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甘草の重複から偽アルドステロン症を疑い、ただちに医師に電話【うまくいく!処方提案プラクティス】第9回

 今回は、整形外科領域で処方頻度の高い芍薬甘草湯による副作用の初期徴候と経過を把握することがキーとなった症例を紹介します。普段から症状や併用薬を確認することが副作用の早期発見に功を奏しました。処方提案後には、副作用が軽減したかモニタリングすることも重要です。患者情報80歳、女性(外来)、体重:70kg基礎疾患:腰部脊柱管狭窄症、高血圧症、脂質異常症血  圧:おおよそ130/70台を推移月1回整形外科を受診しており、薬剤は薬袋で自己管理している。処方内容(すべて継続処方薬)1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後3.リマプロストアルファデクス錠5μg 3錠 分3 毎食後4.メコバラミン錠500μg 3錠 分3 毎食後5.芍薬甘草湯7.5g 分3 毎食後6.ロスバスタチン錠5mg 1錠 分1 夕食後7.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による下肢の痛みや冷えのため芍薬甘草湯が処方されていました。投薬対応中に普段と何か変わったことはないか確認したところ、「最近、手足がだるくて、筋肉痛やこむら返りが起きる。市販薬を購入して服用しているけれど、むしろひどくなっている気がする」と聴取しました。市販薬の内容を確認すると、こむら返りや筋肉の痙攣に良いと聞いて購入した芍薬甘草湯エキス2.4g(商品名:コムレケア)であり、処方されている芍薬甘草湯と重複(甘草として12.0g/日)していました。市販薬の名称からは同じ漢方薬であるとは思わなかったようです。処方薬の芍薬甘草湯を服用中に手足のだるさや筋肉痛、こむら返りなどの症状が生じていることから偽アルドステロン症の可能性が疑われ、さらに市販薬を追加服用したことで症状の増悪に至ったと考察しました。さらに、双方の芍薬甘草湯によって降圧コントロールで服用しているフロセミドによる低カリウム血症が生じて、筋力低下や筋肉痛が生じている可能性もあると考え、医師への連絡が必要と考えました。<偽アルドステロンの注意点>偽アルドステロン症は甘草に含まれるグリチルリチンの活性代謝物であるグリチルリチン酸が、ナトリウム貯留や血圧上昇などのミネラルコルチコイド様作用を発揮することにより生じる。主な初期徴候は、手足のだるさ、しびれ、ツッパリ感、こわばり、筋肉痛、四肢脱力など。甘草2.5g/日以上、グリチルリチン100mg以上で発生リスクが高まるが、それ未満でもリスクはあるので注意が必要。利尿薬(とくにカリウム排泄型)が投与されている場合には、低カリウム血症を生じやすく、重篤化しやすい。処方提案とその後の経過患者さんに事情を話して投薬対応を一旦待っていただき、医師へ電話連絡することにしました。継続処方されている芍薬甘草湯による偽アルドステロン症の可能性があり、市販薬の芍薬甘草湯を購入して服用したことでさらに症状を助長させている可能性について報告し、今後の対応を相談しました。また、フロセミド服用で低カリウム血症が生じている可能性も考えられるため、血清カリウムの採血も提案しました。その結果、医師より処方薬と市販薬の芍薬甘草湯を中止するよう指示があったうえで、患者さんはすぐに再診となり、血清カリウムの評価のため採血検査が行われました。その2週間後に診察フォローがありましたが、予想どおり血清カリウム値が2.6mEq/Lと低カリウム血症でした。血圧推移は安定しており、浮腫もないことからフロセミドも中止となりました。今回問題となった手足のだるさや筋肉痛、こむら返りについては、芍薬甘草湯を中止して症状は改善し、再燃なく経過しています。ポケット医薬品集2019年版重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症

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治療抵抗性うつ病におけるMetS有病率~FACE-DR研究

 フランス・ソルボンヌ大学のOphelia Godin氏らは、フランス人の治療抵抗性うつ病(TRD)患者のコホートにおけるメタボリックシンドローム(MetS)有病率を推定し、社会人口統計学的、臨床的および治療に関連する因子との相関について検討を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2019年10月15日号の報告。 対象は、2012~18年に中等度~重度(MADRSスコア20以上)のうつ病エピソード(DSM-IV基準)を有し、ステージII以上の治療抵抗性(Thase and Rush基準)が認められたTRD患者205例。社会人口統計学的および臨床的特徴、ライフスタイルの情報、治療および併存疾患に関する情報を収集し、血液サンプルも採取した。MetSは、国際糖尿病連合(IDF)基準に従って定義した。 主な結果は以下のとおり。・MetS基準を満たしていたTRD患者は、全体の38%であった。・MetSの頻度は、40歳以上の患者において女性(35.2%)よりも男性(46.3%)で高かった(p=0.0427)。・糖尿病のマネジメントは良好であったが、高血圧または脂質異常症の治療を受けていた患者は3分の1未満であった。・多変量解析では、血清CRPレベルの異常は、他の潜在的な交絡因子とは独立して、MetSリスクを3倍増加させることが示唆された(95%CI:1.5~5.2)。 著者らは「TRD患者では、他の精神疾患患者よりもMetS有病率が高く、十分な治療が行われていない可能性がある。TRD患者の心血管疾患を予防するために、MetSの診断および治療をシステマティックに行う必要がある。本調査結果は、精神科医とプライマリケア医との連携を強化し、統合ケアの必要性を示唆している」としている。

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低LDLや低収縮期血圧と関連するgenetic variantsは生涯にわたる冠動脈疾患の低リスクと関連(解説:石川讓治氏)-1133

 高LDL血症および高血圧は冠動脈疾患の確立された危険因子である。本研究では、英国のバイオバンクに登録された43万8,952人の対象者のデータを用いて、低LDLコレステロール血症と関連するgenetic variantsが多い対象者と低収縮期血圧と関連するgenetic variantsが多い対象者を評価し、これらのgenetic variantsが、独立して、相加的に冠動脈疾患発症リスク低値と関連していたことを報告していた。これらのgenetic variantsの数が増えるにつれて連続的に冠動脈疾患発症リスクは低くなっていた。同様の関連は虚血性脳梗塞においても認められていた。 本研究では、低LDLコレステロール血症や低収縮期血圧と関連するgenetic variantsが少ない(つまりLDLコレステロールや収縮期血圧が高くなりやすい)対象者において、治療によるLDLコレステロールや収縮期血圧の低下度に影響を与えるかどうかは不明である。また、これらのgenetic variantsの有無によって、LDLや血圧の治療薬の選択や目標レベルを変えるかどうかも今後の課題である。サブグループ解析において、低LDL血症になりやすいgenetic variantsと低収縮期血圧になりやすいgenetic variantsの両方を持つ対象者の冠動脈疾患リスク低下度は、喫煙や肥満によって減少していた。有利なgenetic variantsの有無にかかわらず、喫煙や肥満といった治療可能な危険因子を改善することが重要であることは変わりないと思われる。

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「酸化コレステロール」を含んだ食品は食べないのが一番/日本動脈硬化学会

 メタボリックシンドロームにしばしば合併する脂肪肝だが、実は動脈硬化リスクも伴う。自覚症状に乏しいことから、一般メディアでは“隠れ脂肪肝”などと呼ばれ、患者から質問されることも珍しくない。しかし、脂肪肝だからと言って、ただ“脂モノ”を控えるという対処は正しくないという。 先日、日本動脈硬化学会(理事長:山下 静也)が開催したセミナーにて、動脈硬化と関連の深い「脂肪肝/脂肪肝炎」と「酸化コレステロール」について、2人の専門医が解説した。脂肪肝/脂肪肝炎は、肝硬変・肝がんだけでなく心血管疾患リスクにも はじめに、小関 正博氏(大阪大学大学院 医学系研究科循環器内科)が、脂肪肝の病態とリスクについて講演を行った。アルコールの影響を受けていない脂肪肝は、脂肪が肝臓に蓄積した「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、さらに炎症や線維化を伴った「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分類される。しかし、区別が難しいため、NAFLとNASHの総称として「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」とも呼ばれる。 NASHは、炎症を繰り返すうちに線維化が進み(肝硬変)、肝がんに至るケースもあるとわかってきた。20年ほど前は、「脂肪肝は、がんにならない」と言われていたが、ウイルス性肝炎由来の肝細胞がんが治療法の進歩により減り、相対的に、脂肪肝炎由来のがん症例の増加が浮き彫りになっているという。 小関氏は、「NASHがウイルス性肝炎と決定的に違うのは、虚血性心疾患のリスクを伴う点。米国において、NAFLD患者は肝がんより心血管疾患で死亡する例のほうが多いという報告1)もある。脂肪肝と脂肪肝炎は、今後さまざまな診療科が連携して診療していくべき疾患だ」と強調した。線維化の段階を評価し、NASHが疑われる場合は専門医へ NAFLDは、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病と高率に合併し、国内の有病率は、男性では40~59歳の40%以上、女性では60~69歳の30%以上との報告がある。また、NAFLD患者の生存率は、肝線維化と強く関連することがわかっている。 脂肪肝は、腹部エコーで腎皮質よりも白く映る(肝腎コントラスト陽性)所見により、健診などで発覚し、その後は『NAFLD/NASH診療ガイドライン20142)』のチャートに従って診断される。線維化の段階を評価するためには、FIB-4 index(肝線維化の進行度を非侵襲的に推測するためのスコアリングシステム/日本肝臓学会)や、MR Elastographyを用いた画像化による方法があり、NASHが疑われる場合は、専門医の受診が勧められる。動脈硬化性疾患のリスクに潜む“隠れ脂肪肝”を、今後見過ごすわけにはいかない。酸化コレステロールが「超悪玉コレステロール」のプラーク形成促進 次に、的場 哲哉氏(九州大学病院 循環器内科)が、酸化コレステロールと動脈硬化の関連性について説明した。動脈硬化は、高血圧、脂質異常症、糖尿病などによってダメージを受けた血管壁に、LDLが入り込むことで進行する。 通常、LDLはコレステロールを肝臓から末梢に運んでいるが、生活習慣病の人には、血管壁に入り込みやすい、小型で密度の高いLDL(small dense LDL)が存在するという。これは、“超悪玉コレステロール”とも呼ばれ、近年注目を集めている。このsmall dense LDLが、動脈硬化を強力に誘発すると考えられ、血清脂質値が正常にもかかわらず、動脈硬化を引き起こした例も報告されている。 血管壁に入り込んだLDLは、「酸化」されることで白血球のターゲットとなり、プラークの形成をもたらす。LDLの酸化反応は、身近な食品中にも含まれる「酸化コレステロール」によって促進され、とくに、small dense LDLは酸化しやすい。 つまり、動脈硬化を防ぐためには、酸化コレステロールが多く含まれる食品を避けたほうがよい。例えとして、焼き鳥の皮の部分、インスタントラーメンの麺、マーガリンやマヨネーズの変色した部分、二度揚げされた揚げ物、漬け込み保存された魚卵、加工肉食品、するめやビーフジャーキーなどUV照射を受けた食品などが挙げられた。酸化コレステロールを含んだ食品は食べないのが一番 続いて的場氏は、酸化コレステロールと心血管疾患との関連を裏付ける研究結果を紹介した。経皮的冠動脈インターベンション後の治療薬による効果をスタチン単独とスタチン+エゼチミブでランダム比較した「CuVIC Trial3)」では、冠動脈疾患患者において、血中酸化コレステロール高値が、LDL-コレステロール高値とともに冠動脈内皮機能障害と関連することが明らかになった。この内皮機能障害は、エゼチミブのコレステロール吸収阻害作用によって軽減されることが示された。 酸化コレステロールについてはさまざまな研究が行われているが、まだ解明できていない点も多く、現行のガイドラインには記載されていない。酸化コレステロールをバイオマーカーや治療標的として利用するためには、引き続き研究を重ねる必要がある。 同氏は、「酸化コレステロールを特異的に下げる薬はまだない。まずは酸化コレステロールの摂取を避け、食事療法と運動療法を組み合せた生活習慣の改善が重要」と締めくくった。

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第32回 右脚ブロックの“魔法”に注意!~華々しさに潜む傷跡~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第32回:右脚ブロックの“魔法”に注意!~華々しさに潜む傷跡~ある日、交通外傷の患者さんが運ばれて来ました。意識レベルも悪く右足からはひどく出血し、変形もあり骨折していそうです。それだけを見て「整形外科」を案内して良いでしょうか? 皆さんなら外表からはわかりにくい頭部や内臓にも異常がないかチェックするでしょう。当たり前のことのようですが、こと心電図の話となると別物。目立つ所見にばかり気を取られ、より重要な部分に注意が及ばないことがしばしばあります。こうした状況を「右脚ブロック」を例にDr.ヒロと一緒に確認してみましょう!症例提示70歳、女性。高血圧症、脂質異常症、心臓弁膜症(大動脈弁閉鎖不全症)にて内服治療中である。定期外来で記録された心電図を以下に示す(図1)。(図1)定期外来での心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として誤っているものを2つ選べ。1)QRS電気軸:+120°2)洞(性)徐脈3)完全右脚ブロック4)PR(Q)延長5)低電位(胸部誘導)解答はこちら1)、5)解説はこちら1問目はイントロ問題。軽~中等度の大動脈弁閉鎖不全症のある70歳、女性です。いつもの通り、まずは“真っ白な心”で心電図を眺めます(第10回、第30回)。もちろん読みは「系統的判読」でね(第1回)。1)×:電気軸はQRS波の「向き」に注目します。お決まりの順番はaVL:下、I:ほぼ“トントン(第9回)”、-aVR:上、II:上、です。I(+0°)を“トントン・ポイント”(TP)と考えれば、TPに直交し(±90°)、aVFが上向きですから「+90°」を選択します(あえて消去した自動計測値は「+78°」でした)。2)○:調律の判定は、はじめの“レーサー(R3)・チェック”です。R-R間隔は整、心拍数は“新・検脈法”(第29回)を使って、胸部誘導の最後を「+0.5拍」と数えて7.5×6=45/分なので徐脈ですね。P波の向きは“イチニエフの法則”(第2回)通りで「洞調律」ですから、心拍数からは「洞(性)徐脈」です。3)○:QRS波の向き・高さ・幅を“スパイク・チェック”しましょう。幅は一番広いところで見ると3~4目盛りあり、幅広(wide)です(自動計測値も「136ms」)。QRS幅が広い時に考えるのは「脚ブロック」で、普通はまず右脚か左脚かを考えます。V1とV6誘導による“顔認証”が診断の基本で、「右脚ブロック」は以下のように特徴的な形をしたV1誘導に反応できるようになりましょう(図2)。(1)「rsR'型(ないしそのバリーエション)」や(2)「RR'型(またはrR'型)」の2つが大半を占め、これらはともに“M字”パターンのQRS波形となるのが特徴的です。ワイドで単相の(3)のようなパターンもありますがまれなので、まずは“M字”で覚えておきましょう。QRS波の命名法を意識すれば、今回は「rsR'型」となり、“M字サイン”陽性で「完全右脚ブロック」です。(図2)右脚ブロックのQRS波形(V1誘導)画像を拡大する4)○:「PR(Q)間隔」は“バランス・チェック”でしたね。P波とQRS波が“つかず離れず”と言えるのは3~5目盛りで、時間にすると120~200ms(0.12~0.2秒)です。心電図(図1)ではPR(Q)間隔はほぼ6目盛り(240ms)ですので、「第1度房室ブロック」と言えるレベルの「PR(Q)延長」でしょう。5)×:「低電位(差)」は肢誘導と胸部誘導とで診断基準が異なり、多くは肢誘導で見られます。「すべての(胸部)誘導でQRS波の振幅≦1.0mV(1cm)」が胸部誘導での基準ですが、一番大きなV4誘導に着目すれば、R波高だけでも1cm(10mm)ありますので、「低電位(差)」には該当しません。心電図診断洞(性)徐脈(45/分)完全右脚ブロック第1度房室ブロック症例提示80歳、男性。転居に伴い来院(初診)。紹介状(診療情報提供書)は持参していない。お薬手帳を確認すると、糖尿病、脂質異常症、高血圧症で内服加療されている様子。心疾患の既往を問診すると、以下の返答であった。「心臓の病気? あー、血管が詰まったよ。2~3度はカテーテルも受けたかな。今は胸には何にもないよ」血圧148/67mmHg、脈拍90/分・整。以下に心電図(図3)を示す。(図3)初診外来時の心電図画像を拡大する【問題2】心電図所見として正しいものを選べ。1)洞(性)頻脈2)右軸偏位3)完全右脚ブロック4)ST上昇5)QT延長解答はこちら3)解説はこちら転医してきた患者さんですが、皆さん、こういう状況ってままありませんか? 紹介状もない状況で、“お薬手帳”と初診時検査からある程度の推測を余儀なくされる患者さん…そんな状況でとられた心電図の読みが問われています。仮に紹介状があったとしても、心電図の読みは平坦な気持ちで眺めましょう。1)×:R-R間隔は整でおおむね太枠(マス)3.5個分くらいなので、「頻脈」ではないですね。もちろん“新・検脈法”で84/分と求めて判断してもOKです。2)×:QRS波の「向き」は、I:上、aVF:下は明らかですから、「左軸偏位」ゾーンです。“トントン法Neo”(第11回)を使えば、正味で-aVRは「+1mm」、IIが「-1mm」ですので、両者の中間(+45°)に“トントン・ポイント”はあります。IないしaVFの極性から求める電気軸は「-45°」ですよね。Dr.ヒロお得意の“左右違い”です。3)○:見た目に1問目の波形よりもQRS幅は明らかに広く、V1誘導も「rSR'型」ですから、「完全右脚ブロック」の診断で間違いありません。ちなみに、イチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)の「側壁誘導」で最後のS波が“おデブ”な感じ(slurred S-wave)になるのも、右脚ブロックの特徴ですから知っておきましょう。4)×:これは“目のジグザグ運動”ね(第14回)。V1誘導だけ微妙ですが、ギリギリ・セーフと考えて下さい。ST変化に関しては、むしろニサンエフ(II、III、aVF)の「ST低下」があるように見えます。5)×:QT間隔もPR(Q)間隔と同様に“バランス・チェック”です。心拍数が正常範囲(50~100/分)なら、R-R間隔の半分までは“セーフ”と考える(目視法)か、自動計測の「QTc間隔」*1の“カンニング”も実践的です。wideなQRS波では長く見えがちですが、今回は「QT(c)延長」はありません。*1:実は「QT(c)時間」には性差があり、男性:450ms、女性:460msを上限と考えると良い。【問題3】自動診断は「前壁梗塞の可能性」となっている。どの所見によるものか。また、早急な対処が必要か?解答はこちら V2、V3誘導の異常Q波、早急な対応はおそらく不要(陳旧性心筋梗塞)。解説はこちらボクが解説したかった本題は、コレです。人によって多少の差はあるかもしれませんが、この心電図(図3)で一番目立つ所見は「完全右脚ブロック」。次に「左軸偏位」かなぁ…? でも、それだけで終了したら、「系統的判読」の観点からは“半人前”。前問で扱ったST変化以外にもう一つ、大事な所見があります。それは前々回(第30回)に扱った「異常Q波」。これは右前胸部誘導(V1~V3)に注目して下さい!“右脚ブロックの“魔法”に注意せよ”科学的ではありませんが、「脚ブロック」には“魔力”があります。心電図を読む者に“魔法”をかけて混乱させるのです。それ自体を見つけた満足感からほかの所見を見落としてしまったり、逆にそれ以上読まなくていい所見*2で騒いでしまったり…。*2:「左脚ブロック」にも、「異常Q波」や「ST上昇」、「陰性T波」…それ自体に病的意義を求めてはいけない“魔力”所見がある。右前胸部誘導のST-T変化は「2次性変化」と呼ばれ、脚ブロックに“流されて”生じる所見と考えましょう。そのため右脚ブロックの場合、V1~V3誘導のST部分が“マスク”されて判定不能になりますが、その他の多くは「普段通り」読めるのです。“おデブ”なQRS波に心乱されないようにしてくださいね。ポイントは“クルッと”の“ク”で、「異常Q波」を指摘するプロセス。V1には1mmにも満たないですが、きちんと陽性波(r波)から始まっています*3。でも、V2とV3にはそれがなく、陰性波から始まっていますね。つまり「Q波」、しかもダメなやつです。V1~V3誘導では、「存在する」、すなわち「異常」でしたから、V2、V3誘導には「異常Q波」があり、隣り合う2つにこれがあったら…まず疑うべきは「心筋梗塞」による壊死巣の存在でしたよね(第17回、第30回)。V2~V4誘導は前胸壁のド真ん前にある誘導ですから、梗塞部位はズバリ左室「前壁」*4ですね。*3:1mmに満たないr波は「ない」と考え、「Q波あり」とする考え方も一部にあり。*4:V1誘導にもQ波ありと考えたら「前壁中隔」ですね。「そう言われるとたしかにそうだなぁ~」そうなんです! こんなに幅広く(1mm以上)、しかも深い(V2:9mm、V3:3mm)のに“見逃す”んです。あたかもwideなQRS波にすべてを包み込まれるかのように…これが右脚ブロックの“魔法”ですから、とくに注意して臨むようにしましょう。その意味では、必ず最後に「自動診断」を確認するクセをつけると良いでしょう。“カンニング”を積極的に薦める先生って、Dr.ヒロくらいかも(笑)。今回なら「前壁梗塞の可能性:V2・V3」という“ヒント”から、「異常Q波はあったっけ…」と思えたら見逃しは水際で防げるかもしれません。■右脚ブロックの“魔力”に注意!■V1~V3誘導のST低下、陰性T波「以外」は普通に読んでOK“急性か陳旧性か?”心筋梗塞は時期により、おおむね発症1週間以内が「急性期」、1ヵ月以上経ったら「陳旧性期」と呼ばれます*5。さて、心電図で心筋梗塞の所見を見た時、「部位」の次に問題にするのは「時期」、つまり“いつ”起きたかということです。皆さんも医学生時代から必死に覚えたのではないでしょうか? T波増高、ST上昇、異常Q波、ST回復、陰性T波…。それぞれが○時間、ないし○日とかね。でも、実際には各所見の有無で「発症後○○時間(日)」と推定できるほど単純ではありません*6。*5:1週間と1ヵ月の間は「亜急性期」と呼ぶ。10日~2、3週間くらいのイメージで良い。*6:来院・診断・PCIのタイミングで全然異なる。今回の症例のように「症状(胸痛)がない」、「ST上昇がない」のに“現在進行形”、つまり「急性」を疑うのは基本ナンセンスです。今回は普通の外来ですからね。ほかにすることは…? もちろん、患者さんへの問診や、過去の心電図との比較が大事です。今回の方は、病歴や心エコー所見(前壁の菲薄化)、そして後日届いた前医からの紹介状にあった数年前の心電図でも、同様な所見を確認できたので「陳旧性」と判断しました。当然、至急の対応などは不要ですよね。以上、“右足のキズ”(右脚ブロック)に潜む古い心筋梗塞の“爪痕”(異常Q波)を探す練習をしました。Take-home Message「脚ブロック」には“魔力”がある~「見落とし」や「深読み」に注意せよ右脚ブロック波形に紛れた異常Q波(とくにV1~V3誘導)を見逃すな!【古都のこと~宇治上神社~】皆さんは、宇治市には世界文化遺産が2つあることをご存じでしょうか? 一つは誰もが知る宇治平等院。もう一つはウジガミ神社、「氏神」ではなく「宇治上」と書く平等院の鎮守社*1です。平等院から宇治川を“川向こう*2”に渡って「さわらびの道*3」を行き、学問の神「宇治神社」*4にも参拝を済ませたら徒歩数分で赤鳥居に到着します。簡素な門をくぐって縋破風(すがるはふ)が美しい拝殿に対面。両横の円錐形の“清め砂”の存在感に背筋が伸びます。そして「桐原水」*5が湧き出ている手水舎側から裏手に回れば、世界遺産たる由縁の本殿(国宝)が姿を現します。平安時代後期に伐採された木材が使われ、神社建築としては現存最古になるとのこと。「一間社流造の内殿三棟*6」…素人のボクには「意外にアッサリしてるなぁ」というのが正直な感想(笑)。平等院と対照的なのは、ここ朝日山の山裾には“静”の空気が流れており、より精神が研ぎ澄まされるでしょう。最後に宮司お手製の限定御朱印をゲットすれば、秘かな宇治の魅力を堪能できます。皆さまもぜひ、平等院とともに訪れてみてください。*1:「(宇治)離宮明神」の神位を与えられており、宇治上神社の別称でもある。*2:宇治川(淀川の京都府内での名称)。*3:この辺りは光源氏の死後、薫君や匂宮を中心に描かれる『宇治十帖』の舞台にもなっている(「早蕨」は四十八帖)。*4:宇治上神社にも祀られる菟道稚郎子(うじのわきいらつこ:応仁天皇の末子)が祭神。聡明で百済で学問を究め皇太子となったが、異母兄の大鷦鷯尊(おおさざきのみこと、のちの仁徳天皇)に皇位を譲るべく自死したという美談に涙。宇治上神社と宇治神社は明治維新までは二者一体で、離宮上社・下社と呼ばれていた。*5:残存する「宇治七名水」はここのみ。三大銘茶の一つを支えた貴重な水と思われる。*6:いっけんしゃながれづくり。「一間社」は正面の柱間が一つのもの。「流造」は前面の屋根を長く伸ばしたスタンダードな神社形式の一つ。宇治上神社は内殿三棟を覆屋(後世にかけられた)が囲む様式で、一般的な神社とは異なる外観。写真では確認できないが、左右の社殿が中央よりも大きいのも特徴。

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脳梗塞・心筋梗塞既往歴のない患者でのアスピリン中止提案 【うまくいく!処方提案プラクティス】第8回

 今回は、抗血小板薬の中止提案を行った症例を紹介します。抗血小板薬の目的が動脈硬化性疾患の1次予防なのか2次予防なのかによって治療や提案すべき薬剤が異なってきますので、普段から患者さんの既往歴などの情報を得て、エビデンスを提示しながら提案できるとよいでしょう。患者情報80歳、女性(個人在宅)、体重:53kg、Scr:0.8基礎疾患:アルツハイマー型認知症、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症、症候性てんかん、心房細動、高血圧症、脂質異常症血  圧:130/70台服薬管理:同居の長男夫婦がカレンダーにセットされた薬で管理、投薬。長男夫婦の在宅時間に合わせて用法を朝夕・就寝前に設定。往  診:月2回処方内容1.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ウルソデオキシコール酸錠100mg 3錠 分1 朝食後4.L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 2錠 分2 朝夕食後5.バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg 2錠 分2 朝夕食後6.プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 夕食後7.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前8.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週木曜日9.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後(新規追加)本症例のポイントこの患者さんは、もともと循環器系の複合的な疾患がありますが、主治医からの診療情報提供書やケアマネジャーからのフェイスシートによると、脳梗塞や心筋梗塞の既往はありませんでした。ところが今回、心房細動と診断され、アスピリン腸溶錠が開始になったため大変驚きました。脳梗塞・心筋梗塞後などの再発予防目的(2次予防)としての抗血小板薬服用は臨床的使用意義が大きいことが確認されています。しかし、発症を未然に防ぐ目的(1次予防)の抗血小板薬の服用は、臨床効果よりも有害事象が上回ることが指摘されています。【JPAD試験1)】対象:動脈硬化性疾患の既往歴のない30〜85歳の2型糖尿病患者2,539例方法:アスピリン(81mgまたは100mg)投与群と非投与群に1:1に無作為に割り付けた(追跡中央値4.37年)評価項目:動脈硬化性疾患結果:動脈硬化性疾患の発現はアスピリン投与群で13.6件/1,000人年、非投与群で17.0件/1,000人年とアスピリン群で20%低い傾向にあるものの、統計学的有意差はなかった。【JPPP試験2)】対象:高血圧、脂質異常症、糖尿病を有する60〜85歳の日本人1万4,464例方法:既存の薬物療法+アスピリン(81mgまたは100mg)併用群と既存の薬物療法のみの群に無作為に1:1に割り付けた(追跡中央値5.02年)評価項目:心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合アウトカム結果:複合的アウトカムの発現率はアスピリン投与群で2.77%、アスピリン非投与群で2.96%とほぼ同等であったが、胃部不快感、消化管出血、さらに重篤な頭蓋外出血の有害事象はアスピリン投与群で有意に多かった。処方医は私が普段から訪問同行していない医療機関の医師でしたので、治療方針や処方意図は十分に把握できていないものの、上記の低用量アスピリンの1次予防のエビデンスから今回のアスピリン腸溶錠の中止および代替案の提示が必要と考えました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、JPAD試験とJPPP試験のデータを紹介し、1次予防のアスピリン腸溶錠の臨床的意義は低く、むしろ消化管出血などの有害事象のリスクがあるため、他剤への変更を提案しました。代替案については、心房細動における1次予防には直接経口抗凝固薬(DOAC)が適応と考え、腎機能・体重に合わせた補正用量であるエドキサバン30mg/日を提示しました。その後、トレーシングレポートを読んだ医師より電話連絡があり、提案のとおりにアスピリンを中止してエドキサバン30mgに変更する承認を得ることができました。速やかに処方変更の対応を行い、患者さんは胃部不快感や胃痛もなく経過しています。またエドキサバン変更後の皮下出血や鼻出血などの出血兆候もなく、副作用モニタリングは現在も継続中です。今回の症例のように1次予防の抗血小板薬については、基礎疾患や現病歴から適応の判断を検討し、医師とディスカッションを行うことで変更が可能かもしれません。1)Ogawa H, et al. JAMA. 2008;300:2134-2141.2)Ikeda Y, et al. JAMA. 2014;312:2510-2520.

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第16回 その腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式に要注意! 安易に胃腸炎と診断するな!2)お腹が軟らかくても安心するな! 血管病変を見逃すな!3)陥りやすいエラーを知り、常に意識して対応を!【症例】66歳女性。来院当日の就寝前に下腹部痛を自覚した。自宅で様子をみていたが、症状改善せず救急外来を受診。担当した医師は、お腹は軟らかいので消化管穿孔はないと判断し一安心。しかし、痛みの訴えが強いためルートを確保し、アセトアミノフェンを点滴から投与し、まずは腹部単純CT検査をオーダーし、ほかの患者を診ることとしたが…。●搬送時のバイタルサイン意識1/JCS血圧148/92mmHg 脈拍102回/分(整) 呼吸24回/分 SpO298%(RA)体温35.9℃ 瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧、脂質異常症内服薬アムロジピン(商品名:アムロジン)、アトルバスタチン(同:リピトール)腹痛診療は難しい!?腹痛は、救急外来、一般外来どちらでも頻度の高い症候です。ところが、問題なく帰宅とした患者さんが再受診することも珍しくありません。救急外来を受診し、72時間以内に再受診した患者のうち、最も頻度の高い症候が「腹痛」であったと報告されています1)。「心窩部痛で来院して、その後虫垂炎と判明した」「胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスだった」「急性膵炎だと思ったらアルコール性ケトアシドーシスだった」など、誰もが経験あるでしょう。さらに、急性心筋梗塞、大動脈解離、腹部大動脈瘤切迫破裂、上腸間膜動脈塞栓症、精巣捻転、女性であれば異所性妊娠や卵巣捻転など、見逃してはならない疾患も複数存在するため、心して診療する必要があります。重篤な腹痛の見極め方救急外来など、発症早期に受診する場において、確定診断するのは簡単ではありませんが、目の前の患者が重篤なのか、緊急性が高いのかを判断することは、意外と難しくありません。危険な疼痛を見逃さないために着目するポイントは、表の6つです。腹痛を例に1つずつ確認していきましょう。表 危険な疼痛を見逃すな ―常に意識すべき6つのこと―1)痛みの訴えが強い場合は要注意!患者さんが痛みを強く訴えている場合には、慎重に対応する必要があります。当たり前のようですが、バイタルサインが安定しているケースで、検査で異常を見いだせない場合は、「大げさだなぁ」と思ってしまいがちです。また、発症早期の場合には検査上、異常がないことはよくあることです。さらに、今回の症例のように、単純CT検査ではなかなか腸管や血管の病変の詳細な評価が困難なことは容易に想像がつくでしょう。初療をしつつ、痛みはなるべく早期に取り除くようにしましょう。苦痛を取り除き、詳細な病歴を聴取し、十分な身体所見をとるのです。鎮痛薬を使用することで診断が遅れることはありません。むしろ適切な判断ができるでしょう2,3)。絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈塞栓症は、単純CTや造影CT検査で異常がなく問題なしと判断され、見逃される典型です。患者さんの訴えを重視し、対応しましょう。2)突然発症の疼痛は要注意!Sudden onsetの病歴はきわめて重要です。腹痛では大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤切迫破裂などが代表的です。来院時にバイタルサインや痛みが安定しているようでも、発症様式が“突然”であった場合には、注意する必要があることはあらためて理解しておきましょう。大動脈解離や腹部大動脈瘤切迫破裂では、失神を主訴に来院することもあります。失神は瞬間的な意識消失発作でしたね(第13~15回を参照)。どちらの疾患も裂け止まっていると、バイタルサインも症状も落ち着いているものです。発症様式から具体的な疾患を想起し、意識して所見をとりにいきましょう。鑑別に挙げなければ、血圧の左右差を確認することもないですし、腹部の拍動、さらにはエコーで見るべきところを見忘れてしまいます。3)増強する疼痛は要注意!アセトアミノフェンの静注薬が使用可能となり、来院早期から鎮痛薬を使用することが多くなったのではないでしょうか。患者さんの痛みを早期に取り除くことは、望ましい対応ですが、1つ注意点があります。“鎮痛薬の使用は原則1回まで!”、これを意識しておきましょう。使いやすく投与時間が短い(15分)ため、繰り返し使用したくなりますが、一度使用し効果が乏しい場合には、その時点で“まずい”と判断し、対応する必要があります。もちろん、鎮痛薬使用前に評価は行いますが、同時に複数の患者を診ることが多いのが通常でしょうから、痛みは速やかにとりつつ、効果が乏しければ1時間様子をみるなどせず、次のアクションに移りましょう。絞扼性腸閉塞や上腸間膜動脈閉塞症では、痛みが持続し、増強していきます。時間が経てば誰でも判断可能ですが、その前の状態で拾い上げるためには、「経静脈的な鎮痛薬でも効果が乏しい」ということを意識しておくとよいでしょう。4)非典型的な経過は要注意!腹痛で見逃されやすい代表疾患の1つに虫垂炎があります。発症早期で疑いながらも診断へ至らないことも多いですが、胃腸炎と誤診されることも少なくありません。異所性妊娠も同様に胃腸炎と誤診されやすいことも合わせて覚えておいてください。これを防ぐのは意外と簡単です。胃腸炎の典型例を知ること、これだけでだいぶ違うでしょう。胃腸炎には満たすべき条件が3つ存在します。それが(1)嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり、(2)上から下の順に(1)の症状が出現、(3)摂取してからの時間経過が合致、です4)。虫垂炎は心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛が典型的です。異所性妊娠も腹痛の後に嘔吐を認めることが多いでしょう。その他、腸閉塞や急性膵炎、胆管炎や尿管結石などなど、意識すれば拾い上げられる疾患は多岐にわたります。(3)は中毒との鑑別に有用です。食べた物によって消化管の症状が生じるには最低でも30分、通常数時間のタイムラグが生じます。食事中に、または食べてすぐに嘔吐などの症状を認める場合には、中毒を疑い、混入物などに気を配ったほうがいいでしょう。5)Common is common!腹痛を訴える30代の女性が、顔面に蝶形紅斑様、四肢の関節痛の症状を認めたら何を考えるでしょうか。蝶形紅斑とくれば全身性エリテマトーデス(SLE)と考えがちですが、それ以上に頻度の高い疾患が存在します。それが伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」です。疫学は非常に重要であり、それを無視してしまうと、診療は複雑化し、さらに患者は不安をあおられます。頻度の高い疾患の非典型的症状と、頻度の低い疾患の典型的症状は、どちらが遭遇する頻度が高いかといえば、一般的には前者です。今回の例でいえば、伝染性紅斑は成人に起こると、発熱、関節痛がメインに出て、小児で認められるようなレース状皮疹を認める頻度は下がります。子供の間で流行していると、そこから接触時間の長い母親や保育士さんへ感染するのです。それに対して、SLEは名前こそ有名ですが、救急外来でSLEの初発症状に出くわすことはまれです。頻度の高い疾患から考え、対応し、確定できれば、重篤な疾患もルールアウトできるのですから、きちんと“common disease”を理解しておくことは重要なのです。「お子さんの学校で、りんご病流行っていませんか?」「息子さん、最近りんご病にかかりませんでしたか?」と問診し、「YES」と回答があればその時点で診断確定でしょう。抗核抗体をとりあえず提出、膠原病の可能性を患者に伝えてしまうと、患者は不安で仕方なくなってしまうでしょう。腹痛患者に皮疹を認める場合には、網状皮斑(livedo)であれば、ショックと考え焦る必要があります。その他、腹痛に加え関節痛、紫斑を認めれば、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も考えましょう。6)病歴・身体診察・Vital signsは超重要!病歴(History)、身体診察(Physical)、Vital signs、これらは常に超重要です。Hi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ)を軽視し、検査を行うとまず見逃します。意識すべき病歴は前述のとおりであり、ここでは身体診察、Vital signsのポイントをコメントしておきましょう。(1)身体診察診察上、腹膜炎を示唆するカッチカチの腹部所見であれば、悩むことは少ないでしょう。それに対して、本症例のように腹部が軟らかい場合には判断を誤りがちです。漏れているのが消化液の場合(消化管穿孔など)には腹部がカッチカチとなりますが、血液の場合(腹部大動脈瘤切迫破裂や異所性妊娠)には軟らかいままです。腹部が軟らかいのに反跳痛を認める場合には、これらの疾患を積極的に疑い、エコーなど精査を迅速に進めましょう。(2)Vital signs呼吸数、意識にとくに注目しましょう。発熱がないから、頻脈でないから、血圧が保たれているからと、重症度を見誤ることがあります。内服薬の影響、糖尿病・アルコール多飲者・パーキンソン病などでは、自律神経障害の影響などによって、見た目の重症度がマスクされることがあります。呼吸数や意識状態に影響する薬剤を常時内服している人はまれであるため、頻呼吸を認める、意識障害を認める場合には“まずい”サインと認識し、精査を進めましょう。本症例の66歳の女性は、突然発症ではなかったものの、痛みの程度は強く、アセトアミノフェン投与後も症状は大きく変化しませんでした。単純CT検査では明らかな閉塞機転は見いだすことができず、対応に困って研修医から相談があった一例です。エコーでは、初診時に認めなかった少量の腹水を認め、その他腹痛を説明しうる所見が認められなかったため、来院後の経過から「絞扼性腸閉塞の疑い」として外科へコンサルトし緊急手術となりました。検査は以前と比較しオーダーしやすくなりました。しかしそのために、検査で異常を見いだせないと患者の訴えを無視してしまいがちです。Hi-Phy-Viに重きを置き、検査前確率を意識して適切な検査のオーダーと解釈を心掛けましょう。1)Soh CHW, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E457. doi:10.3390/medicina55080457.2)Ranji SR, et al. JAMA. 2006;296:1764-1774.3)坂本 壮. medicina.2019;56:1620-1623.4)坂本 壮. 見逃せない救急・見逃さない救急. プライマリ・ケア. 2019;4.(in press)

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180)なかなか覚えられない薬の名前【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:飲んでいる薬の名前は?説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師では、「〇〇(薬の名前)」を出しておきますね。患者えっ、それは何ですか?医師いつものお薬ですよ。(薬の名前をメモに書いて渡す)患者糖尿病の薬か。薬の名前ってカタカナばかりだから、なかなか覚えられなくて…。医師好きな車やお酒の名前は、カタカナでも覚えているでしょ?患者なるほど。たしかに、好きなものは覚えられますね。医師災害時のことを考えると、飲んでいる薬の名前は覚えたほうが安心ですよ。患者そう言われると、そうですね…。医師それに、いろいろな薬の名前を覚えるのは、脳トレにもなるかもしれません。患者…スラスラ言えたら、なんかかっこいいですね。医師覚えるときは、薬の名前を声に出して言うと、記憶によく残りますよ。患者わかりました。やってみます!●ポイント薬の名前についての会話をきっかけに、自分が飲んでいる薬を覚えておく意義を理解してもらいましょう。

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家族性高コレステロール血症患児へのスタチン、成人期の心血管リスク低減/NEJM

 小児期にスタチン治療を開始した家族性高コレステロール血症患者は、成人期の頸動脈内膜中膜肥厚の進行が抑制され、心血管疾患のリスクが低減することが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのIlse K. Luirink氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2019年10月17日号に掲載された。家族性高コレステロール血症は、LDLコレステロール値の著しい増加と心血管疾患の早期発症を特徴とする。小児へのスタチン治療の短期的効果は確立されているが、心血管疾患リスクの変動を評価した長期的な追跡研究は少ないという。20年後に、患児を非罹患同胞および罹患親と比較 研究グループは、家族性高コレステロール血症小児患者へのスタチン治療に関する20年間の追跡調査の結果を報告した(オランダAMC Foundationの助成による)。 過去に、プラバスタチンの2年投与の有効性と安全性を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(1997~99年、単施設)に参加した家族性高コレステロール血症患者214例(98%は遺伝学的に確認)に対し、同症に罹患していない同胞95例とともに、追跡調査への参加を依頼した。 参加者は、質問票に回答し、血液検体を提供し、頸動脈内膜中膜肥厚の測定を受けた。家族性高コレステロール血症患者の心血管疾患の発生率を、同症に罹患している親156例と比較した。39歳時の心血管イベント:患者1% vs.罹患親26%、心血管死:0% vs.7% 当初の試験に参加した家族性高コレステロール血症患者214例(平均年齢13.0±2.9歳、男性47%)のうち、試験開始から20年の時点で追跡調査に応じたのは184例(86%)(31.7±3.2歳、48%)で、非罹患同胞は95例(12.9±2.9歳、53%)のうち77例(81%)(31.6±3.0歳、56%)が調査に参加した。 214例の患者のうち、203例(95%)で心血管イベントのデータが、214例(100%)で心血管系の原因による死亡のデータが得られた。追跡調査時に、184例のうち146例(79%)がスタチンを使用していた。 患者の平均LDLコレステロール値は、237.3mg/dLから160.7mg/dL(6.13mmol/Lから4.16mmol/L)に低下し、ベースラインからの低下率は32%であった。治療目標(LDLコレステロール値<100mg/dL[2.59mmol/L])は37例(20%)で達成され、このうち8例は<70mg/dLに低下していた。一方、非罹患同胞の平均LDLコレステロール値は、98.5mg/dLから121.9mg/dL(2.55mmol/Lから3.15mmol/L)に増加し、増加率は24%だった。 全追跡期間における頸動脈内膜中膜肥厚の進行の平均値は、家族性高コレステロール血症患者が0.0056mm/年、同胞は0.0057mm/年であった(性別で補正後の平均差:-0.0001mm/年、95%信頼区間[CI]:-0.0010~0.0008)。 39歳時の心血管イベント累積発生率は、家族性高コレステロール血症患者が、罹患している親よりも低かった(1% vs.26%、性別と喫煙状況で補正後の無イベント生存率のハザード比[HR]:11.8、95%CI:3.0~107.0)。また、39歳時の心血管系の原因による死亡の累積発生率も、家族性高コレステロール血症患者のほうが罹患親よりも低かった(0% vs.7%)。 著者は、「LDLコレステロールは、アテローム硬化性心血管疾患をもたらす経路における主要な因子と考えられ、LDLコレステロール値を低下させる治療は、アテローム硬化性心血管疾患の進行の予防あるいは緩徐化において重要であることが明らかとなった」としている。

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第30回 抗精神病薬による体重増加、薬剤ごとに差【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗精神病薬による体重増加、脂質異常症や高血糖などの代謝障害は比較的よく知られている副作用で、とくに第1世代に比べて第2世代の抗精神病薬で高頻度に報告されています。治療継続の妨げになったり、長期的な心血管イベントのリスクが上昇したりすることがあるため、長期間服用するためには体重や検査値のチェックが欠かせません。今回は、体重増加の機序や薬剤による違い、対処方法について紹介します。体重増加の機序体重増加の原因は特定されておらず、薬剤の影響で食欲が亢進して過剰に摂食したというだけでなくさまざまな説があります。実際、自覚的な食事量が変わらなくても体重が増加しているケースもあるように思います。その機序として、脂質酸化の減少と炭水化物酸化の増加、セロトニン/ドパミン/ヒスタミンなどの各種受容体への作用、視床下部ペプチドによって食欲亢進や満腹感低下が生じる可能性が指摘されています。さらに、摂食やエネルギー代謝に関わるペプチドであるアディポネクチンの減少、抗精神病薬により脂肪組織から放出されるホルモンであるレプチンに対する耐性がカロリー摂取量の増加と脂肪組織の増加の機序として考えられています1)。ダイエットに関心がある患者さんで、アディポネクチンやレプチンを知っている方にお会いしたことがありますので、そういう患者さんに詳しく説明し過ぎるとアドヒアランスに影響しかねないため注意が必要な場合もあると思います。総脂肪率増加の程度1つ以上の精神障害や攻撃性のため精神病薬を検討している6~18歳の患者144例を、経口アリピプラゾール(49例)、オランザピン(46例)またはリスペリドン(49例)にランダムに割り付けて12週間治療し、総体脂肪率およびインスリン感受性を調べた試験があります。12週時点で、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)で測定した総脂肪率は、リスペリドンで1.18%増加、オランザピンで4.12%増加、アリピプラゾールで1.66%増加しました。インスリン刺激によるグルコース消失率の変化は、リスペリドンで2.30%増加、オランザピンでは29.34%減少、アリピプラゾールで30.26%減少となっており、薬剤間で有意差はありませんでした。MRIによる腹部脂肪測定では、皮下脂肪はリスペリドンまたはアリピプラゾールよりもオランザピンで有意に増加していました。なお、すべての治療群で行動の改善がみられています2)。体重増加の薬剤間比較体重増加の程度は薬剤によって異なりますが、とくにクロザピンやオランザピンでその程度が大きいことが示唆されています。第2世代抗精神病薬で治療された患者の体重、コレステロールおよびグルコースの変化を評価した48のランダム化比較試験のシステマティックレビューの結果は次のとおりです3)。クロザピンはリスペリドンと比較して体重が増加した(平均差[MD]:2.86kg、95%信頼区間[CI]:1.07~4.65、459例の患者を対象とした4試験の分析)。オランザピンは以下の薬剤よりも有意に体重が増加した。○アミスルプリド※(MD:2.1kg、95%CI:1.29~2.94、671例の患者を対象とした3試験の分析)○アリピプラゾール(MD:3.9kg、95%CI:1.62~6.19、患者656例を対象とした2試験の分析)○クエチアピン(MD:2.68kg、95%CI:1.1~4.26、患者1,173例を対象とした7試験の分析)○リスペリドン(MD:2.44kg、95%CI:1.61~3.27、2,302例の患者を対象とした16試験の分析)○ジプラシドン※(MD:3.82kg、95%CI:2.96~4.69、1,659例の患者を対象とした5試験の分析)※国内未承認体重増加の対処方法日本神経精神薬理学会が作成した『統合失調症薬物治療ガイドー患者さん・ご家族・支援者のためにー』において、体重増加の対処方法の例として薬剤変更が挙げられています4)。実際に、心血管疾患の危険因子を改善するために、オランザピン、クエチアピンまたはリスペリドンからアリピプラゾールに切り替えた非盲検のランダム化比較試験がありますので見てみましょう5)。上記3剤のいずれかにより治療されている統合失調症ないし統合失調感情障害を有する患者215例(平均年齢41歳)を、アリピプラゾールへの切り替え群(109例)またはそのまま継続した群(106例)にランダムに割り付けて24週間経過をみています。全患者が、BMI≧27kg/m2および非HDLコレステロール≧130mg/dLで、プライマリアウトカムは非HDLコレステロール値の変化です。両群を比較した結果は、平均体重減少は3.6kg対0.7kg(p<0.001)、平均非HDLコレステロール減少は20.2mg/dL対10.8mg/dL(p=0.01)、トリグリセライドは25.7mg/dL減少対7mg/dL増加(p=0.002)であり、切り替えに一定の効果を認めています。安易に薬剤を切り替えたり中止したりすることは避けなければなりませんが、体重や体脂肪率増加の理由、程度、発現時の代替案などを聞かれる機会もあるかと思いますので、参考にしていただければと思います。1)Maayan L, et al. Expert Rev Neurother. 2010;10:1175-1200.2)Nicol GE, et al. JAMA Psychiatry. 2018;75:788-796.3)Rummel-Kluge C, et al. Schizophr Res. 2010;123:225-233.4)日本神経精神薬理学会編. 統合失調症薬物治療ガイドー患者さん・ご家族・支援者のためにー. 日本神経精神薬理学会;2018.5)Stroup TS, et al. Am J Psychiatry. 2011;168:947-956.

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179)患者さんが陥りやすい健康バラエティ番組の落とし穴【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:患者さんが陥りやすい健康バラエティ番組の落とし穴説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話患者先生、この前テレビで、「○○は健康にいい」って言ってたんですが。医師ほお。どんな効果があるって言ってましたか?患者△△って番組で、〇〇はダイエットにもいいし、血管も若返るって・・・。医師なるほど。その番組は「健康番組」じゃなくて、「健康バラエティ番組」なので、内容には注意が必要みたいですよ。患者えっ、違いがあるんですか?(驚いた顔)医師健康番組の目的は正しい情報の提供ですが、健康バラエティ番組の目的は視聴率を上げることですからね。患者あ~…、だから、演出が大げさなんですね。医師そうなんです。本当に効果があるものなら、毎週、同じ食品を紹介しているはずですし、司会者やレギュラーは全員、スリムで健康なはずですよね。患者たしかに、よく考えればそうですね。●ポイント健康番組と健康バラエティ番組の違いを、番組の目的を例にして説明します。

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178)「明日からダイエット」が必ず失敗する理由【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:ダイエットはいつから?説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師最近、体重の変化はどうですか?患者ダイエットは明日からやります…!医師ハハハ。「今日のところは・・・」と食欲を優先してしまう人は太りやすいそうですよ。患者えっ、そうなんですか。今日は帰りに好きなものを食べて、明日から頑張ろうと思っていました。医師ちなみに、子どもの頃、夏休みの宿題は、最初に片付けてから遊ぶタイプでしたか? それとも最後に追い込むタイプでしたか?患者後者です。家族に手伝ってもらっても間に合わないことがありました・・・。医師ダイエットも同じで、先延ばしにしてもいいことはないですよ。患者じゃあ、どうしたらいいんですかね。医師いい方法がありますよ。「今日からダイエットする!」と、家族や友人に宣言するんです。ここに、「ダイエット宣言書」として、日付と名前を書いてみましょう。患者なるほど。じゃあ今日から・・・、いえ、今からダイエットします!●ポイントダイエットを先延ばししてしまう人には、家族や友人の前で「ダイエット宣言」をしてもらいましょう。

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低LDL-C・SBP値に関連の遺伝子変異体、CVリスクを減少/JAMA

 低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値・収縮期血圧(SBP)値の低下に関連する遺伝子変異体を有する人は、心血管リスクが有意に低いことを、英国・ケンブリッジ大学のBrian A. Ference氏らが、約44万人のバイオバンク登録者を追跡し明らかにした。これまで、LDL-C値とSBP値がより低いことと心血管疾患リスクとの関連は完全には定量化されていなかった。JAMA誌オンライン版2019年9月2日号掲載の報告。遺伝的LDL-C・SBPスコアにより被験者を4群に分類 研究グループは、2006~10年に英国バイオバンクに登録した43万8,952人について、2018年まで追跡調査を行った。被験者を、遺伝的LDL-Cスコアと遺伝的SBPスコアにより、それぞれの中央値以下・超で4群に分け、両スコアともに中央値以下の群を基準群とした。 主要アウトカムは主要冠動脈イベント(冠動脈死、非致死的心筋梗塞、冠動脈血行再建術のいずれかの発生で定義)のオッズ比(OR)。低LDL-C値、低SBP値、またはその両者の生涯曝露との関連を検証した。両スコアが高い群の冠動脈イベントリスクを低下する定量値が明らかに 被験者43万8,952人の平均年齢は65.2歳(範囲:40.4~80.0)、女性は54.1%だった。2万4,980人に初回主要冠動脈イベントが発生した。 基準群に比べ、遺伝的LDL-Cスコアが中央値超の群では、LDL-C値の14.7mg/dL低下で、主要冠動脈イベント発生に関するORは0.73だった(95%信頼区間[CI]:0.70~0.75、p<0.001)。また、遺伝的SBPスコアが中央値超の群では、SBP値の2.9mmHg低下で、主要冠動脈イベント発生に関するORは0.82だった(同:0.79~0.85、p<0.001)。 遺伝的LDL-Cスコア・遺伝的SBPスコアともに中央値超の群では、LDL-C値は13.9mg/dL、SBP値は3.1mmHg低下することで、同オッズ比が0.61となることが示された(95%CI:0.59~0.64、p<0.001)。 4×4要因デザイン解析の結果、両遺伝的スコアの増加とLDL-C値・SBP値の低下は、用量依存的に主要冠動脈イベントリスクを低下することが示された。また、メタ回帰分析の結果、LDL-C値の38.67mg/dL低下とSBP値の10mmHg低下により、主要冠動脈イベント発生に関するORは0.22(95%CI:0.17~0.26、p<0.001)に、心血管死の同ORは0.32(同:0.25~0.40、p<0.001)に低下することが示された。 ただし今回の結果について著者は、「リスク因子の治療による達成可能なベネフィットの大きさを意味するものとは言えない」と指摘している。

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甘いものをつい食べてしまう患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第28回

■外来NGワード「意志を強く持ちなさい」(あいまいな指示)「そんなの、断ればいいんですよ」(対人関係を考えない)「もらっても食べないようにしなさい」(できないから困っている)■解説 食事療法ができていないことに関して、「近所の奥さんに甘いものをいただくので断れない」と言い訳をする患者さんがいます。「意志を強く持って断ればいいんですよ!」とアドバイスをしても、断れない患者さんの行動は変わりません。なぜ、甘いものが患者さんのところに集まってくるのでしょうか? それは、患者さんが甘いもの好きなことを、周りの人が知っているからです。お中元やお歳暮も、送る人は相手方の好みに応じて内容を決めています。アイスが好きな人にはアイスクリームを、お酒が好きな人にはビールを送ります。つまり、好きだから、甘いものが集まってくるのです。お土産をもらったときにとても嬉しそうな顔をすると、知り合いの人は「喜んでくれたから、次も甘いものを持っていこう」と思うでしょう。しかし、よかれと思って選んだお土産が原因で持病が悪化してしまっては、元も子もありません。近所の奥さんとのよくあるやり取りを再現して、断る練習をしてみるのも一法です。どうしても断れない患者さんには、いただいたものを家族や職場でシェアするなど、一人で全部食べずに済む方法を考えてもらいましょう。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、血糖コントロールがあまりよくないみたいですね。患者やっぱり・・・。医師何か思い当たることがありますか?患者最近、もらいものが多くて。医師なるほど。夏は、何かといただく機会が多いですよね。患者そうなんです。お中元や旅行の土産で、甘いものをよくいただくんです。医師どなたにもらうことが多いですか?患者近所の奥さんとかが多いです。医師そうですか。いただきものがあると、つい食べ過ぎてしまいますよね。患者はい。どうしたらいいですかね?医師ちょっと、断る練習をしてみましょうか。患者断る練習?医師そうです。では、まず断り方の見本をお見せするので、私が近所の奥さん役になりますので、上手に断ってみてください。患者おもしろそうですね、やってみます。(断る練習に続く)■医師へのお勧めの言葉「ちょっと、断る練習をしてみましょうか」

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(膿疱性)乾癬〔(pustular) psoriasis〕

1 疾患概要■ 概念・定義表皮角化細胞の増殖あるいは角質の剥離障害によって、角質肥厚を主な病態とする疾患群を角化症という。なかでも炎症所見の顕著な角化症、つまり潮紅(赤くなること)と角化の両者を併せ持つ角化症を炎症性角化症と称するが、乾癬はその代表的疾患である1)。乾癬は、遺伝的要因と環境要因を背景として免疫系が活性化され、その活性化された免疫系によって刺激された表皮角化細胞が、創傷治癒過程に起こるのと同様な過増殖(regenerative hyperplasia)を示すことによって引き起こされる慢性炎症性疾患である2)。■ 分類1)尋常性(局面型)乾癬最も一般的な病型で、単に「乾癬」といえば通常この尋常性(局面型)乾癬を意味する(本稿でも同様)。わが国では尋常性乾癬と呼称するのが一般的であるが、欧米では局面型乾癬と呼称されることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の75.9%を占める3)。2)関節症性乾癬尋常性(局面型)乾癬患者に乾癬特有の関節炎(乾癬性関節炎)が合併した場合、わが国では関節症性乾癬と呼称する。しかし、この病名はわかりにくいとの指摘があり、今後は皮疹としての病名と関節炎としての病名を別個に使い分けていく方向になると考えられるが、保険病名としては現在でも「関節症性乾癬」が使用されている。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の14.6%を占める3)。3)滴状乾癬溶連菌性上気道炎などをきっかけとして、急性の経過で全身に1cm程度までの角化性紅斑が播種状に生じる。このため、急性滴状乾癬と呼ぶこともある。小児や若年者に多く、数ヵ月程度で軽快する一過性の経過であることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の3.7%を占める3)。4)乾癬性紅皮症全身の皮膚(体表面積の90%以上)にわたり潮紅と鱗屑がみられる状態を紅皮症と呼称するが、乾癬の皮疹が全身に拡大し紅皮症を呈した状態である。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の1.7%を占める3)。5)膿疱性乾癬わが国では単に「膿疱性乾癬」といえば汎発性膿疱性乾癬(膿疱性乾癬[汎発型])を意味する(本稿でも同様)。希少疾患であり、厚生労働省が定める指定難病に含まれる。急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する重症型である。尋常性(局面型)乾癬患者が発症することもあれば、本病型のみの発症のこともある。妊娠時に発症する尋常性(局面型)乾癬を伴わない本症を、とくに疱疹状膿痂疹と呼ぶ。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の2.2%を占める3)。■ 疫学世界的にみると乾癬の罹患率は人口の約3%で、世界全体で約1億2,500万人の患者がいると推計されている4)。人種別ではアジア・アフリカ系統よりも、ヨーロッパ系統に多い疾患であることが知られている4)。わが国での罹患率は、必ずしも明確ではないが、0.1%程度とされている5)。その一方で、健康保険のデータベースを用いた研究では0.34%と推計されている。よって、日本人ではヨーロッパ系統の10分の1程度の頻度であり、それゆえ、国内での一般的な疾患認知度が低くなっている。世界的にみると男女差はほとんどないとされるが、日本乾癬学会の調査ではわが国での男女比は2:16)、健康保険のデータベースを用いた研究では1.44:15)と報告されており、男性に多い傾向がある。わが国における平均発症年齢は38.5歳であり、男女別では男性39.5歳、女性36.4歳と報告されている6)。発症年齢のピークは男性が50歳代で、女性では20歳代と50歳代にピークがみられる6)。家族歴はわが国では5%程度みられる6,7)。乾癬は、心血管疾患、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、肥満、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝、うつ病の合併が多いことが知られており、乾癬とこれらの併存疾患がお互いに影響を及ぼし合っていると考えられている。膿疱性乾癬に関しては、現在2,000人強の指定難病の登録患者が存在し、毎年約80人が新しく登録されている。尋常性(局面型)乾癬とは異なり男女差はなく、発症年齢のピークは男性では30~39歳と50~69歳の2つ、女性も25~34歳と50~64歳の2つのピークがある8)。■ 病因乾癬は基本的にはT細胞依存性の免疫疾患である。とくに、細胞外寄生菌や真菌に対する防御に重要な役割を果たすとされるTh17系反応の過剰な活性化が起こり、IL-17をはじめとするさまざまなサイトカインにより表皮角化細胞が活性化されて、特徴的な臨床像を形成すると考えられている。臓器特異的自己免疫疾患との考え方が根強くあるが、明確な証明はされておらず、遺伝的要因と環境要因の両者が関与して発症すると考えられている。遺伝的要因としてはHLA-C*06:02(HLA-Cw6)と尋常性(局面型)乾癬発症リスク上昇との関連が有名であるが、日本人では保有者が非常に少ないとされる。また、特定の薬剤(βブロッカー、リチウム、抗マラリア薬など)が、乾癬の誘発あるいは悪化因子となることが知られている。膿疱性乾癬に関しては長らく原因不明の疾患であったが、近年特定の遺伝子変異と本疾患発症の関係が注目されている。とくに尋常性(局面型)乾癬を伴わない膿疱性乾癬の多くはIL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の機能喪失変異によるIL-36の過剰な作用が原因であることがわかってきた9)。また、尋常性(局面型)乾癬を伴う膿疱性乾癬の一部では、ケラチノサイト特異的NF-κB促進因子であるCaspase recruitment domain family、member 14(CARD14)をコードするCARD14遺伝子の機能獲得変異が発症に関わっていることがわかってきた9)。その他、AP1S3、SERPINA3、MPOなどの遺伝子変異と膿疱性乾癬発症とのかかわりが報告されている。■ 症状乾癬では銀白色の厚い鱗屑を付着する境界明瞭な類円形の紅斑局面が四肢(とくに伸側)・体幹・頭部を中心に出現する(図1)。皮疹のない部分に物理的刺激を加えることで新たに皮疹が誘発されることをKoebner現象といい、乾癬でしばしばみられる。肘頭部、膝蓋部などが皮疹の好発部位であるのは、このためと考えられている。また、3分の1程度の頻度で爪病変を生じる。図1 尋常性乾癬の臨床像画像を拡大する乾癬性関節炎を合併すると、末梢関節炎(関節リウマチと異なりDIP関節が好発部位)、指趾炎(1つあるいは複数の指趾全体の腫脹)、体軸関節炎、付着部炎(アキレス腱付着部、足底筋膜部、膝蓋腱部、上腕骨外側上顆部)、腱滑膜炎などが起こる。放置すると不可逆的な関節破壊が生じる可能性がある。膿疱性乾癬では、急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する8)(図2)。膿疱が融合して環状・連環状配列をとり、時に膿海を形成する。爪病変、頬粘膜病変や地図状舌などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、時に結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがある10)。図2 膿疱性乾癬の臨床像画像を拡大する■ 予後乾癬自体は、通常生命予後には影響を及ぼさないと考えられている。しかし、海外の研究では重症乾癬患者は寿命が約6年短いとの報告がある11)。これは、乾癬という皮膚疾患そのものではなく、前述の心血管疾患などの併存症が原因と考えられている。乾癬性関節炎を合併すると、前述のとおり不可逆的な関節変形を来すことがあり、患者QOLを大きく損なう。膿疱性乾癬は、前述のとおり呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがあり、生命の危険を伴うことのある病型である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)多くの場合、先に述べた臨床症状から診断可能である。症状が典型的でなかったり、下記の鑑別診断と迷う際は、生検による病理組織学的な検索や血液検査などが必要となる。乾癬の臨床的鑑別診断としては、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、亜鉛欠乏性皮膚炎、ジベルばら色粃糠疹、扁平苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、類乾癬、菌状息肉症(皮膚T細胞リンパ腫)、ボーエン病、乳房外パジェット病、亜急性皮膚エリテマトーデス、皮膚サルコイド、白癬、梅毒、尋常性狼瘡、皮膚疣状結核が挙げられる。膿疱性乾癬に関しては、わが国では診断基準が定められており、それに従って診断を行う8)。病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱を証明することが診断基準の1つにあり、診断上は生検が必須検査になる。また、とくに急性期に検査上、白血球増多、CRP上昇、低蛋白血症、低カルシウム血症などがしばしばみられるため、適宜血液検査や画像検査を行う。膿疱性乾癬の鑑別診断としては、掌蹠膿疱症、角層下膿疱症、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosisを含む)などがある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)外用療法副腎皮質ステロイド、活性型ビタミンD3製剤が主に使用される。両者を混合した配合剤も発売されている。2)光線療法(内服、外用、Bath)PUVA療法、311~312nmナローバンドUVB療法、ターゲット型308nmエキシマライトなどが使用される。3)内服療法エトレチナート(ビタミンA類似物質)、シクロスポリン、アプレミラスト(PDE4阻害薬)、メトトレキサート、ウパダシチニブ(JAK1阻害薬)、デュークラバシチニブ(TYK2阻害薬)が乾癬に対し保険適用を有する。ただし、ウパダシチニブは関節症性乾癬のみに承認されている。4)生物学的製剤抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ ペゴル)、抗IL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)、抗IL-17A抗体(セクキヌマブ、イキセキズマブ)、抗IL-17A/F抗体(ビメキズマブ)、抗IL-17受容体A抗体(ブロダルマブ)、抗IL-23p19抗体(グセルクマブ、リサンキズマブ、チルドラキズマブ)、抗IL-36受容体抗体(スペソリマブ)が乾癬領域で保険適用を有する。中でも、スペソリマブは「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている膿疱性乾癬に特化した薬剤である。また、多数の生物学的製剤が承認されているが、小児適応(6歳以上)を有するのはセクキヌマブのみである。5)顆粒球単球吸着除去療法膿疱性乾癬および関節症性乾癬に対して保険適用を有する。4 今後の展望抗IL-17A/F抗体であるビメキズマブは、現時点では尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に承認されているが、関節症性乾癬に対する治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には関節症性乾癬にもビメキズマブが使用できるようになる可能性がある。膿疱性乾癬に特化した薬剤であるスペソリマブ(抗IL-36受容体抗体)は静注製剤であり、現時点では「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている。しかし、フレア(急性増悪)の予防を目的とした皮下注製剤の開発が行われており、その治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には急性期および維持期の治療をスペソリマブで一貫して行えるようになる可能性がある。乾癬は慢性炎症性疾患であり、近年は生物学的製剤を中心に非常に効果の高い薬剤が多数出てきたものの、治癒は難しいと考えられてきた。しかし、最近では生物学的製剤使用後にtreatment freeの状態で長期寛解が得られる例もあることが注目されており、単に皮疹を改善するだけでなく、疾患の長期寛解あるいは治癒について議論されるようになっている。将来的にはそれらが可能になることが期待される。5 主たる診療科皮膚科、膠原病・リウマチ内科、整形外科(基本的にはすべての病型を皮膚科で診療するが、関節症状がある場合は膠原病・リウマチ内科や整形外科との連携が必要になることがある)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 膿疱性乾癬(汎発型)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本皮膚科学会作成「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版」(現在、日本皮膚科学会が新しい乾癬性関節炎の診療ガイドラインを作成中であり、近い将来に公表されるものと思われる。一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本乾癬患者連合会(疾患啓発活動、勉強会、交流会をはじめとしてさまざまな活動を行っている。都道府県単位の患者会も多数存在し、本会のwebサイトから検索できる。また、都道府県単位の患者会では、専門医師を招いての勉強会や相談会を実施しているところもある)1)藤田英樹. 日大医誌. 2017;76:31-35.2)Krueger JG, et al. Ann Rheum Dis. 2005;64:ii30-36.3)藤田英樹. 乾癬患者統計.第32回日本乾癬学会学術大会. 2017;東京.4)Gupta R, et al. Curr Dermatol Rep. 2014;3:61-78.5)Kubota K, et al. BMJ Open. 2015;5:e006450.6)Takahashi H, et al. J Dermatol. 2011;38:1125-1129.7)Kawada A, et al. J Dermatol Sci. 2003;31:59-64.8)照井正ほか. 日皮会誌. 2015;125:2211-2257.9)杉浦一充. Pharma Medica. 2015;33:19-22.10)難病情報センターwebサイト.11)Abuabara K, et al. Br J Dermatol. 2010;163:586-592.公開履歴初回2019年9月24日更新2022年12月22日

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内臓脂肪を減らす「スマート和食」、そのメカニズムとは

 「和食(Washoku)」が、日本の伝統的な食文化として、ユネスコの無形文化遺産に登録されたのは2013年。その健康効果には世界的に注目が集まっているが、ヒトの内臓脂肪蓄積に与える影響やメカニズムについては不明である。 今回、坂根 直樹氏(京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長)、高瀬 秀人氏(花王株式会社 生物科学研究所)らの研究グループは、日本の伝統に基づく食事が、内臓脂肪面積あるいはGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)分泌に及ぼす効果を調査した。Nutrition journal誌2019年9月2日号の報告。 同グループは、これまでの研究で、1万1,438人の内臓脂肪と食習慣、さらに579人の3日間の食事記録と食習慣を調査した。それらのデータを詳細に解析した結果、「タンパク質/脂肪比≒1.0」「食物繊維/炭水化物比≧0.063」「ω-3脂肪酸/脂肪比≧0.054」これら3つの条件が、内臓脂肪蓄積の予防と関連することが明らかになった1)。 坂根氏らは、この3つの比を取り入れた日本食を「スマート和食」と呼び、スマート和食と現代食が内臓脂肪蓄積に与える影響について、クロスオーバー試験で調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象は21人の過体重あるいは肥満の男性(平均年齢:41.0 ± 9.0 歳、平均BMI:25.2 ± 2.0 kg/m2)。・単回の食事負荷試験で、食後0、30、60、120、180、240分におけるGIPの曲線下面積(AUC)を算出した。スマート和食では、現代食と比べ、食後GIP濃度が有意に低かった(AUC:700.0 ± 208.0pmol/L・4 h vs.1117.0 ± 351.4 pmol/L・4 h、p <0.05)。一方、同時に測定した血糖、中性脂肪、インスリン、GLP-1、peptide YY、グレリンでは、両群間で差を認めなかった。・2週間にわたるスマート和食の介入では、内臓脂肪だけでなく、LDL-コレステロール、中性脂肪、HbA1c値が有意に減少した。 これらの結果から、スマート和食は、おそらくGIP分泌の抑制を介して、過体重/肥満男性の内臓脂肪面積を低下させ、代謝パラメーターを改善する可能性が示された。 坂根氏はコメントで、「今回の結果より、GIPが和食の内臓脂肪低減効果のメカニズムに関与していることが示唆された。ポッコリお腹を何とかしたいという患者さんはたくさんいる。食事では、脂質を減らしてタンパク質を増やす、糖質を摂る前に野菜・きのこ・海藻類などの食物繊維をたっぷり摂る、脂質を摂るならω-3系脂肪酸を積極的に摂る、という3つのポイントが大事」と示唆し、内臓脂肪を減らすための食事指導を勧めている。

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家族性高コレステロール血症の基礎知識

 8月27日、日本動脈硬化学会は、疾患啓発を目的に「家族性高コレステロール血症」(以下「FH」と略す)に関するプレスセミナーを開催した。 FHは、単一遺伝子疾患であり、若年から冠動脈などの狭窄がみられ、循環器疾患を合併し、予後不良の疾患であるが、診療が放置されている例も多いという。 わが国では、世界的にみてFHの研究が進んでおり、社会啓発も広く行われている。今回のセミナーでは、成人と小児に分け、本症の概要と課題が解説された。意外に多いFHの患者数は50万人超 はじめに斯波 真理子氏(国立循環器病研究センター研究所 病態代謝部)を講師に迎え、成人FHについて疾患の概要、課題について説明が行われた。FHは大きくヘテロ結合体とホモ結合体に分類できる。 FHのヘテロ結合体は、LDL受容体遺伝子変異により起こり、200~500例に1例の頻度で患者が推定され、わが国では50万人以上とされている。生来LDL-C値が高い(230~500mg/dL)のが特徴で、40代(男性平均46.5歳、女性平均58.7歳)で冠動脈疾患などを発症し、患者の半数以上がこれが原因で死亡する。 診断では、(1)高LDL-C血症(未治療で180mg/dL以上)、(2)腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫、(3)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)の3項目中2項目が確認された場合にFHと診断する。 また、診断では、LDL-C値に加えて、臨床所見ではアキレス腱のX線画像が特徴的なこと(アキレス腱厚をエコーで測定することも有用)、角膜輪所見が若年からみられること、家族に高コレステロール血症や冠動脈疾患患者がみられることなど、詳細なポイントを説明するとともに、診断のコツとして「『目を見つめ よく聴き、話し 足触る』ことが大切」と同氏は強調した。 FH患者は、健康な人と比較すると、約15年~20年早く冠動脈疾患を発症することから、早期より厳格な脂質コントロールが必要となる。 本症の治療フローチャートでは、生活習慣改善・適正体重の指導と同時に脂質降下療法を開始し、LDL-C管理目標値を一次予防で100mg/dL未満あるいは治療前の50%未満(二次予防70mg/dL未満)にする。次に、スタチンの最大耐用量かつ/またはエゼチミブ併用し、効果が不十分であればPCSK9阻害薬エボロクマブかつ/またはレジンかつ/またはプロブコール、さらに効果が不十分であればLDL除去療法であるLDLアファレシスを行うとしている。医療者も社会も理解しておくべきFHの病態 次に指定難病であるホモ結合体について触れ、本症の患者数は100万例に1例以上と推定され、本症の所見としてコレステロール値が500~1,000mg/dL、著明な皮膚および腱黄色腫があると説明を行った。確定診断では、LDL受容体活性測定、LDL受容体遺伝子解析で診断される。 治療フローチャートでは、ヘテロ受容体と同じように生活習慣改善・適正体重の指導と同時に脂質降下療法を開始し、LDL-C管理目標値を一次予防で100mg/dL未満(二次予防70mg/dL未満)にする。次に、第1選択薬としてスタチンを速やかに最大耐用量まで増量し、つぎの段階ではエゼチミブ、PCSK9阻害薬エボロクマブ、MTP阻害薬ロミタピド、レジン、プロブコールの処方、または可及的速やかなるLDLアファレシスの実施が記載されている。ただ、ホモ結合体では、スタチンで細胞内コレステロール合成を阻害してもLDL受容体の発現を増加させることができず、薬剤治療が難しい疾患だという。その他、本症では冠動脈疾患に加え、大動脈弁疾患も好発するので、さらに注意する必要があると同氏は指摘する。 最後に同氏は「FHは、なるべく早く診断し、適切な治療を行うことで、確実に予後を良くすることができる。そのためには、本症を医療者だけでなく、社会もよく知る必要がある。とくにFHでPCSK9阻害薬の効果がみられない場合は、LDL受容体遺伝子解析を行いホモ接合体を見つける必要がある。しかし、このLDL受容体遺伝子解析が現在保険適応されていないなど課題も残されているので、学会としても厚生労働省などに働きかけを行っていく」と展望を語り、説明を終えた。小児の治療では成長も加味して指導が必要 続いて土橋 一重氏(山梨大学小児科、昭和大学小児科)が、次のように小児のFHについて解説を行った。 小児のヘテロ接合体の診断では、「(1)高LDL-C血症(未治療で140mg/dL以上、総コレステロール値が220mg/dL以上の場合はLDL-Cを測定する)、(2)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)の2項目でFHと診断する(小児の黄色腫所見はまれ)」と説明した。また、「小児では、血液検査が行われるケースが少なく、本症の発見になかなかつながらない。採血の機会があれば、脂質検査も併用して行い、早期発見につなげてほしい」と同氏は課題を指摘した。 治療では、確定診断後に早期に生活習慣指導を行い、LDL-C値低下を含めた動脈硬化リスクの低減に努め、効果不十分な場合は10歳を目安に薬物療法を開始する。 とくに生活習慣の改善は、今後の患児の成長も考慮に入れ、できるだけ早期に食事を含めた生活習慣について指導し、薬物療法開始後も指導は継続する必要がある。食事療法について、総摂取量は各年齢、体格に応じた量とし、エネルギー比率も考慮。具体的には、日本食を中心とし、野菜を十分に摂るようにする。また、適正体重を維持し、正しい食事習慣と同時に運動習慣もつける。そして、生涯にわたる禁煙と周囲の受動喫煙も防止することが必要としている。 薬物療法を考慮する基準として、10歳以上でLDL-C値180mg/dL以上が持続する場合とし、糖尿病、高血圧、家族歴などのリスクも考える。第1選択薬はスタチンであり、最小用量より開始し、肝機能、CK、血清脂質などをモニターし、成長、二次性徴についても観察する。 管理目標としては、LDL-C値140mg/dLとガイドラインでは記載されているが、とくにリスク因子がある場合は、しっかりと下げる必要があるとされているとレクチャーを行った。

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第2回 心房細動の早期発見、プライマリケア医の協力が不可欠

循環器疾患に関連した学会は数多く存在するが、そのなかでも教育活動に力を注いでいるのが日本心臓病学会である。9月13~15日の学術集会開催を前に、本学会の教育委員長を務める清水 渉氏(日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野 大学院教授)が本学会の強みについて語った。若手医師、非専門医への心臓病診療の普及を目指すプライマリケアの現場で診療される先生方の患者には、糖尿病や脂質異常症を合併している方や高齢者が多くいらっしゃるのではないでしょうか。近年、心房細動と心原性脳梗塞の発症数は増加傾向にあります。どちらもQOLを低下させ、健康寿命を縮める要因になります。CKDや睡眠時無呼吸症候群などの既往がある患者で発症しやすい心房細動は、不整脈の1つです。国内では100万人もの患者が存在し、高齢者では10~20人に1人が発症しています。これ自体は命に関わるような危険な不整脈ではありませんが、長生きすることで心不全へ発展してしまうため、大きな問題になっています。高齢者の心房細動発症者は自覚症状に乏しく「疲れやすい」「動けないのは歳のせい」などの表現をする患者もいるため、早期発見が難しく、80~90歳代の患者が心不全を発症して、緊急搬送される事例もあります。また、心原性脳梗塞の患者の場合、治療により症状が安定すれば抗凝固療法を継続した状態で退院します。とくに高齢者の場合は、脳梗塞予防として抗凝固療法の長期継続が必要になるため、退院後のフォローにはプライマリケア医の協力、つまり、病診連携が頼みの綱となるわけです。このような現状を踏まえ、高齢者や合併症を有する患者を抱える非専門医の方々にも、心房細動などの自覚症状を見極める能力や問診力を培っていただける、診断や治療に役立つ知識を共有してもらえるように、日本心臓病学会では教育講演などの企画に努めています。プライマリケア医がおさえておくべき循環器疾患の現状もう一つ、心臓病診療のトレンドを多くの医療者にしっかり理解いただくことも本学会の大きな目的です。たとえば、私の専門である不整脈治療におけるカテーテルアブレーション実施件数は、2010年に約3.5万件だったのが、この10年で2倍以上も増加し、現在は約9万件も実施されています。一方で、心筋梗塞の治療法の1つであるPCI(経皮的冠動脈インターベンション)は、技術の進歩によって再狭窄リスクが低下したため、実施件数が横ばいになっています。なぜ、このようにアブレーション件数が増えているかというと、2012年に発表された「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」から「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年版改訂)」に改訂された際に、適応疾患が拡大し、動悸などの症状を有していれば、カテーテルアブレーションを第1選択できるようになったためです。そのため、心房細動患者に対するアブレーション件数は年々増加を続け、この領域は薬物療法から非薬物療法へ変遷を経ています。非会員でも参加できる教育セミナー今回の学術集会とは離れますが、本学会は、日ごろから医療者に対する教育に力を入れています。会員のみならず非会員でも参加できる仕組みを作り、学術集会での教育講演のほかに、「教育セミナー」に注力しています。教育セミナーは年に2回、2月と6月に開催され、アドバンスコース(専門医向け)とファンダメンタルコース(非専門医、医療者向け)の2つのコースを設け、毎回200~300名の方が受講する盛況ぶりです。受講内容は毎年変わり、不整脈、虚血性心疾患、心不全、動脈疾患など循環器疾患全般を幅広く網羅しています。「脳卒中・循環器病対策基本法」が昨年12月に成立したことを踏まえ、今後は、本学会でも若手医師や非専門医の方々に、この法律の重要性を理解してもらえるような取り組みも行っていく予定です。メッセージ(動画)

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第1回 心臓病は社会の中で全身から診る視点が必要

9月13日から3日間、名古屋国際会議場で、第67回日本心臓病学会学術集会が開催される。心臓病の実臨床に重点を置く同学会。大会長の三重大学循環器・腎臓内科学教授の伊藤正明氏は「循環器科の先生はもちろん、他科の先生、開業医、コメディカルの方々を含めた幅広い学びの場を提供したい」と語る。循環器科は心臓だけを診ていてはいけない第67回の日本心臓病学会学術集会では、「原点を学び、未来を創る」「全身を診る、心臓をみる」という2つのテーマを掲げました。「原点」というのは、身体診察で理学的所見を取る、問診で患者さんの訴えを聞く、といういわば医師の基本のこと。若い先生方は、血液検査や心エコーやCTといった画像診断に頼り過ぎ、脈を取る、心臓の音を聞く、といった循環器医の基本をともすればおろそかにしがちです。心臓病学会は、歴史的に実臨床に重きを置いてきた学会なので、今回改めて、そのことを強調させていただきました。一方で、心エコー、CT、MRIといった画像検査が現在の心臓病診療に不可欠なのは言うまでもありません。さらに、それらから得られた情報をIoTなどを使ってより質の高い治療につなげていく、AI、遠隔診療、ロボット手術といったものが「未来」です。これらについては、私のたちの世代のほうがむしろしっかり勉強して、追いついていかなければならない。これからの心臓病の臨床には両方とも大切だと考え、多数のプログラムを用意しました。もう1つ「全身を診る、心臓を診る」というテーマを打ち出したのは、心臓病を全身から捉えるという視点が近年ますます重要になっているためです。心臓病はそれ単独で発症するというわけではなく、全身疾患の一病態として起こるケースが多い。糖尿病や脂質異常症が心筋梗塞の危険因子になるといったことはもちろんですが、肺高血圧症は呼吸器症状として現れ、アミロイドーシスやサルコイドーシスなどは、全身に出る症状や所見を理解していなければ診断できません。こうした観点から考えると、循環器医はもはや心臓だけを診ていてはいけない。心臓をきちんと診られるのは当たり前ですが、全身疾患の中でそれを評価し治療していかなければならないのです。逆に言うと、他科の先生にも心臓病にもっと関心を持って、理解してほしいと思います。循環器とがんが重なる領域であるオンコカーディオロジーが昨今注目されていますが、これなども典型的な流れと言えます。本学会でも「会長特別企画」の1つとして、オンコカーディオロジーのほか、感染症、膠原病、透析、周産期などの境界領域でのプログラムを設けています。心不全パンデミックを防ぐ地域での医療ケア連携現在、私たちの研究室で最も力を入れているは、心不全です。私自身はもともと基礎研究を中心にやってきましたが、今地域に目を向けると、心不全パンデミックとも言われる、高齢化に伴う心不全患者の急増への対応が喫緊の課題だと感じます。しかし、心不全診療は、循環器専門医だけのものではありません。急性期は大学病院をはじめとする大病院で対応しますが、その後の慢性期は地域で継続的にフォローしていただかなければならない。地域の開業医の先生方との連携は不可欠ですし、さらに在宅、施設でケアに携わる多職種のコメディカルスタッフとチームで、社会の中で患者さん一人ひとりを診ていく必要があります。日本心臓病学会の伝統として、ケースを大切にするということがあります。「地域医療/実地医家活動委員会」の企画で、今回は全国9チームでJCCケースカンファレンスを行ってもらいます。「症例から深く学ぶ」と題したシンポジウムも、1例1例を大事にする心臓病学会らしい企画だと思います。地域医療のケースも多数扱いますので、開業医の先生方やコメディカルの方々にも、多岐にわたる最新の心臓病の実臨床を学んでほしいですね。また今回、ACC Asia ConferenceがCourse Directorの福田 恵一氏(慶應義塾大学)とAaron D. Kugelmass氏(米国・タフツ大学)の下、同時開催されます。過去2回は中国で開かれており、日本開催は初めてです。ACC(American College of Cardiology)は教育中心の学会で、欧米タイプの学びを身近で体験する良い機会になると思います。メッセージ(動画)

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