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鎮咳薬不足、増えた手間や処方優先患者は?/医師1,000人アンケート

 後発医薬品メーカーの不祥事などで医薬品供給不安が続いているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行が鎮咳薬不足に追い打ちをかけている。昨年9月には厚生労働省が異例とも言える「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」1)の通知を出し、処方医にも協力を仰いだことは記憶に新しい。あれから3ヵ月が経ち、医師の業務負担や処方動向に変化はあったのだろうか。今回、処方控えを余儀なくされていることで生じる業務負担や処方を優先する患者の選び方などを可視化すべく、『鎮咳薬の供給不足における処方状況』について、会員医師1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)にアンケート調査を行った。最も入手困難な薬剤、昨夏から変わらず まず、鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の在庫逼迫状況の理解について、勤務先の病床数を問わず全体の95%の医師が現況を認識していた。なお、処方逼迫について知らないと答えた割合が高かったのは200床以上の施設に勤務する医師(8%)であった。 次に入手困難な医薬品について、昨年8~9月に日本医師会がアンケート調査を行っており、それによると、院内処方において入手困難な医薬品名2,096品目の上位抜粋30品目のうち9品目が鎮咳薬/鎮咳・去痰薬であった2)。これを踏まえ、本アンケートでは鎮咳薬/鎮咳・去痰薬に絞り、実際に処方制限している医薬品について質問した。その結果、最も処方制限している医薬品には、やはりデキストロメトルファン(商品名:メジコン)が挙がり、続いて、チペピジンヒベンズ酸塩(同:アスベリン)、ジメモルファンリン酸塩(同:アストミンほか)などが挙げられた。この結果は1~19床を除く施設で同様の結果であった。処方が優先される患者、ガイドラインの推奨とマッチ? 鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の処方が必要な患者について、2019年に改訂・発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019』によると、“可能な限り見極めた原因疾患や病態に応じた特異的治療(末梢に作用する鎮咳薬や喀痰調整薬など)が大切”とし、中枢性鎮咳薬(麻薬性:コデインリン酸塩水和物ほか、非麻薬性:デキストロメトルファン、チペピジンヒベンズ酸塩ほか)の処方にはいくつか問題点があることを注意喚起しながらも、“患者の消耗やQOL低下をもたらす病的な咳の制御は重要であり、進行肺がんなど基礎疾患の有効な治療がない状況では非特異的治療は必要であるが3)、少なくとも外来レベルでは初診時からの中枢性鎮咳薬の使用は明らかな上気道炎~感染後咳嗽や、胸痛・肋骨骨折・咳失神などの合併症を伴う乾性咳嗽例に留めることが望ましい”と記している。よって、「高齢者」「疾患リスクの高い患者」への適切な処方が望まれるものの、不足している中枢性鎮咳薬を処方する患者の見極めが非常に重要だ。以下には、参考までにガイドラインのステートメントを示す。<ガイドラインでの咳嗽治療薬におけるステートメント>◆FAQ*1:咳嗽治療薬の分類と基本事項は 咳嗽治療薬は中枢性鎮咳薬(麻薬性・非麻薬性)と末梢性鎮咳薬に分類される。疾患特異的な治療薬はすべて末梢性に作用する。可能な限り原因疾患を見極め、原因に応じた特異的治療を行うことが大切である。中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える。*frequently asked question◆FAQ2:咳嗽治療の現状は さまざまなエビデンスが年々増加しているものの、咳が主要評価項目でなかったり評価方法に問題がある研究が多い。多種多様の治療薬選択における標準化はいまだ十分ではなく、臨床現場での有用性を念頭に本ガイドラインの改訂に至った。 では、処方の実際はどうか。本アンケート結果によると、20床未満の場合、2023年7月以前では「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「咳があるすべての患者」「処方を希望する患者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方が多く、希望患者への処方が高リスク患者へのそれよりも上回っていた。しかし、12月時点では、「喘息などを有する高リスク患者」「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「処方を希望する患者」「咳があるすべての患者」と処方を優先する順番が変わり、希望患者への処方を制限する動きがみられた。一方、20床以上においては2023年7月以前では「高齢者」「咳が3週間以上続く患者」「処方を希望する患者」の順で多かったが、12月時点では、「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方患者が多かった。このことからも、高齢者よりも咳が3週間以上続く患者(遷延性咳嗽~慢性咳嗽)に処方される傾向にあることが明らかになった。鎮咳薬不足による手間、1位は疑義照会対応 供給不足による業務負担や処方変化については、疑義照会件数の増加(20床未満:48%、20床以上:54%)、長期処方の制限(同:43%、同:40%)、患者説明・クレーム対応の増加(同29%、同17%)の順で医師の手間が増えたことが明らかになり、実践していることとして「患者に処方できない旨を説明」が最多、次いで「長期処方を控える」「処方すべき患者の優先順位を設けた」などの対応を行っていることがわかった。また、アンケートには「無駄な薬を出さなくて済むので、処方箋が一枚で収まるようになった(60代、内科)」など、このような状況を好機に捉える声もいくつか寄せられた。アンケートの詳細は以下にて公開中『鎮咳薬の供給不足における処方状況』<アンケート概要>目的:製造販売業者からの限定出荷が生じているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ等の感染症拡大に伴い、鎮咳薬などの在庫不足がさらに懸念されることから、医師の認識について調査した。対象:ケアネット会員医師 1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)調査日:2023年12月15日方法:インターネット

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咳の種類、危険な咳とは

患者さん、それは…危険な咳(せき) かもしれません!咳(せき)は、気道内に異物が混入するのを防ぎ、逆に気道内から異物を排除するための身体防御機構です。継続期間によって急性(3週間未満)、遷延性(3~8週間)、慢性(8週間超)と分類されます。また、痰(たん)を伴う咳を湿性[⇔乾性]と区分します。●こんな時に症状が出ませんか?□明け方・夜間 □運動時/後 □寒冷時□季節の変わり目●以下の症状はありませんか?□ヒューヒュー音 □のどの奥に鼻水が垂れる□声がかすれる□横になった時□口臭がある◆病気が潜んでいるかもしれない咳とは!?• 高熱や息苦しさ、胸痛があれば、すぐに医療機関へ受診しましょう• 遷延性(3~8週間)の咳の原因はウイルスやマイコプラズマなどによる気道感染です• 2ヵ月以上続く慢性咳は軽い喘息であることが多いです出典:日本気管食道科学会、外来を愉しむ攻める問診監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例【見落とさない!がんの心毒性】第27回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・男性主訴ECG異常、NT-proBNP高値既往歴高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴(+)、飲酒歴(-)家族歴父親:大腸がん、母親:狭心症現病歴X-9年の人間ドック受診時にPSA上昇を指摘されたため精査目的で泌尿器科を受診、前立腺生検を施行した。初回ならびに2回目(X-7年)の生検では陰性であったが、X-5年のドック検査でPSAがさらに上昇したことからMRI検査ならびに3回目の生検を施行し、前立腺がんと診断された。がん治療はアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy:ADT)と放射線の併用療法が選択された。X-5年3月から同年12月まで第一世代抗アンドロゲン薬が投与され、X-5年4月からX-4年6月までGnRHアゴニストが併用された。さらに、放射線療法(78Gy)をX-5年10~12月まで施行された。その結果、PSAは正常化した。がん治療終了後に心臓CT検査を施行したが、冠動脈に有意な狭窄は認めなかった。その後、泌尿器科の定期的な受診とかかりつけ医で生活習慣病の治療を受けており、引き続き年1回の人間ドックは当院を受診していた。X年に受診した人間ドックで運動負荷試験陽性(図1)、NT-pro BNP高値を指摘された。胸痛などの自覚症状は認めなかったが糖尿病などのリスク因子を有しており、虚血性心疾患の合併を疑い、精査加療目的で循環器内科を紹介し受診された。(図1)X年の人間ドックでの運動負荷心電図試験(マスターダブル負荷)画像を拡大するX年に受診した人間ドック時運動負荷心電図ではV4-V6でST低下を認め、NT-proBNP 152pg/mLの上昇を認めた。本例は、前立腺がん治療終了後に心臓CT検査が施行されるも、冠動脈に有意狭窄は認められず、前年までの運動負荷心電図所見の異常はなかった。心電図変化は比較的軽く、自覚症状も認めなかったが、高齢かつ複数の動脈硬化危険因子を有していたこと、ADTを施行されていたことから心血管疾患の合併を疑い精査を行った。循環器専門病院で施行した冠動脈造影検査では左冠動脈#7に75~90%狭窄を認めたため、同部位に冠動脈形成術(ステント留置術)を施行した。【問題】本症例の治療に際して注意する点として、適切な答えを選択せよ。a.前立腺がん症例の多くは、治療前より高齢、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの心血管リスクを複数有している事が多く、がん治療を施行する際には心血管毒性に対する注意が必要である。b.ADTの施行後は肥満症、糖尿病、脂質異常症を来すことがあり、その後の動脈硬化症や冠動脈疾患の発症に注意が必要である。c.症候性冠動脈疾患の既往を有する症例に対し、ADTを施行する際には、心血管リスクの有無を考慮したがん治療薬の選択が重要である。d.ADTにおける筋肉系合併症としてはサルコペニア・運動耐容能の低下、骨関連合併症としては骨粗鬆症・骨折などを認めることがあるので注意を要する。e.すべて正しい1)Studer UE, et al. J Clin Oncol. 2006;24:1868–1876.2)Calais da Silva FE, et al. Eur Urol. 2009;55:1269–1277.3)Weiner AB, et al. Cancer. 2021;127:2895-2904.4)Klimis H, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2023;5:70-81.5)Narayan V, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2021;3:737-741.6)Chen DY, et al. Prostate. 2021;81:902-912.7)Okwuosa TM, et al. Circulation. 2021;14:e000082.8)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;432:4229-4361.講師紹介

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膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は?【見落とさない!がんの心毒性】第25回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・男性主訴なし現病歴既往症はとくになし。背部痛を契機に病院を受診し、腹部エコーで膵頭部腫瘍、多発肝結節を指摘された。経皮的肝生検で膵がん(腺がん)の病理診断となった。造影CTで膵頭部の原発巣および多発肝転移、腹膜播種、腹水貯留を認めた。CA19-9が1,250U/mLと上昇していたほか、血液検査で臨床的に問題となる異常所見は認めなかった。膵がんStageIVの診断で、PS0と全身状態は良好であり、緩和的化学療法を導入する方針となった。ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GEM+nab-PTX)療法(GEM1,000mg/m2 day1,8,15/nab-PTX125mg/m2 day1,8,15/1サイクル=4週)を開始した。3サイクル終了後、がんの病勢評価のために造影CTを実施したところ、両肺動脈に造影欠損域が多発しており、偶発的肺塞栓症(incidental pulmonary embolism:incidental PE)が発覚した。【問題1】当該患者に連絡し、臨時で病院を受診するように指示をした。取り急ぎ確認すべきこと、必要な検査として優先度の低い選択肢を一つ選べ。a.自覚症状の有無(呼吸困難、胸痛など)の確認とバイタルサインb.血液検査 D-dimerc.血液検査 CA19-9d.心臓超音波検査e.下肢超音波検査【問題2】該当患者がPEを発症した原因を鑑別する上で、優先度の低い選択肢を一つ選べ。a.造影CTでがんの病勢確認b.DVTの確認c.GEMやnab-PTXによる薬剤性血栓塞栓症リスクの確認d.プロテインC/プロテインSの確認e.がん以外の合併症や内服薬の確認全体解説Incidental PEは症候性VTEと同様に抗血栓薬での治療を行うことがASCOガイドラインで提案されている3)。韓国で実施された後ろ向き研究で、肺がん患者におけるincidental PEについて評価された。8,014例の肺がん患者が登録されたデータベースにおいて、180例(2.2%)が治療経過の中でPEと診断されており、その内113例(63%)がincidental PEであった。肺がんの診断から3ヵ月以内にPEを発症した場合は予後不良(ハザード比[HR]:1.5)であり、またincidental PEに対する抗血栓療法を行わなかった場合は予後不良(HR:4.1)であったと報告されている4)。本邦からの単施設による後ろ向き研究では、incidental PEのがん患者における発症率は1.3%であり、PE合併がん患者の死亡率は高い(HR:2.26)ことが報告されている5)。incidental PEについて検討した大規模試験は多くないが、日常診療で経験される病態であり、基本的には症候性PEと同様に対応することが望ましい。Incidental PEはその診断経緯から無症候性であることも多い。スペインで実施された前向き観察研究では、PEに起因するうっ血性心不全や右室機能不全、活動性出血などの大きなリスクがないincidental PE患者に対する外来抗血栓療法の安全性が報告されており6)、一部の症例は入院管理を必要としない可能性も示唆されるが、その適応は循環器内科専門医により慎重に判断される必要がある。また、Incidental PEは進行期のがん患者、および化学療法による積極的な治療中のがん患者に発症することが多く、発症数週以内の死亡の可能性もあるため7)、無症状であっても過小評価するべきではない。当科でもincidental PEは年に数件程度の頻度で経験するが、約1/3は膵がん患者である。Incidental PEの発症時期は、がんの診断直後(数ヵ月以内)、化学療法中、原疾患が進行し予後数週と思われる時期、などさまざまである。化学療法中の患者の場合は化学療法を円滑に継続するために腫瘍専門医と循環器内科医の協力が必須である。原疾患が進行し予後が限られている場合は、出血リスクや入院加療による負担などを考慮した上で治療適応を慎重に判断することが求められる。1)Horsted F, et al. PLoS Med. 2012;9:e1001275.2)Campia U, et al. Circulation. 2019;139:e579-e602.3)Key NS, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3063-3071. 4)Sun JM, et al. Lung Cancer. 2010;69:330-336.5)Nishikawa T, et al. Circ J. 2021 Feb 17.[Epub ahead of print] 6)Martin AM, et al. Clin Transl Oncol. 2020;22:612-615.7)Olusi SO, et al. Vasc Health Risk Manag. 2011;7:153-158.講師紹介

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ICIによる心筋炎、現時点でわかっていること/日本腫瘍循環器学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は抗PD-1抗体のニボルマブが2014年に本邦で上市されて以来、抗PD-L1抗体や抗CTLA-4抗体も登場し、現在では臓器横断的に幅広いがん種に対し、単独投与のみならず併用投与も行われるようになった。しかし、その一方でさまざまな免疫関連有害事象(irAE)が報告されており、とくに循環器医も腫瘍医も恐れているirAEの1つに心筋炎がある。これは通常の心筋炎とは何が違い、どのように対処するべきなのだろうか―。9月30日~10月1日に開催された第6回日本腫瘍循環器学会学術集会のシンポジウム『免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応』において、3名の医師が心筋炎のメカニズムや病態、実臨床での事例やその対応について発表した。irAE心筋炎でわかっていること、わかっていないこと Onco-Cardiology教育に力を入れる田尻 和子氏(国立がん研究センター東病院 循環器科長)によると、あいにく現時点ではこの病態の解明には至っていないが、心筋炎を起こす免疫細胞の種類とその働き、免疫細胞を制御している分子・シグナル・液性因子、心臓のT細胞は何を敵だと思って攻撃しているのか、などの疑問が沸いている状況だという。同氏はこれらの疑問点を詳細に解説したうえで、「なぜICI投与患者の約1%だけが心筋炎を発症するのか、そして従来の心筋炎よりなぜ予後が悪いのか」と2つの疑問を挙げた。 前者については「ICI治療前に存在する患者固有の特徴によるのか、またはICI投与によって生じた何らかの事象に関連するのか」と問題提起。また、「心筋に特異的なタンパクであるαミオシンを免疫細胞が敵だと思いこみ自己免疫性心筋炎が発症することは明らかになっている1-4)ものの、心筋炎にならなかったICI投与患者の心筋にもαミオシン反応性T細胞が存在することから、なんらかのウイルス感染が引き起こしている可能性、根底にある遺伝的感受性や腸内細菌の関与も考えられる」とコメントした。 さらに後者の疑問に対しては「いわゆる一般的な心筋炎というのは治療介入しなくとも自然軽快していくが、irAE心筋炎はステロイド抵抗性であったり、免疫応答がより強力(マクロファージの比率が多い、より高密度のリンパ球浸潤)であったりするのではないか。T細胞がICIにより永久的にリプログラムされて抑制シグナルに耐性を持ち、ICI投与終了後数年にわたる可能性も否めない。さらに、ウイルス感染が原因であればそのウイルスを除去すれば終わりだが、irAE心筋炎のT細胞が認識する抗原が腫瘍や心筋だった場合はそれらが除去されないために炎症が収束しないのではないか」と、仮説を挙げた。心筋炎の発症頻度は1%超、致死率は25~40%の可能性 続いて発表した清田 尚臣氏(神戸大学医学部附属病院 腫瘍センター)はirAEの特徴と実際の発症頻度について解説。「当初の発症頻度は0.09%程度と言われていたが、現在のRCTメタ解析などによると最大で5.8%に上り、近年の報告の多くは1%を超えている。つまり、想定していたよりも頻度や致死率が非常に高く、発症までの期間中央値は30日前後であることが各種論文から明らかになってきた」と述べた。同氏の施設では年間290例(ICI延べ処方件数3,341件)がICI治療を行っているが、「irAEの発症頻度を3%、致死率を30%と想定した場合、当院では年間9人が発症し、約3人が死亡することになる」と、いかに発症を抑えることが重要かを示した。 同氏はオンコロジストとしてできることについて、JAVELIN Renal 101試験5)でのMACEの定義や頻度を示し、「ICIを使用する前には脂質異常症などの既往、ベースライン時点での心電図とトロポニン測定などを実施して評価をしておくことが必要。検査所見のみで無症状の場合もあるが、心筋炎を疑う症状(息切れ、胸痛、浮腫、動悸、ショック症状など)がみられたら躊躇せずに、心電図、トロポニンやBNPの測定、心エコーを実施してほしい」と述べ、「irAE心筋炎はCCU管理が必要になる場合もあるため、疑った時点で早期に循環器医にコンサルテーションすることも必要」と連携の重要性も説明した。心筋炎に遭遇、実臨床での適切な対応策 循環器医の立場で登壇した及川 雅啓氏(福島県立医科大学 循環器内科学講座)は、実際にirAE心筋炎に遭遇しており、その際の対処法としてのステロイドの有用性、irAE後のICI再投与について言及した。 同氏の施設ではICI外来を設置し、患者・医療者の双方に負担がない取り組みを行っている。概要は以下のとおり。<福島県立医科大学附属病院のICI外来>・ICI治療が予定される場合、がん治療を行う各科にてトロポニンI、心電図、心エコーのオーダーを行い、循環器内科ICI外来(カルテ診)へ紹介する。・検査結果をカルテにて確認し、ICI開始後約1ヵ月、3ヵ月、以後3ヵ月ごとにトロポニンI測定ならびに心電図検査を実施する。・問題が生じた場合には、各科主治医に連絡を取り、今後の方針を検討する。 上記のフォローアップを受けた全271例のうち、トロポニンIの上昇(>0.05ng/mL)を認めたのは15例(5.5%)で、そのうちirAE心筋炎と診断されたのは4例(1.4%)だったという。この4例に対しては「ESCガイドライン6)に基づく治療として、ICIを中止し、心電図モニターを行った後、メチルプレドニゾロン500~1,000mg/dayを最低3日間実施した。これで改善すれば経口プレドニゾロン1mg/kg/dayに切り替え、ステロイド抵抗性がみられた場合には2ndラインとして免疫抑制薬の投与に切り替えが必要となる。本症例ではステロイド治療が奏効したが、重篤化前の治療介入が非常に重要であることが明らかであった」。 また、irAE心筋炎を診断する際の検査値について、「トロポニンIの持続上昇は臨床的な心筋炎に至る可能性が高いため、綿密なフォローアップが必要である」と説明し、さらに「肝機能異常やCPK上昇を伴っていることも報告7)されているが、実際に当院の症例でも同様の傾向が見られた。このような検査値にも注意を払うことが診断精度向上につながる」と補足した。 ICI再投与についてはJAMA誌での報告8)を示し、「irAE発症者6,123例のうち452例(7.4%)に行われ、再投与により28.8%でirAEが再発している。irAE心筋炎を発症した3例に再投与が行われ再発は0例であったが、例数が少なく判断が難しい。この結果を見る限りでは、現時点で再投与を積極的に行うことは難しいのではないか」と個人的見解を示した。 なお、本シンポジウムでは発表後に症例検討のパネルディスカッションが行われ、会場からの質問や相談が尽きず、盛況に終わった。■参考文献日本腫瘍循環器学会1)Munz C, et al. Nat Rev Immunol. 2009;9:246-258.2)Tajiri K, et al. Int J Mol Sci. 2021;22:794.3)Won T, et al. Cell Rep. 2022;41:1116114)Axelrod ML, et al. Nature. 2022;611:818-826.5)Rini BI, et al. J Clin Oncol. 2022;40:1929-1938.6)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;44:4229-4361.7)Vasbinder A, et al. JACC CardioOncol. 2022;4:689-700.8)Dolladille C, et al. JAMA Oncol. 2020;6:865-871.

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内科系疾患を併発するうつ病患者への抗うつ薬の有用性~メタ解析

 内科的疾患を有する患者の3~6人に1人は、抗うつ薬が使用されているといわれている。しかし、通常の臨床試験では、併発疾患を有する患者は除外されている。抗うつ薬に関するメタ解析では、エフェクトサイズが小~中程度であることが示唆されているが、併発疾患がまん延している臨床現場において、一般化できるかは不明である。デンマーク・オーフス大学のOle Kohler-Forsberg氏らは、内科的疾患と併発するうつ病患者における抗うつ薬の有効性および安全性を明らかにするため、メタ解析エビデンスの包括的なシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、多くの内科的疾患では、大規模かつ質の高いランダム化比較試験(RCT)が少なかったものの、抗うつ薬は、併発疾患を有する患者のうつ病の治療および予防に対し効果的かつ安全に使用できることが示唆された。JAMA Psychiatry誌オンライン版2023年9月6日号の報告。 2023年3月までに公表された、あらゆる医学的疾患に併発したうつ病の治療または予防に対する抗うつ薬の有能性および安全性を評価したRCTのメタ解析または非メタ解析のシステマティックレビューをPubMed、EMBASEより検索した。分析対象には、内科的疾患を有する患者のうつ病に対する抗うつ薬の影響を評価したプラセボ対照または実薬対照RCTのメタ解析を含めた。データ抽出と品質評価には、PRISMAガイドラインに従い、AMSTAR-2およびAMSTAR-Contentを用い、独立したレビューアーのペアにより行った。複数のメタ解析に同じ研究が含まれていた場合には、最も大規模のメタ解析を含めた。ランダム効果メタ解析により、主要アウトカム(有効性)、主な副次的アウトカム(受容性、忍容性)、追加の副次的アウトカム(治療反応、寛解)に関するプールされたデータを分析した。抗うつ薬の有効性は標準化平均差(SMD)、忍容性(副作用による中止)および許容性(すべての原因による中止)はリスク比(RR)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・参考文献6,587件のうち、43種類の医学的疾患に関する176件のシステマティックレビューが特定された。・全体として、27種類の医学的疾患に関する52件のメタ解析がエビデンスの統合に含まれた(AMSTRA-2品質平均スコア:9.3±3.1[最大値:16]、AMSTRA-Content平均スコア:2.4±1.9[最大値:9])。・内科的疾患全体では、抗うつ薬使用はプラセボと比較し、うつ症状の改善が認められた(SMD:0.42、95%信頼区間[CI]:0.30~0.54、I2=76.5%)。疾患別では、心筋梗塞でSMDが最も高く、腰痛および外傷性脳損傷で低かった。【心筋梗塞】SMD:1.38(95%CI:0.82~1.93)【機能性の胸痛】SMD:0.87(95%CI:0.08~1.67)【冠動脈疾患】SMD:0.83(95%CI:0.32~1.33)【外傷性脳損傷】SMD:0.08(95%CI:-0.28~0.45)【腰痛】SMD:0.06(95%CI:0.17~0.39)・抗うつ薬使用は、プラセボと比較し、許容性(24件のメタ解析、RR:1.17、95%CI:1.02~1.32)および忍容性(18件のメタ解析、RR:1.39、95%CI:1.13~1.64)が劣っていた。・抗うつ薬使用は、プラセボと比較し、治療反応率(8件のメタ解析、RR:1.54、95%CI:1.14~1.94)および寛解率(6件のメタ解析、RR:1.43、95%CI:1.25~1.61)が良好であった。・抗うつ薬使用は、プラセボと比較し、うつ病を予防する可能性が高かった(7件のメタ解析、RR:0.43、95%CI:0.33~0.53)。

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心筋梗塞後の痛みで死亡リスクが上昇か

 心筋梗塞後の痛みは、胸痛に限らず、長期生存の予測因子となるようだ。新たな研究によると、心筋梗塞から1年後に痛みがある人では、その後の死亡リスクが上昇する可能性のあることが示唆された。ダーラナ大学(スウェーデン)保健福祉学分野のLinda Vixner氏らによるこの研究の詳細は、米国心臓協会(AHA)が発行する「Journal of the American Heart Association」に8月16日掲載された。 Vixner氏は、「痛みは重大な機能喪失を引き起こし、身体障害をもたらす可能性がある。これらの問題は、いずれも世界的な公衆衛生問題につながっている。しかし、心筋梗塞後に生じる痛みが死亡リスクに与える影響について、これまで大規模な研究で検討されたことはない」と述べる。 この研究でVixner氏らは、スウェーデンの心疾患のデータベース(SWEDEHEART)から、2004年から2013年の間に心筋梗塞を起こした75歳未満の患者1万8,376人(平均年齢62.0歳、男性75%)のデータを分析した。患者は、退院から12カ月後の時点の追跡調査において、痛みも含めた健康に関する質問票に回答していた。痛みについては、「痛みや不快感はない」「中等度の痛みや不快感がある」「非常に強い痛みや不快感がある」の3つの選択肢が用意されていた。この追跡調査から最長8.5年間(中央値3.4年間)のあらゆる原因による死亡(全死亡)に関するデータを集めて、心筋梗塞から1年後の痛みの重症度と全死亡との関連について検討した。 対象者の4割以上が、退院から12カ月後の追跡調査時に中等度または非常に強い痛みのあることを報告していた(中等度の痛み:7,025人、非常に強い痛み:834人)。年齢や性別、胸痛、BMIなどの関連因子を調整して解析した結果、中等度の痛みがあった患者では、その後、最長8.5年間における全死亡リスクが、痛みのない患者よりも35%高いことが明らかになった(ハザード比1.35、95%信頼区間1.18〜1.55)。また、非常に強い痛みのある患者での同リスクは、痛みのなかった患者の2倍以上だった(同2.06、1.63〜2.60)。心筋梗塞後の痛みについては、退院から2カ月後にも調査が行われたが、この際に痛みを経験していた患者の65%は12カ月後の追跡調査時にも痛みを訴えており、痛みが慢性的なものであることが示唆された。 Vixner氏は、「心筋梗塞後には、将来の死亡の重要なリスク因子として痛みの有無を評価し、認識することが重要だ。また、激しい痛みは、リハビリテーションや定期的な運動などの心臓を保護する重要な活動への参加を妨げる可能性がある」と指摘。「痛みのある患者においては、喫煙、高血圧、高コレステロール値など、他のリスク因子を減らすことが特に重要だ」と話している。さらに研究グループは、「医師は、治療を勧めたり予後を判断したりする際に、患者が中等度または非常に強い痛みを経験しているかどうかを考慮すべきだ」と述べている。ただし、この研究はスウェーデンに住んでいる人だけを対象としているため、他の国に住んでいる人には当てはまらない可能性がある。 なお、AHAによると、米国では40秒に1件の割合で心筋梗塞が生じているという。

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Long COVIDは頭痛の有無でQOLが異なる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降にさまざまな症状が遷延している状態、いわゆる「long COVID」の病状を、頭痛に焦点を当てて詳細に検討した結果が報告された。頭痛を有する患者はオミクロン株流行以降に増加したこと、年齢が若いこと、生活の質(QOL)がより大きく低下していることなどが明らかになったという。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学分野の大塚文男氏の率いる診療・研究チームによるもので、「Journal of Clinical Medicine」に5月18日掲載された。 この研究は、岡山大学病院総合内科・総合診療科に設けられている、コロナ・アフターケア(CAC)外来を2021年2月12日~2022年11月30日に受診した患者から、研究参加への不同意、年齢が10歳未満、データ欠落などに該当する人を除外した482人を対象とする、後方視的観察研究として行われた。Long COVIDは、COVID-19感染から4週間以上経過しても何らかの症状が持続している状態と定義した。 解析対象の4分の1弱に当たる113人(23.4%)が受診時に頭痛を訴えていた。頭痛の有無で二分し比較すると、頭痛あり群は年齢が若いこと〔中央値37(四分位範囲22~45)対42(28~52)歳、P<0.01〕以外、性別の分布、BMI、喫煙・飲酒習慣に有意差はなかった。COVID-19急性期の重症度についても、両群ともに軽症が8割以上を占めていて、有意差はなかった。また採血検査の結果は、炎症マーカー、凝固マーカーも含めて、主要な項目に有意差が認められなかった。 その一方、COVID-19罹患の時期を比較すると、頭痛なし群はデルタ株以前の流行時に罹患した患者が53.9%と過半数を占めていたのに対して、頭痛あり群ではオミクロン株出現以降に罹患した患者が61.1%を占めていた(P<0.05)。また、頭痛なし群ではCOVID-19罹患から平均84日後にCAC外来を受診していたが、頭痛あり群では約2週間早く外来紹介されていた(P<0.01)。 頭痛以外の症状の有病率を比べると、以下に挙げるように、頭痛あり群の方が有病率の高い症状が複数認められた(以下の全てがP<0.05)。倦怠感(76.1対54.7%)、不眠症(36.2対14.9%)、めまい(16.8対5.7%)、発熱(9.7対3.8%)、胸痛(5.3対1.1%)。一方、嗅覚障害の有病率は、頭痛あり群の方が有意に低かった。 次に、さまざまな症状の主観的評価指標〔抑うつ症状(SDS)、胃食道逆流症(FSSG)、倦怠感(FAS)〕のスコアを見ると、それらのいずれも、頭痛あり群で症状が有意に強く現れていることを示しており、QOLの評価指標(EQ-5D-5L)は頭痛あり群の方が有意に低かった(P<0.01)。 続いて、EQ-5D-5Lスコア0.8点未満をQOL障害と定義して、多変量解析にて独立して関連する症状を検討。その結果、最もオッズ比(OR)の高い症状は頭痛であることが明らかになった〔OR2.75(95%信頼区間1.55~4.87)〕。頭痛のほかには、しびれ〔OR2.64(同1.33~5.24)〕、倦怠感〔OR2.57(1.23~5.34)〕、不眠症〔OR2.14(1.24~3.70)〕などがQOL低下と独立した関連があり、反対に嗅覚障害は唯一、負の有意な関連因子として抽出された〔OR0.47(0.23~1.00)〕。 著者らは本研究の限界点として、単一施設での後方視的研究であるため解釈の一般化が制限されること、頭痛の臨床像が詳しく検討されていないことなどを挙げている。その上で、「頭痛はlong COVIDの最も深刻な症状の一つであり、単独で出現することもあれば、ほかの多くの症状と併存することもある。頭痛がほかの症状の主観的評価に悪影響を及ぼす可能性もあり、long COVIDの治療に際しては頭痛への対処も優先すべきではないか」とまとめている。

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フッ化ピリミジン系薬剤投与による胸痛発作症例【見落とさない!がんの心毒性】第22回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別60代・男性主訴 胸痛既往歴脂質異常症、糖尿病生活歴タバコ20本/日×38年現病歴X年10月下部食道扁平上皮がん T3N2M1(肝転移)、ステージIVbの診断で、放射線化学療法の方針となった。放射線療法50Gy+化学療法「シスプラチン+フルオロウラシル」2コースの初期治療に続いて、「ネダプラチン+フルオロウラシル」を6コース行い完全寛解となった。X+2年7月食道がんの局所再発あり。光線力学的療法(Photodynamic Therapy:PDT)を500J実施したが、同年9月のCT、PETでリンパ節転移を認め、ネダプラチン+フルオロウラシルを再開した。再開1回目の入院治療時、持続点滴開始3日後に胸部絞扼感が出現。モニター心電図の変化が疑われ循環器科受診。心筋逸脱酵素の上昇はなく、安静時心電図正常、負荷心電図陰性、心エコーも特記所見がなかったため、頓服用の硝酸薬が処方され退院。さらに、2コース目の治療入院の際にもフルオロウラシル持続点滴開始2日目に胸痛発作あり、Ca拮抗薬を開始しつつホルター心電図を実施した。退院後は胸痛発作なく過ごしたため、3コース目で入院したが化学療法開始後に胸痛発作が出現したため、さらに硝酸薬を追加し、がん治療は中止した。循環器科初診時の検査データWBC 3,000/μL、RBC 487×104/μL、Hb 15.2g/dL、Plt 18.0×104/μL、TP 6.9g/dL、Alb 4.3g/dL、AST 23U/L、ALT 32U/L、ALP 230U/L、LDH 178U/L、CK 88U/L、CRP 0.13mg/dl、Na 141mmol/L、K 4.4mmol/L、Cl 102mmol/L、BUN 10.8mg/dL、Cr 1.15mg/dL、Glu 116mg/dL、CEA 1.9ng/mL、CA19-9 16.4U/mL、SCC抗原 1.5ng/mL、BNP 33.2pg/mL、トロポニンT 0.012ng/mL(正常<0.014 ng/mL)安静時心電図と胸痛発作時を含むホルター心電図を以下に供覧。<安静時心電図>画像を拡大する心電図所見洞調律、正常範囲。追加で行ったマスターダブル負荷試験は陰性。<ホルター心電図>【発作時の圧縮波形】画像を拡大する心電図所見心室性期外収縮が出現し、徐々にST上昇の変化をきたしていることが確認できます。【拡大波形】画像を拡大する心電図所見非発作時:ST上昇なし。心電図変化:(1)に比し、ch1でST上昇傾向を認めます。胸痛発作:(2)と比し、ch1でのST上昇が顕著となっています。【問題】本症例の病状、方針として妥当と思われるものはどれか?a.症状、心電図変化からフルオロウラシルに関連した冠攣縮性狭心症を考える。b.3コース目で治療を中止しているが、さらに、ニコランジルなどの冠拡張薬を追加し同一の化学療法を継続すべき。c.ST上昇を認めるので、速やかに心臓カテーテル検査などの精査を行うべき。d.抗がん剤治療のレジメン自体を見直す。1)Shiga T, et al. Curr Treat Options Oncol. 2020;21:27.2)Cucciniello T, et al. Front Cardiovasc Med. 2022;9:960240.3)Chong JH, et al. Interv Cardiol. 2019;14:89-94.4)Redman JM, et al. J Gastrointest Oncol. 2019;10:1010-1014.5)Zafar A, et al. JACC CardioOncol. 2021;3:101-109.講師紹介

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コロナ罹患後症状、スコアに基づく定義を提案/JAMA

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染後に生じる持続的であり再発を繰り返す、あるいは新規の症状は、罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)と呼ばれ、long COVIDとしても知られている。米国・マサチューセッツ総合病院のTanayott Thaweethai氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)によるRECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)Initiativeの一環として、RECOVER成人コホート9,764例のデータを解析し、SARS-CoV-2感染者では非感染者と比較して37症状が感染後6ヵ月以上の時点で多く認められ、このうち12症状の症状スコアに基づき、PASCを定義する予備的ルールを開発した。著者は、「PASCの実用的な定義のためには、他の臨床的特徴をさらに組み込み反復的な改良が必要である」とまとめている。JAMA誌オンライン版2023年5月25日号掲載の報告。NHIによるRECOVER成人コホートのデータを解析 研究グループは、米国の33州とワシントンDC、ならびにプエルトリコの85施設(病院、保健所、地域団体)において、18歳以上のSARS-CoV-2感染者および非感染者を登録し(RECOVER成人コホート)、前向き観察コホート研究を行った。登録は現在も行われており、今回の解析は2023年4月10日以前に登録された参加者を解析コホートとした。 感染者は、COVID-19の疑い、可能性および確定のWHO基準を満たしていることとし、COVID-19発症日またはSARS-CoV-2検査陽性日を指標日とした。また、非感染者は、SARS-CoV-2感染歴がなく、過去のSARS-CoV-2検査が陰性であった日を指標日とした。参加者は受診および遠隔により症状調査を受け、指標日から6ヵ月以上後の調査を完了している参加者を解析対象とした。 主要アウトカムは、参加者が報告した44の症状の有無で、これらの症状を用いてPASCを特定する予備的定義を作成し、PASCの頻度について解析した。PASCスコアに寄与する12症状を特定 解析対象は、適格基準を満たした9,764例(感染者8,646例、非感染者1,118例)。対象集団の背景は、女性71%、ヒスパニック/ラテン系16%、非ヒスパニック系黒人15%、年齢中央値47歳(四分位範囲[IQR]:35~60)であった。 全体において、44症状のうち、37症状が頻度2.5%以上かつ補正後オッズ比1.5以上(感染者vs.非感染者)であった。頻度(重症度閾値を使用)の絶対差が15%以上の症状は、労作後倦怠感(PEM)、疲労、浮動性めまい、ブレインフォグおよび消化管症状であった。 37の各症状に推定係数に基づいてスコアを割り付け、PASCを特定するためのスコア閾値を求めた結果、12の症状(労作後倦怠感、疲労、ブレインフォグ、浮動性めまい、消化管症状、動悸、性的欲求・性機能の変化、嗅覚・味覚の喪失または変化、口渇、慢性咳嗽、胸痛、異常行動)が特定され、各症状のスコアは1~8で、PASCスコアの閾値は合計12点以上であった。 2021年12月1日以降(オミクロン株流行期)に初感染し、感染後30日以内に登録された参加者2,231例のうち、6ヵ月時点でのPASC陽性者は224例(10%、95%信頼区間:8.8~11)であった。

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Long COVIDは5タイプに分類できる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期を過ぎた後に何らかの症状が遷延する、いわゆる「long COVID」は、5タイプに分類可能であるとする論文が「Clinical and Experimental Medicine」に4月7日掲載された。聖マリアンナ医科大学総合診療内科の土田知也氏らによる研究によるもので、就労に影響が生じやすいタイプも特定された。 Long COVIDは長期間にわたり生活の質(QOL)を低下させ、就労にも影響が及ぶことがある。現在、治療法の確立が急がれているものの、long COVIDの病態の複雑さや多彩な症状を評価することの困難さなどのために、新規治療法の有効性を検討する臨床試験の実施にも高いハードルがある。そのため、まずlong COVIDをいくつかのタイプに分類して、それぞれのタイプを特徴付けるという試みが始まっており、海外発のそのような研究報告も存在する。ただし、QOL低下につながりやすい就労への影響という点を勘案した分類は、まだ提案されていない。土田氏らの研究は、以上を背景として行われた。 2021年1月18日~2022年5月30日に同院のCOVID-19後外来を受診した患者のうち、PCR検査陽性の記録があり、感染後に症状が2カ月以上続いている15歳以上の患者497人(平均年齢41.6歳、男性43.1%)を解析対象とした。対象者の中には甲状腺機能低下症やうつ病が疑われる患者も含まれていたが、症状にlong COVIDの影響はないと明確には判断できないことから、除外せずに解析した。 対象者には、23項目から成る自覚症状のアンケート(該当するものを○、強く該当するものを◎で回答する)と、慢性疲労症候群の評価に使われている9項目から成るパフォーマンスステータス(PS)質問票に答えてもらった。就労状況については、罹患前と同様に勤務継続、職務内容の変更、休職、退職という四つに分類した。 結果について、まず自覚症状に着目すると、○または◎のいずれかが最も多かった症状は倦怠感(59.8%)で、次いで不安(42.3%)、嗅覚障害(41.9%)、抑うつ(40.2%)、頭痛(38.6%)などだった。◎が最も多かったのは同じく倦怠感(40.2%)で、次いで嗅覚障害(26.6%)、味覚障害(18.1%)、脱毛(14.9%)、呼吸困難(13.7%)、頭痛(11.1%)などだった。 次に、特徴の似ているデータをグループ化するクラスター分析という手法により、long COVIDのタイプ分類を行った結果、以下の5タイプに分けられることが分かった。 タイプ1は倦怠感が強いことが特徴で全体の21.8%が該当。タイプ2は倦怠感のほかにも呼吸困難、胸痛、動悸、物忘れを訴える群で14.9%が該当。タイプ3は倦怠感、物忘れ、頭痛、不安、抑うつ、不眠症、モチベーション低下を訴える群で20.8%が該当。タイプ4は倦怠感が少なく脱毛を主症状とする群で19.8%が該当。タイプ5も倦怠感が少なく味覚障害や嗅覚障害が主体の群で22.8%が該当。 これらの群を比較すると、タイプ4は他群より高齢で、タイプ2や4は女性が多く、タイプ2はCOVID-19急性期に肺炎合併症を来していた割合が高いといった有意差が認められた。外来初診時のPSスコア(点数が高いほど生活の支障が強い)は、タイプ2が最も高く中央値4点(四分位範囲2~6)、続いてタイプ3が3点(同2~5)、タイプ1が2点(1~5)であり、タイプ4と5は0点(0~1)だった。症状発現から受診までの期間はタイプ5が最も長く、BMIについてはタイプによる有意差がなかった。 就労状況に関しては、発症以前と変更なしの割合がタイプ1から順番に50.0%、41.9%、43.7%、77.6%、84.1%、職務内容の変更を要した割合は、24.1%、13.5%、9.7%、2.0%、7.1%、休職中は20.4%、36.5%、39.8%、16.3%、7.1%、退職に至った割合は5.6%、8.1%、6.8%、4.1%、1.8%であり、タイプ2や3で休職中の割合が高く、タイプ4や5はその割合が低いという差が認められた。 このほか、自律神経機能検査によって体位性起立性頻拍症候群〔POTS(立ち上がると脈拍が大きく変化する)〕と診断された割合が、自覚症状に倦怠感が含まれているタイプ1~3で高く、特にタイプ2では33.8%と3人に1人が該当することが分かった。 以上を基に著者らは、「long COVIDはその臨床症状から5タイプに分類可能」と結論付け、また倦怠感を訴えるタイプにはPOTSが多く、POTSは治療により改善も認められるケースがあることから、「タイプ1~3に該当する患者では自律神経機能の評価が重要ではないか」と付け加えている。なお、研究の限界点としては、単施設の外来患者を対象としたものであり、外来通院も困難な重症long COVID患者が含まれていないこと、解析対象期間が異なれば異なる変異株の感染患者が含まれるため、クラスター分析の結果も変わってくる可能性のあることなどを挙げている。

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がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?【見落とさない!がんの心毒性】第21回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別30代・男性主訴右下腿の腫脹・疼痛現病歴とくに既往症はなく、生来健康であった。陰嚢腫大を契機に右精巣腫瘍を指摘された。高位精巣摘除術で非セミノーマの診断となり、術後の血液検査で腫瘍マーカーの上昇(LDH、hCG-β、AFP)と、造影CT検査で領域リンパ節と傍大動脈リンパ節の多発転移(最大径4cm)、多発肺転移(最大径3cm)を指摘された。右精巣腫瘍(胚細胞腫瘍・非セミノーマ)、TNM分類はT2N2M1aS1、ステージIIIA、IGCCC分類の予後良好群と診断された。化学療法は腫瘍内科医が担当することとなった。腫瘍内科医は症例患者のステージ、リスク分類から、標準治療であるBEP療法 (ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン) 3コースを行う方針とした。BEP療法2コース後、腫瘍マーカーは正常範囲内まで改善したが、発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)や消化器毒性、倦怠感など化学療法に伴う有害事象があり、入院中も臥床時間が長い傾向にあった。1コース目でFNを発症したため、2コース目は二次予防的にG-CSF製剤を使用した。3コース目開始前日に右下腿の腫脹・疼痛の訴えがあり、血液検査を実施したところD-dimerが9.5μg/mLと高値であった。右下腿の腓腹筋の把握痛を認めたため、腫瘍内科医は深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)を疑い下肢静脈超音波検査を行ったところ、右大腿〜膝窩静脈に比較的新鮮と思われる血栓(中枢型DVT)を認めた。バイタルサインに問題はなく、呼吸困難や胸痛の訴えはなかったが、造影CT画像検査で左右の肺動脈に塞栓がみられ、肺塞栓症(PE:pulmonary embolism)も合併していることがわかった。多発リンパ節転移、多発肺転移は化学療法導入前より縮小傾向にあり、リンパ節転移はいずれも短径1cm未満、肺転移も長径2cm未満となっており、化学療法は奏効していると思われた。【問題1】本症例の患者がDVT/PEを発症した原因や誘因について、正しいと思われる選択肢を3つ選んでください。a.長期臥床や骨盤リンパ節転移による下肢静脈の圧排による血流停滞が血栓形成の誘因となった。b.シスプラチンは一般的に血栓塞栓症のリスクが高い抗がん剤とされている。c.ブレオマイシンは一般的に血栓塞栓症のリスクが高い抗がん剤とされている。d.固形がんにおける化学療法中のDVTの発症頻度はがん種によって差があり、胚細胞腫瘍は比較的リスクが高いがん種である。e.化学療法による有害事象対策のための支持療法に使用する薬剤は血栓塞栓症のリスクにはならない。腫瘍内科医は本症例の患者におけるDVT/PEの治療について、循環器内科医にコンサルトした。心電図検査、心臓超音波検査で右室負荷所見は認めず、循環動態は保たれていると判断した。腫瘍内科医と循環器医で協議し、治療方針について検討を行った。【問題2】本症例の治療方針について、不適切な選択肢を1つ選んでください。a.腎機能や体重を確認し、経口薬であるDOACs(direct oral anticoagulants)でDVT/PEの治療を開始した。b.抗凝固薬を開始してもDVTが軽快せず、PEが悪化した場合に致死的になるリスクが高いと思われる場合はIVCフィルターを検討する方針とした。c.腫瘍マーカーの値やCTの結果から、胚細胞腫瘍の病勢はコントロールできているため、DVT/PEの治療を優先し、血栓・塞栓が画像上完全に消失したことを確認してから化学療法を再開する方針とした。d.化学療法がDVT/PEの誘因になった可能性は否定できないが、抗凝固薬を開始してDVT/PEの明らかな増悪がなければBEP療法の3コース目は減量せずに実施する方針とした。e.化学療法後に残存腫瘍に対する外科的切除術を行う可能性があるため、DVT/PEの治療状況や心機能の評価は循環器内科医が併診しながら慎重に経過を観察した。<Take home message>血管新生阻害薬やHER2阻害薬などの分子標的薬、または免疫チェックポイント阻害薬における循環器領域の有害事象が腫瘍循環器領域でのトピックになっているが、いわゆる抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)でも腫瘍循環器的プロブレムがみられることがある。それぞれの薬剤における頻度・致死性の高い有害事象を理解することは、腫瘍内科医、循環器内科医の双方にとって重要である。腫瘍内科医は「がんの治療は詳しいが、循環器の治療はよくわからない」。一方で、循環器内科医は「循環器の治療は詳しいが、がんの治療はよくわからない」。腫瘍内科医と循環器内科医が密に連携し、それぞれの専門領域の観点からベストと思われる対応を目指すことが、腫瘍循環器的プロブレムのより良い管理にとって必要である。1)Seng S, et al. J Clin Oncol. 2012;30:4416-4426.2)Oppelt P, et al. Vasc Med. 2015;20:153-161.3)Piketty AC, et al. Br J Cancer. 2005;93:909-914.4)Lauritsen J, et al. J Clin Oncol. 2020;38:584-592.5)Haddad TC, et al. Thromb Res. 2006;118:555-568.6)Khorana AA, et al. Cancer. 2005;104:2822-2829.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. N Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Empowering urologists to provide the best possible care:Testicular Cancer11)Motzer RJ, et al. Cancer. 1990;66:857-861. 12)Mulder FI, et al. Blood. 2021;137:1959-1969.講師紹介

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ICIの継続判断にも有用、日本初のOnco-cardiologyガイドライン発刊

 本邦初となる『Onco-cardiologyガイドライン』が第87回日本循環器学会学術集会の開催に合わせて3月10日に発刊された。これまで欧州ではESC(European Society of Cardiology、欧州心臓病学会)などがガイドラインを作成・改訂しており、国内でもガイドライン発刊が切望されていたことから、日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が協働しMindsに準拠したものを作成した。今回、学術集会の会長企画シンポジウム6「OncoCardiology:診断と治療Up-to-Date」において、Onco-cardiologyガイドラインのポイントについて発表された。Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題10項目を選定 Onco-cardiologyガイドラインの目的は、(1)がん診療において心機能を正確に評価し、心血管疾患を適切に管理すること、(2)がん治療を中断することなく可能な限り継続することで、本ガイドラインの利用によってがん患者の全生存率とQOL改善が期待される。 Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題を以下のように10項目を選定し、がん患者が薬物治療を行う過程からその後のがん治療関連心血管毒性(静脈血栓塞栓症、肺高血圧症、心不全)発現時の対応方法に関するquestionが盛り込まれている(p.9 総説1-9参照)。<重要臨床課題>1)がん薬物療法中の心機能のモニター2)心血管イベントを発症した患者に対する薬物療法の選択3)トラスツズマブのマネジメント4)血管新生阻害薬のマネジメント5)プロテアソーム阻害薬のマネジメント6)免疫チェックポイント阻害薬のマネジメント7)がん薬物療法における静脈血栓塞栓症のマネジメント8)がん薬物療法における肺高血圧症のマネジメント9)心毒性を有するがん薬物療法のマネジメント10)がん薬物療法における心血管イベントの予防 上記の2)を担当した矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科 診療部長/教授)は、「がん薬物療法中の心血管イベントを理由にがん薬物療法を中止することは再発率の増加や全生存期間の短縮につながることから、『Background question(BQ)2:がん薬物療法中に心血管イベントを発症した患者に対して、がん薬物療法を継続することは推奨されるか?』を設定した」とコメント。また、「欧米のガイドラインと比較して、Onco-cardiologyガイドラインはエビデンスのあるquestionはシステマティックレビューを行いCQとしたが、エビデンスのないquestionはBQまたはfuture research question(FRQ)にした点に注目してほしい」と述べ、「がん薬物療法が有効でかつ治療継続が可能と判断できる場合は、モニタリングと対症療法を行いながらがん治療の継続を検討する。治療継続が困難な場合は代替療法について検討することをこのBQのステートメントにした」と説明した。Onco-cardiologyガイドラインにICIと心筋炎の関係性 Onco-cardiologyガイドラインで、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と心筋炎の関係性について解説した庄司 正昭氏(国立がん研究センター中央病院総合内科・循環器内科)は、「ICIによる心筋炎は直接的なものと間接的なものがあるが、いずれもスクリーニングにはトロポニンや心電図などが重要」と話し、「トロポニンはICI心筋炎患者の94%で上昇を認めたが、トロポニンが上昇しても臨床的な心筋障害を認めないケースも報告されている。また、心電図異常はICI心筋炎患者の89%で認められた1)」と述べた(FRQ6-1:ICI投与中の心筋障害診断のスクリーニングは有用か?)。 さらに、心筋障害発生時のステロイドの使用(BQ6-2:ICIによる心筋障害発生時、その治療としてステロイド療法は有用か?)について、「使用すべき種類・投与経路・用量は定まっていないが有用な可能性があるため、ステロイドを選択しない手はない」とコメントし、座長ならびに演者を務めた阿部 純一氏(MDアンダーソンがんセンター 教授)からの“ICIで発症リスクの高い虚血性心疾患との鑑別”に関する問い対して、同氏は「虚血性心疾患では胸痛などの症状が見られることから、それらの患者の訴えにしっかり耳を傾けることがスクリーニング検査とともに重要」と回答した。Onco-cardiologyガイドラインにがん患者の高血圧治療 高血圧の視点からOnco-cardiologyについて解説した赤澤 宏氏(東京大学医学部付属病院 循環器内科)によると、がん患者における高血圧の管理や治療に関するエビデンスがほとんどない状況だという。実際に、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では『第7章:他疾患を合併する高血圧』にも項目立てられておらず、『第13章:二次性高血圧-薬剤誘発性高血圧 4)その他』の1つとして、がん分子標的薬、主として血管新生阻害薬(抗VEGF抗体医薬あるいは複数のキナーゼに対する阻害薬など)により高血圧が誘発される。発症率については薬剤、腫瘍の種類などにより異なるが、これらの薬剤使用時には血圧変化に注意する。通常の降圧薬を用いた治療を行うと、ESCのポジションペーパー同様の記載がなされている。このような現状を踏まえ、「JSH2025年改訂版には腫瘍循環器としてのCQを提案していきたい」と意気込んだ。なお、Onco-cardiologyガイドラインでは、『BQ4:血管新生阻害薬投与中の患者に対し、血圧管理が必要か?』が設定されており、血管新生阻害薬投与中の患者においても、非がん患者と同等の血圧コントロールをすることが望ましく、「がん患者における高血圧治療のエビデンスは乏しく、降圧治療の適応や強度は、がんの治療内容や予後、パフォーマンスステイタス、年齢や併存疾患、臓器障害、脳心血管リスクなどのさまざまな背景を考慮して、個別に対応する必要がある」と強く訴えた。

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ソトラシブ、KRASG12C変異陽性NSCLCのPFSを延長/Lancet

 既治療のKRASG12C変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、KRASG12C阻害薬ソトラシブは標準治療であるドセタキセルと比較して、無増悪生存期間(PFS)を延長し、安全性プロファイルも優れることが、オランダがん研究所のAdrianus Johannes de Langen氏らが実施した「CodeBreaK 200試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2023年2月7日号で報告された。22ヵ国148施設の実薬対照第III相試験 CodeBreaK 200試験は、日本を含む22ヵ国148施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2020年6月~2021年4月の期間に患者の登録が行われた(Amgenの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、KRASG12C変異を有する進行NSCLCで、プラチナ製剤を用いた化学療法か、PD-1またはPD-L1阻害薬による前治療後に病勢が進行した患者であった。 被験者は、ソトラシブ(960mg、1日1回、経口)またはドセタキセル(75mg/m2、3週ごと、静脈内)の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目はPFSであり、盲検下の独立した中央判定によりintention-to-treat解析が行われた。 345例が登録され、ソトラシブ群に171例(年齢中央値64.0歳[範囲:32~88]、男性63.7%、脳転移の既往34%)、ドセタキセル群に174例(64.0歳[35~87]、54.6%、35%)が割り付けられた。それぞれ169例(99%)、151例(87%)が少なくとも1回の試験薬の投与を受けた。ドセタキセル群のうち、最終的に59例(34%)がKRASG12C阻害薬を投与された(ソトラシブ群へのクロスオーバーが46例、試験薬中止後の後治療としての投与が13例)。全奏効率、奏効期間、QOLも良好 全体の追跡期間中央値は17.7ヵ月(四分位範囲[IQR]:16.4~20.1)で、治療期間中央値はソトラシブ群が19.9週(範囲:0.4~101.3)、ドセタキセル群は12.0週(3.0~101.0)であった。 PFS中央値は、ドセタキセル群の4.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:3.0~5.7)に比べ、ソトラシブ群は5.6ヵ月(4.3~7.8)と、統計学的に有意に長かった(ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.51~0.86、p=0.0017)。1年PFS率はソトラシブ群が24.8%、ドセタキセル群は10.1%だった。 全奏効率は、ドセタキセル群13.2%に比し、ソトラシブ群28.1%であり、有意な差が認められた(群間差:14.8%、95%CI:6.4~23.1、p<0.001)。奏効までの期間はソトラシブ群で短く(1.4ヵ月vs.2.8ヵ月)、奏効期間はソトラシブ群で長かった(8.6ヵ月vs.6.8ヵ月)。全生存(OS)率は両群間に差がなく(HR:1.01、95%CI:0.77~1.33、p=0.53)、OS中央値はソトラシブ群が10.6ヵ月、ドセタキセル群は11.3ヵ月だった。 ソトラシブ群は忍容性も良好で、ドセタキセル群に比べGrade3以上の有害事象(56例[33%]vs.61例[40%])および重篤な治療関連有害事象(18例[11%]vs.34例[23%])の割合が低かった。 最も頻度の高いGrade3以上の治療関連有害事象は、ソトラシブ群が下痢(20例[12%])、ALT値上昇(13例[8%])、AST値上昇(9例[5%])であり、ドセタキセル群は好中球数減少(13例[9%])、倦怠感(9例[6%])、発熱性好中球数減少(8例[5%])であった。患者報告アウトカム(QOL[全般的健康、身体機能]、症状[呼吸困難、咳嗽、胸痛])は、全般にソトラシブ群で良好だった。 著者は、「これらの知見は、ソトラシブが、予後不良でアンメットニーズの高いこの患者集団における新たな治療選択肢となることを示すものである」としている。

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第149回 コロナ感染に特有の罹患後症状は7つのみ

2020年に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的流行が始まって以降、その通常の感染期間後にもかかわらず長く続く症状を訴える患者が増えています。それらCOVID-19罹患後症状(コロナ罹患後症状)のうち疲労、脳のもやもや(brain fog)、息切れは広く検討されていますが、他は調べが足りません。感染症発症後の長患いはCOVID-19に限るものではありません。インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスも長期の影響を及ぼしうることが示されています。COVID-19ではあって他の一般的な呼吸器ウイルス感染では認められないCOVID-19に特有の罹患後症状を同定することはCOVID-19の健康への長期影響の理解に不可欠です。そこで米国・ミズーリ大学の研究チームはソフトウェア会社Oracleが提供するCerner Real-World Dataを使ってCOVID-19に特有の罹患後症状の同定を試みました。米国の122の医療団体の薬局、診療、臨床検査値、入院、請求情報から集めた5万例超(5万2,461例)のCerner Real-World Data収載情報が検討され、47の症状が以下の3群に分けて比較されました。COVID-19と診断され、他の一般的な呼吸器ウイルスには感染していない患者(COVID-19患者)COVID-19以外の一般的な呼吸器ウイルス(風邪、インフルエンザ、ウイルス性肺炎)に感染した患者(呼吸器ウイルス感染者)COVID-19にも一般的な呼吸器ウイルスにも感染していない患者(非感染者)SARS-CoV-2感染から30日以降1年後までの47の症状の生じやすさを比較したところ、呼吸器ウイルス感染者と非感染者に比べてCOVID-19患者により生じやすい罹患後症状は思いの外少なく、動悸・脱毛・疲労・胸痛・息切れ・関節痛・肥満の7つのみでした1,2)。無嗅覚(嗅覚障害)などの神経病態がSARS-CoV-2感染から回復した後も長く続きうると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では一般的な呼吸器ウイルス感染に比べて有意に多くはありませんでした。無嗅覚は非感染者と比べるとCOVID-19患者に確かにより多く生じていましたが、COVID-19以外の呼吸器ウイルス感染者にもまた非感染者に比べて有意に多く発生していました。つまり無嗅覚はCOVID-19を含む呼吸器ウイルス感染症全般で生じやすくなるのかもしれません。一方、先立つ研究でCOVID-19罹患後症状として示唆されている末梢神経障害や耳鳴りは呼吸器ウイルス感染者と非感染者のどちらとの比較でも多くはありませんでした。全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、1型糖尿病(T1D)などの免疫病態もSARS-CoV-2感染で生じやすくなると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では神経症状と同様にCOVID-19に限って有意に多い症状はありませんでした。ただし、1型糖尿病との関連は注意が必要です。COVID-19患者の1型糖尿病は呼吸器ウイルス感染者と比べると有意に多く発生していたものの、非感染者との比較では有意差がありませんでした。呼吸器ウイルス感染者の1型糖尿病はCOVID-19患者とは逆に非感染者に比べて有意に少なく済んでいました。心血管や骨格筋の病態でも1型糖尿病のような関連がいくつか認められており、COVID-19患者の頻拍・貧血・心不全・高血圧症・高脂血症・筋力低下は呼吸器ウイルス感染者と比べるとより有意に多く、非感染者との比較ではそうではありませんでした。今回の研究でCOVID-19に特有の罹患後症状とされた脱毛はSARS-CoV-2感染から100日後くらいに最も生じやすく、250日を過ぎて元の状態に回復するようです。疲労や関節痛は今回の試験期間である感染後1年以内には元の状態に落ち着くようです。COVID-19患者により多く認められた肥満はダラダラ続くCOVID-19流行が原因の運動不足に端を発するのかもしれません。ただし今回の研究ではそうだとは断言できず、さらなる研究が必要です。参考1)Baskett WI, et al. Open Forum Infect Dis. 1011;10: ofac683.2)Study unexpectedly finds only 7 health symptoms directly related to ‘long COVID’ / Eurekalert

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Long COVID、軽症であれば1年以内にほぼ解消/BMJ

 軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者では、いくつかのlong COVID(COVID-19の罹患後症状、いわゆる後遺症)のリスクが高いが、その多くは診断から1年以内に解消されており、小児は成人に比べ症状が少なく、性別は後遺症のリスクにほとんど影響していないことが、イスラエル・KI Research InstituteのBarak Mizrahi氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年1月11日号で報告された。イスラエルの全国的な後ろ向きコホート研究 研究グループは、軽症SARS-CoV-2感染者における感染から1年間のlong COVIDによる臨床的な罹患後症状(後遺症)の発現状況を明らかにし、年齢や性別、変異株、ワクチン接種状況との関連を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 解析には、イスラエルの全国規模の医療機関から得られた電子医療記録(EMR)が用いられた。対象は、2020年3月1日~2021年10月1日の期間に、ポリメラーゼ連鎖反応法によるSARS-CoV-2検査を受けたMaccabi Healthcare Servicesの会員191万3,234人であった。 エビデンスに基づく70のlong COVIDアウトカムのリスクについて、年齢と性別で調整し、SARS-CoV-2変異株で層別化したうえで、未入院のSARS-CoV-2感染者(29万9,870人、年齢中央値25歳、女性50.6%)と、マッチさせた非感染者(29万9,870人、25歳、50.6%)を比較した。 リスクの評価には、感染初期(30~180日)および後期(180~360日)におけるハザード比(HR)と、1万人当たりのリスク差が用いられた。ブレークスルー感染例で呼吸困難のリスクが低い 感染初期と後期の双方で、COVID-19感染との関連でリスク増加が認められたlong COVIDとして、次が挙げられた。・嗅覚/味覚障害初期 HR:4.59(95%信頼区間[CI]:3.63~5.80)、リスク差:19.6(95%CI:16.9~22.4)後期 2.96(2.29~3.82)、11.0(8.5~13.6)・認知障害初期 1.85(1.58~2.17)、12.8(9.6~16.1)後期 1.69(1.45~1.96)、13.3(9.4~17.3)・呼吸困難初期 1.79(1.68~1.90)、85.7(76.9~94.5)後期 1.30(1.22~1.38)、35.4(26.3~44.6)・衰弱初期 1.78(1.69~1.88)、108.5(98.4~118.6)後期 1.30(1.22~1.37)、50.2(39.4~61.1)・動悸初期 1.49(1.35~1.64)、22.1(16.8~27.4)後期 1.16(1.05~1.27)、8.3(2.4~14.1)・連鎖球菌扁桃炎初期 1.18(1.09~1.28)、13.4(6.8~19.9)後期 1.12(1.05~1.20)、16.6(7.4~25.9)・めまい初期 1.14(1.06~1.23)、11.4(4.7~18.1)後期 1.17(1.09~1.26)、16.7(8.6~24.8) 感染初期にのみリスクが上昇したlong COVIDは、呼吸器疾患(HR:2.4[95%CI:1.67~3.44]、リスク差:3.7[2.3~5.3])、抜け毛(1.75[1.59~1.93]、31.6[26.2~36.9])、胸痛(1.41[1.33~1.49]、56.3[47.0~65.7])、筋肉痛(1.24[1.15~1.35]、17.5[11.2~23.8])、咳嗽(1.09[1.04~1.14]、22.2[9.7~34.6])などであった。 ワクチン未接種者の感染初期に、女性で抜け毛のリスク(女性のHR:2.09[95%CI:1.86~2.35]、男性のHR:0.9[0.80~1.17])が高かったことを除き、他の症状のHRは男女でほぼ同等であった。小児は成人に比べ感染初期の症状が少なく、これらの症状も後期にはほとんどが解消された。SARS-CoV-2変異株全体で、long COVIDの発現状況に一貫性が認められた。また、ワクチン接種者のうちブレークスルー感染例では、未接種者と比較して、呼吸困難(HR:1.58、95%CI:1.18~2.12)のリスクが低く、他の症状のリスクは同程度であった。 著者は、「COVID-19感染症の世界的流行の当初からlong COVIDが危惧されてきたが、軽症の経過をたどった患者の罹患後症状は、その多くが数ヵ月間残存した後、1年以内に正常化することが確認された。これは、軽症例の大部分は重症化や長期的な慢性化には至らず、医療従事者に継続的に加わる負担は小さいことを示唆する」としている。

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true worldにおけるAMI治療の実態を考える(解説:野間重孝氏)

 1月27日に掲載したコメントにつきまして、論文の内容について私が誤解していた部分がありましたため、コメントの一部を書き換えました。皆さまにご迷惑をお掛けしましたことを深くおわび申し上げます。 急性心筋梗塞(AMI)の治療成績・予後の決定因子としては、発生から冠動脈再開通までの時間(total ischemic time:TIT)のほか、年齢、基礎疾患や合併症、血管閉塞部位と虚血領域の大きさ、血行動態破綻の有無などが挙げられる。この中でもっぱら時間経過が改善項目として議論されるのは、他の因子は医療行為によっては動かすことができず、時間経過のみが可変因子であるからである。 治療行為の迅速性を表す指標としてもっぱら使用されてきたのがdoor to balloon(D2B)timeであった。ここで注意すべきなのは、D2Bは本来治療に当たった病院のシステム、ガバナンスの整備、術者の技量を評価するための指標であって、TITとは無関係とまではいわないまでも別途議論されるべき数値である点である。肝心のTITが指標として用いられる機会が少ない理由はAMIの場合onset timeがどうしても正確に同定できないからである。これは有症状性の脳梗塞と比較するとわかりやすい。脳梗塞の場合、虚血発生と同時に特徴的な症状が発現し、しかもその自覚に個人差が少ない。AMIの場合は初発症状が突然の激しい胸痛であるのはむしろ例外であり、漠然とした胸部不快感や胸部違和感である例がほとんどで、その発生時期が正確に同定できず、かつ自覚にも個人差が大きい。その歴史は比較的新しく、90年代に提唱され、本格的に問題にされるようになったのは2000年以降である。  それでもD2Bが治療に関する有力な指標として議論されてきたのは、90年代終わりから2000年代初めにかけて、米国を中心とする各急性期治療施設がD2B短縮に努力を傾けた結果、著しい治療成績の改善が見られたからである。しかしこれに対して、D2Bが施設評価の基準であって、その短縮によって見込まれる治療成績の改善には限界があることを明確に示したのが、Daniel S. Menees氏らによってNEJM誌に2013年に発表された論文だった。この論文はこの「ジャーナル四天王」でも取り上げられ(PCIを病院到着から90分以内に施行することで院内死亡率は改善したか?/NEJM)、奇縁にも評者が論文評を担当した(健全な批判精神を評価(コメンテーター:野間 重孝 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(138)より-)。同氏らは除外基準を厳しく設定し、biasとなる因子を持たない症例のみを対象として検討を行った結果、確かにD2B短縮に伴い治療成績は向上するがある程度のところで頭打ちになること、さらに高齢者、前壁中隔梗塞、心原性ショックなどの複雑重症例ではD2Bと治療成績に相関が見られないことを示し、さらなる治療成績の向上には別途の改善努力(たとえば患者搬送の体制など)が必要であるとした。この論文はD2Bがどのような指標であるかをあらためて明示した論文だったといえる。 本研究はこのような経緯を踏まえ、症状発現からPCI開始までの時間、救急隊員による評価からカテ室起動までの時間、最初の医療連絡から検査室起動までの時間、最初の医療連絡からデバイス準備までの時間、病院到着からPCI開始までの時間などさまざまな指標を取り混ぜて現場の実態を把握することを試みたものである。患者到着の仕方も救急搬送もあれば自家用車や徒歩での来院、他施設からの搬送などさまざまである。実際ST上昇型のAMI(STEMI)といえども診断に手間取る例もないとはいえないし、PCIの準備にしても急性期治療を標榜する施設であったとしても24時間完全スタンバイという組織ばかりではないのが実態だろう。さらに急性期施設はAMIのみを扱っているわけではなく、他疾患の影響も考えられなければならない(たとえばこの論文の検討の後半ではコロナ禍)。 この結果はサマリー(STEMIの治療開始までの時間と院内死亡率、直近4年で増加/JAMA)でもお読みのとおりである。確かに症状発現からPCI開始まで時間の短い症例では治療成績が良好であるが、肝心の全体としての種々の指標が思うように短縮しないどころか諸事情によりむしろわずかではあるものの延長してしまっていたのである。来院形態にかかわらずほとんどの四半期でシステム目標が達成されておらず、とくに病院間搬送症例では目安とされた120分以内のPCI開始例がわずか17%にすぎなかった。著者らはlimitationsの1番にレジストリのデータが自己申告制であることを挙げているが、上記で有症状型の脳梗塞と比較した例でもわかるようにAMIのonset timeの同定は難しい。しかしtrue worldに実態に迫ろうと考えた場合、ある程度のデータのズレは致し方がないものなのだろう。また、これはそれぞれの指標の目標値が妥当であるかどうかという問題にも通じる。こういった数多くの指標を用いた疫学調査の設計と解釈の難しい点である。 今回の結果をどのように解釈すべきなのだろうか。評者としては正直米国のAMI治療システムもさまざまな問題を抱えていることに驚いたのであるが、しかし振り返って考えるとき、この問題は米国に限った問題ではないことに気付かされる。形を変えてではあるが、わが国にも当てはまる問題であるのだと思う。90年代から2000年代にかけてAMIの治療成績には著しい進歩が見られた。しかし現在AMIの治療成績の向上はplateauに達しており、この状態を脱するためにはかなり根本的な改革が必要であると誰もが感じているのではないだろうか。これは実はMenees氏らが早期に指摘した内容とも合致する。同氏らはAMIの治療成績向上のためにはD2Bのようなわかりやすい院内指標の改善だけでは不十分だと指摘した。まさにそのとおりのことが本論文で指摘し直されたともいえるのである。本研究結果をややまとまりを欠いたものと受け止めた方も多いと思うが、現実はそう単純なものではないことを示して余りあるものだったと評価すべきではないかと考えるものである。

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新型コロナの罹患後症状(後遺症)ってどういう症状?

Q.新型コロナの罹患後症状(後遺症)ってどういう症状?頭痛、睡眠障害、認知障害、記憶力・集中力低下、脱毛、味覚・嗅覚障害、目・耳の異常胸痛、動悸、疲労・倦怠感腹痛、悪心、下痢、食欲低下咳、咽頭痛、喀痰、息切れ関節痛、筋肉痛、筋力低下勃起異常、生理不順、月経前症候群の悪化厚生労働省新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&AYadav S, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 9. [Epub ahead of print]Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.Imoto W, et al. Sci Rep. 2022;12:22413.Q.新型コロナの罹患後症状(後遺症)って何ですか?新型コロナウイルス感染症にかかった後、ほとんどの患者さんは時間経過とともに症状が改善します。しかし、急性期の症状がずっと持続したり、回復した後に新たに/または再び出現したりする症状があることがわかっています。これら全般の症状を新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(後遺症)と言います。Q.罹患後症状(後遺症)はいつまで続くのですか?罹患後症状(後遺症)については、世界的に調査研究が進められている最中ですが、時間の経過とともに改善することが多いとされています。ただし、急性期の重症度に関係なく、新型コロナウイルスへの感染から約1年を経過しても、罹患後症状(後遺症)が約半数の方に残るという報告もあります。厚生労働省新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&AYadav S, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 9. [Epub ahead of print]Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.Imoto W, et al. Sci Rep. 2022;12:22413.

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コロナワクチン後の心筋炎、高濃度の遊離スパイクタンパク検出

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のmRNAワクチン(以下、新型コロナワクチン)接種後、まれに心筋炎を発症することが報告されているが、そのメカニズムは解明されていない。そこで、マサチューセッツ総合病院のLael M. Yonker氏らの研究グループは、青年および若年成人の新型コロナワクチン接種後の血液を分析し、心筋炎発症例の血中では、切断を受けていない全長のスパイクタンパク質が、ワクチン接種により産生された抗スパイク抗体に結合していない“遊離”の状態で、高濃度に存在していたことを発見した。Circulation誌オンライン版2023年1月4日掲載の報告。遊離スパイクタンパク質が平均33.9pg/mLと有意に高濃度で検出された 2021年1月~2022年2月にかけて、ファイザー製(BNT162b2)またはモデルナ製(mRNA-1273)の新型コロナワクチン接種後に心筋トロポニンTの上昇を伴う胸痛を呈し、心筋炎により入院した患者16例、および年齢をマッチングさせた健康人45人を対象とし、血液をプロスペクティブに採取した。SARS-CoV-2特異的な細胞性免疫応答、自己抗体産生、血中のスパイクタンパク質濃度などを評価した。 SARS-CoV-2に対する適応免疫応答やT細胞応答は、心筋炎発症例と非発症例で差がなかった。また、自己抗体の産生や他のウイルス感染、新型コロナワクチン接種後の過剰な抗体反応も認められなかった。しかし、血中の遊離のスパイクタンパク質濃度には、大きな差がみられた。心筋炎非発症例では、抗スパイク抗体に結合していない遊離のスパイクタンパク質が全例で検出不可であったのに対し、心筋炎発症例では、平均33.9pg/mLと有意に高濃度で検出された(p<0.0001)。また、心筋炎発症例の血漿について、抗体を変性させるdithiothreitolで処理しても、スパイクタンパク質濃度に変化がみられなかったことから、心筋炎発症例で検出されたスパイクタンパク質は、抗スパイク抗体に捕捉されなかったことが示唆された。 本論文の著者らは、「心筋炎発症の有無によって、新型コロナワクチン接種後の免疫応答に差がみられなかったのは、安心感を与える結果であった。心筋炎発症例の血中では、遊離のスパイクタンパク質がみられ、この知見についてより深く理解する必要はあるが、新型コロナウイルス感染症の重症化予防における新型コロナワクチン接種のベネフィットが、リスクを上回ることに変わりはない」とまとめた。

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重症度に関係なく残る罹患後症状は倦怠感、味覚・嗅覚異常/大阪公立大学

 2022~23年の年末年始、全国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性者数の激増や1日の死者数の最高数を記録するなどCOVID-19は衰えをみせていない。また、COVID-19に感染後、その罹患後症状(いわゆる後遺症)に苦しむ人も多いという。わが国のCOVID-19罹患後症状の様態はどのようなものがあるのであろう。井本 和紀氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学 病院講師)らの研究グループは、COVID-19の罹患後症状に関し、285例にアンケート調査を実施。その結果、感染した際の重症度と関係なく、倦怠感や味覚・嗅覚の異常などが、COVID-19感染後約1年を経過していても、半数以上の人に罹患後症状が残っていることが明らかとなった。本研究から重症化リスクが低い人であっても、COVID-19には注意する必要がある。Scientific Reports誌2022年12月27日号に掲載。研究目的と方法【研究目的】COVID-19では、さまざまな罹患後症状が残ることが、主に海外から報告されている。一方、わが国ではCOVID-19の罹患後症状に関する調査があまり進んでおらず、罹患後症状を診察するとともに、本症について研究を行っている施設・医師が少数であるため、わが国の実情を明らかにする。【方法】対象:大阪府内5病院で、2020年1月1日~12月31日の間にCOVID-19と診断された人および入院した285例方法:COVID-19感染後約1年後の後遺症に関するアンケートを実施無症候や軽症でも1年後に52.9%に罹患後症状あり〔COVID-19感染後1年後に罹患後症状を有していた人の割合〕・対象者のうち1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:56.1%(160/285例)・COVID-19感染時は無症候や軽症であった人のうち1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:52.9%(37/70例)・COVID-19感染時は中等症~重症であった人のうち1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:57.5%(123/214例) 罹患後症状については、比較的軽症の人(無症状者・軽症者)では、倦怠感や抜け毛、集中力・記憶力の異常、睡眠障害が多く残っており(10%以上)、比較的重症の人(中等症~重症)では、倦怠感、呼吸困難感(息がしづらくなる感じ)、味覚障害、抜け毛、集中力の異常、記憶力の異常、睡眠障害、関節の痛み、頭痛が多く残っていた(10%以上)。また、生活に大きな影響を与えている罹患後症状としては、倦怠感、喀痰が多く出ること、呼吸困難感、嗅覚の異常、抜け毛、集中力や記憶力の異常、睡眠障害、関節の痛み、眼の充血、下痢があり、これらの症状が常に気になるほど残っていることでQOLが低下している人が多くいた。 どのような人で罹患後症状が残りやすいかを症状と危険因子(患者の背景・持病・血液検査値)についてロジスティック回帰分析を実施したところ、新型コロナウイルスに感染した際の重症度と、喀痰、胸痛、呼吸困難感、咽頭痛、下痢などが非常に強く関連していることがわかった。一方で、新型コロナウイルスに感染した際の重症度と関係なく残ってしまう罹患後症状として倦怠感や味覚・嗅覚の異常、抜け毛、睡眠障害があった。 井本氏らの研究グループは、「本研究により、重症度と関係なく残りやすい罹患後症状があることが明らかとなり、今後もCOVID-19の罹患後症状については引き続き注意が必要だと言える。現状では罹患後症状の治療法が確立されているわけではないため、これからも研究を継続していく必要がある」としている。

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