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避妊法による脳卒中や心筋梗塞のリスクをどのように回避することができるのか?(解説:三浦伸一郎氏)

 避妊法の条件は、確実であり、方法が簡便で長期間使用できること、経費が少なくて済み、副作用が少ないことなどが挙げられる。経口避妊薬には、ホルモン剤としてプロゲスチンとエストロゲンの混合型とプロゲスチン単独のものがある。ホルモン避妊法による深部静脈血栓症や肺塞栓症の発生率は、エストロゲン投与量が増加すると上昇することが知られている。エストロゲンやプロゲステロンの投与では、フィブリノゲンなどの凝固因子が増加し、凝固抑制因子が減少することにより凝固系が亢進する。 最近、ホルモン避妊法による虚血性脳卒中や心筋梗塞のリスクに関する前向きコホート研究の結果が報告された1)。これまで、ホルモン避妊法が心血管疾患リスクに悪影響を与えるとの報告はあったが、このコホート研究では、避妊法の違いによりリスクが異なっていることが検証され、従来の複合経口避妊薬やプロゲスチン単剤避妊法ではリスクが高かった。一方、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具は、リスク増加と関連しておらず、今後の安全な避妊法として期待されるものであった。 現在、日本では、ホルモン避妊法が多く使用されている。しかし避妊教育が少なく、避妊のリスクとベネフィットを理解できる機会を増やし、多くの選択肢を知ってもらう必要がある。このYonisらの研究は、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具という新たな選択肢をもたらした。安全な方法をより普及させる必要があるとともに、ホルモン避妊法についての再教育も必要と思われる。

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第256回 安全な男性用避妊薬候補がマウス検討を通過して霊長類試験に進む

安全な男性用避妊薬候補がマウス検討を通過して霊長類試験に進む避妊手段は数あれど、世界のすべての妊娠の半数近くは不慮のものです。それゆえ毎年7千件を超える中絶があり、多大な精神的、肉体的、金銭的負担を強いています。男性が都度必要に応じて避妊をするなら基本的にコンドームに頼るほかありません。男性のホルモン成分の避妊薬の臨床試験がいくつか進行中ですが、承認には至っていません。ホルモンとは別の標的に目を向けることで副作用の心配が少ない避妊薬の道が開けるかもしれません。精巣に豊富な遺伝子800種超を省いた検討結果があり、それらのうち約250の遺伝子を省くと不妊を呈することが確認されています。キナーゼの類いのSTK33(serine/threonine kinase 33)遺伝子はその1つで、雄マウスのSTK33を省くと尾が動かない異常な精子が形成され、不妊となることが先立つ研究で示されています1)。パキスタンの一家系の調査で不妊男性にSTK33遺伝子変異が見つかっており2)、ヒトでもSTK33は男性の生殖能に必要なようです。STK33遺伝子一対のどちらにも変異を有する男性の精子には複数の異常が認められました。STK33遺伝子が損なわれたマウスもヒト男性も精子に異常があることを除いておおむね正常で、精巣の大きさにも異常はありませんでした。よってSTK33狙いの避妊薬なら安全に使えそうです。そこで米国・ベイラー医科大学のAngela Ku氏らは数十億の化合物ライブラリーからSTK33に結合する低分子化合物を探し出し、CDD-2807という名称のSTK33阻害薬を生み出しました3)。CDD-2807を雄マウスの腹腔内に21日間注射したところ精子の数や運動が低下して不妊となりました。注目すべきことにその効果は永続的ではなく可逆的であり、投与を止めると21日以内に生殖能が復活しました。毒性の所見は認められず、STK33欠損マウスやSTK33変異男性と同様に精巣の大きさも変化しませんでした。CDD-2807の効果はSTK33が雄の生殖能に不可欠なことを一層明確にし、必要に応じた可逆的な男性用避妊薬の標的となりうることを示しています。CDD-2807は経口投与時の体内の巡りが今ひとつだったので、効果の検討では腹腔内に注射されました。とはいえ経口薬を誂えるためのヒントとなりうるSTK33とCDD-2807の結合構造が把握されています。その構造は別のSTK33阻害薬の発見や経口投与で事足りるようにする取り組みを後押しするでしょう4)。CDD-2807の成果の実用化には多分に漏れずまだまだやるべきことがたくさんあります。広く使われる避妊薬となるためにはホルモン濃度、生殖機能全般、子孫への影響などのさまざまな安全性の検討を無事通過しなければなりません。また、長期使用で生じうる害を検討する長丁場の試験も欠かせません。まずは今後数年のうちにCDD-2807やその後続品の可逆的男性用避妊薬としての効果を霊長類で検討することを目指す、と今回の研究を率いたMartin Matzuk氏は言っています5,6)。参考1)Martins LR, et al. Dev Biol. 2018;433:84-93.2)Ma H, et al. Hum Mol Genet. 2021;30:1977-1984. 3)Ku AF, et al. Science. 2024;384:885-890.4)Holdaway J, et al. Science. 2024;384:849-850.5)A promising approach to develop a birth control pill for men / Eurekalert6)Towards a Male Contraceptive That Doesn’t Target Hormones / TheScientist

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米国の医療支出に大きな地域差、その要因は?/JAMA

 米国では、3,110の郡の間で医療支出に顕著なばらつきがみられ、支出が最も多い健康状態は2型糖尿病であり、郡全体では支出のばらつきには治療の価格や強度よりも利用率のばらつきの影響が大きいことが、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのJoseph L. Dieleman氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月14日号に掲載された。2010~19年の米国の郡別の観察研究 研究グループは2010~19年の期間に、米国の3,110の郡のそれぞれにおいて、4つの医療費支払元(メディケア、メディケイド、民間保険、自己負担)で、148の健康状態につき38の年齢/性別グループ別に7種の治療の医療支出を推定する目的で、400億件以上の保険請求と約10億件の施設記録を用いて観察研究を行った(Peterson Center on HealthcareとGates Venturesの助成を受けた)。 38の年齢/性別グループは、男女別の19の年齢層(0~<1歳から≧85歳)で、7種の治療とは、外来治療、歯科治療、救急治療、在宅治療、入院治療、介護施設での治療、処方された医薬品の購入であった。主要アウトカムは、2010~19年の医療支出および医療利用状況(たとえば、受診・入院・処方の回数)とした。1人当たりの支出、郡間で最大約1万ドルの差 本研究では、2010~19年における個人医療支出のうち76.6%を捕捉した。これは、人口の97.3%の支出を反映している。医療支出は、2010年の1兆7,000億ドルから2019年には2兆4,000億ドルに増加した。この支出に占める割合は、20歳未満が11.5%で、65歳以上は40.5%であった。 健康状態別の支出は、2型糖尿病が最も高額で、1,439億ドル(95%信頼区間[CI]:1,400億~1,472億)であった。次いで、関節痛や骨粗鬆症を含むその他の筋骨格系疾患が1,086億ドル(1,064億~1,103億)、口腔疾患が930億ドル(927億~933億)、虚血性心疾患が807億ドル(790億~824億)だった。 総支出のうち、外来医療費が42.2%(95%CI:42.2~42.2)、入院医療費が23.8%(23.8~23.8)、処方医薬品購入費が13.7%(13.7~13.7)を占めた。郡レベルの1人当たりの年齢標準化支出は、最も低かったアイダホ州クラーク郡の3,410ドル(95%CI:3,281~3,529)から、最も高かったニューヨーク州ナッソー郡の1万3,332ドル(1万3,177~1万3,489)の範囲にわたっていた。説明のつかない支出ばらつきの調査が、医療施策の立案に役立つ可能性 郡間で最もばらつきが大きかったのは、年齢標準化自己負担額で、次いで民間保険による支出であった。また、郡全体でのばらつきは、治療の価格や強度よりも医療利用率のばらつきによって大きく影響を受けた。 著者は、「このようなばらつきを、健康状態、性別、年齢、治療の種類、支払い元の違いで地域別に理解することが、異常値の特定、成長パターンの追跡、不平等の顕在化、医療能力の評価において重要な考察をもたらす」「最も支出の多い健康状態に焦点を当てて説明のつかない支出のばらつきをさらに調査することが、コストの削減と治療へのアクセスの改善を目的とした保健医療施策の立案に役立つ可能性がある」としている。

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ホルモン避妊法、脳梗塞・心筋梗塞のリスクは?/BMJ

 生殖年齢15~49歳の女性において、現在使用されているエストロゲン・プロゲスチンおよびプロゲスチン単剤による避妊法は、レボノルゲストレル放出子宮内避妊具を除き、虚血性脳卒中および一部の症例では心筋梗塞のリスク増加と関連していることが、デンマーク・Nordsjaellands HospitalのHarman Yonis氏らが同国居住の女性約203万例を対象に行った前向きコホート研究の結果で示された。著者は、「絶対リスクは低いが、臨床医はホルモン避妊法を処方する際、ベネフィットとリスクの評価に動脈血栓症の潜在的リスクを含めるべきである」と述べている。BMJ誌2025年2月12日号掲載の報告。デンマーク居住の約203万例を対象にコホート研究 研究グループは、1996~2021年にデンマークに居住しており、動脈・静脈血栓症、がん(非黒色腫皮膚がんを除く)、血栓症、肝疾患、腎疾患、抗精神病薬の使用、不妊治療、ホルモン療法の使用、卵巣摘出、子宮摘出、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症の既往歴のない15~49歳の女性202万5,691例を対象に、前向きコホート研究を行った。 主要アウトカムは、虚血性脳卒中または心筋梗塞の初回退院時診断とした。脳梗塞10万人年当たり、経口避妊薬群39件、黄体ホルモン単剤ピル群33件 2,220万9,697人年の追跡において、虚血性脳卒中イベントの発生は4,730件、心筋梗塞イベントの発生は2,072件であった。 試験集団は、ホルモン避妊法非使用群、複合ホルモン避妊法使用群(複合経口避妊薬[経口エチニルエストラジオール30~40μg、同20μg、経口エストラジオール]、膣リング、パッチ)、プロゲスチン単剤避妊法使用群(経口[ピル]、子宮内避妊具、インプラント、注射)に特徴付けられた。 標準化虚血性脳卒中発生頻度(10万人年当たり)は、ホルモン避妊法非使用群が18(95%信頼区間[CI]:18~19)、複合経口避妊薬使用群が39(36~42)、プロゲスチン単剤ピル使用群が33(25~44)、子宮内避妊具使用群が23(17~29)。標準化心筋梗塞発生頻度(10万人年当たり)は、それぞれ8(8~9)、18(16~20)、13(8~19)、11(7~16)であった。 非使用群に対する複合経口避妊薬使用群の補正後発生率比は、虚血性脳卒中2.0(95%CI:1.9~2.2)、心筋梗塞2.0(1.7~2.2)であった。これら標準化発生率比の差は、10万人年当たり虚血性脳卒中21例(18~24例)、心筋梗塞10例(7~12例)の増加に相当した。 非使用群に対するプロゲスチン単剤ピル使用群の補正後発生率比は、虚血性脳卒中1.6(95%CI:1.3~2.0)、心筋梗塞1.5(1.1~2.1)で、これは10万人年当たり虚血性脳卒中15例(6~24)、心筋梗塞4例(-1~9)の増加に相当した。 動脈血栓症リスクの増加は、膣リング使用群(補正後発生率比:虚血性脳卒中2.4[95%CI:1.5~3.7]、心筋梗塞3.8[2.0~7.3])、パッチ使用群(虚血性脳卒中3.4[1.3~9.1]、心筋梗塞なし)、およびプロゲスチン単剤インプラント使用群(虚血性脳卒中2.1[1.2~3.8]、心筋梗塞≦3)でも観察されたが、プロゲスチン単剤放出子宮内避妊具使用群では観察されなかった(虚血性脳卒中1.1[1.0~1.3]、心筋梗塞1.1[0.9~1.3])。

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65歳以上の全女性に骨粗鬆症スクリーニングを推奨――USPSTF

 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は1月14日、65歳以上の全ての女性に対して、骨折予防のための骨粗鬆症スクリーニングを推奨するという内容のステートメントを発表した。また65歳未満であってもリスク因子のある女性は、やはりスクリーニングの対象とすべきとしている。一方、男性に対するスクリーニングに関しては、まだ十分なエビデンスがないとした。これらの推奨の詳細は、USPSTFのサイトに同日掲載された。 USPSTFのEsa Davis氏は、「骨粗鬆症患者に現れる最初の症状が骨折であることが非常に多い。このことが、その後の深刻な健康障害を引き起こしている」と、未診断の骨粗鬆症患者が少なくないという問題を指摘し、スクリーニング対象基準を明確にすることの意義を強調。また、「この基準の明確化によって、65歳以上の女性だけでなく、リスクが高い場合は65歳未満の女性も、骨折を来す前にスクリーニングを受けることで骨粗鬆症を早期に発見でき、女性の健康、自立、生活の質の維持につなげられる」と話している。 骨も体のほかの組織と同じように、新陳代謝を繰り返している。しかし加齢とともに、骨の吸収と形成のバランスが負になりやすく、吸収された骨が十分に補充されなくなっていく。骨粗鬆症の多くはこのような加齢の影響により進行し、徐々に骨密度が低下していき骨折のリスクが上昇してくる。米クリーブランドクリニックのデータによると、骨粗鬆症による骨折が生じやすい部位は、股関節、手首、脊椎などと報告されている。 USPSTFは予防医学関連のさまざまなステートメントを策定するとともに、それらを定期的に見直し、最新の医学的知見に準拠した内容を維持している。今回のUSPSTFのステートメントに関しては、2011年および2018年に発表された以前のバージョンと基本的には一致する内容だが、スクリーニングのための検査手法として、「二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による骨密度(BMD)測定が含まれる」とされた。 推奨項目は以下のとおり。65歳以上の女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。骨粗鬆症の危険因子を一つ以上有する65歳未満の閉経後女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。男性の骨粗鬆症による骨折を予防するためにスクリーニングを行うことのリスク/ベネフィットのバランスを評価するには、現在のエビデンスは不十分。 男性のスクリーニングについてUSPSTF副委員長のJohn Wong氏は、「検査によって骨粗鬆症の男性を特定することは可能。しかし、検査とそれに続く治療が、男性の骨折を抑制するかどうかについては、さらなるエビデンスが必要な段階だ。USPSTFは現在、男性に対する研究を奨励している」と述べている。 なお、USPSTFは全米の予防医学に関する専門家で構成される独立したボランティア委員会で、USPSTFのステートメントが医療保険制度に変化をもたらすこともある。同国の医療保険制度改革法(Affordable Care Act)では、USPSTFの推奨度が高い検査は無料で受けられるようにすべきとしている。

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副腎性クッシング症候群〔Adrenal Cushing's syndrome〕

1 疾患概要■ 定義クッシング症候群は、副腎皮質から慢性的に過剰産生されるコルチゾールにより、中心性肥満や満月様顔貌といった特徴的な臨床徴候を示し、糖・脂質代謝異常、高血圧などの合併症を伴う疾患である。手術により治癒が期待できる内分泌性高血圧症の1つである。 広義のクッシング症候群は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)依存性クッシング症候群(下垂体性のクッシング病や異所性ACTH産生腫瘍など)とACTH非依存性クッシング症候群(副腎性クッシング症候群)に大別され、本稿では副腎性クッシング症候群について解説する。■ 疫学厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班による全国実態調査では、日本全国で1年間に約50症例の副腎性クッシング症候群の発症が報告されている。CT検査などが行われる機会が増えた現在では、副腎偶発腫を契機に診断される症例が増加していると考えられる。副腎腺腫によるクッシング症候群の男女比は1: 4と女性に多く、30~40代に好発する。■ 病因副腎皮質の腺腫やがんなどにおいてコルチゾールが過剰産生される。その分子メカニズムとしてcAMP-プロテインキナーゼA(protein kinase A:PKA)経路およびWNT-βカテニンシグナル経路の異常が示されている。顕性クッシング症候群を生じる症例の約85%で症例の副腎皮質腺腫において、PKAの触媒サブユニットをコードするPRKACA(protein kinase A catalytic subunit α)遺伝子、およびアデニル酸シクラーゼを活性化することによりcAMP産生に関わるタンパク質をコードするGNAS(α subunit of the stimulatory G protein)遺伝子、WNTシグナル伝達経路の細胞内シグナル伝達因子であるβカテニンをコードするCTNNB1(β catenin)遺伝子の変異を認めることが報告されている。■ 症状クッシング症候群に特異的な症状として、中心性肥満(顔、頸部、体幹のみの肥満)、満月様顔貌、鎖骨上および肩甲骨上部の脂肪沈着(野牛肩:buffalo hump)、皮膚の菲薄化、皮下溢血、赤色皮膚線条、近位筋萎縮による筋力低下があり「クッシング徴候」と言う。その他、耐糖能異常、高血圧、脂質異常症や性腺機能低下症、骨粗鬆症、精神障害、ざ瘡、多毛を認めることもある。■ 分類副腎腫瘍によるもの、副腎結節性過形成によるものに大別される。副腎腫瘍には副腎皮質腺腫、副腎皮質がんがあり、副腎結節性過形成にはACTH非依存性大結節性過形成(primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia:PBMAH)、原発性色素性結節状副腎皮質病変(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD)が含まれる。顕性クッシング症候群のうちPBMAH、PPNADの頻度は併せて5.8%とまれである。また、クッシング徴候を欠くがコルチゾール自律分泌を認める症例を「サブクリニカルクッシング症候群」と言う。■ 予後副腎皮質腺腫によるクッシング症候群は、治療によりコルチゾールを正常化できた症例では同年代とほぼ同程度の予後が期待できる。治療しなければ、感染症や心血管疾患のリスクが増加し、予後に影響することが示されており、早期発見、治療が重要である。一方、副腎皮質がんはきわめて悪性度が高く、急速に進行し、肝臓や肺などへの遠隔転移を認めることも多く予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)クッシング徴候や副腎偶発腫、また、治療抵抗性の糖尿病、高血圧、年齢不相応の骨粗鬆症を認めた際は、クッシング症候群を疑い精査を行う。まず、病歴、服薬状況の問診によりステロイド投与による医原性クッシング症候群を除外し、血中コルチゾール濃度に影響を及ぼす薬剤(表)の使用を確認する。表 クッシング症候群の診断に影響する可能性がある薬剤(左側は一般名、右側は商品名)画像を拡大する血中コルチゾール濃度は視床下部から分泌されるCRHの調節により早朝に高値になり、夜間には低値になる日内変動を示す。クッシング症候群ではCRHの調節を受けないため、コルチゾールの日内変動は消失し、デキサメタゾン内服により抑制されない。そのため、24時間尿中遊離コルチゾール高値、デキサメタゾン1mg抑制試験で翌朝血清コルチゾール値≧5μg/dL、夜間血清コルチゾール濃度≧5μg/dLのうち、2つ以上あればクッシング症候群と診断する。さらに早朝の血漿ACTH濃度を測定し、測定感度以下(<5μg/mL)に抑制されていれば副腎性クッシング症候群と診断する。図に診断のアルゴリズムを示す。図 クッシング症候群の診断アルゴリズム画像を拡大するただし、うつ病、慢性アルコール依存症、神経性やせ症、グルココルチコイド抵抗症、妊娠後期などでは視床下部からのCRH分泌増加による高コルチゾール血症(偽性クッシング症候群)を呈することがあり、抗てんかん薬内服ではデキサメタゾン抑制試験で偽陽性を示すことがあるため、注意が必要である。副腎腫瘍の有無の検索のため腹部CT検査を行う。副腎皮質腺腫は脂肪成分が多いため、単純CT検査で辺縁整、内部均一な10HU未満の低吸収値を認める。直径4cm以上で境界不明瞭、内部が出血や壊死で不均一な腫瘍の場合は副腎皮質がんを疑い、MRIやFDG-PETなどさらなる精査を行う。PBMAHでは著明な両側副腎の結節性腫大を認め、PPNADでは副腎に明らかな腫大や腫瘍を認めない。コルチゾールの過剰産生の局在診断のため131I-アドステロール副腎皮質シンチグラフィを行う。片側性副腎皮質腺腫によるクッシング症候群では、健側副腎に集積抑制を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)副腎皮質腺腫では腹腔鏡下副腎摘出術を施行することで根治が期待できる。術後、対側副腎によるコルチゾール分泌の回復までに6ヵ月~1年を要するため、その間は経口でのグルココルチコイド補充を行う。手術困難な症例や、片側副腎摘出術後の再発例、著明な高コルチゾール血症による糖代謝異常や精神異常、易感染性のため術前に早急なコルチゾールの是正が必要な症例に対しては、副腎皮質ステロイドホルモン合成阻害薬であるメチラポン(商品名:メトピロン)、トリロスタン(同:デソパン)、ミトタン(同:オペプリム)が投与可能である。11β-水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは可逆性で即効性があることから最もよく用いられている。副腎皮質がんでは開腹による腫瘍の完全摘出が第1選択であり、術後アジュバント療法として、または手術不能例や再発例に対しては症状軽減のためミトタンを投与する。ミトタンは約25~30%の奏効率とされているが、副作用も少なくないため有効血中濃度を維持できない症例も多い。PBMAHでは、症状が軽微な症例や腫大副腎の左右差もあり、合併症などを考慮して症例ごとに片側あるいは両側副腎摘出術や薬物療法による治療方針を決定する。一部の症例でみられる異所性受容体に対する阻害薬が有効な場合もあるが、長期使用による成績は報告されていない。PPNADでは、顕性クッシング症候群を発症することが多いため、両側副腎全摘が第1選択となる。サブクリニカルクッシング症候群では、副腎腫瘍のサイズや増大傾向、合併症を考慮して症例ごとに経過観察または片側副腎摘出術を検討する。4 今後の展望唾液コルチゾール濃度は、外来での反復検査が可能で、遊離コルチゾール濃度との相関が高いことが知られており、欧米では、夜間の唾液コルチゾール濃度がスクリーニングの初期検査として推奨されているが、わが国ではまだ保険適用ではなくカットオフ値の検討が行われておらず、今後の課題である。また、2021年3月に11β-水酸化酵素阻害薬であるオシロドロスタット(同:イスツリサ)の使用がわが国で承認された。メチラポンと比べて服用回数が少なく、多くの症例で迅速かつ持続的にコルチゾールの正常化が得られるとされており、長期使用成績の報告が待たれる。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班 副腎ホルモン産生異常に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)1)出村博ほか. 厚生省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査研究班 平成7年研究報告書. 1996;236-240.2)Lacroix A, et al. Lancet. 2015;386:913-927.3)Yusuke S, et al.Science. 2014;344:917-920.4)Rege J, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107:e594-e603.5)日本内分泌学会・日本糖尿病学会 編. 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック. 診断と治療社;2023.p.182-187.6)Nieman Lk, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93:1526-1540.公開履歴初回2025年1月23日

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透析中の骨粗鬆症患者へのデノスマブは心血管イベントリスクを上げる可能性/京都大

 透析患者の骨粗鬆症の治療では、腎排泄に頼らないデノスマブが使用されている。しかし、その有効性、安全性を他の骨粗鬆症治療薬と比較した大規模研究はこれまでなかった。そこで、桝田 崇一郎氏(京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野)らの研究グループは、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブは、ビスホスホネートと比較し、骨折リスクを低減させる一方で、心血管イベントのリスクを増加させる可能性があることを、電子レセプトデータを用いたコホート研究により明らかにした。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌2025年1月7日オンライン版に掲載された。1,032例でデノスマブと経口ビスホスホネートの効果を比較 研究グループは、DeSCヘルスケアが保有する電子レセプトデータを利用し、標的試験エミュレーションの枠組みのもと、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブと経口ビスホスホネートの有効性と安全性を比較するコホート研究を実施した。 対象は50歳以上の透析患者で、骨粗鬆症の診断を受け、2015年4月~2021年10月までの間にデノスマブもしくは経口ビスホスホネートを新規に開始した患者。主要評価項目は、薬剤使用開始から3年間の骨折と主要心血管イベント(MACE)の発生リスク。 主な結果は以下のとおり。・患者は合計で1,032例が同定された(デノスマブ群658例、経口ビスホスホネート群374例)。・全体の平均年齢は74.5歳で、62.9%が女性だった。・MACEの3年間の発生率はデノスマブ群のほうが高く、リスク差は8.2%(95%信頼区間[CI]:-0.2~16.7)、リスク比は1.36(95%CI:0.99~1.87)だった。・複合骨折の3年間の発生率はデノスマブ群のほうが低く、リスク差は-5.3%(95%CI:-11.3~-0.6)、加重3年リスク比は0.55(95%CI:0.28~0.93)だった。 この結果を受け研究グループは、腎臓または骨粗鬆症の重症度、心血管またはその他の代謝リスクに関する臨床データが不足し、交絡が残存していたこと、安全性アウトカムには腎臓のエンドポイントが含まれていなかったことを研究の限界として指摘し、「経口ビスホスホネートと比較し、デノスマブは骨折リスクを45%低下させ、MACEリスクを36%上昇させると推定された。しかし、この推定値は不正確であり、今後も研究が必要である」と述べている。

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酸化Mg服用患者へのNSAIDs、相互作用を最小限に抑える消化管保護薬は?【うまくいく!処方提案プラクティス】第65回

 今回は、慢性腰痛に対するアセトアミノフェンをセレコキシブへ変更する際の消化管保護薬の選択について、既存の酸化マグネシウムとの相互作用を考慮して処方提案を行った事例を紹介します。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患脊柱管狭窄症、前立腺肥大症、認知症、骨粗鬆症在宅環境訪問診療を2週間に1回訪問看護毎週金曜日通所介護毎週水・土曜日処方内容1.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後2.ドネペジル錠5mg 1錠 分1 朝食後3.セレコキシブ100mg 2錠 分2 朝夕食後4.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後5.アルファカルシドール05μg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による慢性腰痛でアセトアミノフェンを服用していましたが、効果不十分のためセレコキシブ200mg/日への変更が検討されました。NSAIDsへの変更に伴い、高齢者は消化性潰瘍リスクが高い1)ため消化管保護薬の追加が必要と考えましたが、それに加えて酸化マグネシウムへの影響2)が懸念されました。酸化マグネシウムは胃内で水和・溶解することで薬効を発揮するため、胃内pHの上昇は本剤の溶解性と吸収に影響を与え、作用の減弱につながります。そのため、従来のPPIでは胃内pHの上昇により便秘を悪化させる可能性があります。そこで、P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)であるボノプラザンの併用を提案することにしました。ボノプラザンは、従来のPPIと比較して、(1)24時間を通じて安定した胃酸抑制効果がある、(2)食事の影響を受けにくい、(3)酸化マグネシウムの溶解性への影響が比較的少ない、などの特徴があります2)。酸化マグネシウムとの相互作用が最小限であるということは、本症例のような高齢者の便秘管理において重要なポイントとなります。医師への提案と経過訪問診療に同行した際、医師と直接話をする機会を得ました。その場で、ボノプラザンの併用を提案しました。提案の際は、以下の点を具体的に説明しました2)。従来のPPIと異なる作用機序により、24時間を通じて安定した胃酸抑制効果が期待できる。食事の影響を受けにくく、服用タイミングの自由度が高い。従来のPPIと比較して酸化マグネシウムの溶解性への影響が少なく、便秘への影響を最小限に抑えられる可能性がある。医師からは、「高齢者の便秘管理は生活の質に直結する重要な問題であり、薬剤の相互作用を考慮した提案は非常に有用」と評価いただき、ボノプラザンが追加となりました。その後、患者さんは胃部不快感などの症状変化もなく、疼痛増悪もなく経過しています。このように、訪問診療という場面を生かした直接的なディスカッションにより、より深い薬学的介入が可能となった症例でした。なお、医療経済的考察として、P-CABを選択することで薬剤費が増加(約8倍)することが懸念されますが、便秘悪化による追加処方の回避、消化性潰瘍発症リスクの低減、服薬アドヒアランス向上による治療効果の安定化が期待できることから、潜在的なコスト削減効果があると思っています。1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 2020:BQ5-7.2)タケキャブ錠 インタビューフォーム

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疾患の検出や発症予測、血液検査が一助に?

 定期健診で一般的に行われている血液検査の検体には、検査を受けた人の健康状態について現在医師が得ている情報よりも多くの情報が隠されているようだ。全血球計算(complete blood count;CBC)と呼ばれるルーチンで行われている血液検査が、心疾患や2型糖尿病、骨粗鬆症、腎疾患など数多くの疾患の検出や発症の予測に役立つ可能性のあることが新たな研究で示された。米マサチューセッツ総合病院の病理医であるJohn Higgins氏らによるこの研究は、「Nature」に12月11日掲載された。 CBCでは、全身を循環している血液中の赤血球、白血球、血小板数を測定する。Higgins氏は、「CBCは一般的な検査だ。われわれの研究では、CBCは完全に健康な人であっても個人差が大きく、より個別化されたプレシジョンメディシン(精密医療)のアプローチによって、その人の健康状態や疾患の実態をより詳細に把握できる可能性のあることが示された」と説明する。 Higgins氏らは今回、1万2,407人の健常者から採取された血液を用いて、CBCによって測定される10種類の血液成分について調査し、患者ごとのばらつきを計算した。調査した成分は、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、ヘマトクリット値(HCT)、ヘモグロビン濃度(HGB)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、平均血小板容積(MPV)、赤血球分布幅(RDW)である。その結果、性別や人種/民族、年齢の影響を受けることのない、それぞれの患者に固有の「セットポイント(基準値)」が存在することが明らかになった。研究グループは、これらのセットポイントを活用することで、医師は一見健康そうに見える人でも早期の段階で疾患を診断できる可能性があると話す。 次に、セットポイントが推定されてから15年間の追跡データがそろう1万4,371人のデータを用いて、セットポイントと全死亡リスクや主要疾患の発症リスクとの関連を検討した。その結果、多くの指標において、セットポイントの値が高くなるか低くなるにつれ10年間の死亡リスクが上昇することが明らかになった。ただし、HCTとHGBに関しては、セットポイントの値が中間で最もリスクが低く、両極端の値(高過ぎる、低過ぎる)でリスクが上昇することが示された。また、MCHCのセットポイントが低いことは心筋梗塞や脳卒中、心不全(主要心血管イベント〔MACE〕)のリスク上昇と関連し、WBCの高いセットポイントは2型糖尿病、MCVの高いセットポイントは骨粗鬆症、HCTの低いセットポイントは慢性腎臓病、RDWの高いセットポイントは心房細動、RBCの低いセットポイントは骨髄異形成症候群のリスク増加と関連していた。 Higgins氏らは、「セットポイントを調べることで、本研究で対象となった健康な成人の20%以上が、その値の逸脱により、10年間での全死亡や心血管疾患や糖尿病などの早期介入が有効な主要疾患の診断の絶対リスクが2〜5%以上増加することが示唆された」と述べている。 なお、今回の研究の結果は先行研究の結果とも一致しているという。例えば、HGBの低下は心筋梗塞のアウトカムに関連し、MCVは大腿骨近位部骨折に、またWBCは糖尿病に関連していることが示されている。 Higgins氏らは、「これらの関連が生じるメカニズムの解明にはさらなる研究が必要だが、今回の研究では、セットポイントが複数の疾患において、2〜4倍の相対リスクの層別化を可能にすることが示された。これは、家族歴や一部の遺伝子変異を含む一般的な疾患のスクリーニング因子による相対リスクの層別化に匹敵する」と結論付けている。

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多発血管炎性肉芽腫症〔GPA:granulomatosis with polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)の主要疾患の1つで、血清中に出現するANCAと小型血管(臓器内動静脈、細動静脈、毛細血管)の肉芽腫性炎を特徴とする。罹患血管には免疫複合体の沈着はほとんどみられない(pauci-immune)。■ 疫学GPAは国が定める指定難病で、2022年度末の指定難病受給者証所持者数は3,437人であり、登録患者数は徐々に増加している。世界的には100万人当たり96.8人の患者数が報告されている。GPAは、日本を含むアジアよりも欧州、とくに緯度が高い地域で多くみられる傾向がある。■ 病因GPAは他の自己免疫性リウマチ性疾患と同様に、遺伝的要因と環境要因が相まって発症すると考えられている。ヨーロッパおよび北米におけるヨーロッパ系集団を対象としたゲノムワイド関連解析では、HLA-DPA1、DPB1遺伝子領域との関連が報告されており、臨床分類よりもPR3-ANCAとの関連がより強くみられる。日本人集団においてもDPB1*04:01の増加傾向が認められている。非HLA領域では、SERPINA1、PRTN3がヨーロッパ系集団で、ETS1の発現低下に関連する単塩基バリアントが日本人集団で関連することが報告されている。■ 症状GPAは発熱・倦怠感、体重減少、筋痛、関節痛などの全身症状と多彩な臓器症状を呈する疾患である。臓器病変は、眼(34~61%)、耳・鼻・咽喉頭(83~99%)、肺(66~85%)、心臓(8~25%)、消化管(6~13%)、腎臓(66~77%)、皮膚(33~46%)、中枢神経(8~11%)、末梢神経(15~40%)に出現する。眼病変、上・下気道病変、腎病変がとくに重要である。眼病変として、結膜炎、上強膜炎、強膜炎、眼球突出、鼻病変として鼻閉・膿性鼻汁・鼻出血、鼻粘膜の痂疲・潰瘍、鞍鼻、耳病変として滲出性または肉芽腫性中耳炎、咽喉頭病変として口腔内潰瘍、声門下狭窄による嗄声・呼吸困難がみられる。肺では肺肉芽腫性結節、肺胞出血、間質性肺炎がみられ、咳・息切れ・喀血などを呈する。腎では壊死性半月体形成性糸球体腎炎が典型的であり、しばしば急速進行性糸球体腎炎として発症する。■ 予後国内の前向きコホート研究では、治療開始後6ヵ月までの死亡率は1.9%で、治療開始後6ヵ月までに末期腎不全に至ったのは3.7%あった。中長期的には、治療に関連した副作用・合併症が問題となる。欧州における検討では、AAV患者を平均7.3年追跡すると65.6%の患者で治療に関連した副作用・合併症(高血圧、骨粗鬆症、糖尿病、心血管イベント、白内障など)がみられ、グルココルチコイドの早期減量・中止が重要と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)国内における診断には指定難病の診断基準が広く用いられている。国際的には、米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で開発した分類基準(表1)を参考に診断することが多い。疾患特異的自己抗体として抗プロテイナーゼ3(抗PR3)抗体(PR3-ANCA)が知られている。活動期にはCRPが陽性となることが多い。GPAでみられる臓器病変を想定した問診と身体診察に血液検査と画像検査を組み合わせて診断および罹患臓器を検索し、活動性を評価する。表1 GPAの分類基準分類基準を使用する前に以下を考慮する。小・中型血管炎と診断された患者を多発血管炎性肉芽腫症に分類するために、本分類基準を適用すべきである。本分類基準を適用する前に、血管炎類似疾患の除外をすべきである。画像を拡大する10項目の中から該当項目のスコアを合計し、5点以上であれば多発血管炎性肉芽腫症に分類する。(難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班.多発血管炎性肉芽腫症の分類基準[2024年9月20日アクセス]より引用)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ANCA関連血管炎の中でGPAと顕微鏡的多発血管炎(MPA)の標準治療は同一であり、難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班が作成した診療ガイドラインに示されている。標準治療は、寛解導入治療と寛解維持治療で構成される。さらに、長期予後を改善するために、合併症リスクを最小限に抑える必要がある。寛解導入治療ではリツキシマブまたはシクロホスファミドのいずれかを、グルココルチコイドまたはアバコパン(商品名:タブネオス)またはその両者と併用する。リツキシマブはキメラ型抗CD20抗体で、375mg/体表面積1m2を週に1回、4週連続で投与する。シクロホスファミドは15mg/kgを0、2、4、7、10、13週に点滴静注で投与するパターンが標準だが、投与量は年齢と血清クレアチニン濃度で調整し(表2)、投与回数と投与間隔は原疾患の重症度と安全性のバランスで調整する。シクロホスファミドは経口投与(1~2mg/kg/日)も可能だが、副作用の観点から点滴静注が望ましい。表2 年齢および腎機能によるシクロホスファミド投与量の調節画像を拡大する(Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.より引用)アバコパンは経口の補体C5受容体阻害薬で、1回30mgを1日2回朝・夕に内服する。アバコパンは原則的にグルココルチコイドと併用する。アバコパンは腎機能改善に有用である可能性が示されている。アバコパンの副作用として重症肝機能障害(胆道消失症候群を含む)が報告されているので、血管炎の治療に精通した施設での使用が望ましい。標準的な寛解導入療法で使用するグルココルチコイドの投与量は2つの臨床試験結果から、以前よりも大幅に減量された(表3)。表3 寛解導入治療におけるグルココルチコイド減療法画像を拡大する(Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.およびFuruta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.より引用)血清クレアチニン濃度が5.7mg/dLを超える最重症の腎障害を伴うGPAでは、グルココルチコイドとシクロホスファミドに血漿交換が併用される場合がある。MPAおよびGPAに対する血漿交換のメタ解析から、欧州リウマチ学会の推奨では血清クレアチニン濃度が3.4mg/dLを超える腎障害で血漿交換を考慮する場合があるとされている。リツキシマブにより寛解導入した場合には、治療開始後6ヵ月から寛解維持治療に移行し、シクロホスファミド点滴静注の場合には、最終投与後3~4週間で寛解維持治療に移行する。寛解維持治療はリツキシマブまたはアザチオプリンを用いる。寛解維持療法におけるリツキシマブ投与方法は、375mg/体表面積1m2を6ヵ月ごと、500mg/回を6ヵ月ごと、1,000mg/回を4ヵ月または6ヵ月ごとなどがある。アザチオプリンは1~2mg/kg/日を使用し、開始前にNUDT15遺伝子多型検査を実施する。寛解維持治療における有効性はアザチオプリンよりもリツキシマブが有意に優れている。GPAはMPAよりも再発しやすい。寛解維持治療中は症状および検査をモニタリングし、早期に再発の兆候を把握する。腎病変は症状なく再発することがあるため、尿検査を定期的に実施する。寛解維持治療期間は、リツキシマブでは1年6ヵ月よりも4年、アザチオプリンでは1年よりも2年6ヵ月以上が有意に再発を防ぐことが示されている。個々の患者における寛解維持治療期間は、治療開始前の疾患活動性、治療経過、再発歴、合併症を参考に検討する。4 今後の展望GPAの分類基準が改訂され、診断に関する検討は一段落したと考えられる。治療に関する課題として、アバコパンを寛解導入に使用する際に適切なグルココルチコイドの使用方法、リツキシマブの寛解維持療法の標準化、アバコパンの安全性、新規の抗B細胞治療などが挙げられる。5 主たる診療科膠原病リウマチ内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発血管炎性肉芽腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(患者とその家族および支援者の会)膠原病サポートネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)針谷正祥 責任編集. Evidence Base Medicineを活かす膠原病・リウマチ診療. メジカルビュー社.2020.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 針谷正祥ほか編集. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023. 診断と治療社.2023.3)Hellmich B, et al. Ann Rheum Dis. 20242;83:30-47.4)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.5)Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.6)Furuta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.公開履歴初回2024年12月31日

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整形外科の病態と診察・診断

診断の精度を上げ、患者満足度を高める「ニュースタンダード整形外科の臨床」第1巻整形外科の実臨床に真に役立つテキストシリーズ。本シリーズは整形外科日常臨床で使える具体的な知識と技術を提供治療は保存療法を中心に解説リアルな診断・治療の動画を多数掲載最新知識、専門知識、Topics、診療のコツなどを適宜コラムやサイドメモで掲載を特長としている。シリーズ最初の第1巻では、整形外科の病態と診察法・診断法について各分野のエキスパートが執筆。第1章では骨・関節・靱帯・関節包・筋肉・末梢神経の病態生理と治癒機転を、第2章では体表解剖で痛みやしびれのある部位から想定される病態を、第3章では診察法を動画などを交えて解説。第4章では整形外科で代表的な障害・疾患と重要な周辺領域を含めて構成。臨床に役立つ動画多数(80ファイル)。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する整形外科の病態と診察・診断定価12,100円(税込)判型B5判頁数418頁(動画80ファイル)発行2024年11月専門編集・編集委員井尻 慎一郎(井尻整形外科)編集委員田中 栄(東京大学)松本守雄(慶應義塾大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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口の中でグミを細かくできないと要介護や死亡のリスクが高い―島根でのコホート研究

 口の中の健康状態が良くないこと(口腔の不健康状態)が、要介護や死亡のリスクの高さと関連のあることを示すデータが報告された。また、それらのリスクと最も強い関連があるのは、グミを15秒間咀嚼してどれだけ細かく分割できるかという検査の結果だという。島根大学研究・学術情報本部地域包括ケア教育研究センターの安部孝文氏らが、島根県歯科医師会、国立保健医療科学院と共同で行ったコホート研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」に10月17日掲載された。 近年、口腔機能の脆弱状態を「オーラルフレイル」と呼び、全身の健康に悪影響を及ぼし得ることから、その予防や改善の取り組みが進められている。また75歳以上の高齢者に対しては、後期高齢者歯科口腔健康診査が全国的に行われている。安部氏らは島根県内でのその健診データを用いて、口腔機能の脆弱を含めた口腔の不健康状態と要介護および死亡リスクとの関連を検討した。 2016~2021年度に少なくとも1回は後期高齢者歯科口腔健康診査を受けた島根県内在住の後期高齢者から、ベースライン時点で介護保険を利用していた人とデータ欠落者を除外した2万2,747人(平均年齢78.34±2.89歳、男性42.74%)を死亡リスクとの関連の解析対象とした。介護保険を利用することなく死亡した人も除外した2万1,881人(同78.31±2.88歳、男性41.93%)を、要介護リスクとの関連の解析対象とした。なお、要介護の発生は、要介護度2以上と判定された場合と定義した。 ベースライン時に、13項目の指標(残存歯数、主観的および客観的咀嚼機能、歯周組織の状態、嚥下機能、構音障害、口腔乾燥など)により、口腔の不健康状態を評価。このうち、客観的咀嚼機能については、グミを口に含んで15秒間でできるだけ細かく咀嚼してもらい、分割できた数の四分位数により4段階に分類して評価した。22個以上に分割できた最高四分位群(上位4分の1)を最も咀嚼機能が優れている群とし、以下、13~21個の群、4~12個の群の順に、咀嚼機能が低いと判定。3個以下だった最低四分位群(下位4分の1)を最も咀嚼機能が低い群とした。 要介護または死亡の発生、もしくは2022年3月31日まで追跡した結果(平均追跡期間は死亡に関しては42.6カ月、要介護に関しては41.4カ月)、1,407人が死亡し、1,942人が要介護認定を受けていた。口腔の不健康状態との関連の解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、疾患〔高血圧、歯周病、脳血管疾患、肺炎、骨粗鬆症・骨折、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病など〕の既往歴、およびそれらに基づく傾向スコア)を統計学的に調整した。 その解析の結果、口腔の不健康状態に関する13項目の評価指標の全てが、死亡リスクと有意に関連していることが明らかになった。例えば残存歯数が28本以上の群を基準として、0本の群は63%リスクが高く(ハザード比〔HR〕1.63〔95%信頼区間1.27~2.09〕)、客観的咀嚼機能の最高四分位群を基準として最低四分位群は87%ハイリスクだった(HR1.87〔同1.60~2.19〕)。要介護リスクについても、口腔乾燥と口腔粘膜疾患を除く11項目が有意に関連していた。例えば残存歯数が0本ではHR1.50(1.21~1.87)、客観的咀嚼機能の最低四分位群はHR2.25(1.95~2.60)だった。 13項目の口腔の不健康状態の指標ごとの集団寄与危険割合を検討したところ、グミで評価した客観的咀嚼機能の低下が、要介護および死亡の発生との関連が最も強いことが分かった。例えば客観的咀嚼機能の最低四分位群の場合、死亡リスクに対する寄与割合が16.47%、要介護リスクに対する寄与割合は23.10%だった。 本研究により、口腔の不健康状態のさまざまな評価指標が要介護や死亡リスクと関連のあることが明らかになった。著者らは、「高齢者の口の中の健康を良好に保つことが、要介護や死亡リスクを抑制する可能性がある。研究の次のステップとして、歯科治療による介入効果の検証が求められる」と述べている。

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事例014 1,25-ジヒドロキシビタミンD3検査の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では骨粗鬆症の患者に「D007血液化学検査(63)1,25-ジヒドロキシビタミンD3」を行ったところ、A事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。同検査の留意事項には、「(前略)ビタミンD依存症I型(中略)の診断時またはそれらの疾患に対する活性型ビタミンD3剤による治療中に測定した場合に限り算定できる」とあります。事例の「骨粗鬆症」+「ビタミンD欠乏症」には適用がありません。また、「活性型ビタミンD3剤」の投与はありませんでした。したがって、算定要件を満たさないためにA事由が適用となったものと推測できます。カルテも参照したところ、オーダーには「D007(31)25-ヒドロキシビタミンD」の記述がありました。こちらは、「ビタミンD欠乏性くる病」もしくは「ビタミンD欠乏性骨軟化症」の診断時に使用する検査です。実際は、データ入力時に類似の検査を誤って選択していたことが判明しました。しかしながら、いずれの検査からみても該当する傷病名は見当たりません。査定対策として、医師には同様事例の場合に病名付与もしくは医学的必要性のコメントを入力いただけるようにお願いしました。また、入力担当には会計入力時に誤りやすい事例として院内共有しています。

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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妊娠中のビタミンD摂取は子どもの骨を強くする

 妊娠中のビタミンDの摂取は、子どもの骨と筋肉の発達に良い影響をもたらすようだ。英サウサンプトン大学MRC Lifecourse Epidemiology CentreのRebecca Moon氏らによる研究で、妊娠中にビタミンDのサプリメントを摂取した女性の子どもは、摂取していなかった女性の子どもに比べて、6〜7歳時の骨密度(BMD)と除脂肪体重が高い傾向にあることが明らかにされた。この研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」11月号に掲載された。Moon氏は、「小児期に得られたこのような骨の健康への良い影響は、一生続く可能性がある」と話している。 ビタミンDは、人間の皮膚が日光(紫外線)を浴びると生成されるため「太陽のビタミン」とも呼ばれ、骨の発達と健康に重要な役割を果たすことが知られている。具体的には、ビタミンDは、丈夫な骨、歯、筋肉の健康に必要なミネラルであるカルシウムとリン酸のレベルを調節する働きを持つ。 今回の研究では、妊娠14週未満で単胎妊娠中の英国の妊婦(体内でのビタミンDの過不足の指標である血液中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が25~100nmol/L)を対象に、妊娠中のビタミンD摂取と子どもの骨の健康との関連がランダム化比較試験により検討された。対象とされた妊婦は、妊娠14~17週目から出産までの期間、1日1,000IUのコレカルシフェロール(ビタミンDの一種であるビタミンD3)を摂取する群(介入群)とプラセボを摂取する群(対照群)にランダムに割り付けられた。これらの妊婦から生まれた子どもは、4歳および6~7歳のときに追跡調査を受けた。 6〜7歳時の追跡調査を受けた454人のうち447人は、DXA法(二重エネルギーX線吸収法)により頭部を除く全身、および腰椎の骨の検査を受け、骨面積、骨塩量(BMC)、BMD、および骨塩見かけ密度(BMAD)が評価された。解析の結果、介入群の子どもではプラセボ群の子どもと比較して、6〜7歳時の頭部を除く全身のBMCが0.15標準偏差(SD)(95%信頼区間0.04~0.26)、BMDが0.18SD(同0.06~0.31)、BMADが0.18SD(同0.04~0.32)、除脂肪体重が0.09SD(同0.00~0.17)高いことが明らかになった。 こうした結果を受けてMoon氏は、「妊婦に対するビタミンD摂取による早期介入は、子どもの骨を強化し、将来の骨粗鬆症や骨折のリスク低下につながることから、重要な公衆衛生戦略となる」と述べている。 では、妊娠中のビタミンD摂取が、どのようにして子どもの骨の健康に良い影響を与えるのだろうか。Moon氏らはサウサンプトン大学のニュースリリースで、2018年に同氏らが行った研究では、子宮内の余分なビタミンDが、「ビタミンD代謝経路に関わる胎児の遺伝子の活動を変化させる」ことが示唆されたと述べている。さらに、2022年に同氏らが発表した研究では、妊娠中のビタミンD摂取により帝王切開と子どものアトピー性皮膚炎のリスクが低下する可能性が示されるなど、妊娠中のビタミンD摂取にはその他のベネフィットがあることも示唆されているという。

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11月8日 レントゲンの日【今日は何の日?】

【11月8日 レントゲンの日】〔由来〕1895年のこの日、ドイツの物理学者・レントゲンがX線を発見した日にちなみ制定。また、毎年11月2日~8日の1週間を「レントゲン週間」と定めている。関連コンテンツ腹部CT画像の見落としの有無【医療訴訟の争点】事例020 電子画像管理加算での査定【斬らレセプト シーズン3】X線検査でわかる骨粗鬆症【患者説明用スライド】スパイロなしでも胸部X線画像で呼吸機能が予測可能!?乳がん放射線療法の有効性、1980年代以前vs.以降/Lancet

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