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中等症~重症アトピーの外用薬併用、アブロシチニブvs.デュピルマブ/Lancet

 中等症~重症のアトピー性皮膚炎(AD)患者において、外用療法へのアブロシチニブ1日1回200mg併用はデュピルマブ併用と比較し、かゆみおよび皮膚症状の早期改善に優れており、忍容性は同様に良好であったことが、ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのKristian Reich氏らが実施した第III相無作為化二重盲検実薬対照ダブルダミー並行群間比較試験「JADE DARE試験」の結果、示された。先行の第III相試験では、中等症~重症の成人AD患者において、プラセボに対するアブロシチニブの有効性が確認されていた。Lancet誌2022年7月23日号掲載の報告。ステロイド外用薬等との併用で早期治療効果を評価 JADE DARE試験は、オーストラリア、ブルガリア、カナダ、チリ、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、ラトビア、ポーランド、スロバキア、韓国、スペイン、台湾、米国の151施設で実施された(2021年7月13日試験終了)。全身療法を必要とする、または外用薬で効果不十分な18歳以上の中等症~重症のAD患者を対象とし、アブロシチニブ(1日1回200mg経口投与)群またはデュピルマブ(2週間ごと300mg皮下投与)群に1対1の割合で無作為に割り付け、26週間投与した。全例が、ステロイド外用薬(弱~中力価)、外用カルシニューリン阻害薬、または外用ホスホジエステラーゼ4阻害薬の併用を必須とした。 主要評価項目は、2週時のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS)スコアがベースラインから4点以上改善(PP-NRS4)達成、4週時の湿疹面積・重症度指数(Eczema Area and Severity Index:EASI)スコアが90%以上改善(EASI-90)達成に基づく奏効率とした。 無作為に割り付けされ、治験薬を少なくとも1回投与された患者を有効性および安全性の解析対象集団とし、両側有意水準0.05で逐次多重検定によりファミリーワイズの第1種の過誤をコントロールした。2週時のかゆみと皮膚症状、アブロシチニブで有意に改善 2020年6月11日~12月16日の期間に940例がスクリーニングされ、727例が登録・割り付けされた(アブロシチニブ群362例、デュピルマブ群365例)。 2週時にPP-NRS4を達成した患者の割合は、アブロシチニブ群(172/357例、48%[95%信頼区間[CI]:43.0~53.4])がデュピルマブ群(93/364例、26%[21.1~30.0])より高く(群間差:22.6%[95%CI:15.8~29.5]、p<0.0001)、4週時にEASI-90を達成した患者の割合も同様(アブロシチニブ群101/354例・29%[23.8~33.2]vs.デュピルマブ群53/364例・15%[10.9~18.2]、群間差:14.1%[8.2~20.0]、p<0.0001)であり、アブロシチニブ群のほうが主要評価項目を達成した割合が高かった。 有害事象は、アブロシチニブ群で362例中268例(74%)、デュピルマブ群で365例中239例(65%)に認められた。治療に関連しない死亡がアブロシチニブ群で2例報告された。

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サル痘予防にKMバイオの天然痘ワクチンを承認/厚生労働省

 厚生労働省は8月2日のプレスリリースで、KMバイオロジクスの天然痘ワクチン(一般名:乾燥細胞培養痘そうワクチン、販売名:乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」)に対し、サル痘予防の効能追加を承認したことを発表した。二叉針を用いた多刺法により皮膚にワクチン接種 本ワクチンのサル痘予防の効能追加承認にあたり、添付文書が改訂された。主な追記部分は以下のとおり。<添付文書情報>【効能・効果】痘そう及びサル痘の予防【用法・用量】本剤を添付の溶剤(20vol%グリセリン加注射用水)0.5mLで溶解し、通常、二叉針を用いた多刺法により皮膚に接種する。【接種上の注意】4.副反応(1)重大な副反応1)ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明):ショック、アナフィラキシー(蕁麻疹、呼吸困難、口唇浮腫、喉頭浮腫等)があらわれることがあるので、接種後は観察を十分に行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。(2)その他の副反応(頻度不明)接種局所のほか、接種10日前後に全身反応として発熱、発疹、腋下リンパ節の腫脹をきたすことがある。また、アレルギー性皮膚炎、多形紅斑が報告されている。5.妊婦、産婦、授乳婦等への接種妊娠していることが明らかな者には接種しないこと。妊娠可能な女性においては、あらかじめ約1ヵ月間避妊した後接種すること、及びワクチン接種後約2ヵ月間は妊娠しないように注意させること。授乳婦においては、予防接種上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。6.接種時の注意(2)接種時本剤の溶解に当たっては、容器の栓及びその周囲をアルコールで消毒した後、添付の溶剤0.5mLで均一に溶解する。溶解後に金属の口金を切断してゴム栓を取り外す。二叉針の先端部を液につけワクチン1人分を吸い取る。溶解後のワクチン液は、専用の二叉針で50人分以上を採取することができる。(4)接種方法多刺法:二叉針を用いる方法で、針を皮膚に直角に保ち、針を持った手首を皮膚の上において、手首の動きで皮膚を圧刺する。圧刺回数は、通常、専用の二叉針を用いて15回を目安とし、血がにじむ程度に圧刺する。他の二叉針を用いる場合は、それらの二叉針の使用上の注意にも留意して圧刺すること。接種箇所は、上腕外側で上腕三頭筋起始部に直径約5mmの範囲とする。7.その他の注意(1)本剤接種後に被接種者が接種部位を手などで触り、自身の他の部位を触ることで、ワクチンウイルスが他の部位へ広がる自家接種(異所性接種)が報告されている。また、海外において、本剤とは異なるワクチニアウイルス株を用いた生ワクチン(注射剤)接種後に、ワクチン被接種者から非接種者へのワクチンウイルスの水平伝播が報告されている。接種部位の直接の接触を避け、また触れた場合はよく手指を水洗いすること。(2)WHOより発出されたサル痘に係るワクチン及び予防接種のガイダンスにおいて、サル痘ウイルス曝露後4日以内(症状がない場合は14日以内)に、第二世代又は第三世代の適切な痘そうワクチンを接種することが推奨されている。

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国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」【下平博士のDIノート】第103回

国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」今回は、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害剤「バルベナジントシル酸塩カプセル(商品名:ジスバルカプセル40mg、製造販売元:田辺三菱製薬)」を紹介します。本剤は、わが国で初めて遅発性ジスキネジア治療薬として承認されました。これまで治療法がなかった遅発性ジスキネジアによる不随意運動の改善効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、遅発性ジスキネジアの適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月1日に発売されました。なお、「遅発性ジスキネジア」の診断は、米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』および『統合失調症治療ガイドライン第3版』が参考とされます。<用法・用量>通常、成人にはバルベナジンとして1日1回40mgを経口投与します。なお、症状により1日1回80mgを超えない範囲で適宜増減できます。増量については、1日1回40mgを1週間以上投与し、忍容性が確認され、効果不十分な場合にのみ検討します。<安全性>遅発性ジスキネジア患者を対象とした国内第II/III相試験で認められた主な副作用は、傾眠、流涎過多、アカシジア、倦怠感などでした。重大な副作用として、傾眠(16.9%)、流涎過多(11.2%)、振戦(7.2%)、アカシジア(6.8%)、パーキンソニズム(2.4%)、錐体外路障害(2.0%)、鎮静、運動緩慢(いずれも1.2%)、落ち着きのなさ、姿勢異常(いずれも0.8%)、重篤な発疹、ジストニア、表情減少、筋固縮、筋骨格硬直、歩行障害、突進性歩行、運動障害(いずれも0.4%)、悪性症候群、蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫(いずれも頻度不明)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過剰になった脳内の神経刺激伝達を抑えることで、自分の意志とは無関係に体が動いてしまう、または無意識に口や舌を動かしてしまうなどの症状が出る遅発性ジスキネジアを改善します。2.眠くなったり、ふらついたりすることがあるので、自動車の運転などの危険を伴う機械の操作は行わないでください。3.抑うつや不安などの精神症状が現れることがあるので、体調の変化に気が付いた場合には連絡してください。4.飲み合わせに注意が必要な薬があるため、ほかの薬を使用している場合や新しい薬を使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。5.不整脈が起きていないか確認するために、心電図検査が行われることがあります。<Shimo's eyes>画像:重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚労省)より本剤は、わが国初の遅発性ジスキネジア治療薬であり、1日1回服用の経口剤です。遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬などを長期間服用することで起こる不随意運動を特徴とした神経障害であり、ドパミン受容体の感受性増加などが原因と考えられています。症状は、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせるなど、顔面に主に現れますが、手や足が動いてしまうなど四肢や体幹部でも認められます。また、重症になれば嚥下障害や呼吸困難を引き起こす可能性もあります。本剤は、神経終末に存在する小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)を阻害することにより、ドパミンなど神経伝達物質のシナプス前小胞への取り込みを減らし、不随意運動の発生に関わるドパミン神経系の機能を正常化させます。遅発性ジスキネジアを有する統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害または抑うつ障害の患者を対象とした国内第II/III相プラセボ対照二重盲検比較試験(MT-5199-J02)において、本剤40mg/日または80mg/日を投与した結果、両群で用量依存的な異常不随意運動の改善効果が認められました。本剤は重症度を問わず処方が可能です。ただし、遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬の長期使用に関連して発現するとされているため、原因薬剤の減量または中止を検討する必要があります。したがって、本剤の投与対象となるのは抗精神病薬など原因薬剤の減量や中止ができない、あるいは減量や中止を行っても遅発性ジスキネジアが改善しない患者さんとなります。投与に関しては相互作用が多いため併用薬の厳格なチェックが欠かせません。本剤はプロドラッグであり、未変化体はP糖タンパク質(P-gp)を阻害します。また、体内では主にCYP3Aによって代謝された後、活性代謝物は主にCYP2D6およびCYP3Aで代謝されます。本剤とパロキセチンを併用したとき、未変化体の変化は認められませんでしたが、活性代謝産物のCmaxおよびAUCはそれぞれ1.4倍、1.9倍に上昇したことが報告されています。本剤は、強いCYP2D6阻害剤(パロキセチン、キニジン、ダコミチニブ等)や、強いCYP3A阻害剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、エリスロマイシン等)を使用中、または遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さんなどでは、投与量を1日40mgから増量しないこととされています。なお、これらの条件が2つ以上重なる場合は、活性代謝物の血中濃度が上昇し、過度なQT延長などの副作用を発現する恐れがあるため、本剤との併用は避けることとされています。一方、中程度以上のCYP3A誘導剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等)を使用中の場合には、作用が弱まることを考慮して投与量を検討します。また、P-gpの基質薬剤(ジゴキシン、アリスキレン、ダビガトラン等)と併用するとこれらの血中濃度が上昇する恐れがあるので注意しましょう。中等度、あるいは高度の肝機能障害患者についても投与量に制限がかけられています。活性代謝産物の血中濃度が上昇した場合にはQT延長を引き起こす恐れがあるので、遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さん、QT延長を起こしやすい患者さん、相互作用に注意すべき薬剤を併用している患者さんでは定期的に心電図検査を行う必要があります。これまで、遅発性ジスキネジアについては原因薬の中止や他薬剤への変更に代わる対処法がありませんでした。よって、本剤の臨床的意義は高いと考えられます。なお、本剤は食事の影響を受けやすく、空腹時に服用すると食後投与と比較して血中濃度が上昇する恐れがあるため、副作用モニタリングと共に服用タイミングについても順守できているか確認しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ジスバルカプセル40mg

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妊娠中のビタミンD補充、児のアトピー性皮膚炎を予防?

 母体へのビタミンD補充が、出生児の4歳時までのアトピー性湿疹リスクを減少させたことが、英国・サウサンプトン大学のSarah El-Heis氏らによる無作為化試験「UK Maternal Vitamin D Osteoporosis Study(MAVIDOS)」で示された。これまで、母体へのビタミンD補充と出生児のアトピー性湿疹リスクとを関連付けるエビデンスは一貫しておらず、大半が観察試験のデータに基づくものであった。著者は、「今回のデータは、乳児のアトピー性湿疹リスクに対する胎児期のビタミンD(コレカルシフェロール)補充の保護効果に関する無作為化試験初のエビデンスであり、保護効果が母乳中のコレカルシフェロール値上昇による可能性を示唆するものであった」と述べ、「所見は、アトピー性湿疹への発育上の影響と、アトピー性湿疹への周産期の影響は修正可能であることを支持するものである」とまとめている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2022年6月28日号掲載の報告。 研究グループは、二重盲検無作為化プラセボ対照試験「MAVIDOS」の被験者データを用いて、妊娠中の母体へのコレカルシフェロール補充と、出産児のアトピー性湿疹リスクへの影響を月齢12、24、48ヵ月の時点で調べる検討を行った。 MAVIDOSでは、妊産婦は、コレカルシフェロールを投与する群(1,000 IU/日、介入群)または適合プラセボを投与する群(プラセボ群)に無作為に割り付けられ、おおよそ妊娠14週から出産まで服用した。主要アウトカムは、新生児の全身の骨ミネラル含有量であった。 主な結果は以下のとおり。・出生児のアトピー性湿疹(UK Working Party Criteria for the Definition of Atopic Dermatitisに基づく)の有病率の確認は、月齢12ヵ月で635例、同24ヵ月で610例、同48ヵ月で449例を対象に行われた。・母体および出生児の特性は、介入群のほうで授乳期間が長期であったことを除けば、両群で類似していた。・母乳育児期間を調整後、介入群の出生児のアトピー性湿疹のオッズ比(OR)は、月齢12ヵ月時点では有意に低かった(OR:0.55、95%信頼区間[CI]:0.32~0.97、p=0.04)。・介入の影響は徐々に減弱し、月齢24ヵ月時(OR:0.76、95%CI:0.47~1.23)、月齢48ヵ月時(0.75、0.37~1.52)は統計学的な有意差は認められなかった。・月齢12ヵ月時の湿疹に関連した介入と母乳育児期間の統計学的相互作用について、有意性はみられなかった(p=0.41)。・ただし、介入群の乳児湿疹リスクの低下は、母乳育児期間が1ヵ月以上の乳児では有意差が認められたが(OR:0.48、95%CI:0.24~0.94、p=0.03)、1ヵ月未満の乳児では有意差は認められなかった(0.80、0.29~2.17、p=0.66)。

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認知症と犯罪【コロナ時代の認知症診療】第16回

老年医学の名著「最不適者の生き残り」「よもぎ」は雑草と思われがちだが、実はハーブの女王とも呼ばれる。国内のいたるところで見られ、若芽は食用として餅に入れられることから、餅草とも呼ばれる。筆者にとってよもぎが、馴染みの深いのも実はこの餅にある。子供の頃、祖母に言われて道端のよもぎを摘んできて、よもぎ餅を一緒に作った記憶がある。この話を生物学に造詣の深いシステムエンジニアにした。にんまりと笑って言うには、子供の頃に私が摘んだものは道端の犬の小水がかかった汚いものだった可能性が高いと言う。「どうしてか? を観察すると散歩が楽しくなるかも」といった。そして分布ぶりから植物の生存競争の一端がわかるからと加えた。確かに色々な観察をした。最も記憶に残ったのは、背丈はたかだか1m以内とされるのに2mを超えるよもぎがあることだ。それらには共通性がある。ネット状フェンスや金属の柵にぴったり沿って生えていることだ。高い丈は子孫を伝えていく上で花粉が広く飛散しやすく有利だ。生物の生存競争では、最も環境に適した形質をもつ個体が生き残るとしたダーウィンの「適者生存」の法則が有名だ。よもぎの成長にとって重要な日光だが、フェンスや柵に寄り添ったよもぎは日陰に覆われる時なく十二分に太陽の光を浴びられる。もっと大切なのは風雨でも支えてもらえることだろう。さて「適者生存」と聞くと思い出すのが、“Survival of the unfittest”(最不適者生存の生き残り)1)という書である。これはイギリス老年医学の黎明期1972年にアイザック医師によってなされた著作である。私はこの書が出てから、10余年の後に留学先の図書館で読んだ。隅々まで頭にしみて、老年医学・医療が生まれた背景を理解できた気になれた。さまざまな背景により、高齢に至って多くのハンディキャップを背負った人がいかに生きていくか?そこで医者は何ができるかを問うた名著として読んだ。「生老病死」の「老」についての宗教観さえ感じた。初版時から50年以上が経過したが、その内容は日本における現状との違和感がない。それも残念だが…。ピック病とは限らない? 高齢者犯罪と疾患先頃、ある区役所の職員に連れ添われて60代初めの身寄りのない女性が来院した。記憶力はそう悪くないし、若い頃には窃盗歴などなかったのに、数ヵ月の間に万引きを重ね反省の色もなくおかしい。認知症があるのではないか調べて欲しいという。すぐにピック病を疑い、精査の結果でもピック病と確認した。1年に数人はこうした犯罪絡みの受診がある。認知症の犯罪となるとピック病と誰もが連想する。けれども、当院での経験では、意外なほどレビー小体型認知症が多い。この病気における意識・注意の変動や、てんかんの合併しやすさ、また認知機能の統合能低下などもあるのではないかと考えている。また認知症と並んで複雑部分発作などてんかん性の疾患が多い。裁判官にわかってもらう難しさ中には複数の犯罪を重ねて刑事裁判に至るケースもある。そこで意見書を求められると、「かくかくの認知症疾患があり、犯行当時の責任能力に影響を及ぼしたと推測される症状があったと考える」と書くことが多い。重度の認知症であれば、裁判官も本人と面接して、「ああこれでは」と思ってくれる。しかし軽度認知障害から軽度の認知症、それも前頭側頭型認知症だと難しい。というのは裁判官の世界では、精神神経疾患の犯罪とくると、統合失調症における放火や殺人事件に対する責任能力という古典的な命題が今も中核になっているのではと思えるからである。当方のケースは、統合失調症による幻覚や妄想に支配されてやってしまったかと分かるというレベルではない。長谷川式やMMSEは20点以上が多いから、裁判所における質問への理解力や発言、態度には不自然さがない。だから裁判官が私に向ける視線には、「これでも責任能力がないのですか?」と言いたげな気持ちがこもっている。8.5%で認知症性疾患罹患中に犯罪歴認知症患者における犯罪実態の系統的報告がある2)。研究対象は1999~2012年の間に認知症と診断され、米国の記憶・加齢センターで診察された2,397人の認知症患者である。米国、オーストラリア、スウェーデンの専門家により認知症性疾患と犯罪の関係が回顧的に調査された。全対象のうちの8.5%に認知症性疾患罹患中に犯罪歴があった。2,397人中の545人を占めたアルツハイマー病では犯罪率は7.4%であったのに対し、171人と総数では少ない前頭側頭型認知症における犯罪率は37.4%であった。この数字は本研究で調査対象となった5つの認知症性疾患の中で最多であった。この本報告は従来の小報告の結果を確認したと言える。さて米国における認知症の人の裁判状況は、私の経験とあまり違わないもののように思われる。と言うのは、本研究の結論として、「中年期以降に変性性の疾患と診断され、従来のその人らしさを失ってしまった患者に遭遇した医師は、その人が法的処罰の対象にならないように擁護に尽力すべきだ」と強調しているからである。終わりに。最近の生物界では、「適者生存」でなく「運者生存」が正しいとされるそうだ。フェンスの横におちたよもぎの種子は、まさにそれだろう。件の連続万引きの独居女性は、この事件のおかげで認知症がわかり、役所から手厚い支援が差し伸べられるようになったばかりか、不起訴にもなった。ある意味、幸運であった彼女は、“Survival of the unfittest”を実現したかなと考える。参考1)B. Isaacs, et al. Survival of the Unfittest: A Study of Geriatric Patients in Glasgow. Routledge and K. Paul;1972.2)Liljegren M, et al. JAMA Neurol. 2015 Mar;72:295-300.

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デュピクセント、日本人小児アトピー性皮膚炎患者に対し主要評価項目達成/サノフィ

 サノフィは2022年6月14日付のプレスリリースで、同社のデュピクセント(一般名:デュピルマブ)について、生後6ヵ月から18歳未満の日本人アトピー性皮膚炎患者を対象とした第III相試験の結果を発表した。本試験における主要評価項目EASI-75の達成割合は、プラセボ投与群と比較してデュピクセント投与群で有意に高く、小児アトピー性皮膚炎の症状軽減に対する同製剤の有効性が示された。安全性データは、これまでのデュピクセントの安全性プロファイルと一致していた。デュピクセントの小児患者のEASI-75達成割合は43%でプラセボ群は19% 中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者は、ステロイド外用剤(TCS)やタクロリムス外用剤による適切な治療を一定期間実施しても十分な効果が得られず、高頻度かつ長期間の再燃が認められる場合がある。しかし、若年層では治療選択肢が限られており、アンメットニーズが存在している。 デュピクセントは既に、既存治療で効果不十分な、成人のアトピー性皮膚炎患者に対して薬事承認されている。今回発表された試験は、多施設共同、ランダム化、プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験で、中等症から重症のアトピー性皮膚炎と診断され既存療法で効果不十分な、生後6ヵ月から18歳未満の日本人小児患者62名を対象としている。TCSを標準治療薬とし、デュピクセントを併用した群とプラセボ投与群との比較により、小児アトピー性皮膚炎に対するデュピクセントの有効性と安全性を評価した。 小児アトピー性皮膚炎に対するデュピクセントの有効性と安全性を評価した主な結果は以下の通り。・主要評価項目である、投与16週時点のベースラインからのEASI-75達成割合は、デュピクセント投与群で43%、プラセボ投与群で19%だった(p=0.0304)。・安全性データは、デュピクセントで確立している安全性プロファイルと一致するもので、新たな有害事象は報告されなかった。 本試験で確認されたデュピクセントの有効性と安全性の詳細は、今後学会で公表される見通し。現在、国内における小児アトピー性皮膚炎へのデュピクセントの使用は臨床開発中であり、今後、本試験の結果をもとに生後6ヵ月以上18歳未満の小児を対象とした、製造販売承認事項一部変更申請を国内で実施する予定としている。

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ニコニコ仮面は15枚限定【Dr. 中島の 新・徒然草】(426)

四百二十六の段 ニコニコ仮面は15枚限定連休は過ぎましたが、暑からず寒からずいい季節ですね。心なしか、花粉もちょっと減っているような気がします。さて、私はいつも研修医やレジデントに「病院にいる間はニコニコ仮面をつけておけ」と言ってます。もちろんそんな仮面が本当にあるわけではなく、あくまでも想像上の物。心の中では泣いたり怒ったりしていても、意識してニコニコした表情を保ち、患者さんや同僚から上機嫌に見えるよう努力しろ、という意味で言っているわけです。家で何があろうが、体調が悪かろうが、職場ではプロとして振る舞わなくてはなりません。そしてプロたるもの、患者さんの前では常にニコニコしておく必要があります。たとえ心の中で何を考えていたとしても、ですね。だから、出勤して1歩病院に入ったら、ニコニコ仮面の装着です。ところが、私のニコニコ仮面はディスポーザブル。とくに外来中は、仮面の消耗が激しいのが現実です。だから1人の患者さんあたり、1枚の仮面を使ってしまいます。今日の外来予約が15人とすれば、15枚分を準備しておかなくてはなりません。しか~し。医療現場では、常に予定外の事が起こります。予約外の新患の来院。他科からの想定外のコンサル。突然の急患。ドカン!とドアが開いたと思ったら、いきなりのストレッチャーの搬入。「僕、聞いてないんですけど」と言いかけた途端、患者さんの全身痙攣が始まったりします。それでもニコニコしながら「大丈夫ですよ、心配要りませんからね」などと言いながら、処置しなければなりません。予定外の仮面1枚を消費する瞬間です。ようやく嵐の外来が終了。そんなときに限って、別の患者さんの診察を頼まれたりするわけです。本来の担当医は病棟で急変があって、隣の診察室を飛び出していった後。もう仮面の予備は1枚も残っていません。仕方なしに、床に落ちていた仮面を拾って装着します。でも、あちこち破れていて……そもそも使い物になるのか?患者「会社の上司が一度ちゃんと調べてもらって来いって」えっ?カルテを見る限り、担当医は真面目に診ているようですが。中島「ちゃんと診るというのは、具体的にどのような事を仰っているのでしょうか?」患者「何だかこの先生、怖い!」ぬぬぬ。ついイラッとしたのがバレてしまったか?中島「怖がらせるような事は何も言ってませんけど!」患者「でも、目が怒ってる」ボロボロの仮面の裂け目から、素の表情が見えていたのかもしれません。すみません。そもそも私は、予定外の事に弱いです。にもかかわらず、予定外が多すぎます。1日に何度も予定外が降ってきます。下手したら休日まで。また、私はマルチタスクができません。にもかかわらず、右からも左からも話しかけられます。追い込まれた時に怒った表情を見せないために、ニコニコ仮面を準備しているというのに。全部使い切った私はどうしたらいいんでしょうか……嗚呼最後に1句初夏の午後 捨てた仮面を また使う

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英語で「波がある痛み」は?【1分★医療英語】第28回

第28回 英語で「波がある痛み」は?Is the pain constant?(持続する痛みですか?)No, it comes and goes.(いいえ、痛みには波があります)《例文1》Does the pain come and go?(痛みには波がありますか?)《例文2》Hives can come and go.(蕁麻疹は、出たり消えたりします)《解説》“come and go”は文字通り、「行ったり来たりする」を意味し、症状に波があることを指します。医学用語では、持続痛は“constant pain”、間欠痛は“intermittent pain”と言いますが、患者さんに“intermittent”という単語は伝わりにくいため、どちらの痛みなのか確認したいときには、“Does it come and go?”と聞くとよいでしょう。その他の「痛みには波がある」という言い方として、“The pain gets better and worse.”や“The pain waxes and wanes.”などがあり、併せて覚えておくと役立ちます。“wax and wane”は、もともとは「月の満ち欠け」という意味で、“wax”が「満ちる」、“wane”が「欠ける」を意味します。“wax and wane”は月の満ち欠け以外にも、症状が良くなったり悪くなったりすることを表すことができ、医療者同士の会話では“His mental status waxed and waned, so we couldn’t extubate him.”(彼の意識レベルは波があり、抜管できませんでした)といった表現が頻繁に登場します。講師紹介

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手術室あるある【Dr. 中島の 新・徒然草】(423)

四百二十三の段 手術室あるあるもうすぐゴールデンウィーク!休みが近づくのは嬉しいものの、花粉症に悩まされる毎日です。今年はとくに花粉が多いのか、くしゃみが止まりません。なので、天気が良くても外出する気がせず、部屋に籠っております。そんな苦しい花粉症ですが、手術室に行くとピタリと止まります。というのも、手術室の空気には塵がほとんどないからです。自宅の部屋の1立方フィートの空気中の微粒子が、だいたい100万個程度のところ、クラス100の手術室だと、浮遊している微粒子は100個以下なので、花粉症対策には最適。さすがに手術室で鼻を垂れたり涙を流したりしている人はおらず、外科医にとっては安息の地であります。ところが、建物が古いせいなんでしょうね。ウチの手術室は室温調整が困難で、「暑い」と「寒い」の2つしか選択肢がありません。そのような場合には手術用下着の下にTシャツを着るなどしたうえで、「寒い」を選びます。とくに顕微鏡手術のときには、術者の座っている位置に天井からの冷風が直接当たるので、寒いことこの上ありません。微小血管吻合用の10-0の糸も、風にあおられて揺ら揺らしています。それでも諸般の事情で寒い方を選んでいるわけです。ところが、いきなり手術室が暑くなることがあります。「おい、やけに暑いぞ。温度下げてくれよ」と文句が出るのですが、「すみません。隣の部屋にカイザーが入ったんです」と、問答無用といわんばかりの返答。カイザーというのは帝王切開の俗称で、生まれてくる赤ん坊のために、あらかじめ室温を上げておくわけです。手術室の掟として、いかなる場合にもカイザーが最優先、というのがあります。なので我々も、熱帯気候の中で黙々と手術せざるを得ません。そんな中、突如「おぎゃあ、おぎゃあ!」という泣き声が聞こえてきます。隣の部屋にいる我々まで、ホッとするというか、嬉しくなるというか。ということで、全国共通の「手術室あるある」を述べさせていただきました。皆さん、花粉と戦いつつ、ゴールデンウィークを楽しみましょう。最後に1句花粉から 避難の先は 酷寒だ

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中等症~重症アトピー性皮膚炎へのウパダシチニブ、長期有効性を確認

 中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者(青少年および成人)に対するJAK阻害薬ウパダシチニブの有効性と安全性について、2つのプラセボ対照試験結果の長期52週時のフォローアップデータ解析の結果を、米国・オレゴン健康科学大学のEric L. Simpson氏らが発表した。ベネフィット・リスクのプロファイルは良好であり、16週時点で認められた有効性は52週時点でも確認されたという。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年3月9日号掲載の報告。 研究グループが、アトピー性皮膚炎患者に対するウパダシチニブの長期(52週)の有効性と安全性を評価するため解析した2つの試験は、いずれも現在進行中の第III相二重盲検プラセボ対照反復無作為化試験「Measure Up 1試験」と「Measure Up 2試験」。それぞれ、151施設および154施設で中等症~重症アトピー性皮膚炎の青少年および成人患者が参加している。今回の解析のためのデータカットオフ日は、それぞれ2020年12月21日と2021年1月15日であった。 主要評価項目は、安全性および有効性で、湿疹面積・重症度指数(EASI)75%改善および試験担当医によるアトピー性皮膚炎の総合評価(vIGA-AD)スコアが2段階以上改善を伴うスコア0(消失)または1(ほぼ消失)への達成などで評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析に含まれた被験者は、2試験で計1,609例(平均年齢33.8[SD 15.6]歳、女性727例[45.2%]、男性882例[54.8%])であった。・16週時点の有効性は、52週時点まで持続していた。・52週時点のEASI 75%改善達成率は、15mg用量服用患者群で、Measure Up 1試験被験者82.0%(95%信頼区間[CI]:77.0~86.9)、Measure Up 2試験被験者79.1%(73.9~84.4)、30mg用量服用患者群でそれぞれ84.9%(80.3~89.5)、84.3%(79.6~89.0)であった。・52週時点の2段階以上の改善を伴うvIGA-ADスコア達成率は、スコア0への改善達成率が各試験被験者59.2%(95%CI:52.9~65.5)、52.6%(46.2~59.1)であり、スコア1への改善達成率がそれぞれ62.5%(56.3~68.7)、65.1%(58.9~71.2)であった。・有害事象による治療中止は全体的に低調だったが、30mg用量群でわずかに高率に認められた。両用量とも忍容性は良好で、新たな安全性シグナルはみられなかった。

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単回投与で効果が期待できる世界標準の梅毒治療薬「ステルイズ水性懸濁筋注60万/240万単位シリンジ」【下平博士のDIノート】第94回

単回投与で効果が期待できる世界標準の梅毒治療薬「ステルイズ水性懸濁筋注60万/240万単位シリンジ」今回は、持続性ペニシリン製剤「ベンジルペニシリンベンザチン水和物(商品名:ステルイズ水性懸濁筋注60万/240万単位シリンジ、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は早期梅毒に対して単回投与で効果を発揮するため、既存治療の課題であったアドヒアランス不良による治療失敗を防ぐことができると期待されています。<効能・効果>本剤は、梅毒トレポネーマによる梅毒(神経梅毒を除く)の適応で、2021年9月27日に承認され、2022年1月26日に発売されました。<用法・用量>成人および2歳以上の小児早期梅毒:通常、ベンジルペニシリンとして240万単位を単回、筋肉内に注射します。なお、2歳以上13歳未満の小児の場合は年齢、体重により適宜減量可能です。後期梅毒:通常、ベンジルペニシリンとして1回240万単位を週に1回、計3回、筋肉内に注射します。なお、2歳以上13歳未満の小児の場合は年齢、体重により適宜減量可能です。2歳未満の小児早期先天梅毒、早期梅毒:通常、ベンジルペニシリンとして体重1kgあたり5万単位を単回、筋肉内に注射します。<安全性>臨床試験で報告された主な副作用は、主な副作用は、皮疹(斑状丘疹状皮疹、剥脱性皮膚炎)、蕁麻疹、喉頭浮腫、発熱(いずれも頻度不明)などでした。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、偽膜性大腸炎、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、間質性腎炎、急性腎障害、溶血性貧血(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.梅毒の原因菌である梅毒スピロヘータの細胞壁の合成を阻害して感染症を治療する薬です。2.接種後に一時的な発熱、頭痛、倦怠感などが生じることがあります。症状がひどい場合はご相談ください。3.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>わが国では2010年以降、梅毒の感染者数は男女ともに増加しています。国立感染症研究所感染症疫学センターが公表したデータによると、2021年第1~47週までに届出があった症例数は、2020年の同時期の約1.4倍であり、1999年に感染症法が施行されてからもっとも多いことが示されました。男性は20~40代の幅広い年齢で届出がありますが、女性では20代前半が突出して多く、これは先天梅毒の増加にもつながる問題です。本剤は、海外では梅毒治療の標準薬として広く用いられており、これまで耐性菌の報告はありません。一方、わが国での現行の治療は、アモキシシリンを1日3回、2~4週間(第2期以降はさらに継続)服用する方法が一般的で、アドヒアランス不良による治療失敗が少なくないという課題があります。そのような背景から、日本感染症教育研究会などの関連団体から本剤の開発が要望され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」での検討結果を受けて開発されました。本剤の溶解性は低く、筋注部位から緩徐に放出された後、ペニシリンGに加水分解されて吸収されるため、血中濃度が長時間持続します。本剤は粘性が高いため、240万単位には18ゲージ、60万単位には21ゲージの注射針を用い、針が詰まらないよう、ゆっくりと一定速度で注射する必要があります。感染から1年未満(早期梅毒)の場合は単回投与ですが、感染から1年以上たった後期梅毒の場合は、週に1回を計3回投与する必要があります。本剤投与後、梅毒治療に特異的な「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」による一時的な発熱、頭痛、倦怠感などが生じる可能性があります。多くの場合は一過性ですが、治療したにもかかわらず調子が悪くなったと勘違いする患者さんもいるので、あらかじめ説明しておきましょう。参考1)PMDA 添付文書 ステルイズ水性懸濁筋注60万単位シリンジ/ステルイズ水性懸濁筋注240万単位シリンジ

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円錐角膜〔keratoconus〕

1 疾患概要■ 定義円錐角膜は、進行性の両眼角膜中央部もしくは下方の菲薄化と突出を来す疾患であり、近視化と不正乱視による視力低下を来す。■ 疫学円錐角膜の発症頻度は、450〜2,000人に1人とされてきた。しかし、診断技術の進歩により、軽症の円錐角膜の検出頻度が上がっている。屈折矯正外来を訪れる患者のうち円錐角膜または円錐角膜疑い患者は5%前後にみられる。また、難波らの調査からは、疑い例も含めると日本人の約100人に1人程度の有病率であるという結果が報告されていることから、軽症例も含めると従来考えられているよりも罹患人口が多い可能性が高い。性差については報告により異なるが、わが国では男性に多いという報告が多数ある。■ 病因明らかな病因はいまだに不明である。数多くの遺伝子変異が報告されているが、実際に遺伝的素因が明らかな例はあまり多くない。ダウン症候群やレーバー先天盲、エーラス・ダンロス症候群、マルファン症候群などでは円錐角膜の発症率が高いことが知られている。その他リスクファクターとしては、アトピーなどのアレルギー眼疾患、頻繁に目をこする、などが挙げられる。■ 症状軽度の症例では自覚症状はほとんどない場合もあるが、中等度以上になると近視性乱視と不正乱視が出現する。そのために眼鏡矯正視力が不良になりハードコンタクトレンズによる矯正が必要になる。ほとんどの場合両眼性に生じるが、程度に左右差があることも多い。■ 分類角膜の突出部位別の分類としては、以下のものがある。Nipple角膜中央の狭い範囲(5ミリ以下)に突出がみられるもの。Oval     突出部位が中央やや下方にみられるもの。最も頻度が高い。Globus突出部位が角膜の4分の3の範囲に及ぶもの。また、重症度分類としては、Amsler分類(表)が古くから用いられているが、測定機器の進歩によって、細隙灯顕微鏡で検出できない初期の変化が捉えられるようになってきたために、見直す必要がある。表 Amsler-Krumeich分類画像を拡大する■ 予後円錐角膜の多くは思春期から青年期にかけて発症し、その後加齢とともに進行するが、中年以降になると進行速度が緩やかになってやがて停止する。しかしながら、進行の有無やスピードには個人差が大きく、近年の報告によれば30歳以降でも進行する症例もみられることが明らかになっている。経過中に、デスメ膜破裂を来す場合がある。局所的な実質の浮腫と、それに伴う急速な視力低下と軽度の眼痛を認める(急性水腫:図1)。浮腫は自然に軽快するが、実質瘢痕を残すと視力が回復せずに角膜移植が必要となることもあるので、急性水腫を来さないような治療方針を建てることが重要となる。図1 急性水腫の前眼部所見急激に発症する角膜中央部の浮腫で、スリットランプでしばしば実質の裂隙とデスメ膜の断裂を認める。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)円錐角膜の診断には、正確な視力検査、自覚的屈折検査と角膜形状解析検査を行う必要がある。細隙顕微鏡での異常所見としては、角膜中央〜Vogt’s striae(角膜実質の線状の皺壁:図2)、Fleisher ring(突出部の周辺に認められるリング状のヘモジデリン沈着)、上皮化の瘢痕などが挙げられ、主として中等症以上で初めて認められる。図2 Vogt’s striae突出部に生じる細かい実質の皺壁。初期の円錐角膜の診断には、角膜トポグラフィー(形状解析検査)が有用であり、角膜中央から下方の前方突出が特徴的である(図3)。図3 典型的な円錐角膜の角膜トポグラフィー像下方角膜曲率の急峻化を認める。近年では、多くの機器で円錐角膜のスクリーニングプログラムが搭載されている。より初期の診断には、角膜前面だけではなく後面も評価でき、角膜厚の分布も検出できる角膜トモグラフィー(断層撮影)の感度が高い。さらに、角膜形状でなく生体力学的特性を調べる検査の有用性も報告されている。鑑別疾患としては、円錐角膜よりも周辺部角膜の菲薄化と突出を来たすペルーシド角膜辺縁変性が挙げられる。円錐角膜よりも発症が遅く進行が停止するまでの期間も長い。その他、レーシックなどの角膜屈折矯正手術後の角膜拡張症(エクタジア)も円錐角膜と同様の所見を呈する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)円錐角膜の治療は、視力矯正と進行予防の2つの目的があり、前者はさらに保存的治療と外科的治療に分かれる。■ 視力矯正1)保存的治療軽度の場合は眼鏡やソフトコンタクトレンズも用いられるが、一般的には酸素透過性ハードコンタクトレンズによる矯正が中心となる。角膜突出の程度が強くなると、多段階のベースカーブを有する円錐角膜用のハードコンタクトレンズが必要となる場合もある。ハードコンタクトレンズに伴う異物感が強い場合は、ソフトコンタクトレンズの上にハードコンタクトレンズを乗せる“piggy-back”とよばれる装用法や、中心部がハードレンズで周辺部がソフトレンズのハイブリッドレンズ、あるいは強膜レンズが用いられることもある。2)外科的治療軽度の非進行例については、有水晶体眼内レンズによる近視・乱視の矯正も試みられている。近年、角膜実質の混濁をともなわない例については、角膜実質にPMMA製のリングを入れる「角膜内リング」も一部で行われるようになった(国内未承認)。これによって角膜形状の改善とハードコンタクトレンズ装用感の向上が得られる場合がある。保存的治療で充分な視力矯正が得られない場合、角膜移植が1つの選択となりうる。かつては角膜全層を移植する「全層角膜移植」が広く行われたが、術後合併症への対策が欠かせないという欠点があり、それを補うために角膜実質をデスメ膜の直上まで切除して移植する「深層層状角膜移植」が行われているが、手術手技が難しいという欠点を持つ。■ 進行抑制約20年前から、「角膜クロスリンキング」という円錐角膜の進行抑制を目的とした治療が、諸外国で広く行われるようになった(国内未承認)。角膜実質内にリボフラビン(ビタミンB12)を浸透させた後に、紫外線を照射することで角膜実質のコラーゲン線維の架橋を促して強度を向上させる。これまでの研究で、円錐角膜の進行抑制が大半の例で得られ、若干の形状改善効果もあることが報告されている。進行抑制が得られれば、角膜移植などの外科的治療を受けずに済む可能性が高く、患者の生活の質の向上に役立つ。4 今後の展望上に挙げた治療法のいくつかは保険未収載であったり、機器の承認が取れていないため、治療は多くの場合が自費診療として行われる。特に角膜クロスリンキングは、疾患の進行抑制を効率で得られるために患者のQOLを長期にわたって改善できることが海外で報告されており、わが国でも早急に実施体制が整うことが求められる。また、多くの円錐角膜患者にとってハードコンタクトレンズは生活に欠かせないが、市町村によってはその購入に対する補助がなされないなど、患者負担が大きいことが問題となっている。5 主たる診療科眼科。しかし多くの例では、眼鏡店やコンタクトレンズ販売店、あるいは屈折矯正手術施行施設を訪れることも多く、これらの施設で適切に円錐角膜の診断をつけることが重要である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報円錐角膜研究会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Keratoconus Foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Amsler M. Ophtalmologica. 1946;111:96–101.公開履歴初回2023年3月8日

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ウパダシチニブ+TCS、日本人アトピー性皮膚炎患者への安全性確認

 日本人のアトピー性皮膚炎(AD)の治療として、経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬ウパダシチニブ+ステロイド外用薬(TCS)併用の安全性を検討した、京都府立医科大学の加藤 則人氏らによる第III相無作為化二重盲検試験「Rising Up試験」の24週の中間解析結果が発表された。ウパダシチニブに関する既報の知見と、概して一致した結果が示され、安全性について新たなリスクは検出されなかったという。JAAD International誌2022年3月号掲載の報告。 Rising Up試験は、12~75歳の日本人の中等症~重症AD患者を対象とし、被験者を無作為に1対1対1の3群に割り付け、(1)ウパダシチニブ15mg+TCS、(2)ウパダシチニブ30mg+TCS、(3)プラセボ+TCSをそれぞれ投与した。安全性は、有害事象と検査データに基づき評価した。 主な結果は以下のとおり。・272例(成人243例、未成年29例)が無作為化を受けた(治療開始は2018年11月17日)。・重篤な有害事象の発現頻度は24週時点で、ウパダシチニブ+TCS投与の両群がプラセボ+TCS群よりも高率であったが、用量間では類似していた(15mg+TCS群:56%、30mg+TCS群:64%、プラセボ+TCS群:42%)。・ウパダシチニブ+TCS投与群はプラセボ+TCS群と比べて、にきびの発現頻度が高かった(すべて軽症~中等症、治療中止となった症例なし)。発現頻度は、15mg+TCS群13.2%、30mg+TCS群19.8%、プラセボ+TCS群5.6%。・さらに、15mg+TCS群よりも30mg+TCS群で、帯状疱疹(30mg+TCS群:4.4% vs.15mg+TCS群:0%)、貧血(1.1% vs.0%)、好中球減少症(4.4% vs.1.1%)の発現頻度が高かった。なお、これらのイベントはプラセボ+TCS群では報告されなかった。・血栓塞栓性イベント、悪性腫瘍、消化管穿孔、活動性結核、死亡の発生は報告されなかった。

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花粉症治療でドーピング陽性!?【スーパー服薬指導(1)】

スーパー服薬指導(1)花粉症治療でドーピング陽性!?講師:近藤 剛弘氏 / 元 ファイン総合研究所 専務取締役動画解説とあるスポーツの大会に出場するという花粉症患者が来局。眠くなると困るという患者が持参した処方箋に記載された薬品目とは?

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乳児のアトピーに悩む家族へのアドバイス【ママに聞いてみよう(6)】

ママに聞いてみよう(6)乳児のアトピーに悩む家族へのアドバイス講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説アトピー性皮膚炎の乳児のスキンケアで何に気を付けるのか、卵などの食物アレルギーの原因になる食べ物はいつから食べさせてよいのか、悩む母親に適切なアドバイスができますか?最新の知見を踏まえて、美智子先生が教えます。

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漢方薬へのイメージはプラスか、マイナスか/アイスタット

 近年では「漢方薬」は身近なものとなり、街のドラッグストアやかかりつけ薬局などさまざまな場所で購入できるようになった。これら「漢方薬」について、一般市民が抱くイメージや利用実態を知ることを目的に、株式会社アイスタットは1月6日にアンケート調査を行った。アンケート調査は、セルフ型アンケートツール“Freeasy” を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員30~79歳の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年1月6日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(30~79歳)を対象アンケート調査の概要・漢方薬に興味ある人は49.3%、興味ない人は50.7%とほぼ同じ割合・医師から漢方薬を処方された場合、抵抗がないと回答した人は約6割・漢方薬は効き目があると思っている人は45%、半数を下回る・漢方薬を服用したことがある人は6割弱・漢方薬を服用したきっかけ第1位は「医師の処方」の46.4%・漢方薬のイメージの第1位は「即効性がなさそう」の34%・漢方薬を服用してみたい症状の第1位は「肩こり、腰痛」の23.3%・漢方薬を服用してみたくなるには「医師の積極的なすすめ」の39.7%が最多漢方薬の利用には医療者のすすめが必要 最初に「漢方薬について、興味や関心があるか」を聞いたところ、「やや興味がある」が39.3%で最も多く、「あまり興味がない」が30.0%、「全く興味がない」が20.7%の順だった。興味の有無別に分類すると、「興味がある」は49.3%、「興味がない」は50.7%で、ほぼ同じ割合だった。 「医師から漢方薬を処方された場合、抵抗があるか」を聞いたところ、「抵抗がない」が63.0%で最も多く、「どちらでもない」が26.7%、「抵抗がある」が10.3%と続いた。年代別では、「抵抗がない」と回答した人は70代で最も多く、「抵抗がある」を回答した人は30代と40代で最も多かった。 「漢方薬の効果(体質改善)についてどう思うか」を聞いたところ、「効き目がある」が45.0%で最も多く、「わからない」が35.3%、「効き目がない」が19.7%の順で続いた。「効き目がある」と回答している人が約4割台にとどまり、漢方にネガティブなイメージを抱かせる一因になっていると推測された。なお、年代別では、「(体質改善に)効き目がある」と回答したのは、30代・40代(49.4%)で1番多く、「効き目がない」との回答では、60代(25.9%)で1番多かった。 「漢方薬の服用状況について」を聞いたところ、「一度も服用したことがない」が44.7%で最も多く、「現在は服用していないが、過去に服用したことがある」が35.0%、「ときどき、服用している」が16.0%の順で続いた。服用状況の有無別の分類では、服用経験あり(55.3%)が服用経験なし(44.7%)を上回る結果だった。 「(漢方薬の服用経験がある回答者のみに[166名])漢方薬を服用したきっかけ」を聞いたところ、「医師の処方」が46.4%で最も多く、「薬局ですすめられて」が17.5%、「店頭(ドラッグストア、漢方専門店)で見て」が17.5%の順で続いた。 「漢方薬にどのようなイメージがあるか」(複数回答)を聞いたところ、「即効性がなさそう」が34.0%で最も多く、「にがい、くさい、おいしくない」が32.0%、「自然素材」が31.3%の順で続いた。大きくマイナスイメージが先行している結果だった。 「今後、漢方薬を服用してみたい症状、もしくはすでに漢方薬を服用した症状はあるか」(複数回答)を聞いたところ、「肩こり、腰痛」が23.3%、「疲れやすい、だるい」と「ストレス、イライラ、不安」が15.7%と同順位で続いた。回答では慢性的な症状の改善を期待する回答が上位を占めた一方、「特になし」が38.3%と最も多く、漢方薬への期待が大きくない現状がうかがわれた。 最後に「漢方薬を服用してみたくなるためには」(複数回答)を聞いたところ、「医師の積極的なすすめ」が39.7%で最も多く、「特になし」が28.7%、「漢方薬の効果をわかりやすく」が25.7%の順で続いた。医師をはじめとする医療者のすすめやくわしい患者への説明が、今後漢方薬の活躍の場を広げる可能性を示す結果だった。

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アトピー性皮膚炎患者、デュピルマブ治療の自己評価は?

 米国・イェール大学のBruce Strober氏らは、臨床試験に参加しデュピルマブ治療を受けたアトピー性皮膚炎(AD)患者の、自己申告に基づく疾患コントロールおよびQOLをオンラインサーベイにて評価した。結果は臨床試験での患者報告アウトカムと一致しており、治療満足度を含むすべての患者報告アウトカムについてベースラインと比較して統計学的に有意な改善が示され、デュピルマブ治療は最長12ヵ月にわたる迅速かつ持続的な疾患コントロールと関連していることが見いだされた。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年12月15日号掲載の報告。 研究グループは、米国の患者サポートプログラムを通じて、デュピルマブ治療を開始した成人の中等症~重症ADで試験参加に同意した患者を対象に、治療開始前(ベースライン)と開始後1、2、3、6、9、12ヵ月時点でのオンラインサーベイを行うコホート試験を実施した。 データは、2018年1月~2020年1月に収集され、2020年5月に解析が行われた。主要評価項目は、Atopic Dermatitis Control Tool(ADCT)で測定した疾患コントロール、併用AD療法、治療満足度、Numerical Rating Scale(NRS)を用いた皮膚症状(皮膚の痛み、火傷/熱感、敏感肌)の評価、再燃、Dermatology Life Quality Indexで評価した健康関連QOL、ADCTの項目と質問票で評価した睡眠障害、ADに特異的な労働生産性および活動障害に関する質問票(Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire:WPAI)への回答であった。 主な結果は以下のとおり。・デュピルマブ治療を開始した699例(女性61.7%、白人73.7%)のうち、632例が1ヵ月時点のサーベイを、また483例が12ヵ月時点のサーベイを完遂した。・ベースラインと比べて、1ヵ月時点で多くの患者が十分な疾患コンロトールを得ており(60.9%、対ベースライン[5.3%]のp<0.001)、さらに12ヵ月時点で改善が進んでいた(77.4%、同p<0.001)。・他のAD治療の併用は、評価を重ねるたびに使用が減少していた。たとえば局所コルチコステロイドの併用は、ベースライン68.1%から12ヵ月時点40.4%に、全身性コルチコステロイドの併用は同34.9%から6.2%に減少していた(ともに対ベースラインのp<0.001)。・AD治療への満足度は、評価を重ねるたびにベースライン(17.7%)より高まり、12ヵ月時点では85.1%であった(対ベースラインのp<0.001)。・患者は各評価時にベースラインと比較して、再燃、かゆみ、皮膚症状が軽減したこと、また、睡眠、健康関連QOL、日常活動が改善したことを報告した。・結果は、観察データと、欠測データについてパターン混合モデルを用いて処理した代入データで一貫していた。

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アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」【下平博士のDIノート】第89回

アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「アブロシチニブ(商品名:サイバインコ錠50mg/100mg/200mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、全身療法が可能な経口剤であり、既存治療で効果不十分な中等症~重症のアトピー性皮膚炎の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎(AD)の適応で、2021年9月27日に承認され、同年12月13日に発売されました。なお、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間施行しても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に使用します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、アブロシチニブとして100mgを1日1回経口投与します。患者の状態に応じて200mgを1日1回投与することもできます。なお、中等度の腎機能障害(30≦eGFR<60)では50mgまたは100mgを1日1回投与し、重度の腎機能障害(eGFR<30)では50mgを1日1回経口投与します。本剤投与時も保湿外用薬は継続使用し、病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。なお、投与開始から12週までに治療反応が得られない場合は中止を考慮します。<安全性>AD患者を対象に本剤を投与した臨床試験の併合解析において、発現頻度2%以上の臨床検査値異常を含む有害事象が確認されたのは3,128例中2,294例でした。主な副作用は、上咽頭炎、悪心、アトピー性皮膚炎、上気道感染、ざ瘡、筋骨格系および結合組織障害などでした。なお、重大な副作用として感染症(単純ヘルペス[3.2%]、帯状疱疹[1.6%]、肺炎[0.2%])、静脈血栓塞栓症(肺塞栓症[0.1%未満]、深部静脈血栓症[0.1%未満])、血小板減少(1.4%)、ヘモグロビン減少(ヘモグロビン減少[0.9%]、貧血[0.6%])、リンパ球減少(0.7%)、好中球減少症(0.4%)、間質性肺炎(0.1%)、肝機能障害、消化管穿孔(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、皮膚バリア機能を低下させたり、アレルギー炎症を悪化させたりするJAKという酵素の産生を抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。2.本剤には免疫を抑制させる作用があるため、発熱や倦怠感、皮膚の感染症、咳が続く、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの感染症の症状に注意し、気になる症状が現れた場合は、すみやかにご相談ください。3.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。4.(女性に対して)この薬を服用中、および服用中止後一定期間は適切な避妊をしてください。5.これまで使用していた保湿薬は続けて使用してください。<Shimo's eyes>近年、ADの新しい治療薬が次々と発売されており、難治例における治療が大きく変化しつつあります。本剤と同じ経口JAK阻害薬のほかにも、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体製剤や外用JAK阻害薬などがすでに発売されています。本剤は、ADの適応を得た経口JAK阻害薬として、バリシチニブ(商品名:オルミエント錠)、ウパダシチニブ水和物(同:リンヴォック錠)に続く3剤目となります。また、12歳以上のアトピー性皮膚炎患者に使用できる製剤としてはウパダシチニブに続いて2剤目となります。相互作用については、フルコナゾール、フルボキサミンなどの強力なCYP2C19阻害薬、あるいはリファンピシンのような強力なCYP2C19および CYP2C9誘導薬との併用に注意が必要です。これらの薬剤と併用する場合、可能な限りこれらの薬剤をほかの類薬に変更する、または休薬するなどの対応を考慮します。経口JAK阻害薬は、肺炎、敗血症、ウイルス感染などによる重篤な感染症や結核の顕在化および悪化への注意が警告に記載されています。生ワクチンの接種は控え、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化にも注意する必要があります。調剤時の注意に関しては、抗うつ薬/慢性疼痛治療薬デュロキセチン(商品名:サインバルタカプセル)と販売名が類似していることから、取り違え防止案内が発出されています。薬剤の登録名や調剤棚の表示などを工夫して、取り違えを防ぎましょう。本剤は、米国においてブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)の指定を受け、優先審査品目に指定されています。参考1)PMDA 添付文書 サイバインコ錠50mg/サイバインコ錠100mg/サイバインコ錠200mg

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アトピー性皮膚炎に経口治療薬が登場/ファイザー

 ファイザー株式会社は、12月13日にアトピー性皮膚炎の治療薬として、経口JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤アブロシチニブ(商品名:サイバインコ)を発売した。アブロシチニブは、2020年12月に本剤の製造販売承認申請が行われ、2021年9月に承認を取得していた。 アトピー性皮膚炎は、皮膚の炎症や、皮膚バリア機能が損なわれる慢性皮膚疾患。紅斑、丘疹、痒み、浸潤、鱗屑、痂疲が主症状となる。幼少期から繰り返す慢性皮膚疾患のもっとも代表的な疾患で、世界中で成人の10%、小児の20%が罹患していると推定されている。 今回発売されたアブロシチニブは、選択的にヤヌスキナーゼ(JAK)1を阻害する低分子化合物。JAK1が阻害されることにより、病態生理学的にアトピー性皮膚炎に関与するとされるインターロイキン(IL)-4、IL-13、IL-31、IL-22、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を含む複数のサイトカイン・シグナルが抑制されると考えられている。 本剤の特性の1つとして、JAK1に対する生化学的な阻害活性があり、他の3種類のJAKアイソフォームと比較するとJAK2の28倍、JAK3の340倍超、TYK2の43倍の阻害活性であることが非臨床試験において示されている。 また、本剤では、臨床開発プログラムとしてJADE試験をはじめ20を超える治験を実施し、中等症から重症の成人および12歳以上の小児において、サイバインコの単剤投与および外用剤との併用投与における症状改善効果が認められている。当該治験の結果から、成人と12歳以上の小児で用法および用量が同じであることも特性の1つとなる。 海外では、イギリス、韓国、欧州連合(EU)で承認を受け、2020年10月に米国食品医薬品局(FDA)により、「中等症から重症のアトピー性皮膚炎」を対象とした1日1回投与の経口JAK阻害剤として承認申請が受理されている。アブロシチニブの概要製品名:サイバインコ錠(50mg/100mg/200mg)一般名:アブロシチニブ効能または効果:既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎用法および用量:通常、成人および12歳以上の小児には、アブロシチニブとして100mgを1日1回経口投与する。なお、患者の状態に応じて200mgを1日1回投与することができる。製造販売承認取得日:2021年9月27日薬価基準収載日:2021年11月25日発売日:2021年12月13日製造販売元:ファイザー株式会社

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機械学習でアトピー性皮膚炎患者を層別化

 アトピー性皮膚炎(AD)の治療を巡って、近年の治療薬の開発に伴い、対象患者の層別化の重要性が指摘されている。そうした中、ドイツ・ボン大学病院のLaura Maintz氏らはAD重症度と関連する主要因子を明らかにするため、同病院入院・外来患者367例について機械学習ベースの表現型同定(deep phenotyping)解析を行い、アトピースティグマと重症ADとの関連性や、12~21歳と52歳以上で重症ADが多くなる可能性などを明らかにした。 ADは、ごくありふれた慢性の炎症性皮膚疾患であるが、表現型は非常に多様で起因の病態生理は複雑である。著者は、「今回の検討で判明した関連性は、疾患への理解を深め、特定の患者に注視したモニタリングを可能とし、個別予防・治療に寄与するものと思われる」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年11月10日号掲載の報告。 研究グループは、思春期および成人ADの重症度関連因子の表現型を深める検討として、2016年11月~2020年2月に前向き追跡試験に登録されたボン大学病院皮膚科の入院・外来患者を対象に断面データ解析を行った。 被験者を、Eczema Area and Severity Index(EASI)を用いて重症度別にグループに分け、AD重症度と関連する130の因子について、相互検証ベースの同調機能を有する機械学習勾配ブースティング法と多項ロジスティック回帰法で解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、367例(男性157例[42.8%]、平均年齢39歳[SD 17]、成人94%)。うち177例(48.2%)が軽症(EASI:≦7)、120例(32.7%)が中等症(EASI:>7~≦21)、70例(19.1%)が重症(EASI:>21)であった。・アトピースティグマは、重症ADと関連する可能性が高かった(口唇炎のオッズ比[OR]:8.10[95%信頼区間[CI]:3.35~10.59]、白色皮膚描画症:4.42[1.68~11.64]、ヘルトーゲ徴候:2.75[1.27~5.93]、乳頭湿疹:4.97[1.56~15.78])。・女性は、重症ADと関連する可能性が低かった(OR:0.30、95%CI:0.13~0.66)。・総血清免疫グロブリンE値1,708IU/mL超、好酸球値6.8%超は、重症ADと関連する可能性が高かった。・12~21歳または52歳以上の患者は、重症ADと関連する可能性が高く、22~51歳の患者は軽症ADと関連する可能性が高かった。・AD発症年齢が12歳超では30歳をピークに重症ADと関連する可能性が高く、AD発症年齢が33歳超では中等症~重症ADと関連する可能性が高く、小児期の発症では7歳をピークに軽症ADと関連する可能性が高かった。・重症ADと関連するライフスタイル要因は、身体活動が週に1回未満と、(元)喫煙者であった。・円形脱毛症は、中等症AD(OR:5.23、95%CI:1.53~17.88)、重症AD(4.67、1.01~21.56)と関連していた。・機械学習勾配ブースティング法と多項ロジスティック回帰法の予測能は僅差であった(それぞれの平均マルチクラスAUC値:0.71[95%CI:0.69~0.72]vs.0.68[0.66~0.70])。

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