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CareNet座談会 「高齢者の肺炎診療 ~新しい肺炎球菌ワクチンで変わる高齢者肺炎予防~」

<座長><出席者>高齢者肺炎の現状と肺炎球菌ワクチンの重要性賀来(座長) 本日は、感染症の専門の先生方にお集まりいただき、高齢者の肺炎の現状と新しい肺炎球菌ワクチンについて伺います。私どもは東日本大震災後の感染症について解析しており、災害後の集団感染リスクから被災者を守る必要性を感じています。震災後に東北大学病院に入院した感染症患者は、高齢者の誤嚥性肺炎を含めた市中肺炎などの呼吸器感染症が67%を占め、肺炎の原因菌の25.8%が肺炎球菌であり(図1)1)、肺炎球菌ワクチン接種による肺炎発症予防の重要性を感じました。図1 東北大学病院における震災関連感染症の解析画像を拡大するはじめに、高齢者における肺炎球菌感染症対策の重要性について伺います。門田 肺炎はわが国の死因の第3位の疾患であり、死亡者の大半を高齢者が占める現状がありますが、なかでも肺炎球菌による肺炎が多く、65歳以上の市中肺炎入院患者を対象とした検討では肺炎球菌が約30%を占めることが報告されています2)。また、生命を脅かす重篤な疾患である髄膜炎や敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症も高齢者に多く起こりますので、肺炎球菌感染症の予防はきわめて重要です。三鴨 高齢者ではさまざまな基礎疾患を有することが多く、それらが肺炎リスクを高めていると考えられます。例えば、糖尿病患者では白血球の貪食能、殺菌能の低下により、感染症リスクが高まると考えられます。また、脳梗塞や一過性脳虚血発作の後遺症がある場合は、誤嚥が関連する肺炎のリスクが高いと考えられます。さらに、高齢者に対する治療を考えると、腎機能低下例が多いために抗菌薬療法を十分に行えない可能性があります。腎機能や肝機能に留意した治療が求められるのが高齢者の特徴です。賀来(座長) 誤嚥は肺炎の要因になりますが、そこでも原因菌として肺炎球菌は重要でしょうか。門田 誤嚥の疑いのある高齢者の肺炎において肺炎球菌が26%を占めていたという報告もあり3)、意外に多いことが明らかになりつつあります。三鴨 とくに不顕性誤嚥(睡眠中に無意識のうちに唾液などが気道に入る)があると誤嚥性肺炎のリスクが高まり、免疫機能の低下が加わることでさらにリスクが増加します。肺炎球菌が意外に多いことを考えると、やはり肺炎球菌ワクチンによる予防が重要となります。また、高齢者の基礎疾患と肺炎リスクは関連があると考えられますので、高齢者全員にワクチンを接種するユニバーサルワクチネーションの考え方が重要です。高齢者肺炎の診断と病態の特徴賀来(座長) 次に、高齢者肺炎の診断と病態の特徴について伺います。門田 高齢者肺炎において注意していただきたいのは、細菌性肺炎であっても白血球数が上昇しない場合があること、また、症状が潜在性の場合があることです。典型的な症状がなくとも、食欲減退・不活発・会話の欠如などがあり、肺炎が疑われる場合には早めに胸部画像検査をしていただきたいです。三鴨 高齢者の肺炎で、もう1つ臨床上重要な点は、不顕性誤嚥があると肺炎を繰り返す例が多いことです。門田 肺炎を繰り返すと、抗菌薬治療を繰り返すことで耐性菌が出現するリスクも高まります。三鴨 おっしゃるとおりです。そのため、私たちは高齢者の肺炎患者に対しては退院時に積極的に肺炎球菌ワクチンを接種するようにしています。新しい肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)のエビデンス賀来(座長) これまで高齢者に対しては肺炎球菌多糖体ワクチン(PPV)が用いられてきましたが、先頃、小児において使用実績の高い肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)が成人(65歳以上)に対しても適応が認められ、選択肢が広がりました。この新しいワクチンの特徴と期待されるメリットについて伺います。門田 PPVは肺炎球菌の莢膜多糖体を抗原とするワクチンですが、PCV13は莢膜多糖体にキャリアタンパクを結合させたワクチンであり、免疫原性が高いことが特徴です(図2)。図2 多糖体ワクチンと結合型ワクチンにより誘導される免疫応答の概略画像を拡大するキャリアタンパクを結合することでB細胞のみならずT細胞を活性化することが可能であり、免疫応答の惹起に加え、メモリーB細胞を介した免疫記憶の確立が期待できます。賀来(座長) これらの特徴は臨床試験からも確認されているのでしょうか。三鴨 国内における第III相試験4)では、肺炎球菌ワクチン未接種の65歳以上の日本人高齢者764例を対象として、従来のPPVを対照群とする非劣性試験が実施されました。接種1ヵ月後のオプソニン化貪食活性(OPA)を比較した結果、両ワクチンに共通する12種類の血清型のいずれについてもPCV13はPPVに対して非劣性を示しました。このうち9血清型についてはPCV13におけるOPAの有意な上昇が認められ、PCV13の免疫原性が示されました(図3)。図3 ワクチン血清型別OPA*幾何平均力価比画像を拡大する一方、海外における第III相試験5)では、1回目にPCV13またはPPVを接種し、その3~4年後にPPVを再接種した場合のOPAの上がり方を検討しており、PCV13を接種した群における再接種時の免疫応答からPCV13による免疫記憶の確立が示されています(図4)。この結果から、1回目にPCV13を接種すると、PCV13に続いて2回目に接種されるワクチンの免疫応答も増大すると考えられ、今後、両ワクチンの特性を活かして接種スケジュールを検討する際の参考にできると思います。図4 肺炎球菌ワクチンの2回目接種前後のワクチン血清型別OPA画像を拡大する高齢者に対する肺炎球菌ワクチン接種の今後の展望賀来(座長) PCV13が高齢者にも使用可能になったことにより肺炎球菌感染症の予防にさらなる期待がもたれます。今後、高齢者へのワクチン接種をさらに普及させるうえでどのような方策が必要でしょうか。門田 日本呼吸器学会では「ストップ肺炎キャンペーン」を展開しており、一般向け・医療従事者向けの冊子をWebでも公開しています6)。今後、呼吸器科のみならず他科の先生方にも肺炎予防の重要性を周知し、他疾患領域の学会とも連携して取り組む必要があると思います。三鴨 糖尿病やリウマチでは、新薬の登場により治療成績が向上していますが、その一方で感染症リスクが高まる場合もあるため、高齢者の感染症予防に対する関心が高まっています。こうした面からも肺炎球菌ワクチン接種の意義を訴求していけると思います。また、ワクチンの普及には行政の役割も重要です。2014年10月から、65歳以上を対象に成人用肺炎球菌ワクチンが定期接種化されました(表1)。国の制度では5年間で順次接種することになっていますが、私はすべての高齢者に接種することが望ましいと考えています。そのため、居住地である岐阜市の市長がワクチン接種の公費助成に力を入れる方針を示していることを知り、この地域に居を構えるアカデミアの一人として肺炎球菌ワクチンについて提言を行いました(表2)。その結果、岐阜市では本年度に65歳以上全員を接種対象として予算を組んでくれました。高齢者医療はこうした比較的小規模な枠組みからも改善でき、非常に重要な動向であると思っています。賀来(座長) 本日は、高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの現状と今後の展望について詳細にお話を伺うことができました。皆さま、ありがとうございました。表1 65歳以上の成人用肺炎球菌ワクチン定期接種(B型)の経過措置を含めた接種対象年齢画像を拡大する表2 肺炎球菌ワクチンについての提言画像を拡大する参考文献1)賀来 満夫. 日本内科学会雑誌. 2014; 103: 572-580.2)石田 直. Infection Control. 2005; 14: 645-649.3)Ishida T, et al. Intern Med. 2012; 51: 2537-2544. 4)ファイザー(株) 社内資料 国内第Ⅲ相試験(非劣性試験、未接種者、B1851088試験).5)Jackson LA, et al. Vaccine. 31; 2013: 3594-3602.6)日本呼吸器学会ホームページ PCV13についての詳細は製品添付文書をご覧ください。

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エキスパートに聞く!「血栓症」Q&A Part3

CareNet.comでは特集「内科医のための血栓症エッセンス」を配信するにあたって、会員の先生方から血栓症診療に関する質問を募集しました。その中から、静脈血栓症に対する質問に対し、東邦大学 医療センター佐倉病院 循環器内科 清水一寛先生に回答いただきました。プライマリ・ケア医が可能な深部静脈血栓症の診断方法について教えてください。深部静脈血栓症ですが、足が腫れたり痛んだりすることが多いですが、症状がないこともあります。診断するうえでまず大事なことは、血栓症を疑うことです。診察手技としては、ホーマンズ徴候というものがあります。膝を伸展した状態で足首を背屈することにより誘発されるふくらはぎの不快感をみるものですが、感度も特異度もあまり高くなく、これだけで診断するのは危険です。血液検査でのDダイマーは有用で、検査値が陰性の場合、99%以上の確率で血栓症を否定できることが過去にLancet誌から報告されており、日常臨床の場で頻用されています。鑑別疾患で、頻度が高いのは蜂窩織炎と浮腫みです。蜂窩織炎は皮膚の発赤・腫脹・熱感があり、WBCの上昇を認めます。皮膚科の先生に相談されることをお勧めします。われわれの診療科に依頼があった場合は、下肢静脈超音波で症状の原因となる血栓症がないことを確認して、皮膚科の先生に診察をお願いしています。浮腫みの原因はさまざまで、全身性の問題の場合は両下肢にリンパ浮腫所見を認めることが多いです。深部静脈血栓症は、下大静脈が閉塞した場合は両下肢に影響が及びますが、多くの場合、血栓症が原因で、両側に同時に症状が出現することはまれです。いずれにせよ、最終的な診断には下肢静脈超音波やCT検査が必要になりますので、症状から深部静脈血栓症を疑ったり、鑑別疾患の1つに上がったりした場合は、総合的に対応可能な施設へ紹介してください。深部静脈血栓症の予防について、弾性ストッキングや適度なリハビリなどが考えられるが、どう対処しているか教えてください。19世紀に、ドイツのウィルヒョウ先生が、血栓ができやすくなる状態として、(1)血液の流れが滞る(2)血管壁に傷がつく(3)血液の凝固能が高まるという「ウィルヒョウの三徴」を唱えられ、この概念は現在でも使われています。入院生活では、自分の居住空間がベッド1つですから、おのずと活動度が低下しがちです。まず大事なことは、必要以上に安静にさせないことです。食事やトイレは移動にもってこいですから早め早めに安静度を上げていってください。ふくらはぎのヒラメ静脈は、血栓の好発部位ですが、筋肉の収縮により、ヒラメ筋静脈内にたまった血液が押し出されて流れていきます。飛行機に乗ると備え付けのパンフレットに下肢の運動のアドバイスがありますが、理由はそのためです。弾性ストッキングは、加圧により血管拡張物質や血栓溶解物質が血管内皮細胞から分泌されるそうです。入院が必要な方は血栓ができやすい状態にあるということを念頭に予防に努めてください。肺塞栓症は慢性と急性で、診断方法、とくに問診や身体所見や血液検査などに違いはありますか?急性の肺塞栓症の場合、突然の呼吸困難を足掛かりに、肺塞栓症が鑑別にあがれば血液検査でDダイマーを確認し、二次線溶が現在起こっているかを評価します。血液ガスやSpO2モニターでは低酸素の確認をします。心電図や心臓超音波では、右心負荷所見の有無の確認をします。レントゲンでは、肺動脈の拡張のほか、気胸や肺炎、心拡大の有無の確認を行います。最終的には、造影CT検査で確定診断に辿り着くことになりますが、この一連の流れは比較的容易です。病院において、上記はほぼ同時進行で進みます。難しいのは、慢性の場合です。すでにDダイマーは正常のことが多く、症状としては労作時の息切れで、医師は心不全や慢性呼吸器疾患を考えてしまいがちです。BNPも上昇していることが多く、心電図では右心負荷所見がみられることもあります。こういった場合では、肺血流シンチグラフィーが有用です。血流欠損所見で診断に至ることもあります。原因不明の肺高血圧をみた場合は、鑑別診断の1つとして慢性の肺血栓塞栓症も考えてみてください。※エキスパートに聞く!「血栓症」Q&A Part4はこちら

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アリスミアのツボ 第4回

Q10治療の必要のない不整脈について、日常生活のアドバイスや指導はどのようにしていますか?何も証拠となる情報はないので……無難な対応で臨んでいます。アドバイスほど難しいものはない「アドバイス」……という言葉にはよいイメージがあります。日本語では「忠告」と訳されることもあり、これはどちらかというと悪いイメージかもしれません。そして、「エデゥケーション(教育)」、「指導」という言葉もあります。これは、どちらかといえば上から下へというイメージでしょうか。こう考えると、患者に対して医師が話す内容は、このうちどれなのでしょう。エビデンスはない実は、治療の必要のない不整脈について、「~すればよくなる」という確固とした証拠は何もありません。ただ、現場には期外収縮の症状に悩まれている患者も数多くいます。「薬がいらないことはよくわかりましたが、この症状はどうすればよくなるのでしょう」、「毎日の生活で気を付けることはありますか」などの質問を頻繁に受けます。相手の気持ちになってこのような質問に対して、「医学的に証明されている日常生活上の工夫はない」というのが学問的には正しいことです。が、社会的には到底受け入れられる回答ではないでしょう。アドバイス、指導は、相手の立場に立って行うからこそ意味のある行為だと感じます。何を隠そう、私自身が心房期外収縮の症状がひどくてつらい時期がありました。だからどうしたというわけではないのですが、「私も期外収縮があってつらかった」ことを伝えると、なぜか多くの患者さんが少しほっとした表情をみせてくれます。そのうえで、「できることはあまりないんですけど、規則的な生活を守って、睡眠不足やストレスを避けることですね。といっても、いつも守れるわけはありませんよね。そうそう、肥満もよくないんですよ……」というような、日常会話をしています。相手も不整脈を持っているということを知ると、同じ土俵に立っていると感じてもらえるのか、それなりに聞いてもらえます。Q11抗不整脈薬がたくさんありすぎて、どれをどの順番で使えばよいのかわからないのですが……。私の場合は、ここ数年かなりシンプルです。抗不整脈薬の投与対象は「発作性心房細動」昔は、さまざまな不整脈に対して抗不整脈薬を使用していました。対象がさまざまなため、それぞれの不整脈ごとに覚えなければいけないことも多かったという記憶があります。しかし、現在は、期外収縮は治療することがほとんどなくなり、上室頻拍、心房粗動など多くの不整脈がカテーテルアブレーションで治癒できるようになり、抗不整脈薬の出番は激減しました。今、私が抗不整脈薬を用いるといったら、そのほとんどは「発作性心房細動」ということになります。抗不整脈薬の薬効は薬によって異なる?昔の私は、少しは異なるのだろうと思っていました。そこで、心房細動を対象としたJ-RHYTHM研究という医師主導型の臨床研究を行った際、アミオダロン以外の抗不整脈薬が多数用いられていたので、サブ分析として薬物別の効果分析をしてみました。そうすると、驚いたことに洞調律が維持される程度(いわゆる薬効)に大きな差がなかったのです。差がないのなら、これほど日本にたくさんの種類の抗不整脈薬はなくてもいいんじゃないかと思ったぐらいですが、日本での歴史に基づいた結果なのでぼやいても仕方ありません。使い慣れた薬物で十分効果に差がなければ、安全性重視ということになるわけです。確かに、抗不整脈薬間で少しずつ安全性が異なるようです。ただ、すべての用量・副作用を記憶しておくわけにもいきません。というわけで、自分が使い慣れた薬物(ということは副作用をよく知っている)、具体的にはピルジカイニド(サンリズム)とフレカイニド(タンボコール)ばかりを使用しています。前者は腎排泄型、後者は肝代謝の要素があり、多くの場合に対処可能です。安全性重視ですから、使用する用量は少なめで開始し、サンリズムは75~100 mg/day、タンボコールは100mg/dayです。効果不十分で安全性に問題なければ、それぞれ倍の用量(これが通常用いられる用量)に増量します。つまり、半量から開始して、問題がなければ通常用量にしているわけです。Q12経口アミオダロンの使い方を教えていただけますか?循環器専門医に任せたほうが無難ですが、ここでも副作用回避が決定的に重要です。アミオダロンだけは他の薬物と異なる抗不整脈薬すべての薬効が似たようなものであれば悩まなくてよいのですが、唯一例外、アミオダロンだけは、他の抗不整脈薬とまったく異なる存在です。明らかに有効性に優れる一方で、致死的な副作用があり、さらにいったん体に入るとなかなか体から抜けにくい……有効性・安全性・薬物代謝のバランス感覚が取りにくい薬物です。なので、どちらかといえば、一般医家は用いないほうがよい、専門医で処方されアミオダロンを継続しなければならない患者でも、アミオダロンに関してだけは専門医に任せたほうがよいと思います。副作用回避を患者と共有するアミオダロンは、致死的な副作用があったとしても、それより重篤な病態を有する患者に対して用います。副作用をできるだけ少なくすることが、この場合に重要なことになりますが、これは医師だけで行うことは難しい……患者の協力を仰ぐほうが効率的です。そこで私のやり方を紹介します。1)アミオダロンの副作用を説明する(1)肺障害、甲状腺障害、肝機能障害があること、(2)とくに肺障害は10%の患者に生じ、致死率10%であること(初期は単なる感冒症状との違いがわからないので受診すること)、(3)3ヵ月に1度は副作用チェックを行うこと、などを説明します。患者が副作用を理解することが、副作用チェックを万全なものにしてくれます。2)初期投与量は400mg/dayを2週間アミオダロンは、総投与量が5gになるまでその薬効を期待しがたいのが実情です。3)2週間後に200mg/dayの通常量に減量副作用回避のために基本的には、3ヵ月ごとに胸部レントゲン、KL-6、甲状腺機能、肝機能、アミオダロン血中濃度を測定することにしています。ただし、KL-6、アミオダロン血中濃度は参考程度にしかなりません。KL-6が間質性肺炎の診断の契機となることは数%でしかなく(診断の契機はほとんど自覚症状かレントゲンです)、アミオダロン血中濃度は効果や副作用に重要な組織中濃度とは異なります(脂溶性薬物のため)。それでも、KL-6やアミオダロン血中濃度の測定は用量減量の契機となることが重要だと思っています。つまり、副作用回避は「常にできるだけ減量を考慮する」が肝です。100mg/dayを目指します。

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H7N9ワクチン、安全性と効果/JAMA

 鳥インフルエンザA/上海/2/13(H7N9)ワクチンの安全性と免疫原性について、MF59アジュバント有無の4つの抗原用量を比較した第II相多施設共同二重盲検無作為化試験の結果が発表された。米国・エモリー大学医学部のMark J. Mulligan氏らによる検討の結果、最小用量3.75μg+MF59アジュバントの2回接種(0、21日)群において、42日時点の抗体陽転率は59%であったことが報告された。鳥インフルエンザH7N9は、2013年に中国で確認された新型の鳥インフルエンザウイルスで、家禽には問題なかったが、ヒトでは重症肺炎を引き起こし、同国では入院率67%、死亡率33%に達した。WHOには2014年6月27日時点で、検査確認症例450例のうち165例の死亡(36.6%)が報告されているという。JAMA誌2014年10月8日号掲載の報告より。7つの接種群を設定し検討 H7N9不活化ウイルスワクチンの安全性と免疫原性を評価した試験は、米国内4施設で19~64歳700例を登録して行われた。2013年9月に開始され、フォローアップは6ヵ月間であり、2014年5月に完了した。 被験者は、抗原用量、MF59アジュバント有無別に設定された7つの接種群(接種回数は2回[0、21日])に割り付けられ評価を受けた。(1)3.75μg+MF59アジュバント(100例)、(2)7.5μg+MF59アジュバント(99例)、(3)15μg+MF59アジュバント(100例)、(4)15μg+1回目のみMF59アジュバントあり(101例)、(5)15μg+2回目のみMF59アジュバントあり(100例)、(6)2回とも15μgのみ(101例)、(7)2回とも45μgのみ(99例)。 主要評価項目は、42日時点の赤血球凝集抑制反応(HI)検査法による抗体価40以上または抗体陽転(定義:抗体価40以上への増大率が4倍以上)の達成割合とした。ワクチン関連の重大有害事象は13ヵ月間、接種後症状は7日間調べた。3.75μg+MF59アジュバント2回接種が有望 HI抗体価は、非アジュバント接種群はいずれも低値であった。 一方、42日時点の、3.75μg+MF59アジュバントのH7N9ワクチン2回接種群の抗体陽転率は59%(95%信頼区間[CI]:48~68%)であった。抗体陽転率のピークは29日時点で62%(95%CI:52~72%)だった。また同接種群の42日時点のGMTは33.0(95%CI:24.7~44.1)であった。 抗原用量が増えても、免疫獲得効果の増大は認められなかった。 中和抗体価分析では、3.75μg+MF59アジュバント接種群の42日時点の抗体陽転率は82%(95%CI:73~89%)、GMTは81.4(95%CI:66.6~99.5)であった。 一方、抗原用量15μg+MF59アジュバントあり群について、42日時点の抗体陽転率は、接種1回目のみアジュバントあり群35%、2回ともアジュバントあり群47%で、両群間の統計的有意差は認められなかった(p=0.10)。 季節性インフルエンザワクチン接種者および高齢者については、弱毒化が認められた。 ワクチン関連の重大有害事象は報告されなかった。接種後7日間に報告された症状は概して軽度なもので、最も多かったのはアジュバントあり群の被験者で認められた接種部位に関する症状であった。 なお今回の結果について著者は、3.75μg+MF59アジュバント2回接種の潜在的価値を評価した上で、試験は42日以降の抗体価データがないこと、また臨床アウトカムの報告がないことから限定的なものであるとまとめている。

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急性呼吸促迫症候群へのスタチンの効果/NEJM

 急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療において、シンバスタチンは臨床転帰の改善をもたらさないことが、英国・クイーンズ大学ベルファストのDaniel F McAuley氏らIrish Critical Care Trials Groupが行ったHARP-2試験で示された。ARDSでは、肺胞障害を引き起こすコントロール不良な炎症性反応が認められ、豊富なタンパク質を含む肺浮腫液の肺胞腔内への滲出により呼吸不全を来す。スタチンは、HMG-CoA還元酵素を阻害することで、ARDSの発症に関与する複数の機序を修飾することが示され、動物実験やin vitro試験、さらにヒトの第II相試験においてARDSの治療に有効である可能性が示唆されている。NEJM誌2014年9月30日号掲載の報告。人工呼吸器非装着日数をプラセボ対照無作為化試験で評価 HARP-2試験は、シンバスタチンはその病因によらずARDS患者の臨床転帰を改善するとの仮説の検証を目的とする、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、気管挿管および人工呼吸器が装着された発症後48時間以内のARDS患者であった。 被験者は、シンバスタチン80mg/日(経腸投与)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、最長28日の治療が行われた。主要評価項目は第28日までの人工呼吸器非装着日数、副次評価項目は第28日までの肺を除く臓器不全のない日数、死亡、安全性であった。 2010年12月21日~2014年3月13日までに、英国およびアイルランドの40施設のICUから540例が登録された。シンバスタチン群に259例、プラセボ群には281例が割り付けられ、それぞれ258例、279例が解析の対象となった。人工呼吸器非装着日数:12.6 vs. 11.5日 シンバスタチン群は、平均年齢53.2歳、男性52.9%で、ARDSの原因は肺炎62.2%、敗血症40.9%であり、プラセボ群はそれぞれ54.4歳、60.7%、55.0%、42.1%であった。動脈酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)比(123.0 vs. 132.4mmHg、p=0.049)を除き、背景因子は両群間でバランスがとれていた。 人工呼吸器の平均非装着日数はシンバスタチン群が12.6日、プラセボ群は11.5日(p=0.21)であり、両群で同等であった。また、無臓器不全日数はそれぞれ19.4日、17.8日(p=0.11)、28日死亡率は22.0%、26.8%(p=0.23)であり、いずれも両群間に差を認めなかった。 有害事象の多くがクレアチンキナーゼ値や肝アミノトランスフェラーゼ値の上昇であった。治療関連有害事象の発現率はプラセボ群よりもシンバスタチン群で高かったが、重篤な有害事象(死亡などの試験の転帰を除く)の発現状況は両群で同等であった。 著者は、「シンバスタチンによる有害事象は最小限であったが、臨床転帰は改善されなかった」とまとめ、「敗血症関連ARDSに対するロスバスタチンの有用性を検討したSAILS試験でも、臨床転帰の改善は得られなかったことから、病因にかかわらずARDSに対するスタチンのルーチン投与にはほとんど意義はないと考えられる」と指摘している。

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英プライマリケアの抗菌治療失敗が増加/BMJ

 英国では、1990年代後半にプライマリケアでの抗菌薬の処方が減少しプラトーに達した後、2000年以降再び増加し、耐性菌増加の懸念が出てきている。 英・カーディフ大学のCraig J Currie氏らは、1991~2012年における英国のプライマリケアでの主な4つの感染症における抗菌薬の治療失敗率について検討した。その結果、各感染症に対して初期治療で用いられる抗菌薬の上位10剤のうち、1剤以上が治療失敗と関連していた。また、この期間中に全体的な治療失敗率が12%増加し、その増加のほとんどは、プライマリケアでの抗菌薬処方が再び増加してきた2000年以降であることが報告された。BMJ誌2014年9月23日号に掲載。 著者らは、UK Clinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用いて、上気道感染症、下気道感染症、皮膚・軟部組織感染症、急性中耳炎に対する抗菌薬単剤での初期治療の失敗率を縦断的に分析した。主な評価項目は、標準化した基準で定義された調整治療失敗率(1991年を100とした指数)とした。 主な結果は以下のとおり。・CPRDの抗菌薬処方箋約5,800万枚から、4つの適応症に対する単剤治療の1,096万7,607エピソードを分析した。それぞれのエピソードは、上気道感染症が423万6,574(38.6%)、下気道感染症が314万8,947(28.7%)、皮膚・軟部組織感染症が256万8,230(23.4%)、急性中耳炎が101万3,856(9.2%)であった。・1991年における全体的な治療失敗率は13.9%であり、上気道感染症12.0%、下気道感染症16.9%、皮膚・軟部組織感染症12.8%、急性中耳炎13.9%であった。・2012年における全体的な治療失敗率は15.4%で、1991年と比較し12%増加していた(1991年を100とした調整値:112、95%CI:112~113)。最も高かったのは下気道感染症であった(同調整値:135、95%CI:134~136)。・最もよく処方される抗菌薬(アモキシシリン、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン)の治療失敗率は20%以下であった。一方、上気道感染症治療におけるトリメトプリム(1991~1995年:29.2% → 2008~2012年:70.1%)、下気道感染症治療におけるシプロフロキサシン(同22.3% → 30.8%)とセファレキシン(同22.0% → 30.8%)は顕著な増加が認められた。・広域スペクトルのペニシリン、マクロライド、フルクロキサシリンの治療失敗率は、ほぼ変化がなかった。

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びまん性汎細気管支炎〔DPB : diffuse panbronchiolitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)は病理組織学的には両側びまん性に分布する呼吸細気管支領域の慢性炎症像を特徴とし、臨床的には慢性副鼻腔炎を伴う慢性気道感染症の形を取る疾患である。そもそもDPBの疾患概念は1960年代に、わが国で確立されたものであるが、欧米においてDPBがほとんど存在しないため、長く認知されてこなかった。しかしながら、1983年、本間氏らによりChest誌上に紹介されて以来1)、徐々に理解が深まり、現在では広く認知され欧米の主要な教科書でも必ず触れられる疾患となっている。■ 疫学以前はそれほどまれな疾患ではなく、1970年代には人口10万人対11という有病率の報告もあったが、近年では典型例は激減し、めったに見ることがなくなった2)。男女差はなく、発症年齢は10~70代まで広く分布するが、発症のピークは中年である。多くの例で、幼小児期にまず慢性副鼻腔炎にて発症し、長い年月を経て下気道症状の咳、膿性痰が加わって症状が完成する。近年DPBが激減した背景には、戦後の日本人の生活水準が急速に向上し、栄養状態が大きく改善したことと、後述するマクロライド療法が耳鼻科領域の医師にも普及し、慢性副鼻腔炎の段階で治癒してしまうことの2つが大きな原因と考えられる。■ 病因明確な発症のメカニズムはまったく不明であるが、本症が病態として副鼻腔気管支症候群(sino-bronchial syndrome: SBS)の形を取ることから、背景には何らかの呼吸器系での防御機構の低下・欠損が推定される。さらにDPBでは親子・兄弟例が多く報告され、また家族内に部分症ともいえる慢性副鼻腔炎のみを有する例が多発することから、何らかの強い遺伝的素因に基づいて発症する疾患と考えられる。この観点からHLAの検討が行われ、日本人DPB患者では、一般人にはあまり保有されていないHLA-B54が高頻度に保有されていることが見出された3)。B54は特殊なHLAで、欧米人やアフリカ人にはまったく保有されず、東アジアの日本を含む一部の民族でのみ保有される抗原であり、このことがDPBという疾患が、欧米やアフリカにほとんど存在しないことと関連があると考えられる。■ 症状最も重要な症状は、慢性的な膿性の喀痰である。この症状のない例ではDPBの診断はまったく考えられない。痰に伴って咳があるのと、併存する慢性副鼻腔炎由来の症状である鼻閉、膿性鼻汁、嗅覚の低下が主症状である。疾患が進行していくと、気管支拡張や肺の破壊が進行し、息切れが増強し、呼吸不全状態となっていく。■ 予後1980年代以前のDPBはきわめて予後不良の疾患であり、1981年の調査では初診時からの5年生存率は42%、喀痰中の細菌が緑膿菌に交代してからの5年生存率はわずかに8%であった。しかしながら、1980年代半ばに工藤 翔二氏によるエリスロマイシン少量長期投与法が治療に導入されると予後は著明に改善し、早期に診断されてマクロライドが導入されれば、むしろ予後のよい疾患となった4)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)病歴と特徴ある画像所見から、典型例では診断は難しくない。画像所見としては、胸部X線所見で中下肺野に強い、両側びまん性の辺縁不鮮な小粒状影の多発を認め、これにさまざまな程度の中葉・舌区から始まる気管支拡張像と過膨張所見が加わる。CT(HR-CT)は診断上、きわめて有用であり、(1) びまん性小葉中心性の粒状影、(2) 分岐線状陰影、(3) 気道壁の肥厚と拡張像がみられる。DPBの診断基準(表1)を示す。表1 びまん性汎細気管支炎の診断の手引き1. 概念びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis: DPE)とは、両肺びまん性に存在する呼吸細気管支領域の慢性炎症を特徴とし、呼吸機能障害を来す疾患である。病理組織学的には、呼吸細気管支炎を中心とした細気管支炎および細気管支周囲炎であり、リンパ球、形質細胞など円形細胞浸潤と泡沫細胞集簇がみられる。しばしばリンパ濾胞形成を伴い、肉芽組織や瘢痕巣により呼吸細気管支炎の閉塞を来し、進行すると気管支拡張を生じる。男女差はほとんどなく、発病年齢は40~50代をピークとし、若年者から高年齢まで各年代層にわたる。慢性の咳・痰、労作時息切れを主症状とし、高率に慢性副鼻腔炎を合併または既往に持ち、HLA抗原との相関などから遺伝性素因の関与が示唆されている#1。従来、慢性気道感染の進行による呼吸不全のため不良の転帰を取ることが多かったが、近年エリスロマイシン療法などによって予後改善がみられている。2. 主要臨床所見(1) 必須項目1)臨床症状:持続性の咳・痰、および労作時息切れ2)慢性副鼻腔炎の合併ないし既往#23)胸部X線またはCT所見: 胸部X線:両肺野びまん性散布性粒状影#3 胸部CT:両肺野びまん性小葉中心性粒状病変#4(2) 参考項目1)胸部聴診所見:断続性ラ音#52)呼吸機能および血液ガス所見:1秒率低下(70%低下)および低酸素血症(80Torr以下)#63)血液所見:寒冷凝集素価高値#73. 臨床診断(1) 診断の判定確実上記主要所見のうち必須項目1)~3)に加え、参考項目の2項目以上を満たすものほぼ確実必須項目1)~3)を満たすもの可能性あり必須項目のうち1)2)を満たすもの(2) 鑑別診断鑑別診断上注意を要する疾患は、慢性気管支炎、気管支拡張症、線毛不動症候群、閉塞性細気管支炎、嚢胞性線維症などである。病理組織学的検査は本症の確定診断上有用である。[付記]#1日本人症例ではHLA-B54、韓国人症例ではHLA-A11の保有率が高く、現時点では東アジア地域に集積する人種依存症の高い疾患である。#2X線写真で確認のこと。#3しばしば過膨張所見を伴う。進行すると両下肺に気管支拡張所見がみられ、時に巣状肺炎を伴う。#4しばしば細気管支の拡張や壁肥厚がみられる。#5多くは水泡音(coarse crackles)、時に連続性ラ音(wheezes、rhonchi)ないしスクウォーク(squawk)を伴う。#6進行すると肺活量減少、残気量(率)増加を伴う、肺拡散能力の低下はみられない。#7ヒト赤血球凝集法で64倍以上。(厚生省特定疾患びまん性肺疾患調査研究班班会議、平成10年12月12日)SBSの形を取り、画像上、前述のような所見がみられれば、臨床的に診断がなされる。寒冷凝集素価の持続高値、閉塞性換気障害、HLA-B54(+)といった所見が診断をさらに補強する。通常、病理組織検査を必要としないが、非典型例、関節リウマチ合併例、HTLV-1陽性例、他のSBSとの鑑別が難しい例などでは、胸腔鏡下肺生検による検体が必要となる場合もある。近年、DPBが激減していることから経験が不足し、COPD、気管支喘息などと診断されてしまっている例もみられ、注意を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)表2 びまん性汎細気管支炎(DPB)に対するマクロライド療法の治療指針(2000年1月29日)マクロライド少量療法はDPBに対する基本療法であり、早期の症例ほどより高い臨床効果が得られることから、診断後は速やかにマクロライド少量治療法を開始すべきである。 なおマクロライド薬のうち、第1選択薬はエリスロマイシン(EM)である。(投与量及び用法)EM 1日投与量は400または600mgを分2または分3で経口投与する。(効果判定と治療期問)1.臨床効果は2~3ヵ月以内に認められることが多いが、最低6ヵ月は投与して、その臨床効果を判定する。2.長期投与により自覚症状、臨床検査所見(画像、肺機能など)が改善、安定し、重症度分類で4または5級(付記1)程度になれば、通算2年間の投与で終了する。3.終了後症状の再燃がみられれぱ、再投与が必要である。4.広汎な気管支拡張や呼吸不全を伴う進行症例で有効な場合は、通算2年間に限ることなく継続投与する。(付記)1.4級:咳・痰軽度。痰量10mL以下、息切れの程度はH-J II~III。安静時PaO2は70~79 Torrで、呼吸器症状のため社会での日常生活活動に支障がある。5級:呼吸器症状なし。安静時にPaO2は80 Torr以上。日常生活に支障なし。2.マクロライド薬のうち、現在までに本症に対する有効性が確認されているのは14員環マクロライド薬であり、16員環マクロライド薬は無効である。EMによる副作用や薬剤相互作用がある場合、あるいはEM無効症例では、14員環ニューマクロライド薬の投与を試みる。投与例 1)クラリスロマイシン(CAM)200または400mg 分1または分2経口投与2)ロキシスロマイシン(RXM)150または300mg 分1または分2経口投与炎症が強い例では、殺菌的な抗菌薬の静注やニューキノロン経口薬を短期間投与し、感染・炎症を抑えてから基本的治療に入る。基本的治療はエリスロマイシン、クラリスロマイシンを中心とした14員環マクロライドの少量長期投与である。これらの薬剤の抗炎症効果による改善が、通常投与後2週間くらいから顕著にみられる。エリスロマイシンでは400~600mg/日を6ヵ月~数年間以上用いる。著効が得られた場合はさらに減量して続行してもよい。ただし、気管支拡張が広範囲に進展し、呼吸不全状態にあるような例では、マクロライドの効果も限定的である。有効例では、投与後2週間くらいからまず喀痰量が減少し、この時点ですでに患者も自覚的な改善を認める。さらに数ヵ月~6ヵ月で呼吸機能、胸部X線像の改善がみられていく。同時に慢性副鼻腔炎症状も改善するが、嗅覚に関しては、やや改善に乏しい印象がある。マクロライドは一般的には、長期間投与しても何ら副作用を認めないことが多いが、まれに肝障害や時に胃腸障害を認める。元来マクロライドは、緑膿菌にはまったく抗菌力がないと考えられるが、近年の研究から14員環マクロライドが緑膿菌のquorum sensingという機能を抑制し、毒素産生やバイオフィルム形成を阻害することが解明されてきている。4 今後の展望典型例はほとんどみられなくなったが、日本人にはDPBの素因が今なお確実に受け継がれているはずであり、軽症例や関節リウマチなどの疾患に合併した例などが必ず出現する。 SBSをみた場合には、必ずDPBを第1に疑っていく必要がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会 呼吸器の病気のコーナー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Homma H, et al. Chest. 1983; 83: 63-69.2)Kono C, et al. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2012; 29: 19-25.3)Sugiyama Y, et al. Am Rev Respir Dis. 1990; 141: 1459-1462.4)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 157: 1829-1832.

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高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-238

高齢者では若年成人と比較して、インフルエンザワクチン接種後に誘導される抗体価が低いと報告されている。そこで米国では、2009年に通常の4倍量の抗原を含む高用量インフルエンザワクチンが、65歳以上の高齢者を対象に認可された。高用量ワクチン接種により高い抗体価が得られることは報告されていたが、インフルエンザ様疾患の発症を減らすことができるかどうかはわかっていなかった。 本研究は、高用量インフルエンザワクチンの有効性を調べるために行った第IIIb-IV相多施設共同無作為化二重盲検実薬対照試験である。 米国とカナダの126施設で、2011~12年と2012~13年の北半球でのインフルエンザ流行期に実施された。65歳以上の成人3万1,989例を、高用量インフルエンザワクチン接種群(株あたりの赤血球凝集素:60μg)と標準量インフルエンザワクチン接種群(同15μg)に分けて、インフルエンザの発生数、重篤な有害事象の数、ワクチン接種後の抗体価などを検討した。ワクチン接種後に、あらかじめ規定しておいたインフルエンザ様症状が現れた患者を抽出し、培養あるいはPCR法を用いて確定診断した。 インフルエンザと確定診断されたのは、高用量接種群228例(1.4%)、標準量接種群301例(1.9%)だった(relative efficacy:24.2%、95%信頼区間:9.7~36.5%)。1回以上の重篤な有害事象の報告数は、高用量接種群1,323例(8.3%)、標準量接種群1,442例(9.0%)だった(relative risk:0.92、95%信頼区間:0.85~0.99)。 ただし、高用量接種群では重篤な有害事象として、外転神経麻痺、下痢による低容量性ショック、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を1例ずつ認めた。ワクチン接種28日後の感染防御抗体保有率(HAI抗体価1:40以上)は、高用量接種群98.5%、標準量接種群93.7%と4.8ポイントの差(95%信頼区間:4.1~5.5ポイント)があり、過去の報告同様、高用量接種群で有意に高かった。 本研究では、65歳以上の高齢者において、高用量インフルエンザワクチンは標準量ワクチンより、インフルエンザの発症をより多く予防できる可能性が示された。高用量ワクチンに変更することで、標準量ワクチンを接種していた場合に発症するインフルエンザの約1/4を予防できると考察されている。 一般的に、高齢者におけるインフルエンザワクチンの発症予防効果は60%程度であり、高用量ワクチンを接種することで発症予防効果を高めることができる意義は大きいと考える。さらに、高用量インフルエンザワクチンには、インフルエンザによる入院や、肺炎などの合併症の予防効果も期待されている。本試験の結果を受けて、米国の予防接種諮問委員会(ACIP)の勧告がどう変わるか注目したい。 本邦では高用量インフルエンザワクチンは認可されておらず、一般診療で使用することは難しいのが現状である。国内で高用量インフルエンザワクチン導入の動きがあるかにも注目したい。

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ムコ多糖症VI型〔MPS VI : Mucopolysaccharidosis VI〕

ムコ多糖症VI型のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義ムコ多糖症(MPS: Mucopolysaccharidosis)は、細胞内小器官のリソゾーム内でムコ多糖の一種であるグリコサミノグリカン(GAG)を加水分解する酵素の異常により、リソゾーム内にGAGが蓄積し、種々の臨床症状を引き起こす先天代謝異常症である。ムコ多糖症Ⅵ型(MPS VI型)は、1963年にフランス人のMaroteaux PとLamy M.E.J.により報告されマロトー・ラミー症候群と呼ばれていたが、1987年Gitzelmannらにより欠損酵素がNアセチルガラクトーサミン-4-スルファターゼ(アリルスルファターゼB)であることが明らかとなり、さらに1990年にはSchuchmanらにより本酵素がクローニングされ、遺伝子配列が明らかとなった。責任酵素の遺伝子座は5q13.3で遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。MPS VI型は、リソゾーム酵素の1つであるアリルスルファターゼBの異常によりリソゾーム内にGAGの一種であるデルマタン硫酸が異常に蓄積するため、慢性で進行性の多様な臨床症状を呈する。■ 疫学MPS VI型の頻度は、非常にまれであり、欧米では32万人に1人で、わが国では10人程度とされる。■ 病因リソゾーム酵素の1つである、アリルスルファターゼBをコードする遺伝子の異常に基づく遺伝性の疾患で、この酵素の欠損はリソゾーム内にGAGの一種であるデルマタン硫酸が異常に蓄積するため、慢性で進行性の多様な臨床症状を呈する。デルマタン硫酸の蓄積は骨の変形に関与するためI型と同様の身体所見を認めるが、知能は正常である。■ 症状リソゾームはほとんどすべての細胞に存在するため障害も多臓器に及び、MPS I型と類似した症状を呈する。このため重症型ではハーラー症候群に、また軽症型ではシャイエ症候群に類似した症状を示し、骨変形や角膜混濁を認めるが、精神発達は正常であるのが特徴である。出生直後からガルゴイ様と呼ばれる特異顔貌、水頭症や胸骨などの形態異常が認められるが、乳児期から症状が現れて急速に進行する重症型のMPS VI-A型(急速進行型)と、緩徐に進行する軽症型のMPS VI-B型(緩徐進行型)に分類される。疾患の進行につれて関節拘縮に伴う運動制限、強い骨変形、角膜混濁や視力障害、滲出性中耳炎や難聴、肝脾腫、臍・鼠径ヘルニア、気道狭窄に伴う呼吸困難や睡眠時無呼吸、心臓弁膜症、手根管症候群などの神経症状、低身長といった症状を来す(表)。重症型では5〜7歳で成長が止まるため著しい低身長となり、20歳前後で心不全や肺炎などに伴う呼吸不全で死亡することが多い。軽症型でも手指の運動制限や手根管症候群といった症状が認められるが、症状が現れずに成人することもある。しかし、末期には顕著な消耗性の症状を来すことが多い。画像を拡大する■ 予後無治療の場合、重症型では小児期に死亡することが多いが、軽症例では40~50歳まで生存可能である。今後、治療法の進歩により生命予後は、かなり改善されることが予測される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断ヘルニアや蒙古斑のほか、粗野な顔貌や関節拘縮を認めた場合、全身骨のX線撮影、頭部CT、眼科、耳鼻科的処置を行う。1)胸部X線正面画像:肋骨のオール状変形が認められる。2)腰部X線側面画像:上部腰椎の卵状変形、下部腰椎の椎体の下部が前方に突出する所見が認められる。3)手のX線画像:指の骨の弾丸状変形が認められる。4)頭部CT:水頭症5)眼科受診:角膜混濁や視力障害を認める。6)耳鼻科受診:滲出性中耳炎■ 生化学診断:尿中ムコ多糖分析1)尿中GAG定量値が高値である。2)GAG分画:デルマタン硫酸の増加が認められる。■ 酵素診断:アリルスルファターゼB活性の測定白血球、培養皮膚線維芽細胞のアリルスルファターゼB活性の低下を認める。■ 遺伝子診断確定診断に必須の検査ではないが、保因者診断や出生前診断には有用である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法1)中耳炎・難聴:鼓膜チューブ挿入や補聴器など耳鼻科的処置を行う。2)角膜混濁・視力障害:角膜移植を行う。3)骨変形:整形外科的手術を行う。4)睡眠時無呼吸:耳鼻咽喉科的手術や経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)を行う。5)心弁膜症:弁置換術など心臓外科的手術を行う。6)水頭症:シャント術など脳外科的手術を行う。7)手根管症候群:手根管修復術を行う。■ 造血幹細胞移植1)移植によるリスクがかなり軽減しているため、最も勧められる治療法である。2)肝脾腫の縮小、関節拘縮の軽度改善、心弁膜症の進行抑制、粘膜の肥厚の改善などが認められるが、骨変形や精神発達の退行を防ぐことは難しい。■ 酵素補充療法1)人工的に合成されたNアセチルガラクトーサミン-4-スルファターゼ[ガルスルファーゼ (商品名:ナグラザイム)]を毎週点滴静注により補充する治療法である。2)診断後すぐに治療が開始できるため、造血幹細胞移植を施行するまでの繋ぎの治療として有効である。3)血流が豊富な組織:粘膜の肥厚の改善による呼吸状態の改善、肝臓や脾臓の縮小、皮膚・関節拘縮の軽減などの効果が認められる。4)血流が豊富でない組織:角膜・骨の改善は困難である。5)抗体産生による免疫反応としてアレルギー症状が発現する可能性があるが適切な処置により副反応はコントロール可能である。4 今後の展望リソゾーム酵素は、作られた細胞からいったん分泌され血流により全身の臓器に運ばれた後、各臓器組織に取り込まれリソゾームに移行し、作用する性質がある。このため、移植された細胞から分泌された正常の酵素が、あるいは人工的に作られた酵素を点滴で血液中に注入すると、各臓器組織に取り込まれて症状の改善が認められる。しかし、この治療法は、各臓器組織における血流に依存するため、血流が豊富ではない骨や脳血液関門の存在する脳などの重要な臓器での症状の改善が認められないという問題がある。今後、これらの臓器組織への移行を改善した酵素補充療法の開発が期待される。5 主たる診療科先天代謝異常症であることのため主たる診療科は小児科であるが、全身の臓器に異常が生じるため該当するいくつかの診療科と並行して受診と治療が必要である。また、20歳を超えた成人症例には、小児科の入院は難しいため、必要となる診療科に入院し、小児科が共同で観察することが重要である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患克服事業:ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本ムコ多糖症 親の会(患者とその家族の会)ムコ多糖症支援ネットワーク(患者とその家族の会)1)Maroteaux P, et al. Presse Med. 1963; 71: 1849-1852.2)遠藤 文夫 総編集. 奥山虎之ほか専門編集. 先天代謝異常ハンドブック. 中山書店; 2013. p.198-199.3)小須賀 基通ほか. ムコ多糖症. In: 小児内科・小児外科編集委員会共編. 小児疾患の診断治療基準(小児内科 増刊. 2012; 44). 東京医学社; 2012. p.168-169.

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肺がんに分子標的薬の同時併用? 臨床腫瘍学会2014

 非小細胞肺がんの化学療法未治療例に対し、EGFR-TKIと抗VEGF抗体の併用がPFSを延長する可能性が、第二相試験の結果から示された。2014年7月17日~19日まで福岡市で開催された第12回日本臨床腫瘍学会において、国立がん研究センター東病院 後藤功一氏が、再発非小細胞肺がんの一次治療におけるエルロチニブとベバシズマブの併用療法の試験結果を発表した。 EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)におけるEGFR-TKIの有効性は既に証明されているものの、EGFR-TKIを単独で用いるか併用するか、併用するならどの薬剤を用いるか、などは未だ明らかになっていない。前臨床試験では、EFGRとVGEFRの同時阻害による抗腫瘍活性の相乗効果が示唆されている。臨床試験では、第三相試験であるBeTa Lung studyで、EGFR変異陽性NSCLCの二次治療において、エルロチニブとベバシズマブの併用が、エルロチニブ単独に比べ、OSを延長する可能性を示唆している。そこで今回は、一次治療における同薬剤の併用療法を評価する、オープンラベル第二相無作為比較試験を行った。 対象患者は、化学療法未実施のステージIIIB~IVのEGFR変異陽性非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)。2011年2月から2012年3月まで、30施設で154例の患者が登録され、エルロチニブ+ベバシズマブ群77例、エルロチニブ群77例に無作為に割り付けられた。エルロチニブの用量は150mg/日、ベバシズマブの用量は15mg/kg。3週毎にPDとなるまで投与された。 主要エンドポイントはPFS。副次的エンドポイントはOS、奏効率、安全性、QOLである。統計的な優越性の検出をHR0.7に設定し、サンプルサイズは150とした。主要エンドポイントであるPFS中央値は、・エルロチニブ+ベバシズマブ群16.0ヵ月、エルロチニブ群の9.7ヵ月と、併用群で有意なPFSの延長を認めた(HR=0.54 95%CI:0.36~0.79、P=0.0015)。副次的エンドポイントについて奏効率は、・エルロチニブ+ベバシズマブ群69%、エルロチニブ群63%と同等であったが、病勢コントロール率は、エルロチニブ+ベバシズマブ群99%、エルロチニブ群88%と併用群で有意に高かった。・奏効期間の中央値は、エルロチニブ+ベバシズマブ群13.3ヵ月、エルロチニブ群9.3ヵ月と有意に併用群で長かった。安全性については、・有害事象による治療中断は両群で同程度であった。・両群に共有する主な有害事象は、皮疹、高血圧、タンパク尿、肝機能障害であり、高血圧とタンパク尿については、併用群で有意に多かった。・グレード3の間質性肺炎は、エルロチニブ群に3例認められた。・ベバシズマブの主な投与中止理由はタンパク尿と出血イベント。中断時期の中央値はそれぞれ、329日と128日で、出血イベントについては比較的早期に発現していた。 ちなみに、OSは中央値に達していない。 エルロチニブ+ベバシズマブ群はエルロチニブ群に比較して有意にPFSを延長し、新たな有害事象を認めることはなく、毒性に関しても従来の試験と同等であった。

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市中肺炎 治療成否の予測因子

 市中肺炎治療の成否を決める簡便な臨床的予測因子は早期では「胸水の貯留」、晩期では「多葉性の肺炎」であることをスペイン・Parc Tauli大学研究所のIgnacio Martin-Loeches氏らが報告した。また、IL-6と治療不成功、IL-6およびPCTと晩期の治療不成功に相関関係が認められたことにも言及している。Respiratory Research誌オンライン版2014年7月5日号の掲載報告。 市中肺炎の治療失敗は高い死亡率と関連することから、その臨床的管理は重要な問題である。そこで市中肺炎患者を対象に、無作為化臨床試験による症例対照研究を行った(治療成功群vs治療不成功群、晩期・早期を区別)。CRP、プロカルシトニン(PCT)、インターロイキン(IL)-1,6,8,10、TNFを測定し、治療の成否は入院初日と3日目で判定した。 主な結果は以下のとおり。・253例の市中肺炎患者のうち、治療不成功例は83例であり、そのうち40例(48.2%)は早期の不成功であった。晩期の治療不成功群は、高いCURB-65スコアで弁別可能であった(p=0.004)。・早期の治療不成功群は、治療成功群と比べ、入院初日のCRP、PCT、IL-6、IL-8が有意に高く(それぞれ、p<0.001、p=0.004、p<0.001、p=0.02)、IL-1は低い傾向が認められた(p=0.06)。・晩期の治療不成功群は、治療成功群と比べ、入院3日目のCRP、PCT、IL-6が有意に高かった(それぞれ、p<0.001、p=0.007、p<0.001)。・早期の治療不成功の独立した予測因子は、入院初日のIL-6の高値(オッズ比:1.78、95%Cl:1.2~2.6)と胸水の貯留(オッズ比:2.25、95%Cl:1.0~5.3)であった。・晩期の治療不成功の独立した予測因子は、入院3日目のPCTの高値(オッズ比:1.60、95%Cl:1.0~2.5)、CURB-65 score ≧3(オッズ比:1.43、95%Cl:1.0~2.0)、多葉性の肺炎(オッズ比:4.50、95%Cl:2.1~9.9)であった。

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ホルモン療法未施行前立腺がん患者に対するエンザルタミドの効果

 エンザルタミドは、ドセタキセル投与後進行例の去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対して承認されている抗アンドロゲン受容体阻害剤である。この試験では、ホルモン療法未施行患者群に対する、エンザルタミド単独使用の効果と安全性の評価を目的としている。オープンラベル、シングルアームの第II相試験で、ヨーロッパの12施設で行われた。対象は、テストステロン未去勢レベル、PSA2ng/ml以上、PS=0のホルモン未治療の前立腺がん患者。これらの対象患者に、エンザルタミド160mg/日を連日投与し、25週におけるPSAが80%以上減少患者の割合をプライマリエンドポイントとしている。ベルギー ルーヴァン・カトリック大学Tombal氏らの研究。Lancet Oncology誌2014年5月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・67例中62名92.5%(95%CI:86.2-98.8)で、25週における80%以上のPSA減少を認めた。・おもな有害事象として、女性化乳房24例、倦怠感23例、乳頭痛13例、ホットフラッシュ12例を認めた(いずれも軽度から中程度)。・Grade3以上の有害事象は、肺炎2例、高血圧4例(その他はいずれも1例)であった。 この試験の結果から、エンザルタミドはホルモン未治療の前立腺癌患者に対しても、一定程度の進行抑制と忍容性を有することが認められた。今後の非去勢前立腺癌に対する、さらなる研究が期待される。■「前立腺がんホルモン療法」関連記事ホルモン療法未治療の前立腺がん、ADTにアビラテロンの併用は?/NEJM

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高齢肺炎入院患者へのアジスロマイシン、心イベントへの影響は?/JAMA

 高齢の肺炎入院患者へのアジスロマイシン(商品名:ジスロマックほか)使用は他の抗菌薬使用と比較して、90日死亡を有意に低下することが明らかにされた。心筋梗塞リスクの増大はわずかであった。肺炎入院患者に対して診療ガイドラインでは、アジスロマイシンなどのマクロライド系との併用療法を第一選択療法として推奨している。しかし最近の研究において、アジスロマイシンが心血管イベントの増大と関連していることが示唆されていた。米国・VA North Texas Health Care SystemのEric M. Mortensen氏らによる後ろ向きコホート研究の結果で、JAMA誌2014年6月4日号掲載の報告より。65歳以上入院患者への使用vs. 非使用を後ろ向きに分析 研究グループは、肺炎入院患者におけるアジスロマイシン使用と、全死因死亡および心血管イベントの関連を明らかにするため、2002~2012年度にアジスロマイシンを処方されていた高齢肺炎入院患者と、その他のガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者とを比較した。 分析には、全米退役軍人(VA)省の全VA急性期治療病院に入院していた患者データが用いられた。65歳以上、肺炎で入院し、全米臨床診療ガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者を対象とした。 主要評価項目は、30日および90日時点の全死因死亡と、90日時点の不整脈、心不全、心筋梗塞、全心イベントの発生とした。傾向スコアマッチングを用い、条件付きロジスティック回帰分析で既知の交絡因子の影響を制御した。使用患者の90日死亡オッズ比は0.73 対象患者には118病院から7万3,690例が登録され、アジスロマイシン曝露患者3万1,863例と非曝露の適合患者3万1,863例が組み込まれた。適合群間の交絡因子について有意差はなかった。 分析の結果、90日死亡について、アジスロマイシン使用患者について有意な低下が認められた(曝露群17.4%vs. 非曝露群22.3%、オッズ比[OR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.70~0.76)。 一方で曝露群では、有意なオッズ比の増大が、心筋梗塞について認められた(5.1%vs. 4.4%、OR:1.17、95%CI:1.08~1.25)。しかし、全心イベント(43.0%vs. 42.7%、1.01、0.98~1.05)、不整脈(25.8%vs. 26.0%、0.99、0.95~1.02)、心不全(26.3%vs. 26.2%、1.01、0.97~1.04)についてはみられなかった。 結果について著者は、「肺炎入院患者に対するアジスロマイシン使用は、リスクよりも有益性が上回る」とまとめている。

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喘息様気管支炎と診断した乳児が自宅で急死したケース

小児科最終判決判例タイムズ 844号224-232頁概要1歳1ヵ月の乳児。37.5℃の発熱と喘鳴を主訴に休日当番医を受診し、喘息性気管支炎と診断され注射と投薬を受けて帰宅した。ところが、まもなく顔面蒼白となり、救急車で再び同医を受診したが、すでに心肺停止、瞳孔散大の状態であったため、救命蘇生措置は行われず死亡確認となった。司法解剖では、肺水腫による肺機能障害から心不全を起こして死亡したものと推定された。詳細な経過経過1983年12月31日この頃から風邪気味であった。1984年1月1日37.2℃の発熱あり。1月2日午後37.5℃に上がり、声がしわがれてぜいぜいし、下痢をしたので、16:20頃A医院を受診。待合室で非常にぜいぜいと肩で息をするようになったため、17:20頃順番を繰り上げて診察を受ける。強い呼吸困難、喘鳴、声がれ、顔面蒼白、腹壁緊張減弱、皮膚光沢なし、胸部ラ音、下痢などの症状を認め、喘息性気管支炎と診断。担当医師は経過観察、ないしは入院の必要があると判断したが、地域の救急患者の転送受け入れをする輪番制の病院がないものと考え、転院の措置をとらなかった。呼吸困難改善のため、スメルモンコーワの注射(適応は急性気管支炎や感冒・上気道炎に伴う咳嗽)と、アセチルロイコマイシンシロップなどの投薬をし、隣室ベッドで待つように指示した。18:00若干呼吸困難が楽になったように感じたため、容態急変した場合には夜間診療所を受診するように指示されて帰宅した。18:20帰宅時、顔面が蒼白になり唇が青くなっていたため、救急車を要請。その直後急に立ち上がり、目を上に向け、唇をかみしめ、まったく動かなくなった。18:54救急車でA医院に到着したが、すでに心肺停止、瞳孔散大の状態であり、心肺蘇生術を施さずに死亡が確認された。司法解剖の結果、「結果的には肺水種による肺機能障害により死亡したものと推定」し、その肺水腫の原因として、(1)間質性肺炎(2)乳幼児急死症候群(SIDS)(3)感染によるエンドトキシンショック(4)薬物注射による不整脈(5)薬物ショックとそれに続く循環障害などが考えられるが、結論的には不詳とされた。当事者の主張患者側(原告)の主張1.医師の過失1回目の診察時にすでに呼吸不全に陥っているのを認めたのであるから、ただちに入院させて、X線写真、血液検査などの精査を行うとともに、気道確保、酸素吸入、人工換気などの呼吸管理、呼吸不全、心不全などの多臓器障害の防止措置などを行うべき義務があったのに、これらを怠った2.経過観察義務違反・転医措置義務違反呼吸不全を認めかつ入院の必要を認めたのであるから、少なくとも症状の進行、急変に備え逐一観察すべき義務があったのに怠った。さらに、転医を勧告するなど、緊急治療措置ないし検査を受けさせ、あるいは入院する機会を与えるべき義務があったのに、転医措置を一切講じなかった3.救命蘇生措置義務違反心肺停止で救急搬送されたのは、心臓停止後わずか10分程度しか経過していない時点であり救命措置をとるべき義務があったのに、これを怠った4.死因喘息性気管支炎から肺炎を引き起こして肺水腫となり、肺機能障害から心不全となって死亡した。病院側が主張する乳幼児突然死症候群(SIDS)ではない病院側(被告)の主張1.医師の過失死因が不明である以上、医師がどのような治療方法を講じたならば救命し得たかということも不明であり、不作為の過失があったとしても死亡との因果関係はない。しかも最初の診察を受けたのが17:20頃であり、死亡が18:10ないし18:25とすると、診療を開始してから死亡するまでわずか50~60分の時間的余裕しかなかったため、死亡の結果を回避することは不可能であった。また、当日は休日当番医で患者が多く(130名の患者で混みあっており、診察時も20~30名の患者が待っていた)、原告らの主張する治療措置を講ずべきであったというのは甚だ酷にすぎる2.経過観察義務違反・転医措置義務違反同様に、診療開始から50~60分の時間的余裕しかなかったのであれば、大規模医療施設に転送したからといって、死亡の結果を免れさせる決め手にはならなかった3.死因肺水腫による肺機能障害から心不全を起こして死亡したと推定されていて、肺水腫の原因として間質性肺炎、乳幼児突然死症候群などが挙げられているものの特定できず、結局死因は不明というほかない裁判所の判断1. 死因強い呼吸困難、喘鳴、顔面蒼白、腹壁緊張減弱、胸部ラ音、下痢などの臨床症状があったこと、肺浮腫、肺うっ血が、乳幼児突然死症候群に伴うような微小なものではなく、著しいあるいは著明なものであったことなどからすると、肺炎から肺水腫を引き起こして肺機能障害を来し、直接には心不全により死亡したものと考えられる(筆者注:司法解剖の所見で「死因は不詳」と判断されているにもかかわらず、裁判所が独自に死因を特定している)。2. 医師の過失原告の主張をそのまま採用。加えて、もし大規模病院へ転送するとしたら、酸素そのほかの救急措置が何らとられないまま搬送されるとも考えられないので、診察から死亡までの50~60分の間に適切な措置をとるのは困難であり死亡は免れなかったとする主張は是認できない。当時休日診療で多忙をきわめていたとしても、人命にかかわる業務に従事する医師としては、通常の開業医としての医療水準による適切な治療措置を施すべき義務を負うものであり、もし自らの能力を超えていて、自院での治療措置が不可能であると考えれば、ほかの病院に転送するべきであった。3. 経過観察義務違反・転医措置義務違反失原告の主張をそのまま採用。4. 救命蘇生措置義務違反救急車で来院した18:54頃には、呼吸停止、心停止、瞳孔の散大の死の3徴候を認めていたので、心肺蘇生術を実施しても救命の可能性があったかどうか疑問であり、その効果がないと判断して心肺蘇生術を実施しなかったのは不当ではない。原告側合計2,339万円の請求どおり、2,339万円の判決考察この事例は医師にとってかなり厳しい判決となっていますが、厳粛に受け止めなければならない重要な点が多々含まれていると思います。まず、本件は非常に急激な経過で死亡に至っていますので、はたしてどうすれば救命できたかという点について検討してみます。担当医師が主張しているとおり、最初の診察から死亡までわずか60分程度ですので、確かにすぐに大規模病院に転送しても、死亡を免れるのは至難の業であったと思います。裁判所は、「酸素などを投与していれば救命できたかも知れない」という理由で、医師の過失を問題視していますが、酸素投与くらいで救命できるような状況ではなかったと推定されます。おそらく、すぐに気管内挿管を施し、人工呼吸器管理としなければならないほど重症であり、担当医師が診察後すぐに救急車で総合病院に運んだとしても、同じ結果に終わったという可能性も考えられます。ここで問題なのは、当初から重症であると認識しておきながら、その次のアクションを起こさなかった点にあると思います。もし最初から、「これは重症だからすぐに総合病院へ行った方がよい」と一言家族に話していれば、たとえ死亡したとしても責任は及ばなかった可能性があります。次にこのようなケースでは、たとえ当時の状況が患者さんがあふれていて多忙をきわめていたとしても、まったく弁解にはならないという点です。とくに「人命にかかわる業務に従事する医師としては、病者を保護すべきものとして通常の開業医としての医療水準による適切な治療措置を施すべき義務がある」とまで指摘されると、抗弁の余地はまったくありません。当然といえば当然なのですが、手に負えそうにない患者さんとわかれば、早めに後方病院へ転送する手配をするのが肝心だと思います。最後に、ここまでは触れませんでしたが、本件では裁判官の心証を著しく悪くした要因として、「カルテの改竄」がありました。1回目の診察でスメルモンコーワの注射に際し(通常成人には1回0.5ないし1.0mL使用)、病院側は「0.3mL皮下注射した」と主張しています。ところがカルテには「スメルモン1.0」と記載し、保険請求上1アンプル使用したという旨であると説明され、さらに1行隔てた行外に「0.3」と記載されており、どうやら1歳1ヵ月の乳児にとっては過量を注射した疑いがもたれました。この点につき裁判所は、「0.3」の記載の位置と体裁は、不自然で後に書き加えられたものであることが窺われ、当時真実の使用量を正確に記載したものであるかどうかは疑わしいと判断し、さらに「診療録にはそのほかにも数カ所、後に削除加入されたとみられる記載がある」とあえて指摘しています。実際のカルテをみていないので真実はどうであったのかはわかりませんが、このような行為は厳に慎むべきであり、このためもあってか裁判では患者側の要求がすべて通りました。日常診療でこまめにカルテを書くことは大変重要ですが、後から削除・加筆するというのは絶対してはならないことであり、もし事情があって書き換える場合には、その理由をきちんと記載しておく必要があると思います。小児科

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経口抗リウマチ薬ゼルヤンツの市販直後調査結果や悪性腫瘍発現率を紹介

 関節リウマチ治療は、生物学的製剤の発売により劇的に変化し、患者さんの予後も大きく改善している。しかし、生物学的製剤は分子量が大きいため点滴や注射で投与せざるを得ず、外出や旅行などで不便を感じる患者さんも少なくない。そのようななか昨年発売された低分子化合物のゼルヤンツ(一般名:トファシチニブ)は経口剤であり、生物学的製剤と同程度の効果が認められている。しかしながら、本剤は新しい作用機序の薬剤であることから、安全性について慎重に検討している医師も多いのではないだろうか。 このたび、6月17日に開催されたファイザーと武田薬品工業共催プレスセミナーで、産業医科大学第1内科学講座教授 田中 良哉氏がゼルヤンツの全例市販直後調査の結果や悪性腫瘍の発現率データを紹介した。 市販直後調査の調査期間は2013年7月30日~2014年1月29日、調査対象医療機関は173施設(病院131施設、診療所42施設)、症例数は285例で、17例22件の副作用が認められた。そのうち重篤な副作用は3例4件で、心不全(70代男性)、肺炎、肝機能異常(ともに80代女性)、背部痛(70代男性)であった。それぞれの転帰は、心不全と肺炎が軽快、肝機能異常は未回復、背部痛は不明である。引き続き、全例市販後調査では、安全性解析対象症例として6,000例(ゼルヤンツ群:4,000例、対照群:2,000例)を登録し、ゼルヤンツ群では有害事象を3年間観察する。田中氏は、今後の市販後調査において、感染症、悪性腫瘍、予期しない副作用の発現など、長期の安全性を明らかにしていくと述べた。 田中氏は、ゼルヤンツ投与患者における悪性腫瘍(非黒色腫皮膚がんを除く)の発現率についてのデータも紹介した。ゼルヤンツ投与患者全体(14試験、5,671例)における100人年あたりの発現率は0.85であり、TNF阻害薬(38試験、1万8,993例)における同発現率1.1とほぼ同等といえる。なお、米国の一般人のがん発症率は1.08 /100人年である。一方、日本人のゼルヤンツ投与患者556例(平均年齢53歳、女性84%)における同発現率は1.28と若干高めであったが、田中氏によると、信頼区間が広いためその差は有意ではないとのことである。 最後に田中氏は、ゼルヤンツは注射や点滴に対して抵抗のある患者さんが望んでいた薬剤であるとしたうえで、投与にあたっては、他の生物学的製剤と同様、重篤な感染症がないか、重度の肝機能障害がないか、好中球数・リンパ球数・ヘモグロビン値が低くないか、悪性腫瘍がないかなど、最初にきっちりスクリーニングし、使用中はしっかりモニタリングを行うことが重要であると強調した。

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Dr.ゴン流ポケットエコー簡単活用術

第1回 心臓へのアプローチと評価第2回 肺・下大静脈・下肢へのアプローチと評価第3回 腹部へのアプローチ第4回 腹部の評価(1)第5回 腹部の評価(2)第6回 心肺エコー鑑別法とUB-FAST第7回 医学的管理・処置への活用法第8回 在宅医療でのポケットエコー活用法 日常診療に手軽に使えるポケットエコーが普及しつつあります。ポケットエコーを身体所見の一部として、体の中を診る聴診器のように活用することで、在宅をはじめ、救急、外来、病棟などあらゆるシーンでの診療スタイルが大きく変わることでしょう。ポケットエコーの上達のコツは繰り返し練習すること。失敗しても「なんくるないさ~(なんとかなるさ)!」の精神で、何度もチャレンジしてください。様々な活用術を網羅したこの番組を参考にして、あなたもポケットエコーの名人に!第1回 心臓へのアプローチと評価心臓を胸骨左縁と心尖部からアプローチする方法について、プローブの実演とエコー画像の2画面を用いてわかりやすく解説します。ポケットエコーは肋間などの狭い窓から体内を観察するのに適しています。その特徴を生かしたDr.ゴン流のアプローチ方法・ポイントは必見です。さらに心エコー像評価の基本となる左室機能、弁膜疾患、右心系の評価方法を、実際の症例を用いて解説します。第2回 肺・下大静脈・下肢へのアプローチと評価肺炎・心原性肺水腫・関節性肺炎など、代表的な肺疾患のエコー像を提示し、鑑別のポイントを指導します。さらに8カ所測定で行うポケットエコーの定量的評価の具体的なテクニックを実演。実際の症例を用いた評価方法と、肺・下大静脈・下肢へアプローチするわかりやすい実演を見れば、そのテクニックが確実に実に付きます。第3回 腹部へのアプローチ通常のエコー走査とは異なるポケットエコーならではの腹部アプローチを指南します。ポケットエコーではその特性上、距離の近い胆嚢が見えにくいのですが、通常目印にする胆嚢の検出にこだわらないのがDr.ゴン流。上腹部の走査方法を手元のプローブの実演とエコー画像の2画面を用いてわかりやすく説明します。さらに肋間~下腹部も合わせて、腹部への全体的なアプローチ方法を解説します。第4回 腹部の評価(1)腹部疾患の代表的なエコー画像をたっぷりと提示し、その画像の読み方・ポイントをお教えします。臓器が複雑に絡み合う腹部。臓器ごとの代表的な疾患の鑑別方法、ポケットエコー画像での特徴などを詳細に説明してきます。これだけのたくさんの症例を知っておけば、画像診断に自信がつくことでしょう。第5回 腹部の評価(2)卵巣腫瘍や妊娠の判別、腹部大動脈流もポケットエコーで観察することができます。ポケットエコーで検査をするときに大切なのは症状と理学所見を頭に置くこと。今回もたっぷりご紹介する代表的な腹部疾患鑑別の特徴を知っておくと、診断に役立つこと間違いなしです。第6回 心肺エコー鑑別法とUB-FAST呼吸困難の患者に対して行う心肺エコー鑑別法と熱発の原因検索に有効なUB-FAST法。臨床現場で実際に行っているゴン先生の、実演と演習を交えた解説はとても簡潔明瞭です。これまで学んできたアプローチ法や評価法を統合したこの2つの手法をぜひ覚えて、実践に役立ててください。第7回 医学的管理・処置への活用法胃瘻の管理やドレナージの処置をする際にもポケットエコーは有用です。すでに習った左肋骨弓下走査で胃瘻交換後のカテーテルの位置や形状を確認したり、ドレナージ可能箇所をエコーでチェックすることができます。手軽に使えるポケットエコーを活用し、より安全・正確な処置を学んでください。第8回 在宅医療でのポケットエコー活用法最終回はゴン先生の訪問診療に密着します。患者さんに対するエコー検査についての説明、ご家族への検査準備のお願い、検査の実施、そして結果の説明。在宅医療の現場でどのようにポケットエコーを使い役立てるのか?第7回までに学んだポケットエコーのテクニックを、ゴン先生のように、ぜひ臨床現場で生かしてください。

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うつぶせ寝にしておいた生後3日目の新生児が急死したケース

小児科最終判決判例タイムズ 988号264-271頁概要体重3,460g、身長51cm、正常分娩で出産した新生児。授乳は良好であったが、生後3日目の授乳後にミルクを吐き、腹満もみられたため、再度吐く可能性を考慮してうつぶせ寝で寝かせた。ところがその45分後に全身チアノーゼ、心肺停止状態で発見され、ただちに行われた救急蘇生により何とか自己心拍と自発呼吸が再開した。ところが低酸素脳症が原因で重度の脳性麻痺となり、気道分泌物による窒息のため生後7ヵ月で死亡した。詳細な経過経過1995年1月5日03:00陣痛が始まったためそれまで通院していた総合病院に入院。05:43正常分娩にて、体重3,460g、身長51cmの男児を出産。心拍数や呼吸などに異常はなかった。ミルクなど合計84cc1月6日ミルクなど合計204cc1月7日ミルクなど合計402cc1月8日03:00母親が授乳。04:00かん高く泣いたため看護師がミルクを授乳し、コットに仰向け寝で寝かせた。05:40さらに泣いたため、おやつとしてミルクを授乳(このとき担当看護師は授乳していないと主張)、そのときの排気でミルクを吐き、さらに腹満もあったことから、再度吐く可能性を考慮してうつぶせ寝(顔は横向き)で寝かせた(このときの勤務は深夜帯で、看護師1名が新生児室の新生児6~7名と、NICU室の重症児を含む3~4名の新生児を担当、NICU室から新生児室はみえない位置関係)。06:25それから約45分後、朝の授乳開始のため母親にわたそうとしたところ、顔を真下に向けた状態でうつぶせ寝となっており、抱き上げると全身チアノーゼ、呼吸停止状態であった(母親は枕代わりのタオルに直径6~7cmの吐乳を確認したと申告したが、担当看護師は嘔吐はなかったと反論)。ただちにNICU室に移し、産婦人科医師にコールするともに酸素投与、背中のタッピングを行ったが、反応なし。06:30産婦人科医師が到着し、心臓マッサージとバギングを行いつつ気管内挿管を試みたが気管内挿管できず、小児科医師の応援を要請。そのときミルク残査を含む液体が噴出したので吸引を行う。06:35小児科医師が到着して気管内挿管を試みたが挿管できず。06:40別の医師により挿管が完了した。このとき、吸引により乳白色の液体が吸引された。まもなく心拍音が聴取できるようになった。06:53自発呼吸が出現したが微弱であり、バギングが継続された。07:10口腔内から唾液様の液体が多量に吸引、挿管チューブからはごく少量の淡黄色液体が吸引された。07:35自発呼吸、心拍は安定し、クベースに収容された。しかし、低酸素脳症による重度の脳障害が発生した。08:30担当医師から、「戻したミルクを再度飲み込み、それが肺に入ったため事故が生じた」という説明あり。10:30産婦人科、および小児科担当医師から、「事故の原因としてミルクの誤嚥が考えられる、挿管チューブより粘調なミルクかすのようなものが多量に引けた、肺炎を想定し早めに抗菌薬を投与する」との説明を受けた(一連の説明の中で未然型乳幼児突然死症候群とは告げられていない)。8月9日気道分泌物による窒息のため死亡。カルテの記載(1)産婦人科入院記録「tapping吸引にて気管内よりmilk多量に引ける」(2)小児科入院記録「挿管よりmilk残査多量に吸引できる。milk誤嚥による窒息→呼吸停止→心臓停止の可能性大、誤嚥の原因は不明」「チューブより粘調なmilkかすのようなもの多量に引け、吸引性肺炎を想定し、早めに抗菌薬使用としました」当事者の主張患者側(原告)の主張うつぶせ寝にしたために吐乳吸引を引き起こして窒息し、発見が遅れたために心肺停止に至った。病院側(被告)の主張吐乳の事実はないので、うつぶせ寝が心肺停止の原因ではない。心肺停止で発見された時口、鼻、周囲にはミルクの付着や嘔吐の形跡はなかったうつぶせ寝では吐物は下に位置するので、位置的に上方になる気管に吐物がはいることはない窒息するほどの吐物誤嚥があれば、新生児であっても不穏な体動を示し看護師が気づくはずである蘇生時にみられた気管内からのミルク吸引は、バギングや心臓マッサージによって気管内に入ったものである嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、挿管チューブから細小泡沫が存在したはずである死亡原因は未然型乳幼児突然死症候群(SIDS)である裁判所の判断うつぶせ寝にしたことにより、ふとんや枕などで鼻口部が圧迫され低酸素状態となり、嘔吐に引き続き吐物を吸引して窒息した結果、心肺停止となったもので、乳幼児突然死症候群ではない。1.心肺停止で発見された時口、鼻、周囲にはミルクの付着や嘔吐の形跡はなかったと主張するが、母親が枕代わりに使用していたタオルに黄色い吐乳のようなシミを確認していること、動揺しながら少しでも早く蘇生措置を行おうとした看護師、そして、事故が起きた新生児室を通らず直接NICU室に出入りした医師は嘔吐の痕跡を確認できる状況ではなかったため、嘔吐の形跡がなかったという証言は採用できない2.うつぶせ寝では吐物は下に位置するので、位置的に上方になる気管に吐物がはいることはないと主張するが、うつぶせ寝にした場合に気道は食道よりも下になるため、咽喉頭部にたまった吐瀉物を吸引しやすくなるものである3.窒息するほどの吐物誤嚥があれば、新生児であっても不穏な体動を示し看護師が気づくはずであると主張するが、生後3日の乳幼児の運動能力からいって、寝具などに移動した痕跡がなくても不自然ではなく、また、新生児室はNICU室からはみえない位置関係なので看護師が気づかなくても不自然ではない4.蘇生時にみられた気管内からのミルク吸引は、バギングや心臓マッサージによって気管内に入ったものであるとするが、当時の担当医師は口から吹き出したミルク残査を吸引した後で心臓マッサージをしているので、この際に吐瀉された液体が後になって大量に気管内に移動したとは考えられない5.嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、挿管チューブから細小泡沫が存在したはずであるとするが、本件では粘調性の低いサラサラしたミルク様のものが引け、固まりや気泡は認めなかったと主張するが、担当医師のカルテには「粘調なmilkかすのようなもの大量にひけ」と記載していて、陳述内容と異なる。最小泡沫の存在はミルク誤嚥による窒息を確認する有力な方法ではあるがそれが唯一の方法ではない6.死亡原因は乳幼児突然死症候群(SIDS)であると主張するが、未然型乳幼児突然死症候群があったことを窺わせる何らかの徴候があったことを立証することはできない原告側合計6,881万円の請求に対し、4,855万円の判決考察乳幼児突然死症候群(SIDS)とは、健康と思われていた乳幼児が主に睡眠中に死亡しているのを発見され、死亡直前の状況や剖検によってもその原因が解明できないという疾患です。1940年頃から欧米で注目され、1969年には米国において一疾患単位として定義され、わが国でも1981年に定義が行なわれました。近年になって、オランダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドから、うつぶせ寝をやめて仰向け寝とすることで、SIDSの発症頻度が低下したという報告が相次いでなされました。■この現象の解釈として(1)うつぶせ寝がSIDSの発症のリスクファクターとして働き、うつぶせ寝に伴うより深い睡眠、さらに覚醒反応遅延が関与して、SIDSの発症に間接的に関わっていたとする考え(小児科診療2000年3月号335頁)(2)うつぶせ寝を止めることにより単純にうつぶせ寝に伴う窒息死が減少したものとする考え。この場合、以前のSIDSとされていた症例には、なかにはうつぶせに伴う窒息死とされるべき症例も多く含まれていたということになる本件は病院側が未然型乳幼児突然死症候群と主張したように、救急蘇生が奏効していったんは救命することができましたので、いわゆる「乳幼児突発性危急事態:apparent life threatening event(ALTE)」という病態となります。厚生省研究班(当時)の定義によると、ALTEは「それまでの健康状態および既往歴からその発症が予想できず、しかも児が死亡するのではないかと観察者におもわしめるような無呼吸、チアノーゼ、顔面蒼白、筋緊張低下、呼吸窮迫などのエピソードで、その回復に強い刺激や蘇生処置を要したもののうちで原因が不詳のもの」とされています。本件では、気管内からミルク様のものを多量に吸引したという事実がありますので、何らかの原因で「嘔吐」したことと、その吐物を「誤嚥」して窒息したことは明らかであると思います。しかし、裁判でも最大の争点となったように、うつぶせ寝によって引き起こされた吐乳・窒息であったのか、それとも原因が不詳のALTE(未然型SIDS)と判断するべきなのか、本当のところはよくわからないと思います。そもそも、SIDSやALTEと判断する決め手となるような検査方法はなく、診断方法自体が除外診断となるため、さらに問題を複雑にしていると思います。もちろん、原告側の主張のように、吐乳が原因で窒息となり、その遠因としてうつぶせ寝にしたことが関与していたという可能性は十分に考えられます。しかし、生まれてから3日間まったく異常がみられなかったこの乳児に対し、今回の出来事を予見するのはまず不可能ではないでしょうか。裁判記録を読んでみると、当時の看護師はほかにも重症の新生児を担当していたので、とくに異常のみられないこの児に付きっきりの看護をするとは思えず、職務上の怠慢があったとか、不誠実な看護を施したとはけっしていえないと思います。もし、新生児室ではなく母親に預けられた段階で今回の出来事が発生していれば、「不幸な出来事」として誰もが納得し、裁判には至らなかったと思います。にもかかわらず、看護師の管理下で「うつぶせ寝にした」という事実だけが大きく取り上げられてしまい、医学的には適切と思える病院側の主張をことごとく否定し、高額賠償の判決へと至りました。もし、病院側に明らかな怠慢や過失が認められたのであれば、このような判決でも納得せざるを得ないのですが、けっしてそのようなことはなかったと思います。そのためもあってか本件は控訴へと至りましたが、一方で病院側の説明にも問題点を指摘することができると思います。それは事故直後から「戻したミルクを再度飲み込み、それが肺に入った」と担当医師は家族に説明し、「誤嚥、窒息」とカルテに記載したにもかかわらず、あとになってから「未然型乳幼児突然死症候群」を主張したり、容態急変時に「嘔吐はない」と異なる内容の証言をして、今回の不幸な出来事は不可抗力であったとしました。どうもこのような一貫しない主張に対し、裁判官の心証が大きく患者側に傾いたのではないかと思います。近年では、乳幼児をうつぶせ寝とすることに対する過剰な反応がみられますので、本件のような不幸な事故の際にうつぶせ寝としていたことがわかると、医療機関側にとってはきわめて不利になると思います。一方でうつぶせ寝にすることのメリットも確かにあり、とくに未熟児や病児には仰向けよりも生理学的に有利であることが示されていますが、SIDS予防キャンペーンなどで「仰向け寝にすること」が推奨されている以上、それに準じた方針を選択せざるを得ないと思います。小児科

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偽膜性大腸炎を診断できずに死亡に至ったケース

消化器最終判決判例時報 1654号102-111頁概要高血圧性小脳出血を発症した65歳男性、糖尿病、腎障害、および軽度の肝障害がみられていた。発症4日目に局所麻酔下にCT定位脳内血腫吸引術を施行し、抗菌薬としてセフォタキシムナトリウム(商品名:クラフォラン)、ピペラシリンナトリウム(同:ペントシリン)を開始した。術後2日目から下痢が始まり、術後4日目から次第に頻度が増加し、38℃台の発熱と白血球増多、CRP上昇など、炎症所見が顕著となった。術後6日目にはDICが疑われる状態で、腎不全、呼吸・循環不全となり、術後12日目に死亡した。解剖の結果、空腸から直腸にかけて著しい偽膜性大腸炎の所見が得られた。詳細な経過患者情報65歳男性経過1991年3月2日11:00頃法事の最中に眩暈と嘔吐を来して歩行不能となり、近医を経てA総合病院脳神経外科に搬送され、頭部CTスキャンで右小脳出血(血腫の大きさは3.8×2.5×2.0cm)と診断された。意識清明であったが言語障害があり、脳圧降下薬の投与、高血圧の管理を中心とした保存的治療が行われた。3月6日若干の意識障害、右上肢の運動失調がみられたため、局所麻酔下にCT定位脳内血腫吸引術が行われた。術後感染防止のため、第3世代セフェム(クラフォラン®)、広域ペニシリン(ペントシリン®)の静注投与が行われた。3月8日焦げ茶色の下痢と発熱。腰椎穿刺では髄膜炎が否定された。3月9日白血球15,000、CRP 0.5。3月10日下痢が5回あり、ロペラミド(同:ロペミン)投与(以後も継続された)。3月11日下痢が3回、白血球42,300、CRP 3.9。敗血症を疑い、γグロブリン追加。胸部X線写真異常なし、血液培養陰性。3月12日下痢が3回、チェーンストークス様呼吸出現。3月13日下痢が2回、血圧低下、腎機能低下、人工呼吸器装着、播種性血管内凝固症候群を疑い、メシル酸ガベキサート(同:エフオーワイ)開始。抗菌薬をアンピシリン(同:ビクシリン)、第3世代セフェム・セフタジジム(同:モダシン)、ミノサイクリン(同:ミノマイシン)に変更。以後徐々に尿量が減少して腎不全が進行し、感染や血圧低下などの全身状態悪化から人工透析もできないままであった。3月18日死亡。死体解剖の結果、空腸から直腸にかけて、著しい偽膜性大腸炎の所見が得られ、また、エンドトキシン血症の関与を示唆する肝臓小葉中心性新鮮壊死、著しい急性肝炎、下部尿管ネフローシス(ショック腎)が認められたため、偽膜性大腸炎により腸管の防御機能が障害され、細菌が血中に侵入し、その産生するエンドトキシンによる敗血症が惹起されエンドトキシンショックとなって急性循環不全が引き起こされた結果の死亡と判断された。当事者の主張患者側(原告)の主張小脳出血は保存的に様子をみても血腫の自然吸収が期待できる症状であり、手術の適応がなかったのに手術を実施した。1.死因クラフォラン®およびペントシリン®を中心として、このほかにビクシリン®、モダシン®、ミノマイシン®などの抗菌薬を投与されたことによって偽膜性大腸炎を発症し、その症状が増悪して死亡したものである2.偽膜性大腸炎について3月10~13日頃までには抗菌薬に起因する偽膜性大腸炎を疑い、確定診断ができなくても原因と疑われる抗菌薬を中止し、偽膜性大腸炎に効果があるバンコマイシン®を投与すべきであったのに怠った。さらに偽膜性大腸炎には禁忌とされているロペミン®(腸管蠕動抑制剤)を投与し続けた病院側(被告)の主張高血圧性小脳出血の手術適応は、一般的には血腫の最大経が3cm以上とされており、最大経が3.8cmの小脳出血で、保存的加療を行ううちに軽い意識障害および脳幹症状が発現し、脳ヘルニアへの急速な移行が懸念されたため、手術適応はあったというべきである。1.死因初診時から高血圧性腎症、糖尿病性腎症、感染によるショックなどの基礎疾患を有し、これにより腎不全が進行して死亡した。偽膜性大腸炎の起炎菌Clostridium difficileの産生する毒素はエンテロトキシンおよびサイトトキシンであるから、本件でみられたエンドトキシン血症は、偽膜性大腸炎に起因するとは考えがたい。むしろエンドトキシンを産生するグラム陰性桿菌が腸管壁を通過し、糖尿病、肝障害などの基礎疾患により免疫機能が低下していたため、敗血症を発症し、多臓器不全に至ったものと考えられる2.偽膜性大腸炎について偽膜性大腸炎による症状は、腹痛、頻回の下痢(1日30回にも及ぶ下痢がみられることがある)、発熱、腸管麻痺による腹部膨満などであり、検査所見では白血球増加、電解質異常(とくに低カリウム血症)、低蛋白血症などを来す。本件の下痢は腐敗性下痢である可能性や、解熱薬の坐薬の影響が考えられた。本件の下痢は回数的にみて頻回とまではいえない。また、腹痛や腹部膨満はなく、血清カリウム値はむしろ上昇しており、白血球やCRPから炎症所見が著明であったので肺炎や敗血症は疑われたものの、偽膜性大腸炎を疑うことは困難であった裁判所の判断1. 死因本件ではClostridium difficileの存否を確認するための検査は行われていないが、抗菌薬以外に偽膜性大腸炎を発生させ得る具体的原因は窺われず、また、偽膜性大腸炎はClostridium difficileを起炎菌とする場合がきわめて多いため、本件で発症した偽膜性大腸炎は抗菌薬が原因と推認するのが合理的である。そして、Clostridium difficileにより発生した偽膜性大腸炎により腸管の防御機能が障害され、腸管から血中にグラム陰性菌が侵入し、その産生するエンドトキシンにより敗血症が惹起され、ショック状態となって急性循環不全により死亡したものと推認することができる。2. 偽膜性大腸炎について一般的に医師にはさまざまな疾病の発生の可能性を考慮して治療に従事すべき医療専門家としての高度の注意義務があるのであって、本件の下痢の状況や白血球数などの炎症反応所見の推移は、かなり強く偽膜性大腸炎の発生を疑わせるものであると評価するのが相当である。病院側の主張する事実は、いずれも偽膜性大腸炎が発生していたことを疑いにくくする事情ではあるが、ロペミン®により下痢の回数がおさえられていた可能性を考慮して下痢の症状を観察するべきであった。そのため、3月11日から翌12日午前中までには偽膜性大腸炎が発生していることを疑うことが可能であり、その時点でバンコマイシン®の投与を開始し、かつロペミン®の投与を中止すれば、偽膜性大腸炎を軽快させることが可能であり、エンドトキシンショック状態に陥ることを未然に回避できた蓋然性が高い。2. 手術適応について高血圧性小脳出血を手術するべきであったかどうかの判断は示されなかった。原告側合計3,700万円の請求に対し、2,354万円の判決考察このケースは、脳外科手術後にみられた「下痢」に対し、かなり難しい判断を要求していると思います。判決文を読んでみると、頻回の下痢症状がみられたならばただちに(少なくとも下痢とひどい炎症所見がみられた翌日には)偽膜性大腸炎を疑い、確定診断のために大腸内視鏡検査などができないのならば、それまでの抗菌薬や止痢薬は中止してバンコマイシン®を投与せよ、という極端な結論となっています。もちろん、一般論として偽膜性大腸炎をまったく鑑別診断に挙げることができなかった点は問題なしとはいえませんが、日常臨床で抗菌薬を使用した場合、「下痢」というのはしばしばみられる合併症の一つであり、その場合程度がひどいと(たとえ偽膜性大腸炎を起こしていなくても)頻回の水様便になることはしばしば経験されます。そして、術後2日目にはじめて下痢が出現し、術後4日目から下痢が頻回になったという状況からみて、最初のうちは単純な抗菌薬の副作用による下痢と考え、止痢薬を投与するのはごく一般的かつ常識的な措置であったと思います。その上、術後に発熱をみた場合には腸以外の感染症、とくに脳外科の手術後であったので髄膜炎や肺炎、尿路感染症などをまず疑うのが普通でしょう。そのため、担当医師は術後2日目には腰椎穿刺による髄液検査を行っていますし(結果は髄膜炎なし)、胸部X線写真や血液検査も頻回に調べていますので、一般的な注意義務は果たしているのではないかと思います。ところが判決では、「頻回の下痢が始まった翌日の3月11日から3月12日午前中までには偽膜性大腸炎が発生していることを疑うことが可能であった」と断定しています。はたして、脳外科の手術後4日目に、頻回に下痢がみられたから即座に偽膜性大腸炎を疑い、発熱が続いていてもそれまでの抗菌薬をすべて中止して、バンコマイシン®だけを投与することができるのでしょうか。この時期はやはり脳外科術後の髄膜炎がもっとも心配されるので、そう簡単には抗菌薬を止めるわけにはいかないと考えるのがむしろ脳外科的常識ではないかと思います。実際のところ、脳外科手術後に偽膜性大腸炎がみられるのは比較的まれであり、それよりも髄膜炎とか肺炎の発症率の方が、はるかに高いのではないかと思います。にもかかわらず、まれな病態である偽膜性大腸炎を最初から重視するのは、少々危険な考え方ではないかという気までします。あくまでも推測ですが、脳外科の専門医であれば偽膜性大腸炎よりも髄膜炎、肺炎の方をまず心配するでしょうし、一方で消化器内科の専門医であればどちらかというと偽膜性大腸炎の可能性をすぐに考えるのではないかと思います。以上のように、本件は偽膜性大腸炎のことをまったく念頭に置かなかったために医療過誤とされてしまいましたが、今後はこの判例の考え方が裁判上のスタンダードとなる可能性が高いため、頻回の下痢と発熱、著しい炎症所見をみたならば、必ず偽膜性大腸炎のことを念頭に置いて検査を進め、便培養(嫌気性培養も含む)を行うことそして、事情が許すならば大腸内視鏡検査を行って確定診断をつけておくこと通常の抗菌薬を中止するのがためらわれたり、バンコマイシン®を投与したくないのであれば、その理由をきちんとカルテに記載することというような予防策を講じないと、医師側のミスと判断されてしまうことになると思います。なお本件でもう一つ気になることは、本件では手術直後から予防的な抗菌薬として、2種類もの抗菌薬が使用されている点です。クラフォラン®、ペントシリン®はともに髄液移行の良い抗菌薬ですので、その選択には問題ありません。しかし、手術時には明らかな感染症は確認されていないようなので、なぜ予防的な抗菌薬を1剤ではなくあえて2剤にしたのでしょうか。これについてはいろいろとご意見があろうかと思いますが、ことに本件のようなケースを知ると、抗菌薬の使用は必要最小限にするべきではないかと思います。消化器

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