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産婦人科医が授業に、中学生の性知識が向上か

 インターネットは、性に関する知識を求める若者にとって主要な情報源となっているが、オンライン上には誤情報や有害なコンテンツが存在することも否定できない。このような背景から、学校で行われる性教育の重要性が高まっている。今回、婦人科医による性教育が、日本の中学生の性に関する知識と意識の大幅な向上につながる、とする研究結果が報告された。ほとんどの学生が産婦人科医による講義を肯定的に評価していたという。研究は、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は「BMC Public Health」に5月28日掲載された。 インターネットへのアクセスが容易になり、子どもたちの性的な内容への露出に対する懸念が高まったことにより、多くの国々が国際的なガイドラインを導入し、包括的な性教育(CSE)プログラムを推進するようになった。2000年には、汎米保健機構(PAHO)と性の健康世界学会(WAS)は、世界保健機構(WHO)と共同で「セクシュアル・ヘルスの推進 行動のための提言」を作成し、全ての人にCSEを提供することを提案した。 日本でも、この提言に呼応し、適切な性に関する知識を得るためのCSEプログラムが求められている。また、世界的に多くのCSEプログラムでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種が重要な要素として含まれている。これは、HPVと子宮頸がんとの関連が確立されており、子宮頸がんは「予防可能」であることに由来する。このような背景を踏まえ著者らは、専門医による性教育の講義が、日本の中学生の経口避妊薬(OC)、避妊、子宮頸がん、HPVワクチン接種に関する知識と意識に与える影響を評価することとした。授業の前後にアンケート調査を実施し、知識と意識の変化を調査した。 本研究では、日本国内の公立および私立の中学校37校に通う中学3年生の男女を対象とした。講義で取り上げたトピックは、文部科学省のCSEガイドラインに従い、1:男女の体の違い、2:月経の問題とその管理、3:避妊方法、4:LGBTQやデートDVに関する問題、5:性感染症、6:子宮頸がんとHPVワクチン、の6つとした。生徒は講義の前後にアンケートに回答し、講義内容に関する知識と意識を評価された。 事前アンケートには5,833名、事後アンケートには5,383名が回答し、男女比はほぼ均等だった。講義に先立ち実施した事前アンケートでは、性に関する情報源と現状の知識について回答を得た。情報源として「インターネットやYouTube」と回答した生徒の割合が最も多かったが、男女別に見ると男子学生の割合が有意に高かった。女子学生は「学校の先生や授業」や「両親・家族」を情報源として挙げる割合が高かったのに対し、男子学生では、「友人」や「この種の情報を得たことがない」と回答する割合が高かった。また、講義前はOC、子宮頸がん、HPVに関する知識が乏しく、多くの学生がHPVワクチンに対して不安を抱いていた。 講義後、OCに関する知識(使用可能年齢や副作用など)が向上し、生理痛の緩和など避妊以外のメリットを認識する学生が増えた。また、避妊方法の理解も著しく深まり、「避妊は男性が責任を持つべき」と考える学生の数は減少した。さらに、子宮頸がんやHPVに関する知識も大幅に向上し、HPVワクチンの接種を希望する学生の割合も増加した。 講義後に実施したアンケートでは、ほとんどの学生が今回の講義を肯定的に評価し、5段階評価で4または5を選択した。男子学生よりも女子学生の方が、わずかに高い評価をしていた。 本研究について著者らは「本研究は、国際機関や先行研究の提言を踏まえ、日本の若者にとって包括的でアクセスしやすい性教育の必要性を明確にした。婦人科医などの専門医が関与することで、性に関する幅広い健康トピックについて正確かつ最新の情報を提供でき、こうした介入の効果をさらに高めることができるだろう」と述べている。

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高齢者の下腿浮腫、原因として考えられる薬剤は?【腕試し!内科専門医バーチャル模試】

高齢者の下腿浮腫、原因として考えられる薬剤は?【問題1】83歳の女性。高血圧、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症の既往があり、近医整形外科、および内科に定期通院中である。数年前から下腿浮腫がみられており、近医で利尿薬が追加処方されたが症状が改善しないため当院受診となった。検査からは器質的疾患は疑われていない。【問題2】

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大腸がんスクリーニング、CT検査が便中DNA検査よりも有用か

 大腸がんのスクリーニングにおいては、マルチターゲット便中DNA検査(mt-sDNA検査)よりも大腸CT検査(CT Colonography;CTC)の方が、臨床的有効性と費用対効果の点で優れていることが、新たな研究で示された。米ウィスコンシン大学医学部・公衆衛生学部放射線医学・医学物理学分野のPerry Pickhardt氏らによるこの研究結果は、「Radiology」に6月10日掲載された。 大腸がんのスクリーニングでは、現在も大腸内視鏡検査が主流であるとPickhardt氏は説明する。大腸内視鏡検査は侵襲性が高いものの、検査中に前がん状態のポリープを切除できるため、依然として検診のゴールドスタンダードであるという。しかし、鎮静薬を使い、細くて柔軟なチューブを肛門から結腸に挿入するこの検査に不安を感じ、mt-sDNA検査かCTCを選択する患者は少なくない。mt-sDNA検査は、患者から採取した便サンプルに含まれるDNAを解析して腫瘍細胞に由来する変異遺伝子や異常なメチル化パターンなどを検出する。一方、CTCでは、肛門から炭酸ガスなどを注入して大腸を膨らませた状態でCT撮影を行い、ポリープなどの病変の有無を調べる。 メディケアは現在、mt-sDNA検査とCTCの両方をカバーしている。このことからPickhardt氏らは、これらの侵襲性の低い2種類の検査方法の臨床的有効性と費用対効果を直接比較することにした。そのために同氏らは、米疾病対策センター(CDC)の2017年のデータを基にマルコフモデル(ある状態の別の状態への変化を確率的に予測するモデル)を構築し、45歳の米国人口を代表する1万人の仮想的なコホートを対象に、3つの大腸がんスクリーニング戦略を評価した。3つの戦略とは、1)3年ごとのmt-sDNA検査、2)従来型CTC戦略(6mm以上のポリープは全て内視鏡的切除を行い、検査を5年間隔で実施)、3)CTCサーベイランス戦略(6〜9mmのポリープに対しては3年ごとにCTCで経過観察を行い、10mm位以上のポリープは内視鏡的切除を行う)であった。 その結果、大腸がんの累積発症率は、スクリーニングを受けない場合での7.5%(752人)から、mt-sDNA検査を受けることで59%(310人)、従来型CTC戦略を受けることで75%(190人)、CTCサーベイランス戦略を受けることで70%(223人)減少することが示された。 また、全ての戦略において増分費用効果比(ICER)が支払い許容額の基準である10万ドル/1QALY(質調整生存年)を大きく下回り、これらの戦略はスクリーニングを受けない場合と比べて費用対効果が高いと考えられた。1QALY獲得するのにかかる費用は、mt-sDNA検査で8,878ドル(1ドル145円換算で約128万7,000円)であった。一方、CTCの両戦略は、スクリーニングを行わない場合よりも1人当たりの総医療費が少なく(スクリーニングなし:4,955ドル〔約71万8,500円〕、CTCサーベイランス戦略:3,913ドル〔約56万7,000円〕、従来型CTC戦略:4.422ドル〔約64万1,000円〕)、費用対効果が優れているとともに医療費の節約にもつながることが示された。 研究グループは、「これらの結果は、CTCが従来の大腸内視鏡検査やmt-sDNA検査の中に「正当な最前線のスクリーニングオプション」として加わることができることを示している」と結論付けている。 ただし、CTCを受けるには、検査の前に強力な下剤を使用して結腸を空にする必要がある。それでもPickhardt氏は、「CTCは骨粗鬆症や動脈硬化などの他の問題を調べるのにも有用だ」とメリットを強調している。 研究グループはまた、今回のシミュレーションはこれまでの研究結果と一致しているものの、シミュレーションでは検査方法と大腸がん発症率の低下との間の直接的な因果関係を証明することはできないことにも言及している。

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ウェイトベストは減量に伴う骨密度低下の抑制に効果なし

 ウェイトベストは、減量に伴う骨密度の低下を予防する手段として期待が寄せられている。これは、ウェイトベストを着用してウォーキングやジョギングを行うことで、体にかかる負荷を維持しながら骨組織に機械的ストレスを与えることができ、減量に伴う骨量の喪失を最小限に抑えられると考えられているからだ。しかし、新たな臨床試験により、この考え方は科学的に裏付けられないことが明らかになった。ウェイトベストを着用しても、減量に伴う骨密度の低下を有意に抑制する効果は確認されなかったのである。この研究の詳細は、「JAMA Network Open」に6月20日掲載された。 論文の筆頭著者である米ウェイクフォレスト大学医学部内科・老年学・老年医学分野のKristen Beavers氏は、「体重の減少を外部から補ったり、運動で機械的負荷を増やしたりすることが骨密度の維持につながることを期待していたが、われわれの研究結果は、これらの戦略だけでは不十分であることを示唆している」と述べている。 研究グループによると、過体重の高齢者に対しては、心臓や関節の健康を守るために減量が推奨されているが、減量は骨粗鬆症にもつながり得る。そこで研究グループは、肥満の高齢者150人(平均年齢66.4歳、女性74.7%)を対象にランダム化比較試験を実施し、体重の約10%の減少を目的とする減量介入に加えウェイトベストを着用することが骨密度に与える影響を検討した。対象者は、12カ月間にわたり部分的食事代替プログラムと栄養教育から成る減量介入のみを受ける群、減量介入に加えウェイトベストを1日8時間以上着用する群、減量介入に加えレジスタンス運動を行う群に50人ずつ割り付けられた。主要評価項目は股関節の骨密度の12カ月間の変化とし、骨密度は、CTによる海綿骨の単位体積当たりの骨密度(体積骨密度〔vBMD〕)とDXA(二重エネルギーX線吸収測定法)による単位面積当たりの骨密度(表面骨密度〔aBMD〕)の2つを評価した。 12カ月間の減量により、全ての群で体重が9.0~11.2%減少した。それとともに、全ての群で股関節のvBMDが1.2〜1.9%有意に低下していた。vBMDの低下量に、減量介入+ウェイトベスト群と減量介入群の間で有意な差は認められず、また減量介入+ウェイトベスト群と減量介入+レジスタンス運動群の比較でも非劣性であることが示された。さらに、aBMDについても、結果は同様であった。 こうした結果ではあったもののBeavers氏は、「だからと言って、高齢者がウェイトベストの使用をやめるべきだということにはならない」と強調する。ウェイトベストの重みは、体重減少、筋力増強、椅子からの立ち上がりといった日常的な能力の向上に役立つ可能性があるからだ。それと同時に同氏は、「医師らは、高齢者の骨の健康を守るために他の方法を考え出す必要があるだろう」と述べている。 Beavers氏は、「高齢者の骨折は、人生を変えるほどの重大事故になりかねない。この研究結果は、減量中に骨を守るために、従来の運動たけに頼るのではなく、新たなアプローチ、あるいは複数のアプローチを組み合わせる必要があることを改めて強調するものだ」と述べている。

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週1回のカプセル剤が統合失調症の服薬スケジュールを簡略化

 週1回のみの服用で胃の中から徐々に薬を放出する新しいタイプのカプセル剤によって、統合失調症患者の服薬スケジュールを大幅に簡略化できる可能性が新たな研究で明らかになった。この新たに開発された長時間作用型経口リスペリドンは、患者の体内のリスペリドン濃度を一定に保ち、毎日服用する従来の治療と同程度の症状コントロールをもたらすことが臨床試験で示されたという。製薬企業のLyndra Therapeutics社の資金提供を受けて米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学准教授のGiovanni Traverso氏らが実施したこの研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」7月号に掲載された。 Traverso氏は、「われわれは、1日1回飲む必要があった薬を、週1回飲むだけで済むように作り変えた。この技術はさまざまな薬剤に応用可能だ」とMITのニュースリリースの中で述べている。 今回報告された最終段階の臨床試験の結果は、Traverso氏の研究室が10年以上かけて取り組んできた研究の成果だ。試験で使用されたカプセル剤は、マルチビタミンほどの大きさである。飲み込むと、胃の中でカプセル剤の6本のアームが星形に広がって胃の出口を通過できない大きさになり、そのまま胃の中で漂いながらアームから約1週間かけて徐々に薬を放出する。アームは溶解性で、最終的には分離して消化管を通過して排出される。Traverso氏の研究室は2016年、この星形の薬剤送達デバイスの開発について報告している。 試験では、米国内の5施設の統合失調症または統合失調感情障害を有する患者83人(平均年齢49.3歳、男性75%)を対象に、2種類の用量の長時間作用型経口リスペリドン「LYN-005」の有用性を検証した。リスペリドンは統合失調症の治療薬として広く使用されており、Traverso氏らによると、多くの患者が即放性のリスペリドンを1日1回服用しているという。試験参加者は、試験開始1週目は即放性リスペリドン(2mgまたは6mg)を1日1回服用する導入期間を経た後、LYN-005を週1回、計5回服用した。初回のLYN-005投与週のみ、半用量の即放性リスペリドンも併用した。試験を完遂したのは47人だった。 44人を対象に薬物動態を解析した結果、LYN-005の全用量において活性成分の持続放出が確認された。LYN-005と即放性リスペリドンの血中濃度指標における幾何平均比は、1週目の最小血中濃度(Cmin)で1.02、5週目では、Cminで1.04、最大血中濃度(Cmax)で0.84、平均血中濃度(Cavg)で1.03であり、いずれも事前に設定した薬物動体評価の基準を満たした。副作用に関しては、一部の患者に短期的な軽度の胃酸逆流や便秘が見られたが、全体的には少なく、重篤な治療関連有害事象の発生は1件だった。 こうした結果を受けてTraverso氏は、「この臨床試験では、カプセル剤が予測された薬物血中濃度を達成したことと、多くの統合失調症患者で症状をコントロールできることが確認された」としている。また、論文の筆頭著者である米ニューヨーク医科大学精神医学・行動科学臨床教授のLeslie Citrome氏は、「慢性疾患を抱える人の治療を阻む最大の問題の一つが、薬が継続的に服用されないことだ。それによって症状が悪化し、統合失調症の場合、再発や入院につながる可能性がある。薬を週に1回だけ経口摂取するという選択肢は、注射製剤よりも経口薬を好む多くの患者にとって服薬アドヒアランスの維持を助ける重要な選択肢になる」とニュースリリースの中でコメントしている。 Traverso氏らは、米食品医薬品局(FDA)に対するこのリスペリドンの投与アプローチの承認申請に先立ち、より大規模な第3相臨床試験の実施を予定している。また、避妊薬など他の薬剤の投与にもこのデバイスを用いる初期段階の臨床試験も開始予定としている。

6.

不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

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女性の低体重/低栄養症候群(FUS)は社会で治療する疾患/肥満学会

 日本肥満学会は、日本内分泌学会との合同特別企画として、6月6日(金)に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)-背景、現況、その対応-」のシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、なぜ肥満学会が「女性の痩せ」を問題にするのか、その背景やFUSの概念、対応などが講演された。わが国の肥満の統計から見えてきた「女性の痩せ問題」 「なぜ、肥満学会が『痩せ』を問題とするのか」をテーマに同学会理事長の横手 幸太郎氏(千葉大学 学長)が講演を行った。 わが国のBMI25以上の成人肥満人口は男性では31.7%、女性では21%あり、なかでもBMI30以上の高度肥満が増加している。とくにアジア人では、より低いBMIから肥満に関連する健康障害が生じることから「肥満症診療のフローチャート」や「肥満症治療指針」などを定め、『肥満症診療ガイドライン2022』(日本肥満学会 編集)で広めてきた。 これらの作成の過程で、わが国の20~39歳の女性では、BMI18.5以下の人口が多く、女性の痩せすぎが顕著であることが判明した。痩せすぎると健康障害として免疫力の低下、骨粗鬆症、不妊、将来その女性から産まれてくる子供の生活習慣病リスクなどが指摘されている。また、近年では、糖尿病や肥満症治療で使用されるGLP-1受容体作動薬などが痩身などの目的で適応外の人に使用されることで、消化器症状、栄養障害、重症低血糖などの健康障害の報告もされている。こうした状況に鑑み、「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するワーキンググループ」を立ち上げ、適正使用の啓発に努めてきた。こうした関連もあり、同学会が健康障害への介入ということで、「FUSの概念を提唱し、診療すべき疾患と位置付けていく」と経緯の説明を行った。診断基準、治療法の確立で低体重/低栄養の健康被害をなくす 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の概念提唱の背景」をテーマに小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門 特命教授)が、FUS概念提唱の背景を講演した。 肥満と低体重はともに健康障害のリスクであり、メタボリックシンドロームは肥満と関連し、サルコペニアは痩せと関連するという疫学データを示した1)。 また、低体重や低栄養が健康障害リスクであることの認知は高齢者医療を除き、まだ不十分であり、医療制度や公衆衛生対策では肥満対策が現在も重視され、高齢者以外の低体重/低栄養のリスクは学術的・政策的にも軽視されていると指摘した。たとえば具体的な健康障害として、肥満も低体重も月経周期の長さや規則性に悪影響を来すことが知られており、若年女性におけるBMIと骨密度の関係では、いずれの年代でもBMIが20を下回ると急激に骨塩量が低下するという2)。 そして、わが国の若年女性の低体重/低栄養に関わる問題として、20代女性の2割がBMI18.5以下と低体重率が高いこと、月経周期異常、骨量減少、貧血などの低体重で多くみられる健康障害があること、健康障害を伴うような痩身への試みとして「GLP-1ダイエット」に代表される「痩せ志向」などがある。とくに「GLP-1ダイエット」は、法律、倫理、臨床上の問題が絡む複合的な課題であると警鐘を鳴らした。 今後の展開として、小川氏は低体重/低栄養の学術上の課題として、低体重(BMI18.5以下)の定義へのさらなる科学的エビデンスの集積とともに、疾患概念確立のために他の関連する学会とのワーキンググループによる活動を行うという。 疾患概念・定義の確立の意義としては、「一定の疾患概念に基づくエビデンスの収集、低体重/低栄養と健康障害に関する社会的認知の向上から診断基準の作成、介入・治療法の確立、健診などでの予防体制整備、教育現場や社会への啓発活動が行われ、健康障害がなくなるようにしたい」と展望を語った。親の一言が子供の「痩せ志向」を助長させる可能性 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の対応~アカデミアの役割と社会へのアプローチ~」をテーマに田村 好史氏(順天堂大学院スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授)が、FUSの概要説明と痩身願望が起こる仕組み、そして、今後の取り組みについて講演した。 はじめに本年4月17日に発表された「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント」に触れ、FUSは18歳以上で閉経前までの成人女性を対象に、低栄養・体組成の異常、性ホルモンの異常、骨代謝異常など6つの大項目の疾患や状態がある場合の症候と定義されていると述べた。現時点では、基準を定めるエビデンスの不足から枠組みを提示するにとどめ、摂食障害や二次性低体重(たとえば甲状腺機能亢進症など)は除かれ、閉経後の女性や男性は含まないと説明した。 FUSの原因としては、ソーシャルメディア(SNS)やファッション誌などのメディアの影響、体質による痩せ、貧困などの社会経済的要因など3つが指摘され、とくに痩せ願望は小学校1年生ごろから生じているという報告もある。 とくにこうした意識は保護者などから「太っちゃうよ」など体型に関する指摘や友人の「痩せた?」などの会話と相まってSNSなどのメディアの影響で熟成され、痩せ願望へとつながると指摘する。 こうした痩身志向者への対応では、体型の正しい理解を促進するために教育介入が必要であると同時に、体質による痩せには定期的な骨密度測定や血液検査、栄養指導などの健康管理が、社会・経済的要因の痩せでは社会福祉の充実が必要と語る。また、その際にFUSの提唱が新しいスティグマ(差別・偏見)とならないように留意が必要とも述べた。 今後の方向性と提言として、診断基準確立のためにガイドラインの策定、健診制度への組み込みで骨量低下の早期発見、教育・産業界との連携で適切な体型イメージ教育や諸メディアとの連携、内閣府の取り組みとして戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)との連携が必要と4項目を示した。 おわりに田村氏は、現在進行しているSIP事業(2023~27年度)として「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」の一端を披露し、「痩せが美しいという単一価値の変更」のために、FUSに該当する女性の疫学調査、学校での教育事業例を紹介した。啓発活動では「マイウェルボディ協議会」を設立し、「医学的に適正な体型を自分の意志で選択できる世界を目指して社会概念の変化を促していきたい、そのために社会的な機運を上げていきたい」と抱負を語り、講演を終えた。 講演後の総合討論では、会場参加の医師などから「子供の摂食障害の問題」「親の痩せているほうがよいという意識の問題」などが指摘された。また、骨量の最高値が30歳前後であることの啓発と若年からの骨密度測定などの必要性が提案されるなど、活発な話し合いが行われた。

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静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」【最新!DI情報】第41回

静脈血栓塞栓症のリスクが低い経口避妊薬「スリンダ錠28」今回は、経口避妊薬「ドロスピレノン(商品名:スリンダ錠28、製造販売元:あすか製薬)」を紹介します。本剤は単剤型プロゲスチン製剤であり、従来の混合型経口避妊薬よりも静脈血栓塞栓症のリスクが少なく、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬です。<効能・効果>避妊の適応で、2025年5月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1錠を毎日一定の時刻に白色錠から開始し、指定された順番に従い28日間連続経口投与します。以上28日間を投与1周期とし、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返します。なお、服用開始日は、経口避妊剤を初めて服用する場合、月経第1日目から開始します。<安全性>副作用として、不正性器出血(月経中間期出血、異常子宮出血)(89.9%)、下腹部痛(13.4%)、月経異常(過少月経、過長過多不規則月経、重度月経出血)(14.9%)、頭痛(16.3%)、腹痛(12.3%)、乳房不快感、悪心、下痢、ざ瘡(いずれも5%以上)、無月経、卵巣嚢胞、子宮頸部上皮異形成、子宮筋腫、カンジダ症、外陰部炎、性器分泌物、乳頭痛、乳腺良性腫瘍、乳腺嚢胞症、傾眠、いらいら感、不安感、めまい、片頭痛、上腹部痛、嘔吐、胃腸障害、発疹、そう痒症、背部痛、倦怠感、浮腫、発熱、体重増加(いずれも1~5%未満)、陰部そう痒症、子宮ポリープ、外陰腟痛、卵巣腫大、乳房痛、抑うつ、便秘、消化不良、腹部膨満、口内炎、紅斑、皮膚乾燥、関節痛、肋軟骨炎、貧血、肝機能検査値異常(いずれも1%未満)、リビドー減退、高カリウム血症、ほてり(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1. この薬は、妊娠を防ぐための経口避妊薬です。2. 毎日1錠、決まった時間に服用することで、排卵を抑えたり、子宮内膜や子宮頸管の状態を変化させたりして、妊娠を防ぎます。3. この薬は、喫煙者や高血圧の人など、従来の避妊薬が使えなかった人にも適しています。4. 毎日一定の時刻に白色錠から服用を開始し、指定された順番に従い28日間服用してください。5. 1日(24時間以内)の飲み忘れがあった場合、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。6. 2日連続して飲み忘れた場合は、気付いた時点で直ちに飲み忘れた錠剤を1錠服用し、その日の錠剤も通常どおりに服用してください。7. 2日以上連続して飲み忘れた場合は妊娠する可能性が高くなるので、その周期は他の避妊法を使用し、必要に応じて医師に相談してください。<ここがポイント!>現在、日本で使用されている経口避妊薬の主流は、低用量エストロゲンとプロゲスチンを配合した混合型経口避妊薬(Combined Oral Contraceptives:COC)です。しかし、COCに含まれるエストロゲンには、静脈血栓塞栓症をはじめとする血栓症のリスクがあることが知られています。世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、プロゲスチン単剤の経口避妊薬(Progestin-Only Pill:POP)は、COCと比較して静脈血栓塞栓症のリスクが低く、深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往、喫煙者、肥満者、高血圧や弁膜症を有する患者などに対して推奨度が高い避妊薬とされています。本剤は、ドロスピレノン(DRSP)4mgを含有する国内初のPOPであり、排卵の抑制、子宮内膜の菲薄化、子宮頸管粘液の高粘稠による精子の侵入障害などにより避妊効果を発揮します。避妊を希望する日本人女性を対象とした国内第III相臨床試験(LF111/3-A試験)において、13周期投与期終了時の暴露周期(3,319周期)の間に1例が妊娠し、主要評価項目とされた全般パール指数※は0.3917(95%信頼区間[CI]:0.0099~2.1823)でした。95%CIの上限が閾値である4下回ったことから、本剤の有効性が検証されました。なお、妊娠例に関して、受胎推定日は未服薬期間内と判断されています。※パール指数(Pearl index):100人の女性がその避妊法を1年間(13周期)用いたときの妊娠数(対100女性年)日本で発売されているCOCは、血栓症に関連する既往歴や現病歴を有する患者は禁忌でしたが、本剤では禁忌に該当しません。本剤では禁忌に該当しない血栓症関連の疾患などは以下のとおりです。血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患またはその既往歴のある患者35歳以上で1日15本以上の喫煙者血栓症素因のある女性抗リン脂質抗体症候群の患者大手術の術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内および長期間安静状態の患者脂質代謝異常のある患者高血圧のある患者(軽度の高血圧の患者を除く)

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第246回 医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協

<先週の動き> 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(医薬品公取協)は5月30日、講演会や情報提供における飲食提供のルールを13年ぶりに見直し、明確な金額基準と提供形態の規定を導入する新運用基準を発表した。来春の2026年4月1日から実施。新基準では、医師への飲食提供の上限は「飲酒を伴う飲食」で2万円、「飲酒を伴わない食事」で3,000円に統一された。講演会の役割者や医療機関から委託された業務に伴う飲食は上限2万円まで許容されるが、施設外でのMR活動における飲食は廃止され、食事のみ・上限3,000円に厳格化された。これは「飲酒を伴う情報提供は適切でない」との判断による。また、社内研修会の講師への慰労飲食は“乱用の恐れが大きい”として禁止され、従来1万円以下で認められていた着席型の懇親会も認めない方針とした。懇親行事は原則として立食形式に限定される。この見直しは、2012年の改定以降の社会変化-コロナ禍、情報提供のデジタル化、働き方改革など-を反映したもの。従来、飲食に関する基準は不明瞭で違反リスクも高かったことから、公務員倫理規程を参考に「国民・患者からの理解」重視で簡素化と整合性を図った。あわせて2024年度には、病院長への10年以上にわたる社有車送迎による規約違反が「指導」対象となるなど、透明性向上と規律強化が求められている。医薬品公取協の新会長には安川 健司氏(アステラス製薬)が就任し、改定ルールの周知と規約遵守、業界全体の信頼向上に取り組む姿勢を表明した。 参考 1) 飲食提供ルールを改定へ-施設外での酒席認めず、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(薬事日報) 2) メーカー公取協 飲食や食事の提供に関する運用基準見直し 上限額明記 社内研修会の慰労会は許容せず(ミクスオンライン) 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府政府は2026年度から、医療費削減策として「OTC類似薬」の一部を医療保険の適用外とする方向を正式に打ち出した。風邪薬や湿布薬、胃薬など、効能が市販薬と類似する処方薬が対象で、維新の会の試算では最大3,500億円の医療費削減が見込まれる。これにより、現役世代の保険料軽減が期待される一方で、高齢者や慢性疾患患者への影響は避けられず、日本医師会は「健康被害のリスクがある」として強く反発している。このような制度改革と並行して、製薬業界でもOTC市場への展開が活発化している。2025年6月、エーザイは国内で初めてPPI(プロトンポンプ阻害薬)のOTC化を実現し、「パリエットS」を発売した。同剤は医療用と同量のラベプラゾールナトリウムを含み、要指導医薬品として薬剤師の対面販売が義務付けられている。今後はアリナミン製薬(タケプロンS)や佐藤製薬(オメプラールS)も参入予定であり、OTC胃薬市場に構造変化をもたらす可能性が高い。さらにED治療薬「タダラフィル」のスイッチOTC化も動き出した。エスエス製薬が申請を進めており、薬剤師による問診と適正使用指導、医療機関との連携体制を構築する方針だ。偽造薬の蔓延や未受診者の多さ(ED患者の88%が未治療)を背景に、正規ルートでの治療アクセス拡充が期待されている。こうした変化により、軽症疾患の自己管理が推奨される一方で、診断機会の喪失や副作用管理の困難性が課題となる。医師にとっては、患者のセルフメディケーションを前提にした服薬管理の支援や、重症化リスクの早期発見の啓発がより重要となる。 参考 1) OTC類似薬、保険除外へ 26年度から一部、骨太明記 政府、患者負担配慮(共同通信) 2) “OTC類似薬見直し”で風邪薬や湿布が保険適用外に? 膨張する医療費の削減目的が背景「健康被害広まる」と医師会は反発(FNNプライムオンライン) 3) 国内初、OTCのPPI「パリエットS」が発売(日経ドラッグインフォメーション) 4) 緊急避妊薬のOTC化「面前服用は必要」意見多数(同) 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府政府が6月6日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」に加え、自民・公明両党と日本維新の会の三党合意により、医療業界にとって重大な政策転換が進もうとしている。今回の合意では、全国で約11万床の病床削減と、電子カルテ普及率100%に向けた医療DXの加速が明記され、医療提供体制と経営構造に抜本的な変革が迫られることになる。三党は人口減少によって将来的に不要とされる病床が11万床にのぼると推定し、2040年を見据えた新たな地域医療構想の開始時期である2027年度までに、調査を踏まえて削減を図る方針。維新の試算では、この病床削減により年間約1兆円の医療費抑制効果が見込まれるとされるが、自民党側はこの数字への責任を明言せず、合意文書では「一定の合理性のある試算」との曖昧な表現に止まっている。他方、「骨太方針2025」では医療・介護給付費の対GDP比の上昇に対して制度改革を進める方針が打ち出されており、医師の地域偏在是正、在宅医療体制の整備、ICT活用の推進が重点項目となっている。とくに地方では医療・介護の維持そのものが課題となっており、病床の削減は地域医療体制の崩壊リスクを伴う。電子カルテ普及率の5年以内の実質100%実現も明記され、医療DXが急速に進む見通しである。医療情報の共有による効率化が期待される一方で、初期投資やシステム整備の負担が中小病院や診療所に重くのしかかる可能性がある。これに加え、介護分野でも人材確保と処遇改善、公的制度の見直しがセットで進められる。このような一連の改革は、医療の質の担保と地域格差の是正を両立させる必要があり、数値目標ありきで進めれば、現場の疲弊や医療難民の増加を招く恐れもある。全国自治体病院協議会も声明で「数字ありきではなく、適正な病床再編を」と強調している。現場の声を踏まえつつ、持続可能な医療・介護体制をどう築くか。今回の合意は社会保障改革の一里塚であると同時に、医療現場への重大な問いかけでもある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 自公維 “病床削減などで国民負担軽減”社会保障改革 合意(NHK) 3) 人口減で全国11万床が不要に…自公と維新が病床削減で合意、医療法改正案の年内成立目指す(読売新聞) 4) 自公維・社会保険料の負担軽減協議 余剰病床の削減で合意 11万床で1兆円の医療費削減(FNNプライムオンライン) 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府政府は6月6日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」の原案において、「外国人との秩序ある共生社会の実現」を掲げ、外国人による医療費の「タダ乗り」対策を中心とする制度見直しを明記した。外国人による社会保障の不適正利用や滞納への懸念が高まる中、入国審査の厳格化、在留資格更新への制限、情報基盤整備など、多方面からの対策が進められる。厚生労働省の調査では、外国人世帯主の国民健康保険納付率は全国平均で63%に止まり、日本人世帯の93%と比べて大きな差がある。政府はこれを受け、医療費の未払い履歴を入国管理や在留資格の審査に反映させる仕組みを構築し、保険制度の適用範囲の見直しも検討する。また、医療費未払いを理由とした外国人観光客の再入国拒否や、社会保険料滞納者への在留資格更新の不許可も新たな対応策として盛り込まれた。制度の実効性を高めるため、内閣官房に新たな司令塔組織を設置し、「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」を中心に、法令順守や情報の透明性向上に取り組む方針。さらに、2028年度導入を目指す電子渡航認証制度や入国・出国情報の一元管理により、出入国管理の強化も進める。急増する外国人観光客や就労者との共生を前提に、制度の整合性と持続性が問われる中、国民の不安を背景にしたこの一連の対策は、今後の外国人政策全体の方向性を左右する転機となる可能性がある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 外国人医療費「タダ乗り」対策強化 政府「骨太の方針」原案 外国人関連部分の全容判明(産経新聞) 3) 医療費未払い、入国審査を厳格化 外国人材受け入れで司令塔組織-政府(時事通信) 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁デジタル庁は6月6日、2025年6月24日からiPhoneにマイナンバーカード機能を搭載可能とする方針を発表した。これにより、iPhoneユーザーは物理カードを持ち歩かなくても、マイナポータルへのログインや、住民票などの証明書の取得が可能となる。ウォレットアプリへの登録後、顔認証や指紋認証で本人確認を行い、各種行政手続きに対応できる。医療現場にとって注目すべきは、9月以降に「マイナ保険証」機能もiPhone上で利用可能になる点だ。現在はAndroid端末のみが先行対応していたが、今後はiPhoneでも対応となる予定で、保険証確認がスマートフォン1台で完結する時代が到来する。厚生労働省は7月から一部の医療機関で実証実験の開始を予定。従来のカードリーダーにスマホ読取用アタッチメントを追加する形で運用される見込みだ。セキュリティ対策として、AppleのFace IDやTouch IDで保護されており、医療情報や銀行口座情報はスマホに保存されない設計。万が一の紛失時も24時間体制のフリーダイヤルやAppleの「探す」アプリから即時利用停止が可能となる。iPhoneへの対応により、患者側の利便性が大幅に向上する一方で、医療機関としては新たな読み取り機器や受付対応の見直しが求められる可能性がある。今後の制度設計や導入指針に注目が集まる。 参考 1) 2025年6月24日から「iPhoneのマイナンバーカード」を開始予定です(デジタル庁) 2) iPhoneにマイナ機能搭載、24日から…カードが手元になくても行政手続き可能に(読売新聞) 3) 「iPhoneのマイナンバーカード」6月24日開始(Impress Watch) 4) iPhoneへのマイナンバーカード搭載は6月24日から-秋には保険証にも 運転免許証対応は?(CNET Japan) 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省厚生労働省が公表した2023年度の「特定健康診査・特定保健指導」の実施状況によると、特定健診の実施率は59.9%、保健指導の実施率は27.6%となり、いずれも制度開始(2008年度)以来で過去最高となった。ただし、国が掲げる2023年度の目標値(健診70%以上、保健指導45%以上)には届かず、2029年度までの達成が継続課題となっている。健診の実施率は、健康保険組合や共済組合が80%超と高い一方で、市町村国保は38.2%に止まり、保険者間の格差が大きい。年代別では40~60代前半で60%を超えたが、高齢層では実施率が低下傾向にある。一方、東京都が行った2024年度「都民の健康と医療に関する実態と意識」調査によれば、健康意識は高まっているものの、特定健診の受診率は66%とコロナ前の72.3%には戻っておらず、保健指導の未実施者も多い。指摘内容は、「脂質異常」「高血圧」「肥満」が中心で、保健指導を受けた人のうち約7割が「おおむね」または「一部」実行していると回答した。生活習慣の改善意欲を持つ人は9割近くに上ったが、特定保健指導を「案内されていない」とする人が約4割おり、対象者への確実な情報提供や参加促進策が課題とされる。今後は、対象者の掘り起こしや、働き盛り世代・高齢層への個別アプローチの強化、保険者間の格差是正が、生活習慣病予防と医療費抑制に向けた鍵となる。 参考 1) 2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診実施率は59.9% 23年度、保健指導は27.6%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率59.9%、23年度 過去最高も国の目標未達(CB news) 4) 「都民の健康と医療に関する実態と意識」の結果(東京都)

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事例025 骨粗鬆症のエルカトニン筋注が査定【斬らレセプト シーズン4】

解説骨粗鬆症にて治療中の患者に、エルカトニン筋注を毎週のように実施していたところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。カルテでエルカトニンの注射初日を確認したところ、肋骨骨折の診療開始日からほぼ毎週実施されて2月に至っていました。エルカトニンの添付文書には「6ヵ月間を目安とし、長期にわたり漫然と投与しないこと」との注意書きがあります。過去にしばしば、「6ヵ月を超える長期投与には、漫然と投与しないこと」と返戻がありました。本事例では、7ヵ月目にもエルカトニンの注射が毎週のように続けられていたにもかかわらず、医学的必要性がレセプト上に表現されていなかったことが査定の原因となったものと推測ができます。レセプトチェックシステムでは、6ヵ月超えのアラートが表示されていましたが、そのまま提出されてしまったようです。レセプトチェック担当者には、見落としの無いように依頼しました。医師のオーダー時には限度期間を超えていることがわかるように表示し、注意を促す改修を行い査定対策としています。

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整形外科の薬物療法・保存療法

薬物療法、保存療法を実診療に即して解説「ニュースタンダード整形外科の臨床」第3巻整形外科の実臨床に真に役立つテキストシリーズ。整形外科の外来において日常的に診察する痛み、しびれ、関節リウマチ、外傷に対する薬物療法、保存療法を実診療に即して解説。従来の薬剤、注射法、ギプス、包帯固定、副子、装具、理学療法、作業療法に加え、新しく登場した鎮痛薬や抗RA薬、近年注目されているハイドロリリース、多血小板血漿(PRP)療法、脂肪由来幹細胞(ASC)療法、運動器カテーテル治療・動注治療なども詳述。臨床に役立つ動画多数収載。以前からある鎮痛薬や慢性疼痛・神経障害性疼痛に対する新しい鎮痛薬についてもわかりやすく解説関節リウマチに対する新旧治療薬を網羅ジェネラリストでも知っておいた方がよい、腱鞘内注射法や関節内注射法、さらに新しい治療法のハイドロリリースや多血小板血漿法なども動画やエコーを多数使って解説ギプス固定法の基本やテーピング、徒手整復・矯正などを動画や写真を使ってわかりやすく解説というように、ジェネラリストや非専門医にとっても役立つ知識を多数収載。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する整形外科の薬物療法・保存療法定価12,100円(税込)判型B5判頁数410頁発行2025年5月専門編集・編集委員井尻 慎一郎(井尻整形外科)編集委員田中 栄(東京大学)松本 守雄(慶應義塾大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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症状のない亜鉛欠乏症に注意、亜鉛欠乏症の診療指針改訂

 「亜鉛欠乏症の診療指針2024」が2025年1月に発行された。今回の改訂は7年ぶりで、きわめて重要な8つの改訂点が診療指針の冒頭に明記され、要旨を読めば最低限の理解がカバーできる構成になっている。だが、本指針内容を日常診療へ落とし込む際に注意したいポイントがある。そこで今回、本指針の作成委員長を務めた脇野 修氏(徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科分野 教授)に、亜鉛欠乏症の現状や診断・治療を行う際の注意点などについて話を聞いた。<2018年度版からの改訂点>・診断基準と検査について、アルカリフォスファターゼ低値を削除・採血タイミングについて言及・薬物治療について、亜鉛製剤の記述が追加・小児科、内科疾患に関する臨床的意義について、近年のエビデンスに基づき大幅改訂・摂取推奨量は、日本人の食事摂取基準2025年版を引用・国内での発生頻度について追記・リスクファクターとなる疾患について、メタアナリシスで証明されたもののみ記載・亜鉛過剰症について、耐用上限量を記載し、血清膵酵素の上昇に関する記載を削除症状がない潜在性亜鉛欠乏への診断・治療 国内の亜鉛欠乏潜在患者は全人口の10~30%と予想され、亜鉛不足が心筋梗塞の発症、COVID-19の発症/死亡、子癇症、骨粗鬆症、味覚異常のリスクファクターであることが疫学研究から明らかになっている。そのため、近年では症状を有する患者への治療のみならず、症状が顕在化していない患者の診断も喫緊の課題となっている。 亜鉛の血清/血漿基準値は80~130μg/dLで、亜鉛欠乏症と診断するには、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)、潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL未満)の評価と共に、臨床症状・所見の有無、原因となる他疾患が否定されることが必要である。同氏は「亜鉛欠乏症状(皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡、食欲低下、発育障害、性腺機能不全、易感染性、味覚異常、貧血、不妊症)がない場合には亜鉛投与の適応にはならない点は注意が必要。一方、症状がある場合には積極的に投与してほしい」と強調した。しかし、実際には症状がみられない亜鉛欠乏症への亜鉛投与の価値が証明されつつあるため、「慢性肝疾患、糖尿病、炎症性腸疾患、腎不全のようにしばしば血清亜鉛低値を認める患者(潜在性亜鉛欠乏も含む)では、亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがあるため、“亜鉛欠乏症状が認められていなくても、亜鉛補充を考慮してもよい”と治療指針の項に示した」とし、「食欲が低下している、貧血、感染の疑いが見られた場合、原疾患の治療に難渋している場合にも低亜鉛の可能性があることから、亜鉛測定を検討してほしい」と説明した。 現在、亜鉛製剤には2024年3月に発売されたヒスチジン亜鉛(商品名:ジンタス錠)、酢酸亜鉛、ポラプレジンク(商品名:プロマックD錠ほか)があるが、低亜鉛血症で保険適用になっているものは、ヒスチジン亜鉛と酢酸亜鉛のみである。「ヒスチジン亜鉛は良好なコンプライアンスが期待でき、酢酸亜鉛よりも消化器症状が少ない特徴を持っている」と説明した。採血は1~2ヵ月を目処に、銅も考慮を 今回の改訂では、採血タイミングも盛り込まれた。これについて「現状、実臨床で血中濃度の評価が正しくされていないため、1~2ヵ月ごとに亜鉛を、数ヵ月に1回は銅を測定して薬剤継続可否の判断を行ってほしい。また、貧血症状を有している患者ではすでに鉄や銅を測定しているが、それでも改善しない場合には亜鉛測定に踏み込んでもらいたい」と述べた。亜鉛投与による有害事象の観点からも、「銅欠乏や鉄欠乏性貧血をきたすことがあるので、ルーチンで測定する必要はないが、数ヵ月に1回は血清亜鉛とともに、血算、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン、血清銅を測定してほしい。亜鉛投与が適応となる患者であっても、投与数ヵ月のなかで症状の変化がみられない場合には、臨床症状が亜鉛欠乏によるものではないと判断し、亜鉛投与を中止する」といった判断が必要なことも強調した。極端な健康志向の食事療法は亜鉛不足のリスク 健康を意識した食事として、心血管疾患や糖尿病、認知症などに予防効果があるとされる地中海食やDASH食を想像するだろう。ところが、これらの食事療法で推奨される玄米や全粒粉、大豆などの植物由来製品には、亜鉛とキレートを形成するフィチン酸が多く含まれるため、亜鉛の吸収を阻害してしまうという。一方、亜鉛含有量が高い食材として牛赤身肉が推奨されるが、赤身肉の摂取はがん発症リスク、腎臓病などに悪影響を及ぼすことも報告されている。これらを踏まえて、同氏は「バランスのよい食事を心がけることが重要。実際にベジタリアンやヴィーガンでの亜鉛欠乏症が報告されている。そして、亜鉛は生体のなかでも筋肉に60%ほど分布していることを考慮すると、海産物(牡蠣、ホタテ、魚、海藻類)の摂取を意識するのが望ましい。その点で和食や地中海食はよいかもしれない」とコメントした。 最後に同氏は、「亜鉛は300種以上もの酵素や機能タンパクの活性中心に存在し、その意義が詳細に明らかにされている必須微量元素である。1961年に亜鉛欠乏症が報告されて以来、研究にも長い歴史を有しているが、その一方で“未完の大器”のような可能性を秘めている。7年ぶりの改訂では疫学研究や観察研究ではなく、さまざまな介入研究の結果を反映させることができたが、今後の課題として、糖尿病や腎不全、肝障害の発症抑制、慢性疾患に対する抗炎症作用としての亜鉛の効果(抗酸化酵素、増殖等)などに関する研究結果を発信していきたい」と締めくくった。 亜鉛などの微量元素は人間に内在する病的な因子として、決して忘れてはいけない存在である。なお、微量元素の恒常性の観点から、加齢や炎症疾患において近年注目されているセレンについても、「セレン欠乏症の診療指針2024」が同時に発刊されているので、合わせて一読されたい。

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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

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老後を健康に過ごすには足の健康から始めよう/科研・楽天

 科研製薬は、足に関わる生活習慣の改善を目的に、楽天モバイルとの共同プロジェクト「満足プロジェクト」で業務提携契約を締結した。このプロジェクトは、楽天モバイルの健康寿命延伸サポートサービス「楽天シニア」(現在300万ダウンロード/約7割が50代以上)を通じ、足のお悩みを把握すると同時に、足の健康に関する正しい情報を提供することで、健康満足度の向上に貢献することを目指すものである。両社は、このプロジェクト発足について、3月14日に都内でメディアセミナーを開催し、高齢者の運動器障害の観点からロコモティブシンドローム(以下「ロコモ」と略す)についての概要と足の悩みの観点から巻爪、白癬などの診療と満足プロジェクトの概要が紹介された。また、科研製薬では、2025年3月27日に医療従事者向けのウェブサイト「KAKEN Medical Pro」を開設し、各製品情報に加え、足の健康を守るための「足」の疾患に関連する情報も発信し、医療従事者をサポートする。ロコモサインで早期にロコモを察知 「『満足』はロコモ対策の必要条件だ」をテーマに大江 隆史氏(NTT東日本関東病院 院長/ロコモチャレンジ!推進協議会 委員長)が、高齢者の運動器障害の原因となるロコモとその判定方法、約2万人のロコモに関するアンケート結果の概要について説明した。 「『ロコモ』とは、運動器の障害により、移動機能が低下した状態で、進行すると要介護になる危険が高いもの」と定義されている。ロコモが進展することで、生活活動や移動制限を受け、さらに疼痛や柔軟性の低下、筋力低下を来し、骨粗鬆症や変形性関節症、サルコペニアなどにいたるとされる。 そのために早くロコモに気付くことが重要となるが、ロコモの評価には、「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25」の3つテストの総合でロコモ度1~3で判定する。また、最近の研究からロコモになる前の最初の兆候も明らかになっている。とくに活動性について、「階段の昇降」「急ぎ足で歩く」「休まず歩き続ける」「スポーツや踊り」の1つにでも困難の自覚があれば、「ロコモサイン」として、早期の診療介入が望まれるという。 では、実際「ロコモ」はどの程度認知されているのであろうか。2024年12月~2025年1月にかけて楽天シニアアプリ登録者などで行われたアンケート結果を説明した(回答数1万9,299人)。 主な結果は以下のとおりだった。・「ロコモという言葉の認知度について」は、「はい」が50.2%、「いいえ」が48.9%だった。・「1日の歩数について」は、4,000~6,000歩が33.9%、8,000歩以上が26.3%、6,000~8,000歩が17.7%の順だった。・6,000歩以上歩く人では年齢によるロコモ度の差がなくなっていた。・「筋トレなどのやや強めの運動を1週間に合計どれくらいしているか」では、20分未満が67.2%、20分以上1時間未満が14.5%、2時間以上が7.7%の順で多かった。・やや強めの運動を1週間に1時間20分以上する人では年齢によるロコモ度の差がなくなっていた。爪は小さな運動器 「皮膚(爪)と足の健康との関係」をテーマに高山 かおる氏(川口総合病院 皮膚科 主任部長/足育研究会 代表理事)が、爪や足の皮膚からくる歩行障害や足爪に関するアンケート結果を説明した。 高齢者では、歩行障害、摂食障害、認知障害の順で活動が阻害される。歩行障害では、とくに爪の役割は重要だという。爪には、「指先の感覚を敏感にする」、「指先の保護」、「力のバランスをとる」という3つの働きがある。そして、足のトラブルは、皮膚と爪に表われ、日本臨床皮膚科学会の調査では、6人に1人が足爪に水虫が、7人に1人に足に水虫が、13人の1人に水虫があると報告されている。足爪のトラブルと転倒の関係では、足に何らかの問題があると、過去1年間に転倒しているリスクが高いこと、母趾爪甲の変形や肥厚は下肢機能低下をもたらすなどの報告がある。 つまずいたときに、姿勢制御の機能として、足底の触圧覚と足趾(と爪)による底面把持力により、転倒をしないように制御することから、爪に異常があると踏ん張りができないことから「爪は小さな運動器」とも言うことができる。 続いて「足爪の健康の意識調査」について、2024年9~10月にかけて楽天シニアアプリ登録者などに行われたアンケート結果を説明した(回答数2万984人)。 主な結果は以下のとおりだった。・「現在の爪の状態について」(複数回答)は、「異常なし」が50%、「水虫または過去に既往がある」が15%、「爪の肥厚またはボロボロと欠けた」が14%の順で多かった。・「アプリのコラム読後、医療機関へ受診しようと思ったか」では、「受診しない」が51%、「爪水虫に感染したら受診」が34%、「すぐ受診したい」が9%の順で多かった。・受診者または受診希望者に「なぜ治療したいか」(複数回答)では、「爪をきれいにしたい」が29%、「家族にうつさないため」が26%、「他の部位への感染を防ぐため」が24%の順で多く、「転倒リスク軽減のため」も9%でみられた。・「水虫が治ったら何をしたいか」では、「隠さずに足を出す」が21%、「いろんな人と交流したい」が20%、「履きたい靴を履きたい」が16%の順で多かった。・「健康記事のどの項目に1番興味を持ったか」では、「足爪の健康が健康寿命のカギ」が26%、「足爪、きれいに洗えていますか」が22%、「爪水虫はカビの1種」が14%の順で多かった。 おわりに高山氏は、「足爪を治療し、手入れすることで、きちんと歩く機能を維持し、健康寿命を延伸してもらいたい」と思いを語り、レクチャ-終えた。 この後のパネルディスカッションでは、足の健康啓発にこうしたアプリの利活用、複数の診療科連携による下肢機能維持などの提案がなされた。また、将来的に爪の画像を送ることでできるリモート診断やAI診断の可能性、集積されたビックデータを活用した健康指導なども期待したいと展望が語られた。 今回、科研製薬と楽天モバイルが提供する「満足プロジェクト」では、セミナー開催や「楽天シニア」内でのコラム掲載などを通じ、「歩く健康」をテーマとした足に関するさまざまな疾患の啓発活動のほか、今後、足に関する情報発信を強化するとともに、協働で健康寿命の延伸を目的とした実証事業なども実現するとしている。

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