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敗血症性ショック早期蘇生における輸液量と昇圧薬のタイミング(解説:寺田教彦氏)

 2001年にRiversらがearly goal-directed therapy(EGDT)による死亡率低下を報告して以降1)、早期輸液を含むプロトコール化された蘇生が広く普及した。一方、その後の観察研究では、正の水分出納と死亡との関連が指摘され2)、輸液過剰への懸念が高まった。2023年のCLOVERS試験では、1~3Lの輸液を受けた敗血症性低血圧患者において、輸液を制限して昇圧薬を優先する方針と、輸液を優先する方針との間で主要転帰に有意差を認めなかった3)。また、本研究が公表される前の2026年3月に発表されたSurviving Sepsis Campaign(SSC)2026は、敗血症による低灌流または敗血症性ショックに対して、最初の3時間に少なくとも30mL/kgの晶質液を投与することを条件付きで推奨しているが、エビデンスの確実性は低いとしている4)。SSC 2026自身も、初期輸液量は患者背景に応じて調整し、過少蘇生と過剰蘇生の双方を避けるために頻回に再評価するよう求めている。その中で、本試験は、追加輸液を優先して昇圧薬を比較的遅く開始する方針(輸液群)と、輸液量を抑えて昇圧薬を早期に開始する方針(昇圧薬群)を直接比較した。 本試験では、無作為化前に少なくとも1,000mL(中央値1,500mL)の輸液を受けた患者において、昇圧薬群は輸液群と比較して90日までの生存かつ院外日数を改善せず、その優越性は示されなかった。安全性転帰において、肺水腫の発生率は昇圧薬群で0.6%、輸液群で5.0%であった。非盲検下で評価され、報告バイアスの可能性があるため慎重な解釈を要するが、追加輸液を優先する方針が一部の患者で肺水腫を増やす可能性は示唆された。 以上を踏まえると、感染に伴う低血圧が救急外来で早期に認識され、1~2L程度の初期輸液後も低血圧が持続する患者では、固定量の輸液を完遂することよりも、治療反応を再評価して追加輸液と昇圧薬を選択することが妥当と考えられる。ただし、本試験を「敗血症性ショックでは輸液が不要」と解釈することはできない。昇圧薬群でも無作為化後に追加輸液を受けており、本試験が比較したのは輸液の有無ではなく、一定量の初期輸液後に追加輸液を優先するか、昇圧薬を早期に開始するかという方針の違いである。また、早期昇圧薬の非劣性や両方針の同等性を証明した試験でもない。 日本では、「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」が、循環血液量低下を伴う患者への初期輸液と、低血圧を伴う患者における輸液蘇生と並行した早期昇圧薬投与を提示しており5)、本試験結果はこの個別化の方向性と整合する。国内診療を大きく転換させるというより、30mL/kgを全患者が達成すべき一律の最低量として運用する根拠をさらに弱めたと位置付けることができるだろう。 今後の敗血症診療では、血管拡張が主体で低血圧が持続する場合には昇圧薬を使用し、低灌流が持続し動的指標から輸液反応性が認められる場合は、心不全などの患者背景や現在の臨床状態を踏まえて追加輸液を検討する。十分な体液量と動脈圧を確保しても、心機能障害に伴う低灌流が持続する場合にはドブタミンの追加やエピネフリンを検討する。など、循環表現型と治療反応に応じた個別化が、これまで以上に重視されるだろう。この方向性は、毛細血管再充満時間、輸液反応性、ベッドサイド心エコーなどに基づく個別化蘇生が階層的複合転帰を改善したANDROMEDA-SHOCK-2試験とも整合する6)。本試験は個別化蘇生そのものを検証した試験ではないが、固定された輸液量や治療順序の一方が優れていることを示さなかった点で、生理学的所見と治療反応に基づく意思決定の重要性を浮き彫りにした。■参考文献・参考サイトはこちら1)Rivers E, et al. N Engl J Med. 2001;345:1368-1377.2)Boyd JH, et al. Crit Care Med. 2011;39:259-265.3)National Heart, Lung, and Blood Institute Prevention and Early Treatment of Acute Lung Injury Clinical Trials Network. N Engl J Med. 2023;388:499-510.4)Prescott HC, et al. Crit Care Med. 2026;54:725-812.5)Shime N, et al. Acute Med Surg. 2025;12:e70037.6)ANDROMEDA-SHOCK-2 Investigators for the ANDROMEDA Research Network, Spanish Society of Anesthesiology, Reanimation and Pain Therapy (SEDAR), and Latin American Intensive Care Network (LIVEN). JAMA. 2025;334:1988-1999.

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腎臓病には必ず腎不全用静脈栄養製剤?【ケースで学ぶ輸液オーダー】第5回

腎臓病には必ず腎不全用静脈栄養製剤?四半世紀前の筆者の研修医時代は、「腎臓が悪い患者さんの静脈栄養といえば腎不全用静脈栄養製剤」と一問一答問題集のように機械的にオーダーが出されることが多かったです。今回は、現在の腎疾患患者における静脈栄養法を再確認していきましょう。次の3例の患者さんは、いずれも来院時に血清尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)が高値であり、数日間の輸液療法の後、静脈栄養が必要と判断しました。すべてにおいて腎不全用静脈栄養製剤が必要でしょうか?症例症例189歳女性。独居。室内で転倒して腰椎圧迫骨折を受傷したが動けず、約2日後に娘が発見して救急搬送された。来院時ショック、BUN 82mg/dL、Cr 6.0mg/dL(基礎Cr 0.8)、クレアチンキナーゼ1万8,000U/L、カリウム(K) 5.8mEq/L、無尿。外液急速輸液、持続的腎代替療法(CRRT)で循環動態は改善、CRRTを離脱したが経口摂取が進まず、静脈栄養を併用することとなった。症例282歳男性。糖尿病性腎症によるCKDステージG4で外来通院中(eGFR 18mL/分/1.73m2)。年齢や本人の希望から透析導入は行わない方針となっていた。急性胃腸炎による嘔吐・下痢で入院。静脈栄養を開始することとなった。来院時BUN 88mg/dL、Cr 3.6mg/dL、K 5.0mEq/L、アルブミン2.9g/dL。症例370歳男性。糖尿病性腎症で週3回維持血液透析を行っている。黒色便と高度貧血を主訴に搬送され、上部消化管出血と診断された。絶食管理となり静脈栄養を開始することとなった。来院時ヘモグロビン6.5g/dL、BUN 76mg/dL、Cr 9.1mg/dL、K 4.7mEq/L。翌日に維持透析予定。腎臓病で必要なタンパク質の量は?一言で「腎障害の患者さん」といっても、まずはどんな腎障害なのかを推測し、分類することが重要です。病態は主に(1)急性腎障害(AKI)、(2)保存期(透析導入前)慢性腎臓病(CKD)、(3)透析期CKDに大別されます。症例1はAKI、症例2は保存期CKD、症例3は透析期CKDに該当します。疾患によらず侵襲期やエネルギー摂取不足時には異化が起こり、タンパク質が代謝された後の老廃物はBUNなどの形で体外に排泄されます。しかし、腎機能低下時には老廃物を排泄しきれずに血清BUNなどが上昇します。保存期CKDでは、老廃物による代謝性の合併症を軽減するために、タンパク摂取を制限し、主なエネルギー源を糖質や脂質といった非タンパク質でまかなう栄養療法が推奨されます。一方、AKIの腎代替療法(RRT)中や透析期CKDは老廃物を透析で除去できますが、同時に透析液にタンパク質が漏出してしまうため、保存期CKDとは逆に積極的にタンパク質を摂取しなくてはなりません。4時間のRRT 1回で12gのアミノ酸が失われるとされています1)。表1 腎臓病の分類とタンパク必要量2,3)※文献2、3を元に作成。静脈栄養よりも経口・経腸栄養を優先する。※サルコペニアやフレイル合併のCKD患者は、下記基準よりもタンパク制限を緩和することがある。画像を拡大する腎不全用静脈栄養製剤はどんな輸液?静脈栄養用の輸液製剤の基本構成は、ブドウ糖液、アミノ酸液、電解質からなり、腎不全用静脈栄養製剤はアミノ酸、電解質の構成が一般用と異なり差別化されています。腎不全用は、BUNの上昇を抑える狙いから一般用よりも窒素含有量は少なめとし、必須アミノ酸を中心に最低限の非必須アミノ酸を配し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の比率を高めています。また、体液過剰負荷や電解質異常の対策として、ナトリウム、K、リンを制限し、糖を高濃度(少ない水分で高エネルギー)とした構成になっています。図1 一般用静脈栄養製剤と腎不全用栄養輸液の構成比較(例)画像を拡大する腎不全用アミノ酸製剤を深掘りするアミノ酸の代謝過程において産生されるアンモニアは、毒性が強く生体に有害であるため、速やかに尿素へと変換されたのち排泄されます。この一連の反応を尿素サイクルといいます(図2)。尿素サイクルでは、アルギニン・シトルリン・オルニチンが基質アミノ酸として機能しており、これらのいずれが欠乏しても反応速度が低下します。 図2 尿素サイクル画像を拡大する腎不全用アミノ酸製剤は、尿素サイクルに必要なアルギニンの含有量を意図的に制限(表2)することで尿素サイクルの反応速度を低下させ、尿素産生を抑制します。腎不全患者では尿素の腎排泄障害に起因する高BUN血症を呈することが多く、本製剤による尿素サイクルの抑制はBUN上昇の緩和を主な目的としています。ここで、アルギニン含有量をゼロにすることでさらなる効果が期待できると考える向きもあるかもしれません。しかしながら、先行して開発されたアルギニン非配合アミノ酸製剤(アミユー)では、尿素サイクルが機能せずアンモニア代謝が障害されることに起因する高アンモニア血症の併発が報告4)され、販売中止に至った経緯があります。この臨床的問題点を教訓として改良・開発されたものが、キドミンおよびネオアミユーです。尿素サイクルはアンモニアの解毒に不可欠な代謝経路であり、その抑制はアンモニア代謝の遅延を意味することから、高アンモニア血症を来すリスクがある点に留意が必要です。表2 アミノ酸製剤の組成比較画像を拡大する腎不全用静脈栄養製剤の出番はいつ?AKI(RRT施行患者を含む)や透析期CKDにタンパク充足は常識! と知っていても、ひと昔前は添付文書上、重篤な腎障害のある患者に対する一般用静脈栄養製剤の投与は、アミノ酸の代謝産物である尿素などが滞留し症状が悪化する恐れがあるため「禁忌」とされており、透析患者への使用は査定の懸念がありました。しかし、日本臨床栄養代謝学会(現「日本栄養治療学会」)が厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ働きかけて、2020年に「透析又は血液ろ過を受けている患者」は禁忌から除外され、透析患者にも一般用静脈栄養製剤の使用が認められるようになりました5)。というわけで、RRTにより腎機能が回復して老廃物除去が可能となったAKIの症例1や透析期CKDの症例3は、体液過剰や電解質異常がなければ、タンパク充足の目的でいずれも一般用静脈栄養製剤を使用し、ステージ4保存期CKDの症例2のみ、老廃物蓄積を抑える目的で腎不全用静脈栄養製剤を使用するのが適しています。BUNやCrの高さだけを見て一律に腎不全用静脈栄養製剤を選ぶことは勧められません。AKIなのか、保存期CKDなのか、透析期CKDなのかを整理し、その病態に応じたタンパク必要量を考えましょう。実地医家の本音<RRT不要のAKIはどうする?>現場ではRRTの有無に関わらず、AKIにはタンパクを制限せず十分に投与しているのが現状ではないでしょうか。栄養療法は経腸栄養を優先しますので、医薬品と違い禁忌の縛りがない食品の経腸栄養剤でタンパクを充足させている先生方が多いのではないかと思います。しかし、静脈栄養の場合は医薬品を使用しますので、添付文書からの逸脱はご法度です。一般用静脈栄養製剤の禁忌とされる「重篤な腎障害患者」から透析患者は外されましたが、「重篤な腎障害患者の中にRRTをしていないAKIが含まれるのか?」「保存期CKDだけが該当するのか?」という解釈の問題が残ります。個人的には、RRTの有無に関わらずAKIにはタンパクが必要!という立場でありますので、私は一般用静脈栄養製剤をAKI栄養輸液の第一選択にします。高カリウム血症がある場合は、標準的なアミノ酸組成(アミパレン)かつカリウムなしの当院薬局自作メニューがありますのでこちらを使用します。多少のBUN上昇があり得ますが、許容するBUN値の上限を施設で決めておくのがよいでしょう。参考1)Hendriks FK, et al. J Nutr. 2020;150:1160-1166.2)日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)編.JSPENコンセンサスブック2 肺疾患/肝疾患/腎疾患. 医学書院;2023.3)日本腎臓学会編. CKD診療ガイド2024. 東京医学社;2023.4)Nakasaki H, et al. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1993;17:86-90.5)今回の「使用上の注意」改訂の経緯と課題について / 日本栄養治療学会

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敗血症患者に対する30mL/kg以上の初期輸液、30日死亡率低下と関連

 大規模コホート研究で、市中発症敗血症患者に対する初期輸液療法として、来院6時間以内に30mL/kg以上の輸液を実施した場合、30日死亡率の低下と関連することが示された。とくに低灌流例だけでなく、中等度乳酸上昇例でも死亡率低下が認められ、従来は輸液過剰が懸念され十分な輸液が控えられてきた重度心・腎疾患併存例でも有害性を示す結果は得られず、むしろ輸液量の増加に伴い死亡率が低下する可能性が示唆された。Intermountain Medical Center(米国・ユタ州)のElizabeth S. Munroe氏らによる本研究はJAMA Network Open誌2026年6月12日号に掲載された。 敗血症誘発性低灌流では、「Surviving Sepsis Campaign(SSC)」ガイドラインで最初の3時間以内に30mL/kg以上の晶質液投与が推奨されている。一方、心不全や末期腎不全など体液過剰リスクの高い患者では十分な輸液がためらわれることが少なくない。また、乳酸値18~36mg/dLの中等度上昇例についても、積極的な輸液の有用性は十分に確立されていなかった。 本研究では、米国ミシガン州67施設の敗血症レジストリを用い、市中発症敗血症で入院した成人(退院日は2021年12月~2025年1月)4万3,321例を解析した。このうち入院3時間以内に低血圧または乳酸18mg/dL以上を認め、輸液適応がある2万5,481例を対象とした。 対象患者は、1)低灌流・重度併存疾患なし、2)低灌流・重度併存疾患あり、3)中等度乳酸上昇・重度併存疾患なし、4)中等度乳酸上昇・重度併存疾患ありの4群に分類された。主要評価項目は30日死亡率であり、入院6時間以内の総輸液量が30mL/kg以上か未満かで比較した。解析では患者背景を調整した逆確率重み付け法と多変量解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・低灌流・重度併存疾患なし群では、30mL/kg以上の輸液を受けた群の調整後30日死亡率は26.0%で、30mL/kg未満群の30.4%より4.4%ポイント低かった。中等度乳酸上昇・重度併存疾患なし群でも12.0%対13.9%と1.8%ポイントの有意な死亡率低下が認められた。・一方、低灌流・重度併存疾患あり群および中等度乳酸上昇・重度併存疾患あり群では、30mL/kg以上群で死亡率は低い傾向を示したものの、有意差には至らなかった。ただし、輸液量を連続変数として解析したスプラインモデルでは、低灌流・重度併存疾患あり群において輸液量の増加に伴って死亡率が低下する傾向が確認され、積極的輸液による明らかな不利益は示されなかった。中等度乳酸上昇・重度併存疾患あり群では明確な関連は認められなかった。・実体重、理想体重、補正体重を用いる3種類の体重換算方法でも結果は一貫しており、どの計算法でも30mL/kg以上の初期輸液は良好な転帰と関連していた。 著者らは、「敗血症初期輸液30mL/kgは従来考えられていたより幅広い患者集団で有益である可能性がある」と考察している。とくに中等度乳酸上昇例や重度心・腎疾患併存例では、輸液不足が予後悪化につながる可能性があり、輸液制限を一律に適応すべきではないと指摘する。一方、本研究は観察研究であり、残余交絡の可能性は否定できず、極端な心機能低下例などへの適応については今後の前向き試験による検証が必要としている。今回の結果は、敗血症初期蘇生における30mL/kg輸液というSSC推奨を支持するとともに、これまで慎重投与とされてきた患者群にも適応を再考する根拠となる可能性がある。

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制限輸液/早期昇圧薬は、敗血症性ショックの生存を改善するか/NEJM

 Surviving Sepsis Campaignなどの国際的なガイドラインでは、敗血症による低血圧が確認されてから3時間以内の体重1kg当たり少なくとも30mLの静脈内輸液を弱く推奨しているが、昇圧薬投与の開始時期については具体的な推奨を行っていないという。オーストラリア・モナシュ大学のSandra L. Peake氏らは「ARISE FLUIDS試験」において、敗血症性ショックで救急診療部を受診した成人患者では、輸液量を制限し早期に昇圧薬を投与するアプローチは、輸液量を多くし昇圧薬の投与を遅らせるアプローチと比較して、90日時点での非入院生存日数の増加にはつながらないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年6月11日号で報告された。3ヵ国の研究者主導型無作為化試験 ARISE FLUIDS試験は、3ヵ国51施設で実施した研究者主導型の非盲検無作為化試験(Australian National Health and Medical Council Medical Research Future Fundなどの助成を受けた)。2021年10月~2025年11月に、敗血症性ショックで救急診療部に搬送され、臨床的に感染症が疑われ、少なくとも1,000mLの輸液のボーラス投与を行っても収縮期血圧90mmHg未満または平均動脈圧65mmHg未満の成人患者を登録した。 被験者963例を、輸液量を制限し早期に昇圧薬投与を行う群(昇圧薬群481例:年齢中央値68歳、男性58.4%)、または多量の輸液を行い昇圧薬投与を遅らせて開始する群(輸液群482例:69歳、62.7%)に無作為に割り付けた。これらの介入は、救急診療部またはICUで最短6時間、最長24時間行った。 主要アウトカムは、無作為化から90日目の追跡調査までの非入院生存日数とし、初回入院期間中、またはその後の再入院期間中に、患者が急性期病院に入院していなかった日数と定義した。無作為化から90日以内に死亡した患者は、非入院生存日数を0日とした。無作為化前の輸液量は同程度 無作為化前の輸液量中央値は、昇圧薬群で1,500mL(四分位範囲[IQR]:1,000~1,750)、輸液群で1,500mL(IQR:1,000~1,850)であった。昇圧薬群の57例(11.9%)と輸液群の41例(8.5%)で、無作為化前に昇圧薬の投与を開始していた。主な感染部位は両群とも気道および尿路だった。輸液群の3例が主要アウトカムの追跡から脱落した。 無作為化から24時間以内に昇圧薬の投与を受けた患者の割合は、輸液群が67.6%であったのに対し、昇圧薬群は86.5%と、より高率であった(群間差:18.9%ポイント、95%信頼区間[CI]:13.3~24.5)。昇圧薬投与開始までの時間中央値は、輸液群の1.4時間に比べ昇圧薬群は0.4時間と短かった(群間差:-1.0時間、95%CI:-1.2~-0.9)。 また、無作為化から24時間後までの静脈内輸液量は、輸液群が2,248mL(IQR:1,500~3,332)であったのに対し、昇圧薬群は1,140mL(IQR:500~2,120)と少なかった(群間差:-1,108mL、95%CI:-1,395~-850)。非入院生存日数は両群とも76日 90日時点の非入院生存日数は、昇圧薬群76日(IQR:55~83)、輸液群76日(IQR:55~82)と、両群で同程度であった(群間差:0.0日、95%CI:-2.7~2.7、p=1.00)。90日以内に死亡した患者の非入院生存日数を-1日に設定しても、結果は同様だった。 また、90日時点の死亡率も両群で同程度だった(昇圧薬群16.4%vs.輸液群14.4%、相対リスク:1.14[95%CI:0.85~1.54]、ハザード比:1.17[95%CI:0.85~1.62])。 介入に関連した合併症はほとんど認められなかったが、例外として肺水腫がみられた(昇圧薬群3例[0.6%]vs.輸液群24例[5.0%]、相対リスク:0.12[95%CI:0.03~0.39]、p<0.001)。昇圧薬群の1例に、無症候性高血圧に関連した有害事象が発現した。 著者は、「輸液群の肺水腫は、部分的に、報告バイアスによって引き起こされた可能性がある」としている。

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第322回 遅々として進まぬタスクシフト、「臨時的」に「輸液」に限った訪問看護ステーションヘの薬剤配置をもっと緩和せよと日本維新の会

日本医師会の松本会長が3期目へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本医師会は6月27日の定例代議員会で、任期満了に伴う役員改選を行いました。会長選は現職の松本 吉郎氏(埼玉)以外に届け出はなく、3期目続投が決まりました。副会長、常任理事など、ほかの役職の届け出もすべて定数通りでこちらも無投票でした。いずれも無投票となるのは坪井 栄孝元会長が3期目を決めた2000年以来とのことです。松本会長になる前の何回かの日医会長選は結構泥臭い戦いが繰り広げられていましたが、診療報酬本体の改定率が30年ぶりに3%超えの3.09%となった”実績”を前に、さすがに現職に反旗を翻す勢力は現れなかったということなのでしょう。松本会長は山口県出身の71歳。浜松医大卒業後、埼玉県医師会理事・常任理事、大宮医師会長、日本医師会常任理事を経て、2022年から現職を務めています。ちなみに、1982年まで25年間も日医会長を務めた武見 太郎氏以降、日医会長を3期以上務めた人物は、羽田 春兔氏(4期)、坪井氏(4期)、横倉 義武氏(4期)、松本会長の4人しかいません。次の2年を無事乗り切れば、松本会長は歴史に残る“大会長”の仲間入りということになります。ということで、日本医師会の新体制も決まり、遅れていた財政制度審議会・分科会の通称「春の建議」(政府の経済財政運営と改革の基本方針[骨太の方針]を見据えた意見書)も6月26日にやっと出て、現時点で医療政策の方向性をリサーチするためのイベントは、残るは「骨太の方針」だけとなりました。通常は5月に出ているはずの「春の建議」もなかなかに読ませる内容になっていますが、今回は、6月16日、日本維新の会が「骨太の方針」に向けて行った提言に興味深い項目がありましたので、その内容を紹介したいと思います。日本維新の会が骨太に向けて「医療・介護、労働分野における社会実装の加速」を提言日本維新の会は6月16日、規制改革などを求める提言を城内 実規制改革担当相と遠藤 敬首相補佐官(連立合意政策推進担当)に提出しました。「日本再起への次なる一手~規制改革を中核とする経済成長戦略~」と題する提言書は、2025年10月の連立政権合意「日本再起への12本の矢」に続く次なる改革の柱として打ち出すもので、「副首都の実現に向けた官民連携・規制緩和の活用」「AI時代における社会実装の加速」などの各論項目とともに、「医療・介護、労働分野における社会実装の加速」も中心的な各論項目に加えられています1)。その中では、1)医療等データの利活用の抜本的拡大 、2)医療現場におけるタスクシフト・タスクシェアの推進 、3)医療AIの社会実装、4)医療法人の経営に関する制度の在り方の検討、5)かかりつけ医機能の強化に向けた総合診療科の制度的位置づけの見直し──の5点を提言しています。「訪問看護ステーションへの薬剤配置が認められていないため、患者ごとに予測される薬剤を事前に処方するという非効率な運用が常態化」私が注目したのは、2番目の「医療現場におけるタスクシフト・タスクシェアの推進」です。提言では、現状、医師から看護師へのタスクシフトについては、特定行為研修制度の下で一定の進展が見られるとしつつ、「看護師から介護職へのタスクシフトは依然として進んでいない。例えば、介護職による胃ろうからの栄養投与は認められている一方で、内服薬の投与は看護師でなければ行うことができず、合理的な区分とは言い難い」と指摘、そして、「訪問看護ステーションへの薬剤配置が認められていないため、発熱等の急変時に解熱剤等を即時に提供することができず、患者ごとに予測される薬剤を事前に処方するという非効率な運用が常態化している」とステーションにおける現状の問題点を挙げた上で、「政府は、医療現場におけるタスクシフト・タスクシェアの推進を、政府の規制改革の重要課題として位置づけ看護師から介護職への業務範囲の合理的な見直し、訪問看護ステーションへの薬剤配置等に取り組むべきである」としています。3年前、日本薬剤師会は「薬剤師の調剤権の侵害」として大反対訪問看護ステーションへの薬剤配置問題については、3年前、2023年の本連載「第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編)『看護師に処方権』『 NP国家資格化』の行方は?」でも取り上げました。この時は、政府の規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案について、日本薬剤師会の山本 信夫会長(当時)が「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」と語ったというニュースとともに、規制改革推進会議での議論の状況を紹介しました。当時、規制改革推進会議では「薬局の遠隔倉庫」案などが検討されていました。薬剤師はオンラインで訪問看護ステーションに配置された薬剤を遠隔管理(倉庫室温、ピッキングの適切性、在庫など)し、薬局がステーションに随時医薬品を授与。一方、ステーションの看護師は、必要に応じて医師の指示内容を薬局と共有、処方箋の写しに基づいてステーションの倉庫から薬剤をピッキング、患者に投薬するというスキームでした。しかし、こうした案に対し、当時の日本薬剤師会は「薬剤師の調剤権の侵害」として大反対していたのです。なお、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループの中には一定の条件下で訪問看護師が処方箋を発行して投薬できるようにする、という大胆な規制緩和策を提案する委員もいました。2025年12月の通知で「臨時的な対応」として訪問看護ステーションへの輸液の配置が認められるそれが3年前のことですが、訪問看護ステーションへの薬剤配置は依然十分な形では実現していません。この問題は、2022年の秋から内閣府の規制改革推進会議のワーキング・グループで検討されてきた問題で、2025年5月に出された「規制改革推進に関する答申」では、「在宅医療における円滑な薬物治療の提供」として取り上げられ、「地方公共団体や関係団体等に対する要請や、個別の患者の状態や状況に応じ、在宅患者の療養を担う医師、薬剤師、訪問看護師等の協議の下、在宅患者の急な状態変化への対応のために必要な医薬品として、新たな品目(例:輸液)を事前に訪問看護ステーションに配置することを可能とする」と、2025年度中に所要の措置を講ずるとしていました。そして、2025年12月25日付の通知「指定訪問看護事業者における医薬品の取り扱いについて」2)が発出され、まずは輸液を対象にして、あくまでも「臨時的な対応」として訪問看護ステーションへの薬剤配置が認められました。「医師から看護師へのタスクシフト」も不十分では?3年前には「訪問看護師に処方箋を発行できるようにせよ」という意見すらあったにもかかわらず、「臨時的な対応」で輸液のみ配置というところに、規制改革の難しさ、壁の厚さを感じます。日本維新の会の今回の提言は、「発熱等の急変時に解熱剤等を即時に提供することができず、患者ごとに予測される薬剤を事前に処方するという非効率な運用が常態化している」と、輸液にとどまらず、広くコモンディジーズに用いる解熱剤等も配置できるようにせよ、と言っているわけです。無薬局地域の存在や、夜間・休日に非対応の薬局が少なくないことから考えても、まったくの正論と言えるでしょう。ところで、日本維新の会は、「医師から看護師へのタスクシフトについては、特定行為研修制度の下で一定の進展が見られる」としていますが、本当にそうでしょうか?たとえば米国では、ナースプラクティショナー(NP)に一定の処方権を与えている州もあります。そうした状況と比べても、日本の看護師へのタスクシフトの不十分さは明らかです。その延長線で言えば、老人保健施設など高齢者施設の施設長は、最新医学に疎いことの多いリタイア前の老齢医師ではなく、高齢者医療の教育を受けた看護師が務めてもいいと思うのですがいかがでしょう。NP創設に一貫して反対してきた日本医師会は断固反対だとは思いますが。参考1)日本再起への次なる一手~規制改革を中核とする経済成長戦略~/日本維新の会2)指定訪問看護事業者における医薬品の取扱いについて/厚生労働省

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美容目的でのチルゼパチド使用に伴う正常血糖ケトアシドーシス

 糖尿病や肥満のない若年女性が、美容目的でチルゼパチドを使用した後、正常血糖ケトアシドーシスを来したという症例報告がなされた。監物 諒相氏、沖田 朋憲氏(大阪けいさつ病院)らが、JCEM Case Reports誌2026年4月8日号で報告した。監物氏、沖田氏らは、チルゼパチド使用後の食欲低下や重度の消化器症状に伴う急性のカロリー不足が、ケトアシドーシス発症に関与した可能性を指摘し、美容目的の適応外使用に注意を促している。2回目投与後に悪心・嘔吐・下痢が発現 症例は20代の日本人女性。糖尿病、飲酒歴、糖質制限食の実施はなかった。身長156cm、体重58.9kg、BMI 24.2kg/m2であった。美容目的の体重減少を目的に、美容クリニックを通じてチルゼパチドを使用し、継続的な医学的管理を受けないまま、チルゼパチド2.5mgを週1回、計2回自己投与した。 初回投与後から食欲低下と摂食量低下を認め、2回目投与後に強い悪心、嘔吐、下痢が発現した。症状は4日間持続し、近医でブドウ糖含有輸液を受けた後、大阪けいさつ病院へ搬送された。来院時の体重は53.8kg、BMI 22.1kg/m2であり、約10日間で約5kg減少していた。身体所見では蒼白、疲労感に加え、発熱(38.4℃)を認めた。pH正常でもアニオンギャップ開大 入院時検査では、pH 7.41、HCO3- 17.7mmol/L、アニオンギャップ25.9mmol/L、β-ヒドロキシ酪酸5.5mmol/L、アセト酢酸1.4mmol/L、血糖196mg/dL、HbA1c 5.5%であった。pHは正常範囲内であったが、HCO3-低下、アニオンギャップ開大、ケトン体著明高値といった所見から、高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスと判断され、嘔吐に伴う代謝性アルカローシスの合併も示唆された。 血糖値は196mg/dLと軽度高値を示したが、正常血糖ケトアシドーシスの血糖基準である250mg/dL以下であった。インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス抗原検査は陰性で、画像検査や血液・尿・便の細菌学的検査でも明確な感染は同定されなかった。以上から、チルゼパチド使用と時間的に関連した正常血糖ケトアシドーシスと判断された。輸液とインスリンで速やかに改善 治療として、生理食塩水による補液の後、ブドウ糖含有輸液、電解質補正、持続静注インスリンが行われた。インスリン投与は24時間継続され、入院翌日には代謝性アシドーシスが改善し、血清ケトン体も速やかに基準範囲内まで低下した。一方、悪心・嘔吐はしばらく持続した。輸液は5日間継続され、入院4日目に通常食を再開、入院6日目に薬剤なしで退院した。 退院2週間後の外来では、消化器症状の再燃はなく、食欲も回復していた。75g経口ブドウ糖負荷試験では、空腹時血糖88mg/dL、120分値101mg/dLであり、耐糖能は正常であった。このため、搬送時の軽度高血糖は、身体ストレスや搬送前のブドウ糖含有輸液の影響と考えられた。急性のカロリー不足が誘因か 著者らは、本症例の病態について、チルゼパチドによる食欲低下と重度の消化器症状により急性の異化状態が生じたことが関与している可能性を指摘した。加えて、発熱や生理的ストレス、脱水、急激な体重減少、さらにGIP受容体作動を介した脂質代謝への影響が、ケトーシスを増幅した可能性もあると考察している。 本症例報告について、筆頭著者および共同著者である監物氏、沖田氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【監物氏・沖田氏のコメント】 本症例は1例の症例報告であり、チルゼパチド使用との因果関係を直接証明するものではありません。一方で、チルゼパチド使用中に強い消化器症状や摂食低下が持続する場合には、正常血糖ケトアシドーシスを念頭にケトン体やアニオンギャップも確認する必要があることを示唆しています。 チルゼパチドは適正使用下では重要な治療薬ですが、美容・痩身目的での安易な使用は重篤な健康被害につながる可能性があります。本報告が、チルゼパチドの適正使用の推進と、重篤な有害事象の早期発見・早期対応に役立つことを期待しています。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その参【ケースで学ぶ輸液オーダー】第4回

はじめに「点滴ラインを何度も自己抜去してしまう認知症の患者さん」「その都度ルート再確保に奔走する看護師」「内心心苦しさを感じながら点滴を指示する医師」は、病棟「あるある」な光景でしょう。しかし、たとえ1日500mLの維持輸液だけだったとしても、必要な治療であればやめるわけにはいきません。そんなとき、全員をwin-winの関係にしてくれるのが、古くて新しい存在の「皮下輸液」です。症例特別養護老人ホームから誤嚥性肺炎で入院した90代女性。総合診療科に配属されたばかりの研修医A君が担当になりました。施設では普通食だったとのことですが、いざ服薬してみると明らかにむせています。言語聴覚士(ST)が介入し、嚥下訓練をしながら少しずつ嚥下調整食を試すことになりました。段階的にカロリーを上げていく間、どうしても経口以外からの水分補給が必要です。とはいえ、経鼻胃管の留置は自己抜去のリスクが高すぎます。そこでA君は、末梢静脈路から維持輸液500mLを1日2時間ほどかけて、まずは1週間行う計画を立てました。しかし、患者さんの末梢血管は細くて見えにくく脆弱です。看護師がなんとか確保したルートは、あえなく2日連続で自己抜去されてしまいました。「もう刺せる血管がありません」と看護師に詰められるA君。中心静脈カテーテルを留置するなら自己抜去対策に身体拘束が避けられない状況です。ほかに優しくて安全な方法はないのでしょうか?考えかたの整理19世紀中頃に登場した古典的治療法である皮下輸液は、経静脈栄養の発展・普及により廃れかかっていました。しかし近年では、高齢者の脱水治療や終末期ケアにおける「低侵襲で安全なルート」として見直されています。「血管が見つからなくて針が刺せない」「どうしても点滴を抜いてしまう」という場面において、皮下輸液は重篤な合併症がほとんどない、極めて安全な選択肢です。緩和ケア領域では、持続注入ポンプを用いた鎮痛薬の持続皮下注射も普及しています。『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版1)』『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版2)』を参考に、皮下輸液の方法、注意点、皮下投与可能な薬剤例(表1)をまとめてみました。皮下輸液の方法投与速度60~500mL/時間1日投与量1,500mLまで(2ヵ所の場合は3,000mLまで)管理1~4日ごとの針・チューブ交換と、刺入部の観察(浮腫、発赤、痛み、感染、液漏れがないか)注意点静脈と違って効果発現までに時間がかかる。浮腫がある場所は吸収されにくいため穿刺に向かない。皮膚障害が起こることがある。出血傾向がある患者さんには禁忌。表1 皮下投与可能な薬剤例1,2)※添付文書上、皮下投与が可能なもの。その他は文献や経験的使用に基づく。画像を拡大するベテラン看護師に聞きました<皮下輸液の実際>当院で高齢者の皮下輸液を日常的に行っている病棟看護師に、現場のリアルを聞いてみました。準備するもの普段の点滴に使う24Gの静脈留置針と点滴セット。特別な道具は不要。点滴の落とし方たとえば維持輸液(ソリタT3など)500mLなら、約4時間かけてゆっくり落とすように重力滴下でクレンメを調整する。おすすめの穿刺部位頻用するのは腹部で、腹壁の厚みが少ない場合は大腿部を選択する。自己抜去のリスク管理リスクが極めて高い患者さんは点滴終了ごとに抜針する。また、大腿部に穿刺し、衣服のズボンの裾からこっそりラインを外へ誘導すると、患者さんの視界に入らず抜かれにくくなる。 痛みを訴えたら?もし注入開始後に痛みの訴えがあった場合は、刺入部をカイロや蒸しタオルで温めると痛みが和らぐ。図2 当院で入院患者に行われる皮下輸液の実際画像を拡大する保険適用上の注意点今回参照した本邦の文献1,2)では、海外文献や成書での使用例や国内での臨床経験に基づいた豊富な実例を紹介しているとともに、皮下投与が添付文書上の適応外に該当する場合は、「患者・家族に対する十分な説明を行い、場合によっては説明文書や同意書を作成したうえで、院内の手続きを経て適応外申請を行うなど、より厳格な対応が求められていく可能性がある2)」との認識も示しています。海外では、セファゾリンやセフトリアキソンなど、本邦では皮下投与の適応外となっている抗菌薬の皮下投与の安全性を示す報告3,4)や、皮下投与実施ガイドライン5)も存在し、皮下投与の安全性や有益性のよりどころになりますが、本邦で実施する場合は、医学的な正しさと制度の順守の両輪を念頭におきましょう。本症例の対応A君は、当面の輸液ルートとして皮下輸液を選択しました。腹部の皮下に24G静脈留置針を刺入し、ソリタT3 500mLを1日1本4時間程度で点滴しました。患者さんは刺入部を気にすることなく穏やかに過ごされ、鎮静薬の投与や身体拘束は必要ありませんでした。「末梢が見えない」「自己抜去のリスクがある」患者さんに維持輸液を500mL行わざるを得ない場合、皮下輸液を選択肢に入れましょう。皮下輸液に適する製剤、適さない製剤皮下組織への輸液投与は、静脈内投与と比較して薬剤の希釈および全身への拡散が起こりにくく、投与部位において一時的に高濃度で滞留する可能性があります。そのため、浸透圧、pH、局所刺激性といった薬剤の物理化学的特性の影響を強く受ける点に留意が必要です。皮下輸液に使用する輸液製剤は、原則として等張(浸透圧比約1)であり、かつ生体に近いpHであることが求められます。皮膚のpHは、表面では弱酸性(pH4~6)、角質下では中性から弱塩基性(pH6~7)とされており、これらの範囲から逸脱する製剤は局所刺激や組織障害のリスクを高める可能性があります。この観点から、生理食塩液、5%ブドウ糖液、1・3号液、リンゲル液は皮下投与が可能とされています。一方で、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液は浸透圧比が3以上と高く、皮下投与には適しません。また、脂肪乳剤は浸透圧比が約1でありpHも6.5~8.5に調整されていますが、血管外漏出時に壊死や潰瘍形成を引き起こした症例が報告されています6)。このため、安全性の観点から皮下投与は推奨されません。1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編. 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版. 金原出版;2013.2)梶山 徹ほか編. 症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版. 診断と治療社;2023.3)Moreal C, et al. New Microbiol. 2024;47:227-242.4)Forestier E, et al. Infect Dis Now. 2026;56:105232.5)Broadhurst D, et al. J Infus Nurs. 2023;46:199-209.6)Lu YX, et al. World J Clin Cases. 2021;9:4599-4606.

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第61回 クルーズ船で広がったハンタウイルス。「アンデスウイルス」の正体と私たちが知っておきたいこと

2026年4月、アルゼンチンを出港したクルーズ船で発生したハンタウイルスの集団感染が、世界中の関心を集めています。WHOによれば、これまでに少なくとも8人が感染し、うち3人が亡くなっています。原因として同定されたのは、南米で知られる「アンデスウイルス」と呼ばれるウイルスでした。この聞き慣れないウイルスは、これまで知られているハンタウイルスの中で唯一、ヒトからヒトへの感染が確認されているという、少し特殊な存在でもあります。今回はその全体像を整理してみたいと思います。ネズミからヒトへ、そしてヒトからヒトへハンタウイルスは、Hantaviridae科Orthohantavirus属に属するRNAウイルスの総称で、世界に40種以上、そのうち22種ほどがヒトに感染することが知られています。共通しているのは、いずれも野生のげっ歯類を自然宿主としている点です。アンデスウイルスの宿主は、南米南部に生息する「コリラルゴ」と呼ばれる小型のネズミで、アルゼンチンとチリのアンデス山脈周辺に広く分布しているそうです。通常の感染ルートは、ネズミの尿・糞・唾液に含まれるウイルスがエアロゾル化し、それをヒトが吸い込むことです。換気の悪い物置や山小屋の掃除など、屋内での曝露がとりわけ危険とされています。典型的には、ネズミに咬まれたり直接触れたりした記憶がなく、知らないうちに吸入してしまっていたケースが大半のようです。ここで重要になるのが、アンデスウイルスだけが備える「ヒト-ヒト感染」の能力です。アルゼンチンで起きた大規模アウトブレイクでは34人が感染し、11人が亡くなりました。家族内、とくに性的パートナー間での感染リスクが、ほかの同居者の十数倍高いことも疫学研究から報告されています。最も感染伝播しやすいのは発症前後の初期段階で、血液・唾液・呼吸器分泌物・尿からウイルスRNAが検出されるため、症状が出る前から感染源になり得るのです。とはいえ伝播には「濃厚かつ長時間の接触」が必要とされており、新型コロナウイルスのように街中で容易に広がるものではないと報告されています。今回のクルーズ船の事例で問題になっているのも、まさに長期航海という限定された空間で乗員乗客が密に過ごしたという特殊な条件です。WHOは濃厚接触者に対して、1潜伏期分にあたる約45日間の健康監視や隔離を勧告しており、複数の国にまたがる追跡調査が現在も進められています1, 2, 3)。風邪のような症状から数時間で急変する「ハンタウイルス心肺症候群」潜伏期間は感染源への曝露から2〜3週間(中央値14〜18日、最長で7週間)と長く、初期の症状はそれほど特徴的ではありません。発熱・悪寒・激しい筋肉痛(とくに大腿や腰背部)、頭痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢といった、いわゆる「胃腸症状を伴うインフルエンザのような」経過をたどります。鼻水や咽頭痛など、上気道の症状をほとんど欠くというのが、いわゆる「風邪」との区別のヒントになります。この「前駆期」は2〜8日ほど続きます。問題はその後です。「ハンタウイルス心肺症候群」と呼ばれるこの病態の本質は、血管内皮の機能不全によるびまん性の毛細血管漏出にあります。ウイルスはβ3インテグリンなどを介して血管内皮細胞や血小板に侵入し、サイトカインの放出と血管透過性の亢進を引き起こします。その結果、肺胞内に大量の血漿成分が漏れ出して非心原性肺水腫を生じ、同時に心筋抑制から心原性ショックに陥ります。乾性咳嗽と呼吸困難の出現を皮切りに、数時間という単位で肺水腫、ショック、不整脈、凝固障害へと急速に進行し、亡くなる方の多くは心肺期に入ってから最初の24時間以内に命を落としてしまいます。検査では、血小板減少、白血球増多と幼若球の出現、免疫芽球の増加、血液濃縮、LDHの上昇といった所見が鋭敏な手がかりになります。確定診断は、ELISAによる血清IgM/IgG抗体検出と、PCRによるウイルスRNA検出で行います。致死率は、アンデスウイルスなどの重症型で30〜50%、軽症型でも10〜30%と非常に高いのが特徴です。生存できた場合でも、倦怠感や息切れが数ヵ月にわたって残ることがあり、急性期を乗り越えても回復には時間がかかると報告されています1, 4)。治療の鍵は「早期搬送」、そして私たちにできる予防策ハンタウイルスに対する特効薬は、残念ながらありません。リバビリンは腎症候性出血熱には有効ですが、心肺症候群に対する効果は複数の臨床試験で否定されています。ステロイドの有用性も示されていません。したがって治療の中心は、集中治療による全身管理になります。人工呼吸器、循環作動薬、そして体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた呼吸循環補助が、命を救う鍵を握ります。毛細血管漏出が進む病態のため、敗血症と異なり「輸液は控えめに、昇圧薬は早めに」というのが治療の原則です。実際、ECMOを要する重症例でも救命率は60%を超えると報告されており、「疑った段階で、ECMOが使える施設へ早く搬送する」ことが予後を左右する最重要事項のようです。予防はまず、ネズミとの接触を断つことに尽きますが、アンデスウイルス患者を診る医療従事者には、N95マスク、ゴーグル、ガウン、手袋による空気感染予防策が推奨され、濃厚接触者は1潜伏期分(約45日)の健康監視あるいは隔離が求められます。ワクチンは現時点で承認されておらず、曝露を避けることが唯一の現実解と言ってよいでしょう2, 4, 5)。パンデミックに至るリスクをどう見るかここで気になるのが、「ハンタウイルス、とくにアンデスウイルスがパンデミックを引き起こす可能性はあるのか」という点ではないでしょうか。結論からお伝えすると、現時点でその可能性は低いと考えられています。理由は大きく2つあります。1つ目は感染経路の特性です。ハンタウイルスの主たる感染経路は、あくまでネズミからのエアロゾルです。アンデスウイルスは唯一ヒト-ヒト感染を起こしますが、それも「濃厚かつ長時間の接触」が必要で、咳やくしゃみで広がる新型コロナやインフルエンザのような効率の良い飛沫感染ではありません。実際、基本再生産数(R0)は1前後と推定されており、適切な隔離下であれば速やかに収束しやすい性質を持ちます。2つ目は、「重症度の高さ」そのものが拡大の歯止めになっているという点です。30〜50%という致死率はこのウイルスの恐ろしさを示すものですが、感染者は急速に発症し、短時間で歩行すら困難な状態に陥ります。社会の中を動き回って他人に伝播させるという、パンデミックを成立させる動線がきわめて作りにくいのです。ただし、安心しきってよいわけでもありません。発症前から感染伝播する可能性があること、気候変動や森林伐採で宿主となるネズミの分布が変動していること、そして今回のように長期クルーズや国際移動によって、本来「南米南部の風土病」だったウイルスが思わぬ場所に運ばれ得ること。これらは公衆衛生上の警戒シグナルとして決して軽視できません。今後アンデスウイルスの新たな変異の獲得により、効率的な飛沫感染能を獲得すれば、状況は一変する可能性もないわけではありません。だからこそ、WHO・CDC・各国当局による監視と早期対応が欠かせないでしょう2, 3, 5)。クルーズ船という閉鎖空間で起きた今回のアウトブレイクは、本来「南米の風土病」と思われていたウイルスが、国境を越えて広がり得ることを示す出来事です。日本国内での流行リスクは依然として低いと考えられますが、流行地への渡航歴がある発熱患者さん、とくに筋肉痛と血小板減少を伴う症例では、本疾患を鑑別の片隅に置いておきたいところです。早く疑い、早く動くこと。それが、この致死率の高い感染症と向き合うために大切なアクションです。1)Vial PA, et al. Pathogenesis, epidemiology, and diagnosis of hantavirus infections. UpToDate. 2026 May 8.2)World Health Organization. Disease Outbreak News: Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country. 2026 May 4.3)Martinez VP, et al. "Super-Spreaders" and Person-to-Person Transmission of Andes Virus in Argentina. N Engl J Med. 2020;383:2230-2241.4)Harkins M, et al. Hantavirus cardiopulmonary syndrome. UpToDate. 2026 May 8.5)Shmerling RH. Hantavirus explained: What to know after the cruise ship outbreak. Harvard Health Publishing. 2026 May 6.

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最適な輸液ルート選択の考え方 その弐【ケースで学ぶ輸液オーダー】第3回

最適な輸液ルート選択の考え方 その弐中心静脈カテーテル(CVC)を選択する際、ルーメン数は「大は小を兼ねる」と考えがちですが、実はそうではありません。ルーメンが1つのみのほうが最適な場合もあります。今回は、あえてシングルルーメンを選ぶべき状況について確認しましょう。症例70代女性、胃がんによる幽門狭窄。1ヵ月前からの食欲不振と繰り返す嘔吐により全身倦怠感を来して受診、るいそうが顕著です。幸い遠隔転移はなく根治手術を目指せますが、高度の低栄養状態です。経口からの十分な栄養摂取は困難なことから、2週間の静脈栄養ののちに手術を行う方針となりました。研修医A君は指導医から栄養管理を任されました。さて、どのような静脈路が望ましいでしょうか?図1 幽門狭窄を来した胃がん画像を拡大する考えかたの整理高度な栄養障害を認める場合、ESPENのガイドラインでは術前7~14日間の栄養療法を推奨しています1)。第1選択は経腸栄養ですが、本例のような通過障害がある場合は静脈栄養の出番です。高カロリー輸液を行うには中心静脈路が必要ですが、静脈栄養以外の他の薬剤投与の予定がないのであれば、ルーメン数は1つで十分です。さらに、CDCガイドラインでは、カテーテル関連血流感染(CRBSI)防止の観点から、「必要最小限のルーメン数」の使用を強く推奨しています2)。ここでお勧めしたいのが末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)です。PICCのシングルルーメンは外径わずか1mm程度(3Fr)。これを上肢から挿入することで、血胸や気胸といった穿刺に伴う重篤な合併症のリスクを避けつつ、安全に中心静脈路を確保できます。PICCのピットフォールPICCは安全なデバイスですが、弱点もあります。それは従来のCVCに比して深部静脈血栓症(DVT)のリスクが高いという点です3)。このリスクを回避する鍵は「血管選び」にあります。カテーテル外径は、血管内径の45%を超えると血流の停滞により血栓リスクが高まるという報告があり4)、「血管径の33%(1/3)以内」に収めるべしとされています5)。つまり、穿刺前のエコー観察で上腕にカテーテルの3倍以上の太さがある血管を見付けることができれば、その時点で「頂き」と言えるでしょう。また、解剖学的な走行も重要です。尺側皮静脈(Basilic vein)は直線的に鎖骨下静脈へ連続しますが、橈側皮静脈は急峻な角度で合流しています。このため、穿刺の第1選択は尺側皮静脈をお勧めします。もう1つのPICCの弱点として、カテーテルが細くて長いため急速輸液には使えないことも知っておきましょう。図2 PICCの至適挿入部位画像を拡大する本症例の対応A君は、栄養投与のみを目的としてシングルルーメンのPICC(外径1mm)を選択しました。右上腕をエコーで観察したところ、カテーテル径の3倍を優に超える直径5mmの尺側皮静脈を確認できました。エコー下穿刺でスムーズに挿入し、合併症なく術前栄養療法を行い、手術の準備を整えることができました。中心静脈輸液の目的が1つであれば、穿刺が安全なシングルルーメンのPICCを選びましょう。シングルルーメンカテーテルから輸液する場合の注意点シングルルーメンカテーテルから注射薬を投与する場合には、投与ルートがメインの輸液ルートとその側管に限られてしまうため、投与方法に工夫が必要になります。配合変化が混合直後に発生する場合は、各注射薬を物理的に接触させないためにメインの輸液をいったん止める必要がありますが、メインの輸液を中断するリスクについても検討して投与ルートの設計を行うことが大切です。シングルルーメンカテーテルから中心静脈栄養施行中の患者さんに、セフトリアキソンの投与が開始されたケースで投与ルートの設計をしてみましょう。国外において、新生児にセフトリアキソンとカルシウム含有注射薬を同一経路から同時に投与した場合に肺、腎臓などに生じたセフトリアキソンを成分とする結晶により、死亡に至った症例が報告されています6)。高カロリー輸液はカルシウムを含有しており、セフトリアキソンとの同一経路からの同時投与は推奨されません。そのため、通常は(1)高カロリー輸液の投与をいったん中断する、(2)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(3)側管からセフトリアキソンを投与する、(4)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(5)カロリー輸液の投与を再開する、という対策をとることで高カロリー輸液とセフトリアキソンの物理的接触を回避できると考えるでしょう。では、セフトリアキソン投与中の30~60分間にわたって高カロリー輸液を中断することは問題ないのでしょうか? 高カロリー輸液(糖濃度12%)中止後の血糖変動をみた報告7)では、低血糖症状は呈さないものの、いずれの症例においても24~80mg/dL低下していたことが確認され、中止20分で44mg/dLまで低下している例もありました。高カロリー輸液の急な中断は、30分程度といえども低血糖を引き起こすリスクがあることから、何かしらの対策が必要と考えられます。具体的には、(1)セフトリアキソンのみ末梢静脈から投与することは可能か、(2)低血糖への対策(高カロリー輸液を中断する1時間前から投与速度を半減する8))をとることは可能か、(3)同じ第3セフェム系薬剤で同等のスペクトラムをもつセフォタキシムへの変更は可能か、からどの対策をとるか医師・看護師・薬剤師などのチームで議論することが望ましいでしょう。注射薬を効果的かつ安全に投与するためには、多職種チームでルート管理に対応していく必要があります。1)Weimann A, et al. Clin Nutr. 2021;40:4745-4761.2)O'Grady NP, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e162-193.3)Chopra V, et al. Lancet. 2013;382:311-325.4)Sharp R, et al. Int J Nurs Stud. 2015;52:677-685.5)Nifong TP, et al. Chest. 2011;140:48-53.6)医薬品安全性情報 Vol.7 No.10(2009/05/14)7)日本消化器外科学会編. 日消外会誌.1982;15:491-500.8)井上善文著. 静脈経腸栄養ナビゲータ エビデンスに基づいた栄養管理. 照林社;2021.

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造血細胞移植におけるEmergency/日本造血・免疫細胞療法学会

 造血細胞移植は、急性白血病や悪性リンパ腫などに対して根治を目指しうる治療法である。一方で、移植前処置や強力な免疫抑制療法、長期にわたる好中球減少状態などを背景に、早急な対応を講じなければ不可逆的な臓器障害を来し、致命的となりうる重篤な病態(Emergency)が急速に進行することもある。そのため移植医療の現場では、数日単位で生命予後が左右されるEmergencyに備える姿勢が不可欠であり、事態への即応力が強く求められることになる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「造血細胞移植におけるEmergency」をテーマとした教育講演が行われた。造血細胞移植特有の緊急病態に焦点を当て、実臨床で遭遇した症例と文献的エビデンスを基に、見逃してはならない重篤合併症と初期対応の要点について、田中 喬氏(大阪国際メディカル&サイエンスセンター 大阪けいさつ病院 血液内科)が講演した。シクロホスファミド(Cy)心筋症―死亡リスクの高い劇症型の心合併症 近年、移植後シクロホスファミド(PTCy)は、ヒト白血球抗原(HLA)半合致血縁者間移植にとどまらず、HLA一致血縁者間移植や非血縁者間移植にも応用が広がり、移植片対宿主病(GVHD)予防の新たな標準治療となりつつあるPTCyは優れたGVHD予防効果をもたらす一方で、シクロホスファミド(Cy)心筋症という重篤な合併症のリスクも伴う。大量Cy投与後に発症するCy心筋症は、基本的には可逆的であるが、進行がきわめて速く、重症例では体外式膜型人工肺(ECMO)管理を要し、命に関わることもある。その希少性ゆえに、初めて遭遇した際には診断が遅れ、気付いたときにはすでに重症化しているケースが少なくない。発症率は近年の報告では1~5%前後と頻度こそ高くはないものの、ひとたび発症すれば急速に循環破綻へ至る死亡率の高い致死的合併症である。心不全と診断されてから死亡までの中央値が約3日とされる報告もあり、遭遇すれば重篤となる典型的な移植Emergencyである。 Cy心筋症の病態は完全には解明されていないが、代謝産物による血管内皮障害が起点と考えられている。血管内皮が障害されると血管透過性亢進により心筋の浮腫・壁肥厚が生じ、最終的に心筋障害を来す。ここで重要なことは、Cy心筋症発症初期の主病態が収縮不全ではなく拡張障害であるという点である。心筋の伸展性が浮腫によって低下し、拡張できなくなることで心拍出量が維持できなくなる。 アントラサイクリン心筋症が累積投与量依存であるのに対し、Cy心筋症は1回投与量と投与スケジュールに依存する用量依存性毒性である。安全な投与量の閾値は明確ではなく、既往のアントラサイクリン投与量や放射線治療歴がリスク因子として挙げられるものの、確立した予測因子は存在しない。 発症時期はCyの初回投与から10日以内が多く、症状出現までの中央値は2日(1~6日)、心不全診断までの中央値は4日(3~8日)とする報告がある。心電図ではvoltageの低下やST上昇、T波の陰転化を認めることが多い。胸部X線で心拡大を呈するが、これを容量過多と誤認してはならない。ただちに心エコーを施行し、著明な心筋壁肥厚と心嚢水貯留の有無を確認することが重要である。 特徴的なのは、初期には左室駆出率(EF)が保たれている症例が少なくない点である。心不全診断時にEFが50%以上に保たれていても、心筋壁が急速に肥厚し、拡張障害が進行している可能性がある。EFのみに依存した評価は危険である。 バイオマーカーに関して、トロポニンは必ずしも早期に上昇しない。一方、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やNT-proBNPは比較的早期から上昇する可能性が報告されている。大量Cy投与後の症例では、投与後数日間のBNPモニタリングが早期発見に寄与する可能性がある。 Cy心筋症に対する確立した治療法はなく、一般的な心不全治療を行いながら心機能の回復を待つ。カテコラミン反応性は乏しいことが多く、循環動態が急速に悪化する場合には、早期からECMOや補助循環装置の導入を検討する必要がある。また、診断した時点で循環器内科や集中治療部門へ速やかにコンサルトする体制整備が不可欠となる。なお、ECMOが自施設で実施できない場合は、対応可能な施設への転院を躊躇してはならない。重症類洞閉塞症候群(SOS)―増悪因子となる腹部コンパートメント症候群(ACS) 重症類洞閉塞症候群(SOS)は、移植後早期に発症する重篤な肝合併症である。体重増加、腹水貯留、右季肋部痛、血小板減少などを呈し、重症例では多臓器不全へ進展する。 重症SOSの増悪因子として、腹部コンパートメント症候群(ACS)が注目される。腹腔内圧の上昇により静脈還流が障害され、腎機能低下や呼吸不全を来す。腹腔内圧は膀胱内圧で代用可能であり、簡便に測定できる。一般に腹腔内圧が20mmHgを超え、かつ臓器障害を伴う場合にACSと定義されるが、それ未満でも臓器障害を呈することがある。 病態の中心は腹腔内圧上昇による静脈うっ血であり、とくに腎静脈圧迫による腎不全が重要である。腹水ドレナージにより腹腔内圧を低下させることで、尿量や酸素化、門脈血流が改善する症例がある。腹部膨隆が目立つ重症SOSでは、膀胱内圧測定を積極的に行い、減圧治療を検討すべきである。重症消化管GVHD―評価すべき粘膜障害の程度と範囲 GVHDの中でも消化管病変は高頻度に認められるが、重症下部消化管GVHDは依然として予後不良である。従来は下痢量で重症度が評価されてきたが、下痢は炎症の結果にすぎない。本質的には粘膜障害の程度と範囲を評価すべきである。 多くの症例において病変は回盲部から始まり、口側および肛門側へ拡大する。重症例では炎症が小腸全体に及び、粘膜脱落を呈する。カプセル内視鏡による小腸粘膜の直接評価から、全周性の粘膜脱落(グレード4)や炎症が空腸まで及ぶ病変はきわめて予後不良であることが示されている。100日以内の非再発死亡率が約6割に達するとの報告もある。このような症例では、ステロイドを中心とした抗炎症療法のみでは不十分な可能性が高い。間葉系幹細胞(MSC)は免疫調整作用に加え、粘膜修復促進作用が期待されている。さらに、腸管粘膜維持に関与するGLP-2アナログなど、組織再生を意識した治療戦略も検討されている。炎症抑制と組織修復を両輪としたアプローチが今後の鍵となる。難治性感染症―想定外の病原体を疑う 造血細胞移植患者では、通常はまれな病原体による感染症が致命的経過をたどることがある。 Stenotrophomonas maltophiliaはグラム陰性桿菌であり、カルバペネムやグリコペプチドではカバーできない。移植患者では一定の頻度で菌血症を来し、肺出血を合併すると救命はきわめて困難である。持続する発熱性好中球減少症では、レボフロキサシンなど有効な抗菌薬による治療を検討する必要がある。 移植後のムーコル症も、致死率の高い真菌感染症である。βDグルカンは陰性のことが多く、確定診断には生検による組織診断が必須である。重症GVHDや長期ステロイド使用例で、原因不明の疼痛を伴う皮疹や急速進行性肺陰影を認めた場合はムーコル症を疑い、生検を積極的に行い、検査結果を待たずに有効な抗真菌薬による治療を開始すべきである。敗血症対応―基本を徹底する 敗血症では、乳酸値測定、血液培養採取、広域抗菌薬投与、必要に応じた急速輸液負荷や昇圧薬投与が基本となる。近年ガイドラインは若干修正されているが、移植患者では迅速な広域抗菌薬投与の重要性は変わらない。初期対応の遅れは予後に直結する。結語―「Emergencyを知って行動に移すこと」が重要 造血細胞移植におけるEmergencyは頻度こそ高くないものの、ひとたび発症すれば急速に悪化し、生命予後を左右する。Cy心筋症、重症SOS、重症消化管GVHD、難治性感染症、敗血症など、いずれも早期診断と迅速な初期対応が救命の鍵となる。「まれでも致命的となりうる病態を疑う」という姿勢を常に持っておく必要がある。とくにCy心筋症は診断後わずか数日で致命的経過をたどりうることを念頭に、心拡大を容量過多と安易に判断せず、速やかに心エコー評価と専門科連携を行うことが重要であり、BNPなどの指標も早期把握の一助となる。 重症SOSでは、腹腔内圧上昇に伴うACSが臓器不全を増悪させることがあり、膀胱内圧測定や適切な減圧介入を行う必要がある。厳密な定義上はACSに該当しない数値であっても、臓器障害を伴う場合には腹腔ドレナージを行うことで劇的に改善する可能性がある。 重症消化管GVHDは、下痢量ではなく、粘膜障害の程度と範囲を見ることが重要となる。カプセル内視鏡を用いた小腸評価では、全周性の粘膜脱落例や炎症が空腸まで及ぶ症例がきわめて予後不良であることから、抗炎症治療のみならず粘膜修復という視点で治療介入を行いたい。 感染症領域では、Stenotrophomonas maltophilia菌血症やムーコル症といった、頻度は高くないが致死率の高い病態があり、常に疑う姿勢が重要となる。敗血症対応は基本を徹底し、疑った場合は、乳酸値測定、血液培養採取、広域抗菌薬投与、急速輸液、昇圧薬投与を1時間以内に実施するいわゆる1時間バンドルの実施が求められ、常に迅速な対応を心掛けたい。 田中氏は講演を通じて、「移植医には腫瘍制御にとどまらず、全身状態を総合的に評価する集中治療的視点が必要である」と強調していた。さらに、「Emergencyについてよく知り、それを即座に想起し行動に移せる能力こそが、患者さんの命を守る最大の武器である」と一貫して述べていた。

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第309回 ホルムズ海峡封鎖、不足が懸念される医療資材とは

INDEXホルムズ海峡封鎖が医療問題にも発展か日本のナフサ対策と現状ホルムズ海峡封鎖が医療問題にも発展かイランと米国・イスラエルによる戦争は、現時点では2週間の停戦が継続中で、一部では停戦期間の延長とともにイランと米国の停戦協議が続けられると報じられている。一方、イランにより事実上封鎖されていたペルシャ湾入り口のホルムズ海峡では、この停戦期間中に米海軍が進出し、イランへの逆封鎖に転じた。情勢は今も不透明で、気まぐれな米国・トランプ大統領の発言にも左右される状況である。先日、本連載(第303回)では原油、液化天然ガス(LNG)の供給不安化をもとに今後の電気料金上昇の影響を試算したが、昨今では石油製品の一種である「ナフサ」の供給不安が各メディアで報じられている。ナフサは、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンといった石油化学基礎製品の原料であり、これからもわかる通り、ナフサの供給不安は国内の幅広い消費財の供給に影響を及ぼす。石油化学工業協会(JPCA)によると、2024年のナフサ輸入量は約2,056万kLで、うち中東からの輸入割合は73.6%。原油と違って国家備蓄はなく、民間在庫は国内消費の20日分程度といわれている。国内の石油化学工業各社は現在、米国や中南米などへ輸入先の転換を図っているとされる一方、関連各社からは自社製品の値上げや出荷制限の発表が相次いでいる。この状況は医療関連製品も無縁ではないのは多くの人が承知していることだろう。ナフサを原料とする医療資材は、ざっと挙げるだけでも、透析装置部品(透析回路、廃液容器、輸液バッグなど)、注射器、輸液バッグ、カテーテル、輸液ライン、人工血管・人工心肺回路、手術用手袋・ガウン・マスク、検査キット・診断用ディスポ製品、消毒薬原料(アルコール・フェノール系)、医薬品原料(合成薬の中間体)、医薬品添加物(ワセリンなど)、医薬品包装(PTPシートなど)と多岐にわたるからだ。実際、透析を行う医療機関の不安の声などはすでにメディア各社によって報じられているほか、科学・産業機器や病院・介護用品の商社であるアズワンは医療用ニトリル手袋や注射針回収ボックスなどの出荷制限を始めた。今のところこの件に関して、いわゆるパニックバイと呼ばれるような供給不安に基づく買い占めは起きていない模様だ。これは一般大衆と違い、医療者はある程度の情報リテラシーがあることや、ナフサの供給不安定化の影響があまりにも広範囲過ぎてどうしてよいかわからないという2つの要素があるのだろうと個人的には感じている。日本のナフサ対策と現状もちろん国も手をこまねいているわけではなく、厚生労働省と経済産業省は「中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部」(本部長:上野 賢一郎厚生労働相・赤沢 亮正経済産業相)を設置し、3月31日に初会合が開かれ、これまで4月16日までに3回の会合が行われた。同対策本部ではメーカーや卸業者向けと医療機関向けの相談窓口を開設し、医療機関126施設を対象とした定点観測の実施、広域災害救急医療情報システム(EMIS)を用いたオンラインによる随時報告システムの運用も始めている。16日現在、両窓口に寄せられた相談は2,956件で、供給に影響が及んでいると判断された資材は34件、うち10件は当面の供給は解決済みとしている。こうした中で注目すべきは、高市 早苗首相のある行動だ。高市氏は4月5日、X(旧Twitter)であるポスト(投稿)を行った。端的に要約すれば、今年6月までに日本のナフサ供給が途絶する可能性を指摘した報道番組を受け、現在の国内のナフサ在庫量や今後の調達見通しなどに関して具体的な数字をあげて、「報道番組の指摘は現実とは異なる」旨を伝えたものだ。実は現代のSNS社会を念頭にパニックバイを防ぐために専門家などから指摘されている有効な手段が「供給量の可視化」と「初動の迅速な情報発信」の2つであり、高市首相のポストはこれをおおむね兼ね備えている。とくに首相自身のXは約285万人のフォロワーがおり、厚生労働省、経済産業省のそれぞれ公式Xのフォロワー数(前者が約100万人、後者が約34万人)とは比較にならない拡散力を持つ。私自身は職責の性格上(?)、あまり政治家の行動を褒めることはないのだが、これについては明らかなファインプレーだと思っている。ただし、国としては、これを首相個人の功績で終わらせるのではなく、公的に受け継いで信頼性の高い情報発信をできるかが、今回の供給不安を終息させるカギを握ると考えている。そのうえで高市氏のポストの内容で個人的にちょっと惜しいと感じたのは、在庫の開示や現実の調達能力に関して「◯ヵ月」「kl/月」が入り混じっていたところである。少なくとも石油化学製品のサプライチェーンに関しては、医療者も素人であり、とくに前者の「在庫◯ヵ月」はイメージが湧きにくい。これを平時の国内の調達量と、現在の在庫量・調達量をすべてkl単位で定期的に比較公表すれば、おそらく国民の多くがより信頼性の高い情報と認識するだろうし、そこで平時とあまり変わらない在庫量・調達量が示されれば、安心感も増すだろう。もちろんこの方式を取れば、実際に調達量が細ってきたときは不安に駆られる人も出てくる。しかし、この場合は細った調達量に対して、どのような対策を打っているかをリアルタイムで開示していけばよい。これで医療者も含めた国民の不安のかなりの部分は解消できるはずである。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その壱【ケースで学ぶ輸液オーダー】第2回

最適な輸液ルート選択の考え方 その壱これから集中治療を行う患者さんに対して、「どこから、何のために、どんなルートを確保するのが安全か」ということをあまり考えずに、先輩医師のやり方を見てなんとなく慣習で選んでいたということは少なくないかもしれません。今一度、輸液ルート選択の思考回路を一緒に整理してみましょう。症例肺炎によるI型呼吸不全、敗血症性ショックでICUに入室した患者さんに対応するよう、指導医とともに緊急呼び出しされた初期研修医A君。酸素10L/分(マスク)、両側肘正中皮静脈から18Gを1本ずつ確保、両側とも細胞外液補充液を急速投与中、それでも血圧80/40mmHg、脈拍120/分、呼吸回数30回/分、SpO2 88%、ショックと低酸素血症が持続しています。迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation)を行い、人工呼吸管理となりました。指導医は「あとは頼んだよ」と言って去っていきました。挿管後、患者さんは強い体動を認め、上肢をばたつかせています。ショックの治療と並行して持続的な鎮静・鎮痛が必要です。併存症に糖尿病があり血糖800mg/dL、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)も合併しています。さて、A君は次に何を行うべきでしょうか?考えかたの整理集中治療では、複数の薬剤・輸液を同時並行で安全に投与する必要があります。想定される投与内容は、ショックに対する細胞外液補充液・昇圧薬、人工呼吸中の鎮静薬・鎮痛薬、抗菌薬、維持輸液(将来的に栄養輸液に移行する可能性あり)、インスリンなどです。ここで大切なことが3つあります。1. 流量変動の影響を受けてはいけない薬剤がある例:昇圧薬、鎮静薬・鎮痛薬、インスリン持続投与などこれらは流量が変わると、血圧や鎮静レベル、血糖値が一気に変動するため、急速に注入するラインと同じラインにすべきではありません。2. 配合変化がありうる例:オメプラゾール、セフトリアキソン、アミオダロンなど他剤との混合で沈殿・失活が起こる薬剤があるため、不明な場合は必ず薬剤師に相談しましょう。ちなみに輸血と同一ラインで流せるのは生理食塩液のみです。3. 末梢で理論上可能でも現実的ではないことがある理論上、すべて末梢静脈から投与可能な薬剤でも、必要な薬剤が多すぎて、メイン点滴ルートの側管などを駆使しても現実的にすべて末梢から行えない場合もあります。その場合は、ルートの本数かせぎに複数のルーメンを持つトリプルやクワッドルーメンの中心静脈カテーテル挿入が必要です。中心静脈カテーテル挿入の主な適応は、(1)末梢静脈の確保困難、(2)薬剤の多剤併用、(3)刺激性、腐食性、高浸透圧性の薬剤投与(抗がん剤、昇圧薬、50%ブドウ糖、高カロリー輸液など)、(4)血行動態のモニタリング(スワンガンツカテーテル挿入、中心静脈圧測定などの圧モニター)です。本症例は、(2)多剤併用、(3)昇圧薬投与が該当します。本症例の対応本症例には以下の輸液、薬剤の投与が必要です。ショック:細胞外液補充液、ノルアドレナリン人工呼吸中の鎮静、鎮痛:プロポフォール、フェンタニル敗血症:抗菌薬維持輸液(将来的に中心静脈栄養に移行する可能性あり)インスリン(持続投与)本患者は強い体動を認めているため、現在の両側肘静脈ラインは今にも抜けそうで不安定であり、流量管理が困難かつ薬剤が組織侵襲性のある薬剤を投与すると血管外へ漏出する恐れがあります。以上から、組織侵襲性のある薬剤や一定の流量で投与すべき薬剤を複数かつ安全に投与する目的で、マルチルーメン中心静脈カテーテル挿入が必須です。中心静脈カテーテルの挿入部位はさまざまでそれぞれ長所・短所がありますが、本症例はDICを合併していることから止血の確実性が重要であり、動脈誤穿刺時の圧迫止血の容易さを考えると、内頸静脈または大腿静脈が有利です。ただし、清潔性・感染管理・将来の離床を考えると、右内頸静脈が第1選択となることも多いでしょう。もちろん、超緊急時は理想に固執せずに最も得意な部位から確実に挿入することも許容されます。図1 中心静脈カテーテル各挿入部位の利点、欠点1)画像を拡大する本症例はベテランICUナースによって図2で示す投与経路が組み立てられました。医師が投与経路の組み立てを自ら行うことはまれですが、たとえば昇圧薬、鎮静薬や鎮痛薬、時間をかけて静注する必要のある薬剤にグループ分けするなど、看護師が多くの薬剤を限られたルートからいかに工夫して投与しているか、そのオキテに着目するのは勉強になります。図2 本症例における輸液・薬剤投与経路の実際2)画像を拡大する目的に見合う最適な輸液ルートやカテーテルを選択しましょう。混ぜても大丈夫?注射薬は単独での使用を想定し開発されていますが、臨床現場では輸液バッグやルート内で配合されて投与される場合が多く、配合変化の危険が存在します。配合変化とは、2種類以上の注射薬を混合した際に生じる変化であり、物理的配合変化(例:混濁・沈殿)と化学的配合変化(例:有効成分の力価低下)に分けられます。配合変化による影響としては、力価の低下やルート閉塞、まれではありますが国外において死亡例が報告されています3)。ICUでは複数の静注薬を限られたルートの中で同時投与せざるを得ない状況があります。そのため、最適なルート選択をする上で配合変化の有無の確認は欠かせません。施設によっては配合変化表を作成し、ICUに配置していると思います。ルート選択の際に活用することにより、配合変化の頻度を下げる可能性が報告されており4)、有用なツールです。最後に、ルート管理において注射薬から内服薬への変更や不要な薬剤の中止を検討することも大事な視点になります。安易に継続処方とせず、薬剤の投与方法についても検討するようにしましょう。図3 (左)坂総合病院ICUの配合変化の問い合わせ記録集、(右)坂総合病院救急室の配合変化の有無の一覧表画像を拡大する1)Marino PL. ICUブック第4版. MEDSI;2015.p15-33.2)濱野繁. 10薬剤投与. In:道又元裕. これならわかるICU看護:照林社;2018.p.159.3)セフトリアキソンナトリウム 添付文書4)Kondo M, et al. J Nippon Med Sch. 2022;89:227-232.

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入院患者の栄養管理とウェルニッケ脳症【医療訴訟の争点】第20回

症例昨今、入院患者の栄養管理の重要性は広く認識されており、多くの医療機関では栄養サポートチーム(NST)などを中心として体系的な栄養評価が行われている。本稿では、入院時の栄養評価および静脈栄養管理の適否が争われた名古屋高裁令和6年9月5日判決を紹介する。<登場人物>患者(P1)直腸切除術後、幽門狭窄により経口摂取困難となった患者(66歳・男性)原告患者P1およびその妻被告県立病院(地方独立行政法人)事案の概要は以下の通りである(なお、いずれも平成27年)。◆入院前経過(体重減少の進行)4月15日患者P1は、直腸がんの疑いで大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を受けるため、本件病院に入院し、この時の体重は62.3kgであった。8月25日P1は胃痛および嘔吐を主訴として本件病院外科・消化器外科を受診し、幽門狭窄症と診断され入院した。この時の体重は55.4kgであり、4月の受診時から約7kgの体重減少がみられていた。9月28日本件病院外科・消化器外科の受診時、食事は少しずつ時間をかけて取っている旨を述べた。10月26日本件病院外科・消化器外科の受診時、食事はセーブしている旨を述べた。◆入院時の栄養評価10月30日水を飲んでも吐き戻す絶食状態が数日続いたとして受診。幽門狭窄による経口摂取不良疑いの精査のため入院。入院時、病院では栄養状態の評価が行われたが、体重測定は実施されなかった。その結果、患者の栄養状態については「明らかな栄養不良は認められない」と判断された。しかし、その後(入院から6日目の11月4日)の測定で48.1kgであったため、入院当時の体重は約48kg程度であったと推定されている。これは「約6ヵ月で20%以上の体重減少」「約2ヵ月で10%以上の体重減少」に相当する著しい体重減少であった。◆入院後の栄養管理患者は幽門狭窄による嘔吐のため、入院後も十分な経口摂取ができない状態が続いた。そのため病院では静脈栄養による栄養管理が行われたが、その際ビタミンB1の投与は行われなかった。このこともあり「ブドウ糖を含む輸液が継続された」という状況であった。◆ウェルニッケ脳症の発症11月4日頃患者はウェルニッケ脳症を発症した。その後、患者はコルサコフ症候群を発症し、重篤な後遺障害が残存した。 実際の裁判結果名古屋高裁は、病院の栄養管理には過失があったと認定し、患者側の請求を一部認容した。裁判所は、以下の点を指摘し「本件病院は、自ら規定した本件マニュアルに従い、患者P1の体重測定を行い、最近6ヵ月および最近2週間の体重の変化を把握すべきであった」とした。SGA(Subjective Global Assessment)を含む一般に妥当性が承認されている複数の栄養状態評価の方法においては、体重変化が最も重要な指標であるとされていること 本件病院においては、入院患者に対してはSGAに基づく栄養状態評価を行うことを定め、その具体的な内容を本件マニュアルで定めて、これが運用されていたこと患者P1は、本件病院で直腸切除の手術を受け、その後、摂食障害により被控訴病院に幽門狭窄症と診断されて入院し、退院後も通院している中で、時間をかけても十分に食事を摂取することができなくなったことを述べるようになっていたことそして、裁判所は、以下の点を指摘し、「本件病院が患者P1について「明らかに栄養不良がない」との栄養評価をして、体重測定を行うことなく、重大な栄養障害が生じている可能性が高いことを把握しなかったことは、当時の医療水準を逸脱するものであったと言わざるを得ず、不法行為法上の過失があった」とした。栄養障害が存在するときには、とくに体内貯蔵量の少ないビタミンB1などの水溶性ビタミンの欠乏症が起こりやすく、ビタミンB1は18日から20日間で枯渇することビタミンB1が欠乏すると、死亡または重大な後遺障害を遺す蓋然性の高いウェルニッケ脳症を発症することは、いずれも本件入院時において広く知られていたこと平成27年当時、ビタミン欠乏のおそれのない患者に対して、無条件にビタミン剤を投与することは消極的とされていたことから、本件病院が、摂食不良を訴える患者P1の入院時に体重測定をせず、体重変化を把握しないまま、「明らかに栄養不良がない」との栄養評価をすれば、ビタミンB1を投与せずにブドウ糖のみを投与することとなり、ビタミンB1が欠乏し、ウェルニッケ脳症を発症する。このことは、患者P1が直腸切除術後であること、摂食障害により幽門狭窄症と診断されて入通院していること、時間をかけても十分な食事摂取ができなくなり、水を飲んでも吐き戻す絶食状態が数日続き再入院している患者P1の既往、経過および状態にあることを把握していた本件病院において、予見することが十分に可能であったこと患者P1の妻が本件入院で来院の際、本件病院の外来看護師に対して患者P1の摂食状況が2週間前から極端に悪化していることを伝えていたこと患者P1は、本件病院に着くまでは自ら歩いており、本件病院到着後も立位を保持して検査を受けることが可能であり、本件病院が患者P1の体重を測定することは容易であったこと本件当時も、ビタミンB1があらかじめ添加された栄養輸液製剤は広く普及しており、本件病院においてビタミンB1を投与することも容易であったことその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、「本件病院が患者P1に本件入院当初からビタミンB1を投与していれば、ウェルニッケ脳症およびコルサコフ症候群を発症しなかったであろう高度の蓋然性がある」として、過失と損害の因果関係を認めた。患者P1の本件入院時の体重は、同年11月4日の測定結果とほぼ同様の48.1kgと考えられるところ、患者P1は同年4月15日には62.3kg、同年8月25日には55.4kgであったのだから、最近約6ヵ月の体重減少率は20%を超える約22.8%、最近約2ヵ月の体重減少率は10%を超える約13.2%であり、病的な体重減少であったこと本件病院の作成している本件マニュアルに照らせば、重大な栄養障害である可能性があるものに当たるだけでなく、その基準をはるかに超えて体重が減少していることから、体重の増減を把握していれば、患者P1に重大な栄養障害が生じている可能性があるものと判断したはずであること重大な栄養障害が生じている患者にビタミンB1を投与することなくブドウ糖を投与すると、急激にビタミンB1が消費されてウェルニッケ脳症を発症することウェルニッケ脳症は高い割合で重篤な後遺障害が残存しまたは死亡するという重大な疾患である一方で、ビタミンB1の投与による特段の副作用はないとされており、ウェルニッケ脳症は症状が出てから対応する疾患ではなく、予防的に対応する疾患であるとされていることウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏により発症するものであり、コルサコフ症候群はウェルニッケ脳症の慢性期に発症するものであること注意ポイント解説本判決の特徴は、入院患者の栄養管理に関する医療水準を比較的具体的に示した以下の点にある。第1に、栄養評価において体重変化が基本的指標であることを明確にし、体重測定を行わないまま栄養状態を判断したことを問題視した点第2に、摂食不良患者ではビタミンB1欠乏が生じ得るという医学的知見を前提とし、そのような患者に対するビタミンB1投与の必要性を指摘した点第3に、ビタミンB1欠乏状態でのブドウ糖投与がウェルニッケ脳症の発症につながる可能性を踏まえ、予防的なビタミンB1投与を行わないことの不合理性を認めた点また、本判決は、消化管疾患による摂食不良患者や末梢静脈栄養の症例であってもウェルニッケ脳症の発症リスクが生じ得ることを示した点に特徴がある。加えて、本件病院が患者P1の入院時の栄養状態を「明らかな栄養不良がない」としたことにつき、本判決は“本件病院では、「明らかに栄養不良がない」という場合がどのような場合であるのかについては明示されていなかったのであるから、少なくとも、ディティールスクリーニングの項目のいずれかに該当することがうかがわれる場合には、「明らかに栄養不良がない」と判断することは許されない”としており、本件病院に栄養評価に関するマニュアルがあり栄養サポート体制が存在していたにもかかわらず、基本的な栄養評価が十分に行われなかったことが過失認定の背景となっている。この点からすると、本判決は単にビタミンB1投与の問題にとどまらず、入院患者の栄養管理体制そのものの重要性を示したものと評価できる。医療者の視点本判決は、入院契機となった主訴や疾患の治療に注力するだけでなく、栄養状態を含めた「患者全体の全身管理」に目を向けることの重要性を改めて浮き彫りにしました。実際の臨床現場でも、NST(栄養サポートチーム)などを通じて体系的な栄養評価が行われており、体重変化の把握やビタミンB1欠乏への注意喚起は広く認識されているため、裁判所の見解と実臨床の認識は概ね一致しています。一方で、実臨床との相違点や課題もあります。本件では入院時に体重測定を実施しなかったことが過失と認定されました。臨床現場では、患者の全身状態が不良で、立位での体重測定が困難なケースに直面することが多々あります。しかし、本件の患者は自立歩行が可能であり、測定は容易であったと判断されました。状態が悪く測定が困難な場合であっても、ベッドスケールを活用するなど、客観的な指標である体重を可能な限り把握する姿勢が求められます。本件から得られる教訓は、入院契機となった主訴や原疾患の治療にのみ目を奪われるのではなく、患者の栄養状態を含めた全身管理に広く目を向けることの重要性です。実臨床においては、目の前の症状に対処するだけでなく、患者の既往や経過から潜在的なリスクを予測し、予防的な介入を行うという包括的な視点を持つことが、予期せぬ合併症や医療事故を防ぐ上で不可欠といえます。また、実臨床では、短期の末梢静脈栄養においてビタミンB1を含まないブドウ糖輸液を選択する場面も少なくありません。しかし、消化管疾患などで摂食不良の経過がある患者に対しては、ブドウ糖投与がウェルニッケ脳症を誘発するリスクを常に念頭に置き、予防的にビタミンB1を投与することが不可欠です。Take home message栄養評価では体重測定と体重変化の把握が基本である摂食不良患者ではビタミンB1欠乏を想定する必要があるビタミンB1欠乏状態でのブドウ糖投与はウェルニッケ脳症を誘発し得るウェルニッケ脳症は予防可能な医療事故であるキーワード体重変化、摂食不良、ビタミンB1欠乏、ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候群

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細胞外液補充液と維持輸液【ケースで学ぶ輸液オーダー】第1回

細胞外液補充液と維持輸液研修医が病院で初めて自らオーダーを立てる薬剤はおそらく点滴でしょう。いろいろな種類があり戸惑うかもしれませんが、原則は難しくありません。オーダーを受けた看護師から「輸液、わかってないな」と呆れられないよう、今一度原則を確認しましょう。症例洗面器約1杯分の鮮血を吐いた患者さんが救急搬入され、指導医とともに緊急で呼び出しされた初期研修医A君。指導医が緊急上部消化管内視鏡検査で出血性胃潰瘍と診断し、確実な止血処置を実施しました。現在の輸液内容は、救急科初療医が開始した細胞外液補充液(以下「外液」)です。治療終了時のバイタルサインは血圧120/60mmHg、脈拍90/分、ヘモグロビン値は正常範囲でした。「食事は明日からにしよう。じゃ、輸液オーダーは頼んだよ」と言って指導医は去っていきました。A君は翌日まで外液を継続する指示を出しました。このままでよいでしょうか。考えかたの整理輸液は「目的」によって以下の2つに整理できます1)。出血時など循環血漿量の補充外液絶食中の水分、電解質、糖の補充維持輸液イメージ的には、血液の代わりが外液、ごはんの代わりが維持輸液です。止血が得られ、循環動態が安定した時点で「失血に対する輸液」は役目を終えています。出血分を補えたら、止血後も外液を続ける理由はありません。一方、絶食が続く患者にブドウ糖を含まない輸液だけを投与すると、飢餓状態による低血糖を回避するために蛋白異化が進んでしまいます2)。図1 外液、維持輸液の組成の違いと輸液時の体液分画における分布画像を拡大する細胞内外を比較すると、細胞外はNaが多く、細胞内はKが多いのがポイントです。輸液の組成上、理論的には外液は細胞外へ、維持輸液は細胞内外へ分布するため役割が異なります。本症例の対応本症例では、出血は止血済み、バイタル安定、経口摂取は翌日から再開が予定されています。したがって、外液は減量・終了、維持輸液へ切り替えが妥当です。一方、止血されていたとしてもそれまでの出血量が多く、外液の投与量が出血量に追いついていなければ、維持輸液に並行して外液も投与すべきです。図2 臨床現場でよく見られる輸液療法の流れ画像を拡大する輸液は漫然と「昨日と同じ」にせず、目的を考えてオーダーしましょう。初期輸液は「とりあえずの輸液」英国のNICEガイドラインでは、routine maintenanceの目的の輸液組成には、25~30mL/kg/日の水分、1mmol/kg/日のNa、K、Cl、50~100g/日の糖(5%ブドウ糖液)が必要とされています3)。本邦で絶食時に頻用される維持輸液の3号液は合計2,000mL投与することにより、成人男性の1日の必要水分、電解質、最低限のブドウ糖を補える設定になっています4)。しかし、これら維持輸液のNa濃度は外液よりも低く、医原性の低Na血症が懸念されるため、海外ではNa濃度が外液並みの5%糖含有等張液の使用を提案する5)意見があります。こちらは3号液よりもK濃度が著しく低いため、長期の継続には低K血症に注意が必要です。いずれにしても初期輸液は居酒屋のお通し的立場の「とりあえずの輸液」と割り切り、数日間以上の絶食が予測される場合は、漫然と同じ輸液メニューを続けずに、電解質異常のチェックや補正、本格的な栄養輸液への移行を怠らないようにしましょう。輸液においては初回で満点を目指さず、追試上等と考えて大丈夫です。1)森本康裕. 【総論】輸液の基本のキ 輸液の調節をしてみよう. In:森本康裕. レジデントノート:羊土社;2017.p505-509.2)Gamble JL, et al. 水と電解質. 医歯薬出版;1957.p134-147.3)National Institute for Health and Care Excellence(NICE):Intravenous fluid therapy in adults in hospital. London4)室井延之. 静脈栄養剤の種類と組成、特徴. In:日本臨床栄養代謝学会. JSPENテキストブック:南江堂;2021.p.288-289.5)Moritz ML, et al. N Engl J Med. 2015;373:1350-1360.

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「フォシーガ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第85回

第85回 「フォシーガ」の名称の由来は?販売名フォシーガ®錠 5mg フォシーガ®錠 10mg 一般名(和名[命名法])ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(JAN)効能又は効果◯2型糖尿病◯1型糖尿病◯慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。◯慢性腎臓病ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。用法及び用量<2型糖尿病>通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mg1日1回に増量することができる。<1型糖尿病>インスリン製剤との併用において、通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mg1日1回に増量することができる。<慢性心不全、慢性腎臓病>通常、成人にはダパグリフロジンとして10mgを1日1回経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡の患者[輸液、インスリンによる速やかな高血糖の是正が必須となるので本剤の投与は適さない。]3.重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者[糖尿病を有する患者ではインスリン注射による血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。]※本内容は2026年3月16日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2025年4月改訂(第15版)医薬品インタビューフォーム「フォシーガ®錠5mg、10mg」

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術後の状態管理(術後出血は大丈夫?)【医療訴訟の争点】第19回

症例PCI(経皮的冠動脈形成術)は虚血性心疾患に対する標準的治療として広く行われている一方、穿刺部合併症や後腹膜出血など、まれではあるが致命的となり得る合併症も知られている。本稿では、PCI後に循環動態の破綻を来し、最終的に死亡に至った症例について、出血性ショックの見落としが争われた東京地裁令和6年12月26日判決を紹介する。<登場人物>患者75歳・女性原告患者の夫および子2名(相続人)被告地方自治体(市立病院を開設)被告医師ら循環器内科医(PCI担当医)事案の概要は以下の通りである。平成30年10月24日胸部圧迫感を主訴として被告病院内科外来を受診。労作性狭心症が疑われ、循環器内科へ紹介。10月26日循環器内科の医師1が診察。11月6日冠動脈造影検査および左心室造影検査を実施。その結果、左前下行枝に99%の高度狭窄が認められ、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)によりアスピリンおよびプラスグレルの内服開始。薬物療法のみでは不十分と判断され、PCIが予定。11月13日12時19分本件PCIの開始13時19分本件PCIの終了11月14日5時15分死亡 【本件PCI施行中の経過】平成30年11月13日正午過ぎより、右大腿動脈アプローチによりPCIが開始された。穿刺が2~3回試みられた後、6Frのロングシースが挿入された。手技中、患者は急性冠閉塞を来し、意識レベル低下、血圧測定不能となるなど心原性ショックの状態に陥った。これに対し、被告医師らは酸素投与、輸液負荷、昇圧剤投与を行い、バルーン拡張により冠血流を再開させた。循環動態は一旦改善し、左前下行枝に薬剤溶出性ステントが留置された。最終造影では血流良好であり、穿刺部には止血デバイスが使用され、PCIは終了した。PCI施行中の詳細はこちら 12時19分本件PCIの開始12時25分医師2が本件患者の右鼠径部から右大腿動脈を2、3回穿刺したが血管内に挿入できなかったため、医師3に交代し、医師3が、本件患者の右大腿動脈内に太さ6Frのロングシースを挿入。ヘパリン5,000単位が投与。12時55分本件患者の意識レベルが低下し、声掛けや痛み刺激に反応がなく、血圧は測定不能、SpO2は90%、心拍数は68で、急性冠閉塞を発症し、心原性ショックとなる。12時56分酸素マスクによる4L/分の酸素投与および輸液全開投与を開始し、医師3は、本件患者の左前下行枝7番狭窄部位を2回バルーン拡張。12時59分5mL/時で昇圧剤(塩酸ドパミン注キット)の投与を開始。本件患者は、声掛けに対して反応して会話が成立し、全身に発汗が著明にみられる状態。13時頃心拍数112、血圧84/57mmHg、SpO2は100%。13時3分左前下行枝7番に薬剤溶出性ステントを挿入。13時9分冠動脈造影により左前下行枝7番の血流が良好であり、急性冠閉塞などの所見は認められないことを確認。13時12分大腿動脈穿刺部止血デバイスを挿入して穿刺部を止血。13時18分心拍数90、血圧141/63mmHg、SpO2は100%。13時19分本件PCIの終了【本件PCI後の経過】PCI終了後、患者はHCUへ移動したが、その後、再び頻脈と血圧低下を認めるようになった。心電図ではST低下や虚血性変化が出現し、被告医師らは、急性ステント血栓症やNo reflow(造影剤の流れが血液の代わりに冠動脈中を占拠することによって、実質的には血流がなくなる状態)など、再度の心原性イベントを疑った。この時点でのHb値は明らかな低下を示しておらず、穿刺部にも明らかな血腫や出血所見は確認されなかった。そこで、循環動態不安定の原因精査のため、再度冠動脈造影が行われたが、ステントは開存しており、急性冠閉塞は否定された。さらに、腹部大動脈から腸骨動脈、大腿動脈近位部にかけて血管造影が行われたものの、造影剤の血管外漏出など、明確な出血所見は認められなかった。また、心エコー検査では心嚢液貯留はなく、壁運動も保たれており、心タンポナーデは否定的と評価された。Hb値も午後4時49分時点で12.4g/dLと基準範囲内であった。これらの所見を踏まえ、被告医師らは、出血性ショックよりも、頻脈性不整脈を背景とした心原性ショックの可能性が高いと判断し、循環補助を目的としてIABPを導入した。しかし、IABP導入後も循環動態は安定せず、昇圧剤投与が継続された。夜間以降も頻脈と低血圧は遷延し、翌未明には意識障害が進行、心停止に至った。蘇生処置が行われたものの、平成30年11月14日午前5時15分、死亡が確認された。PCI後の詳細な経過はこちら 11月13日13時19分本件PCIの終了13時29分HCU(高度治療室)に移動し、昇圧剤(塩酸ドパミン注キット)は5mL/時で継続13時42分血圧98/56mmHgであり、13時43分の12誘導心電図検査(ECG)の結果、STの低下14時39分12誘導ECGの結果、心拍数125で洞性頻脈、ST変化、急性心筋梗塞波形および外側心筋障害。医師1は、医師2らと本件患者の血圧低下の原因について検討し、本件施術中に冠動脈に血流低下が生じたことおよびHCU入室後の12誘導ECGの結果ST低下が出現したことから、急性ステント血栓症の可能性があると判断し、同日中に再度、冠動脈造影検査(CAG)を実施し、血圧を調整するために大動脈内バルーンパンピング(IABP)を留置する方針とした。14時56分血圧55/40mmHgであったため、医師1は、昇圧剤を6mL/時に増量し、15時頃には7mL/時に、15時15分頃には8mL/時に増量するとともに、15時10分頃にヘパリンの投与を開始。15時29分12誘導ECGの結果、心拍数156で洞性頻脈、下壁心内膜障害疑い。医師1は、本件患者の心筋虚血が進行している可能性があると判断16時6分心拍数148、血圧69/48mmHg、呼吸数24であり、16時30分頃に3mL/時で昇圧剤(ノルアドレナリン)の投与が開始されたが、16時31分頃には、心拍数155、血圧65/36mmHg、呼吸数20、16時44分頃には、心拍数154、血圧70/49mmHg。16時45分簡易心エコー検査を実施。可視範囲内では心臓壁運動は良好であり、心嚢液の貯留はみられなかった。16時49分Hb値は12.4g/dL。17時30分血圧71/49mmHg、呼吸数24であり、12誘導ECGの結果、心拍数153で洞性頻脈、ST異常、下壁心内膜障害疑い、心筋虚血疑い。医師1は、心タンポナーデや後腹膜出血によるショックの可能性は低く、心エコー検査の結果からすると、ポンプ失調の可能性も低いところ、単に洞性頻脈に伴う血圧低下の可能性もあるが、本件施術後のno flowなどの可能性もあり再検すべきであると考えた。18時12分左冠動脈造影を実施したが、急性冠閉塞の所見は認めず。医師1らは、「本件患者がステント血栓症による心原性ショックを発症したものではない」と判断した。18時15分頃までに右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影を行ったところ、活動性のある出血や出血点は確認されなかった。医師1らは、後腹膜出血による出血性ショックを生じているのではなく、頻脈性不整脈による心原性ショックを生じているものと考えた。18時26分IABPを挿入し、駆動を開始。18時40分脈拍152、血圧62/38mmHg、午後6時45分頃には、脈拍155、血圧68/24mmHg、午後6時50分頃には、脈拍153、血圧90/29mmHg。医師1は、頻拍の原因として心房粗動が疑われることから、夜間はrate controlで経過観察とし、頻拍が持続すれば除細動も考慮することとした。19時シース固定部位に少量の出血が認められたが、シース固定部および穿刺部に出血などの異常はみられなかった。19時49分12誘導ECGの結果、心拍数154、洞性頻脈であり、ST異常がみられた。20時Hb値10.921時57分腸骨大腿動脈造影を施行。その結果、造影剤の血管外漏出像は認めず、医師1は、有意なHb値の低下もないため、出血性ショックも否定的であることから、遷延するショックの原因は頻脈以外に挙げることはできないと考えた。22時30分オーグメンテーション圧(IABPバルーン拡張期圧)低下のアラームが鳴り、本件患者は胸部症状がみられ、嘔吐。22時40分心拍数126、血圧72/43mmHg(観血)11月14日3時07分オーグメンテーション圧低下アラームが鳴り、呼吸下顎様となり、意識レベルはJCS 2に低下、心拍数100台、血圧50/29mmHg(観血)へと低下3時16分意識レベルJCS 3(-300:痛み刺激に反応しない状態)3時31分心静止状態となったため心臓マッサージが開始5時15分死亡【病理解剖および医療事故調査・支援センターの評価】本件患者の死後実施された病理解剖では、両側大腿動脈周囲から後腹膜に連続する広範な出血が認められ、明確な血管損傷部位は特定できなかった。医療事故調査・支援センターは、病理検査の結果を踏まえ、微小血管からの持続的出血が抗血栓療法の影響で止血されず、出血性ショックに至ったと評価した。実際の裁判結果本件では、原告らは、本件患者が、本件施術中から穿刺部を中心とした微小出血が持続したことにより平成30年11月13日14時40分頃に出血性ショックを生じ、それ以降死亡に至るまで出血性ショックの状態が遷延していたことを前提とし、被告病院の医師らについて、〔1〕14時40分の時点、〔2〕16時49分の時点、〔3〕18時12分の時点、および〔4〕20時の時点において、本件患者の心原性ショックのみならず、出血性ショックを疑い、CT検査または腹部エコーによる検査で出血の有無を確認し、出血性ショックを診断の上、ヘパリンを中止し、輸液・輸血や出血点の治療を行う義務があったにもかかわらず、これを怠った旨を主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「本件患者が、午後2時40分頃に出血性ショックを生じ、以後、出血性ショックの状態が続いていたと認めることはできない」として原告らの主張はその前提を欠くと判断した。出血性ショックにおいて血圧低下が生じるのは、重度の循環血液量減少(血液量の40%超え)が起きている場合であるから、仮に、14時40分以降の低血圧が、14時40分頃に生じた出血性ショックによるものであるとすれば、本件施術の実施(大腿動脈穿刺を開始した12時25分頃)から14時40分頃までの約2時間前後の間に血液量の40%を超える出血があったことになる。しかし、18時15分頃に行われた腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影検査の結果、活動性のある出血や出血点は確認されておらず、病理解剖の結果からも、出血部位は同定できず、本件施術による穿刺部や周囲小血管からの微小出血が、施術に伴う抗血栓療法の影響で凝固せずに長時間持続したため、大量出血に至ったと考えられるとされていること本件患者のHb値は、16時49分頃には12.4g/dLとまだ基準値内にとどまっており、20時に至っても10.9と被告病院において設定されている下限値(11.6)をわずかに下回る程度で、急性出血に対する外科的適応として輸血を必要とする値にも達していなかったこと本件患者に約2時間前後の間に重度の循環血液量減少が生じるほどの急激かつ大量の出血が生じたのであれば、出血からHb値の低下までに時間差があるとしてもHb値は急激に低下するはずであるが、本件PCI以降、16時49分頃に12.4g/dL、20時頃に10.9と緩やかに低下しており、14時40分までに出血性ショックを惹起させる大量の出血があったことと整合しないことまた、裁判所は、原告らの主張する各時点における検査義務について、それぞれ以下の点を指摘し、いずれも「CT検査または腹部エコー検査を行うべき義務を負っていたとは認められない」と判断した。1)14時40分の時点について14時40分頃、ショック症状と矛盾しない低血圧および頻脈が出現していたものの、ほかに出血性ショックや後腹膜出血を疑わせる症状はみられていないこと本件PCI中の12時55分頃に急性冠閉塞を発症し、心原性ショックをきたしたことやHCU入室後の12誘導ECGの結果からすると、14時40分頃に生じたショック症状も心原性ショックである可能性は十分にあり得たこと上記のことから、被告医師らが、急性ステント血栓症の可能性があると考えたことが不合理とはいえないこと2)16時49分の時点について16時49分の時点においてもHb値は12.4g/dLと基準値の範囲内であったこと14時40分頃と同様に、低血圧と頻脈以外に出血性ショックや後腹膜出血を疑わせる症状はみられていないこと16時45分頃に簡易心臓エコー検査を行った結果、心タンポナーデの可能性は低いと判断しているものの、未だ急性ステント血栓症の可能性は否定されていないこと3)18時12分の時点について被告医師らは、18時12分の左冠動脈造影検査に引き続いて、18時15分頃までに右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影を行っており、同検査で活動性のある出血や出血点は確認されていないこと本件PCIから14時40分頃までの約2時間前後で後腹膜出血により低血圧に陥るほどの重度の出血性ショックに陥ったのであれば、活動性のある出血や出血点が造影検査で確認できないほど微小であるとは考え難いことからすると、医師らが、この造影検査の結果を踏まえて、本件患者が後腹膜出血による出血性ショックを生じているのではないと判断したことは不合理とは言い難いこと4)20時の時点について本件患者のHb値は、20時頃には、基準値をやや下回る10.9となっているが、これ自体は輸血を要するような値ではないこと本件PCI以降、Hb値は16時49分頃に12.4g/dL、20時頃に10.9と緩やかに低下しているものの、低血圧が生じるとされる重度の循環血液量減少が生じていると疑わせるような著しい低下はみられていないこと。むしろ、この時点では、3回の観血的処置による出血や輸液の投与により血液が希釈されたことにより生じたHb値の低下である可能性も否定できないこと18時15分頃の右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影検査において、後腹膜出血が生じていることを示す活動性のある出血や出血点は確認されなかったこと同時点までに穿刺部やその周辺に血腫を疑わせる腫脹等の異常がみられず、本件患者が後腹膜出血の症状である頑固な背部痛および腰部痛を訴えていなかったこと上記からすると、医師らが、Hb値の低下が出血性ショックによるものであると判断しなかったことが不合理であるとまでは言い難いこと注意ポイント解説本稿も、第17回と同様にショックが問題となったケースであるが、本判決の特徴は、結果として死因が出血性ショックであったにもかかわらず、診療過程での判断が過失とはされなかった点にある。本件で裁判所が過失と判断しなかったのは、以下の点による。診療当時のHb値が出血性ショックを惹起させる大量出血と整合しない推移であったことPCI後(PCI中の急性冠閉塞を含む)であったこと診療経過に鑑みて心原性のショックであることが十分に疑われる状況であったこと後腹膜出血を疑わせる所見がなかったことこのため、Hb値が出血性ショックを惹起させる大量出血と整合するものであったり、後腹膜出血を疑わせる所見があったりする場合には、異なる結論となり得たことに留意する必要がある。同様に、そもそも診療中に原因を探る検査がほとんど行われていない場合、原因探求のための検査を怠り漫然と対応したとして過失(注意義務違反)が認められる可能性があることにも留意する必要がある。なお、本件では、被告病院の院内調査委員会が詳細な検討を経て作成した報告書において、医師の過失を認める記述がなされており、原告らは、この報告書に基づく被告医師らの過失を主張していた。これについて裁判所は、以下のとおり判示し、この報告書に基づいて過失を認めることはできないとした。「本件報告書は、調査の目的が“医療安全の確保であり、個々の責任を追及するためのものではない”とされているとおり、患者の死亡の原因究明や将来における安全性の高い医療の提供確保の観点から作成されたものであって、被告病院の医師に法的に過失があるか否かという観点から作成されたものではない。本件報告書の内容からしても、後方視的にみて、本件患者の後腹膜出血を疑うべき積極的所見がなくても、Hb値が低下しているのであるからCT検査を行う必要があったとするにとどまるものであり、被告病院の医師らによる診療行為について、その当時の具体的な状況および医療水準に照らし、前方視的にみて注意義務違反があったと評価するものではない。そうである以上、本件報告書の記載をもって被告病院の医師に過失があると認めることはできないことは明らかである」過失については、後方視的に評価するものではなく、診療時点に認識できた事実に基づいて前方視的に評価すべきであるという原則を確認するものであるが、この点が確認されたことは、然るべき事故原因の調査報告がなされ安全性の高い医療提供に寄与する(責任逃れのための調査報告書が作成されることを回避できる)ものであり、意義がある。医療者の視点PCI後の循環動態不安定において、「心原性ショック」と「出血性ショック」の鑑別は実臨床でも常に悩ましい問題です。本件のように術中に急性冠閉塞の既往がある場合、術者はまずステント血栓症などの心原性要因を除外することに全力を注ぎます。抗血栓療法を中断すれば致死的な転帰に直結するため、出血源が特定できない段階での判断は極めて困難です。今回の判決で注目すべきは、裁判所が「急性出血におけるHb値低下のタイムラグ」という生理学的現象を正しく認定した点です。実臨床において、急激な出血であっても直後の採血データには反映されないことは常識ですが、これが司法の場でも認められた意義は大きいです。また、IABP駆動中の不安定な患者をCT室へ搬送するリスクとベネフィットの天秤についても、現場の判断が尊重されました。さらに、院内事故調査委員会が再発防止の観点から「過失」を認める記載をしていても、裁判所はこれを後方視的な評価として法的責任とは切り離しました。これは、医療安全文化の醸成と法的紛争を混同すべきではないという重要なメッセージであり、われわれが萎縮せずに検証を行うための支えとなる判断です。本判決は、結果のみにとらわれず、その時々の臨床判断のプロセスが正当に評価されることを示しており、日々の診療において、なぜその判断に至ったか、という思考過程を記録に残すことの重要性を再認識させてくれます。Take home messagePCI後の循環不全では、心原性ショックと出血性ショックの鑑別が常に問題となる急性出血ではHb低下が遅れることがあるが、その時点の数値と所見に基づく判断の合理性が評価される結果的に重篤な合併症が判明しても、当時の臨床判断が医学的に説明可能であれば、注意義務違反とはされない場合があるキーワードPCI、後腹膜出血、出血性ショック、心原性ショック、Hb値、IABP

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庭で倒れていた家族から有機溶媒臭【中毒診療の初期対応】第4回

<今回の症例>年齢・性別55歳・女性患者情報 2ヵ月前に母親がクモ膜下出血で突然死した。1ヵ月前頃よりうつ状態となり、最近では「死にたい」などと家族に訴えていた。仕事から帰宅した夫に、自宅の庭で倒れているところを発見され、救急要請された。救急隊現着時は鼾様呼吸、呼吸数24回/分、SpO2 82%、血圧 94/60mmHg、心拍数 42bpm、意識レベルJCS 100、瞳孔左右 1.5mm同大、対光反射±、体温35.6℃であった。患者の着衣は吐物で汚染され、シンナーのような有機溶剤臭がした。また、気道分泌物が著明で、尿失禁および便失禁を認めた。非再呼吸式リザーバー付きフェイスマスクにて酸素10L/分を投与しSpO2 92%となった。患者は経口摂取による急性中毒を疑われて救命救急センターに搬送された。<問題1><解答はこちら>4.脱衣・シャワー浴救急車内は換気されていたが、有機溶剤臭が著しく、救急隊員は気分不快を訴えた。除染スペースで患者を脱衣させ衣類をビニール袋に密閉し、シャワーで身体を洗浄してからERに搬入した。初診時は気道分泌過多による呼吸不全、洞性徐脈、血圧低下、昏睡、縮瞳、尿失禁、便失禁を認めた。胸部の聴診では湿性ラ音を、腹部の聴診では腸蠕動音の亢進を認めた。気管挿管により気道を確保し、人工呼吸器管理とした。並行して、静脈路の確保・急速輸液、および採血を施行した。検査値・画像所見末梢血では、WBC 8.90x103/mm3、Hb 13.2g/dL、Ht 38.0%、Plt 142x103/mm3、生化学検査では、TP 7.1g/dL、AST(GOT) 14IU/L、ALT(GPT) 11IU/L、LDH 158IU/L、CPK 78IU/L、AMY 222IU/L、Glu 112mg/dL、BUN 10mg/dL、Cr 0.6mg/dL、Na 142mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 104mEq/L、血清コリンエステラーゼ(ChE)40IU/L未満、動脈血ガス(非再呼吸式リザーバー付きフェイスマスクにて酸素10L/分)、pH 7.362、PaCO2 42.4Torr、PaO2 64.3Torr、HCO3- 19.4mmol/L、BE -2.2mmol/L、乳酸値 3.8mmol/Lであった。<問題2><解答はこちら>3.有機リン後日、患者の夫が庭の収納棚で有機リンであるフェニトロチオンを50.0%含有する殺虫剤100mLの空ボトルを発見した。 <問題3><解答はこちら>1.アトロピン1)上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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口が青く染まって昏睡状態、何の中毒? 【中毒診療の初期対応】第3回

<今回の症例>年齢・性別62歳・男性患者情報自宅近くの公園のベンチで横になっているのを通りがかりの近所の女性が発見するも、呼びかけても反応がない状態であったため、救急センターに搬送された。初診時は鼾様呼吸、呼吸数12/分、SpO2 96%(室内気)、血圧124/78mmHg、心拍数62bpm、意識レベルJCS 100、瞳孔 左右2.5mm同大、対光反射+、体温36.4℃であった。身体所見では、口唇、歯牙、口腔内は青く染まっていた。気管挿管により気道を確保し、経鼻胃管を挿入したところ、青色の液体が吸引された。なお、病院にかけつけた妻が患者の所持品を確認すると財布の中身がなくなっていた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 6.30×103/mm3、Hb 14.2g/dL、Ht 44.0%、Plt 109×103/mm3。生化学検査では、TP 7.2g/dL、AST(GOT)21IU/L、ALT(GPT)20IU/L、LDH 276IU/L、CPK 84IU/L、AMY 211IU/L、Glu 102mg/dL、BUN 12mg/dL、Cr 0.7mg/dL、Na 142mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 106mEq/Lであった。動脈血ガス(室内気)では、pH 7.364、PaCO2 44.6Torr、PaO2 82.5Torr、HCO3- 23.7mmol/L、BE -0.4mmol/L、乳酸値 1.4mmol/Lであった。尿中薬物簡易スクリーニングキットでBZO(ベンゾジアゼピン類)が陽性であったが、患者の「お薬手帳」ではベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方歴は確認できなかった。念のためフルマゼニル0.2mgを静注したところ20秒後には開瞼し、従命が認められた。しかし、患者は20分後には再び昏睡状態となった。入院後の経過ベンゾジアゼピン受容体作動薬中毒と診断した。活性炭50gを微温湯300mLに懸濁して経鼻胃管より注入し、輸液療法のみで経過観察入院とした。翌日には覚醒したため気管チューブを抜管した。患者は薬物の摂取を否定したが、「公園のベンチに座って休んでいたところ、見知らぬ若い女性に声をかけられ、ラムネの瓶をもらって一緒に飲んだ。それ以降の記憶がない」と話した。患者の同意を得て、警察に通報した。<問題1><解答はこちら>2.フルニトラゼパム1)上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

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