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●今回のPoint1)重症度を的確に見積もろう!2)深部体温を測定しよう!3)Active coolingを実践しよう!【症例】70歳代・男性畑で倒れているところを発見され救急要請。救急隊到着時、以下のようなバイタルサインであり、熱中症が疑われ当院へ搬送された。●来院時のバイタルサイン意識30/JCS血圧126/54mmHg脈拍128回/分呼吸24回/分SpO294%(RA)体温40.8℃既往歴不明内服薬不明熱中症の現状毎日のようにニュースで、気温の上昇に伴い、熱中症に注意するように報じられています。実際、昨年と比較しても熱中症の件数は増加し、8月は毎週約7,000~9,000人もの方が全国で救急搬送されているのです1)。7月と比較するとピークは過ぎ、減少傾向にあるもののまだまだ注意が必要です。スポーツ中の学生など成人症例も多いですが、重症度が高く致死的となり得る症例の多くは、本症例のような高齢者の熱中症です。屋外だけでなく自宅内など屋内でも発症し、とくに意識障害や40℃を超える高体温の場合には早急な対応が必要となります。2023年の全国の熱中症搬送患者は9万人以上、死亡者数も1,000人を超えています。まだまだ暑い日は続きますので気を抜かず、熱中症の初期対応の基本的事項を整理しておきましょう。熱中症の重症度熱中症のガイドラインが2015年以来9年ぶりにアップデートされました2)。変更点はいくつか存在しますが、とくに以下の点は重要であり頭に入れておきましょう。IV度の導入2015年に発表された『熱中症診療ガイドライン2015』では、熱中症の重症度分類は3段階に分かれていました(Cf. 第4回 覚えておきたい熱中症の基本事項)。しかし、III度には、軽度の意識障害(JCS2、3など)から多臓器不全を来している症例まで含まれるような幅広い定義となっていたが故に、介入を迅速に行う必要がある重篤な症例において、適切な介入がなされていなかった可能性が示唆されました。そこで、新たにIV度が導入され、早急に治療介入が必要な症例が明確にされました。IV度は「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」と定義され、III度(2024)はIV度に該当しないIII度(2015)となりました(表)。表 熱中症の重症度分類(IV度、qIV度の導入)quick IV度(qIV度)IV度か否かを判断するためには、深部体温の測定が必要です。測定は非常に重要であり、可能であれば行うべきですが、測定できない場面もあるでしょう。その際には、表面体温40℃以上、または皮膚に明らかな熱感があるかを意識しましょう。そのような患者が重度の意識障害(GCS≦8もしくはJCS≧100)を伴っている場合には、速やかな対応が求められます(表)。敗血症におけるSOFA score、quick SOFAのようなイメージですね。Active coolingとは重症度の高い熱中症においては、“active cooling”の早期開始が必要です。Active coolingとは、何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却することを指しますが、冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、エアコンの活用、日陰の涼しい部屋で休憩するなどはpassive coolingに該当し、active coolingではありませんので、これらを実施して安心してはいけません。効果の高い方法として、“cold-water immersion”が挙げられ、これは冷水などを利用し深部体温を下げる方法です。冷たいプールにつかるようなイメージです。深部体温が40℃を超えるような状態が続くと、予後は悪くなりますので、39℃前後までは速やかに下げることが大切です3,4)。さいごに毎年のように熱中症に注意するよう報道されるものの、暑い環境を避けてばかりはお勧めできません。熱中症が今年だけの問題であればよいですが、間違いなく来年以降もますます熱中症は問題となるでしょう。暑熱順化(熱ストレスに繰り返し曝露されることで熱耐性を向上させる生理的適応をもたらす過程)を意識し、耐え得る身体作りもしていかないといけません。1)熱中症情報. 救急搬送状況. 令和6年の情報(2024年8月閲覧)2)日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン20243)Ito C, et al. Acute Med Surg. 2021;8:e635.4)Tishukaj F, et al. J Emerg Med. 2024 May 3.[Epub ahead of print]