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【日本発】FRAXの骨折予測精度を高める方法

 骨折リスク評価ツールFRAXは骨折リスクの評価に利用されているが、その精度は十分とはいえず、改善が望まれている。 そこで近畿大学の伊木 雅之氏らは、12の地域に住む65歳以上の高齢日本人男性2,000人を対象に、FRAXを補完する手段として海綿骨スコア(TBS)が有用であるかどうかの調査を行った。 その結果、TBSはFRAXと組み合わせることで予測精度を向上させる可能性が示唆された。Osteoporos Int誌 オンライン版2015年3月10日掲載の報告。FRAXにTBSを組み合わせることにより予測精度に有意な改善 FRAXを補完する手段としてTBSが有用であるかどうかの調査の、主な結果は以下のとおり。・追跡可能な1,872人のうち22例に骨粗鬆症性骨折が認められた。・骨粗鬆症性骨折がある群は、骨折がない群と比較して、有意にTBSが低く(p=0.0015)FRAXスコアが高かった(p=0.0089)。・統合判別改善度(IDI)、総再分類改善度(NRI)において、FRAXにTBSを組み合わせることにより予測精度に有意な改善がみられた。(IDI:0.006[p=0.0362]、NRI:0.452[p=0.0351])

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骨粗鬆症」予防にはリスク認識が有効

 骨粗鬆症は日本において公衆衛生上の大きな問題となっている疾患である。しかし、そのリスクは過小評価され、患者はきちんとした治療を受けていない場合も多い。 骨粗鬆症を予防するためには、骨粗鬆症に対するリスクをしっかりと認識する必要がある。日本イーライリリーの佐藤氏らは、骨折の既往歴と、“自分が骨粗鬆症になる危険性がある”という認識(リスク認識)との関係を明らかにするため、日本の50歳以上の女性を対象に大規模年次調査を行った。その結果、想定されていたよりもリスク認識が低いことがわかった。Archives of osteoporosis誌2014年12月号(オンライン版2014年11月13日号)の掲載報告。 本研究は、日本のNational Health and Wellness Survey(NHWS)のデータを基に解析した。対象は骨粗鬆症と診断されていない50歳以上の女性で、50歳までの骨折歴と骨粗鬆症のリスク認識の有無で4つの群に分類された。社会人口学的特性と健康状態特性の群間比較には二変量解析が用いられ、健康アウトカムは一般化線形モデルで比較された。 主な結果は、以下のとおり。・調査には1万6,801人の女性(50~93歳)が参加し、平均年齢60歳であった。・参加者の大半(76.2%、n=1万2,798)は、骨折歴がなく、骨粗鬆症のリスクを感じていなかった。・12.9%(n=2,170)は骨折歴がないが、骨粗鬆症のリスクがあると感じていた。・8.7%(n=1,455)は骨折歴があったが、骨粗鬆症のリスクを感じていなかった。・2.2%(n=378)は骨折歴があり、骨粗鬆症のリスクがあると自覚していた。・リスク認識は、骨折歴がある人でわずかに高かった(骨折歴あり:20.6%、なし:14.5%、p<0.001)。・骨粗鬆症の家族歴がある人ほど、リスク認識が高かった。 今回の調査から、50歳以上の日本人女性の約15%が将来、自身が骨粗鬆症になるリスクを認識していることがわかったが、この数字は疫学研究者の想定よりもはるかに低い数字であった。さらに、このリスク認識と疫学的リスクである骨折との関連性は弱いものでしかなく、患者教育の必要性が示唆された。

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【日本発】ピロリ菌保菌者は骨粗鬆症に注意

 ピロリ菌感染や萎縮性胃炎が骨に与える影響について、海外ではいくつかの報告があるものの日本ではほとんど報告がない。 そこで、神戸薬科大学の水野 成人氏らは、50~60代の男性230人を対象とし、ピロリ菌感染や萎縮性胃炎が骨の状態を測るバイオマーカーとして有用かどうかを調べた。 その結果、ピロリ菌感染や萎縮性胃炎の血清学的診断は、骨粗鬆症のリスクアセスメントに有用であることがわかった。Digestive diseases and sciences誌オンライン版2015年2月8日の報告。 主な結果は以下の通り・ピロリ菌は有意に海綿骨密度低下のリスクを増加させた。(オッズ比:1.83、95%CI:1.04~3.21、p=0.03)・萎縮性胃炎は有意に海綿骨密度低下のリスクを増加させた。(同:2.22、1.17~4.22、0.01)・ピロリ菌抗体陽性かつ萎縮性胃炎ありの被験者では、そうでない被験者と比較して、有意に海綿骨密度低下のリスクが高かった。(同:2.65、1.27~5.55、0.01)

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経口避妊薬を使うとリウマチを予防できる?

 経口避妊薬と関節リウマチ(RA)との関連について、多数の疫学調査で相反する結果が示されている。中国・China-Japan Union HospitalのShuang Qi氏らは、この関連性を検討するためメタ解析を行ったが、「経口避妊薬が女性のRA発症を予防する効果がある」という仮説を証明することはできなかった。Therapeutics and Clinical Risk Management誌2014年11月4日号の掲載報告。 本研究では、PubMedとEMBASEを検索し、経口避妊薬のRA発症リスクとの関連を検討した試験を収集し、それを基にメタ解析を行った。ランダム効果モデルを用いて、相対リスク(RR)および95%信頼区間(95%CI)を算出した。主な結果は以下のとおり。・メタ解析に組み込まれたのは、1982年から2010年に行われた17試験(12件のケースコントロール試験、5件のコホート試験)であった。・経口避妊薬とRA発症リスクとの間に有意な関連は認められなかった(RR 0.88、95%CI:0.75~1.03)。・地域別にみたサブグループ解析によると、欧州の調査では、経口避妊薬の使用とRAの発生リスク低下との関連は有意傾向であった(RR 0.79、95%信頼区間:0.62~1.01)。・北米の調査では、この関連は認められなかった(RR 0.99、95%CI:0.81~1.21)。・本試験の出版バイアスはみられなかった(Egger’s testにおけるp=0.231)。

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ESORT研究:疾病負担度に応じた研究投資が必要な時代(解説:折笠 秀樹 氏)-310

 本研究では疾病負担度(Disease burden)と研究投資の関係について、疾病別および国別に調査しています。疾病負担度という聞き慣れない概念が出てきますが、ある疾病で負担になっている程度を示します。それを障害調整生存年数(DALY)で測定しています。 それは生存年数、つまり寿命のことなのですが、障害を持って生存していることを考慮している指標です。たとえば、寿命は80年でも、最後の10年間は障害があったとします。仮に障害を半分で調整すれば5年となり、障害調整生存年数は75年になります。 研究投資については、ランダム化比較試験の件数で測定しています。世界各国で問題になっている疾病の負担度に応じて、それ相応の研究費が投じられているかを調査したものです。結論としては、先進国では疾病負担度に応じて適切な研究費が投じられていることがわかったものの、発展途上国ではそうではなかったのです。 糖尿病の疾病負担度は46.9 [×106 DALY]と高く、研究投資も61試験と高い結果でした。研究投資は妥当だと判断されます。骨粗鬆症、脳卒中なども両指標は強く相関しており、研究投資は適切になされていると思われます。一方、COPDの疾病負担度は76.7(単位省略)と糖尿病より高いものの、研究投資は12試験と低い結果でした。COPDは大変重要な疾病なのに、そのための臨床試験はあまり行われていなかったのです。逆に、女性不妊症の疾病負担度(約0.15)は当然低いわけですが、研究投資として18件もの臨床試験が実施されていました。一方、発展途上国で問題となる乳幼児敗血症という疾病については、疾病負担度は44.2と高いものの、研究投資としての臨床試験はたった1件のみでした。 このように、先進国では疾病負担度に応じた研究投資がなされていましたが、発展途上国では疾病負担度と研究投資にはほとんど関連が見られませんでした。発展途上国で臨床試験を実施することなど無理なわけですから、先進国が発展途上国で問題となっている疾病に対する臨床試験をもっと手がけるべきでしょう。これは、いわゆる医療の格差問題でもあります。先進国は発展途上国に対して技術・財政支援を行っていることは周知のとおりですが、発展途上国の疾病対策となる臨床試験を実施するという支援は少な過ぎます。もっと臨床試験を通しての支援が期待されるところでしょう。 研究資金の配分を考える際に、わが国では死亡率や罹患数をベースにしていたと思います。そうではなく、これからは疾病負担度という指標で見直すことが必要なのではないでしょうか。とりわけ介護が重視される中、障害調整生存年数はその意義を増すことでしょう。

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骨粗鬆症骨折の治療だけで終わらせないロコモ対策

 1月20日、日本イーライリリー株式会社は、「“いつのまにか骨折”のサインを見逃すな ロコモから紐解く骨粗鬆症の予防と治療」と題して、プレスセミナーを開催した。■患者の2人に1人は骨折に気付かず はじめに同社の榎本 宏之氏(臨床開発医師/メディカルアドバイザー)が、「骨粗鬆症に関する意識・実態調査」の概要を報告した。 本調査は、2014年に医療施設を受診し、骨粗鬆症と診断された60歳以上の女性515人へのインターネットアンケート調査をまとめたもので、その結果から患者の骨粗鬆症への認識不足などが明らかとなった。 「骨折で寝たきりになることへの不安感」では75.9%が不安を感じており、「骨粗鬆症への気付き」については、自分で意識して医療機関を受診した人はわずか14.2%しかいなかった。「骨粗鬆症による骨折経験」では、23.8%と約4人に1人が経験し、また70歳以上では28.6%と、その経験値は年齢とともに上昇する傾向が報告された。さらに骨折経験のある122人への調査では「骨折への気付き」については、56.6%と約2人に1人が骨折と気付いていなかったことが報告された。 骨粗鬆症のサインである「腰の痛み」を感じて整形外科などの専門医を受診したかどうかの問いには、313人のうち49.1%が受診をしていないと回答し、骨粗鬆症への意識の低さをうかがわせた。 最後に榎本氏は、「潜在患者の多い骨粗鬆症について、疾患の認識を持ってもらうことで、適切な治療を享受できる確率を高め、健康寿命延伸に貢献するためのさまざまな疾病啓発活動を行っていきたい」と述べた。■骨折の治療がゴールではない!その先の予防へ 続いて大江 隆史氏(名戸ヶ谷病院 院長)が、「骨脆弱性骨折の意味に気づく –ロコモティブシンドローム予防の観点から- 」をテーマに、骨粗鬆症による骨脆弱性骨折とロコモティブシンドローム(以下「ロコモ」と略す)への取り組みについて、レクチャーを行った。 はじめに骨脆弱性骨折について説明。X線所見で、骨粗鬆症による脊椎椎体骨折などの3つのパターンを例示した。最近ではこうした骨脆弱性骨折の患者が、女性の高齢者を中心に増加している。とくに大腿骨近位部骨折は80歳代後半の患者に多くみられ、骨折した場合、手術も大がかりなものとなり血流障害もみられるために、骨折の治療も治療後のリハビリテーションも難しいなど、臨床上の問題点を語った。また、通常骨粗鬆症の診断では骨密度の測定が必要なところ、現在では脆弱性骨折が確認されれば、それで骨粗鬆症と診断していることが説明された。 次にロコモティブシンドローム、すなわち「加齢による運動器障害(骨粗鬆症、変形性関節症、神経障害など)のため、移動機能の低下を来した状態」で「進行すると要介護状態を招く」とされる疾患への予防とその取り組みについて解説した。 現在、「要支援・要介護の原因」の第1位は「運動器の障害」となっている。整形外科で入院手術を受けた患者の年齢別割合では70歳代が最も多く、圧倒的に骨折によるものが多いことが報告された。そして、現在研究中の“ROAD study”よりロコモの原因となるコモン・ディジーズの有病率では、骨粗鬆症の有病率が60歳以上の女性で多くみられ(たとえば大腿骨頸部骨折で20%以上)、ロコモの予防では骨粗鬆症をいかに治療するかが重要となると指摘した。 ロコモの視点からみた骨脆弱性骨折の治療で大事なことは、「(1)従来の骨折治療、(2)骨折原因となった骨粗鬆症への治療、(3)骨折で移動能力が低下している患者の機能をさらに低下させない治療であるが、今後はとくに(2)と(3)が重要になる。目の前の骨折の治療で終わらせるだけでなく、その原因である骨粗鬆症の治療も進め、骨粗鬆症で1度骨折した患者がさらに2度目、3度目の骨折をしないようにすることが、ロコモの予防につながる」とレクチャーを終えた。日本イーライリリー 骨そしょう症のコーナー

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骨巨細胞腫〔Giant cell tumor of bone〕

1 疾患概要■ 概念・定義骨巨細胞腫は、病理組織学的に破骨細胞様多核巨細胞がみられる良性骨腫瘍であり、1818年にCooper氏により初めて報告された1)。2013年に改訂されたWHO分類(第4版)では2)、「OSTEOCLASTIC GIANT CELL RICH TUMOURS」の項にIntermediate (locally aggressive、rarely metastasizing) として分類されている。そして「A benign but locally aggressive primary bone neoplasm」と記載されているように、組織学的に良性であっても、局所再発や、まれに肺転移も来す腫瘍である。また、骨巨細胞腫に併存して、あるいは以前骨巨細胞腫が存在した部位に高悪性度肉腫が発生することがあり、これは2013年のWHO分類でmalignancy in GCTと総称されている。■ 疫学発生頻度は原発性骨腫瘍の約8.5%、原発性良性骨腫瘍の約12.3%であり3)、好発年齢は20~30代である。好発部位は、脛骨近位や大腿骨遠位、上腕骨近位、橈骨遠位などの長管骨骨端部であるが、比較的早期に発見された腫瘍は骨幹端に存在するものが多く、骨幹端に発生して速やかに骨端に広がる腫瘍と考えられる。しばしば、脊椎、骨盤などの体幹にも発生する。■ 病因骨巨細胞腫は、主に単核の単球細胞、多核巨細胞、紡錘形細胞で構成されており(図1)、腫瘍の本体は、間質に存在する紡錘形細胞と考えられている。そして、これらの細胞の起源については、単球細胞と多核巨細胞がマクロファージ由来、間質の紡錘形細胞が間葉系幹細胞由来と考えられている4)。本腫瘍に関するこれまでの分子生物学的研究から、間質の紡錘形細胞がRANKLを、多核巨細胞はその受容体であるRANKを高率に発現しており5)、このRANKL-RANKシグナルが骨巨細胞腫の病態形成に深く関わっていることが明らかとなっている。画像を拡大する■ 症状特異的な症状はなく、発生部位の腫脹、熱感、疼痛が主で、関節周囲に発生することから、荷重による疼痛や関節可動域制限を認めることが多い。また、腫瘍の増大が速く、これらの症状が発現してから進行するまでの期間が短く、病的骨折を生じて発見されることもある。■ 分類一般的にX線所見による病期分類6)を用いることが多く、再発などの予後と相関する。Grade1境界明瞭で薄い辺縁硬化を伴い骨皮質が正常Grade2境界明瞭だが辺縁硬化がなく骨皮質の菲薄化を認めるGrade3境界不明瞭で浸潤性および活動性を示し骨皮質の破壊と軟部組織への進展を認める■ 予後エアドリルを併用した病巣掻爬や電気メス、アルゴンビームなどの補助療法を追加する手術を行った場合、再発率は10~25%と報告されており、腫瘍を一塊として切除した場合の再発はこれより少ない。局所再発の多くは、術後2年以内であるが、長期経過後の再発も報告されている。また、約1~2%の例で肺転移を認めることがあり、非常にまれではあるが、肺転移巣の大きさや数、部位によっては死亡する例も存在する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査1)画像検査(1)単純X線腫瘍は長管骨の骨幹端から骨端にかけての骨溶解像として描出される(図2)。腫瘍は偏心性に存在することが多く辺縁硬化像を伴うことは少ない。腫瘍が進行した場合、皮質骨は菲薄化と膨隆を伴いシェル状となる。また、時に皮質骨が消失することもある。その他、特徴的な所見としては腫瘍内部の隔壁構造がsoap-bubble appearanceを呈する場合がある。画像を拡大する(2)CT菲薄化した皮質骨の評価に有用である。(3)MRI骨髄内や骨外への腫瘍進展を捉えるために有用である。一般的に、腫瘍はT1強調像で等~低信号、T2強調像で高信号を示し、ガドリニウム(Gd)によりよく造影される。しかし、進行した場合、病巣内に出血に伴うヘモジデリン沈着、嚢胞形成、壊死などの多彩な変化を生じる。出血に伴い2次性の動脈瘤様骨嚢腫に発展した場合は、液面形成像(fluid-fluid level)を呈することもある。2)病理検査破骨細胞類似の多核巨細胞と単核の間質細胞からなる組織像を示す。腫瘍の辺縁に反応性骨形成がみられることがあるが、腫瘍による骨形成は通常みられない(図1)。■ 鑑別診断画像上の鑑別診断としては、良性では単純性骨嚢腫、動脈瘤様骨嚢腫、軟骨芽細胞腫など、悪性では通常型骨肉腫、血管拡張型骨肉腫、未分化高悪性度多形肉腫、がんの骨転移などが挙げられる。骨巨細胞腫は、好発年齢・部位と特徴的な画像所見により、診断は可能だが、最終診断には生検による病理検査が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的治療他の良性骨腫瘍と同様に掻爬を行い、骨欠損部は骨移植や骨セメントで充填することが一般的である。ただし、鋭匙などによる単純な掻爬では再発率が高く、エアドリルの使用、掻爬後のフェノール処置、電気メスやアルゴンビームなどで焼灼など補助療法を追加した外科的治療を行うことが必要である7)。また、関節に浸潤し、軟骨下骨の温存が困難な例や、腫瘍により骨構築が破綻した場合は、切除を行い、骨欠損部を腫瘍用人工関節や人工骨頭で再建することもある。橈骨遠位端発生例では、腫瘍の活動性が高く、切除を行い関節固定で再建することが多い。■ 薬物療法骨転移による病的骨折などの骨関連事象を制御する目的で用いられているゾレドロン酸を切除困難な骨巨細胞腫に使用し、その有用性を述べた報告もある8)。筆者も使用経験があり、骨巨細胞腫に対する治療選択肢の1つと考えている。しかし、明らかな骨形成など明確な変化が得られることは少なく、また、保険適用外であることが問題である。骨巨細胞腫の治療上、革新的な変化が起きたのは、本疾患に対して抗RANKL抗体であるデノスマブの臨床試験が行われ、その結果を受けて2013年6月に米国食品医薬品局(FDA)が、骨巨細胞腫に対する適応を承認したことである。デノスマブは、すでに「多発性骨髄腫による骨病変および固形がん骨転移による骨病変」に対して2012年4月に保険収載され、現在多くの骨転移患者に用いられている。2013年3月には「骨粗鬆症」に対しても保険適用されている。骨巨細胞腫に関しては、FDAの承認後、わが国でも「切除不能または重度の後遺障害が残る手術が予定されている骨巨細胞腫患者」を対象として国内第II相臨床試験が行われ、2014年5月に骨巨細胞腫に対する追加承認を取得、骨巨細胞腫に対して用いることが可能となった。デノスマブは、RANKLを標的とするヒト型モノクローナル抗体製剤である。RANKL は、破骨細胞および破骨細胞前駆細胞表面のRANKに結合し、破骨細胞の形成、機能、生存に関わる分子であり、骨巨細胞腫の病態形成にも深く関与している5)。デノスマブによりRANKLが阻害されることにより、破骨細胞様多核巨細胞が消失し、腫瘍による骨破壊が抑制される。また、腫瘍内に骨形成が起こり、疼痛などの自覚症状も改善する。■ その他脊椎や骨盤など、解剖学的に切除が困難な部位に発生した場合には、腫瘍の進行を制御する目的で動脈塞栓術が試みられている。同じく切除不能例に対する放射線治療も行われてきたが、照射後の悪性化が問題となり、現在ではあまり行われていない。4 今後の展望骨巨細胞腫患者に対するデノスマブの有用性と安全性を明らかにする目的で、米国Amgen社により、骨巨細胞腫患者を対象とした臨床試験(20040215試験および20062004試験)が海外で実施された。いずれの試験においても、安全性と高い抗腫瘍効果が認められ9-11)、これら2試験の成績を基に、骨巨細胞腫に対する承認申請が米国Amgen社により行われ、米国では2013年6月に承認された。わが国においても、「切除不能または重度の後遺障害が残る手術が予定されている骨巨細胞腫患者」を対象に臨床試験が行われ、2013年6月にデノスマブが希少疾病用医薬品に指定され、「骨巨細胞腫」を効能・効果として、2014年5月に承認が得られている。筆者は、現時点での本疾患に対するデノスマブの適用を、「骨格の成熟した12歳以上の骨巨細胞腫患者で切除不可能な場合、もしくは切除に伴い重篤な機能障害を生じる場合」と限定して考えている。デノスマブの出現は、切除困難な骨巨細胞腫患者に大きな変化をもたらしたことは明らかである。しかし、エビデンスのある治療戦略はまだ明らかにされていない。術前投与と縮小手術の詳細や中長期の治療成績に関してもまだ不明である。今後、前向き多施設臨床試験などで、これらの問題を明らかにする必要があると考える。5 主たる診療科整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍相談コーナー(一般利用者向けのまとまった情報)特定非営利活動法人 骨軟部肉腫治療研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Cooper A, et al. Surgical essays. 3rd ed. Cox & Son; 1818.2)World Health Organization Classification of Tumours of Soft Tissue and Bone. IARC Press; 2013.3)日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍委員会 編. 全国骨腫瘍登録一覧表(平成23年度). 国立がん研究センター; 2011.4)Wulling M, et al, Hum Pathol. 2003; 34: 983-993.5)Morgan T, et al. Am J Pathol. 2005; 167: 117-128.6)Campanacci M, et al. J Bone Joint Surg Am. 1987; 69: 106-114.7)岩本幸英 編. 骨・軟部腫瘍外科の要点と盲点(整形外科Knack & Pitfalls). 文光堂; 2005. p.210-213.8)Balke M, et al. BMC Cancer. 2010; 10: 462.9)Thomas D, et al. Lancet Oncol. 2010; 11: 275-280.10)Branstetter DG, et al. Clin Cancer Res. 2012; 18: 4415-4424.11)Chawla S, et al. Lancet Oncol. 2013; 14: 901-908.

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再発リスク高い閉経前乳がん、卵巣抑制で転帰改善/NEJM

 ホルモン受容体陽性の閉経前乳がん女性の治療では、タモキシフェン(TAM)による術後ホルモン療法が推奨されている。また、これらの患者では卵巣でのエストロゲン産生の抑制が再発を低減することが知られている。そこで、オーストラリア・メルボルン大学のPrudence A FrancisらInternational Breast Cancer Study Group(IBCSG)は、術後TAM療法への卵巣抑制療法の追加の有用性を検討し、再発リスクが高い患者で転帰の改善が得られる可能性があることを確認した。NEJM誌2014年12月11日号掲載の報告。卵巣抑制追加5年治療の効果を無作為化試験で評価 本研究はSOFT試験と呼ばれ、閉経前早期乳がんの術後補助療法において、TAM単独、TAM+卵巣抑制、アロマターゼ阻害薬エキセメスタン+卵巣抑制の3群を比較する無作為化第III相試験である(Pfizer社、Ipsen社、IBCSG、米国立がん研究所の助成による)。今回、フォローアップ期間中央値67ヵ月におけるTAM単独とTAM+卵巣抑制の2群の解析結果が報告された。 被験者は、前化学療法歴の有無で層別化された後、3群に無作為に割り付けられ、5年の治療が行われた。卵巣抑制療法は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)作動薬トリプトレリン(28日ごとに筋注)、両側卵巣摘除術、両側卵巣放射線照射のいずれかを施行した。主要評価項目は無病生存率(DFS)であった。 2003年12月~2011年1月までに、TAM単独群に1,021例、TAM+卵巣抑制群には1,024例が割り付けられた。全体の年齢中央値は43歳、前化学療法歴ありが53.3%、リンパ節転移陽性が34.9%、腫瘍径>2cmが31.9%、前ホルモン療法歴ありは25.7%だった。多変量解析では有意に良好 5年DFSはTAM+卵巣抑制群が86.6%、TAM単独群は84.7%であり、両群間に有意な差は認めなかった(再発、2次浸潤がん、死亡のハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.66~1.04、p=0.10)。一方、多変量解析では、TAM+卵巣抑制群のDFSがTAM単独群よりも有意に良好であった(HR:0.78、95%CI:0.62~0.98、p=0.03)。 再発例のほとんどが化学療法施行後も閉経前状態の患者であったが、これらの患者の5年無乳がん生存率はTAM+卵巣抑制群が82.5%、TAM単独群は78.0%と有意な差はないものの、臨床的に意味のある再発数の減少が認められた(HR:0.78、95%CI:0.60~1.02)。 TAM投与を早期に中止した患者は、TAM+卵巣抑制群が16.7%、TAM単独群は21.7%であり、TAM+卵巣抑制群のトリプトレリン完遂率は80.7%であった。 Grade 3以上の有害事象の発現率は、TAM+卵巣抑制群が31.3%、TAM単独群は23.7%であった。TAM単独群に比べTAM+卵巣抑制群で頻度の高い有害事象として、ホットフラッシュ、発汗、性欲減退、膣乾燥、不眠、うつ状態、筋骨格系症状、高血圧、耐糖能異常(糖尿病)が認められた。また、骨粗鬆症がTAM+卵巣抑制群の5.8%、TAM単独群の3.5%にみられた。 著者は、「患者集団全体では卵巣抑制追加のベネフィットは得られなかったが、再発リスクが高く、術後化学療法が施行されたが閉経に至らなかった患者では、転帰の改善が得られた」と結論している。

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骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折、PVP術後の疼痛要因は?

 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折は、経皮的椎体形成術(PVP)により首尾よく治療の成功に至る。しかし患者の中には、術後も背部痛を訴える患者がいる。中国・寧波市第二病院のYan Y氏らは、前向き研究により、こうした残存疼痛が胸腰椎筋膜損傷と関連している可能性があることを明らかにした。Osteoporosis International誌オンライン版2014年12月16日の掲載報告。 対象は、2010年2月~2012年3月の間に、骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対しPVPを施行した133例(年齢55~92歳)であった。 胸腰椎筋膜損傷の有無で2群に分け、PVP施行前および施行後に疼痛(視覚的アナログスケールによる)および障害(オスウェストリー障害指数[ODI]中国語版による)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・胸腰椎筋膜損傷を有する患者では、PVP前後で疼痛スコアが9.11 ± 0.76から6.4 ± 1.1に、ODIが73.93 ±1.46%から44.6 ± 3.1%に、それぞれ低下した。・胸腰椎筋膜損傷のない患者では、PVP前後の疼痛スコアは9.26 ± 0.82から8.0 ±1.3に、ODIは73.96 ±1.38%から51.7 ±1.8%に、それぞれ低下した。・疼痛および障害は、胸腰椎筋膜損傷のない患者が、損傷を有する患者より減少した(p<0.05)。・検討結果を踏まえて著者は、「骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折患者の中には、PVP術後も背部痛に苦しむ患者がいる。今回の検討では、骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折で胸腰筋膜損傷を伴うことは一般的であること、胸腰筋膜損傷がPVP術後の残余疼痛と関連しているとの仮定を支持する結果が得られた」とまとめている。

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S3-08. Randomized comparison of adjuvant tamoxifen (T) plus ovarian function suppression (OFS) versus tamoxifen in premenopausal women with hormone receptor-positive (HR+) early breast cancer (BC): Analysis of the SOFT trial(Francis PA, Switzerland)

ホルモン受容体陽性早期乳がんをもつ閉経前女性におけるタモキシフェン+卵巣機能抑制対タモキシフェンの無作為化比較:SOFT試験の分析本試験の副次的評価項目であるT+OFS(卵巣機能抑制)対EXE+OFSの中間解析結果についてはASCO2014の際に報告した(ASCO2014レポート:ホルモン受容体陽性早期乳がんをもつ閉経前女性におけるエキセメスタン+卵巣機能抑制対タモキシフェン+卵巣機能抑制の無作為化比較:IBCSG TEXTとSOFT試験の結合解析。今回はTAM+OFS対TAMの比較(図1)であり、われわれが長年知りたかった部分である。TにLHRHaを加えることの有用性は術後補助療法としてはいまだ証明されておらず、16試験、1万1,906例の患者を解析したメタアナリシス(Lancet. 2007; 369: 1711-1723.)をみても、40歳以下の若年性乳がんで他の化学療法を行った場合にのみ、上乗せ効果が認められていた。しかし、レトロスペクティブな解析(Eur J Cancer. 1998; 34: 632-640,Eur J Cancer. 2000; 36: 43-48.)で示されたごとく、化学療法で無月経となったほうがそうでない場合より予後がよいというデータから、TAMにLHRHaを上乗せする医師も本邦では多かったと思われる。【図1】図1を拡大する本解析の内容は発表とほぼ同時に論文化されている(Francis PA, et al. N Engl J Med. 2014 Dec 11)が、学会発表内容とほぼ同じである。主要評価項目はDFS、対側浸潤性乳がん、他のがん、がん以外での死亡である。化学療法の有無と、リンパ節転移の有無で層別化し、intention-to-treat解析を行っている。オリジナルプランは783イベント後の解析でHR=0.75(α≡0.0167)を検出するための3群比較であったが、登録されたのはより高齢、低リスクであり、予想されたよりDFSが良かった。そのため、2011年にプロトコールが改訂され、プライマリー解析はT+OFS vs Tであり、少なくとも中央値5年のフォローアップの後に行った。HR=0.665で80%の検出力(両側α=0.05)で186のDFSイベントが予測された。化学療法はより若く、リンパ節転移あり、腫瘍径2cm以上、グレード2以上で多かった。中央値5.6年のフォローアップでDFSイベントは299、死亡は106(5%)であった。DFSは有意差がなかったが(p=0.10)、Coxの多変量解析ではHR=0.78(95%CI:0.62~0.98)、p=0.03と、死亡に関して有意差がみられた。サブ解析では化学療法のあるなしでみても、DFSはまったく有意差がなかったが、化学療法のある群で生存率曲線にわずかな開きが見られた(図2)。さらに35歳未満(350例)では、5年DFSがT群67.7%(95%CI:57.3~76.0)、T+OFS群78.9%(95%CI:69.8~85.5)であった(図3)。この年齢では94%が化学療法を受けていた。【図2】図2を拡大する【図3】図3を拡大する全体で19%がTAMを早期に中止しており、81%の患者がGnRHアゴニストであるtriptorelinで卵巣機能抑制が認められた。OFSのアドヒアランスは1年で91%、2年で85%、4年で78%であった。有害事象は、全グレードでみた場合、ホットフラッシュ、汗、性欲障害、膣乾燥、うつ、不眠、筋骨格系症状、骨粗鬆症、高血圧、耐糖能異常、高血糖のいずれもT+OFS群で高く、グレード3,4の割合は、全体としてT+OFS群で31%、T群で24%と重篤なものもT+OFS群で高かった。今後さらに経過をみていくと、予後の差はもう少し広がる可能性はあるが、現時点では全体としてOSおよびDFSのベネフィットも明らかではない。ただし、サブ解析の結果は、若年性で化学療法を行っても卵巣機能が抑制されなかったグループにはOFSを加えることの意義がありそうであり、これは上述したメタアナリシスの結果と一致する。現状での個人的なOFSの使い方は、40歳未満の高リスク群に対してOFSを上乗せする、あるいは40代前半でも化学療法の適応がありながら希望しなかった方たちにOFSの上乗せを提案するというスタンスをとっており、今回の結果からは今の実施臨床に変更はない。ただし、OFS+EXEについては今年のASCOの報告で述べたとおりであり、保険適用となれば、高リスク群に対して標準治療の1つとなっていくであろう。少なくとも治療効果もはっきりしないまま、レトロスペクティブデータや治療理論だけに基づいてOFSを行うことは避けなければならない。早期閉経は長期的には心血管疾患、認知障害、認知症精神疾患、骨粗鬆症に伴う骨折などのリスクを上昇させ、全生存率にも関わりうることを念頭に置いておく必要がある(Menopause Int. 2008; 14: 111-116.)。TAM対TAM+OFSに関してもう1つRCTの結果が今年論文化された(J Clin Oncol 32:3948-58, 2014)。E-3193試験(INT-0142)であり、リンパ節転移陰性、ホルモン受容体陽性、腫瘍径3cm以下の乳がんに対して比較したものであり、中央値9.9年のDFSとOSが示されている。症例数が計337例とかなり少ないことは確かであるが、生存率曲線をみてもほぼ重なっており、まったく差がないことは知っておいてほしい。

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働き盛りを襲う難渋する腰痛の正体

 12月3日、アッヴィ合同会社とエーザイ株式会社は、都内で「長引く腰痛を見過ごさない!」をテーマに共催でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、「“怠け病”ともみられがちな男性若年層に潜む難病『強直性脊椎炎』とは?」と題し、疾患に関するレクチャーが行われた。国民病である腰痛を分析する はじめに「国民病の腰痛と知られていない強直性脊椎炎について」と題し、織田 弘美氏(埼玉医科大学医学部整形外科学 教授)より、いわゆる「腰痛」に関する概要と「強直性脊椎炎」に関する説明が行われた。 「腰痛」は、厚生労働省の調査によると、男性では有訴者率の1位、女性では「肩こり」に続く2位となっており、身近な疾患として知られている。ただ、その定義については、確立したものはなく、主に疼痛部位(解剖的な位置)、有症期間(急性、亜急性、慢性)、原因などから総合して診断される。たとえば、原因別分類であれば、脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性、その他に分類され、整形外科をはじめとしてさまざまな専門領域で診療されているとのことである。 そして、鑑別診断では、動作に関係ない痛みであれば整形外科以外の疾患が考えられること、動作に関係のある痛みの場合、安静でも痛みがあれば炎症や腫瘍が、動作時だけ痛めば腰痛症、骨粗鬆症、腰椎分離・すべり症などが考えられると説明した。 次に、腰痛を起こす整形外科疾患として、腰痛症、変形性腰椎症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎分離症・腰椎すべり症、骨粗鬆症などを紹介、その原因と症状を述べた。そのうえで、腰痛を呈するその他の疾患として、脊椎関節炎、乾癬性関節炎、急性ぶどう膜炎、反応性関節炎などを挙げ、これらを網羅する形で強直性脊椎炎が存在すると解説した。 強直性脊椎炎の診断では、(1)発症年齢40歳未満、(2)潜行性に発症、(3)体操で改善、(4)安静では改善しない、(5)夜間疼痛(起き上がると改善する)の5項目のうち、4項目に該当する場合は本症が疑われる。とくに動作を行うと軽快するのは、他の腰痛と異なるポイントとのことである。 織田氏は「腰痛患者の中に慢性で長引く患者がいた場合、本症も疑ってもらいたい」とレクチャーを終えた。痛みを我慢して仕事を続ける患者像 続いて「長引く腰痛に関連する強直性脊椎炎について」と題し、門野 夕峰氏(東京大学医学部整形外科・脊椎外科 講師)が、強直性脊椎炎の具体的な診療内容や、本症がQOLに及ぼす影響について説明を行った。 強直性脊椎炎は、社会的に広く知られていないことから、初発から確定診断まで9年程度要している現状を紹介。患者は、症状が進行すると外見的に問題が無いようでも脊椎のこわばりから動作が不自然になったり(たとえば首の可動ができないなど)、周囲の期待する動きができなかったりすることで、誤解を受けているといった状況を説明した。 強直性脊椎炎の具体的な症状については、背部痛、関節炎などのほか、画像所見はMRIでの仙腸関節炎陽性やX線での仙腸関節炎が観察されると解説。 また、3ヵ月以上続く腰痛を有する人(n=1,236)へのアンケート調査を紹介し、約8割の人が痛みの程度を「かなりつらい」「つらい」と感じているにもかかわらず、現在、医療機関を受診している人は10%にとどまり、多くの人が「痛み」を我慢しているという状況を指摘した。また、その「痛み」により、約60%の人が仕事のモチベーションが低下したとしており、休職などで労働生産性が低下している現状が明らかになった。 強直性脊椎炎の治療では、痛みにはNSAIDsを使用した対症療法と脊椎病変への運動療法、理学療法が行われているが、近年ではTNF阻害薬も使用されていると説明。CRP正常値群と高値群におけるNSAIDsの効果を比較した試験では、NSAIDs治療継続群のほうが同間欠群よりも予後良好との報告や、TNF阻害薬とNSAIDsの比較では、TNF阻害薬処方群のほうがmSASSS変化で4年目以降に効果発現することなどが報告された。 最後に門野氏は、強直性脊椎炎を疑ったら、まずはリウマチや整形外科の専門医を探すこと、WEBなどで情報を収集することを勧め、早期に治療を受けてもらいたいとレクチャーを終えた。

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骨粗鬆症に好ましい注射製剤は?

 近年、数ヵ月~1年に1回の投与で治療が行える注射用骨粗鬆症治療薬が登場し、その有効性と利便性から人気が高まっている。米国・ロヨラ大学のKellen C. Sheedy氏らは、デノスマブ(商品名:プラリア)とゾレドロン酸(Reclast、国内未承認)の有効性および忍容性についてレトロスペクティブに調査を行った。その結果、デノスマブは脊椎の骨密度平均増加量が大きく、ゾレドロン酸ではインフルエンザ様症状の有害事象が多かったものの、両剤に関する患者の満足度は統計的に同等であったことを報告した。なお著者は、今回の検討は症例数が限られていたことから、今後さらなる詳細な検討が必要であると述べている。Endocrine Practice誌オンライン版2014年11月4日号の掲載報告。 研究グループは、ロヨラ大学病院でデノスマブまたはゾレドロン酸の投与を受けた患者107例(デノスマブ群51例、ゾレドロン酸群56例)を対象に、カルテをレトロスペクティブに調査して有効性および安全性を比較検討した。 有害事象については、とくに筋肉痛、インフルエンザ様症状、腰痛および骨折に注目した。また、有効性・忍容性・治療費に関するアンケート調査もカルテの補足として用いた。 主な結果は以下のとおり。・1年後における脊椎骨密度の平均変化量は、デノスマブ群0.060g/cm2、ゾレドロン酸群0.021g/cm2であった(p=0.04)。・1年後の脊椎骨密度ならびに大腿骨骨密度の平均変化量は、両群間で有意差はみられなかった。・軽度のインフルエンザ様症状の発現率が、ゾレドロン酸群では29%であったのに対し、デノスマブ群は0%であった(p=0.04)。

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牛乳1日3杯以上で全死亡リスクが2倍/BMJ

 男女ともに牛乳摂取量が多い人ほど死亡率、骨折率が高く、酸化ストレスや炎症性バイオマーカーの値が高いことが、スウェーデン・ウプサラ大学のKarl Michaelsson氏らによる全国追跡コホート研究の結果、明らかにされた。骨粗鬆症予防のために牛乳を飲むことが推奨されているが、これまでの検討では、牛乳を多く飲むことの骨折・死亡予防への影響について相反する結果が報告されていた。なお今回の結果についても著者は、観察研究デザインのため残余交絡因子や逆作用現象などを有している可能性があり、解釈は慎重にすることが推奨されるとしている。BMJ誌オンライン版2014年10月28日号掲載の報告より。牛乳摂取量と死亡または骨折までの期間を大規模コホート研究で評価 本研究は、スウェーデン中部の3県(ウプサラ、ヴェストマンランド、エレブルー)の住民を対象に行われた2つの大規模コホート研究の参加者を対象とした。被験者は、女性が1987~1990年に行われたSwedish Mammography Cohortの6万1,433例(39~74歳)、男性は1997年に行われたCohort of Swedish Menの4万5,339例(45~79歳)であった。女性被験者は、1997年に行われたアップデート時の2回目の食物摂取頻度アンケートにも3万8,984例が回答していた。 主要評価項目は、多変量生存モデルを用いて評価した、牛乳摂取量と死亡または骨折までの期間との関連であった。牛乳1日3杯以上飲む人は1杯未満の人と比べて全死因死亡HRは1.93 ベースライン時の牛乳摂取量は、女性が1日平均240g、男性が290gだった。 女性について、平均追跡期間20.1年で、死亡1万5,541例、骨折1万7,252例(うち大腿骨頚部骨折が4,259例)が、男性は平均追跡期間11.2年で、死亡1万112例、骨折5,066例(うち大腿骨頚部骨折は1,166例)が報告された。 女性において、牛乳摂取量が多い人ほど、全死因死亡(200g増当たりの補正後死亡ハザード[HR]比:1.15)、心血管疾患(同1.15)、がん(同1.07)の発生が高率である関連がみられた。 牛乳を1日3杯以上(平均680g)飲む女性の同1杯未満(平均60g)と比べた全死因死亡HRは1.93(95%CI:1.80~2.06)だった。心血管死亡も同程度で(同1.90)、がん死亡は若干減弱した(同:1.44)。骨折についても、同様に牛乳1日3杯以上牛乳を飲む女性ほど発生リスクは高かった(全骨折HR:1.16、大腿骨頚部骨折:1.60)。 男性についても同様の関連がみられたが、女性ほどリスクは大きくはなく、牛乳1日3杯以上(平均830g)飲む男性の牛乳1日1杯未満(平均50g)と比べた全死因死亡HRは、1.10(95%CI:1.03~1.17)だった。 また、バイオマーカー値の分析は、男女とも追加コホートのサブサンプルで行った(女性は平均70歳時のSwedish Mammography Cohort Clinicalでの第3回目の食事アンケート回答者、男性はUppsala Longitudinal Study of Adult Menでの71歳時の1週間の食事記録者)。結果、牛乳摂取と尿中8-iso-PGF2α(酸化ストレスのバイオマーカー)、血清IL-6(主要な炎症性バイオマーカー)とのポジティブな関連が認められた。 なお、チーズやヨーグルトなどの発酵乳製品の摂取量とではこれらの関連は観察されず、毎日高摂取している女性は低摂取の女性と比べて死亡率や骨折率が低いことが観察されたという。男性ではそのリスク低下はわずかか、ほとんどみられなかった。また、男女ともチーズ摂取ではみられなかったが、ヨーグルト類摂取では酸化ストレスや炎症性バイオマーカーとの逆相関がみられたという。

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骨密度と疼痛は関連するのか?

 これまで多くの試験が、骨粗鬆症治療後の腰痛改善を報告しているが、骨粗鬆症が疼痛を伴うのかについては十分なエビデンスはない。韓国・盆唐ソウル大病院のKyoung Min Lee氏らは50歳以上の閉経後女性を対象に骨密度(BMD)と筋骨格痛が関連するかどうかを調べた。結果、変形性関節症の程度で補正後、筋骨格痛と骨密度の関連は認められなかったことを報告した。Clinical Rheumatology誌オンライン版2014年10月7日号の掲載報告。 研究グループは、第5次韓国健康・栄養調査のデータベースから50歳以上の閉経後女性のデータを集め、股関節・膝関節痛、腰痛症および活動レベルについて、人口統計学的、Kellgren-Lawrence分類、Numerical Rating Scale(NRS)により分析。筋骨格痛とBMDが相関するかどうかを調べた。 分析には、DEXAスキャンおよび股関節・膝関節のX線写真の記録のある被験者のみを包含。また悪性疾患、鎮痛薬服用または骨折既往歴のある人も除外した。 単変量解析後、重回帰分析法にて、股関節・膝関節痛の程度と有意に関連する因子を調べた。またバイナリロジスティック回帰分析を行い、腰痛症と有意に関連する因子の特定を行った。 主な結果は以下のとおり。・総計387例の女性を分析に組み込んだ。・重回帰分析の結果、年齢が唯一、股関節痛の強度と有意に関連する因子であった(p=0.005)。・膝関節痛の強度と有意に関連する因子は唯一、Kellgren-Lawrence分類であった(p<0.001)。・バイナリロジスティック回帰分析の結果、腰痛症の強度と関連する因子は唯一、年齢であった(p=0.002)。 以上のように、筋骨格痛は、BMDの影響は認められず、また関連も認められなかった。

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60)できてますか?体力維持に8千歩以上【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話患者(高齢で)最近、体力の低下を感じて・・・医師そうですか。ここに歩数と健康指標の関連を示した表があります。デスクワークや家に閉じこもり気味だと2,000~4,000歩くらいしか歩いていないかもしれません。加齢に伴う筋肉の減少を食い止めるためには7,000歩以上、体力を維持するためには8,000歩以上が必要だそうです。。患者なるほど。私は全然足りませんね。医師ところで、歩数計は持っておられますか?患者はい。けど、電池切れで・・・医師それはよかったです。気持ちと電池を入れ替えれば、検査値もよくなると思いますよ。患者はい。歩数計をつけて、頑張って歩いてみます。●ポイント歩数計の携帯を促し、歩数計を用いた運動指導を行う●資料 歩数と健康指標の関係10,000歩 メタボの予防9,000歩 体力低下の予防8,000歩 サルコペニア(筋肉量減少症)の予防7,000歩 骨粗鬆症の予防6,000歩 動脈硬化の予防5,000歩 生活の質(QOL)低下の予防4,000歩 閉じこもり・うつ病の予防(青柳幸利.高齢者の身体活動と健康に関する研究.より改変)

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第12回

第12回:胆石のマネージメント~無症状の対応から、胆石発作や急性胆嚢炎を起こした場合の対処まで~監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 胆石は、腹部エコーを行ったら偶然見つかった、ということが日常診療では多いと思います。日本でも剖検による胆石保有率が2.4%1) と決して少なくありません。ここで、無症状の胆石への対応、胆石発作や急性胆嚢炎を起こした場合の対処を復習したいと思います。 以下、American Family Physician 2014年5月15日号2) より1.はじめに胆石は、消化器疾患の中でも最も多い疾患の1つである。胆石のリスクとして、糖尿病、肥満、女性、ホルモン製剤、避妊薬の内服がある。ほとんどの患者では無症状に経過し、超音波検査などで偶然見つかることが多い。偶然見つかった胆石患者のほとんどは、今後症状が出現する可能性は少ないが、一度症状が起きると胆石発作が繰り返される。2.症状、徴候胆石発作は、右上腹部の急性の疼痛として表現される。変動なく突然発症し、1時間でピークを迎える。90%が10年以内に再発をする。急性胆嚢炎の身体所見は何と言ってもMurphy sign(右季肋部を押さえると吸気時に痛くて呼吸が止まる)が重要である。3.診断腹部エコーがまず勧められる。胆石の診断において 感度が98%、特異度が95%である。MRCPは、エコーで描出できなかった場合に次に推奨される。胆石がある患者の6~12%に胆管結石があり、それらは膵炎や胆管炎のリスクになるので注意が必要である。MRCPとERCPは同等の診断精度を持つ。ただし、ERCPのほうが侵襲的で出血、膵炎、胆管炎が4~10%で生じる。4.治療胆石溶解剤の内服は、無症状の胆石に対する疼痛予防としては効果がない。手術の有無については、通常の無症状の胆石は経過観察をするが、例外として磁器様胆嚢(胆嚢がんのリスクあり)、溶血性貧血、3cm以上の胆石では手術を考慮する。胆石発作および胆嚢炎で手術を選択した場合は、ほとんどの症例で腹腔鏡下胆嚢摘出術が薦められる。ただし、経過観察も1つの選択肢となりうる。ある研究によると症状のある胆石に対しては35%に手術が必要で、平均5.6年手術を延長することができたとする報告がある。腹腔鏡下から開腹術に移行する可能性は、非炎症性であれば2~15%、胆嚢炎であると6~35%である3) 。待機的に行われた胆嚢摘出術であれば、予防的な抗菌薬の投与は不要である。ただし、ハイリスク(60歳以上、糖尿病を抱えるなど)であれば、予防投与により感染のリスクを軽減できるかもしれない。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 山口和哉ほか. 日臨外医会誌 1997; 58): 1986-1992. 2) Abraham S, et al. Am Fam Physician. 2014;89:795-802. 3) Sherwinter DA, et al. Laparoscopic cholecystectomy. Medscape.

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国民の3分の1はロコモ予備軍-日整会プレス説明会

 9月11日、都内において日本整形外科学会主催によるプレス説明会が10月8日の「骨と関節の日」を前に開催された。説明会では、わが国における骨・運動器関連疾患の現状や今後の対策のほか、「ロコモティブシンドロームの要因としての上・下肢の痛みとしびれ」と題して、日常の愁訴から考えるロコモティブシンドロームについてのレクチャーが行われた。■日本人の約3分の1が運動器に障害あり 最初に、同学会の理事長である岩本 幸英氏(九州大学大学院医学研究院整形外科 教授)が、理事長挨拶として骨・運動器疾患の概要を述べ、変形性腰椎症や骨粗鬆症などの患者数が4,700万人を超え、トタールでみたとき、運動器の障害が脳血管疾患や認知症を抑え寝たきり原因の1位になっていることを説明した。そして、学会では、平成19年より「運動器の障害により、移動機能の低下を来した状態」を「ロコモティブシンドローム」(以下「ロコモ」)と呼び、広く啓発してきたことを説明。さらにロコモの認識・理解の普及を行い運動機能が衰える高齢者には早めの診療を促すことで、国民の健康寿命を延長していきたいと抱負を述べた。■約6割が治療に消極的 続いて「ロコモティブシンドロームの要因としての上・下肢の痛みとしびれ」と題して、持田 譲治氏(東海大学医学部外科系整形外科学 教授)が、レクチャーを行った。 ロコモは、健康寿命を脅かすものとして、厚生労働省が提唱している「健康日本21」でも認知度の向上と足腰に痛みを持つ高齢者割合の減少がうたわれている。背骨に異常があると手足の痛みやしびれに結び付き、これが患者のQOLを低下させ、さらにロコモの要因となる。 しかし、日本整形外科学会が実施した運動器の慢性痛有症者へのアンケート調査によると「主な治療機関」は民間療法(21%)という回答が一番多く、「特になし」(57%)という回答も過半数を占め、患者自身が治療に消極的である面をうかがわせた。 その他、持田氏が監修した「からだに痛み・しびれがある成人男女」(n=1,030)のWEB調査によれば、44%の回答者が毎日症状を感じており、約57%がその期間が1年以上続いていると回答。上肢に痛み・しびれの部位があると回答した人は30.9%。そして、上肢に痛み・しびれのある318人のうち医療機関に受診している人は、わずか11.9%しかおらず、鍼灸院、接骨院や整体への通院が16.4%、市販薬の服用などが24.8%、特段対処しないが18.6%など多くの人が自己判断による対処で済ませている実態が明らかとなった。仕事や家事への影響では65.7%の人が、仕事や家事に集中力の低下や作業内容、勤務時間の変更などの影響を受けていると回答した。 ■しびれの治療は時間を要する ロコモへの病状進行は、手足の痛み・しびれの後、次第に筋力低下や筋萎縮という運動系障害が現れることが多く、その際、身体を支える機能や身体を曲げる機能の障害を合併し、運動系障害で移動機能の低下が起こり、ロコモの要因となることを説明。診療では、患者さんの自覚症状(痛み、しびれ、筋力減少、変形などの愁訴)の正確な把握が重要であると述べた。 また、一般の方にも理解してもらいたいこととして、日常生活で立位や座位を保つためにも、上肢のロコモ対策が重要であり、痛み・しびれ、筋力低下の中で「しびれ」が一番回復には時間がかかること、急性期と慢性期では、内服薬の違いなど治療法が異なること、痛み・しびれの治療におけるゴールは8割程度であることなど理解のポイントを説明した。 最後に10月8日の「骨と関節の日」には、運動器の健康が体の健康維持にいかに大切かを啓発するさまざまな催しが全国で開催されるので、この機会にロコモへの理解を深めてほしいと語りレクチャーをまとめた。

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「腰痛」に潜む多発性骨髄腫

 多発性骨髄腫(MM)は血液悪性腫瘍(形質細胞性腫瘍)の1つであり、悪性リンパ腫や白血病に次いで患者数の多い疾患である。MMは高齢者に多くみられる疾患で代表的な症状の1つに「腰痛」がある。しかし、腰痛を患っている高齢者は多いため、見逃されていることもあるという。 2014年8月27日(水)、JPタワーホール&カンファレンス(東京都千代田区)にてセルジーン株式会社主催「第4回ヘマトロジー勉強会」が開催され、「腰痛から始まる血液悪性腫瘍~多発性骨髄腫を知っていますか?~」と題し、国立国際医療研究センター 血液内科診療科長の萩原 將太郎氏が講演を行った。 MMは、B細胞の最終分化形態である形質細胞ががん化することによって発症する。がん化した形質細胞は、造血を抑制することで貧血を引き起こし、骨芽細胞に対して造骨を抑制し破骨細胞に対して溶骨を促進することで、骨病変(病的骨折・高度の骨粗鬆症など)を引き起こす。また、がん化した形質細胞が産生するM蛋白が心臓、腎、神経などにアミロイド蛋白として沈着することで、アミロイドーシスを引き起こす。このように、MMは多彩な臓器障害を来す複雑な疾患である。 MMのうち治療対象となる症候性MMは、形質細胞とM蛋白の存在だけではなく、臓器障害(腎機能障害、貧血、骨病変など)を呈する状態を指す。治療方針としては、それぞれの患者さんの年齢や合併症などを考慮の上、化学療法あるいは分子標的薬を含む寛解導入療法に引き続く造血幹細胞移植、もしくは移植は行わず、化学療法/分子標的薬のみを選択する。近年、治療法の進歩により、MMの予後は改善傾向にある。治療の方向性は、非特異的な化学療法剤から特異的な分子標的薬へと変化し、現在もさまざまな薬剤の開発が進んでいる。MMの骨病変により圧迫骨折している場合には、椎体形成術が奏効する場合も多く、疼痛の軽減などQOLの改善に有用な方法である。 2025年には、高齢者が最も多くなるといわれており、MMの患者数は今後も増えることが予想されている。日常診療の中で、慢性的で原因のわからない「腰痛」を訴える高齢患者さんを診た場合には、MMの可能性も考慮し、血液検査を行うことが勧められる。

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分娩前の低分子量ヘパリン、合併症を抑制せず/Lancet

 血栓性素因を有するため合併症のリスクが高い妊婦に対する低分子量ヘパリン・ダルテパリンの分娩前予防投与は、これらの合併症の発生を抑制しないことが、カナダ・オタワ大学のMarc A Rodger氏らが行ったTIPPS試験で示された。血栓性素因は妊婦によくみられる病態で、妊娠関連静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクを増大させ、胎盤介在性妊娠合併症(重症妊娠高血圧腎症、在胎週数に比し小さい新生児、胎盤早期剥離)のリスクをも増加させる可能性がある。低分子量ヘパリンは胎盤を通過せず、大出血やヘパリン起因性の血小板減少、骨粗鬆症のリスクが低いとされるが、皮下注射の手間や費用などの問題がある。Lancet誌オンライン版2014年7月25日号掲載の報告。ダルテパリンの有用性を無作為化試験で評価 TIPPS試験は、血栓性素因を有し、妊娠合併症のリスクが高い妊婦に対するダルテパリン予防投与によるVTEおよび胎盤介在性妊娠合併症のリスクの抑制効果を検討する非盲検無作為化試験。 参加者は、分娩前に予防的にダルテパリンを投与(自己注射)する群または非投与群(対照群)に無作為に割り付けられた。ダルテパリンは、妊娠期間20週までは5,000 IU/日を1日1回投与し、その後は最短でも妊娠期間37週まで5,000 IU/日を1日2回投与した。 治療割り付け情報は患者と試験関係者にはマスクされなかったが、アウトカムの審査担当者にはマスクされた。主要評価項目は、重症または早期発症の妊娠高血圧腎症、在胎週数に比し小さい新生児(出生時体重<10パーセンタイル)、妊娠喪失、VTEの複合アウトカムとした。小出血リスクは増大 試験期間は2000年2月28日~2012年9月14日で、5ヵ国(カナダ、オーストラリア、米国、英国、フランス)の3次医療機関36施設が参加した。このうち21施設から292例が登録され、適格基準を満たさなかった3例を除く289例(intention-to-treat集団、ダルテパリン投与群:146例、非投与群:143例)が解析の対象となった。 全体の平均年齢は31.8歳、割り付け時の平均妊娠期間は11.9週、平均妊娠回数は2.2回、平均分娩回数は1.0回であり、妊娠合併症歴を有する妊婦は61%(176/289例)であった。実際に治療が行われた患者は284例(on-treatment集団、ダルテパリン投与群:143例、非投与群:141例)だった。 intention-to-treat集団およびon-treatment集団のいずれにおいても、ダルテパリンは主要複合アウトカムの発生を抑制しなかった。 すなわち、intention-to-treat集団における主要複合アウトカムの発生率は、ダルテパリン投与群が17.1%(25/146例)、非投与群は18.9%(27/143例)であり、両群のリスク差は-1.8%(95%信頼区間[CI]:-10.6~7.1%)と有意な差は認めなかった。on-treatment集団では、それぞれ19.6%(28/143例)、17.0%(24/141例)で、リスク差は2.6%(95%CI:-6.4~11.6%)であり、有意差はなかった。 安全性解析(on-treatment集団)では、大出血(ISTH基準)の発生率は両群間に差はなかった(2.1%[3/143例]vs. 1.4%[2/141例]、リスク差:0.7%、95%CI:−2.4~3.7%、p=1.0)が、小出血(大出血以外の出血)はダルテパリン投与群で多く認められた(19.6%[28/143例]vs. 9.2%[13/141例]、リスク差:10.4%、95%CI:2.3~18.4%、p=0.01)。 著者は、「分娩前のダルテパリンの予防投与は、血栓性素因を有するため、VTE、妊娠喪失、胎盤介在性妊娠合併症のリスクが高い妊婦においてこれらの合併症の発生を抑制せず、小出血のリスクを増大させた」とまとめ、「これらの知見は、既報の質の高いエビデンスと一致する」と指摘している。

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