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血圧レベル別の脳卒中・冠動脈疾患死亡の生涯リスク~EPOCH-JAPAN

 生涯リスク(lifetime risk、以下LTR)は、生涯に対象疾患を罹患する確率であり、長期的な絶対リスクを示す。アジア人集団において、詳細な血圧分類別の脳卒中死亡および冠動脈疾患(coronary heart disease、以下CHD)死亡のLTRを算出した研究は存在しない。今回、日本の主要な循環器疫学コホート研究の個人レベルのデータを統合した大規模統合データベースEPOCH-JAPANを用いたことにより、血圧レベル別の脳卒中死亡およびCHD死亡のLTRが明らかになったことを、東北医科薬科大学の佐藤 倫広氏らが報告した。本研究で算出されたLTRは、とくに10年間の循環器疾患死亡率が低い若年の高血圧患者に対して、早期の生活習慣是正と降圧治療開始の動機付けに役立つだろう、と結論している。Hypertension誌2019年1月号に掲載。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、13コホート、10万7,737人の日本人(男性42.4%、平均年齢55.1歳)が含まれた。・平均追跡期間15.2±5.3年(155万9,136人年)の間に、脳卒中で1,922人が死亡し、CHDで913人が死亡した。・アウトカム以外の死亡を競合リスクとして調整後、35歳時点の脳卒中死亡およびCHD死亡の10年リスクは、それぞれ1.9%以下および0.3%以下であった。・35歳時点の脳卒中死亡LTR(男性/女性)は、至適血圧群で6.1%/4.8%、正常血圧群で5.7%/6.3%、正常高値血圧群で6.6%/6.0%、I度高血圧群で9.1%/7.9、II度高血圧群で14.5%/10.3%、III度高血圧群で14.6%/14.3%であった。・CHD死亡LTRも、血圧の上昇とともに高値を示したが、脳卒中死亡LTRよりも低かった(7.2%以下)。・脳卒中またはCHDによる死亡のLTRは、基準年齢が若年ほど高値を示した。

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脳梗塞急性期:早期積極降圧による転帰改善は認められないが検討の余地あり ENCHANTED試験

 現在、米国脳卒中協会ガイドライン、日本高血圧学会ガイドラインはいずれも、tPA静注が考慮される脳梗塞例の急性期血圧が「185/110mmHg」を超える場合、「180/105mmHg未満」への降圧を推奨している。しかしこの推奨はランダム化試験に基づくものではなく、至適降圧目標値は明らかでない。2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、この点を検討するランダム化試験が報告された。収縮期血圧(SBP)降圧目標を「1時間以内に130~140mmHg」とする早期積極降圧と、ガイドライン推奨の「180mmHg未満」を比較したENCHANTED試験である。その結果、早期積極降圧による「90日後の機能的自立度有意改善」は認められなかった。ただし、本試験の結果をもって「早期積極降圧」の有用性が完全に否定されたわけではないようだ。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Craig Anderson氏(ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア)とTom Robinson氏(レスター大学、英国)が報告した。早期積極降圧群とガイドライン順守降圧群を比較するも、想定した血圧差は得られず ENCHANTED試験の対象は、tPAの適応があり、脳梗塞発症から4.5時間未満で、SBP「150~185mmHg」だった2,196例である。74%がアジアからの登録だった(中国のみで65%)。平均年齢は67歳、NIHSS中央値はおよそ8。アテローム血栓性が45%弱、小血管病変が約30%を占めた。 これら2,196例は、「1時間以内にSBP:130〜140mmHgまで低下させ、72時間後まで維持」する「早期積極」降圧群(1,072例)と、ガイドラインに従い「SBP<180mmHg」へ低下する「ガイドライン順守」降圧群(1,108例)にランダム化され、オープンラベルで追跡された。 血圧は、ランダム化時に165mmHgだったSBPが、「早期積極」群で1時間後には146mmHgまでしか下がらなかったものの、24時間後に139mmHgまで低下した。一方「ガイドライン順守」群でも、1時間後には153mmHg、24時間後には144mmHgと、研究者が想定していた以上の降圧が認められた。ランダム化後24時間のSBP平均値は、「早期積極」群:144mmHg、「ガイドライン順守」群:150mmHg(p<0.0001)とその差は6mmHgしかなかった。1次評価項目では両群間に有意差を認めず その結果、1次評価項目である「90日後の修正ランキンスケール(mRS)」は、ITT解析、プロトコール順守解析のいずれにおいても、両群間に有意差を認めなかった。年齢、性別、人種、ランダム化時のSBP(166mmHgの上下)やNIHSS、脳梗塞病型などで分けたサブグループ解析でも、この結果は一貫していた。 ただし、頭蓋内出血のリスクは、「早期積極」群(14.8%)で「ガイドライン順守」群(18.7%)に比べ、有意に低くなっていた(オッズ比[OR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.60~0.94)。医師が「重篤な有害事象」と認識した頭蓋内出血も同様である(OR:0.59、95%CI:0.42~0.82)。なお、脳出血のORは0.79(95%CI:0.62~1.00)だった。 出血以外の有害事象は、群間に有意差を認めなかった。また、90日間死亡率は「早期積極」群:9%、「ガイドライン順守」群:8%だった。新たなランダム化試験を計画中 Robinson氏は、本試験の結果から、現行ガイドラインの大幅な変更を必要とするエビデンスは得られなかったと結論する一方、本試験の問題点として、1)両群の血圧差が小さかった、2)血管内治療の施行率が低かった、などを挙げ、至適降圧目標についてはさらなる検討が必要だと述べた。現在、大血管閉塞/血管内治療例のみを対象としたENCHANTED2試験を計画中だという。 本試験は、主としてオーストラリア政府機関と英国慈善団体から資金が提供され、そのほか、ブラジル政府機関、韓国政府機関、ならびにTakedaからも資金提供を受けた。 本研究は報告と同時に、Lancet誌にオンライン公開された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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厳格な降圧でも認知症の増加はない(解説:桑島巖氏)-1004

 厳格な降圧は認知症と関連するという懸念が一部にあったが、本試験の結果はそれを否定する科学的根拠を示した大規模臨床試験として貴重である。 降圧目標値の120mmHgが従来目標の140mmHgに比して心血管イベント抑制効果が高いことを示した有名な米国SPRINT試験のサブ試験である。当初から認知症疑い(probable dementia)をエンドポイントに設定して施行したprospective studyであり、信頼性は高い。 認知症の評価はモントリオール認知評価(MoCA)、Wechslerメモリースケールを用いての学習と記憶評価、Digit Symbolコーディングテストによる処理スピードの評価の3段階の評価が訓練を受けた専門スタッフによって試験開始時と追跡期間中に行われている。 認知障害のレベルは、認知症なし、軽度認知症、認知症疑いの3つに分類されており、このうち認知症疑いの発現が本試験の主要エンドポイントとなっており、軽度認知症発現は副次エンドポイントに設定されている。当然ながら、主試験の主旨によって明らかな認知症症例や認知症治療中の症例は最初から除外されている。 結果は、主要エンドポイントである認知症疑いには厳格降圧群と緩和降圧群の間にわずかなところで有意差がつかなかった(ハザード比:0.83、95%Cl:0.67~10.4)。これは主試験の心血管イベントで有意差がついたために3.34年で中止されて統計パワーが不足したためと考えられる。 それでも副次エンドポイントである軽度認知症発現に関しては有意に抑制したとの結果である。 しかしながら本試験はあくまでもサブ試験であるだけにlimitationがいくつかある。前述の心血管イベントに有意差がついてしまったために認知症における結果が出る前に試験が中止されたこと以外に、頭部の画像診断に関する情報がないため、認知症のタイプとしてのアルツハイマー型なのか血管型なのかのタイプ別解析ができていないことなどは知りたいところではある。

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脳卒中疑い、搬送中の経皮ニトロは有効か/Lancet

 脳卒中が疑われる患者に対する搬送中の経皮型ニトログリセリン(GTN)の投与は、機能的アウトカムを改善しないことが示された。死亡率や重大有害イベントの発生リスクも低減しなかった。英国・ノッティンガム大学のPhilip M. Bath氏らの研究グループ「The RIGHT-2 Investigators」が、1,100例超の被験者を対象に行った第III相のシャム対照無作為化試験の結果で、Lancet誌2019年2月6日号で発表した。ただし結果を踏まえて著者は、「英国救急隊員が搬送時の超急性期の場面で、脳卒中患者の同意を得て治療を行うことを否定するものではない」と述べている。高血圧は急性脳卒中によくみられ、不良なアウトカムの予測因子である。大規模な降圧試験でさまざまな結果が示されているが、超急性期の脳卒中に関する高血圧のマネジメントについては不明なままだった。90日後の修正Rankin Scaleスコアを評価 研究グループは2015年10月22日~2018年5月23日にかけて、多施設共同の救急隊員による救急車内でのシャム対照無作為化試験を行った。被験者は、4時間以内に脳卒中を発症したと考えられ、FAST(face-arm-speech-time)スコアは2または3、収縮期血圧値が120mmHg以上の成人だった。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群には経皮型GTNを投与し(5mg/日を4日間)、もう一方の群には同様に見せかけたシャム処置を、いずれも救急隊員が救急車内で開始し、病院到着後も継続した。救急隊員は治療についてマスキングされなかったが、被験者はマスキングされた。 主要アウトカムは、90日後の7段階修正Rankin Scale(mRS)による機能的アウトカムのスコアだった。評価は治療についてマスキングされた中央施設の追跡調査員が電話で行った。分析は段階的に行い、まずは脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)と診断された患者について(コホート1)、次に被験者全員を対象に無作為化した患者について行った(コホート2)。mRSスコアに有意差なし、死亡や重大有害イベントも低下せず 試験は英国8ヵ所の救急車サービス拠点から救急隊員516人、被験者数1,149例(GTN群は568例、シャム群581例)が参加して行われた。 無作為化までの時間の中央値は71分(IQR:45~116)。被験者のうち虚血性脳卒中を発症したのは52%(597例)、脳内出血は13%(145例)、TIAは9%(109例)、脳卒中類似症例は26%(297例)だった。GTN群の入院時点の血圧値はシャム群と比べて、収縮期血圧値が5.8mmHg(p<0.0001)、拡張期血圧値が2.6mmHg(p=0.0026)、それぞれ低かった。 コホート1において、最終的に脳卒中またはTIAと診断された被験者におけるmRSスコアに有意差はみられなかった。GTN群の同スコアは3(IQR:2~5)、シャム群も3(同:2~5)、不良なアウトカムに関する補正後commonオッズ比(acOR)は1.25(95%信頼区間[CI]:0.97~1.60)で、両群間に有意差はみられなかった(p=0.083)。 コホート2でも、GTN群のmRSスコアは3(同:2~5)、シャム群も3(同:2~5)で、acORは1.04(95%CI:0.84〜1.29)と同等だった(p=0.69)。 死亡(治療関連の死亡:GTN群36例vs.シャム群23例、p=0.091)や重大有害イベント(188例vs.170例、p=0.16)といった副次的アウトカムも、両群で差はみられなかった。

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脳卒中後の至適降圧目標は「130/80mmHg未満」か:日本発RESPECT試験・メタ解析

 脳卒中後の血圧管理は、PROGRESS研究後付解析から「低いほど再発リスクが減る」との報告がある一方、PRoFESS試験の後付解析は「Jカーブ」の存在を指摘しており、至適降圧目標は明らかでない。 この点を解明すべく欧州では中国と共同でESH-CHL-SHOT試験が行われているが、それに先駆け、2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)のLate Breaking Clinical Trialsセッション(7日)において、わが国で行われたRESPECT試験が、北川 一夫氏(東京女子医科大学・教授)によって報告された。 登録症例数が当初計画を大幅に下回ったため、「通常」降圧に比べ、「積極」降圧による有意な脳卒中再発抑制は認められなかったものの、すでに報告されている類似試験とのメタ解析では、「積極」降圧の有用性が示された。通常降圧群と積極降圧群の脳卒中再発率の比較 RESPECT試験の対象は、脳卒中発症後30日~3年が経過し、血圧が「130~180/80~110mmHg」だった1,280例である。降圧薬服用の有無は問わない。当初は5,000例を登録予定だった(中間解析後、2,000例に変更)。 平均年齢は67歳、登録時の血圧平均値は145/84mmHgだった。初発脳卒中の病型は、脳梗塞が85%、脳出血が15%である。スタチン服用率は約35%のみだったが、抗血小板薬は約7割が服用していた。 これら1,280例は「140/90mmHg未満」を降圧目標とする「通常」降圧群(630例)と、「120/80mmHg未満」とする「積極」降圧群(633例)にランダム化され、非盲検下で平均3.9年間追跡された(心筋梗塞既往例、慢性腎臓病例、糖尿病例は「通常」群でも降圧目標は130/80mmHg未満)。 ランダム化1年後までに血圧は、通常群:132.0/77.5mmHg、積極群:123.7/72.8mmHgへ低下した。メタ解析では積極降圧で脳卒中再発率の低下が示される その結果、1次評価項目である「脳卒中再発」は、通常群の2.26%/年に対し、積極群では1.65%/年と低値になったが、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.49~1.11)。ただし脳出血のみで比較すると、通常群(0.46%/年)に比べ、積極群(0.04%/年)でリスクは有意に低下していた(HR:0.09、95%CI:0.01~0.70)。 重篤な有害事象は、両群間に有意差を認めたものはなかった。 この結果を踏まえ北川氏は、すでに公表されている、脳卒中発症後の通常降圧と積極降圧を比較した3つのランダム化試験(SPS3、PAST-BP、PODCAST)とRESPECTを併せてメタ解析した(4,895例中636例で再発)。すると積極降圧群における、脳卒中再発リスクの有意な低下が認められた(HR:0.78、95%CI:0.64~0.96)。 RESPECT以外の上記3試験では積極降圧群のSBP目標値が「125~130mmHg未満」だったため、エビデンスは脳卒中後の降圧目標として「130/80mmHg未満」を支持していると北川氏は結論した。 本試験の資金は「自己調達」と報告されている(UMIN000002851)。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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降圧目標120mmHg未満でも認知症リスクは低下せず/JAMA

 50歳以上の高血圧患者に対し、収縮期血圧の目標値を120mmHg未満として降圧治療を行っても、140mmHgを目標とする通常の降圧治療と比べて、認知症リスクの有意な低下は認められなかったことが示された。一方で、軽度認知障害のリスクは有意な低下が認められたという。米国・ウェイクフォレスト大学のJeff D. Williamson氏ら「SPRINT試験・SPRINT MIND」研究グループが、9,000例超を対象に行った無作為化比較試験で明らかにし、JAMA誌2019年1月28日号で発表した。ただし結果について、「試験が早期に中止となり、認知症例も予想より少なく、エンドポイントの検出力は不足している可能性がある」と指摘している。現状では、軽度認知障害や認知症のリスクを低減する実証された治療法は存在しておらず、今回研究グループは、血圧コントロールの強化が認知症リスクに与える影響を検討した。米国、プエルトリコの102ヵ所で試験 研究グループは、米国とプエルトリコの102ヵ所の医療機関を通じて、高血圧症で糖尿病や脳卒中の病歴がない50歳以上、9,361例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群は収縮期血圧の目標値を120mmHg未満とし(強化治療群4,678例)、もう一方の群は同目標値を140mmHgとした(標準治療群4,683例)。 無作為化は2010年11月8日から始められたが、主要アウトカム(複合心血管イベント)と全死因死亡に対する効果が認められたことで、予定より早く2015年8月20日に試験は中止となった。認知機能アウトカムのフォローアップ最終日は2018年7月22日だった。 主要認知機能アウトカムは、認知症の可能性ありとの判定。副次認知機能アウトカムは、軽度認知障害の診断、軽度認知障害または認知症の可能性ありの複合などだった。強化治療群の標準治療群に対する認知症発生ハザード比は0.83 被験者9,361例の平均年齢は67.9歳、女性は3,332例(35.6%)を占め、8,563例(91.5%)が追跡期間中に1回以上の認知機能評価を受けた。介入期間中央値は3.34年、追跡期間中央値は5.11年だった。 追跡期間中の「認知症の可能性あり」との判定者は、強化治療群7.2例/1,000人年に対し、標準治療群8.6例/1,000人年で、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.67~1.04、p=0.10)。 一方、「軽度認知障害」の判定者は、強化治療群14.6例/1,000人年、標準治療群18.3例/1,000人年で、強化治療群で有意に減少した(HR:0.81、95%CI:0.69~0.95、p=0.007)。「軽度認知障害または認知症の可能性あり」の判定者も、それぞれ20.2例/1,000人年、24.1例/1,000人年と、強化治療群で有意に減少した(HR:0.85、95%CI:0.74~0.97、p=0.01)。

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アスピリンの1次予防は、メリットより出血リスクのほうが大きい(解説:桑島巖氏)-1002

 被検者数1,000例以上のシステマティックレビューとメタ解析の結果、1次予防薬としてのアスピリンの出血リスクは心血管イベントの発症予防のメリットを上回るというのが本論文の主旨である。アスピリンは脳卒中や虚血性心疾患を有している症例に対する2次予防効果が確認されているが、1次予防効果に対する有効性に関してはいまだ定かではなかった。そもそもは、1989年にPhysicians Heart studyという米国の医師を被検者としてアスピリン325mg隔日服用群とプラセボ群にランダマイズして両群の心筋梗塞発症率を比較したRCTで、アスピリン群のほうが44%もAMIが少なかったという成績がNEJM誌に発表されたことから、一躍アスピリンの心血管イベント抑制効果が注目され始めた。 しかし、その後わが国を含め多くのアスピリンの1次予防に対する有効性を検討した結果が発表されているが、次第に否定的な結果の発表が増えていった。なかでもわが国で行われた2つの大規模なRCTは、いずれも否定的な結果に終わっている。日本人の心筋梗塞の発症率は米国よりもかなり低いことが関係していると思われるが、もう1つ研究が行われた時代背景も関係している。 Physician Heart studyは今から20年前の臨床研究であるが、その後高リスクの症例ではスタチン薬処方が普及するとともに、降圧目標もより厳格となったことで心筋梗塞が起こりにくくなっているという事実がある。かっては心血管イベント1次予防の抑制に有効であったが今や、そのデメリットである大出血リスクのほうが上回るようになったといえよう。治療薬の評価も時代とともに変化するのである。 メタ解析の常として、採用されたトライアルの均質性、たとえばアスピリンの用量、症例のリスク因子のレベルなどは担保されていない点は留意しておく必要がある。

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日本人の脳卒中生涯リスク:4人に1人が脳卒中になる(解説:有馬久富氏)-1000

 Global Burden of Disease(GBD)研究2016より、全世界における脳卒中の生涯リスクがNEJM誌に報告された1)。その結果、25歳以降に脳卒中を発症するリスクは25%であった。日本における脳卒中の生涯リスクは全世界よりも少し低い23%であり、約4人に1人が脳卒中に罹患する計算になる。また、日本では1990~2016年までの間に生涯リスクが3%減少していた。 一方、東アジアで脳卒中の生涯リスクが最も高いのは中国(39%)であり、約2.5人に1人が罹患する計算になる。さらに中国では、1990~2016年までの間に生涯リスクが9%も増加していた。中国において高血圧の未治療者や、降圧目標を達成できていない者が多いこと2,3)が、高い脳卒中生涯リスクの一因かもしれない。 脳卒中は予防可能な疾病である。INTERSTROKE研究では、管理可能な危険因子をすべてコントロールすることにより、現在起こっている脳卒中の約90%を予防できる可能性が示されている4,5)。国民全体の生活習慣を改善するポピュレーション予防戦略と高血圧・糖尿病などに適切な医療を提供するハイリスク予防戦略を組み合わせて、脳卒中の生涯リスクを今後さらに低下させてゆくことが可能となるであろう。

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高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン、8年ぶりに改訂

 2018年12月28日、日本痛風・核酸代謝学会は『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(GL) 第3版』を発刊した。改訂は2010年以来8年ぶりとなる。近年、尿酸値の上昇は、痛風だけではなく、脳・心血管疾患や腎障害にも影響を及ぼすとの報告が増えているため、これらのイベント予防も目的として作成されている。高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版の特徴とは 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版は全3章で章立てられており、第1章は作成組織・作成方針、第2章は、診療上重要度の高い7つのクリニカルクエスチョン(CQ)と、それに対するエビデンスならびに推奨度が示されている。第3章は治療マニュアルとして、リスク因子、診断、治療などが項目ごとに記載され、「医療経済」の項が新規で追加されている点などが主な特徴である。治療アルゴリズムにはこれらのCQが盛り込まれており、高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインの集大成と言っても過言ではないそうだ。 また、これまでの病型分類は、尿酸産生過剰型と尿酸排泄低下型の2つのタイプであった。今回の高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインには、腸からの排泄低下により血清尿酸値が上昇するという“腎外排泄低下型”の概念が追加されている。 以下に第2章の各CQのみを高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインより抜粋して示す。第2章 クリニカルクエスチョンと推奨CQ1)急性痛風関節炎(痛風発作)を起こしている患者において、NSAID・グルココルチコイド・コルヒチンは非投薬に比して推奨できるか?CQ2)腎障害を有する高尿酸血症の患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?CQ3)高尿酸血症合併高血圧患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?CQ4)痛風結節を有する患者に対して、薬物治療により血清尿酸値を6.0mg/dL以下にすることは推奨できるか?CQ5)高尿酸血症合併心不全患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?CQ6)尿酸降下薬投与開始後の痛風患者に対して、痛風発作予防のためのコルヒチン長期投与は短期投与に比して推奨できるか?CQ7)無症候性高尿酸血症の患者に対して、食事指導は食事指導をしない場合に比して推奨できるか? 高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインはCQにおいて、とくに重要なポイントはCQ2、3で、腎機能低下を抑制する目的での尿酸降下薬の使用を条件付きで推奨している(欧米のGLでは推奨されていない)。一方、心血管発症リスクの軽減を目的とした尿酸降下薬の使用は、条件付きで推奨されない。ただし、降圧薬使用中の高血圧患者では痛風や腎障害を合併しやすいため、痛風や腎障害の抑制を目的に尿酸降下薬の投与が推奨されている。

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日本人の血圧は意外とコントロールできていない

 生活習慣病のなかで最も罹患率の高い高血圧。これを治療するための有用な薬剤が普及し、世界的に治療率は改善している。ところが、日本人の高血圧のコントロール率はアジア諸国と比較してもまだまだ低く、高血圧パラドックスに陥っている。 2018年11月14日に日本心臓財団が主催する「高血圧パラドックスの解消に向けて‐脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?‐」が開催され、楽木 宏実氏(大阪大学大学院 医学系研究科老年・総合内科学 教授)が登壇した。日本の現状とAHA130/80のなぜ 命に直結するがん治療は常に注目の的である。しかし、高血圧もまた、高齢化に伴う心不全での死亡者が増加傾向にあり注目に値する。 「血圧値にはカットオフポイントが存在しない」と語る同氏は、EPOCH-JAPAN試験の血圧レベル別の心血管病死亡ハザード比と集団寄与危険割合(PAF)を示し、高血圧患者の心不全などによる死亡リスクの上昇について解説。このデータからも、どこからが血圧異常であるのかを区別することができず、治療対象の観点から「恣意的に高血圧の定義をしている」現状を指摘した。 日本と世界の血圧値の基準は、心血管病のリスクと治療介入の成績などを基に定義し、140/90と決められている。ところが、米国心臓病協会は昨年、基準変更を実施。世界基準から各値を10mmHgも下げ、“130/80mmHg以上を高血圧”と定義を改めた。これには、まだ分類を変えるほどの根拠の所在がそれほど明確ではないため、世界に衝撃を与えた。同氏は、「米国では降圧目標を原則130/80mmHg未満に改変した。一般にもわかりやすいように定義変更をしたと理解している」とコメント。「130~139/80~89mmHgの血圧カテゴリーを明確に“高血圧ステージ1”という表現にし、従来の高血圧基準である140/90mmHg以上は“高血圧ステージ2”という名称になった」ことも付け加えた。高血圧パラドックスへの対策 高血圧であることは、種々の疾患原因となり死亡リスクに結びつく。“日本での2007年の非感染性疾患および外因による死亡数への各種リスク因子の寄与(男女計)”のデータによると、喫煙に次いで高血圧の寄与は非常に高く、その数は11万人にも上るなど、心血管病への関連は圧倒的であった。また、心血管病が増加するとそれに伴い、脳血管疾患、認知症、骨折転倒など介護が必要となりうる状況に陥る。つまり、血圧管理を怠り続けると自覚症状がなかった状況から要介護状態へ転じてしまうのである。 そこで、高血圧抑制のために取り組むべき課題として、国民全体での血圧レベルの低下などが求められる。その成功事例には、食品表示においてNaから食塩相当量へ変更されたことがある。今ではお弁当などを購入してもひと目で塩分量がわかるようになったが、これは減塩委員会が企業に動きかけた結果である。食塩摂取量の低下もあって日本の高血圧有病率は女性では低下傾向を示し、男女ともに収縮期血圧の平均値が低下している。  今年9月には、伊藤 裕氏(慶應義塾大学腎臓・内分泌・代謝内科教授)を主導とする“高血圧学会みらい医療計画~JSH Future Plan~”が発表され、今後10年間で高血圧患者を500万人減らし、健康寿命を延伸させることが目標として示された。その実現に向け、医療システム、学術研究、社会啓発を3本の柱とし、活動が展開される予定だ。海外と日本では国民への啓発に差 米国では、国や米国心臓協会が主導となり国民向けの啓発ツールを多数排出している。これは、医療機関への受診とは別に、自身の血圧値やリスクを意識してチェックできる仕組みになっている。 日本の場合、意識付けができるのは医療機関受診者のみである。受診者には血圧手帳に血圧を記録することが勧められているが、同氏は、「一部には成績表の一種と勘違いして、良い血圧値だけを記録しているような場合もある」と述べ、「これを防ぐためにデジタル記録計の普及を目指す」とコメントした。 高齢化が進行する中、高齢者の高血圧に関する統合的レビュー論文が最近になって3編発表された。現在、同氏は高齢者の認知機能低下に配慮した最適な降圧療法の解明に取り組んでおり、「この分野に関する研究が不足するなか、リスクベネフィットに加えてコストベネフィットにも言及できる研究成果を期待したい」と締めくくった。■参考日本心臓財団■関連記事減塩したい患者さん向け、単身者でもできる作り置きレシピ発表

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受動喫煙と高血圧症との関連~日本人3万人の横断研究

 受動喫煙の直後に血圧は一時的に上昇するが、受動喫煙と慢性的な高血圧症との関連については明らかではない。今回、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)の横断研究で、多くの潜在的交絡因子を制御し、その関連について評価を行った。その結果から、高血圧予防においてタバコ煙を制御する重要性が示唆された。Medicine(Baltimore)誌オンライン版で2018年11月に掲載。 本研究の対象者は、J-MICC研究に参加した生涯非喫煙者3万2,098人(男性7,216人、女性2万4,882人)である。受動喫煙は自記式調査票を用いて評価した。受動喫煙への曝露時間は、「時々またはほとんどなし」、「ほぼ毎日、1日2時間以内」、「ほぼ毎日、1日2~4時間」、「ほぼ毎日、1日4~6時間」、「ほぼ毎日、1日6時間以上」の5つの選択肢で把握した。高血圧症有病は、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上、あるいは降圧薬の服用のいずれかを満たす者とした。高血圧症の多変量調整オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)について、ロジスティック回帰モデルを用いて、受動喫煙の曝露レベルごとに推定した。 その結果、受動喫煙にほぼ毎日曝露された人の高血圧症の多変量調整ORは「時々またはほとんどなし」の人(基準群:OR=1.00)に比べて、1.11(95%CI:1.03~1.20)であった。また、受動喫煙の曝露時間が1日1時間増加することによる高血圧症の多変量調整ORは、1.03(95%CI:1.01~1.06、傾向性のp=0.006)であった。この関連は男性においてより強く観察された。男性における受動喫煙への曝露1日1時間当たりの高血圧症の多変量調整ORは1.08(95%CI:1.01~1.15、傾向性のp=0.036)、女性では1.03(95%CI:1.00~1.05、傾向性のp=0.055)であった。

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とうとうCONSENSUS試験が古典になる日が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)-966

オリジナルニュース急性非代償性心不全例へのARNi、ACE阻害薬よりNT-proBNP濃度が低下:PIONEER-HF/AHA(2018/11/16掲載) 今年のAHAは豊作であった。Late breakingでDECLARE試験の発表があり、そしてsacubitril/バルサルタン(ARNi:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)の新たなエビデンスがこのPIONEER-HF試験1)で加わった。2014年にARNiがACE阻害薬とのRCT(PARADIGM-HF試験)2)でHFrEFの予後を改善することが示されたのは衝撃であり、1987年CONSENSUS試験3)以来王座を死守してきたACE阻害薬の牙城が崩れたかに思えた。しかし、FDAの認可基準はあくまでもRAS阻害薬を含むGDMTを4週間以上施行してなお心不全症状の残ったHFrEF患者に対するACE阻害薬またはARBからの切り替え、というものであり、de novoの患者に最初から投与することはできなかった。 このPIONEER-HF試験はタイトルを読むといかにも急性心不全に対する効果をみたような印象を受けるが、そうではない。非代償性心不全で入院した患者を対象とはするものの、血行動態を安定化させてから神経体液性因子の阻害薬を導入または増量するフェーズでARNiにするか、ACE阻害薬にするかに割り付けたものである。であるからして、亜急性期と言って良いが、NT-proBNPは入院時に4,000台後半から割り付け時には2,000台後半になっており、かなりよくコントロールされた状態での開始である。もともと8週間しか観察期間を設けておらず、短期間なのでプライマリーエンドポイントはNT-proBNPの変化率である。 今回、NT-proBNPの減少率がARNiで有意に大きかったことから、この試験としては成功であり、そのあとのことはPARADIGM-HF試験での長期予後で外挿すれば足りると考えられる。観察時間が短いことから、大半の臨床的エンドポイントは有意差がつかなかったが、重篤な複合エンドポイント(死亡、心不全再入院、VAD植込み、移植登録)は46%減少した。このようなデータを見るとACE阻害薬はいずれARNiに取って代わられるのは決定的であると感じた。この試験の骨子はサロゲートマーカーがより改善したというだけであり、それだけを見るとなぜNEJM? なぜラストオーサーがBraunwald?と首をひねるところであるが、ACE阻害薬からの切り替えしか認められていないところを大きく変えるデータとしてのインパクトがある。 このPIONEER-HF試験の対象患者の3割はde novo患者であり、半分以上RAS阻害薬が投与されていない。すなわち、血行動態が安定したら速やかにARNiを最初から導入したほうが良いということであり、もはやACE阻害薬の出番は非常に限定的とならざるをえない。ただし、ARNiは降圧作用が強く、これまでの臨床試験では収縮期血圧100mmHg以上をエントリー基準としている。実臨床的にはこれ以下の重症例も存在するので、その場合にはACE阻害薬を少量で開始してということになるかもしれない。わが国における臨床試験はPARALLEL-HF 4)という名前ですでに開始されており、いずれ承認される見込みである。 ただ、わが国において使用する場合、用量設定がやや気にかかる。最小用量の剤型がsacubitril 24mg+バルサルタン26mgを1日2回であり、1日量としてバルサルタンが52mgであるが、配合剤にしたことで力価が変わるようで80mg相当になるそうである。心不全患者で現状バルサルタン80mgを初期量として処方することは少ないと考えられる。もう半分量の剤型があれば使い勝手が良いと思う。また、最大用量の剤型はsacubitril 97mg+バルサルタン103mgを1日2回でバルサルタン320mg相当ということであるが、わが国においてバルサルタン320mgを飲んでいる人は高血圧患者といえども皆無であると思われる。そもそも最大承認用量が160mgである。 PARALLEL-HF試験では最大用量をsacubitril 97mg+バルサルタン103mgを1日2回と海外同様に設定しており、実際どの程度日本人で忍容性があったかも興味深い。いずれにせよ、長年HFrEF治療の金字塔であったCONSENSUS試験が文献的価値のみを有する日がすぐそこまで来ているようだ。

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マルファン症候群〔MFS:Marfan syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義マルファン症候群(Marfan syndrome:MFS)は、結合組織の主要成分の1つであるfibrillinの質的あるいは量的異常による先天性の結合組織疾患である。心血管、眼、骨、関節、皮膚,肺を含む全身の結合組織において広範かつ多彩な表現型を呈するが、とくに大動脈瘤(基部拡張)・解離と水晶体偏位(亜脱臼)が重要な所見で、前者は90%以上、後者は50%以上の患者で認める。病名は、1896年にフランスの小児科医であったAntoine Marfan博士が、長く細い指(arachnodactyly:クモ指)が特徴的な少女の症例を報告したことに由来する。当初は、高身長・側弯・胸郭異常などの骨格症状のみが注目されたが、その後、重篤な大動脈解離を高頻度に合併することがわかり、循環器疾患として再認識されるようになった。常染色体優性遺伝による遺伝性疾患であるが、約25%では家族歴を認めず、突然変異によるとされる。■ 疫学発症頻度は、人種に関わりなく5,000~1万人出生に1人とされ、性差はない。■ 病因15番染色体長腕に位置するFBN1遺伝子の機能喪失型の変異により発症する。FBN1遺伝子がコードするfibrillinは弾性線維の骨格成分であるmicrofibrilの主成分であるため、弾性線維に富む筋・皮膚・肺などの臓器が障害される。また、fibrillinは眼球を保持するチン小帯の主成分でもあるため、チン小帯の断裂や弛緩により水晶体偏位を生じる。そのほか、fibrillinは、細胞増殖抑制や分化に関わるTGF-βの組織における活性制御に関与していることから、多彩な症状の背景にはTGF-βの機能亢進も関係していると推測されている。■ 症状臨床症状は、心血管系、眼系、骨格系、その他に大別される。1)心血管系:大動脈瘤・解離、僧帽弁逸脱、大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁閉鎖不全MFSでは、大動脈中膜の平滑筋が障害されるため、大動脈全般で拡張や解離を来しやすく、実際、大動脈病変は、60歳までにはほぼ全例で認めるとされる最も重要な所見である。なかでも特徴的な所見は、大動脈基部(バルサルバ洞)の拡大(図1)である。画像を拡大する比較的早期から大動脈基部のバルサルバ洞部の洋梨状拡大を認めることが多いが、初期には自覚症状は乏しく、その後、上行大動脈や胸部下行大動脈にも拡大が及び、大動脈弁閉鎖不全や大動脈解離を合併して初めて自覚症状が現れる、という経過をたどることが多い。一般的に、軽度の基部拡張は小児期より認められるが、小児循環器科専門医でないと見過ごされやすい。大動脈基部径と大動脈解離のリスクには、ある程度の相関が見られ、拡大傾向が強くなる青年期以降に解離のリスクが高くなる。解離部位は、上行大動脈を含むことが多いが、胸部下行大動脈が初発部位となることもある。僧帽弁逸脱所見は約75%の患者で認め、粘液変性(myxomatous degeneration)所見も約25%で認める。僧帽弁逸脱は、MFSの特徴的症状のそろわない小児期でも認められることが多い。聴診の際の収縮中期クリック音で気付かれるが、確認には心臓超音波検査が最も有効である。重度の僧帽弁閉鎖不全は、新生児MFSを除くと病初期にはまれであるが、幼~小児期以降は、僧帽弁閉鎖不全による症状が前面に出てくる場合がある。その他、肺動脈基部の拡張や三尖弁逸脱もしばしば認めるが、治療の対象となることは少ない。2)眼系:水晶体偏位(亜脱臼・脱臼・振盪)、近視、乱視、網膜剥離、白内障、緑内障水晶体を支えるチン小帯の脆弱性により、水晶体偏位(亜脱臼・脱臼・振盪)や、水晶体性近視・乱視を発症する。また、眼軸が伸びることによる軸性近視もしばしば認める。水晶体偏位は、MFS患者の50~60%で認め、他の類縁疾患ではみられない特徴的所見であるため、診断的価値はきわめて高い。水晶体偏位は、外傷性の場合と異なり、両側性で上方にずれることが多いとされる。幼児期に高度の偏位を認める場合には、将来の弱視につながる可能性があるため、早期の治療を要する。一方、偏位が軽度の場合は、視力も正常に保たれるため、診断には散瞳下細隙灯検査が必要である。網膜剥離、白内障、緑内障も、一般に比べるとやや頻度が高い。3)骨格系:高身長、細く長い指、側弯、胸郭変形、扁平足ほか長管骨が長軸方向に伸びる結果、高身長で手足が長いdolichostenomeliaを認める。指が長く関節が柔らかいことによる親指徴候(サムサイン)・手首徴候(リストサイン)はarachnodactyly(クモ指)と称され、MFSの代表的身体所見で、幼少児期よりみられることが多い(図2)。漏斗胸、鳩胸、脊椎側弯、脊椎後弯などの胸郭病変も小児期より認める場合が多いが、成長期に増悪しやすい。その他、外反扁平足、高口蓋、叢生歯(歯列不正)も高率に認める。顔貌の特徴としては、長頭、頬骨低形成、眼球陥凹、下顎後退、眼瞼裂斜下などが傾向として挙げられる。画像を拡大する4)その他自然気胸は全体の約15%で認める。皮膚弾性組織の断裂による線状性皮膚萎縮(皮膚線条)も、成人には高頻度で認めるが、小児期には少なく、成長期以降に増加する。鼠径ヘルニアや瘢痕ヘルニアも一般に比べて高い頻度で認める。腰仙部の脊髄硬膜拡張もCTやMRIによる画像検査でしばしば認める所見であるが、自覚症状はない場合がほとんどである。■ 予後生命予後は、大動脈解離をはじめとする心血管系合併症に左右される。1986年に報告された大動脈基部置換術(Bentall手術)により生命予後は劇的に改善したが、その後、予防的自己弁温存大動脈基部置換術(David手術、Yacoub手術)など、解離前に脆弱な大動脈基部を人工血管に置換する術式の開発により、さらに生命予後は改善している。また、小児期よりβ遮断薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬の内服が、大動脈拡張自体をある程度抑制できることも大規模臨床試験で示された。近年では、早期診断と早期からの医療管理により、健康な人と遜色ない生命予後が期待できるところまできている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)国際的診断基準である「ゲント診断基準(2010改訂)」に従う。診断は、(1)大動脈基部病変、(2)水晶体偏位、(3)遺伝学的検査、(4)全身徴候スコア、に基づいてなされる(表1)。診断に必要な項目は、家族歴の有無により異なる。この基準により、MFSの95%以上は診断可能とされる。表1 マルファン症候群(MFS)診断のための改訂ゲント基準(2010)【家族歴がない場合】(1)大動脈基部病変(Z≧2)1)+水晶体偏位 → MFS(2)大動脈基部病変+FBN1遺伝子異常2) → MFS(3)大動脈基部病変+全身徴候(7点以上) → MFS*(4)水晶体偏位+(大動脈病変との関係が既知の)FBN1遺伝子異常 → MFS【家族歴がある場合】(5)水晶体偏位+家族歴3) → MFS(6)全身徴候(7点以上)+家族歴 → MFS*(7)大動脈基部病変(Z≧2(20歳以上)、Z≧3(20歳未満))+家族歴 → MFS*・水晶体偏位があっても、大動脈病変と関連するFBN1遺伝子変異を認めない場合は、全身徴候の有無にかかわらず「水晶体偏位症候群(ELS)」とする。・大動脈基部病変が軽度で(バルサルバ洞径;Z<2)、全身徴候(≧5点で骨格所見を含む)を認めるが、水晶体偏位を認めない場合は「MASS」4)とする。・僧帽弁逸脱を認めるが、大動脈基部病変が軽度で(バルサルバ洞径;Z<2)、全身徴候を認めず(<5点)、水晶体偏位も認めない場合は「僧帽弁逸脱症候群(MVPS)」とする。・MFS*:この場合の診断は、類縁疾患であるShprintzen-Goldberg症候群、Loeys-Dietz症候群、血管型エ-ラスダンロス症候群との鑑別を必要とし、所見よりこれらの疾患が示唆される場合の判定は、TGFBR1/2遺伝子、COL3A1遺伝子、コラーゲン生化学分析などの諸検査を経てから行うこと。なお、鑑別を要する疾患や遺伝子は、将来変更される可能性がある。注1)大動脈基部径(バルサルバ洞径)の拡大(体表面積から算出された標準値との差をZ値で判定)、または大動脈基部解離注2)FBN1遺伝子異常の意義付けに関しては別に詳しく規定されている(詳細は省略)注3)上記の(1)~(4)により、個別に診断された発端者を家族に有する注4)MASS:近視、僧帽弁逸脱、境界域の大動脈基部拡張(バルサルバ洞径;Z<2)、皮膚線条、骨格系症状の表現型を有するもの(訳者注 MASSとは、“Mitral valve、Aorta、Skin、Skeletal features”をあらわす)■ 診断のための検査大動脈基部病変の評価は、心臓超音波検査、胸部CT(造影・非造影)検査、胸部MRI/MRA検査による。このうち心臓超音波検査は、大動脈基部の評価や心臓弁や心機能の評価に最も適しており、定期的フォローには欠かすことができない検査である。大動脈基部病変の定義は拡張および解離であるが、このうち拡張の評価は、バルサルバ洞径の実測値と体表面積から算出した標準値を比較して行われ、成人では、実測値が標準値の+2SD以上、小児では+3SD以上を有意な拡張とする。一方、弓部以降の大動脈や分枝動脈の評価には、CTやMRI検査が適しており、年齢や目的に応じて適宜使い分ける。水晶体偏位を含む眼病変は、通常の眼科的検査で評価する。水晶体偏位の有無は、散瞳薬により瞳孔を開いた状態で細隙灯(スリットランプ)下で確認する。遺伝学的検査では、FBN1遺伝子の病原性変異(バリアント)を検出する。FBN1遺伝子は巨大な遺伝子であり、病気の発症と関係しないバリアントや、MFS以外の疾患の原因となるバリアントも存在するため、病原性の判定には注意を要する。わが国ではMFSの診断のための遺伝学的検査は、2016年4月より保険診療として認められており、国内では、かずさDNA研究所などが検査を受注している。全身徴候スコアは、通常の理学的検査による身体所見やX線やCTなどの一般的画像所見を用いて評価するもので、項目別に点数化し、全20点中7点以上のスコアを陽性と判断する(表2)。ここには、旧ゲント基準に含まれていた、上記以外のほとんどが含まれる。項目の詳細は、画像付きで米国マルファン協会のHPの中で紹介されている。表2 改訂ゲント基準における全身徴候スコア画像を拡大する■ 鑑別診断大動脈瘤・解離を合併しやすい疾患および類似の骨格所見・眼所見を呈する疾患が鑑別の対象となる。いずれも、改訂ゲント基準により鑑別可能である。・ロイス・ディーツ症候群(Loeys-Dietz syndrome)・血管型エーラス・ダンロス症候群(Vascular Ehlers-Danlos syndrome)・家族性胸部大動脈瘤・解離症候群(Familial thoracic aortic aneurysm and dissection syndrome)・動脈蛇行症候群(Arterial tortuosity syndrome)・先天性拘縮性くも状指趾症(Congenital contractural Arachnodactyly/Beals syndrome)・ホモシスチン尿症(Homocystinuria)・スティックラー症候群(Stickler syndrome)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)心血管系合併症に対する治療で最も重要なのは大動脈瘤・解離の予防である。内科的治療としては、β遮断薬あるいはアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の内服で、基部の拡張を認めるときには、できるだけ早期に治療を開始することが推奨されている。大動脈基部径が45mmを超えると大動脈解離のリスクが高くなるため、予防的大動脈基部置換手術を考慮する。これには、自己弁温存手術(David手術、Yacoub手術)と生体弁や機械弁を用いたBentall手術があるが、それぞれ長所・短所があるため、患者の年齢・性別・生活歴などを考慮しながら、最善の方法を選択する。なお、女性患者の場合、将来の妊娠の可能性を踏まえた治療が大切である。つまり、大動脈基部径が40mmを超えると妊娠中の大動脈解離リスクが高くなるため、そのままでの妊娠は難しくなる。したがって、女児では、成長後の基部径が40mm以下に保てるように、小児期から適切に降圧薬治療を継続することが重要である。その他、僧帽弁閉鎖不全や不整脈に対する治療は、通常の場合と同様である。水晶体偏位を認める場合、軽症なら眼鏡などによる視力矯正のみで経過観察を行うが、偏位が重症で完全脱臼や弱視の可能性がある場合は水晶体摘出手術や眼内レンズ縫着手術が行われる。高度近視の場合や水晶体手術後は網膜剥離のリスクが高くなるので、定期的に眼科を受診する必要がある。側弯、漏斗胸、気胸、ヘルニアなど、上記以外の合併症に対しては、いずれも対症療法が基本である。4 今後の展望致死的合併症となりうる大動脈解離の予防には、早期診断および早期治療介入が必須である。内科的治療に関しては、大規模臨床試験で、小児期からのβ遮断薬とアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)内服に大動脈基部拡張予防効果のあることが示され、標準的治療として定着してきた。また、外科的治療についても、致死的な大動脈解離の発症を防ぐための予防的大動脈基部人工血管置換手術も、手術手技の進歩により自己弁温存手術が標準的治療として定着しつつあり、術後のQOLも改善している。5 主たる診療科循環器内科、小児科、臨床遺伝科、眼科、心臓血管外科、整形外科※全身性疾患であり、各科専門医によるチーム診療が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センタ- マルファン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センタ- マルファン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviewsJapan  マルファン症候群(医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews “Marfan syndrome”(医療従事者向けのまとまった疾患情報:英語のみ)National Library of Medicine Genetics Home Reference(医療従事者向けのまとまった情報:英語のみ)National Marfan Foundation (NMF)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:英語のみ)患者会情報マルファンネットワークジャパン(患者とその家族および支援者の会)日本マルファン協会(患者とその家族および支援者の会)1)Loeys BL, et al. J Med Genet. 2010;47:476-485.2)Neptune ER, et al. Nat Genet. 2003;33:407-411.3)Lacro RV, et al. N Engl J Med. 2014;371:2061-2071.公開履歴初回2018年11月27日

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青年期心血管疾患発症リスク評価における米国新規血圧分類の有用性の検証(CARDIA研究から)(解説:冨山博史氏)-953

 従来、140/90mmHg以上が、高血圧として定義されてきた。しかし、2017年に発表された米国高血圧ガイドラインでは収縮期血圧120~129mmHgを血圧上昇(elevated blood pressure)、130~139/80~89mmHgをI度高血圧(StageI高血圧)とし、血圧異常の範疇を拡大することを提唱した。一方、2018年に発表された欧州高血圧ガイドラインでは血圧分類は従来のままで140/90mmHg以上を高血圧と定義している。こうした血圧異常の定義の乖離は、さまざまな議論を呼んでいる。 CARDIA研究は、40歳未満の米国住人における心血管疾患発症危険因子と冠動脈疾患発症の関連を調査する前向き観察研究である。本研究は、同研究コホートにて血圧上昇(収縮期血圧120~129mmHg/拡張期血圧80mmHg未満)およびI度高血圧(130~139/80~89mmHg)が、正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)に比べて心血管疾患発症リスクが高いかを検証した。観察開始時40歳未満の4,851例が18.8年経過観察された。心血管疾患発症は、正常血圧群に比してハザード比は血圧上昇群で1.67、I度高血圧群で1.75と有意な上昇を確認している(総死亡には有意な差を認めなかった)。 CARDIA研究の結果は、青年期の軽度の血圧異常も心血管疾患発症のリスク指標であることを示した。そして、血圧上昇群、I度高血圧群では正常血圧群に比してBMIが大きく、糖・脂質代謝異常合併も多いことが確認できる(とくにI度高血圧で、正常血圧群と有意差を認めた)。このように血圧上昇自体がリスクであるか、こうした軽度血圧異常に合併する心血管疾患発症に関連する病態異常が複合的にリスクとして作用するかは明確でない。いずれにしても本研究の結果は、軽度血圧異常の症例では、肥満、糖・脂質代謝異常などにも注意を払う重要性が確認された研究である。 本研究では、各血圧重症度群のその後の血圧異常の進展や降圧薬使用頻度に関しては言及していない。今後、血圧上昇群、I度高血圧群に対するイベント発症抑制のための有用な介入プログラム(経過観察方法、生活習慣改善指導あるいは積極的降圧薬治療など)を確立する必要がある。

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若年時の血圧高値、中年以降CVイベントを招く?/JAMA

 40歳未満の若年成人で、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)ガイドライン2017の「正常高値」「ステージ1高血圧」「ステージ2高血圧」の該当者は、正常血圧者と比較し、その後の心血管疾患(CVD)イベントのリスクが有意に高いことが示された。米国・デューク大学の矢野 裕一朗氏らが、前向きコホート研究「Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究」の解析結果を報告した。これまで、若年成人の血圧と中年期のCVDイベントとの関連についてはほとんど知られていない。著者は、「ACC/AHA血圧分類は、CVDイベントリスクが高い若年成人を特定するのに役立つと考えられる」とまとめている。JAMA誌2018年11月6日号掲載の報告。18~30歳の約5千人を30年追跡、血圧分類4群のCVDイベント発生を評価 CARDIA研究は、米国4都市(アラバマ州バーミングハム市、イリノイ州シカゴ市、ミネソタ州ミネアポリス市、カリフォルニア州オークランド市)の施設において、18~30歳までのアフリカ系アメリカ人および白人計5,115例を登録し追跡しているコホート研究で、1985年3月に開始された。今回、2015年8月までのアウトカムを入手し解析した。 最初の検査~40歳前の最後の検査における最高血圧を用いて、被験者を「正常血圧」群(120/80mmHg未満、2,574例)、「正常高値」群(120~129/80mmHg未満、445例)、「ステージ1高血圧」群(130~139/80~89mmHg、1,194例)、「ステージ2高血圧」群(140/90mmHg以上または降圧薬服用、638例)に分類した。 主要評価項目は、CVDイベント(致死的および非致死的冠動脈疾患[CHD]、心不全、脳卒中、一過性脳虚血発作、末梢動脈疾患)であった。正常血圧群と比較し正常高値群1.67倍、ステージ1群1.75倍、ステージ2群3.49倍 解析対象4,851例の調査開始時の平均(±SD)年齢は35.7±3.6歳、女性2,657例(55%)、アフリカ系アメリカ人2,441例(50%)、降圧薬服用206例(4%)であった。 追跡期間中央値18.8年において、CVDイベントの発生は228件であった(CHD 109件、脳卒中63件、心不全48件、末梢動脈疾患8件)。1,000人年当たりのCVD発生率は、正常血圧群1.37(95%信頼区間[CI]:1.07~1.75)、正常高値群2.74(95%CI:1.78~4.20)、ステージ1高血圧群3.15(95%CI:2.47~4.02)、ステージ2高血圧群8.04(95%CI:6.45~10.03)であった。 多変量調整後の正常血圧群に対するCVDイベントのハザード比は、正常高値群1.67(95%CI:1.01~2.77)、ステージ1高血圧群1.75(95%CI:1.22~2.53)、ステージ2高血圧群3.49(95%CI:2.42~5.05)であった。 なお、著者は研究の限界として、食塩摂取量や心理的要因などの残余交絡の可能性、他の人種/民族集団に一般化できない可能性などを挙げている。

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「血圧の薬は一生飲み続ける」と思い込む患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第23回

■外来NGワード「飲まないとあとあと大変なことになりますよ!」「治療のガイドラインでは薬が推奨されています」「倒れたら、誰があなたの面倒を見るんですか?」■解説 血圧が高いのに医療機関を受診せず、薬を飲むのを嫌う患者さんがいます。その理由の1つとして「血圧の薬を飲み始めると、一生飲み続けなければいけない」と思い込んでいることが挙げられます。しかし、血圧コントロールが良好な患者さんでは、降圧薬を中止しても血圧が正常範囲に保たれる割合が40%程度存在したとの報告があります1)。こういった患者さんには、もともと軽症の高血圧(I度高血圧)だった、減塩・減量などで生活習慣を改善できた、1種類の降圧薬で良好な血圧コントロールができた若年者などのパターンがあると考えられます。また、血圧には季節変動があることが知られており、夏季に血圧が低下する患者さんでは、一時的に降圧薬の減量あるいは休薬を考慮してもよいです。一方、冬季には血圧が上昇して増量や追加が必要になることも少なくありません。患者さん一人ひとりの血圧変動に合わせた服薬調整が大切です。血圧を良好に保つことが将来的な動脈硬化を防ぎ、脳血管疾患、心血管疾患、認知症などの予防につながることを強調して説明してみてはいかがでしょうか。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師今まで、血圧の薬を飲んだことはありますか?(服薬歴の確認)患者ありません。血圧の薬を飲み始めると、一生やめることができないんでしょう?医師そんなことはありませんよ。薬を飲み始めても、食事や運動などに気を付けて、血圧が落ち着いたら薬の量を減らすことや、お休みすることもできます。患者えっ、そうなんですか?医師それに、血圧の薬を飲むことは血圧を下げるためだけでなく、動脈硬化を予防するためでもあるんです。患者動脈硬化を予防するということは…?医師動脈硬化の予防は、脳卒中や心筋梗塞、そして認知症の予防にもつながりますよ。患者なるほど…。医師ただし、薬ですから、副作用が起こることもあります。血圧の薬はたくさんありますから、自分に合った薬を見つけることが大切です。患者そうなんですよね。副作用が心配で、なかなか気が進まなくて…。医師それでは、血圧の薬について、どういう種類があるか説明させてもらいますね。患者はい。よろしくお願いします。■医師へのお勧めの言葉「血圧の薬を飲み始めても、食事や運動などに気を付ければ、薬の量を減らせたり、お休みできたりする人もいます」「血圧を正常範囲に保つことは、動脈硬化の予防になります。脳卒中や心筋梗塞、さらには認知症の予防にもつながりますよ」1)Nelson M, et al. Am J Hypertens. 2001;14:98-105.

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ACE阻害薬と肺がんリスクの関連/BMJ

 ACE阻害薬の使用により、肺がんのリスクが増大し、とくに使用期間が5年を超えるとリスクが高まることが、カナダ・Jewish General HospitalのBlanaid M. Hicks氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年10月24日号に掲載された。ACE阻害薬により、ブラジキニンおよびサブスタンスPが肺に蓄積し、肺がんリスクが高まることを示唆するエビデンスがある。この関連を検討した観察研究は限られており、結果は一致していないという。肺がんとの関連をARBと比較するコホート研究 研究グループは、ACE阻害薬の使用が肺がんリスクを高めるかを、ARBと比較する地域住民ベースのコホート研究を行った(Canadian Institutes of Health Researchの助成による)。 United Kingdom Clinical Practice Research Datalinkから、1995年1月1日~2015年12月31日の期間に、新規に降圧薬治療を受けた患者99万2,061例のコホートを同定し、2016年12月31日まで追跡した。 ACE阻害薬の累積使用期間および治療開始からの期間別の肺がんの発生率を、ARBと比較した。Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)を推算し、95%信頼区間(CI)を算出した。肺がんリスクが14%増加、5年以上の使用で関連が明確に 降圧薬別の患者の割合は、ACE阻害薬使用例が21.0%、ARB使用例が1.6%、その他が77.4%であった。全体の平均年齢は55.6(SD 16.6)歳、男性が46.3%であった。最も多く使用されていたACE阻害薬はramipril(26%)で、次いでリシノプリル(12%)、ペリンドプリル(7%)の順だった。 平均フォローアップ期間は6.4(SD 4.7)年で、この間に7,952例が新たに肺がんと診断された(粗発生率:1.3[95%CI:1.2~1.3]件/1,000人年)。 全体として、ACE阻害薬の使用により、ARBと比較して肺がんリスクが有意に増加した(発生率:1.6件 vs.1.2件/1,000人年、HR:1.14、95%CI:1.01~1.29)。 使用期間が長くなるに従ってHRは徐々に上昇し、5年以降は明確な関連が認められ(HR:1.22、95%CI:1.06~1.40)、10年後にピークに達した(1.31、1.08~1.59)(傾向検定:p<0.001)。 治療開始からの期間についても同様の関連が認められ、期間が長くなるに従ってHRが上昇した(5.1~10年:1.14、95%CI:0.99~1.30、>10年:1.29、1.10~1.51)(傾向検定:p<0.001)。 著者は、「今回、観察された影響はさほど強くないが、小さな作用が結果として多くの患者を生み出す可能性があるため、これらの知見を他の疾患でも確認すべきだろう」と指摘し、「ACE阻害薬が肺がんの発生率に及ぼす影響を、より正確に評価するために、さらに長期のフォローアップを行う必要がある」としている。

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降圧薬の低用量3剤合剤は軽度から中等度の高血圧患者においても、安全に降圧目標への到達率を改善できる(解説:石川讓治氏)-939

 日本高血圧治療ガイドライン2014においては、カルシウムチャンネル拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬)およびサイアザイド利尿薬の3種類のいずれかを降圧薬の第1選択とし、降圧目標に達しなかった場合に他の降圧薬を追加することが推奨されている。英国のNICEガイドラインにおいても、年齢55歳と人種に応じてカルシウムチャンネル拮抗薬またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(または低価格のアンジオテンシンII受容体拮抗薬)のどちらかを第1選択とし、これらの併用でも目標降圧レベルに到達できないときにサイアザイド系利尿薬を追加することを推奨している。しかし、高リスクの高血圧患者においては、これらのステップに沿った降圧治療では目標レベルに達するまでに時間を要するため、その間の心血管イベントの発症が問題となっていた。そのため欧米の高血圧治療ガイドラインでは、高リスクの高血圧患者においては、第1選択薬として降圧薬の合剤を使用することが認められている。 本研究において、軽度から中等度の高血圧患者を対象とし、テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mgおよびchlorthalidone 12.5mgの低用量3剤合剤から降圧薬を開始(未治療患者において)または変更(単剤治療患者において)することによって、6ヵ月後の降圧目標への到達率が改善し、有害事象や降圧治療からの脱落も通常治療群と有意差が認められなかったことが報告された。本研究はスリランカで施行されており、通常治療群がどのような治療を行ったのかが明確ではなかったが、結果的に低用量3剤合剤群では錠剤数は少なく、降圧薬の種類は多かった。 この結果から、軽度から中等度高血圧患者においても降圧薬の低用量3剤合剤を使用の有効性と安全性が示されたが、現在のところわが国においては、降圧薬の合剤を第1選択薬として投与することは添付文書において制限されている。将来的には、これらのエビデンスがわが国でも普及することによって降圧薬の合剤を第1選択薬として使用できる時代が来るのかもしれない。しかし、高齢化が進み、欧米よりも肥満度の少ないわが国の高血圧の日常臨床においても、これらのエビデンスを当てはめることができるかどうかは、今後の検討が必要である。

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高血圧の発症、黒人成人でなぜ多い?/JAMA

 米国・アラバマ州立大学のGeorge Howard氏らは、白人成人との比較による黒人成人の高血圧症の過剰リスクについて臨床的および社会的要因との関連を調べた。媒介分析法を用いた検討の結果、男女ともに統計的な人種間の差を媒介しているキー要因は、南部型の食事スコア、食事におけるナトリウム値のカリウム値に対する比率、そして教育レベルであることが示されたという。また女性においては、腹囲とBMI値も主要因であった。米国の黒人集団は、高血圧症の有病率の高さが平均余命に格差をもたらす主因となっている。一方で、なぜ黒人成人で高血圧症の発症率が高いのかは明らかにされていなかった。JAMA誌2018年10月2日号掲載の報告。白人成人との比較で、発症の高リスクと関連する潜在的要因を評価 研究グループは、黒人成人における高血圧症発症の高リスクと関連する潜在的要因を評価する前向きコホート研究を行った。2003~07年に行われた縦断コホート研究に参加した45歳以上の黒人および白人成人3万239例のうち、ベースラインで高血圧症を有しておらず、中央値9.4年後のフォローアップ受診の参加者を対象とした。 12の臨床的・社会的要因(揚げ物類の摂取が多いなどの南部型の食事スコア[範囲:-4.5~8.2、高値ほど食事パターン順守率が高い])を用いて、フォローアップ受診時の高血圧症発症(収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、または降圧薬の使用で定義)との関連を調べた。南部型食事スコアが最も大きな要因 被験者は6,897例(平均年齢62例[SD 8]、黒人成人26%、女性は55%)、そのうち高血圧症の発症は、黒人被験者46%、白人被験者33%で認められた。 補正後南部型食事スコアは、黒人男性0.81(95%信頼区間[CI]:0.72~0.90)であったのに対し、白人男性は-0.26(-0.31~-0.21)であった。また、黒人女性0.27(0.20~0.33)に対し、白人女性は-0.57(-0.61~-0.54)であった。 南部型食事スコアは、男女ともに高血圧症発症と有意な関連が認められた。男性のオッズ比(OR)は1SDにつき1.16(95%CI:1.06~1.27)、食事スコア25thパーセンタイルでの発症率32.4%、同75thパーセンタイルでは36.1%で絶対リスク差は3.7%(95%CI:1.4~6.2)。女性は、ORが1SDにつき1.17(95%CI:1.08~1.28)、食事スコア25thパーセンタイルでの発症率31.0%、同75thパーセンタイルでは34.8%で絶対リスク差は3.8%(95%CI:1.5~5.8)であった。 南部型食事パターンは、高血圧症の発症についての差に関する最も大きな媒介要因で、黒人男性における過剰リスクの51.6%(95%CI:18.8~84.4)、黒人女性における過剰リスクの29.2%(13.4~44.9)を占めていた。 また、黒人男性においては、食事におけるナトリウム/カリウム比の高さと教育レベル(高卒未満)も、それぞれ過剰リスクの12.3%に関与していた。 黒人女性においては、BMI高値が過剰リスクの18.3%、大きい腹囲が15.2%、DASHダイエット非順守が11.2%、所得3万5,000ドル未満が9.3%、ナトリウム/カリウム比の高さが6.8%、高卒未満の教育レベル4.1%に関与していた。

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『減塩パラドックス』Revisit! Populationか、Communityか、Individualか?(解説:石上友章氏)-920

 カナダ・マックマスター大学のAndrew Mente氏らの論文、“Urinary sodium excretion, blood pressure, cardiovascular disease, and mortality: a community-level prospective epidemiological cohort study.”は、PURE試験(Prospective Urban Rural Epidemiology study)の臨床アウトカムと、推定食塩摂取量・推定カリウム摂取量との関連を解析した研究である1)。食塩の過剰摂取は、高血圧のリスクになり、ひいては心血管イベントのリスクになると信じられているが、本試験の結果は必ずしも定説を支持するものではなかった。顧みれば、本連載(90)の否定された『減塩パラドックス』―降圧の基本は、やはり減塩。での議論が、再び蒸し返されるような事態になるかもしれない。 2011年にJAMA誌に相次いで、減塩の限界を証明し、『減塩パラドックス』ともいえる議論をもたらすような論文が掲載されたが2,3)、2013年のBMJ誌に掲載されたメタ解析論文は、こうした議論を否定した4)。メタ解析による複数のエビデンスによる、結果の一貫性だけではなく、推定食塩摂取量の根拠となった「single urine sampleによる簡便な評価法」の不確実性が限界として指摘されている。 本論文では、あらためてpopulation baseの減塩が、community baseには有効ではない可能性を指摘している。公衆衛生的な介入と個人衛生的な介入の中間的な介入は、こうした介入の個別化という点で興味深い。疫学統計は事実であるが、因果関係を証明することはできない。公衆衛生的な介入の正当性を証明すると、さらに多くの時間的、人的、経済的コストが必要になるのは、言うまでもない。

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