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第143回 これが患者のリアル、ワクチンマニアもコロナ感染!?村上氏のヒヤヒヤ実記(前編)

先日、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ワクチンの4回目接種の体験について書いたが、その直後、ヒヤッとする出来事が起きた。接種を受けたのは年の瀬も迫った12月27日。周囲では新型コロナ感染者が急増し、Facebookなどでつながっている友人・知人の投稿では、「感染しました」報告が相次いでいた。それから3日後、私は軽い咽頭痛を自覚した。もっともこうした経験は、コロナ禍3年目になってから2度ほどあった。私の場合、年齢は壮年期だが、幸いにして今のところ新型コロナにかかった場合に重症化リスク因子となる基礎疾患はない。このため感染した場合でも原則自宅療養を選択しようと考えている。それに備えて自分の仕事場のアパートには複数回分の抗原検査キット、解熱鎮痛薬、パルスオキシメータや非常時用のインスタント系、レトルト系の食品の備蓄はある。余談だが、私はまるか食品の「ペヤングソース焼きそば」の大ファンで、消費税増税の時などに買い込んだペヤングが常に事務所では数十個ストックがあるので、とりあえずペヤングとお湯だけでも10日ほどは飢えをしのげる。ところが咽頭痛を感じたときは、山手線のとあるターミナル駅近くのビジネスホテルに娘とともに宿泊中だった。さらに個人的な事情を話すと、私には現在医学部受験生以外では希少価値ともいわれる大学受験浪人生の娘がいる。誰に似たのか昨年現役で合格した大学があったにもかかわらず、第一志望があきらめきれず、合格した大学の入学を辞退して浪人生の道を選んだ(実は私も現役時に同じことをしている)。義父が要介護のため、妻が実家に帰省して年末年始は私と娘しかいなくなること、娘が自宅では勉強に身が入らず、さすがの予備校も大みそかと元日は自習室も閉鎖されてしまうなどの事情があり、私と娘は30日から三が日明けまでホテルに泊まりこみ合宿と相成った。隣同士の部屋で私は仕事、娘は勉強にそれぞれ勤しむという計画だった。もっとも私は娘のパシリとして食事の購入や洗濯などを引き受けるつもりでもあった。ちなみに宿泊したホテルはチェーン展開しており、チェックインはほぼ自動化され、日中は受付すら無人、部屋の清掃は1週間を超える連泊者以外なしといういかにも今風なホテルである。さて咽頭痛を自覚したときは、すぐに危機感を感じたわけではない。それでも念のために実は5回分がセットになった抗原検査キット、解熱鎮痛薬、体温計、パルスオキシメータは持参していた。さらに娘より一足先にチェックインしてパックのご飯、それにかけるレトルト、カップ麺を買い込んでいた。これはいざという時の備えというよりは、娘には望む食事を多少高くても購入して、私のほうは節約に努めるという単なる貧乏根性である。―2022年12月30日(金)30日は喉のイガイガは軽く痰が絡んだような感じ。それほどは気にしなかった。大みそかの朝は調理パンと洋風のスープが食べたいとの娘の要望に応じ、朝6時過ぎにホテルを出て周囲のコンビニを回り、ようやく洋風スープと調理パンを見つけて渡し、昼はこれまた娘の希望に応じて近くのカフェでパスタを食べさせた。もっとも大学入試共通テストを約2週間後に控えていることもあり、娘と食事中でもなるべくマスクを着用していた。―2022年12月31日(土)その日の夕方近く、今年最後のオンライン取材を終え、少しでも正月らしい気分を娘に味あわせてあげたいと考え、デパ地下に赴き、2人で食べられそうな比較的小さめのおせち料理を購入し、ホテルに戻った。ところが夜7時過ぎくらいから咽頭痛はひどくなるばかり。まさかとの思いがよぎった。実はすでに前日に抗原検査キットで陰性は確認していた。もっともある程度ウイルス量が上がらないと抗原検査が偽陰性になってしまうのは周知のこと。そのために私は連日自宅や事務所などで検査ができるよう5回分のパックを備蓄し、気になったときは3日連続で検査し、すべて陰性だった場合は注意をしながらその後1週間程度を過ごしていた。再度、検査キットを使う。検体を流し込み、浸透していく様子を見ながらコントロール手前で色がうっすらでも変わるか凝視する。再び陰性である。体温は36.8℃。とはいえ、くどいようだが隣室には2週間後に共通テストを控えた娘がいる。すぐにLINEで隣室にいる娘に私に風邪様症状があり、現在のところ抗原検査は陰性だが油断はできず、とりあえず飲食物は置き配にする旨を伝えた。とはいえ困った。自分の食事は備蓄のおかげでどうにかなるが、娘の分はそうはいかない。だが、新型コロナ感染の疑いがある自分の外出は控えねばならない。そうすると娘の食事を手配する人間がいなくなる。「本人に買わせればいいじゃないか」と言われてしまいそうだが、宿泊先のホテルは娘が嫌うピンクのネオンが時おり目に入る歓楽街の一角にあり、そのため引っ込み思案な娘は一人で出歩こうとしない。ただ、ホテルから一番近い徒歩1分ほどのところにあるコンビニは店内が広く、セルフレジがあり、そのセルフレジも有人レジからかなり離れた位置にある。また、娘が食べたがるものの多くはコンビニで調達できる。ということで、できるだけ人の少ない時間帯に最大限の感染対策をしながら、このコンビニを利用することに決める。だが、その直後、ネットサーフィンをしていて、はたとあることに気づく。このコロナ禍でモバイルオーダーかつモバイル決済で飲食デリバリーのサービス提供が進んでいる。ネット上を調べると、大手ハンバーガーチェーンを含め、ホテルの近隣でこうしたサービスを提供している店舗は少なくない。これならばどうにか対応できそうだ。そうこうしているうちに、この日はいつの間にか寝入ってしまった。―2023年1月1日(日) 元旦翌朝、娘からのLINE着信の音で目が覚めた。体がほてっているのが自分でもわかる。熱を測ると37.1℃。元日のおめでたさもなく、朝方、おにぎりとインスタントではないみそ汁をコンビニで購入して娘に届けた。届ける際はドアノブにかける。これまた幸いなことに、このホテルでは各フロアに足踏み式の消毒薬が設置されているので、ドアノブに食事などの袋をかける際は念のため手指消毒をしてから。もちろんこれまでの研究で、新型コロナの接触感染はごくまれというのも知ってはいるが、やはり娘のことを考えると気にしてしまうため、そのようになってしまう。元日の熱は37℃台の前半と後半を行ったり来たり。一応、仕事のために椅子に座ってパソコンをさわるものの、症状のせいか30分程度が限界で、その後はベッドに横になる。そして毎日、娘の衣服の洗濯がある。実はそれを見越して館内にコインランドリーもあるホテルを選んでいた。1回にあるコインランドリーは常に人気がないので助かった。もっともこのコインランドリーの乾燥機は簡易なものなのでちょっとした洗濯物の乾燥でも1時間以上はかかった。その間は部屋でおとなしく待ち、時間を計って廊下に出て、目の前で開いたエレベーターに人が乗っていないことを確認してから乗降していた。この日は一日、体がだるめ。夕方、娘が某ハンバーガーチェーンのハンバーガーが食べたいと言い出す。これはモバイルオーダーやデリバリーサービスがあったので利用することにした。決済もモバイル決済が可能だったが、ホテル1階で私が受け取らなければならない。幸い1階エレベーター脇に消毒薬を設置した比較的広めのテーブルがあったので、そこに置いてもらうことにする。配達完了の電話連絡があり、私はマスクをつけ、1階に降りてピックアップして、隣室のドアノブにかけ、娘にLINEをする。ちなみにたまたま私のカバンには両面テープがあったため、部屋からの外出時はマスクの上下両端に両面テープを張り、顔にピッタリ密着させていた。気にし過ぎと思われるかもしれないが、自分の飛沫で他人に感染をさせたくないからである。もっともこれをするとマスク内が異様に暑くなる。この日は夜9時には就寝したが、深夜2時過ぎ、体のほてりがひどく目が覚める。体温計の数字は38.1℃。来たかという感じだった。(次回に続く)

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TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」【下平博士のDIノート】第113回

TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」今回は、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬「デュークラバシチニブ錠(商品名:ソーティクツ錠6mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、TYK2を選択的に阻害する世界初の経口薬で、既存治療で効果が不十分であった患者や、副作用などにより治療継続が困難であった患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日に発売されました。光線療法を含む既存の全身療法(生物学的製剤を除く)などで十分な効果が得られず皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合や、難治性の皮疹や膿疱を有する場合に使用します。<用法・用量>通常、成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。なお、本剤使用前には結核・B型肝炎のスクリーニングを行い、24週以内に本剤による治療反応が得られない場合は、治療計画の継続を慎重に判断します。<安全性>国際共同第III相臨床試験(IM011-046試験)において、本剤投与群の22.0%(117/531例)に臨床検査値異常を含む副作用が発現しました。主なものは、下痢2.6%(14例)、上咽頭炎2.4%(13例)、上気道感染2.3%(12例)、頭痛1.9%(10例)などでした。なお、重大な副作用として、重篤な感染症(0.2%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となる酵素の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体がだるい、咳が続くなどの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選び、高温や長時間の入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>本剤は、TYK2阻害作用を有する世界初の経口乾癬治療薬です。TYK2はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーの分子ですが、本剤のようなTYK2だけを選択的に阻害する薬剤は比較的安全に使用できるのではでないかと期待されています。乾癬の治療としては、副腎皮質ステロイドやビタミンD3誘導体による外用療法、光線療法、シクロスポリンやエトレチナート(商品名:チガソン)などによる内服療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在、乾癬に適応を持つ生物学的製剤は下表のとおりです。また、同じ経口薬としてPDE4阻害薬のアプレミラスト(同:オテズラ)が「局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬」の適応で承認されています。臨床試験において、本剤投与群ではアプレミラストを上回る有効性を示しており、この点が評価されて薬価算定では40%の加算(有用性加算I)が付きました。安全性では、結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可能性があるため注意が必要です。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。TYK2阻害薬は自己免疫疾患に対する新規作用機序の薬剤であり、今後の期待として潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデスなどの幅広い疾患に適応が広がる可能性があり、注目されています。

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高齢者施設での新型コロナ被害を最小限にするために/COVID-19対策アドバイザリーボード

 第112回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが、12月28日に開催された。その中で「高齢者・障がい者施設における被害を最小限にするために」が、舘田 一博氏(東邦大学医学部教授)らのグループより発表された。 このレポートでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染すると死亡などのリスクの高い、高齢者・障害者を念頭に大人数が集まるケア施設内などでのクラスター感染を防ぐための対応や具体的な取り組み法として、健康チェック、ワクチン、早期診断と対応、早期治療、予防投与が可能な薬剤、リスク時の対応、保健所や医療機関との連携などが示されている。医療機関外での感染者対応が課題 はじめに「第8波のリスクと高齢者・障がい者施設を守ることの重要性」と題し、これまでわが国では、高齢者・障害者施設において多数のクラスターを経験、多くの命が失われたこと、現在は第8波の入り口であり、年末年始の諸行事により急激な感染者数の増加が生じるリスクが高まることを指摘する。そして、死亡者数が1日270人(2022年12月15日時点)と増加中であり、その多くが高齢者や基礎疾患を有する人で、とくに集団感染が生じやすい高齢者・障害者施設、慢性期医療機関がリスクの中心であり、その被害をいかに減らすかが重要となる。また、今冬はインフルエンザとの同時流行が懸念され、こうした施設内においても、COVID-19とインフルエンザが同時期に流行し両方の感染者が増大したことを想定した備えが必要になると注意を喚起しているほか、ワクチンなどの普及により軽症例や無症候例もあり、すべてが医療機関への入院ではなく感染者の状態に応じて施設内対応が求められる事例が増加しており、感染者や濃厚接触者への感染対策や治療を施設などでも行っていくことが求められるようになっている。高齢者や障害者の命を守ることができる施設対策へ 高齢者・障害者施設で求められる第8波対策は以下の通り。1)健康チェック入所者・職員の毎日の健康チェックが重要。発熱・咳・咽頭痛(違和感)・全身倦怠感などがみられた場合には感染の可能性を考えて迅速に対応。都道府県が実施している職員対象のPCR検査や抗原定性検査キットによる定期的検査を積極的に活用し、感染の早期発見に努めること。2)ワクチン接種オミクロン対応2価ワクチンが利用でき、それ以外の新型コロナワクチンの最終接種から3ヵ月を経過した時点からは次のワクチン接種が受けられる。施設利用者に対しては集団的接種などによる接種機会の確保を図るとともに、職員にも早めの接種を推奨する。また、インフルエンザワクチンとの同時接種も可能。3)早期診断・早期対応「風邪かな?」と思ったら、コロナやインフルエンザの可能性を考えて検査を実施することが必要。典型例を除き(インフルエンザ流行時の急激な発熱・筋肉痛など)、臨床症状だけで両者を鑑別することは困難。現在では、コロナだけでなく、インフルエンザも同時に診断できる簡易抗原検査キットが利用可能なので、施設ごとに協力医療機関などと連携の上で、検査キットを備えておくことが勧められる。4)コロナと診断された場合の早期治療これまでにコロナに対する治療薬として抗ウイルス経口薬(3種類)と注射薬(1種類)、中和抗体薬(3種類)に加えて、免疫抑制剤(3種類)が承認されている。高齢者や重症化リスクのある人には早期の治療開始が重要。しかし、高齢者・障害者施設においては、医師が常駐していないこともあり、施設特性や得られる医療支援に応じて、無理のない範囲で使用可能な治療薬の検討を行い、感染発生を想定した準備を行うことも重要。5)予防投与が可能な薬剤施設内で感染者が発生し、クラスターのリスクが高まっている場合、あるいは免疫抑制状態が強く重症化リスクが高い入所者において、曝露後に使用できる薬剤としてカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)が承認されている。オミクロン株の流行の中で中和活性の低下が報告されているが、中和活性に加えて感染細胞を排除する作用(エフェクター機能)があることも報告されており、他の薬剤が使用できない場合の投与が承認されている。施設内でのクラスター発生時、感染者周囲の曝露者に対して予防投与を早期に行うことにより発症および重症化を抑制できる可能性がある。施設の特性や得られる医療支援を考慮し、無理のない範囲で、予防投与の進め方に関して担当医師と相談しておくことも重要。6)クラスターのリスクが高まっている場面での感染対策の実際施設内で感染者が発生した場合に、施設内で隔離および治療を行わなければいけない場合も増加している。これまでの経験をもとに感染対策を実施し、他の入所者に感染を広げない対策が必要になる。施設内では人材・感染対策資材も限られており、ゼロリスクを求める対策は困難だが、施設で実施することが可能なリスクを減らす対策を組み合わせて対応することが必要になる。〔高齢者・障害者施設におけるエアロゾル感染対策の考え方〕(1)屋内における密集を避ける(2)換気扇を常時稼働させる(3)人数が増えたら窓を開ける(4)扇風機を外に向かって回す(5)パーティションは必要時に設置する(6)空気清浄機を活用する7)保健所・医療機関との連携の重要性クラスターの発生前から保健所や医療機関との連携が取れるように、日常から備えておくことが重要。とくに医師が常駐していない施設では、感染疑いの入所者・職員が出た場合の検査や治療の実施に関して事前に保健所や医療機関と相談をしておく必要がある。感染者が明らかとなった場合には、保健所・医療機関に速やかに連絡し、必要な治療を開始することが重症化抑制、クラスター対策として効果的。第8波を前に保健所・連携医療機関と対応の実際に関してお互いに確認しておくことをお勧めする。〔高齢者・障害者施設における感染対策のポイント〕・最終ワクチン接種後、3ヵ月を経過したら次の接種が可能(コロナとインフルエンザワクチンの同時接種も可能)・早期発見「かぜ」かな?と思ったら検査を実施(適宜、コロナ・インフルエンザ同時抗原検査を利用)・リスクを減らす対策を可能な限り組み合わせて対応・人との接触時(近距離・直接)はマスク着用と効果的な換気が基本(吸引などの場合はN95マスクを使用)・医療機関・保健所との連携の確認(早めの診断と治療、感染の拡大予防が可能になるよう前もって相談)

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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツ「迷わない発熱の診方」【診療よろず相談TV】咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】第10回鼻が詰まったときの症状チェック咳・痰が続くときの症状チェック喉が痛いときの症状チェック

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第23回 病院の黙食はいつまで?

緩和された学校の「黙食」コロナ禍の「黙食」って誰が考えたのかな?と思ってGoogleで調べてみました。Wikipediaによると「会食が感染拡大の要因であると槍玉に上げられた飲食店が、苦肉の策として『黙食(もくしょく)』を提唱したことが始まりとされる」と書かれてあり、福岡県の飲食店の店主が考案したらしい、とのことでした。文部科学省は11月29日、学校の給食時に適切な感染対策を講じている場合は「黙食」を求めない方針へ推奨を変更しました。「新型コロナはただの風邪だから、マスク撤廃してウェイウェイ食事しようぜー!」というわけではなく、ゆっくりと日常に戻していきましょうというメッセージと理解しています。しかし、一部の学校では当面「黙食」を継続する方向とのことで、世論はまたもや二分される状態となっています。教育現場にいる知り合いからも「教室内で子供と子供の間隔を2メートル取るというのは不可能なので、結局は黙食継続ということではないか、というのが現場の感覚」というコメントもいただきました。このあたりの現場とのすり合わせ、文科省も頑張ってほしいと思います。濃厚接触者の扱いの是非も含めて、総合的に間引いていかないと現場が混乱しますよね。ゴリゴリにマニュアルを遵守しなければならないような堅苦しさなんて、いっそのこと撤廃するほうが、たぶんやりやすいのでしょうが。日本はもともと「黙食」だった恵方巻きは黙って食べるのはともかくとして、現代の食事というのは会話をしながら…というのが当たり前になっていたように思います。しかし、昔から食事のときは無駄口を叩かないというのがマナーだったという側面もあります。食事中に会話するのは、ちゃぶ台が登場した大正時代が始まりだそうです。伝統的な食卓ではまだ「家」の原理が働いていたので、士族家庭では家父長的色彩が強く、言葉遣いや礼儀作法の教育を食事中に受けたとされています1)。家長中心の食事は非常に厳しいもので、会話などもってのほかだったそうです。なぜ食事中の会話が下品だとしつけられたのかはよくわかりません。昭和時代にテレビが登場し、このあたりから食事中の会話が増えていったようです。しつけや「家」の大切さを教える場ではなくなっていったということですね。一部の私立校などでは、コロナ禍以前から給食中は基本的に黙食で、音楽を流しているところもあります。これは食事中に大声で会話することが、行儀が悪いと考えているからかもしれません。医療現場の食事はどうなる?同じテーブルにいたり、マスクなしで会話したりすると感染しやすくなるというエビデンスはあるのですが、食事中にお話をしながら食べることと、黙食をすることで、感染リスクに差があったかどうかを調べた研究はありません。医学論文大好きマンの私が検索したかぎりの話なので、もしそういう比較試験があったら申し訳ないですが。われわれの医療現場では、黙食が当たり前になっています。もう新型コロナに慣れてしまって、本当にみんな黙食をしているのかどうかグレーな部分はありますが、少なくとも医療従事者は黙食を続けることには、ある程度コンセンサスがあるようです。新型コロナの法的な位置付けがもしダウングレードされても、われわれの「黙食」の文化はしばらく続くかもしれませんね。デリケートな問題なので言及しにくいと思いますが、このあたりは学会なども提言を出してもらえるとありがたいですね。にしても、医療機関ではしばらく「黙食」が続くとなると、忘年会などの飲み会はもう許されないのかもしれない…、とちょっと悲観的な未来を見据えています。参考文献・参考サイト1)岡田みゆき. 食事中の会話の教育的意義一父子の会話の歴史的変遷一. 日本家庭科教育学会誌. 1998;41(3):9-16.

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葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏でコロナ増悪抑制の可能性/東北大学ほか

 軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者に対し、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を追加投与することで、発熱症状が早期に緩和し、呼吸不全への増悪リスクが低かったことが、東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座の高山 真氏らの研究グループによる多施設共同ランダム化比較試験で明らかになった。Frontiers in pharmacology誌2022年11月9日掲載の報告。 調査は、2021年2月22日~2022年2月16日にかけて国内7施設で行われた。20歳以上の軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者161例を、解熱薬や鎮咳薬による通常治療を行うグループ(対照群、80例)と、通常治療に加えて葛根湯エキス顆粒2.5gと小柴胡湯加桔梗石膏エキス顆粒2.5gを1日3回14日間併用するグループ(漢方薬群、81例)にランダムに割り付け、その効果を比較検討した。主要評価項目は1つ以上の風邪様症状の緩和までの日数で、副次的評価項目は各症状が緩和するまでの日数および呼吸不全への増悪であった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となったのは、漢方薬群70例(男性45例[64.3%]、年齢中央値35歳)、対照群73例(男性47例[64.4%]、年齢中央値37歳)であった。・1つ以上の風邪様症状緩和までの日数は、漢方薬群と対照群で有意差はみられなかった(p=0.43)。・共変量調整後の累積発熱率では、漢方薬群のほうが対照群より有意に回復が早かった(ハザード比[HR]:1.76、95%信頼区間[CI]:1.03~3.01、p=0.0385)。・中等症I患者における呼吸不全への増悪リスクは、漢方薬群のほうが対照群よりも低かった(リスク差:−0.13、95%CI:−0.27~0.01、p=0.0752)。・両群で薬物投与に関連する有害事象に有意な差はみられなかった。

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第136回 ゾコーバがついに緊急承認、本承認までに残された命題とは

こちらでも何度も取り上げていた塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)がついに11月22日、緊急承認された。今回審議が行われた第5回薬事分科会・第13回医薬品第二部会合同会議も公開で行われたが、緊急承認に対して否定的意見が多数派だった前回に比べれば、かなり大人しいものになった。今回の再審議に当たって新たに塩野義製薬から提出されたデータは同薬の第II/III相試験の第III相パートの速報値だが、その内容については過去の本連載で触れたので割愛したい。審議内で一つ明らかになったのは第III相パートの主要評価項目、有効性の検証対象の用量、有効性の主要な解析対象集団が試験中に変更されていたことだ。もともと、エンシトレルビルでの主要評価項目は新型コロナ関連12症状の改善だったが、前回の合同会議で示された第IIb相パートの結果やオミクロン株の特性に合わせて、最終的な主要評価項目はオミクロン株に特徴的な5症状に変更されたという。これについて医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は、新型コロナは流行株の変化で患者の臨床像なども変化することから、主要評価項目の適切さを試験開始前に設定するのは相当の困難これら変更が試験の盲検キーオープン前だったとの見解で許容している。少なくとも第IIb相のサブ解析結果の教訓を生かした形だ。そして、今回の審議でまず“噛みついた”のは前回審議で参考人の利益相反(COI)状況などを激しく責め立てた山梨大学学長の島田 眞路氏だった(参考:第118回)。その要点は以下の2点だ。緊急承認の条件には「代替手段がない」とあるが、すでに経口薬は2種類ある日本人集団だけ(治験は日本、韓国、ベトナムで実施)での解析では症状改善までの期間短縮はわずか6時間程度でとても有効とは言い切れないこれに対して事務方からの回答は以下のようなものだ。国産で安定供給ができ、適応が重症化リスクを問わないので代替手段がないに該当する日本人部分集団で群間差が小さい傾向が認められたことについて、評価・考察を行うための情報には限りがあり、今後改めて評価する必要がある島田氏の日本人集団に関する指摘に関しては、そもそも臨床試験自体が3ヵ国全体の参加者で無作為化されていることを考えれば、日本人集団のみのサブ解析結果は参考値程度に過ぎず、申し訳ないが揚げ足取りの感は否めない。もっとも島田氏がこの事務局説明に対して「(重症化)リスクのない人に使えるから良いんじゃないかって、リスクのない人はちょっと風邪症状があるなら、風邪薬でも飲んどきゃ良いんですよ」と反論したことは大筋で間違いではない。ただし、過去の新型コロナ患者の中には、表向きは基礎疾患がないにもかかわらず死亡した例があることも考えると、さすがに私個人はここまでは断言しにくい。一方、参加した委員から比較的質問・指摘が集中したのがウイルス量低下の意義に関するものだ。議決権はない国立病院機構名古屋医療センターの横幕 能行氏は「(今回の資料では)感染あるいは発症から72時間以内に投与しないと、機序も含めた解釈ではウイルス活性を絶ち切る、もしくはそれに近い効果を得ることはできない。そして72時間以降の投与ではウイルス量の低下もしくは感染性の低下については基本的にはまったく効果がないと読める。感染伝播の阻止、早期の職場復帰などを考えると、ウイルス量もしくは感染性の低下に関する効果のこの点を十分に認識していただいた上で市中に出す必要があるかと思う」と指摘した。これに関して事務方からは「ウイルス量低下の部分は、確かに数値の低下が認められているものの、これがどの程度の臨床的意義を持つかについてはなかなか評価が難しい」というすっきりしない反応だった。現段階でのデータではPMDAも何とも言えないのも実情だろう。最終的には島田氏以外の賛成多数により緊急承認が認められたが、臨床現場での意義はやはり依然として微妙だ。過去にも繰り返し書いているが、エンシトレルビルは、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)と同じCYP3A阻害作用を有する3CLプロテアーゼ阻害薬であるため、併用禁忌薬は36種類とかなり多い。中には降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬といった中高年に処方割合の多い薬剤も多く、この年齢層で投与対象は少ないとみられる。そもそもこの層はモルヌピラビルやニルマトレルビル/リトナビルとも競合するため、これまでの使用実績が多いこれら薬剤のほうが選択肢として優先されるはずだ。となると若年者だが、催奇形性の問題から妊孕性のある女性では使いにくいことはこれまでも繰り返し述べてきたとおりだ。今回の緊急承認を受けて日本感染症学会が公表した「COVID-19に対する薬物治療の考え方第 15版」では、妊孕性のある女性へのエンシトレルビルの投与に当たっては▽問診で直前の月経終了日以降に性交渉を行っていないことを確認する▽投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認することが望ましい、と注意喚起がされている。しかし、現実の臨床現場でこれが可能だろうか? 女性医師が女性患者に尋ねる場合でも、かなり高いハードルと言える。となると、ごく一部の若年男性が対象となるが、これまで国も都道府県も重症化リスクのない若年者へはむしろ受診を控えるよう呼びかけている。もしこうした若年男性がエンシトレルビルの処方を受けたいあまり発熱外来に殺到するならば、感染拡大期には逆に医療逼迫を加速させてしまい本末転倒である。では前述のような見かけ上では重症化リスクがないにもかかわらず突然死亡に至ってしまうような危険性がある症例を選び出して処方できるかと言えば、そうした危険性のある症例自体が現時点ではまだ十分に医学的プロファイリングができていない。そもそも、エンシトレルビルの第III相パートの結果で明らかになったのはオミクロン株特有の臨床症状の改善であって、重症化予防は今のところ未知数だ。となると、後は重症化リスクのない軽症・中等症の中で臨床症状が重めな「軽症の中の重症」のようなやや頭の中がこんがらがりそうな症例を選ばなければならない。強いて言うならば、たとえば酸素飽和度の基準で軽症と中等症を行ったり来たりするような不安定な症例だろうか? ただ、今までもこうした症例で抗ウイルス薬なしで対処できた例も少なくないだろう。そして国の一括買い上げのため価格は不明だが、抗ウイルス薬が安価なはずはなく、多くの臨床医が投与基準でかなり悩むことになるだろう。ならば専門医ほどいっそ端から使わないという選択肢、非専門医は悩んだ末にかなり幅広く処方するという二極分化が起こりうる可能性もある。この薬がこうも悩ましい状況を生み出してしまうのは、前回の合同会議の審議でも話題の中心だった「臨床症状改善効果の微妙さ」という点にかなり起因する。今回の第III相パートの結果では、オミクロン株に特徴的な5症状総合での改善ではプラセボ対照でようやく有意差は認められたものの、有意水準をどうにかクリアしたレベル(p=0.04)だ。ちなみに、もともとの主要評価項目だった12症状総合では今回も有意差は認められなかった。さらに言うと、緊急承認後に塩野義製薬が開催した記者会見後のぶら下がり質疑の中で同社の執行役員・医薬開発本部長の上原 健城氏は、今回の試験では解熱鎮痛薬の服用は除外基準に入っておらず、第III相パートでは両群とも被験者の2~3割はエンシトレルビルと解熱鎮痛薬の併用だったことを明らかにしている。もちろんリアルワールドを考えれば、解熱鎮痛薬を服用していない患者のみを集めるのは難しいだろう。「(解熱鎮痛薬服用が症状判定の)ノイズになってしまってはいけないので、服用直後数時間はデータを取らないようにした」(上原氏)とのこと。ただし、解熱鎮痛薬の抗炎症効果を考えれば、今回の主要評価項目に含まれていたオミクロン株に特徴的な症状のうち、「喉の痛み」の改善などには影響を及ぼす可能性はある。そうなるとエンシトレルビルの「真水」の薬効は、ますます微妙だと言わざるを得ない。もちろん今回の第III相パートはそもそも9割以上の被験者がワクチン接種済みで、さらに2~3割が解熱鎮痛薬の服用があった中でも有意差を認めたのだから、それらがない前提ならばもっと効果を発揮できた可能性もあるのでは? という推定も成り立つが、そう事は簡単な話ではない。緊急承認という枠組みで今後の追加データ次第では1年後に本承認となるか否かという大きな命題が残っていることもあるが、「統計学的有意差を認めたから、少なくとも現時点での緊急承認はこれで一件落着」と素直には言い難いと私個人は思っている。

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第21回 第8波で「風邪薬」が軒並み出荷調整へ

沖縄第7波と対照的第8波は北海道からスタートです。第7波で沖縄が壊滅的な医療逼迫に陥ったことが記憶に新しいと思います。夏の沖縄に観光に行って、そのまま新型コロナのホテル療養になるという災難な人もいました。第7波に大きな痛手を負った地域ほど今回流行がゆるやかな印象です。これまでの波の集団免疫が影響しているのかもしれません。また、北海道は一足早く紅葉シーズンと秋の味覚シーズンが到来しました。全国旅行支援の後押しもあって旅行客も多かったと聞いています。これが新規陽性者数の増加につながった可能性はあります。北海道第8波では、いとも簡単に1日の新規陽性者数1万人を超えてきました(図)。過去最多です。急峻なピークを描いて、そのまま収束してくれるとありがたいのですが、第6波のように二峰性の波になる可能性もあります。第6波は変異ウイルスによって波が2つに分離されたのですが、今回はBA.5が8割以上を占めているものの、BA.2.75、BF.7、BQ.1.1がじわじわと増えつつあります1)。かなり細分化されて報告されているため、個々の変異ウイルスが波を形成するには至らないかもしれませんが、すんなりと第8波が終わってくれるのかは神のみぞ知るです。インフルエンザとの同時流行があると、かなりやっかいなことになります。画像を拡大する図. 北海道の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)先日、北海道のクリニックの医師と電話でお話をしたのですが、風邪症状を治める薬剤に出荷調整がかかっており、厳しいという意見がありました。トラネキサム酸やトローチなどが出荷調整新型コロナやインフルエンザには抗ウイルス薬を使用しますが、症状の緩和のためには症状を治める薬剤を使用することが多いです。呼吸器内科医なので、血痰・喀血の患者さんにトラネキサム酸を使用することがあるのですが、ここ最近トラネキサム酸が処方しにくく、少し困っています。咽頭痛に対するトラネキサム酸自体もそこまでエビデンスがあるわけではないのですが、プライマリ・ケアでは結構頻用されることが多いです。今月から、デカリニウム(商品名:SPトローチ)の処方が厳しくなってきました。これもそんなにエビデンスがあるわけではないので、積極的に処方することは多くないのですが、こちらの製剤は抗がん剤などで口内炎や咽頭痛がしんどい患者さんが強く希望することもあります。処方してから初めて出荷調整がかかっていることを知ることもありますが、まあとにかく、風邪症状を治める薬剤が処方できない場面はよく経験されます。いやあ、この状況で第8波とインフルエンザシーズンを迎えるのはしんどいかもしれませんね。新型コロナの咽頭痛に対するデキサメタゾンに関しては、エビデンスは何とも言えませんが、個人的には強烈な咽頭痛でしんどそうな患者さんには、デキサメタゾンの単回投与を検討してもよいかなとも考えています。ただし、48時間以内の症状軽減でようやく有意差が付いたという、弱いエビデンスではありますが。参考文献・参考サイト1)(第107回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年11月17日)

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高齢化率世界一の日本のコロナ禍超過死亡率が低いのは?/東京慈恵医大

 新型コロナウイルス感染症流行前の60歳平均余命が、コロナ禍超過死亡率と強く相関していたことを、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島 充佳氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2022年10月19日掲載の報告。 新型コロナウイルス感染症は高齢者において死亡リスクがとくに高いため、世界一の高齢者大国である日本ではコロナの流行によって死亡率が高くなることが予想されていたが、実際には死亡率の増加が最も少ない国の1つである。本研究は、なぜ日本が超過死亡率を最も低く抑えることができたかを明らかにするため、コロナ流行以前(2016年など)における健康、幸福度、人口、経済などの50項目の指標と、コロナ流行中(2020年1月~2021年12月)の死亡率の変動との相関を調査した。 研究グループは、超過死亡率の判明している160ヵ国を人口の60歳以上が占める割合で4グループに分け、高齢者率が最も高い40ヵ国について、コロナ流行前の各国公表データとの関係を調査した。 主な結果は以下のとおり。・高齢者率が最も高いグループには欧米諸国、旧ソビエト連邦、東欧諸国、日本、韓国などの40ヵ国が含まれていた。総じて超過死亡率は高かったが、グループ内での開きがあり、超過死亡率がマイナスであった国は、ニュージーランド、オーストラリア、日本、ノルウェーの順であった。ロシアを含む旧ソビエト連邦や東欧諸国の超過死亡率は200を超えるなど桁違いに高かった。・50項目の指標で最も相関の強かった因子は「60歳の平均余命」で、相関係数は-0.91であった。・2番目は「2021年末までのワクチン2回接種率」で、相関係数は-0.82であった。・3番目は「国民1人当たりのGDP」で、相関係数は-0.78であった。国民1人当たりのGDPが大きい国では超過死亡率が低く、この傾向はスペイン風邪のときにも認められた。・上位3因子について多変量解析を行った結果、「60歳の平均余命」だけが有意で、他の「2021年末までのワクチン2回接種率」と「国民1人当たりのGDP」の有意性は失われた。よって、後者2因子は「60歳の平均余命」と超過死亡率との関係に対して交絡因子になっていると考えられる。・「30~70歳の心筋梗塞などの心血管疾患、脳卒中、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患で死亡する人口あたりの割合」は相関係数が0.90と極めて強い相関を示した。・「5歳未満の乳幼児死亡率」との強い相関は示されなかった。 同氏らは、「本調査の結果は、高齢時の長い平均余命が、質の高い医療システムとパンデミックを含む医療脅威からの回復力に関連していることを示唆している」とまとめた。

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コロナ陽性になること「怖い」が7割/アイスタット

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広まり、3年が経とうとしている。この間、COVID-19陽性者も身近にいたりとすでに珍しいことではなくなった。そこでCOVID-19感染者の特徴およびワクチン接種回数との因果関係、また、COVID-19に関連する疑問解明を目的として、株式会社アイスタットは、全国で最も感染者数が多い東京都を対象にコロナウイルス陽性に関する調査を行った。 アンケート調査は、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の東京都在住の有職者の会員20~59歳の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年10月18日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~59歳/東京都/有職者)アンケートの概要・コロナ感染者は、「20・30代」「女性」「ワクチン接種回数が0~2回」で最も多い。・感染経路は、「わからない」「家族・知人・友人・恋人の濃厚接触者」が同率1位。・感染者の重症度レベルは、「軽症」が50.8%で最多、次に「自覚症状なし」の22.2%。・陽性で困ったことは、「身体的負担の増加」「行動制限の増加」が41.3%で同率1位。・コロナウイルス陽性になることについて、現在も7割近くが「怖い」と思っている。・コロナウイルスワクチン接種が「3回以上」の人は、約6割にとどまる。・ワクチン接種4回・5回目以降を「必ず接種する」は31%、「接種しない」は25.3%。・PCR検査・抗体検査を受けたことがある人は5割近く。・37.5℃以上の熱を出し、保健所や病医院に連絡をせず完治させた人は1割。・今シーズン(2022年)、インフルエンザ予防接種を受ける人は2割。東京の若い世代ほどワクチンを接種していない 質問1で「PCR検査・抗体検査の結果で『陽性』になった経験」(単回答)を聞いたところ、「あり」が21%、「なし」が79%で、コロナウイルスに感染した人は2割を占めた。また、「あり」を回答した人の属性をみると、「20・30代」「女性」「既婚」「コロナワクチン接種回数が0~2回」で最も多かった。 質問2で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「感染経路」(複数回答)を聞いたところ、「感染経路はわからない」と「家族・知人・友人・恋人の濃厚接触者」がともに28.6%、「職場の濃厚接触者」と「身近に陽性者がいた」が14.3%の順で多かった。 質問3で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「重症度レベル」(単回答)を聞いたところ、「軽症」が50.8%、「自覚症状なし」が22.2%、「中等症」が11.1%の順で多かった。また、コロナワクチンの接種回数別では、「自覚症状なし」を回答した人は、接種が「3回以上」の人ほど多く、「重篤」と回答した人は「0~2回」の人が多かった。 質問4で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「陽性で困ったこと」(複数回答)を聞いたところ、「身体的負担の増加」と「行動制限の増加」がともに41.3%、「精神的負担の増加」が23.8%、経済的負担の増加が22.2%と多かった。「陽性者」では、経済的な面よりも行動制限されることが大きな負担になることが判明した。 質問5で「今後、コロナウイルス陽性になることについてどう思うか」(単回答)を聞いたところ、「怖い」が69%、「怖くない」が31%で、「怖い」と思っている人が7割近くいた。ちなみに「怖い」の推移を過去の本調査で比較してみると、第1波のときは7割から9割近くまで上昇したが、徐々に減少し、現在の7割弱まで下がった。また、「怖い」と回答した人の属性をみると「50代」「女性」「コロナ感染(陽性)経験なし」「ワクチン接種3回以上」で最も多かった。 質問6で「現在のコロナウイルスワクチン接種回数」(単回答)を聞いたところ、「3回」が47.7%、「受けたことがない」が21.7%、「4回」が15.7%と多かった。3回の接種を基準に接種率を分類してみると、「3回以上」は63.3%、「0~2回」は36.7%で、「3回以上」は半数を超えてはいるものの約6割にとどまった。また、年代別では、ワクチンを「受けたことがない」「1回」「2回」と回答した人は「20・30代」で最も多く、若い世代の接種が十分に進んでいない状況が浮き彫りとなった。 質問7で「今後、コロナウイルスワクチン接種4、5回目と誰でも接種可能となった場合、接種するか」(単回答)を聞いたところ、「感染者数や周囲の状況により接種する」が43.7%、「感染者数に関わらず、必ず接種する」が31.0%、「接種はしない」が25.3%の順で多かった。属性別にみると、「感染者数に関わらず、必ず接種する」を回答した人は、「50代」「女性」「既婚」「コロナ感染(陽性)経験なし」「ワクチン接種3回以上」で最も多く、一方で「接種はしない」を回答した人は、「20・30代」「女性」「未婚」「コロナ感染(陽性)経験あり」「ワクチン接種0~2回」で最も多かった。 質問8で「PCR検査・抗体検査などを受けたことがある場合、その理由」(複数回答)を聞いたところ、「発熱したため」が15.7%、「濃厚接触者だったため」が10.7%、「体調が悪かったので」が8.3%と続き、「一度も受けたことがない」が最多で51.7%だった。 質問9「コロナ禍で3年近く経つ中で、この期間37.5℃以上の熱を出し、保健所や病医院に連絡せず(診療を受けず)市販薬や安静で完治させたことはあるか」(単回答)を聞いたところ、「3年間、発熱はない」が57.7%、「まったくない」が28.0%、「ある」が14.3%の順で多かった。 質問10で「現在、自宅に常備している市販薬」(複数回答)を聞いたところ、「バファリン、EVE(イブ)、ノーシンAc」が35.3%、「風邪薬」が33.0%、「ロキソニン」が31.7%の順で多かった。一時期、ドラッグストアなどの店頭から姿を消した「アセトアミノフェン系の解熱剤」は14.7%で第6位だった。 質問11で「今シーズン、インフルエンザの予防接種を受ける予定があるか」(単回答)を聞いたところ、「受けない」が56.7%、「受ける」が23.3%、「悩み中」が20.0%だった。「受ける」を回答した人の属性をみると、「50代」「男性」「既婚」「ワクチン接種3回以上」が最も多かった。その一方で、「受けない」を回答した人の属性は、「40代」「男性」「未婚」「ワクチン接種0~2回」で最も多かった。

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第136回 ウイルス2種が融合して免疫をかいくぐる

異なる呼吸器ウイルス2種が融合し、免疫をより回避する新たな素質を備えうることが示されました1,2)。2つ以上のウイルスの共感染は呼吸器ウイルス感染の10~30%に認められ、とくに子供ではよくあることですが、それがどういう結末をもたらすのかは定かではありません。共感染したところで経過にどうやら変わりはないという試験結果がある一方で肺炎が増えたという報告もあります。共感染者の細胞内での2つ以上のウイルスの相互作用もよく分かっていませんが、細胞内での直接的な相互作用でウイルスの病原性が変わるかもしれません。たとえば別のウイルスの表面タンパク質を取り込んでそのウイルスもどき(pseudotyping)になるとかウイルスゲノムの再編が起きる可能性があります。ゲノムの再編は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やパンデミックインフルエンザウイルスのような世界的に流行しうる新たなウイルス株の原因となりうる現象です。世界で500万人を超える人が毎年インフルエンザAウイルス(IAV)感染で入院しています。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は5歳までの小児の急な下気道感染症の主因となっています。新たな研究で英国グラスゴー大学の研究者等は一緒に出回ることが多くて重要度が高いそれら2つの呼吸器ウイルスをヒトの肺起源の細胞内に同居させて何が起きるかを調べました。生きた細胞の撮影や顕微鏡で観察したところIAVとRSVの双方からの成分を併せ持つ融合ウイルス粒子(HVP)が確認され、HVPは他の細胞に感染を広げることができました。HVPに抗IAV抗体は歯が立たないらしく、その感染細胞に抗IAV抗体を与えても感染の他の細胞への広がりを防ぐことはできませんでした。HVPはRSVからの糖タンパク質を流用して抗IAV抗体を逃れることができるのです。一方、抗RSV抗体は依然としてHVPと勝負できるらしく、HVPの細胞から細胞への広がりを防ぎました。著者によるとIAVがRSVからの授かりものを使って免疫を回避できるようになるのとは対照的にRSVはIAV糖タンパク質に細胞侵入を手伝わせることはできないようです。“IAVはRSVとの融合によりより重症の感染を招く恐れがある”と今回の研究には携わっていない英国リーズ大学のウイルス学者Stephen Griffin氏は同国のニュースTheGuardianに話しています3,4)。RSVは季節性インフルエンザに比べてより奥の肺に下って行こうとします。よってインフルエンザがRSVと同様に肺へと深入りするとより重症化するおそれがいっそう高まるかもしれません。体外での研究で今回認められたようなウイルス融合の人体での発生はまだ観察されておらず、ウイルス融合が人の健康に影響するのかどうかを今後の研究で調べる必要があります。IAVとRSVが手を取り合うのとは真反対に一方がもう一方を抑えつける関係もどうやら存在します。たとえば、風邪ウイルスとして知られるライノウイルスとSARS-CoV-2が細胞内でそういう排他的関係にあるらしいことが昨年3月の報告で示されています5,6)。その報告によるとライノウイルスはSARS-CoV-2複製を防ぐインターフェロン(IFN)反応を誘発し、ライノウイルスがいる呼吸上皮細胞でSARS-CoV-2は増えることができません。巷にあまねく広まるライノウイルスとSARS-CoV-2の相互作用は計算によると世間全般に及ぶ影響があり、ライノウイルス感染が増えるほどSARS-CoV-2感染は減るらしいと推定されています5)。参考1)Haney J, et al. Nat Microbiol. 2022;7:1879-1890.2)NEW RESEARCH SHEDS LIGHT ON HIDDEN WORLD OF VIRAL COINFECTIONS / University of Glasgow3)Immune system-evading hybrid virus observed for first time / TheGuardian4)Flu/RSV Coinfection Produces Hybrid Virus that Evades Immune Defenses / TheScientist5)Dee K, et al. J Infect Dis. 2021;224:31-38.6)Coronavirus: How the common cold can boot out Covid / BBC

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新型コロナワクチンの効果、減弱してもブースター接種で再び回復

 米国では現在、オミクロン株が標的に含まれる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の改良型ワクチンのブースター接種(追加接種)が行われている。こうした中、この接種のタイミングが適切であることを示した研究結果を、米オハイオ州立大学のShan-Lu Liu氏らが、「The New England Journal of Medicine」に9月7日報告した。 米食品医薬品局(FDA)は8月下旬、モデルナ社製とファイザー社製の新たな新型コロナウイルスワクチン(オミクロン株対応2価ワクチン)をブースター接種に使用することを承認した。これを受け、米国ではこれらのワクチンを9月から接種できるようになった。新たなブースター接種用ワクチンは、従来型の新型コロナウイルスに加えてオミクロン株に対しても防御効果を発揮するように設計されている。 Liu氏らはこの研究で、mRNAワクチンを2回接種し、その後1回のブースター接種を済ませた46人(モデルナ社製ワクチン24人、ファイザー社製ワクチン22人)の健康な医療従事者から採取した血液を調べた。対象者から採取したサンプルは、ブースター接種をしてからサンプルを採取するまでの期間に応じて3群(1〜3カ月、4〜6カ月、7〜9カ月)に分類された。 その結果、新型コロナウイルスの型によって差はあるものの、30日経過するごとに防御抗体レベル(あらゆる変異株に対する50%中和抗体価)が、D614G変異株に対して17.53%、オミクロン株のBA.1に対して19.50%、BA.2.12.1に対しては18.44%、BA.4/5に対しては19.55%低下することが明らかになった。 これに対して、新型コロナウイルスへの感染歴がある人から採取したサンプルでは、抗体レベルの低下はこれほど急激ではなかった(D614G変異株に対して17.07%、オミクロン株のBA.1に対して14.22%、BA.2.12.1に対しては9.97%、BA.4/5に対しては12.12%の低下)。 また、1回目のブースター接種から約4カ月後に新型コロナウイルスに対する防御抗体レベルが大きく低下していた2人の対象者では、2回目のブースター接種により抗体レベルが完全に回復し、COVID-19の重症化に対して強力な防御効果を得られることが示された。 Liu氏は、「2回目のブースター接種は、とりわけ高齢者や基礎疾患のある人たちに対しては、強く推奨される」としている。  今回のLiu氏らの研究について、全米感染症財団(NFID)メディカルディレクターのWilliam Schaffner氏は、「良いタイミングで発表された。われわれは、このオミクロン株対応2価ワクチンの接種を推進しているからだ」とコメント。また、「この研究結果は、ワクチンを接種済みかどうかや、COVID-19への罹患歴の有無にかかわらず、このワクチンの接種が有益であることを強く裏付けるエビデンスとなるはずだ。接種によりウイルスに対する防御効果は高まり、その効果は持続すると考えられる」と述べている。 また、Schaffner氏は、通常の風邪の症状を引き起こす従来のコロナウイルスへの自然免疫は消失しやすいことから、Liu氏らが報告した研究結果は理にかなっていると話す。同氏は、「一例を挙げると、ヒトコロナウイルスは、抗体が長年にわたって維持され、防御効果が長続きする麻疹ウイルスとは異なる。ヒトコロナウイルスに対する抗体は消失するため、1年後には再び風邪をひくこともある」と説明している。

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第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)

コロナ終息とエリザベス女王国葬こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。WHOのテドロス事務局長は9月14日の記者会見で、新型コロナウイルスの世界全体の死者数が、先週、2020年3月以来の低い水準になったと指摘、「世界的な感染拡大を終わらせるのにこれほど有利な状況になったことはない。まだ到達していないが、終わりが視野に入ってきた」と述べたそうです。同日、厚生労働省の新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」も、全国的に新規感染者数の減少が続いている、との分析を公表しました。世界的に流行が終息に向かっていることは、米国MLBの中継や、英国エリザベス女王の国葬の様子を見ても実感することができます。国葬もそうでしたし、女王の国葬に先立つウエストミンスター宮殿での公開安置の行列でも、マスクをしている人はほとんどいませんでした(デビット・ベッカム氏も!)。その点、日本人は真面目というか、融通が効かないというか、街中の屋外では、皆、まだマスクをしています。こうした、お上の言うことに真面目に従い、世間体(周囲)を気にする他人任せな点が、日本でセルフメディケーションがなかなか進まない一因なのかもしれません。アマゾンの処方薬ネット販売の背景さて前回は、米アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が日本で処方薬のネット販売に乗り出すことになった、というニュースについて書きました(「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」参照)。アマゾンの処方薬ネット販売進出の背景にあるのは、オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着と、来年から始まる予定の電子処方箋の運用です。電子処方箋が運用されれば、処方箋のやりとりだけでなく、処方薬の流通についても徹底した効率化が求められるようになります。近い将来やってくるであろう調剤・配送集中化の時代を見据え、アマゾンとしてはまずは同社の服薬指導のシステムを普及させることで、地域の薬局をネットワーク化しておきたいというのが、その大きな狙いとみられます。こうした動きに対し、日本保険薬局協会の首藤 正一会長(アインホールディングス代表取締役専務)は記者会見で、「リアル店舗やかかりつけ薬剤師の存在感を高めることで、アマゾンに対抗する」といった趣旨のコメントをしたそうです。その記事を読んで、私は首をかしげてしまいました。世の中で「かかりつけ薬剤師」は「かかりつけ医師」よりももっと曖昧な存在です。そんなものに力を入れることで、果たして巨大アマゾンに対抗できるのでしょうか。そんなことを考えていたら、アマゾン報道の1週間ほど前に利用した都内の零売(れいばい)薬局のことを思い出しました。大都市圏で増える零売薬局零売薬局はコロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ、大都市圏で急増しています。「処方箋なしで病院の薬が買える」などのキャッチフレーズで、新宿、渋谷、池袋など、特に若者が多く集まる街で増えている印象です。その動きは地方にも及んでいます。東海テレビ(愛知県)は7月29日の放送で、名古屋で初めての零売薬局、「セルフケア薬局」が繁華街である地下鉄名城線栄駅・南改札すぐのところにオープンした、と報じています。「セルフケア薬局」は、東京に本拠を構える零売薬局チェーンで、東京、神奈川のほか、大阪、京都などでも店舗を展開しています。厚労省が零売を公式に認めたのは2005年そもそも零売とは、医療用医薬品を、処方箋なしに容器から取り出して顧客の必要量だけ販売することをいいます。「零」は「ゼロ」を意味する漢字ですが、「少ない」「わずか」と言う意味もあります。つまり零売とは「少数や少量に小分けして売ること」という意味なのです。厚生労働省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売が行われていました。厚労省が零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚生労働省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。なお、零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました(本通知の内容は現在、2014年3月18日付薬食発0318第4号厚生労働省医薬食品局長通知「薬局医薬品の取扱いについて」に引き継がれています)。医療用医薬品約1万5,000 種類のうち半数は処方箋なしでの零売可能2005年4月施行の改正薬事法は、処方箋医薬品の零売を防ごうとしたのも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500 種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまうさて、9月初旬に私が利用したのは、都内のとある零売薬局です。いつも通っている整形外科の診療所でいつもの鎮痛剤と湿布薬を処方してもらうつもりだったのですが、外来で2時間近く待つ時間的余裕がなく、仕方なしに山手線の某駅近くにある零売薬局を利用することにしたのです。店内に入ると女性の薬剤師がカウンターに座るよう促しました。こちらの症状や、欲しい薬剤をヒアリングし、パソコンの画面を見せながら推奨する薬剤を勧めるという流れです。私は整形外科で処方してくれている鎮痛剤のエトドラク錠200mgと、ジクロフェナクテープ30mgを希望しました。しかし、「いずれも処方箋医薬品以外の医薬品ですが、当店では扱っていません」とのことで、同種のロキソプロフェンNa錠60mgとロコアテープを勧められ、それらを購入することにしました。また、雑談(!)の中で、二日酔いの薬やビタミン剤、虫刺されの薬などの話も出たので、ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまいました。リンデロンVGは、山登りや沢登りでの虫刺されにてきめんに効く薬ですが、ステロイドの含有量が多いこともあって普通の薬局・薬店では買えません。「前は調剤薬局にいたが、今の仕事のほうが面白い」と、なんだかんだで薬剤師と20分近く会話をして、約4,000円の買い物をしてしまいました。薬局を出てから、今までかかってきた整形外科でも、その門前にある調剤薬局でも、鎮痛剤や湿布薬についてここまで詳しく説明を聞いたことがなかったことに気付きました。エトドラク錠と、ジクロフェナクテープがなかったのは、単にこの薬局が仕入れる薬剤リストに入っていないためか、あるいは薬効や副作用などから自主的に販売していなためかはわかりませんが、少なくとも代替薬を勧める薬剤師の説明は理には適っていました。症状を自分で聞いて、薬を選択するアドバイスをし、客の人となりを見て他の薬剤も勧めるには、それなりの知識とコミュニケーション力が要るでしょう。私を担当した薬剤師は最後に、「前は調剤薬局で働いていたが、今の仕事のほうが面白い」と話していました。零売薬局の不適切事例に厚労相が注意喚起の通知というのが私の零売薬局体験なのですが、調べてみるとコロナ禍で急増した零売薬局の中には、不適切事例も相次いでいるようです。厚労省は2022年8月5日、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の薬局での販売の不適切な販売事例について、都道府県などに再周知を促す通知「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)を発出、不適切な事例について指導を徹底するよう求めています1)。前述したように2005年の通知、それを引き継いだ2014年の通知で、零売は「一般用医薬品の販売等による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売等を行わざるを得ない場合」に例外的な販売が認められていますが、そうした“考慮”をすることなく販売されている事例を、「不適切」として注意喚起したわけです。私自身のケースも考えてみればそうでした。今回の通知ではまた、「同様の効能・効果を有する一般用医薬品等がある場合は、まずはそれらを販売すること」、「在庫がない場合は他店舗の紹介などによる対応を優先すること」され、さらに販売に当たっての遵守事項として「反復継続的に医薬品を漫然と販売等することは、医薬品を不必要に使用する恐れがあり不適切」とも改めて明示されました。さらに、広告やホームページなどで次のような表現を用いて処方箋医薬品以外の医療用医薬品の購入を消費者等に促すことは不適切ともされました。「処方箋がなくても買える」「病院や診療所に行かなくても買える」 「忙しくて時間がないため病院に行けない人へ」 「時間の節約になる」 「医療用医薬品をいつでも購入できる」 「病院にかかるより値段が安くて済む」…。コモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれるこの通知は増える零売薬局への強烈な牽制と考えられます。実は厚労省は同様の指摘を2021年に一般社団法人日本零売薬局協会に対して行っており、同協会は12月、「厚生労働省からのご指摘について」という文書を会員に対して配布、広告表現等について注意するよう促しています2)。私自身は、ここまで零売に足かせをはめる必要はないと思います。医療保険が使えず、現状極めてアナログなシステムと言えますが、少なくともコモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれます。患者は勝手知ったる薬を手早く入手できますし、国の医療費削減にも寄与します。一方、薬剤師も医師の処方にただ従って調剤するのではなく、自らの判断で薬剤を選ばなければならないので、説明も責任をもって行うようになるかもしれません。プリントされた薬剤情報提供書を機械的に渡すだけの調剤薬局の薬剤師とは異なる職能も求められ、仕事としての面白味も増しそうです。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”DXの最先端であるアマゾンとアナログの極みとも言える零売薬局。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”に対するアンチテーゼという意味でも共通点があります。その“欠点”とは服薬指導です。処方薬の場合、現状、すべてのケースで服薬指導を行わないと、処方薬を患者に渡すことはできません。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスをはしょることができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズなものになるはずです。患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くことになるからです。一方、リアルでアナログな薬局である零売薬局ですが、そこで行われている服薬指導のほうが薬剤師は熱心だし、責任をもってやっている、というのも皮肉な話です。OTC販売では構築できなかった新しい「患者-薬剤師関係」が生まれる可能性もあります。何より、零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は「規制」よりも「推進」があるべき形だと考えられます。10月にも岸田 文雄首相を本部長とする「医療DX推進本部」がいよいよ発足します。現状の仕組みをすべてシステムの中に落とし込もうとするのではなく、服薬指導や医療機関受診といった現在のプロセスの中のはしょれる部分を大胆にはしょった上で、新たにシステムを組み直すほうが真のDXになると思いますが、皆さんいかがでしょう。ドラゴンクエストの世界のような、エリザベス女王の国葬をテレビ中継で観ながら、そんなことを考えていた雨の週末でした。参考1)処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について/厚生労働省2)厚生労働省からのご指摘について/一般社団法人日本零売薬局協会

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第125回 学会提言がTwitterで大炎上、医療崩壊にすり替えた国産コロナ薬への便宜では?

土曜日の朝、何気なくTwitterを開いたらトレンドキーワードに「感染症学会」の文字。何かと思って検索して元情報を辿ったところ、行き着いたのが日本感染症学会と日本化学療法学会が合同で加藤 勝信厚生労働大臣に提出した「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」だった。提言は4つだが、そのすべてをひっくるめてざっくりまとめると、「現在の第7波に対応するには早期診断・早期治療体制の確立がカギを握る。そのためには重症化リスクの有無に関係なく使える抗ウイルス薬が必要であり、その可能性がある国産抗ウイルス薬の一刻も早い承認あるいは既存の抗ウイルス薬の適応拡大が必要」というものだ。どうやら発表された9月2日に厚生労働省内にある記者クラブで記者会見をしたらしいが、フリーランスの私は当然それを知る由もない。この点がフリーランスのディスアドバンテージである。国産抗ウイルス薬とは、塩野義製薬が緊急承認制度を使って申請した3CLプロテアーゼ阻害薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)のことだ。同薬の緊急承認審議の中身についてはすでに本連載で触れた通り。連載では文字数の関係上、ある程度議論をリードした発言を抜粋はしているが、本格議論の前に医薬品医療機器総合機構(PMDA)側から緊急承認に否定的な審査報告書の内容が説明されている。その意味で、連載に取り上げた議論内容は少なくとも感情論ではなく科学的検討を受けてのもので、結果として継続審議となった。両学会の提言はそうした科学的議論を棚上げしろと言っているに等しい。もっとも両学会の提言は一定のロジックは付けている。それについて私なりの見方を今回は記しておきたいと思う。まず、4つの提言のうち1番目を要約すると「入院患者の減少や重症化の予防につながる早期診断・早期治療の体制確立を」ということだが、これについてはまったく異論はない。提言の2番目(新規抗ウイルス薬の必要性)は一見すると確かにその通りとも言える。念のため全文を引用したい。「現在使用可能な内服薬は適応に制限があり、60歳未満の方のほとんどは診断されても解熱薬などの対症療法薬の処方しか受けられません。辛い症状、後遺症に苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。また、自宅療養中に同居家族に高率に感染が広がることが医療逼迫の大きな原因になっています。こうした状況を打開するためにも、ハイリスク患者以外の軽症者にも投与できる抗ウイルス薬の臨床現場への導入が必要です」私はこの段階でやや引っかかってしまう。確かに現時点で高齢者や明らかな重症化リスクのある人以外は解熱鎮痛薬を軸とする対症療法しか手段がない。しかも、現在の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の重症度判定は、酸素飽和度の数値で決められているため、この数字が異常値でない限りは40℃近い発熱で患者がのたうち回っていても重症度上は軽症となり、解熱鎮痛薬処方で自然軽快まで持ちこたえるしかない。それを見つめる医療従事者は隔靴掻痒の感はあり、何とかしてあげたいという思いに駆られるだろう。それそのものは理解できる。しかし、私たちはこの「思い」が裏目に出たケースを経験している。いわゆる風邪に対する抗菌薬乱用による耐性菌の増加、眠れないと訴える高齢者へのペンゾジアゼピン系抗不安薬の乱用による依存症。いずれも根本は医療従事者の“患者の苦痛を何とかしたい”という「思い」(あるいは「善意」)がもたらした負の遺産である。結果として、提言の2番目は言外に「何ともできないのは辛いから、まずは効果はほどほどでも何とかできるようにさせてくれ」と主張しているように私は思えてしまう。ちなみに各提言では、「説明と要望」と称してより詳細な主張が付記されているが、2番目の提言で該当部分を読むと、その主張は科学的にはやや怪しくなる。該当部分を抜粋する。「感染者に対する早い段階での抗ウイルス薬の投与は、重症化を未然に防ぎ、感染者の速やかな回復を助けるだけではなく、二次感染を減らす意味でも大切です」これは一般の人が読めば、「そうそう。そうだよね」となるかもしれない。しかし、私が科学的に怪しいと指摘したのは太字にした部分である。その理由は2つある。第1の理由は、まず今回の新型コロナは感染者の発症直前から二次感染を引き起こす。発症者が抗ウイルス薬を服用しても二次感染防止は原理的に不可能と言わざるを得ない。服用薬に一定の抗ウイルス効果が認められるならば、感染者・発症者が排出するウイルス量は減ると考えられるので、理論上は二次感染を減らせるかもしれないが、それが服用薬の持つリスクとそのもののコストに見合った減少効果となるかは、はなはだ疑問である。第2の理由は、提言が緊急承認を求めているエンシトレルビルの作用機序に帰する。エンシトレルビルは新型コロナウイルスの3CLプロテアーゼを阻害し、すでに細胞に侵入したウイルスの増殖を抑制することを意図した薬剤である。ヒトの体内に侵入したウイルスが細胞に入り込む、すなわち感染・発症成立を阻止するものではない。たとえばオミクロン株ではほぼ無効として、現在はほぼ使用されなくなった通称・抗体カクテル療法のカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質と結合し、細胞そのものへの侵入を阻止する。もちろんこれとて完全な感染予防効果ではなく、厳密に言えば発症予防効果ではあるが、原理的には3CLプロテアーゼ阻害薬よりは二次感染発生の減少に資すると言える。現にオミクロン株登場前とはいえ、カシリビマブ/イムデビマブは、臨床試験で家庭内・同居者内での発症予防効果が認められ、適応も拡大されている。これに対してエンシトレルビルと同じ3CLプロテアーゼ阻害薬で、国内でも承認されているニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)では、家庭内感染リスク低下を評価するべく行った第II/III相試験「EPIC-PEP」でプラセボ群と比較して有意差は認められていない。これらから「二次感染を減らす意味でも大切です」という提言内容には大いに疑問である。そして提言の3番目(抗ウイルス効果の意義)では次のように記述している。「新しい抗ウイルス薬の臨床試験において、抗ウイルス効果は主要評価項目の一つです。新型コロナウイルスの変異株の出現に伴い、臨床所見が大きく変化している今、抗ウイルス効果を重視する必要があります」今回の話題の焦点でもあるエンシトレルビルの緊急承認審議に提出された同薬の第II/III相試験の軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果では、主要評価項目の鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量は、前者で有意差が認められたものの、後者では有意差が認められなかった。この結果が緊急承認の保留(継続審議)に繋がっている。提言の言いたいことは、ウイルス力価の減少、つまり抗ウイルス効果が認められたと考えられるのだから、むしろそれを重視すべきではないかということなのだろう。実際、3番目の提言の説明と要望の項目では、デルタ株が主流だった第5波の際の感染者の重症化(人工呼吸器管理を必要とする人)率が0.5%超だったのに対し、オミクロン株が主流の第6波以後では0.1%未満であるため、重症化阻止効果を臨床試験で示すことは容易ではないと指摘している。それは指摘の通りだが、エンシトレルビルの第IIb相パートはそもそも重症化予防効果を検討したものではない。あくまで臨床症状改善状況を検討したものである。しかも、この説明と要望の部分では「ウイルス量が早く減少することは、臨床症状の改善を早めます」とまるで自家撞着とも言える記述がある。ところがそのウイルス量の減少が臨床症状の改善を早めるという結果が出なかったのがエンシトレルビルの第IIb相パートの結果である。両学会は何を主張したいのだろう。一方で今回のエンシトレルビルの件では、時に「抗ウイルス薬に抗炎症効果(臨床症状改善)まで求めるのは酷ではないか」との指摘がある。しかし、ウイルス感染症では、感染の結果として炎症反応が起こるのは自明のこと。ウイルスの増殖が抑制できるならば、当然炎症反応にはブレーキがかからねばならない。それを臨床試験結果として示せない薬を服用することは誰の得なのだろうか?前述のように作用機序からも二次感染リスクの減少効果が心もとない以上、この薬を臨床現場に投入する意味は、極端な話、それを販売する製薬企業の売上高増加と解熱鎮痛薬よりは根本治療に近い薬を処方することで医師の心理的負荷が軽減されることだけではないか、と言うのは言い過ぎだろうか?さらにそもそも論を言ってしまえば、現在エンシトレルビルで示されている抗ウイルス効果も現時点では「可能性がある」レベルに留まっている。というのも前述の第IIb相パートは検査陽性で発症が確認されてから5日以内にエンシトレルビルの投与を開始している。この投与基準そのものは妥当である。そのうえで、対プラセボでウイルス力価とRNA量の減少がともに有意差が認められたのは投与開始4日目、つまり発症から最大で9日目のもの。そもそも新型コロナでは自然経過でも体内のウイルス量は発症から5日程度でピークを迎え、その時点を境に減少するのが一般的である。この点を考慮すると、第IIb相パートの試験で示された抗ウイルス効果に関する有意差が本当にエンシトレルビルの効果のみで説明できるかは精査の余地を残している。ちなみに緊急承認に関する公開審議では委員の1人から、この点を念頭にエンシトレルビル投与を受けた被験者の投与開始時点別の結果などが分かるかどうかの指摘があったが、事務局サイドは不明だと回答している。さらに指摘するならば同試験は低用量群と高用量群の2つの群が設定されているが、試験結果を見る限りでは高用量群での抗ウイルス効果が低用量群を明らかに上回っているとは言い切れず、用量依存的効果も微妙なところである。総合すれば、エンシトレルビルの抗ウイルス効果と言われるものも、現時点では暫定的なものと言わざるを得ないのだ。また、3番目の提言の説明と要望の項目では「オミクロン株に感染した際の症状としては呼吸器症状(鼻閉・咽頭痛・咳)、発熱、全身倦怠感が主体でこれ以外の症状は少なくなっています」とさらりと触れている。これは主要評価項目の12症状合計スコアで有意差が認められなかった点について、塩野義製薬がサブ解析でこうした呼吸器症状のみに限定した場合にプラセボに対してエンシトレルビルでは有意差が認められたと主張したことを、やんわりアシストしているように受け取れる。これとて緊急承認の際の公開審議に参加した委員の1人である島田 眞路氏(山梨大学学長)から「呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って」とかなり厳しく指摘された点である。そしてこうしたサブ解析で有意差が出た項目を主要評価項目にして臨床研究を行った結果、最終的に有意差は認められなかったケースは実際にあることだ。いずれにせよ私個人の意見に過ぎないが、今回の提言は科学的に見てかなり破綻していると言わざるを得ない。そしてなにより今回の提言の当事者である日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)は、エンシトレルビルの治験調整医師であり、明確に塩野義製薬と利益相反がある。記者会見ではこの点について四柳氏自身が「あくまでも学会の立場で提言をまとめた」と発言したと伝わっているが、世間はそう単純には受け止めないものだ。それでも提言のロジックが堅牢ならばまだしも、それには程遠い。まあ、そんなこんなで土曜日は何度かこの件についてTwitterで放言したが、それを見た知人からわざわざ電話で「あの感染症学会の喧々諤々、分かりやすく説明してくれ」と電話がかかってきた。「時間かかるから夜にでも」と話したら、これから町内会の清掃があって、その後深夜まで出かけるとのこと。私はとっさに次のように答えておいた。「あれは例えて言うと…町内会員らで清掃中の道路に町内会長が○○○したようなもの」これを聞いた知人は「うーん、分かるような、分からないような。また電話するわ」と言って会話は終了した。その後、彼からは再度問い合わせはない。ちなみに○○○は品がないので敢えて伏字にさせてもらっている。ご興味がある方はTwitterで検索して見てください。お勧めはしません(笑)。

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第10回 第7波で終わるはずもなく

第7波の収束と死亡者数全国各地のコロナ病棟で第7波の収束の兆しが見えてきました。新学期が始まってリバウンドする可能性もあったのですが、とりあえず第7波の喧騒もそろそろ落ち着いてきましたね(図1)。図1. 国内の新型コロナ新規陽性者数と死亡者数(筆者作成)現状をまとめてみましょう。感染者が急激に増えて死亡者数が問題になったのは第3波以降ですが、過去最多の死亡者数を記録したのは、執筆時点では第6波です。「ただの風邪だろう」と思われていたオミクロン株の伝播性が過去最悪で、多くの高齢者が死亡することになりました。第7波はBA.5が主体でした。第6波を超える感染者数だったことから、おそらく第7波の死亡者数が最多になるのではと予想されています。ピークアウトしつつあるとはいえ、第7波はすでに1万人の死亡者数を突破していることから、前波を超える死亡者数に到達するでしょう(図2)。図2. 新型コロナ 各波の死亡者数(筆者作成)現在、新型コロナ病床に残っているのは、施設や自宅に戻ることが難しくなった寝たきりの高齢者が主体で、後方支援病院に搬送が滞っている状況はコロナ禍初期からあまり変わらない光景です。いくら自治体が後方支援をお願いしても、過活動性の認知症の患者さんを引き受けてくれるところは多くありません。第8波はどうなる?第7波で終わって、第8波が来ないということは医学的にありえませんので、間違いなく第8波はやってきます。ただ、発生届を一定の重症度以上の患者さんに絞っている自治体が出てきており(宮城県など)、感染者数の全容が把握できない自治体は増えてくるかもしれません。となると、第8波がどのような年齢層にどのような重症度で広がっていくのかという解釈は後付けになってしまい、何となく医療逼迫度がこのくらいかなという印象を肌で感じながら立ち向かうことになると予想されます。いずれにしても日本はウィズコロナに舵を切らなければいけなくなったわけですから、第8波はほぼ現状の武器で立ち向かうことになります。感染者数がそこまで多くないように見えるのに、救急医療などがじわじわと逼迫する見えない恐怖と戦うような波にならないことを祈るばかりです。

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FDAが尋常性白斑での色素脱失に対する局所治療薬を初承認

 米食品医薬品局(FDA)は7月19日、非分節型の尋常性白斑における色素再沈着のための局所治療薬としてOpzelura(一般名ルキソリチニブ)クリームを承認した。 非分節型の尋常性白斑は、皮膚の色素細胞が減少して色素が白く抜ける皮膚疾患である。このような色素脱失は、顔、首、頭皮、口や性器などの体の開口部の周り、および手や腕などの摩擦や衝撃を受けやすい領域などに生じる。 ルキソリチニブはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬で、免疫抑制状態になく、従来の局所療法で疾患を十分にコントロールできていないか、従来の局所療法が推奨されない12歳以上の、軽度から中等度のアトピー性皮膚炎患者に対して、短期間、非継続的に投与する局所治療薬としてすでに承認されていた。 今回の承認で同薬剤の塗布対象とされたのは12歳以上の小児と成人で、体表面積の最大10%までの患部に1日に2回まで塗布できる。治療は、患者が満足する治療成果を得るまでに、24週間以上を要する場合もある。 ルキソリチニブの安全性と有効性は、2件のランダム化臨床試験で確認された。いずれの試験でも、対象患者は1日に2回、24週間にわたってルキソリチニブを塗布する群、またはプラセボを塗布する群にランダムに割り付けられた。ルキソリチニブ群はさらに、28週間の追加治療を受けた。塗布開始から24週間目の治療終了時点で、顔面白斑面積スコアリング指数(F-VASI)による評価で75%以上の改善を示した患者の割合は、ルキソリチニブ群で30%だったのに対して、プラセボ群では10%にとどまっていた。 最も頻繁に報告された有害事象は、塗布部位のざ瘡(にきび)・かゆみ・発赤、風邪、頭痛、尿路感染症、および発熱であった。なお、ルキソリチニブを生物学的製剤や他のJAK阻害薬、アザチオプリンやシクロスポリンなどの強力な免疫抑制剤と組み合わせて使用することは推奨されていない。 米タフツ医療センターのDavid Rosmarin氏は、Opzeluraの製造元であるIncyte社のプレスリリースで、「今回、FDAにより、尋常性白斑で生じる色素脱失に対する初めての局所治療薬が承認された。これは記念すべきことだ。患者が、疾患により生じた色素脱失を元に戻せる可能性を期待できるような治療薬が承認されたことを私はうれしく思っている」と話している。

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オミクロン株感染者の半数以上が自覚していない

 米国・カリフォルニア州ロサンゼルス郡の人口の多い都市部で、オミクロン株流行時に抗体陽転が確認された人を対象としたコホート研究において、感染者の半数以上が感染を認識していないこと、また、医療従事者は非医療従事者より認識者の割合が高いが全体としては低いことが示唆された。米国・Cedars-Sinai Medical CenterのSandy Y. Joung氏らが、JAMA Network Open誌2022年8月17日号に報告。 本研究は、ロサンゼルス郡のCOVID-19血清学的縦断研究に登録された大学病院の医療従事者と患者の記録を分析したもので、参加者は2回以上の抗ヌクレオカプシドIgG(IgG-N)抗体の測定を1ヵ月以上の間隔で行った。1回目はデルタ株流行終了(2021年9月15日)以降、2回目はオミクロン株流行開始(2021年12月15日)以降で、2022年5月4日までにオミクロン株流行時に感染が確認された成人を対象とした。新型コロナウイルス感染の認識は、自己申告の健康情報、医療記録、COVID-19検査データのレビューで確認した。 主な結果は以下のとおり。・血清学的にオミクロン株感染が確認された210人(年齢中央値[範囲]:51[23~84]歳、女性:65%)のうち、44%(92人)が感染を認識しており、56%(118人)が認識していなかった。・認識していない人のうち10%(12人/118人)が何らかの症状があったが、その原因は風邪や新型コロナウイルス以外の感染症であると回答した。・人口統計学的および臨床的特徴を考慮した多変量解析では、医療従事者は非医療従事者よりもオミクロン株感染を認識している可能性が高かった(調整オッズ比:2.46、95%信頼区間:1.30~4.65)。 これらの結果から、著者らは「オミクロン株感染の認識率の低さが地域社会における急速な伝播の要因である可能性が示唆される」と考察している。

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第7回 どこまで進むか小児新型コロナワクチン

小児COVID-19の問題点「子供にとって、COVID-19はただの風邪」という意見もよく耳にします。実際にほとんどが風邪症状で終わっていますが、感染者がとても多い年齢層であることから、ワクチン未接種が感染拡大に影響していることはほぼ間違いないとされています。最近、日本の小児COVID-19に関する研究が2つ報告されています。1つ目は、デルタ株優勢期(2021年8月1日~12月31日)とオミクロン株優勢期(2022年1月1日~3月31日)の疫学的・臨床的特徴を比較検討したものです1)。国立国際医療研究センターが運営している国内最大の新型コロナウイルス感染症のレジストリ「COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)」を用いて、国立成育医療研究センターの医師らが解析したものです。これによると、オミクロン株優勢期では、2~12歳で発熱やけいれんが多く観察されることが示されています。また、ワクチン接種歴の有無が判明していた790例に絞ると、酸素投与・集中治療室入院・人工呼吸管理などのいずれかを要した43例は、いずれも新型コロナウイルスワクチン2回接種を受けていないことがわかりました。オミクロン株の113例とオミクロン株前の106例の小児を比較した、もう1つの国立成育医療研究センターの研究では、0~4歳の患者において、咽頭痛と嗄声はオミクロン株のほうが多く(それぞれ11.1% vs.0.0%、11.1% vs.1.5%)、嗄声があったすべての小児でクループ症候群という診断が下りました。また、5~11歳の小児において、嘔吐はオミクロン株のほうが多いことが示されました(47.2% vs.21.7%)2)。オミクロン株になって軽症化しているのは、ワクチンを接種した成人だけであって、小児領域では基本的に症状が強めに出るようです。重症例がおおむねワクチン未接種者で構成されているというのは、驚くべき結果でした。小児の新型コロナワクチン接種率現在、5歳以上の小児には新型コロナワクチン接種が認められていますが、ほかの年齢層と比べると、その接種率は非常に低い状況です(表)。実際私の子供の周りでも、接種していないという小学生は結構多いです。それぞれの考え方がありますので、接種率が低い現状について親を責めようという気持ちはありません。表. 8月15日公表時点でのワクチン接種率(首相官邸サイトより)日本小児科学会の推奨さて、小児におけるCOVID-19の重症化予防のエビデンスが蓄積されてきました。オミクロン株流行下では、確かに感染予防効果はこれまでの株と比べて劣るものの、接種によって、小児多系統炎症性症候群の発症を約90%防げることがわかっています3)。そのため、受けないデメリットのほうが大きいと判断され、5~17歳の小児へのワクチン接種は「意義がある」という表現から、「推奨します」という表現に変更されました4)。子供のワクチン接種率は、親の意向が如実に反映されてしまいます。「とりあえず様子見」という親が多いので、日本小児科学会の推奨によって接種率が向上するのか注目です。参考文献・参考サイト1)Shoji K, et al. Clinical characteristics of COVID-19 in hospitalized children during the Omicron variant predominant period. Journal of Infection and Chemotherapy. DOI: 10.1016/j.jiac.2022.08.0042)Iijima H, et al. Clinical characteristics of pediatric patients with COVID-19 between Omicron era vs. pre-Omicron era. Journal of Infection and Chemotherapy. DOI: 10.1016/j.jiac.2022.07.0163)Zambrano LD, et al. Effectiveness of BNT162b2 (Pfizer-BioNTech) mRNA Vaccination Against Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Among Persons Aged 12-18 Years - United States, July-December 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(2):52-8.4)日本小児科学会 5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方

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英語で「自然によくなります」は?【1分★医療英語】第39回

第39回 英語で「自然によくなります」は?My daughter has got chickenpox.(娘が水疱瘡にかかりました)Please be assured that it will resolve itself without any treatment.(治療せずに自然によくなりますので安心してください)《例文1》Most of the common colds are self-limiting.(ほとんどの風邪は自然によくなります)《例文2》The pain in your arm after the injection will get better by itself.(注射後の腕の痛みは自然によくなります)《解説》治療を行わなくても自然に回復する疾患を“a self-limiting disease”といいます。これらの疾患が「自然に回復する」と説明したい場合には、「そのままで回復する」という意味で“resolve itself” “go away on its own” “get better by itself”などの言い方をします。“Tonsilitis tends to go away on its own.”(扁桃腺炎は自然によくなることが多いです)といった具合です。自然に回復する疾患や状態が落ち着いている場合、「治療せずに経過を見ましょう」「様子を見ましょう」と伝える場合には、“wait and see”を使って、“Let’s wait and see as it often resolves on its own.”(自然軽快することが多いので様子を見ましょう)ということができます。また、もっとしっかり経過を見守る必要がある場合には、“We’ll keep an eye on the patient.”(その患者さんを注意深く観察します)という言い方をします。講師紹介

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第119回 「加点による合格は賄賂」、東京医大入試裁判で文科省元局長に有罪判決

第7波の今の混乱は政治の責任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルスのBA.5株が猛威を振るっています。ここにきて、政府は4回目のワクチン接種の促進、濃厚接触者の待機期間を7日間から5日間に短縮、抗原検査キットの無料配布など、新しい対策を続々と打ち出し始めています。しかし、どれも付け焼き刃的で、医療機関や保健所の業務の逼迫度合いは増すばかりです。第5波、第6波で問題となったことが再び繰り返されているわけで、もうこうなると明らかに政治の責任と言えるでしょう。第6波収束後に、風邪やインフルエンザと同様、健康で重症化しなさそうな人や自力で治そうと思う人は、検査は不要かつ医療機関を受診しなくてもいい、というルールに変えて国民に周知しておけば、今回の現場の混乱を多少は防げたはずです。あるいは、第4回目のワクチン接種を早めに進めておいたり、抗原検査キットを事前に国民に配布しておいたりすることもできたはずです。第6波収束後、感染症法上の扱いを「5類並み」に変更するチャンスも十分にあったと思います。しかし、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないですが、参議院選挙を前にして、その検討を真剣に行わなかった岸田 文雄首相の責任は重いと言えます。感染症ですから患者が増えていること自体は仕方ありませんが、以前と同じように医療現場があたふたとしている状況を見ると、この2年余りのあいだ国は一体何をしていたんだ、と思います。私の周囲の“医療提供の仕組み”がわかった友人の中には、「重症化はほぼしないのだから、もし罹っても医療機関には行かず自力で治す。それが世のため」という人もいます。そもそも風邪やインフルエンザは、医療機関を受診しても療養期間がそう短くならない病気です。「熱っぽい時は医者へ」という日本人の固定観念自体も、今後変えて行く必要がありそうです。さて、今回は事件発覚から実に4年、先週やっと判決が出た、東京医大入試裁判について書いてみたいと思います。元局長に懲役2年6カ月、執行猶予5年の判決文部科学省の私立大学支援事業で東京医科大に便宜を図る見返りに、自分の息子を東京医科大に合格させてもらったとして、受託収賄罪に問われた同省の元科学技術・学術政策局長、佐野 太被告(62)ら4人の判決公判が7月20日、東京地裁でありました。東京地裁(西野 吾一裁判長)は「入試の公平性をないがしろにする甚だしい利益を収受した。賄賂に該当するのは明らか」として、佐野被告に懲役2年6ヵ月、執行猶予5年(求刑懲役2年6ヵ月)を言い渡しました。佐野被告の退職金の支払いが差し止められるなど社会的制裁も受けている点を考慮し、判決は執行猶予付となりました。一方、贈賄罪に問われた東京医科大元理事長の臼井 正彦被告(81)は懲役1年6ヵ月、執行猶予4年(同1年6ヵ月)、元学長の鈴木 衛被告(73)は懲役1年、執行猶予2年(同1年)、受託収賄ほう助罪などに問われた医療コンサルタント会社元役員、谷口 浩司被告(51)は懲役2年、執行猶予5年(同2年)としました。「私立大学研究ブランディング事業」の選定で便宜判決によると、佐野被告は官房長だった2017年5月、臼井被告から、独自色がある私大を支援する「私立大学研究ブランディング事業」の選定で便宜を図ってほしいと依頼され、医療コンサルタント会社元役員だった谷口被告を通して事業計画書の書き方などを助言。その謝礼として、臼井、鈴木両被告から、2018年2月に同大を受験した息子の試験結果に加点してもらい合格させてもらったとのことです。佐野被告は「不正をしてまで息子を合格させてもらおうと思ったことは一度もない」として無罪を主張。臼井、鈴木両被告らも起訴事実を否認していました。判決は、佐野被告と臼井被告が2017年5月に会食した際の音声データを基に、臼井被告が「来年は、絶対大丈夫だと思いますので」などと発言したと認定。佐野被告が、息子に加点などの優遇措置がとられることを認識した上で私大支援事業への助言などの依頼を受け、承諾したと判断しました。ちなみに東京医大は「私立大学研究ブランディング事業」の対象校に選ばれ、2017年度に3,500万円が交付されています。判決では「事業の公平性や補助金の適正な交付を妨げてはならないという職務に反した」と佐野被告を強く非難しています。「加点による合格は賄賂」と結論付ける公判では、不正に得点を加えた大学側の優遇措置が佐野被告への賄賂に当たるかどうかが争点でした。佐野被告の息子は、2018年2月に実施されたマークシート方式の1次試験(400点満点)で大学側から本来の得点に10点の加算を受けたことで、2次試験の小論文や面接を踏まえた最終順位が74位となり、75人の正規合格の枠に入り、合格しました。佐野被告側は公判で「加点がなくても補欠として合格でき、賄賂にはあたらない」と訴えていました。判決理由も「加点がなくても補欠合格していた」ことを認めていますが、「補欠合格は正規合格者の辞退という偶然の事情に左右される。早期に正規合格者の地位を得ることは、他の大学への高額な入学金の納付を避けられ、経済的な利益もある」と指摘。会食の録音データなども踏まえ、佐野被告は「加点などの優遇措置が講じられ、正規合格の地位を受ける可能性を認識していた」として、加点による合格が賄賂に当たると結論付けました。判決後、佐野被告は弁護人を通じ「不当な判決」などとコメントし、控訴する意向を示しました。医学部入試の透明性改善のきっかけとなった事件2018年7月に発覚したこの事件は、日本の医学部入試にも多大な影響を及ぼしました。当初は一般的な贈収賄事件として扱われていましたが、その後の東京医大の内部調査で、同大が行っていた点数操作が佐野被告の息子だけでなく、女性や3浪以上の男性にも一律に不利になるように行われていたことが判明、事件は一気に社会問題化しました。文科省は医学部医学科がある全国81大学の入学者選抜の過去6年間の実態を緊急調査し、2018年9月に2013年〜2018年度の男女別の合格率を公表しました。これらの調査結果と各大学へのヒアリングを基に、東京医大を含む10大学の医学部医学科においても「不適切である可能性が高い」選抜や「疑惑を招きかねない」選抜が行われていた事実が明らかになったのです。同省は2019年6月、「大学入学者選抜実施要項」を見直し、差別を禁止する具体的なルールを設定。各大学では受験生の名前や性別、年齢を伏せて合否を決めたり、女性面接官を増やしたりする対策がとられるようになりました。元受験生による集団訴訟も継続中実際、こうした対策の効果は大きく、本連載の「第94回 昨年の医学部入試で男女別合格率が逆転!医師が『An Unsuitable Job for a Woman』でなくなる日は本当に来るか」でも詳しく書いたように、国公私立81大学における2021年度の医学部入試での女性の平均合格率は13.60%と、男性の13.51%を上回り、データのある2013年度以降で初めて男女の合格率が逆転しています。もしこの事件が発覚しなかったら、女性や複数年浪人生への不当な差別がその後も続いていたと思うと、恐ろしいことです。ちなみに、文科省の調査で不適切入試が指摘された大学については、元受験生が損害賠償を求めて提訴する動きも広まりました。東京医大のほか昭和大や聖マリアンナ医科大などに対する集団訴訟が続いています。2022年5月には、東京地裁が順天堂大に対し、医学部で不合格となった元受験生の女性13人に計約805万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。順大については判決が確定し、元受験生と大学側は和解しています。いくつかの集団訴訟はまだ続いており、佐野元被告も控訴する方針なので、今回の有罪判決もまだ確定しません。東京医大入試事件をきっかけに全国の医学部を揺るがせた不正入試の余波は、まだまだ収まりそうにありません。

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