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ソトラシブ、KRASG12C変異陽性NSCLCのPFSを延長/Lancet

 既治療のKRASG12C変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、KRASG12C阻害薬ソトラシブは標準治療であるドセタキセルと比較して、無増悪生存期間(PFS)を延長し、安全性プロファイルも優れることが、オランダがん研究所のAdrianus Johannes de Langen氏らが実施した「CodeBreaK 200試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2023年2月7日号で報告された。22ヵ国148施設の実薬対照第III相試験 CodeBreaK 200試験は、日本を含む22ヵ国148施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2020年6月~2021年4月の期間に患者の登録が行われた(Amgenの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、KRASG12C変異を有する進行NSCLCで、プラチナ製剤を用いた化学療法か、PD-1またはPD-L1阻害薬による前治療後に病勢が進行した患者であった。 被験者は、ソトラシブ(960mg、1日1回、経口)またはドセタキセル(75mg/m2、3週ごと、静脈内)の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目はPFSであり、盲検下の独立した中央判定によりintention-to-treat解析が行われた。 345例が登録され、ソトラシブ群に171例(年齢中央値64.0歳[範囲:32~88]、男性63.7%、脳転移の既往34%)、ドセタキセル群に174例(64.0歳[35~87]、54.6%、35%)が割り付けられた。それぞれ169例(99%)、151例(87%)が少なくとも1回の試験薬の投与を受けた。ドセタキセル群のうち、最終的に59例(34%)がKRASG12C阻害薬を投与された(ソトラシブ群へのクロスオーバーが46例、試験薬中止後の後治療としての投与が13例)。全奏効率、奏効期間、QOLも良好 全体の追跡期間中央値は17.7ヵ月(四分位範囲[IQR]:16.4~20.1)で、治療期間中央値はソトラシブ群が19.9週(範囲:0.4~101.3)、ドセタキセル群は12.0週(3.0~101.0)であった。 PFS中央値は、ドセタキセル群の4.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:3.0~5.7)に比べ、ソトラシブ群は5.6ヵ月(4.3~7.8)と、統計学的に有意に長かった(ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.51~0.86、p=0.0017)。1年PFS率はソトラシブ群が24.8%、ドセタキセル群は10.1%だった。 全奏効率は、ドセタキセル群13.2%に比し、ソトラシブ群28.1%であり、有意な差が認められた(群間差:14.8%、95%CI:6.4~23.1、p<0.001)。奏効までの期間はソトラシブ群で短く(1.4ヵ月vs.2.8ヵ月)、奏効期間はソトラシブ群で長かった(8.6ヵ月vs.6.8ヵ月)。全生存(OS)率は両群間に差がなく(HR:1.01、95%CI:0.77~1.33、p=0.53)、OS中央値はソトラシブ群が10.6ヵ月、ドセタキセル群は11.3ヵ月だった。 ソトラシブ群は忍容性も良好で、ドセタキセル群に比べGrade3以上の有害事象(56例[33%]vs.61例[40%])および重篤な治療関連有害事象(18例[11%]vs.34例[23%])の割合が低かった。 最も頻度の高いGrade3以上の治療関連有害事象は、ソトラシブ群が下痢(20例[12%])、ALT値上昇(13例[8%])、AST値上昇(9例[5%])であり、ドセタキセル群は好中球数減少(13例[9%])、倦怠感(9例[6%])、発熱性好中球数減少(8例[5%])であった。患者報告アウトカム(QOL[全般的健康、身体機能]、症状[呼吸困難、咳嗽、胸痛])は、全般にソトラシブ群で良好だった。 著者は、「これらの知見は、ソトラシブが、予後不良でアンメットニーズの高いこの患者集団における新たな治療選択肢となることを示すものである」としている。

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コロナ罹患後症状リスク、短時間睡眠vs.長時間睡眠

 新型コロナウイルスのmRNAワクチン(以下、ワクチン)を2回接種した人ではコロナ罹患後症状(post-COVID)の発現リスクが21%低いものの、短時間睡眠の人ではその効果が弱い可能性があることを、スウェーデン・ウプサラ大学のPei Xue氏らによる研究グループが明らかにした。Translational psychiatry誌2023年2月1日号掲載の報告。 夜間の睡眠時間が短いとワクチン接種による抗体産生が減弱し、睡眠時間が長過ぎても健康状態が悪化するという報告がある。そこで研究グループは、ワクチンを2回接種していても、短時間睡眠(6時間未満)の人と長時間睡眠(9時間超)の人は、いずれも通常の睡眠時間(6~9時間)の人と比べてコロナ罹患後症状の発現リスクが高いという仮説を立てて調査を行った。 コロナ罹患後症状の定義は、「少なくとも3ヵ月以上続く1つ以上のCOVID-19に関連する症状(息切れ/呼吸困難、胸痛、嗅覚・味覚異常など)」とした。第2回国際COVID-19睡眠研究(ICOSS-2)の2021年5~12月のデータを用い、年齢、性別、BMIなどの要因で調整し、多変量ロジスティック回帰分析で解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象9,717例(18~99歳)のうち、ワクチンを2回接種した人(5,918例)では、ワクチンを接種していない人や1回のみ接種した人よりも、罹患後症状を発現するリスクが21%低かった(調整オッズ比[aOR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.71~0.89、p<0.001)。・ワクチンを接種していない人と1回のみ接種した人では、罹患後症状のリスクに有意差はなかった(aOR:1.13、95%CI:0.95~1.34、p=0.169)。・ワクチンを2回接種した人のうち、調査時に短時間睡眠であった人および長時間睡眠であった人では、通常の時間睡眠であった人よりも有意に罹患後症状のリスクが高かった(短時間睡眠群のaOR:1.56、95%CI:1.29~1.88、長時間睡眠群のaOR:1.87、95%CI:1.32~2.66)。・ワクチンを2回接種した人のうち、コロナ流行前もコロナ流行中も持続的に短時間睡眠であった人では罹患後症状のリスクが有意に高かった(aOR:1.59、95%CI:1.24~2.03、p<0.001)が、持続的に長時間睡眠であった人では有意差はみられなかった(aOR:1.18、95%CI:0.70~1.97、p=0.539)。・ワクチンを接種していない人と1回のみ接種した人のうち、コロナ流行前もコロナ流行中も持続的に短時間睡眠であった人では罹患後症状のリスクが有意に高く(aOR:1.91、95%CI:1.50~2.42、p<0.001)、持続的に長時間睡眠であった人でも有意に高かった(aOR:2.07、95%CI:1.54~2.78、p<0.001)。 これらの結果より、研究グループは「本研究により、新型コロナウイルスのmRNAワクチンを2回接種した人ではコロナ罹患後症状のリスクが21%低いことが明らかになった。しかし、持続的に短時間睡眠の人では効果が弱い可能性があるため、6時間以上の睡眠を取るように促すことで罹患後症状のリスクを低減できる可能性がある」とまとめた。

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第149回 コロナ感染に特有の罹患後症状は7つのみ

2020年に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的流行が始まって以降、その通常の感染期間後にもかかわらず長く続く症状を訴える患者が増えています。それらCOVID-19罹患後症状(コロナ罹患後症状)のうち疲労、脳のもやもや(brain fog)、息切れは広く検討されていますが、他は調べが足りません。感染症発症後の長患いはCOVID-19に限るものではありません。インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスも長期の影響を及ぼしうることが示されています。COVID-19ではあって他の一般的な呼吸器ウイルス感染では認められないCOVID-19に特有の罹患後症状を同定することはCOVID-19の健康への長期影響の理解に不可欠です。そこで米国・ミズーリ大学の研究チームはソフトウェア会社Oracleが提供するCerner Real-World Dataを使ってCOVID-19に特有の罹患後症状の同定を試みました。米国の122の医療団体の薬局、診療、臨床検査値、入院、請求情報から集めた5万例超(5万2,461例)のCerner Real-World Data収載情報が検討され、47の症状が以下の3群に分けて比較されました。COVID-19と診断され、他の一般的な呼吸器ウイルスには感染していない患者(COVID-19患者)COVID-19以外の一般的な呼吸器ウイルス(風邪、インフルエンザ、ウイルス性肺炎)に感染した患者(呼吸器ウイルス感染者)COVID-19にも一般的な呼吸器ウイルスにも感染していない患者(非感染者)SARS-CoV-2感染から30日以降1年後までの47の症状の生じやすさを比較したところ、呼吸器ウイルス感染者と非感染者に比べてCOVID-19患者により生じやすい罹患後症状は思いの外少なく、動悸・脱毛・疲労・胸痛・息切れ・関節痛・肥満の7つのみでした1,2)。無嗅覚(嗅覚障害)などの神経病態がSARS-CoV-2感染から回復した後も長く続きうると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では一般的な呼吸器ウイルス感染に比べて有意に多くはありませんでした。無嗅覚は非感染者と比べるとCOVID-19患者に確かにより多く生じていましたが、COVID-19以外の呼吸器ウイルス感染者にもまた非感染者に比べて有意に多く発生していました。つまり無嗅覚はCOVID-19を含む呼吸器ウイルス感染症全般で生じやすくなるのかもしれません。一方、先立つ研究でCOVID-19罹患後症状として示唆されている末梢神経障害や耳鳴りは呼吸器ウイルス感染者と非感染者のどちらとの比較でも多くはありませんでした。全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、1型糖尿病(T1D)などの免疫病態もSARS-CoV-2感染で生じやすくなると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では神経症状と同様にCOVID-19に限って有意に多い症状はありませんでした。ただし、1型糖尿病との関連は注意が必要です。COVID-19患者の1型糖尿病は呼吸器ウイルス感染者と比べると有意に多く発生していたものの、非感染者との比較では有意差がありませんでした。呼吸器ウイルス感染者の1型糖尿病はCOVID-19患者とは逆に非感染者に比べて有意に少なく済んでいました。心血管や骨格筋の病態でも1型糖尿病のような関連がいくつか認められており、COVID-19患者の頻拍・貧血・心不全・高血圧症・高脂血症・筋力低下は呼吸器ウイルス感染者と比べるとより有意に多く、非感染者との比較ではそうではありませんでした。今回の研究でCOVID-19に特有の罹患後症状とされた脱毛はSARS-CoV-2感染から100日後くらいに最も生じやすく、250日を過ぎて元の状態に回復するようです。疲労や関節痛は今回の試験期間である感染後1年以内には元の状態に落ち着くようです。COVID-19患者により多く認められた肥満はダラダラ続くCOVID-19流行が原因の運動不足に端を発するのかもしれません。ただし今回の研究ではそうだとは断言できず、さらなる研究が必要です。参考1)Baskett WI, et al. Open Forum Infect Dis. 1011;10: ofac683.2)Study unexpectedly finds only 7 health symptoms directly related to ‘long COVID’ / Eurekalert

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Long COVID、軽症であれば1年以内にほぼ解消/BMJ

 軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者では、いくつかのlong COVID(COVID-19の罹患後症状、いわゆる後遺症)のリスクが高いが、その多くは診断から1年以内に解消されており、小児は成人に比べ症状が少なく、性別は後遺症のリスクにほとんど影響していないことが、イスラエル・KI Research InstituteのBarak Mizrahi氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年1月11日号で報告された。イスラエルの全国的な後ろ向きコホート研究 研究グループは、軽症SARS-CoV-2感染者における感染から1年間のlong COVIDによる臨床的な罹患後症状(後遺症)の発現状況を明らかにし、年齢や性別、変異株、ワクチン接種状況との関連を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 解析には、イスラエルの全国規模の医療機関から得られた電子医療記録(EMR)が用いられた。対象は、2020年3月1日~2021年10月1日の期間に、ポリメラーゼ連鎖反応法によるSARS-CoV-2検査を受けたMaccabi Healthcare Servicesの会員191万3,234人であった。 エビデンスに基づく70のlong COVIDアウトカムのリスクについて、年齢と性別で調整し、SARS-CoV-2変異株で層別化したうえで、未入院のSARS-CoV-2感染者(29万9,870人、年齢中央値25歳、女性50.6%)と、マッチさせた非感染者(29万9,870人、25歳、50.6%)を比較した。 リスクの評価には、感染初期(30~180日)および後期(180~360日)におけるハザード比(HR)と、1万人当たりのリスク差が用いられた。ブレークスルー感染例で呼吸困難のリスクが低い 感染初期と後期の双方で、COVID-19感染との関連でリスク増加が認められたlong COVIDとして、次が挙げられた。・嗅覚/味覚障害初期 HR:4.59(95%信頼区間[CI]:3.63~5.80)、リスク差:19.6(95%CI:16.9~22.4)後期 2.96(2.29~3.82)、11.0(8.5~13.6)・認知障害初期 1.85(1.58~2.17)、12.8(9.6~16.1)後期 1.69(1.45~1.96)、13.3(9.4~17.3)・呼吸困難初期 1.79(1.68~1.90)、85.7(76.9~94.5)後期 1.30(1.22~1.38)、35.4(26.3~44.6)・衰弱初期 1.78(1.69~1.88)、108.5(98.4~118.6)後期 1.30(1.22~1.37)、50.2(39.4~61.1)・動悸初期 1.49(1.35~1.64)、22.1(16.8~27.4)後期 1.16(1.05~1.27)、8.3(2.4~14.1)・連鎖球菌扁桃炎初期 1.18(1.09~1.28)、13.4(6.8~19.9)後期 1.12(1.05~1.20)、16.6(7.4~25.9)・めまい初期 1.14(1.06~1.23)、11.4(4.7~18.1)後期 1.17(1.09~1.26)、16.7(8.6~24.8) 感染初期にのみリスクが上昇したlong COVIDは、呼吸器疾患(HR:2.4[95%CI:1.67~3.44]、リスク差:3.7[2.3~5.3])、抜け毛(1.75[1.59~1.93]、31.6[26.2~36.9])、胸痛(1.41[1.33~1.49]、56.3[47.0~65.7])、筋肉痛(1.24[1.15~1.35]、17.5[11.2~23.8])、咳嗽(1.09[1.04~1.14]、22.2[9.7~34.6])などであった。 ワクチン未接種者の感染初期に、女性で抜け毛のリスク(女性のHR:2.09[95%CI:1.86~2.35]、男性のHR:0.9[0.80~1.17])が高かったことを除き、他の症状のHRは男女でほぼ同等であった。小児は成人に比べ感染初期の症状が少なく、これらの症状も後期にはほとんどが解消された。SARS-CoV-2変異株全体で、long COVIDの発現状況に一貫性が認められた。また、ワクチン接種者のうちブレークスルー感染例では、未接種者と比較して、呼吸困難(HR:1.58、95%CI:1.18~2.12)のリスクが低く、他の症状のリスクは同程度であった。 著者は、「COVID-19感染症の世界的流行の当初からlong COVIDが危惧されてきたが、軽症の経過をたどった患者の罹患後症状は、その多くが数ヵ月間残存した後、1年以内に正常化することが確認された。これは、軽症例の大部分は重症化や長期的な慢性化には至らず、医療従事者に継続的に加わる負担は小さいことを示唆する」としている。

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true worldにおけるAMI治療の実態を考える(解説:野間重孝氏)

 1月27日に掲載したコメントにつきまして、論文の内容について私が誤解していた部分がありましたため、コメントの一部を書き換えました。皆さまにご迷惑をお掛けしましたことを深くおわび申し上げます。 急性心筋梗塞(AMI)の治療成績・予後の決定因子としては、発生から冠動脈再開通までの時間(total ischemic time:TIT)のほか、年齢、基礎疾患や合併症、血管閉塞部位と虚血領域の大きさ、血行動態破綻の有無などが挙げられる。この中でもっぱら時間経過が改善項目として議論されるのは、他の因子は医療行為によっては動かすことができず、時間経過のみが可変因子であるからである。 治療行為の迅速性を表す指標としてもっぱら使用されてきたのがdoor to balloon(D2B)timeであった。ここで注意すべきなのは、D2Bは本来治療に当たった病院のシステム、ガバナンスの整備、術者の技量を評価するための指標であって、TITとは無関係とまではいわないまでも別途議論されるべき数値である点である。肝心のTITが指標として用いられる機会が少ない理由はAMIの場合onset timeがどうしても正確に同定できないからである。これは有症状性の脳梗塞と比較するとわかりやすい。脳梗塞の場合、虚血発生と同時に特徴的な症状が発現し、しかもその自覚に個人差が少ない。AMIの場合は初発症状が突然の激しい胸痛であるのはむしろ例外であり、漠然とした胸部不快感や胸部違和感である例がほとんどで、その発生時期が正確に同定できず、かつ自覚にも個人差が大きい。その歴史は比較的新しく、90年代に提唱され、本格的に問題にされるようになったのは2000年以降である。  それでもD2Bが治療に関する有力な指標として議論されてきたのは、90年代終わりから2000年代初めにかけて、米国を中心とする各急性期治療施設がD2B短縮に努力を傾けた結果、著しい治療成績の改善が見られたからである。しかしこれに対して、D2Bが施設評価の基準であって、その短縮によって見込まれる治療成績の改善には限界があることを明確に示したのが、Daniel S. Menees氏らによってNEJM誌に2013年に発表された論文だった。この論文はこの「ジャーナル四天王」でも取り上げられ(PCIを病院到着から90分以内に施行することで院内死亡率は改善したか?/NEJM)、奇縁にも評者が論文評を担当した(健全な批判精神を評価(コメンテーター:野間 重孝 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(138)より-)。同氏らは除外基準を厳しく設定し、biasとなる因子を持たない症例のみを対象として検討を行った結果、確かにD2B短縮に伴い治療成績は向上するがある程度のところで頭打ちになること、さらに高齢者、前壁中隔梗塞、心原性ショックなどの複雑重症例ではD2Bと治療成績に相関が見られないことを示し、さらなる治療成績の向上には別途の改善努力(たとえば患者搬送の体制など)が必要であるとした。この論文はD2Bがどのような指標であるかをあらためて明示した論文だったといえる。 本研究はこのような経緯を踏まえ、症状発現からPCI開始までの時間、救急隊員による評価からカテ室起動までの時間、最初の医療連絡から検査室起動までの時間、最初の医療連絡からデバイス準備までの時間、病院到着からPCI開始までの時間などさまざまな指標を取り混ぜて現場の実態を把握することを試みたものである。患者到着の仕方も救急搬送もあれば自家用車や徒歩での来院、他施設からの搬送などさまざまである。実際ST上昇型のAMI(STEMI)といえども診断に手間取る例もないとはいえないし、PCIの準備にしても急性期治療を標榜する施設であったとしても24時間完全スタンバイという組織ばかりではないのが実態だろう。さらに急性期施設はAMIのみを扱っているわけではなく、他疾患の影響も考えられなければならない(たとえばこの論文の検討の後半ではコロナ禍)。 この結果はサマリー(STEMIの治療開始までの時間と院内死亡率、直近4年で増加/JAMA)でもお読みのとおりである。確かに症状発現からPCI開始まで時間の短い症例では治療成績が良好であるが、肝心の全体としての種々の指標が思うように短縮しないどころか諸事情によりむしろわずかではあるものの延長してしまっていたのである。来院形態にかかわらずほとんどの四半期でシステム目標が達成されておらず、とくに病院間搬送症例では目安とされた120分以内のPCI開始例がわずか17%にすぎなかった。著者らはlimitationsの1番にレジストリのデータが自己申告制であることを挙げているが、上記で有症状型の脳梗塞と比較した例でもわかるようにAMIのonset timeの同定は難しい。しかしtrue worldに実態に迫ろうと考えた場合、ある程度のデータのズレは致し方がないものなのだろう。また、これはそれぞれの指標の目標値が妥当であるかどうかという問題にも通じる。こういった数多くの指標を用いた疫学調査の設計と解釈の難しい点である。 今回の結果をどのように解釈すべきなのだろうか。評者としては正直米国のAMI治療システムもさまざまな問題を抱えていることに驚いたのであるが、しかし振り返って考えるとき、この問題は米国に限った問題ではないことに気付かされる。形を変えてではあるが、わが国にも当てはまる問題であるのだと思う。90年代から2000年代にかけてAMIの治療成績には著しい進歩が見られた。しかし現在AMIの治療成績の向上はplateauに達しており、この状態を脱するためにはかなり根本的な改革が必要であると誰もが感じているのではないだろうか。これは実はMenees氏らが早期に指摘した内容とも合致する。同氏らはAMIの治療成績向上のためにはD2Bのようなわかりやすい院内指標の改善だけでは不十分だと指摘した。まさにそのとおりのことが本論文で指摘し直されたともいえるのである。本研究結果をややまとまりを欠いたものと受け止めた方も多いと思うが、現実はそう単純なものではないことを示して余りあるものだったと評価すべきではないかと考えるものである。

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新型コロナの罹患後症状(後遺症)ってどういう症状?

Q.新型コロナの罹患後症状(後遺症)ってどういう症状?頭痛、睡眠障害、認知障害、記憶力・集中力低下、脱毛、味覚・嗅覚障害、目・耳の異常胸痛、動悸、疲労・倦怠感腹痛、悪心、下痢、食欲低下咳、咽頭痛、喀痰、息切れ関節痛、筋肉痛、筋力低下勃起異常、生理不順、月経前症候群の悪化厚生労働省新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&AYadav S, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 9. [Epub ahead of print]Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.Imoto W, et al. Sci Rep. 2022;12:22413.Q.新型コロナの罹患後症状(後遺症)って何ですか?新型コロナウイルス感染症にかかった後、ほとんどの患者さんは時間経過とともに症状が改善します。しかし、急性期の症状がずっと持続したり、回復した後に新たに/または再び出現したりする症状があることがわかっています。これら全般の症状を新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(後遺症)と言います。Q.罹患後症状(後遺症)はいつまで続くのですか?罹患後症状(後遺症)については、世界的に調査研究が進められている最中ですが、時間の経過とともに改善することが多いとされています。ただし、急性期の重症度に関係なく、新型コロナウイルスへの感染から約1年を経過しても、罹患後症状(後遺症)が約半数の方に残るという報告もあります。厚生労働省新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&AYadav S, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 9. [Epub ahead of print]Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.Imoto W, et al. Sci Rep. 2022;12:22413.

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コロナワクチン後の心筋炎、高濃度の遊離スパイクタンパク検出

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のmRNAワクチン(以下、新型コロナワクチン)接種後、まれに心筋炎を発症することが報告されているが、そのメカニズムは解明されていない。そこで、マサチューセッツ総合病院のLael M. Yonker氏らの研究グループは、青年および若年成人の新型コロナワクチン接種後の血液を分析し、心筋炎発症例の血中では、切断を受けていない全長のスパイクタンパク質が、ワクチン接種により産生された抗スパイク抗体に結合していない“遊離”の状態で、高濃度に存在していたことを発見した。Circulation誌オンライン版2023年1月4日掲載の報告。 2021年1月~2022年2月にかけて、ファイザー製(BNT162b2)またはモデルナ製(mRNA-1273)の新型コロナワクチン接種後に心筋トロポニンTの上昇を伴う胸痛を呈し、心筋炎により入院した患者16例、および年齢をマッチングさせた健康人45人を対象とし、血液をプロスペクティブに採取した。SARS-CoV-2特異的な細胞性免疫応答、自己抗体産生、血中のスパイクタンパク質濃度などを評価した。 SARS-CoV-2に対する適応免疫応答やT細胞応答は、心筋炎発症例と非発症例で差がなかった。また、自己抗体の産生や他のウイルス感染、新型コロナワクチン接種後の過剰な抗体反応も認められなかった。しかし、血中の遊離のスパイクタンパク質濃度には、大きな差がみられた。心筋炎非発症例では、抗スパイク抗体に結合していない遊離のスパイクタンパク質が全例で検出不可であったのに対し、心筋炎発症例では、平均33.9pg/mLと有意に高濃度で検出された(p<0.0001)。また、心筋炎発症例の血漿について、抗体を変性させるdithiothreitolで処理しても、スパイクタンパク質濃度に変化がみられなかったことから、心筋炎発症例で検出されたスパイクタンパク質は、抗スパイク抗体に捕捉されなかったことが示唆された。 本論文の著者らは、「心筋炎発症の有無によって、新型コロナワクチン接種後の免疫応答に差がみられなかったのは、安心感を与える結果であった。心筋炎発症例の血中では、遊離のスパイクタンパク質がみられ、この知見についてより深く理解する必要はあるが、新型コロナウイルス感染症の重症化予防における新型コロナワクチン接種のベネフィットが、リスクを上回ることに変わりはない」とまとめた。

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重症度に関係なく残る罹患後症状は倦怠感、味覚・嗅覚異常/大阪公立大学

 2022~23年の年末年始、全国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性者数の激増や1日の死者数の最高数を記録するなどCOVID-19は衰えをみせていない。また、COVID-19に感染後、その罹患後症状(いわゆる後遺症)に苦しむ人も多いという。わが国のCOVID-19罹患後症状の様態はどのようなものがあるのであろう。井本 和紀氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学 病院講師)らの研究グループは、COVID-19の罹患後症状に関し、285例にアンケート調査を実施。その結果、感染した際の重症度と関係なく、倦怠感や味覚・嗅覚の異常などが、COVID-19感染後約1年を経過していても、半数以上の人に罹患後症状が残っていることが明らかとなった。本研究から重症化リスクが低い人であっても、COVID-19には注意する必要がある。Scientific Reports誌2022年12月27日号に掲載。研究目的と方法【研究目的】COVID-19では、さまざまな罹患後症状が残ることが、主に海外から報告されている。一方、わが国ではCOVID-19の罹患後症状に関する調査があまり進んでおらず、罹患後症状を診察するとともに、本症について研究を行っている施設・医師が少数であるため、わが国の実情を明らかにする。【方法】対象:大阪府内5病院で、2020年1月1日~12月31日の間にCOVID-19と診断された人および入院した285例方法:COVID-19感染後約1年後の後遺症に関するアンケートを実施無症候や軽症でも1年後に52.9%に罹患後症状あり〔COVID-19感染後1年後に罹患後症状を有していた人の割合〕・対象者のうち1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:56.1%(160/285例)・COVID-19感染時は無症候や軽症であった人のうち1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:52.9%(37/70例)・COVID-19感染時は中等症~重症であった人のうち1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:57.5%(123/214例) 罹患後症状については、比較的軽症の人(無症状者・軽症者)では、倦怠感や抜け毛、集中力・記憶力の異常、睡眠障害が多く残っており(10%以上)、比較的重症の人(中等症~重症)では、倦怠感、呼吸困難感(息がしづらくなる感じ)、味覚障害、抜け毛、集中力の異常、記憶力の異常、睡眠障害、関節の痛み、頭痛が多く残っていた(10%以上)。また、生活に大きな影響を与えている罹患後症状としては、倦怠感、喀痰が多く出ること、呼吸困難感、嗅覚の異常、抜け毛、集中力や記憶力の異常、睡眠障害、関節の痛み、眼の充血、下痢があり、これらの症状が常に気になるほど残っていることでQOLが低下している人が多くいた。 どのような人で罹患後症状が残りやすいかを症状と危険因子(患者の背景・持病・血液検査値)についてロジスティック回帰分析を実施したところ、新型コロナウイルスに感染した際の重症度と、喀痰、胸痛、呼吸困難感、咽頭痛、下痢などが非常に強く関連していることがわかった。一方で、新型コロナウイルスに感染した際の重症度と関係なく残ってしまう罹患後症状として倦怠感や味覚・嗅覚の異常、抜け毛、睡眠障害があった。 井本氏らの研究グループは、「本研究により、重症度と関係なく残りやすい罹患後症状があることが明らかとなり、今後もCOVID-19の罹患後症状については引き続き注意が必要だと言える。現状では罹患後症状の治療法が確立されているわけではないため、これからも研究を継続していく必要がある」としている。

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褐色細胞腫・パラガングリオーマ〔PPGL:pheochro mocytoma/paraganglioma〕

1 疾患概要褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫、後者をパラガングリオーマ、総称して「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」と呼ぶ。カテコールアミン過剰分泌による症状と腫瘍性病変による症状がある。カテコラミン過剰により、動悸、頭痛などの症状、高血圧、糖代謝異常などの種々の代謝異常、心血管系合併症、さらには各種の緊急症(高血圧クリーゼ、たこつぼ型心筋症による心不全、腫瘍破裂によるショックなど)を呈することがある。すべてのPPGLは潜在的に悪性腫瘍の性格を有し、実際、約10〜15%は悪性・転移性を示す。それ故、早期の適切な診断と治療が極めて重要である。原則として日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」1)(図)に基づき、診断と治療を行う。図 褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療アルゴリズム画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ PPGLを疑う所見カテコラミン過剰による頭痛、動悸、発汗、顔面蒼白、体重減少、悪心・嘔吐、心筋梗塞類似の胸痛、不整脈などの多彩な症状を示す。肥満はまれである。高血圧を約85%に認め、持続型、発作型、混合型があるが、特に発作性高血圧が特徴的である。持続型では治療抵抗性高血圧の原因となる。発作型では各種刺激(運動、ストレス、過食、排便、飲酒、腹部触診、メトクロプラミド[商品名:プリンペラン]静注など)で高血圧発作が誘発される(高血圧クリーゼ)。さらに、急性心不全、肺水腫、ショックなどを合併することもある。発作型の非発作時には、まったくの「無症候性」であることも少なくない。また、高血圧をまったく呈さない無症候性や、逆に起立性低血圧を示すこともある。副腎や後腹膜の偶発腫瘍として発見される例も多い。■ スクリーニングの対象PPGLは二次性高血圧の中でも頻度が少なく、希少疾患に位置付けられるため、全高血圧でのスクリーニングは、費用対効果の観点から現実的ではない。PPGLガイドラインでは、特に疑いの強いPPGL高リスク群(表)での積極的なスクリーニングを推奨している。表 PPGL高リスク群1)PPGLの家族歴ないし既往歴(MEN、Von Hippel-Lindau病など)のある例2)特定の条件下の高血圧(発作性、治療抵抗性、糖尿病合併、高血圧クリーゼなど)3)多彩な臨床症状(動悸、発汗、頭痛、胸痛など)4)副腎偶発腫特に近年、副腎偶発腫瘍、無症候例の頻度が増加しているため、慎重な鑑別診断が必須である。スクリーニング方法カテコールアミン過剰の評価に際しては、運動、ストレス、体位、食品、薬剤などの測定値に影響する要因を考慮する必要がある。まず、外来でも実施可能な血中カテコールアミン(CA)分画(正常上限の3倍以上)、随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)(正常上限の3倍以上または500ng/mg・Cr以上)の増加を確認する。メタネフリン、ノルメタネフリンはカテコールアミンの代謝産物であり、随時尿でも安定であるため、スクリーニングや発作型の診断に有用である。近年、海外で第1選択である血中遊離メタネフリン分画も実施可能となったが、海外とは測定法が異なるため注意を要する。機能診断法上記のスクリーニングが陽性の場合、24時間尿中カテコールアミン分画(≧正常上限の2倍以上)、24時間尿中総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)の増加を確認する。従来実施された誘発試験は著明な高血圧を来すため推奨されない。アドレナリン優位の腫瘍は褐色細胞腫、ノルアドレナリン優位の腫瘍はパラガングリオーマが多い。画像診断臨床的にPPGLが疑われる場合は腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像診断(CT、MRI)を行う。約90%は副腎原発で局在診断が容易であり、副腎偶発腫瘍としての発見も多い。約10%はPGLで時に局在診断が困難なため、CT、 MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどの複数のモダリティーを組み合わせる。(1)CT副腎腫瘍確認の第1選択。造影剤使用はクリーゼ誘発の可能性があるため、わが国では原則禁忌であり、実施時には患者への説明・同意とフェントラミンの準備が必須となる。(2)MRI副腎皮質腫瘍との鑑別診断、頭頸部病変、転移性病変の診断に有用である。(3)123I-MIBGシンチグラフィ疾患特異性が高いが偽陰性、偽陽性がある。PGLや転移巣の診断にも有用である。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行う。(4)18F-FDG PET多発性病変や転移巣検索に有用である。病理学的診断(1)良・悪性を鑑別する病理組織マーカーは未確立である。組織所見とカテコールアミン分泌パターンを組み合わせたスコアリング(GAPP)が悪性度と予後判定に有用とされる。(2)コハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)の免疫染色の欠如はSDHx遺伝子変異の存在を示唆する。遺伝子解析(1)PPGLの30~40%が遺伝性で、19種類の原因遺伝子が報告されている2)。(2)若年発症(35歳未満)、PGL、多発性、両側性、悪性では生殖細胞系列の遺伝子変異が示唆される2)。(3)SDHB遺伝子変異は遠隔転移が多いため悪性度評価の指標となる。(4)全患者において遺伝子変異の頻度と臨床的意義、遺伝子解析の利益と不利益の説明を行うことが推奨されるが、必須ではなく、[1]遺伝カウンセリング、[2]患者の自由意思による判断、[3]質の担保された解析施設での実施が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)過剰カテコールアミンを阻害する薬物治療と手術による腫瘍摘除が治療原則である。1)薬物治療α1遮断薬が第1選択で、効果不十分な場合、Ca拮抗薬を併用する。頻脈・頻脈性不整脈ではβ遮断薬を併用するが、α1遮断薬に先行しての単独投与は禁忌である。循環血漿量減少に対して、術前に高食塩食あるいは生理食塩水点滴を行う。α1遮断薬でのコントロール不十分な場合はカテコールアミン合成阻害薬メチロシン(商品名:デムサー)を使用する。2)外科的治療小さな褐色細胞腫では腹腔鏡下副腎摘除術、悪性度が高い例では開腹手術を施行する。潜在的に悪性であることを考慮して、腫瘍被膜の損傷に注意が必要である。家族性PPGLや対側副腎摘除後の症例では副腎部分切除術を検討する。悪性の可能性があるため、全例で少なくとも術後10年間、悪性度が高いと判断される高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される。3)悪性PPGL131I-MIBG内照射、CVD化学療法、骨転移に対する外照射などの集学的治療を行う。治癒切除が困難でも、原発巣切除術による予後改善が期待される。■ 診断と治療のアルゴリズム上述の日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズム(図)を参照されたい。PPGL高リスク群で積極的にスクリーニングを行う。外来にて血中カテコラミン、随時尿中メタネフリン分画などを測定、疑いが強ければ、蓄尿でのCA分画と画像診断を行う。内分泌異常と画像所見が合理的に一致していれば、典型例での診断は容易である。無症候性、カテコールアミン産生能が低い例、腫瘍の局在を確認できない場合の診断は困難で、内分泌検査の反復、異なるモダリティーの画像診断の組み合わせが必要である。単発性病変であれば、α1ブロッカーによる適切な事前治療後、腫瘍摘出術を行う。術後、長期にわたり定期的に経過観察を要する。悪性・転移性の場合は、ガイドラインに準拠して集学的な治療を行う。診断と治療は専門医療施設での実施が推奨される。4 今後の展望今後解決すべき課題は以下の通りである。PPGL疾患概念の変遷:分類、神経内分泌腫瘍との関連診療アルゴリズムの改変診断基準の精緻化機能検査:遊離メタネフリン分画の位置付け画像検査:オクトレオチドスキャンの位置付け、68Ga-DOTATEシンチの応用遺伝子検査の臨床的適応頸部パラガングリオーマの診断と治療内科的治療:デムサの適応と治療効果核医学治療:123I-MIBG、ルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ)の適応と実態5 主たる診療科初回受診診療科は一般的に代謝・内分泌科、循環器内科、泌尿器科、腎臓内科など多岐にわたるが、以下の場合には専門医療施設への紹介が望ましい。(1)PPGLの家族歴・既往歴のある患者(2)高血圧クリーゼ、治療抵抗性高血圧、発作性高血圧などの患者(3)副腎偶発腫瘍で基礎疾患が不明な場合(4)PPGLの局所再発や遠隔転移のある悪性PPGL(5)遺伝子解析の実施を考慮する場合6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)1)成瀬光栄、他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 平成22年度報告書.2010.2)Lenders JW、 et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:1915-1942.3)日本内分泌学会「悪性褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編).褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.診断と治療社;2018.公開履歴初回2023年1月5日

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12~20歳のmRNAコロナワクチン接種後の心筋炎をメタ解析、男性が9割

 12~20歳の若年者へのCOVID-19mRNAワクチン接種後の心筋炎に関連する臨床的特徴および早期転帰を評価するため、米国The Abigail Wexner Research and Heart Center、Nationwide Children’s Hospitalの安原 潤氏ら日米研究グループにより、系統的レビューとメタ解析が行われた。本研究の結果、ワクチン接種後の心筋炎発生率は男性のほうが女性よりも高く、15.6%の患者に左室収縮障害があったが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)は1.3%にとどまり、若年者のワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であることが明らかとなった。JAMA Pediatrics誌オンライン版2022年12月5日号に掲載の報告。 本研究では、2022年8月25日までに報告された、12~20歳のCOVID-19ワクチン関連心筋炎の臨床的特徴と早期転帰の観察研究および症例集積研究を、PubMedとEMBASEのデータベースより23件抽出し、ランダム効果モデルメタ解析を行った。抽出されたのは、前向きまたは後ろ向きコホート研究12件(米国、イスラエル、香港、韓国、デンマーク、欧州)、および症例集積研究11件(米国、ポーランド、イタリア、ドイツ、イラク)の計23件の研究で、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎患者の合計は854例であった。被験者のベースラインは、平均年齢15.9歳(95%信頼区間[CI]:15.5~16.2)、SARS-CoV-2感染既往者3.8%(1.1~6.4)。心筋炎の既往や心筋症を含む心血管疾患を有する者はいなかった。 本系統レビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドライン、およびMOOSEガイドラインに従った。バイアスリスクについて、観察研究はAssessing Risk of Bias in Prevalence Studies、症例集積研究はJoanna Briggs Instituteチェックリスト、各研究の全体的品質はGRADEを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・接種したワクチンは、ファイザー製(BNT162b2)97.5%、モデルナ製(mRNA-1273)2.2%であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、男性が90.3%(87.3~93.2)であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、1回目接種後(20.7%、95%CI:58.2~90.5)よりも2回目接種後(74.4%、58.2~90.5)のほうが多く、心筋炎の発生率は、1回目接種後が100万人あたり0.6~10.0例、2回目接種後が100万人あたり12.7~118.7例であった。・ワクチン接種から心筋炎発症までの平均間隔のプールされた推定値は2.6日(95%CI:1.9~3.3)であった。・左室収縮障害(LVEF<55%)は患者の15.6%(95%CI:11.7~19.5)に認められたが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)を有する患者は1.3%(0~2.6)にすぎなかった。・心臓MRI検査(CMR)では、87.2%の患者にガドリニウム遅延造影(LGE)所見が認められた。・92.6%(95%CI:87.8~97.3)の患者が入院し、23.2%(11.7~34.7)の患者がICUに収容されたが、昇圧薬投与は1.3%(0~2.7)にとどまり、入院期間は2.8日(2.1~3.5)で、入院中の死亡や医療機器の支援を必要とした患者はいなかった。・最もよく見られた心筋炎の臨床的特徴は、胸痛83.7%(95%CI:72.7~94.6)、発熱44.5%(16.9~72.0)、頭痛33.3%(8.6~58.0)、呼吸困難/呼吸窮迫25.2%(17.2~33.1)だった。・心筋炎の治療に使用された薬剤は、NSAIDsが81.8%(95%CI:75.3~88.3)、グルココルチコイド13.8%(6.7~20.9)、免疫グロブリン静注12.0%(3.8~20.2)、コルヒチン7.3%(4.1~10.4)であった。 著者によると、SARS-CoV-2感染後の心筋炎発症リスクは、mRNAワクチン接種後の心筋炎発症リスクよりも有意に高いという。本結果は、複数の国や地域の多様な若年者の集団において、ワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であり、ワクチン接種による利益は潜在的リスクを上回ることを裏付けるとしている。

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不幸な結婚生活は心筋梗塞後の回復の障壁に

 結婚生活がうまくいかなくて心を痛めることがあるが、結婚生活の破綻は本当に心臓に悪いことを示唆する研究結果が明らかになった。心筋梗塞を経験した人のうち、夫婦関係でストレスを抱えている人は、その後の回復状態の悪いことが、米イェール大学公衆衛生大学院のCenjing Zhu氏らの研究で示された。Zhu氏は、「夫婦間ストレスは、心筋梗塞発症後1年以内の転帰不良に独立して関連していることを、われわれは突き止めた」と説明している。この研究結果は米国心臓協会(AHA)学術集会(Scientific Sessions 2022、11月5~7日、米シカゴ/バーチャル開催)で発表された。 Zhu氏らは今回、2008~2012年に心筋梗塞の治療を受けた18~55歳(平均年齢47歳)の米国の成人1,593人のデータを分析した。研究参加者の居住地は全米30州に分布しており、全ての参加者に配偶者またはパートナーがいた。参加者は夫婦間ストレスの評価に用いられる17項目の質問票Stockholm Marital Stress Scaleに回答。その結果に基づき、夫婦間ストレスの程度を、軽度またはストレスなし、中程度、重度の3段階に分類した上で、最長で1年にわたって健康状態を追跡調査した。 その結果、夫婦間ストレスが軽度あるいは全くない人と比べて重度の人では、心筋梗塞発症後1年間に胸痛が再発するリスクが67%高いことが示された。また、重度の夫婦間ストレスがある人では、あらゆる原因による再入院のリスクが約50%高かったほか、QOLや身体的および精神的な健康状態の悪化も認められた。例えば、夫婦間ストレスが軽度あるいは全くない人と比べて重度の人では、12項目の質問で構成される評価尺度(SF-12)の点数が、精神的側面の項目で約2.6点、身体的側面の項目で約1.6点低かった。このほか、夫婦間ストレスを報告した人は男性よりも女性の方が多いことも明らかになった(男性:10人中3人、女性:10人中約4人)。 この研究には関与していない、米ニューヨーク大学グロスマン医学部のNieca Goldberg氏は、「人間関係が人々の健康状態に与える微妙な影響を明らかにする一助となる研究結果だ」とコメント。また、「結婚に関する先行研究では、パートナーがいない人よりもいる人の方が心臓の健康状態は良好であったことが明らかにされている。それに対して、今回の研究は、夫婦関係の質、そして夫婦間に存在する重度のストレスが及ぼす影響を調べたものだ」と解説している。 Goldberg氏は、夫婦間ストレスが心筋梗塞後の回復に影響を与えていると考えられる人たちは、「カウンセリングを受け、ストレスや不安、抑うつを軽減するための助けを得る必要がある」と話す。同氏は、「夫婦関係の悪化による緊張感は、血圧の上昇を招くなど、確実に心血管のリスク因子に悪影響を与える。大きなストレスや不安がある人の場合、それによって治療レジメンや生活習慣プログラムに従うことが難しくなる」と指摘している。また、AHAによると、ストレスはエネルギーを低下させ、回復に必要な睡眠を奪うほか、不整脈や高血圧、消化器の異常、炎症、心臓への血流の低下などにも関連しているという。 さらにGoldberg氏は、「パートナーとうまくいっていないと、心筋梗塞の発症という人生の一大事に必要なサポートを得られない可能性もある」とも話す。「もし心筋梗塞を起こした場合、治療レジメンに従うとともに、食習慣の改善や禁煙など、生活習慣を是正する必要が生じる。しかし、周りの人たちの協力がないと、そうした是正を行うのは困難だ」と同氏は言う。 Zhu氏とGoldberg氏は、回復期の心筋梗塞患者の診療に関わる医師たちは、身体的な健康状態だけでなく、精神的および情緒的な健康状態にも注意を払う必要があるとの見解を示している。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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女性の心房細動患者はアブレーション治療関連の有害事象が多い

 心房細動の治療法の一つに、血管カテーテルを用いたアブレーションと呼ばれる方法があるが、この処置に伴う有害事象の発生率に性差があることが報告された。女性患者で発生率が高いという。米イェール大学のJames Freeman氏らの研究によるもので、詳細は「Heart」に9月14日掲載された。 心房細動は不整脈の一種で、米国人の15~20%が発症すると考えられている。動悸や息切れなどの症状が現れることがあり、また、それらの症状が現れない場合にも脳梗塞のリスクが上昇する。薬物療法としては、脳梗塞予防のための抗凝固薬と、不整脈に対して抗不整脈薬が使用される。 一方、カテーテルアブレーション治療は、不整脈を起こしている電気信号の発生箇所を、高周波エネルギーで焼灼したり凍結させたりする治療法。過去10年の間にこのアブレーション治療の安全性は向上してきている。例えば、より正確な場所をアブレーションするために電気信号の把握に加えて超音波で確認したり、穿孔を防ぐためにカテーテルに加わった力を術者が感じ取れるような機器が開発されたり、周術期の抗凝固薬の投与量をより適切に調節できるようになった。また、女性と男性の解剖学的な違い(女性の心臓が小さいことの手技への影響など)の理解も深まった。 しかし、これまでの小規模な研究から、アブレーション治療に伴う有害事象のリスク因子の一つとして、性別(女性)が該当する可能性が示唆されている。そこでFreeman氏らは、アブレーション治療の有害事象の発生率やベースライン特性の性差などを、多施設共同研究の大規模なサンプルで検討した。 研究には、米国内で実施されている心臓血管手術のレジストリのデータから、心房細動に対するアブレーション治療を受けた患者を抽出して用いた。2016年1月~2020年9月に、150カ所の医療機関で706人の医師により、5万8,960人がアブレーション治療を受けていた。そのうち女性は34.6%だった。 治療を受ける前のベースラインデータを比較すると、女性は男性より高齢で(68対64歳、P<0.001)、併存疾患が多く、心房細動関連の生活の質(QOL)のスコアが低かった(51.8対62.2点、P<0.001)。また男性では持続性心房細動が多いのに比べて、女性では発作性心房細動が多く、複数回の受療行動が記録されていた。自覚症状に関しても、女性は動悸、胸痛、めまい、疲労感などの訴えが多かった。 アブレーション治療関連の有害事象に関しては、全有害事象〔調整オッズ比(aOR)1.57(95%信頼区間1.41~1.75)〕、および、重大な有害事象〔aOR1.60(同1.33~1.92)〕の発生率が、女性は男性よりも有意に高いことが示された。また、1泊を超える入院を要した割合にも有意差があり、女性で高かった〔aOR1.41(同1.33~1.49)〕。 女性に多く発生していた有害事象として、心臓の周りに血液がたまって心臓の働きが低下する心嚢液貯留、恒久的なペースメーカーを必要とする徐脈、呼吸困難につながる横隔神経障害、血管損傷、出血などが該当した。ただし、院内死亡や意図しない急性肺静脈隔離の発生率には差がなかった。 Freeman氏は、「これまで行われてきた研究では十分に把握されていなかった、アブレーション治療関連の多くの有害事象を評価し得たことは、本研究の大きな成果の一つ」と述べている。また、「アブレーション治療に伴う有害事象への認識は深まっているものの、いまだに術後の長期間持続する症状の発生が認められる」と問題点を指摘。「アブレーション治療は確かに患者のQOLを改善するが、われわれは引き続きリスク軽減のための努力を続けていかなければならない」と語っている。同氏は、今後もアブレーション治療後の患者モニタリングを継続していくことを計画している。

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生後6ヵ月からCOVID-19ワクチン接種推奨を提言/日本小児科学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第8波が到来しつつある今、第7波で起こった小児へのCOVID-19感染の増加、重症化や今冬のインフルエンザの同時流行を憂慮し、日本小児科学会(会長:岡明[埼玉県立小児医療センター])の予防接種・感染症対策委員会は、同学会のホームページで「生後6ヵ月以上5歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を発表した。 これは先に示した「5~17歳の小児におけるワクチンの有益性」も考慮したうえで、メリット(発症予防)がデメリット(副反応など)を上回ると判断し、生後6ヵ月以上5歳未満の小児でも推奨したもの。 なお、厚生労働省では乳幼児(生後6ヵ月~4歳)の接種は「努力義務」としている。生後6ヵ月以上5歳未満の小児でも接種の方がメリットある 同学会ではワクチン推奨の考え方の要旨として以下4点にまとめている。1)小児患者数の急増に伴い、以前は少数であった重症例と死亡例が増加している。2)成人と比較して小児の呼吸不全例は比較的まれだが、オミクロン株流行以降は小児に特有な疾患であるクループ症候群、熱性けいれんを合併する児が増加し、また、脳症、心筋炎などの重症例も報告されている。3)生後6ヵ月以上5歳未満の小児におけるワクチンの有効性は、オミクロン株BA.2流行期における発症予防効果について生後6ヵ月~23ヵ月児で75.8%、24ヵ月児で71.8%と報告されている。流行株によっては有効性が低下する可能性はあるが、これまでの他の年齢におけるワクチンの有効性の知見からは、重症化予防効果は発症予防効果を上回ることが期待される。4)生後6ヵ月以上5歳未満の小児におけるワクチンの安全性については、治験で観察された有害事象はプラセボ群と同等で、その後の米国における調査でも重篤な有害事象はまれと報告されている。なお、接種後数日以内に胸痛、息切れ(呼吸困難)、動悸、浮腫などの心筋炎・心膜炎を疑う症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診し、新型コロナワクチンを受けたことを伝えるよう指導すること。

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コロナ軽症でも、高頻度に罹患後症状を発症/BMJ

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染症の急性期後6~12ヵ月の時期における、患者の自己申告による罹患後症状(いわゆる後遺症、とくに疲労や神経認知障害)は、たとえ急性期の症状が軽症だった若年・中年の成人であってもかなりの負担となっており、全体的な健康状態や労働の作業能力への影響が大きいことが、ドイツ・ウルム大学のRaphael S. Peter氏らが実施した「EPILOC試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月13日号に掲載された。ドイツ南西部住民270万人ベースの研究 EPILOC試験は、ドイツ南西部バーデン・ビュルテンベルク州の4つの地域(人口計約270万人)で行われた住民ベースの研究で、2020年10月1日~2021年4月1日にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でSARS-CoV-2陽性と判定された18~65歳の集団が解析の対象となった(バーデン・ビュルテンベルク州Ministry of Science and Artの助成を受けた)。 1万1,710人が解析に含まれた。平均年齢は44.1(SD 13.7)歳、6,881人(58.8%)が女性であった。既存の慢性疾患として、筋骨格系疾患(28.9%)、心血管疾患(17.4%)、神経・感覚障害(16.2%)、呼吸器疾患(12.1%)などがみられた。 SARS-CoV-2による感染症の急性期には、77.5%は医療を必要とせず、19.0%が外来治療を受け、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院を要したのは3.6%であった。平均追跡期間は8.5ヵ月だった。 主要アウトカムとして、症状の頻度が感染症の急性期後6~12ヵ月と急性期以前で比較され、症状の重症度とクラスタリング、リスク因子、全体的な健康の回復や労働の作業能力との関連の評価が行われた。胸部症状、嗅覚/味覚障害、不安/抑うつも20%以上で発現 急性期前にはみられず、急性期後6~12ヵ月の時期に発現した症状クラスターでは、疲労(急激な身体的消耗、慢性疲労など、37.2%[4,213/1万1,312人、95%信頼区間[CI]:36.4~38.1])と、神経認知障害(集中困難、記憶障害など、31.3%[3,561/1万1,361人、30.5~32.2])の頻度が高く、いずれも健康回復や労働能力の低下に最も強く寄与していた。 また、胸部症状(呼吸困難、胸痛など、30.2%[95%CI:29.4~31.0])、不安/抑うつ(睡眠障害、抑うつ気分、不安など、21.1%[20.4~21.9])、頭痛/めまい(19.9%[19.2~20.6])も高頻度にみられ、労働能力に影響を及ぼしていたが、性別や年齢別で多少の差が認められた。 嗅覚/味覚障害(嗅覚の変化、味覚の変化)は23.6%(95%CI:22.9~24.4)、筋骨格系の疼痛(筋肉痛、関節痛、四肢痛)は16.8%(16.1~17.5)、上気道症状(咳嗽、咽頭痛、嗄声)は13.9%(13.3~14.6)で発現した。 日常生活を少なくとも中程度に低下させる新たな症状が発現し、健康回復や労働能力を80%以下に低下させたと考えると、post-COVID症候群の全体の推定値は28.5%(3,289/1万1,536人、95%CI:27.7~29.3)であった。一方、これに該当しない参加者は完全に回復したと仮定すると、post-COVID症候群の発生の推定値は6.5%(3,289/5万457人)で、このうち男性は4.6%(1,145/2万4,959人)、女性は8.4%(2,144/2万5,483人)であった。真の値は、これらの推定値の間と考えられる。 著者は、「このようなcovid後の後遺症(post-covid sequelae)の個人的、社会的な負担の大きさを考えると、適切な治療選択肢を確立し、有効なリハビリテーション法を開発するために、その基礎となる生物学的異常と原因を早急に明らかにする必要がある」としている。

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侵襲的冠動脈造影とCT、MACEリスクに性差はあるか/BMJ

 侵襲的冠動脈造影(ICA)のために紹介された、安定胸痛を有する閉塞性冠動脈疾患(CAD)の検査前確率が中程度の患者において、初期画像診断に用いるCTはICAと比較して、有害心血管イベントのリスクは同等であることがすでに報告されているが、その有効性に男性と女性で差はないことが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のKlaus F. Kofoed氏ら「DISCHARGE試験」グループが報告した。CTは、CADの検査前確率が低~中程度の患者において、閉塞性CADを除外することが可能であるが、男性より女性で精度が低くなる可能性があり、CADの診断および臨床管理において、CTとICAの臨床転帰に関する有効性の男女差はこれまで不明であった。BMJ誌2022年10月19日号掲載の報告。無作為化試験で主要評価項目MACE発生を比較 DISCHARGE試験は、欧州16ヵ国の26施設で実施された医師主導、実用的、評価者盲検、無作為化比較試験である。研究グループは、安定胸痛を有し、閉塞性CADの検査前確率が中程度(10~60%)で、ICAの目的で紹介された30歳以上の患者を、性別および施設で層別化してCT群とICA群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 男女別のサブグループ解析は事前に規定され、主要評価項目は主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)、重要な副次評価項目は拡張MACE(MACE、一過性脳虚血発作、主要な手技関連合併症の複合)および主要な手技関連合併症であった。MACEリスクに男女差なし、CT群の男性で拡張MACE、女性で合併症が少ない 2015年10月3日~2019年4月12日の間に計3,667例(女性2,052例、男性1,615例)が無作為化され、検査を受けた3,561例(女性2,002例、男性1,559例)が修正intention-to-treat解析対象集団となった。 追跡調査期間中央値3.5年において、女性98.9%(2,002例中1,979例)、男性99.0%(1,559例中1,544例)が追跡調査を完了した。 MACE(p=0.29)、拡張MACE(p=0.45)、および主要な手技関連合併症(p=0.11)に関して、女性と男性で統計学的有意差は確認されなかった。また、女性と男性のいずれにおいても、MACEの発生率にCT群とICA群で差はなかった。 一方男性では、拡張MACEの発生率がCT群においてICA群より少なかった(22例[2.8%]vs.41例[5.3%]、ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.31~0.87)。女性では、主要な手技関連合併症のリスクがCT群においてICA群より低かった(3例[0.3%]vs.21例[2.1%]、HR:0.14、95%CI:0.04~0.46)。

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かかりつけ医も知っておきたい、コロナ罹患後症状診療の手引き第2版/厚労省

 厚生労働省は、2022年6月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1.1版)」を改訂し、第2版を10月14日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 主な改訂箇所としては、・第1章の「3.罹患後症状の特徴」について国内外の最新知見を追加・第3~11章の「2.科学的知見」について国内外の最新知見を追加・代表的な症状やキーワードの索引、参考文献全般の見直しなどが行われた。 同手引きの編集委員会では、「はじめに」で「現在、罹患後症状に悩む患者さんの診療や相談にあたる、かかりつけ医などやその他医療従事者、行政機関の方々に、本書を活用いただき、罹患後症状に悩む患者さんの症状の改善に役立ててほしい」と抱負を述べている。1年後に多い残存症状は、疲労感・倦怠感、呼吸困難、筋力低下/集中力低下 主な改訂内容を抜粋して以下に示す。【1章 罹患後症状】「3 罹患後症状の特徴」について、タイトルを「罹患後症状の頻度、持続時間」から変更し、(罹患者における研究)で国内外の知見を追加。・海外の知見 18報告(計8,591例)の系統的レビューによると、倦怠感(28%)、息切れ(18%)、関節痛(26%)、抑うつ(23%)、不安(22%)、記憶障害(19%)、集中力低下(18%)、不眠(12%)が12ヵ月時点で多くみられた罹患後症状であった。中国、デンマークなどからの研究報告を記載。・国内の知見 COVID-19と診断され入院歴のある患者1,066例の追跡調査について、急性期(診断後~退院まで)、診断後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月で検討されている。男性679例(63.7%)、女性387例(36.3%)。 診断12ヵ月後でも罹患者全体の30%程度に1つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向を認めた(12ヵ月後に5%以上残存していた症状は、疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下/集中力低下(8%)など。 入院中に酸素需要のあった重症度の高い患者は、酸素需要のなかった患者と比べ3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 入院中に気管内挿管、人工呼吸器管理を要した患者は、挿管が不要であった患者と比べて3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 罹患後症状に関する男女別の検討では、診断後3ヵ月時点で男性に43.5%、女性に51.2%、診断後6ヵ月時点で男性に38.0%、女性に44.8%、診断後12ヵ月時点で男性に32.1%、女性に34.5%と、いずれの時点でも罹患後症状を1つでも有する割合は女性に多かった。(非罹患者と比較した研究) COVID-19非罹患者との比較をした2つの大規模コホート研究の報告。英国の後ろ向きマッチングコホート研究。合計62の症状が12週間後のSARS-CoV-2感染と有意に関連していて、修正ハザード比で大きい順に嗅覚障害(6.49)、脱毛(3.99)、くしゃみ(2.77)、射精障害(2.63)、性欲低下(2.36)のほか、オランダの大規模マッチングコホート研究を記載。(罹患後症状とCOVID-19ワクチン接種に関する研究)(A)COVID-19ワクチン接種がCOVID-19感染時の罹患後症状のリスクを減らすかどうか(B)すでに罹患後症状を認める被験者にCOVID-19ワクチン接種を行うことでどのような影響が出るのか、の2点に分け論じられている。(A)低レベルのエビデンス(ケースコントロール研究、コホート研究のみでの結果)では、SARS-CoV-2感染前のCOVID-19ワクチン接種が、その後の罹患後症状のリスクを減少させる可能性が示唆されている。(B)罹患後症状がすでにある人へのCOVID-19ワクチン接種の影響については、症状の変化を示すデータと示さないデータがあり、一定した見解が得られていない。「5 今後の課題」 オミクロン株症例では4.5%が罹患後症状を経験し、デルタ株流行時の症例では10.8%が罹患後症状を経験したと報告されており、オミクロン株流行時の症例では罹患後症状の頻度は低下していることが示唆されている。揃いつつある各診療領域の知見 以下に各章の「2.科学的知見」の改訂点を抜粋して示す。【3章 呼吸器症状へのアプローチ】 罹患後症状として、呼吸困難は20〜30%に認め、呼吸器系では最も頻度の高い症状であった。年齢、性別、罹患時期などをマッチさせた未感染の対照群と比較しても、呼吸困難は胸痛や全身倦怠感などとともに、両者を区別しうる中核的な症状だった。【4章 循環器症状へのアプローチ】 イタリアからの研究報告では、わずか13%しか症状の完全回復を認めておらず、全身倦怠感が53%、呼吸困難が43.4%、胸痛が21.7%。このほか、イギリス、ドイツの報告を記載。【5章 嗅覚・味覚症状へのアプローチ】 フランス公衆衛生局の報告によると、BA.1系統流行期と比較し、BA.5系統流行期では再び嗅覚・味覚障害の発生頻度が増加し、嗅覚障害、味覚障害がそれぞれ8%、9%から17%に倍増した。【6章 神経症状へのアプローチ】 中国武漢の研究では、発症から6ヵ月経過しても、63%に疲労感・倦怠感や筋力低下を認めた。また、発症から6週間以上持続する神経症状を有していた自宅療養者では、疲労感・倦怠感(85%)、brain fog(81%)、頭痛(68%)、しびれ感や感覚障害(60%)、味覚障害(59%)、嗅覚障害(55%)、筋痛(55%)を認めたと報告されている。【7章 精神症状へのアプローチ】 罹患後症状が長期間(約1年以上)にわたり持続することにより、二次的に不安障害やうつ病を発症するリスクが高まるという報告も出始めている。【8章 “痛み”へのアプローチ】 下記の2つの図を追加。 「図8-1 COVID-19罹患後疼痛(筋痛、関節痛、胸痛)の経時的変化」 「図8-2 COVID-19罹患後疼痛の発生部位」 COVID-19罹患後に身体の痛みを有していたものは75%で、そのうち罹患前に痛みがなかったにも関わらず新規発症したケースは約50%と報告されている。罹患後、新規発症した痛みの部位は、広範性(20.8%)、頸部(14.3%)、頭痛、腰部、肩周辺(各11.7%)などが報告され、全身に及ぶ広範性の痛みが最も多い。 【9章 皮膚症状へのアプローチ】「参考 COVID-19と帯状疱疹[HZ]の関連について」を追加。ブラジルでは2017〜19年のCOVID-19流行前の同じ間隔と比較して、COVID-19流行時(2020年3〜8月)のHZ患者数は35.4%増加した。一方、宮崎での帯状疱疹大規模疫学研究では、2020年のCOVID-19の拡大はHZ発症率に影響を与えなかったと報告。    【10章 小児へのアプローチ】 研究結果をまとめると、(1)小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い、(2)年少児は年長児と比べて少ない、(3)症状の内訳は、嗅覚障害を除くと対照群との間に大きな違いはない、(4)対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め、多くの訴えが認められる、(5)症例群と対照群との間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない、(6)小児においてもまれに成人にみられるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性があるといえる。【11章 罹患後症状に対するリハビリテーション】 2022年9月にWHOより公表された"COVID-19の臨床管理のためのガイドライン"の最新版(第5版)では、罹患後症状に対するリハビリテーションの項が新たに追加され、関連する疾患におけるエビデンスやエキスパートオピニオンに基づいて、呼吸障害や疲労感・倦怠感をはじめとするさまざまな症状別に推奨されるリハビリテーションアプローチが紹介されている。 なお、本手引きは2022年9月の情報を基に作成されており、最新の情報については、厚生労働省などのホームページなどから情報を得るように注意を喚起している。

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プラチナダブレット不適NSCLCに対するアテゾリズマブ1次療法の有用性(IPSOS試験)/ESMO2022

 プラチナ化学療法の1次治療が不適格な進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、アテゾリズマブは単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン)よりも全生存期間(OS)を有意に延長した。 NSCLCの実臨床では、複数の合併症を持つなど治療忍容性の低い高齢者が多い。また40%以上がPS≧2と全身状態不良の患者である。実臨床で多いこれらの患者はほとんどの臨床試験から除外されており、新たな治療選択肢を検討する研究への医学的なニーズは高い。 そのような中、これらの患者を対象とした、多施設オープンラベル無作為化第III相試験IPSOSが行われている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)では、英国・ロンドン大学のSiow Ming Lee氏がその試験結果を報告した。・対象:ECOG PS 2〜3(70歳以上で併存疾患がある、またはプラチナダブレット不適の場合はPS0〜1も許容)の未治療StageIIIB/IV NSCLC(EGFRおよびALK陽性は除外、無症状の安定した脳転移は許容)・試験群:アテゾリズマブ 1,200mg 3週ごと(302例)・対照群:単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン) 3週~4週ごと(151例)・評価項目:[主要評価項目]OS[副次評価項目]6、12、18、24ヵ月OS率、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、PD-L1陽性患者におけるOSとPFS 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月のOS中央値は試験群10.3ヵ月、対照群9.2ヵ月、2年OS率はそれぞれ24.4%と12.4%、と試験群で有意な改善を認めた(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.63〜0.97、p=0.028)。・年齢、全身状態(PS)、組織型、PD-L1発現レベルなどのすべてのサブグループにおいて、試験群のOS改善効果は一貫して示されていた。・ORRは試験群16.9%、対照群7.9%であった。・DoR中央値は試験群14.0ヵ月、対照群7.8ヵ月であった。・PFS中央値は試験群4.2ヵ月、対照群4.0ヵ月(95%CI:2.9~5.4)で、試験群の対照群に対するHRは0.87(95%CI:0.70~1.07)であった。・試験群の20.2%、対照群の29.8%が後治療を受けており、試験群では化学療法(15.9%)、対照群では免疫療法(18.5%)や化学療法(10.6%)などの後治療が多かった。・Grade3/4の治療関連有害事象の発現率は、試験群が16.3%、対照群が33.3%であり、有害事象により投薬中止に至ったのは、試験群で13.0%、対照群で13.6%であった。・試験群では健康関連QoLの安定化が見られ、胸痛の増悪が確認されるまでの期間の改善に関するHRは0.51(95%CI:0.27〜0.97)であった。 発表者のLee氏は、IIPSOS試験により、生命予後の悪いこれらの患者に対し、アテゾリズマブの1次治療によるOS改善が初めて無作為化試験で示された、とまとめた。

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曝露前の発症抑制の適応を取得したコロナ抗体薬「エバシェルド筋注セット」【下平博士のDIノート】第106回

曝露前の発症抑制の適応を取得したコロナ抗体薬「エバシェルド筋注セット」今回は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)(商品名:エバシェルド筋注セット、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、SARS-CoV-2による感染症の治療に加え、曝露前の発症抑制にも使用することができる世界初の薬剤です。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症およびその発症抑制の適応で、2022年8月30日に特例承認されました。<用法・用量>SARS-CoV-2による感染症通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射します。SARS-CoV-2による感染症の発症抑制通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ150mgを併用により筋肉内注射します。SARS-CoV2変異株の流行状況などに応じて、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射することもできます。なお、2剤は混和せずにそれぞれ筋肉内注射を行い、投与部位は左右の臀部とします。<安全性>主な副作用として、注射部位反応(発現頻度 1%以上)、発疹・蕁麻疹や注射に伴う反応(発現頻度 1%未満)が報告されています。なお、重大な副作用として、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症(頻度不明)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.本剤は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療または発症抑制に用いられる薬です。2種類の中和抗体を投与することで、新型コロナウイルスに対する中和作用を示します。2.過去に薬剤などで重篤なアレルギー症状を起こしたことのある方は必ず事前に申し出てください。3.投与中または投与後に、発熱、悪寒、吐き気、不整脈、胸痛、脱力感、頭痛のほか、過敏症やアレルギーのような症状が現れた場合は、すぐに医療者または医療機関に連絡してください。<Shimo's eyes>エバシェルド筋注セットは、新型コロナウイルス感染症の「治療」と「発症抑制」の適応を取得した抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体です。ワクチンを除き、新型コロナウイルス曝露前の発症抑制に用いることのできる初めての医薬品です。既承認薬のカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)も発症抑制の適応を有していますが、カシリビマブ/イムデビマブの対象患者は濃厚接触者であり、本剤の対象は濃厚接触者ではない曝露前の人という違いがあります。治療目的での投与対象は、軽症~中等症I相当で、重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者です。しかし、供給量が限られていることや治療を目的とした薬は他にもあることから、当面の間は発症抑制を目的とした投与に限って薬剤が供給されます。発症抑制目的での投与対象は、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が推奨されない人や、免疫機能低下などによりワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある人です。事務連絡では、日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版」(2022年8月30日)を踏まえて以下のようになっています。抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者B細胞枯渇療法(リツキシマブなど)を受けてから1年以内の患者ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者キメラ抗原受容体T細胞レシピエント慢性移植片対宿主病を患っている、または別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者肺移植レシピエント固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから1年以内の患者T細胞又はB細胞枯渇剤による急性拒絶反応で最近治療を受けた固形臓器移植レシピエントCD4Tリンパ球細胞数が50cells/μL未満の未治療のHIV患者発症抑制の効果については、海外第III相試験(PROVENT 試験)において、プラセボ群と比較して、RT-PCR検査で陽性が確認された患者の症状のリスク減少率は76.7%であり、統計学的に有意な差が認められました。また、1回投与後、少なくとも6ヵ月間は感染抑制効果が持続することが示されています。新型コロナウイルス感染症の予防の基本はワクチン接種ですが、ワクチンを接種することができない人や効果が不十分と考えられる人に対するワクチン以外の予防の選択肢として期待されます。また、筋注ということから、訪問診療において曝露前の患者への投与が簡便であることも利点の1つと考えられます。<流通・費用>本剤は一般流通を行わず、厚生労働省が所有した上で、流通委託先を通じて対象医療機関に配分・無償譲渡されます。発症抑制目的での投与に限って配分されるため、計画的な投与が可能であることから在庫配置は認められていません。患者負担については、本来は薬剤費を含めて全額自己負担となるところですが、本剤を必要とする対象者にとって過度な負担とならないように、投与時の自己負担分の徴収金額は3,100円以下となる方針です。

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小児のコロナ後遺症は成人と異なる特徴~約66万人の解析

 小児における新型コロナウイルス感染症の罹患後症状には、成人とは異なる特徴があることを、米国・コロラド大学医学部/コロラド小児病院のSuchitra Rao氏らが明らかにした。同氏らは、新型コロナウイルスの感染から1~6ヵ月時点の症状・全身病態・投与された薬剤を調べ、罹患後症状の発生率を明らかにするとともに、リスク因子の特定を目的に、抗原検査またはPCR検査を受けた約66万人の小児を抽出して後ろ向きコホート研究を行った。これまでに成人における罹患後症状のデータは蓄積されつつあるが、小児では多系統炎症性症候群(MIS-C)を除くとデータは限られていた。JAMA pediatrics誌オンライン版2022年8月22日号掲載の報告。 解析対象となったのは、米国の小児病院9施設の電子カルテに登録があり、2020年3月1日~2021年10月31日の間に新型コロナウイルスの抗原検査またはPCR検査を受けた21歳未満の小児で、かつ過去3年間に1回以上受診(電話、遠隔診療を含む)したことのある65万9,286例。男性が52.8%で、平均年齢は8.1歳(±5.7歳)であった。 初回の抗原検査またはPCR検査の日から28~179日時点の、罹患後症状に関連する121項目の症状や全身病態、30項目の投与薬の計151項目を調べた。症状には発熱、咳、疲労、息切れ、胸痛、動悸、胸の圧迫感、頭痛、味覚・嗅覚の変化などが含まれており、全身病態には多系統炎症性症候群、心筋炎、糖尿病、その他の自己免疫疾患などが含まれていた。施設、年齢、性別、検査場所、人種・民族、調査への参加時期を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、検査陰性群に対する陽性群の調整ハザード比(aHR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナウイルスの陽性者は5万9,893例(9.1%)で、陰性者は59万9,393例(90.9%)であった。 ・1つ以上の症状や全身病態、投薬があったのは、陽性群で41.9%(95%信頼区間[CI]:41.4~42.4)、陰性群で38.2%(95%CI:38.1~38.4)で、差は3.7%(3.2~4.2)、調整後の標準化罹患率比は1.15(1.14~1.17)であった。・陰性群と比べて陽性群で多かった症状は、味覚・嗅覚の変化(aHR:1.96、95%CI:1.16~3.32)、味覚消失(1.85、1.20~2.86)、脱毛(1.58、1.24~2.01)、胸痛 (1.52、1.38~1.68)、肝酵素値異常(1.50、1.27~1.77)、発疹(1.29、1.17~1.43)、疲労・倦怠感(1.24、1.13~1.35)、発熱・悪寒(1.22、1.16~1.28)、心肺疾患の徴候・症状(1.20、1.15~1.26)、下痢(1.18、1.09~1.29)、筋炎(2.59、1.37~4.89)であった。・全身の病態は、心筋炎(aHR:3.10、95%CI:1.94~4.96)、急性呼吸促迫症候群(2.96、1.54~5.67)、歯・歯肉障害(1.48、1.36~1.60)、原因不明の心臓病(1.47、1.17~1.84)、電解質異常(1.45、1.32~1.58)であった。精神的な関連としては、精神疾患の治療(aHR:1.62、aHR:1.46~1.80) 、不安症状(1.29、1.08~1.55)があった。・多く用いられていた治療薬は、鎮咳薬・感冒薬のほか、全身投与の鼻粘膜充血除去薬、ステロイドと消毒薬の併用、オピオイド、充血除去薬であった。・多系統炎症性症候群以外で罹患後症状と強く関連していたのは、5歳未満、急性期のICU利用、複数または進行性の慢性疾患の罹患であった。 著者らは、「小児の新型コロナウイルス感染症の罹患後症状の発症率は少なかったが、急性期の重症、低年齢、慢性疾患の合併は罹患後症状リスクを高める」とともに「小児の罹患後症状では、成人でよく報告されている味覚・嗅覚の変化、胸痛、疲労・倦怠感、心肺の徴候や症状、発熱・悪寒など以外にも、肝酵素値異常、脱毛、発疹、下痢などが多いことに注意が必要である。とくに心筋炎は新型コロナウイルス感染症と最も強く関連する症状であり、小児では重要な合併症である」とまとめている。

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コロナ罹患後症状、約13%は90~150日も持続/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の持続する全身症状(いわゆる後遺症)としての呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害などの長期(90~150日)発生率は12.7%と推定されることが、オランダで約7万6,000例を対象に行われた観察コホート試験で示された。オランダ・フローニンゲン大学のAranka V. Ballering氏らが、同国北部在住者を対象にした、学際的前向き住民ベース観察コホート試験で、健康状態や健康に関連する生活習慣などを評価するLifelines試験のデータを基に、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者のマッチングコントロールで補正し、COVID-19に起因する罹患後症状の発生率を明らかにした。Lancet誌2022年8月6日号掲載の報告。23項目の身体症状を繰り返し調査 これまでのコロナ罹患後症状に関する検討では、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者における同様の症状の有病率や重症度を考慮した検討は行われておらず、研究グループは、SARS-CoV-2感染前の症状で補正し、非感染者の症状と比較しながら、COVID-19に関連する長期症状の経過、有病率、重症度の分析を行った。 検討はLifelines試験のデータを基に行われた。同試験では、18歳以上の参加者全員に、COVID-19オンライン質問票(digital COVID-19 questionnaires)が送達され、COVID-19診断に関連する23項目の身体症状(SARS-CoV-2アルファ[B.1.1.7]変異株またはそれ以前の変異株による)について、2020年3月31日~2021年8月2日に、24回の繰り返し評価が行われた。 SARS-CoV-2検査陽性または医師によるCOVID-19の診断を受けた被験者について、年齢、性別、時間をCOVID-19陰性の被験者(対照)とマッチングした。COVID-19の診断を受けた被験者については、COVID-19前後の症状と重症度を記録し、マッチング対照と比較した。90~150日時点の持続症状、陽性者21.4%、非感染者8.7% 7万6,422例(平均年齢53.7[SD 12.9]歳、女性は4万6,329例[60.8%])が、合計88万3,973回の質問に回答した。このうち4,231例(5.5%)がCOVID-19の診断を受けた被験者で、8,462例の対照とマッチングされた。 COVID-19陽性だった被験者において、COVID-19後90~150日時点で認められた持続する全身症状は、胸痛、呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害、四肢のうずき、喉のしこり、暑さ・寒さを交互に感じる、腕・足が重く感じる、疲労感で、これらについてCOVID-19前およびマッチング対照と比較した。 一般集団のCOVID-19患者のうち12.7%が、COVID-19後にこれらの持続症状を経験すると推定された。また、これらの持続症状の少なくとも1つを有し、COVID-19診断時またはマッチング規定時点から90~150日時点で中等度以上に大幅に重症度が増していた被験者は、COVID-19陽性被験者では21.4%(381/1,782例)、COVID-19陰性の対照被験者では8.7%(361/4,130例)だった。 これらの結果を踏まえ著者は、「検討で示された持続症状は、COVID-19罹患後の状態と非COVID-19関連症状を区別する最も高い識別能を有しており、今後の研究に大きな影響を与えるものである。COVID-19罹患後の関連症状を増大する潜在的メカニズムを明らかにする、さらなる研究が必要である」と述べている。

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