601. 【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(1) 2015/02/06 GET!ザ・トレンド~臨床の近未来を探る~ 「中枢神経系はいったん発達が終われば再生しない」、それが定説であった。ところが、近年の研究で、ヒトの脳にも“神経幹細胞”が存在し、新たな神経細胞を作っていることが証明された。さらに、この研究結果を応用した、神経疾患に対する再生医療も現実化しつつある。今回は、神経再生医療の世界的権威であり、世界で初めて神経幹細胞を発見した、慶應義塾大学 医学部 生理学教室 教授 岡野栄之氏に聞いた。神経細胞再生についての定説が覆る中枢神経系はいったん発達が終われば再生しない。それが定説であった。しかし、胎生期においては、ヒトの脳で新たな神経細胞が活発に生み出されている。実際には、神経細胞の元となる神経幹細胞が存在し、それが活発に分裂することで、新たな神経細胞とグリア細胞を生産している。この分裂能力は成体では消失し、脳では新たな神経細胞は生み出されないと考えられてきた。ところが、ここ十数年の研究で、成体の脳にも神経幹細胞は存在し、新たな神経細胞を作る能力があることがわかってきた。神経幹細胞マーカーMusashiの発見岡野氏は最先端の神経発生の研究の中、神経幹細胞のマーカーMusashiを発見する。Musashiは神経幹細胞に強く発現するRNA結合蛋白質であり、種を超えて存在する。そのMusashiを用いたマウスの神経発生の研究の結果、胎生期のマウスにはMusashiを発現する神経幹細胞が豊富に存在しており、そのMusashi陽性細胞は生後も脳室周囲に存在することが明らかになった。そこで、ヒト成人の脳にもMusashi陽性の神経幹細胞があるのではないか?と考え、岡野氏は、米国コーネル大学教授(当時)Steven Goldman氏と共同研究を開始する。「Musashi」とはショウジョウバエの神経発生遺伝子として発見された。岡野氏らは、この遺伝子が種を超えて中枢神経系の前駆細胞に広く発現することから、その産生蛋白質が神経系発生マーカーとしての役割を果たすことを解明した。Musashiの名称は、その遺伝子変異によりハエの1つの毛穴から2本の毛が生える異常がみられたことから、宮本武蔵の二刀流になぞらえたもの。ヒト成人の脳にも再生能力がある共同研究の結果、てんかん患者の剖検脳の脳室周囲にMusashi陽性細胞が存在することが明らかになる。そして、Musashi陽性細胞は培養液中で分裂し、新たな神経細胞を作ることも明らかになった。つまり神経幹細胞である。このことから、ヒト成人の脳にも神経幹細胞は存在することが、世界で初めて証明された。1998年のことである。(Pincus DW, et al. Ann Neurol. 1998; 43:576-585.)。一方、増殖細胞の検出ツールBrdU*を用いた、米国とスウェーデンのがん増殖に関する共同研究で、新たに分裂した神経細胞がヒトの脳内(海馬)に存在することが、ほぼ同時期に明らかになった。この2つの研究を相補的に考えると、ヒト成人の脳には神経幹細胞が存在し、何らかのプロセスを経て、脳内で新たな神経細胞が生み出されていることがわかった。*BrdU(bromodeoxyuridine):チミジンアナログ。新たに合成されたDNAに取り込まれる。標識することで増殖細胞の検出ツールとなる。ヒト成人の脳でも神経幹細胞は存在し、梗塞部位に神経細胞が再生するメカニズムを岡野氏が解説する。(岡野栄之氏解説:4’24”)日本発の神経細胞再生医薬品への発展しかし、その再生効率はきわめて低い。神経系を効率よく再生させるためには、内在性の神経幹細胞をより活性化させることが必要だという。そのためには、薬剤で活性化を促すか、不足する神経幹細胞を外部から移植することが根本であるとわかり、2000年代半ばから、神経幹細胞を用いた再生医療の研究が進み出す。その1つとして、岡野氏が顧問を務めるサンバイオ社が再生医薬品SB623を開発している。SB623は骨髄間質細胞に、ある遺伝子を導入し、再生能力を高めた神経再生細胞である。脳梗塞巣に移植することで、脳内のさまざまな栄養因子を出すなど、間接的に再生能力を高め、脳梗塞によって失われた機能を回復させる。すでに米国では動物実験で効果が確認され、スタンフォード大学、ピッツバーグ大学でのPhaseI/IIaが実施されている。その結果は良好で、米国では次のステージへ向け進行しているという。一方、本邦においても2014年の薬事法改正で、"再生医療等製品の条件及び期限付き承認制度"が導入された。ある程度の安全性と有効性が確認されると、条件付きで承認が得られるというものである。この改正で再生医薬品の承認までの時間が短縮されるといわれている。そのため、多くの企業などによる、さまざまな再生医薬品の開発が繰り広げられると考えられる。そのような中、SB623については、すでに米国での治験実績があり、本邦でも同じスキームで開発が進められると期待できると岡野氏は言う。その有用性が証明されれば、日本発の再生医薬品は予想以上に早く臨床に登場するかもしれない。もはや夢物語ではない神経疾患の再生医療岡野栄之氏からのメッセージ:1’04”岡野氏は最後に、「再生医療の研究により、今まで治らなかった神経疾患に対し、さまざまな治療法が開発されている。実際、多くの臨床試験が次々に始まっており、日常診療においても再生医療は夢物語ではない」と述べた。 https://www.carenet.com/series/trend/cg001195_sanbio_okano.html
602. アリスミアのツボ Q20 2015/01/26 Dr.山下のアリスミアのツボ Q20高血圧を有する心房細動患者での抗凝固療法はどう開始したらよいですか?まずは血圧管理から……。血圧管理が終わってから抗凝固療法を開始する心房細動と高血圧は蜜月いまや心房細動患者数はうなぎのぼりだと思いますが、そのほとんどに高血圧が合併しています。多くの疫学研究をみると、心房細動患者の80~90%に高血圧を合併しているというところでしょうか。つまり、ほとんどの場合、高血圧治療と心房細動治療を両者同時に行うということになりそうです。2つのことを同時に行えればよいが……では、この2つの治療をどの順序で行うべきでしょうか。両者同時に、あるいは個別に? 心不全に対するβ遮断薬とRAS抑制薬、どちらから始めるべきかという議論は決着をみることなく、できれば両者同時に、不可能なら個別に考えてという落ち着きどころがみえてきました。しかし今回の抗凝固療法と降圧、心房細動治療と高血圧治療には実はれっきとした順番があるのです。まずは高血圧治療から高血圧が残存している状態で、抗凝固療法が行われると、致命的な大出血を生じやすいことが知られているからです。心房細動で血圧が高い……これは脳梗塞のリスクが高いことを意味しているので、即座に抗凝固療法を開始したくなります。でもそこは思い留まって、まずできるだけ早急に血圧の是正を開始し、血圧が正常化するまでは抗凝固療法を開始しないという心構えを持つ必要があります。血圧が是正される前に脳梗塞になったらどうする? の逆質問もあります。医療自身によるharmはできるだけ少なくというのが私の方針です。 https://www.carenet.com/series/yamashita/cg001193_020.html
603. アリスミアのツボ Q19 2015/01/13 Dr.山下のアリスミアのツボ Q19超高齢者の心房細動に対して、どこまで抗凝固療法を勧めるべきなのでしょう?基本的に平均寿命の上下で分けて考えますが、見た目年齢が一番「入口戦略」だけでよいのだろうか日本、欧米を含めたすべてのガイドラインで、心房細動患者の脳卒中予防を積極的に勧めています。心房細動による脳卒中の頻度と悲惨さを知れば、もちろん私はそれに大賛成です。しかし、進む高齢化社会を考えると、少し心もとない気もするのです。CHADS2スコア、あるいはCHA2DS2-VAScスコアで、脳卒中予防に対する抗凝固療法の守備範囲ばかりを広げていく……それで大丈夫なのでしょうか。「入口戦略」ばかりが討論され、「出口戦略」はほとんど表だって討論されません。「65歳未満で基礎疾患のない心房細動」以外はすべて抗凝固療法(新規抗凝固薬が望ましい)……というESCガイドラインにのっとり、まだCHA2DS2-VAScを用いない日本のガイドラインに近いカナダのガイドラインにはすぐに欧米からケチがつく……。高齢化社会の中で「入口戦略」の入口をただひたすらその範囲を広げていくことには不安を感じます。1次予防と2次予防の立場は異なるこの問題は、1次予防を担っている医師と2次予防を担っている医師では、たぶん大きく感覚は異なるでしょう。2次予防の現場ではいくら高齢であるからといっても抗凝固療法をしないという選択肢は考えにくいでしょう。患者や患者家族も一度痛い目にあっている立場では、考え方が異なるものです。しかし、1次予防の現場では、一度も痛い目にあっていない患者、患者家族を前に、心房細動による脳梗塞を教育することに奔走し、どれだけ理解してくれたのかもわからず、大出血率の高い高齢者にどんどん抗凝固療法を行えば、いずれ脳卒中の前に大出血に出会うでしょう。しかも、抗凝固療法による大出血が引き金となって死亡に至ることも知っていると、そう簡単に入口の間口だけをただ広げるというわけにもいかないと思うのです。「フレイル」という概念しかし、年齢だけでものを語ることができないのも事実です。見た目年齢が重要……これはけっこうその患者のクレアチニンクリアランスに反映されている気もします。高齢医学では、「フレイル」という概念があります。青信号を渡れない患者、認知症を有する患者、独居老人などが挙げられています。このフレイルに相当する患者に抗凝固療法をまっとうに行うことはかなり困難でしょう。これはあくまでも個人的な考えの医療となってしまいますが、基本的に平均寿命以下ならガイドライン通りに、それ以上のフレイルに相当する患者では抗凝固療法を行わないという選択肢も医療としてありうると思っています。もちろんこれは医療者が決定することではなく、むしろ家族や介護提供者の意思がより重要視されるべきでしょう。 https://www.carenet.com/series/yamashita/cg001193_019.html
604. Dr.林の笑劇的救急問答10 【胸痛編 】 2015/01/09 ケアネットDVD 第1回 急性心筋梗塞1 「胸がキュンキュンする80歳女性」 第2回 急性心筋梗塞2 「胃痛を訴える85歳女性」 第3回 大動脈解離1 「急な背部痛の55歳男性」第4回 大動脈解離2 「右片麻痺と構音障害の72歳男性」 すっかりお馴染みのDr.林による救急シリーズの第10作目!今作は電解質異常編と胸痛編の2部構成。胸痛編では、急性心筋梗塞、右室梗塞、大動脈解離について取り上げます。「先生に恋したかも・・胸がキュンキュンするの」「胃が痛い!」「背中が痛い!」「片麻痺が!」と訪れた患者にどう対応しますか?見落としがちなポイントをDr.林ならではの講義でわかりやすく解説します。研修医・講師らが演じる爆笑症例ドラマにもヒントがぎっしり!笑いながらしっかりと学んでください。第1回 急性心筋梗塞1 「胸がキュンキュンする80歳女性」 今回のお題は急性心筋梗塞。救急や臨床の現場で最も見落としたくない疾患の1つ。しかし、心筋梗塞は「非典型例こそ典型」と言われるほど、非典型例が当たり前です。胸痛だけに着目していたら、見落としてしまうことも・・・。胸痛のない心筋梗塞は22~35%もあります。心筋梗塞の診断のPitfallsやDr.林のNERD、30cmの法則など、覚えやすくわかりやすい講義で、自分のモノにしてください。見落とさないためのヒントが満載です。第2回 急性心筋梗塞2 「胃痛を訴える85歳女性」 今回は急性心筋梗塞、その中でも右室梗塞についてです。右室梗塞は普通の心筋梗塞とは戦い方が異なります。いつもどおりMONA(モルヒネ・酸素・ニトロ・アスピリン)での対応はNG!ショックを起こしてしまうこともあります。右室梗塞を見落とさないために何をすべきか、そして右室梗塞だと診断した際にどう対応するかを学んでください。ここで重要なのはやはり心電図!Dr.林が体を使って、心電図の波形の出方を説明します。笑いながら理解できますよ。これでもう、右室梗塞を見落とすことはないでしょう!第3回 大動脈解離1 「急な背部痛の55歳男性」大動脈解離は、急性心筋梗塞に比べて頻度が低く、見逃しやすい疾患です。なんと初診時に4割は見逃すと言われています。見逃さないための診断のポイントは、1.痛みの移動、2.上縦隔拡大、3.血圧左右差で、この3つが揃えば100%大動脈解離です。しかしながら、大動脈解離の7%はこの3ついずれにもあてはまりません。そんな時こそDr.林のQRS!いえいえ心電図ではありません。はてさてQRSとは?!Dr.林の実経験を元に大動脈解離非典型例を見落とさないための診断のポイントを解説します。第4回 大動脈解離2 「右片麻痺と構音障害の72歳男性」急性発症の片麻痺では脳出血や脳梗塞を疑うのは当然のことですが、痛みを伴う場合は、大動脈解離を鑑別に挙げることも非常に重要です。また、大動脈解離は胸痛にプラスしてどのような所見が得られたときに疑うのでしょうか?下壁心筋梗塞→右室心筋梗塞→もしかして大動脈解離?痛みがない大動脈解離の場合は、どうやって見つければいいのか?など診断の難しい大動脈解離を見落とさないためのヒントがぎっしり詰まっています! https://www.carenet.com/dvd/223
605. 脳梗塞、動脈内治療が機能的転帰に有効/NEJM 2015/01/09 ジャーナル四天王 急性虚血性脳卒中患者に対し発症後6時間以内に行う動脈内治療は、機能的アウトカムに有効かつ安全であることが、オランダ・エラスムスMC大学医療センターのO.A. Berkhemer氏らによる多施設共同無作為化試験の結果、明らかにされた。対象は前方循環の頭蓋内動脈近位部閉塞による急性虚血性脳卒中患者で、標準治療とされるrt-PA静注療法の単独群との比較で機能的アウトカムへの効果が検討された。これまでに、同患者への動脈内治療は緊急的な血行再建術に非常に効果的であることは知られていたが、機能的アウトカムへの効果は立証されていなかった。NEJM誌2015年1月1日号(オンライン版2014年12月17日号)掲載の報告より。発症後6時間以内に動脈内治療 試験はオランダ国内16施設にて、患者を標準治療単独群または標準治療+動脈内治療を行う群に無作為に割り付けて行われた。前方循環の動脈近位部閉塞を血管イメージングで確認し、発症後6時間以内に動脈内治療が可能であった患者を適格とした。 主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケールスコアとし、0(症状なし)から6(死亡)のスコアを用いて機能的アウトカムを評価した。 治療効果は、順序ロジスティック回帰法を用いて推算した共通オッズ比(事前に予後因子を規定し補正)を用いて、動脈内治療のほうが標準治療単独よりも、より修正Rankinスコアが低くなるという尤度を測定して評価した。90日時点、機能的自立患者は32.6%vs.19.1%で介入を支持する結果 500例の患者が登録され、233例が動脈内治療(介入)群に、267例が標準治療単独(対照)群に割り付けられた。被験者は平均年齢65歳(範囲:23~96歳)、男性が292例(58.4%)で、無作為化前に実施されたrt-PA治療を受けたのは445例(89.0%)であった(うち介入群は203例[87.1%])。 介入群に割り付けられた233例のうち、実際に動脈内治療(機械的血栓除去術のありなし含む)を受けたのは196例であった。そのうち機械的血栓除去術を受けたのは195例で、190例(81.5%)が血栓回収ステントを用いた介入が行われた。 結果、90日時点の評価に基づく介入群の補正後共通オッズ比は、1.67(95%信頼区間[CI]:1.21~2.30)であった。機能的に自立した患者(修正Rankスコア0~2)の割合は、介入群32.6%vs. 対照群19.1%で、介入を支持する絶対差は13.5ポイント(95%CI:5.9~21.2)であった。 なお死亡率や症候性脳内出血の発生率について、両群間で有意な差はなかった。 https://www.carenet.com/news/journal/carenet/39256
606. 本当の「新規の抗凝固療法」?従来のワルファリン、ヘパリンでは影響を受けない血液凝固第XI因子機能低下による「出血しない抗凝固療法」への期待(解説:後藤 信哉 氏)-294 2014/12/23 CLEAR!ジャーナル四天王 新薬が開発されると「主作用」が「副作用」より効率的に発現することが期待される。抗凝固薬では「主作用」は心筋梗塞、脳梗塞、心血管死亡などの血栓イベントの低減であり、「副作用」は「重篤な出血イベントの増加」である。 古典的な経静脈的抗凝固薬ヘパリンはトロンビンとXaの、古典的な経口抗凝固薬ワルファリンはビタミンK依存性のトロンビン、第VII、IX、X因子の阻害薬であった。今までは「新薬」と呼ばれても、フォンダパリヌクス、ダビガトラン、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンのすべてが、古典的なヘパリン、ワルファリンも作用するトロンビン、Xaを標的としていた。血液凝固カスケードにおいてトロンビン、Xaが重要な役割を演じていること、ヘパリン、ワルファリンのいずれもモニタリングによる用量調節が必須であったことから、トロンビン、Xaの阻害薬は古典的抗凝固薬よりも「主作用」の発現が「副作用」に比較して効率的であると言われても信じ難かった。 新薬開発メーカーは各種の工夫をこらして、古典的なヘパリン、ワルファリンに対する有効性または安全性の優位性を示そうと全力を尽くしたが、公開された各種ランダム化比較試験の結果は、新規の抗凝固薬使用時の「副作用」(重篤な出血合併症)の発現リスクが無視し得ないレベルであることを示した。 筆者の友人でもあるBuller 博士らは、古典的な抗凝固薬に影響を受けない第XI因子を標的として興味深い臨床研究成果を発表した。基礎研究としては、本邦からも宮崎大学の浅田教授らが第XI因子の機能阻害による動脈、静脈血栓発症予防の可能性を示唆していた1)2)。しかし、動物モデルにおいて設定された仮説は、ヒトを対象とした臨床試験においてしばしば正しくないことが示されるので、Buller らの今回の論文には大きなインパクトがある。 本研究の対象例は300例と少ない。本試験は薬剤の臨床開発としては安全性と用量設定を主眼とする第II相試験である。並行群間オープンラベル試験であり、エンドポイントも静脈造影による深部静脈血栓の発症を含むソフトエンドポイントである。仮説検証試験としての質は試験のデザインの観点から必ずしも高いとは言えないが、抗トロンビン薬、抗Xa薬にて果たせなかった「出血しない抗凝固療法」への期待の大きさを反映してN Engl J Medに採択となった。実際、本研究の筆頭著者であるBuller 博士は、新規経口抗Xa薬エドキサバンの静脈血栓塞栓症予防効果を検証したHOKUSAI試験のprincipal investigatorでもある。抗Xa薬の限界を実感したゆえに第XI因子阻害に期待したのであろう。 本研究にて使用されたのは「抗XI薬」ではない。血液凝固第XI因子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。血液凝固第XI因子の体内合成を阻害する。第II相試験でもあり、Buller 博士らsteering committeeが「投与量」、「投与時期」を試験期間内に変更している。生真面目なヒトが多い日本では「臨床試験のプロトコールは事前に決定されているべき」と定式に考えるヒトが多いが、欧米で施行される臨床試験では現実的に試験中途で「protocol amendment」を行うことが多いこともこの機会に学んでおこう! 「modify」でも「revise」でもない「amendment」で、現実的に合わないprotocolを「修正」しながらベストの結果を目指す欧米人の現時的対応が、本研究でも用いられている。 症例数は少ないが、膝関節置換術後に静脈造影にて検出される血栓の頻度は多い。本研究でも、標準治療のエノキサパリン群で30%に血栓を認めている。用量依存性にエノキサパリンよりも血栓が少なくなる可能性と重篤な出血イベントは、エノキサパリンよりも少なくなる可能性を示唆した本研究は、血栓症専門家の視点から興味深い。 Last Authorが血栓の大家であるWeitz博士なのでアンチセンスXIの作用機序を示した図1はいかにも真実性がある。しかし、筆者の知る限り、ヒトにおいて第XI因子の血栓と出血に関する関係を示した十分な症例を含むランダム化比較試験は、本試験が最初である。Weitz博士が示すような内因性凝固因子の血栓形成における寄与が構成論的に真実であるか否かの検証は、今後の課題である3)。 https://www.carenet.com/news/clear/journal/39169
607. Low Dose AspirinにNet Clinical Benefitはない! ~Negativeな結果、しかし、わが国にとってはPositiveな試験(解説:平山 篤志 氏)-282 2014/12/02 CLEAR!ジャーナル四天王 先日、シカゴで行われたAHAにて日本発の大規模臨床試験がLate Clinical Braking Trialで取り上げられた。高血圧、脂質異常症、あるいは糖尿病を持つ65~85歳の高齢者1万4464人を対象に、平均5年間のアスピリンの1次予防効果を検討した試験であった。オープンラベル試験ではあったが、データ解析がブラインドで行われ、1次エンドポイントである心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の発症には差がなかったという結果であった。 ただ、TIAや非致死性心筋梗塞の発症はアスピリンで有意に抑えられていたことが反映されなかったのは、平均5年間でのイベント発症率が両群それぞれ2.77%(アスピリン群)、2.96%(非投与群)ときわめて低いという背景があったことが考えられる。わが国では高齢のハイリスク群であっても低イベントであることから、効果よりアスピリンに伴う出血のリスクがより増加することによるデメリットが反映された結果だったと考えられる。非致死的ではないが頭蓋内出血やくも膜下出血がアスピリン群で増加しており、さらに胃潰瘍、消化管出血の副作用も有意にアスピリン群で多かった。このことから、わが国ではハイリスクであっても1次予防のLDAのNet Clinical Benefitはないとしたことは大きな意義がある。 ただ、この試験の持つ意味は結果より1万4000人という対象を5年間Follow Upしたこと、さらにイベントをブラインドで評価したこと、さらに現在のわが国での正確なイベント発生率を明らかにしたことが意義ある論文として、JAMA誌に掲載されたことである。 ただ、Lost to Follow-Upが各群で10%以上認めたことは低いイベント発症率からすると結果に影響が出る可能性もあり、今後わが国の臨床試験で精度を高めるためのシステムの構築が必要と考えられる。いずれにしろ、本研究を達成されたグループ(Japan Primary Prevention Project:JPPP)に敬意を表するとともに、今後さらなる解析が行われてアスピリンの有効な集団が明らかにされることを期待するものである。 https://www.carenet.com/news/clear/journal/39057
608. 肥満と脳梗塞リスク 2014/11/28 患者説明用スライド 肥満になるほど、脳梗塞のリスクが高まります脳梗塞のなりやすさ6(BMI<21患者群と比較したデータ)5.6倍543.1倍32.3倍21BMI<2121≦BMI<23 23≦BMI<25BMI≧25※40~79歳の日本人2,421人を対象にした試験Yonemoto K, et al. Hypertens Res. 2011; 34: 274-279.Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved. https://www.carenet.com/slide/153
609. アリスミアのツボ Q15 2014/11/24 Dr.山下のアリスミアのツボ Q15新規抗凝固薬が3種類もあるのですが、同じでしょうか? 異なるならどのような考え方で臨めばよいのでしょうか?私は、「同じではない。異なる」と思っています。※当該質問は2014年8月にいただいたものです。現在の状況とは異なりますのでご了承ください。添付文書をみても大きく異なるARBなどのように「クラス」といわれる薬物があります。小さな違いはあるにせよ、大きな違いがないからそのように呼ばれるのでしょう。新規抗凝固薬は「NOAC」と呼ばれるので、あたかもクラスのようです。しかし、それぞれの添付文書をみてみましょう。禁忌も異なれば、用法用量も異なれば、用量選択も異なれば、慎重投与対象や薬物相互作用も異なっています。各新規抗凝固薬を用いた大規模臨床試験の結果も異質性があるのですが、そんなことを考えなくても添付文書がこれらの薬物は明らかに大きく異なることを教えてくれています。大規模臨床試験の結果をつぶさにみても迷路にはまる異なるのであれば、どれがベストの薬かと考えたくなり、臨床効果を検討した大規模臨床試験の成績をみて、対照薬であるワルファリン群との優越性や非劣性に注目したくなります。私もそのような時期がありましたが、結局迷路にはまるだけでした。ワルファリン群というのが曲者で、それぞれの試験で微妙に目標となるPT-INRが異なったり、コントロールの質が異なったり・・・。ワルファリン群というと1つの群のようですが実に種々雑多なものの寄せ集めです。寄せ集めを標準として、間接的にNOAC同士を比較してもナンセンスでしょう。そもそも、ベストなNOACというものはないのですから・・・。重要なのは「価値観」と「薬物の強み」それ以来開き直りました。患者が何を望んでいるか、自分が患者に何をしてあげたいかから出発することにしました。それが価値観です。患者によって異なるはずですが、NOACを用いる際の価値観は、「脳梗塞をできるだけ少なくしたい」、「大出血をできるだけ少なくしたい」、「薬物アドヒアランスをできるだけ上げたい」、「患者が支払う窓口コストをできるだけ下げたい」の4つぐらいでしょう。そして、この4つをすべて満たす薬物はないのですから、どれが最も重要かという点で、患者と医師が価値観の共有をすべきだと思います。患者が「先生にお任せします」という場合は、自分が最も重要だと思うところを伝え共有してもらうのです。価値観が決まれば薬の選択は容易もちろん、患者の背景因子(たとえば腎機能)によって、使える薬が限定されてしまう場合がありますが、そのときはそれを使うしかありません。しかし、そのような限定条件がないのであれば・・・、価値観が薬物を決定してくれると思います。「脳梗塞をできるだけ少なく・・・」ダビガトラン 150 mg 1日2回「大出血をできるだけ少なく・・・」腎機能低下例ではアピキサバン(用量は添付文書に沿う)腎機能良好例では ダビガトラン 110 mg1日2回「服薬アドヒアランスをできるだけ高く・・・」リバーロキサバン(用量は添付文書に沿う)「窓口コストをできるだけ低く・・・」ワルファリン異論や反論はもちろんあるでしょう。あくまでも、私はこう考え、こうしているということを紹介しました。そして、このように考えるようになってから、患者の価値観は実に人によってさまざまであるということも知りました。 https://www.carenet.com/series/yamashita/cg001193_015.html
610. アリスミアのツボ Q13 2014/11/13 Dr.山下のアリスミアのツボ Q13たまたま見つかった無症候性の発作性心房細動はどう対処するべきでしょうか?脳梗塞予防のみを行い、心房細動はまずその行方を観察するに留めておきます。最近よく見かけるたまたま健診で捕まった発作性心房細動社会の高齢化のためでしょうか、最近よく出会うのが・・・、健康診断の心電図で偶然見つかった心房細動で受診を促されたものの、受診時には洞調律だったという例です。自然に洞調律に復しているので、発作性心房細動です。しかし、本人につぶさに問診しても、まったく症状らしきものがなく(健康診断を受けたぐらいですから、そうでしょう)、定義上「無症候性発作性心房細動」で、私の前にいるときは洞調律という患者です。まずは脳梗塞リスクを考える発作性心房細動でも、持続性・永続性と同じように脳梗塞が生じることが知られています。だから、まず、脳梗塞予防を脳梗塞リスクに応じて行うことが基本となります。なんとなく、一度健康診断だけで偶然見つかった無症候性発作なのに、脳梗塞予防まで必要?と感じてしまうのですが・・・。心臓血管研究所では、無症候性発作性心房細動の行方を追ってみたことがあります。このような無症候性発作性心房細動は、症状のある発作性心房細動よりもむしろ速いスピードで持続性心房細動に移行していたのです。「たまたま見つかった」無症候の発作性心房細動だからといって、症状のある発作性心房細動となんら大きな違いはありません。実際、脳梗塞の発症リスクは、無症候性と有症候性で違いはありませんでした。見つかったときが脳梗塞リスクを患者に伝えるチャンスなのです。その心房細動の行方は・・・無症候ですから、発作の頻度や持続時間はとうてい知ることができません。状況がわからないのに、心房細動の治療を行ったとしても、その治療効果の判定ができません。判定できないからこそ、心房細動自身に対する治療は行わず、経過観察することにしています。やがて、いつの日か持続性心房細動に移行するでしょう。そのときが治療のチャンスです。少し遅れ気味になってしまいますが、治療の効果も判定することが初めてできるようになります。私は、持続性心房細動に移行して1年以内が、カテーテルアブレーションという治療を行う価値のある最初のそして最後の猶予期間だと患者に伝えています。 https://www.carenet.com/series/yamashita/cg001193_013.html
611. CareNet座談会 「高齢者の肺炎診療 ~新しい肺炎球菌ワクチンで変わる高齢者肺炎予防~」 2014/11/11 <座長><出席者>高齢者肺炎の現状と肺炎球菌ワクチンの重要性賀来(座長) 本日は、感染症の専門の先生方にお集まりいただき、高齢者の肺炎の現状と新しい肺炎球菌ワクチンについて伺います。私どもは東日本大震災後の感染症について解析しており、災害後の集団感染リスクから被災者を守る必要性を感じています。震災後に東北大学病院に入院した感染症患者は、高齢者の誤嚥性肺炎を含めた市中肺炎などの呼吸器感染症が67%を占め、肺炎の原因菌の25.8%が肺炎球菌であり(図1)1)、肺炎球菌ワクチン接種による肺炎発症予防の重要性を感じました。図1 東北大学病院における震災関連感染症の解析画像を拡大するはじめに、高齢者における肺炎球菌感染症対策の重要性について伺います。門田 肺炎はわが国の死因の第3位の疾患であり、死亡者の大半を高齢者が占める現状がありますが、なかでも肺炎球菌による肺炎が多く、65歳以上の市中肺炎入院患者を対象とした検討では肺炎球菌が約30%を占めることが報告されています2)。また、生命を脅かす重篤な疾患である髄膜炎や敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症も高齢者に多く起こりますので、肺炎球菌感染症の予防はきわめて重要です。三鴨 高齢者ではさまざまな基礎疾患を有することが多く、それらが肺炎リスクを高めていると考えられます。例えば、糖尿病患者では白血球の貪食能、殺菌能の低下により、感染症リスクが高まると考えられます。また、脳梗塞や一過性脳虚血発作の後遺症がある場合は、誤嚥が関連する肺炎のリスクが高いと考えられます。さらに、高齢者に対する治療を考えると、腎機能低下例が多いために抗菌薬療法を十分に行えない可能性があります。腎機能や肝機能に留意した治療が求められるのが高齢者の特徴です。賀来(座長) 誤嚥は肺炎の要因になりますが、そこでも原因菌として肺炎球菌は重要でしょうか。門田 誤嚥の疑いのある高齢者の肺炎において肺炎球菌が26%を占めていたという報告もあり3)、意外に多いことが明らかになりつつあります。三鴨 とくに不顕性誤嚥(睡眠中に無意識のうちに唾液などが気道に入る)があると誤嚥性肺炎のリスクが高まり、免疫機能の低下が加わることでさらにリスクが増加します。肺炎球菌が意外に多いことを考えると、やはり肺炎球菌ワクチンによる予防が重要となります。また、高齢者の基礎疾患と肺炎リスクは関連があると考えられますので、高齢者全員にワクチンを接種するユニバーサルワクチネーションの考え方が重要です。高齢者肺炎の診断と病態の特徴賀来(座長) 次に、高齢者肺炎の診断と病態の特徴について伺います。門田 高齢者肺炎において注意していただきたいのは、細菌性肺炎であっても白血球数が上昇しない場合があること、また、症状が潜在性の場合があることです。典型的な症状がなくとも、食欲減退・不活発・会話の欠如などがあり、肺炎が疑われる場合には早めに胸部画像検査をしていただきたいです。三鴨 高齢者の肺炎で、もう1つ臨床上重要な点は、不顕性誤嚥があると肺炎を繰り返す例が多いことです。門田 肺炎を繰り返すと、抗菌薬治療を繰り返すことで耐性菌が出現するリスクも高まります。三鴨 おっしゃるとおりです。そのため、私たちは高齢者の肺炎患者に対しては退院時に積極的に肺炎球菌ワクチンを接種するようにしています。新しい肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)のエビデンス賀来(座長) これまで高齢者に対しては肺炎球菌多糖体ワクチン(PPV)が用いられてきましたが、先頃、小児において使用実績の高い肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)が成人(65歳以上)に対しても適応が認められ、選択肢が広がりました。この新しいワクチンの特徴と期待されるメリットについて伺います。門田 PPVは肺炎球菌の莢膜多糖体を抗原とするワクチンですが、PCV13は莢膜多糖体にキャリアタンパクを結合させたワクチンであり、免疫原性が高いことが特徴です(図2)。図2 多糖体ワクチンと結合型ワクチンにより誘導される免疫応答の概略画像を拡大するキャリアタンパクを結合することでB細胞のみならずT細胞を活性化することが可能であり、免疫応答の惹起に加え、メモリーB細胞を介した免疫記憶の確立が期待できます。賀来(座長) これらの特徴は臨床試験からも確認されているのでしょうか。三鴨 国内における第III相試験4)では、肺炎球菌ワクチン未接種の65歳以上の日本人高齢者764例を対象として、従来のPPVを対照群とする非劣性試験が実施されました。接種1ヵ月後のオプソニン化貪食活性(OPA)を比較した結果、両ワクチンに共通する12種類の血清型のいずれについてもPCV13はPPVに対して非劣性を示しました。このうち9血清型についてはPCV13におけるOPAの有意な上昇が認められ、PCV13の免疫原性が示されました(図3)。図3 ワクチン血清型別OPA*幾何平均力価比画像を拡大する一方、海外における第III相試験5)では、1回目にPCV13またはPPVを接種し、その3~4年後にPPVを再接種した場合のOPAの上がり方を検討しており、PCV13を接種した群における再接種時の免疫応答からPCV13による免疫記憶の確立が示されています(図4)。この結果から、1回目にPCV13を接種すると、PCV13に続いて2回目に接種されるワクチンの免疫応答も増大すると考えられ、今後、両ワクチンの特性を活かして接種スケジュールを検討する際の参考にできると思います。図4 肺炎球菌ワクチンの2回目接種前後のワクチン血清型別OPA画像を拡大する高齢者に対する肺炎球菌ワクチン接種の今後の展望賀来(座長) PCV13が高齢者にも使用可能になったことにより肺炎球菌感染症の予防にさらなる期待がもたれます。今後、高齢者へのワクチン接種をさらに普及させるうえでどのような方策が必要でしょうか。門田 日本呼吸器学会では「ストップ肺炎キャンペーン」を展開しており、一般向け・医療従事者向けの冊子をWebでも公開しています6)。今後、呼吸器科のみならず他科の先生方にも肺炎予防の重要性を周知し、他疾患領域の学会とも連携して取り組む必要があると思います。三鴨 糖尿病やリウマチでは、新薬の登場により治療成績が向上していますが、その一方で感染症リスクが高まる場合もあるため、高齢者の感染症予防に対する関心が高まっています。こうした面からも肺炎球菌ワクチン接種の意義を訴求していけると思います。また、ワクチンの普及には行政の役割も重要です。2014年10月から、65歳以上を対象に成人用肺炎球菌ワクチンが定期接種化されました(表1)。国の制度では5年間で順次接種することになっていますが、私はすべての高齢者に接種することが望ましいと考えています。そのため、居住地である岐阜市の市長がワクチン接種の公費助成に力を入れる方針を示していることを知り、この地域に居を構えるアカデミアの一人として肺炎球菌ワクチンについて提言を行いました(表2)。その結果、岐阜市では本年度に65歳以上全員を接種対象として予算を組んでくれました。高齢者医療はこうした比較的小規模な枠組みからも改善でき、非常に重要な動向であると思っています。賀来(座長) 本日は、高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの現状と今後の展望について詳細にお話を伺うことができました。皆さま、ありがとうございました。表1 65歳以上の成人用肺炎球菌ワクチン定期接種(B型)の経過措置を含めた接種対象年齢画像を拡大する表2 肺炎球菌ワクチンについての提言画像を拡大する参考文献1)賀来 満夫. 日本内科学会雑誌. 2014; 103: 572-580.2)石田 直. Infection Control. 2005; 14: 645-649.3)Ishida T, et al. Intern Med. 2012; 51: 2537-2544. 4)ファイザー(株) 社内資料 国内第Ⅲ相試験(非劣性試験、未接種者、B1851088試験).5)Jackson LA, et al. Vaccine. 31; 2013: 3594-3602.6)日本呼吸器学会ホームページ PCV13についての詳細は製品添付文書をご覧ください。 https://www.carenet.com/useful/prevenar/cg001205_index.html
612. アリスミアのツボ 第3回 2014/10/15 Dr.山下のアリスミアのツボ Q7症状のない上室・心室期外収縮は、どの程度まで経過観察すべきでしょうか。心機能が正常ならば経過観察しない、という考え方ではどうでしょうか。私は基本的に心機能が正常である限り、期外収縮の経過観察をしていません。これには異論や反論があるかもしれません。心房期外収縮の場合「心房期外収縮の頻発は、放置するとやがて無症状の心房細動に発展してしまうのではないか?」という不安。これはそのとおりだと思います。しかし、問題はその発生確率だと思うのです。一見健康者で、心房期外収縮頻発が見られた例での心房細動の発生確率は、年間約1.5%とされています。これをどう見るか……人によって異なるかもしれません。心房期外収縮例をすべて経過観察しようとするのは、間違いではないのですが効率性に劣る気がします。これを行うための外来診療の時間があれば、もっと有意義な(もっと重篤な疾患をもつ患者のケアに)使えばよいのではないでしょうか。もちろん例外があります。心原性脳梗塞のようだけれども心房細動が見つかっていない患者、心房細動がひとたびもし生じてしまえば脳梗塞のリスクがきわめて高いという患者では、心房期外収縮の頻発を経過観察する価値が高まるでしょう。ただし、これらの患者の経過観察としての適切な方法はまだ誰も知りません。心室期外収縮の場合「心室期外収縮の頻発は、やがて心機能低下を引き起こしてしまうのではないか?」という不安。これもその可能性はあると思います。ただし、どのような発生確率が見込めるのかという確かな数字がない以上、そして基本的に予後はよいという情報がある以上、効率性という意味で経過観察の価値が低いと感じてしまうのです。脳梗塞とは異なり、心機能低下はirreversibleではありません。健康診断をきちんと受けることを指導する、というような経過観察でもよいのではないでしょうか。Q8発作性心房細動に対する抗不整脈薬の用い方について教えてください。安全性重視という考え方で、患者の意向次第で減量や中止も随時可能専門家の現場での用い方「抗不整脈薬の使い方がわからない。ガイドラインや教科書と、循環器内科医の実臨床での使い方がかなり違う気がする」というご意見もありました。抗不整脈薬は諸刃の剣と言われることから、どうしても経験則が幅を利かせているのが実情です。ESCの心房細動ガイドラインで書かれていることESCの心房細動ガイドラインにはこの抗不整脈薬の使い方の原則が書かれているので、それを引用しておきましょう。1)抗不整脈薬治療は症状を軽減する目的で行うものである2)抗不整脈薬で洞調律を維持する効果は“modest”である3)抗不整脈薬治療は心房細動の再発をなくすものでなく、減らすことで臨床的には成功と考えるべきだろう4)1つの抗不整脈薬が効果のない場合、他の抗不整脈薬が効果を示すことがあるかもしれない5)抗不整脈薬による新たな不整脈の出現、心外性副作用はしばしば生じる6)抗不整脈薬の選別は効果よりもまず安全性を指針とすべきである私の使い方私の臨床現場での用い方はこれを基本にしています。たとえば、抗不整脈薬をいつ始めて、いつ中止するのかについての一定の見解はないのですが、患者が心房細動の症状で困っている時に開始し(1参照)、その際あらかじめ発作が完全に消失するものではないことを伝え(2、3参照)、症状が軽くなればいつでも薬物の減量をトライし、症状に困らなくなればいつでも中止をトライする(6参照)、ということを基本にしています。もちろん、減量や中止によって患者が困るようになれば、また再開することはたびたびです(むしろ、そのほうが多いかもしれません)。ただ、これを行うことで患者が薬物の効果を実感してくれることもアドヒアランスを高めると思っています。Q9NOACをどのように開始すべきでしょうか?ワルファリン時代とまったく異なる抗凝固療法のやり方を会得する必要がありますワルファリン時代に染みついた慣習心房細動の脳卒中予防には抗凝固療法が必要です。抗凝固療法の仕方…これについては、あまりにもワルファリンを使用してきた歴史が長く、ワルファリン時代のやり方が身に染みついてしまっていることを私自身が痛感しました。そこで、ワルファリン時代とは異なるNOACによる抗凝固療法の私のやり方をまとめておきます。1)心房細動初診患者では(脳卒中の一次予防ならば)その日のうちに抗凝固療法を始めない。ワルファリン時代は初診患者で脳卒中予防の説明をして、ワルファリン1.5~2mg/dayをその日から開始していました。しかし、NOACでは危なっかしくてできないですね。初診日は、脳卒中に関する啓蒙、年齢、体重の把握、血清Cr、Hbの採血をするだけにしています。クリアチニンクリアランスを把握してから抗凝固療法はするものと考え、次の外来から(つまりクレアチニンクリアランスが手に入ってから)NOACを処方します。次回の外来までに脳卒中になってしまうのでは……と不安に思う方がおられるかもしれませんが、所詮ワルファリン時代も初診時に処方する少量のワルファリン量ではそもそも効いていませんでした。NOACを初診日に処方すると禁忌症例に処方してしまう可能性があり、こちらのほうが危険でしょう。また、貧血のある患者にNOACを処方するのも危険です。今まさに、じわじわとどこからか出血しているのかもしれないからです。2)2週間以内の出血に関する問診とHbのチェックを忘れないワルファリン時代はゆっくりと抗凝固がなされ、しかもPT-INRによる処方量決定のためたびたび外来受診が行われるので、出血のケアは自然になされやすい環境にありました。しかし、長期処方が可能なNOACは大出血直前の気付きの機会を減らしています。そこで、私は、NOAC処方時には必ず2週間以内に受診してもらい、皮下出血、タール便の有無を聞き、必ずHbをチェックすることにしています。2週間でHbが明らかに減少していれば、どこからか出血していることになるからです。逆にHb値に変化がなければ安心できます。3)バイオマーカーはどうする?ワルファリン時代のPT-INRというモニタリングはなくなりました。では何もチェックしていないかというと、私は、ダビガトランではaPTT、リバーロキサバンとアピキサバンではPTをチェックしています。固定用量の薬物では必ず効きすぎの患者が、わずかといえども存在しているからです。ただし、これはモニタリングではありません。処方後2週間以内の外来で、Hbと一緒にバイオマーカーを一度採血するのです。バイオマーカーについては「あまり見かけないほど高い値である」ことがなければ、それで良しとしています。その後の採血ですが、クレアチニンクリアランスを高齢者では年に4回程度、若年者では年に1、2回チェックしますが、それと同時にこれらのバイオマーカーもチェックしています。NOACのバイオマーカーはモニタリングではなく、あくまでもチェックにすぎないのです。 https://www.carenet.com/series/yamashita/cg001193_003.html
613. エキスパートに聞く!「血栓症」Q&A Part2 2014/10/09 特集 CareNet.comでは特集「内科医のための血栓症エッセンス」を配信するにあたって、会員の先生方から血栓症診療に関する質問を募集しました。その中から、脳梗塞に対する質問に対し、北里大学 西山和利先生に回答いただきました。今回は、"かくれ脳梗塞"に抗血小板薬を使うべき?緊急を要する場合の見極めと対処法は?、高齢患者の内服コンプライアンスを改善するには?についての質問です。俗に使われている言葉で「かくれ脳梗塞」がありますが、かかる病態に抗血栓療法として、抗血小板薬を使う必要性(エビデンスではなく、病理学的な意味)を御教授ください。俗に言う「かくれ脳梗塞」とは、側脳室周囲に無症候性に多発するラクナ梗塞のことかと思います。これを想定して回答いたしますと、ラクナ梗塞に対する抗血栓療法の適応はあります。保険適応としてもラクナ梗塞には抗血小板薬は適応ありとなっていますし、治療ガイドラインでも同様です。ですので、「かくれ脳梗塞」が有症候性であれば、治療の適応があるわけです。脳梗塞の直接的な症状である片麻痺や構音障害などがなくても、「かくれ脳梗塞」に伴う認知症やパーキンソン症候群などがある場合は、ある意味で有症候性と考えられますので、治療の対象と考えるべきです。しかしながら、全くの無症候性の「かくれ脳梗塞」の場合に治療の適応があるかどうかはcontroversialです。年齢相応の「かくれ脳梗塞」の場合に、敢えて抗血小板薬を使用すべきかどうかについては明確な推奨はありません。日本人では抗血小板薬、特にアスピリン、による脳出血の合併が多いので、軽度の「かくれ脳梗塞」では無用なアスピリンの使用は避けるべきです。ラクナ梗塞型の「かくれ脳梗塞」は高血圧に基づく脳梗塞が多いわけですので、抗血小板薬投与ではなく、むしろ厳格な高血圧の治療を最初に行うべきであると考えられます。年齢相応を超えるような「かくれ脳梗塞」がある場合には、厳格な降圧療法などを行ったうえで、それでも「かくれ脳梗塞」が増加する場合には、抗血小板薬の使用を検討すべきでしょう。その場合、日本人ではアスピリンは脳出血や頭蓋内出血の合併が欧米よりもはるかに多いことが知られていますが、シロスタゾールやクロピドグレルはこうした出血性合併症が少ないというデータがあります。薬剤を選択する上での参考になるかも知れません。緊急を要する場合の見極めと対処法は?脳梗塞は、新規発症の場合は常に緊急の対応を要します。なぜなら、血管が閉塞して生じる脳梗塞では、血管再開通を得て完治をめざすには、発症からの数時間がカギであるからです。ではどのように脳卒中急性期と診断するかですが、急に生じた次のような症状は脳梗塞や脳卒中の可能性があるので、すぐに対応が必要であると考えていただきます。片麻痺(片側半身の運動麻痺)片側の感覚障害、構音障害(話しにくさ)運動失調発症から4.5時間以内であれば、rt-PA(recombinant tissue plasminogen activator)(アルテプラーゼ)静注療法による脳梗塞への超急性期治療が可能かもしれません。また最近ではカテーテルを用いた血栓回収治療などの血管内治療も普及しつつあります。こうした超急性期の治療が奏功すれば、脳梗塞の症状は劇的に改善します。ですので、発症後の時間が浅い脳梗塞症例では緊急で専門医療機関を受診させる必要があります。rt-PA静注療法に関しては、医療機関に到着してから治療開始までに行う検査などに1時間程度かかることが一般的です。発症後4.5時間を経過してしまうと、rt-PA静注療法の効果が減じるだけでなく、治療に伴う脳出血などの合併症の率が跳ね上がります。ですので、発症後4.5時間以内に治療開始というのが本邦でのルールであり、そのためには急性期医療機関に発症後3.5時間以内に到着できるかどうかが治療適応判定の目安になります。睡眠中に発症した脳梗塞など、いつ脳梗塞を発症したのか判然としないの症例もいます。そのような場合には、最後にその患者さんが元気だったことが確認できている時間(これを最終未発症時間と呼びます)をもって発症時間と計算するルールになっています。たとえば、目が覚めた時に片麻痺になっていた症例であれば、睡眠前に元気だったことが確認されている時間をもって発症時間と推定するわけです。高齢患者の内服コンプライアンスを改善するにはどのようにしたらよいのか?高齢者における内服のコンプライアンス不良、これは抗凝固薬に限らず、大きな課題です。若年者や中年までの患者さんでの内服コンプライアンス不良は、仕事や家事が忙しいといった理由が多いようです。ですので、内服回数を少なくしたり、内服しやすい時間帯に内服できるような工夫をしたり、出先でも内服できるような剤型にしたり、ということが大切です。一方、高齢患者での内服コンプライアンスは上記の事項以外にも、認知症のために内服を忘れる、といった理由もあるようです。これに対しては介護者が内服忘れが生じないように協力することが必要ですし、医療機関への受診頻度を上げて、適切に内服しているかどうかの確認をかかりつけ医がまめに行っていくことも重要でしょう。もちろん、高齢患者においても、内服回数が少なくてすむように工夫する、合剤を利用して錠数を減らす、といったことはコンプライアンスの改善につながると考えられます。 https://www.carenet.com/special/1410/qa/02.html
614. 脳梗塞のフォローはここを押さえて ~Neurologistからのメッセージ~ 2014/10/07 特集 ※タイトルを選ぶとお好きなチャプターからご覧いただけます。虚血性疾患といえば心臓疾患が注目されがちであるが、日本人では心筋梗塞よりも脳梗塞が圧倒的に多い。その発症率は米国人の3~4倍であることは意外と知られていない。今回は、分類から二次予防の抗血栓療法まで、脳梗塞の基本情報を同領域のスペシャリスト北里大学 神経内科学 教授 西山 和利氏がレクチャーする。チャプター(順次公開)1.脳梗塞の疫学2.脳梗塞再発の危険因子とは3.心原性脳塞栓症の二次予防4.非心原性脳梗塞の二次予防5.人種差と抗血栓療法 https://www.carenet.com/special/1410/report/05.html
615. 脳梗塞のフォローはここを押さえて Neurologistからのメッセージ 2014/10/07 オンラインセミナー http://www.carenet.com/special/1410/report/05.html
616. エキスパートに聞く!「血栓症」Q&A Part1 2014/10/02 特集 CareNet.comでは特集「内科医のための血栓症エッセンス」を配信するにあたって、会員の先生方から血栓症診療に関する質問を募集しました。その中から、脳梗塞に対する質問に対し、北里大学 西山和利先生に回答いただきました。今回は、一般内科初診で血栓症を疑うべき注意すべき訴え、アテローム血栓性梗塞とラクナ梗塞の境界、アスピリンは心原性血栓症に対しては効果が弱い?について回答いただきます。一般内科初診で血栓症を疑うべき注意すべき訴えとして、どういったものがありますか?脳血栓症、即ち脳梗塞、を疑うべき注意点というご質問を拝聴しました。次のような症状が出現している場合に、脳梗塞を疑いましょう。片側半身の運動麻痺片側半身の感覚障害話にくさ(構音障害や失語)運動失調また脳梗塞の特徴は、症状が急性に発症するということです。ですので、上記のような症状が突然に出現したと患者さんが訴える場合には、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を疑い、専門医療機関を受診させる必要があります。専門医療機関としては、神経内科、脳神経外科、脳卒中科などを標榜している病院が望ましい受診先と考えられます。一方で、一般医家の先生にも誤解があるのが、めまいや頭痛を訴える患者で脳梗塞を考えるべきかどうかです。即ち、めまいという症状は、それ単独では脳梗塞の症状とは考えません。運動失調や構音障害などを合併する眩暈は脳梗塞の可能性がありますが、めまい単独の場合は耳鼻科疾患である可能性が高く、眩暈だけを生じる脳梗塞というものは稀と考えられています。また、頭痛も脳梗塞の症状としては頻度の低い症状です。頭痛を呈する脳血管障害はくも膜下出血や脳出血ですが、脳梗塞では頭痛を呈するものは、動脈解離に起因する脳梗塞など稀な病態ですし、動脈解離を伴う脳梗塞であっても頭痛だけ単独で生じることということは稀です。よって、頭痛や眩暈だけの患者では脳梗塞を積極的に疑う必要はありません。脳梗塞はアテローム性動脈硬化ですが、ラクナ梗塞との明確な境界はあるのですか?非心原性脳梗塞にはラクナ梗塞とアテローム血栓性梗塞があります。この二つはいずれも動脈硬化に伴う脳梗塞ですが、病態には明確な違いがあります。ラクナ梗塞は、脳実質をつらぬくように走行する穿通枝と呼ばれる細い動脈の閉塞で生じる脳梗塞です。ラクナ梗塞は閉塞する動脈が細いために、頭部MRI画像などの画像検査では直径15㎜以下のサイズとして検出されます。一方、アテローム血栓脳梗塞は、主幹動脈の狭窄や閉塞によって生じる脳梗塞であり、脳梗塞が生じる部位が穿通枝ではありません。脳梗塞巣は主幹動脈の走行にそって広範囲にわたり、脳梗塞のサイズもラクナ梗塞よりも大きくなることが多いです。このように脳梗塞の出現する部位、梗塞のサイズによって、ラクナとアテロームは区別することが可能です。またMRA(magnetic resonance imaging angiography)や脳血管撮影などで脳の主幹動脈の狭窄度を調べることで、ラクナ梗塞とアテローム血栓性梗塞を区別することができます。即ちラクナ梗塞では主幹動脈に狭窄が乏しいわけですが(穿通枝は血管撮影でも描出は困難)、アテローム血栓性脳梗塞では主幹動脈に狭窄が存在しているわけです。アスピリンは心原性血栓症に対しては効果が弱いのでしょうか?昨今の大規模研究の結果では、アスピリンは心原性脳塞栓の予防に関しては効果が弱いというよりも、効果がないというのが真実に近いと考えられています。大規模研究では、アスピリン投与群でもプラセボ群よりも脳梗塞発症率は減じているように見えます。が、これは対象症例が心原性脳塞栓以外の脳梗塞、即ちラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞を発症することもあり、アスピリンはこのような非心原性脳梗塞の部分に対しての予防効果があるため、一見するとアスピリンが心原性脳塞栓の予防においても一定の効果があるようにみえるだけです。最近の知見では、アスピリンは心房細動に起因する心原性脳塞栓症を予防する効果はないと考えるのが妥当なようです。そのため、心房細動に対する最近の治療ガイドラインでは、抗血栓療法の中からアスピリンは削除されて、抗凝固療法のみが推奨されるようになっています。 https://www.carenet.com/special/1410/qa/01.html
617. 原因不明の脳梗塞患者に潜む心房細動(解説:高月 誠司 氏)-247 2014/09/25 CLEAR!ジャーナル四天王 脳梗塞症例のうち20~40%は、適切な診断評価を行っても原因が不明とされ、これをCryptogenic stroke(原因不明の脳梗塞)という。心房細動による心原性脳梗塞は再発の頻度が高く、しかも重篤な症状を残すことが多い。初回脳梗塞発作時に適切に心房細動と診断し適切な抗血栓療法を行えば、患者の予後を改善する可能性がある。しかし発作性心房細動症例では脳梗塞発症時に洞調律に戻っていると、その診断に苦慮することがある。 本研究は55歳以上で心房細動と診断されたことがない、6ヵ月以内に原因不明の脳梗塞、一過性脳虚血発作を起こした症例を対象に、24時間ホルター心電図検査を施行する群(コントロール群)と30日間のループ式イベントレコーダーを施行する群(インターベンション群)に無作為に割り付け、30秒以上持続する心房細動の有無を比較した(EMBRACE試験1))。このイベントレコーダーは着用型で胸部に乾燥型の電極付きのベルトを巻き付け、イベント発生時最長2.5分の心電図を記録するものである。結果的に90日以内に30秒以上の心房細動はインターベンション群で280人中45人(16.1%)、コントロール群で277人中9人(3.2%)で検出(p<0.001)。2.5分以上持続する心房細動に関してはインターベンション群で284人中28人(9.9%)、コントロール群で277人中7人(2.5%)で検出された(p<0.001)。経口抗凝固薬による治療はインターベンション群で280人中52人(18.6%)、コントロール群で279人中31人(11.1%)に行われ、インターベンション群で有意に多かった。 New England Journal誌の同号には同じように原因不明の脳梗塞症例を対象にした植込み式ループレコーダーとホルター心電図による半年間の心房細動検出率を比較した研究(Crystal AF試験)が掲載されている2)。結果はループレコーダー群で221人中19人(8.9%)、ホルター群で220人中3人(1.4%)と有意にループレコーダー群で高かった。数値的にはCrystal AF試験の植込み型ループレコーダーよりも、EMBRACE試験で使用された着用型レコーダーのほうが心房細動の検出率が高い。これはEMBRACE試験の対象患者が72.5±8.5歳で、Crystal AF試験の対象患者の61.6±11.4歳より高齢であるということに主として起因するが、着用型レコーダーの実用性も十分に示されたと考えてよいだろう。 この研究は短時間の心房細動と脳梗塞の発症との因果関係を明らかにしたわけではなく、また結果的に抗凝固薬の使用が患者の予後改善に結び付くのかという点も明らかではない。ただし3ヵ月間の長期的なモニタリングは、原因不明の脳梗塞患者の潜在的な心房細動の診断に有用であることは明確に示された。今後の原因不明の脳梗塞患者のマネジメントに一石を投じる研究である。 https://www.carenet.com/news/clear/journal/38665
618. 心房細動に合併すると危険な疾患 2014/09/19 患者説明用スライド 心房細動では、これらの病気を合併すると脳卒中のリスクが高まります高血圧心不全75歳以上糖尿病脳梗塞/一過性脳虚血発作Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved. https://www.carenet.com/slide/108
619. PT-INR値とイベントの関係 2014/09/19 患者説明用スライド ワルファリンは、医師の指導に従いきちんと服薬することが必要です。(100人・年)302520事故比PT-INR分布と脳梗塞・大出血大梗塞小梗塞大出血151050ワルファリンは、PT-INR1.6~2.6でコントロールされた時、脳卒中になりにくい。~1.591.60~1.99 2.00~2.592.60~PT-INRYasaka M, et al. Intern Med. 2001; 40: 1183-1188.Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved. https://www.carenet.com/slide/109
620. DES後のDAPT継続期間は短期間をベースに、高リスクの患者では症例ごとのオーダーメイド医療か(解説:中川 義久 氏)-241 2014/09/18 CLEAR!ジャーナル四天王 薬剤溶出ステント(DES)留置後の2剤併用抗血小板療法(DAPT)を継続する期間については、いまだ明確な基準はない。今回、この問題に1つエビデンスが加えられた。 フランスのJean-Philippe Colletらが、ARCTIC-Interruptionという無作為化比較試験の結果をLancet誌に報告した。2010年1月から2012年3月の間に、中断群624例と継続群635例に割り付けた。DES留置後1年間にイベントが起きなかった場合に割り付けが行われ、中断群はチエノピリジン系薬剤(クロピドグレル)が中断されアスピリンを継続している。継続群は、アスピリン+チエノピリジン系薬剤の2剤投与である。割り付け後の追跡期間の中央値は17ヵ月である。 その結果では、全死亡、心筋梗塞、脳梗塞や一過性脳虚血性発作、再血行再建術、ステント血栓症で定義される主要エンドポイント発生は、ITTで評価すると中断群4%、継続群4%と差は無かった。 一方、STEEPLE大出血イベントで定義される安全性エンドポイントは、中断群<0.5%、継続群1%と有意差はないものの継続群で頻度が高かった。大出血または小出血イベントでは、中断群1%、継続群2%と継続群で有意に頻度が高かった(p=0.04)。 要約すれば、留置後1年間でイベントが起きなかった場合、その後も継続して行うことに明白な有益性はなく、むしろ出血イベントのリスクが増し有害であることが示された。 この試験だけでなく、PRODIGY、REAL-LATE/ZEST-LATE、DES LATE、EXCELLENT、RESET、OPTIMIZEなどの試験でも、長期間のDAPTは心血管イベントを減らすことはなく、出血性合併症を増加させるという結果が一貫性を持って示されている。 このようなエビデンスがあるものの、日本における日常臨床の現場においては、1年を超えてDAPTが継続されている症例も少なくないのが現状であろう。これらの無作為化試験においては、試験除外基準によりステント血栓症の高リスク症例は解析に加えられていないことに注意が必要である。 また、DESの進化、新規の抗血小板薬剤の登場など現場の変化もある。日常臨床において各担当医が悩むのは、複雑な病変背景や植込み手技の症例、PSSやステント・フラクチャを持つことが既知の症例などである。標準的な症例については、DAPT期間についてガイドラインが今後改訂される可能性はあるが、高リスク症例については明確な基準を提示することは困難であろう。 ステント血栓症の危険因子を解析した報告は多い。これらの因子の集積度について症例毎に配慮して各個人に最適な医療を提供するオーダーメイド医療が求められる分野なのであろう。 https://www.carenet.com/news/clear/journal/38673