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第34回 コロナ禍の意外な恩恵? インフル・喘息大幅減、受診抑制も体調変化なし…

コロナ禍が他疾患の発症抑制に働くこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。大方の人の予想通り、冬の到来を前に新型コロナウイルス感染症の感染者が各地で急増しています。というわけで、この3連休、私は「Go Toトラベル」「Go Toイート」にも乗らず、自宅でのんびりスポーツ観戦をして過ごしました。大相撲の千秋楽の貴景勝と照ノ富士の本割相撲と優勝決定戦を堪能、小倉で行われた競輪祭における郡司 浩平選手(神奈川)のG1初制覇に感動しました。今ひとつだったのは日本シリーズの第1、2戦です。巨人の情けないほどの弱さは、今のセ・リーグ全体の弱さとも言えます。この問題については、また日を改めて。さて、今回は、コロナ禍における他疾患の動向や患者の受療行動の動向に関するニュースです。クラスター発生や医療機関のコロナ患者の受け入れ態勢が逼迫している、といった報道の陰で、コロナ禍がほかの疾患の発症抑制にも働いている、といった報告や報道が散見されるようになってきました。喘息による入院数が劇的に減少11月16日のNHKニュースは、「コロナ拡大以降 “ぜんそく入院患者 大幅減”マスク着用影響か」と題し、今年2月以降、喘息のため入院する患者が例年に比べて大幅に減ったとする調査結果を東京大学大学院医学系研究科の宮脇 敦士助教らのグループが発表した、と報じました。それによると、全国 272 ヵ所の急性期病院における入院診療データを分析した結果、新型コロナウイルス感染症の流行期間(2020年2月24日以降)は、前年までの同時期に比べて、喘息による入院数が劇的に減少(55%減)していた、とのことです。同グループは、新型コロナウイルス感染症の流行期間中の生活様式の変化により、喘息患者が増悪要因に曝される機会が減少し、喘息のコントロールが改善したためと考えられる、としてます。なお、肺がんや気胸など、新型コロナウイルスの影響を受けない呼吸器の病気では大きな変化は見られなかったそうです。同研究は、10月14日付で、米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)の公式機関誌Journal of Allergy and Clinical Immunologyのウェブサイトに掲載1)されています。インフルエンザ、流行期に入らず?季節性インフルエンザについても、その発症は例年より大幅に少ないとの報告が出ています。厚生労働省が11月20日に発表した、 11月9~15 日の1週間のインフルエンザの発生状況(全国およそ5,000ヵ所の定点医療機関から報告があった患者数)は前週から1人減り、わずか計23人でした。インフルエンザは、1医療機関当たりの1週間の患者数が全国で1人を超えると「全国的な流行期」入りとされます。しかし、この時点では0.005人とこの基準を大きく下回っています。まだまだ楽観視はできないものの、今シーズンはインフルエンザの大流行は来ないかもしれません。受診抑制の7割が「体調が悪くなったとは感じない」このように、マスク着用や3密回避といった人々の行動変容が、従来からあった疾患の様相を変える事例は、今後も多く出てくるかもしれません。日本医師会は11月5日に最新の診療所の経営状況を発表しました。その中で、とくに小児科と耳鼻咽喉科で入院外の総件数・点数が大きく落ち込んでおり(小児科で約3割、耳鼻咽喉科で約2割前後)、経営が深刻な状況にあるとの見解を示しています。しかし、小児科と耳鼻咽喉科はそもそも感染症やアレルギー性疾患の患者が多く、単にコロナ禍だけではなく、疾患そのものが減っていることも大きな要因であることも認識する必要があるでしょう。そんな折、11月5日、健康保険組合連合会(健保連)が興味深い調査結果を発表していました。「新型コロナウイルス感染が拡大していた今年4~5月に、持病があって通院を控えた人の7割が『体調が悪くなったとは感じない』と考えていることが、調査結果から明らかになった」というのです。健保連は大企業などがつくる健康保険組合の全国組織です。この調査は、全国の20~70代の男女4,623人を対象に今年9月、オンラインで実施されました。その結果、高血圧症や脂質異常症といった持病をもつ3,500人のうち、865人(24.7%)が通院の頻度を少なくしたり、取りやめたりして受診を抑制していました。そして、受診抑制した人の69.4%が「体調が悪くなったとは感じない」と回答。さらに、10.7%が「体調が少し悪くなったと感じる」、1.5%が「体調がとても悪くなったと感じる」と答えた一方で、「体調が回復した」とする人も7.3%いたとのことです。つまり、「受診控え」で体調悪化する人の増加が懸念されていたにもかかわらず、実際に体調悪化を感じたとの回答は1割に過ぎなかったのです。老人保健施設で元気になった高齢者「できるだけ医療機関を受診して欲しくない(医療費負担を減らしたい)」という思惑のある健保連の調査である、というバイアスはあるものの、これはとても面白い結果です。私は今から約30年前、老人保健施設が創設された頃のエピソードを思い出しました。ご存じのように、老人保健施設は薬剤費が包括化されており、薬を使えば使うほど施設側の持ち出しになる、という制度設計になっています。そのため、当初老人病院から老健施設に転所した高齢者の多くが、病院入院時よりも投与する薬を大幅に減らされました。結果、どうなったか…。認知症が改善したり、むしろ元気になったりする高齢者が続出したのです。今回のコロナ禍は、ひょっとしたら外来診療における過剰診療・過剰投薬を改めて浮き彫りにするかもしれません。コロナ禍における外来患者の受療動向や、診療内容、病態の経緯などについて、専門家による詳細な分析結果を早く知りたいところです。参考1)Abe K , et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020 Oct 14.[Epub ahead of print]新型コロナ流行時に喘息入院が減少、生活様式の変化が奏功か

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75歳以上への脂質低下療法、心血管イベントの抑制に有効/Lancet

 脂質低下療法は、75歳以上の患者においても、75歳未満の患者と同様に心血管イベントの抑制に効果的で、スタチン治療とスタチン以外の脂質低下薬による治療の双方が有効であることが、米国・ハーバード大学医学大学院のBaris Gencer氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年11月10日号に掲載された。高齢患者におけるLDLコレステロール低下療法の臨床的有益性に関する議論が続いている。2018年の米国心臓病学会と米国心臓協会(ACC/AHA)のコレステロールガイドラインでは、高齢患者に対する脂質低下療法の推奨度が若年患者よりも低く、2019年の欧州心臓病学会(ESC)と欧州動脈硬化学会(EAS)の脂質異常症ガイドラインは、高齢患者の治療を支持しているが、治療開始前に併存疾患を評価するための具体的な考慮事項を追加している。75歳以上における主要血管イベントをメタ解析で評価 研究グループは、高齢患者におけるLDLコレステロール低下療法のエビデンスを要約する目的で、系統的レビューとメタ解析を実施した(研究助成は受けていない)。 医学データベース(MEDLINE、Embase)を用いて、2015年3月1日~2020年8月14日の期間に発表された論文を検索した。対象は、2018年のACC/AHAガイドラインで推奨されているLDLコレステロール低下療法の心血管アウトカムを検討した無作為化対照比較試験のうち、フォローアップ期間中央値が2年以上で、高齢患者(75歳以上)のデータを含む試験であった。心不全または透析患者だけを登録した試験は、これらの患者にはガイドラインで脂質低下療法が推奨されていないため除外した。標準化されたデータ形式を用いて高齢患者のデータを抽出した。 メタ解析では、LDLコレステロール値の1mmol/L(38.67mg/dL)低下当たりの主要血管イベント(心血管死、心筋梗塞/他の急性冠症候群、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合)のリスク比(RR)を算出した。主要血管イベントの個々の構成要素のすべてで有益性を確認 系統的レビューとメタ解析には、スタチン/強化スタチンによる1次/2次治療に関するCholesterol Treatment Trialists' Collaboration(CTTC)のメタ解析(24試験)と、5つの単独の試験(Treat Stroke to Target試験[スタチンによる2次予防]、IMPROVE-IT試験[エゼチミブ+シンバスタチンによる2次予防]、EWTOPIA 75試験[エゼチミブによる1次予防、日本の試験]、FOURIER試験[スタチンを基礎治療とするエボロクマブによる2次予防]、ODYSSEY OUTCOMES試験[スタチンを基礎治療とするアリロクマブによる2次予防])の6つの論文のデータが含まれた。 合計29件の試験に参加した24万4,090例のうち、2万1,492例(8.8%)が75歳以上であった。このうち1万1,750例(54.7%)がスタチンの試験、6,209例(28.9%)がエゼチミブの試験、3,533例(16.4%)はPCSK9阻害薬の試験の参加者であった。フォローアップ期間中央値の範囲は2.2~6.0年だった。 LDLコレステロール低下療法により、高齢患者における主要血管イベントのリスクが、LDLコレステロール値の1mmol/L低下当たり26%有意に低下した(RR:0.74、95%信頼区間[CI]:0.61~0.89、p=0.0019)。これに対し、75歳未満の患者では、15%のリスク低下(0.85、0.78~0.92、p=0.0001)が認められ、高齢患者との間に統計学的に有意な差はみられなかった(pinteraction=0.37)。 高齢患者では、スタチン治療(RR:0.82、95%CI:0.73~0.91)とスタチン以外の脂質低下療法(0.67、0.47~0.95)のいずれもが主要血管イベントを有意に抑制し、これらの間には有意な差はなかった(pinteraction=0.64)。また、高齢患者におけるLDLコレステロール低下療法の有益性は、主要血管イベントの個々の構成要素のすべてで観察された(心血管死[0.85、0.74~0.98]、心筋梗塞[0.80、0.71~0.90]、脳卒中[0.73、0.61~0.87]、冠動脈血行再建術[0.80、0.66~0.96])。 著者は、「これらの結果は、高齢患者におけるスタチン以外の薬物療法を含む脂質低下療法の使用に関するガイドラインの推奨を強化するものである」としている。

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事例014 プラビックス錠(クロピドグレル)75mgの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説プラビックス(一般名:クロピドグレル)錠は、後発品も含めて査定の多い薬剤です。査定事例をみてみましょう。高脂血症と間欠性跛行を持つ患者に、プラビックス錠75mgを処方したところA事由(医学的に適応と認められないもの)で査定となっています。A事由の多くは「病名不足」です。プラビックス錠の添付文書には、高脂血症も間欠的跛行も適応にありません。明らかに病名不足が査定の原因とわかります。もし、薬剤に適応のある閉塞性動脈硬化症が、間欠的跛行の原因であると診断されていたならば、病名を診療録とレセプトに記載しなければ適応外使用とみなされてしまいます。もう1つ、査定の要因がみられます。傷病名欄の胃潰瘍です。添付文書の重大な副作用欄に出血を伴う胃・十二指腸潰瘍の発現と記載があります。医学的必要から慎重投与された旨の補記がないと、漫然と投与されていると判断されて査定対象になります。査定対策としては、当該薬剤が処方された時点で傷病名の確認を行い、不足しているようであれば、薬剤師の協力の下で医師に確認を行うようにしてもらいましょう。

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第30回 医師も知っておきたい、ニューノーマルで生き残りを賭ける製薬企業の活路とは

コロナ禍が始まってから盛んに耳にするようになったキーワード「ニューノーマル」。医療で言えば、感染対策を契機に時限的に始まったオンライン診療の拡大が恒久化へと動きつつあるのも「ニューノーマル」と言える。ただ、今回のコロナ禍に関係なく、本来はもっと変わっていてしかるべきにもかかわらず、変わっていない世界も散見される。医療とその周辺で言うと、私がその筆頭にあげたいのは製薬企業の在り方である。競合戦略SOVはもう古い?製薬企業の基本的なビジネスモデルは研究開発に時間をかけて新薬を市場に送り、MR(医薬情報担当者)が盛んに医師にコールして処方を増やし、売上を獲得するというもの。従来は1つの新薬が世に登場するまでの期間は約10年、コストは約100億円と言われてきた。ちなみにMRから医師へのコールはSOV(Share of Voice:シェア・オブ・ボイス)という概念が重視されてきた。日本語に直訳すれば、「声のシェア」で、ある商品・サービスのシェアは、同一カテゴリーの競合商品・競合サービスの広告・宣伝量との比較で決まるという考え方。平たく言えば競合商品などよりも宣伝量が多ければ多いほどシェアが獲得できるというロジックである。それゆえMRは医師を頻回に訪問し、担当する医薬品のキーメッセージを連呼する。もちろんそれゆえに医師からうんざりされるケースもあるが、総じてみればそうしたMRの行動と売上は比例していたのである。というのも、患者数の多さから、かつてはほとんどの製薬企業が研究開発の軸を置いていた高血圧症、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病領域は、同一作用機序ながら若干有効成分が違う複数の医薬品が競合するのが常で、製品同士の差は「どんぐりの背比べ」の様相。医師にとってはどれを選んでも大差はなく、結果としてMRによるSOVが高い製品ほど医師に選ばれ、売上も高くなりがちだったからだ。ところがこの構図は既に約10年前から変化している。まず、これまで製薬企業の売上を支えてきた生活習慣病領域はもはや創薬ターゲットが枯渇し、継続的に新薬を生み出しにくくなった。この結果、創薬ターゲットはまだまだ薬剤の選択肢が少ないがんや難病などに移行している。もっともその結果として新薬の上市までの難易度は高くなり、現在では期間約20年、コスト約200億円とまで言われるようになった。ビジネスモデルを阻む新薬開発期間とジェネリック普及ここで大きな課題が発生する。製薬企業のビジネスモデルのもう一つの特徴として、一つの製品のライフサイクル終焉期、具体的には物質特許が切れてジェネリック医薬品が出てくるタイミングに後継新薬を市場に送り出し、売上の穴を作らないようにすることが挙げられる。ところが研究開発にかかる時間が以前よりも長くなった今、タイミングよく後継新薬を送り出すことは難しくなった。もっとも、こと日本市場の場合はそれでもどうにかこうにかやりくりは可能だった。それは日本では医師のジェネリック医薬品への忌避傾向が強く、長期収載品と呼ばれる特許失効後の新薬もそれなりに売上を獲得できていたからだ。しかし、国の薬剤費抑制策に伴うジェネリック医薬品の使用推進策でそれも難しくなった。現在では特許失効後の新薬は半年程度でシェアの半分がジェネリック医薬品に置き換わる。しかも、がんや難病といった生命予後に直結する領域へのシフトで、MRを通じたSOV向上は売上に直結しなくなった。製薬企業にとってはことごとく既存のモデルは封じられ、もはや泣きっ面に蜂といってもいい。その結果、製薬企業各社が取り始めた戦略が「選択と集中」である。要は医療用医薬品の研究開発領域を絞り込み、そこに集中的にリソースを投じ、研究開発の成功率上昇を狙うという形である。この結果、医療用医薬品以外の事業や医療用医薬品の中でも特許失効後の長期収載品を各社は整理・売却し始めた。革新のための本気が見える武田薬品と他社の将来性その動きを最も先鋭化させたのは日本の製薬業界のキング・オブ・ザ・キングスの武田薬品である。長期収載品は早々にジェネリック医薬品世界最大手のテバ社との合弁会社に移管させ、新たな製品と研究開発シーズの獲得のため、乾坤一擲の大勝負ともいえる日本史上最大約7兆円の巨額買収でアイルランドのシャイアー社を傘下に収め、武田の代名詞ともいわれたアリナミン・ブランドを有する一般用医薬品事業を売却した。武田以外の国内各社はここまで極端な形ではないものの、長期収載品の切り離しは準大手、中堅でも追随している。ただ、そのように新薬に集中したとしても世界の大波の中で生き残れる国内製薬企業はごくわずかだと言っていい。現在の世界トップ10の製薬企業の年間研究開発費規模は5,000億円以上、絞り込んだとはいっても平均の研究開発重点領域は5領域以上。現在この条件を満している国内製薬企業は武田のみだが、将来にわたって条件を満たしそうな企業もあと1~2社あるかないかという状況だ。ではどうすればよいのか? ここからは完全な私見だが、グローカルな総合ヘルスケアソリューション企業になることが最善の生き残る道だと考えている。グローカルとは、「グローバル+ローカル」の造語である。端的に言えば国内準大手・中堅企業に製薬企業そのものを完全に辞めろと言うのはナンセンスだ。ただ、こうした製薬企業でも製品単位で世界に伍していくことは可能であるが、そのようなグローバル製品を常時5品目以上、切れ目なく上市していくことは難しい。もっとストレートに言えば、通称メガファーマと呼ばれる世界大手の製薬企業とボーダレスな環境で伍していくのは逆立ちしても無理がある。つまるところ、グローバルで通用する1~2製品を有しながら、大きな基盤は日本国内、すなわちローカルに置き、医薬品だけでなくさまざまなソリューションを提供するという企業形態が私の前述した「グローカルな総合ヘルスケア企業」というイメージである。“薬は治療の一手段”と考えた先に見えるもの薬というのは治療の中で重要かつ欠くことができないソリューションではあるものの、そもそも薬は患者の状態を改善するソリューションの1つでしかない。従来からこれらに加え、手術やさまざまな医療機器を使った治療手段が存在するし、最近ではこれに加えITを駆使してアプリで治療するという考えも登場してきている。また、製薬企業は薬による治療を通して対象疾患やその患者を巡る多種多様な情報を有している。それを単に治療だけでなく社会的な課題解決に生かす道も考えられる。今後日本は人口減少社会に突入し、それに伴い労働人口も減少する。こうした中でITを駆使して必要となる労働力を効率化する試みは今後も進行してくだろうが、それでも人としての労働力が不足する状況は避けられない。こうなると解決策は、1)各人が今の2倍働く、2)専業主婦が家事以外の労働を始める、3)高齢者が働く、4)外国人労働者をさらに受け入れる、が主な焦点になってくる。ただ、これ以外に、これまで労働市場の中でやや冷や飯をくらわされている存在が一部の慢性疾患患者である。こうした人たちは一定の配慮があれば、労働市場で活躍できる素地があるにも関わらず、効率性を重んじるフルタイム労働市場では忌避されてきた傾向がある。製薬企業はこうした患者が置かれている状況、配慮しなければならないポイントは治療薬を提供している観点から一般の企業に比べて知識・理解はある。その意味ではこうした人を労働力としてあっせんする、あるいは雇用主側のコンサルティングを行うにはうってつけの存在でもある。また、日本は世界でトップを走る高齢化社会を有するため、そこから他国にも応用できるさまざまなビジネスモデルを考える最適な環境にあるなど、このほかにも製薬企業から派生した業態が考えられる。実際、そうした活動に既に手を付け始めている製薬企業は少数だが存在する。そして、こうした事業に手を染めてない製薬企業、あるいは手を染めている企業の中からも、こうした動きには「それで儲かるの?」という声は根強い。大胆な舵切りをした他業種の成功事例この「儲かるの?」の根底にあるのは、既存の製薬中心の利益構造である。ちなみに営業利益率ベースでみると、現在の国内の主要製薬企業の営業利益率は13~14%前後で、実はこの利益率は過去約20年ほとんど変わっていない。それゆえ、もはや既存のビジネスモデルが多方面で限界に達しつつあるにもかかわらず、頭の中は過去の栄光で満ち満ちているのである。むしろ今求められているのは、既存概念からの転換である。その意味で参考となるモデルが富士フイルムである。ご存じのように、もともと同社は一般向けの写真用フィルムとカメラ、レンズを主力商品としてきた。しかし、デジタルカメラの登場とともに写真用フィルムは市場からほぼ消え去り、その代わりにフィルム製造で持っていた化学合成技術などを軸に、液晶ディスプレイ材料、医療・医薬品、機能性化粧品、サプリメントなどを販売する企業へと転換した。富士フイルムの連結ベースの営業利益率は、1998年3月期は11.5%だったが、2017年3月期には7.9%まで低下している。しかし、この間、連結ベースの売上高は1.4兆円から2.4兆円と拡大している。利益率は低下しても多角的な事業展開で売上高が増加しているため、営業利益の絶対額は増加しているのである。製薬企業の場合、薬というモノがなくなるわけではないので、ここまでの転換を求められることはない。逆に言えば、それだけまだ恵まれているともいえる。にもかかわらず、ビジネスモデルの限界が10年前ぐらいから見え始めているのに最初の一歩が踏み出せないであるのだ。もっとも現在製薬業界の経営層には、旧来型のブロックバスターモデルといわれる巨額の売上を生む新薬が会社の屋台骨を支えるビジネスモデルの中で評価されてきた人たちがまだどっかりと鎮座しているため、それもやむを得ないと言えるかもしれない。しかし、これから5年後にもこの「儲かるの?」議論をやっているようだったら、もはや国内の製薬企業はこびりついたプライドを捨てきれない、流行遅れの一張羅の高級スーツをまとった冴えない紳士のごときものである。

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ESMO2020レポート 肺がん

レポーター紹介今年はCOVID-19の影響で、ASCOをはじめ多くの学会がvirtual meeting開催となり、ESMO2020も例にもれずvirtual meetingとして、2020年9月16日~21日に開催された。肺がん領域においては注目の演題が多数存在し、Presidential SymposiumにおいてはADAURA試験およびCROWN試験の報告がされた。日本人演者においては、先ほどのADAURA試験において坪井先生、@Be試験の瀬戸先生、WJOG8715L試験の戸井先生がOral Presentationに選出されている。重要な試験のフォローアップの報告を含め、いくつか注目の演題を紹介したい。ADAURA試験ASCO2020で大幅な無病生存期間(DFS)の改善を示したADAURA試験であるが、ESMO2020においては中枢神経系(CNS)を含む再発パターンについて国立がん研究センター東病院の坪井 正博先生によって報告された。ADAURA試験は、StageIB~IIIA期の切除可能な上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異(Del-19/L858R)を有する非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、術後補助療法として第三世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)オシメルチニブとプラセボを比較した第III相試験である。Stage(IB/II/IIIA)、EGFR遺伝子変異(Del-19/L858R)および人種(アジア人/非アジア人)によって層別化され、オシメルチニブ群およびプラセボ群には1:1で割付された。オシメルチニブの投与は3年間または再発まで行われた。今回の報告では、CNSを含む再発パターンについての内容であった。CNS転移再発はEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者において比較的高頻度に認められる遠隔転移の再発形式の1つであり、予後不良因子である。オシメルチニブは既存のEGFR-TKIに比べ血液脳関門通過性が高いことが報告されており、脳転移への効果が期待された。全体の再発割合はオシメルチニブ群において11%、プラセボ群において46%であり、そのうち遠隔転移再発はオシメルチニブ群で38%、プラセボ群で61%であった。主な再発部位は、オシメルチニブ群では肺が6%、リンパ節が3%、CNSが1%、プラセボ群では肺が18%、リンパ節が14%、続いてCNSが10%となっており、期待されていたとおりオシメルチニブ群におけるCNS再発は低かった。CNS DFS中央値は、プラセボ群の48.2ヵ月(95%CI:NC~NC)に対し、オシメルチニブ群では未到達(NR)(95%CI:39~NC)、ハザード比(HR)0.18(95%CI:0.10~0.33)、p<0.0001と有意な延長が示された。1年/2年/3年CNS DFS率はプラセボ群ではそれぞれ97%/85%/82%と低下傾向を示したのに対し、オシメルチニブ群では100%/98%/98%とほぼ低下は認めなかった。また、試験開始後18ヵ月時のCNS再発率はオシメルチニブ群で1%未満(95%CI:0.2~2.5%)、プラセボ群で9%(95%CI:5.9~12.5%)と、CNS再発率もオシメルチニブ群において低かった。今回の報告より、術後補助療法としてのオシメルチニブを投与することにより、局所および遠隔転移の再発リスクが減少することが示された。術後補助療法の再発予防としてオシメルチニブを使うべきか、術後再発としてオシメルチニブを使用すべきか、今後の全生存期間のさらなるフォローアップの報告が期待される。WJOG8715L試験現在初回治療でオシメルチニブを選択する機会も増えており、2次治療で使用する機会が少なくなってきたが、そもそものオシメルチニブの適応であるEGFR-TKI不応となったT790M陽性NSCLCに対して、オシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法とオシメルチニブを比較した第II相試験がWJOG8715L試験である。未治療のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいてはエルロチニブ+VEGF阻害薬によりPFSの延長効果が示されており、今回の結果も期待された。主要評価項目はPFS、副次評価項目はORR、治療成功期間(TTF)、OS、安全性であり、当院の戸井 之裕先生によって発表された。PFSは、ベバシズマブ併用群が9.4ヵ月、単剤群が13.5ヵ月、HR 1.44(95%CI:1.00~2.08)、p=0.20でベバシズマブ併用群のほうがむしろ短い結果となった。前治療でVEGF阻害薬の治療歴有無別でのPFSの解析も行われており、VEGF(-)-オシメルチニブ(37例)13.7ヵ月、VEGF(+)-オシメルチニブ(4例)15.1ヵ月、VEGF(-)-ベバシズマブ併用(32例)11.1ヵ月、VEGF(+)-ベバシズマブ併用(8例)4.6ヵ月、とVEGF阻害薬の治療歴のある併用群の成績がとくに短かった。併用群で多く認められたGrade3以上の副作用は蛋白尿および高血圧であり、間質性肺炎は両群で10%程度に認められた。今回の報告では、残念ながらベバシズマブを併用することの意義は示せなかった。PFSが延びなかった理由として、VEGF阻害薬の治療歴のある症例に対する併用群の成績が良くなかったのが影響している可能性があるが、VEGF阻害薬の治療歴のない症例の比較においてもベバシズマブを上乗せする効果はみられていない。オシメルチニブとベバシズマブとの相性の問題か、EGFR-TKI既治療という腫瘍周囲環境がある程度整った状況によるものなのか、議論に尽きない結果となった。未治療EGFR遺伝子変異陽性肺がんを対象にオシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法の有効性を検討するWJOG9717L試験、またオシメルチニブ・ラムシルマブ併用療法の有効性を検討するTORG1833試験がそれぞれ登録終了しており、それらの結果と合わせ、オシメルチニブにVEGF阻害薬を併用することの意義が結論付けられることとなるだろう。CROWN試験CROWN試験は未治療のALK転座陽性進行NSCLCを対象に、初回治療としてロルラチニブとクリゾチニブを比較した第III相試験である。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しオシメルチニブが初回治療として承認されたように、ALK転座陽性NSCLCに対しての初回治療になるかが期待される。本試験は多くの試験において脳転移症例が除外される中、治療済または症状のない未治療の脳転移を有する患者の登録が認められていた。しかしながら、クロスオーバーは認められていなかった。今回は中間解析の結果が報告された。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)はロルラチニブ群でNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群で9.3ヵ月(95%CI:7.6~11.1)、HR 0.28(95%CI:0.19~0.41)、p<0.001と有意な延長が示された。1年PFS率はロルラチニブ群が78%(95%CI:70~84)、クリゾチニブ群が39%(95%CI:30~48)と大きな開きをみせている。PFSは、脳転移の有無も含めてすべてのサブグループで有意にロルラチニブ群が良かった。奏効率はロルラチニブ群で76%、クリゾチニブ群で58%であった。ロルラチニブは頭蓋内移行性が高く、今回の報告では脳転移に対する効果も検討されている。頭蓋内奏効率は、ベースラインで測定可能または測定不能な脳転移があった患者で、ロルラチニブ群(38例)が66%(95%CI:49~80)、クリゾチニブ群(40例)が20%(95%CI:9~36)とロルラチニブ群での高い奏効が示された。脳転移の増悪までの期間は、ロルラチニブ群(149例)がNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群(147例)が16.6ヵ月(95%CI:11.1~NE)、HR 0.07(95%CI:0.03~0.17)、p<0.001で有意にロルラチニブ群が良かった。OSはインマチュアであり、両群ともに中央値はNEであった。副作用はロルラチニブ群において高脂血症、高TG血症、浮腫、体重減少、末梢神経障害を高頻度に認めている。中間解析の結果ではあるが、PFSは有意な改善が期待できる。ALK肺がんは現時点でも長期のOSが示されているが、ロルラチニブを初回に使うことによってさらなるOSの改善が期待できるのか、今後の報告が気になるところである。WJOG10718L/@Be試験@Be studyはEGFR/ALK/ROS1陰性、PD-L1強陽性(Daco 22C3)の未治療非扁平上皮非小細胞肺がんに対して、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の有効性を検証する単群第II相試験である。免疫チェックポイント阻害薬に血管新生阻害薬を上乗せする試験は近年いくつか報告されており、本試験は肺がんにおいてベバシズマブを上乗せする初めての試験である。主要評価項目は奏効率(ORR)、副次的評価項目はPFS、DoR、OS、安全性であり、試験事務局である九州がんセンターの瀬戸 貴司先生により結果が報告された。登録された40例中、39例が適格であり、TPS 50~75%が13例(33.3%)、75~100%が26例(66.7%)であった。主要評価項目であるORRは64.1%(90%CI:49.69~76.83)と統計学的にメットしており、9割以上の症例において腫瘍縮小が認められた。PFSは15.9ヵ月(95%CI:5.65~15.93)、1年PFS率は54.9%(95%CI:35.65~70.60)であり、これまでのPD-L1強陽性に対する報告を上回る結果となり、今後が期待される。副作用は、23件/12例においてGrade3の副作用を認め、Grade4以上は認めなかった。副作用中止は2例に認め、硬化性胆管炎と脳症によるものだった。今後、PD-L1強陽性に対して免疫チェックポイント単剤(IMpower110 or KEYNOTE-024)か免疫チェックポイントに血管新生阻害薬を上乗せする(@Be)か、さらには殺細胞性抗がん剤も併用する(IMpower150)か、第III相試験が興味深いところである。KEYNOTE-024試験KEYNOTE-024試験は、PD-L1強陽性(TPS≧50%)の未治療進行NSCLCに対する初回治療におけるペムブロリズマブ単剤治療と化学療法(プラチナ併用療法)を比較した第III相試験である。化学療法群ではPDを認めた場合にペムブロリズマブ群へのクロスオーバーが認められていた。これまでPFS、OSにおいて有意な延長効果が示されてきたが、今回は5年フォローアップのデータの報告となった。2020年6月1日にデータカットオフされ、追跡期間中央値は59.9ヵ月であった。化学療法群のペムブロリズマブへのクロスオーバーは66.0%であった。OSはペムブロリズマブ群で26.3ヵ月(95%CI:18.3~40.4)、化学療法群で13.4ヵ月(95%CI:9.4~18.3ヵ月)、HR 0.62(95%CI:0.48~0.81)と既報と大きな変わりは認めなかった。3年OS率はペムブロリズマブ群で43.7%、化学療法群で19.8%、5年OS率はペムブロリズマブ群で31.9%、化学療法群で16.3%と、3年以上の症例ではtail-plateauの傾向もみられ、5年たった時点でも生存率は約2倍維持されている。化学療法群において高いクロスオーバーがあったにもかかわらず、ペムブロリズマブ群は5年OS率においても有意な延長効果が示され、初回治療で投与することは重要と考える。さらには、35サイクル(2年間)ペムブロリズマブを投与できた症例(39例)の奏効率は82%と高率であった。多くは治療早期に奏効が得られており、免疫チェックポイント阻害薬においても、縮小効果がある症例においては長期の治療効果が期待できることが示された。現在、PD-L1強陽性に対しては単剤で十分ではないかという議論がされるが、今回の長期フォローアップのデータはそれを裏付ける結果の1つであるといえる。PD-L1強陽性に対する単剤とコンビネーションの比較試験も進行中であり、その結果にも注目したい。CheckMate-9LA試験EGFR/ALK陰性の未治療進行NSCLCを対象に初回治療としてニボルマブ(Nivo)+イピリムマブ(Ipi)に化学療法2サイクルを併用するNivo+Ipi+化学療法群と化学療法群を比較する第III相試験である。ASCO2020において有効性が公表され、すでに米国・オーストラリア・シンガポール・カナダでは承認されており、日本でも承認間近と伺っている。今回は、アジア人サブグループの結果が報告された。9LA登録例のうち、アジア人は日本人患者(50例)と中国人患者(8例)であった。Nivo+Ipi+化学療法群が28例、化学療法群が30例であった。OSは、アジア人サブグループでも全集団と同様の傾向がみられ、Nivo+Ipi+化学療法群でNR(15.4ヵ月~NR)、化学療法群で13.3ヵ月(8.2ヵ月~NR)、HR 0.33(95%CI:0.14~0.80)と併用群で良好な結果が示された。組織型(Sq/non-Sq)、PD-L1発現(≧1%/<1%)でみた解析においても、少数ながらNivo+Ipi+化学療法群において改善傾向が認められた。気になる副作用であるが、アジア人における全体およびGrade3/4の頻度、そして副作用中止の頻度が高い傾向があるが、とくにアジア人集団で新たに認められたものはなかった。今回の報告でもあるように9LAレジメンは副作用が懸念点であり、今後実臨床においてどのように評価されていくのかが気になるところである。さいごに今回のESMO2020もvirtualではあったものの、肺がん領域においてはいくつもの重要な報告があった。日本においてはいくらかCOVID-19の蔓延が落ち着きつつあり、現地とwebのハイブリッド開催が行われるようにもなってきたが、世界的には落ち着いておらず国際学会に行くのはまだまだ先になるだろう。国際学会の刺激は現地でないと味わえないところもあり、一刻も早い現状の改善を期待している。

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第22回 めまい part2:頭部CT撮ればいいんでしょ? 【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)CT、MRI陰性でも中枢性めまいは否定できない!2)年齢などのリスクの有無よりも、Hi-Phy-Viを意識し、鑑別を!3)歩くことができなければ要注意!【症例】68歳女性。来院当日の起床時からめまいを自覚した。しばらく横になり、その後トイレにいこうと歩き始めたところ、再度症状が出現し、嘔気・嘔吐も伴い救急車を要請した。病院到着時、嘔気の訴えはあるがめまい症状は消失していた。しかし、病院のストレッチャーへ移動すると再びめまいが。。。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧158/85mmHg脈拍95回/分(整)呼吸18回/分SpO298%(RA)体温36.1℃瞳孔開眼困難で評価できず既往歴高血圧、脂質異常症、虫垂炎危険なめまいを見逃す5つの理由めまい診療が苦手な方は多いですよね。前回第21回お話しした通り、最も頻度の高い良性発作性頭位めまい症(BPPV)について自信を持って診断できるようになると、だいぶマネジメントし易くなりますから、特徴は頭に入れておいてください。今回は、誰もが陥りやすい点から、めまいの具体的なアプローチを整理しておきましょう。めまい診療を難しく、そしてエラーしがちになる5つの理由を表にまとめました1)。表 誤診の5つの理由 -判断を誤るのには理由がある-画像を拡大する(1)症状の質を過度に依存してしまうこれは前回お話ししましたね。回転性、浮動性という患者さんの訴えは当てになりません。また、つらい患者さんに対して、「グルグル回るようなめまいですか? それともフワフワする感じですか?」と問診しても正確な答えはそもそも返ってきません。参考にはなりますが、絶対的なものではないことを改めて理解しておきましょう。(2)時間や誘発因子の未活用BPPVの最大の特徴はなんでしたか? 持続時間でしたね。安静の状態で1分以内におさまるめまい、それがBPPVの最大の特徴です。1回1回のめまいの持続時間を確認するのでしたね。誘発因子では、寝返りで症状が引き起こされる場合には「BPPV」、起き上がると症状を認めるのが「起立性低血圧」です。姿勢によらずめまいが持続している場合には、急性前庭症候群(Acute vestivular syndrome:AVS)を考え、前庭神経炎や脳梗塞を考えます。それ以外にも考えることがありますが、まずはこの大枠を頭に入れておくことをお勧めします。(3)身体診察に精通していない急性前庭症候群を前庭神経炎か脳梗塞かを見極めるためには、CT、MRIも重要ですが後述の(5)の理由から絶対的な指標とはなり得ません。重要なこと、それが身体診察ということになります。主に、“head impulse”、“nystagmus”、“test of skew”の3項目を評価し見極めます。詳細はここでは述べませんが、眼振はまずは典型的な眼振を頭に入れてしまいましょう。ただ、例外はいくらでもありますので、後半規管型/水平半規管型BPPV、前庭神経炎の際の眼振を繰り返し動画サイトなどで確認し、目に焼き付けてください。実際の臨床現場では可能な限りフレンツェル眼鏡を使用しましょう。(4)年齢や血管危険因子などのリスクを過大評価救急外来で研修医と診療にあたっていると、よく聞く台詞が「高齢者なので中枢性が否定できないと思うのでCTを撮影します」というのがあります。しかし、頻度の高いBPPVは、高齢者であってもめまいの原因として多いのです。年齢のみを理由に頭部CTをオーダーしてはいけませんよ。(5)CT・MRIへの依存、評価の見誤り小脳出血など出血性病変であれば、頭部CTで白黒つけることはほぼできますが、脳梗塞、特に急性期脳梗塞はCTでは判断できず、MRIを撮影しても必ずしも異常を指摘できません。発症1〜2日以内の後方循環系の脳梗塞のMRIでは10~20%見逃してしまうのです2-4)。実践的アプローチ5)これらを意識して、実際のアプローチは図の通りとなります。前回のアプローチで鑑別すべき疾患を頭に入れながらこのアプローチをみると、より実践的な対応ができると思います。そもそも安静時にめまいが持続している場合には、頻度の高いBPPVの可能性がぐっと下がり、逆に持続時間からBPPVらしければ、年齢や基礎疾患に依らず積極的にBPPVを疑い対応するのです。片頭痛性めまいなど診断に苦渋する場合もありますが、対応が変わるわけではありませんので、目の前の患者さんに対して何をするべきかは判断できるようになるでしょう。図 急性めまい患者へのアプローチ画像を拡大する歩けなかったら要注意最後に、末梢性めまいと判断し帰宅可能とする場合には、普段と同様のADLであることを確認する必要があります。普段歩行可能な方であれば、実際に歩けるか否かを必ず確認しましょう。ストレッチャー上でめまいが消失したからといって安心してはいけません。  体幹失調の有無をきちんと評価し、問題ないことを確認しなければ、小脳梗塞を見逃します。1)Kerber KA,et al. Neurol Clin. 2015;33:565-575.2)Choi JH, et al. Neurol Clin Pract. 2014;4:410-418.3)Kattah JC, et al. Stroke. 2009;40:3504-3510.4)Saber Tehrani AS, et al. Neurology. 2014;83:169-173.5)Jonathan A, et al. J Emerg Med. 2018;54:469-483.

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流行りのダイエット法に手を出しては続かない患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第37回

■外来NGワード「毎日、食事記録をつけなさい!」(面倒なので続かない)「カロリー計算をしなさい!」(同上)「いろいろなダイエットに手を出さないように!」(何をすればよいかわからない)■解説 食事・運動指導をしても続かずに、いろいろなダイエット法を転々とする患者さんの特徴として、現在の食事・運動療法に満足していないことが考えられます。満足していない理由の1つとして、自分の性格タイプに合っていないことがあります。そこで、患者さんの強みを生かしてダイエットに取り組むことが大切になります。ユングのタイプ論に倣うと、性格タイプは大きく4つの色に分かれます。冷静な青色タイプ(内向的・論理型)の患者さんは分析力が高いので、食事や体重を記録し、食事のカロリー計算をするダイエットが好まれます。逆に、黄色タイプ(外向的・感情型)の患者さんは記録や計算を面倒くさがります。流行りのダイエットに手を出しがちのタイプです。1人で黙々とやるダイエットは苦手ですが、仲間と一緒にできる面白いダイエットに興味を持っています。1日2回体重計に乗ることで、食事による体重変化がすぐにわかる朝晩ダイエットなどが向いているかもしれません。赤色タイプ(外向的・論理型)の患者さんの強みは決断力です。短期間で達成できる、無駄を極力省いた効率的なダイエットに挑戦したいと考えています。それに対して、緑色タイプ(内向的・感情型)の患者さんの強みはサポート力で、「家族のために頑張りたい」「慌てずにゆっくりとダイエットに取り組みたい」と考えています。これらの性格タイプを参考に、患者さんに合ったダイエット法を一緒に探してみるとよいでしょう。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、ダイエットの調子はいかがですか?患者テレビで紹介されていたダイエットに取り組んでいるのですが、体重がなかなか減らなくて。医師どんなダイエット法ですか?(興味を持って尋ねる)患者「○○を食べれば健康に痩せる」と言っていて…。医師なるほど。残念ながら、それは減量に効果がなさそうですね。患者えっ、そうなんですか…。食事記録やカロリー計算は面倒だし、何かいいダイエット法はありませんか?医師性格タイプに合わせた、いいダイエット法がありますよ。患者本当ですか? ぜひ教えてください!(興味津々)医師家に体重計はありますか?患者はい。体脂肪も測れます。医師では、朝と晩に乗ってください。そうすると、太りやすい食べ物と痩せやすい食べ物がわかりますよ。患者えっ、どういうことですか? 詳しく教えてください。(朝晩ダイエットに話が展開する)■医師へのお勧めの言葉「○○さんの性格タイプに合わせたダイエット法がありますよ!」

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FHホモ接合体のevinacumab併用、LDL-Cを40%低下/NEJM

 最大用量の脂質低下療法を受けているホモ接合型家族性高コレステロール血症(FH)の患者において、evinacumabを併用することでLDLコレステロール(LDL-C)値がベースラインよりも大幅に低下したのに対し、プラセボではLDL-C値がわずかに上昇し、24週の時点で群間差が49.0ポイントに達したとの研究結果が、南アフリカ共和国・ウィットウォータースランド大学のFrederick J. Raal氏らによって報告された。「ELIPSE HoFH試験」と呼ばれるこの研究の成果は、NEJM誌2020年8月20日号に掲載された。ホモ接合型FHは、LDL-C値の異常な上昇によって引き起こされる早発性の心血管疾患を特徴とする。この疾患は、LDL受容体活性が実質的に消失する遺伝子変異(null-null型)または障害される遺伝子変異(non-null型)と関連している。また、アンジオポエチン様3(ANGPTL3)をコードする遺伝子の機能喪失型変異は、低脂血症や、アテローム性動脈硬化性心血管疾患への防御と関連している。ANGPTL3に対するモノクローナル抗体であるevinacumabは、ホモ接合型FH患者にとって有益である可能性が示されていた。11ヵ国30施設が参加したプラセボ対照無作為化第III相試験 本研究は、11ヵ国30施設が参加したプラセボ対照無作為化第III相試験であり、2018年2月15日~12月18日の期間に患者登録が行われ、2019年7月29日にデータベースがロックされた(Regeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢12歳以上のホモ接合型FHで、許容できない副作用が発現しない最大用量の脂質低下療法を安定的に受けており、LDL-C値が70mg/dL以上の患者であった。 被験者は、evinacumab(15mg/kg体重)を4週ごとに静脈内注入する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、ベースラインから24週までのLDL-C値の変化率(%)とした。LDL-C値:47.1%低下vs.1.9%上昇 65例が登録され、evinacumab群に43例、プラセボ群には22例が割り付けられた。12~<18歳の患者が各群に1例ずつ含まれた。全体の平均年齢は41.7±15.5歳で、女性が35例(54%)であった。 ベースラインの平均LDL-C値は、最大用量の基礎脂質低下療法を受けていたにもかかわらず、evinacumab群が260mg/dL、プラセボ群は247mg/dLであった。全体の94%がスタチン(77%は高強度スタチン)、77%がPCSK9阻害薬の投与を、34%がアフェレーシスを受けており、63%が3剤以上の脂質修飾薬の投与を受けていた。 24週の時点で、evinacumab群ではLDL-C値がベースラインから47.1%低下したのに対し、プラセボ群では1.9%上昇しており、群間の最小二乗平均差は-49.0ポイント(95%信頼区間[CI]:-65.0~-33.1、p<0.001)であった。 また、LDL-C値の群間の最小二乗平均絶対差は-132.1mg/dL(95%CI:-175.3~-88.9、p<0.001)であった。 LDL-C値の低下は、null-null型変異を有する患者では、evinacumab群がプラセボ群よりも大きく(-43.4% vs.+16.2%)、非null型変異の患者でもevinacumab群で大きかった(-49.1% vs.-3.8%)。 主な副次アウトカムであるアポリポ蛋白B、非HDL-C値、総コレステロール値のベースラインから24週時までの変化率は、いずれもevinacumab群がプラセボ群よりも有意に低下した(すべてのp<0.001)。 有害事象は、evinacumab群が66%、プラセボ群は81%で発現した。evinacumab群で頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(16%)、インフルエンザ様疾患(11%)、頭痛(9%)、鼻漏(7%)であった。 有害事象により治療中止となった患者は両群とも認められず、死亡例もなかった。重篤な有害事象は、evinacumab群の2例(5%、尿路性敗血症、自殺企図)でみられたが、いずれも回復した。 著者は、「LDL-C値の低下に伴い、アポリポ蛋白Bはevinacumab群がプラセボ群よりも36.9ポイント低下した。この低下は、大量基礎脂質低下療法へのアフェレーシス追加の有無にかかわらず達成された」としている。

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COVID-19患者の約7割は転帰良好/国立国際医療研究センター

 8月7日、国立国際医療研究センターはメディア向けに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をテーマとし、「COVID-19レジストリ研究の中間報告」のセミナーを開催した。 セミナーでは、2020年1月から現在まで収集された約4,800例のCOVID-19患者のデータから患者の入院時症状の傾向、予後、重症化傾向などの中間解析結果が説明された。COVID-19患者5,977例を精査 はじめに同センター理事長の國土 典宏氏が、東京・新宿区におけるセンターの意義、患者数の推移・傾向、患者対応などを説明した。 今回の研究では、センターで診療した5,977例(うち陽性1,335例、22.3%)の症例で検討がなされたこと、患者数も一度減少したものの、最近では増加傾向にあり、東京都の感染者数の拡大とパラレルであることが説明された。 センターでは、COVID-19対応総合病院機能として、検疫、重症者対応、診断法・治療法の開発、行政との連携だけでなく、疫学としてゲノム解析や患者レジストリにも力を入れていくと展望を述べた。全国748施設から4,797例を解析 続いて同センターのAMR臨床リファレンスセンターの松永 展明氏と同感染症センターの大津 洋氏が「COVID-19 レジストリ研究に関する中間報告について」をテーマに、レジストリ体制、システムの概要ならびに中間解析の結果について説明を行った。 レジストリ研究の概要について、目的は「COVID-19患者の臨床像および疫学動向を明らかにする」と定め、対象は「COVID-19と診断され医療機関において入院管理されている症例」と規定し、2020年1月(レジストリオープンは3月)からデータ収集されている(詳細は下記のホームページ参照)。 レジストリシステムは、世界保健機関とISARICが作成した症例報告書テンプレートを使用し、日本独自調査の項目も追加。センター内にサーバを設置し、データの集積が行われており、将来的には他国のデータとの統合分析も予定できる設計という。レジストリの登録施設は、全国で748施設、登録症例数は4,797例(8月3日現在)に上る。男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例は重症化 続いて感染症センターの早川 佳代子氏が解析結果を説明した。中間解析の対象は、約230施設、約2,700例であり、レジストリ開設から7月7日までに登録された「入院治療を行った患者かつ入院時SARS-CoV-2陽性の患者」について行われた。 重症度の内訳として、入院後最悪の状態では「酸素不要」(61.8%)、「酸素要」(29.7%)、「挿管など」(8.5%)だった。入院中に酸素不要であった軽症者は約60%、挿管や体外式膜型人工肺(ECMO)を要した例は8.5%だったほか、入院時に重症であった例では、5人に1人以上が挿管やECMOを要したが、非重症であった例では2%未満だった。 患者背景では、2週間以内に陽性例や疑い例と濃厚接触があった例が58.3%。男性で喫煙者では重症化しやすかったほか、酸素や挿管などを要した患者は年齢が高めであった。また、60代以降では重症化しやすい(=酸素投与・挿管などが必要)傾向がみられた。 併存疾患では、軽症糖尿病(14.2%)、高脂血症(8.2%)、脳血管障害(5.5%)などがみられ、海外(一例としてイギリス:軽症糖尿病[22%]、重症糖尿病[8.2%]、 肥満[9%])の入院患者報告に比べると、併存疾患の割合は低めだった。 入院時の症状では、(37.5度以上)発熱、咳、倦怠感、呼吸困難感が多く、軽症例では頭痛、味覚障害、嗅覚障害を訴える例が多かった(発症から入院までの中央値:7日間)。とくに味覚障害と嗅覚障害の頻度は、海外からの報告でもばらつきが大きいものの、今後症状として増える可能性があると指摘した。 薬剤の使用歴について(併用例もそれぞれカウント)、酸素不要、酸素要、挿管などのいずれでも「ファビピラビル」が一番多く、次にシクレソニドだった。挿管などが必要な患者ではステロイドの使用も多かった。なお、有効性などの中間解析は未解析としている。 退院時の転帰について、全体で自宅退院(66.9%)が最も多く、ついで転院(16.6%)、医療機関以外への施設への入所(7.4%)で、入院死亡は7.5%だった。とくに挿管などの処置の例での死亡は33.8%と高い数値だった。なお、わが国では、海外の入院患者報告に比べると、死亡の割合は低めだという(イギリス:26%、米国NY:21~24%、中国:28%)。 以上から中間解析では、男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例(心血管系・糖尿病・COPDなど慢性肺疾患)では重症化しやすく、入院中に酸素不要であった軽症者では約8割が自宅退院となり、予後良好であること。そして、欧米と比較し、低めの併存疾患の割合(糖尿病:16.7%、肥満:5.5%)や死亡率(7.5%)であったことが示唆されると説明した。 最後に臨床研究センターの大曲 貴夫氏が、「疫学研究としてさらなる知見の創出」、「医薬品医療機器開発への活用」、「臨床情報と検体情報の融合によるさらなる研究発展」を柱に研究を行っていくと展望を語り、セミナーを終えた。■参考サイトCOVID-19に関するレジストリ研究 COVIREGI-JP

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「痩せたい」は口だけで何もしない患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第36回

■外来NGワード「食べなきゃ、痩せます」(身もふたもない)「もっと運動しなさい」(あいまいな運動指導)「理想体重にしなさい!」(患者の気持ちを無視)■解説 外来で「痩せたい」と口にする割には、食事療法や運動療法になかなか取り組まない患者さんがいます。そういった患者さんに、「食事量を減らして、運動すれば必ず痩せます」と説得してもうまくいきません。なぜならそのような患者さんは、エネルギー出納バランスなどを理解していながら、行動に移せていないからです。食事指導・運動指導が実際の行動に結び付かない患者さんには、まず減量目標を立ててもらうことが大切です。ところが、「何kgぐらい痩せたいですか?」と質問すると、非現実的な減量目標を答える患者さんもいます。目標を決めるときは、「いつまでに」何kg痩せるのか、期間を限定して、現実的な減量目標を立てましょう。開始日とゴールを明確にすることで、具体的な作戦を立てようという気持ちが引き出されます。減量目標の決め方は、性格タイプにより相性があります。ユングのタイプ論に倣うと、外向的・論理型の患者さんはやや高めの目標のほうがやる気が出ますが、内向的・感情型の患者さんは少し緩めの目標として、家族と相談する時間を取るなどしたほうがよいでしょう。また、外向的・感情型の患者さんはざっくりした目標でも大丈夫ですが、内向的・論理型の患者さんは、血圧、血糖、脂質を改善するなら体重の3%減、肝機能を改善するなら5~10%減など、エビデンスに基づいて目標を決めたほうがよいでしょう。目標を決めるうえで、患者さんのタイプを見極めることも重要です。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、体調はいかがですか?患者体調はいいんですけど、体重がなかなか…。痩せたいと思ってはいるのですが。医師なるほど。具体的に何kgぐらい痩せたいとかありますか?患者そうですね、ハタチのころは60kgだったので、あと10kg痩せたいです。けど、無理かなぁ…。確か、理想体重もそのくらいですよね。医師それなら、期間を決めましょう。3ヵ月なら何kgぐらい痩せられると思いますか?患者3ヵ月なら、10kgの減量は難しそうだし、3kgくらいですかね。医師いい目標ですね。目的により異なりますが、血圧、血糖、脂質の値を改善するなら、体重の3%を目安にした減量が第一目標になりますよ。患者わかりました。それなら、3ヵ月で3kg減を目標にします。医師はい。それでは、いつから減量に取り組みましょうか?患者今日からと言いたいところですが、夜に予定があるので、明日からにします。医師そうすると、3ヵ月後は〇月△日になりますので、カレンダーに印を付けておいていただけますか。患者わかりました。こうやって、日にちを決めて目標を決めたほうが励みになりますね。ところで、何から始めたらよいですか?(具体的な行動へ話が展開)■医師へのお勧めの言葉「3ヵ月で何kgぐらい痩せたいですか?」1)Perito ER, et al. Curr Opin Gastroenterol. 2013;29:170-176.

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チラシの情報を真に受けやすい患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第35回

■外来NGワード「チラシは信じないようにしなさい!」(次から相談しなくなる)「そんなものは効果ありません!」(頭ごなしに否定する)「もっと食事に気を付けなさい!」(話題をそらす)■解説 現在の治療や結果に満足できていない患者さんは、怪しいチラシの健康食品などに手を出しがちです。しかし、「そんなチラシは信じないようにしなさい!」と頭ごなしに否定すると、患者さんは二度と医師にチラシの情報について相談しようとは思わなくなるでしょう。正しい健康情報については、情報を入手するだけでなく、それを批判的に吟味して、自分のために正しく活用できることが「ヘルスリテラシー」です。ところが、チラシは読者の購入意欲をくすぐるように、巧妙に作られています。とくに、患者さんはチラシの写真(ビフォーアフターなど)と体験談を信じやすいのですが、その真偽は定かでなく、よく見ると「この記事は個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません」などのただし書きが付いています。しかし、患者さんはその部分に気付いていないことも多いです。「〇〇が治る」などの表現は広告の規制対象となるため、チラシには遠回しに薬のような効果があると誤解を招く表現がよく使われています。患者さんにはチラシの内容をうのみにしないように伝えておくとよいでしょう。 ■患者さんとの会話でロールプレイ患者先生、これ飲んでもいいですか?(チラシを見せながら)医師どれどれ…?(興味を示す)患者これを飲むと、糖尿病が治るって書いてあるんです。医師なるほど(じっくり見る)。このチラシをよく読むと、体験談が載っているだけで、「糖尿病が治る」とは書いていないですね。患者あら、本当ですね!医師それに、初回限定価格だとか、まとめ買いで安くなるなんて、元の値段はいくらなんですかね。患者…元は、かなり安いかもしれませんね。医師そうですね。普段飲んでいる薬より高価な割には、効果が見込めないかも。患者ハハハ…。医師ところで、こういうチラシを信じる者はどうなると思いますか?患者「信じる者は救われる」とかですか?医師いえいえ、「信」+「者」=「儲」かるです。(字を書きながら)患者本当だ! なるほど、信者は儲けに利用されているんですね。もっと気を付けてチラシを読むようにします。■医師へのお勧めの言葉「正しいチラシの捉え方を覚えておくといいですよ!」「普段飲んでいる薬より高価な割には、効果が見込めないかもしれません」

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シランを知らんと知らんよ!新薬開発の潮流を薬剤名から知る!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第26回

第26回 シランを知らんと知らんよ!新薬開発の潮流を薬剤名から知る!「肉納豆」と聞いて、すぐに「ワルファリン」を思いつく方も多いと思います。ワルファリンはビタミンKに拮抗して作用する薬剤です。ビタミンK依存性凝固因子は医師国家試験の頻出課題です。これを記憶する呪文が「肉納豆」で、「2・9・7・10」の4つの番号の凝固因子が該当します。この語呂合わせは、納豆というワルファリン使用者には薦められない食品も記憶できることが長所です。小生が医学生であった30年以上も昔から、このような語呂合わせは沢山ありました。β遮断薬は交感神経を抑制しますから、脈拍が遅くなります。「プロプラノロール」という代表的なβ遮断薬を記憶するために、「プロプラノロール」は、プロプラノローくなると覚えなさいと、薬理学の講義で聞いたことが妙に頭に残っています。確かに、脈がノロくなるので、「~ノロール」を「~ノローく」と変換するとピッタリきます。現在も「カルベジロール」や「ビソプロロール」などのβ遮断薬をしばしば処方します。どのβ遮断薬も語尾に「~ロール」とあるのはなぜでしょうか。薬剤の名前に共通な部分が多いことには皆さんお気づきでしょう。このように薬剤名の根幹となるものを「ステム(共通語幹)」といい、「stem:幹・茎」に由来します。カルシウム拮抗薬のステムは「~ジピン」です。ニフェジピンやアムロジピンなどが思い浮かびます。プロトンポンプ阻害による抗潰瘍薬では「~プラゾール」です。分子標的薬として注目される、モノクローナル抗体薬は「~マブ」で、抗悪性腫瘍剤のリツキシマブなどがあります。ステムは、世界保健機関(WHO)によって、医薬品の化学構造や標的分子および作用メカニズムなどに基づいて定義されます。今、一番の話題は「~シラン(siran)」をステムに持つ薬剤です。シランはsiRNAからの造語でsmall interfering RNAを意味します。この薬剤は遺伝情報に関係するRNAがターゲットです。ゲノム(全遺伝情報)はDNAの塩基配列として記録されています。これがメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、タンパク質に翻訳されます。このDNA→mRNA→タンパク質の流れを、セントラルドグマといい分子生物学の根幹とされます。この過程のどこかを妨害すれば、遺伝子が機能しなくなるはずです。標的タンパク質のmRNAに対して相補的な塩基配列をもつ一本鎖RNA(アンチセンス鎖)と、その逆鎖である一本鎖RNA(センス鎖)からなる短い二本鎖RNAで、RNA干渉を誘発します。RNA干渉とは、RNAどうしが邪魔し合って働かなくなるようにする技術で、標的タンパク質の発現を抑制し、治療効果を発揮します。病気の原因となる遺伝子の発現を封じ、疾患の発現に関わるタンパク質の合成を抑制することができれば、医療は一変する可能性があることは理解できると思います。抗体医薬品がタンパク質をターゲットにするのに対し、siRNA医薬品は、その上流のRNAをターゲットにします。アミロイドーシス治療薬のパチシラン(patisiran)、脂質異常症へのインクリシラン(inclisiran)をはじめとして、「~シラン」という薬剤は目白押しで開発が進行しています。siRNA医薬品を含む核酸医薬品は、100種類以上の薬剤が開発の俎上にあり、この流れに日本の製薬企業が乗り遅れていることは懸念材料です。皆さん、「~シラン」を知らんのは残念です。語呂合わせから始めた話が、世界の新薬開発の潮流を紹介する方向にそれてきました。パソコンに向かって真面目に原稿を打っていると、猫がすり寄ってきて邪魔をします。膨大な記憶を要する医師国家試験対策では、語呂合わせがありがたいです。語呂合わせよりも、もっと素晴らしいのは、猫さまが発するゴロゴロ音です。摩訶不思議な音で、ゴロゴロと鳴らしている猫の首元に耳を寄せると振動しているのがよくわかります。これは猫と暮らす醍醐味で、まさに究極のゴロ合わせです。この至福を「~シラン」のは残念すぎます。

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第21回 めまい part1:回転性か浮動性かで分類すればいいんでしょ? 【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)前失神か否かをcheck! 2)持続時間を意識し良性発作性頭位めまい症(BPPV)か否かをcheck!
3)安静時に眼振があったらBPPVではない!
【症例】68歳女性。来院当日の起床時からめまいを自覚した。しばらく横になり、その後トイレにいこうと歩き始めたところ、再度症状が出現し、嘔気・嘔吐も伴い救急車を要請した。病院到着時、嘔気の訴えはあるがめまい症状は消失していた。しかし、病院のストレッチャーへ移動すると再びめまいが。。。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧158/85mmHg脈拍95回/分(整)呼吸18回/分SpO298%(RA)体温36.1℃瞳孔開眼困難で評価できず既往歴高血圧、脂質異常症、虫垂炎めまいという言葉が含むもの「めまい」は研修医を始め若手の医師の誰もが苦手とする症候の1つでしょう。実際に私が全国の研修医の先生へ「苦手な症候は?」と聞くと、必ずといっていいほど「めまい」と返答があります。それはなぜでしょうか?医学生時代、必ず見るのがめまいを「末梢性」と「中枢性」に分類した表です。回転性めまいならば末梢性、浮動性めまいならば中枢性と習い、それぞれ代表的な疾患がBPPV・前庭神経炎、そして脳梗塞です。しかし、この分類は実際の臨床現場では役に立たないどころかエラーの原因となっていることは、誰もが感じていることでしょう。患者さんが「ぐるぐる回る」と訴えるから回転性と思ったら…、「フラフラ、地に足がついていない感じがする」と訴えるから浮動性と思ったら…、なんてことがよくありますよね。さらに、重症度が潜んでいる可能性のある前失神をめまいと訴えることもあります。患者さんがめまいを訴えて来院した場合には、めまいという言葉を使わないで症状を表現してもらいましょう。血の気が引くような症状であれば前失神、寝返りを打つだけで目の前がグラッと揺れるような症状であればBPPVに代表される回転性めまい、まっすぐ歩けず傾いてしまうのであれば小脳梗塞など中枢性病変が考えられるでしょう。もちろん、これ単独で判断はできませんが、前失神を見逃さないことはできるはずです。ちなみに、完全に意識を失ってしまう失神と比べると、前失神は重篤でないと考えがちですが、そんなことはなくリスクは同等です。前失神であっても、失神と同様の対応が必要となります(失神は第14回の項を確認してください)。めまい患者のアプローチめまいを訴える患者さんを診る場合には、前述の通りめまい以外の言葉で表現してもらい、原因疾患のらしさを見積もりますが、具体的にどのようにアプローチするべきでしょうか。STEP(1):中枢性めまい、前失神を除外頻度が高いのはBPPVなどの末梢性めまいですが、早期に拾い上げたいのはこれらの疾患です。最終診断は検査結果などを確認しなければ判断が難しいことが多いですが、前失神を示唆する病歴に加えて吐下血/血便を認める、貧血を示唆する所見を認める場合や、頭痛や麻痺、注視眼振や垂直性眼振など中枢性病変を示唆する所見を認める場合には、その時点でめまいのフローチャートではなく、消化管出血や脳卒中疑いとして対応する必要があります。STEP(2):BPPVか否かを判断頻度の高い疾患を確実に診断することができれば、前失神や中枢性めまいを過度に心配する必要はありません。BPPVの特徴を理解しズバッと診断、治療してしまいましょう。詳細は後述します。STEP(3):末梢性めまいの鑑別BPPV以外の末梢性めまいで頻度が高いのは、前庭神経炎です。持続するめまいの代表である脳梗塞とともに急性前庭症候群と分類されますが、HINTSやHINTS plusを用いて鑑別を進めましょう。STEP(4):帰宅or入院の判断末梢性めまいであれば帰宅可能と考えがちですが、症状が持続している場合には慎重に対応する必要があります。嘔気・嘔吐を伴うことも多く、食事が摂れない場合には要注意です。また、歩行が難しい場合にも末梢性のように思っても中枢性である場合や、転倒のリスクとなるため入院管理が適切といえるでしょう。BPPVの最大の特徴めまい患者の約50%はBPPVです。BPPVの特徴をきちんと理解しなければ、めまい診療は非常に難しくなります。頭部CTやMRI検査が必要なときもありますが、急性期の脳梗塞は必ずしも画像で陽性所見が認められるわけではなく、画像に依存しすぎるとエラーが生じます。「BPPVの最大の特徴は何か?」。このように研修医に質問すると、「頭を動かしたときに増悪するめまい」と返答があることが多いですが、これは違います! BPPVの正式名称が「良性発作性頭位めまい症」ですから、頭位が最大の特徴と思いがちですがそうではありません。前庭神経炎によるめまい、脳梗塞によるめまい、薬剤に伴うめまいも頭位を変換させれば症状は増悪するでしょう。最大の特徴、それは「持続時間」です。BPPVによるめまいは、安静にしていれば1分以内に治まります。耳石がぐわんぐわんと動いているのが原因ですから、その動きが横になるなど一定の姿勢をとり、止まることで症状も治まります。前庭神経炎や脳梗塞によるめまいは、症状の増悪はあってもゼロになることはありません。最も楽な姿勢をとってもめまいが持続していれば、その時点でBPPVではないのです。持続時間の確認の仕方持続時間はどのように確認するべきでしょうか? 患者さんに「症状はどれぐらい続きますか」と聞いてはいませんか? このように聞くと、たとえBPPVの患者さんであっても、「ずっと続いています」と答えることがあります。なぜだかわかりますか? BPPVは、安静にするとすぐに治まる、しかし動くと潜時を伴って、また、めまいが生じるという経過を辿ります。症状が治まり大丈夫かと思い動いたにも関わらず、再度症状を認めるため、患者さんは症状が続いていると訴えるのです。そのため、1回1回のめまいの持続時間に注目して聞くようにしましょう。「1回1回のめまいは横になるなど一定の姿勢をとると1分以内に治まりますか? そして、動くとまた始まる、そんな感じでしょうか?」と聞くと、BPPVの患者さん達は「そうそう」とよくぞわかってくれたといった反応を示すことが多いでしょう。安静時の所見に注目BPPVは安静時には耳石が動かないため症状も治まっています。眼振も認めません。救急外来でしばしば経験するのは、ストレッチャー上で右側臥位や座位で安静にしているときには、けろっとしている、そんな感じです。たとえ症状が軽そうで、安静にしているにも関わらず症状が持続している場合には、その時点でBPPVではありません。前庭神経炎を事前の感染徴候の有無で判断している場面に時々遭遇しますが、存在するのは50%程度と言われています。前庭神経炎かBPPVかは、めまいが持続しているか否か、特徴的な眼振の存在で判断しなければなりません。次回後編では、めまいの実践的なアプローチに関してお話します。1)坂本壮. 救急外来ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)坂本壮. プライマリ・ケア. 2020;5:21-27.

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生活習慣病患者の2割が通院せず自粛/血糖トレンド委員会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、生活習慣病患者の多くが外出を自粛したことに伴い、医療機関への通院を控えた事例が散見される。では、実際どの程度の通院などの自粛がされていたのだろう。 血糖コントロールの重要性、および「血糖トレンド」の概念とその活用方法について、医学的、学術的および患者視点でわかりやすく正確な情報発信を行うこと目的とした委員会である「血糖トレンド委員会」(代表世話人: 西村 理明氏[東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授])は、生活習慣病患者にCOVID-19がどのような影響を与えたのかを分析するため調査を実施し、今回その結果を発表した。●調査概要・調査期間 2020年6月8日(月)・9日(火)・調査方法 インターネット調査・調査対象 生活習慣病患者309名(内訳:高血圧103名、2型糖尿病103名、高脂血症103名)・実施機関 株式会社マクロミル主な調査結果・定期的な通院を必要とする生活習慣病患者の20.4%がコロナ感染予防を理由に通院を自粛。患者の44.9%は今後の通院もいまだに不安。・外出自粛で変わった生活習慣。58.6%の患者が体調管理への意識が向上。・生活習慣病患者の49.8%が自己管理ツールに関心。60代でも7%がツールを利用、49%が関心あり。個々のアンケート調査の内容 「COVID-19の流行が始まってから、普段の通院回数に変化はありましたか」の問いに、「変わらない」(78.6%)、「減った/通院していない」(20.4%)、「増えた」(1.0%)の回答結果だった。また、「減った/通院しなかった理由」(n=63)では、複数回答で「新型コロナ感染予防のため」(77.8%)、「自主的に外出自粛をしていたため」(30.2%)の順で多かった。 「緊急事態宣言が解除されてからの通院状況について」では、「不安はなく、通院を再開した」(33.7%)、「不安はあったが、通院を再開した」(30.4%)の順で多かった。 「オンライン診療に関心があるか」では、「関心はあるが、受診したくない」(38.8%)、「関心があり、受診したい」(30.7%)、「関心がない」(28.5%)の順で多かった。 「自粛期間中、普段よりも自身の体調管理を意識したか」では、「意識をしていた」(58.6%)、「特に意識していない」(41.4%)とセルフメディケーションの意識が向上していた。 最後に「自身の健康管理をサポートしてくれるツールに興味があるか」という問いには、「興味がある」(49.8%)、「興味がない」(41.7%)、「すでに活用している」(8.4%)の回答結果で、とくに60歳以上の回答割合もほぼ同様で、スマートフォンの普及も向上し、今後活用されていく可能性が示唆された。 今回、調査を行った同委員会では、「今回の調査で、糖尿病をはじめとする生活習慣病の患者たちがコロナ感染への不安を抱えながらも、コロナ禍において前向きに体調管理に取り組んでいたことが明らかとなった」と結果を分析している。

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第11回 GLP-1製剤の自由診療問題と教科書的な生活習慣改善指導との共通点

痩せてスリムな体になりたいというのは比較的万人に共通した願望ではないだろうか。とりわけ年齢を経れば代謝が低下し、太りやすくなるため、中年太りを解消したいという人は私の周りでも少なくない。ところが食事療法、運動療法は大変だから、なるべく楽に痩せたい。そんな「夢」を逆手に取る行為に日本医師会がご立腹のようである。6月17日の定例会見で、日本医師会(以下、日医)副会長の今村 聡氏が、一部の医療機関においてダイエット向けに糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬を自由診療で処方していることを問題視し、そのことが報じられた。確かに好ましい話ではない。だが、こうした適応外処方の自由診療、あるいは薬の個人輸入代行業はかなり前から跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している。実際、私も知人から個人輸入代行で痩せる薬を入手したと見せられたことがある。この時、見せられたのは抗てんかん薬のトピラマート(商品名:トピナ)である。てんかん専門医から肥満傾向のてんかん患者には使いやすいと聞いたことがあるが、こんな難しい薬が医師の管理もなく、ダイエット目的で入手できるのだと改めて驚いたものだ。これ以外にも同じく糖尿病で使われるSGLT2阻害薬も痩せ薬としてアンダーグラウンドで取引されていると聞いたことがある。GLP-1受容体作動薬の場合、既に海外で肥満症治療薬として承認されているのは事実であり、日本国内でも臨床試験中。ちなみにGLP-1受容体作動薬をダイエット目的で処方している自由診療クリニックのホームページを見ると、海外で承認済みであることを強調しながら、「日本では製薬メーカーで治験が行われず、日本では未承認です(原文ママ)」と事実とは異なる記載をしている。記事中ではGLP-1受容体作動薬の副作用として下痢が記述されているが、むしろ私が危惧するのは低血糖発作のほうだ。そもそもダイエットをしている人は、言っちゃ悪いが極端な糖質制限など偏った食事をしている人が通常集団よりも多いと推察される。そんなところにGLP-1受容体作動薬を投与しようものならば、低血糖発作リスクは高いはずである。その辺を会見で今村氏が言及したかどうかは個人的に気になる。というのも、痩せたい願望が強い人にとっては、下痢レベルの副作用を無視することは十分に考えられる。結果として、逆にこの記事が「寝た子を起こす」がごとく、痩せたい願望を持つ人への誘因になってしまう可能性すらある。(ちなみに日本医師会の定例記者会見は決まった企業メディアにしか参加が認められていない。企業メディアの場合は新たに参加が認められるケースもあるが、フリーランスは実績にかかわらず参加不可。私も過去に広報部門に参加を希望したが一蹴されている)問題のある自由診療はGLP-1だけじゃないしかし、このニュースに私は割り切れないものを感じてしまう。確かに今回のGLP-1受容体作動薬の自由診療による処方は問題ありだし、警告すべきものとは思う。しかし、従来から自由診療では、問題がある治療が行われていることをまさか日医執行部が知らぬわけはないだろう。代表例ががん患者に対する細胞免疫療法。要は患者から採取したT細胞などを増やし、活性化させて体内に戻してがんと戦わせるという「治療」だ。だが、これらは科学的エビデンスが確立されていないのは周知のこと。近年、血液がんを対象に承認されたキメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)のキムリアなどの成り立ちを見ても分かるように、ヒトのT細胞を抽出してちょっとやそっと増やしたりして体内に戻しても生存期間延長や治癒など得られないことは医師ならばわかるはずだ。しかし、がん終末期の患者が藁をもすがる思いで1回数十万円から百万円超ものこの「治療」に貴重なお金を注ぎ、期待したであろう効果を得られず患者が亡くなっている現実はもう30年以上横行している。むしろ例え事実上「糠に釘」でも日医が警鐘を鳴らし続けることが望ましいのではないだろうか。生活習慣改善指導は教科書的でいいのか?それ以上に割り切れないと思う点もある。それは痩せたい人への事実上の医療不在である。ちなみにここでいう痩せたい人とは、単に美容のために痩せたい人を意味するのではなく、疾患あるいはその予備群、代表例を挙げると生活習慣病で肥満傾向を持つ人などだ。患者の立場ならば、医師からなるべく体重を減らすため、過食を止め、運動するよう「指導」された経験のある人はいるだろう。だが、誤解を恐れずに言えば「そう言われただけ」の人がほとんどのはずだ。具体的にどんな運動をどれだけやればいいか、過食を止めるためにどうすれば良いか、何をどのように食べるべきか、単に教科書的文章の読み上げではなく、自分の生活に合わせてどのようにすればよいかを具体的に指導を受けた経験がある人は稀ではないだろうか?そのことをうかがわせる実例として、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」を挙げよう。同ガイドラインは書籍として総ページ数は約380ページだが、食事療法、運動療法に関する記述ページはその1割弱。内容はほぼ国内外のエビデンスをさらりと紹介している程度である。多くの経口糖尿病治療薬の添付文書には判で押したように「本剤の適用はあらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮すること」という記載がありながら、医師による食事療法、運動療法の指導も判で押したような教科書的なものばかりだ。もちろん個々の患者に合った運動療法、食事療法を指導することも、それを患者が継続することも容易でないことは分かるが、現状はあまりに受け皿がなさすぎるなかで、自由診療だけをとがめるのは穴の開いたバケツで水をくむようなものである。実際、私も経験がある。血液検査の結果、中性脂肪が若干正常上限値を上回っていた時のことだ。医師から次のように言われ、ポカン口状態になった。「肉、魚、卵はできるだけ控えるように」は? 何食べればいいんですか? 大豆? 豆腐? 納豆? 肉、魚、卵はできるだけ控えたら外食では食べるものがない。私たちが聞きたいのは、たとえば「お肉は脂身を残して量は少なめにして、その代わりに豆腐などを副菜に取り入れて」などより具体的なことである。幸いこの中性脂肪高値は一時的なものだったが、後に尿酸値の8.1mg/dLという検査結果に飛び上がらんばかりに驚いたことがある。この時の医師も某ジェネリック医薬品メーカーが作った高尿酸血症・痛風患者向けの冊子の内容を棒読みするだけだった。体重を減らす飲酒を控えるプリン体摂取を控える毎日2Lの飲水唯一棒読みではなかったのは、「体重を減らす」と言った後に「フフッ」と笑ったことぐらい。要はみんなできないんだよねという意味だろう。しかし、私はこれにややカチンときた。さらに飲酒は好きだし、控えるのは限界がある。プリン体をとりわけ多く含む食品はそもそも日常的にそれほど摂取機会がない。ということで体重減少と2L飲水に取り組んだ。いわば「おいしく楽しく酒を飲み続けるため」にそうしたのだ。詳細は省くが1年7ヵ月で14kg減。尿酸値も正常化している。だが、この間、運動をどう習慣化すればいいのか、その内容をどう変化させるかなど試行錯誤の連続。ちなみに一見簡単そうな飲水2Lのほうが楽しくもなく、習慣化までに苦労した。今この原稿を執筆中の傍らに1.5Lと600mLのペットボトルがある。こうしたことで医師などから工夫の伝授や励ましがあれば、どれだけ助けになっただろうと今も時々思う。こうした医療不在の隙を自由診療の囁きが埋めてしまっているのが現実ではないだろうか。このように書くと、「医師に何でも求めないで欲しい」と言われるかもしれないが、ならば医師から対応可能な職種へ繋ぐシステムが欲しいと思う。もちろんそうした職種への報酬の財源は医科診療報酬のプラス幅をやや抑えて捻出する。まあ、日医執行部が最も反発しそうではあるが。

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「そろそろ禁煙しないと」と思っているだけの患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第34回

■外来NGワード「禁煙しなさい!」(これでできたら苦労していない)「喫煙を続けると早死にしますよ!」(ショックを与える言動)「タバコの本数を減らしなさい!」(あいまいな節煙指導)■解説 新型コロナ感染症の重症化には、糖尿病、心不全、呼吸器疾患、透析などに加え、喫煙が強く関係しています。喫煙室は、新型コロナウイルス感染リスクが高い「3密」(密閉、密集、密接)の代表ともいえます。また、テレワークや休校のために、喫煙者が家でタバコを吸う機会が多くなり、家族の受動喫煙のリスクも高まっています。このようなパンデミックは、経済的な負担だけでなく精神的なダメージも大きく、「ストレスで喫煙本数が増えた」という患者さんもおり、普段以上に禁煙のハードルが高くなっているのかもしれません。禁煙治療には、ニコチンパッチ・ニコチンガムなど(ニコチン代替療法)や、禁煙補助薬バレニクリンなどを用いた薬物療法があります。薬物療法に行動療法(行動パターン変更法、環境改善法、代償行動法など)を組み合わせることで、禁煙成功率は高まります。しかし、すぐに禁煙しようとしない無関心期にある患者さんの場合、本数を減らすという選択肢もあります。コクランによると、禁煙する前に喫煙本数を減らすのと、ただちに完全禁煙する場合では、同程度の禁煙成功率であるとのエビデンスが報告されています1)。徐々に減らす場合には、1~2週間後に禁煙するという目標を立てることが大切です。新型コロナ感染症にはACE2受容体が関係するとの報告がありますが、喫煙はACE2受容体の発現を増加させます。喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化に深く関わることを上手に説明して、禁煙に真摯に向き合ってもらえるといいですね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、タバコの本数はいかがですか?患者今、テレワークになって家にずっといるんですが、子供も家にいるのでタバコが吸いづらくて。医師なるほど。確かに、ご家族にとっては受動喫煙になりますからね。患者そうなんです。妻から、「家の中では吸わないで」と言われていて…。医師どこで吸っておられるんですか?患者外に出て吸っています。近くに喫煙所もないし、マンションのベランダも喫煙禁止なので。医師なるほど。喫煙室も3密ですし、吸える場所がだんだん少なくなってきましたね。患者そうなんですよ。医師ところで、喫煙が新型コロナの重症化に深く関わっているのはご存じですか?患者やっぱり、そうですよね。そろそろ、禁煙しないといけないとは思っているんですが。医師これをきっかけに、禁煙について真剣に考えてもいいかもしれませんね。患者はい。けど、スパッと禁煙する自信がなくて。医師そんな人でも禁煙できる方法がありますよ!(前置きする)患者それはどんな方法ですか?(禁煙の準備についての話に進む)■医師へのお勧めの言葉「コロナをきっかけに、禁煙について真剣に考えてみませんか?」1)Lindson N, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019;9:CD013183.2)Berlin I, et al. Nicotine Tob Res. 2020 Apr 03. [Epub ahead of print]3)Vardavas CI, et al. Tob Induc Dis. 2020;18:20.4)Seys LJM, et al. Clin Infect Dis. 2018;66:45-53.5)Brake SJ, et al. J Clin Med. 2020;9:841.

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女性における脳心血管病対策は十分といえるのか?(解説:有馬久富氏)-1243

 世界のさまざまな所得水準の27ヵ国において20万人以上の一般住民を対象に疫学調査を継続しているPURE研究から、脳心血管病の男女差に関する成績がLancet誌に報告された1)。その結果、脳心血管病の既往のない女性の1次予防においては、男性と同等あるいはそれ以上に、高血圧に対する降圧療法、脂質異常症に対するスタチン、糖尿病に対する血糖降下療法が実施されていた。また、女性における初発脳心血管病のリスクは、男性の約4分の3と有意に低く、この結果は、すべての所得レベルおよびすべての地域に当てはまった。 一方、脳心血管病の既往がある女性の2次予防においては、男性に比べて十分な対策が行われていないことが明らかになった。たとえば、抗血小板薬やスタチンを処方されている女性の割合は、男性の3分の2程度であった。また、高血圧に対して降圧薬を処方されている女性の割合も、男性より有意に低かった。さらに、冠動脈疾患の既往がある女性をみると、男性に比べて心カテ等の検査やPCI等の治療が十分に行われていない可能性も示唆された。このような状況であっても、低・中所得国における彼女らの脳心血管病再発リスクは男性よりも低かった。しかし、高所得国における女性の脳心血管病再発リスクは男性と同等あるいはやや高い傾向にあった。1次予防の成績で示されたように元来女性の脳心血管病リスクは低いものと思われるが、2次予防においては、十分な予防対策や医療介入が行われていないために、女性の脳心血管病再発リスクが高まっている可能性がある。 東アジアからPURE研究に参加しているのは中国だけなので、本研究の結果をそのまま日本に当てはめてよいかはわからない。しかし、日本においても、脳心血管病リスクの低い印象を有する女性において、2次予防戦略が手薄になってしまうことはありうることなのかもしれない。女性であっても、脳心血管病の既往がある場合は高リスク者であることをきちんと認識し、2次予防対策(危険因子のコントロール、抗血栓療法、定期検査、早期の治療介入)を徹底することが大切と考えられる。

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「体重を気にしていたのに増えてしまった」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第33回

■外来NGワード「体重を減らしなさい」(わかっているけど、できない)「食事を減らしなさい」(あいまいな食事指導)「家で何か運動しなさい」(あいまいな運動指導)■解説 緊急事態宣言の発出期間は、仕事がテレワークになったり、休日の外出ができなくなったりして、どうしても運動不足になりがちです。家に閉じこもっては気分が上がらないからと、食卓を豪華にしていた人も多いかもしれません。その結果、体重を気にしていたにもかかわらず、「以前と比べて体重が増えた」と言う患者さんがいます。中には、「免疫力を高めるために食べる」と言う人もいますが、肥満気味の人では逆効果となります。海外での報告によると、新型コロナウイルス感染症の重症化には肥満が関係しており、とくに、60歳未満ではその傾向が強いようです。体重が増えると、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などになりやすく、そういった基礎疾患によって免疫力が低下し、感染症になりやすくなると考えられます。さらに、脂肪細胞にはACE2というタンパク質が多く発現していますが、これは、新型コロナウイルスのヒト細胞への侵入と関係しています。肥満の人は、脂肪細胞の量が多いので、新型コロナウイルスに侵入されやすいのかもしれません。ほかにも、脂肪細胞はアデノやインフルエンザなどのウイルスに感染しやすく、肺などほかの臓器にウイルスを供給している可能性があるとも考えられています。つまり、肥満自体がウイルス感染と関係しているわけです。では、どんな対策をすればよいのでしょうか。「3密」を避けることはもちろんですが、肥満を予防することが、新型コロナウイルス対策に役立つかもしれません。ただし、極端なダイエットは免疫力を低下させるので禁物です。ウィズ・コロナでも継続できる、自分に合ったダイエット法を見つけてもらいましょう。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師なかなか外出できなかったと思いますが、体重はいかがですか?患者テレビで「免疫力をつけるためにエネルギーをしっかり摂って」と言っていたので、よく食べていたら、体重が増えてしまって…。医師なるほど。それは痩せ過ぎなどで栄養状態がよくない人に向けた話ですね。一方で、肥満の人が新型コロナに感染すると重症化しやすいとの報告がありますよ。患者えっ、そうなんですか?(驚きの声)医師まだ仮説の段階ですが、脂肪細胞には、新型コロナにかかりやすい原因となるタンパク質がたくさん発現しているようです。肥満の人は要注意ですね。それに…患者それに?医師肥満と関連する糖尿病や睡眠時無呼吸があると、免疫力が低下しやすいです。患者ほかにもあるんですね。それじゃ、痩せないといけませんね…。(気付きの言葉)医師そうですね。太り過ぎもよくないですからね。ただし、極端なダイエットは免疫力を低下させるので厳禁です。患者それなら、何を食べたらいいですか?医師まずは、朝と晩に体重を測ってください。そうすると、自分が太りやすい食べ物と痩せやすい食べ物がわかりますよ。(方法論を伝授)患者ほうほう。医師この記録用紙に、朝と晩の体重を書いてみてください。患者はい。わかりました。(うれしそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「肥満の人は新型コロナで重症化しやすいと報告されていますよ」「まずは、朝と晩に体重を測って、太りやすい食べ物を調べてみましょう」1)Kassir R. Obes Rev. 2020;21:e13034.2)Dietz W, et al. Obesity (Silver Spring). 2020;28:1005.3)Luzi L, et al. Acta Diabetol. 2020;57:759-764.4)Lighter J, et al. Clin Infect Dis. 2020 Apr 9. [Epub ahead of print]5)Rundle AG, et al. Obesity (Silver Spring). 2020;28:1008-1009.

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COVID-19の入院リスク、RAAS阻害薬 vs.他の降圧薬/Lancet

 スペイン・University Hospital Principe de AsturiasのFrancisco J de Abajo氏らは、マドリード市内の7つの病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の調査「MED-ACE2-COVID19研究」を行い、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬は他の降圧薬に比べ、致死的な患者や集中治療室(ICU)入室を含む入院を要する患者を増加させていないことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月14日号に掲載された。RAAS阻害薬が、COVID-19を重症化する可能性が懸念されているが、疫学的なエビデンスは示されていなかった。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、そのスパイクタンパク質の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞内に侵入し、複製する。RAAS阻害薬はACE2の発現を増加させるとする動物実験の報告があり、COVID-19の重症化を招く可能性が示唆されている。一方で、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)は、アンジオテンシンIIによる肺損傷を抑制する可能性があるため、予防手段または治療薬としての使用を提唱する研究者もいる。また、RAAS阻害薬は、高血圧や心不全、糖尿病の腎合併症などに広く使用されており、中止すると有害な影響をもたらす可能性があるため、学会や医薬品規制当局は、確実なエビデンスが得られるまでは中止しないよう勧告している。他の降圧薬と入院リスクを比較する症例集団研究 研究グループは、COVID-19患者において、RAAS阻害薬と他の降圧薬による入院リスクを比較する目的で、薬剤疫学的な症例集団研究を実施した(スペイン・Instituto de Salud Carlos IIIの助成による)。 2020年3月1日~24日の期間に、マドリード市内の7つの病院から、PCR検査でCOVID-19と確定診断され、入院を要すると判定された18歳以上の患者を連続的に抽出し、症例群とした。対照群として、スペインの医療データベースであるBase de datos para la Investigacion Farmacoepidemiologica en Atencion Primaria(BIFAP)から、症例群と年齢、性別、地域(マドリード市)、インデックス入院の月日をマッチさせて、1例につき10例の患者を無作為に抽出した。 RAAS阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬が含まれた(単剤、他剤との併用)。他の降圧薬は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であった(単剤、RAAS阻害薬以外の他剤との併用)。 症例群と対照群の電子カルテから、インデックス入院日の前月までの併存疾患と処方薬に関する情報を収集した。主要アウトカムは、COVID-19患者の入院とした。重症度にかかわらず、入院リスクに影響はない 症例群1,139例と、マッチさせた対照群1万1,390例のデータを収集した。年齢(両群とも、平均年齢69.1[SD 15.4]歳)と性別(両群とも、女性39.0%)はマッチしていたが、心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、心不全、心房細動、血栓塞栓性疾患)の既往(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.62~2.41)と、心血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全)(1.46、1.23~1.73)を有する患者の割合が、対照群に比べ症例群で有意に高かった。 RAAS阻害薬の使用者では、他の降圧薬の使用者と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差は認められなかった(補正後OR:0.94、95%CI:0.77~1.15)。また、ACE阻害薬(0.80、0.64~1.00)およびARB(1.10、0.88~1.37)のいずれでも、他の降圧薬に比べ、入院を要するCOVID-19の有意な増加はみられなかった。これらの薬剤は、単剤および他剤との併用でも、入院リスクに有意な影響はなかった。 性別、年齢別(<70歳vs.≧70歳)、高血圧の有無、心血管疾患の既往、心血管リスク因子に関しては、他の降圧薬と比較して、RAAS阻害薬の使用による入院を要するCOVID-19のリスクに有意な交互作用は確認されなかった。一方、RAAS阻害薬を使用している糖尿病患者では、入院を要するCOVID-19患者が少なかった(補正後OR:0.53、95%CI:0.34~0.80、交互作用検定のp=0.004)。 COVID-19の重症度を最重症(死亡、ICU入室)と、低重症(最重症以外のすべての入院患者)に分けた。いずれの重症度でも、RAAS阻害薬、ACE阻害薬、ARBは、他の降圧薬と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差はなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「RAAS阻害薬は安全であり、COVID-19の重症化を予防する目的で投与を中止すべきではない」と指摘している。

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降圧薬の処方内容はCOVID-19予後に影響するか?(解説:冨山博史氏)-1231

はじめに COVID-19発生から半年近くが過ぎようとしている。しかし、まだまだ収束そして終息にも時間を要する。COVID-19では肺炎に加え、脳心血管疾患、血栓症など生命に影響する重大な合併症を発生する。そうした合併症は、高齢者や脳心血管疾患・悪性疾患など基礎疾患を有する症例で多い。ゆえに、そうした症例における合併症発生予防に細心の注意を払う必要がある。中国では高血圧症例でCOVID-19症例の予後が不良であることが報告された1)。SARS-CoV-2ウイルスの細胞内侵入にはangiotensin converting enzyme 2(ACE2)が重要な役割を果たす。このため、renin-angiotensin系に影響する降圧薬ACE inhibitor(ACEi)やangiotensin II receptor blocker(ARB)がACE2発現に影響し、ウイルス侵入を増悪させることが懸念されていた。しかし、懸念はあくまで仮説であり、3月13日発表の欧州高血圧学会Position Statement of the ESC Council on Hypertension on ACE-Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockersでは、同危険性の十分な根拠がないため両降圧薬のむやみな中止・変更は控えるように推奨された。今回の知見 2019年12月から2020年3月の期間で、欧州、北米、アジアで計169の病院にCOVID-19で入院した8,910例を対象とした多施設共同登録研究が実施された2)。#COVID-19の診断:咽頭ぬぐい液のPCR検査で感染を診断#解析方法:入院後転帰の院内死亡例と生存例で降圧薬処方内容を含む臨床背景を比較#結果とコメント:生存例(8,395例、平均年齢49歳)、院内死亡例(515例、平均年齢56歳)であり、院内死亡例は高齢で男性が有意に多かった。また、これまでの報告と同様、院内死亡例で冠動脈疾患、心不全、不整脈(心疾患の院内死亡のODDS比は約2倍)、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患(院内死亡のODDS比は約3倍)、現在喫煙の合併比率が有意に高かった(脳卒中に関しては評価されていない)。本検討では、高血圧合併頻度は生存例(2,216/8,395例:26.4%)と院内死亡例(130/515例:25.2%)で有意な差を示さなかった。これは上述の中国の報告1)と異なる結果である。そしてACEiおよびARBの処方率は、生存例{ACEi(754/8,395例:9%)、ARB(518/8,395例:6.2%)}、院内死亡例{ACEi(16/515例:3.1%)、ARB(38/515例:7.4%)}であり、ARB処方頻度は両群に差はなく、ACEiはむしろ生存例での処方頻度が高かった。 本試験は、短期間の登録研究であり、すでにCOVID-19の症例である。ゆえに、COVID-19がすでに診断されている症例では、感染に関連する病態増悪を懸念してACEi・ARBの他の降圧薬への変更は必要ないことが支持される。同様の結果はイタリアからも報告されている3)。今回の研究では、ACEiおよびARBのCOVID-19の易感染性については検証されていない。しかし、同イタリアの研究では両降圧薬が易感染性にも影響しない可能性を報告している3)。 中国と欧米では蔓延するSARS-CoV-2ウイルスの亜型が異なる。この差異が高血圧合併の感染性への影響に関連した可能性は否定できない。ゆえに、今後、武漢株での感染例においても高血圧合併の有無および降圧薬の予後への影響について検証する必要がある。追記:ACE2について SARS-CoV-2ウイルスは細胞表面の受容体ACE2を介して細胞内に取り込まれる。ACE2は、膜内存在性蛋白で気管支、肺、心臓、腎臓、消化器等の多くの組織に発現している。ACE2はACE(angiotensin Iからangiotensin IIへ変換する酵素)と構造が類似しているが、別の作用を有し、angiotensin IIからangiotensin-(1-7)への変換を行う。このangiotensin 1-7は降圧や心血管保護作用を有すると考えられている。

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