サイト内検索|page:20

検索結果 合計:486件 表示位置:381 - 400

381.

低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症〔MHH : male hypogonadotropic hypogonadism〕

1 疾患概要■ 概念・定義低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症(male hypogonadotropic hypogonadism:MHH)は、視床下部ないしは下垂体の障害によりFSH(Follicle Stimulating Hormone:卵胞刺激ホルモン)およびLH(Lutenizing Hormone:黄体化ホルモン)の分泌低下を来す、まれな疾患である。■ 疫学発症頻度は、10万人に1人と報告されている。■ 病因間脳-下垂体-精巣系は、図1に示すように血中テストステロン濃度によるネガティブフィードバックによって調節されているが、最近は国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部の緒方 勤氏(現 浜松医科大学 小児科 教授)を中心とした研究から、間脳(median basal hypothalamus:視床下部の正中隆起)と下垂体の間の調節機構に関わる因子が、動物実験とMHHの家系調査や遺伝子検索によって次第に明らかになってきている(図2)。画像を拡大する画像を拡大する下垂体からのLH分泌が低下した病態として、KISS-1 neuronからのKisspeptine分泌障害、KisspeptineとそのリガンドであるGPR54の結合障害、Gn-RH neuronから軸索を通ってのGnRH分泌の分泌障害(TAC3/TACR3遺伝子が関与)、下垂体でのGnRHR(GnRH受容体)の異常によるものなどの存在が明らかにされ、ジェネティック・エピジェネティック解析の進展につれて、病因別(遺伝子異常別)に病態の整理が進むものと期待されている(図3)。画像を拡大する■ 症状MHH患者では、精巣機能低下により、第二次性徴発来の欠如や骨粗鬆症や男子不妊症を呈する。また、MHHの亜型と考えられているadult-onset MHHでは、脱毛や勃起障害やうつ症状などのLate-Onset Hypogonadism syndrome(LOH症候群: 加齢男性性腺機能低下症候群)の症状を呈することもある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)小児期に汎下垂体機能低下症として発症した場合には、すでに下垂体ホルモンの補充療法がなされており思春期初来・第二次性徴の誘導から精子形成の誘導を行うことになる。また、事故による下垂体外傷や下垂体腫瘍治療としての下垂体摘除後(外科治療・放射線治療)であれば、治療歴から診断は容易である。LHならびにFSHのみが低下したMHHは、精巣機能低下に起因するものが全面に出てくる。臨床症状としては、第二次性徴の遅れが最も頻度が高い。adult-onset MHHの場合は、性欲低下、勃起障害、意欲の低下、健康感の喪失、うつ症状などのLOH症候群と似た症状や、体毛の脱落を訴える場合もある。身体所見は、血中テストステロンの低下の程度によって影響され、以下のような所見を呈することが多い。(1)外性器発育不全:マイクロペニス、陰嚢発育不全、精巣容積の低下(2)体毛や体脂肪分布:まばらな脇毛や女性形の陰毛分布、体脂肪分布の女性化、小児体型(3)骨粗鬆症:頻回の骨折、骨塩量減少(4)汎下垂体低下症に合併した小児例では、低身長臨床検査所見では、(1)血中テストステロン(T)値の低下、LH単独ないしはFSHと共に低下、貧血。(2)24時間血中LH値測定でLHの律動分泌の低下(adult-onset MHHの診断に有効)(3)hCG負荷試験で正常反応、Gn-RH負荷試験で正常~過剰反応3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療法はテストステロン補充療法とゴナドトロピン療法に大別される。前者は第二次性徴の発現・性欲亢進・骨粗鬆症予防には有用であるが、外因性テストステロンにより精子形成が抑制されるため、挙児希望のあるMHH患者は適応がない。挙児希望のMHH患者においては、精子形成を誘発するためにゴナドトロピン療法が行われる。視床下部性MHHの場合はGnRH投与が有効であるが、GnRH分泌のパルスパターンを再現するために携帯注入ポンプを使用しなければならないため、患者にとって治療のコンプライアンスが悪く実用的でない。このため、わが国におけるMHH患者治療の第一選択は、LHの代用としてhCGと遺伝子組換え型ヒトFSH製剤(r-hFSH製剤:ホリトロピン アルファ)が用いられている。MHHは特定疾患に分類され、申請すれば治療費は全額公費負担となる。さらに、治療コンプライアンスの向上のために在宅自己注射が認められている。適応薬は次の2薬に限られていることに注意が必要である。(1)hCG製剤(商品名:ゴナトロピン5000)(2)r-hFSH製剤(同:ゴナールエフ皮下注ペン)さらに、保険上注意が必要なのは、ゴナトロピン®に関してはHMMの在宅自己注射にのみ皮下注射が認められている点である(MHH以外は、医療機関での筋注のみの適用)。これまでは、経験的に以下のような治療法が行われてきた。まず、ゴナトロピン®3,000~5,000単位を2~3回/週先行投与して血中T値が正常化するのを確認する。同時に精液検査を行い、精子形成誘導の成否を判定する。血中T値が正常化しても精液検査所見が正常化しない場合には、ゴナールエフ®皮下注ペン75~150単位を2~3回/週追加使用するプロトコールが行われてきた。しかし、現在MHH研究会を中心に治療の全国集計が行われており、hCG製剤とr-hFSH製剤の同時投与開始のほうが精子形成誘導に至る時間が短いことが明らかにされつつある。詳細な調査結果の公表後に、標準治療法が変更になる可能性がある。挙児希望の場合には、精子形成が誘導され児を得た後は、テストステロン補充療法に移る。テストステロンエナント(同:エナルモンデポー)125~250mgを2~4週ごとに筋注する。この療法はhCG + r-hFSH療法に比べて治療回数が少なくて済むため、患者の利便性は高い。しかし、テストステロン補充療法は筋注であり、在宅自己注射は認められていない。このため、患者は医療機関を定期的に受診する必要がある。精子形成は急速に抑制され、6ヵ月で無精子となる。エナルモンデポー®を筋注した場合、血中T値は急速に上昇するため、全身のほてりや、にきびの発生、骨痛などの症状が現れることがある。また、血中T値の低下につれて、筋力低下、抑うつ気分などの症状が現れる。これらの症状に応じて、テストステロン補充の間隔を調節する必要がある。すぐに挙児を希望しない場合でも、hCG + r-hFSH療法により精子形成が確認されれば、これを将来のバックアップとして凍結保存することを推奨している。この後に前述のようにテストステロン補充を行い、挙児を希望したときにhCG + r-hFSH療法に変更している。筆者らの経験では、以前にhCG + r-hFSH療法で精子形成の誘導が確認されたMHH症例では、テストステロン補充療法でいったん無精子症になっても、全例で精子形成の再誘導が確認されている。汎下垂体機能低下症の小児例に対しては、成長(身長の伸び)と第二次性徴の誘導のバランスが必要であり、これまでのところ、定まった治療方法は存在しないのが現状である。これに関しても、現在MHH研究会が全国集計を行い、治療法の標準化を図ろうとしている。最終報告まで、数年かかる見込みである。4 今後の展望分子遺伝学の進歩に伴って、MHHの病因の解明が進んでいる(図3)。しかしながら治療法に関しては、原因に根ざしたものは不可能であり、前述の方法しかない。5 主たる診療科汎下垂体機能低下症によるMHHは、小児科で治療が開始され、成人になってからは内分泌内科および泌尿器科(主に精子誘導)が連携して治療を行うことになる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報hCG製剤の添付文書(あすか製薬のホームページ)(医療従事者向けの情報)MHHに関する情報ページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)

382.

シリコンによる補強が椎体圧迫骨折の二次骨折リスクを軽減

 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対し、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)というアクリル樹脂を用いた椎骨補強による治療が広く行われているが、合併症として処置部に隣接する椎骨の二次骨折が知られている。この二次骨折は、椎骨と比較してPMMAの剛性が高いことによると考えられることから、骨に近い生体力学的特性を有しているシリコンがPMMAの代替として期待されている。ドイツ・ミュンスター大学病院のTobias L. Schulte氏らは、初めてシリコンとPMMAを用いた椎体補強時の剛性を比較し、シリコンにより二次骨折のリスクが軽減される可能性があることを示唆した。シリコンによる椎骨補強は骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対する治療の選択肢となりうるとまとめている。European Spine Journal誌2013年12月号(オンライン版2013年7月24日号)の掲載報告。 研究グループは、本検討でPMMAあるいはシリコンで補強した椎骨の生体力学的な違い、とくに剛性を調べることを目的とした。 検討には、骨粗鬆症であるが圧迫骨折がないことを確認した40体のヒトの脊椎(T10-L5)を用い、標準的な方法で楔状骨折を作成し、4群に分けてPMMAまたはシリコンを各々2つの充填率(16%および35%)で椎体に注入した。 次いで、無処置椎体、充填椎体および周期的負荷を与えた充填椎体について、低負荷時(100~500 N)の剛性を測定した。また、充填椎体に破断強度の20~65パーセントの高負荷(5,000サイクル=0.5Hz)を与えた場合の剛性を測定した。 主な結果は以下のとおり。・低負荷時剛性は、無処置椎体に比べ周期的負荷処置後にPMMA充填椎体で増加(充填率35%群で115%、16%群で110%)、シリコン充填椎体で低下した(それぞれ87%および82%)。・高負荷時剛性は、無処置椎体に比べPMMA充填率35%群で361%、16%群で304%、シリコン充填率35%群で243%、16%群で222%であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

383.

新規抗スクレロスチン抗体、閉経後の骨密度を増大/NEJM

 閉経後に骨密度(BMD)が低下した女性に対する抗スクレロスチン抗体romosozumab投与は、腰椎BMDを12ヵ月で5~11%改善することが示された。米国・オレゴン骨粗鬆症センターのMichael R. McClung氏らが、romosozumabの有効性について検討した第2相臨床試験の結果、報告した。NEJM誌オンライン版2014年1月1日号で発表した。主要エンドポイントは腰椎BMDの変化 McClung氏らは、閉経後の55~85歳女性でBMDの低下が認められる419例を対象に、 12ヵ月間にわたるromosozumabの有効性と安全性を評価する第2相多施設共同国際無作為化プラセボ対照並行群(8群)試験を行った。被験者は、腰椎、全股関節あるいは大腿骨頚部のTスコアが-2.0以下、あるいは3部位いずれも-3.5以上だった。 研究グループは被験者を無作為に8群に分けて、70mg、140mg、210mgのromosozumab皮下投与を毎月、140mg、210mgを3ヵ月ごと、プラセボ、アレンドロン酸経口投与(70mg/週)、テリパラチド皮下投与(20μg/日)をそれぞれ投与した。 主要エンドポイントは、12ヵ月後の腰椎BMDのベースライン時からの変化だった。副次エンドポイントは、その他の部位である全股関節、大腿骨頚部のBMDの変化、骨代謝マーカーの値などだった。romosozumab投与群すべてで腰椎BMDが有意に改善 結果、romosozumab投与群では、すべての投与量群で腰椎BMDの有意な改善が認められた。210mg毎月投与群のベースライン時からの変化率は11.3%、140mg毎月投与群では9.1%、70mg毎月投与群では5.4%であり、3ヵ月ごとの210mg投与群は5.5%、同140mg投与群では5.4%だった。 一方、アレンドロン酸群の同BMDの変化は4.1%、テリパラチド群7.1%、プラセボ群-0.1%だった。 また、romosozumab投与は、全股関節と大腿骨頚部の骨密度を大幅に増加し、骨形成マーカーの一時的増加と、骨吸収マーカーの持続的減少に関与していた。 romosozumab投与群で軽度の注射部位反応が認められたほかは、各群の有害イベントは同等だった。 著者は、「romosozumabは骨密度が低下した閉経後女性において、骨密度と骨形成の増大、および骨吸収減少と関連することが認められた」と結論している。

384.

ビタミンDの補充はターゲットを絞って行うべきか(コメンテーター:細井 孝之 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(150)より-

ビタミンDは「骨の健康」においてなくてはならないビタミンであるが、近年、筋肉・筋力や認知機能との関連も示唆されており、超高齢社会における注目度は上がっている。一方、ビタミンDの充足率は高くなく、日本人の少なくとも半数以上はビタミンD不足であることが推測されている。 ビタミンDの充足状況は血清中の25水酸化ビタミンD濃度を指標にして評価されるが、この測定は保険適用を受けていない。また、ビタミンD補充の効果も血清25水酸化ビタミンD濃度をもって評価することが可能であるが、さらに臨床的な効果を評価するためには骨密度、骨折発生率、筋肉量、転倒回数、生命予後などが指標になる。 本論文はこのうちの骨密度に関する効果をメタ解析の手法で検討したものである。その結果、一般住民におけるビタミンD補充の骨密度に対する効果は大腿骨近位部についてのみ認められた。とくにこの効果は、ベースラインの血清25水酸化ビタミンD濃度が低い場合に明らかであったことが示された。これらのことから、ビタミンDの補充は一般住民にあまねく補充することには疑問が呈された。 見方を変えれば、ビタミンDの補充が必要な集団を特定したうえで補充することの意義をあらためて確認すべきであると提言した、重要な論文である。

386.

骨粗鬆症でない一般住民へのビタミンD補充/Lancet

 骨粗鬆症でない一般住民へのビタミンD補充はベネフィットが少ないことが、ニュージーランド・オークランド大学のIan R Reid氏らのシステマティックレビューとメタ解析の結果、示された。著者は「ビタミンD欠乏症に対する特異的なリスク因子のない一般住民は、骨粗鬆症予防目的でビタミンDを常用する必要がないことが示された」と結論している。Lancet誌オンライン版2013年10月10日号掲載の報告より。一般住民に対するビタミンD補充が骨密度に及ぼす影響をメタ解析 レビューは、Web of Science、Embase、Cochrane Databaseをソースに、2012年7月8日までに公表された、ビタミンD(D3またはD2、ビタミンD代謝物は除く)の骨密度への影響について評価した無作為化試験を対象とした。試験は、異なるビタミンD含有量を比較している試験、被験者が骨粗鬆症などの代謝性骨疾患を有していない成人(平均年齢20歳超)を含む試験のみを対象とした。 主要エンドポイントは、ベースライン時からの骨密度の変化(%)。ベネフィットが示されたのは大腿骨頸部のみ 3,930試験が検索でヒットし、そのうち23試験(平均試験期間23.5ヵ月、被験者4,082例、女性92%、平均年齢59歳)が適格基準を満たし解析に組み込まれた。19試験は、主に白人集団を対象とした試験だった。 8試験・1,791例の被験者の、ベースライン時の平均血清25-ヒドロキシビタミンD値は50nmol/L未満だった。また、10試験・2,294例の被験者は、ビタミンDの1日投与量が800 IU未満だった。 各試験の骨密度の測定は、5部位(腰椎、大腿骨頸部、股関節、転子、全身、前腕)のいずれか1部位で行われていた。統計的有意差の検証試験は70種類にわたっていた。 結果、骨密度に有意なベネフィットがあることが示されていたのは6試験(うち複数部位でのベネフィットが示されていたのは1試験のみ)で、有意な有害性(全身、p≦0.05)が2試験で示され、残りの試験は有意性が示されていなかった。 部位別の解析では、大腿骨頸部でわずかなベネフィットが示された(13試験、加重平均差:0.8%、95%信頼区間[CI]:0.2~1.4、試験間の異質性:I2=67%、p<0.00027)。ただし著者は、本結果にはプラスのバイアスがかかっているとしている。同様のバイアスは股関節部位の解析においてもみられたが、同部位を含め、その他の部位ではベネフィットがあることは示されなかった。 また、良好なアウトカムを示していた5試験のうち3試験は、被験者のベースライン時の25-ヒドロキシビタミンD値が低値だった(26、29、36nmol/L)。

387.

わが国のHIVの現状 ~抗HIV療法関連の骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患が問題に~

約30年前は死に至る病と言われていたHIV感染症。現在は、定期的な受診と適切な服薬継続により長期にわたり日常生活を続けることが可能になり、慢性疾患と考えられるようになりつつある。しかしながら、日本では感染者が増加傾向にあり、新たに抗HIV療法に関連した代謝性疾患などが問題となっている。このたび、途上国のエイズ対策を支援する『世界エイズ・結核・マラリア対策基金』の支持を決定する技術審査委員の1人である、しらかば診療所 院長の井戸田 一朗氏が、ヤンセンファーマHIV/AIDSメディアセミナー(2013年10月29日開催)でHIVの現状や課題を紹介した。性感染症にかかるとHIVにかかりやすい井戸田氏のクリニックは、セクシャル・マイノリティ(同性愛者、バイセクシャル、トランスジェンダーなど)を主な対象として2007年に東京都新宿区に開院した。現在、同クリニックには約400人のHIV陽性者が定期的に通院しているという。井戸田氏が性感染症にかかった男性にHIV検査を勧めて検査した結果(自分で希望した人は除外)、淋菌感染症患者では20%、梅毒患者では13%、尖圭コンジローマ患者では26%がHIV陽性であった。井戸田氏は、「性感染症、とくに淋菌感染症、梅毒、尖圭コンジローマにかかった人は、HIV感染症も検査することが大切」と強調した。男性間の性的接触による感染が増加わが国の性感染症の報告数は全体的に減少傾向にあるが、新規HIV感染者とAIDS患者数は年々増加している。その内訳をみると、異性間性的接触による感染はほとんど変化がないのに比べて、男性間性的接触による感染の増加は著しく、2011年では全体の64%を占めていた。人口当たりのHIV陽性累積数は、都道府県別では、東京、大阪、茨城、長野、山梨の順で多く、HIV感染者とAIDS患者の6割が関東に集中している。男性間性的接触をする男性(MSM:men who have sex with men)の割合については、2005年度国勢調査における対象地域(関東、東海、近畿、九州)の男性では、性交渉の相手が同性のみ、もしくは両性である割合が2.0%(95%CI:1.32~2.66%)と報告されている。井戸田氏は、MSMにおけるHIVや性感染症の流行の背景として、解剖学的差異、性交渉の様式、ハッテン場・インターネットでの出会い、薬物(アルコール含む)、心理的要因を挙げた。HIV陽性者の予後と今後の課題HIV陽性者の予後は、抗HIV療法の登場により、20歳時の平均余命が36.1歳(1996~1999年)から49.4歳(2003~2005年)に延長した。また、抗HIV療法の登場により、カポジ肉腫や非ホジキンリンパ腫などのエイズ関連悪性腫瘍が減少する一方で、非エイズ関連悪性腫瘍(肛門がん、ホジキンリンパ腫、肝がん、皮膚がん、肺がん、頭頸部がん)が増加してきている。HIV陽性者においては脳心血管イベントの発生率が上昇する。禁煙によりそのリスクを下げることができるが、井戸田氏によると、同院を訪れるHIV陽性MSMでは喫煙者が多く52%に喫煙歴があったという。また、最近、抗HIV療法に関連した骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患(脂質異常症、糖尿病)が問題となっている。井戸田氏は、HIVに直接関係のないこれらの疾患について、「それぞれの分野の先生に診てもらえるとHIV陽性者や拠点病院にとって大きな支えになる」と各領域の医師からの協力を期待した。(ケアネット 金沢 浩子)

389.

患者の声を聴き、適切な治療選択を ~動き続けるための、膝の痛みの解消法の実際~

2013年9月24日(火)、ヤンセンファーマ株式会社主催の疼痛メディアセミナーが開催された。このセミナーで石島 旨章氏は、変形性膝関節症について講演。変形性膝関節症のわが国での実態や、解明されつつある病態、治療法について述べた。変形性膝関節症の痛みの要因膝関節の軟骨が摩耗し、関節に炎症や変形が生じる変形性膝関節症は、わが国では患者が約2,500万人、そのうち痛みを伴う患者は約800万人と推定されている。膝の痛みにより活動が制限され、移動能力が低下しロコモティブシンドロームにつながり、ひいては生命予後にも影響しかねない疾患である。変形性膝関節症の痛みは侵害受容性疼痛であるが、疼痛をもたらす要因として「炎症反応」と、軟骨の減少とともに関節が変形し、荷重を支える部位が狭くなり痛みを誘発する「生体力学的異常」がある。これに対し、診断に一般的に用いられる単純レントゲン検査は軟骨の厚みを間接的にみているにすぎず、症状と病態の連関が不十分で、レントゲンで診断できる段階では、軟骨だけでなく軟骨下骨や半月板などの組織にも障害が及んでいる。今後、患者の治療満足度の向上を図るためには、病態の解明を進め診断能力と進行予知能力を向上していく必要がある。進む病態研究現在は、とくに初期の変形性膝関節症をみていくために、バイオマーカーおよびMRIを用いて関節内の代謝異常と構造変化を詳細に評価し、疼痛との関連を評価する試みが進められている。この中で、近年の研究の進展とともに、疼痛に対する炎症の寄与はかなり初期の段階に限られており、変形性膝関節症が進行した状態では炎症の寄与は決して増加しないこと、また、初期の段階でも今まで認識できなかった構造異常に伴う生体力学的異常が起きていることが少しずつ解明されてきている。治療は非薬物療法と薬物療法変形性膝関節症の治療としては、現在は疾患修飾型治療が存在せず、既存の保存療法の選択肢の拡充とエビデンスを確立していくことが現在の課題である。保存療法では、運動療法を中心とした非薬物療法と薬物療法の併用がガイドライン*で推奨されており、薬物療法ではNSAIDsが推奨度Aとされ、広く用いられている。しかし、NSAIDsでは疼痛を改善できない患者も多数存在している。このようなNSAIDsが効かない疼痛に対し、海外ではオピオイドが有効であるとのエビデンスが、システマティクレビューにより報告されつつある(わが国ではオピオイドは本疾患への臨床経験がなく、ガイドラインに未掲載)。これについて前述の形態学的な話でいえば、構造変化に伴う生体力学的異常が進行している状態では、NSAIDsでの疼痛治療は困難と考えられ、このような場合にオピオイドの使用を考慮する余地がある。骨粗鬆症では治療により骨折を予防できる可能性が出てきた。変形性膝関節症ではその段階まで達していないが、病態の理解を丁寧に進めていくことで疾患の進行抑制につながるものと考えている。*変形性膝関節症の管理に関するOARSI(Osteoarthritis Research Society International)勧告:OARSIによるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン(日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会による適合化終了版) (ケアネット 萩原 充)

390.

運動器疾患における疼痛に関する患者調査 ~痛みのために患者が困っていることとその解決法~

宗圓 聰 ( そうえん さとし ) 氏近畿大学医学部奈良病院  整形外科・リウマチ科 教授2013年9月24日(火)、ヤンセンファーマ株式会社主催の疼痛メディアセミナーが開催され、宗圓 聰氏は本年発表された、運動器疾患患者(椎間板ヘルニア、関節リウマチ、変形性膝関節症、骨粗鬆症、脊柱管狭窄症)の疼痛に関する治療実態や治療の満足度に関する調査1)(調査概要:文末参照)について報告した。痛みのために現在困っていること通院治療中の患者でも、痛みのために日常生活で支障を感じている患者は多く、とくに椎間板ヘルニア、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症では70%以上の人が痛みのために日常生活に何らかの支障(階段を上るのに苦労するなど)を感じていた。治療による痛みの改善度合い・効果への満足度どの疾患でも治療により痛みは改善されているが、中程度の痛みが残っていた。痛みの治療効果に対する満足度は疾患により異なり、関節リウマチが最も高く(75%)、脊柱管狭窄症患者の満足度が最も低かった(55%)。関節リウマチでは、近年の治療薬の進歩とともに治療効果への満足度が向上していることがうかがえる。病院以外での治療実施割合治療効果に満足していない患者は、病院・クリニックでの治療以外にコルセット・サポーターなどの装具やサプリメントを中心に、何らかの治療をしている割合が高く、これらによる除痛効果を期待していることが示唆された。経口鎮痛薬:服用している薬剤、服用割合、服用期間経口鎮痛薬を服用している割合は、椎間板ヘルニアで約70%、関節リウマチ、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症で50%強、骨粗鬆症で30%弱であった。服用している経口鎮痛薬は、NSAIDsが約90%を占め、経口薬服用患者のうち70%以上はすでに1年以上にわたって経口薬を服用していた。これらの調査結果から、宗圓氏は特筆すべき点として、経口鎮痛薬として約90%がNSAIDsを服用し、その多くの患者が1年以上続けている状況を指摘。「NSAIDsには副作用としてさまざまな臓器障害があり、とくに高齢者では1年以上続けると腎障害が強く懸念される。3ヵ月継続して効果が思わしくない場合は、オピオイドなど別の薬剤を検討すべきだ」と述べ、NSAIDsの長期使用は慎重に行うべきであると訴えた。*「運動器疾患における疼痛に関する患者実態調査」調査概要・目的:5大疾患の患者の治療実態や治療の満足度の把握・対象:5大疾患の診断を受け通院治療中の40歳以上の患者[椎間板ヘルニア165例、関節リウマチ179例、変形性膝関節症195例、骨粗鬆症186例、脊柱管狭窄症172例(併発している場合は主疾患を優先)]・方法:楽天リサーチ患者パネルを用いたWeb調査・調査地域:全国・期間:2012年11月27日~12月3日・実施:ヤンセンファーマ株式会社(ケアネット 萩原 充)出典1)宗圓 聰. Progress in Medicine. 2013; 33: 1215-1220.※ 所属・施設等は、制作当時のものです。

392.

ロコモティブシンドローム ― 「ロコモ度テスト」で若いうちから対策を ―

2013年9月12日、都内にて日本整形外科学会プレスセミナーが開催され、大江 隆史氏が「ロコモティブシンドロームの2025年問題~幅広い年齢層へのロコモ対策の必要性~」と題し、講演を行った。日本整形外科学会では2007年より、「運動器の障害によって移動能力の低下をきたし、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態」を「ロコモティブシンドローム」(和名:運動器症候群、略称:ロコモ)として提唱。この背景には、わが国では運動器疾患(変形性腰椎症、変形性膝関節症、骨粗鬆症)を複数合併している患者が非常に多く、運動器の障害は要支援・要介護の要因の第1位を占めていることがある。一方で、超高齢社会のわが国では、団塊世代が全員75歳以上となるころに医療費などの社会保障費の高騰が予想される「2025年問題」が懸念されている。すでに総人口の約3分の1がロコモもしくはロコモ予備群であると報告されているいま、2025年問題の観点からも、ロコモ対策は喫緊の課題である。ロコモの特徴と現状大江氏は、ロコモの概念について、「移動能力に着目し、移動能力低下の過程・状態を総合的に捉えたもの」と紹介し、高齢者のロコモでは「加齢に伴い疾患・機能障害が複合・連鎖する悪循環に陥りやすくなり、移動能力の低下を引き起こすことが特徴的な問題である」と述べた。また、骨量・筋力の変化の調査では、運動器の性質・機能の衰えは高齢になる前から始まることが報告されているものの、成人以降は運動器に関する検査(客観的評価)をほとんどの人は受けていないのが現状であり、これを変えないと将来のロコモ予防につながらないことを強調した。「ロコモ度テスト」で若いうちからロコモ対策を続いて大江氏は、日本整形外科学会が開発した「ロコモ度テスト」について言及。日本整形外科学会は従来からロコモのチェックリストを作成していたが、従来のものは、「中高齢者向き」、「数値化が困難」、「主観的である」などの課題があったため、2013年にこれらの課題を解決すべく、新判定基準の「ロコモ度テスト」を開発した。新しい「ロコモ度テスト」は、「立ち上がりテスト」(脚力を調べる)、「2ステップテスト」(歩幅を調べる)、「ロコモ25」(身体の状態・生活状況を調べる)の3つから成り、若いうちから取り組むことができる。このテスト結果が年代相応の値に達しない場合、その状況が続くと「将来ロコモになる可能性が高い」ことを示し、定期的に数値化することでトレーニングによる変化も確認できるようになる。大江氏は、「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」の方法を自ら実演して示し、将来、要支援・要介護状態にならないよう、ロコモ度テストを活用し自分のために自分でロコモ対策を行うことの必要性を訴えた。健康日本21(第二次)では、ロコモに関する目標として「ロコモを認知している国民の割合の向上」と「足腰に痛みのある高齢者の割合の減少」を掲げている。また、日本整形外科学会では、ロコモの予防啓発を目的とした「ロコモ チャレンジ!推進協議会」を2010年8月より立ち上げ、さまざまな啓発活動を実施している。大江氏は、「運動器に起因する要介護者数の減少に向け、ロコモ対策先進国として日本が世界をリードしていく」と決意を述べ、講演を締めくくった。(ケアネット 萩原 充)

393.

老人保健施設内の転倒事故

内科最終判決平成15年6月3日 福島地方裁判所 判決概要老人保健施設入所中の95歳女性、介護保険では要介護2と判定されていた。独歩可能で日中はトイレで用を足していたが、夜間はポータブルトイレを使用。事故当日、自室ポータブルトイレの排泄物をナースセンター裏のトイレに捨てにいこうとして、汚物処理場の仕切りに足を引っかけて転倒した。右大腿骨頸部骨折を受傷し、手術が行われたが、転倒したのは施設側の責任だということで裁判となった。詳細な経過患者情報明治38年生まれ、満95歳の女性。介護保険で要介護2の認定を受けていた経過平成12年10月27日老人保健施設に入所。入所動機は、主介護者の次女が入院することで介護者不在となったためであった。■入所時の評価総合的な援助の方針定期的な健康チェックを行い、転倒など事故に注意しながら在宅復帰へ向けてADLの維持・向上を図る。骨粗鬆症あり、下半身の強化に努め転倒にも注意が必要である。排泄に関するケア日中はトイレにいくが夜間はポータブルトイレ使用。介護マニュアルポータブルトイレ清掃は朝5:00と夕方4:00の1日2回行う。ポータブルトイレが清掃されていない場合には、患者はトイレに自分で排泄物を捨てにいったが、容器を洗う場所はなかったので排泄物の処理と容器の洗浄のために、ときおり処理場を利用していた。どうにか自分で捨てにいくことができたので、介護職員に頼むことは遠慮して、自分で捨てていた。1月8日05:00ポータブルトイレの処理状況「処理」17:00ポータブルトイレの処理状況「処理していない」夕食を済ませ自室に戻ったが、ポータブルトイレの排泄物が清掃されておらず、夜間もそのまま使用することを不快に感じ自分で処理場に運ぼうとした。18:00ポータブルトイレ排泄物容器を持ち、シルバーカー(老人カー)につかまりながら廊下を歩いてナースセンター裏のトイレにいき(約20m)、トイレに排泄物を捨てて容器を洗おうと隣の処理場に入ろうとした。ところが、その出入口に設置してあるコンクリート製凸状仕切り(高さ87mm、幅95mm:汚物が流れ出ないようにしたもの)に足を引っかけ転倒した。職員が駆け寄ると「今まで転んだことなんかなかったのに」と悔しそうにいった。そのまま救急車で整形外科に入院し、右大腿骨頸部骨折と診断された。平成13年1月12日観血的整復固定術施行。3月16日退院。事故の結果、創痕、右下肢筋力低下(軽度)の後遺症が残り、1人で歩くことが不自由となった。3月7日要介護3の認定。誠意の感じられない施設側に対し、患者側が損害賠償の提訴に踏み切る(なお事故直後の平成13年1月20日、仕切りの凸部分を取り除くための改造工事が施工された)。当事者の主張入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張施設側は介護ケアーサービスとして入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務があったのに怠り、患者自らが捨てにいくことを余儀なくされて事故が発生した。これは移動介助義務、および入所者の安全性を確保することに配慮すべき義務を果たさなかったためである。病院側(被告)の主張足下のおぼつかないような要介護者に対しては、ポータブルトイレの汚物処理は介護職員に任せ、自ら行わないように指導していた。仮にポータブルトイレの清掃が行われなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。ところが事故発生日に患者が介護職員にポータブルトイレの清掃を頼んだ事実はない。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃を定時に行うべき義務と事故との間に因果関係は認められない。工作物の設置・保存の瑕疵患者側(原告)の主張老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人の入所施設であるという特質上、入所者の移動などに際して身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造が求められている。処理場の出入口には仕切りが存在し、下肢機能が低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる形状の設備であり「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当する。病院側(被告)の主張処理場内の仕切りは、汚水などが処理場外に流出しないことを目的とするもので、構造上は問題はなく、入所者・要介護者が出入りすることは想定されていない。したがって、工作物の設置または保存の瑕疵に該当しない。入所者への安全配慮義務患者側(原告)の主張ポータブルトイレの清掃を他人に頼むのは、患者が遠慮しがちな事項であり、職員に頼まずに自分で清掃しようとしたからといって、入所者に不注意があったとはいえいない。病院側(被告)の主張高齢であるとはいえ判断力には問題なかったから、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである。そのように指導されていたにもかかわらず、自ら処理しようとした行動には患者本人の過失がある。裁判所の判断記録によれば、ポータブルトイレの清掃状況は、外泊期間を除いた29日間(処理すべき回数53回)のうち、ポータブルトイレの尿を清掃した「処理」23回トイレの中をみた「確認」15回声をかけたが大丈夫といわれた「声かけ」が2回「処理なし」3回「不明」10回とあるように、必ずしも介護マニュアルに沿って実施されていたわけではない。しかも、実施したのかどうか記録すら残していないこともある。居室内に置かれたポータブルトイレの中身が廃棄・清掃されないままであれば、不自由な体であれ、老人がこれをトイレまで運んで処理・清掃したいと考えるのは当然である。施設側は「ポータブルトイレの清掃がなされていなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護職員に連絡して処理をしてもらうことができたはずである」と主張するが、上記のようにポータブルトイレの清掃に関する介護マニュアルが遵守されていなかった状況では、患者がポータブルトイレの清掃を頼んだ場合に、施設職員がただちにかつ快くその求めに応じて処理していたかどうかは疑問である。したがって、入所者のポータブルトイレの清掃をマニュアルどおり定時に行うべき義務に違反したことによって発生した転倒事故といえる。また、老人保健施設は身体機能の劣った状態にある要介護老人が入所するのだから、その特質上、入所者の移動ないし施設利用などに際して、身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造がとくに求められる。ところが、入所者が出入りすることがある処理場の出入口に仕切りが存在すると、下肢の機能の低下している要介護老人の出入りに際して転倒などの危険を生じさせる可能性があり、「工作物の設置または保存の瑕疵」に該当するので、施設側の賠償責任は免れない。原告側合計1,055万円の請求に対し、合計537万円の判決考察このような判決をみると、ますます欧米並みの「契約社会」を意識しなければ、医療従事者は不毛な医事紛争に巻き込まれる可能性が高いことを痛感させられます。今回は、95歳という高齢ではあったものの、独歩可能で痴呆はなく、判断力にも問題はなかった高齢者の転倒事故です。日中はトイレまで出かけて用を足していましたが、夜は心配なのでベッド脇に置いたポータブルトイレを使用していました。当初の介護プランでは、1日2回ポータブルトイレを介護職員が掃除することにしました。ところが律儀な患者さんであったのか、排泄物をどうにか自分でトイレに捨てにいくことができたので、施設職員に頼むことは遠慮して、時折自分で捨てていたということです。そのような光景をみれば誰しもが、「ポータブルトイレの汚物をトイレまで捨てにいくことができるのなら、リハビリにもなるし、様子を見ましょう」と考えるのではないでしょうか。そのため、最初に定めたマニュアル(1日2回ポータブルトイレの確認・処理)の遵守が若干おろそかになったと思われます。ところが、ひとたび施設内で傷害事故が発生すると、どのようなマニュアルをもとに患者管理を行っていたのか必ずチェックされることになります。本件では「ポータブルトイレ清掃は朝5:00夕方4:00の1日2回行う」という介護マニュアルが、実態とはかけ離れていたにもかかわらず、変更されることなく維持されたために、施設側が賠償責任を負う結果となりました。したがって、はじめに定めた看護計画や介護計画については、はたして実態に即しているのかどうか、定期的にチェックを入れることがきわめて重要だと思います。もし本件でも、本人や家族とポータブルトイレの汚物処理について話し合いがもたれ、時折自分で処理をすることも容認するといったような合意があれば、このような一方的な判断にはならずにすんだ可能性があります。次に重要なのが、一見転倒の心配などまったく見受けられない患者であっても、不慮の転倒事故はいつ発生してもおかしくないという認識を常に持つことです。ほかの裁判例でもそうですが、病院あるいは老人施設には、通常の施設とは異なる「高度の安全配慮義務」が課せられていると裁判所は考えます。そのため、自宅で高齢者が転倒したら「仕方がない事故」ですが、病院あるいは老人施設では「一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度な注意義務が課せられている」と判断されます。つまり、わずかな段差や滑りやすい床面などがあれば、転倒は「予見可能」であり、スタッフが気づかずに何も手を打たないと「結果回避義務をつくさなかった」ことで、病院・施設側の管理責任を必ず問われることになります。高齢になればなるほど、身体的な問題などから転倒・転落の危険性が高くなりますが、24時間付きっきりの監視を続けることは不可能ですから、あらかじめリスクの高いところへは、患者さんができる限り足を踏み入れないようにしなければなりません。たとえば、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。内科

394.

4年に1回は多すぎる、高齢者の骨密度測定/JAMA

 骨粗鬆症未治療の平均75歳高齢者の男女において、骨密度測定による将来的な骨折リスク(股関節または主要な骨粗鬆症性骨折)の予測能は、4年間隔での2回測定では意味ある改善は得られないことが判明した。米国・Hebrew SeniorLifeのSarah D. Berry氏らが、フラミンガム骨粗鬆症研究の被験者およそ800例について行ったコホート試験の結果、明らかにした。高齢者に対する、骨粗鬆症スクリーニングとして骨密度測定は推奨されているものの、反復測定の有効性については不明だった。JAMA誌2013年9月25日号掲載の報告より。骨密度を2回測定、約10年追跡 研究グループは、フラミンガム骨粗鬆症研究の被験者、男性310例、女性492例を対象にコホート試験を行った。被験者は、1987~1999年にかけて、大腿骨頸部骨密度を2回測定されていた(測定間隔の平均値:3.7年)。 追跡は2009年まで、または2回目骨密度測定から12年後まで行い、主要アウトカムは、股関節または主要な骨粗鬆症性の骨折だった。 被験者の平均年齢は74.8歳、骨密度の年平均変化量は-0.6%(標準偏差:1.8)。追跡期間の中央値は9.6年だった。骨密度2回目の測定値を入れても、予測モデルAUCはほとんど変わらず 追跡期間中に股関節骨折を発症したのは76例、主要な骨粗鬆症性骨折は113例だった。 年間骨密度の減少は骨折リスクの増大に関与しており、標準偏差分減少による股関節骨折のハザード比は、ベースライン時骨密度を補正後、1.43(95%信頼区間[CI]:1.16~1.78)で、主要な骨粗鬆症性骨折については同1.21(同:1.01~1.45)だった。 受信者動作特性曲線(ROC)分析では、ベースライン時の骨密度測定値に2回目の同測定値を追加しても、予測能について意味ある増大はみられなかった。ベースライン時の骨密度による予測モデルの曲線下面積(AUC)は、0.71(同:0.65~0.78)であり、骨密度のベースラインからのパーセント変化による予測モデルの同値も0.68(同:0.62~0.75)だった。 また、ベースライン時骨密度モデルに、2回目の測定値を元にした骨密度変化を追加したモデルでも、AUCは0.72(同:0.66~0.79)と、予測能はあまり変わらなかった。 ネット再分類指数を用いた場合、2回目の骨密度測定により股関節骨折者の分類割合は3.9%(95%CI:-2.2~9.9%)増大した一方で、低リスクと分類される人の割合は-2.2%(同:-4.5~0.1%)の減少だった。 結果を踏まえて著者は、「骨折リスクを改善しようと4年以内に骨密度を再測定し分類することは、この年齢の未治療骨粗鬆症患者には必要ないようだ」と結論している。

395.

シンポジウム「最小侵襲脊椎安定術MISt」第20回記念 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会より

2013年9月6~8日、名古屋市にて第20回記念 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会が行われた。学会中、今大会の会長である名古屋第二赤十字病院 整形外科・脊椎脊髄外科の佐藤公治氏が企画したシンポジウム「最小侵襲脊椎安定術MISt」が開催された(座長:慶応大学 石井賢氏、関西医科大学 齋藤貴徳氏)。シンポジウムでは世界のオピニオンリーダー10名による講演が行われ、 平日にも関わらず450名を超える参加者が日本およびアジアから集まり、 MIStについての熱い議論が交わされた。 ※最小侵襲脊椎安定術(MISt:Minimally Invasive Spine Stabilization)とは、低侵襲に脊椎固定するだけでなく制動や安定化も含めた手技の総称です。Limitation of MIS in Complex Deformity and Revision SurgeryJeffery S. Roh氏(Division of Proliance Surgeon, ProOrtho, Seattle Minimally Invasive Spine Center)The use of Minimally Stabilization(MISt) in Management of Advanced Metastatic Spinal DiseaseMun Keong Kwan氏(Department of Orthopaedic Surgery, Faculty of Medicine, University of Malaya)MIS-PLIFのアプローチによる低侵襲性向上の限界有薗 剛氏(公立学校共済組合九州中央病院 整形外科)腰椎変性側弯症に対する多椎間MIS-TLIF中野 恵介氏(高岡整志会病院 整形外科)転移性脊椎腫瘍に対する低侵襲脊椎安定術(MISt)の応用中西 一夫氏(川崎医科大学 脊椎・災害整形外科)骨粗鬆症椎体骨折に対する骨切りを併用したMIStによる治療経験富田 卓氏(青森市民病院 整形外科)PLIFに併用したCBTScrewの工夫~術後1年の短期成績より~大和田 哲雄氏(関西労災病院 整形外科)内視鏡支援下のXLIF手術稲葉 弘彦氏(岩井整形外科内科病院 整形外科)経皮的頚椎椎弓根スクリューを用いた低侵襲頚椎後方固定の工夫と限界染谷 幸男氏(国保小見川総合病院 整形外科・脊椎脊髄センター)化膿性脊椎炎に対する経皮的挿入椎弓根スクリューを用いた固定術の有用性男澤 朝行氏(帝京大学ちば総合医療センター 整形外科)総合討論※ 所属・施設等は、制作当時のものです。

396.

院内の転倒事故で工作物責任を問われたケース

リハビリテーション科最終判決判例時報 1736号113-118頁概要脳内出血後に生じた右不全片麻痺に対し入院リハビリテーションを行っていた71歳女性。病院内の廊下を歩行していたところ、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者と接触、その場に転倒し、右大腿骨頸部骨折を受傷した。患者側は、防火扉の設置保存に瑕疵があったために負傷したとして、病院に損害賠償を請求してきた。詳細な経過患者情報脳内出血による左不全片麻痺を発症し、急性期治療を他院で受けた71歳女性経過1996年11月5日リハビリテーション目的で某病院に入院となる。ADL(日常生活動作)については、T字杖を用いて200m程度歩行可能。手摺を使えば階段昇降も可能、ベッド上からの起き上がり、車椅子からベッドへの乗り移り、更衣、食事、排泄、入浴も一人で行うことができた。12月6日病院の廊下を歩行中、子供が廊下の壁に沿って設置されていた防火扉の取っ手に触れたため、防火扉が閉じ始めて患者に接触、その場に転倒するという事故が発生した。X線写真で右大腿骨頸部骨折と診断され、人工骨頭置換手術が行われた。術後もリハビリテーションを続けたが、T字杖ではなく、もっぱら4点杖を使用して50m程度しか歩行できなくなり、転倒への恐怖心や病院への不信感などから、リハビリテーションに対しては消極的となった。それ以外のADLでは、入浴の際、膝から下を洗うことが困難となった以外には目立った変化はみられなかった。その他、右臀部痛がひどく、ベッドから起き上がる際には介助が必要となった。もともと患者は一人暮らしを希望していたが、介助が必要になったため娘との同居を余儀なくされた。当事者の主張患者側(原告)の主張1.防火扉の設置保存の瑕疵により発生した傷害事故であるため、病院側は工作物責任を負うべきである2.もともと労災等級で第3級に相当する状態であったところへ、人工骨頭置換術により下肢の三大関節の用廃第8級が追加されたため、両者を併合して第1級の後遺障害である病院側(被告)の主張1.子供が触れた防火扉を避けきれずに転倒したのは、脳内出血による右片麻痺が寄与していたし、転倒して骨折したことには重度の骨粗鬆症が寄与しているため、7割の過失相殺がある2.後遺障害の等級は事故前後ともに第3級相当である裁判所の判断1.病院内は高齢者や身体に疾患を有するものが多数往来しているため、今回のような事故を回避するために、一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている。したがって、本件は病院内工作物の設置保存の瑕疵により生じた事故である2.患者は現在一人で生活をおくることはきわめて困難であり、随時介護を要する状態にあるので、後遺障害は第2級に該当する3.患者の年齢、骨折の際の肉体的苦痛、リハビリテーションの負担などは原告にとって相当程度のものであったことを斟酌すると、後遺障害の等級を減じる要素や過失相殺の要因とはならない原告側2,590万円の請求に対し、2,010万円の支払命令考察このような事件は、患者さんにしてみればとても不幸なことですが、病院側に「全面的な責任あり」という判決が下っても、もなかなか容易には受け入れ難いように思います。そもそも、病院を建設する時には消防法にしたがって適切な場所に防火扉を設置する義務があるわけですし、その防火扉を病院職員が誤って閉じたのならまだしも、面会に来ていた子供がいたずらして閉じてしまったのですから、「そこまで責任を負わなければならないのか」、という感想をもちます。なかには、子供の保護者に責任をとってもらうべきだというようなご意見もあるでしょう。ただし、このような事件が実際にあるということは、われわれ医療従事者にとっては病院内の設備を見直すときのとてもよい教訓となりますので、今後同じような紛争が起きないように配慮を行うことが肝心だと思います。まず第一に、将来的には欧米並の訴訟社会に移行することを念頭において、病院内の設備にはリスクがないかどうか、細心の注意を払って見直す必要があります。少々極端な話にも聞こえますが、「病院内で滑って転んだのは掃除の時に水をこぼしたのが悪い」ですとか、「玄関の自動ドアに手を挟まれたのは病院の責任だ」、「職員が非常口のドアを反対側から突然開けたので転倒した」などなど、例を挙げればきりがないと思います。今回の事件では防火扉が予期せぬところで閉じてしまったために、たまたま居合わせた患者が負傷するという事故が発生しました。そのような場合には、「病院は一般の住宅や通常の施設とは違った、利用者の安全へのより高度の注意義務が課せられている」と判断されますので、あらかじめリスクの高いところへは患者さんがいかないようにしなければなりません。すなわち、防火扉、非常口、非常階段などは、身体的に不自由な患者さんにとってはハイリスクエリアと考え、そこへは立ち入ることがないよう物理的なバリアを設けたり、リハビリテーションを兼ねた歩行練習は安全な場所で行うようにするなど、職員への周知を徹底することが肝心だと思います。また、普段病院に常駐しているスタッフにとっては、いつもと違った角度で施設内のリスクを見直すにはどうしても限界があると思いますので、定期的に外部の人間にチェックしてもらうなどの方策を講じるのがよいと思います。なお今回と同様の事故として、高齢の入院患者が窓際に設置されたベッドから窓の外に転落し死亡したケースに対し、病院側の工作物責任を認めたもの(判例タイムズ 881号183頁)、見舞いに来た幼児が窓際に設置したベッドから窓の外に転落した事故(判例時報 693号72頁)などがあります。次に、不幸にして院内で転倒そのほかの事故が発生してしまい、結果的に患者さんへの不利益が生じた場合には、スタッフ全員ができる限り誠意のこもった対応をするよう心がける必要があります。今回の事件でも、病院側は「やむを得なかった」という弁解をくり返し、自らの責任を認めようとしなかったため、患者側は著しい不信感を抱き、かえって話がこじれてしまいました(もし当初からきちんと話し合いをしたうえで、できる限り力になりましょうという態度をとっていれば、訴外で解決できた可能性も十分にあると思います。もちろん、その場合にも損害保険会社の施設賠責保険が使用可能です)。では具体的にどのようにすればよいのか、という点に明快な回答を用意するのは難しいのですが、少なくとも病院内で発生した外傷事故、あるいは結果的に患者さんにとっての不利益が院内で生じた場合には、病院側にも責任の一端があるという態度で臨むべきではないかと思います。その際の責任範囲をどこまで設定するのかということについては、さまざまな考え方があるかと思いますので、必ず院内の安全管理委員会で検討するとともに、弁護士をはじめとする外部の顧問にアドバイスを求めるのがよいと思います。リハビリテーション科

397.

エキスパートQ&A

プライマリ・ケア医はどの範囲まで、がん患者さんを診るべきなのでしょうか?プライマリ・ケア医の定義がなかなか難しいところですが、地域の開業医の先生方であれ病院勤務の一般内科の先生方であれ、がん患者さんを診るべきだと思います。サブスペシャリティががんとは無関係の領域(循環器、神経、内分泌、腎臓、膠原病、感染症など)であったとしても同じことです。理由は単純です。患者さんは多いのに診る医者が少ないからです。がんは日本人の2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなるという非常にコモンな病気です。がん患者の診療において、専門医数(全国でがん薬物療法専門医<1000人、緩和医療専門医<100人)が少ないなどインフラの問題もありますが、一番大きい問題は患者さん側と医師側が日本のがん医療や一般診療に対してそれぞれが持つ固定観念だと思います。患者さん側は「大きな病院で専門医の先生にずっと診てもらわないと心配だ」、医師側は「がん診療は高度に専門化していて難しい。患者や家族の対応にもストレスを感じることが多い。治らずに亡くなっていく患者を診るのもつらいし、しんどい」といった気持ちがお互いにあるのではないでしょうか。これを少しずつでも変えていかないことには、がん対策基本法の理念である「すべてのがん患者さんに等しく適切な医療を提供する」を実現することは困難だと思います。がん診療はやりがいがあります。患者さんにとって一度は死を意識せざるを得ない疾患ですから、その患者さんや家族との対応の中で自分なりのさまざまな思索を巡らすことになります。また、自分や家族も将来罹患する可能性が高い疾患を目の前の患者さんを通じて経験し、人間の永遠のテーマである「生と死」について深く考えることができるのです。プライマリ・ケア医にできる身体的なケアにはどのようなものがあるでしょうか?がん患者さんの何を診るかについては議論のあるところですが、患者さんのQOL維持・向上のため少なくとも支持療法(緩和医療)についてはカバーすべきと考えています。支持療法の範囲は広く、緊急事態(オンコロジック・エマージェンシー)への対応、疼痛を含む症状コントロール、がん治療による有害事象対策、栄養療法、リハビリ、無再発患者の定期的フォロー(再発の有無、二次がんのチェック、骨粗鬆症、不妊、一般内科的マネジメント)などプライマリ・ケア医であればある程度対応可能な分野と考えています。抗がん薬治療はご自身のサブスペシャリティと、置かれている環境(開業医か病院勤務医か、地方か都市部か)で異なると思いますが、開業医の先生方が抗がん薬治療を扱うのは現状ではなかなか難しいかもしれません。基幹病院への紹介の仕方や、うまく機能しているシステムがあれば教えていただけますか?具体的に機能しているシステムはわかりませんが、病病連携や病診連携において大切なのはやはり「顔の見える関係」です。紙だけのやり取りでは関係が希薄になりがちですので、研究会等で基幹病院の先生と会って良い関係を築くことが重要ですし、いろいろな情報や知識も得られると思います。また紹介患者さんが基幹病院に入院したら、その病院に会いに行くことも重要だと思います。患者さんが喜ぶのはもちろん、基幹病院の医療スタッフも信頼を寄せますので、患者さんを逆紹介していただきやすくなると思います。可能であれば、基幹病院、地域の開業医、訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどで症例を通じた多職種カンファレンスを開くのもよいと思います。日常診療でがんを早期発見するためには、どこに気を付ければよいですか?有症状か無症状かで考え方が異なります。有症状の場合、そのがんはすでに早期がんである確率は低いので、ご質問そのものに対する回答にはなっていませんが、個人的には以下のような症状があった場合には、がんを疑うことにしています。すなわち、体重減少、リンパ節腫脹、原因不明で夜間に増悪する腰痛・背部痛、不明熱、嚥下困難、下血・血便・タール便、黄疸、血痰、血尿などです。また過去のがんの既往があれば、より検査閾値を下げて精密検査を進めることになると思います。無症状のがんを診断するためには、基本的にはがん検診を定期的に受けていただくことだと思います。私はがん以外で診ている患者さんに「がんについては検診を受けてください。残念ながら、あなたががんになっていないかどうかについてまでは診られていないのです」と説明しています。高血圧や糖尿病で診ている患者さんでも、患者さん側からすればがんも含めて診てもらっていると思っている方がいらっしゃいます。しかし、がんでない患者さん全員にがんが無いかどうかを診ていくのは大変だと思います。ただ、がん検診については注意すべき点があります。がん検診は早期発見のみを目的にしているのではなく、早期発見を通じてがんによる死亡を減らすことを目標としていますし、その点についてある程度コンセンサスがあるがん種についてがん検診が行われているのです。したがって、がん検診の内容に満足できない患者さんには、賛否両論あるにせよ、人間ドックを受けていただく以外にないと考えています。また、がんをスクリーニングする方法としての腫瘍マーカー測定は勧められません。スクリーニングには高い感度が求められますが、腫瘍マーカーで感度の高い検査はないからです(PSAは前立腺がんのスクリーニングには適していますが、早期診断することで死亡割合を低下させるかどうかが専門家の間で見解が異なるため現時点でがん検診に用いられてはいません)。症状もないのに患者さんの希望のみで、安易に腫瘍マーカーを測定し少しでも異常があった場合には、患者側も医師側も必要以上にがんを心配することになってしまいます。健診受診を促していますが、嫌がる人が多いです。どうすべきでしょうか?どうして嫌がるのかその理由によると思います。がんが見つかるのが怖いのか、それともがんになっても構わないし、早期発見が重要と考えていないなど、いろいろ理由があると思います。まずは患者さんの考え方を十分に把握することから始めてみてはいかがでしょう。CKDにおける抗がん治療の注意点を教えてください。腎障害の程度や、抗がん薬が腎排泄か肝代謝・肝排泄かなどによって、投与量は変わってきますので一般化できません。また、透析患者さんの場合はまた別の因子(透析性、分布容積、蛋白結合率、投与するタイミングなど)を考慮する必要が出てきます。詳しくは各抗がん薬の添付文書をご覧ください。高齢患者さんの治療に関する注意点を教えてください。一般的に抗がん治療の治療目標は二つあります。すなわち、生存期間の延長とQOLの改善・維持です。高齢患者さんの場合、抗がん治療により得られるメリットは非高齢患者さんのそれに比して小さくなります。つまり、生存期間の延長も小さくなるでしょうし、QOLも低下する可能性が十分あります。大切なことは、何を治療目標にして個々の患者さんを治療しているのかについて主治医と患者さん・家族が十分話し合い、認識を共有しておくことだと思います。個々の抗がん治療(手術、抗がん薬、放射線)の注意点については紙面の関係でここでは割愛します。食欲不振に対する対処法を教えてください。食欲不振の原因によります。原疾患によるものか、抗がん薬治療によるものか、あるいはうつ病などの内因性精神疾患によるものか、など多岐にわたります。認知症患者におけるがん治療について教えてください。がん治療に関して、その患者さんに自己意思決定能力があるかどうかが最大の問題になります。認知症のために本人に意思決定ができない場合は、家族や友人などに代理意思決定をしていただく必要があります。その際に大切なのは、代理者の意向ではなく、患者さん本人の意思を代弁する(または推定する)ことです。あくまでも患者さんが主体です。また、認知症患者の抗がん治療自体も難しいものになります。認知症の患者さんは脳の脆弱性のため、せん妄を起こしやすく、脳以外の身体の脆弱性も伴っていることが多いことから、その他の合併症(肺炎など)も起こしやすいのです。前立腺がんにおける高濃度ビタミンCの有用性について教えてくださいマルチビタミン(ビタミンCを含む)とミネラル補充療法の前立腺がん発症や進行予防との関連についてはメタ解析により現時点では否定されています(Stratton J,et al. Family Practice. 2011; 28:243–252)。上部消化管検診においてペプシノゲンがBaや内視鏡に代行できるという考え方はもう一般的になっているのでしょうか?日本のガイドラインでは現時点においても胃透視を推奨しており、ペプシノゲンはピロリ抗体や胃内視鏡と共に胃透視に比べてエビデンスレベルは下位に位置づけられています(Hamashima C, et al. Jpn J Clin Oncol 2008;38(4)259–267)。したがって、一般的にペプシノゲン測定はほかの検査の代用にはならないと考えられます。ただ、ABC検診と言って、血液検査でH. pylori感染とペプシノゲン値を調べ、胃がんのリスク評価を行う検診があり、リスクに応じて胃内視鏡検査による胃がんのスクリーニングを推奨する動きもあります。

398.

クッシング病〔CD : Cushing's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クッシング症候群は、副腎からの慢性的高コルチゾール血症に伴い、特異的・非特異的な症候を示す病態である。高コルチゾール血症の原因に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が関与するか否かで、ACTH依存性と非依存性とに大別される。ACTH非依存性クッシング症候群では、ACTHとは無関係に副腎(腺腫、がん、過形成など)からコルチゾールが過剰産生される。ACTH依存性クッシング症候群のうち、異所(非下垂体)性ACTH産生腫瘍(肺小細胞がんやカルチノイドなど)からACTHが過剰分泌されるものを異所性ACTH症候群、ACTH産生下垂体腺腫からACTHが過剰分泌されるものをクッシング病(Cushing's disease:CD)と呼ぶ。■ 疫学わが国のクッシング症候群患者数は1,100~1,400人程度と推定されているが、その中で、CD患者は約40%程度を占めると考えられている。発症年齢は40~50代で、男女比は1:4程度である。■ 病因ACTH産生下垂体腺腫によるが、大部分(90%以上)は腫瘍径1 cm未満の微小腺腫である。ごくまれに、下垂体がんによる場合もある。■ 症状高コルチゾール血症に伴う特異的な症候としては、満月様顔貌、中心性肥満・水牛様脂肪沈着、皮膚線条、皮膚のひ薄化・皮下溢血や近位筋萎縮による筋力低下などがある。非特異的な徴候としては、高血圧、月経異常、ざ瘡(にきび)、多毛、浮腫、耐糖能異常や骨粗鬆症などが挙げられる(表)。一般検査では、好中球増多、リンパ球・好酸球減少、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高カルシウム尿症、高血糖、脂質異常症などを認める。■ 分類概念・定義の項を参照。■ 予後治療の項を参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)高コルチゾール血症に伴う主症候が存在し、早朝安静(30分)空腹時採血時の血中コルチゾール(および尿中遊離コルチゾール)が正常~高値を示す際に、クッシング症候群が疑われる。さらに、同時採血時の血中ACTHが正常~高値(おおむね10 pg/mL以上)の場合は、ACTH依存性クッシング症候群が疑われる(表)。次にACTH依存性を証明するためのスクリーニング検査を行う。(1)一晩少量(0.5 mg)デキサメタゾン抑制試験にて翌朝の血中コルチゾール値が5μg/dL以上を示し、さらに、(2)血中コルチゾール日内変動の欠如(深夜睡眠時の血中コルチゾール値が5μg/dL以上)、(3)DDAVP試験に対するACTH反応性(前値の1.5倍以上)の存在(例外:異所性ACTH症候群でも陽性例あり)、(4)深夜唾液中コルチゾール値(わが国ではあまり普及していない)高値(1)は必須で、さらに(2)~(4)のいずれかを満たす場合は、ACTH依存性クッシング症候群と考えられる。ここで、偽性クッシング症候群(うつ病・アルコール多飲)は除外される。次に、CDと異所性ACTH症候群との鑑別のための以下の確定診断検査を行う。(1)CRH試験に対するACTH反応性(前値の1.5倍以上)の存在(例外:下垂体がんや巨大腺腫の場合は反応性欠如例あり、一方、カルチノイドによる異所性ACTH症候群の場合は反応例あり)(2)一晩大量(8mg)デキサメタゾン抑制試験にて、翌朝の血中コルチゾール値の前値との比較で半分以下の抑制(例外:巨大腺腫や著明な高コルチゾール血症の場合は非抑制例あり、一方、カルチノイドによる異所性ACTH症候群の場合は抑制例あり)(3)MRI検査にて下垂体腫瘍の存在以上の3点が満たされれば、ほぼ確実であると診断される。しかしながら、CDは微小腺腫が多いことからMRIにて腫瘍が描出されない症例が少なからず存在する。その一方で、健常者でも約10%で下垂体偶発腫瘍が認められることから、CDの確実な診断のためにさらに次の検査も行う。(4)選択的静脈洞血サンプリング(海綿静脈洞または下錐体静脈洞)を施行する。血中ACTH値の中枢・末梢比が2以上(CRH刺激後は3以上)の場合は、CDと診断される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的療法CD治療の第一選択は、経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術(trans-sphenoidal surgery:TSS)であるが、手術による寛解率は60~90%と報告されている。完全に腫瘍が摘出されれば術後の血中ACTH・コルチゾール値は測定感度以下となり、ヒドロコルチゾンの補充が6ヵ月~2年間必要となる。術後の血中ACTH・コルチゾール値が高値の場合は腫瘍の残存が疑われ、正常範囲内の場合でも再燃する場合が多いために注意が必要である。術後の非寛解例・再発例は、各々10%程度存在すると考えられている。手術不能例や術後の残存腫瘍に対しては、ガンマナイフやサイバーナイフを用いた定位放射線照射を行う。効果発現までには長期間かかるため、薬物療法との併用が必要である。また、従来の通常分割外照射ほどではないが、長期的には下垂体機能低下症のリスクが存在する。■ 薬物療法薬物療法は、下垂体に作用するものと副腎に作用するものに大別される。1)下垂体に作用する薬剤下垂体腺腫に作用してACTH分泌を抑制する薬剤としては、ドパミン受容体作動薬[ブロモクリプチン(商品名:パーロデル)やカベルゴリン(同:カバサール)]、セロトニン受容体拮抗薬[シプロヘプタジン(同:ペリアクチン)]、持続性ソマトスタチンアナログ[オクトレオチド(同:サンドスタチンほか)]やバルプロ酸ナトリウム(同:デパケンほか)などが使用されるが、有効例は20%未満と少ない。2)副腎に作用する薬剤副腎に作用する薬剤としてはメチラポン(同:メトピロン)やミトタン(同:オペプリム)が用いられる。とくに11β‐水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは、高コルチゾール血症を短時間で確実に低下させることから、術前例も含めて頻用される。以前、同薬剤は、診断薬としてのみ認可されていたが、2011年からは治療薬としても認可されている。ミトタンは80%以上の有効性が報告されているが、効果発現までの期間が長く、副腎皮質を不可逆的に破壊することから、使用には注意が必要である。初回のTSSで寛解した場合の予後は良好であるが、腫瘍残存例や再発例は、高コルチゾール血症に伴う感染症、高血圧、糖尿病、心血管イベントなどのため、長期予後は不良である。4 今後の展望CD患者の長期予後改善のためには、下垂体に作用する新規薬剤の開発・実用化が急務と考えられる。近年、5型ソマトスタチン受容体に親和性の高い新規ソマトスタチンアナログSOM230(pasireotide)が開発されたが、わが国では治験中であり、まだ使用開始となっていない。また、最近では、レチノイン酸の有効性も報告されており、今後の臨床応用が期待される。5 主たる診療科内分泌代謝内科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター クッシング病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)

399.

『COPD研究』厳選Pick Up ~海外と日本の見解を比較~

厚生労働省の「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針{健康日本21(第2次)}」では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の認知度を2011(平成23)年の25%から2022(平成34)年度には80%まで向上させることを目標に掲げている。これにより、今後、国を挙げてCOPDの診断と治療を推し進める方針が示されたといえるであろう。COPD関連の大規模試験は欧米主体のものが多いのは事実であるが、国内でもCOPD関連の研究が集積されつつある。そこで今回、国内外におけるCOPD関連の興味深いテーマをいくつかピックアップし、紹介する。COPDには合併症や併存症が潜んでいるこれまで肺の疾患とされてきたCOPDだが、近年は、全身性の炎症性疾患と考えられており、さまざまな合併症や併存症との関係が報告されている(Fabbri L.M, et al. Eur Respir J. 2008; 31: 204-212.)。米国で行われたCOPDと臨床的に関連のある併存症の有病率の横断的大規模調査であるNHANES(米国全国健康・栄養調査) 1999-2008 (Schnell K, et al. BMC Pulm Med .2012; 12: 26.)においても、COPD患者は、COPDではない患者と比較し、循環器疾患や骨粗鬆症、がんなどを併存する割合が有意に高いことが示された。以下の論文は、そのなかでも、COPDと同様、労作時の息切れが主訴であるため、COPDが見逃される可能性のある“心不全”について取り上げている。【海外】2003年3月から2004年12月までの間に米国の259施設より登録された心不全患者のうち、左心収縮機能障害の患者は2万118例で、このうち25%にあたる5,057例がCOPDを併存していた。Mentz RJ, et al. Eur J Heart Fail. 2012; 14: 395-403.【日本】労作時の息切れの鑑別あるいは手術前検診にて、心エコー検査と呼吸機能検査を同時期に施行された患者1,699例において後ろ向きに検討を行ったところ、左室拡張機能障害を有する患者では26%で閉塞性換気障害を認めた。Onishi K, et al. Therapeutic Research. 2009; 30: 807-812.簡便にCOPD患者の健康状態を把握するには?COPD患者のマネジメントを行ううえで、健康状態を常に把握することは重要である。これまでも、COPD患者に対する質問表はあったが、手間や時間を必要とするものも多かった。このような背景の中、開発されたのがCOPD Assessment TestTM(CAT)である。CATは全8項目の短く簡便な質問票であり、より的確な治療や管理を受けられることを目的に開発された。すでに日本語版(http://adoair.jp/disease_info/cat/index.html)もリリースされている。従来の質問票と比べて、CATに妥当性はあるのか。その検証結果を紹介する。【海外】米国の安定期のCOPD患者において、CATとCOPDに特異的な健康関連QOLの評価指標の一つとして広く用いられてきたSGRQ-C(St George's Respiratory Questionnaire for COPD patients)との間に良好な相関関係が認められた(r=0.80, p<0.0001)。Jones PW, et al. Eur Respir J. 2009; 34: 648-654.【日本】相澤氏はJones氏にCATとSGRQ-Cの提供を依頼し、日本人の安定期のCOPD患者についてもCATとSGRQ-Cの関係を検討したところ、同様に相関性が認められた(r=0.82, p<0.001)。相澤久道ほか. 呼吸. 2010; 29: 835-838.気腫型のCOPDは非気腫型より1秒量(FEV1)の経年的低下が大きいCOPDにおいて、FEV1の経年的低下量はアウトカムを判定するうえで重要な指標となる。しかしながら、気腫型のCOPDか非気腫型のCOPDかで、FEV1の経年的低下量に違いがあるかについては、あまり検討されていなかった。【海外】COPD患者について3年間にわたり気管支拡張薬でマネジメントを行い、FEV1の変化を調べた。その結果、胸部CT検査により気腫型(低吸収領域が10%未満)とされた群では、非気腫型の群と比較して、FEV1が平均で327±21mL低く、経年的低下量も13±4mL低かった。Vestbo J, et al. N Engl J Med. 2011; 365: 1184-1192.【日本】北海道大学病院を中心とした多施設共同のCOPD前向きコホート研究では、COPDのFEV1の経年的変化は必ずしもすべての症例で一様に進行・悪化していなかった。さらに、肺気腫の重症度による病型(気腫型/非気腫型)は呼吸機能検査でみた重症度とは独立して、FEV1の経年的変化に影響を与えていた。Nishimura M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2012; 185: 44-52.西村 正治ほか. 日内会誌. 2013; 102:463-470.3次元胸部CTでCOPDの診断や治療効果を判断できる可能性COPDを診断する場合や治療の経過をみる場合、呼吸機能の数値や臨床症状から判断することが多かった。しかし、3次元胸部CT で気管支壁厚を計測することも、COPDの診断や経過観察を行ううえで有用であることが報告されている。これまで気管支径の測定は各CTスライスに対して手動による抽出が行われてきた。3次元胸部CTは早期から、わが国で積極的に研究が行われてきた分野であり、早期の臨床応用が期待されている。【海外】気道のリモデリングは喘息やCOPDでは一般的な特徴である。しかし、両者を鑑別することが難しいケースが存在する。このような場合に、気道壁の変化やエアートラッピングの量を3次元胸部CTで測定することにより、潜在的な喘息やCOPDの複雑な病理を明らかにし、治療効果を評価するうえでの手助けとなるかもしれない。Dournes G, et al. Pulm Med. 2012;2012:670414.【日本】COPD患者の気流制限は吸入抗コリン薬により改善されることが知られているが、どの部分の気管支拡張が呼吸機能を改善させているのかについてはあまり知られていなかった。そこで吸入抗コリン薬を投与した後、気道内腔のどの部分で変化が起こり、呼吸機能が改善されるのかを3次元胸部CTにより検討した。その結果、抗コリン薬による気管支拡張はFEV1の改善と比例しており、近位の気道より、遠位の気道の拡張のほうが呼吸機能の改善への寄与が大きいことがわかった。Hasegawa M, et al. Thorax. 2009; 64: 332-338.(ケアネット 鎌滝真次)

検索結果 合計:486件 表示位置:381 - 400