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スタチンガイドラインで、より多くの患者のリスクを回避できる?(解説:平山 篤志 氏)-396

 疾患やリスク因子とLDL-コレステロール値(LDL-C)からLDL-Cの治療目標値を設定し、治療する指針を示したATP IIIのガイドラインが、2013年に発表されたACC/AHAガイドラインによって大きく変えられた。 新しいガイドラインの内容は、すでに知られているようにAtherosclerotic Cardiovascular Disease(ASCVD)の2次予防、およびASCVDハイリスク患者の1次予防には、LDL-Cの値に関係なくスタチンを投与すべきであり、かつ、目標のLDL-C値は定めないという“Fire and Forget”の考えを示したものであった。心血管イベントの抑制効果が、すべてスタチンのエビデンスに基づくものであることから、スタチンがどの患者に適応するかという”スタチンガイドライン”ともいえる。 このガイドラインに沿ってスタチンを投与される患者数は、米国では4,300万例から5,600万例に増加する。では、本当にベネフィットがあるのか? このClinical Questionに答えを出すには時間がかかるが、現時点でフラミンガム研究に当てはめたとき、治療対象者をATP IIIから変更することで、どのようなベネフィットがあるかを推測した結果が発表された。ATP IIIとACC/AHA ガイドライン2013の治療対象群と非対象群を比較した場合、ACC/AHAガイドライン2013のほうで、より高率でイベントが発生していた。新しいガイドラインを用いることで、これまで治療対象でなかった患者群、とくに中程度から軽度のリスクのある患者で効果的にイベントを減少させることにつながる可能性が示された。 今後、これが臨床的に証明されれば、LDL-C低下効果に加え、Pleiotropic効果を持つスタチンの有用性が、さらに認知されることになるであろう。しかし、米国ほどイベントが多くないわが国で、このガイドラインを適応して効果があるか? わが国のガイドラインは、これまでの疫学データを基に絶対リスクの考えで治療を決定している。2次予防においては、スタチンガイドラインは必須であるが、1次予防にまで拡大するかは今後のわが国におけるエビデンスの集積の結果、判断されるべきである。また、ガイドライン後に“The Lower the better”を示すIMPROVE-ITの結果が発表されたこともあり、しばらくはわが国の動脈硬化治療ガイドラインに沿って、治療を確実に実践することが重要であろう。

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Dr. 坂根のすぐ使える患者指導画集 Part1

生活習慣病の治療の継続のためには、患者さんがその気になることが大切ですが、そのためには記憶に残る説明や指導が重要となります。本シリーズでは、坂根直樹氏(京都医療センター)が作成された糖尿病や高血圧、脂質異常症に関する患者指導を毎週1枚ずつお届けします。ユーモアのあるイラストが付いた、わかりやすい指導画をダウンロードして、ぜひ診療にご利用ください。坂根直樹氏からのメッセージ現代は健康に関する情報が氾濫しています。一方的な難しい説明だけでは、患者さんには病態や治療方針を理解できていないことが多くあります。患者さんの心に残るような「説明力」をぜひ磨きたいものです。本シリーズでは、1枚のイラストや図を用いて患者さんの視覚に訴え、伝えたいことを「見える化」しています。イラストや図は、患者さんに気づきや驚き(サプライズ)を起こさせるように色々工夫してあります。難しいことをわかりやすく、時にはユーモアを用いて、患者さんと上手に言葉のキャッチボールができるようになることで、患者さんの満足度も高まることと思います。〔説明力を鍛えるポイント〕難しいことをわかりやすくわかりやすいイラストや図を用いる言葉のキャッチボールを行う時には、ユーモアを交えるDr.坂根のすぐ使える患者指導画集 Part2 のコンテンツは一覧はこちらページTOPへページTOPへ

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第2世代アンチセンス薬、リポ蛋白(a)を選択的に抑制/Lancet

 第2世代のアンチセンス薬ISIS-APO(a)Rxは、血漿リポ蛋白(a)(Lp(a))濃度を選択的かつ用量依存性に減少させ、安全性や忍容性も良好であることが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のSotirios Tsimikas氏らの検討で示された。Lp(a)はアポリポ蛋白(a)(apo(a))がアポリポ蛋白B-100(apoB)と共有結合した分子で、心血管疾患や石灰化大動脈弁狭窄の独立のリスク因子とされる。apo(a)は肝細胞によって合成され、新たに合成されたapoBと共有結合してLp(a)を形成する。ISIS-APO(a)Rxは、肝におけるapo(a)の合成を減少させ、その結果として血漿Lp(a)濃度が低下するようデザインされている。Lancet誌オンライン版2015年7月22日号掲載の報告より。単回と複数回投与を評価する第I相試験 研究グループは、ISIS-APO(a)Rxの安全性と薬物動態、薬理学的効果を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化第I相試験を実施した(Isis Pharmaceuticals社の助成による)。対象は、年齢18~65歳、BMI<32、Lp(a)≧100mg/Lの健常成人であった。 被験者は、単回投与試験では4種の用量(50mg、100mg、200mg、400mg)またはプラセボを皮下注射する群に、複数回投与試験では3種の用量(100mg、200mg、300mg)またはプラセボを6回皮下注射(第1、3、5、8、15、22日)する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、単回投与試験が30日時、複数回投与試験は36日時の空腹時血漿Lp(a)濃度のベースラインからの変化率とした。安全性および忍容性の評価は投与終了後1週時に行い、単回投与試験は最大30日まで、複数回投与試験では12週まで継続した。 2013年2月27日~7月15日の間に47例が登録された。このうち単回投与試験は16例で、50mg群、100mg群、200mg群、400mg群にそれぞれ3例ずつが、プラセボ群には4例が割り付けられた。また、複数回投与試験は31例で、100mg群に8例、200mg群に9例、300mg群に8例が、プラセボ群には6例が割り付けられた。投与中止は2例、複数回投与で効果を確認 全体として、重篤および重度の有害事象は認めず、最も頻度の高い有害事象は軽度の注射部位反応だった。ISIS-APO(a)Rx投与群の37例のうち1例(3%、複数回投与試験の200mg群)が注射部位の有害事象で、1例(3%、同300mg群)はインフルエンザ様症候群で投与を中止したが、症状は長期化せず自然に回復した。 ISIS-APO(a)Rx投与群の10%以上に発現した他の有害事象として頭痛と疲労が認められたが、プラセボ群との間に有意な差はなかった。また、ISIS-APO(a)Rx投与群の間に、肝機能検査やその他の安全性評価にも有意な変化はみられなかった。 単回投与試験では、いずれの用量群も、ベースラインから30日時のLp(a)濃度が、プラセボ群と比較して減少しなかった。また、apoB上の酸化型リン脂質成分(OxPL-apoB)、OxPL-apo(a)、アポリポ蛋白AI(apoAI)上のOxPL(OxPL-apoAI)、プラスミノーゲン上のOxPL(OxPL-PLG)およびプラスミノーゲンにも有意な変化は認めなかった。 これに対し、複数回投与試験では、3種の用量群のいずれにおいてもベースラインから36日時の血漿Lp(a)濃度がプラセボ群よりも有意に低下した。すなわち、100mg群はプラセボ群に比べ39.6%減少し(p=0.005)、200mg群は59.0%(p=0.001)、300mg群では77.8%(p=0.001)低下した。3群とも、106日の時点(最終投与後84日)で、Lp(a)濃度がベースラインよりも低かった。 36日時のOxPL-apoBは、3種の用量群ともプラセボ群に比べ有意に減少し(100mg群:26.1%、p=0.020、200mg群:55.1%、p<0.001、300mg群:61.3%、p=0.008)、OxPL-apo(a)は2種の用量群で有意に低下した(200mg群:38.1%、p<0.020、300mg群:84.2%、p=0.001)。 著者は、「ISIS-APO(a)Rxの複数回投与は選択的かつ用量依存性に血漿Lp(a)濃度を減少させ、安全性や忍容性も良好であったことから、Lp(a)値上昇がみられる心血管疾患や石灰化大動脈弁狭窄の治療薬として開発の継続が支持される」と結論し、「本薬により、他のリポ蛋白に影響を及ぼさずにLp(a)を低下させることで治療効果がもたらされるとの仮説の検証が可能になるだろう」と指摘している。

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CVD予防のためのスタチン開始基準、費用対効果を検証/JAMA

 2013年11月、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)は、脂質異常症におけるスタチン治療の新ガイドラインを発表した。米国・ハーバード公衆衛生大学院のAnkur Pandya氏らは、心血管疾患(CVD)の1次予防における本ガイドラインの費用対効果プロフィールの検証を行った。新ガイドラインでは、LDLコレステロールの目標値を設定せず、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスク(≧7.5%)をスタチン治療導入の指標としているが、リスク判定に使用されるPooled Cohort Equationsは過大評価を引き起こす可能性があるため、実臨床で閾値の幅を広げた場合などに、不要な治療による甚大なコスト増大やスタチン誘発性糖尿病のリスク上昇の懸念があるという。JAMA誌2015年7月14日号掲載の報告。マイクロシミュレーション・モデルでQALYの増分コストを評価 研究グループは、米国人における10年ASCVDリスクの至適な閾値を確立するために、ACC/AHAガイドラインの費用対効果分析を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。ガイドラインの他の要素は、一切変更しないこととした。 仮想的な100万人の成人(40~75歳)の生涯健康アウトカムおよびCVD関連コストを予測するマイクロシミュレーション・モデルを開発した。モデルのパラメータのデータソースには、国民健康栄養調査(NHANES)、スタチンのベネフィットや治療に関する臨床試験およびメタ解析などが含まれた。 これらを用いて、ASCVDイベント(致死的/非致死的な心筋梗塞、狭心症、心停止、脳卒中)の予防効果および質調整生存年(QALY)の増分コストを算出した。費用対効果は許容範囲内、リスク閾値を広げても基準満たす ACC/AHAガイドラインの推奨閾値である10年ASCVDリスク≧7.5%では、成人の48%でスタチン治療が適切と判定され、10年ASCVDリスク≧10%と比較した1QALY当たりの増分費用対効果比(ICER)は3万7,000ドルであった。これは、一般に使用される費用対効果の閾値である5~10万ドル/QALYを下回っていた。 リスクの閾値をさらに緩めると、10年ASCVDリスク≧4.0%(成人の61%でスタチン治療が適切と判定)のICERは8万1,000ドル/QALY、≧3.0%(同67%)のICERは14万ドル/QALYであり、それぞれの費用対効果の閾値である10万ドル/QALYおよび15万ドル/QALYを満たしていた。 40~75歳の成人1億1,540万人において、10年ASCVDリスクの閾値を≧7.5%から≧3.0%へ転換すると、さらに16万1,560件のCVDイベントが回避されると推算された。また、これらの費用対効果の結果は、スタチンの毎日の服薬、価格、スタチン誘発性糖尿病のリスクに関連した効用値の損失(disutility)の変化に対し感受性を示した。 確率論的感度分析では、10年ASCVDリスクの至適な閾値が≦7.5%となる確率は、費用対効果の閾値が一般的に使用される10万ドル/QALYの場合は99%以上であり、5万ドル/QALYでは86%以上であった。また、費用対効果の閾値が10万ドル/QALYの場合に、10年ASCVDリスクの至適な閾値が≦5.0%となる確率は93%以上であった。 著者は、「ACC/AHAコレステロール治療ガイドラインで推奨されているスタチン治療導入の閾値である10年ASCVDリスク≧7.5%の費用対効果プロフィール(ICER:3万7,000ドル/QALY)は許容範囲内であったが、これを≧4.0%、≧3.0%に緩めても、費用対効果の閾値はそれぞれの基準値である10万ドル/QALYおよび15万ドル/QALYを満たし、毎日の服薬に関する患者の好みや価格の変動、糖尿病のリスクに感受性を示した」とまとめている。

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欧州委員会、新コレステロール低下薬evolocumab(PCSK9阻害剤)承認

 アムジェン社は2015年7月21日、欧州委員会(EC)が、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の低下を必要とするコレステロールコントロール不良患者の治療薬として、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤、evolocumabの販売を承認したと発表した。 ECが承認した、evolocumabの治療対象は以下。■成人の原発性高コレステロール血症(家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体[HeFH]と非家族性高コレステロール血症)または混合型脂質異常症患者に対して行う治療として、食事療法に加え: ●スタチンの最大内服可能用量を投与してもLDL-C管理目標値に到達しない患者に対し、スタチン、もしくはその他の脂質低下療法と併用 ●スタチンに対する忍容性不良、もしくはスタチンが禁忌の患者に対し、単独、もしくは他の脂質低下療法と併用■成人あるいは12歳以上の家族性高コレステロール血症ホモ接合体(HoFH)患者に対し、他の脂質低下療法と併せて行う治療 欧州ではハイリスク患者の60%以上が、スタチンをはじめ現在承認されている脂質低下薬を用いても、依然としてLDL-C値を十分に低下できていない状況である。とくに、リスクが高い患者においては、その比率は80%以上にまで上昇する。 evolocumabは、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害するヒトモノクローナル抗体。PCSK9は、LDL-Cを血中から取り除く肝臓の働きを低下させる。evolocumabは、PCSK9が肝細胞表面のLDL受容体と結合することを阻害することで効果を発揮する。10件の第III相試験のデータから、高コレステロール患者4,500人以上を含む約6,000人の原発性脂質異常症患者および混合型脂質異常症患者において、evolocumabにより一貫したLDL-C値の低下が示された。各試験では、evolocumab投与によりLDL-Cはプラセボと比較して約55~75%の有意に低下が認められている。FHホモ接合体患者では、evolocumabの投与によりプラセボと比較してLDL-Cに約15~30%の有意な低下が認められた。有害事象プロファイルは、全体的に対照群と同等であったが、evolocumab群の2%以上に発現、もしくは対照群と比較して発現頻度の高かった有害事象は、鼻咽頭炎、上気道感染症、背部痛、関節痛、インフルエンザおよび悪心であった。アムジェン社のプレスリリースはこちら。

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ACC/AHA2013のスタチン適格基準は適切か/JAMA

 ACC/AHAガイドライン2013では、脂質管理のスタチン治療対象について新たな適格基準が定められた。同基準について米国・マサチューセッツ総合病院のAmit Pursnani氏らは、コミュニティベースの1次予防コホート(フラミンガム心臓研究被験者)を対象に、既存のATP IIIガイドラインと比較して適切なスタチン使用をもたらしているかを検証した。その結果、新ガイドライン適用で、心血管疾患(CVD)や不顕性冠動脈疾患(CAD)のイベントリスク増大を、とくに中等度リスク者について、より正確かつ効果的に特定するようになったことを報告した。JAMA誌2015年7月14日号掲載の報告より。フラミンガム心臓研究の被験者2,435例を対象にATP IIIと比較検証 検討は、フラミンガム心臓研究の第2および第3世代コホートから被験者を抽出して行われた。スタチン治療未治療で、2002~2005年に冠動脈石灰化(CAC)について多列検出器CT(MDCT)検査を受け、CVD発症について中央値9.4年間追跡を受けた2,435例を対象とした。 スタチン治療の適格性について、フラミンガムリスク因子とATP IIIのLDL値に基づき定義する一方、プールコホート解析においてはACC/AHAガイドライン2013に準拠した。 主要アウトカムは、CVD(心筋梗塞、冠状動脈性心疾患[CHD]による死亡、虚血性脳卒中)の発症とし、副次アウトカムは、CHD、CAC(Agatstonスコアで評価)であった。治療適格者14%から39%に、CVDイベントリスク者3.1倍から6.8倍に 2,435例(平均年齢51.3[SD 8.6]歳、女性56%)において、ATP IIIによるスタチン治療適格者は14%(348/2,435例)であったのに対し、ACC/AHAガイドライン2013規定では39%(941/2,435例)であった(p<0.001)。 これら被験者のCVDイベント発生は74例(非致死的心筋梗塞40例、非致死的虚血性脳卒中31例、致死的CHDイベント3例)であった。 スタチン治療適格者の非適格者と比較したCVDイベント発生に関するハザード比は、ATP IIIを適用した場合(3.1、95%信頼区間[CI]:1.9~5.0、p<0.001)も、ACC/AHAガイドライン2013を適用した場合(6.8、同:3.8~11.9、p<0.001)もそれぞれ有意に高値であったが、ACC/AHAガイドライン2013を適用した場合のほうが有意に高値であった(p<0.001)。 同様の結果は、CHDに関する中等度のフラミンガムリスクスコアを有する被験者を対象とした、CVDイベント発生のハザード比に関する検討においてみられた。 ACC/AHAガイドライン2013ガイドライン適用による新たなスタチン治療適格者(593例[24%])のCVDイベント発生率は5.7%、治療必要数(NTT)は39~58例であった。 なお、CACを有する被験者において、ATP IIIよりもACC/AHAガイドライン2013を適用した場合にスタチン治療適格者となる傾向がみられた。CACスコア0超(1,015例)では63% vs.23%であったのに対し、100超(376例)では80% vs.32%、300超(186例)では85% vs.34%であった(すべてのp<0.001)。ACC/AHAガイドライン2013によるスタチン治療適格者でCACスコア0の低リスク群(306/941例[33%])のCVD発生率は1.6%であった。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 高血圧とのかかわり

川添 晋 氏鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学はじめに高尿酸血症は、痛風関節炎や痛風腎など尿酸塩沈着症としての病態とは別に、心血管疾患のリスクになることが次々と報告され、メタボリックシンドロームの一翼としての尿酸の重要性が認識されるようになってきた。最近では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることや、尿酸低下療法によって心血管イベントが抑制される可能性を示唆する報告もなされている。本稿では、血圧上昇や高血圧性臓器合併症と尿酸との関連を疫学と機序の両面から概説するとともに、高血圧症を合併した高尿酸血症に対する薬物治療を行う際の注意すべき点について解説する。高尿酸血症と高血圧血圧上昇と血清尿酸値との疫学の歴史は意外に古い。1800年代後半には、痛風の家族歴を持つ高血圧患者が多いことや、低プリン食が高血圧と心血管病を予防することが報告されている。最近の報告では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることが国内外の疫学調査から明らかとなっている。米国における国民健康栄養調査にて、血清尿酸値が上昇するにつれて高血圧の有病率は上昇し、血清尿酸値6.0mg/dL以下では24.5%であるのに対して10.0mg/dLでは84.7%に高血圧が合併していた1)。わが国における調査でも、高血圧患者は男性で34.1%、女性で16.0%に高尿酸血症が合併していたと報告されている2)。高尿酸血症と高血圧発症に関する国内外11研究の成績をまとめたメタアナリシスでは、高尿酸血症患者における高血圧発症の相対リスクは1.41と有意に高く、1mg/dL の尿酸値の上昇により高血圧発症リスクは13%上昇するとの結果であった3)(本誌p.29図を参照)。尿酸値上昇自体が高血圧のリスクとなることが明確に示されたことになる。また小規模の研究ではあるが、アロプリノールによる尿酸降下療法にて24時間血圧が有意に下がるとの介入試験の結果も報告されている4)。尿酸が血圧を上昇させるメカニズムについてもさまざまな知見が得られている(本誌p.30図を参照)5)。尿酸によるNO(一酸化窒素)産生低下とレニン・アンジオテンシン系の産生亢進を伴った血管内皮機能低下に起因した腎血管収縮により血圧が上昇すると報告されている6, 7)。このタイプの高血圧は、食塩抵抗性で尿酸値を下げることにより降圧を認めることが特徴であるが6)、別のタイプもあることが推察されている。高尿酸血症は動脈硬化性変化による腎微小循環障害をきたし、塩分感受性で腎依存性、血清尿酸値非依存性の高血圧が形成される8)。微小循環の損傷に起因する病態においては、直接尿酸が血管平滑筋細胞に対して増殖反応を促し、レニン・アンジオテンシン系を賦活化し、CRPや単球走化性蛋白-1(MCP-1)といった炎症関連物質の産生を刺激することが報告されている9)。高血圧性臓器合併症と尿酸日本高血圧学会やヨーロッパ高血圧学会のガイドラインでは、高血圧性臓器合併症の有無でリスクの層別化を行うことを推奨している。Viazziらは、このような臓器合併症の重症度と血清尿酸値との関連性を横断研究にて検討している。これによると、ヨーロッパ高血圧学会のガイドラインに準拠した高血圧性臓器合併症が重症になるにしたがって、血清尿酸値が高値となっていくことが示されている。さらに古典的心血管危険因子で補正後も、心肥大や頸動脈不整の危険因子となることが示唆されている。またSystolic Hypertension in the Elderly Program(SHEP)10)やThe Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension(LIFE)11) といった大規模臨床試験のサブ解析において、血清尿酸値と心血管イベントの発症との間に関連があることが示されている。われわれは669名の本態性高血圧症を対象に前向きに検討を行い、尿酸値が心血管疾患と脳卒中の発症の予測因子となるかどうかの検討を行った12)。平均7.1年のフォローアップ期間に脳卒中71例、心血管疾患58例が発生し、64例が死亡した。生存曲線では、尿酸値が最も高かった群(8.0mg/dL以上)では有意に脳卒中と心血管疾患の発症が多く(p=0.0120)、死亡率も高かった(p=0.0021)。古典的な心血管疾患のリスク因子で補正した後も、血清尿酸値は心血管疾患(相対リスク1.30, p=0.0073)、脳卒中および心血管疾患(相対リスク1.19, p=0.0083)、死亡(相対リスク1.23, p=0.0353)、脳卒中および心血管疾患による死亡(相対リスク1.19, p=0.0083)の有意な予測因子であった(本誌p.31図を参照)。また、血清尿酸値が心血管疾患リスクに与える影響は、女性においてより強かった。しかしながら、大規模疫学調査のなかには、Framingham Heart研究13)やNIPPON DATA 8014)のように、他の心血管危険因子で補正を行うと血清尿酸値の心血管死に対する影響が減弱するか喪失すると結論づけている報告もいくつか認められる。また血清尿酸値と心血管疾患の間のJカーブ現象の報告もあり15)、この分野に関しては今後のさらなる検討が必要と考えられる。高血圧治療の最終的な目標は臓器合併症、すなわち心血管イベント発症や腎機能悪化に伴う透析などの回避であることはいうまでもない。臓器合併症予防のためには、蓄積されつつある知見を踏まえて、血圧のみならず血清尿酸値も含めた管理を行う必要がある。高血圧症例における高尿酸血症の管理高血圧患者における血清尿酸値上昇が腎障害や心血管事故発症と関連することから、日本痛風・核酸代謝学会による『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』16)に準じて、総合的なリスク回避をめざした6・7・8ルールに基づく尿酸管理が推奨されている(本誌p.32図を参照)。高尿酸血症を合併する高血圧では、血清尿酸値7mg/dL以上でエネルギー摂取制限、運動習慣、節酒等の生活指導を開始する。8mg/dL以上では、生活習慣の修正を行いながら尿酸降下薬の開始を考慮する。降圧療法中の血清尿酸値の目標は6mg/dL以下をめざす。この際、降圧剤が尿酸代謝に及ぼす影響も考慮することが望まれる(本誌p.32図を参照)。サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬は高尿酸血症を増長し、痛風を誘発することがあるため注意が必要である。Ca拮抗薬とロサルタンは高血圧患者の痛風発症リスクを減少させることが知られている17)。大量のβ遮断薬およびαβ遮断薬の投与は血中尿酸値を上昇させる。ACE阻害薬、Ca拮抗薬、α遮断薬は血清尿酸値を低下させるという報告と、影響を与えないとする報告がある。ARBの1つであるロサルタンは、腎尿細管に存在するURAT1の作用を阻害することによって血中尿酸値を平均0.7mg/dL低下させる18, 19)。重症高血圧患者におけるβ遮断薬のアテノロールに対するロサルタンの標的臓器保護作用の有意性を示したLIFEでは、ロサルタンの降圧を超えた臓器保護作用のうち29%は尿酸値の改善によることが示唆されている11)。最近使用頻度が増えているARB/利尿薬合剤には、ヒドロクロロチアジド6.25mgまたは12.5mgが使用されているが、尿酸管理の観点からはより低用量の製剤を使用するか、尿酸排泄増加作用を有するARBであるロサルタンを含む合剤の使用が望ましい。高血圧合併高尿酸血症患者の病型は排泄低下型が多いことから、ベンズブロマロンなどURAT1阻害薬が有用であることが多い。キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールは、これまで唯一の尿酸生成抑制薬として40年間にわたり全世界で用いられてきた。しかしアロプリノールの活性代謝産物であるオキシプリノールは腎排泄性であり、血中半減期が長く体内に蓄積しやすいため、腎機能障害ではオキシプリノールの血中濃度が上昇し20)、汎血球減少症などの重篤な副作用の出現に関係するとされる。高血圧患者には腎機能低下を合併する症例が多いためアロプリノール使用に関してはこの点に注意が必要である。本邦において2011年から臨床使用可能となったフェブキソスタットは、肝腎排泄型であるため腎機能障害者においても用量調節が不要であるとされている。おわりに高尿酸血症が高血圧発症や心血管疾患のリスク因子であるというエビデンスが蓄積されてきている。高血圧診療の場では、糖尿病や脂質異常症などの既知のリスクに加えて、尿酸値も意識して総合的な管理を行うことが求められている。文献1)Choi HK et al. Prevalence of the metabolic syndrome in individuals with hyperuricemia. Am J Med 2007; 120: 442-447.2)宮田恵里ほか. 高血圧患者における高尿酸血症の実態と尿酸動態についての検討. 血圧 2008; 15: 890-891.3)Grayson PC et al. Hyperuricemia and incident hypertension: a systematic review and meta-analysis. Arthritis Care Res 2011; 63: 102-110.4)Feig DI et al. Effect of allopurinol on blood pressure of adolescents with newly diagnosed essential hypertension: a randomized trial. JAMA 2008; 300: 924-932.5)大野岩男. 高血圧のリスクファクターとしての尿酸. 高尿酸血症と痛風 2010; 18: 31-37.6)Mazzali M et al. Elevated uric acid increases blood pressure in the rat by a novel crystal-independent mechanism. Hypertension 2001; 38:1101-1106.7)Sanches-Lozada LG et al. Mild hyperuricemia induces vasoconstriction and maintains glomerular hypertension in normal and remnant kidney rats. Kidney Int 2005; 67: 237-247.8)Watanabe S et al. Uric acid, hominoid evolution,and the pathogenesis of salt-sensitivity. Hypertension 2002; 40: 355-360.9)Johnson RJ et al. 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2型糖尿病、男性では膝OAの有意な予測因子に

 最近の研究では、肥満、糖尿病、高血圧および脂質異常症といった代謝因子やそれらの集積であるメタボリックシンドロームが、変形性膝関節症(膝OA)の病態生理に関与している可能性が示唆されている。フランス・AP-HP Henri Mondor HospitalのFlorent Eymard氏らは、膝OA患者を対象としたstrontium ranelateの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験(SEKOIA試験)におけるプラセボ群について解析し、2型糖尿病が男性膝OA患者における関節裂隙狭小化の予測因子であることを報告した。Osteoarthritis and Cartilage誌2015年6月号(オンライン版2015年2月3日号)の掲載報告。 試験は、50歳以上の症候性膝OA患者559例(SEKOIA試験のプラセボ群:平均年齢62.8歳、女性392例)を対象に行われた。 試験開始時および1年ごとに3年間、単純X線検査を行い脛骨大腿関節の内側コンパートメントの最小関節裂隙幅を自動計測し、代謝因子などのX線学的進行に及ぼす影響を調査した。 糖尿病、高血圧および脂質異常症の有無は試験開始時の問診により確認し、BMI 30超を肥満、4つの代謝因子のうち3つ以上を有する場合をメタボリックシンドロームと定義した。主な結果は以下のとおり。・対象559例中、43.8%が肥満、6.6%が2型糖尿病、45.1%が高血圧、27.6%が脂質異常症、13.6%がメタボリックシンドロームを有していた。・関節裂隙狭小化(最小関節裂隙幅の年平均低下)は、2型糖尿病合併患者が非合併患者より有意に大きかった(0.26mm vs.0.14mm、p=0.001)。・この関連は、性別、年齢、BMI、高血圧および脂質異常症に関して調整した後も有意なままであった(p=0.018)。・サブグループ分析の結果、2型糖尿病は女性ではなく男性において関節裂隙狭小化の有意な予測因子であることが示された。・他の代謝因子およびメタボリックシンドロームは、関節裂隙狭小化と関連していなかった。

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肥満成人におけるリラグルチドの減量効果/NEJM

 先行研究において、GLP-1受容体作動薬のアナログ製剤リラグルチドの1日1回3.0mg皮下注が、体重管理に有用である可能性が報告されていた。これを踏まえて米国・コロンビア大学のXavier Pi-Sunyer氏らは、2型糖尿病を有していない肥満成人、脂質異常症か高血圧を有する(治療の有無を問わず)過体重成人の計3,731例を対象に、同薬投与の有効性、安全性に関する56週の二重盲検無作為化試験を行った。その結果、食事および運動療法の補助としての同薬投与は、体重の減少および代謝コントロールの改善と関連していたことを報告した。NEJM誌2015年7月2日号掲載の報告より。27ヵ国191施設で3,731例を対象にリラグルチドの体重減量効果を検討 対象とした被験者は18歳以上で、2型糖尿病を有していないBMI 30以上、または脂質異常あるいは高血圧を有する(治療、未治療を問わない)BMI 27以上。2011年6月1日~2013年3月18日に、欧州、北南米、アジア、アフリカ、オーストラリアの27ヵ国191施設で総計3,731例が試験に登録され、2対1の割合でリラグルチド3.0mg 1日1回皮下注群とプラセボ群に無作為に割り付けられた。両群にはいずれも生活習慣改善のカウンセリングが行われた。 主要エンドポイントは、体重変化と、ベースライン体重から5%以上減量および10%超減量した人の割合であった。56週時までに5%以上減量63.2% vs.27.1%、10%超減量33.1% vs.10.6% ベースラインにおける被験者の特性は、平均年齢45.1±12.0歳、平均体重106.2±21.4kg、平均BMI値は38.3±6.4であった。女性被験者が78.5%を占め、61.2%が前糖尿病であった。 リラグルチド群には2,487例が、プラセボ群には1,244例が割り付けられた。56週の治療を完了したのは、それぞれ1,789例(71.9%)、801例(64.4%)であった。試験中断理由として、リラグルチド群のほうが多かったのは有害事象によるもの(9.9% vs.3.8%)、逆に少数であったのは治療無効による(0.9% vs.2.9%)、同意取り下げ(10.6% vs.20.0%)であった。 結果、56週時点でリラグルチド群の患者の体重は平均8.4±7.3kg減少したのに対し、プラセボ群は2.8±6.5kgの減少であった(差:-5.6kg、95%信頼区間[CI]:-6.0~-5.1、p<0.001、最終観察繰越し外挿法による)。 全体で体重が5%以上減量した人の割合は、リラグルチド群が63.2%に対しプラセボ群は27.1%(p<0.001)、10%超減量は33.1%、10.6%であった(p<0.001)。 リラグルチド群で最も頻度が高かった有害事象は、軽度~中等度の悪心および下痢であった。重篤有害事象の発現率は、リラグルチド群6.2%、プラセボ群5.0%であった。

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なんと!血糖降下薬RCT論文の1/3は製薬会社社員とお抱え医師が作成(解説:桑島 巌 氏)-384

 オランダ・アムステルダム大学医療センターのFrits Holleman氏らは、1993年から2013年までの血糖降下薬に関するランダム化比較試験(RCT)論文の執筆者が、どの程度論文を量産(productivity)しているかについて、PubMedで検索した。 血糖降下薬に関するRCTは、2001年には70論文だったのが、2013年には566論文と急激に増加した。 1万3,592人の著者による論文(3,782本)のうち、論文多産トップ110人の執筆者だけで991本のRCT論文を出版しており、1人当たり中央値20本の論文に関わっていた。 そのうち、906本(91%)はスポンサー付きであった。しかも、110人のうち48人は製薬会社と雇用関係にあったという。そして、実はその439本(44%)は医学ライターにより執筆されており、そのうち204本はスポンサーが提供したライターであったという。 トップ11(10位は2人)の執筆者だけでみると、354本のRCT論文を発表しており、1人あたり42本に関わっていたというから、ものすごいエネルギーである。 わが国でもRCT論文に関わることが大きな業績とされるようだが、企業とは一線を画した研究者は非常に少ないように思う。 著者らが、利益相反の面から検討した結果、企業とは独立した内容と考えられたのはたった42本(6%)にすぎないというから、RCT論文の3分の1は、製薬会社社員とお抱え医師によって執筆されていたというのは、いかにこの領域のRCTが企業誘導型であるかを如実に表している。高血圧や高脂血症治療薬をはじめ、ほかの領域でもおそらく同様であろう。 この調査は、SU薬やビグアナイド類などの古典的薬剤に加えた、αグルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン誘導体などが登場した時期であり、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬のRCTは、まだ登場していない時期での調査である。企業の販売競争が激化している今日においては、DPP-4阻害薬などの新規治療薬について、有害事象情報も含めて適正な情報提供を期待したい。 このようなCommercial-based Medicineに惑わされたくないと思う医療関係者の方々には、臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)会員になることをお勧めする。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 心不全・虚血性心疾患とのかかわり

室原 豊明 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに高尿酸血症は循環器疾患の危険因子の1つとして見なされているが、その具体的な影響度や機序などに関しては不明な点も多い。高尿酸血症が持続すると、いわゆる尿酸の蓄積に伴う疾患や症状が前面に現れてくる。典型的には、痛風・関節炎・尿路結石などである。しかしながら、尿酸そのものは抗酸化作用があるともいわれており、尿酸そのものが血管壁や心筋に直接ダメージを与えているのか否かは未だ不明の部分も多い。ただし、尿酸が体内で生成される過程の最終段階では、酵素であるキサンチンオキシダーゼが作用するが、この時に同時に酸素フリーラジカルが放出され、これらのラジカルが血管壁や心筋組織にダメージを与え、その結果動脈硬化病変や心筋障害が起こるとの考え方が主流である。本稿では、高尿酸血症と循環器疾患、特に心不全、虚血性心疾患とのかかわりに関して緒言を述べたい。高尿酸血症と尿酸代謝尿酸はDNAやRNAなどの核酸や、細胞内のエネルギーの貯蔵を担うATPの代謝に関連したプリン体の最終代謝産物である。プリン体は食事から摂取される部分(約20%)と、細胞内で生合成される部分(約80%)がある。細胞は過剰なプリン体やエネルギー代謝で不要になったプリン体を、キサンチンオキシダーゼにより尿酸に変換し、細胞から血液中に排出する。体内の尿酸の総量は通常は一定に保たれており(尿酸プール約1,200mg)、1日に約700mgの尿酸が産生され、尿中に500mg、腸管等に200mgが排泄される。余分な尿酸は尿酸塩結晶となり組織に沈着したり、結石となる。多くの生物はウリカーゼという酵素を持ち、尿酸を水溶性の高いアラントインに代謝し尿中に排泄することができるが、ヒトやチンパンジーや鳥類はウリカーゼを持たないために、血清尿酸値が高くなりやすい。尿酸の約3/4は腎臓から尿中に排泄される。腎臓の糸球体ではいったん100%濾過されるが、尿細管で再吸収され、6 ~10%のみ体外へ排出される。最近、尿酸の再吸収や分泌を担うトランスポーターが明らかにされ、再吸収では近位尿細管の管腔側膜にURAT1、血管側にGLUT9が、分泌では管腔側にABCG2が存在することが報告されている1, 2)。腎障害としては、尿酸の結晶が沈着して起こる痛風腎のほかに、結晶沈着を介さない腎障害である慢性腎臓病(CKD)も存在する。高尿酸血症のタイプは、尿酸産生過剰型(約10%)、尿酸排泄低下型( 約50~70%)、混合型(約20 ~30%)に分類され、病型を分類するために、簡便法では尿中の尿酸とクレアチニンの比を算出し、その比が 0.5を上回った場合には尿酸産生過剰型、0.5未満の場合には尿酸排泄低下型と分類している。高尿酸血症と循環器疾患の疫学高尿酸血症と動脈硬化性疾患、心血管イベント高尿酸血症は痛風性関節炎、腎不全、尿路結石を起こすだけでなく、生活習慣病としての側面も有しており、高血圧・肥満・糖尿病・高脂血症などの他の危険因子とよく併存し、さらには脳血管障害や虚血性心臓病を合併することが多い3)。尿酸は直接動脈硬化病変も惹起しうるという報告と、尿酸は単なる病態のマーカーに過ぎないという2面の考え方がある。いずれにしても、血清尿酸値の高値は、心血管病変(動脈硬化病変)の進行や心血管イベントの増大と関連していることは間違いなさそうである。尿酸は血管壁において、血小板の活性化や炎症反応の誘導、血管平滑筋の増殖を刺激するなど、局所で動脈硬化を惹起する作用がこれまでに報告されている。実際に、ヒトの頸動脈プラーク部において、尿酸生成酵素であるキサンチンオキシダーゼや、結晶化した尿酸が存在することが報告されている(本誌p.24図を参照)4)。尿酸は直接細胞膜やライソゾーム膜を傷害し、また補体を活性化することで炎症を誘発し血管壁細胞を傷害する。さらに尿酸生成に直接寄与する酵素であるキサンチンオキシダーゼは、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞にも発現しており、この酵素は酸素ラジカルを生成するため、このことによっても細胞がさらなる傷害を受けたり、内皮細胞由来の一酸化窒素(NO)の作用を減弱させたりする。実際に、高尿酸血症患者では血管内皮機能が低下していることや、血管の硬さを表す脈派伝播速度が増大していることが報告されている(本誌p.25図を参照)5)。このように、尿酸が過度に生成される状態になると、尿酸が動脈壁にも沈着し動脈硬化病変を直接惹起させうると考えられている。では、血清尿酸値と心血管イベントとの関係はどうであろうか。1次予防の疫学調査はいくつかあるが、過去の研究では、種々の併存する危険因子を補正した後も、血清尿酸値の高値が心血管イベントの独立した危険因子であるとする報告が多く、女性では7.0mg/dL、男性では9.0mg/dL以上が危険な尿酸値と考えられている。また2次予防の疫学調査でも、血清尿酸値の高値が心血管事故再発の独立した危険因子であることが報告されている3)。日本で行われたJ-CAD研究でも、冠動脈に75%以上の狭窄病変がある患者群において、血清尿酸値高値(6.8mg/dL以上)群では、それ以下の群に比べて心血管イベントが増大することが示されている(本誌p.25図を参照)6)。イベントのみならず、最近のVH-IVUS法を用いたヒトの冠動脈画像の研究から、高尿酸血症はプラーク量や石灰化病変と関連していることが示されている(本誌p.26図を参照)7)。繰り返しになるが、これらが因果関係を持っての尿酸によるイベントや動脈硬化病変の増大か否かについては議論の余地が残るところではある。高尿酸血症と心不全慢性心不全患者では高尿酸血症が多くみられることがこれまでに明らかにされている8)。これは慢性心不全患者には他のさまざまな危険因子が併存しており、このため生活習慣病(multiple risk factor 症候群)の患者も多く、これらに付随して尿酸高値例が自然と多くみられるという考え方がある。もう1つは、慢性心不全患者では多くの場合利尿剤が併用されているため、この副作用のために血清尿酸値が高くなっているという事実がある。いずれにしても、尿酸が生成される過程は、心不全患者では全般に亢進していると考えられており、ここにもキサンチンオキシダーゼの高発現による酸素フリーラジカルの産生が寄与していると考えられている。事実、拡張型心筋症による慢性心不全患者の心筋組織では、キサンチンオキシダーゼの発現が亢進していることが報告されている9)。また、血清尿酸値と血中のキサンチンオキシダーゼ活性も相関しているという報告がある10)。高尿酸血症では、付随するリスクファクターや腎機能障害、炎症性サイトカインの増加、高インスリン血症などが心不全を増悪させると考えられるが、なかでも高尿酸血症に伴う心不全の病態においては、酸化ストレスの関与は以前から注目されている。慢性の不全心では心筋内のキサンチンオキシダーゼの発現が亢進しており、このために酸素フリーラジカルが細胞内で多く産生されている。また、慢性心不全患者の血液中には、心不全のないコントロール群に比べて、内皮結合性のキサンチンオキシダーゼの活性が約3倍に増加していることが報告されている。心筋細胞内のミトコンドリアにおいては、細胞内の酸素フリーラジカルが増加すると、ミトコンドリアDNAの傷害や変異、電子伝達系の機能異常などが起こり、最終的なエネルギー貯蔵分子であるATP産生が低下する。傷害されたミトコンドリアはそれ自身も酸素フリーラジカルを産生するため、細胞のエネルギー代謝系は悪循環に陥り、この結果心筋細胞のエネルギー産生と活動性が低下、すなわち心不全が増悪してくると考えられている。では疫学データではどうであろうか。前述したように、慢性心不全患者では高尿酸血症が多くみられる。さらに2003年にAnkerらが報告した論文では、ベースラインの血清尿酸値が高くなればなるほど、慢性心不全患者の予後が悪化することが示された11)。また筒井らの行った日本におけるJ-CARE-CARD試験でも、高尿酸血症(血清尿酸値が7.4mg/dL以上)は、それ以下の群に比べて、心不全患者の全死亡および心臓死が有意に増加していることが示された(本誌p.27表を参照)12)。このように、高尿酸血症は、心血管イベントの増加のみにとどまらず、慢性心不全の病態悪化や予後とも関連していることがこれまでに明らかにされている。おわりに高尿酸血症と虚血性心疾患、心不全との関係について概説した。尿酸そのものが、直接の原因分子として動脈硬化病変の進展や虚血性心疾患イベントの増加、心不全増悪と関連しているか否かは議論の残るところではあるが、疫学的には高尿酸血症とこれらのイベントに正の相関があることはまぎれもない事実である。この背景には、付随するリスクファクターとキサンチンオキシダーゼ/酸素フリーラジカル系が強く関与しているものと思われる。文献1)Enomoto A et al. 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Uric acid and survival in chronic heart failure: validation and application in metabolic, functional, and hemodynamic staging. Circulation 2003; 107: 1991-1997.12)Hamaguchi S et al. JCARE-CARD Investigators. Hyperuricemia predicts adverse outcomes in patients with heart failure. Int J Cardiol 2011; 151: 143-147.

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HDLの質に注目した新たなアプローチ ―脂質異常症患者における高純度EPA製剤の投与意義―

近年、心血管イベントの抑制に対し、コレステロール引き抜き能などのHDLの質を改善することの重要性が注目されています。HDLの質を高めるにはどのような治療を行うべきでしょうか。HDLの質に注目した新たなアプローチについて最新のエビデンスを交えて動画で解説します。

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抗精神病薬、日本人の脂質異常症リスク比較:PMDA

 脂質異常症は非定型抗精神病薬の有害事象としてよく知られているが、各非定型抗精神病薬のリスクを定量的に比較した研究は少ない。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の竹内 由則氏らは、連続した疫学調査を用い、日本で承認されている非定型抗精神病薬の使用に関連する脂質異常症のリスクを比較評価した。Drug safety誌オンライン版2015年5月23日号の報告。 研究グループは、日本で承認されている9種類の非定型抗精神病薬(リスペリドン、パリペリドン、ペロスピロン塩酸塩、ブロナンセリン、クロザピン、オランザピン、フマル酸クエチアピン、アリピプラゾール、ゾテピン)を分析するために、健康保険請求データを用い、sequence symmetry analysis (SSA)を行った。曝露群は、非定型抗精神病薬と脂質異常症治療薬の両方が投与された患者の調剤記録より検出した。調剤パターンの時間的傾向で調整し、個々のおよびすべての非定型抗精神病薬の調整順序比(ASR)と95%CIを計算した。 主な結果は以下のとおり。・オランザピンのみが、脂質異常症の発症増加と有意に関連していた(ASR 1.56、95%信頼区間[CI]:1.25~1.95)。・リスペリドン(1.01、95%CI:0.80~1.27)、ペロスピロン塩酸塩(0.93、95%CI:0.63~1.39)、ブロナンセリン(0.83、95%CI:0.52~1.33)、フマル酸クエチアピン(0.93、95%CI:0.73~1.18)、アリピプラゾール(1.02、95%CI:0.82~1.26)のASRは約1.0であった。・パリペリドンとゾテピンは、サンプルサイズが小さいため、不安定な推定値(wide Cls)であった。関連医療ニュース 日本人統合失調症患者の脂質プロファイルを検証!:新潟大学 オランザピンの代謝異常、原因が明らかに:京都大学 最新、抗精神病薬の体重増加リスクランキング  担当者へのご意見箱はこちら

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第21回

第21回:全般性不安障害とパニック障害のアプローチ監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 プライマリケアの場において、原因がはっきりしないさまざまな不安により日常生活に支障を生じている患者を診療する経験があるのではないかと思います。またとくに若い患者たちの中でみることの多いパニック障害もcommonな疾患の1つと思われ、その数は年々増加しているともいわれています。厚労省の調査1)では、何らかの不安障害を有するのは生涯有病率が9.2%であるとされ、全般性不安障害1.8%、パニック障害0.8%という内訳となっています。医療機関を受診する患者ではさらにこの割合が高くなっていると考えられ、臨床では避けて通れない問題となっています。全般性不安障害とパニック障害の正しい評価・アプローチを知ることで患者の不要な受診を減らすことができ、QOLを上げることにつながっていくと考えられます。 タイトル:成人における全般性不安障害とパニック発作の診断、マネジメントDiagnosis and management of generalized anxiety disorder and panic disorder in adults.以下、American Family Physician 2015年5月1日号2)より1. 典型的な病歴と診断基準全般性不安障害(generalized anxiety disorder:GAD)典型的には日常や日々の状況について過度な不安を示し、しばしば睡眠障害や落ち着かなさ、筋緊張、消化器症状、慢性頭痛のような身体症状と関係している。女性であること、未婚、低学歴、不健康であること、生活の中のストレスの存在がリスクと考えられる。発症の年齢の中央値は30歳である。「GAD-7 スコア」は診断ツールと重症度評価としては有用であり、スコアが10点以上の場合では診断における感度・特異度は高い。GAD-7スコアが高いほど、より機能障害と関連してくる。パニック障害(panic disorder:PD)明らかな誘因なく出現する、一時的な予期せぬパニック発作が特徴的である。急激で(典型的には約10分以内でピークに達する)猛烈な恐怖が起こり、少なくともDSM-5の診断基準における4つの身体的・精神的症状を伴うものと定義され、発作を避けるために不適合な方法で行動を変えていくことも診断基準となっている。パニック発作に随伴する最もよくみられる身体症状としては動悸がある。予期せぬ発作が診断の要項であるが、多くのPD患者は既知の誘因への反応が表れることで、パニック発作を予期する。鑑別診断と合併症内科的鑑別:甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、不整脈や閉塞性肺疾患などの心肺疾患、側頭葉てんかんやTIA発作などの神経疾患その他の精神疾患:その他の不安障害、大うつ病性障害、双極性障害物質・薬剤:カフェイン、β2刺激薬、甲状腺ホルモン、鼻粘膜充血除去薬、薬物の離脱作用GADとPDは総じて気分障害、不安障害、または薬物使用などの少なくとも1つの他の精神的疾患を合併している。2. 治療患者教育・指導配慮のある深い傾聴が重要であり、患者教育自体がとくにPDにおいて不安症状を軽減する。また生活の中で症状増悪の誘因となりうるもの(カフェイン、アルコール、ニコチン、食事での誘因、ストレス)を除去し、睡眠の量・質を改善させ、身体的活動を促す。身体的活動は最大心拍数の60%~90%の運動を20分間、週に3回行うことやヨガが推奨される。薬物療法第1選択薬:GADとPDに対してSSRIは一般的に初期治療として考慮される。三環系抗うつ薬(TCA)もGADとPDの両者に対して有効である。PDの治療において、TCAはSSRIと同等の効果を発揮するが、TCAについては副作用(とくに心筋梗塞後や不整脈の既往の患者には致死性不整脈のリスクとなる)に注意を要する。デュロキセチン(商品名:サインバルタ)はGADに対してのみ効果が認められている。buspironeのようなazapirone系の薬剤はGADに対してはプラセボよりも効果があるが、PDには効果がない。bupropionはある患者には不安を惹起するかもしれないとするエビデンスがあり、うつ病の合併や季節性情動障害、禁煙の治療に用いるならば、注意深くモニターしなければならない。使用する薬剤の容量は漸増していかなければならない。通常、薬剤が作用するには時間がかかるため、最大用量に達するまでは少なくとも4週間は投与を続ける。症状改善がみられれば、12ヵ月間は使用すべきである。ベンゾジアゼピン系薬剤は不安の軽減には効果的だが、用量依存性に耐性や鎮静、混乱や死亡率と相関する。抗うつ薬と抗不安薬の併用は迅速に症状から回復してくれる可能性はあるが、長期的な予後は改善しない。高い依存性のリスクと副作用によってベンゾジアゼピンの使用が困難となっている。NICEガイドライン3)では危機的な症状がある間のみ短期間に限り使用を推奨している。中間型から長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤はより乱用の可能性やリバウンドのリスクは少ない。第2選択薬:GADに対しての第2選択薬として、プレガバリン(商品名:リリカ)とクエチアピン(同:セロクエル)が挙げられるが、PDに対してはその効果が評価されていない。GADに対してプレガバリンはプラセボよりは効果が認められるが、ロラゼパム(同:ワイパックス)と同等の効果は示さない。クエチアピンはGADに対しては効果があるが、体重増加や糖尿病、脂質異常症を含む副作用に注意を要する。ヒドロキシジン(同:アタラックス)はGADの第2選択薬として考慮されるが、PDに対しては効果が低い。作用発現が早いため、速やかな症状改善が得られ、ベンゾジアゼピンが禁忌(薬物乱用の既往のある患者)のときに使用される。精神療法とリラクゼーション療法精神療法は認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)や応用リラクゼーションのような多くの異なったアプローチがある。精神療法はGADとPDへの薬物療法と同等の効果があり、確立されたCBTの介入はプライマリケアの場では一貫した効果が立証されている。精神療法は効果を判定するには毎週少なくとも8週間は続けるべきである。一連の治療後に、リバウンド症状を認めるのは、精神療法のほうが薬物療法よりも頻度は低い。各人に合わせた治療が必要であり、薬物療法と精神療法を組み合わせることで2年間の再発率が減少する。3. 精神科医への紹介と予防GADとPD患者に対して治療に反応が乏しいとき、非典型的な病歴のもの、重大な精神科的疾患の併発が考慮される場合に、精神科医への紹介が適用となる。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 川上憲人ほか. こころの健康についての疫学調査に関する研究(平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業). こころの健康についての疫学調査に関する研究,総合研究報告書). 2007. 2) Locke AB, et al. Am Fam Physician. 2015;91:617-624. 3) NICEガイドライン. イギリス国立医療技術評価機構(The National Institute for Health and Care Excellence:NICE).

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新規CETP阻害薬TA-8995、軽度脂質異常症に有効/Lancet

 新規開発中のコレステロールエステラーゼ転送蛋白(CETP)阻害薬TA-8995は、軽度脂質異常症患者への投与において忍容性は良好で、脂質やアポリポ蛋白に有益な効果をもたらすことが、G Kees Hovingh氏らによる第II相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告された。12週時点でLDLコレステロール値は、5mgおよび10mg用量の単独投与で45.3%低下、10mg用量+スタチン薬との併用投与では63.3~68.2%低下し、HDLコレステロール値は10mg用量単独で179.0%上昇、10mg用量+スタチン薬併用投与では152.1~157.5%上昇が認められたという。著者は、「示された所見が心血管疾患イベントの抑制をもたらすのか、心血管疾患をアウトカムとした試験を行う必要がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年6月2日号掲載の報告より。364例を用量別、スタチン薬併用の9群に無作為化し検討 新たなCETP阻害薬TA-8995の安全性、忍容性、有効性を評価した試験は、オランダ、デンマークの病院および臨床研究組織の計17ヵ所で、2013年8月15日~2014年1月10日の間に患者を登録して行われた。被験者は年齢18~75歳で、既往の脂質降下薬をウォッシュアウト後、空腹時LDLコレステロール(LDL-C)値が2.5~4.5mmol/L、HDLコレステロール(HDL-C)値が0.8~1.8mmol/L、トリグリセライド値4.5mmol/L以下の患者364例であった。 コンピュータ無作為化法を用いて、1対1の割合で次の9つの治療群のうち1つを受けるよう割り付けた。プラセボ群(40例)、TA-8995 1日用量1mg群(41例)、同2.5mg群(41例)、同5mg群(40例)、同10mg群(41例)、10mg TA-8995+20mgアトルバスタチン(40例)、プラセボ+20mgアトルバスタチン(40例)、10mg TA-8995+10mgロスバスタチン(41例)、プラセボ+10mgロスバスタチン(41例)。スタチン薬はオーバーカプセル化してマスキングに努めた。 主要アウトカムは、ベースラインから12週時点までの、LDL-C値とHDL-C値の変化の割合(%)とした。LDL-C値は27.4~45.3%低下、HDL-C値は大きく上昇 12週時点でLDL-C値は、TA-8995 1日用量1mg群では27.4%低下、2.5mg用量群で32.7%低下、5mg用量群45.3%低下、10mg用量群45.3%の低下がみられた(対プラセボのp

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LDL-コレステロール低下で心血管イベントをどこまで減少させられるか?(解説:平山 篤志 氏)-350

 2013年のAHA/ACCから発表された脂質異常症に関する治療ガイドラインで、LDL-コレステロールの値ではなく、Atherosclerotic Cardiovascular Disease(ASCVD)のリスクのある患者には強力なスタチンを投与せよという、Fire and Forgetの概念が提唱され大きな話題となった。 背景には、エビデンスがすべてスタチンの用量によってランダム化された試験に基づき確立されたもので、LDL-コレステロール値を目標と設定したものではなかったことがある。 昨年発表されたIMPROVE-ITはこれに対して、スタチン以外の薬剤でコレステロール値を低下させれば、イベントを減少させられるというものであったが、その有意差がわずかであったためにスタチンの減少効果からはインパクトが薄かった。その点で、PCSK9に対する抗体であるエボロクマブ(承認申請中)とアリロクマブ(Alirocumab、国内未承認)はスタチンの治療に加えて、さらに強力にLDL-コレステロールを低下させる効果のあることから、イベントを減少させる効果に大きな期待が寄せられている薬剤である。 Open Labelでの試験であったが、スタチンで治療されている患者にこの薬剤を投与することにより、LDL-コレステロール値の減少と共に1年間における心血管イベントの有意な減少が、エボロクマブおよびアリロクマブに認められたことが報告され、大きな話題となった。ただ、対照群のLDL-コレステロール値が平均120mg/dLと両試験で高値であったこと、一方、PCSK9抗体群では平均60~70mg/dL程度であったことから、スタチンの種類や用量が十分に管理された試験であったのか、あるいはオープン試験であることでバイアスがなかったかなどの疑問点が残る試験ではある。 ただ、イベント低下効果のインパクトは、スタチンのみに依存するしかなかった現状を大きく変える可能性を示す試験であり、現在進行形の二重盲検のイベント試験の結果が待たれる。スタチンで成し遂げられなかった、LDL-コレステロール値の平均70mg/dLの壁を、この薬剤が超えてさらなるイベント低下になるのか、大いに期待と興味をかき立てる結果であった。

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エボロクマブ追加でLDL-Cが長期に減少/NEJM

 脂質異常症の標準治療に新規のLDLコレステロール(LDL-C)低下薬であるエボロクマブ(承認申請中)を追加し約1年の治療を行うと、標準治療単独に比べLDL-C値が有意に減少し、心血管イベントが抑制されることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMarc S Sabatine氏らOSLER試験の研究グループの検討で明らかとなった。エボロクマブは、前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、短期的な臨床試験でLDL-C値を約60%減少させることが確認されていた。NEJM誌オンライン版2015年3月15日号掲載の報告より。12件の親試験の第II、III相別の延長試験を統合解析 OSLER試験は、エボロクマブに関する12の親試験(parent study、第II相:5件[日本のYUKAWA-1試験を含む]、第III相:7件)を完遂した患者を対象とする延長試験であり、本薬の長期的な有用性の評価を目的に、OSLER-1試験(第II相試験)とOSLER-2試験(第III相試験)に分けて検討が行われた(Amgen社の助成による)。親試験には、脂質異常症治療薬未使用例、スタチン±エゼチミブ投与例、スタチン不耐容例、ヘテロ型家族性高コレステロール血症例などが含まれた。 被験者は、親試験での割り付けとは別に、標準治療+エボロクマブまたは標準治療のみを施行する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。エボロクマブは、OSLER-1試験では2週ごとに140mgが皮下投与され、OSLER-2試験では2週ごと140mgと月1回420mgのいずれかを患者が選択した。 脂質値、安全性および事前に規定された探索的解析として心血管イベント(死亡、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈血行再建術、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全)の評価を行い、2つの試験の統合解析を実施した。 2011年10月~2014年6月までに4,465例(OSLER-1試験:1,324例、OSLER-2試験:3,141例)が登録され、エボロクマブ群に2,976例(平均年齢57.8歳、男性50.1%、LDL-C中央値120mg/dL)、標準治療単独群には1,489例(58.2歳、51.4%、121mg/dL)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は11.1ヵ月であった。LDL-C値が61%減少、心血管イベントは53%減少 12週時のLDL-C値は、エボロクマブ群が48mg/dLであり、標準治療単独群の120mg/dLと比較した減少率は61%であった(p<0.001)。OSLER-1とOSLER-2試験の間に減少率の差はなかった。また、このエボロクマブ群のLDL-C値の減少は48週まで持続した(24週の減少率:59%、36週:54%、48週:58%、いずれもp<0.001)。 12週時に、エボロクマブ群の90.2%がLDL-C値≦100mg/dLとなり、73.6%が≦70mg/dLを達成した。標準治療単独群はそれぞれ26.0%、3.8%だった。 12週時の非HDL-C、アポリポ蛋白B、総コレステロール、トリグリセライド、リポ蛋白(a)は、LDL-Cと同様にエボロクマブ群で有意に減少した(いずれもp<0.001)。また、HDL-Cとアポリポ蛋白A1は有意に増加した(いずれもp<0.001)。 有害事象はエボロクマブ群の69.2%、標準治療単独群の64.8%に認められ、重篤な有害事象はそれぞれ7.5%、7.5%に発現した。神経認知障害(せん妄、認知/注意障害、認知症、健忘症など)はエボロクマブ群で多くみられた(0.9 vs. 0.3%)が、治療期間中のLDL-C値とは関連がなかった。 エボロクマブによる治療中止は2.4%、注射部位反応は4.3%に認められ、そのほか関節痛や頭痛、四肢痛、疲労感が標準治療単独群よりも多くみられた。 1年時の心血管イベントの発症率は、エボロクマブ群が0.95%であり、標準治療単独群の2.18%に比し有意に低かった(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.28~0.78、p=0.003)。 著者は、「61%というLDL-C値の減少率は、既報の短期的な試験と一致しており、48週にわたる効果の持続はより小規模な試験(DESCARTES試験)の結果と一致した。他の脂質に対する効果にも既報との一貫性が認められた」としている。

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SCOT-HEART試験:冠動脈疾患による狭心症が疑われる症例への冠動脈CT検査(解説:近森 大志郎 氏)-342

 冠動脈CT(CTCA)は外来で非侵襲的に実施できることから、本検査の日常臨床への広がりに伴い、虚血性心疾患が疑われる患者に対する、より良い診断アプローチの中心となることが期待されている。スコットランドの12の胸痛クリニックを中心としたSCOT-HEART試験の研究者たちは、有症状で狭心症が疑われる4,146例を対象にして、クリニックでの初期診療の後に無作為に2群(通常診療群 対 通常診療+CTCA群)に割り付けた。試験のエンドポイントは、冠動脈疾患による狭心症の診断についての確実性という、かなり主観性の強い評価項目である。しかも、Yes、Probable、Unlikely、No、と定義された診断の確実性について、初期診察時の確実性が6週後にどのように修正されたかという医師の認識に関する評価である。 対象症例の平均年齢は57歳で、男性が57%と多く、高血圧34%、糖尿病11%、脂質異常症53%、喫煙53%という冠危険因子の頻度であった。なお、症状として胸痛を訴えてはいるが、狭心症としては非典型的胸痛、あるいは非狭心症と判断された症例が65%と高率である。対象群の85%で運動負荷心電図が実施されて、62%が正常、15%が異常の結果を示した。この初期検査結果に基づき、主治医は診断の確実性を4つのカテゴリー(Yes 7%、Probable 29%、Unlikely 51%、No 13%)に判断した。そして、必要に応じて、負荷心エコー(31%)・核医学検査(9%)・侵襲的冠動脈造影(12%)の診断計画を立案した。この後、CTCA群では3つの画像センターでCT検査を実施している。 6週間後にこれらのデータを主治医が再評価して診断の確実性を見直したところ、CTCA群において冠動脈疾患による狭心症の診断頻度は変化しなかったが、確実性については相対リスク1.79と増加を認めた。すなわち、通常診療群では6週間で1%しか診断が変わらなかったのに対して、CTCA群では23%で診断が修正されたことになる。この結果、CTCA群では121例で機能的検査の予定がキャンセルされ、29例での侵襲的冠動脈造影もキャンセルされた。これに対して、94例の新たな冠動脈造影が予定された。さらに、1.7年の経過観察中に有意差はないものの、CTCA群では通常診療群と比較して相対的に38%の心事故低下を認めた。 本研究は、クリニックを中心とした実地診療に携わる医師が画像センターとタイアップすることによって、冠動脈疾患による狭心症の診断精度とマネジメントを向上できることを示した興味深い研究である。しかしながら、スコットランドという特定の地域の医療事情も無視することはできない。一般に英国の通常の医療は無償である一方、救急救命を除く医療へのアクセスが悪いことはよく知られている。受診までに長期の待ち期間を必要とするのである。初診から6週間経過しても、次の検査が実施されていないことは日本では稀であろう。多分、重症例では冠インターベンション治療も終了しているのではないか? このように考えると、CTCAの役割は画像診断としての科学的側面だけではなく、それが活かされるか否かについては、それぞれの地域における医療制度の適合性も無視することはできないと思う。

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