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DOAC・ワルファリン、重大な副作用に「急性腎障害」追加/厚労省

 経口抗凝固薬の添付文書について、2023年11月21日に厚生労働省が改訂を指示。国内で販売されている直接経口抗凝固薬(DOAC)4剤(アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン)とワルファリンカリウムの添付文書の「副作用」に重大な副作用として急性腎障害が追記された。DOAC4剤とワルファリンに急性腎障害との因果関係が否定できない症例 DOAC4剤とワルファリンカリウムの副作用についての添付文書の改訂は以下のとおり。<重大な副作用>急性腎障害 経口抗凝固薬の投与後に急性腎障害が現れることがある。本剤投与後の急性腎障害の中には、血尿や治療域を超えるINRを認めるもの、腎生検により尿細管内に赤血球円柱を多数認めるものが報告されている。 改訂理由については、抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害症例を評価した結果、経口抗凝固薬のうち、ワルファリンカリウムおよびDOAC4剤について、抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害との因果関係が否定できない症例が集積したことから、経口抗凝固薬の使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、アピキサバンについては抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害との因果関係が否定できない症例はなかったものの、文献において1)、抗凝固薬関連腎症との因果関係が否定できない海外症例が報告されている。症例※の国内症例の集積状況 【転帰死亡症例】(1)アピキサバン:7例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例)【死亡3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例0例)】(2)エドキサバン: 6例(同4例)【死亡1例(同0例)】 (3)ダビガトラン:26例(同7例)【死亡3例(同0例)】 (4)リバーロキサバン:6例(同3例)【死亡1例(同0例)】(5)ワルファリンカリウム:7例(同4例)【死亡0例】※:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例から副作用(PT)「抗凝固薬関連腎症」または「急性腎障害」で抽出されたもののうち、以下のすべての条件に該当する症例を評価対象とした。1:「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」(AKI(急性腎障害)診療ガイドライン作成委員会編:日本腎臓学会、日本集中治療医学会、日本透析医学会、日本急性血液浄化学会、日本小児腎臓病学会)においてAKI診断に必要とされている腎機能値(ベースラインおよび発現時の血清クレアチニンなど)の情報があり、かつ、AKI診断基準を満たす。2:因果関係評価に必要な副作用発現後の転帰情報(経過欄、検査値欄の情報含む)がある。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第37回

O(アウトカム)をより具体的で明確なものにする今回も前回に引き続き、O(アウトカム)を設定する際の要点と実際について解説します。Oの設定においても、P(対象)の設定と同様に具体的で明確(連載第35回参照)かつ測定可能なものにする必要があります。現状のOである1)末期腎不全(透析導入)は充分具体的で明確でしょうか。以前、筆者らが出版した、慢性腎臓病(CKD)患者をPとした末期腎不全(ESKF:end-stage kidney failure)発症予測モデル研究論文1)を紹介しました(連載第9回参照)。この論文は、わが国のCKD診療中核17施設から構成される、日本CKDコホート(Chronic Kidney Disease Japan Cohort:CKD-JAC)研究の解析結果を示したものです。CKD-JAC研究のプロトコル論文2)では、ESKFとは慢性(維持)透析導入もしくは腎臓移植と定義されています。透析療法への導入は慢性(永続的)だけでなく、急性腎障害などに対して一時的に行うこともあります。そのため、永続的な施行が必要とされる維持透析への導入、と定義を明確にしているのです。また、維持透析を経ることのない先行的腎移植もESKFに対して行われることがあります。ESKF発症予測モデル研究論文1)での、実際のアウトカムについての記述を見てみましょう。この論文の”Materials and methods"セクションの小見出し"Primary outcome"に、以下のように記されています。"The main outcome measure in this study was ESKF onset, defined as the need for dialysis or preemptive kidney transplantation."「本研究の主要なアウトカム指標は、ESKFの発症であり、これは透析または先行的腎移植の必要性として定義された(筆者による意訳)。」さらに以下の記述が続きます。"Time at risk was defined as the period from study enrollment to ESKF onset, departure from the study (as a result of death prior to ESKF onset, transfer to a non-CKD-JAC facility, or con-sent withdrawal), or the end of study follow-up."「リスク時間は研究への登録からESKF発症、研究からの離脱(ESKF発症前の死亡、CKD-JAC非参加施設への異動、研究参加同意の撤回)、または研究追跡期間終了まで、と定義された(筆者による意訳)。」この記述の意味を解説するために、「発生率(incident rate)」と「打ち切り(censoring)」の定義について説明します。われわれが今回、計画しているのは(後ろ向き)コホート研究です(連載第8回、第36回参照)。コホート研究は縦断研究ですので、あるat risk集団(連載第35回参照)におけるアウトカム発生のスピード(率)を計算することができます。発生率の計算式は以下のとおりです。発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計この式の分子は、前回600例余りの症例のうち約30%でプライマリのアウトカムが観察されたことを確認しており、容易に計測できそうです。一方、この式の分母を計算するためには、「打ち切り」という概念の理解が必要となります。「打ち切り」とは、1)研究終了時点までに着目したアウトカム(われわれのRQではESKF発症)を発生しないで観察を終えること、2)何らかの事由による観察期間中での追跡不能、に大別されます。前述したESKF発症予測モデル研究論文1)の文例では、「研究からの離脱」に関する記述が「打ち切り」に該当します。また、この文例の主語である「リスク時間」が、先に示した発生率の分母(at risk集団の観察期間の合計)と同義となります。したがって、われわれのRQのOでは「打ち切り」についても定義を明確にし、以下のように改訂することにします。O:1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度1)Hasegawa T et al. Clin Exp Nephrol. 2019;23:189-198.2)Imai E et al. Hypertens Res. 2008;31:1101-1107.

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eGFR低下とアルブミン尿、腎不全や心血管疾患と関連/JAMA

 CKD Prognosis Consortiumの114コホートからの個人データを対象としたメタ解析において、血清クレアチニン(Cr)値に基づく推定糸球体濾過量(eGFRcr)あるいは血清Cr値と血清シスタチンC値に基づくeGFR(eGFRcr-cys)の低下、および尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)の上昇は、腎不全や心血管疾患、入院などを含む10の有害アウトカムの発生率上昇と関連していることが示された。米国・ニューヨーク大学のMorgan E. Grams氏らCKD Prognosis Consortiumの執筆グループが報告した。米国では成人の約14%が慢性腎臓病(CKD)(eGFR低下またはアルブミン尿)に罹患しているという。しかしながらeGFRの低さやアルブミン尿の重症度と有害アウトカムとの関連性については不明であった。JAMA誌2023年10月3日号掲載の報告。CKD Prognosis Consortiumのコホートから約2,750万人のデータをメタ解析 解析には、CKD Prognosis Consortiumの参加コホート(1980~2021年)から、2021 CKD Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式を用いたeGFRcrのデータがある114コホート2,750万3,140例、2021 CKD-EPI式によるeGFRcr-cysのデータがある20コホート72万736例、およびUACRのデータがある114コホート906万7,753例の個人データが集められ包含された。 有害アウトカムの発生は、米国の診療報酬請求データベースであるOptumLabs Data Warehouse(OLDW)のデータを用いた。 主要アウトカムは、全死因死亡、心血管死、腎代替療法を要する腎不全(慢性透析または腎移植)、あらゆる入院、脳卒中、心筋梗塞、心不全、急性腎障害、心房細動あるいは末梢動脈疾患とし、Cox比例ハザードモデルを用いて腎臓の測定値と有害アウトカムとの関連を各コホート内で解析し、ランダム効果メタ解析を用いて統合した。eGFRcrまたはeGFRcr-cys低値、UACR高値で、10の有害アウトカムのリスクが上昇 eGFRcr集団(平均[±SD]年齢54±17歳、女性51%、平均追跡期間4.8±3.3年)では、平均(±SD)eGFRは90±22mL/分/1.73m2、UACR中央値は11mg/g(四分位範囲[IQR]:8~16)であった。eGFRcr-cys集団(59±12歳、53%、10.8±4.1年)では、平均eGFRは88±22mL/分/1.73m2、UACR中央値は9mg/g(6~18)であった。 eGFR(eGFRcrまたはeGFRcr-cys)の低さとUACRの高さは、CKDの最も低い重症度分類に属するものを含め、10項目の有害アウトカムの各リスク上昇とそれぞれ有意に関連していた。たとえば、UACR 10mg/g未満の患者では、eGFRcr 45~59mL/分/1.73m2の場合、eGFR 90~104mL/分/1.73m2と比較し入院率が有意に高かった(補正後ハザード比:1.3、95%信頼区間[CI]:1.2~1.3、1,000人年当たりのイベント件数161件vs.79件、過剰絶対リスク:22件/1,000人年[95%CI:19~25])。 著者は研究の限界として、GFRのほかの推定式は包括的にテストされていないこと、組み込まれたコホート試験は異なる試験デザインやプロトコールを使用していることなどを挙げている。

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第180回 宮城の病院でレジオネラ症集団感染、病院利用がない地域住民への感染はなぜ起こった?

入院患者、外来患者だけでなく病院利用が全くなかった地域住民にも感染広がるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球は、オリックス・バファローズがパ・リーグ三連覇を決めました。阪神、オリックスがこのままの勢いで行けば、今年の日本シリーズは大阪と兵庫の球場だけで行われる関西シリーズになります。関東在住者としては少々寂しいです。一方、米国のMLBでは、藤浪 晋太郎投手が所属するボルチモア・オリオールズと、前田 健太投手が所属するミネソタ・ツインズが、それぞれアメリカン・リーグの東地区、中地区の優勝を決めました。シーズン後半になって持ち直してきた両投手のポストシーズンでの活躍に期待したいと思います。さて、今回は東北の地方都市にある民間病院で起こった、レジオネラ症の集団感染について書きます。7月に発覚したこの事件、その後の調査で、入院や外来など病院を利用した人の感染だけではなく、病院利用がまったくなかった地域住民にも感染が広がっていました。温泉入浴施設での集団感染事例が多いレジオネラ症ですが、どうして病院で起こったのでしょうか。また、どうして病院利用者以外にも広がってしまったのでしょうか…。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院宮城県は9月11日、県内の病院で、今年6~7月にかけて病院の利用者6人がレジオネラ症に感染し、80代と40代の男女2人が死亡した問題で、病院の利用歴のない近隣住民ら11人も感染していた、と発表しました。県は「病院の集団感染と関連があるとみられる」として、詳しい因果関係を調べているとのことです。宮城県の発表によると、ことの経緯は以下のようなものでした。6月下旬~7 月中旬、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づくレジオネラ症患者の届け出があった6人について、届け出を受理した大崎保健所が調査を行いました。その結果、同一医療機関を利用していたことが判明、健康被害拡大防止と重症化防止のため、7月19日に施設名の公表を行いました。集団感染を起こしたのは、宮城県大崎市の医療法人永仁会・永仁会病院です。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院で、Webサイトによれば、消化器、腎臓、糖尿病、乳腺疾患などを専門としています。その後、同病院の施設調査が行われ、空調設備(空調冷却塔2基の拭取検体)からレジオネラ属菌が検出。1基は安全とされる目安の97万倍、もう1基は68万倍の菌が検出されたとのことです。菌を含んだ水がエアロゾル状となり冷却塔外に舞い散る空調の冷却は冷却塔内のファンを回して行うため、菌を含んだ水がエアロゾル状となって冷却塔外に舞い散り、新型コロナ対策の換気で開放されていた病室の窓などから入り感染につながったとみられています。コロナ予防のための換気対策が逆にレジオネラ症の感染拡大につながったわけです。皮肉なものです。また、遺伝子検査により、6人の患者のうち4人の患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株との遺伝子パターンが一致したため、8月4日にはその事実も公表されました。県はこの事実に基づいて、近隣医療機関に対する注意喚起を行い、併せて同病院に対して、厚労省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」1)に基づき指導を行いました。半径3km以内に住む住民も感染3回目となる9月11日の宮城県の発表では、さらなる感染拡大が明らかになりました。7月に公表された患者6人に加え、7月下旬にレジオネラ症患者の届け出があった1人についても同病院を利用していたことが判明、遺伝子検査でこの患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンの一致が確認されました。ちなみに、計8人の患者の年齢は40〜90代、入院5人、通院3人でした。死亡したのは40代と80代の2人で、残り6人は入院加療により軽快したとのことです。この時の発表では意外な事実も明らかにされました。病院の利用歴がない近隣住民らの感染です。大崎保健所の管内では、同病院を利用していた患者8人とは別に、利用歴がない13人のレジオネラ症患者の届け出が出ていました。これは、大崎管内の例年のレジオネラ症発生状況と比較しても多い数字であったことに加え、13人のうち11人については、自宅や勤務先が同病院に近接(半径3km以内)している事実が判明、うち4人については患者由来菌株と同病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンが一致していました。宮城県は、「当該医療機関の冷却塔が感染源であることは科学的に完全には証明できておりませんが、同種事案の再発防止や県民の健康を守る観点から、県内において冷却塔を有する施設管理者に対し注意喚起を行う」と発表しました。なお、永仁会病院は県の指導の下、7月23日に清掃業者が空調冷却塔2基の清掃と薬品による化学的洗浄を実施、8月以降はこの冷却塔との関連性が疑われるレジオネラ症患者の発生はないとのことです。温泉入浴施設での集団感染が多いレジオネラ症レジオネラ症は感染症法上の4類感染症に分類されており、全数報告対象です。よくニュースになるのは、温泉入浴施設などでの感染です。最近の大きな集団感染事例は、2017年3月に発生した広島県内の温泉入浴施設で起きたもので、入浴客の中から58人の患者が発生し、1人が死亡しています。なお、2002年7月に宮崎県内の温泉入浴施設で起きた集団感染では295人が感染し、7人が死亡しています。厚生労働省のWebサイトによれば、レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症で、その病型は劇症型の肺炎と、肺炎は起こさない一過性のポンティアック熱があるとのことです。もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、エアロゾルを発生させる人工環境(ビル屋上に立つ空調冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した風呂などが菌の増殖を促し、感染機会を増やしているとされています。レジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルを吸入すること等で感染し、潜伏期間は2~10日間、ヒトからヒトへ感染することはない、とされています。もっとも、菌に曝露しても誰もが発症するわけではなく、細胞性免疫能の低下した高齢者やがん患者、透析患者などで肺炎を発症しやすいとされています。今回の永仁会病院のケースも、病院屋上の空調冷却塔でレジオネラ属菌が増殖し、それを含んだエアロゾルが拡散、免疫の落ちた患者らが吸引し、感染したと考えられます。同病院は透析病床も多く抱えているので、そのあたりも感染拡大の一因かもしれません。病院の空調設備だけでなく給水設備も汚染源に調べてみると、院内感染によるレジオネラ症は決して珍しいことではなく、世界的にも問題になっているようです。原因は今回問題となった病院の空調設備だけでなく、給水設備も汚染源になり得るようです。たとえば、神奈川県衛生研究所の研究者らが、2015年に神奈川県内の3病院(200床以上)を対象に給水設備(病衣内の蛇口水及びシャワー水と、蛇口及びシャワーヘッドのスワブ)のレジオネラ属菌による汚染を遺伝子の検出と培養により調査した文献によれば、3病院でのレジオネラDNAの検出は水試料では6.7~93.8%、スワブ試料では0~7.1%、培養によるレジオネラ属菌の検出は水試料では26.7〜66.7%、スワブ試料では0~14.3%だったそうです。著者らはこの結果を踏まえ、「医療機関においては高リスクグループに配慮し、感染防止対策と給水設備の管理の徹底が必要である」と結んでいます2)。「藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」と病院それにしても、病院利用者以外への感染はどう考えたらいいのでしょうか。宮城県はその後、調査結果を公表しておらず想像するしかありませんが、空調冷却塔からレジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルが風などに乗って相当広範囲に飛んだのが原因だと考えられます。空調冷却塔は通常、気温が上がり始めた5~9月頃まで使用されます。同病院の場合、冷却塔の洗浄を十分にしないで今シーズンを迎えたのかもしれません。7月20日付の朝日新聞の報道等によれば、病院は「これまで、毎年1回換水し、冷房を使い終わる10月と、使い始める5月ごろに病院職員がデッキブラシなどで清掃していた」と説明し、「今年も5月に清掃した」とのことです。しかし、「冷却塔の動作確認を毎月する際、塔内に藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」そうです。安全とされる目安の100万倍近い菌が棲み着いたエアロゾルが、風に乗って病院から半径3キロ内に飛び散っていたわけです。まさにモダンホラーです。これでは病院の近くにはおちおち住めませんね。駅弁で大騒動のセレウス菌も過去には医療機関で集団感染先週、青森県の駅弁メーカーの弁当で起きたセレウス菌による食中毒もそうですが、集団感染や院内感染は忘れた頃に突然起きます。医療機関以外での集団感染が一般的な感染症も、時として病院などで起こるので注意が必要です。ちなみに、セレウス菌については、病院のリネン類(外部に洗濯を依頼していた清拭タオルなど)を介した集団感染が時折起きています。大きく報道されたところでは、2006年の自治医科大学附属病院、2013年の国立がん研究センター中央病院の事例が有名です。いずれも死亡例が出ています。病院管理者の皆さん、病院が思わぬ菌の感染源とならないためにも、MRSA対策だけでなく、レジオネラ属菌やセレウス菌にも気を付けて下さい。参考1)レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針/厚労省2)大屋日登美ほか.医療機関の給水設備におけるレジオネラ属菌の汚染実態.感染症誌.2018;92:678~685.

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第36回

今回はO(アウトカム)を設定する際の要点を解説します。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのResearch Question(RQ)のOは下記のとおりです(連載第34回参照)。O:1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度O(アウトカム)は測定可能で臨床的に意義があるかまず、ここで設定したOが測定可能で臨床的に意義があるものなのか、再考してみましょう。末期腎不全(透析導入)は明確なイベントであり、カルテ調査でその発症日も容易に確認できます。GFRは血清クレアチニン値(Cr)と年齢、および性別で算出される腎機能評価の指標で、日本人の集団でも確立された計算式が論文で公開されています1)。GFR低下速度は、複数回のCrの経時的評価が行われていれば計算できますので、客観的な測定が可能です。末期腎不全(透析導入)は患者さんにとって、生活が大きく変わるハードエンドポイントであり、臨床的にも大きな意義があるOと考えられます。一方、GFR低下速度はサロゲートエンドポイントです(連載第3回参照)。しかし、GFR低下速度の持続的な加速は、慢性腎臓病(CKD)患者さんの末期腎不全発症を含めたハードエンドポイントの予測因子であることが多くの臨床研究の結果から示されています。したがって、これも臨床的に重要なアウトカムと言えるでしょう。さて、われわれのRQの曝露要因(E)は、低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日の遵守という厳格な食事療法です。すでに設定した腎予後に関するOの臨床的重要性は前述したとおりですが、厳格な食事療法に伴う負担など、負の側面も気になりませんか。たとえば、厳格な低たんぱく食事療法によるQOL悪化の懸念は、診療ガイドラインなどでも指摘されていますが、明らかなエビデンスはこれまでに認められていないとされています。今回、われわれが実施を予定しているのは、カルテ調査をベースにした、いわゆる「後ろ向き」の観察研究です(連載第1回、第6回参照)。QOL尺度(連載第3回参照)の経時的な測定は、日常診療では一般的に行われていないと思いますし、われわれのカルテ調査データでも収集はできませんでした。このように、通常の臨床現場で測定されないOについては「後ろ向き」ではなく「前向き」研究でなければ検討できない、ということです。ちなみに、前回紹介したDOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)は、血液透析患者さんを対象とした「前向き」観察研究です。DOPPSでは多大なコストをかけて、経時的な健康関連QOL尺度(連載第3回参照)の測定と収集も行っています。また、前回説明したとおり、研究の効率や実施可能性の観点から、できればP(対象)はOを起こしやすい集団である方が望ましいです。つまり、発生頻度が多いOを設定した方が研究の効率が良いということです。そこで、今回の「後ろ向き」観察研究の解析で使用するデータをざっと確認してみたとしましょう。保存期CKD患者さん600例余り、最長5年間の観察期間のカルテ調査データを収集・調べてみたところ、全体の約30%の症例でプライマリのOである末期腎不全(透析導入)の発生が確認できました。実施可能性の高い解析データが収集できたものとホッとした次第です。1)Matsuo S, et al. Am J Kidney Dis. 2009;53;6:982-992.

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第35回

P(対象)をより具体的で明確なものにする今回は前回に引き続き、P(対象)を設定する際の要点について解説します。Pを設定する際、PがResearch Question(RQ)で設定したO(アウトカム)のat risk集団(Oを発生する可能性のある集団)であることも、押さえるべきポイントです。前述のとおり(連載第34回参照)、プライマリのOは末期腎不全(透析導入)と設定しました。したがって、すでに末期腎不全に至り、透析導入(もしくは腎臓移植)された患者さんはat risk 集団にならず、除外されることになります。できればPは設定したOを起こしやすい集団とするのもコツのひとつです。なぜなら、Oを発症しやすい集団を対象とした方が研究の「効率が良い」からです。ここで言う「効率が良い」の意味は、より少ないサンプル数や短い観察期間で興味のあるOの発生数を確保することができる、ということです。その結果、研究の実施可能性や統計的な検出力が高まります。筆者が米国留学以来関わっている、DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)という血液透析患者さんを対象とした国際的な臨床疫学研究があります。血液透析患者さんは健常人と較べて、死亡や心血管イベント発症などハードエンドポイント(連載第3回参照)を起こすリスクがかなり高い集団です。ハイリスクな血液透析患者集団の中でも、その予後には国際間で大きな差があることが知られています。日本の血液透析患者さんの予後は、米国の患者さんのそれより圧倒的に良好なことが、DOPPSなどの研究成果から示されています。米国留学中にご指導頂いていたミシガン大学の腎臓内科と臨床疫学の名誉教授であるFK Port先生が、"US data are bad for patients but good for statistical analysis."と日本から来た筆者に自虐的に? おっしゃっていたことを覚えています。また、「研究対象集団」のデータ取得の場である「セッティング」についてキチンと明記することも重要です(連載第34回参照)。われわれのRQの「標的母集団」は慢性腎臓病(CKD)集団全体です。しかし、本研究で実際に診療データにアクセスできるのは自施設の外来に通院中の患者のみであったとすると、「セッテイング」は単施設外来ということになります。単施設の「セッテイング」で行われた臨床研究では、その施設の特性やそこに通院する患者背景などの偏り(選択バイアス)が結果に影響を及ぼす可能性があります(連載第34回参照)。ちなみに、このような「選択バイアス」の影響を出来るだけ減らすために、DOPPSでは「2段階無作為抽出法」というサンプリング手法がとられています。第1段階として、研究施設を所在地や経営母体(公立・私立など)、施設規模(患者数)を考慮して無作為に抽出。第2段階で、施設規模に合わせて研究対象患者を施設毎に無作為抽出。このようなサンプリング手法を用いることにより、「研究対象集団」の代表性を担保しているのです。さて、ここで、われわれのRQのPをあらためて以下のように整理してみました。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準  ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者S(セッティング):単施設外来このように組み入れ基準、除外基準、セッテイングも含めて、Pをより具体的で明確なものにします。そうすることにより、研究結果の解釈が容易となり、またその研究結果を他の状況に適用する際の判断もしやすくなるのです。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.

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第173回 兵庫で起こった2つの“事件”を考察する(前編) 神戸徳洲会病院カテーテル事故と「脳外科医 竹田くん」

従来保険証の廃止時期の判断を今年秋以降に先送りこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。8月4日、岸田 文雄首相は2024年秋に健康保険証を廃止して「マイナ保険証」に移行することを巡り、廃止時期の判断を今年秋以降に先送りする考えを示しました。そして、2024年秋以降にマイナ保険証を持たないすべての人を対象に、保険診療を受けられる資格確認書を配布する方針も示しました。資格確認書は当初の計画から変わって、最長5年まで利用できるようにするとのことです。いやはや、相変わらず煮え切らない対応ですね。マイナ保険証については、本連載でも何度も取り上げてきました(「第125回 医療DXの要『マイナ保険証』定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」、「第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、『懸念』発言続く日医は「医療情報プラットフォーム」が怖い?」)。マイナ保険証によって政府が実現しようとしている医療DXは、岸田政権の肝とも言える政策のはずです。行政のデジタル化が海外に比べ圧倒的に遅れている日本において、マイナ保険証を突破口に、医療分野での DXを一気に進めようとした矢先のトラブル頻発です。しかし、デジタル(マイナ保険証)とアナログ(資格確認書)を混在させた制度ほど、時間とムダが発生するものはありません。それを5年も続けるとは…。どうして「廃止時期は延期しない!なぜならば…」と国民にわかりやすくきちんと説明できないのでしょうか。DX推進より自分の地位が大事だとしたら、国のリーダー失格ですね。さて、今回は7月に兵庫県で起こった2つのある“事件”について書いてみたいと思います。一見、まったく無関係のように見えますが、これからの地域医療を考える上では、なかなか興味深い“事件”です。神戸徳洲会病院、カテーテル事故で3度の立ち入り検査最初の“事件”は、全国規模で大々的に報道された、徳洲会グループの医療法人徳洲会・神戸徳洲会病院におけるカテーテル事故です。神戸市は、同病院でカテーテル治療や検査を受けた患者が死亡するなどとした告発に関連して、7月28日、3度目の立ち入り検査を行いました。ことの発端は、6月30日に神戸市に届いた病院関係者とみられる人物からの告発文でした。神戸新聞等の報道によれば、告発文は、今年1月に赴任した循環器内科の男性医師が心臓病患者や透析患者らにカテーテル手術を行い6人が死亡、別の5人も容体が悪化した、とするものでした。告発文には必要のない手術が施されたり、院内の医療安全担当者へ患者死亡事例が未報告だったりしたことも記されていたそうです。告発された男性医師は今年1月に同病院循環器内科に赴任したばかりで、心臓疾患患者や透析患者らを対象とする造影検査やカテーテル手術に月40件ほど携わっていたとのことです。この告発を受け、神戸市は7月5日に最初の立ち入り検査を行いました。その事実が明らかになったことで、マスコミがこの事件を一斉に報道しました。その後、7月10日に2度目の立ち入り検査が、そして7月28日に3度目の立ち入り検査が行われたというわけです。循環器内科のカテーテル室の業務を実質的に1人で担う神戸徳洲会病院を管轄する保健所が神戸市の設置・運営のため、医療法第25条第1項に基づいて神戸市の立ち入り検査が行われました。立ち入り検査では、医療法に則って安全管理の体制や人員配置の状況などが検査され、必要に応じて行政指導が行われます。報道等によれば、男性医師が循環器内科のカテーテル室の業務を実質的に1人で担っていた可能性があるそうです。神戸市は安全管理体制に問題があったとみて、8月中にも同病院を行政指導する方針とのことです。なお、同病院は当初、マスコミへの取材に対し「医療事故ではない」と答えていました。しかし、7月14日開いた院内の医療安全調査委員会でカテーテル治療が適切だったかを検証した結果、同日開いた記者会見で「死亡した2人の患者については医療事故だった」と認めました。8月4日付のNHKの報道によれば、神戸徳洲会病院は、今年1月と2月に死亡した患者2人について、国の医療事故調査制度に基づき、第三者機関に検証を依頼する方針を固めたとのことです。「脳外科医 竹田くん」との共通点医療事故、医療ミスについては、医療者側が相当悪質と思われるケースであっても、警察が介入するケースは稀で、医療事故調査・支援センター対応の事案になります。2004年に起きた福島県立大野病院事件(帝王切開手術を受けた産婦が死亡したことに対して、手術を執刀した産婦人科医が業務上過失致死罪と異状死の届出義務違反の疑いで福島県警に逮捕された事件。2008年8月福島地方裁判所はこの医師に無罪の判決を下し、検察は控訴断念)の反省を踏まえての対応と言えますが、仮に「必要がないのに手術が施された」のが事実だとすれば、患者や家族にとってはたまったものではありません。この事件が報道されて以降、ネットの世界では、「1人の無謀な医師による度重なる事故」ということで漫画「脳外科医 竹田くん」1)との共通点を指摘する声が上がり、医療関係者の間でも話題となっています。「脳外科医 竹田くん」は「はてなブログ」上で2023年1月から始まった連載漫画で、経験不足ながら自信だけは満々で、次々と重大な医療ミスを起こす竹田くんと、彼を厳しく指導できない部長やミスを隠蔽しようとする院長が登場します。某病院(漫画では仮名の「赤池市民病院」となっています)を舞台としたリアルな内部告発とも受け取れるこの漫画、読んで「他人事ではないな」と思った医師も少なくないのではないでしょうか。300床クラスの中規模病院の急性期機能が転換期に神戸徳洲会病院のカテーテル事故がどういう経緯で起き、原因は何だったかについては、調査結果を待たなければわかりません。ですが、一点私が気になったのは、同病院の病床規模と体制です。果たして、カテーテル手術を安全にできる技量を持った医師が揃っていたのでしょうか。同病院は309床(一般病棟230床、地域包括ケア病棟40床、医療療養型病棟39床)、7対1看護の病院です。急性期病院に見えますが、地域包括ケア病棟、医療療養型病棟もあることから、ガチガチの超急性期病院とはいえません。ホームページを見ると診療科は17科ほどあります。同病院のカテーテル治療の実績がどれくらいあったかはわかりませんが、報道にあったように仮に赴任したばかりの「男性医師が循環器内科のカテーテル室の業務を実質的に1人で担っていた」のが事実だとすれば、この医師の赴任前はほとんど行われておらず、できる医師もいなかった可能性があります。以下、個人的な印象ですが、全国で病院の再編・統合が進み、500床以上の規模の大病院が続々と誕生する中、300床クラスの中規模病院の急性期機能が転換期にあると感じています。とくに地方都市の公立・公的病院がこの規模であることが多く、手術ができる医師集めに四苦八苦しているところが少なくありません。なお、100~200床クラスの病院はよほどの専門病院でない限り、慢性期、回復期、地域包括ケア病棟などに方向転換しています。神戸徳洲会病院のケースは、医師数も今ひとつ、患者数も今ひとつ、症例数も今ひとつ、病床数も今ひとつの中、慢性期や回復期病院に舵を切ることもできず、ダラダラと急性期病院を続けていた中で起こった事故だったと言えるかもしれません。そう言えば、漫画「脳外科医 竹田くん」が働く赤池市民病院のモデルとなったと思しき病院も兵庫県の病院で、病床数は356床です。「脳外科医 竹田くん」には、医局に属さないフリーの医師・竹田くんを採用することに不安を感じている院長に対し、部長が「後継者として育てたい」と語るシーンがあります。医師紹介業者経由などで大学医局に属さない医師を採用するのは、医師不足に悩む病院ではよくある話です。しかし、中途半端な規模の急性期病院にわざわざやってくる、医局人事から離れた外科医の象徴が“竹田くん”だと考えると、なかなか怖い話ではあります。三田市民病院の神戸移転が白紙撤回にさて、7月に兵庫県で起こったもう一つの“事件”を紹介します。それは、7月23日に行われた兵庫県の三田市長選です。政党や団体の支援は受けなかった元銀行員の田村 克也氏(57)が、無所属現職、無所属新人を破って初当選しました。この選挙の最大の争点は三田市民病院の再編・統合問題でした。経営状態の悪化や施設の老朽化などから、三田市民病院と神戸市北区にある済生会兵庫県病院を統合して、神戸市側に新しい病院を建設する計画が進んでいたのですが、「市民病院の神戸移転は白紙撤回」を訴えた田村氏が当選したことで、計画の全面見直しが濃厚となりました。交付税をしこたま使い、済生会のお金も使い、しかも今よりも充実した体制、設備の病院ができるはずだったのに、市民の「病院は三田市内で」という時代遅れとも言えるこだわりが勝ってしまいました。果たして、これは本当に正しい選択だったのでしょうか。元銀行員の田村新市長は市の財政のことをしっかりと考えたのでしょうか。やはり300床規模で経営状況も決して好調とは言えない三田市民病院について、次回は考えてみたいと思います。(この項続く)参考1)脳外科医 竹田くん/はてなブログ

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第34回

今回からは、Research Question(RQ)を構成する、P(対象)、E(曝露要因)、C(比較対照)、O(アウトカム)、それぞれの要素をより具体的かつ明確なカタチに設定するための要点と実際について解説していきます。下記に、これまでにブラッシュアップしてきた、われわれのClinical Question(CQ)とRQ、PECOを再掲します。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかP(対象):非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E(曝露要因):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C(比較対照):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O(アウトカム):1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度「標的母集団」と「研究対象集団」、「解析対象集団」まず、Pを設定するうえでの最初のポイントとして、「標的母集団」と「研究対象集団」、「解析対象集団」の違いについて解説します。われわれのRQのPとなるCKDは、日本腎臓学会の診療ガイドライン1)で以下のように定義(抜粋)されています。(1)尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかで、とくに蛋白尿の存在が重要(2)GFR<60mL/分/1.73m2(1)、(2)のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続する「標的母集団」とは自身のRQが対象とし、その研究結果を一般化しようとする集団全体です。上記の定義を用いることにより、このRQの「標的母集団」の概念を明確にし、Pの具体的な「組み入れ基準」をはっきり示すことができそうです。ただ、実際の「研究対象集団」というのは、「標的母集団」の一部をサンプリングして代用したものにすぎません。たとえば、われわれが行ったCKD患者の腎予後予測モデルの研究2)では、日本全国の腎臓内科のある17ヵ所の大規模病院から患者登録を行いました。その結果、この研究の「研究対象集団」は、腎臓内科に紹介されていないCKD患者を含んでいません。このような偏りを「選択バイアス」と言い、研究の「外的妥当性」を損なう原因になりえます。「外的妥当性」とは、得られた研究結果を行われた「研究対象集団」とは異なるサンプルや「セッティング」(「研究対象集団」のサンプリングが行われた場)にも当てはめることができるか、ということです(「一般化可能性」とも言います)。われわれは、本研究の結果は腎臓内科医がいない小規模病院やクリニックで診療されているCKD患者には適用することが難しい可能性を、研究の限界の1つとしてこの論文1)のディスカッションの項で述べました。「外的妥当性」に対し、「内的妥当性」という用語もありますが、こちらは研究の結論(研究結果からの推論)の「研究対象集団」での当てはまりのよさ、を表します。研究対象には「除外基準」を設定することが多くあります。前述の研究2)では、予後が大きく異なるであろう治療中の悪性腫瘍を併発している患者などは除外しました。本稿のRQでも関連研究レビューの結果から、ネフローゼ症候群はPから除外するとにしました(連載第11回参照)。また、研究参加への同意が撤回されたり、追跡が不能になった患者も除外されます。このように「研究対象集団」から除外基準に合致する患者だけでなく、種々の事由で除かれて、実際の解析に用いられたサンプルを「解析対象集団」と言います。ただ、「除外基準」をあまり多く設けすぎると、「標的母集団」、「研究対象集団」と「解析対象集団」の乖離が大きくなり、「外的妥当性」が低くなってしまいます。論文ではフローチャートなども用いて、これらを明確に区別して記述することが、観察研究の報告ガイドラインであるSTROBE声明3)でも推奨されています。フローチャートの具体例については引用文献2のFigure 1.もご参照ください。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社;2018.2)Hasegawa T, et al. Clin Exp Nephrol. 2019;23:189-198.3)von Elm E, et al. Lancet. 2007;370:1453-1457.

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わが国のオンラインHDFの現況(解説:浦信行氏)

 つい先日のNEJM誌オンライン版(2023年6月16日号)に、欧州における多施設共同研究であるCONVINCE研究の結果が報告された。その結果は、従来のハイフラックス膜の血液透析(HFHD)に比較して、大量置換液使用のオンライン血液透析濾過(HDF)は全死亡を有意に23%減少させたと報告された。それまでの両者の比較はローフラックスHDとの比較が多く、またHFHDとの比較では一部の報告では有意性を示すが、有意性がサブクラスにとどまるものも見られていた。また、置換液量(濾過量+除水量:CV)の事前設定がなされておらず、階層分析で大きなCVが確保できた症例の予後が良好であった可能性も報告され、患者の病状によるバイアスが否定できなかった。本研究においては目標CVが23±1Lと定められ、患者背景にも群間に差はなかった。そのうえでの予後の改善の報告は大変意義の大きいものである。 わが国では2012年にようやくオフラインと区別され、オンラインHDFが保険診療上認められた。その後は増加の一途をたどり、2021年末には12万人を超える患者で施行されている。全透析人口が35万人であることから、わが国においては標準的血液浄化法となりつつある。 しかし、置換液補充がヘモダイアフィルターの後の後希釈方式である欧米と大きく違い、わが国では前希釈方式であり、後希釈方式は5%前後にとどまる。各々に利点はあるが、このような違いの要因の一部は患者背景の違いが関与すると考えられる。わが国では肥満の透析患者は少ないが、この研究ではBMIが27.4±5.6とわが国の軽度肥満に該当する体格である。また、後希釈方式でCV23Lを得るには大量の血流量を必要とし、この研究では369±54mL/minで行っているが、わが国では体格差と関連して後希釈方式では200~260mL/min程度が8割を占める。したがって、後希釈方式でCVが20Lを超えるものは1割に満たない。 前希釈方式の利点はαミクログロブリン除去に優れ、骨・関節痛やレストレスレッグ症候群への効果に優れるが、生命予後に関しては日本透析医学会のデータベースで2012年末から1年間でHD群を対照に検討し、HDおよびCV40L未満の前希釈方式HDFに比較して、CV40L以上の前希釈方式HDFの生命予後が優れていたと報告されている。新たに前向き研究でHFHDもしくは後希釈方式HDFとの生命予後を比較した研究が望まれる。

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『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第1~3章の改訂ポイント第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」で腎性貧血を伴う患者のHb目標値が改定第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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腎不全死亡、オンラインHDFが従来血液透析よりリスク低下/NEJM

 腎不全患者において、大量血液透析濾過(high-dose hemodiafiltration with on-line production:オンラインHDF)は従来のハイフラックス膜を使用した血液透析(HFHD)と比較して、全死因死亡リスクを低下することが示された。オランダ・ユトレヒト大学病院のPeter J. Blankestijn氏らが欧州8ヵ国の61施設で実施した実用的な無作為化比較試験「CONVINCE研究」の結果を報告した。いくつかの研究で、腎不全患者では標準的な血液透析と比較し、オンラインHDFが有用である可能性が示唆されているが、発表されている研究には限界があり追加データが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2023年6月16日号掲載の報告。3ヵ月以上HFHDを受けている患者を、継続群またはオンラインHDF群に無作為化 研究グループは、HFHDを3ヵ月以上受けていたオンラインHDF(後希釈HDFで置換液量23L以上)の候補者で、週3回の透析を受ける意思があり、患者報告アウトカム評価を完了することが可能と判断された18歳以上の成人患者を、HFHDの継続(従来透析)群とオンラインHDF群に無作為に割り付け追跡評価した。 主要アウトカムは、全死因死亡。副次アウトカムは、死因別死亡、致死的または非致死的心血管イベントの複合、腎移植、あらゆる原因の再入院または感染症関連の再入院であった。全死因死亡率、オンラインHDF群17.3% vs.継続群21.9% 2018年11月~2021年4月に、合計1,360例が無作為化された(オンラインHDF群683例、継続群677例)。追跡期間中央値は30ヵ月(四分位範囲[IQR]:27~38)。オンラインHDF群において、1セッション当たりの置換液量23±1Lを達成した患者は92%で、平均置換液量は25.3Lであった。 主要アウトカムの全死因死亡は、オンラインHDF群で118例(17.3%)、継続群で148例(21.9%)に発生し、ハザード比(HR)は0.77(95%信頼区間[CI]:0.65~0.93、p=0.005)であった。 心血管イベントによる死亡リスク(HR:0.81、95%CI:0.49~1.33)、致死的または非致死的心血管イベントの複合死亡リスク(1.07、0.86~1.33)は、両群で同等であった。

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CKD-MBDガイドライン改訂に向けたデータの吟味/日本透析医学会

 日本透析医学会による慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドラインが発表されてから10年以上が経過し、これまでに多くのデータが蓄積されてきた。そのデータを吟味し、今後のガイドラインのアップデートにつなげる目的として、2023年6月16日、日本透析医学会学術集会・総会のシンポジウム1「CKD-MBDガイドライン改訂に必要なデータを吟味する」にて、8名の医師からその方向性に関する報告と提案があった。血液透析患者における血清リン、カルシウム濃度の目標値の上限 日本透析医学会の統計調査データによる観察研究の結果を基に、血液透析患者における血清リン、カルシウムの管理について、後藤 俊介氏(神戸大学医学部附属病院 腎臓内科 腎・血液浄化センター)から提案があった。同氏は、「血清リンの下限は3.5mg/dLのまま、上限は現状の6.0mg/dLよりも少し厳しく管理することが望ましい。血清カルシウムも下限は現状の8.4mg/dLは必要であり、上限については10.0mg/dLのままでよいか、より厳しくしていく必要があるか、さらなる検討が必要である」と述べた。CKD-MBDガイドラインが発表されてから多くのリン吸着薬が登場 2012年にCKD-MBDガイドラインが発表されてから多くのリン吸着薬が登場し、実臨床で使用されている。その多彩なリン吸着薬をどのように使い分けていくべきか、ネットワークメタ解析による結果を基に山田 俊輔氏(九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科)から提案があった。解析の結果、カルシウム含有リン吸着薬と比較して、塩酸セベラマーは総死亡リスクが有意に低下し、炭酸ランタンは冠動脈の石灰化が有意に低下した。心血管死亡リスクではリン吸着薬間で有意差は認められなかった。また、消化器症状のリスクは、ニコチン酸アミド、鉄含有リン吸着薬、塩酸セベラマー、炭酸ランタンの順で高くなっていた。この結果を踏まえて同氏は、エビデンスに基づいて薬剤を選択することはもちろん重要だが、日本人の特徴を考慮して、患者背景に即した自由な選択、個々の薬剤の特性を活かした選択を検討する必要があり、その参考指標を改訂時に公表できるよう準備を進めていくと述べた。インタクトPTH 240pg/mL以上で総死亡や心血管死亡リスクが上昇 わが国のPTHの管理目標値は、インタクトPTH60~240pg/mLと、海外と比較して厳格な設定となっている。ガイドラインの改訂に向けて、海外の基準値に合わせるべきか、より厳格な目標値を設定すべきか、日本透析医学会の統計調査データを基に、駒場 大峰氏(東海大学医学部 腎内分泌代謝内科)からPTHと生命予後、骨折リスクとの関連について報告があった。生命予後の観点ではインタクトPTH 240pg/mL以上で総死亡や心血管死亡リスクが上昇、インタクトPTHを下げ過ぎることによるこれらのリスクは確認されなかった。一方、骨折リスクは死亡リスクよりも頻度は高く、PTHが高くなるほど、あらゆる骨折と大腿骨近位部骨折のリスクが上昇していた。高齢や低栄養、女性においてその傾向が強く、「骨折防止の観点でもPTHの管理はthe lower, the better?」とコメント。新しいPTHの管理目標をどのように設定すべきか、同氏は「生命予後の観点ではPTHの管理目標値の上限は240pg/mLとなるかもしれないが、骨折防止の観点ではより厳格なPTHの管理を目指すべきかもしれない。また、患者の背景を考慮して、個々に検討する必要がある」と述べた。 CKD・透析患者の骨の評価では、骨代謝マーカーにも注目 腎機能低下に伴って大腿部骨折のリスク増加に関しては、多くの観察研究で報告されており、CKDや透析患者において骨の評価・管理は重要な要素である。骨の評価について、谷口 正智氏(福岡腎臓内科クリニック)から骨脆弱性と骨密度に加えて骨代謝マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)も一緒に評価すべきと提案があった。ALPと骨折リスクの相関性をみた報告によると、インタクトPTHを十分に抑えた状況でもALPが高いと大腿部頸部骨折のリスクが高くなっていることが報告されており1)、「ALPも骨の評価の予後規定因子として考えるべき」とコメント。一方、骨の管理に関してはPTH管理のポイントとして駒場氏の報告でもあった「the lower, the better?」を採用し、適切に管理したうえで骨粗鬆症治療薬の使用を考慮し、薬剤選択は標準治療に準じて検討するように提案された。今後に向けて、同氏は他領域の医師にも骨粗鬆症治療薬によるリスクを認識してもらえるようヒートマップを活用した薬剤別の表の作成や、骨密度上昇効果と骨折予防効果を明確に分けて、エビデンスレベルがどの程度まであるか示したプラクティスポイントを調整中であると述べた。腹膜透析におけるCKD-MBDによる死亡リスクとは 血液透析ではカルシウム、リン、PTHと死亡リスクに関する報告はあるものの、腹膜透析に限定した報告は存在しない。日本透析医学会の統計調査のデータベースを用いた前向きコホート研究の結果から、カルシウム、リン、PTHを可能な限り低めに保つことで全死亡や心血管死亡などのアウトカムの改善につながる可能性があることがわかった。この結果に対して、村島 美穂氏(名古屋市立大学病院 腎臓内科)は、「目標値の下限でコントロールすることを提案していきたい」とコメント。また、カルシミメティクスの投与に関して、残腎機能に注意を払う必要があると述べた。移植患者のCKD-MBDの管理とは 移植後のビスフォスフォネートや活性型ビタミンD製剤の効果、移植後を見据えた移植前のCKD-MBDの管理、移植後のCKD-MBDの管理について、河原崎 宏雄氏(帝京大学医学部附属溝口病院 第4内科)からシステマティック・レビューの紹介があった。同氏は、「ビスフォスフォネートでは骨折予防、活性型ビタミンD製剤ではPTH抑制に対して効果があるかもしれない。移植前のCKD-MBDでは、透析期間が長い、副甲状腺腫が大きい、シナカルセトの使用、移植前にカルシウムやPTHが高い場合には副甲状腺摘出術(PTx)を検討すること。そして、移植後のCKD-MBDでは高カルシウム血症に対してPTxやカルシミメティクスを検討すること」と述べた。CKD-MBDガイドラインに保存期における治療の開始時期 保存期CKDにおけるCKD-MBD治療の開始タイミングに関して、ガイドラインのClinical Questionに答えるための十分なエビデンスが存在しない状況にある。新しいCKD-MBDガイドラインの方向性について、藤井 直彦氏(兵庫県立西宮病院 腎臓内科)は、「保存期CKD患者における低カルシウム血症、高リン血症、高PTH血症のデータに注目し、CKD-MBD治療をどのタイミングで開始すればよいのか、アプローチ方法について検討中である」とコメント。保存期からカルシウム、リン、PTHを測定する目安をまとめたフローについても準備を進めていると述べた。小児におけるCKD-MBDの現状とは 日本透析医学会の統計調査データを基に小児腎不全患者におけるCKD-MBDの指標と成長、生命予後との関連について、今泉 貴広氏(名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科)から報告があった。小児腎不全患者はPTHの増加に伴い成長が鈍化する傾向にあり、カルシウム、リン、PTHのいずれも生存との関連はなかった。同氏は、「現在、ガイドラインで設定されているインタクトPTHの目標値を覆す根拠は得られなかった」とコメント。さらなる追加解析について検討していく必要があると述べた。

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心アミロイドーシス〔CA:cardiac amyloidosis〕

1 疾患概要■ 定義心アミロイドーシスは、心臓間質に線維状の異常蛋白質であるアミロイドが沈着し、形態的、機能的な異常を来す病態をいう。本症は、心肥大、拡張障害を主体とする心不全を来す進行性の予後不良な二次性心筋症である。■ 分類全身性アミロイドーシスは30種類以上のアミロイド前駆蛋白質が同定されているが、心アミロイドーシスは、免疫グロブリン遊離軽鎖(免疫グロブリン性アミロイドーシス:AL)とトランスサイレチン(トランスサイレチンアミロイドーシス:ATTR)の2つに大別される。ATTRはさらに、トランスサイレチン遺伝子に病的変異のない野生型ATTR(ATTRwt)と、病的変異がある遺伝性ATTR(ATTRv)に分けられる。■ 疫学1)ATTRATTRwtは男性に多く、高齢発症である。病理学的には、80歳を超える高齢者の剖検で12~25%と決して少なくない頻度で、心臓にアミロイドが沈着していることが知られていた。近年、99mTc-PYPシンチグラフィーの画像診断によって、ATTRの診断症例数が飛躍的に増加し、さまざまな心疾患に潜在していることが明らかになっている。収縮能の保たれた心不全(HFpEF)患者の約13%、TAVI治療を受けた大動脈弁狭窄症患者の約16%、壮年以降に診断された肥大型心筋症患者の9%がATTRだと報告されている。2)AL米国では人口100万人当たりの発症頻度は9.7~14人/年、有病率は40.5人/年と報告されている。■ 病因1)ATTR肝臓で産生されるトランスサイレチンは本来4量体で安定化する輸送蛋白質であるが、遺伝子変異や加齢性変化によって不安定化すると、乖離した単量体として重合・凝集しアミロイド線維を形成する。2)ALアミロイドは異常形質細胞により産生されたモノクローナルな免疫グロブリン自由軽鎖のミスフォールディングに由来する。遺伝子配列・遺伝子変異や蛋白質分解などがアミロイド線維の形成性や沈着臓器に影響する。■ 症状病型に関わらず心アミロイドーシスは、左室機能低下(主に拡張障害)、左室肥大、刺激伝導系障害、不整脈(心房細動)を来す。進行例では低血圧を認める。1)ATTRATTRwtは障害臓器が限定的で、心病変が主体である。また、腱靱帯に沈着する傾向があるため、整形外科疾患を高率に合併し、特に手根管症候群は心症状に先行する心外病変(6.1±4.6年)として重要である。心症状の他、末梢神経障害・自律神経障害、眼症状、消化管症状などを認めた場合はATTRvの可能性を積極的に検討する。2)ALAL心アミロイドーシスは、ATTRと比較して非常に進行が速く、重症化しやすい。腎臓も障害臓器として重要で、重症例は透析も必要となる。■ 予後1)ATTR予後は、約3.5~5年と報告されているが、近年、疾患修飾薬が登場し、予後の改善が期待されている。2)AL心病変の有無が予後を規定し、TnT、BNP、FLCなどで予後が層別化され、最も進行したステージの生存期間は約半年とされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)はじめに図1に早期診断のためのRed flagと診断フローチャートを示す。近年、99mTc-PYPシンチグラフィーが、ATTR心アミロイドーシスにおいて心臓に強い集積像(grade2以上)を示すことが明らかとなり、その高い診断特異度と陽性的中率を有することから国際的にも有用な診断ツールとなっている。わが国の診断基準も刷新され、従来の病理学的にアミロイド沈着と前駆蛋白を同定する診断を「definite診断」とする一方、生検をせずに99mTc-PYPシンチグラフィーの陽性所見とM蛋白陰性をもってATTRの診断とする「probable診断」が新たに加わった。心アミロイドーシスを疑うきっかけとして心エコーは最適な検査の1つである。心肥大、弁・中隔の肥厚、拡張障害、心嚢液貯留といった古典的な特徴の他に、左室心尖部を除くlongitudinal strainの低下(apical sparing)が、心アミロイドーシスに特異的な所見として近年、鑑別に用いられている。また、心臓MRIも左室心内膜下全周性の遅延造影像や、T1 mappingにおけるnative T1およびECV(extracellular volume)の高値が本症を疑う重要な所見となる。図1 心アミロイドーシス早期診断のためのRed flagと診断フローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在、心アミロイドーシスの各病型に対して有効な固有の治療手段が存在する(図2)。図2 心アミロイドーシスに対する現在の治療選択肢画像を拡大する1)トランスサイレチン4量体安定化薬タファミジスタファミジス(商品名:ビンダケル)は、トランスサイレチンに結合し4量体構造を安定化させATTRの進行を抑制する薬剤である。国際多施設共同III相試験で、全死因死亡率および心血管関連入院の頻度を有意に抑制し、ADL低下、心不全のQOLも改善することが示された。サブ解析で、NYHAIII度の心不全よりNYHAI~II度の軽症な心不全で、タファミジス投与によるイベント抑制の効果が明確に認められたため、ガイドラインではNYHA I~II度について推奨クラスIIaとなっている。現在、ATTR心アミロイドーシスに対して承認された唯一の疾患修飾薬となっている。2)核酸医薬パチシラン、ブトリシランパチシラン(同:オンパットロ)は、遺伝子サイレンシングの技術を応用したTTRmRNAを標的とする世界初のsiRNA製剤である。本剤は、トランスサイレチンを産生する肝臓に作用し、TTRmRNAをknock downすることで、血中トランスサイレチン濃度を約80%低下させる。ATTRv患者に対して行われた第III相試験で、末梢神経障害の有意な改善を認め、サブ解析で左室壁厚の減少、左室longitudinal strain、心拍出量、左室拡張末期容積、NT-proBNPの悪化を抑制することが示された。現在、次世代siRNA製剤ブトリシラン(同:アムヴトラ)も開発され、3ヵ月の皮下注射でknock downによる効果が持続する。パチシラン、ブトリシランともに家族性アミロイドポリニューロパチーに対して承認されている。3)ヒト抗CD38モノクロナール抗体ダラツムマブALアミロイドーシスの進行した心病変に対して十分な成績が期待できる化学療法はこれまで存在しなかったが、2021年7月ヒト抗CD38モノクロナール抗体ダラツムマブ(同:ダラザレックス)を含む4剤化学療法Dara-CyBorD療法(ダラツムマブ、シクロフォスファミド、ボルテゾミブ、デキサメタゾン)の有効性・安全性が明らかとなった。この4剤化学療法は、速やかな血液学的反応と高い寛解導入率によって、優れた臓器改善効果を得られることが示された。心病変の改善は6ヵ月で42%(vs.CyBorD22%)と飛躍的に向上し、現在Dara-CyBorD療法はALアミロイドーシスに対する標準治療となっている。4 今後の展望siRNA製剤やアンチセンスオリゴといった核酸医薬が、野生型を含めたATTR心アミロイドーシスに対して有効性・安全性を示すか検証する治験が複数実施されており、適応の拡大が期待されている。また、アミロイド線維の除去を目的とした抗体医薬(アミロイドブレーカー)の開発も進んでおり、AL、ATTRそれぞれで治験が行われている。近年、骨髄腫治療の発展は目覚ましく、ALに対してもその恩恵がもたらされることが予想される。特にCAR-T療法や二重特異性(bi-specific)抗体などの免疫細胞療法の応用が期待される。5 主たる診療科どの病型も心病変は循環器内科が診療に携わる。ALに対する幹細胞移植や化学治療は血液内科が行う。障害臓器に応じて、神経内科、腎臓内科、整形外科など多くの科が診療に関わる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「アミロイドーシス調査研究班」(厚生労働省)ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報道しるべの会(ATTRv患者家族会)(患者向けのまとまった情報)1)北岡裕章ほか. 日本循環器学会「心アミロイドーシス診療ガイドライン」2020年版.2)Gillmore JD, et al. Circulation. 2016;133:2404-2412.3)Maurer MS, et al. N Engl J Med. 2018;379:1007-1016.4)Adams D, et al. N Engl J Med. 2018;379:11-21.5)Kastritis E, et al. N Engl J Med. 2021;385:46-58.6)Inomata T,et al. ESC Heart Fail. 2021;8:2647-2659.公開履歴初回2023年5月30日

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7【「実践的」臨床研究入門】第32回

検索式で研究デザインを限定する その2前回は、「研究デザイン」を「ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)」に限定するための検索式について説明しました。ただ、われわれのClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)(下記)の「研究デザイン」は「RCT」ではなく「観察研究」です。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかP(対象):非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E(曝露要因):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C(比較対照):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O(アウトカム):1)末期腎不全(透析導入)、2)eGFR低下速度の変化そこで、今回からは「研究デザイン」を「観察研究」に限る方法について解説したいと思います。まずは、PubMedの「Filterサイドバー」(連載第31回参照)の"ARTICLE TYPE"で"Observational Study"のFilterを使用する方法を紹介しましょう。デフォルトでは"Observational Study"は"ARTICLE TYPE"のリストには挙げられていません。したがって、初めに「Filterサイドバー」の下側にある"Additional filters"をクリックし、"ARTICLE TYPE"のリストから"Observational Study"を追加で選択します。それでは、われわれのRQの検索式に、"Observational Study"のFilterを加えてみましょう。PubMed Advanced Search Builderを用いて、これまで改訂してきたP、Eそれぞれの構成要素のブロック(下記)の検索式をANDでつなぎます(連載第27回参照)。PのブロックKidney Disease[mh:noexp] OR “diabetic nephropathy”[tiab] OR Diabetic Nephropathies[mh] OR Renal Insufficiency[mh:noexp] OR Renal Insufficiency, Chronic[mh:noexp] OR "chronic kidney disease*"[tiab] OR "chronic renal disease*"[tiab] OR CKD[tiab] OR predialysis[tiab] OR pre-dialysis[tiab]EのブロックDiet, Protein-restricted[mh] OR "low-protein diet*"[tiab] OR "protein-restricted diet*"[tiab]まずPubMed Advanced Search Builderで #1 AND #2 のResultsでヒットした論文数をクリックします。そして、メイン画面左側の「Filterサイドバー」の"ARTICLE TYPE"から、先ほど追加した"Observational Study"のFilterを選択します。すると、検索結果は表のとおりとなります(本稿執筆2023年5月時点)。表画像を拡大する最終的にヒットした論文の文献情報を確認すると、当たり前ですが、すべての論文で"Observational Study"であるという情報がPublication typeとして与えられています。それゆえ、Publication typeの情報が付与されていない論文は検索から漏れてしまう恐れがあります。そこで、次回は「観察研究」をさらに網羅的に捕捉するための「観察研究フィルター」の検索式を紹介します。

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経口difelikefalin、CKD患者のかゆみの軽減に有望

 そう痒症は、後期慢性腎臓病(CKD)患者において多く認められるが、中等度~重度のそう痒症を伴うCKD(ステージ3~5)患者において、経口の選択的κオピオイド受容体作動薬difelikefalin(本邦では静脈注射用製剤が申請中)が、そう痒を大幅に軽減し、その状態を維持することが示された。米国・University of Miami Miller School of MedicineのGil Yosipovitch氏らが、第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2023年4月12日号掲載の報告。 研究グループは、非透析CKD患者と透析治療を受けるCKD患者のかゆみの軽減について、経口difelikefalinの有効性と安全性を評価した。 本試験の対象は、中等度~重度のそう痒症を伴うCKD(ステージ3~5)の非透析患者および透析治療を受ける患者であった。対象患者を経口difelikefalin(0.25mg、0.5mg、1.0mg)各用量群またはプラセボ群へ無作為に均等に割り付け、1日1回12週間投与した。 主要エンドポイントは、12週時の週平均Worst Itch Numeric Rating Scale(WI-NRS)スコアの変化であった。 主な結果は以下のとおり。・269例が無作為化され、ベースライン時のWI-NRSスコア(平均値±標準偏差)は7.1±1.2であった。・経口difelikefalin 1.0mg群はプラセボ群と比較して、2週時から週平均WI-NRSスコアが有意に減少し(p<0.05)、12週時においても有意に減少していた(最小二乗平均差:-1.1、p=0.018)。経口difelikefalin 0.25mg群および0.5mg群においても、週平均WI-NRSスコアの数値的な減少が観察された。・12週時において、経口difelikefalin 1.0mg群では38.6%が完全奏効(WI-NRSスコア0~1)を達成した。一方、プラセボ群の達成率は14.4%であった。・経口difelikefalin 1.0mg群はプラセボ群と比較して、そう痒に関するQOL尺度のベースラインからの変化が、20%程度数値的に改善した。・治療下で発現した有害事象のうち、最も多くみられた事象は、めまい、転倒、便秘、下痢、胃食道逆流性疾患、疲労、高カリウム血症、高血圧、尿路感染であった。

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第141回 令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁

<先週の動き>1.令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁2.新型コロナ、基本的な感染対策は自主的に判断を/厚労省3.がん検診率60%以上を目標に、がん対策基本計画/政府4.経鼻インフルエンザワクチンが国内初承認、2024年度シーズンから供給へ/第一三共5.相澤病院、元職員が患者の個人情報を外部に持ち出し/相澤病院6.美容医療「ハイフ」の健康被害防止へ、施術は医師に限定を/消費者庁1.令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁総務省消防庁は、3月31日に令和4年度の救急出動件数の速報値を発表した。令和4年の救急車の出動件数は前年度に比べて16.7%増の722万9,838件、搬送人数も621万6,909人と過去最高を記録した。同庁によると、高齢者の増加のほか、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、救急要請が増えたのが原因としている。また、同日に救急業務のあり方に関する検討会の報告書を公表し、この中で、マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化のため、システム構築の検討を加速することが盛り込まれた。(参考)「令和4年中の救急出動件数等(速報値)」の公表(消防庁)「令和4年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書」(同)救急車の出動最多722万件 22年、コロナで要請急増(日経新聞)2.新型コロナ、基本的な感染対策は自主的に判断を/厚労省3月31日、加藤勝信厚生労働大臣は新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に移行する前に、移行後の感染症対策について方針の変更を説明した。手洗いや換気は引き続き有効とするが、入場時の検温などの対策は効果やコストなどを踏まえて、自主的に判断を求めるとする基本的な考えを示した。医療機関や介護施設などに対しては、院内や施設内の感染対策について引き続き国が示すとしている。(参考)【事務連絡】新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の基本的な感染対策の考え方について(厚労省)アクリル板設置や検温など事業者判断に 5類移行後の基本的な感染対策で厚生労働省(東京新聞)新型コロナ5類移行後 “入場時検温など自主的に判断” 厚労省(NHK)コロナ対策変更へ、厚労相「マスク着用と同様」主体的な選択を尊重、5類移行で(CB news)3.がん検診率60%以上を目標に、がん対策基本計画/政府政府は、3月28日に2023年度から始まる新たな「第4期がん対策基本計画」を閣議決定した。がんによる死亡率を低下させるため、がん検診の受診率を現行より引き上げ、60%以上に向上させるほか、オンラインによる相談支援や緩和ケアの充実などが盛り込まれた。なお、がん検診の受診率は男性の肺がん検診を除くと、現行の第3期がん対策基本計画でも、50%未満であり、新型コロナウイルス感染症の拡大により頭打ちとなっているがん検診の受診率のさらなる向上を目指す。(参考)第4期がん対策基本計画を閣議決定 政府、デジタル化推進へ(CB news)がん検診率60%に向上目標 政府、4期計画を閣議決定(東京新聞)第4期がん対策推進基本計画案を閣議決定!がん医療の均てん化とともに、希少がんなどでは集約化により「優れたがん医療提供体制」を構築!(Gem Med)がん対策推進基本計画[第4期]<令和5年3月28日閣議決定>(厚労省)4.経鼻インフルエンザワクチンが国内初承認、2024年度シーズンから供給へ/第一三共3月27日、国内初の「経鼻インフルエンザワクチン」が正式に承認されたことを製造メーカーの第一三共が明らかにした。同社によると、2015年にアストラゼネカ社の子会社メディミューン社と提携し、国内での開発・販売契約に基づいて開発を開始。国内における知見の結果、経鼻インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」としてこの度承認申請を行い、承認された。季節性インフルエンザの予防に新たな選択肢を提供できるとしている。対象は2歳以上19歳未満の人で、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧する。(参考)第一三共、経鼻インフルワクチンが承認 24年度発売(日経新聞)フルミストが製造販売承認を取得(日経メディカル)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミストR点鼻液」の国内における製造販売承認取得のお知らせ(第一三共)5.相澤病院、元職員が患者の個人情報を外部に持ち出し/相澤病院長野県松本市の相澤病院において、患者の個人情報が不正に持ち出されたことが明らかになり、病院を経営する医療法人は内閣府の個人情報保護委員会に2月に報告、また、松本警察署に事件相談を行い、告訴状を提出した。病院によると、2023年1月、同院に通院中の患者の申し出によって、元職員から患者が他の医療機関での治療の勧誘を受けたことが判明。病院側の聞き取り調査によって、2022年5月に元職員が、後輩職員に業務マニュアルの閲覧を申し出て、業務フォルダからデータをコピーして持ち出したことが明らかとなった。漏洩したデータは透析治療患者ならびに高気圧酸素療法患者の個人情報3,137人分(亡くなった患者を含む)の住所・氏名・生年月日など基本的な識別情報のほか、各種医療情報、家族情報が含まれていた。病院側は、研修内容の見直しと再発防止に努めたいとしている。(参考)患者さん個人情報等の漏えい(不正取得)について[お詫び](相澤病院)長野の相沢病院、元職員が患者らの個人情報3137人分を外部に漏えい(読売新聞)松本市の相澤病院 患者ら3100余の個人情報持ち出されたか(NHK)6.美容医療「ハイフ」の健康被害防止へ、施術は医師に限定を/消費者庁痩身などを目的として、エステサロンで超音波を照射する超音波機器「HIFU(ハイフ)」を使った健康被害が増加していることに対し、消費者庁の消費者安全調査委員会は、ハイフを用いた施術について、施術者を医師に限定すべきだと提言した。委員会によると、ハイフによってやけどやシミが生じた事故は、2015年より8年間で135件が報告され、増加傾向にある。医療問題弁護団はこの提言を受け、4月2日に無料で電話相談を行った。(参考)エステの超音波施術「医師に限定を」 消費者事故調が厚労省に提言(朝日新聞)超音波美容施術で事故相次ぐ 消費者事故調 国に法規制求める(NHK)消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書)エステサロン等でのHIFU)ハイフ)による事故)を公表しました。(消費者庁)【4月2日(日)10時~16時・HIFUホットライン実施】HIFU(高密度焦点式超音波)被害の電話相談を実施します(医療問題弁護団)

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ドナーの低体温療法は移植腎の機能回復遅延に有用か/NEJM

 腎移植患者(レシピエント)における移植腎の機能回復遅延のリスクは、脳死腎提供者(ドナー)への低体温療法によって低減することが示唆されており、この方法が機械灌流保存に劣らないことが示されれば、かなりの費用の削減とロジスティクスの合理化につながると考えられている。米国・オレゴン健康科学大学のDarren Malinoski氏らがこの仮説の検証を試みたが、ドナーに対する低体温療法は腎臓の機械灌流保存と比較して、移植腎の機能回復遅延の軽減に関して劣っており、低体温療法と機械灌流保存を併用しても、付加的な防御効果はみられないことが示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年2月2日号に掲載された。米国6施設の適応的無作為化試験 本研究は、米国の6つの臓器提供施設が参加した実践的な適応的前向き無作為化試験であり、2017年8月~2020年5月の期間に実施された(Arnold Venturesの助成を受けた)。 脳死腎ドナーが、低体温療法を受ける群(低体温療法群)、体外で腎臓の低温機械灌流保存を行う群(機械灌流保存群)、これら両方を行う群(併用療法群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、腎移植レシピエントにおける移植腎の機能回復遅延(移植後7日間における透析開始と定義)とされた。また、低体温療法の機械灌流保存に対する非劣性、これらの併用療法のいずれかの単独療法に対する優越性について評価を行った。副次アウトカムは、移植後1年の時点での移植腎生着率などであった。併用療法群も、機械灌流保存群に比べて劣る 登録された725例のドナーから1,349個の腎臓が移植された。低体温療法群が359個、機械灌流保存群が511個、併用療法群が479個であった。機械灌流保存群のレシピエント1例が2個の腎臓の移植を受けたため、511個の腎臓が510例に移植された。平均(±SD)冷虚血時間は、機械灌流保存群(19.3±8.3時間)や併用療法群(19.1±8.0時間)よりも、低体温療法群(16.7±8.3時間)で短かった。 レシピエントにおける移植腎の機能回復遅延は、低体温療法群が109例(30%)、機械灌流保存群が99例(19%)、併用療法群は103例(22%)で発現した。移植腎機能回復遅延の、機械灌流保存群に対する低体温療法群の補正後リスク比は1.72(95%信頼区間[CI]:1.35~2.17)、併用療法群に対する低体温療法群の補正後リスク比は1.57(95%CI:1.26~1.96)、機械灌流保存群に対する併用療法群の補正後リスク比は1.09(95%CI:0.85~1.40)であった。 移植後1年の時点における移植腎の生着率は3群で同程度だった。1年時の生着不全に関して、機械灌流保存群に対する低体温療法群のハザード比(HR)は0.74(95%CI:0.33~1.66)、併用療法群に対する低体温療法群のHRは0.91(0.40~2.06)、機械灌流保存群に対する併用療法群のHRは0.82(0.40~1.67)であった。 10件の有害事象が報告され、ドナーの9例で循環不安定が、ドナーの1例で機械灌流の不良による臓器喪失が認められた。 著者は、「今回の結果は、ドナーが低体温療法を受けている場合でも、機械灌流保存は単純冷却浸漬保存に比べ、機能回復遅延に対する防御効果が高いという追加的エビデンスをもたらす。また、機械灌流保存に割り付けられた腎臓の27%(269/989個)が、移植腎の問題またはロジスティクス上の制約により処置が行われなかったことは注目に値する」としている。

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急性腎障害、造影剤は腎予後に影響せず

 急性腎障害(AKI)の既往を有する患者における、造影剤使用と腎予後の関係に関するエビデンスは不足しているのが現状である。そこで、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のMichael R. Ehmann氏らは、AKI患者に対する造影剤静注とAKI持続の関係を検討し、造影剤は腎予後に影響を及ぼさなかったことを報告した。Intensive Care Medicine誌オンライン版2023年1月30日号掲載の報告。 2017年7月1日~2021年6月30日の間に救急受診し、入院した18歳以上の患者のうち、KDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)基準のクレアチニン値に基づいてAKI(血清クレアチニン値が0.3mg/dL以上上昇もしくは1.5倍以上に上昇)と診断された1万4,449例を対象として、後ろ向きに追跡した。評価項目は、退院時のAKI持続、180日以内の透析開始などであった。傾向スコア重み付け法やエントロピーバランス法を用いて、造影剤静注あり群となし群の背景因子を調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1万4,449例中、12.8%が集中治療室に入室した。造影剤静注を受けた患者の割合は18.4%、退院前にAKIから回復した患者の割合は69.1%であった。・多変量ロジスティック回帰モデル(オッズ比[OR]:1.00、95%信頼区間[CI]:0.89~1.11)、傾向スコア重み付け法(OR:0.93、95%CI:0.83~1.05)、エントロピーバランス法(OR:0.94、95%CI:0.83~1.05)のいずれの方法を用いても、造影剤静注と退院時のAKI持続に関連は認められなかった。・集中治療室に入室した患者サブグループにおいても、AKI持続に関する結果は同様であった。・180日以内の透析開始は対象患者の5.4%にみられたが、造影剤静注と180日以内の透析開始リスクとの関連は認められなかった。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3【「実践的」臨床研究入門】第28回

前回、前々回で、下記のわれわれのResearch Question(RQ)の関連研究レビューのための検索式(例)を、P(対象)、E(曝露)それぞれの構成要素のブロックごとにPubMed Advanced Search Builderで実際に作ってみました。P:非ネフローゼ症候群の「透析前」慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:1)末期腎不全(透析導入)、2)eGFR低下速度の変化今回からは、さしあたり作成した検索式の検索能力を検証してみたいと思います。検索式の検索能力の検証検索能力の高い検索式とはどのようなものでしょうか。筆者は、RQに関連する「Key論文」(連載第16回参照)が漏れなくヒットし、かつ関係ない論文(ノイズ)は拾ってこない検索式だと考えます。しかし、「漏れがない」ことと「ノイズを拾う」ことは相反する事象であり、なかなか両立しえません。まずは、「Key論文」が漏れなく検索できるように、とりあえず作成した検索式の検索能力を検証し、適宜修正を加えていく方針で検索式をブラッシュアップしていきましょう。PubMed Advanced Search Builderで検索式の検索能力を検証するのに先立って、連載第16回で引用文献としてお示しした、われわれのRQの「Key論文」のPubMed Unique Identifier(PMID)を調べます(連載第23回参照)。PMIDは個々の論文の「PubMedへのリンク」を開くと、論文題名の直下に示されています。以下は連載第16回の当該「Key論文」10編(引用文献11はPubMed非収載なので除外)それぞれのPMIDを[pmid]タグ(連載第23回参照)で指定してORでつないだ検索式です。「Key論文」のブロック17943769[pmid] OR 19652945[pmid] OR 18779281[pmid] OR 19588328[pmid] OR 23793703[pmid] OR 26710078[pmid] OR 29914534[pmid] OR 30935396[pmid] OR 31882231[pmid] OR 33150563[pmid]前回、前々回で作成した、P、Eそれぞれの構成要素のブロックの検索式も下記にまとめて示します。PのブロックRenal Insufficiency, Chronic[mh:noexp] OR ”chronic kidney disease*”[tiab] OR ”chronic renal disease*”[tiab] OR CKD[tiab] OR predialysis[tiab] OR pre-dialysis[tiab]EのブロックDiet, Protein-restricted[mh] OR ”low-protein diet*”[tiab] OR ”protein-restricted diet*”[tiab]前回解説したようにPとEのブロックをANDでつないでまとめます。この暫定的な検索式の検索能力を検証するために、さらに「Key論文」のブロックとNOTでつなぐと、本稿執筆時点(2023年1月)では、下の表のような結果になりました。画像を拡大する残念ながら、暫定検索式では「Key論文」10本のうち7本がヒットしないという結果でした。次回からは、暫定検索式にかからなかった「Key論文」のMeSH terms(連載第21回参照)などをチェックし、検索式を手直しする方法を解説します。

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フォシーガ、左室駆出率にかかわらず慢性心不全の治療薬として使用可能に/添文改訂

 アストラゼネカと小野薬品工業は1月10日付のプレスリリースで、「フォシーガ錠5mg、10mg(一般名:ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物、以下フォシーガ)」について、日本における電子化された添付文書(電子添文)を改訂したことを発表した。 主な変更点は以下のとおり。・「効能又は効果に関連する注意」の項の慢性心不全における「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。」の記載を削除・「臨床成績」の項に、左室駆出率の保たれた慢性心不全患者を対象とした国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果を追記 これらは、上記のDELIVER試験の結果に基づき変更された。今回の電子添文の改訂により、フォシーガは左室駆出率を問わず慢性心不全患者の治療薬として使用可能となった。なお、日本で承認されている効能又は効果は、「2型糖尿病」「1型糖尿病」「慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)」および「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)」である。

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