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トイレに待ち受けていた、まさかの○○アレルギー【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第78回

トイレに待ち受けていた、まさかの○○アレルギー FREEIMAGESより使用 うちの長男は幼稚園に通い始めて半年くらいたつのですが、なかなか便座に座って大便ができないので悩んでいます。便器に座るよりも、オムツのほうがいいって言うんですよね。いやいや、幼稚園で便意を催したらどうするのよって言ってやりたいですよ。でも親譲りの頑固な性格のせいか、なかなか言うことを聞いてくれません。どうしたらいいですかね。え? ここは育児相談室ではない? スイマセン。 Heilig S, et al.Persistent allergic contact dermatitis to plastic toilet seats.Pediatr Dermatol. 2011;28:587-590.6歳のグアテマラ人の女の子が、大腿後面の皮膚炎がよくならないということで紹介されてきました。当初はステロイド軟膏で軽快していたものの、次第に皮膚炎の悪化がひどくなり、紹介受診に至ったとのことです。実はこの皮膚炎が出始めたころ、ちょうど彼女はトイレトレーニングを始めたばかりということでした。よくよくみると、大腿後面の皮膚炎は便座の位置と一致しています。「ま、まさか便座アレルギーか!」そう疑った主治医によってパッチテストが行われ、トイレの便座だけでなく学校の座席にも接触性皮膚炎のアレルゲンが含まれることがわかりました。トイレの便座はプラスチック製です。実は、ポリウレタンによって接触性皮膚炎を来した事例が2011年にも報告されています1)。また、硬化や劣化を起こしにくく、張力が強いポリウレタンが使われているカテーテルもあり、血液透析の内シャントに用いたカテーテルで重症の接触性皮膚炎を起こした事例も報告されています2)。とはいえ、ラテックスアレルギーの際に代替策としてポリウレタンが登場するくらいですから、かなりまれなアレルギーのようです。参考資料1)Turan H, et al. Pediatr Dermatol. 2011;28:731-732.2)大野晃ほか. 日本透析医学会雑誌. 2006;39:145-149.インデックスページへ戻る

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冠動脈de novo病変に対する「ステントレスPCI」

 薬剤溶出ステント(以下、DES:Drug Eluting Stent)の再狭窄率は低い。しかし、ステント血栓症、ステントフラクチャー、neo-atherosclerosisなどいくつかの問題が残る。一方、バルーン単独の経皮的冠動脈インターベンション「ステントレスPCI」はいまだに根強く、薬物溶出バルーン(DCB:Drug Coated Balloon)の臨床応用により注目されており、その有効性を支持する臨床試験もある。獨協医科大学 循環器内科の西山直希氏らは、de novo冠状動脈狭窄病変の治療におけるDCBの有効性を評価することを目的とした研究を行っている。International Journal of Cardiology誌2016年11月1日号の報告。 2014年5月~15年6月に待機的な経皮的PCIを受けた慢性冠動脈疾患患者から透析患者、再狭窄患者、重度石灰化、左主幹部、慢性完全閉塞病変を除外した60例を登録し、無作為にステントレス群(n=30)とステント群(n=30)に割り付けた。ステントレス群では初期拡張で至適径に拡張できた患者にDCBを施行、拡張できなかった患者にはDESを用いた。ステントレス群の3例はステント留置となり、結果的に、ステントレス群27例、ステント群33例となった。評価項目は8ヵ月後の標的病変再血行再建(TLR:Target Lesion Revascularization)率および晩期内腔損失(Late Lumen Loss)である。 主な結果は以下のとおり。・TLR率は両群で同等であった(ステントレス群:0.0%、ステント群:6.1%、p =0.169)。・PCI直後の最小血管径(MLD:Minimal Lumen Diameter)と初期獲得径(Acute gain)はステントレス群で有意に小さかった(MDLはステントレス群:2.36mm±0.46、DES群:2.64mm±0.37、p=0.011、Acute Gainはステントレス群:1.63±0.41mm、DES群:2.08±0.37mm、p<0.0001)。・しかし、PCI後8ヵ月のMLDおよびLate Lumen Lossについては、両群で有意な差はなかった(MLDは2.12±0.42mm vs. 32±0.52mm、p=0.121、Late Lumen Loss は0.25±0.25mm vs. 0.37±0.40mm、p=0.185)。 ケアネットの取材に対し、西山氏と共著者の小松孝昭氏、田口功氏は以下のように述べた。現在の試験の状況は? 登録数は倍以上となっている。しかしながら、DCBによるステントレスPCI群での再狭窄例は依然としてゼロである。実臨床でステントレスPCIの適応となる割合はどの程度? 透析患者、重度石灰化、左主幹部、慢性完全閉塞病変、病変長30mm以上などの病変は除外しているが、現在ではde novo症例の4割を超えている。初期拡張に用いるバルーンは? NSEバルーンを用いている。スコアリングによりプラークに亀裂を入れることで、解離ができずきれいに拡張できる。また、炎症も少なく再狭窄の予防につながると考えている。ステントレスPCIのメリットはどのようなものか? ステントという異物を入れることで、ステント血栓症や長期的にはステントに起因するneo-atherosclerosis、またステントフラクチャーによるイベントの可能性もある。ステントを入れないで済む患者にはDCBを用いることで、このようなイベントを避けることができると考えられる。また、抗血小板薬の減量または中止が可能であることもステントレスPCIのメリットだと考えられる。 バルーンで拡張し、ステントを留置するというのが現在のPCIの一連の流れであるが、その中にステントを入れないで済む患者が存在する。DES時代の中、これからもステントレスPCIの有用性を評価して臨床応用につなげていくべきであろう。それは、患者さんのQOLおよび予後の改善につながると考えられる、と田口氏は言う。

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血圧変動と心血管疾患・死亡との関連が判明/BMJ

 血圧の長期的変動(診察室血圧測定による)は心血管および死亡のアウトカムと関連し、平均血圧の効果を上回るものであることが、英国・オックスフォード大学のSarah L Stevens氏らによる、システマティックレビューとメタ解析の結果、明らかにされた。中期的(家庭血圧)、短期的(24時間ABPM)変動も同様の関連が示されたという。これまでに血圧高値の患者は、将来的な心血管疾患リスクが高いことは確立されている。また、血圧変動が大きい患者は、平均血圧値が保たれている患者と比べてリスクが高いことも示唆されていたが、血圧変動の測定の違いによるリスクについては不明であり、平均血圧または治療による変化に正しく触れた検討はほとんどなかったという。BMJ誌オンライン版2016年8月9日号掲載の報告。血圧測定法の違いを考慮し、アウトカムとの関連をメタ解析 研究グループは、システマティックレビューにより、血圧の長期的(診察室で測定)、中期的(家庭で測定)、短期的(24時間ABPM)な変動を、平均血圧と独立して、心血管疾患イベントおよび死亡との関連を定量化する検討を行った。 Medline、Embase、Cinahl、Web of Scienceを2016年2月15日時点で検索。英語のフルテキスト論文で、成人を対象とした前向きコホート試験または臨床試験を適格とした。血液透析を受けている患者、また血圧変動に直接的な影響を及ぼす可能性がある状態の患者を含むものは除外した。 交絡リスクが少ないものについて標準化ハザード比を抽出し、ランダム効果メタ解析法を用いて主要解析に統合した。アウトカムには、全死因死亡、心血管死、心血管疾患イベントを含んだ。変動については、標準偏差、変異係数、平均から独立したばらつき、真の平均変動などを測定し、夜間ディッピングや日中-夜間変動は測定しなかった。変動増大とリスク増大との関連を確認 41論文を選定し、観察コホート研究19件、臨床試験コホート17件、解析46件のデータを特定した。 血圧の長期的変動の検討は24論文で、中期的変動は4論文、短期的変動は15論文(2論文は長期と短期の両者を検討していた)で行った。解析のうち23件は、交絡リスクが高く主要解析から除外した。 結果、収縮期血圧値の長期的変動の増大は、全死因死亡(ハザード比[HR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.09~1.22)、心血管疾患死(1.18、1.09~1.28)、心血管疾患イベント(1.18、1.07~1.30)、冠動脈疾患(1.10、1.04~1.16)、脳卒中(1.15、1.04~1.27)のリスク増大と関連することが認められた。 同様に、全死因死亡との関連が、中期的(1.15、1.06~1.26)および短期的(1.10、1.04~1.16)変動でも認められた。 著者は、「血圧の長期的変動は心血管および死亡のアウトカムと関連し、平均血圧の効果を上回るものであった。その関連の大きさは、コレステロール値と心血管疾患と同程度であった。またデータは限定的であったが、中期的、短期的変動でも同様の関連が認められた」と述べ、「さらなる検討では、血圧変動評価の臨床的意味に焦点を合わせ、これまでよく見られたありふれた交絡ピットフォールは回避しなければならない」とまとめている。

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第3回 ビグアナイド薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第3回】ビグアナイド薬による治療のキホン-ビグアナイド薬による治療のポイントを教えてください。 ビグアナイド(BG)薬は、主に肝での糖新生を抑制し血糖を低下させる、インスリン抵抗性改善系の薬剤です。そのほかに、消化管からの糖の吸収を抑制したり、末梢組織でのインスリン感受性を改善させるといった作用があります。非常に古くから使われている薬剤で、以前は、日本では1日最大用量750mgのメトホルミンしか使用できませんでしたが、海外での使用実績を踏まえ、それまでのメトホルミンの用法・用量を大きく見直し、高用量処方を可能としたメトホルミン(商品名:メトグルコ)が2010年から使用できるようになりました。 上記の作用でインスリン抵抗性を改善し、体重増加を来さないというメリットがあるので、とくに肥満の糖尿病患者さんや食事療法が守れない患者さんに適しています。 腎機能低下例、高齢者、乳酸アシドーシス、造影剤投与に関しては注意が必要ですが、単独で低血糖を起こしにくい薬剤ですので、注意が必要な点を守りながら投与すれば使いやすい薬剤です。-初期投与量と投与回数を教えてください。 通常、1日500mg(1日2~3回に分割)から開始します(各製品添付文書より)。食後投与のものと食前・食後いずれも投与可能な薬剤がありますが、最も異なる点は1日最大用量で、750mg/日(商品名:グリコラン、メデット)と2,250mg/日(同:メトグルコ)があります。メトグルコは通常、750~1,500mg/日が維持用量です。 メトホルミンの主な副作用として消化器症状がありますが、程度には個人差があるように感じています。消化器症状は用量依存性に増加するので、投与初期と増量時に注意し、消化器症状の発現をできるだけ少なくするために、増量する際は1ヵ月以上空けるとよいでしょう。-どの程度の腎障害および肝障害の時、投与を控えたほうがよいでしょうか。 メトグルコを除くBG薬は、腎機能障害患者さん(透析患者含む)には禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、腎機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に腎機能を確認して慎重に投与することとされており、中等度以上の腎機能障害および透析中の患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、血清クレアチニン値が「男性:1.3mg/dL、女性:1.2mg/dL以上」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。 ただし、高齢患者さんの場合、血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、実際の腎機能は低下していることがあるので(潜在的な腎機能低下)、eGFR(推定糸球体濾過量)も考慮して腎機能を評価したほうがよいでしょう。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスとの関連から、腎機能の評価としてeGFRを用い、「eGFRが30mL/分/1.73m2未満の場合にはメトホルミンは禁忌、eGFRが30~45mL/分/1.73m2の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする」としています2)。 メトグルコを除くBG薬は、肝機能障害患者さんには禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、肝機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に肝機能を確認して慎重に投与することとされており、重度の肝機能障害患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、「ASTまたはALTが基準値上限の2.5倍以上の患者さんおよび肝硬変患者さん」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。-造影剤と併用する時のリスクはどのくらい高いですか? 尿路造影検査やCT検査、血管造影検査で用いられるヨード造影剤との併用によるリスクの程度に関する報告はありませんが、ヨード造影剤は、腎機能を低下させる可能性があるため、乳酸アシドーシスを避けるために、使用する場合は「検査の2日前から検査の2日後の計5日間(緊急の場合を除く)」は服用を中止します3)。また、検査の2日後以降に投与を再開する際には、患者さんの状態に十分注意をする必要があります。-乳酸アシドーシスの頻度と、予防・管理の方法を教えてください。 BG薬による乳酸アシドーシス発現例が多く報告された1970年代を中心とする調査では、フェンホルミン(販売中止)で10万人・年当たり20~60例、メトホルミンでの頻度は10万人・年当たり1~7例程度と報告されています4)。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴として、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4.高齢者 を挙げています2)。 腎機能や心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者といった点は、医療従事者側が留意すべきことですが、脱水やシックデイ、過度のアルコール摂取といった点については、これらが乳酸アシドーシスのリスクになるということを患者さんにお伝えしたうえで指導する必要があります。 とくに、脱水には注意が必要です。夏場、室内でも脱水を起こす可能性があること、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などを来すシックデイのときには脱水を起こす可能性があるため、服薬を中止し、かかりつけ医に相談するなど、患者さんに指導する必要があります。炎天下で農作業を行う方も注意が必要です。とりわけ高齢者は脱水に気付きにくいという特徴があります。また、利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)を服用している場合にも注意が必要です。-高齢者に投与する際の用量について知りたいです。そのまま使い続けてよいのでしょうか。 メトホルミンは、高齢者では、腎・肝機能が低下していることが多く、脱水も起こしやすいため、乳酸アシドーシスとの関連から慎重投与するとされています。高齢者については、青壮年に発症し、すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合と、高齢になってから発症した場合に分けて考えます。すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合は、とくに問題がなければ、メトホルミンによって得られる効果を考慮して継続しますが、定期的に腎・肝機能については観察すること、また、用量についても、高用量は使用せず、私は500~750mg/日で維持するようにしています。 高齢になって発症した場合、とくに75歳以上では、慎重な判断が必要とされていますが2)、基本的には推奨されません。1)メトグルコ製品添付文書(2016年3月改訂)2)日本糖尿病学会. メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年5月12日改訂)3)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド20156-2017. 文光堂;2016.4)Berger W. Horm Metab Res Suppl. 1985;15:111-115.

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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eGFRが30未満は禁忌-メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。 わが国では、諸外国と比較し、頻度は高くないもののメトホルミン使用時に乳酸アシドーシスが報告されていることから2012年2月にRecommendationを発表、2014年3月に改訂を行っている。とくに今回は、米国FDAから“Drug Safety Communication”が出されたことを受け、従来のクレアチニンによる腎機能評価から推定糸球体濾過量eGFRによる評価へ変更することを主にし、内容をアップデートしたものである。メトホルミン使用時の乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴1)腎機能障害患者(透析患者を含む)2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4)高齢者 高齢者だけでなく、比較的若年者でも少量投与でも、上記の特徴を有する患者で、乳酸アシドーシスの発現が報告されていることに注意。メトホルミンの適正使用に関するRecommendation まず、経口摂取が困難な患者や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以下の事項に留意する。1)腎機能障害患者(透析患者を含む) 腎機能を推定糸球体濾過量eGFRで評価し、eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFRが30~60の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。なお、eGFRが45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態 すべてのメトホルミンは、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐などの胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者で禁忌である。利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)との併用時には、とくに脱水に対する注意が必要である。 以下の内容について患者に注意・指導する。また、患者の状況に応じて家族にも指導する。シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する。脱水を予防するために日常生活において適度な水分摂取を心がける。アルコール摂取については、過度の摂取を避け適量にとどめ、肝疾患などのある症例では禁酒する。3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者 すべてのメトホルミンは、高度の心血管・肺機能障害(ショック、急性うっ血性心不全、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓など低酸素血症を伴いやすい状態)、外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)前後の患者には禁忌である。また、メトホルミンでは軽度~中等度の肝機能障害には慎重投与である。4)高齢者 メトホルミンは高齢者では慎重に投与する。高齢者では腎機能、肝機能の予備能が低下していることが多いことから定期的に腎機能(eGFR)、肝機能や患者の状態を慎重に観察し、投与量の調節や投与の継続を検討しなければならない。とくに75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要である。「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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急性腎障害、低所得国ほど市中感染が原因に/Lancet

 急性腎障害(AKI)は、その約6割が市中感染で、低所得国や低中所得国ではその割合は8割と高いことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRavindra L. Mehta氏らによる、世界72ヵ国、約4,000例のデータを対象に前向きに収集して行った国際横断研究「International Society of Nephrology Global Snapshot」の結果、明らかになった。治療7日目の死亡率は、低所得国・低中所得国では12%と、高所得国や高中所得国より高率だったという。Lancet誌オンライン版2016年4月13日号掲載の報告より。289医療施設、322人の医師が前向きに症例を報告 研究グループは2014年9月29日~12月7日にかけて、72ヵ国、289の医療施設(病院、非病院含む)の322人の医師から前向きに報告された、AKIの確定診断をした4,018例の小児・成人患者データを集めて分析した。報告を受けたのは、初回診察時の徴候や症状、併存疾患、AKIのリスク因子、治療プロセス、また治療7日目、退院時、死亡時のいずれか早い時点における透析の必要性、腎機能回復、死亡率についてだった。 集めたデータを基に、被験者居住国の2014年の1人当たり国民総所得に応じて、「高所得国」「高中所得国」「低中所得国と低所得国」の3群に分類し、AKIの原因やアウトカムを比較した。最も多い原因は低血圧症と脱水 被験者全体のうち、58%(2,337例)が市中感染性AKIだった。その割合について所得国別にみると、低中所得国・低所得国は80%(889/1,118例)、高中所得国は51%(815/1,594例)、高所得国は51%(663/1,241例)だった(高所得国 vs.高中所得国のp=0.33、その他のすべての比較はp<0.0001で有意差あり)。 AKIの原因として、最も多かったのは低血圧症(40%)と脱水(38%)だった。それぞれの原因について所得国別にみると、脱水は低中所得国・低所得国で46%と最も高率で、高中所得国では32%、高所得国では39%だった。一方、低血圧症は、高所得国で45%と最も高率で、高中所得国、低中所得国・低所得国はいずれも38%だった。 治療7日目の全体の死亡率は11%だった。所得国別にみると低中所得国・低所得国が12%と、高所得国の10%、高中所得国の11%に比べ高率だった。 研究グループは、「今回の研究で、国際的に共通する因子を特定した。それはAKI治療の早期発見と治療に関する標準的アプローチにかなうものとなるかもしれない」と述べる一方、試験は被験者が少数であることや低所得での本来のAKIの要因を過小評価している可能性などがあり限定的であると指摘。「地域医療におけるAKI検出のさらなる戦略を、とくに低所得国で開発する必要がある」と述べている。

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DPP-4阻害薬は2型糖尿病患者における重度腎不全のリスクを増加させる可能性がある(解説:住谷 哲 氏)-520

 DPP-4阻害薬は、わが国で最も多く処方されている血糖降下薬である。しかし、DPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の心血管イベントを抑制する可能性は、TECOS試験1)などの3つのランダム化比較試験(RCT)の結果からほぼ否定された。同時に、これら3つのRCTにおいて、DPP-4阻害薬が他の血糖降下薬に比較して心血管イベントを増加させる可能性もほぼ否定された。つまり、少なくとも心血管イベント発症に対する安全性は担保されたことになる。しかし、DPP-4阻害薬が細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)に及ぼす影響については、これまでほとんど報告されていない。そこで著者らは、real worldにおいてDPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の細小血管障害のリスクを減少させるか否かを検討した。その結果は、DPP-4阻害薬がメトホルミンと比較して重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆しており、DPP-4阻害薬が多用されているわが国の2型糖尿病診療に及ぼす影響は少なくない。 英国プライマリケアのデータベースであるQResearchデータベースを用いて、2007年4月1日から2015年1月31日の間に、2型糖尿病と診断された患者46万9,688例(25~84歳)をオープンコホートに組み込み、DPP-4阻害薬(80%はシタグリプチン)、チアゾリジン薬(90%はピオグリタゾン)、メトホルミン、SU薬、インスリン、その他の血糖降下薬(αGI薬、グリニド薬、SGLT2阻害薬)と5つの臨床アウトカム(失明、高血糖、低血糖、下肢切断、重度腎不全)との関連を検討した(ここで下肢切断は神経障害と考えられている点に注意が必要である)。血糖降下薬は、単剤、2剤併用、3剤併用のすべての組み合わせについてそれぞれ検討した。重度腎不全は、透析導入、腎移植、CKD ステージ5(eGFR<15 mL/min/1.73m2)のいずれかと定義した。それぞれのアウトカムに対するハザード比(HR)を、Cox比例ハザードモデルにより計算した。それぞれの薬剤への暴露(exposure)は、たとえば、ある患者がコホートに組み込まれた最初12ヵ月間はメトホルミンのみ、その後メトホルミンとチアゾリジン薬との併用24ヵ月、その後投薬なし6ヵ月の時点でイベントを発症した場合はメトホルミン単剤12ヵ月、メトホルミン+チアゾリジン薬24ヵ月、無投薬6ヵ月としてモデルに組み込まれた。 観察期間中に、27万4,324例(58.4%)が何らかの血糖降下薬を処方された。そのうちメトホルミンが25万6,024例(投薬群の93.3%)に処方された。一方、DPP-4阻害薬は3万2,533例(投薬群の11.9%)に処方された。その結果は表3に示されているように、メトホルミンのみが失明(HR:0.70、95%信頼区間:0.66~0.75、以下同様)、高血糖(0.65、0.62~0.67)、低血糖(0.58、0.55~0.61)、下肢切断(0.70、0.64~0.77)、重度腎不全(0.41、0.37~0.46)とすべてのアウトカムのリスクを減少させた。 これに基づいて、各薬剤群(単剤、2剤併用、3剤併用)および無投薬群のメトホルミン単剤投与群に対する、それぞれの5つのアウトカムの調整HRが表5にまとめられている。DPP-4阻害薬単剤投与群においては、失明(1.39、0.66~2.93)、高血糖(1.44、0.85~2.43)、低血糖(0.83、0.21~3.33)、下肢切断(1.03、0.33~3.20)、重度腎不全(3.52、2.04~6.07)であり、重度腎不全のリスクのみがメトホルミン単剤投与群に比較して3.52倍増加していた。この重度腎不全のリスク増加は、メトホルミン+DPP-4阻害薬の2剤併用群では消失(0.59、0.28~1.25)していたが、SU薬+DPP-4阻害薬の2剤併用群では残存(3.21、2.08~4.93)していた。さらに、メトホルミン+DPP-4阻害薬+SU薬の3剤併用群においては重度腎不全リスクの増加は認められなかった(0.68、0.39~1.20)。 本論文の結果は、DPP-4阻害薬単剤投与は2型糖尿病患者において重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆する。しかし、本論文はRCTではなくコホート研究であるため、因果関係を厳密に証明することは困難である。糖尿病罹病期間、血清クレアチニン値、HbA1c、合併症の有無をはじめとした26の潜在的交絡因子で調整した結果であるが、未知の交絡因子の残存は否定できない。著者らも本論文の限界として、recall bias、indication bias、channelling biasについて論じているが、DPP-4阻害薬を単剤投与された患者(おそらく何らかの理由でメトホルミンが投与できなかった患者)が、重度腎不全発症の高リスク群であった可能性が残るであろう。 単純には、これらの患者は最初から腎機能が悪かったのではないかと考えられるが、表2のbaseline characteristicsを見る限り、血清クレアチニン値はメトホルミン投与群(84.8 μmol/L、0.96 mg/dL)、DPP-4阻害薬投与群(84.9 μmol/L、0.96 mg/dL)であり、両群に差は認められていない。さらに、コホートに組み込まれた時点ですでに腎疾患(kidney diseaseと記載されているが詳細は不明)を有する患者から発症した重度腎不全は解析から除外されている。 DPP-4阻害薬が、尿中アルブミン排泄量を減少させるとの報告は散見されるが2)、病態生理学的および薬理学的にDPP-4阻害薬が重度腎不全を来すメカニズムは説明困難であると思われる。しかし、シタグリプチンの添付文書には重大な副作用に急性腎不全(頻度不明)が記載されている3)4)。したがって、本論文の結果は医薬品安全性監視(pharmacovigilance)の観点から解釈される必要がある。つまり、real worldで発生するDPP-4阻害薬の有害事象シグナルは微小であり、本論文のような膨大なデータの解析によって初めて明らかになったと考えられる。 英国においてはメトホルミンが第1選択薬とされていることから、DPP-4阻害薬の単剤投与はきわめて例外的であるが、わが国においては、メトホルミンではなくDPP-4阻害薬のみを投与されている患者はきわめて多く存在している。メトホルミンとの併用では重度腎不全の発症リスクが増加しないことから、DPP-4阻害薬は第1選択薬ではなく、メトホルミンへの追加薬剤としての位置付けが適切である。

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フィーバー國松の不明熱コンサルト

第1回 循環器内科「パパッとエコーでわからないもの」 第2回 消化器内科「内視鏡、やってみたけど」 第3回 呼吸器内科「肺は大丈夫だけど、苦しい」 第4回 腎臓内科「腎臓がやられているというだけで…」 第5回 血液内科「骨髄検査は正常です」 第6回 神経内科「答えは脳ではない」 第7回 膠原病内科「それでもスティル病とは言えない」 第8回 感染症内科「ほかに何があるでしょうか?」 循環器、消化器、呼吸器…どんな臓器の専門医でも日々の専門診療のなかでなかなか原因が突き止められない「熱」に直面することがあります。そんな専門医が抱える不明熱を「熱」のスペシャリスト・フィーバー國松が徹底分析。各科で遭遇しやすいキホンの熱から、検査ではわからない困った熱まで、それらの鑑別方法、対処法を詳しく解説します。 国立国際医療研究センター病院で不明熱外来を担う講師は、院内外の各科からさまざまな不明熱のコンサルトを受け、日々、その発熱の原因究明に挑んでいます。本DVDで取り上げるのは、循環器、消化器、呼吸器、腎臓、血液、神経、膠原病、感染症の8領域。「熱」に自信を持って立ち向かえる!発熱診療の強力な手がかりをお届けします!第1回 循環器内科「パパッとエコーでわからないもの」第1回は循環器内科編。循環器内科でみられるキホンの不明熱、検査ですぐにはわからない困った不明熱を解説します。「循環器疾患で来たはずなのに発熱が続いている…」「救命後に下がらない熱…」特に入院中の患者によくみられる不明熱のさまざまな可能性と、原因究明のためのアプローチを、熱のスペシャリスト・國松淳和氏がご紹介します。第2回 消化器内科「内視鏡、やってみたけど」第2回は消化器内科編。自己免疫疾患から機能性疾患まで、幅広くさまざまな疾患を扱う消化器内科医が、しばしば遭遇する不明熱について解説します。内視鏡や生検では診断のつかない、困った熱の原因を探るためのヒントを紹介します。10歳代から20年以上続く発熱と腹痛の原因疾患とは…!?第3回 呼吸器内科「肺は大丈夫だけど、苦しい」第3回は呼吸器内科編。不明熱のコンサルトを受けることも多い呼吸器内科医が、本当に困る不明熱について解説します。呼吸器という限られた臓器のなかで感染症から、まれな悪性疾患まで、さまざまな疾患の可能性がありうる領域です。特に混乱しやすいのが、原因が呼吸器疾患でなかった場合…肺炎と肺炎随伴胸水と考えていた患者が、実は横隔膜下膿瘍だったなど。見落としがちな疾患をリストアップして紹介します。第4回 腎臓内科「腎臓がやられているというだけで…」第4回は腎臓内科編。腎臓内科で不明熱に遭遇した場合、熱源が疑えても「造影剤を使用しにくい」「試験的な投薬をしにくい」という問題があります。腎機能障害患者の不明熱に対して想起すべき鑑別疾患、絶対に行うべき検査について解説します。また、長期透析という特別な背景を持つ患者の不明熱については、どうアプローチすべきなのか!? 國松氏がコンサルトを受けた実際の症例も紹介。 第5回 血液内科「骨髄検査は正常です」第5回は血液内科編。「不明熱と血球減少」は臨床内科医にとって鬼門!そのため血球減少の相談が血液内科の先生に集中しがちです。そんな他科からのコンサルトや、基礎疾患のわからない外来患者を効率よく診断するために、血球減少を来すキホンの疾患リスト、ウイルス性疾患の鑑別点を紹介します。抗体検査はもちろん必要ですが、時として素早い臨床診断も重要です。第6回 神経内科「答えは脳ではない」第6回は神経内科編。”Help me! Help me!” は神経内科医が押さえておきたい熱が出る12病態の頭文字!病態ごとに想起すべき疾患名をリストアップして解説します。また、「循環器内科のまれで重篤な疾患」と勘違いされがちな感染性心内膜炎(IE)についてもレクチャー。心原性脳塞栓症の患者が来たら、まずはIEのハイリスク群からチェックしましょう!よくある疾患でも、その裏に隠れている疾患を見逃さないための注意が必要です。第7回 膠原病内科「それでもスティル病とは言えない」第7回は膠原病科編。発熱のコンサルトに慣れている膠原病科の先生は、その原因疾患が膠原病であれば困ることはありません。困るのはやはり、最大かつ永遠の好敵手であるリンパ腫!SLEや成人スティル病など、臨床診断を行う膠原病科医にとって、病理組織検査でなければ診断できないものこそ難問です。そんな膠原病科の不明熱について、熱のスペシャリスト國松淳和先生が、症例診断も交えて解説します。第8回 感染症内科「ほかに何があるでしょうか?」日頃から不明熱の精査に慣れている感染症内科の先生方が困るのは、感染症を検討し尽くしても診断のつかない不明熱!皮疹、高サイトカイン、菌血症様という代表的な症候から臨床診断するコツや、不明熱精査と同時に始める「不明熱治療」という考え方と方法について解説します。症例検討は、ほぼ無症候で40度以上の発熱を2年間も繰り返す12歳女児。その最終診断とは?

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足動脈血管形成術、中等度CLI(重症下肢虚血)に有効性

 2016年3月19日、日本循環器学会学術集会「Late Breaking Clinical Trials/Cohort Studies III」が行われ、宮崎市郡医師会病院 仲間 達也氏が、足首以下にも病変を持つ重症下肢虚血(以下CLI:critical limb ischemia)患者に対する血行再建の臨床的意義を評価した多施設共同試験RENDEZVOUSレジストリについて報告した。 重症下肢虚血患者の救肢において血行再建は不可欠である。従来のバイパス手術に匹敵する救肢率が報告されている血管内治療(EVT)への注目度が増している。しかしながら、EVTの創傷治癒率には依然として課題が残る。 そのようななか、足首以下までの血行再建(以下PAA:pedal artery angioplasty)により、創傷治癒率の向上と治癒までの期間の短縮を示した単施設研究が、昨年報告されている1)。今回の研究の目的は、PAAの追加がCLI患者の予後にどう影響するのかを多施設研究で評価することである。 試験は、日本全国の5施設によるデータベースから後ろ向き解析で行われた。試験対象は、2012年1月~14年6月に登録された257患者、257肢。患者はRutherford4を除くCLIで、ひざ下と足首以下に虚血性潰瘍または壊死を含む病変を有する。患者の半数が、車いす以下のADLであった。病変は、Rutherford分類5が78%、6が22%、感染肢が半数、小切断術またはデブリードマン施行も半数で行われており、重篤な状態であった。試験の主要評価項目は、EVT後12ヵ月の創傷治癒率と創傷治癒までの時間。副次的評価項目は救肢率、切断後生存期間、再血行再建回避率であった。また、創傷治癒率の独立危険因子を多変量で解析し、危険因子の数でリスク層別化を行い、どの患者に対してPAAを行うべきかを明らかにした。 結果、主要評価項目である創傷治癒率は、PAA施行群で59.3%、非施行群では38.1%、とPAA施行群で有意に高かった。創傷治癒までの時間もPAA施行群で有意に短かった。副次的評価項目については統計学的な差は認められていない。 創傷治癒遅延の危険因子は、車いす以下、テキサス分類2以上の深い潰瘍、透析施行。一方、PAAは治癒遅延陰性因子、すなわち治癒促進因子であった。 上記危険因子の数により3段階で評価されたリスク層別化をみると、中等度リスク群(危険因子1~2個)では、PAA施行群の創傷治癒率59.3%に対し、非施行群では33.9%と、有意にPAA施行群の創傷治癒率が高かった。低リスク群(危険因子なし)では、PAA施行群に高い傾向があったが、統計的有意差は認められなかった。高リスク群(危険因子3個)においても統計的有意差は認められなかった。 仲間氏は「この試験から、積極的にPAAを行うことで、中等度リスクの患者のアウトカムの改善を期待できることが明らかになった。一方、低リスク群では、PAA非施行でも比較的良好な成績が得られ、PAAの意義は明らかではない。また、高リスク群では、障害が大きいことから血管内治療で介入できる範囲を超えている可能性が示唆された」と述べている。参考文献1)Nakama T, et al. J Endovasc Ther. 2016;23:83-91.

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尿素サイクル異常症〔UCD : urea cycle disorders〕

1 疾患概要■ 概念・定義尿素サイクル異常症(urea cycle disorders:UCD)とは、尿素サイクル(尿素合成経路)を構成する代謝酵素に先天的な異常があり高アンモニア血症を来す疾患を指す。N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、カルバミルリン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、シトルリン血症I型、アルギニノコハク酸尿症、高アルギニン血症(アルギナーゼ欠損症)、高アンモニア高オルニチン高ホモシトルリン尿(HHH)症候群、リジン尿性蛋白不耐症、シトリン異常症、オルニチンアミノ基転移酵素欠損症(脳回転状脈絡膜網膜萎縮症)が含まれる。■ 疫学UCDは、希少難病である先天代謝異常症のなかで最も頻度が高い疾患のひとつであり、尿素サイクル異常症に属する各疾患合わせて、約8,000人に1人の発生頻度と推定されている。家族解析やスクリーニング検査などで発見された「発症前型」、新生児早期に激しい高アンモニア血症を呈する「新生児期発症型」、乳児期以降に神経症状が現れ、徐々に、もしくは感染や飢餓などを契機に、高アンモニア血症と症状の悪化がみられる「遅発型」に分類される。■ 病因尿素サイクルは、5つの触媒酵素(CPSI、OTC、ASS、ASL、ARG)、補酵素(NAGS)、そして少なくとも2つの輸送タンパクから構成される(図1)。UCDはこの尿素サイクルを構成する各酵素の欠損もしくは活性低下により引き起こされる。CPSI:カルバミルリン酸合成酵素IOTC:オルニチントランスカルバミラーゼASS:アルギニノコハク酸合成酵素ASL:アルギニノコハク酸分解酵素ARG:アルギナーゼ補助因子NAGS:N-アセチルグルタミン酸合成酵素ORNT1:オルニチンアミノ基転移酵素CPSI欠損症・ASS欠損症・ASL欠損症・NAGS欠損症・ARG欠損症は、常染色体劣性遺伝の形式をとる。OTC欠損症はX連鎖遺伝の形式をとる。画像を拡大する■ 症状疾患の重症度は、サイクル内における欠損した酵素の種類、および残存酵素活性の程度に依存する。一般的には、酵素活性がゼロに近づくほど、かつ尿素サイクルの上流に位置する酵素ほど症状が強く、早期に発症すると考えられている。新生児期発症型では、出生直後は明らかな症状を示さず、典型的には異化が進む新生児早期に授乳量が増えて、タンパク負荷がかかることで高アンモニア血症が助長されることで発症する。典型的な症状は、活力低下、傾眠傾向、嘔気、嘔吐、体温低下を示し、適切に治療が開始されない場合は、痙攣、意識障害、昏睡を来す。神経症状は、高アンモニア血症による神経障害および脳浮腫の結果として発症し、神経学的後遺症をいかに予防するかが重要な課題となっている。遅発型は、酵素活性がある程度残存している症例である。生涯において、感染症や激しい運動などの異化ストレスによって高アンモニア血症を繰り返す。高アンモニア血症の程度が軽い場合は、繰り返す嘔吐や異常行動などを契機に発見されることもある。睡眠障害や妄想、幻覚症状や精神障害も起こりうる。障害性脳波(徐波)パターンも、高アンモニア血症においてみられることがあり、MRIによりこの疾患に共通の脳萎縮が確認されることもある。■ 予後新生児透析技術の進歩および小児肝臓移植技術の進歩により、UCDの救命率・生存率共に改善している(図2)。それに伴い長期的な合併症(神経学的合併症)の予防および改善が重要な課題となっている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)UCDの診断は、臨床的、生化学的、分子遺伝学的検査に基づいて行われる(図3)。血中アンモニア濃度が新生児は120μmol/L(200μg/dL)、乳児期以降は60μmol/L(100 μg/dL)を超え、アニオンギャップおよび血清グルコース濃度が正常値である場合、UCDの存在を強く疑う。血漿アミノ酸定量分析が尿素サイクル異常の鑑別診断に用いられる。血漿アルギニン濃度はアルギナーゼ欠損症を除くすべてのUCDで減少し、一方、アルギナーゼ欠損症においては5~7倍の上昇を示す。血漿シトルリン濃度は、シトルリンが尿素サイクル上流部の酵素(OTC・CPSI)反応による生成物であり、また下流部の酵素(ASS・ASL・ARG)反応に対する基質であることから、上流の尿素サイクル異常と下流の尿素サイクル異常との鑑別に用いられる。尿中オロト酸測定は、CPSI欠損症・NAGS欠損症とOTC欠損症との判別に用いられる。肝生検が行われる場合もある。日本国内の尿素サイクル関連酵素の遺伝子解析は、研究レベルで実施可能である。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確定診断後の治療は、それぞれのUCDの治療指針に従い治療を行う。各専門書もしくはガイドライン(EUおよび米国におけるガイドライン)が、インターネットで利用できる。日本国内では、先天代謝異常学会を中心として尿素サイクル異常症の診療ガイドラインが作られて閲覧可能である。専門医との連携は不可欠であるが、急性発作時には搬送困難な場合も多く、状態が安定しないうちには患児を移動せずに、専門医と連絡を取り合って、安定するまで拠点となる病院で治療に当たることが望ましい場合もある。■急性期の治療は、以下のものが主柱となる。1)血漿アンモニア濃度の迅速な降下を目的にした透析療法血漿アンモニア濃度を早急に下降させる最善策は透析であり、血流量を速くするほどクリアランスはより早くに改善される。透析方法は罹患者の病状と利用可能な機材による。具体的には、血液濾過(動脈‐静脈、静脈‐静脈のどちらも)、血液透析、腹膜透析、連続ドレナージ腹膜透析が挙げられる。新生児に対しては、持続的血液濾過透析(CHDF)が用いられることが多い。2)余剰窒素を迂回代謝経路により排出させる薬物治療法アンモニア生成の阻害は、L-アルギニン塩酸塩と窒素除去剤(フェニル酪酸ナトリウムと安息香酸ナトリウム)の静脈内投与により行われる。負荷投与後に維持投与を行い、初期は静脈内投与により行い、病状の安定に伴い経口投与へ移行する(投与量は各専門書を参照のこと)。フェニル酪酸ナトリウム(商品名:ブフェニール)は、2013年1月に処方可能となった。投与量は添付文書よりも少ない量から開始することが多い(上記、国内ガイドライン参照)。3)食物中に含まれる余剰窒素の除去特殊ミルクが、恩賜財団母子愛育会の特殊ミルク事務局から無償提供されている。申請が必要である。4)急性期の患者に対してカロリーは炭水化物と脂質を用いる。10%以上のグルコースと脂肪乳剤の静脈内投与、もしくはタンパク質を含まないタンパク質除去ミルク(S-23ミルク:特殊ミルク事務局より提供)の経鼻経管投与を行う。5)罹患者において、非経口投与から経腸的投与への移行はできるだけ早期に行うほうがよいと考えられている。6)24~48時間を超える完全タンパク質除去管理は、必須アミノ酸の不足により異化を誘導するため推奨されていない。7)神経学的障害のリスクの軽減循環血漿量の維持、血圧の維持は必須である。ただし、水分の過剰投与は脳浮腫を助長するため昇圧薬を適切に併用する。心昇圧薬は、投与期間と神経学的症状の軽減度には相関が認められている。※その他マンニトールは、尿素サイクル異常症に伴う高アンモニア血症に関連した脳浮腫の治療には効果がないと考えられている。■慢性期の管理1)初期症状の防止異化作用を防ぐことは、高アンモニア血症の再発を防ぐ重要な管理ポイントとなる。タンパク質を制限した特殊ミルク治療が行われる。必要ならば胃瘻造設術を行い経鼻胃チューブにより食物を与える。2)二次感染の防止家庭では呼吸器感染症と消化器感染症のリスクをできるだけ下げる努力を行う。よって通常の年齢でのワクチン接種は必須である。マルチビタミンとフッ化物の補給解熱薬の適正使用(アセトアミノフェンに比べ、イブプロフェンが望ましいとの報告もある)大きな骨折後や外傷による体内での過度の出血、出産、ステロイド投与を契機に高アンモニア血症が誘発された報告があり、注意が必要である。3)定期診察UCDの治療経験がある代謝専門医によるフォローが必須である。血液透析ならびに肝臓移植のバックアップが可能な施設での管理が望ましい。罹患者年齢と症状の程度によって、来院回数と調査の頻度を決定する。4)回避すべき物質と環境バルプロ酸(同:デパケンほか)長期にわたる空腹や飢餓ステロイドの静注タンパク質やアミノ酸の大量摂取5)研究中の治療法肝臓細胞移植治療が米国とヨーロッパで現在臨床試験中である。:国内では成育医療センターが、わが国第1例目の肝臓細胞移植を実施した。肝幹細胞移植治療がベルギーおよび米国で臨床試験中である。:国内導入が検討されている。6)肝臓移植肝臓移植の適応疾患が含まれており、生命予後を改善している(図4)。画像を拡大する4 今後の展望UCDに関しては、長い間アルギニン(商品名:アルギUほか)以外の治療薬は保険適用外であり自費購入により治療が行われてきた。2013年に入り、新たにフェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)が使用可能となり、治療の幅が広がった。また、海外では適用があり、国内での適用が得られていないそのほかの薬剤についても、日本先天代謝異常学会が中心となり、早期保険適用のための働きかけを行っている。このような薬物治療により、アンモニアの是正および高アンモニア血症の治療成績はある程度改善するものと考えられる。さらに、小児への肝臓移植技術は世界的にも高いレベルに達しており、長期合併症を軽減した手技・免疫抑制薬の開発、管理方法の改善が行われている。また、肝臓移植と内科治療の中間の治療として、細胞移植治療が海外で臨床試験中である。細胞移植治療を内科治療に併用することで、コントロールの改善が報告されている。5 主たる診療科小児科(代謝科)各地域に専門家がいる病院がある。日本先天代謝異常学会ホームページよりお問い合わせいただきたい。学会事務局のメールアドレスは、JSIMD@kumamoto-u.ac.jpとなる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(医療従事者向けのまとまった情報)尿素サイクル異常症の診療ガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国尿素サイクル異常症患者と家族の会日本先天代謝異常学会 先天代謝異常症患者登録制度『JaSMIn & MC-Bank』公開履歴初回2013年12月05日更新2016年03月15日

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Vol. 4 No. 3 ACC/AHA 脂質管理ガイドラインコントロバーシー その経緯と現在の考え

荒井 秀典 氏国立長寿医療研究センターはじめに米国のNHLBI(National Heart, Lung, and Blood Institute)が中心となって作成したNCEP-ATP III(National Cholesterol Education Program-Adult Treatment Panel)のガイドラインが2001年に発表され、そのガイドラインが2004年に改訂された。心筋梗塞、脳卒中などの動脈硬化性疾患の予防のための脂質管理に関しては、本ガイドラインが作成された米国だけでなく、アジアを含め多くの国々で脂質管理のガイドラインとして使われてきたと思われる。2008年頃よりNCEP-ATP IIIの改訂版であるNCEP-ATP-IV作成に向けた作業が行われていたが、結局NHLBIはその作成を断念せざるをえなかったと聞く。その後、American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)という米国を代表する循環器の学会が、NHLBIと共同で動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)のリスクを減少させるための脂質異常症治療に関するガイドラインを2013年11月に発表した1)。そのガイドラインは、これまでのガイドラインから180度転換を図るものであった。ACC/AHAガイドラインは、脂質異常症に関する3つのcritical questions(CQ)に対する回答の形で作成されており、質の高いrandomized controlled trial(RCT)とメタ解析の論文を中心に系統的にレビューし、作成された。したがって、フォローアップ期間の短いRCTやRCTのサブ解析などは採用されていない。ACC/AHAガイドラインは、これまで数多く実施されてきたスタチンによるRCTおよびそのメタ解析の結果をもとに脂質管理の指針が出された結果となっている。このため、実臨床とは解離したガイドラインとの批判もある。メタ解析についてはCholesterol Treatment Trialists' collaborationなどのメタ解析の結果から2-4)、ハイリスク群における高用量スタチンを推奨するガイドラインとなっている。スタチンによるASCVD発症予防効果が期待できる4つのグループを同定設定されたCQに対してシステマティックレビューを行った結果、スタチン治療による多くの心血管イベント抑制を示すエビデンスおよびそのメタ解析より、治療が有益と判断される以下の4つの患者群が同定された。その4つの患者群とは、「ASCVDを有する患者(2次予防患者)」、「LDL-コレステロール(LDL-C)が190mg/dL以上の患者(続発性は除く)」、「LDL-Cが70~189mg/dLで40~75歳のASCVD既往のない糖尿病患者」、「LDL-Cが70~189mg/dL、ASCVD既往も糖尿病もない40~75歳で、10年間のASCVDリスクが7.5%以上(10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく)の患者」である。治療方針は、図に示すようなアルゴリズムに従って決定される。まず、2次予防で75歳以下の患者に対しては高用量スタチンによる治療を行うべきであり、76歳以上の患者には中用量スタチンによる治療を行う。1次予防においては、家族性高コレステロール血症など極めて冠動脈疾患の発症リスクの高い原発性高脂血症に対する治療の必要性から、LDL-Cが190mg/dL以上で21歳以上であれば、高用量スタチン治療を行う。わが国のガイドラインにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上ある場合には家族性高コレステロール血症の可能性が強くなるため、スタチン治療を考慮すべきであるとしているが、家族性高コレステロール血症でなければ、高用量スタチン治療を推奨しているわけではない。次に40歳から75歳までの糖尿病患者は1型、2型を問わずスタチン治療が推奨されている。なかでも10年間のASCVD発症リスクが7.5%以上の患者においては高用量スタチンが、それ以外では中用量スタチンによる治療が推奨される。4つめのグループとしては、2次予防でもLDL-C 190mg/dL以上でも糖尿病でもなくても、10年のASCVD発症リスクが7.5%以上の群であり、この基準を満たす場合にはスタチン治療の適用となる(表)。このように、治療方針決定のための判断材料としては、10年間のASCVD発症リスクを用いる以外は理解しやすく、治療を行う医師は高用量か中用量のスタチンを選べばよいということで、decision makingが容易となっている。図 動脈硬化性疾患予防のためのスタチン治療の推奨画像を拡大する表 高用量、中用量スタチンの治療対象画像を拡大するLDL-Cおよびnon HDL-Cの管理目標値は設定しない本ガイドラインでは、LDL-Cやnon HDL-Cの管理目標値を設定せず、図に示すように高用量(50%以上のLDL-C低下)あるいは中用量(30~50%のLDL-C低下)のスタチンによる治療が推奨されている。その理由は特定のLDL-Cを目標として(例えば、130mg/dL未満と100mg/dL未満でどちらのグループでよりイベント発症が少ないかなど)比較をしたRCTがないからであると説明されている。わが国の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20~30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されており、LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状ではないことに関して異論はないが、日本の実臨床の場では管理目標値があったほうが治療しやすく、アドヒアランスを維持するためには管理目標値が必要であると考えている。したがって、動脈硬化性疾患予防ガイドラインにあるようにLDL-Cの管理目標値を考慮しながら治療にあたるというのがより実際的ではなかろうか。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドラインではLDL-Cの管理目標を設定しているが、“脂質管理目標値は到達努力目標値である”ことも認識すべきである。すなわち、100%その値をクリアすることを求めているわけではない。また、ASCVD予防のための脂質低下治療に関しては、高用量、中用量のスタチンのみが推奨されているが、わが国の保険診療では認められていない用量が推奨されている。非常にリスクが高い場合には、高用量スタチンが選択されるであろうが、日本で認められている最大用量のスタチンを用いることになるであろう。さらに、スタチン以外の薬剤でASCVDの発症リスクを有意に減少させる、あるいはスタチンとの併用で相加的なリスク減少が得られるとのエビデンスは得られなかったとされているが、JELISやACCORD Lipidのサブ解析などのエビデンスも考慮し、わが国のガイドラインでは、スタチン以外の薬剤の使用についても妥当としている。1次予防のための包括的リスク評価本ガイドラインにおいては、米国における5つのコホート研究10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく。年齢、性別、人種(アフリカ系アメリカ人かそれ以外)、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無により、その患者の10年間のASCVD発症リスクが計算される。また、生涯リスクも計算される。しかしながら、このリスクチャートをアジア人に適用することは、リスクの過大評価につながることは容易に想像できる。すでに欧米人の解析でも、NCEP-ATP IIIを適用した場合と比べて、スタチンの治療対象となる患者がかなり増加するとの試算もある。例えば、60歳以上の高齢者はほとんどがスタチンによる治療対象となるといわれている。このようにスタチン治療の適応範囲を広げることは、日本人における動脈硬化性疾患発症リスクを考えても現実的ではない。現在わが国のガイドラインでは、NIPPON DATA80を元にしたリスクチャートを用いており、これが日本人のリスク予測には妥当と考えている。ただ、死亡がエンドポイントとなっているため、今後は発症をエンドポイントとしたリスク評価手法を検討していく必要性はあろう。なおこのガイドラインでは、当然ではあるが、スタチン治療を開始する前に患者とのdiscussionが必要であると述べられており、正しい方向性である。安全性への配慮本ガイドラインでは、採用したRCTの成績に基づいて安全性に関する推奨を行っているが、特にスタチンによる糖尿病の新規発症、筋症(CK上昇を伴わないケースも多い)、認知機能低下などである。スタチンによる糖尿病の新規発症に関してはメタ解析の結果も発表されており、明らかであるが、スタチンによる心血管イベント抑制効果をしのぐものではない。また、メタ解析の結果からスタチンによる糖尿病の新規発症は用量依存性であり、スタチンの用量が少ない日本においては糖尿病の新規発症が欧米に比べ低いことが予想できる。スタチンによる糖尿病の新規発症のメカニズムは十分に明らかになっておらず、今後の検討課題である。バイオマーカーや非侵襲性検査の役割本ガイドラインにおいて、すでに述べたように年齢、性別、人種、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無が主要な危険因子であり、これらの危険因子により計算された10年間のASCVD発症リスクが7.5%未満の際に、高感度CRP、冠動脈のカルシウムスコア、ankle brachial index(ABI)などのバイオマーカーあるいは非侵襲性検査を用いることも考慮してよいとなっているが、そもそも慢性腎臓病(CKD)がリスクとしてカウントされておらず、日本でよく使用されている頸動脈エコーについてもエビデンスの欠如から採用されていない。頸動脈エコーについては、もちろん症例を選ぶべきではあろうが、治療の意欲やアドヒアランスを考えると有用な検査であろう。もちろん、エビデンスの蓄積をさらに進めるべきである。脂質異常症ガイドラインの今後の方向性本ガイドライン作成委員は、本ガイドラインがASCVD抑制のみにフォーカスしたガイドラインであり、脂質異常症の包括的なマネジメントのためのガイドラインではないことは認めている。したがって、今後実施すべき臨床試験について以下のように記載している。すなわち、高TG血症の治療はどうすべきか、non HDL-Cを治療ターゲットとできるか、アポB、Lp(a)、LDL粒子数などのマーカーがリスク評価に使えるか、治療方針決定のための最もよい非侵襲検査はなにか、生涯ASCVDリスクは使えるか、心不全や透析患者のなかでスタチンの恩恵を受けることができるのはどのようなグループか、スタチンによる新規糖尿病発症の長期的な影響はどうなのか、RCTから除外されているグループ(HIV患者、臓器移植患者)へのスタチンの効果はどうなのか、などである。いずれも重要なテーマであるが、RCTにそぐわないものもあり、観察研究などの結果もガイドラインに反映させるべきであろう。まとめ今回のACC/AHAガイドラインの特徴の1つは、脂質管理目標値を設定しないことである。ACC/AHAガイドラインにおける治療指針はスタチンによるRCTのみに基づいているため、LDL-Cを中心とした管理のみが強調されている点は注意が必要であり、レムナントなど他の脂質マーカーにも着目して、残余リスクの管理を考慮しながら治療にあたるべきである。今後、ガイドラインの作成は、ACC/AHAガイドラインのようにRCTのみをベースとしたものになる可能性が高いが、時間、コストなどの問題を考えると観察研究などのエビデンスもある程度は取り入れながら、ガイドラインの作成を行うことが現実的ではないかと思われる。文献1)Stone NJ et al. 2013 ACC/AHA guideline on the treatment of blood cholesterol to reduce atherosclerotic cardiovascular risk in adults: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 2014; 129: S1-45.2)Baigent C et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. Lancet 2005; 366: 1267-1278.3)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaboration et al. Efficacy and safety of more intensive lowering of LDL cholesterol: a meta-analysis of data from 170,000 participants in 26 randomised trials. Lancet 2010; 376: 1670-1681.4)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators et al. The effects of lowering LDL cholesterol with statin therapy in people at low risk of vascular disease: meta-analysis of individual data from 27 randomised trials. Lancet 2012; 380: 581-590.

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ネフローゼ症候群〔Nephrotic Syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と低アルブミン血症(3.0g/dL以下)を示す疾患群であり、腎臓に病変が限局するものを一次性ネフローゼ症候群、糖尿病や全身性エリテマトーデスなど全身疾患の一部として腎糸球体が障害されるものを二次性ネフローゼ症候群と区別する(表1)。ネフローゼ症候群には浮腫が合併し、高コレステロール血症を来すことが多い。ネフローゼ症候群の診断基準を表2に示す。また、治療効果判定基準を表3に示す。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 疫学新規発症ネフローゼ症候群は、平成20年度の厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の調査では年間3,756~4,578例の新規発症があると推定数が報告されている。日本腎生検レジストリーの中でネフローゼ症候群を示した患者の内訳は図1に示すように、IgA腎症を含めると一次性ネフローゼ症候群が2/3を占める。二次性ネフローゼ症候群では糖尿病が多く、ループス腎炎、アミロイドーシスが続く。ネフローゼ症候群を示す各疾患の発症は、図2に示すように年齢によって異なる。15~65歳ではループス腎炎、40歳以上で糖尿病、アミロイドーシスが増加する。図2に示すように一次性ネフローゼ症候群は、40歳未満では微小変化型(MCNS)が最も多く、60歳以上では膜性腎症(MN)が多くなる。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は全年齢を通じて発症する。画像を拡大する画像を拡大する■ 病因ネフローゼ症候群において大量の蛋白尿が出るときには、糸球体上皮細胞(ポドサイト)が障害を受けている。MCNSの場合には、この障害に液性因子が関連している可能性が示唆されているが、その因子はいまだ同定されていない。FSGSは、ポドサイトを構成するいくつかの遺伝子の異常が同定されており、多くは小児期に発症する。特発性のFSGSは成人においても発症するが、原因は不明である。MNの原因の1つに、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体の存在が証明されており、ポドサイトに発現するPLA2Rに結合して抗原抗体複合物を産生することが示されている。MPGNは糸球体基底膜の免疫複合体の沈着位置によってI、II、III型に分類される。I型の原因は、補体の古典的経路による活性化が原因と考えられている。III型も同じ原因との説があるが、まだ明確にはわかっていない。II型は補体成分に対する、後天的な自己抗体が産生されることによるとされている。最近、MPGNはC3腎症として定義され、C3が主として糸球体に沈着する腎症群とする考え方に変わってきた。■ 症状1)浮腫ネフローゼ症候群には浮腫を合併する。浮腫の発症機序を図3に示す。画像を拡大する浮腫の発生には2つの仮説がある。循環血漿量不足説(underfill)と循環血漿量過剰説(overfill)である。underfill仮説は、低アルブミン血症のために、血漿膠質浸透圧が低下するとStarlingの法則に従い水分が血管内から間質へ移動することにより循環血漿量が低下する。その結果、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が活性化され、二次的にNa再吸収を促進し、さらに浮腫を増悪するとされる。2つ目はoverfill仮説であり、遠位尿細管や集合管におけるNa排泄低下・再吸収の亢進が一次的に生じて、Na貯留により血管内容量が増加した結果、静水圧が高まり浮腫を生じるというものである。この原因に、糸球体から大量に漏れてくるplasminなどの蛋白分解酵素が、遠位尿細管や集合管に存在する上皮Naチャネルの活性化に関連し、Na再吸収が亢進するとの報告もある。低アルブミン血症が徐々に進行する場合には膠質浸透圧勾配はほとんど変化しないこと、ネフローゼ症候群患者では必ずしもRAS活性化がみられないことなど、underfill仮説に反する報告もあり、とくに微小変化型ネフローゼ症候群の患者が寛解する際、血清アルブミン値が上昇する前に浮腫が改善し始めるという臨床的事実は、overfill仮説を支持するものである。浮腫成立の機序は必ずしも単一ではなく、症例ごと、また同じ症例でも病期により2つの機序が異なる比率で存在するものと思われる。2)腎機能低下ネフローゼ症候群では腎機能低下を来すことがある。MCNSでは低アルブミン血症による腎血漿流量の低下から、一過性の腎機能低下はあっても、通常腎機能低下を来すことはない。それ以外の糸球体腎炎では、糸球体障害が進めば腎機能の低下を来す。3)脂質異常症肝臓での合成亢進と分解の低下から、高LDLコレステロール血症を来す。■ 予後MCNS、FSGS、MNの治療後の寛解率を図4に示す。画像を拡大するMCNSは2ヵ月以内に85%が完全寛解する。FSGSは6ヵ月で約45%、1年で約60%が完全寛解する。MNは6ヵ月では30%しか完全寛解しないが、1年で60%が完全寛解する。平成14年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の報告で、膜性腎症と巣状糸球体硬化症に関する予後調査の結果が報告されている。膜性腎症1,008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59%であった。巣状糸球体硬化症278例の腎生存率は10年で85%、15年で60%、20年で34%と長期予後は不良であった。2 診断 (病理所見)ネフローゼ症候群の診断自体は尿蛋白の定量と血清アルブミン値、血清総蛋白量を測定することにより行うことができる。しかし、実際の治療に関しては、二次性ネフローゼ症候群を除外した後、腎生検によって診断をする必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 浮腫に対する治療浮腫に対しては、利尿薬を使用する。第1選択薬としてループ利尿薬を使用する。効果がみられない場合には、サイアザイド系利尿薬を追加する。それでも効果のない場合や、低カリウム血症を合併する場合には、スピロノラクトンを使用する。アルブミン製剤は使用しないことが原則であるが、血清アルブミン値2.5g/dL以下で、低血圧、急性腎不全などの発症の恐れがある場合に使用する。しかし、その効果は一過性であり、かつ利尿効果はわずかである。利尿薬に反応しない場合には、体外限外濾過による除水を行う。■ 腎保護を目的とした治療1)低蛋白食ネフローゼ症候群への食事療法の有効性に十分なエビデンスはないが、摂取蛋白量を減少させることにより尿蛋白が減少することが期待できるため、通常以下のように行う。(1)微小変化型ネフローゼ症候群蛋白 1.0~1.1g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下(2)微小変化型ネフローゼ症候群以外蛋白 0.8g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下2)身体活動度ネフローゼの治療において運動制限の有効性を示すエビデンスはない。しかし、身体活動を制限することにより、深部静脈血栓のリスクが増大する。このため、入院中の寛解導入期であっても、ベッド上での絶対安静は避ける。維持治療期においては、適度な運動を勧める。3)レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬微小変化型ネフローゼ症候群を除き、尿蛋白の減少と腎保護を目的として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。このとき高カリウム血症に注意する。RAS阻害薬を使用することにより、血圧が低下して、臓器障害を起こす可能性がある場合には、中止する。利尿薬との併用は、RAS阻害薬の降圧作用を増強するので注意する。アルドステロン拮抗薬を追加することにより、尿蛋白が減少する。■ 合併症の予防1)感染症の予防ネフローゼ症候群では、IgGや補体成分の低下がみられ、潜在的に液性免疫低下が存在することに加え、T細胞系の免疫抑制もみられるなど、感染症の発症リスクが高い。日和見感染症のモニタリングを行いながら、臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。肺炎球菌ワクチンの接種を副腎皮質ステロイド治療前に行う。ツベルクリン反応陽性、胸部X線上結核の既往がある者、クオンティフェロン陽性者は、イソニアジド300mgを6ヵ月投与する。副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の治療と並行して投与を行う。1日20mg以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には、顕著な細胞性免疫低下が生じるため、ニューモシスチス肺炎に対するST合剤の予防的投薬を考慮する。β-Dグルカン値を定期的に測定する。2)血栓症の予防ネフローゼ症候群では、発症から6ヵ月以内に静脈血栓形成のリスクが高く、血清アルブミン値が2.0g/dL未満になればさらに血栓形成のリスクが高まる。過去に静脈血栓症の既往があれば、ワルファリンによる予防的抗凝固療法を考慮する。D-dimer、FDPにて、血栓形成の可能性をモニターする。静脈血栓症由来の肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させて、血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し、PT-INRを2.0(1.5~2.5)とするように抗凝固療法を行う。肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを経静脈的に投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させる。また、経口FXa阻害薬を投与する。■ 各組織型別の特徴と治療1)微小変化型(MCNS)小児に好発するが、成人にも多く、わが国の一次性ネフローゼ症候群の40%を占める。発症は急激であり、突然の浮腫を来す。多くは一次性であるが、ウイルス感染、NSAIDs、ホジキンリンパ腫、アレルギーに合併することもある。副腎皮質ステロイドに対する反応は良好である。90%以上が寛解に至る。再発が30~70%で認められる。ステロイド依存型、長期治療依存型になる症例もあり、頻回再発型を示す場合もある。わが国で行われた無作為化比較試験にて、メチルプレドニゾロンを使用したパルス療法は、尿蛋白減少効果において、経口副腎皮質ステロイドと変わらないことが示されている。寛解導入後の治療は、少なくとも1年以上継続して行ったほうが再発が少ない。(1)再発時の治療プレドニゾロン20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。患者に、検尿試験紙を持たせて、自己診断できるように教育し、再発した場合にすぐに来院できるようにする。(2)頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群免疫抑制薬(シクロスポリン〔商品名:サンディミュン、ネオーラル〕1.5~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン〔同:ブレディニン〕150 mg/日、または、シクロホスファミド〔同:エンドキサン〕50~100 mg/日など)を追加投与する。シクロスポリンは、中止により再発が起こるリスクが高く、寛解が得られる最小量にて1~2年は治療を継続する。頻回再発を繰り返す症例や難治症例ではリツキサンを500mg/日 1回点滴静注投与することも検討する。2)巣状分節性糸球体硬化症巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は、微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)と同じような発症様式・臨床像をとりながら、MCNSと違ってしばしばステロイド抵抗性の経過をとり、最終的に末期腎不全にも至りうる難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。糸球体上皮細胞の構造膜蛋白であるポドシン(NPHS2)やα-アクチニン4(ACTN4)などの遺伝子変異により発症する、家族性・遺伝性FSGSの存在が報告されている。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)換算1mg/kg標準体重/日(最大60mg/日)相当を、初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮する。(2)ステロイド抵抗性4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合は、ステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。a)ステロイドに併用薬として、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白が1g/日未満に減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。b)ミゾリビン 150 mg/日を1回または3回に分割して投与する。c)シクロホスファミド 50~100 mg/日を3ヵ月以内に限って投与する。シクロホスファミドは、骨髄抑制、出血性膀胱炎、間質性肺炎、発がんなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、総投与量は10g以下にする。(3)補助療法高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。とくに第1選択薬としてACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブ(同:ゼチーア)の投与を考慮する。高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシス療法(3ヵ月間に12回以内)を考慮する。必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。3)膜性腎症膜性腎症は、中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患の中で、約40%と最も頻度が高く、その多くがステロイド抵抗性を示す。ネフローゼ症候群を呈しても、尿蛋白の増加は、必ずしも急激ではない。特発性膜性腎症の主たる原因抗原は、ポドサイトに発現するPLA2Rであり、その自己抗体がネフローゼ症候群患者の血清に検出される。PLA2R抗体は、寛解の前に消失し、尿蛋白の出現の前に検出される。特発性膜性腎症の抗体はIgG4である。一方、がんを抗原とする場合の抗体はIgG1、IgG2である。約1/3が自然寛解するといわれている。したがって、欧米においては、尿蛋白が8g/日以下であれば、6ヵ月間は腎保護的な治療のみで、経過をみることが一般的である。また、尿蛋白が4g/日以下であれば、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬は使用しない。わが国における本症の予後は、欧米のそれに比較して良好である。この原因は、尿蛋白量が比較的少ないことによる。このため、ステロイド単独投与により寛解に至る例も少なくない。通常、免疫抑制薬の併用により尿蛋白が減少し、予後の改善が期待できる。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8mg/kg/日相当を投与する。最初から、シクロスポリンを併用する場合もある。(2)ステロイド抵抗性ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を1日1回投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白1g/日未満に尿蛋白が減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。シクロスポリンが無効の場合には、ミゾリビン 150 mg/日、またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。リツキサン500mg/日 1回を、点滴静注することにより寛解することが報告されており、難治例では検討する。(3)補助療法a)高血圧(収縮期血圧130mmHg 以上)を呈する症例では、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。b)脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。c)動静脈血栓の可能性に対してはワルファリンを考慮する。4)膜性増殖性糸球体腎炎膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)はまれな疾患であるが、腎生検の6%を占める。光学顕微鏡所見上、糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状(lobular appearance)の細胞増殖病変を呈する。係蹄の肥厚(基底膜二重化)は、mesangial interpositionといわれる糸球体基底膜(GBM)と内皮細胞間へのメサンギウム細胞(あるいは浸潤細胞)の間入の結果である。また、増殖病変は、メサンギウム細胞の増殖とともに局所に浸潤した単球マクロファージによる管内増殖の両者により形成される。確立された治療法はなく、メチルプレドニゾロンパルス療法に加えて、免疫抑制薬(シクロホスファミド)の併用の有効性が、観察研究で報告されている。4 今後の展望ネフローゼ症候群の原因はいまだに不明な点が多い。これらの原因因子を究明することが重要である。膜性腎症の1つの原因因子であるPLA2R自己抗体は、膜性腎症の発見から50年の歳月をかけて発見された。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014(PDF)(医療従事者向けの情報)日本腎臓学会ホームページ ネフローゼ症候群診療指針(完全版)(医療従事者向けの情報)進行性腎障害に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けの情報)難病情報センターホームページ 一次性ネフローゼ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究」エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン作成分科会. エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014.日腎誌.2014;56:909-1028.2)厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会編.松尾清一監修. ネフローゼ症候群診療指針 完全版.東京医学社;2012.3)今井圓裕. 腎臓内科レジデントマニュアル.改訂第7版.診断と治療社;2014.4)Shiiki H, et al. Kidney Int. 2004; 65: 1400-1407.5)Ronco P, et al. Nat Rev Nephrol. 2012; 8: 203-213.6)Beck LH Jr, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 11-21.公開履歴初回2013年09月19日更新2016年02月09日

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カナダ開発の腎不全リスク予測ツール、国際的に有用/JAMA

 カナダで開発された腎不全リスクの予測ツールが、国際的に有用であることを、カナダ・マニトバ大学のNavdeep Tangri氏らが、30ヵ国31コホートの患者集団で検証した結果、報告した。カナダで開発されたのは、年齢、性別、eGFR、ACR濃度を因子としたもので、2集団を対象に開発・検証が行われていた。JAMA誌2016年1月12日号掲載の報告。30ヵ国ステージ3~5の患者72万1,357例のデータを含む31コホートで検証 研究グループは、同ツールについて、他国および腎臓専門医のケアを受けていないCKD集団で検証を行う必要があるとして、地理的に異なる患者集団について、メタ解析データを通じてリスク予測ツールの精度を検証した。 末期腎不全に関するデータをCKD Prognosis Consortiumの参加コホートから収集。対象は31コホート、4大陸30ヵ国から参加したステージ3~5の患者72万1,357例であった。各コホートのデータが集められたのは1982~2014年であった。 収集したデータを2012年7月~15年6月に分析。オリジナルツール(4因子を用いたもの)で各コホートのハザード比を算出し、ランダム効果メタ解析で統合し、新たにプール腎不全リスクツールを生成した。オリジナルツールとプールツールの識別能を比較し、地理的な検定因子の必要性を評価した。 主要評価項目は、腎不全(透析または腎移植治療を要する)とした。優れた識別能を示したが、非北米コホートでは一部で追加因子の必要性も判明 フォローアップ中央値4年の間に、CKD患者72万1,357例のうち、腎不全が認められたのは2万3,829例であった。 31コホートのうち16コホート(61万7,604例)は北米、15コホート(10万3,753例)はアジア、ヨーロッパ、オーストラリアのコホートであった。平均年齢は74歳、eGFRは46mL/分/1.73m2、大半が男性(うち97%が退役軍人)、女性はまれ(うち75%が沖縄の女性)であった。 オリジナルツールは、すべてのコホートにおいて優れた識別能(腎不全を呈した人と呈さなかった人を区別する能力)を示した。全体のC統計値は2年時点で0.90(95%信頼区間[CI]:0.89~0.92、p<0.001)、5年時点でも0.88(0.86~0.90、p<0.001)であった。年齢、人種、糖尿病有無別で評価したサブグループでも同程度の識別能が示された。 これらの識別能はプールツールによっても改善はされなかったが、検定(予測リスクと観察結果との差)の結果、北米コホートには適切だが、非北米コホートではリスクの過大評価が認められるものがあった。これらについては地理的な検定因子の因子で、2年時点でベースラインリスクを32.9%低下、5年時点で16.5%低下し、2年時点で15コホートのうち12コホートで、5年時点では13コホートのうち10コホートで検出能を改善できた(それぞれp=0.04、p=0.02)。 著者は、「カナダ人コホートで開発した腎不全リスクツールは、31の多様なコホートでも高い識別能を示し、十分な検出能があることが示された。ただし一部では地理的な追加因子が必要と思われた」とまとめている。

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糖尿病治療中こそ禁煙が大事!

糖尿病とタバコの関係 喫煙により、インスリンの効きが悪くなること(インスリン抵抗性)が知られています。 現在は糖尿病でない方も、糖尿病になる可能性も上がります。 血管に負担がかかるため、腎機能障害が進みやすく透析になってしまう確率も上がります。2 糖尿病患者が喫煙をすると、喫煙をしない場合に対して死亡率が1.55倍に上昇するという結果が報告されました。1-糖尿病患者の死亡リスク1.55非喫煙者喫煙者Pan A, et al. Circulation. 2015 Aug 26. [Epub ahead of print]糖尿病治療中の方こそ、禁煙が大事です!社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

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CLEAN試験:血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコール(解説:小金丸 博 氏)-440

 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)はありふれた医療関連感染であり、死亡率も高いことが知られている。カテーテル挿入時の皮膚消毒は感染予防に重要であり、今までも適切な皮膚消毒薬について議論されてきた。米国疾病予防管理センター(CDC)は、カテーテル挿入時の皮膚消毒に、0.5%を超えるクロルヘキシジンを含むクロルヘキシジン・アルコールを推奨しているが、クロルヘキシジン・アルコールとポビドンヨード・アルコールをhead-to-headで比較した大規模試験は存在しなかった。 本研究は、血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒薬として、2%クロルヘキシジン・70%イソプロピルアルコールと5%ポビドンヨード・69%エタノールの有効性を比較した、ランダム化比較試験である。両群をさらに消毒前の皮膚洗浄(scrubbing)の有無で1:1:1:1の4群に割り付けした(2×2要因デザイン)。動脈カテーテル、血液透析カテーテル、中心静脈カテーテルの留置が48時間以上必要な18歳以上の成人2,546例を対象とし、カテーテル関連感染症の発生率を主要評価項目とした。カテーテル関連感染症の定義は、菌血症を伴わないカテーテル関連敗血症、あるいはCRBSI(血液培養が陽性)とした。 カテーテル関連感染症の発生率は、クロルヘキシジン・アルコール群で0.28/1,000カテーテル日、ポビドンヨード・アルコール群で1.77/1,000カテーテル日であり、クロルヘキシジン・アルコール群が有意に低率だった(ハザード比:0.15、95%信頼区間:0.05~0.41、p=0.0002)。CRBSIの発生率もクロルヘキシジン・アルコール群で低率だった(0.28 vs.1.32/1,000カテーテル日)。消毒前の皮膚洗浄の有無では、カテーテル関連感染症、CRBSIの発生率に差はなかった。 また、全身性の有害事象は認めなかったが、クロルヘキシジン・アルコール群で重篤な皮膚反応を多く認めた(3% vs.1%)。 カテーテル挿入部位や手術部位など皮膚の消毒には、クロルヘキシジンの有効性が報告されてきており、本研究でもポビドンヨードと比較してクロルヘキシジンの有効性が示された。過去の研究では、カテーテルコロニゼーション(カテーテルへの菌の定着)を主要評価項目としているものが多く、もともとCRBSIの発生率が低い集団において、カテーテル関連感染症の発生率を大きく低下させることを示した意義は大きい。今後さらに、クロルヘキシジン・アルコールを皮膚消毒に使用する流れが加速するだろう。 現時点で、日本では2%クロルヘキシジン製剤が発売されておらず、使用することはできない。多くの施設では、CDCガイドラインで推奨されている「0.5%を超える濃度のクロルヘキシジン」という文言を参考に、1%クロルヘキシジン・アルコール製剤を使用していると思われる。今後も1%クロルヘキシジン・アルコールを使用するのであれば、1%製剤はポビドンヨードより有効なのか、2%クロルヘキシジン・アルコールと効果は同等なのか、有害事象の発生率に差はないのか、といった疑問を解決してくれるような研究が必要と考える。

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常染色体優性多発性嚢胞腎〔ADPKD : autosomal dominant polycystic kidney disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義PKD1またはPKD2遺伝子の変異により、両側の腎臓に多数の嚢胞が発生・増大する疾患。■ 診断基準ADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性嚢胞腎ガイドライン(第2版)」)1)家族内発生が確認されている場合(1)超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの(2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの2)家族内発生が確認されていない場合(1)15歳以下では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合(2)16歳以上では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合※除外すべき疾患多発性単純性腎嚢胞(multiple simple renal cyst)腎尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis)多嚢胞腎(multicystic kidney 〔多嚢胞性異形成腎 multicystic dysplastic kidney〕)多房性腎嚢胞(multilocular cysts of the kidney)髄質嚢胞性疾患(medullary cystic disease of the kidney〔若年性ネフロン癆 juvenile nephronophthisis〕)多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)(acquired cystic disease of the kidney)常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease)【Ravineの診断基準】(表)(家族歴がある場合の画像診断基準)画像を拡大する■ 疫学一般人口中に占める多発性嚢胞腎患者数(有病率)は、病院受診者数を基に調査した結果では一般人口3,000~7,000人に1人である。病院患者数に占める多発性嚢胞腎患者数は3,500~5,000人に1人、病院での剖検結果では被剖検患者約400人に1人である。メイヨー病院があるオルムステッド郡(米国)で1年間に新たに診断された患者数(発症率)は、一般人口1,000~1,250人あたり1人である。調査方法、調査年代、調査場所などにより、結果に差異が認められる。今後、治療薬が利用可能になると受療する患者数が増加し、有病率も増える可能性がある。■ 病因(図を参照)画像を拡大するPKD1またはPKD2遺伝子の変異による。PKD1は16p13.3、PKD2は4q21-23に位置する。PKD1とPKD2の遺伝子産物 polycystin 1(PC 1)とPC2はtransient receptor potential channel for polycystin(TRPP)subfamilyで、Caチャネルである。PC1とPC2は腎臓、肝臓、膵臓、乳腺の管上皮細胞、平滑筋と血管内皮細胞、脳の星状細胞に存在する。PCは腎臓上皮細胞、血管内皮細胞、胆管細胞などの繊毛に存在する。尿細管腔の内側に存在する繊毛は、尿細管液の流れに反応して屈曲する。屈曲によるshear stressはPCや繊毛機能に関係する蛋白を活性化し、細胞外と小胞体からCaイオンを細胞質内へ流入させ、細胞質内Ca濃度を高める。繊毛機能に関係する蛋白をコードする遺伝子異常が嚢胞性腎疾患をもたらすことが明らかとなり、繊毛疾患(ciliopathy)として概括されている。PKD細胞ではPC機能異常により、尿細管上皮細胞のCa濃度は低値である。細胞内Ca濃度が低下すると、cyclicAMP(cAMP)分解酵素(PDE)活性が低下し、またcAMPを産生するadenyl cyclase(AC)活性が高まり、細胞内cAMP濃度が高まる。その結果、cAMP依存性protein kinase A(PKA)機能が高まり、種々のシグナル経路(EGF/EGFR、Wnt、Raf/MEK/ERK、JAK/STAT、mTORなど)が活性化され細胞増殖が起きる。繊毛は細胞極性(尿細管構造形成)に関与しており、細胞極性機能を失った細胞増殖が起きる結果、嚢胞が形成される。また、PKAはcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を刺激し、嚢胞内へのCl分泌を高める。腎尿細管(集合管)に存在するバソプレシン(AVP)V2受容体は、AVPの作用を受け、ACおよびcAMP、PKAを介して水透過性を高める。この過程でcAMPは嚢胞を増大させる。ソマトスタチンはACを抑制するので、治療薬として期待される。■ 症状多くの患者は30~40代までは無症状で経過する。1)腎機能低下腎機能の低下と総腎容積は相関し、総腎容積が3,000mLを超えると腎不全になる確率が高い。しかし、3,000mLを超えない場合でも腎不全になる場合もある。腎不全による症状(疲労、貧血、食欲低下、皮膚搔痒など)は、他疾患による腎不全症状と同じである。透析導入平均年齢は55歳位であったが、最近では60歳近くになっている。患者全体では70歳で約50%が終末期腎不全になる。2)高血圧血管内皮機能の異常により高血圧を来すと考えられ、腎機能が低下する以前から発症する。60~80%の患者が高血圧に罹患している。高血圧になっている患者では腎臓腫大と腎機能低下の進行が速い。3)圧迫症状腎臓や肝臓の嚢胞(60~80%の患者に嚢胞肝が併存)が腫大するにつれて、腹部膨満感、少し食べるとお腹が張る、前屈が困難になる、背腰部痛、腹部痛などの圧迫症状が出現する。腎嚢胞は平均年5~6%の割合で増大するので、加齢とともに症状は進行する。4)脳血管障害脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の発症頻度が高い。脳出血の原因として高血圧がある。脳動脈瘤の発生頻度(約8%)は一般より高い。5)血尿・尿路感染症血管の構築異常により血管が裂け、嚢胞内に出血し、疼痛を引き起こす。出血巣と尿路が交通すると血尿になる。また、変形した尿路のために尿路感染症を起こしやすい。嚢胞感染が起きると抗菌薬が嚢胞内に移行しにくいので難治性になることがある。6)その他尿路結石、鼠径ヘルニア、大腸憩室、心臓弁膜機能異常などの頻度が高い。■ 分類遺伝子の変異部位に応じて、PKD1とPKD2に分かれる。約85%はPKD1である。PKD1の方が症状は強く、腎不全になる平均年齢も若い。■ 予後生命予後に関するデータはない。腎機能に関しては症状の項参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断基準に準ずる。家族歴と画像検査(超音波、CT、MRIなど)で比較的正確に診断できるが、中には診断に迷う症例もあり、遺伝子診断が有用な場合もある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)トルバプタン(商品名: サムスカ)による治療AVP V2受容体拮抗薬トルバプタンは、ナトリウム利尿をあまり伴わない水利尿作用があり、低ナトリウム血症、体液貯留の治療薬として開発され、わが国では、2010年に心不全による体液貯留、2013年に肝硬変による体液貯留への治療薬として承認を受けている。2003年にモザバプタン(トルバプタンの前段階の薬)が、多発性嚢胞腎モデル動物に有効であると発表され、2007年から多発性嚢胞腎患者1,445名を対象として、トルバプタンの有効性と安全性を検討する国際共同治験が行われた。腎臓容積増大速度を約50%、腎機能低下速度を約30%緩和する結果が2012年秋に発表され、わが国において2014年3月に多発性嚢胞腎治療薬として承認され、臨床使用が始まっている。わが国での投薬適応基準は、総腎容積≧750mL、総腎容積増大速度≧年5%、eGFR≧15 mL/min/1.73m2などである。服用開始時には入院が必要で、その後月1回の血液検査で肝機能(5%程度に肝機能障害が発生する)、血清Na値(飲水不足で高Na血症になる)、尿酸値(上昇する)などのモニターが必要である。また、トルバプタンの処方医はWeb講習を受講し、登録する必要がある。2)高血圧の治療ARBが第1選択薬として推奨される。標準的降圧目標(120/70~130/80)とより低い降圧目標(95/60~110/75)との2群を5年間追跡したところ、より低い降圧群での総腎容積増大速度が低かったことが報告されているので、可能なら収縮期血圧を110未満にコントロールすることが望ましい。3)Na摂取制限Na摂取と腎嚢胞増大速度は相関するので、Na摂取は制限したほうがよい。4)飲水動物実験では飲水によって嚢胞の増大抑制効果が認められているが、人で飲水を奨励した結果では、逆に嚢胞増大速度とeGFR低下速度が増大したことが報告されている。水道水では、消毒用塩素の副産物ジクロロ酢酸に嚢胞増大作用があることが報告されている。多発性嚢胞腎患者では、腎機能が低下するにしたがい血清浸透圧とAVPが高くなることが報告されている。人における飲水効果には疑問があるが、脱水によるAVP上昇は避けるべきである。5)カフェインや抗うつ薬カフェインはPDEを抑制しcAMP濃度を上昇させ、嚢胞増大を促進する可能性がある。SSRI、三環系抗うつ薬などはAVPの放出を促進するため、多発性嚢胞腎では嚢胞増大を促進することが考えられる。6)開発中の薬剤(1)トルバプタン〔AVP V2受容体阻害薬〕は、大規模な臨床試験で腎嚢胞増大と腎機能悪化を抑制する効果が示され1)、わが国では2014年3月、カナダ、ヨーロッパでは2015年3月に認可が下りている。(2)ソマトスタチンアナログは小規模な臨床試験で肝臓と腎臓の嚢胞増大に有効と報告されているが、当局への申請を目的とする大規模な臨床試験は行われていない。(3)mTOR阻害薬であるシロリムスとエベロリムスの臨床試験が行われたが、副作用が強く臨床効果が認められなかった。7)腎動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)腎動脈を塞栓し、腎臓を縮小させることで症状の緩和をもたらす。すでに透析が導入され、尿量が1日500mL以下の患者が対象となる。8)腹腔鏡下腎嚢胞開創術、腎摘除術抗菌薬抵抗性または反復感染の原因になっている嚢胞が特定される場合、あるいは数個の嚢胞が特別に大きくなり圧迫症状が強い場合、腹腔鏡下に特定の嚢胞を開窓する手術が適応となる。出血が強い場合や、反復する嚢胞感染がある場合、患者に腎機能の予後をよく説明したうえで同意を前提として腎摘除術(腹腔鏡下腎摘除術も行われる)が選択肢となる。4 今後の展望1)最近の研究では、総腎容積増大速度が5%/年以下でも、腎不全に進行することが示されている。トルバプタン適応基準となった総腎容積増大速度≧5%/年の基準では、これら腎不全に進行する患者を除外することになる。2)トルバプタンの作用として利尿作用があるが、利尿作用を少なくする薬剤が望まれる。3)多発性嚢胞腎の進展機序は、cAMP-PKAを介する経路のみではないので、cAMP-PKA非依存性経路を抑制する薬剤開発が望まれる。4)肝臓嚢胞に有効なソマトスタチンアナログの臨床開発が望まれる。5 主たる診療科腎臓内科、泌尿器科、脳動脈瘤があれば脳外科(多発性嚢胞腎に関心の高い医師の存在)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報多発性嚢胞腎啓発ウエブサイト(杏林大学多発性嚢胞腎研究講座)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発性嚢胞腎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)常染色体多発性嚢胞腎(順天堂大学医学部泌尿器科)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ADPKD.JP (~多発性嚢胞腎についてよくわかるサイト~/大塚製薬株式会社)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PKDの会(患者と患者家族の会)1)Torres VE,et al.N Engl J Med.2012;367:2407-2418.2)東原英二 編著.多発性嚢胞腎~進化する治療最前線~.医薬ジャーナル;2015.3)Irazabal MV, et al. J Am Soc Nephrol.2015;26:160-172.公開履歴初回2013年04月18日更新2015年10月27日

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カテーテル関連感染症、クロルヘキシジン消毒で大幅減/Lancet

 カテーテル挿入前に、皮膚消毒をクロルヘキシジン・アルコールで行うと、ポビドンヨード・アルコールを使った場合に比べて、カテーテル関連感染症リスクは85%低下することが示された。フランス・CHU de PoitiersのOlivier Mimoz氏らが、2,546例を対象とした無作為化比較試験の結果、報告した。結果を踏まえて著者は、「血管内カテーテル関連感染症予防のためにも全例について、皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコールを用いるべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年9月17日号掲載の報告より。皮膚消毒前の洗剤による皮膚洗浄の有無についても比較 研究グループは、2012年10月~14年2月にかけて、フランス国内11ヵ所のICU入室となり、中心静脈カテーテル、血液透析、動脈カテーテルのいずれかを行った18歳以上の患者2,546例を対象に試験を行った。クロルヘキシジン・アルコールまたはポビドンヨード・アルコールによる皮膚消毒の、カテーテル関連の感染症予防効果について比較を行った。 被験者を無作為に4群に分け、2%クロルヘキシジン・70%イソプロピルアルコールまたは5%ポビドンヨード・69%エタノールのいずれかによる皮膚消毒群、および同実施前の洗剤による皮膚洗浄の有無別に割り付けた。 医師、看護師は、割り付けについてマスキングされなかったが、細菌学者およびアウトカム評価者には割り付けをマスキングされた。 主要アウトカムは、カテーテル関連感染症の発生率だった。皮膚洗浄の有無は感染率に有意差みられず クロルヘキシジン・アルコール群は1,181例、そのうち洗剤による皮膚洗浄を行ったのは594例だった。ポビドンヨード・アルコール群は1,168例、うち皮膚洗浄群は580例だった。 カテーテル関連感染症の発生率は、ポビドンヨード・アルコール群が1.77/1,000カテーテル日に対し、クロルヘキシジン・アルコール群は0.28/1,000カテーテル日と有意に低率だった(ハザード比:0.15、95%信頼区間:0.05~0.41、p=0.0002)。 洗剤による皮膚洗浄の有無では、同発生率に有意差はなかった(p=0.3877)。 また、全身性有害事象は認められなかったが、重篤皮膚反応の発生が、ポビドンヨード・アルコール群で1%(7人)に対しクロルヘキシジン・アルコール群では3%(27人)と有意に高率にみられた(p=0.0017)。2例はクロルヘキシジン・アルコール中断となった。

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糖尿病性腎症の治療薬としての非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬に期待(解説:浦 信行 氏)-413

 JAMA誌に、非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬であるfinerenoneの尿アルブミン低減効果が報告された。 現時点では、糖尿病性腎症に対しては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が第1選択薬であるが、ACE阻害薬やARB使用でも尿アルブミン低減が十分でない例が多く、より一層の腎保護効果、尿アルブミン低減効果を期待できる薬物療法が求められていた。ステロイド系MR拮抗薬であるスピロノラクトンやエプレレノンは、降圧効果だけでなく、ACE阻害薬やARBへの併用で一層の尿アルブミン低減効果を示したが、高K血症の誘発や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を引き起こすことが報告され、エプレレノンは糖尿病性腎症や中等度以上の腎機能障害では禁忌となっている。 ステロイド骨格を持たないMR拮抗薬finerenoneはバイエル薬品で開発されたが、すでにACE阻害薬かARBが使用されている糖尿病性腎症例へのfinerenoneの併用効果が、二重盲検試験で評価された。その結果は、有意な尿アルブミン低減効果が確認され、高K血症は2~3%程度にとどまり、eGFRの有意な変動はなかったというものである。 動物実験ではすでに、同等のNa利尿作用を示す量のエプレレノンに比較して、尿蛋白低減効果が有意に大で、臓器保護効果にも優れていたことが報告されていた。 本研究は多施設共同研究で、糖尿病性腎症においてACE阻害薬やARBとの併用効果をみた初めての試験である。尿アルブミンは最大で38%の減少効果の上乗せがあり、ACE阻害薬やARBは72.7%の例で最少使用量を超える量が使用されている。高K血症は、過去のステロイド系MR拮抗薬では8%や17%などと報告され、多いものでは52%という高い数字が示されている。高K血症が低率であった一因には、eGFRの低下がなかったことが挙げられる。ただし、ほぼ95%に高血圧が合併し、併用前の血圧値は138/77mmHg前後であったが、20mgの最大使用量でも収縮期血圧の低下作用が5mmHg程度にとどまっていた。尿アルブミン低減効果は降圧効果とは関連しないとも結論され、機序としては、ステロイド系MR拮抗薬のような脳内移行による中枢での降圧作用がないことが1つであるとしている。 この研究では、60%以上の例がeGFRで60mL/min/1.73m2以上のCKD1~2であり、もっと広い範囲で一層のデータの集積が必要ではあるが、わが国で新規透析導入の原因疾患の第1位である糖尿病性腎症の薬物療法において、大きな光明をもたらすことを期待する。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 高血圧とのかかわり

川添 晋 氏鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学はじめに高尿酸血症は、痛風関節炎や痛風腎など尿酸塩沈着症としての病態とは別に、心血管疾患のリスクになることが次々と報告され、メタボリックシンドロームの一翼としての尿酸の重要性が認識されるようになってきた。最近では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることや、尿酸低下療法によって心血管イベントが抑制される可能性を示唆する報告もなされている。本稿では、血圧上昇や高血圧性臓器合併症と尿酸との関連を疫学と機序の両面から概説するとともに、高血圧症を合併した高尿酸血症に対する薬物治療を行う際の注意すべき点について解説する。高尿酸血症と高血圧血圧上昇と血清尿酸値との疫学の歴史は意外に古い。1800年代後半には、痛風の家族歴を持つ高血圧患者が多いことや、低プリン食が高血圧と心血管病を予防することが報告されている。最近の報告では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることが国内外の疫学調査から明らかとなっている。米国における国民健康栄養調査にて、血清尿酸値が上昇するにつれて高血圧の有病率は上昇し、血清尿酸値6.0mg/dL以下では24.5%であるのに対して10.0mg/dLでは84.7%に高血圧が合併していた1)。わが国における調査でも、高血圧患者は男性で34.1%、女性で16.0%に高尿酸血症が合併していたと報告されている2)。高尿酸血症と高血圧発症に関する国内外11研究の成績をまとめたメタアナリシスでは、高尿酸血症患者における高血圧発症の相対リスクは1.41と有意に高く、1mg/dL の尿酸値の上昇により高血圧発症リスクは13%上昇するとの結果であった3)(本誌p.29図を参照)。尿酸値上昇自体が高血圧のリスクとなることが明確に示されたことになる。また小規模の研究ではあるが、アロプリノールによる尿酸降下療法にて24時間血圧が有意に下がるとの介入試験の結果も報告されている4)。尿酸が血圧を上昇させるメカニズムについてもさまざまな知見が得られている(本誌p.30図を参照)5)。尿酸によるNO(一酸化窒素)産生低下とレニン・アンジオテンシン系の産生亢進を伴った血管内皮機能低下に起因した腎血管収縮により血圧が上昇すると報告されている6, 7)。このタイプの高血圧は、食塩抵抗性で尿酸値を下げることにより降圧を認めることが特徴であるが6)、別のタイプもあることが推察されている。高尿酸血症は動脈硬化性変化による腎微小循環障害をきたし、塩分感受性で腎依存性、血清尿酸値非依存性の高血圧が形成される8)。微小循環の損傷に起因する病態においては、直接尿酸が血管平滑筋細胞に対して増殖反応を促し、レニン・アンジオテンシン系を賦活化し、CRPや単球走化性蛋白-1(MCP-1)といった炎症関連物質の産生を刺激することが報告されている9)。高血圧性臓器合併症と尿酸日本高血圧学会やヨーロッパ高血圧学会のガイドラインでは、高血圧性臓器合併症の有無でリスクの層別化を行うことを推奨している。Viazziらは、このような臓器合併症の重症度と血清尿酸値との関連性を横断研究にて検討している。これによると、ヨーロッパ高血圧学会のガイドラインに準拠した高血圧性臓器合併症が重症になるにしたがって、血清尿酸値が高値となっていくことが示されている。さらに古典的心血管危険因子で補正後も、心肥大や頸動脈不整の危険因子となることが示唆されている。またSystolic Hypertension in the Elderly Program(SHEP)10)やThe Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension(LIFE)11) といった大規模臨床試験のサブ解析において、血清尿酸値と心血管イベントの発症との間に関連があることが示されている。われわれは669名の本態性高血圧症を対象に前向きに検討を行い、尿酸値が心血管疾患と脳卒中の発症の予測因子となるかどうかの検討を行った12)。平均7.1年のフォローアップ期間に脳卒中71例、心血管疾患58例が発生し、64例が死亡した。生存曲線では、尿酸値が最も高かった群(8.0mg/dL以上)では有意に脳卒中と心血管疾患の発症が多く(p=0.0120)、死亡率も高かった(p=0.0021)。古典的な心血管疾患のリスク因子で補正した後も、血清尿酸値は心血管疾患(相対リスク1.30, p=0.0073)、脳卒中および心血管疾患(相対リスク1.19, p=0.0083)、死亡(相対リスク1.23, p=0.0353)、脳卒中および心血管疾患による死亡(相対リスク1.19, p=0.0083)の有意な予測因子であった(本誌p.31図を参照)。また、血清尿酸値が心血管疾患リスクに与える影響は、女性においてより強かった。しかしながら、大規模疫学調査のなかには、Framingham Heart研究13)やNIPPON DATA 8014)のように、他の心血管危険因子で補正を行うと血清尿酸値の心血管死に対する影響が減弱するか喪失すると結論づけている報告もいくつか認められる。また血清尿酸値と心血管疾患の間のJカーブ現象の報告もあり15)、この分野に関しては今後のさらなる検討が必要と考えられる。高血圧治療の最終的な目標は臓器合併症、すなわち心血管イベント発症や腎機能悪化に伴う透析などの回避であることはいうまでもない。臓器合併症予防のためには、蓄積されつつある知見を踏まえて、血圧のみならず血清尿酸値も含めた管理を行う必要がある。高血圧症例における高尿酸血症の管理高血圧患者における血清尿酸値上昇が腎障害や心血管事故発症と関連することから、日本痛風・核酸代謝学会による『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』16)に準じて、総合的なリスク回避をめざした6・7・8ルールに基づく尿酸管理が推奨されている(本誌p.32図を参照)。高尿酸血症を合併する高血圧では、血清尿酸値7mg/dL以上でエネルギー摂取制限、運動習慣、節酒等の生活指導を開始する。8mg/dL以上では、生活習慣の修正を行いながら尿酸降下薬の開始を考慮する。降圧療法中の血清尿酸値の目標は6mg/dL以下をめざす。この際、降圧剤が尿酸代謝に及ぼす影響も考慮することが望まれる(本誌p.32図を参照)。サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬は高尿酸血症を増長し、痛風を誘発することがあるため注意が必要である。Ca拮抗薬とロサルタンは高血圧患者の痛風発症リスクを減少させることが知られている17)。大量のβ遮断薬およびαβ遮断薬の投与は血中尿酸値を上昇させる。ACE阻害薬、Ca拮抗薬、α遮断薬は血清尿酸値を低下させるという報告と、影響を与えないとする報告がある。ARBの1つであるロサルタンは、腎尿細管に存在するURAT1の作用を阻害することによって血中尿酸値を平均0.7mg/dL低下させる18, 19)。重症高血圧患者におけるβ遮断薬のアテノロールに対するロサルタンの標的臓器保護作用の有意性を示したLIFEでは、ロサルタンの降圧を超えた臓器保護作用のうち29%は尿酸値の改善によることが示唆されている11)。最近使用頻度が増えているARB/利尿薬合剤には、ヒドロクロロチアジド6.25mgまたは12.5mgが使用されているが、尿酸管理の観点からはより低用量の製剤を使用するか、尿酸排泄増加作用を有するARBであるロサルタンを含む合剤の使用が望ましい。高血圧合併高尿酸血症患者の病型は排泄低下型が多いことから、ベンズブロマロンなどURAT1阻害薬が有用であることが多い。キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールは、これまで唯一の尿酸生成抑制薬として40年間にわたり全世界で用いられてきた。しかしアロプリノールの活性代謝産物であるオキシプリノールは腎排泄性であり、血中半減期が長く体内に蓄積しやすいため、腎機能障害ではオキシプリノールの血中濃度が上昇し20)、汎血球減少症などの重篤な副作用の出現に関係するとされる。高血圧患者には腎機能低下を合併する症例が多いためアロプリノール使用に関してはこの点に注意が必要である。本邦において2011年から臨床使用可能となったフェブキソスタットは、肝腎排泄型であるため腎機能障害者においても用量調節が不要であるとされている。おわりに高尿酸血症が高血圧発症や心血管疾患のリスク因子であるというエビデンスが蓄積されてきている。高血圧診療の場では、糖尿病や脂質異常症などの既知のリスクに加えて、尿酸値も意識して総合的な管理を行うことが求められている。文献1)Choi HK et al. Prevalence of the metabolic syndrome in individuals with hyperuricemia. Am J Med 2007; 120: 442-447.2)宮田恵里ほか. 高血圧患者における高尿酸血症の実態と尿酸動態についての検討. 血圧 2008; 15: 890-891.3)Grayson PC et al. Hyperuricemia and incident hypertension: a systematic review and meta-analysis. Arthritis Care Res 2011; 63: 102-110.4)Feig DI et al. Effect of allopurinol on blood pressure of adolescents with newly diagnosed essential hypertension: a randomized trial. JAMA 2008; 300: 924-932.5)大野岩男. 高血圧のリスクファクターとしての尿酸. 高尿酸血症と痛風 2010; 18: 31-37.6)Mazzali M et al. Elevated uric acid increases blood pressure in the rat by a novel crystal-independent mechanism. Hypertension 2001; 38:1101-1106.7)Sanches-Lozada LG et al. Mild hyperuricemia induces vasoconstriction and maintains glomerular hypertension in normal and remnant kidney rats. Kidney Int 2005; 67: 237-247.8)Watanabe S et al. Uric acid, hominoid evolution,and the pathogenesis of salt-sensitivity. Hypertension 2002; 40: 355-360.9)Johnson RJ et al. 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