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認知症診療医の8割強が「ケアマネとの連携は集患に有用」と認識

 高齢化の進展に比例し、認知症患者の増加は必至。潜在化したまま医療に繋がっていない患者予備軍をどう見つけ出し、早期発見・治療に結び付けるのか―。そのカギを握るのは、医療介護連携であろう。国が提唱する「地域包括ケアシステム」においても、両者連携の下、認知症治療のみならず、予防や生活支援に取り組む構想が示されている。では、実際のところ医師とケアマネジャーの連携は進んでいるのだろうか。 今回、認知症診療に当たっているCareNet.com会員医師とケアマネジャーを対象に行ったアンケート調査の結果、連携できていると考える医師は4割、ケアマネジャーは3割にとどまり、多くの医療現場で協同関係に至っていない実態が浮き彫りとなった。ただし、連携が進んでいる医師の8割が「集患に役立つ」と回答しており、ケアマネジャーとの連携がメリットとなっている側面は注目すべきだろう。 本調査は、「認知症における意識調査」として、株式会社マクロミルケアネット(東京都港区、徳田 茂二代表取締役社長)および株式会社インターネットインフィニティー(東京都品川区、別宮 圭一代表取締役社長)が2社共同で実施。アンケートは、2020年2月27日~3月2日の期間にインターネットで行われ、認知症専門医/非専門医のCareNet.com会員医師220人と、インターネットインフィニティー社が運営するケアマネジメント・オンラインの会員ケアマネジャー508人から回答を得た。 認知症の医療現場において、「医療と介護が連携できている」と回答した割合は、医師が40.9%、ケアマネジャーで30.6%となり、両者共に半数に届かなかった。認知症予防における「早期発見の重要度」については、医師は81.3%、ケアマネジャーの94.3%が重要であると回答しており、両者の認識は共通している。ただ、日常的に要介護者と接しているケアマネジャーの方がより重要性を認識していることが、この高い数字からうかがえる。 「ケアマネジャーとの連携が集患にどの程度役立つか」について、実際にケアマネジャーと連携できていると回答した医師と、連携できていないと回答した医師とで結果を比較したところ、集患に役立つと考える割合は、ケアマネジャーと連携できている医師で86.6%、連携できてない医師では63.1%となり、1.4倍のポイントの開きが見られた。 認知症患者の転倒予防に大切なこととして、医師の回答で最も多かったのが「転倒の原因となりうる薬剤の見直し」(59.5%)で、以下「環境の調整」(58.2%)、「動きづらさの改善」(49.5%)、「望ましい行動への誘導」(39.1%)などとなった。 今後、抗認知症薬を積極的に使いたいと考えているかについては、医師で78.2%、ケアマネジャーでは62.5%が使用に前向きであると回答した。【本調査に関する問い合わせ先】株式会社マクロミル コミュニケーションデザイン本部 (担当:度会)TEL: 03-6716-0707MAIL: press@macromill.comURL: https://www.macromill.com株式会社インターネットインフィニティー Webソリューション部 (担当:酒井)TEL: 03-6697-5505 FAX: 03-6779-5055

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第38回 高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第38回:高電位(差)の基準、いくつ知ってる?(後編)「高電位(差)…」のタイトルにも関わらず、前回はQRS波の「高さ」よりも「向き」(電気軸)に注目した内容になってしまいました(笑)。前回と同じ症例を用いて、いよいよ“高すぎる”QRS波の考え方について解説します。謎の言葉“ライオン“や“エステ”などが登場しますが、読み進めると真相が明らかになるでしょう。では、さっそくDr.ヒロのレクチャーにご注目あれ!症例提示35歳、男性。腎移植後の急性拒絶反応のため、血液透析を再導入。その後、10年以上維持透析中。特別な自覚症状はなし。血圧150/90mmHg、脈拍82/分。Hb:11.9g/dL、BUN:67mg/dL、Cre:14.2mg/dL、K:4.8mEq/L。定期検査として施行された心電図を示す(図1)。(図1)定期検査の心電図[再掲]画像を拡大する【問題1】代表的な左室高電位の診断基準を念頭に置き、心電図(図1)がそれらに該当するか考察せよ。解答はこちら該当しない解説はこちら今回も前回と同じ、若年ながら維持透析がなされている男性の心電図を扱います。タイトル通り、今回のメインテーマは「QRS波高」について考えること。Dr.ヒロの系統的判読の語呂合わせでは、“クルッと”の“ル”で、R波“スパイク・チェック”の部分に該当します。「向き」「高さ」そして「幅」の3つを確認しましょう。「高さ」では、“高すぎる”と“低すぎる”の条件に該当しないかを確認するのが主なプロセスです。今回の例では“低すぎる”のほうは一見して考えにくく(細かな数値ではなく“常識”としてわかるセンスが欲しい)、主に“高すぎる”かどうかについて焦点を当てて見ていくことにします。“答えなき質問で負けん気に火がつく”心電図でQRS波高が“高すぎる”、すなわち「(左室)高電位」(increased QRS voltage)と診断するための基準ですが、果たして皆さんはいくつ言えるでしょうか? 2個?3個?それとも5個ですか? 基準に登場する細かな数値を必死で覚えようとするあまり、心電図が嫌いになるようでは本末転倒なので、最終的にはボク流のオススメな考え方に着地して安心してもらうつもりです。前フリとして、少ーしだけ昔話を。10年ほど前のことですが、今でも昨日のことのように思い出されるエピソードがあります。当時、ボクはピチピチ!?の大学院生でした。循環器レジデントも終え、臨床にもある程度手応えを感じ、心電図に関しても以前のような“劣等生”ではなくなっていた頃です。病棟だったか研究室だったかは忘れましたが、心電図や不整脈に詳しいX先生から試問を受けました。【X先生】「高電位の診断基準は? 10個は言えるわな。」【Dr.ヒロ】「えっ?10個ですか! V1のS波とV5のR波を足して35mmとか、V5かV6でしたっけ、20…いくつでしたかね…」【X先生】「V5が26mm、V6は20mmな*1。そいでほかは?」【Dr.ヒロ】「え? まだあるんですか…」【X先生】「あるよ。何言ってんのよ。肢誘導とかもあるだろ。先生は心電図のごくごく表面しか知らないな。あのなぁ、本当のプロになりたかったらな、こんなん10個は空で言えないと失格なんだよ!」そう言って、正解は教えないままその先生はボクの元を去りました。*1:今回紹介する基準とは若干違います。欧米の文献と日本人の違いなどもあるのでしょうか。前置きが長くなりましたが、こんな経緯があったためか、「高電位(差)」という言葉を聞くと、今でも無性にチャレンジスピリットが湧いてくるんです! ですから、今回のレクチャーはいつも以上に熱いです(笑)。早速はじめましょう。次のリスト(図2)を見てください。(図2)こんなに覚えられない!…「左室肥大」の診断基準画像を拡大するボクが事あるごとに参照しているガイドライン的文献1)からの引用です。タイトルは「左室肥大の診断基準」ですが、その大半が「左室高電位」の条件で占められていることがわかるでしょう。はじめに言っておきますが、これを必死で覚える必要はありません(誰も本気でしようと思わないでしょうが)。当然、項目一つ一つを解説することも、皆さんに覚えてもらうこともボクの本意ではありません。なので、この中の“定番商品”に値する有名な3つの診断基準パッケージから紹介していきます。“最も有名な『そこのライオン』基準”まずは“そこのライオン”から。「また!何言ってんの、この人?」って思った方、英字を見てください。ね、“そこの(Sokolow)ライオン(Lyon)でしょ(笑)。■Sokolow-Lyon基準2)■ “そこのライオン”(1)SV1+RV5(or V6) ≧ 35mm(2)RaVL ≧ 11mmこの基準は有名です。(1)は先ほどの会話にも登場していましたが、ボクが最初に覚えたもので、この和を「Sokolow-Lyon(S-L) index」と呼びます。『V1のS波(深さ)とV5のR波(高さ)を足して35mmね。心電図ってそうやって読むのか。なんか高尚だなぁ』、そんな風に感じた記憶があります。実際はV5でもV6でもいい(大きいほうを採用)のですが、V5が用いられることが多いかもしれません。このような“◯+△”型のクライテリアは、もとは「RI+SIII」2)に始まり、一般的に「左室パターン」(第17回)のQRS波形を呈する“イチエル・ゴロク”(I、aVL、V5、V6)のどれかと“その反対側”から構成されると考えると理解しやすいです。肢誘導界の円座標を頭に思い描けば、IIIは“Iの反対側”ですし、胸部誘導ではV5・V6の反対側と言ったらV1ですよね。この“反対側”では、左室のど真ん前に位置する”イチエル・ゴロク”(側壁誘導)でR波として表現される左室成分がS波として反映されているのだと考えれば良いのです。心電図(図1)で見てみましょう。「SV1」、「RV5」、そしてS-L indexが「R+S:3.88mV」と表示されています。これがそうです。「3.88mV」を長さに直せば「38.8mm」となるので、このSokolow-Lyon基準では「左室高電位」に該当します。“そこのライオンで気をつけること“Sokolow-Lyon基準の原典3)はなんと、70年前の論文です。それが今もなお生き続けていることは称賛すべきですが、S-L indexに関しては、いくつか問題点が指摘されています。何と言っても、対象の「年齢」や「性別」が考慮されていないという点です。25歳の男性も80歳の女性も同じ35mm(3.5mV)で判定するのです。冷静に考えると、これってオカシイですよね。健診の心電図や心エコーでの計測値だって、年齢・性別に応じた基準値が設けられています。今回の症例は若年ながら病気を有していますが、同年代の大半の男性はそうではなく、健康だと思います。「RV5(or RV6)」は左室の“パワー”(起電力)を反映するものですから、本人も心臓も元気みなぎる若年男性では、ピンッと立ったスパイクとなり、高率に基準(1)を満たしてしまうことが知られています。左室高電位は左室肥大の条件の一つです。その病的意義を考えると、若くて健康な男性に「左室肥大(疑い)」を頻発させてしまうこの基準は、あまり現実にそぐわないのかもしれません。同様なことが男女問わずアスリート(競技者)にも言われています*2。*2:普段、日本で診療しているとあまり意識されないかもしれませんが、「人種」も考慮すべき一因です。それを解決する一つの方法として、若い男性についてはカットオフを35mmではなく「50mm」にしたほうがいいという声があります4)。国内の心電計メーカーでも同様な点を踏まえて、年齢・性別に応じた高電位差の基準として、20~30歳前後の男性では50mm前後を自動診断の閾値として採用しているところがあるようです。ですから、今回の心電図(図1)では、左室高電位の基準に満たないというのがボクの見解になります。では、一方の(2)「RaVL≧11mV」ではどうでしょうか? 前回のレクチャーで述べましたが、今回のように「左脚前枝ブロック」(LAFB)の心電図では、「肢誘導が“縦に伸びる”」ことに注意する必要があるのでした。つまり、肢誘導のQRS波高が本来よりも“かさ増し”されている場合があるのです。そのため、IやaVLを含む高電位基準はそのままでは使えない可能性が高いです。そこで、LAFBでは、胸部誘導を用いるほう方がいいという意見5)はもっともかもしれません(あまり浸透していませんが)。もう一つは、“そこのライオン”基準をmodifyするやり方で、“2割増し”の「13mm」をカットオフにする考え方1)。ボク自身はこれがお気に入りです。今回の心電図では、RaVLは「11mm基準」にも該当しませんが、この点は知っておくと“物知り”だと思われること確実です。若かりし頃のボクは、基準(2)を覚えたのが嬉しくて、LAFBなのに「11mm」基準のまま“フェイク”の「左室高電位」を乱発していた日々が恥ずかしく思い出されます*3。読者の皆さんもご注意あれ。*3:投稿した論文でreviewerに指摘された記憶も…(笑)“こなれた男女は意外とふくよか?”2つ目のユニークな基準は、“こなれた男女、サイズは3L”です。正式にはCornell基準ですが、ここでもボク流を受容する大きな心を持ってくださいね(笑)。ニューヨークからの報告ですから、なんかオシャレ、いや~こなれてマス。■Cornell基準6)■ “こなれた男女、サイズは3L”(i)SV3+RaVL > 28mm(男性)(ii)SV3+RaVL > 20mm(女性)“男女”は性別ごとに基準が違いますよ、ということ。今回取り上げる中で唯一「性差」が考慮されている点は評価できるのですが、実際には驚くぐらい浸透していません(ボクもよく忘れます)。この基準を涼しい顔で言える人はタダモノではないはず! なお、女性に関しては「+2mm」して「22mm」のほうがいいという議論もあり、なおややこしいことになっています7)。(図1)の男性では、「SV3=17mm」、「RaVL=9mm」なので、一応セーフでしょうか。ちなみに、“サイズは3L”は「SV3+RaVL」を思い出しやすくするためにつけています。ただ、V3誘導がaVL誘導の“反対側”とはイメージしにくいため、個人的にはこうもしないと覚えられません…。“浪費エステはポイント制“紹介する3つ目はRomhiltとEstesの二氏らによる診断基準です。ボク流に言うと“浪費エステはポイント制”です。だんだん無理くり感が…。■Romhilt-Estesスコア8)■ “浪費エステ”(A)肢誘導:R波(or S波)≧ 20mm(B)SV1(or V2) ≧ 30mm(C)RV5(or V6) ≧ 30mmこの“浪費エステ”は「左室肥大」を診断するために開発されたスコアリングシステム(それが“ポイント制”とした意味です)で、そこからQRS波高に関連する部分を抜き出しています(残りの条件に関しては、次回述べる予定)。(A)~(C)いずれか一つを満たすときに「3点」とします*3。これまでと少し数値が異なる点がややこしいでしょうか。でも、これが一つの“完成品”なので文句は言えません。*3:最高13点。4点以上で「probable/likely」、5点以上で「definite/present/certainly」とされる。今回の心電図は(A)~(C)のいずれも該当しません。“最近の心電計と現実的な対応”さて、ここまでの話、いかがですか? 『とっても覚えられないよ(泣)』なんて方も少なくないと予想します。それでも、“そこのライオン”と“こなれた男女”そして“浪費エステ”の3つの診断基準で7個…。前述のX先生の要望には及びません。ただ、これだけでも多くの人にとって、長期間正しく暗記できるレベルを越えていると思います。やはり“記憶”に関してはコンピュータに任せましょう(Dr.ヒロでいう“カンニング法”)。最近の心電計の波形認識・診断システムには、たくさんの左室高電位基準が網羅されており、心電計が「高電位」と言ったら素直にそうなのかと認める姿勢も悪くないとボクは思います。心電図(図1)でも、「高電位(左室に対応する誘導)V1、V5」と表記されていますね。これは普段から最後に自動診断にも必ず目を通すクセをつけておくことで決して忘れません。ただ、先ほど述べた年齢・性別の影響や、S-L indexだけ満たして、ほかはすべて該当しない時に、それを「高電位」と診断するかどうかの最終判断が、われわれ“人間”の仕事です。もう一つ。ボクの教科書は、原則、数値の暗記にこだわらないスタンスなので、次のやり方を紹介しておきましょう9)。この手法、“(ブイ)シゴロ密集法”とでも名付けましょうか。“シゴロ”はV4、V5、V6のことで、このR波が3つとも空をつんざくほどの勢いで直上の誘導領域まで届いているときに「左室高電位」と診断する方法です。別症例の心電図(図3)を見てください。(図3)左室高電位はブイシゴロに注目!画像を拡大する赤太枠で囲った部分にご注目あれ! この心電図は閉塞性肥大型心筋症で通院中の80歳、女性のものです。たしかに“(ブイ)シゴロ密集法”陽性で、典型的なST-T変化も伴いますので、バリッバリの「左室肥大」が疑われます。この場合、今回述べた「左室高電位」基準をほぼすべて満たしますが、これを得意のエイヤッでV4~V6誘導だけの“見た目”で診断しちゃえというのがDr.ヒロ流。こうすることで細かな数値と決別することができるんです。この感覚で、もう一度心電図(図1)を見直してみましょう。するとV6誘導がおとなしめなので、その意味でも「該当しない」と言っていいのではないでしょうか。“おわりに”以上、話し出すとキリがないのですが、2回に分けて “高すぎる”QRS波形の考え方についてお送りしました。最後の最後で一言。私たちは普段「高電位」のことを“ハイ・ボル(テージ)”(high voltage)などと呼んでしまいがちですが、ボクの調べた限りでは“和製英語”のようです(間違ってたらゴメンナサイ)。「increased QRS voltage」というのが正しいそう。知らなかった方は気を付けてくださいね。次回は、“Romhilt-Estes”(浪費エステ)のスコアを用いて「左室肥大」について考えてみましょう。では! …とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home MessageQRS波高が“高すぎる”の診断基準はたくさんあり、可能な範囲で代表的なものをおさえておこう。数値を覚えるのが苦手なら、“(ブイ)シゴロ密集法”がオススメかも!?1):Hancock EW, et al. Circulation. 2009 Feb 19.[Epub ahead of print]2):Gubner R, et al. Arch Intern Med.1943;72:196-209.3):Sokolow M, et al. Am Heart J. 1949;37:161-186.4):Macfarlane PW, et al. Adv Exp Med Biol.2018;1065:93-106.5):Bozzi G, et al. Adv Cardiol.1976;16:495–500.6):Casale PN, et al. Circulation. 1987;75:565-572.7):Dahlöf B, et al. Hypertension.1998;32:989-997.8):Romhilt DW, et al. Estes EH Jr. Am Heart J.1968;75:752-758.9):杉山裕章. 心電図のみかた、考え方[応用編]. 中外医学社;2014.p.125-149.【古都のこと~梅宮大社】京都の梅を語りましょう。『古都のこと』でも既にいくつか紹介していますが*1、今回は右京区梅津の梅宮大社(うめのみやたいしゃ)です。松尾大社からも徒歩で行ける距離にあります。元々は山城国にあり*2、平城京を経て嵯峨天皇の皇后であった橘嘉智子により平安時代前期に現在の場所に遷座されたとのこと。御祭神として酒解神(さかとけのかみ)を本殿に祀ります。文字通り“酒造の神様”ですね*3。訪れたのは、梅産祭(うめうめまつり)が休日に重なった日でしたが、新型コロナウイルスの影響で、恒例の梅ジュース・清酒の振る舞いも中止になっていました。参拝者も少なく、どんよりとした気分が立ちこめていましたが、境内および四季折々の花が美しい回遊式庭園のある神苑には、至る所で紅白梅が元気に花を咲かせていました。桜とは異なる種類の春の訪れ。来年こそは、この感動をより多くの方々と共有したいなぁと心の底から思いました。*1:北野天満宮を筆頭に、岡崎別院、随心院でも扱った。*2:綴喜(つづき)群井出町付近とされる。橘諸兄(もろえ)の母県犬養三千代(あがたいぬかいみちよ)が橘氏の氏神として創祀したと伝わる。三千代は藤原不比等の夫人となったため、藤原氏の摂政・関白の家筋が橘氏長者も代行し、春日神社(藤原氏の氏神)同様に梅宮大社にも崇敬を捧げた。*3:他に橘嘉智子が梅宮神に祈願し皇子(仁明天皇)を授かったことから、授子安産の神徳もあるとされる。本殿横の「またげ石」を跨ぐと子を授かると伝わる。

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進行性核上性麻痺〔PSP:progressive supranuclear palsy〕

1 疾患概要■ 概念・定義進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は、中年期以降に発症し、核上性の垂直性眼球運動障害や偽性球麻痺、構音障害、筋強剛、易転倒性を呈し、パーキンソン病などとの鑑別診断を要する緩徐進行性の神経変性疾患である。1964年に掲載1)された3名の提唱者の名前を取りSteel-Richardson-Olszewski症候群とも呼ばれる。病理学的には、異常リン酸化タウが蓄積したtufted astrocytesが特異的な所見である。■ 疫学わが国での有病率は、人口10万対10~20人とされている2)。■ 病因病因はいまだ不明であるが、病理学的には黒質や淡蒼球、視床下核、中脳被蓋、橋などに程度の強い神経細胞脱落や、これらの脳幹、基底核のほか、大脳皮質にも神経原線維変化を認め、タウ蛋白の異常沈着や遺伝子異常が指摘され、タウオパチーの1つと考えられている。神経生化学的にはドパミン、アセチルコリン、ガンマアミノ酪酸(GABA)、ノルアドリンなどの複数の神経伝達物質の異常を認めている。多くが孤発例である。■ 症状臨床症状としては、易転倒性が特徴的であり、通常は発症1年以内の初期から認められる。病名の由来である垂直方向の眼球運動障害は、とくに下方視の障害が特徴的であるが、病初期には目立たないことや羞明や複視と訴えることもあり、発症3年以内程度で出現するとされている。核上性の麻痺のため、随意的な注視が障害される一方で、頭位変換眼球反射は保たれている。四肢よりも頸部や体幹に強い傾向の筋強剛を示し、進行すると頸部が後屈して頸部後屈性ジストニアを呈する。偽性球麻痺による構音障害や嚥下障害を中期以降に認める。失見当識や記銘力障害よりは、思考の緩慢化、情動や性格の変化などの前頭葉性の認知障害を呈する3)。■ 分類典型例であるRichardson症候群の他に多様な臨床像があり、以下に示す非典型例として分類されている。1)Richardson症候群(RS):易転倒性や垂直性核上性注視麻痺を呈し、最も頻度の高い病型である。2)PSP-Parkinsonism(PSP-P):パーキンソン病と似て左右差や振戦を認める一方で、初期には眼球運動障害がはっきりせず、パーキンソン病ほどではないがレボドパ治療が有効性を示し、RSより生存期間が長い。3)PSP-pure akinesia with gait freezing(PSP-PAGF):わが国から報告された「純粋無動症(pure akinesia)」にあてはまり、無動やすくみ足などを呈し、RSより罹病期間は長い。4)PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS):失行や皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質症状と明瞭な左右差のあるパーキンソニズムといった大脳皮質基底核変性症に類似した症状を呈する。5)PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA):失構音を中心とした非流暢性失語を示す。6)PSP with cerebellar ataxia(PSP-C):わが国から提唱された非典型例で、病初期に小脳失調や構語障害を呈する。■ 予後分類された臨床像による差や個人差が大きい。平均して発症2~3年後より介助歩行や車椅子移動、4~5年で臥床状態となり、平均罹病期間は5~9年という報告が多い。肺炎などの感染症が予後に影響することが指摘されている4)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)指定難病としての本疾患の診断基準は、40歳以降で発症することが多く、また、緩徐進行性であることと、主要症候として、(1)垂直性核上性眼球運動障害(初期には垂直性衝動性眼球運動の緩徐化であるが、進行するにつれ上下方向への注視麻痺が顕著になってくる)、(2)発症早期(おおむね1~2年以内)から姿勢の不安定さや易転倒性(すくみ足、立直り反射障害、突進現象)が目立つ、(3)無動あるいは筋強剛があり、四肢末梢よりも体幹部や頸部に目立つ、の3項目の中から2項目以上があること、および以下の5項目の除外項目、すなわち、(1)レボドパが著効(パーキンソン病の除外)、(2)初期から高度の自律神経障害の存在(多系統萎縮症の除外)、(3)顕著な多発ニューロパチー(末梢神経障害による運動障害や眼球運動障害の除外)、(4)肢節運動失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候、神経症状の著しい左右差の存在(大脳皮質基底核変性症の除外)、(5)脳血管障害、脳炎、外傷など明らかな原因による疾患、を満たすこととされている4)。2017年には、Movement Disorder Societyから、多様な臨床像に対応した新たな臨床診断基準が提唱されている5)。頭部MR冠状断で中脳や橋被蓋部の萎縮や、矢状断で上部中脳が萎縮することによる「ハチドリの嘴様」に見える(humming bird sign)画像所見は、本疾患に特徴的とされ、鑑別診断の際に有用である。MIBG心筋シンチでは、心臓縦隔の取り込み比(H/M比)が低下するパーキンソン病やレビー小体型認知症と異なり、本疾患では原則としては低下せず、正常対照と差がない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在までのところ、根本的な治療法や症状進行を遅延させる予防法は確立されていない。初期には抗パーキンソン病薬が有効性を示すこともある。三環系抗うつ薬、抗コリン薬、コリン作動薬などの有効性を指摘する報告もあるが、効果が短期間であったり副作用を生じるなど経験の範囲を出ない。より早期からのリハビリテーションによるADLに対する有用性が示唆されている。残存機能の維持や拡大にむけた理学療法、作業療法、言語・摂食嚥下訓練などが行われている。4 今後の展望タウ蛋白をターゲットとした免疫療法などが試みられてきたが、有効性の認められた薬剤は現在ない。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 進行性核上性麻痺(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(研究代表者:中島健二)(サイト内では「PSP進行性核上性麻痺 診断とケアマニュアル」、「進行性核上性麻痺の臨床診断基準(日本語版)」、「進行性核上性麻痺評価尺度(日本語版)」などの閲覧ができる医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PSPのぞみの会(患者とその家族および支援者の会)1)Steele JC, et al. Arch Neurol. 1964;10:333-359.2)Takigawa H, et al. Brain Behav. 2016;6:e00557.3)中島健二,古和久典. 日本医師会雑誌. 2019;148(特別号(1)):S85-S86.4)難病情報センター(ホームページ). 進行性核上性麻痺. https://www.nanbyou.or.jp/entry/4115.(2020年2月閲覧).5)Hoglinger GU, et al. Mov Disord. 2017;32:853-864.公開履歴初回2020年03月16日

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Dr.飯島の在宅整形

第1回 顎関節脱臼の整復第2回 在宅外傷学第3回 在宅腰椎圧迫骨折第4回 在宅転倒学第5回 在宅リハビリ第6回 在宅リウマチ第7回 在宅装具学 在宅診療で必ず出合う、腰痛や外傷などの整形外科トラブルにどう対処するのか?在宅整形外科医・飯島治氏が、在宅あるあるシチュエーションを厳選し、明日から使える診断・治療・リハビリのノウハウを伝授します。顎関節脱臼の整復方法、在宅患者が続けられるリハビリ体操、転倒した患者の起こし方などのベッドサイドでできる手技を実演しながら解説。どれも簡単に行うことができるので、患者家族や在宅ケアチームと共有することもおすすめです。病院でのやり方が通用しない在宅診療での悩みを解決し、安心して在宅のメジャートラブルに対処できる知識とスキルを身に付けてください!第1回 顎関節脱臼の整復顎関節脱臼は、在宅診療のメジャートラブルの1つ。今回はこの整復方法をDr.飯島が体を張って伝授します。さらに、患者家族にどう教えるかも解説。在宅診療で確実に役立つ技をぜひ身に付けてください!第2回 在宅外傷学訪問診療で出合う外傷TOP5は、肋骨骨折、大腿骨近位部骨折、手首・足首の捻挫、内出血、臀部挫傷。これらの診察と対処方法を実技を交えてコンパクトに解説します。患者によく聞かれる「骨はいつくっつくのか?」の質問に飯島先生がどうやって答えているかは必見。在宅ならではの患者・家族との信頼関係につながる診察や声掛けも併せて学びましょう。第3回 在宅腰椎圧迫骨折整形外科医でも苦手意識を持つ、腰椎圧迫骨折。病院に搬送してX線を撮れない場合にどのように診断するのか。入院せず在宅で診続ける場合にどんな治療ができるのか。診察で注意すべきポイントは実演で解説します。治療については、飯島先生が自身の体験から、効果的であった方法を紹介します。第4回 在宅転倒転倒は、骨折や怪我につながる在宅患者の生活を一変させる大事件です。転倒予防のキモはどんな患者が転びやすいかを知ること。飯島先生が自院の患者を研究して発見した、転倒しやすい患者の特徴、そして医療保険・介護保険でできる転倒対策を伝授します。さらには転んでしまった患者の起こし方・ベッドまで連れて行く方法は明日から使えること間違いなしの超実践的方法です。ぜひご覧ください!第5回 在宅リハビリリハビリの目的は時代のニーズで変化してきました。これからのリハビリで求められるのは、身体機能の回復だけではなく、尊厳を取り戻しその人らしい生活を送ること。とはいえ、やはり運動もリハビリの重要な構成要素です。病院仕込みの運動療法が通用しない在宅ではどんな運動なら継続できるのか?飯島先生が長年の経験から編み出した在宅ならではの楽しく・簡単に続けられる体操を伝授します。患者・家族・多職種を巻き込んで楽しく在宅リハビリを続けるノウハウを身に付けてください!第6回 在宅リウマチ最新のリウマチ治療と異なり、在宅で必要なのはすでに関節が変形している患者のQOLを向上させる治療です。ステロイドの用量調節はもちろん、簡単な運動リハビリや生活上の工夫など、実際に数多くのリウマチ患者さんを診てきた飯島先生ならではのノウハウを惜しみなく伝授します。第7回 在宅装具学入院期間の短縮に伴って、在宅で増加しているのが「装具」作成の相談。そもそも装具って何?というところから、適応の判断方法、種類の選択、装具士に必ず尋ねられる質問への答え方など、在宅医に必要十分な在宅装具の基礎知識を10分でコンパクトに伝授します。

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アキレス腱断裂の治療効果、石膏ギプスvs.機能的装具/Lancet

 アキレス腱断裂で保存療法を受ける患者の管理では、早期の荷重負荷(アキレス腱断裂スコア[Achilles tendon rupture score:ATRS]で評価)において、従来の石膏ギプスは機能的装具に優越せず、資源利用の総費用はむしろ高い傾向にあることが、英国・オックスフォード大学のMatthew L. Costa氏らが行った無作為化試験「UKSTAR試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年2月8日号に掲載された。保存療法を受けるアキレス腱断裂患者では、従来、数週間にわたり石膏ギプスで腱を固定する治療が行われてきた。機能的装具は、より早期に運動を可能にする非手術的な代替療法であるが、有効性と安全性のエビデンスは十分ではないという。経済的評価を含む無作為化試験 研究グループは、保存療法を受けるアキレス腱断裂患者において、ギプスと機能的装具の機能・QOLアウトカムおよび資源利用の費用を比較する目的で、実用的な無作為化対照比較優越性試験を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価計画の助成による)。 対象は、年齢16歳以上、初発のアキレス腱断裂の患者であった。患者は外科医とともに、標準的な処置として保存療法が適切かを検討し、患者が手術をしないと決めた場合に、試験への参加が可能とされた。 被験者は、ギプスまたは機能的装具による治療を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。介入の期間は8週間だった。 主要アウトカムは、9ヵ月時の患者報告によるATRSとし、修正intention-to-treat(ITT)集団で解析した。ATRSは、アキレス腱関連の症状、身体活動性、疼痛を評価する10項目からなるスコア(0~100点、100点が最も良好)である。安全性アウトカムとして再断裂の評価を行った。また、患者は資源利用質問票に回答し、資源利用の値を費用に変換した。9ヵ月時ATRS:ギプス群74.4点vs.機能的装具群72.8点 2016年8月~2018年5月の期間に540例(平均年齢48.7[SD 13.8]歳、男性79%)が登録され、ギプス群に266例、機能的装具群には274例が割り付けられた。断裂の原因は70%がスポーツ活動であった。527例(98%)が修正ITT集団に含まれた。 受傷後9ヵ月時の平均ATRSは、ギプス群が74.4(SD 19.8)点、機能的装具群は72.8(20.4)点であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後平均群間差:-1.38点、95%信頼区間[CI]:-4.9~2.1、p=0.44)。8週時のATRSは機能的装具群で優れた(ギプス群35.3点vs.機能的装具群40.3点、補正後平均群間差:5.53、95%CI:2.0~9.1、p=0.0024)が、この差に臨床的な意義があるかは不明であった。また、3および6ヵ月時にも有意な差はなかった。 健康関連QOL(EQ-5D-5L)は、ATRSと同様のパターンを示し、受傷後8週時は機能的装具群で有意に良好であったが、それ以降は両群間に差はみられなかった。 合併症(腱再断裂、深部静脈血栓症、肺塞栓症、転倒、踵の痛み、足部周辺の感覚異常、圧迫創傷)の発現にも差はなかった。腱再断裂は、ギプス群が266例中17例(6%)、機能的装具群は274例中13例(5%)で発現した(p=0.40)。 介入の直接費用の平均額は、ギプス群が36ポンドと、機能的装具群の109ポンドに比べ有意に安価であった(平均群間差:73ポンド、95%CI:67~79、p<0.0001)。一方、医療と個別の社会サービスの総費用の平均額は、それぞれ1,181ポンドおよび1,078ポンドであり、機能的装具群でわずかに低いものの有意な差はなかった(平均群間差:103ポンド、95%CI:-289~84)。 著者は、「早期の荷重負荷において、ギプスの安全で費用効果が優れる代替法として、機能的装具を考慮してもよいと考えられる」としている。

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short DAPT vs.standard DAPTの新展開:黄昏るのはアスピリン?クロピドグレル?(解説:中野明彦氏)-1170

はじめに 本邦でBMSが使えるようになったのは平成6年、ステント血栓症予防には抗凝固療法(ワルファリン)より抗血小板剤:DAPT(アスピリン+チクロピジン)が優れるとわかったのはさらに数年後だった。その後アスピリンの相方が第2世代のADP受容体P2Y12拮抗薬:クロピドグレルに代わり、最近ではDAPT期間短縮の議論が尽くされているが、DAPT後の単剤抗血小板薬(SAPT)の主役はずっとアスピリンだった。そして時代は令和、そのアスピリンの牙城が崩れようとしている。 心房細動と異なり、ステント留置後の抗血栓療法には虚血リスク(ステント血栓症)と出血リスクの交差時期がある。薬剤溶出性ステント(DES)の進化・強化、2次予防の浸透などによる虚血リスク減少と、患者の高齢化に代表される出血リスク増加を背景に、想定される交差時期は前倒しになってきている。最新の欧米ガイドラインでは、安定型冠動脈疾患に対するDES留置後の標準DAPT期間を6ヵ月とし、出血リスクに応じて1~3ヵ月のshort DAPTをオプションとして認めている。同様に急性冠症候群(ACS)では標準:12ヵ月、オプション:6ヵ月である。もちろん日本循環器学会もこれに追従している。 しかし2018年ごろから、アスピリンに代わるSAPTとしてP2Y12拮抗薬monotherapyの可能性を模索する試験が続々と報告されている。・STOPDAPT-21):日本、3,045例、1 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 38%)、心血管+出血イベント・出血イベントともにshort DAPTに優越性・SMART-CHOICE2):韓国、2,993例、3 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 58%)、MACCEは非劣性、出血イベントはshort DAPTに優越性・GLOBAL-LEADERS3):EUを中心に18ヵ国、1万5,968例、1 Mo(→クロピドグレル、ACSはチカグレロル)vs.12 Mo DAPT→アスピリン、2年間、all comer(ACS 47%)、総死亡+Q-MI・出血イベントともに非劣性チカグレロルのmonotherapy チエノピリジン系(チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル)とは一線を画するCTPT系P2Y12拮抗薬であるチカグレロルは、代謝活性化を経ず直接抗血小板作用を発揮するため、作用の強さは血中濃度に依存し個体差がない。またADP受容体との結合が可逆的なため薬剤中断後の効果消失が速い。DAPTの一員としてPEGASUS-TIMI 54・THEMIS試験などで重症安定型冠動脈疾患への適応拡大が模索されているが、現行ガイドラインではACSに限定されている。 今回のTWILIGHT試験はPCI後3ヵ月間のshort DAPT(アスピリン+チカグレロル)とstandard DAPTの比較試験で、SAPTとしてチカグレロルを残した。前掲試験と異なる特徴は、・虚血・大出血イベントを合併した症例を除外し、3ヵ月後にランダム化したランドマーク解析であること・all comerではなく、虚血や出血リスクが高いと考えられる症例・病変*に限定したこと・3分の2がACSだがST上昇型心筋梗塞は含まれていないなどである。*:年齢65歳以上、女性、トロポニン陽性ACS、陳旧性心筋梗塞・末梢動脈疾患、血行再建の既往、薬物療法を要する糖尿病、G3a以上の慢性腎臓病、多枝冠動脈病変、血栓性病変へのPCI、30mmを超えるステント長、2本以上のステントを留置した分岐部病変、左冠動脈主幹部≧50%または左前下行枝近位部≧70%、アテレクトミーを要した石灰化病変 結果、ランダム化から1年間の死亡+虚血イベントは同等(short DAPT:3.9% vs.standard DAPT:3.9%)で、BARC基準2/3/5出血(4.0% vs.7.1%)・より重症なBARC基準3/5 出血(1.0% vs.2.0%)はほぼダブルスコアだった。 筆者らは「PCI治療を受けたハイリスク患者は、3ヵ月間のDAPT(アスピリン+チカグレロル)を実施した後、DAPT継続よりもチカグレロル単剤に切り替えたほうが総死亡・心筋梗塞・脳梗塞を増やすことなく出血リスクを減らすことができる」と結論付けた。日本への応用、そしてその先は? しかしどこか他人事である。 第1に、ACSに対するクロピドグレルvs.チカグレロルのDAPT対決(PLATO試験4))に参加できず別に施行したブリッジ試験(PHILO試験5))が不発に終わった日本では、チカグレロルの適応が大幅に制限されている。したがって、われわれが日常臨床で本試験を実感することはできない。 第2に出血イベントの多さに驚く。3ヵ月のDAPT期間内に発生した死亡+虚血イベントが1.2%だったのに対し、BARC 3b以上の大出血は1.5%だった。出血リスクの高い対照群や人種差のためかもしれないが、本来なら虚血イベントが上回るはずのPCI後早期に出血イベントのほうが多かったのでは本末転倒である。ランダム化後の出血イベント(上記)も加えると、さらに日本の臨床試験とかけ離れてくる。PHILO試験が出血性イベントで失敗したことを考えれば、プラスグレルのように日本人特有の用量設定が必要なのでは、と感じる。 とはいえ、脳出血や消化管出血のリスクが付きまとうアスピリンに代わるP2Y12拮抗薬monotherapyは魅力的なオプションではある。PCI後の抗血小板療法は血栓症予防と出血性合併症とのトレードオフで論ずるべき問題であり、症例や使用薬剤によって虚血リスクと出血リスクの交差時期(至適short DAPT期間)は変わるに違いない。さらに、どのP2Y12拮抗薬がmonotherapyとして最適なのか? 2次予防としても有効なのか? アスピリンのように「生涯」継続するのか? 医療経済的に釣り合うのか? 最初からmonotherapyではダメなのか? …検討すべき問題は山積するが、新しい時代に本試験が投じた一石は小さくない。

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長期介護施設入居者の不眠症やベンゾジアゼピン使用と転倒リスク

 高齢者の負傷の主な原因である転倒は、長期介護施設の入居者において、とくに問題となる。中国・復旦大学のYu Jiang氏らは、長期介護施設の入居者を対象に、睡眠の質や睡眠薬の使用が転倒に及ぼす影響について評価した。このような研究は、中国ではこれまでほとんど行われていなかった。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2019年11月21日号の報告。 対象は、上海の中心部にある25の長期介護施設より募集した605例。睡眠の質と睡眠薬の使用に関するベースライン調査、転倒および転倒での負傷に関する1年間のフォローアップ調査を実施した。単変量および多変量解析には、ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・605例(女性の割合:70.41%、平均年齢:84.33±6.90歳)のうち、1年間の転倒の発生率は21.82%、転倒による負傷の発生率は15.21%であった。・不眠症は19.83%、睡眠薬の使用は14.21%に認められた。・潜在的な交絡因子で調整した後、不眠症は転倒リスクの増加と有意な関連が認められた(調整リスク比:1.787、95%信頼区間:1.106~2.877)。・ベンゾジアゼピン使用は、転倒による負傷リスクの増加と有意な関連が認められた(調整リスク比:3.128、95%信頼区間:1.541~6.350)。 著者らは「長期介護施設に入居する高齢者においては、不眠症とベンゾジアゼピン使用のいずれもが、転倒や負傷リスクの増加と関連していることが明らかとなった。転倒を予防するためには、睡眠の質を改善するための非薬理学的介入、より安全性の高い睡眠薬の使用、ベンゾジアゼピン使用者への管理強化が必要とされる」としている。

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日本で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬「アジマイシン点眼液1%」【下平博士のDIノート】第39回

日本で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬「アジマイシン点眼液1%」今回は、わが国で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬である「アジスロマイシン水和物点眼液」(商品名:アジマイシン点眼液1%、千寿製薬)を紹介します。本剤は、結膜、角膜、眼瞼への移行性や滞留性が良好なため、少ない点眼回数で眼感染症の治療が可能となります。<効能・効果>本剤は結膜炎、眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月11日より発売されています。<用法・用量>《結膜炎》通常、成人および7歳以上の小児には、1回1滴、1日2回2日間、その後、1日1回5日間点眼します。《眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎》通常、成人には、1回1滴、1日2回2日間、その後、1日1回12日間点眼します。<副作用>細菌性結膜炎を対象とした国内第III相試験(3-01、3-06)と細菌性の眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎を対象とした国内第III相試験(3-02)の3試験において、アジスロマイシン点眼液が投与された安全性評価対象726例のうち、73例(10.1%)に副作用が認められました。主な副作用は、眼刺激32例(4.4%)、眼そう痒症9例(1.2%)、眼痛7例(1.0%)、点状角膜炎5例(0.7%)でした。なお、重大な副作用として、角膜潰瘍などの角膜障害(頻度不明)、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)が報告されています(承認時)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、細菌の増殖を抑える作用により、目の感染症を治療します。2.薬を使用中に目の異物感、目の痛みなどの症状が現れた場合は、ただちに投与を中止して受診してください。3.開栓前は冷蔵庫、開栓後は室温で保管し、高温環境下や直射日光が当たる場所での保管は避けてください。4.点眼後、しばらく目がぼやけることがあるので、視界がはっきりするまで安静にしてください。5.ベトベト感が気になる場合は、朝の洗顔や入浴前に点眼して、点眼後5分以上経過したら、目の周りに付いた薬液を洗い流すとよいでしょう。6.決められた日数を点眼した後は薬剤を廃棄し、再使用はしないでください。<Shimo's eyes>本剤は、日本で唯一のマクロライド系抗菌点眼薬として発売されました。既存の抗菌点眼薬は1日3~5回投与なので日中の点眼が難しいこともありましたが、本剤は1日1~2回と少ない点眼回数での治療が可能です。点眼方法は、初日と2日目は1日2回、3日目以降は1日1回を、結膜炎では7日間、眼瞼炎・麦粒腫・涙嚢炎では14日間継続します。処方箋に点眼日数が記載されていない場合は、疑義照会で確認しなければなりません。本剤は、成分の滞留性向上のために、添加剤にポリカルボフィルが配合されたDDS製剤です。粘性が強いので、キャップをしたまま容器を下に向けて数回振り、薬液をキャップ側に移動させてから点眼します。点眼後しばらくは視界がぼやけることがあるため、転倒しないように注意が必要です。目の周りのベトベト感が気になる場合は、点眼後5分ほど経過したら目の周りを洗い流してよいことを伝えましょう。なお、2種類以上の点眼薬を併用する場合には、本剤を最後に点眼することで、他の点眼薬への影響を減らすことができます。近年、薬剤耐性菌およびそれに伴う感染症の増加が国際的に問題となっていることから、厚生労働省より「アジスロマイシン水和物点眼剤の使用に当たっての留意事項について」が発出されています。患者さんには、残存菌による再発や耐性菌獲得リスクの点から、自覚症状がなくなっても決められた点眼日数を必ず守るように指導しましょう。参考1)PMDA アジマイシン点眼液1%2)アジスロマイシン水和物点眼剤の使用に当たっての留意事項について

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第15回 高齢糖尿病患者の高血圧、どこまで厳格に管理する?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第15回 高齢糖尿病患者の高血圧、どこまで厳格に管理する?Q1 やや高め?厳密?高齢糖尿病患者での降圧目標の目安日本高血圧学会は、5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を2019年4月に発表しました1)。その中で後期高齢者(75歳以上)の降圧目標は、従来の150/90mmHg未満から140/90mmHg未満に引き下げられています。また、忍容性があれば個人の症状や検査所見の変化に注意しながら、最終的には130/80mmHg未満を目標に治療することを求めています。さまざまな介入試験のメタ解析の評価・検討が行われた結果、高齢者においても高血圧治療によって心血管イベントや脳卒中イベントリスクが有意に低くなり、予後の改善が見込めると示唆されたためです。一方、糖尿病合併患者や蛋白尿陽性の慢性腎臓病(CKD)患者の降圧目標は、従来の130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)に据え置かれました。血圧が140/90mmHg以上を示した場合には、ただちに降圧薬を開始するとなっています(図)。欧米のガイドラインでは、糖尿病を合併した患者の場合、降圧目標は「140/80mmHg未満」や「140/85mmHg未満」と、比較的緩やかに設定されています2,3)。しかし日本では厳格な管理目標を維持することになりました。その理由の1つは、ACCORD-BP試験において厳格降圧群(目標収縮期血圧120mmHg未満)では通常降圧群(140mmHg未満)に比べて脳卒中が41%有意に減少したと報告されたためです4)。日本では欧米と比較して脳卒中の発症率が高いことから、脳卒中の発症予防に重きを置いた降圧目標を設定すべきと考えられ、「130/80mmHg未満」とされたのです。なお、JSH2019で設定された降圧目標は年齢と合併症に基づいて決められているため、降圧目標の設定基準を複数持つ状態が生じます。たとえば、75歳以上の高齢糖尿病患者の場合、糖尿病患者としてみると130/80mmHg未満ですが、後期高齢者としてみると140/90mmHg未満となり、2つの降圧目標が出来てしまいます。このように年齢と合併症の存在によって降圧目標が異なる場合、忍容性があれば130/80mmHg未満を目指すとされました。ただし高齢者では極端な降圧により臓器への血流障害を来す可能性も危惧されます。そのため、まずは140/90mmHgを目指し、達成できればその後緩徐に130/80mmHg未満を目指していけば良いと思われます。Q2 目標値にいかないことが多い・・・強化のタイミングや注意点は?糖尿病に合併した高血圧の降圧療法での第一選択は、微量アルブミン尿またはタンパク尿がある場合にはARBやACE阻害薬を考慮し、それ以外ではARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、少量のサイアザイド系利尿薬が推奨されています5)。高齢糖尿病患者さんでは腎機能障害を呈していることが多く、ARBやACE阻害薬のみでは十分な降圧効果が得られないこともあります。Ca拮抗薬や利尿薬等を併用したり用量を増加したりして血圧をコントロールします。この場合、多剤併用に至り、服薬管理が困難になることもありますので、薬物療法の単純化を行う必要があります。薬物療法の単純化には、1)1日1回の薬剤に変更して服薬回数を減らす2)薬剤を一包化して服薬を単純化する3)服薬管理の比較的簡単な合剤を使用して調整するなどの対策も有効です。高血圧症の多くは自覚症状がないため、治療に積極的になれないことが服薬管理困難の一因と思われます。ただし、高血圧を有する糖尿病患者では動脈硬化が進行しやすくなります。UKPDSの結果では、糖尿病患者において通常の血圧コントロール(154/87mmHg以下を目標)を行った群と、厳格な血圧コントロール(144/82mmHg以下を目標)を行った群で比較すると、厳格な血圧コントロールを行った群の方が糖尿病合併症発症リスクの有意な減少を認めました6)。患者さんは「透析はしたくない」等、腎障害に対して危機感を抱く方が多いため、腎機能を保持するには血圧コントロールが重要であることを説明すると、服薬に理解を示される場合が多いです。高齢糖尿病患者さんでは、神経障害の進行に伴い起立性低血圧を来すことも珍しくありません。そのため、家庭での収縮期血圧は少なくとも100mmHg以上を維持している方が安全でしょう。さらに、めまいやふらつきの訴えが増える場合には、降圧薬の減量や中止にて対応した方がADLやQOLを維持できると考えられます。起立性低血圧について、患者さんや家族、介護スタッフには、「悪性の病態ではないこと」「注意によって予防可能であること」「転倒打撲のリスクの方が問題であること」を説明し、急激な体位変換や頭位変換を避けるよう指導します。排便後は深呼吸後に立ち上がること、めまいが強い場合には一度仰臥位に戻り、状態が安定してから緩徐に起き上がることなどを実行すると、起立性低血圧に伴う転倒予防に役立ちます。また、状態の改善には血糖コントロールが重要であることも理解していただくと良いでしょう。病態の原因について説明を行い、具体的な対策を指導することで、恐怖感が軽減され、適切に対応できるようになります。高血圧を合併する高齢糖尿病患者さんに食事療法を行う際は、厳格な塩分制限による食欲低下や低栄養に注意が必要です。そのため、まずは「現在の摂取量の8割程度の摂取にとどめる」といった実行可能な塩分制限から開始することが重要です。Q3 80代や90代の超高齢者でも同じように管理しますか?SPRINTのサブ解析では、75歳以上の高齢者において、収縮期血圧の目標を120mmHg未満とした方が、心血管疾患の発症率が低いことが示されました。また、フレイルの程度に関わらず積極的降圧治療が予後を改善させるとも報告しています7)。この研究では非糖尿病患者を対象としていますが、80代や90代の超高齢糖尿病患者においても、降圧が予後改善につながる可能性があります。ただし、寝たきりなど身体能力の極めて低下した高血圧患者に対しては、降圧療法による予後改善効果は示されておらず、逆に予後が悪化することも懸念されています。高度の認知症や身体機能低下を来している場合には、従来通り個別判断での対応が望ましいと考えられます。とくに新規に降圧薬を開始する場合には、通常の半量程度から開始し、数ヵ月かけて徐々に降圧を図るなど、柔軟性のある対応で臨むことが良いと思われます。高齢糖尿病患者では、降圧薬増量による他臓器への影響や経済的負担増も考慮する必要があります。家族や介護スタッフの協力が得られればより良い調整が期待できますが、難しい場合には服薬アドヒアランスを考慮し、一包化や合剤の使用も検討が必要です。認知症が強い場合には、薬剤師と連携を取り、服薬カレンダーの設置や服薬支援のロボットを導入することなども効果的です。しかし、90歳以上の超高齢糖尿病患者さんでもADLが自立しており、元気な方も増えています。加齢と共に個人差は大きくなるため、あまり年齢にこだわる必要はないと考えられます。JSH 2019でも、提示した降圧目標はすべての患者における降圧目標ということではないと強調されていました。ガイドラインや最近の大規模試験の結果などを参考にしながら、個別に降圧目標を設定し対応することが重要です。1)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;2019.2)American Diabetes Association. Standards of medical care in diabetes—2013. Diabetes Care. 2013;36: S11-66.3)Mancia G, et al.The Task Force for the management of arterial hypertension of the European Society of Hypertension(ESH) and of the European. 2013 ESH/ESC Guidelines for the management of arterial hypertension Society of Cardiology (ESC). J Hypertens. 2013;31:1281-1357.4)Cushman WC, et al. N Eng J Med. 2010;362:1575-1585.5)日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,245-260, 2019.6)Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes: UKPDS 38. UK prospective diabetes study group.BMJ.1998;317: 703-713.7)Williamson JD, et al. JAMA.315: 2673-2682, 2016.

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さらに腰を引っ張ったら思わぬことが!【Dr. 中島の 新・徒然草】(294)

二百九十四の段 さらに腰を引っ張ったら思わぬことが!下腿が痺れている60代女性の腰を引っ張ったら、症状が一時的に良くなった、というのが前回のお話。この患者さんの腰を別の日に引っ張ったら、今度は頭痛が治った、というのが今回のお話。一体どうなっているわけ。「大丈夫か、中島先生?」と読者の皆様には思われそうです。いやいや、これは厳然たる事実。自分でも驚きました。で、その経験をまずはケアネットで報告いたします。一連の出来事を時系列に並べてみましょう。1:60代女性、右下腿背側の感覚障害と軽い歩行障害で脳外科を受診。2:中島が診察室で腰を引っ張ると一時的に改善した。3:中島が近くの医療機関(腰名人)に紹介する。4:腰名人が「外側陥凹症候群」と診断すると共に、患者によく歩くよう指示。5:患者、転倒して頸を捻るも、ひたすら歩く。6:2週間後、患者が頭痛を訴えて再び脳外科を受診。7:立ったら痛い、寝たら楽、という症状から低髄液圧症を疑う。8:せっかく来院したので、腰を引っ張ってあげる。9:引っ張った15分後くらいに頭痛が自然に治る!何事も言葉だけで記述するのは難しいですね。まずはどうやって腰を引っ張るかを述べておきましょう。最初に、患者さんにアームレストのない椅子に腰かけてもらいます。次に、架空のアームレストを想定し、その上に両腕をのせる姿勢をとってもらいます。そして、中島が患者さんの背後に立ちます。さらに、自らの両側の手掌で患者さんの両肘を下から受けます。最後に、患者さんの両肘を押し上げるわけです。椅子から浮くぐらい持ち上げると、患者さんの自重でうまく腰が伸びます。持ち上げようとする中島の手掌に対抗して、うまく下向きに肘の力を入れてもらうのがコツ。医学的に言えば、患者さんに肩甲帯の下制をしてもらうことになります。では、このような操作で何故、頭痛が治ったのか?まず最初に、低髄液圧症の起こったメカニズムを考えてみましょう。転倒して頸を捻ったときに、頸椎の脊髄神経のルートスリーブから髄液が漏れ始めた。よく歩くことによって、さらに髄液が漏れた。髄液が漏れて頭蓋内圧が下がり、低髄液圧症が発生した。立ったら頭痛が悪化し、寝たら頭痛が軽減するようになった。このようなメカニズムではないかと推測します。画像検査もしていないのに、見てきたような事を言ってすみません。さて、腰の引っ張りがなぜ頭痛を治すのか、が問題です。腰引っ張り時に、患者さんが肩甲帯を下制する方向に力を入れた結果、ルートスリーブの髄液漏れ部分が塞がったのが原因ではないでしょうか?単なる決めつけにすぎない、ということは私も自覚しております。そもそも、髄液漏れがあるにしても、頸椎とは限りません。もし腰椎のルートスリーブに髄液漏れがあれば、腰を引っ張って悪化させることもあり得ます。でも、腰を引っ張るだけで頭痛が治れば、こんなありがたいこともありません。ということで、この患者さんには2週間後に来ていただくことにしました。頭痛改善がどのくらい続いたのか、確認する予定です。単なる腰の引っ張りが、思わぬ方向に向かってしまい、自分でも驚いているところです。最後に1句腰伸ばし 頭痛が治った なんでまた?

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「病院のお金」を学ぶ本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第23回

【第23回】「病院のお金」を学ぶ本皆さん、考えてみたことはありませんか? なぜガッポリ儲かっている病院と、赤字で経営破綻する病院があるのか?私は、この本のタイトルにあるように、まぎれもなく“中堅どころ”の医師なのですが、この質問に答えられる自信がありません。病院経営について詳しくないからです。毎日の外来・入院業務に追われ、病床稼働率がどーのこーのなんて、ぶっちゃけ馬耳東風。しかし、将来みなさんが経営に携わる立場になるかどうかはともかく、中堅医師にとって避けて通れないのが、病院のお金の流れを勉強すること。筆者らは、総合病院における医療経営の入門本がないことを懸念して、この本を出版しました。実際、ちまたにあふれる病院経営本なんて、「開業医のための節税うんたら」みたいな本が多いです。ほとんど詐欺みたいな本もあります。おっと、口が滑った。『“中堅どころ”が知っておきたい 医療現場のお金の話』中西 康裕、今村 知明/著. メディカ出版. 2019さて、みなさんは「在院日数を短縮してください!」と言われたことはないですか? 中堅どころの勤務医ならば、看護師長に何度もこの話をされてきたのではないでしょうか。しかし、なぜ在院日数を短縮すれば経営に有利になるのか、わかっている人は多くないはずです。在院日数を短縮させることによって、病床回転率が上がります。入院初期の診療報酬が高い時点で、たくさん治療を適用して、ある程度落ち着けばすぐに退院させるという戦略です。これを繰り返せば、1ベッドあたりの診療報酬が高い状態が維持できるので、病院の経営が良くなるというロジックです。しかしこの本によれば、その考え方は半分誤りとのこと。診療報酬で得られる収益だけでなく、支出(材料費)も入院初期がもっとも高くなり、収益からコストを差し引いた利益額がさほど変わらないためです。国が推進する在院日数短縮を信じてきたがゆえに、赤字に転落している病院も多くあります。退院を促進し過ぎて、本末転倒なことに空床が出てしまっているからです(病床利用率の低下)。このほか、診療報酬、急性期一般入院料の話や、消費増税によって被る病院の打撃など、お金に関するテーマがたくさんあります。消費増税って、患者さんが支払う額が増えるんでしょ? と誤解している人も多いですが、消費増税でダメージをくらうのは、実は病院です。しかも、手術件数が多い大病院ほど増税による影響が大きいとのこと。なぜそういう仕組みになってるのか、図入りで詳しく解説されていますので、確認してみてください。この本の良いところは、図表がめちゃくちゃ見やすく、お金や経営の初心者でもわかりやすく読めるようになっていることです。上述したように、開業医の経営本とはまったく違って、あくまで総合病院の経営の舵取りがどのように行われてるかを、病院職員として知ってもらいたいという筆者の意図が、よく伝わります。ただただ、良本。『“中堅どころ”が知っておきたい 医療現場のお金の話』中西 康裕、今村 知明/著出版社名メディカ出版定価本体2,800円+税サイズB5判刊行年2019年

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腰を引っ張る【Dr. 中島の 新・徒然草】(293)

二百九十三の段 腰を引っ張る60代の女性、事の発端は右下腿背側の痺れでした。少し前から転倒しやすくなったそうです。近くの医療機関を受診し、腰椎MRIが撮影されました。その結果、「これは腰やない。脳から来とるんや」ということで当科を受診したのです。原因が脳か脊髄か末梢神経か、というのはいつも悩まされるところです。私は運動障害+感覚障害がある場合、多くは脊髄か末梢神経と考えています。もちろん、例外もあります。視床出血なら、脳病変でありながら運動障害+感覚障害を来します。でも、視床出血なら半身全部の運動・感覚が障害されてしまいます。下腿背側だけ、というのは見たことがありません。この患者さんの場合は、運動障害+感覚障害のパターンです。ということは、脊髄か末梢神経だと思われました。そこで、以前(第285の段)にも述べた腰引っ張りのワザで確認してみることにしました。実はこの数週間、腰引っ張りのワザにも色々な改良を加えていたのです。脇に手を入れて引っ張る代わりに、下から肘を引っ張り上げるようにしました。こうすると患者さんも楽、私も楽、しかも腰がうまく伸びます。中島「どうですか、腰が伸びましたか?」患者「伸びました。気持ちいい!」中島「じゃあ歩いてみましょう。きっと良くなっていますよ」患者「うーん、どうだかなあ。そう言われればそんな気も」中島「良くなっているに決まっていますよ」なんたる誘導尋問!中島「信じる者は救われる。足が軽くなったでしょう!」患者「軽くなったような、なってないような」中島「痺れも取れたんじゃないですか?」患者「そうですかねえ」どうも効果のほどはもう一つ、といった感じです。中島「おかしいなあ。腰だと思ったんだけど」そう呟きながら、電子カルテを書いていた時です。患者「来たあ。また痺れてきた!」さっきまで伸びていた腰が元に戻って、痺れの再来。これこそ動かぬ証拠。中島「ということは、原因は脳やなくて腰ですね」患者「でもMRIでは腰じゃないと言われたんですけど」中島「MRIは単なる目安ですよ」腰を引っ張ったら良くなった。しばらくしたら元に戻った。それで十分では?中島「じゃあ、僕の知っている腰名人に診てもらいましょう」患者「腰名人がいるのですか?」中島「〇〇病院の△△先生です。さっそく紹介状を書きましょう」患者「是非お願いします」ということで、紹介状を書きました。右下腿背側の感覚障害と、おそらくは運動障害もありそうなこと。人力で腰を引っ張ったら症状が改善し、しばらくしたら悪化したこと。なので、L5またはS1の神経根の症状だと推測すること。待つこと数日間。外側陥凹症候群:L4/5椎間高位での椎間板突出に伴う外側陥凹の狭窄という診断が名人から返ってきました。どうやら私の診断は間違っていなかったようです。レベルはちょっと外したかも。いかにも怪しい人力腰椎引っ張りの術。結構いい身体診察法だと私は思っています。機会を見つけて、ビジュアルな形で読者の皆様に披露しましょう。色々あったところで最後に1句人力で 腰を伸ばせば 気持ちいい!

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第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?高齢糖尿病患者は罹病期間が長い例が多く、進行した合併症を有する例も多く経験します。今回はいわゆる三大合併症について解説します。合併症の進展予防には血糖管理だけではなく、血圧、脂質など包括的な管理が必要となりますが、すべてを厳格にコントロールしようとするがあまり“ポリファーマシー”となり、症例によっては、かえって予後を悪化させる場合もありますので、実際の治療に関しては個々の症例に応じて判断していくことが重要になります。Q1 微量アルブミン尿が出現しない場合も? 糖尿病腎症の管理について教えてください。高齢糖尿病患者でも、高血糖は糖尿病腎症の発症・進展に寄与するため、定期的に尿アルブミン・尿蛋白・eGFRを測定・計算し、糖尿病腎症の病期分類を行うことが推奨されています1)。症例にもよりますが、血液検査は外来受診のたび、尿検査は3~6カ月ごとに実施していることが多いです。高齢者では筋肉量が低下している場合が多く、血清Cre値では腎機能をよく見積もってしまうことがあり、BMIが低いなど筋肉量が低下していることが予想される場合には、血清シスタチンCによるeGFR_cysで評価します。典型的な糖尿病腎症は微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、ネフローゼ、腎不全に至ると考えられており、尿中アルブミン測定が糖尿病腎症の早期発見に重要なわけですが、実際には、微量アルブミン尿の出現を経ずに、あるいは軽度のうちから腎機能が低下してくる症例も多く経験します。高血圧による腎硬化症などが、腎機能低下に寄与していると考えられていますが、こういった蛋白尿の目立たない例を含め、糖尿病がその発症や進展に関与していると考えられるCKDをDKD (diabetic kidney disease;糖尿病性腎臓病)と呼びます。加齢により腎機能は低下するため、DKDの有病率も高齢になるほど増えてきます。イタリアでの2型糖尿病患者15万7,595例の横断調査でも、eGFRが60mL/min未満の割合は65歳未満では6.8%、65~75歳で21.7%、76歳以上では44.3%と加齢とともにその割合が増加していました2)。一方、アルブミン尿の割合は65歳未満で25.6%、 65~75歳で28.4%、76歳以上で33.7%であり、加齢による増加はそれほど目立ちませんでした。リスク因子としては、eGFR60mL/min、アルブミン尿に共通して高血圧がありました。また、本研究では80歳以上でDKDがない集団の特徴も検討されており、良好な血糖管理(平均HbA1c:7.1%)に加え良好な脂質・血圧管理、体重減少がないことが挙げられています。これらのことから、高齢者糖尿病の治療では、糖尿病腎症の抑制の面からも血糖管理だけではなく、血圧・脂質管理、栄養療法といった包括的管理が重要であるといえます。血圧管理に関しては、『高血圧治療ガイドライン2019』では成人(75歳未満)の高血圧基準は140/90 mmHg以上(診察室血圧)とされ,降圧目標は130/80 mmHg未満と設定されています3)。75歳以上でも降圧目標は140/90mmHg未満であり、糖尿病などの併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指すとしています。しかしながら、こうした患者では収縮期血圧110mmHg未満によるふらつきなどにも注意したほうがいいと思います。降圧薬は微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はACE阻害薬かARBの使用が優先されますが、微量アルブミン尿や蛋白尿がない場合はCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も使用します。腎症4期以上でARB、ACE阻害薬を使用する場合は、腎機能悪化や高K血症に注意が必要です。また「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、75歳以上で腎症4期以上では、CCBが第一選択薬として推奨されています4)。腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤(ESA)の使用については、75歳以上の高齢CKD患者では「ESAと鉄剤を用い、Hb値を11g/dL以上、13g/dL未満に管理するが、症例によってはHb値9g/dL以上の管理でも許容される」となっています。高齢者ではESAを高用量使用しなければならないことも多く、その場合はHbA1c 10g/dL程度を目標に使用しています。腎臓専門医への紹介のタイミングは日本腎臓学会より示されており、蛋白尿やアルブミン尿の区分ごとに紹介基準が示されているので、ご参照ください(表)。画像を拡大するQ2 網膜症、HbA1cの目安や眼科紹介のタイミングは?高血糖が糖尿病網膜症の発症・進展因子であることは高齢者でも同様です。60歳以上の2型糖尿病患者7万1,092例(平均年齢71歳)の追跡調査では、HbA1c 7.0%以上の患者ではレーザー光凝固術の施行が10.0%以上となり、HbA1c 6.0%未満の患者と比べて約3倍以上となっています5)。また、罹病期間が10年以上の高齢者糖尿病では、10年未満の患者と比べて重症の糖尿病性眼疾患(失明、増殖性網膜症、黄斑浮腫、レーザー光凝固術施行)の頻度は高くなりますが、80歳以上ではその頻度がやや減少すると報告されています6)。このように、高齢糖尿病患者では罹病期間が長く、光凝固術の既往がある例も多く存在します。現在の血糖コントロールが良好でも、罹病期間が長い例では急激に糖尿病網膜症が進行する場合があり、初診時は必ず、その後も少なくとも1年に1回の定期受診が必要です。増殖性前網膜症以上の網膜症が存在する場合は急激な血糖コントロールにより網膜症が悪化することがあり、緩徐に血糖値をコントロールする必要があります。どのくらいの速度で血糖値を管理するかについて具体的な目安は明らかでありませんが、少なくとも低血糖を避けるため、メトホルミンやDPP-4阻害薬単剤から治療をはじめ、1~2ヵ月ごとに漸増します。インスリン依存状態などでやむを得ずインスリンを使用する場合には血糖目標を緩め、食前血糖値200mg/dL前後で許容する場合もあります。そのような場合には当然眼科医と連携をとり、頻回に診察をしていただきます。患者さんとのやりとりにおいては、定期的に眼科受診の有無を確認することが大切です。眼科との連携には糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳が有用です。糖尿病連携手帳を渡し、受診を促すだけでは眼科を受診していただけない場合には、近隣の眼科あての(宛名入りの)紹介状を作成(あるいは院内紹介で予約枠を取得)すると、大抵の場合は受診していただけます。また、収縮期高血圧は糖尿病網膜症進行の、高LDL血症は糖尿病黄斑症進行の危険因子として知られており、それらの管理も重要です。高齢者糖尿病の視力障害は手段的ADL低下や転倒につながることがあるので注意を要します。高齢糖尿病患者797人の横断調査では、視力0.2~0.6の視力障害でも、交通機関を使っての外出、買い物、金銭管理などの手段的ADL低下と関連がみられました7)。J-EDIT研究でも、白内障があると手段的ADL低下のリスクが1.99倍になることが示されています8)。また、コントラスト視力障害があると転倒をきたしやすくなります9)。Q3 高齢者の糖尿病神経障害の特徴や具体的な治療の進め方について教えてください。神経障害は糖尿病合併症の中で最も多く、高齢糖尿病患者でも多く見られます。自覚症状、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下により診断しますが、高齢者では下肢振動覚が低下しており、70歳代では9秒以内、80歳以上では8秒以内を振動覚低下とすることが提案されています10)。自律神経障害の検査としてCVR-Rがありますが、高齢者では、加齢に伴い低下しているほか、β遮断薬の内服でも低下するため、結果の解釈に注意が必要です。検査間隔は軽症例で半年~1年ごと、重症例ではそれ以上の頻度での評価が推奨されています1)。しびれなどの自覚的な症状がないまま感覚障害が進行する例もあるため、自覚症状がない場合でも定期的な評価が必要です。とくに、下肢感覚障害が高度である場合には、潰瘍形成などの確認のためフットチェックが重要です。高齢者糖尿病では末梢神経障害があると、サルコペニア、転倒、認知機能低下、うつ傾向などの老年症候群を起こしやすくなります。神経障害が進行し、重症になると感覚障害だけではなく運動障害も出現し、筋力低下やバランス障害を伴い、転倒リスクが高くなります。加えて、自律神経障害の起立性低血圧や尿失禁も転倒の誘因となります。また、自律神経障害の無緊張性膀胱は、尿閉や溢流性尿失禁を起こし、尿路感染症の誘因となります。しびれや有痛性神経障害はうつのリスクやQOLの低下だけでなく、死亡リスクにも影響します。自律神経障害が進行すると神経因性膀胱による排尿障害、便秘、下痢などが出現することがあります。さらには、無自覚低血糖、無痛性心筋虚血のリスクも高まります。無自覚低血糖がみられる場合には、血糖目標の緩和も考慮します。また、急激な血糖コントロールによりしびれや痛みが増悪する場合があり(治療後神経障害)、高血糖が長期に持続していた例などでは緩徐なコントロールを心がけています。中等度以上のしびれや痛みに対しては、デュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬が推奨されていますが、高齢者では副作用の点から三環系抗うつ薬は使用しづらく、デュロキセチンかプレガバリンを最小用量あるいはその半錠から開始し、少なくとも1週間以上の間隔をあけて漸増しています。両者とも効果にそう違いは感じませんが、共通して眠気やふらつきの副作用により転倒のリスクが高まることに注意が必要です。また、デュロキセチンでは高齢者で低Na血症のリスクが高くなることも報告されています。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂; 2017.2)Russo GT,et al. BMC Geriatr. 2018;18:38.3)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;20194)日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社会; 20185)Huang ES, et al. Diabetes Care.2011; 34:1329-1336.6)Huang ES, et al. JAMA Intern Med. 2014; 174: 251-258.7)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int. 2004;4:27-36.8)Sakurai T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:117-126.9)Schwartz AV, et al. Diabetes Care. 2008;31: 391-396.10)日本糖尿病学会・日本老年医学会編著. 高齢者糖尿病ガイド2018. 文光堂; 2018.

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第5回 不要な睡眠薬で高齢者を転倒させるな【噂の狭研ラヂオ】

動画解説転倒による大腿骨折は高齢者やその家族にとって大きな痛手です。それがもし必要のない睡眠薬のせいで起こったものだとしたら?薬剤師は薬剤性の症状を適正に見分けることで、患者さんにとって不要な鉄剤、抗うつ薬、睡眠薬の是非を問うことができます。医療界では今、その薬剤師の専門性が求められていると狭間先生が熱弁します!

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新・夜間頻尿診療ガイドラインで何が変わるか/日本排尿機能学会

 新薬の登場やエビデンスの蓄積を受けて、約10年ぶりに「夜間頻尿診療ガイドライン」が改訂される。40代で約4割、80歳以上では9割以上でみられる夜間頻尿について、専門医だけでなく一般医に対する診療アルゴリズムを新たに作成し、クリニカルクエスチョン(CQ)を充実させる見通し。第26回日本排尿機能学会(9月12~14日、東京)で、「新・夜間頻尿診療ガイドライン:改定に向けての注目点」と題したセミナーが開催され、作成委員長を務める国立長寿医療研究センター泌尿器科の吉田 正貴氏らが解説した。 本稿では同セミナーのほか、鹿児島大学心臓血管・高血圧内科学の大石 充氏による「循環器疾患と夜間頻尿・多尿」と題した講演の内容を紹介する。改訂版は今後パブコメを含む最終調整を経て、2020年春の発行が予定されている。新・夜間頻尿診療ガイドラインでは29のCQを初めて設定 夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴えと定義される。年齢とともに回数は急上昇し、回数が増えるごとにQOLは明らかに低下する1)。本邦では、頻度2回以上の夜間頻尿は70代の男性の約6割(女性では約5割)、80歳以上では約8割(約7割)と報告されている2)。夜間頻尿のリスク因子には糖尿病、高血圧、肥満などがあり、逆に夜間頻尿がうつ、転倒骨折、睡眠障害などのリスク因子となる。 新・夜間頻尿診療ガイドラインでは、排尿日誌を使用しない場合(主に一般医向け)と使用する場合(主に専門医向け)に分けて、フロー図の形で診療アルゴリズムを整理。新たに29個のCQを設定して、診断、行動療法、薬物療法についてそれぞれ推奨度が明記され、エビデンスが整理される。夜間頻尿診療ガイドラインに弾性ストッキング使用の生活指導 新・夜間頻尿診療ガイドラインでは診断に関して、夜間頻尿患者に対する排尿記録やQOL評価、残尿測定、尿流動態検査、睡眠障害の検査についてそれぞれCQが設定され、推奨度のほか評価時期や評価手法が解説される。また、泌尿器科、循環器科、睡眠障害専門医への紹介のタイミングや保険診療上の注意点についてもCQが設けられ、アルゴリズムと組み合わせて診断・鑑別が進められるよう構成される。 行動療法に関しては、生活指導(飲水に関する指導、運動療法、禁煙、弾性ストッキング使用、夕方の足の挙上など)と行動療法(生活指導以外)を区別する形でCQを設定。エビデンスは十分ではないものの、非侵襲的であり、生活指導が夜間頻尿治療の第一選択であることは従来どおり。一方の行動療法(生活指導以外)については、過活動膀胱(OAB)の場合は膀胱訓練や定時排尿などの計画療法や、骨盤底筋訓練などの理学療法の有用性が報告され、OABのガイドラインでも推奨されているが3)、睡眠障害を伴った夜間頻尿では有用性のエビデンスは明確でない。新・夜間頻尿診療ガイドラインでのデスモプレシンの位置付けは? 新・夜間頻尿診療ガイドラインでは薬物療法に関して、夜間多尿(夜間多尿指数[夜間尿量/24時間尿量]が高齢者:0.33以上、若年者:0.20以上)の有無、原因疾患(OAB、前立腺肥大症)に応じて選択される。2019年9月19日、「男性における夜間多尿による夜間頻尿」の適応症でV2受容体作動薬デスモプレシンが発売された。エビデンスが充実しており、男性では生活指導および行動療法による効果が得られない患者への第一選択薬として、推奨グレードAとされる見通し。 ただし、同薬の本邦での適応は「夜間多尿指数0.33以上、かつ夜間排尿回数が2回以上」に限定され(排尿日誌の記録が必須)、低ナトリウム血症や心不全の患者、中等度以上の腎機能障害の患者、利尿薬の併用などは禁忌とされる。また、65歳以上で低ナトリウム血症や頭痛などの有害事象が報告されており、年齢・体重・血清ナトリウム値に応じた少量開始、定期的な検査や観察が推奨されるなど、適正使用への留意が必要となっている。OABや前立腺肥大症に伴う夜間頻尿にも、10年間で新薬やエビデンス蓄積 この10年で、OABに対して抗コリン薬のオキソブチニン貼付剤とフェソテロジン、β3受容体作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)が新たに処方可能となっている。各薬剤での夜間頻尿に関するエビデンスも蓄積し、抗コリン薬では前回エビデンスが不十分であったイミダフェナシンで前向き臨床試験が最も多く報告され、夜間排尿回数の減少と夜間1回排尿量の増加、睡眠の質の向上などが確認されている。しかし、OABに関係する夜間頻尿には有効であるが、夜間多尿群では十分な効果が得られない薬剤もある。 ミラベグロンはOABに対するエビデンスが多く蓄積しているものの、夜間頻尿患者に対する第III相試験のpost-hoc解析は行われていない。2018年発売のビベグロンについては本邦で行われた第III相試験から、夜間頻尿患者での回数の減少と夜間1回排尿量の増加が確認されている4)。 前立腺肥大症に伴う症例に対しては、PDE5阻害薬タダラフィルが新たに承認され、前回評価不能だったα1遮断薬シロドシンなどについてエビデンスが蓄積。また、本邦発のGood-Night Studyで、α1遮断薬単独で改善のない夜間排尿2回以上の患者に対する、抗コリン薬(イミダフェナシン)併用の有効性が示されており5)、新たなエビデンスとして加わっている。利尿薬は併存する循環器疾患によって使い分けが必要? 夜間多尿に伴う夜間頻尿、とくにデスモプレシンが使えない女性では、利尿薬が選択肢となる。大石氏は、夜間頻尿診療ガイドライン改訂にあたって実施したシステマティックレビューの結果などから、高血圧と心不全の併存患者における利尿薬の使い方について講演した。 利尿薬×夜間頻尿というキーワードで論文検索を行うと、ループ利尿薬についてはとくにhANP高値例6)や就寝6時間前投与7-9)が有効、サイアザイド系利尿薬についてはα遮断薬抵抗性例に朝投与が有効10)といった報告が確認された。一方で、ループ利尿薬が夜間頻尿を悪化させる11)、高齢者での夜間頻尿を惹起する12)といった報告や、サイアザイド系が排尿症状を悪化させる11)という報告もある。 これらを受け大石氏は、併存する循環器疾患ごとに、夜間頻尿となるメカニズムが異なる可能性を指摘。食塩感受性高血圧患者では、日中の食塩摂取量が過多になると、夜間高血圧となり、塩分排泄のキャリーオーバーで夜間多尿や夜間頻尿につながると考えられる。ループ利尿薬は近位部で作用(水抜き)することから、このような症例で多量に使うとNa+貯留が起こる可能性があり、遠位尿細管で作用(塩抜き)するサイアザイド系が適しているのではないかとした。 一方、うっ血性心不全患者の夜間頻尿は、心臓の機能が落ちることで静脈還流が増加し、臥位になった夜間に水を抜かなければならないことから引き起こされる。すなわち、ループ利尿薬で体液調整をすることでコントロール可能となると考えられるという。会場からは、「女性の食塩感受性高血圧患者の夜間頻尿ではサイアザイド系と考えてよいか」といった質問があがり、同氏は「女性では浮腫がある症例も多い。そういった場合はもちろん水分を抜くことも必要で、必要な薬剤の量を見極めながら、病態に応じて選択・併用していく形が望ましく、循環器医と積極的に連携してほしい」と話した。■「食塩感受性高血圧」関連記事塩分摂取によって血圧が上昇しやすい人と、そうでない人が存在するのはなぜか?―東大 藤田氏らが解明―■参考1)Coyne KS, et al. BJU Int. 2003 Dec;92:948-54.2)Homma Y, et al. Urology. 2006 Aug;68:318-23.3)日本排尿機能学会過活動膀胱診療ガイドライン作成委員会編. 過活動膀胱診療ガイドライン 第2版.リッチヒルメディカル.2015.4)Yoshida, et al. Int J Urol. 2019 Mar;26:369-375.5)Yokoyama O, et al. World J Urol. 2015 May;33:659-67.6)Fujikawa K, et al. Scand J Urol Nephrol. 2001 Sep;35:310-3.7)Pedersen PA, et al. Br J Urol. 1988 Aug;62:145-7.8)Reynard JM, et al. Br J Urol. 1998 Feb;81:215-8.9)Fu FG, et al. Neurourol Urodyn. 2011 Mar;30(3):312-6.10)Cho MC, et al. Urology. 2009 Mar;73(3):549-53.11)Hall SA, et al. BJU Int. 2012 Jun;109:1676-84.12)Johnson TM 2nd, et al. J Am Geriatr Soc. 2005 Jun;53:1011-6.

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ビスホスホネート製剤を噛み続ける患者の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第6回

 服用状況を確認すると、意外な薬の飲み方をしているケースがしばしばあります。今回は、施設職員向けの勉強会を契機に副作用リスクを発見できた症例を紹介します。患者情報施設入居(5年目)、80歳、女性現病歴:骨粗鬆症、高血圧症、便秘症、アルツハイマー型認知症血圧推移:140/70台既往歴:大腿骨頸部骨折(78歳時)2週間に1回の往診あり(薬剤師も同行)処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1錠 分1 夕食後4.酸化マグネシウム錠330mg 2錠 分2 朝夕食後5.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週土曜日症例のポイントこの患者さんは、アルツハイマー型認知症のため短期記憶が乏しく、入居時より施設職員が内服薬を管理していました。2年前に転倒、大腿骨頸部骨折のため入院し、骨粗鬆症が指摘されたためエルデカルシトールとアレンドロン酸の内服が開始となりました。しかし、その入院を契機に認知機能低下がさらに進行し、食事や排泄は全介助が必要になり、自立歩行も困難で臥床の時間が長くなったと施設職員から情報提供がありました。ある日、施設職員に向けて粉砕不可の薬についての勉強会を薬剤師主導で実施したところ、「この患者さんは内服薬を口にするとすべて噛み砕いてしまうが問題ないか」という相談がありました。アレンドロン酸などのビスホスホネート内服薬は、粉砕や分割することで口腔粘膜や食道に付着し、潰瘍などの刺激性症状を引き起こす可能性が知られており、薬剤の中止や剤形の変更が必要と考えました。患者は服用時に薬を噛み砕くことが習慣になっており、このままアレンドロン酸を継続すると、潰瘍発生の可能性がある。また、臥床の時間が長く、週1回の内服とはいえ、アレンドロン酸を服用するために起床直後に上体を起こしてその後30分間維持することは、患者、施設職員ともに負担に感じていた。アレンドロン酸の代替薬として、ビスホスホネート製剤の注射薬(月1回投与)があるが、ADLを考えると積極的な適応をどこまで優先させるか検討が必要である。エルデカルシトールは内容物が液状であり、脱カプセルや噛み砕くのに不適であるため、粉砕不可薬であり、服用しやすい剤形としてアルファカルシドールへの変更も検討したい。処方提案と経過その後の往診にて、患者さんがアレンドロン酸を含むすべての薬剤を服用時に噛み砕いていることや30分以上上体を起こしていることが負担となっていることを、医師に報告しました。リスク回避を目的にアレンドロン酸の処方中止または注射薬への変更と、エルデカルシトールをアルファカルシドールに変更することを提案したところ、ビスホスホネート製剤の積極的な治療適応ではないため、アレンドロン酸は中止となりました。エルデカルシトールはアルファカルシドールに変更したうえで、定期服用薬は本人が服用しやすいよう粉砕調剤の指示を受けました。現在、患者さんは服用薬によるむせ込みもなく施設で生活を続けています。

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レビー小体病とアルツハイマー病の生存率の違い

 アルツハイマー病(AD)とレビー小体病(LBD)は、2種類の代表的な認知症である。LBD患者の臨床経過がAD患者よりも不良であるかどうかについては、よくわかっていない。中国・香港大学のYat-Fung Shea氏らは、中国人LBD患者とAD患者の生存率や合併症発症について、レトロスペクティブレビューを行った。Singapore Medical Journal誌オンライン版2019年9月6日号の報告。 2008~16年にクイーン・メアリー病院のメモリークリニックに来院したADおよびLBD患者を対象に、すべてのバイオマーカーをレトロスペクティブにレビューした。ADおよびLBD診断は、臨床診断基準およびバイオマーカーによりサポートした。LBDには、レビー小体型認知症(DLB)およびパーキンソン病認知症(PDD)を含めた。ベースライン時の人口統計、臨床的特徴、認知機能障害の重症度、特定の臨床結果を収集した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、AD患者31例、LBD患者25例(DLB:18例、PDD:7例)であった。・疾患発症時より測定した場合、LBD患者は、AD患者と比較し、全生存期間が短い(p=0.02)、転倒の早期発生(p<0.001)、嚥下困難(p<0.001)、肺炎(p=0.01)、褥瘡(p=0.003)、施設入所(p=0.03)といった特徴が認められた。・Cox回帰分析では、LBDは転倒(ハザード比[HR]:5.86、95%信頼区間[CI]:2.29~15.01、p<0.001)、嚥下困難(HR:10.06、95%CI:2.5~40.44、p=0.001)、褥瘡(HR:17.39、95%CI:1.51~200.1、p=0.02)、施設入所(HR:2.72、95%CI:1.12~6.60、p=0.03)、死亡(HR:2.96、95%CI:1.18~7.42、p=0.02)の予測因子であることが示唆された。 著者らは「LBD患者は、AD患者と比較し、生存期間が短く、事前に指定したいくつかの長期イベントが早期に発生していた。また、LBDは、これら長期イベントの独立した予測因子であることが示唆された」としている。

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第3回 これぞ心リハによる恩恵!【今さら聞けない心リハ】

第3回 これぞ心リハによる恩恵!今回のポイント心臓リハビリテーション(心リハ)は心血管疾患患者の症状を改善するだけではなく、病因・病態を改善する「心血管治療」である心リハの効果は多くの臨床試験で証明されている心血管疾患を有するすべての患者に心リハが必要~薬剤を追加する前に心リハオーダを~ケアネットの読者の皆さん、心血管疾患患者に対する心リハの効果について、どの程度ご存じでしょうか?「運動耐容能を改善する」「自覚症状を改善する」と答えた方は正解ですが、それだけでは100点満点中30点程度です。心リハは、心血管疾患患者の運動耐容能(全身持久力・筋力・筋量)・自覚症状を改善するだけではなく、糖代謝、脂質代謝、血管内皮機能、自律神経機能を改善することで、疾患の再発・悪化を抑制し、生命予後をも改善させることが多くの臨床試験で示されています(表1)。(表1)心リハの効果画像を拡大する心リハの効果は、多くの薬剤による効果をひとまとめにしたようなものと言えますが、薬剤のような副作用はありません。また、心血管疾患を患うと多くの患者が鬱状態に陥りますが、心リハで運動療法や多職種介入を行うことでうつや不安が改善します(これがホントの“心”リハ!?)。なので「この患者は歩けるから心リハは必要ないだろう」などと言うことは誤りであり、虚血性心疾患や心不全などで通院加療を行うすべての患者に、心血管治療の一環として心リハが必要なのです。~運動制限と安静を一緒にすべからず~「心リハではエルゴメータを用いた自転車こぎ運動をするけれど、高齢で自転車にも乗れないような心不全患者のリハビリはどうなるの?」「慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)を合併している患者は運動してもいいの?」など、いろいろな疑問が湧き上がってくる方もいらっしゃるでしょう。まず、フレイルを合併した高齢者ですが、通常のエルゴメータに乗れなくても、普通の椅子に座ったまま専用の器具を使えば下肢の持久性運動は可能ですし、低強度の筋力トレーニングやバランス機能の改善を目的とした運動も生活機能改善や転倒予防に有用です。また、心リハ時に服薬状況の確認や薬剤の微調整を行うことで、病状悪化による再入院を防ぐことができます1)。次に、CKD患者はどうでしょう? 日本の急性心不全レジストリ研究によると、急性心不全の75%に腎機能障害が認められています2)。つまり、心血管疾患患者の多くがCKDを合併しているわけです。CKD患者で、「小さい頃に腎臓病になって以来、運動は制限されてきました。だから運動はしないんです。」と言う方にしばしば出会います。しかし、これは誤解です。小児が体育で長距離走やサッカーなどの激しい運動をすることと、成人がフィットネスとして自転車こぎ運動やウォーキングを行うことは、目的や身体への負荷量がまったく異なります。運動制限=安静ではないのです。~高齢者やCKD患者に適したプラン~中高年のCKD患者では、有酸素運動や軽度の筋力トレーニングを行うことで、腎機能が悪化することなく全身持久力や筋力、筋量を改善することが報告されており、CKDのガイドラインでも肥満やメタボリックシンドロームを伴うCKD合併心不全患者において運動療法は減量および最高酸素摂取量の改善に有効であるため、行うよう提案されています(小児CKDでも、QOLや運動機能、呼吸機能の点から、軽度~中等度の運動を行うよう提案3)されています)。一般的に中年以降は運動不足になりがちですから、意識的に運動習慣を作っていく必要があります。まだ研究数は多くはありませんが、保存期のCKD患者だけではなく、血液透析患者においても運動療法の有用性が明らかにされつつあります。日本では2011年に「日本腎臓リハビリテーション学会」が発足し、CKD患者に対する運動療法のエビデンス確立と普及を目指した活動が展開されつつあります。「えっ、心リハだけじゃなくて、腎リハもあるの?」そう、“腎リハ“もあるんです。CKD合併患者では、そもそも心血管疾患の合併が多く、透析患者の死亡原因の第1位は心不全です。CKD患者の生活の質と予後を改善するために、今後の心リハ・腎リハの普及が期待されています。心血管疾患と運動、本当に奥が深いですね。<Dr.小笹の心リハこぼれ話>実体験から心リハの有用性を学ぶ私が医学生の頃(約20年前)、心リハの講義はありませんでした。当然ながら、当時ほぼすべての医学生が持っていた医師国家試験の「バイブル」的参考書、イヤー・◯-トにも心リハについての記載はなかったと思います。その後、心リハを知ったのは研修医の時。急性心筋梗塞後の患者さんの離床にあたり、ベットサイド立位から1,000m歩行まで、日ごとに安静度をあげていくことを「心リハ」と呼んでおり、その際に立ち会い、12誘導心電図とモニタ心電図を確認することが研修医のDutyでした(今から思うと急性期の離床リハビリのみで、退院後の運動指導などはあまりできていませんでした)。当時、CCU(Coronary Care Unit)管理の重症患者を含め最大29人もの入院患者を担当し常にあくせくしていた私にとって、「心リハ」の時間はかなりゆったりとした、半ば退屈な時間でした。恥ずかしながら、その頃の私は、「循環器医の本命は救急救命医療!」と思っており、心リハの立ち会いは雑多なDutyの一つという認識でしかなかったのです。そんなある日、印象的な出来事が起こりました。“心リハ”プログラムの一環として、患者さんが500m歩行終了後、次のステップとして初回のシャワー浴前後で心電図・バイタルチェックがあり、シャワー後の心電図確認に呼ばれました。病室に入ると、ベッドに横たわり心電図検査中のその70代男性患者さんは「久々のシャワーは気持ちよかったです」と上機嫌でした。次の瞬間、「さっぱりしましたか、よかったですねー」と言いながら、12誘導心電図を見た私は凍りつきました。研修医の私が見てもびっくりするほど、心電図の胸部誘導でST部分が4~5mmほど“ガバ下がり”していたのです。「○○さん、胸、苦しくないですか!?」と尋ねると、「そういえば、ちょっともやもや…」とシャワーに入れた喜びもちょっと冷めて、少し不安そうな患者さん。ニトロを舌下すると、症状は少し改善しましたが、心電図は完全には戻りません。すぐに主治医へ連絡して、緊急カテーテル検査となりました。冠動脈造影では、2週間前に留置された前下行枝中間部のステント内に血栓性閉塞を認め、同部位に再度PCIを行いました。いわゆる亜急性ステント血栓症(Subacute stent thrombosis:SAT)でした。その後、2週間程度で患者さんは無事に自宅退院されましたが、あのとき、心リハでルーティンのシャワー後の心電図をとっていなかったら、その患者さんは元気に退院できていなかったかもしれません。この症例を含め、重篤な症状が明らかとなってから救命救急医療を行うのではなく、症状が出ていないうちから早期に異常を発見し対応することの大切さを、いくつもの症例で経験しました。病状が安定しているように見える場合であっても、循環器疾患の患者さんでは、“急変”がしばしば認められます。担当医とて一生懸命治療に取り組んでいるのに、なぜ急変してしまう患者さんがいるのか…それは常に後手後手に回っていた自分の診療姿勢や、患者さんのこれまでの生活歴・治療歴にも問題がある、と考えるようになりました。「発症してから、あるいは急変してから治療しても、できることは限られている…“急変”させないように早期から介入することが大事だ」-医師として3年目、もっと心血管疾患予防を学びたいと、私は大学院入学を決めていました。「患者さん自身が教科書である」とは、医学教育の父と言われるウィリアム・オスラーの名言ですが、私が今も心リハを専門にしているのは、研修医時代に担当させていただいた患者さんたちと、指導していただいた先生方のおかげです。1)Rich MW, et al. New Engl J Med. 1995;333:1190-1195.2)Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819.3)日本腎臓学会編. CKD診療ガイドライン2018

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大腿骨近位部骨折は社会的損失も大

 日本整形外科学会(理事長:松本 守雄氏[慶應義塾大学医学部整形外科学教室 教授])は、「骨と関節の日(10月8日)」を前に、9月5日に都内で記者説明会を開催した。説明会では、学会の概要や活動報告、運動器疾患の現況と今後の取り組みについて説明が行われた。また、「大腿骨近位部骨折とロコモティブシンドローム」をテーマに講演も行われた。ロコモティブシンドロームのさらなる認知度向上にむけて はじめに理事長挨拶として松本氏が登壇し、1926年の学会設立以来、順調に会員を増やし、現在では2万5,126名の会員数を誇る世界有数規模の運動器関連学会であると説明。従来の変性疾患、外傷、骨・軟部腫瘍、骨粗鬆症などのほか、今日ではロコモティブシンドローム(ロコモ)の診療・予防に力を入れ、ロコモの認知度向上だけでなく、ロコモ度テストの開発・普及、ロコモーショントレーニング(ロコトレ)の研究・普及などにも積極的に活動していることを紹介した。寝たきりになると介護・医療費は6.7倍に 続いて、澤口 毅氏(富山市民病院 副院長)が「大腿骨近位部骨折」をテーマに、本症の概要や自院の取り組み、予防への動きについて講演を行った。 大腿骨頸部/転子部骨折の患者は女性に多く、2017年の調査で約20万例の骨折が報告されているという。また、骨折が起きる場所として屋内が約70%、屋外が約20%であり、原因では約80%が「立った高さからの転倒」という日常生活内で起こることが説明された。 骨折後1年後の死亡率と機能障害では、死亡が20%、永続的機能障害が30%、歩行不能が40%、ADLの1つでも自立不能が80%と多大なリスクとなることも示された1)。同時に同部位の骨折で高齢者で寝たきりになった場合、寝たきりにならない場合と比べ、介護・医療費が約6.7倍(約1,540万円)と高く、このため家族が介護離職を余儀なくされ、復職できないなど、社会的経済損失も大きいという。 骨折の治療では、「合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短い」という理由から、早期の手術がガイドラインでは推奨されている(Grade B)。しかし、わが国の入院から手術までの日数は、平均4.2日と欧米の平均2日以内と比較しても長いことが問題となっている。また、入院期間についてもわが国は平均36.2日であるのに対し、欧米では数日~10日以内と大きく差があることが示された2)。この原因として、手術室の確保、麻酔科医の不足、執刀医の不在など医療機関側に問題があることを指摘した。 一方、オーストリアやドイツなど欧州では、高齢者の骨折に対し、医師、看護師、ソーシャルワーカー、理学療法士によるチーム医療が行われ、とくに整形外科と老年病科の医師の連携により、入院中や長期死亡率の減少、入院期間の短縮、重篤な合併症と死亡率の低下、再入院の減少、医療費の低下に成果をあげているという。手術待機日数、平均1.6日への取り組み 次に同氏が所属する富山市民病院の高齢骨折患者への取り組みを紹介した。同院では、2013年よりチーム医療プロジェクトを開始し、「骨折を有する高齢患者を病院全体で治療する」ことを基本方針に、さまざまな改革を行ったという。その一例として、電子カルテの専用テンプレート導入、職種・経験の有無にかかわらない統一・均一な初療体制の構築などが行われた。 現在では、大腿骨近位部骨折と診断されると3~5時間で手術を行うことができ、術後は病棟薬剤師による鎮痛やせん妄への対処、リハビリテーション科による早期離床と早期立位・歩行へのフォロー、精神科によるせん妄予防、肺炎予防、栄養管理(骨粗鬆症予防も含む)、高齢診療科医師による術後管理、退院サポートなどが行われている。 とくに大腿骨近位部骨折をした患者の再骨折率は高く2)、同院では転倒防止教室や電話によるフォロー、「再骨折予防手帳」の活用を行っているという。そして、これらの取り組みにより、「手術待機日数は平均1.6日(全国平均4.2日)、在院日数は平均19.6日(全国平均36.2日)と短縮されたほか、患者1人あたりの平均入院総医療費も全国平均に比べ少なくなっている」と成果を語った。運動で防ぐ骨折、再骨折 次に大腿骨近位部骨折とロコモについて触れ、「『大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版』では、骨折の原因となる転倒予防に運動療法は有効(Grade A)となっている。開眼片脚立ちなどのロコトレを行うことで、骨粗鬆症予防と転倒予防に役立つと学会では推奨している」と説明。また、全国で行われている骨折予防の取り組みとして患者向けに「再骨折予防手帳」の発行、患者の退院後のフォローを専門スタッフが行う「骨折リエゾンサービス」の実施や地域連携として「骨粗鬆症地域連携手帳」の発行の取り組みなどを紹介した。 最後に同氏は、「将来、アジア地域で骨折患者の爆発的な発生も予想される。今のうちから各国間で診療ネットワーク作りをして備えたい」と展望を語り、講演を終えた。

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がん悪液質に対する早期の栄養・運動介入…NEXTAC試験 シリーズがん悪液質(5)【Oncologyインタビュー】第11回

初回化学療法開始時からがん悪液質に対する栄養・運動介入を行うNEXTAC試験が始まった。同試験の実務をリードする静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科の内藤 立暁氏に、同試験の内容を聞いた。がん悪液質の臨床研究試験について、がん治療の臨床研究とは異なる点を教えていただけますか。がん悪液質の患者に対する臨床試験の実施には、通常の抗がん剤の臨床試験と異なり、いくつかの障壁があることがわかっています。1つ目は単独介入の壁です。栄養療法、運動療法、薬物療法のいずれか単独で介入する臨床研究では、一貫した成果を証明できていません。多要因によって発生するがん悪液質にはこれらを組み合わせた治療が必要と考えられています。2つ目は脆弱性の壁です。たとえば、がん悪液質に対する栄養介入や薬物治療の臨床研究では、がんの増悪や病状悪化により治療の遵守率が悪化し、研究の脱落者が多発します。運動介入の研究においても、やはり病状悪化や骨転移による症状などで治療が中断してしまう症例が多く、多くの臨床試験がその脆弱性により妨げられてきました。3つ目は機能回復の壁です。いくつかの薬物治療の臨床研究では骨格筋を増加させることはできたものの、身体機能の回復は得られませんでした。現在も、さまざまな治療法が研究されていますが、現在のところ身体機能を改善した薬物治療は存在しません。そのような中、NEXTAC試験が開始されたのですね。NEXTAC(Nutrition and Exercise Treatment for Advanced Cancer)-ONEならびに-TWO試験は京都府立医科大学の高山浩一先生を研究代表者とした臨床研究であり、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて実施しています。前述の単独介入の壁、脆弱性の壁、機能回復の壁、この3つの悪液質の臨床研究を妨げる壁を乗り越えるために計画されました。NEXTACプログラムは、身体機能の回復を目的とし、進行がんの診断後に早期から運動療法と栄養療法を導入する集学的介入です。運動療法については、脆弱な高齢者のがん患者さんにもやり遂げられる低強度の在宅プログラムとし、下肢筋トレーニングと身体活動を促進するカウンセリングを取り入れています。栄養療法については、栄養カウンセリングを中心とし、分子鎖アミノ酸(BCAA)を含有したサプリメントを用いています。またいずれの治療においても、動機を維持し、行動変容を促進するような教育的なアプローチを取り入れています。第I相試験としてNEXTAC-ONE試験が行われましたが、どのようなものか具体的に教えていただけますか。NEXTAC-ONE試験は、NEXTACプログラムの実現可能性をみる前向き単群の第I相試験です。70歳以上の進行膵がんと肺がん患者さん30例に対し、初回化学療法と同時に、栄養・運動介入を開始し、試験期間は8週間です。海外の類似した集学的治療の研究では、多数の脱落者を出していたため、NEXTAC-ONE試験の実現可能性の主要評価は8週間のNEXTACプログラムへの参加割合としました。栄養・運動の介入が化学療法の開始時から始まるというのは従来では考えられないような早いタイミングではありませんか。従来は、化学療法開始の時期から始めるとは考えなかったかもしれないですね。しかし、進行肺がんや膵がんの患者さんは、診断の時点で半数以上が、すでにがん悪液質を有していることが疫学データで明らかになっており、その後は時間と共に悪液質の割合は増加します。従って、化学療法の開始時が最も適切な開始時期と考えました。NEXTAC-ONE試験の概要対象:1次治療としての化学療法を実施予定の進行期非小細胞肺がん、または膵臓がん患者。年齢70歳以上、PS 0~1、介護を要しない患者(Barthel Index 95点以上)介入:標準化学療法の開始とともに、BCAA含有サプリメント摂取(大塚製薬:インナーパワー®)と管理栄養士による栄養カウンセリング、理学療法士による低強度の在宅での下肢筋力トレーニングの指導、主に看護師による、身体活動量促進のカウンセリングを行う。8週間の治療期間で、3回の運動指導と3回の栄養指導の計6回のセッションで構成される。評価項目:[主要評価項目]実現可能性(治療期間の6回のセッションのうち4回以上参加した患者の割合[副次評価項目]安全性、コンプライアンス、アドヒアランスなど画像を拡大するNEXTACプログラムの詳細栄養介入:栄養カウンセリングでは自宅での食事の栄養組成と摂取量を調査し、体格から計算されたカロリー、蛋白、水分の一日所要量と比較して充足しているか否か評価し、不足分をいかに補うかを指導します。また化学療法中に生じる口腔粘膜炎、味覚障害、や下痢など「摂食に影響を及ぼす症状」Nutrition Impact Symptoms(NIS)に対する対策を指導します。サプリメントは骨格筋の材料となるBCAA含有の製品(大塚医薬:インナーパワー®)を提供しました。低強度下肢筋力トレーニング:がんの治療では、遠方より通院されている方も多いですので、運動療法のために通院が必要となる方法は参加率を低下させます。従って運動処方は自宅で実施できる内容となっています。過去の研究では、上肢・下肢を含めた総合的な筋力トレーニングが用いられてきたのですが、進行がん患者の臨床試験では脱落者が多発します。従って、NEXTACプログラムの運動介入では、歩行に関連した下肢筋力トレーニング絞った低強度の介入としています。画像を拡大する身体活動促進プログラム:身体活動量促進プログラムは、加速度計付き歩数計を用い、歩数目標のゴールを決めて、毎日達成することを目指すものです。その際、抗がん剤の皮疹など外見的要因、下痢などの身体的要因といった外出を妨げる症状のコントロールや転倒防止の指導もカウンセリングプログラムの中に含めています。NEXTAC-ONE試験の結果について教えていただけますか。主要評価項目の参加率(栄養・運動3回ずつのセッションのうち4回以上参加した患者)は30人中29人で参加率は97%と良好でした。コンプライアンスは、サプリメントの服用、筋トレ実施、歩数計装着日はいずれも9割を超えており良好でした。また、介入の成果は行動変容にも出ており、約7割の患者さんが屋外活動を増やし、約8割の患者さんが屋内活動を増やしました。6分間歩行、握力などの身体機能について、化学療法中も維持されている傾向がありました。従って、NEXTACプログラムは実現可能性があり、安全性の問題もなく、身体機能についても効果が期待されるということから、現在はNEXTAC-TWO試験を実施中です。NEXTAC-Two試験はどのようなものか教えていただけますか。NEXTAC-TWO試験は、対象患者の選択基準はNEXTAC-ONE患者とほぼ同じですが、無作為化試験であり、コントロール群と、NEXTAC介入群の各群65名の計130名に参加いただきます。治療期間は12週間です。主要評価項目は介護不要生存期間(Disability-free Survival)、つまり要介護にならずに生存している期間としています。NEXTAC-TWO試験の概要対象:1次治療として化学療法実施予定の進行期非小細胞肺がん(NSCLC)または膵臓がん患者。年齢70歳以上、PS 0~2で、介護を要しない患者(Barthel Index 95以上)介入群:標準化学療法の開始とともに、BCAA含有サプリメント摂取(大塚製薬:インナーパワー®)と管理栄養士による栄養カウンセリング、理学療法士による低強度の在宅での下肢筋力トレーニングの指導、主に看護師による、身体活動量促進のカウンセリングを行う。12週間の治療期間で、4回の運動指導と4回の栄養指導の計8回のセッションで構成される。対照群:標準化学療法のみでNEXTAC介入なし。評価項目:[主要評価項目]無障害生存期間(Disability-free Survival)[副次評価項目]栄養状態、除脂肪体重、運動機能、ADL、QOL、全生存期間、安全性など画像を拡大する本試験は2019年3月に全予定症例の登録が完了しました。現在は追跡期間中であり、2021年に主要評価項目に関する解析を予定しています。参考NEXTAC-ONE試験1.Naito T, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10:73-83. 2.Mouri T, et.al. Asia Pac J Oncol Nurs. 2018;5(4):383-390.3.立松典篤他. 日本緩和医療学会誌 2018;13(4):373-381.NEXTAC-TWO試験1.Miura S, et.al. BMC Cancer. 2019;19(1):528.

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