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女性が運動をするなら朝が最適?

 中年期以降の女性が健康のために運動をするなら、早朝から午前中に行うと良いかもしれない。その方が心血管イベントリスクをより抑制できる可能性を示唆するデータが報告された。ライデン大学医療センター(オランダ)のGali Albalak氏らの研究によるもので、詳細は「European Journal of Preventive Cardiology」に11月14日に掲載された。なお、男性ではこのような傾向は見られないとのことだ。 Albalak氏はこの研究結果の報告に際して、「まず基本的に伝えたいことは、いつ行ったとしても運動にはメリットがあるということだ」と述べ、運動そのものの意義を強調している。実際、公衆衛生に関する大半のガイドラインでは、運動の強度や頻度に関する推奨を掲げているものの、タイミングについては触れていない。Albalak氏らはそのような認識を基盤とした上で、概日リズム(1日24時間周期の生理活動)との関連から、運動を行うタイミングが健康上のメリットに影響を及ぼす可能性があるのではないかと考え、本研究を行った。 研究には、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」のデータが用いられた。解析対象は、7日間連続で3軸加速度計による身体活動量が把握されていた40~69歳の一般住民8万6,657人(平均年齢61.6±7.8歳、女性58%、BMI26.6±4.5)。加速度計の記録から、身体活動のピークが早朝の群(22.9%)、午前中の遅い時間帯の群(26.1%)、夕方以降の群(19.2%)、および最も一般的な日中の時間帯に平均的に活動している群(31.8%)という4群に分類。平均6年間追跡して、冠動脈疾患(CAD)や脳卒中の発生リスクを比較検討した。 解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙習慣、降圧薬・脂質改善薬の服用、タウンゼント剥奪指数)を調整し、日中の時間帯に平均的に活動している最も一般的な群を基準として比較した。その結果、女性では身体活動のピークが早朝の群で、CADのリスクが22%有意に低く〔ハザード比(HR)0.78(95%信頼区間0.62~0.97)〕、午前中の遅い時間帯がピークの群では、CADのリスクが24%〔HR0.76(同0.63~0.92)〕、脳卒中のリスクは35%〔HR0.65(同0.47~0.89)〕有意に低いという結果が示された。しかし、男性では有意な関連は認められなかった。 女性で認められた早朝や午前中に身体活動を行うことのメリットが、男性では見られないことの理由についてAlbalak氏は、「明確に説明できるデータは見つからなかった」と述べている。また、解釈上の注意点として、加速度計で把握された身体活動が、必ずしも運動を目的とするものとは限らないことを挙げ、「運動のタイミング次第で心血管疾患のリスクが変わると結論付けることは尚早」としている。 この研究報告について、米テキサス大学サウスウエスタン医療センターのLona Sandon氏は、「驚くべきもので興味深く、かつ、やや不可解でもある」と評し、より深い理解のために、対象者の食事パターンに関する情報を加味した解析を行うことを提案している。同氏は、「栄養学の研究から、夜に食べるよりも朝に食べる方が、満腹感が強くなることが分かっている。また、朝と夜とでは代謝が異なり、この研究の結果にもその影響が現れている可能性がある」と考察している。さらに、朝の運動は夜の運動よりもストレスホルモンを低下させる傾向を示唆する研究もあるという。 ただ、Sandon氏も、「どんな時間帯であっても、運動をしないよりした方が良い」と、Albalak氏と同じ言葉を口にしている。また、「通常の生活リズムの中で、可能な時間帯に運動をしてほしい。その上で、可能であれば朝のコーヒーブレイクの代わりに運動してみてはどうか」とSandon氏は提案している。

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喘息が動脈硬化の進行を促す?

 喘息がアテローム性動脈硬化の進行を促す可能性を示唆するデータが報告された。米ウィスコンシン大学マディソン校のMatthew Tattersall氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に11月23日掲載された。持続型喘息の患者では、頸動脈の動脈硬化が有意に進行していることが確認されたという。ただし、間欠型喘息の患者では、この関係は非有意とのことだ。 喘息とアテローム性動脈硬化の病態にはともに炎症が関与していることから、両者に何らかの相互関係がある可能性が想定される。Tattersall氏らは、アテローム性動脈硬化のリスク評価に頻用されている、超音波検査による頸動脈内膜中膜複合体厚(頸動脈IMT)を指標として、喘息の有無により動脈硬化の進行レベルが異なるか否かを検討した。 研究対象は、アテローム性動脈硬化に関する多民族疫学研究(MESA)の参加者のうち、ベースライン時に心血管疾患のなかった成人5,029人(平均年齢61.6±10.0歳、女性53%)。このうち、喘息でない人が4,532人であり、持続型喘息患者(発作抑制のために毎日薬剤を使用している人)が109人、間欠型喘息患者(発作時の薬剤使用のみで管理されている人)が388人含まれていた。頸動脈IMTについては、1.5mm以上の肥厚、または周辺より50%以上肥厚している箇所がある場合に「プラークあり」と定義した。炎症レベルは、C反応タンパク質(CRP)とインターロイキン-6(IL-6)で評価した。 まず、炎症レベルに着目すると、CRPは持続型か間欠型かにかかわらず、喘息患者群は喘息のない対照群に比べて有意に高値だった。IL-6については、持続型喘息群のみ対照群より有意に高値であり、間欠型喘息群は対照群と有意差がなかった。 頸動脈プラークを有する割合は、対照群が50.5%、間欠型喘息群は49.5%、持続型喘息群は67.0%だった。動脈硬化の進行に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、喫煙習慣、人種/民族、総コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、収縮期血圧、糖尿病、スタチン・降圧薬の処方、教育歴など〕を調整後に、対照群を基準として頸動脈プラークを有する割合を比較。その結果、持続型喘息群は「プラークあり」が83%有意に多いことが分かった〔オッズ比(OR)1.83(95%信頼区間1.21~2.76)〕。間欠型喘息群はOR1.10(同0.87~1.38)であり、対照群と有意差がなかった。 Tattersall氏は、「本研究により、炎症が動脈硬化と喘息の双方の発症に重要な役割を演じていることが明らかになった。ただし、本研究結果からは因果関係に言及することはできない」としている。また、調整因子に炎症マーカーのIL-6またはCRPを追加した解析でも、持続型喘息群では「プラークあり」のオッズ比が高いという有意性が消失することはなかったことから、「炎症以外にも喘息患者の頸動脈プラーク形成リスクを高める因子の存在が示唆される」と考察。「喘息患者の頸動脈IMTの肥厚には、喘息の罹病期間なども関係しているのではないか」とした上で、「持続型喘息の患者は喘息の管理を継続するとともに、食事や運動に気を付け、血圧・コレステロール・体重をコントロールするなど、修正可能な動脈硬化リスク因子にも注意を払う必要がある」とアドバイスしている。 Tattersall氏はまた、2019年に米国心臓協会(AHA)が策定した心血管疾患一次予防のためのガイドラインの中に、慢性炎症が心血管疾患リスクと関係しており、臨床医にこの点の留意を求める記載があることに言及。「われわれの研究結果も、あらゆる種類の炎症が心血管疾患リスクを高めるという考え方を支持している」と語っている。 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のGregg Fonarow氏によると、米国成人の約10人に1人が喘息を患っているという。同氏は、「慢性炎症は喘息と心血管疾患の双方に関連しており、今回報告された研究も、その関連性を浮き彫りにしたものと言える。何らかの抗炎症療法がメリットをもたらし得るのか、さらなる研究が必要」と論評している。

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2種利尿薬、大規模試験で心血管転帰を直接比較/NEJM

 実臨床での一般的用量でサイアザイド系利尿薬のクロルタリドン(国内販売中止)とヒドロクロロチアジドを比較した大規模プラグマティック試験において、クロルタリドン投与を受けた患者はヒドロクロロチアジド投与を受けた患者と比べて、主要心血管アウトカムのイベントまたは非がん関連死の発生は低減しなかった。米国・ミネソタ大学のAreef Ishani氏らが、1万3,523例を対象に行った無作為化試験の結果を報告した。ガイドラインではクロルタリドンが1次治療の降圧薬として推奨されているが、実際の処方率はヒドロクロロチアジドが圧倒的に高い(米国メディケアの報告では150万例vs.1,150万例)。研究グループは、こうした乖離は、初期の試験ではクロルタリドンがヒドロクロロチアジドよりも優れることが示されていたが、最近の試験で、両者の効果は同程度であること、クロルタリドンの有害事象リスク増大との関連が示唆されたことと関係しているのではとして、リアルワールドにおける有効性の評価を行った。NEJM誌オンライン版2022年12月14日号掲載の報告。 非致死的心筋梗塞と非がん関連死の複合アウトカムの初回発生を比較 研究グループは、米国の退役軍人医療システムに加入する65歳以上で、ヒドロクロロチアジド(1日25mgまたは50mg)を服用する患者を無作為に2群に分け、一方にはヒドロクロロチアジドを継続投与、もう一方にはクロルタリドン(1日12.5mgまたは25mg)に処方変更し投与した。 主要アウトカムは、非致死的心血管イベント(非致死的心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院、不安定狭心症による緊急冠動脈血行再建術)、および非がん関連死の複合アウトカムの初回発生とした。安全性(電解質異常、入院、急性腎障害など)についても評価した。低カリウム血症の発生がクロルタリドンで有意に高率 計1万3,523例が無作為化を受けた。被験者の平均年齢は72歳、男性97%、黒人15%、脳卒中または心筋梗塞既往10.8%、45%が地方在住だった。また、1万2,781例(94.5%)がベースラインで、ヒドロクロロチアジド25mg/日を服用していた。各群のベースラインの平均収縮期血圧値は、いずれも139mmHgだった。 追跡期間中央値2.4年で、主要アウトカムイベントの発生率はクロルタリドン群10.4%(702例)、ヒドロクロロチアジド群10.0%(675例)で、ほとんど違いはみられなかった(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.94~1.16、p=0.45)。主要アウトカムの個別イベントの発生率も、いずれも両群で差はなかった。 一方で、低カリウム血症の発生は、クロルタリドン群(6.0%)が、ヒドロクロロチアジド群(4.4%)よりも有意に高率だった(HR:1.38、95%CI:1.19~1.60、p<0.001)。

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3回の脳卒中体験をユーモアと弱さを織り交ぜて表現する舞台俳優―AHAニュース

 米国ロサンゼルスで活動している、ほかの多くの舞台俳優と同じように、Michael Shuttさんにも副業があった。比較的自由な昼間はレストランで働き安定収入を得ながら、夜は劇団で演技、監督、制作、脚本などを手掛けていた。 ある日、レストランで働いていた時、体に電気が流れて引き裂かれるように感じ、左手が動かなくなった。職場の同僚はShuttさんの様子が変だとは感じたが、そのまま働き続けていた。その後も左手にしびれが残り、頭がぼんやりしていたものの、翌日も出勤し、さらに次の日は得意のキックボールの試合に参加した。ただし、途中でリタイアした。 次の日曜日の夕方、レストランでワインボトルの開け方が分からなくなった。一夜明けた月曜の朝、ようやく彼は受診。危険なレベルの高血圧が認められ、救急治療室に送られた。MRI検査により、虚血性脳卒中と診断された。虚血性脳卒中は、脳卒中の中で最も一般的なタイプであり、脳内の血管が塞がれて発症する。Shuttさんはその時48歳だったが、もう何年も医者にかかっていなかった。また、脳卒中の主要な原因である高血圧に気付いていなかった。入院中に降圧薬が処方され、幸いほとんど後遺症もなく退院した。退院時に看護師から、「Time is brain(時は脳なり)。もし再び脳卒中が起きたら、直ちに119番通報するように」と言われた。 退院後、Shuttさんは食事を改善し運動も始め、数カ月で20ポンド(約9kg)減量した。しかしそれからしばらくして、ジムでトレーニングを終え廊下を歩いている時、視界がぐるぐる回り始めた。彼は手すりをたどって外に出て、自分の車のライトとクラクションを作動させてそれを頼りになんとか車にたどり着き、キーを差し込んだ。その時、看護師の「Time is brain」という言葉を思い出し、運転すべきではなく、すぐに119番すべきだと悟った。 病院に搬送されたShuttさんは、血栓溶解薬の投与によりすぐに回復した。ところが、検査のための入院中に三度目の脳卒中が起きた。三度目は新たな現実との取り組みが必要になった。彼は複視や体の左側の麻痺に加え、失語や相貌失認の症状も現れていた。急性期リハビリテーション施設に転院となり、多くの領域の専門スタッフにより治療が行われた。Shuttさんは、「自分は最高の脳卒中患者になる」と自分に言い聞かせリハビリに励んだ。 Brandon Carretteさんは、Shuttさんの入院中、お見舞いに訪れた多くの友人の中の1人だ。2人はキックボールで出会い、互いの絆を深めてきた。歳は20年ほど離れていて、CarretteさんにとってShuttさんは兄のような存在だった。そのCarretteさんは看護師でもあった。Shuttさんが“ニューノーマル”な現実に直面していることを知り、Shuttさんの復活を支える最強のブースターとしての働きを始めた。 Carretteさんは、「自分の語彙から『できない』を削除して、自分ができることに集中してほしい」と彼の友に伝えた。そして、「その日できたことを、些細なことでも毎日書き留めること、そうしていれば、必ず進歩を実感できる」と助言した。例えば、Shuttさんが医師の名前を覚えていたら、それは一つの“成果”だった。1人で10フィート(約3m)歩くことも、目標のリストに追加した。 1カ月後、Shuttさんは退院して外来治療に移った。彼の両親が介助のために引っ越してきた。最初の脳卒中から約1年後、外来リハビリが完了。結果はまちまちだった。歩けるようにはなったが、視力は回復せず、左手もほとんど使えなかった。しかし、医師から「左手が完全に使えるようになることはないだろう」と言われたとき、Shuttさんはそれが間違っていることの証明を試みようと考えた。そして連日、キーボード入力に取り組んだ。最初は、左手では数分しか打てなかったが、やがて1時間できるようになり、さらに長時間入力できるようになった。 キーボード入力が可能になるとShuttさんは、それまで温めていたアイデアをまとめ始めた。ユーモアと愛、悲しみと弱さが入り混じった、短い一人称の物語だ。全てを書き終えると、それを演劇化することに取り組んだ。目的と情熱を感じていた。 友人たちの助けを借りて、Shuttさん自身も出演する「A Lesson in Swimming(水泳の練習)」という90分間の作品が完成した。その作品に接したCarretteさんは、Shuttさんのことを「彼は悲しみの中にユーモアを見つけ出し、その深い感情を表現することができる。クリエイターとして成功する彼の姿を見るのは素晴らしいことだ」と語る。 Shuttさんは今、「脳卒中は大変な体験だった」と振り返るとともに、脳卒中の発作時には時間が重要であること、つまり「Time is brain」の社会的な認知を向上したいと願っている。それが脳卒中サバイバーとして自分ができることだと考えている。「私は、脳卒中によって自分の生き方が左右されることを拒否した。その代わりに、自分の人生を切り開く機会として、脳卒中の経験を生かすことにした」。[2022年10月26日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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HDL-コレステロールは“善玉”?/JACC

 “善玉”として知られているHDL-コレステロール(HDL-C)は、心臓の健康にそれほど大きな違いをもたらさないことを示すデータが報告された。白人と黒人の比較では、後者において特にその可能性が大きいという。米オレゴン健康科学大学のNathalie Pamir氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に11月21日掲載された。 米国成人約2万4,000人を対象としたこの研究では、HDL-Cが低い白人は、冠動脈心疾患(CHD)のリスクがやや高くなることが分かった。しかし黒人ではそのような関連は見られなかった。また、白人か黒人かにかかわらず、HDL-Cが高い場合にCHDリスクが低下するという関連は見つからなかった。この結果を受けて、「CHDリスクの予測のためのHDL-Cの位置付けを再検討する必要がある」とする研究者も現れている。論文の上級著者であるPamir氏も、「CHDの古典的リスク因子が誰にでも同様の影響を及ぼすわけではない。治療ガイドラインは全ての人に役立つものであるべきだ」と述べている。 HDL-Cが“善玉”のコレステロールと認識されたのは、1970年代にさかのぼる。第二次世界大戦後に米国で増加していたCHDのリスク因子を探る目的でスタートし、現在も継続されている大規模疫学研究の嚆矢「フラミンガム研究」から、HDL-Cが高いほどCHDリスクが低いことが示され始めていた。HDL-C以外には運動がリスク低下に働き、反対に喫煙、肥満、高血圧、“悪玉”のLDL-Cはリスクを上げることも分かってきていた。 それらのエビデンスを基に、血圧やLDL/HDL-Cなどの値を組み合わせてCHDリスクを予測する手法が確立された。今日でもその手法を用いたリスク判定に基づいて、治療介入が行われている。例えばHDL-Cについては、米国では男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満の場合に、HDL-Cが低すぎる「低HDL-C血症」と診断され、60mg/dLを目標にコントロールすることが推奨されている。 ただし、フラミンガム研究の参加者は大半が白人だった。現在では、CHDリスクに影響を及ぼす因子には人種差があることが分かっており、低HDL-C血症が白人以外にも良くないことかどうかの確認が必要な状況にある。そして今回のPamir氏らの研究により、人種差を十分考慮しないリスク評価は、支持されない可能性が高くなった。 Pamir氏らの研究は、CHDの既往のない45歳以上の米国人2万3,901人(平均年齢64±9歳、女性58.4%、白人57.8%)を中央値で10年間追跡。CHDイベント(心筋梗塞の発症またはCHDによる死亡)リスクとHDL-Cとの関連を検討した。 CHDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙、BMI、LDL-C、中性脂肪、糖尿病、スタチン・降圧薬の処方など)で調整後、低HDL-C血症は白人のCHDリスク増大と関連が認められた〔ハザード比(HR)1.22(95%信頼区間1.05~1.43)〕。一方、黒人では有意な関連が認められなかった〔HR0.94(同0.78~1.14)〕。また、HDL-C高値(60mg/dL超)であっても、白人〔HR0.96(0.79~1.16)〕、黒人〔HR0.91(0.74~1.12)〕ともに、有意なリスク低下は観察されなかった。 この研究結果について、米テュレーン大学のKeith Ferdinand氏は、「この知見が、CHDのリスク評価におけるHDL-Cの位置付けの変更につながるとしたら、それは良い変化である」と語っている。同氏は、黒人患者の場合、低HDL-C血症よりも高血圧や肥満、LDL-C高値などのリスク因子をより重視する必要があるとしている。とはいえ、HDL-Cを上げるために推奨される事柄は全て健康に良いという。具体的には、運動、禁煙、加工食品に多く含まれているトランス脂肪酸の摂取を減らすことなどが当てはまる。Pamir氏によると、HDL-Cが低いのであれば、それらの努力を続けるべきだが、HDL-Cの数値にとらわれる必要はないとのことだ。 なお、本研究は米国立衛生研究所(NIH)の資金提供により実施された。

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SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか SGLT2阻害薬に関するこれまでのシステマティックレビューやメタ解析は、2型糖尿病(diabetes mellitus:DM)患者を中心に検討されてきた。本論文では、非DM患者の登録割合が多い最近の大規模研究EMPA-KIDNEY、DELIVER、DAPA-CKD加えて、2022年9月の時点における13の大規模研究、総計9万409例(DM 7万4,804例[82.7%]、非DM 1万5,605例[17.3%]、平均eGFR:37~85mL/min/1.73m2)を解析した。本研究は、DMの有無によりSGLT2阻害薬の心・腎保護作用に差異があるか否かを膨大な症例数で解析した点が新しい。本論文の主要結果 腎アウトカムは、CKD進展(eGFR 50%以上の持続的低下、持続的なeGFR低値、末期腎不全)、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)で評価、心血管リスクは心血管死または心不全による入院の複合項目で評価した。 結果は、SGLT2阻害薬は、CKD進展リスクを37%低下(相対リスク[RR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.58~0.69)。その低下の程度は、DM患者(RR:0.62)と非DM患者(RR:0.69)で同等。腎疾患別では、糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)(RR:0.60、95%CI:0.53~0.69)と慢性腎炎(chronic glomerulonephritis:CGN)(RR:0.60、95%CI:0.46~0.78)でのリスク低下は40%だが、腎硬化症(nephrosclerosis:NS)のリスク低下は30%であった(RR:0.70、95%CI:0.50~1.00、群間のheterogeneity p=0.67)。また、AKIのリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.70~0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.74~0.81)で、これらもDMの有無にかかわらず同等であった。さらに、SGLT2阻害薬は心血管死リスクも低下させたが(RR:0.86、95%CI:0.81~0.92)、非心血管死リスクは低下させなかった(RR:0.94、95%CI:0.88~1.02)。上記のリスク軽減にベースラインのeGFRは関連していなかった。糖尿病治療薬・SGLT2阻害薬はなぜ非DMでも効くのか? DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKD患者では、2型DMの有無を問わず心・腎イベントを減少させることが示唆されていた。本研究ではSGLT2阻害薬の関連する13研究の多数の症例についてメタ解析を実施し、腎アウトカムはDMの有無にかかわらず同等であることを確認した。作用機序の面から考えると、SGLT2阻害薬はDM治療薬であることから、非DM性CGNでのリスク低下は糖代謝改善では説明がつかない。では、糖代謝とは独立したいかなる機序が想定されるのであろうか。 2型DMでは、近位尿細管のSGLT2発現が増加している。そのため、輸入細動脈が拡張し糸球体過剰ろ過がみられる。CGNやNSにおいても腎機能が中等度低下すると、輸出細動脈の収縮により過剰ろ過がみられる(注:NSは病態初期は糸球体虚血があり内圧は通常上昇していない)。SGLT2阻害薬は、近位尿細管でNa再吸収を抑制して遠位尿細管のmacula densa(MD:緻密斑)に流入するNaを増大させ、尿細管-緻密斑フィードバック(tubuloglomerular feedback:TGF-MD)を適正化し、糸球体内圧を低下させる。この糸球体内圧低下は、eGFRのinitial dip(初期に起こる10~20%の一過性の低下)として観察される。Initial dipはDM、非DMにかかわらず観察されることから、非DM性CKD患者においても腎保護作用の主要機序はTGF-MD機能改善による糸球体血行動態改善が考えられる(Kraus BJ, et al. Kidney Int. 2021;99:750-762.)。 一方、CKDの病態進展には、尿細管間質病変も重要である。この点、SGLT2阻害薬には、尿細管間質の線維化抑制や抗炎症効果が示唆されている(Nespoux J, et al. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29:190-198.)。臨床的にはエンパグリフロジンの尿中L-FABP(尿細管間質障害のマーカー)低下作用やエリスロポエチン増加に伴うHb値増加などを示唆する成績もある。SGLT2阻害薬には、上記以外にも、降圧効果、食塩感受性改善、インスリン感受性改善、尿酸値低下、交感神経機能改善、などあり、これらも重要な心・腎保護機序と考えられる。また、同剤は、近位尿細管に作用するユニークな利尿薬との仮説もある。SGLT2阻害による浸透圧利尿(グルコース尿・Na尿)は、利尿作用による水・Na負荷軽減のみならず腎うっ血を改善することで尿細管間質障害を改善させていると考えられる(Kuriyama S. Kidney Blood Press Res. 2019;44:449-456.)。本論文から何を学び、どう実地診療に生かす? SGLT2阻害薬は、単にDMのみならず動脈硬化性心血管病、心不全、CKDやDKD、NAFLDなどへ適応症が拡大していく可能性がある。最近、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRB)なる4剤の組み合わせがトレンドで脚光を浴びている。DKD治療においてもKDIGO 2022では4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド骨格MRB[フィネレノン]、GLP-1アナログ)が推奨されており(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.)、これに呼応し新たに腎臓病ファンタスティックフォー(the DKD fantastic four)なる治療戦略が提唱されつつある(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、本論文が掲載されたLancet誌上には、SGLT2阻害薬がCKD治療の早期からの「foundational drug:基礎薬」になり得るのではとのコメントもある(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。今後、DKDあるいは非DM性CKDに対しては、従来からのRAS抑制薬にSGLT2阻害薬の併用、さらに治療抵抗例にはMRBやGLP-1アナログを追加・併用する治療法が普及する可能性がある。 さて、本題の「SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?」の答えは、多因子にわたる複合的効果となろう。現在、本邦ではダパグリフロジンがCKDに適応症が取れている。腎臓病診療の現場では、ダパグリフロジンをDKD治療目的だけではなく、非DM性CGNの腎保護目的に対しても使われはじめている。例えばIgA腎炎に対する扁摘パルス療法は一定の寛解率は期待されるが、必ずしも腎予後が改善しない例もある。これらの患者のunmet needsに対してSGLT2阻害薬を含め腎臓病ファンタスティックフォーによる治療介入(とくに早期からが良い?)が新たな腎保護戦略として注目されている。

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治療抵抗性高血圧に対する二重エンドセリン受容体拮抗薬の効果(解説:石川讓治氏)

 治療抵抗性高血圧は、降圧利尿薬を含む3種類の降圧薬の服用によっても目標血圧レベル(本研究では収縮期血圧140mmHg未満)に達しない高血圧であると定義されている。基本的な2種類としてカルシウムチャネル阻害薬およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシンII受容体阻害薬といった血管拡張薬が選択されることが多く、この定義には、血管収縮と体液ナトリウム貯留といった2つの血圧上昇の機序に対して介入しても血圧コントロールが不十分であることが重要であることが含まれている。従来から、第4番目の降圧薬として、血管拡張と体液ナトリウム貯留の両方に作用する薬剤であるスピロノラクトンやミネラルコルチコイド受容体阻害薬が投与されることが多かったが、高齢者や腎機能障害のある患者では、高カリウム血症に注意する必要があった。 本研究においては、二重エンドセリン受容体拮抗薬であるaprocitentan 12.5mg、25mgとプラセボを治療抵抗性高血圧患者に投与して、診察室における収縮期血圧がaprocitentan 12.5mg投与群で15.3mmHg、aprocitentan 25mg投与群で15.2mmHg低下したことが報告された。本研究においてはプラセボ群においても11.5mmHgの収縮期血圧の低下が認められており、実際の投薬による収縮期血圧の降圧効果はそれぞれ3.8mmHgおよび3.7mmHgであったと推定されている。24時間自由行動下血圧における降圧効果も4.2mmHgと5.9mmHgであり、aprocitentanの治療抵抗性高血圧に対する有効性を示した報告であった。 治療抵抗性高血圧の研究において、研究者を悩ませるのが、プラセボ群においても血圧が大きく低下する(本研究では11.5mmHg)ことで、従来の研究においてはピルカウントや尿中の降圧薬血中濃度のモニタリングをしながら、服薬アドヒアランスを厳密に調整しないと統計学的な有意差がでないことがあった。本研究においてもaprocitentan内服による実質の収縮期血圧低下度(プラセボ群との差)はaprocitentan 12.5mg群で3.8mmHg、aprocitentan 25mg群で3.7mmHg程度でしかなかった。現在、わが国で使用されているエンドセリン受容体拮抗薬は、肺動脈性肺高血圧に対する適応ではあるが、非常に高価である。本態性高血圧に対するaprocitentan投与が実際にどの程度の価格になるのかは明らかではないが、わが国においては本態性高血圧の患者は4,300万人いるといわれており(日本高血圧治療ガイドライン2019)、約4mmHgのさらなる降圧のためにどの程度の医療資源や財源を投入すべきかといったことも今後の議論になると思われる。 有害事象として、浮腫や体液貯留がaprocitentan 12.5 mmHg群で約9%、25mg群で約18%も認められた。治療抵抗性高血圧の重要な要因である体液貯留が10%近くの患者に認められたことは注意が必要であると思われる。そのため、効果とリスクのバランスの評価が難しいと感じられた。治療抵抗性高血圧に対する4番目の降圧薬として、aprocitentanとミネラルコルチコイド受容体阻害薬のどちらを優先するのかといったことも今後の検討が必要になると思われた。

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baxdrostat、治療抵抗性高血圧で有望な降圧効果/NEJM

 治療抵抗性高血圧患者の治療において、選択的アルドステロン合成阻害薬baxdrostatは用量依存性に収縮期血圧の低下をもたらし、高用量では拡張期血圧に対する降圧効果の可能性もあることが、米国・CinCor PharmaのMason W. Freeman氏らが実施した「BrigHTN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年11月7日号で報告された。適応的デザインのプラセボ対照用量設定第II相試験 BrigHTN試験は、適応的デザインを用いた二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定第II相試験であり、2020年7月~2022年6月の期間に患者のスクリーニングが行われた(米国・CinCor Pharmaの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、利尿薬を含む少なくとも3剤の降圧薬の安定用量での投与を受けており、座位平均血圧が130/80mmHg以上の患者であった。被験者は、3種の用量のbaxdrostat(0.5mg、1mg、2mg)またはプラセボを1日1回、12週間、経口投与する4つの群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、プラセボ群と比較したbaxdrostat群の各用量における、収縮期血圧のベースラインから12週目までの変化量とされた。副作用プロファイルは許容範囲 275例(baxdrostat 0.5mg群69例、同1mg群70例、同2mg群67例、プラセボ群69例)が無作為化の対象となり、248例(90%)が12週の試験を完遂した。各群の平均年齢の幅は61.2~63.8歳、男性の割合の幅は52~61%だった。全例が利尿薬の投与を受けており、91~96%がACE阻害薬またはARB、64~70%がカルシウム拮抗薬の投与を受けていた。 本試験は、事前に規定された中間解析で、独立データ監視委員会により顕著な有効性の基準を満たしたと結論されたため、早期中止となった。 ベースラインから12週までの収縮期血圧の最小二乗平均(LSM)(±SE)変化量は、baxdrostat群では用量依存性に低下し、0.5mg群が-12.1±1.9mmHg、1mg群が-17.5±2.0mmHg、2mg群は-20.3±2.1mmHgであった。 プラセボ群(LSM変化量:-9.4mmHg)と比較して、baxdrostat 1mg群(群間差:-8.1mmHg、95%信頼区間[CI]:-13.5~-2.8、p=0.003)および同2mg群(-11.0mmHg、-16.4~-5.5、p<0.001)では、収縮期血圧における有意な降圧効果が認められた。 一方、baxdrostat 2mg群における拡張期血圧のLSM(±SE)変化量は-14.3±1.31mmHgであり、プラセボ群との差は-5.2mmHg(95%CI:-8.7~-1.6)であった。 試験期間中に死亡例はなかった。重篤な有害事象は10例で18件認められたが、担当医によってbaxdrostatやプラセボ関連と判定されたものはなかった。副腎皮質機能低下症もみられなかった。 また、baxdrostatでとくに注目すべき有害事象は8例で10件発現し、低血圧が1件、低ナトリウム血症が3件、高カリウム血症が6件であった。カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇した患者のうち2例は、投与を中止し、その後再投与したところ、このような上昇は発現しなかった。 著者は、「本試験により、アルドステロンは高血圧における治療抵抗性の原動力の1つであるとのエビデンスが加えられた」としている。

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ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

 日本感染症学会は11月22日、「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」を発刊した。今回のCOVID-19に対する薬物治療の考え方の改訂ではエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ錠)の緊急承認を受け、薬物治療における注意点などが追加された。 日本感染症学会のCOVID-19に対する薬物治療の考え方におけるゾコーバ投与時の主な注意点は以下のとおり。・COVID-19の5つの症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])への効果が検討された臨床試験における成績等を踏まえ、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある者に処方を検討する・重症化リスク因子のない軽症例では薬物治療は慎重に判断すべきということに留意して使用する・重症化リスク因子のある軽症例に対して、重症化抑制効果を裏付けるデータは得られていない・SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから遅くとも72時間以内に初回投与する・(相互作用の観点から)服用中のすべての薬剤を確認する(添付文書には併用できない薬剤として、降圧薬や脂質異常症治療薬、抗凝固薬など36種類の薬剤を記載)・妊婦又は妊娠する可能性のある女性には投与しない・注意を要する主な副作用は、HDL減少、TG増加、頭痛、下痢、悪心など このほか、抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミングの項には、「重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善することを念頭に、対症療法で経過を見ることができることから、エンシトレルビル等、重症化リスク因子のない軽症~中等症の患者に投与可能な症状を軽減する効果のある抗ウイルス薬については、症状を考慮した上で投与を判断すべきである」と、COVID-19に対する薬物治療の考え方には記載されている。

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第136回 ゾコーバがついに緊急承認、本承認までに残された命題とは

こちらでも何度も取り上げていた塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)がついに11月22日、緊急承認された。今回審議が行われた第5回薬事分科会・第13回医薬品第二部会合同会議も公開で行われたが、緊急承認に対して否定的意見が多数派だった前回に比べれば、かなり大人しいものになった。今回の再審議に当たって新たに塩野義製薬から提出されたデータは同薬の第II/III相試験の第III相パートの速報値だが、その内容については過去の本連載で触れたので割愛したい。審議内で一つ明らかになったのは第III相パートの主要評価項目、有効性の検証対象の用量、有効性の主要な解析対象集団が試験中に変更されていたことだ。もともと、エンシトレルビルでの主要評価項目は新型コロナ関連12症状の改善だったが、前回の合同会議で示された第IIb相パートの結果やオミクロン株の特性に合わせて、最終的な主要評価項目はオミクロン株に特徴的な5症状に変更されたという。これについて医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は、新型コロナは流行株の変化で患者の臨床像なども変化することから、主要評価項目の適切さを試験開始前に設定するのは相当の困難これら変更が試験の盲検キーオープン前だったとの見解で許容している。少なくとも第IIb相のサブ解析結果の教訓を生かした形だ。そして、今回の審議でまず“噛みついた”のは前回審議で参考人の利益相反(COI)状況などを激しく責め立てた山梨大学学長の島田 眞路氏だった(参考:第118回)。その要点は以下の2点だ。緊急承認の条件には「代替手段がない」とあるが、すでに経口薬は2種類ある日本人集団だけ(治験は日本、韓国、ベトナムで実施)での解析では症状改善までの期間短縮はわずか6時間程度でとても有効とは言い切れないこれに対して事務方からの回答は以下のようなものだ。国産で安定供給ができ、適応が重症化リスクを問わないので代替手段がないに該当する日本人部分集団で群間差が小さい傾向が認められたことについて、評価・考察を行うための情報には限りがあり、今後改めて評価する必要がある島田氏の日本人集団に関する指摘に関しては、そもそも臨床試験自体が3ヵ国全体の参加者で無作為化されていることを考えれば、日本人集団のみのサブ解析結果は参考値程度に過ぎず、申し訳ないが揚げ足取りの感は否めない。もっとも島田氏がこの事務局説明に対して「(重症化)リスクのない人に使えるから良いんじゃないかって、リスクのない人はちょっと風邪症状があるなら、風邪薬でも飲んどきゃ良いんですよ」と反論したことは大筋で間違いではない。ただし、過去の新型コロナ患者の中には、表向きは基礎疾患がないにもかかわらず死亡した例があることも考えると、さすがに私個人はここまでは断言しにくい。一方、参加した委員から比較的質問・指摘が集中したのがウイルス量低下の意義に関するものだ。議決権はない国立病院機構名古屋医療センターの横幕 能行氏は「(今回の資料では)感染あるいは発症から72時間以内に投与しないと、機序も含めた解釈ではウイルス活性を絶ち切る、もしくはそれに近い効果を得ることはできない。そして72時間以降の投与ではウイルス量の低下もしくは感染性の低下については基本的にはまったく効果がないと読める。感染伝播の阻止、早期の職場復帰などを考えると、ウイルス量もしくは感染性の低下に関する効果のこの点を十分に認識していただいた上で市中に出す必要があるかと思う」と指摘した。これに関して事務方からは「ウイルス量低下の部分は、確かに数値の低下が認められているものの、これがどの程度の臨床的意義を持つかについてはなかなか評価が難しい」というすっきりしない反応だった。現段階でのデータではPMDAも何とも言えないのも実情だろう。最終的には島田氏以外の賛成多数により緊急承認が認められたが、臨床現場での意義はやはり依然として微妙だ。過去にも繰り返し書いているが、エンシトレルビルは、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)と同じCYP3A阻害作用を有する3CLプロテアーゼ阻害薬であるため、併用禁忌薬は36種類とかなり多い。中には降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬といった中高年に処方割合の多い薬剤も多く、この年齢層で投与対象は少ないとみられる。そもそもこの層はモルヌピラビルやニルマトレルビル/リトナビルとも競合するため、これまでの使用実績が多いこれら薬剤のほうが選択肢として優先されるはずだ。となると若年者だが、催奇形性の問題から妊孕性のある女性では使いにくいことはこれまでも繰り返し述べてきたとおりだ。今回の緊急承認を受けて日本感染症学会が公表した「COVID-19に対する薬物治療の考え方第 15版」では、妊孕性のある女性へのエンシトレルビルの投与に当たっては▽問診で直前の月経終了日以降に性交渉を行っていないことを確認する▽投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認することが望ましい、と注意喚起がされている。しかし、現実の臨床現場でこれが可能だろうか? 女性医師が女性患者に尋ねる場合でも、かなり高いハードルと言える。となると、ごく一部の若年男性が対象となるが、これまで国も都道府県も重症化リスクのない若年者へはむしろ受診を控えるよう呼びかけている。もしこうした若年男性がエンシトレルビルの処方を受けたいあまり発熱外来に殺到するならば、感染拡大期には逆に医療逼迫を加速させてしまい本末転倒である。では前述のような見かけ上では重症化リスクがないにもかかわらず突然死亡に至ってしまうような危険性がある症例を選び出して処方できるかと言えば、そうした危険性のある症例自体が現時点ではまだ十分に医学的プロファイリングができていない。そもそも、エンシトレルビルの第III相パートの結果で明らかになったのはオミクロン株特有の臨床症状の改善であって、重症化予防は今のところ未知数だ。となると、後は重症化リスクのない軽症・中等症の中で臨床症状が重めな「軽症の中の重症」のようなやや頭の中がこんがらがりそうな症例を選ばなければならない。強いて言うならば、たとえば酸素飽和度の基準で軽症と中等症を行ったり来たりするような不安定な症例だろうか? ただ、今までもこうした症例で抗ウイルス薬なしで対処できた例も少なくないだろう。そして国の一括買い上げのため価格は不明だが、抗ウイルス薬が安価なはずはなく、多くの臨床医が投与基準でかなり悩むことになるだろう。ならば専門医ほどいっそ端から使わないという選択肢、非専門医は悩んだ末にかなり幅広く処方するという二極分化が起こりうる可能性もある。この薬がこうも悩ましい状況を生み出してしまうのは、前回の合同会議の審議でも話題の中心だった「臨床症状改善効果の微妙さ」という点にかなり起因する。今回の第III相パートの結果では、オミクロン株に特徴的な5症状総合での改善ではプラセボ対照でようやく有意差は認められたものの、有意水準をどうにかクリアしたレベル(p=0.04)だ。ちなみに、もともとの主要評価項目だった12症状総合では今回も有意差は認められなかった。さらに言うと、緊急承認後に塩野義製薬が開催した記者会見後のぶら下がり質疑の中で同社の執行役員・医薬開発本部長の上原 健城氏は、今回の試験では解熱鎮痛薬の服用は除外基準に入っておらず、第III相パートでは両群とも被験者の2~3割はエンシトレルビルと解熱鎮痛薬の併用だったことを明らかにしている。もちろんリアルワールドを考えれば、解熱鎮痛薬を服用していない患者のみを集めるのは難しいだろう。「(解熱鎮痛薬服用が症状判定の)ノイズになってしまってはいけないので、服用直後数時間はデータを取らないようにした」(上原氏)とのこと。ただし、解熱鎮痛薬の抗炎症効果を考えれば、今回の主要評価項目に含まれていたオミクロン株に特徴的な症状のうち、「喉の痛み」の改善などには影響を及ぼす可能性はある。そうなるとエンシトレルビルの「真水」の薬効は、ますます微妙だと言わざるを得ない。もちろん今回の第III相パートはそもそも9割以上の被験者がワクチン接種済みで、さらに2~3割が解熱鎮痛薬の服用があった中でも有意差を認めたのだから、それらがない前提ならばもっと効果を発揮できた可能性もあるのでは? という推定も成り立つが、そう事は簡単な話ではない。緊急承認という枠組みで今後の追加データ次第では1年後に本承認となるか否かという大きな命題が残っていることもあるが、「統計学的有意差を認めたから、少なくとも現時点での緊急承認はこれで一件落着」と素直には言い難いと私個人は思っている。

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治療抵抗性高血圧、二重エンドセリン受容体拮抗薬が有効/Lancet

 エンドセリン経路の遮断による降圧作用が示唆されているが、現時点では治療標的とはなっていない。オーストラリア・西オーストラリア大学のMarkus P. Schlaich氏らは「PRECISION試験」において、二重エンドセリン受容体拮抗薬aprocitentanは治療抵抗性高血圧患者で良好な忍容性を示し、4週の時点での収縮期血圧(SBP)がプラセボに比べ有意に低下し、その効果は40週目まで持続したと報告した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月7日号に掲載された。3部構成の無作為化第III相試験 PRECISION試験は、欧州、北米、アジア、オーストラリアの22ヵ国193施設が参加した無作為化第III相試験であり、2018年6月~2022年4月の期間に参加者の登録が行われた(Idorsia PharmaceuticalsとJanssen Biotechの助成を受けた)。 対象は、利尿薬を含むクラスの異なる3種の降圧薬から成る標準化された基礎治療を受けたが、診察室での座位SBPが140mmHg以上の患者であった。 試験は連続する3部から成り、パート1は4週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の期間で、患者は標準化基礎治療に加えaprocitentan 12.5mg、同25mg、プラセボの1日1回経口投与を受ける群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。パート2は32週間の単盲検(患者)の期間で、すべての患者がaprocitentan 25mgの投与を受けた。パート3は12週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の投与中止期で、再度無作為化が行われ、患者はaprocitentan 25mg群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、パート1のベースラインから4週目までの診察室座位SBP、主な副次エンドポイントはパート3のベースライン(36週目)から4週目(40週目)までの診察室座位SBPの変化であった。そのほか副次エンドポイントには、24時間時間自由行動下SBPの変化などが含まれた。4週時の24時間自由行動下SBPも良好 730例が登録され、このうち704例(96%)がパート1を、703例のうち613例(87%)がパート2を、613例のうち577例(94%)がパート3を完遂した。730例のうちaprocitentan 12.5mg群が243例(平均年齢61.2歳、男性59%)、同25mg群が243例(61.7歳、60%)、プラセボ群は244例(62.2歳、59%)であった。 パート1の4週時におけるSBPの最小二乗平均(SE)変化は、aprocitentan 12.5mg群が-15.3(0.9)mmHg、同25mg群が-15.2(0.9)mmHg、プラセボ群は-11.5(0.9)mmHgであった。プラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-3.8(1.3)mmHg(97.5%信頼区間[CI]:-6.8~-0.8、p=0.0042)、同25mg群は-3.7(1.3)mmHg(-6.7~-0.8、p=0.0046)と、いずれも有意に低下した。 パート1の4週時における、24時間自由行動下SBPのプラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-4.2mmHg(95%CI:-6.2~-2.1)、同25mg群は-5.9mmHg(-7.9~-3.8)であった。 パート3の4週(40週)時におけるSBP(主な副次エンドポイント)は、aprocitentan 25mgに比べプラセボ群で有意に高かった(5.8mmHg、95%CI:3.7~7.9、p<0.0001)。 パート1の4週間で発現した最も頻度の高い有害事象は浮腫/体液貯留で、aprocitentan 12.5mg群が9.1%、同25mg群が18.4%、プラセボ群は2.1%で認められた。試験期間中に治療関連死が11例(心血管死5例、新型コロナウイルス感染症関連死5例、腸穿孔1例)でみられたが、担当医によって試験薬関連と判定されたものはなかった。 著者は、「本研究により、aprocitentanによる二重エンドセリン受容体の遮断は、ガイドラインで推奨されている3剤併用降圧治療との併用で、良好な忍容性とともに、診察室および自由行動下の血圧の双方に持続的な降圧効果をもたらす有効な治療法であることが確立された」としている。

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降圧薬の服薬は朝でも夕でもどちらでもお好きな時間に〜降圧薬の時間薬理学を無視したトライアル(解説:桑島巖氏)

 高血圧合併症を予防するためには、降圧薬の服薬は朝と夕のどちらがよいか? このテーマは高血圧患者を診療する医師にとってぜひ知りたい情報であろう。 本研究はその問題に本格的に取り組んだ大規模臨床試験である。 夕方服用のほうが朝服用よりも心血管合併症効果に、より有効であったとの報告もあるが、いずれも小規模だったり、方法論に問題があったりするなどで本格的大規模臨床試験による決着が望まれていた。その課題にあえて取り組んだ点では評価できる。しかし、プロトコールに大きな欠陥があるのは否めない。 本研究では降圧薬の服用時間によって、朝(6~10時)服用群と夕(20~24時)服用群にランダム化し、主要エンドポイントを心血管死、または非致死的脳卒中、心筋梗塞に設定して平均5.2年間追跡した。 その結果、主要エンドポイントの発生には両群間に差がないという結論を導いている。 しかし本研究の最大の欠陥は、降圧薬の時間薬理学への考慮がまったくなされていない点である。プロトコールによれば、降圧利尿薬の服用に関して、夕方服用が夜間頻尿などの理由でトラブルになる場合には、利尿薬のみ夕方6時、または朝服用も可、というかなりelusiveなプロトコールである。降圧薬の内訳は論文には記載されていないが、そもそもARB、ACE阻害薬などの多くは血中濃度に依存して降圧効果を発揮するが、おそらく被験者のかなりの症例が服用していると思われるアムロジピンなどは、降圧効果の持続(血中濃度持続)が25時間と非常に長いため、朝服用でも夕服用でも降圧効果の持続には影響しない。またこれも多くの症例で服用していると思われる降圧利尿薬の降圧効果も血中濃度に依存せず持続性は長い。したがって、朝の服用でも夕方服用でも降圧効果およびその結果としての心血管イベント発生には影響しない。 本研究のconclusionに述べている「夜間頻尿などの不快な効果がない限り、お好きな時間帯(convenient time)の服用でよい」というのは当然の結果である。

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重症CKDのRAS阻害薬中止で、腎機能は改善するか/NEJM

 レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)は、軽症~中等症の慢性腎臓病(CKD)の進行を抑制するが、重症CKD患者ではRAS阻害薬を中止すると、推算糸球体濾過量(eGFR)が上昇し、その低下が遅延する可能性が示唆されている。英国・Hull University Teaching Hospitals NHS TrustのSunil Bhandari氏らは、「STOP ACEi試験」において、重症の進行性CKD(ステージ4/5)患者では、RAS阻害薬の投与を中止しても、継続した患者と比較して3年後のeGFR低下に関して臨床的に重要な変化はなく、死亡率も同程度であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年11月3日号に掲載された。英国の重症CKD患者対象の無作為化試験 STOP ACEi試験は、重症の進行性CKD患者におけるRAS阻害薬の中止が、eGFRを上昇させるか、あるいは安定化させるかの検証を目的とする非盲検無作為化試験であり、英国の37施設で参加者の登録が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]と英国医学研究会議[MRC]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ステージ4/5のCKD(体表面積補正eGFR<30mL/分/1.73m2)で、透析および腎移植を受けておらず、過去2年間にeGFRが2mL/分/1.73m2以上低下し、ACE阻害薬またはARBの投与を6ヵ月以上受けている患者であった。被験者は、RAS阻害薬の投与を中止する群または投与を継続する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは3年後のeGFRで、腎代替療法開始後のeGFRは除外された。副次アウトカムは、末期腎不全(ESKD)および腎代替療法の複合、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合、死亡などであった。生活の質や運動能にも有意差はない 411例(年齢中央値63歳、男性68%)が登録され、投与中止群に206例、投与継続群に205例が割り付けられた。ベースラインのeGFR中央値は18mL/分/1.73m2、29%がeGFR<15mL/分/1.73m2、尿蛋白中央値は115mg/mmolであった。また、糖尿病(1型、2型)が37%、糖尿病性腎症が21%含まれた。58%が3剤以上の降圧薬、65%がスタチンの投与を受けていた。 3年の時点で、最小二乗平均(±SE)eGFRの値は、中止群が12.6±0.7mL/分/1.73m2、継続群は13.3±0.6mL/分/1.73m2であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:-0.7、95%信頼区間[CI]:-2.5~1.0、p=0.42)。また、事前に規定されたサブグループで、アウトカムの異質性は観察されなかった。 3年時のESKDおよび腎代替療法の複合(中止群62%[128/206例]vs.継続群56%[115/205例]、ハザード比[HR]:1.28[95%CI:0.99~1.65])、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合(68%[140/206例]vs.63%[127/202例]、相対リスク[RR]:1.07[95%CI:0.94~1.22])、死亡(10%[20/206例]vs.11%[22/205例]、HR:0.85[95%CI:0.46~1.57])について、両群間に有意差はなかった。また、生活の質(KDQOL-36)や運動能(6分間歩行距離)にも有意差はなかった。 重篤な有害事象(52% vs.49%)および心血管イベント(108件vs.88件)の頻度は、両群で同程度であった。 著者は、「これらの知見は、進行性CKD患者では、RAS阻害薬の投与中止により腎機能、生活の質、運動能が改善するとの仮説を支持しない」とまとめ、「本試験は、RAS阻害薬の中止が心血管イベントや死亡に及ぼす影響の評価に十分な検出力はなかったが、腎機能に関して中止による利益はないことが明らかになった。そのため心血管系の安全性を検討するための、より大規模な無作為化試験を行う理論的根拠はほとんどないと考えられる」としている。

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急性脳梗塞で血管内治療後の降圧コントロール、厳格vs.標準/Lancet

 頭蓋内主要動脈閉塞による急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術で再灌流に成功した成人患者に対し、収縮期血圧目標値を120mmHg未満とする厳格な降圧コントロールは、140~180mmHgとする降圧コントロールに比べ、90日後の機能回復などのアウトカムは不良であることが、中国・海軍軍医大学のPengfei Yang氏らが、821例を対象に行った無作為化比較試験の結果、示された。急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去後の至適収縮期血圧については不明であったが、結果を踏まえて著者は、「機能回復のためには厳格な降圧コントロールは避けるべき」とまとめている。Lancet誌2022年11月5日号掲載の報告。90日後の機能回復をmRSで評価 研究グループは、血管内治療による再灌流後に血圧が上昇した患者において、厳格vs.標準の降圧コントロール治療の安全性と有効性を比較する非盲検・エンドポイント盲検化の無作為化比較試験を実施した。試験は中国44ヵ所の3次医療機関を通じて行われた。 頭蓋内主要動脈閉塞による急性虚血性脳卒中で血管内血栓除去術による再灌流に成功後、収縮期血圧値が持続的に高値(140mmHg以上が10分超)の18歳以上の患者を適格とした。 被験者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け(中央で最小化アルゴリズムを備えたウェブベースのプログラムによる)、一方には厳格な降圧治療(収縮期血圧値の目標値を<120mmHg)を、もう一方には標準的な降圧治療(140~180mmHg)を、各目標値が1時間以内に達成され、72時間持続するよう行った。 主要有効性アウトカムは機能回復で、90日時点で修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])の分布に従い評価した。解析は、修正ITTにて行われた。有効性解析は、比例オッズロジスティック回帰法にて行われた。治療割り付け(固定効果として)、部位(ランダム効果として)、ベースライン予後因子で補正が行われ、主要アウトカム評価に利用可能なデータが入手でき、同意が得られていた無作為化を受けた全患者が対象に含まれた。 安全性解析は、無作為化を受けた全患者を対象とした。治療効果は、オッズ比(OR)で示された。不良な機能アウトカム、厳格降圧群が標準降圧群の1.37倍 2020年7月20日~2022年3月7日に、821例の被験者が無作為化を受けた。2022年6月22日のアウトカムレビュー後、有効性と安全性への永続的な懸念が認められことから同試験は中止となった。同時点で厳格降圧群に407例が、標準降圧群に409例が割り付けられており、そのうち主要アウトカムデータが得られたのは、404例と406例だった。 不良な機能アウトカムは、厳格降圧群のほうが標準降圧群より多い可能性が認められた(共通OR:1.37、95%信頼区間[CI]:1.07~1.76)。また、標準降圧群に比べて厳格降圧群は、早期の神経症状増悪例が多く(1.53、1.18~1.97)、90日時点の重度の障害例も多かった(2.07、1.47~2.93)が、症候性頭蓋内出血については有意な群間差はなかった。重度有害イベントや死亡についても、両群で有意差はなかった。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5【「実践的」臨床研究入門】第25回

前回、筆者らが出版したコクラン・システマティックレビュー(SR:systematic review)論文1)のP(対象)の構成要素の検索式の実例を用いて、その構造を解説しました。今回は引き続き、このコクランSR論文1)のI(介入)を示す検索式と検索式全体の完成形の実際例について解説します(連載第24回参照)。Iの構成要素をORでつないでまとめる下記は、この論文のIである「アルドステロン受容体拮抗薬」の構成要素の検索式です。14.Mineralocorticoid Receptor Antagonists[mh]15.Diuretics, Potassium Sparing[mh:noexp]16.spironolactone[tiab]17.eplerenone[tiab]18.canrenone[tiab]19.#14 OR #15 OR #16 OR #17 OR #18#14は「アルドステロン受容体拮抗薬」のMeSH term (統制語)である”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”です(連載第22回参照)。「アルドステロン受容体拮抗薬」は降圧薬の一種でK保持性利尿薬に分類される薬剤です。”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”というMeSH termの階層構造をみてみると、下記およびリンクのとおりとなります。●Diuretics, Potassium Sparing○Epithelial Sodium Channel Blockers○Mineralocorticoid Receptor Antagonists#15では”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”の上位概念である”Diuretics, Potassium Sparing”(K保持性利尿薬)を[mh: noexp]の「タグ」で指定しています。”Diuretics, Potassium Sparing”の下位概念のうち"Epithelial Sodium Channel Blockers"という違う薬剤クラスは除外した検索式になっています(連載第22回参照)。その結果、”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”で拾えない”Diuretics, Potassium Sparing”をカバーしています。#16-18では、MeSH termで拾えない可能性のある「アルドステロン受容体拮抗薬」に含まれる薬剤固有名詞を、「タグ」でTitle/Abstractを指定したうえでテキストワードを列記し、検索式を補完しています(連載第23回、第24回参照)。#19で#14から#19を”OR”でつなぎ、Iの構成要素の検索式が出来上がります。最後にPとIの構成要素をANDでつなぐPとIそれぞれの構成要素は、MeSH termやテキストワードで示される類似した語句同士なので重なりは大きいのですが、”OR”でつなげて、できるだけ検索漏れがないようにします。高校の数学で習ったはずの「ベン図」で表すと、下の図のようなイメージです。「ベン図」とは、ある概念で表されるグループ(集合)の関係性を視覚的に表した図でした。PとIの構成要素の検索式がそれぞれ完成したら、最終的にはPとIの「集合」の重なり部分を求めます。こちらも「ベン図」で示すと下図のようになります。Pの構成要素の検索式のまとめである#13(下記、連載第24回参照)と13. #1 OR #2 OR #3 OR #4 OR #5 OR #6 OR #7 OR #8 OR #9 OR #10 OR #11 OR #12Iの構成要素をまとめた検索式#19を、#20(下記)のように”AND”でつなぐことで検索式が完成します。20. #13 AND #191)Hasegawa T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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腎除神経術〜6ヵ月追跡で無効、3年追跡で有効の不思議(解説:桑島巌氏)

 治療抵抗性高血圧に対する治療法としてカテーテル腎除神経術が提唱され、いくつかの臨床研究で有効性の検証が行われてきたが、その代表的な研究として米国のSYMPLICITY HTNシリーズと欧州、オーストラリアのSPYRAL HTN-ON MED研究シリーズがある。いずれもラジオ波による焼灼であるが、他に超音波で焼灼するRADIAN-HTN SOLO研究もある。これらの試験では、焼灼方法の違いのほかに、治療抵抗性の定義の違いや対照の置き方などの違いがある。 2014年に発表されたSYMPLICITY HTN-3研究では、治療6ヵ月の成績では診察室血圧、24時間血圧ともにシャム治療群との間の降圧度の差を認めることができなかった。SYMPLICITY HTN-3試験の参入基準は3剤以上の降圧薬を服用していてもなお、診察室収縮期血圧160mmHg以上、24時間血圧135mmHgの治療抵抗性の高血圧症例である。本論文は観察期間をさらに延長して長期的有効性と有害事象について検討したものである。当初、参入資格を満たした535例を腎除神経治療群364例(68%)、シャム対照群171例(32%)にランダム化されたが、試験開始後6ヵ月の時点でシャム治療群に割り当てられた症例の中で、なお、治療抵抗性の基準を満たす例は腎除神経治療に切り替えてクロスオーバ群として腎除神経群に追加解析した。 36ヵ月間追跡できたのは腎除神経群219例、クロスオーバ群63例、非クロスオーバ群33例であった。 結論として、36ヵ月という長期での観察では、診察室血圧、24時間血圧ともにシャム治療群に比べて有意な降圧効果を示したという。 そこで問題となるのが、6ヵ月ではなぜシャム治療群と有意差が付かなくて、長期延長すると有意な差が付いたかである。 その理由として、(1)6ヵ月以降はシャム手術群でのプラセボ効果が薄まった可能性、(2)6ヵ月時点でシャム治療群に割り付けられた治療抵抗性群が、6ヵ月以降クロスオーバー群として腎除神経術を受けたことが影響した可能性。(3)その際、データ欠損値を補完(imputation)したことが影響した可能性。 しかし、治療抵抗性の高血圧が36ヵ月間持続することで心血管合併症発症あるいは進展に影響がなかったとは考えにくく、その点両群のバックグラウンドに差異が生じた可能性も否定できない。 現実的に個々の症例に対応する場合、6ヵ月間のフォローで降圧が得られなかった症例をそのまま経過観察というわけにはいかず、減塩指導の強化や薬剤追加などの対応が行われるであろう。この点、大規模臨床試験の統計結果とreal world にギャップがある。 百歩譲って、腎除神経術が有効であるとすれば、どのような症例が無効でどのような症例が有効であったかの分析結果が知りたいところである。 ただし、本研究で用いられた電極カテーテルは古典的なFlexカテーテル(メドトロニクス製)であり、術者がカテーテルをらせん状に回転させて腎動脈を焼灼するものであり、術者の技量が結果を左右する。その後メドトロニクス社は、4電極付きのSymplicity Spyral カテーテルを開発、これを用いたSPYRAL HTN-ON MEDが進行中である。36ヵ月の探索研究(proof of concept study)の結果ではシャム治療群に比べて有意に降圧効果が大きかったことが報告されているが、本年度秋のAHAでは最終結果が発表される予定だという。

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降圧薬はいつ服用?朝vs.就寝前でCVアウトカムを比較/Lancet

 降圧薬の服用は朝(6~10時)でも就寝前(20~24時)でも、主要心血管アウトカムは同等であることが、英国・ダンディー大学のIsla S. Mackenzie氏らによる前向き無作為化非盲検試験「TIME(Treatment in Morning versus Evening)試験」の結果、示された。先行研究では、降圧薬の服用は就寝前が朝よりもアウトカムが良好の可能性が示唆されていた。TIME試験は高血圧患者における通常降圧治療薬の就寝前服用が、朝の服用と比べて主要心血管アウトカムを改善するかどうかを検討する目的で行われたが、結果を踏まえて著者は、「患者には、望ましくない影響が最小限となるのであれば、都合の良い時間に定期的に服用可能であることをアドバイスできるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2022年10月11日号掲載の報告。降圧薬服用、6~10時vs.20~24時を検証 TIME試験は、18歳以上の高血圧症で、降圧薬1種以上を服用する患者を対象に、英国で行われたプラグマティックな前向き分散型並行群間比較試験。研究グループは被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け(制限、層別化、最小化はいずれもなし)、一方の群は服用中のすべての通常降圧治療薬を朝(6~10時)に、もう一方の群は就寝前(20~24時)に、それぞれ服用した。 被験者は、複合主要エンドポイント(血管死、非致死的心筋梗塞または非致死的脳卒中による入院)について追跡調査を受けた。エンドポイントは、被験者報告またはlinkage to National Health Serviceデータセットによって特定され、治療割り付けをマスクされた委員会によって評価された。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団(すなわち治療群に無作為に割り付けられた全被験者)における、イベント初発までの期間だった。安全性は、少なくとも1回のフォローアップ質問票に回答した全被験者で評価した。主要エンドポイント発生、両群ともに約3~4%と同等 2011年12月17日~2018年6月5日に、2万4,610例がスクリーニングを受け、2万1,104例が就寝前服用群(1万503例)、朝服用群(1万601例)に無作為に割り付けられた。試験開始時の平均年齢は65.1歳(SD 9.3)、男性1万2,136例(57.5%)、女性8,968例(42.5%)であり、白人が1万9,101例(90.5%)、黒人、アフリカ系、カリブ系、英国系黒人が98例(0.5%)だった。1,637例(7.8%)は人種不明。心血管疾患既往者は2,725例(13.0%)だった。 追跡調査は2021年3月31日まで行われ、追跡期間中央値は5.2年(四分位範囲[IQR]:4.9~5.7)。試験中断者は、就寝前服用群5.0%(529/1万503例)、朝服用群3.0%(318/1万601例)だった。 主要エンドポイントの発生は、就寝前服用群3.4%(362例、100患者年当たり0.69件[95%信頼区間[CI]:0.62~0.76])、朝服用群3.7%(390例、0.72件[0.65~0.79])で、両群で同等だった(補正前ハザード比[HR]:0.95、95%CI:0.83~1.10、p=0.53)。 安全性に関する懸念は特定されなかった。

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治療抵抗性高血圧への腎デナベーション、長期アウトカムは/Lancet

 治療抵抗性高血圧患者に対する腎デナベーションシステム「Symplicity」(米国Medtronic製)の安全性と有効性を検討した偽処置(シャム)対照大規模臨床試験「SYMPLICITY HTN-3試験」の最終報告として、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らが長期(36ヵ月フォローアップ)アウトカムの結果を発表した。処置後6ヵ月時点の評価では、降圧を安全に達成できることは確認された一方で有意な降圧の有効性は見いだせなかったが、36ヵ月時点の評価において、安全性に関するエビデンスが増強されるとともに、12~36ヵ月において、施術を受けた患者の降圧効果がシャム対照患者と比べて大きく、また血圧コントロールが良好であったことが示されたという。結果を踏まえて著者は、「腎デナベーションの臨床的効果が時間とともに衰えることはなく、増す可能性があることが示唆された」と述べている。Lancet誌オンライン版2022年9月16日号掲載の報告。腎デナベーションvs.シャム、36ヵ月の血圧変化、血圧コントロールを評価 SYMPLICITY HTN-3試験は、米国内88施設で行われた多施設共同単盲検シャム対照無作為化試験。18~80歳、利尿薬を含む3剤以上の最大耐用量投与にもかかわらず、座位診察室収縮期血圧(SBP)が160mmHg以上および24時間外来SBPが135mmHg以上の治療抵抗性高血圧患者を、2対1の割合で無作為に、単極(Flex)カテーテルを用いた腎デナベーションを受ける群またはシャム対照群に割り付け追跡評価した。 オリジナルの主要エンドポイントは、シャム対照群と比較した腎デナベーションの診察室SBPのベースラインから6ヵ月までの変化であった。その時点で包含基準を満たしたシャム対照患者(診察室SBP≧160mmHg、24時間外来SBP≧135mmHg、3剤以上の降圧薬処方)は、腎デナベーションを受けるクロスオーバーが可能であった。 36ヵ月までの変化は、オリジナルの腎デナベーション群とシャム対照群の患者で解析されたが、6ヵ月後に腎デナベーションを受けた患者(クロスオーバー群)と非クロスオーバー群も含まれ、腎デナベーションとシャム対照を比較するために、クロスオーバー群のフォローアップ血圧値は、クロスオーバー前のマスク時の最新血圧値を用いた推定値とした。その上で、腎デナベーション群とシャム対照群の長期血圧変化を報告し、両群の血圧コントロールを至適血圧範囲内時間(time in therapeutic blood pressure range)を用いた解析法で調べた。 安全性の主要エンドポイントは、全死因死亡、末期腎不全、重大塞栓イベント、介入を要した腎動脈穿孔または解離、血管合併症、服薬非アドヒアランスとは無関係の高血圧クリーゼによる入院、または6ヵ月以内70%超の新規腎動脈狭窄の発生であった。診察室SBPの変化、-26.4mmHg vs.-5.7mmHgで有意差、コントロールも良好 2011年9月29日~2013年5月6日に、1,442例がスクリーニングを受け、535例(37%、女性210例[39%]、男性325例[61%]、平均年齢57.9[SD 10.7]歳)が無作為化を受けた。腎デナベーション群は364例(68%、平均年齢57.9[SD 10.4]歳)、シャム対照群は171例(32%、56.2[11.2]歳)であった。 36ヵ月フォローアップデータは、オリジナル腎デナベーション群219例、クロスオーバー群63例、非クロスオーバー群33例から入手できた。 36ヵ月時点で、診察室SBPの変化は、腎デナベーション群-26.4mmHg(SD 25.9)、シャム対照群-5.7mmHg(24.4)で有意差が認められた(補正後治療群間差:-22.1mmHg[95%信頼区間[CI]:-27.2~-17.0]、p≦0.0001)。24時間外来SBPはそれぞれ-15.6mmHg(SD 20.8)、-0.3mmHg(15.1)で有意差が認められた(補正後治療群間差:-16.5mmHg[95%CI:-20.5~-12.5]、p≦0.0001)。 欠測値補完(imputation)前の解析で、腎デナベーション群のほうがシャム対照群よりも至適血圧範囲内時間を有した割合が高く(18%[SD 25.0]vs.9%[18.8]、p≦0.0001)、投薬負荷が類似していたが、腎デナベーション群のほうが血圧コントロールはより良好であることが示された。有意な結果は、欠測値補完後も変わらず一貫していた。 有害事象の発現頻度は、すべての治療群間で同程度で、腎デナベーションによるlate-emerging合併症のエビデンスは認められなかった。48ヵ月時点の安全性複合エンドポイント(全死因死亡、新規の末期腎疾患、末端器官損傷に至った重大塞栓イベント、血管合併症、腎動脈再介入、高血圧クリーゼなど)の発生率は、腎デナベーション群15%(54/352例)、クロスオーバー群14%(13/96例)、非クロスオーバー群14%(10/69例)であった。

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がん患者は血圧140/90未満でも心不全リスク増/東京大学ほか

 がん患者では、国内における正常域血圧の範囲内であっても心不全などの心血管疾患の発症リスクが上昇し、さらに血圧が高くなるほどそれらの発症リスクも高くなることを、東京大学の小室 一成氏、金子 英弘氏、佐賀大学の野出 孝一氏、香川大学の西山 成氏、滋賀医科大学の矢野 裕一朗氏らの研究グループが発表した。これまで、がん患者における高血圧と心血管疾患発症の関係や、どの程度の血圧値が疾患発症と関連するのか明らかではなかった。Journal of clinical oncology誌オンライン版2022年9月8日号掲載の報告。 本研究では、2005年1月~2020年4月までに健診・レセプトデータベースのJMDC Claims Databaseに登録され、乳がん、大腸・直腸がん、胃がんの既往を有する3万3,991例(年齢中央値53歳、34%が男性)を解析対象とした。血圧降下薬を服用中の患者や、心不全を含む心血管疾患の既往がある患者は除外された。主要アウトカムは、心不全の発症であった。 主な結果は以下のとおり。・平均観察期間2.6年(±2.2年)の間に、779例で心不全の発症が認められた。・米国ガイドラインに準じて分類した正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)と比較した心不全のハザード比は、ステージ1高血圧(130~139mmHg/ 80~89mmHg)が1.24(95%信頼区間:1.03~1.49)、ステージ2 高血圧(140mmHg以上/ 90mmHg以上)が1.99(同:1.63~2.43)と血圧が上がるほど上昇した。・心不全以外の心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても、血圧上昇に伴う発症リスクの上昇が認められた。・この影響は、化学療法などの積極的ながん治療を行っている患者においても認められた。 高血圧は、がん患者においても高頻度に認められる併存症であるが、臨床においては血圧低下(食欲不振に伴う脱水など)が問題となることも多いため、高血圧については積極的な治療が行われない場面もあったと考えられる。それを踏まえて、研究グループは、「本研究において、がん患者では、降圧治療を受けていないステージ1高血圧やステージ2高血圧においても、心不全や他の心血管疾患のリスクが高かった。がん患者においても、適切な血圧コントロールが重要である」とまとめた。

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ハイテクデバイスでの血圧管理は本当に有効か

 近年、家庭血圧測定(self monitoring of blood pressure;SMBP)が重要視されるようになってきている。その際に用いる血圧計として、スマートフォン(以下、スマホ)のアプリに接続でき、血圧を含めたさまざまな健康情報が得られるハイテクデバイスは、従来のカフ式の血圧計と比べて降圧効果に優れているわけではないとする研究結果が報告された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)疫学・生物統計学分野教授のMark Pletcher氏らが実施したこの研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に8月15日掲載された。 Pletcher氏らは今回、2,101人の高血圧患者を、6カ月にわたって従来の標準的な血圧計を用いる群(1,050人、標準血圧計群)とスマホのアプリに接続できるなどの高度な機能が備わった血圧計を用いる群(1,051人、高機能血圧計群)にランダムに割り付け、高機能デバイスにより従来の血圧計よりも高い降圧効果や患者満足度を得られるのか否かを検討した。主要評価項目は、試験開始時から6カ月後時点でのクリニックで測定した収縮期血圧(上の血圧)の低下量とした。 その結果、試験開始から6カ月後時点での収縮期血圧の平均低下量は、高機能血圧計群で10.8mmHg、標準血圧計群で10.6mmHgと同程度であった。患者満足度については、高機能血圧計群の70%、標準血圧計群の69%が、「自分たちが使った血圧計を友人にも薦めたい」と回答した。 この結果についてPletcher氏は、「スマホのアプリに接続できるデバイスには、アプリで測定値を確認でき、フィードバックやリマインダーも得られるという付加価値があると思っていた。そのため、この結果は予想外だった」と驚きを表す。 Pletcher氏はさらに、「価格的には、高度な機能が備わったデバイスは最大で100ドル(1ドル135円換算で1万3,500円)かかる上に、設定にも時間がかかる。これに対して、従来の血圧計は50〜60ドル(6,750〜8,100円)程度とより安価だ」と付け加える。 これからSMBPを始める人に対するアドバイスとしてPletcher氏は、「1日に数回、5日間続けて血圧を測定して、その記録を取ることだ。そうすることで、自分の平均的な血圧値の感覚をつかむことができる。また、その数値の記録を基に、現在の治療で効果が出ているのか、あるいは微調整が必要なのかについて担当医と話し合うこともできる」と述べる。さらに、SMBPで使う血圧計についても、「Bluetooth対応のカフとアプリを持っているのなら、それを使えば良い。従来の血圧計と同じようにちゃんと機能する」と話している。なお、研究チームは現在、経時的に血圧を自動で測定できる、新しいウェアラブルデバイスの開発を検討しているところだという。 この研究報告を受けて、米シカゴ大学総合高血圧センター所長のGeorge Bakris氏は、「患者は血圧の測り方を知り、また測定値の意味するところを説明してもらう必要がある。SMBPは、朝に正しく測定できるのであれば、クリニックで測定するより優れているとは言わないまでも同じくらいに良い」と話している。

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