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「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」5年ぶりの改訂

CKD診療ガイドラインが全面改訂 日本腎臓学会は6月、5年ぶりの改訂となる「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」を発行した。今回は専門医だけではなく、かかりつけ医や非専門医の利用を想定して制作されており、全面改訂する際に「CKD診療ガイド2012」と「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」を一元化させている。 前回同様、全章がクリニカルクエスチョン(CQ)形式の構成。CKD診療ガイドライン2018の主な改訂ポイントとして“STOP-DKD宣言”で注目を集めた、糖尿病性腎臓病(DKD)が章立てられているほか、高血圧・心血管疾患(CVD)、高齢者CKDについても詳しく取り上げられている。CKD診療ガイドラインの役割 本ガイドラインはすべての重症度のCKD患者を対象とし、診療上で問題となる小児CKDの特徴と対処法、CKD患者の妊娠時についても簡潔に記載されている。ただし、末期腎不全(ESKD)に達した維持透析患者や急性腎障害(AKI)患者は除外されているため、必要に応じて他のガイドラインを参照する必要がある。本来であれば病診連携が必要とされる疾患だが、本ガイドラインは専門医が不在とする地域での、かかりつけ医によるCKD診療のサポートに配慮した構成となっている。CKD診療ガイドライン2018では75歳以上は150/90mmHg未満を推奨 CKD診療ガイドライン第4章の「高血圧・CVD」では、血圧基準値を「糖尿病の有無」「尿蛋白の有無(軽度尿蛋白[0.15g/gCr]以上を尿蛋白ありと判定)」「年齢(75歳で区分)」の3つのポイントで定めている。・75歳未満の場合 CKDステージを問わず、糖尿病および尿蛋白の有無で判定 糖尿病なし:尿蛋白(-)140/90mmHg未満、尿蛋白(+)130/80mmHg未満 糖尿病あり:尿蛋白(+)130/80mmHg未満・75歳以上の場合 糖尿病、尿蛋白の有無にかかわらず150/90mmHg未満 起立性低血圧やAKIなどの有害事象がなければ、140/90mmHg未満への降圧を目指すが、80歳以上の120/60mmHg以下での管理において、Jカーブ現象が見られたという研究報告もあることから過降圧への注意も提案されている。CKD診療ガイドライン2018では高齢者への対応に変化 CKD診療ガイドライン第12章「高齢者CKD」では、高齢者CKDの年齢が“75歳以上”と改訂されており、これは2017年に日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループ において、「75歳以上を高齢者」と定義付けたことが反映されている。また、同章にはフレイルに対する介入のCQが盛り込まれており、これは厚生労働省が今年度より本格実施を始めた「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進」に沿った改訂であることが伺える。DKDの推奨検査項目と管理目標値 CKD診療ガイドライン第16章「糖尿病性腎臓病(DKD)」では4つのCQが挙げられており、「尿アルブミン尿の測定」「浮腫を伴うDKDへのループ利尿薬投与」「HbA1c7.0%未満」「集約的治療」を推奨している。とくに血管合併症の発症・進行抑制ならびに総死亡率抑制のために集約的治療が重要とされ、以下の管理目標値を推奨としている。・BMI 22(生活習慣の修正[適切な体重管理、運動、禁煙、塩分制限食など])・HbA1c7.0%未満(現行のガイドラインで推奨されている血糖)・収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満・LDLコレステロール120mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl、中性脂肪150mg/dl未満(早朝空腹時) ただし、「多因子の厳格な治療を推奨することで、投与薬剤数の増加や薬剤に関連する低血糖、過降圧、浮腫、高カリウム血症などのリスクが高まることにも注意が必要であり、適切なモニタリングと患者背景や生活環境を十分に勘案するように」といった注意事項も明記されている。PKD病診連携の架け橋に 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は透析導入原因の第4位となる疾患であるが、指定難病のため腎臓専門医・専門医療機関への紹介が必要となる。CKD診療ガイドライン第17章-3には、かかりつけ医による診療ポイントとして「脳動脈瘤」「トルバプタンによる治療」「血圧管理」について記載されているが、詳細については「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2017」を参照とされている。今後の方針 今後の方針として「同改訂委員会が継続しメディカルスタッフや患者を利用者に想定したCKD療養ガイド2018を作成、出版する」と記され、医療者と患者が一体となって治療に取り組むことで、透析導入予防や医療費抑制につながることが期待される。

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DKDの意義とは―腎臓専門医からの視点

 5月24日から3日間にわたって開催された、第61回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:宇都宮 一典)において、日本腎臓学会・日本糖尿病対策推進会議合同シンポジウムが行われ、岡田 浩一氏(埼玉医科大学腎臓内科 教授)が「糖尿病性腎臓病DKDの抑制を目指して」をテーマに講演した。なぜ、DKD(糖尿病性腎臓病:Diabetic Kidney Disease)? 日本糖尿病学会と日本腎臓学会の両理事長による“STOP-DKD宣言”の調印から7ヵ月が経過した。しかし、「現時点ではまだ十分に市民権を得た概念ではない」と、岡田氏は腎臓専門医の立場から日本でのDKDの意義を示した。 同氏によると「海外では2013年頃から“DKD”の概念が広まっており、現在、国際学会ではヒトの糖尿病関連腎症を示す病名としてDN(diabetic nephropathy:糖尿病性腎症)を使用していない。そのため、日本ではDN、海外ではDKDが使用される、いわばダブルスタンダードの状況である。国際間の情報収集・交換を考慮すると疾患概念を輸入する必要があるため、2学会の承認を得て決定した」とDKDの概念の発足理由を説明した。日本人の病態推移 日本人の2型糖尿病患者の40%以上は微量アルブミン以上の所見を有する糖尿病腎症であり、その中で高血圧性腎症(HN)の病態に類似の、アルブミン尿が顕性化せずにeGFRが低下する非典型的な経過をたどる症例が増加している。また、透析導入率で見ると、1998年以降年々増加し、現在は横ばいの推移を示しているが、高血圧を原因とする腎硬化症による透析導入は徐々に増加傾向である。さらに、性別、年齢別の経年変化のグラフ1)によれば、女性は85歳未満のすべての年代において糖尿病による透析導入率は低下しており、85歳以上では横ばいである。一方、男性は80歳未満では低下傾向であるが、80歳以上は増加傾向というデータが報告されている。これを踏まえ、同氏は「2型糖尿病患者の男性透析導入者は人口構成上、今後も増えることが予想されるため、重要なターゲット」と注意を促した。DKD疾患とその対策法とは 近年はRA系阻害薬の使用率が上昇し、それに伴う腎保護作用の恩恵を受けている。しかしその結果、アルブミン尿が検出されなくても腎機能が低下している症例が増えているのも事実である。これに同氏は「アルブミン尿をしっかり下げているにもかかわらずGFRが低い人が増えていることを考えると、集約的治療の網の目をくぐり抜けて腎不全に陥る糖尿病患者がおり、しかも高齢化や罹病期間の延長も関与している可能性がある」と現在の人口構成を踏まえた集約的治療の在り方と検査方法について危惧した。 このような症例を減らすためには現在の概念であるCKDやDNだけでは収まりきらないため、両学会は米国から広まったDKDの概念の国内普及に努めている。 同氏は6月に発刊される「CKD診療ガイドライン2018」に掲載予定のDKDの概念図を用い、「“DKD”とは典型的な糖尿病腎症+非典型的(顕性アルブミン尿を伴わずにGFRが落ちていく症例)で、その発症進展に糖尿病が関わっている腎症の包括的な疾患概念」と説明。また、「“CKD with DM(糖尿病合併CKD)”はさらに広い包括的な疾患概念として、海外では2014年頃から整理された疾患概念である。現在、これはDKD+非糖尿病関連CKD(多発嚢胞腎やIgA腎症のような独立したCKD)として理解されるようになった」と解説した。DKDに対する検査 次に同氏は、既存検査に加えて、新しい画像検査法であるBOLD MRIについて提唱した。顕性アルブミン尿を伴わずeGFRが低下している症例の腎生検では、典型的な糖尿病性糸球体硬化症と細動脈硬化が混在している所見が観察されることから、早い段階から腎硬化症と糖尿病の糸球体病変が合併しており、これが非典型的な糖尿病関連腎症の組織学的な特徴ではないか」という仮説を紹介した。顕性微量アルブミンが検出されないまま腎機能の低下をきたした原因には腎組織の虚血の関与が想定され、「このような症例に対し、尿アルブミンの定量に加えてeGFRの測定が重要であり、加えて腎臓の酸素化を可視化できるBOLD MRIなどの新しい検査法の開発・導入を推進すべき」とコメントした。DKDによる診療意図拡大へ J-DOIT3試験の応用が、より良い臓器合併症抑制効果に結びつくことを踏まえ、同氏は「これには多職種からなるチームでの介入が重要であり、そのためには、かかりつけ医から専門医への適切な紹介が必要となる。これを推進するため、両学会において紹介基準が作成された2)」と述べ、「この際、アルブミン尿とGFRを定期的に測定してもらうことが大前提となる」と適切な紹介のための注意点を伝えた。 最後に同氏は「ただし、DKDの中には、集約的治療では抑え込めない非典型的な糖尿病関連腎症が含まれている。この顕性アルブミン尿を伴わない腎症の病態解明と新しい管理・治療法の開発という2つの学会をあげての取り組みを促進すること、これが今、DKDの定義を発信する目的である」と締めくくった。

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透析医療の新たなる時代

 2018年5月22日にバクスター株式会社主催のプレスセミナーが開催された。今回は『変革期を迎える透析医療~腹膜透析治療の可能性とQOLを高める「治療法決定プロセス」の在り方とは~』と題し、日本透析医学会理事長 中元 秀友先生(埼玉医科大学病院 総合診療内科 教授)が登壇した。なぜ腹膜透析が浸透しないのか 人工透析患者は2016年時点で32万9,609人に上り、新規透析導入患者は3万9,344人と報告されている。血液透析(HD)導入が増加する一方、他国と比較して日本の腹膜透析(PD)導入率は2.7%と、PDの普及率は世界でも最低レベルである。 PDはHDと比較すると残存腎機能維持、QOL維持、患者満足度が良好であるのに対し、透析効率や除水効率の低さ、継続可能年数が短いことが問題点として挙げられる。なかでも一番の問題点として、「腹膜透析の専門家(医師、看護師)が少ないこと」「患者にとって十分な情報提供の不足」を中元氏は強調した。日本の透析技術に高い評価 「血液透析患者の治療方針と患者予後についての調査(DOPPS)」によると、日本は米国に次いで患者登録数が多く、現在は第7期調査が進められている。 世界12ヵ国の7,226名の透析患者を対象としたDOPPS(第4期調査)研究からの報告では、日本人1人当たりの透析期間は平均8.76年と参加国で最も長いと記されている。それにもかかわらず患者の活動状況の指標であるFunctional Status (FS)が最も良好であるのは、“日本の医療技術が優れ、シャントが計画的に作成される結果、透析導入も計画的に行われているため”とも報告されている。その他にも“保険制度が優れ、透析導入時の金銭的負担が少ない”というメリットがあり、「すべての患者が良好な血液透析を受けることができる。本邦の血液透析の成績が極めて良いことは誇るべきことであるが、これがPDの普及の足かせになっている可能性もある」と中元氏は語った。透析医療の変革期 2000年以降PD液は中性透析液となり、腹膜への侵襲性は大きく改善した。また、ブドウ糖に代わるものとしてイコデキストリンが登場し、緩衝剤へ重曹が使用されるようになったため、より生体に適合する透析液が発売されるようになった。中性液の有用性については、「中性液でEPSの発症率をみたNEXT-PD試験」において、EPSの発症を以前の研究と比較して約1/3まで抑えることが報告されている。 中元氏は、このように腹膜透析の医療技術が飛躍的に躍進しているものの「患者への情報に偏り」があることを、これまでのアンケート結果(全腎協、腎臓サポート協会)から指摘した。2008年の全腎協のアンケートでは「血液透析開始前の患者の6割が、さらに透析開始後も4割の患者は腹膜透析を知らなかった」と報告されている。また腎臓サポート協会の「治療法は医師が決定しそれに従った患者が半数以上だが、実際は、85%の患者が治療法を自身で決定したいと考えている」という結果から、今後、医療従事者の認識不足を解決し、患者がもっと治療の意思決定に参加できる態勢が必要であると説明した。在宅診療や労働人口の社会復帰に寄与 国としても適切な腎代替療法推進を目指している。平成30年度診療報酬改定では、糖尿病性腎症からの透析導入者抑制のため「糖尿病透析予防指導管理料」の対象患者の拡大や、療法選択への診療報酬加算の充実、特に腹膜透析や腎移植の推進評価として「腎代替療法実績加算 100点」算定が開始された。 高齢患者の在宅治療の推進、地域包括ケアの重要性が言われており、高齢者が社会生活を維持しながら透析治療を継続するためにはPDの普及が急がれる。今回、バクスターより発売された自動腹膜用灌流装置「ホームPDシステム かぐや」は医療従事者による遠隔操作により、さらに身近な在宅治療が実現可能となった。また、通院回数を減らすことが可能であり、就業への支障が少なく社会に対する疎外感の抑制にもメリットがある。 最後に中元氏は、「今後はこのシステムに大病院だけが関与するのではなく、在宅治療が増えていくことを見据え、中小病院やクリニックとの連携が重要となる」ことを強調し、PDは地域連携に考慮した治療法であるとPDの普及に期待を示した。■参考バクスターニュースリリース日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況DOPPS

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第4回 育児をする医師は負け組?【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第4回 育児をする医師は負け組?ある日の当直中、急性心筋梗塞と判明した外来患者を前に、私は循環器内科のオンコール医師へ急いで電話をかけました。受話器の向こうでは、幼い子供の大きな泣き声が聞こえます。独身の私には事態の深刻さがピンときませんでした。「ああ、分かった、AMIね・・・。今さ、子供を風呂に入れているけど、すぐに行く。○○先生に連絡して、カテの準備を病棟スタッフに頼んで」数十分後、風呂上がりで紅潮した顔の先輩医師が到着すると、長めの髪も乾ききらないまま、心臓カテーテル室へと走って行きました。あれから10年以上が経ち、毎晩、幼い子供たちをお風呂に入れながら、この瞬間にオンコールで呼び出されることが、切実な問題として分かるようになりました。もし妻が不在であったり対応できない時間帯であれば、誰かの助け無しには、夜遅くに子供たちを置いて、病院へ駆けつけることは不可能です。親が慌てて出かける事情が理解できない彼らは大泣きし、相当に厳しい状況となるでしょう。勤務医生活をふり返ると、腎臓内科医が1人体制だった民間病院での7年間は、24時間オンコール体制が毎日続きました。大学や基幹病院よりも呼び出しが少ないとはいえ、朝5時に病棟急変の連絡が入る、深夜1時に緊急透析の判断を問われるといった立場は、精神的に苦しい環境でした。そこに育児が加われば、やっと夜泣きがおさまった子供をオンコールの着信で起こされてしまう。不意の電話は、幼児にとっては恐怖でもあります。「何を軟弱なことを言ってる! それが医者だろう!」という意見もあるかと思いますが、私の父方は100年以上の医師家系で、とくに父が外科医の多忙な日々を送り、オンコールや当直が続き、早々に家庭が崩壊した事実をお伝えしておきます。家族を犠牲にして働くことが、本当に医師の美徳なのか。父親が週末さえもいない中で、母親が「患者さんのために、パパは病院へ行ったんだよ」と言う意味は、高校生になっても理解できませんでした。しかし父と同じく医師になってみると、院内に長時間いる先生が素晴らしい、というデファクト・スタンダード的な見方が、まだあちこちにありました。長時間労働をいとわず、急変時は昼夜を問わずに駆けつけ、床やソファで仮眠を取れば超人的なパフォーマンスを発揮する医師。たびたび身体を壊しつつ、そのような望まれる医師像に挑んできて、「長続きしようがない」というのが私なりの結論です。肉体の老化は年々進み、我が身を満足にメンテナンスできない環境では、医師なりの思考回路も鈍っていく。猛烈なプレッシャーは心身の余裕も破壊します。そして、育児という連続的で多大な負荷は、自宅内での実労働として重くのしかかります。幼い子供は機嫌も体調もグズりも、常に変わり続ける。親の思うとおりにはならないし、真夜中に抱っこしてもずっと泣かれ続ければ、大人の我慢も限界にきてしまう。他人からは見えない修羅場を毎日抱えながら、ハードな医師業も年々レベルアップしろというのは、結構な無茶ぶりでしょう。育児をしている医師、とくに女性は、フルタイム勤務を続けにくい。これは他のビジネスでも同様ですが、最近は多様な支援や代替策を探すことが可能となりつつあります。人員の手当や勤務環境の調整など、医師業よりはかなり柔軟に対応できているのではないでしょうか。育児中の女性社員に優秀なパフォーマンスを発揮してもらうための経営施策は、ハードワーク男性を主戦力としてきた医師業界と比べて、明らかに進歩しているように感じます。けれども、働き方改革における先送りのように、公的な任務を背負う医師業界では、個人の状況は後回しにして、社会的な貢献度合いが優先されやすい。メディア業界で白衣を着用せずに働いてみると、世間一般の理解も医療界としての内部対策も、ともに“不足しっぱなし”であると痛感します。女性に対する「こんなときに妊娠なんて」という言葉は、医師業界でも蔓延するハラスメント行為ですが、きっと今日もどこかで実際に起こっているはず。新卒医師の3分の1以上が女性である時代にもかかわらず、毎日の育児に対する支援や理解、さらに先達たちの発言は不十分です。「忙しくて育児なんて全然しなかったけど、子供たちは奥さんが頑張って育ててくれた」という丸投げ談は、この発想を若い医師へ当てはめること自体、現代のハラスメントになりかねません。ましてや、育児をしている医師はキャリアの負け組だ、というひそかな認識も、医師の働き方が改善しない重大な要因ではないでしょうか。育児はもうひとつの無償労働である。だが、将来の日本を支える人材を懸命に育てる重要な責務でもある。―「オートマチックな育児などない」という声をもっと大きく取り上げ、医師業界に横たわる育児軽視を短期に好転させていくことが、今こそ重要です。

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身体能力低下の悪循環を断つ診療

 2018年4月19~21日の3日間、第104回 日本消化器病学会総会(会長 小池 和彦氏[東京大学医学部消化器内科 教授])が、「深化する多様性~消化器病学の未来を描く~」をテーマに、都内の京王プラザホテルにおいて開催された。期間中、消化器領域の最新の知見が、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップなどで講演された。 本稿では、その中で総会2日目に行われた招請講演の概要をお届けする。フレイル、サルコペニアに共通するのは「筋力と身体機能の低下」 招請講演は、肝疾患におけるサルコペニアとの関連から「フレイル・サルコペニアと慢性疾患管理」をテーマに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)を講師に迎えて行われた。 はじめに高齢者の亡くなる状態を概括、いわゆるピンピンコロリは1割程度であり、残りの高齢者は運動機能の低下により、寝たきりなどの介護状態で亡くなっていると述べ、その運動機能の低下にフレイルと(主に一次性)サルコペニアが関係していると指摘した。 フレイルは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表し、要介護状態に至る前段階として位置付けられている(ただし、可逆性はあるとされる)。また、サルコペニアは「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義される。両病態はお互いに包含するものであり、とくに筋力と身体機能の低下は重複する。フレイル、サルコペニアは世界初のガイドラインなどで診療 診療については、『フレイル診療ガイド 2018年版』と『サルコペニア診療ガイドライン 2017年版』が世界で初めて刊行され、詳しく解説されている(消化器領域では『肝疾患におけるサルコペニアの判定基準』により二次性サルコペニアの診療が行われている)。 フレイルの診断は、現在統一された基準はなく、一例として身体的フレイルの代表的な診断法と位置付けられている“Cardiovascular Health Study基準”(CHS基準)を修正した日本版CHS(J-CHS)基準が提唱され、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち3つ以上の該当でフレイルと判定される。スクリーニングでは、質問形式で要介護認定ともシンクロする「簡易フレイルインデックス」など使いやすいものが開発されている。 一方、サルコペニアも同様に統一基準はないが、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア人向けの診断基準が作られ、年齢、握力、歩行速度、筋肉量により診断されるが、歩行速度など、わが国の実情に合わない点もあり注意が必要という(先の二次性サルコペニアの診断ではCT画像所見による筋肉量の測定がある)。 また、両病態とも筋肉量の測定など容易ではないが、外来で簡単にできる「指輪っかテスト」なども開発され、利用されている。 治療に関しては両病態ともに、レジスタンス運動を追加した運動療法や、十分な栄養を摂る栄養療法が行われる。詳細は先述のガイドラインなどに譲るが、「タンパク質」の摂取を例に一部を概略的に示すと、慢性腎不全の患者では腎臓機能維持の都合上、タンパク質の摂取が制限されるが、その制限が過ぎるとサルコペニアに進んでしまう。そのため、透析に進展させない程度のタンパク質の摂取を許すなど、患者のリスクとベネフィットを比較、検討して決めることが重要という。薬剤が6種類を超えるとハイリスク 続いて「ポリファーマシー」に触れ、ポリファーマシーはフレイルの危険因子であり、薬剤数が6種類を超えるとハイリスクになると指摘する(5種類以上で転倒のリスクが増す)。また、6種類以上の服用はサルコペニアの発症を1.6倍高めるというKashiwa studyの報告を示すとともに、広島県呉市のレセプト報告を例に85~89歳が一番多くの薬を服用している実態を紹介した。 消化器領域につき、「食欲低下」では非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下薬などが、「便秘」では睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、三環系抗うつ薬などが、「ふらつき・転倒」では降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬などが関係すると考えられ、「高齢者への処方時は、優先順位を決めて処方し、非専門領域についても注意してほしい」と語った。とくに「便秘」は抗コリン薬が原因になることが多いという。また、「GERD」についてはH2ブロッカーが認知機能を低下させる恐れがあるため注意が必要であり、第1選択薬のPPIでも漫然とした長期使用は避けるなど、必要に応じた使い方が望ましいという。 まとめとして、高齢者の生活改善では「規則正しい食事」「排泄機能の維持」「適切な睡眠習慣」が大切で、とくに「食事は服薬のアドヒアランス維持のためにも気を付けてもらいたい」とその重要性を指摘した。最後に秋下氏は「フレイル、サルコペニアは、身体的な負の悪循環を形成することを理解してもらいたい」と述べ、レクチャーを終えた。■参考第104回 日本消化器病学会総会■関連記事ニュース 初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

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医師の政治信条、終末期治療に影響を及ぼすか/BMJ

 米国では、医師の政党支持は、全国規模の医療施策に関する見解の違いと関連することが知られている。米国・ハーバード大学医学大学院のAnupam B. Jena氏らは、医師の政党支持と入院患者への終末期治療の関連を検討し、支持政党の違いは終末期の支出や強化終末期治療の施行状況などに影響を及ぼさないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2018年4月11日号に掲載された。医師の政党支持は、二極化した医療上の争点を反映した仮想的な臨床シナリオにおいて、治療の推奨と関連するとの報告があるが、医師の政治信条の終末期の治療への影響は、これまで知られていないという。支持政党別の終末期治療の違いを後ろ向きに検討 研究グループは、メディケア加入の入院患者への内科医による終末期治療を、支持政党別(共和党、民主党)に後ろ向きに比較する観察研究を行った(外部からの助成は受けていない)。 2008~12年の期間に、一般的な病態で入院し、その後病院で、または退院後早期に死亡したメディケア加入者のデータを収集した。 病院で死亡した患者および退院後にホスピスを紹介されたが30日以内の死亡リスクが高いと予測された患者における、総入院費、集中治療室の使用、強化終末期治療(挿管・人工呼吸器装着、気管切開、胃瘻管挿入、血液透析、経腸栄養、心肺蘇生)を主要アウトカムとした。医師は、連邦政治献金データを用いて共和党支持、民主党支持、支持政党なしに分類された。 解析の対象となった148万808例のうち、9万3,976例(6.3%)が1,523人の民主党を支持する医師に、5万8,876例(4.0%)が768人の共和党支持の医師に、132万7,956例(89.6%)は2万3,627人の支持政党なしの医師による治療を受けた。 5万1,621例(3.5%)が病院で死亡した。退院後30日、60日、90日以内の死亡は、それぞれ14万8,457例(10.0%)、21万1,604例(14.3%)、25万4,856例(17.2%)だった。早期死亡リスクの高い患者のホスピス入所率にも差はない 患者の人口統計学的および臨床的な背景因子は3群間でほぼ同様であった。平均年齢は、民主党支持の医師の治療を受けた患者が74.4歳、共和党支持の医師の治療を受けた患者は75.3歳(p=0.002)で、女性がそれぞれ58.8%、60.2%(p=0.002)、白人が80.1%、83.3%(p=0.002)であり、主な慢性疾患では高血圧が89.2%、90.2%(p=0.002)、急性心筋梗塞が68%、69.4%(p=0.03)などと有意な差がみられたものの、その差はわずかであり、一定の方向性もないため、重大な交絡因子となる可能性はないと考えられた。 民主党支持の医師は共和党支持の医師に比べ、平均年齢が若く(48.8 vs.51.0歳、p<0.001)、女性が多く(24.6 vs.14.7%、p<0.001)、米国の医学校の上位20校の卒業生が多かった(14.8 vs.6.4%、p<0.001)。支持政党なしの医師は、支持政党ありの医師に比べ平均年齢が若く(43.0歳、p<0.001)、女性が多く(36.8%、p<0.001)、上位20校の卒業生が少なかった(5.7%、p<0.001)。 患者の共変量と病院別の固定効果で調整後の終末期の平均支出は、民主党支持の医師が1万7,938ドル(1万2,872ポンド、1万4,612ユーロ、95%信頼区間[CI]:1万7,176~1万8,700ドル)、共和党支持の医師は1万8,409ドル(95%CI:1万7,362~1万9,456)であり、補正後群間差は472ドル(95%CI:-803~1,747ドル、p=0.47)と、有意な差は認めなかった。 病院で死亡した患者における終末期の集中治療室の使用(民主党支持の医師:52.5% vs.共和党支持の医師:54.6%、p=0.22)および強化終末期治療(38.0 vs.40.6%、p=0.14)には、医師の支持政党の違いによる差はみられなかった。 退院後にホスピスに入所した患者の割合にも、医師の支持政党による差はなかった。たとえば、退院後30日以内の予測死亡リスクが高い上位5%の患者7万4,048例の補正後ホスピス入所率は、民主党支持の医師の患者が15.8%、共和党支持の医師の患者が15.0%、支持政党なしの医師の患者は15.2%であった(民主党支持と共和党支持の補正後群間差:-0.8%、95%CI:−2.7~0.9%、p=0.43)。 著者は、「医師の政治的な好みによる、外来患者や、医療に関する政治的議論のある他の領域への影響を理解するために、さらなる検討を要する」としている。

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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理髪店で薬剤師が降圧介入、血圧値大幅に低下/NEJM

 黒人が経営する理髪店で、顧客のコントロール不良高血圧の黒人男性に対し、専門的訓練を受けた薬剤師が、顧客の医師と協力して降圧治療を行った結果、半年後の収縮期血圧値が大幅に低下したことが示された。米国・シダーズ・サイナイ医療センターのRonald G. Victor氏らが、黒人経営の理髪店52ヵ所を通じて高血圧症の黒人319例を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果で、NEJM誌オンライン版2018年3月12日号で発表された。非ヒスパニック系黒人のコントロール不良高血圧は重大な問題とされているが、従来のヘルスケア設定での薬剤師介入試験では、そうした人々が対象集団に含まれる割合が実際よりも少ないという課題があった。6週間に1回以上理髪店に来る上顧客を対象に試験 研究グループは、黒人が経営する理髪店52ヵ所の顧客で、収縮期血圧値が140mmHg以上の35~79歳の黒人男性319例を対象に試験を行った(女性と透析および化学療法を受けている顧客は除外)。被験者は、半年以上にわたり6週間に1回以上の頻度で散髪に来ている上顧客だった。 検討では理髪店を無作為に2群に分け、一方では理容師が被験者に対し、店内での薬剤師による定期的な面談を推奨。薬剤師は高血圧症の治療に関する特別な訓練を受け、被験者の医師と協力して処方薬治療を行った(介入群)。また、薬剤師は理髪店で定期的に患者と面談をし、血圧測定やライフスタイルの改善についても指導を行った。 もう一方の群では、訓練を受けた理容師が、被験者に対しライフスタイルの改善や医師の診察を勧めた(対照群)。 主要評価項目は、6ヵ月後の収縮期血圧値の低下だった。半年後の収縮期血圧値低下幅の差は21.6mmHg 被験者のベースラインの収縮期血圧値は、介入群が平均152.8mmHg、対照群が平均154.6mmHgだった。 6ヵ月時点で、対照群の平均収縮期血圧値は145.4mmHgと、平均9.3mmHg低下したのに対し、介入群の平均収縮期血圧値は125.8mmHgと平均27.0mmHg低下した。平均低下幅の群間差は、21.6mmHg(95%信頼区間[CI]:14.7~28.4、p<0.001)だった。 収縮期/拡張期血圧値が130/80mmHg未満を達成した人の割合も、対照群が11.7%だったのに対し、介入群は63.6%と有意に高率だった(p<0.001)。 なお、介入群の継続率は95%で、有害事象は急性腎不全が3例で認められた。

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CKDの高齢心房細動患者への抗凝固薬投与は?/BMJ

 慢性腎臓病(CKD)があり心房細動を呈した高齢者への抗凝固薬の投与で、虚血性脳卒中や脳・消化管出血リスクはおよそ2.5倍増大し、一方で全死因死亡リスクは約2割低減することが示された。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのShankar Kumar氏らが、約273万人分の患者データベースを基に、傾向スコア適合住民ベースの後ろ向きコホート試験を行い明らかにした。現状では、透析不要のCKDで心房細動を呈した高齢患者について、信頼性の高い臨床ガイドラインや無作為化比較試験はないという。同研究グループは今回の逆説的な結果を受けて、「こうした患者を対象にした、適切な規模の無作為化試験の実施が急務である」と提言している。BMJ誌2018年2月14日号掲載の報告。CKDで心房細動の診断を受けた約7,000例を調査 研究グループは2006年1月~2016年12月にかけて、イングランドとウェールズの110ヵ所の一般診療所に通院する約273万人分を収載する、The Royal College of General Practitioners Research and Surveillance Centreのデータベースを基に検討を行った。このうち、推定糸球体濾過量(eGFR)が50mL/分/1.73m2未満のCKDで、新たに心房細動の診断を受けた、65歳以上の6,977例を対象にコホート試験を行った。 心房細動の診断後60日以内の抗凝固薬の処方と、虚血性脳卒中、脳・消化管出血、全死因死亡率の関連について評価した。抗凝固薬処方で死亡リスクは0.82倍に 心房細動の診断を受けた6,977例のうち、診断後60日以内に抗凝固薬を処方されたのは2,434例、処方されなかったのは4,543例だった。傾向スコアマッチングを行った2,434組について、中央値506日間追跡した。 抗凝固薬を処方された患者において、虚血性脳卒中の補正前発生率は4.6/100人年、脳・消化管出血は同1.2/100人年だった。これに対して、非処方の患者では、それぞれ1.5/100人年、0.4/100人年だった。 虚血性脳卒中発生に関する、抗凝固薬処方患者と非処方患者を比較したハザード比は2.60(95%信頼区間[CI]:2.00~3.38)、脳・消化管出血の同ハザード比は2.42(同:1.44~4.05)と、処方患者における増大が認められた。一方で、全死因死亡に関する同ハザード比は0.82(同:0.74~0.91)と、処方患者で低かった。

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重炭酸Naとアセチルシステインに造影剤腎症の予防効果なし(中川原譲二氏)-814

 血管造影関連の造影剤腎症を予防する目的で、欧米では、重炭酸Naの静脈投与やアセチルシステインの経口投与が行われているが、「PRESERVE」試験では、血管造影を受ける腎合併症発症リスクが高い患者において、これらの薬剤投与はいずれも、死亡や透析、血管造影に関連した急性腎障害の予防に寄与しないことが示された(NEJM. 2017 Nov 12.)。90日後の全死亡、透析の実施、血清Cr値50%以上の上昇の複合評価項目で比較 「PRESERVE」研究グループは2013年2月~2017年3月にかけて、血管造影が予定されている腎合併症発症リスクが高い患者5,177例を対象に試験を行った。被験者を無作為に4群に分け、二重盲検2×2要因プラセボ実薬対照法にて、1.26%重炭酸Naまたは0.9%生食の静脈投与、5日間のアセチルシステインまたはプラセボの経口投与を受けるように無作為に割り付けた。被験者のうち4,993例についてintention-to-treat解析を行った。主要評価項目は、90日後の死亡・透析の実施・ベースラインから50%以上の血清クレアチニン値上昇の複合評価項目とした。血管造影関連の急性腎障害の発生は、副次評価項目とした。主要評価項目、副次評価項目(急性腎障害)ともに群間差なし 事前に規定した中間解析後に、本試験はスポンサーの判断で中止された。重炭酸Naとアセチルシステインについては、主要評価項目の発生との間に関連は認められなかった(p=0.33)。主要評価項目の発生率は、重炭酸Na群4.4%(2,511例中110例)に対し、生食群4.7%(2,482例中116例)だった(オッズ比[OR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.72~1.22、p=0.62)。また、同発生率はアセチルシステイン群4.6%(2,495例中114例)に対し、プラセボ群4.5%(2,498例中112例)だった(OR:1.02、95%CI:0.78~1.33、p=0.88)。血管造影関連の急性腎障害の発生率についても、群間差は認められなかった。 本研究では、血管造影を受ける腎合併症発症リスクが高い患者に対する重炭酸Naの静脈投与による腎機能の維持やアセチルシステインの経口投与による解毒は、いずれも、死亡や透析、血管造影に関連した急性腎障害の予防に寄与しないことが示された。一方、本研究において使用された造影剤の種類については、56~57%の患者に浸透圧が生食対比:約1の非イオン性等浸透圧造影剤イオジキサノール(商品名:ビジパーク)、43~44%の患者に浸透圧が生食対比:2~4の低浸透圧造影剤が投与されたとされているが、両者での主要評価項目や副次評価項目の違いについては記載されていない。血管造影関連の造影剤腎症の発症については、生理的により安全な造影剤の使用によって、予防する視点も重要と思われる。

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重炭酸Naとアセチルシステインに造影剤腎症の予防効果なし/NEJM

 血管造影を受ける腎合併症発症リスクが高い患者において、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)や塩化ナトリウムの静脈投与単独、または経口アセチルシステインの投与は、いずれも死亡や透析、血管造影に関連した急性腎障害の予防に寄与しないことが示された。米国・ピッツバーグ大学のSteven D.Weisbord氏らが、5,177例を対象に行った2×2要因デザインの無作為化試験「PRESERVE」の結果で、NEJM誌オンライン版2017年11月12日号で発表された。現状では、これらを投与する効果に関してエビデンスが乏しいまま、血管造影後の急性腎障害や有害アウトカム予防を目的とした、炭酸水素ナトリウム静注や経口アセチルシステイン投与が広く行われているという。90日後の全死因死亡、透析、クレアチニン値上昇の複合エンドポイントを比較 研究グループは2013年2月~2017年3月にかけて、米国(35ヵ所)、オーストラリア(13ヵ所)、マレーシア(3ヵ所)、ニュージーランド(2ヵ所)の計53ヵ所の医療機関を通じて、血管造影が予定されている腎合併症発症リスクが高い患者5,177例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に4群に分け、二重盲検2×2要因プラセボ実薬対照法にて、1.26%炭酸水素ナトリウムまたは0.9%塩化ナトリウムの静脈投与、5日間のアセチルシステインまたはプラセボの経口投与を受けるよう無作為に割り付けた。被験者のうち4,993例についてintention-to-treat解析を行った。 主要エンドポイントは、90日時点の全死因死亡・透析の実施・ベースラインから50%以上の血清クレアチニン値上昇の複合とした。副次評価項目は、血管造影関連の急性腎障害の発生などだった。主要エンドポイント、急性腎障害ともに群間差なし 事前に規定した中間解析後に、本試験はスポンサーの判断で中止された。 炭酸水素ナトリウムとアセチルシステインの間に、主要エンドポイントの発生について、関連は認められなかった(p=0.33)。具体的に、主要エンドポイントの発生率は、炭酸水素ナトリウム群4.4%(2,511例中110例)に対し、塩化ナトリウム群4.7%(2,482例中116例)だった(オッズ比[OR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.72~1.22、p=0.62)。また、同発生率はアセチルシステイン群4.6%(2,495例中114例)、プラセボ群4.5%(2,498例中112例)だった(OR:1.02、95%CI:0.78~1.33、p=0.88)。 血管造影関連の急性腎障害の発生率についても、群間差は認められなかった。

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心臓外科手術の赤血球輸血、制限的 vs.非制限的/NEJM

 死亡リスクが中等度~高度の心臓外科手術を受ける成人患者に対し、制限的赤血球輸血は非制限的赤血球輸血に比べ、術後複合アウトカム(全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中・透析を要する腎不全の新規発症)について非劣性であることが示された。検討において1単位以上赤血球輸血の実施率は、制限的赤血球輸血が有意に低かった。カナダ・セント・マイケルズ病院のC.D. Mazer氏らが、5,243例を対象に行った多施設共同無作為化非盲検非劣性試験の結果で、NEJM誌2017年11月30日号で発表した。これまで心臓外科手術を行う際の赤血球輸血戦略について、制限的実施と非制限的実施の臨床的アウトカムへの影響は明らかになっていなかった。退院後28日までの臨床的アウトカムを比較 研究グループは、心臓手術を受ける成人患者で、心臓外科手術用に開発された術後リスク予測モデル「European System for Cardiac Operative Risk Evaluation(EuroSCORE)I」(スケール0~47、高値ほど術後死亡リスクが高いことを示す)が6以上の5,243例を対象に検討を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方には制限的赤血球輸血(ヘモグロビン値7.5g/dL未満の場合に全身麻酔の導入以降に輸血)を、もう一方には非制限的赤血球輸血(手術室・集中治療室においてヘモグロビン値9.5g/dL未満の場合、それ以外では8.5 g /dL未満の場合に輸血)を、それぞれ行った。 主要評価項目は複合アウトカム(全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中・透析を要する腎不全の新規発症)で、退院までもしくは28日までの初発で評価した。副次アウトカムは、赤血球輸血率やその他の臨床的アウトカムが含まれた。全死因死亡率も両群で有意差なし 主要複合アウトカムの発生率は、制限的赤血球輸血群11.4%に対し非制限的赤血球輸血群は12.5%で、制限的赤血球輸血群の非劣性が示された(群間絶対差:-1.11%、95%信頼区間[CI]:-2.93~0.72、非劣性のp<0.001)。 また全死因死亡率は、制限的赤血球輸血群3.0%に対し非制限的赤血球輸血群3.6%と、両群で同等だった(オッズ比[OR]:0.85、同:0.62~1.16)。  一方で赤血球輸血(1単位以上)実施率は、制限的赤血球輸血群52.3%に対し、非制限的赤血球輸血群は72.6%だった(OR:0.41、同:0.37~0.47、p<0.001)。その他の副次アウトカムについて両群で有意な差は認められなかった。

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最短8週間治療が可能なC型肝炎治療薬が登場

 アッヴィ合同会社は、すべての主要なジェノタイプ(GT1~6型)のC型肝炎ウイルス(HCV)に感染した成人患者に対して1日1回投与、リバビリンフリーの治療薬であるマヴィレット配合錠(一般名:グレカプレビル/ピブレンタスビル、以下マヴィレット)を11月27日に発売した。マヴィレットは肝硬変を有さない、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)未治療のジェノタイプ1型(GT1)および2型(GT2)のC型慢性肝炎(HCV)感染患者にとって、最初で唯一の最短8週間治療となる。薬価は1錠24,210.40円。 日本は先進国の中でC型肝炎ウイルスの感染率が最も高い国の1つで、感染患者のうちGT1型およびGT2型が97%を占める。また日本は、C型慢性肝炎とその合併症が主な原因となり発症する肝臓がんの罹患率が先進国の中で最も高い。 虎の門病院分院長の熊田 博光氏は、「今回のマヴィレットの発売により、DAA治療は第3世代へと移行し日本のC型肝炎治療は最終章を迎えると考えている。これまでのDAA療法は、ジェノタイプ、ウイルス耐性の有無、過去のDAA治療歴、または透析など、患者さんの状態によりDAA療法を使い分けていたが、マヴィレットの登場により1つの治療レジメンでそのほとんどがカバーされることになる」と述べている。 マヴィレットは今年2月に製造販売承認申請後、3月に優先審査品目に指定され、9月27日に承認された。 マヴィレットは、「肝硬変を有さない、DAA未治療のGT1型およびGT2型のHCVに感染した日本人患者」を対象とした第III相試験(CERTAIN試験)において、8週間の治療で99%(226例/229例)のウイルス学的著効率(SVR12)を達成した。また、他剤DAAで治癒しなかった患者において93.9%(31例/33例)のSVR12の達成となり、患者背景によらず、いずれも高い著効率を示した。副作用(臨床検査異常を含む)は、国内第III相試験において332例中80例(24.1%)に認められ、主な副作用は、そう痒症16例(4.8%)、頭痛14例(4.2%)、倦怠感10例(3.0%)および血中ビリルビン増加8例(2.4%)であった。 <効能・効果>C型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善<用法・用量>○セログループ1(ジェノタイプ1)又はセログループ2(ジェノタイプ2)のC型慢性肝炎の場合 通常、成人には1回3錠(グレカプレビルとして300mg及びピブレンタスビルとして120mg)を1日1回、食後に経口投与する。 投与期間は8週間とする。なお、C型慢性肝炎に対する前治療歴に応じて投与期間は12週間とすることができる。○セログループ1(ジェノタイプ1)又はセログループ2(ジェノタイプ2)のC型代償性肝硬変の場合○セログループ1(ジェノタイプ1)又はセログループ2(ジェノタイプ2)のいずれにも該当しないC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変の場合 通常、成人には1回3錠(グレカプレビルとして300mg及びピブレンタスビルとして120mg)を1日1回、食後に経口投与する。投与期間は12週間とする。

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本邦初のIFNフリー・リバビリンフリー・パンジェノタイプのDAA療法の登場(解説:中村 郁夫 氏)-765

 本論文は、重度の腎機能低下HCV症例に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル併用療法の治療効果および安全性に関する多施設・オープンラベルで行われた研究結果の報告である。ステージ4および5の腎機能障害例(遺伝子型 1、2、3、4、5、6型)に対し12週間の治療を行った結果、SVR率98%と高い効果を示した。 本邦において、重度腎機能低下例に投与可能なDAA製剤は、従来、アスナプレビル・ダクラタスビル療法、および、エルバスビル・グラゾプレビル療法の2種であった。しかし、アスナプレビル・ダクラタスビル療法は、治療期間が24週間と長期であり、また、エルバスビル・グラゾプレビル療法では、腎機能低下例に関しては、米国のデータのみが示されるにとどまっていた。 一方、グレカプレビル・ピブレンタスビル療法の本邦における治験では、重度腎機能低下例(透析症例を含む)が含まれているうえに、治療期間が8~12週間と、従来のDAA製剤と比較して短縮された(また、添付文書において、腎移植例に用いられる免疫抑制薬のタクロリムスが、併用注意薬に含まれていない)。 さらに、従来のDAA併用療法は、1種類の遺伝子型のHCVに対するものであったが、本治療は、いわゆる「パンジェノミック」:複数のHCV遺伝子型に効果のある治療法であり、その点からも興味深い研究である。 このグレカプレビル・ピブレンタスビルの合剤は、本邦初の「IFNフリー・リバビリンフリー・パンジェノタイプ」のDAA製剤として、2017年の11月下旬にマヴィレットの商品名で薬価収載される予定である。ただし、併用禁忌薬として、アトルバスタチンが含まれている点には注意が必要である。本邦におけるHCVに対するDAA治療は、いよいよ最終段階を迎えたと考えられる。

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重度CKDのHCV感染患者、グレカプレビル+ピブレンタスビルが有益/NEJM

 C型肝炎ウイルス(HCV)に感染しステージ4または5の慢性腎臓病(CKD)を有する患者に対し、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬グレカプレビル+NS5A阻害薬ピブレンタスビル(商品名:マヴィレット配合錠)の12週間投与により、98%と高いウイルス学的著効(SVR)が得られることが示された。ニュージーランド・オークランド市立病院のEdward Gane氏らが、患者104例を対象に行った第III相多施設共同非盲検試験の結果で、NEJM誌2017年10月12日号で発表した。1日グレカプレビル300mg+ピブレンタスビル120mgを12週間投与 研究グループは、HCV遺伝型1、2、3、4、5、6型のいずれかに感染し、肝硬変の有無を問わず代償性肝疾患を有し、重度腎機能障害または透析依存、あるいは両状態が認められる成人患者104例を対象に試験を行った。 被験者に対し、グレカプレビル(100mg)+ピブレンタスビル(40mg)の配合薬を1日3錠、12週間投与し、その有効性と安全性を評価した。 被験者は、ステージ4または5のCKDを有し、HCV感染に対する治療歴がない、またはインターフェロン、ペグインターフェロン、リバビリン、ソホスブビルのいずれかまたは併用による治療歴があった。 主要エンドポイントは、治療終了後12週時点のSVR率だった。104例中102例で治療後12週時点のSVR達成 被験者のHCV遺伝型1、2、3、4、5、6型への感染率は、それぞれ52%、16%、11%、19%、2%、2%だった。 主要エンドポイントのSVRが認められたのは、104例中102例(98%、95%信頼区間[CI]:95~100)だった。治療中にウイルス学的失敗を来した患者、治療終了後にウイルス学的再発を来した患者はいなかった。 有害事象のうち、被験者の10%以上で報告されたのは、かゆみ、倦怠感、悪心だった。重篤な有害事象の発現は24%。また、4例が有害事象のため試験治療を早期に中止したが、そのうち3例ではSVRが得られていた。

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国立国際医療研究センター総合診療科presents 内科インテンシブレビュー2017 (2枚組)

第1回 リンパ腫の臨床診断 “Internist's lymphoma” 第2回 パーキンソン病の話 第3回 大血管炎~IgG4関連疾患も含めて~第4回 Young Doctor’s Case Report 第5回 感染症診療のロジック~常に丹念に病態を詰め切る~ 第6回 呼吸器内科医から見た心不全 第7回 小腸疾患 Update 2017 第8回 NEJMへの道~2017 飛翔編~ 第9回 陰性感情を考える第10回 つつが虫病 シマからみる、シマでみる ~過去と現在、日本、沖縄、世界に眼をむけて~ 第11回 低K血症をスッキリ理解する Keep It Simple, Stupid. 第12回 “元気で長生き”を維持するために 科学的根拠に基づくヘルスメンテナンス 2017年1月14~15日の2日間にわたって開催された集中型セミナー「国立国際医療研究センター総合診療科 presents内科インテンシブレビュー」。臨床の最前線に立ち、若手医師教育にも熱意を注ぐ12医師の熱いレクチャーを一挙公開します。「学生・初期研修医向け」のレクチャーに飽きてしまった専門後期研修医、これを機に知識をアップデートしたいシニア医師、ちょっと背伸びしたい初期研修医の方々、有名講師による集中講義を堪能してください!第1回 リンパ腫の臨床診断 “Internist's lymphoma” 国立国際医療研究センター病院 総合診療科 國松淳和先生によるレクチャーは、病理で診断されるリンパ腫の"臨床診断”について。リンパ腫においては、診断確定が早いことは患者の予後やQOLに大いに関わります。臨床症状によって診断に迫ることができる"Internist's Lymphoma”の特徴や具体的な診断への道筋について解説します。第2回 パーキンソン病の話 外科医であり、化石学者でもあった英国のジェイムズ・パーキンソンがパーキンソン病に関する論文を発表して今年で200年!神経内科医の井口正寛先生がその発見の歴史をひも解き、現在の臨床現場から、パーキンソン病を再評価します。スペシャリストならではの問診や身体所見による診断のコツや、井口先生が発見した驚きのマニアック論文は必見です!第3回 大血管炎~IgG4関連疾患も含めて~CareNeTV講師Dr.ハギーこと萩野昇先生が大血管炎を解説します!2016年欧州リウマチ学会で発表された最新情報など、アップデート満載な講義内容は、日々リウマチ学を研究する萩野先生ならでは。大血管炎は日常診療でよく診る疾患ではありませんが、2015~2016年にかけて新たな治療成果が発表されており、今、リウマチ・膠原病領域で注目されています。Dr.ハギーの軽妙なトークは必見!第4回 Young Doctor’s Case Report Young Doctor’s Case Reportとして九鬼隆家先生が腎機能障害の症例を紹介します。緊急外来で透析が施行された50代女性。問診によって23歳の娘にも血尿があることがわかり、母娘2人を診ることになりました。3世代にわたる家族歴の聴取などから、透析に至ったその原因疾患に迫ります!第5回 感染症診療のロジック~常に丹念に病態を詰め切る~ 感染症が疑われる場合、その患者がどこでどんな生活を送り、どのような経緯で病院にやってきたのか、患者の背景を探ることが大変重要です。とくに海外からの渡航者の場合は居住地であるその国をも理解しなければなりません。国際感染症センター長の大曲貴夫先生がここ1年で診られた数多くの症例のなかでもとくに「厳しかった」「考えさせられた」という2例を紹介。「あなたは常に病態を詰めきれているか?」大曲先生の熱いメッセージを御覧ください。第6回 呼吸器内科医から見た心不全 心不全診療における診療科間の押し相撲はもうやめたい!循環器内科に見送った心不全疑いの患者がブーメランのように返ってくる。本当に心不全ではないの?しかし本当に大切なのは、できるかぎり病態を確認して、患者にどのような治療が優先されるのかを判断すること。心不全にも呼吸器疾患が関与している場合もあります。すべての内科医に向けた櫻井隆之先生の熱いメッセージ!第7回 小腸疾患 Update 2017 第7回では、小腸疾患Updateとして、不明熱の原因疾患ともなるクローン病に関する知識をレクチャー。1970年代から罹患者数が300倍にまで増加し続けているクローン病。国立国際医療研究センター病院の櫻井俊之先生が消化器内科医の立場から、クローン病の疾患概念、好発年齢、診断基準、最新治療について解説。常識とは異なるクローン病診療の“実情”もホンネで語ります。第8回 NEJMへの道~2017 飛翔編~ NEJMへの掲載を目指して!NEJM掲載の経験を持つ忽那賢志先生がアクセプトされるコツを伝授します。「Clinical Pictureの投稿コーナーは挑戦しやすい」「コモンな疾患のレアな所見が狙い目」など、自身の経験から、症例選択や写真撮影のポイントを解説!日頃の臨床で、Clinical Pictureを撮るように心がけることが大事です。病態診断のため、知識の蓄積・共有のため、そしてNEJM投稿のため。これだと思う症例に出会ったら、ぜひ投稿してみてください!第9回 陰性感情を考える「この患者さん苦手だな…」アルコール依存や、ボーダー患者、はたまた普通の患者に対しても、「嫌だな」という感情はどんな医師でも起こりうるものです。そんな陰性感情はどう対処するべきかを、加藤温先生が精神科医の視点でレクチャーします。陥りやすい危ないケースからの回避方法や、明日から実践できる基本の対応方法を伝授。「本物は本物の顔をしていない」などドキっとする文句が満載です!第10回 つつが虫病 シマからみる、シマでみる ~過去と現在、日本、沖縄、世界に眼をむけて~ 「つつが虫病」はまだ終わっていない!かつて「死の風土病」と恐れられたつつが虫病。現在でも、毎年400人以上が日本各地で罹患し、依然として生命を脅かす疾病です。成田雅先生曰く、つつが虫病診療で重要な患者背景への認識を深めること、患者の全身を入念に診ることは総合診療医のスキルアップにつながる!多くの症例とダニハンティングの結果からわかるつつが虫病の実態を、ぜひ御覧ください。第11回 低K血症をスッキリ理解する Keep It Simple, Stupid. 須藤博先生の明快レクチャーで腎生理学の基本をマスターしましょう!キーワードは「タテとヨコ」「尿血血」の2つ、これさえ覚えれば簡単に低K血症の鑑別診断ができます。引き込まれる名講義と、個性的な5つの低K症例は必見!須藤先生を30分間罵倒した30代女性とは!?そのとき先生は…第12回 “元気で長生き”を維持するために 科学的根拠に基づくヘルスメンテナンス がん・心疾患・感染症・メンタルヘルスなど、さまざまなカテゴリーについての予防医療のエビデンスを総括した米国のUSPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)。予防医療、すなわち適切なスクリーニングと予防知識の普及は、現代日本における必須項目の1つです。熱き指導医、佐田竜一先生がUSPSTFをもとに予防医療の大切さとがん種別検診の妥当性について解説します!

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第12回 糖尿病合併症対策のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第12回】糖尿病合併症対策のキホン―眼科、腎機能、神経障害などの非専門領域の検査は、どのくらいの頻度でどこまで行うべきでしょうか。また専門医を紹介すべきタイミングと連携のコツを教えてください。 糖尿病網膜症の発症・進展抑制、早期治療のために、眼科医との連携は重要です。初診時に、眼科に行ったことがあるかを確認し、行ったことがなければ、眼科医に紹介します。1度眼科を受診すると、眼科医のほうでその後の定期検診を指示してくれますが、こちらでも、定期的に眼科を受診するように指導します。とくに問題がなければ半年に1回、網膜症がある場合は、重症度に応じた受診間隔でよいでしょう。「糖尿病治療ガイド2016-2017」(日本糖尿病学会編・著)では、眼科医への定期的診察の目安として、病期ごとに「正常(網膜症なし):1回/6~12ヵ月」「単純網膜症:1回/3~6ヵ月」「増殖前網膜症:1回/1~2ヵ月」「増殖網膜症:1回/2週間~1ヵ月」としています1)。 糖尿病腎症は、慢性透析療法の原疾患の第1位で2)、透析療法を受けている糖尿病患者さんの生命予後は非糖尿病の透析患者さんよりも不良で、心血管疾患や感染症リスクも高く重症化しやすいため3)、腎症についても、早期発見、進展抑制が求められます。腎症は、糸球体濾過量(GFR、推算糸球体濾過量:eGFRで代用)と尿中アルブミン排泄量あるいは尿蛋白排泄量によって評価できます。eGFRは、血清クレアチニン(Cr)を用いて「eGFR(mL/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢(歳)-0.287(女性の場合は、この値に×0.739)」で換算できるので、受診時に一般的な腎機能検査として、尿蛋白排泄量およびCr、BUNの検査は必ず行います。また、尿中アルブミン量を3~6ヵ月に一度測定し、アルブミン/クレアチニン比(ACR:Albumin Creatinine Ratio)を算出することで、尿蛋白が出現する前に腎臓の変化を発見することができます。網膜症のない場合、正常アルブミン尿であっても、eGFR<60mL/分/1.73m2の場合は、他の腎臓病との鑑別のために、また遅くとも尿中アルブミン排泄量が300mg/gクレアチニンを超えたら、専門医に紹介し、以降、定期的に腎臓専門医を受診してもらうようにします。 一般的には、糖尿病の三大合併症は神経障害→網膜症→腎症の順に進行し、神経障害は最も早く現れます。神経障害は、血糖コントロールの悪化とともに起こることが多いですが、糖尿病と診断される前、境界型の段階から存在するため、しばしば糖尿病診断の糸口になることもあります。神経障害の症状は非常に多岐にわたるため、糖尿病以外の原因による神経障害との鑑別が重要になります。足の末梢神経障害について、症状が著しく左右非対称であったり、筋萎縮や運動神経障害が強い場合は、神経内科に紹介します。 外来で注意したい糖尿病の合併症の1つに、指や爪の白癬症(水虫)や変形、胼胝(べんち、たこ)、足潰瘍・足壊疽などの「足病変」があります。神経障害および血流障害、易感染性が足潰瘍・足壊疽の主な原因になりますが、それ以外に、網膜症による視力低下で、身の回りを清潔にすることがおろそかになる、足にできた傷に気付かない、足に合わない靴を履いているなどが間接的な原因になり、足病変を悪化させることがあります。足潰瘍はひどくなると足壊疽になり、切断に至ることもあるため、まず予防をきちんとすること、できてしまった場合は、できるだけ早期に診断し対処します。予防のためには、患者さんに、毎日足を観察して異常があれば連絡するように伝えます。また、医療従事者側でも、診察の際に足を診察し、早期診断に努めるようにします。―糖尿病性神経障害の基本的な診断法と治療法について教えてください。 神経障害には、広範囲に左右対称性にみられる「多発神経障害(広汎性左右対称性神経障害)」と「単神経障害」があり、多くみられるのは多発神経障害です。 両足の感覚障害(両足のしびれや疼痛、また、足の裏に薄紙が貼りついたような感覚や砂利の上を歩いているような感覚になる知覚異常など)や穿刺痛、電撃痛、灼熱痛といった自発痛(ジンジン、ビリビリ、チリチリなど)、触覚・温痛覚の低下・欠如といった自覚症状、両側アキレス腱反射、両足の振動覚および触覚のうち、複数の異常があれば、多発神経障害の可能性があります。自覚症状については、かなりひどくならないと患者さんから訴えてくることはないため、注意が必要です。 多発神経障害の予防・治療のために、まずは良好な血糖コントロールを維持することが重要です。ただし、長期間の血糖不良例では、急激な血糖低下により、神経障害が悪化する可能性があります(治療後神経障害)。神経障害の自覚症状を改善する薬剤として、アルドース還元酵素阻害薬「エパルレスタット(商品名:キネダック)」があり、神経機能の悪化の抑制が報告されています4)。また、自発痛に対しては、Ca2+チャネルのα2δリガンド「プレガバリン(商品名:リリカ)」やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)「デュロキセチン(商品名:サインバルタ)」、抗不整脈薬「メキシレチン(商品名:メキシチール)」、抗けいれん薬「カルバマゼピン(商品名:テグレトール)」、三環系抗うつ薬などが単独、もしくは併用で使用できます。―高齢者ではどこまで合併症対策をすべきでしょうか? 高齢であっても、高血糖は糖尿病合併症の危険因子になるため、非高齢者同様、合併症の発症・進展を見据えた血糖コントロールは重要です。 しかし、高齢者の合併症は、非高齢者とは異なる特徴があります。高齢者でとくに問題になるのは認知機能の低下で、高齢患者さんでは、高血糖による認知症の発症リスクが高くなることが報告されています5,6)。また、高齢者では、高血糖によるうつ症状の発症・再発が多くなることも報告されています7)。そのほか、歯周病が増悪しやすいこと、急性合併症のうち、糖尿病ケトアシドーシスは若年者が多いのに対し、高齢者では高血糖高浸透圧症候群が多いなど1)、高齢者と非高齢者では留意すべき合併症が異なることを念頭に置く必要があります。 また、高齢者の合併症対策を考えるうえで、最も大切なのは血糖コントロールの考え方です。高齢者では、身体機能や認知機能、生理機能の低下や多くの併発症の可能性があり、個人差が非常に大きいことから、非高齢者とは異なる観点で、個別化した血糖コントロール目標および治療を検討することが求められます。高齢糖尿病は、若・壮年に発症し高齢化した患者さんと、高齢になって発症した患者さんで分けて考えます。とくに、高齢発症の糖尿病患者さんでは、生活スタイルや家族構成、身体的・精神的機能を考慮した治療戦略、さらには合併症対策を立てたほうがよいでしょう。また、高齢者では、年齢によっては余命を考慮し、できるだけQOLを損なうことなく、望ましい治療を選択することも重要です。 高齢者については、「糖尿病治療ガイド2016-2017」で初めて「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が掲げられました(詳細は、第1回 食事療法・運動療法のキホン-高齢者にも、厳密な食事管理・運動を行ってもらうべきでしょうか。をご参照ください)1)。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2016-2017. 文光堂;2016.2)一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況. 2015年12月31日現在.3)羽田 勝計、門脇 孝、荒木 栄一編. 糖尿病最新の治療2016-2018. 南江堂;2016.4)Hotta N, et al. Diabet Med. 2012;29:1529-1533.5)Yaffe K, et al. Arch Neurol. 2012;69:1170-1175.6)Crane PK, et al. N Engl J Med. 2013;369:540-548.7)Maraldi C, et al. Arch Intern Med. 2007;167:1137-1144.

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2017年度 総合内科専門医試験、直前対策ダイジェスト(前編)

【第7回】~【第12回】は こちら【第1回 呼吸器】 全7問呼吸器領域は、ここ数年で新薬の上市が続いており、それに伴う治療方針のアップデートが頻繁になっている。新薬の一般名や承認状況、作用機序、適応はしっかり確認しておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)肺結核について正しいものはどれか?1つ選べ(a)IGRA(QFT-3G・T-SPOT)は、冷蔵保存して提出する(b)医療者の接触者健康診断において、IGRAによるベースライン値を持たない者には、初発患者の感染性期間における接触期間が2週間以内であれば、初発患者の診断直後のIGRAをベースラインとすることが可能である(c)デラマニドはリファンピシン(RFP)もしくはイソニアジド(INH)のどちらかに耐性のある結核菌感染に使用可能である(d)レボフロキサシンは、INHまたはRFPが利用できない患者の治療において、カナマイシンの次に選択すべき抗結核薬である(e)結核患者の薬剤感受性検査判明時の薬剤選択としてINHおよびRFPのいずれも使用できない場合で、感受性のある薬剤を3剤以上併用することができる場合の治療期間は、菌陰性化後24ヵ月間とされている(f)潜在性結核感染症(LTBI)の標準治療は、INH+ RFPの6ヵ月間または9ヵ月間である例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第2回 感染症】 全5問感染症領域では、耐性菌対策とグローバルスタンダード化された部分が出題される傾向がある。また、認定内科医試験に比べて、渡航感染症に関する問題が多いのも特徴である。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)感染症法に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)鳥インフルエンザはすべての遺伝子型が2類感染症に指定されている(b)レジオネラ症は4類感染症に指定されており、届出基準にLAMP法による遺伝子検出検査は含まれていない(c)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は4類感染症に指定されており、マダニを媒介とし、ヒト‐ヒト感染の報告はない(d)鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除くインフルエンザ感染症はすべて5類定点把握疾患である(e)カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症は5類全数把握疾患に指定されているが、保菌者については届出の必要はない例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第3回 膠原病/アレルギー】 全6問膠原病領域では、ほぼ毎年出題される疾患が決まっている。リウマチと全身性エリテマトーデス(SLE)のほか、IgG4関連疾患、多発性筋炎(PM)、皮膚筋炎(DM)についてもここ数年複数の出題が続いている。アレルギーでは、クインケ浮腫、舌下免疫療法、アスピリン喘息が要注意。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)全身性エリテマトーデス(SLE)について正しいものはどれか?1つ選べ(a)疾患活動性評価には抗核抗体を用いる(b)神経精神SLE(NPSLE)は、血清抗リボゾームP抗体が診断に有用である(c)ヒドロキシクロロキンは、ヒドロキシクロロキン網膜症の報告があり、本邦ではSLEの治療として承認されていない(d)ベリムマブは本邦で承認されており、感染症リスクの少なさより、ステロイド併用時のステロイド減量効果が期待できる(e)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)が、2016年5月にループス腎炎に対して承認になり、MMF単独投与によるループス腎炎治療が可能となった例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第4回 腎臓】 全5問腎臓領域では、ネフローゼ症候群はもちろん、急性腎障害、IgA腎症、多発性嚢胞腎についても、症状、診断基準、治療法をしっかり押さえておきたい。また、アルポート症候群と菲薄基底膜病も、出題される可能性が高い。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)次の記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)血清または血漿シスタチンCを用いたGFR推算式は年齢・性差・筋肉量に影響を受けにくい(b)随時尿で蛋白定量500mg/dL、クレアチニン250mg/dL、最近数回での1日尿中クレアチニン排泄量1.5gの場合、この患者の実際の1日尿蛋白排泄量(g)は2g程度と考えられる(c)70歳、検尿で尿蛋白1+、血尿-、GFR 42mL/分/1.73m2(ただしGFRの急速な低下はなし)の慢性腎臓病(CKD)患者を認めた場合、腎臓専門医への紹介を積極的に考える(d)食塩摂取と尿路結石リスクの間に相関はないとされている(e)日本透析医学会による「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」2015年版によると、血液透析(HD)・腹膜透析(PD)・保存期CKD患者のいずれにおいても、複数回の検査でHb値10g/dL未満となった時点で腎性貧血治療を開始することが推奨されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第5回 内分泌】 全5問内分泌領域は、甲状腺疾患、クッシング症候群は必ず出題される。さらに認定内科医試験ではあまり出題されない先端巨大症、尿崩症もカバーしておく必要があり、診断のための検査と診断基準についてしっかりと押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)先端巨大症について正しいものはどれか?1つ選べ(a)重症度にかかわらず、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」による医療費助成を受けることが可能である(b)診断基準に「血中GH値がブドウ糖75g経口投与で正常域まで抑制されない」という項目が含まれている(c)診断基準に「軟線撮影により9mm以上のアキレス腱肥厚を認める」という項目が含まれている(d)骨代謝合併症として、変形性関節症・手根管症候群・尿路結石・骨軟化症が挙げられる(e)パシレオチドパモ酸塩徐放性製剤は高血糖のリスクがあり、投与開始前と投与開始後3ヵ月までは1ヵ月に1回、血糖値を測定する必要がある  例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第6回 代謝】 全5問代謝領域では、糖尿病、肥満症、抗尿酸血症は必ず出題される。加えて骨粗鬆症とミトコンドリア病を含む、耐糖能障害を来す疾患が複数題出題される。とくに骨粗鬆症は、内科医にはなじみが薄いがよく出題される傾向があるので、しっかりとカバーしておこう。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)肥満に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)本邦における高度肥満は、BMI30以上の肥満者のことをいう(b)肥満関連腎臓病の腎組織病理像は膜性腎症像を示す(c)「肥満症診療ガイドライン2016」 において、減量目標として肥満症では現体重からの5~10%以上の減少、高度肥満症では10~20%以上の減少が掲げられている(d)PCSK9阻害薬であるエボロクマブの効能・効果に、「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症。ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分な場合に限る」と記載があり、処方にあたってはHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用が必要である(e)低分子ミクロソームトリグリセリド転送たん白(MTP)阻害薬であるロミタピドメシルは、ヘテロ接合体家族性高コレステロール血症に適応がある例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第1回~第6回の解答】第1回:(b)、第2回:(e)、第3回:(b)、第4回:(a)、第5回:(b)、第6回:(d)【第7回】~【第12回】は こちら

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CABG後5年転帰、off-pumpはon-pumpより優れるか/NEJM

 人工心肺装置を用いないoff-pump冠動脈バイパス術(CABG)は、これを用いるon-pump CABGに比べ、術後5年の生存率と無イベント生存率が劣ることが、米国・ノースポート退役軍人局(VA)医療センターのA Laurie Shroyer氏らが行ったROOBY-FS試験で示された。研究の成果はNEJM誌2017年8月17日号に掲載された。2009年に発表された本試験の追跡期間1年時の結果では、1)短期の主要エンドポイント(CAGB施行後30日時の死亡および主な合併症[再手術、新規の機械的循環補助、心停止、昏睡、脳卒中、透析を要する腎不全]の複合)に有意な差はなく(off-pump群7.0% vs.on-pump群5.6%、p=0.19)、2)長期の主要エンドポイント(CAGB施行後1年時の全死亡、30日~1年の非致死性心筋梗塞、30日~1年の血行再建術再施行の複合)はoff-pump群で不良であった(9.9 vs.7.4%、p=0.04)。ROOBY-FS試験の術後5年時の臨床成績 研究グループは、off-pump CABGとon-pump CABGを比較するROOBY-FS試験の術後5年時の臨床成績を報告した(退役軍人省研究開発共同研究プログラムなどの助成による)。 2002年2月~2007年6月に、米国内18ヵ所のVA医療センターで2,203例が登録され、off-pump群に1,104例、on-pump群には1,099例が無作為に割り付けられた。術後1年の評価は2008年5月までに完了した。 術後5年時の主要評価項目は、全死因死亡および主要有害心血管イベント(MACE)の複合転帰の2つであった。MACEは、全死因死亡、血行再建術再施行(CABGまたは経皮的冠動脈インターベンション[PCI])、非致死的心筋梗塞と定義した。 術後5年時の副次評価項目は、心臓が原因の死亡、血行再建術再施行、非致死的心筋梗塞などであった。主要評価項目はp<0.05、副次評価項目はp<0.01の場合に有意差ありと判定した。off-pump群で優れる評価項目なし ベースラインの全体の平均年齢は62.7歳、男性が99.4%を占めた。2枝病変または3枝病変が94.1%、高血圧が86.2%、左室駆出率≧45%が82.3%の患者に認められた。 追跡期間5年の時点で299例(13.6%)が死亡し、心臓関連死が128例(5.8%)含まれた。非致死的心筋梗塞は239例(10.8%)で認められ、血行再建術再施行は276例(12.5%)(CABG再施行:21例、CABG後のPCI施行:258例)に行われた。 5年死亡率は、off-pump群が15.2%と、on-pump群の11.9%に比べ有意に高かった(相対リスク:1.28、95%信頼区間[CI]:1.03~1.58、p=0.02)。また、MACEの5年発生率は、off-pump群が31.0%であり、on-pump群の27.1%に比し有意に不良であった(相対リスク:1.14、95%CI:1.00~1.30、p=0.046)。 術後5年時の副次評価項目には有意な差を認めず、非致死的心筋梗塞の発生率はoff-pump群が12.1%、on-pump群は9.6%(p=0.05)、心臓が原因の死亡はそれぞれ6.3%、5.3%(p=0.29)、血行再建術再施行は13.1%、11.9%(p=0.39)、CABG再施行は1.4%、0.5%だった(p=0.02)。 著者は、「off-pumpのような技術的に高度で革新的な手術アプローチが、優れた臨床アウトカムをもたらすとは限らないことが明らかとなった」とし、「さらに追跡を行って、術後10年のアウトカムを厳格に評価する必要がある。今後は、長期的な無イベント生存率の改善を目標に、血行再建術の長期アウトカムに影響を及ぼす患者側および心臓手術手技のリスク因子を同定する必要がある」と指摘している。

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CANVAS Program が示した1つの回答

 2017年6月23日、都内にて「Diabetes Update Seminar~糖尿病治療における脳・心血管イベントに関する最新研究~」と題するセミナーが開かれた(主催:田辺三菱製薬株式会社)。 演者である稲垣 暢也氏(京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 教授)は、ADAにて発表されたCANVAS Programの結果を受け、「SGLT2阻害薬の脳・心血管イベントに対する有効性が、クラスエフェクトである可能性が高まった」と述べた。 以下、セミナーの内容を記載する。EMPA-REG OUTCOMEが残した臨床的疑問 糖尿病患者の脳・心血管イベント発症リスクは、高いことが知られている。Steno-2研究により血糖値だけではなく、血圧、脂質といった包括的なリスクを管理する重要性が示されているが、3つの検査値すべてが目標値まで管理されている患者は20.8%1)との報告もあり、リスク管理は困難なのが実情だ。糖尿病治療におけるイベント抑制は、継続的課題であった。 そんな中、EMPA-REG OUTCOMEが発表され、SGLT2阻害薬による脳・心血管イベント抑制作用に大きな注目が集まった。一方で、「EMPA-REG OUTCOMEでのイベント抑制作用がエンパグリフロジン独自の作用なのか、それともSGLT2阻害薬によるクラスエフェクトなのか」といった臨床的疑問は残されたままであった。CANVAS Program による1つの回答 CANVAS Programは、この疑問に1つの回答を出した。 6月12日、ADAでCANVAS Programの結果が発表され、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが脳・心血管イベント発症リスクを低減させる2)ことが示された。CANVAS Programは、30ヵ国、心血管疾患リスクが高い2型糖尿病の患者1万142例を対象にした、2つのプラセボ対照無作為化比較試験「CANVAS」「CANVAS-R」の統合解析プログラムである。 基本とする患者背景はEMPA-REG OUTCOMEと同様だが、大きな違いとして、CANVAS Programには脳・心血管疾患の既往のない患者が3分の1ほど含まれている。 CANVAS Programは被験者を無作為に2群に割り付け、カナグリフロジン(100~300mg/日)またはプラセボをそれぞれ投与し、平均188.2週間追跡した。主要評価項目は、MACE(脳・心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)の発症リスクであった。 この結果、SGLT2阻害薬カナグリフロジンの投与は、主要評価項目の心血管リスクを約14%と有意に低減した。演者の稲垣氏は、EMPA-REG OUTCOMEでCANVAS Programと同様の試験結果が示されていることを受け、「脳・心血管イベントに対する有効性は、SGLT2阻害薬によるクラスエフェクトである可能性が高まった」と述べた。安全性に関する継続的な検証が必要 安全性についてCANVAS Programでは、カナグリフロジン投与により、性器感染症などの既知のSGLT2阻害薬による有害事象の増加が認められたほか、下肢切断リスクを2倍程度増加させることが明らかにされた。重回帰分析の結果、下肢切断リスクは、下肢切断既往、末梢循環疾患既往、男性、神経障害、HbA1c>8%といった因子で高まることから、リスクが高い患者では予防的フットケアなどが求められる。なお、下肢切断リスク増加のメカニズムは不明で、これがクラスエフェクトかドラッグエフェクトかは現時点では判断できない。日本国内における糖尿病足潰瘍の年間切断率は0.05%であり、欧米とアジア人との発生率の違いも含め、今後さらなる解析が待たれる。腎保護作用とSGLT2阻害薬 興味深いことに、CANVAS ProgramとEMPA-REG OUTCOMEの脳・心血管複合イベントリスクの低下率は14%と同じ数値が示されている。SGLT2阻害薬は、尿糖やナトリウムの排泄を促すことで腎保護作用を高める。腎保護作用は脳・心血管イベント抑制にも好影響をもたらすと期待されることから、SGLT2阻害薬による腎保護作用の可能性については、さらなる検証が必要といえるだろう。 カナグリフロジンでは、糖尿病性腎症の進行抑制を期待した国際共同試験「CREDENCE試験」も開始されている。演者の稲垣氏は、「透析患者は増え続けている。進行中のCREDENCE試験の結果にも期待したい」と述べ、講演を終えた。

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