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サルコペニア嚥下障害は誤嚥性肺炎などの入院が引き金に

 元気だったはずの高齢者が、入院後に低栄養で寝たきりになるのはなぜか。2018年11月10、11日の2日間、第5回日本サルコペニア・フレイル学会大会が開催された。2日目に行われた「栄養の視点からみたサルコペニア・フレイル対策」のシンポジウムでは、若林 秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)が「栄養の視点からみたサルコペニアの摂食嚥下障害対策」について講演した。誤嚥性肺炎で救急搬送されサルコペニアの嚥下障害になる “嚥下障害があり、食べられないから低栄養になる”という流れはごく普通である。若林氏は、「低栄養があると嚥下障害を来すことがあり、これはリハビリテーションだけでは改善することができない。つまり、栄養改善が要」と、本来とは逆ともとれる低栄養のメカニズムについて解説した。 若林氏によると、一見、元気な老人でも実はサルコペニアを発症している可能性があるという。たとえば、喉のフレイル(嚥下障害ではないが正常より衰えている状態)が原因となり、誤嚥性肺炎を発症。その後、救急搬送され寝たきりや嚥下障害になる場合がある。この原因について同氏は、「急性期病院で誤嚥性肺炎を発症すると“根拠のない安静”や“禁食”がオーダされやすい」と、嚥下、腸管や心臓機能などの適切な評価がなされていない点を指摘。さらに、「病院内での不適切な安静臥床と栄養管理や肺炎の急性炎症による筋肉の分解でサルコペニアを生じる結果、これまで外出や食事が可能であった方でも寝たきりや嚥下障害となる」と、入院後の管理体制を問題視した。サルコペニアによる嚥下障害の定義とは 同氏らを含む4学会(日本サルコペニア・フレイル学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会)は、サルコペニアによる嚥下障害を立証し、メカニズム、診断、治療、今後の展望に関する統一的見解を提言するために、ポジションペーパーを作成している1)。 この合同学会において、サルコペニアによる嚥下障害を以下のように定義している。1)全身の筋肉と嚥下関連筋の両者にサルコペニアを認める2)脳卒中など明らかな摂食嚥下障害の原因疾患が存在し、その疾患による摂食嚥下障害と考えられる場合は除外する3)神経筋疾患による筋肉量減少や筋力低下、そして摂食嚥下障害はサルコペニアの摂食嚥下障害には含めない ポジションペーパーに採用された研究の一部には、今年発表された基礎研究も含まれる。これによると、誤嚥性肺炎では舌や横隔膜で筋分解が亢進し、筋萎縮が生じることが示された2)。これについて同氏は、「人間でも同様のメカニズムにおいて呼吸筋、全身の骨格筋、嚥下筋の筋萎縮が引き起こされ、最終的に寝たきりに至るのでは」と、研究結果を踏まえた人体への影響を説明。さらに、同氏が行った嚥下関連筋のレジスタンストレーニングに関するRCT3)を示し、摂食嚥下障害の原因がサルコペニアの場合、栄養改善を行いながらレジスタンストレーニングを行うと改善しやすい傾向であることを解説した。急性期病院患者のサルコペニア嚥下障害の有病割合は32% 急性期病院の実態として、嚥下リハ患者のサルコペニア有病割合は49%を占め、患者の2人に1人がサルコペニアであることが判明している4)。さらに、患者全体ではサルコペニア嚥下障害の有病割合は32%と、3人に1人はサルコペニアの嚥下障害を有し、急性期病院で起こりがちな、“とりあえず安静”、“とりあえず禁食”、“とりあえず水電解質輸液のみ”によって引き起こされている。これを『医原性サルコペニア』と呼び、同氏は「サルコペニアによる嚥下障害の患者は、他の嚥下障害よりも予後が悪いため予防が重要」と予防の大切さを訴えた5)。サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防・治療へ攻めの栄養管理 今後の展望として、サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防、治療への介入研究、管理栄養士の積極的な介入を必要が必要であると述べ、それに有用な“攻めの栄養管理“を以下のように提唱した。・(痩せている)実体重の場合:エネルギー必要量=エネルギー消費量±蓄積量(200~750kcal/day)・理想体重の場合:35kcal/kg/day 最後に同氏は、「サルコペニアは地域での予防、軽微な状態で発見し介入することが重要」と述べ、リハ栄養診断やゴール設定など、リハ栄養における5つのステップ5)の活用を求めた。■参考1)Fujishima I, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int, in press2)Komatsu R, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018;9:643-653.3)Wakabayashi H, et al. Nutrition. 2018;48:111-116.4)Wakabayashi H, et al. J Nutr Health Aging. 2018 Oct 16.5) Nagano A, et al. Rehabilitation nutrition for iatrogenic sarcopenia and sarcopenic dysphagia. J Nutr Health Aging, in press■関連記事初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊高齢者のフレイル予防には口腔ケアと食環境整備を「食べる」ことは高齢者には大問題

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第7回 意識障害 その6 薬物中毒の具体的な対応は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)ABCの安定が最優先! 気管挿管の適応を正しく理解しよう!2)治療の選択は適切に! 胃洗浄、血液浄化の適応は限られる。3)検査の解釈は適切に! 病歴、バイタルサイン、身体所見を重視せよ!【症例】42歳女性の意識障害:これまたよく遭遇する症例42歳女性。自室のベッド上で倒れているところを、同居している母親が発見し、救急要請。ベッド脇には空のPTP(press through pack[薬のシート])が散在していた。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:200/JCS血圧:102/58mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:18回/分 SpO2:97%(RA)体温:36.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+この症例、誰もが急性薬物中毒を考えると思います。患者の周りには薬のシートも落ちているし、おそらくは過量に内服したのだろうと考えたくなります。急性薬物中毒の多くは、経過観察で改善しますが、ピットフォールを理解し対応しなければ、痛い目に遭いかねません。「どうせoverdose(薬物過量内服)でしょ」と軽視せず、いちいち根拠をもって鑑別を進めていきましょう。重度の意識障害で意識することは?(表1)このコーナーの10's Ruleの「1)ABCの安定が最優先!」を覚えているでしょうか。重度の意識障害、ショックでは気管挿管を考慮する必要がありました。意識の程度が3桁(100~300/JCS)と重度の場合には、たとえ酸素化の低下や換気不良を認めない場合にも、確実な気道確保目的に気管挿管を考慮する必要があることを忘れてはいけません。薬物中毒に伴う重度の意識障害、出血性ショック(消化管出血、腹腔内出血など)症例が典型的です。考えずに管理をしていると、目を離した際に舌根沈下、誤嚥などを来し、状態の悪化を招いてしまうことが少なくありません。来院時の酸素化や換気が問題なくても、バイタルサインの推移は常に確認し、気管挿管の可能性を意識しておきましょう。●Rule1 ABCの安定が最優先!●Rule8 電解質異常、アルコール、肝性脳症、薬物、精神疾患による意識障害は除外診断!画像を拡大する薬物中毒のバイタルサイン内服した薬剤や飲酒の併用の有無によってバイタルサインは大きく異なります。覚醒剤やコカインなど興奮系の薬剤では、血圧や脈拍、体温は上昇します。それに対して、頻度の高いベンゾジアゼピン系薬に代表される鎮静薬ではすべて逆になります。飲酒もしている場合には、さらにその変化が顕著となります。瞳孔も重要です。興奮系では一般的に散瞳し、オピオイドでは縮瞳します。救急外来では明らかな縮瞳を認める場合には、脳幹病変以外にオピオイド、有機リン中毒を考えます。「目は口ほどにものを言う」ことがあります。自身で必ず瞳孔所見をとることを意識しましょう。薬物中毒の基本的な対応は?急性薬物中毒の場合には、意識障害が遷延することが少なくないため、内服内容、内服時間をきちんと確認しましょう。内服してすぐに来院した場合と、3時間経過してから来院した場合とでは対応が大きく異なります。薬物過量内服においても初療における基本的対応は常に一緒です。“Airway、Breathing、Circulation”のABCを徹底的に管理します。原因薬剤が判明している場合には、拮抗薬の有無、除染・排泄促進の適応を判断します。拮抗薬など特徴的な治療のある中毒は表2のとおりです。最低限これだけは覚えておきましょう。除染や排泄促進は、内服内容が不明なときにはルーチンに行うものではありません。ここでは胃洗浄の禁忌、血液透析の適応を押さえておきましょう。画像を拡大する胃洗浄の禁忌意識障害患者において、確実な気道確保を行うことなしに胃洗浄を行ってはいけません。誤嚥のリスクが非常に高いことは容易に想像がつくでしょう。また、酸やアルカリを内服した場合も腐食作用が強く、穿孔のリスクがあるため禁忌です。胃洗浄を行い、予後を悪くしてはいけません。意識状態が保たれ、内服内容が判明している場合に限って行うようにしましょう。もちろん薬物が吸収されてしまってからでは意味がないため、原則内服から1時間を経過している場合には適応はないと考えておいてよいでしょう。CTを撮影し薬塊などが胃内に貯留している場合には、胃洗浄が有効という報告もありますが、薬物中毒患者全例に胸腹部CTを撮影することは現実的ではありません1)。エコー検査で明らかに胃内に貯留物がある場合には、考慮してもよいかもしれません。活性炭の投与もルーチンに行う必要はありません。胃洗浄の適応症例には、洗浄後投与すると覚えておけばよいでしょう。血液透析の適応となる中毒体内に吸収されたものを、体外に除去する手段として血液透析が挙げられますが、これもまたルーチンに行うべきではありません。多くの薬物は血液透析では除去できません。判断する基準として、分布容積と蛋白結合率を意識しましょう。分布容積が小さく、蛋白結合率が低ければ透析で除去しえますが、そういったものは表3のような中毒に限られます。診療頻度の高いベンゾジアゼピン系薬や非ベンゾジアゼピン系薬(Z薬)、三環系抗うつ薬は適応になりません。ベンゾジアゼピン系薬、Z薬の過量内服は遭遇頻度が高いですが、それらのみの内服であれば過量に内服しても、きちんと気道を確保し管理すれば、一般的に予後は良好であり透析は不要なのです。画像を拡大する薬物中毒の検査は?1)心電図心電図は忘れずに行いましょう。QT延長症候群など、薬剤の影響による変化を確認することは重要です。内服時間や意識状態を加味し、経時的に心電図をフォローすることも忘れてはいけません。以前の心電図の記録が存在する場合には、必ず比較し新規の変化か否かを評価しましょう。2)血液ガス酸素化や換気の評価、電解質や血糖値の評価、そして中毒に伴う代謝性アシドーシスを認めるか否かを評価しましょう。3)尿中薬物検査キットトライエージDOAなどの尿中薬物検査キットが存在し、診療に役立ちますが、結果の解釈には注意しなければなりません。陽性だから中毒、陰性だから中毒ではないとはいえないことを覚えておきましょう。偽陽性、偽陰性が少なくないため、病歴と合わせ、根拠の1つとして施行し、結果の解釈を誤らないようにしましょう。薬物中毒疑い患者の実際の対応“10's Rule”にのっとり対応することに変わりはありません。Ruleの1~4)では、重度の意識障害であるため、気管挿管を意識しつつ、患者背景を意識した対応を取ります。薬物過量内服患者の多くは女性、とくに20~50代です。また、薬物過量内服は繰り返すことが多く、身体所見では利き手とは逆の手にリストカット痕を認めることがあります。意識しておくとよいでしょう。バイタルサインがおおむね安定していれば、低血糖を否定し、頭部CTを撮影します。この場合には、脳卒中の否定以上に外傷検索を行います。薬物中毒の患者は、アルコールとともに薬を内服していることもあり、転倒などに伴う外傷を併発する場合があるので注意しましょう。また、採血では圧挫に伴う横紋筋融解症*を認めることもあります。適切な輸液管理が必要となるため、CK値や電解質、腎機能は必ず確認しましょう。アルコールの関与を疑う場合には、浸透圧ギャップからアルコールの推定血中濃度を計算すると、診断の助けとなります。詳細は、次回以降に解説します。*急性中毒の3合併症:誤嚥性肺炎、異常体温、非外傷性圧挫症候群急性薬物中毒の多くは、特異的な治療をせずとも時間経過とともに改善します。また、繰り返すことが多く、再来した場合には軽視しがちです。そのため、確立したアプローチを持たなければ痛い目をみることが少なくないのです。外傷や痙攣、誤嚥性肺炎の合併を見逃す、アルコールとともに内服しており、症状が遷延するなどはよくあることです。根拠をもって確定、除外する意識を常に持ちながら対応しましょう。症例の経過本症例では空のPTPの存在や40代の女性という背景から、第一に薬物過量内服を疑いながら、Ruleにのっとり対応しました。母親から病歴を聴取すると、来院3時間前までは普段どおりであり、その後患者の携帯電話の記録を確認すると、付き合っている彼氏とのメールのやり取りから、来院2時間ほど前に衝動的に薬を飲んだことが判明しました。内服内容もベンゾジアゼピン系の薬を中心としたもので致死量には至らず、採血や頭部CTでも異常がないことが確認できたため、モニタリングをしながら、家族付き添いの下、入院管理としました。時間経過とともに症状は改善し、翌日には意識清明、独歩可能となり、かかりつけの精神科と連携を取り、退院となりました。本症例は典型的な薬物中毒症例であり、基本的なことを徹底すれば恐れることはありません。きちんと病歴や身体所見をとること、バイタルサインは興奮系か抑制系かを意識しながら解釈し、瞳孔径を忘れずに確認すればよいのです。次回は、アルコールによる意識障害のピットフォールを、典型的なケースから学びましょう。1)Benson BE, et al. ClinToxicol(Phila). 2013;51:140-146.

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第6回 意識障害 その5 敗血症ってなんだ?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)バイタルサインを総合的に判断し、敗血症を見逃すな!2)“No Culture,No Therapy!”、治療の根拠を必ず残そう!3)敗血症の初療は1時間以内に確実に! やるべきことを整理し遂行しよう!【症例】82歳女性の意識障害:これまたよく出会う原因82歳女性。来院前日から活気がなく、就寝前に熱っぽさを自覚し、普段と比較し早めに寝た。来院当日起床時から38℃台の発熱を認め、体動困難となり、同居している娘さんが救急要請。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:10/JCS、E3V4M6/GCS血圧:102/48mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:24回/分 SpO2:97%(RA)体温:37.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+前回までの症例が一段落ついたため、今回は新たな症例です。高齢女性の意識障害です。誰もが経験したことのあるような症例ではないでしょうか。救急外来で多くの患者さんを診ている先生ならば、原因はわかりますよね?!前回までの復習をしながらアプローチしていきましょう。Dr.Sakamotoの10’s Ruleの1~6)を確認(表1)病歴やバイタルサインに重きを置き、患者背景から「○○らしい」ということを意識しながら救急車到着を待ちます。来院時も大きく変わらぬバイタルサインであれば、意識消失ではなく意識障害であり、まず鑑別すべきは低血糖です。低血糖が否定されれば、頭部CTを考慮しますが…。画像を拡大する原因は感染症か否か?病歴やバイタルサインから、なんらかの感染症が原因の意識障害を疑うことは難しくありません。それでは、今回の症例において体温が36.0℃であったらどうでしょうか? 発熱を認めた場合には細菌やウイルスの感染を考えやすいですが、ない場合に疑えるか否か、ここが初療におけるポイントです。この症例は、疫学的にも、そしてバイタルサイン的にも敗血症による意識障害が最も考えやすいですが、その理由は説明できるでしょうか。●Rule7 菌血症・敗血症が疑われたらfever work up!高齢者の感染症は意識障害を伴うことが多い救急外来や一般の外来で出会う感染症のフォーカスの多くは、肺炎や尿路感染症、その他、皮膚軟部組織感染症や腹腔内感染症です。とくに肺炎、尿路感染症の頻度が高く、さらに高齢女性となれば尿路感染症は非常に多く、常に考慮する必要があります。また、肺炎や腎盂腎炎は、意識障害を認めることが珍しくないことを忘れてはいけません。「発熱のため」、「認知症の影響で普段から」などと、目の前の患者の意識状態を勝手に根拠なく評価してはいけません。意識障害のアプローチの最初で述べたように、まずは「意識障害であることを認識!」しなければ、正しい評価はできません。感染症らしいバイタルサイン:qSOFAとSIRS*感染症らしいバイタルサインとは、どのようなものでしょうか。急性に発熱を認める場合にはもちろん、なんらかの感染症の関与を考えますが、臨床の現場で悩むのは、その感染症がウイルス感染症なのか細菌感染症なのか、さらには細菌感染症の中でも抗菌薬を使用すべき病態なのか否かです。救急外来など初療時にはフォーカスがわからないことも少なくなく、病歴や臓器特異的所見(肺炎であれば、酸素化や聴診所見、腎盂腎炎であれば叩打痛や頻尿、残尿感など)をきちんと評価してもわからないこともあります。そのような場合にはバイタルサインに注目して対応しましょう。そのためにまず、現在の敗血症の定義について歴史的な流れを知っておきましょう。現在の敗血症の定義は、「感染による制御不能な宿主反応によって引き起こされる生命を脅かす臓器障害1)」です(図1、2)。一昔前までは「感染症によるSIRS」でしたが、2016年に敗血症性ショックの定義とともに変わりました。そして、敗血症と診断するために、ベッドサイドで用いる術として、SIRS(表2)に代わりqSOFA (quickSOFA)(表3)が導入されました。その理由として、以下の2点が挙げられます。1)なんでもかんでも敗血症になってしまうSIRSの4項目を見ればわかるとおり、2項目以上は簡単に満たしてしまいます。皆さんが階段を駆け上がっただけでも満たしますよね(笑)。実際に感染症以外に、膵炎、外傷、熱傷などSIRSを満たす症候や疾患は多々存在し、さらに、インフルエンザなどウイルスに伴う発熱であっても、それに見合う体温の上昇を認めればSIRSは簡単に満たすため、SIRS+感染症を敗血症と定義した場合には、多くの発熱患者が敗血症と判断される実情がありました。2)SIRSを満たさない重篤な感染症を見逃してしまうSIRSを満たさないからといって敗血症でないといえるのでしょうか。実際にSIRSは満たさないものの、臓器障害を呈した状態が以前の定義(SIRS+感染症=敗血症)では12%程度認められました。つまり、SIRSでは拾いあげられない重篤な病態が存在したということです。これは問題であり、敗血症患者の初療が遅れ予後の悪化に直結します。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するそこで登場したのがqSOFAです。qSOFAは、(1)呼吸数≧22/分、(2)意識障害、(3)収縮期血圧≦100mmHgの3項目で構成され、2項目以上満たす場合に陽性と判断します。項目数がSIRSと比較し少なくなり、どれもバイタルサインで構成されていることが特徴ですが、その中でも呼吸数と意識障害の2項目が取り上げられているのが超・超・重要です。敗血症に限らず重症患者を見逃さないために評価すべきバイタルサインとして、この2項目は非常に重要であり、逆にこれら2項目に問題なければ、たとえ血圧が低めであっても焦る必要は通常ありません。心停止のアルゴリズムでもまず評価すべきは意識、そして、その次に評価するのは呼吸ですよね。また、これら2項目は医療者自身で測定しなければ正確な判断はできません。普段と比較した意識の変化、代謝性アシドーシスの代償を示唆する頻呼吸を見逃さないように、患者さんに接触後速やかに評価しましょう。*qSOFA:quick Sequential[Sepsis- Related] Organ Failure Assessment ScoreSIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome“No Culture,No Therapy!”:適切な治療のために根拠を残そう!“Fever work up”という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 感染症かなと思ったら、必ずフォーカス検索を行う必要があります。熱があるから抗菌薬、酸素化が悪いから肺炎、尿が濁っているから尿路感染症というのは、上手くいくこともありますが、しばしば裏切られて後々痛い目に遭います。高齢者や好中球減少などの免疫不全患者では、とくに症状が乏しいことがあり悩まされます。フォーカスがわからないならば、抗菌薬を投与せずに経過を診るというのも1つの選択肢ですが、重症度が高い場合にはそうも言っていられません。また、前医から抗菌薬がすでに投与されている場合には、さらにその判断を難しくさせます。そのため、われわれが行うべきことは「(1)グラム染色を行いその場で関与している菌の有無を判断する、(2)培養を採取し根拠を残す」の2つです。(1)は施設によっては困難かもしれませんが、施行可能な施設では行わない理由がありません。喀痰、尿、髄液、胸水、腹水など、フォーカスと考えられる場所はきちんと評価し、その目でちゃんと評価しましょう。自信がない人はまずは細菌検査室の技師さんと仲良くなりましょう。いろいろ教えてくださいます。(2)は誰でもできますね。しかし、意外とやってしまうのが、痰が出ないから喀痰のグラム染色、培養を提出しない、髄膜炎を考慮しながらも腰椎穿刺を施行しないなんてことはないでしょうか。肺炎の起因菌を同定する機会があるのならば、痰を出さなければできません。血液培養は10%程度しか陽性になりません、肺炎球菌尿中抗原は混合感染の評価は困難、一度陽性となると数ヵ月陽性になるなど、目の前の患者の肺炎の起因菌を同定できるとは限りません。とにかく痰を頑張って採取するのです。喀出困難であれば、誘発喀痰、吸引なども考慮しましょう。肺炎患者の多くは数日前から食事摂取量が低下しており、脱水を伴うことが多く、外液投与後に喀痰がでやすくなることもしばしば経験します。とにかく採取し検査室へ走り、起因菌を同定しましょう。髄液も同様です。フォーカスがわからず、本症例のように意識障害を認め、その原因に悩むようであれば、腰椎穿刺を行う判断をした方がよいでしょう。不用意に行う必要はありませんが、限られた時間で対応する必要がある場合には、踏ん切りをつけるのも重要です。敗血症の1時間バンドルを遂行しよう!敗血症かなと思ったら表4にある5項目を遂行しましょう。ここではポイントのみ追記しておきます。敗血症性ショックの診断基準にも入りましたが、乳酸値は敗血症を疑ったら測定し、上昇している場合には、治療効果判定目的に低下を入れ、確認するようにしましょう。血圧は収縮期血圧だけでなく、平均動脈圧を評価し管理しましょう。十分な輸液でも目標血圧に至らない場合には、昇圧剤を使用しますが、まず使用するのはノルアドレナリンです。施設毎にシリンジの組成は異なるかもしれませんが、きちんと処方できるようになりましょう。ノルアドレナリンを使用することは頭に入っていても、実際にオーダーできなければ救命できません。バンドルに含まれていませんが重要な治療が1つ存在します。それがドレナージや手術などの抗菌薬以外の外科的介入(5D:drug、drainage、debridement、device removal、definitive controlの選択を適切に行う)です。急性閉塞性腎盂腎炎に対する尿管ステントや腎瘻、総胆管結石に伴う胆管炎に対するERCPなどが代表的です。バンドルの5項目に優先されるものではありませんが、同時並行でマネジメントしなければ一気に敗血症性ショックへと陥ります。どのタイミングでコンサルトするか、明確な基準はありませんが、院内で事前に話し合って決めておくとよいでしょう。画像を拡大する今回の症例を振り返る今回の症例は、高齢女性がqSOFAならびにSIRSを満たしている状態です。疫学的に腎盂腎炎に伴う敗血症の可能性を考えながら、バンドルにのっとり対応しました。もちろん低血糖の否定や頭部CTなども行いますが、以前の症例のように積極的に頭蓋内疾患を疑って撮影しているわけではありません。この場合には、脳卒中以上に明らかな外傷歴はなくても、慢性硬膜下血腫など外傷性変化も考慮する必要があるため施行するものです。尿のグラム染色では大腸菌様のグラム陰性桿菌を認め、腎叩打痛ははっきりしませんでしたが、エコーで左水腎症を認めました。抗菌薬を投与しつつ、バイタルサインが安定したところで腹部CTを施行すると左尿管結石を認め、意識状態は外液投与とともに普段と同様の状態へ改善したため、急性閉塞性腎盂腎炎による敗血症が原因と考え、泌尿器科医と連携をとりつつ対応することになりました。翌日、血液培養からグラム陰性桿菌が2セット4本から検出され、尿培養所見とも合致していたため確定診断に至りました。いかがだったでしょうか。よくある疾患ですが、系統だったアプローチを行わなければ忙しい、そして時間の限られた状況での対応は意外と難しいものです。多くの患者さんの対応をしていれば、原因疾患の検査前確率を正しく見積もることができるようになり、ショートカットで原因の同定に至ることもできると思いますが、それまではコツコツと一つひとつ考えながら対応していきましょう。次回はアルコールや薬剤による意識障害の対応に関して考えていきましょう。1)Singer M, et al. JAMA. 2016;315:801-810.2)Levy MM, et al. Crit Care Med. 2018;46:997-1000

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小児の敗血症バンドルの1時間完遂で、院内死亡リスクが低減/JAMA

 3項目から成る小児の1時間敗血症バンドル(1-hour sepsis bundle)を1時間以内に完遂すると、これを1時間で完遂しなかった場合に比べ院内死亡率が改善し、入院期間が短縮することが、米国・ピッツバーグ大学のIdris V. R. Evans氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2018年7月24日号に掲載された。2013年、ニューヨーク州は、小児の敗血症治療を一括したバンドルとして、血液培養、広域抗菌薬、20mL/kg輸液静脈内ボーラス投与を1時間以内に行うよう規定したが、1時間以内の完遂がアウトカムを改善するかは不明であった。ニューヨーク州の小児敗血症治療規則の有用性を検証 本コホート研究は、ニューヨーク州の救急診療部、入院治療部、集中治療室が参加し、2014年4月1日~2016年12月31日の期間に行われた(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以下で、敗血症または敗血症性ショックで敗血症プロトコールが開始され、ニューヨーク州保健局(NYSDOH)に報告された患者であった。1時間敗血症バンドルには、抗菌薬投与前の血液培養、広域抗菌薬の投与、20mL/kg輸液の静脈内ボーラス投与が含まれた。 1時間敗血症バンドルが1時間以内に完遂された場合と、これが1時間以内に完遂されなかった場合のリスク補正後院内死亡率を評価した。個々の項目の1時間完遂に死亡率抑制効果はない 54施設から報告された1,179例が解析の対象となった。平均年齢は7.2(SD 6.2)歳、男児が54.2%、試験参加前に罹病歴のない健康な小児が44.5%で、敗血症性ショックが68.8%にみられた。139例(11.8%)が院内で死亡した。 294例(24.9%)が、1時間敗血症バンドルを1時間以内に完遂した。血液培養は740例(62.8%)が、抗菌薬投与は798例(67.7%)が、輸液ボーラス投与は548例(46.5%)が、それぞれ1時間以内に完遂した。 敗血症バンドルの1時間完遂例のリスク補正後院内死亡率は8.7%であり、非完遂例の12.7%に比べ有意に低かった(補正オッズ比[OR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.38~0.93、p=0.02、予測リスク差[RD]:4.0、95%CI:0.9~7.0)。 一方、敗血症バンドル個々の項目の1時間完遂例のリスク補正後院内死亡率は、いずれも非完遂例との比較において有意差を認めなかった。血液培養はOR:0.73(95%CI:0.51~1.06、p=0.10)、RD:2.6%(95%CI:-0.5~5.7%)であり、抗菌薬投与は0.78(0.55~1.12、p=0.18)、2.1%(-1.1~5.2%)、輸液ボーラス投与は0.88(0.56~1.37、p=0.56)、1.1%(-2.6~4.8%)であった。 敗血症バンドルの完遂に2、3、4時間を要した場合の平均予測院内死亡率は、1時間が経過するごとに約2%ずつ上昇した。また、ニューヨーク州の典型的な小児敗血症の症例で、1時間敗血症バンドルの院内死亡リスクを推算したところ、1時間以内で完遂した場合は8%、完遂に4時間を要した場合は13%だった。 入院期間は、敗血症バンドルの1時間完遂により、全例で有意に短縮し(補正後発生率比[IRR]:0.76、95%CI:0.64~0.89、p=0.001)、生存例でも有意に短縮したが(0.71、0.60~0.84、p<0.001)、死亡例では短縮しなかった(1.09、0.71~1.69、p=0.68)。 著者は、「これらの知見は、小児敗血症治療を一括化したバンドルはアウトカムの改善効果を示したとする単一施設の結果と一致する」としている。

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第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】

覚えておきたい熱中症の基本事項7月に入り東京も連日気温が30℃を超え、40℃近い猛暑が続いています。連日熱中症による症状で救急搬送、外来受診される患者さんが後を絶ちません。熱中症に限りませんが、早期に異常を認知し、介入すること、そして、何より予防に努めることが非常に大切です。暑さに負けないために今回は熱中症の基本的事項をまとめておきましょう。●診療のPoint(1)夏場は常に熱中症を疑え!(2)非労作性熱中症は要注意! 屋内でも熱中症は起こりうる!(3)重症度を頭に入れ、危険なサインを見逃すな!熱中症の定義「熱中症とは何ですか?」と質問されて正確に答えられるでしょうか。以前は熱射病、熱痙攣、熱失神という言葉が使用されていましたが、現在は用いられません(重症度と共に後述します)。熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」とされ、「暑熱による諸症状を呈するもの」のうちで、他の原因疾患を除外したものと定義されています。わが国では毎年7~8月に熱中症の発生率が多く、「今そこにある危機」と認識し、熱中症の症状を頭に入れ意識しておく必要があるのです。熱中症の死亡率本邦の年間発症数は約40万人、そのうち8.7%(約3万5,000人)が入院、0.13%(約520名)が死亡しています。この数値は現在も大きな変化はなく、2016年の死亡者数は621名で65歳以上が79.2%という結果でした(厚生労働省 人口動態統計)。2018年は2017年より暑く、熱中症患者は増加することが予想されます。熱中症を軽視してはいけません。労作性vs.非労作性熱中症と聞くと炎天下の中、スポーツや仕事をしている最中に引き起こされるイメージが強いですが、それだけではありません。熱中症は、「労作性熱中症」と「非労作性熱中症」に分類(表1)され、屋内でも発生します。そして、この非労作性熱中症が厄介なのです。画像を拡大する労作性熱中症の患者背景としては若年男性のスポーツ、中壮年男性の労働(建設業、製造業、運送業、とくに日給制のような短い雇用期間の方)、非労作性熱中症では独居の高齢者が典型的です。労作性熱中症の場合には、若く、集団で活動していることが多く、基礎疾患もなく早期に発見、介入できるため予後は良好ですが、非労作性熱中症は、自宅で発生することが多く、発見が遅れ、また心疾患などの基礎疾患、利尿薬などの内服薬などの影響から治療に難渋することがあるわけです。実際、救急医学会の熱中症実態調査において、熱中症の死亡の危険因子は、(1)高齢、(2)屋内発症、(3)非労作性熱中症でした1)。重症度に影響するばかりでなく、再発防止手段にも影響します。意識して対応しましょう。熱中症の重症度以前、熱中症は、熱射病、熱痙攣、熱失神などの呼び名がありましたが、現在は重症度を理解しやすいように表2のように分類されています1)。I度は必ずしも体温は上がりません。症状で判断します。II度は頭痛や嘔吐、倦怠感に加え、深部体温の上昇を認めます。III度は、意識障害、臓器障害を認め、早急な対応が必要になります。画像を拡大する熱中症を疑うことは、病歴から難しくありませんが、重症度の判断は初期評価をきちんと行わなければ見誤ります。とくに重篤化しやすい、非労作性熱中症の高齢者には注意が必要です。意識が普段と同様か否か、腎前性腎障害に代表される臓器障害を認めていないかを評価しましょう。熱中症の治療治療の原則、「安静」「環境改善」「塩分+水分の補給」は絶対です。重症度や経口摂取の可否を評価し、細胞外液の点滴の適応を判断します。高齢者がぐったりしている、十分な飲水が困難な場合には、点滴を選択したほうがよいでしょう。また、点滴が必要と評価した患者では、採血や血液ガスも検査・評価し、臓器障害の有無も併せて確認しましょう。熱中症II度以上は、体温調節中枢が正常に機能していない状態です。皮膚や筋肉の血管拡張、血流増加、多量の発汗によって循環血液量減少性ショックへと陥ります。急速な輸液に加え、高体温が持続すると多臓器不全(意識障害、痙攣、急性腎障害、DIC etc.)を伴い、輸液だけでなく呼吸管理や透析などの全身管理が必要となることもあります。初期対応としては以下の2点を意識し、速やかに対応しましょう。(1)目標体温深部体温*が39℃を超える高体温の持続は予後不良因子であり、38℃台になるまでは積極的な冷却処置を行いましょう。*深部体温中枢温を正確に反映する部位は腋窩温でも皮膚温でもありません。最も好ましいのは深部体温(膀胱温、直腸温、食道温)です。救急外来など初療時には、直腸温を測定するか、温度センサー付きバルーンカテーテルを利用し、膀胱温を測定するとよいでしょう。健康な人の体温の平均値は、腋窩温36.4℃に対して直腸温37.5℃と約1℃異なると言われていますが、高体温で発汗している場合や測定方法によって、腋窩温や皮膚温は容易に変化します(正しく測定できません)。熱中症、とくに重症度が高いと判断した症例では、深部体温を測定する意識をもちましょう。(2)冷却方法体表冷却法が一般的です。気化熱を利用します。ぬるま湯(40〜45℃)を霧吹きを用いて体表にかけ、扇風機などで扇ぐとよいでしょう。本当に熱中症か?!熱中症は環境因子だけでも十分起こりえますが、普段であれば自己対応(環境を変える、水分・塩分を摂取する)ができずに発生した可能性があります。つまり、熱中症に陥った原因をきちんと検索する必要があります。とくに非労作性熱中症の場合には、尿路感染症や肺炎などの感染症などが引き金となっているかもしれません。また、薬剤やクリーゼなども熱中症様症状をとることがあります。これらの鑑別は病歴をきちんと把握すればおおよそ可能です。明らかに部屋が暑かった、当日の朝までは普段どおりであったなどの病歴がわかれば、感染症や薬剤の影響は考えづらいでしょう。それに対して、数日前から体調の変化があった場合には、感染症などの影響も考え対応する必要があります。発熱か高体温か判断できず、とりあえず血液培養を2セット提出するのは簡単ですが、それ以上に病歴聴取や身体所見を評価することのほうが大切です。プロカルシトニンも鑑別には役立たないため提出は不要でしょう。熱中症の予防熱中症は予防可能です。起こしてしまった人へは、治療だけでなく正しい熱中症の知識、そして周囲の方への啓発・指導を含め、ポイントを絞って熱中症を起こさないために必要なことを伝えましょう。「また熱中症の患者か!?」と思うのではなく、チャンスだと思い、再発予防に努めましょう。熱中症の基本的事項を伝授熱中症の初期症状、非労作性熱中症に関して伝えましょう。症状が熱中症によるものであることを知っておかないと対応できません。また、熱中症は屋外で起こるものと思っていると、非労作性熱中症に陥ります。高齢の方からは「風通しがいいのでクーラーは使用していません(設置していません)」、「クーラーは嫌いでね」という台詞をよく聞きますが、必要性をきちんと説明し、理解してもらうことが大切です。●熱中症の発生リスク評価を伝授猛暑が続いていますが、どの程度危険なのかを認識しなければ、「大丈夫だろう」と軽視してしまいます。朝のニュースをテレビやスマホで確認するのもよいですが、暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:WBGT)を確認する癖をもっておきましょう。熱中症の発生に関与する因子は気温だけではなく、湿度、風速、日射輻射です。とくに湿度は大きく影響し、これらを実際に計測し算出して出てきた数値がWBGTです。細かなことは割愛しますが、WBGT>28℃になると熱中症が急増し危険と判断します(表3)。画像を拡大する●環境省の熱中症予防情報を伝授環境省熱中症予防情報サイトでは、WBGT(暑さ指数)を都道府県、地点別に確認できます。本稿執筆時の7月19日10時現在の東京都(都道府県)、東京(地点)のWBGT値は31.9℃(危険)と赤表示され、一目で熱中症のリスクが高いことがわかります。3日間の予測も併せて確認できるため、熱中症を予防する立場にある学校の教師や職場の管理者は必ず確認しておく必要があります。朝のニュースなどで危険性は日々報道されていますが、それでもなお発生しているのが熱中症です。願わくは、自ら確認し意識しておくことが必要と考えます。「熱中症の危険がある」ということを事前に意識して対応すれば、体調の変化に対する対応も迅速に行えるでしょう。●熱中症? と思った際の対応を伝授こむら返りや頭痛、倦怠感などを自覚し、環境因子から熱中症? と判断した場合には、速やかに環境を改善し(日陰や店舗内など涼しい場所へ移動)、水分だけでなく塩分を摂取するように勧めましょう。症状が改善しない場合や、自身で水分・塩分の摂取が困難な場合には、時間経過で改善することも多いですが、症状の増悪、一人暮らしで経過を診ることができる家族がいない場合には、病院へ受診するように指示したほうがよいでしょう。屋内外のリスクを見極め夏を過ごす7月は熱中症予防強化月間の重点取組期間です(厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」)。まだまだ暑い日が続きます。日頃の体調管理を行いつつ、屋外でのスポーツや作業をする場合には、リスクを評価し、予防に努め、屋内で過ごす場合には、温度・湿度を意識した環境の設定を行い、夏を乗り切りましょう!1)日本救急医学会熱中症に関する委員会. 熱中症の実態調査-日本救急医学会Heatstroke STUDY 2012最終報告-.日救急医会誌. 2014;25:846-862.

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第6回 チーム医療での薬剤師の立場って...?【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。遠慮は無用。良い人ではダメチーム医療・・・最近、毎日考えながら過ごしています。チーム医療の中での薬剤師ってなんでしょうか?何を期待され、何ができるのか。なぜそんなことを考えているのかと言うと・・・。【きっかけ1】在宅業務では、多くの医療スタッフやケアスタッフと顔を合わせたり、連絡を取り合ったり、最近は、メールを使用した情報共有も試みたり、診療所の在宅部へも頻繁に行くようになりました。関係が密になると、遠慮もなくなり、意見が活発になります。指導されることも多いです。ありがたいことです。先日、在宅を担当している看護師さんとお話ししている姿を、診療所所長の医師に後から指摘されました。「気を使いすぎ」だと。「もっとそこは怒ってほしかった」「その程度のことしかしていないの?」「あなたにとって、在宅医療とは何ですか?」「あなたの信念は?」ず~~ん。はぁ(涙)看護師や医師に気を使うのではなく、患者さん本位で思っていることをしっかり言わなければ。人が良いのではダメです。在宅医療の理念や私にとって在宅医療とは・・・を、なんとなく心に留めて過ごすようになりました(遅い??)薬局で調製してもらう必要ってありますか?【きっかけ2】「チーム医療の中での薬剤師とはなにか」悩み始めたきっかけ2つめ。先日の緩和ケア勉強会でのことでした。病棟看護師さんの「薬局で混注する必要ってありますか?」との発言。意見を求められたときしか言葉を発しない私。でも薬剤師として、ここは言わねば!「お家の中の雑菌が万が一輸液に入ったら、栄養満点の輸液の中で増殖し、直接バリアのない静脈へ...無菌調剤は必要だと思います!!」(キット製品などもありますので、それなら薬局での混注の必要はないです...というのは後から言うことにして...)緊張で心臓がバクバクしている間に...所長の医師のお言葉が。「僕は薬剤師は必要だと思う。チーム医療の中で薬剤師の必要性はいうまでもない、関わってほしい。薬局は設備が整っているし、利用すべきであり、必要としている患者さんもいる」と...。泣きました...(心の中で)薬剤師をそのように思ってくれている先生の発言に感動し、さらなる緊張感が。期待に応える仕事をしなければ。チーム医療における薬剤師って・・・?以前、この医師からは在宅医療における薬局での無菌調製の重要性を聞いていました。病院には無菌室がなく、注射薬は毎回病棟で混合している。それほど問題ないが、本来は無菌が望ましいと考えていること。在宅になると「保管」が必要になるため、無菌調製が必要だということ。勉強会で発言された病棟看護師さんは在宅の状況をご存じなく、「病院と同じように毎回家で混ぜたらよい」と考えられていたようです。「混合を誰がする?」「毎日訪問看護師が行けるのか?」「薬剤師が毎日行けば?」などの話になりました。(この委員会のあと、医師から「うちの職員の教育が足りずに申し訳ない」と謝られました)そして、「次回の緩和ケア委員会の議題を決めた。」といわれたときなんとなく嫌な予感...いつもは、次回の開催通知がくるだけなのに。次回のテーマは、「チーム医療における薬剤師の必要性」。病棟薬剤師、薬局薬剤師が発表することになりました。医師からは「言いたいこと、たくさんあるでしょ(笑)」って...大きな宿題をいただいてしまいました。は~、どうしよう。皆さんはチーム医療、チームの中の薬剤師、どのように考えられますか?

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第3回 無菌室のある薬局勉強会に参加&新しい患者さんの対応に緊張【はらこしなみの在宅訪問日誌】

大事なのはリスク管理。病院から新たなTPNの依頼が!在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。勉強会で各薬局の無菌調整マニュアルを比較先日、無菌室を持つ薬局が集まって、勉強会をしました。それぞれの手技を確認し、無菌調製マニュアルを比較。あれが違う、これが違う...。たった5薬局なのに使っているグローブもガウンも違う。アンプルの扱いも、無菌室への入り方も...。しかし、根本にあるのはリスク管理。改めて徹底することとなりました。私にとってルートや針を扱うのは初めてのことであり、新鮮でした。でも、器材も定期的に扱わないと忘れてしまうよなあ~と思っていた矢先。患者さん+先生+器材 新しい出会いに感謝TPNはあまり扱ったことがないという泌尿器科の先生。退院時カンファレンスのとき「出してほしい物、処方箋に書くから言って!」と。「輸液セットは?ポンプは?病院で出しますか?それともこちらで準備しますか?」結局、先生がポンプを準備、輸液セットは院外処方箋で薬局から患者宅にお届けすることになりました。「とにかく、TPNが体に流れるようにしてほしいの!病院と同じように!」と医師から強く言われ、退院まで1週間。毎日ドキドキでした。病院の入退院連携室と毎日連絡を取り合い、ルート、針の品番、使用頻度、ガーゼやテープなどの衛生材料について...色々教えてもらいました。そして在宅スタート医療保険を利用し2週間は特別指示期間。 毎日看護師さんが訪問し、TPNやカニューレ管理(気管切開あり)、訪問医もほぼ毎日顔を見に。この2週間は、在宅療養ができるか?を見極める期間。本人がどんなに希望しても、必要な処置や治療がお家でできなければ、在宅療養は成り立ちません。ご家族にも、輸液バックの交換や痰の吸引(吸引器の使い方や吸引カテーテルの扱い方など)を覚えてもらう。エルネオパは開通してから持参し、ルートと針は訪問看護師さんが週1回交換。訪問医や訪問看護師さんが、在宅療養はちょっと無理だろうなぁ、と言っていたけれど、どうにか頑張ったご本人とご家族。2週間が過ぎ、介護保険に切り替わっても処方が途切れることはありませんでした。

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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第2回 無菌室稼働から7回目、ドキドキの独り立ち!【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。責任と自己判断。1人でドキドキの混注先日の無菌室稼働から7回目。そろそろ体が先に動くようになってきて、「1人でも大丈夫だろう、次からはもう1人で」と決まりました。輸液やアンプルにアルコール吹き付けたり、トレーを消毒したり、シリンジやフィルターをそろえたり・・・入室前の準備をしつつ、緊張感も出てきて、もう一度マニュアルを読んで手技のチェック。一人で気楽かと思いきや、責任と自己判断という重みがのしかかり、ドキドキの混注になりました。一通り無菌操作を終え、無菌室すべての面・・・床、壁をアルコールで拭く掃除が、思いのほか大変でした。「でも、これはきっちりとやらないと!」と、アルコールにまみれながら終了。クリーンルームの外に出て、新鮮な空気が美味しく、ひと時ほっとします。でも、この輸液が何かトラブルを起こさないだろうか、チューブの詰まりはないか、体調はどうか、お届け時間は間に合うか・・・と、新たなドキドキが待っていました。腸閉塞の患者さんが在宅中心静脈栄養(TPN)の予定今、A病院に入院されている腸閉塞の患者さんが在宅中心静脈栄養(TPN)の予定です。※TPNは心臓に近い鎖骨の下を走る中心静脈にカテーテルを入れて、そのカテーテルに直接薬 剤や栄養剤を投与する方法。現在は・・・ラクトリン®ゲル液、フルカリック®。ロピオン®静注(静注用非ステロイド性鎮痛薬)を生食100mLに入れて側注管より注入。とのことでした。ロピオン®は在宅でいけますか?と先生より質問もあり、調べています。先生はロピオン®か、デュロテップ®でいくか、考え中のよう。しかし、新たな問題が・・・うすうす勘づいていたのですが、案の定、ロピオン®の安定性(生食 or ブドウ糖5%にmix)は3日間(72時間)までの資料しかなく、ロピオン®が乳濁性製剤のため、フィルターに目詰まりを起こす可能性がある、側管からフィルターを通さない方法が推奨される、とメーカーより回答をいただきました。うちの薬局の基準では、アンプル混中でTPNの場合はフィルター使用が前提。どうしたものか・・・??結局、ロピオン®が在宅には向かないことを先生にお伝えしました。処方提案もしたかったけれど、先生がお考えのデュロテップ®以外には思いつかず・・・。力不足を味わっていました。ところが、退院時処方を見ると、ハイペン®200mgが開始に!胃を全摘していない、完全に腸閉塞しているわけではないことから、退院までの間に内服を試して、可能になったそうです。"TPNだから経口投与はできない"と端から内服薬を除外していましたが、経口できるか否かはTPNかどうかではないこと、腸閉塞といっても様々な状態があり、まさに患者さん個々の状態にもよるのだということを学んだ一例でした・・・。日々精進です!

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第1回 楽しい同行♪&無菌室稼動!【はらこしなみの在宅訪問日誌】

初めまして。はらこし なみと申します。在宅訪問専任の薬剤師をしています。目の前の患者さんの在宅療養をより良いものに!と、患者さんのサポートに奮闘しています。お別れのときのやるせなさを乗り越え、チーム医療での自分の立ち位置を見つめ直しながら、前向きに頑張る日々を綴っていきたいと思います。楽しい同行♪「次回は2週間後の25日に伺いますね~」いつもの看護師さんの締めくくりで部屋を出ます。ここは高齢者専用住宅。今日は医師と看護師に同行しています。「先生、次はクリスマスですね~」「ぼく、サンタクロースになるよ」は?まさか先生。待ち合わせ場所の施設玄関に現れた先生は赤かった!!!きゃあ、先生~。施設入居者の皆さん、軒並み血圧up↑↑先生とわからず動揺する方まで...急いでお髭とって「僕です!」高齢者や病気を患っている方にとっては刺激が強すぎた?ほんの少しの変化(温度、気候もそうですが)が体に影響するのだと再認識しました...。無菌室稼動の依頼が!さて。病院主催の緩和ケア勉強会に参加して他の職種の方々と連携するように心懸けています。勉強会の最後には参加者の各部門から連絡事項の伝達があります。病院で在宅訪問を担当している看護師さんから「TPN患者さんの在宅が開始予定なのですが、混合できますか?」と。ここは高齢者専用住宅。今日は医師と看護師に同行しています。夢に見ていた無菌室の稼働!!うちの薬局には無菌室がありますが、実際に処方箋を受けたことはこれまでなかったんです。しかし、実際に段取りを始めると・・・、準備する物品の多さ、手順の確認、注射薬剤の知識のなさに焦り、緊張の毎日。薬局薬剤師にとって、注射、輸液などを扱うことがなく、未知の世界です・・・。無菌調製している別店舗のスタッフに色々と教えてもらう日々が始まりました。調製前の準備から指導されっぱなしです・・・。「1回1回、ドアはしっかりしめる!」「ここ拭いた?」「ここに置いちゃだめだよ!」ありがたい指導のもと、ようやく稼働にこぎ着けました。初の輸液処方箋。適応外使用に四苦八苦ですが、資料やガイドラインなどを勉強して、実際の現場ではこのような使用法もあるのだ、と改めて感じています。やっと1例。いっぱいいっぱいですが、これからは必要としている患者さんに届けられるよう、努力したいと思います。

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APROCCHSS試験-敗血症性ショックに対するステロイド2剤併用(解説:小金丸博氏)-831

 敗血症性ショック患者に対するステロイドの有効性を検討した研究(APROCCHSS)がNEJMで発表された。過去に発表された研究では、「死亡率を改善する」と結論付けた研究(Ger-Inf-051))もあれば、「死亡率を改善しない」と結論付けた研究(CORTICUS22)、HYPRESS3)、ADRENAL4))もあり、有効性に関して一致した見解は得られていなかった。 本研究は、敗血症性ショックに対するヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与の有効性を検討した多施設共同二重盲検ランダム化比較試験である。敗血症性ショックでICUへ入室した患者のうち、SOFAスコア3点、4点の重篤な臓器障害を2つ以上有し、ノルエピネフリンなどの血管作動薬を0.25μg/kg/min以上投与が必要な患者を対象とした。研究開始時は、活性化プロテインCとヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンの2×2要因デザインで患者を組み込んでいたが、活性化プロテインCは試験途中で市場から撤退したため、その後はステロイド投与群とプラセボ投与群の2群で試験を継続した。その結果、プライマリアウトカムである90日死亡率はヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群で43.0%、プラセボ投与群で49.1%であり、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった(p=0.03)。また、セカンダリアウトカムであるICU退室時死亡率、退院時死亡率、180日死亡率もヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった。 本論文の考察の中で、敗血症性ショックに対するステロイドの有効性に関する見解が一致しない理由が2つ挙げられている。1つは、投与するステロイドの種類の違いである。ステロイドの有効性を示したAPROCCHSSとGer-Inf-05では、ヒドロコルチゾンにミネラルコルチコイドであるフルドロコルチゾンが併用投与されている。フルドロコルチゾンを投与することによってアドレナリン作動薬の反応改善が期待できるとされており、アドレナリン作動薬が必要な敗血症性ショックに対して有効性を示した可能性がある。2つ目は、患者重症度の違いである。本試験では高用量の血管作動薬投与が必要な患者が対象となっており、プラセボ投与群の90日死亡率は49.1%と高率だった(ADRENALのプラセボ投与群の90日死亡率は28.8%)。重篤な敗血症性ショック患者に対してステロイド投与が有効である可能性がある。現行の敗血症ガイドラインでは、十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態が安定しない患者に対してはステロイド投与が推奨されており、重症敗血症例に対してステロイドを投与することは妥当性があると考える。

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敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

 敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。 オーストラリア、英国、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマークのICUに敗血症性ショックで入室し、人工呼吸器管理を受けた18歳以上の患者3,800例を、無作為にヒドロコルチゾン(200mg/日)投与群とプラセボ投与群とに割り付けた。この際、SIRSの基準を2項目以上満たすこと、昇圧薬ないし変力作用のある薬剤を4時間以上投与されたことを条件とした。ヒドロコルチゾンは200mgを24時間以上かけて持続静注し、最長で7日間あるいはICU退室ないしは死亡までの投与とした。ランダム化から90日までの死亡をプライマリーアウトカム、さらに28日までの死亡、ショックの再発、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器管理の回数と期間、腎代替療法の回数と期間、新規の菌血症・真菌血症発症、ICUでの輸血をセカンダリーアウトカムとし、原疾患による死亡は除いた。 患者の平均年齢は約62歳、外科手術が行われた後に入室した患者は約31%、感染巣は肺(35%)、腹部(25%)、血液(7%)、皮膚軟部組織(7%)、尿路(7%)の順であり、介入前の基礎パラメーターや各検査値に2群間で差はなかった。なおショック発症からランダム化までは平均約20時間、ランダム化から薬剤投与開始までは0.8時間(中央値)であり、ヒドロコルチゾンの投与期間は5.1日(中央値)であった。 まずプライマリーアウトカムとしての90日死亡率は、ヒドロコルチゾン投与群では27.9%(1,832例中511例)、プラセボ投与群では28.8%(1,826例中526例)であり、有意差はなかった。次いでセカンダリーアウトカムでは、ショックから回復するまでの期間も、ICU退室までの期間も、さらに1回目の人工呼吸器管理の期間もヒドロコルチゾン投与群で有意に短かった(それぞれ3日と4日、p<0.001、10日と12日、p<0.001、6日と7日、p<0.001)。ただし再度人工呼吸器管理が必要な患者もおり、人工呼吸器を要しなかった期間としてみると差はなかった。輸血を要した割合も前者で少なかったが(37.0%と41.7%、p=0.004)、その他、28日死亡率やショックの再発率、退院までの日数、ICU退室後の生存期間、人工呼吸器管理の再導入率、腎代替療法の施行率・期間、菌血症・真菌血症発生率に差はなかった。 これまでの検討では、グルココルチコイドは高用量よりは低用量のほうが成績がよかったものの、二重盲検ランダム化比較試験では一致した結果が得られなかった1,2)。現行のガイドラインでも“十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態の安定が得られない例”に対し、エビデンスが弱い推奨として記載されている3)。本検討は、上記のランダム化比較試験よりも症例数がかなり増えているのが特徴であり、2群で比較が可能であった項目も多い。したがって、グルココルチコイド投与の目的—改善を目指す指標—をより詳しく評価できたともいえる。一方で21例対6例と少数ではあるが、グルココルチコイド群で副作用が多く、中にはミオパチーなど重症例も存在した。グルココルチコイドとの相関の可能性を含んで、この結果は解釈したほうがよいであろう。本検討は、これまでの議論の転機となり、マネジメントや指針の再考につながるであろうか。これからの動向に注目したい。

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腰椎穿刺後の合併症リスク、非外傷性針 vs.従来針/Lancet

 腰椎穿刺を非外傷性針で受けた患者は、従来針で受けた患者と比べて、穿刺後の頭痛の発生率が低く、追加治療のための入院の必要性が少なく、有効性については同等であるとの結果が、カナダ・マックマスター大学のSiddharth Nath氏らによるシステマティックレビューとメタ解析で示された。非外傷性針は、腰椎穿刺後の合併症低減のために提案されたが、依然として臨床での採用は低調なままであるとの調査結果が示されている。Lancet誌オンライン版2017年12月6日号で発表された。穿刺後の頭痛の発生率を主要アウトカムにシステマティックレビューとメタ解析 研究グループは、システマティックレビューとメタ解析により、非外傷性針と従来針の腰椎穿刺後の患者のアウトカムを比較する検討を行った。13のデータベースを、開設から2017年8月15日時点まで検索。言語を問わず、あらゆる腰椎穿刺について非外傷性針と従来針の使用を比較していた無作為化対照試験を対象とした。硬膜穿刺ではなく(硬膜外注射であったもの)、対照が従来針ではないものは除外した。発表レポートから、試験のスクリーニングとデータの抽出を行い解析評価した。 主要アウトカムは、穿刺後の頭痛の発生率。さらに安全性と有効性のアウトカムを、ランダム効果および固定効果メタ解析により評価した。主要アウトカム発生の非外傷性針群の相対リスクは0.44 検索により、2万241件のレポートを特定し、基準で除外後、1989~2017年に行われた29ヵ国からの110試験・被験者総計3万1,412例のデータを解析に包含した。 穿刺後の頭痛発生率は、従来針群11.0%(95%信頼区間[CI]:9.1~13.3)に対し非外傷性針群は4.2%(同:3.3~5.2)と有意に低率だった(相対リスク[RR]:0.40、95%CI:0.34~0.47、p<0.0001、I2=45.4%)。また非外傷性針群は、静脈内輸液や鎮痛コントロールを要することが有意に少なく(RR:0.44、95%CI:0.29~0.64、p<0.0001)、硬膜外血液パッチの必要性(0.50、0.33~0.75、p=0.001)や、あらゆる頭痛(0.50、0.43~0.57、p<0.0001)、軽度頭痛(0.52、0.38~0.70、p<0.0001)、重度頭痛(0.41、0.28~0.59、p<0.0001)、神経根刺激(0.71、0.54~0.92、p=0.011)、さらに聴力障害(0.25、0.11~0.60、p=0.002)がいずれも有意に少なかった。一方、腰椎穿刺の初回試技での成功率、失敗率、平均試技回数、traumatic tapや腰痛の発生率は、両群間で有意差はなかった。 硬膜穿刺後の頭痛に関する事前規定のサブグループ解析の結果、針のタイプと患者の年齢、性別、予防的静脈内輸液の実施、針のゲージ、患者の姿勢(座位vs.側臥位)、腰椎穿刺の目的(麻酔vs.診断vs.脊髄造影)、穿刺後のベッド安静、担当医の専門性との間に相互作用は認められなかった。これらの結果は、推奨評価・開発・評価の格付けを用いて検証されており、質の高いエビデンスであるとされた。 結果を踏まえて著者は、「今回の所見は、臨床医とその関係者に対して、腰椎穿刺が必要な患者の優れた選択肢として、非外傷性針の安全性と有効性について総合的な評価と質の高いエビデンスを提示するものである」とまとめている。

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敗血症の早期蘇生プロトコル戦略、開発途上国では?/JAMA

 医療資源が限られる開発途上国において、大半がHIV陽性で敗血症と低血圧症を有する成人患者への、輸液および昇圧薬投与による早期蘇生プロトコル戦略では、標準治療と比較して院内死亡が増大したことが示された。米国・ヴァンダービルト大学のBen Andrews氏らがザンビア共和国で行った無作為化試験の結果で、著者は「さらなる試験を行い、異なる低中所得国の臨床設定および患者集団における、敗血症の患者への静脈内輸液と昇圧薬投与の影響を明らかにする必要がある」とまとめている。開発途上国における敗血症への早期蘇生プロトコルの効果は、これまで明らかにされていなかった。JAMA誌オンライン版2017年10月3日号掲載の報告。ザンビアの212例を対象に、無作為化試験で標準治療と比較 研究グループは、輸液、昇圧薬、輸血による早期蘇生プロトコルが、敗血症と低血圧症を有するザンビアの成人患者において、標準治療と比べて死亡率を低下させるかを調べた。2012年10月22日~2013年11月11日に、ザンビア国立病院(1,500床)の救急部門を受診した敗血症および低血圧症を有する成人患者212例を対象に無作為化試験が行われ、2013年12月9日までデータが収集された。 被験者は、1対1の割合で(1)敗血症のための早期蘇生プロトコルの介入を受ける群(107例)、または(2)標準治療を受ける群(105例)に無作為に割り付けられた。(1)は静脈内輸液ボーラス投与と、頸静脈圧、呼吸数、動脈血酸素飽和度のモニタリング、および平均動脈圧65mmHg以上を目標値とした昇圧薬投与の治療、輸血(ヘモグロビン値7g/dL未満)を、(2)は担当医の裁量の下で血行動態管理を行った。 主要アウトカムは院内死亡率で、副次アウトカムは、投与を受けた輸液量、昇圧薬投与の状況などであった。早期蘇生プロトコル群の院内死亡発生が1.46倍に 無作為化を受けた212例のうち3例が適格条件を満たしておらず、残る209例が試験を完了し解析に包含された。209例は、平均年齢36.7歳(SD 12.4)、男性117例(56.0%)、HIV陽性187例(89.5%)であった。 主要アウトカムの院内死亡の発生は、敗血症プロトコル群51/106例(48.1%)、標準治療群34/103例(33.0%)であった(群間差:15.1%[95%信頼区間[CI]:2.0~28.3]、相対リスク:1.46[95%CI:1.04~2.05]、p=0.03)。 救急部門受診後6時間で投与を受けた輸液量は、敗血症プロトコル群は中央値3.5L(四分位範囲:2.7~4.0)、標準治療群は同2.0L(1.0~2.5)であった(群間差中央値:1.2L、95%CI:1.0~1.5、p<0.001)。 昇圧薬の投与を受けたのは、敗血症プロトコル群15例(14.2%)、標準治療群2例(1.9%)であった(群間差:12.3%、95%CI:5.1~19.4、p<0.001)。

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敗血症に対する初期治療戦略完了までの時間と院内死亡率の関係(解説:小金丸 博 氏)-700

 敗血症は迅速な診断、治療が求められる緊急度の高い感染症である。2013年に米国のニューヨーク州保健局は、敗血症の初期治療戦略として“3時間バンドル”プロトコールの実施を病院に義務付けた。“3時間バンドル”には、(1)1時間以内に広域抗菌薬を投与すること、(2)抗菌薬投与前に血液培養を採取すること、(3)3時間以内に血清乳酸値を測定すること、が含まれる。さらに収縮期血圧が90mmHg未満に低下していたり血清乳酸値が高値の場合は、“6時間バンドル”として急速輸液(30mL/kg)や昇圧剤の投与、血清乳酸値の再測定を求めている。これらの初期治療戦略が敗血症の予後を改善するかは、まだ議論のあるところだった。 本研究は、ニューヨーク州保健局に報告された敗血症および敗血症性ショックを呈した患者のデータベースを検討したレトロスペクティブ研究である。“3時間バンドル”完遂までの時間とリスク補正後の院内死亡率との関係を評価した。その結果、“3時間バンドル”完遂までの時間が長いほど院内死亡率は上昇していた(1時間ごとのオッズ比:1.04、95%信頼区間:1.02~1.05、p<0.001)。同様に、広域抗菌薬投与までの時間が長いほど院内死亡率は上昇していた(同:1.04、1.03~1.06、p<0.001)。しかしながら、急速輸液完遂までの時間の長さは院内死亡率上昇と関連がなかった(同:1.01、0.99~1.02、p=0.21)。 広域抗菌薬をプロトコール開始後3~12時間で投与した群では、3時間以内に投与した群と比べて院内死亡率が上昇していた。とくにうっ血性心不全や慢性肺疾患などの基礎疾患を有する群や昇圧剤投与が必要だった群で強く相関しており、重症例ほど早期に抗菌薬を投与することの重要性が示された。 本研究では、初期の急速輸液完了までの時間は、敗血症の予後に関連しないという結果であった。理由として、死に至るような超重症例ほど初期急速輸液が行われていることや、急速大量輸液によって起こる肺浮腫などの有害事象が予後に関与した可能性が考えられる。 2016年に新しい敗血症の定義(Sepsis-3)が提唱された。敗血症性ショックの診断には、本研究の“3時間バンドル”にも含まれる血清乳酸値の測定が必須であるが、本邦では大規模病院以外では困難と思われる。現在の本邦においてはバンドルの遵守にこだわらず、病歴や理学所見からいかに敗血症を疑い、初期対応につなげるかが重要と考える。

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敗血症の治療は早めるほどよい?/NEJM

 敗血症の治療において、3時間ケアバンドルの完了と抗菌薬投与をより早めることは、院内死亡率の低下と関連することが示された。なお、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了を早めることは、関連していなかったという。2013年、米国ニューヨーク州は医療機関に対して、敗血症の迅速な同定と治療のためにプロトコルに従うことを義務づけたが、敗血症の治療を早めることが患者の転帰を改善するかについては議論されていた。米国・ピッツバーグ大学のChristopher W. Seymour氏らは、義務化後の状況を調査、検討した。NEJM誌2017年6月8日号(オンライン版2017年5月21日号)掲載の報告。敗血症に対する3時間ケアバンドル義務化後のニューヨーク州の状況を分析 検討は、2014年4月1日~2016年6月30日にニューヨーク州保健局に報告された、敗血症および敗血症性ショックを呈した患者のデータを分析して行われた。 ニューヨーク州が義務づけたプロトコルには、患者が救急部門に搬送されて6時間以内に敗血症プロトコルを開始すること、敗血症患者に対する3時間ケアバンドル(抗菌薬投与前の血液培養、血清乳酸値の測定、広域抗菌薬投与)の全項目を12時間以内に完了することが含まれていた。 多変量モデルを用いて、敗血症患者の3時間ケアバンドル完了までの時間とリスク補正後の死亡との関連を評価した。また、抗菌薬投与までの時間、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了までの時間についても調べた。敗血症患者の3時間バンドル完了の時間が長くなるほど院内死亡率の上昇と関連 評価には、149病院の4万9,331例が含まれた。 そのうち4万696例(82.5%)が、敗血症に対する3時間ケアバンドルを3時間以内に完了していた。敗血症患者の3時間ケアバンドル完了までの時間中央値は1.30時間(四分位範囲:0.65~2.35)、抗菌薬投与までの時間中央値は0.95時間(四分位範囲:0.35~1.95)であり、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了までの時間中央値は2.56時間(四分位範囲:1.33~4.20)であった。 12時間以内に3時間ケアバンドルを完了した敗血症患者において、バンドル完了の時間が長くなるほど、リスク補正後の院内死亡率の上昇と関連していた(オッズ比:1.04/時間、95%信頼区間[CI]:1.02~1.05、p<0.001)。同様の関連は、抗菌薬投与までの時間が長い場合にもみられた(同:1.04/時間、1.03~1.06、p<0.001)。しかしながら、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了までの時間が長い場合にはみられなかった(同:1.01/時間、0.99~1.02、p=0.21)。

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ある日の救急外来【Dr. 中島の 新・徒然草】(164)

百六十四の段 ある日の救急外来年度末の土曜日のこと。夕方に救急外来をのぞくと、患者さんやその御家族でごったがえしていました。当院では、研修医2名が1・2次救急のファーストタッチを担当しています。日直から当直への交代時間はとうに過ぎたはずですが、研修医4名が、ショックバイタルの下血患者さんをはじめとした数名の救急患者さんに対応していました。中島「とにかくバイタルを何とかしろ!」研修医「はい」なんと言っても最重症は下血の患者さん。4人とも表情はテンパっていましたが、内視鏡オンコール医の「すぐ行くから腹部造影CTをやっといてくれ」を目標にして、何とか輸液と輸血でバイタルの立て直しを図っていました。そうこうしているうちにレジデントが応援に駆けつけ、ようやく血圧が100を超え始めました。このチャンスを逃さず、すかさず造影CTへ向かいます。残念ながらほかに用事があったので、私が見ることができたのはここまででした。翌朝、その後の経過を電子カルテで確認しました。造影CTでは、上行結腸から肝彎曲部の腸管内出血が疑われたようです。駆けつけた内視鏡オンコール医が大腸内視鏡で出血点を確認し、クリップ3つで止血に成功し、うまく救命することができました。この患者さんに人手を取られた結果、待たされたほかの患者さんから、いささか不平不満が出たようです。怒っている人ほど医学的には後回しになりがち、というのはよくある救急外来の景色。ただひたすらに頭を下げるのみです。年度末のこの時期、いつも研修管理委員会で問題になるのが、研修医の修了認定。内外の委員から「彼女の社会人としての資質はどうなのか?」「彼は患者さんやほかの職員に対する態度がなっていない」などと言われがちです。しかし、今回の救急室での対応を見るかぎり、合格点をあげてもいいのではないかと思いました。巣立っていく彼らの未来に幸多きことを祈ります。最後に1句出血の ショックを凌いで さあCT! 

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自己免疫性溶血性貧血〔AIHA: autoimmune hemolytic anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血)し、貧血を来す。AIHAは、自己抗体の性状によって温式抗体によるものと、冷式抗体によるものに2大別される。温式抗体(warm-type autoantibody)による病型を単に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ぶことが多い。冷式抗体(cold-type autoantibody)による病型には、寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある。温式抗体は体温付近で最大活性を示し、原則としてIgG抗体である。一方、冷式抗体は体温以下の低温で反応し、通常4℃で最大活性を示す。IgM寒冷凝集素とIgG二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が代表的である。時に温式抗体と冷式抗体の両者が検出されることがあり、混合型(mixed type)と呼ばれる。■ 疫学AIHAの推定患者数は100万人対3~10人、年間発症率は100万人対1~5人で、病型別比率は、温式AIHA90.4%、CAD7.7% 、PCH1.9%とされている。温式AIHAの特発性/続発性は、ほぼ同数に近いと考えられる。特発性温式AIHAは、小児期のピークを除いて二峰性に分布し、若年層(10~30歳で女性が優位)と老年層(50歳以後に増加し70代がピークで性差はない)に多くみられる。全体での男女比は1~2:3で女性にやや多い。CADのうち慢性特発性は40歳以後にほぼ限られ男性に目立つが、続発性は小児ないし若年成人に多い。PCHは、現在そのほとんどは小児期に限ってみられる。■ 病因自己抗体の出現機序として次のように整理されている。1)免疫応答機構は正常だが患者赤血球の抗原が変化して、異物ないし非自己と認識される。2)赤血球抗原に変化はないが、侵入微生物に対して産生された抗体が正常赤血球抗原と交差反応する。3)赤血球抗原に変化はないが、免疫系に内在する異常のために免疫的寛容が破綻する。4)すでに自己抗体産生を決定付けられている細胞が、単または多クローン性に増殖または活性化され、自己抗体が産生される。■ 症状1)温式AIHA臨床像は多様性に富み、発症の仕方も急激から潜行性まで幅広い。とくに急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。急激発症は小児や若年者に多く、高齢者では潜行性が多くなるが例外も多い。受診時の貧血は高度が多く、症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%で、サイズも1~2横指程度が多い。温式AIHAの5~10%程度に直接クームス試験が陰性のものがあり、クームス陰性AIHAと呼ばれる。クームス試験が陽性にならない程度のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、診断には赤血球結合IgG定量が有用である。クームス陽性AIHAと同様にステロイド反応性は良好である。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンス症候群と呼び、特発性AIHAの10~20%程度を占める。2)寒冷凝集素症(CAD)臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。感染に続発するCAD は、比較的急激に発症し、ヘモグロビン尿を伴い貧血も高度となることが多い。マイコプラズマ感染では、発症から2~3週後の肺炎の回復期に溶血症状を来す。血中には抗マイコプラズマ抗体が出現し、寒冷凝集素価が上昇する時期に一致する。溶血は2~3週で自己限定的に消退する。EBウイルス感染に伴う場合は症状の出現から1~3週後にみられ、溶血の持続は1ヵ月以内である。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷曝露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。これは皮膚微小血管内でのスラッジングによる。クリオグロブリンによることもある。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。脾腫はあっても軽度である。3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よくみられた梅毒性の定型例では、寒冷曝露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感に次いで、悪寒と発熱をみる。はじめの尿は赤色ないしポートワイン色調を示し、数時間続く。遅れて黄疸が出現する。肝脾腫はあっても軽度である。このような定型的臨床像は非梅毒性では少ない。急性ウイルス感染後の小児PCHは5歳以下に多く、男児に優位で、季節性、集簇性を認めることがある。発症が急激で溶血は激しく、腹痛、四肢痛、悪寒戦慄、ショック状態や心不全を来したり、ヘモグロビン尿に伴って急性腎不全を来すこともある。発作性・反復性がなく、寒冷曝露との関連も希薄で、ヘモグロビン尿も必発とはいえない。成人の慢性特発性病型はきわめてまれである。気温の変動とともに消長する血管内溶血が長期間にわたってみられる。■ 分類AIHAは臨床的な観点から、有意な基礎疾患ないし随伴疾患があるか否かによって、続発性(2次性)と特発性(1次性、原発性)に、また臨床経過によって急性と慢性とに区分される。基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患とリンパ免疫系疾患が代表的である。マイコプラズマや特定のウイルス感染の場合、卵巣腫瘍や一部の潰瘍性大腸炎に続発する場合などでは、基礎疾患の治癒や病変の切除とともにAIHAも消退し、臨床的な因果関係が認められる。 ■ 予後温式AIHAで基礎疾患のない特発例では、治療により1.5年までに40%の症例でクームス試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。続発性の予後は基礎疾患によって異なり、リンパ系疾患に比べてSLEなどの自己免疫性疾患に続発する場合のほうが良好である。CADは感染後2~3週の経過で消退し、再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。梅毒に伴う場合の多くは、駆梅療法によって溶血の軽減や消退をみる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)(図1 AIHAの診断フローチャート)最初に溶血性貧血としての一般的基準を満たすことを確認し、次いで疾患特異的な検査によって病型を確定する。溶血性貧血の診断基準と自己免疫性溶血性貧血の診断基準を表1と表2に示す。画像を拡大する血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接クームス試験を行い、陽性の場合は特異的クームス試験で赤血球上のIgG と補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素症(CAD)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)の鑑別のため、寒冷凝集素価測定とDonath-Landsteiner(DL)試験を行う。寒冷凝集素は、凝集価が1,000 倍以上、または1,000 倍未満でも30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査として、患者血清(37~40℃下で分離)と生食に懸濁したO型赤血球を混和し、室温(20℃)に30~60分程度放置後、凝集を観察する。凝集が認められない場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。凝集がみられた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。凝集素価が低値でもアルブミン法などで30℃以上での凝集が認められる場合は低力価寒冷凝集素症とする。DL 抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。直接クームス試験が陰性であったり、特異的クームス試験で補体のみ陽性の場合でも、症状などから温式AIHA が疑われる場合やほかの溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG 定量を行うとクームス陰性AIHA と診断できることがある。温式AIHAと寒冷凝集素症が合併している場合は、混合型AIHA の診断となる。表1 溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。2)以下の検査所見がみられる。(1)へモグロビン濃度低下(2)網赤血球増加(3)血清間接ビリルビン値上昇(4)尿中・便中ウロビリン体増加(5)血清ハプトグロビン値低下(6)骨髄赤芽球増加3)貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。4)1)、2)によって溶血性貧血を疑い、3)によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。表2 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)溶血性貧血の診断基準を満たす。2)広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。3)同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。4)1)~3)によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の(1)と、冷式(4℃)の(2)および(3)に区分する。(1)温式自己免疫性溶血性貧血臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は(2)、(3)の除外によってもよい。(2)寒冷凝集素症(CAD)血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。5)以下によって経過分類と病因分類を行う。急性推定発病または診断から6ヵ月までに治癒する。慢性推定発病または診断から6ヵ月以上遷延する。特発性基礎疾患を認めない。続発性先行または随伴する基礎疾患を認める。6)参考(1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。(2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。(3)特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンス症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。(4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。(5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。(6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。(7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 温式AIHAの治療(図2 特発性温式AIHAの治療フローチャート)画像を拡大する特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。1)急性期:初期治療(寛解導入療法)ステロイド薬使用に対する重大な禁忌条件がなければ、プレドニゾロン換算で1.0mg/kgの大量(標準量)を連日経口投与する。高齢者や随伴疾患があるときは、減量投与が勧められる。約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する。AIHAでは輸血はけっして安易に行わず、できる限り避けるべきとするのが一般的であるが、薬物治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は、機を失することなく行う必要がある。その場合、生命維持に必要なヘモグロビン濃度の維持を目標に行う。安全な輸血のため、輸血用血液の選択についてあらかじめ輸血部門と緊密な連携を取ることが勧められる。2)慢性期:ステロイド減量期ステロイド薬の減量は、状況が許すならば急がず、慎重なほうがよく、はじめの1ヵ月で初期量の約半量(中等量0.5mg/kg/日)とし、その後は溶血の安定度を確認しながら2週に5mgくらいのペースで減量し、10~15mg/日の初期維持量に入る。減量期に約5%で悪化をみるが、その際はいったん中等量(0.5mg/kg/日)まで増量する。3)寛解期:維持療法・治療中止時期ステロイド薬を初期維持量まで減量したら、網赤血球とクームス試験の推移をみて、ゆっくりとさらに減量を試み、平均5mg/日など最少維持量とする。直接クームス試験が陰性化し、数ヵ月以上経過しても再陽性化や溶血の再燃がみられず安定しているなら、維持療法をいったん中止して追跡することも可能となる。4)増悪期:再燃時、ステロイド不応例維持療法中に増悪傾向が明らかならば、早めに中等量まで増量し、寛解を得た後、再度減量する。ステロイド薬の維持量が15mg/日以上の場合、また副作用・合併症の出現があったり、悪化を繰り返すときは、2次・3次選択である摘脾や免疫抑制薬、抗体製剤の採用を積極的に考える。ステロイドによる初期治療に不応な場合は、まず悪性腫瘍などからの続発性AIHAの可能性を検索する。基礎疾患が認められない場合は、特発性温式AIHAとして複数の治療法が考慮されるが、優先順位や適応条件についての明確な基準はなく、患者の個別の状況により選択され、いずれの治療法もAIHAへの保険適用はない。唯一、摘脾とリツキシマブについては短期の有効性が実証されており、摘脾が標準的な2次治療として推奨されている。(1)摘脾脾臓は感作赤血球を処理する主要な臓器であり、自己抗体産生臓器でもある。わが国では特発性AIHAの約15%(欧米では25~57%)で摘脾が行われており、短期の有効性は約60%と高い。ステロイド投与が不要となる症例や20%程度に治癒症例もみられることから、ステロイド不応性AIHAの2次治療として推奨されている。(2)リツキシマブステロイド不応性温式AIHAに対する新たな治療法として注目されている。短期の有効性について多くの報告はあるが、まだ保険適用ではない。標準的治療としては375mg/m2を1週間おきに4回投与する。80%の有効率が報告されている。安全性に関しても大きな問題はない。短期間のステロイド投与を併用した低用量のリツキシマブ(100mg、4週ごと投与)も試みられている。(3)免疫抑制薬ステロイドに次ぐ薬物療法の2次選択として、シクロホスファミドやアザチオプリンなどが用いられる。主な作用は抗体産生抑制で、有効率は35~40%で、ステロイド薬の減量効果が主である。免疫抑制、催奇形性、発がん性、不妊症など副作用に注意が必要であり、有効であったとしても数ヵ月以上の長期投与は避ける。■ 冷式AIHAの治療保温が最も基本的である。室温、着衣、寝具などに十分な注意を払い、身体部分の露出や冷却を避ける。輸血や輸液の際の温度管理も問題となる。CADに対する副腎皮質ステロイド薬の有効性は温式AIHAに比しはるかに劣るが、激しい溶血の時期には短期間用いて有効とされることが多い。貧血が高度であれば、赤血球輸血も止むを得ないが、補体(C3d)を結合した患者赤血球が溶血に抵抗性となっているのに対し、輸注する赤血球はむしろ溶血しやすい点に留意する。摘脾は通常適応とはならない。リンパ腫に伴うときは、原疾患の化学療法が有効である。マイコプラズマ肺炎に伴うCADでは適切な抗菌薬を投与するが、溶血そのものに対する効果とは別であり、経過が自己限定的なので、保存療法によって自然経過を待つのが原則である。特発性慢性CADの治療として、リツキシマブ単独療法やリツキシマブ+フルダラビン併用療法が報告されている。■ PCHの治療小児で急性発症するPCHは、寒冷曝露との関連が明らかではないが、保温の必要性は同様である。急性溶血期を十分な支持療法で切り抜ける。溶血の抑制に副腎皮質ステロイド薬が用いられ、有効性は高い。小児PCHでは、摘脾を積極的に考慮する状況は少ない。貧血の進行が急速なら赤血球輸血も必要となるが、DL抗体はP特異性を示すことが多く、供血者赤血球は大多数がP陽性なので、溶血の悪化を招く恐れもある。急性腎不全では血液透析も必要となる。4 今後の展望AIHAの治療では、リツキシマブが登場したことで、ステロイド不応例などでの治療選択の幅が広がった。今後、自己抗原反応性T細胞などを対象にした疾患特異的な治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 自己免疫性溶血性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成26年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班.(参照2015.4.17)2)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成28年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班. (参照2017)公開履歴初回2015年05月26日更新2017年04月04日

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Sepsis-3の予後予測に最適な指標について(解説:小林 英夫 氏)-638

 本論文は、オセアニア地域の18万例以上のデータベースを用いた後方視的コホート研究で、結論は、感染症疑いで集中治療室(ICU)に入院した症例の院内死亡予測には「連続臓器不全評価(SOFA)スコア2点以上」が、全身性炎症反応症候群(SIRS)診断基準や迅速SOFA(qSOFA)スコアよりも有用、となっている。この研究背景は、集中治療以外の医師にとっては、ややなじみにくいかもしれないので概説する。 敗血症(Sepsis)の定義が、2016年にSepsis-3として改訂された。Sepsisは病態・症候群であり決定的診断基準が確立していないため、研究の進歩とともにその基準が改定される。SIRSという過剰炎症に引き続き、代償性抗炎症反応症候群(CARS)という免疫抑制状態が生じるなど、敗血症ではより複雑多様な変化が生じていることから、その視点を臓器障害に向ける必要性が指摘された。Sepsis-3は、15年ぶりの改定で従来と大きく変化している。その新定義は「感染症に対する制御不十分な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」となった。1991年のSepsis-1の定義「感染によって生じたSIRS」とは大きく変化した。定義の変更は診断基準の変更を伴い、ICUにおいては「SOFAスコア計2点以上」がSepsis-3で導入された。SOFAスコアとは、呼吸・凝固・肝・血圧・中枢神経・腎の6項目を各々5段階評価し、合計点で評価する手法である。Sepsis-3は、菌血症やSIRSの有無が条件から消え、より重症度が高い患者集団すなわち旧基準の重症敗血症に限定されている。 さらに、Sepsis-3ではICUとICU以外の診断手順が異なる。ICU以外では検査やモニタリングをせずとも、ベッドサイドの観察だけで判定可能なqSOFAがスクリーニングツールに導入された。スコア2つ以上でSepsis疑いとなり、引き続きSOFAスコア評価を実施することとなる(qSOFAは、呼吸数22回/分以上、収縮期血圧100mmHg以下、意識障害(GCS<15)で規定される)。この診断特異度は低いものの、外来やベッドサイドでのSepsis-3疑い検出には簡便で、多方面での普及が望まれる。なお、本論文に直接関わらないが、Septic shockとは「死亡率を増加させるのに十分に重篤な循環、細胞、代謝の異常を有する敗血症のサブセット」で、適切な輸液負荷にもかかわらず平均血圧65mmHg以上を維持するための循環薬を必要とし、かつ血清乳酸値の2mmol/L以上、と定義されている。 以上の背景を鑑みれば、文頭に記述した本論文の結論は予測された内容であろう。注意点として、Sepsisには絶対的指標がないため、Sepsis-3診断基準が何をみているのかを常に念頭に置く必要がある。また、院内死亡率は全死亡率なので死亡原因は時期によっても異なり、敗血症以外の死亡集団も含んでしまうことになるといった側面も指摘できよう。参考までに、日本集中治療医学会・日本救急医学会のホームページには日本版敗血症診療ガイドライン2016が、JAMA誌2017年1月19日号にはManagement of Sepsis and Septic Shockが公表されている。参考Howell MD, et al. JAMA. 2017 Jan 19.[Epub ahead of print]日本版敗血症診療ガイドライン2016(日本集中治療医学会/日本救急医学会)PDF

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敗血症性ショックへのバソプレシンの腎不全改善効果は?/JAMA

 敗血症性ショック患者に対する昇圧薬の1次治療では、バソプレシンの腎不全の改善効果はノルエピネフリンを上回らないことが、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnthony C Gordon氏らが実施したVANISH試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2016年8月2日号に掲載された。敗血症性ショックには感染症治療に加え輸液および昇圧薬の投与が行われる。米国では昇圧薬の1次治療はノルエピネフリンが推奨されているが、バソプレシンは糸球体濾過量の維持や、クレアチニンクリアランスの改善の効果がより高いことが示唆されている。腎不全への効果を無作為化要因(2×2)試験で評価 VANISH試験は、敗血症性ショック患者において、バソプレシンとノルエピネフリンの早期投与による腎不全への有効性を比較する二重盲検無作為化要因(2×2)試験(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 対象は、年齢16歳以上、発症後6時間以内に初期蘇生輸液を行ったものの昇圧薬の投与を要する病態を呈する敗血症性ショックの患者であった。 被験者は、バソプレシン(最大0.06U/分まで漸増)+ヒドロコルチゾン、バソプレシン+プラセボ、ノルエピネフリン(最大12μg/分まで漸増)+ヒドロコルチゾン、ノルエピネフリン+プラセボを投与する4つの群に無作為に割り付けられた。目標平均動脈圧(MAP)は65~75mmHgが推奨された。 主要評価項目は、割り付け後28日間の腎不全(AKIN基準ステージ3)のない日とし、(1)腎不全が発現しない患者の割合、および(2)死亡、腎不全あるいはその双方が発現した患者の生存または腎不全のない日数(中央値)の評価を行った。より大規模な試験で検証を 2013年2月~2015年5月までに、英国の18の集中治療室(ICU)に409例が登録された。全体の年齢中央値は66歳、男性が58.2%を占め、ショックの診断から昇圧薬の投与までの期間中央値は3.5時間だった。 腎不全がみられない生存者の割合は、バソプレシン群が57.0%(94/165例)ノルエピネフリン群は59.2%(93/157例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:-2.3%、95%信頼区間[CI]:-13.0~8.5%)。 死亡、腎不全あるいはその双方が発現した患者における腎不全のない日数中央値は、バソプレシン群が9日(IQR:1~24)、ノルエピネフリン群は13日(IQR:1~25)であり、有意な差はみられなかった(群間差:-4日、95%CI:-11~5日)。 腎代替療法の導入率は、バソプレシン群が25.4%と、ノルエピネフリン群の35.3%に比べ有意に低かった(群間差:-9.9%、95%CI:-19.3~−0.6%)。 28日死亡率は、バソプレシン群が30.9%(63/204例)、ノルエピネフリン群は27.5(56/204例)であり、有意な差はなかった(群間差:3.4%、95%CI:-5.4~12.3%)。 また、重篤な有害事象の発現率は、バソプレシン群が10.7%(22/205例)、ノルエピネフリン群は8.3%(17/204例)であり、有意差はなかった(群間差:2.5%、95%CI:-3.3~8.2%)。 著者は、「これらの知見は、ノルエピネフリンの代替としてバソプレシンを使用することを支持しないが、95%CIの範囲はバソプレシンが臨床的に意味のあるベネフィットをもたらす可能性を含んでおり、より大規模な試験での検証を要すると考えられる」と指摘している。

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