの結果、ゲーファピキサントはLCQ(レスター咳質問票)合計スコア、咳VASスコア、24時間咳嗽頻度を低下させることが示された。ガイドライン作成委員の投票の結果、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])こととなった。 慢性咳嗽のtreatable traitsとして、気道疾患、GERD、慢性鼻副鼻腔炎などの12項目が挙げられている。このなかの1つとして、咳過敏症も記載されている。慢性咳嗽患者の多くはtreatable traitsとしての咳過敏症も有しており、このことを見過ごして行われる原因疾患のみの治療は、しばしば不成功に終わることが強調されている。新実氏は「原因疾患に対する治療をしたうえで、P2X3受容体拮抗薬により咳過敏症を抑えることで咳嗽をコントロールできる患者も実際にいるため、理にかなっているのではないかと考えている」と述べた。国内の専門施設では血痰・喀血の原因は年齢によって大きく異なる 前版のガイドラインは、世界初の喀痰診療に関するガイドラインとして作成されたが、6年ぶりの改訂となる本ガイドラインも世界唯一のガイドラインであると金子氏は述べる。 喀痰に関するエビデンスは少なく、前版の作成時には、とくに国内のデータが不足していた。そこで、本ガイドラインの改訂に向けてエビデンス創出のために多施設共同研究を3研究実施し(1:血痰と喀血の原因疾患、2:膿性痰の色調と臨床背景、3:急性気管支炎に対する抗菌薬使用実態)、血痰と喀血の原因疾患に関する研究の成果が英語論文として2件報告されたことから、それらのデータが追加された。 血痰と喀血の原因疾患として、前版では英国のプライマリケアのデータが引用されていた。このデータは海外データかつプライマリケアのデータということで、本邦の呼吸器専門施設で遭遇する疾患とは異なる可能性が考えられていた。そこで、国内において呼吸器専門施設での原因を検討するとともに、プライマリケアでの原因も調査した。 本邦での調査の結果、プライマリケアでの血痰と喀血の原因疾患の上位4疾患は急性気管支炎(39%)、急性上気道感染(15%)、気管支拡張症(13%)、COPD(7.8%)であり2)、英国のプライマリケアのデータ(1位:急性上気道感染[35%]、2位:急性下気道感染[29%]、3位:気管支喘息[10%]、4位:COPD[8%])と上位2疾患は急性気道感染という点、4位がCOPDという点で類似していた。 一方、本邦の呼吸器専門施設での血痰と喀血の原因疾患の上位3疾患は、気管支拡張症(18%)、原発性肺がん(17%)、非結核性抗酸菌(NTM)症(16%)であり、プライマリケアでの原因疾患とは異なっていた。また「呼吸器専門施設では年齢によって、原因疾患が大きく異なることも重要である」と金子氏は指摘する。たとえば、20代では細菌性肺炎が多く、30代では上・下気道感染、気管支拡張症が約半数を占め、40~60代では肺がんが多くなっていた。70代以降では肺がんは1位にはならず、70代はNTM症、80代では気管支拡張症、90代では細菌性肺炎が最も多かった3)。また、80代以降では結核が上位にあがって来ることも注意が必要であると金子氏は指摘した。近年注目される中枢気道の粘液栓 最近のトピックとして、閉塞性肺疾患における気道粘液栓が取り上げられている。米国の重症喘息を対象としたコホート研究「Severe Asthma Research program」において、中枢気道の粘液栓が多発していることが2018年に報告され、その後COPDでも同様な病態があることも示されたことから注目を集めている。粘液栓形成の程度は粘液栓スコアとして評価され、著明な気流閉塞、増悪頻度の増加、重症化や予後不良などと関連していることも報告されており、バイオマーカーとして期待されている。ただし、課題も存在すると金子氏は指摘する。「評価にはMDCT(multidetector row CT)を用いて、一つひとつの気管支をみていく必要があり、現場に普及させるのは困難である。そのため、現在はAIを用いて粘液スコアを評価するなど、さまざまな試みがなされている」と、課題や今後の期待を述べた。CQのまとめ 本ガイドラインにおけるCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。【CQ一覧】<咳嗽>CQ1:ICSを慢性咳嗽患者に使用すべきか慢性咳嗽患者に対してICSを使用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ2:プロトンポンプ阻害薬(PPI)をGERDによる咳嗽患者に推奨するかGERDによる咳嗽患者にPPIを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ3-1:抗コリン薬は感染後咳嗽に有効か感染後咳嗽に吸入抗コリン薬を勧めるだけの根拠が明確ではない(推奨度決定不能)(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ3-2:抗コリン薬は喘息による咳嗽に有効か喘息による咳嗽に吸入抗コリン薬を弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ4:P2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効かP2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効であり、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])<喀痰>CQ5:COPDの安定期治療において喀痰調整薬は推奨されるかCOPDの安定期治療において喀痰調整薬の投与を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ6:COPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与は有効かCOPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与することを弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])CQ7:喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法は推奨されるか喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法の推奨度決定不能である(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ8:気管支拡張症(BE)に対してマクロライド少量長期療法は推奨されるかBEに対してマクロライド少量長期療法を強く推奨する(エビデンスの確実性:A[強い])

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入院させてほしい【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第6回

入院させてほしいPointプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をACSCsという。ACSCsによる入院の割合は、プライマリ・ケアの効果を測る指標の1つとされている。病診連携、多職種連携でACSCsによる入院を減らそう!受け手側は、紹介側の事情も理解して、診療にあたろう!症例80歳女性。体がだるい、入院させてほしい…とA病院ERを受診。肝硬変、肝細胞がん、2型糖尿病、パーキンソン病などでA病院消化器内科、内分泌内科、神経内科を受診していたが、3科への通院が困難となってきたため、2週間前にB診療所に紹介となっていた。採血検査でカリウム7.1mEq/Lと高値を認めたこともあり、幸いバイタルサインや心電図に異常はなかったが、指導医・本人・家族と相談のうえ、入院となった。内服薬を確認すると、消化器内科からの処方が診療所からも継続されていたが、内容としてはスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されており、そこにここ数日毎日のバナナ摂取が重なったことによるもののようだった。おさえておきたい基本のアプローチプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をAmbulatory Care Sensitive Conditions(ACSCs)という。ACSCsは以下のように大きく3つに分類される。1:悪化や再燃を防ぐことのできる慢性疾患(chronic ACSCs)2:早期介入により重症化を防ぐことのできる急性期疾患(acute ACSCs)3:予防接種等の処置により発症自体を防ぐことのできる疾患(vaccine preventable ACSCs)2010年度におけるイギリスからの報告によると、chronic ACSCsにおいて最も入院が多かった疾患はCOPD、acute ACSCsで多かった疾患は尿路感染症、vaccine preventable ACSCsで多かった疾患は肺炎であった1)。実際に、高齢者がプライマリ・ケア医に継続的に診てもらっていると不必要な入院が減るのではないかとBarkerらは、イギリスの高齢者23万472例の一次・二次診療データに基づき、プライマリ・ケアの継続性とACSCsでの入院数との関連を評価した。ケアが継続的であると、高齢者において糖尿病、喘息、狭心症、てんかんを含むACSCsによる入院数が少なかったという研究結果が2017年に発表された。継続的なケアが、患者-医師間の信頼関係を促進し、健康問題と適切なケアのよりよい理解につながる可能性がある。かかりつけ医がいないと救急車利用も増えてしまう。ホラ、あの○○先生がかかりつけ医だと、多すぎず少なすぎず、タイミングも重症度も的確な紹介がされてきているでしょ?(あなたの地域の素晴らしいかかりつけ医の先生の顔を思い出してみましょう)。またFreudらは、ドイツの地域拠点病院における入院患者のなかで、ACSCsと判断された104事例をとりあげ、紹介元の家庭医にこの入院は防ぎえたかというテーマでインタビューを行うという質的研究を行った。この研究を通じてプライマリ・ケアの実践現場や政策への提案として、意見を提示している(表)。地域のリソースと救急サービスのリンクの重要性、入院となった責任はプライマリ・ケアだけでなく、病院なども含めたすべてのセクターにあるという合意形成の重要性、医療者への異文化コミュニケーションスキル教育の重要性など、ERの第一線で働く方への提言も盛り込まれており、ぜひ一読いただきたい。ACSCsは高齢者や小児に多く、これらの提言はドイツだけでなく、世界でも高齢者の割合がトップの日本にも意味のある提言であり、これらを意識した医師の活躍が、限られた医療資源を有効に活用するためにも重要であると思われる。表 プライマリ・ケア実践現場と政策への提言<プライマリ・ケア実践チームへの提言>患者の社会的背景、服薬アドヒアランス、セルフマネジメント能力などを評価し、ACSCsによる入院のリスクの高い患者を同定すること処方を定期的に見直すこと(何をなぜ使用しているのか?)。アドヒアランス向上のために、読みやすい内服スケジュールとし、治療プランを患者・介護者と共有すること入院のリスクの高い患者は定期的に症状や治療アドヒアランスの電話などを行ってモニタリングすること患者および介護者にセルフマネジメントについて教育すること(症状悪化時の対応ができるように、助けとなるプライマリ・ケア資源をタイミングよく利用できるようになるなど)患者に必要なソーシャルサポートシステム(家族・友人・ご近所など)や地域リソースを探索することヘルステクノロジーシステムの導入(モニタリングのためのリコールシステム、地域のリソースや救急サービスのリンク、プライマリ・ケアと病院や時間外ケアとのカルテ情報の共有など)各部署とのコミュニケーションを強化する(かかりつけ医と時間外対応してくれる外部医師間、入退院支援、診断が不確定な場合に相談しやすい環境づくりなど)<政策・マネジメントへの提言>入院となった責任はプライマリ・ケア、セカンダリ・ケア、病院、地域、患者といったすべてのセクターにあるという合意を形成すべきであるACSCsによる入院はケアの質の低さを反映するものでなく、地理的条件や複雑な要因が関係していることを検討しなければならないACSCsに関するデータ集積でエキスパートオピニオンではなく、エビデンスデータに基づいた改善がなされるであろう医療者教育において異文化コミュニケーションスキル教育が重視されるだろう落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls紹介側(かかりつけ医)を、責めない!前に挙げた症例のような患者を診た際には、「なぜスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されているんだ!」とついつい、かかりつけ医を責めたくなってしまうだろう! 忙しいなかで、そう思いたくなるのも無理はない。でも、「なんで○○した?」、「なんで△△なんだ?」、「なんで□□になるんだよ」などと「なんで(why)」で質問攻めにすると、ホラあなたの後輩は泣きだしたでしょ? 立場が違う人が安易に相手を責めてはいけない。後医は名医なんだから。前医を責めるのは医師である前に人間として未熟なことを露呈するだけなのである。まずは紹介側の事情をくみ取るように努力しよう。この症例でも、病院から紹介になったばかりで、関係性もあまりできていないなかでの高カリウム血症であった。元々継続的に診療していたら、血清カリウム値の推移や、腎機能、食事の状況など把握して、カリウム製剤や利尿薬を調節できたかもしれない。また紹介医を責めると後々コミュニケーションが取りにくくなってしまい、地域のケアの向上からは遠ざかってしまう。自分が紹介側になった気持ちになって、診療しよう。Pointかかりつけ医の事情を理解し、診療しよう!起きうるリスクを想定しよう!さらにかかりつけ医の視点で考えていきたい。この方の場合はまだフォロー歴が短いこともあって困難だったが、前医からの採血データの推移の情報や、食事摂取量や内容の変化でカリウム値の推移も予測可能だったかもしれない。糖尿病におけるsick dayの説明は患者にされていると思うが、リスクを想定し、かつ対処できるよう行動しよう。いつもより体調不良があるけど、なかなかすぐには受診してもらえないときには、電話を入れたり、家族への説明をしたり、デイケア利用中の患者なら、デイケア職員への声掛けも有効だろう! そうすることで不要な入院も避けられるし、患者家族からの信頼感アップも間違いなし!!「ERでは関係ない」と思わないで、患者の生活背景を聞き出し、患者のサポートシステム(デイケア・デイサービスなど)への連絡もできるようになると、かっこいい。かかりつけ医のみならず、施設職員への情報提供書も書ける視野の広い医師になろう。Point「かかりつけ医の先生とデイケアにも、今回の受診経過と注意点のお手紙を書いておきますね!」かかりつけ医だけに頑張らせない!入院のリスクの高い患者は、身体的問題だけでなく、心理的・社会的問題も併存している場合も少なくない。そんな場合は、かかりつけ医のみでできることは限られている。患者に必要なソーシャルサポートシステムや地域リソースを患者や家族に教えてあげて、かかりつけ医に情報提供し、多職種を巻き込んでもらうようにしよう! これまでのかかりつけ医と家族の二人三脚の頑張りにねぎらいの言葉をかけつつ(頑張っているかかりつけ医と家族を褒め倒そう!)、多くの地域のリソースを勧めることで、家族の負担も減り、ケアの質もあがるのだ。「そんな助けがあるって知らなかった」という家族がなんと多いことか。医師中心のヒエラルキー的コミュニケーションでなく、患者を中心とした風通しのよい多職種チームが形成できるように、お互いを尊重したコミュニケーション能力が必要だ! 図のようにご家族はじめこれだけの多職種の協力で患者の在宅生活が成り立っているのだ。図 永平寺町における在宅生活を支えるサービス画像を拡大するPoint多職種チームでよりよいケアを提供しよう!ワンポイントレッスン医療者における異文化コミュニケーションについてERはまさに迅速で的確な診断・治療という医療が求められる。患者を中心とした多職種(みなさんはどれだけの職種が浮かぶだろうか?)のなかで、医師が当然医療におけるエキスパートだ。しかし、病気の悪化、怪我・事故は患者の生活の現場で起きている。生活に目を向けることで、診断につながることは多い。ERも忙しいだろうが、「患者さんの生活を普段支えている人たち、これから支えてくれるようになる人たちは誰だろう?」なんて想像してほしい。ERから帰宅した後の生活をどう支えていけばよいかまで考えられれば、あなたは超一流!職能や権限の異なる職種間では誤解や利害対立も生じやすいので、患者を支える多職種が風通しのよい関係を築くことが大事だ。医療者における異文化コミュニケーション、つまり多職種連携、チーム医療は、無駄なER受診を減らすためにも他人ごとではないのだ。病気や怪我さえ治せば、ハイ終わり…なんて考えだけではまだまだだ。もし多職種カンファレンスに参加する機会があれば、積極的に参加して自ら視野を広げよう。ACSCsへの適切な介入とは? ─少しでも防げる入院を減らすために─入院を防ぐためには、単一のアプローチではなかなか成果が出にくく、複数の組み合わせたアプローチが有効といわれている2)。具体的には、患者ニーズ評価、投薬調整、患者教育、タイムリーな外来予約の手配などだ。たとえば投薬調整に関しては、Mayo Clinic Care Transitions programにおいても、皆さんご存じの“STOP/STARTS criteria”を活用している。なかでもオピオイドと抗コリン薬が再入院のリスクとして高く、重点的に介入されている3)。複数の介入となると、なかなか忙しくて一期一会であるERで自分1人で頑張ろうと思っても、入院回避という結果を出すまでは難しいかもしれない。そこで先にもあげたように多職種連携・Team Based Approachが必要だ4)。それらの連携にはMSW(medical social worker)さんに一役買ってもらおう。たとえば、ERから患者が帰宅するとき、患者と地域の資源(図)をつないでもらおう! MSWと連絡とったことのないあなた、この機会に連絡先を確認しておこうね!ACSCsでの心不全の場合は、専門医やかかりつけ医といった医師間の連携はじめ、緩和ケアチームや急性期ケアチーム、栄養士、薬剤師、心臓リハビリ、そして生活の現場を支える職種(地域サポートチーム、社会サービス)との協働も必要になってくる。またACSCsにはCOPDなども多く、具体的な介入も提言されている。有症状の慢性肺疾患には、散歩などの毎日の有酸素トレーニング30分、椅子からの立ち上がりや階段昇降、水筒を使っての上肢の運動などのレジスタンストレーニングなどが有効とされている。家でのトレーニングが、病院などでの介入よりも有効との報告もある。「家の力」ってすごいよね。理学療法士なども介入してくれるとより安心! 禁煙できていない人には、禁煙アドバイスをすることも忘れずに。ERで対応してくれたあなたの一言は、患者に強く響くかもしれない。もちろん禁煙外来につなぐのも一手だ! ニコチン補充療法は1.82倍、バレニクリンは2.88倍、プラセボ群より有効だ5)。勉強するための推奨文献Barker I, et al. BMJ. 2017:84:356-364.Freud T, et al. Ann Fam Med. 2013;11:363-370.藤沼康樹. 高齢者のAmbulatory care-sensitive conditionsと家庭医. 2013岡田唯男 編. 予防医療のすべて 中山書店. 2018.参考 1) Bardsley M, et al. BMJ Open. 2013;3:e002007. 2) Kripalani S, et al. Ann Rev Med. 2014;65:471-485. 3) Takahashi PY, et al. Mayo Clin Proc. 2020;95:2253-2262. 4) Tingley J, et al. Heart Failure Clin. 2015;11:371-378. 5) Kwoh EJ, Mayo Clin Proc. 2018;93:1131-1138. 執筆

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黄斑部の厚さが術後せん妄リスクの評価に有効か

 「目は心の窓」と言われるが、目は術後せん妄リスクのある高齢患者を見つけるのにも役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。網膜の中心部にある黄斑部が厚い高齢者は、術後せん妄の発症リスクが約60%高いことが示されたという。同済大学(中国)医学部教授のYuan Shen氏らによるこの研究の詳細は、「General Psychiatry」に4月1日掲載された。Shen氏は、「本研究結果は、黄斑部の厚みを非侵襲的なマーカーとして、麻酔および手術後にせん妄を発症しやすい高齢者を特定できる可能性があることを示唆している」と話している。 米国医師会(AMA)によると、高齢患者の約26%が術後せん妄を発症する。米ミシガン州の内科医Amit Ghose氏は、2023年にAMAに発表された記事の中で、4時間に及ぶ心臓手術後に術後せん妄に襲われた自身の経験を振り返った。Ghose氏は、目を覚ましたときには頭が混乱しており、「私は、『なぜ私はランシングで患者の診察をしていないのだろう』と自問した」と回想する。同氏は、家族の質問に正しく答えることができず、オピオイド系鎮痛薬はせん妄状態を悪化させただけだった。症状が治まるまで数日かかったという。 研究グループは、術後せん妄を発症した患者は、入院期間が長くなり、退院後も自宅でのサポートが必要になる可能性が高いと説明する。また、認知機能低下や認知症のリスクも高まる。しかし残念ながら、術後せん妄のリスクがある人を特定するための簡便な検査は存在しない。ただ、過去の研究で、視力障害が術後せん妄の独立したリスク因子であることや、網膜の厚さが認知障害やアルツハイマー病のリスクと関連していることが示されている。網膜は目の奥にある細胞層で、角膜と水晶体を経由して入ってきた光を電気信号に変換し、視神経を通して脳に送る役割を果たしている。 今回、Shen氏らは、全身麻酔下で膝関節や股関節の置換手術、腎臓や前立腺の手術を受ける予定の65歳以上の患者169人(平均年齢71.15歳)を対象に、網膜の厚さと術後せん妄の発症リスクとの関係を検討した。手術の前に、光干渉断層撮影(OCT)により対象者の目の黄斑部の厚さと網膜神経線維層(RNFL)の厚さを測定した。また術後3日間は、せん妄のスクリーニングや診断に用いられるツールであるConfusion Assessment Method(CAM)とCAM-severity(CAM-S)を用いてせん妄の有無とその重症度の評価を行った。 手術後に40人(24%)がせん妄を発症した。術後せん妄を発症した患者では、発症しなかった患者に比べて黄斑部の厚さが有意に厚いことが明らかになった(厚さの平均値は283.35μm対273.84μm、P=0.013)。また、術前に右目黄斑部の厚さが厚いことは、術後せん妄の発症リスクの増加(調整オッズ比1.593、95%信頼区間〔CI〕1.093〜2.322、P=0.015)、およびせん妄の重症度の上昇(CAM-Sスコアの調整平均差0.256、95%CI 0.037〜0.476、P=0.022)と関連することも示された。 この研究では、黄斑部の厚みの増加と術後せん妄リスクとの間の直接的な因果関係を証明することはできない。それでも研究グループは、「本研究で得た知見は、より大規模な研究でさらに検討する価値があるほど強力であり、せん妄の術前検査につながる可能性がある」と述べている。 なお、米国老年医学会(AGS)によると、術後せん妄は予防可能だという。AGSは予防のための有効な手段として、毎日複数回歩かせること、時間と居場所を思い出させること、夜間に中断なく眠れるようにすること、水分補給を徹底させること、眼鏡や補聴器を持たせること、カテーテルの使用を避けることなどを挙げている。

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第261回 ほぼほぼ生き残り確定の零売薬局(後編) 憲法違反の指摘や「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」導入の提案など零売規制への反対相次ぐ

衆議院厚生委員会の附帯決議で法律の方針が180度転換こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回、久しぶりに零売について書いたので、以前利用した零売薬局を久しぶりに訪れてみました(「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」参照)。以前と同様、腰痛用にロコアテープを購入、ついでに「零売薬局が規制でなくなる、と聞いたのですが?」と店頭の薬剤師(女性)に聞いてみました。すると、「そういう話は我々も聞いていますが、法律やルールに則ってやっていますので、なくならないと思います。実際、ニーズも高く都内の店舗もここ数年で増やしていますし」との答え。国会での細かな議論については知らないようでしたが、最前線の薬剤師に規制への危機感は感じられませんでした。さて、厚生労働省が今回の薬機法等改正法案で「原則禁止」にしようと目論んでいた零売が、衆議院厚生委員会において「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」といった附帯決議が採択されたことで法律の方針が180度転換、生き残りに向けて光が見えてきました。その背景にはいったい何があったのでしょうか。「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と立民議員まず考えられるのは「憲法違反」の可能性です。前回書いたように、今年1月、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしました。原告の薬剤師の一人は記者会見で、裁判で「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。担当弁護士も「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」と説明しました。また、4月11日付の薬事日報によれば、4月9日の衆院厚労委員会において立憲民主党の早稲田 夕季議員は、零売は「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」と訴えるとともに、零売に関する行政訴訟を5月に控えていることを踏まえ、「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と話したそうです。こうした意見に対して、福岡 資麿厚生労働相は「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」、「施行に向けて関係者の意見を聞きながら、省令やガイドライン等の策定により周知を図りたい」、「零売は国民の緊急時に医薬品へのアクセスを確保するために必要な制度だ。改正法が成立した際にはこの考えのもとで運用し、求められる対応も分かりやすい形で示したい」などと答えたとのことです。法案提出時の「原則禁止」の“勢い”が完全に削がれた答弁と言えます。うがった見方をすれば、法案提出後に内閣法制局に再確認して、「憲法違反」の可能性を指摘されたのかもしれません。厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは2005年厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売がごく普通に行われていました。零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚労省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号 厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました。2005年4月施行の薬事法改正は、処方箋医薬品の零売を防ぐことも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」(ただし原則処方箋必要)に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。その後、通知によって不適切な広告・販売等で零売を行う薬局を牽制2005年の通知の内容は2014年3月18日に厚労省から発出された「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号 厚生労働省医薬食品局長通知)に引き継がれました。しかし、本通知の趣旨を逸脱した不適切な広告・販売方法が散見されるとして、2022年8月5日、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)が発出され、「処方箋がなくても買える」、「病院や診療所に行かなくても買える」といった不適切な広告・販売方法等で零売を行う薬局を問題視、牽制してきました。その延長線にあるのが今回の薬機法等改正案というわけです。とはいうものの、そもそも明確な法規制がなく、昔から“既得権”として行われ、薬の販売方法として一定の役割を担っていた零売を、原則禁止としてしまうのは無理があるように感じます。厚労省もそのことは重々わかっていたからこそ、これまで法律ではなく通知による“緩い”コントロールに留めてきたのでしょう。重大な健康被害があったわけでもないのに、法規制は明らかに“行き過ぎ”の感は否めません。今年に入って零売規制への批判高まる零売生き残りの光が見えてきたもう一つの背景として考えられるのは、マスコミなど世間からの批判の声です。薬機法等改正案が国会に提出される直前の2月5日、日本総研は調査部主任研究員の成瀬 道紀氏によるレポート「零売規制の妥当性を問う」を公表しました。同レポートは、「零売は、病院や診療所を受診せずとも処方箋医薬品以外の医療用医薬品を入手でき、患者にとって利点がある。とりわけ、処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、OTC医薬品(市販薬)よりも費用対効果が高い製品が多い」とそのメリットを説く一方、「零売は販売時に医師の関与がないため、薬剤師による患者指導が不十分な場合は、患者の健康に悪影響を与え得る懸念が指摘されている」と問題点にも言及、その上で、「今求められるのは、第1に、薬剤師の職能の尊重である。もちろん、薬剤師自身が自己変革に取り組む努力も不可欠である。第2に、医療用医薬品というわが国特有の区分を廃止してダブルスタンダードを解消し、処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにすることである」と提言しました。ちなみに、日本総研の成瀬氏は3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会に公述人として出席、「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べています。「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」3月17日付の日本経済新聞朝刊も、「自分の病は自分でも診よう」と題する大林 尚編集委員の記事を掲載、処方箋医薬品以外の医療用医薬品(いわゆる現在、零売可能な医薬品)について、「7千種類の類似薬は原則、処方箋不要にしてOTC薬にひっくるめる」という成瀬氏の改革案を紹介しています。それによって、「患者は安くて効き目のよい薬を身近に入手できる。これは、類似薬を健康保険の適用から外す保険制度改革と表裏の関係にある。最大の効用は年間1兆円の保険医療費の節約だ。医師はその資格にふさわしい病の治療に専念し、患者は処方箋目的の『お薬受診』をやめる。医療機関に入る初診・再診料や処方箋料、また調剤薬局に取られる技術料のムダも省ける」と書くとともに、「ところが厚労省は供給側重視を鮮明にしている。類似薬に処方箋を求める規制について行政指導から法で縛る制度への格上げをもくろみ、今国会に関連法案を出した。与野党を問わず、政治家がこの規制強化の不合理さを主体的に理解すれば法案修正は可能である。硬い岩盤をうがつべく、立法府の力をみせてほしい」と、零売規制が時代に逆行した政策だと指摘しています。さらにAERA DIGITALも3月20日、「『零売薬局』なら処方箋ナシで『病院の薬』が買える ニーズがあるのになぜ『規制強化』が進むのか」と題する記事を配信しています。同記事は零売が規制強化に向かう現状をリポートするとともに、「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」という歴史についても言及、金城学院大薬学部の大嶋 耐之教授の「昔の薬剤師は、街のお医者さん的な存在で、薬だけではなく病気や健康に関するさまざまな相談を聞いてアドバイスをしてくれた。利用者のセルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な不調は自分で手当てすること)にも貢献していたんです。そうした関係が成り立っているなら、零売は『患者にとって良いこと』とも言えると思います」というコメントを紹介、「規制強化の動きの一方で、零売のメリットを訴える声もある。▽医療費削減につながる▽病院で処方される薬より安い場合があり、経済的負担が軽減する▽どうしても医療機関に行けないときに助けてもらえる、など」と零売擁護を訴えています。日本総研は「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」を提案こう見てくると、零売規制は、単に「薬局に処方箋医薬品以外の医療用医薬品を売らせるかどうか」という単純な問題ではなく、医師や薬剤師の役割分担、国民のセルフメディケーションの意識改革、無駄な医療費削減等にも関わる大きな問題だということがわかります。ことは、OTC類似薬の保険適用外しとも関連してきます。前述したように日本総研の成瀬氏は、レポート「零売規制の妥当性を問う」で医療用医薬品という日本特有の区分を廃止し、処方箋医薬品以外はOTC医薬品とする諸外国と同様のシンプルな制度とすることを提案、「医療用医薬品という区分が廃止され、ダブルスタンダードが解消されれば、零売という概念そのものがなくなる」と書いています。もっとも、それが実現した時に重要な役割を担うはずの薬剤師の団体、日本薬剤師会自体は薬機法等改正法案に賛成し、零売にも否定的で弱腰な点が気になりますが……。「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」は一見大胆なようですが、とても理にかなった提案だと思います。薬機法等改正案成立後の政省令や通知類、そして社会保障改革に関する自民党、公明党、日本維新の会の3党協議で検討が進められるOTC類似薬の保険外しなど(「第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット」参照)、医薬品を巡る今後の議論の行方に注目したいと思います。

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「急性腹症診療ガイドライン2025」、ポイント学習動画など新たな試みも

 2025年3月「急性腹症診療ガイドライン2025 第2版」が刊行された。2015年の初版から10年ぶりの改訂となる。Minds作成マニュアル(以下、マニュアル)に則って作成され、初版の全CQに対して再度のシステマティックレビューを行い、BQ81個、FRQ6個、CQ14個の構成となっている。8学会の合同制作で広範な疾患、検査を網羅する。診療のポイントをシナリオで確認できる動画を作成、システマティックレビューの検索式や結果をWeb上で公開するなど、新たな試みも行われた。改訂出版委員会の主要委員である札幌医科大学・三原 弘氏に、改訂版のポイントや特徴を聞いた。 ガイドライン自体の評価はMindsなどが行っているが、私たちはさらにマニュアルに従ってガイドラインが実臨床や社会に与えた影響を評価しようと考えた。具体的には、初版刊行の前後、2014年と2022年に日本腹部救急医学会と日本プライマリ・ケア連合学会の会員を対象にアンケート調査を行った。ガイドラインの認知度と実臨床の変化を調べ、改訂につなげることが目的だ。 そこでわかった課題は2つ。1つめは、初版では急性腹症の初回のスクリーニング検査として超音波検査(エコー)を推奨していたにもかかわらず、発刊後にはエコーの実施率が下がり、CT検査の実施率が上がっていた。コロナ禍の影響が大きいだろうが、初版における超音波の推奨を十分伝え切れていなかった可能性がある。2つめは、初版の認知度が6割だったことだ。学会員であり、かつアンケートに回答してくれるような熱心な医師であっても4割はガイドラインの存在自体を知らない、という結果は衝撃だった。一方、ガイドラインを認知している医師は診療内容が確実に変わっており、「知ってもらう」ことの重要性を痛感した。 この結果を受け、2版は「最初の画像検査はエコーが第1選択と強調」、「とにかく知ってもらう」ことの2点に注力した。 そして、「急性腹症の検査」の章では、「$アプローチ」と「6アプローチ」という具体的な走査法の図を掲載し、「急性腹症の教育プログラム」の章に最近一般的になっているPOCUS(ベッドサイドで行う超音波検査)について、「各部位50例程度の経験を積むことを提案する」という具体的な数値目標を記載し、エコー動画を含めたシナリオ学習動画を新規に作成・公開した。これはパブリックコメントなどに寄せられた「エコーが重要なのはわかったが、どう当てればいいのか、どのくらい練習すればいいのかわからない」という声に応えたものだ。 さらに、初版で記載した「2 step methods」(バイタルサインを確認するステップ1、その異常の有無で医療面接・身体所見などから病態を評価する対応を変えるステップ2を順番に行う診療アルゴリズム)がわかりにくいという声を受け、上記のシナリオで内容を理解する動画を5本作成した。若手医師を中心に、書籍ではなく動画で学ぶことが一般化しており、そのニーズに応えたものだ。1本10分程度の動画で、症例提示や検査画像から診療の流れとポイントを確認し、視聴前後にチェックテストを行うことで理解度を確認することができる。動画はYouTubeに上げ、版権もガイドライン改訂出版委員会が所持しつつもクリエイティブ・コモンズとして公開しているので、医学部の授業や研修病院のセミナーでそのまま、または一部改変して使っていただくことも可能だ。 さらに、本編に入り切らなかった補足的コンテンツや、改訂に際して行ったシステマティックレビューの結果もWeb上で公開している。これまで、システマティックレビューの検索式や結果は事務局等のパソコン上に静かに保管している、などのケースが多かった。ガイドラインとその改訂作業を、オープンかつ公的で参考となるものとし、そして永続的な活動としていくために、さまざまなトライアルをした1冊だ。ぜひ多くの方に手に取っていただきたい。【新版に収録されたBQ・CQ/一部抜粋】BQ2 腸閉塞症とイレウスはどう定義されるか?腸管の閉塞症状を呈する病態において、「腸管の機械的閉塞を伴う病態を腸閉塞症」と「腸管の機械的閉塞を伴わない、腸蠕動または腸運動の欠如に起因する病態をイレウス」とを明確に分けて定義する。BQ3 急性虫垂炎はどう分類されるか?急性虫垂炎は、組織学的にカタル性、蜂窩織炎、壊疽性と分類され、臨床的に単純性、複雑性、汎発性腹膜炎を伴う虫垂炎に分けられるが、これらを術前に正確に分類することは困難である。BQ44 急性腹症の画像診断で最初に行う(形態学的)検査(または画像診断法)は何か?非侵襲性、簡便性、機器の普及度などからも超音波検査(US)がスクリーニング目的での画像診断法では第1選択であり、特に妊婦や小児においては勧められる。BQ78 急性腹症の腹痛にはどのような鎮痛薬を使用するか?原因にかかわらず診断前の早期の鎮痛剤使用を推奨する。痛みの強さによらずアセトアミノフェン1,000mg静脈投与が推奨される。痛みの強さにより麻薬性鎮痛薬の静脈投与を追加する。またブチルスコポラミンのような鎮痙剤は腹痛の第1選択薬というよりは疝痛に対して補助療法として使用される。急性腹症ではモルヒネ、フェンタニルのようなオピオイドやペンタゾシン、ブブレノルフィンのような拮抗性鎮痛薬を使用することもできる。NSAIDsは胆道疾患の疝痛に対しオピオイド類と同等の効果があり第1選択薬となりうる。尿管結石の疝痛にはNSAIDsを用いる。NSAIDsが使用できない場合にオピオイド類の使用を勧める。CQ8 急性腹症のどのような場合に造影CT検査を追加するか?臓器虚血の有無、血管性病変、急性膵炎の重症度判定、急性胆管炎・胆嚢炎、複雑性虫垂炎などでは単純CTだけでは詳細な評価が困難なことがあり、造影CT検査が推奨される。CQ14 臨床医に対する急性腹症の超音波訓練は有用か?臨床医自らが患者の傍らで関心部分に焦点を絞って実施する point-of-care ultrasonography(POCUS)の診断精度は、各部位50例程度の経験を積むことで超音波検査の専門家と同等になることが報告されており、急性腹症を診療する医師は50例程度の超音波訓練を行うことを提案する。

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肝障害患者へのオピオイド【非専門医のための緩和ケアTips】第99回

肝障害患者へのオピオイドモルヒネは腎不全患者に投与する時は注意が必要というのは有名ですが、肝障害患者に対してはどのような注意が必要なのでしょうか? さまざまな基礎疾患の患者に対応する必要のある緩和ケア領域、肝障害について考えてみたいと思います。今回の質問在宅診療でアルコール性肝硬変のある大腸がん患者を診ているのですが、オピオイドを使用する場合、どのような注意点があるでしょうか? 肝障害があると薬剤の代謝も悪くなると思うので、心配です。今回も臨床的な質問をいただきました。実はこの肝障害患者へのオピオイドの使用は、あまりエビデンスが確立されていない分野です。医薬品インタビューフォームなどの情報を見ると、フェンタニルは「比較的用量調整不要とされるが、慎重に使用」と記載されており、それ以外のオピオイドは「投与量の調節が必要、もしくは使用を推奨しない」という記載となっています。肝障害患者に使用が推奨されていないのは、メサドン、コデイン、トラマドールです。とくにメサドンは「重度の肝疾患患者において、半減期が大幅に延びた」という報告があり、私も基本的には使用しません。一方、モルヒネやオキシコドンなどほかのオピオイドは減量したうえで慎重に投与することを検討します1)。ただし、先述のように確立されたエビデンスはなく、ほかの文献では「フェンタニルも投与量調整が必要」や「メサドンも投与量を調整すれば使用可能」とする報告もあり、迷うところです。臨床的には安全な範囲を見積もりながら慎重に投与し、効果と副作用を評価することになります。こういった機会でないとなかなか勉強することのない、薬剤の代謝について復習してみましょう。肝機能障害がある際に代謝が低下する理由はいくつかあるのですが、代謝酵素(CYP3A4など)の活性が半分程度まで低下することが大きく影響します。私も専門家ではないのでざっくりとした説明になりますが、CYPは種類があり、薬剤ごとに関与するCYPが異なります。このため、薬剤ごとに代謝の影響を確認する必要があるのです。「障害されている肝細胞が多いほど代謝機能が低下する」というのはイメージしやすいでしょう。今回の質問のように肝臓全体に影響があるアルコール性肝硬変の場合は肝細胞が広範に萎縮し、代謝機能が大きく低下するケースが多いでしょう。一方、肝細胞がんでは比較的肝細胞数が維持されることが多いとされます。こうした意味でも病態ごとに考える必要があるのです。今回は緩和ケアの専門家でもクリアカットにコメントしにくい、肝障害患者へのオピオイドについて考えてみました。まずは「重度肝障害患者に対しては、メサドン、コデイン、トラマドールは避ける」という点を押さえましょう。今回のTips今回のTips肝障害患者へのオピオイド投与。避ける薬剤を確認し、使用できる薬剤も慎重に投与量を考えよう。1)Pharmacokinetics in Patients with Impaired Hepatic Function: Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling/FDA

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