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入院を契機にADLが低下した患者の処方薬見直し【うまくいく!処方提案プラクティス】第22回

 今回は、入院を契機にADLが低下し、それまでの服用薬を見直した事例を紹介します。患者さんの生活様式が変わることでそれまで必要だった薬剤が不要になるケースもありますので、処方薬を点検して、現在の状態と処方薬の必要性が合致しているかを確認しましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患:心房細動、高血圧、骨粗鬆症訪問診療の間隔:2週間に1回副作用歴:エドキサバン服用による歯茎と鼻出血のため服用中止処方内容1.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後4.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 週1回土曜日5.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 夕食後6.酸化マグネシウム錠330mg 1錠 分1 夕食後7.経腸成分栄養剤(2−2)液 750mL 分3 朝昼夕食後(入院中の新規開始薬)本症例のポイント患者さんは施設入居中に急性巣状腎炎と細菌性誤嚥性肺炎を発症し、入院することになりました。入院前は車いすで生活していたものの、トイレや食事も自分で行っていましたが、入院中はほぼベッド上で過ごし、トイレや食事介助が必要になるなどADLが低下しました。また、食事摂取が進まず、嚥下機能も低下したため、末梢静脈栄養が行われましたが、退院に向けた内服への切り替えとして経腸成分栄養剤(2−2)液が開始されました。退院後の訪問診療の同行の際に気になる点がいくつかあったため、まとめることにしました。1.嚥下機能低下により錠剤の服用が困難嚥下機能が低下し、錠剤の服用が困難となりました。とくにアレンドロン酸錠を起床時に上体を起こして飲むことが難しく、無理な服用から食道潰瘍のリスクにもつながる懸念がありました。注射薬への変更、もしくは骨折リスクが低いようであれば中止を提案することにしました。なお、ビスホスホネート製剤を中止した場合、活性型ビタミンD3製剤単独での治療効果も限定的であることから両剤とも中止が望ましいと考えました。2.降圧薬の服用により低血圧に入院前の血圧は、おおむね収縮期/拡張期:130〜140/70〜80で推移していましたが、ADL低下に伴い食事摂取がほとんどなくなり、血圧の低下がありました。このまま服用を続けると低血圧を起こして転倒のリスクもあるため、降圧薬の中止が妥当と判断しました。3.日中の傾眠からスボレキサントを変更スボレキサントは湿度と光の影響を受けるため粉砕不可ですので、代替薬を考えることにしました。また、看護師より日中の傾眠が強くて食事摂取が安定しないので、もう少しマイルドな薬に変更できないかという相談もありました。そこで、睡眠−覚醒リズムの改善と昼夜のメリハリ、夜間睡眠に加えて朝や日中の症状改善効果のあるラメルテオン錠を粉砕して対応することを検討しました。処方提案と経過訪問診療同行時に、医師に上記3点について口頭で相談したところ、内服薬を少なくすることで誤嚥のリスクも減らすことができるから夕食後の薬のみにまとめよう、と了承を得ました。降圧薬に関しては、食事摂取量が安定してきたところで再度血圧評価をして、再開についてはそこで再検討することになりました。内服薬変更後の血圧推移は、収縮期/拡張期:120〜130/70〜80の幅で推移しており、夜間の中途覚醒や入眠障害などもなく経過しました。食事摂取量は、経腸成分栄養剤(2−2)液を70〜80%ほど摂れるようになってきました。現在、引き続き食事摂取量や血圧推移、内服薬の服用状況をモニタリングしています。Avenell A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD000227.Reid IR, et al. Lancet. 2014;383:146-155. 矢吹拓 編. 薬の上手な出し方&やめ方. 医学書院;2020.

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降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連―システマティックレビュー、メタ解析(解説:石川讓治氏)-1245

 中年期の高血圧が晩年期の認知症の発症と関連していることがいくつかの観察研究において報告されてきた。しかし、降圧治療と認知症や認知機能障害の発症の関連を評価した過去の研究においては、降圧治療が認知症の発症を減少させる傾向は認められたものの、有意差には至っていなかった。本論文では14の無作為介入試験の結果を用いてメタ解析を行い、平均年齢69歳、女性42.2%、ベースラインの血圧154/83.3mmHgの対象者において、降圧治療によって、平均49.2ヵ月間の追跡期間で7%の認知症もしくは認知機能障害の相対的リスク減少、および平均4.1年の追跡期間の間で7%の認知機能低下の相対的リスク減少があり、これらが有意差をもって認められたことを報告した。以前の無作為介入試験の結果は副次エンドポイントであったため有意差には至っていなかったが、メタ解析によって統計学的なパワーを増加させることで有意差を獲得したものと思われる。 SPRINT-MIND試験においても、積極的な降圧治療が通常治療よりも深部白質病変を減少させることが報告されており、降圧治療が脳血管性の認知機能障害を抑制することは予想できる。しかし、認知機能障害を生じる病態はさまざまであり、脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症、前頭側頭葉型認知症、レビー小体型認知症などの病態が複雑に重なり合って臨床像をなしているため、完全に分けて考えることは困難である。降圧治療が、アルツハイマー型のアミロイドβやレビー小体型認知症におけるαシヌクレインといった代謝性物質にどのような影響を与えているのかは不明な点が多い。 本研究における無作為介入試験の参加者はインフォームドコンセントのための難解な同意文書を理解しサインできる、登録時には比較的認知機能が良好に保たれていた患者である。このような認知機能が良好に保たれた高血圧患者においては、降圧治療が将来の認知症や認知機能障害の発症を抑制するものと思われる。しかし、高齢者の日常臨床においては認知機能障害が進行するにつれて、栄養障害、サルコペニア、カヘキシア、併存疾患の存在などとともに体重減少や生活の質の低下が認められ、自然経過で血圧が低下してくる患者が認められる。そして、このような患者は介入試験からは除外されている。その一方で、観察研究における超高齢者においては、血圧が低く治療されていた対象者においてより死亡率が高く認知機能障害の進行が認められたことも報告されている。 これらの結果から、認知機能障害が起こる前には積極的に降圧治療を行って認知機能障害を予防し、残念ながら認知機能が低下してしまった段階では徐々に降圧治療を緩和していく必要があるものと思われる。しかし、この降圧治療のターニングポイントに関する明らかな指針は少ない。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』においては自力で外来通院困難としか記載されておらず、降圧治療のターニングポイントとなる認知機能のレベルも明らかにはなっていない。今後の課題であると思われる。

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女性における脳心血管病対策は十分といえるのか?(解説:有馬久富氏)-1243

 世界のさまざまな所得水準の27ヵ国において20万人以上の一般住民を対象に疫学調査を継続しているPURE研究から、脳心血管病の男女差に関する成績がLancet誌に報告された1)。その結果、脳心血管病の既往のない女性の1次予防においては、男性と同等あるいはそれ以上に、高血圧に対する降圧療法、脂質異常症に対するスタチン、糖尿病に対する血糖降下療法が実施されていた。また、女性における初発脳心血管病のリスクは、男性の約4分の3と有意に低く、この結果は、すべての所得レベルおよびすべての地域に当てはまった。 一方、脳心血管病の既往がある女性の2次予防においては、男性に比べて十分な対策が行われていないことが明らかになった。たとえば、抗血小板薬やスタチンを処方されている女性の割合は、男性の3分の2程度であった。また、高血圧に対して降圧薬を処方されている女性の割合も、男性より有意に低かった。さらに、冠動脈疾患の既往がある女性をみると、男性に比べて心カテ等の検査やPCI等の治療が十分に行われていない可能性も示唆された。このような状況であっても、低・中所得国における彼女らの脳心血管病再発リスクは男性よりも低かった。しかし、高所得国における女性の脳心血管病再発リスクは男性と同等あるいはやや高い傾向にあった。1次予防の成績で示されたように元来女性の脳心血管病リスクは低いものと思われるが、2次予防においては、十分な予防対策や医療介入が行われていないために、女性の脳心血管病再発リスクが高まっている可能性がある。 東アジアからPURE研究に参加しているのは中国だけなので、本研究の結果をそのまま日本に当てはめてよいかはわからない。しかし、日本においても、脳心血管病リスクの低い印象を有する女性において、2次予防戦略が手薄になってしまうことはありうることなのかもしれない。女性であっても、脳心血管病の既往がある場合は高リスク者であることをきちんと認識し、2次予防対策(危険因子のコントロール、抗血栓療法、定期検査、早期の治療介入)を徹底することが大切と考えられる。

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第11回 COVID-19試験を仲良く取り下げた2大誌LancetとNEJMはお咎めなし?

抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンとCOVID-19患者死亡率上昇の関連を示した、注目のLancet報告が発表されてから2週間後の6月4日、米国企業Surgisphere社が解析したとされるその情報源が確認不可能であるとして、1人を除く3人の著者がその報告を取り下げました1)。さらに同日、降圧薬のCOVID-19患者への影響を調べたNew England Journal of Medicine(NEJM)報告も同じ理由により取り下げられました。この2つの一大事のせいで研究者や医学誌のデータ解析の在り方は酷く怪しまれ、目下進行中のCOVID-19に関する臨床試験の取り組みは困難になるかもしれません1)。「論文を撤回したジャーナルも、科学も、薬も、臨床試験やその裏付けの評判もすべて損なわれた」とオーストラリア・シドニー大学の倫理学者Ian Kerridge氏はNatureに話しています。情報源が不明である以上もはやすべて推測になりますが、撤回された2つの報告はSurgisphere社が世界中の数百もの病院から集めたとされる電子カルテデータを解析した結果に基づくとされています。Surgisphere社を設立してCEOとして指揮するSapan Desai氏は、Lancet報告とNEJM報告のどちらの著者でもあり、Lancet報告の撤回には同意していませんがNEJM報告の撤回にはどういうわけか同意しています。すでに報じられている通り、Lancet報告が発表されるやその報告で危険性が示唆されたヒドロキシクロロキンの試験のいくつかは停止に追い込まれました。ヒドロキシクロロキンの検討を一翼とする英国での無作為化試験RECOVERYは続行されましたが、残念ながら同剤のCOVID-19入院患者死亡抑制効果は認められなかったと先週金曜日に発表され2)、COVID-19入院患者にヒドロキシクロロキンは無効とのひとまずの決着を見ました。同試験を率いたオックスフォード大学教授Martin Landray氏は、今回の結果を受けて世界の治療方針は変わるだろうと言っています。Surgisphere社が関与してLancet報告やNEJM報告以上の影響を及ぼしたかもしれないCOVID-19関連の試験報告がもう1つあります。抗寄生虫薬イベルメクチンを使用したCOVID-19患者の大幅な死亡率低下を記したその報告は、プレプリント登録サイトSSRNに4月初めにいったん登録され、暫く公開された後に削除されました。削除の理由をNatureがその著者Mandeep Mehra氏に尋ねたところ、まだ査読には早いと思ったとの回答がありました。米国屈指の病院Brigham and Women’s Hospitalの循環器科医・Mehra氏は取り下げられたLancet報告とNEJM報告の筆頭著者でもあります。束の間の公開でしたが、スペインの研究者Carlos Chaccour氏によるとその結果は南アメリカの国々でのイベルメクチン使用の急増を後押ししました1,3)。ペルー政府はSSRNに掲載されてから数日後に同国の治療ガイドラインにイベルメクチン治療を取り入れました。続いてボリビア政府も1週間後にはペルー政府に倣って同じく同剤を治療方針に加えています。パラグアイではイベルメクチンの販売を制限しなければならないほど需要が増えました。査読後に出版された報告の撤回後に、その報告の影響の波及を防ぐような安全措置は査読前公開の報告にはなく、査読前に一瞬姿を見せて消えたイベルメクチン報告の南アメリカでの影響は断ち切られていません。「ラテンアメリカで続くイベルメクチン報告の亡霊は誰が追い払うのか? それが間違いだったと著名雑誌は言ってくれない」とChaccour氏はNatureに話しています。LancetやNEJMはひとまず論文を取り下げて影響の波及を断ち切ったとはいえ、COVID-19へのヒドロキシクロロキン高用量投与を調べている試験ASCOTのリーダーSteven Tong氏に言わせれば、両誌の編集者も査読者も著者と同じ穴のむじなであり、ことごとく酷い仕打ちを受けたとScienceのニュースに話しています4)。ASCOT試験でのヒドロキシクロロキン投与群はLancet報告を受けて停止されましたが、幸い再開の運びとなっています5)。Natureの調べによると、LancetもNEJMも査読結果がどのようなものだったかを示すつもりはなく秘密としています。そんなことでは、情報源を出さなかったSurgisphere社と変わりないではないかと思われても仕方ないかもしれません。 LancetやNEJMは著者等の撤回声明を掲載するのみで、何ら自省も反省も示していないが、出版までの手続きで何がまずかったのかを自問してみせるべきだったとミネソタ大学の倫理学者Leigh Turner氏はScienceに話しています。英国の医学研究信頼性支持団体Reproducibility Networkを率いるChis Chambers氏も同じ考えで、両誌は自ら主張するように再現性と完全性を大事と思うならば、出版に至るまでのやり取りをいますぐに第三者に調査してもらう必要があると言っています。参考1)Ledford H, Van Noorden R.Nature.2020 Jun 5. [Epub ahead of print]2)No clinical benefit from use of hydroxychloroquine in hospitalised patients with COVID-19 / RECOVERY3)Ivermectin and COVID-19: How a Flawed Database Shaped the Pandemic Response of Several Latin-American Countries / Barcelona Institute for Global Health4)Two elite medical journals retract coronavirus papers over data integrity questions / Science5)AustralaSian COVID-19 Trial to proceed with hydroxychloroquine arm

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漫然とした多剤併用に一石!(解説:桑島巖氏)-1239

 高齢者におけるpolypharmacy(多剤併用)が社会問題化している。確かに高齢者では複数の疾患が多くなり薬剤数が増えることはある程度やむを得ないかもしれない。しかし効果のない薬を漫然と処方することはぜひ避けなければならない。 英国から発表されたOPTIMISE研究は臨床に即した重要な論文である。 収縮期血圧が150mmHg未満で2種類以上の降圧薬を服用している80歳以上の症例(平均84.8歳)を、1種類降圧薬を減らす群(介入群)282例と従来どおりの治療群(対照群)に非盲検化にランダム化して12週後の血圧に差がないことを確認する非劣性試験である。 その結果、12週後の収縮期血圧が150mmHg未満を維持していた症例は、介入群86.4%、対照群87.7%で両群に有意差はなかった。 つまり1剤降圧薬を減らしても血圧は上がってこなかったということであり、無駄な降圧薬が処方されていたという訳である。 この結果はしばしば経験するところであり、当に我が意を得たりというところである 白衣高血圧は降圧薬の影響を受けにくいため、高齢者の研究では白衣高血圧の除外は必須である。その対策として、この研究ではBpTRUという自動血圧測定器を用いている。この機器は最初の1回だけ医療スタッフがボタンを押して血圧を測定するが、その後スタッフがいなくなっても1分おきに最低でも5分間自動的に血圧測定を行うことで“白衣効果”を除外する工夫をしている。 もう一つの可能性としては、両群とも降圧薬として、ACE阻害薬またはARBが84%に処方され、Ca拮抗薬も70%近く処方されているところから、ACE阻害薬/ARBとCa拮抗薬の併用が多かったことがわかる。 高齢者では、低レニンがほとんどでありACE阻害薬/ARBの降圧効果はCa拮抗薬に比べるとはるかに弱い。最強のARBと販売企業が宣伝するアジルサルタン(商品名アジルバ)とCa拮抗薬を1対1で比較したACS 1研究(Hypertension2015:65:729)の結果をみると一目瞭然である。 Ca拮抗薬とARBの併用はわが国でも非常に多いが、高齢者でもARBを除いてみても血圧は上昇してこない場合がほとんどであり、この研究はその臨床経験を裏付けるものである。 ただしこの研究に参加した高齢者は、英国のGP(総合医)が薬を減らしても問題がないと考えた症例のみが選ばれており、当然心不全、心筋梗塞、脳卒中既往などのリスクの高い症例は含まれていないことには注意が必要である。

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80歳以上の高齢の高血圧患者、降圧薬を1剤減らしても非劣性/JAMA

 2種類以上の降圧薬を服用し、収縮期血圧値が150mmHg未満の80歳以上の高齢患者について、医師が判断のうえで降圧薬を1種類減らしても通常どおりの治療を続けた患者と比べて、12週後の血圧コントロールに関して非劣性であることが示された。英国・オックスフォード大学のJames P. Sheppard氏らが、英国69ヵ所のプライマリケア診療所を通じ、569例を対象に行った試験で明らかにした。多剤併用および複数疾患が並存する高齢者に対して、治療継続のベネフィットが有害性に勝らない場合は、降圧薬の処方を見直すことが推奨されている。著者は、「今回の結果は、高血圧の高齢者患者集団において、降圧薬の減薬が血圧コントロールに実質的な影響はもたらさないことを示すものであった。なおさらなる研究を行い、長期的な臨床アウトカムを明らかにする必要はある」とまとめている。JAMA誌2020年5月26日号掲載の報告。高齢患者の12週後の収縮期血圧値150mmHg未満の割合を比較 研究グループは、降圧薬の減薬が、収縮期血圧コントロールや有害イベント発生の有意な変化をもたらす可能性はあるのかないのかを明らかにするため、2017年4月~2018年9月にかけて、英国69ヵ所のプライマリケア診療所を通じ、569例の患者を対象に、無作為化非盲検・非劣性試験「OPTIMISE」(The Optimising Treatment for Mild Systolic Hypertension in the Elderly)を開始し、2019年1月まで追跡した。 被験者は、収縮期血圧値が150mmHg未満で、2種以上の降圧薬を服用しており、プライマリケア医が降圧薬の減薬について適切と判断した80歳以上の高血圧の高齢患者だった。 被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け、一方の群については1種類の降圧薬服用を中止とした(減薬群282例)。もう一方の群では、降圧薬の減薬を義務付けずに通常のケアを行った(通常ケア群287例)。 主要アウトカムは、12週時点で収縮期血圧値が150mmHg未満の被験者の割合とした。事前に規定した非劣性マージンは、相対リスク(RR)が0.90。副次アウトカムは、減薬を維持した被験者の割合、血圧値や虚弱の程度、QOL、有害イベント、重篤有害イベントの差などだった。高血圧の高齢患者の減薬群86.4%は通常ケア群87.7%と同等 被験者である569例の高血圧の高齢患者の平均年齢は84.8歳、女性は48.5%(276例)で、ベースラインで処方されていた降圧薬数の中央値は2種だった。試験を完了したのは、534例(93.8%)だった(減薬群265例、通常ケア群269例)。 12週時点で収縮期血圧が150mmHg未満だった被験者の割合は、通常ケア群87.7%(236例)に対して、減薬群は86.4%(229例)だった。補正後RRは0.98(97.5%片側信頼区間[CI]:0.92~∞)で、減薬群の非劣性が確認された。また、副次アウトカムについて、7つのうち5つで有意差は示されなかった。 減薬群において、12週時点で降圧薬の減数が維持されていた被験者は、187例(66.3%)だった。ベースラインから12週までの収縮期血圧値の平均変化値は、減薬群が通常ケア群に比べ3.4mmHg(95%CI:1.1~5.8)上回っていた。 1件以上の重篤有害事象の発生は、減薬群12例(4.3%)、通常ケア群7例(2.4%)で認められた(補正後RR:1.72、95%CI:0.7~4.3)。

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COVID-19の入院リスク、RAAS阻害薬 vs.他の降圧薬/Lancet

 スペイン・University Hospital Principe de AsturiasのFrancisco J de Abajo氏らは、マドリード市内の7つの病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の調査「MED-ACE2-COVID19研究」を行い、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬は他の降圧薬に比べ、致死的な患者や集中治療室(ICU)入室を含む入院を要する患者を増加させていないことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月14日号に掲載された。RAAS阻害薬が、COVID-19を重症化する可能性が懸念されているが、疫学的なエビデンスは示されていなかった。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、そのスパイクタンパク質の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞内に侵入し、複製する。RAAS阻害薬はACE2の発現を増加させるとする動物実験の報告があり、COVID-19の重症化を招く可能性が示唆されている。一方で、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)は、アンジオテンシンIIによる肺損傷を抑制する可能性があるため、予防手段または治療薬としての使用を提唱する研究者もいる。また、RAAS阻害薬は、高血圧や心不全、糖尿病の腎合併症などに広く使用されており、中止すると有害な影響をもたらす可能性があるため、学会や医薬品規制当局は、確実なエビデンスが得られるまでは中止しないよう勧告している。他の降圧薬と入院リスクを比較する症例集団研究 研究グループは、COVID-19患者において、RAAS阻害薬と他の降圧薬による入院リスクを比較する目的で、薬剤疫学的な症例集団研究を実施した(スペイン・Instituto de Salud Carlos IIIの助成による)。 2020年3月1日~24日の期間に、マドリード市内の7つの病院から、PCR検査でCOVID-19と確定診断され、入院を要すると判定された18歳以上の患者を連続的に抽出し、症例群とした。対照群として、スペインの医療データベースであるBase de datos para la Investigacion Farmacoepidemiologica en Atencion Primaria(BIFAP)から、症例群と年齢、性別、地域(マドリード市)、インデックス入院の月日をマッチさせて、1例につき10例の患者を無作為に抽出した。 RAAS阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬が含まれた(単剤、他剤との併用)。他の降圧薬は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であった(単剤、RAAS阻害薬以外の他剤との併用)。 症例群と対照群の電子カルテから、インデックス入院日の前月までの併存疾患と処方薬に関する情報を収集した。主要アウトカムは、COVID-19患者の入院とした。重症度にかかわらず、入院リスクに影響はない 症例群1,139例と、マッチさせた対照群1万1,390例のデータを収集した。年齢(両群とも、平均年齢69.1[SD 15.4]歳)と性別(両群とも、女性39.0%)はマッチしていたが、心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、心不全、心房細動、血栓塞栓性疾患)の既往(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.62~2.41)と、心血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全)(1.46、1.23~1.73)を有する患者の割合が、対照群に比べ症例群で有意に高かった。 RAAS阻害薬の使用者では、他の降圧薬の使用者と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差は認められなかった(補正後OR:0.94、95%CI:0.77~1.15)。また、ACE阻害薬(0.80、0.64~1.00)およびARB(1.10、0.88~1.37)のいずれでも、他の降圧薬に比べ、入院を要するCOVID-19の有意な増加はみられなかった。これらの薬剤は、単剤および他剤との併用でも、入院リスクに有意な影響はなかった。 性別、年齢別(<70歳vs.≧70歳)、高血圧の有無、心血管疾患の既往、心血管リスク因子に関しては、他の降圧薬と比較して、RAAS阻害薬の使用による入院を要するCOVID-19のリスクに有意な交互作用は確認されなかった。一方、RAAS阻害薬を使用している糖尿病患者では、入院を要するCOVID-19患者が少なかった(補正後OR:0.53、95%CI:0.34~0.80、交互作用検定のp=0.004)。 COVID-19の重症度を最重症(死亡、ICU入室)と、低重症(最重症以外のすべての入院患者)に分けた。いずれの重症度でも、RAAS阻害薬、ACE阻害薬、ARBは、他の降圧薬と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差はなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「RAAS阻害薬は安全であり、COVID-19の重症化を予防する目的で投与を中止すべきではない」と指摘している。

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降圧による認知症・認知機能障害の予防的効果/JAMA

 降圧薬を服用し血圧を下げることと、認知症や認知機能障害の発生リスクの有意な低下が関連していることが明らかにされた。アイルランド・Galway国立大学・Saolta大学病院グループのDiarmaid Hughes氏らが、無作為化比較試験14件・被験者総数9万6,158例を対象にしたシステマティック・レビューとメタ解析の結果で、JAMA誌2020年5月19日号で発表した。これまで、認知症や認知機能障害に対する降圧の予防的効果は不明であった。システマティック・レビューとメタ解析で認知症・認知機能障害のリスクを検証 研究グループは、PubMed、EMBASE、CENTRALにおいて、血圧低下と認知機能アウトカムの関連を検証した2019年12月31日までに発表された無作為化比較試験を検索し、システマティック・レビューとメタ解析を行った。 対象とした試験では、対照群に対してはプラセボや別の降圧薬を投与、またはより高い血圧目標値を設定されていた。研究者2人がそれぞれデータを検証して抽出。ランダム効果メタ解析モデルを用いて、統合治療効果と信頼区間(CI)を算出し評価した。 主要アウトカムは、認知症または認知機能障害とし、副次アウトカムは、認知機能低下、認知試験スコアの変化とした。14試験9万6,158例を包含、追跡期間は平均4.1年 適格条件を満たした無作為化比較試験は14件で、被験者総数は9万6,158例だった。被験者の平均年令は69(SD 5.4)歳、また女性は42.2%(4万617例)、平均収縮期血圧値は154(SD 14.9)mmHg、平均拡張期血圧値は83.3(SD 9.9)mmHgであり、平均追跡期間は49.2ヵ月だった。 14試験のうち、認知症発生率または認知症・認知機能障害発生率を報告した12試験(被験者総数9万2,135例、追跡期間平均4.1年)を包含し、主要アウトカムに関するメタ解析を行った。副次的アウトカムの認知機能低下を報告した試験は8件、認知試験スコアの変化も8件が報告されていてそれぞれ解析を行った。 認知症や認知機能障害の発生リスクは、対照群7.5%に対し、降圧群は7.0%と有意なリスク低下が認められた(オッズ比[OR]:0.93[95%CI:0.88~0.98]、絶対リスク低下:0.39%[95%CI:0.09~0.68]、I2=0.0%)。 認知機能低下発生率について報告した8試験(追跡期間平均4.1年)の解析では、対照群21.1%に対し、降圧群は20.2%と有意なリスク低下が認められた(OR:0.93[95%CI:0.88~0.99]、絶対リスク低下:0.71%[95%CI:0.19~1.2]、I2=36.1%)。 なお降圧と認知試験スコアの変化には、有意な関連は認められなかった。

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COVID-19と共存する診療の指針を示す動画公開/高血圧学会

 2020年初頭より長らく続いたCOVID-19の感染拡大と、それに伴う外出自粛や制限が相次いで緩和され、非常時から通常時へと戻る兆しが見え始めた。しかしながら、今後はCOVID-19を包含しながらの“新たな日常”となることは間違いない。そうしたCOVID-19を念頭に置いた高血圧診療をどう進めるべきかについて指針を示すべく、日本高血圧学会(理事長:伊藤 裕)はこのほど、各領域のスペシャリストによる解説動画コンテンツを作成1)。5月22日よりYouTubeの学会公式チャンネルで公開している。同学会では、これに先立って高血圧治療を受ける患者向けの動画コンテンツを公開しており、今回新たに追加された全10本はいずれも医師をはじめとする医療従事者向けの内容。 詳しい動画コンテンツのラインナップは以下のとおり。<パンデミックと高血圧診療>1.COVID-19到来と日本高血圧医療のNew Normal  解説:伊藤 裕氏(日本高血圧学会理事長、慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科教授)2.高血圧はCOVID-19の感染・重症化のリスク要因か?  解説:三浦 克之氏(滋賀医科大学公衆衛生学部門教授)3.降圧薬とCOVID-19:RAS阻害薬は是か非か?  解説:甲斐 久史氏(久留米大学医学部教授)4.COVID-19パンデミック下での減塩の重要性とその指導法  解説:日下 美穂氏(日下医院院長)<パンデミックと高血圧性臓器障害:メカニズムと診療のポイント>5.COVID-19と血栓症・脳卒中  解説:豊田 一則氏(国立循環器病研究センター副院長)6.COVID-19と心臓病  解説:大西 勝也氏(大西内科ハートクリニック院長)7.COVID-19と腎臓病:CKDと急性腎障害(AKI)  解説:向山 政志氏(熊本大学大学院生命科学研究部腎臓内科学教授)<パンデミック下における実地医家の役割>8.COVID-19と実地診療  解説:勝谷 友宏氏(勝谷医院院長、大阪大学大学院臨床遺伝子治療学招聘教授)9.New Normal時代に向けてのかかりつけ医の役割  解説:宮川 政昭氏(医療法人社団愛政会宮川内科小児科医院院長)10. COVID-19パンデミック下での医療対策:日本医師会の取り組み  解説:羽鳥 裕氏(日本医師会常任理事)

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降圧薬の処方内容はCOVID-19予後に影響するか?(解説:冨山博史氏)-1231

はじめに COVID-19発生から半年近くが過ぎようとしている。しかし、まだまだ収束そして終息にも時間を要する。COVID-19では肺炎に加え、脳心血管疾患、血栓症など生命に影響する重大な合併症を発生する。そうした合併症は、高齢者や脳心血管疾患・悪性疾患など基礎疾患を有する症例で多い。ゆえに、そうした症例における合併症発生予防に細心の注意を払う必要がある。中国では高血圧症例でCOVID-19症例の予後が不良であることが報告された1)。SARS-CoV-2ウイルスの細胞内侵入にはangiotensin converting enzyme 2(ACE2)が重要な役割を果たす。このため、renin-angiotensin系に影響する降圧薬ACE inhibitor(ACEi)やangiotensin II receptor blocker(ARB)がACE2発現に影響し、ウイルス侵入を増悪させることが懸念されていた。しかし、懸念はあくまで仮説であり、3月13日発表の欧州高血圧学会Position Statement of the ESC Council on Hypertension on ACE-Inhibitors and Angiotensin Receptor Blockersでは、同危険性の十分な根拠がないため両降圧薬のむやみな中止・変更は控えるように推奨された。今回の知見 2019年12月から2020年3月の期間で、欧州、北米、アジアで計169の病院にCOVID-19で入院した8,910例を対象とした多施設共同登録研究が実施された2)。#COVID-19の診断:咽頭ぬぐい液のPCR検査で感染を診断#解析方法:入院後転帰の院内死亡例と生存例で降圧薬処方内容を含む臨床背景を比較#結果とコメント:生存例(8,395例、平均年齢49歳)、院内死亡例(515例、平均年齢56歳)であり、院内死亡例は高齢で男性が有意に多かった。また、これまでの報告と同様、院内死亡例で冠動脈疾患、心不全、不整脈(心疾患の院内死亡のODDS比は約2倍)、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患(院内死亡のODDS比は約3倍)、現在喫煙の合併比率が有意に高かった(脳卒中に関しては評価されていない)。本検討では、高血圧合併頻度は生存例(2,216/8,395例:26.4%)と院内死亡例(130/515例:25.2%)で有意な差を示さなかった。これは上述の中国の報告1)と異なる結果である。そしてACEiおよびARBの処方率は、生存例{ACEi(754/8,395例:9%)、ARB(518/8,395例:6.2%)}、院内死亡例{ACEi(16/515例:3.1%)、ARB(38/515例:7.4%)}であり、ARB処方頻度は両群に差はなく、ACEiはむしろ生存例での処方頻度が高かった。 本試験は、短期間の登録研究であり、すでにCOVID-19の症例である。ゆえに、COVID-19がすでに診断されている症例では、感染に関連する病態増悪を懸念してACEi・ARBの他の降圧薬への変更は必要ないことが支持される。同様の結果はイタリアからも報告されている3)。今回の研究では、ACEiおよびARBのCOVID-19の易感染性については検証されていない。しかし、同イタリアの研究では両降圧薬が易感染性にも影響しない可能性を報告している3)。 中国と欧米では蔓延するSARS-CoV-2ウイルスの亜型が異なる。この差異が高血圧合併の感染性への影響に関連した可能性は否定できない。ゆえに、今後、武漢株での感染例においても高血圧合併の有無および降圧薬の予後への影響について検証する必要がある。追記:ACE2について SARS-CoV-2ウイルスは細胞表面の受容体ACE2を介して細胞内に取り込まれる。ACE2は、膜内存在性蛋白で気管支、肺、心臓、腎臓、消化器等の多くの組織に発現している。ACE2はACE(angiotensin Iからangiotensin IIへ変換する酵素)と構造が類似しているが、別の作用を有し、angiotensin IIからangiotensin-(1-7)への変換を行う。このangiotensin 1-7は降圧や心血管保護作用を有すると考えられている。

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COVID-19、主要5種の降圧薬との関連認められず/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化するリスク、あるいはCOVID-19陽性となるリスクの増加と、降圧薬の一般的な5クラスの薬剤との関連は確認されなかった。米国・ニューヨーク大学のHarmony R. Reynolds氏らが、ニューヨーク市の大規模コホートにおいて、降圧薬の使用とCOVID-19陽性の可能性ならびにCOVID-19重症化の可能性との関連性を評価した観察研究の結果を報告した。COVID-19患者では、このウイルス受容体がアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)であることから、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)に作用する薬剤の使用に関連するリスク増加の可能性が懸念されていた。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。患者1万2,594例について、降圧薬とCOVID-19陽性および重症化との関連を解析 研究グループは、ニューヨーク大学の電子カルテを用い、2020年3月1日~4月15日にCOVID-19の検査結果が記録された全患者1万2,594例を特定し検討を行った。 ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、Ca拮抗薬およびサイアザイド系利尿薬の治療歴と、COVID-19検査の陽性/陰性の可能性、ならびに陽性と判定された患者における重症化(集中治療室への入室、非侵襲的/侵襲的人工呼吸器の使用または死亡と定義)の可能性との関連を評価した。 解析はベイズ法を用い、上記降圧薬による治療歴がある患者と未治療患者のアウトカムを、投与された薬剤クラスについて傾向スコアマッチング後に、全体および高血圧症患者とで比較した。事前に、10ポイント以上の差を重要な差と定義した。陽性率は全体46.8%/高血圧患者34.6%、重症化率17.0%/24.6% COVID-19の検査を受けた1万2,594例中5,894例(46.8%)が陽性で、このうち重症化したのは1,002例(17.0%)であった。高血圧症の既往歴を有する患者は4,357例(34.6%)で、うち2,573例(59.1%)が陽性、さらにこのうち634例(24.6%)が重症化した。 薬剤のクラスとCOVID-19陽性率増加との間に、関連性は確認されなかった。また、検討した薬剤のいずれも、陽性患者における重症化リスクの重要な増加と関連がなかった。 なお著者は、COVID-19検査の診断特性の多様性、検査の真の感度が不明なままであること、COVID-19の重症例の割合が過大評価されている可能性などを挙げ、本研究の結果は限定的であるとしている。

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SARS-CoV-2との戦いーACE2は、味方か敵か?(解説:石上友章氏)-1218

原著論文Renin-Angiotensin-Aldosterone System Inhibitors in Patients with Covid-19 COVID-19は、新興感染症であり、科学的な解明が不十分である。これまでの報告から、致死的な重症例から、軽症例・無症候例まで、幅広い臨床像を呈することがわかっており、重症化に関わる条件に注目が集まっている1,2)。中国からの報告により、疾病を有する高齢者、なかでも高血圧を有する高齢者が多く重篤化する可能性が指摘された3,4)。 SARS-CoV-2の類縁であるSARS-CoVは、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)の原因ウイルスである。標的である肺胞上皮細胞に感染する際に、細胞表面にあるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)を受容体として、ウイルス表面のスパイク蛋白と結合する。ACE2と結合したスパイク蛋白は、細胞表面の膜貫通型セリン・プロテアーゼであるTMPRSS2などにより切断され、標的細胞の細胞膜と融合することで細胞内に侵入することが知られている(『感染の成立』)5,6)。SARS-CoV-2の感染症であるCOVID-19でも、同様の機序が想定されている。 降圧薬(ACE阻害薬、ARB)の使用とCOVID-19との関係が注目されており、Vaduganathanらの手による、Special ReportがNEJM誌に掲載された7)。ACE2がSARS-CoV-2の感染の成立に重要な働きを有していることから、高齢者・高血圧患者におけるACE阻害薬、ARBの使用と、感染の重篤化との間に因果関係があるのではないかという疑問があがった。有効な治療法が確立していない現在、既存の蛋白分解酵素阻害薬である、ナファモスタット、カモスタットの、TMPRSS2の阻害作用により、SARS-CoV-2の感染を抑制する可能性があると報告されたことも、既存薬であるRA系阻害薬とCOVID-19との関連が注目された一因であろう8,9)。 図のように、ACE2はAng(1-7)-Mas受容体系に関与していると考えられており、ACE2の活性化はアンジオテンシンIIの働きに拮抗・相殺する作用であり、生体にとって好ましいとされている10)。ACE2が、SARS-CoV-2の感染の成立に重大な働きをすることから、直接的にCOVID-19の発症に関わっている可能性がある。ACE2活性の亢進や抑制が、COVID-19の発症・重篤化に関係しているのであれば、RA系阻害薬の内服によるACE2活性の変化によって、予後が決定される可能性がある。(原図:石上 友章氏) 個々の研究に目をやると、SARS-CoVによる重症肺炎が、ロサルタンの投与で軽快すると報告されている5)。またオルメサルタンには、ACE2活性化作用を介して、Ang II→Ang(1-7)への変換を促進し臓器保護作用があると報告されているが11)、いずれもげっ歯類を対象にした動物実験であり、ヒトではっきりと証明された報告はない。したがって、米国・欧州の主要な学会のポジション・ステートメントは、RA系阻害薬使用とCOVID-19との間の相関には否定的で、RA系阻害薬の内服の継続を推奨している。(https://www.eshonline.org/spotlights/esh-statement-covid-19/ほか) ARB(ロサルタン)ならびに、ACE2賦活薬(APN01:recombinant human soluble ACE2)を使った、臨床研究(NCT00886353、NCT04311177、NCT04312009)が計画されている。ヒトでのPOCがとれるか否かで、今回の降ってわいたような疑問への回答を得られることが期待される。References1)Bouadma L, et al. Intensive Care Med. 2020;46:579-582.2)Wu Z, et al. JAMA. 2020 Feb 24. [Epub ahead of print]3)Zhou F, et al. Lancet. 2020;395:1054-1062.4)Pan X, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:410-411.5)Kuba K, et al. Nat Med. 2005;11:875-879.6)Imai Y, et al. Circ J. 2010;74:405-410.7)Vaduganathan M, et al. N Engl J Med. 2020 Mar 30. [Epub ahead of print]8)Yamamoto M, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2016;60:6532-6539.9)Hoffmann M, et al. Cell. 2020;181:271-280.e8.10)Ishigami T, et al. Hypertens Res. 2006;29:837-838.11)Agata J, et al. Hypertens Res. 2006;29:865-874.

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腎デナベーション、降圧薬非投与の高血圧に有効/Lancet

 降圧薬治療を受けていない高血圧患者の治療において、カテーテルを用いた腎神経焼灼術(腎デナベーション)は偽手術と比較して、優れた降圧効果をもたらし、安全性も良好であることが、ドイツ・ザールラント大学のMichael Bohm氏らの検討(SPYRAL HTN-OFF MED Pivotal試験)で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年3月29日号に掲載された。カテーテルを用いた腎デナベーションは、腎神経の焼灼を介して交感神経活性を抑制することで血圧を低下させる治療法。初期の概念実証研究では降圧効果が観察されているが、血圧がコントロールされていない患者を対象とした無作為化偽対照比較試験では、ベースラインに比べ有意な降圧効果を認めたものの、対照との間には差がなかったと報告されている。3ヵ月後の収縮期血圧を比較する無作為化試験 本研究は、日本を含む9ヵ国44施設が参加した単盲検無作為化偽対照比較試験であり、2015年6月~2019年10月の期間に患者登録が行われた(Medtronicの助成による)。 対象は、年齢20~80歳、診察室収縮期血圧が150~<180mmHg、診察室拡張期血圧が≧90mmHgであり、自由行動下血圧測定で24時間の収縮期血圧の平均値が140~<170mmHgの高血圧患者であった。無作為化の前に、降圧薬の投与を受けていた患者は中止するよう求められた。被験者は、腎デナベーションまたは偽手術を受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。 解析にはベイズ法による研究デザインを用い、今回の試験のデータ(251例)と以前の無作為化パイロット試験(80例)のデータを統合した。 有効性の主要エンドポイントは、ベースラインから3ヵ月までの、ベースライン値で補正した24時間収縮期血圧の変化とした。有効性の副次エンドポイントは、同期間のベースライン値で補正した診察室収縮期血圧の変化であった。頻度論的解析でも同様の結果 解析の対象となった331例は、腎デナベーション群が166例(平均年齢52.4[SD 10.9]歳、女性36%)、対照群は165例(52.6[10.4]歳、32%)であった。 ベースラインから3ヵ月後の24時間収縮期血圧の変化の差には、両群間に有意差が認められ、優越性の事後確率は0.999を超えており、群間差は-3.9mmHg(ベイズ95%確信区間[BCI]:-6.2~-1.6)であった。 また、ベースラインから3ヵ月後の診察室収縮期血圧の変化の差にも、両群間に有意差がみられ、エンドポイントは満たされ(群間差:-6.5mmHg、95%BCI:-9.6~-3.5)、優越性の事後確率は0.999を上回った。 一方、共分散分析(ANCOVA)で補正した頻度論的解析でも、血圧の変化はベイズ法の結果とほぼ同様であり、24時間収縮期血圧の変化の群間差は-4.0mmHg(95%信頼区間[CI]:-6.2~-1.8、p=0.0005)、診察室収縮期血圧の変化の群間差は-6.6mmHg(-9.6~-3.5、p<0.0001)であった。 平均24時間血圧測定では、3ヵ月間で、腎デナベーション群は収縮期血圧が24時間を通じて一貫性をもって低下した。すなわち、夜間(22~7時)の平均収縮期血圧はベースラインの143(SD 10)mmHgから3ヵ月後には138(13)mmHgへ低下し(p<0.0001)、日中(7~22時)の平均収縮期血圧は156(9)mmHgから151(12)mmHgへと低下した(p<0.0001)。拡張期血圧についても同様の結果であった。一方、対照群では、このような血圧の有意な変化はみられなかった。 3ヵ月間で、安全性関連の重大イベントが両群で1例ずつ発生したが(腎デナベーション群:高血圧クリーゼ/緊急症による入院、対照群:新規脳卒中)、デバイス関連および手技関連の重大なイベントは認められなかった。 著者は、「本試験と対をなす進行中の試験(NCT02439749)では、降圧薬の投与を受けている患者における安全性と有効性を評価する予定である」としている。

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スタチンと降圧薬の併用と認知症リスク

 脂質異常症や高血圧症は、アルツハイマー病やこれに関連する認知症(ADRD:Alzheimer's disease and related dementia)の修正可能なリスク因子である。65歳以上の約25%は、降圧薬とスタチンを併用している。スタチンや降圧薬が、ADRDリスクの低下と関連するとのエビデンスが増加する一方で、異なる薬剤クラスの併用とADRDリスクに関するエビデンスは存在しない。米国・ワシントン大学のDouglas Barthold氏らは、異なる薬剤クラスの組み合わせによるスタチンと降圧薬の併用とADRDリスクとの関連について、検討を行った。PLOS ONE誌2020年3月4日号の報告。 本研究は、米国のメディケア受給者でスタチンと降圧薬を併用する69万4,672例を分析したレトロスペクティブコホート研究(2007~14年)。スタチンと降圧薬の異なる薬剤クラスの併用に関連するADRD診断を定量化するため、年齢、社会経済的地位、併存疾患で調整したロジスティック回帰を用いた。スタチンの分類は、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンとし、降圧薬の分類は、2つのRAS系降圧薬(ACE阻害薬、ARB)、非RAS系降圧薬とした。 主な結果は以下のとおり。・プラバスタチンまたはロスバスタチンとRAS系降圧薬との併用は、非RAS系降圧薬とスタチンとの併用と比較し、ADRDリスクの低下と関連が認められた。 ●プラバスタチン+ACE阻害薬:オッズ比(OR)=0.942(信頼区間[CI]:0.899~0.986、p=0.011) ●ロスバスタチン+ACE阻害薬:OR=0.841(CI:0.794~0.892、p<0.001) ●プラバスタチン+ARB:OR=0.794(CI:0.748~0.843、p<0.001) ●ロスバスタチン+ARB:OR=0.818(CI:0.765~0.874、p<0.001)・ARBとアトルバスタチンおよびシンバスタチンとの併用は、プラバスタチンまたはロスバスタチンとの併用と比較し、わずかなリスク減少と関連していたが、ACE阻害薬では関連が認められなかった。・ヒスパニック系の患者では、スタチンとRAS系降圧薬との併用は、非RAS系降圧薬の併用と比較し、リスク低下が認められなかった。・黒人患者では、ロスバスタチンとACE阻害薬との併用は、他のスタチンと非RAS系降圧薬との併用と比較し、ADRDオッズが33%低かった(OR=0.672、CI:0.548~0.825、p<0.001)。 著者らは「米国の高齢者では、脂質異常症の治療にプラバスタチンやロスバスタチンを使用することはシンバスタチンやアトルバスタチンより一般的に少ないが、RAS系降圧薬、とくにARBと併用することで、ADRDリスクの低下に寄与することが示唆された。ADRDリスクに影響を及ぼす血管の健康のための薬物療法が、米国のADRD患者数を減少させる可能性がある」としている。

275.

高血圧患者以外でもナトリウム摂取量削減に応じて血圧低下/BMJ

 食事からのナトリウム(塩分)摂取量の削減による血圧の低下には、強力な用量反応関係がみられ、降圧効果は高齢者や非白人、血圧が高い集団で大きいことが、オーストラリア・シドニー大学のLiping Huang氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2020年2月25日号に掲載された。ナトリウム摂取量が多いほど血圧が上昇することは、広範なエビデンスによって示されている。一方、高血圧患者では、血圧に及ぼすナトリウム摂取量削減の効果は明らかだが、他の集団での効果は不確実であり、介入期間の影響も十分には解明されていないという。ナトリウム摂取量の削減と血圧変動の関係を評価 研究グループは、食事からのナトリウム摂取量の削減と血圧変動の関係を評価し、介入期間の影響を探索する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(研究助成は受けていない)。 2019年1月21日現在、医学データベースに登録された論文を検索し、関連論文の引用文献を参照した。対象は、24時間尿中ナトリウム排泄量を用いて、ナトリウム摂取量を削減した群と、通常または高摂取量の群(対照)を比較し、収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)のデータを提示している無作為化試験とした。年齢18歳未満、妊婦、慢性腎臓病や心不全の患者を対象とする試験は除外された。 3人のレビュアーのうち2人が独立に、データの適格性を評価した。1人のレビュアーがすべてのデータを抽出し、他の2人のレビュアーがデータの正確度を評価した。変量効果によるメタ解析とサブグループ解析を行い、メタ回帰分析を実施した。ナトリウム摂取量削減による血圧の低下を多様な集団で観察 133件の試験に参加した1万2,197例が主解析に含まれた。 全体として、ナトリウム摂取量の削減により、24時間尿中ナトリウム排泄量は平均130mmol(95%信頼区間[CI]:115~145、p<0.001)減少し、SBPは4.26mmHg(3.62~4.89、p<0.001)、DBPは2.07mmHg(1.67~2.48、p<0.001)、それぞれ有意に低下した。 メタ解析や単変量メタ回帰分析では、ナトリウム摂取量削減と血圧の間に明確な関係性は認められなかった。一方、多変量メタ回帰分析を行ったところ、24時間尿中ナトリウム排泄量が50mmol減少するごとに、SBPは1.10mmHg(95%CI:0.66~1.54、p<0.001)、DBPは0.33mmHg(0.04~0.63、p=0.03)低下した。 ナトリウム摂取量削減による血圧の低下は、高血圧や非高血圧を含む多様な集団で観察された。また、24時間尿中ナトリウム排泄量の低下が同じ場合は、高齢者、非白人、ベースラインのSBPが高い集団でSBP低下の程度が大きかった。 介入期間が15日未満の試験では、24時間尿中ナトリウム排泄量の50mmolの減少により、SBPが1.05mmHg(95%CI:0.40~1.70、p=0.002)低下したが、これは介入期間の長い試験の降圧効果(2.13mmHg低下、95%CI:0.85~3.40)の半分にも達していなかった(p=0.002)。また、介入期間とDBP低下の関連には、一貫性のあるパターンはみられなかった。 著者は、「ナトリウム摂取量の削減は、きわめて広範な集団に降圧をもたらし、削減の程度と血圧低下の程度には強力な用量反応関係が認められた」とまとめ、「介入期間が短い試験では、ナトリウム摂取量削減の血圧への影響が過小評価されている」と指摘している。

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降圧薬使用と認知機能との関連~メタ解析

 高血圧は、修正可能な認知症のリスク因子の1つである。しかし、認知機能を最適化するために、降圧薬のクラスエフェクトが存在するかは、よくわかっていない。オーストラリア・Neuroscience ResearchのRuth Peters氏らは、これまでの参加者データを含む包括的なメタ解析を用いて、特定の降圧薬クラスが認知機能低下や認知症リスクの低下と関連するかについて検討を行った。Neurology誌2020年1月21日号の報告。 適切な研究を特定するため、MEDLINE、Embase、PsycINFO、preexisting study consortiaより、2017年12月までの研究を検索した。プロスペクティブ縦断的ヒト対象研究または降圧薬試験の著者に対し、データ共有および協力の連絡を行った。アウトカム測定は、認知症発症または認知機能低下の発現とした。データは、中年期および65歳超の高齢期に分類し、各降圧薬クラスは、未治療および他の降圧薬治療との比較を行った。メタ解析を用いて、データの合成を行った。 主な結果は以下のとおり。・27研究より5万例超が抽出された。・利尿薬を除き、各降圧薬クラスにおける65歳超の高齢者の認知機能低下や認知症との関連は、認められなかった。・一部の分析において、利尿薬の有用性が示唆されたが、その結果は、フォローアップ期間、比較群、アウトカムにおいて一貫していなかった。・65歳以下のデータは限られていたため、分析できなかった。 著者らは「認知症や認知機能低下の観点から、降圧目標達成を目指す治療レジメンの選択は、降圧薬クラスによらず、自由に選択可能である」としている。

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拡張期血圧、下がらなくても大丈夫。本当?(解説:桑島巖氏)-1188

 拡張期のみが高い高血圧患者(Isolated Diastolic Hypertension:IDH)の降圧治療には、難渋したことのある医師は少なくないであろう。とくに40~60歳の成人では、収縮期血圧は下げることはできても拡張期血圧をガイドラインで定めるレベルまで下げることは難しい。ガイドラインでも米国のJNC7(2003年)では140/90mmHg未満だったものが、14年後にJNC8に代わって公式発表されたACC/AHAガイドラインでは130/80mmHg未満を目標とせよ、というのだから、90mmHg未満でさえ難渋していたのが、さらに困難になったわけである。 そこで朗報と思えるのが、この論文である。長期追跡コホート研究の結果、拡張期型高血圧が90mmHgと80mmHgの患者では心血管系予後はそれほど変わりがないというのである。そこで一安心といいたいところだが、注意が必要だ。この結果はあくまでも長期追跡研究であり、「黙って観察」した結果の報告である。 しかし実際には、対象となった症例は医療機関に行ってただ観察されていただけではなく、当然血圧が高ければさらなる降圧治療は強化されていたであろうし、塩分制限などの努力もしたであろう。そのように観察期間での治療内容が結果に反映されないのが観察研究の最大の欠点である。しかも、人間、歳をとると、血管の弾力性がなくなり、拡張期血圧が下がってくるという厄介な問題も内包する。 本試験はあくまでも、観察を開始した時点での拡張期80mmHgと90mmHgの症例群での追跡結果にすぎないのである。エビデンスとしての確実性を上げるためには、ランダム化試験が不可欠だが、今のところIDHに関するランダム化試験はまだ存在しない。 それでは、現実的に拡張期血圧だけが80mmHg以上あるいは90mmHg以上の高血圧患者にはどう対応すべきか? まず収縮期血圧を十分130mmHg以下に下げることを第一目標とし、それでも拡張期血圧がガイドラインレベルまで下がらないようであれば、収縮期血圧の低下によりめまいなどの低血圧症状の発現に注意しつつ、減塩や体重減少指導を強化し、非サイアザイド系利尿薬を追加するなど降圧療法を強化する。それでも下がらなければ、高血圧は血管に対する負担(負荷)であることを考えると、当然収縮期血圧のほうが拡張期血圧よりも数字が高い分血管への負荷が大きいことを考慮しつつ、多剤服用による降圧副作用や低血圧症状に注意しながら、あるレベルで妥協するのが現実的であろう。

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高血圧の定義改定で有病率増もCVアウトカム関連なし/JAMA

 米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)は高血圧治療ガイドラインを2017年に改訂し、高血圧症の定義を140/90mmHgから130/80mmHgに引き下げた。それにより、米国成人の孤立性拡張期高血圧症(IDH)の有病率は1.3%から6.5%に増加し、一方で新たな定義でIDHと診断された人と心血管アウトカムとの関連はないことが明らかになったという。アイルランド国立大学ゴールウェイ校のJohn W. McEvoy氏らが、2つの大規模コホートについて断面・縦断的解析を行った結果で、JAMA誌2020年1月28日号で発表した。「NHANES」と動脈硬化症リスク研究「ARIC」の被験者について解析 研究グループは、2013~16年の米国国民健康栄養調査「NHANES」について断面解析を、また1990~92年に開始し2017年まで追跡した地域における動脈硬化症リスク研究「ARIC」について縦断的解析を行い、2017 ACC/AHAと2003 JNC7の定義によるIDHの有病率および心血管アウトカムを比較した。 縦断的解析の結果について、外部の2コホート([1]NHANES・III[1988~94]とNHANES[1999~2014]、[2]CLUE[Give Us a Clue to Cancer and Heart Disease]IIコホート[ベースライン1989])で検証した。 IDHの定義は、2017 ACC/AHAでは収縮期血圧(SBP)<130mmHg、拡張期血圧(DBP)≧80mmHgであり、2003 JNC7ではそれぞれ<140mmHg、≧90mmHgだった。 主要アウトカムは、米国成人のIDH有病率、および2017 ACC/AHAガイドラインに基づきIDHに対する薬物療法を勧告された人の割合だった。また、ARIC試験については、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全、慢性腎臓病(CKD)の発症リスクも評価した。IDH有病率、JNC7定義で1.3%に対し2017 ACC/AHA定義では6.5% 解析に包含された被験者数は、NHANESコホートからは9,590例(ベースラインの平均年齢49.6[SD 17.6]歳)で、うち女性は5,016例(52.3%)であり、ARIC試験からは8,703例(同56.0[5.6]歳)で、うち女性は4,977例(57.2%)だった。 NHANESコホートにおけるIDH有病率は、JNC7定義では1.3%だったのに対し、2017 ACC/AHA定義では6.5%だった(絶対群間差:5.2%、95%信頼区間[CI]:4.7~5.7)。 2017 ACC/AHA定義で新たにIDHとされた被験者のうち、ガイドラインにより降圧治療の適応となった割合は0.6%(95%CI:0.5~0.6)だった。 ARIC試験の正常血圧値の被験者と比べて、2017 ACC/AHA定義によるIDHの被験者は、ASCVD(イベント数:1,386件)、心不全(同:1,396件)、CKD(同:2,433件)のいずれの発症リスクとの関連も認められなかった。それぞれのハザード比(追跡期間中央値25.2年における)は、ASCVDが1.06(95%CI:0.89~1.26)、心不全が0.91(0.76~1.09)、CKDが0.98(0.65~1.11)。 外部の2コホートにおいても、2017 ACC/AHA定義によるIDHと心血管死との関連は認められなかった。ハザード比は、NHANESではイベント数1,012件で1.17(95%CI:0.87~1.56)、CLUE IIでは1,497件で1.02(0.92~1.14)だった。

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腎交感神経除神経術は心房細動アブレーション治療のオプションか?(解説:冨山博史氏)-1172

 本試験は、高血圧合併発作性心房細動症例に対して、発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション単独治療と、アブレーション治療に腎交感神経除神経術を加えた併用治療のいずれが介入後の発作性心房細動再発抑制に有用であるかを検証したmulticenter、single-blind、randomized clinical trialである。 主評価項目は、介入後12ヵ月の心房性頻脈再発率と降圧度である。登録された302例中、283例にて試験が遂行された。12ヵ月後に心房性頻脈を認めない症例数は、アブレーション治療単独では148例中84例(56.5%)、アブレーション治療+腎交感神経除神経術併用では154例中111例(72.1%)であった(ハザード比0.57、p<0.01)。さらに降圧の度合いも併用群で有意に大きかった(両群の収縮期血圧降圧の差13mmHg)。 本試験の背景は、心房細動発症には血圧上昇や自律神経機能異常が関与し、腎交感神経除神経術は降圧および交感神経機能異常改善に有用なことである。1.本試験の臨床的意義 現在、アブレーション治療後の心房細動再発率は10~30%とされ、さらなる治療法の発展が望まれている。本研究は、心房細動アブレーション治療と腎交感神経除神経術の併用が術後心房性頻脈再発率改善に有用であることを示唆する。2.本試験の限界 2-1:高血圧のスクリーニングと血圧評価 本試験で高血圧合併の定義は、“収縮期血圧130mmHg以上、拡張期血圧80mmHg以上、またはその両方で、少なくとも1つの降圧薬を服用していた”と記載されている。しかし、変動する血圧の評価は慎重を要する。現在、腎交感神経除神経術の降圧効果を検証する臨床研究が多数実施されている。それらの研究では、血圧評価は血圧変動性や白衣現象の影響を除外するため24時間血圧測定などが実施されている。しかし、本研究では、こうした血圧評価方法が実施されておらず、介入前後の血圧評価が十分でない。 2-2:腎交感神経除神経の確実性 これまで実施された腎交感神経除神経術の降圧効果を検証する臨床研究では、除神経の確実性検証の必要性が指摘されていた。本試験において、腎交感神経除神経術後の腎交感神経電気刺激による昇圧反応を評価することより除神経の確実性が検証されたのは腎交感神経除神経術施行例全体の57%であった。 2-3:アブレーション治療後の心房性頻脈再発率 通常、アブレーション治療後の心房性頻脈の再発率は30%未満である。本研究では再発率が40%を越えており、その背景を確認する必要がある(アブレーション単独施行群で血圧コントロールが不十分であったことなど)。3.今後の方向性 3-1:併用療法は侵襲的で高額である。上述のごとく、本試験は血圧の評価および治療が十分でない症例が含まれていた可能性がある。今後、発作性心房細動合併高血圧症例において、アブレーション治療単独実施後に、高血圧専門医による家庭血圧や24時間血圧測定を用いた確実な血圧をコントロールが腎交感神経除神経術併用と同等に心房性頻脈の再発率を抑制するかを検証する必要がある。 3-2:上述のごとく、血圧だけでなく交感神経機能異常自体が心房細動発症に関連する。本試験の結果は、正常血圧例でもアブレーション治療と腎交感神経除神経術の併用が再発予防に有用である可能性がある。(2月6日 記事タイトルを変更いたしました)

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高血圧合併のAF再発患者に腎除神経術は有効か/JAMA

 高血圧症を有する発作性心房細動患者に対して、肺静脈隔離術に加えて腎除神経術の施行で、肺静脈隔離術単独と比べて12ヵ月後の心房細動無発症の確率が有意に増大したことが示された。米国・ロチェスター大学のJonathan S. Steinberg氏らが、302例を対象に行った研究者主導型の国際多施設共同単盲検無作為化試験「ERADICATE-AF」の結果、明らかにした。腎除神経術は、心臓交感神経活性を抑制し、心房細動に抗不整脈性効果をもたらす可能性が示されていた。JAMA誌2020年1月21日号掲載の報告。肺静脈隔離術単独vs.肺静脈隔離術+腎除神経術 試験は、ロシア、ポーランド、ドイツの5ヵ所のカテーテルアブレーション専門センターで被験者を集めて行われた。 2013年4月~2018年3月に、降圧薬を1種以上服用しているものの高血圧症が認められ、発作性心房細動があり、アブレーションが予定されている患者302例が登録された。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方には肺静脈隔離術のみを(148例)、もう一方の群には肺静脈隔離術と腎除神経術を行い(154例)、2019年3月まで追跡した。 肺静脈隔離術では、全肺静脈電位の消失を確認した。腎除神経術は、イリゲーションカテーテルを用いて高周波エネルギーにより両腎動脈を遠位から近位にらせん状に分離した。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点における心房細動・心房粗動・心房頻拍の無発症とした。副次エンドポイントは、30日以内の施術に関連した合併症、6ヵ月および12ヵ月時点の血圧値などだった。12ヵ月後の再発リスク、肺静脈隔離術+腎除神経術群のハザード比0.57 被験者302例は、年齢中央値60歳(四分位範囲:55~65)、男性が182例(60.3%)で、283例(93.7%)が試験を完了した。なお、全例の割り付け処置が成功裏に行われた。 12ヵ月時点の心房細動・心房粗動・心房頻拍の無発症の割合は、肺静脈隔離術単独群148例中84例(56.5%)に対し、肺静脈隔離術+腎除神経術群は154例中111例(72.1%)だった(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.38~0.85、p=0.006)。 事前に規定した5つの副次エンドポイントの中で報告がされた4つのうち、3つで群間差が認められた。ベースラインからの平均収縮期血圧値の変化は、肺静脈隔離術単独群では151mmHgから147mmHgへの低下に対し、肺静脈隔離術+腎除神経術群では150mmHgから135mmHgへとより大幅に低下した(群間差:-13mmHg、95%CI:-15~-11、p<0.001)。 施術に関連する合併症の発生は、肺静脈隔離術単独群7例(4.7%)、肺静脈隔離術+腎除神経術群7例(4.5%)だった。 なお結果について著者は、「シャム対照の腎除神経術を行っていないことを考慮して解釈する必要がある」としている。

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