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やはり女の子にとってアトピーは大問題:健康関連QOLに及ぼす影響

 アトピー性皮膚炎を有する思春期前(9~12歳)の女児では、主観的健康感が損なわれている一方、男児ではその影響が見られなかったことが、スウェーデン・カロリンスカ環境医学研究所のNatalia Ballardini氏らにより調査、報告された。Acta dermato-venereologica誌オンライン版2013年10月24日掲載の報告。 試験の目的は、アトピー性皮膚炎が健康関連QOLに及ぼす影響を調査することであった。対象は、住民ベースの出生コホート研究「BAMSE」に登録された、思春期前の小児2,756人であった。すべての小児が主観的健康感に関する3つの質問に回答した。質問内容は、(1)気分はどうか、(2)自分自身をどのくらい健康だと思っているか、(3)今の自分の生活にどのくらい満足しているか、であった。また、アトピー性皮膚炎を有する小児は、小児皮膚疾患QOL評価尺度(CDLQI)にも回答した。 主な結果は以下のとおり。・アトピー性皮膚炎を有する小児は350例(12.7%)で、平均CDLQI値は3.98(95%信頼区間:3.37~4.58)であった。・アトピー性皮膚炎を有する女児では、主観的健康感が損なわれていた。3つの質問の補正後オッズ比はそれぞれ、(1)1.72(95%CI:1.16~2.55)、(2)1.89(95%CI:1.29~2.76)、(3)1.69(95%CI:1.18~2.42)であった。・一方で、アトピー性皮膚炎を有する男児では、主観的健康感への影響が見られなかった。 著者は、「思春期前の女児の20%近くがアトピー性皮膚炎に罹患するため、これらの結果は、医療提供者および社会全体にとっても意味がある」と述べている。

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CV-A6感染の非定型手足口病、既往皮膚病変の拡大が特徴

 急性ウイルス性疾患の手足口病は、一般にコクサッキーウイルス(CV)-A16またはエンテロウイルス(EV)71感染により発症するが、近年、CV-A6が関連した非定型手足口病が報告されるようになっている。米国・エール大学のJason P. Lott氏らは、その臨床像および検査結果の特徴などを報告した。Journal of the American Academy of Dermatology誌2013年11月号(オンライン版2013年9月10日号)の掲載報告。 研究グループは、2012年1月~7月の間に受診した、非定型手足口病を示唆する患者の病歴と検査値を特定して分析した。 皮膚病変の形態、分布を記録し、EV感染の検査はリアルタイムPCR(RT-PCR)法を用いて調べられた。EV属型は、カプシド蛋白質遺伝子配列を測定して評価した。 主な結果は以下のとおり。・同期間中に、成人2例、小児3例の非定型手足口病患者が特定された。・それら5例のうち4例は、広範な皮膚疾患を有した。・アトピー性皮膚炎の病歴を有する患者は2例おり、病変の広がりがみられた。・5例のうち4例において、緊急治療を要する全身症状が認められた。また成人2例はいずれも検査入院を要した。・全患者で、CV-A6感染が確認された。・著者は、本検討の結果は単施設調査という点で限定的であるが、CV-A6感染に起因する非定型手足口病において皮膚疾患の拡大がみられたという点は、診断および治療において臨床医を支援する情報となりうると報告している。

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気管支喘息の診察中に容態急変し10日後に脳死と判定された高校生のケース

自己免疫疾患最終判決判例時報 1166号116-131頁概要約10年来気管支喘息と診断されて不定期に大学病院などへ通院していた男子高校生の症例。しばらく喘息発作は落ち着いていたが、早朝から喘息発作が出現したため、知人から入手した吸入器を用いて気管支拡張薬を吸入した。ところがあまり改善がみられないため某大学病院小児科を受診。診察時チアノーゼ、肩呼吸がみられたため、酸素投与、サルブタモール(商品名:ベネトリン)の吸入を行った。さらにヒドロコルチゾン(同:ソル・コーテフ)の静注を行おうとした矢先に突然心停止・呼吸停止となり、ただちに救急蘇生を行ったが低酸素脳症となり、約10日後に脳死と判定された。詳細な経過患者情報約10年来気管支喘息と診断されて不定期に大学病院などへ通院していた男子高校生経過1978年(4歳)頃 気管支喘息を発症し、病院を転々として発作が起きるたびに投薬を受けていた。1988年(14歳)8月19日某大学病院小児科受診。8月20日~8月27日ステロイド剤からの離脱と発作軽減の目的で入院。診断は気管支喘息、アトピー性皮膚炎。IgE RAST検査にて、ハウスダスト(3+)、ダニ(3+)、カモガヤ(3+)、小麦(1+)、大豆(1+)であったため、食事指導(小麦・大豆除去食)、アミノフィリン(同:ネオフィリン)静注により発作はみられなくなり、ネオフィリン®、オキサトミド(同:セルテクト(抗アレルギー剤))経口投与にて発作はコントロールされた。なお、経過中に呼吸機能検査は一度も施行せず。また、簡易ピークフローメーターも使用しなかった。10月20日喘息発作のため2日間入院。11月20日喘息発作のため救急外来受診。吸入用クロモグリク(同:インタール)の処方を受ける(途中で中止)。12月14日テオフィリン(同テオドール)の処方開始(ただし患者側のコンプライアンスが悪く不規則な服用)。1989年4月22日喘息発作のため4日間入院。6月6日プロカテロール(同:メプチン)キッドエアーを処方。1990年3月9日メプチン®キッドエアーの使用法に問題があったので中止。4月高校に入学と同時に発作の回数が徐々に少なくなり、同病院への通院回数・投薬回数は減少。母親は別病院で入手した吸入器を用いて発作をコントロールしていた。1991年6月7日同病院を受診し小発作のみであることを申告。ベネトリン®、ネオフィリン®、インタール®点鼻用などを処方された。8月17日07:30「喘息っぽい」といって苦しそうであったため知人から入手していた吸入器を用いて気管支拡張薬を吸入。同時に病院からもらっていた薬がなくなったため、大学病院小児科を受診することにした。09:00小児科外来受付に独歩にて到着。09:10顔色が悪く肩呼吸をしていたため、順番を繰り上げて担当医師が診察。診察時、喘息発作にあえぎながらも意識清明、自発呼吸も十分であったが、肺野には著明なラ音が聴取された。軽度のチアノーゼが認められたため、酸素投与、ベネトリン®の吸入を開始。09:12遅れて到着した母親が「大丈夫でしょうか?」と尋ねたところ、担当医師は「大丈夫、大丈夫」と答えた。09:15突然顔面蒼白、発汗著明となり、呼吸停止・心停止。ただちにベッドに運び、アンビューバック、酸素投与、心臓マッサージなどの蘇生開始。09:20駆けつけた救急部の医師らによって気管内挿管。アドレナリン(同:ボスミン)静注。09:35心拍再開。10:15人工呼吸を続けながら救急部外来へ搬送し、胸部X線写真撮影。10:38左肺緊張性気胸が確認されたため胸腔穿刺を施行したところ、再び心停止。ただちにボスミン®などを投与。11:20ICUに収容したが、低酸素脳症となり意識は回復せず。8月27日心停止から10日後に脳死と判定。10月10日11:19死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.大学病院小児科外来に3年間も通院していたのだから、その間に呼吸機能検査をしたり、簡易ピークフローメーターを使用していれば、気管支喘息の潜在的重症度を知り、呼吸機能を良好に維持して今回のような重症発作は予防できたはずである2.発作当日も自分で歩いて受診し、医師の目前で容態急変して心停止・呼吸停止となったのだから、けっして手遅れの状態で受診したのではない。呼吸停止や心停止を起こしても適切な救急処置が迅速に実施されれば救命できたはずである病院側(被告)の主張1.日常の療養指導が十分であったからこそ、今回事故前の1年半に喘息発作で来院したのは1度だけであった。このようにほとんど喘息発作のない患者に呼吸機能検査をしたり、簡易型ピークフローメーターを使用する必要性は必ずしもなく、また、困難でもある2.小児科外来での治療中に急激に症状が増悪し、来院後わずか5分で心停止を起こしたのは、到底予測不可能な事態の展開である。呼吸停止、心停止に対する救急処置としては時間的にも内容的にも適切であり、また、心拍動が再開するまでに長時間を要したのは心衰弱が原因として考えられる裁判所の判断1.当時喘息発作は軽快状態にあり、ほとんど来院しなくなっていた不定期受診患者に対し呼吸機能検査の必要性を改めて説明したうえで、発作のない良好な時期に受診するよう指導するのは実際上困難である。簡易型ピークフローメーターにしても、不定期に受診したり薬剤コンプライアンスの悪い患者に自己管理を期待し得たかはかなり疑問であるので、慢性期治療・療養指導に過失はない2.小児科外来のカルテ、看護記録をみると、容態急変後の各処置の順序、時刻なども不明かつ雑然とした点が多く、混乱がみられる点は適切とはいえない。しかし、急な心停止・呼吸停止など救急の現場では、まったく無為無能の呆然たる状態で空費されているものではないので、必ずしも血管ルート確保や気道確保の遅延があったとはいえない患者側7,080万円の請求を棄却(病院側無責)考察このケースは結果的には「病院側にはまったく責任がない」という判決となりましたが、いろいろと考えさせられるケースだと思います。そもそも、喘息発作を起こしながらも歩いて診察室まできた高校生が、医師や看護師の目の前で容態急変して救命することができなかったのですから、患者側としては「なぜなんだ」と考えるのは十分に理解できますし、同じ医師として「どうして救えなかったのか、もしやむを得ないケースであったとしても、当時を振り返ってみてどのような対処をしていれば命を助けることができたのか?」と考えざるを得ません。そもそも、外来受診時に喘息重積発作まで至らなかった患者さんが、なぜこのように急激な容態急変となったのでしょうか。その医学的な説明としては、paradoxical bronchoconstrictionという病態を想定すればとりあえずは納得できると思います。これは気管支拡張薬の吸入によって通常は軽減するはずの喘息発作が、かえって死亡または瀕死の状態を招くことがあるという概念です。実際に喘息死に至ったケースを調べた統計では、むしろ重症の喘息とは限らず軽・中等症として経過していた症例に突然発症した大発作を契機として死亡したものが多く、死亡場所についても救急外来を含む病院における死亡例は全体の62.9%にも達しています(喘息死委員会レポート1995 日本小児アレルギー学会)。したがって、初診からわずか5分程度で容態が急変し、結果的に救命できなかったケースに対し「しょうがなかった」という判断に至ったのは、(同じケースを担当した場合に救命できたかどうかはかなり心配であるので)ある意味ではほっと胸をなで下ろすことができると思います。しかし、この症例を振り返ってみて次に述べるような問題点を指摘できると思います。1. 発作が起きた時にだけ来院する喘息患者への指導方針気管支喘息で通院している患者さんのなかには、決まったドクターを主治医とすることなく発作が起きた時だけ(言葉を換えると困った時にだけ)救急外来を受診するケースがあると思います。とくに夜間・深夜に来院し、吸入や点滴でとりあえずよくなってしまう患者さんに対しては、その場限りの対応に終始して昼間の外来受診がなおざりになることがあると思います。本来であればきちんとした治療方針に基づいて、適宜呼吸機能検査(本ケースでは経過中一度も行われず)をしたり、定期的な投薬や生活指導をしつつ発作のコントロールを徹底するべきであると思います。本件では、勝手に吸入器を入手して主治医の知らないところで気管支拡張薬を使用したり、処方した薬をきちんと飲まないで薬剤コンプライアンスがきわめて悪かったなど、割といい加減な受療態度で通院していた患者さんであったことが、医療側無責に至る判断に相当な影響を与えたと思います。しかし、もしきちんと外来受診を行って医師の指導をしっかり守っていた患者さんであったのならば、まったく別の判決に至った可能性も十分に考えられます(往々にして裁判官が患者に同情すると医師側はきわめて不利な状況になります)。したがって、都合が悪くなった時にだけ外来受診するような患者さんに対しては、「きちんと昼間の通常外来を受診し、病態評価目的の検査をするべきである」ことを明言し、かつそのことをカルテに記載するべきであると思います。そうすれば、病院側はきちんと患者の管理を行っていたとみなされて、たとえ結果が悪くとも責任を追及されるリスクは軽減されると思います。2. 喘息患者を診察する時には、常に容態急変を念頭におくべきである本件のように医師の目前で容態急変し、為すすべもなく死の転帰をとるような患者さんが存在することは、大変残念なことだと思います。判決文によれば心肺停止から蘇生に成功するまで、病院側の主張では20~25分程度、患者側主張(カルテの記載をもとに判断)では30~35分と大きな隔たりがありました。このどちらが正しいのか真相はわかりませんが(カルテには患者側主張に沿う記載があるものの、担当医は否定し裁判官も担当医を支持)、少なくとも10分以上は脳血流が停止していたか、もしくは不十分であった可能性が高いと思います。したがってもう少し早く蘇生に成功して心拍が再開していれば、低酸素脳症やその後の脳死状態を回避できた可能性は十分に考えられると思います。病院側が「その間懸命な蘇生努力を行ったが、不可抗力であった。時間を要したのは心衰弱が重篤だったからだ」と主張する気持ちは十分に理解できますが、本件では容態急変時に外来担当医がそばにいて(患者側主張では放置されたとなっていますが)速やかな気管内挿管が行われただけに、やりようによってはもう少し早期の心拍再開は可能であったのではないでしょうか。本件を突き詰めると、心臓停止の間も十分な換気と心臓マッサージによって何とか脳血流が保たれていれば、最悪の結果を免れることができたのではないかと思います。また、判決文のなかには触れられていませんが、本件で2回目の心停止を起こしたのは緊張性気胸に対する穿刺を行った直後でした。そもそも、なぜこのような緊張性気胸が発生したのかという点はとくに問題視されていません。もしかすると来院直後から気胸を起こしていたのかも知れませんし、その後の蘇生処置に伴う医原性の気胸(心臓マッサージによる損傷か、もしくはカテラン針によるボスミン®心腔内投与の際に誤って肺を穿刺したというような可能性)が考えられると思います。当時の担当医師らは、目の前で容態急変した患者さんに対して懸命の蘇生を行っていたこともあって、心拍再開から緊張性気胸に気付くまで約60分も要しています。後方視的にみれば、この緊張性気胸の状態にあった60分間をもう少し短縮することができれば、2回目の心停止は回避できたかもしれませんし、脳死に至るほどの低酸素状態にも陥らなかった可能性があると思います。病院側は最初の心停止から心拍再開まで20~25分要した原因もいったん再開した心拍動が再度停止した原因も「心衰弱の程度が重篤であったからだ」としていますが、それまでたまに喘息発作がみられたもののまったく普通に生活していた高校生にそのような「重篤な心衰弱」が潜在していたとは到底思えませんので、やはり緊張性気胸の影響は相当あったように思われます。3. 医師の発言裁判では病院側と患者側で「言った言わない」というレベルのやりとりが随所にみられました。たとえば、母親(顔色がいつもとまったく違うのに気付いたので担当医師に)「大丈夫でしょうか」医師「大丈夫、大丈夫」(そのわずか3分後に心停止となっている)母親(吸入でも改善しないため)「先生、もう吸入ではだめじゃないですか、点滴をしないと」医師「点滴をしようにも、血管が細くなっているので入りません」母親「先生、この子死んでしまいます。何とかしてください」(その直後に心停止)このような会話はどこまでが本当かはわかりませんが、これに近い内容のやりとりがあったことは否めないと思います。担当医は、患者およびその家族を安心させるために「大丈夫、大丈夫」と答えたといいますが、そのわずか数分後に心停止となっていますので、結果的には不適切な発言といわれても仕方がないと思います。医事紛争に至る過程には、このような医師の発言が相当影響しているケースが多々見受けられますので、普段の言葉使いには十分注意しなければならないと痛感させられるケースだと思います。自己免疫疾患

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小児のアトピー性皮膚炎とイボは、感染症の増加に影響するか

 先行研究において、アトピー性皮膚炎は、皮膚および皮膚以外の感染症の素因となる異常な免疫反応との関連が示唆されている。米国セント・ルークス・ルーズベルトホスピタルセンターのJonathan I .Silverberg氏らにより、小児のアトピー性皮膚炎がイボ、皮膚以外の感染症、その他のアトピー性疾患のリスク増加に影響するかどうか調査、報告された。その結果、小児のアトピー性皮膚炎、その他のアトピー性疾患、イボと皮膚以外の感染症との関連から、バリア機能の破壊や異常な免疫反応(どちらかまたは両方)が、イボと皮膚以外の感染症の感受性に影響することが示唆された。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌2013年10月3日掲載報告。 調査には、2007年国民健康インタビュー調査の代表サンプルが用いられた。対象は、0歳から17歳までの9,417例であった。 主な結果は以下のとおり。・アトピー性皮膚炎に加え、何らかのアトピー性疾患を有する小児では、イボを有する割合が高かった。・一方で、何らかのアトピー性疾患の有無にかかわらず、少なくともアトピー性皮膚炎を有する小児では、皮膚以外の感染症(連鎖球菌性咽頭炎、他の咽頭炎、鼻風邪、咳風邪、インフルエンザ/ 肺炎、副鼻腔感染症、再発性中耳炎、水痘、尿路感染症を含む)を有する割合が高かった(p<0.0001)。・アトピー性皮膚炎に加え、何らかのアトピー性疾患を有する小児では、どちらか一方のみを有する小児に比べて、罹患した感染症の数が多かった(p<0.0001)。・イボの保有は、皮膚以外の感染症(再発性中耳炎を除く)の増加に影響していた(p<0.0001)。・イボとアトピー性皮膚炎の両方を有する小児では、どちらかのみを有する小児に比べて、罹患した感染症の数が多かった(p<0.0001)。また、喘息の現症または既往歴、過去1年間の喘息の悪化、花粉症、食物アレルギーを有する割合が高かった。・イボとアトピー性皮膚炎の両方を有する小児では、イボを有しないアトピー性皮膚炎の小児に比べ、喘息、花粉症、食物アレルギーを有する割合が高かった。

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新生児のアトピーにビタミンAとBCGが関与?

 アトピー性皮膚炎またはアトピー性疾患に関して、接種時期が早期か否かにかかわらずBCGワクチンの有意な影響はなかったが、新生児へのビタミンA補給はアトピー性皮膚炎の増加と関連していることが、無作為化比較試験の長期追跡調査の結果、明らかになった。また調査ではBCG瘢痕があることとアトピー性皮膚炎減少との関連も明らかになったという。オーストラリア・Indepth NetworkのN. Kiraly氏らが報告した。Allergy誌2013年9月号(オンライン版2013年8月31日号)の掲載報告。 最近の報告で、ワクチン接種や微量栄養素補給などの免疫原性介入が、アトピー感作やアトピー性疾患に影響を及ぼす可能性があるというエビデンスが示唆されていた。そこで研究グループは、無作為化試験の長期追跡調査から、新生児へのBCG接種、ビタミンA補給、その他のワクチン接種が小児期のアトピー性皮膚炎に影響を及ぼすかについて評価を行った。 試験は、アフリカ西部のギニアビサウで行われた。BCG接種については、低体重出生児を早期接種群(介入群)または後期接種群(通常群)に無作為化し、さらにサブグループについて2×2要因配置でビタミンAまたはプラセボの補給群に無作為に割り付けた。 被験者は3~9歳時まで追跡し評価した。主要アウトカムは、皮膚プリックテスト結果3mm以上を定義としたアトピー性皮膚炎の発症とした。副次アウトカムは、湿疹、喘息、食物アレルギーの症状が認められたこととした。 主な結果は以下のとおり。・281例の小児が、評価が有効な皮膚プリックテストを受けた。そのうち14%(39/281例)でアトピー性皮膚炎が認められた。・BCGの接種時期の違いによるアトピー性皮膚炎発症の有意差はみられなかった(OR:0.71、95%CI:0.34~1.47)。・BCG瘢痕を有する小児では、アトピー性皮膚炎の有意な減少が認められた(同:0.42、0.19~0.94)。・ビタミンA補給は、アトピー性皮膚炎増大と関連していた(同:2.88、1.26~6.58)。とくにBCGを同時投与された例での関連が大きかった(同:5.99、1.99~18.1、ビタミンA補給とBCGの相互作用のp=0.09)。・BCG接種はアトピー性疾患と関連していなかった。しかしビタミンA補給は、過去12ヵ月以内の喘息オッズ比増大と関連していた(同:2.45、1.20~4.96)。

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幼児のアトピー性皮膚炎、寛解の予測因子

 フィンランド・スコーネ大学病院のLaura B. von Kobyletzki氏らにより、幼児におけるアトピー性皮膚炎について、寛解に関連する因子が分析・報告された。Acta Dermato-Venereologica誌2013年9月16日掲載の報告。 本試験は1~3歳の幼児(894例)を対象とした人口ベースのアトピー性皮膚炎コホート研究。2000年に横断調査を実施し、2005年までフォローアップ調査を行った。寛解と患者背景、健康状態、生活様式、環境的な変数との関連については、粗解析および多変量ロジスティック回帰分析を用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・52%の幼児において、フォローアップ中にアトピー性皮膚炎が寛解した。・寛解のベースラインにおける独立予測因子は、より軽度のアトピー性皮膚炎(補正後オッズ比:1.43、95%CI:1.16~1.77)、遅発性アトピー性皮膚炎(補正後オッズ比:1.40、95%CI:1.08~1.80)、関節部以外のアトピー性皮膚炎(補正後オッズ比:2.57、95%CI:1.62~4.09)、食物アレルギーの既往なし(補正後オッズ比:1.51、95%CI:1.11~2.04)、農村部の居住(補正後オッズ比:1.48、95%CI:1.07~2.05)であった。・アトピー性皮膚炎の特定の病態と農村部の居住が寛解には重要であったものの、初期の仮説と異なり、今回の検討において環境要因は有力な予測因子とはならなかった。

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アトピー性皮膚炎治療に有用なタンパク質を発見

 抗菌ペプチドのhuman β-defensin-2(hBD-2)は、アトピー性皮膚炎(AD)の疾患重症度および皮膚バリア機能状態を示すマーカーとして有用である可能性が、デンマーク・コペンハーゲン大学のM.-L. Clausen氏らによる検討の結果、明らかにされた。hBD-2はADスキンに存在することが報告されており、皮膚バリア機能障害との関連が示唆されていた。British Journal of Dermatology誌2013年9月号(オンライン版2013年5月6日号)の掲載報告。 ADスキンの抗菌防御システムの異常に関連した皮膚感染は、AD管理における頻度の高い問題となっている。 研究グループは、AD患者と健常対照者においてhBD-2と皮膚バリア機能の関連を、またAD患者におけるhBD-2と疾患重症度との関連を調べた。 低侵襲テープストリッピング法によって集めた角質層サンプルにおいて、hBD-2濃度をELISA法により測定した。AD重症度は、SCORAD(SCORing Atopic Dermatitis)で評価し、皮膚バリア機能は、経表皮水分蒸散量(TEWL)および皮膚pHの測定によって評価した。 主な結果は以下のとおり。・試験にはAD患者25例と健常対照者11人が登録された。AD患者には、フィラグリン遺伝子変異の発現が認められた。・角質層のhBD-2濃度は、AD患者の皮膚病変部と非病変部、健常対照の皮膚との間で異なることが明らかになった。ADスキン病変部の濃度が最も高値であった(p<0.001)。・SCORADとTEWLはhBD-2値が計測可能であった患者のほうが、計測不可能であった患者と比べて有意に高値であった(それぞれp<0.018、p<0.007)。一方、皮膚pH値は差がみられなかった。・ADスキン病変部のhBD-2値とTEWLおよびSCORADには、それぞれ有意な相関(R=0.55、R=0.44)がみられた。皮膚pH値との関連はみられなかった。・hBD-2とフィラグリン遺伝子変異との関連はわからなかった。・以上のように、hBD-2と皮膚バリア機能障害およびAD重症度の有意な関連が明らかになった。また、低侵襲テープストリッピング法は、角質層とそのタンパク質の経時的評価が可能であり、また、その評価は治療や感染源、生理学的変化といった所見に関連する可能性を提供するものであった。

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泣かないと決めた日(続)【パワーハラスメント(差別)】

「あんたなんか辞めればいいのに」みなさんは、職場で「あんたなんか辞めればいいのに」と言われたり、そうした状況を見かけたことはありませんか?そして、そう言う人が、相手にしないわけにはいかない立場の人だったことはありませんか?このように、人間関係で優位な立場を使って行う嫌がらせやいじめは、パワーハラスメントと呼ばれます。これは、学校のいじめよりも力関係がはっきりしており、教育・指示・命令の名を利用している点で、その線引きが難しいことがあります。今回は、このパワーハラスメントをテーマに、7月号の続編として、2010年に放映されたテレビドラマ「泣かないと決めた日」を取り上げます。主人公の美樹は、新入社員として夢と希望と期待を胸いっぱいに抱えて、憧れの大企業に入社します。ところが、その職場で彼女を待ち構えていたのは、理不尽なパワーハラスメントでした。可哀想なシーンが続き、見ている私たちまでもつらくなります。彼女はくじけそうになりますが、持ち前の強さで這い上がります。そして、彼女が職場の雰囲気を変えていくのです。このドラマでは、様々な人の心の動きが描かれています。7月号では、助け合い、裏切り、噂好き、自尊心などの心のメカニズムを、新しい科学の分野である進化心理学の視点から明らかにしました。今回はさらに掘り下げて、パワーハラスメントの根源でもある心理―「なぜ人は優位に立ちたいのか?」(自己愛)、「なぜ人は誰かを悪者にするのか?」(カテゴリー化)、そして「なぜ人は調子を合わせるのか?」(同調)などの心のメカニズム―の解明に迫っていきたいと思います。そして、私たちができる具体的な取り組みについて考えていきたいと思います。パワーハラスメント―力関係により身体的または精神的な苦痛を負わせる美樹は、新人として職場に来て早々に、ぴりぴりとした空気を感じ取ります。全く歓迎されていません。そんな中、美樹の教育係となった1つ上の先輩の同僚がミスを起こします。社外秘の書類を誤って取り引き先へファックスしてしまったのです。それを美樹が見てしまいます。しばらくして発覚すると、その同僚は、みんなの前で、「コピー機(ファックス兼用)の使い方、分からなかったのよね?」と美樹に言い、すかさずそのミスを美樹になすりつけたのです。完全な濡れ衣です。しかも、他の同僚たちもその同僚に加勢します。さらには、職場のリーダーは、美樹に有無を言わさず謝罪を迫るのです。そして、けっきょく、謝罪を無理矢理させられた美樹の心は、深く傷付くのでした。この状況は、パワーハラスメントです。パワーハラスメントとは、職場などでの力関係によって身体的または精神的な苦痛を負わせることです。美樹は、その後も数々のパワーハラスメントを受け続けます(表1)。このパワーハラスメントは、以前から指摘されてきたセクシャルハラスメントも含みます。そして、このパワーハラスメントを大きな括りとして、現在では状況や加害者との関係性によって、「アカハラ(アカデミックハラスメント)」「アルハラ(アルコールハラスメント)」「ドクハラ(ドクターハラスメント)」「マタハラ(マタニティハラスメント)」など様々なネーミングが生まれています。もともとこのパワーハラスメントという言葉は、2000年に入って生まれた和製英語です。パワーハラスメントに当たる言葉として、欧米ではモラルハラスメントが一般的です。日本のモラルハラスメントは、権力や利害の関係がないはずの夫婦や家族の間のDV(家庭内暴力)などに限定されて使われることが多く、ニュアンスに違いがあります。また、児童虐待や患者虐待などの虐待は、圧倒的な力の差がある場合に起こるパワーハラスメントとも言えます。さらに広げて言えば、人種差別や男女差別などの差別は、差異によって不当な分け隔てをするパワーハラスメントともいえます。今回は、これらの全てのハラスメントを含めた広い意味として、パワーハラスメントを考えていきましょう。表1 パワーハラスメントのタイプタイプ美樹の場合能力の否定「辞めればいいのに」と嫌味を言われるリーダーから「考える頭もないわけ?」と大声で怒鳴られる企画書をくしゃくしゃに丸めて投げられる無視行事などの日程を知らされない仕事が与えられない不要な仕事を押し付けられる脅迫男性の同僚に肩をつかまれ怒鳴られる椅子を蹴られる商品の豆をぶつけられる権利の否認仕事の仕方を教えてもらえないミスを押し付けられる仕事が知らない間に変更されている個の侵害同僚のプライベートの使い走り(ただし、美樹の場合は自ら申し出ている)パワーハラスメントの3つの心理実は、美樹が入社する前にいた新人も、同じような目に遭い、心の傷を負って辞めていました。この職場では、同じことが繰り返されているのでした。もっと広げて言えば、パワーハラスメントは、職場だけでなく、学校、地域社会、そして国家でも起っています。集団という社会ができる場所では、世界中のどこの場所でも、そして人間の歴史のいつの時代にも、変わらず起こってきました。それでは、なぜパワーハラスメントが私たちに起こるのでしょうか?進化心理学的に考えれば、普遍的に存在することには、必ずそこに理由があります(究極要因)。この究極的な理由を探るため、その源となった原始の時代の私たちの心まで遡り、パワーハラスメントの根源となるとなる3つの心理―自己愛、カテゴリー化、同調をそれぞれ考えてみましょう。(1)自己愛―競争の動機付け1. 優位に立ちたい心理同僚たちは、美樹に対して無愛想で高圧的です。特に、教育係となった1つ上の先輩の同僚の当たりは、とてもきついです。美樹に不要な仕事を押し付け、遅い時間まで残業させます。指導するどころか、ミスをなすり付け、そして手柄を横取りします。また、リーダーも、美樹を追い込んでいます。部下たちの前で、美樹を一方的に厳しく叱り付けたり、部下たち全員に謝らせたり、あえて仕事を与えません。こうして、「私が上だ」「私を舐めるな」というパワー(力関係)の見せつけが露骨に起きています(威嚇、ディスプレイ)。なぜ同僚たちやリーダーは美樹をここまでして追い込むのでしょうか?それは、このように「優位に立ちたい」と思ってしまうのは、人間の闘争本能の心理だからです。これは、自己愛の心理と言えます。同僚たちにとっては、実力や経験年数が近いほど、その葛藤が強くなります。また、リーダーにとっては、罰の見せしめとして、他の部下たちへの引き締めになります。よって、美樹が惨めな思いをすればするほど、つまり美樹の自尊心が傷付けられれば傷付けられるほど、同僚たちやリーダーは自分のパワーを実感できて(万能感)、安心できるのです。さらには、ドラマの中で、同僚たちもリーダーもそれぞれ「思い通り」にならない悩みを抱えていることが明かされます。つまり欲求不満の状態です。そこから沸き起こるエネルギーが、いら立ちとして表れます。この欲求不満(ストレス)のエネルギーの発散のはけ口(置き換え)として美樹をしつこく責めることで、「思い通り」にしたいという自分のパワー(支配力)を代わりに実感しようともしているのです。表2 自己愛の二面性困った面良い面「私が上だ」「私を舐めるな」→パワー(力関係)の見せつけ(威嚇、ディスプレイ)→攻撃性「自分を大切にする」「優位に立ちたい」(闘争本能)2. 自己愛の起源それでは、そもそも私たちはなぜ人間関係の中で「優位に立ちたい」と本能的に思ってしまうのでしょうか?その答えは、原始の時代から、相手と自分は「どちらが強いか」「どちらが優れているか」という相手との力関係を意識し振る舞う種ほど生き残り、その遺伝子が現在の私たちに引き継がれているからです。逆に言えば、「優位に立ちたい」と思う遺伝子を持たない種は、生存競争の中で生き残り、子孫を残すことは難しいでしょう。つまり、優越感と劣等感の狭間で生きてしまうのは、人間の本質なのです。動物行動学的には、群れで飼われる鶏はお互いつつき合うことで、それぞれの強さ(序列)を確かめて、群れの秩序を保っています(つつき順位)。また、サル山のサルたちは、うなり声や攻撃のポーズをとったり、「どけ」と攻撃を仕掛けるなどして威嚇することで、相手との力関係を探り合います。また、ケンカをしている2匹のサルを見て、群れの他のサルたちは、おのおの自分との力関係を推し量ります。こうして、群れの序列ができていきます。そして、ボスザルが決まれば、歯向かうサルはいなくなり、群れの秩序は保たれます。こうして、ボスザルは自分の子孫をより多く残していき、ますます優位に立とうとする遺伝子が広がっていくのです。私たち人間は、他の動物よりも高度な社会を築く中で、この「優位に立ちたい」(自己愛)という心理と「助け合う」「分け合う」(公平性)という心理のバランスを取りながら進化してきました。人は、平等を唱える一方で、自分は特別扱いされたいという矛盾した心の働きを持っているとも言えます。実際に、平等な集団ほど力関係の葛藤が生まれています。例えば、学校に存在する生徒の間のスクールカースト、公園に集まるママ友の間に勃発するお受験戦争、そして慈善団体の職員の間に見られる手柄の奪い合いなどです。(2)カテゴリー化―競争か協力かの区別の動機付け1. 誰かを悪者(敵)にする心理美樹は、出勤の初日に、だめなメンバーのレッテルを貼られました(ラベリング)。そして、その後も、トラブルが起きるたびに、「またあなたなの!?」とその原因は理不尽にも全て美樹のせいだとみんなに決め付けられます(ステレオタイプ化)。さらに、ある同僚は、美樹の後ろでみんなに聞こえるように「辞めちゃえばいいのに」と独り言を言い、美樹は職場の厄介者として蔑(さげす)まれています(排斥、オストラシズム)。なぜ美樹はここまで悪者扱いされなければならないのでしょうか?それでは、なぜターゲットは美樹だったのでしょうか?その後にリストラで辞めていく同僚が本音を漏らします。「誰でもいいのよ、会社に慣れてなくて、どこかに付け込むスキがあれば」「みんなの嫌がらせのターゲットになって」と。つまり、その理由は、美樹が「付け込むスキ」がある新人だからです。新人(新参者)は、集団に受け入れられるどうかの葛藤があり、自己主張がしづらく、立場が弱いため、付け込まれやすいのです。このような立場が弱く無抵抗な人―外国人(新参者)、障害者、貧困者、少数派(マイノリティ)などは、昔から偏見(差別)の格好の餌食にされてきた歴史があります。表3 カテゴリー化の二面性困った面良い面決め付け(ステレオタイプ化)レッテル貼り(ラベリング)烙印(スティグマ)極端化→偏見、差別、排斥思い込み(暗示、妄想)概念化因果関係に気付く傾向分析予測ひいき想像力2. カテゴリー化の起源それでは、そもそも私たちはなぜ人間関係の中で「誰かが悪者である」と本能的に思ってしまう、つまり悪者を仕立て上げてしまうのでしょうか?その答えは、原始の時代から、「誰が味方で誰が敵か」と鋭敏に感じ取る種ほど生き残り、その遺伝子が現在の私たちに引き継がれているからであると考えられます。当時から、人は、助け合う心理(協力)と「優位に立つ」ための騙す心理(非協力、裏切り)を使い分けながら、限られた資源を取り合う生存競争の中で子孫を残してきました。その中でも、騙してくる相手つまり裏切り者を未然に見つけ出し、区別する心理(カテゴリー化)に長けている人は、騙されずに済んで、生存確率が高まります。もっと言えば、多少の誤作動があっても、裏切りの脅威に対して敏感な方が鈍感な方よりも生き残ります。こうして、人間は、カテゴリー化によって、相手やものごとの共通点と相違点を見いだし(概念化)、社会生活をより円滑にして、知能を進化させてきたのでした(社会脳)。そして、発見された因果関係の積み重ねによって、傾向分析や予測が可能になり、科学を進歩させてきました。つまり、人間の心の進化の負の産物として、誰かを選んで助ける心理(ひいき)と同じように、誰かを選んで助けない、敵意を向ける心理(偏見)は人間の本質的なものなのです。しかし、現在、かつてないほど平和で豊かな時代にようやくなりました。誰かに裏切られても殺されたり飢え死にしたりすることはありません。つまり、悪者(裏切り)の脅威センサーはそれほど働かなくてもよくなったのです。しかし、脅威が減ったことに合わせて、脅威センサーの感度が下がるように心が進化するには時間があまりにも短すぎます。つまり、脅威が減っても、それを感じ取る私たちの脅威センサーはほぼ原始時代仕様の敏感なままということです。すると、何が起きるでしょうか?もともと脅威ではないものを脅威として感じやすくなります。つまり、悪者(裏切り)の脅威センサーの誤作動です。本来裏切っていない、つまり敵ではない相手を、見た目や振る舞いの些細な違いから「得体が知れない」と不気味に思い、敵意を抱いてしまうことです。3. 原始時代仕様の心と体原始時代仕様であるのは、脅威センサーだけでなく、心もですし、体もです。例えば、現代は、原始の時代とは違い、文明によって、運動をほとんどしなくてもよくなりました。だからと言って、人は運動をしなくなったでしょうか?人は、運動をしなければ、体調や気分がすぐれなくなり不健康になることを実感しています。だから、逆にあえて運動をするために、私たちは散歩したりスポーツジムに通うなどして体と心の健康を維持しています。さらには、現代は、科学や法律によって、得体が知れないものへの恐怖や身の危険を感じることが少なくなってきました。しかし、人はそれでそのままハッピーなのでしょうか?では、なぜ人はジェットコースターに乗るのでしょうか?なぜお化け屋敷に行くのでしょうか?なぜアクション映画やホラー映画を見るのでしょうか?その答えはこうです。原始の時代から人は、得体が知れない恐怖や身の危険を感じることが当たり前の環境で生きてきました。そして、当たり前だと思う遺伝子が現代の私たちに引き継がれてきました。だから、現代になって、いきなりそれらの刺激(ストレス)がなくなると、逆に物足りないということです。人は、ある程度のハラハラドキドキの擬似体験が必要なのです。体のアレルギー反応になぞらえてみましょう。花粉症や喘息などの体のアレルギー反応では、自分の免疫の抗体が自分の体を間違って攻撃します。その原因の1つは、現代の生活環境があまりにも清潔になってしまい、本来攻撃していた細菌があまりにもいなくなってしまったからなのです。これと同じように、心のアレルギー反応、つまり脅威へのアレルギー反応によって、脅威が全くなくても脅威を抱く矛先がどこかに向けられてしまいます。その時にたまたま選ばれた誰かが、生け贄(身代わり)としてターゲットとなるのです(スケープゴート現象)。そして、悲しいことに、私たちは、脅威のターゲットがその誰かに特定されていることで、心のバランスが保たれ、安心が得られるのです。たとえそのターゲットが全く見当違いだとしてもです。4. 黒い羊効果私たちは、この心理を感覚的に知っており、逆に利用してさえいます。例えば、美樹の1つ先輩の同僚は、ターゲットが美樹でなくなったら、次は自分になるという危機感を募らせています。誰かが犠牲になれば、自分は安全だという心理です。だからこそ、この同僚は、「必死」に美樹に強く当たっているのです。また、リーダーは、部下たちが自分の陰口を言っているのを立ち聞きしてしまい、その不満をかわそうとしていました。実際に、かつて国の支配者が、民衆の不満を逸らすため、国家的に「悪者」を作り出し、不満のはけ口としてその「悪者」を攻撃させるという偏見(差別)の心理を利用してきた悲しい歴史もあります。ヨーロッパでは、昔から日常用語として、「悪者」になった人を「黒い羊」と呼ぶことがあります。羊はたいてい白く、もともと従順で群れに馴染みやすいイメージがあります。その白い羊毛が様々な色に染められるのに対して、黒い羊毛は黒色にしかならない、つまり他の色に染められないことから、黒い羊は、否定的な「悪者」のイメージが付いてしまいました。英語のことわざに「どんな群れにも1頭の黒い羊がいる(There is a black sheep in every flock.)」があります。これは、人間の世界に当てはめると、群れという社会には、黒い羊、つまり裏切り者、ならず者、厄介者、異端者、逸脱者という「悪者」が必ずいるという意味になります。ただ、カテゴリー化の中の偏見(差別)の心理を踏まえると、正確には、「1頭の黒い羊がいる」のではなく、「1頭が黒い羊に見える」ということになります。他の羊が全て真っ白だと、たまたまある羊がちょっと黒いだけでも、とても黒く見えてしまうのです。つまり、他の人たちが全員同じ方向を向いていればいるほど、ある1人の人が少しでもずれた方向を見ると、全員がその人へより大きな敵意を感じてしまうということです(黒い羊効果)。かつて「歩きタバコ」は当たり前に行われていました。しかし、最近は「歩きタバコ」が規制されることで、ほとんど見かけることはなくなりました。すると、逆に「歩きタバコ」をしている人をたまに見かけると、規制の地域以外であっても、不快に思い、その人に敵意を抱いてしまいます。これと同じように、きっと近い将来、「歩きスマホ」が規制されれば、「歩きスマホ」をする人に敵意を私たちは抱くでしょう。よく冗談で言われる「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言い回しがあります。その逆の「みんなが渡らない青信号を渡る」傾向のある人―例えば、「新卒」ではない就職活動者(フリーター)―は、就職面接などでは採用されにくいという現実もあります。(3)同調―協力の動機付け1. 周りに合わせる心理美樹以外のチームの同僚6人は、とても結束が強いです。特に4人の女性の同僚たちは、美樹の悪口でいつも盛り上がっています。そして、同僚たちだけでなくリーダーも、美樹が受け続けるパワーハラスメントを当たり前のように見ています。こうして、周りが傍観者として黙認することで、事態の容認が生まれています。つまり、傍観者であることは、パワーハラスメントに手を貸しているとも言えます(傍観者効果)。なぜ同僚たちは、これほどまでに温度差なく揃って美樹に敵意を抱いてしまうのでしょうか?それは、周りに調子を合わせることは人間の本能的な心理だからです。この心理は、同調と呼ばれています。さきほど、大御所芸能人が弱ったスキャンダル芸能人を吊り仕上げることで、自分の地位を固めようとする自己愛の心理を紹介しました。実は、それを見ている私たちの多くもそうなることを望んでいます。また、国家が民衆の不満をかわすために「悪者」のターゲットを作り出すという偏見(差別)の心理をさきほどに紹介しましたが、これも同じです。さらにこの心理は、国内だけでなく国際的な問題としてもよく見られます。その国の国内の政治に国民の不満が高まった時、「悪者」として特定の他国の脅威やかつての復讐心を煽ることで、不満がすり替わるだけでなく、いとも簡単に国家としての一体感(愛国心)が高まります。これは、政治の常套手段でもあります。表4 同調の二面性困った面良い面馴れ合い、横並び意識甘え、しがらみイエスマンカリスマ崇拝(極端化)仲間外し(「村八分」)仲良し思いやり、助け合い分け合い(公平性)信頼感一致団結、一体感2. 同調の起源それでは、そもそも私たちはなぜ人間関係の中で、周りに調子を合わせようと本能的にしてしまう、つまり同調するのでしょうか?その答えは、原始の時代から、「周りに調子を合わせよう」と心が動く種ほど生き残り、その遺伝子が現在の私たちに引き継がれているからです。当時、人は猛獣の襲撃や飢餓の脅威を目の前にして、助け合う(協力)ために、周り(集団)に調子を合わせる、つまり多数派の考え(集団規範)に従い、集団のメンバーたちと心を1つにして協力しました。そうするのが心地良いと同調の心理が動機付けられる種ほど生存確率が高まったのでした。実際に、ある心理実験では、人の印象において、相手が少数派であるというだけでその相手への評価が否定的になるという結果が得られています(印象形成のバイアス)。「寄らば大樹の陰」ということわざは、これを端的に表しています。また、「差別は普通ではないことである」「差別する人は普通の人ではない」「私は普通の人だから差別をするはずがない」と言う人がいます。しかし、普通(多数派)であるという意識を高めるほど同調の心理が強まり、結果的に少数派を否定的に見てしまうという差別の心理が生まれています。つまり、逆説的にも「普通の人」ほど差別をしてしまうということです。原始の時代の心を引き継ぐ私たちは、共通の脅威がある時ほど同調(協力)し、一体感の心地良さを味わうことが分かりました。逆に言えば、その心地良さを味わうには、共通の敵(脅威)が必要です。つまり、脅威を同じもの(共通)にしようとする心理こそが、同調の源なのです。しかも、共通の脅威が集団の外にない場合は、集団の中に見いだします。こうして、集団の共通の脅威となったターゲット(スケープゴート)は、集団のメンバーから敵意を向けられるわけです。集団内において、人は、仲良し(協力関係)になるために、仲間外れ(脅威の身代わり)を作らなければならないという矛盾した心理を持っているのです。表5 パワーハラスメントの心理と動機付け心理自己愛カテゴリー化同調「私が上よ」「(悪者は)あの人に決まってる」「ですよねえ」動機付け競争競争か協力かの区別協力敵意を抱いて優位に立つ悪者(裏切り)の脅威センサーの誤作動に乗っかり安心を得る悪者(裏切り者など)の脅威を共有し、協力する組織としての具体的な取り組み美樹を見守る唯一の味方のキャラクターとして登場するマネージャーが言います。「生き残りたいなら強くなれ」「このまま黙って静かに消えたら、お前の思いもやってきたことも何もなかったことになるんじゃないか」「どんなに辛くても、逃げずに立ち向かえば絶対に誰かの心に残る」と。生き残って這い上がって来いという力強い励ましメッセージが込められています。このマネージャーのお陰で、美樹は成長し強くなりました。このドラマの展開から学ぶことは、パワーハラスメントは個人のひたむきさやコミュニケーションの能力、そして支えてくれる味方によって乗り越えられる場合があることです。と同時に、以前にいた新人が心の傷を負ったように、必ずしも全ての人が乗り越えていけるほど生易しいものでもないことです。これまで、パワーハラスメントの根源となるとなる3つの心理―自己愛、カテゴリー化、同調―を解明してきました。そして、パワーハラスメントは、進化の産物としての集団の心理であることも分かってきました。つまり、パワーハラスメントは、特別な集団の特別な人たちがするのではなく、ごく普通の集団でごく普通の人たちがしてしまうということです。しかも、武器や権力などのパワーを持てば持つほど、潜んでいたその遺伝子が目を覚ましてしまうということです。これから、パワーハラスメントは、人間の本質を美化して「起きない」ことを前提にするのではなく、人間の本質を直視して「起きる」ことを前提にする必要があります。私たちがつくる集団(社会)に理想郷は存在しないことを自覚することが出発点です。この前提に立てば、個人だけではなく、集団としての組織の具体的な取り組みが見えてきます。それでは、みなさんのそれぞれの組織の中で具体的に何ができるか、ドラマのエピソードに触れながら、3つのポイントを整理してみましょう。表6 組織としての具体的な取り組み具体例客観化トラブルが起きたらオープンにするメンバー同士がチェックできる部下もリーダーを評価する外部の相談窓口の設置定期的な研修注意喚起のための張り紙構造化メンバーが具体的なビジョン(目標)を共有する役割をはっきりさせる限界設定個人として自分の限界を示し、泣き寝入りしないICレコーダーや携帯電話の録音機能により、証拠を押さえる労働組合や弁護士に相談する(1)客観化美樹が冷凍室に閉じ込められた事件では、美樹のせいにされました。そして、原因は美樹の「不注意」という始末書が作成されます。詳しく調査をすれば、原因は美樹の不注意ではなく、別の同僚のせいであることに辿りつくのは明らかなのにです。そのわけは、リーダーは、美樹の不注意と決め付けて、詳しく調べなかったのでした。一方、美樹は、冷凍室事件では、その前にミスをしていた引け目もあり、自分の言い分を言うことができません。ここから学ぶ1つ目の取り組みは、パワーハラスメントによるトラブルが起きたらオープンにすることです(客観化)。私たち日本人は、自分の言い分を言うことは目立ったり迷惑になったりして恥ずかしいと思いがちです。しかし、パワーハラスメントは起きるものであることが分かりました。大事なのは、これを集団の共通認識とすることです。逆に、うやむやにしたり隠すこと(隠ぺい体質)は、憶測から思わぬ犯人探しの心理(偏見)を生み出します。また、ドラマでは、咎められなかったことを良いことにその同僚の仕業はエスカレートしていきました。オープンにする組織の文化が次の被害者を出さないためにも大事です。また、逆に、パワーハラスメントという言葉が、センセーショナルな響きから独り歩きし、悪用されることもあります。いわゆる「逆パワハラ」です。部下が傷付いたと騒ぎ、上司を訴えるパターンです。この状況も、オープンにしていることで、予防ができます。大事なのは、集団のメンバーに公正な判断材料が十分にあり、お互いが客観的にチェックできることです。例えば、組織内でのメールは公開し、それぞれの指示などもメンバーがチェックできるようにすることです。また、人事の評価は、リーダーからだけでなく、部下たちからも行うことです(360度査定)。さらには、外部の相談窓口の設置、定期的な研修、「言葉の暴力も懲戒の対象になります」との具体例を示すなどの貼り紙を義務付けることで、パワーハラスメントを語ること自体が開かれていることも大切です。(2)構造化美樹が、チームの同僚たちに受け入れられるようになったきっかけとして、美樹のひたむきさや前向きさに加えて、いっしょに協力しなければ成功しないというプロジェクトが始まったことです。それまでは仕事の奪い合いで、チームのメンバーたちは競争の関係にありました。しかし、プロジェクトの成功という報酬が目の前にあることで、協力の関係が動機付けられます。つまり、同僚たちの敵(脅威)は、それまでは美樹でしたが、その後はプロジェクトの失敗という未来に差し替えられたのでした。ここから学ぶ2つ目の取り組みは、メンバーが具体的なビジョン(目標)を共有する枠組みを作ることです(構造化)。協力の本質は、共通の脅威を乗り越えることでした。協力するための脅威は、肯定的な「脅威」、つまり目標に置き換えることができるということです。不適切な例は、「とにかくリーダーである私の言うことを聞きなさい」という関係です。これは、共有すべきビジョンも部下の役割も、曖昧です。よって、適切な例は、上司が具体的なビジョン(目標)のための取り決めを前もってはっきりさせることです。そして、「あなたには何ができる?」「私に何を求める?」と確認し合うことです。すると、メンバーは、言われたままにやるのではなく、自分の行動に責任を持つようになり、役割がはっきりしてきます。部下だけでなく上司も、目標に向かって取り決めを守り、役割を果たしているという姿勢を見せることです。もはや、リーダーも部下も人としては対等で、職場においての決められた役割が違うだけになります(フラット化)。これは、ちょうどジグゾーパズルのピースのように、集団のメンバー1人1人の役割が対等に果たされることで1つの仕事が達成されれば、メンバーのそれぞれが相手に敵意を抱かなくなる仕組みです(ジグゾー法)。これは仕事においてだけでなく、スポーツ観戦においても見られます。ひいきのスポーツチームを応援するために、ファンやサポーターがスタジアムに集まり共に熱狂することで、ファン同士が仲良くなることです。敵チームを疑似脅威と見立てることで、集団の一体感を高める効果が期待できます。(3)限界設定ドラマでは、皮肉にも、ある同僚の隠し撮りの映像が美樹の窮地を救いました。ここから学ぶ3つ目の取り組みは、証拠を確保し、自分の限界を示し、泣き寝入りしないことです(限界設定)。これは、1つ目と2つ目の集団での取り組みでもパワーハラスメントが改善されない場合の個人の取り組みです。例えば、パワーハラスメントが日常的に起きている場合は、ICレコーダーや携帯電話の録音機能を使い、証拠をまず押さえることです。証拠を持って、労働組合や弁護士に相談することです。いくら組織が変わらないからと言って、泣き寝入りをしないことがより良い組織作りにおいて必要です。逆に言えば、管理者は職場においても録音されている可能性があるという発想を持つ必要があります。パワーハラスメントの裁判において、録音などの証拠があって初めて、パワーハラスメントが認定されます。例えば、管理者が、パワーハラスメントが起きている状況を知りながら放置している場合は、従業員の安全に配慮する義務(安全配慮義務)や従業員の心身の健康を保つ義務(就業環境調整保持義務)に違反していることになります。より良い職場(社会)のために心を「進化」させる心の働きは、進化心理学という理論的なフィルターを通して見ると、すっきりしてきます。ただし、パワーハラスメントの心理が進化の産物であるからと言って、私たちは遺伝子の操り人形ではありません。そのような本能的で感情的な「野生の心」を俯瞰(ふかん)して見ることができる、理性的な「文明の心」も私たちは持ち合わせています。より良い職場(社会)のために、この「文明の心」をフルに活用させ、人間関係における様々な心理をよく理解することで、私たちの心はより理性的により賢く「進化」していくことができるのではないでしょうか。1)岡田康子・稲尾和泉:パワーハラスメント、日経文庫、2011年2)それ、パワハラです:笹山尚人、光文社新書、2012年3)大渕憲一:新版 人を傷つける心、サイエンス社、2011年4)本間美智子:集団行動の心理学、サイエンス社、2011年5)石川幹人:人は感情によって進化した、ディスカヴァー携書、2011年

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“心が痛い”と“身体が痛い”

心療内科が痛みを診る:その理由心療内科が「疼痛」を診ることについては、馴染みのない方もいるかもしれないが、われわれにとっては自然なことである。当科で疼痛患者さんを多く診るようになったのは、当科の歴史的背景に起因する。初代教授である池見酉次郎先生は、早くから心と身体の結びつきに着目し、1961年に九州大学で精神身体医学研究施設を設立、1963年に「心療内科」という診療科名が冠された。「心療内科」が正式な標榜科として認可されたのは1996年であるから、それより30年以上前の話である。当初は過敏性腸症候群や気管支喘息、蕁麻疹など、内科的な分野を中心に研究が始まった。その後、当科の先輩である中井吉英先生(関西医科大学名誉教授/日本心療内科学会理事長)が慢性膵炎の研究の中で、腹痛についても積極的に取り組まれることとなる。また、ペインクリニックとの連携によって全身の痛みを扱うようになり、症例を重ねるうちに、さまざまな痛みに対して心身医学的アプローチが応用できることがわかってきた。こうした経緯から、当科は摂食障害、病的疲労、睡眠障害、生活習慣病などとともに、内科系でありながら慢性疼痛をもつ症例一般を治療対象とするようになってきている。心療内科のアプローチは身体医学とは異なる部分も含んでいる。身体医学では、ある時点での情報を重要視するが、心療内科では、その人の考え方、動き方、生き方(生活様式)の流れやそのルーツを重要視する。今はこういう状態だが以前はどうだったのか、何故そうなったのか、周囲の人たちとのつながりはどうなのか、など生活背景や流れに注目し、その患者さんの水面下にある苦悩を患者さんと一緒に対話するなかで見つけていき苦悩・苦痛の緩和をともに創造していくのである。画像を拡大する難治の慢性疼痛患者さんの傾向当科には全国から重症の疼痛を持つ患者さんが集まってくる。当科を受診する難治性の慢性疼痛患者さんを分析したところ、興味深いことに、厳しい被養育経験がトラウマになっているケースが多いことがわかってきた。厳しい体罰などの身体的虐待、言葉による心理的虐待、性的トラウマもあれば、親の過干渉や愛着障害もある。また、こういった患者さんには、大変な環境に過剰適応していくうちに「失感情症」という自らの気持ちを言葉で表現しにくい心理特性を持っている方が多い。さらに、病院を転々とし、医療に対し不信感を抱いている患者さんも多いのも特徴であろう。■失感情症と慢性疼痛の関係性われわれは日々の臨床経験を通して、失感情症が痛みに大きく影響していることを実感している。なぜ、そのようなことが起こるのだろうか?痛みの伝達には感覚系経路と情動系経路があることが知られている。感覚系は痛みの強さや位置を伝達し、情動系は不快感を伝え警報を鳴らす役割である。どんな痛みもこの感覚系と情動系の信号がミックスされている。情動系は脳の前部帯状回、島皮質、扁桃体、前頭前野を活性化する。この部位はまた、社会的ストレスによっても活性化されること(社会的痛みの体験)が明らかになっている。社会的ストレスに晒され不快情動系が活性化されていると、患者さんの頭の中で常に警報が鳴っている状態になると考えられ、社会的疎外感を感じている「いじめられ体験」にも通じる現象と考えられる。一方、失感情症の方は最近の脳画像研究で前部帯状回、島皮質などの上記の部位に異常があることがわかってきている。そのため、社会的ストレスが蓄積されると、不快情動の成分をしっかり体験しながらも感覚成分のみに注目がいき、身体的疼痛の訴えが強調され、「とにかく痛い、なんとかして」という切迫した訴え(破局化)につながると考えられる。自分の感情を自然に表現できない環境に育った失感情症の方は、「(心理的に)大丈夫です」といいながら、身体の痛みでSOSを出しているともいえる。実際、痛みという表面的な訴えの背景には不安・抑うつなどの否定的感情、虐待歴、社会的疎外感による心の痛みなど、患者さんの深い苦悩が存在することが多い。もうひとつ、医療不信についてお話しする。医療不信の方と信頼関係を構築して心境をうかがっていくと、両親との関係性に問題のある人間不信の方が多いことがわかる。医療不信は、身体的疼痛やそれに伴う心の苦しみを医師がきちんと診てくれないという思いから、ドクターショッピングを繰り返し成り立っていく。これは、子どもの頃、両親に一人の人間として自身の存在を大切にしてもらえなかった、という彼らの被養育体験からくる長年の人間不信の思いと共通する症例もある。久山町疫学研究における慢性疼痛と失感情症の調査からみえてきたこと失感情症と慢性疼痛の関連性については国際的なエビデンスはあるが、日本人に適用できるかどうかはまだ検証されていなかった。そこで本邦の心身症患者さんを対象とした検討を続ける一方で、一般住民を対象に慢性疼痛に関する心身医学的な疫学研究を行った。福岡県久山町の定期検診の際、40歳以上の一般住民において失感情症の質問紙TAS20のスコアと疼痛の有無の関係を調べたものである。被験者927名のなかで慢性疼痛(6ヵ月以上続く痛み)を有する割合は、失感情症なし群46%に対し、失感情症あり群では67%と、失感情症あり群で有意に多かった。さらに失感情症の程度を4分位し、慢性疼痛罹患リスクを解析した。罹患リスクは失感情症スコアが中央値を超えて重症化するにつれ上昇し、もっとも高い群(TAS20スコア 55以上)では、2.0倍(全体から急性疼痛あり群を除くと2.8倍)にも増加していた。さらに、慢性疼痛はQOL低下を招き、そこに失感情症を合併するとさらにQOLが低下することがわかった。また、慢性疼痛を有していても、失感情症がない場合は失感情症がある場合よりも生活満足度が高いという結果が出ている。画像を拡大する画像を拡大するTAS-20:トロント アレキシサイミア(失感情症)スケール日本人には、「つらくても表に出さずに耐え忍ぶ」「弱音は吐かない」といった国民性がある。これは日本文化では美徳とされるが、心身医学的な観点から言えば、失感情症につながるものであり、心身の健康という点からは決して喜ばしいものではない。QOL向上につながる失感情症のケアについては、今後さらに注目していくべきであると考える。慢性疼痛患者さんの診療におけるdos and don'ts慢性疼痛では、身体の訴えの強さと比較して基本にある身体的疼痛がみえにくいケースがある。そのような場合でも、始まりは社会的ストレスに伴った筋肉痛や関節痛などの機能性痛みが合併していたが、経過のなかで改善し、心理的苦悩の成分が残存していることがある。■まずは信頼関係の構築を心療内科では患者さんと医療者との信頼関係構築のため、初診の診療に時間をかける。一般の先生はわれわれのように長い時間をかけることはできないかもしれないが、せめて5分くらいは患者さんの顔を見て本人に自由に話していただく時間をとってほしい。そして患部を丁寧に診察する時間をつくっていただきたい。それだけでも患者さんは安心するものである。すぐに患者さんから話を聞き出すことができなくても、診察のたびに顔をみて話しかけていけば、徐々に信頼関係は構築されていく。そうすると、いざというときに患者さんの変化からSOSに気づくことができるし、治療効果を高めることにもつながる。もし一時的に状態が悪くなる時期があっても、「苦しい今をしのいで一緒に乗り越えていきましょう」と言えるような関係づくりが大切だと考える。■「痛くないはず」と思い込まないこと患者さんが強い痛みを訴えていても、医学的原因が判明しないことも少なくないが、それだけで、「痛くないはず」と治療者が思いこまないことは大切である。その際に、社会的疎外感だけでも身体的痛みのときと同様の苦しみを感じさせるという近年の知見を医学的情報として知っていることで病態評価が展開することがある。つまり、身体の痛みと感じている患者の体験は、身体の機能的異常とともに何らかの社会的疎外感を感じて苦しみが悪化しているのではないだろうかと考えて、生活環境の変化について、質問をしてみるとよい。そして患者さんには「最近は痛みに伴う心理的な要因を考慮した痛みの対処法が進んでいるから、専門の医師に相談してみてはどうか」とポジティブな言葉で専門医への紹介受診を促していただきたい。そうすれば「心が弱いから痛みが起こる」という誤解をすることなく、「がんばっている人の身体の痛みを社会的ストレスがより不快にする」という理解のもとに、患者さんは生活環境に合ったオーダーメイドの治療ステップへと進むことができるのである。■薬をむやみに切り替えないこと効かないからとすぐに薬を変更することは避けたいものである。プラセボ効果の反対で「ノセボ効果」という現象がある。「効かないだろう」という思い込みによって、効くはずの薬が効きにくくなってしまうのである。A先生に出してもらった薬はよく効いたが、同じ薬をB先生が出すと全然効かないというようなケースもある。同じ薬でも処方する医師への期待値によって効き方が違ってくる。その根底には医療あるいは医師への不信感がある。処方医に対して不信感があると薬の効果が減退してしまうのである。要するに、患者さんとの信頼関係が築けていない状況下では、どんなに薬を切り替えても適切な効果は期待できない。効果が出ずに投与量だけ増えている、というような場合には、まず患者さんとの信頼関係や服用のコンプライアンスを見直すところから始めてみてほしい。信頼関係なくしてよい治療は成り立たない。患者さんが安心して自分の気持ちを出せる場を提供し、信頼関係が築けたうえでその人に合うだろうという薬を少量から始める。そうすると、過去に効かなかった薬ですら効果が出る、ということも少なくない。患者さんと医療者との信頼関係が治療や予後に大きく影響するため、われわれは患者さんが話しやすい場をつくり、患者さんの人間としての全体像を知るように努めている。慢性疼痛においては、身体的な痛みについては標準的なアプローチは継続しながらも、対人交流不全の苦悩や、生活環境などによる社会的痛みや実存的な苦しみ(自尊心の問題)をターゲットとすることが効果的なことも多い。良好な患者ー医療者関係を築きながら、感情をうまく言葉にできず葛藤場面で適切な自己主張ができない患者さんの心身を疲弊させ、苦しめているものが具体的に何かを患者さんと一緒に探していくのである。慢性疼痛の心身医学的アプローチにより得られる知見が、今後一般診療にもさらに生かされ、患者・医療者がともに創り出す痛み治療に対して双方の満足感が増えることを期待したい。

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乳幼児早期発症のアトピー性皮膚炎、約7割は寛解

 台湾の乳幼児早期に発症したアトピー性皮膚炎(AD)の子どもの自然経過について調べた結果、罹病期間は中央値4.2年、約70%が最終的には寛解に至り、アレルギー性鼻炎や喘息はADの疾患経過には影響しなかったことを、台湾・台北栄民総醫院のT-C Hua氏らが、住民ベースコホート研究の結果、報告した。ADは乳幼児期の早期発症の頻度が高いが、その後の疾患経過は患者個々によって多様である。ADの自然経過に関する先行研究は、一般にサンプルサイズが小さく、全国ベースで行われたものはなかった。British Journal of Dermatology誌オンライン版2013年8月23日号の掲載報告。 研究グループは、台湾において早期に発症した小児AD患者(2歳未満で発症)について、罹病期間と寛解率を調べること、またアレルギー性鼻炎や喘息がADの疾患経過に影響を及ぼすかについて調べた。 被験者は、台湾のNational Health Insurance Research Databaseから選出し、誕生から10歳時点まで追跡した。AD罹病期間と寛解率の分析は、Kaplan-Meier生存分析法にて行い、log-rank検定法を用いて群間解析を行い疾患経過のリスク因子の影響を分析した。 主な結果は以下のとおり。・1,404例の早期発症小児AD患者が解析に含まれた。・罹病期間が1年未満であったのは19.4%であり、48.7%が罹病期間が4年未満であった。・10歳時までの追跡期間中、69.8%が寛解に至った。・性別、発症年齢、アレルギー性鼻炎、喘息、または両疾患(アレルギー性鼻炎と喘息)を有することの疾患経過への影響は、統計的に有意ではなかった。・以上より、早期発症小児AD患者の罹病期間は中央値4.2年、約70%が最終的に寛解に至り、アレルギー性鼻炎および喘息はADの疾患経過に影響を及ぼさないことが明らかになった。

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造影剤投与直後のアナフィラキシーショックで死亡したケース

放射線科最終判決平成15年4月25日 東京地方裁判所 判決概要左耳前部から頸部の蜂窩織炎疑いで、大学病院を受診した39歳男性。腫瘍の可能性もあるということで、CT検査(単純・造影)が行われた。ところが、造影剤オプチレイ®320を注入直後にアナフィラキシーショックを起こし、ただちに救急蘇生が行われたが心拍は再開せず、約10時間後に死亡した。詳細な経過患者情報昭和36年7月28日生の男性経過平成12年4月29日喉の痛みがあり、近医診療所を休日受診して抗菌薬セファクロル(商品名: ケフラール)を処方される。5月1日大学病院内科を受診し、扁桃周囲膿瘍を指摘され、同院耳鼻科へ紹介受診となる。所見咽頭部発赤。口蓋扁桃は白苔、腫脹あり。頸部リンパ節触知。血液検査結果WBC 10,010(好中球70.3、リンパ球18.8、単球6.0、好酸球1.3、好塩基球0.9)、RbC 529万、Hb 15.1、Ht 47.5、CRP 8.3、総蛋白8.8g/dL急性扁桃炎の診断で、抗菌薬としてフロモキセフナトリウム(同: フルマリン)、クリンダマイシン(同: ダラシンS)の点滴静注を5日間行うとともに、経口抗菌薬セフポドキシムプロキセタル(同: バナン)、消炎鎮痛薬ロキソプロフェンナトリウム(同: ロキソニン)、胃炎・胃潰瘍薬レバミピド(同: ムコスタ)およびジクロフェナクナトリウム(同: ボルタレン)坐薬3コを処方。5月6日内服処方5日分(抗菌薬ファロムペネムナトリウム(同: ファロム)、ムコスタ®)、鎮痛薬頓用(ロキソニン®5錠)にていったん終診。平成12年8月22日左耳前部が腫れてくる。9月1日左耳前部の腫れで口が開けられなくなったため、大学病院内科をへて耳鼻科に紹介受診となる。所見発熱なし。鼻腔・口腔内に異常所見なし。左耳前部皮下組織全体が腫脹しているが、明らかな腫瘤なし。薬剤アレルギーなし。血液検査結果WBC 9,320(好中球45.1、リンパ球29.0、単球45.8、好酸球16.7、好塩基球1.4)、RbC 441万、Hb 13.3、Ht 39.1、plt 42.5万、CRP 0.3以下、総蛋白7.4、GOT 16、GpT 29、Na 141、K 4.9、Cl 106「蜂窩織炎疑い」と診断するが、ほかに膿瘍、腫瘍も疑われるため、9月5日のCT検査(単純・造影)を予約した。抗菌薬スパラフロキサシン(同: スパラ)を5日分処方。平成7年6月10日14:20放射線科CT検査室入室。14:23単純CT撮影。担当医師はモニターで左側頭部~下顎部皮下に索状の高吸収域所見を確認。炎症や腫瘍も否定できないと診断。14:30以下の問診を行う(ただし記録には残されていない)。医師:「大変情報量の多い検査となります。造影剤を使うにあたって、いくつかお尋ねします」患者:「はい、わかりました」医師:「今日は食事を抜いてきましたか?」患者:「抜いてきました」医師:「今まで造影剤を使う(注射をする)検査をしたことありますか?」患者:「ありません」医師:「今まで食べ物や薬で蕁麻疹などのアレルギーが出たり、気分が悪くなったりしたことありますか?蕁麻疹が出やすいということはないですか?花粉症があったり、喘息といわれたことはないですか?」患者:「ありません」14:40左腕の前腕から注射針を入れ、逆流を確認。造影剤のシリンジに延長チューブで接続。インジェクターのスイッチを操作し、ヨードテストもかねて少量の造影剤(非イオン性ヨード造影剤オプチレイ®320)を注入し、血管外漏出が無いこと、何ら変化が無いことを確認。医師:「これでとくに症状の変化がなかったら、今度は連続してお薬を入れていきます。お薬を入れていくと、体の中がポーっと熱くなってきます。これはお薬が全身にまわっている証拠で、誰でもそうなりますので心配ありません。もし、熱くなる以外に気持ち悪くなったり、胸が苦しくなったり、咳が出たり、鼻がムズムズしたりするようなことがあったら、すぐにいってください。マイクが付いていて、外に聞こえるようになっています」14:40造影剤注入開始。担当医師は50cc位注入するまで(約1分間)は傍につきそう。医師:「とくに変わりないですか?」患者:「変わりない」造影剤を70cc注入したところで(10~20秒)「頭が痛い」「気持ち悪い」と訴えたので、ただちにCT検査室に入り造影剤の注入を中止。会話ができることを確認し、容態の変化がないか観察しつつ、医師・看護師の応援を要請。フルクトラクト®点滴、ヒドロコルチゾン(同: ソル・コーテフ)1,000mg静注、まもなく呼び掛けても嘔吐をくり返し返答が鈍くなる。14:45自発呼吸低下、麻酔科医による気管内挿管(咽頭はやや蒼白で浮腫があり、声門は閉じていた)。心臓マッサージ開始。15:15除細動200J、1~2分後に300J。自己心拍は反応せず、瞳孔散大。15:45Iabp挿入。16:05ICUへ搬送し蘇生を継続。9月6日01:05死亡確認。当事者の主張検査前の問診について患者側(原告)の主張検査の適応有無を判断するための情報を得る重要な問診を怠ったことにより、検査の適応に関する必要な情報を得られず、その結果適応のない検査を行い死亡させた。病院側(被告)の主張検査前に、造影剤の使用経験がないこと、アレルギーを疑わせる既往歴がないことを問診できちんと確認した。造影剤投与を避けるべき事情の有無患者側(原告)の主張もともと患者には、造影剤慎重投与とされている花粉症、金属アレルギーの体質を有し、しかも血液検査で好酸球増多がみられたので、緊急性のない造影剤投与を避けるべきであった。しかも父親が造影剤による副作用で死亡したという家族歴からみて、父親の遺伝子を受け継いだ患者についてもヨード造影剤に過敏症があったはずであり、造影剤投与を避けるべきであった。病院側(被告)の主張患者には花粉症および金属アレルギーはない。好酸球増多の所見は確かにあるものの、アレルギー疾患であったとはいえない。そして、造影剤の医薬品添付文書には、花粉症、金属アレルギー、好酸球増多ともに、慎重投与の項目に挙げられていない。父親の死亡は、造影剤投与前に起きたため、造影剤によるアレルギー(アナフィラキシー)ではない。検査前の症状および所見からすれば腫瘍の可能性も否定できないため、造影剤を用いた検査は必要であり、造影剤の副作用が出現した場合には迅速かつ必要な処置ができる体制を整えたうえで検査を行った。救急処置が遅れたかどうか患者側(原告)の主張大学病院でありながらエピネフリンなどの救急薬剤の準備はなく、放射線医や麻酔医、看護師などにただちに応援を求めることができる連絡体制も不十分なまま検査を行った。そして、造影剤による副作用が現われた段階で、ただちに造影剤の注入を中止し、顔面浮腫、嘔吐などのショック症状がみられた時点でエピネフリンを投与し気道確保を行うべきなのに、対応が遅れたために死亡した。病院側(被告)の主張担当医師は造影剤が50mL位注入されるまで患者のそばにいて副作用の出現がないことを確認し、「頭が痛い」という訴えをもとに造影剤による副作用を疑って注入を中止している。この段階で患者の意識は清明で脈拍もしっかりしていた。その後応援医師、看護師も駆けつけ、嘔吐による気管内誤嚥を防ぐための体位をとり、輸液、ソル・コーテフ®1,000mgの静注を行った。その後自発呼吸の低下、脈拍微弱がみられたので、ただちに気管内挿管およびエピネフリンの気管内投与などを行い、救急蘇生としては必要にして十分であった。裁判所の判断検査前の問診について非イオン性ヨード造影剤にはショックなどの重篤な副作用が現れる場合もあること、副作用の発生機序が明らかではなく、副作用の確実な予知、予防法は確立されていないこと、他方で、ある素因を有する患者では副作用が発現しやすいことがある程度わかっており、問診によって患者のリスクファクターの有無を事前に把握することは、副作用発現を事前に回避し、または副作用発現に対応するために非常に重要な意味をもつ。そのため問診を行うにあたっては、問診の重要性を患者に十分に理解させたうえで、必要な事項について具体的かつ的確な応答を可能にするように適切な質問をする義務がある。担当医師は、CT検査室内において3~4分程度で、患者に対する必要にして十分な問診を行い、造影剤を注射したと供述する。しかし被告病院の外来カルテには、耳鼻咽喉科において問診を行い検査の適応があることを確認した旨の記載は一切なく、さらに耳鼻咽喉科から放射線科に対する「放射線診断依頼票」にもその旨の記載はない。また、担当医師が行ったとする問診、その結果などについても、まったく記録にとどめていない。つまり患者に問診の重要性を理解させ、必要な事項について具体的にかつ的確な応答を可能にする十分な問診を実施したのかは大いに疑問であるといわざるを得ない。したがって、検査前に問診をまったく行っていないという、重大な過失が認められる。造影剤投与を避けるべき事情の有無患者は平成11年8月25日、近医でアレルギー性鼻炎と診断をされ、薬を処方されている。また、歯科医院に診療を申し込む際の問診票に、自ら特異体質、アレルギーはないと記載した。患者が花粉症ないしアレルギー性鼻炎であるからといって、造影剤投与を避けるべきであるとは認められない。また、好酸球数は、平成12年5月1日の1.3%から、同年9月1日の検査では16.7%へと上昇しているが、造影剤の禁忌、原則禁忌、慎重投与などのいずれの注意事項にも該当せず、造影剤の使用を避けるべき事情があったとはいえない。なお、患者の父親については、平成3年6月12日大学病院外科外来で検査を施行中、造影剤を注入する前に容態急変を生じ、その後心停止をくり返して3日後の6月15日に死亡した。そのため遺族は、造影剤を使用したために急変を生じたと認識していたが、実際には造影剤の副作用で死亡したわけではない。一方、担当医師は、患者の父親が造影剤の検査で死亡した可能性があるということがわかっていれば、造影剤を使用する検査は実施しなかったであろうと供述している。一般的に気管支喘息、発疹、蕁麻疹などのアレルギーを起こしやすい体質については、本人のみならず、両親および兄弟の体質をも問題にすることが多いため、造影剤投与が禁忌とされている「ヨードまたはヨード造影剤に過敏症の既往歴」についても、本人のみならず両親および兄弟にそのような既往歴があるかどうかが重要である。したがって、患者の父親が造影剤を投与する予定の検査直後に死亡したことは、たとえ造影剤の副作用で死亡したわけではなくとも、患者に造影剤を使用するか否か慎重に検討すべき事由に当たる。したがって、担当医師が慎重な問診を行っていれば、父親が造影剤の検査の際に(結果的には造影剤とは関係はなかったが)容態急変を起こして死亡したことを答えていて、患者にも造影剤によるアレルギーを疑う所見となり得たであろう。しかも当時の患者は、蜂窩織炎があったといってもただちに生命の危険を生ずるような疾患ではなく、その症状も改善傾向にあり、検査の必要性は必ずしも高くはなかった。したがって、きちんと問診をとっていれば父親が造影剤に絡んで死亡したことを突き止め、検査を中止することができたはずである。原告側合計7,393万円の請求に対し、5,252万円の支払い命令考察造影剤によるアレルギーについては、皮膚の発疹程度で済む軽症例から、心肺停止へと至る劇症型まで、さまざまなタイプがあります。このような副作用を少しでも減らすために、過去にはテストアンプルを用いて予備テストを施行していた時期もありました。ところが、少量の造影剤であってもショック状態となるケースがあることや、事前にアレルギー無しと判定されたケースに実際に投与してショックが発生した例も報告されたことから、平成12年から医薬品メーカー側も造影剤へのテストアンプル添付を中止するようになりました。このような事実は、検査にたずさわる医師・診療放射線技師の間ですでに常識化していることですし、当然のこととして、アレルギーの有無を確認する問診は必ず行っていると思います。本件でも、担当医師は検査前にあれこれと詳しく質問したと裁判所で証言したうえで、その旨を陳述書に記載して裁判所に提出しました。おそらく、実際にも陳述内容に近いやりとりがあった可能性がきわめて高いと(同じ医師の立場からは)思います。ところがです。裁判所はそのような医師と患者のやりとりを示す「文書」が診療録にないことを理由に、「検査前に問診をまったく行っていないという、重大な過失が認められる」などという信じられない判断に至り、担当医師は圧倒的不利な立場に立ちました。そして、判決に至る思考過程として、「蜂窩織炎のような直接生命に関わらない病気で、健康な39歳男性が死亡したのは不可抗力ではなく、無謀な検査を強行した医師が悪い」といわんばかりの内容でした。医師の側からみれば、単純CTで患部には高吸収域の策状物がみえ、腫瘍の可能性を否定するために行った造影剤投与でした。もしこのときに造影剤投与を行わずに、腫瘍性病変を見逃す結果となっていたら、それはそれで医療ミスと追求されることにもつながります。したがって、今回の造影剤投与は医師の裁量権の範囲内にあるといって良いと思われるだけに、裁判官のいう問診義務違反が本当に存在するのかどうか、きわめて疑問です。確かに説明内容が文書のかたちでは残されておらず、入院ではなく外来で施行した検査のためご遺族への説明もなかったと思います。だからといって、まったく何も説明せずにいきなり造影剤を注入することなど、常識的にはあり得ないと思います。それでもなお、問診記録が残っていないから問診をしていない重大な過失があるなどと判断するのは、はじめから「医師が悪い」と決めつけた非常に危険な考え方ではないかと思います。さらに不可解なのは、ご遺族が裁判過程で「患者の父親も造影剤で死亡した」という間違った主張を展開し始め、その主張に裁判官までもがかなり引きずられていることです。実際には、患者の父親が別の大学病院で、造影剤注入の検査が予定された時に、造影剤注入前に容態が急変し、心停止をくり返して死亡したという経過でした。つまり造影剤はまったく関係ない(投与すらしていない)にもかかわらず、ご遺族は「父親も造影剤で死亡したのだから、造影剤のアレルギーは遺伝である」と誤認していたということです。これに対する裁判所の考え方は次の通りです。ご遺族が「父親も造影剤で死亡した事実がある」と誤認していたくらいだから、この死亡した患者も当然そのように誤認していたはずだ担当医師がその誤認した事実を聞き出していれば、造影剤投与を見合わせていた可能性が高いよって死亡することはなかったはずだこのような論理展開には、明らかな飛躍があることは明白でしょう。もし本当にこの患者が「父親が造影剤で死亡した」と誤って認識していたのならば、自分にも造影剤を注射されると聞いた段階で不安になり、医師に申告すると考えるのが自然ではないでしょうか。ありもしない仮定を並び立てて、無理矢理医師の過失を認定したように思えてなりません。もちろん、医師の側にも反省すべき点があります。それは何といっても、問診をはじめとする患者への説明内容をきちんと記録に残しておかなかったことです(簡単な予診票でも代用できたと思います)。とくに侵襲的な検査(CT、内視鏡、血管造影、経皮的な生検など)の場合には、結果が悪い(もしくは患者の期待通りにいかない)と、事前説明をめぐって「言った・言わない」のトラブルになる事例が非常に増えています。このような説明内容を、その都度、細大漏らさずカルテに記載するのは、時間的に非常に困難と思われますので、あらかじめ必要にして十分な説明を記入した説明文の雛形を作成しておくことが望まれます。そして、患者に対して説明した事項にはチェックを入れ、担当医師のサインと患者のサインを記入し、カルテにそのコピーを残しておけば、あとから第三者にとやかくいわれずにすむことになります。このような対処方法は、小手先だけの訴訟対策のようにも受けとられがちですが、医師に対する世間の眼が非常に厳しい昨今の状況を考えると、いつ先生方が同じような事例で不毛な医事紛争に巻き込まれてもまったく不思議ではありません。この機会にぜひとも、普段の診療場面を振り返っていただいたうえで、先生方独自の対応策を検討されてはいかがでしょうか。放射線科

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ビタミンDはアトピー性皮膚炎に有用

 ビタミンDの補給は、アトピー性皮膚炎の臨床症状改善に有用である可能性が示された。安全性、忍容性とも良好だという。ポーランド・ワルシャワ医科大学のZbigniew Samochocki氏らによる検討の結果、報告された。Journal of the American Academy of Dermatology誌2013年8月号(オンライン版2013年5月2日号)の掲載報告。ビタミンD補給後にアトピー性皮膚炎の重症度が優位に低下 ビタミンDには免疫調整作用がある。免疫機構はアトピー性皮膚炎(AD)の病因となっていることから、ビタミンDがADの病態に影響を及ぼす可能性があった。そこで研究グループは、AD患者におけるビタミンD濃度と臨床的・免疫学的・体質的・環境的因子との関連を調べること、またビタミンDの補給がADの臨床症状に影響を及ぼすかどうかについて検討することを目的とした。 具体的には、AD患者と対照被験者について、臨床値および検査値を測定し検討した。ADの重症度は、SCORAD(Scoring Atopic Dermatitis)indexにて評価した。 ビタミンDがアトピー性皮膚炎の病態に影響を及ぼすかどうかを検討した主な結果は以下のとおり。・検討したのは、AD患者95例、対照被験者58例であった。・AD患者と対照被験者の血中25‐ヒドロキシビタミンD3[25(OH)D3]平均値に、統計的な差はみられなかった。・細菌性皮膚感染症の頻度は、25(OH)D3値が低値のAD患者において高かった。・ビタミンD値とその他の検査および臨床パラメーターとの間に、統計的な関連性はみつからなかった。・ビタミンD補給後、平均objective SCORADおよびSCORAD indexは、有意に低下した(p<0.05)。・本検討は、全被験者が白人であり、ビタミンD投与量が1種類のみであること、および治療期間の評価は1回のみであった点で限界があった。・以上から、本研究において、ビタミンDの補給はアトピー性皮膚炎の臨床症状を改善するのに役立つ可能性があり、安全性・忍容性とも良好である可能性が示唆された。

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プロバイオティクスはアトピー感作や喘息のリスクを低下させるのか?

 出生前や出生後早期に、プロバイオティクスを投与することは、アトピー感作リスクや総IgEを低下させるが、喘息・喘鳴発症のリスクは低下させないことが、米国マイアミ大学小児科学のNancy Elazab氏らにより報告された。Pediatrics誌オンライン版2013年8月19日号の掲載報告。  プロバイオティクスは小児のアトピーや喘息発症のリスクを低下させる可能性があるとされているが、これまでの臨床試験では、矛盾する結果が出ていたり、試験自体が検出力不足だったりしていた。そこで著者らは、プロバイオティクスが小児のアトピーや喘息・喘鳴の発症に対し、予防効果があるのかを調べるため、無作為化プラセボ対照試験のメタアナリシスを行った。累積リスクの計算にはランダム効果モデルを用いた。プロバイオティクスの効果に影響する潜在的な因子を調べるため、メタ回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・プロバイオティクスの投与は総IgEを有意に低下させた(平均低下値:-7.59 U/mL、95%信頼区間[Cl]:-14.96~-0.22、p=0.044)。・メタ回帰分析では、フォローアップ期間が長いほどIgEの低下がより顕著であることが示された。・出生前投与、出生後投与のいずれにおいても、アトピー感作リスクは有意に低下した。[出生前]皮膚プリックテスト陽性と一般的なアレルゲンに対する特異的IgEの上昇(両方またはどちらか)の相対リスク:0.88、95%CI:0.78~0.99、p=0.035。[出生後]皮膚プリックテスト陽性の相対リスク:0.86、95%CI:0.75~0.98、p=0.027。・好酸性乳酸桿菌(ラクトバチルス・アシドフィルス)の投与は、アトピー感作のリスク上昇と関係していた(p=0.002)。・プロバイオティクスの投与による喘息・喘鳴リスクの有意な減少はみられなかった(相対リスク:0.96、 95%CI:0.85~1.07)。 本研究により、プロバイオティクスの効果はフォローアップ期間と菌種により、大きく変わることがわかった。今後、喘息の抑制に関するプロバイオティクスの試験を行う場合は、注意深く菌種を選定し、より長いフォローアップ期間を考慮すべきである。

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欧州では小児アトピーに免疫抑制薬を処方

 難治性小児アトピー性皮膚炎の処方薬について、欧州8ヵ国で行われたインターネットサーベイの結果、全身性の免疫抑制薬が幅広く多岐にわたって用いられていることが明らかにされた。英国・Guy's and St Thomas' NHS Foundation TrustのL.E. Proudfoot氏ら、ヨーロッパ皮膚疾患疫学ネットワーク(EDEN)のヨーロッパ重症小児アトピー性皮膚炎治療タスクフォース(ヨーロッパTREAT)が報告した。British Journal of Dermatology誌オンライン版2013年7月16日号の掲載報告。 従来療法に対し難治性を示す小児アトピー性皮膚炎において、全身性治療薬を用いることのエビデンスは不足している。そのため、患者の治療は、バリエーションが多いものになっている。 ヨーロッパTREATサーベイは、臨床における最新の処方データを集めて、特定の全身性治療薬の使用に影響している因子を特定すること、および適切な介入による臨床試験を行うための情報提供を目的に行われた。 Webベースで行われたサーベイには、ヨーロッパ8ヵ国の小児皮膚科学会および団体に所属する専門医が参加した。複数回答形式の質問票で、一般的診療データと同時に、難治性小児アトピー性皮膚炎での全身性治療薬に関する詳細な情報が集められた。 主な結果は以下のとおり。・サーベイ参加を呼びかけたeメールに対し、765人のうち343人(44.8%)から回答を得られた。回答者のうち、89.2%が皮膚科医であった。・重症アトピー性皮膚炎の子どもに対して、71%が全身性免疫抑制薬による治療を開始していた。・第一選択薬は、シクロスポリン(43.0%)、経口コルチコステロイド(30.7%)、アザチオプリン(21.7%)であった。・第二選択薬も、シクロスポリンが最も多かった(33.6%)。・第三選択薬は、メトトレキサートが最も多かった(26.2%)。・53.7%は、ルーチンで皮膚感染について調べ、全身性治療薬投与の開始に先立って皮膚感染症の治療を行うと回答した。・ヨーロッパ8ヵ国全体で、ペニシリンは抗菌薬の第一選択薬であった(78.3%)。・以上の結果を踏まえて著者は、「明らかなエビデンスベースがない中で、ヨーロッパTREATサーベイにより、難治性小児アトピー性皮膚炎において全身性の免疫抑制薬の処方が幅広く多岐にわたって用いられていることが確認された。この結果は、ヨーロッパ全体の患者の治療に関連する無作為化試験のデザインに活用すべきであろう」と結論している。

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ビタミンDが健康に及ぼす影響(まとめ)

 近年、ビタミンDが健康、疾病に及ぼす影響を検証した臨床研究結果がケアネット・ドットコムでも散見されるようになってきた。そこで今回、編集部ではビタミンDに関する記事をまとめてみることにした。後半のいくつかはケアネット・ドットコムで初めて紹介するものも含まれている。“ビタミンD不足の高齢者は日常の活動に支障” 【高齢者】 ビタミンDの不足する高齢者は、着替えや階段を上るなどの日常的な身体活動に困難を来す可能性のあることが、新たな研究で示された。高齢集団では、ビタミンD値最低群の70%に少なくとも1つの身体的制限がみられたのに対し、ビタミンD値が中等度または高い群の多くでは身体的制限がみられなかったと報告されている。さらに、ビタミンD欠乏のみられる人には、時間の経過とともに新たな身体的制限が発生する可能性が高いことが判明した。(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌2013年7月17日オンライン版の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/general/hdn/35685“アルツハイマー病にビタミンD不足が関連” 【認知症】 ビタミンDの摂取が認知機能や認知症発症に与える影響をメタアナリシスにより検討した結果より、アルツハイマー病群ではコントロール群と比較し、ビタミンD濃度が低かったことが報告されている(Neurology誌2012年9月25日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/risk/carenet/31480“うつ病治療にビタミンD投与は有用” 【うつ】 ビタミンD欠乏症を認めるうつ病患者におけるビタミンD投与の有用性を検討した結果より、ビタミンD投与がうつ状態を改善すると報告されている(Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2013年6月号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/head/carenet/34687“ビタミンDの摂取がパーキンソン病の症状を安定化させる” 【パーキンソン病】 東京慈恵会医科大学の鈴木正彦氏らは、ビタミンD受容体遺伝子多型のうちFokI T/T型またはFokI C/T型を持つ患者が、ビタミンD3を摂取することで、高カルシウム血症を引き起こすことなく、短期的にパーキンソン病の症状を安定化させる可能性を示唆している(The American Journal of Clinical Nutrition誌2013年5月号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/head/carenet/34819“高用量ビタミンD摂取、65歳以上の骨折リスクを低減” 【骨折予防】 11の二重盲検無作為化比較試験の被験者を対象に行ったメタ解析の結果、65歳以上高齢者の高用量ビタミンD摂取(毎日≧800 IU)は、大腿骨頸部骨折およびあらゆる非椎体骨折の予防に多少ではあるが有望であることが示されている(NEJM誌2012年7月5日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/29116“ビタミンD+カルシウム、高齢者の骨折予防に効果” 【骨折予防】 高齢者の骨折予防におけるビタミンD単剤の用量は10~20μg/日では不十分であるが、カルシウムと併用すると大腿骨頸部骨折および全骨折が有意に抑制されることが、報告されている(BMJ誌2010年1月16日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/11991“女性高齢者への年1回、高用量ビタミンD投与、転倒リスクを増大“ 【転倒】 70歳以上の女性高齢者2,200人超を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果、高用量ビタミンDを年1回投与することで、転倒リスクが増大してしまうことが示唆された。また投与後3ヵ月間の転倒リスクは、約30%も増加したという(JAMA誌2010年5月12日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/14363“ビタミンDサプリ摂取で膝OA改善せず“ 【膝OA】 症候性変形性膝関節症(膝OA)患者に対して2年間にわたり、十分量のビタミンD3サプリメントとプラセボとを投与し比較検討した無作為化試験の結果より、サプリメント群はプラセボ群と比較して、膝の痛みの程度や軟骨減少について、低下はみられなかったことが報告されている(JAMA誌2013年1月9日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/33205“母親の血中ビタミンD値、子どもの骨塩量とは無関係” 【妊婦】 妊娠中の母体における血中ビタミンD値と、その子どもの9~10歳時の骨塩量との関連について、約4,000組の母子について行った前向き調査「エイボン縦断試験」の結果より、有意な関連は認められなかったことが報告されている(Lancet誌2013年6月22日号[オンライン版2013年3月19日号]の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/34604“ビタミンDサプリ摂取はビタミンD欠乏小児の骨密度を改善する” 【小児骨密度改善】 ビタミンDサプリメントは、ビタミンDが正常レベルの小児、青少年の骨密度にベネフィットをもたらさないが、欠乏している場合は一定の改善効果が得られることが、メタ解析で明らかとなったと報告されている(BMJ誌2011年1月29日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/19686“肺結核症に高用量ビタミンD補助薬は有効” 【肺結核】 肺結核症の集中治療期に標準的な抗生物質治療を受けている患者に、高用量のビタミンD補助薬を投与すると、ビタミンD受容体TaqI tt遺伝子型の患者で喀痰培養陰転時間の短縮効果を認めることが明らかとなった(Lancet誌2011年1月15日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/19346“ビタミンD服用、上気道感染症の発症・重症度を抑制しない“ 【上気道感染症】 健常者が半年間、月1回10万IUのビタミンDを服用し続けても、上気道感染症の発症および重症度を抑制しなかったことが、無作為化比較試験の結果より示されている(JAMA誌2012年10月3日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/31659“ビタミンD投与、左室心筋重量係数に変化なし-左室肥大を伴うCKD患者を対象としたRCTより-” 【心肥大抑制】 左室肥大を伴う慢性腎臓病(CKD)約230人に対する無作為化試験において、48週間にわたる活性型ビタミンD化合物paricalcitolを投与した結果、左室心筋重量係数に変化は認められなかったことが示されている(JAMA誌2012年2月15日号の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/journal/carenet/27016“血清ビタミンD値と小児アトピーの重症度、統計学的に有意な関連は認められない” 【アトピー性皮膚炎】 血清25ヒドロキシビタミンD値と小児アトピー性皮膚炎の重症度との関連について、統計学的に有意な関連はみられないことが報告されている。両者の関連については、逆相関の関連性が示唆されていた(Journal of the American Academy of Dermatology誌2013年7月号[オンライン版2013年2月14日号]の掲載報告)。http://www.carenet.com/news/general/carenet/33851“ビタミンDサプリ摂取で血圧が低下” 【降圧効果】 アフリカ系米国人を対象とした大規模ランダム化比較試験を行った結果、ビタミンDサプリメントを摂取した群ではプラセボ群と比べ血圧が有意に低下したことが発表されている。この前向き試験では、対象者に3ヵ月間毎日ビタミンDサプリメントを摂取させたところ、収縮期血圧がサプリメントの摂取用量に応じて0.7~4.0mmHg低下した(Hypertension誌2013年4 月号の掲載報告)。“ビタミンDサプリ摂取で、コレステロール値は改善しない” 【コレステロール低下】 ビタミンD値の低い人がサプリメントを用いてビタミンDを増加させても血中コレステロール値は改善しないことが示唆された。研究者らはビタミンD欠乏例に、5万国際単位のビタミンD3を8週間投与した。その結果、ビタミンD投与群ではプラセボ群と比べてコレステロールの改善はみられず、副甲状腺ホルモン値が低下し、カルシウム値が上昇した。(Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology 誌2012年10月号の掲載報告 )。“ビタミンD低値は2型糖尿病の発症リスクを高める“ 【糖尿病】 ビタミンD欠乏と不足状態は2型糖尿病の発症リスクを高める独立した危険因子である可能性が報告されている。研究者らは、2型糖尿病の危険因子を1つ以上有するが糖尿病を発症していない成人1,080人を平均32.3ヵ月間追跡。その結果、血清25ヒドロキシビタミンD低値はBMI、インスリン抵抗性、インスリン分泌指数とは独立して2型糖尿病発症リスクと関係していた(The American journal of clinical nutrition誌2013年3月号の掲載報告)。“血中ビタミンD濃度の低い人では虚血性心疾患の発症リスクが増大” 【心疾患】 デンマーク人1万例以上の血中ビタミンD濃度と心疾患および死亡との関係を検討した結果、血中ビタミンD濃度の低い人では虚血性心疾患と心筋梗塞のリスクが著しく高いことが明らかにされている。 研究者らはCopenhagen City Heart Studyに参加した1万170例のうち、血中ビタミンD濃度が5パーセンタイル未満の者と50パーセンタイル以上の者を比較した。その結果、血中ビタミンD濃度が高い者と比べ、低い者では虚血性心疾患の発症リスクが40%、心筋梗塞の発症リスクが64%高かったことを発表している(Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology誌2012年11月号の掲載報告)。“ビタミンD摂取不足が脳梗塞の発症リスクを高める” 【脳梗塞】 食事によるビタミンDの摂取不足は脳卒中、とくに脳梗塞の発症と関係することがホノルル心臓プログラムより発表されている。登録時の食事によるビタミンD摂取と追跡中の脳卒中発症との関係を検討した結果、ビタミンD摂取最高四分位群と比較した最低四分位群のハザード比は脳卒中全体が1.22(p=0.038)、脳梗塞が1.27(p=0.044)と有意に高かった(Stroke誌2012年8月号の掲載報告)。Kojima G, et al. Stroke. 2012; 43: 2163-2167.

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円形脱毛症患者は酸化ストレスや過酸化脂質が有意に増大

 円形脱毛症の人は、そうでない人と比較して、活性酸素(ROC)の増大に伴う酸化ストレスや過酸化脂質が有意に増大していることが、エジプト・ミヌーフィーヤ大学病院のOla Ahmed Bakry氏らによるケースコントロール試験の結果、明らかにされた。ROCや過酸化脂質の増大は、多くの皮膚障害(アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬・白斑症・ざ瘡・天疱瘡、扁平苔癬など)で認められる。円形脱毛症においては、ROCの産生が毛包周囲の炎症性細胞で増大することが知られていた。American Journal of Clinical Dermatology誌オンライン版2013年7月10日号の掲載報告。 研究グループは、円形脱毛症患者における酸化ストレス指数(OSI)、ならびに血清総値の酸化物質活性(TOC)および抗酸化物質活性(TAC)とマロンジアルデヒド(MDA)でみた過酸化脂質について評価することを目的とした。 円形脱毛症患者と、年齢・性を適合させた健常ボランティア対照群について、血清TOC、同TAC、同MDAの値を測定し、OSIを算出し、両群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・被験者は、円形脱毛症(AA)患者群35例、対照群30例であった。・TOC、MDAの各血清平均値およびOSIはいずれも、対照群よりもAA患者群で有意に高値であった(いずれもp<0.001)。・血清平均TAC値は、対照群よりもAA患者群で有意に低値であった(p<0.05)。・軽症~中等症AA患者よりも重症AA患者のほうが、MDA(p<0.001)、TOC(p<0.001)、OSI(p<0.001)が有意に高値であり、TAC(p<0.01)は有意に低値であった。・以上の結果を踏まえて著者は、「AA患者では酸化ストレスおよび過酸化脂質が認められることが確認された。これらの変化が、病因や炎症性プロセスに果たす役割については、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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治りにくい大人の湿疹、生後3ヵ月で決まる?

 湿疹は乳児期において一般的にみられる症状だが、その成人期までの自然史についてのエビデンスはほとんど示されていない。英国・カーディフ大学のM.L. Burr氏らは、とくにアトピーとの関連に着目して、誕生から若年成人期までの湿疹の自然史を明らかにすることを目的としたコホート追跡研究を行った。その結果、乳幼児期の湿疹は通常は成長とともに治癒するが、青年期以降になると治癒しにくくなる可能性があること、また成人期の湿疹は生後3ヵ月以降のアトピーと関連していることを明らかにした。British Journal of Dermatology誌2013年6月号の掲載報告。 研究グループは、アトピーの家族歴がある子どもの出生コホートを、23歳時点まで追跡した。 臨床検査を7歳まで行い、皮膚プリックテストと血清中総IgE値測定を乳児、7歳時、23歳時で行い記録した。また、湿疹症状についての質問票調査を15歳時と23歳時に行った。 主な結果は以下のとおり。・情報入手ができたのは、出生時497例、1歳時482例、7歳時440例、15歳時363例、そして23歳時は304例であった。・湿疹は通常、1歳から7歳までに治癒していた。しかし15歳以降になると持続的になり、これはとくにアトピーの場合に多かった。・成人期に湿疹を有する人は、湿疹を有さない人と比べて、各検査時点での総IgE値(相乗平均値の比較で)が有意に高かった。生後3ヵ月時点では3.0対1.7 kU L-1 (p=0.01)、7歳時点は107.9対45.2 kU L-1(p=0.01)、23歳時点では123.4対42.3 kU L-1(p=0.01)であった。また、1歳時の皮膚プリックテストが陽性であった人が多い傾向もみられた。・直近の湿疹は、乳児期および成人期のIgE値高値と関連していたが、小児期の値とは関連していなかった。・以上から、湿疹に罹患した乳幼児は、通常は治癒するが、成人期に湿疹になると症状が持続的になりやすい傾向があった。また成人期の湿疹は、生後3ヵ月以降のアトピーと関連していた。

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アトピー性皮膚炎児、喘息リスクは全員が一律に高いわけではない

 アトピー性皮膚炎と喘息との関連について、アレルゲンを多く有する子どものほうが喘息リスクが有意に高いことが明らかにされた。英国・Microsoft Research CambridgeのN. Lazic氏らが機械的に任意に抽出した2つの出生コホートを分析して報告した。従来定義の小児アトピー性皮膚炎患児のうち、喘息リスクが高いと判明したのは、3分の1以下であったという。アトピー性皮膚炎は喘息との関連が強いリスク因子の一つだが、その関連性はほとんど明らかになっていなかった。Lazic氏らは、アトピーといっても多様なサブタイプがあり、それぞれ喘息との関連は異なるのではないかと仮定し本検討を行った。Allergy誌2013年6月号(オンライン版2013年4月29日号)の掲載報告。 本研究は、英国の2つの異なる地域ベースの出生小児コホート(マンチェスターとワイト島)を対象に、機械学習法にて行われた。小児期および思春期を通じて実施したプリックテストとアレルゲン特異的IgE検査に基づき、教師なし学習を用いてアトピー性感作によりそれぞれクラス分類し、各群の質的特性と喘息および肺機能との関連性を調べた。 主な結果は以下のとおり。・両コホートのデータは、それぞれ5クラスに分類できた。それら分類クラスの内容は両コホートで非常に類似していた。・非感作群と比較して、多様なアレルゲン感作を有するクラスの子どものほう(従来定義の小児アトピー性皮膚炎児の3分の1以下)が喘息を有する傾向が認められた[補正後オッズ比aOR(95%信頼区間[CI]) マンチェスター:20.1(10.9~40.2)、ワイト島:11.9(7.3~19.4)]。・喘息と従来定義のアトピー性皮膚炎との関連は弱かった[同 マンチェスター:5.5(3.4~8.8)、ワイト島:5.8(4.1~8.3)]。・両コホートにおいて、これらのクラスの子どもの肺機能は有意に低く(FEV1/FVC低下はマンチェスター群4.4%、ワイト島群2.6%、p<0.001)、気道感作、呼気NO値(FeNO)高値、喘息による入院が有意に多かった(p<0.001)。

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高齢者の喘息、若年期発症と中高年発症で違いはあるのか?

 40歳以下で発症した喘息と40歳以上で発症した喘息を比べると、40歳以下で発症した喘息ではアトピー性が強く、ピークフローの測定が多く行われていた。一方、40歳以上で発症した喘息では呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)が高く、重症の喘息も多いことがミシガン大学内科のAlan P. Baptist氏らにより報告された。Journal of Asthma誌オンライン版2013年6月20日号の掲載報告。 高齢者の喘息には、小児期または若年期で発症し、それが高齢期まで継続している場合と、中高年で発症した場合があるが、この発症年齢の違いが、診断および治療のうえで何らかの影響をもたらしているかもしれない。今回の研究の目的は、喘息の発症年齢によって、人口動態、コントロール状況、QOL、医療サービスの利用にどのような違いがあるのかを明らかにすることである。 本研究では65歳以上の喘息患者に関する横断的研究のデータを分析した。小児・若年期の発症か中高年の発症かは40歳を基準とした。喘息の人口動態と重症度を分析し、プリックテストと肺機能検査(スパイロメトリー、FeNO測定)を行った。 主な結果は以下のとおり。・小児・若年期発症の喘息患者では中高年期発症に比べ、プリックテスト陽性が有意に多かった(92% vs 71% p=0.04)。これらの結果は両群とも過去の報告より多いものであった。・小児・若年期発症の喘息患者はピークフロー測定を有意に多く受けていた(p=0.07)。・中高年期発症の喘息患者は中等症または重症が有意に多く(オッズ比[OR]:3.1、p=0.05)、FeNOも有意に高かった(p=0.02)。・中高年期発症の喘息患者は入院率も有意に高かったが(p=0.04)、回帰分析後では有意差はなかった。・喘息の人口動態的な情報、併存症、スパイロメトリー、コンプライアンス、喘息のコントロール、QOLにおいては小児・若年期発症と中高年期発症との間に有意差はなかった。 高齢者の喘息では、発症年齢を定義することにより、推奨される治療やアウトカムが改善される可能性があると著者は述べている。

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「内科で遭遇する皮膚疾患」に関するアンケート結果 part 2

Q1皮膚疾患を診療する上で困っていることがありましたら教えてください<診断・治療について>「このほくろは大丈夫ですか」と聞かれることが多いが、皮膚科医へわざわざ紹介すべきか、経過観察でよいかの判断がつかない。 患者さんとしては、受診したついでに質問されていることなので、それを全例「皮膚科へ行ってください」では患者さんのニーズにこたえていないと思う。しかし実際のところ判断がつかないので「大丈夫です」とも言えない。(勤務医・内科)ステロイドを使用するかどうか迷う時がある。(勤務医・内科)どういう湿疹や病状なら皮膚科に紹介すべきか悩む。(開業医・内科)患者さんから皮膚科医の処方の継続を依頼されるが、薬剤の中止や変更の判断が困る。(開業医・内科)感染性の皮膚疾患が診断できなくて、困っている。(勤務医・内科)緊急性の有無がよく分からない。(開業医・内科)黒色の色素斑が、悪性なのかどうか聞かれることがあるが、難しい。かといって、すべてを紹介するわけにもいかず、悩むことが多い。(開業医・内科)初期の病状は何とかなるが、しばらくたってからの皮膚病変をどのようしたらよいかわからない。(開業医・内科)他の医師で比較的安易にステロイド含有剤を内服処方しているので、離脱が大変である。(開業医・内科)皮膚科と違い、内科では、外来でKOHなど迅速に検査することができず、白癬として抗真菌薬を処方すべきか、ステロイド外用薬を処方すべきなのか、悩むことがある。(勤務医・内科)風疹などの感染症との鑑別。とくにウィルス性のカゼや溶連菌などで出てくる皮疹との鑑別。また、薬疹が疑われる場合の原因物質の究明。(開業医・内科)薬疹の原因薬剤が最終的に絞りきれない症例がある。(勤務医・内科)蕁麻疹と思われるが長期化している症例や受診時には皮疹が消失している症例がある。(勤務医・内科)<患者さんについて>あきらかに皮膚科的専門性のある疾患で、皮膚科受診を勧めるも、行きたがらないこと。(開業医・内科)皮膚に関して相談されたときは基本的に皮膚科に紹介している。ところがなぜか患者は”皮膚が悪いのは内臓から来ているのではないか”と内科を先に受診されることがままあり、困っている。(勤務医・内科)皮膚科受診を勧めても、当方での治療を希望される方が少なからずいる。今のところ大きなミスはないが、やはり専門医に行ってほしい。(開業医・内科)<その他>気軽に相談できる皮膚科医がそばにいない。(開業医・内科)当院は、総合病院でないため皮膚科医が在籍しない。外来患者で診断に困る場合や難治性の場合には他院の皮膚科専門医に紹介できるが、入院の場合には紹介しにくい。出来るだけ自分自身の診断能力の向上に努めているが限界がある。(勤務医・内科)疥癬など、急いで診断治療しないといけない疾患や薬疹を疑った時など、皮膚科にすぐコンサルトできる時は良いが、できないときに困る。(勤務医・内科)

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