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高齢者のポリドクター研究、最適受診施設数は2〜3件か

 複数の医療機関に通う高齢者は多いが、受診する施設数が多ければ多いほど恩恵が増すのだろうか。今回、高齢者を対象とした大規模コホート研究で、複数施設受診が死亡率低下と関連する一方、医療費や入院リスクが上昇することが明らかとなった。不要な入院を予防するという観点からは最適な受診施設数は2〜3件とされ、医療の質と負担を両立させる上での示唆が得られたという。研究は慶應義塾大学医学部総合診療教育センターの安藤崇之氏らによるもので、詳細は9月1日付で「Scientific Reports」に掲載された。 高齢者では、複数の併存疾患を抱える人も少なくない。多疾患は死亡率や要介護、入院率、医療費の増加と関連しており、高齢化社会を特徴とする先進国の医療制度に大きな課題をもたらしている。特に日本では、多疾患を持つ高齢者の増加に伴い、「ポリドクター(polydoctoring、複数の医師による診療)」と呼ばれる現象が社会的な問題となっている。「ポリドクター」は、異なる医師や医療施設が患者を管理することで、ケアの分断や医療費の増加を招くリスクがある点が懸念されている。 著者らは以前、高齢者のポリドクターの背景として、眼疾患や骨粗鬆症、前立腺疾患、変形性関節症といった慢性疾患が関連することを示した。しかし、ポリドクターが患者の転帰にどのように影響するかは十分に解明されていない。そこで著者らは、日本の大規模保険請求データベースを用い、多疾患を抱える高齢者の定期通院施設数(RVF)と、死亡や入院などの転帰との関連を明らかにするため、後ろ向きコホート研究を実施した。 本研究では、DeSCヘルスケア株式会社が提供するデータベースを用い、75~89歳の複数の慢性疾患を有する患者233万8,965人を解析対象とした。追跡期間は2014年4月~2022年12月であった。主要評価項目は全死亡率とした。副次評価項目は全入院、外来ケアで予防可能な疾患(ACSC)による入院、外来医療費が含まれた。いずれの評価項目も多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。各群の比較はRVFが1施設の群を基準として行った。 解析対象の中央値年齢は78歳で、参加者の58%が女性だった。RVFの中央値は2施設、併存疾患の中央値は5つであった。外来医療費の中央値は37万1,230円だった。追跡期間中に33万8,249人(14.5%)が死亡し、122万201人(52.2%)が入院した。そのうち29万1,376人(12.5%)はACSCによる入院であった。 全死亡に対する多変量Cox比例ハザードモデルでは、RVFが0施設の群(定期受診なし)が最も死亡率が高く、RVFの施設数が増えるにつれて生存率は改善した。RVFが0施設の参加者の死亡リスクは最も高く、ハザード比(HR)は3.23(95%CI 3.14~3.33、P<0.0001)であった。一方、RVFが5施設以上の参加者では死亡リスクが最も低く、HRは0.67(95%CI 0.62~0.73、P<0.0001)であった。ACSCによる入院では、2~3施設の群で入院率が最も低く、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇するU字カーブを描いた。 外来医療費についても、RVFの施設数が増えるにつれて費用も増加する傾向が見られた。RVFが5施設以上の参加者では、RVFが1施設の参加者に比べ外来医療費が3.21倍(95%CI 3.17~3.26、P<0.0001)に増大した。 本研究について著者らは、「ポリドクターは死亡率を低下させる一方で、入院率や医療費の増加とも関連しており、ACSCによる入院を最小化する最適な受診施設数は2~3施設であることが示された。これらの結果は、高齢化社会において、ケアの連携や医療資源の管理を改善しつつ、ポリドクターのメリットとコストのバランスをとる戦略の必要性を示している」と述べている。 なお、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇する理由については、関与する医療機関が多すぎるとケアの継続性が損なわれ、全体的なメリットが減少する可能性を指摘している。

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ビタミンD欠乏症が10年間で有意に減少、骨折リスク低減に期待

 骨や筋肉の健康を守るうえで欠かせない栄養素、ビタミンD。その不足は骨粗鬆症や骨折リスクの増大と関わることが知られている。今回、日本の大規模調査で、一般住民におけるビタミンD欠乏の割合がこの10年で有意に減少したことが明らかになった。血中ビタミンD濃度も上昇しており、将来的に骨粗鬆症や骨折の発症リスク低減につながる可能性があるという。研究は東京大学医学部附属病院22世紀医療センターロコモ予防学講座の吉村典子氏らによるもので、詳細は8月27日付で「Archives of Osteoporosis」に掲載された。 ビタミンDは骨密度の維持に不可欠だが、世界的に血中25(OH)D濃度の低値が報告されており、世界的にビタミンD欠乏は広くみられ、とくに南アジア・中東で顕著である。さらに閉経後女性では欠乏率が高く、東アジアでも90%に達するとの報告がある。日本においても閉経後女性のビタミンD不足は深刻である。国内で実施されている「Research on Osteoarthritis/Osteoporosis against Disability(ROAD研究)」は、運動器疾患の予防を目的とした地域住民コホート研究である。2005~2007年調査では、ビタミンD不足・欠乏が9割以上と高頻度に認められ、その傾向は男性よりも女性で顕著であった。その後も同一地域で追跡調査が継続されており、本研究では調査開始から10年後のデータを用いて、ビタミンD欠乏の10年間の推移を明らかにすることを目的とした。 ROAD研究のベースライン調査は2005~2007年に実施され、東京都板橋区(都市部)、和歌山県日高川町(山間部)、和歌山県太地町(沿岸部)の3地域から参加者を募った。都市部の参加者についてはベースライン時に骨密度測定が行われていなかったため除外し、本研究の解析対象は山間部および沿岸部の参加者1,690名とした。血液サンプルは1,683名(男性595名、女性1,088名)から採取され、血中25DおよびインタクトPTH(副甲状腺ホルモン)濃度を測定した。参加者は面接形式の質問票に回答し、骨密度測定とX線検査も受けた。第4回調査は2015~2016年に実施され、1,906名(男性637名、女性1,269名)が参加した。全参加者はベースライン調査と同一の評価を受けた。ビタミンD欠乏および不足は、それぞれ血中25D濃度が20ng/mL未満、20ng/mL以上30ng/mL未満と定義された。 平均血中25D濃度は、ベースラインで23.3ng/mL、第4回調査では25.1ng/mLとなり、有意な上昇が認められた(P<0.001)。ビタミンD不足および欠乏の有病率は、ベースラインでそれぞれ52.9%と29.5%であったのに対し、第4回調査では54.8%と21.6%となり、ビタミンD欠乏が有意に減少していた(P<0.001)。この傾向は男女ともに一貫して認められた。 骨密度に関しては、腰椎(L2-4)および大腿骨頸部のいずれも、第4回調査の方がベースライン調査より有意に高値を示した(腰椎P<0.001、大腿骨頸部P<0.05)。また第4回調査では、男女とも腰椎(L2-4)の骨粗鬆症有病率がベースラインより有意に低下していた(P<0.01)。 本研究について著者らは、「10年間隔の地域住民調査においてビタミンD欠乏症の有病率が有意に減少した。この好ましい傾向は、今後の骨粗鬆症および骨折発症率の低下に寄与する可能性がある」と述べている。 一方で、30~50代の女性では依然としてビタミンD欠乏症の割合が高く、この世代が今後閉経期を迎えて骨粗鬆症リスクの高い年齢層に入ってきた際には、将来的に骨粗鬆症の増加につながる可能性があると警鐘を鳴らしている。著者らは、この点を公衆衛生上の重要な課題として指摘した。

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英語で「骨粗鬆症」、医学用語と患者さんへの言い換え法は?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第33回

医学用語紹介:骨粗鬆症 osteoporosis「骨粗鬆症」について説明する際、患者さんにosteoporosisと言って通じなかった場合、何と言い換えればよいでしょうか? 現場の実感として、osteoporosisはそのままで通じる方もそれなりにいる印象ですが、当然通じないケースもあり、この場合には言い換えが必要になります。講師紹介

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緊急避妊薬の市販化が了承、処方箋なしで購入可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第158回

これまで医師の処方箋が必要だった緊急避妊薬を、処方箋なしで薬局やドラッグストアで購入可能とする方針を厚生労働省が了承しました。長らく議論が重ねられてきた緊急避妊薬の市販化にようやく決着がつきそうです。厚生労働省の専門部会は8月29日、緊急避妊薬(アフターピル)の市販薬としての販売を了承した。医師の処方箋なしで夜間や休日も入手しやすくなり、避妊の失敗や性暴力などによる意図しない妊娠から女性の心身を守りやすくなる。悪用や乱用を懸念する慎重意見があり、検討開始から8年を要した。(2025年8月30日付 日本経済新聞社)8年もかかったのですね。2023年11月から調査研究として16歳以上の女性を対象に、一部の薬局で試験販売が始まっていました。その結果、安全性が確立したことを受け、年齢制限を設けずに一般販売可能となります。ようやくという感じです。今回、緊急避妊薬「ノルレボ錠(一般名:レボノルゲストレル)」1品目についてスイッチOTC化が了承され、「要指導医薬品」として薬局での販売が可能になります。要指導医薬品で販売可能と言っても、いくつか注意点がありますので確認していきましょう。まず、2つの承認条件がついています。1.承認後、少なくとも3年間の安全性などに関する製造販売後調査を実施すること。2.適正使用を確保するため、必要な条件を満たした薬局または店舗販売業の店舗において、緊急避妊薬の取り扱いに係る研修を修了した薬剤師によってのみ販売または授与されるよう、特別な措置を講じること。1については、販売する製薬会社に課されている調査です。薬剤師には、服用した患者さんに副作用などが疑われる場合は、速やかにメーカーや厚生労働省に報告する責務が生じます。3年間の調査結果により、また新たに安全対策が講じられる可能性があるので、そこにも注意が必要です。2については、9月19日からオンライン研修が実施されるとのことです。薬剤師がその研修を修了して厚生労働省に申告することで、研修が修了した薬局名や開局時間、研修を修了した薬剤師の情報などを同省のホームページに掲載する予定としています。また、販売する薬局などの設備や体制について、以下の要件が求められています。1.研修修了薬剤師が販売する。2.プライバシーに十分な配慮ができる体制を整備している。3.近隣の産婦人科医などとの連携体制を構築している。悪用の懸念があることを受け、用法・用量は「性交後72時間以内に本剤1錠を薬剤師から受け取り、その場で服用する」となりました。そのため、配慮ができる設備が必要になります。一般的にスイッチOTC化された要指導医薬品はオンライン服薬指導での販売ができますが、ノルレボ錠はその対象にはなりませんので注意が必要です。今回は2023年の調査研究時に設けられた16歳以上という年齢制限もなくなり、全女性が購入できます。親の同意に関わらず予期せぬ妊娠を希望しない若者を支援するため、親の同意も不要となりました。間口が広げられ、よかったなと思います。薬剤師の面前服用を含む販売方法のあり方については厚生労働省において検討し、一定期間を経た後に見直しを行う予定とされています。

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システム統合型の転倒予防プログラムは高齢者に有効か/JAMA

 世界的に高齢化が急速に進む中、医療資源に乏しい地域に居住する高齢者における効果的な転倒予防戦略のエビデンスは十分ではないとされる。中国・Harbin Medical UniversityのJunyi Peng氏らは、同国農村部の転倒リスクがある高齢者において、プライマリヘルスケアのシステムに組み込まれた転倒予防プログラムの有効性を評価する、12ヵ月間の実践的な非盲検クラスター無作為化並行群間比較試験「FAMILY試験」を実施し、転倒のリスクが有意に低減したことを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月25日号で報告された。128の農村で、バランス・機能訓練の転倒予防効果を評価 本研究は、2023年9月19日~11月15日に中国の4省128農村で被験者を登録して行われた(Harbin Medical Universityなどの助成を受けた)。これらの農村を、プライマリヘルスケアのシステムに統合された転倒予防介入として、参加者にバランス・機能訓練と地域参加型の健康教育を行う群(介入群)、または地域の積極的な関与がない通常ケアとして健康教育のみを行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 解析には、年齢60歳以上で、過去12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を経験、または転倒の懸念があると自己報告した2,610例(介入群[64農村]1,311例、対照群[64農村]1,299例)が含まれた。平均追跡期間は、介入群358.4(SD 31.5)日、対照群357.7(31.1)日であった。ベースラインの参加者全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:66.4~74.2)で、1,553例(59.5%)が女性だった。1年1回以上の転倒報告が有意に少ない 主要アウトカムである、介入後12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を報告した参加者の割合は、対照群が38.3%(497/1,298例)であったのに対し、介入群は29.7%(388/1,308例)と有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.67[95%信頼区間[CI]:0.48~0.91、p=0.01)。 6つの副次アウトカムのうち、次の5つは対照群に比べ介入群で有意に良好であった。(1)1人年当たりの平均転倒件数:介入群0.8(SD 2.4)件vs.対照群1.4(3.5)件、率比(RR):0.66(95%CI:0.46~0.94)、p=0.02 (2)転倒による身体の損傷:15.2%vs.21.6%、OR:0.65(95%CI:0.48~0.88)、p=0.005 (3)30秒椅子立ち上がりテスト(CST:≦12回で転倒リスク上昇):10.4(SD 3.8)回vs.9.9(4.0)回、RR:1.06(1.02~1.09)、p=0.003 (4)4段階バランステスト(FSBT:徐々に難しくなる4つの姿勢をそれぞれ10秒ずつ保持。臨床的に意義のある最小差[MCID]の設定はない)のすべてを完遂した参加者の割合:33.7%vs.26.5%、OR:1.49(95%CI:1.20~1.84)、p<0.001 (5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア):0.89(SD 0.19)点vs.0.85(0.22)点、β:0.03(95%CI:0.02~0.05)、p<0.001 ただし、(3)30秒CSTは、MCID(2回)を満たさなかった。(5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア)は、高齢者の転倒予防のMCID(0.03点)を満たした。TUGテストには差がない もう1つの副次アウトカムであるTimed Up and Go(TUG)テスト(椅子から立ち上がって10フィート[3メートル]歩き、向き直って椅子に戻り座る一連の動作。所要時間≧13.5秒で転倒リスク上昇)では、機能的移動能力を評価した。平均所要時間は、介入群13.3(SD 4.6)秒、対照群13.2(5.6)秒(β:0.18[95%CI:-0.26~0.62]、p=0.42)であり、両群間に差を認めなかった(MCIDは2秒の短縮)。 著者は、「プライマリヘルスケアシステムへの転倒予防プログラムの統合が、中国農村部の高齢者の自己報告による転倒のリスクを有意に低減することが明らかとなった」「このバランス訓練と機能訓練、さらに地域参加型の健康教育から成る介入は、人口の高齢化と医療資源の制約の両方に直面する低・中所得国で拡大する可能性がある」としている。

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骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版

10年ぶり改訂!人生100年時代に必要な、骨粗鬆症の最適な治療法を選択するためのガイドライン骨粗鬆症による骨折は、QOL、ADLを低下させ、生命予後を悪化させる。健康寿命延伸に骨粗鬆症の予防と治療は欠かせない。加齢とともに有病率が高まり、さまざまな疾患と関連する骨粗鬆症についての知識・情報は、専門医のみならず一般医、メディカルスタッフにも必須といえる。2025年版では、新たにCQ(クリニカルクエスチョン)を設定してシステマティックレビューを行い、エビデンスの評価・統合をして推奨文を作成。また、多くの医療従事者が臨床上疑問に思う課題をQ(クエスチョン)として取り上げ、回答を用意した。骨粗鬆症診療における予防と治療、さらに疫学、成因、リエゾンサービス、医療経済など多様な分野を網羅したガイドラインである。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版定価4,400円(税込)判型A4変形判頁数272頁発行2025年7月編集骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団)ご購入はこちらご購入はこちらAmazonでご購入の場合はこちら

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第258回 スマホ保険証は9月19日から開始、院内体制の整備と患者周知を/厚労省

<先週の動き> 1.スマホ保険証は9月19日から開始、院内体制の整備と患者周知を/厚労省 2.新型コロナ感染者、今年最多の3.3万人超 変異株「ニンバス」全国で拡大/厚労省 3.緊急避妊薬の市販化、対面販売義務と面前服用で数ヵ月後販売へ/厚労省 4.治療アプリで慢性疾患医療に変革、アルコール依存症でも/CureApp 5.医療費48兆円で過去最高更新 高齢化で入院費膨張、伸び率は鈍化/厚労省 6.再生医療で女性が死亡、都内クリニックに初の緊急停止命令/厚労省 1.スマホ保険証は9月19日から開始、院内体制の整備と患者周知を/厚労省厚生労働省は9月19日から、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」の機能を搭載したスマートフォン(スマホ)による資格確認を全国の医療機関・薬局で順次開始する。専用リーダーを導入した施設で利用可能となり、対応機関にはステッカーが掲示される予定。患者は事前にマイナポータルを通じてスマホにマイナカードを追加登録しておく必要があり、窓口での初期設定は医療機関の負担になるため避けるよう求められている。スマホでの資格確認に失敗した場合には、マイナポータルにログインし資格情報を画面提示する代替手段も認められ、法令改正で新たに規定された。これにより従来のカード持参が不要となるが、初回利用時は真正性確認の観点からマイナカード併用を求める声も医療界からは出ている。実証事業では大きな支障はなかったが、利用率は1%未満と低調。スマホ設定が難しいという声が患者から寄せられる一方、カードを出す手間が省け受付が円滑になる利点も確認された。厚労省は導入支援として汎用カードリーダー購入費を補助し、病院は3台、診療所や薬局は1台まで半額(上限7,000円)を補填する。医師や医療機関にとっては、今後の診療報酬加算(医療DX推進体制整備加算)におけるマイナ保険証利用率基準引き上げを踏まえ、対応が経営上も不可避となる。中央社会保険医療協議会(中医協)では「導入を拙速に進めれば窓口混乱を招く」との懸念が示され、国民への周知徹底とマニュアル整備を要請。対応できる施設は当面限られるとみられ、現場には患者説明やトラブル対応の負担が予想される。医療従事者は制度改正を理解し、来院前準備の重要性を患者に伝えることが求められる。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「スマホ保険証」9月19日から全国で順次開始、対応可能な施設にはステッカー掲示へ(読売新聞) 3) スマホを用いた資格確認が2025年9月から順次開始(日経メディカル) 4) スマホ保険証を9月19日から運用開始 汎用カードリーダーの専用ページ、8月29日に開設(CB news) 5) 2025年9月19日の「スマホマイナ保険証」利用開始に向け法令を整理、スマホマイナ保険証対応医療機関はステッカー等で明示-中医協・総会(Gem Med) 2.新型コロナ感染者、今年最多の3.3万人超 変異株「ニンバス」全国で拡大/厚労省新型コロナウイルスの感染が全国的に拡大し、厚生労働省によると8月18~24日の新規感染者数は3万3,275人と前週比5割増で、今年最多を記録した。定点医療機関当たり8.73人で10週連続の増加となり、宮崎21.0人、鹿児島16.8人、長崎14.8人など九州を中心に高水準が続く。愛知2,045人、東京1,880人など大都市圏でも増加が顕著だった。国立健康危機管理研究機構は、国内で検出されたコロナ株の約8割がオミクロン株派生の「ニンバス(NB.1.8.1)」に置き換わったと報告。強烈なのどの痛みが特徴とされ、新学期に伴い10代以下への拡大が懸念される。各地でも警戒が強まっており、新潟では1医療機関当たり12.2人と前週比1.5倍に急増し、インフルエンザ注意報基準を上回った。宮城も10.0人と急増、静岡は7ヵ月ぶりに全県に注意報を発令し、東部がとくに多い。熊本は906人で全国平均を上回り、宮崎も589人と1.5倍に増加し、患者の4割が高齢者、3割が未成年だった。鹿児島でも患者数が1週間で958人に達し、強い咽頭痛を訴えるケースが目立っている。厚労省や自治体は「重症化リスクは従来株と大差ないが、感染拡大防止が重要」とし、手洗い・換気・マスクの着用徹底を呼びかけている。とくに新学期を迎える子ども世代や高齢者との接触には注意が必要で、感染症流行の二重負担を避けるためにも、医療機関には今後の外来・入院需要への対応力が問われる。 参考 1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況(厚労省) 2) コロナ感染者数3万人上回る 前週から5割増加(CB news) 3) 新型コロナ感染者数、ことし最多…10週連続の増加 変異株「ニンバス」のどの強い痛みが特徴(日テレ) 3.緊急避妊薬の市販化、対面販売義務と面前服用で数か月後販売へ/厚労省厚生労働省の専門部会は8月29日、緊急避妊薬レボノルゲストレル(商品名:ノルレボ)の市販化を了承した。医師の処方箋なしで薬局・ドラッグストアで購入が可能となり、区分は要指導(特定要指導)医薬品となる予定。販売については、年齢制限なし・保護者の同意不要で、研修修了薬剤師による対面販売とその場での服用(面前服用)を原則義務付ける。性交後72時間以内の単回内服で妊娠阻止率は約80%、WHOは必須医薬品としてOTCを推奨している。国内では試験販売(2023年度145薬局→2024年度339薬局)を経て、承認審査が進み、正式承認・体制整備後の数ヵ月後から販売を開始する。価格は未定だが試験販売では7,000~9,000円となっていた。販売店舗は厚労省が一覧を公表する予定。面前服用は転売防止などが目的だが、プライバシー侵害やアクセス阻害の懸念もあり、一定期間後に見直しを検討するという。購入時は身分証確認、薬剤師説明→服用、3週間後の妊娠確認を推奨。性暴力が疑われる場合はワンストップ支援センターと連携する。市販化まで約9年を要した背景には、乱用懸念・性教育の遅れ・薬剤師体制などの議論があった。専門家は、緊急避妊薬は最終手段であり、低用量ピル活用やコンドーム併用(STI対策)など平時の避妊行動の対策も求めている。 参考 1) 緊急避妊薬のスイッチOTC化について[審査等](厚労省) 2) 緊急避妊薬の薬局販売承認へ 診察不要に、年齢制限なし(日経新聞) 3) 「緊急避妊薬」医師の処方箋なくても薬局などで販売へ(NHK) 4) 面前服用、販売する薬局数…緊急避妊薬のアクセス改善に課題(毎日新聞) 4.治療アプリで慢性疾患医療に変革、アルコール依存症でも/CureAppアルコール依存症治療の新たな選択肢として、沢井製薬は9月1日から国内初の「減酒」治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)」の提供を開始する。開発は医療IT企業CureAppが担い、国から医療機器として承認を受け、公的医療保険の適用対象となる。患者は日々の飲酒量や体調をスマホに記録し、アプリから助言を受ける仕組みで、データは医師と共有され診察時の行動の振り返りや目標設定に活用される。医師の処方に基づき利用され、自己負担は3割で月額約2,400~3,000円、最大6ヵ月使用が可能。専門医でなくとも治療支援ができる点も特徴で、治験では飲酒量の多い日の減少効果が確認されている。背景には、依存症診療における診察時間の短さや治療継続の難しさがある。アプリは患者と医師のコミュニケーションを補完し、より早期の介入を後押しすると期待される。沢井製薬は、ジェネリック医薬品依存から脱却し、デジタル医療機器を新たな収益源とする戦略を強調している。一方、デジタル治療の普及は高血圧分野でも進展する。日本高血圧学会は『高血圧管理・治療ガイドライン2025』を改訂し、血圧管理アプリによる介入を初めて推奨に盛り込んだ。推奨の強さは「2」、エビデンスの強さは「A」とし、降圧薬に匹敵する効果や費用対効果も確認されている。生活習慣改善や共同意思決定を重視する中で、治療アプリは患者と医師の信頼関係を深めるツールとして位置付けられている。アルコール依存症や高血圧といった慢性疾患領域で、治療アプリが相次ぎ制度化されることは、臨床現場にデジタル治療導入を促し、診療報酬体系や医療経済にも影響を与えるとみられる。 参考 1) アルコール依存症患者のための「減酒」アプリ、沢井製薬が9月提供開始…公的医療保険の適用対象に(読売新聞) 2) 国内初の減酒治療アプリ 沢井製薬が9月1日から販売 専門医でなくても依存症患者に対応(産経新聞) 3) アルコール依存症の治療支援アプリ 医療機器として国が初承認(NHK) 4) 高血圧管理・治療ガイドライン改訂 治療アプリを推奨「患者と医療者がしっかり話し合って共同で降圧」(ミクスオンライン) 5) 高血圧管理・治療ガイドライン2025(日本高血圧学会) 5.医療費48兆円で過去最高更新 高齢化で入院費膨張、伸び率は鈍化/厚労省厚生労働省は8月29日、2024年度の概算医療費(速報値)が48兆円に達し、前年度比1.5%増で過去最高を更新したと発表した。増加は4年連続だが、伸び率は前年の2.9%から鈍化し、コロナ禍前の水準に近付きつつある。概算医療費は労災や全額自費を除いた、公的保険・公費・患者負担を集計したもので、国民医療費の約98%を占める。診療種類別では、入院が2.7%増の19.2兆円と全体を押し上げ、入院外(外来・在宅)は0.9%減の16.3兆円と4年ぶりに減少した。歯科は3.4兆円で3%超の伸び、調剤は8.4兆円で1%強の増加となった。医療機関別では病院25.9兆円(2.0%増)、診療所9.6兆円(1.0%減)で、とくに大学病院は4.2%増と高度医療の影響が大きかった。一方、個人病院は22%減少した。国民1人当たりの医療費は38万8,000円(前年より8,000円増)。75歳以上は97万4,000円に達し、75歳未満(25万4,000円)との差は約4倍に拡大している。高齢化が医療費を押し上げる構造が鮮明となった。疾患別では、新型コロナ関連の医療費は2,400億円と前年度比4割以上減少。感染症流行が落ち着いたことが全体の伸び率鈍化につながった。後発医薬品の普及も進み、ジェネリックの数量シェアは90.6%と初めて9割を超えた。厚労省は「高齢化と医療の高度化の影響は続き、医療費は今後も増加傾向にある」と指摘。入院費膨張や人材確保など医療機関の経営への影響は避けられず、診療報酬や医療提供体制の在り方が改めて問われている。 参考 1) 「令和6年度 医療費の動向」~概算医療費の年度集計結果~(厚労省) 2) 医療費、過去最高の48兆円 4年連続で増加 厚労省(時事通信) 3) 厚労省 令和6年度の医療費の概算48兆円 4年連続で過去最高更新(NHK) 4) 24年度の医療費48兆円、4年連続過去最大 伸び率は鈍化(CB news) 6.再生医療で女性が死亡、都内クリニックに初の緊急停止命令/厚労省厚生労働省は8月29日、東京都中央区の「東京サイエンスクリニック」(旧ティーエスクリニック)で自由診療として再生医療を受けた外国籍の50代女性が死亡した事例を受け、同院に対して再生医療等安全性確保法に基づく緊急命令を出し、当該治療の一時停止を命じた。死亡例を契機とした同法に基づく緊急命令は初めてとなる。併せて、治療に用いた特定細胞加工物を製造した「コージンバイオ株式会社 埼玉細胞加工センター」に対しても製造停止を命じた。厚労省は原因究明を進める方針を示している。厚労省の発表によると、今月20日、同クリニックで慢性疼痛治療を目的に、患者本人の脂肪組織から取り出した間葉系幹細胞を増殖させ、点滴で静脈投与する自由診療が実施された。治療中に女性は急変し、急速に心停止に陥り、搬送先で死亡が確認された。27日、クリニックから法第18条に基づく「疾病等報告」が提出され、死因はアナフィラキシーショックの可能性と説明されたが、原因は未確定であり、さらなるリスク防止のため緊急命令が発出された。命令は、当該クリニックが提供する治療計画「慢性疼痛に対する自己脂肪由来間葉系幹細胞による治療」および類似の細胞加工を用いた再生医療の提供を全面的に停止するもの。加えて、埼玉細胞加工センターにも、同様の製造方法による特定細胞加工物の一時停止を命じた。厚労省は立ち入り検査や詳細な原因究明を進め、再発防止策を徹底するとしている。また、死亡事例後、医療機関および運営法人は名称変更を届け出ていた。22日に「ティーエスクリニック」から「東京サイエンスクリニック」に、25日には「一般社団法人TH」から「一般社団法人日本医療会」に変更されている。厚労省は経緯を精査し、透明性の確保に努める方針。今回の措置について厚労省は「患者が死亡し、その原因が未解明である以上、再生医療との関連が否定できず、さらなる疾病発生を防ぐ必要がある」と説明。再生医療の安全性確保を最優先課題として取り組む姿勢を強調した。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚労省) 2) 再生医療を受けた患者、アナフィラキシーショックで死亡か…医療機関は一時停止の緊急命令受ける(読売新聞) 3) 自由診療の細胞投与で50代女性死亡 クリニックに治療停止命令(毎日新聞) 4) 再生医療で50代女性死亡 厚労省が都内のクリニックに治療停止命令(朝日新聞)

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2型糖尿病治療薬、国際的持続評価システムの最新結果/BMJ

 中国・四川大学のKailei Nong氏らは、2型糖尿病治療薬の無作為化比較試験についてリビングシステマティックレビュー(living systematic review:LSR)とネットワークメタ解析(NMA)を用いて評価するシステムを開発。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)、フィネレノンおよびチルゼパチドは、死亡、心血管疾患、慢性腎臓病および体重減少に関してリスク依存的に異なる有益性をもたらすが、薬剤特有の有害事象があることを明らかにした。著者は、「本評価システムは、最新のエビデンスを随時統合できるよう設計されている。エビデンスを持続的に更新する国際的なシステムとして、政策立案者、臨床医および患者の情報に基づく意思決定を支援し、研究の無駄を減らす可能性がある」と述べている。BMJ誌2025年8月14日号掲載の報告。869試験、49万3,168例のデータを解析 研究グループは、MedlineおよびEmbaseを用い、2型糖尿病治療薬を相互に、またはプラセボあるいは標準治療と比較した24週以上の無作為化並行群間比較試験について、毎月検索を実施し(本報告では2024年7月31日までの検索を対象)、頻度(frequentist)ランダム効果モデルとGRADEアプローチを用いたLSRおよびNMAを行った。 LSRとNMAは、少なくとも年2回更新。本報告のLSRとNMAには、869試験(2022年10月以降に53試験を追加)の計49万3,168例の患者が含まれ、13の薬剤クラス(63種類の薬剤)と26の重要なアウトカムに関するデータが報告された。薬剤ごとに有益性が異なり、薬剤特有の有害事象も確認 有益性は、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、およびフィネレノン(慢性腎臓病を有する患者に限る)について、心血管および腎臓へのベネフィットが確認された(エビデンスの確実性:中~高)。 体重減少に最も有効な薬剤は、チルゼパチド(平均差[MD]:-8.63kg[95%信頼区間[CI]:-9.34~-7.93]、エビデンスの確実性:中)、およびorforglipron(-7.87kg[-10.24~-5.50]、エビデンスの確実性:低)の順で、次いで他の8種類のGLP-1受容体作動薬(エビデンスの確実性:高~中)であった。 薬剤の絶対的有益性は、心血管および腎アウトカムに対するベースラインのリスクによって大きく異なっていた。リスク層別化された薬剤の絶対効果は、インタラクティブツールにまとめている。 薬剤特有の有害事象については、SGLT2阻害薬は性器感染症(オッズ比[OR]:3.29[95%CI:2.88~3.77]、エビデンスの確実性:高)、糖尿病性ケトアシドーシス(2.08[1.45~2.99]、エビデンスの確実性:高)、切断(1.27[1.01~1.61]、エビデンスの確実性:中)を、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬は重度胃腸障害(チルゼパチドで最もリスクが増加、OR:4.21[95%CI:1.87~9.49]、エビデンスの確実性:中)、フィネレノンは重度高カリウム血症(OR:5.92[95%CI:3.02~11.62]、エビデンスの確実性:高)を、チアゾリジン系薬剤は主要な骨粗鬆症性骨折および心不全による入院、スルホニル尿素薬とインスリンおよびDPP-4阻害薬は重度低血糖のリスクをそれぞれ増加させる可能性が示された。 神経障害や視覚障害などその他の糖尿病関連合併症に対する効果については、エビデンスの確実性が低または非常に低の結果しか得られなかった。また、関心が高い認知症に関しても、GLP-1受容体作動薬が認知症を軽減するかどうかは不確実であった(OR:0.92[95%CI:0.83~1.02]、エビデンスの確実性:低)。

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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産婦人科医が授業に、中学生の性知識が向上か

 インターネットは、性に関する知識を求める若者にとって主要な情報源となっているが、オンライン上には誤情報や有害なコンテンツが存在することも否定できない。このような背景から、学校で行われる性教育の重要性が高まっている。今回、婦人科医による性教育が、日本の中学生の性に関する知識と意識の大幅な向上につながる、とする研究結果が報告された。ほとんどの学生が産婦人科医による講義を肯定的に評価していたという。研究は、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は「BMC Public Health」に5月28日掲載された。 インターネットへのアクセスが容易になり、子どもたちの性的な内容への露出に対する懸念が高まったことにより、多くの国々が国際的なガイドラインを導入し、包括的な性教育(CSE)プログラムを推進するようになった。2000年には、汎米保健機構(PAHO)と性の健康世界学会(WAS)は、世界保健機構(WHO)と共同で「セクシュアル・ヘルスの推進 行動のための提言」を作成し、全ての人にCSEを提供することを提案した。 日本でも、この提言に呼応し、適切な性に関する知識を得るためのCSEプログラムが求められている。また、世界的に多くのCSEプログラムでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種が重要な要素として含まれている。これは、HPVと子宮頸がんとの関連が確立されており、子宮頸がんは「予防可能」であることに由来する。このような背景を踏まえ著者らは、専門医による性教育の講義が、日本の中学生の経口避妊薬(OC)、避妊、子宮頸がん、HPVワクチン接種に関する知識と意識に与える影響を評価することとした。授業の前後にアンケート調査を実施し、知識と意識の変化を調査した。 本研究では、日本国内の公立および私立の中学校37校に通う中学3年生の男女を対象とした。講義で取り上げたトピックは、文部科学省のCSEガイドラインに従い、1:男女の体の違い、2:月経の問題とその管理、3:避妊方法、4:LGBTQやデートDVに関する問題、5:性感染症、6:子宮頸がんとHPVワクチン、の6つとした。生徒は講義の前後にアンケートに回答し、講義内容に関する知識と意識を評価された。 事前アンケートには5,833名、事後アンケートには5,383名が回答し、男女比はほぼ均等だった。講義に先立ち実施した事前アンケートでは、性に関する情報源と現状の知識について回答を得た。情報源として「インターネットやYouTube」と回答した生徒の割合が最も多かったが、男女別に見ると男子学生の割合が有意に高かった。女子学生は「学校の先生や授業」や「両親・家族」を情報源として挙げる割合が高かったのに対し、男子学生では、「友人」や「この種の情報を得たことがない」と回答する割合が高かった。また、講義前はOC、子宮頸がん、HPVに関する知識が乏しく、多くの学生がHPVワクチンに対して不安を抱いていた。 講義後、OCに関する知識(使用可能年齢や副作用など)が向上し、生理痛の緩和など避妊以外のメリットを認識する学生が増えた。また、避妊方法の理解も著しく深まり、「避妊は男性が責任を持つべき」と考える学生の数は減少した。さらに、子宮頸がんやHPVに関する知識も大幅に向上し、HPVワクチンの接種を希望する学生の割合も増加した。 講義後に実施したアンケートでは、ほとんどの学生が今回の講義を肯定的に評価し、5段階評価で4または5を選択した。男子学生よりも女子学生の方が、わずかに高い評価をしていた。 本研究について著者らは「本研究は、国際機関や先行研究の提言を踏まえ、日本の若者にとって包括的でアクセスしやすい性教育の必要性を明確にした。婦人科医などの専門医が関与することで、性に関する幅広い健康トピックについて正確かつ最新の情報を提供でき、こうした介入の効果をさらに高めることができるだろう」と述べている。

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大腸がんスクリーニング、CT検査が便中DNA検査よりも有用か

 大腸がんのスクリーニングにおいては、マルチターゲット便中DNA検査(mt-sDNA検査)よりも大腸CT検査(CT Colonography;CTC)の方が、臨床的有効性と費用対効果の点で優れていることが、新たな研究で示された。米ウィスコンシン大学医学部・公衆衛生学部放射線医学・医学物理学分野のPerry Pickhardt氏らによるこの研究結果は、「Radiology」に6月10日掲載された。 大腸がんのスクリーニングでは、現在も大腸内視鏡検査が主流であるとPickhardt氏は説明する。大腸内視鏡検査は侵襲性が高いものの、検査中に前がん状態のポリープを切除できるため、依然として検診のゴールドスタンダードであるという。しかし、鎮静薬を使い、細くて柔軟なチューブを肛門から結腸に挿入するこの検査に不安を感じ、mt-sDNA検査かCTCを選択する患者は少なくない。mt-sDNA検査は、患者から採取した便サンプルに含まれるDNAを解析して腫瘍細胞に由来する変異遺伝子や異常なメチル化パターンなどを検出する。一方、CTCでは、肛門から炭酸ガスなどを注入して大腸を膨らませた状態でCT撮影を行い、ポリープなどの病変の有無を調べる。 メディケアは現在、mt-sDNA検査とCTCの両方をカバーしている。このことからPickhardt氏らは、これらの侵襲性の低い2種類の検査方法の臨床的有効性と費用対効果を直接比較することにした。そのために同氏らは、米疾病対策センター(CDC)の2017年のデータを基にマルコフモデル(ある状態の別の状態への変化を確率的に予測するモデル)を構築し、45歳の米国人口を代表する1万人の仮想的なコホートを対象に、3つの大腸がんスクリーニング戦略を評価した。3つの戦略とは、1)3年ごとのmt-sDNA検査、2)従来型CTC戦略(6mm以上のポリープは全て内視鏡的切除を行い、検査を5年間隔で実施)、3)CTCサーベイランス戦略(6〜9mmのポリープに対しては3年ごとにCTCで経過観察を行い、10mm位以上のポリープは内視鏡的切除を行う)であった。 その結果、大腸がんの累積発症率は、スクリーニングを受けない場合での7.5%(752人)から、mt-sDNA検査を受けることで59%(310人)、従来型CTC戦略を受けることで75%(190人)、CTCサーベイランス戦略を受けることで70%(223人)減少することが示された。 また、全ての戦略において増分費用効果比(ICER)が支払い許容額の基準である10万ドル/1QALY(質調整生存年)を大きく下回り、これらの戦略はスクリーニングを受けない場合と比べて費用対効果が高いと考えられた。1QALY獲得するのにかかる費用は、mt-sDNA検査で8,878ドル(1ドル145円換算で約128万7,000円)であった。一方、CTCの両戦略は、スクリーニングを行わない場合よりも1人当たりの総医療費が少なく(スクリーニングなし:4,955ドル〔約71万8,500円〕、CTCサーベイランス戦略:3,913ドル〔約56万7,000円〕、従来型CTC戦略:4.422ドル〔約64万1,000円〕)、費用対効果が優れているとともに医療費の節約にもつながることが示された。 研究グループは、「これらの結果は、CTCが従来の大腸内視鏡検査やmt-sDNA検査の中に「正当な最前線のスクリーニングオプション」として加わることができることを示している」と結論付けている。 ただし、CTCを受けるには、検査の前に強力な下剤を使用して結腸を空にする必要がある。それでもPickhardt氏は、「CTCは骨粗鬆症や動脈硬化などの他の問題を調べるのにも有用だ」とメリットを強調している。 研究グループはまた、今回のシミュレーションはこれまでの研究結果と一致しているものの、シミュレーションでは検査方法と大腸がん発症率の低下との間の直接的な因果関係を証明することはできないことにも言及している。

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ウェイトベストは減量に伴う骨密度低下の抑制に効果なし

 ウェイトベストは、減量に伴う骨密度の低下を予防する手段として期待が寄せられている。これは、ウェイトベストを着用してウォーキングやジョギングを行うことで、体にかかる負荷を維持しながら骨組織に機械的ストレスを与えることができ、減量に伴う骨量の喪失を最小限に抑えられると考えられているからだ。しかし、新たな臨床試験により、この考え方は科学的に裏付けられないことが明らかになった。ウェイトベストを着用しても、減量に伴う骨密度の低下を有意に抑制する効果は確認されなかったのである。この研究の詳細は、「JAMA Network Open」に6月20日掲載された。 論文の筆頭著者である米ウェイクフォレスト大学医学部内科・老年学・老年医学分野のKristen Beavers氏は、「体重の減少を外部から補ったり、運動で機械的負荷を増やしたりすることが骨密度の維持につながることを期待していたが、われわれの研究結果は、これらの戦略だけでは不十分であることを示唆している」と述べている。 研究グループによると、過体重の高齢者に対しては、心臓や関節の健康を守るために減量が推奨されているが、減量は骨粗鬆症にもつながり得る。そこで研究グループは、肥満の高齢者150人(平均年齢66.4歳、女性74.7%)を対象にランダム化比較試験を実施し、体重の約10%の減少を目的とする減量介入に加えウェイトベストを着用することが骨密度に与える影響を検討した。対象者は、12カ月間にわたり部分的食事代替プログラムと栄養教育から成る減量介入のみを受ける群、減量介入に加えウェイトベストを1日8時間以上着用する群、減量介入に加えレジスタンス運動を行う群に50人ずつ割り付けられた。主要評価項目は股関節の骨密度の12カ月間の変化とし、骨密度は、CTによる海綿骨の単位体積当たりの骨密度(体積骨密度〔vBMD〕)とDXA(二重エネルギーX線吸収測定法)による単位面積当たりの骨密度(表面骨密度〔aBMD〕)の2つを評価した。 12カ月間の減量により、全ての群で体重が9.0~11.2%減少した。それとともに、全ての群で股関節のvBMDが1.2〜1.9%有意に低下していた。vBMDの低下量に、減量介入+ウェイトベスト群と減量介入群の間で有意な差は認められず、また減量介入+ウェイトベスト群と減量介入+レジスタンス運動群の比較でも非劣性であることが示された。さらに、aBMDについても、結果は同様であった。 こうした結果ではあったもののBeavers氏は、「だからと言って、高齢者がウェイトベストの使用をやめるべきだということにはならない」と強調する。ウェイトベストの重みは、体重減少、筋力増強、椅子からの立ち上がりといった日常的な能力の向上に役立つ可能性があるからだ。それと同時に同氏は、「医師らは、高齢者の骨の健康を守るために他の方法を考え出す必要があるだろう」と述べている。 Beavers氏は、「高齢者の骨折は、人生を変えるほどの重大事故になりかねない。この研究結果は、減量中に骨を守るために、従来の運動たけに頼るのではなく、新たなアプローチ、あるいは複数のアプローチを組み合わせる必要があることを改めて強調するものだ」と述べている。

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週1回のカプセル剤が統合失調症の服薬スケジュールを簡略化

 週1回のみの服用で胃の中から徐々に薬を放出する新しいタイプのカプセル剤によって、統合失調症患者の服薬スケジュールを大幅に簡略化できる可能性が新たな研究で明らかになった。この新たに開発された長時間作用型経口リスペリドンは、患者の体内のリスペリドン濃度を一定に保ち、毎日服用する従来の治療と同程度の症状コントロールをもたらすことが臨床試験で示されたという。製薬企業のLyndra Therapeutics社の資金提供を受けて米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学准教授のGiovanni Traverso氏らが実施したこの研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」7月号に掲載された。 Traverso氏は、「われわれは、1日1回飲む必要があった薬を、週1回飲むだけで済むように作り変えた。この技術はさまざまな薬剤に応用可能だ」とMITのニュースリリースの中で述べている。 今回報告された最終段階の臨床試験の結果は、Traverso氏の研究室が10年以上かけて取り組んできた研究の成果だ。試験で使用されたカプセル剤は、マルチビタミンほどの大きさである。飲み込むと、胃の中でカプセル剤の6本のアームが星形に広がって胃の出口を通過できない大きさになり、そのまま胃の中で漂いながらアームから約1週間かけて徐々に薬を放出する。アームは溶解性で、最終的には分離して消化管を通過して排出される。Traverso氏の研究室は2016年、この星形の薬剤送達デバイスの開発について報告している。 試験では、米国内の5施設の統合失調症または統合失調感情障害を有する患者83人(平均年齢49.3歳、男性75%)を対象に、2種類の用量の長時間作用型経口リスペリドン「LYN-005」の有用性を検証した。リスペリドンは統合失調症の治療薬として広く使用されており、Traverso氏らによると、多くの患者が即放性のリスペリドンを1日1回服用しているという。試験参加者は、試験開始1週目は即放性リスペリドン(2mgまたは6mg)を1日1回服用する導入期間を経た後、LYN-005を週1回、計5回服用した。初回のLYN-005投与週のみ、半用量の即放性リスペリドンも併用した。試験を完遂したのは47人だった。 44人を対象に薬物動態を解析した結果、LYN-005の全用量において活性成分の持続放出が確認された。LYN-005と即放性リスペリドンの血中濃度指標における幾何平均比は、1週目の最小血中濃度(Cmin)で1.02、5週目では、Cminで1.04、最大血中濃度(Cmax)で0.84、平均血中濃度(Cavg)で1.03であり、いずれも事前に設定した薬物動体評価の基準を満たした。副作用に関しては、一部の患者に短期的な軽度の胃酸逆流や便秘が見られたが、全体的には少なく、重篤な治療関連有害事象の発生は1件だった。 こうした結果を受けてTraverso氏は、「この臨床試験では、カプセル剤が予測された薬物血中濃度を達成したことと、多くの統合失調症患者で症状をコントロールできることが確認された」としている。また、論文の筆頭著者である米ニューヨーク医科大学精神医学・行動科学臨床教授のLeslie Citrome氏は、「慢性疾患を抱える人の治療を阻む最大の問題の一つが、薬が継続的に服用されないことだ。それによって症状が悪化し、統合失調症の場合、再発や入院につながる可能性がある。薬を週に1回だけ経口摂取するという選択肢は、注射製剤よりも経口薬を好む多くの患者にとって服薬アドヒアランスの維持を助ける重要な選択肢になる」とニュースリリースの中でコメントしている。 Traverso氏らは、米食品医薬品局(FDA)に対するこのリスペリドンの投与アプローチの承認申請に先立ち、より大規模な第3相臨床試験の実施を予定している。また、避妊薬など他の薬剤の投与にもこのデバイスを用いる初期段階の臨床試験も開始予定としている。

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不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

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女性の低体重/低栄養症候群(FUS)は社会で治療する疾患/肥満学会

 日本肥満学会は、日本内分泌学会との合同特別企画として、6月6日(金)に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)-背景、現況、その対応-」のシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、なぜ肥満学会が「女性の痩せ」を問題にするのか、その背景やFUSの概念、対応などが講演された。わが国の肥満の統計から見えてきた「女性の痩せ問題」 「なぜ、肥満学会が『痩せ』を問題とするのか」をテーマに同学会理事長の横手 幸太郎氏(千葉大学 学長)が講演を行った。 わが国のBMI25以上の成人肥満人口は男性では31.7%、女性では21%あり、なかでもBMI30以上の高度肥満が増加している。とくにアジア人では、より低いBMIから肥満に関連する健康障害が生じることから「肥満症診療のフローチャート」や「肥満症治療指針」などを定め、『肥満症診療ガイドライン2022』(日本肥満学会 編集)で広めてきた。 これらの作成の過程で、わが国の20~39歳の女性では、BMI18.5以下の人口が多く、女性の痩せすぎが顕著であることが判明した。痩せすぎると健康障害として免疫力の低下、骨粗鬆症、不妊、将来その女性から産まれてくる子供の生活習慣病リスクなどが指摘されている。また、近年では、糖尿病や肥満症治療で使用されるGLP-1受容体作動薬などが痩身などの目的で適応外の人に使用されることで、消化器症状、栄養障害、重症低血糖などの健康障害の報告もされている。こうした状況に鑑み、「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するワーキンググループ」を立ち上げ、適正使用の啓発に努めてきた。こうした関連もあり、同学会が健康障害への介入ということで、「FUSの概念を提唱し、診療すべき疾患と位置付けていく」と経緯の説明を行った。診断基準、治療法の確立で低体重/低栄養の健康被害をなくす 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の概念提唱の背景」をテーマに小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門 特命教授)が、FUS概念提唱の背景を講演した。 肥満と低体重はともに健康障害のリスクであり、メタボリックシンドロームは肥満と関連し、サルコペニアは痩せと関連するという疫学データを示した1)。 また、低体重や低栄養が健康障害リスクであることの認知は高齢者医療を除き、まだ不十分であり、医療制度や公衆衛生対策では肥満対策が現在も重視され、高齢者以外の低体重/低栄養のリスクは学術的・政策的にも軽視されていると指摘した。たとえば具体的な健康障害として、肥満も低体重も月経周期の長さや規則性に悪影響を来すことが知られており、若年女性におけるBMIと骨密度の関係では、いずれの年代でもBMIが20を下回ると急激に骨塩量が低下するという2)。 そして、わが国の若年女性の低体重/低栄養に関わる問題として、20代女性の2割がBMI18.5以下と低体重率が高いこと、月経周期異常、骨量減少、貧血などの低体重で多くみられる健康障害があること、健康障害を伴うような痩身への試みとして「GLP-1ダイエット」に代表される「痩せ志向」などがある。とくに「GLP-1ダイエット」は、法律、倫理、臨床上の問題が絡む複合的な課題であると警鐘を鳴らした。 今後の展開として、小川氏は低体重/低栄養の学術上の課題として、低体重(BMI18.5以下)の定義へのさらなる科学的エビデンスの集積とともに、疾患概念確立のために他の関連する学会とのワーキンググループによる活動を行うという。 疾患概念・定義の確立の意義としては、「一定の疾患概念に基づくエビデンスの収集、低体重/低栄養と健康障害に関する社会的認知の向上から診断基準の作成、介入・治療法の確立、健診などでの予防体制整備、教育現場や社会への啓発活動が行われ、健康障害がなくなるようにしたい」と展望を語った。親の一言が子供の「痩せ志向」を助長させる可能性 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の対応~アカデミアの役割と社会へのアプローチ~」をテーマに田村 好史氏(順天堂大学院スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授)が、FUSの概要説明と痩身願望が起こる仕組み、そして、今後の取り組みについて講演した。 はじめに本年4月17日に発表された「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント」に触れ、FUSは18歳以上で閉経前までの成人女性を対象に、低栄養・体組成の異常、性ホルモンの異常、骨代謝異常など6つの大項目の疾患や状態がある場合の症候と定義されていると述べた。現時点では、基準を定めるエビデンスの不足から枠組みを提示するにとどめ、摂食障害や二次性低体重(たとえば甲状腺機能亢進症など)は除かれ、閉経後の女性や男性は含まないと説明した。 FUSの原因としては、ソーシャルメディア(SNS)やファッション誌などのメディアの影響、体質による痩せ、貧困などの社会経済的要因など3つが指摘され、とくに痩せ願望は小学校1年生ごろから生じているという報告もある。 とくにこうした意識は保護者などから「太っちゃうよ」など体型に関する指摘や友人の「痩せた?」などの会話と相まってSNSなどのメディアの影響で熟成され、痩せ願望へとつながると指摘する。 こうした痩身志向者への対応では、体型の正しい理解を促進するために教育介入が必要であると同時に、体質による痩せには定期的な骨密度測定や血液検査、栄養指導などの健康管理が、社会・経済的要因の痩せでは社会福祉の充実が必要と語る。また、その際にFUSの提唱が新しいスティグマ(差別・偏見)とならないように留意が必要とも述べた。 今後の方向性と提言として、診断基準確立のためにガイドラインの策定、健診制度への組み込みで骨量低下の早期発見、教育・産業界との連携で適切な体型イメージ教育や諸メディアとの連携、内閣府の取り組みとして戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)との連携が必要と4項目を示した。 おわりに田村氏は、現在進行しているSIP事業(2023~27年度)として「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」の一端を披露し、「痩せが美しいという単一価値の変更」のために、FUSに該当する女性の疫学調査、学校での教育事業例を紹介した。啓発活動では「マイウェルボディ協議会」を設立し、「医学的に適正な体型を自分の意志で選択できる世界を目指して社会概念の変化を促していきたい、そのために社会的な機運を上げていきたい」と抱負を語り、講演を終えた。 講演後の総合討論では、会場参加の医師などから「子供の摂食障害の問題」「親の痩せているほうがよいという意識の問題」などが指摘された。また、骨量の最高値が30歳前後であることの啓発と若年からの骨密度測定などの必要性が提案されるなど、活発な話し合いが行われた。

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静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」【最新!DI情報】第41回

静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」今回は、経口避妊薬「ドロスピレノン(商品名:スリンダ錠28、製造販売元:あすか製薬)」を紹介します。本剤は単剤型プロゲスチン製剤であり、従来の混合型経口避妊薬よりも静脈血栓塞栓症のリスクが少なく、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬です。<効能・効果>避妊の適応で、2025年5月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1錠を毎日一定の時刻に白色錠から開始し、指定された順番に従い28日間連続経口投与します。以上28日間を投与1周期とし、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返します。なお、服用開始日は、経口避妊剤を初めて服用する場合、月経第1日目から開始します。<安全性>副作用として、不正性器出血(月経中間期出血、異常子宮出血)(89.9%)、下腹部痛(13.4%)、月経異常(過少月経、過長過多不規則月経、重度月経出血)(14.9%)、頭痛(16.3%)、腹痛(12.3%)、乳房不快感、悪心、下痢、ざ瘡(いずれも5%以上)、無月経、卵巣嚢胞、子宮頸部上皮異形成、子宮筋腫、カンジダ症、外陰部炎、性器分泌物、乳頭痛、乳腺良性腫瘍、乳腺嚢胞症、傾眠、いらいら感、不安感、めまい、片頭痛、上腹部痛、嘔吐、胃腸障害、発疹、そう痒症、背部痛、倦怠感、浮腫、発熱、体重増加(いずれも1~5%未満)、陰部そう痒症、子宮ポリープ、外陰腟痛、卵巣腫大、乳房痛、抑うつ、便秘、消化不良、腹部膨満、口内炎、紅斑、皮膚乾燥、関節痛、肋軟骨炎、貧血、肝機能検査値異常(いずれも1%未満)、リビドー減退、高カリウム血症、ほてり(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1. この薬は、妊娠を防ぐための経口避妊薬です。2. 毎日1錠、決まった時間に服用することで、排卵を抑えたり、子宮内膜や子宮頸管の状態を変化させたりして、妊娠を防ぎます。3. この薬は、喫煙者や高血圧の人など、従来の避妊薬が使えなかった人にも適しています。4. 毎日一定の時刻に白色錠から服用を開始し、指定された順番に従い28日間服用してください。5. 1日(24時間以内)の飲み忘れがあった場合、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。6. 2日連続して飲み忘れた場合は、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を1錠服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。7. 2日以上連続して飲み忘れた場合は妊娠する可能性が高くなるので、その周期は他の避妊法を使用し、必要に応じて医師に相談してください。<ここがポイント!>現在、日本で使用されている経口避妊薬の主流は、低用量エストロゲンとプロゲスチンを配合した混合型経口避妊薬(Combined Oral Contraceptives:COC)です。しかし、COCに含まれるエストロゲンには、静脈血栓塞栓症をはじめとする血栓症のリスクがあることが知られています。世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、プロゲスチン単剤の経口避妊薬(Progestin-Only Pill:POP)は、COCと比較して静脈血栓塞栓症のリスクが低く、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬とされています。本剤は、ドロスピレノン(DRSP)4mgを含有する国内初のPOPであり、排卵の抑制、子宮内膜の菲薄化、子宮頸管粘液の高粘稠による精子の侵入障害などにより避妊効果を発揮します。避妊を希望する日本人女性を対象とした国内第III相臨床試験(LF111/3-A試験)において、13周期投与期終了時の暴露周期(3,319周期)の間に1例が妊娠し、主要評価項目とされた全般パール指数※は0.3917(95%信頼区間[CI]:0.0099~2.1823)でした。95%CIの上限が閾値である4下回ったことから、本剤の有効性が検証されました。なお、妊娠例に関して、受胎推定日は未服薬期間内と判断されています。※パール指数(Pearl index):100人の女性がその避妊法を1年間(13周期)用いたときの妊娠数(対100女性年)日本で発売されているCOCは、血栓症に関連する既往歴や現病歴を有する患者は禁忌でしたが、本剤では禁忌に該当しません。本剤では禁忌に該当しない血栓症関連の疾患などは以下のとおりです。血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患またはその既往歴のある患者35歳以上で1日15本以上の喫煙者血栓症素因のある女性抗リン脂質抗体症候群の患者大手術の術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内および長期間安静状態の患者脂質代謝異常のある患者高血圧のある患者(軽度の高血圧の患者を除く)

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