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第10回 意識障害 その8 原因不明の意識障害の原因の鑑別に「痙攣」を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)原因不明の意識障害では“痙攣”の可能性を考えよう!2)“痙攣”の始まり方に注目し、てんかんか否かを見極めよう!3)バイタルサイン安定+乳酸値の上昇をみたら、痙攣の可能性を考えよう!【症例】80歳男性。息子さんが自宅へ戻ると、自室の机とベッドとの間に挟まるようにして倒れているところを発見した。呼び掛けに対して反応が乏しいため救急要請。●搬送時のバイタルサイン意識100/JCS血圧142/88mmHg脈拍90回/分(整)呼吸18回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+今回は“痙攣”による意識障害に関して考えていきましょう。痙攣というと、目の前でガクガク震えているイメージがあるかもしれませんが、臨床の現場ではそう簡単ではありません。初療に当たる時には、すでに止まっていることが多く、痙攣の目撃がない場合には、とくに診断が難しいのが現状です。そのため、意識障害の原因が「痙攣かも?」と疑うことができるかが、初療の際のポイントとなります。痙攣の原因として、大きく2つ(てんかんor急性症候性発作)があります。ここでは、わが国でも100人に1人程度認める、てんかん(症候性てんかん含む)の患者さんの痙攣をいかにして見抜くかを中心に考えていきましょう。いつ痙攣を疑うのか?皆さんは、いつ意識障害の原因が痙攣と疑うでしょうか? 今まで述べてきたとおり、意識障害を認める場合には、ABCの安定をまずは目標とし、その後は原則として、低血糖、脳卒中、敗血症を念頭に対応していきます。これらは頻度が高いこと、血糖測定や画像検索で比較的診断が容易なこと、緊急性の高さが故の順番です。痙攣も今まさに起こっている場合には、早期に止めたほうがよいですが、明らかな痙攣を認めない場合には時間的猶予があります。痙攣の鑑別は10's rule(表)の9)で行います1)。●Rule9 疑わなければ診断できない! AIUEOTIPSを上手に利用せよ!AIUEOTIPSを意識障害の鑑別として上から順に鑑別していくのは、お勧めできません。なぜなら、頻度や緊急度が上から順とは限らないからです。また、患者背景からも原因は大きく異なります。そのため、AIUEOTIPSは鑑別し忘れがないかを確認するために用いるのがよいでしょう(意識障害 その2参照)。見逃しやすい原因の1つが痙攣(AIUEOTIPSの“S”)であり、採血や画像検査で特異的な所見を必ずしも認めるわけではないため、原因が同定できない場合には常に考慮する必要があるのです。「原因不明の意識障害を診たら、痙攣を考える」、これが1つ目のポイントです。画像を拡大する目撃者がいない場合痙攣を疑う病歴や身体所見としては、次の3点を抑えておくとよいでしょう。「(1)舌咬傷、(2)尿失禁、(3)不自然な姿勢で倒れていた」です。絶対的なものではなく、その他に認める所見もありますが、実際に救急外来で有用と考えられるトップ3かと思いますので、頭に入れておくとよいでしょう。(1)舌咬傷てんかんによる痙攣の場合には、20%程度に舌外側の咬傷を認めます。心因性の場合には、舌咬傷を認めたとしても先端のことが多いと報告されています2)。(2)尿失禁心因性や失神でも認めるため絶対的なものではありませんが、尿失禁を認める患者を診たら、「痙攣かも?」と思う癖を持っておくと、鑑別し忘れを防げるでしょう3)。(3)不自然な姿勢で倒れていたてんかん、とくに高齢者のてんかんは局在性であるため、痙攣は左右どちらかから始まります。左上肢の痙攣が始まり、その後全般化などが代表的でしょう。意識消失の鑑別として、失神か痙攣かは、鑑別に悩むこともありますが、失神は瞬間的な意識消失発作で姿勢保持筋が消失するため、素直に倒れます。脳血流が低下し、立っていられなくなり倒れるため、崩れ落ちるように横になってしまうわけです。それに対して、痙攣を認めた場合には、左右どちらかに引っ張られるようにして倒れることになるため、素直には倒れないのです。仰向けで倒れているものの、片手だけ背部に回っている、時には肩の後方脱臼を認めることもあります。「なんでこんな姿勢で? なんでこんなところで?」というような状況で発見された場合には、痙攣の関与を考えましょう。その他、痙攣を認める前に、「あー」と声を出す、口から泡を吹いていたなどは痙攣らしい所見です。そして、時間経過と共に意識状態が改善するようであれば、らしさが増します。目撃者がいる場合患者が倒れる際に目撃した人がいた場合、(1)どのように痙攣が始まったのか、(2)持続時間はどの程度であったか、(3)開眼していたか否かの3点を確認しましょう。(1)痙攣の始まり方この点はきわめて大切です。失神後速やかに脳血流が回復しない場合にも、痙攣を認めることがありますが、その場合には左右差は認めません。これに対して、てんかんの場合には、異常な信号は左右どちらかから発せられるため、上下肢左右どちらかから始まります。「痙攣は右手や左足などから始まりましたか?」と聞いてみましょう。(2)持続時間一般的に痙攣は2分以内、多くは1分以内に止まります。これに対して心因性の場合には2分以上続くことが珍しくありません。(3)開眼か閉眼かてんかんの場合には、痙攣中は開眼しています。閉眼している場合には心因性の可能性が高くなります4,5)。痙攣を示唆する検査所見痙攣の原因検索のためには、採血や頭部CT検査、てんかんの確定診断のためには脳波検査が必須の検査です。ここでは、救急外来など初療時に有用な検査として「乳酸値」を取り上げておきましょう。乳酸値が上昇する原因として、循環不全や腸管虚血の頻度が高いですが、その際は大抵バイタルサインが不安定なことが多いです。それに対して、意識以外のバイタルサインは安定しているにもかかわらず乳酸値が高い場合には、痙攣が起こったことを示唆すると考えるとよいでしょう。原因にかかわらず、乳酸値が高値を認めた場合には、初療によって改善が認められるか(低下したか)を確認しましょう。痙攣が治まっている場合には30分もすれば数値は正常化します。さいごに痙攣の原因はてんかんとは限りません。脳卒中に代表される急性症候性発作、アルコールやベンゾジアゼピン系などによる離脱、ギンナン摂取なんてこともあります。痙攣を認めたからといって、「てんかんでしょ」と安易に考えずに、きちんと原因検索を忘れないようにしましょう。ここでは詳細を割愛しますが、てんかんを適切に疑うためのポイントは理解しておいてください。本症例では、病歴や経過から痙攣の関与が考えられ、画像診断では陳旧性の脳梗塞所見を認めたことから、症候性てんかん後のpostictal stateであったと判断し対応、その後脳波など精査していく方針としました。次回は「原因が1つとは限らない! 確定診断するまでは安心するな!」を解説します。1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Brigo F, et al. Epilepsy Behav. 2012;25:251-255.3)Brigo F, et al. Seizure. 2013;22:85-90.4)日本てんかん学会ガイドライン作成委員会. 心因性非てんかん性発作に関する診断・治療ガイドライン.てんかん研究. 2009;26:478-482.5)Chung SS, et al. Neurology. 2006;66:1730-1731.

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第8回 呼吸の異常-1 頻呼吸の原因は?【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回は呼吸の異常について取り上げたいと思います。前回お話しした救急のABCを覚えていますか?「気道(Airway)」「呼吸(Breathing)」「循環(Circulation)」でしたね。呼吸の異常に関係するAとBは、バイタルサインでいうと呼吸数です。患者さんを観察し、バイタルサインを評価することによって、気道・呼吸・循環の状態を考え、急を要するか否かを考えてみましょう。患者さんAの場合◎経過──186歳、男性。脳梗塞の既往があります。意思疎通をとることはできますが、左半身の不完全麻痺があり、ベッド上で過ごすことがほとんどです。全介助によって車いすに移乗できます。食事は、お粥と細かくきざんだ軟らかいおかずを何とか自分で食べることができますが、1か月ほど前から介助を必要とすることが多くなってきました。本日、定期の訪問日だったため、薬剤師であるあなたが患者さん宅を訪れると、「ハァハァ」と呼吸が速く、息苦しそうにしていることに気が付きました。家族(妻)から、「調子が悪そうなんですけど、お医者さんに行った方がよいでしょうか...」と相談されました。呼吸の調節さて、呼吸が速いことに気がついたあなたは、呼吸数が増加する原因を考えました。頻呼吸となる原因はいくつかあります。原因1●血液中の酸素濃度が低下、または二酸化炭素濃度が上昇したとき空気の通る気道に異常(気道異物や急性喉頭蓋炎※1など)を来したり、肺に異常(肺炎や心不全など)があると、酸素が取り込めなくなったり二酸化炭素を排出できなくなったりします。血液中の酸素濃度が低下すると、頸動脈や大動脈にある末梢化学受容器(頸動脈小体、大動脈小体)〈図1〉が刺激されます。一方、二酸化炭素濃度が上昇した時は、脳幹(延髄)にある中枢化学受容器が刺激されます。どちらも、頻呼吸となったり1回の呼吸が大きくなったりします。また、呼吸をしようとしても神経や筋の疾患(ギランバレー症候群※2や重症筋無力症、頸髄損傷など)のために、十分に胸が動かない状態でも同様です。原因2●代謝性アシドーシス腎不全などにより血液が酸性に傾いた状態を代謝性アシドーシスと言います。呼吸をすることによって、酸性の状態から正常のpHに戻そうとします。糖尿病性ケトアシドーシス※3が有名です。原因3●過換気症候群※4、ヒステリーなど精神的な問題でも呼吸が速くなります。※1 急性喉頭蓋炎細菌感染により喉頭蓋に炎症を起こす疾患。初発症状は発熱や喉の痛みだが、喉頭蓋が腫れるため気道狭窄を起こし、喘鳴や呼吸困難が現れることがある。※2 ギランバレー症候群筋肉を動かす運動神経の障害のため、手足に力が入らなくなる疾患。重症の場合には中枢神経障害性の呼吸不全が現れる。※3 糖尿病性ケトアシドーシス1型糖尿病患者ではインスリンが欠乏し、細胞は血液中からブドウ糖を取り込むことができない。そのため、脂肪酸からエネルギーを産生する。特にインスリンが絶対的に欠乏した場合(1型糖尿病発症時、インスリンの自己注射を中断した時など)は、脂肪酸代謝が亢進するためケトン体が生合成される。このケトン体により血液が酸性に傾く状態を糖尿病性ケトアシドーシスと呼ぶ。口渇、多尿、悪心・嘔吐、腹痛を引き起こし、脳浮腫、昏睡、死亡に至る場合もある。※4 過換気症候群心理的な原因により過呼吸(深く速い呼吸)となり、血液がアルカリ性に傾く。このため、眩暈、手足のしびれ、時には痙攣や意識障害が現れる。

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脳梗塞急性期:早期積極降圧による転帰改善は認められないが検討の余地あり ENCHANTED試験

 現在、米国脳卒中協会ガイドライン、日本高血圧学会ガイドラインはいずれも、tPA静注が考慮される脳梗塞例の急性期血圧が「185/110mmHg」を超える場合、「180/105mmHg未満」への降圧を推奨している。しかしこの推奨はランダム化試験に基づくものではなく、至適降圧目標値は明らかでない。2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、この点を検討するランダム化試験が報告された。収縮期血圧(SBP)降圧目標を「1時間以内に130~140mmHg」とする早期積極降圧と、ガイドライン推奨の「180mmHg未満」を比較したENCHANTED試験である。その結果、早期積極降圧による「90日後の機能的自立度有意改善」は認められなかった。ただし、本試験の結果をもって「早期積極降圧」の有用性が完全に否定されたわけではないようだ。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Craig Anderson氏(ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア)とTom Robinson氏(レスター大学、英国)が報告した。早期積極降圧群とガイドライン順守降圧群を比較するも、想定した血圧差は得られず ENCHANTED試験の対象は、tPAの適応があり、脳梗塞発症から4.5時間未満で、SBP「150~185mmHg」だった2,196例である。74%がアジアからの登録だった(中国のみで65%)。平均年齢は67歳、NIHSS中央値はおよそ8。アテローム血栓性が45%弱、小血管病変が約30%を占めた。 これら2,196例は、「1時間以内にSBP:130〜140mmHgまで低下させ、72時間後まで維持」する「早期積極」降圧群(1,072例)と、ガイドラインに従い「SBP<180mmHg」へ低下する「ガイドライン順守」降圧群(1,108例)にランダム化され、オープンラベルで追跡された。 血圧は、ランダム化時に165mmHgだったSBPが、「早期積極」群で1時間後には146mmHgまでしか下がらなかったものの、24時間後に139mmHgまで低下した。一方「ガイドライン順守」群でも、1時間後には153mmHg、24時間後には144mmHgと、研究者が想定していた以上の降圧が認められた。ランダム化後24時間のSBP平均値は、「早期積極」群:144mmHg、「ガイドライン順守」群:150mmHg(p<0.0001)とその差は6mmHgしかなかった。1次評価項目では両群間に有意差を認めず その結果、1次評価項目である「90日後の修正ランキンスケール(mRS)」は、ITT解析、プロトコール順守解析のいずれにおいても、両群間に有意差を認めなかった。年齢、性別、人種、ランダム化時のSBP(166mmHgの上下)やNIHSS、脳梗塞病型などで分けたサブグループ解析でも、この結果は一貫していた。 ただし、頭蓋内出血のリスクは、「早期積極」群(14.8%)で「ガイドライン順守」群(18.7%)に比べ、有意に低くなっていた(オッズ比[OR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.60~0.94)。医師が「重篤な有害事象」と認識した頭蓋内出血も同様である(OR:0.59、95%CI:0.42~0.82)。なお、脳出血のORは0.79(95%CI:0.62~1.00)だった。 出血以外の有害事象は、群間に有意差を認めなかった。また、90日間死亡率は「早期積極」群:9%、「ガイドライン順守」群:8%だった。新たなランダム化試験を計画中 Robinson氏は、本試験の結果から、現行ガイドラインの大幅な変更を必要とするエビデンスは得られなかったと結論する一方、本試験の問題点として、1)両群の血圧差が小さかった、2)血管内治療の施行率が低かった、などを挙げ、至適降圧目標についてはさらなる検討が必要だと述べた。現在、大血管閉塞/血管内治療例のみを対象としたENCHANTED2試験を計画中だという。 本試験は、主としてオーストラリア政府機関と英国慈善団体から資金が提供され、そのほか、ブラジル政府機関、韓国政府機関、ならびにTakedaからも資金提供を受けた。 本研究は報告と同時に、Lancet誌にオンライン公開された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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脳卒中後の至適降圧目標は「130/80mmHg未満」か:日本発RESPECT試験・メタ解析

 脳卒中後の血圧管理は、PROGRESS研究後付解析から「低いほど再発リスクが減る」との報告がある一方、PRoFESS試験の後付解析は「Jカーブ」の存在を指摘しており、至適降圧目標は明らかでない。 この点を解明すべく欧州では中国と共同でESH-CHL-SHOT試験が行われているが、それに先駆け、2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)のLate Breaking Clinical Trialsセッション(7日)において、わが国で行われたRESPECT試験が、北川 一夫氏(東京女子医科大学・教授)によって報告された。 登録症例数が当初計画を大幅に下回ったため、「通常」降圧に比べ、「積極」降圧による有意な脳卒中再発抑制は認められなかったものの、すでに報告されている類似試験とのメタ解析では、「積極」降圧の有用性が示された。通常降圧群と積極降圧群の脳卒中再発率の比較 RESPECT試験の対象は、脳卒中発症後30日~3年が経過し、血圧が「130~180/80~110mmHg」だった1,280例である。降圧薬服用の有無は問わない。当初は5,000例を登録予定だった(中間解析後、2,000例に変更)。 平均年齢は67歳、登録時の血圧平均値は145/84mmHgだった。初発脳卒中の病型は、脳梗塞が85%、脳出血が15%である。スタチン服用率は約35%のみだったが、抗血小板薬は約7割が服用していた。 これら1,280例は「140/90mmHg未満」を降圧目標とする「通常」降圧群(630例)と、「120/80mmHg未満」とする「積極」降圧群(633例)にランダム化され、非盲検下で平均3.9年間追跡された(心筋梗塞既往例、慢性腎臓病例、糖尿病例は「通常」群でも降圧目標は130/80mmHg未満)。 ランダム化1年後までに血圧は、通常群:132.0/77.5mmHg、積極群:123.7/72.8mmHgへ低下した。メタ解析では積極降圧で脳卒中再発率の低下が示される その結果、1次評価項目である「脳卒中再発」は、通常群の2.26%/年に対し、積極群では1.65%/年と低値になったが、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.49~1.11)。ただし脳出血のみで比較すると、通常群(0.46%/年)に比べ、積極群(0.04%/年)でリスクは有意に低下していた(HR:0.09、95%CI:0.01~0.70)。 重篤な有害事象は、両群間に有意差を認めたものはなかった。 この結果を踏まえ北川氏は、すでに公表されている、脳卒中発症後の通常降圧と積極降圧を比較した3つのランダム化試験(SPS3、PAST-BP、PODCAST)とRESPECTを併せてメタ解析した(4,895例中636例で再発)。すると積極降圧群における、脳卒中再発リスクの有意な低下が認められた(HR:0.78、95%CI:0.64~0.96)。 RESPECT以外の上記3試験では積極降圧群のSBP目標値が「125~130mmHg未満」だったため、エビデンスは脳卒中後の降圧目標として「130/80mmHg未満」を支持していると北川氏は結論した。 本試験の資金は「自己調達」と報告されている(UMIN000002851)。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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ISC 2019 速報

ISC(国際脳卒中学会議)が、米国・ハワイにて2月6~8日に開催されました。Late-Breakingの発表を含めた主要トピックスの中から、事前投票で先生方からの人気の高かった上位6演題のハイライト記事をお届けします。ISC 2019注目演題一覧※(掲載予定)の演題は変更となる場合がございます。2月6日発表演題Dual Antiplatelet Therapy Using Cilostazol for Secondary Stroke Prevention in High-risk Patients: The Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination (CSPS.com)高リスク患者における二次性脳卒中予防のためのDAPT:抗血小板薬併用療法のシロスタゾールによる脳卒中予防試験(CSPS.com)について2月7日発表演題Treatment of Carotid Stenosis in Asymptomatic, Non-Octogenarian, Standard Risk Patients with Stenting versus Endarterectomy: A Pooled Analysis of the CREST and ACT I Trials無症候性の標準リスク患者の頸動脈狭窄症治療における治療ステント留置術と動脈内膜摘出術の比較:CRESTおよびACT I試験の統合解析A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control in Patients with a History of Stroke: The Recurrent Stroke Prevention Clinical Outcome (RESPECT) Study脳卒中歴のある患者における集中的血圧コントロールと標準的血圧コントロールの無作為化試験:再発性脳卒中予防臨床転帰(RESPECT)研究Main Results of the Enhanced Control of Hypertension and Thrombolysis Stroke Study (enchanted) of the Early Intensive Blood Pressure Control After thrombolysis急性期脳梗塞例に対する、SBP「<130-140mmHg」と「<180mmHg」による、90日後の「死亡・要介助」への影響を比較するRCTThe New Generation Hydrogel Endovascular Aneurysm Treatment Trial (HEAT): Final Results新世代ハイドロゲル血管内動脈瘤治療試験(HEAT):最終結果MISTIE III Surgical Results: Efficiency of Hemorrhage Removal Determines mRSMISTIE III手術成績:非外傷性頭蓋内出血に対する、低侵襲手術がmRSに与えた影響J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とはJ-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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発作性心房細動に対する第2世代クライオバルーンの長期成績【Dr.河田pick up】

 STOP AF PAS (Sustained Treatment of Paroxysmal Atrial Fibrillation Post-Approval Study)は、薬剤抵抗性の発作性心房細動に対するクライオバルーンの長期的な安全性と有効性を評価した、北米における最初の前向き、多施設共同の試験である。米国・ノースウェスタン大学のBradley P. Knight氏らのグループが、JACC.Clinical Electrophysiology誌2018年12月号オンライン版で発表した。 本試験は、第1世代クライオバルーンが発作性心房細動の治療に承認された際に、米国食品医薬品局(FDA)から求められた試験である。この試験が開始された直後に第2世代のクライオバルーンの販売が開始された。344例の患者、前向き、多施設、フォローアップ期間は3年間 この研究は無作為化を行っていない。344例の患者が、第2世代クライオバルーンを用いた肺静脈隔離の施行へ登録された。手技に関連した安全性と、心房細動、症候性心房粗動および心房頻拍の3年間における再発を評価した。30秒以上持続する心房性不整脈が確認された場合、治療の失敗と判断された。36ヵ月での心房細動の非再発率68.1%、心房性頻脈の非再発率は64.1% 急性期の肺静脈隔離は99.3%(1,341/1,350)で達成された。平均フォローアップ期間は34±7ヵ月。重大な合併症の発生率は5.8%で、そのうち横隔神経障害は3.2%の頻度で生じたが、1例を除き36ヵ月までに回復した。術後36ヵ月において、11.7%の患者が“Pill in the pocket (頓服)”での服用を含む、抗不整脈薬を使用していた。心房細動の発生がなかったのは12ヵ月で81.6%、24ヵ月で73.8%、36ヵ月で68.1%であった。心房細動、症候性心房粗動および心房頻拍のいずれの発生もなかったのは、12ヵ月で79.0%、24ヵ月で70.8%、36ヵ月で64.1%であった。36ヵ月の時点で、80.9%の患者が2度目のアブレーションを受けていなかった。 これまで、36ヵ月時点での第2世代クライオバルーンを用いた発作性心房細動に対する肺静脈隔離の成績は報告が少ない。ベルギー・Pedro Brugada氏らのグループが、70例の患者について第2世代クライオバルーンの38ヵ月でのフォローアップ結果を報告しているが、その報告では71.5%の患者が抗不整脈薬なしで心房細動の再発がなかった1)。今回の発表は、この結果と同等の結果であり、3年後における心房細動の非再発率は65~70%と推測される。ただし、これらの結果は術後のモニターの仕方で大きく変わり、見逃しを考えると、実際の非再発率はこれより低いと考えられる。横隔神経障害は36ヵ月までほぼ改善、合併症発生率は許容できる水準 第2世代クライオバルーンを用いたアブレーションは、発作性心房細動に有効で、36ヵ月時点で64%の患者で心房性不整脈(心房細動、心房粗動、心房頻拍)の再発が認められなかった。この結果をみると、高周波アブレーションや第1世代クライオバルーンを用いたアブレーションに比べて、再発率が著明に改善したというわけではない。 クライオバルーンを用いたアブレーションで、懸念となる横隔神経障害については、第1世代クライオバルーンを用いたFIRE and ICE studyでは退院時の発生率が2.7%であった。今回の第2世代クライオバルーンを用いたSTOP AF PASでは、その発生率が3.2%であったが、36ヵ月の時点で症状が続いていた患者は1例(0.3%)のみであった。脳梗塞は0.3%、心嚢液貯留は0.9%、肺静脈狭窄は0.6%、左房食道瘻、死亡は0%であり、第2世代クライオバルーンを用いたアブレーションの合併症発生率は、許容できる範囲にあると考えられる。■参考1) Takarada K et al, J Interv Card Electrophysiol. 2017 Jun;49:93-100.

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アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用、日本人脳梗塞の出血リスクを増やさず再発抑制:CSPS.com試験

 虚血性脳血管障害に対する長期の抗血小板薬2剤併用は、脳卒中を抑制せず大出血リスクを増やすとされている。これは大規模試験MATCH、CHARISMAサブスタディ、SPS3で得られた知見に基づく。 しかし、これらのランダム化試験で検討されたのは、いずれもアスピリンとクロピドグレルの併用だった。ではCSPS 2試験においてアスピリンよりも出血リスクが有意に低かった、シロスタゾールを用いた併用ではどうだろう――。この問いに答えるべく、わが国で行われたのが、ランダム化非盲検試験CSPS.comである。その結果、アスピリン、クロピドグレル単剤に比べ、それらへのシロスタゾール併用は、重篤な出血リスクを増やすことなく、脳梗塞を有意に抑制することが明らかになった。2019年2月6~8日に、米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)初日のOpening Main Eventにおいて、豊田 一則氏(国立循環器病研究センター病院・副院長)が報告した。アスピリンまたはクロピドグレル単剤服用の脳梗塞再発高リスク例が対象 CSPS.com試験の対象は、非心原性脳梗塞発症から8~180日以内で、アスピリンまたはクロピドグレル単剤を服用していた、脳梗塞再発高リスク例である。「再発高リスク」は、「頭蓋内主幹動脈、あるいは頭蓋外動脈に50%以上の狭窄」または「2つ以上の虚血性イベント危険因子」を有する場合とされた。なお、心不全や狭心症、血小板減少症を認める例などは除外されている。 これらは、アスピリン単剤(81または100mg/日)あるいはクロピドグレル単剤(50または75mg/日)を服用する単剤群と、それらにシロスタゾールを加えた併用群にランダム化され、盲検化されず追跡された。当初は4,000例を登録する予定だったが、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群の有用性が明らかになったため早期中止となり、「単剤」群:947例と「併用」群:932例の比較となった。 平均年齢は70歳。全例日本人で、女性が約30%を占めた。高血圧合併例が85%近くを占めたが、血圧は「135mmHg強/80mmHg弱」にコントロールされていた。また、5%強に虚血性心疾患の既往を認め、30%弱が喫煙者だった。 再発高リスクの内訳は、頭蓋内主幹動脈狭窄が30%弱、頭蓋外動脈狭窄が15%弱となっていた。シロスタゾール併用群では脳梗塞再発率が有意に低下 19ヵ月(中央値)の追跡期間中、1次評価項目である「脳梗塞再発率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で2.2%/年であり、単剤群の4.5%/年よりも有意に低値となった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.31~0.76、ITT解析)。脳梗塞に、症状が24時間継続しなかった一過性脳虚血発作(TIA)を加えても同様で、併用群におけるHRは0.50の有意な低値だった(95%CI:0.33~0.76)。 一方、「脳出血の発生率」は併用群で0.4%、単剤群は0.5%で、リスクに有意差はなかった(HR:0.77、95%CI:0.24~2.42)。 また解析した16のサブグループのいずれにおいても、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用に伴う「脳梗塞再発減少」は一貫していた。 一方、安全性評価項目の1つであるGUSTO基準の「重大・生命を脅かす出血発生率」は、併用群が0.6%/年、単剤群で0.9%/年となり、有意差は認められなかった(HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。頭蓋内出血も同様で、有意差はなかった(併用群:0.6%/年vs.単剤群:0.9%/年、HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。  「有害事象発現率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で有意に高かった(27.4% vs.23.1%、p=0.038)。とくに心臓関係の有害事象で、増加が著明だった(8.4% vs.1.8%。p<0.001)。 一方「重篤な有害事象」に限れば、発現率は併用群のほうが低かった(9.3% vs.15.0%、p<0.001)。大きな差を認めたのは、神経系(4.7% vs.8.3%、p=0.002)と消化器系0.2% vs.1.2%、p=0.022)である。 なお併用群ではおよそ5分の1が、試験開始半年以内に試験薬服用を中止していた。主な理由は頭痛と頻脈だった。 本試験は、循環器病研究振興財団と大塚製薬株式会社の資金提供を受けて行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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【GET!ザ・トレンド】大動脈から全身を探る(後編)

日本血管映像化研究機構の研究が、Journal of the American College of Cardiology誌2018年6月26日号(筆頭執筆者、小松 誠:大阪暁明館病院)」に掲載された1)。300例以上の心血管疾患の診断または疑い患者の80%で、大動脈に動脈硬化性粥腫がびまん性に高密度に散在し、常に無症状の自発的破綻を起こしていることが血流維持型血管内視鏡で観察された。さらに、そのサイズは、従来考えられていたものよりもはるかに小さいものであった。大動脈の粥状硬化とコレステロール・クリスタル実臨床における多数例の大動脈内腔観察の実績から「大動脈にはおびただしい数の粥状硬化病変が認められる。粥状硬化は若年から進行し、自発的破綻を繰り返している」と児玉氏は述べる。また、多くの大動脈粥腫の破綻時に、粥腫のdebrisと共にコレステロールの結晶である「コレステロール・クリスタル」が大量に遊離されていることが、児玉氏らのDual Infusion血流維持型血管内視鏡で確認されている。これらは大動脈を通して、すべての臓器に流れていく。とくに、コレステロール・クリスタルは、末梢動脈にトラッピングを起こし、その結果、虚血性細胞死を引き起こすと考えられる。毛細血管は平均8μm、一方コレステロール・クリスタルは平均50~60μmである。毛細血管でトラッピングされる可能性はきわめて高い。実際に、コレステロール・クリスタルは「動脈血中のみに存在し、静脈血ではほとんど観察されないことから、末梢組織で濾過され、全身臓器中の毛細血管の塞栓子となっている可能性がある。大動脈がこういったごみを流し続ければ、すべての臓器に大きなダメージを引き起こす可能性がある」と児玉氏は言う。この現象は、脳、眼、耳、消化器、腎臓、筋肉、四肢などあらゆる臓器に、時間を経るに従い顕著となり、種々の悪影響を引き起こす。実際に、無症候性脳虚血、脳梗塞を併発した認知症、網膜動脈閉塞による失明、腸間膜閉塞、CKD(慢性腎臓病)、PAD(末梢動脈疾患)といった症例で、大動脈内の粥腫破綻とコレステロール・クリスタルの内視鏡所見が一致することが、児玉氏らの血流維持型血管内視鏡で確認されている。臨床研究によるエビデンス形成多くの所見が確認されているとはいえ、エビデンスを作っていく必要がある。現在、同法人の理事長 平山 篤志氏を中心に、内視鏡所見と臨床経過を突き合わせていくレジストリ研究が始まっている。また、国立循環器病研究センターに保存されている脳梗塞の標本についても再検討が始められ、コレステロール・クリスタルの存在を確認する作業が進められているという。前述のWilliam Osler博士による「人は血管と共に老いる」という言葉に対し、児玉氏は、「いまや“人は大動脈と共に老いる”ではないか」と提言する。今年で13回目となる日本血管映像化研究機構主催のTCIF(Trans Catheter Imaging Forum)が4月26日・27日に大阪で開催される。テーマは上記の「人は大動脈と共に老いる」である。近年、循環器科にとどまらず、脳神経外科、放射線科、眼科などに参加者は拡大しているという。さまざまな未知の病態が、この日本発の技術の進歩と共に解明されていくことを期待する。1)Komatsu S, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:2893-2902.参考第13回 TCIF 2019関連記事世界初、大動脈プラーク破綻の撮影に成功<<前編に戻る

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高齢者未治療CLLに対するイブルチニブの有用性~化学免疫療法との比較~(解説:大田雅嗣 氏)-992

 イブルチニブ(ibrutinib:以下IBR)はブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬である。BTKは非受容体型チロシンキナーゼTecファミリーの1つで、B細胞のアポトーシス制御、B細胞の成熟・分化、活性化、細胞接着や遊走などB細胞の生存に関与し1)、慢性リンパ性白血病(CLL)細胞の細胞表面から核内遺伝子へ増殖シグナルを伝達する。BTK阻害薬はこの増殖シグナルをブロックすることで抗腫瘍効果を発揮する2)。 オハイオ州立大学からの報告(米国、カナダ219施設による共同研究)で、イブルチニブが未治療高齢者CLLに有用であることを従来の化学免疫療法と比較した第III相試験の結果としてNEJM誌に12月1日発表した3)。イブルチニブは2016年、未治療CLLの治療薬として米国FDAが認可したが、わが国では2016年5月、再発・難治性CLLに対する薬剤として薬価収載、その後2018年7月に未治療CLLに対しても保険適用となった。 従来欧米では65歳以上の高齢者CLLの治療として、chlorambucilとオビヌツズマブとの併用療法、あるいはベンダムスチン(B)とリツキシマブ(R)との併用が有用であるとされてきた。一方IBRに関しては治療抵抗性CLLでの有効性(無増悪生存期間PFSの中央値52ヵ月)4)、CLL初期治療で奏効例での2年PFSの割合が89%であったこと5)、初発CLLでchlorambucilとの比較試験での有用性6)が明らかになっているものの、これまでIBR単剤と化学免疫療法との比較はなされていなかった。またIBRにリツキシマブを加えた場合の上乗せ効果も議論となっており7)、今回の比較試験が組まれた。 2013年12月~2016年5月に新たに診断された65歳以上の未治療CLL 547例をB+R、IBR単独、IBR+Rの3群にランダムに1:1:1に割り付け、エンドポイントとして無増悪生存期間PFS、全生存期間OSを評価、また血液毒性、非血液毒性につき解析した。PFSはB+R群のみ中央値38ヵ月に達し、IRB、IBR+R群は中央値に達せず、2年推定PFSはB+R群で79%、IBR 87%、IBR+R 88%で、B+R群で有意に劣ったものの、IBR単独群とIBR+R群では有意差を認めなかった。2年OSでは3群間に有意差を認めなかった。Grade3以上の血液毒性はB+R群で高率であったものの、Grade3以上の非血液毒性はIBRあるいはIBR+R群で多かった。とくに発熱性好中球減少症、高血圧が有意に高率であった。30日以内の早期死亡もIBRあるいはIBR+R群で多かった。結論は治療効果の有用性でIBRあるいはIBR+R群が優っていたが、リツキシマブの上乗せ効果はみられなかったとされた。さらに予後不良因子とされているdel(17p)、del(11q)症例でのサブ解析でも、IBRあるいはIBR+R群でのPFSの優位性が示された。しかしながら観察期間がまだ短く、治療研究全体の評価のためには長期のフォローが必要と考えられた。 わが国では初発CLLに対してはフルダラビン(F)単独、F+エンドキサン、B単独、IBR単独療法が保険適用となっている。Rの併用はSLLでは可能である。欧米で通常用いられているchlorambucilはわが国では長らく未承認薬であり、分子標的薬である抗CD20抗体オファツムマブ、抗CD25抗体アレムツズマブも再発・難治例に使用が制限されている。日本におけるいわゆる“drug lag”の問題は解決していくべきだが、わが国では発症頻度が低く高齢者に多いCLLにおいて、いかに手持ちの治療薬を効果的に使っていくか検討すべき課題は多い。 余談だがIBRがマウス虚血脳モデルで、好中球のカスパーゼ-1活性化を媒介するインフラマソームの活性化を阻害することがわかり、虚血性脳梗塞の分子標的治療薬となりうることが示されており8)、BTK阻害薬のターゲットの多様性について注目していきたい。■参考文献1)Maas A, et al. Dev Immunol. 2001;8:171-181.2)Woyach JA, et al. Blood 2014;123:1207-1213.3)Woyach JA, et al. N Engl J Med. 2018;379:2517-2528.4)O'Brien S, et al. Blood 2018;131:1910-1919.5)Barr PM, et al. Haematologica 2018;103:1502-1510.6)Burger JA, et al. N Engl J Med. 2015;373:2425-2437.7)Burger JA, et al. Blood. 2018 Dec 7. [Epub ahead of print]8)Ito M, et al. Nat Commun. 2015;6:7360.

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心房細動は待つのではなく見つけに行く時代(解説:矢崎義直 氏)-993

 心房細動は最もメジャーな不整脈の1つであるが、無治療だと塞栓症のリスクが高く、とくに心原性脳梗塞は重症化し死亡率も高い。心房細動を早期に診断し、適切な抗凝固療法を行うことが重要であるが、症状のない心房細動も多く、定期的な通常の心電図検査では検出が困難なこともある。そこで、心房細動のスクリーニングとして長時間の心電図モニタリングが可能なシステムの開発が進んでいる。 mSToPS試験(mHealth Screening to Prevent Strokes trial)は自己装着型の2週間記録可能なパッチ型心電計を使用し、心房細動の新規検出率を検討した。対象は年齢が75歳以上、もしくは高血圧や糖尿病などのリスクを1つ以上持った55歳以上の男性か65歳以上の女性とし、過去に心房性不整脈の既往があれば除外した。被験者の募集はAetnaやMedicareなどの医療保険システムに登録されている対象者に、郵便もしくはeメールで試験参加を勧誘した。オンラインで同意が得られれば試験に登録され、患者データなどはネット経由で得るという、登録が完全にデジタル化された新しい試みと言える。この方法により、通常の治験登録よりも登録時間を短縮でき、コストも抑えられ、普段治験とは疎遠なpopulationにもアプローチでき、よりリアルワールドに近い対象を選出できるという利点がある。 最終的に2,659例(平均年齢72.4歳、38.6%が女性)が選出され、パッチ型心電計を早期に装着する群(先行開始群)と4ヵ月遅らせて装着する群(遅延開始群)に無作為に割付をした。登録後4ヵ月の時点では、先行開始群が遅延開始群と比較し、心房細動の検出率が有意に高かった(3.9% vs.0.9%、絶対差:3.0%、95%信頼区間:1.8~4.1%)。また、この先行開始群と遅延開始群を合わせた症例の中で合計30分以上パッチ型心電計を使用し、解析ができた1,738例(全体の65.4%)を1年間フォローした。これらとマッチさせたコホート群3,476例と心房細動の検出率を比較しところ、パッチ型心電計使用群の方が、心房細動を多く検出した(6.7/100人年 vs.2.6/100人年、絶対差:4.1、95%信頼区間:3.9~4.2)。そのほか、パッチ型心電計使用群で抗凝固薬開始率、循環器科外来受診率が高かったが、心房細動による救急外来受診や入院率に差はなかった。 本試験の結論として、パッチ型心電計は心房細動発症のハイリスク群において、心房細動の検出に有用である事が示された。このように今後、長時間心電図モニタリングにより早期の心房細動の診断が可能となり、適切な治療が行われれば、脳梗塞や死亡率の減少など、clinical outcomeの改善も期待される。 一方、長時間心電図モニタリングにはまだ課題も残されている。1つは、心電計の装着率の問題である。本試験中にパッチ型心電計を少しも使用しなかった症例が917例、全体の34.5%に及ぶ。また心電計を装着した症例のうち40例がパッチによる皮膚炎を起こし、うち32例が装着中止を余儀なくされている。モニタリング期間は長ければ長いほど、当然心房細動の検出率は上がってくるが、アドヒアランスの問題も念頭に置かなければならない。 また、本試験では、長時間のモニタリングのおかげで、通常の心電図検査では到底捉えることのできなかったであろう短い持続時間の心房細動が多く検出されている。何分以上、もしくは何時間以上持続した心房細動を塞栓症のリスクと考えるかまだ明確な答えはない。 このように長時間心電図モニタリングならではの課題もあるが、その症例の塞栓症のリスク、出血のリスク、年齢、心房細動の持続時間を考慮し、抗凝固療法の適応を決める必要がある。

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急性期の軽症脳梗塞と高リスクTIAに対するクロピドグレルとアスピリンの併用療法はいつまで続けるか?(解説:内山真一郎氏)-990

 軽症脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)は重症脳梗塞を含む心血管イベントを続発する危険性が大きい。これらの患者では抗血小板療法の有効性が証明されているが、多くのガイドラインではアスピリンの単剤療法を推奨している。中国で行われたCHANCE試験ではクロピドグレルとアスピリンの併用療法がアスピリンの単剤療法より優れていることが示された。また、欧米で行われたPOINT試験でも、この併用療法が単剤療法より脳梗塞再発予防に優れていたが、出血も増加した。本研究では、これら2件の二重盲検比較試験とこれら以前に行われたFASTER試験で同定された1万447例のデータを対象にメタ解析を行った。 発症後24時間以内に開始されたクロピドグレルとアスピリンの併用療法は、アスピリン単剤療法に比べて非致死的脳卒中の再発が有意に少なかった(相対リスク:0.70、95%信頼区間:0.61~0.80)が、中等度から高度の頭蓋外出血も増加傾向を認めた(相対リスク:1.71、95%信頼区間:0.92~3.20)。大多数の脳卒中累積発症曲線の2群間の乖離は10~21日までに生じていた。これらの結果より、抗血小板薬2剤併用療法の効果を最大化し、出血を最小化する継続期間は21日以内であり、最短10日からであるといえそうだ。 ただし、日本人にはCHANCE試験のサブ解析で示されたように、クロピドグレル抵抗性の機能喪失アレルを有する遺伝子多型が欧米人より多く、抗血小板薬の選択肢としてシロスタゾールもあるので、抗血小板薬の最適な組み合わせについてはさらに検討が必要であろう。

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【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(5)

「わずかn=61で有意差が出るとは。信じられなかった」。JCHO東京新宿メディカルセンター 脳神経外科 主任部長 今井 英明氏のこの一言でインタビューは始まった。慢性期の外傷性脳損傷(TBI)患者に対する第II相STEMTRA試験で、骨髄由来の間葉系幹細胞から作成した再生細胞薬であるSB623が、運動機能改善に有意な改善を示した。この試験結果がどのようなことを意味するのか、試験開始時からこの治験に関わる今井氏に聞いた。頭部外傷後遺症の問題解決は世の中の要請わが国の慢性期TBIの状況、問題点はどのようなものでしょうか。わが国の頭部外傷受傷者は年間4万人、その3割は退院時に重度障害を後遺していると推測されます。片麻痺、高次脳機能障害、重症の場合は寝たきりとなりますが、慢性期の治療薬はなく、リハビリによる運動機能改善しか手段がありません。とはいえ、わが国では、リハビリテーションをいつまでも受けられるわけではなく、施設や自宅で無治療のまま過ごしている患者さんも少なくないと考えられます。この治験の開始がマスコミで取り上げられた途端に、脳梗塞などの後遺症で苦しむ全国の患者さんからの問い合わせが引きも切らなくなりました。後遺症に苦しむ患者さんがどれだけ多く、これは世の中の要請であると実感しました。この厳しい状況の試験でポジティブな結果が出たのは脅威STEMTRA試験の概要は?STEMTRA試験は、慢性のTBI患者に対するSB623細胞の効果と安全性を評価するため日米で行われた第II相試験です。世界27施設、そのうち日本では5施設で実施され、最終的には世界で61例が登録されました。試験は二重盲検で、定位脳手術でSB623を投与する実薬群に加え、対照群として偽手術群を設定しているエビデンスレベルの高い試験です。わが国では、当時私が在籍していた東京大学において1例目の手術を実施しました。この試験のプロトコールは非常に厳密です。また、盲検性の維持も非常に厳密で、手術に関わる治療者(脳外科医)と評価者は別人です。つまり、患者だけでなく評価者も割り付けを知らず、評価にバイアスがかからない状況なのです。この試験の結果には、どのような意義があるのでしょうか。この試験では、適格基準の範囲内であるものの、傷害部位や重症度なども多様であり、薬の投与部位も治験担当医の裁量に任されている多様性のある集団です。均一なかつ多数の対象でやっても結果が出ない試験が多い中、このようなばらつきの大きい集団で、かつn数の少ない試験で統計学的に有意な結果はまず出ないだろうと、当初は主張していました。しかし、ご存じのとおり、試験結果は有意にポジティブでした。わずか61のn数で、しかもヘテロな集団で有意差が出たのは、驚くべきことです。この厳しい状況を凌駕するほどのパワーが出たということで、夢のようなことが起きたと考えています。STEMTRA試験の概要運動機能障害を伴う慢性期の外傷性脳損傷患者に対するSB623細胞の効果を評価する日米第II相プラセボ対照二重盲検比較試験。対象:受傷後1年以上経過した運動障害を有する外傷性脳損傷患者。GOS-E(The Extended Glasgow Outcome Scale[拡張グラスゴー転帰尺度])3~6(中等度~重度障害)など。試験薬:SB623(それぞれ、2.5×106、5.0×106、10.0×106)を定位脳手術で投与対照:偽手術主要有効性評価項目:Fugl-Meyer Motor Scale4群(偽手術群、SB623 2.5×106群、SB623 5.0×106群、SB623 10.0×106群)に1:1:1:1で無作為割り付け。投与部位と刺入経路は治験担当医の裁量で、運動神経経路の損傷部位に最も近い投与部位を選択。主要有効性評価項目結果:24週時点のFugl-Meyer Motor Scaleのベースラインからの改善量は、SB623投与群の8.7点、コントロール群2.4点で、SB623群で統計学的有意に改善。SB623治療群ではFugl-Meyer Motor Scaleが8.7点改善していますが、どの程度のものなのでしょうか。ワンランク改善するという感覚です。たとえば、車いすでの生活がギリギリできる患者さんが、なんとか杖で歩行可能になる。ドラマのような劇的な変化とは言えませんが、自然経過の中では改善は望めない患者さんに対しての結果であり、患者さんにとっては非常に大きな改善だと言えます。どのようなメカニズムでこの改善効果が表れるのでしょうか。運動機能障害があるということは、運動野の細胞体から伸びる軸索の束、錐体路などと言いますが、そこが傷害されていることです。傷害があった軸索を目標にSB623細胞を移植するのですが、切断された軸索がつながるとは考えられません。あくまで推測ですが、非臨床試験の結果などから考えると、移植細胞が新たな構造を作るのではなく、この細胞から栄養因子(サイトカイン)が分泌され、傷ついた細胞を修復し機能を改善することで、電気信号が正確に筋肉に伝達されるようになった可能性があります。患者さんが「希望を持って生きる」が現実にSTEMTRA試験の結果から、TBIに対する細胞治療は実現に近づいたといえますか。SB623は他家移植細胞なので、ストックして必要時にいつでも使えます。他家移植で問題となる免疫応答もほとんどなく、免疫抑制剤を使用する必要がありません。また、安全性も高く、細胞による副作用も認められていません。今回、バイアスがかからない状況での試験でポジティブな結果が出たという事実は誰も否定できないことだと思います。今後、条件付承認を経て、その後リアルワールドで評価される日も遠くはないでしょう。夢のようなことが現実に迫っていると思います。慢性期TBIをはじめ、脳神経分野の細胞治療には、どのような可能性があるでしょうか。慢性期TBIに関しては、今後の解析から、SB623に対して、効果のある人、効果のある投与部位などが明らかになってくると思います。今回は運動機能の改善を評価していますが、それと連動して、知的機能も上がっていくことが考えられ、高次脳機能障害への発展も十分ありえると思います。また、TBIだけでなく、脳梗塞、脳出血への応用も可能だと思います。大脳白質の軸索障害という病態と考えると、これらの疾患の病態生理に違いはありません。今回のSTEMTRA試験の対象は外傷性ですが、外傷による軸索切断よりむしろ、外傷による血腫で圧迫された虚血傷害の患者さんがほとんどでした。今回の治験で、患者さんが“希望を持って生きる”ということが最も重要だということを勉強させていただきました。今回のこの厳密な第II相試験でのポジティブな結果は、現在の医学では現状維持が精一杯という患者さんにとって、明らかに福音となるのでしょう。“希望を持って生きる”ということが、現実味を帯びてきたと言えます。

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脳梗塞/TIAへのクロピドグレル併用、ベストな投与期間は/BMJ

 高リスク一過性脳虚血発作(TIA)または軽症虚血性脳卒中の発症後24時間以内のクロピドグレル+アスピリンの抗血小板薬2剤併用療法は、1,000人当たりおよそ20人の脳卒中再発を予防できることが示された。また、2剤併用投与の中断は、21日以内に行い、できれば10日以内に行うのが、最大のベネフィットを享受かつ有害性を最小とできることも示唆されたという。中国・四川大学のQiukui Hao氏らによるシステマティックレビューとメタ解析の結果で、BMJ誌2018年12月18日号で発表された。最新のシステマティックレビューとメタ解析で検討 急性虚血性脳卒中およびTIAに対して、現行ガイドラインでは抗血小板療法が推奨されているが、同時にそれらのガイドラインでは概して単剤療法(最も多いのがアスピリン)が強く推奨されている。研究グループは、無作為化プラセボ対照試験のシステマティックレビューとメタ解析のアップデートを行い、クロピドグレル+アスピリンの抗血小板薬2剤併用療法の血栓症および出血の再発予防に関する有効性および安全性を、アスピリン単剤療法と比較評価した。 Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Library、ClinicalTrials.gov、WHO website、PsycINFOおよび灰色文献(grey literature)を、2018年7月4日時点で検索。2人のレビュワーがそれぞれ、事前規定の選択基準に従い適格試験をスクリーニングし、修正版Cochrane risk of bias toolを用いてバイアスリスクを評価した。また、第三者チームメンバーが、すべての最終判断をレビューし、意見の相違点は話し合いにより解決した。試験報告で重要と思われたデータが省略されていた場合は、著者に問い合わせて説明と追加情報の提供を受けた。解析にはReview Manager 5.3を、エビデンスの質の評価にはGRADE法をベースとするMAGICappを用いた。脳卒中再発は治療開始後10日以内、21日以降の投与にベネフィットなし 検索により、3試験(参加者1万447例)が特定された。 症状発症後24時間以内に開始した抗血小板薬2剤併用療法は、アスピリン単剤療法と比較して、非致死的脳卒中の再発が減少し(相対リスク:0.70、95%信頼区間[CI]:0.61~0.80、I2=0%、絶対リスク減少:1.9%、エビデンスの質は高)、全死因死亡への明らかな影響は認められなかったが(1.27、0.73~2.23、I2=0%、エビデンスの質は中)、中等度~重度の頭蓋外出血は増大する恐れがあった(1.71、0.92~3.20、I2=32%、絶対リスク増加:0.2%、エビデンスの質は中)。 脳卒中イベントの発生曲線(incidence curve)の評価から、大半のイベントは無作為化後10日以内に発生しており、その間に両療法間の発生率の乖離が認められるも、21日以降は発生率に変化はなく、あらゆるベネフィットが得られそうもなかった。

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脳梗塞後に抗うつ薬を内服しても機能向上は得られない、うつにはならない、骨折は増える(解説:岡村毅氏)-984

 脳梗塞後にはうつを発症しやすく(脳梗塞ではない同等の身体機能障害と比較しても多い)、脳梗塞後うつ(post-stroke depression)と言われるが、リハビリを阻害したり、自傷・自殺の原因となることもある重大な病態である。 これとは別に、脳梗塞後に抗うつ薬を内服すると、その神経保護作用から運動機能の向上がみられるという報告もある。 こういった問題に対して大規模研究で果敢に挑んだのが今回のFOCUS研究である。使用された抗うつ薬はSSRIの1つfluoxetineである。勘の鋭い人はおわかりかもしれないが、fluoxetineは海外における抗うつ薬の乱用や病気喧伝(なんでも病気のせいにして薬を売ろうとすること)の文脈で批判にさらされている現代文明を象徴する薬剤の1つである。商品名はプロザックといい、『Prozac Nation』という本も有名だ。なお、わが国では販売されていない。とはいえ、多く使われるのには理由があり、はっきり言って効果も有害事象も弱いため、このような対照研究で使われるのは合理的だろう。 3,000例以上の対象者を抗うつ薬内服と偽薬の2群に分けて6ヵ月以上みたが、残念ながらmodified Rankin Scaleにて測定した機能においては2群に差はない。 一方で、当たり前と言えば当たり前だが、脳梗塞後うつの発症は少ない。神経作用薬を投与する際に気を付けるべき痙攣や出血などは両群で差がない。さらに投与群では骨折が多いのだが、おそらく活動的になってリハビリに精を出したからかもしれない。SSRIによるふらつきのせいだ、あるいは骨が弱くなるんじゃないか、などという可能性だってゼロではないが、他の神経症状や転倒で差がないとなると、私ならリハビリが進んだためと考えるが…読者諸兄はいかがであろうか。 本論文を素直に読めば「抗うつ薬を内服しても生活機能面での効果はないのだから、予防的抗うつ薬投与は過剰だ」というものだ。一方で「脳梗塞後うつは生活の質に直結する重大な病態であり、予防できるのであれば内服しておけば安心だ」も理論上は残される。おそらく臨床現場では全例投与なんてことはありえないので、脳梗塞後うつの重大さを鑑みると少しでも兆候があれば早めに専門家にコンサルトする、あるいは治療を開始する、という文脈に依存した考え方をするべきだろう。

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抗凝固薬の選択~上部消化管出血とPPIの必要性(解説:西垣和彦氏)-985

抗凝固薬の宿命 “出血しない抗凝固薬はない”。もともと抗凝固薬自体に出血をさせる力はないが、一旦出血したら止血するのに時間がかかるために出血が大事をもたらすこととなる。そもそも出血傾向をもたらすことが抗凝固薬の主作用であるので至極自明なことではあるのだが、直接経口抗凝固薬(DOAC)だけでなくビタミンK依存性凝固因子の生合成阻害薬であるワルファリンを含めて、“凝固薬自体が出血を起こさせた”と理解している方がいかに多いことか。 近年、わが国だけでなく欧米においても、心房細動により生成される心内血栓が遊離して塞栓となる心原性脳血栓塞栓症には多大な配慮を行っている。この理由として、この心原性脳血栓塞栓症の発症自体は年間3~4%と低い発症率と推定されてはいるが、脳梗塞の他の病態であるアテローマ性やラクナ梗塞と同程度の頻度があり決して少なくないという点、さらに一旦発症すると非常に大きな血栓塊であることが多いため、2割が急死、4割が要介護4以上という悲惨な病状に追い込まれ、由緒正しい重度の寝たきりとなる危険性があるためである。このことは、わが国だけでなく国際的にも医療費の膨大に頭を悩ませている関係者においても、由々しき疾患であることは間違いない。そこで、抗凝固薬をなるべく多くの心房細動患者に投与し、少しでも寝たきりとなる症例を減らそうということになるが、すべからく前述の消化管出血への適切な対応が問題として浮上してくる。この、抗凝固薬の宿命ともいえる命題に対して、(1)最も上部消化管出血が少ない抗凝固薬はどれか?(2)上部消化管出血をプロトンポンプ阻害薬(PPI)は本当に予防できるのか? の2点をコホートで検証したのが本論文である。本論文のポイントは? 本論文は、2011年1月1日~2015年9月30日までにおけるメディケア受益者のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究である。比較した抗凝固薬は、アピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン、そしてワルファリンの4剤で、上部消化管出血の頻度を比較し、PPI併用あるいはPPIなしで上部消化管出血の予防効果も比較している。主要評価項目は、上部消化管出血による入院とし、抗凝固療法1万人年当たりの補正後発生率およびリスク差(RD)、発生率比(IRR)を算出。解析対象は、新規に抗凝固薬が処方された171万3,183件、164万3,123例(平均76.4歳、追跡65万1,427人年、女性56.1%、心房細動患者74.9%)。 PPI併用のなかった75万4,389人年で、上部消化管出血の発生は7,119件、補正後発生率115件/1万人年であった。薬剤別では、リバーロキサバン144件/1万人年、アピキサバン73件/1万人年、ダビガトラン120件/1万人年、ワルファリン113件/1万人年であり、上部消化管出血発生率はリバーロキサバンが最も高率、アピキサバンはダビガトラン、ワルファリンよりも有意に低かった。 PPI併用のある26万4,447人年では、上部消化管出血の発生は2,245件、補正後発生率は76件/1万人年であり、PPI併用なしと比較して上部消化管出血による入院を大きく減らした(IRR:0.66)。このことは、抗凝固薬の種類によらず(アピキサバン[IRR:0.66、RD:-24]、ダビガトラン[IRR:0.49、RD:-61.1]、リバーロキサバン[IRR:0.75、RD:-35.5]、ワルファリン[IRR:0.65、RD:-39.3])、いずれにもPPIは有効であった。本論文の意義と読み方 本論文の結論は、以下の2点である。(1)上部消化管出血による入院率は、リバーロキサバンで最も高く、アピキサバンで最も低い。(2)各抗凝固薬いずれもPPIは有効であり、上部消化管出血による入院率を低減させる。 メディケア受益者のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究は、これまでも抗凝固薬に関連した多くの報告をしており、抗凝固薬の特性から到底割り付け困難と思われるワルファリンとの大規模無作為比較試験の結果を補正するリアルワールドの実臨床に則したデータを示してきた。DOAC間ではリバーロキサバンがアピキサバンに比べて明らかに大出血率が高い(HR:1.82)ことは以前にも報告されており1)、同じデータベースに基づくだけに結論が同じとなることは必定、新鮮味がないことは否めない。メディケアは、65歳以上の高齢者と障害者のための米国医療保険であり、国が運営する制度であるが、メディケアを受給できる人は一定の条件を満たす特別な米国人であることを忘れてはならない。あくまでも、保険請求のあった主観的な事後報告のコホート試験である。医師の薬剤選択によるバイアスや他の雑多な患者選択特性をプロペンシティ・スコア・マッチングでそろえて比較した試験であるので、エビデンスレベルとしてはお世辞にも決して高くはない。また何よりも抗凝固薬に対する大規模比較試験では、人種差や医療レベルの違いが副作用としての消化管出血の頻度に大きく影響することもすでに指摘されており、この論文の結果そのものがわが国でも当てはまるとは限らないことを強調したい。PPIの強力な上部消化管出血予防効果には既存の報告からも疑問の余地はないが、果たして万人に必要か否か、どのような患者に必要なのかという命題が依然残ることは致し方ない。最後に 確かに、近年報告される抗凝固薬を比較した大規模試験においては、リバーロキサバンの易出血性を結論付けている報告が多く、ある意味人種差を超越している。このことから、ある程度リバーロキサバンの持つ薬剤特性を捉えている可能性はあるが、DOAC相互を直接比較した無作為比較試験はいまだないことから、今なお断言できない。この命題から答えを導き出すには、わが国での製薬業界が定めた自主規制という名の行き過ぎたレギュレーションが大きな弊害となっていると憂慮するのは、私だけだろうか。

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ムンテラは質より量【Dr. 中島の 新・徒然草】(252)

二百五十二の段 ムンテラは質より量朝早く救急外来をのぞいたときのこと。たまたま高齢女性のめまいが搬入されていました。対応していた研修医に「あっ先生、ちょうど良いところに」と言われて、診察する羽目に。おそらくは良性発作性頭位めまい症だろうと思われましたが、ちょっと典型的ではない部分もあります。脳梗塞や脳出血があるといけないので頭部CTを撮影しようということになりました。ふと扉の隙間から患者さんのご主人がのぞいているのに気がつきました。中島「ご家族にムンテラしておいたら?」研修医「CTが終わってからしようと思っているんですけど」中島「そんなもん、今やった方がええで。ムンテラは質より量や」研修医「そうなんですか?」中島「質より量、量よりも回数や。CTに行く前にもムンテラ、終わってからもムンテラやぞ」研修医のうちの1人がストレッチャーでCTに向かう間、ほかの1人がムンテラを行います。研修医「この方のめまいは眼振がみられなくて。普通の良性発作性頭位めまい症は頭を動かしたらめまいがして眼振もみられて、30秒くらいで眼振がとまるのですが。小脳の出血や梗塞が起こったときにもめまいがみられることがあって」ご主人「はあ…」中島「何をうじゃうじゃ言うとるんや! そんな説明やったら分からへんやないか」研修医「やっぱり」中島「ご主人、今回のめまいの原因は耳か脳かのどちらかです。もちろん脳のほうが危ないわけです」ご主人「そうなんですか!」中島「多分、耳が原因なので、怖いものじゃないと私は思います。でも、念のためにCTを撮影して、脳のほうは大丈夫だということを確認しておきましょう」ご主人「分かりました。よろしくお願いします」研修医「なるほど。そう説明すると分かりやすいですね」中島「さっき、『ムンテラは質より量や』と言ったけど、質も大切みたいやな、先生の場合は」研修医「すみません」どんな検査でも、「何か所見が出るに違いない」と思ってやるのか、「正常であることを確認するためにやっておこう」と思ってやるのか、事前に区別しておくことが大切ですね。今回は、正常であることを確認するために頭部CTを行ったわけです。そして何よりも、若い先生方には簡単で分かりやすいムンテラを心掛けていただきたく思います。最後に1句ムンテラは 簡潔明瞭 何回も

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急性期脳梗塞治療で高知県が抜群の成績を上げている理由

 発症4.5時間までのrt-PA投与、主幹動脈閉塞に対する16時間までの血栓回収療法。2017年の脳卒中診療ガイドライン改訂で、6時間以内の血栓回収療法がグレードAの推奨となり、急性期脳梗塞治療の現場は変革を迫られているが、全国各地で診療体制が十分に整っているとはいえないのが現状だ。 そんな中、全国でも際立って多い血栓回収療法治療数を誇る県は四国にある。高知県だ。「脳卒中スクランブル」体制構築、禁忌例以外は全例rt-PA 日本では2016年の人口 10 万人当たりの血栓回収療法の治療件数は全国平均で6.06件と報告されている1)。しかし、海外文献では血栓回収療法は20件/10万人/年まで増えるだろう、との試算もあり、確実に治療できる体制を整えることが急務。また、治療件数の地域格差も問題視されている。 その中で高知県の取り組みは全国的に注目されている。人口10万人当たりの専門医数はさほど多いわけではないが、高知県の人口10万人当たりの同治療件数は非常に多い。つまり治療件数の増加に、同県の診療体制そのものが大きく影響していることが容易に想像できよう。 こうした高知の急性期脳梗塞治療の中心にあるのが高知医療センター。高知にはrt-PA投与および血栓回収療法を実施できる病院は5ヵ所しかなく、同医療センター脳神経外科診療科長の太田 剛史氏が主導し、2015年1月にスタートした「脳卒中スクランブル」が“躍進”の原動力になっている2)。 「脳卒中スクランブル」とは、救急隊が現場でその患者に脳卒中の疑いがあると判断した場合、「脳卒中スクランブル」を宣言し、病院側が一斉に体制を整えるもの。いわば、救急隊と院内各部の間で合意した取り決めだ。 具体的には、救急隊から連絡を受けた救急担当医は、「脳卒中スクランブル」がかかると、すぐに脳神経外科医に連絡。担当看護師、放射線技師にもただちに情報を共有し、当該脳卒中疑い患者への対応を病院を挙げて最優先する。CT撮影、検査などを迅速に行い、1分1秒を争うrt-PA投与、血栓回収療法までの時間を可能な限り圧縮するための措置だ。 救急隊に対しても当然そうした病院側の体制を事前に説明。「脳卒中疑い」の判断をしやすくするために、チェックすべき症状などを示した搬送前に確認すべき事項を記したカードを作成し、配布して啓発した。 たった、それだけのこと?と思われるかもしれないが、「このような体制が全県規模でしっかり取れている地域はまだまだ少ないようだ」と太田氏は言う。 さらに、rt-PA投与では、禁忌以外は基本的には全例投与という独自の適応基準を採用した。「日本では、rt-PA投与の適応が厳しく考えられすぎているように思う。2013年の報告だが、当時の基準の発症3時間以内に搬送された症例でも、16%にしかrt-PAが投与されていない。しかし、海外ではすでに積極的投与が推奨されているし、自験例で検証した結果、慎重投与例に投与してリスクがとくに高まることはなかった3)」(太田氏)。 「脳卒中スクランブル」導入前後で、rt-PAを投与した患者は飛躍的に伸びた。導入前2年半では、4.5時間以内に搬送された患者の32%だったのに対し、導入後の同期間では86%に達した。救急隊の協力などで4.5時間以内の搬送数そのものも35%から41%に向上した。独自ルールで血栓回収療法を迅速実施、転帰も飛躍的に向上 血栓回収療法も「脳卒中スクランブル」導入とほぼ同時に積極的に取り組み始めた。「それ以前は血栓回収療法の有効性を示すエビデンスがなかったが、ちょうど2015年2月に米国ナッシュビルで開催された国際脳卒中学会で立て続けに有効性を示す4つのRCT(MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT PRIME)が発表され、よいタイミングだった」と太田氏。 rt-PA静注療法、血栓回収療法は数分単位の遅れが転帰に大きく影響するため、施行までの時間を一刻でも短縮するために、rt-PA投与の判断ではMRIではなくCTを使用、血栓回収療法の開始までの時間もできるだけ短くなるよう、さまざまな工夫を実臨床で取り入れている。それらの結果、件数は、年間20件前後から50件へと劇的に伸び、冒頭で述べたように全国的にもトップクラスといえる病院となった。 もちろんrt-PA投与、血栓回収療法の実施件数が増えても、転帰が改善していなければ意味がない。これに関しても、きわめて良好な結果が出ている。 2012年9月から2014年12月の脳卒中スクランブル導入前と2015年1月から2017年4月の導入後の治療成績を比較したところ、退院時のmRS(modified Rankin Scale)が0または1の患者は36%から59%に増加。出血などの副作用も増えておらず、死亡率も7.0%から5.7%に、わずかだが有意に減少した。「虚血性脳卒中の6割が社会復帰できているというのは、かなり喜ばしいことだと思う」と太田氏は笑顔で語る。 高知医療センターの脳神経外科は7人全員が脳神経外科専門医であり、脳血管内治療専門医は指導医である太田氏のほかに3人。地域によって状況が違うことを考慮しても、急性期脳梗塞診療に関しては、理想に近い高いパフォーマンスを示しているといえそうだ。■参考1)Ohta T, et al.J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018;27:1844-1851. 2)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nkc/advpub/0/advpub_oa.2018-0003/_article/-char/ja/3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nkc/advpub/0/advpub_oa.2018-0005/_article/-char/ja/

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脳梗塞、70歳未満なら180分で再開通できれば9割転帰良好

 急性期脳梗塞に対する血行再建治療では、若年で再開通までの時間が短いほど転帰がよく、とりわけ70歳未満ならば180分未満で再開通できれば、9割で良好な転帰が得られる。大阪大学医学部附属病院の藤堂 謙一氏らは、こうした結果をRESCUE Japan Registry2のデータを用いた解析で明らかにした。2018年11月22日~24日、仙台で開催された日本脳神経血管内治療学会で発表した。 解析は、2014年10月から2017年1月に46施設で登録された急性脳主幹動脈閉塞2,399例のうち、緊急血行再建治療を実施しTICI(Thrombolysis In Cerebral Infarction)スコア2b以上の有効再開通を獲得した1,094例を対象に行われた。70歳未満、70歳以上80歳未満、80歳以上の各年齢層において、最終確認から再開通までの時間カテゴリごと(180分未満、180分以上240分未満、240分以上)の転帰を比較。3ヵ月後のmRS (Modified Rankin Scale)2以下を転帰良好とし、性別、発症前mRSスコア、NIHSSスコア、ASPECTS(またはDWI-ASPECTS、pc-ASPECTS)、心房細動の有無、搬入時血圧・血糖値で調整し、転帰良好に対する再開通遅延(1カテゴリ遅延)のオッズ比を算出した。 各年齢層における最終確認-再開通時間180分未満/180分以上240分未満/240分以上の転帰良好の頻度は、70歳未満では90%/68%/55%(p<0.01)、70歳以上80歳未満では65%/48%/39%(p<0.01)、80歳以上では41%/34%/25%(p<0.05)。いずれの年齢層も再開通までの時間が短いほど、転帰は有意に良好だった。遅延による転帰良好の減少幅は、若い年齢層ほど大きい傾向であったが、有意ではなかった(交互作用のp=0.11)。 また、最終確認-再開通遅延(1カテゴリ遅延)のオッズ比は、70歳未満0.35(0.23~0.53)、70歳以上80歳未満0.48(0.34~0.67)、80歳以上0.68(0.49~0.94)だった。 「いずれの年齢層でも再開通時間短縮による転帰改善を確認できた。若年層は短時間で再開通できれば、高率で良好な転帰を獲得できるが、遅延するほど、転帰良好の割合の減少幅が大きくなり、時間短縮の重みがより大きいといえる」と藤堂氏は話している。

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心房細動をどこまで追いかけるか?(解説:香坂俊氏)-960

心房細動(AF)が塞栓性脳梗塞の原因であることは広く知られている(最近は国家試験でもよくこの内容が出題される)。そして、脳梗塞ハイリスク患者(CHADSスコア 2点以上など)に抗凝固療法を行うと、その発症を60~70%(!)カットできることも知られている。このことを踏まえて、心房細動を早期に見つけようという動きが世界的に盛んになっている。従来からの心筋梗塞や脳梗塞の予防というと、血圧を下げる、コレステロールを下げる、運動する、などという項目が並ぶことが多かった。が、汎用性は高いものの、これらの内容でカットできるイベント発症リスクは10~20%程度であり、この数値と比べるとハイリスクAF症例に対する抗凝固療法の強さは際立つ。今回の研究では、そのAFの早期検出を行うべく、ウエアラブル心電図(ECG)パッチの配布を行い、その検証を行った。試験のデザインは、ランダム化による即時モニタリング群(試験登録後即時に開始)とdelayedモニタリング群(4ヵ月遅れて開始)の比較である。その結果であるが、・新規AFの4ヵ月発見率は、即時モニタリング群3.9%、delayedモニタリング群0.9%であった。・そしてその後、パッチによる心電図モニタリングは、新規の抗凝固薬の開始(5.7 vs.3.7例/100人年)や循環器科の外来受診(33.5 vs.26.0例/100人年)に結びついた。注目すべきはこの研究の対象となった方々であるが、Inclusion Criteriaには・75歳以上、あるいは55歳以上(女性は65歳)で1つ以上のリスク因子がある方とされており、明らかにCHADS-VAScスコア2点以上というところを意識している。今後もこうしたウエアラブルデバイスの進展を踏まえ、「誰をより積極的にみていくか」ということが重要な課題になると思っているが、やみくもにスクリーニングを進めるのではなく、 そのモニタリングの結果を踏まえて治療方針が変わるというところを意識する必要があるものと考えられる(この研究でもしもCHADS-VASc 1点以下の人を対象としたとして、仮に無症候のAFが見つかってもなにもすることがない)。

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第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応はQ1 糖尿病における認知機能障害のスクリーニング法、どう使い分けたらいいですか?糖尿病は認知症や軽度認知機能障害(MCI)をきたしやすい疾患です。アルツハイマー病は約1.5倍、血管性認知症は約2.5倍起こりやすいとされています1)。糖尿病患者における認知症の発症には、高血糖によるMCI、微小血管障害、脳梗塞の合併、アルツハイマー病の素因などの複数の因子が関連しているとされています。また、MCIを呈することで、記憶力、実行機能、注意・集中力、情報処理能力などの領域が軽度から中等度に障害されます。この中で、記憶力障害や実行機能障害は糖尿病におけるセルフケア(服薬やインスリン注射など)の障害につながります。実行機能は物事の目標を設定し、順序立てて誤りなく遂行する能力です。実行機能の障害によって、買い物、食事の準備、金銭管理など手段的ADLが低下します。手段的ADLが低下し、セルフケアが障害されると、血糖コントロールが悪化して、さらに実行機能障害が起こるという悪循環に陥りやすくなるのです。この実行機能障害は前頭前野の障害が原因とされており、種々の検査がありますが、時計描画試験、言語流暢性試験が簡単に行える検査です。糖尿病における認知機能障害のスクリーニング検査を表に示します(詳細は、日本老年医学会の高齢者診療におけるお役立ちツールを参照)。画像を拡大するまず、一般的にはMMSEや改訂長谷川式知能検査のいずれかを行います。それらが高得点でも認知機能障害が疑われる場合には、時計描画などが含まれているMini-Cog試験、MoCAなどを行うことをお勧めします。Mini-Cog試験は3つの単語を覚えた後に、丸の中に時計の文字盤と10時10分の秒針を書いて、最初に覚えた3つの単語を思い出すという簡単な試験です。時計が書けて2点、思い出すことができた単語の個数を点数として合計点を出します。5点満点中2点以下は認知症疑いとされます。MoCAはMCIかどうかをスクリーニングするのに有用な検査であり、時計描画試験などの種々の検査が含まれていますが、複雑な検査なので臨床心理士などが行う場合が多いと思います。MoCAはMMSEよりも糖尿病における認知機能障害を見出すことに有用であると報告されています2)。上記のMMSEなどの神経心理検査は非日常的なタスクを患者さんに行ってもらうので、メディカルスタッフや介護職が行うには抵抗が大きいように思います。そこで、メディカルスタッフなどが簡単な質問票によって認知機能を評価できるものに、DASC-21とDASC-8があります。DASC-21は地域包括ケアシステムのための認知症アセスメントシートであり、記憶、見当識、判断力(季節に合った服を着る)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理、服薬管理など)、基本的ADL(トイレ、食事、移動、入浴など)をみる21項目の質問からなります(「DASC」ホームページを参照)。各質問を4段階の1~4点で評価し、合計点を出して31点以上が認知症疑いとなります。31点以上でかつ場所の見当識、判断力、基本的ADLの質問のいずれかが3点以上の場合は中等度以上の認知症疑いになります。DASC-8は日本老年医学会が11月に公開したDASC-21の短縮版であり、記憶、時間見当識、手段的ADL3問(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL3問(トイレ、食事、移動)の8問を同様に4段階に評価し、合計点を出します。DASC-8は認知機能だけでなく、手段的ADL、基本的ADLといった生活機能が評価できるので認知・生活機能評価票とも呼ばれます。Q2 糖尿病患者の認知症予防または進行防止のための対策にはどのようなものがありますか?糖尿病における認知症発症の危険因子は高血糖、重症低血糖、CKD、脳血管障害、PAD、身体活動量低下などです。とくに重症低血糖と認知症は双方向の関係があり、悪循環をきたすことがあります3)。したがって、認知機能障害の患者では適切な血糖コントロールと、高血圧などの動脈硬化性疾患の危険因子の治療を行うことが大切です。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により、認知機能とADLの評価に基づいた高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されています(図)。SU薬やインスリンなど低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用する場合で、中等度以上の認知症合併患者はカテゴリーIIIとなり、HbA1c値の目標は8.5%未満で下限値7.5%となります。また、MCIから軽度認知症の場合はカテゴリーIIとなり、HbA1c値の目標は8.0%未満で下限値7.0%となり、柔軟な目標値を設定します。画像を拡大する治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。 注1)認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、日本老年医学会のホームページを参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。注2)高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。注3)糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。【重要な注意事項】糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。(日本老年医学会・日本糖尿病学会編・著.高齢者糖尿病診療ガイドライン2017,p.46,図1 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値),南江堂;2017)高齢者をカテゴリーI~IIIに分類するためにはDASC-8またはDASC-21を行うことが有用です。DASC-8では8~10点がカテゴリーI、11~16点がカテゴリーII、17~32点がカテゴリーIIIとなります。DASC-21では21~26点がカテゴリーI、27~38点がカテゴリーII、39点以上がカテゴリーIIIに相当します4)。DASC-8の質問票と使用マニュアルについては、こちらを参照してください。認知症と診断されないMCIの段階、すなわちカテゴリーIIの段階からレジスタンス運動、食事療法、心理サポート、薬物治療の単純化、介護保険など社会資源の確保を行うことが大切です。運動療法を行い、身体活動量を増やすことは認知機能の悪化防止のために重要です。身体機能の低下した高齢糖尿病患者にレジスタンス運動、有酸素運動などを組み合わせて行うと、記憶力や認知機能全般が改善するという報告もあります5)。可能ならば、週2回の介護保険によるデイケアを利用し、運動療法を行うことを勧めます。市町村の運動教室、太極拳、ヨガなど筋力を使う運動もいいでしょう。低栄養は認知症発症のリスクになるので、食事療法においては十分なエネルギー量を確保します。認知機能に影響するビタミンA、ビタミンB群などの緑黄色野菜の摂取不足にならないように注意することが大切です。薬物療法でもMCIの段階から、低血糖の教育を介護者にも行うことが必要です。低血糖のリスクはMCIの段階から高くなるからです(第2回、図3参照)。また、この段階から服薬アドヒアランスが低下することから、服薬の種類や回数の減少、服薬タイミングの統一、一包化などの治療の単純化を行います。薬カレンダーや服薬ボックスの利用も指導するのがいいと思います。カテゴリーIIIで目標下限値を下回った場合は、減量、減薬の可能性を考慮します。介護保険を利用し、デイケアまたはデイサービスを利用することで、孤立を防ぎ、社会とのつながりを広げ、介護者の負担を減らすことが大切です。家族や介護相談専門員と相談し、ヘルパーによる食事介助、訪問看護による服薬やインスリンの管理、または週1回のGLP-1受容体作動薬の注射などの支援の活用を検討していきます。徘徊、興奮などの行動・心理症状(BPSD)があると、糖尿病治療が困難になることが多くなります。BPSDの対策は環境を調整し、その原因となる疼痛、発熱、高血糖、低血糖などを除くことです。またBPSDは患者の何らかの感情に基づいており、叱責などによってBPSDが悪化することも多いので、介護者の理解を促すことも必要となります。抗認知症薬も早期に投与することでBPSDが軽減し、感情の安定や、意欲の向上、会話の増加がみられることがあるので専門医と相談し、使用を考慮しています。メディカルスタッフと協力して、認知症だけでなく、MCIの早期発見を行い、適切な血糖コントロールとともに、運動・食事・薬物療法の対策を立て、社会サポートを確保することが大切です。1)Cheng G, et al. Intern Med J. 2012;42:484-491.2)Alagiakrishnan K, et al. Biomed Res Int. 2013:186-106.3)Mattishent K, Loke YK. Diabetes Obes Metab.2016;18:135-141.4)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.5)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2017;72:861-866.

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