5.
<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)