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107)体力が落ちている患者さんの転倒予防を考える【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者先生、最近、足腰が弱くなって……。 医師それは心配ですね。 患者そうなんです。こけて骨折しないかと心配で外出しなくなって……。 医師なるほど。足腰が弱くなると、外に出るのが不安になりますね。そうすると、さらに足腰が弱って家の中でもこけたりして……。 患者そうなんです。うちの家は古いので、この間も敷居をまたげなくて……。 医師家の中に敷居など段差があると、転びやすいですよね。特に、つま先が上がらなくなると、転びやすくなりますね。 患者そうなんです。ちょっとしたところで転んで……。 医師そんな人にピッタリの運動がありますよ。 患者どんな運動ですか?(興味津々) 医師つま先を上げる筋肉、つまり前脛骨筋を鍛える運動です(実践しながら)。 患者なるほど。これなら、できそうです。●ポイント転倒への不安をきっかけに、転倒予防の運動を紹介します 1) 内閣府:平成22年度高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果(60歳以上の男女、自宅内でこの1年間に転んだことがある人は9.5%。庭が最も多く36.4%、続いて居間・茶の間・リビング(20.5%)、玄関・ホール・ポーチ(17.4%)、階段(13.8%)、寝室(10.3%)、廊下(8.2%)、浴室(6.2%)、台所(6.2%)、ベランダ・バルコニー(4.6%)、便所(4.1%)の順)

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ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

 ベンゾジアゼピン系薬およびZ薬(ゾピクロン、ゾルピデム、ゼレプロン)の長期使用例における投与中止戦略について、カナダ・ダルハウジー大学のAndre S. Pollmann氏らはscoping reviewを行って検討した。その結果、多様な戦略が試みられており、その1つに漸減があったがその方法も多様であり、「現時点では複数の方法を組み合わせて処方中止に持ち込むことが妥当である」と述べている。鎮静薬の長期使用が広く行われているが、これは転倒、認知障害、鎮静状態などの有害事象と有意に関連する。投与中止に伴いしばしば離脱症状が出現するなど、依存症の発現は重大な問題となりうることが指摘されていた。BMC Pharmacology Toxicology誌2015年7月4日号の掲載報告。 研究グループは、地域在住成人のベンゾジアゼピン系薬およびZ薬長期使用に対する投与中止戦略について、scoping reviewにより文献の位置付けと特徴を明らかにして今後の研究の可能性を探った。PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、TRIP、JBI Ovid のデータベースを用いて文献検索を行い、grey literatureについても調査を行った。選択文献は、地域在住成人におけるベンゾジアゼピン系薬あるいはZ薬の投与中止方法について言及しているものとした。 主な結果は以下のとおり。・重複を除外した後の文献2,797件について適格性を検証した。これらのうち367件が全文評価の対象となり、最終的に139件がレビューの対象となった。・74件(53%)がオリジナル研究で、その大半は無作為化対照試験であり( 52件[37%])、58件(42%)がnarrative review、7件(5%)がガイドラインであった。・オリジナル研究の中では、薬理学的戦略が最も多い介入研究であった( 42件[57%])、その他の投与中止戦略として、心理療法、(10件[14%])、混合介入(12件[16%])、その他(10件[14%])が採用されていた。・多くは行動変容介入が併用されており、その中には能力付与による可能化(enablement)(56件[76%])、教育(36件[47%])、訓練(29件[39%])などが含まれていた。・多くの研究、レビュー、ガイドラインに漸減という戦略が含まれていたが、その方法は多様であった。関連医療ニュース 長期ベンゾジアゼピンの使用は認知症発症と関係するか 抗精神病薬の単剤化は望ましいが、難しい メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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認知症患者への睡眠薬投与、骨折に注意

 睡眠薬の使用は、高齢患者における転倒や骨折の潜在的な危険因子である。しかし、睡眠薬と骨折発生との関連についてデータがないことから、東京大学医学部附属病院老年病科の田宮 寛之氏らは、認知症の入院患者における睡眠薬と骨折の関連について、全国入院患者データベースを用いた症例対照研究で検討した。その結果、短時間型ベンゾジアゼピン系睡眠薬と超短時間型非ベンゾジアゼピン系睡眠薬により、認知症入院患者の骨折リスクが高まる可能性が示唆された。PLoS One誌2015年6月10日号に掲載。 著者らは、国内1,057病院の入院患者データベースを使用し、2012年4月~2013年3月の12ヵ月の間に入院した50歳以上の認知症患者を調査した。主要アウトカムは入院中の骨折とした。症例対照研究により、骨折患者と非骨折患者の間で睡眠薬の使用を比較した。 主な結果は以下のとおり。・14万494例のうち830例が院内で骨折した。・年齢・性別・病院で1対4にマッチングした結果、骨折患者817例に対し非骨折患者(対照)は3,158例であった。・Charlson併存疾患指数・緊急入院・日常生活動作(ADL)・水平歩行スコアの調整後、短時間型ベンゾジアゼピン系睡眠薬(オッズ比:1.43、95%信頼区間:1.19~1.73、p<0.001)、超短時間型非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(1.66、1.37~2.01、p<0.001)、ヒドロキシジン(1.45、1.15~1.82、p=0.001)、リスペリドンおよびペロスピロン(1.37、1.08~1.73、p=0.010)の使用患者で骨折が多くみられた。・他の薬剤では、院内骨折との有意な関連は認められなかった。

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問診のみで5年以内の死亡を予測可能?50万人の前向き研究/Lancet

 身体的な検査を行わなくても、通常の問診のみで得た情報が、中高年者の全死因死亡を最も強力に予測する可能性があることが、英国のバイオバンク(UK Biobank)の約50万人のデータを用いた検討で明らかとなった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAndrea Ganna氏とウプサラ大学のErik Ingelsson氏がLancet誌オンライン版2015年6月2日号で報告した。とくに中高年者の余命を正確に把握し、リスクを層別化することは、公衆衛生学上の重要な優先事項であり、臨床的な意思決定の中心的課題とされる。短期的な死亡に関する予後指標はすでに存在するが、これらは主に高齢者や高リスク集団を対象としており、サンプルサイズが小さい、リスク因子数が少ないなどの限界があるという。地域住民ベースの前向き研究で問診の予測スコアを開発 2人の研究者は、UK Biobankのデータを用いて全死因および死因別の5年死亡の評価を行い、個別の死亡リスクを推定するために、患者の自己申告による情報のみを用いて5年死亡の予後指標に基づく予測スコアを開発し、その妥当性の検証を行った。 UK Biobankへの参加者の登録は、2007年4月~2010年7月の間に、イングランド、ウェールズ、スコットランドの21施設で、標準化された方法を用いて行われた。約50万人から、採血、質問票、身体検査、生体試料に基づくデータが収集された。 血液検査、人口統計学、健康状態、生活様式などに関する10群、655項目のデータと、全死因死亡および6つの死因別の死亡カテゴリー(新生物、循環器系疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患、意図的自傷行為や転倒などの外因によるもの、その他)の関連を、Cox比例ハザードモデルを用いて男女別に評価した。参加者の80%以上で欠損した測定値や、サマリデータが得られなかったすべての心肺健康検査の測定値は除外した。 予測スコアの妥当性の検証は、スコットランドの施設で登録された参加者で実施した。英国の生命表と国勢調査の情報を用いて、スコアを英国の全人口に換算した。重篤な疾患がない場合の最大の死亡リスク因子は喫煙 37~73歳の49万8,103例が解析の対象となった。女性27万1,029例(平均年齢56.36歳)、男性22万7,074例(56.75歳)であった。 追跡期間中央値4.9年の間に8,532例(39%[3,308例]が女性)が死亡した。最も多い死因は、男性が肺がん(546例)、女性は乳がん(489例)だった。 男性では、自己申告による健康状態が最も強力な全死因死亡の予測因子であった(C-index:0.74、95%信頼区間[CI]:0.73~0.75)。女性では、がんの診断歴が全死因死亡を最も強力に予測した(0.73、0.72~0.74)。 重篤な疾患を有する者(Charlson comorbidity index:>0)を除外した35万5,043例(55%が女性)のうち、4.9年間に3,678例が死亡し、この集団における最も強力な全死因死亡の予測因子は男女とも喫煙習慣であった。 予測スコアは、男性が13項目、女性は11項目の自己申告による予測因子から成り、男女とも良好な識別能が達成された(男性のC-index:0.80、95%CI:0.77~0.83、女性は同:0.79、0.76~0.83)。死亡率は英国の一般人口より低かったため、生命表と国勢調査の情報に基づいて予測スコアを調整した。 専用のウェブサイト(http://ubble.co.uk/)では、対話形式のグラフ(Association Explorer)で655項目の変数と個々の死因の関連性を閲覧できると共に、オンライン問診票により5年死亡の個別のリスク計算(Risk Calculator)が可能である(正確な予測は40~70歳の英国居住者のみ)。 著者は、「この研究からはさまざま重要なメッセージが読み取れるが、最も重要な知見は、身体的な検査なしに通常の口頭での問診で得られる情報(たとえば、患者の自己申告による健康状態や日常的な歩調など)が、中高年者の全死因死亡の最も強力な予測因子であることが示唆される点である」と結論している。 また、「この予測スコアを用いれば、看護師などの医療者は、患者の自分の健康状態への認識を高め、医師は、死亡リスクの高い患者を同定して特定の介入の対象を絞り込み、政府や保健機関は、特定のリスク因子の負担を軽減することが可能と考えられる」と指摘している。

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非定型抗精神病薬は認知症に有効なのか

 認知症によくみられる神経精神症状の治療に、さまざまな非定型抗精神病薬が広く用いられているが、これらの薬剤の有効性と安全性に関する無作為化比較試験では矛盾する結果が示されている。中国海洋大学のリン・タン氏らは、この問題に取り組むためシステマティックレビューを行った。結果、アリピプラゾールとリスペリドンは、平均12週で認知症の神経精神症状を改善し認知機能の低下を遅らせると結論付けた。ただし、著者は「認知症患者においては、重度の有害事象が非定型抗精神病薬の有効性を相殺する可能性がある」と指摘している。Alzheimer’s Research &Therapy誌オンライン版2015年4月20日号の掲載報告。 研究グループは、認知症患者の神経精神症状に対する非定型抗精神病薬の有効性と安全性を評価する目的で、PubMed、EMBASE、Cochrane Controlled Trials RegisterおよびCochrane Database of Systematic Reviewsを用い、2014年8月までに発表された論文で精神症状を有する認知症患者を対象とした非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、ジプラシドン、クロザピン)療法の無作為化比較試験を検索した。2人の研究者が独立して試験の質を評価し、情報を得た。 結果は以下のとおり。・検索により、23件の無作為化比較試験(合計5,819例)が確認された。・メタ解析において、非定型抗精神病薬はプラセボと比較して精神症状および認知機能に対する効果が有意に優れることが示された。・精神症状に関するスコアの変化量の加重平均差(WMD、対プラセボ)は、アリピプラゾールが-4.4(95%信頼区間[Cl]:-7.04~-1.77)、リスペリドンが-1.48(同:-2.35~-0.61)であった。・認知機能に関するスコア(Clinical Global Impression-Change:CGI-C)の変化は、アリピプラゾール、リスペリドン、オランザピン、クエチアピンにおいて有意な改善が認められ、変化量のWMDは、アリピプラゾールの-0.30(95%Cl:-0.59~-0.01)からリスペリドンの-0.43(95%Cl:-0.62~-0.25)にわたった。・非定型抗精神病薬治療群では、外傷または転倒のリスクに差はなかったが(p>0.05)、傾眠、尿路感染症、浮腫および歩行異常のリスクは有意に高かった(p<0.05)。・死亡に関して重要な所見は報告されなかった。関連医療ニュース 認知症への抗精神病薬、用量依存的に死亡リスクが増加 抗精神病薬は統合失調症患者の死亡率を上げているのか 脳血管性認知症患者に非定型抗精神病薬を使用すべきか  担当者へのご意見箱はこちら

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握力検査で心血管疾患リスクを予測/Lancet

 握力検査は、全死因死亡や心血管死、心血管疾患の簡便で安価なリスク層別化法であることが、カナダ・マクマスター大学のDarryl P Leong氏らPURE試験の研究グループの検討で示された。握力検査による筋力低下と死亡リスク増大の関連が多くの研究で示唆され、そのメカニズムは不明であるものの、死亡リスクの層別化の迅速で安価な方法として注目を集めている。一方、筋力測定の予後因子としての意義に関する既存のエビデンスは高所得国に限られ、全死因や原因別の死亡に焦点が絞られているという。Lancet誌オンライン版2015年5月12日号掲載の報告より。中~低所得国を含め、死亡以外のアウトカムも評価 PURE試験は、さまざまな社会文化的、経済的環境において、独立の予後因子としての握力の意義を評価する前向きコホート研究。対象は、17の高~低所得国の地域住民で、構成員の1人以上が35~70歳、今後4年間は現住所に居住する意思のある世帯とした。  被験者には、ジャマー握力計(Jamar dynamometer)による握力の測定が行われた。フォローアップでは、全死因死亡、心血管死、非心血管死、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、がん、肺炎、肺炎または慢性閉塞性肺疾患(COPD)による入院、すべての呼吸器疾患(COPD、喘息、結核、肺炎など)による入院、転倒による負傷、骨折の評価が行われた。  これらのアウトカムの評価は、個々の担当医が標準化された判定基準に則って行い、事前に規定された定義や判定基準により中央判定で確証された。収縮期血圧よりも強力に死亡を予測 2003年1月~2009年12月に14万2,861人が登録され、13万9,691例(女性:8万1,039例、男性:5万8,652例)が解析の対象となった。全体の年齢中央値は50歳(四分位範囲:42~58歳)、平均握力は30.6kgであった。  年齢と身長で補正した握力は、国や民族によってばらつきが認められた。男性の平均握力は、低所得国が30.2kg、中所得国が37.3kg、高所得国は38.1kgであり、女性はそれぞれ24.3kg、27.9kg、26.6kgだった。フォローアップ期間中央値は4.0年(四分位範囲:2.9~5.1年)であり、この間に2.4%(3,379人)が死亡した。  握力が5kg低下するごとに、全死因死亡(ハザード比[HR]:1.16、95%信頼区間[CI]:1.13~1.20、p<0.0001)、心血管死(1.17、1.11~1.24、p<0.0001)、非心血管死(1.17、1.12~1.21、p<0.0001)、心筋梗塞(1.07、1.02~1.11、p=0.0024)、脳卒中(1.09、1.05~1.15、p<0.0001)の発症率が有意に上昇した。 一方、握力と糖尿病、肺炎、肺炎またはCOPDによる入院、転倒による負傷、骨折との間には有意な関連はみられなかった。また、がんおよび呼吸器疾患による入院を除き、補正後の握力と各アウトカムの間に、高~低所得国を通じて類似の関連が認められた。  高所得国では、がんのリスクと握力に正の相関が認められた(HR:0.916、95%CI:0.880~0.953、p<0.0001)が、中および低所得国ではこのような関連はみられなかった。  全死因死亡に関して、補正後の握力(HR:1.37、95%CI:1.28~1.47、p<0·0001)は収縮期血圧(1.15、1.10~1.21、p<0.0001)よりも強力な予測因子であり、心血管死についても、握力(1.45、1.30~1.63、p<0.0001)は収縮期血圧(1.43、1.32~1.57、p<0.0001)に匹敵する予測因子であった。一方、心血管疾患の予測では、握力(1.21、1.13~1.29、p<0.0001)よりも収縮期血圧(1.39、1.32~1.47、p<0.0001)のほうが強力であった。  さらに、握力が強いほど、心筋梗塞、脳卒中、がん、肺炎、肺炎またはCOPDによる入院、転倒による負傷、骨折による死亡のリスクが低かった。  著者は、「握力には個々の国やその所得の違いで異質性があり、握力は死亡リスクだけでなく心血管疾患のリスクとも逆相関することが示された」とし、「低筋力は疾患発症の感受性のバイオマーカーであり、心血管疾患と非心血管疾患のいずれのリスクが高いかを同定する指標となる可能性がある」と指摘している。

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水泳は気管支喘息の子供の運動耐容能や呼吸機能を改善【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第41回

水泳は気管支喘息の子供の運動耐容能や呼吸機能を改善 >足成より使用 水泳は気管支喘息のリスクでもあり、一方で気管支喘息の呼吸リハビリテーションにもなりうるという二面性を持っています。といっても運動誘発性気管支攣縮は別に水泳に限ったことではないため、後者の利益を重視する研究者のほうが多いように感じます。 Beggs S, et al. Swimming training for asthma in children and adolescents aged 18 years and under. Cochrane Database Syst Rev. 2013; 4: CD009607. この報告は、18歳以下の気管支喘息患者さんに対する、水泳の訓練の効果と安全性を調べたシステマティックレビューです。水泳の訓練と他のケアを比較した試験を集め、メタアナリシスを行いました。その結果、8試験・262人が組み込まれました。安定した患者さんから重症の患者さんまで気管支喘息の重症度はさまざまでした。水泳の訓練はおおむね30~90分で、週2~3回、期間としては6~12週継続されました。水泳の比較対象としては、通常ケアが7試験、ゴルフが1試験でした。結果として、水泳は通常のケアやゴルフと比較してQOL、喘息発作、副腎皮質ステロイドの使用というアウトカムに対して統計学的に有意な効果をもたらしませんでした。ただし、水泳は通常のケアと比べて最大酸素消費量、すなわち運動耐容能に効果がみられました。また、呼吸機能検査のパラメータにもわずかながら効果があったと報告されています。プールに使用されている塩素の有無によって、これらのアウトカムに変化がみられるのかどうかはわかりませんでしたが、少なくとも水泳が気管支喘息の患者さんにとって悪さをするものではないだろうと結論付けられました。ただし、他の運動療法と比較して水泳がベストかどうかという点は、不明といわざるを得ません。この研究では塩素について触れられていましたが、とくに室内プールにおける塩素は小児の気管支喘息を悪化させるのではないかとする意見もあります(Immunol Allergy Clin North Am. 2013; 33: 395-408.)。水泳に運動耐容能を増加させる可能性があるにもかかわらず、塩素が気管支喘息を悪化させるのであれば本末転倒ですね。インデックスページへ戻る

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注意が必要、高齢者への抗コリン作用

 高齢者への薬物治療において、しばしば問題となる抗コリン作用。オーストラリア・フリンダース大学のKimberley Ruxton氏らは、抗コリン作用を有する薬剤と高齢者の認知機能障害や転倒、全死因死亡との関連をシステマティックレビューおよびメタ解析で検証した。British journal of clinical pharmacology誌オンライン版2015年3月2日号の報告。 65歳以上を対象とし、抗コリン作用を有する薬剤(DACEs)の使用と転倒、認知機能障害、全死因死亡との関連を検討したランダム化比較試験、前向きおよび後ろ向きコホート研究、ケースコントロールスタディを、CINAHL、Cochrane Library、EMBASE、PubMedのデータベースを使用し検索した。期間は2013年6月以前に公表されたものとした。抗コリン薬への曝露は、薬物クラス、DACEスコアリングシステム(anticholinergic cognitive burden scale [ACB]、anticholinergic drug scale [ADS]、anticholinergic risk scale [ARS]、anticholinergic component of the drug burden index [DBIAC])または各DACEsの評価により調べた。メタ分析は、個々の研究から結果をプールして行った。 主な結果は以下のとおり。・18報の研究が選択基準を満たした(合計参加者12万4,286例)。・DACEsへの曝露は、認知機能障害のオッズ増加と関連していた(OR 1.45、95%CI:1.16~1.73)。・オランザピンとトラゾドンは、転倒のオッズおよびリスクの増加と関連していた(各々OR 2.16、95%CI:1.05~4.44;RR 1.79、95%CI:1.60~1.97)。しかし、アミトリプチリン、パロキセチン、リスペリドンでは関連が認められなかった(各々RR 1.73、95%CI:0.81~2.65;RR 1.80、95%CI:0.81~2.79;RR 1.39、95%CI:0.59~3.26)。・ACBスケールの単位増加は、全死因死亡のオッズ倍増と関連していた(OR 2.06、95%CI:1.82~2.33)。しかし、DBIACまたはARSとの関連は認められなかった(各々OR 0.88、95%CI:0.55~1.42;OR 3.56、95%CI:0.29~43.27)。・特定のDACEsまたは全体的なDACE曝露の増加は、高齢者の認知機能障害や転倒リスク、全死因死亡率を増加させる可能性がある。関連医療ニュース長期抗コリン薬使用、認知症リスク増加が明らかに統合失調症患者の抗コリン薬中止、その影響は抗コリン薬は高齢者の認知機能に悪影響

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エンザルタミド、前立腺がんの無増悪生存期間を延長

 アステラス製薬株式会社は4月3日、米国メディベーション社と共同で開発・商業化を進めているアンドロゲン受容体阻害剤エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)について、第II相STRIVE試験の結果が得られたと発表した。 STRIVE試験では、非転移性または転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象としてエンザルタミドとビカルタミドを比較している。主要評価項目である無増悪生存期間において、エンザルタミド群ではビカルタミド群と比較して統計学的に有意な延長が認められたとのこと。無増悪生存期間の中央値は、ビカルタミド群の5.7ヵ月に対し、エンザルタミド群では19.4ヵ月であった。また、投与期間の中央値は、エンザルタミド群で14.7ヵ月、ビカルタミド群で8.4ヵ月だった。 重篤な有害事象はエンザルタミド投与群の29.4%、ビカルタミド投与群の28.3%でみられ、グレード3以上の心臓関連の有害事象は、エンザルタミド投与群の5.1%、ビカルタミド投与群の4.0%でみられたという。また、痙攣発作は試験中にエンザルタミド群で1例みられ、ビカルタミド群ではみられなかったという。投与期間中に最もよくみられた副作用のうち、ビカルタミド投与群よりもエンザルタミド投与群で多くみられたものは、疲労、背部痛、ほてり、転倒、高血圧、めまい、食欲減退であり、これまでに知られているエンザルタミドの安全性プロファイルと一致していたとのこと。詳細はアステラス製薬のプレスリリースへ

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循環器疾患 予防のための提案2つ

 「2025年問題」―皆さんは、この言葉をご存じだろうか? いわゆる「団塊の世代」が2025年に75歳以上の後期高齢者となり、医療経済の負担が大幅に増加する問題である。 2015年3月17日、都内にて「循環器疾患の予防による健康寿命の延伸」をテーマに、メディアワークショップ(主催:公益財団法人 日本心臓財団)が開催された。本セミナーの演者は山科 章氏(東京医科大学 循環器内科 主任教授)。健康寿命を縮める原因 超高齢社会に突入した日本が抱えている問題の1つに「介護・寝たきり」がある。要介護状態となる主な原因は脳卒中をはじめとする循環器疾患、関節疾患および転倒である1)。さらに、脳血管疾患と心疾患を含む循環器疾患は、がんと並んで日本人の主要死因の一角を占めている2)。この現状から、循環器疾患を予防する重要性がさらに増している。医師法第1条にも規定されている「予防医学」 山科氏は、健康寿命を延長させるための提案として、まず初めに医師法第1条の重要性に触れた。第1条には「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」という、いわゆる「予防医学」が規定されている。 健康寿命を延長するには、発症してから発見・治療することに加えて、発症を予測・予防していく医療も大切にすることが重要である。山科氏は「日常診療において、目の前の疾患の治療に目が行きがちではあるが、予防医学の重要性を再認識しなければならない」と強調した。血管障害を検出する意義とその指標 では、循環器疾患を予防していくためには、どうすればよいのだろうか? 現在、血管障害を検出するにあたり、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの古典的な動脈硬化危険因子のみのリスク評価が行われていることが多い。しかし、血管障害の早期発見にはこれだけでは不十分である。山科氏は、昨今行われているABII)とbaPWVII)という2つの検査を紹介した。この検査を活用することで、より正確なリスクが評価でき、無症状のうちから血管障害の早期発見が可能となり、早期治療につなげることができるという。循環器疾患を予防するための提案 健康寿命を延ばすためには、循環器疾患の早期発見と治療の継続が重要である。そのためには、検査を活用し、ハイリスクな治療群を効率的に抽出することが望まれる。さらに、運動・食事・睡眠などの生活習慣を改善する意義について継続的な教育を行い、リスクが低いうちからイベント発症を予防していくことが求められる。 山科氏は、「交通業界では、飲酒運転の罰則、シートベルトの義務化など安全対策への取り組み、交通安全の学校教育を続けた結果、車の台数が増え続けている現在でも自動車事故死亡率はなお減少し続けている。循環器疾患においても、血管障害の予防意識を教育していくことが発症予防につながるため、継続して行っていくべきだ」と力説した。注釈:I) ABI(足関節/上腕血圧比):足首と上腕の血圧を測定し、その比率を計算したもので、血管の狭窄や閉塞などが推定できる。通常は、横になった状態で両腕と両足の血圧を測ると、足首のほうがやや高い値を示す。しかし、動脈に狭窄や閉塞があると、その部分の血圧は低下する。動脈の狭窄や閉塞は主に下肢の動脈に起きることが多いため、血圧比によって足の動脈の詰まりを予測でき、ABIが低値になるほど詰まっている可能性が高くなる。II) baPWV(上腕-足首間脈波伝播速度):上腕と足関節での脈波を採取し、2点間の時間差と距離を求めることで、速度を算出したもので、血管のしなやかさを評価できる。健常者の血管は伸展性があるため、拍動(脈波)は血管壁で吸収され、ゆっくりと伝わる。しかし、血管が硬化すると拍動が血管壁で吸収されず、速く伝わり、血管や臓器にダメージを与える。加齢などに加え、動脈硬化の危険因子によりbaPWVが高くなるほど、脳・血管系疾患を発症するリスクが大きくなる。【参考】1)厚生労働省「国民生活基礎調査2010」 2)厚生労働省「健康日本21(第2次)」(PDF)

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重度アルツハイマー病に心理社会的介入は有効か:東北大

 重度アルツハイマー病に対する心理社会的介入は有効なのか。東北大学の目黒 謙一氏らは、重度アルツハイマー病患者に対する薬物療法に心理社会的介入を併用した際の効果を明らかにするため、介護老人保健施設入所患者を対象に前向き介入試験を実施した。その結果、意欲改善やリハビリテーションのスムーズな導入、および転倒事故の減少がみられたという。著者は、「心理社会的介入の併用治療アプローチは、重度の患者に対しても有用な効果を示した。ただし、より大規模なコホートを用いて再検証する必要がある」と述べている。BMC Neurology誌オンライン版2014年12月17日号の掲載報告。 コリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー病(AD)の進行を遅らせることができ、中等度~重度ADに対する臨床的効果が、複数の臨床試験により首尾一貫して報告されている。また、軽度~中等度AD患者においては、心理社会的介入との併用による効果が報告されているが、重度AD患者に対する同薬と他の治療アプローチもしくはリハビリテーションを併用した際の効果については議論の余地が残っている。そこで研究グループは、介護老人保健施設入所患者を対象に、前向き介入試験を実施した。 2ヵ所の介護老人保健施設(N1、N2)を対象とした。N1は126床の施設で、ドネペジルでの治療は行わずに心理社会的介入のみ(現実見当識訓練[リアリティオリエンテーション]および回想法)を実施した。N2は認知症特別室50床を含む150床の施設で、ドネペジルを処方し、心理社会的介入に加えてリハビリテーションが実施された。N1およびN2の重度AD患者(MMSE<6)32例(16 vs. 16)を対象として、心理介入療法の有無別(各施設8 vs. 8)に、ドネペジル(10mg/日、3ヵ月間投与)の効果を比較した。意欲の指標としてVitality Indexを用いて日常生活行動とリハビリの導入について評価した。 主な結果は以下のとおり。・N2におけるドネペジルの奏効率(MMSEが3+)は37.5%であった。・ドネペジル+心理社会的介入は、Vitality Indexの総スコア(Wilcoxon検定のp=0.016)、およびサブスコアのコミュニケーション(p=0.038)、食事(p=0.023)、リハビリテーション(p=0.011)を改善した。・大半のリハビリテーションはスムーズに導入され、転倒事故の頻度が減少した。・薬剤を使用していないN1での心理社会的介入では、総スコアの改善のみ認められた(Wilcoxon検定、p=0.046)。関連医療ニュース 認知症患者への精神療法、必要性はどの程度か 認知機能トレーニング/リハビリテーションはどの程度有効なのか 統合失調症へのアリピプラゾール+リハビリ、認知機能に相乗効果:奈良県立医大  担当者へのご意見箱はこちら

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軽度認知障害からの進行を予測する新リスク指標

 軽度認知障害(MCI)からprobableなアルツハイマー型認知症(AD)への進行を予測する新たな診断基準が、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のSei J. Lee氏らにより開発提示された。臨床指標をベースとしたリスク予測因子で、臨床医がMCI患者の進行について低リスクvs.高リスクを鑑別するのに役立つ可能性があるという。PLoS One誌2014年12月8日号の掲載報告。 研究グループは、MCIから認知症への進行について、大半を臨床で即時に入手できる情報だけを用いた3年リスクの予測指標の開発に取り組んだ。多施設共同長期観察研究であるAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)登録患者で、健忘型MCI(Amnestic MCI)と診断された382例の情報を集めて、人口統計学的情報や併存疾患、症状や機能に関する介護者の報告、基本的神経学的尺度の各項目の被験者の実行能を調べた。主要評価項目は、probable ADへの進行であった。 主な結果は以下のとおり。・被験者は、平均年齢75歳(SD 7)であった。・3年以内に43%が、probableなADに進行した。・進行に関する重大予測因子は、女性、支援拒否、介護者がいない時に転倒、1人での買い物が困難、予定を覚えていない、10単語リストの思い出し正答数、見当識、時計を描くのが困難、であった。・最終ポイントスコアは0~16(平均[SD]:4.2[2.9])であった。・optimism-corrected Harrell'sによるC統計値は0.71(95%CI:0.68~0.75)であった。・3年間でprobableなADに進行したのは、低リスクスコア被験者(0~2ポイント、124例)では14%であった一方、中リスクスコア被験者(3~8ポイント、223例)は51%、高リスクスコア被験者(9~16ポイント、35例)は91%であった。関連医療ニュース 早期介入により認知症発症率はどこまで減らせるか? 統合失調症患者を発症前に特定できるか:国立精神・神経医療研究センター 統合失調症の発症は予測できるか、ポイントは下垂体:富山大学  担当者へのご意見箱はこちら

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サイレント・プア【ひきこもり】

今回のキーワード自発性自信関係依存過保護、過干渉承認進化心理学「なんでひきこもるの?」皆さんは、ひきこもりの生活スタイルを不思議に思ったことはありませんか? 特に身体的な問題や明らかな精神的な問題がないのに、ほとんど家から出ず、重度の場合は部屋からも出ず、社会参加をしない。そのような生活を若年から年単位で続ける。「自分だったら、そんな生活では数日で居ても立ってもいられなくなる」。そう思う人もいるでしょう。現在、医療機関にも、ひきこもりについて相談に来る家族は増え続けています。海外でも増えていることが確認されており、どうやら普遍性があるようです。そんな中、メンタルヘルスの現場だけでなくテレビや新聞でも「なぜひきこもりになるのか?」「ひきこもりをやめさせるにはどうしたらいいのか?」というテーマをよく見かけるようになりました。今回は、進化心理学的な視点から、「なぜひきこもりは『ある』のか?」というテーマまで踏み込みます。取り上げるドラマは、2014年に放映されたNHKドラマ「サイレント・プア」の第5話です。サイレント・プアとは、「声なき貧困」という意味で、経済的な貧しさだけでなく精神的な貧しさに困り果てている高齢者や障害者たちのことです。彼らを救おうとして活動するコミュニティ・ソーシャルワーカーにスポットライトを当てています。なお、このドラマは、NHKオンデマンド(https://www.nhk-ondemand.jp)にて現在配信中です。あらすじ主人公のコミュニティ・ソーシャルワーカーの涼が、ひきこもりの自立を支援するサロンを立ち上げたところから、ストーリーは始まります。順調な滑り出しの中、その町の自治会長の園村は、その運営にいぶかしげに首を突っ込んできます。それには、深いわけがありました。園村の一人息子の健一は、海外で成功しているはずだったのですが、実は30年も自宅に引きこもっていたのです。そして、とうとう園村は、50歳になる息子の行く末を案じて、彼の存在を涼に打ち明けるのです。ひきこもりの心の底は? ―ひきこもりの心理(1) 欲がない―自発性の不足1つ目の特徴は、欲がないことです。健一は、部屋に閉じこもり、唯一していることは、本を読むかインターネットを見ることです。食事は部屋の前まで母親に運んでもらい、時々、部屋を出て、冷蔵庫から食べ物を調達しています。生きるための基本的な欲求しか満たされていません。健一は、涼に「夢はありますか?」と訊ねられると、「そんなもん、あるわけねえだろうが」と吐き捨てています。一方、対照的なのは、涼の祖父の発言です。祖父は、涼に「じいちゃんの夢は?」と訊ねられると、「この店(クリーニング店)がじいちゃんの夢だ」「自分で始めたんだから潰しちゃなんねえって必死だった」「(夢は)一度はばあちゃんと海外旅行に行きてえと思ってた」と楽しげに語ります。多くの人は、友達といっしょにいたい、仕事などを通して誰かの役に立ちたい、パートナーや子どもなどを愛し愛されたいといった社会的な欲求があります。そこには、達成感や充実感があります。しかし、健一は、その欲求が実はあるにはあるのですが、行動を起こすほどではないのです。達成感や充実感を求める欲が鈍くなっています(ドパミンの活性低下)。言い換えれば、自発性が足りないのです。自発性は、主体性、自主性、能動性、積極性、創造性などを生み出します。(2) 自信がない―ストレスへの過敏性2つ目の特徴は、自信がないことです。健一は、「僕が付けてる日記だよ」「その日食った飯のことだけ」「毎日それだけ」「空っぽなんだよ、おれは」と涼に訴えかけます。一方、対照的に、涼の祖父は、「どんなに着古した洋服でも新品のように仕上げる」「じいちゃんの仕事は新しい一日を迎えるお手伝い」「今だってそう思ってる」と誇らしげに言っています。祖父は、自分の今までやってきたことに誇りや自信を持っています。自信とは、自分の考えや行動が正しいと信じることです。これは、周りから認められること(承認)によって培われます。健一は、この承認の積み重ねがないことを「空っぽ」であると言い表しています。そこには、安心感や安定感がありません。何か行動を起こすことへの不安や緊張を抱きやすく、慎重であり臆病になります。失敗への恐怖が強く、ストレスに過敏です(ノルアドレナリンの易反応性)。この不安があまりにも強い場合は、社交不安障害や回避性パーソナリティ障害と診断されることがあります。(3) 現状に甘んじる―関係依存3つ目の特徴は、現状に甘んじていることです。父親である園村は健一に「50にもなる男が、一生このままで恥ずかしくないのか?」と叱責し続けます。あまり居心地は良くないです。しかし、同時に、健一の母親は、「(この料理は)健一の好物でね」「私にはこれくらいしかできないから」と涼に言い、健一の部屋の前まで食事をかいがいしく運んでいます。そこには、どんなことがあっても息子を見捨てないという変わらない愛情があります。健一はその愛情を享受し、同時に依存しています。「なんだかんだ言って面倒見てくれる」という基本的信頼感のもと、頼り切ってしまい、その現状に甘んじて、ハマっています。そこは、うるさい父親とかかわりさえしなければ、居心地は良く(安全基地)、安心感や安全感があります(相対的なオキシトシンの活性亢進)。そして、そこから抜けたくても抜けられなくなっています(関係依存)。表1 ひきこもりの3つの心理の特徴とその要因 欲がない(自発性の不足)自信がない(ストレスへの過敏性)現状に甘んじる(関係依存)神経伝達物質ドパミンの活性低下ノルアドレナリンの易反応性相対的なオキシトシンの活性亢進要因本人ひきこもりを続けること(悪循環)家族構い過ぎる(過干渉)認めない(承認の欠如)心配し過ぎる(過保護)社会親の時間的余裕結果重視の価値観経済的余裕なぜひきこもるのか?それでは、なぜひきこもるのでしょうか? ひきこもりの原因を、本人、家族、社会という3つの要素に分けて探ってみましょう。ひきこもりは本人のせい?まず、ひきこもりは、もちろん本人に原因があります。なぜなら、ひきこもりは本人がひきこもろうという意思を持ってひきこもるからです。ただ、困ったことは、ひきこもりは続ければ続けるほど、続くことです。どういうことかと言うと、ひきこもりは続けていること自体で、ますます欲がなくなり、その引け目も加わりますます自信もなくなり、ますます現状に甘んじてしまい、ひきこもりから抜け出せなくなってしまう悪循環があるということです。例えば、体を動かさない寝たきり状態では、体の様々な機能は衰えていき、風邪をひきやすくなり、ますます寝たきりを深刻にさせてしまいます(廃用症候群)。宇宙飛行士が無重力で足腰や骨が弱っていくのも同じメカニズムです。このように、重力がなければ、体は鈍り弱っていきます。同じように、心も、「重力」がなければ、鈍り弱っていき「寝たきり」になってしまいます。それでは、心の「重力」とは何でしょうか? それは、社会参加による刺激です。ひきこもりは、心の「無重力」状態と言えます。社会参加による刺激は、達成感や充実感であると同時に、ストレス負荷でもあります。仕事などで他人(家族以外)とかかわる経験を重ねていく中で、達成感や充実感による喜びや楽しさから「次はこうしたい」「ああなりたい」という欲が次々と膨らみます(ドパミンによる報酬)。一方、ストレスによる不安や緊張を積み重ねることでストレス耐性が強まります(ノルアドレナリンの制御)。そこに周りから認められることによって(承認)、安心感や安定感が芽生え、自信が生まれていきます。心が鈍り弱っていくとは、喜びや楽しさに鈍くなるだけでなく、相手の気持ちを察するのも鈍くなります。ちょうど、運動能力や語学力は使っていないと錆びついていくのと同じように、人間関係を築く力(社会脳)もひきこもっていては磨かれない。それどころか衰えていきます。口下手になり、恋愛下手になっていきます。さらには、自分の気持ちを察するのも鈍くなり、ものごとのとらえ方(認知)が独りよがりになる場合があります。例えば、自信はないのにプライドは高いという状態です。そこには、何もしないでいれば何でもできるという可能性(万能感)の中に留まってしまう心理があります。また、ストレスに過敏になります。普段は無刺激の生活をしているので、対人関係での些細な刺激がとんでもないストレスになってしまいます。普段に使い切れずにたまっているストレスホルモンが大量に出るのです(ノルアドレナリンの易反応性)。家族には横暴になりがちです。仕事を始めても、最初は打たれ弱く傷付きやすくなります。ひきこもりは家族のせい?ひきこもりは本人だけが原因でしょうか? そうとは言えなさそうです。原因は家族にもあります。なぜなら、ひきこもる「基礎」をつくったのは家族だからです。再び、体と心を対比して考えてみましょう。もともと基礎体力が低くて体が弱い人がいるのと同じように、もともと基礎の「心の力」が低くて、心が脆(もろ)く弱い人もいます(脆弱性)。つまり、個人差です。この個人差は、体力にしても、「心の力」にしても、その人の遺伝的な体質や気質だけでなく、どういうふうに育てられたか(生育環境)も影響を与えています。それでは、どういうふうに育てられたか、つまりどんな家族のかかわり方がひきこもりの「基礎」をつくりやすいのかを、園村がかつて健一にした仕打ちから読み取り、大きく3つの要素に整理してみましょう。(1) 構い過ぎる―過干渉園村は涼に打ち明けます。「30年前に、あいつ(健一)は大学受験直前になって絵描きになりたいと言い出したんだよ」「(そこで)私は、あの子が美大へ行くためにこっそり書いてた絵を全部燃やしたんですよ」と。一方、健一は涼に心の内を漏らします。「あの人(父親)は自分の思い通りに息子を動かしたかっただけ」「僕は大学を2浪して落ちた時、園村家の恥だと言われた」「この世の中におまえの居場所なんかないって」「僕は人生つぶされたんですよ」「絵を描いてると僕は息ができた(のに)」と。1つ目の要素として、親が子どもに構い過ぎていることです(過干渉)。もっと言えば、自分の思い通りにするために、一方的に力でねじ伏せ、親の支配力を見せ付けています。健一の方は、息苦しくも必死になって親の期待通りに生きてきました。しかし、この一件で、彼は自分のつくった世界や夢を「灰」にさせられてしまったのです。ひきこもりの生い立ちを探ると、「もともと手のかからない良い子」という親の印象があります。その背景として、親が過干渉である現実があります。親は、先回りして本人の行動を全てコントロールし、理想の子どもをつくろうとします。すると、子どもは、言われるままに必死に行動し(外発的動機付け)、自分で考える喜びや達成感を味わうこと(内発的動機付け)がなくなります。また、自分の考えで何かをやったことがあまりないと、そうすることに戸惑いや恐れを抱きやすくなります。さらには、逆らえないことを長期間学習した結果、意識せずに無気力になってしまうことが分かっています(学習性無気力)。こうして、自発性が低下していき、欲がなくなるのです。本来、自分で何かをやり遂げる感覚は、子どもの発達段階において必要な刺激です(勤勉性)。ここから自分で成長しようとする能力(自己成長)やどうやって生きていくか自分で決める意識(自己確立)がさらに育まれていくからです。(2) 認めない―承認の欠如園村は、町の人たちに「息子は日本にはおりません」と告げ、海外のビジネスで大成功を収めていることにしています。また、焦りやもどかしさから、健一に「おい、いつまでそんなこと(ひきこもり)をしているつもりだ!」「お前の人生はそんなんでいいのか!?」「おまえはクズだ!」と罵ります。健一の方は、涼に「あの人(父親の園村)が気にするのは人の目だけ」「僕のことだって恥だから人に言わなかった」「おれは我が家の恥です」と訴えかけます。園村は、体裁を気にするあまり、ひきこもっている健一の存在を周りに明かしません。健一は、父親によって存在を消されているのです。また、かつて健一が「こっそり」と反抗していたことを園村が掌握していた事実を考えると、健一は、監視の目が厳しい中で息の詰まる思いをしていたことでしょう。健一には、プライバシーがなく、自分の世界をつくることも許されなかったのです。2つ目の要素として、親が子どもの考えや行動を認めていないことです(承認の欠如)。支配的な親の典型的な行動パターンとして、思春期の子どもの携帯の着信履歴やメール、日記をのぞき見したり、部屋を勝手に掃除することです。本人が大切にしているものや秘密は尊重されておらず、親に本人の世界という自己(アイデンティティ)を認めない姿勢が伺えます。すると、子どもは、自分の考えや行動に自信を持てなくなります。(3) 心配し過ぎる―過保護園村は、健一の絵を燃やした理由を涼に言います。「しっかりとした大学へ行き、安定した企業に入り、立派な人生を送ってほしかった」「それが親の務めだ、そうでしょ?」と。園村は現在の健一に「おれも母さんもいつかは死ぬ」「おまえはたった独りで生きていかねばならんのだ」との切実な思いを吐露します。すると、健一は園村に「今さら何言ってんだ」「あんたがそうさせたんじゃないか」「あんたは自分のことしか考えていない」と言い返します。言い当てている部分はあります。親なりに子どもの幸せを願って良かれと思ってしてきたことが裏目に出ているのでした。3つ目の要素として、親が子どもを心配し過ぎることです(過保護)。愛情は十分に注いでいるのですが、その注ぎ方に問題があったのです。大切にし過ぎて、子ども扱いし、抱え込んでいます。一人の人格を持った大人として見なしていません。一方、健一は、親の期待に反発しつつも、結果的に保護される、つまり子ども扱いされることに甘んじています。本来の愛情は、本人が思春期になったら、本人の幸せのために、夢や希望(自発性)を温かい目で後押しして、困った時に保護することです。愛情が溢れる余りに心配性になり、困ってもいないのに保護して(過保護)、その結果、本人の夢や希望をくじき不幸せな思いをさせるのは、本末転倒と言えます。なぜ複雑な家庭環境ではひきこもりが少ないの?逆に、構い過ぎ(過干渉)や心配し過ぎ(過保護)の対極を考えてみましょう。それは、あまり構わず心配もしない、つまり放置です。これは、育児に時間が取れない一人親家庭、育児が適切に行われていない心理的に荒れた家庭、育児に関心が乏しいネグレクト(育児放棄)や心理的虐待などの複雑な家庭環境が背景にあります。すると、子どもはどうなるでしょうか? 「早く自分で生きていこう」「早く一人前になりたい」という心理(自発性)が高まります。それが望ましくない形で出てくる場合が、家出などの非行です。非行の心理は、「普通の子にはマネできないすごいことをやってのけている」という悪いことをあえてできる自分を周りに示すことに意味があります。そして、見捨てられても大丈夫な自分を演出します。これが、複雑な家庭環境、つまりあまり構わない親のかかわり(放置)では、統計的にひきこもりが少ない理由であると考えられます。一方、構い過ぎ(過干渉)はその逆で、「一人前になりたいたいわけではない」「まだ一人前になりたくない」というひきこもり独特の心理を高めていることが分かります。本来は、親が「ほどほどに構う」ことで、子どもが「ちょっとずつ一人前になる」という関係が望ましいはずです。なぜ低所得層の家庭環境ではひきこもりが少ないの?低所得層の家庭、いわゆる貧困の家庭では、生活に足りないものが出てきます。子どもは、友達と違い、自分は欲しい物がなかなか手に入らないことを自覚します。すると、その渇望感から欲しい物が手に入ることの喜びに敏感になり、生物学的な感受性が高まっていきます(ドパミンの活性)。それが、欲深さであり、ハングリー精神です。こうして、子どもの自発性は高められていき、ひきこもりにはなりにくくなります。また、そもそも経済的に厳しい家庭は、ひきこもりを養っていくだけの経済力がありません。逆に言えば、裕福な家庭では、親子のコミュニケーションのパターンが、心配し過ぎ(過保護)から与え過ぎにすり替わってしまいやすくなります。子どもの望むものが簡単に買い与えられてしまい、欲しいものに飢えることがなくなれば、自発性がとても弱くなるリスクがあります。ここから分かることは、経済的に恵まれている家庭は、ひきこもりが起こりやすくなることを理解する必要があるということです。ひきこもりは社会のせい?それでは、ひきこもりは本人と家族の問題でしょうか? それだけとも言えません。なぜなら、ひきこもりは、世の中で90年代から徐々に増え続けている現実があるからです。つまり社会問題として、普遍性があるということです。最初のひきこもりが90年代に20歳代だとしたら、その幼少期は70年代になります。親を、構い過ぎ(過干渉)、認めない(承認の欠如)、心配し過ぎ(過保護)の3つの心理に駆り立てるようになった70年代以降の社会の変化とは何でしょうか? 大きく3つ挙げられます。(1) 親(特に母親)が暇になった―親の時間的余裕今回のドラマで健一の母親がかつてどうだったかは描かれていませんが、1つ目の社会の変化は、親(特に母親)が暇になったことです。世の中が便利になり、家庭の中も便利になりました。それに加えて、核家族化や少子化によって、時間的余裕を持つ母親が増えました。そして、その余った時間を全て子育てに注ぐ、子育てが生きがいの母親が出てきたことです。こうして、構い過ぎ(過干渉)がエスカレートしていくようになりました。さらには、早期教育、習い事、塾など様々な教育サービスの充実によって、構い過ぎの選択肢はますます増えていきました。そして、いわゆる「お受験ママ」「ステージママ」などの教育に熱を入れ過ぎる母親が登場します。彼女たちによって、ごく一握りの才能のある子どもを除いて、多くの子どもはこれらの活動を強いられて、本来あったやる気(自発性)はますます育まれなくなります。(2) 競争社会になった―結果重視の価値観町内会の会議でのワンシーンを見てみましょう。メンバーが「こういうことはさあ、もっとこう楽しく時間かけてやることに意味があるんだってさあ」と提案して議題から脱線して会話を楽しんでいます。すると、自治会長の園村は、「おほん、効率良くやりませんかね?」「無駄な時間を使えない」「うちの自治会主催の桜祭りはもう何年も閑古鳥ですね」と釘を刺します。園村は、信用金庫の理事を最後に退職しており、もともとお金や時間の無駄にとても厳しいのでした。このシーンからも見てとれる2つ目の社会の変化は、競争社会になったことです。社会の価値観は、競争に勝つために、効率重視、結果重視に傾いていきます。世の中のあらゆるものに価値を求めるようになった結果、子どもにも価値を求めるようになりました。そして、競争に負けてほしくない親心から、「負けたくない子育て」に重きを置かれるようになります。ほめるにしても叱るにしても、結果に重きが置かれるため、どんなに子どもが一生懸命にやって楽しんでいても、そのプロセスについては認めにくくなります(承認の欠如)。親の望むような結果にならなければ、自信はいつまで経ってもつきません。そういう子どもを増やしてしまったのです。(3) 物質的には豊かになった―経済的余裕健一は、一人息子として、立派な一軒家の離れに住んでいます。とても裕福です。ひきこもっていても、物質的には不自由なく生活できています。この様子から読み取れる3つ目の社会の変化は、物質的には豊かになったことです。それは、家族が、経済的に恵まれていくことで、その子どもがひきこもりになりやすい基礎をつくってしまったことです。そして、家族がひきこもる人を経済的に養うことができるようになったことです。その家族の経済力によって、「働かなくても良い」という発想を持つ人が増えてしまったのです。かつて、世の中が豊かではない時、「働かざる者、食うべからず」という考え方が一般的でした。例えば、発展途上国にひきこもりはいません。当たり前ですが、そんなことをしたら生存が危うくなるからです。現在は、「働かざる者も食える」時代になってきたということです。働かなければならない状況なら、そもそもひきこもりにはならないということです。しょうがなく何とか働いているでしょう。これが、現状に甘んじているという心理です。なぜひきこもりは「ある」のか?これまで、「ひきこもりとは何か?」「なぜひきこもりになるのか?」というテーマで考えてきました。ここからは、さらに踏み込みます。そもそも「ひきこもりはなぜ『ある』のでしょうか?」 言い換えれば、「ひきこもりは、なぜ昔になくて今あるのでしょうか?」 この問いへの答えを、進化心理学的な視点で探ってみましょう。私たち人間の体は環境に適応するために進化してきました。同じように、私たち人間の心も進化してきました。その適応してきた環境とは、狩猟採集生活を営んでいた原始の時代です。その始まりは、チンパンジーと共通の祖先から私たちの祖先が分かれていった700万年前です。現代の農耕牧畜を主とする文明社会は、たかだか1万数千年の歴史であり、進化が追い着くにはあまりにも短いと言えます。つまり、進化心理学的に考えると、私たちの心の原型は、まさにこの原始の時代に形作られました。その原始の時代の一番の問題は飢餓でした。この飢餓を乗り越えるために、私たちの体では様々なメカニズムが進化しました。例えば、低血糖にならないためのメカニズムとして、血糖値を上げるホルモンは数種類もあることです。また、飢餓状態では、一時的に脳内の快楽物質(エンドルフィン)が放出されて、むしろ気分は高揚して活動性は高まります。これは本人が意図せず意識せずに起こります。そして、その間に何とか食糧を得たのです。このモデルとなるのが、摂食障害によって低体重で低栄養になった場合の精神状態、いわゆる「拒食ハイ」「ダイエットハイ」です。逆に、現代のように裕福で飽食の社会はどうでしょうか? 大きな問題の1つは肥満です。この肥満を抑えるように私たちの体はあまり進化していません。なぜなら、原始の時代にはありえない状況だからです。血糖値を下げるホルモンにしてもインスリンの1つしかありません。それが肥満により働き疲れると、たやすく糖尿病になってしまいます。動物の中で、肥満を抑える遺伝子が進化しているのは、鳥ぐらいです。そこで、私たちは、肥満を抑える遺伝子がない代わりに、カロリーオフのものを摂ったり、意識的に運動したり、薬を飲んだり、場合によっては胃切除を行っているわけです。飽食の時代に肥満が増えるように、物質的に豊かになった時代に働かない人が増えるのは、進化心理学的に考えれば、明らかなことです。満たされている精神状態では、飢餓の状態とは逆に、意図せず意識せずに活動性は低下しています。端的に言えば、食べ物があればつい食べてしまうし、楽ができるならつい楽をしてしまうというシンプルな話です。肥満を抑えるメカニズムがあまり進化していないのと同じように、働かない心理を抑えるメカニズムもあまり進化していないのです。働かない心理は、肥満と同じく、進化の過程で支払うべき代償(トレードオフ)と言えるでしょう。そして、働かない心理の1つの代表として、今、ひきこもりが、その特異性ゆえに注目を集めているのです。ちなみに、働かない心理のもう1つの代表として、ひきこもりと時期や特徴を同じくして注目されている病態が「新型うつ」です。ひきこもらないためにはどうすれば良いのか?ひきこもりは、本人の考え方、家族のかかわり方、社会のあり方にそれぞれ原因があることが分かりました。それぞれに原因があり、どれか1つのせいにはできないことに気付きます。ひきこもらないために大事なことは、それぞれに原因があることを認め、それぞれがその原因を見つめ直すことです。(1) 本人はどうすれば良いのか?一番大事なことは、まず本人がひきこもりから抜け出したいと強く思うことです。ひきこもりは、本人が止めようと思わなければ止められないです。いくら周りがどんなに一生懸命に取り組んでも、本人に変わる気がなければ、変わらないです。アルコールや薬物などの物質依存、ギャンブルなどの過程依存と同じように、ひきこもりは関係依存という依存症の要素があります。この事実を本人が理解することです。結局のところ、たとえどんな境遇であったとしても、自分の人生の責任は、他でもない自分にあるということに気付くことです。そして、具体的に行動して、何らかのコミュニケーションの刺激にあえてさらされることです。最初はリハビリです。取っ掛かりとして、歯医者への通院も良いでしょう。メンタルヘルスのクリニックやカウンセリングルームへの通院、デイケアや自助グループへの通所など何でもありです。体を鍛えるのと同じように、心を鍛えるには、場数を踏んで、人馴れや場馴れをしていくことです。また、インターネットの利用によって、ひきこもりの人同士が情報発信をし合ったり、集まりに参加することで、お互いにいたわったりねぎらったりすることができます(承認)。これは、新しい社会参加の1つの形であると言えます。こうして、社会的スキル(社会脳)という能力が再びちょっとずつ磨かれていきます。(2) 家族はどうすれば良いのか?涼は、園村に「園村さんが健一さんを大事に思う気持ちと、健一さんの人生を決めてしまうことは、別のことだと思います」と言い当てます。まさにこのセリフは、ひきこもりの基礎をつくる家族の3つのかかわり方の問題点を指摘しています。それは、構い過ぎ(過干渉)、認めない(承認の欠如)、心配し過ぎ(過保護)でした。ここから、この3つの点について家族はどうすれば良いか考えていきましょう。a. 親が自分の人生を生きるラストシーンで、園村は、真っ直ぐに伸びた道を描いた健一の絵を見て、健一にやさしく語りかけます。「これから歩いていってみてくれ、おまえの道を」と。この言葉から、健一の人生と自分の人生は同じではないということを園村がようやく理解したことが読み取れます。1つ目の対策は、親が自分の人生を生きることです。子どもが思春期(10歳代)を迎えたら、子育ては半分卒業です。そして、子どもが成人したら、子育ては完全に卒業です。いつまでも親が子どもの人生を歩み続けることはできないということを知ることです。子どもは子どもの人生を歩むと同時に、親は自分の人生を歩んでいることがポイントです。親が自分の仕事や趣味、友人関係などで自分の世界を持って、何かに励んで楽しんでいることです。そうすると、結果的に、親は子どもに構い過ぎなくなります。また、親は、自分の世界があることで、周りの評判(評価)や体裁をあまり気にしなくなります。そして、そういう親の背中を見て(モデリング)、子どもの自発性は高まっていきます。b. 本人を大人扱いする涼の指摘の後、園村は「あいつの気持ちが知りたい」とつぶやきます。園村は、健一を抱え込んで子ども扱いして、本人の気持ちを考えていなかったことに気付いた瞬間です。一方、健一は、自分の描いた絵がひきこもり自立支援のサロンに飾られたことで(承認)、自信を取り戻していくのです。2つ目の対策は、本人を大人扱いすることです。本人が思春期(10歳代)を迎えたら、親は口出しを徐々に控えていき、本人が決めたことを認めることです(承認)。もちろん、親が生き方の選択肢としての判断材料をたくさん示すことは大切ですが、あくまで最後は本人が決め、それを親が支持するというスタンスを守ることです。例えば、「○○について、親として△△してほしい。だけど、決めるのはあなた。あなたが決めたことなら、結果がどうなっても支えたいと思う」と伝えます。大人扱いをするということは、本人の自由を尊重すると同時に、責任も自覚させるということです。具体的には、最低限の生活のルールを相談して決めることです。そのためのイメージとしては、「しばらくホームステイしている外国の友達の息子さん」というイメージです。そうするとどうでしょう? 例えば、「給料」(生活費)は一定額に固定されます。「文化」の違いがあるので、本人の生活スタイルやプライバシーには配慮し親切に接しつつも、家族にとって迷惑なことがあれば指摘や相談をしたり、家族全員での話し合いをします。「文化」の違いがあるからこそ、率直に意見を言う必要があります。こうして、「文化」の違いを乗り越えたルールがつくられていきます。それでは、暴言や暴力はどうでしょうか? 前半のシーンで、園村が健一に「おまえ、誰のおかげでその年まで働かずに食えてこられた!?」「どれほどの思いをしておれが過ごしていたか分かるか!?」と問い詰めます。すると、健一が急に「土下座して謝れよ!」と大声を上げて、暴力を振るいます。園村のかかわり方には問題がありますが、暴力を振るう健一にも問題があります。このように、暴力などの不適切な問題が起こる場合は、ためらうことなく警察通報や避難することが肝心です。リスクがある時は、本人に事前に伝えることが必要です。例えば、「どんな状況でも暴力は良くない。次に暴力があれば、私は警察通報をしなければならない」とはっきり言うことです。逆に、親が、子ども扱いしたり体裁を気にしたりして警察通報や避難ができない状況では、暴力はエスカレートしていきます。c. 親がサポーターになるラストシーンで、園村は健一に「これから歩いていってみてくれ、おまえの道を」「父さん、生きてる限りおまえを応援する」と語りかけます。この言葉に健一は涙するのです。3つ目の対策は、親がサポーター(応援者)になることです。応援するという言葉には、もはや保護者として親が子どもを保護する、つまり子どもの人生の全責任を負うというニュアンスはありません。応援とは、本人の自由を尊重して、サポーターとしてサポート(援助)に徹することです。そのサポート(援助)とは、衣食住の最低限の生活の保障をすることです。サポートは、際限なくするものではなく、あくまで一定です。親が、ひきこもりの事態の責任を感じて、本人を抱え込んで、本人の言いなりになることではありません。言い換えれば、一定のサポートとは、サポートには限度があるというメッセージです。園村の言葉には、もう1つのメッセージがあります。それは、「(自分たち親が)生きてる限り」という言い回しから分かるように、サポートには期限があるということです。つまり、ひきこもりという経済力のない生活スタイルは、果たしていつまで続けることができるのかということです。親の財産の相続や今後に受給する本人の年金を踏まえて具体的に正確にシミュレーションして、親としてできるライフプランを本人に提案することです。親が定年退職した時や本人が30歳になった時が、家族で相談する1つの節目です。ここでも大切なポイントは、限りある資源をどうするか最終的に決めるのは本人であるということです。「追い詰めれば自立するかも」という安易な発想から、感情的にはならないことです。表2 ひきこもりの3つの心理の特徴、要因、対策 欲がない(自発性の不足)自信がない(ストレスへの過敏性)現状に甘んじる(関係依存)神経伝達物質ドパミンの活性低下ノルアドレナリンの易反応性相対的なオキシトシンの活性亢進要因本人ひきこもりを続けること(悪循環)家族構い過ぎる(過干渉)認めない(承認の欠如)心配し過ぎる(過保護)社会親の時間的余裕結果重視の価値観経済的余裕対策本人ひきこもりをやめようと思い、少しずつ行動すること家族親が自分の人生を生きる(干渉しない)本人を大人扱いする(承認)親がサポーターになる(一定の援助)社会社会もサポーターになる(ソーシャルサポート)(3) 社会はどうすれば良いのか?前半のシーンで、園村は涼に「なぜあんな人間たち(ひきこもりサロンのメンバー)に構うのか?」と問います。すると、涼は「信じているからです」「人はいつでもどんなところからでも生き直せる」と力強く答えています。涼は、持ち前の情熱により、困っている人をサポートしています。このシーンから学ぶことは、ひきこもりに対して社会もサポーターになることです(ソーシャルサポート)。その1つが、涼が立ち上げたひきこもり自立支援のサロンです。ひきこもりの人への社会の中での居場所の提供です。そこには、仲間がいます。また、世の中の多くの人がひきこもりについて理解していけば、ひきこもりの本人の親の友人や近所の人が状況を知った理解者となり、本人を温かく見守ることができます。さらには、ひきこもりの家庭への人の出入りをつくり出すことです。親の友人、近所の人、ケースワーカーなどの第三者の客観的な目が家庭内に入ることは、社会、家庭、個人のそれぞれの風通しを良くしていくことができます。これは、暴言や暴力などの親子の煮詰まりを防ぐ1つの方法でもあります。ただし、家族のサポートに限度があるのと同じように、社会(国)のサポートにも限度があります。社会のサポートは、国の経済力に左右されがちです。ひきこもりなどの働かない人が増えれば、国の経済力が危うくなるのは明らかなことです。この社会的な状況を踏まえて、今後ひきこもりの人に生活保護や障害年金の受給がどこまで可能なのかという社会的な議論や同意が必要になってきます。ひきこもりの未来は?これまで、「ひきこもらないためにはどうすれば良いのか?」という視点で考えてきました。ところで、そもそも、ひきこもりは悪いことなのでしょうか? 逆に言えば、ひきこもらないことは良いことなのでしょうか?昔から、親に頼り働かない人は「すねかじり」「甘え」「怠け」などと否定的に呼ばれてきました。ところが、現在、価値観が多様化する中、こうあるべきという社会(多数派)の価値観は定まらなくなってきています。家庭の家計や国の経済がある程度安定しているのであれば、ひきこもりのライフスタイルは、「エコ」「悠悠自適」とも言えそうです。大事なことは、今ひきこもっている本人が、働くか働かないか、または社会参加するかしないかの古い価値観の二択に惑わされないことです。物質的に豊かな現代、人それぞれで違う「精神的な豊かさ」を得るにはどうすることが自分にとって一番良いのか? その生き方を本人が自分で選び取ることではないでしょうか? その時、ひきこもりは、もはや生き方の選択肢の1つに過ぎなくなるのではないでしょうか? そして、未来にはひきこもりという言葉そのものがなくなっているのではないでしょうか?1)斎藤環:ひきこもりはなぜ「治る」のか?、中央法規、20072)斎藤環:社会的ひきこもり、PHP新書、19983)荻野達史ほか:「ひきこもり」への社会学的アプローチ、ミネルヴァ書房、20084)田辺裕(取材・文):私がひきこもった理由、ブックマン社、20005)長谷川寿一・長谷川眞理子:進化と人間行動、東京大学出版会、2000

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原発性側索硬化症〔PLS : primary lateral sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義明らかな特定された原因がなく、緩徐に神経細胞が変性脱落していく神経変性疾患のうち、運動ニューロン特異的に障害が起こる疾患群を運動ニューロン病(motor neuron disease:MND)と呼ぶ。上位運動ニューロン(大脳皮質運動野→脊髄)および下位運動ニューロン(脊髄前角細胞→筋肉)の両方が選択的に侵される筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)がよく知られているが、経過中症状および所見が一貫して上位運動ニューロンのみの障害にとどまるものを原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis:PLS)と呼ぶ。病初期にはALSとの鑑別が問題となるが、多くの例で進行が遅く呼吸筋麻痺もまれとされている。病理学的にはALSに特徴的な封入体などを欠き、背景病理上もALSとは別疾患と考えられていた一方で、一部の遺伝性痙性対麻痺などの他の錐体路変性を起こす疾患との鑑別が必要となる。近年、ALSの自然歴や臨床病態が明らかになるにつれ、長期生存例などのさまざまな臨床経過を取るALSの存在がまれでないことがわかり、上位運動ニューロン障害が強いALS (UMN-dominant ALS) との鑑別がますます重要になってきた。常染色体劣性遺伝性家族性筋萎縮性側索硬化症のALS2の原因遺伝子alsin が、若年型 PLS、家族性痙性対麻痺の原因遺伝子であると報告されたが、すべてのPLSがalsin変異によるものではなく、多くの孤発症例の原因は依然不明である。■ 疫学きわめてまれであり世界的には運動ニューロン病全体の1~3%と考えられている。2006年の厚生労働省のPLSの全国調査結果では患者数は144 人、有病率は 10万人当たり 0.1人、ALSの2%であった。■ 病因大多数のPLSの病因は同定されていない。若年型PLSの一部や乳児上行性家族性痙性対麻痺(IAHSP)の症例が、成人発症ALSの1型であるALS2の原因遺伝子alsinの変異を持つことがわかっている。若年型PLSは2歳中に上位運動ニューロン徴候が出現し、歩けなくなる疾患であり、IAHSPは2歳までに下肢の痙性が出現し、7歳で上肢に広がり10代には車いすの使用を余儀なくされる疾患で、いずれも成人期に症状が出現する孤発性のPLSとは病状が異なっている。■ 症状運動ニューロン病一般でみられる、感覚障害などを伴わずに緩徐に進行する運動障害が主症状である。通常50歳以降に発症し、下肢に始まる痙性対麻痺を示す例が多く、ALSと比較して球麻痺型が少ないとされるが、仮性球麻痺や上肢発症の例も報告されている。遺伝性痙性対麻痺に類似した臨床像で下肢の突っ張りと筋力低下により、階段昇降などが初めに障害されることが多い。進行すると上肢の巧緻性低下や構音障害、強制泣き/笑いなどの感情失禁がみられることもある。2006年の厚生労働省のPLSの全国調査結果では、1人で歩くことができる患者は約15%で、約20%は支持歩行、約30%は自力歩行不可能であった。また、経過を通して下位運動ニューロン障害を示唆する高度な筋萎縮や線維束性収縮がみられにくい。■ 分類Gordonらは剖検で確定したPLS、clinically pure PLSに加え、発症後4年未満で上位運動ニューロン障害が優位であるが、診察または筋電図でわずかな脱神経所見を呈し、かつALSの診断基準は満たさないものを“UMN-dominant ALS”としてclinically PLSと厳密に区別し、予後を検討したところ、ALSとPLSの中間であったと報告している。また、上位運動ニューロン障害に加えパーキンソニズム、認知機能障害、感覚障害をPLS plusとして別に分類している。■ 予後経過はALSと比較してきわめて緩徐で、進行しても呼吸筋麻痺を来す可能性は、診断が真のPLSであれば高くないとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)PLSという病態が、ALSと病理学的に異なる疾患として真に存在するかは依然として議論があるところである。TDP-43病理を伴わない臨床的PLSの報告例も存在する一方で、典型的な封入体などは伴わないものの、上位運動ニューロン優位にTDP-43病理が確認される報告例も増加している。また、FTLD-MNDとして捉えたとき病理学的に錐体路が障害されている症例はまれではない。歴史的には1992年に“Brain”誌に報告されたPringleらの診断基準が用いられることが多いが、報告例の一部が遺伝性痙性対麻痺などの他疾患とその後診断されたこと、3年以内に下位運動ニューロン症状が出現しないことの記載があるものの、Gordonらの検討では3~4年に筋電図での脱神経所見が現れる症例が多かったことなどから、必ずしも特異性が高い診断基準とはいえない。現在のところclinically PLSはheterogeneousな疾患概念であるが、典型的ALSに比べ予後がよいことから、臨床的にALSと鑑別することが重要であるとの立場を取ることが妥当と考えられる。表に示した厚生労働省の診断基準は、Pringleらの基準を基にしたものであり、上記の事実を理解したうえで使用することが望ましい。表 原発性側索硬化症 診断基準(厚生労働省)*「確実例」および「ほぼ確実例」を対象とするA:臨床像1緩徐に発症する痙性対麻痺。通常は下肢発症だが、偽性球麻痺や上肢発症もある2成人発症。通常は40歳代以降3孤発性(注:血族婚のある症例は孤発例であっても原発性側索硬化症には含めない)4緩徐進行性の経過53年以上の経過を有する6神経症候はほぼ左右対称性で、錐体路(皮質脊髄路と皮質延髄路)の障害で生じる症候(痙縮、腱反射亢進、バビンスキー徴候、痙性構音障害=偽性球麻痺)のみを呈するB:検査所見(他疾患の除外)1血清生化学(含ビタミンB12)が正常2血清梅毒反応と抗HTLV-1抗体陰性(流行地域では抗ボレリア・ブルグドルフェリ抗体(ライム病)も陰性であること)3髄液所見が正常4針筋電図で脱神経所見がないか、少数の筋で筋線維収縮やinsertional activityが時にみられる程度であること5MRIで頸椎と大後頭孔領域で脊髄の圧迫性病変がみられない6MRIで脳脊髄の高信号病変がみられないC:原発性側索硬化症を示唆する他の所見1膀胱機能が保たれている2末梢神経の複合筋活動電位が正常で、かつ中枢運動伝導時間(CMCT)が測れないか高度に延長している3MRIで中心前回に限局した萎縮がみられる4PETで中心溝近傍でのブドウ糖消費が減少しているD:次の疾患が否定できる(鑑別すべき疾患)筋萎縮性側索硬化症家族性痙性対麻痺脊髄腫瘍HAM多発性硬化症連合性脊髄変性症(ビタミンB12欠乏性脊髄障害)その他(アルコール性ミエロパチー、肝性ミエロパチー、副腎白質ジストロフィー、fronto-temporal dementia with Parkinsonism linked to chromosome 17 (FTDP-17)、Gerstmann-Straussler-Scheinker症候群、遺伝性成人発症アレキサンダー病など)■診断・臨床的にほぼ確実例(probable):A:臨床像の1~6と、B:検査所見の1~6のすべてを満たし、Dの疾患が否定できること・確実例(definite):臨床的に「ほぼ確実例」の条件を満たし、かつ脳の病理学的検査で、中心前回にほぼ限局した変性を示すこと(Betz巨細胞などの中心前回錐体細胞の高度脱落を呈し、下位運動ニューロンに変性を認めない)臨床的には一般的なALSと同様に他の原因によらず、他の系統の異常のない神経原性の進行性筋力低下があり、(1)障害肢には上位運動ニューロン障害のみがみられ、(2)四肢、球筋、頸部、胸部、腰部の傍脊柱筋に、少なくとも発症後4年経っても診察および針筋電図検査で活動性神経原性変化がみられないことを証明することが必要である。わずかな筋電図異常の存在を認めるかどうかは意見が分かれている。また、鑑別診断として頸椎症性脊髄症、多発性硬化症、腫瘍性疾患などを除外するために、頭部および脊髄のMRIは必須である。髄液検査、血清ビタミンB12、血清梅毒反応、HIV抗体価、HTLV-1抗体価、ライム病抗体価などに異常がないことを確認する。また、傍腫瘍神経症候群による痙性対麻痺除外のために悪性腫瘍検索も推奨されている。画像診断技術の進歩により、頭部MRIのvoxel based morphometryでの中心前回特異的な萎縮、FDG-PETでの運動皮質の糖代謝低下、diffusion tensor imagingでの皮質脊髄路などの障害など、次々と特徴的な所見が報告されてきており、診断の補助としても有用である。また、PLSは基本的に孤発性疾患とされているが、家族歴が疑われる場合は、遺伝性痙性対麻痺を除外するために遺伝子診断を考慮すべきである。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)疾患の進行を抑制する治療法は開発されておらず、個々の症状に対する対症療法が主体となる。ALSと比べ下肢の痙縮が主体であるため、歩行障害に対してバクロフェン(商品名:リオレサール、ギャバロン)、チザニジン(同:テルネリンなど)、ダントロレン(同:ダントリウム)などが考慮されるが、筋力低下による膝折れや転倒に注意する必要がある。経過が長く高度な痙縮がADLを阻害している例では、ITB療法(バクロフェン髄注療法)も考慮される。頸部や体幹筋の痙縮に伴う疼痛にはNSAIDsなどの鎮痛剤やジアゼパム(同:セルシンなど)やクロナゼパム(同:ランドセン、リボトリール)などのベンゾジアゼピン系薬剤も使用される。また、痙縮に対して理学療法による筋ストレッチおよび関節可動域訓練が痙縮に伴う疼痛の予防や関節拘縮の抑制に有用であり、専門的な指導による毎日の家庭での訓練が有用である。2015(平成27)年より特定疾患に指定されるため、医療サービスには公的な援助が受けられるようになる。疾患の末期に嚥下障害や呼吸筋麻痺が起こった場合は、ALSと同様に胃瘻造設や人工呼吸器の使用も考慮すべきだが、PLSからALSへの進展を疑うことも重要となる。 患者教育としては、ALSと異なり経過が長いことと、ALSに進展しうることを考え、定期的な経過観察が必要であることを理解させる必要がある。4 今後の展望現在、本疾患に特異的な治験は、検索する限りされていない。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Pringle CE, et al. Brain. 1992; 115: 495-520.2)Gordon PH, et al. Neurology. 2006; 66: 647-653.3)Panzeri C, et al. Brain. 2006; 129: 1710-1719.4)Iwata NK, et al. Brain. 2011; 134: 2642-2655.5)Kosaka T, et al. Neuropathology. 2012; 32: 373-384.

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小児てんかんの予後予測、診断初期で可能

 小児期てんかん発作の最終的なアウトカムは、治療を要することなくすべての発作が完全寛解することである。一方で、てんかんの臨床経過において、どのくらいの頻度で発作が起きるのか、またいかに早期に発作を予測するかは、家族が小児てんかんの特徴を理解すること、ならびに何を予期すべきかを把握する助けとして価値がある。米国・シカゴにあるアン&ロバート H. ルリー小児病院のBerg AT氏らは、小児期てんかんの最終的なアウトカムとしての完全寛解を予測しうるかどうかを検討する前向きコホート研究を行った。その結果、最初の診断から5年以内の情報(発症年齢や子供の学校での状況、てんかんのタイプなどを含む)により、完全寛解が得られるか否かを予測しうることを報告した。Brain誌オンライン版2014年10月22日号の掲載報告。 てんかんに対するConnecticut studyとして、新規にてんかんと診断された小児613例(0~15歳で発症)を対象とし、5年以上にわたり、発作なし、治療なしを発作の完全な回復として完全寛解を検討した。2年以内および診断2~5年後の発作アウトカムに関する情報は、順次比例ハザードモデルに加えた。モデルの予測値はロジスティック回帰により決定した。 主な結果は以下のとおり。・516例について10年以上追跡した。・328例(63%)が完全寛解を達成した。・完全寛解後23例が再発した。再発率は8.2/1,000人年で、経過とともに減少した。再発率は、完全寛解後最初の5年間10.7、次の5年間6.7、10年超では0となった(傾向のp=0.06)。・そのうち6例において、再び完全寛解が得られた。最終評価時点で完全寛解は、311例(60%)で認められた。・最終評価時に「完全寛解が得られない」ことの、ベースライン時の予測因子は、発症年齢10歳以上(ハザード比[HR]:0.55、p=0.0009)、低学年または発達上の問題がある(同:0.74、p=0.01)であった。・最終評価時に「完全寛解が得られる」ことの予測因子は、合併症のないてんかん(ハザード比:2.23、p<0.0001)、焦点性自己終息性てんかん症候群(HR:2.13、p<0.0001)、および特徴づけられないてんかん(HR:1.61、p=0.04)であった。・2年以内の寛解は良好な予後を予測し(HR:1.95、p<0.0001)、2年以内の薬剤抵抗性は完全寛解が得られないことを予測した(HR:0.33、p<0.0001)。・診断2~5年間、再発(HR:0.21、p<0.0001)および遅延して生じた薬剤抵抗性(同:0.21、p=0.008)は完全寛解の機会を減少させ、後期の寛解(同:2.40、p<0.0001) は完全寛解の機会を増加させた。・モデルの全体的な確度は、ベースラインの情報のみでは72%であったが、2年間のアウトカムに関する情報追加により77%、5年間のアウトカムに関する情報追加により85%へと高まった。・完全寛解後の再発はまれであり、てんかんの完全消失の代用として許容できるものであった。・最初の診断から5年以内の情報により、約20年後の完全寛解を良好に予測できると考えられた。関連医療ニュース 低用量EPA+DHA、てんかん発作を抑制 小児期早期のてんかん転倒発作、特徴が判明:東京女子医大 抗精神病薬投与前に予後予測は可能か  担当者へのご意見箱はこちら

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関節負担を軽減する自宅での工夫

【関節リウマチ】洋式の生活 で負担を軽減しよう!メモ椅子やベッドのほうが関節への負担が少ない。・なるべく⾃宅の段差をなくして、転倒を防ごう。・階段やお風呂には⼿すりをつけよう。・台所作業は座ってできるよう工夫を。監修:慶應義塾大学医学部リウマチ内科 ⾦⼦祐⼦⽒Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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レビー小体型認知症(DLB)、アルツハイマー型(AD)との違いは?

 2014年9月19日、アルツハイマー型認知症(AD)治療薬アリセプト(一般名:ドネペジル)について、レビー小体型認知症(DLB)の効能・効果が承認された。都内で10月8日に開催されたエーザイ株式会社によるプレスセミナーでは、横浜市立大学名誉教授の小阪 憲司氏と、関東中央病院 神経内科部長の織茂 智之氏が講演した。世界で初めてDLB例を報告し、DLB家族を支える会の顧問でもある小阪氏は、「DLBは最もBPSD(行動・心理症状)を起こしやすい認知症であり、患者さんの苦しみも強く介護者の苦労も多い」と述べ、患者さんや介護者のQOLを高めるため、早期診断・早期治療の重要性を強調した。DLBは誤診されやすく、診断にはDLBの特徴を知ることが必要である。本稿では、織茂氏の講演からDLBの特徴を中心に紹介する。レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の違い 剖検例の検討では、認知症例のうちDLBが12~40%を占める。わが国の久山町研究の剖検例ではDLBが41.4%と報告されており、従来認識されているより患者数は多いと考えられる。 織茂氏はまず、ADとは異なるDLBの特徴として、記憶障害の発症前に多くの身体症状が発現することを挙げた。90例のprobable DLB患者での検討では、記憶障害発症の9.3年前から便秘が、4.8年前からうつが、4.5年前からレム睡眠行動異常症が発現していたと報告されている。 DLBの症状の特徴として、以下の5つが挙げられる。1)幻視を主体とする幻覚2)パーキンソン症状(手足が震える・四肢が硬くなる・動作が遅くなる・歩行障害) ADでは発現しないため、これらの症状が発現すればDLBを疑う。3)認知機能の変動が大きい4)自律神経症状(血圧の変動・排尿障害・消化管運動障害・発汗障害など) ADでは発現しない。起立性低血圧による転倒骨折・頭部外傷、食事性低血圧による誤嚥、臥位高血圧による心臓・腎臓への負担や脳出血の危険がある。消化管運動障害としては、便秘のほか、時にイレウスを起こす危険がある。発汗障害としては、発汗減少や発汗過多が起こり、うつ熱、体温が外気温に左右されやすいなどがある。5)レム睡眠行動異常症 DLBでは病早期からみられるのに対し、ADではまれである。DLBを早期診断する努力の必要性を指摘 織茂氏は、DLBの臨床診断基準(CDLBガイドライン)における重要な点として、まず、必須症状である進行性認知機能障害について、病初期には記憶障害が必ずしも起こらないことを強調した。 DLBの診断基準では、3つの中核症状(認知機能障害の変動・繰り返す幻視・特発性パーキンソン症状)のうち2つあればprobable DLBと診断される。また、中核症状が1つでも、レム睡眠行動異常症、抗精神病薬への重篤な過敏性などの示唆的所見が1つ以上あればprobable DLBと診断される。 画像診断における特徴としては、脳MRI画像においてDLBでの海馬の萎縮はADほどではないという。また、MIBG心筋シンチグラフィにおいては、DLBは心臓が黒く写らないことからADとの鑑別が可能である。脳血流シンチグラフィやドパミントランスポーターシンチグラフィにおいても、ADとの違いが観察される。 小阪氏は、DLBの診断のポイントとして、認知症の存在にとらわれすぎないこと、早期には認知症が目立たないことが多いこと、特有な幻視・レム睡眠行動異常症・パーキンソン症状に注目することを挙げた。そのうえで、軽度認知障害のレベルでDLBを発見する努力の必要性を指摘している。DLBではさまざまな症状に対して適切な治療が必要 DLBでは、認知機能障害のほか、BPSD、パーキンソン症状、血圧変動や排尿障害などの自律神経症状など、さまざまな症状がみられることから、それぞれに対して治療を行う。 そのうち、認知機能障害に対しては、ADと同様、アセチルコリンの減少を防ぐコリンエステラーゼ阻害薬が有効である。DLBでは、中隔核のアセチルコリン系の神経細胞数がADより減少しているという。 織茂氏は、DLBではさまざまな症状に対して適切な治療が必要であるとし、また、薬剤治療を開始するときは、過敏性を考慮して少量から始めるよう注意を促した。

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厳格な血糖コントロールのご利益と選択の是非(解説:景山 茂 氏)-246

ACCORD研究は、強化療法群における死亡が有意に多かったために早期終了し、平均追跡期間は3.7年であった。本論文は、この試験期間に加え、試験終了後は両群共に緩やかな血糖コントロールに変更して追跡した1.2年のデータを加えて報告している。平均年齢62歳、2型糖尿病の罹病期間10年の心血管疾患のハイリスクの患者においても、心筋梗塞は強化療法群において少ないことが示された。 強化療法群の死亡はHbA1cが低下しなかった人に多かったこと、および死亡の80%以上は心筋梗塞によるものでなかったとする過去の報告に加えて、本解析ではHbA1cを時間依存共変量として調整するとハザードは有意でなくなることなどを挙げ、心筋梗塞予防に対する血糖コントロールの重要性を述べている。 DCCTおよびUKPDSでは試験終了後、約10年間のフォローアップを行った。試験終了後の期間は、強化療法群と従来療法群との間に血糖コントロールレベルに差がなかったにもかかわらず、強化療法群では細小血管障害のみならず大血管障害も有意に減少した。細小血管障害のみならず大血管障害にも認められた強化療法の効果をDCCTではmetabolic memory、UKPDSではlegacy effectと呼び、注目されている。 厳格な血糖コントロールには心筋梗塞の予防効果はあるにしても、罹病期間の長い比較的高齢の2型糖尿病患者にHbA1c<6%を目指す治療は危険であるという解釈には変わりはない。強化療法による厳格な血糖コントロールは、心筋梗塞は予防したが患者は亡くなったというのでは本末転倒であり、この治療法は選択すべきではないというのが現時点での判断といえよう。 HbA1c6%未満を目指すべき強化療法の適応は、どのような集団であるのかを明らかにすることが今後の課題である。

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せん妄、意思決定能力が高齢がん患者の問題

 2014年8月28日~30日、横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会にて、名古屋市立大学 明智龍男氏は「高齢者がん治療の問題点~精神症状の観点から」と題し、高齢がん患者が抱える精神症状と、それらが及ぼす影響について紹介した。せん妄が多い高齢がん患者の精神症状 高齢がん患者の精神症状は、3つのDと呼ばれる、Delirium(せん妄)、Dementia(認知症)、Depression(抑うつ状態)の頻度が高い。米国の研究結果では、無作為抽出された全病期のがん患者のうち47%に精神科的診断がついた。がん終末期における本邦の研究でも米国のデータと同様、がん患者の半数に精神科的診断がついている。その内訳は、せん妄が28%と最も多く、次いで、認知症、適応障害、うつ病である。 がんの経過と精神症状の関連をみると、診断後はうつ状態が現れ、治療に伴い術後せん妄も認められる。再発進行のイベントとともにうつ病の頻度は高くなり、身体症状の悪化とともに多くの患者がせん妄を経過して亡くなる。一方、認知症は、がんの経過と関係なく加齢とともに増加する。精神症状がもたらすさまざまな影響 せん妄は、特殊な意識障害をもたらし多様な影響を及ぼす。転倒・転落、ドレーン自己抜去など医療事故の原因ともなり、家族とのコミュニケーション障害も現れる。入院の長期化、医療スタッフの疲弊といった医療側の問題にもつながる。せん妄は以前、一過性の病態といわれていたが、最近では一部の患者において永続的な影響を残す可能性が示唆され始めた。 認知症は後天的な知的機能の低下を来すことで自律的意思決定が障害され、薬の飲み忘れなど治療アドヒアランスの低下などを引き起こす。さらに、認知症を合併した患者は、非合併患者に対して生存期間が短いとの報告がある。 うつ病・うつ状態は、がん患者においても自殺の最大の原因である。がん診断時からの期間とうつ病合併患者の自殺の相対危険度をみた海外の大規模観察研究では、がん患者の自殺は診断から1週間以内が最も多い。その相対危険度は非うつ病患者の12.6倍であった。また、自殺の問題だけでなく、術後補助療法の拒否が多いなど、うつ病患者では治療アドヒアランスへの低下も報告されている。課題となる高齢がん患者の意思決定能力障害 インフォームド・コンセントが成立するためには、選択の表明、情報の理解、選択と結果の理解、思考過程の合理性といった意思決定能力が患者に担保されていることが前提条件となる。一方、がん患者では、意思決定能力の問題を抱えていることが多い。 腫瘍精神科に意思決定能力評価を依頼されたがん患者を調べた国立がん研究センターのデータでは、依頼された患者の51%に意思決定能力に障害がみられた。これら患者の精神科診断は多岐にわたるが、実際に意思決定能力の障害があった患者は、せん妄と認知症が多くを占めた。逆に、それ以外の患者では能力は保たれており、意思決定能力は精神科診断だけでは判断できないことがわかった。 高齢がん患者では、せん妄、認知症、うつ病といった精神症状が高頻度に起こり治療に影響を及ぼす。また、意思決定能力を障害されている患者が多数存在しインフォームド・コンセントにも影響を及ぼす。これら患者の治療を適切に行うためには、CGA(Comprehensive Geriatric Assessment:高齢者総合的機能評価)などの総合的評価が重要になっていくであろう。

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Vol. 2 No. 3 慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するカテーテルインターベンションの現状と展望 バルーン肺動脈形成術は肺動脈血栓内膜摘除術の代替療法となりうるか?

川上 崇史 氏慶應義塾大学病院循環器内科はじめに慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)とは、器質化血栓により広範囲の肺動脈が狭窄または閉塞した結果、肺高血圧症を合併した状態である。早期に適切な治療がなされない場合、予後不良であり、心不全から死に至るといわれている1)。当初Riedelらは、CTEPHの予後は、平均肺動脈圧が30mmHg、40mmHg、50mmHg以上と段階的に上昇するにつれて、5年生存率は50%、30%、10%へ低下すると報告した2)。現在、各種肺血管拡張剤が発達しており、上記より良好な成績であるとは思われるが、効果は限定的である。また、中枢型CTEPHに対しては、肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy:PEA)が根治術として確立されている3)。しかし、末梢型CTEPHに対する成績は中枢型CTEPHと比較して劣っており、末梢型のためにPEA適応外となる症例も少なからず存在する。2000年代半ばより、本邦において、薬物療法で十分な治療効果が得られず、PEA適応外である症例に対して、バルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が試みられ、有効性が報告された。以下、本邦から治療効果と安全性が確立したBPAについて概説する。BPAについて最初に複数例のCTEPHに対するBPAの有効性を報告したのは、2001年のFeinsteinらである4)。Feinsteinらは、末梢型や並存疾患によりPEA適応外である18例のCTEPHに対して、平均2.6セッションのBPAを施行し、平均36か月間、経過観察した。BPA後、平均肺動脈圧の有意な低下(43→33.7mmHg)とNYHA分類の改善(3.3→1.8)、6分間歩行距離の改善(191→454m)を認めたが、PEAと同様の合併症である再灌流性肺水腫が18例中11例(61.1%)に発症し、人工呼吸器管理が3例(16.6%)、BPA関連死が1例(5.6%)という成績であった。当時の旧式のバルーンカテーテルや0.035インチガイドワイヤーを用いて行われたBPAの初期報告は、上記のように有効性を認めたわけであるが、外科的根治術であるPEAの有効性には及ばなかった。当時、UCSDのJamiesonらのPEA周術期死亡率は4.4%であり、術後の平均肺動脈圧は、中枢型CTEPHで46から28mmHg、末梢型CTEPHで47から32mmHgまで改善することができた3)。このため、米国ではBPAはPEAに劣ると結論づけられた。当時、CTEPHの治療選択肢には、PEAと薬物療法があり、PEAの適応症例であれば、十分な改善を得ることができたが、PEA適応外の症例を薬物療法で治療してもあまり改善は得られなかった。結果として、年齢、並存疾患(全身麻酔ができない)、末梢型CTEPHなどでPEAが実施できない症例が割と多いこと、末梢病変の存在によりPEA後の残存肺高血圧症が10%程度あることが問題として残った。このような背景において、2000年代半ばより、本邦の施設でPEA適応外である重症CTEPHに対して、BPAが施行されるようになり、いくつかの報告がされた5-7)。なかでも、岡山医療センターのMizoguchi、Matsubaraらの報告は、68名のCTEPH患者に対して255セッションのBPAを施行し、最大7年間、経過観察している。結果、BPA後に平均肺動脈圧、肺血管抵抗の低下(各々45.4→24mmHg、942→327dyne sec/cm5)、心係数の増加(CI 2.2→3.2L/min/m2)、6分間歩行距離の延長(296→368m)、BNPの有意な改善(330→35pg/mL)を認めた。酸素投与量も減量(oxygen inhalation 3.0→1.3)することができ、68名中、26名の患者(38%)で在宅酸素療法を離脱することができた。また、96%の患者がWHO分類ⅠまたはⅡまで改善することができた。周術期死亡率は1.5%であり、再灌流性肺障害(再灌流性肺水腫と同義)を含めた呼吸器関連合併症を認めたが、症例経験の増加に伴い、合併症は有意に低下すると報告している。以上、2010年以降の本邦からの報告において、改良されたBPAは、Feinsteinらの初期のBPAと比べて、安全性・有効性ともに著しく改善したといえる。改善した理由としては、バルーンカテーテルの発達、0.014インチガイドワイヤーの使用、画像診断デバイス(IVUSなど)の積極的な使用などがあると思われる。手技の流れについては次項で述べる。BPAの実際術前、右心カテーテル検査・肺動脈造影を必ず行い、個々の患者における肺高血圧症の重症度と肺動脈病変の形態評価を行う。検査結果より、右房圧が高ければ、利尿剤を調節し、心拍出量が低値(CI 2.0L/min以下)であれば、術前からドブタミンの投与を行う。抗凝固療法については前日からワルファリンカリウムを中止している。重症例で軽度の肺出血が致死的となる可能性がある場合、コントロールしやすいヘパリンへ置換する方法もあると考える。ワルファリンは他剤との併用により容易に効果が増強するので、PT-INRの頻回の測定を要する。また、われわれはエポプロステノールを使用していない。理由はCTEPHにおいて肺動脈圧の低下作用が軽微であること、中心静脈カテーテル留置など手技が煩雑であること、抗凝集作用により出血を助長する可能性があると考えているからである。次に実際のBPA手技について述べる。手技は施設間でやや異なっていると思われる。しかし、0.014インチガイドワイヤーの使用、肺動脈主幹部へのロングシース挿入、積極的な画像診断デバイスの使用などは各施設である程度、共通していると思われる。以下、われわれの施設の手法を述べる。アプローチ部位の第1選択は、右内頸静脈である(図1)。理由はガイディングカテーテルのバックアップや操作性がよいことである。また、術後のスワンガンツカテーテル留置が迅速にできることも利点である。内頸静脈が使用できない場合は、大腿静脈アプローチを考慮する。まず、エコーガイド下に9Fr 8.5cmシース(スワンガンツカテーテル留置用シース)を右内頸静脈に挿入する。内頸静脈アプローチとはいえ、稀に気胸を合併することがある。気胸はBPA後の必要時にNPPVが使用できなくなるなど、術後管理を困難にするため、必ず避けねばならない。このため、われわれは100%、エコーガイド下穿刺を実践している。図1 右内頸静脈アプローチ画像を拡大する次に6Fr 55cmまたは70cmロングシースを9Frシース内へ挿入する。6Frロングシースの先端をJ型またはPigtail型にシェイピングし、0.035インチラジフォーカスガイドワイヤーに乗せて、治療対象となる左右肺動脈の近位部へ進める。その後、6Frロングシース内へ6Frガイディングカテーテルを入れ、治療標的となる肺動脈病変へエンゲージする。ガイディングカテーテルの選択には術者の好みもあると思うが、われわれは岡山医療センターと同様、柔らかい材質のMulti-purposeカテーテルを第1選択とすることが多い。その他、治療標的血管により、AL1カテーテルやJR4カテーテルを適宜、選択する。稀であるが、完全閉塞病変に対して、材質の固いガイディングカテーテルを使用することがある。ガイディングカテーテルのエンゲージ後、正面、左前斜位60度の2方向で選択造影を行い、0.014インチガイドワイヤーをバルーンかマイクロカテーテルサポート下に肺動脈病変を通過させる。肺動脈病変に対するワイヤリングは、PCIやEVTと違うと感じる術者が多い。これは、肺動脈の解剖が3次元的に多彩であること(細かい分岐が多い)、肺動脈は脆弱で破綻しやすいこと、肺動脈病変が他の動脈硬化病変と大きく異なること、呼吸変動の存在などに起因すると思われる。特にBPAにおいて、呼吸変動をコントロールすることはとても重要である。呼吸変動を上手に利用すれば、ガイドワイヤー通過の助けになるが、上手にコントロールできなければ、ガイドワイヤーによる肺血管障害(肺出血)が容易に起こると思われる。当院では、肺血管障害を最小限にするため、ガイドワイヤーの通過後、可能な限り、先端荷重の軽いコイルタイプのガイドワイヤーへ交換している。ガイドワイヤー通過後は、血管内超音波(IVUS)または光干渉断層法(OCT)で病変性状・範囲・血管径などを評価し、病変型に準じて、血管径の50~80%程度のサイズのバルーンカテーテルで拡張していく。なお、平均肺動脈圧40mmHg以上または心拍出量2.0L/min以下の症例の場合は、岡山医療センターの手法に倣って、上記より20%程度減じたバルーンサイズを選択している。なお、CTEPHの肺動脈病変は再狭窄することはほぼなく、バルーンサイズを減じても大きな問題になることはない。しかし、複数回治療後に平均肺動脈圧が低下した症例の場合は、適切なサイズのバルーンカテーテルで拡張することがさらなる改善のために必要である。次に術後管理について述べる。BPA後は原則として、スワンガンツカテーテルを留置し、集中治療室管理としている。また、術後、再灌流性肺障害の有無や程度を確認するために必ず胸部単純CTを施行する。これらは、術後の再灌流性肺障害の有無、重症度の評価をするために行っている。経過がよければ、翌日午前中に集中治療室から一般病室へ戻ることができ、午後には歩行可能となる。当院での104セッションのBPAにおいては、1セッションのみで3日間の集中治療室管理を要したが、残り103セッションの集中治療室の滞在期間は1日であった。なお、最近、NPPV装着は必須としていないが、常にスタンバイしておく必要がある。NPPV適応となるのは、コントロール困難な喀血・血痰、重度の酸素化不良例などである。以下に当院の症例を示す。症 例54歳、女性主 訴労作時呼吸困難既往歴特になし家族歴特になし現病歴2011年11月、労作時呼吸困難(WHO分類Ⅱ)を認めた。2012年1月、労作時呼吸困難が悪化したため(WHO分類Ⅲ)、近医を受診し、急性肺塞栓症の診断で緊急入院となった。抗凝固療法を行い、外来で経過観察していたが、2012年9月、労作時呼吸困難が再増悪したため(WHO分類Ⅲ)、同医を受診。心エコー図で肺高血圧症を指摘され、CTEPHと診断された。2012年11月、精査加療目的で当院を紹介受診した。右心カテーテル:右房圧9、肺動脈圧73/23/m41、心拍出量1.8、肺血管抵抗1156肺動脈造影:図2入院後経過タダラフィル20mg/日を内服開始したが、肺動脈圧66/24/m39、心拍出量1.8、肺血管抵抗967と有意な改善は認めなかった。本人・家族と相談し、BPAの方針となった。1回目BPA:左A9、A102回目BPA:右A6、A8、A103回目BPA:右A1、A2、A3、A4、A54回目BPA:左A1+2、A85回目BPA:左A4、A56回目BPA:右A1、A3、A6、A7、A8、A9治療後計6回のBPAで計20病変を治療後、症状は消失した(WHO分類Ⅰ)。また、右心カテーテルでは肺動脈圧34/11/m19、心拍出量3.1、肺血管抵抗316と著明な改善を認めた。図2 肺動脈造影画像を拡大するBPAの現状と今後の適応過去の報告において、FeinsteinらはBPA適応を末梢型CTEPHや併存疾患により全身麻酔が困難なPEA適応外のCTEPHとしてきた。これらは、本邦からの報告でも同様である。しかし、近年、BPAは有効性に加えて、安全性も大きく向上しており、当院では適応範囲を拡大して、以下をBPAの適応としている。中枢型CTEPH(原則としてinoperable)末梢型CTEPH高齢重篤な併存疾患を有するCTEPHPEA後の残存PH軽度から中等度のCTEPH上記の重篤な併存疾患とは、全身麻酔ができない症例のことであると考える。また、BPAの普及により、最も恩恵を受けたのは、PEA後の残存PHと軽度から中等度のCTEPH症例であろう。PEA後の残存PHに対して再度、PEAを行うのは実際、高リスクであり、BPAはよい選択肢である。また、軽度から中等度のCTEPHは、従来、薬物療法で経過観察されていた患者群であるが、これらの症例に対して、BPAを行うことによりさらにQOLが向上し、薬物療法の減量、在宅酸素療法の減量・中止が可能となることをしばしば経験する。以上より、カテーテル治療であるBPAは低侵襲であり、PEAより適応範囲が広いと思われる。しかし、BPAに適した症例、PEAに適した症例があり、個々の患者でよく検討することが重要である。CTEPHには、血管造影上、いくつかの特徴的な病変があることが報告されている8)。当院で治療した計476病変を検討した結果、病変により、BPAの手技成功率が異なることが確認された(図3)。当然であるが、カテーテル手術のため、閉塞病変の方が狭窄病変より治療が難しく、再灌流性肺障害を含めた合併症発生率も高率である。しかし、BPAで閉塞病変を開存させることにより、著しく血行動態や酸素化の改善を経験することが多々あり、個人的には、閉塞病変は可能な限り開存させるべきであると考える。図3 各種病変と手技成功率画像を拡大する一方、用手的に器質化血栓を摘除するPEAは、BPAと比べて、閉塞病変の治療が容易にできるかもしれない。また、器質化血栓が多量である場合、器質化血栓をバルーンで壁に圧着させるBPAより、完全に摘除するPEAの方が理にかなっているかもしれない。しかし、PEAでは到達が困難である肺動脈枝が存在することも事実である。いずれにしても、BPA、PEAの双方とも一長一短があり、適応決定に際しては、外科医・カテーテル治療医の両者で話し合うことが望ましいと考えられる。まとめ以上、近年、本邦で発展を遂げたインターベンションであるBPAについて概説した。従来、CTEPHに対する根治術はPEAだけであったため、BPAの発展は、CTEPH患者にとって大きな福音であると思われる。現在、経験のある施設で再灌流性肺障害を低減させる試みがなされ、合併症発症率は確実に減少している。しかし、安全性を重視するあまり、治療効果を減じるようでは、本末転倒といわざるをえない。低い合併症発生率と高い治療効果の双方を合わせもったBPAでなければならない。CTEPHの第一の治療ゴールは、平均肺動脈圧30mmHg以下を達成することである。これにより、CTEPH患者の予後を改善することができる。そして、第二の治療ゴールは、さらなる平均肺動脈圧の低下を目指して(20mmHg以下)、QOLの向上や酸素投与量の減量・中止、薬物療法の減量などを達成することである(図4)。われわれは可能な限り、平均肺動脈圧の低下を目指す「lower is better」を目標として、日々、CTEPHを治療している。また、BPAは本邦が世界をリードしている分野であり、今後、本邦から多くの知見が報告されなければならないと考える。図4 治療のゴール画像を拡大する最後にわれわれも発展途上であり、今後、多くの施設とBPAの発展について協力していければと思っている。文献1)Piazza G et al. Chronic thromboembolic pulmonary hypertension. New Engl J Med 2011;364: 351-360.2)Riedel M et al. Long term follow-up of patients with pulmonary thromboembolism: late prognosis and evolution of hemodynamic and respiratory data. Chest 1982; 81: 151-158.3)Thistlethwaite PA et al. Operative classification of thromboembolic disease determines outcome after pulmonary endarterectomy. J Thorac Cardiovasc Surg 2002; 124: 1203-1211.4)Feinstein JA et al. Balloon pulmonary angioplasty for treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circulation 2001; 103:10-13.5)Sugimura K et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty markedly improves pulmonary hemodynamics and long-term prognosis in patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ J 2012; 76: 485-488.6)Kataoka M et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty for the treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 756-762.7)Mizoguchi H et al. Refined balloon pulmonary angioplasty for inoperable patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 748-755.8)Auger WR et al. Chronic major-vessel thromboembolic pulmonary artery obstruction:appearance at angiography. Radiology 1992;182: 393-398.

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