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第21回 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾【患者コミュニケーション塾】

 緊急避妊薬を巡って議論が紛糾2018年度の診療報酬改定で「オンライン診療料」が新設されました。これに先立ち、厚生労働省では検討会を設置し、2018年3月にオンライン診療に関するガイドライン「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を作成しました。私も構成員の一人としてガイドライン作成の議論に参加しました。ただ、オンライン診療を巡っては、どのような問題が発生するか始めてみないとわからない部分も多かったことと、オンラインにまつわる情報や機器の変遷もめまぐるしいということもあり、ガイドラインは1年後から見直しをすることが決まっていました。早速、ガイドライン見直しの検討会が2019年1月に始まり、再び私も構成員としてさまざまな議論に加わりました。オンライン診療は、「初診は対面で診療を行うこと」が原則とされています。ところが、2月に開催された第2回目の検討会では、早くも「初診対面診療の原則の例外」が議題に挙がってきました。オンライン診療をおこなっている医師や関係者から、例外として検討してほしいと提案・要望があったものとして、「男性型脱毛症(AGA)」「勃起不全症(ED)」「季節性アレルギー性鼻炎」「性感染症」「緊急避妊薬」が紹介されました。私は前の4つの症状については、やはり初診時は直接症状を確認したり、持病がないかの確認をしたりする必要があるので、原則を外してはいけないと考えました。しかし、最後の「緊急避妊薬」に関しては、ほかとは分けて考える必要があると思ったのです。性的被害やデートレイプでも「受診前提」はきつい緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、望まない妊娠を避けるために、性交渉から72時間以内に服用することで妊娠を防ぐことができます。もちろん、100パーセントの効果が望めるわけではありませんが、約80パーセントというかなり高い割合で防ぐことができると言われています。ひと口に「望まない妊娠」と言っても、単に避妊に失敗した、軽い気持ちで性交渉したという人もいるでしょう。また、このような緊急避妊薬が手に入ることで、適切に避妊しなくなるという懸念もあります。しかし中には、性的被害に遭った少女や女性もいれば、デートレイプと呼ばれる、拒否できなかった性交渉によって妊娠の可能性が生じた人もいるわけです。そのような“負”の精神状態に置かれている人が、「まずは婦人科を受診して対面診療を」と言われてしまうと、緊急避妊薬を手に入れるハードルはかなり高くなります。それならば、まずはオンライン診療でアプローチできたほうが救われる女性が増えるのではないかと考えました。というのも、私は小学4年生のときに性的被害を受けています。レイプには至りませんでしたが、路地裏に連れて行かれ、「声を出したら殺す」と胸倉をつかまれて脅されながら、陰部に指を入れられました。それはそれは恐ろしい体験で、心臓から冷や汗が流れるような恐怖を味わいました。そのことが親にバレてしまったあと、私が被害を受けた以上に屈辱だったのは、父親が警察に通報したことで自宅に刑事たちがやって来て、現場検証に連れて行かれたことでした。自分が殺されかけた場所に舞い戻り、何をされたのかを話すということがどれだけ心に傷を負うことか、痛いほど経験しています。それだけに、もし婦人科に連れて行かれて、事情を聞かれ、診察をされるとなると、とくに少女にとっては受け入れられる状況とはとても思えませんでした。専門家の反対でかなり限定的になる気配この検討会の構成員は、女性が私一人だけです。私は本来、女性を武器にすることは好きではなく、「男性にはわからないと思いますが」という発言もまずしません。しかし、この問題だけは多くの女性のために私が頑張って発言する必要性を強く感じ、いつも以上に熱を込めた発言を繰り返してきました。この議題が出た当初は、積極的に賛成する構成員がおらず孤軍奮闘でしたが、次第にほかの構成員の賛同が得られるようになってきました。ところが、参考人として検討会に出てきてた産婦人科医が「非常に専門性の高い診断が必要なので、オンラインで診療するとしても処方できるのは産婦人科専門医に限るべきだ」と発言しました。しかし、全国津々浦々にオンライン診療ができる産婦人科専門医がいるわけではなく、性的被害等は全国どこでも起きているわけです。そこで、緊急避妊薬をオンライン診療で処方するのは、産婦人科専門医あるいは事前に厚労省が指定する研修を受講した医師、という方向で話し合いが進んでいきました。また、緊急避妊薬を服用したあとに性器出血があったとしても、必ずしも生理とは限らず妊娠している可能性があることや異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性もあることを考慮して、オンライン診療から3週間後の産婦人科受診の約束を確実に行う。緊急避妊薬の処方は1錠のみとし、ウェブで見える状態下などで内服の確認をする。処方する医師は、医療機関のウェブサイトなどで、緊急避妊薬に関する効能(成功率)、その後の対応のあり方、オンライン診療から薬が手に入るまでの時間、転売や譲渡は禁止されていることなどを明記する、という方向で議論が進みました。一方、緊急避妊薬のオンライン診療を要望している団体の方々は、緊急避妊薬を処方する医師は、産婦人科専門医に限定する必要はない。処方する対象は性暴力被害者に限定せず、必要とするすべての女性にしてほしい。3週間後の受診は必須ではなく、推奨にしてほしい。緊急避妊薬の処方に際して、必ずしも後日の受診を要するわけではない、と主張されています。その主張は私も同感ですが、正論を前面に押し出すと反対勢力は必ず態度を硬化させるので、まずは一歩を踏み出すためのある程度の妥協は必要と考えています。こうしてまとまったガイドラインの改定案は、6月10日に以下の内容で承認されました。例外として、地理的要因がある場合、女性の健康に関する相談窓口等に所属する又はこうした相談窓口等と連携している医師が女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難であると判断した場合においては、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容され得る。ただし、初診からオンライン診療を行う医師は一錠のみの院外処方を行うこととし、受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服することとする。その際、医師と薬剤師はより確実な避妊法について適切に説明を行うこと。加えて、内服した女性が避妊の成否等を確認できるよう、産婦人科医による直接の対面診療を約三週間後に受診することを確実に担保することにより、初診からオンライン診療を行う医師は確実なフォローアップを行うこととする。厚労省は今回の議論を受けて、緊急避妊薬を処方できる医療機関のリストを作成すると打ち出しています。これにより、産婦人科以外の医療機関もリストにあれば、診察を恐れる少女や女性のハードルを下げることができるとかすかな期待を抱いています。そもそも、緊急避妊薬の存在や効能自体を知っている人は少ないだけに、情報の周知が必要だと私は考えます。というのも、望まない妊娠の可能性がある少女や女性がインターネットやSNSを介して、緊急避妊薬と称する“薬”を手に入れている現状があるからです。そのような手段で手に入れた“薬”が、偽薬である可能性もあります。それだけに、きちんとした医療機関で処方されることがやはり必要なのです。世界に目を向けてみれば、各国の医療事情は異なるとはいえ、76ヵ国で医師の処方せんなしで薬局の薬剤師によって販売され、19ヵ国では直接薬局で入手することが可能なのです。国際産婦人科連合(FIGO)などでは「医師によるスクリーニングや評価は不要」「薬局カウンターでの販売が可能」と声明を出しているそうです。そんな中、先進国であるはずの日本では、世界的な動きに逆行して、必要とする女性が緊急避妊薬を手に入れるハードルを高くしようとしているとの批判もあるようです。実際に検討会を傍聴している現役の産婦人科医からも、同様の意見を数多く聞きました。いずれにせよ、本来、女性の健康やからだを守るべき産婦人科医の間で意見が割れているのは残念なことだと思います。もっと多くの方にこの問題に関心を持っていただき、声を出せずにいる女性を守る機運を高めていくことができればと思っています。

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国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」【下平博士のDIノート】第25回

国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」今回は、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アンタゴニスト製剤「レルゴリクス錠(商品名:レルミナ錠40mg)」を紹介します。本剤は、フレアアップ現象を生じることなく子宮筋腫に基づく諸症状を改善する国内初の経口薬です。<効能・効果>本剤は、子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月1日より発売されています。また、2021年12月に「子宮内膜症に基づく疼痛の改善」の適応が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはレルゴリクスとして40mgを1日1回食前に経口投与します。なお、初回投与は月経周期1~5日目に行います。本剤の投与によって、エストロゲン低下作用に基づく骨塩量の低下がみられることがあるので、6ヵ月を超える投与は原則として行われません。<副作用>国内第III相試験で認められた主な副作用は、不正子宮出血(46.8%)、ほてり(43.0%)、月経異常(15.5%)、頭痛、多汗、骨吸収試験異常(各5%以上)などでした。なお、重大な副作用としてうつ状態(1%未満)、肝機能障害(頻度不明)、狭心症(1%未満)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、下垂体に作用して卵巣からの女性ホルモンの分泌を低下させることで、子宮筋腫に基づく過多月経、下腹痛、腰痛、貧血などの症状を改善します。2.初回は、月経が始まった日から5日目までの間に服用を開始してください。3.食後の服用では薬の効き目が低下するため、食事の30分以上前に服用してください。4.この薬を服用している間はホルモン性避妊薬以外の方法で避妊をしてください。5.長期に使用すると骨塩量が低下することがあるため、日ごろから適度な運動を心がけ、カルシウムやビタミンD、ビタミンKを含む食材を積極的に取りましょう。6.気分が憂鬱になる、悲観的になる、思考力が低下する、眠れないなど、うつ様の症状が現れた場合にはご連絡ください。7.女性ホルモンの低下によって、ほてり、頭痛、多汗などの症状が現れることがあります。症状がつらいときはご相談ください。<Shimo's eyes>従来、子宮筋腫の薬物療法としてGnRHアゴニストであるリュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリン注)やブセレリン酢酸塩(同:スプレキュア皮下注/点鼻液)などが用いられています。GnRHアゴニストは、下垂体前葉にあるGnRH受容体を継続的に刺激することで本受容体を減少させ、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の分泌を抑制させます。投与開始初期にはFSHやLH分泌が一過性に増加するため、不正性器出血や月経症状の増悪などのフレアアップ現象が生じやすいことが知られています。これに対しGnRHアンタゴニスト製剤である本剤は、GnRH受容体を選択的に阻害することでFSHとLHの分泌を抑制します。このため、投与開始初期であってもフレアアップ現象を生じることなく女性ホルモンであるエストラジオールおよびプロゲステロンの産生を低下させます。本剤は1日1回服用の経口薬であり、子宮筋腫に伴う諸症状に悩んでいる患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待できます。投与に当たっては、妊娠中や授乳中でないかを確認するとともに、服用タイミングなどの指導をしっかり行ってこまめに経過を観察するようにしましょう。※2021年12月の添付文書改訂に伴い、一部内容の修正を行いました。

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第15回 低用量ピルのよくある質問に答えるエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 低用量ピルは、避妊目的だけでなく、月経の周期、痛みや倦怠感などの月経困難症をコントロールすることで女性のさまざまな悩みを改善し、かつ安全性も高いという有用な薬剤です。しかし、副作用の懸念から抵抗を示される方も少なからずいらっしゃいます。副作用リスクを正しく認識していただいたうえでメリットを享受していただけるように、服薬指導でのよくある質問と参考となる研究を紹介します。低用量ピルは避妊のためのものではないのか低用量ピルには、避妊を目的とする経口避妊薬(Oral Contraceptive:OC)と月経困難症などの治療を目的とする低用量エストロゲン-プロゲスチン(Low dose estrogen-progestin:LEP)があり、どちらも服用すると、実際は妊娠していなくても下垂体は妊娠したと認識をするので排卵が起こらないようになります。低用量ピルの中止後は通常の月経に戻るのか月経をコントロールするという性質からか、低用量ピルの中止時に通常の月経に戻るのか、再び妊娠できる状態になるのか心配される方もいらっしゃいます。そういう場合には可逆性があることを説明できると安心材料になります。たとえば、レボノルゲストレル90μg/エチニルエストラジオール20μgを約1年服用した18〜49歳(平均年齢30.4歳)の女性で、通常の月経または妊娠に至るまでの期間を検討した観察研究では、最後の服用から90日以内に187例中185例(98.9%)で自然月経が再開または妊娠したという結果が出ています(自発月経181例、妊娠4例)。月経が再開するまでの期間の中央値は32日でした。これを踏まえると、中止後、妊娠していない状態で90日以上月経が再開しない場合は無月経の可能性が高いため、受診を勧める目安になります1)。低用量ピルを服用すると体重は増加するのかこれも比較的よくある質問ですが、服薬拒否にもつながりやすい事由なので丁寧な説明が求められます。体重増加について検討したコクランのシステマティックレビューがあり2)、試験の背景として体重増加がピル服用に関連していると考える女性が多く、服用の開始が遅れたり中止になったりすることが多いという問題が提示されています。しかしながら、実際にはプラセボ投与群または介入なし群を含む4試験では、低用量ピル(または避妊薬パッチ)の使用と体重増加の因果関係を支持する結果は見いだされませんでした。また、さまざまな種類のピルと投与量(エチニルエストラジオール20〜50μg)を比較した試験の大多数でも、グループ間で体重に関して有意差がないことが示されています。少なくとも大きな体重増加との関連はほぼないと説明してよさそうです。低用量ピルによる血栓症リスクはどれくらいあるのか血栓症ひいては静脈血栓塞栓症(VTE)は、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(商品目:ヤーズ配合錠)でブルーレターが発出されています。頻度としては低いのですが、低用量ピルに共通の副作用ですので、どの製剤であっても早期に兆候を察知して対処できるよう説明が必要です。VTEリスクの上昇は、エストロゲン含有ピルの摂取により、凝固因子II、VII、X、XII、VIIIおよびフィブリノゲンの血漿濃度が上がることが機序として考えられています3,4)。このリスクの感覚値をお伝えするうえで、参考になる症例対照研究があります5)。2015年にBMJ誌に掲載された研究で、2001~13年の間に英国においてVTEと診断された15~49歳の女性を対象としています。年齢、慣習、時期などをマッチさせた対照群を設定し、前年度の経口避妊薬摂取によってVTEの発生率が上がるかを検討したものです。オッズ比は、喫煙の有無、アルコール摂取、人種、BMI、合併疾患、他の経口避妊薬摂取などの因子で調整し、解析しています。その結果、年間10,000人当たりでVTEを発症する追加人数は、プロゲスチンの世代分類の観点からみると、第1世代(オーソ、シンフェーズ、ルナベルLD)と第2世代(トリキュラー、アンジュ)は6~7例の発生に対して、第3世代(マーベロン)は14例、第4世代(ヤーズ)は13例です。新しい世代のものほど、やや血栓症が出やすいという結果が出ています。一方で、エチニルエストラジオール含有量が高いほど脳卒中や心筋梗塞のイベントリスクが高い傾向にあり、表にあるようなプロゲスチンの種類による差は微々たるものであることを示唆するNEJM誌の論文もありますから6)、それも参考としてしっておくとよいかもしれません。VTEは早期の診断・治療が重要ですので、VTEの特徴的な兆候(英語の頭文字をとってACHES)を覚えておくと有用です。A:abdominal pain(激しい腹痛)C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)H:headache(激しい頭痛)E:eye/speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、痙攣、意識障害)S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)これらの兆候に気付いたら、重症化を防ぐため、すぐに中止のうえ受診を促す必要があるので、服薬指導時にお伝えしましょう。1)Davis AR, et al. Fertil Steril. 2008;89:1059-1063.2)Gallo MF, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jan 29:CD003987.3)Middeldorp S, et al. Thromb Haemost. 2000;84:4-8.4)Kemmeren JM, et al. Thromb Haemost. 2002;87:199-205.5)Vinogradova Y, et al. BMJ. 2015;350:h2135.6)Lidegaard O, et al. N Engl J Med. 2012;366:2257-2266.

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第14回 内科からのST合剤の処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・11名全員Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・8名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・3名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。大腸菌か腐性ブドウ球菌 清水直明さん(病院)若い女性の再発性の膀胱炎であることから、E.coli、S.saprophyticusなどの可能性が高いと思います。中でも、S.saprophyticusによる膀胱炎は再発を繰り返しやすいようです1)。単純性か複雑性か 奥村雪男さん(薬局)再発性の膀胱炎と思われますが、単純性膀胱炎なのか複雑性膀胱炎※3 なのか考えなくてはいけません。また、性的活動が活発な場合、外尿道から膀胱への逆行で感染を繰り返す場合があります。今回のケースでは、若年女性であり単純性膀胱炎を繰り返しているのではないかと想像します。単純性の場合、原因菌は大腸菌が多いですが、若年では腐性ブドウ球菌の割合も高いとされます。※3 前立腺肥大症、尿路の先天異常などの基礎疾患を有する場合は複雑性膀胱炎といい、再発・再燃を繰り返しやすい。明らかな基礎疾患が認められない場合は単純性膀胱炎といQ2 患者さんに確認することは?妊娠の可能性と経口避妊薬の使用 荒川隆之さん(病院)妊娠の可能性について必ず確認します。もし妊娠の可能性がある場合には、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠(ST合剤)の中止、変更を提案します。妊婦の場合、抗菌薬の使用についても再度検討する必要がありますが、セフェム系薬の5~7 日間投与が推奨されています2)。ST合剤は相互作用の多い薬剤ですので、他に服用している薬剤がないか必ず確認します。特に若い女性の場合、経口避妊薬を服用していないかは確認すると思います。経口避妊薬の効果を減弱させることがあるからです。副作用歴と再受診予定 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬の副作用歴と再受診予定の有無を確認し、医師からの指示がなければ、飲み切り後に再受診を推奨します。また、可能であれば間質性膀胱炎の可能性について医師から言われていないか確認したいところです。中高年女性だと過活動膀胱(OAB)が背景にあることが多いですが、私の経験では、若い女性では間質性膀胱炎の可能性が比較的あります。ストレス性やトイレを我慢してしまうことによる軽度の水腎症※4のようなケースを知っています。※4 尿路に何らかの通過障害が生じ、排泄されずに停滞した尿のために腎盂や腎杯が拡張し、腎実質に委縮を来す。軽症の場合は自然に軽快することが多いが、重症の場合は手術も考慮される。相互作用のチェック 奥村雪男さん(薬局)併用薬を確認します。若年なので、薬の服用は少ないかも知れませんが、ST合剤は蛋白結合率が高く、ワルファリンの作用を増強させるなどの相互作用が報告されています。併用薬のほか、初発日や頻度 ふな3さん(薬局)SU薬やワルファリンなどとの相互作用があるため、併用薬を必ず確認します。また、単純性か複雑性かを確認するため合併症があるか確認します。可能であれば、初発日と頻度、7日分飲みきるように言われているか(「3日で止めて、残りは取っておいて再発したら飲んで」という医師がいました)、次回受診予定日、尿検査結果も聞きたいですね。治療歴と自覚症状 わらび餅さん(病院)可能であれば、これまでの治療歴を確認します。ST合剤は安価ですし、長く使用されていますが、ガイドラインでは第一選択薬ではありません。処方医が20歳代の女性にもきちんと問診をして、これまでの治療歴を確認し、過去にレボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬を使ってそれでも再発し、耐性化や地域のアンチバイオグラムを考慮して、ST合剤を選択したのではないでしょうか。発熱がないとのことですが、自覚症状についても聞きます。メトトレキサートとの併用 児玉暁人さん(病院)ST合剤は妊婦に投与禁忌です。「女性を見たら妊娠を疑え」という格言(?)があるように、妊娠の有無を必ず確認します。あとは併用注意薬についてです。メトトレキサートの作用を増強する可能性があるので、若年性リウマチなどで服用していないか確認します。また、膀胱炎を繰り返しているとのことなので、過去の治療歴がお薬手帳などで確認できればしたいところです。Q3 疑義照会する?する・・・5人複雑性でない場合は適応外使用 中西剛明さん(薬局)疑義照会します。ただ、抗菌薬の使用歴を確認し、前治療があれば薬剤の変更については尋ねません。添付文書上、ST合剤の適応症は「複雑性膀胱炎、腎盂腎炎」で、「他剤耐性菌による上記適応症において、他剤が無効又は使用できない場合に投与すること」とあり、前治療歴を確認の上、セファレキシンなどへの変更を求めます。処方日数について 荒川隆之さん(病院)膀胱炎に対するST合剤の投与期間は、3日程度で良いものと考えます(『サンフォード感染症ガイド2016』においても3日)。再発時服用のために多く処方されている可能性はあるのですが、日数について確認のため疑義照会します。また、妊娠の可能性がある場合には、ガイドラインで推奨されているセフェム系抗菌薬の5~7日間投与2)への変更のため疑義照会します。具体的には、セフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルです。授乳中の場合、ST合剤でよいと思うのですが、個人的にはセフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルなど小児用製剤のある薬品のほうがちょっと安心して投薬できますね。あくまで個人的な意見ですが・・・妊娠している場合の代替薬 清水直明さん(病院)もしも妊娠の可能性が少しでもあれば、抗菌薬の変更を打診します。その場合の代替案は、セフジニル、セフカペンピボキシル、アモキシシリン/クラブラン酸などでしょうか。投与期間は7 日間と長め(ST合剤の場合、通常3 日間)ですが、再発を繰り返しているようですので、しっかり治療しておくという意味であえて疑義照会はしません。そもそも、初期治療ではまず選択しないであろうST合剤が選択されている段階で、これまで治療に難渋してきた背景を垣間見ることができます。ですので、妊娠の可能性がなかった場合、抗菌薬の選択についてはあえて疑義照会はしません。予防投与を考慮? JITHURYOUさん(病院)ST合剤は3日間の投与が基本になると思いますが、7日間処方されている理由を聞きます。予防投与の分を考慮しているかも確認します。しない・・・6人再発しているので疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)ST合剤は緑膿菌に活性のあるニューキノロン系抗菌薬を温存する目的での選択でしょうか。単純性膀胱炎であれば、ガイドラインではST合剤の投与期間は3日間とされていますが、再発を繰り返す場合、除菌を目的に7日間服用することもある3)ので、疑義照会はしません。残りは取っておく!? ふな3さん(薬局)ST合剤の投与期間が標準治療と比較して長めですが、再発でもあり、こんなものかなぁと思って疑義照会はしません。好ましくないことではありますが、先にも述べたように「3日で止めて、残りは取っておいて、再発したら飲み始めて~」などと、患者にだけ言っておくドクターがいます...。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?服用中止するケース 清水直明さん(病院)「この薬は比較的副作用が出やすい薬です。鼻血、皮下出血、歯茎から出血するなどの症状や、貧血、発疹などが見られたら、服用を止めて早めに連絡してください。」薬の保管方法とクランベリージュース 柏木紀久さん(薬局)「お薬は光に当たると変色するので、日の当たらない場所で保管してください」と説明します。余談ができるようなら、クランベリージュースが膀胱炎にはいいらしいですよ、とも伝えます。発疹に注意 キャンプ人さん(病院)発疹などが出現したら、すぐに病院受診するように説明します。処方薬を飲みきること 中堅薬剤師さん(薬局)副作用は比較的少ないこと、処方分は飲み切ることなどを説明します。患者さんが心配性な場合、副作用をマイルドな表現で伝えます。例えば、下痢というと過敏になる方もいますので「お腹が少し緩くなるかも」という感じです。自己中断と生活習慣について JITHURYOUさん(病院)治療を失敗させないために自己判断で薬剤を中止しないよう伝えます。一般的に抗菌薬は副作用よりも有益性が上なので、治療をしっかり続けるよう付け加えます。その他、便秘を解消すること、水分をしっかりとり、トイレ我慢せず排尿する(ウォッシュアウト)こと、睡眠を十分にして免疫を上げること、性行為(できるだけ避ける)後にはなるべく早く排尿することや生理用品をこまめに取り替えることも説明します。水分補給 中西剛明さん(薬局)尿量を確保するために、水分を多く取ってもらうよう1日1.5Lを目標に、と説明します。次に、お薬を飲み始めたときに皮膚の状態を観察するように説明します。皮膚障害、特に蕁麻疹の発生に気をつけてもらいます。Q5 その他、気付いたことは?地域の感受性を把握 荒川隆之さん(病院)ST合剤は『JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015』などにおいて、急性膀胱炎の第一選択薬ではありません。『サンフォード感染症ガイド2016』でも、耐性E.coli の頻度が20%以上なら避ける、との記載があります。当院においてもST合剤の感受性は80%を切っており、あまりお勧めしておりません。ただ、E.coli の感受性は地域によってかなり異なっているので、その地域におけるアンチバイオグラムを把握することも重要であると考えます。治療失敗時には受診を JITHURYOUさん(病院)予防投与については、説明があったのでしょうか。また、間質性膀胱炎の可能性も気になります。治療が失敗した場合は、耐性菌によるものもあるのかもしれませんが、膀胱がんなどの可能性も考え受診を勧めます。短期間のST合剤なので貧血や腎障害などの懸念は不要だと思いますが、繰り返すことを考えて、生理のときは貧血に注意することも必要だと思います。間質性膀胱炎の可能性 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎の種類が気になるところです。間質性膀胱炎ならば、「効果があるかもしれない」程度のエビデンスですが、スプラタストやシメチジンなどを適応外使用していた泌尿器科医師がいました。予防投与について 奥村雪男さん(薬局)性的活動による単純性膀胱炎で、あまり繰り返す場合は予防投与も考えられます。性行為後にST合剤1錠を服用する4)ようです。性行為後に排尿することも推奨ですが、カウンターで男性薬剤師から話せる内容でないので、繰り返すようであれば処方医によく相談するようにと言うに留めると思います。後日談(担当した薬剤師から)次週も「違和感が残っているので」、ということで来局。再度スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠1回2錠 1日2回で7日分が継続処方として出されていた。その後、薬疹が出た、ということで再来局。処方内容は、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩2mg錠1回1錠 1日3回 毎食後5日分。スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠は中止となった。1)Raz R et al. Clin Infect Dis 2005: 40(6): 896-898.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015.一般社団法人日本感染症学会、2016.3)青木眞.レジデントのための感染症診療マニュアル.第2版.東京、医学書院.4)細川直登.再発を繰り返す膀胱炎.ドクターサロン.58巻6月号、 2014.[PharmaTribune 2017年5月号掲載]

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周期投与と連続投与が選択できる月経困難症治療薬「ジェミーナ配合錠」【下平博士のDIノート】第12回

周期投与と連続投与が選択できる月経困難症治療薬「ジェミーナ配合錠」今回は、「レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール配合剤(商品名:ジェミーナ配合錠)」を紹介します。本剤は、周期投与と連続投与の2つの服用パターンが選択でき、月経困難症に悩む女性のQOL改善が期待されています。<効能・効果>本剤は月経困難症の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年10月4日より販売されています。<用法・用量>下記の2つの投与周期が規定されています。1)1日1錠を毎日一定の時刻に21日間連続経口投与し、その後7日間休薬(28日周期)2)1日1錠を毎日一定の時刻に77日間連続経口投与し、その後7日間休薬(84日周期)いずれの場合も出血の継続の有無にかかわらず、休薬期間終了後の翌日から次の周期を開始し、以後同様に繰り返します。<副作用>月経困難症を対象とした臨床試験では、全解析対象241例中214例(88.8%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました(承認時)。主な副作用は、不正子宮出血、希発月経、月経過多、下腹部痛、悪心、頭痛などでした。<患者さんへの指導例>1.この薬は、黄体ホルモンと卵胞ホルモンを補充することで、月経時の下腹部痛や頭痛などを改善します。2.薬を飲んでいる途中に不正出血が起こることがあります。通常は飲み続けるうちに少なくなりますが、長期間にわたって出血が続いたり、出血量が多かったりする場合は、医師に相談してください。3.血栓症の主な症状である足の急激な痛み・腫れ・しびれ、突然の息切れ、胸の痛み、激しい頭痛などが現れた場合は、服用を中止して救急医療機関を受診してください。これらの症状が軽い場合や体が動かせない状態、脱水になった場合も服用を中止して医療機関を受診してください。4.28日周期の場合に、2周期連続して月経が来なかった場合は妊娠している可能性が疑われますので、すぐに医療機関を受診してください。5.他の医療機関から処方されている薬剤やサプリメントなどを服用する際は、本剤を服用中であることを伝えてください。6.飲み忘れたときは、当日に気付いた場合は気付いた時点で服用し、翌日以降に気付いた場合は、前日分(1日分のみ)を気付いた時点で服用し、当日分をいつもの時間に服用してください。1日に2錠を超えて服用することはできません。<Shimo's eyes>月経困難症は、月経に随伴して起こる病的症状を言い、激しい下腹部痛および腰痛を主とした症候群です。卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合剤が、非ステロイド性抗炎症薬と共に月経困難症治療の第1選択薬となっています。本剤は月経困難症治療薬として、わが国で初めて第2世代黄体ホルモンであるレボノルゲストレルを含有した超低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合剤です。本剤の特徴は、同じ製剤で周期投与(28日周期)と連続投与(84日周期)の両方に使用できることです。2種類のシートが用意されており、周期投与は21錠シート1枚分を服用した後7日間休薬し、連続投与は28錠シート2枚と21錠シート1枚分(計77日分)を服用した後に7日間休薬します。既存薬は処方された製品によって投与周期がわかりますが、本剤ではどちらの周期で使用するのか、しっかり患者さんに確認する必要があります。国内第III相長期投与比較試験において、連続投与群の月経困難スコア合計は、周期投与群と比べて、1~11周期のいずれにおいても有意な低下を示しました。また、連続投与では服薬期間中に少量の出血(不正子宮出血)が認められることがあるものの、休薬期間(月経予定)が減ることによって月経痛が生じる頻度が下がるため、一般的な月経周期で月経があるほうが望ましいと考える患者さん以外では、連続投与が選択されると考えられます。なお、連続投与群の副作用発現率が86例中85例(98.8%)と高いのは、服薬期間中の不正子宮出血や希発月経などが含まれているためです。卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合剤に共通の重篤な副作用である血栓症の発症に注意が必要です。ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(商品名:ヤーズ配合錠)は、2014年に血栓症に関するブルーレターの発出があり注意喚起されています。そのため本剤も類薬であることから、医薬品リスク管理計画書において、重要な特定されたリスクとして血栓症が設定されています。しかし、レボノルゲストレルを含有する配合剤は、他の黄体ホルモンを含有する配合剤に比べ、血栓症の発現リスクが低かったという海外での報告もあります。既存の卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合剤と同様に、禁忌薬や併用注意薬が大変多いため、処方監査の際には薬歴やお薬手帳を必ず確認しましょう。服薬指導では、休薬期間ではない日に少量の出血があっても、基本的にはそのまま服用するように伝え、喫煙により静脈血栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、脳卒中などの危険性が高まることから、禁煙の厳守を理解してもらいましょう。また、生活習慣病に罹患すると血栓症のリスクが高まるため、適切な生活習慣の改善も必要です。さらに、万一飲み忘れに気付いた場合の対応が避妊薬とは異なるので、しっかり説明しましょう。

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バッド・キアリ症候群〔BCS:Budd-Chiari Syndrome〕

1 疾患概要バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari Syndrome:BCS)とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。わが国では両者を合併している病態が多い。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す1)。■ 概念・定義肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群。■ 疫学2004年の年間受療患者数(有病者数)の推定値は、190~360人である(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:0.7とやや男性に多い。確定診断時の年齢は、20~30代にピークを認め、平均は約42歳である2)。2013年の門脈血行異常症に関する定点モニタリング調査では、発症時平均年齢が32.2歳、診断時平均年齢が44.7歳であった3)。■ 病因本症の病因は明らかでない例が多く、わが国では肝部下大静脈膜様閉塞例が多い。肝部下大静脈の膜様閉塞や肝静脈起始部の限局した狭窄や閉塞例は アジア、アフリカ地域で多く、欧米では少ない。発生は、アランチウス静脈管の異常をもとに発症するとする先天的血管形成異常説が考えられてきた。最近では、本症の発症が中高年以降で多いこと、膜様構造や肝静脈起始部の狭窄や閉塞が血栓とその器質化によって、その発生が説明できることから後天的な血栓説も考えられている。これに対して欧米では、肝静脈閉塞の多くは基礎疾患を有することが多い。基礎疾患としては、血液疾患(真性多血症、発作性夜間血色素尿症、骨髄線維症)、経口避妊薬の使用、妊娠出産、腹腔内感染、血管炎(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス)、血液凝固異常(アンチトロンビンIII欠損症、protein C欠損症)などが挙げられる。多くは発症時期が不明で慢性の経過(アジアに多い)をたどり、うっ血性肝硬変に至ることもあるが、急性閉塞や狭窄により急性症状を呈する急性期のBCS(欧米に多い)もみられる。アジアでは下大静脈の閉塞が多く、欧米では肝静脈閉塞が多い。分類として、原発性BCSと続発性BCSとがある。原発性BCSの病因はいまだ不明であるが、血栓、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が疑われている。続発性BCSを来すものとしては肝腫瘍などがある。■ 症状BCSは発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す3)。■ 分類1)病型杉浦らは本症の病型を以下の4つに分類している(図1)4)。図1 BCSの病型画像を拡大する(文献4より引用改変)I型:横隔膜直下の肝部下大静脈の膜様閉塞例、このうち肝静脈の一部が開存する場合をIa、すべて閉塞している場合をIbII型:下大静脈の1/2から数椎体にわたる完全閉塞例III型:膜様閉塞に肝部下大静脈全長の狭窄を伴う例IV型:肝静脈のみの閉塞例出現頻度は各々34.4%、11.5%、26.0%、7.0%、5.1%と報告がある。2)発症形式発症形式により急性型と慢性型に分けられる。上記の症状でも既述したが、急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。わが国においては慢性型が典型例として考えられている。■ 予後慢性の経過をとる場合、うっ血性肝硬変に至る。また、病状が進行すると肝細胞がんを合併することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準本症は症候群として認識され、また病期により病態が異なることから一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は、造影CTや肝静脈造影による下大静脈・肝静脈閉塞(狭窄)と、肝臓の病理組織学的所見に裏付けされることが望ましい。1)一般検査所見血液検査:1つ以上の血球成分の減少を示す。肝機能検査:正常から高度異常まで重症になるにしたがい、障害度が変化する。内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄が認められる(図2)。超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈流ないし乱流が見られることがあり、また、肝静脈血流波形は平坦化あるいは欠如することがある。脾臓の腫大を認める。肝臓のうっ血性腫大を認める。とくに尾状葉の腫大が著しい。肝硬変に至れば、肝萎縮となることもある。図2 BCSの腹部造影CT(門脈相)像画像を拡大する2A:水平断、2B:冠状断、2C:矢状断。肝部レベルで下大静脈が高度狭窄している(矢印)。肝静脈の3主幹および分枝も閉塞し、造影されない。肝内は粗雑化し、硬変様に変化し、肝表に腹水も見られる。また、肝内に腫瘍性病変も出現している(矢頭)。(2)下大静脈、肝静脈造影および圧測定肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める(図3)。肝部下大静脈閉塞の形態は膜様閉塞から広範な閉塞まで各種存在する。また、同時に上行腰静脈、奇静脈、半奇静脈などの側副血行路が造影されることが多い。著明な肝静脈枝相互間吻合を認める。肝部下大静脈圧は上昇し、肝静脈圧や閉塞肝静脈圧も上昇する。図3 BCSの下大静脈造影像画像を拡大する右大腿静脈からカテーテルを入れて造影した。肝部下大静脈の一部分が完全に狭窄化し、血流がほとんど途絶している。3)病理診断(1)肝臓の肉眼所見急性期のうっ血性肝腫大、慢性うっ血に伴う肝線維化、さらに進行するとうっ血性肝硬変となる。(2)肝臓の組織所見急性のうっ血では、肝小葉中心帯の類洞の拡張が見られ、うっ血が高度の場合には中心帯に壊死が生じる。うっ血が持続すると、肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し、肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)や中心帯領域に線維化が生じ、慢性うっ血性変化が見られる。さらに線維化が進行すると、主に中心帯を連結する架橋性線維化が見られ、線維性隔壁を形成し、肝硬変の所見を呈する。■ 重症度分類表に重症度分類を示す。画像を拡大する● 重症度重症度I:診断可能だが、所見は認めない。重症度II:所見を認めるものの、治療を要しない。重症度III:所見を認め、治療を要する。重症度IV:身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V:肝不全ないしは消化管出血を認め、集中治療を要する。● 付記1.食道・胃・異所性静脈瘤(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは『食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症研究会)』『門脈圧亢進症取扱い規約(第3版、2013年)』に基づき、F2以上のもの、またはF因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。2.門脈圧亢進所見(+):門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち1つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを1つもしくは複数認める。3.身体活動制限(+):当該3疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の50%以上は起居している。(++):当該3疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の50%以上就床している。4.消化管出血(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。5.肝不全(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値3mg/dL以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第12回犬山シンポジウム、1981)II度以上を目安とする。6.異所性静脈瘤門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、および痔などである。7.門脈亢進症性胃腸症組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。■ 鑑別診断特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、肝硬変との鑑別を要する。BCSは進行すれば肝硬変に至り鑑別困難になることが多いが、肝静脈や下大静脈の閉塞・狭窄の有無がポイントとなる。閉塞部(狭窄部)を開存させる治療で症状の著明な改善が望まれる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄に対しては臨床症状、閉塞・狭窄の病態に対応して、カテーテルによる開通術や拡張術、ステント留置あるいは閉塞・狭窄を直接解除する手術、もしくは閉塞・狭窄部上下の大静脈のシャント手術などを選択する。急性症例で、肝静脈末梢まで血栓閉塞している際には、肝切離し、切離面-右心房吻合術も選択肢となる。肝不全例に対しては、肝移植術を考慮する。門脈圧亢進の症候に対する治療法は以下のとおりである。■ 食道静脈瘤に対して1)食道静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などの内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、または待期手術、ないしはその併用療法を考慮する。3)未出血の症例では、食道内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、または予防手術、ないしはその併用療法を考慮する。4)単独手術療法としては、下部食道を離断し、脾摘術、下部食道・胃上部の血行遮断を加えた「直達手術」、または「選択的シャント手術」を考慮する。内視鏡的治療との併用手術療法としては、「脾摘術および下部食道・胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 胃静脈瘤に対して1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部の胃静脈瘤に対しては、上記の食道静脈瘤の治療に準じた治療によって対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂による出血中の症例では一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの血管内治療や緊急手術も考慮する。3)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、B-RTOなどの血管内治療、または待期手術(Hassab手術)を考慮する。4)未出血の症例では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。5)手術方法としては「脾摘術および胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 異所性静脈瘤に対して1)異所性静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。 上記治療によっても止血困難な場合は、血管内治療や緊急手術を考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、血管内治療、または待期手術を考慮する。3)未出血の症例では、内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。■ 脾腫、脾機能亢進症に対して巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しいとき、および脾腫が原因と考えられる高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向などの合併症があり、内科的治療が難しい症例では、部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)ないし脾摘術を考慮する。4 今後の展望國吉 幸男氏(琉球大学大学院 医学研究科 胸部心臓血管外科学講座)らが行っている直達手術(senning手術)が根治手術として有名であり、好成績をおさめている5,6)。肝移植も有効なことが多いが、ドナーの問題などから、わが国ではあまり行われていない。しかし、根治的治療として今後の期待がかかった治療法といえる。外科治療に至るまでの間に、カテーテル治療による閉塞部拡張術やステント挿入術(経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術)が行われることもあり、良好な効果を得ている。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、血管外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業) バッド・キアリ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Moriyasu F, et al. Hepatol Res. 2017;47:373-386.2)廣田良夫ほか. 2005年全国疫学調査. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.3)廣田良夫ほか. 門脈血行異常症に関する定点モニタリングシステムの構築. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.4)Okuda H, et al. J Hepatol. 1995;22:1-9.5)國吉幸男ほか, 日本心臓血管外科学会雑誌. 1991;20:919-921.6)Pasic M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;106:275-282.公開履歴初回2018年05月08日

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麻雀がもたらした悲劇的な1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第113回

麻雀がもたらした悲劇的な1例 いらすとやより使用 私は医学生の頃、三度の飯より麻雀が好きというくらい麻雀を打っていました。も、も、も、も、もちろん、お金なんて1円も賭けていない、健康麻雀ですよッ!麻雀は現在では全自動卓が当たり前になっていますが、安くても数十万円するあんな大きなモノが学生に買えるはずがなく、仲間内では“手積み”でプレイするのが一般的でしょう。金持ちの同級生は自動麻雀卓を買っていましたが。 Zhang GS, et al.Mah-Jong-related deep vein thrombosis.Lancet. 2010;375:2214.かの有名なLancetに、麻雀の論文があることをご存じでしょうか。これは、麻雀の本場である中国から投稿された短報です。2009年、左下肢痛を訴えた40歳女性が来院しました。下肢は赤くパンパンに腫脹していました。問診してみると、どうやら彼女は連続8時間も麻雀に興じており、なんとその間ほとんど水分を摂らなかったというのです。下肢エコーを見てみると、見事なドデカイ深部静脈血栓症があるではありませんか。経口避妊薬を常用しており、もともと多少なりとも血栓症があったのかもしれませんが、8時間に及ぶ死闘が引き金になったのは確かなようです。あまりにひどかったので、入院して低分子ヘパリンで治療が施されました。その後、リハビリなどを経て、無事2ヵ月後に退院したそうです。麻雀は、全自動卓でないと、1局あたり1時間に及ぶこともあります。その間、足を動かさずにじっとしているわけですから、ほとんどエコノミークラス症候群と同じ状況です。麻雀の対局中は、立ち上がって対戦者の手牌をのぞき込むわけにはいきませんので、ふくらはぎを揉んだり足を動かしたり、工夫をしないといけないかもしれませんね。熱中して、水分を摂るのを忘れないようにしたいです。ちなみに長時間の麻雀は痙攣のリスクもあると報告されています。てんかんの既往がある人は注意したほうがよいかもしれません1)。というわけで、麻雀に熱中している医学生・医師諸君、気を付けたまえ!1)An D, et al. Epilepsy Behav. 2015;53:117-119.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第43回

第43回:二次性高血圧症の考え方と検索法監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 高血圧患者の多くに明確な病因はなく、本態性高血圧に分類されます。しかし、このうち5~10%の患者については二次性高血圧症の可能性があり、潜在的かつ治療可能な原因を含みます。この二次性高血圧症の有病率および潜在的な原因は、年齢によって異なりますので今回の記事で確認してみましょう。 また、国内では「高血圧治療ガイドライン2014」2)が出ているので、この機会に併せてご覧ください。 以下、American family physician 2017年10月1日号1)より【疫学】二次性高血圧症は潜在的に治療可能な原因を伴う高血圧症で、高血圧の症例の5~10%とわずかな割合しか占めていない。二次性高血圧の罹患率は年齢によって異なり、18~40歳の高血圧患者では30%に近い有病率で、若年者ではより一般的である。すべての高血圧症患者において、二次性高血圧の網羅的な検査が勧められるわけではないか、30歳未満の患者では、詳細な検査が推奨される。【二次性高血圧を疑い評価を考慮する場合】*これまで安定していた血圧が急に高値になった場合思春期前に高血圧を発症した場合高血圧の家族歴がなく、非肥満性で非黒人の30歳未満の場合(末梢臓器障害の徴候を伴う)悪性高血圧もしくは急速進行の高血圧の場合重症高血圧(収縮期血圧>180mmHgおよび/または拡張期血圧>120mmHg)または、ガイドラインに準じて1つの利尿薬を含む3つの適切な降圧薬使用にもかかわらず持続する治療抵抗性の高血圧【アプローチ】(1)まずは正確な血圧測定の方法を確認し、食生活や肥満による高血圧を除外する(2)既往歴、身体診察、検査(心電図、尿検査、空腹時血糖、ヘマトクリット、電解質、クレアチニン/推定糸球体濾過率、カルシウム、脂質)を確認する(3)二次性高血圧を疑う症状/徴候があれば、以下の表のように検索をすすめる画像を拡大する(4)二次性高血圧を疑う症状/徴候がなくても、上記の二次性高血圧を疑い評価を考慮する場合(*の項目を参照)は下記を考え、検索をすすめる【二次性高血圧の年齢別の一般的な原因】11歳までの子ども(70~85%):腎実質疾患、大動脈縮窄症12~18歳の青年(10~15%):腎実質疾患、大動脈縮窄症19~39歳の若年成人(5%):甲状腺機能不全、線維筋性異形成、腎実質疾患40~64歳の中高年(8~12%):高アルドステロン症、甲状腺機能不全、閉塞性睡眠時無呼吸、クッシング症候群、褐色細胞腫65歳以上の高齢者(17%):アテローム硬化性腎動脈狭窄、腎不全、甲状腺機能低下症【二次性高血圧の稀な原因】強皮症、クッシング症候群、大動脈縮窄症、甲状腺・副甲状腺疾患、化学療法薬、経口避妊薬※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Am Fam Physician. 2017 Oct 1; 96:453-461. 2) 高血圧治療ガイドライン2014

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経口避妊薬の長期使用により、乳がん発症リスクがごくわずかに上昇(解説:矢形寛氏)-794

 経口避妊薬と乳がんとの関連について研究したものはこれまでに複数存在するが、本研究はこれまでの中で一般市民を対象とした、最も規模が大きく質の高い前向き研究である。デンマークの登録データを用い、経口避妊薬の種類や使用期間、最近の使用の有無を詳細に検討している。 相対リスクが約1.2であったということは、絶対リスクで考えればごくわずかな乳がん発症リスクの上昇である。5年以上の長期使用と最近の使用がリスクであり、経口避妊薬の種類による差については、使用期間と最近の使用の有無がさまざまであることから、現時点では結論づけられないであろう。また、これだけのレベルの研究でもバイアスや交絡因子が複数存在し、排除することはできないので注意は必要である。 経口避妊薬には他に卵巣がん、子宮内膜がん、大腸がんの発症リスク減少や血栓症のリスク上昇などの影響もあるので、使用の有無については研究の限界とともに総合的に考える必要がある。

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ホルモン避妊法、乳がんリスクが2割増/NEJM

 現代のホルモン避妊法をこれまで一度も使用したことがない女性と比較し、現在使用中または最近まで使用していた女性において、乳がんのリスクが高く、しかも使用期間が長いほどそのリスクは増加することが明らかとなった。デンマーク・コペンハーゲン大学のLina S. Morch氏らが、同国の女性を対象とした前向きコホート研究の結果を報告した。これまでに、エストロゲンは乳がんの発生を促進し、一方でプロゲスチンの役割はより複雑であることが示唆されていたが、現代のホルモン避妊法と乳がんリスクとの関連はほとんど知られていなかった。NEJM誌2017年12月7日号掲載の報告。15~49歳の女性約180万例を平均約11年、前向きに追跡 研究グループは、デンマーク在住の15歳~79歳の全女性が含まれるDanish Sex Hormone Register Studyのデータを用い、1995年1月1日現在15~49歳の女性、ならびにそれ以降2012年12月31日までに15歳になった女性で、がんや静脈血栓塞栓症の既往および不妊治療歴がない女性を抽出し、National Register of Medicinal Product Statisticsからホルモン避妊法の使用、乳がんの診断ならびに潜在的交絡因子に関するデータを得て、ホルモン避妊法の使用と浸潤性乳がんリスクとの関連を評価した。解析にはポアソン回帰分析を用い、相対リスクと95%信頼区間(CI)を算出した。 1995年~2012年に、平均10.9年間、約180万例(1,960万人年)を追跡した。ホルモン避妊法の使用で乳がんリスク1.2倍、使用期間が長いほどリスク増大 180万例中1万1,517例に乳がんが発生した。ホルモン避妊法の使用歴がない女性と比較し、使用歴のある(現在使用中または最近まで使用していた)女性では、乳がんの相対リスクが1.20(95%CI:1.14~1.26)と有意に高かった。このリスクは、使用期間が1年未満では1.09(95%CI:0.96~1.23)であったのに対し、10年超では1.38(95%CI:1.26~1.51)まで上昇した(p=0.002)。ホルモン避妊法を中止しても、使用期間が5年以上の場合は、使用歴がない女性より乳がんリスクが高かった。 経口避妊薬の使用(現在使用中または最近まで使用)による乳がんリスク推定値は、各種エストロゲン・プロゲスチン配合薬により1.01~1.62と幅があった。プロゲスチンのみの子宮内避妊システム(レボノルゲストレル放出子宮内システム)の使用でも同様に、乳がんリスクが上昇した(相対リスク:1.21、95%CI:1.11~1.33)。 あらゆるホルモン避妊法の使用による乳がん診断の増加は、絶対値で10万人年当たり13件(95%CI:10~16)であった。ホルモン避妊法を1年間で7,690例が使用すると、乳がんが約1例増加することが認められた。

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卵巣予備能バイオマーカーと不妊、関連性は?/JAMA

 生殖年齢後期の女性において、血中の抗ミュラー管ホルモン(AMH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インヒビンBあるいは尿中FSHといった卵巣予備能を示すバイオマーカーの低下は、妊孕性の低下とは関連していないことが明らかとなった。米国・ノースカロライナ大学のAnne Z. Steiner氏らが、不妊歴のない妊活3ヵ月未満の30~44歳の女性を対象とした前向きコホート試験の結果を報告した。卵巣予備能のバイオマーカーは、その有益性に関するエビデンスがないにもかかわらず、生殖能の目安として用いられている。著者は「尿または血中FSHや血中AMHを用いて、女性の現在の受胎能を評価することは支持されない」と注意を促している。JAMA誌2017年10月10日号掲載の報告。卵巣予備能バイオマーカーを測定し、1年間にわたり受胎率を評価 研究グループは2008年4月~2016年3月の期間で、ノースカロライナ州にあるローリー-ダーラムの地域コミュニティで募集した、不妊歴のない妊活3ヵ月未満の30~44歳の女性981例を対象に、卵胞期前期の血清AMH、血清FSH、血清インヒビンB、尿中FSHを測定した。 主要評価項目は、6周期と12周期までの累積受胎率および相対的な受胎確率(特定の月経周期における受胎率)とし、妊娠テスト陽性を受胎と定義した。 計750例(平均年齢33.3歳[SD 3.2]、白人77%、過体重または肥満36%)から血液と尿の検体が提供され、解析に組み込んだ。バイオマーカー低値と正常値の女性で受胎率に有意差なし 年齢、BMI、人種、現在の喫煙状況、ホルモン避妊薬使用の有無で補正後、妊活6周期までの推定受胎率は、AMH低値(<0.7ng/mL)群(84例)で65%(95%信頼区間[CI]:50~75%)、AMH正常値群(579例)で62%(同:57~66%)と両群で有意差はなかった。妊活12周期までの推定受胎率比較においても、有意差は示されなかった(AMH低値群84%[同:70~91%] vs. 正常値群75%[同:70~79%])。 血清FSHについても同様に、妊活6周期までの推定受胎率は高値(>10mIU/ml)群(83例、63%[95%CI:50~73%])と正常値群(654例、62%[同:57~66%])で有意差はなく、12周期までの推定受胎率も有意差はなかった(82%[同:70~89%] vs.75%[同:70~78%])。 尿中FSH値についても、高値(>11.5mIU/mg creatinine)群の妊活6周期までの推定受胎率(69例、61%[95%CI:46~74%])は、正常値群(660例、62%[同:58~66%])と有意差はなく、妊活12周期までの推定受胎率も有意差はなかった(70%[同:54~80%] vs.76%[同:72~80%])。 インヒビンB値に関しては、測定しえた737例において特定の月経周期での受胎率との関連性が確認されなかった(1-pg/mL増加当たりのハザード比:0.999、95%CI:0.997~1.001)。 なお著者は、出生ではなく受胎を主要評価項目としていること、排卵は評価されていないこと、男性の精液検体は提供されていないことなどを研究の限界として挙げている。

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うつ病女性に対する避妊法に関するレビュー

 うつ病や双極性障害の女性は、望まない妊娠をするリスクが高い。米国疾病対策予防センターのH Pamela Pagano氏らは、うつ病や双極性障害女性に対するホルモン避妊法の安全性を検討した。Contraception誌オンライン版2016年6月27日号の報告。 2016年1月までに発表された論文を対象に、うつ病や双極性障害を有する女性のうち臨床的診断またはスクリーニングツールによる検証で閾値レベル以上であった女性における、任意のホルモン避妊法を使用した際の安全性に関する論文を検索した。症状変化、入院、自殺、薬物療法の変更(増量、減量、薬剤変更)をアウトカムとした。 主な結果は以下のとおり。・2,376件中、6件が選択基準を満たした。・臨床的にうつ病や双極性障害と診断された女性に対する研究は以下のとおり。 1)経口避妊薬(OCs)は、双極性障害女性の月経周期全体にわたって気分を変動させなかった。一方、OCsを使用しなかった女性では月経周期全体にわたって気分が有意に変動した。 2)デポ型酢酸メドロキシプロゲステロン(depot medroxyprogesterone acetate:DMPA)、子宮内避妊用具(IUDs)、不妊手術を用いた女性における精神科入院頻度に有意な差は認められなかった。 3)OCsの使用有無にかかわらず、fluoxetine、プラセボのどちらの治療群においても、うつ病女性のうつ病尺度のスコア増加は認められなかった。・スクリーニングツールでの測定によりうつ病の閾値を満たした女性における結果は以下のとおり。 1)OCsを併用した思春期女性は、プラセボ群と比較し、3ヵ月後のうつ病スコアが有意に改善した。 2)OC使用者は、非使用者と比較し、フォローアップ時にうつでなかった割合は同程度であった。 3)OC併用者では、IUD使用者と比較して、11ヵ月にわたりうつ頻度が少ないことが示唆された。 著者らは「6件の限られた研究から得られた結果によると、OC、レボノルゲストレル放出IUD、DMPAを使用したうつ病または双極性障害の女性では、ホルモン避妊法を使用しなかった女性と比較して、症状の臨床経過の悪化との関連はみられなかった」としている。関連医療ニュース 妊娠中のSSRI使用、妊婦や胎児への影響は 妊娠に伴ううつ病、効果的なメンタルヘルス活用法 妊娠初期のうつ・不安へどう対処する

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女性の片頭痛は心血管疾患イベントおよび死亡リスクを増大(解説:中川原 譲二 氏)-556

 ドイツ・ベルリン大学附属シャリテ病院のTobias Kurth氏らは、約12万例の女性を対象とした20年以上に及ぶ前向きコホート研究を解析し、女性の片頭痛と心血管死を含む心血管疾患イベントとの間に一貫した関連が認められたことを報告した(BMJ誌オンライン版2016年5月31日号掲載の報告)。NHS IIの女性約12万例を、20年にわたって追跡 研究グループは、米国看護師健康調査II(Nurses' Health Study II:NHS II)に参加した、ベースライン時に狭心症および心血管疾患のない25~42歳の女性看護師11万5,541例を対象に、1989年~2011年6月まで追跡調査を行った(累積追跡率90%以上)。主要評価項目は、主要心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中・致死的心血管疾患の複合エンドポイント)、副次評価項目は心筋梗塞、脳卒中、狭心症/冠動脈血行再建術および心血管死の個々のイベントとした。主要心血管疾患のリスクは1.5倍、心血管死のリスクは1.37倍 11万5,541例のうち、医師により片頭痛と診断されたと報告した女性は1万7,531例(15.2%)で、20年間の追跡期間中に、1,329件の主要心血管疾患イベントが発生し、223例の女性が心血管疾患で死亡した。潜在的交絡因子の補正後、片頭痛を有する女性では片頭痛のない女性と比較し、主要心血管疾患(ハザード比[HR]:1.50、95%信頼区間[CI]:1.33~1.69)、心筋梗塞(同:1.39、1.18~1.64)、脳卒中(1.62、1.37~1.92)、狭心症/冠動脈再建術(1.73、1.29~2.32)のリスクが増加していた。さらに、片頭痛は心血管死の有意なリスク増大とも関連していた(HR:1.37、95%CI:1.02~1.83)。また、サブグループ解析(年齢[<50歳/≧50歳]、喫煙歴[現在喫煙中/過去に喫煙歴あり/なし]、高血圧[あり/なし]、閉経後ホルモン療法[現在治療中/現在治療なし]、経口避妊薬使用[現在使用/現在使用なし])でも、類似の結果であった。女性においては、片頭痛は心血管疾患の重要なリスク因子 片頭痛は虚血性脳卒中のリスク増加と関連していることは知られていたが、冠動脈イベントや心血管死との関連はほとんど示されていなかった。著者らは、「今後、片頭痛患者の将来の心血管疾患リスクを低下させる予防的戦略を明らかにするため、さらなる研究が必要である」としている。 なお、著者らは今回の結果について、医師による片頭痛の診断が自己報告に基づくものであること、片頭痛の前兆が不明であり、対象がすべて看護師であることなど、他の女性集団に対する一般化には限界があることを付け加えている。今後は、本邦の女性集団においても、片頭痛が同様の生物学的機序によって心血管疾患のリスクを増大させるかどうかを検討する必要がある。

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女性の片頭痛は心血管疾患のリスク因子/BMJ

 女性においては、片頭痛は心血管疾患の重要なリスク因子と考えるべきであるという。ドイツ・ベルリン大学附属シャリテ病院のTobias Kurth氏らが、20年以上追跡した前向きコホート研究の米国看護師健康調査II(Nurses' Health Study II:NHS II)のデータを解析し、片頭痛と心血管イベントとの間に一貫した関連が認められたことを踏まえて報告した。片頭痛は虚血性脳卒中のリスク増加と関連していることは知られていたが、冠動脈イベントや心血管死との関連はほとんど示されていなかった。著者は、「今後、片頭痛患者の将来の心血管疾患リスクを低下させる予防的戦略を明らかにするため、さらなる研究が必要である」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年5月31日号掲載の報告。NHS IIの女性約12万例を、20年にわたって追跡 研究グループは、NHS IIに参加した、ベースライン時に狭心症および心血管疾患のない25~42歳の女性看護師11万5,541例を対象に、1989年~2011年6月まで追跡調査を行った(累積追跡率90%以上)。 主要評価項目は、主要心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中・致死的心血管疾患の複合エンドポイント)、副次評価項目は心筋梗塞、脳卒中、狭心症/冠動脈血行再建術および心血管死の個々のイベントとした。片頭痛のある女性、主要心血管疾患のリスクは1.5倍 11万5,541例のうち、片頭痛と診断されたと報告した女性は1万7,531例(15.2%)で、20年間の追跡期間中の主要心血管疾患の発生は1,329件であり、223例が心血管疾患で死亡した。 潜在的交絡因子の補正後、片頭痛を有する女性では片頭痛のない女性と比較し、主要心血管疾患(ハザード比[HR]:1.50、95%信頼区間[CI]:1.33~1.69)、心筋梗塞(同:1.39、1.18~1.64)、脳卒中(1.62、1.37~1.92)、狭心症/冠動脈再建術(1.73、1.29~2.32)のリスクが増加していた。さらに、片頭痛と心血管疾患死リスク増大との有意な関連が認められた(HR:1.37、95%CI:1.02~1.83)。 サブグループ解析(年齢[<50歳/≧50歳]、喫煙歴[現在喫煙中/過去に喫煙歴あり/まったくなし]、高血圧[あり/なし]、閉経後ホルモン療法[現在治療中/現在治療を行っていない]、経口避妊薬使用[現在使用/現在使用していない])でも、類似の結果であった。 なお、著者は今回の結果について、医師による片頭痛の診断は自己報告に基づくものであること、前駆症状が不明であり、試験対象がすべて看護師であるなど、限定的なものであることを付け加えている。

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複合ピルの肺塞栓症リスク、低用量エストロゲンで低減/BMJ

 複合経口避妊薬は肺塞栓症のリスクを増大することが知られるが、エストロゲンの用量を低量(20μg)とすることで、同高用量(30~40μg)の場合と比べて、肺塞栓症、および虚血性脳卒中、心筋梗塞のリスクは低減することが示された。フランス全国健康保険組織公衆衛生研究部門のAlain Weill氏らが、フランス人女性500万例を対象としてコホート研究の結果、報告した。結果を踏まえて著者は、「エストロゲン20μg用量のレボノルゲストレルを組み合わせた経口避妊薬が、全体として肺塞栓症、動脈血栓塞栓症の低リスクと関連していた」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年5月10日号掲載の報告。ピル服用歴のあるフランス人女性500万例を対象に観察コホート研究 研究グループは観察コホート研究にて、エストロゲン(エチニルエストラジオール)とプロゲステロンの組み合わせ用量が異なる複合経口避妊薬と、肺塞栓症、虚血性脳卒中、心筋梗塞発生との関連を調べた。 フランス全国健康保険組織のデータベースと、フランス病院退院データベースを活用。2010年7月~2012年9月に、フランスで生活をしている15~49歳の女性494万5,088例のデータを包含した。被験者は、経口避妊薬について1回以上の償還払いを受けており、がん、肺塞栓症、虚血性脳卒中、心筋梗塞について入院歴がなかった。 主要評価項目は、初発の肺塞栓症、虚血性脳卒中、心筋梗塞の相対リスクおよび絶対リスクとした。20μgレボノルゲストレル使用群では、肺塞栓症、虚血性脳卒中、心筋梗塞が低減 経口避妊薬使用が認められた544万3,916人年において、3,253例のイベント発生が観察された。肺塞栓症が1,800例(10万人年当たり33例)、虚血性脳卒中1,046例(同19例)、心筋梗塞は407例(同7例)であった。 プロゲステロンおよびリスク因子補正後、20μgの低用量エストロゲン使用群の30~40μgエストロゲン使用群に対する相対リスクは、肺塞栓症について0.75(95%信頼区間[CI]:0.67~0.85)、虚血性脳卒中は0.82(同:0.70~0.96)、心筋梗塞は0.56(同:0.39~0.79)であった。 エストロゲン用量およびリスク因子補正後、レボノルゲストレルとの比較において、デソゲストレルlおよびgestodeneの肺塞栓症の相対リスクは統計的に有意に高く、それぞれ2.16(95%CI:1.93~2.41)、1.63(同:1.34~1.97)であった。 エストロゲン20μg用量のレボノルゲストレルは、同30~40μg用量のレボノルゲストレルと比べて、3つの重大有害イベントいずれの発生リスクについても統計的に有意に低かった。

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妊娠前後のピル、胎児の先天異常リスクを増大せず/BMJ

 妊娠前3ヵ月~妊娠初期に経口避妊薬を服用していても、重大先天異常のリスク増大は認められなかったことが、米・ハーバード大学公衆衛生院のBrittany M Charlton氏らによるデンマーク各種全国レジストリを用いた前向き観察コホート研究の結果、明らかとなった。経口避妊薬使用者の約9%は服用1年目で妊娠するとされる。その多くは妊娠を計画し経口避妊薬の服用を中止してから数回の月経周期での妊娠であるが、胎児への外因性ホルモンの影響と先天異常との関連については明らかとはなっていない。BMJ誌オンライン版2016年1月6日号掲載の報告。デンマーク出生登録の約88万人で経口避妊薬曝露と先天異常リスクの関連を調査 研究グループは、妊娠前後の経口避妊薬の使用が重大先天異常のリスクと関連しているかどうかを検討する目的で、デンマークで生まれたすべての単胎児を含む医療出生登録を用い、1997年1月1日~2011年3月31日に生まれた、既知の原因(胎児性アルコール症候群など)あるいは染色体異常による先天異常児を除く生産(live-born)児88万694例を対象に、前向き観察コホート研究を行った。 患者登録(Danish National Patient Registry)にて先天異常について追跡調査するとともに、処方登録(Danish National Prescription Register)にて経口避妊薬への曝露について評価。経口避妊薬は最後の処方日まで服用されたものと見なし、使用の有無と時期により、まったく未使用(非使用群)、受胎前3ヵ月以内非使用(直前非使用群)、受胎前0~3ヵ月以内使用(直前使用群)、受胎後使用(妊娠初期使用群)に分類した。 主要評価項目は、出生後1年以内に診断された重大先天異常(European Surveillance of Congenital Anomaliesの分類による)で、ロジスティック回帰分析にて有病オッズ比を算出し評価した。対非使用の重大先天異常の有病オッズ比、直前使用0.98、妊娠初期使用0.95 経口避妊薬の曝露については、非使用群21%(18万3,963例)、直前非使用群69%(61万1,007例)、直前使用群8%(7万4,542例)、妊娠初期使用群1%(1万1,182例)であった。 対象コホート88万694例中、2.5%(2万2,013例)が生後1年以内に重大先天異常と診断された。出生児1,000人当たりの重大先天異常有病率に群間差はみられず(非使用群25.1、直前非使用群25.0、直前使用群24.9、妊娠初期使用群24.8)、直前非使用群と比較して直前使用群(有病オッズ比:0.98、95%信頼区間[CI]:0.93~1.03)および妊娠初期使用群(同:0.95、95%CI:0.84~1.08)で、重大先天異常の増加は認められなかった。先天異常サブグループ別(四肢欠損など)の解析でも、有病率の増大は認められなかった。 処方箋通りに経口避妊薬が服用されていたかどうかは不明で、交絡因子の残存の可能性や葉酸に関する情報不足など研究の限界はあるものの、著者は「今回の結果は、経口避妊薬の使用に関して患者と医療従事者を安心させるものである」とまとめている。

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英国プライマリケアでの処方の安全性、施設間で差/BMJ

 英国一般診療所の代表サンプル526施設を対象に処方の安全性について調べた結果、患者の約5%に不適切処方がみられ、また約12%でモニタリングの記録が欠如していることが、英国・マンチェスター大学のS Jill Stocks氏らによる断面調査の結果、明らかになった。不適切処方のリスクは、高齢者、多剤反復処方されている患者で高く、著者は、「プライマリケアにおいて、とくに高齢者と多剤反復投与患者について処方のリスクがあり適切性について考慮すべきであることが浮かび上がった」と述べている。英国では、プライマリケア向けに処方安全指標(prescribing safety indicator)が開発されているが、これまで試験セットでの検討にとどまり、大規模なプライマリケアデータベースでの評価は行われていなかった。BMJ誌オンライン版2015年11月3日号掲載の報告。英国一般診療所526施設のデータを分析 研究グループは、英国一般診療所における複数タイプの潜在的有害処方の有病率を調べ、また診療所間にばらつきがあるかどうかについて調べた。2013年4月1日時点でClinical Practice Research Datalink(CPRD)に登録された526施設において、診断と処方の組み合わせで特定した潜在的処方リスクやモニタリングエラーの可能性がある全成人患者を包含した。 主要アウトカムは、抗凝固薬、抗血小板薬、NSAIDs、β遮断薬、glitazone(チアゾリジン系糖尿病薬:TZD)、メトホルミン、ジゴキシン、抗精神病薬、経口避妊薬(CHC)、エストロゲンの潜在的に有害な処方率。また、ACE阻害薬およびループ利尿薬、アミオダロン、メトトレキサート、リチウム、ワルファリンの反復処方患者の、血液検査モニタリングの頻度が推奨値よりも低いこととした。不適切処方、モニタリング欠如は指標によりばらつき、診療所間のばらつきも高い 全体で94万9,552例のうち4万9,927例(5.26%、95%信頼区間[CI]:5.21~5.30%)の患者が、少なくとも1つの処方安全指標に抵触した。また、18万2,721例のうち2万1,501例(11.8%、11.6~11.9%)が、少なくとも1つのモニタリング指標に抵触した。 同処方率は、潜在的処方リスクタイプの違いでばらつきがみられ、ほぼゼロ(静脈または動脈血栓症歴ありでCHC処方:0.28%、心不全歴ありでTZD処方:0.37%)のものから、10.21%(消化器系潰瘍または消化管出血歴ありで消化管保護薬処方なし、アスピリンやクロピドグレル処方あり)にわたっていた。 不十分なモニタリングは、10.4%(75歳以上、ACE阻害薬やループ利尿薬処方、尿素および電解質モニタリングなし)から41.9%(アミオダロン反復処方、甲状腺機能検査なし)にわたっていた。 また、高齢者、多剤反復処方患者で、処方安全指標の抵触リスクが有意に高かった一方、若年で反復処方が少ない患者で、モニタリング指標の抵触リスクが有意に高かった。 さらに、いくつかの指標について診療所間での高いばらつきもみられた。 なお研究グループは、処方安全性指標について、「患者への有害リスクを増大する回避すべき処方パターンを明らかにするもので、臨床的に正当なものだが例外も常に存在するものである」と述べている。さらに、検討結果について「いくつかの診療について、CPRDで捕捉できていない情報がある可能性もあった(ワルファリンを投与されている患者のINRなど)」と補足している。

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リンチ症候群の子宮内膜がんリスク、低下させるのは?/JAMA

 DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子変異キャリアであるリンチ症候群の女性について調べたところ、「初潮年齢が遅い」「生産児あり」「ホルモン避妊薬の1年以上使用」が、いずれも子宮内膜がんリスクの低下と関連することが明らかにされた。オーストラリア・メルボルン大学のSeyedeh Ghazaleh Dashti氏らが、リンチ症候群の女性1,128例について行った後ろ向きコホート試験の結果、報告した。現状では、リンチ症候群の子宮内膜がんリスクを低下する方法としては、子宮摘出術のみが明らかになっている。JAMA誌7月7日号掲載の報告より。初潮、最初と最後の出産、月経閉止年齢、ホルモン避妊薬の使用などを調査 研究グループは、1997~2012年の大腸がん患者の家族レジストリ(Colon Cancer Family Registry)を基に、リンチ症候群の女性1,128例について後ろ向きコホート試験を行い、ホルモン因子と子宮内膜がんとの関連を検証した。被験者は、米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド在住だった。 被験者について、初潮、最初と最後の出産、月経閉止のそれぞれの年齢、生産児数、ホルモン避妊薬の使用や月経閉止後のホルモン服用の有無について調べた。 主要アウトカムは、自己申告による子宮内膜がんの診断だった。1年以上のホルモン避妊薬の使用でリスクは0.39倍に その結果、被験者のうち子宮内膜がんを発症したのは、133例だった(罹患率:0.29/100人年、95%信頼区間:0.24~0.34)。 初潮年齢が13歳以上、生産児1人以上、1年以上のホルモン避妊薬の使用は、いずれも子宮内膜がん発症リスクの低下に関連していた(それぞれ、ハザード比:0.70、0.21、0.39)。 一方で、最初と最後の出産年齢や月経閉止の年齢、月経閉止後のホルモン服用は、いずれも子宮内膜がん発症リスクとは関連が認められなかった。

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混合型経口避妊薬、静脈血栓塞栓症リスクが3倍/BMJ

 混合型経口避妊薬の服用は、静脈血栓塞栓症(VTE)発症リスクを3倍近く増大することが明らかにされた。なかでも新世代の避妊薬では約4倍と、第2世代避妊薬に比べ有意に高い。英国・ノッティンガム大学のYana Vinogradova氏らが、2件の大規模なプライマリケアデータベースを用いたコホート内ケース・コントロール試験を行い明らかにした。BMJ誌オンライン版2015年5月26日号掲載の報告より。 英国一般診療所の2つのデータベースから抽出  研究グループは、2001~2013年にかけて、15~49歳でVTEの初回診断を受けた女性と、年齢などをマッチングしたコントロール群について試験を行い、混合型経口避妊薬とVTEの発症リスクの関連を分析した。 被験者は、英国の一般診療所が加入する、Clinical Practice Research Datalink(CPRD、618診療所が加入)とQResearch primary care database(722診療所が加入)の2つのデータベースから抽出した。服用1万人ごとのVTE追加発症数、デソゲストレルとcyproteroneは各14例 試験期間中にVTEを発症したのは、CPRDコホート5,062例、QResearchコホート5,500例だった。 混合型経口避妊薬の服用者は、前年の同非服用者に比べ、VTE発症リスクがおよそ3倍増大した(補正後オッズ比:2.97、95%信頼区間[CI]:2.78~3.17)。 同オッズ比は、新世代のデソゲストレルでは4.28(95%CI:3.66~5.01)、gestodeneは3.64(同:3.00~4.43)、ドロスピレノンは4.12(同:3.43~4.96)、cyproteroneは4.27(同:3.57~5.11)であり、第2世代避妊薬のレボノルゲストレルの同オッズ比2.38(同:2.18~2.59)、ノルエチステロンの2.56(同:2.15~3.06)、norgestimateの2.53(同:2.17~2.96)に比べ、リスクが顕著に高かった。 服用1万人につきVTE追加発症数は、最少がレボノルゲストレル6例(95%CI:5~7)、norgestimate6例(同:5~8)である一方、最大はデソゲストレル14例(同:11~17)、cyproterone14例(同:11~17)だった。

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経口避妊薬を使うとリウマチを予防できる?

 経口避妊薬と関節リウマチ(RA)との関連について、多数の疫学調査で相反する結果が示されている。中国・China-Japan Union HospitalのShuang Qi氏らは、この関連性を検討するためメタ解析を行ったが、「経口避妊薬が女性のRA発症を予防する効果がある」という仮説を証明することはできなかった。Therapeutics and Clinical Risk Management誌2014年11月4日号の掲載報告。 本研究では、PubMedとEMBASEを検索し、経口避妊薬のRA発症リスクとの関連を検討した試験を収集し、それを基にメタ解析を行った。ランダム効果モデルを用いて、相対リスク(RR)および95%信頼区間(95%CI)を算出した。主な結果は以下のとおり。・メタ解析に組み込まれたのは、1982年から2010年に行われた17試験(12件のケースコントロール試験、5件のコホート試験)であった。・経口避妊薬とRA発症リスクとの間に有意な関連は認められなかった(RR 0.88、95%CI:0.75~1.03)。・地域別にみたサブグループ解析によると、欧州の調査では、経口避妊薬の使用とRAの発生リスク低下との関連は有意傾向であった(RR 0.79、95%信頼区間:0.62~1.01)。・北米の調査では、この関連は認められなかった(RR 0.99、95%CI:0.81~1.21)。・本試験の出版バイアスはみられなかった(Egger’s testにおけるp=0.231)。

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