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ここから始めよう!みんなのワクチンプラクティス ~今こそ実践!医療者がやらなくて誰がやるのだ~

第1回 ワクチンプラクティスって何?第2回 学ぶべき4つのVとは?第3回 その打ち方は正しいのか? Vaccinological principle (1)第4回 ルールに沿って、しかし速やかに第5回 本当の重要性を知る B型肝炎、ヒブ/小児肺炎球菌 Vaccine formulation & VPD (1)第6回 子供だけに必要なわけじゃない 破傷風、百日咳 Vaccine formulation & VPD (2)第7回 軽んじてはいけない 麻疹・風疹、日本脳炎 Vaccine formulation & VPD (3)第8回 知られざる合併症 水痘、ムンプス Vaccine formulation & VPD (4)第9回 誤解されている HPV、成人肺炎球菌 Vaccine formulation & VPD (5)第10回 教科書には載っていない Vaccinee第11回 4Vで3Cを実践しよう(1) Common schedule & Catch-up schedule第12回 4Vで3Cを実践しよう(2) Communication on vaccine 肺炎球菌、ヒブワクチンが定期接種化されるなど、改善の兆しを見せる日本のワクチン事情ですが、先進国から比べればまだまだ不十分な状況に変わりはありません。正しいワクチン接種によって、多くの小児の命が救われ、麻痺や難聴などの高度障害を減らせるのです。にもかかわらず、接種率の低さ、任意接種扱いのままのワクチンが複数あること、Tdapなどのブースターワクチンの未整備など、問題は山積みです。こういった状況でありながら医学部ではワクチンを単独の教科として時間配分することは少なく、ワクチンに不安を感じる母親とのコミュニケーションが図れず、臨床現場で戸惑うこともあるのではないでしょうか?このコンテンツでは同時接種の可否、接種間隔、望ましい投与経路、副反応、疫学状況や救済制度はどうなっているか、などの問いに一つずつ触れています。現場で悩む医師の拠り所となるべく、正しいワクチンの知識を分かりやすく解説。患者さんの不安を払拭するためのコミュニケーションスキルアップの実演もあります。第1回 ワクチンプラクティスって何?今までワクチンのことを系統立てて学んだことはありますか?ワクチンプラクティスとは積極的にワクチンの正しい知識を学び、積極的に必要なワクチンの提案とコミュニケーション、そして接種を行うことです。このワクチンプラクティスには3つの要素(3C)があります。この3Cを知ることで母子手帳の空欄を埋めるだけという受け身から脱却し、正しいワクチンプラクティスを実践することが出来るのです。第2回 学ぶべき4つのVとは?ワクチンプラクティスを行うためには、どんな知識が必要なのでしょう?学習領域は膨大です。4つのVで整理して考えましょう。 すなわち、Vaccinological principle(ワクチン学の原則)、Vaccine formulation(個別のワクチン製剤)、VPD(ワクチンで予防可能な疾患ワクチンで予防可能な疾患)、そしてVaccinee(ワクチンの被接種者)です。これらを総合的に理解することで、正しいワクチンプラクティスを行うことが出来るのです。第3回 その打ち方は正しいのか? Vaccinological principle (1)ワクチンの投与経路、異なるワクチン同士の投与間隔、同時接種。これらについては日本だけのルールも存在し、正しく理解されてないことが多くあります。ワクチン学的に何が正しいのか理解し、臨床現場ではどう対応すべきか学びましょう。第4回 ルールに沿って、しかし速やかに接種禁忌や副反応、その対応法を知っておきましょう。また、接種注意や見合わせについては、海外のプラクティスとかけ離れた独自の「日本ルール」があります。これらを踏まえておくとどのようなプラクティスを実践すれば良いのかがわかります。第5回 本当の重要性を知る B型肝炎、ヒブ/小児肺炎球菌 Vaccine formulation & VPD (1) B型肝炎ワクチンは水平感染や性行為感染症を防ぐ有効策です。ヒブ/小児肺炎球菌ワクチンは、侵襲性の感染症を防ぐだけでなく、日常診療でも非常に重要な意味を持ちます。個別のワクチンの重要性を理解することでワクチンプラクティスの幅が広がります。第6回 子供だけに必要なわけじゃない 破傷風、百日咳 Vaccine formulation & VPD (2) 10年ごとのブースターが必要な破傷風。ある年齢以上の方は基礎免疫も有していません。また、新生児には致命的な百日咳から小さな命を守るために周りの人々がその免疫を持つ必要があります。成人でもDPTに工夫を施し、ブースター接種を行いましょう。第7回 軽んじてはいけない 麻疹・風疹、日本脳炎 Vaccine formulation & VPD (3)海外では麻疹・風疹の排除達成国が多数ありますが、日本ではワクチン接種率が低いなどの理由で未だに流行し、後遺症で苦しむ方がいます。また日本脳炎の発症は稀ですが、予後は極めて不良です。しかしいずれもワクチン接種を行えば予防可能なVPDなのです。第8回 知られざる合併症 水痘、ムンプス Vaccine formulation & VPD (4)水痘やムンプスは「罹って免疫をつける疾患」ではありません。水痘の感染力は強く、小児病棟の閉鎖が容易に起こります。ムンプスによる難聴は年間3000例発生し、予後も極めて不良です。ワクチンプラクティスで発症を予防し、その誤解を解きましょう。第9回 誤解されている HPV、成人肺炎球菌 Vaccine formulation & VPD (5) その名称から誤解を生むワクチンがあります。いわゆる子宮頸癌ワクチンは未だ子宮頸癌を減らしたというエビデンスがありませんし、成人肺炎球菌ワクチンも市中肺炎の発症を減らせるわけではありません。接種と同時に正しい知識を伝えることが重要です。第10回 教科書には載っていない Vaccinee ワクチンは年齢で一律に打てばいいわけではありません。VPDの感染リスクや、その考え方等を理解しましょう。これらは被接種者で異なり、教科書には載っていません。コミュニケーションを図って情報を集め、正しいワクチンプラクティスを実践しましょう。第11回 4Vで3Cを実践しよう(1) Common schedule & Catch-up schedule接種が必要なワクチンは多数存在します。接種スケジュールを立てる際は早見表を上手に活用しましょう。また、キャッチアップスケジュールを立てる場合際には被接種者ごとにVPDの感染リスクや、ワクチンに対する本人やその保護者の考え方にも耳を傾けることが必要です。4Vを学んでいれば、スケジュールの立案などは恐れるに足りません。第12回 4Vで3Cを実践しよう(2) Communication on vaccineテーマはコミュニケーション。ワクチン接種には必須となります。「詳しい知識がない」、「偏った考えを持っている」、「忌避しようとする方」に対しては非常にデリケートなコミュニケーションが要求されます。まずは正しい知識を伝え、疑問や不安に真摯に応えていきましょう。ワクチンを忌避する保護者の方たちには、「願っているのは子供の健康である」という共通の基盤をもとにコミュニケーションを取り続けることが重要です。

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CliPS -Clinical Presentation Stadium- @TOKYO2013

第1回「突然の片麻痺、構音障害」第2回「幸運にも彼女は肺炎になった」第3回「診断の目利きになる」第4回「Good Morning, NY!」第5回「不明熱」第6回「Ooops! I did it, again... 難しい呼吸困難の鑑別」第7回「Shock」第8回「外見の医療」第9回「What a good case!」第10回「首を動かすと電気が走る」第11回「木を診て森も診る」第12回「なぜキズを縫うのか」第13回「半年間にわたる間欠的な腹痛」第14回「高齢者高血圧管理におけるUnmet Medicak Needs: 『血圧変動』に対してどう考える?」第15回「患者満足度」第16回「ガイドラインって、そんなに大事ですか?」第17回「EBM or XBM?ーまれな疾患における診療方針決定の一例ー」第18回「原因不明を繰り返す発熱」第19回「脳卒中後の固定した麻痺 ―数年経過しても治療により改善するのか?―」第20回「眼科での恐怖の糖尿病」第21回「顔が赤くなるのは、すれてない証拠?」第22回「失神恐るるに足らず?」第23回「背部痛で救急搬送された82歳男性」第24回「免疫不全の患者さんが歩いてきた」第25回「初発痙攣にて搬送された 22歳女性  痙攣の鑑別に難渋した1例」【特典映像】魅せる!伝える!プレゼンの極意 『CliPS(Clinical Presentation Stadium)』は、限られた時間の中で、プレゼンター自身が経験した「とっておきの患者エピソード」や聞いた人が「きっと誰かに話したくなる」興味深い症例を「症例の面白さ(学び)」と「語りの妙(プレゼンスキル)」で魅せるプレゼンテーションの競演です。プレゼンターは、ケアネットでお馴染みの達人講師から若手医師・研修医まで。散りばめられたクリニカルパール。ツイストの効いたストーリー。ユーモアとウィットに富んだプレゼンの数々は、年齢、診療科にかかわりなく、医療者のハートをつかむことでしょう。あなたも『CliPS』の世界を楽しみ、学んで下さい!第1回「突然の片麻痺、構音障害」このタイトル『突然の片麻痺、構音障害』のような患者さんをみたとき、どのようなことを思い浮かべるでしょうか? おそらく診断は脳梗塞で良いだろうと。そして、治療計画、リハビリ、再発予防、介護状況など様々な側面にまで考えは及ぶでしょう。そういった様々な脳梗塞のマネージメントのうち、一番最初の診断のところでしていただきたい「あること」についてお話しします。患者さんの血液を採った時、一滴だけあることに使っていただきたいのです。第2回「幸運にも彼女は肺炎になった」近年、認知機能障害の患者さんに出会う機会は増えています。そして、その際にはしばしば「病歴のとりづらさ」や「診察への抵抗」に苦慮します。今回登場された伊藤先生も、正直言って、それらの患者さんには煩わしさや苦手意識を感じていたそうです。今回ご紹介する患者さんに出会うまでは・・・。治らないと思っていた病気が治るって素晴らしい!そんな症例です。第3回「診断の目利きになる」山中先生が日々の診断で気をつけていることはなんでしょうか?「はじめの1分間が何より大切」、「患者さんと眼の高さを合わせる」、「患者さんは本当のことを言ってくれない」、「キーワードから読み解く」、「診断の80%は問診による」、「典型的な症状をパッケージにして問う」など。診断の達人である山中先生の『攻める問診』メソッドの原点がここに表されています。患者さんの心をつかみ、効果的な病歴聴取や診察を行うためのさまざまなTIPSをご紹介いただきます。山中先生の話芸の素晴らしさにグイと引き込まれること必至です。第4回「Good Morning, NY!」岡田先生が、研修時代を過ごされたニューヨークでのお話。異国の病院で生き残るために、「日本人らしさ」と一貫した態度で信頼を勝ち得たそうです。2年目に出会った原因不明で発熱が続き、意識不明の患者さんとの感動的なエピソードを語っていただきます。第5回「不明熱」 不明熱をテーマに、膠原病科の岸本先生が、2ヶ月間も熱が下がらず、10kgの体重減、消化管に潰瘍、動脈瘤のある、36歳男性の症例をご紹介いただきます。学習的視点も踏まえた岸本先生の分かりやすいプレゼンテ-ションも必見です。第6回「Ooops! I did it, again... 難しい呼吸困難の鑑別」 呼吸困難をテーマに2つの症例を紹介いただきます。呼吸困難で典型的な疾患が心不全と肺炎。鑑別のキーポイントは、検査所見で十分でしょうか。一見ありふれた症例も、SOAPの順序を誤ると、、、非常に重要なメッセージが導き出されます。第7回「Shock」とびきり印象的なショックの症例を紹介します。イタリアンレストランに勤務されている61歳の男性。主訴は「気分が悪い」。ショック状態ですが、熱はなく、サチュレーションも正常。不思議なことに、毎年1回、同様の症状がでると。さて、この患者さんは?第8回「外見の医療」形成外科医の立場から人の「外見」という機能を語ります。顔の機能のうち「外見」という機能は、生命に直接関係ないものの、社会生活を営む上で需要な役割を果たしています。近い未来、「顔」の移植ということもあり得るのでしょうか?第9回「What a good case!」症例は29歳の女性。発熱と前胸部痛を主訴に見つかった肺多発結節影の症例。診断は?そして、採用された治療選択は?岡田先生の分かりやすいトークと意外性と重要な教訓に満ちたプレゼンテーションをお楽しみください。第10回「首を動かすと電気が走る」山中先生のかつて失敗して「痛い目」にあった症例です。60歳の男性で、主訴は「首を動かすと電気が走る」とのこと。しかし、発熱、耳が聞こえない、心雑音など異常箇所が増えていきます。せひ心に留めていただきたい教訓的なプレゼンテーションです。第11回「木を診て森も診る」46歳男性の糖尿病患者さん。 HbA1C が,この半年間で10.5%まで悪化。教育入院やインスリン導入を勧めるも、「それは出来ない」と強い拒絶。この背景にはいくつかの社会的・心理学的な要因があったのです。家庭医視点のプレゼンテーションです。第12回「なぜキズを縫うのか」なぜ傷を縫うのでしょうか? 額の傷を昨日縫合されたばかりの患者さんが紹介されてきたとき、菅原先生はすぐに抜糸をしてしまいました。なぜ?傷の治るメカニズムや、縫合のメリット/デメリットなどを形成外科のプロがわかりやすく解説します。第13回「半年間にわたる間欠的な腹痛」慢性的な下部腹痛の症例。半年前から明け方に臍周囲から下腹部の張るような痛みで覚醒するも、排便で症状は改善。内視鏡検査では大腸メラノーシスと痔を指摘されたのみで、身体所見も血液検査も異常なし。過敏性腸症候群?実際は・・・?第14回「高齢者高血圧管理におけるUnmet Medicak Needs: 『血圧変動』に対してどう考える?」高齢者の血圧の「日内変動」からいろいろなものが見えてくる。ある1ポイントの血圧だけでなく、幅広い視点からの血圧管理が必要。明日の高血圧治療にすぐに役立つプレゼンテーション!第15回「患者満足度」患者満足度にもっとも影響を与える因子は「医師」。その「医師」は患者満足度を上げるには、何をすればいいのでしょうか。岸本先生が研修医時代に学んだ心構えとは?第16回「ガイドラインって、そんなに大事ですか?」ガイドラインはどのくらい大切なのでしょうか。プラセボ効果の歴史を振り返りつつ、ガイドラインの背景にあるものに注目。第17回「EBM or XBM?ーまれな疾患における診療方針決定の一例ー」EBMだけでは対応できない稀なケースには、XBM(経験に基づく医療)で治療に臨まなければなりません。さて、今回の症例では?第18回「原因不明を繰り返す発熱」総合診療科の外来では「不明熱」の患者さんが多く訪れます。今回の「不明熱」に対して、記者出身の医師がしつこく問診を繰り返した結果、浮かび上がってきた答えは・・・。第19回「脳卒中後の固定した麻痺 ―数年経過しても治療により改善するのか?―」ボツリヌス療法と、経皮的電気刺激(TENS)とを併用して治療を行った症例についての報告です。さて、まったく動かすことのできなくなった患者さんの上肢には、どの程度の改善が見られたのでしょうか。第20回「眼科での恐怖の糖尿病」眼科医の視点から糖尿病を考えてみます。日本人の失明原因の第2位(1位の緑内障と僅差)が糖尿病網膜症となっています。内科医と眼科医の連携はまだまだ十分ではないと言えそうです。第21回「顔が赤くなるのは、すれてない証拠?」症例は70代男性の胸痛。1~2週間チクチクした鋭い痛みが一日中持続、緊急性は低そうです。検査をしても特徴的な所見に乏しく決め手に欠けました。さて、どんな疾患なのでしょう?実は大きなヒントがこの一見奇妙なタイトルに凝縮されているのです。第22回「失神恐るるに足らず?」患者が突然、目の前で意識を失って倒れたとします。まず一番最初に行うべきことは?「失神」は原因疾患によって予後が異なるため早期の正しい見極めが重要です。76歳女性の症例を題材に、日常臨床で遭遇する「失神」への対応を解説していただきます。第23回「背部痛で救急搬送された82歳男性」症例は82歳男性。背部痛を主訴に救急外来に搬送。しかしバイタルや検査では異常はなく痛み止めのみ処方。その一週間後に再び搬送された患者さんは激しい痛みを訴えているが、やはりバイタルは安定。ところが…。研修医時代の苦い経験を語ります。第24回「免疫不全の患者さんが歩いてきた」症例は59歳男性。悪性関節リウマチ、Caplan症候群という既往を持ち、強く免疫抑制をかけられている患者。発熱やだるさを主訴に歩いて外来受診。5日後、胸部CTで浸潤影があり入院。しかし肺炎を疑う呼吸器症状がありません。次に打つべき手とは?第25回「初発痙攣にて搬送された 22歳女性  痙攣の鑑別に難渋した1例」症例は22歳の女性。回転性めまいの後2分程度の初発痙攣があり救急搬送。診察・検査の結果、特記すべき所見はほぼ見あたらず、LAC5.1とやや上昇を認めるのみ。原因不明のまま「重篤な疾患はルールアウトされた」と判断。ところが全くの誤りでした。

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肺炎・気管支喘息で入院した乳児が低酸素血症となって死亡したケース

小児科最終判決判例時報 1761号107-114頁概要2日前からの高熱、呼吸困難を主訴として近医から紹介された2歳7ヵ月の男児。肺炎および気管支喘息の診断で午前中に小児科入院となった。入院時の医師はネブライザー、輸液、抗菌薬、気管支拡張薬、ステロイドなどの指示を出し、入院後は診察することなく定時に帰宅した。ところが、夜間も呼吸状態は改善せず、翌日早朝に呼吸停止状態で発見された。当直医らによってただちに救急蘇生が行われ、気管支内視鏡で気管分岐部に貯留した鼻くそ様の粘調痰をとりのぞいたが低酸素脳症に陥り、9ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報気管支喘息やアトピーなどアレルギー性疾患の既往のない2歳7ヵ月男児。4歳年上の姉には気管支喘息の既往歴があった経過1995年1月24日38℃の発熱。1月25日発熱は40℃となり、喘鳴も出現したため近医小児科受診して投薬を受ける。1月26日早朝から息苦しさを訴えたため救急車で近医へ搬送。四肢末梢と顔面にチアノーゼを認め、β刺激薬プロカテロール(商品名:メプチン)の吸入を受けたのち総合病院小児科に転送。10:10総合病院(小児科常勤医師4名)に入院時にはチアノーゼ消失、咽頭発赤、陥没気味の呼吸、わずかな喘鳴を認めた。胸部X線写真:右肺門部から右下肺野にかけて浸潤影血液検査:脱水症状、CRP 14.7、喉にブドウ球菌の付着以上の所見から、咽頭炎、肺炎、気管支喘息と診断し、輸液(150mL/hr)、解熱薬アセトアミノフェン(同:アンヒバ坐薬)、メフェナム(同:ポンタールシロップ)、抗菌薬フルモキセフ(同:フルマリン)、アミノフィリン静注、ネブライザーメプチン®、気道分泌促進薬ブロムヘキシン(同:ビソルボン)、内服テレブタリン(同:ブリカニール)、アンブロキソール(同:ムコソルバン)、クロルフェニラミンマレイン(同:ポララミン)を指示した(容態急変まで血液ガス、経皮酸素飽和度は1回も測定せず)。10:30体温39.5℃、陥没気味の呼吸(40回/分)、喘鳴あり。11:15喘鳴強く呼吸苦あり、ステロイドのヒドロコルチゾン(同:サクシゾン)100mg静注。14:00体温36.7℃、肩呼吸(50回/分)、喘鳴あり。16:30担当医師は看護師から「喉頭部から喘鳴が聞こえる」という上申を受けたが、患児を診察することなく17:00に帰宅。19:30喉頭部の喘鳴と肩呼吸(50回/分)、夕食を飲み込めず吐き出し、内服薬も服用できず、吸入も嫌がってできない。22:00体温38.3℃、アンヒバ®坐薬使用。1月17日02:20体温38.1℃、陥没気味の呼吸(52回/分)、喘鳴あり。サクシゾン®100mg静注。06:30体温37.1℃、陥没気味の呼吸、咳あり。07:20ネブライザー吸入を行おうとしたが嫌がり、機器を手ではねつけた直後に全身チアノーゼが出現。07:30患児を処置室に移動し、ただちに酸素吸入を行う。07:40呼吸停止。07:55小児科医師が到着し気管内挿管を試みたが、喉頭部がみえにくくなかなか挿管できず。マスクによる換気を行いつつ麻酔科医師を応援を要請。08:10ようやく気管内挿管完了(呼吸停止後30分)、この時喉頭部には異常を認めなかった。ただちにICUに移動して集中治療が行われたが、低酸素脳症による四肢麻痺、重度意識障害となる。10:00気管支鏡で観察したところ、気管および気管支には粘稠な痰があり、とくに気管分岐部には鼻くそ様の固まりがみられた。10月26日約9ヵ月後に低酸素脳症により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張肺炎、気管支喘息と診断して入院し各種治療が始まった後も、頻呼吸、肩呼吸、陥没呼吸、体動、喘鳴がみられ呼吸障害は増強していたのだから、気管支喘息治療のガイドラインに沿ってイソプレテレノールの持続吸入を追加したり気管内挿管の準備をするべきであったのに、入院時の担当医師は入院後一度も病室を訪れることなく、午後5:00過ぎに帰宅して適切な指示を出さなかった。夜間帯の当直医師、看護師も、適切な病状観察、病態把握、適切な治療を怠ったため、呼吸不全に陥った。病院側(被告)の主張小児科病棟は主治医制ではなく3名の小児科医による輪番制がとられ、入院時の担当医師は肺炎、気管支喘息の患者に対し適切な治療を行って、起坐呼吸やチアノーゼ、呼吸音の減弱や意識障害もないことを確認し、同日の病棟担当医であった医師へきちんと申し送りをして帰宅した。その後も呼吸不全を予測させるような徴候はなかったので、入院翌日の午前7:00過ぎに突発的に呼吸不全に陥ったのはやむを得ない病態であった。裁判所の判断入院時の担当医師は、肺炎、気管支喘息の診断を下してそれに沿った注射・投薬の指示を出しているので、ほかの小児科医師に比べて格段の差をもって病態の把握をしていたことになる。そのため、小児科病棟では主治医制をとらず輪番制であったことを考慮しても、患者の治療について第一に責任を負うものであり、少なくとも夜間の当直医とのあいだで綿密な打ち合わせを行い、午後5:00に帰宅後も治療に遺漏がないようにしておくべきであった。ところが、入院後一度も病室を訪れず、経皮酸素飽和度を測定することもなく、ガイドラインに沿った治療のグレードアップや呼吸停止に至る前の気管内挿管の機会を逸し、容態急変から死亡に至った。患者側1億545万円の請求に対し6,950万円の判決考察1. 呼吸停止の原因について裁判では呼吸停止の原因として、「肺炎や気管支喘息に起因する気道閉塞によって、肺におけるガス交換が不十分となり呼吸不全に陥った」と判断しています。そのため、小児気管支喘息のガイドラインを引用して、「イソプロテレノールの持続吸入をしなかったのはけしからん、気道確保を準備しなかったのは過失だ」という判断へとつながりました。ところが経過をよくみると、容態急変後の気管支鏡検査で「気管および気管支には粘稠な痰があり、とくに気管分岐部には鼻くそ様の固まりがみられた」ため、気管支喘息の重積発作というよりも、粘調痰による気道閉塞がもっとも疑われます。しかも、当直医が気管内挿管に手間取り、麻酔科医をコールして何とか気管内挿管できたのは呼吸停止から30分も経過してからでした。要するに、痰がつまった状態を放置して気道確保が遅れたことが致命的になったのではないかと思われます。裁判ではなぜかこの点を重視しておらず、定時の勤務が終了し午後5:00過ぎに帰宅していた入院時の担当医師が(帰宅後も)適切な指示を出さなかった点をことさら問題としました。2. 主治医制をとるべきか当時この病院では部長医師を含む小児科医4名が常駐し、夜間・休日の当直は部長以外の医師3名で輪番制をとっていたということです。昨今の情勢を考えると、小児医療を取り巻く状況は大変厳しいために、おそらく4名の小児科医でもてんてこ舞いの状況ではなかったかと推測されます。入院時の担当医師は、肺炎、気管支喘息と診断した乳児に対し、血管確保のうえで輸液、抗菌薬、アミノフィリン持続点滴を行い、ネブライザー、各種内服を指示するなど、中~大発作を想定した気管支喘息に対する処置は行っています。それでも呼吸状態が安定しなかったので、ステロイドのワンショット静注を2回くり返しました。通常であれば、その後は回復に向かうはずなのですが、今回の患児は内服薬を嫌がってこぼしたり、ネブライザーの吸入をさせようとしてもうまくできなかったりなど、医師が想定した治療計画の一部は実施されませんでした。そして、当直帯は輪番制をとっていることもあって、入院時にきちんとした指示さえ出しておけば、後は当番の病棟担当医がみてくれるはずだ、という認識であったと思われます。そのため、11:00過ぎの入院から17:00過ぎに帰宅するまで6時間もありながら(当然その間は外来業務を行っていたと思いますが)一度も病室に赴くことなく、看護師から簡単な報告を受けただけで帰宅し、自分の目で治療効果を確かめなかったことになります。もし、帰宅前に患者を診察し、呼吸音を聴診したり経皮酸素飽和度を測るなどの配慮をしていれば、「予想以上に粘調痰がたまっているので危ないぞ」という考えに至ったのかも知れません。ところが、本件では血液ガス検査は行われず、急性呼吸不全の徴候を早期に捉えることができませんでした。そして、裁判でも、「入院時の担当医師はほかの小児科医師に比べて格段の差をもって病態の把握をしていたため、小児科病棟では主治医制をとらず輪番制であったことを考慮しても、患者の治療について第一に責任を負うものであり、少なくとも夜間の当直医とのあいだで綿密な打ち合わせを行い、午後5:00に帰宅後も治療に遺漏がないようにしておくべきであった」という、耳が痛くなるような判決が下りました。ここで問題となるのが、主治医制をとるべきかどうかという点です。今回の総合病院のように、医師個人への負担が大きくならないようにグループで患者をみる施設もありますが、その弊害としてもっとも厄介なのが無責任体制に陥りやすいということです。本件でも、裁判では問題視されなかった輪番の小児科当直医師が容態急変前に患者をみるべきであったのに、申し送りが不十分なこともあってほとんど関心を示さず、いよいよ呼吸停止となってからあわてて駆けつけました。つまり、入院時の担当医師は「5:00以降はやっと業務から解放されるので早く帰宅しよう」と考えていたでしょうし、当直医師は「容態急変するかも知れないなんて一切聞いてない。入院時の医師は何を考えているんだ」と、まるで責任のなすりつけのような状況ではなかったかと思われます。そのことで損をするのは患者に他なりませんから、輪番制をとるにしても主治医を明確にしておくことが望まれます。ましてや、「輪番制であったことを考慮しても、(入院指示を出した医師が)患者の治療について第一に責任を負う」という厳しい判決がおりていますので、間接的ではありますが裁判所から「主治医制をとるべきである」という見解が示されたと同じではないかと思います。小児科

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麻疹の流行、どう対応する

今年に入り患者数の増加が目立つ麻疹について、国立国際医療研究センター感染症内科/国際感染症センターの忽那賢志氏に、流行の現状と医療者の対応について聞いた。麻疹流行の現状本年第1~8週までの麻疹患者数は199例(2013年12月30日~2014年2月23日)と、すでに昨年1年間の麻疹患者数を超えている。昨年同期比では3.3倍と、季節性を考慮しても大きな増加である。この傾向は、昨年11月頃よりあらわれているという。麻疹は昨年からフィリピンで流行しているが、フィリピンから帰国感染者がわが国での流行の発端となっている。そこから拡大し、現在では海外渡航歴のない感染者も多い。参考:国立感染症研究所IDWRhttp://www.nih.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-idwrc.html日本人における麻疹の問題日本人には麻疹の抗体がない方、あっても不十分な方は少なくないという。その原因のひとつは麻疹ワクチンの接種率である。麻疹ワクチンは、MMRワクチンの副作用の影響を受け、1990年代に接種率が減少している。また、ワクチン接種回数の問題もある。麻疹ワクチンは1976年に定期接種となったが、当初は1回接種であった。1回接種の場合、5%程度の方に抗体ができない、あるいは出来ても成人になって抗体が減衰することがある。2006年に麻疹ワクチンは2回接種となったものの接種率は高くなく、生涯ワクチン接種が1回で麻疹に罹患歴がないなど、麻疹ウイルスに対して免疫を持ってない成人が、わが国では7万人いるといわれる。麻疹はわが国における非常に重要な医療問題の一つだと忽那氏は訴える。麻疹の感染力は非常に強く、インフルエンザの約8倍、風疹の約2倍である(基本再生産数に基づく)。また、重症化することが多く、発展途上国では現在も年間50万人以上が死亡する。わが国でも、年間20~30人の麻疹関連死がある。さらに、肺炎、脳炎・脳症などの合併症を伴うこともあり予後も不良である。医療者の対応このような中、医療者はどう対応すべきであろうか。麻疹患者の受診に備え、忽那氏はいくつかの留意点を挙げた。医療者自身に麻疹の抗体があるか確認する麻疹(疑い)患者の診療は抗体のある医療者が行う当然のことではあるが、医療者自身が抗体価を測定し、基準値に達していなければワクチンを接種するべきである。ワクチン接種しても抗体価が上がらない方もいるが、これまでに1回しか接種していないのであれば、2回接種するべきであろう。疑い患者であっても陰圧個室で診察する麻疹は空気感染で伝播するため、周囲の患者さんや医療者に感染することも十分考えられる。疑い患者であっても隔離して陰圧個室で診療すべきである。東南アジア渡航歴があり発熱・上気道症状を呈している患者では麻疹を鑑別に加える麻疹は初期段階では診断が付けにくいケースもあるという。麻疹初期には発熱や上気道炎症状やといった症状(カタル症状)が出現するものの、皮疹が発現せず、数日後に皮疹が出てはじめて麻疹とわかることもある。このカタル症状の病期であっても感染力は強いため、皮疹が確認できなくとも、東南アジアなど麻疹が発生している国の渡航歴があり発熱がある場合は鑑別のひとつとして考えるべきである。また国内でも麻疹は増えており、渡航歴のない患者でも麻疹を疑う閾値を低くしておく必要がある。麻疹罹患歴があっても疑わしければ確認する幼少期の麻疹の診断は臨床症状のみに基いてで行っていることが多い。そのため、たとえ患者さんが麻疹の既往を訴えても、実際には麻疹ではなく風疹やその他の感染症であったということも考えられる。過去の罹患歴があるという場合も臨床的に麻疹が疑われる場合は、感染者との接触、ワクチン接種歴などを確認し、他の診断が確定するまでは麻疹として対応するのが望ましい。東南アジアでの麻疹は拡大し、現在はベトナムでも流行しているという。今後のわが国での大流行を防ぐためにも、流行の動向に留意しておくべきであろう。

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アルツハイマー病への薬物治療は平均余命の延長に寄与しているのか:東北大学

 アルツハイマー型認知症(AD)の進行抑制に対し、ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)は有用であるが、平均余命への影響は不明である。東北大学の目黒 謙一氏らは、AD発症後の平均余命に対するChEIの影響を抗精神病薬の使用および特別養護老人ホームの入所とともに分析した。BMC neurology誌オンライン版2014年4月11日号の報告。 1999~2012年に宮城県田尻町(現・大崎市)のクリニックを受診したすべての外来患者の診療記録と死亡証明書を含む情報をレトロスペクティブに解析した。対象者基準は、DSM-IV基準に基づいた認知症診断およびNINCDS-ADRDA基準を用いたAD診断、3ヵ月以上の治療歴、死亡前1年未満までのフォローアップ症例とした。 主な結果は以下のとおり。・診療記録と死亡証明書が特定できた390例のうち、認知症基準を満たしたのは275例であった。・ADと診断された100例のうち、ドネペジル治療症例は52例であった。48例は日本でのドネペジル承認前のため薬物治療が行われていなかった。・AD発症後の平均余命は、ドネペジル治療症例で7.9年、非治療症例で5.3年であった。・薬物効果と特別養護老人ホーム入所を組み合わせることにより、有意な共変量効果が認められた。・他の共変量は有意水準に達しなかった。 以上の結果を踏まえ、著者らは「本研究はレトロスペクティブ研究であり、ランダム化も行われていないなど限界があるものの、ChEI治療はAD発症後の平均余命に好影響をもたらす可能性があることが示された。これは、肺炎などの合併症が減少することで死亡率減少につながった可能性がある」としている。また、「ドネペジルを服用している自宅療養中の患者とドネペジルを服薬していない特別養護老人ホーム入所者で平均余命がほぼ同じであることから、ChEI薬物治療による経済効果も良好であることが示唆される」とまとめている。関連医療ニュース たった2つの質問で認知症ルールアウトが可能 認知症患者の調子のよい日/ 悪い日、決め手となるのは 認知症のBPSDに対する抗精神病薬のメリット、デメリット

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統合失調症患者の突然死、その主な原因は

 統合失調症と突然死との関連は知られているが、剖検データが不足しており、死亡診断書や原因ルート評価を用いた先行研究では、大半の突然死について解明がなされていなかった。一方、住民ベースの突然の“自然死”の原因に関する事実分析データでは、最も共通した要因は冠動脈疾患(CAD)であることが明らかになっていた。ルーマニア・トランシルヴァニア大学のPetru Ifteni氏らは、精神科病院に入院中の統合失調症患者の突然死について、その発生率や原因を調べた。Schizophrenia Research誌オンライン版2014年4月3日号の掲載報告。 研究グループは、1989~2013年の精神科教育病院に入院した連続患者を対象に検討を行い、統合失調症患者の突然死の原因について剖検所見により特定した。 主な結果は以下のとおり。 ・被験者は、統合失調症連続入院患者7,189例であった。・医療記録をレビューした結果、57例(0.79%)の突然死を特定した。そのうち51例(89.5%、55.9±9.4歳、男性56.9%)の患者について剖検が行われていた。・剖検データに基づく分析の結果、突然死の原因は、ほとんどが心血管疾患(62.8%)であることが判明した。また特異的要因としては、心筋梗塞(52.9%)、肺炎(11.8%)、気道閉塞(7.8%)、心筋炎(5.9%)、拡張型心筋症、心膜血腫、肺塞栓症、出血性脳卒中、脳腫瘍(それぞれ2.0%)などであった。・突然死のうち6例(11.8%)は原因が不明であった。しかしそのうち3例は、剖検で冠動脈硬化症の所見がみられたことが記録されていた。・心筋梗塞の有無にかかわらず、患者の年齢、性別、喫煙歴、BMI、精神科治療は類似していた(p≧0.10)。 以上の結果より、統合失調症入院患者の突然死発生率は0.8%で一般住民における発生率よりもかなり多いことや、死因としては急性心筋梗塞が大半(52.9%)を占めていたことなどが明らかとなった。結果を踏まえて著者は、「統合失調症成人患者について、CADに対する速やかな認識と治療を臨床的優先事項としなければならない」とまとめている。関連医療ニュース 抗精神病薬の高用量投与で心血管イベントリスク上昇:横浜市立大 統合失調症患者、合併症別の死亡率を調査 救急搬送患者に対する抗精神病薬の使用状況は

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特発性肺線維症(IPF)への挑戦

 2014年4月3日(木)都内にて、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社主催のメディアセミナー「呼吸器領域における難病への挑戦~特発性肺線維症(IPF)~」が開催された。当日は、自治医科大学呼吸器内科 教授 杉山幸比古氏、東邦大学医学部呼吸器内科学分野 教授 本間 栄氏が、特発性肺線維症(以下IPF)について、それぞれ疫学・病態、治療の進歩に関して講演した。 杉山氏は、IPFの疫学と病態について紹介した。IPFは特発性間質性肺炎に属するが、その中でも症例数が最も多く、また予後が不良な病態である。本邦におけるIPFの発症率はおおよそ10万人対2人、有病率は10万人対10人であり、全国で1万3,000人以上の患者がいるとされる。杉山氏は実際には、それ以上の患者がいるとも考えられると述べた。 IPFの生存中央値は鑑別診断後35ヵ月であり、予後不良のがんと大きな差はない。とはいえ、進行パターンはさまざまで、緩除に進行するものもあれば急速に進行するケースもある。主な症状は労作時呼吸困難、乾性咳嗽であるが、初期には年齢のせいとされることも少なくないという。IPFの死亡原因は慢性呼吸不全、急性増悪、肺がんが多くを占めるが、重要な問題として挙げられるのが、急性増悪と肺がんの合併といえる。急性増悪では、緩除に進行していたケースが急激に死に至ることも少なくなく、IPF患者では通常の喫煙者に比べ数十倍肺がんを発生しやすいという。 本間氏はIPFの治療について紹介した。IPFは特発性間質性肺炎の中でも最も治療反応性が低く、ほかの病型とは異なった治療戦略がとられる。IPFの治療ゴールは、生存期間の延長、呼吸機能の維持・低下の抑制、急性増悪の予防である。 治療法としては、酸素療法、呼吸リハビリテーション、薬物療法が主なものである。呼吸リハビリテーションについては近年、運動耐容能、症状、健康関連QOLの改善など、その有効性が明らかになってきている。 薬物療法については、従来ステロイドパルス療法が中心であったが、近年N-アセチルシステイン(NAC)、ピルフェニドンの有効性が明らかになってきている。さらに、本年5月に開催されるATS(米国胸部学会)では、INPULSIS試験(チロシンキナーゼ阻害薬)、ASCEND試験(ピルフェニドン)、PANTHER試験(NAC単独療法)などの臨床試験も発表予定であり、IPFの薬物療法に関するエビデンスが一気に充実してくると期待される。

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米国での医療関連感染、C.difficileが最多/NEJM

 米国疾病予防管理センター(CDC)のShelley S. Magill氏らは、複数地点で調べるサーベイ法で急性期病院における医療関連感染の発生について調べた結果、2011年時点で患者64万8,000例、72万1,800件の発生であったことを報告。また Clostridium difficile (C. difficile)感染症が最も多くみられ、引き続きC. difficile感染症に対する公衆衛生サーベイランスと予防への取り組みが必要であることを報告した。JAMA誌オンライン版2014年3月27日号掲載の報告より。全米10州183の急性期病院対象にサーベイ 医療関連感染の撤廃は米国保健福祉省の優先事項となっており、患者安全改善を維持し続けるため、その疫学を広くとらえるサーベイランスシステムが開発されてきた。しかし、1つのシステムでは、急性期治療を受ける患者集団のすべての医療を網羅した医療関連感染に対する負荷を推定することができない。たとえばCDC既存のサーベイランスシステムである全米医療安全ネットワーク(NHSN)では、各病院の報告はデバイス関連や一部の手術部位に関する報告に限られていることがほとんどで、国家的なスケールでの負担や分布のデータを得られない。そこでCDCでは2009年より、10州406病院に参加を呼びかけ、複数地点有病率サーベイ法を開発・試行してきたという。 開発したサーベイ法は、NHSN参加病院の入院患者を、ある特定の日に無作為に選択して調査するというもので、病院職員が人口統計学的および限定的な臨床データを集める。一方で、訓練を受けたデータ収集者がカルテを後ろ向きにレビューし、調査日の医療関連感染の発生を特定するというものであった。 サーベイの開発・試行は2011年には大規模施行に至り(目標232病院のうち183病院[79%])、調査データと2010年の全米入院患者サンプル(NIS)データを、年齢、入院期間で層別化し、2011年における急性期病院の医療関連感染の発生件数および入院患者数を推定した。肺炎、手術部位感染、消化器感染が多発、12.1%の要因はC. difficile 調査を行った183病院(150床未満51%、155~399床37%、400床以上12%)において、1万1,282例の患者のうち452例が1つ以上の医療関連感染を有していた(4.0%、95%信頼区間[CI]:3.7~4.4)。発生件数は504件で、最も頻度が高かったのは、肺炎(21.8%)、手術部位感染(21.8%)および消化器感染(17.1%)だった。また、最も多かった病原体はC. difficileだった(医療関連感染12.1%の要因)。 かねてより医療関連感染の予防計画の焦点であるデバイス関連の感染症(中心カテーテル関連血流感染、尿道留置カテーテル関連感染、人工呼吸器関連の肺炎など)は、25.6%だった。 これらデータからCDCは、2011年における全米急性期病院の医療関連感染の発生は患者数64万8,000例、72万1,800件に上ると推定している。なお、CDCがこれまでに発表した直近の報告では171万件/年(2007年発表)であった。 以上を踏まえて「本調査結果は、C. difficile感染に対する公衆衛生サーベイと予防活動を継続していかなければならないことを示すものであった」と述べ、また「デバイスおよび処置関連の感染が減少しているので、そのほかの医療関連感染を含むサーベイおよび予防活動を拡大すべきことを考えなくてはならない」とまとめている。

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ヒトライノウイルス感染後の細菌感染、繰り返すCOPD増悪の原因に

 ヒトライノウイルス(HRV)感染後は、二次性細菌感染を起こすことがよくあり、これがCOPD増悪の再発の機序と考えられ、新たな治療に向けた潜在的なターゲットとなりうることが、ロンドン大学のSiobhan Nicole George氏らによって報告された。The European Respiratory Journal誌オンライン版2014年3月13日の掲載報告。 HRV感染はCOPD増悪の重要なトリガーであるが、増悪の自然史において、その頻度を決定づけるHRVのフェノタイプや感染後の経過についてはあまり知られていない。HRV(388サンプル)と肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(89サンプル)の両方に関して、77例の患者からの喀痰サンプルをリアルタイム定量PCRによって分析した。増悪の定義は、日誌で呼吸器症状の悪化が認められた場合とした。 主な結果は以下のとおり。・増悪時のヒトライノウイルスの検出率やウイルス量は、安定期と比べて有意に高かったが(検出率53.3% vs 17.2%、それぞれp<0.001)、増悪後の35日間までには、0%まで低下していた。・風邪症状を有する患者、喉の痛みを有する患者では、それらがない患者と比べて、HRVの量が有意に多かった(それぞれ、p=0.046、p=0.006)。・細菌は陰性でHRVは陽性だった患者の73%は、14日間以内に細菌が陽性になっていた。・増悪時に、HRVが検出された患者は、検出されなかった患者と比べて、1年間当たりの増悪回数が有意に多かった(3.01回/年 [四分位範囲:2.02~5.30] vs 2.51回/年 [2.00~3.51]、p=0.038)。 COPD増悪時にはHRVの検出率やウイルス量が多かったが、回復後は治癒していた。また、増悪を繰り返すことで、HRVに感染しやすくなることもわかった。■「COPD増悪」関連記事COPD増悪抑制、3剤併用と2剤併用を比較/Lancet

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検査所見の確認が遅れて心筋炎を見落とし手遅れとなったケース

循環器最終判決判例時報 1698号98-107頁概要潰瘍性大腸炎に対しステロイドを投与されていた19歳男性。4日前から出現した頭痛、吐き気、血の混じった痰を主訴に近医受診、急性咽頭気管支炎と診断して抗菌薬、鎮咳薬などを処方した。この時胸部X線写真や血液検査を行ったが、結果は後日説明することにして帰宅を指示した。ところが翌日になっても容態は変わらず外来再診、担当医が前日の胸部X線写真を確認したところ肺水腫、心不全の状態であった。急性心筋炎と診断してただちに入院治療を開始したが、やがて急性腎不全を合併。翌日には大学病院へ転送し、人工透析を行うが、意識不明の状態が続き、初診から3日後に死亡した。詳細な経過患者情報19歳予備校生経過1992年4月10日潰瘍性大腸炎と診断されて近所の被告病院(77床、常勤内科医3名)に入院、サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン)が処方された。1993年1月上旬感冒症状に続き、発熱、皮膚の発赤、肝機能障害、リンパ球増多がみられたため、被告病院から大学病院に紹介。2月9日大学病院に入院、サラゾピリン®による中毒疹と診断されるとともに、ステロイドの内服治療が開始された。退院後も大学病院に通院し、ステロイドは7.5mg/日にまで減量されていた。7月10日頭痛を訴えて予備校を休む。次第に食欲が落ち、頭痛、吐き気が増強、血の混じった痰がでるようになった。7月14日10:00近所の被告病院を初診(以前担当した消化器内科医が診察)。咽頭発赤を認めたが、聴診では心音・肺音に異常はないと判断(カルテにはchest clearと記載)し、急性咽頭気管支炎の診断で、抗菌薬セフテラムピボキシル(同:トミロン)、制吐薬ドンペリドン(同:ナウゼリン)、鎮咳薬エプラジノン(同:レスプレン)、胃薬ジサイクロミン(同:コランチル)を処方。さらに胸部X線写真、血液検査、尿検査、喀痰培養(一般細菌・結核菌)を指示し、この日は検査結果を待つことなくそのまま帰宅させた(診察時間は約5分)。帰宅後嘔気・嘔吐は治まらず一段と症状は悪化。7月15日10:30被告病院に入院。11:00診察時顔面蒼白、軽度のチアノーゼあり。血圧70/50mmHg、湿性ラ音、奔馬調律(gallop rhythm)を聴取。ただちに前日に行った検査を取り寄せたところ、胸部X線写真:心臓の拡大(心胸郭比53%)、肺胞性浮腫、バタフライシャドウ、カーリーA・Bラインがみられた血液検査:CPK 162(20-100)、LDH 1,008(100-500)、白血球数15,300、尿アセトン体(4+)心電図検査:心筋梗塞様所見であり急性心不全、急性心筋炎(疑い)、上気道感染による肺炎と診断してただちに酸素投与、塩酸ドパミン(同:イノバン)、利尿薬フロセミド(同:ラシックス)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)とトブラマイシン(同:トブラシン)の点滴、ニトログリセリン(同:ニトロダームTTS)貼付を行う。家族へは、ステロイドを服用していたため症状が隠されやすくなっていた可能性を説明した(この日主治医は定時に帰宅)。入院後も吐き気が続くとともに乏尿状態となったため、非常勤の当直医は制吐薬、昇圧剤および利尿薬を追加指示したが効果はなく、人工透析を含むより高度の治療が必要と判断した。7月16日主治医の出勤を待って転院の手配を行い、大学病院へ転送。11:00大学病院到着。腎不全、心不全、肺水腫の合併であると家族に説明。14:00人工透析開始。18:00容態急変し、意識不明となる。7月17日01:19死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.病因解明義務初診時に胸部X線写真を撮っておきながら、それを当日確認せず心筋炎、肺水腫を診断できなかったのは明らかな過失である。そして、胸部X線で肺水腫があれば湿性ラ音を聴取することができたはずなのに、異常なしとしたのは聞き漏らしたからである2.転院義務初診時の病態はただちに入院させたうえで集中治療を開始しなければならない重篤なものであり、しかも適切な治療設備がない被告病院であればただちに治療可能な施設へ転院させるべきなのに、病因解明義務を怠ったために転院措置をとることができなかった初診時はいまだ危機的状況とまではいえなかったので、適切な診断を行って転院措置をとっていれば救命することができた病院側(被告)の主張1.病因解明義務初診時には急性咽頭気管支炎以外の異常所見がみられなかったので、その場でX線写真を検討しなかったのはやむを得なかった。また、心筋炎があったからといって必ず異常音が聴取されるとはいえないし、患者個人の身体的原因から異常音が聴取されなかった可能性がある2.転院義務初診時の症状を急性咽頭気管支炎と診断した点に過失がない以上、設備の整った病院に転院させる義務はない。仮に当初から心筋炎と診断して転院させたとしても、その重篤度からみて救命の可能性は低かったさらに大学病院の医師から提案されたPCPS(循環補助システム)による治療を家族らが拒否したことも、死亡に寄与していることは疑いない裁判所の判断当時の状況から推定して、初診時から胸部の異常音を聴取できるはずであり、さらにその時実施した胸部X線写真をすぐに確認することによって、肺水腫や急性心筋炎を診断することは可能であった。この時点ではKillip分類class 3であったのでただちに入院として薬物療法を開始し、1時間程度で病態の改善がない時には機械的補助循環法を行うことができる高度機能病院に転院させる必要があり、そうしていれば高度の蓋然性をもって救命することができた。初診患者に上記のような判断を求めるのは、主治医にとって酷に過ぎるのではないかという感もあるが、いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師に対しては、その業務の性質に照らし、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くすことが要求されることはやむを得ない。原告側合計7,998万円の請求に対し、7,655万円の判決考察「朝から混雑している外来に、『頭痛、吐き気、食欲がなく、痰に血が混じる』という若者が来院した。診察したところ喉が赤く腫れていて、肺音は悪くない。まず風邪だろう、ということでいつも良く出す風邪薬を処方。ただカルテをみると、半年前に潰瘍性大腸炎でうちの病院に入院し、その後大学病院に移ってしまった子だ。どんな治療をしているの?と聞くと、ステロイドを7.5mg内服しているという。それならば念のため胸部X線写真や採血、痰培をとっおけば安心だ。ハイ次の患者さんどうぞ・・・」初診時の診察時間は約5分間とのことですので、このようなやりとりがあったと思います。おそらくどこでも普通に行われているような治療であり、ほとんどの患者さんがこのような対処方法で大きな問題へと発展することはないと思います。ところが、本件では重篤な心筋炎という病態が背後に潜んでいて、それを早期に発見するチャンスはあったのに見逃してしまうことになりました。おそらく、プライマリケアを担当する医師すべてがこのような落とし穴にはまってしまうリスクを抱えていると思います。ではどのような対処方法を採ればリスク回避につながるかを考えてみると、次の2点が重要であると思います。1. 風邪と思っても基本的診察を慎重に行うこと今回の担当医は消化器内科が専門でした。もし循環器専門医が患者の心音を聴取していれば、裁判官のいうようにgallop rhythmや肺野の湿性ラ音をきちんと聴取できていたかも知れません。つまり、混雑している外来で、それもわずか5分間という限定された時間内に、循環器専門医ではない医師が、あとで判明した心筋炎・心不全に関する必要な情報を漏れなく入手することはかなり困難であったと思われます。ところが裁判では、「いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師である以上、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くさなければいけない」と判定されますので、医学生の時に勉強した聴打診などの基本的診察はけっしておろそかにしてはいけないということだと思います。私自身も反省しなければいけませんが、たとえば外来で看護師に「先生、風邪の患者さんをみてください」などといわれると、最初から風邪という先入観に支配されてしまい、とりあえずは聴診器をあてるけれどもざっと肺野を聞くだけで、つい心音を聞き漏らしてしまうこともあるのではないでしょうか。今回の担当医はカルテに「chest clear」と記載し、「心音・肺音は確かに聞いたけれども異常はなかった」と主張しました。ところが、この時撮影した胸部X線写真にはひどい肺水腫がみられたので、「異常音が聴取されなければおかしいし、それを聞こえなかったなどというのはけしからん」と判断されています。多分、このような危険は外来患者のわずか数%程度の頻度とは思いますが、たとえ厳しい条件のなかでも背後に潜む重篤な病気を見落とさないように、慎重かつ冷静な診察を行うことが、われわれ医師に求められることではないかと思います。2. 異常所見のバックアップ体制もう一つ本件では、せっかく外来で胸部X線写真を撮影しておきながら「急現」扱いとせず、フィルムをその日のうちに読影しなかった点が咎められました。そして、そのフィルムには誰がみてもわかるほどの異常所見(バタフライシャドウ)があっただけに、ほんの少しの配慮によってリスクが回避できたことになります。多くの先生方は、ご自身がオーダーした検査はなるべく早く事後処理されていることと思いますが、本件のように異常所見の確認が遅れて医事紛争へと発展すると、「見落とし」あるいは「注意義務違反」と判断される可能性が高いと思います。一方で、多忙な外来では次々と外来患者をこなさなければならないというような事情もありますので、すべての情報を担当医師一人が把握するにはどうしても限界があると思います。そこで考えられることは、普段からX線技師や看護師、臨床検査技師などのコメデイカルと連携を密にしておき、検査担当者が「おかしい」と感じたら(たとえ結果的に異常所見ではなくても)すぐに医師へ報告するような体制を準備しておくことが重要ではないかと思います。本件でも、撮影を担当したX線技師が19歳男子の真っ白なX線写真をみて緊急性を認識し、担当医師の注意を少しでも喚起していれば、医事紛争とはならないばかりか救命することができた可能性すらあると思います。往々にして組織が大きくなると縦割りの考え方が主流となり、医師とX線技師、医師と看護師の間には目にみえない壁ができてセクショナリズムに陥りやすいと思います。しかし、現代の医療はチームで行わなければならない面が多々ありますので、普段から勉強会を開いたり、症例検討会を行うなどして医療職同士がコミュニケーションを深めておく必要があると思います。循環器

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中国で初めて報告された鳥インフルエンザA(H10N8)のヒト感染例―既報のトリ由来H10N8とは異なるタイプと判明―(コメンテーター:吉田 敦 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(185)より-

鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染し、重症となるケースがあとを絶たない。A型のH5N1やH7N9がその代表であり、H7N9は2014年1月27日までに既に中国で250例が報告され、うち70例が死亡している。 一方H10N8は、これまで北米、欧州、アジア、オーストラリアなど広い範囲で、主にカモから分離されていたものの、ヒトへの感染例はなかった。しかしながら2013年11月、中国江西省南昌市で最初の感染例が報告された。さらに、患者から分離されたH10N8は既報の鳥由来ウイルスとは異なる、新たな再集合体であることが判明した。 患者は73歳女性で、高血圧、冠動脈疾患、重症筋無力症の既往があり、11月27日(Day 0とする)から咳嗽および呼吸困難を訴え、30日(Day 3)に南昌市の病院に入院した。入院時は38.6℃の発熱を来たしており、翌31日に撮影したCTでは右下葉と左下葉にコンソリゼーションが認められた。細菌性肺炎に対する治療を行ったが、呼吸不全が進行し、12月2日にはICUに入室した。両側性の胸水とスリガラス状陰影の急速な悪化を来たし、オセルタミビル(12月3日開始)、グルココルチコイド、アルブミンの投与を行うも、重症肺炎と敗血症性ショックおよび多臓器不全を呈し、6日(Day 9)に死亡した。 検査所見上、白血球数は入院翌日(Day 4)で10,340/μLであり、好中球数は76.4%、リンパ球数は7.0%であった。リンパ球数はその後もずっと正常範囲以下であった。CRPはDay 4ですでに高値であり、またDay 4に正常範囲内にあったクレアチニン、BUN、AST、ALP、総蛋白、アルブミンはDay 7にはすべて異常値を示した。トランスサイレチンはDay 4以降すべての時点で低下していた。 本患者からDay 7とDay 9に採取した気管内吸引物からH10N8ウイルスが分離された。また痰・血液培養と吸引物のdeep sequencingの結果、細菌や真菌の同時感染は示されず、気管内でH10N8が極めて優位であったことが判明した。さらに本ウイルスのHA蛋白に対する血清抗体を測定したところ、Day 5からDay 9で上昇したことも明らかになった。病理解剖の同意は得られなかったが、H10N8による肺炎と呼吸不全、死亡と判断された。 一方、ウイルス遺伝子はすべて鳥由来で、HA、NA以外の6つの内部遺伝子は中国の家禽で流行しているH9N2に最も近縁であった(注:中国でかつて分離されたH5N1ウイルスもH9N2由来の内部遺伝子を有していた)。さらに既報の鳥・環境由来のH10N8とも異なっており、新たな再集合体のH10N8が初めてヒトに感染したと結論付けられた。さらに本症例のH10N8はその塩基配列により、家禽への病原性は低いが、哺乳類の細胞に親和性を持っていること、経過中に哺乳類への病原性が高まる変異(PB2のGlu627Lys)を獲得したこと、ノイラミニダーゼ阻害薬に感受性を示すことも判明した。 また患者は発症4日前に家禽市場を訪れており、これが感染の契機になった可能性があるが、患者に接触した者の中で、発症者、ウイルス陽性者、抗体陽性者はいずれも見つかっていない。 さらに2014年1月26日、南昌市の55歳女性がH10N8に罹患し重体となったこと、また2月までに江西で1名が感染し、死亡したことも判明した。このため現時点(3月13日)で感染者は3名、うち死亡者が2名となっている。 著者らは、「1997年に香港で最初の死亡例が報告された鳥インフルエンザH5N1の感染では、その後6ヵ月間で17例の死亡を報告した。新規のH10N8ウイルスのパンデミックの可能性が過小評価されてはならない」とまとめている。ヒトへの病原性、伝播性、ウイルスの出現・再集合のメカニズムはもちろんのこと、ヒトの感染例が今後増加するのか、どの程度家禽で流行しているのかについてもまだ全く見通しが立たない1)。 H5N1による上記の報告から15年以上が経過した現在でも、科学的な根拠を持って本ウイルスの特徴を明らかにするには、今後長い時間が必要である。

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気道感染症への抗菌薬治療 待機的処方 vs 即時処方/BMJ

 気道感染症に対する抗菌薬治療では、即時的処方に比べ待機的処方で抗菌薬服用率が顕著に低いが、症状の重症度や持続期間に差はないことが、英国・サウサンプトン大学のPaul Little氏らの検討で示された。同国のプライマリ・ケアでは、気道感染症の治療の際、抗菌薬の不必要な使用を抑制するために非処方または待機的処方という戦略が一般に行われている。一方、文献の系統的レビューでは、待機的処方は即時的処方に比べ症状の管理が不良であり、非処方よりも抗菌薬の服用率が増加する可能性が示唆されている。待機的処方には、服用に関する指示書を付して処方薬を渡したり、再受診時に渡すなどいくつかの方法があるが、これらの戦略を直接に比較した試験は、これまでなかったという。BMJ誌オンライン版2014年3月5日号掲載の報告。個々の待機的処方戦略の有効性を無作為化試験で評価 研究グループは、急性気道感染症に対する待機的抗菌薬処方の個々の戦略の有効性を比較する無作為化対照比較試験を実施した。2010年3月3日~2012年3月28日までに、イギリスの25のプライマリ・ケア施設(医師53人)に3歳以上の急性気道感染症患者889例が登録された。 即時的抗菌薬処方が不要と判定された患者が、次の4つの待機的処方群に無作為に割り付けられた。1)処方薬を再受診時に渡す群、2)処方薬を後日に受け取る先日付処方群、3)処方薬は出さないが患者が自分で入手してもよいとする群、4)すぐには服用しないなどの指示書と共に処方薬を渡す群(患者主導群)。2011年1月に、さらに抗菌薬非処方群を加え、5群の比較を行った。 主要評価項目は2~4日目の症状の重症度(0~6点、点数が高いほど重症)とし、抗菌薬の服用状況、患者の抗菌薬の効果への信頼、即時的抗菌薬処方との比較なども行った。個々の待機的処方戦略には大きな差はない 333例(37%)が即時的抗菌薬処方の適応とされ、残りの556例(63%)が無作為化の対象となった(非処方群:123例、再受診群:108例、先日付群:114例、入手群:105例、患者主導群:106例)。即時的処方群でベースラインの症状の重症度がわずかに高く、下気道感染症が多く上気道感染症が少ない傾向がみられたが、非処方群と個々の待機的抗菌薬療法群の患者背景に差は認めなかった。 非処方群と個々の待機的処方群で症状の重症度に大きな差は認めなかった。重症度スコアの粗平均値は、非処方群が1.62、再受診群は1.60、先日付群は1.82、入手群は1.68、患者主導群は1.75であった(尤度比χ2検定:2.61、p=0.625)。 やや悪い(moderately bad)またはより悪い(worse)症状の持続期間にも、非処方群(中央値3日)と待機的処方群(中央値4日)で差はみられなかった(尤度比χ2検定:4.29、p=0.368)。 診察に「たいへん満足」と答えた患者は非処方群が79%、再受診群は74%、先日付群は80%、入手群は88%、患者主導群は89%(尤度比χ2検定:2.38、p=0.667)、「抗菌薬の効果を信用する」と答えた患者はそれぞれ71%、74%、73%、72%、66%(同:1.62、p=0.805)であり、抗菌薬服用率は26%、37%、37%、33%、39%(同:4.96、p=0.292)であった。 これに対し、即時的処方群の大部分(97%)が抗菌薬を服用しており、効果を信用する患者の割合も高かった(93%)が、症状の重症度(粗平均値1.76)や持続期間(中央値4日)は、待機的処方群に比べて高いベネフィットはみられなかった。 著者は、「非処方や待機的処方では抗菌薬服用率が40%以下であり、即時的処方に比べ抗菌薬の効果を信頼する患者は少なかったが、症状の転帰は同等であった」とまとめ、「患者に明確なアドバイスをする場合、待機的処方戦略のうちいずれの方法を選択しても差はほとんどないとしてよいだろう」としている。

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中国で見つかった鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の疫学調査(続報)(コメンテーター:小金丸 博 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(184)より-

2013年3月、中国から鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスがヒトに感染した事例が初めて報告された。家禽市場の閉鎖措置後、一旦患者は減少傾向を示していたが、2013年10月以降再び患者が増加している。中国以外では、台湾、香港、マレーシアから感染例が報告されているが、全例中国本土で感染したと考えられている。本稿執筆時点では日本国内での感染例は報告されていないが、国内発生時に冷静に対応できるように準備しておく必要がある。  本論文は、2013年12月1日までに確定した鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症139例の臨床情報と、濃厚接触者の追跡調査をまとめた報告である。 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの感染は、リアルタイムRT-PCR法、ウイルス分離、血清学的検査のいずれかで確認した。確定診断された患者の平均年齢は61歳(範囲:2~91歳)で、42%が65歳以上であった。5歳未満は4例で、すべて軽い上気道症状を呈するのみだった。性別は男性が71%と多かった。情報が得られた108例のうち79例(73%)が何らかの基礎疾患を有していた。  確定例のうち9例が家禽を扱う労働者であった。情報が得られた131例のうち107例(82%)で動物との接触歴があり、そのうち88例に鶏との接触歴があった。 確定診断された139例のうち、137例は入院加療された。125例(90%)が肺炎あるいは呼吸不全を発症し、47例(34%)がARDSや多臓器不全で死亡した。発症から死亡までの期間の中央値は21日だった。情報が得られた109例のうち、79例でオセルタミビルが投与された。発症からオセルタミビル投与開始までの期間の中央値は6日だった。  感染患者との濃厚接触者2,675名を7日間追跡調査した。追跡期間中に呼吸器症状を呈した28名(研修医1名を含む)で咽頭スワブ検体を用いてリアルタイムRT-PCR法が行われたが、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスは1例も検出されなかった。  同一家族内で複数の患者が発生した4事例の調査の結果では、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト-ヒト感染が否定できなかった。 本論文は同誌オンライン版2013年4月24日号に発表された報告の続報である。調査対象となった症例数は増加しているが、疾患の臨床情報に関して大きな変化はない。確定患者に重症例が多いことは鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の1つの特徴である。通常の季節性インフルエンザと比較すれば死亡率は高そうだが、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルス感染症より死亡率は低いと推察する。 前回の報告同様、濃厚接触者間でヒト-ヒト感染が起こっているとの確認はできなかった。同一家族内での感染事例が複数存在し、限定的なヒト-ヒト感染が起こっている可能性は否定できないが、効率的なヒト-ヒト感染は確認されていない。ただし、本論文の最後にeditorがコメントしているとおり、2013年12月1日以降に65例以上の鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症が同定されており、今後パンデミックへ移行しないかどうか発生動向に注意を払わなければならない。

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日本人も肺炎クラミジア感染で冠動脈疾患リスクが上がる~約5万人のコホート研究

 欧米では、肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)感染がアテローム性動脈硬化症と冠動脈疾患の危険因子と考えられている。しかし、日本人は欧米人に比べて冠動脈疾患リスクが低いため、日本人におけるエビデンスは非常に少ない。今回、日本人における肺炎クラミジア感染と冠動脈疾患リスクとの関連について、JPHCスタディ(厚生労働省がん研究班による多目的コホート研究)で検討した。その結果、肺炎クラミジア感染と冠動脈疾患リスクとの間に正の相関が認められた。Atherosclerosis誌オンライン版2014年1月23日号に掲載。 本研究は、JPHCスタディに参加した日本人男女4万9,011人のコホート内症例対照研究である。2004年末までに記録されたケース(冠動脈疾患196例、心筋梗塞155例)に対し、それぞれコントロールを選択し、血清肺炎クラミジアIgA抗体およびIgG抗体と冠動脈疾患リスクとの関連を調べた。 主な結果は以下のとおり。・肺炎クラミジアIgA抗体濃度は、冠動脈疾患、心筋梗塞と相関が認められた。・IgA抗体の最も高い四分位では最も低い四分位と比べ、冠動脈疾患リスクが2.29倍(95%CI:1.21~4.33)、心筋梗塞リスクが2.58倍(95%CI:1.29~5.19)であった。・IgG抗体では、この関連は認められなかった。

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回復期リハ退院後の30日再入院率は11.8%/JAMA

 米国でメディケア受給者の急性期後(回復期)リハビリテーション(postacute inpatient rehabilitation)後の30日再入院率を調べた結果、最も低かったのが下肢関節置換術後の患者で5.8%、最も高かったのが患者の衰弱の18.8%であったことなどが、テキサス・メディカル・ブランチ大学のKenneth J. Ottenbacher氏らによる調査の結果、明らかにされた。米国のメディケア・メディケイドサービスセンターでは最近、リハビリテーション施設に対して、医療の質の評価指標として30日再入院率を定義づけた。Ottenbacher氏らは、この動きを受けて同施設の再入院率とその因子を明らかにするため、メディケア受給者73万6,536例を対象とした後ろ向きコホート研究を行った。JAMA誌2014年2月12日号掲載の報告より。リハ施設から地域へ退院した73万6,536例の再入院率を6診断群別に評価 対象者は2006~2011年に、1,365ヵ所のリハビリテーション施設から地域へ退院したメディケア受給者73万6,536例(平均年齢78.0[SD 7.3]歳)であった。63%が女性で、85.1%は非ヒスパニック系白人だった。 これら対象者について、6つの診断群(脳卒中、下肢骨折、下肢関節置換、衰弱、神経障害、脳の障害)別にみた30日再入院率を主要評価項目として評価した。最小は下肢関節置換5.8%、最大は衰弱18.8% 全体の平均入院期間は12.4(SD 5.3)日、全30日再入院率は11.8%(95%信頼区間[CI]: 11.7~11.8%)だった。 再入院率は、最小5.8%(下肢関節置換)から最大18.8%(衰弱)にわたった。その他はそれぞれ脳卒中12.7%、下肢骨折9.4%、神経障害、17.4%、脳の障害16.4%だった。 再入院率は、男性が女性よりも高く(13.0%vs. 11.0%)、人種別では非ヒスパニック系黒人が最も高かった。また、メディケイドとの複合受給者がメディケアのみ受給者よりも高い(15.1%vs. 11.1%)、共存症が1つの患者(25.6%)が2つ(18.9%)、3つ(15.1%)、なし(9.9%)の患者よりも高いなどの特徴も明らかになった。 6診断群では、運動および認知機能が高いと再入院率は低かった。 州で補正後の再入院率は、最小9.2%(アイダホ州、オレゴン州)から最大13.6%(ミシガン州)にわたった。 30日以内に再入院した患者の約50%は11日以内で退院に至った。再入院の理由(Medicare Severity Diagnosis-Related Groupコードによる)は、心不全、尿路感染症、肺炎、敗血症、栄養・代謝障害、食道炎、胃腸炎、消化不良などが一般的であった。 著者は、「再入院の原因を明らかにするためにさらなる研究が必要だ」とまとめている。

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中国の入院例から鳥インフルエンザAウイルスH10N8の新型検出/Lancet

 鳥インフルエンザA(H10N8)ウイルスについて、感染症例1例から既報のH10N8ウイルスとは異なる新規の再集合体H10N8ウイルスが分離されたことを、中国・南昌市疾病管理予防センター(CDC)のHaiYing Chen氏らが報告した。症例は73歳女性で、発症後9日目で死亡。新たなウイルスが、患者の死亡と関連している可能性についても言及している。なお、この新規ウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害薬に反応を示したという。Lancet誌オンライン版2014年2月5日号掲載の報告より。新たな再集合体H10N8ウイルスを検出 新型の鳥インフルエンザウイルス(H5N1、H9N2、H7N9など)のヒトへの感染は、世界的パンデミックの可能性に対する懸念を喚起したが、Chen氏らは今回、また新たな再集合体鳥インフルエンザA(H10N8)ウイルスの初となるヒトへの感染例が見つかったことを報告した。 調査は、2013年11月30日時点で南昌市において入院していた患者から入手した、臨床的、疫学的およびウイルス学的データを分析して行われた。気管吸引検体を用いて、インフルエンザウイルスまたは他の病原体を見つけるため、RT-PCR、ウイルス培養とシーケンス解析を行い、最尤推定法にて系統樹を作成し検討した。発症から9日目に死亡、ウイルスにより死亡の可能性 新規の再集合体H10N8ウイルスが分離されたのは、73歳女性、発熱(38.6℃)で2013年11月30日に入院した症例であった。肺CTスキャンで、右肺下葉の硬化がみられ、4日目には左肺下葉にも硬化が認められるようになった。胸部X線で、患者には6日目に両側性の胸水が認められ、8日目にスリガラス状陰影と硬化の急速な進行が認められた。 白血球数は5日目より、リンパ球が正常値範囲以下に低下、好中球は同範囲以上に上昇。C反応性蛋白(CRP)、クレアチニン値は高値で、AST、BUNは7日目以降やや上昇し肝臓、腎臓が機能不全に陥ることを示した。アルカリホスファターゼ、総蛋白、グロビン、アルブミンの血中濃度は、4日目には正常だったが、7、8日目では低下を示した。トランスサイレチンは、すべての検査時点で低下を示し、総IgG、C3は、8日目に低下が記録されている。 細菌感染症予防のための組み合わせ抗菌薬治療、機械的人工換気、糖質コルチコイド、アルブミン静注、抗ウイルス治療にもかかわらず、患者の状態は、次第に深刻になり、重篤な肺炎、敗血症性ショックおよび多臓器不全を呈し、9日目に死亡した。 新規のウイルスは、発症7日後の患者の気管吸引検体から分離されたものであった。 シーケンス解析により、ウイルス遺伝子はすべて鳥由来で、6つの内部遺伝子はH9N2ウイルス由来だった。なおこのウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害薬に反応を示した。 痰、血液培養およびより詳細な塩基配列決定解析の結果、細菌や真菌の同時感染は示されなかった。 また疫学的調査により、患者が発症4日前に家禽市場を訪れていることが確認されている。 著者は「2014年1月26日現在、南昌市ではもう1例のH10N8感染例が報告されている。1997年に香港で最初の死亡例が報告された鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス感染では、その後6ヵ月間で17例の死亡を報告した。この新規のウイルスのパンデミックの可能性が過小評価されてはならない」とまとめている。

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H7N9型インフル、ヒト-ヒト感染の可能性依然残る/NEJM

 2013年に中国で発生した新型鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染例のほとんどでは疫学的な関連性が認められず、ヒト-ヒト間伝播の可能性は除外できないことが、中国・公衆衛生救急センターのQun Li氏らの調査で判明し、NEJM誌2014年2月6日号で報告された。2013年2~3月に、中国東部地域でH7N9ウイルスのヒトへの感染が初めて確認された。これまでに急速に進行する肺炎、呼吸不全、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、死亡の転帰などの特性が報告されているが、研究者はその後も詳細な実地調査などを進めている。2013年12月1日までの感染者の疫学的特性を実地調査データで検討 研究グループは、今回、2013年12月1日までに確認されたH7N9ウイルス感染例の疫学的特性を検討する目的で、実地調査で得られたデータの解析を行った。 H7N9ウイルスの感染は、リアルタイムPCR(RT-PCR)、ウイルス分離または血清学的検査で確定し、個々の確定例について実地調査を行った。人口統計学的特性、曝露歴、疾患の臨床経過に関する情報を収集した。 患者との濃厚接触者は7日間、経過を観察し、症状がみられた場合は咽頭スワブを採取してリアルタイムRT-PCRでH7N9ウイルスの検査を行った。82%が動物と接触、99%入院、90%下気道疾患、34%院内死亡、濃厚接触者すべて陰性 H7N9ウイルス感染が確定した139例が解析の対象となった。年齢中央値は61歳(2~91歳)、58例(42%)が65歳以上、4例(3%)は5歳未満であり、98例(71%)が男性、101例(73%)は都市部の住民であった。感染例は中国東部の12地域にみられ、9例(6%)が家禽業従事者であった。 データが得られた108例中79例(73%)に基礎疾患(高血圧32例、糖尿病14例、心疾患12例、慢性気管支炎7例など)が認められた。動物との接触は、データが得られた131例のうち107例(82%)に認められ、ニワトリが88例(82%)、アヒルが24例(22%)、ハトが13例(12%)、野鳥が7例(7%)などであった。これらの知見からは、疫学的な関連性はとくに認められなかった。 137例(99%)が入院し、125例(90%)に肺炎または呼吸不全がみられた。データが得られた103例中65例(63%)が集中治療室(ICU)に収容された。47例(34%)が院内で死亡し(罹患期間中央値21日)、88例(63%)は退院したが、重症の2例は入院を継続した。 4つの家族内集積例では、H7N9ウイルスのヒト-ヒト間伝播の可能性を否定できなかった。家族内の2次感染例を除く濃厚接触者2,675人が7日間の観察期間を終了した。このうち28例(1%)に呼吸器症状の発現がみられたが、全員がH7N9ウイルス陰性だった。 著者は、「H7N9ウイルス感染確定例のほとんどが重篤な下気道疾患を発現し、疫学的な関連性は認められず、家禽への直近の曝露歴を有していたが、4家族ではH7N9ウイルスの限定的で非持続的なヒト-ヒト間伝播の可能性が除外できなかった」としている。なお、最近、香港や台湾でも感染例が見つかっており、同誌のエディターは「2014年1月21日現在、確定例は200例を超え、2013年12月1日以降に発見された症例は65例以上にのぼり、アウトブレイクは進行中である」と補足している。

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1日1回投与の新規喘息治療薬、国内長期投与における安全性・有効性を確認

 成人気管支喘息患者を対象とした52週間長期投与試験の結果、1日1回投与タイプの新規吸入薬フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ビランテロール配合剤(FF/VI、商品名:レルベア)およびFF(フルチカゾンフランカルボン酸エステル)単剤は、いずれも忍容性が良好であり、朝・夜のピークフロー値(PEF)および喘息症状の改善・維持が認められた。近畿大学医学部奈良病院 呼吸器・アレルギー内科教授の村木 正人氏らが、日本人の患者243例について行った多施設共同・非対照・非盲検試験の結果を報告した。アレルギー・免疫誌2013年10月号掲載の報告より。日本人243例にFF/VI 100/25μg、同200/25μg、FF 100μgを52週投与し検討 試験は、喘息治療薬を定期使用している18歳以上患者を対象とし、30施設で被験者を登録して行われた。既存の治療薬に応じて被験者を、(1)FF/VI 100/25μg(2)同200/25μg、(3)FF 100μgを、1回1吸入、1日1回夜投与のいずれかに切り替え52週間投与し、安全性と有効性を評価した。 安全性は、有害事象(試験薬との因果関係問わず)と副作用(試験薬との因果関係あり)を評価。有効性は、観察期間開始日(試験薬投与開始の2週間前)に配布した患者日誌に基づき、PEF(朝と夜の試験薬投与前に測定)、喘息症状関連項目(喘息症状スコア、24時間無症状日数の割合、24時間救済薬未使用日数の割合)を評価した。解析はintent-to-treat(試験薬を1回以上投与した全患者と定義)にて行われ、中止例も含む243例を組み込み評価した。全投与群で朝・夜PEFが有意に改善、喘息症状も改善 被験者243例の内訳は、FF/VI 100/25μg群60例(女性63%、51.3歳、スクリーニング時%FEV1 93.00%)、同200/25μg群93例(同53%、52.6歳、88.42%)、FF 100μg群90例(同60%、46.8歳、90.78%)であった。試験完了例は220例(それぞれ55例、79例、86例)であった。 結果、いずれの治療群も52週間投与時の忍容性は良好であった(36週超投与はそれぞれ95%、85%、96%)。服薬コンプライアンスは全投与群とも98%以上と良好であった。 有害事象の発現頻度は12週あるいは24週ごとにみても同程度で、長期投与による増加の傾向は認められなかった。副作用(それぞれ23%、28%、18%)は、多くが口腔カンジダ症や発声障害などICSやβ2刺激薬で知られている事象であった。重篤な副作用はFF/VI 100/25μg群の肺炎1例(2%)のみで、同症例は抗菌薬治療にて回復している。 有効性については、全投与群において、朝および夜のPEF共に有意な改善が認められた。ベースライン時からの変化量の平均値(SD)は、FF/VI 100/25μg群朝18.29(36.30%)・夜20.23(35.27%)、同200/25μg群朝23.98(38.67%)・夜26.29(40.51%)、FF 100μg朝12.38(32.30%)・夜15.64(30.77%)であった。また、すべての評価時点(12、24、36、52週)で全投与群共有意な改善が認められた。 喘息症状関連項目も有意ではないが数値的に改善が認められている。有意な改善が認められたのは、FF 100μg群の24週後の喘息症状スコア(ベースライン時からの変化量の平均値[SD]:-0.20[0.85%])および24時間無症状日数の割合(同:8.60[27.70%])と、FF/VI 200/25μg群の52週後の24時間救済薬未使用日数の割合(同:4.57[15.42%])であった。 以上を踏まえて著者は、「日本人成人気管支喘息患者に対するFF/VI100/25μg、同200/25μgまたはFF100μgの1回1吸入、1日1回夜投与の長期投与時の忍容性は良好であった。また、PEFおよび喘息症状にも改善がみられ、52週間を通して維持された」と結論している。

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小児の慢性片頭痛に認知行動療法が有効/JAMA

 小児の慢性片頭痛の治療として、認知行動療法(CBT)が有効であることが、米国・シンシナティ小児病院医療センターのScott W Powers氏らの検討で示された。小児の慢性片頭痛に関しては、現在、米国FDAによって承認された治療法がないため、実臨床ではエビデンスに基づかない種々の治療が行われているという。心理学的介入の中でも、対処技能の訓練に焦点を当てバイオフィードバック法に基づくリラクセーション訓練を導入したCBTは、これらの患者における慢性、再発性の疼痛の管理に有効であることを示唆するエビデンスが報告されていた。JAMA誌2013年12月25号掲載の報告。CBTの頭痛軽減効果を無作為化試験で評価 研究グループは、年齢10~17歳の慢性片頭痛患者に対するCBT+アミトリプチリン(商品名:トリプタノールほか)と頭痛教育+アミトリプチリンの有用性を比較する無作為化試験を行った。 診断は、専門医が「International Classification of Headache Disorders, 2nd Edition(ICHD-II)」の判定基準を用いて行い、月(28日)に15日以上の頭痛が認められた場合に慢性片頭痛とされた。このうち、Pediatric Migraine Disability Assessment Score(PedMIDAS)が20点以上の患者を試験に組み入れた。PedMIDASは、小児の頭痛に起因する機能障害を0~240点(0~10点:ほとんどなし、11~30点:軽度、31~50点:中等度、51点以上:重度)で評価するもの。 CBT群、頭痛教育群ともに専門セラピストによる10回の研修が行われ、アミトリプチリン1mg/kg/日が20週投与された。フォローアップは3、6、9、12ヵ月後に実施された。 主要評価項目は20週後の頭痛の発現日数、副次評価項目はPedMIDASとした。また、臨床的有意性の評価として、12ヵ月後の頭痛発現日数がベースラインに比べ50%以上低下した患者の割合およびPedMIDASが20点未満の患者の割合について検討した。1年後に86%で頭痛の発現が50%以上低下 2006年10月~2012年9月までに135例が登録され、CBT群に64例、頭痛教育群には71例が割り付けられた。全体の平均年齢は14.4歳、女児が79%で、ベースライン時の平均頭痛発現頻度は21.3(SD 5.2)日/28日、PedMIDASは68.3(SD 31.9)点であった。129例(59例、70例)が20週のフォローアップを終了し、12ヵ月のフォローアップを完遂したのは124例(57例、67例)だった。 20週時の頭痛発現日数は、CBT群で11.5日減少したのに対し、頭痛教育群の低下日数は6.8日であり、有意な差が認められた(群間差:4.7日、95%信頼区間[CI]:1.7~7.7、p=0.002)。PedMIDASは、CBT群で52.7点低下したが、頭痛教育群では38.6点の減少にとどまり、有意差が確認された(群間差:14.1点、95%CI:3.3~24.9、p=0.01)。また、頭痛発現日数が50%以上低下した患者の割合は、CBT群が66%と、頭痛教育群の36%に比べ有意に良好であった(オッズ比[OR]:3.5、95%CI:1.7~7.2、p<0.001)。 12ヵ月時の頭痛発現日数50%以上低下例の割合は、CBT群が86%、頭痛教育群は69%であった(p<0.001)。また、12ヵ月時に、PedMIDASが20点未満の患者の割合は、それぞれ88%、76%だった(p<0.001)。 有害事象は、CBT群で90件、頭痛教育群では109件報告された。CBT群に比べ頭痛教育群では中枢神経系、呼吸器系の有害事象が多かった。中枢神経系有害事象には、片頭痛発作重積や片頭痛の増悪のほか、疲労や眠気、めまいなどアミトリプチリンによる既知のものが含まれ、呼吸器系有害事象としてはインフルエンザ感染、肺炎、季節性アレルギー、上気道感染症などがみられた。

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第21回 処方ミスは誰の責任?主治医か薬剤師か、はたまた双方か!?

■今回のテーマのポイント1.呼吸器疾患で一番訴訟が多い疾患は肺がんであり、争点としては、健診における見落としおよび診断の遅れが多い2.薬剤師は、自らの責任において用法・用量などを含めた処方せんの内容について問題がないか確認をしなければならない(薬剤師法24条)3.医師の書いた処方箋が誤っていた場合、それを修正させなかった薬剤師も誤投与に対し責任を負う事件の概要60歳男性(X)。平成17年3月、頸部リンパ節腫脹精査目的にてA病院に入院しました。検査の結果、右中下葉間を原発とする肺腺がん(T2N3M1(膵、リンパ節転移):StageIV)と診断されました。4月13日より、Xに対し、化学療法が開始されたものの、徐々にXの全身状態は悪化していき、8月末には脳転移も認められるようになりました。10月よりXの主治医はW医師および3年目の医師(後期研修医)Yに変更となりました。Xの全身状態は悪く、10月11日には、発熱、胸部CT上両肺野にびまん性のスリガラス状陰影が認められました。Y医師は、抗がん剤(ビノレルビン)による薬剤性肺障害を疑い、ステロイドパルス療法を開始しましたが、改善しませんでした。β‐Dグルカンが79.6pg/mLと上昇していたことから、Y医師は、ニューモシスチスカリニ肺炎を疑い、18日よりST合剤(商品名:バクトラミン)を開始しました。治療によりβ‐Dグルカンは低下し、胸部CT上もスリガラス状陰影の改善が認められたものの、バクトラミン®によると考えられる嘔気・嘔吐が増悪したため、28日の回診時に呼吸器科部長Z医師よりY医師に対し、ペンタミジンイセチオン(商品名:ベナンバックス)に変更するよう指示がなされました。Y医師は、W医師に対し、ベナンバックス®の投与量を尋ねたところ、「書いてある通りでよい」旨指示されたため、医薬品集をみてベナンバックス®の投与量を決めることとしました。なお、W医師は、午後外勤であったため、上記やり取りの後、Y医師が実際に処方するのを確認せずに病院を離れました。ところが、Y医師は、ベナンバックス®の投与量(4mg/kg/日)を決定する際に、誤って医薬品集のバクトラミン®(15~20mg/kg/日)の項をみて計算してしまったため、結果として、5倍量の注射オーダーがなされてしまいました。A病院では、薬剤の処方にオーダリングシステムが導入されていたものの、過量投与への警告機能は薬剤の1回量について設定されているのみで、投与回数や1日量については設定がされていませんでした。そのために、本件のベナンバックス®の処方に対して警告が発せられなかったこともあり、調剤した薬剤師および調剤監査に当たった薬剤師は過量投与に気づきませんでした。その結果、Xは、収縮期血圧が70mmHgまで低下し、意識状態の悪化、奇異性呼吸が認められるようになり、11月10日、Xは、低血糖による遷延性中枢神経障害、肝不全、腎不全により死亡してしまいました。これに対し、Xの遺族は、病院だけでなく、主治医であった後期研修医YおよびWならびに呼吸器センター部長Z、さらに調剤した薬剤師および監査した薬剤師2名の計6名の医師・薬剤師に対し、約1億800万円の損害賠償請求を行いました。事件の判決●主治医の後期研修医Yの責任:有責「被告Y医師は、臨床経験3年目の後期研修医であったけれども、医師法16条の2の定める2年間の義務的な臨床研修は修了しており、また、後期研修医といえども、当然、医師資格を有しており、行える医療行為の範囲に法律上制限はなく、しかも、前記のとおり、被告Y医師の過失は、医師としての経験の蓄積や専門性等と直接関係のない人間の行動における初歩的な注意義務の範疇に属するものである」●主治医W医師の責任:無責「ベナンバックスへの薬剤変更が決定された10月28日、被告W医師は、外勤のため、被告病院を離れなければならないという事情があり、被告Y医師から、投与量について相談をされた際に、書いてあるとおりでよいと、概括的ながら、添付文書や医薬品集に記載されている投与量で投与する旨の指示は出している。そして、被告W医師としては、特別の事情がない限り、被告Y医師が、医薬品集などで投与量を確認し、その記載の量で投与するであろうことを期待することは、むしろ当然であるといえる。すなわち、本件事故は、被告Y医師が、医薬品集の左右の頁を見間違えて処方指示をしたという初歩的な間違いに起因するものであるが、このような過誤は通常想定し難いものであって、被告W医師において、このような過誤まで予想して、被告Y医師に対し、あらかじめ、具体的な投与量についてまで、指示をすべき注意義務があったとは直ちには認められないというべきである」●呼吸器センター部長Z医師の責任:無責「被告Z医師は、Xの主治医や担当医ではなく、呼吸器センター内科部長として、週に2回の回診の際、チャートラウンドにおいて、各患者の様子について担当医師らから報告を受け治療方針等を議論し、前期研修医を同行し、患者の回診をするなどしていた。本件でも、Xの診療を直接に担当していたわけではなく、チャートラウンドなどを通して、主治医や担当医の報告を受けて、治療方針を議論するなど、各医師への一般的な指導監督、教育などの役割を担っていたといえる。被告Z医師は、10月28日のチャートラウンドにおいて、被告Y医師からXの容態について報告を受け、薬剤をベナンバックスに変更することを指示している。その際、ベナンバックスの投与量や投与回数、副作用への注意などについては、特に被告Y医師に対して具体的な指示をしていない。しかし、被告Z医師の前示のとおりの役割や関与の在り方から見ても、10月28日当時で約95名にのぼる被告病院呼吸器センター内科の入院患者一人一人について、極めて限られた時間で行われるチャートラウンド等の場において、使用薬剤やその投与量の具体的な指示までを行うべき注意義務を一般的に認めることは難しいといわざるを得ない」●薬剤師3名の責任:有責「薬剤師法24条は、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」と定めている。これは、医薬品の専門家である薬剤師に、医師の処方意図を把握し、疑義がある場合に、医師に照会する義務を負わせたものであると解される。そして、薬剤師の薬学上の知識、技術、経験等の専門性からすれば、かかる疑義照会義務は、薬剤の名称、薬剤の分量、用法・用量等について、網羅的に記載され、特定されているかといった形式的な点のみならず、その用法・用量が適正か否か、相互作用の確認等の実質的な内容にも及ぶものであり、原則として、これら処方せんの内容についても確認し、疑義がある場合には、処方せんを交付した医師等に問合せて照会する注意義務を含むものというべきである。・・・(中略)・・・薬剤師はその専門性から、原則として、用法・用量等を含む処方せんの内容について確認し、疑義がある場合は、処方医に照会する注意義務を負っているといえるところ、特に、ベナンバックスは普段調剤しないような不慣れな医薬品であり、劇薬指定もされ、重大な副作用を生じ得る医薬品であること、処方せんの内容が、本来の投与量をわずかに超えたというものではなく、5倍もの用量であったことなどを考慮すれば、被告薬剤師としては、医薬品集やベナンバックスの添付文書などで用法・用量を確認するなどして、処方せんの内容について確認し、本来の投与量の5倍もの用量を投与することについて、処方医である被告Y医師に対し、疑義を照会すべき義務があったというべきである」(*判決文中、下線は筆者による加筆)(東京地判平成23年2月10日判タ1344号90頁)ポイント解説1)呼吸器疾患の訴訟の現状今回は、呼吸器疾患です。呼吸器疾患で最も訴訟となっているのは肺がんです(表1)。やはり、どの診療科においても、重篤な疾患が訴訟となりやすくなっています。肺がんの訴訟は、原告勝訴率が52.9%とやや高い一方で、認容額はそれなり(平均3,200万円)というのが特徴です(表2)。これは、肺がんが、がんの中では5年生存率が比較的低い(予後が不良)ことが原因であると考えられます。すなわち、訴訟においては、不法行為責任が認められた後に、当該生じた損害を金銭に換算し、損害額を決定するのですが、肺がんのように5年生存率が低い疾患の場合、損害額の多くを占める逸失利益があまり認められなくなるのです。逸失利益とは、「もし医療過誤がなかった場合、どれくらい収入を得ることができたか」ですので、まったく同じ態様(たとえば術後管理の瑕疵)の過失であったとしても、生命予後が比較的良好な胃がんの患者(ここ10年間の検索可能判決によると平均6,520万円)と肺がんの患者では、認められる逸失利益に大きな違いが出てくることとなるのです。肺がんの訴訟において、最も多く争われるのが第17回でご紹介した健診による見落としなどであり、その次に多いのが診断の遅れと手技ミスです(表2)。また、表2をみていて気づくかもしれませんが、福島大野病院事件医師逮捕があった平成18年の前後で原告勝訴率が66.7%(平成18年以前)から37.5%(平成18年以降)と大きく落ち込んでいる点です。これは、医療崩壊に司法が加担したことに対する反省なのか、医療訴訟ブームによる濫訴が原因なのか、負け筋は示談されてしまい判決までいかないことが原因なのかなど、さまざまな理由によると考えられますが、結果として、医療訴訟全体において原告勝訴率が低下しており、肺がんにおいても同様のトレンドに沿った形(平成18年以前 40%前後、平成18年以降 25%前後)となっているのです。2)処方ミスは誰の責任?今回紹介した事例は、肺がん訴訟の典型事例ではありませんが、チーム医療を考えるにあたり非常によいテーマとなる事例といえます。本件では、病院だけでなく、医師、薬剤師を含めた多数の個人までもが被告とされました。その結果、各専門職および専門職内における役割の責任につき、裁判所がどのように考えているかをみることができる興味深い事例といえます。チーム医療とはいえ、病院スタッフはそれぞれ専門領域を持つプロフェッションです。国家資格もあり、法律上業務独占が認められています。したがって、チーム医療とはいっても、それぞれの専門領域については、各専門家が責任を負うこととなり、原則として他の職種が連帯責任を負うことはありません。これを法律的にいうと「信頼の原則」といいます。「信頼の原則」とは、「行為者は、第三者が適切な行動に出ることを信頼することが不相当な事情がない場合には、それを前提として適切な行為をすれば足り、その信頼が裏切られた結果として損害が生じたとしても、過失責任を問われることはない」という原則で、いちいち他の者がミスをしていないか確認しなければならないとなると円滑な社会活動を行うことが困難となることから、社会通念上相当な範囲については、他人を信頼して行動しても構わないという考えで、この原則は、医療従事者間においても適用されます。それでは、本事例のような処方箋の書き間違えは、誰の責任となるのでしょうか。医師法、薬剤師法上、医薬分業が定められています。すなわち、「医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない」(医師法22条)とされ、これを受けて、「薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない」(薬剤師法23条1項)とされています。そして、薬のプロである薬剤師は、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない」(薬剤師法24条)とされており、患者に投与される薬は原則として、薬剤師が防波堤として、最終的なチェックをすることとなっています。したがって、法が予定する薬の処方に関する安全は、薬剤師に大きく頼っているといえます。本判決においても、処方ミスを水際で食い止めることが薬剤師に課せられた法的義務であることから、薬剤師は医師の処方箋が正しい内容であると信頼することは許されず、自らの責任において用法・用量などを含む処方せんの内容について確認しなければならないとされたのです。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)東京地判平成23年2月10日判タ1344号90頁

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