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チャイルドシート熱傷に注意真夏の車内でシートベルトを着用しようとしたら、金属部分に手が触れて「あつっ!!」とあやうくヤケドするところだったという経験があるでしょう。これだけ熱ければ、ボンネットで目玉焼きでも焼けるんじゃないかと思いました。Moharir M, et al.Burn injury from car seat in an 11-month-old infant.Paediatr Child Health. 2012; 17: 495-497.ある日、母親と祖母に連れられて救急部を受診した11ヵ月の赤ちゃんがいました。どうやら左の大腿に棒状の熱傷がみられていたようです。熱傷が急性期のものではなかったため、病院側は幼児虐待を考慮して児童相談所へ連絡したそうです。―――この熱傷エピソードがある前、子供は母親のもとを離れて父方の家族のもとにいたようです。父親は少し離れたところで勤務していたため、両親は離れて暮らしていたみたいです。今回、母方の結婚式に出席するために父親と子供は5時間かけて車で移動しました。目的地に到着して、母親が児を抱き上げたとき、左大腿に広がる熱傷に気付きました。車の中には父親しかいませんでしたが、彼も「原因はまったくわからない」といった態度で、一体どのようにして熱傷を起こしたのか見当がつきませんでした。母親はしばらく熱傷の経過をみていましたが、皮膚が数日かけて悪化してきたため、救急部に子供を連れてきたというワケです。児の外傷については今回の熱傷のエピソードしかなく、家族全員が今回の件を不思議がっている態度をみると、どうやら虐待ではなさそうです。よくよく調べてみると、どうやら熱傷を起こした日は35℃の炎天下であり、車のガラスからは直接チャイルドシートに日光が当たり続けていたようです。子供の左大腿があった部分、それはチャイルドシートのプラスチックの部分でした。もちろん状況証拠でしかありませんが、高温になったチャイルドシートが熱傷の原因であろうと考えられました。巧妙に父親が虐待を隠した可能性もゼロではありませんが、そこは医学論文が論じる範疇ではないようです。今回のケースのように、車内にあるプラスチックや金属部分が高温になって熱傷を来した場合、医療従事者は幼児虐待であると誤認してしまうことがあります(Pediatrics. 1978; 62: 607-609.)。 乳幼児の熱傷をみた場合、救急部では虐待の可能性を考えることは重要ですが、クロだと決めつけてしまわないことも大事ですね。ちなみに小児だけでなく麻痺のある成人の患者さんでも、高温の車内では熱傷に注意が必要です(J Burn Care Rehabil. 2003; 24: 315-316.)。