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気管支内視鏡の生検で動脈性の出血が生じ、開胸肺切除を行ったが死亡したケース

呼吸器最終判決判例時報 1426号94-99頁概要グッドパスチャー症候群の疑いがもたれた52歳女性。確定診断のため経気管支肺生検(TBLB)が行われた。そのとき左舌区入口部に直径2~3mmの円形隆起性病変がみつかり、悪性病変を除外するために生検を行った。ところが、生検直後から多量の動脈性出血が生じ、ただちに止血処置を行ったがまもなくショック状態に陥り、人工呼吸、輸血などを行いながら開胸・左肺全摘手術が施行された。しかし意識は回復することなく、3週間後に死亡した。詳細な経過患者情報昭和42年3月28日生まれ32歳経過1987年3月腎機能障害のため某大学病院に入院し、血漿交換、人工呼吸器による呼吸管理、ステロイドなどの投与が行われた52歳女性。諸検査の結果、グッドパスチャー症候群が疑われた。4月10日精査治療目的で関連病院膠原病内科に転院。胸部X線写真では両肺野のびまん性陰影、心臓拡大、胸水などの所見がみられた。グッドパスチャー症候群に特徴的な症状(肺炎様の症状と血尿・蛋白尿)はみられたが、血中の抗基底膜抗体(抗GBM抗体)は陰性であったため、確定診断のために肺生検が予定された。4月20日経気管支肺生検(TBLB)施行。左下葉から4カ所、左上葉上腹側部から1カ所、合計5カ所から肺生検を行った。そのとき左舌区入口部に直径2~3mmの円形隆起性病変がみつかった。その性状から、良性粘膜下腫瘍、悪性新生物、肉芽腫性病変のうちいずれかであり、粘膜表面はやや赤みを帯び、表面は滑らかで、拍動はなく、やや硬い充実性の印象であったので、血管病変ではないと判断された。悪性病変を除外するために生検を行ったところ、直後から動脈性出血を生じ、気管支粘膜直下の気管支動脈を破ったことが判明した。ただちに気管支ファイバースコープを出血部位に押しつけながら出血を吸引し、アドレナリン(商品名:ボスミン)、トロンビンを局所散布した。しかし止血は得られず危篤状態に陥り、人工呼吸、心臓マッサージ、輸血、薬剤投与などの緊急措置が行われたが、動脈性の出血が持続した。4月21日止血目的の開胸手術、さらには左肺全摘術を施行したが、意識は回復せず。6月9日心不全により死亡。病理組織学的検査の結果、問題の気管支動脈は内腔約1mm以下の血管が、ループ状ないしガンマー字状になって気管支粘膜上皮に突出した病変であり、ゴムホースをねじったような走行異常であった。そして、血管壁がむき出しになっていたわけではなく、粘膜の表面が扁平上皮化生(粘膜の表面が本来その場所にはない普通の皮のようになってしまう現象)を起こしていたと推定された。このような気管支動脈の走行異常は、今まで報告されたことのない特殊な奇形であった。当事者の主張患者側(原告)の主張1.予見可能性左舌区入口部の円形隆起性病変が動脈であることを予見することは可能であり、また、予見する義務があった2.生検の必要性そもそも気管支鏡検査の目的はグッドパスチャー症候群の確定診断をつけることであり、出血の原因となった生検は予定外の検査である。しかも、生検の1ヵ月以上前から血液透析を行っており、出血性素因を有していたのだから、膠原病内科の担当医とあらためて生検の必要性を確認してから検査をするべきであり、この時点で検査をする必要性はなかった3.説明義務違反今回の大出血につながった生検は予定外のものであり、患者に対し何の説明もなく、患者の承諾もなく、さらにただちに生命・健康に重大な危険を及ぼす緊急の事情もなかった以上、TBLB終了後施術内容や危険性につき説明を加え、その承諾を得る義務があったのに怠った病院側(被告)の主張1.予見可能性下行大動脈から分岐する気管支動脈が気管支壁を越えて気管支粘膜内に存在することはきわめてまれであり、観察時には動脈性病変を示唆する所見はみられなかった。実際に本件のように非常に小さく、著明な発赤や拍動を欠いたものについては報告はないため、動脈であることの予見可能性はなかった2.生検の必要性TBLBを行った当時は透析中でもあり、肺出血による呼吸不全の既往もあったため、今後気管支鏡検査を実施できる条件の整う機会を得るのは容易ではなかった。しかも今回の病変が悪性のものであるおそれもあったから、生検を実施しないで様子をみるということは許されなかった3.説明義務違反患者から同意を得たTBLBを行う過程で、新たに緊急で生じた必要性のある検査に対し、とくにあらためて個別の説明を行わないでも説明義務違反には当たらない裁判所の判断予見可能性今回の病変は通常動脈があるとは考えられない場所に存在し、しかも扁平上皮化生によって血管の赤い色を識別することができず、血管性病変であることを予見するのは医学的にまったく不可能とは言い切れないとしても、その位置、形状、態様、色彩そのほかの状況からして、当時の医学水準に照らしても血管性病変であることを予見することは著しく困難であった。生検の必要性今回の病変は正体が不明であり、悪性腫瘍の可能性もあり、後日改めて気管支鏡検査をすることができないかもしれないという状況であった。しかも気管支鏡以外にはその病変を診断する的確な方法がなかったため、むしろそのまま放置した時は医師として怠慢であると非難されるおそれさえあったといえる。説明義務違反検査に当たってはあらゆる事態を想定してあらゆる事柄について事前に説明を施し、そのすべてについて承諾を得なければならないものとはいえない。今回の生検は当初予定していたTBLBの一部ではなく、不可避的な施術であるとはいえないが、新たに緊急に必要性の判明した検査であった。通常この生検が身体に与える影響は著しく軽微であり、TBLBの承諾を得たものであれば生検を拒否するとは到底考えられないため、改めて説明の上その承諾を得なければならないほどのものではなく、医師としての説明義務違反とはいえない。原告側合計4,516万円の請求を棄却考察今回の事案をご覧になって、多くの先生方(とくに内視鏡担当医師)は、複雑な感想をもたれたことと思います。「医療過誤ではない」という司法の判断こそ下りましたが、もし先生方が家族の立場であったのなら、なかなか受け入れがたい判決ではないでしょうか。いくら「不可抗力であった」と主張しても、結果的には気管支動脈を「動脈」とは認識できずに生検してしまい、出血大量となって死亡したのですから、「見立て違い」であったことにはかわりありません。おそらく担当医師にとってはきわめて後味の悪い症例であったと思います。同じようなケースとして、消化器内視鏡検査で食道静脈瘤を誤って生検してしまい、うまく出血をコントロールできずに死亡した事案も散見されます。消化管の内視鏡検査であれば、止血クリップを使うなどしてある程度出血のコントロールは可能ではないかと思いますが、本件のように気管支内視鏡検査で気管支腔に突出した動脈をつまんでしまうと、事態を収拾するのは相当困難であると思います。本件でも最終的には左肺を全摘せざるを得なくなりました。このように、たいへん難しい症例ではありますが、以下の2つの点については強調しておきたいと思います。1. われわれ医師がよかれと思って誠実に行った医療行為の結果が最悪であった場合に、その正当性を証明するには病理学的な裏付けがきわめて重要である本件では気管支動脈からの出血をコントロールするために左肺が全摘されたため、担当医師らが動脈とは認識できなかった「血管走行異常」を病理学的につぶさに検討することができました。その結果、「動脈とは認識できなくてもやむを得なかった」という重要な証拠へとつながり、無責と判断されたのだと思います。もしここで左肺全摘術、もしくは病理解剖が行われなかったとすると、「気管支動脈を誤認した」という事実だけに注目が集まり、まったく異なる判決になっていたかもしれません。ほかの裁判例でも、病理解剖が行われてしっかりと死亡原因が突き止められていれば、医療側無責となったかもしれない事案が数多くみられます。往々にして家族から解剖の承諾を得ることは相当難しいと思われますが、治療の結果が悪いというだけで思わぬ医事紛争に巻き込まれる可能性がある以上、ぜひとも病理学的な裏付けをとっておきたいと思います。2. 侵襲を伴う検査を行う際には細心の注意を払う必要があるという、基本事項の再確認今回の裁判では病院側の主張が全面的に採用されましたが、検査で偶然みつかった病変に対し、はたして本当に生検が必要であったのかどうかは議論のあるところだと思います。そもそも、気管支鏡検査の目的はグッドパスチャー症候群の診断を確定することにありました。そして、検査の直前には腎機能障害のため、血漿交換、人工呼吸器による呼吸管理まで行われていたハイリスク例でしたので、後方視的にみれば「診断をつける」という目的が達成されればそれで十分と考えるべきであったと思います。つまり、今回の生検は「絶対的適応」というよりも、どちらかというと「相対的適応」ではないでしょうか。偶然みつかった正体不明の病変については、「ついでだから生検しておこう、万が一でも悪性であったら、それはそれでがんをみつけてあげたのだから診断に貢献したことになる」と考えるのも同じ医師として理解はできます。しかし、この判決をそのまま受け取ると、「この患者は気管支鏡検査を受けると、ほとんどの医師は気管支内に突出した気管支動脈を動脈とは認識できず、がんの鑑別目的で『誤認』された動脈を生検されてしまい、出血多量で死亡に至る」ということになります。そもそもわれわれ医師の役目は患者さんの病気を治療することにありますので、病気を治す以前の医療行為が直接の原因となって患者さんが死亡したような場合には、いくら不可抗力といえども猛省しなければならないと思います。ぜひとも多くの先生方に本件のような危険なケースがあることを認識していただき、内視鏡検査では「ちょっとおかしいから組織を採取して調べておこう」と気軽に生検する前に、このようなケースがあることを思い出していただきたいと思います。裁判では「気管支鏡以外にはその病変を診断する的確な方法がなかったため、むしろそのまま放置した時は医師として怠慢であると非難されるおそれさえある」という考え方も首肯されはしましたが、もう一度慎重に検討することはけっして怠慢ではないと思います。われわれ医師の責務として、このような残念なケースから多くのことを学び、同じようなことがくり返されることがないよう、細心の注意を払いたいと思います。呼吸器

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ストレス潰瘍の予防薬と心臓外科患者における院内肺炎のリスク:コホート研究(コメンテーター:上村 直実 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(141)より-

本論文では、米国の約500病院からの患者データが集積されているPremier Research Databaseを用いた後ろ向きコホート研究において、冠動脈バイパス術(CABG)の術後早期にストレス潰瘍の予防目的で投与された胃酸分泌抑制薬と術後院内肺炎の発症について検討した結果、プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用群の術後の肺炎リスクがH2ブロッカー(H2RA)使用群に比べて有意に高いと結論されている。 ICDコードを用いた大規模な病院患者データベースを利用した後ろ向きコホート研究という研究デザインである点、また、集積期間のCABG症例27万7,892例のうち、入院3日目以降にCABGを施行された12万6,608例中、術後2日間にPPIないしはH2RAの投与を受けた患者9万5,459例をリクルートして、さらにCABG施行前に抗生物質やPPIなどの胃酸分泌抑制薬の投与を受けた6万9,036例(72.3%)などを除外した2万1,214例(22.2%)のみがコホートの対象となっている点を考慮した解釈が必要であるが、CABG術後早期に用いる胃酸分泌抑制薬としてはH2RA(4.3%)に比べてPPI(5%)の方が術後肺炎のリスクが高いことは確かと思われる。 著者も考察しているように、PPI群とH2RA群の両者において術後の消化管出血の発症リスクに差がなかったにも関わらず、肺炎リスクはPPI群が有意に高値であった点は意外であり、今後の研究課題と思われる。 しかし、いずれにせよ、CABG後に胃酸分泌抑制剤、とくにPPIを使用する際には、術後経過中の肺炎に注意した対応が重要であろう。さらに、日本でもNational Data Baseが構築されつつあり、今後、大規模データベースを用いたエビデンスの構築を考える際には、研究デザインや対象の取り方が重要となることについても教えられる研究論文である。

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成人市中肺炎のリスクとなるライフスタイル・基礎疾患は?

 市中肺炎は、成人、とくに高齢者において高い罹患率および死亡率をもたらす。スペイン・バルセロナ大学のAntoni Torres氏らは、PubMedの構造化検索により、欧州における成人市中肺炎発症率の最新データとライフスタイルや市中肺炎の危険因子に関するデータを同定し、成人市中肺炎のリスク増加と喫煙などのライフスタイル因子や基礎疾患との関連を検討した。Thorax誌2013年11月号に掲載報告。市中肺炎のリスク増加に関連したライフスタイルの因子は? 主な結果は以下のとおり。・成人市中肺炎全体の年間発症率は、1,000人年当たり1.07~1.2、人口1,000人当たり1.54~1.7であり、年齢の上昇とともに増加した(65歳以上で1,000人年あたり14)。・男性のほうが、女性、慢性呼吸器疾患患者、HIV感染症患者より、市中肺炎発症率が高かった。・市中肺炎のリスク増加に関連したライフスタイルの因子は、喫煙、過度の飲酒、低体重、子どもや歯科衛生状態が悪い人々との定期的な接触であった。・合併症(慢性呼吸器疾患、慢性心血管疾患、脳血管疾患、パーキンソン病、てんかん、認知症、嚥下障害、HIV、慢性腎疾患、慢性肝疾患)が存在すると、市中肺炎リスクが2~4倍増加した。

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小児のアトピー性皮膚炎とイボは、感染症の増加に影響するか

 先行研究において、アトピー性皮膚炎は、皮膚および皮膚以外の感染症の素因となる異常な免疫反応との関連が示唆されている。米国セント・ルークス・ルーズベルトホスピタルセンターのJonathan I .Silverberg氏らにより、小児のアトピー性皮膚炎がイボ、皮膚以外の感染症、その他のアトピー性疾患のリスク増加に影響するかどうか調査、報告された。その結果、小児のアトピー性皮膚炎、その他のアトピー性疾患、イボと皮膚以外の感染症との関連から、バリア機能の破壊や異常な免疫反応(どちらかまたは両方)が、イボと皮膚以外の感染症の感受性に影響することが示唆された。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌2013年10月3日掲載報告。 調査には、2007年国民健康インタビュー調査の代表サンプルが用いられた。対象は、0歳から17歳までの9,417例であった。 主な結果は以下のとおり。・アトピー性皮膚炎に加え、何らかのアトピー性疾患を有する小児では、イボを有する割合が高かった。・一方で、何らかのアトピー性疾患の有無にかかわらず、少なくともアトピー性皮膚炎を有する小児では、皮膚以外の感染症(連鎖球菌性咽頭炎、他の咽頭炎、鼻風邪、咳風邪、インフルエンザ/ 肺炎、副鼻腔感染症、再発性中耳炎、水痘、尿路感染症を含む)を有する割合が高かった(p<0.0001)。・アトピー性皮膚炎に加え、何らかのアトピー性疾患を有する小児では、どちらか一方のみを有する小児に比べて、罹患した感染症の数が多かった(p<0.0001)。・イボの保有は、皮膚以外の感染症(再発性中耳炎を除く)の増加に影響していた(p<0.0001)。・イボとアトピー性皮膚炎の両方を有する小児では、どちらかのみを有する小児に比べて、罹患した感染症の数が多かった(p<0.0001)。また、喘息の現症または既往歴、過去1年間の喘息の悪化、花粉症、食物アレルギーを有する割合が高かった。・イボとアトピー性皮膚炎の両方を有する小児では、イボを有しないアトピー性皮膚炎の小児に比べ、喘息、花粉症、食物アレルギーを有する割合が高かった。

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急性心筋炎を上気道炎・胃潰瘍と誤診して手遅れとなったケース

循環器最終判決平成15年4月28日 徳島地方裁判所 判決概要高血圧症で通院治療中の66歳女性。感冒症状を主訴として当該病院を受診し、急性上気道炎の診断で投薬治療を行ったが、咳・痰などの症状が持続した。初診から約2週間後に撮影した胸部X線写真には異常はみられなかったが、咳・痰の増悪に加えて悪心、食欲不振など消化器症状が出現したため、肺炎を疑って入院とした。ところが、次第に発汗が多く血圧低下傾向となり、脱水を念頭においた治療を行ったが、入院4日後に容態が急変して死亡した。詳細な経過患者情報本態性高血圧症の診断で降圧薬マニジピンなどを内服していた66歳女性経過平成9年2月19日感冒症状を主訴として来院し、急性上気道炎と診断して感冒薬を処方。その後も数回通院して投薬治療を続けたが、咳・痰などの感冒症状は持続した。3月4日胸部X線撮影では浸潤陰影など肺炎を疑う所見なし。3月6日血圧158/86mmHg、脈拍109/min。発熱はないが咳・痰が増悪し、悪心(嘔気)、食欲不振、呼吸困難などがみられ、肺全体に湿性ラ音を聴取。上腹部に筋性防御を伴わない圧痛がみられた。急性上気道炎が増悪して急性肺炎を発症した疑いがあると診断。さらに食欲不振、上腹部圧痛、嘔気などの消化器症状はストレス性胃潰瘍を疑い、脱水症状もあると判断して入院とした。気管支拡張薬のアミノフィリン(商品名:ネオフィリン)、抗菌薬ミノサイクリン(同:ミノペン)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)、胃酸分泌抑制剤ファモチジン(同:ガスター)などの点滴静注を3日間継続した。この時点でも高熱はないが、悪心(嘔気)、食欲不振、腹部圧痛などの症状が持続し、点滴を受けるたびに強い不快感を訴えていた。3月7日血圧120/55mmHg。3月8日血圧89/58mmHg、胸部の聴診では湿性ラ音は減弱し、心音の異常は聴取されなかった。3月9日血圧86/62mmHgと低下傾向、脈拍(100前後)、悪心(嘔気)が激しく発汗も多くなった。血圧低下は脱水症状によるものと考え、輸液をさらに追加。胸部の聴診では肺の湿性ラ音は消失していた。3月10日06:00血圧80/56mmHg、顔色が悪く全身倦怠感、脱力感を訴えていた。09:30点滴投与を受けた際に激しい悪心が出現し、血圧測定不能、容態が急速に悪化したため、緊急処置を行う。13:30集中治療の効果なく死亡確認。担当医師は死因を心不全によるものと診断、その原因について確定診断はできなかったものの、死亡診断書には急性心筋梗塞と記載した。なお死亡前の血液検査では、aST、aLT、LDHの軽度上昇が認められたが、CRPはいずれも陰性で、腎不全を示す所見も認められなかった。当事者の主張患者側(原告)の主張通院時の過失マニジピン(降圧薬)の副作用として、呼吸器系に対して咳・喘息・息切れを招来し、心不全をもたらすおそれがあるため、長期投与の場合には心電図検査などの心機能検査を定期的に行い、慎重な経過観察を実施する必要があるとされているのに、マニジピンの投与を漫然と継続し、高血圧症の患者には慎重投与を要するプレドニゾロンを上気道炎に対する消炎鎮痛目的で漫然と併用投与した結果、心疾患を悪化させた入院時の過失3月6日入院時に、通院中にはなかった呼吸困難、悪心(嘔気)、食欲不振、頻脈、肺全体の湿性ラ音が聴取されたので、心筋炎などの心疾患を念頭におき、ただちに心電図検査、胸部X線撮影、心臓超音波検査を実施すべき義務があった。さらに入院2日前、3月4日の胸部X線撮影で肺炎の所見がないにもかかわらず、入院時の症状を肺炎と誤診した入院中の過失入院後も悪心(嘔気)、頻脈が持続し、もともと高血圧症なのに3月8日には89/58mmHgと異常に低下していたので、ただちに心疾患を疑い、心電図検査などの心機能検査を行うなどして原因を究明すべき義務があったが、漫然と肺炎の治療をくり返したばかりか、心臓に負担をかけるネオフィリン®を投与して病状を悪化させた死亡原因についてウイルス性上気道炎から急性心筋炎に罹患し、これが原因となって心原性ショックに陥り死亡した。入院時および入院中血圧の低下がみられた時点で心電図検査など心機能検査を実施していれば、心筋炎ないし心不全の状態にあったことが判明し、救命できた可能性が高い病院側(被告)の主張通院期間中の過失の不存在通院期間中に投与した薬剤は禁忌ではなく、慎重投与を要するものでもなかったので、投薬について不適切な点はない入院時の過失の不存在3月6日入院時にみられた症状は、咳・痰、発熱、呼吸困難などの感冒症状および腹部圧痛などの消化器症状のみであり、また、肺の湿性ラ音は肺疾患の特徴である。したがって、急性上気道炎が増悪して急性肺炎に罹患した疑いがあると診断したことに不適切な点はない。また、心筋炎など心疾患を疑わせる明確な症状はなかったので、心電図検査などの心機能検査を実施しなかったのは不適切ではない入院中の過失の不存在入院後も心筋炎など心疾患を疑わせる明確な所見はなく、総合的に判断してもっとも蓋然性の高い急性肺炎および消化器疾患を疑い、治療の効果が現れるまで継続したので不適切な点があったとはいえない死因について胃酸や胆汁の誤嚥により急速な血圧低下が生じた可能性がある。入院中、胸痛、心筋逸脱酵素の上昇、腎機能障害など心疾患を疑わせる明確な所見もみられなかったので、急性心筋炎などの心疾患であるとの確定的な診断は不可能である。死因が心筋炎によるものであると確定的に診断できないのであるから、心筋炎に対する診療を実施したとしても救命できたかどうかはわからない裁判所の判断本件では入院後に胸部X線撮影や心電図検査などが行われていないため、死因を確定することはできないが、その臨床経過からみてウイルス性の急性上気道炎から急性心筋炎に罹患し、心タンポナーデを併発して、心原性ショック状態に陥り死亡した蓋然性が高い。診療経過を振り返ると、2月中旬より咳・痰などの急性上気道炎の症状が出現し、投薬などの治療を受けていたものの次第に悪化、3月6日には肺に湿性ラ音が聴取され呼吸困難もみられたので、急性肺炎の発症を疑って入院治療を勧めたこと自体は不適切ではない。しかし入院後は、肺炎のみでは合理的な説明のできない症状や肺炎にほかの疾病が合併していた可能性を疑わせる症状が多数出現していたため、肺炎の治療を開始するに当たって、再度胸部X線撮影などを実施して肺炎の有無を確認するとともに、ほかの合併症の有無を検索する義務があった。しかし担当医師は急性肺炎などによるものと軽信し、胸部X線撮影を実施するなどして肺炎の確定診断を下すことなく、漫然と肺炎に対する投薬(点滴)治療を開始したのは明らかな過失である。さらに入院後、3月8日に著明な低血圧が進行した時点で心筋炎による心不全の発症を疑い、ただちに胸部X線撮影、心電図検査、心臓超音波検査などを実施するとともに、カテコラミンを投与するなどして血圧低下の進行を防ぐ義務があったにもかかわらず、漫然と肺炎に対する点滴治療を継続したのは明らかな過失である。そして、血圧低下の原因は、心筋炎から心タンポナーデを併発しショック状態が進行した可能性が高い。心タンポナーデは心嚢貯留液を除去することにより解消できるから、心電図検査などの諸検査を実施したうえで心タンポナーデに対し適切な治療行為を実施していれば救命できただろう。たとえ心タンポナーデによるものでなかったとしても、血圧低下やショックの進行は比較的緩徐であったことから、ただちに血圧低下の進行を防ぐ治療を実施したうえでICUなどの設備のある中核病院に転送させ、適切な治療を受ける機会を与えていれば、救命できた可能性が高い。原告側合計5,555万円の請求に対し、4,374万円の支払い命令考察今回のケースは、診断が非常に難しかったとは思いますが、最初から最後まで急性心筋炎のことを念頭に置かずに、「風邪をこじらせただけだろう」という思いこみが背景にあったため、救命することができませんでした。急性心筋炎の症例は、はじめは風邪と類似した病態、あるいは消化器症状を主訴として来院することがあるため、普段の診療でも遭遇するチャンスが多いと思います。しかも急性心筋炎のなかには、ごく短時間に劇症化しCCU管理が必要なこともありますので、細心の注意が必要です。本件でもすべての情報が出揃ったあとで死亡原因を考察すれば、たしかに急性心筋炎やそれに引き続いて発症した心タンポナーデであろうと推測することができると思います。しかし、今までに急性心筋炎を経験したことがなければ、そして、循環器専門医に気軽に相談できる診療環境でなければ、当時の少ない情報から的確に急性心筋炎を診断し(あるいは急性心筋炎かも知れないと心配し)、設備の整った施設へ転院させようという意思決定には至らなかった可能性が高いと思います。もう一度経過を整理すると、ICUをもたない小規模の病院に、高血圧で通院していた66歳女性が咳、痰を主訴として再診し、上気道炎の診断で投薬治療が行われました。ところが、約2週間通院しても咳、痰は改善しないばかりか、食欲不振、悪心などの消化器症状も加わったため、「肺炎、胃潰瘍」などの診断で入院措置がとられました。入院2日前の胸部X線撮影では明らかな肺炎像はなかったものの、咳、痰に加えて湿性ラ音が聴取されたとすれば、呼吸器疾患を疑って診断・治療を進めるのが一般的でしょう。ところが、入院後に抗菌薬などの点滴をすると「強い不快感」が出現するというエピソードをくり返し、もともと高血圧症の患者でありながら入院2日後には血圧が80台へと低下しました。このとき、入院時に認められていた湿性ラ音が消失していたため、担当医師は抗菌薬の効果が出てきたと判断、血圧低下は脱水によるものだろうと考えて、輸液を増やす指示を出しました。しかしこの時点ですでに心タンポナーデが進行していて、脱水という不適切な判断により投与された点滴が、病態をさらに悪化させたことになります。心タンポナーデでは、心膜内に浸出液が貯留して静脈血の心臓への環流が妨げられるため、心拍量が低下して低血圧が生じるほか、消化管のうっ血が強く生じるため嘔気などの消化器症状がみられます。さらに肺への血流が減少して肺うっ血が減少し、湿性ラ音が聴取されなくなることも少なくありません。このような逆説的ともいえる病態をまったく考えなかったことが、血圧低下=脱水=補液の追加という判断につながり、病態の悪化に拍車をかけたと思われます。なお本件では、肺炎と診断しておきながら胸部X線写真を経時的に施行しなかったり、血圧低下がみられても心電図すら取らなかったりなど、入院患者に対する対応としては不十分でした。やはりその背景には、「風邪をこじらせた患者」だから、「抗菌薬さえ投与しておけば安心だろう」という油断があったことは否めないと思います。普段の臨床でも、たとえば入院中の患者に一時的な血圧低下がみられた場合、「脱水」を念頭において補液の追加を指示したり、あるいはプラスマネートカッターのようなアルブミン製剤を投与して経過をみるということはしばしばあると思います。実際に、手術後の患者や外傷後のhypovolemic shockが心配されるケースでは、このような点滴で血圧は回復することがありますが、脱水であろうと推測する前に、本件のようなケースがあることを念頭において、けっして輸液過剰とならないような配慮が望まれます。循環器

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非定型病原体は慢性副鼻腔炎の原因となりうるか

 肺炎マイコプラズマや肺炎クラミジアといった非定型病原体は、慢性副鼻腔炎における鼻腔粘膜の持続的な感染を引き起こす原因とはいえなかったことがクロアチアのNenad Pandak氏らにより報告された。European Archives of Oto-Rhino-Laryngology誌オンライン版2013年10月6日の掲載報告。 慢性副鼻腔炎は少なくとも12週間続く、鼻や副鼻腔粘膜の症候性の炎症である。 非定型病原体である肺炎クラミジアや肺炎マイコプラズマは、人間の呼吸器感染症の重大な原因となっている。また、これらの病原体はCOPDや喘息を有する患者の気管支上皮でも検出されている。unified airwayの概念を念頭に置けば、これらの病原体は慢性副鼻腔炎を有する患者の鼻腔粘膜の持続的な感染を引き起こしうるとされている。 本研究は、薬物療法では難治のため、機能的内視鏡下副鼻腔手術(functional endoscopic sinus surgery: FESS)を受けた慢性副鼻腔炎患者60例を対象に行われた。手術中、副鼻腔を無菌の0.9%塩化ナトリウム溶液で洗浄後、すぐに吸引し、リアルタイムPCRを用いて、吸引液中の肺炎マイコプラズマや肺炎クラミジアの遺伝子を調べた。その結果、これらの遺伝子はサンプルから検出されなかった。

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ストレス潰瘍予防目的のPPI、術後肺炎リスクを増大/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)を受ける患者に対してストレス潰瘍の予防目的でしばしば投与される胃酸分泌抑制薬について、プロトンポンプ阻害薬(PPI)のほうがH2ブロッカーよりも、術後肺炎リスクが1.19倍とやや高いことが示された。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のBrian T Bateman氏らが、全米約500病院からの患者データが集積されているPremier Research Databaseを用いた後ろ向きコホート研究の結果、報告した。BMJ誌オンライン版2013年9月19日号掲載の報告より。CABG患者2万例超についてPPI対H2ブロッカーの術後肺炎発生を調査 術後肺炎は、心臓手術後によくみられる(2~10%)死亡リスクの高い(20~50%)合併症である。これまでPPIおよびH2ブロッカーの院内肺炎リスクとの関連を比較検討した報告はあるものの相反する結果が示されてきた。また心臓手術後患者を対象とした検討については、単施設対象の後ろ向き研究で、PPIのほうが2.7倍高かったという報告があるが、その一報にとどまっていたという。 今回研究グループが検討したPremier Research Databaseには、2004~2010年にCABGを受けた2万1,214例が登録されていた。 そのうち9,830例(46.3%)がPPIを、1万1,384例(53.7%)がH2ブロッカーを、術後間もなく投与開始されていた。 主要評価項目は、診断コードが付いた術後肺炎の発生とした。PPI群の相対リスク1.19、1,000患者当たり8.2例増大 入院期間中の術後肺炎の発生は、PPI群5.0%(492/9,830例)、H2ブロッカー群4.3%(487/1万1,384例)であった。 傾向スコア(患者特性)補正後も、PPI群の術後肺炎発生リスクはH2ブロッカー群よりも高率のままだった(相対リスク:1.19、95%信頼区間[CI]:1.03~1.38)。 また、操作変数(病院がどちらの薬を好んでいるか)について補正解析後、PPI使用はH2ブロッカー使用と比べて、1,000患者当たり8.2例(95%CI:0.5~15.9)の術後肺炎リスク増大と関連していた。 著者は、「ストレス潰瘍予防目的のPPI使用は、H2ブロッカー使用と比べて術後肺炎リスクがやや高い。同リスクは、さまざまな方法による交絡因子で補正後も変わらなかった」とまとめている。

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エキスパートQ&A

プライマリ・ケア医はどの範囲まで、がん患者さんを診るべきなのでしょうか?プライマリ・ケア医の定義がなかなか難しいところですが、地域の開業医の先生方であれ病院勤務の一般内科の先生方であれ、がん患者さんを診るべきだと思います。サブスペシャリティががんとは無関係の領域(循環器、神経、内分泌、腎臓、膠原病、感染症など)であったとしても同じことです。理由は単純です。患者さんは多いのに診る医者が少ないからです。がんは日本人の2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなるという非常にコモンな病気です。がん患者の診療において、専門医数(全国でがん薬物療法専門医<1000人、緩和医療専門医<100人)が少ないなどインフラの問題もありますが、一番大きい問題は患者さん側と医師側が日本のがん医療や一般診療に対してそれぞれが持つ固定観念だと思います。患者さん側は「大きな病院で専門医の先生にずっと診てもらわないと心配だ」、医師側は「がん診療は高度に専門化していて難しい。患者や家族の対応にもストレスを感じることが多い。治らずに亡くなっていく患者を診るのもつらいし、しんどい」といった気持ちがお互いにあるのではないでしょうか。これを少しずつでも変えていかないことには、がん対策基本法の理念である「すべてのがん患者さんに等しく適切な医療を提供する」を実現することは困難だと思います。がん診療はやりがいがあります。患者さんにとって一度は死を意識せざるを得ない疾患ですから、その患者さんや家族との対応の中で自分なりのさまざまな思索を巡らすことになります。また、自分や家族も将来罹患する可能性が高い疾患を目の前の患者さんを通じて経験し、人間の永遠のテーマである「生と死」について深く考えることができるのです。プライマリ・ケア医にできる身体的なケアにはどのようなものがあるでしょうか?がん患者さんの何を診るかについては議論のあるところですが、患者さんのQOL維持・向上のため少なくとも支持療法(緩和医療)についてはカバーすべきと考えています。支持療法の範囲は広く、緊急事態(オンコロジック・エマージェンシー)への対応、疼痛を含む症状コントロール、がん治療による有害事象対策、栄養療法、リハビリ、無再発患者の定期的フォロー(再発の有無、二次がんのチェック、骨粗鬆症、不妊、一般内科的マネジメント)などプライマリ・ケア医であればある程度対応可能な分野と考えています。抗がん薬治療はご自身のサブスペシャリティと、置かれている環境(開業医か病院勤務医か、地方か都市部か)で異なると思いますが、開業医の先生方が抗がん薬治療を扱うのは現状ではなかなか難しいかもしれません。基幹病院への紹介の仕方や、うまく機能しているシステムがあれば教えていただけますか?具体的に機能しているシステムはわかりませんが、病病連携や病診連携において大切なのはやはり「顔の見える関係」です。紙だけのやり取りでは関係が希薄になりがちですので、研究会等で基幹病院の先生と会って良い関係を築くことが重要ですし、いろいろな情報や知識も得られると思います。また紹介患者さんが基幹病院に入院したら、その病院に会いに行くことも重要だと思います。患者さんが喜ぶのはもちろん、基幹病院の医療スタッフも信頼を寄せますので、患者さんを逆紹介していただきやすくなると思います。可能であれば、基幹病院、地域の開業医、訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどで症例を通じた多職種カンファレンスを開くのもよいと思います。日常診療でがんを早期発見するためには、どこに気を付ければよいですか?有症状か無症状かで考え方が異なります。有症状の場合、そのがんはすでに早期がんである確率は低いので、ご質問そのものに対する回答にはなっていませんが、個人的には以下のような症状があった場合には、がんを疑うことにしています。すなわち、体重減少、リンパ節腫脹、原因不明で夜間に増悪する腰痛・背部痛、不明熱、嚥下困難、下血・血便・タール便、黄疸、血痰、血尿などです。また過去のがんの既往があれば、より検査閾値を下げて精密検査を進めることになると思います。無症状のがんを診断するためには、基本的にはがん検診を定期的に受けていただくことだと思います。私はがん以外で診ている患者さんに「がんについては検診を受けてください。残念ながら、あなたががんになっていないかどうかについてまでは診られていないのです」と説明しています。高血圧や糖尿病で診ている患者さんでも、患者さん側からすればがんも含めて診てもらっていると思っている方がいらっしゃいます。しかし、がんでない患者さん全員にがんが無いかどうかを診ていくのは大変だと思います。ただ、がん検診については注意すべき点があります。がん検診は早期発見のみを目的にしているのではなく、早期発見を通じてがんによる死亡を減らすことを目標としていますし、その点についてある程度コンセンサスがあるがん種についてがん検診が行われているのです。したがって、がん検診の内容に満足できない患者さんには、賛否両論あるにせよ、人間ドックを受けていただく以外にないと考えています。また、がんをスクリーニングする方法としての腫瘍マーカー測定は勧められません。スクリーニングには高い感度が求められますが、腫瘍マーカーで感度の高い検査はないからです(PSAは前立腺がんのスクリーニングには適していますが、早期診断することで死亡割合を低下させるかどうかが専門家の間で見解が異なるため現時点でがん検診に用いられてはいません)。症状もないのに患者さんの希望のみで、安易に腫瘍マーカーを測定し少しでも異常があった場合には、患者側も医師側も必要以上にがんを心配することになってしまいます。健診受診を促していますが、嫌がる人が多いです。どうすべきでしょうか?どうして嫌がるのかその理由によると思います。がんが見つかるのが怖いのか、それともがんになっても構わないし、早期発見が重要と考えていないなど、いろいろ理由があると思います。まずは患者さんの考え方を十分に把握することから始めてみてはいかがでしょう。CKDにおける抗がん治療の注意点を教えてください。腎障害の程度や、抗がん薬が腎排泄か肝代謝・肝排泄かなどによって、投与量は変わってきますので一般化できません。また、透析患者さんの場合はまた別の因子(透析性、分布容積、蛋白結合率、投与するタイミングなど)を考慮する必要が出てきます。詳しくは各抗がん薬の添付文書をご覧ください。高齢患者さんの治療に関する注意点を教えてください。一般的に抗がん治療の治療目標は二つあります。すなわち、生存期間の延長とQOLの改善・維持です。高齢患者さんの場合、抗がん治療により得られるメリットは非高齢患者さんのそれに比して小さくなります。つまり、生存期間の延長も小さくなるでしょうし、QOLも低下する可能性が十分あります。大切なことは、何を治療目標にして個々の患者さんを治療しているのかについて主治医と患者さん・家族が十分話し合い、認識を共有しておくことだと思います。個々の抗がん治療(手術、抗がん薬、放射線)の注意点については紙面の関係でここでは割愛します。食欲不振に対する対処法を教えてください。食欲不振の原因によります。原疾患によるものか、抗がん薬治療によるものか、あるいはうつ病などの内因性精神疾患によるものか、など多岐にわたります。認知症患者におけるがん治療について教えてください。がん治療に関して、その患者さんに自己意思決定能力があるかどうかが最大の問題になります。認知症のために本人に意思決定ができない場合は、家族や友人などに代理意思決定をしていただく必要があります。その際に大切なのは、代理者の意向ではなく、患者さん本人の意思を代弁する(または推定する)ことです。あくまでも患者さんが主体です。また、認知症患者の抗がん治療自体も難しいものになります。認知症の患者さんは脳の脆弱性のため、せん妄を起こしやすく、脳以外の身体の脆弱性も伴っていることが多いことから、その他の合併症(肺炎など)も起こしやすいのです。前立腺がんにおける高濃度ビタミンCの有用性について教えてくださいマルチビタミン(ビタミンCを含む)とミネラル補充療法の前立腺がん発症や進行予防との関連についてはメタ解析により現時点では否定されています(Stratton J,et al. Family Practice. 2011; 28:243–252)。上部消化管検診においてペプシノゲンがBaや内視鏡に代行できるという考え方はもう一般的になっているのでしょうか?日本のガイドラインでは現時点においても胃透視を推奨しており、ペプシノゲンはピロリ抗体や胃内視鏡と共に胃透視に比べてエビデンスレベルは下位に位置づけられています(Hamashima C, et al. Jpn J Clin Oncol 2008;38(4)259–267)。したがって、一般的にペプシノゲン測定はほかの検査の代用にはならないと考えられます。ただ、ABC検診と言って、血液検査でH. pylori感染とペプシノゲン値を調べ、胃がんのリスク評価を行う検診があり、リスクに応じて胃内視鏡検査による胃がんのスクリーニングを推奨する動きもあります。

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インフルエンザのリスク因子、エビデンスが弱い/BMJ

 インフルエンザ関連合併症のリスク因子を定義するエビデンスのレベルは低いことが、カナダ・マックマスター大学のDominik Mertz氏らによるシステマティックレビューの結果、明らかにされた。インフルエンザ発症において一部の患者集団では合併症の併発や重症化するリスクが報告され、ハイリスク集団にワクチン接種を優先する勧告がWHOおよび世界各国で行われている。しかし、これまで同集団を定義するエビデンスの質について包括的かつシステマティックなレビューは行われていなかったという。BMJ誌オンライン版2013年8月23日号掲載の報告より。234論文61万例データをメタ解析 研究グループは、季節性またはパンデミック・インフルエンザ患者における重症アウトカムのリスク因子の評価を目的にシステマティックレビューを行った。 Medline、Embase、CINAHL、Global Health、Cochrane Central Register of Controlled Trialsをデータソースに、2011年3月までに公表された論文について検索し、インフルエンザの罹患者でリスク因子とアウトカム(死亡、人工呼吸器装着、入院、ICU入室、肺炎、複合アウトカムなど)の組み合せについて興味深い報告がされていた観察研究を選定した。 エビデンスの評価は、バイアスリスクを評価するNewcastle-Ottawaスケールによる評価と、GRADEフレームワークを用いて行った。 検索の結果、6万3,537論文の中から、包含基準を満たした234論文、61万782例分のデータを特定し解析に組み込んだ。いかなるリスク因子もエビデンスレベルが低い 解析の結果、インフルエンザの重症アウトカムに関するリスク因子のエビデンス支持は、Newcastle-Ottawaスケール評価で限界値から0の範囲であった。これはとくに、2009H1N1パンデミック以外のデータおよび季節性インフルエンザの研究データが、相対的に不足していたことと関連していた。 また、公表論文は、検出力の不足と交絡因子についての補正の不足などが広範囲に及んでおり、解析には限りがあった。たとえば、補正後推定リスク値が得られたのは260試験のうち39例(15%)で、そのうちリスク因子とアウトカムの比較のデータが得られたのは5%のみにとどまった。 エビデンスのレベルは「いかなるリスク因子」においても低かった。死亡のオッズ比は、パンデミック・インフルエンザ2.77(95%信頼区間[CI]:1.90~4.05)、季節性インフルエンザ2.04(同:1.74~2.39)だった。同様に、肥満症については、パンデミック2.74(同:1.56~4.80)、季節性30.1(同:1.17~773.12)、心血管疾患は同2.92(1.76~4.86)と1.97(1.06~3.67)、神経筋疾患は同2.68(1.91~3.75)と3.21(1.84~5.58)だった。 その他のすべてのリスク因子に関してもエビデンスレベルは非常に低かった。よく言われる妊娠や民族性の性質をリスク因子として同定することはできなかった。一方で、分娩後4週未満の女性において、パンデミック・インフルエンザの死亡リスクが有意に高いことが認められた(4.43、1.24~15.81)。 上記の結果を踏まえて著者は、「インフルエンザ関連の合併症に関するリスク因子を支持するエビデンスレベルは低く、よく言われる妊婦や民族性のリスク因子もリスク因子として確認することはできなかった。厳密で十分検出力のある研究が必要である」と結論している。

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米国における7価結合型肺炎球菌ワクチンの効果を検証(コメンテーター:小金丸 博 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(127)より-

米国では、2000年に乳幼児に対する7価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV7)が導入され、侵襲性肺炎球菌感染症は大幅に減少した。しかし、ワクチンに含まれない血清型による肺炎球菌感染症の増加が報告され、PCV7の有効性が持続しているかどうか懸念されていた。 本論文は、米国のNationwide Inpatient Sample databaseを用いて、肺炎が原因の年間入院率を、ワクチン導入前(1997~1999年)と導入後(2007~2009年)で比較検討した研究である。その結果、2歳未満の小児の入院件数は、10万小児あたり555.1件(95%信頼区間:445.1~657.1)減少しており、年間4万7,000件の入院減少と推計された。また、85歳以上の成人の入院件数も、10万人あたり1300.8件(同:984.0~1617.6)減少しており、年間7万3,000件の入院減少に結びついたと推計された。18~39歳、65~74歳、75~84歳の年齢グループの入院件数は、それぞれ10万人あたり8.4件、85.3件、359.8件減少していた。全体の入院件数は、10万人当たり54.8件(同:41.0~68.5)減少しており、年間16万8,000件の入院減少と推計された。 本論文のポイントの1つは、PCV7の効果が約10年後にも持続していた点である。ワクチンに含まれない血清型による肺炎球菌感染症の増加が報告されているが、それでもワクチンの役割を十分果たしていたといえる結果である。諸外国では、カバーできる血清型の数を増やした13価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)へ移行し、成人への適応拡大も行われており、さらなる肺炎球菌感染症の減少が期待できる。 もう1つのポイントは、ワクチンを接種した小児のみならず、接種していない成人(とくに高齢者)の肺炎入院率をも減少させている点である。理由としては、ワクチンを接種した小児での鼻咽頭の保菌率が低下することで、成人への伝播が減少するためと考えられている。成人における肺炎入院率の減少は、喫煙率の減少、インフルエンザワクチンの接種増加などの要素もあるかもしれないが、PCV7の寄与する部分の方が大きいだろうと考察されている。 本邦では、PCV7は2010年に認可され、2013年4月から小児の定期接種のワクチンとなった。将来的にはPCV13への移行が決定しており、小児の定期接種化、成人への適応拡大などの議論が進んでいる。諸外国と比較するとワクチンの導入が遅れているが、今後、本邦でも侵襲性肺炎球菌感染症の減少が期待される。

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統合失調症患者、合併症別の死亡率を調査

 統合失調症は、重大な併存疾患と死亡を伴う主要な精神病性障害で、2型糖尿病および糖尿病合併症に罹患しやすいとされる。しかし、併存疾患が統合失調症患者の超過死亡につながるという一貫したエビデンスはほとんどない。そこで、ドイツ・ボン大学のDieter Schoepf氏らは、一般病院の入院患者を対象とし、統合失調症の有無により併存疾患による負担や院内死亡率に差異があるかどうかを調べる12年間の追跡研究を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2013年8月13日号の掲載報告。統合失調症の併存疾患の大半は糖尿病合併症またはその他の環境因子に関与 対象は、2000年1月1日から2012年6月末までにマンチェスターにある3つのNHS一般病院に入院した成人統合失調症患者1,418例であった。1%以上の発現がみられたすべての併存疾患について、年齢、性別を適合させたコントロール1万4,180例と比較検討した。多変量ロジスティック回帰解析により、リスク因子(例:院内死亡の予測因子としての併存疾患など)を特定した。 統合失調症の併存疾患を比較検討した主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者はコントロールに比べ緊急入院の割合が高く(69.8 vs. 43.0%)、平均入院期間が長く(8.1 vs. 3.4日)、入院回数が多く(11.5 vs. 6.3回)、生存期間が短く(1,895 vs. 2,161日)、死亡率は約2倍であった(18.0 vs. 9.7%)。 ・統合失調症患者では、うつ病、2型糖尿病、アルコール依存症、喘息、COPDに罹患していることが多く、併存疾患としては23種類も多かった。また、これらの大半は糖尿病合併症またはその他の環境因子に関与していた。・これに対し、高血圧、白内障、狭心症、脂質異常症は統合失調症患者のほうが少なかった。・統合失調症患者の死亡例において、併存疾患として最も多かったのは2型糖尿病で、入院中の死亡の31.4%を占めていた(試験期間中、2型糖尿病を併発している統合失調症患者の生存率はわずか14.4%であった)。・統合失調症患者においては、アルコール性肝疾患(OR:10.3)、パーキンソン病(OR:5.0)、1型糖尿病 (OR:3.8)、非特異的な腎不全(OR:3.5)、虚血性脳卒中(OR:3.3)、肺炎(OR:3.0)、鉄欠乏性貧血(OR:2.8)、COPD(OR:2.8)、気管支炎(OR:2.6)などが院内死亡の予測因子であることが示された。・コントロールとの比較において、統合失調症患者の高い死亡率に関連していた併存疾患はパーキンソン病のみであった。パーキンソン病以外の併存疾患に関しては、統合失調症の有無による死亡への影響に有意差は認められなかった。・統合失調症患者の死亡例255例におけるパーキンソン病の頻度は5.5%、試験期間中に生存していた1,163例におけるパーキンソン病の頻度は0.8%と、統合失調症患者の死亡例で有意に多かった(OR:5.0)。・また、統合失調症死亡例はコントロール死亡例に比べ、錐体外路症状の頻度が有意に高かった(5.5 vs. 1.5%)。・12年間の追跡調査により、統合失調症患者はコントロールに比べて多大な身体的負担を有しており、このことが不良な予後と関連していることが判明した。・以上のことから、統合失調症において、2型糖尿病および呼吸器感染症を伴うCOPDの最適なモニタリングと管理は、鉄欠乏性貧血、糖尿病細小血管障害、糖尿病大血管障害、アルコール性肝疾患、錐体外路症状の的確な発見ならびに管理と同様に細心の注意を払う必要がある。関連医療ニュース 検証!抗精神病薬使用に関連する急性高血糖症のリスク 抗精神病薬によるプロラクチン濃度上昇と関連する鉄欠乏状態 抗精神病薬と抗コリン薬の併用、心機能に及ぼす影響

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ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合で死亡した乳児のケース

小児科最終判決平成15年3月20日 東京地方裁判所 判決概要生後3ヵ月乳児の気管切開術後に、a社製のジャクソンリース回路とT社製の気管切開チューブを接続して用手人工呼吸を行おうとしたところ、接続不具合のため回路が閉塞して換気不全に陥り、11日後に死亡した事故について、企業の製造物責任ばかりでなく、担当医師の注意義務違反が認定された。詳細な経過経過2000年12月8日体重1,645gで出生、呼吸障害がみられ、しばらく気管内挿管による人工呼吸器管理を受けた。2001年3月13日声門・声門下狭窄および気管狭窄を合併したため、手術室で気管切開術を施行。術後の安静を目的として筋弛緩薬が静脈注射され、自発呼吸がないままNICU病棟へ帰室することになった。その際、患児を病棟へ搬送するために、気管切開部に装着された気管切開チューブ(T社シャイリー気管切開チューブ小児・新生児用)にa社ジャクソンリース小児用麻酔回路を接続して用手人工呼吸を行おうとした。ところが、使用したジャクソンリースは新鮮ガス供給パイプが患者側接続部に向かってTピースの内部で長く突出したタイプであり、他方、シャイリー気管切開チューブは接続部の内径が狭い構造になっていたため、新鮮ガス供給パイプの先端が気管切開チューブの接続部の内壁にはまり込んで密着し、回路の閉塞を来した。そのため患児は換気不全によって気胸を発症し、全身の低酸素症、中枢神経障害に陥った。3月24日消化管出血、脳出血、心筋脱落・線維化、気管支肺炎などの多臓器不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.企業の責任a社のジャクソンリースは、T社のシャイリー気管切開チューブに接続した時に呼吸回路が閉塞され、患者が換気不全に陥るという危険性を有していたにもかかわらず、適切な指示・警告を出さなかった。さらに1997年に愛媛大学医学部附属病院で、ジャクソンリースの新鮮ガス供給パイプとT社販売の人工鼻の閉塞による換気不全事故が2件発生している。人工鼻とジャクソンリース回路の接続の仕組みと、T社シャイリー気管切開チューブとジャクソンリース回路の接続の仕組みは同じであるから、a社、T社は閉塞の危険性を認識し得なかったとはいえない2.病院側の責任担当医師がジャクソンリースとシャイリー気管切開チューブの構造や特徴を理解し、組合せ使用時の構造や特徴に関心を持ち、呼吸回路の死腔量や換気抵抗を理解することに努めていれば、接続部の目視点検を行うことで接続部で閉塞していることを発見するのは可能かつ容易である。さらに今回使用したジャクソンリースとシャイリー気管切開チューブ以外の器具を選択する余地も十分にあったので、死亡という最悪の結果を回避することは可能であった本件事故と同一のメカニズムにより生じた接続不具合は、過去に麻酔科の専門誌や学会で発表され、ジャクソンリースの添付文書にも、不充分な内容ではあるが注意喚起がなされている。これらの情報を集約すれば、接続不具合は予見できない事象ではない。また、ジャクソンリース回路であればどれでも同じという発想で、医療器具の安全性よりも数を優先して導入したことが、被告病院の医療従事者らがジャクソンリースの構造や特徴を理解しないままに使用することにつながった医療器具製造業者側の主張a社の主張a社ジャクソンリースは、呼気の再吸入を防止するために新鮮ガス供給パイプを長くしたもので、昭和50年代終わり頃から同一仕様で販売されて10年以上も経過し、医療機関に広く採用されている。そのような状況で被告T社がシャイリー気管切開チューブを「標準型換気装置および麻酔装置と接続できる」と説明して販売したのであるから、a社ではなくT社がジャクソンリースとの不具合の発生回避対策を講じるべきであった。さらに病院が医療機関に通常要求される注意義務を尽くせば、不具合は容易に確認できたはずであるので、a社の過失はないT社の主張シャイリー気管切開チューブの接続部は、日本工業規格(JIS規格)に準拠し通常の安全性は満たしているから欠陥はない。シャイリー気管切開チューブは汎用性が高く、本国内はもとより世界中で数多く使用されている。また、当製品は接続する相手を特定して販売していたものではなく、a社ジャクソンリースのような特殊な形状を有した製品との接続は想定されていなかったまた愛媛大学の事故については、T社人工鼻と同様の接続部の形状をもつ製品はきわめて多いからその中のひとつにすぎないシャイリー気管切開チューブについて接続不具合を予見することは不可能であったさらに、医療現場において医療器具を創意工夫して使用することは医療従事者の裁量に任されており、その場合リスク管理上の責任も医療現場に委ねられるべきである。本件事故は、担当医師が基本的注意義務を怠り発生させたものであるから、医療器具の製造業者には責任がない。病院側(被告)の主張ジャクソンリース回路に気管切開チューブ類を接続して安全性を確認する点検方法は、一般には存在せず、いかなる医学専門書にもその方法に関する記載はない。また、気管切開チューブなどを接続した状態で点検を行えるテスト肺のような器具自体も存在しないうえ、器具を口に咥えて確認する方法も感染などの問題から行い得ない。したがって、ジャクソンリースと気管切開チューブとの組合せによる接続不具合を確認することは不可能であった。また、本件と類似の接続不具合事故についての安全情報は、企業からも厚生労働省からも医療機関に対し一切報告されなかった。また本件事故発生以前に、別の患児に対して同様の器具の組合せによる換気を600回以上行っているが、原疾患に起因すると考えられる気胸が2回発生した以外は何のトラブルもない。したがって担当医師は本件事故の発生を予見できなかった。裁判所の判断企業側の責任小児・新生児に対しジャクソンリース回路を用いて用手人工換気を行う場合、マスク、気管内チューブ(経口・経鼻用)、気管切開チューブなどの呼吸補助用具にジャクソンリース回路を組み合わせ、相互に接続して使用することが通常の使用形態であり、a社およびT社は、医療の現場においてジャクソンリース回路に他社製の呼吸補助用具が組み合わされて接続使用されている実態を認識していた。ところがa社の注意書には、換気不全が起こりうる組合せにつき、「他社製人工鼻など」と概括的な記載がなされているのみで、そこにシャイリー気管切開チューブが含まれるのか判然としないうえ、換気不全のメカニズムについての記載がないために、医療従事者が個々の呼吸補助用具ごとに回路閉塞のおそれを判断することは困難で、組合せ使用時の回路閉塞の危険を告知する指示・警告上の欠陥があったと認められ、製造物責任を負うべきである。同様にT社も、シャイリー気管切開チューブを販売するに当たり、その当時医療現場において使用されていたジャクソンリースと接続した場合に回路の閉塞を起こす危険があったにもかかわらず、そのような組合せ使用をしないよう指示・警告しなかったばかりか、使用説明書に「標準型換気装置および麻酔装置に直接接続できる」と明記し、小児用麻酔器具であるジャクソンリースとの接続も安全であるかのごとき誤解を与える表示をしていたので、シャイリー気管切開チューブには指示・警告上の欠陥があった。医療器具の製造・輸入販売企業には、医療現場における医療器具の使用実態を踏まえて、医療器具の使用者に適切な指示・警告を発して安全性を確保すべき責任があるので、たとえ医療器具を使用した医師に注意義務違反が認められても、企業が製造物責任を免れるものではない。病院側の責任小児科領域の呼吸管理においては、呼吸回路の死腔が大きいと換気効率が低下するため、死腔が小さい器具が用いられることが多いが、回路の死腔を小さくすると吸気・呼気の通り道が狭くなって換気抵抗が増加する関係にあることが知られている。そのため小児科医師は、ジャクソンリース回路と気管切開チューブを相互接続するに当たり、それぞれの器具につき死腔と換気抵抗に注意を払うのが一般的である。もし担当医師が、死腔を減らすために接続部内径が狭くなっているというシャイリー気管切開チューブの構造上の基本的特徴、および死腔を減らすために新鮮ガス供給パイプが患者側接続部に向かって長く伸びているというジャクソンリースの構造上の基本的特徴を理解していれば、両器具を接続した場合に、新鮮ガス供給パイプの先端が上記接続部の内壁にはまり込んで呼吸回路の閉塞を来し事故が発生することを予見することが可能であった。たとえ医学専門書に接続不具合の点検方法について記載がないからといって、ただちに結果回避の可能性がなかったということはできない。担当医師は、両器具が相互に接続された状態でその本来の目的に沿って安全に機能するかどうかを事前に点検すべき注意義務に違反したために起きた事故である。医師は人間の生命身体に直接影響する医療行為を行う専門家であり、その生命身体を委ねる患者の立場からすれば、医師にこの程度の知識や認識を求めることは当然であって、医師に理不尽や不可能を強いるものとは考えられない。原告側合計8,204万円の請求に対し、企業と連帯して合計5,063万円の支払い命令考察ジャクソンリースと気管切開チューブ接続不具合による死亡事故は、われわれ医療関係者からみて、当然医療器具を製造・販売した企業側がすべての責任を負うべきもの、と考えていたと思います。担当医師はミスとされるような間違った医療行為はしていませんし、どの医師が担当しても事故は避けられなかったと考えられます。もう一度経過を振り返ると、気管内挿管を継続していた生後3ヵ月の低出生体重児に、声門・声門下狭窄および気管狭窄がみられたため、全身麻酔下で耳鼻科医師が気管切開を行いました。手術後は安静を保つため筋弛緩薬を投与してNICUで管理することになり、小児科担当医師がNICUに常備していたジャクソンリースを携えて手術室まで出迎えにいきました。ところが、ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合で気胸を起こしてしまい、最終的には死亡に至ったというケースです。ご遺族にとってはさぞかし無念であり残念な事故とは思いますが、出迎えにいった小児科医にとっても衝撃的な出来事であったと思います。あとから振り返ってみても、どこをどうすれば患児を助けることができたのか、という反省点を挙げにくいケースであると思います。小児科担当医師の立場では、筋弛緩薬により自発呼吸がない状態で帰室するため、用手人工喚気をする必要があり、となればNICUに常備していたジャクソンリースを用いるのが当然、ということになります。ジャクソンリースを携行する段階で、よもやこのジャクソンリースと気管切開チューブが接続不具合を起こすなど、100%考えていなかったでしょう。なぜなら、この医師がこの病院に勤務する以前から購入されていたジャクソンリースであったと思われるし、手術では耳鼻科医師がこの乳児に最適と思って選んだ気管切開チューブを装着したのですから、「接続がうまくいくのが当然」という認識であったと思います。まさか、接続がうまくいかない医療器具をメーカー側が作るはずはないし、製品として世に登場する前に、数々の臨床試験をくり返して安全性を確かめているはずだ、という認識ではないでしょうか。もし、この担当医師(小児科医師)がジャクソンリースを選定・購入する立場であったとしたら、院内で使用する呼吸器関連の器具との接続がうまくいくかどうか配慮する余地はあったと思います。しかし、もともとNICUに常備されているジャクソンリースに対し、「接続不具合が発生する気管切開チューブが存在するかどうか事前にすべて確認せよ」などということは、まったく医療現場のことを理解していない法律専門家の考え方としか思えません。ましてや、事故発生当時に企業や厚生労働省から、ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合に関する情報は一切提供されていなかったのですから、事故前に確認する余地はまったくなかったケースであると思います。にもかかわらず、「医師は人間の生命身体に直接影響する医療行為を行う専門家であり、その生命身体を委ねる患者の立場からすれば、医師にこの程度の知識や認識を求めることは当然であって、医師に理不尽や不可能を強いるものとは考えられない」などという判断は、いったいどこに根拠があるのでしょうか、きわめて疑問に思います。本件のように、医師の過失とは到底いえないような医療事故でさえ、医師の注意義務違反を無理矢理認定してしまうのは、非常に由々しき状況ではないでしょうか。このような判決文を書いた裁判官がもし医師の道を選んで同様の事故に遭遇すれば、必ずや今回のような事態に発展したと思います。ただし本件ほどの極端な事例ではなくても、人工呼吸器関連の医療事故には、病院側に対して相当厳しい判断が下されるようになりました。なぜなら、呼吸器疾患などにより人工換気が必要な患者では、機器の不具合が生命の存続を直接脅かすような危険性を常に秘めているから思われます。たとえば、人工呼吸器が知らないうちにはずれてしまったがアラームを消音にしていた、人工呼吸器の回路にリークがあるのに気づくのが遅れた、あまりアラームがうるさいので警報域を低めにしておいたら呼吸が止まっていた、加湿器のなかに蒸留水以外の薬品を入れてしまった、などという事故が今までに報告されています。個々のケースにはそれなりに同情すべき点があるのも事実ですが、患者が病院というハイレベルの医療管理下にある以上、人工呼吸器に関連したトラブルのほとんどは過失を免れない可能性が高いため、慎重な対応が必要です。なお今回のような事故を防ぐためにも、院内で使用している医療機器(人工呼吸器、各種カテーテル類、輸液ポンプ、微量注入器など)については、なるべく一定のフローに沿って定期的な点検・確認を行うことが望まれます。同じメーカーの製品群を使用する場合にはそれほどリスクは高くないと思いますが、本件のように他社製品を組み合わせて使用する場合には、細心の注意が必要です。今回の事例を教訓として、ぜひとも院内での見直しを検討されてはいかがでしょうか。■日本麻酔科学会 麻酔機器・器具故障情報,薬剤情報,注意喚起 情報 より故障情報2001年2月28日都立豊島病院におけるジャクソンリース回路およびシャイリー気管切開チューブの組み合わせ使用による死亡事故に関して3月24日付きの毎日新聞およびインターネットの記事で紹介されました、a製ジャクソンリース回路(旧型)とマリンクロット社製シャイリー新生児用気管切開チューブを併用しての人工呼吸による患児の死亡事故について、現在まで判明した情報は次の通りです。a製旧型ジャクソンリース回路(現在まで新型と並行販売していた)では、フレッシュガス吹送用ノズルが、Lコネクターの中央湾曲部から気管チューブ接続口へ向けて深く挿入されています。一方、M社が発売しているシャイリー気管切開チューブの新生児用(NEO)と小児用(PED)はチューブの壁厚が厚く(従って内径が狭く)、この両者を併用すると、ジャクソンリース回路のノズルが気管切開チューブに嵌入して、フレッシュガスが肺のみへ送り続けられ、呼気および換気が不可能となったことが今回のおよび昨年11月の死亡事故の原因です。2001年4月6日ジャクソンリース回路と気管切開チューブの接続についてa製ジャクソンリース回路とM製シャイリーの気管切開チューブによる事故の続報をお知らせします。厚生労働省は日本医療器材工業会(代表 テルモ株式会社 山本章博氏)に対して、上記以外のジャクソンリース回路と気管切開チューブのあらゆる組み合わせについての危険性の調査を命じました。日本医療器材工業会は3月30日の時点で、リコーと小林メディカルを除く他社の製品の組み合わせについてチェックを終了しております。その結果、ジャクソンリースとしてはa製に加えて五十嵐医科工業製、気管切開チューブとしてはマリンクロット製に加えて泉工医科工業製、日本メディコ製の一部のものを組み合わせた時に、危険性のあることが判明しました。2001年5月2日ジャクソンリース回路と気管切開チューブの接続についてa製ジャクソンリース回路とM製シャイリー気管切開チューブによる事故後の日本医療器材工業会のその後の調査で、アネス(旧アイカ)取扱のデュパコ社製ノーマンマスクエルボに関しても、問題の生じる可能性があるということで、回収が開始されました。小児科

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H7N9型鳥インフル、初のヒト間感染の可能性/BMJ

 新型鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの初めてのヒト間感染と考えられる事例を、中国・江蘇省疾病管理予防センターのXian Qi氏らが確認し、BMJ誌オンライン版(2013年8月6日)で報告した。H7N9型ウイルス感染のほとんどは散発的に発生している。動物実験では、H7N9型ウイルスは飛沫を介して伝染する可能性が示唆されているが、これまでヒト間感染を示す明確なエビデンスはなかった。2番目の感染者に家禽との接触なし 2013年3月、江蘇省無錫市でH7N9型感染の家族内小集積(父親とその娘)が確認された。研究グループは、H7N9型ウイルスのヒト間感染の可能性とその影響を評価するために疫学調査を開始した。 2人の患者および家禽を含む生活環境から試料を採取し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、ウイルス培養、赤血球凝集抑制試験を実施した。ほかの家族や医療従事者など、発症前の患者と接触のあった者の調査も行った。 最初の感染例である60歳の男性は、家禽との接触から5~6日目に体調を崩した。2例目となったのは32歳の彼の娘で、病院で感染予防をせずに父親の看病をしており、家禽との接触は確認されなかった。彼女は父親との最後の接触から6日後に症状を発現した。パンデミックな流行の可能性も考慮すべき 父親には10年以上にわたる高血圧の既往歴があった。2013年3月8日、発熱、咳嗽、息切れを発症し、同11日、左肺上葉の炎症で入院した。進行性の呼吸窮迫、持続性の高体温症、低酸素血症がみられたため、同15日、ウイルス性肺炎および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の診断でICUへ入室した。同18日、症状増悪のため別の3次病院のICUへ移送され、オセルタミビル(商品名:タミフル)治療が開始された。この間、下痢は認めなかった。5月4日、播種性血管内凝固症候群(DIC)および多臓器不全のため死亡。 娘は父親が3次病院ICUへ移送されるまで看病をしていた。3月21日、39.6℃の発熱と咳嗽を発症、同24日、左肺上葉の肺炎の診断で父親が転送された病院の呼吸器科に入院、白血球減少、リンパ球減少、軽度の低酸素症がみられた。同28日、持続性高体温症、呼吸不全、ARDSのためICU入室となり、人工呼吸、広域抗菌薬治療、オセルタミビル、免疫学的治療、蘇生輸液が行われたが、4月24日、多臓器不全および心停止にて死亡した。 2人の患者から分離されたウイルス株のゲノム解析では、8つの遺伝子はすべて遺伝学的にほぼ同一であった(類似性:99.6~99.9%)。また、系統樹解析では、2人の患者の分離株の8つの遺伝子はすべて同じ単系統群に属していた。 2人の患者と接触した43人のうち1人が軽度の症状を呈したが、rRT-PCRでH7N9型ウイルスは陰性であった。H7N9型ウイルスに特異的な血球凝集抑制抗体の検査では、43人のすべてが陰性だった。 著者は、「最初に感染した父親から娘へのヒト間感染の可能性が強く示唆され、伝染性は限定的で、非持続的であった」とし、「本研究は、H7N9型ウイルスのヒト間感染の可能性を示した初めての報告であり、パンデミックな流行の可能性も示唆される」と指摘している。

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情報提供でプライマリでの抗菌薬使用が3割低下/BMJ

 急性呼吸器感染症への抗菌薬処方について、特別に訓練を受けた一般開業医が訓練を受けていない一般開業医に対して情報提供をすることで、同割合がおよそ3割低下した。抗菌薬を処方した場合でも、より狭域な抗菌薬であるペニシリンV投与の割合が増加した。ノルウェー・オスロ大学のSvein Gjelstad氏らが、400人弱の一般開業医を対象に行った無作為化試験の結果で、現状では急性呼吸器感染症に対し、過度な抗菌薬処方が広く行われているという。BMJ誌オンライン版2013年7月26日号掲載の報告より。2回訪問し、急性呼吸器感染症への抗菌薬投与に関するガイドラインなどを説明 研究グループは、ノルウェーの一般開業医79グループ・382人を対象に無作為化試験を行った。介入群の医師(39グループ、183人)には、特別な訓練を受けた一般開業医が2回訪問し、急性呼吸器感染症への抗菌薬投与に関するガイドラインや、最近のエビデンスについて説明をした。また、特別なソフトウエアを用い、その医師の前年の抗菌薬処方に関するデータを電子カルテから集め、それに基づいてディスカッションを行った。 対照群(40グループ、199人)には、70歳以上高齢患者への適切な処方に関する説明を行った。 主要評価項目は、抗菌薬の処方率と、ペニシリンV以外の抗菌薬の処方割合だった。介入群で抗菌薬処方率はおよそ3割減、ペニシリンV以外の抗菌薬の割合も減少 その結果、介入群のベースライン時の急性呼吸器感染症への抗菌薬処方率は33.2%から31.8%へ減少し、対照群は33.4%から35.0%へ増加し、介入群での有意な減少が認められた(オッズ比:0.72、95%信頼区間:0.61~0.84)。また処方された抗菌薬のうち、非ペニシリンV抗菌薬の占める割合も、介入群で有意に減少した(同:0.64、0.49~0.82)。 なお、患者1,000人当たりの抗菌薬処方件数は、介入群で80.3から84.6へ、コントロール群で80.9から89.0へ増加していたが、これは抗菌薬処方を必要とする急性呼吸器感染症(とくに肺炎)の患者数が増加したことを受けてのものであった。

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小児急性中耳炎診療ガイドライン2013年度改訂版トピックス-肺炎球菌迅速検査キット導入の意義-

■2013年度改訂の背景小児急性中耳炎診療ガイドラインはエビデンスに基づいた推奨治療法の作成を目的とし、中耳炎患者の診断・治療に有益となることを目標としており、Minds(医療情報サービス)へも掲載されている。前回(2009年)の改訂以降、肺炎球菌ワクチンの国内導入、またテビペネムピボキシル(TBPM-PI)、トスフロキサシン(TFLX)などの新薬が認可されるとともに、2011年11月には肺炎球菌迅速検査キット「ラピラン®肺炎球菌HS」が保険収載され、診療ガイドラインにおけるこれらの位置づけを明確に提示することとなった。■主な改訂ポイント2013年版 小児急性中耳炎診療ガイドラインの主な改訂ポイントとして、以下の点が挙げられる。1)重症度スコアリング項目から「光錐」を削除し、スコア5点以下を軽症、6〜11点を中等症、12点以上を重症と再定義した。2)中等症、重症において抗菌薬投与後3日目に病態を確認する。3)治療薬として、新たに経口抗菌薬2剤(TFLX、TBPM-PI)を追加した。4)7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV-7)項目を追加した。5)迅速検査キット「ラピラン®肺炎球菌HS(中耳・副鼻腔炎)」を導入した。以下、今回の改訂の特徴の1つである肺炎球菌迅速検査キット「ラピラン®肺炎球菌HS(中耳・副鼻腔炎)」の位置づけや使用法について概説する。■肺炎球菌迅速検査キットの意義急性中耳炎においても原因微生物の同定は重要なステップである。従来からの起炎菌検査法であるグラム染色法は多忙な日常臨床のなかで実施することは難しく、また細菌培養法は結果まで数日を要するため、治療開始時点では起炎菌が不明な場合が多い。このような背景からも迅速検査キットの活用により治療前に原因微生物を推定することは有用である。「ラピラン®肺炎球菌HS」は、中耳炎および副鼻腔炎における肺炎球菌抗原診断として、国内で初めて保険収載された迅速診断薬(保険点数210点、判断料(月1回に限る)144点)で、早期の起炎菌検索に有用である。臨床性能試験における本キットの成績は培養検査と良好な一致率を示した(図1)。図1 迅速検査キット「ラピラン®肺炎球菌HS」の臨床性能試験成績画像を拡大するこれらの成績により、本キットは中耳炎や鼻副鼻腔炎の肺炎球菌感染診断に有用と考えられた1)。また中耳炎・副鼻腔炎合併症例を対象とした検討で、中耳貯留液の肺炎球菌培養検査を基準としたときに、鼻咽腔ぬぐいの培養検査と本キットの検査結果がほぼ同等の成績であったため、中耳貯留液の採取が難しい場合には、鼻咽腔の検体を代用できることが示唆された。 留意点として死菌検出、偽陰性(抗原量少ない場合)、鼻咽腔ぬぐい液では鼻咽腔定着細菌の検出などが挙げられる。本キットの診断意義としては、陽性:肺炎球菌が起炎菌、また死菌残存(中耳貯留液)、常在菌(上咽頭ぬぐい)もあり得る。陰性:インフルエンザ菌やMoraxella catarrhalisが起炎菌、非細菌性またはウイルス性、また肺炎球菌量が少ない(偽陰性)場合がある。■本キットの結果に基づく抗菌薬選択について本キットが陽性であれば、AMPC高用量、クラブラン酸・アモキシシリン合剤(CVA/AMPC)、テビペネムピボキシル(TBPM-PI)など、肺炎球菌をターゲットとした治療が考えられる。また、本キットは薬剤耐性菌やその他の起炎菌の情報は得られないが、2歳未満、集団保育、1ヵ月以内の抗菌薬前治療などの薬剤耐性菌リスク因子を考慮したうえで迅速キットを使用すれば早期の治療選択に役立てることができる。画像を拡大する■迅速検査キット使用のタイミング小児急性中耳炎診療において、次のような場合に肺炎球菌迅速検査キットの結果が参考になる(アルゴリズム中の*印)。1)軽症(スコア≦5点):(図2-A)   3日間の経過観察で改善せず、アモキシシリン(AMPC)を3日間投与しても改善が認められない症例の抗菌薬選択(3回目診察、4回目診察)。2)中等症(スコア6-11点):(図2-B)   AMPC高用量3日間による初回治療後に改善がみられない症例の抗菌薬選択(2回目診察、3回目診察)。3)重症(スコア12点以上):(図2-C)   初診時あるいは初回治療後に改善がみられない症例の抗菌薬選択。■図2 重症度別の治療アルゴリズムA. 軽症(スコア≦5点)画像を拡大するB. 中等症(スコア6~11点)画像を拡大するC. 重症(スコア≧12点)画像を拡大する■肺炎球菌迅速検査キットの使用法キットの使用法を図3に示す。抽出操作は約5分、反応時間は15分で、測定開始から15分が経過していなくても判定部に2本の赤い線が確認できた時点で陽性と判定可能である。図3 「ラピラン®肺炎球菌HS(中耳・副鼻腔炎)」の操作法および判定法画像を拡大する■まとめ治療開始の時点では起炎菌が不明なことが多い小児急性中耳炎診療の現場では、迅速検査キットの導入によって、早期の適切な治療アプローチが可能となり、治癒の達成、患児のQOLの改善とともに耐性菌や医療費の抑制にもつながると期待される。1)Hotomi M, et al. PLoS One. 2012; 7(3) :e33620.関連ニュース4年ぶりの改訂『小児急性中耳炎診療ガイドライン2013年版』発売【問い合わせ先】 大塚製薬株式会社 医薬情報センター〒108-8242 東京都港区港南2-16-4 品川グランドセントラルタワー電話:0120-189-840

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PCV7ワクチン導入効果は10年後も持続、高齢者への間接効果も/NEJM

 2000年に米国で導入された7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の小児への接種の効果について、肺炎関連入院の減少効果が、10年後も持続していることが、米国・ヴァンダービルト大学のMarie R. Griffin氏らによる調査の結果、報告された。また直接接種をしていない成人についても減少が認められ、とくに85歳以上高齢者について大幅な減少が確認されたという。米国においてPCV7の導入は、接種対象の若年小児以外にも年長小児や成人における“ワクチン血清型”の侵襲性肺炎球菌疾患の発生率を大幅に低下させた。2004年時点の調査では、若年小児のあらゆる肺炎関連入院が顕著に減少したことが確認されていた。しかし一方で増加が報告されていた“非ワクチン血清型”の侵襲性肺炎球菌疾患についての懸念から、PCV7導入の長期的効果および高齢者への効果についての評価が待たれていた。NEJM誌2013年7月11日号掲載の報告より。PCV7ワクチン導入前1997~1999年と、導入後2007~2009年の年間肺炎入院率を比較 研究グループは、全米入院サンプルデータベースを用い、PCV7が小児ワクチンとして導入される前の1997~1999年と、導入後で十分に時間が経過した2007~2009年の、肺炎による入院の平均年間発生率を調べ、それを用いて肺炎による入院の年間減少率を推定し比較した。 肺炎が入院理由の第一診断名である場合と、第一診断名が敗血症、髄膜炎、膿胸で、それに次ぐ診断名が肺炎である場合の入院を、肺炎による入院と定義した。85歳以上で年間10万人当たり1,300件減少、年間7万3,000件の入院減少に結びつく その結果、2歳未満児の肺炎関連入院の年間発生率は、PCV7ワクチン導入前時期と比べて導入後10年時点では、10万人当たり551.1件(95%信頼区間:445.1~657.1)減少(1,274件から723件へ)、相対比で43.2%減少していた。導入前時期をベースに推算すると、年間約4万7,000件の入院減少に結びついていた。 また、85歳以上の肺炎関連入院の年間発生率も、10万人当たり1300.8件(同:984.0~1617.6)減少、相対比で22.8%減少し、年間7万3,000件の入院減少に結びついたと推計された。 さらに、18~39歳、65~74歳、75~84歳の3つの年齢グループではそれぞれ、10万人当たり8.4件、85.3件、359.8件減少した。 全体としては、PCV7導入後の肺炎関連入院の年間発生率は、年齢で補正後10万人当たり54.8件(同:41.0~68.5)減少し、年間16万8,000件の入院減少につながったと推計された。

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高齢者のせん妄に対する抗精神病薬のリスクは?

 順天堂大学医学部附属病院練馬病院・先任准教授の八田 耕太郎氏らは、一般病院入院中にせん妄を発症した高齢者を対象に1年間の前向き観察研究を実施し、抗精神病薬による有害事象の発現状況を検討した。その結果、重篤な有害事象の発現頻度は0.2%であり、死亡例もなく、リスクは低いことを報告した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌オンライン版2013年6月25日号の掲載報告。 高齢者のせん妄に対する抗精神病薬のリスクについて注意が喚起されているが、研究グループは、「一般病院においても、リスクが有効性を上回るかどうかは臨床上の疑問である」として、1人以上の常勤精神科医のいる一般病院33施設において1年間の前向き観察研究を行った。対象は、急性身体疾患または手術のため入院中にせん妄を発症し、せん妄に対する治療が行われた患者とした。主要アウトカムは、重篤な有害事象の発現率と種類であった。 主な結果は以下のとおり。・せん妄を発症したのは2,834例であった。・そのうち2,453例が、リスペリドン(34%)、クエチアピン(32%)、非経口ハロペリドール(20%)などの抗精神病薬を投与された。・2,453例中、重篤な有害事象は22例(0.9%)報告された。誤嚥性肺炎が最も多く(17例、0.7%)、次いで心血管イベント(4例、0.2%)、血栓塞栓症(1例、0.0%)の順であった。・転倒による骨折または頭蓋内外傷を認めた患者はいなかった。・抗精神病薬の副作用により死亡した患者はいなかった。・臨床全般印象改善尺度(Clinical Global Impressions-Improvement Scale)の平均スコアは、2.02(SD:1.09)であった。・半数以上の患者(54%)で、せん妄は1週間以内に回復した。・以上より、一般病院でも適切な用量調整と副作用の早期発見が行われれば、高齢者せん妄に対する抗精神病薬のリスクは、介護施設あるいは外来の認知症患者に対する抗精神病薬のリスクに比べて低いと考えられた。ポイントは、抗精神病薬の使用を避けることではなく、リスクをいかに観察するかである。関連医療ニュース 抗精神病薬は“せん妄”の予防に有用か? せん妄の早期発見が可能に せん妄はレビー小体型認知症のサイン?!

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