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第3世代セフェムを愛用する医師への処方提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第11回

 今回は、蜂窩織炎に対する抗菌薬の処方提案を紹介します。広域抗菌薬はカバーが広くて使いやすいのですが、薬剤耐性菌が世界的に懸念されている昨今ではターゲットを絞って適正な抗菌薬を適正量用いることが求められています。薬剤師も医師の治療方針を確認しつつ、積極的に処方設計に参画して適正使用を推進しましょう。患者情報70歳、女性(施設入居)体  重:42kg基礎疾患:高血圧症、鉄欠乏性貧血、慢性便秘症、骨粗鬆症、足白癬既 往 歴:68歳時に腰椎圧迫骨折(手術)主  訴:左下肢腫脹、痛みあり直近の採血結果: 血清クレアチニン0.8mg/dL処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 3錠 分3 毎食後4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後5.リセドロン酸17.5mg 1錠 起床時 毎週月曜日6.クエン酸第一鉄ナトリウム錠 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイント施設の担当看護師さんから、患者さんが左下肢の腫脹と痛みを訴えたため、臨時往診が行われたという電話連絡がありました。その際、「蜂窩織炎を発症しているようで、医師が抗菌薬をどうするか迷っている」という話を聞きました。そこで、すぐに医師に電話すると、「左下肢の蜂窩織炎を疑っているけれど、セフジニル100mg 3錠 分3でいいかな?」と相談されました。抗菌薬の処方提案においては、(1)感染臓器、(2)想定される起炎菌(ターゲット)、(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。蜂窩織炎は、真皮〜皮下組織を感染部位とした皮膚軟部組織感染症で、想定される起炎菌はβ溶血性連鎖球菌(A、B、C、G群)と黄色ブドウ球菌(メチシリン感受性:MSSA)です。医師が処方を検討しているセフジニルは第3世代セフェム系抗菌薬で、一部の口腔内連鎖球菌や大腸菌、肺炎桿菌もカバーする広域スペクトラムの抗菌薬です。本症例において、セフジニルも選択肢として挙げることは可能ですが、広域抗菌薬のため耐性菌産生の懸念があり、ターゲットを絞って治療を開始することが望まれます。また、バイオアベイラビリティーが25%程度と低く、この患者さんの場合は服用中のクエン酸第一鉄ナトリウムとの相互作用により、キレートが形成されて吸収が著しく低下することから、有効抗菌薬量としては高用量が必要なため適切ではないと判断しました。皮膚への移行性と起炎菌を考慮すると、アモキシシリンかセファレキシンが有効かつ適正と考え、処方提案することにしました。また、患者さんの腎機能がCCr:43.4mL/minと低下していることから、処方設計も併せてお伝えすることにしました。処方提案と経過医師に重症度や想定している起炎菌を確認したところ、軽症の蜂窩織炎で溶連菌群をカバーして治療したいという希望を聞き取りました。そこで、アモキシシリン250mg 6錠 分3 毎食後の内服を提案しました。しかし、セフェム系でなんとかできないかとの返答がありました。この医師は、普段は広域をカバーして安全性も高いと考える第3世代セフェムをよく処方しており、経口ペニシリン系の治療経験が少なくて不安だったようです。次に、患者さんの腎機能低下を考慮して、第1世代セフェムであるセファレキシン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後の処方を提案し、承認を得ることができました。その後、患者さんは10日間の服薬を終了し、蜂窩織炎は軽快しました。1)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版; 2019年.2)セフゾンカプセルインタビューフォーム

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骨パジェット病〔Paget disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義骨パジェット病は、1877年、英国のSir James Pagetが変形性骨炎(osteitis deformans)として初めて詳細に報告した。限局した骨の局所で、異常に亢進した骨吸収と、それに続く過剰な骨形成が生じる結果、骨の微細構造の変化と疼痛を伴い、骨の肥大や弯曲などの変形が徐々に進行し、同時に罹患局所の骨強度が低下する疾患である。1ヵ所(単骨性)の骨が罹患する場合と複数ヵ所(多骨性)の場合がある。■ 疫学発症年齢は大半が40歳以降で、年齢とともに頻度が上昇する。発症頻度に明らかな人種差があり、欧米などは比較的頻度が高い(0.1~5%の有病率)が、アジアやアフリカ地域では、有病率がきわめて低い。わが国の有病率は100万人に2.8人ときわめて低い。わが国の患者の平均年齢は64.7歳で、90%以上が45歳以上であり、55歳以上では有病率が人口10万人あたり0.41人と上昇する。高齢者に多いこの年齢分布様式は欧米と大差がない。家族集積性に関しては日本では6.3%と、ほとんどの骨パジェット病の患者が散発性発症であり、欧米での15~40%程度と比較して少ない。また、多数の無症状例潜在の可能性がある。■ 病因骨パジェット病の病因は不明で、ウイルス説、遺伝子異常が考えられている。1970年代に、破骨細胞核内にウイルスのnucleocapsidに似た封入体が発見され、免疫組織学的にも麻疹、RS (respiratory syncytial)ウイルスの抗原物質が証明され、遅延性ウイルス感染説が考えられたが、明確な結論に至っていない。一方、破骨細胞の誘導や機能促進に関与するいくつかの遺伝子異常が、高齢者発症の通常型、早期発症家族性、またはミオパチーと認知症を伴う症候性の骨パジェット病患者に確認されている。好発罹患部位は体幹部と大腿骨であり、これらで75~80%を占める(骨盤30~75%、脊椎30~74%、頭蓋骨25~65%、大腿骨25~35%)。単骨性と多骨性について、わが国では、ほぼ同程度の頻度である。ほかに、脛骨、肋骨、鎖骨、踵骨、顎骨、手指、上腕骨、前腕骨など、いずれの部位も罹患骨となりうる。この分布は欧米と差はない。■ 症状1)無症状X線検査や血液検査で偶然発見される場合も多い。欧米では無症候性のものが多く、有症状の患者は、多い報告でも約30%程度だが、わが国の調査では75%が有症候性であった。2)疼痛最も多い症状は疼痛であり、罹患骨由来の軽度~中等度の持続的骨痛がみられ、夜間に増強する傾向がある。下肢骨では歩行で増強する傾向がみられる。疼痛部位は腰痛、股関節痛、殿部痛、膝関節痛の順に頻度が高い。3)変形疼痛の次に多い症状は、外観上の骨格変形であり、サイズの増大(例:頭)や弯曲変形(例:大腿骨、亀背)がみられ、頭蓋骨、顎骨、鎖骨など目立つ部位の腫脹、肥大や大腿骨の弯曲をみる。顎骨変形に伴い、噛み合わせ異常や開口障害といった歯科的障害を伴うこともある。4)関節障害・骨折・神経障害関節近傍の変形では、二次性の変形性関節症を生じる。長管骨罹患の場合、凸側ではfissure fractureと呼ばれる長軸に垂直な骨折線が全径に広がり、chalkを折ったような横骨折を起こすことがある。わが国の調査では、大腿骨罹患患者の約2割強に骨折が生じている。これは、欧米の骨折率に比して著しく高い。また、変形に伴い、神経障害(例:頭蓋骨肥厚で脳神経圧迫、圧迫骨折で脊髄圧迫)がみられ、難聴、視力障害や脊柱管狭窄症などがみられることがある。5)循環器症状循環器症状は、病変骨の血流増加や動静脈シャントによる動悸、息切れ、全身倦怠感を来し、広範囲罹患例では高送血性心不全がみられる。■ 予後まれだが、罹患骨で骨肉腫や骨原発悪性線維性組織球腫など悪性腫瘍の発生がある。その頻度は欧米で0.1~5%、わが国の調査では1.8%である。したがって、経過中に罹患部位の疼痛増強を来した場合や血清学的な悪化を来した場合には、常に悪性腫瘍の可能性を考えておく必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)基本的に単純X線像で診断可能な疾患である(図)。X線像は骨吸収と硬化像の混在、骨皮質の粗な肥厚が一般的であるが、初期病変の骨吸収の著明な亢進があり、まだ骨形成が生じていない時期には、長管骨ではV字状骨吸収(割れたガラス片先端のような骨透過像)と、頭蓋骨ではosteoporosis circumscripta (境界明瞭なパッチ状の吸収像)が特徴的である。その後、骨梁の粗造化と呼ばれる、大きく太い海綿骨の出現や皮質骨の肥厚、骨硬化像がみられ、骨吸収像の部位と混在して存在するようになり、骨の横径や前後径が増加し骨輪郭が拡大する。頭蓋骨では斑点状の骨硬化像と骨吸収像の混在がみられ、綿帽子状(cotton wool appearance)を呈する。これらの多くの変化の中で、診断上、役立つのは骨吸収像ではなく、旺盛な骨形成による骨幅の拡大という形態上の変化であり、特徴的な所見である。骨シンチグラフィーは、病変部に病勢を反映する強い集積像を示す。画像により鑑別すべき疾患は、前立腺がん、乳がんの骨転移や骨硬化をもたらす骨系統疾患である。生化学的には血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値とオステオカルシン上昇(骨新生)、尿中ヒドロキシプロリン(HP)値の上昇(骨吸収)が疾患の分布と活動性によりみられる(活動度は尿中HP値が血清ALP値より敏感)。また、骨形成指標の骨型ALP (BAP)と骨吸収マーカーの尿中N-telopeptide of human type collagen (NTX)、C-telopeptide of human type I collagen (CTX)、デオキシピリジノリン(DPD)値は高値を示す。病変が小さい場合は、ALP値が正常範囲のこともあり、わが国の調査で10.4%、欧米でも15%の患者がALP正常である。病理組織像では、多数の破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞の増生による骨形成が混在し、骨梁は層板が不規則になりcement lineを無秩序に形成し、モザイクパターンを示す。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療は疼痛や、破骨細胞を標的とした薬物療法、変形に対する装具療法、変形や骨折に対する手術療法が考えられる。■ 薬物療法疼痛には消炎鎮痛薬を使用する。最初の病態は破骨細胞による骨吸収亢進であり、破骨細胞の機能を抑制する、カルシトニン、ビスホスホネートなどの薬剤があるが、カルシトニンを第1選択に使用することはない。ビスホスホネートは日本では第一世代のエチドロン酸ナトリウム(商品名:ダイドロネル)の使用が認められ、最初に広く用いた治療薬だが、現在、第1選択薬に使用することはない。欧米では第二、第三世代のビスホスホネート製剤を主に治療に使用している。わが国では2008年7月に、リセドロン酸ナトリウム(同:ベネットなど) 17.5mg/日の56日連続投与が認可され、ようやく骨パジェット病患者の十分な治療ができるようになったが、現在、保険適用されている第二世代以降のビスホスホネート製剤は、リセドロン酸ナトリウムのみであり、他のビスホスホネートは適用されていない。しかし、リセドロン酸ナトリウムに対して低反応性の症例に、他のビスホスホネートで奏効した報告や、抗RANKL抗体のデノスマブ(同:ランマーク)の方がビスホスホネートより優れている報告もあり、抗RANKL抗体ではないがRANKL-RANK経路を抑制するosteoprotegerin(OPG)のrecombinant体を若年性多骨性の骨パジェット病に投与した報告もある。■ 手術療法長管骨の骨折、二次性変形性関節症、脊柱管狭窄症などに手術を行うこともある。4 今後の展望骨パジェット病のほか、骨粗鬆症やがんの骨転移にも破骨細胞が関与している。これらの疾患では、破骨細胞の活動が亢進しており、それによって、それぞれの疾患がつくり上げられている。現在、破骨細胞の活動を抑制する薬剤には、ビスホスホネートと抗RANKL抗体であるデノスマブ(商品名:ランマーク※)、抗RANKL抗体ではないが、RANKL-RANK経路を抑制するosteoprotegerin(OPG)などがあり、これら薬剤の骨パジェット病に対する有効例の報告がある。今後、治療法の選択肢を増やす意味でも治験の実施、保険の適応などに期待したい。※ 骨パジェット病には未承認5 主たる診療科整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 骨パジェット病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)橋本淳ほか. Osteoporosis Japan. 2007;15:241-245.2)高田信二郎ほか. Osteoporosis Japan. 2007;15:246-249.3)Takata S, et al. J Bone Miner Metab. 2006;24: 359-367.4)平尾眞. CLINICAL CALCIUM. 2011;21:1231-1238.公開履歴初回2013年02月28日更新2019年11月12日

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脳梗塞・心筋梗塞既往歴のない患者でのアスピリン中止提案 【うまくいく!処方提案プラクティス】第8回

 今回は、抗血小板薬の中止提案を行った症例を紹介します。抗血小板薬の目的が動脈硬化性疾患の1次予防なのか2次予防なのかによって治療や提案すべき薬剤が異なってきますので、普段から患者さんの既往歴などの情報を得て、エビデンスを提示しながら提案できるとよいでしょう。患者情報80歳、女性(個人在宅)、体重:53kg、Scr:0.8基礎疾患:アルツハイマー型認知症、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症、症候性てんかん、心房細動、高血圧症、脂質異常症血  圧:130/70台服薬管理:同居の長男夫婦がカレンダーにセットされた薬で管理、投薬。長男夫婦の在宅時間に合わせて用法を朝夕・就寝前に設定。往  診:月2回処方内容1.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ウルソデオキシコール酸錠100mg 3錠 分1 朝食後4.L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 2錠 分2 朝夕食後5.バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg 2錠 分2 朝夕食後6.プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 夕食後7.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前8.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週木曜日9.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後(新規追加)本症例のポイントこの患者さんは、もともと循環器系の複合的な疾患がありますが、主治医からの診療情報提供書やケアマネジャーからのフェイスシートによると、脳梗塞や心筋梗塞の既往はありませんでした。ところが今回、心房細動と診断され、アスピリン腸溶錠が開始になったため大変驚きました。脳梗塞・心筋梗塞後などの再発予防目的(2次予防)としての抗血小板薬服用は臨床的使用意義が大きいことが確認されています。しかし、発症を未然に防ぐ目的(1次予防)の抗血小板薬の服用は、臨床効果よりも有害事象が上回ることが指摘されています。【JPAD試験1)】対象:動脈硬化性疾患の既往歴のない30〜85歳の2型糖尿病患者2,539例方法:アスピリン(81mgまたは100mg)投与群と非投与群に1:1に無作為に割り付けた(追跡中央値4.37年)評価項目:動脈硬化性疾患結果:動脈硬化性疾患の発現はアスピリン投与群で13.6件/1,000人年、非投与群で17.0件/1,000人年とアスピリン群で20%低い傾向にあるものの、統計学的有意差はなかった。【JPPP試験2)】対象:高血圧、脂質異常症、糖尿病を有する60〜85歳の日本人1万4,464例方法:既存の薬物療法+アスピリン(81mgまたは100mg)併用群と既存の薬物療法のみの群に無作為に1:1に割り付けた(追跡中央値5.02年)評価項目:心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合アウトカム結果:複合的アウトカムの発現率はアスピリン投与群で2.77%、アスピリン非投与群で2.96%とほぼ同等であったが、胃部不快感、消化管出血、さらに重篤な頭蓋外出血の有害事象はアスピリン投与群で有意に多かった。処方医は私が普段から訪問同行していない医療機関の医師でしたので、治療方針や処方意図は十分に把握できていないものの、上記の低用量アスピリンの1次予防のエビデンスから今回のアスピリン腸溶錠の中止および代替案の提示が必要と考えました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、JPAD試験とJPPP試験のデータを紹介し、1次予防のアスピリン腸溶錠の臨床的意義は低く、むしろ消化管出血などの有害事象のリスクがあるため、他剤への変更を提案しました。代替案については、心房細動における1次予防には直接経口抗凝固薬(DOAC)が適応と考え、腎機能・体重に合わせた補正用量であるエドキサバン30mg/日を提示しました。その後、トレーシングレポートを読んだ医師より電話連絡があり、提案のとおりにアスピリンを中止してエドキサバン30mgに変更する承認を得ることができました。速やかに処方変更の対応を行い、患者さんは胃部不快感や胃痛もなく経過しています。またエドキサバン変更後の皮下出血や鼻出血などの出血兆候もなく、副作用モニタリングは現在も継続中です。今回の症例のように1次予防の抗血小板薬については、基礎疾患や現病歴から適応の判断を検討し、医師とディスカッションを行うことで変更が可能かもしれません。1)Ogawa H, et al. JAMA. 2008;300:2134-2141.2)Ikeda Y, et al. JAMA. 2014;312:2510-2520.

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第30回 異常Q波の厳しいオキテ~存在=異常なんてある?~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第30回:異常Q波の厳しいオキテ~存在=異常なんてある?~胸痛あってのST変化や動悸ありきの不整脈…典型的な症状とともに心電図所見が出るだけだったら、世の中の“見逃し”は今よりもずっと少ないでしょう。患者さんは無症状であっても、時に心電図が強烈なメッセージを放っている場合があります。それをいかに“受信”できるか、それは系統的判読以外では難しいと思います。今回は「Q波」に関するそんな一例をDr.ヒロがレクチャーします!症例提示83歳、女性。両側膝関節置換術の既往あり(70歳時)。現在は骨粗鬆症と胃炎にて内服加療中。最近、物忘れや言動のつじつまが時折合わないことを心配した家族とともに認知症の専門外来を受診した。諸検査よりアルツハイマー型認知症が疑われ、投薬開始に伴って以下のようなコンサルトがあった。『今後、コリンエステラーゼ阻害剤を用いた治療を検討していますが、初診時検査の一環として施行した心電図にて異常を認めました。循環器科への受診指示がありました。心機能評価ほか貴科的御高診下さい』実際の心電図を示す(図1)。(図1)外来受診時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しいものを選べ。1)異所性心房調律2)左軸偏位3)軽度ST-T変化4)左室高電位5)PR(Q)延長解答はこちら3)解説はこちら今回は抗認知症薬による治療が検討されている高齢女性です。こんな状況で心電図、心疾患が関係してくるって意外ですが、実に興味深いです。1問目では、“お決まり”の心電図所見を問うています。「系統的判読」ですよ、もちろんね(第1回)。1)×:型通り“レーサー(R3)・チェック”をして下さい。R-R間隔は整、心拍数は新・検脈法で60/分(従来法でも同値)(第29回)、そして調律は“イチニエフの法則”ですね。バッチリこれを満たすので、「異所性心房調律」ではなく、サイナス(洞調律)です。2)×:電気軸はI、aVF(またはII)誘導のQRS波の向きがポイント。今回はI、II、aVFすべて上向きですから、自信を持って「正常軸」と言いましょう。具体的な角度は“ちょいムズ”ですが、うまく工夫すると「+40°」までは迫れます*1。3)○:「ST-T部分」は“スタート”のチェックですね。V4~V6では、1mmに満たずとも、わずかに基線(T-P/T-QRS/Q-Qライン)よりST部分が低下しているように見えます。また、T波に関してもI、aVLは陰性、V3~V6でも陰性部分がありそう(二相性かな)です。両者“合わせ技”で「軽度*2ST-T変化」として指摘できます。4)×:V4ではR波が上に向かって“つんざく”勢いですが、V5、V6はおとなしめで「左室高電位」には該当しません。5)×:「PR(Q)部分」は“バランスよし!”の(波形同士の)“バランス”でチェックします。P波とQRS波との距離は、“くっつき過ぎず離れ過ぎない”の適度な距離感が大事で「120~200ms(0.12~0.20秒)」が正常と考えて下さい。1mm四方の目盛りで言ったら“3~5目盛り”以内-今回はその範囲ですから「PR(Q)間隔」はセーフです。*1:III誘導のQRS波が“わずかに上向き”と“わずかに下向き”とが混在して少し難しい。III誘導が“トントン”と考えて「+30°」でも悪くないが、その先の「-aVL」との間で“III寄り”が“トントン・ポイント”なら「+40°」で自動計測値(43度)にも近くなる。*2:「軽微な」という表現が用いられることも。【問題2】[A]自動診断は「軽度ST-T異常」となっているが、心電図診断はそれのみで良いか? 約9年前の心電図(図2)も参照して述べよ。[B]心エコーでは大きな異常はなかった。コンサルト返答のため、必要な追加検査はどうか。血清Creは1.17mg/dLであった。(図2)約9年前の心電図画像を拡大する解答はこちら[A]V2(V3)誘導の「異常Q波」[B]核医学(RI)検査、心臓MRI検査など解説はこちら心電図(図1)の右上部分のコメント欄は、『ST変化あり。循環器対診をご検討ください』となっています。前問で取り上げたように、ST変化は確かにあります。「軽度」と書いてありますね。しかし、注目すべきはそこでしょうか? 実はST-T変化以外に大事な所見が隠れており、それを問題[A]で問うています。過去の心電図を横において“間違い探し”の要領で異常を探しましょう。また問題[B]では、心精査についてです。“どこまでやるか”は医師個人や病院設備にも依存しますが、心エコーで左心機能に異常がない、との評価でも心電図から深い洞察ができる好例として取り上げてみました。“抗認知症薬と心疾患”いろいろな疾患に精通した先生方に笑われてしまいそうですが、正直、いきなり「コリンエステラーゼ阻害薬」とか言われると、浅学なボクは一瞬「んっ?」ってなります(笑)。えーっと、代表的な薬剤を一般名で言いますと、ドネペジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン(同:レミニール)、リバスチグミン(同:リバスタッチ、イクセロン)の3種類になりましょうか。しかし、認知症でなぜ心臓病?…って思う方はいませんか?循環器医をしていると、実は今回のような相談は一度や二度ではありません。普段、あまり意識されずに使われているケースも目にしますが、代表的な抗認知症薬であるコリンエステラーゼ阻害薬は、時に心臓に悪さをする可能性があります。キーワードは「コリン作動性」。これは、心臓に関しては迷走神経機能を亢進させ、QT延長効果も相まって、心室不整脈(心室頻拍・細動)や徐脈性不整脈を惹起すると添付文書にも記載されています。ですから、こうした状況で大事なポイントは、おおむね次の3つです。■コリンエステラーゼ阻害薬の投与前に注意せよ!■(1)器質的心疾患(2)電解質異常(3)抗不整脈薬の使用(2)と(3)は催不整脈性に関連しますが、今回の患者さんにはなく(1)が問題となるわけです。“安静時ST低下は虚血じゃない”コンサルティ*3の先生は、『ST-T変化→何か背景に心疾患があるのかも?』と考えたのではないでしょうか(心電図判読医による勧めもあるでしょうが)。心電図(図1)に軽微ながら「ST-T変化」が見られるのは事実です。ただ…さかのぼること1年前、Dr.ヒロは言いました。「安静時に見られるST低下はほとんど(心筋)虚血じゃない!」と。「左室肥大」や「脚ブロック」に伴うニ次性変化を除けば、安静時に認められるST変化は非特異的所見なことが圧倒的に多いのです。今回もそうですが、無症状*4の場合はなおさらです。もっとも大きな原因は、ズバリ「非特異的変化」。とくに心疾患とリンクするわけでもなく、“あっても別に病的意義はない”っていうニュアンスでしょうか。とりわけ中高年女性に多い所見です。ですから、心疾患の既往も思わせぶりな自覚症状もないのであれば、このST-T変化を掘り下げても通常は何も出てきません。注目すべき点は別にあります。*3:コンサルト「した」側。*4:術前心電図の回(第13回)に述べた「心疾患の“5大症状”」のうち、動悸、息切れ、胸痛の3つがとくに大事。“どうなら「異常Q波」?”たまたま、この方には約9年前にとられた心電図(図2)が残っていました。「正常範囲」とされた図2と今回の図1の両者を比べてみてください。注目すべきは胸部誘導。確かにST部分やT波の様相もだいぶ変化しています。ただ、ボクが今回述べたいのはV1~V3誘導についてです。過去に比べてV1、V2誘導のR波がゴソッと削げています。よく見ないとわかりませんが、V2誘導は陰性波から始まっているのです(図3赤矢印)。しかも、通常はV1→V2→V3となるに従ってR(r)波は“徐々に伸びる”ものですが(R波増高:R-wave progression)、なんだかV2で凹んでいるのもオカシイです。この2点に気づけたヒトは鋭い! ボクは普段“スパイク・チェック”のR波の高さをチェックする際、“高すぎ・低すぎ”をチェックする以外に、このV1~V3誘導のR波の増高過程が正常かも確認することを推奨しています*5*5:異常な場合、「R波の増高不良」という所見になること多し。(図3)図1よりV1~V3誘導のみ抜粋画像を拡大するQRS波が陰性波からはじまる場合、それを「Q(q)波」というのでしたね(第17回)。この「Q(q)波」ですが、“異常”なものに関しては心筋梗塞をはじめ、壊死した心筋巣を反映する意味で重要でした。今回はV1~V3誘導に限って扱いますが、この3つの誘導については、「Q(q)波」は“ある”、つまり「存在」だけでアウトです。どんなに幅が狭くても、深さが浅くても、“any Q(q)”、つまりあったら常に異常だということ。これが今回、ボクが最も言いたかったことです。今回はラッキーなことに過去の心電図がありましたが、仮になくても同じく異常を指摘できないといけません。“正常QRS波の成り立ちを考えよ”「なぜ?」と思われる方も多いかもしれません。それには心室内を電気が流れる順番の理解が必要です。房室結節を越えた電気は、直下のヒス束から左右の「脚」へと続き、心室中隔を下行していきますが、両者は同時ではなく、左脚の興奮がわずかに先行します*6。正常だと電気は0.1秒(100ms)以内に心室の隅々にまで行き渡りますが、ごく初期(20ms)の時間帯には左脚から右脚に向かう、矢印で描くと「左→右」のような流れとなります(図4)。心電図の世界では、観察点に電気・興奮が向かってくるときに陽性(上向き)の波として描かれるルールを思い出しましょう。心臓の真ん中より右側にあるV1~V3誘導は“右”前胸部誘導と呼ばれ、心室中隔の初期興奮を迎え入れることになるため、QRS波は陽性波(R[r]波)からスタートするはずです。(図4)心室中隔の電気の流れ[等時相マップ]と胸部誘導波形画像を拡大するちなみに、反対に心臓を左側から眺めるI、aVL、V5、V6誘導(イチ・エル・ゴロク)などでは、逆にQRS波が小さな陰性波から始まり、その部分は「中隔性q波」と呼ばれます。今回は、だいぶはしょりましたが、この辺を詳しく知りたい方は拙著*7をどうぞ(笑)。*6:下手過ぎてダジャレにもなりませんが、ボクは「左脚が先」と覚えています(“「さ」つながり”)。*7:心電図のみかた、考え方[基礎編](中外医学社)のp.246~251を参照。“どこの心筋梗塞でしょう?”どうやら異常はV1~V3誘導あたりにありそうです。仮に心筋梗塞が昔起きていた場合、病変はどこにあるのでしょうか? それを探るには、胸部誘導の各電極の位置と対応する左室壁について説明した回(第17回)、を見返してみましょう(図5)。(図5)胸部誘導と両心室の位置関係(再掲)画像を拡大するR波が削げてもQ波にはなっていないので、V1誘導の担当する「(心室)中隔」はセーフです。しかし、V2、V3は小さいながら“異常”なQ波ということになります。こうした隣接2誘導で異常Q波があることは、梗塞(壊死)を示唆する有意な条件の一つであり、左室「前壁」にその可能性があるわけです。よく見るとV3誘導に関しては、以前から「q波」があるようですが、V2誘導は新しく生じた異常Q波。やはり、一部であっても左室「前壁」に心筋梗塞が起きたと考えるべきだと思います。以上から中隔よりの狭い範囲かもしれませんが、「陳旧性前壁心筋梗塞」を疑わせる心電図になるわけです。大丈夫そうに見えて、一気に心疾患の“黄信号”が点滅し出したのです。“事の顛末とコンサルト返答”最後に問題2に関する必要な追加検査を述べて終わります。心筋梗塞などの虚血性心疾患を疑ったとして、80歳以上で膝に人工関節の入った人に運動負荷心電図は難しいですよね? トレッドミル検査はいわんや、マスター階段試験もはばかられます。しかも、今回のように軽度でも既存のST-T変化がある場合、偽陽性が出やすいことも知っておくべきです。さらに腎機能も悪いときたら…残りは核医学(RI:radio-isotope)検査かMRIですよね。共にある程度以上の病院でないとできない検査ですから、代わりに十分な補液などを行って腎機能に配慮し、冠動脈造影CT検査などがなされるかもしれません。この辺のアレンジは担当医の裁量でしょう。実際には、アデノシン三リン酸(ATP)を静注して行う薬剤負荷シンチグラフィ検査が行われました。結果は、可逆性のある誘発性虚血はなく、一部ながら「陳旧性前壁梗塞」の所見がありました。駆出率(LVEF)は60%強と保持されていましたが、上記検査による評価では左室前壁の壁運動は低下していました。そうです、恐れていた器質的心疾患がこの女性にはあるのです! あくまでも「過去」の話で、患者さんは今現在に何の症状も訴えないのですが。で、でも見つけたぞ、“幽霊の正体”を(笑)。梗塞範囲が比較的小さかったためか、あるいは単純な見落としかは不明ですが、エコーでは異常が検出されていませんでした(検者や読影者にもよるでしょう)。しかし、RI結果の“真実”を心電図は実に見事に教えてくれています(実はエコーの検者にも心電図の読みが問われています)。その“ささやき”を受信できるか、かつて“星の王子さま”に例えましたが、今回も同じです(第10回)。最終的な返答として、以下のようでどうでしょうか?『20XX年の心電図と比較すると、前・側胸部誘導のST-T変化に加えてV1、V2誘導のR波減高(V2誘導は新出の異常Q波)を認めます。過去に胸痛イベントはなかったようですが、RI検査でも陳旧性前壁梗塞に合致する所見でした。したがって、不整脈(徐脈・頻脈性ともに)などに注意しながらコリンエステラーゼ阻害剤を使用してゆくべきだと思います』今回は“クルッと”の“ク”で、いの一番にチェックすべきV1~V3誘導の異常Q波について扱いました。“ある時点で即アウト”の厳しいオキテ、非常に大事なのでよく復習しておきましょうね。では、また!Take-home Message安静時ST-T変化は非特異的所見なことが多し~症状や臨床背景を加味しようV1~V3誘導はQ(q)波があれば「必ず」異常!前壁誘導(V1~V4)のうち隣り合う2つで異常Q波があったら陳旧性心筋梗塞を疑うべし!【古都のこと~百代通いの悲恋伝説~】随心院は小野小町と縁が深いことでも知られます。仁明天皇の崩御に伴い、宮仕えの職を辞した後、小町は山科小野と呼ばれるこの地に隠棲し、境内の一角に残る「化粧井戸(けわいのいど)の水で毎日“メイク”をしたそうです。小野小町のイメージといえば、六歌仙*1よりも“美女”という皆さんも多いのでは? 小町は800年代の前半に容貌秀絶の名を欲しいままにしたとされ、実際に貴公子たちから彼女宛に送られた数多くの“ラブレター”が埋められた文塚も残っています。ところで、この今風で言う“恋多き美人歌手”に心ときめいてしまった深草少将(ふかくさのしょうしょう)の「百夜通い(ももよがよい)」の伝説*2を知っていますか? ご存じの方はかなりのツウと見ました! 実際、この悲しい純愛ラブストーリーは後年「通小町(かよいこまち)」として能でも演じられているそうです(一度は見に行かなきゃ!)。また、現在でも3月末に行われる“はねず*3踊り”は、この伝説をモチーフにしており、カワイイ娘さんのいる方なら、一度は見に行って「小町絵馬」と「美心御守」も一緒にゲットしたいものですね。個人的には、いつぞや人気となった『電車男』よりも、“happy ending”でない深草少将の話のほうがジーンときます。現代風にアレンジしたら、どんなキャストになるのかなぁと、勝手に“監督面”してニヤケるDr.ヒロなのでした(笑)*1:「花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに」など小町は哀愁に富み情熱的な夢の歌を多く残したのはご存じの通り。*2:募る思いを胸に深草から求愛にやって来た少将を鬱陶しく思った小町は、「私のもとへ百夜通い続けたら、晴れて契りを結びましょう」と告げる。この大人の“塩対応”に気づかぬピュア少将は、「あなたの心が解けるまで幾夜でも参ります」と発言する。小町は門前の榧(かや)の実を取って日を数えたそう。ただ、通いつめて九十九夜目の雪の夜、病と寒さで少将は息絶える。小町はこれを悔い、晩年一つ足りない“榧の実リング”を地に播いたとされ、かつては99本の榧の木があったとされる。書院内で榧の切り株や実際のものとされる木の実も見ることができる。*3:随心院には有名な小野梅園がある。“はねず”とは梅の白みがかった薄紅色のこと。

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ビスホスホネート製剤を噛み続ける患者の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第6回

 服用状況を確認すると、意外な薬の飲み方をしているケースがしばしばあります。今回は、施設職員向けの勉強会を契機に副作用リスクを発見できた症例を紹介します。患者情報施設入居(5年目)、80歳、女性現病歴:骨粗鬆症、高血圧症、便秘症、アルツハイマー型認知症血圧推移:140/70台既往歴:大腿骨頸部骨折(78歳時)2週間に1回の往診あり(薬剤師も同行)処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1錠 分1 夕食後4.酸化マグネシウム錠330mg 2錠 分2 朝夕食後5.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週土曜日症例のポイントこの患者さんは、アルツハイマー型認知症のため短期記憶が乏しく、入居時より施設職員が内服薬を管理していました。2年前に転倒、大腿骨頸部骨折のため入院し、骨粗鬆症が指摘されたためエルデカルシトールとアレンドロン酸の内服が開始となりました。しかし、その入院を契機に認知機能低下がさらに進行し、食事や排泄は全介助が必要になり、自立歩行も困難で臥床の時間が長くなったと施設職員から情報提供がありました。ある日、施設職員に向けて粉砕不可の薬についての勉強会を薬剤師主導で実施したところ、「この患者さんは内服薬を口にするとすべて噛み砕いてしまうが問題ないか」という相談がありました。アレンドロン酸などのビスホスホネート内服薬は、粉砕や分割することで口腔粘膜や食道に付着し、潰瘍などの刺激性症状を引き起こす可能性が知られており、薬剤の中止や剤形の変更が必要と考えました。患者は服用時に薬を噛み砕くことが習慣になっており、このままアレンドロン酸を継続すると、潰瘍発生の可能性がある。また、臥床の時間が長く、週1回の内服とはいえ、アレンドロン酸を服用するために起床直後に上体を起こしてその後30分間維持することは、患者、施設職員ともに負担に感じていた。アレンドロン酸の代替薬として、ビスホスホネート製剤の注射薬(月1回投与)があるが、ADLを考えると積極的な適応をどこまで優先させるか検討が必要である。エルデカルシトールは内容物が液状であり、脱カプセルや噛み砕くのに不適であるため、粉砕不可薬であり、服用しやすい剤形としてアルファカルシドールへの変更も検討したい。処方提案と経過その後の往診にて、患者さんがアレンドロン酸を含むすべての薬剤を服用時に噛み砕いていることや30分以上上体を起こしていることが負担となっていることを、医師に報告しました。リスク回避を目的にアレンドロン酸の処方中止または注射薬への変更と、エルデカルシトールをアルファカルシドールに変更することを提案したところ、ビスホスホネート製剤の積極的な治療適応ではないため、アレンドロン酸は中止となりました。エルデカルシトールはアルファカルシドールに変更したうえで、定期服用薬は本人が服用しやすいよう粉砕調剤の指示を受けました。現在、患者さんは服用薬によるむせ込みもなく施設で生活を続けています。

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大腿骨近位部骨折は社会的損失も大

 日本整形外科学会(理事長:松本 守雄氏[慶應義塾大学医学部整形外科学教室 教授])は、「骨と関節の日(10月8日)」を前に、9月5日に都内で記者説明会を開催した。説明会では、学会の概要や活動報告、運動器疾患の現況と今後の取り組みについて説明が行われた。また、「大腿骨近位部骨折とロコモティブシンドローム」をテーマに講演も行われた。ロコモティブシンドロームのさらなる認知度向上にむけて はじめに理事長挨拶として松本氏が登壇し、1926年の学会設立以来、順調に会員を増やし、現在では2万5,126名の会員数を誇る世界有数規模の運動器関連学会であると説明。従来の変性疾患、外傷、骨・軟部腫瘍、骨粗鬆症などのほか、今日ではロコモティブシンドローム(ロコモ)の診療・予防に力を入れ、ロコモの認知度向上だけでなく、ロコモ度テストの開発・普及、ロコモーショントレーニング(ロコトレ)の研究・普及などにも積極的に活動していることを紹介した。寝たきりになると介護・医療費は6.7倍に 続いて、澤口 毅氏(富山市民病院 副院長)が「大腿骨近位部骨折」をテーマに、本症の概要や自院の取り組み、予防への動きについて講演を行った。 大腿骨頸部/転子部骨折の患者は女性に多く、2017年の調査で約20万例の骨折が報告されているという。また、骨折が起きる場所として屋内が約70%、屋外が約20%であり、原因では約80%が「立った高さからの転倒」という日常生活内で起こることが説明された。 骨折後1年後の死亡率と機能障害では、死亡が20%、永続的機能障害が30%、歩行不能が40%、ADLの1つでも自立不能が80%と多大なリスクとなることも示された1)。同時に同部位の骨折で高齢者で寝たきりになった場合、寝たきりにならない場合と比べ、介護・医療費が約6.7倍(約1,540万円)と高く、このため家族が介護離職を余儀なくされ、復職できないなど、社会的経済損失も大きいという。 骨折の治療では、「合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短い」という理由から、早期の手術がガイドラインでは推奨されている(Grade B)。しかし、わが国の入院から手術までの日数は、平均4.2日と欧米の平均2日以内と比較しても長いことが問題となっている。また、入院期間についてもわが国は平均36.2日であるのに対し、欧米では数日~10日以内と大きく差があることが示された2)。この原因として、手術室の確保、麻酔科医の不足、執刀医の不在など医療機関側に問題があることを指摘した。 一方、オーストリアやドイツなど欧州では、高齢者の骨折に対し、医師、看護師、ソーシャルワーカー、理学療法士によるチーム医療が行われ、とくに整形外科と老年病科の医師の連携により、入院中や長期死亡率の減少、入院期間の短縮、重篤な合併症と死亡率の低下、再入院の減少、医療費の低下に成果をあげているという。手術待機日数、平均1.6日への取り組み 次に同氏が所属する富山市民病院の高齢骨折患者への取り組みを紹介した。同院では、2013年よりチーム医療プロジェクトを開始し、「骨折を有する高齢患者を病院全体で治療する」ことを基本方針に、さまざまな改革を行ったという。その一例として、電子カルテの専用テンプレート導入、職種・経験の有無にかかわらない統一・均一な初療体制の構築などが行われた。 現在では、大腿骨近位部骨折と診断されると3~5時間で手術を行うことができ、術後は病棟薬剤師による鎮痛やせん妄への対処、リハビリテーション科による早期離床と早期立位・歩行へのフォロー、精神科によるせん妄予防、肺炎予防、栄養管理(骨粗鬆症予防も含む)、高齢診療科医師による術後管理、退院サポートなどが行われている。 とくに大腿骨近位部骨折をした患者の再骨折率は高く2)、同院では転倒防止教室や電話によるフォロー、「再骨折予防手帳」の活用を行っているという。そして、これらの取り組みにより、「手術待機日数は平均1.6日(全国平均4.2日)、在院日数は平均19.6日(全国平均36.2日)と短縮されたほか、患者1人あたりの平均入院総医療費も全国平均に比べ少なくなっている」と成果を語った。運動で防ぐ骨折、再骨折 次に大腿骨近位部骨折とロコモについて触れ、「『大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版』では、骨折の原因となる転倒予防に運動療法は有効(Grade A)となっている。開眼片脚立ちなどのロコトレを行うことで、骨粗鬆症予防と転倒予防に役立つと学会では推奨している」と説明。また、全国で行われている骨折予防の取り組みとして患者向けに「再骨折予防手帳」の発行、患者の退院後のフォローを専門スタッフが行う「骨折リエゾンサービス」の実施や地域連携として「骨粗鬆症地域連携手帳」の発行の取り組みなどを紹介した。 最後に同氏は、「将来、アジア地域で骨折患者の爆発的な発生も予想される。今のうちから各国間で診療ネットワーク作りをして備えたい」と展望を語り、講演を終えた。

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高用量ビタミンD補充に関する検討:わが国の現状には参考にならない(解説:細井 孝之 氏)-1112

 ビタミンDは骨代謝のみならず、免疫系などにも作用する重要なビタミンである。血中25水酸化ビタミンD濃度はビタミンDの充足度を反映する指標であり、日本内分泌学会が基準値を定め、その測定は最近骨粗鬆症にも保険適用となった。一方で、いまだにビタミンD不足(血中濃度30ng/mL以下)の方は非常に多く、少なくとも成人の食事摂取基準における1日摂取量の目安である5.5μgを確保したいところである。なお、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版では1日10~20μgの摂取を推奨している。 この論文で報告されている研究では55~70歳の男女を3群に分け、ビタミンD 1日10μg、100μg、または250μgを3年間摂取させ、「体積骨密度」の変化を比較している。ベースラインの25水酸化ビタミンD濃度は、12~50ng/mLと幅広い。このような高用量ビタミンDの介入研究は欧米ではこれまでも報告されてきたが、本研究の新規性は「面積骨密度」(通常のDXA)ではなく、「体積骨密度」で評価したことにある。結果としては、より高用量のビタミンDによるbenefitはなかったことが示唆されている。わが国でのビタミンD摂取許容上限値は成人で100μgであり、100μgをサプリメントで摂取することはまずないことを考えると、研究結果はわが国の現状に対しては直接的に参考になるものではない。高用量のビタミンD摂取時に脱水などの体調変化が加わると、高カルシウム血症のリスクが高まることは注意すべきである。また、ビタミンDを含む脂溶性ビタミンの体内分布を考えると、脂肪組織への蓄積なども考慮しなければならない用量のレベルもあろう。

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高用量ビタミンD、骨強度に影響せず/JAMA

 健康な成人において3年間毎日高用量(4,000または1万IU/日)のビタミンD3を服用しても、400 IU/日服用との比較において、橈骨の骨密度(BMD)が統計的に有意に低いという結果が認められたという。骨強度は、橈骨および脛骨ともに有意差は認められなかった。カナダ・カルガリー大学のLauren A. Burt氏らが、健康な55~70歳311例を対象に行った無作為化二重盲検試験の結果で、「所見は、高用量ビタミンD補給は骨の健康にベネフィットがあるとの見解を支持しないものであった。さらなる研究を行い、有害性がないかを確認する必要があるだろう」とまとめている。JAMA誌2019年8月27日号掲載の報告。ビタミンD3を毎日3年間400IU、4,000IU、1万IU投与し比較 研究グループは2013年8月~2017年12月にかけて、カナダ・カルガリーの1医療機関で、地域で暮らす健康で骨粗鬆症のない55~70歳311例を対象に、3年間の試験を行った。ベースラインの25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)値は、30~125nmol/Lだった。 被験者を無作為に3群に分け、ビタミンD3を1日400IU(109例)、4,000IU(100例)、1万IU(102例)、それぞれ3年間投与した。また、全員に食事で1,200mg/日未満のカルシウム補給をしてもらった。 主要アウトカムは2つで、高精細末梢骨定量的CT(HR-pQCT)で評価した橈骨および脛骨の総volumetric BMD値と、有限要素分析で推算した橈骨および脛骨の骨強度(破壊荷重)だった。3年後BMDは、高用量服用群ほど低下 被験者311例は、平均年齢62.2歳、男性53%で、287例(92%)が試験を完了した。 ベースライン、3ヵ月後、3年後の25(OH)D値は、400IU群がそれぞれ76.3、76.7、77.4nmol/L、4,000IU群が81.3、115.3、132.2nmol/L、1万IU群が78.4、188.0、144.4nmol/Lだった。 volumetric BMDについて、群×時間の有意な相互作用が確認された。 橈骨のvolumetric BMDは、400IU群と比べて、4,000IU群(-3.9mgHA/cm3[95%信頼区間[CI]:-6.5~-1.3])、1万IU群(-7.5mgHA/cm3[-10.1~-5.0])とも低下した。各群の橈骨volumetric BMDのベースラインからの平均変化率(%)は、400IU群-1.2%、4,000IU群-2.4%、1万IU群-3.5%だった。 脛骨のvolumetric BMDについては、400IU群と比べて、4,000IU群が-1.8mgHA/cm3(95%CI:-3.7~0.1)、1万IU群が-4.1mgHA/cm3(-6.0~-2.2)であった。各群の脛骨volumetric BMDのベースラインからの平均変化率(%)は、400IU群-0.4%、4,000IU群-1.0%、1万IU群-1.7%だった。 骨強度については、両部位ともに有意な変化差はみられなかった(橈骨p=0.06、脛骨p=0.12)。

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BRCA変異に対する予防的卵巣摘出は骨にどのような影響を及ぼすか

 BRCA遺伝子変異の保有者において、予防的卵巣摘出術は骨にどのような影響を及ぼすのか。カナダ・Women's College Research InstituteのJoanne Kotsopoulos氏らによる後ろ向きコホート研究の結果、とくに手術時に閉経前だった女性において卵巣摘出術と骨密度低下は関連していることが示された。著者は、「この患者集団に対しては、骨の健康を改善するため定期的な骨密度評価およびホルモン療法などの管理戦略を定めるべきである」と述べている。JAMA Network Open誌2019年8月号掲載の報告。 研究グループは、BRCA遺伝子変異の保有者に対して強く推奨される予防的両側卵管卵巣摘出術と骨密度の関連を評価する検討を行った。2000年1月~2013年5月に、カナダ・オンタリオ州トロントにあるUniversity Health Networkを介し、卵巣摘出術を受けたBRCA変異を有する患者を登録した。手術前に少なくとも1つの卵巣は完全で乳がん以外のがんの既往がないことを適格基準とし、手術の前後にDXA法で骨密度を測定した患者について解析した。データの解析は2018年12月~2019年1月に行った。 主要評価項目は、ベースラインから追跡調査までの骨密度の年間変化率で、腰椎、大腿骨頸部および全股関節に分けて算出した。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインと手術後追跡調査の双方の骨密度測定値があったのは計95例で、平均追跡期間は22.0ヵ月であった。・卵巣摘出術を受けた時の平均年齢は48.0歳であった。・手術時に閉経前であった50例(53%)で、追跡調査においてベースラインからの骨密度低下が認められた。・骨密度低下の年間変化率は、腰椎-3.45%(95%CI:-4.61~-2.29)、大腿骨頸部-2.85%(-3.79~-1.91)、全股関節-2.24%(-3.11~-1.38)であった。・ホルモン療法の受療者(自己申告)は非受療者と比べ、腰椎(-2.00% vs.-4.69%、p=0.02)および全股関節(-1.38% vs.-3.21%、p=0.04)で、骨密度低下が有意に少なかった。・手術時に閉経後であった45例(47%)では、腰椎(年間変化率:-0.82%、95%CI:-1.42~-0.23)および大腿骨頸部(-0.68%、-1.33~-0.04)で骨密度の有意な低下がみられたが、全股関節(-0.18%、-0.82~0.46)ではみられなかった。

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妊娠による子宮内膜がんリスク低下、中絶でも/BMJ

 妊娠が受胎後早期で終了しても40週(正期産)で終了しても、子宮内膜がんのリスクは顕著に減少することが明らかにされた。人工妊娠中絶で妊娠終了に至った場合と出産で妊娠が終了した場合とで、リスク低下との関連性は類似しており、妊娠による子宮内膜がんのリスク低下は妊娠初期に生じる生物学的なプロセスによって説明できる可能性も示唆されたという。デンマーク・Statens Serum InstitutのAnders Husby氏らが、デンマークの女性を対象とした全国コホート研究の結果を報告した。生涯の出産数は子宮内膜がんのリスク低下と関連があり、妊娠により抑制された月経周期数が保護的に作用することが示唆されていたが、妊孕性や妊娠累積期間、妊娠中のある特定時期に生じる過程がこの保護作用を強めるかどうかは不明であった。BMJ誌2019年8月14日号掲載の報告。デンマーク女性約231万例、妊娠約395万件について解析 研究グループは、1935~2002年の期間に生まれたすべてのデンマークの女性を対象に、Danish National Registry of Induced Abortions(人工妊娠中絶登録)、Medical Birth Registry(出生登録)、Danish Cancer Registry(がん登録)のデータを用いて全国コホート研究を実施した。 主要評価項目は、妊娠回数、種類(人工妊娠中絶または出産)、妊娠期間別の子宮内膜がん相対リスク(発生率比)で、対数線形ポアソン回帰モデルを用いて推定した。 解析対象は、デンマーク女性231万1,332例で、妊娠は計394万7,650件であった。人工妊娠中絶、出産にかかわらず、子宮内膜がんのリスクは低下 追跡期間5,734万7,622人年において、子宮内膜がんが6,743例に認められた。年齢、期間、社会経済的要因について補正した後、初回妊娠の終了が人工妊娠中絶(補正後相対リスク[aRR]:0.53、95%信頼区間[CI]:0.45~0.64)であるか、出産(aRR:0.66、95%CI:0.61~0.72)であるかにかかわらず、子宮内膜がんリスクの顕著な低下が示された。2回目以降の妊娠でも、人工妊娠中絶(aRR:0.81、95%CI:0.77~0.86)、出産(aRR:0.86、95%CI:0.84~0.89)を問わず、さらなるリスクの低下が認められた。 妊娠期間、妊娠時の年齢、自然流産、肥満、出生コホート、妊孕力、社会経済的要因により結果が変わることはなかった。 なお本研究について著者は、子宮内膜がんのリスク低下と関連が示唆されている経口避妊薬の使用歴に関するデータがないことなどを挙げて、結果は限定的だと述べている。

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アドヒアランス不良のカリウム薬の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第3回

 今回は、長期間にわたってカリウム薬を服用していたことに着目した症例です。患者さんより聴取した不満を契機に医師へ血液検査結果を基にした中止提案を行い、中止後の検査値や自覚症状に問題がないことを医師および患者さんと確認し、無事に中止することができました。患者情報外来患者、70歳、女性、身長:154cm、体重:52kg現病歴:高血圧、骨粗鬆症投薬時に、毎食後の服薬が苦痛で、L−アスパラギン酸カリウムの服用をよく忘れるとの相談あり(医師には伝えていない)。市販薬やサプリメントの使用はなし。食事は規則正しく1日3食で、食事摂取量にむらはなし。処方内容(1、3の内科からの処方薬は10年以上服用中)1.テルミサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドールカプセル0.25μg 1カプセル 分1 朝食後3.L−アスパラギン酸カリウム錠300mg 3錠 分3 毎食後症例のポイント患者さんは上記1と3の処方薬を長年服用していますが、L−アスパラギン酸カリウムを毎食後に服用することを苦痛に感じていました。たびたびあった服用忘れを医師には伝えていなかったため、アドヒアランスが良好だということを前提に処方が継続されている可能性がありました。L−アスパラギン酸カリウムは、薬剤性低カリウム血症のカリウム補給に用いられることが多くあります。低カリウム血症の原因となる薬剤として、漢方薬(芍薬甘草湯など市販薬にも成分として含まれるので要注意)や利尿薬(とくにループ利尿薬)、グリチルリチン酸、インスリンが挙げられますが、この患者さんの処方内容からは薬剤性の低カリウム血症が生じている可能性は低いと考えられました。患者さんから聞き取った範囲では、1日3食しっかりと食事を摂取していることから、食事でカリウムが著しく不足しているとも考えにくいです。直近の血液検査結果を持参してもらうと、アドヒアランス不良であったにもかかわらず、血清カリウム値は4.5mEq/Lと充足しており、中止しても大きな影響はないと推察しました。医師に血液検査結果と患者さんの希望について話をしてみたところ、そもそもL−アスパラギン酸カリウムの処方を開始したのは前医のため処方意図がわからないこと、血清カリウムなどのL−アスパラギン酸カリウムの評価を失念されていたことが発覚し、L−アスパラギン酸カリウムの処方が中止となりました。その際、次回診察の際にカリウム値の採血を提案しました。低カリウム血症とは、血清カリウム値が3.5mEq/L未満の場合であり、2.5~3.0mEq/Lが中等症、2.5mEq/L未満は重症と定義されている。2.5mEq/L未満の重症ないし急速な低下時には、心臓(不整脈)、筋肉(筋力低下・倦怠感・麻痺・筋痙攣)、消化管(イレウス・食欲不振・嘔気)、腎臓(多尿・腎機能障害)などに症状が出現する。とくにジギタリス製剤服用中の患者では致死的不整脈が起こりやすいので、血清カリウム値のモニタリングが重要となる。処方提案と経過L−アスパラギン酸カリウムの中止から1ヵ月後に患者さんが再来局されました。血液検査で血清カリウム値は4.1mEq/Lと基準値内であり、食欲不振や倦怠感・筋力低下による症状などの低カリウム血症に基づく症状もありませんでした。患者さんは薬局に相談したことで負担となっていた薬剤を中止できたことを喜んでくださり、信頼関係の構築にもつながって血圧・血液検査の提示や相談の機会も増えました。

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遺伝学的に血清Caが高い人は骨折しにくいのか/BMJ

 正常カルシウム値の集団において、血清カルシウムを増加させる遺伝的素因は、骨密度の上昇とは関連せず、臨床的に意義のある骨折予防効果をもたらさないことが、カナダ・マギル大学のAgustin Cerani氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年8月1日号に掲載された。カルシウム補助剤は、一般住民において広く使用されており、骨折リスクの低減を意図して用いられることが多いが、冠動脈疾患のリスクを増大させることが知られており、骨の健康への保護効果は依然として不明とされる。遺伝学的血清カルシウム増加の影響を評価するメンデル無作為化研究 研究グループは、遺伝学的に増加した血清カルシウムが、骨密度の改善や骨粗鬆症性骨折の抑制をもたらすかを評価する目的で、メンデル無作為化研究を行った(カナダ衛生研究所[CIHR]などの助成による)。 解析には、(1)UK Biobankコホートの遺伝子型と骨密度のデータ、(2)英国、米国、欧州、中国の25のコホートの遺伝子型と骨折のデータ、(3)欧州の17のコホートの遺伝子型と血清カルシウム値のデータの要約統計量を使用した。 6万1,079例の血清カルシウム値のゲノムワイド関連メタ解析データを用いて、血清カルシウム値の遺伝的決定因子を同定した。次いで、UK Biobank研究のデータを使用して、血清カルシウム値上昇の遺伝的素因と、平均カルシウム値が正常範囲の42万6,824例の骨密度(踵骨の超音波測定)との関連を評価した。 さらに、平均カルシウム値が正常範囲の骨折症例7万6,549例と対照47万164例を含む24のコホートとUK Biobankのデータを用いて、骨折のゲノムワイド関連メタ解析を実施した。ベネフィットよりリスクが大きい可能性 カルシウム増加と関連する7つの一塩基多型はいずれも、骨密度および骨折との間に有意なゲノムワイド関連を認めなかった(すべてのp>0.08)。 逆分散法によるメンデル無作為化分析では、遺伝学的な血清カルシウム値の1標準偏差(0.13mmol/L、0.51mg/dL)の上昇は、骨密度の上昇(0.003g/cm2、95%信頼区間[CI]:-0.059~0.066、p=0.92)および骨折リスクの低下(オッズ比:1.01、95%CI:0.89~1.15、p=0.85)と関連しなかった。 潜在的な多面的作用(pleiotropic effect)を探索するために、3つの感度分析を行ったが、エビデンスは得られなかった。 また、アジア人家系のコホートの影響を評価するために、中国南部で行われた研究(HKOS)を除外して、骨折のゲノムワイド関連研究のメタ解析を行ったところ、操作変数の要約統計量およびメンデル無作為化の結果は、主解析と実質的に同一であり、アジア人家系の影響は認めなかった。 著者は「生涯にわたって遺伝学的に誘導された血清カルシウムの増加が、長期的なカルシウム剤の補充の効果をどの程度再現するかは不明である」とし、「遺伝学的に増加した血清カルシウムは冠動脈疾患のリスク上昇と強く関連するため、一般住民におけるカルシウム補助剤の広範な普及は、ベネフィットよりもリスクが大きいと考えられる」と指摘している。

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鉄剤と葉酸の漫然投与を見抜き中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第2回

 処方提案をする際には、副作用や相互作用による影響を検討するだけでなく、患者さんの希望を聞き取り、前向きに治療を受けられるようにすることも重要です。今回は、多剤併用に悲観的な患者さんに漫然投与されていた薬剤の中止提案を行った症例を紹介します。患者情報施設入居、70歳、女性、身長:140cm、体重:50kg現病歴:関節リウマチ、高血圧、骨粗鬆症処方内容アムロジピン錠2.5mg 1錠 朝食後エソメプラゾールカプセル20mg 1カプセル 朝食後クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 2錠 朝食後アルファカルシドール錠0.5μg 2錠 朝食後センナ・センナ実顆粒1g 朝夕食後葉酸錠5mg 2錠 朝夕食後アレンドロン酸錠35mg 1錠 起床時・木曜日症例のポイントこの患者さんは、「処方される薬が多いのは自分が重い病気だからであり、これ以上楽になることはない」と考え、悲観的になっていました。多剤併用が苦痛だったようです。上記の薬剤を継続することによって、心理的負荷の増加、鉄剤継続に伴う便秘や肝機能障害、胃腸障害などの懸念もありました。そこで、薬剤の削減ができないか見直しました。関節リウマチなどの炎症性疾患の患者さんでは貧血が比較的多くみられますが、それらによる二次性貧血の場合は原疾患の治療の見直しが必要になることがあります。また、葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠が長期間投与されていますが、メトトレキサートの副作用予防のための葉酸というわけでもないため患者さん自身はあまりメリットを感じておらず、投与量の見直しも行われていないようです。そこで、鉄欠乏性貧血もしくはリウマチに伴う二次性貧血の見極めの必要性、そして葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠の漫然投与の可能性を考え、血液検査からのアプローチを行いました。鉄欠乏性貧血は、貯蔵鉄が枯渇することでHb(ヘモグロビン)合成材料の血清鉄が不足して起こる。鉄の貯蔵と血清鉄の維持を行うフェリチンは鉄の貯蔵状態を反映しており、鉄剤治療を行う際の重要なモニタリング項目となる。貯蔵鉄を運搬するTIBC(トランスフェリン)は鉄欠乏の状態で増加することから、TIBCの増加は鉄の全体量としての不足を意味する。本来、鉄欠乏性貧血は、Hb:男性12g/dL未満・女性11g/dL未満、フェリチン:12ng/dL未満、TIBC:360μg/dL以上が治療対象となる。処方提案と経過往診同行の際に、医師に葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠の評価を提案しました。葉酸錠については葉酸、クエン酸第一鉄ナトリウム錠についてはフェリチンとTIBCの検査オーダーを依頼し、下記の血液検査結果(1)の結果が得られました。TIBCが正常であり、葉酸は充足過剰かつフェリチンが十分であることからリウマチの二次性貧血が疑われますが、めまい・ふらつき・倦怠感などの自覚症状もないことから、葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠の処方中止を医師に提案し、中止となりました。血液検査結果(1)(介入時提案)MCV:97、Hb:9.9g/dL(↓)、Alb:3.0g/dL、AST:13U/L、ALT:4U/LBUN:14.0mg/dL、Scr:0.61mg/dL、Na:139mEq/L、K:3.5mEq/L、Ca:9.1mg/dLFe:35μg/dL(↓)、TIBC:420μg/dL、フェリチン:203.5ng/mL、葉酸:706.0ng/mL(↑)両剤を中止後、自覚症状の出現や増悪などもなく2週間が経過し、服用錠数が減ったことで気持ちも楽になったことを患者さんより聞き取りました。フォロー中の血液検査結果(2)でも血清鉄こそ基準値に満たないものの、フェリチンは充足しており、自覚症状の出現もなく安定した体調を維持しています。本症例は、関節リウマチによる二次性貧血の可能性が高く、原疾患の治療コントロールを目標に現在もフォローを継続しています。血液検査結果(2)(処方変更3ヵ月後の検査結果)MCV:96、Hb:11.6g/dL、Alb:3.7g/dL、AST:16U/L、ALT:5U/L、BUN:16.2mg/dL、Scr:0.55mg/dL、Na:137mEq/L、K:4.0mEq/L、Ca:9.0mg/dLFe:30μg/dL(↓)、TIBC:385μg/dL、フェリチン:192.5ng/mL、葉酸:4.7ng/mL日本鉄バイオサイエンス学会治療指針作成委員会 編. 鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂第3版. 響文社;2015.

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ウェルナー症候群〔WS:Werner syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)とは、1904年にドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、「強皮症を伴う白内障症例(U[ウムラウト]ber Kataract in Verbindung mit Sklerodermie:Cataract in combination with scleroderma)」として初めて報告した常染色体劣性の遺伝性疾患である。思春期以降に、白髪や脱毛、白内障など、実年齢に比べて“老化が促進された”ようにみえる諸症状を呈することから、代表的な「早老症候群(早老症)」の1つに数えられている。■ 疫学第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRN)遺伝子のホモ接合体変異が原因と考えられる。これまで全世界で80種類以上の変異が同定されているが、わが国ではc.3139-1G>C(通称4型)、c.1105C>T(6型)、c3446delA(1型)の3大変異が症例の90%以上を占める。一方、この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらす機序の詳細は未解明である。■ 病因希少な常染色体劣性遺伝病だが、日本、次いでイタリアのサルデーニャ島(Sardegna)に際立って症例が多いとされる。1997年に松本らは、全世界1,300例の患者のうち800例以上が日本人であったと報告している。症状を示さないWRN遺伝子変異のヘテロ接合体(保因者)は、日本国内の100~150例に1例程度存在し、WS患者総数は約2,000例以上と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。かつては血族結婚に起因する症例がほとんどとされたが、最近では両親に血縁関係を認めない患者が増え、患者は国内全域に存在する。遺伝的にも複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の増加が確認されている。■ 症状思春期以降、白髪・脱毛などの毛髪変化、両側性白内障、高調性の嗄声、アキレス腱に代表される軟部組織の石灰化、四肢末梢の皮膚萎縮や角化と難治性潰瘍、高インスリン血症と内臓脂肪蓄積を伴う耐糖能障害、脂質異常症、骨粗鬆症、原発性の性腺機能低下症などが出現し進行する。患者は低身長の場合が多く、四肢の骨格筋など軟部組織の萎縮を伴い、中年期以降にはほぼ全症例がサルコペニアを示す。しばしば、粥状動脈硬化や悪性腫瘍を合併する。内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリックシンドローム様の病態や高LDLコレステロール(LDL-C)血症が動脈硬化の促進に寄与すると考えられている。また、間葉系腫瘍の合併が多く、悪性黒色腫、骨肉腫や骨髄異形成症候群に代表される造血器腫瘍、髄膜腫などを好発する。上皮性腫瘍としては、甲状腺がんや膀胱がん、乳がんなどがみられる。■ 分類WRN遺伝子の変異部位が異なっても、臨床症状に違いはないと考えられている。一方、WSに類似の症状を呈しながらWRN遺伝子に変異を認めない症例の報告も散見され、非典型的ウェルナー症候群(atypical Werner syndrome:AWS)と呼ばれることがある。AWSの中には、LMNA遺伝子(若年性早老症の1つハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候の原因遺伝子)の変異が同定された症例もあるが、WSに比べてより若年で発症し、症状の進行も早いことが多いとされる。■ 予後死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、長らく平均死亡年齢が40歳代半ばとされてきた。しかし、近年、国内外の報告から寿命が5~10年延長していることが示唆され、現在では60歳を超えて生活する患者も少なくない。一方、足部の皮膚潰瘍は難治性であり、疼痛や時に骨髄炎を伴う。下肢の切断を必要とすることも少なくなく、患者のADLやQOLを損なう主要因となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)WSの診断基準を表1に示す。早老症候はさまざまだが、客観的な指標として、40歳までに両側性白内障を生じ、X線検査でアキレス腱踵骨付着部に分節型の石灰化(図)を認める場合は、臨床的にほぼWSと診断できる。診断確定のための遺伝子検査を希望される場合は、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学へご照会いただきたい。なお、本疾患は、難病医療法下の指定難病であり、表2に示す重症度分類が3度または「mRS、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上」または「機能的評価としてBarthel Index 85点以下」の場合に重症と判定し、医療費の助成を受けることができる。表1 ウェルナー症候群の診断基準画像を拡大する図 ウェルナー症候群のアキレス腱にみられる特徴的な石灰化像 画像を拡大する分節型石灰化(左):アキレス腱の踵骨付着部から近位側へ向かい、矢印のように“飛び石状”の石灰化がみられる。火焔様石灰化(右):分節型石灰化の進展した形と考えられる(矢印)。表2 ウェルナー症候群の重症度分類 画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法WSそのものの病態に対する根本的治療法は未開発である。糖尿病は約6割の症例に見られ、高度なインスリン抵抗性を伴いやすい。通常、チアゾリジン誘導体が著効を呈する。これに対してインスリン単独投与の場合は、数十単位を要することも少なくない。ただし、チアゾリジン誘導体は、骨粗鬆症や肥満を助長する可能性を否定できないため、長期的かつ客観的な観察結果の蓄積が望まれる。近年、メトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の有効性を示唆する報告が増え、合併症予防や長期予後に対する知見の集積が期待される。高LDL-C血症に対しては、非WS患者と同様にスタチンが有効である。四肢の皮膚潰瘍に対しては、皮膚科的な保存的治療を第一とする。各種の外用薬やドレッシング剤に加え、陰圧閉鎖療法が有効な症例もみられる。感染を伴う場合は、耐性菌の出現に注意を払い、起炎菌の同定と当該菌に絞った抗菌薬の投与を心掛ける。足部の保護と免荷により皮膚潰瘍の発生や重症化を予防する目的で、テーラーメイドの靴型装具の着用も有用である。■ 手術療法白内障は手術を必要とし、非WS患者と同様に奏功する。40歳までにみられる白内障症例を診た場合、一度は、鑑別診断としてWSを想起して欲しい。四肢の皮膚潰瘍は難治性であり、しばしば外科的デブリードマンを必要とする。また、保存的治療で改善がみられない場合は、形成外科医との連携により、人工真皮貼付や他部位からの皮弁形成など外科的治療を考慮する。四肢末梢とは異なり、通常、体幹部の皮膚創傷治癒能はWSにおいても損なわれていない。したがって、甲状腺がんや胸腹部の悪性腫瘍に対する手術適応は、 非WS患者と同様に考えてよい。4 今後の展望2009年以降、厚生労働科学研究費補助金の支援によって研究班が組織され、全国調査やエビデンス収集、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂と普及啓発活動、そして新規治療法開発への取り組みが行われている(難治性疾患政策研究事業「早老症の医療水準やQOL向上をめざす集学的研究」)。また、日本医療研究開発機構(AMED)の助成により、難治性疾患実用化研究事業「早老症ウェルナー症候群の全国調査と症例登録システム構築によるエビデンスの創生」が開始され、詳細な症例情報の登録と自然歴を明らかにするための世界初の縦断的調査が行われている。一方、WSにはノックアウトマウスに代表される好適な動物モデルが存在せず、病態解明研究における障壁となっていた。現在、AMEDの支援により、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明を目指す研究」が推進され、新たに樹立された患者末梢血由来iPS細胞に基づく病因解明と創薬へ向けての取り組みが進んでいる。なお、先述の全国調査によると、わが国におけるWSの診断時年齢は平均41.5歳だが、病歴に基づいて推定された“発症”年齢は平均26歳であった。これは患者が、発症後15年を経て、初めてWSと診断される実態を示している。事実、30歳前後で白内障手術を受けた際にWSと診断された症例は皆無であった。本疾患の周知と早期発見、早期からの適切な管理開始は、患者の長期予後を改善するために必要不可欠な今後の重要課題と考えられる。5 主たる診療科内科、皮膚科、形成外科、眼科(白内障)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)米国ワシントン州立大学:ウェルナー症候群国際レジストリー(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウェルナー症候群患者家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)Epstein CJ, et al. Medicine. 1966;45:177-221.2)Matsumoto T, et al. Hum Genet. 1997;100:123-130.3)Yokote K, et al. Hum Mutat. 2017;38:7-15.4)Takemoto M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2013;13:475-481.5)ウェルナー症候群の診断・診療ガイドライン2012年版(2019年中に改訂の予定)公開履歴初回2019年7月23日

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HIV感染リスク、避妊法間で異なるのか?/Lancet

 安全で避妊効果が高い3種類の避妊法(メドロキシプロゲステロン酢酸筋注デポ剤[DMPA-IM]、銅付加子宮内避妊器具[銅付加IUD]、レボノルゲストレル[LNG]インプラント)について、HIV感染リスクの差は実質的には認められないことが、米国・ワシントン大学のJared M. Baeten氏らEvidence for Contraceptive Options and HIV Outcomes(ECHO)試験コンソーシアムによる、アフリカ4ヵ国12地点で行われた無作為化多施設共同非盲検試験の結果、明らかにされた。これまでの観察研究や実験研究で、一部のホルモン避妊薬、とくにDMPA-IMは女性のHIV感染性を増す可能性が示唆されていたが、今回の試験において、対象集団のHIV感染率は3群ともに高かった。著者は、「アフリカの女性への避妊サービス提供では、併せてHIV予防を行うことが必須であることが明示された」と述べ、「今回の結果は、3種類の避妊法へのアクセス継続および増大を支持するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2019年6月13日号掲載の報告。DMPA-IM vs.銅付加IUD vs.LNGインプラントの3つの方法を比較 研究グループは、アフリカ大陸サハラ以南のHIV感染率の高い地域に居住し効果的な避妊を希望する女性における、DMPA-IM、銅付加IUD、LNGインプラントの3つの方法を比較する検討を行った。 試験は、エスワティニ(1地点)、ケニア(1)、南アフリカ共和国(9)、ザンビア(1)の4ヵ国12地点で行われた。包含対象は、効果的な避妊を希望する16~35歳のHIV血清陰性の女性で、試験避妊法(DMPA-IM、銅付加IUD、LNGインプラント)に対する医学的な禁忌がなく、過去6ヵ月間にいずれの試験避妊法も行っていないと申告し、いずれかの試験避妊法を18ヵ月間受けることに同意した者とした。 被験者は、DMPA-IM群(150mg/mLを3ヵ月ごと)、銅付加IUD群、LNGインプラント群に無作為に1対1対1の割合で割り付けられた(無作為化ブロックは15~30、試験地点で層別化)。割り付けにはオンライン無作為化システムが用いられ、各地点で試験スタッフによって無作為化が行われた。 主要評価項目は、修正intention-to-treat(ITT)集団(登録時にHIV陰性であり少なくとも1回のHIV検査を受けている、無作為化された全被験者)におけるHIV感染症の発生であった。安全性の主要評価項目は、18ヵ月時点の試験終了受診までに報告されたあらゆる重篤な有害事象、または結果として試験避妊法が中断となったあらゆる有害事象で、登録・無作為化された全被験者について評価した。各避妊法の100人年当たり感染率、4.19 vs.3.94 vs.3.31 2015年12月14日~2017年9月12日に、7,830例が登録され、7,829例が無作為化を受けた(DMPA-IM群2,609例、銅付加IUD群2,607例、LNGインプラント群2,613例)。7,715例(99%)が修正ITT集団に包含された(DMPA-IM群2,556例、銅付加IUD群2,571例、LNGインプラント群2,588例)。 フォローアップ期間1万409人年中に9,567例(92%)が試験避妊法を受け、HIV感染症は397例で発生した(100人年当たり3.81[95%信頼区間[CI]:3.45~4.21])。それぞれDMPA-IM群は143例(36%、100人年当たり4.19[95%CI:3.54~4.94])、銅付加IUD群138例(35%、3.94[3.31~4.66])、LNGインプラント群116例(29%、3.31[2.74~3.98])であった。 修正ITT解析におけるDMPA-IM群のHIV感染のハザード比(HR)は、銅付加IUD群との比較において1.04(96%CI:0.82~1.33、p=0.72)、LNGインプラント群との比較においては1.23(0.95~1.59、p=0.097)であった。また、銅付加IUD群の同HRは、LNGインプラント群との比較において1.18(0.91~1.53、p=0.19)であった。 試験期間中に12例が死亡した。6例がDMPA-IM群、5例が銅付加IUD群、1例がLNGインプラント群であった。 重篤な有害事象の発現は、DMPA-IM群49/2,609例(2%)、銅付加IUD群92/2,607例(4%)、LNGインプラント群78/2,613例(3%)であった。結果として試験避妊法が中断となった有害事象の発現は、DMPA-IM群109例(4%)、銅付加IUD群218例(8%)、LNGインプラント群226例(9%)であった(DMPA-IM群vs.銅付加IUD群のp<0.001、DMPA-IM群vs.LNGインプラント群のp<0.001)。 懐妊は255例で報告され、内訳はDMPA-IM群61例(24%)、銅付加IUD群116例(45%)、LNGインプラント群78例(31%)であった。なお、そのうち181例(71%)が試験避妊法中断後の懐妊であった。

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イベニティ:骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を併せ持つ骨粗鬆症治療薬

世界初の製造販売承認を取得イベニティは、骨形成促進作用を持つヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤であり、2019年1月、骨折の危険性の高い骨粗鬆症の治療薬として、世界に先駆けて日本で製造販売の承認を取得した。骨粗鬆症治療における課題骨粗鬆症による脆弱性骨折は、世界的に増加しており、高齢化の進展にともない今後も増え続けると予測されるが、骨粗鬆症の診断や治療は十分に普及していない。とくに骨折を起こした患者の多くが、診断や治療を受けていないと推測されている。適切な治療を受けなければ、これらの患者は将来、痛みをともない日常生活に支障を来す骨折のリスクが残る。イベニティのdual effectと簡便性スクレロスチンは骨細胞から分泌され、骨芽細胞による骨形成を抑制するとともに、破骨細胞による骨吸収を刺激する。イベニティは、スクレロスチンに結合してこれを阻害することで、骨形成促進と骨吸収抑制の両方の作用を発揮する(dual effect)。これにより、海綿骨と皮質骨の骨量が急速に増加して骨密度(BMD)が増加し、骨の構造と強度が向上して骨折リスクが低下すると考えられている。また、本薬の用法用量は、1ヵ月に1回210mg(シリンジ2本)、12ヵ月間皮下注と従来の骨形成促進薬と比較して簡便な点も特徴である。テリパラチドと比較して新規椎体骨折を有意に抑制イベニティの重要な第 III 相臨床試験として、FRAME試験、STRUCTURE試験、ARCH試験などが挙げられる。FRAME試験は、閉経後骨粗鬆症女性患者7,180例を対象にイベニティを12ヵ月間投与した後デノスマブを12ヵ月投与する群と、プラセボを12ヵ月投与した後デノスマブを12ヵ月投与する群を比較した。その結果、新規椎体骨折の発生率は、12ヵ月時(イベニティ群0.5% vs. プラセボ群の1.8%、p<0.001)および24ヵ月時(0.6% vs. 2.5%、p<0.001)のいずれにおいても、イベニティ群が有意に低かった。STRUCTURE試験は、ビスホスホネート薬による治療経験のある閉経後骨粗鬆症女性患者436例を対象に、イベニティを月1回投与する群と、テリパラチド1日1回12ヵ月間投与する群を比較した。その結果、大腿骨近位部の骨密度は、6ヵ月時(イベニティ群2.3% vs. テリパラチド群 -0.8%、p<0.001)および12ヵ月時(2.9% vs. -0.5%、p<0.001)のいずれにおいても、イベニティ群が有意に高かった。なお、骨折の危険性の高い閉経後骨粗鬆症患者を対象に、イベニティもしくはアレンドロネートを12ヵ月間投与した後、両群ともにアレンドロネートによる継続治療を行ったARCH試験では、12ヵ月時点の「重篤な心血管系有害事象」の発現率が、アレンドロネート単独群で1.9%、イベニティ群で2.5%と不均衡が認められている。そのため、イベニティの使用にあたっては、ベネフィットとリスクを十分に理解した上で、適応患者の選択が重要と考えられている。今後の骨粗鬆症診療への期待骨形成促進作用と骨吸収抑制作用のdual effectを特徴とする本薬の登場により、骨粗鬆症の治療は大きく変化することが予想されている。とくに骨折の既往のある骨粗鬆症の患者において、次の骨折を起こすリスクを軽減する可能性があり、期待を集めている。今後は、骨粗鬆症の最適な治療戦略を確立するために、イベニティ+デノスマブ維持療法など、さまざまなアプローチの検討が進められると考えられる。

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宇宙医学研究の成果を高齢者医療に役立てる

 骨密度低下と聞けば高齢者をイメージするが、無重力空間に滞在する宇宙飛行士もそれが問題視されている。しかし、宇宙飛行士と高齢者の骨密度減少の原因と程度にはどのような違いがあるのだろうか? 2019年6月14日、大島 博氏(宇宙航空研究開発機構、整形外科医)が「非荷重環境における骨・筋肉の減少と対策」において、宇宙飛行士に対する骨量減少と筋萎縮の実態と対策について講演した(第19回日本抗加齢医学会総会 シンポジウム2)。高齢者と宇宙飛行士の骨量減少の違いは? 高齢者の骨粗鬆症と30~60歳の宇宙飛行士の骨量減少の原因は異なる。高齢者では加齢によるCa吸収の低下や女性ホルモン減少により骨吸収亢進と骨形成低下から、骨量は年間1~2%ずつ低下する。一方で、宇宙飛行や長期臥床では骨への荷重負荷が減少し、著しい骨吸収亢進と骨形成低下が生じる。そのため、骨粗鬆症とともに尿路結石のリスクも高まる。 宇宙飛行士の大腿骨頚部の骨量を1ヵ月単位でみると、骨密度(DXA法で測定)は1.5%、骨強度(QCT法で測定)は2.5%も減少していた。大島氏は「宇宙飛行士の骨量は骨粗鬆症患者の約10倍の速さで減少する。骨量減少は荷重骨(大腿骨転子部や骨盤など)で高く、非荷重骨(前腕骨など)では少ない」とし、「体力ある宇宙飛行士でも半年間の地球飛行を行うと、帰還後の回復に3~4年も要し、次の飛行前までに回復しないケースもある」と、報告した。宇宙飛行士×ビスフォスフォネート薬 宇宙飛行士の骨量減少を地上で模擬し医学的な対策法の妥当性を検証するため、JAXAは欧州宇宙機関などと共同で“90日間ベッドレスト研究”を実施。この地上での検証結果をもとに、宇宙飛行における骨量減少予防対策としてJAXAとNASA共同による“ビスフォスフォネート剤を用いた骨量減少予防研究”を行った。長期宇宙滞在の宇宙飛行士から被験者を募りアレンドロネートの週1回製剤(70mg)服用群と非服用群に割り付けた。それぞれ、食事療法(宇宙食として2,500kcal、Ca:1,000mg/日と、ビタミンD:800IU/日含む)と運動療法(筋トレと有酸素運動を2時間、週6日)は共通とした。その結果、ビスフォスフォネート剤を予防的に服用すれば、骨吸収亢進・骨量減少・尿中Ca排泄は抑制され、宇宙飛行の骨量減少と尿路結石のリスクは軽減できることが確認された1)。宇宙で1日分の筋萎縮変化は高齢者の半年分 加齢に伴い、60歳以降では2%/年の筋萎縮が生じる。宇宙飛行では、背筋や下腿三頭筋などの抗重力筋が萎縮しやすく、約10日間の短期飛行で下腿三頭筋は1%/日筋肉は萎縮した。同氏は「宇宙で1日分の筋萎縮変化は、臥床2日分、高齢者の半年分に相当する。宇宙飛行士には、専属のトレーナーから飛行前から運動プログラムが処方され、飛行中も週6回、1日2時間、有酸素トレーニングと筋力トレーニングからなる軌道上運動プログラムを実施し、筋萎縮や体力低下のリスクを軽減している。」という2)。宇宙医学は究極の予防医学を実践 「宇宙飛行は加齢変化の加速モデル。予防的対策をきちんと実践すれば、骨量減少や筋萎縮のリスクは軽減できる」とコメント。「骨・筋肉・体内リズムなどは、宇宙飛行士と高齢者に共通する医学的課題であり、宇宙医学は地上の医学を活用して宇宙飛行の医学リスクを軽減している。宇宙医学の成果は、中高年者の健康増進の啓発に活用できる」と地上の医学と宇宙医学の相互性を強調した。「宇宙医学は、ガガーリン時代にサバイバル技術として始まったが、現在は究極の予防医学を実践している。地上の一般市民に対しては、病気を俯瞰して理解し、予防対策の重要性の啓発に利用できる」と締めくくった。

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骨粗鬆症治療薬が筋力を左右する?

 骨粗鬆症治療を受けている患者は骨折リスクだけではなく、筋力の低下も問題である。そんな患者を抱える医師へ期待できる治療法の研究結果を紹介すべく、2019年6月14日、第19回日本抗加齢医学会総会にて宮腰 尚久氏(秋田大学大学院整形外科学講座 准教授)が「骨粗鬆症治療薬による筋力とバランスの変化」について講演した。骨粗鬆症治療薬が筋にも影響? 近年、骨粗鬆症治療薬である活性型ビタミンD3薬において、筋やバランスに対する効果が報告されている。骨粗鬆症治療には、骨折の予防だけではなく、転倒リスクの軽減も求められる。そのため、転倒予防として筋力の低下やバランス障害の改善も視野に入れなければならない。既存の骨粗鬆症治療薬においては、間接的作用として、骨折抑制による廃用予防や鎮痛作用による身体活動の維持が検証されてきた。宮腰氏は、「直接作用である筋・バランスに対する何らかの効果を検証する必要がある」とし、それらの臨床試験が実施された薬物(活性型ビタミンD3、アレンドロネート、ラロキシフェン)を提示した。 ラロキシフェンの場合、閉経後女性に対する投与後の体組成と筋力の変化をみた研究によると、Fat-free massと水分量でプラセボ群と有意な差がみられたが、膝の伸展筋力や握力には有意差がみられなかった。一方で、アレンドロネートを投与すると握力が増える、あるいはサルコペニアのバイオマーカーであるIL-6の減少が報告されているが、この効果を発揮させるためにビタミンDを併用する場合がある。同氏が今回引用した研究1)でも、アレンドロネートにカルシトリオールが併用されており、「筋力とIL-6の変化はビタミンDによる影響が大きい」とコメント。また、海外文献のメタアナリシスより天然型ビタミンD、活性型ビタミンD3で有意な転倒抑制効果があると報告した。日本人の骨粗鬆症患者にもビタミンD併用は有用か? このような海外データを踏まえ、同氏らは活性型ビタミンD3による影響を国内でも検証するために、『多施設共同研究による活性型ビタミンD3薬の転倒関連運動機能に対する効果の検討』を実施。75歳以上の閉経後骨粗鬆症患者のうち、易転倒性を有すると考えられる利き手の握力が18kg未満の患者を対象とし、転倒回数と転倒関連運動機能について6ヵ月間の活性型ビタミンD3製剤(カルシトリオール、アルファカルシドールのみ)投与の介入前後で比較した試験2)を行った。その結果、観察期間から最終評価時において握力と5m歩行速度、Timed up&goテストにおいて有意な改善が得られた。エルデカルシトールではどうか ビタミンDの筋に対する基礎研究から、ビタミンD受容体に作用して筋の同化に関わるジェノミック作用、カルシウム代謝などのさまざまな経路を介するラピッドエフェクト(ノンジェノミック作用)があり、それらをもって筋肉に作用することが明らかになっている。 しかし、エルデカルシトール(ELD)を用いた研究が世界的になされていないことから、同氏らはELDが筋力や動的バランスに有効性を発揮するか否かについて、ラットによる動物実験ののち、臨床試験にて検証。閉経後女性をアレンドロネート35mg/週単独群14例とELD0.75μg/日併用群17例に割り付け、握力、背筋力、腸腰筋力、動的座位バランスなどを測定した。その結果、動的バランス能力、外乱負荷応答の各指標であるTUGテスト、動的座位バランスが改善した。このことから同氏は「ELDは動的バランス能力の改善に寄与している可能性がある」と示唆した。 同氏はビタミンDと運動を併せた動物実験なども行ったうえで、骨粗鬆症治療薬における「ビタミンDの筋に対する効果を期待するためには“運動療法との併用”が実践的かもしれない」と締めくくった。

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第21回 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾【患者コミュニケーション塾】

 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾2018年度の診療報酬改定で「オンライン診療料」が新設されました。これに先立ち、厚生労働省では検討会を設置し、2018年3月にオンライン診療に関するガイドライン「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を作成しました。私も構成員の一人としてガイドライン作成の議論に参加しました。ただ、オンライン診療を巡っては、どのような問題が発生するか始めてみないとわからない部分も多かったことと、オンラインにまつわる情報や機器の変遷もめまぐるしいということもあり、ガイドラインは1年後から見直しをすることが決まっていました。早速、ガイドライン見直しの検討会が2019年1月に始まり、再び私も構成員としてさまざまな議論に加わりました。オンライン診療は、「初診は対面で診療を行うこと」が原則とされています。ところが、2月に開催された第2回目の検討会では、早くも「初診対面診療の原則の例外」が議題に挙がってきました。オンライン診療をおこなっている医師や関係者から、例外として検討してほしいと提案・要望があったものとして、「男性型脱毛症(AGA)」「勃起不全症(ED)」「季節性アレルギー性鼻炎」「性感染症」「緊急避妊薬」が紹介されました。私は前の4つの症状については、やはり初診時は直接症状を確認したり、持病がないかの確認をしたりする必要があるので、原則を外してはいけないと考えました。しかし、最後の「緊急避妊薬」に関しては、ほかとは分けて考える必要があると思ったのです。性的被害やデートレイプでも「受診前提」はきつい緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、望まない妊娠を避けるために、性交渉から72時間以内に服用することで妊娠を防ぐことができます。もちろん、100パーセントの効果が望めるわけではありませんが、約80パーセントというかなり高い割合で防ぐことができると言われています。ひと口に「望まない妊娠」と言っても、単に避妊に失敗した、軽い気持ちで性交渉したという人もいるでしょう。また、このような緊急避妊薬が手に入ることで、適切に避妊しなくなるという懸念もあります。しかし中には、性的被害に遭った少女や女性もいれば、デートレイプと呼ばれる、拒否できなかった性交渉によって妊娠の可能性が生じた人もいるわけです。そのような“負”の精神状態に置かれている人が、「まずは婦人科を受診して対面診療を」と言われてしまうと、緊急避妊薬を手に入れるハードルはかなり高くなります。それならば、まずはオンライン診療でアプローチできたほうが救われる女性が増えるのではないかと考えました。というのも、私は小学4年生のときに性的被害を受けています。レイプには至りませんでしたが、路地裏に連れて行かれ、「声を出したら殺す」と胸倉をつかまれて脅されながら、陰部に指を入れられました。それはそれは恐ろしい体験で、心臓から冷や汗が流れるような恐怖を味わいました。そのことが親にバレてしまったあと、私が被害を受けた以上に屈辱だったのは、父親が警察に通報したことで自宅に刑事たちがやって来て、現場検証に連れて行かれたことでした。自分が殺されかけた場所に舞い戻り、何をされたのかを話すということがどれだけ心に傷を負うことか、痛いほど経験しています。それだけに、もし婦人科に連れて行かれて、事情を聞かれ、診察をされるとなると、とくに少女にとっては受け入れられる状況とはとても思えませんでした。専門家の反対でかなり限定的になる気配この検討会の構成員は、女性が私一人だけです。私は本来、女性を武器にすることは好きではなく、「男性にはわからないと思いますが」という発言もまずしません。しかし、この問題だけは多くの女性のために私が頑張って発言する必要性を強く感じ、いつも以上に熱を込めた発言を繰り返してきました。この議題が出た当初は、積極的に賛成する構成員がおらず孤軍奮闘でしたが、次第にほかの構成員の賛同が得られるようになってきました。ところが、参考人として検討会に出てきてた産婦人科医が「非常に専門性の高い診断が必要なので、オンラインで診療するとしても処方できるのは産婦人科専門医に限るべきだ」と発言しました。しかし、全国津々浦々にオンライン診療ができる産婦人科専門医がいるわけではなく、性的被害等は全国どこでも起きているわけです。そこで、緊急避妊薬をオンライン診療で処方するのは、産婦人科専門医あるいは事前に厚労省が指定する研修を受講した医師、という方向で話し合いが進んでいきました。また、緊急避妊薬を服用したあとに性器出血があったとしても、必ずしも生理とは限らず妊娠している可能性があることや異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性もあることを考慮して、オンライン診療から3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う。緊急避妊薬の処方は1錠のみとし、ウェブで見える状態下などで内服の確認をする。処方する医師は、医療機関のウェブサイトなどで、緊急避妊薬に関する効能(成功率)、その後の対応のあり方、オンライン診療から薬が手に入るまでの時間、転売や譲渡は禁止されていることなどを明記する、という方向で議論が進みました。一方、緊急避妊薬のオンライン診療を要望している団体の方々は、緊急避妊薬を処方する医師は、産婦人科専門医に限定する必要はない。処方する対象は性暴力被害者に限定せず、必要とするすべての女性にしてほしい。3週間後の受診は必須ではなく、推奨にしてほしい。緊急避妊薬の処方に際して、必ずしも後日の受診を要するわけではない、と主張されています。その主張は私も同感ですが、正論を前面に押し出すと反対勢力は必ず態度を硬化させるので、まずは一歩を踏み出すためのある程度の妥協は必要と考えています。こうしてまとまったガイドラインの改定案は、6月10日に以下の内容で承認されました。例外として、地理的要因がある場合、女性の健康に関する相談窓口等に所属する又はこうした相談窓口等と連携している医師が女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難であると判断した場合においては、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容され得る。ただし、初診からオンライン診療を行う医師は一錠のみの院外処方を行うこととし、受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服することとする。その際、医師と薬剤師はより確実な避妊法について適切に説明を行うこと。加えて、内服した女性が避妊の成否等を確認できるよう、産婦人科医による直接の対面診療を約三週間後に受診することを確実に担保することにより、初診からオンライン診療を行う医師は確実なフォローアップを行うこととする。厚労省は今回の議論を受けて、緊急避妊薬を処方できる医療機関のリストを作成すると打ち出しています。これにより、産婦人科以外の医療機関もリストにあれば、診察を恐れる少女や女性のハードルを下げることができるとかすかな期待を抱いています。そもそも、緊急避妊薬の存在や効能自体を知っている人は少ないだけに、情報の周知が必要だと私は考えます。というのも、望まない妊娠の可能性がある少女や女性がインターネットやSNSを介して、緊急避妊薬と称する“薬”を手に入れている現状があるからです。そのような手段で手に入れた“薬”が、偽薬である可能性もあります。それだけに、きちんとした医療機関で処方されることがやはり必要なのです。世界に目を向けてみれば、各国の医療事情は異なるとはいえ、76ヵ国で医師の処方せんなしで薬局の薬剤師によって販売され、19ヵ国では直接薬局で入手することが可能なのです。国際産婦人科連合(FIGO)などでは「医師によるスクリーニングや評価は不要」「薬局カウンターでの販売が可能」と声明を出しているそうです。そんな中、先進国であるはずの日本では、世界的な動きに逆行して、必要とする女性が緊急避妊薬を手に入れるハードルを高くしようとしているとの批判もあるようです。実際に検討会を傍聴している現役の産婦人科医からも、同様の意見を数多く聞きました。いずれにせよ、本来、女性の健康やからだを守るべき産婦人科医の間で意見が割れているのは残念なことだと思います。もっと多くの方にこの問題に関心を持っていただき、声を出せずにいる女性を守る機運を高めていくことができればと思っています。

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高齢者の医薬品適正使用に関する各論GLが完成/厚労省

 厚生労働省の高齢者医薬品適正使用検討会は 、2019年6月14日『高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編[療養環境別])』を取りまとめたことを通知した。『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』の追補版 高齢化の進展に伴い、わが国は、加齢による生理的な変化や複数の併存疾患を治療するための医薬品の多剤服用などによって、安全性の問題が生じやすい状況にある。厚労省は、2017年4月に「高齢者医薬品適正使用検討会」を設置し、高齢者の薬物療法の安全確保に必要な事項の調査・検討を進めており、2018年5月には『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』を取りまとめている。 今回の高齢者の医薬品適正使用の指針は、「総論編」の補完を目的に、昨年から検討会で議論され、療養環境別の「各論編」として完成した。『高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)』は患者の療養環境別の3部構成 高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)では、患者の療養環境として「外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設」「急性期後の回復期・慢性期の入院医療」「その他の療養環境(常勤の医師が配置されている介護施設 等)」の3部に分けられ、それぞれの環境における処方確認・見直しの考え方、療養期間を通した留意点、処方検討時の留意点についての詳細が記載されている。 また、別表の「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」では、総論編(A~L)に追加の形で、M.認知症治療薬、N.骨粗鬆症治療薬、O.COPD治療薬、P.緩和医療で使用される薬剤について、薬効群ごとの薬剤選択や投与量・使用法に関する注意点、他の薬剤との相互作用に関する注意点が一覧化されている。高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)では処方見直しの8つの事例を添付 高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)では、減薬が上手くいった例として、脳出血に伴い活動量が低下し薬物有害事象が発現した事例、徐放錠を粉砕したことによる薬物有害事象が疑われた事例など、8つの症例を添付している。 これには、介入前後の処方薬、服薬管理方法、介入のきっかけ、介入のポイント、介入後の経過についての詳細に加え、患者の生活状況やそれを踏まえた多職種の関わり方も記載されている。

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