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心房細動の脳卒中予防に左心耳閉鎖術が有効/JAMA

 非弁膜症性心房細動(AF)への経皮的左心耳(LAA)閉鎖術は、脳卒中、全身性塞栓症、心血管死の複合エンドポイントについてワルファリン療法に対し非劣性であり、心血管死や全死因死亡を有意に抑制することが、米国・マウントサイナイ医科大学のVivek Y Reddy氏らが行ったPROTECT AF試験で示された。ワルファリンはAF患者の脳卒中予防に有効だが、狭い治療プロファイル、生涯にわたる凝固モニタリングの必要性、他剤や食事との相互作用という制限がある。LAAはAF患者における血栓の好発部位であり、これを機械的に閉鎖するアプローチ(WATCHMANデバイス)の開発が進められている。JAMA誌2014年11月19日号掲載の報告。機械的閉鎖術による局所療法の有用性を評価 PROTECT AF試験は、非弁膜症性AF患者の心血管イベントの予防における経皮的LAA閉鎖術による局所療法の、ワルファリンによる全身療法に対する非劣性および優越性を検証する非盲検無作為化試験。患者登録期間は2005年2月~2008年6月で、すでに平均フォローアップ期間18ヵ月および2.3年の結果が報告されており、今回は3.8年(2012年10月時点)の長期データの解析が行われた。 対象は、年齢18歳以上の非弁膜症性AFで、CHADS2スコア≧1、ワルファリンの長期投与を要する患者であった。被験者は、経食道的心エコーガイド下にLAA閉鎖術を施行後に45日間ワルファリン+アスピリンを投与する群またはワルファリン(目標国際標準比:2~3)を恒久的に投与する群(対照群)に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、脳卒中、全身性塞栓症、心血管死/原因不明死の複合エンドポイントとした。非劣性のベイズ事後確率を97.5%以上、優越性のベイズ事後確率を95%以上に設定した。 欧米の59施設に707例が登録され、LAA閉鎖術群に463例、ワルファリン群には244例が割り付けられた。平均年齢はLAA閉鎖術群が71.7歳、ワルファリン群は72.7歳、男性はそれぞれ70.4%、70.1%で、平均CHADS2スコアは2.2、2.3であった。ベースラインの脳卒中のリスク因子としては、高血圧がそれぞれ89.6%、90.2%、75歳以上が41.0%、47.1%、虚血性脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)の既往歴が17.7%、20.1%に認められた。複合エンドポイントが40%、心血管死が60%減少 複合エンドポイントの発生率は、LAA閉鎖術群が8.4%(39/463例、2.3/100人年)、ワルファリン群は13.9%(34/244例、3.8/100人年)であった(率比[RR]:0.60、95%確信区間[CI]:0.41~1.05)。非劣性の事後確率は>99.9%、優越性の事後確率は96.0%であり、いずれも事前に規定された判定基準を満たした。 全脳卒中の発生率は、LAA閉鎖術群が5.6%(26/463例、1.5/100人年)、ワルファリン群は8.2%(20/244例、2.2/100人年)であり(RR:0.68、95%CI:0.42~1.37)、非劣性(事後確率>99%)が確認された。このうち出血性脳卒中の発生率は、それぞれ0.6%(3/463例)、4.0%(10/244例)であり(0.15、0.03~0.49)、非劣性(>99%)および優越性(99%)が確認されたのに対し、虚血性脳卒中は5.2%(24/463例)、4.1%(10/244例)であり(1.26、0.72~3.28)、両群に差はみられなかった。 また、LAA閉鎖術群はワルファリン群に比べ、心血管死(3.7%[17/463例] vs. 9.0%[22/244例]、1.0/100人年 vs. 2.4/100人年、ハザード比[HR]:0.40、95%CI:0.21~0.75、p=0.005)および全死因死亡(12.3%[57/466例] vs. 18.0%[44/244例]、3.2/100人年 vs. 4.8/100人年、HR:0.66、95%CI:0.45~0.98、p=0.04)の発生率が有意に低い値を示した。 安全性の複合エンドポイント[頭蓋内出血、輸血を要する出血、LAA閉鎖術群では手技に関連するイベント(介入を要する心膜液浸出など)も含む]の発生率は、LAA閉鎖術群が3.6/100人年、ワルファリン群は3.1/100人年(RR:1.17、95%CI:0.78~1.95)で、事後確率は98.0%であり、非劣性基準を満たした。 LAA閉鎖術群で重篤な心膜液浸出が22例(4.8%)にみられたが、いずれも周術期(デバイス装着後7日間)に発生した。大出血はLAA閉鎖術群が22例(4.8%、7日以降が19例[4.1%])、ワルファリン群は18例(7.4%)に認められた。 著者は、絶対リスク減少率は、複合エンドポイントが1.5%、心血管死が1.4%、全死因死亡は5.7%であるが、死亡に関するエンドポイントには不確実性が残る。LAA閉鎖術群では早期の合併症の頻度が高かったが、長期的な安全性プロファイルは2つの治療群で類似していたとまとめている。

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肝移植後HCVへのIFNフリーレジメンの検討/NEJM

 肝移植後の再発C型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型感染症患者に対し、インターフェロンを用いない、NS5A阻害薬オムビタスビル+リトナビル・ブースト・プロテアーゼ阻害薬ABT-450(ABT-450/r)+非ヌクレオチド系NS5Bポリメラーゼ阻害薬ダサブビル+リバビリンの24週治療は、治療後のウイルス学的著効(SVR)が12週後、24週後ともに97%を示し、有効であることが示された。米国・インディアナ大学のPaul Y. Kwo氏らが、患者34例を対象とした試験で明らかにした。今回試験対象とした移植後再発患者は、従来の標準治療レジメンでは、治療反応率は13~43%に留まっていたという。NEJM誌オンライン版2014年11月11日号掲載の報告より。主要評価項目は治療終了12週後のSVR 被験者は、12ヵ月前までに肝移植を行い、HCV遺伝子型1型感染症の再発が認められ、線維症がないか軽度な患者34例で、オムビタスビル+ABT-450/rの合剤、ダサブビル、リバビリンを24週間投与した。 具体的なレジメンは、オムビタスビル-ABT-450/r(オムビタスビル25mg、ABT-450/r 150mg、リトナビル100mgをそれぞれ1日1回)、ダサブビル250mg1日2回と、リバビリン(初期投与量とその後の貧血症状に基づく用量調整は治験担当医の判断)を投与した。 主要評価項目は、SVR 12だった。12週後、24週後ともにSVRは97% その結果、治療終了12週後、24週後ともに、被験者34例中33例でSVR達成が認められ、その割合は97%(95%信頼区間:85~100)だった。 最も多くみられた有害事象は、疲労、頭痛、咳だった。また、エリスロポエチンの投与を要した人は5例(15%)で、輸血は0例。治療中の移植片拒絶は認められなかった。 治療中には、血中カルシニューリン濃度を測定し、用量を調節し治療レベルの維持が図られていた。

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ホスピスが入院や医療コストを抑制/JAMA

 米国の終末期がん患者のうちホスピスケアの利用者は非利用者に比べ、入院やICU入室、侵襲的手技の施行が少なく、医療コストも抑制されることが、ブリガム&ウィメンズ病院のZiad Obermeyer氏らの調査で示された。近年、米国ではがん患者のホスピス利用が増えている一方、ホスピス外でのケアの増加や入所期間が短縮しているが、ホスピスが保健医療の活用に及ぼす影響や、医療コストがホスピス利用に与える影響は明らかにされていなかった。JAMA誌2014年11月12日号掲載の報告。約3万6,000例の予後不良がん患者をホスピス利用の有無別に比較 研究グループは、終末期がん患者における保健医療の利用状況や医療コストを、ホスピスケア利用の有無別に検討した。対象は、1次診断で予後不良と判定されたがん(肺、膵、脳など)や転移性悪性腫瘍、再発・非寛解血液腫瘍などの患者であった。 解析には、2011年に死亡した出来高払制(fee-for-service)メディケア受給者の20%に相当する患者データを使用した。死亡前にホスピスに登録した患者と、ホスピスに入所せずに死亡した患者の背景因子(年齢、性別、地域、診断から死亡までの期間など)をマッチさせ、ホスピスケア開始前後の入院や処置などの医療サービスの利用、死亡場所、医療コストなどの評価を行った。 予後不良がん患者8万6,851例の診断から死亡までの期間中央値は13ヵ月(四分位範囲:3~34ヵ月)であり、このうち5万1,924例(60%)が死亡前にホスピスを利用した。 背景因子をマッチさせたホスピス利用者と非利用者、それぞれ1万8,165例を比較した。平均年齢は非ホスピス群、ホスピス群とも80歳、男性が48%ずつで、予後不良がんの診断から死亡までの期間中央値は213日、210日、固形がんが88.2%、91%であった。最後の1年間の医療コストが約8,700ドル安価に ホスピスケア開始後にがん治療を受けた患者は、ホスピス群が1%、同時期の非ホスピス群は11%であった。ホスピスケア期間中央値は11日であった。6ヵ月以上の利用患者は6%。 入院率は非ホスピス群が65.1%、ホスピス群は42.3%(リスク比[RR]:1.5、95%信頼区間[CI]:1.5~1.6)、ICU入室率はそれぞれ35.8%、14.8%(RR:2.4、95%CI:2.3~2.5)であり、いずれもホスピスケアを利用した患者で有意に低かった。 医療サービスの利用は非ホスピス群がホスピス群よりも多く、ほとんどががんとは直接に関連しない急性疾患の治療であった。侵襲的手技(動・静脈カテーテル、気管内挿管、輸血など)の施行率は非ホスピス群が51.0%、ホスピス群は26.7%(RR:1.9、95%CI:1.9~2.0)であり、長期療養型病院等での死亡率はそれぞれ74.1%、14.0%(RR:5.3、95%CI:5.1~5.5)と、いずれも大きな差が認められた。 ホスピスケア開始前1年間の1日平均医療コストは、ホスピス群が145ドル、非ホスピス群は148ドルであった。また、開始前1週間のホスピス群の1日平均医療コストは802ドルに達し、非ホスピス群よりも146ドル高額であった。これに対し、ホスピスケア開始以降、ホスピス群の医療コストは急激に減少し、死亡までの最後の1週間の1日平均医療コストはホスピス群の556ドルに比べ、非ホスピス群は1,760ドルに達し、その差は1,203ドルだった。 死亡までの最後の1年間のホスピス群の平均総医療コストは6万2,819ドルであり、非ホスピス群の7万1,517ドルよりも8,697ドル(95%CI:7,560~9,835)安価であった。 著者は、「非ホスピス群の患者の多くが、ホスピス群と同時期にがんとは直接関連しない急性疾患で入院またはICUへ入室していたが、その治療は患者の望むところではない可能性が高い」とし、「今回の知見は、終末期医療の現実について医師と患者間で率直に話し合うことの重要性を浮き彫りにするもの」と指摘している。

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デンマークの医療安全学会報告 その1【Dr. 中島の 新・徒然草】(034)

三十四の段 デンマークの医療安全学会報告 その1デンマークで行われた RHCN(Resilient Health Care Network)という医療安全の学会に出席してきたので、その時の様子を3回に分けて報告いたします。まず、デンマークという国です。私は今回が初めての訪問になり、曖昧なイメージしかありませんでした。人口 約560万人面積 約4.3万平方キロメートルつまり九州程度の面積に兵庫県程度の人口が住んでいるということになります。ヨーロッパ大陸から北の方角に突き出してスカンジナビア半島に向きあっており、いわゆる北欧の一部です。首都のコペンハーゲンで北緯55度、ということはおおよそ樺太の北端に相当します。ただし、グリーンランドもデンマーク領です。こちらは人口わずか5万人ですが、面積は216万平方キロメートルあるので日本の5倍ほどの大きさです。デンマークについて面白いのはEU(欧州連合)に所属していながら、通貨はユーロではなく、独自のデンマーククローネ(DKK)を発行していることです。デンマーククローネはユーロ(EUR)に対するレートが人為的に固定されているので、物の値段は DKK と EUR の両方で表示されており、どちらでも使えます。それなら独自通貨を発行する意味があるのでしょうか。おそらくギリシャのような経済危機に見舞われたときに、通貨発行権を持っていれば政府や中央銀行が舵取りをしやすいのだと思います。国土はフラットで山らしい山がなく、あちこちで風力発電の羽根が回っています。人々は北欧らしく長身、金髪で、日本人が張り合おうという気にならないくらいの美男美女揃い。しかも仕事ぶりが真面目で、どこもかしこも掃除が行き届いているのには感心しました。多くのヨーロッパ人がそうであるように、デンマークの人も複数の言語を操ります。少なくとも英語は皆さんペラペラでした。地続きであるドイツ語もペラペラなのではないかと思います。以前はドイツとの間に国境の検問所があり、パスポートのチェックもあったそうですが、今はありません。車を運転していて気づいたら周囲の看板がドイツ語になっていたということもよくあるそうです。「EUの中だったらどこで仕事しようが家を買おうが自由なんだ。いい時代になったものだ」と、あるデンマーク人男性が言っていました。首都のコペンハーゲンですらのんびりしており英語も通じるので、旅行するにはいい所だと思います。ちゃんと世界三大「がっかり名所」の人魚姫像もあり、多くの観光客が写真を撮っていました。この像のモデルはデンマーク王立劇場のプリマドンナのエレン・プライスですが、彼女が裸体を拒否したので首から下は製作した彫刻家エリクセンの奥さん、エリーネが代わりにモデルをつとめたそうです。デンマークの話はこのくらいにして、学会の話をしましょう。なにしろ時差ボケに苦しみながら4日間の英語責めだったので、死にそうな思いをしました。ミゼルファートという風光明媚な村の古城での三食付きの学会ですが、単なるカンヅメ合宿だったのです。resilient というのは、状況に応じて柔軟に対応する能力のことです。会長のホルナゲル先生は漢字の「弾」をあてているので、「柔軟」というよりも「弾力的」という表現がいいのかもしれません。すでに多くの産業において、安全を実現する目的で resilient という考え方が入ってきているそうです。これまでの医療安全と違っているのは、「失敗から学ぶ」のではなく、「成功からも学ぶ」。言い換えれば、成功も失敗も含めたすべての過程から学ぶ人体も医療も線型システム(linear system)ではなく、複雑系(complex system)である。したがって、因果関係で説明できないことはたくさんある。というか、その方が多い医療安全の実現は、単に医療事故のない状態をつくることではないという共通認識を前提にしていることです。「複雑系」というのは知っているような知らないような言葉です。定義するのは難しいので例を挙げたいと思います。複雑系として知られている世界としては、金融、戦争やテロなどの紛争、交通渋滞、台風の発生や地震など、多くのものがあります。生物の構成はそもそも複雑系ですが、とくに典型的なものとしては癌の成長、菌糸類の成長、免疫系の機能、感染症の流行などが挙げられます。株の暴落や地震の発生、疾病の発生などは、複雑系の中で突如起こってくる創発(emergence)と呼ばれる現象ですが、これを予測したり制御したりするのは極めて困難です。ほとんど不可能といってもいいでしょう。地震の発生や金融バブルの崩壊がいつどのような形で起こるのかを予測できれば多くの悲劇が防げるはずですが、地球物理学者や経済学者などの専門家をもってしても確実に予測することはできていません。逆に、予測できない創発が突如起こるのが典型的な複雑系なのです。それはさておき、resilient という合言葉のもとに世界中から集まった約50人が、朝から晩までそれぞれの主義主張を発表しては議論するさまは壮観でした。なんせ医療界にとっては全く新しい概念であり、各自が好きなように解釈しては自らの成果、というかアイデアを披露するわけですから、座って聴いている方はまことに苦しいものがあります。まずは複雑系を描写する FRAM(The Functional Resonance Analysis Method)という概念図。これは六角形をパズルのように組み合わせて、たとえば「輸血を行う」といった事象を記述するものです。「正しい血液をとってくる」「電子カルテで確認する」「輸血前に照合する」「輸血ラインにつなぐ」など、1つ1つの行為に input(入力)と output(出力)があるのは当然ですが、これに影響を及ぼすものとして time(時間的制約)、preconditions(準備)、control(制御)、resources(資源)などがあるとしています。頭文字をとって順に I O T P C R で6つになり、この6つで六角形を構成するのです。現実世界を複雑系として理解するためには相互に複雑に絡み合った多数の六角形を用いる必要があり、「輸血」という一見単純な医療行為であっても、FRAM を用いて記述するには10個以上の六角形を要します。その一方、正確に記述すれば複雑怪奇な図となってしまう「輸血」を、われわれがさほど難しく考えることもなくやってしまえるのは、現場の1人1人の「弾力的な」働きによるのです。つまり、医療従事者は非常に resilient なので、無意識のうちに複雑な行程をこなしているのです。もちろん各医療機関には輸血マニュアルというものがあり、それを守って輸血をしているには違いないのですが、実際の現場が万事想定どおりになっているとは限りません。機械の不調とか、バーコードの読み取りがうまくいかないとか、同じ処置室に別の急患が搬入されたとか、時々刻々と変わっていく状況の中で時間に追われながら輸血せざるを得ないのが現実です。ほとんどの場合、現場の人たちがうまく微調整を行い、結果として正しく輸血が行われているのです。ところが残念なことに、ごく稀に異型輸血のような事故が起こってしまいます。一見、単純に見える間違いが、実は機械やバーコードや他の患者など、思いもよらないいろいろな要素が複雑に絡まり合って起こっていることが FRAM からは読み取れます。世の中にはこの FRAM を駆使し、原子力発電から宇宙飛行、国際紛争に至るまでどのように記述するかを研究している人達がいるのは驚きです。そのうちの1人は学会の事務局を兼任していたデンマーク人女性ですが、もともとは化学プラントの安全を専門としており、数年前から医療安全にかかわっているとのこと。アメリカ人やオーストラリア人の医師たちに対し、一歩も引かずに英語で議論するところなど、只者ではありませんでした。

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事例20 HBs抗体の査定【斬らレセプト】

解説事例では、B型慢性肝炎で治療継続フォロー中の患者に実施した肝炎ウィルス検査4項目が、A事由(医学的に適応と認められないもの)を理由に3項目へ査定となった。不適当とされた項目はHBs抗体であった。HBs抗体は、主にB型急性肝炎の治癒判定やウィルス性肝炎の既往歴検索に有用な検査とされている。事例でも、現状の判定に有用だと思われるために実施されていた。しかし、治療継続フォロー中の事例で、HBs抗原検査でB型肝炎ウイルスの有無が把握できれば、HBs抗体を検査する必要はなく、過剰検査とみなされる。また、一度陽性になると体内に抗体が長期間にわたり存在して陽性反応が続くという性質上、肝炎の鑑別診断、B型肝炎の経過観察には適さないとされている。今回はこちらを理由に、「傷病名から見て算定は不適当」と判断されたものであろう。同様の理由で、輸血歴や垂直感染の恐れのない小児へのHBs抗体の実施も、査定対象とされているので留意されたい。

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エボラ出血熱の最新報告-国立国際医療研究センターメディアセミナー

 9月3日(水)、都内にて「西アフリカのエボラ出血熱ウイルス流行と国際社会の課題」と題し、国立国際医療研究センターメディアセミナーが開催された。今回のセミナーでは、実際に現地リベリアで患者の診療や医療従事者への指導を担当した医師も講演し、最新の情報が伝えられた。※画像は、出国時の体温検査(画像提供:国立国際医療研究センター 加藤 康幸氏)対応は1類感染症の疾患 「日本の医療機関における備え、感染対策の基礎」と題し、堀 成美氏(国立国際医療研究センター)が、わが国の感染症対策の概要について説明を行った。 エボラ出血熱は、感染症法上1類感染症として取り扱われており、特定の医療機関で診療を行うこと、また、現在、患者発生に備えて、厚生労働省検疫所や自治体と共同して感染症患者の移送などの訓練を行っていると述べた。ワクチン開発の現状 次に、「ワクチン、治療の現状と課題」をテーマに西條 政幸氏(国立感染症研究所)が、現在のワクチン開発の状況を説明した。 本格的なワクチン開発は、1995年のエボラ出血熱アウトブレイクより行われた。当初は、同疾患に罹患し回復した患者の血液輸血という、中和抗体投与療法から開始された。現在、ウイルス増殖を抑制する抗ウイルス薬T-705と中和活性を有する抗体製剤であるZMappが開発され、サルやマウスによる治験が行われている。 T-705は早い段階の投与で効果を発揮し、マウスについて感染6日後の投与では死亡例がなかったのに対し、8日後の投与では約半数が死亡する結果であったという。また、ZMappは、サルについて感染5日後に投与した群はすべて回復が認められたのに対し、コントロール群では8日以内にすべて死亡したことが報告された。 西條氏はワクチンの特徴として、感染を予防するものではなく、あくまで体内でのウイルス増殖を抑え、重症化を防ぐために使用されるものであることを強調した。 今後のワクチン使用の問題点としては、ヒトへの有効性のほか、安全性、情報開示などさまざまなことが挙げられると提起した。 また最後に、西アフリカの感染拡大について触れ、「ウイルスそのものに変化は見られないものの、感染拡大の阻止には苦慮している。拡大の阻止には、さらなる住民への教育、広報、医療機関への資材の提供などが期待される」と説明した。疾患への知識不足がさらなる感染を招く 続いて、「リベリアにおけるエボラ対策支援活動から」をテーマに、実際にリベリアで活動した加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター)が最新情報を紹介した。 リベリアは、乾季のある熱帯雨林気候に属し、人口約420万人。今回の感染拡大は内戦後、国連による平和維持状態が続いている中で起こったものである。 エボラ出血熱は、現在5種類が特定されており、今回の流行はその中でも最強のザイール型と呼ばれているもの。首都を含む広範囲の感染拡大は、新興感染症では世界が初めて経験する事態で、WHO予測では2万人の感染者が予想されているという。 WHOによればエボラ出血熱は、人-人感染でうつり、2~21日で症状を発現、生存率は47%という特徴をもつ。そして、加藤氏によれば、現地では看護をする患者家族や医療スタッフへの感染例が多いとのことである。 典型症状は、出血よりも発熱、下痢と嘔吐であり、現地では、マラリアが通年で流行していることもあり、初期診断時に発熱症状の患者の鑑別診断に苦慮しているとのこと。確定診断は、PCR法による診断が行われ、現地では疑い例の段階で治療・隔離ユニットに収容される。 流行を抑えるためには、隔離と検疫が重要で、現地でも対策が取られているが、医療システムが崩壊していることもあり、順調には進んでいない。そんな中で、さまざまな国、機関の支援により医療の再構築がなされており、今回の支援活動では、感染防止の教育、発熱外来の設置、治療ユニットの設置などが行われた。 現地では、患者の1割が医療従事者であることから、医療従事者の感染防護としては、ガウンなどを重層する国境なき医師団の対策を採用している。また、始業時の体温チェック、バディ体制での病室入室時の防護服チェックなど、万全の態勢を期して臨んでいることなどが紹介された。 治療に関しては、エンピリック治療として抗マラリア薬や抗菌薬の投与が、支持療法として点滴、輸血などが行われている。さらに、疾患啓発や感染防止教育のために、回復患者が医療機関を巡回する取り組みが行われているそうである。 今後の課題として、エボラ出血熱について現地住民への理解の促進、現地の医療システムの復旧、政府などへの信頼性の回復、孤立化による物資不足の解消などが待たれる、と講演を終えた。詳しくは次のサイトをご参照ください。 国立感染症研究所 エボラ出血熱  厚生労働省 感染症法に基づく医師の届け出のお願い

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腰椎変性疾患への手術、従来法 vs ナビシステムTLIF

 近年、最小侵襲経椎間孔腰椎椎体間固定術(MIS-TLIF)が普及してきているが、ナビゲーションシステムの使用によりさらに手術が容易になってきている。中国・清華大学のWei Tian氏らは、腰椎変性疾患に対する単椎間TLIFについて、ナビゲーションシステムを用いた方法(CAMISS-TLIF)と従来法(open-TLIF)の臨床予後をレトロスペクティブに比較。CAMISS-TLIFのほうが優れていることを報告した。CAMISS-TLIFはopen-TLIFより手術時間が長くなるものの、術中出血、術後ドレーンおよび疼痛が少なく入院期間が短縮されるなどの利点が認められたという。Journal of Spinal Disorders & Techniques誌オンライン版2014年8月1日号の掲載報告。 試験対象は、単椎間TLIFを施行した61例(CAMISS-TLIF 30例、open-TLIF 31例)であった。 患者背景、手術成績、疼痛(視覚的アナログ尺度による)および機能(Oswestry disability index:ODIによる)などを調査するとともに、CTを用いてスクリュー挿入を評価した。また、術後2年時に骨癒合を独立した研究者によって評価した。 主な結果は以下のとおり。・CAMISS-TLIF群はopen-TLIF群より、出血量、術後ドレーン、輸血の必要性および術後初期の腰痛が有意に少なく、リハビリテーションの開始時期が早く、入院期間が短かったが、手術時間は長かった。・術後3ヵ月、1年、2年における疼痛および機能は両群で差はなかった。・挿入したスクリューのうちCAMISS-TLIF群で93.33%、open-TLIF群で73.39%は椎弓根穿孔が認められなかった(p=0.016)。・骨癒合率は両群で同程度であった(p=0.787)。

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献血ドナーのHEV感染率は予想以上/Lancet

 英国の献血ドナー中の遺伝子3型E型肝炎ウイルス(HEV)感染者の割合は0.04%と、予想以上に高率で存在することが明らかになった。また、そうした感染者の献血を受けたレシピエントのうち、同ウイルスへの感染は4割以上で検出されたという。英国National Health Service Blood and TransplantのPatricia E Hewitt氏らが、同国で行われた献血後ろ向きに調査を行い報告した。Lancet誌オンライン版2014年7月28日号掲載の報告より。HEV RNAについてスクリーニング、レシピエントも追跡調査 研究グループは、2012年10月~2013年9月に、英国南東部で行われた22万5,000件の献血について、後ろ向きにHEV RNAのスクリーニングを行った。 HEV RNAの検出については、血清学的、ゲノムによる系統学的な分析を行った。同献血のレシピエントも特定し、献血による同ウイルス感染のアウトカムについて調査した。HEV感染ドナー、71%が献血時に血清学的陰性 その結果、79例のドナーで遺伝子3型HEVのウイルス血症が検出され、HEV RNAの有病率は、2,848件中1件(0.04%)相当であることが示された。なお、同ウイルス血症を持つドナーのうち56例(71%)が、献血時には血清学的陰性だった。 79例のドナーから129個の血液製剤がつくられ、そのうち62個が60例への輸血に使われていた。同輸血のレシピエント43例について調べたところ、18例(42%)で同感染が認められた。 研究グループは、献血ドナーのHEV RNA罹患率は予想より高かったとまとめている。また、2,848件中1件という有病率から推定すると、試験を行った年に英国内で発生した急性HEV感染の発生件数は8~10万件に上るとしている。

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吐下血の出血量を過小評価したため死亡に至ったケース

消化器最終判決判例時報 1446号135-141頁概要慢性肝炎のため通院治療を受けていた43歳男性。1988年5月11日夕刻、黒褐色の嘔吐をしたとして来院して診察を受けた。担当医師は上部消化管からの出血であると診断したが、その夜は対症療法にとどめて、翌日検査・診察をしようと考えて帰宅させた。ところが翌朝吐血したため、ただちに入院して治療を受けたが、上部消化管からの大量出血によりショック状態に陥り、約17時間後に死亡した。詳細な経過患者情報43歳男性経過昭和61年5月20日初診。高血圧症、高脂血症、糖尿病、慢性肝炎と診断され、それ以来昭和63年5月7日までの間に月に7~8回の割合で通院していた。血液検査結果では、中性脂肪461、LAP 216、γ-GTP 160で、そのほかの検査値は正常であったことから、慢性アルコール性肝炎と診断していた。昭和63年5月11日19:40頃夕刻に2回吐血したため受診。この際の問診で、「先程、黒褐色の嘔吐をした。今朝午前3:00頃にも嘔吐したが、その時には血が混じっていなかった」と述べた。担当医師は上部消化管からの出血であると認識し、胃潰瘍あるいは胃がんの疑いがあると考えた(腹部の触診では圧痛なし)。そのため、出血の原因となる疾患について、その可能性が高いと判断した出血性胃炎と診療録に記載し、当夜はとりあえず対症療法にとどめて、明日詳細な検査、診察をしようと考え、強力ケベラG®、グルタチオン200mg(商品名:アトモラン)、肝臓抽出製剤(同:アデラビン9号)、幼牛血液抽出物(同:ソルコセリル)、ファモチジン(同:ガスター)、メトクロプラミド(同:プリンペラン)、ドンペリドン(同:ナウゼリン)、臭化ブトロピウム(同:コリオパン)を投与したうえ、「胃潰瘍の疑いがあり、明日検査するから来院するように」と指示して帰宅させた。5月12日07:00頃3度吐血。08:30頃タクシーで受診し、「昨夜から今朝にかけて、合計4回の吐血と下血があった」と申告。担当医師は吐き気止めであるリンゴ酸チエチルぺラジン(同:トレステン)を筋肉注射し、顔面蒼白の状態で入院した。09:45血圧120/42mmHg、脈拍数114、呼吸数24、尿糖+/-、尿蛋白-、尿潜血-、白血球数16,500、血色素量10g/dL。ただちに血管を確保し、5%キシリトール500mLにビタノイリン®、CVM、ワカデニン®、アデビラン9号®、タジン®、トラネキサム酸(同:トランサミン)を加えた1本目の点滴を開始するとともに、側管で20%キシリトール20mL、ソルコセリル®、ブスコパン®、プリンペラン®、フェジン®を投与し、筋肉注射で硫酸ネチルマイシン(同:ベクタシン)、ロメダ®を投与した。引き続いて、2本目:乳酸リンゲル500mL、3本目:5%キシリトール500mLにケベラG®を2アンプル、アトモラン®200mgを加えたもの、4本目:フィジオゾール500mL、5本目:乳酸リンゲルにタジン®、トランサミン®を加えたもの、の点滴が順次施行された。11:20頃しきりに喉の渇きを訴えるので、看護師の許しを得て、清涼飲料水2缶を飲ませた。11:30頃2回目の回診。14:00頃3回目の回診。血圧90/68mmHg。14:20頃いまだ施行中であった5本目の点滴に、セジラニドを追加した。14:30頃酸素吸入を開始(1.5L/min)。15:00頃顔面が一層蒼白になり、呼吸は粗く、胸元に玉のような汗をかいているのに手足は白く冷たくなっていた。血圧108/38mmHg。16:00頃血圧低下のため5本目の点滴に塩酸エチレフリン(同:エホチール)を追加した。17:00頃一層大量の汗をかき拭いても拭いても追いつかない程で、喉の渇きを訴え、身の置き所がないような様子であった。血圧80/--mmHg18:00頃4回目の回診をして、デキストラン500mLにセジラニド、エホチール®を加えた6本目の点滴を実施し、その後、クロルプロマジン塩酸塩(同:コントミン)、塩酸プロメタジン(同:ヒベルナ)、塩酸ぺチジン(同:オピスタン)を筋肉注射により投与し、さらにデキストランL 500mLの7本目の点滴を施行した。5月13日00:00頃看護師から容態について報告を受けたが診察なし。血圧84/32mmHg01:30頃これまで身体を動かしていたのが静かになったので、家族は容態が落ち着いたものと思った。02:00頃異常に大きな鼾をかいた後、鼻と口から出血した。看護師から容態急変の報告を受けた担当医師は人工呼吸を開始し、ジモルホラミン(同:テラプチク)、ビタカンファー®、セジラニドを筋肉注射により投与したが効果なし。02:45死亡確認(入院から17時間25分後)。当事者の主張患者側(原告)の主張吐血が上部消化管出血であると認識し得たのであるから、すみやかに内視鏡などにより出血源を検索し、止血のための治療を施すべきであり、また、出血性ショックへと移行させないために問診を尽くし、バイタルサインをチェックし、理学的所見などをも考慮して出血量を推定し、輸血の必要量を指示できるようにしておくべきであった。担当医師はこれまでに上部消化管出血患者の治療に当たった経験がなく、また、それに適切に対応する知識、技術に欠けていることを自覚していたはずであるから、このような場合、ほかの高次医療機関に転院させる義務があった。病院側(被告)の主張5月11日の訴えは、大量の出血を窺わせるものではなく、翌日の来院時の訴えも格別大量の出血を想起させるものではなかった。大量の出血は結果として判明したことであって、治療の過程でこれを発見できなかったとしてもこれを発見すべき手がかりがなかったのであるから、やむを得ない。裁判所の判断上部消化管出血は早期の的確な診断と緊急治療を要するいわゆる救急疾患の一つであるから、このような患者の治療に当たる医師には、急激に重篤化していくこともある可能性を念頭において、ただちに出血量に関して十分に注意を払ったうえで問診を行い、出血量の判定の資料を提供すべき血液検査などをする注意義務がある。上部消化管出血の患者を診察する医師には、当該患者の循環動態が安定している場合、速やかに内視鏡検査を行い、出血部位および病変の早期診断、ならびに治療方法の選択などするべき注意義務がある。上部消化管出血が疑われる患者の治療に当たる医師が内視鏡検査の技術を習得していない場合には、診察後ただちに検査および治療が可能な高次の医療機関へ移送すべき注意義務がある。本件では容態が急激に重篤化していく可能性についての認識を欠き、上記の注意義務のいずれをも怠った過失がある。約6,678万円の請求に対し、請求通りの支払い命令考察吐血の患者が来院した場合には、緊急性を要することが多いので、適切な診察、検査、診断、治療が必要なことは基本中の基本です。吐血の原因としては、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍、急性胃粘膜病変、食道および胃静脈瘤破裂、ならびにMallory-Weiss症候群などが挙げられ、出血源が明らかになったもののうち、これらが90~95%を占めています。そして、意外にも肝硬変患者の出血原因としては静脈瘤59%、胃炎8.2%、胃潰瘍5.4%、十二指腸潰瘍6.8%、その他10.2%と、必ずしも静脈瘤破裂ばかりが出血源ではないことには注意が必要です。本件の場合、担当医師が当初より上部消化管からの出血であることを認識していながら、それが急激に重篤化していく可能性のある緊急疾患であるという認識を欠いており、そのため適切な措置を講ずることができなかった点が重大な問題と判断されました。さらに後方視的ではありますが、当時の症状、バイタルサインや血液検査などの情報から、推定出血量を1,000~1,600mLと細かく推定し、輸血や緊急内視鏡を施行しなかった点を強調しています。そのため判決では、原告の要求がそのまま採用され、抗弁の余地がないミスであると判断されました。たとえ診察時に止血しており、全身状態が比較的落ち着いているようにみえても、出血量(血液検査)や、バイタルサインのチェックは最低限必要です。さらに、最近では胃内視鏡検査も外来で比較的容易にできるため、今後も裁判では消化管出血の診断および治療として「必須の検査」とみなされる可能性があります。そのため、もし緊急で内視鏡検査ができないとしたら、その対応ができる病院へ転送しなければならず、それを怠ると本件のように注意義務違反を問われる可能性があるので、注意が必要です。消化器

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重症鎌状赤血球症のミニ移植の効果/JAMA

 重症鎌状赤血球症への骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(HSCT)は、生着率が87%に上ることが、米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)のMatthew M. Hsieh氏らによる検討の結果、判明した。HSCTは、小児の重症鎌状赤血球症では治療効果が認められていた。しかし、成人患者については有効性、安全性が確立されていなかった。JAMA誌2014年7月2日号掲載の報告より。30例を対象に骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植、1年後のアウトカムを評価 研究グループは、2004年7月16日~2013年10月25日にかけて、16~65歳の重症鎌状赤血球症の患者30例を対象に、ヒト白血球抗原(HLA)適合の兄弟姉妹によるHSCTを行った。被験者の中には、サラセミアが認められる患者もいた。 主要評価項目は、移植1年後の鎌状赤血球症患者のドナー型ヘモグロビンへの完全変換と、サラセミア患者の輸血非依存性だった。 副次評価項目は、ドナーの白血球キメラ現象の程度、急性・慢性移植片対宿主病発生率、鎌状赤血球‐サラセミア病の無病生存率などだった。患者15例が免疫反応抑制剤の服用を中止 被験者30例のうち1例は再発後の頭蓋内出血で死亡した。残る29例の生存期間中央値は3.4年(1~8.6年)だった。 2013年10月時点で、急性・慢性移植片対宿主病を有さず長期安定的ドナー生着が認められたのは26例(87%)だった。骨髄キメラ率は86%(95%信頼区間[CI]:70~100%)だった。 ドナーT細胞平均値は48%(95%CI:34~62%)で、移植を受けた患者の15例で安定的ドナーのキメラ現象が続き、移植片対宿主病もなく、免疫反応抑制剤の服用を中止した。 また、年平均入院率についても、移植前年が3.23(95%CI:1.83~4.63)だったのに対し、移植後1年目が0.63(同:0.26~1.01)、2年目は0.19(同:0~0.45)、3年目は0.11(同:0.04~0.19)だった。 なお、重度有害事象の発生は38件だった。疼痛や関連処置、感染症、腹部事象、シロリムス関連の毒性作用などが報告されている。

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外傷性脳損傷へのEPO投与/JAMA

 閉鎖性外傷性脳損傷患者に対して、エリスロポエチン(EPO)投与およびヘモグロビン値10g/dL超維持の積極的な輸血管理は、6ヵ月時点の神経学的アウトカムの改善に結びつかなかったことが示された。米国・ベイラー医科大学のClaudia S. Robertson氏らが無作為化試験の結果、報告した。試験では輸血閾値10g/dLと高頻度の有害イベント発生との関連も認められ、著者は、「いずれのアプローチも支持できない」と結論している。これまで、外傷性脳損傷後のEPO投与または積極的な輸血管理の効果に関する情報は、いずれも限定的なものであった。JAMA誌2014年7月2日号掲載の報告より。EPO投与有無と輸血管理の2つの閾値について検討 研究グループは、EPO投与と2つの輸血目標ヘモグロビン値(7g/dLと10g/dL)の、神経学的回復における効果を比較する検討を行った。 被験者は閉鎖性外傷性脳損傷を受け、指示に従うことができなかった患者200例で、2006年5月~2012年8月に、米国のレベルI外傷センター2施設の脳神経外科集中治療室で受傷後6時間以内に登録された。 試験は2×2要因配置デザインを用いて被験者を、輸血閾値7g/dLおよびEPO投与群、輸血閾値7g/dLおよびプラセボ投与群、輸血閾値10g/dLおよびEPO投与群、輸血閾値10g/dLおよびプラセボ投与群の4群に無作為化。EPO投与群(102例)のアウトカム改善がプラセボ群(98例)よりも20%上回ることができない、また輸血閾値10g/dL超群(101例)が7g/dL群(99例)と比べて合併症を増大することなく良好な転帰を増大するかどうかを検証した。 なおEPOまたはプラセボの投与は、試験初期登録の74例については、500 IU/kgを当初3日間、その後週1回を2週間以上行うスケジュールで行われた(第1投与スケジュール)。しかし2009年に安全性への懸念から投与スケジュールが変更され、その後に登録された126例については24時間、48時間時点の投与は行われなかった(第2投与スケジュール)。 主要評価項目は、受傷後6ヵ月時点のグラスゴー・アウトカム・スケールスコアで、良好(良好な回復、中等度の障害)または不良(重度の障害、植物状態または死亡)で判定した評価とした。受傷後6ヵ月時点のアウトカムの評価は、いずれも無益であることを示す結果 EPOと輸血閾値に相互作用は認められなかった。 アウトカム良好となった患者の割合は、プラセボ群(34/89例・38.2%、95%信頼区間[CI]:28.1~49.1%)と比較して、EPO投与群は、第1投与スケジュール群(17/35例・48.6%、95%CI:31.4~66.0%、p=0.13)、第2投与スケジュール群(17/57例、29.8%、同:18.4~43.4%、p<0.001)ともに、投与が無益であることを示す結果であった。 輸血閾値の違いでみると、7g/dL群は42.5%(37/87例)であり、10g/dL群は33.0%(31/94例)という結果であった(差の95%CI:-0.06~0.25、p=0.28)。 また、輸血閾値10g/dL群では7g/dL群と比べて、血栓塞栓症イベントの発生が高率に認められた(22/101例[21.8%] vs. 7g/dL群8/99例[8.1%]、オッズ比:0.32、95%CI:0.12~0.79、p=0.009)。

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酩酊患者の胸腔内出血を診断できずに死亡したケース

救急医療最終判決判例時報 1132号128-135頁概要酩酊状態でオートバイと衝突し、救急隊でA病院に搬送された。外観上左後頭部と右大腿外側の挫創を認め、経過観察のため入院とした。病室では大声で歌を歌ったり、点滴を自己抜去するなどの行動がみられたが、救急搬送から1時間後に容態が急変して下顎呼吸となり、救急蘇生が行われたものの死亡に至った。死体解剖は行われなかったが、視診上右第3-第6肋骨骨折、穿刺した髄液が少量の血性を帯びていたことなどから、「多発性肋骨骨折を伴う胸腔内出血による出血性ショック」と検案された。詳細な経過経過1979年12月16日16:15頃相当量の飲酒をして道路を横断中、走行してきたオートバイの右ハンドル部分が右脇腹付近に強く当たる形で衝突し、約5mはねとばされて路上に転倒した。16:20近くの救急病院であるA病院に救急車で搬送される。かなりの酩酊状態であり、痛いというのでその部位を質問しても答えられず、処置中制止しても体を動かしたりした。外観上は、左後頭部挫傷、右大腿外側挫傷、左上腕擦過傷、右外肘擦過傷を認めたが、胸部の視診による皮下出血、頻呼吸、異常呼吸、ならびに触診による明らかな肋骨骨折なし。血圧90/68、呼吸困難なし、腹部筋性防御反応なし、神経学的異常所見なしであった。各創部の縫合処置を行ったのち、血圧が低いことを考慮して血管確保(乳酸加リンゲル500mL)を行ったが、格別重症ではないと判断して各種X線、血液検査、尿検査、CT撮影などは実施しなかった。このとき、便失禁があり、胸腹部あたりにしきりに疼痛を訴えていたが、正確な部位が確認できなかったため経過観察とした。17:20病室に収容。寝返りをしたり、ベッド上に起き上がったりして体動が激しく、転落のおそれがあったので、窓際のベッドに移してベッド柵をした。患者は大声で歌うなどしており、体動が激しく点滴を自己抜去するほどであり、バイタルサインをとることができなかったが、喘鳴・呼吸困難はなかった。17:40容態が急変して体動が少なくなり、下顎呼吸が出現。当直医は応援医師の要請を行った。17:50救急蘇生を開始したが反応なし。18:35死亡確認となった。■死体検案本来は死体解剖をぜひともするべきケースであったが行われなかった。右頭頂部に挫創を伴う表皮剥脱1個あり髄液が少量の血性を帯びていた右第3-第6肋骨の外側で骨折を触知、胸腔穿刺にて相当量の出血あり肋骨骨折部位の皮膚表面には変色なし以上の所見から、監察医は「死因は多発肋骨骨折を伴う胸腔内出血による出血性ショック」と判断した。当事者の主張患者側(原告)の主張初診時からしきりに胸腹部の疼痛を訴え、かつ腹部が膨張して便失禁がみられたにもかかわらず、酩酊していたことを理由に患者の訴えを重要視しなかった受傷機転について詳細な調査を行わず、脈拍の検査ならびに肋骨部分の触診・聴診を十分に実施せず、初診時の血圧が低かったにもかかわらず再検をせず、X線撮影、血液検査、尿検査をまったく行わなかった初診時に特段の意識障害がなかったことから軽症と判断し、外見的に捉えられる創部の縫合処置を行っただけで、診療上なすべき処置を執らなかった結果、死亡に至らしめた病院側(被告)の主張胸腹部の疼痛の訴えはあったが、しきりに訴えたものではなく、疼痛の部位を尋ねても泥酔のために明確な指摘ができなかった初診時には泥酔をしていて、処置中も寝がえりをするなど体動が激しく、血圧測定、X線検査などができる状態ではなかった。肋骨骨折は、ショック状態にいたって蘇生術として施行した体外心マッサージによるものである初診時に触診・聴診・視診で異常がなく、喀血および呼吸困難がなく、大声で歌を歌っていたという経過からみて、肋骨骨折や重大な損傷があったとは認められない。死体検案で髄液が血性であったということから、頭蓋内損傷で救命することは不可能であった。仮に胸腔内出血であったとしても、ショックの進行があまりにも早かったので救命はできなかった裁判所の判断1.初診時血圧が90と低く、胸腹部のあたりをしきりに痛がってたこと、急変してショック状態となった際の諸症状、心肺蘇生施行中に胸部から腹部にかけて膨満してきた事実、死体検案で右第3-第6肋骨骨折がみられたことなどを総合すると、右胸腔内出血により出血性ショックに陥って死亡したものと認めるのが相当である2.容態急変前には呼吸困難などなく、激しい体動をなし、歌を歌っていたが、酩酊している場合には骨折によって生じる痛みがある程度抑制されるものである3.肋骨骨折部位の皮膚に変色などの異常を疑う所見がなかったのは、衝突の際にセーターやジャンパーを着用していたため皮下出血が生じなかった4.体外式心マッサージの際生じることのある肋骨骨折は左側であるのに対し、本件の肋骨骨折は右外側であるので、本件で問題となっている肋骨骨折は救急蘇生とは関係ない。一般に肋骨骨折は慎重な触診を行うことにより容易に触知できることが認められるから、診療上の過失があった5.胸腔内への相当量の出血を生じている患者に対して通常必要とされる初診時からの血圧、脈拍などにより循環状態を監視しつつ、必要量の乳酸加リンゲルなどの輸液および輸血を急速に実施し、さらに症状の改善がみられない場合には開胸止血手術を実施するなどの処置を行わなかった点は適切を欠いたものである。さらに自己抜去した点滴を放置しその後まもなく出血性ショックになったことを考えると、注射針脱落後の処置が相当であったとは到底認めることができない6.以上のような適切な処置を施した場合には、救命することが可能であった原告側合計6,172万円の請求に対し、5,172万円の判決考察ここまでの経過をご覧になって、あまりにも裁判所の判断が実際の臨床とかけ離れていて、唖然としてしまったのは私だけではないと思います。その理由を説明する前に、この事件が発生したのは日曜日の午後であり、当時A病院には当直医1名(卒後1年目の研修医)、看護師4名が勤務していて、X線技師、臨床検査技師は不在であり、X線撮影、血液検査はスタッフを呼び出して、行わなければならなかったことをお断りしておきます。まず、本件では救急車で来院してから1時間20分後に下顎呼吸となっています。そのような重症例では、来院時から意識障害がみられたり、身体のどこかに大きな損傷があるものですが、経過をみる限りそのようなことを疑う所見がほとんどありませんでした。唯一、血圧が90/68と低かった点が問題であったと思います。しかも、容態急変の20分前には(酩酊も関係していたと思われますが)大声で歌を歌っていたり、病室で点滴を自己抜去したということからみても、これほど早く下顎呼吸が出現することを予期するのは、きわめて困難であったと思われます。1. 死亡原因について本件では死体解剖が行われていないため、裁判所の判断した「胸腔内出血による失血死」というのが真実かどうかはわかりません。確かに、初診時の血圧が90/68と低かったので、ショック状態、あるいはプレショック状態であったことは事実です。そして、胸腹部を痛がったり、監察医が右第3-第6肋骨骨折があることを触診で確認していますので、胸腔内出血を疑うのももっともです。しかし、酩酊状態で直前まで大声で歌を歌っていたのに、急に下顎呼吸になるという病態としては、急性心筋梗塞による致死性不整脈であるとか、大動脈瘤破裂、もしくは肺梗塞なども十分に疑われると思います。そして、次に述べますが、肋骨骨折が心マッサージによるものでないと断言できるのでしょうか。どうも、本件で唯一その存在が確かな(と思われる)肋骨骨折が一人歩きしてしまって、それを軸としてすべてが片付けられているように思えます。2. 肋骨骨折についてまず、「一般に肋骨骨折は慎重な触診を行うことにより容易に触知できる」と断じています。この点は救急を経験したことのある先生方であればまったくの間違いであるとおわかり頂けると思います。外観上異常がなくても、X線写真を撮ってはじめてわかる肋骨骨折が多数あることは常識です。さらに、「肋骨骨折部位の皮膚に変色などの異常を疑う所見がなかったのは、衝突の際にセーターやジャンパーを着用していたため皮下出血が生じなかった」とまで述べているのも、こじつけのように思えて仕方がありません。交通外傷では、(たとえ厚い生地であっても)衣服の下に擦過傷、挫創があることはしばしば経験しますし、そもそも死亡に至るほどの胸腔内出血が発生したのならば、胸部の皮下出血くらいあるのが普通ではないでしょうか。そして、もっとも問題なのが、「体外式心マッサージの際生じることのある肋骨骨折は左側であるのに対し、本件の肋骨骨折は右外側であるので、本件で問題となっている肋骨骨折は救急蘇生とは関係ない」と、ある鑑定医の先生がおっしゃったことを、そのまま判決文に採用していることです。われわれ医師は、科学に基づいた教育を受け、それを実践しているわけですから、死体解剖もしていないケースにこのような憶測でものごとを述べるのはきわめて遺憾です。3. 点滴自己抜去について本件では初診時から血算、電解質などを調べておきたかったと思いますが、当時の状況では血液検査ができませんでしたので、酩酊状態で大声で歌を歌っていた患者に対しとりあえず輸液を行い、入院措置としたのは適切であったと思います。そして、病室へと看護師が案内したのが17:20、恐らくその直後に点滴を自己抜去したと思いますが、このとき寝返りをしたりベッド上に起き上がろうとして体動が激しいため、転落を心配して窓際のベッドに移動し、ベッドに柵をしたりしました。これだけでも10分程度は経過するでしょう。恐らく、落ち着いてから点滴を再挿入しようとしたのだと思いますが、病室に入ったわずか20分後の17:40に下顎呼吸となっていますので、別に点滴が抜けたのに漫然と放置したわけではないと思います。にもかかわらず、「さらに自己抜去した点滴を放置しその後まもなく出血性ショックになったことを考えると、注射針脱落後の処置が相当であったとは到底認めることができない」とまでいうのは、どうみても適切な判断とは思えません。4. 本件は救命できたか?裁判所(恐らく鑑定医の判断)は、「適切な処置(輸血、開胸止血)を施した場合には、救命することが可能であった」と断定しています。はたして本件は適切な治療を行えば本当に救命できたのでしょうか?もう一度時間経過を整理すると、16:15交通事故。16:20病院へ救急搬送、左後頭部、右大腿外側の縫合処置、便失禁の処置、点滴挿入。17:20病室へ。体動が激しく大声で歌を歌う。17:40下顎呼吸出現。18:35死亡確認。この患者さんを救命するとしたら、やはり下顎呼吸が出現する前に血液検査、輸血用のクロスマッチ、場合によっては手術室の手配を行わなければなりません。しかしA病院では日曜日の当直帯であったため、X線検査、血液検査はできず、裁判所のいうように適切に診断し治療を開始するとしたら、来院後すぐに3次救急病院へ転送するしか救命する方法はなかったと思います。A病院で外来にて診察を行っていたのは60分間であり、その時の処置(縫合、点滴など)をみる限り、手際が悪かったとはいえず(血圧が低かったのは気になりますが)、この時点ですぐに転送しなければならない切羽詰まった状況ではなかったと思います。となると、どのような処置をしたとしても救命は不可能であったといえるように思えます。では最初から救命救急センターに運ばれていたとしたら、どうだったでしょうか。初診時に意識障害がなかったということなので、簡単な問診の後、まずは骨折がないかどうかX線写真をとると思います。そして、胸腹部を痛がっていたのならば、腹部エコー、血液検査などを追加し、それらの結果がわかるまでに約1時間くらいは経ってしまうと思います。もし裁判所の判断通り胸腔内出血があったとしたら、さらに胸部CTも追加しますので、その時点で開胸止血が必要と判断したら、手術室の準備が必要となり、入室までさらに30分くらい経過してしまうと思います。となると、来院から手術室入室まで早くても90分くらいは要しますので、その時にはもう容態は急変(下顎呼吸は来院後80分)していることになります。このように、後から検証してみても救命はきわめて困難であり、「適切な処置(輸血、開胸止血)を施した場合には、救命することが可能であった」とは、到底いえないケースであったと思います。以上、本件の担当医には酷な結末であったと思いますが、ひとつだけ注意を喚起しておきたいのは、来院時の血圧が90/68であったのならば、ぜひともそのあと再検して欲しかった点です。もし再検で100以上あれば病院側に相当有利になっていたと思われるし、さらに低下していたらその時点で3次救急病院への転送を考えたかも知れません。救急医療

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出血性ショックに対する輸血方法が不適切と判断されたケース

救急医療最終判決判例タイムズ 834号181-199頁概要大型トラックに右腰部を轢過された38歳女性。来院当初、意識は清明で血圧120/60mmHg、骨盤骨折の診断で入院となった。ところが、救急搬入されてから1時間15分後に血圧測定不能となり、大量の輸液・代用血漿を投与したが血圧を維持できず、腹腔内出血の診断で緊急手術となった。合計2,800mLの輸血を行うが効果はなく、受傷から9時間後に死亡した。詳細な経過患者情報とくに既往症のない38歳女性経過1982年9月2日13:50自転車に乗って交差点を直進中、左折しようとしていた大型トラックのバンパーと接触・転倒し、トラックの左前輪に右腰部を轢過された。14:00救急病院に到着。意識は清明で、轢かれた部分の痛みを訴えていた。血圧120/60mmHg、脈拍72/分。14:10X線室に移動し、腰部を中心としたX線撮影施行。X線室で測定した血圧は初診時と変化なし。14:25整形外科診察室前まで移動。14:35別患者のギプス巻きをしていた整形外科担当医が診察室の中でX線写真を読影。右仙腸関節・右恥骨上下枝(マルゲーヌ骨折)・左腸骨・左腸骨下枝・尾骨の骨折を確認し、直接本人を診察しないまま家族に以下の状況を説明した。骨盤が6箇所折れている膀胱か輸尿管がやられているかもしれない内臓損傷はX線では写らず検査が必要なので即時入院とする15:004階の入院病棟に到着。担当医の指示でハンモックベッドを用いた骨盤垂直牽引を行おうとしたが、ハンモックベッドの組立作業がうまくできなかった。15:15やむなく普通ベッドに寝かせバイタルサインをチェックしたところ、血圧測定不能。ただちに担当医師に連絡し、血管確保、輸液・代用血漿の急速注入を行うとともに、輸血用血液10単位を指示。15:20Hb 9.7g/dL、Ht 31%腹腔内出血による出血性ショックを疑い、外科医師の応援を要請、腹腔穿刺を行ったが出血はなく、後腹膜腔内の出血と診断した。15:35約20分間で輸液500mL、代用血漿2,000mL、昇圧剤の投与などを行ったがショック状態からの離脱できなかったので、開腹手術をすることにし、家族に説明した。15:45手術室入室。15:50輸血10単位が到着(輸血要請から35分後:この病院には輸血を常備しておらず、必要に応じて近くの輸血センターから取り寄せていた)、ただちに輸血の交差試験を行った。16:15輸血開始。16:20~18:30手術開始。単純X線写真では診断できなかった右仙腸関節一帯の粉砕骨折、下大静脈から左総腸骨静脈の分岐部に20mmの亀裂が確認された。腹腔内の大量の血腫を除去すると、腸管膜が一部裂けていたが新たな出血はなく、静脈亀裂部を縫合・結紮して手術を終了した。総出血量は3,210mL。手術中の輸血量1,800mL、輸液200mL、代用血漿1,500mLを併用するとともに、昇圧剤も使用したが、血圧上昇は得られなかった。19:00病室に戻るが、すでに瞳孔散大状態。さらに1,000mLの輸血が追加された。23:04各種治療の効果なく死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.救急車で来院した患者をまったく診察せず1時間も放置し、診断が遅れた2.輸血の手配とその開始時間が遅れ、しかも輸血速度が遅すぎたために致命的となった3.手術中の止血措置がまずかった病院側(被告)の主張1.救急車で来院後、バイタルサインのチェック、X線撮影などをきちんと行っていて、患者を放置したなどということはない。来院当時担当医師は別患者のギプス巻きを行っていたので、それを放棄してまで(容態急変前の)患者につき沿うのは無理である。容態急変後はただちに血液の手配をしている。そして、地域の特殊性から血液はすべて予約注文制であり、院内には常備できないという事情がった(実際に輸血20単位注文したにもかかわらず、入手できたのは14単位であった)2.また輸血前には輸液1,000mLと代用血漿2,000mLの急速注入を行っているため、さらに失血した血液量と等量の急速輸血は循環血液量を過剰に増大させ、うっ血性心不全を起こしたり出血を助長したりする危険があるので、当時の判断は適切である3.手術所見では左総腸静脈の亀裂部、骨盤静脈叢および仙骨静脈叢からの湧き出すような多発性出血であり、血腫を除去すると新たな出血はみられなかったため、静脈縫合後は血腫によるタンポナーデ効果を期待するほかはなかった。このような多発性骨盤腔内出血の確実な止血方法は発見されていない裁判所の判断1.診断の遅れX線写真を読影して骨盤骨折が確認された時点で、きちんと患者を診察して直ぐに腹腔穿刺をしていれば、腹腔内出血と診断して直ぐに手術の準備ができたはずである(注:14:00救急来院、14:35X線読影、この時点で意識は清明で血圧120/60→このような状況で腹腔穿刺をするはずがない!!しかものちに行われた腹腔内穿刺では出血は確認されていない)2.血圧測定不能時の輸血速度は、30分間に2,000mLという基準があるのに、30分間に500mLしか輸血しなかったのは一般的な臨床水準を下回る医療行為である以上、早期診断義務違反、輸血速度確保義務違反によって死亡した可能性が高く、交通事故9割、医療過誤1割による死亡である(手術方法については臨床医学水準に背くものとはいえない)。原告側6,590万円の請求に対し、1,225万円の判決考察この事件は、腰部を大型トラックに轢過された骨盤骨折の患者さんが、来院直後は(腹腔内出血量が少なかったので)意識清明であったのに、次第に出血量が増えたため来院から1時間15分後にショック状態となり、さまざまな処置を講じたけれども救命できなかった、という概要です。担当医師はその場その場で適切な指示を出しているのがわかりますし、総腸骨静脈が裂けていたり、骨盤内には粉砕骨折があって完璧な止血はきわめて困難であったと思われますので、たとえどのような処置を講じていようとも救命は不可能であった可能性が高いと思います。本来であれば、交通事故の加害者に重大な責任があるというものなのに、ご遺族の不満がなぜ病院側に向いてしまったのか、非常に理解に苦しみます。「病院に行きさえすればどのような怪我でも治してくれるはずだ」、という過度の期待が背景にあるのかもしれません。そして、何よりも憤りを感じるのが、裁判官がまったく的外れの判決文を書いてしまっている点です。経過をご覧になった先生はすでにおわかりかと思いますが、もう一度この事件を時系列的に振り返ってみると、14:00救急病院に到着。意識清明、血圧120/60mmHg、脈拍72/分。14:10X線室に移動。撮影終了後の血圧は初診時と変化なし。14:25整形外科診察室前まで移動。14:35担当医師が読影し、家族に入院の説明。15:004階の入院病棟に到着(意識清明)。15:15血圧測定不能。15:20腹腔穿刺で出血は確認できず。後腹膜腔内の出血と判断。となっています。つまりこの裁判官は、意識障害のない、血圧低下のない、14:35の(=X線写真で骨盤骨折が確認された)状況からすぐさま、「骨盤骨折があるのならばただちに腹腔穿刺をするべきだ。そうすれば腹腔内出血と診断できるはずだ!」という判断を下しているのです。おそらく、法学部出身の優秀な法律家が、断片的な情報をつぎたして、医療現場の実態を知らずに空想の世界で作文をしてしまった、ということなのでしょう(この事件は控訴されていますので、このミスジャッジはぜひとも修正されなければなりません)。ただ医師側も反省すべきなのは、担当医師は患者を診察することなくX線写真だけで診断し、取り急ぎ家族へは入院の説明をしただけで病棟へ移送してしまったという点です。この時担当医師は、別患者のギプス巻きをわざわざ中断してまで、救急患者のフィルム読影と家族への説明を行ったという状況を考えれば、超多忙な外来業務中(それ以外にも数人のギプス巻き患者がいた)でやむを得なかったという見方もできます。しかし、裁判へと発展した理由の一つに「患者の診察もしないでX線だけで判断した」という家族の不満が背景にあります。そして、もしかすると、初期の段階で患者との会話、顔色や皮膚の様子、骨折部の視診などにより、ショックの前兆を捉えることができたのかもしれません(この約45分後に血圧測定不能となっている)。したがって、多忙ななかでも救急車で運ばれた重症患者はきちんと診察するという姿勢が大事だと思います。次に問題となるのが輸血速度です。このケースの来院から死亡するまでの出血や水分量を計算すると、 手術前手術中14:1014:10輸液500mL2,000mL1,000mL3,500mL代用血漿2,000mL1,500mL500mL4,000mL輸血 1,800mL1,000mL2,800mL出血量 3,210mL57mL3,267mLとなっています。この裁判で医療過誤と認定されたのは、輸血がセンターから到着してからの投与方法でした。輸血を開始したのは手術室に入室してから30分後、執刀の5分前であり、おそらく輸血の点滴ラインを全開にして急速輸血が行われていたと思います。そして、結果的には、約30分間の間に500mL(2.5パック)入りましたので、このくらいでよいだろう、十分ではないか、と多くの先生方がお考えになると思います。ところが資料にもあるように、出血性ショックに対する輸血速度としては、「血圧測定不能時=2,000mLを30分以内に急速輸血」と記載した文献があります。本件のような出血性ショックの緊急時には、血圧を維持するように50mLの注射器を用いてpumpingするケースもあると思いますが、その際にはとにかく早く輸血をするという意識が先に働くため、30分以内に2,000mL(10単位分)を輸血する、という明確な目標を設定するのは難しいのではないでしょうか。しかも緊急の開腹手術を行っている最中であり、輸血以外にもさまざまな配慮が必要ですから、あれもこれもというわけにはいかないと思います。しかし、裁判官が判決文を書く際の臨床医学水準というのは、論文や医学書に記載された内容を最優先しますので、本件のように出血性ショックで血圧測定不能例には30分に2,000mLの輸血をするという目安があるにもかかわらず、500mLの輸血しか行われていないことがわかると、「教科書通りにやっていないのでけしからん」という判断につながるのです。この点について病院側の、「輸血前には輸液500mLと代用血漿2,000mLの急速注入を行っているため、さらに失血した血液量と等量の急速輸血は循環血液量を過剰に増大させ、うっ血性心不全を起こしたり終結を助長したりする危険があるので、当時の判断は適切である」という論理展開は至極ごもっともなのですが、「あらゆる危険を考えて意図的に少な目の輸血をした」というのならなだしも、「輸血速度に配慮せず結果的に少量となった」というのでは、「大事な輸血という治療において配慮が足りないではないか」ということにつながります。この輸血速度や輸血量については、どの施設でも各担当医師によってまちまちであり、輸血後に問題が生じることさえなければ紛争には発展しません。ところがひとたび予測しない事態になると、あとから輸血に対する科学的根拠(なぜ輸血するのか、輸血量を決定した際の根拠、HbやHtなど輸血後に目標とする数値など)を求められる可能性が、かなり高くなりました。そこで輸血にあたっては、なるべく輸血ガイドラインを再確認しておくとともに、輸血という治療行為の根拠をしっかりとカルテに記載しておく必要があると思います。救急医療

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心臓カテーテル検査によって脳血管障害を来し死亡したケース

循環器最終判決判例タイムズ 824号183-197頁概要胸痛の精査目的で心臓カテーテル検査が行われた61歳男性。検査中に250を超える血圧上昇、意識障害がみられたため、ニトログリセリン、ニフェジピン(商品名:アダラート)などを投与しながら検査を続行した。検査後も意識障害が継続したが頭部CTでは出血なし。脳梗塞を念頭においた治療を行ったが、検査翌日に痙攣重積となり、気管切開、人工呼吸器管理となった。検査後9日目でようやく意識清明となり、検査後2週間で一般病室へ転室したが、その直後に消化管出血を合併。輸血をはじめとするさまざまな処置が講じられたものの、やがて播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を併発し、検査から19日後に死亡した。詳細な経過患者情報高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害を指摘されていた61歳男性経過1983年1月12日胸がモヤモヤし少し苦しい感じが出現。1月18日胸が重苦しく圧迫感あり、近医を受診して狭心症と診断され、ニトログリセリンを処方された。1月26日某大学病院を受診、胸痛の訴えがあり狭心症が疑われた。初診時血圧200/92、心電図は正常。2月2日血圧160/105、心電図では左室肥大。3月初診から1ヵ月以上経過しても胸痛が治まらないので心臓カテーテル検査を勧めたが、患者の都合により延期された。9月胸痛の訴えあり。10月同様に胸痛の訴えあり。1983年5月25日左手親指の痺れ、麻痺が出現、運動は正常で感覚のみの麻痺。7月8日脳梗塞を疑って頭部CTスキャン施行、中等度の脳萎縮があるものの、明らかな異常なし。1985年9月血圧190/100、心電図上左軸偏位あり。1986年7月健康診断の結果、肥満(肥満度26%)、心電図上の左軸偏位、心肥大、動脈硬化症などを指摘され、「要精査」と判断された。冠状動脈の狭窄を疑う所見がみられたので、担当医師は心臓カテーテル検査を勧めた。9月17日心臓カテーテル検査目的で某大学病院に入院。9月18日12:30検査前投薬としてヒドロキシジン(同:アタラックス-P)50mg経口投与。検査開始前の血圧158/90、脈拍71。13:30血圧154/96。右肘よりカテーテルを挿入。13:48右心系カテーテル検査開始(肺動脈楔入圧、右肺動脈圧)。13:51心拍出量測定。13:57右心系カテーテル検査終了。この間とくに訴えなく異常なし。14:07左心系カテーテル検査開始、血圧169/9114:13左心室圧測定後間もなく血圧が200以上に上昇。14:21血圧232/117、胸の苦しさ、顔色口唇色が不良となる。ニトログリセリン1錠舌下。14:27血圧181/111と低下したので検査を再開。14:28左冠状動脈造影施行(結果は左冠状動脈に狭窄なし)、血圧は150-170で推移。左冠状動脈造影直後に約5.1秒間の心停止。咳をさせたところ脈は戻ったが、徐脈(45)、傾眠傾向がみられたので硫酸アトロピン0.5mg静注。血圧171/10214:36左心室撮影。血圧17514:40左心室のカテーテルを再び大動脈まで戻したところ、再度血圧上昇。14:45血圧253/130、アダラート®10mg舌下。14:50血圧234/12314:56血圧220程度まで低下したので、右冠状動脈造影再開。14:59血圧183/105。右冠状動脈造影終了(25~50%の狭窄病変あり)、直後に約1.8秒の心停止出現。15:01検査終了後の血管修復中に血圧230/117、ニトログリセリン4錠舌下。15:04カテーテル抜去、血圧224/11715:30検査室退室。血圧150/100、脈拍77、呼びかけに対し返答はするものの、すぐに眠り込む状態。15:40病室に帰室、血圧144/100、うとうとしていて声かけにも今ひとつ返答が得られない傾眠状態が継続。19:00呼名反応やうなずきはあるがすぐに閉眼してしまう状態。検査から3時間半後になってはじめて脳圧亢進による意識障害の可能性を考慮し、脳圧降下薬、ステロイド薬の投与開始。9月19日08:00左上肢屈曲位、傾眠傾向が継続したため頭部CT施行、脳出血は否定された。ところが検査後から意識レベルの低下(呼名反応消失)、左上肢の筋緊張が強くなり、左への共同偏視、左バビンスキー反射陽性がみられた。15:00神経内科医が往診し、脳塞栓がもっとも疑われるとのコメントあり。9月20日全身性の痙攣発作が頻発、意識レベルは昏睡状態となる。気管切開を施行し、人工呼吸器管理。痙攣重積状態に対しチオペンタールナトリウム(同:ラボナール)の持続静注開始。9月24日痙攣発作は消失し、意識レベルやや改善。9月27日ほぼ意識清明な状態にまで回復したが、腎機能の悪化傾向あり。9月30日人工呼吸器より離脱。10月3日09:30状態が改善したためICUから一般病室へ転室となる。13:00顔面紅潮、意識レベルの低下、大量の消化管出血が出現。10月4日上部消化管内視鏡検査施行、明らかな出血源は指摘できず、散在性出血がみられたためAGML(急性胃粘膜病変)と診断された。ところが、その後肝機能、腎機能の悪化、慢性膵炎の急性増悪、腎不全などとともに、血小板数の低下、フィブリノーゲンの著明な減少などからDICと診断。10月8日15:53全身状態の急激な悪化により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応検査前に狭心症に罹患していたとしても軽度なものであり、心臓カテーテル検査を行う医学的必要性はなかった。また、検査の3年前から脳梗塞の疑いがもたれていたにもかかわらず、脳梗塞の症状がある患者にとってはきわめて危険な心臓カテーテル検査を行った2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇を来した時点で、事故の発生を未然に防止するために検査を中止すべき注意義務があったのに、検査を強行した3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了時点で意識障害があり、脳塞栓が疑われる状況であったのに、神経内科専門医の診察を依頼したのは検査後24時間も経過してからであり、適切な処置が遅れた4.死因医学的に必要のない検査を行ったうえに、検査中の脳梗塞発症に気付かず検査を続行し、検査後もただちに専門医の診察を依頼しなかったことが原因で、最終的には胃出血によるDICおよび多臓器不全により死亡に至ったものである病院側(被告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応患者には胸痛のほか、高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害などの冠状動脈狭窄を疑わせる所見が揃っており、冠状動脈を精査し、手術なり薬剤投与なりを開始することが治療上不可欠であった。脳梗塞については、検査の3年前に施行した頭部CTスキャンで異常はなく、自覚症状としてみられた左手親指、人差し指の感覚障害は末梢神経または神経根障害と考えられ、改めて脳梗塞を疑うべき症状は認められなかった2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失心臓カテーテル検査中に最高血圧が230-250になるのは臨床上起こり得ることであり、血圧上昇時には必要に応じて降圧薬を投与し、経過を観察しながら検査を継続するものである。そして、200以上の血圧上昇がもつ意味は患者によって個体差があり、普段の血圧が170-190くらいであった本件の場合には検査時のストレスによって血圧が200以上になっても特別に異常な反応ではない3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査後に意識レベルが低下し、四肢硬直がおきたため脳梗塞、脳幹部循環障害などの可能性を考え、治療を開始するとともに神経内科などに相談しながら、最良の治療を行った4.死因死因は脳病変に基づくものではなく、意識障害が回復した後の消化管出血によるDIC、および多臓器不全に伴った心不全である。この消化管出血にはステロイド薬の使用、ストレスなどが関与したものであるが、抗潰瘍薬の投与などできるだけ予防策は講じていたのであるから、やむを得ないものであった裁判所の判断1. 心臓カテーテル検査の適応患者には検査前から高血圧、肥満、長期の喫煙歴、軽度の腎障害など、虚血性心疾患の危険因子のうちいくつかが明らかに存在し、さらに心電図で左室肥大および左軸偏位が認められ、胸痛という自覚症状もあったので、狭心症を疑って心臓カテーテル検査を行ったことに誤りはない。さらに急性期の脳梗塞患者、発症直後の脳卒中患者には冠状動脈造影を行ってはならないとされているが、本件の場合には検査前に急性期の脳梗塞が疑われるような症状はないので、心臓カテーテル検査を差し控えなければならないとはいえない。2. 異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇がみられた時点で、検査のストレスによる血圧上昇だけでは説明できない急激な血圧の上昇であることに気付き、脳出血を主とする脳血管障害発生の可能性を考え、検査を中止するべきであった。さらに検査で用いた76%ウログラフィン®(滲透圧の高い造影剤)のため、脳梗塞によって生じた脳浮腫をさらに増強させる結果になった。3. 神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了後は、ただちに専門の神経内科医に相談するなどして合併症の治療を開始するべきであったのに、担当医らが脳血管障害の可能性に気付いたのは、検査終了から3時間半後であり、その間適切な治療を開始するのが遅れた。4. 死因脳梗塞が発症したにもかかわらず、検査を続行したことによって脳浮腫が助長され、意識障害が悪化した。さらに検査終了後もただちに適切な処置が行われなかったことが、胃からの大量出血を惹起し死亡にまで至らしめた大きな原因の一つになっている。原告側合計8,276万円の請求に対し4,528万円の判決考察心臓カテーテル検査に伴う死亡率は、1970年代までは多くの施設で1%を越えていましたが、技術の進歩とヘパリン使用の普及により、現在は0.1~0.3%の低水準に落ち着いています。また、心臓カテーテル検査に伴う脳血管障害の合併についても、0.1~0.2%の低水準であり、「組織だった抗凝固処置」によって大部分の脳血管系の事故が防止できるという考え方が主流になっています。カテーテル検査中に脳塞栓を生じる機序としては、(1)カテーテルによって動脈硬化を起こした血管に形成された壁在血栓が剥離されて飛ばされ、脳の血管に流れた結果脳梗塞を生じる(2)カテーテルの周囲に形成された血栓またはカテーテルのなかに形成された血栓が飛ばされ、脳の血管に移行して脳梗塞を生じる(3)粥状硬化、動脈硬化を起こした血管の粥腫(アテローム)がカテーテルによって剥離されて飛ばされ、脳の血管に流された結果脳梗塞を生じるの3つが想定されています。これに対する処置としては、(1)十分なヘパリン投与を行った患者においても、カテーテルのフラッシュは十分注意しかつ的確に行うこと(2)ガイドワイヤーは使用する前に十分に拭い、血液を付着させないこと(3)ガイドワイヤーを入れたままのカテーテル操作は、1回あたり2分以内にとどめること(2分経過後はガイドワイヤーを必ず抜き出して拭い、再度ガイドワイヤーを用いる時はカテーテルをフラッシュする)(4)リスクの高い患者では不必要にカテーテルやガイドワイヤーを頸動脈や椎骨脳底動脈に進めないなどが教科書的には重要とされていますが、現在心臓カテーテル検査を担当されている先生方にとってはもはや常識的なことではないかと思います。つまり本件では、心臓カテーテル検査中に発症した脳血管障害というまれな合併症に対し、どのように対処するべきであったのか、という点が最大のポイントでした。裁判所の判断では、心臓カテーテル検査中に「血圧が250以上に上昇した時点ですぐに検査を中止せよ」ということでしたが、循環器内科医にとってすぐさまこのような判断をすることは実際的ではないと思います。ここで問題となるのが、(1)コントロールはこれでよかったか(2)障害の可能性を念頭に置いていたかという2点にまとめられると思います。この当時の状況を推測すると、大学病院の循環器内科に入院して治療が行われていましたので、1日に数件の心臓カテーテル検査が予定され、全例を何とか(無事かつ迅速に)こなすことに主眼がおかれていたと思います。そして、検査中にみられた高血圧に対しては、とりあえずニトログリセリン、アダラート®などを適宜使用するのがいわば常識であり、通常のケースであれば何とか検査を終了することができたと思います。にもかかわらず、本件では降圧薬使用後も250を越える高血圧が持続していました。この次の判断として、血圧は高いながらも一見神経症状はなく大丈夫そうなので検査を続行してしまうか、それとも(少々面倒ではありますが)ニトログリセリン(同:ミリスロール)などの降圧薬を持続静注することによって血圧を厳重にコントロールするか、ということになると思います。結果的には前者を選択したために、裁判所からは「異常高血圧を認めた時点で検査中止するのが正しい」と判断されました。日常の心臓カテーテル検査では、時に200を超える血圧上昇をみることがありますが、ほとんどのケースでは無事に検査を終了できると思います。さらに、心臓カテーテル検査中に脳梗塞へ至るのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、当時の状況からして、急いで微量注入器を準備して降圧薬の持続静注をするとか、血圧が安定するまでしばらく様子をみるなどといった判断はなかなか付きにくいのではないかと思います。しかし、本件のように心臓カテーテル検査中に脳血管障害が発症しますと、あとからどのような抗弁をしようとも、「異常高血圧に対して適切な処置をせず検査を強行するのはけしからん」とされてしまいますので、たとえ時間がかかって面倒に思っても、厳重な血圧管理をしなければあとで後悔することになると思います。次に問題となるのが、心臓カテーテル検査中に生じた「少々ボーっとしている」という軽度の意識障害をどのくらい重要視できたかという点です。後方視的にみれば、誰がみてもこの時の意識障害が脳梗塞に関連したものであったことがわかりますが、当時の担当医は「検査前投薬の影響が残っていて少しボーっとしているのであろう」と考えたため、脳梗塞発症を認識したのは検査から3時間半も経過したあとでした。前述したように、心臓カテーテル検査で脳梗塞を合併するのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、ある意味では滅多に遭遇することのないリスクともいえます。しかし、日常的にこなしている(安全と思いがちな)検査であっても、どこにジョーカーが潜んでいるのか予測はまったくつかないため、本件のような事例があることを常に認識することによって早めの処置が可能になると思います。本件でも脳梗塞発症の可能性をいち早く念頭においていれば、たとえ最悪の結果に至ってしまっても医事紛争にまでは発展しなかった可能性が十分に考えられると思います。判決文全体を通読してみて、今回この事例を担当された先生方は真摯に医療の取り組まれているという印象が強く、けっして怠慢であるとか、レベルが低いなどという次元の問題ではありません。それだけに、このような医事紛争へ発展してしまうのは大変残念なことですので、少しでも侵襲を伴う医療行為には「最悪の事態」を想定しながら臨むべきではないかと思います。循環器

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臓器移植後の慢性E型肝炎ウイルス感染にリバビリン単剤が有望/NEJM

 臓器移植後の慢性E型肝炎ウイルス(HEV)感染には、約3ヵ月間のリバビリン単剤療法が有効である可能性が示された。フランス・CHU RangueilのNassim Kamar氏らが、59例の固形臓器移植レシピエントを対象に、後ろ向きに検討した多施設共同症例集積研究を行い報告した。HEV感染に対しては現状、有効性が確立した治療法がない。NEJM誌2014年3月20日号掲載の報告より。リバビリンを1日600mg(中央値、8.1mg/kg相当)、3ヵ月間投与 研究グループは、HEV感染が確認されリパビリン投与を受けていた固形臓器移植のレシピエント59例の記録を、後ろ向きに分析し有効性について検討した。被験者のうち、腎移植レシピエントは37例、肝移植は10例、心移植は5例、腎臓・膵臓移植は5例、肺移植は2例だった。 リバビリン投与の開始は、HEV感染の診断から中央値9ヵ月(1~82ヵ月)後で、投与量の中央値は1日600mg(29~1,200)、体重1kg当たり8.1mg(0.6~16.3)に相当していた。 投与期間の中央値は3ヵ月(1~18ヵ月)で、3ヵ月未満だった人は全体の66%を占めた。 なお、被験者全員が、リバビリン投与を開始した時点でHEV血症を発症していた。リバビリン療法後のHEVクリアランスは95% 結果、リバビリン療法を終えた時点でHEVクリアランスが認められたのは、被験者のうち95%に上った。リバビリン療法終了後に、HEV複製の再発が認められたのは10例だった。 治療終了後6ヵ月時点のウイルス学的著効(血中HEV-RNAが検出されなかった人と定義)は、被験者の78%(46/59例)で認められた。リバビリン療法を開始した時点におけるリンパ球数の高値が、ウイルス持続陰性化と関連していた。 主な副作用は貧血だった。リバビリン投与量の減量を必要とした被験者は29%、またエリスロポエチンを投与したのは54%、輸血は12%に行われた。

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敗血症性ショックへのEGDTプロトコル、死亡率は通常ケアと変わらず/NEJM

 敗血症性ショックにおける早期目標指向型治療(early goal-directed therapy:EGDT)プロトコルに基づく蘇生治療の有効性を検討した多施設共同無作為化試験の結果、同治療はアウトカムを改善しないことが示された。米国・ピッツバーグ大学のDerek C. Angus氏ら「ProCESS(Protocolized Care for Early Septic Shock)」共同研究グループが報告した。EGDTは、10年以上前に発表された単施設試験の結果に基づくプロトコルである。同試験では、救急部門(ER)に搬送されてきた重症敗血症および敗血症性ショックの患者について、6時間で血行動態目標値を達成するよう輸液管理、昇圧薬、強心薬投与および輸血を行う処置が、通常ケアよりも顕著に死亡率を低下したとの結果が示された。ProCESS試験は、この所見が一般化できるのか、またプロトコルのすべてを必要とするのか確認することを目的に行われた。NEJM誌オンライン版2014年3月18日号掲載の報告より。EGDTプロトコル、標準プロトコル、通常ケアで無作為化試験 試験は2008年3月~2013年5月に、全米31の3次医療施設ERにて行われた。敗血症性ショック患者を、(1)EGDTプロトコル群、(2)標準プロトコル群(中心静脈カテーテル留置はせず、強心薬投与または輸血)、(3)通常ケア群、のいずれか1つの治療群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、60日時点の院内全死因死亡とし、プロトコル治療群(EGDT群と標準群の複合)の通常ケア群に対する優越性、またEGDTプロトコル群の標準プロトコル群に対する優越性を検討した。 副次アウトカムは、長期死亡(90日、1年)、臓器支持療法の必要性などだった。EGDT vs.標準、プロトコルvs.通常、いずれも転帰に有意差みられず 試験には1,341例が登録され、EGDTプロトコル群に439例、標準プロトコル群に446例、通常ケア群に456例が無作為に割り付けられた。 蘇生戦略は、中心静脈圧と酸素のモニタリング、輸液、昇圧薬、強心薬、輸血の使用に関して有意な差があった。 しかし60日時点の死亡は、EGDTプロトコル群92例(21.0%)、標準プロトコル群81例(18.2%)、通常ケア群86例(18.9%)で、プロトコル治療群vs. 通常ケア群(相対リスク:1.04、95%信頼区間[CI]:0.82~1.31、p=0.83)、EGDTプロトコル群vs. 標準プロトコル群(同:1.15、0.88~1.51、p=0.31)ともに有意差はみられなかった。 90日死亡率、1年死亡率および臓器支持療法の必要性についても有意差はみられなかった。

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輸血を必要としたPCI施行患者の転帰/JAMA

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における赤血球輸血の施行には、かなりのばらつきがあること、また輸血を受けた患者において入院中の有害心イベントリスクの増大と関連していることが明らかにされた。米国・デューク大学臨床研究所のMatthew W. Sherwood氏らが、米国内病院でPCIを受けた患者について調べた結果、判明した。著者は、「今回観察された所見は、PCI患者の輸血戦略に関する無作為化試験実施の根拠となりうるものである」と述べている。JAMA誌2014年2月26日号掲載の報告より。輸血の頻度および輸血と心筋梗塞、脳卒中、死亡の関連について評価 研究グループは、PCI患者の輸血パターンの現状と有害心転帰との関連を明らかにするため、2009年7月~2013年3月にCathPCI Registryに登録された全受診患者を対象に、後ろ向きコホート研究を行った。 被験者は、出血性合併症に関するデータが紛失した患者または入院中に冠動脈バイパス移植術を受けた患者を除いた、PCI施行患者225万8,711例であった。 主要アウトカムは、全集団および全病院(1,431病院)における輸血率であった。また、患者の輸血に関する傾向の交絡因子で補正後、輸血と心筋梗塞、脳卒中、死亡の関連についても評価した。輸血を受けた患者の心筋梗塞2.60倍、脳卒中7.72倍、院内死亡4.63倍 結果、全体の輸血率は2.14%(95%信頼区間[CI]:2.13~2.16%)であった。輸血率は2009年7月から2013年3月の間の4年間で輸血率は、2.11%(95%CI:2.03~2.19%)から2.04%(同:1.97~2.12%)に、わずかだが低下していた(p<0.001)。 輸血を受けた患者は、高齢で(平均70.5歳vs. 64.6歳)、女性が多く(56.3%vs. 32.5%)、高血圧(86.4%vs. 82.0%)、糖尿病(44.8%vs. 34.6%)、腎障害の進行(8.7%vs. 2.3%)、心筋梗塞既往(33.0%vs. 30.2%)、心不全既往(27.0%vs. 11.8%)を有する傾向がみられた。 全体で、96.3%の病院で輸血率が5%未満であった。残る3.7%の病院で5%以上の輸血率だった。病院間の輸血率のばらつきは補正後も変わらず、病院間に輸血閾値のばらつきがあることが示唆された。 輸血を受けたことと、心筋梗塞(4万2,803件、4.5%vs. 1.8%、オッズ比[OR]:2.60、95%CI:2.57~2.63)、脳卒中(5,011件、2.0%vs. 0.2%、OR:7.72、95%CI:7.47~7.98)、院内死亡(3万1,885件、12.5%vs. 1.2%、OR:4.63、95%CI:4.57~4.69)との関連が、出血性合併症に関わりなく認められた。

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外傷性気胸後の処置に問題があり死亡したケース

救急医療最終判決判例タイムズ 988号258-264頁概要オートバイで直進中、右折車と衝突して受傷し、救急車でA病院へ搬送された27歳男性。胸部X線写真で左側の気胸、肋骨骨折を認めたため、エラスター針にて脱気を試みた。しかし改善が得られなかったために胸腔ドレーンを留置し、中からの脱気を確認したので、ドレーンの外側には詮をするなどの処置はせず、そのまま外気に開放とした。ところが、受傷から2時間半後に全身けいれん、硬直を呈して呼吸停止となり、死亡に至った。詳細な経過患者情報27歳男性経過1995年7月19日20:00頃オートバイ走行中に反対車線を走行してきた右折車と衝突、路上を数メートル滑走したのち、別の自動車とも衝突した。20:20頃最寄りのA病院に救急搬送。来院時意識は清明でバイタルサインに問題なし。痛みの訴えもなかったが、事故前後の記憶がはっきりとしなかった。21:00胸部X線写真で多発肋骨骨折と左肺の気胸を確認したため、まずはエラスター針を挿入したところ、一応の脱気をみた(のちの鑑定では、頸部皮下気腫、気管の健側への偏位、中等度の肺虚脱、左肺に境界不鮮明な斑状陰影:肺挫傷が確認された)。後方病院へ連絡をとりつつ、左上腕部の刺創に対する縫合処置を行ったのち、透視室で肺の膨張をみたが、改善はないため胸腔ドレナージを挿入した。その際、中からの脱気がみられたので外部から空気が入ることはないと判断し、ドレーンの外側には詮をするなどの処置は行わなかった。また、この時、血尿と吐血が少量みられた。23:30全身けいれん、硬直を呈して呼吸停止、心停止。ただちに心臓マッサージを開始。22:54動脈血ガス分析でpO2 54.3mmHgと低酸素血症あり。救急蘇生が続けられた。1995年7月20日01:33死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張外傷性気胸に対して挿入した胸腔ドレーンを持続吸引器に接続したり、ウォーターシールの状態にする措置を講じることなく、外気に開放したままの状態にし、気胸の増悪を惹起した。呼吸障害が疑われるのに、早期に動脈ガス分析をすることを怠り(はじめて行ったのが呼吸停止・心停止後)、気管挿管や人工呼吸器管理をするなどして死亡を防止することができなかった。死亡原因は、左側気胸が緊張性気胸に進展したこと、および肺挫傷による低酸素血症である。病院側(被告)の主張いわゆる持続吸引がなされなかったことは不適切であると認めるが、当時病棟では持続吸引の準備をしていた。搬入後酸素投与は続けており、肺挫傷の出血などにより気道確保を必要とする症状はなく、呼吸障害も出現していないので、血液ガス分析をする必要はなかった。容態が急変して死亡した原因は、気胸の進行と肺挫傷に限定されず、胃、肝臓など多臓器損傷の関与した外傷性の二次性(不可逆性)ショックである。裁判所の判断1.可及的速やかに胸腔内の空気を胸腔外に誘導する目的の胸腔ドレーンを正しく胸腔内に挿入し、持続吸引器に接続したり、またはドレーンにウォーターシールを接続して外気との接触を遮断し、空気が胸腔内に流入しないようにして、緊張性気胸にまで悪化することを防ぐ必要があったのに、診療上の過失があった2.肺挫傷の治療は、気道内出血に対して十分なドレナージをするとともに、酸素療法すなわち動脈血ガス分析を行い、低酸素血症や呼吸不全の徴候が認められた場合には、ただちに人工呼吸を開始することが必要であって、動脈ガス分析は胸部外傷による呼吸や循環動態を把握するために不可欠な検査の一つ(診療契約上の重要な義務)であった3.確かに胃、腎臓などの多臓器損傷の可能性は否定できないが、一般に外傷性出血が原因で短時間のうちに死亡する場合には、受傷直後から重篤な出血性ショックの状態で、大量で急速の輸血・輸液にもかかわらず血圧の維持が困難で最終的には失血死に至るのが通常である。本件では受傷後2時間以上も出血性ショック状態を呈していないため、死因は左側気胸が緊張性気胸に進展したこと、および(または)肺挫傷による低酸素血症である原告側合計2,250万円の請求に対し、1,839万円の判決考察本件は救急外来を担当する医師にとっては教訓的な事例だと思います。救急外来でせっかく胸腔ドレナージを挿入しても、ドレナージの外側を外気にさらすと致命的な緊張性気胸に発展する恐れがある、ということです。胸腔ドレナージ自体は、比較的簡単にできるため、通常は研修医でも行うことができる処置だと思います。そして、この胸腔ドレナージはほかのドレナージ法とは異なり、必ず低圧持続吸引やウォーターシール法のバッグにつなげなければいけないと肝に命じておく必要があります。最近ではプラスチック製のデイスポーザブル製品が主流であり、それを低圧持続吸引器(気胸の場合には-7~-10cmH2Oの吸引圧)に接続するだけで緊張性気胸の危険は避けられます。もし専用の器具がなくても、広口ビンや三角コルベンに水を入れてベッド下の床に置くだけで、目的を達することができます。本件は当時救急当番であったため、救急患者で多忙をきわめており、必要な処置だけをすぐに行ってほかの患者の対応に追われていたことが考えられます。そのような状況をも考慮に入れると、有責とされた病院側には気の毒な面もないわけではありませんが、やはり基本的な医療処置を忠実に実践することを常に心掛けたいと思います。救急医療

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腰椎固定術の手術時間の長さは術後合併症のリスク増加と関連

 腰椎固定術は慢性腰痛などの治療に広く用いられている。これまでさまざまな外科分野で手術時間の長さが、術後合併症発生率および死亡率の増加と相関することが示されているが、腰椎手術において検討した大規模研究はなかった。米国・ロザリンド・フランクリン医科大学のBobby D Kim氏らは、データベースを用いた後ろ向き研究により、腰椎手術においても手術時間の増加が多彩な合併症と関連していることを明らかにした。「手術時間は腰椎固定術の質の重要な評価尺度であり、患者の予後改善には手術時間を短縮する戦略と手術時間の長さと関連する危険因子を同定するさらなる研究が必要だ」とまとめている。Spine誌オンライン版2013年12月20日の掲載報告。 研究チームは、単一レベルの腰椎固定術の予後に対する手術時間の影響を調べることを目的に、米国外科学会の手術の質改善プログラム(ACS-NSQIP)データベースを用い、2006~2011年に腰椎固定術を受けた全患者の手術時間、術後30日の合併症発生率および死亡率を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は4,588例で、平均手術時間は197±105分であった。 ・多変量ロジスティック回帰分析の結果、手術時間の増加は全合併症(オッズ比[OR]:2.09~5.73)、内科的合併症(OR:2.18~6.21)、外科的合併症(OR:1.65~2.90)、表層の手術部位感染(SSI)(OR:2.65~3.97)および術後輸血OR:3.25~12.19)のリスク増加と関連した。・5時間を超える手術時間は再手術(OR:2.17)、臓器/腔SSI(OR:9.72)、敗血症/敗血症性ショック(OR:4.41)、創傷離開(OR:10.98)、および深部静脈血栓症(OR:17.22)のリスク増加と関連した。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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薬剤投与後の肝機能障害を見逃し、過誤と判断されたケース

消化器最終判決判例時報 1645号82-90頁概要回転性の眩暈を主訴として神経内科外来を受診し、脳血管障害と診断された69歳男性。トラピジル(商品名:ロコルナール)、チクロピジン(同:パナルジン)を処方されたところ、約1ヵ月後に感冒気味となり、発熱、食欲低下、胃部不快感などが出現、血液検査でGOT 660、GPT 1,058と高値を示し、急性肝炎と診断され入院となった。入院後速やかに肝機能は回復したが、急性肝炎の原因が薬剤によるものかどうかをめぐって訴訟に発展した。詳細な経過患者情報69歳男性経過1995年4月16日朝歯磨きの最中に回転性眩暈を自覚し、A総合病院神経内科を受診した。明らかな神経学的異常所見や自覚症状はなかったが、頭部MRI、頸部MRAにてラクナ型梗塞が発見されたことから、脳血管障害と診断された(4月17日に行われた血液検査ではGOT 21、GPT 14と正常範囲内であり、肝臓に関する既往症はないが、かなりの大酒家であった)。6月7日トラピジル、チクロピジンを4週間分処方した。7月5日再診時に神経症状・自覚症状はなく、トラピジル、チクロピジンを4週間分再度処方した。7月7日頃~感冒気味で発熱し、食欲低下、胃部不快感、上腹部痛などを認めた。7月12日内科外来受診。念のために行った血液検査で、GOT 660、GPT 1,058と異常高値であることがわかり、急性肝炎と診断された。7月15日~9月1日入院、肝機能は正常化した。なお、入院中に施行した血液検査で、B型肝炎・C型肝炎ウイルスは陰性、IgE高値。薬剤リンパ球刺激検査(LST)では、トラピジルで陽性反応を示した。当事者の主張患者側(原告)の主張1.急性肝炎の原因本件薬剤以外に肝機能に異常をもたらすような薬は服用しておらず、そのような病歴もない。また、薬剤中止後速やかに肝機能は改善し、薬剤リンパ球刺激検査でトラピジルが陽性を示し、担当医らも薬剤が原因と考えざるを得ないとしている。したがって、急性肝炎の原因は、担当医師が処方したトラピジル、チクロピジン、またはそれらの複合によるものである2.投薬過誤ついて原告の症状は脳梗塞や脳血栓症ではなく、小さな脳血栓症の痕跡があったといっても、これは高齢者のほとんどにみられる現象で各別問題はなかったので、薬剤を処方する必要性はなかった3.経過観察義務違反について本件薬剤の医薬品取扱説明書には、副作用として「ときにGOT、GPTなどの上昇があらわれることがあるので、観察を十分に行い異常が認められる場合には投与を中止すること」と明記されているにもかかわらず、漫然と4週間分を処方し、その間の肝機能検査、血液検査などの経過観察を怠った病院側(被告)の主張1.急性肝炎の原因GOT、GPTの経時的変動をみてみると、本件薬剤の服用を続けていた時点ですでに回復期に入っていたこと、薬剤服用中に解熱していたこと、本件の肝炎は原因不明のウイルス性肝炎である可能性は否定できず、また、1日焼酎を1/2瓶飲むほどであったのでアルコール性肝障害の素質があったことも影響を与えている。以上から、本件急性肝炎が本件薬剤に起因するとはいえない2.投薬過誤ついて初診時の症状である回転性眩暈は、小梗塞によるものと考えられ、その治療としては再発の防止が最優先されるのだから、厚生省告示によって1回30日分処方可能な本件薬剤を処方したことは当然である。また、初診時の肝機能は正常であったので、その後の急性肝炎を予見することは不可能であった3.経過観察義務違反について処方した薬剤に副作用が起こるという危険があるからといって、何らの具体的な異常所見もないのに血液検査や肝機能検査を行うことはない裁判所の判断1. 急性肝炎の原因原告には本件薬剤以外に肝機能障害をもたらすような服薬や罹病はなく、そのような既往症もなかったこと、本件薬剤中止後まもなく肝機能が正常に戻ったこと、薬剤リンパ球刺激試験(LST)の結果トラピジルで陽性反応が出たこと、アレルギー性疾患で増加するIgEが高値であったことなどの理由から、トラピジルが単独で、またはトラピジルとチクロピジンが複合的に作用して急性肝炎を惹起したと推認するのが自然かつ合理的である。病院側は原因不明のウイルス性肝炎の可能性を主張するが、そもそもウイルス性肝炎自体を疑うに足る的確な証拠がまったくない。アルコール性肝障害についても、飲酒歴が急性肝炎の発症に何らかの影響を与えた可能性は必ずしも否定できないが、そのことのみをもって薬剤性肝炎を覆すことはできない。2. 投薬過誤ついて原告の症状は比較的軽症であったので、本件薬剤の投与が必要かつもっとも適切であったかどうかは若干の疑問が残るが、本件薬剤の投与が禁止されるべき特段の事情は認められなかったので、投薬上の過失はない。3. 経過観察義務違反について医師は少なくとも医薬品の能書に記載された使用上の注意事項を遵守するべき義務がある。本件薬剤の投与によって肝炎に罹患したこと自体はやむを得ないが、7月5日の2回目の投薬時に簡単な血液検査をしていれば、急性肝炎に罹患したこと、またはそのおそれのあることを早期(少なくとも1週間程度早期)に認識予見することができ、薬剤の投与が停止され、適切な治療によって急性肝炎をより軽い症状にとどめ、48日にも及ぶ入院を免れさせることができた。原告側合計102万円の請求に対し、20万円の判決考察この裁判では、判決の金額自体は20万円と低額でしたが、訴訟にまで至った経過がやや特殊でした。判決文には、「病院側は入院当時、「急性肝炎は薬剤が原因である」と認めていたにもかかわらず、裁判提起の少し前から「急性肝炎の発症原因としてはあらゆる可能性が想定でき、とくにウイルス性肝炎であることを否定できないから結局発症原因は不明だ」と強調し始めたものであり、そのような対応にもっとも強い不満を抱いて裁判を提起したものである」と記載されました。この病院側の主張は、けっして間違いとはいえませんが、本件の経過(薬剤を中止したら肝機能が正常化したこと、トラピジルのLSTが陽性でIgEが高値であったこと)などをみれば、ほとんどの先生方は薬剤性肝障害と診断されるのではないかと思います。にもかかわらず、「発症原因は不明」と強調されたのは不可解であるばかりか、患者さんが怒るのも無理はないという気がします。結局のところ、最初から「薬剤性でした」として変更しなければ、もしかすると裁判にまで発展しなかったのかも知れません。もう1点、この裁判では重要なポイントがあります。それは、新規の薬剤を投与した場合には、定期的に副作用のチェック(血液検査)を行わないと、医療過誤を問われるリスクがあるという、医学的というよりもむしろ社会的な問題です。本件では、トラピジル、チクロピジンを投与した1ヵ月後の時点で血液検査を行わなかったことが、医療過誤とされました。病院側の主張のように、「何らの具体的な異常所見もないのに(薬剤開始後定期的に)血液検査や肝機能検査を行うことはない」というのはむしろ常識的な考え方であり、これまでの外来では、「この薬を飲んだ後に何か症状が出現した場合にはすぐに受診しなさい」という説明で十分であったと思います。しかも、頻回に血液検査を行うと医療費の高騰につながるばかりか、保険審査で査定されてしまうことすら考えられますが、今回の判決によって、薬剤投与後何も症状がなくても定期的に血液検査を行う義務のあることが示されました。なお、抗血小板剤の中でもチクロピジンには、以前から重篤な副作用による死亡例が報告されていて、薬剤添付文書には、「投与開始後2ヵ月は原則として2週間に1回の血液検査をしなさい」となっていますので、とくに注意が必要です。以下に概要を提示します。チクロピジン(パナルジン®)の副作用Kupfer Y, et al. New Engl J Med.1997; 337: 1245.3週間前に冠動脈にステントを入れ、チクロピジンとアスピリンを服用していた47歳女性。48時間前からの意識障害、黄疸、嘔気を主訴に入院、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と診断された。入院後48時間で血小板数が87,000から2,000に激減し、輸血・血漿交換にもかかわらず死亡した。吉田道明、ほか.内科.1996; 77: 776.静脈血栓症と肺塞栓症のため、42日前からチクロピジンを服用していた83歳男性。42日目の血算で好中球が30/mm3と激減したため、ただちにチクロピジンを中止し、G-CSFなどを投与したが血小板も減少し、投与中止6日目に死亡した。チクロピジンの薬剤添付文書には、警告として「血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害などの重大な副作用が主に投与開始後2ヵ月以内に発現し、死亡に至る例も報告されている。投与開始後2ヵ月間は、とくに前記副作用の初期症状の発現に十分に留意し、原則として2週に1回、血球算定、肝機能検査を行い、副作用の発現が認められた場合にはただちに中止し、適切な処置を行う。投与中は定期的に血液検査を行い、副作用の発現に注意する」と明記されています。消化器

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