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第8回 説明義務 その2:説明するのは主治医? 執刀医?

■今回のテーマのポイント1.法的な説明義務の主体は、契約の当事者である医療機関であり、必ずしも当該患者におけるチーム医療の総責任者たる医師が行わなければならないわけではない2.他の者が説明を行う場合においては、チーム医療の総責任者は、条理上、患者やその家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有する3.当該配慮義務の内容は、(1) 説明をするのに十分な知識、経験を有する者にこれを当たらせること(人選の妥当性)、(2) 必要に応じてその者を指導・監督すること(指導・監督の妥当性)である事件の概要患者(X)(死亡時67歳男性)は、平成10年8月頃から労作時に前胸部圧迫感が認められたため、同年9月にA病院の外来を受診しました。平成11年1月にA病院に検査入院したところ、大動脈弁閉鎖不全症があり、大動脈弁置換術が必要であると診断されました。その後、Xの自覚症状が持続していたことからA病院のB医師から同手術を受けるよう繰り返し勧められた結果、Xは、同年9月頃には手術を受ける決心をしました。Xは、A病院のB医師よりZ大学病院の心臓外科を紹介され、同年9月20日にZ大学病院に入院しました。Xに対する手術の執刀医はY1教授を予定し、入院主治医はY2となりました。主治医であるY2医師は、同月27日にX及びその家族に対し、翌28日に予定された手術の必要性、内容、危険性等について説明しました。同月28日、Xに対する大動脈弁置換術がY1教授の執刀で行われましたが、Xの大動脈壁が脆弱であったため、術中に縫合部より出血が生じ、その後心室細動を繰り返し、最終的には周術期心筋梗塞を発症してしまいました。周術期心筋梗塞に対し、大動脈冠状動脈バイパス術も行われましたが、ICUに戻った後もXの循環動態は改善せず、翌29日14時34分に死亡しました。これに対し、Xの家族は、執刀医であったY1教授及び主治医であったY2医師に対し、手術ミス及び説明義務違反があった等として、約4,200万円の損害賠償請求を行いました。第1審では、手術上のミスもなく、説明義務違反もないとして原告の請求を棄却しましたが、第2審では、術前にXの大動脈壁が脆弱である可能性が予見し得たのであるから、その点につき説明がなされていないとして説明義務違反を認め、315万円の損害賠償責任を認めました。この原審(第2審)で問題となったのは、直接、患者に説明したY2医師の説明義務違反があったとすることはまだしも、執刀医であったY1教授(Y2による説明時に同席していなかった)にも直接説明する義務があるとした点です。これに対し、Y1教授のみが上告したところ、最高裁は、Y1教授の説明義務違反につき、原審を破棄し、下記の通り判示しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者(X)(死亡時67歳男性)は、高血圧、高脂血症及び脳梗塞の既往がありました。平成10年8月頃から労作時に前胸部圧迫感が認められたため、同年9月にA病院の外来を受診しました。心エコー上大動脈弁閉鎖不全を認めたため、平成11年1月にA病院に検査入院しました。Xは、検査の結果、大動脈弁置換術が必要であると診断されました。その後、Xの自覚症状が持続していたことからA病院のB医師から同手術を受けるよう繰り返し勧められた結果、Xは、同年9月頃には手術を受ける決心をしました。Xは、A病院のB医師よりZ大学病院の心臓外科を紹介され、同年9月20日にZ大学病院に入院しました。Xに対する手術の執刀医はY1教授を予定し、入院主治医はY2となりました。Xに対し、同月25日まで術前検査が行われ、その結果、Z大学病院心臓外科でのカンファランスにおいても、大動脈弁置換術の手術適応があると判断されました。主治医であるY2医師は、同月27日にX及びその家族に対し、翌28日に予定された手術の必要性、内容、危険性等について説明しました。同月28日、Xに対する大動脈弁置換術がY1教授の執刀で行われましたが、Xの大動脈壁が脆弱であったため、術中に縫合部より出血が生じ、その後、心室細動をくり返し、最終的には、周術期心筋梗塞を発症してしまいました。周術期心筋梗塞に対し、大動脈冠状動脈バイパス術も行われましたが、ICUに戻った後もXの循環動態は改善せず、翌29日14時34分に死亡しました。事件の判決「一般に、チーム医療として手術が行われる場合、チーム医療の総責任者は、条理上、患者やその家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有するものというべきである。しかし、チーム医療の総責任者は、上記説明を常に自ら行わなければならないものではなく、手術に至るまで患者の診療に当たってきた主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有している場合には、主治医に上記説明をゆだね、自らは必要に応じて主治医を指導、監督するにとどめることも許されるものと解される。そうすると、チーム医療の総責任者は、主治医の説明が十分なものであれば、自ら説明しなかったことを理由に説明義務違反の不法行為責任を負うことはないというべきである。また、主治医の上記説明が不十分なものであったとしても、当該主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有し、チーム医療の総責任者が必要に応じて当該主治医を指導、監督していた場合には、同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきである。このことは、チーム医療の総責任者が手術の執刀者であったとしても、変わるところはない。これを本件についてみると、前記事実関係によれば、上告人〔Y1〕は自らX又はその家族に対し、本件手術の必要性、内容、危険性等についての説明をしたことはなかったが、主治医であるY2医師が上記説明をしたというのであるから、Y2医師の説明が十分なものであれば、上告人が説明義務違反の不法行為責任を負うことはないし、Y2医師の説明が不十分なものであったとしても、Y2医師が上記説明をするのに十分な知識、経験を有し、上告人が必要に応じてY2医師を指導、監督していた場合には、上告人は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきである。ところが、原審〔第2審〕は、Y2医師の具体的な説明内容、知識、経験、Y2医師に対する上告人の指導、監督の内容等について審理、判断することなく、上告人が自らXの大動脈壁のぜい弱性について説明したことがなかったというだけで上告人の説明義務違反を理由とする不法行為責任を認めたものであるから、原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである」(最判平成20年4月24日民集62巻5号1178頁)※〔 〕は編集部挿入ポイント解説今回は説明義務の2回目となります。今回のテーマは、説明義務の主体についてです。前回指摘した通り、診療契約は、患者と医療機関(例外として、診療所でかつ、医師がひとりで法人化されていない場合等は当該医師個人との契約となります)との間で締結されています。したがって、医局、診療科などの病院内でのセクションの別や教授、准教授、診療部長等の雇用契約上の職位のほか、主治医、執刀医等の具体的な業務の割り振りは、原則的には、あくまで医療機関内部の問題にとどまります。医療従事者としては違和感を覚えるかと思われますが、一般の企業になぞらえれば理解しやすいかもしれません。顧客は、企業と契約をしているのであり、その場合、営業部か総務部かであったり、部長か課長かであったり、当該顧客の担当者か否かは企業内部の問題でしかなく、あくまで顧客は企業に対して契約上の権利を有しているのです。法的には、患者に対する説明義務は、診療契約上の義務として行われることになっています。したがって、診療契約の相手方である医療機関は適切な方法で説明義務を履行すればよく、必ずしも医療機関の一スタッフである主治医が、一から十までのすべてを口頭で説明する義務はないと考えられます。本判決の1つ目のポイントは、法的には当然ではありますが、まさにこの点について初めて明確に示された最高裁判決であるという点です。すなわち、「チーム医療の総責任者は、上記説明を常に自ら行わなければならないものではなく、手術に至るまで患者の診療に当たってきた主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有している場合には、主治医に上記説明をゆだね、自らは必要に応じて主治医を指導、監督するにとどめることも許されるものと解される。そうすると、チーム医療の総責任者は、主治医の説明が十分なものであれば、自ら説明しなかったことを理由に説明義務違反の不法行為責任を負うことはないというべきである」と判示しており、このことは、実際に説明をするのが看護師であれ、ビデオであれ、文書であれ同様に言えることと考えられます。わが国では、法と倫理が混同されたまま議論されることが多々あるため、しばしば混乱が生じています。しかし、法的義務は、民事であれば適法/違法の問題であり、ひとたび違法と判断された場合には、本人がいくら真実は異なるからと拒否しても、国家権力により強制的に国民の財産を奪い取ることができるものであり、だからこそ、適法行為の予見可能性は国民の自由を確保するために必要不可欠なのです。一方、倫理の問題はそれとは異なり、たとえ倫理上不適切であったとしても、それがゆえに国民の自由が制限されることはありません。また、倫理観自体が国、宗教や時代によって大きく異なり、国民個々人がどのような倫理観を持つかは、思想信条の自由として憲法上保障されていますし、その結果、他人が異なる倫理観を持っていてもお互い尊重することが求められます。確かに、あるべき医師と患者の関係やインフォームド・コンセントの在り方はあると思いますし、わが国の国民感情として、主治医に懇切丁寧に説明してもらいたいという価値観があり、医師は、時間外だろうが、無給だろうが、無休だろうが、患者のために滅私せよという価値観もあります。しかし、このような説明義務の主体に関する事柄は、あくまで倫理的な問題であり、医師という職業集団として定める倫理規範によって規定すれば足りることです。これを超えて、契約概念を捻じ曲げてまで法的義務として国家権力が強制力をもって介入する問題ではないのです。本判決の2つ目のポイントは、上記のとおり説明義務の主体は、契約相手である医療機関内の誰がどのように行っても構わないが、それを実際に行う者を管理・監督すべき立場の医師はどのような責任を負うかです。この点について、本判決は、「チーム医療の総責任者は、条理上、患者やその家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有するものというべきである。・・・主治医の上記説明が不十分なものであったとしても、当該主治医が上記説明をするのに十分な知識、経験を有し、チーム医療の総責任者が必要に応じて当該主治医を指導、監督していた場合には、同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わないというべきである。このことは、チーム医療の総責任者が手術の執刀者であったとしても、変わるところはない」と判示しています。すなわち、管理・監督すべき医師は、患者やその家族に対し適切な説明がなされるよう配慮すべき義務があり、当該配慮義務の具体的な内容として、(1) 説明をするのに十分な知識、経験を有する者にこれを当たらせること(人選の妥当性)、(2) 必要に応じてその者を指導・監督すること(指導・監督の妥当性)としています。そして、この配慮義務がはたされた場合には、当該医師自らが説明していなくても責任を負うことはなく、また、万が一実際に説明を行った者の説明内容に不足があったとしても、それは当該説明を行った者の責任であり、管理・監督する医師は責任を負わないと判示しているのです。本判決においては、(1) 人選の妥当性及び(2) 指導・監督の妥当性の具体的な内容について判示していませんので、今後の判例の積み重ねによることとなりますが、(1) については、少なくとも法律上定められた教育を受け、国家資格を有する者に対して、なお知識、経験が足りないとすることは、国家資格制度を否定することにもなりかねませんので、有資格者に対しては謙抑的に判断すべきと考えます。また、(2) についても同様に判断すべきものと考えます。ただし、文書やビデオを用いて定型的、一般的な内容を伝える場合においては、当該患者の個別具体の病状に応じた説明を、自ら又は当該患者個人の病態を理解している、適切な者が補充する必要があることに注意していただきたいと思います。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。最判平成20年4月24日民集62巻5号1178頁

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【日本癌治療学会2012】腎がん治療の過去と未来

 第50回日本癌治療学会学術集会(2012年10月25日~27日)のシンポジウム「泌尿器がん治療の過去と未来」にて、金山博臣氏(徳島大学大学院HBS研究部泌尿器科学)は、「腎がん:サイトカイン、分子標的治療など」と題して、腎がんのサイトカイン療法および分子標的治療の歴史と現在の標準治療、今後の展望について講演を行った。●サイトカイン療法の時代 日本では2008年に腎がんに対して最初の分子標的治療薬であるソラフェニブが承認されるまで、腎がんの治療はインターフェロンα(IFNα)または低用量インターロイキン2(IL-2)、あるいは両剤の併用療法によるサイトカイン療法が中心であった。 肺転移を有する淡明細胞がんを対象としたIL-2とIFNα併用療法の多施設共同研究(Akaza H, et al. Jpn J Clin Oncol. 2010; 40: 684-689)によると、全症例での奏効率は35.7%、NC以上は73.8%と腫瘍縮小効果が高く、6ヵ月時点での無増悪生存率は60%以上であり、奏効した症例ではその効果が長く持続することが示された。 また、1,463例を対象としてサイトカイン療法の予後を検討した日本の40施設の共同研究(Naito S, et al. Eur Urol. 2010; 57: 317-325)の成績によると、生存期間中央値21.4ヵ月、5年生存率22.5%であり、poor riskの患者群でも生存期間中央値9.8ヵ月という良好な成績が得られている。 金山氏は、これらの分子標的治療が登場する以前の日本の腎細胞がんのエビデンスをまとめ、IFNαや低用量IL-2、あるいはその併用療法によるサイトカイン療法は、肺転移を伴う淡明細胞がんに対して有効であり、転移巣の切除や腎摘除術が予後の改善に寄与したと述べた。その他の治療(ミニ移植、ペプチドワクチン療法、樹状細胞療法)ではサイトカイン以上の有効性を示すエビデンスは得られなかった。●分子標的療法の時代 日本では現在、VEGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)としてソラフェニブ、スニチニブ、およびアキシチニブ、mTOR阻害薬としてエベロリムスとテムシロリムスの5剤が承認されている。金山氏は、それらの薬剤の主要なエビデンスをレビューした。 転移性の淡明細胞がんの患者750例を対象とし、ファーストライン治療においてスニチニブとIFNαを比較した第III相試験(Motzer RJ, et al. N Engl J Med. 2007; 356: 115-124)の結果から、スニチニブはIFNαに比べ無増悪生存期間(PFS)を有意に延長させ(ハザード比0.42、95%CI:0.32~0.54、p<0.001)、奏効率もスニチニブ群で有意に高い(Central reviewにて、31% vs. 6%、p<0.001)ことが示された。Grade 3/4の倦怠感の発現率はIFNα群で高く、下痢はスニチニブ群で多かったが、QOLの評価はスニチニブ群で有意に良好であった。 N Engl J Med誌の同じ号には、サイトカイン療法に抵抗性を示す進行淡明細胞がん患者903例を対象として、ソラフェニブとプラセボを比較した第III相試験(Escudier B, et al. N Engl J Med. 2007; 356: 125-134)の結果が掲載された。それによると、PFS中央値はソラフェニブ群5.5ヵ月に対しプラセボ群2.8ヵ月(ハザード比0.44、95%CI:0.35~0.55、p<0.01)であった。2005年5月の解析時の全生存期間(OS)でも延長が認められたが(ハザード比0.72、95%CI:0.54~0.94、p=0.02)、統計学的に有意ではなかった。主なソラフェニブによる有害事象は、下痢、発疹、倦怠感、手足症候群であった。 Poor riskの淡明細胞がん患者626例を対象に、ファーストライン治療においてmTOR阻害薬のテムシロリムス、IFNαの単剤、および両剤の併用療法を比較した第III相試験(Hudes G, et al. N Engl J Med. 2007; 356: 2271-2281)の結果によると、テムシロリムス群はIFNα群に比べて、OS(ハザード比0.73、95%CI:0.58~0.92、p=0.008)、およびPFSともに有意な延長が認められた。一方で、併用療法群はIFNα群に比べて有意なOSの延長は示されなかった。IFNα群、テムシロリムス群、併用群の生存期間中央値はそれぞれ7.3ヵ月、10.9ヵ月、および8.4ヵ月であった。テムシロリムス群の有害事象として、発疹、末梢浮腫、高血糖、高脂血症が多く出現したが、重篤な有害事象の発症頻度はIFNα群に比べて低かった。 転移性腎細胞がん患者649例を対象として、ファーストライン治療で抗VEGF抗体のベバシズマブ+IFNαの併用療法とIFNαを比較した第III相試験(Escudier B, et al. Lancet. 2007; 370: 2103-2111)によると、併用群で有意なPFS中央値の延長が認められた(10.2ヵ月 vs. 5.4ヵ月、ハザード比 0.63、95%CI:0.52~0.75、p=0.0001)。併用群で多く認められたGrade 3以上の有害事象は倦怠感と無力症であった。 また、スニチニブやソラフェニブによる治療後に増悪した転移性腎細胞がん患者410例を対象に、エベロリムスとプラセボを比較した第III相試験(Motzer RJ, et al. Lancet. 2008; 372: 449-456)では、エベロリムス群で有意なPFSの延長が示された(4.0ヵ月 vs. 1.9ヵ月、ハザード比0.3、95%CI:0.22~0.40、 p

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ステント血栓症、ゾタロリムスとシロリムスの溶出ステントで同等:PROTECT試験

 留置術後3年の時点におけるステント血栓症の発生状況は、ゾタロリムス溶出ステントとシロリムス溶出ステントで有意な差はないことが、スイス・ジュネーブ大学のEdoardo Camenzind氏らが行ったPROTECT試験で示された。複雑な冠動脈病変を含む広範な患者集団において薬剤溶出ステント(DES)の導入が急速に進んでいるが、近年、再狭窄の発生がより少ないDESによる医療コストの抑制効果に対する関心が高まっている。これまでに実施された両ステントの比較試験では、ステント血栓症の評価は行われていなかったという。Lancet誌2012年10月20日号(オンライン版2012年8月27日号)掲載の報告。3年後のステント血栓症の発生を比較 PROTECT(Patient Related OuTcomes with Endeavor versus Cypher stenting Trial)試験は、広範な患者集団と多彩な病変を対象に、異なる細胞増殖抑制薬を用いた2種類のステント・デバイス[エンデバー・ゾタロリムス溶出ステント(E-ZES)、サイファー・シロリムス溶出ステント(C-SES)]の長期的な安全性における優越性の評価を目的とする多施設共同非盲検無作為化対照比較試験。 2007年5月21日~2008年12月22日までに、36ヵ国から8,791例が登録された。自己冠動脈に対し待機的または緊急処置を施行された18歳以上の症例を適格例とした。これらの患者が、E-ZESまたはC-SESを留置する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。2剤併用抗血小板療法として、アスピリンとクロピドグレルあるいは他のチエノピリジン誘導体が投与された。 主要評価項目は、留置から3年の時点におけるステント血栓症(疑い例を含む)の発現とし、intention-to-treat解析を行った。治療割り付け情報は患者と担当医にも知らされた。3年ステント血栓症発生率:1.4 vs 1.8% 8,791例のうち8,709例が適格と判定され、E-ZES群に4,357例(平均年齢62.3、男性77%、糖尿病27%、高血圧65%、脂質異常症62%、心筋梗塞の既往20%、脳卒中の既往3%)が、C-SES群には4,352例(62.1歳、76%、28%、63%、63%、21%、3%)が割り付けられた。 3年後のステント血栓症の発生率は、E-ZES群が1.4%、C-SES群は1.8%であり、両群間に有意な差は認めなかった[ハザード比(HR):0.81、95%信頼区間(CI):0.58~1.14、p=0.22]。 2剤併用抗血小板療法は、退院時には8,402例(96%)が受けており、1年後の施行率は88%(7,456例)、2年後は37%(3,041例)、3年後は30%(2,364例)だった。 著者は、「疑い例を含めた3年後のステント血栓症の発生について、ゾタロリムス溶出ステントがシロリムス溶出ステントよりも優れるとのエビデンスは得られなかった」と結論し、「時間分析では、両群間のステント血栓症発生の差が経時的に顕在化する傾向がみられるため、ステント血栓症の臨床的関連性を明らかにするには長期的なフォローアップを要する」と指摘している。

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過去20年で成人の血清脂質の傾向は良好に

 米国CDC・Carroll MD氏らは1988~2010年における米国成人の血清脂質の動向を調べ、「良好な傾向が認められた」と結論する報告を発表した。血清総コレステロール(TC)と低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)は、アテローム性動脈硬化症とその臨床アウトカムに寄与する。米国では1988~1994年と1999~2002年の間に、成人においてTCおよびLDL-Cの平均値が低下していた。背景には、同期間中に脂質低下薬治療を受けた成人の増加があったが、中性脂肪の相乗平均値は増加したが、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の平均値は不変であったという。JAMA誌2012年10月17日号掲載報告より。1988~1994年、1999~2002年、2007~2010年のNHANES結果を分析研究グループは、3期分の全米健康栄養検査調査(NHANES)を対象に、血清脂質の動向を調べた。各期調査の参加者は、1988~1994年1万6,573例、1999~2002年9,471例、2007~2010年1万1,766例であった。主要評価項目は、TC、LDL-C、HDL-C、非HDL-Cの平均値と、中性脂肪濃度の相乗平均値、および脂質低下薬を服用していた人の割合とした。中性脂肪、HDL-Cも良好に変化、脂質低下薬の普及率は3.4%から15.5%に結果、TC平均値は、1988~1994年の206(95%CI:205~207)mg/dLから、2007~2010年は196(同195~198)mg/dLに低下した(線形傾向のp

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(29)〕 抗血栓薬やスタチン薬時代においてβ遮断薬の有用性は証明されず

心筋梗塞後の症例に対するβ遮断薬処方は、すでに標準治療として定着している。これは多数のエビデンスに基づいているが、その多くはすでに10年以上以前のものである。はたして、今日のようにPCIが一般的になり、かつスタチン薬や抗血小板薬治療などが普及した今日においてもなお、β遮断薬の有用性はあるのであろうか。またβ遮断薬は、冠動脈疾患症例や高リスク症例に対しても有用と思われがちだが、その有用性は必ずしも証明されている訳ではない。それが本論文におけるメタ解析のアンチテーゼである。 たしかに上記の問題点は臨床上非常に重要であり、興味のあるところである。 本研究は、国際的な観察研究REACH登録での後ろ向き解析である。その結果は予想に反して、心筋梗塞後症例、心筋梗塞を有しない冠動脈疾患および高リスク症例のいずれにおいても、β遮断薬治療群の心血管系予後は非使用群と差がないことを示した。 この結果は、以下のような見方ができる。つまり、現代では一般的になった抗血栓薬や高脂血症治療の普及が大きくイベント発症を抑制し、また、降圧薬も広く普及したためにβ遮断薬の相対的有用性は減少したということである。 ただし、本試験には大きなリミテーションがあることも事実である。後ろ向き解析において、さまざまな交絡因子の影響を調整する、近年頻用されるPropensity scoreという手法が用いられているが、β遮断薬の種類や用量、そしてその既往など、調整しきれない部分も存在していることも考慮する必要があるだろう。また、対象となった症例の年齢層が70歳という高齢者であることも、β遮断薬の効果を発揮させにくくしている要因であるかもしれない。 よって、本試験の結果をもって実臨床に応用するには時期尚早であり、冠動脈疾患に対するβ遮断薬の適応は、個々の病態をみながら判断するべきである。

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エキスパートに聞く!「高血圧」Q&A

CareNet.comでは9月の高血圧特集企画を行う中で、会員の先生より「高血圧」に関する質問を募集しました。その中から、特に多くいただいた質問に対し、下澤達雄先生にご回答いただきます。家庭血圧を用いる際の留意点について教えてください。昨年8月に発表された英国の高血圧ガイドラインでは、24時間血圧あるいは家庭血圧を高血圧の確定診断ならびに降圧治療の効果判定に用いることが強く推奨されました。わが国でも家庭血圧測定の指針が高血圧学会より出されており、実臨床でも多くの先生がお使いになっていることが、今回たくさんのご質問をいただいたことからも推察されます。そこで、家庭血圧を用いる際の留意点をいくつか挙げたいと思います。1.信頼性機械そのものの信頼性は診察室で同時に用手法と比較することで確認することができますが、血圧手帳を用いた自己申告による血圧値は必ずしも信頼できません。高知県で行われた調査では実測値と自己申告値には開きがあり、患者は低めに申告することが報告されています。よって、家庭血圧が低い場合でも臓器障害がある場合にはとくに診察室血圧を参考にした降圧治療が必要となります。あるいはメモリー機能をもった家庭血圧計を用い、実測値を医療側が把握できるようにする工夫が必要です。2.家庭血圧の測定方法血圧は複数回測れば必ず異なった値を示します。一般的には数回測ると徐々に低い値となります。高血圧学会の家庭血圧の指針では1日1回でよいと書かれていますが、これはまず患者に家庭血圧を測定させるために簡便な最低限の方法が記載されていると理解しています。すでに家庭血圧を日常的に測定できる患者においては複数回測定し、一番高い値と一番低い値、あるいは平均値を記載してもらうのがいいかと思います。測定時間は服薬直前が望ましいですが、日常生活にあわせてほぼ同じタイミングで測定できる時間を指導しています。3.夜間血圧を反映するか?何がわかるのか?残念ながら夜間血圧は夜間に測定する必要があり、家庭血圧では知ることができません。正しく測定でき、正直に申告された家庭血圧で白衣性高血圧、仮面高血圧がわかることはもちろんですが、曜日による血圧変動(週末ストレスがない場合に血圧が下がる)や睡眠状態との関連を知ることもできます。4.診察室血圧との乖離前述のように白衣性高血圧、仮面高血圧と診断されますが、臓器障害がある場合は高いほうの血圧を目安に治療を行うべきです。血圧変動について教えてください。外来診察毎の血圧変動が大きいと脳血管イベントが多くなることが報告されました。以来、糖尿病の際の血糖の変動が臓器障害と関連づけられています。動物実験でも交感神経を切除して血圧変動を大きくすると、レニン・アンジオテンシン系が亢進して臓器障害が進行することが報告されています。ヒトにおいては長期にわたる一拍ごとの血圧変動をみることは困難であり確立したエビデンスはありませんが、血圧変動は少なくする方が望ましいでしょう。血圧変動が大きい原因として自律神経障害、褐色細胞腫のような器質的な異常のほかに服薬アドヒアランス不良、精神的ストレス、不眠(睡眠時無呼吸)といった要因もあり、医師のみならず看護師、薬剤師などからの患者の病歴、生活歴聴取が必要となります。服薬は管理されているにもかかわらず認知症患者ではとくに血圧変動が大きいことが問題になりますが、多くの場合は多発性脳梗塞を合併している例です。転倒のリスクがなければ認知症の進行、脳梗塞の再発予防を考えて血圧は低い値にコントロールしたいところです。実際には服薬数を増やせないなどの制限があり、合剤を積極的に使ってのコントロールとなります。食塩感受性について教えてください。塩分摂取により血圧が上昇する食塩感受性患者は、上昇しない非感受性患者にくらべ血圧値が同等でも心血管イベントが多いことから、食塩感受性の診断についての質問を多くいただきました。しかし、食塩感受性を診断するには現在のところ入院にて食塩負荷、減塩食を食べさせ、その間の血圧を測定することのほかには確実な方法はないのが現状です。実臨床においては早朝第二尿のナトリウムとクレアチニンを測定することで食塩摂取量を知ることができる(「日本高血圧学会減塩ワーキンググループ報告」日本高血圧学会より入手可能)ので塩分摂取量が多い患者について経時的に観察したり減塩指導の動機付けとして用いることもできます。あるいはサイアザイド系利尿薬に対する血圧反応性も食塩感受性を知る一つの方法です。効果的な減塩指導について教えてください。日本の食文化はみそ、塩、しょうゆの上に成り立っているので、減塩指導はともすれば日本の食文化を否定することにもなりかねません。しかし、現在の一般的食生活を見てみると加工食品がふんだんに使われており、この点を改善指導することで減塩は可能となります。たとえばソーセージ100gに塩は約2g、プロセスチーズでは約3g含まれており、こういった加工食品を減らすことを指導できるでしょう。また、加齢に伴い味覚は低下するため減塩が難しくなります。そこはワサビ、生姜、茗荷、唐辛子、胡椒といったスパイスをうまく使うように指導します。そして、食卓に出された食材に塩、しょうゆを追加でかけないよう、食卓には塩、しょうゆを置かないなどの細かな指導が必要となります。男性患者の場合、食事を実際に作る配偶者への指導も重要で、医師だけでなく看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、保健婦など患者に関わるすべての医療従事者の協力体制が有効です。塩分過剰摂取は血圧上昇のみならず血圧が上昇しない場合でも酸化ストレスを増加させ耐糖能異常につながることが動物実験では示されており、摂取量を6g/日程度まで下げることは高血圧の有無にかかわらず有用であると思われます。降圧薬の減量、中止方法について教えてください。血圧のコントロールが良好で、臓器障害がないような場合、また尿中ナトリウムも低めの場合は降圧薬を中止できることもあります。その場合、4~5月位に中止し、夏の暑い間を経過観察し、10~11月から冬の寒い間に血圧が再上昇しないことを確認します。その後も家庭血圧で血圧を経過観察し、年に一回の臓器障害の進展のチェックを行います。多剤併用しており血圧が良好なコントロールの場合、薬剤の減量が可能です。長期にβ遮断薬を使っている場合は心筋虚血のリスクがあるのでβ遮断薬は漸減します。便秘、浮腫、歯肉腫脹、起立性低血圧がある場合はカルシウム拮抗薬の副作用の可能性もあるためカルシウム拮抗薬から減量します。昨今の酷暑ではとくに高齢者や腎機能低下例においては、レニン・アンジオテンシン系抑制剤や利尿薬の減量が必要となる例があります。早朝高血圧の対処方法について教えてください。家庭血圧を測定あるいは24時間血圧にて早朝高血圧が明らかになった場合、最近の研究では夜間高血圧ほどのリスクはないとの報告もありますが、降圧薬の服用時間を調整することでコントロール可能となることがあります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬は夕方服用に適した薬剤といえます。ただし、夜間の過度の降圧に注意して少量より開始するのが好ましいでしょう。α遮断薬も有効とする報告もありますが、α遮断薬自体の臓器保護効果が疑問視されており、α遮断薬を追加投与するよりは現在服用しているレニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用時間をずらすことが適切と考えます。難治性高血圧の対処方法について教えてください。異なる三系統の降圧薬を十分量を内服しても血圧のコントロールがつかない場合、難治性高血圧と呼ばれます。このような例では服薬アドヒアランス、二次性高血圧の再評価、睡眠時無呼吸の評価をまず行います。服薬アドヒアランスが不良の場合は合剤を用いること、服薬の必要性を再教育すること、服薬想起の道具(ピルボックスなど)が有効といわれており、医師だけでなく薬剤師、看護師、保健婦の協力が必要となります。すでに薬剤を服用している場合、ホルモン検査は薬剤の影響を受けるので評価が難しくなります。実臨床では副腎のCTを先行させてもいいと思います。あるいは十分量の抗アルドステロン薬(スピロノラクトンで75~100mg)を投与し治療的診断を行うことも有用です。腎血管性高血圧についてはMR angiographyが有用でしょう。以上のような精査で問題がない場合、中枢性の降圧薬(レセルピン)を少量朝1回追加することが有用である例を経験しています。あるいはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬をかんきつ類と一緒に服用させる、あるいはヘルベッサーと併用しジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の血中濃度を高めることも有用でしょう。白衣性高血圧の対処方法について教えてください。イギリスのガイドラインでは診察室血圧と24時間血圧、あるいは家庭血圧を用いて高血圧の診断を行い、臓器障害がない場合は白衣性高血圧は薬物介入をせずに年に1回の経過観察をするとしています。24時間血圧を用いて病院来院時のみ高血圧でその他の日常生活の中では全くの正常血圧であり、アルブミン尿も含め臓器障害が認められず、糖尿病などのリスク因子がない場合は薬物介入は必要ないと考えます。しかし、経過観察は必要で、患者には日常生活の中で突然の来客などストレスがかかると血圧が上がっている可能性を話し、徐々に臓器障害が出てくる可能性を説明する必要があるでしょう。白衣性高血圧で患者が薬物介入を希望する場合、抗不安薬も有効です。また、臓器障害がある場合はJSH2009に則って合併する臓器障害に応じて薬物を選択します。その際、心拍数が上昇するといった副作用のない薬物をまず選択します。拡張期血圧の対処方法について教えてください。収縮期血圧が大動脈のコンプライアンスと心拍出量で規定されるのに対し、拡張期血圧は全身の末梢血管抵抗と心拍出量で規定されます。よって高齢者で大血管の硬化が明らかになると収縮期血圧が上昇し脈圧が増大します。心臓の仕事量は収縮期血圧と心拍数の積に比例するため、収縮期血圧が高くなると心筋酸素消費量が増え、心虚血と心不全のリスクが増えます。一方冠動脈は拡張期に灌流されるので、拡張期血圧を下げすぎると、冠血流が低下する危険があります。実際、大規模臨床試験をみても拡張期血圧と心血管イベントにはJカーブに近い現象が認められます。拡張期のみ高い例は若年者に多く認められますが、治療の第一歩は減塩にあります。また個人的経験ですが、10年ほど前にARBが発売された当初、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬にくらべ拡張期血圧がよく下がる印象がありましたが、統計的処理はされていません。また当時は利尿薬の使用頻度が低かったというバイアスもあります。現状では拡張期血圧のみを下げるための有効な治療法は生活習慣の改善のほかには確立されていないといえます。合剤の有用性について教えてください。いかなる服薬介入治療もその効果は服薬アドヒアランスに依存することは明白です。それゆえ、われわれは服薬アドヒアランスをよくする努力は惜しむべきではありません。アドヒアランスに関わる因子は複数ありますが、処方する立場として最も簡便にできることは服薬数を減らすことであり、その点において合剤はきわめて有効といえます。現在降圧薬に限らずぜんそく薬、糖尿病薬、高脂血症薬の合剤が日本でも使用可能ですが、海外の現状をみるとまだまだ立ち遅れています。私は実臨床の中で合剤の併用も行いARBの最大容量を合剤として処方し、3種の薬剤を2錠ですませ、患者の経済的負担も軽減するよう努力しています。

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日本人統合失調症患者の脂質プロファイルを検証!:新潟大学

 抗精神病薬服用中の統合失調症患者は脂質異常症を伴うことが多い。しかし、北米や英国の先行研究では、統合失調症患者における抗精神病薬服用による脂質異常症への影響を否定する結果も得られている。新潟大学 渡邉氏らは日本人統合失調症患者における抗精神病薬と脂質異常症との関係を検証した。Gen Hosp Psychiatry誌2012年9月号の報告。 対象は抗精神病薬治療を行っている日本人統合失調症患者157例、健常者136名。対象患者のHDL-C、LDL-C、トリグリセリド(TG)を測定した。分析には、重回帰分析を用いた。なお、両群間の年齢、男女比、BMIは一致していた。主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬による治療を行っている統合失調症患者は対照群と比較し、HDL-Cレベルが有意に低かった(p

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交代勤務で血管イベントが増加、200万人以上の国際的メタ解析

 交代勤務制の労働形態により、血管イベントが有意に増加することが、カナダ・ウェスタン大学のManav V Vyas氏らの検討で示された。交代勤務は、一般に規則的な日中勤務(おおよそ9~17時の時間帯)以外の勤務時間での雇用と定義され、高血圧、メタボリック症候群、脂質異常症、糖尿病のリスクを増大させることが知られている。さらに、概日リズムの乱れにより血管イベントを起こしやすいとの指摘があるが、相反するデータもあるという。BMJ誌2012年8月25日号(オンライン版2012年7月26日号)掲載の報告。交代勤務と血管イベントの関連をメタ解析で評価研究グループは、交代勤務と主要な血管イベントの関連を文献的に検討するために、系統的なレビューとメタ解析を行った。主な文献データベースを検索し、主要論文、レビュー論文、ガイドラインの文献リストに当たった。解析の対象は、非交代勤務者または一般住民を対照群とし、交代勤務に関連する血管疾患、血管死、全死因死亡のリスク比について検討している観察試験とした。試験の質はDowns and Blackスケールで評価し、主要評価項目は心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈イベントとした。試験の異質性はI2統計量で評価し、メタ解析にはランダム効果モデルを用いた。心筋梗塞23%、虚血性脳卒中5%、冠動脈イベント24%増加、死亡率との関連はない日本の4試験を含む34試験(前向きコホート試験11件、後ろ向きコホート試験13件、症例対照試験10件)に参加した201万1,935人が解析の対象となった。交代時間は早期夜間が4件、不規則で不特定な時間が6件、混合勤務時間が11件、夜間が9件、ローテーション制が10件で、7件は複数のカテゴリーを比較していた。30件は非交代の日中勤務を、4件は一般住民を対照群としていた。心筋梗塞の発生数は6,598件(10試験)、虚血性脳卒中は1,854件(2試験)、冠動脈イベントは1万7,359件(28試験)だった。交代勤務は心筋梗塞[リスク比:1.23、95%信頼区間(CI):1.15~1.31、I2=0%]および虚血性脳卒中(同:1.05、1.01~1.09、I2=0%)と有意な関連があり、試験間に有意な異質性(I2=85%)を認めたものの冠動脈イベント(同:1.24、1.10~1.39)も有意な関連を示した。統合リスク比は、未調整解析およびリスク因子で調整後の解析の双方で有意差を認めた。早期夜間の交代勤務以外の勤務形態はいずれも冠動脈イベントのリスクが有意に高かった。死亡率の上昇と交代勤務には関連はなかった。成人勤労者の有病者の32.8%を交代勤務者が占めるカナダのデータに基づき、交代勤務の人口寄与リスクを算出したところ、心筋梗塞が7.0%、虚血性脳卒中が1.6%、冠動脈イベントは7.3%であった。著者は、「交代勤務は血管イベントを増加させる。これらの知見は社会政策や職業医学に示唆を与えるものだ」と結論し、「交代勤務者には心血管疾患の予防のために最初期の症状に関する教育が行われるべきである。今後、最も罹病しやすいサブグループを同定し、交代時間の改善戦略が全般的な血管の健康に及ぼす効果を検討する研究が求められる」と指摘する。

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食後高血圧:見過ごしがちな動脈硬化のリスクマーカー

 愛媛大学大学院医学研究科加齢制御内科学の上谷英里氏らは、動脈硬化の新たなリスクマーカーとして食後高血圧をAtherosclerosis誌に発表した。この研究成果は7月20日出版に先駆けてインターネットで公開された。 食後高血糖や食後高脂血症が動脈硬化、心血管イベントのリスクファクターであることが従来より知られており、実臨床においてはそれらに特化した治療も行われている。しかし、高血圧に関しては、夜間高血圧や早朝高血圧は目を向けられてきたものの、食後高血圧はこれまで見過ごされていた。上谷氏らは、健康な中高齢者(平均年齢=66±9歳)を対象に、食事前後の血圧と動脈硬化の相関を調査した。血圧は食直前および食後30分の2回を同日に測定し、動脈硬化は上腕-足首脈波伝播速度および頚動脈内膜中肥厚にて評価した。主な結果は下記のとおり。1.〔食直前の平均収縮期血圧〕127±18mmHg 〔食後30分の平均収縮期血圧〕123±18mmHg2. 20mmHg以上の血圧低下が認められた割合は8.4%(n=112)   10mmHg以上の血圧上昇が認められた割合は9.6%(n=129)3. 動脈硬化は食後血圧上昇群、食後血圧低下群のいずれにおいても高率で認められた4. 収縮期血圧の変化度は、食前の収縮期血圧値と強く相関していた(r=0.335,P

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大学病院勤務医に聞く!「時間治療」(クロノテラピー)、取り入れてますか?

臓器や組織の時刻依存的な機能性に着目し、治療効果を高め副作用を小さく留めるように一日の中の"時刻"を意識して行なう治療法が、「時間治療」(クロノテラピー)として注目されています。今回は大学病院勤務の先生方に対し、がん治療のほか糖尿病・高血圧など生活習慣病においても効果・活用方法が研究されつつあるこの考え方について、認知度や活用実態を尋ねてみました。結果概要はこちらコメントはこちら設問詳細「時間治療」(クロノテラピー)についてお尋ねします。あらゆる臓器や組織の機能性が、「サーカディアンリズム」と呼ばれる周期で時刻依存的に毎日の調節を受けているとされ、こうしたメカニズムから「どの時間帯にどのような疾患リスクが高まるか」といったことが徐々にわかってきています。こうした考えから、病気の治療に"時間のものさし"の視点を導入し、「治療効果を高め、副作用を小さく留めるように一日の中の"時刻"を意識して行なう治療法」が、「時間治療」(クロノテラピー)として注目されています。副作用の起きない範囲で大量に抗がん剤を投与するのが基本とされるがん治療に加え、腎臓疾患、その他糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病においても、時間治療の効果および活用方法が研究されています。そこで先生にお尋ねします。Q1. 「時間治療」(クロノテラピー)をご存知でしたか?知っている知らなかったQ2. (「知っている」とお答えになった先生のみ)「時間治療」(クロノテラピー)の考え方を治療に取り入れていますか。取り入れている今後取り入れたいと考えている取り入れていない自分の専門分野では対象外だと思うその他(       )Q3. コメントをお願いします(どのように取り入れているか、今後知りたいこと、患者からの要望などどういったことでも結構です)アンケート結果Q1. 「時間治療」(クロノテラピー)をご存知でしたか?Q2. (「知っている」とお答えになった先生のみ)「時間治療」(クロノテラピー)の考え方を治療に取り入れていますか。2012年7月20日(金)~26日(木)実施有効回答数:674件調査対象:CareNet.com医師会員のうち大学病院および関連施設の勤務医結果概要大学病院勤務医の3人に1人が"時間治療"を知っている全体の34.0%が時間治療(クロノテラピー)について「知っている」と回答。「知らなかった」と回答した医師からも、「エビデンスや具体例などを詳しく知りたい」といった声が多数寄せられた。20人に1人が「既に取り入れている」、10人に1人が「今後取り入れたい」と回答知っている医師のうち、時間治療の考え方を治療に取り入れているとした回答者は16.6%(全体の5.6%)。抗がん剤治療のほか、降圧剤の服用時間を夜間にするといったコメントが寄せられた。取り入れていない医師からも「今後の研究結果次第では積極的に取り入れたい」とした声が多く見られた。「自分の専門分野では対象外だと思う」と回答した医師は9.6%。また「抗がん剤使用は夜間の方が有効だが、点滴の煩雑さから夜勤看護師の協力は得難いと思われる」といった、実施する上での環境面の制約を挙げた声も見られた。CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「抗癌剤治療のときに取り入れています。」(40代,内科)「プラセボ効果が大きいと思う。 」(50代,眼科)「どの時間帯に薬を投与した方が良いという考え方は新しいと思う」(30代,外科)「うつに対する光療法として取り入れている」(30代,精神・神経科)「ABPMや家庭血圧による血圧日内変動の評価を行った上で適応のある患者には降圧薬の一部の就眠前投与を行っている.」(40代,内科)「全く初めて聞きました。ベーシックなことから教えていただきたいです。」(50代,血液内科)「コンプライアンスの高い患者なら、時間治療の考え方は効果があるかも知れませんね。 ちなみに、ショートパルスみたいな使い方でステロイドを使うことが多いのですが、夜に飲むと不眠などの症状が問題になりやすいので、朝に飲んでもらっています。これ、時間治療ですね。」(40代,耳鼻咽喉科)「抗ガン剤治療などに取り入れてみたい」(60代,泌尿器科)「時間治療の効果が発揮できるように降圧剤を就寝前に投与する」(50代,循環器科)「発熱の副作用の多いサイトカイン療法は夜間に行う。」(40代,泌尿器科)「夜間の抗がん剤投与は病棟スタッフのサポート体制を考えると現実的ではない。従来通りの昼間の抗がん剤投与を行っている。」(30代,血液内科)「もっと一般的になれば実施したい。」(40代,小児科)「抗がん剤治療で有効性を高めるのと副作用を抑える効果が期待できる。具体例を教えてほしい」(40代,外科)「概日リズムも大切だが、それ以上に臨床上重要な部分が他にあると思う。」(40代,循環器科)「ACE阻害薬による乾咳を防ぐために、ACE阻害薬を夕方に投与している。」(60代,循環器科)「現時点で使わなくても良い状況にある。 対象となる患者の選択方法などがあると良い。」(50代,精神・神経科)「脳出血の発症がどうしても朝方に多いことと、降圧薬の内服が朝だとたとえ持続性であるとはいえ効果が切れてくるのが朝方になるのが重なってしまうため、持続型の降圧薬を基本的に夜に内服するように処方している。」(30代,脳神経外科)「医者のように不規則な生活リズムで生活していたら恩恵に預かれないのでしょうか」(30代,外科)「精神科では、よく話をきく。」(30代,アレルギー科)「現在の所は未解明な部分が多いが、解明が進むにつれて少しずつ取り入れたい。 ただ、時間治療について知るにつれ、自分の不摂生を大きく恥じるかもしれないのが辛い。」(20代,総合診療科)「降圧薬、スタチン、甲状腺ホルモン剤等の夕食後投与。ステロイド薬の午前中投与などで取り入れている。」(50代,代謝・内分泌科)「内分泌疾患では関連あると思っていましたが、がん治療で関係があるとは思いませんでした。」(40代,小児科)「興味はあり、今後の研究結果次第では積極的に活用してゆきたいと考えている。」(30代,小児科)「 高血圧などでは時間帯による変動の激しい人がいるので勉強したい。 」(50代,血液内科)「そもそも糖尿病や高血圧などの昔からの処方タイミング自体が時間治療にあたると思う」(30代,代謝・内分泌科)「サーカディアンリズムはともかく、これが治療に応用できるということは全く知らなかった」(40代,救急医療科)「もっと直感的に分かる名称がいいと思います。」(40代,脳神経外科)「心筋梗塞や脳梗塞の発症は、朝方に多いので、モーニングサージや朝方の交感神経の高まりを抑制するように、夕方に処方を変更したりなど行っています。」(40代,循環器科)「抗がん剤使用では夜間の方が有効だが、点滴の煩雑さから、夜勤の看護師の協力は得難いと思いわれる。」(40代,呼吸器科)「がん治療に実際どのように取り入れられているか知りたい」(30代,外科)「サーカディアンリズムに個人差がないのか、それによる治療効果の差がないのかが気になる」(30代,内科)「ある程度考慮しています。ただしケースバイケースです。」(40代,膠原病科)「クロノテラピーについて、根拠のある否定的な意見と肯定的・推進的意見を両方とも知りたい。」(30代,神経内科)「クリニカルパスと連動してできたら良いと思う。」(30代,血液内科)「現時点では効果は部分的なものだと思う.マスコミなどで画期的な方法のように取り上げられているのは違和感を感じる.」(50代,膠原病科)「時間により治療を行う方針は間違ってないと思うが、現在のようなエビデンスベースの医療ではそのエビデンスを示すことは難しいと考えます。」(40代,リウマチ科)「夜間に抗癌剤投与を行うほうがいいとする意見があったが、夜間投与中に副反応などが生じた時のリスク対処を考えるとベネフィットは少ないと思う」(30代,呼吸器科)「夕方・夜間の抗がん剤投与は、マンパワー不足で、現実的に無理」(30代,血液内科)「生体における個体差をどのように克服できるのかが不安でもあります。」(50代,外科)「もっと学術的な後押し、証明がなされたら取り入れる。テレビの影響で患者からの要望は多いが、より科学的なデータを望む。」(30代,消化器科)「患者からの要望はあるが、今後も取り入れる予定はない。」(40代,泌尿器科)「時間栄養学が提唱されており、夜間に食事をすると肥満しやすいことの理論的根拠が確立されてきた。 時計遺伝子が食事をはじめ体のリズムを調整している。スタチン製剤を夕方に処方するのも脂肪合成の日内リズムに基づいている」(60代,代謝・内分泌科)「サーカディアンリズムに従えば,有り得る治療と思う.」(40代,皮膚科)「睡眠覚醒リズムの補正が感情・情緒の改善に不可欠であると教育している。」(40代,精神・神経科)「H2 blockerは1回のときは夜に使用している。」(40代,外科)「神経疾患にも取り入れられているのか知りたい。特にステロイド大量療法(パルス療法)でも導入されているのか?」(40代,神経内科)「人間の体は不思議なもので、いつの間にか勝手に治るというのが、これで実証されていくのかと勝手に想像します。すべて知りたいです。」(30代,循環器科)

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学会総会まるわかり! 第44回 日本動脈硬化学会総会レビュー ガイドライン作成委員が語る今年の総会

執筆:塚本和久先生(福島県立医科大学 会津医療センター準備室 糖尿病・代謝・腎臓内科 教授)7月19日と20日の二日間、「動脈硬化性疾患の包括医療 ―ガイドライン2012―」をメインテーマとして、佐々木淳会長(国際医療福祉大学)のもと、第44回日本動脈硬化学会総会・学術集会が福岡にて開催された。本学会でも、近年他学会でも採用され始めたiPhone・iPad・スマートフォンでのプログラムの検索や予定表の作成が可能な専用のアプリが採用され、さらには抄録集もPDF化されたことにより、従来の重たい抄録集を持ち歩く必要がなくなったのも目新しい試みであった。両日を通じて総数1200名弱の参加があった。1. 新ガイドライン関連セッション今回の学会は、本年6月20日に発表された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版」をめぐるセッションがいくつか設けられた。初日午前には、各脂質測定に関する精度に関するワークショップが企画された。日常臨床で、各々の測定値がどのように標準化されているのか、その測定精度がどの程度のものであるのか、を考えることがないのが、ほとんどの臨床家の現状であろう。このセッションにおいて、総コレステロールはその精度管理が優れておりばらつきはほとんどないこと、現在のHDL-C測定法も精度の高い測定法であること、それに対して中性脂肪測定は標準化が十分でなく今後強力な標準化の努力が必要であること、また欧米での中性脂肪測定法と日本のそれとは遊離グリセロールを含めて測定するかどうかの相違が存在しており、値として同等のものと考えることはできないこと、などの解説が行われた。またLDL-C直接法に関しては、現在12メーカー(試薬は8試薬)がキットを出しているが、その測定法の詳細は示されておらず、同じ検体を測定してもキットにより値が異なることがしばしばあり、特に中性脂肪値の高い検体ではBQ法(比重1.006g/mL以上の画分を除いた検体でコレステロールを測定する方法)での測定値よりもかなり高値となるキットがあることが指摘された。それゆえ、今回のガイドラインでは、中性脂肪値が400 mg/dL以上の場合にはnon HDL-Cを指標とすること、中性脂肪値高値例ではLDL-C目標値達成後にnon HDL-C値を二次目標として用いること、が推奨されることとなったとの解説があった。non HDL-Cに関しては、近年の報告からLDL-Cよりも強い冠動脈疾患のマーカーとなる可能性が示されていること、高TG血症・低HDL-C血症ではLDL-Cにnon HDL-Cを加えて用いることによりそのリスク予測能が高まること、ただしnon HDLを指標とした大規模研究や疫学研究はないため、とりあえずLDL-C + 30 mg/dLで基準を定めてはいるものの、今後その閾値の設定が必要になってくることが提言された。二日目の午後には、今回のガイドライン作成の中心的存在として活躍された先生方による、「改訂動脈硬化性疾患予防ガイドライン」のセッションが開かれた。寺本民生先生(帝京大学)からは新ガイドラインの概要と二次予防・高リスク病態における層別化について、枇榔貞利先生(Tsukasa Health Care Hospital)からは脂質異常症の診断基準の元となった日本人でのデータと境界域を設定した根拠、そしてLDL-C直接法の欠点とnon HDL-Cの導入理由が示された。また、岡村智教先生(慶應義塾大学)より、今回のガイドラインで設定された絶対リスクに基づいたカテゴリー分類の基準を設定する際に参考とされた諸外国でのガイドラインの解説と最終的なカテゴリー分類基準の解説が行われ、最後に横出正之先生(京都大学)からは今回の学会のメインテーマである「動脈硬化性疾患の包括的管理」について、詳細な説明がなされた。2. 今回の学会でのセッションの傾向最近の動脈硬化学会の演題内容は、どちらかというと細胞内シグナル伝達やサイトカインのセッションが多い印象があったが、今回はどちらかというとリポ蛋白関連・脂質代謝異常、という概念でのセッションが多かった印象がある。二日目の午前には、「脂質異常症と遺伝子の変異」というセッションで、CETP欠損症、家族性高コレステロール血症、アポEについての講演とともに、今後の脂質異常症の発展につながるであろう「遺伝子変異の網羅的解析とTG異常」、「脂質異常症遺伝子変異データベースの構築」の演題が発表された。また、HDLについては、HDL研究に造詣の深い M John Chapman博士の特別講演が一日目に組まれ、二日目の午後には「How do we deal HDL?」との表題でのワークシップが行われた。そして、一日目の午後には、3年前の学会から継続して開催されている「動脈硬化性疾患の臨床と病理」のセッションが催された。ハーバード大学の相川先生から、近年の動脈硬化イメージングの進歩状況として、FDG PET/CT イメージング、MRI T2シグナルを用いての動脈硬化巣マクロファージのイメージング、特殊な薬物(NIRF OFDI)を用いての分子イメージングについての解説があった。座長の坂田則行先生(福岡大学)からは、現在の画像診断技術の進歩はめざましいが、どうしても臨床医は画像診断のみに頼りがちになっており、今後は画像診断での病変がどのような病理組織像を呈するのか、ということに関して、臨床家と病理家が共同して検討していく必要性が提起された。3. 特別企画、および若手奨励賞一日目の午後、特別企画として、Featured Session「時代を変えた科学者たち」が開催され、松澤佑次博士(内臓脂肪研究)、泰江弘文博士(冠攣縮性狭心症)、遠藤章博士(スタチンの発見)、荒川規矩男博士(アンジオテンシン研究)といった、日本を代表する研究者たちの講演をまとめて拝聴する機会が得られた。各博士の講演内容の詳細はスペースの関係上省略させていただくが、どの先生の話も内容が濃く感慨深いものであり、現在および将来基礎・臨床研究にいそしむ若い先生方の非常によい指南となったと考える。このような中、次世代を担う若手の先生の発表もポスター発表も含め多数行われた。中でも、一日目の午前には、若手研究者奨励賞候補者の発表、そして選考が行われた。スタチンがARH(autosomal recessive hypercholesterolemia)患者に有効に働く機序を安定同位体を用いた代謝回転モデルにて解析した論文(Dr. Tada)、急性冠症候群の血栓成分の相違がどのような臨床像、あるいは心機能回復能と相関するかを調べた臨床研究(Dr. Yuuki)、マクロファージからのコレステロール逆転送に関与するABCA1とABCG1が、ポリユビキチン化されて代謝されること、そしてプロテアゾーム阻害薬でコレステロール逆転送が活性化されることを示した論文(Dr. Ogura)、カルシウム感受性細胞内プロテアーゼであるカルパインは内皮細胞の細胞間接着に関与するVEカドヘリンの崩壊を惹起し、内皮細胞のバリア機能を低下させ、動脈硬化を促進すること、そしてカルパイン阻害薬は動脈硬化を抑制することを示した論文(Dr. Miyazaki)の発表があった。最優秀賞は、Dr. Miyazakiの演題が選出された。4. 特別講演、懇親会さて、このような実りの多い学会をさらに充実させたイベントとして、一日目の夜に開催された懇親会、そして東北楽天ゴールデンイーグルス名誉監督である野村克也氏の講演が挙げられるであろう。懇親会は、いつもの学会懇親会よりも多数の参加者があった。会長および運営事務局・プログラム委員会の諸先生の趣向・ご尽力、そして開催ホテルがヤフードームの隣であったこともあり、福岡ソフトバンクホークスのチアガールによる余興なども行われ、非常に和気藹藹とした雰囲気の中で会員同士の親交が深まったと思われる。また、二日目の野村克也監督の特別講演は、「弱者の戦略」という題名で行われた。南海、ヤクルト、阪神、楽天と、長い選手人生そして監督人生にて経験し、培ってきた考え方・姿勢を拝聴できた。とても内容の濃い講演であったが、中でも、弱者がいかに強者に対応していけばよいのか、組織・あるいはグループの長である監督とはどうあるべきか、部下のものに対する対応はどのようにすべきなのか、など、我々医師の世界にも相通じる内容の話を、ユーモアを交えながら語っていただいた。様々な苦労を乗り越え、その場その場でよく考えて人生を歩まれた監督ならではの講演であったと考えている。5. まとめ来年は、及川眞一会長の下、7月18日・19日に東京・京王プラザホテルにて第45回日本動脈硬化学会が開催される予定である。今年の充実した学会を更に発展させ、基礎および臨床の動脈硬化研究の進歩がくまなく体得できる学会になることを期待する。

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統合失調症患者は“骨折”しやすいって本当?

近年、統合失調症患者では骨粗鬆症の罹患率が高いことが明らかになってきているが、著しい骨密度(BMD)の減少にいたる機序や臨床的意味はまだわかっていない。慶応義塾大学の岸本氏(Zucker Hillside Hospital留学中)らは統合失調症患者における骨粗鬆症と骨折リスク、さらに抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症の骨代謝への影響について、最近の知見をもとにレビューを行った。Curr Opin Psychiatry誌オンライン版2012年6月30日付の報告。主な結果は以下のとおり。 ・16報告中15件(15/16:93.8%)において、統合失調症患者は対照群と比較して、低BMDまたは骨粗鬆症の高い罹患率のうち、少なくともいずれかと相関していた。ただし、全体の一貫性はなかった。・高い骨折リスクは、統合失調症と関係し(2/2)、抗精神病薬投与とも関係していた(3/4)。・これらの要因として、運動不足、栄養不足、喫煙、アルコール摂取、ビタミンD不足が示唆された。・抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症とBMD低下との関係を調べた報告(9/15:60.0%)では、高プロラクチン血症の影響が少なからず認められた。・本結果は、サンプルが少なく効果の小さなものが含まれており、またプロスペクティブ研究は2報だけであった。・高プロラクチン血症や不健康な生活による影響はまだ明らかになっていないが、統合失調症患者ではBMD低下や骨折リスクとの関係が示唆されることから、予防や早期発見、早期介入が必要であると考えられる。(ケアネット 鷹野 敦夫)関連医療ニュース ・肥満や糖尿病だけじゃない!脂質異常症になりやすい統合失調症患者 ・せん妄対策に「光療法」が有効! ・厚労省も新制度義務化:精神疾患患者の「社会復帰」へ

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脂質異常症になりやすい統合失調症患者、肥満や糖尿病だけじゃない

統合失調症患者では肥満や糖尿病の罹患率が高く、とくに抗精神病薬の使用でこれらの発生率 が上昇することが問題となっている。脂質異常症もまた、統合失調症患者によくみられる合併症のひとつである。Hsu氏らは台湾の統合失調症患者における脂質異常症の罹患率・発症率を調査し、Gen Hosp Psychiatry誌2012年7月号(オンライン版2012年3月27日号)で報告した。2005年、18歳以上の766,427人の被験者を無作為抽出し、統合失調症の診断を受けた患者、脂質異常症を有する患者または薬物治療を行っている患者 を特定したうえで、統合失調症患者の脂質異常症の罹患率および発症率を一般集団と比較検討した。主な結果は以下のとおり。 ・統合失調症患者における脂質異常症の罹患率は一般集団より高かった(8.15% vs 8.10%、オッズ比:1.17、95%信頼区間:1.04~1.31)。・リスクファクターは、50歳以上、高保険料支払者、台湾北部または中部・都市部の生活者であり、青年期で非常に高い脂質異常症の罹患率であった。・2006年~2008年に第二世代抗精神病薬を使用していた統合失調症患者の脂質異常症平均年間発症率は、一般集団より高かった(1.57% vs 1.29%、オッズ比:1.31、95%信頼区間:1.11~1.55)。(ケアネット 鷹野 敦夫) 関連医療ニュース ・ケアネット 7月の特集「動脈硬化」 ・アルツハイマーの予防にスタチン!? ・精神疾患患者におけるメタボリックシンドローム発症要因は?

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新たな冠動脈疾患の予測モデル、有病率が低い集団でも優れた予測能

オランダ・エラスムス大学医療センターのTessa S S Genders氏らが新たに開発した冠動脈疾患の予測モデルは、有病率が低い集団においても優れた予測能を示すことが、同氏らが実施した検証試験で確認された。検査前確率は、患者にとって最も有益な検査法を決めるのに有用とされる。ACC/AHAやESCの現行ガイドラインでは、安定胸痛がみられる患者における冠動脈疾患の検査前確率の評価には、Diamond and ForresterモデルやDuke臨床スコアが推奨されているが、いずれの方法にもいくつか欠点があるという。BMJ誌2012年6月23日号(オンライン版2012年6月12日号)掲載の報告。新規予測モデルの予測能を後ろ向き統合解析で検証研究グループは、有病率の低い集団における冠動脈疾患の検査前確率の評価に有用な予測モデルを開発するために、個々の患者データのレトロスペクティブな統合解析を行った。ヨーロッパおよび米国の18施設から、冠動脈疾患の既往歴のない安定胸痛患者が登録された。CTあるいはカテーテルベースの冠動脈造影所見に基づき、低有病率または高有病率の集団に分類した。主要評価項目は閉塞性冠動脈疾患(カテーテル冠動脈造影で1つ以上の血管に≧50%の狭窄)とした。予測モデルは、基本モデル(年齢、性別、症状、有病率の高低)、臨床モデル(基本モデルの因子、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙)および拡張モデル(臨床モデルの因子、CT冠動脈造影によるカルシウムスコア)で構成された。低有病率の集団のデータセットを用いて、交差検証法(cross validation)による解析を行い、識別能(C統計量)、キャリブレーション、純再分類改善度(net reclassification improvement; NRI)ついて評価した。冠動脈カルシウムスコアを加えると予測能がさらに改善解析の対象となった5,677例(男性3,283例[平均年齢58歳]、女性2,394例[同:60歳])のうち、5,190例(91%)でCT冠動脈造影が施行され、1,634例(31%)が閉塞性冠動脈疾患と診断された。このうち1,083例(66%)にカテーテル冠動脈造影が施行され、886例(82%)に閉塞性冠動脈疾患が確認された。CT冠動脈造影で閉塞性冠動脈疾患がみられなかった3,556例のうち、526例にカテーテル冠動脈造影が施行され、閉塞性冠動脈疾患が否定されたのは498例(95%)だった。全体として、カテーテル冠動脈血管造影が施行されたのは2,062例(36%)で、そのうち閉塞性冠動脈疾患と診断されたのは1,176例(57%)であった。単変量および多変量解析では、すべての予測因子が疾患の発現と有意に関連した。臨床モデルの予測能は、基本モデルに比べ優れていた(交差検証されたc統計量が0.77から0.79に改善、NRI:35%)。拡張モデルの冠動脈カルシウムスコアは主要な予測因子であった(同:0.79から0.88に改善、102%)。著者は、「年齢、性別、症状、心血管リスクなどから成る新たな予測モデルにより、有病率が低い集団における冠動脈疾患の検査前確率の正確な予測が可能となった。この予測モデルに冠動脈カルシウムスコアを加えると、予測能がさらに改善された」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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もっと知ってほしい、乾癬患者 心の苦しみと全身炎症による合併疾患のリスク 臨床医と患者が語る、乾癬の研究と治療の最新動向

 6月25日、アボット・ジャパン株式会社、エーザイ株式会社の主催でプレスセミナー「もっと知ってほしい、乾癬患者 心の苦しみと全身炎症による合併疾患のリスク」が開催された。聖母病院皮膚科 小林里実氏を講師に、乾癬患者さんをゲストに迎え、乾癬がおかれている現状と、乾癬に罹患した患者さんがどのような症状で苦しんでいるのかを紹介した。乾癬の現状 乾癬では、炎症による表皮細胞の増殖を伴う疾患である。炎症と増殖があるという点で、皮膚炎の中でも湿疹とは異なる。表皮細胞は増殖分化する細胞であり、表皮は常に新生を繰り返すこと(turn over)で外傷や炎症に対処している。乾癬では、炎症により通常は有棘層28日+角層14日のturn overサイクルが4~7日+2日にまで亢進しているため、表皮が厚くなるとともに角層が鱗屑としてどんどん落ちていく。 また、これらの炎症は皮膚表面で起こっているため、見た目にも非常に目立ち、感染症や特殊な皮膚病などと誤解されることが多い。 乾癬の皮膚症状は、境界明瞭な紅斑、銀白色雲母様の鱗屑、盛り上がって触れる浸潤が特徴的である。初発部位は頭部、次いで肘膝などが多いが、全身どこにでも出現する。尋常性乾癬が90%近くを占めるが、そのほかにも関節症性乾癬、滴状乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬がある。 膿疱性乾癬のうち、急性型は重症で治療に難渋する例が少なくない。また、乾癬性紅皮症は、正常な皮膚がほとんどない、紅皮症を呈する病型である。そして、関節症性乾癬は、非リウマチ性関節炎一つで、の不十分な治療により関節破壊や屈曲変形をきたす。しかしながら、症状に消長があるため、軽症と判断されたり、仙腸関節炎や脊椎炎も腰痛症などとして見逃されることも少なくない。 乾癬の罹患率は欧米で2%。本邦では0.1~0.2%とされているが、生活の欧米化により日本人での発症は増えている。発症年齢は、20歳と40~50歳代の二峰性といわれているが、実際には10代での発症も稀ではない。治療をあきらめて受診しない例のほか、きちんと診断されていない例、脂漏性湿疹などと誤診される例もあり、実際は乾癬として登録されるデータ以上の患者さんがいると予想される。 このような症状を示す乾癬では患者さんのQOLは著しく低い。鱗屑は軽く触れるだけで大量に落ちる。そのために温泉やプールに行けない。皮膚症状が手足にでるため、スカートがはけない、半袖のシャツが着られないなど日常生活での支障は多い。また、このような状態におかれた患者さんは人に見られることが大きな精神的ストレスとなる。ひどい場合は引きこもりとなったり、精神的に支障を来す例も少なくない。生物学的製剤が、より高い治療レベルを達成 乾癬の治療は、外用療法、光線療法、免疫抑制剤など進歩してきたが、近年の生物学的製剤の登場で治療は格段に向上した。これにより、重症の患者さんでも皮疹のない状態を保持する事が可能となってきたのである。PASI(Psoriasis Area Sensitivity Index)90、つまり皮疹の90%改善を達成すると、QOLは著明に改善する事が明らかになった。従来の治療では、皮疹が減り医療者が「良くなった」と思っても、患者さんにとっては満足できる状態ではなく、認識の乖離がみられることも少なくなかった。生物学的製剤によりPASI90を目指すことができるようになり、患者さんのQOLもDLQI 0~1と、日常生活にほとんど支障のない状態を実現することが可能となった。また、生物学的製剤の適応となる関節症性乾癬では、有効な治療を得たことにより医療者側の治療意欲の向上、知識の普及にもつながるなど、生物学的製剤は、乾癬治療を格段に進歩させた。乾癬の病態解明とメタボリックシンドローム 近年、乾癬はメカニズムが解明されて、Th17リンパ球、またその活性経路に関わるTNFα、IL12、IL23などのサイトカインが重要であることがわかってきた。そして、これらのサイトカインをブロックするターゲット療法として、生物学的製剤の登場へとつながった。 さらに、ここ1~2年で新たな知見が加わっている。乾癬に高血圧、脂質異常症、高血糖、高尿酸血症などの合併が多いことは以前から知られていたが、これらの疾患にもTNFαが強く関連することがわかったのである。その結果、乾癬によるTNFαの増加が、イ ンスリン抵抗性、動脈硬化、虚血性疾患のリスクを上昇させるという乾癬マーチの概念まで出てきている。 乾癬の治療目的とゴールは、皮疹の改善からQOLの改善へと変化している。そして、生物学的製剤の出現により、関節症性乾癬も有効に治療できるようになった。さらに、今後はメタボリックシンドロームと心血管イベントの低減までも視野に入れた治療へと変わっていく可能性がある。社会にもっと知ってほしい セミナーでは、3名の患者さんもゲストとして発言をした。そのなかで、患者B氏の事例を紹介する。 B氏は長年、関節症状で悩まされてきた患者さんである。初期は、ふけが出始めることから始まった。その後、背中のこわばり、足先の痛み、そして2ヵ月後に足親ゆびが曲がり始める。皮膚科医を受診し、乾癬と診断されるが、その際に不治の病であるといわれた。そのショックから、診療所、病院、鍼灸など数えきれないほどの医療機関を受診する。その経過の中で、免疫抑制剤で副作用が現れるなど多くの苦痛を経験した。 少し関節症状がよくなると皮膚症状が悪化し始めた。強いステロイド外用薬を大量に使い、ついには全身が赤くなり、やけどのように、少し触っただけで皮膚がむけてしまうようにもなった。服を脱ぐと砂糖を撒いたように皮膚が落ちたそうだ。 このような状態から、勤務先を解雇になり生活保護を余儀なくされる。精神的にも支障をきたし、うつ病と診断される。自暴自棄となりギャンブル依存症、ついに自殺寸前まで精神的に追い込まれたという。 しかしながら、昨年からの生物学的製剤治療が奏効し、現在は誰もBさんを見て病気だという人はいない。だが、関節症性乾癬の症状である脊椎炎が続いて定職につけず、ボランティア活動をしているという。Bさんは長年の経験を話し、「22年間病気を理解してくれる日がくる事を望んでいた。社会にもっと知って欲しい、メディアももっと取り上げてほしい」と訴えた。 最後に小林氏は、「医師は患者から得た乾癬の情報を研究し、新たな治療法の開発に努めている。患者さんや患者会は、患者間の情報共有、医師への疑問・要望の提供など素晴らしい活動をしている。しかし、それだけでは不十分であり、社会の理解とサポートが必要だ。メディアの今後の啓発活動に大いに期待したい」と語った。(ケアネット 細田 雅之)

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新たな脂質マーカーによる心血管疾患リスクの予測能改善はわずか

心血管疾患発症の予測因子として、総コレステロール、HDLコレステロール、年齢や性別、喫煙の有無など従来リスク因子に、アポリポ蛋白B/A-Iといった脂質マーカーの情報を加味しても、同発症リスクの予測能はごくわずかな改善であったことが示された。英国・ケンブリッジ大学のJohn Danesh氏らが、約17万人を対象にした試験で明らかにしたもので、JAMA誌2012年6月20日号で発表した。初回心血管疾患イベント発生予測に、様々な脂質マーカーの測定がどれほど役立つかという点については議論が分かれていた。中央値10年追跡、その間の心血管疾患イベントは約1万5,000件研究グループは、1968~2007年に行われた37の前向きコホート試験のデータを用い、試験開始時点で心血管疾患のない16万5,544人について、従来のリスク因子に脂質マーカーを加えることによる、心血管疾患リスク予測の改善について分析した。追跡期間の中央値は10.4年(四分位範囲:7.6~14)、その間に発生した心血管疾患イベントは1万5,126件(冠動脈性心疾患1万132件、脳卒中4,994件)だった。主要アウトカムは、心血管疾患イベント発生の判定と、10年発生リスクについて低リスク群(10%未満)、中間リスク群(10~20%)、高リスク群(20%以上)の3群への再分類改善率だった。新たな脂質マーカー追加、ネット再分類改善率は1%未満結果、新たな各脂質マーカーの追加による判別モデルの改善はわずかで、アポリポ蛋白B/A-Iの追加によるC統計量の変化は0.0006(95%信頼区間:0.0002~0.0009)、リポ蛋白(a)は0.0016(同:0.0009~0.0023)、リポ蛋白関連ホスホリパーゼA2は0.0018(同:0.0010~0.0026)だった。新たな各脂質マーカーの追加による、心血管疾患発生リスクのネット再分類改善率についても、いずれも1%未満に留まった。従来リスク因子のみで分類した結果、40歳以上成人10万につき1万5,436人が、10%未満および10~20%のリスク階層群に分類されると推定された。そのうち、米国高脂血症治療ガイドライン(Adult Treatment Panel III)に基づきスタチン治療が推奨される人を除外して残った1万3,622人について、アポリポ蛋白B/A-Iの検査値を加えた場合に20%以上の高リスク群へと再分類された割合は1.1%だった。リポ蛋白(a)を加えた場合は4.1%、リポ蛋白関連ホスホリパーゼA2を加えた場合は2.7%だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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エキスパートへのQ&A ~エキスパートDrに聞く~

慢性腎臓病(CKD)の概念が提唱され、10年が経ちました。この間、本疾患に対する注目度や臨床医の治療経験が飛躍的に向上し、今では、コモン・ディジーズの一つとなりました。このCKD診療の浸透に大きな役割を果たした『CKD診療ガイド』が、2012年6月に改訂されました。ケアネットでは、『CKD診療ガイド』改訂を機に、CKD診療に関する質問を会員の医師より募集しました。この質問に、常喜信彦先生(東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科 准教授)が回答します。常喜信彦先生東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科 准教授CKD患者を専門医に紹介するにしても、腎臓専門医の人数は少なく、それほど多くの患者を診療することは難しいかと思います。どのような患者であれば、専門医に紹介すべきでしょうか?とくに軽症の患者さんを専門医に送るときの判断について教えてください。たとえ蛋白尿が認められていても、またeGFRが45 mL/分/1.73m2と低下していたとしても、極論を言えばそれ以上悪くならなければ、臨床上まったく問題はないわけですが、進行性のCKDが疑われるならば、専門医への紹介が望まれます。進行性を疑う最も強力なマーカーは蛋白尿の量になります。1日換算量で0.5 g以上認められ、かつその量が半年から1年の経過で増加傾向を示す時には積極的に専門医に紹介すべきです。eGFRについても進行性に低下する場合は同様です。尿蛋白の測定は、どのようにしていますか? 自費で行う場合もありますか? 対象となる患者を教えてください。最も一般的な方法は、随時尿の蛋白尿量を尿中Cr値で割った1日換算量を求める方法です。この方法で算出された1日換算量は、24時間畜尿により求められた蛋白尿と非常によく相関することがわかっています。高血圧、糖尿病、高脂血症といったいわゆる古典的な動脈硬化危険因子で診療中の患者、メタボリックシンドロームの患者には積極的に尿蛋白の測定を行うことを推奨します。蛋白尿をきたす原因として、若年では慢性糸球体腎炎も頻度が高くなります。微量アルブミン尿は保険診療の上では、糖尿病性腎症が疑われる時に適応となります。日常診療の中で、それ以外の疾患にまで微量アルブミン尿を計測拡大させる必要はないと思います。それよりも、まず通常の尿蛋白1日換算量を忘れずに確実に測ることが推奨されます。病状評価にあたり、初診時に何を行いますか? 定期検査の頻度についても教えてください。慢性腎臓病の診断、重症度の評価をするときに必須の検査は、1日換算量の蛋白尿ないしアルブミン尿とeGFR値になります。この2つの検査は必須とお考えください。加えて、腎の形態的異常の把握のために腎臓超音波を行えば、慢性腎臓病の病状評価としては必要な検査はそろいます。今回renewalされたCKD診療ガイドでは、尿蛋白1日換算量とeGFR値から、腎臓専門医への受診間隔の目安が示されています。ご参考いただければと思います。腎臓専門医への受診間隔(月)画像を拡大する血圧やコレステロールもそれほど高くない患者の場合、尿所見とeGFRのみで患者さんの受診を持続させられるものでしょうか? 患者さんの受診モチベーションをあげる方法などありますか?CKD診療ガイドに示されている、慢性腎臓病の重症度評価の色別表を使用されてはいかがでしょうか。将来、末期腎臓病に至るリスクや心血管イベントを起こすリスクが色別に表記されており、患者さんにお見せしても非常にわかりやすい表かと思います。今回、同時に、その表をもとにした、診療間隔目安表も公開されました。ご参考いただければと思います。CKDの重症度分類画像を拡大するLDL-Cと中性脂肪の両方が高いCKD患者さんには、フィブラートとスタチンのいずれを用いればよいでしょうか?まだ、答えの出ていない分野かもしれません。まずフィブラート系の治療薬はeGFR30 mL/分/1.73m2未満では使用できませんので、CKDステージ3までの患者でどう考えるべきか、ということになります。CKD患者における脂質代謝異常の治療に関する証拠はかなり限られたものになり、不十分と言わざるを得ません。しかしながらLDL-CとTGを比較したとき、どちらのパラメーターに関する治療成績が多いかと言えばLDL-Cになるかと思われます。選択するとなれば、LDL-C低下作用に秀でたスタチンになるかと思います。参考までに、スタチンとフィブラートの併用は横紋筋融解症の危険が高まるため、原則禁忌とされています。必然的にCKD患者の高TG血症へはニコチン酸系薬剤を使用することが多くなります。高尿酸血症の管理について、管理する患者や介入開始尿酸値、管理目標値などについて教えてください。高尿酸血症がCKDの発症、進行に深くかかわる因子であることが明らかとなってきました。わが国の報告で、住民健診で尿酸値について男性7.0mg/dL以上、女性6.0mg/dL以上を高尿酸血症と定義したとき、高値群で末期腎臓病への移行リスクが高くなることが報告されています。男性7.0mg/dL未満、女性6.0mg/dL未満を管理目標値と考えてよいでしょう。管理の第一段階は、過食、高プリン・高脂肪・高たんぱく質食の嗜好、常習飲酒、運動不足などを是正する生活習慣の改善です。一方、CKD ステージ 4~5 において生活習慣改善にもかかわらず血清尿酸値が9.0mg/dL 超える無症候性高尿酸血症では、証拠はないものの薬物治療が考慮される場合が多いです。結局は血圧、血糖、脂質を良好にコントロールすることがCKD進行の予防になると考えます。血清クレアチニン正常の患者さんをあえて混んでいる大病院腎臓内科に紹介するメリットは何でしょうか?ひとつは潜在する腎炎の合併を除外するためです。とくに蛋白尿量が多い患者さんでは、その疑いが強くなります。たとえ腎炎であっても、血圧、血糖、脂質の管理を厳密に行うことに変わりはありませんが、腎炎を併発していれば、その腎炎に介入治療することで、腎障害の進行を抑えられる可能性もあります。また、栄養指導、食事療法を行うという意味では、基幹病院の方が有利かもしれません。eGFR60以上でも、3-6ヵ月に1回、腎臓専門医を受診することが推奨されています。

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